池袋晶葉「面影を重ねて」 (12)
私は激怒した。必ず、かの邪知暴虐のPの誤解を取り除かなければならぬと決意した。
ニヤニヤという形容詞がこの上なく似合う笑みを浮かべながらPがこちらを見てくる。くっ、そんな目で私を見るな!
私は確かに言い訳は嫌いだ。しかし、今から私が行うことは弁明だ。
そもそもどうしてこんなことになったか振り返ろうじゃないか。
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これはいくつもの偶然が重なってしまった不幸な出来事、所謂悲劇だ。
そう、世の中の関節は外れてしまったのだ。私はそれを直さなければならない。
まず一つ目、Pはたばこを吸う。私にはあれのなにがいいのかわからないが吸っている。ただただ臭いだけじゃないか。
私の父さんもたばこを吸うんだ。偶然にもPと同じ銘柄のを、青い弓矢の。
あれはダメだ、手に匂いが残る。そしてその匂いが私の判断を鈍らせたんだ。
そのとき私はレッスンから帰ってきた直後だった。いつもより激しいレッスンが私の少ない体力を奪い去っていった。
疲れて疲れてへとへとになりながらも事務所に帰ってきた私を見てPが私の頭を撫でたのだ。
私はあることを思い出してしまったんだ。それは遠い遠い昔の記憶、私がまだ新品のランドセルを背負っていたころ、あるいはその前かもしれない。
そのころはまだロボなんて作れないからな、まだまだ図工とかのレベル。それでもそれを父さんに見せに行くと決まってあることをしてくれたのだ。
頭を撫でながら褒めてくれた。私はそれが大好きだったんだ。だからこそ作っては父さんに見せに行っていた。
そんな懐かしい出来事が思い出されたんだ。Pと父さんが重なってしまったんだ。だからこそもらしてしまった。
「ありがとう、パパ」
大失態である。
そこからだ、Pがニヤニヤしだした。まるで私の尻尾を掴んだと言いたげだ。
Pに隠れているがわかっているぞ。ちひろ、そんな妙に優しい目で私を見るな。やりづらいったらありゃしない。
くっ、弁明だ。弁明をしなければ。
晶葉「P、それにちひろ。ちょっと質問をさせてくれ」
モバP「おお、どうしたよ晶葉ちゃん」
晶葉「例えばだ、例えば自分が限界近くまで疲れていたとする」
ちひろ「そんな疲れにスタミナドリンクですよ」
モバP「間に合ってます」
晶葉「……話を進めてさせてもらおう。そうすると間違いが起こりやすくなるわけだがそんな経験はないだろうか」
モバP「まあ徹夜とかすると書類のミスも多くなるわな」
ちひろ「この前徹夜明けのプロデューサーさんが菜々さんのことをお母さんって呼んでました」
モバP「あ、今チクるのは卑怯ですよ」
晶葉「ほら、Pも間違えてるじゃないか」
ちひろ「そのときの菜々さんの写真がこれです」
晶葉「ウサミンの……微妙そうな顔……」
モバP「人間誰しもミスはあるものだ」
晶葉「私もそう思う。だからそれこそミスの一つを取り上げてにやにやしたり優しい目で見たりするなと私は声を大にして言いたい」
ちひろ「おお、晶葉ちゃんがいつにもなく熱く語っています。こんな晶葉ちゃんを見るのは珍しいです。自分のロボを自慢しているとき以来です」
モバP「割とよく見かけているじゃないですか」
ちひろ「そうですね、二日に一回ぐらいの割合でこの晶葉ちゃんを見てますね」
晶葉「二人ともわかってくれたか」
モバP「わかったわかった」
ちひろ「十分にわかりましたよ」
晶葉「わかってくれてよかった。わかってくれなかったらこの、話をわからせる君一号を使うところだった」
モバP「ちなみにどんなロボなんだ」
晶葉「話を理解しないたびに電流の流れた鞭でショックを与えて矯正する」
モバP「こえーよ」
ちひろ「……晶葉ちゃん、今度それ貸してくれませんか」
モバP「……こえーよ」
晶葉「くれぐれも悪用はしないでくれよ」
モバP「完全に振りじゃねーか」
ちひろ「ふふ、それはそうとどうして晶葉ちゃんはプロデューサーさんをお父さんと勘違いしたんですか?」
晶葉「えっとだな……Pの手の匂いが父のものと一緒だったのだ」
ちひろ「あのたばこくさい手ですか?」
晶葉「そうだ、そのたばこくさい手だ」
モバP「くさいくさい言うなよ……」
晶葉「案外私が素直にPを受け入れられたのもたばこくさいおかげかもな」
ちひろ「父親の匂いって妙に安心するんですよね」
モバP「うーむ。まあ晶葉に信頼されていると思っていいのかな?」
晶葉「ううむ、まあ、助手だからな。信頼しているぞ」
モバP「なんだよその含みがある感じ」
晶葉「いやな、なんとなくな」
ちひろ「晶葉ちゃんもプロデューサーさんもひねくれ者ですからね」
晶葉「Pはともかく、私は違うぞ」
モバP「晶葉はともかく、俺は違うぞ」
ちひろ「似たもの同士のいいコンビですね」
晶葉、モバP「「納得いかん」」
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最後のほうはコントのようになってしまったが、いつもそうだ。Pとちひろにはいつもペースを乱される。まあ悪くないがな。
それでも概ね私の論は受け入れられた。満足だ。
私はそう思いながら帰路に着いた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「おう、おかえり」
家に帰ると両親が迎えてくれた。母さんはいつもいるがこんな近い時間に父さんがいることは珍しい。
ふと私に一つの考えが浮かんだ。偶然だったのだろう。今日事務所であんなことを話して父さんが家にいる。
父さんに久しぶりに私の作ったロボを見て欲しくなった。褒めて欲しくなった。
「父さん、見て欲しいものがあるんだ」
「なんだい」
私はそういうと急いで階段を上り自室に向かった。机の上には昨日ちょうど完成した次のライブ用のロボが鎮座していた。
ふふん、我ながらいい出来だ。大事にかかえこむとまた急いで階段を下った。ただし今度はロボを抱えているため幾分か慎重に。
「見てくれ!今度のライブで使うロボだ!どうだ、すごいだろ!」
父さんは興味深そうにロボを私の手から受け取った後ひとしきり見た後で私に返した。
「晶葉、すごいじゃないか。成長したな」
そう言って昔と同じように私の頭を撫でてくれた。その手はどこまでも優しかった。
「ありがとう、P……あっ」
やってしまった……父さんの目がみるみると釣りあがっていった。対照的に母さんはあらあらとでも言いたげな表情で笑っていた。
父さんと母さんを交互に何回か見てから私はゆっくりとため息をついた。
くっ、弁明だ。弁明をしなければ。
以上で短いけれど終わりです。
ぎりぎり間に合いました!
再び誕生日おめでとう!
池袋晶葉をこれからも一年間よろしくお願いします!
このSSまとめへのコメント
正直すこ