道明寺歌鈴「川島さん、お願いしみゃす。私に早口言葉を教えてくれませんか」
川島瑞樹「そんなにあわててどうしたのよ?なにかあったのかしら」
歌鈴「次に出すCDでラップを担当することになっちぇ なってしまって、今の私のままだととても歌いきれなくて、とにかく特訓したいんです」
瑞樹「空いている時間にならいいわよ。ただ、プロデューサーさんやトレーナーさんには相談したのかしら。それだけ教えて頂戴」
歌鈴「ありがとうございます。プロデューサーさんは忙しいから無理の一点張りですし、トレーナーにもラップは専門外と断られて……」
瑞樹「……。どこか引っかかるけどまあいいわ。そういうことね。私でよければ協力してあげる」
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後日
瑞樹「まずは現状把握からね。私のいう言葉を復唱してみてくれないかしら。手始めに生麦生米生卵」
歌鈴「にゃまむぎにゃまごめにゃまたまご」
瑞樹「バスガス爆発」
歌鈴「ばすばすばくばつ」
瑞樹「かえるぴょこぴょこみぴょこぴょこ あわせてぴょこぴょこむぴょこぴょこ」
歌鈴「かえるぴぃこひょこみひょこぴこ あわせてぴょこぴょこみぴょこひょこ」
瑞樹「……早口言葉はダメみたいね。どのレベルまで滑舌をよくしたいかに寄るのだけれど、レベルを引き上げるのには少し苦労が伴いそうね」
歌鈴「望むなら瑞樹さんみたいになれたらなとちょっとだけ思います」
瑞樹「申し訳ないけれどそれは厳しいわね。私はアナウンサー出身のアイドルでこの分野ではアイドル界トップクラスを自認してるわよ。簡単には追いつかせてあげないんだから」
歌鈴「できればその片鱗を直に感じてみたいです。……。いえわがままいってごめんなさい」
瑞樹「歌うたいが歌うたいに来て 歌うたえと言うが 歌うたいが歌うたうだけうたい切れば 歌うたうけれども 歌うたいだけ 歌うたい切れないから 歌うたわぬ。こんな感じでいいかしら」
歌鈴「うたうてちゃおいがうたうちゃいにきて うたうちゃいがうたいたいじゃけうたいきれば うたうっあいれとも うたいうたいだけ うたたいきれないちゃら うたうたわぬ」
瑞樹「これは最難関の早口言葉の一つだから復唱しなくてもよかったのに……。でも努力とガッツは買いたいわね」
歌鈴「すらすら滑舌には遠い道ですが、いつかたどり着いて見せます」
瑞樹「トレーナーさんも言っていたでしょうけど、弱点克服には地道に『あああああああああ!』とか同音を繰り返し発音する。それと『あえいうえおあお』の繰り返しは基本ね」
歌鈴「ひゃいっ」
瑞樹「うちのプロダクションじゃあ取り扱っていなかったけれど『あめんぼの歌』の復唱も同様の効果を与えるわね。当然腹式呼吸で一音一音をはっきりと聞こえるようにすることを心掛けなさい。それが歌や演技にもつながるはずよ」
歌鈴「はい!」
歌鈴「へっ。なんでそれが……」
瑞樹「滑舌に関しては昔からいいほうだったわ。ただ、私は大阪出身なのよ。地元が嫌いなわけじゃないけどアナウンサーを志した時から関西弁は必要な時以外は封印したの。ただいくら練習をしてもしても、どうにも関西弁のイントネーションが抜けなかったのよ。アナウンサーをするにはそれは致命傷だったの」
歌鈴「はわ~。アナウンサーも大変だったんですね」
瑞樹「楽しい職業はあっても楽な仕事はないものよ。歌鈴ちゃんの地元がもともと標準語のイントネーションを使う地域だったのかテレビやラジオの影響かはわからないけれど、それって東京中心にまわる芸能界ではとてつもないアドバンテージなのよ」
歌鈴「どうしてですか」
瑞樹「すこし突っ込んだ話をするとね、いわゆる標準語って東京式のイントネーションなのよ。全国放送では必要があって方言指導が入らない限りは基本的にこのアクセントじゃないと煙たがられるわ。特にアナウンサーはこれが絶対なのよ」
歌鈴「へっ、芸人さんとかよく関西弁で」
瑞樹「あれはお笑いの世界だから許されるのよ。だって大阪芸人の東京進出、そして勢力拡大がなければ無理だったわね」
歌鈴「でも、沙織さんや鈴帆ちゃんはCGプロで大活躍してるじゃないですか」
瑞樹「沙織ちゃんや鈴帆ちゃん否定するわけじゃないけれど、厳しいことは確かね。正統派の活動をしていても対外的には色物扱いは免れないわ。春菜ちゃんじゃないけど色眼鏡で見られるわね」
歌鈴「それをいったら私も巫女アイドルっていう変わり種ですよね……」
瑞樹「うちのプロダクションはそれで売ってるからいいのよ。これは前述の二人や春菜ちゃんにも言えるわね。ただ、もし私が方言バリバリで会話したらいいか悪いかは別として笑美ちゃん的なふるまいを要求されることは確かだわ」
歌鈴「いまさらと思うかもしれませんが、あたらめて芸能界ってやっぱりとんでもなく厳しいところだったんですね」
瑞樹「これは厳しいとはまた違う気がするけれど……。まあそれに比べれば滑舌を直すなんて楽勝よと言いたかっただけ。その証拠にほとんどこの脱線のなかで噛まなかったじゃない」
歌鈴「実はこの雑談も試されているのかなと思って、噛まないように気持ち一泊入れて話してみたんです。よかったですか」
瑞樹「今日のところは合格点よ。また近いうちに上達したと自覚したら成果を見せに来てね」
歌鈴「ありがとうございました」
それから
あえいうえおあお かけきくけこかこ
瑞樹『よく噛むところが弱点だから集中的に反復しなさい』
させしすせそさそ させしすせそさそ
歌鈴は
『あめんぼあかいなあいうえお』 『うきもにこえびもおよいでる』
必死に
赤パジャマ蒼パジャマ黄ジパマ 失敗したもう一回 赤パジャマ青パジャマ黄パジャマ
そして真摯に
うちのつりびんは つぶれぬつりびん 隣のつりびんはつぶれるつりびん
言葉の発生練習を続けていった
瑞樹『竹薮に竹立てかけたのは、竹立てかけたかったから、竹立てかけた』
歌鈴「竹薮に竹立てかけたのは、竹立てかけたかったから、竹立てかけた」
そうして練習していると
どじょうにょろにょろ 三にょろにょろ 合わせてにょろにょろ 六にょろにょろ
いつのまにかなぜかドジのほうもなりをひそめていった……
一か月後
デレP「川島さん。そういえば最近歌鈴が噛まなくなってな。ベテラントレーナーも『むしろダンスレッスンで歌鈴がこけなくなったから訳を知りたい』っていうし……。心当たりあるか」
瑞樹「ええ、私のほうでちょっとアドバイスをしただけよ。たまにレッスンも見てあげてるわ」
デレP「やっぱりか。川島さんが悪いわけじゃないんだがとんでもないことをしてくれたよ……。いや、気づかなかった俺が悪いか」
瑞樹「なにか悪いことでもあったのかしら」
デレP「大ありだ」
瑞樹「滑舌の特訓をすることの何が悪いのかしら。歌鈴ちゃんラップのCDとか持ち込まれてかなり気にしてたわよ。それなのにプロデューサーも訓練してくれないっていうじゃない」
デレP「それは申し訳ないと思ってる。でも歌鈴に本当のことを言うわけにもいかなくて……」
瑞樹「それどころかトレーナーさんに私が聞いたところによれば、プロデューサーが歌鈴ちゃんへの滑舌トレーニングをトレーナーにさせないように丸め込んでたらしいじゃない。プロデュース方針が聞いてあきれるわ」
デレP「歌鈴に必要なことなんだ。わかってくれ」
瑞樹「ドジ巫女キャラで売りたいのはわかるわ。でもね、それがたゆまぬ努力の障害にするのはおかしいと思うの」
デレP「わかった。ちゃんとした理由を話そう。ドジ巫女キャラで売るというのも天からの采配だったとは思う。でもそれだけじゃダメなのも知ってた。でもそうせざるえない理由があったんだよ」
瑞樹「どういうことかしら」
デレP「実は歌鈴をスカウトしたときに親御さんから言い含まれてた懸案事項があってな」
瑞樹「なにかすごくいやな予感がするのだけれど」
デレP「『歌鈴はとんでもない神力の持ち主で、昔祝詞を読んだ際に神様を呼んでしまったことがある。その時のショックで歌鈴はそのことを覚えてない』といわれてな」
瑞樹「もしかして歌鈴ちゃんの噛み癖やドジって……」
デレP「ドジは神様の引力。そして噛み癖は歌鈴の両親が教え込んだ歌鈴の有り余る神力に対するリミッターだ」
続きはまた半日後ぐらいにできればいいな。個人的にはみくにゃんも関西弁矯正組だと思ってる
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