【艦これ】提督「文月……愛してる」 (36)

「急にどうしたの~?司令官」

提督「いやだってさ、文月の全てが愛おしくて仕方ないんだよ」

提督「茶色でサラサラの髪、風でフワリとなびくポニーテール、くりくりの瞳、甘ったるい声……何もかもが俺好みで最高だ……」ギュッ

「ふわぁ……」

提督「あぁ、文月……俺だけの文月……」ナデナデ

「んふぅ……くすぐったいよぉ、しれぇかぁん……♪」スリスリ

提督「そう言いつつも体をすり寄せてくるのはどこの誰かな?」ナデナデ

「……えへぇ♪」

提督「その笑顔も眩しい……愛してるよ、文月……」ナデナデ

「……私も。しれぇかん、大好き……♪」スリスリ

提督「……♪」ギュッ

「……♪」ギュッ

睦月「……あの、提督」

提督「ん……?あぁ、睦月か。すまない、どうした?」

睦月「新しい装備が完成したって、妖精さんから伝言を頼まれたにゃしぃ」

「………」

提督「おぉ、そうか。わざわざ言いに来てくれたのか。ありがとう」

睦月「……ううん、気にしないで」

提督「文月の温かさと柔らかさから離れるのは名残惜しいが、やるべきことはしっかりとせねばな。よし、ちょっと工廠に……」

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「あ、司令官!私も行く~!」

提督「え?でも、妖精と軽く話して装備を確認するだけだから、あまり楽しい内容では無いぞ?」

「良いの~!私は司令官と一緒にいたいの~!」ギュッ

提督「……そうか。なら、ついて来るか?」

「うんっ!」

睦月「………」

提督「ご苦労だった、睦月。もう下がって良いぞ?」

睦月「……うん」

「また後でね、睦月ちゃん!」

スタスタ…

睦月「………」

睦月(協力すると約束したとはいえ、貴女は……このままで、本当に……)

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


提督「それでな?この前は……」

「そうなんだ~。災難だったね~……」

弥生「あ……」

皐月「………」

長月「……!」

提督「ん?弥生に皐月、長月か」

「弥生ちゃん!皐月ちゃんに長月ちゃんも!遠征の帰り~?」

弥生「……今日は、非番」

「あ、あれ?そうだったっけ?ごめんね~……忘れてたよ……」

皐月「……いつまで」

「え?」

長月「こんなことを続けても……」

「……それ以上はダメ」

弥生・皐月・長月「……!」

「隣に司令官がいるんだよ?約束……してくれたよね?」ボソッ

弥生・皐月・長月「………」

提督「……文月?」

「あ、ううん!何でもないよ?えへへ……」

弥生(……どう見ても、無理してる)

皐月(もう、見てられない……)

長月(その方法は……司令官だけでなく、貴女まで……!)

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「……どうしてもダメ?」

提督「俺だってそうしたいのは山々だが、最近は憲兵がうるさくてな……ケッコンするまでは、同じ部屋で眠ることさえ注意を受けるんだ」

「そっか……」

提督「だから、君の練度が最大になって……指輪を渡すまでは、待っていてくれないか?」

「……うんっ。司令官がそう言うなら」ニコッ

提督「ありがとう。しっかり出撃と演習をこなして、近い内に渡すからな?」

「えへへ……私も頑張るから、待ってるね?」

提督「あぁ。おやすみ……」

「おやすみ、司令官っ」

パタン…

「………」

(さて、このままここで立っていても仕方ないし、自室に……)クルッ

睦月「………」

「……あれ?睦月ちゃん?」

睦月「……今は提督が傍にいませんし、『演技』する必要は無いですよ」

「………」

睦月「………」

「……そっか。わざわざそう言うってことは、『ウチ』に話があるんやな?」

睦月「……はい」









睦月「……龍驤さん」

龍驤「………」







龍驤「で、どうしたん睦月?」

睦月「………」

龍驤「もしかして、ウチに演技をやめろって言いに来たんか?」

睦月「……いえ」

龍驤「あれ、違うんか」

睦月「……本当に、このままで良いんですか?」

龍驤「………」

睦月「龍驤さん。私は……私達は協力を約束した以上、貴女の行動を止めさせることは出来ません」

睦月「だけど……龍驤さん自身は、良いんですか……?」

龍驤「……決めたことや。前言撤回はせんで」

睦月「……!」

龍驤「ウチはな、例え周りから後ろ指刺されたとしても……司令官を支えるって決めたんや」

龍驤「だって、もう……見たくないんや!司令官の……あんな、あんな……っ!」

睦月「………」

睦月(……私だって、あの時の提督の痛々しさを忘れたことは無い。でも……)

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


数か月前

提督『……こ、こんな無茶な作戦があるか!』プルプル

文月『………』

提督『大本営は一体何を考えているんだ!いくら深海棲艦を大々的に討伐する為だからって……!』

提督『艦娘は兵器である前に……一人の人間なんだ!これでは艦娘を使い捨ての駒のように……』

文月『……司令官』

提督『っ……文月』

文月『私なら大丈夫。今までだって、何度も危険な状況に陥ったことがあるけど……全部、司令官の指示で切り抜けてきたでしょ?』

文月『だから今回も、司令官さえいてくれれば……私達は、必ず勝てるから……!』

提督『………』

提督(君だって、本当は怖いはずなのに……俺を励ます為に、自分の怖さを抑え込んで……)

提督(……部下を、否、好きな人を不安にさせるようではダメだ。俺が怖気づいていてどうするんだ!)

文月『………』

提督『……そう、だな。どんなに苦しい戦闘だとしても、誰一人沈めてたまるものか。全員必ず生還させてみせる!』

文月『司令官……!』

提督『ありがとう、文月。君のお陰で決心がついた。この戦い……絶対に勝つぞ!』

文月『うんっ!』

龍驤『話は聞かせてもろたで!』バタン!

提督・文月『え?』

龍驤『水臭いやんか司令官!そんな重大な作戦なら、いち早くウチにも知らせてくれな~!』

提督『りゅ、龍驤?』

文月『いつからそこに……』

龍驤『司令官が書類の内容を文月に話し始めたところからやな』

提督『ほぼ最初からじゃないか!』

龍驤『ウチだって狙って盗み聞きしてた訳やないで?たまたま部屋の前を歩いとったら聞こえてきたんや』

文月『確かに司令官、かなりおっきな声で話してたもんね……』

提督『む……』

龍驤『ま、安心しぃ!鎮守府最初の軽空母にして練度も鎮守府トップのウチが、あんな奴らなんかサクッとしばいたるわ!』

提督『……はは、頼もしいな』

文月(……むぅ。折角司令官と二人きりだったのに……龍驤さん、また邪魔して……!)

龍驤『むぅ……本気にしてないやろ?』

提督『いや、そんなことは無い。君だって、俺にとっては頼りになる娘だ。極力安全重視で臨むが、いざという時は……頼む』

龍驤『任しとき!』ドンッ

文月『……無い胸を張っても虚しいだけだよ?』ジロッ

龍驤『何やて!?文月かてウチと大差無い癖に!』

文月『あうっ……で、でもっ!私はしょーらいせーがあるもん!』

龍驤『むぎぎ……!』

文月『むぅ……!』

提督『お、おい。こんな時に喧嘩は……』

提督(でもまぁ、喧嘩するほど仲が良いと言うしな……)

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


提督『……嘘、だろ?』

睦月『……ごめん、なさい……!』ポロポロ

如月『私達が……守れなかったから……!』ポロポロ

提督(文月が……撤退途中で仲間を庇って、轟沈……!?)

龍驤『……ごめんっ!ウチがついていながら、こんなことに……!』

提督『そんな……あぁ、文月……嘘だ……嘘だと言ってくれ……!』

睦月『……っ』ポロポロ

如月『………』ポロポロ

提督『………』




『何ですか何ですか~?』

『改装された文月の力、思い知れぇ~!』

『私だって夜戦なら……結構強いんだから!』

『司令官に~、文月のあまーいチョコのプレゼント、あ・げ・る・ね♪』

『……司令官、大好きっ!』




提督『……う、うわああああああああああああああああああああああああああああっ!』

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


提督『………』ブツブツ

龍驤『なぁ、司令官……』

提督『文月……文月……』ブツブツ

龍驤『………』

龍驤(あれから毎日、司令官は虚ろな目で海を見つめながら……話しかけても無反応で……)

龍驤『……し、司令官!ウチ、もうすぐ練度が限界に……』

提督『文月……』ブツブツ

龍驤『………』

龍驤(あかん……司令官は、完全に心がやられとる……ウチの話、全然聞いとらん)

龍驤(それだけやない。他の艦娘が話しかけても、ず~っと無言で……仕事もままならん)

龍驤(このままやと、司令官は首にされてまう……)

龍驤『……っ』ギリッ

龍驤(……ウチは、何も出来へんのか。目の前で好きな人が心折れて死にそうになってるのに……何もしてやれんのか……!)

龍驤『……んっ』ファサッ…

龍驤(あ……風で髪が……ん?そういやウチ、茶色い髪の毛やったな……それに駆逐艦と間違われるくらいの幼児体型……)

龍驤(それだけやない。ウチは何故か睦月型の娘と声がめっちゃ似とる……)

龍驤『……!』グッ…

龍驤(……ダメで元々や。司令官の為なら……ウチは……!)

睦月『……文月ちゃんの服を?』

龍驤『そうや。幸い、ウチは文月と背格好が似とる。だから……』

如月『……文月ちゃんに成りすますことが出来る、ということ?』

龍驤『………』コクリ

弥生『……そんなことをして、何になるの?』

龍驤『……!』

卯月『ちょっ、弥生!?』

皐月『いや、弥生の言う通りだよ。龍驤さん、それは……貴女自身を傷つけることになる』

水無月『さ、さっちん……』

長月『それどころか、ただの自己満足に過ぎない。そんなことをしたところで、文月は……文月は……っ!』

菊月『……長月』

龍驤『……そんなん、ウチだって分かってる。でも、それじゃあどうすれば良いんや!』ジワッ

睦月型『……!』

龍驤『ウチは司令官に元気になってもらいたい……出来ることなら、今すぐにでも文月を海の底から引っ張り出してやりたい!』ウルウル

龍驤『だけど、そんなことは不可能や……明石や夕張に必死に頼んだけど、無理って言われたんや……!』ポロポロ

龍驤『そんで司令官は、ウチらの言葉が聞こえへんほど弱り果てて……だったら、こうでもしやんと……っ!』ポロポロ

三日月『……龍驤さん』

望月『………』

龍驤『……お願いや。こんなこと頼めるのは、睦月達しかおらん……』スッ…

睦月型『……!?』

龍驤『司令官の心を……今にも死にそうな心を、この世界に繋ぎ止めることが出来るなら……ウチは何だってするから……!』

如月(ど、土下座……龍驤さん、貴女は……そこまで司令官のことを……)

睦月『………』

睦月(龍驤さんはこの鎮守府に初めてやって来た軽空母。そして私も、吹雪ちゃんの次にここで建造された……所謂古参組)

睦月(だからこそ、龍驤さんが提督とずっと過ごしてきたことは……私も知っている。実際に、提督と一緒にいることをよく見かけたから)

睦月(でも、文月ちゃんがやって来てからは……提督は文月ちゃんに一目惚れ。文月ちゃんも、そんな提督に想いを寄せていた)

睦月(そして、提督に想いを寄せていたのは……龍驤さんも、例外じゃなかった。提督と文月ちゃんが仲良さげにしている所を……龍驤さんは、寂しげに眺めていた)

睦月(だから、私は一瞬……『龍驤さんは文月ちゃんの死を利用して提督の気を惹こうとしているのではないか』と疑った)

睦月(けど……)チラッ

龍驤『……っ!』ポロポロ

睦月(涙を流しながら頭を床にこすりつけている龍驤さん……そんな彼女を見て、私は彼女を少しでも疑っていた自分が嫌になった)

睦月(龍驤さんは、本当に提督を助けようとして……その為なら、自分を偽ることもする覚悟で……)

睦月『……分かりました』

弥生・皐月・長月『睦月!?』

龍驤『あ……』

睦月『私達の声も、提督には届かないけど……龍驤さん、貴女なら……!』

如月『……本気なのね?』

睦月『………』コクリ

望月『……分かった。睦月が真剣に考えた上での結論なら、私からの異論は無いよ』

三日月『……私も、もっちと同意見です』

長月『だが、それでは……!』

睦月『……龍驤さんと提督を、信じるしか無いよ』

睦月型『……っ!』

龍驤『……おおきにな、睦月』

睦月『いえ……提督のこと、お願いします』

龍驤『……任せとき。絶対に死なせへん!』

弥生『………』

皐月『………』

長月『………』

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


睦月「………」

睦月(あの時、私は反対する妹達の意見を無視して……龍驤さんの気持ちを尊重した)

睦月(だけど……)チラッ

龍驤「心配せんでも、司令官はちゃんと仕事してくれるようになったやろ?大丈夫やって」

睦月「………」

睦月(龍驤さん……分からないんですか……?今の貴女の顔は……)

龍驤「司令官、最近は今までの調子を取り戻してきてるみたいや。この調子でウチが文月を演じ続ければ……」

睦月「………」

睦月(文月ちゃんを演じると決めた、あの日から……どんどん、やつれていっているんですよ……?)

睦月(提督は、貴女を見ている訳じゃない……貴女を通して、文月ちゃんを見ているに過ぎないんです……)

龍驤「……そんな疑うような目で見んといてや。見た目もほぼ完璧に文月を再現しとるつもりやけど、睦月達まで騙せるとは思っとらんし」

睦月「……っ」

睦月(龍驤さん……)

睦月「……!」グッ…

睦月(……やっぱり、提督と話をしないと。今なら私の声も提督の耳に届くから……!)

睦月(元はと言えば、私が龍驤さんの意見を尊重したせいで……龍驤さんは、ずっと傷ついて……だから、私が何とかしないと……!)

龍驤「………」

龍驤(ウチだって、睦月達が言いたいことは分かる。自分でも、徐々にヤバい顔になっていってることくらい……分かってるんや)

龍驤(最初に司令官がウチを見た時、すがるように抱き締めてくれたのは今でも忘れへん)




提督『文月……もう、どこにもいかないでくれ……!俺を残して、一人でいかないでくれ……!』




龍驤(そん時、ウチは……最低やけど、司令官の愛を独り占め出来たみたいで嬉しかった)

龍驤(それと同時に、ずっと生きる屍やった司令官が口を聞いてくれたことで……嬉し涙が出てきたほどや)

龍驤(でも、その愛は所詮紛い物。司令官は『ウチ』やなくて……『文月』を見とる)

龍驤(ウチが一生懸命文月を演じれば演じるほど、司令官が注いでくれる愛が……ウチに向けてのものやないって、気づかされる)

龍驤(このまま文月を演じ続けてたら、ウチはどうなるんやろう……ウチがウチじゃ無くなってしまうんちゃうか……?)

龍驤(そうした不安にかられたのは一度や二度やない。ここ最近、毎日襲ってきよる。たまにトイレで吐いてまうほどや)

龍驤(……でもな?今更やめる訳にはいかん。司令官は、やっと今までみたいに振る舞ってくれるほどに回復してくれた)

龍驤(ここでウチが演じるのをやめれば、司令官はきっと……また、あの日のような生きる屍に戻ってまう)

龍驤(そんなこと、ウチが絶対にさせへん……!司令官の心は、ウチが守るんや……!)

龍驤(……ははっ。絶対に報われへんのに、何でウチはこんなに必死なんやろうな。自分ばかりが傷ついて、もうボロボロやのに)

龍驤(……こういうのを、惚れた弱みって言うんやろか。そうや……惚れたんやから、仕方ないやんな)

龍驤(司令官も、惚れた女……文月のことを本気で愛してたんや。だったらウチだって……大丈夫。まだやれる。ウチならやれる……!)

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


提督「……君が相談とは珍しいな。どうした?」

睦月「いえ……」

睦月(提督……あの時より、元気になったように見えたけど……やっぱり、目が虚ろだ……)

提督「……睦月?」

睦月「………」

睦月(もしかすると、今から私がやろうとしていることは……龍驤さんの努力を、水の泡にすることかもしれない)

睦月(だけど、龍驤さんを説得出来ない以上……提督の方を、説得するしか……!)

睦月(このままじゃ、龍驤さんの心が……!)

睦月「……本当は、気がついてるんじゃないですか?」

提督「何がだ?」

睦月「文月ちゃんは……」

提督「……文月のことか?」

睦月「………」

睦月(……龍驤さんには、後で怒られよう。万が一、提督が錯乱しちゃったら……その時は、私が何とかすれば良い)

睦月(だから……言わないと。龍驤さんの心を守る為に……そして、提督を説得して……辛い過去を乗り越えてもらうように……!)

睦月「……文月ちゃんは、龍驤さんが演技しているだけだって」

提督「………」

睦月「………」

提督「……睦月」

睦月「っ……は、はい」









提督「龍 驤 と は 一 体 誰 だ ? そ ん な 名 前 の 艦 娘 は 知 ら な い」







睦月「え……」

提督「おかしなことを言うな。文月が誰かの演技だなんて、そんなはず無いじゃないか」

提督「どこからどう見ても、俺が愛している文月に違いない。俺が見間違うはずが無いだろう」

睦月「……っ」ゾクッ

提督「それに文月は俺がこの鎮守府に来たばかりの頃から一緒にいる古参組だぞ?」

睦月「………」ガクガク

睦月(ま、まさか……提督……)

提督「ついこの間までは練度が伸び悩んでいたが、最近になって急激に練度が上昇してな」

提督「これでようやく指輪が渡せる……」

睦月(貴方の心は……既に取り返しのつかないほど、壊れていて……そのせいで……)

睦月(自分の艦隊にいた龍驤さんのことを、記憶から抹消して……その代わり、龍驤さんが演じる偽りの文月ちゃんで上書きされて……!)

睦月「……っ!」ダッ

提督「……お、おい。睦月?」

睦月(どうして……どうしてどうしてどうして!?まさか、こんなことになるなんて……!?)

睦月(提督の心から、龍驤さんの存在が……そんな……!)

睦月型 自室

ガチャ バタンッ!

睦月「……っ」ヘナッ…

睦月(私のせいだ……私があの時、龍驤さんのお願いを聞き入れたから……)

睦月(そのせいで提督は、取り返しのつかないところまで……心が壊れちゃって……)

睦月(提督の心から……龍驤さんの存在を、消しちゃって……!)

睦月「……あっ、あぁっ……!」ジワッ

睦月(私のせいで……私のせいで、あんなことに……!)ポロポロ

睦月「うっ……ふぐぅっ……!」ポロポロ

睦月(ごめんなさい……ごめんなさい……!)

睦月(提督……龍驤さん……ごめんなさい……!)

睦月(取り返しのつかないことをしてしまって、ごめんなさい……!)

睦月「あ……あぁっ……うわぁぁぁ……っ!」ポロポロ

「睦月……一体、どうしてしまったんだ?まさか、出撃や遠征のストレスが溜まっていたのか……?」

「だとしたら、今度睦月型に休暇を与えてやらないといけないな」

龍驤「………」

龍驤(大本営からの書類を届けようと、提督室を訪れたら……聞いてしまった)

龍驤(司令官と睦月の会話を……そして……知ってしまった)




龍驤(司 令 官 の 中 で ウ チ の 存 在 全 て が 文 月 で 上 書 き さ れ て し ま っ て い た こ と を)




龍驤「……うぶっ、おげええええっ!」

龍驤「はぁっ……はぁっ……」

龍驤(……情けない、話やな……ウチが自分で覚悟決めてやるって、言い出したことやのに……)

龍驤(ウチが司令官にとって……その程度の存在やってって、分かった途端……心が、悲鳴を上げて……)

龍驤「……あ、あはは……あはははっ……」ポロポロ

龍驤(あかん……ウチ、もう限界みたいや……ウチを文月として見てるだけなら、まだ耐えられたけど……)ポロポロ

龍驤(まさか、ウチの存在が……司令官から、消えてもうてたとはなぁ……)ポロポロ

龍驤(……目の前が、真っ暗になってきた……そっか。いよいよウチも……壊れるんか……)ポロポロ

龍驤(あの時、司令官は……こんな気持ちやったんかなぁ……何もかもが、絶望で覆い尽くされてたんかなぁ……)ポロポロ

龍驤(……司令官。貴方が壊れてしまったなら……ウチも、一緒に……壊れるわ。そんで、壊れた者同士……な?)

龍驤(えへへ……司令官、好きやったで……)

龍驤「………」プツン…

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


睦月「………」

睦月(結局、夜ご飯も食べずに……一晩中、布団の中で泣き続けた)

睦月(途中、部屋に戻って来た如月ちゃん達が声をかけてくれたけど……色々と察したのか、一人にしてくれた)

睦月(涙は枯れたけど、悲しみと苦しさはまだ残ってる……私は、提督の心を……より強く壊してしまった)

睦月(それどころか、龍驤さんにまで……辛い思いをさせてしまった)

睦月(文月ちゃんが生きていた頃の、楽しかった日々は……もう、私のせいで……戻って来ない)

睦月(もう、二人に合わせる顔が無い……責任を取ることも出来ない……)

睦月(このまま、布団の中に閉じこもっていたい……)

「ん……」

睦月「っ!?」ビクッ

睦月(えっ……こ、この部屋には、私一人しかいないはず……)

睦月(昨日は如月ちゃん達が私に気を遣って、他の駆逐艦の部屋に泊まりに行ってくれたはずなのに……)

睦月「………」ソーッ

睦月(布団から顔を出すと、どうやら……かつては文月ちゃんが眠っていたベッドで、誰かが寝ている)

睦月「……っ」ゾクリ

睦月(嫌な予感がする。私は震える体を無理に起こしながら、文月ちゃんのベッドに近づく)

睦月(そこで寝ているのが、実は部屋に戻って来ていた如月ちゃん達であることを望みながら……恐る恐る布団をめくると……)

龍驤「すぅ……」

睦月「………」

睦月(……嫌な予感が的中した。そこには文月ちゃんを演じている龍驤さんが眠っていた)

睦月「……りゅ、龍驤さん?」

龍驤「ん……」

睦月(ど、どうしてここで……?いつもなら、自室で眠っているはずじゃ……)

龍驤「……あ~、おはよう……睦月ちゃん」ニコ…

睦月「っ!?」ゾクッ

睦月(何てことない、朝の挨拶……だけど、底知れぬ狂気を感じた。私の勘が告げている……)

睦月(また、取り返しのつかないことになっているような……そんな、胸を締め付けられるような確信が……)

龍驤「あれ~?如月ちゃん達は~……?」キョロキョロ

睦月「え、えっと……それより、今は提督はいませんよ?だから文月ちゃんの演技はしなくても……」

睦月「いや、その前に……どうして、龍驤さんは私達の部屋で眠っているんですか……?」

龍驤「演技……?何言ってるの~?」









龍驤「龍 驤 っ て 誰 ? 私 は 睦 月 型 7 番 艦 の 文 月 だ よ ? 自 分 の お 部 屋 で 寝 る の は 当 た り 前 で し ょ ?」







睦月「あ……っ」

睦月(奥の奥まで濁り切った、絶望に染まり切った瞳……それを見て、私は分かってしまった)

睦月(きっと、昨日の提督との会話を……龍驤さんに、聞かれてしまっていたんだ……)

睦月(それで、既に限界だった龍驤さんの心が……完全に、壊れ……)

龍驤「えへへ……今日もいっぱい頑張って、司令官に褒めてもらお~っと……♪」

睦月「………」

睦月(……提督だけじゃない。私は……龍驤さんの心まで、壊してしまったんだ)

睦月(私が、余計なことをしたせいで……龍驤さんのことを……)

睦月「……い、嫌あああああああああああああああああああああああああっ!」

龍驤「ど、どうしたの睦月ちゃん!?」

睦月「ああああああっ!うわああああああんっ!」ポロポロ

龍驤「あわわわ~……!?どうしよう!?睦月ちゃんが泣き出しちゃったよぉ~!?」オロオロ

睦月(私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ)ポロポロ

睦月(私のせいで提督と龍驤さんが……私のせいで……あっ、あぁっ……!)ポロポロ

睦月「うわああああああああん……!」ポロポロ

龍驤「あぅ……」オロオロ

龍驤(泣き止まないよ~……如月ちゃん達もいないし、どうしよ~……!?)オロオロ

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


数週間後

提督「……いよいよだな」

龍驤「……うんっ」

提督「ここまで長かった……待っていてくれてありがとう、文月」

龍驤「ううん……司令官こそ、私が練度最大になるまで付き合ってくれて……ありがとうね~?」

提督「当たり前だろう。君がいてくれたから、俺はここまでやって来られたんだ」

龍驤「えへへ……♪この鎮守府に来た時から、ずっと一緒だったもんね?」

提督「あぁ。あの時の作戦も、君が支えてくれなければ……俺はここにいなかったかもしれない」

龍驤「あれはやばかったなぁ……もう少しで死ぬところだったもん」

龍驤「でも、司令官が戦闘中もしっかり指示してくれたから、生還出来たんだよ?」

提督「……そう言ってもらえるだけで、必死に頑張った甲斐があったよ」ナデナデ

龍驤「んふぅ……♪」

提督「……文月」

龍驤「……はいっ」

提督「どうか……これを受け取って欲しい」スッ…

龍驤「わぁ……待ちに待った、ケッコン指輪……!」

提督「今はカッコカリだが……終戦し、君が解体された暁には……本物を渡そうと思っている」

龍驤「そ、それって……!」パァッ

提督「それまでは、この指輪で我慢してほしい」

龍驤「うん……うんっ!司令官……司令官司令官司令かぁんっ!」ダキッ

提督「おっと!相変わらず甘えん坊だな……」ナデナデ

龍驤「えへへぇ……♪」スリスリ

睦月型「………」

菊月「……良いのか、あれ」

水無月「当の本人達は幸せそうだけど……」

望月「………」

弥生「……こんなの、間違ってる」

皐月「そう、だよ……だって、二人とも……正気を失って……今だって、目が虚ろで……!」

如月「……でも、私達で何とか出来る問題だと思う?」

長月「それ、は……」

三日月「………」

卯月「いっそ、ドッキリだったらどれほど良かったか……って、こんなこと考えても仕方ないよね……」

睦月「………」

睦月(あれから、私は如月ちゃん達に震える声で事情を話すと……)

睦月(何か言いたそうな顔をしている娘もいたけど、最終的には『私が一人で責任を感じることは無い』と言ってくれた)

睦月(でも、私があの時……龍驤さんの提案を受け入れたから、こんなことに……)

睦月「……っ」ズキッ

睦月(虚ろな目だけど、幸せそうな二人……でも、これを幸せと呼ぶことは……私には、出来ない……)

睦月(かと言って、私が二人を救うことも出来ない……そして、それを誰からも咎められない……)ジワッ

睦月(あの二人は、私を怒るほどの正気も残っていない……そうしたのは、紛れも無く私……)ウルウル

睦月「……っ」ポロポロ

睦月(ごめんなさい……私のせいで、ごめんなさい……!提督、龍驤さん……ごめんなさい……!)ポロポロ









提督「文月……愛してる」

龍驤「私も……司令官のこと、だぁ~い好き……!」







龍驤は名誉睦月型可愛い。文月は天使
某ウ=ス異本と某SSに感化されて令和初っ端から暗い話を書いてしまった
反省はしている。後悔はしていない

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