提督「最近、僕には好きな人が出来ました」 (274)
3作目。
今回は文体を台本から変えて挑戦してみます。
わかりやすくなれば幸い。
※キャラ崩壊
頑張ります。
投下は明日から、とりあえず建て。
・過去作
金剛「ココに居たんデスネ…」提督「…金剛か」
金剛「ココに居たんデスネ…」提督「…金剛か」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1447867145/)
加賀「後でお説教よ」瑞鶴「…うん、待ってる」
加賀「後でお説教よ」瑞鶴「…うん、待ってる」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1448949726/)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1450104261
投下します。
最近、私には好きな人が出来ました。
──波止場
ザァァァァ
波止場に着く前は弱かった雨が、着くやいなや本降りに。
まさか朝の快晴から雨が降るとは思っていなかった。
提督「…うわ~…結構降ってるなぁ…」
提督「大本営行く前に金剛さんに渡された傘が役に立つとは…感謝だ。後で何かお礼しなきゃ」
朝の出発前に『傘、持って行きなサイ』と言ってくれた金剛さん。
出る前は快晴だったので一度は断ったのだけど、無理矢理持たされた物。
結果的に会議が長引いて快晴だった天気も悪くなり、今に至ってしまった。
提督「あ、そうだ。ちょっと遠回りだけど何か甘い物を買って行ってあげよう」
思いつくと足早に少し遠回りとなる商店街へと向かう。
深海棲艦との戦時中なので波止場付近、というか海の側には住宅やお店などは無い。
街の中心部に商店街、鎮守府は波止場から東へ進んだ所にある。
提督「お、雨だから今日は人通りが少ないのかな?進みやすくて良いけど」
あれこれ考えている内に商店街に着いた。
目的の甘い物…と言っても金剛さんは何が好きなんだろう。
提督「うーん…」
商店街を見回しながら何か無いかと練り歩く。
提督「あっ」
見つけた、ケーキだ。
艦娘…いや大体の女の子はケーキが好き。単純かもしれないけどハズレではないはず。
提督「よし、無難にショートケーキを買っていこう」
ショートケーキを2つ購入し、店を出る。
喜んでくれると良いんだけど。
店を出た後は来た道とは違う方向へと歩いて行く。
人通りが少なくなる鎮守府への帰路だ。
…
…
提督「…ん?」
途中、閉まっている店の店舗用テントの所で雨宿りをしている艦娘を見つけた。
あれは、羽黒だ。
提督「やあ羽黒、雨宿りかな?」
羽黒「…あ…し、司令官さん!…そうなんです、まさか降ってくるなんて」
提督「そうだね、僕も降ってくるとは思わなかったよ」
羽黒「ですよね。でも、傘…差してますね?」
提督「ああ、これは金剛さんがね。持って行けって」
羽黒「…金剛さん、ですか…」
提督「うん。…雨も止みそうにないし、一緒に帰ろうか」
羽黒「え、えぇ!?し、司令官さんと…!?」
そう言うと羽黒の顔がちょっと困った感じになる。
提督「…い、嫌かな?」
羽黒「い、いえ!そういう訳じゃ、ないです…」
提督「…そう?」
羽黒「はい……ふぅー…」
何やら羽黒は深呼吸をしている。
一応上官だから緊張してるのかな。
すると羽黒は意を決したのか、スッと傘下へ入る。
提督「お…平気?」
羽黒「…は、はい!だだだいじょうぶです!!」
羽黒はガチガチに緊張して言葉がおぼつかない様子。
いくら上官とはいえ、そんなに怖がらなくても。
提督「だ、大丈夫だよ?そんなに固くならないで…」
羽黒「は、ひゃいっ!」
提督「あはは…」
悪い事したかな、と思い苦笑いが出る。
羽黒も帰れるし、結果的には良いか。
結構大き目な傘でも、少し距離を置かれてるから僕の肩が濡れてしまうが
このくらいは仕方ないな。
気づかれない様、傘を羽黒寄りに持って行き歩き出す。
羽黒「…あ、ありがとう…ございます…」
提督「うん、じゃあ行こっか」
…
…
提督「……」
羽黒「……」
鎮守府までは数十分掛かる。歩き始めてから10分くらい経っただろうか。
その間何も会話が無い、別に話したいという訳じゃないけど気まずい。
だけど、提督という職に就いてるのだから部下とのコミュニケーションは大切だ。
提督「…あの、羽黒」
羽黒「…な、何ですか?」
切り出しては見たものの、何を話そうか。
羽黒と話せるような話題…話題…。
…駄目だ!浮かんでこない!
普段羽黒とは話していないから、どんな話をすれば良いのか。
最後に話したのはいつだろう?
提督「…えーっとね…」
羽黒「あ…!し、司令官さん…!」
提督「え…な、何?」
羽黒「肩が…結構濡れてしまってます…ごめんなさい…!」
気づかれてしまった。
提督「あ、ああその事か。別に良いよ、こうしないと羽黒が濡れちゃうからさ」
羽黒「司令官さん……」
羽黒「…ふぅー……」
するとまた羽黒は小さく深呼吸をする。
きっとこの動作は何かをする時の前動作と見た。
今度は何をするのかな。
提督「羽黒?」
羽黒「…えいっ」
ギュッ。
羽黒が抱き付いてくる。
正確には僕の腕に抱き着くように身を寄せてきた。
提督「ちょ……羽黒?」
羽黒「は、はいぃ!」
提督「こ、これは一体…」
羽黒「こ、これで…司令官さんも濡れないですよっ…!」
あまりに突然の事で困惑してしまう。
幸い鎮守府への道は誰も通らないので人通りも無い。
こんな所誰かに見られたら大変だ。
提督「そ、そうだね」
羽黒が近付いてくれた御蔭と大きい傘なのも相まってお互い濡れずに歩けるようになった。
顔が真っ赤なのは言わないでおこう。
提督「ありがとうね、羽黒」
羽黒「い、いえ!」
ここでまた、しばらく会話は途絶える。
そうなると自分の身体が触れている所に自然と意識が行く。
さっきから…いや最初から思っていたけど、腕に当たる柔らかい感触。
当たってます、当たってますよ羽黒さん。
提督「……」
羽黒「……///」
かと言って胸が当たってます、何て言える訳もなく。
ただただ無言が続く。
だ、駄目だこのままでは…。
何か……あ…そうだ。
提督「…あの…あっ」
羽黒「…あの…あっ」
ふと思いついた事を振ろうとしたら羽黒も同時に声をかけてきた。
お互い一瞬押し黙るがこちらから切り出す。
提督「あ、どうぞ羽黒から…」
羽黒「い、いえいえ…大した事じゃ無いので…司令官さんからどうぞ…」
提督「…そっか。といっても僕もそんな大した事は無いんだけど…」
羽黒「な、なんでしょうか?」
提督「えっと…僕あまり羽黒とは話してなかったからさ」
提督「今でこそこういう機会があって話してるけど…何か嬉しいなって思って」
羽黒「し、司令官さん…」
提督「って本当に大した事じゃ無かったね!ごめんごめん!」
羽黒「い、いえ……私も…その…」
提督「…うん?」
羽黒「同じ事…思ってました」
羽黒「私も、司令官さんとこうしてお話出来るの…嬉しいです///」
提督「そ、そっか!同じ事考えてくれてたんだ…何だか嬉しいな」
羽黒「はい…///」ギュ
腕に密着していた羽黒が少し強く抱きしめてくる。
当たる感触が更に…。
提督「む、胸が……はっ!」
つい口から出てしまった。
羽黒「えっ…」
気付いた羽黒は顔が急速に赤くなる。
羽黒「いゃっ…その、これは!///」
だが抱き付いた腕からは離れないみたいだ。
羽黒「し、仕方がないんですぅぅ…///」
提督「ま、まぁ!当たっちゃうよね!うん!体勢的に、うん!」
仕方がない。
胸が当たるのも仕方がない。
良い匂いがするのも仕方がない。
女の子って柔らかいと思うのも仕方がない。
提督「…もし嫌だったら離れても良いからね?」
羽黒「だ、大丈夫…です//////」
増して羽黒の顔が真っ赤になる。
もう何と言うか、今にも湯気が立ち上っても良いくらいに。
提督「そ、そっか……あ、鎮守府見えてきたよ」
羽黒「…あ…!ですね…」
もう数百メートル歩けばで鎮守府の入口だ。
羽黒とはあまり話した事が無かったからある意味良い機会だったのかもしれない。
役得もあったし。
羽黒「あ、あの…司令官さん」
提督「うん?」
羽黒「また、お話してください」
提督「……!」
羽黒「……///」
まさか羽黒からそんな事を言われるとは思ってなかったので意表を突かれた。
羽黒「あ、ご、ごめんなさい…」
提督「い、いやいや!全然良いよ!…僕で良かったらいくらでも」
羽黒「…!あ、ありがとうございますっ!」
パァッと顔を上げ笑みを浮かべる羽黒。
羽黒もこういう顔するんだ。
きっとこうやって話してなければ見れる事は無かったんだろうな。
やはりコミュニケーションは大事だ、こうやって新しい発見が出来るかもしれないから。
…
ここまで。
糖質たっぷりで頑張ります。
夜にまた投下。
投下します。
…
?「あ、あれは…!?これはスクープの匂いがしますねっ!」
───────────────────────……
──執務室
翌日、朝。
提督「…ふぅ。一回休憩入れようか」
那智「む…良いだろう。根を詰め過ぎるのも良くないしな」
彼女は秘書艦の那智。
初対面の時はちょっと怖くて、近付きにくそうな感じがした
話してみれば良い人で、真面目で、そして結構優しい。
ただお酒に付き合わされる事が多いかな、僕はあまり強くないのに。
金剛「あ、じゃあ少し待っていてネ。用意してきマース」
彼女は前秘書艦の金剛さん。
先輩の退役を機に那智へと譲ったらしい。
秘書艦から外れても金剛さんには、那智も僕もお世話になっている。
とても頼れるお姉さんって感じだ。
今日は引継ぎ資料の所でわからない事があるから来てもらった。
那智「金剛の淹れる紅茶は美味いからな…楽しみだ」
提督「そうだね、僕も金剛さんの紅茶好きだよ」
ここに来た時に初めて飲んだが格別だった。
あまり紅茶を飲まない事もあったけど、紅茶に大差なんて無いと思っていたから驚かされた。
金剛「フフフ…褒めてもコレしか出ませんヨ」
そう言うと金剛さんは銀のトレイを持ってきた。
その上には洋風のティーカップが3つ乗っている。
席で待っている僕達の前に来ると、紅茶をそれぞれの前に置いていく。
提督「お~…良い香りですね」
那智「…うむ」
金剛「ネ?良い香りデショ。以前大量に取り寄せたので、まだまだありマスヨ」
バーン!!
執務室の入口が激しく開かれる。
そこに立っていたのは、天龍。
天龍「オイコラァ!提督!どういう事だァ!」
球磨「一見奥手そうな奴と思いきや隅に置けないクマ!」
開口一番に怒鳴られる。
何だ?怒鳴られる心当たりなんて無いぞ。
提督「ちょ、ちょっと待って。何の事だかサッパリなんだけど…」
天龍「惚けてんじゃねーぜ!こんな面白い事黙ってやがってよォ!」
球磨「コイツを見るクマ!」バッ
僕の前に来るないなや紙を突き出す。
いや、新聞か。
写真も載っている、これは僕と羽黒か?
提督「何々…『遂に来たッ!逢引激写ッ!!奥手の二人が雨の中外出デート!?』…って…」
提督「あはは、なんだこれ──」ズズズ
提督「ブーーーーーーッ!!」
球磨「クマァァァァァッ!」
意味を遅れて理解して、目の前にいる球磨に紅茶を噴き出す。
まだ少し熱い紅茶が目に入ってしまった球磨は
思い切り後ろに転げ飛んでしまった。
天龍「さぁ、話して貰うぜ…?」
那智「さっきから…何なんだ?私にも見せてみろ」
天龍「お、良いぜ」ヒョイ
球磨の持ってきた新聞はビチャビチャになってしまっているので
天龍は懐から新しい新聞を那智に手渡す。
那智「どれ…」
どうせくだらない記事なんだろうと那智はカップを片手に記事に目を通す。
那智「………ほう」
那智「…説明して貰おうか…?」ピキンッ
良い音を立ててカップの持ち手にヒビが入った。
これは不味い。
提督「いや…!これはそんなんじゃ無くって!」
噴き出してしまった球磨の顔をハンカチで拭きながら弁解をする。
那智からは殺気とまでは行かないが、鋭い視線が飛んできた。
那智「じゃあどういう事なんだ…?寄りによって私の妹に手を出すとは…事と次第によっては容赦せんぞ」パキャッ
そのまま持ち手が壊れてカップが派手な音と共に床に散る。
金剛「ノーーーー!!」
騒ぎの中静かに紅茶を楽しんでいた金剛さんもこれには声を上げた。
きっと大事なカップだったのだろう。
提督「待って!詳しく話すから落ち着いて!」
…
…
提督「──という訳なんだ。わかってくれたかな?」
那智「成程な…それは仕方がない事だ。むしろ感謝する…」
腕を組んで頷いている、助かった。
天龍「なーんだ、つまんねーの」
球磨「期待させといてそのオチかクマ」
面白い事と思っていた二人も、事情を知って何故か呆れた目線を送ってくる。
何故そんな目で見る。
金剛「ワタシのカップゥ…カップゥ…」イジイジ
そんな反応を余所に金剛さんは部屋の隅で蹲って床をなぞって落ち込んでいる。
やはり結構思い入れがあったのだろうか。
那智「うぁっ…!す、すまない金剛…!埋め合わせは必ずするッ!だ、だからその…なぁ…!」
金剛さんの後ろであたふたしている那智は、手のやり場に困っていた。
提督「とにかく。こんな噂早く止めないと…青葉を呼んで来て貰えるかな?」
二人はあの様子だし、球磨と天龍に頼んでみる。
天龍「応ッ!いいぜ!行こうぜ球磨!」
球磨「わかったクマー!」
良い返事を貰った後、天龍が球磨を連れて執務室から出ていく。
案外素直に聞いてくれるんだ。
那智「お、おい司令官!私はちょっと金剛を元に戻してくる!少し空けるが構わないか?」
提督「うん、良いよ。金剛さんをお願いね、僕は此処で青葉を待ってるからさ」
任せたよという意味合いの手を那智へ振る。
前から金剛さんと一緒に居る艦娘達の方が良いだろう。
那智「すまないな!…よ、よォし…行こうではないか、金剛よ!」
金剛「───…」ブツブツ
蹲っていた金剛さんを引き摺りながら那智は部屋を後にする。
金剛さん何かブツブツ言ってたけど大丈夫かな…早く元気になってほしい。
それにしてもまさかあの現場を見られてたとは、それも青葉に。
もっと気を付けなきゃな。
コンコン
提督「…ん?はい、どうぞ」
キィィ
羽黒「し、失礼します…」
提督「は、羽黒!?」
ついぞさっきまで話題になっていた当人が来てしまったからか、つい大声を上げてしまう。
駄目だ駄目だ、落ち着かなければ。
羽黒「し、司令官さん…?」
提督「ああいや…何でもないよ…それで、どうしたのかな?」
羽黒「あ、えと…お昼は食堂で?」
提督「お昼はそうだね、食堂で摂るつもりだよ」
羽黒「そ、そうですか…!その…あの…」
提督「ん?何かな?」
羽黒はモジモジとしている。
そういえば両手を後ろに回しているな、何か持ってるのかな?
羽黒「よ、良かったら…これ!お口に合うと良いんですけど!///」スッ
差し出されたのは鳥の模様が入っている布に包まれた弁当箱。
提督「これは…お弁当かな?」
羽黒「は、はい///」
提督「そっか…どうして僕に?」
羽黒「その、昨日の…お礼です///」
提督「あぁ、お礼か」
あんな問題があった後で羽黒からの弁当を貰うのは結構リスクが高いんじゃないか?
って違う、これはお礼だ。
決してそういう意味合いは無いし、騒ぎ立てられるような事でもない。
提督「…ありがとう羽黒。後で食べさせてもらうよ」
羽黒「い、いえ!では私はこれで!」
羽黒は駆け足で執務室から逃げるように出て行った。
やはりまだ怖がられているのだろうか。
提督「…お弁当か」
ふと悪寒を感じる。
蓋を開けて中にハート…いやいや自意識過剰かもしれないが
もしかしたらを考えて…ね?
とりあえず先に中身を確認しよう。
弁当を包んだ布を解いていく。
箱自体も結構大きいな、ボリュームもありそうだ。
提督「ではでは…」パカッ
提督「うおっ…」
中は至って普通のお弁当。
ただし、どれも僕の好みのおかずだ。
悪寒が気のせいで良かった。
これはお昼が楽しみだな。
提督「早く食べた…」
そう言って何気なく羽黒が去った入口を見直す。
薄らと開いた扉の向こう側からニヤけた顔でこちらを見ている青葉が居た。
え?青葉?
提督「いな……」
青葉「……」
青葉と目が合う。
悪寒はこれか…!
青葉「青葉ァッ!見ちゃいましたァッ!!」
提督「ま、待って青葉!一回落ち着いて!」
とりあえずこの距離は不味い。
青葉を中へと招くと、素直に従ってくれた。
青葉「青葉は至って落ち着いてますよ!司令官から呼び出されて怒られるのかと思いきや…」
青葉「まさかまたネタを提供してくれるなんて!!有り難う御座いますッ!」
提督「いやいやいや!ネタを提供したつもりは無いよ!?分かってると思うけど、させないからね!」
青葉「…止められると思いますか!?」
提督「上官命令!やめてもらうよ!」
青葉「いいえ!例え解体されようとも、青葉はこれを大々的に記事にして散ります!」
青葉(勿論ハッタリですけどね!)
提督「ぐぅ…ッ!ど、どうすればやめてくれるんだ…?」
青葉「ふっふっふ…そうですねぇ…」
青葉が悪い顔をしている。
一体何を要求されるんだろうか。
青葉「じゃあ…」
チラッと青葉がこちらを見る。
提督「な、何かな…?」
青葉「……青葉と今日…」
…
一旦ここまで。
書き溜めが良い所まで行ったらまた今日投下します。
お待たせしました。
書き溜め分投下して、そのまま少しだけ書いていきます。
…
──食堂
提督「さてさて、やっとお昼だ」
書類仕事と青葉の件は片が付いたので昼食を食堂で摂る。
それにしても青葉…子供じゃあるまいし。
まぁそれで記事にされないのだから安い物だ。
提督「ではでは…」パカッ
提督「お~…やっぱり凄い…」
改めて感嘆の声が漏れる。
送ってあげただけでお弁当を貰うってのも良いのかとは思うけど、まぁいいか。
提督「いただきます」
まず手を付けるのは、やはり唐揚げだ。
大好物なので絶対最初に食べると決めていた。
提督「んぐんぐ……うわっ美味いこれ…」
作ってから時間が経っているにも関わらず皮がカリッとしてるし、中もジューシーだ。
凄いな、羽黒は料理得意なのかな?
天龍「お?提督じゃねーか!」
球磨「一人でご飯とは寂しいクマ~」
摩耶「何だァ?提督まだボッチなのか?」
提督「お?何だ…君達か。一人で食べるのも良い物だよ」
後ろから声を掛けてきたのは、いつもの顔ぶれ。
先輩時代の艦娘とはまだ馴染み難い。
摩耶に関しては最近来たばかりだけど、天龍・球磨と意気投合してすぐに仲良しになった。
僕も人付き合いが苦手と言う訳じゃないが、如何せんよく話すのは那智と金剛さん。
着任してから2か月経つけど、やっぱり変なのだろうか。
摩耶「仕方ね~なぁ。この摩耶様が一緒してやるぜ」
球磨「それは良いクマ。球磨もお邪魔するクマ~♪」
天龍「おいおいマジかお前等!…チッ仕方ねェ…オレも一緒に食ってやるよ」
提督「皆……!」
天龍「オイオイ、感動して言葉もねェってか?」
摩耶「マジかよ!なんだよ提督、飯くらいいつでもアタシ等に言えって!」
球磨「感謝して良いクマ」
提督「…頭打った?熱でもある?大丈夫…?」
素直な感想だ。
だって今の今までこんな事無かったのだから。
「「「……」」」
提督「あ、あれ…?どうしたの…?」
三人から不穏な空気が漂う。
な、何だ?
天龍「あ゙~~腹減ったなぁ~?お!この唐揚げ美味そうだなァッ!!」シュッ
凄まじい速度で弁当箱から唐揚げが消失した。
提督「ちょ…!」
摩耶「なぁ、この卵焼き貰うぞ?貰うからな?」シュッ
提督「あ、そんな勝手に!」
箸による一突きで根こそぎ卵焼きが持っていかれた。
器用過ぎる。
球磨「クマ…クマクマクマ」ザクザクザク
小さな豆腐ハンバーグが次々に球磨の口の中へと消えていく。
提督「うわわわ…やめてぇ…」
天龍「オイめっちゃうめーな!なんだこれ!」
球磨「クマーーー!」
摩耶「んまっ!なんだこれ!?この辛さ、たまんねぇなぁ!」
そこから三人組の猛攻が休まる事は無く
豚肉の海苔チーズ巻き、ゴボウの胡麻和え等々、おかずは全滅した。
その後は三人組から、お詫びとしておかずを貰えたから
白米は何とかなり、僕の昼食は幕を閉じた。
やっぱりまだまだ馴染むのは難しそうだ。
…
…
──執務室
ガチャ
提督「うぅ…散々な目に遭った…」
昼食は取れたとはいえ、好物を食べれ無かったのはちょっと悲しい。
羽黒には悪い事しちゃったな。
傷つけないために、ちゃんと食べたと言っておこう。
嘘をつく形になってしまうけど…。
コンコン
提督「はーい、どうぞ」
ガチャ
羽黒「し、失礼します…」
噂をすれば早速来たー!
提督「や、やあ羽黒。今日はお弁当ありがとう」
羽黒「い、いえ!お礼ですから…」
提督「僕の好きな物ばかりだったから、とても心躍ったよ!」
羽黒「そ、そうですか!楽しそうでしたもんね!良かったです!」
提督「特に唐揚げ!僕の大好物なんだ。凄く美味しかったよ」
うわぁ…思ったより心が痛むな、これ
羽黒「良かったぁ…他の物は、どうでしたか?…美味しかったですか?」
提督「んっ!?んっと、どれも美味しかったよ。例えば卵焼き 羽黒「良かったぁ…!」
羽黒「実は…卵焼きはちょっと自信なかったんです…大丈夫でしたか…?」
提督「え…そ、そうなの?」
まずい!卵焼きがそんな事になっていたとは!
だがここでボロを出す訳には…!
羽黒「はい…」
提督「…全然大丈夫!僕甘い卵焼き好きだからさ!」
羽黒「そ、そうですか!…甘かったですか?…気に入って貰えて何よりです!」
な、何とかなった、か?
羽黒「あっ…じゃあ空いたお弁当箱、回収しちゃいますね」
提督「そんな、悪いから。洗って返すよ」
羽黒「いえいえ…気にしないで下さい」
提督「そ、そう…?羽黒が良いって言うなら良いけど」
羽黒「はい。では、私はこれで…」
お弁当箱を回収し出て行こうとする羽黒。
このままで良いのか…?
羽黒には悪い事をしてしまったんだ、何かしてあげたいな。
明日は休みだし…そうだ。
提督「羽黒!」
羽黒「は、はい?」
ピクンと反応して振り返る。
提督「えっと…明日なんだけど。何処か一緒に行かないかな?」
羽黒「えっ?」
羽黒は鳩が豆鉄砲食らったような顔になった。
無理もない、昨日今日少し親しく話しただけの相手から誘われるんだ。
何か企んでると思われても仕方がないだろう。
羽黒「どうして、ですか…?」
提督「いやちょっと…羽黒と…出かけたいなって思って…駄目かな?」
羽黒「い、いえ!そんな事は!ぜ、是非ご一緒させて下さい…!」
提督「本当か!…ありがとう!」
羽黒「いえ!…じゃあ、明日楽しみにしてますね、司令官さん」
提督「うん、僕も楽しみだよ」
羽黒「…///」ペコ
少し頬を赤らめて笑顔でお辞儀をして去っていく。
断られなくてよかった。
提督「ふぅ…それにしても那智はまだかな?遅いなぁ…」
…
…
──金剛の部屋
那智「金剛ーッ!もっと飲めーッ!」
金剛「も、もう…無理……デース…」ガクッ
ガチャ
比叡「お姉様?戻られたん──」
比叡「ひえ~っ!!
お姉様のお気に入りのティーカップを那智さんに粉砕されて意気消沈してしまい
そこを那智さんが何とか励ましてあげようと色々試行錯誤を繰り返してみたけど
一向に良くなる気配が見えないから
そうだ、酒を飲まして忘れさせてやろう!愚痴ならいくらでも聞いてやる!的な
安直な考えに走った挙句、それじゃ問題は解決しないっていうのに
結局自分がお酒に呑まれてお姉様が大変な事になってるーー!!
コラー!やめてください!那智さん!」
那智「何だ貴様ァーッ!」
───────────────────────……
書き溜めはここまで、書き足していきます。
──提督の寝室
提督「まさか那智が泥酔しているなんて…」
あの後結局夕方辺りに那智は帰ってきた、何故か比叡に担がれて。
聞く所によると金剛を励まそうと酒を飲ませたらしい。
そんな変な考えに至るなんて、よっぽど行き詰っていたのかな。
とりあえず明日は休みだし、那智はそのままに妙高を呼んで自室へと送らせた。
金剛さんもまだ寝込んでいるらしい。
二人が居なくても執務が終わったのは良かったけど。
後は、今日の最後の仕事だ。
コンコン
提督「青葉、だよね。どうぞ」
ガチャ
青葉「し、しつれいしまーす…」
提督「うわ…やけに大人しい…」
恐る恐ると入ってくる青葉。
いつもなら元気よく扉を蹴り破るくらい元気なのに。
青葉「だ、だって…!これから…その…///」ゴニョゴニョ
青葉は両の頬に手を当て身体をくねらせる。
一体何を考えているんだ。
提督「…何を考えてるかは知らないけど、今日添い寝すれば記事にはしないんだよね?」
青葉「あ、はい。しませんよ!これでも約束は守りますから!」
誇らしい顔で腰に手を当て胸を張る。
嘘を言っている様には見えないし、信用しても良さそうだ。
提督「そっか、なら安心だよ。じゃ、寝ようか」
青葉「は、はひっ!」
ビシッと敬礼する青葉。
提督「あはは、何それ」
青葉の敬礼と口調が可笑しくてつい笑ってしまう。
提督(でも、添い寝してくれって事は…青葉は僕の事を好いてくれてるのか?)
提督(…それともネタに困らないから退屈しないで済むっていうだけの…これもネタになるし…)
悶々と思考を巡らせるが、これだ、という結論には至らない。
まぁいいや、気にせず寝よう。
僕はベットの毛布を捲り上げ中へ入る。
青葉は僕の入った反対側へ向かう。
提督「どうぞ」
青葉「…恐縮です!青葉、失礼します!」ガバァ
潜り込む様に青葉が入ってくる。
少し中でモゾモゾした後、青葉の頭が枕の方へと出てくる。
思ったより顔が近くて一瞬ドキッとしてしまうが、悟られなかったようだ。
提督「…枕が変わったら寝れない人って居るけど、青葉は平気?」
青葉「はい、大丈夫です。…まさか司令官と寝れることになるなんて…」
提督「青葉が言ったんじゃないか…」
青葉「そ、そうでしたね!」
提督「まぁ良いけど…じゃ、おやすみ」
青葉「はい、おやすみなさいっ」
そう青葉に告げると電気を消し、ぐるんと青葉へ背を向ける。
流石に向き合っては緊張して寝れない。
青葉「……」
提督「……」
青葉「…あ、あの!」
提督「ん……何かな?」
話しかけてくる、とは予想してた。
振り返らずにそのまま応対する。
青葉「も…もう少し寄っても良いですか…?」
提督「え?…良いけど」
青葉「ありがとうございます…」モゾモゾ
ピタッ。
青葉は僕の真後ろまで寄ってくる。
それだけでは済まず、ピッタリと身体を密着させる。
知っている柔らかい感触。
提督(……羽黒に抱き着かれた時もそうだけど…女の子って柔らかいな…身体)
青葉「司令官…」
提督「え、あ、な、何?」
青葉「…こっち…向いて下さいよ…」
提督(ッ!)
心臓が跳ね上がる。
こんな近くで向き合って寝てくれと言うのか。
だけどここで断るのも何だし、今日青葉に付き合えば終わるんだ、我慢しよう。
提督「わ、わかった…」グルン
青葉「…まだ、目が慣れないですけど…うっすら顔が見えますね。緊張してます?」
フフフと青葉がいたずらに笑う。
そりゃ緊張するよ、女の子と寝た事ないし。
提督「茶化さないでよ、こういうの初めてなんだから慣れないんだ…」
青葉「そうですか。…なら仕方ないですね」モゾッ
提督「!?」
青葉の両足が僕の片足を絡め取る。
頭を僕の胸に持ってきて、抱き枕の様にされた。
提督「ちょぉ……」
青葉「あ、あの…!司令官…」
僕の言葉を遮って青葉はまた話しかけてくる。
提督「えっ…今度は何…?」
青葉「その…頭…撫でてください…///」
提督「!?」
言った事が恥ずかしいのか、僕の上着を掴んで自分の顔を隠す。
この娘は何て事を言い出すんだ。
青葉「……駄目…ですか?」
あの青葉からとは、とても思えない甘い声色で言われた。
それは…ずるい。
提督「…仕方ないな」
観念して青葉の頭を撫で始める。
髪の毛、サラサラだなぁ。
青葉「……///」
頭をグリグリと押し当ててくる、子供みたい。
提督「も、もう良い?…寝ようよ」
青葉「だーめーでーすー。青葉が寝るまでお願いしますっ」
提督「うわぁ…」
いつ寝るのかな、と思いつつ青葉が寝るまで撫で続けた。
───────────────────────……
───────────────────────……
「…ふぅ……全く…仕方のない人…んっ」
「ん……ふっ……んぅ……」
「あんっ…しれ…いかんっさ…あっ…」
「…んぁぅっ……」
「…早くぅ……早く“一つ”になりたいよぉ……」
───────────────────────……
軽くジャブを入れた所で、終わりです。
明日が早いので、また書き溜め作業に戻ります。
糖質たっぷりと言ったな、ありゃry
やりたいイベントがあるうちはスラスラ書けますね。
投下します。
───────────────────────……
──提督の寝室
翌日。
ジリリリリリリ
提督「ん…んんぁ…」
セットしておいた目覚ましが鳴る、起床の時間だ。
青葉は…まだ寝てる。
提督「おーい、青葉さーん。朝ですよー」ユッサユッサ
青葉「んにゃ…あと5分…」モゾモゾ
提督「駄目だよー起きなさい」ユッサユッサ
青葉「んもぉぉ!……って…あれ…?朝ですか」
提督「そうだよ……ほら起きた起きた」
ベットから降り、青葉に催促をする。
だが青葉はまだ寝転がったままだ。
青葉「起こしてくだぁ~い」
だらーっと青葉は両手を上に突き出す。
提督「…仕方ないなぁ…」
青葉の突き出した両手を掴み、上体を起こさせる。
青葉「えへへ…おはようございます」
提督「はい、おはよう」
青葉「お腹、空きましたね…」
提督「早速だね、じゃあ食堂に行こうか」
青葉「はぁ~い」
眠気眼を擦りながら青葉は立ち上がろうとする。
提督「あ、ちょっとそのまま」
青葉「…え?」
提督「ボサボサだよ。櫛でとかしてあげるから待ってて」
青葉「あ…はい…」
引き出しの小物入れから櫛を取り出し、座ったままの青葉の元へ行く。
ボサボサになった頭を優しくといていく。
青葉「あぁ~気持ちいいです♪」
提督「そう?」
青葉「はい~…♪」
提督「ふーん……女の子の髪ってサラサラのイメージあるけど、皆そうなのかな?」
青葉「皆って訳でも無いとは思いますけど、男性の方よりは手入れはしてるんじゃないですかね?」
提督「そっか…」
提督(羽黒…の髪もサラサラなのかな…)サッサッ
提督(って何で羽黒が出てくるんだ!?)サッ!サッ!サッ!
青葉「…いだ、いだだだ!痛いですよぉ!」
提督「あ、ご、ごめん!」
余計な力が入ってしまった。
馬鹿な事を考えたものだ。
青葉「もう…何か考え事ですか?」
提督「あ、うん。ちょっとね」
青葉「全く…そろそろ朝食行きましょう?」
提督「そうだね、そろそろ行こうか」
とかすのが終わると、青葉は身体を向き直し、僕の方を見る。
青葉「司令官っ!昨日はありがとうございましたっ!」
なんだ、昨日の事か。
提督「いや、良いよ。自分の為にやった事だし」
青葉「えへへ…そうですね!」
青葉は満面の笑みで返事をする。
その時また、僕の中で何かが弾んだ。
提督「…じゃ、行こっか」
───────────────────────……
──羽黒の部屋
昼。
羽黒(これで大丈夫かな…?変じゃないかな?)
姿鏡の前で外行き服を確認する。
男性と出かけるなんて初めてだから緊張しちゃう。
羽黒(あ~!どうしよう…ドキドキしてきちゃった…)
羽黒(ま、まだかな…司令官さん…)
高鳴る胸を抑えながら時計を見上げる。
今は…11時。
コンコン
羽黒「は、はははい!どうぞ」
ガチャ
提督「…失礼します。こんにちは、羽黒」
羽黒「司令官さん!こんにちは…お待ちしてました」
扉の前で笑顔で挨拶をしてくれる司令官さん。
それに私服…似合ってる。
提督「ごめん待たせちゃったね、早速行こうか」
羽黒「はい!」
司令官さんとのデート…楽しみ。
…
…
──市街
提督「…今日は人がいっぱいだね」
羽黒「そ、そうですね…!」
前とは違って街は本来の姿に戻っていた。
特に天気が良い今日等は歩くだけでも人混みが出来るほどだ。
提督「…はぐれちゃうかもしれないね……ん」スッ
羽黒「えっ …えぇ!?///」
羽黒は一瞬固まった後、差し出された手の意味を理解して赤面する。
そんな事はお構いなしに手を差し出し続ける。
提督「あれ…?……あっ」
提督「ご、ごめん!僕、妹が居たから癖で…!」スッ
恥ずかしくなり手を引っ込める。
羽黒「い、いえぇいぇ!///」
羽黒「で、でも…やっぱりはぐれると怖いので…お願いします///」
羽黒はそう言うと自分から手を差し出してくる。
提督「あ、うん!」
一度は引っ込めた手で羽黒の手を握る。
最初に自分からやっておいて、いざ握ると恥ずかしい。
提督「……」
羽黒「……///」
手を握ったまま沈黙が流れる。
恥ずかしいとはいえ、これはいけない。
提督「…あ、お昼、まだだったよね?」
羽黒「は、はい。まだ…」
提督「じゃあまず食事にしようか。商店街の方にオススメのお店があるんだ」
羽黒「司令官さんのオススメのお店…良いですね。楽しみです」
提督「うん、期待してて良いよ」
羽黒の了承を得ると目的の店へと歩を進める。
歩幅が小さい羽黒に合わせて僕も歩く。
提督「何か嫌いなものとかある?」
羽黒「…あ、大体は大丈夫ですよ」
提督「そっか、なら良かった」
一応嫌いなものの確認はしてみたけど、大体食べられるのなら大丈夫かな。
いざ行って嫌いってのも何だしね。
羽黒「…あの…司令官さん…」
提督「ん?」
羽黒「…わ、私達って…///」
羽黒「他の人から見ると、恋人同士に…見えますかね?/////」ギュッ
羽黒は手を少し強く握り締め、こちらに寄ってくる。
提督「!?」
女の子と出かけた経験なんて妹ぐらいしか無い。
そんな僕が、こんな時どう対応しろと。
提督「え、えっと…」
落ち着け、普通に考えるんだ。
背丈はそう変わらない、年齢もそう違う訳でもない。
今は私服だ、周りの人達も軍の者とはわからないだろう。
つまり端から見れば普通の男女が手を繋いで歩いているという事は…。
提督「み、見えるかも…しれないね。ははは…」
羽黒「で、ですか…えへへ////」
羽黒が嬉しそうにしている、良かったみたいだ。
それにしても恋人か…僕が、羽黒と…?
そんなやりとりをしている内に目的のお店が見えてきた。
提督「…お、あそこのお店だよ」
…
…
──商店街
羽黒「ここ、良かったですね。とても美味しかったです…!」
提督「喜んでくれて何よりだ。さて、食事も済んだ事だし商店街を少し見て回ろうか」
羽黒「あ、良いですね。私、あまりこちら側に来る事は無かったので…」
提督「そうなんだ、何か欲しい物あったら言ってね」
羽黒「いえそんな…!悪いですよ…」
提督「気にしないで。とりあえず行こっか」
商店街の深部へと身体を向け歩き出そうとした。
羽黒「あ…!あの…!」
提督「うん?」
羽黒の呼び掛けに足を止め振り返る。
羽黒「その……手…///」スッ
提督「あっ…」
顔を斜め下に向けながらこちらに手を差し出す。
そうだった、すっかり忘れていた。
僕は羽黒の手をとる。
提督「ごめんごめん…これで良いかな?」
羽黒「は、はい。…ありがとうございます///」
顔を上げ嬉しそうに笑う。
その笑顔にドキッとしてしまうが、顔には出さないようにしよう。
困ったな…羽黒がとても可愛い。
提督「うん…」
それからは羽黒と手を繋いで商店街を見て回る。
僕は気恥ずかしさを隠す為に、ここにはこういう店が、と説明して誤魔化すしか無かった。
その時ふと羽黒の歩く速度が緩む。
提督(ん?)
羽黒「……」
羽黒が何かを見ている。
目線を流して見るとそこは和装の専門店だった。
提督「…興味あるの?」
羽黒「ふぇ!?や、や、そんな事は…///」
提督「あはは、良いよ。少し見ていこうか」
羽黒「あぅぅ…///」
そうして僕達は髪飾店の中へと入る。
見た事はあったけど中まで入った事は無かったな。
提督「おぉ…」
羽黒「わぁ…」
中には様々な物並べられていた。
簪、帯飾り、帯留め、着物、等が沢山。
僕にはこういう機会が無ければ無縁な場所だなぁ。
提督「…街の女性は、お祭りとかでこういうのを着るんだよね」
羽黒「そ、そうですね」
提督「羽黒は着物とかは…」
羽黒「あ、ありますよ、浴衣ですけど。まだ着た事は無いですが…」
浴衣を着た羽黒の姿が頭に思い浮かぶ。
こんなかな、あんなかな、と色々妄想が。
提督「へぇ~そうなんだ。…羽黒の浴衣姿、見てみたいね」
羽黒「あぅ…///」
羽黒は顔を伏せてしまう。
提督「えと……な、なんてね…!ごめん気にしないで!」
羽黒「いえ…///」
提督「ちょ、ちょっと奥の方見てくるね!」
羽黒「はい…///」
羽黒を残し、帯飾りが多く取り揃えられている奥へと向かう。
少し落ち着かなければ、羽黒を困らせてしまう発言には気をつけよう。
パンッと両の頬を叩き、羽黒の方へと戻る。
羽黒は…何かを手に持っていた。
提督「…それは?」
羽黒「あ、これは簪です。姉さん達は持ってるのですが、私は持ってないので良いなぁ…って」
提督「簪か…」
羽黒は白い花がついてる簪を手に持っていた。
提督「それ…欲しいの?」
羽黒「あ、いえ…良いなって思ってただけですよ」
提督「買ってあげるよ」
羽黒「いえ…!流石にそれは悪いので…!大丈夫です!」
割と本気で言われた。
これはやめておくべきか?
提督「そ、そう…?なら…やめとくけど」
羽黒「あ…はい……はい…」
…
…
──中央公園
和装の専門店を出た後僕達はまた別のお店を見て回り、気付けば結構な時間が経っていた。
今は商店街と同じ中央付近に位置する公園のベンチに座っている。
提督「…ふぅ」
羽黒「色々…見れましたね。楽しかったです」
提督「…そうだね。楽しんでもらえて何よりだよ」
トンッ、トンッ、トットットトトトコロコロコロ…
何かが弾んだ音、目をやるとボールが転がってきた。
提督「…おや」
羽黒「あ…」
子供「すいませーん!ボール取って下さーい!」
提督「…良いよ~!……それっ」
転がってきたボールを拾い上げ、子供へと投げ返す。
子供「ありがとー!おにーさーん!」
提督「……」フリフリ
笑顔に対して笑顔で手を振ってあげる。
街の子供達がここで、元気に遊でいる事が嬉しい。
僕達の頑張りは、ちゃんと実っているんだ。
羽黒「…司令官さんは」
提督「うん?」
羽黒「子供が…好きですか?」
提督「…うん。僕は子供、好きだよ。可愛いし」
羽黒「そう、ですか。好きなんですね」
提督「羽黒は?子供好き?」
羽黒「私も、好きですよ。子供」
提督「そっか、良いよね子供。僕も欲しいな…」
羽黒「司令官さん…」
提督「…っと、そろそろ戻ろうか」
羽黒「…はい。わかりました」
羽黒「司令官さん、今日はありがとうございました」ペコ
提督「良いよ。……楽しかったね」
羽黒「…はい!」
───────────────────────……
──執務室
羽黒と別れた後、何か電報が来てないかを確認するために執務室へ向かう。
休みとはいえ大本営からは連絡くるからね。
提督「…あれ、那智。もう大丈夫なの?」
執務室の中には那智が居た。
何かを読んでいる、大本営からかな?
那智「…む、貴様か。もう大丈夫だ、昨日の事はあまりハッキリせんがな」
提督「あはは…」
提督(那智の為にも黙っておこう…)
提督「…ところで何を読んでるのかな?」
那智の手に持っている紙を見る為に隣まで移動する。
これは、チラシか。
那智「ん、ああこれか。何やら市街の方で祭りがあるみたいだぞ」
提督「へぇ~!お祭かー!」
那智「暢気な物だ、すぐ側には深海棲艦が居るというのに」
ペシペシと手の甲でチラシを叩く。
提督「そう言わずに。こういうのは活気に繋がるから大事だよ」
那智「ふむ。何だ、司令官は祭りが好きなのか?」
提督「まぁね、この職に就こうと決めた時から遊んでいる暇なんて無かったけど。ただ懐かしいんだ」
那智「ほう、それは勉強熱心なことだ。それで、行きたいのか?」
提督「そうだね、時間を作って行ってみようかな」
那智「ふふ、そうか。ならば楽しんでくるといい」
提督「…那智も一緒に行かない?」
那智「な…」
提督「駄目?」
那智「……」バッ
持っていたチラシで顔を遮る。
照れているのかな、珍しい。
那智「悪いな、私はこういうのはあまり…」
提督「そっか…それは残念」
一向に顔は見せてくれず、紙越しに断られる。
那智「……その、だな」
提督「うん?」
那智はチラシを少し下ろし、目だけを出してこちらを見ていた。
那智「折角の誘いを断った…詫びと言うか…その」
那智「ここでの酒なら…付き合っても良いぞ…」
横に視線を逸らしながらも時折こちらをチラッと見る。
こういう那智は新鮮だ。
提督「ぷ…あははは」
那智「なっ…!何が可笑しいッ!!///」バンッ
チラシを机に叩きつけてこちらを睨んでくる。
那智の顔は赤かった。
提督「だっていつもは、行くぞ!みたいな感じで僕を連れて行くのに…あははは」
那智「ぐ…それはそうだが…///」
提督「はは……ふぅ……じゃあ、お願いしようかな。断られたから、お酒に」
那智「わ、わかった…///」
提督「…那智も可愛い所あるね」
那智「う、うるさい!///」
───────────────────────……
ここまで。
思ったより長くなりそうで困惑。
今更ですけど過去作とは世界観は同じです、一応。
投下します。
──提督の部屋
遅めの夕飯を終えた後、特にやることも無いので部屋に戻る。
軍服を脱ぎ、寝巻きへと着替える途中だ。
提督(……お祭り…か…)
提督(…誰か…誘ってみようかな…)
提督(誰か……)
提督(あ……)
羽黒の姿が頭に浮かぶ。
提督(な、何でまた羽黒が……)
一度意識した思考というのは、中々忘れようとしても忘れられない。
忘れろ、と思うほど思考とは残ってしまう。
忘れた、という意識がある限りは無意味だ。
提督(……羽黒…)
こうなると思考は止まらない。
またその思考を掬い取ってしまう。
理想を頭で作り出し、こうなりたい、ああなりたい、と。
実に様々なシュミレーションが頭の中で繰り広げられる。
提督(…駄目だ……羽黒の事が頭から離れない…)
提督(それに…羽黒の事を考えると、胸が温かくなるのは何でだ…?)
生まれて初めての感情が芽生える。
いや、既に芽生えていたんだ。
子供の頃に同級生等に抱いた物とは違う、それとはまた別の物。
提督(……もしかして…)
こんな経験は一度も無かった。
提督(いや…これはもしかしてとかいう物…じゃないな…)
だが、解る。
提督(僕は羽黒に…)
きっと、あの雨の日から
提督(恋をしているんだ)
あの時から
好きになっていた。
───────────────────────……
──演習場
翌日、昼過ぎ。
今日は大湊警備府との演習、ここの提督さんには一番お世話になっている。
大本営で開かれる式典等の際に声を掛けて貰い、演習に付き合って貰える様になった。
僕は今、演習場脇に設置されている野営テントの下で大湊提督と一緒に居る。
提督「…本日は遠くから足を運んで頂いて、ありがとうございます」ペコ
椅子に座りながらも深々と頭を下げる。
大湊提督「ややや、そんなそんな…良いんですよ。演習はお互いの為にもなるんですから、顔を上げて下さい」
両手を胸の前まで上げ、大丈夫と言わんばかりに振られる。
提督「…そう言って貰えると助かります」
今回、大湊提督は僕達の舞鶴鎮守府まで出向いてくれたのだ。
演習の度に来て貰っている訳では無く、交互に相手の鎮守府へと出向く様になっている。
ちなみに大湊提督は女性の方だ、童顔で背が低いので年齢より若く見える。
実際は僕より3つ上で、式典で会った時は年下と思っていた。
それを話した時にブーブー文句を言われたっけ。
大湊提督「…ふぅ。それに、今は横須賀の提督さんが海域を制圧していますし、出番があまり…あはは…」
提督「それは…僕達もですね。あそこの第一艦隊の強さは尋常じゃないですから…あはは…」
お互いに横須賀鎮守府の艦娘と演習した事を思い出し、乾いた笑いが出る。
恐らく横須賀の第一艦隊に対抗出来るのは、呉鎮守府だけだろう。
呉も負けず劣らずの猛者揃い、ただ最近は出撃をあまりしてないみたい、何かあったのかな。
あと提督さんがちょっと怖い。
大湊提督「そういえばこの前、佐世保の提督さんと初めて会ったんですが…」
提督「…驚きました?」
大湊提督「あ、知ってます…?驚きました…」
提督「あはは…ですよね…」
佐世保鎮守府の提督は、一言で言うと変わっている。
人の生き方に文句を言うつもりは無いけど、最初は驚いた。
あそこに着艦する艦娘達も驚くんじゃ無かろうか。
さて、世間話もこのくらいで本題に移ろう。
提督「…あの…相談したい事があるのですが、良いですか?」
大湊提督「…?…はい、私で良ければ是非!」
提督「ありがとうございます…そのですね、近々ここでお祭りが開かれるんですよ」
大湊提督「そうなんですか!良いですね~♪」
提督「…はい。それで、その時にですね……ある女性を誘おうと思っているんですが…」
大湊提督「おぉっ!」
想像以上に食いついた。
こういう話が好きなのかな?
提督「その……お祭りの最後に想いを伝えてみようと思うんですが…だ、大丈夫でしょうか…?」
大湊提督「フフッ…若いですね。それで、大丈夫とは?」
提督「えと、お祭りって言うのを利用して…告白するのはずるいのかなって……恥ずかしながら経験が無いので…」
大湊提督「…成程。それで女性の私に意見が聞きたいという事ですね」
提督「…うぅ、その通りで御座います…」
恥ずかしさで顔が下を向いてしまう。
大湊提督「では…完全に私個人の意見ですが、良いですか?」
提督「はい、お願いします」
大湊提督「お祭りと言うのは、告白するシチュエーションとしては最適です。私は憧れますね」
提督「おぉ…!」
大湊提督「あとお祭りは何日間やるんでしょう?」
提督「えっと…二日間ですね」
大湊提督「二日間ですか…。なら告白は一日目にしましょう」
提督「え…一日目ですか?」
大湊提督「はい。仮に上手く事が運んだとすると、2日目は恋人としてお祭りに行ける訳です」
大湊提督「年に何回あるかのお祭りでしょうから、1回でも多く恋人として過ごしたいはずですから」
提督「ふむふむ…確かに」
大湊提督「念を押す形になりますが、後はプレゼントですね。告白と一緒に渡せる物なら最高です」
提督「プレゼント…ですか。それも告白の時に渡せる…」
大湊提督「うーんでも…欲しがっている物なんて本人に聞かないと分からないですよね。それに合うような物ともなると…」
提督(羽黒が欲しがっている物…何かあるかな…)
昨日の羽黒とのデートを思い返す。
色々店を回ったが、特に欲しいという素振りを見なかった気がする。
提督(いや…もしかして…)
和装の専門店の時…羽黒は花の付いた白い簪を持っていた。
確か…良いなぁって言ってた気が。
提督「…心当たり、あるかもしれないです」
大湊提督「そうなんですか?それなら是非渡してあげてください!きっと喜びます!」
大湊提督「というか私なら喜びます!……はぁ」
提督「うぉっ…ど、どうしたんですか…?そんな溜息ついて…」
大湊提督は机に突っ伏してしまう。
それに加え周りの空気がどんよりと重くなった。
な、なんだこれは…。
大湊提督「はぁ……こんな事言ってますが私も経験なんて…この職場じゃ出会いとか有り得ないじゃないですか…
憲兵さんは妻子持ちだし、唯一の同類、希望と思っていた男性提督さんは艦娘とイチャイチャしてるんですよ?憎たらしい…
それに比べて私は…うぅ……最近艦娘達からのアピールも激しくてですね…
そっちの気を起こしちゃいそうですよ……変ですか?いや、この環境が変なんですよ…
艦娘ってどうして女の子なんですかね…?木曾ちゃんにそろそろ目覚めそうです…」
提督(う、うわぁ……相談しといて何だけど、地雷を踏んでしまったみたいだ…)
提督(…大湊提督にこんな一面があるなんて…心無しか黒いオーラが見える…)
今後はこの手の話題を避けようと心掛ける。
提督「…と、とりあえず…ありがとうございます…!ご意見参考にさせて貰います!」
大湊提督「…頑張って下さい、提督さん…」
顔は突っ伏したままだが、親指を突きだした拳で鼓舞される。
そうと決まれば行動に移そう。
───────────────────────……
──商店街
夕方。
大湊提督を見送った後は那智と執務を終わらせ、一人で街へと出た。
例の簪を買いに行く。
提督(お…見えてきたな)
目的地の和装のお店だ。
その時、誰かに肩に手を置かれる。
提督「え?」プニ
置かれた手の方へ振り返ると頬に何かが当たった。
これは、指だ。
青葉「どもっ!こんな所で何してるんですかぁ~?」
提督「あ、青葉…!?」
提督(さ、最悪だ…!よりによってまた君か青葉…!)
青葉「どうかしましたか?」
青葉が顔を覗き込んでくる。
提督(パーカーにショートパンツ…実に青葉らしい…)
提督(じゃない!そんな悠長な事考えてる場合じゃ無かった!)
提督「い、いやただ…散歩をね?ちょっとね?」
提督(お願い!納得して!帰って!)
青葉「散歩ですか~。良いですね!青葉も一緒に散歩しますっ!」
提督「え゙…青葉も?し…しょうがないなぁ(駄目かー!!)」
提督(仕方ない…明日にしよう…)
青葉「やりました~♪」ギュッ
そう言うと青葉が腕に抱き着いてくる。
こ、これはどこかで経験した事が…。
提督「ちょ、青葉……急にくっつくかないでよ…」
青葉「え~っ?嫌なんですか?」
提督「嫌って訳じゃ無いけどさ…仮にも女の子なんだから…」
青葉「そうですか」パッ
提督「えっ」
青葉なら多分離れないんじゃないかと思ってた分、素直に離れると驚いてしまう。
青葉「司令官がそう言うなら…別に、良いです…」プイ
そっぽを向いてしまう、心なしか落ち込んでいる様にも。
提督「青葉…」
青葉「ちぇ~…」
グリグリと片足のつま先で地面を穿る。
提督「…ぐぐぐ……」
青葉「……」チラッ
提督「良いよ、ほら」
片腕を青葉に差し出す。
女の子に免疫が無いのかな、こういうのに弱い気がする。
青葉「本当ですかっ!嬉しいですっ!」ガバァ
先程より二倍増しで抱き着かれる。
うわぁ…凄い。
提督「…青葉は子供みたいだね」
青葉「なっ!どういう意味ですか!暁ちゃんじゃないですが、私だってちゃんとしたレディですよ!」
提督「レディ…ねぇ」
これでレディと言っちゃうのか、と笑ってしまう。
青葉「何笑ってんですかー!もー!」
提督「だって変なんだもん、青葉」
青葉「むー!ほら、行きますよ!」ズンズン
提督「ってちょ、引っ張らないでって青葉!…青葉さん!?」
青葉に腕を引かれながら鎮守府へと戻る。
───────────────────────……
──商店街
翌日、夕方。
また青葉に出会わないよう周囲に気をつけ、無事に簪を購入した。
手に持っている小さい袋を見る、これを明日…。
提督(羽黒…受け取ってくれるかな…)
提督(いや…受け取ってもらわなくても良いんだ。想いを伝えられればそれで…)
提督(後は羽黒を誘うだけだ)
ポツン…ポツ、ポツポツ
提督(あ…)
しまった、雨だ。
本降りになってしまう前に帰ろう。
急いで走れば、濡れる前に帰れるはずだ。
…
──提督自室前
提督「…はぁっ…はっ……はぁっ…」
提督「何とか…セーフ…はぁっ…かな…」
提督「……ふぅ~…」
提督(う…走ったたから汗が…このままじゃ羽黒には会えないな)
提督(一度汗を流してから改めて行こう)
羽黒「あ…し、司令官さん…?」
提督「ん?……は、羽黒!?」
通りがかった羽黒に見つかってしまう。
羽黒「わ…凄い汗…!ちょ、ちょっと待っててください」ガサゴソ
羽黒はポケットからハンカチを取り出す。
その取り出したハンカチで羽黒は僕の汗を拭き取ってくれた。
提督「ご、ごめんね羽黒…」
羽黒「い、いえいえ…良いですよ…このくらい…」
羽黒は手際良く拭き取り、汗は粗方無くなった。
提督「…ありがとう。ハンカチ、洗って返すよ」
羽黒「いえ、大丈夫ですよ。気にしないで下さい」
提督「いやでも…」
羽黒「ふふっ…」
羽黒は微笑む。
この笑顔の意味には、本当に大丈夫という意味が含まれていると気付いた。
提督「…そっか。本当にありがとうね」
羽黒「はい…お役に立てて嬉しいです」
提督「…あ……」
提督(これはチャンスじゃないか?この流れなら誘える…かも)
提督「ねぇ…羽黒」
羽黒「はい?何でしょう?」
提督「近々街でお祭りがあるんだ…良かったら…その」
提督「一緒に行かないかな…?」
羽黒「……!」
羽黒「…はい……はい!是非!」
提督「ほ、本当?良かった…」
羽黒「嬉しいです…お祭り、楽しみ…」
提督「うん、そうだね!…じゃあ僕は部屋でシャワー浴びてくるよ」
羽黒「はい、また…」
お互いに手を振り、僕は部屋へと戻る。
良かった、何とか羽黒を誘えた。
後は……本番だ。
───────────────────────……
ここまでです。
そろそろ話が大きく動いてきますね。
最後までの流れは出来てるのに、繋ぐ為の会話に苦戦。
短いですが投下。
───────────────────────……
提督が自室に入るのを見送った後自分の部屋に戻る。
「司令官さん……」
ポケットから先程のハンカチを取り出す。
提督の汗で湿ったハンカチ。
口元に当て、匂いを嗅ぐ。
「すぅ……司令官さんの…におい…はぁ…んぁっ…」
男特有の汗臭い匂いが羽黒を満たす。
「好きぃ…大好きぃ……」
火照る、身体が熱い。
「あっ…はぁっ…しれい…かん…さ、あんっ……やっと…」
もう、待たなくて良いんだ。
「んっ…くふぅ…あ、んっ…大好き……だい…すきぃ…」
やっと、気付いてくれたんだね。
早く
早く…
ひとつに、なりたい。
───────────────────────……
──お祭り
遂に、当日。
提督(……はぁ…)
提督(き、緊張してきた…)
提督(落ち着かなくて早く着ちゃったけど…羽黒はまだだよね)
提督(こういう時は…手のひらに人って書いて…飲み込む…)イジイジ
羽黒「司令官さん!お待たせしました!」
提督「ひゃいっ!?」ビクン
羽黒「きゃっ!?……だ、大丈夫ですか?」
提督「う、うん!何でもな…」
羽黒の、その姿に言葉が詰まる。
提督「い…」
立っていたのは浴衣を着ている羽黒。
どこか艶っぽく、普段からは感じ取れない雰囲気があった。
その姿に見惚れた僕は、まじまじと羽黒を見つめてしまう。
羽黒「あ…あの…」
提督「はっ…な、何?」
羽黒「そ…そんなに見られると…恥ずかしいです…///」
羽黒は照れて伏し目になる。
提督「あ、ご、ごめん!あまりに似合ってたからつい…!」
羽黒「…ありがとう、ございます…うぅぅ///」
耳の付け根まで真っ赤にし、今にも火が出るような顔色になる。
提督(駄目だ、このままでは進まない…!)
提督「じゃ、じゃあ行こうか!」
羽黒「はい…///」
…
…
街は祭りによって喧騒と言ってもいいほどの活気に溢れている。
僕達はその中を並んで歩く。
提督「あ、羽黒。あれ食べない?」
様々な店が立ち並ぶ中、一つの店を指差す。
羽黒「えっと…たこ焼き、ですか?」
提督「そう!やっぱりお祭りの定番と言ったらたこ焼きだよね!」
羽黒「ふふっ…司令官さん子供みたいです」
提督「ゔ…そ、そうかな?」
柄にもなくはしゃいでしまう。
恥ずかしい所を見せちゃったな。
羽黒「でも、わかりますよ。お祭りって居るだけで高揚しますもんね」
提督「だ、だよね!じゃあ僕ちょっと買ってくるよ、羽黒は公園で待ってて!」
羽黒「…はい、待ってます」フリフリ
羽黒に手を振り返し店へと向かう。
…
──中央公園
提督「えっと…羽黒は…」
たこ焼きを2つ購入し、先に公園で待ってもらってる羽黒を探す。
提督「お、居た居た。羽黒ー!」
羽黒「」スッ
ここですよ、という風に手を上げ笑顔を向ける羽黒。
羽黒はベンチに座って待っていた。
提督「お待たせ……はい、たこ焼き」スッ
羽黒「ありがとうございます…」
提督「隣…良いかな?」
羽黒「…はい」
三人分無いくらいの小さいベンチだ。
自然と羽黒との距離が近付く。
無反応を装いつつ、たこ焼きを口の中へ運んだ。
提督「はふっ…はふ……」
羽黒「……」モグモグ
やはり出来たてのたこ焼きってのは熱い。
カリッとした外面とは裏腹に中はふわふわだ。
羽黒は丸々を放り込まず、齧る様に食べている。
提督「…久しぶりに食べたなぁ、たこ焼きなんて」
羽黒「私も…久しぶりです」
提督「やっぱり去年も食べた?」
羽黒「はい、以前の司令官さんと…」
提督「そっか、先輩と…」
羽黒「あの時は…出来ませんでしたけど…こう、したかったんですよ?」スッ
羽黒はたこ焼きを一つ突き刺すと、僕の前に持ってくる。
提督「えっ…」
理解が追いつかず目が丸くなる。
羽黒「あーん」
提督「!?」
提督「は、羽黒…!?」
提督(……ん?)
だが、引っかかった。
こうしたかった…?
提督「…羽黒……君は…もしかして先輩の事…」
羽黒「それは、違いますよ」スッ
僕に向けていたそれを、元の場所に戻し語り始める。
羽黒「確かに…私は、前の司令官さんの事が、好きでした」
提督「やっぱり…」
羽黒「ですが、前の司令官さんには、想い人が居ました」
提督「……金剛さんだね」
羽黒「はい、その通りです。でも、私ってこんな性格ですから…」
羽黒「……諦めて…しまいました…」
羽黒は俯いてしまう。
その表情は読み取れない。
提督「羽黒…」
羽黒「諦めた時は、辛かったです…何も出来なかった事が悔しかった…」
羽黒「…色んな感情に押し潰されて…私の心は…もう…」
羽黒「でも………そんな時に、司令官さんが着任しました」
提督「…僕?」
羽黒「…覚えてますか?初めて会った時の事…」
思考を巡らせる。
約二ヶ月前の事とはいえ、色々な事が有り過ぎた。
艦娘には一通り個別で挨拶をしたが、何を話したかまでは…。
提督「……ごめん、あまり…」
羽黒「いえ、しょうがないですよ。司令官さんにとっては大した事ではありませんから…」
羽黒「ですが、私はあの…」
『君が羽黒か』
羽黒「たった一言…」
『よろしくね』
羽黒「あの笑顔で…」
羽黒「私の心は…救われた…救われたんです」
提督「羽黒…」
羽黒「そんな事って言われるかもしれません。ですけど、あの時の私には眩しかった」
羽黒「暗闇の中に居た私を、救い出したのは、手を差し伸べてくれたのは…」
羽黒「…司令官さんの…笑顔なんです」
羽黒は俯けた顔を上げ、僕を見る。
羽黒「…だから、私は───」
提督「待って」
羽黒「えっ…?」
羽黒が何かを言いかけたが、手で制止した。
その先は、君じゃない。
提督「そこからは、僕の番だ」
羽黒「し、司令官…さん…?」
提督「…本当はね、最後に渡すつもりだったんだけど…」ガサゴソ
ポケットから袋を取り出す。
羽黒「…それは…?」
提督「…これだよ」
袋の中から簪を取り出す。
羽黒「あっ…!それ…!」
提督「そう、あの時のだよ」
羽黒「ど、どうしてそれを…?」
提督「…それはね…」スッ
羽黒の手を取り、簪を持たせる。
そして、その手を両手で包む。
提督「…羽黒、君が好きだ」
羽黒「!!!」
提督「…まだまだ頼りないし、先輩みたいにはなれないけど…」
提督「そんな僕で──
そこまで口にした時、羽黒に抱擁された。
温かく、優しく、それでいて力強く。
息が止まると思うくらい、ギュッと抱きしめられる。
提督「…羽黒…?」
羽黒「…そんな事、言わないで下さい…」
羽黒「司令官さんは、司令官さんです…」
羽黒「他の誰でもない、私の…好きな人…」
提督「っ…!」
胸の奥が熱くなった。
身体が勝手に動く。
気づいた時には羽黒を抱き締めていた。。
提督「…ありがとう…」
羽黒「…こうなる日を、ずっと夢見てました…」
羽黒「叶えてくれて…私に気付いてくれて…」
羽黒「本当に…ありがとうございます…」
提督「…それってつまり…良いって事…だよね」
羽黒「はい…こんな私で良ければ…」
提督「勿論良いに決まってる、そんなの…!」
羽黒「嬉しいです…じゃあ早速…」
そう言うと羽黒は離れる。
提督「…?」
羽黒「…はい、あーん」
提督「なっ…!!」
先程戻した物を再度僕の口に持ってくる。
提督「と、突然だね…」
羽黒「…だって、今の私達…」
「“恋人”なんですよ」
───────────────────────……
ここまで。
よォーし。
平和な感じですよ。
投下します。
──提督の寝室
祭り後。
先程の熱がまだ冷めない。
提督(なっちゃったんだよね…羽黒と…)
提督(恋人に…)
提督「ぅぉわぁぁぁぁぁ!!」
ベットの上を頭を抱え転げたり、ウキウキと部屋中をスキップ。
誰が見てもわかるくらいに浮かれていた。
提督(…羽黒……)
提督(明日はあの簪つけてくるのかな…)
提督(きっと似合うだろうなぁ…)
提督「ふふふ…」
気色の悪い笑い声が漏れる。
提督「いけないいけない……これからは、より一層しっかりしなくちゃな」
パンッと両頬を叩き、気合を入れる。
提督「頑張るぞーーッ!!」
ドンッ!!
那智「さっきからうるさいぞ!何をしているッ!」
提督「ひっ!」
那智「何があった貴様!」
提督「な、那智…丁度良い所に。話があるんだ」
那智「…話?」
…
…
那智「──成程な。羽黒と…」
提督「うん。姉妹の皆には話しておこうと思ってさ」
那智「そうか……まぁ何だ、私は素直に祝福するぞ」
提督「良かった…怒鳴られるんじゃないかと…」
那智「おいおい、私を何だと思っている。妹に恋人が出来たのなら応援してやるのが姉というものだろう」
提督「こ、恋人…」
その言葉の響きに少し頬が紅潮する。
那智「ははは、初心な奴だ。貴様はこういった経験が無いのか?」
提督「まぁ…生憎ここに来るまで勉強勉強の日々だったから…」
那智「…そうだったな。実際こんな可愛い顔をしているのだから、そこらの女は放っておかないだろう」スッ
那智の手が僕の頬へ伸びる。
提督「か、可愛い顔って…」
伸びた手で、突かれたり、引っ張られたり、撫でられたり、色々される。
提督「…ちょっと、遊ばないでよ…」
那智「おぉ…すまない。つい、な…」
那智「…良し、足柄と妙高には私から伝えておこう。貴様は明日にでも備えて寝ると良い」
提督「…それは助かるね。ありがとう、那智」
那智「なに、安いもんさ…。未来の弟の為だしな」
提督「え……はっ!そうか……って気が早いよ!」
那智「照れるな照れるな、じゃあおやすみ…」
そう言い残すと那智は退室してしまう。
提督「っとにもう…那智の奴…」
提督「……弟…」
那智「それとだな」ヒョイッ
提督「ひゃいっ!?」
那智のせいで変な事を考えていたから、突然の声に飛び上がってしまう。
まだ何かを言い残したのか、那智がチラリと顔を出す。
那智「なんだ…」
提督「それは…こっちの台詞……それで?」
那智「ああ…これを、ちゃんと言っておきたくてな」
提督「うん?」
那智「…羽黒を、宜しく頼む…」ペコ
───────────────────────……
───────────────────────……
……
やったぁ!遂に司令官さんが私に言ってくれた!
お祭りで告白だなんて…素敵だね、司令官さんっ!
きっとお互いに忘れられない様な、一生の思い出にしたいから今日したんだよねっ?
嬉しいなぁ…それに私の欲しかった簪も覚えててくれた…ふふっ!
司令官さんの気持ち、伝わってくるっ!
明日はこの簪、ちゃんと付けて行きますからねっ!
「ふふっ…司令官さん…」
「次は、私が司令官さんにあげなきゃ…」
「…楽しみにしてて下さいねっ!」
……
───────────────────────……
──執務室
翌日。
コンコン
那智「ん…誰だ?」
ガチャ
青葉「どもーっ!青葉ですっ!」
那智「…青葉か。どうした?」
青葉「あれれ?司令官は居ないので?」
青葉は司令官を探してキョロキョロと部屋を見回す。
那智「ああ、居ないぞ。今は祭りへ行っている」
青葉「あちゃーそうなんですか。ちょっと遅かったみたいでしたね」
那智「ん?何だ、一緒に行きたかったのか?」
青葉「まぁそんな所ですっ!一人で行っちゃうなんて寂しい人ですね!」
青葉「しょうがないですから、この青葉!司令官を追いかけてきますねっ!」
執務室を飛び出そうとした青葉の襟首を那智に掴まれる。
勢い余って服が喉に突っかかり ぐえっ といった声が出る。
那智「待て待て…司令官は一人じゃないぞ」
青葉「…え?誰かと行ってるんですか?」
那智「そうだ…司令官は今、一人じゃない」
青葉「えっ…」
那智「…お前はまだ聞いてないから、無理もないだろうな…」
青葉「な、何をですか…?」
那智「何とは私からは言えん、とりあえずそっとしておいてやってくれ」
青葉「それってどうい───…あ」
一人じゃない──
そっとしておいて──
聞かされてない事実──
…浮かんでるくる、一つの予想。
青葉「………嘘」
───────────────────────……
──お祭り
2日目。
今日もまた、羽黒を待つ。
だが、昨日とは違う。
今僕が待っているのは、恋人だ。
提督(…ふぅぅ~……)
深呼吸深呼吸。
身だしなみ、OK
臭い、OK
よし、大丈夫。
羽黒「…お待たせしました!」
ピクッと反応して声の主へと振り返る。
提督「お、おぉっ…」
一言で言おう、綺麗だ。
提督「……凄く似合ってるよ、羽黒」
羽黒は簪を使って髪をアップヘアに纏めていた。
昨日とはまるで別人、その姿に息が詰まる。
動いた時にチラッと見えるうなじにドキッとしてしまう。
羽黒「ありがとう、ございます。嬉しいです///」
提督「…うん!えっと……はい」スッ
羽黒へ向けて手を差し出す。
羽黒「…はい」
差し出した手を羽黒も握る。
だが、いつもの握りとは違った。
指と指を絡ませ、平が向かい合う。
これは巷で噂の恋人繋ぎと言うやつだろうか。
提督(うわぁ~初めてだけど、何これぇ!凄い絡んでくる~!)
羽黒「えへへ…///」
その笑顔に顔がだらしなく崩壊するのを我慢しつつ、喧噪の中へと僕達は歩き出す。
街は昨日以上の賑わいで、ここに居る皆は恐らく最後の花火目当てだろう。
まぁ僕達もそのうちの一組であることは違いない。
提督「…今日はどうしようか…」
球磨「おや?そこに居るのはもしかしなくても提督クマ!」
提督「!?」
聞き覚えのある声に振り向く。
やっぱりそこに居たのは、いつもの三人組だ
不味い所を見られてしまった…。
摩耶「おいおい、お熱いじゃねーかよ!ヒュー!」
天龍「何だよお前等!やっぱそーいう仲なんじゃねーかよ!」
提督「や、これは…」
球磨「流石にその手の繋ぎ方しておいて言い逃れは出来ないクマ」
提督「はい…」
摩耶「羽黒もよくコイツを落としたな、色仕掛けか?」
羽黒「え…えぇぇ!?///そんなんじゃないです///」
天龍「で、どっちから告ったんだ?」
羽黒が慌てふためくが、それを気にせず問いを投げてくる。
その問いに僕はスッと手を上げた。
天龍「お、やっぱ男だな!流石だぜ!」
提督「まぁ…ね、ははは…」
ただ、ただ、恥ずかしい。
球磨「んまぁ詳しい事はもっと色々聞きたいけど、そろそろお邪魔クマ。行くクマ」
摩耶「お、そうだな。じゃ…また今度詳しく聞きに来るからよ~!じゃ~な~!」
球磨が摩耶をずるずると引きずりながら持ち帰っていく。
提督「…というか、君達は何をしてたの?お祭りではなさそうだけど…」
天龍「ああ、オレ等は…あれよ。心霊スポットをちょっとな」
羽黒「し、心霊…!?」
ガタガタと身体を震わせ、僕に縋り付く。
羽黒はこういうの苦手なんだ。
提督「そうなんだ?で、どうだった?」
天龍「大したことねーな!青葉にオススメって言われたんだけど、何も起きねーし拍子抜けだぜ」
提督「それは、どこにあるの?」
羽黒「え…え!?」ギュゥゥゥ
提督「だ、大丈夫!違うからね?落ち着いて!」
天龍「…波止場があるだろ?あそこを西に進むんだ」
提督「波止場を西か…」
天龍「おう。そこには誰も使ってない倉庫があってな、出るって噂らしい。普段から誰も近寄らないから雰囲気はあるぜ?」
提督「おお、それは…面白そうだね」
羽黒「し、しし司令官さん…!?」
羽黒が今にも泣きそうな目でワナワナと震えている。
提督「じょ、冗談!本気じゃないよ!」
天龍「けっ……んじゃ、オレもそろそろ行くぜ」
提督「あ、うん。ありがとうね、天龍」
天龍「いいって事よ。…羽黒を大事にしてやれよな!じゃあな!」
天龍は先に行った球磨達を追って、颯爽と走り去っていった。
羽黒「…///」
提督「…もちろん」
僕は確かめるように羽黒の手に力を更に込めた。
…
…
「おい、にーちゃん!美人の彼女におまけだ!もう一個持っていきな!」
提督「あ、ありがとうございます!」
わたあめを買ってあげようとしたら店主におまけをして貰えた。
これも羽黒のおかげだな。
貰ったわたあめを羽黒へ手渡し、空いた手でまた手を繋ぐ。
提督「……美人の彼女、だって」
羽黒「あぅ……///」
提督「…照れちゃうね」
羽黒「はい…///」
提督「羽黒…」
羽黒「はい…?」
提督「好きだよ」
羽黒「……///」
羽黒「…私も///」
羽黒「大好き、です///」
提督「ははっ何か照れちゃうね」
羽黒「そ、そうですね///」
恋人って良いなぁ…何て思っていると、羽黒が袖をグイグイと引っ張る。
羽黒「あ、あのぅ…司令官さん。ちょっと良いですか?」
提督「うん?」
羽黒「花火を見る時の、オススメがあるんですけど…」
提督「おぉ、そうなんだ。何処?」
羽黒「えっとですね…」
羽黒「…こっちです」
心無しか、羽黒が恍惚の表情を浮かべているように見えるが、気のせいだろう。
───────────────────────……
ここまで。
ン~長かった、やっと本編いけそう。
軽く投下。
──市街・北区
羽黒に連れられ市街の北の方まできた。
祭りは中心部でやっているので、そこから外れると周りも静かだ。
人気も無く、ただ暗闇が広がるだけ。
提督「ねぇ、羽黒…」
羽黒「もう少しです」
提督「あ、うん…」
黙ってついて来いという雰囲気だ。
でも、この先には何かあったかな?
暗闇の先には真っ直ぐと坂が延びているのが、薄っすらと見える。
提督「坂…」
僕達はそのまま坂を上がり、突き当たりで折り返し更に上がる。
するとそこには小さな公園、商店街方面が良く見えた。
提督「おぉっ……」
ここからは街を一望できる。
眼下には灯りが星屑のように散らばり、美しく広がる夜景。
提督「…綺麗だね」
羽黒「ですね…誰も居ませんし」
提督「え…?羽黒…?」
ダキッ
突然の羽黒が抱きついて押し倒してくる。
羽黒は僕の上に乗っている形だ。
提督「いてて…ちょ、は、羽黒…?」
羽黒「もう…我慢できません…」
提督「え…」
おもむろに羽黒は浴衣を脱ぎ始める。
提督「ちょ!ちょちょちょ!何してんの羽黒!?」
慌てて脱ごうとする手を抑えるが
羽黒「もう…駄目…」
中途半端に浴衣が肌蹴たまま、羽黒は唇を重ねてくる。
提督「んぅっ!?」
羽黒「…んむっ…んんっ…」
ぬちょっとした感触が僕の唇の間に入り込んでくる。
提督(し、舌!?)
羽黒「んっ、はむっ…んちゅっ…」
羽黒は貪る様に唇を求める。
このままでは、いけない。
提督「んはっ…!や、やめてよ!羽黒!」
羽黒の両肩を押し上げ引き離す。
その時に見えた目には、光が宿っていなかった。
羽黒「…はぁっ…しれ、いかんさん…どうして…?」
提督「いや、だって…!」
着崩れた浴衣に目が行ってしまい、そこから見える鎖骨や谷間から目を逸らしてしまう。
羽黒「どこ、見てるんですか?私はここですよ…?」
提督「み、見れる訳が…!」
羽黒「どうして…?私は…こんなに、好きなのにっ!!」
羽黒「もう我慢できないのっ!私っ!わたしぃっ!!」
また覆いかぶさろうとする羽黒に、僕の目はその様が恐怖に映る。
提督「やめっ…てってば!!」
僕は羽黒を跳ね除ける。
羽黒「あっ!?」
羽黒は抵抗されると思っていなかったのか横に勢い良く転がる。
提督「あ…だ、大丈夫!?」
いくら怖いからって怪我をさせるのでは話が違う、相手は女の子なんだ。
起き上がって駆け寄ろうとした時、足が止まる。
羽黒もゆっくりと起き上がっているが、雰囲気が先程と違う。
羽黒「……なん、で…」
何とか聞き取れるくらいの声量で羽黒が呟く。
羽黒「…こんなに……好きなのに…」
こちら側を向いた羽黒の目からは、涙が伝っていた。
だが、その目は陶酔したかのようなままで、何処を見ているのかわからない。
提督「羽黒…?」
羽黒「……あはっ……」
突然吐き捨てるような、乾いた笑い。
羽黒「あはははっ!!司令官さんは私のものっ!!私だけのっ!そうですよね!?ねぇ!?私ッ!私の!!」
提督「は、羽黒…!?」
狂気とも言える羽黒の変貌に距離を取ってしまう。
正気に戻す、なんて思えず、ただこの場から逃げ出したい気持ちに駆られた。
羽黒「あはははははは!!!ひゃはっははははははは!!!!」
羽黒の焦点は既に何処を向いているかわからず彷徨っている。
そこに居るのは羽黒であって羽黒ではない。
僕の知っている羽黒はそこには居なかった。
どうしてこうなってしまったんだ?僕のせいなのか?
提督「くっ…!」
限界だった。
あんな羽黒は見たくない。
羽黒では無い、あの“何か”から僕は逃げ出した。
走り去る最中も笑い声は聞こえたが振り返ってる余裕なんて無い。
僕は、走り続けた。
───────────────────────……
──中央公園
気付いたらここに逃げ込んでいた。
ここなら周りの目もある、安心だ。
僕はベンチに座り、呼吸を整える。
提督「はぁっ…はぁっ…」
提督「羽黒……どうしちゃったんだよ…」
何故羽黒があんな風になってしまったのか。
むしろ心当たりが無さ過ぎて困惑してしまう。
そう思うと、悲しくなってくる。
提督「羽黒…」
何も出来なかった自分に腹が立つ。
あそこで逃げ出した事が悔しくて、涙が頬を伝う。
提督「何で…なんでだ……」
溢れる涙は止め処無い。
情けない、こんな姿誰にも見せられないな。
青葉「…司令官?」
反射的に顔を上げる。
司令官という言葉に敏感になっているせいだ。
提督「あ…青葉…?」
青葉「ちょっ!どうしたんですか!?何で泣いて…!」
提督「青葉ぁ…!」ギュ
見知った顔を見た途端、安堵が押し寄せてくる。
それに耐え切れず青葉に抱き付く様に身を委ねてしまった。
青葉「うぅぇ!?どど、どうしたんですか!?本当に!!」
青葉も戸惑いながら僕を受け入れ、抱き返してくれた。
提督「うぅ…ひくっ……うっ」
青葉「……もしかして…羽黒さん関係ですか?」
提督「え…うん……でも、どうして…」
青葉が知っている筈が無い、羽黒との関係を話したのは姉妹だけなのだから。
青葉「いやまぁ、女の勘ってやつですよ、艦だけに」
提督「……」
青葉「ちょっとっ!何か言って下さいよ!恥ずかしいじゃないですか!!」バシバシ
抱き合ったまま背中を叩かれる。
提督「ぷ…あは…あはははは」
青葉「笑わないで下さいっ!」
提督「ごめんごめん…何でだろうね……青葉と話してると、安心するよ…」
青葉「もう…それって良い意味で捉えて良いんですかね?」
提督「…もちろん、良い意味で言ったんだから」
青葉(そういう意味じゃないんだけどなぁ…)
青葉「…そうですか。何があったかは知りませんけど、聞くぐらいなら出来ますよ」
提督「記事にする事も出来るね」
青葉「しませんよっ!」ムカッ
正直一人で悩んでいるよりも、誰かに話したかった。
僕は青葉とベンチに腰掛け、事情を説明する事にした。
───────────────────────……
───────────────────────……
あれ、いつの間にか司令官さんが居ない。
もう、司令官さんってば恥ずかしがり屋さんなんだねっ!!
私だって恥ずかしかったんだよ?
あんな事司令官さんにしかしないのにっ!!
初心な司令官さんも可愛いけどねっ!
でもね?やっぱり傷ついちゃった…。
司令官さんがそういう気が無いってのは知ってたけど…。
あんな風に突き飛ばしちゃうんだもん…。
痛かったなぁ…。
でも、そんな事で司令官さんの事、嫌いにならないからね?
わかってるよね?私達は恋人。
今回は失敗しちゃったけど、私は司令官さんと早くひとつになりたい。
司令官さんもそうなんだよね?本当はしたいんだよね?
私ならいつでも大丈夫っ!
だって司令官さんの事、大好きだからっ!!
もう、好きすぎておかしくなりそうだよ…。
…司令官さんは私を迎えにきてくれたよね?
今、何処に居るのかな?
今度は…
私が迎えに行ってあげるっ!!!
───────────────────────……
一旦ここまで。
ッシャオラッ!
───────────────────────……
──中央公園
僕は、青葉に事の経緯を話し終えた。
提督「──で、ここまで逃げてきたんだ」
青葉「…ふむふむ」
青葉「…とりあえず事情はわかりました!」
青葉「私としては、しばらく離れる事をオススメしますね!」
提督「…やっぱり、そうなのかな」
青葉「ええ!また襲われでもしたら、今度は何されるかわかりませんからね!」
提督「そっか…そうだよね」
青葉「…一先ずは、戻りましょうか。此処に居てもあれですし」
提督「…そうだね、うん」
とりあえず羽黒から距離を置くという方向で話は進む。
青葉に手を引かれ、僕はベンチから立ち上がる
青葉「じゃ、帰りましょうか♪」ギュッ
立ち上がったのを見てから青葉は腕に抱きついてくる。
提督「ちょ、青葉…」
青葉「…良いじゃないですか、ちょっとくらい。話聞いてあげたんですからっ」
提督「う……それはそうだけど…」
青葉「だーいじょうぶです!少しだけですから…少しだけ」
そう言って青葉は動き出す。
僕も釣られて一緒に歩く。
青葉「…これで、踏ん切りをつけます…」ボソ
提督「ん?何て言ったの?」
ボソッと青葉が何か呟いたが聞こえなかった。
青葉「…いいえ!何でもありません!司令官可哀想だなぁって!」
提督「酷いなぁ…」
青葉「そんな事ないですよぅ!司令官さんだって黙ってたの酷いじゃないですか!」
提督「だって昨日の今日だし、いずれは皆に…」
青葉「あーあー!聞こえないでーす!」
提督「な…全く……都合の良い耳だね」
青葉の耳たぶを空いた手で、ぐにーっと引っ張る。
青葉「あだだだっ!やめてください!伸びちゃいますよ!」
提督「あははは、ごめんごめん」
青葉「もう……」
青葉「少しは、元気出ましたか?」
提督「ん…」
そうか、青葉は僕を元気付けようとしていたのか。
提督「うん、ありがとう。ちょっと元気でたよ」ナデナデ
感謝の意を込めて、青葉の頭を撫でる。
青葉「へへへ…なら、良かったです」
提督(……正直、不安が拭えないけど…)
提督(考えても仕方ない、とりあえずは戻って明日からどうしよう…)
提督(そういえば…羽黒…羽黒はどうなったんだ…?)
提督(もう…戻ってるのかな…)
提督(戻ってる、よね…明日からどう顔を合わせれば良いんだろう…)
何となく後ろを振り返る。
相変わらずの人混みだ、奥なんて見えない。
羽黒は…どうしているのだろう。
青葉「こら~、前見てないとぶつかっちゃいますよ~?」
提督「あ、そうだね。ごめんごめん…」
とりあえずは、帰ろう。
<●> <●>
───────────────────────……
──青葉の部屋
青葉「ふぅ~…」
部屋に戻るなり、ベットへとうつ伏せに身を投げる。
青葉(……きっと、司令官は羽黒さんの事はまだ好き…ですよね)
青葉(私だって…司令官の事…好きだったんですよ)
青葉(でも、これを機に付け入ろうとするのは愚の愚です)
青葉(…例え恋人になれなかったとしても、司令官の力にはなれます)
青葉(それだったら私は…2番でも良い……)
青葉「…なーんて…ね…」
ぐるんと寝返りをうち、両目を腕で塞ぐ。
青葉(だから、さっきので…最後です、司令官)
不思議な事に涙は出ない。
とても哀しいはずなのに。
私ってこんなに冷めてたのかな?
…いや、違いますね。
こういう気持ちは“二度目”だから。
あの時は…泣いたなぁ。
でも慣れた……って
それも、変ですね。
コンコン
青葉「おや、誰でしょう。はい、どうぞ!」
ガチャ
青葉「えっ…」
羽黒「お邪魔、します」
…
ここまで。
青葉には元気で居て欲しい。
投下します。
…
青葉「……」
羽黒「……」
私達は今、テーブルを挟んで座っている。
青葉(き、気まずい…!)
青葉(羽黒さんは一体何の用で私の部屋に…?)
羽黒「………」
流石に居ても経っても居られず、動き出す。
青葉「あ、お茶──
羽黒「あの」
青葉「はひっ!?」ビクン
羽黒「お構いなく」ニコ
青葉「えっ!?あ、はい…」
立ち上がったが、もう一度座り直す。
青葉(な、何なんですか…?)
青葉(これと言って変わった所は見られませんが…)
青葉(司令官の思い違い…いやいや、あの様子では流石にそれはないですよね……)
羽黒「青葉ちゃん」
青葉「はいっ!?」
羽黒「お祭り、行った?」
青葉「あ、はい!行ってましたよ!一人でですけど…」
羽黒「そっか」
羽黒「……」
青葉「……」
羽黒「青葉ちゃん」
青葉「は、はいっ!」
羽黒「ごめんなさい、喉乾いちゃって。お茶、貰えるかな?」
青葉「あ、はいっ!すぐ用意しますねっ!」
そう言って各部屋に設置されている小さい台所へ向かう。
羽黒「……」
…
…
ヤカンを設置して、今は沸騰待ち。
青葉(……はぁ…)
青葉(羽黒さん…普通…何ですけど、何か怖いですよ…)
青葉「あ、茶葉出して置かないと…」
上の戸棚を開けて、茶葉を探す。
青葉「ええと……確かこの辺に…」ゴソゴソ
背伸びして、つま先立ちになりながら戸棚を漁る。
羽黒「青葉ちゃん」
青葉「ひゃぁぁっ!?」ビク
びっくりして後ろに倒れそうになるけど、羽黒さんに受け止められる。
羽黒「わわ…危ない危ない…」
青葉「ご、ごめんなさい…」
羽黒「良いの。それにお腹、見えちゃってるよ」
青葉「えっ!?わっ///」
羽黒「ちょっと、ついてるね」プニ
見えてしまったお腹を服で隠す前に羽黒さんが手でお腹を摘む。
青葉「ちょ、羽黒さん…///」
羽黒「ふふっ…ぷにぷにしてる」
青葉「言わないで下さいよぉ///」
ピィィィィ
ヤカンが沸騰したみたいだ。
青葉「あ、止めないと…」
羽黒「ねぇ、青葉ちゃん?」
青葉「えっ…」
先程から喋っていた時のトーンとは明らかに違う。
何というか、楽しそうな、陽気な感じがした。
羽黒「私ね、ひとつ、気になることがあるの」
青葉「な、何です───痛ッ!?」
羽黒さんに摘まれたままの部分が、思い切り摘まれる。
青葉「い、痛いですよ…!羽黒さん…!?」
羽黒「今日お祭りで、司令官さんと何してたの?」
青葉「え…!?」
羽黒「教えて?」
青葉「な、何って…!私は何も…!」
羽黒「私…知ってるんだよ。何してたか。教えて?」
青葉「えっ…」
青葉(もしかして…見られてた…?)
青葉「あ、あれは違く──」
羽黒「教えてッ!!!!!!」グニッ!
青葉「ひっ…!」
また強く摘まれるが、痛みなど忘れてしまうくらいの怒号が響く。
羽黒「…まぁ、でも良いよ。青葉ちゃんは大事な仲間だもの、許してあげる」
手を離し、私から離れる。
青葉「は、羽黒さん…?」
羽黒「でもね、人のものに手を出したんだから、少しは反省しないとね?」
羽黒さんはそう言ってヤカンの火を止める。
青葉「反省…?」
羽黒「ふふっ…簡単だよ♪青葉ちゃんに付いた司令官さんを、洗い流すだけ♪」
そのまま羽黒さんはヤカンの取っ手を握る。
青葉「ちょ、まさか洗い流すって…!?」
ここでヤバイと悟った。
羽黒さんは、やっぱり正気じゃない!
そう理解すると身体が反射的に出口を目指す。
羽黒「待ってよッ!!まだ司令官さんが付いたままでしょ!!?」ブンッ
熱湯が入ったヤカンを逃げ道の先に投げ込まれた。
青葉「ぅわっ…っつ!」
壁にぶつかったヤカンが、目の前で熱湯をばら撒く。
かかりこそはしなかったが、熱気を浴びてそこで足が止まってしまう。
油断した。
立ち止まった所を壁に押さえつけられる。
青葉「いっ…たっ!」
羽黒「もう…どうして逃げるの?」
声は穏やかだけど、押さえつけている力は、本気だ。
羽黒「…ここじゃ駄目だね」ドスッ
鳩尾に拳がめり込む。
青葉「ゔぅ゙ぇ!?」
羽黒さんはその隙を逃さず、首の後ろから手を回してくる。
気管を塞がれた、締め落とす気だ。
羽黒「安心して、殺さないから。…だって大事な仲間だもん」ググググ
羽黒「ただ…少し反省してもらうだけだから、ね?」ググググ
や…め…。
たす…け…て…しれい…かん。
───────────────────────……
──提督の部屋
時間は少し戻り、提督の視点。
僕は青葉と別れた後、自室に戻ると一息つく。
自分の部屋に居るってだけで、こんなに安心するのは初めてだ。
提督「はぁ……」
青葉には元気が出たと言ったが、一人になるとそうでもなくなる。
悪い事、嫌な事が渦巻く。
提督「羽黒…」
駄目だ、気持ちが悪くなってきた。
とりあえずは、一旦寝よう。
…
…
気付くと、僕は波止場に居た。
雨が降っている、手には傘。
あれ…?此処は…。
羽黒『司令官さーん!』
すると、市街の方から羽黒が傘も差さずにこちらに走ってきていた。
提督『は…ぐろ?羽黒なの…?』
あの時の狂気に満ちた羽黒の面影は無い。
僕の知っている、僕の好きな、羽黒がそこに居た。
提督『元に…元に戻ったんだね!』
羽黒『司令官さーんっ!』
ギュッ。
羽黒は飛び込むような形で僕に飛びついてくる。
提督『おっとと…危ないよ、羽黒』
羽黒『ふふっ…大丈夫ですよ。それと何ですか?元に戻ったって』
抱きついた羽黒の両肩を掴んで離し、顔を見る。
提督『え?…覚えてないの?』
羽黒『元も何も…私は私じゃないですか?』
提督『でも…さっき見た羽黒は…』
羽黒『こんな風でしたか?』
提督『!?』
今、そこに居る羽黒は、あの羽黒だった。
光が無く、どこを見ているかわからない瞳。
吸い込まれそうな、闇が広がっていた。
提督『くっ…!』
咄嗟に羽黒を突き飛ばしてしまった。
そして異変に気付く。
今僕が居るのは、あの公園だ。
提督『な、何で此処に!?』
羽黒『…司令官さん…?なんで…?』
羽黒はよろよろとしながら立ち上がる。
羽黒『こんなに好きなのに…どうして…』
羽黒『司令官さんは私のもの…なんですよ?』
提督『羽黒…!正気に戻ってよ!ねぇ!』
羽黒『あはっ…あはははっ…あはははははははは!!!』
羽黒『司令官さんは!!私のものッ!私のッ!私のッ!!私のッ!!!』
提督『やめてよッ!!』
バッ!
提督「羽黒ッ!」
悪夢で目が覚める。
横たわったまま、目だけを開ける。
提督「はぁっ!……はぁ…!はぁ…!」
此処は…自分の部屋…か?
提督「ゆ…夢?」
そして、動こうとした時に違和感。
身体が動かない。
金縛りとかじゃない、ロープか何かで身体を縛られている。
提督「な、何だこれ…!?」
羽黒「…司令官さん、おはようございます。早いですね?まだ1時間程しか経っていませんよ?」
羽黒!?
咄嗟に何か言おうとした時、口に何かを貼られる。
ガムテープだ。
提督「んんっ!?」
羽黒「ごめんなさい、もしかして起こしちゃいましたか?」
提督「んんん!!」ブンブン
そうじゃない!と首を横に思い切り振る。
羽黒「どうして私がここに?って事ですか?」
提督「んんっ!」コクコク
羽黒「ふふっ…だって私は司令官さんと一秒でも長く一緒に居たいんですよ?」
羽黒「…嬉しいですか…?私は嬉しいですよ!!」
それはもう、満面の笑みで答える。
その笑みだけならば普段の羽黒と相違ない。
提督「んん…!」
羽黒「声にならないくらい嬉しいですか!?わかります!その気持ち!凄く!」
提督「んん!?」
羽黒「でも、ごめんなさい司令官さん…私が居ながら…」
羽黒「あの子に汚されてしまって…!!」
提督「んん…?」
あの子?誰だ?
羽黒「大丈夫です!私はわかってます!」
羽黒「司令官さんは何も悪くないです!」
羽黒「悪いのはあの子!私の司令官さんを汚した…あの子!!」
羽黒「あの子が居るから、司令官さんは私と繋がれないんだよね!?」
提督「んんっ!」
まさか、青葉の事?
羽黒「ふふっ…わかります。許せないですよね?でも私に任せて下さい、これから叱りに行ってきますから」
羽黒「司令官さんは何も心配しないで下さい…ね?」
提督「んんんっ!!!」
羽黒「大丈夫ですよ。いくら邪魔とはいえ殺しはしません、仲間ですから♪」
な、何を言ってるんだ羽黒…!?
提督「んんっ!!!」
羽黒「じゃあ…少し待っていて下さいね、司令官さん♪」
そう言うと羽黒は部屋から出て行った。
このままでは青葉がまずい、どうすれば…!!
提督「んんっ!!んんぅっ!!!」ジタバタ
どれだけ暴れてみても千切れるといった感じはしない。
ここで暴れても無駄に体力を消耗するだけだ、どうする?
冷静になった所でこんな状態じゃ何も出来ない、誰にも助けを求められない…!!
青葉…ッ!!
…
…
あれから一時間くらい経っただろうか…。
未だ現状は打破出来ていない。
提督(誰か……)
コンコン
提督(!!!)
提督「んんんっ!!んんんーー!!!」
ガチャ
金剛「な、なんでデスカ?今の声は…」
金剛「!?」
無理もない、部屋に入ってこんな姿なんだから。
提督(こ、金剛さん!!)
提督「んんっ!んんん!」
金剛「こ、これは一体…どういう事デス…?」
提督「んんぅ!」
金剛「ハッ!Sorry!今解くヨ!」
金剛さんにロープを解いてもらう。
これで自由に動けるぞ!
両手が解放され、口に貼られたガムテープを剥がす。
提督「ぷはっ!金剛さん!…青葉が!青葉が危ないっ!!」
金剛「WaitWait!落ち着いテ!」
提督「落ち着いてる場合じゃ──ッ!!」
パチンッ。
額に軽い痛みが起こる。
提督「あだッ!な、何を…」
痛みの正体は、デコピン。
金剛「少しは落ち着いタ?」
そう言う金剛さんは、僕に向かってデコピンの動作を繰り返していた。
提督「…はい…」
金剛「イェス!それは良かったデース!」
提督「えと、とりあえず事情は後で話します。今は着いて来て下さい!」
金剛「ンン?ワカリマシター!」
…
──青葉の部屋
ドンッ!
ノックなんてしている余裕は無く、ドアを勢い良く開ける。
提督「青葉ッ!青葉ッ!?」
周りを見渡すが青葉は居ない。
開きっぱなしの戸棚に、床に落ちているヤカンが目に入る。
金剛「…コレハ……」
提督「くっ…!遅かった…!」ドンッ
近くの壁を拳で叩く。
金剛「事情はワカリマセンケド……良くない事が起きてるんデスネ?」
提督「はい…青葉が危険な目に遭っているかもしれません…!」
金剛「デモ、ココはホームデスヨ?一体誰がア
金剛「デモ、ココはホームデスヨ?一体誰がアオバを…?」
提督「…羽黒です」
金剛「!?」
金剛「羽黒…ってあの大人しい子デス…?」
提督「信じて貰えないかもですが、本当です。羽黒が青葉の事を…!」
金剛さんは少し考える格好をしたが、すぐに向き直る。
金剛「イェス、信じマスヨ。でも、何処に行ったかはワカリマスカ?」
提督「いえ…見当も…」
金剛「ウーン…」
提督「何処だ…羽黒は何処に行く…!?」
思考を走らせる。
人気の無い所に行くはずだ、北区の公園か?
いや違う!あそこは行くまでに中央区を通るから有り得ない!
他に…他にないか!?
提督(…ダメだ!…思いつかない…!)
ただでさえ最近話すようになったばかりで、羽黒の事なんてすぐわかる訳が無い。
金剛「ヘイヘイ!チョット良いデスカ?」
提督「は、はい…?」
金剛「何処へ行くっていう発想を逆転してみまショー」
提督「発想を…?」
金剛「羽黒なら何処へ行くか、では無く」
金剛「テートクなら、何処へ行きマスカ?」
提督「僕なら…?」
何処へ…。
仮に僕が脱出するのを羽黒が想定してたとする。
すると居ない事に気付いて追ってくる事も承知の筈だ。
人目を盗んで、誰にも気付かれないとするなら…。
提督(待てよ…)
ある可能性が生まれる。
あくまで可能性だ、確信がある訳ではない。
だが、僕ならそうする。
提督「…波止場から西にある…倉庫…心霊スポット…」
金剛「Ghost!?」
羽黒はあの時怖がっていた。
だから可能性から外していた、行く訳が無いと。
でも、逆に考えればそこが盲点だ。
提督「確証はないですけど…多分…!」
金剛「Oh…」
提督「行きましょう!金剛さん!」
金剛「イ、イェース…!」
───────────────────────……
ここまで。
投下ミスは目を瞑ってください。
やっと終わりが見えてきました。
書き終えたので、投下します。
──倉庫
青葉「ん…んんっ…」
あれ…此処は…?
私は…羽黒さんに。
青葉「ん、あれ…」ガタガタ
椅子に座っている状態だ、動けない。
青葉「ちょ…」ガタガタ
縛られてる!
青葉「あ…!」
そういえば、羽黒さんは…?
辺りを見回すが暗くてよくわからない。
というか此処は何処…?
羽黒「ほら、あんまり暴れないでね?」
青葉「!!」
暗闇から優しい声がする。
それは紛れも無く、私をここに縛った張本人だ。
そして、何か金属を引き摺るような音。
青葉「は、羽黒さん…?」
羽黒「此処…心霊スポットだけあって、雰囲気あるね」
青葉「心霊…?あ、もしかして此処はあの倉庫…?」
羽黒「そうだよ。こんな良い所教えてくれるなんて、青葉ちゃんには感謝しなきゃ」
青葉「何を言って…!」
羽黒さんには教えてない、なんてこの際どうでもいい事だ。
羽黒さんの姿が見え始める。
…鉄パイプを引き摺っていた。
青葉「な、何ですか…それ…」
羽黒「え?これ?」
ヒョイッと鉄パイプを持ち上げて見せる。
羽黒「何って…普通の鉄パイプだよ?知らないの?」
青葉「そ、そうじゃなくて!それで何をする気なんですか!?」
羽黒「…言ったでしょ…?反省してもらうって」
青葉「ちょ…洒落になりませんよ!?」
羽黒「…青葉ちゃんが、悪いんだからね?」
羽黒「司令官さんは、私のものなの」
羽黒「人のものに手を出したら相応の対価が必要なの」
青葉「司令官はものじゃないで──」
羽黒「うるさいッ!!!!!」ゴッ
青葉「ッ…!!」
持っている鉄パイプで地面を強打する。
羽黒「…それにね…司令官さんには私が必要…」
羽黒「そして私にも司令官さんが必要…」
羽黒「…わかる?」
羽黒「だけど、青葉ちゃんが居ると、司令官さんが不安定になっちゃう…」
羽黒「私が、司令官さんを助けてあげなきゃ……司令官さん…」
羽黒「だから…待っててね……」
羽黒「……始めよっか」
青葉「や、やだっ!!」ガッタガッタ
羽黒「ほらッ!!!!」ブンッ
青葉「嫌っ!!」ガターン
椅子を勢い良く倒し、振り下ろされる得物を避ける。
ゴッ!という音が倉庫の中を反響する。
あんなの当たったら…怪我どころじゃない…!
羽黒「もう…動かないでよ…当たらないでしょ?」ニコ
どこまでも優しい声。
落ち着き払っていて、笑顔で、とても今から人を殴打しようとする人の表情じゃない。
恐怖が込み上げる。
青葉「や、やややめてください…!」
羽黒「何を?」スッ
本当に何を?という顔をしていた、駄目だ、完全に狂っている。
羽黒さんは鉄パイプを振り上げる。
ドンッ!!
突然倉庫の出入り口が蹴破られる。
羽黒「ッ!?」
青葉「……!!司令官っ!!」
提督「青葉ッ!!」
司令官はこちらに向かって駆けてくる。
羽黒「あ、司令官さん来てくれたんですね♪大丈夫です、すぐ終わりますから♪」
振り上げた得物を下ろし、司令官の方を向く。
だけど、その言葉は届いてないのか、司令官は羽黒さんを無視して私に駆け寄る。
提督「青葉!大丈夫!?」
羽黒「え…?」
青葉「…はい!はいぃ…!」
安堵から涙が溢れてくる。
提督「今、助けるから…!」
私を縛っていたロープを司令官が解いてくれる。
羽黒「どうして…?」
羽黒「私は…ここですよ?」
提督「良かった…怪我は無いね」
青葉「うぇぇぇ…怖かった…!怖かったです…ッ!!」ギュッ
提督「ごめん、ごめんよ…」ポンポン
抱きつく私の頭を優しく撫でてくれる。
羽黒「何、してるんですか?…司令官さんが汚れちゃうッ!!!」
提督「羽黒!いい加減にしろ!!」
普段温厚な司令官からは出ない、強い言葉。
羽黒「ッ!?」
いくら狂っていても、聞いた事の無い司令官の声で動きが止まる。
提督「…青葉に何したか…わかってるの!?」
羽黒「…わかってますよ…?司令官さんの為に…私が、叱ろうとしたんじゃないですか!!」
提督「僕の為なら!今すぐこんな事はやめてよ!」
羽黒「何を言ってるんですか?……司令官さんは私の味方をしなきゃ…」
提督「…今の羽黒は、嫌いだよ」
羽黒「……」
不意に羽黒さんは不敵な笑みを浮かべる。
羽黒「ふふっ…そんなの…知ってますよ」
提督「だったら!」
羽黒「青葉ちゃんに惑わされて…司令官さんが嘘つきになっちゃった……」
青葉「え…」
提督「何を…」
羽黒「本当はこんな事したくないですけど……」スッ
得物をゆっくりと振り上げる。
そこに司令官が居ると分かっているのに。
羽黒「司令官さん……もしも、二人だけの世界に行けたなら……」
羽黒「司令官さんの目には私しか映らない…絶対に、本当の意味で私を好きになってくれる…」
羽黒「素敵じゃないですか?だから、私と一緒に……いきましょう?」ニコ
私も司令官もその笑顔に背筋が凍りつく。
提督「や、やめ…」
羽黒「大丈夫です…痛いのは最初だけですからっ!!!」ブンッ
羽黒さんは司令官目掛けて得物を振り下ろす。
提督「っ…!!」
青葉を抱き込むように庇う。
だが、振り下ろしたそれは司令官に当たる事は無かった。。
羽黒「ッ…!?」
金剛「…そこまでデスヨ、羽黒」
いつの間にか、私達と羽黒さんの間に金剛さんが入っていた。
振り下ろした得物を、金剛さんが片手で受け止め、握りしめる。
提督「金剛さん…!」
金剛「…もう、止めまショウ?」
そう言うと、軽々と羽黒さんから鉄パイプを奪い取り、遠くへと投げ捨てる。
羽黒「…“また”貴女ですか…!!」
羽黒「皆して私達の邪魔をして!!何なんですかぁっ!!!」
羽黒さんは叫ぶけど、分が悪いと判断したのか入口へと逃げていく。
金剛「…!」
提督「羽黒!待って!」
司令官は立ち上がり、羽黒さんの方へと走り出す。
でも、すぐに止まった。
提督「…っ」チラッ
私を見る。
金剛「ヘイ!テートクー!ここはワタシに任せて、行ってくるネ!」
提督「でも…!」
金剛「今の羽黒にはテートクが必要デース。ちゃんと羽黒を連れ帰って来なくちゃ、ノーなんだからネ?」
青葉「…行ってあげて下さい…司令官」
提督「青葉…」
青葉「金剛さんの言う通り、今必要なのは司令官です…。司令官なら…羽黒さんを止められます」
金剛「イェース!」
提督「…二人とも……」
提督「うん……行ってくる…!」
…
…
司令官が居なくなってから数分。
青葉「……はぁ~ぁ…」
急に疲れがどっと出て来た。
金剛「…アララ、そんな大きい溜息ついちゃッテ。お疲れデスネ?」
青葉「まぁ、それもそうなんですが…司令官、凄いなぁ…って思いまして…」
金剛「と言うと?」
青葉「だって…好きな人のあんな姿見ても、諦めないんですもん司令官ってば」
青葉「…羨ましいな…羽黒さん…」
金剛「フフッ…好きなんだからしょうがないヨ」
青葉「ん……好きだから…ですか」
金剛「青葉は…どうなんデスカ?」
青葉「私ですか?……そうですね…」
司令官の事…
諦めたじゃん。
金剛「テートクの事、好き?」
…本当は?
…わかってるよ、そんな事。
青葉「……好きです。…諦めたつもりだったんですけどね…でもやっぱり好きですよ」
青葉「この気持ちに…もう嘘は吐けません」
そうだ、やっぱり私は司令官が好き。
青葉「恋人が居るから好きじゃなくなる。これは本当に好きって言えるんでしょうか」
青葉「私は思いません、絶対に」
青葉「ですけど、恋人が居るのに、気持ちを伝えるのは私の我儘です」
金剛「…青葉…」
青葉「おっと、勘違いしないで下さい!別に諦めたって意味じゃないんですよ?」
青葉「確かに司令官の特別な人になりたい…これは本当ですけど」
青葉「何も、それが全てじゃないです」
青葉「司令官が困ったら力になり、司令官の為に戦い、司令官が楽しければ私は笑う」
青葉「…そういう幸せも、あると思うんです」
金剛「フフッ…」
青葉「な、何ですか…?」
金剛「…あの頃より…成長したネ、青葉」
青葉「なっ!そりゃそうですよ!」
青葉「金剛さんも言ってたじゃないですか!」
青葉「好きなんだから、しょうがないんです!」
金剛「……ソーダネ」
───────────────────────……
──波止場
時間はすっかり深夜だ。
波止場とはいえ、もう人気は無い。
提督「待ってよ!羽黒!」
あれから、羽黒を視界に入れたまま追いかけている状態だ。
幸い月明りで姿を捉えることが出来る。
脚力は軍で鍛えられていたから、少しずつ距離が縮んでくる。
羽黒「何なんですか!?ついてこないでくださいッ!」
提督「そういう訳にも…!って!」
羽黒「きゃっ!?」ドサァッ
羽黒は踏み間違えたのか、派手に転ぶ。
提督「羽黒!」
羽黒には悪いけど、今が好機と言わんばかりに駆け寄る。
足を捻ったのか…。
提督「大丈夫?羽黒?」
転んだ羽黒の上半身を抱き上げる。
羽黒「もう……嫌です…」
そう言って僕の上半身に縋り付いてくる。
先程までの羽黒の面影は無くなっていた。
提督「え…?」
羽黒「…私は…私が嫌いです…」
羽黒「…誰も傷つけてたくない筈なのに…」
羽黒「…不安が消えないんです…また司令官さんが消えちゃうんじゃないか、離れてしまうんじゃないかって…」
羽黒「…だから繋がりを求めて…あんな事を…」
羽黒「…おかしいですよね…」
提督「羽黒…」
羽黒「…だから、司令官さん…」
スッと羽黒が離れる。
羽黒「私と…」
羽黒は笑っていた。
羽黒「…別れてください…」
そして、泣いていた。
提督「…!!」
羽黒「…短かったけど…ありがとうございました…」
羽黒「…楽しかったです、本当に…」
羽黒「だから、これ以上はもう…!」
羽黒「…これ以上司令官さんと居ると…本当に壊れてしまいます…!」
羽黒「だから…!」
提督「嫌だッ!!」
羽黒「!」
提督「お願いだから、そんな事言わないでよ…!」
羽黒「司令官さん…」
提督「それとも、羽黒はもう、僕の事…嫌いになったの…?」
羽黒「…!」
羽黒「…そうですよ…もう私は…司令官さんの事……」
羽黒「き……」
羽黒「…?」
羽黒(あれ…?)
羽黒(言葉が出てこない…)
羽黒(嫌いですって…言うだけなのに…)
羽黒(なんで…)
羽黒(どうして、涙が出てくるの…)
提督「僕は…」
羽黒の肩を掴み、抱き寄せる。
羽黒「えっ…」
提督「僕は、羽黒が好きだ」
提督「例えどんなに…おかしくなっていたとしても…」
提督「僕は羽黒の事が好きなんだ」
提督「この気持ちは曲げられない…」
提督「だから…僕から離れないで…何処にも行かないで…」
提督「ずっと…傍に居てよ…」
羽黒「司令官…さん…」
羽黒「……ずるいですよ…そんな事言われたら…」
羽黒「…離れたくても、離れられないじゃないですか…」
提督「うん」
羽黒「…何処にも行けなくなるじゃないですか…」
提督「うん」
羽黒「…傍に居たいって、思うしかないじゃないですか…」
提督「うん…」
羽黒「…こんな私で…良いんですか…」
提督「そんな羽黒も、僕は好きになる…」
羽黒「…大好きです…」
もう言葉はいらない。
僕は羽黒と唇を重ねた。
───────────────────────……
──執務室
青葉「司令官達は結局何処行ったんですかね?」
金剛「ン~ワカリマセンネー」
青葉「ですよね~……」
金剛「テートクを信じて待つしか無いデスネ」
青葉「まぁそれはそうなんですけど…」
ガチャ
青葉「おや?」
提督「ただいま」
金剛「オカエリナサーイ!…上手くいきましタ?」
提督「うん…おいで、羽黒」
羽黒「……ぁぅ」
廊下から少しだけ顔を出す。
流石にあの後だから仕方がない。
青葉「羽黒さん…」
羽黒「その…ごめんなさい…青葉ちゃん、金剛さん…」
深々と頭を下げた羽黒を見た後、青葉と金剛さんは顔を見合わせる。
お互いに何か思いついたようにニヤリとしていた。
青葉「椅子から倒れた時、結構痛かったですよぉ…?」
金剛「オーノー!手ガー!手が今頃になって痛いネー!」
羽黒「あぅぅ…本当に…ごめんなさい…!!」
提督「ちょっと…」
青葉「わわ!嘘ですよ、嘘!」
金剛「フフッ…羽黒、頭を上げて下さいネー」
羽黒「はい……」
ゆっくりと羽黒は頭を上げる。
青葉「ひとつ聞きますけど、司令官とは元通りに?」
提督「ああ、それは──」
青葉「司令官には聞いてません」
金剛「引っ込んでなヨー!」
提督「あ、はい…」
青葉「…それで?」
羽黒「…うん…元に戻ったよ…」
青葉「…そうですか…」
青葉「…良かった…」
羽黒「え…?」
青葉「だって、あのまま別れるなんて悲しいじゃないですか。だから、元に戻って良かったです」
青葉「悔しいですけど、私は応援します、あなた達を」
羽黒「…青葉ちゃん……ありがとう…ありがとう…」グスッ
青葉「あわわっ!な、泣かないで下さいよぉ!何か悪い事した気持ちになっちゃうじゃないですかぁ~」
羽黒「ご、ごめんなさい…」グスッ
青葉「もう、しょうがないですね」
青葉はポケットからハンカチを取り出し、羽黒の顔を拭いてあげた。
青葉「あ、そうだ……羽黒さん、喉乾きませんか?」
羽黒「えっ…?」
青葉「あれから、まだ何も飲んでないですよね?」
羽黒「でも…私…」
青葉「私は羽黒さんと仲直りしたいです。だから一緒にお茶飲んで、仲直りしましょう!それでチャラ!」
羽黒「青葉ちゃん……」
青葉「駄目…ですか?」
羽黒「ううん…ありがとう…私も、青葉ちゃんと…仲直りしたいから…」
青葉「…決まりですね!司令官!羽黒さん借りますね!」
羽黒「わわっ…青葉ちゃん…!」
こちらの返答を待たずに羽黒の手を引いて羽黒は飛び出して行った。
金剛「…良いんデスか?」
提督「いやいや…止められないですよ…流石に」
金剛「デスヨネ」
提督「まぁ…何とか、収まって良かったです」
金剛「…羽黒はもう、大丈夫なんデスか?」
提督「多分、ですけどね。でも、僕は羽黒を信じてますから…きっと大丈夫です」
金剛「ソウデスカ…」
金剛「テートクもよく頑張りましたネー」ナデナデ
頭を撫でられる。
提督「あはは…金剛さんもありがとうございます。助かりました」
金剛「これからも困った事があればワタシに言って下さいネ?」
提督「はい、是非頼らせてもらいます」
提督「あ、そうだ。ひとつ良いですか?」
金剛「ン?何デスか?」
提督「先輩に手紙を書きたいんですけど───…
───────────────────────……
──エピローグ──
後日。
あの日の出来事を知っているのはあの場に居た4人だけ。
もちろん、内密だ。
そして僕は、羽黒との交際を正式に鎮守府内で公表した。
最初のうちはこれでもか、というくらいに質問責めを受けたけど
次第に騒ぎも収まっていき
今は──
提督「もう無理…ほんと勘弁して…!那智!那智さん!」
那智「なんだとォ!?私の酒が飲めないって言うのか!?」
提督「いやでも、結構飲んだよ…!いやほんとに…那智…!」
那智「貴様ァッ!私の事はお義姉さんって呼べと言っただろう!!」
提督「だから!それは気が早いよ!」
青葉「それで、司令官とはどこまでいったんです?羽黒さんっ!」
羽黒「え、えぇぇ!?///」
天龍「オレも気になるな!教えてくれよ!」
羽黒「あぅ///」
摩耶「バッカだなぁ天龍、Cに決まってんだろC!」
天龍「な、なにぃっ!?///…まさかそこまでいってたとは…///」
摩耶「何でお前顔赤くしてんだよ!」
球磨「というかCとか久々に聞いたクマ…伝わるかすら怪しいクマ」
羽黒「し、してないですよ!///」
球磨「バッチリ伝わってるクマー!」
青葉「というかCって何ですか?」
摩耶「おぉ?知らねぇのか!えっとだなぁ…」
天龍「わー!バカバカ!教えなくて良いっつの!」
金剛「ン~♪やっぱり紅茶が美味しいデース」
比叡「はい!金剛お姉様の紅茶は最高です!」
那智「オーーーイ!金剛、やってるかぁ~?」
金剛「ウッ…那智お酒臭いネ…」
那智「そう言うな!…ほら、お前も飲め飲め!」
金剛「ン゙ッ…!?」
比叡「ひえーーーっ!お姉様ーーーーっ!!」
提督「那智ー!やめてあげてー!」
那智「お義姉さんだぁぁぁぁぁ!!!」
────
──
─
先輩 へ
ご無沙汰しております。
退役後、お変わりはありませんか。
先輩から引き継いでここの提督として働きはじめてから3ヶ月経ちました。
ここに書ききれないくらいの出来事がありましたが
おかげさまで、毎日楽しく過ごしています。
それと、一つご報告が
お前に?って、笑わないで下さいね。
最近、僕には恋人が出来ました──。
おわり。
長かった…。
ここまで読んでくれた人本当にお疲れ様です。
展開から期待をして、外れた方はごめんなさい!
次は、ほのぼのとしたの書きたいですね。
大湊警備府辺りで…。
このSSまとめへのコメント
この人の安定して面白い
一瞬ヤマヤミが見えた.....(´・ω・`)