隼鷹「酒と不器用と龍驤」 (18)

このお話は前作【天津風「ワインと月と龍驤さん」】の続きのような
ものになるますが、見なくても大丈夫です
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「ヒャッハー!ほら龍驤、もっと飲みなって!」
「キミのペースに合わせてたら潰れてまうわ・・・」

時刻はヒトキューマルマル、食堂の一角にて騒ぐのは軽空母隼鷹に龍驤(正確には騒いでるのは一人)

いつもはもう少し人が集まるのだが、今回は二人だけで宴会をしていた。

龍驤「ウチ明日出撃やからそんなに飲めへんよ・・・」

隼鷹「ああんそんなぁ、もっとかまってよぅ」

普段から明るい隼鷹だが、酒が入るとより騒がしくなる。

だが龍驤は気づいていた。

龍驤「・・・で、なんか話があるんやろ?」

隼鷹「・・・・・」

隼鷹の違和感に。

龍驤「キミが二人で飲もうって言うなんて珍しいからなぁ」

誘われる事自体は珍しくないが、二人だけなんてそうなかった。

元より大勢で騒ぐのが好きな隼鷹であるため、都合が付かなかったならともかく

わざわざ二人で、など普段からは考えにくい物だった。

隼鷹「あー・・・そんな大した話じゃないんだけど、さ」

歯に衣着せぬ物言いの隼鷹が言い澱むとは、またも珍しい。

龍驤はそう思いながら耳を傾けた。

隼鷹「アンタがさ、元気ないからその、元気付けたくてさ」

思わず目を見開きキョトンとしてしまった。

龍驤「・・・ウチが?いやそんなわけないやん」

龍驤が目を逸らし苦笑しながら否定すると

隼鷹「龍驤って嘘つく時やなんか隠す時って目、逸らす癖あるよな」

龍驤「へ!?ほ、ほんとに!?」

隼鷹「あと驚いたり落ち込んだりすると口調が標準語になる」

龍驤「・・・・・」

やられた、と龍驤は思った。隼鷹はニヤニヤしながら龍驤の言葉を待った。

龍驤「・・・別に、落ち込んでる訳やないで」

ためいきをつくと、龍驤は心情を語り始めた。

龍驤「今度、『アイツ』がうちに来るかも知れへんって話を聞いてな」

隼鷹「・・・ああ」

アタシがそばにいてやれなかった時の、か

隼鷹は遠い思いを頭に浮かべる。

龍驤「嫌って訳やないんよ」

龍驤はゆっくりと言葉を紡ぐ。

龍驤「今度は共に戦えるってすごくええことやと思うし」

隼鷹「・・・だねぇ」

これは隼鷹も同意見だった。ならなぜ―――

龍驤「でもウチらには【色々あった】」

龍驤が話を続ける。

龍驤「司令官も色々考えてくれてると思うんよ」

その名を呼ぶときだけ少し嬉しそうにしながら、龍驤は語る。

隼鷹は胸がチクリと傷んだ。

龍驤「でも、舞風も香取も他のみんなもアイオワと仲良くしてるやろ?」

香取がアイオワに日本の事を教えて、舞風はアイオワと遊んだり踊ったりしている。

これは隼鷹も知っていることだった。

龍驤「だから、ウチもそうなりたいなって思うんよ」

隼鷹「なる・・・?」

隼鷹は疑問を素直にぶつけた。

龍驤「瑞鶴とか翔鶴とか、他の子にウチの姿見せて、同じふうに思ってくれるといいなって」

ウチが舞風達を見て思ったようなことを―――

龍驤はゆっくりと思いを語る。

それは自分の気持ちを捨てた自己犠牲ではないのか・・・

隼鷹のそんな思いは、龍驤の笑顔で掻き消えた。

龍驤「ウチはこう見えて空母の中でもお姉さんやしな!お手本になってやらんとな!」

自分の背丈よりもずっと小さく、子供のような龍驤の姿は

龍驤「・・・みんなには内緒やで?は、恥ずかしいからな!」

とても大きく、頼もしく見えた。

隼鷹は小さく笑うと酒を口に含んだ。






隼鷹「なぁ~もっと飲もうぜ~」

龍驤「だからウチ明日出撃やって・・・」

時刻はフタマルマルマル、アタシとしてはもっと飲みたかった。

というか本音を言えば龍驤ともっと一緒にいたかった。

龍驤を部屋まで送るため冬の寒い廊下をわざわざ一緒に歩いているのも

少しでも一緒の時間を増やしたかったからだ。

隼鷹「さむ~・・・あとで熱燗飲も」

龍驤「・・・キミわざとやろ?そんな誘惑して」

アタシのそんな思いは龍驤はきっと気づきもしないんだろうけどさ。

アタシは笑いながらそんな思いを隠し続ける。

隼鷹「・・・なぁ龍驤」

さっきの話で、どうしても聞きたいことがあった。

龍驤「なぁに?」

隼鷹「アンタの思いは分かったけどさ、アンタの気持ちはどうなんだ?」

龍驤は誰かの為なら笑えるけど、辛い時は一人で抱え込む。

褒められたがりだけど、自己評価は基本低い。

龍驤「・・・気持ちか」

ちょっとしたことですぐ謝るし、悲しい時はバイザーで顔を隠そうとする。

これもきっとアタシだけが気づいてる龍驤の癖だ。

隼鷹「誰かの為に動けるのは良いことだろうけど」

自分の事を考えないのは悪い事なんだぜ。

アタシはそういった。言ってしまった。

龍驤「せやね・・・」

思案しながら龍驤は喋っていく。

アタシは一字一句聞き逃さないつもりで耳を傾けた。

龍驤「ウチもさ、正直ちょっち不安はあるんよ」

舞風達みたいに上手く行けるか― 

仲良くできるんだろうか―

他の子の手本になれるだろうか―

顔を隠しながら次々に吐き出してくる不安の言葉。

アタシは思わずバイザーを上げて顔を確認してしまった。

龍驤「・・・なに?」

隼鷹「いや・・・泣いてるのかなって」

泣くか、アタシはそう言われながらケツを叩かれた。

龍驤「きょうはありがとぉ」

あっという間に部屋の前まで来てしまった。

隼鷹「なんからしくなかったねぇアタシ、明日仕切り直して飲もうよ」

今日だけでもいいから、廊下が少し伸びてくれればいいのに・・・

なーんてばかみたいなこと考えて、ありえないと自分で笑った。

龍驤「ウチはもう寝るけど、キミはどうするん?」

隼鷹「うーん、重巡組と飲み直すよ」

軽く睨まれながら飲みすぎんなや、と釘を差された。

本当は確かに飲むつもりだが一人で飲むつもりだった。

アタシは苦笑しながら部屋をあとにしようとすると

龍驤「ほんとにありがとね・・・」

急なお礼にアタシは驚いてしまった。

龍驤「キミに話してなんかスッとしたわ」

やっぱ相談するって大切やねぇ、そう龍驤はアタシに言ってくれた。

隼鷹「・・・お安い御用さ」

不器用なアンタが素直に頼りにしてくれるのが何よりも嬉しかった。

龍驤「それに、不安だけやないんよ」

龍驤が朗らかに、嬉しそうに伝えてくれる。

アタシにだけ教えてくれる、アタシだけのアンタの秘密。

アタシのこの思いも、アタシだけの秘密。

龍驤「どんなふうに発艦するんやろとか、どんな艦載機があるんやろとか」

不器用なアンタはきっといつか恋をするだろう。

その相手はアタシではないだろう。

龍驤「ウチにも使えるやろかとか、どんな感じやろかとか」

その時はきっと心から笑顔になるんだろう。

アタシはそれを心から祝福するんだろう。

隼鷹「空母してんねぇ、へへっ」

そのいつかが来るまで、アタシが隣にいてやろう。

そのいつかが来ても、そう簡単にはこの場所は譲ってはやらない。

龍驤「キミも気になるやろ?えへへ」

この笑顔はアタシが守っていこう。

これがアタシの決意、願いだった。

この物語はきっと

大空を舞う不器用で無骨な龍と

そのそばに居たがる不器用で馬鹿な鷹のお話

・・・・・なんてね。


隼鷹「月見酒と行きたかったんだけどねぇ」

今日はどこまでも続く、曇り空だった。



月はアタシには微笑んでくれない気がした。

終わり
龍驤隼鷹で短いの書きたいなって思ってたらサラトガが来るらしいので
思わず書いてしまった
龍驤と仲良くしてくれたらいいなぁ

おまけ

今回とまったく関係ない過去作

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