モバP「晶葉の助手として」 (25)

人間は完璧に他人を理解することはできない。当たり前のことだ。

性別の違い、年齢の違い、生まれの違い、嗜好の違いに思考の違い。様々な壁が存在する。

他人はあくまで他の人、完璧な理解など求める方が烏滸がましいのかもしれない。

それでも俺は知りたいんだ。彼女がなにを考えているか、彼女がなにを俺に求めているのか。

ただ俺は知りたいだけなんだ。

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「それで私に頼るのは間違っている」


あきれたような顔で、小馬鹿にしたような態度で。目の前の少女、池袋晶葉が答える。


「いや、俺は思考を読み取る機械を作ってくれとか頼んでないよ。もっと簡単なことだよ」

「いや、だから私の誕生日プレゼントを私に聞くのは間違いだろ」

「そういって別段欲しくないものとか貰っても困るだろ」

「私は経験はあまりないのだがこういうのは考えてプレゼントしてくれるのが嬉しいんじゃないのか」

「考えてプレゼントされてもな、案外微妙だったりするものなんだよ」


晶葉の眉間に皺がよる。おいおい、アイドルが、いや女の子がそんな顔してはダメじゃないか。

晶葉は疲れたようにため息をついた

「君はめんどくさいやつなんだな」

「自覚はしている」

「それだけじゃなく直す努力をしてくれ」

「考えとく」

「なにがそんなに嫌なんだ」

「例えばだぞ、俺がお前くらいの時にあったことだ。俺は誕生日に友達からシャーペンをプレゼントされたんだ」

「いい友達じゃないか」

「俺は細軸のシャーペンが好きなんだ。すでにお気に入りのシャーペンがあったんだ。しかし友達からのは太軸のシャーペンだったんだ」

「すごいめんどくさいやつだな」

「二回目だそれ。友達の手前、使うしかなかったが俺はそれが微妙に使いづらかったんだ」

「とてつもなくめんどくさいやつだな」

「ちょっと返答が適当すぎない」

「めんどくさいのだから仕方がない」

くそう、このままじゃ埒が明かない。ただただ俺がめんどくさいやつみたいじゃないか。

晶葉にもわかる例えを、晶葉に共感してもらうにはどんな例えがいいだろうか。

考えながら晶葉の方に目をやると、作りかけのロボと工具が目に入った。

そうだ、これなら多分納得して貰えるだろう。


「晶葉、お前は天才だ」

「どうした急に褒めて、照れるじゃないか」


晶葉は冷めた目でこちらを見ながら言ってきた。

イヤイヤナニモタクランデナイデスヨ。


「そしてロボ作りに長けている。だからお前はドライバーをプレゼントしてもらった。しかしお前にはすでに使い込んで手に馴染むドライバーがある。プレゼントしてもらったドライバーは使いづらい。それでもお前はプレゼントしてもらった手前新しいドライバーを使わなければならないのだ」

俺は畳み掛けるように、説き伏せるように一息で言った。

どうだ、これならわかるだろ。

晶葉は顎に手を当てて少しの間考えている。

流石天才だと自称するだけあって、そんな姿も似合っていた。


「ふむ……確かにそれは困るかもしれないな」

「だろぉ」


完全勝利、正義は我にあり。

興奮のあまり巻き舌になってしまった。まあいい。


「で、だ。なにが欲しい」

これでも俺は大人だ。経済状況は勿論中学生のそれとは比べ物にならないはずだ。

こいつが技術で稼いでなければだけど……。

ある程度高いものを言われても買ってやろう。

「なんでもいいのだな」

「ああ、なんでもいい」

「本当なんだな」

「ああ、本当だ」

「じゃあじゃあNC旋盤」

「却下だ」


無邪気に、目をキラキラさせながら答えやがった。

「な……、なんでもいいと言ったじゃないか」

「大体いくらかかるか言ってみろ」

「安いのだったら100くらいだぞ」

「ああそうだな、100万円くらいだな」

「なんでもいいと言うから……」

「限度を考えろ」

「じゃあ俗な話になるがいくらまでならいいんだ」

「そうだな、お前くらいの年齢なら10000と言ったところじゃないか」

「ほとんどの機械が買えないぞ……」


男女の価値観の差があるから多少高くついてもいいと思っていた。

だがこいつは考えが全く違う。多分おかしいのはこいつだ。

そういえば俺が子供の頃は誕生日にはゲームだったな。

さらに言えばこいつがゲームしているの見たことないな。最近の子はスマホがあるからしっかりとしたゲームやらないというのは本当なのか。

なんだ、俺も案外おっさんなんだな。そう思うと少し悲しくなってきた。

まだ若いつもりだったんだけどな。これが菜々がいつも感じているジェネレーションギャップというやつか。


「服とかはどうだ」

「そうは言ってもな」


晶葉は一枚の布を見せてきた。

これの柄の名前は、なんて聞いてくる。こんなのも答えられないと思っているのか。なめられたものだ。


「水玉模様だ」

「これはドット柄と言うのだ。おっさん」


ぐはぁ……。俺は……認めたくないが……おっさん……だったのか……。


「服はいい、プレゼントはPが選んでくれ。私の喜びそうなものを頼むよ、助手」


そう言い残して晶葉は去っていった。

あの野郎、わざわざ普段言わないくせに俺を助手呼ばわりしやがった。

絶対認めさせてやるよ。俺はそう固く心に誓った。


___________________________


「で、なんで私のところに来ているのですか」


心底めんどくさそうに、千川ちひろさんが答える。

別に相談ぐらいしたっていいじゃないか。


「いや、さっきの話からいけば自力で解決すべきじゃないですか」

「困ったときは助け合いの精神でしょ」

「それは私が言うべきセリフです」


結局なにも浮かばなかった。情けないことに。

頼子や菜々に相談するという選択肢もあったが、あいつらには晶葉のことをわかってないとバカにされそうだからやめといた。

ほんの少しばかりの俺のプライドだ。


「ファッション関係もダメ、工具関係もダメ、なら部品とかどうですか」

「部品は作るロボによって全く違うのでダメですね、ある程度汎用性のあるものは買い置きしているだろうし」

「そうですか、なかなか難しいんですね」

「参考までにちひろさんはなにか渡しますか」

「そりゃもちろん私だって渡しますよ。大事な仲間ですよ」

「なにを渡しますか」

「それは……内緒です」

「え、なんでですか」


パクるとは失礼な。参考だって言ってるでしょうに。

まあ本当に浮かばなかったときは似たようなものを買うこともあったりなかったり。


「食べ物とかはどうですか」

「あー、なるほど。でも俺晶葉の好物はクレープしかわかりませんよ」

「ならそのクレープは」

「あいつクレープロボを作ってよく食べています」

「あ……、考えれば考えるほど浮かんできませんね」

「パクられては困りますからね」

「やっぱりちひろさんのを丸パクリするしか……」

「やっぱりじゃないですか。晶葉ちゃんならヒント出しているんじゃないですか」

「そうですかね……」


ない頭で必死に考える。さっきの会話を思い出せ。

晶葉ならなにを欲しがる。晶葉ならどこにヒントを出す。晶葉なら、晶葉なら。

「あ……」

「なにか浮かんだみたいですね」

「はい。ありがとうございました」

「今度昼食奢ってくださいね」

「えー」

「そんぐらいいいじゃないですか」

「だってちひろさん微妙に高いの頼むじゃないですか」

「せっかくの奢りですから」


鬼、悪魔。心のなかで呟く。


「ああん?失礼な人ですね」



なんでわかるんだこの人。

さて、俺も準備しないとな。幸いまだ時間はある。難しいかもしれないがやるしかないだろ。

だって俺はあいつの助手でもあるからな。

話は驚くほど、拍子抜けするほど簡単にまとまった。向こうのお偉いさんが晶葉のことを気に入ってくれたようだ。

なんでも娘の若い頃に似てるとかなんとか。うちのアイドルと同等な娘さんなら見てみたいもんだね。

まあ実際は贔屓目が入っているのだろうけど。うちの娘たちのが絶対かわいいに決まっている。

何はともあれこれで準備は完璧だ。

あとはゆっくりあいつの誕生日を待つだけだ。

_____________________________


「晶葉ちゃんお誕生日おめでとう」


さてついにやってきたこの日。いや、緊張とかしてないよ。


「おめでとう」


少し遅れて俺も言う。大丈夫か?顔に出てないか?


「ありがとう」


主役の本人もどこか慣れなそうに、照れ臭そうにしている。


「ケーキありますよ!」

「ロウソクは何本でしたっけ?」

「14本ですよ……」

俺の緊張なぞ菜々頼子ちひろさんの女連中にとってはどこ吹く風。うん、ばれてないだけいいだろうか。

どうやって切り出そうか。タイミングを見計らって。

そんなことを考えていると、「さあ、プレゼントもありますよ」……随分タイミングのいいもんだ。流石アシスタント。


「じゃあ私からですね」


そういって取り出したのはリボンとハンカチ。赤の布地に細かい模様が入っている。


「どうかな。一応私の手作りです」

「おお、可愛いぞ。是非使わせてもらおう」

「気に入ってくれたならよかった」


はー、あれで手作りか。元々器用な人だとは思っていたけどここまでとは。

いやはや、恐れ入りました。


「じゃあ次はナナの番です。これ、晶葉ちゃんの趣味ではないかもしれませんが絶対に似合いますから」


菜々が取り出たのは白のワンピースと麦わら帽子。ベタだな。

お、頼子がすごい勢いで頷いてる。あいつあんな性格だったっけ?


「これはウサミンの趣味なのか」

「はい。どうでしょうか」

「可愛いぞ。私に似合うかわからないが」

「似合いますよ。絶対」

「似合うよ……」


晶葉が照れたように笑っていた。自分じゃ買いづらいかもな。

まあ、確かに悪くはなさそうだな。今度そんな撮影も考えておくか。


「最後は私ですね……。晶葉ちゃんこれ欲しがっていたよね……。それともう一つ」


アニメに出てくるようなロボットの……目覚まし時計か。ちょうど晶葉のサインみたいな見た目だな。

それともう一つはカチューシャ、頼子とおそろいだなのやつかな。


「おお、これ欲しかったんだ。よく覚えていたな。それとカチューシャもありがとう」


早速カチューシャを付けてみている。


「どうだ、おそろいだな」

「うん……おそろいだね」

「ずるいです。ナナも欲しいです」

「もう誕生日終わってるじゃないですか……」

「どこで買っているのか教えてください。三人でおそろいにしましょうよ」

「あ、じゃあ私も含めて四人でおそろいに」

「ダメです……内緒です……」

「けちー」

「お金ならいくらでも出しますよ」

向こうは向こうで盛り上がってるな。ああ、俺の番だ。腹をくくらなきゃ。


「よし、俺の番だな」

「Pはなにを用意してくれたんだ」

「俺は晶葉の助手だからな。お前の助けになるものだ」


そういって俺は机から紙の束を渡した。


「企画書……新しい番組のか」

「ああ、お前がレギュラーの番組だ」

「……なるほど。流石は私の助手だ」

「満足してもらえたかい」

「ああ、満足だ」

そうかいそうかい、それはよかった。俺は他人事のように呟いた。

いくつになっても男の子は恥ずかしがりやなもんで。俺はそれが特に顕著なもんで。

素直な感謝っていくつになってもなれないもんだよな。特に異性が相手だと。


「そこー、なに二人で盛り上がっているんですか」

「晶葉ちゃんは渡しませんよ……」

「別にこんなちんちくりんいらねえよ」

「ちんちくりんとはなんだちんちくりんとは」

「うるせえ、菜々ぐらい歳を重ねてから出直してきやがれ」

「ちょっと、ナナは17歳ですって」

「あーあー、ちょっといいか」

「お、主役様が話すぞ。皆のもの静かにしなされ」

「そこまで大げさにしなくていいのだが、最初に、みんなありがとう」

「いえいえ、ナナたちも好きでやっているのですから」

「それでも、誕生した日を祝うというのは、人類が生み出した発明のひとつなのかもしれないな。みなの気持ち、感謝するぞ」

「顔真っ赤だぞ」

「う、うるさい」

うちの小さい博士は照れながら感謝の言葉を述べた。

こういうところ俺に似ている気がするんだよな。だからこそほっとけないというか。

そんなこといったら菜々頼子ちひろさんから色々言われるし、肝心の晶葉にも否定されるだろうから言わないけど。

最後にもう一回だけ。



「晶葉、誕生日おめでとう」

「ありがとう」

以上で終わりです。

晶葉誕生日おめでとう。今年も晶葉の助手であり続けます。

いまさらながら修正です
11,12レス目です。

「そりゃもちろん私だって渡しますよ。大事な仲間ですよ」

「なにを渡しますか」

「それは……内緒です」

「え、なんでですか」

「パクられては困りますからね」

「やっぱりちひろさんのを丸パクリするしか……」

「やっぱりじゃないですか。晶葉ちゃんならヒント出しているんじゃないですか」

「そうですかね……」


パクるとは失礼な。参考だって言ってるでしょうに。

まあ本当に浮かばなかったときは似たようなものを買うこともあったりなかったり。


「食べ物とかはどうですか」

「あー、なるほど。でも俺晶葉の好物はクレープしかわかりませんよ」

「ならそのクレープは」

「あいつクレープロボを作ってよく食べています」

「あ……、考えれば考えるほど浮かんできませんね」

「パクられては困りますからね」

「やっぱりちひろさんのを丸パクリするしか……」

「やっぱりじゃないですか。晶葉ちゃんならヒント出しているんじゃないですか」

「そうですかね……」


ない頭で必死に考える。さっきの会話を思い出せ。

晶葉ならなにを欲しがる。晶葉ならどこにヒントを出す。晶葉なら、晶葉なら。

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