飛鳥「…ねぇ、プロデューサー」 (22)

飛鳥「お疲れ様、プロデューサー」

P「はい。お疲れ様、飛鳥」

飛鳥「おや?荷物なんかまとめて、夜逃げの準備かい?」

P「逃げも隠れもしねえよ。帰るんだよ」

飛鳥「ちょうどボクも帰るところなんだ。トレーナーさんのレッスンを抜け出してきたところさ」

P「逃げてきたのはお前じゃねえか!抜け出してきたって、パーティーじゃねえんだぞ!」

飛鳥「冗談も理解できないのかい?レッスン終わりで疲れているところに、この言われ様か…傷ついたよ」

P「えぇ…理不尽…」

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飛鳥「そうだ。キミ、この後に予定はあるかい?無いんだろ?」

P「ケンカ売ってんのか?」

飛鳥「キミさえ良ければ、この後ちょっと付き合ってくれないか?」

P「別にいいけど…どうしたんだ?」

飛鳥「贈り物選びを手伝ってほしいんだ」

P「贈り物って…プレゼントか?誰に?」

飛鳥「野暮なことを聞くね。ボクが物を贈り合うような仲にある人間は、家族とキミくらいなものさ」

P「うわ…何も言えねえ」

飛鳥「世間では、父の日ムードだろう?モールには顔も知らない子供が描いた父親の似顔絵が並び、コンビニはギフトの案内で埋め尽くされてる」

P「確かにな。物売るきっかけを見つけたら、人は節操が無いからな」

飛鳥「捻くれた考え方だが、それでこそボクのパートナーだ」

P「じゃあ何か?父の日のプレゼント選びを手伝ってほしいのか?」

飛鳥「単刀直入に言えば、そうだね。全てにおいて、キミ以上のアドバイスをくれる人間は他にいない」

P「俺以外の候補がいないだけの気もするけど…いいよ、付き合うよ」

飛鳥「ありがとう。キミがいなければ今頃、モールのインフォメーションセンターで泣きじゃくってるところだよ」

P「俺がいない世界線の飛鳥に一体何が!?」

【駅前店のモールにて】

P「やっぱり平日でも混んでるもんだな」

飛鳥「普段は気付かないだけで、ボクらは常に雑踏の中にいるのさ」

P「っていうか飛鳥、お前も最近は売れっ子になってきたんだからさ。マスクくらい付けろって」

飛鳥「自分の存在を望んで失うほど、過剰な自意識は持ち合わせていないんでね。だから付けないよ」

P「…いいけど、なら手っ取り早く済ませよう。騒がれないうちにギフトコーナー行くぞ」

飛鳥「待ってくれ、プロデューサー」

P「どうした?」

飛鳥「ずいぶんと甘い匂いがすると思わないか」

P「あぁ、クレープ屋さんの匂いだろ。食べたいのか?」

飛鳥「何故そう思うんだい?確かに甘い匂いがするとは言ったけど、欲求まで口にした覚えはないはずだ。そもそもそんな欲求を抱いているわけじゃないが、興味が無いと言えば嘘になる。君がどうしてもと言うなら付き合うけど」

P「なんかめっちゃ動揺してるけど…なら俺が食べたいってことにするよ。お前も食べるだろ?」

飛鳥「うん」

P「素直だな…俺は普通に小腹空いてるからツナのやつかな。飛鳥はどれがいい?」

飛鳥「初めてのお店ではメニューの左上を選ぶのがいいと聞いたことがある。人の目に付きやすいから、人気のものが配置されているそうだ」

P「なんか、やたらめったら苺が載ってるやつか。待ってろ」

飛鳥「…やった」

P「お待たせ。はい、飛鳥の」

飛鳥「すまないね」

P「ちょっと見回ってみたけど、近くに座れる場所はないみたいだ。立ち食いになっちゃうけど大丈夫か?」

飛鳥「問題ないよ。それより早く頂こう」

P「はしゃいでるな…クレープとかいつ以来だろう。どうだ、飛鳥。美味いか?」

飛鳥「…こういう味がするんだね」

P「初めて食べるのか?」

飛鳥「意外かい?まぁ、ボクと同年代の、常に群を作る女子は、こんなものを三食食べてるようだからね」

P「そんなしょっちゅう食べてるわけないだろ」

飛鳥「でもボクの場合は縁が無かったからね。機会に恵まれなかったとでも言うのかな」

P「…憧れてたんだな、クレープ」

飛鳥「だから美味しいと言うより、嬉しい…かな。本当の食事というのは、そういうものさ」

P「それなら良かったよ」

飛鳥「ところで、プロデューサーの食べているやつはどんな味がするんだい?」

P「ん?じゃあ実際に食べてみるといい。ほら」

飛鳥「それでは失礼して…ふぅん。同じ料理でもこうも違うんだね。プロデューサー、お礼にボクのも分けてあげるよ」

P「いいよ、飛鳥が全部食べなよ」

飛鳥「買って貰ったのに申し訳ないんだが、ボクには少し多いみたいだ。美味しいから大丈夫というわけにはいかない」

P「仕方がないな。じゃあちょっと貰うよ」

飛鳥「これが…間接キスというやつか」

P「…妙なこと言うなよ」

飛鳥「ほら、もう四、五口いくといい」

P「なんか全部押し付ける気じゃない!?」

飛鳥「まぁ、せっかくキミが買ってくれたんだ、残りは食べ切ろう」

P「…さて、食べ終わったらギフトコーナー行くぞ。今日の目的はそっちなんだからな」

飛鳥「…ふぅ、もうお腹いっぱいだ」

P「えっと、ギフトコーナーはこっちだな」

飛鳥「…プロデューサー。こうも人が多いと、逸れる心配があると思わないかい?」

P「そうだな。気をつけろよ」

飛鳥「…鈍感だな」

P「なんだ?手でも繋ぎたいのか?」

飛鳥「手を繋ぐ?子供じゃないんだよボクは。事務所の幼い子達の扱いに慣れ過ぎてそういう発想になってしまうのかな。まぁ子供ではないんだけど、逸れる危険に比べたら手を繋ぐという選択肢もあるかもしれないね」

P「…飛鳥、手を繋いでもいいか。はぐれるといけないからな」

飛鳥「えらく棒読みだな。まぁ、キミが繋ぎたいなら仕方がない」

P「…ほら、行くぞ」

飛鳥「…やった」

P「うーん…ギフトコーナーまでの道中でも色々目を引く品があるなぁ。お、杏の等身大パネルだ。確かクッションのプロモで作ったやつだな」

飛鳥「キョロキョロして、まるで子供だね。どっちが保護者なのやら」

P「うるさいなぁ。男はいつまでも子供なんだよ」

飛鳥「まったく…あ、ガチャガチャコーナー見ていってもいいかい?」

P「お前も実年齢、精神年齢共に充分子供じゃねえか」

凛「あれ、プロデューサーに飛鳥」

奈緒「ぷ、プロデューサー!?何でこんなところに!?」

P「おお、トライアドプリムス勢揃いか。みんな、お疲れ様」

加蓮「あれあれー?手なんか繋いじゃって良い雰囲気じゃない。デート?」

P「冷やかすな。俺達は普通に買い物だよ」

飛鳥「…やあ」

加蓮「いいなー、私達も繋いでほしいなー。ねー、奈緒」

奈緒「は、はあ!?何言ってるんだよ!繋がないよ!だ、第一、プロデューサーの腕が足りないだろ!」

加蓮「…いや、そういうことじゃなくてさ」

奈緒「プロデューサーはアシュラマンじゃないんだぞ!…あ、アシュラマンならもう二人いけるな」

凛「分かんないよ、奈緒。まあ、あんまり飛鳥の邪魔するのも悪いね」

飛鳥「邪魔なんてことは、ないさ」

加蓮「じゃあ今度は私と一緒にショッピングしてね、プロデューサー。もちろん手は繋いでね」

凛「…聞き捨てならないな。二人きりで行くことないよ、私も行くよ」

加蓮「…三人だとデートにならないじゃん」

凛「…何?私のプロデューサーとデートがしたいの?」

加蓮「…『私の』?」

奈緒「ち、ちょっと二人共!今日は仲良く映画を観に来たはずだろ!?観る前からシビルウォー勃発させてどうするんだよ!」

P「…それに多分、お前達のこと気付かれてるぞ。周囲がかなり騒ついてる…」

奈緒「うっわ、本当だ…ほら、行くよ二人共!またね、プロデューサーに飛鳥!」

凛「…蒼い方がかっこいいね」

加蓮「…色が、でしょ」

P「ま、またなー…」

飛鳥「…嵐の様だったね」

P「嵐というより台風だな。周囲の客を巻き込みながら移動してる。流石人気ユニット、お陰で人が減って動きやすくなった」

飛鳥「キミというやつは…それにしても、流石に仲が良いね、君達は」

P「そうか?飛鳥も同じだろ」

飛鳥「…そうかな」

P「よし、着いたぞギフトコーナー。もう手を離して大丈夫だな」

飛鳥「ちぇ…いや、何でも無いよ。それより肝心の贈り物だけど、プロデューサーならどんなプレゼントを貰いたい?」

P「…現金?」

飛鳥「…キミ、ここに来た意味が分かっているかい?」

P「だって子供いねえもん。分かんないよ」

飛鳥「じゃあ相手を事務所の幼い子達に置き換えて考えてみるといい」

P「…そうなると、主に相手の私物になってくるんだけど」

飛鳥「前からMRIの中はどんな風か興味があったんだけど、入った暁には是非感想を聞かせてくれ」

P「入らねえよ。どこも悪くないからな」

飛鳥「なら真面目に考えてくれ」

P「…まぁ、食器なんて鉄板じゃないか?高級感も出せるし」

飛鳥「ふぅん…それじゃあ、こっちのマグカップなんてどうかな」

P「ちょっとクセがあるな。飛鳥のお父さんがよく使うものっていうなら良いと思うけど」

飛鳥「さあ…親の私物がどんなだったかなんて、あまり覚えていないよ…」

P「…な、ならビアグラスなんてどうだ?下戸でなければ比較的よく使うし、そうだったとしても観賞用に使える!」

飛鳥「そういうものかい?…でも、うん。綺麗だ…」

P「食器なら包装にも拘りやすいからな。綺麗に包んで貰おう」

飛鳥「包装紙はこのブサイク柄にしよう」

P「ぴにゃこら太柄…穂乃香が喜びそうだな」

飛鳥「ありがとう、プロデューサー。お陰で良い買い物が出来たよ」

P「どういたしまして。…っと、もうこんな時間か。ずいぶん遅くなってしまったし、帰ろうか」

飛鳥「…プロデューサー、帰る前に少し、風に当たっていかないかい?」

P「ん?…ああ、いいよ。少し歩くけど、人通りの少ない遊歩道があるんだ」

飛鳥「いいね、歩こう」

P「…夜は冷えるな。寒くないか、飛鳥」

飛鳥「ダメージファッションに慣れてるから、平気さ」

P「痩せ我慢じゃねえか」

飛鳥「…ねぇ、プロデューサー」

P「ん?」

飛鳥「…このプレゼントは…喜んで貰えるだろうか」

P「まあ子供がいない俺が言うのもなんだけど、娘がくれるプレゼントなら何だって嬉しいだろうさ」

飛鳥「…親というのは、無条件に子供が好きなものなんだろうか」

P「…どうした?」

飛鳥「プロデューサーは…みんなに当たり前のように与えられているものが、自分だけ手に出来ていない感覚を抱いたことはないかい?」

P「…なんか悩みがあるなら聞くぞ?」

飛鳥「…不安なんだ、ボクは」

P「飛鳥…?」

飛鳥「何にだって、いつだって不安なんだ!今日会ったトライアドプリムスの三人は…みんな、ボクより大人びていた。背伸びしているだけのボクよりもずっとね」

P「…」

飛鳥「ボクなんかが…あの三人のようになれるんだろうか?」

P「…してみせるよ」

飛鳥「…キミのことは信頼しているさ。でも、あの三人とのキズナは、ボクよりもずっと深いものに見えるよ。そもそも一緒に過ごした時間が違うのだから当然だけどね」

P「そんな…」

飛鳥「だからこそ、比べられるのが怖い…みんなに見下されているんじゃないかと思うと怖い…あの三人と同じように、キミと関われるような日が来るんだろうか…」

飛鳥「…いつかキミにも見捨てらるんじゃないだろうか…また独りに戻る日が来るんじゃないだろうか…」

飛鳥「…ボクは、本当は独りで…存在しないのと同じなんじゃないだろうか…」

P「もういい、飛鳥!」

飛鳥「…」

P「大丈夫だから…」

飛鳥「…夜道で少女を抱きしめるなんて、痴漢に間違われるよ…」

P「…」

飛鳥「…でも今は、このままでいたい」

飛鳥「…出来ることなら、このまま、ずっと…」

P「…どうだ、飛鳥。落ち着いたか」

飛鳥「ああ…すまない、取り乱してしまって」

P「…いや、ブチまけたくなったらいつでも頼れ。お前は独りなんかじゃない」

飛鳥「…本当かい?」

P「凛も奈緒も加蓮も…事務所のみんながお前を大切な仲間だと思ってる。とりわけ俺は、特別そう思ってるつもりだ。いつだってお前の味方だ」

飛鳥「…信じるよ、プロデューサー」

P「…おっと、そろそろ離した方がいいな」

飛鳥「ちぇ…いや、何でもない。そろそろ帰ろうか、プロデューサー」

【後日】

加蓮「飛鳥じゃん、おつかれー」

飛鳥「…やあ、お疲れ様」

加蓮「レッスンルームの前の自販機に新作のドリンクが売ってたから飲んでみたんだけどさ、これヒドイ味だよ。飲んでみる?」

飛鳥「遠慮しておくよ。幸子みたいなリアクションは、ボクには出来ないからね」

加蓮「あれはもう芸人さんレベルだよー」

奈緒「お!加蓮、こんなところにいたのか!飛鳥もお疲れ様!…なぁ、二人共。良いもの飲ませてやろうか?」

加蓮「新作ドリンクのことなら、もう知ってるよ」

奈緒「ええ〜?ちぇ、つまんないの!」

飛鳥「ツーペアといったところか」

凛「あれ、みんな揃ってどうしたの?」

奈緒「お、凛!いいところに来たな!」

凛「新作ドリンクならもう飲んだから」

奈緒「うぉい!まだ何も言ってないのに!」

凛「奈緒は分かりやすいんだよ」

飛鳥「三人揃って同じものを買うなんて、君達は本当に仲がいいね」

P「騒がしいな、お前達。どうかしたか?」

奈緒「こうなったらプロデューサーさんだ!ねえ、良いもの飲ませてあげよっか!」

P「ああ、それメチャクチャ不味かったよな、飛鳥」

奈緒「とうとうフルハウスかよ!」

加蓮「ま、みんな仲良しってことだね」

飛鳥「…ふふ、そうだね」

おしまい

飛鳥とシビルウォー見たい

お付き合い頂けた方、ありがとうございました。
依頼だしてきます

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