注意
※息抜きで書きます
※咲ちゃん? いえ、おそらく咲さんです
※京太郎も登場しました
※亀更新:週3~4回くらいできたら良いなと思います
※龍門渕と永水の闇も見え、清澄はドロドロでしたね
※無効安価(ageや無理なものなど)は安価下へ
※一部キャラは無理なのですよー
※エロ? わっかんねー
※目的はあるようなないような
※キャラが崩壊していようとノーウェイノーウェイ
ルール?
・独断と偏見+出身高校+既出キャラ+特別なコンマ=現在の状況が判定されております
・特別なコンマはゾロ目と4と7、42と44の二つは封印されております
・一度選択されたキャラは直下になります
◆前スレ
【咲-Saki-】京太郎「アラフォー?」咲「アラサーだよ!」【安価】
【咲-Saki-】京太郎「アラフォー?」咲「アラサーだよ!」【安価】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1441546565/)
【咲-Saki-】京太郎「アラフォー?」咲「アラサーだよ!」霞「その2よ」【安価】
【咲-Saki-】京太郎「アラフォー?」咲「アラサーだよ!」霞「その2よ」【安価】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1443093284/)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1447277715
選べない人物
【咲・ハギヨシ・霞】
既に選ばれた人物
【和・優希・久・まこ】
【衣・透華・純・一・智紀】
【美穂子・華菜】
【桃子・佳織・智美・ゆみ】
【数絵】
【マホ】
【小蒔・春・巴・初美】
【エイスリン・白望・塞・胡桃・豊音・トシ】
【由子・洋榎・漫・絹恵・恭子・郁乃・一美】
【成香・誓子・揺杏・爽】
【ネリー・ハオ】
【いちご】
【憧・玄・宥・灼・穏乃・晴絵】
【初瀬・望】
【怜・セーラ・泉・浩子・竜華】
【煌・姫子・哩・美子・仁美】
【照・淡・誠子】
【憩・利仙・もこ】
【咏・はやり・理沙・良子・健夜】
前スレの>>1000は……りょ、了解です……コンマ次第ですけど……
次がシノハユの稲村杏果に決まった所で本日の更新は終了いたします。
それでは次回の更新は明日以降ということで~
浩子「子供もダメ、マホもダメ、あれもこれもダメで、神境には外部から人を押し込むのも無理やったんやって? しっかりして欲しいわ」
京太郎「わがまま言わないで下さいよ」
浩子「それなら京太郎の伝手で須賀の方から人を呼んだりとかできへん?」
京太郎「以前にも言ったかもしれませんけど、俺自身は傍流なんですよ。それに今では龍門渕側の人間なんで下手に接触するといらぬ疑いや角が立つんですよね」
浩子「使えんやっちゃな。ほんま名人は強いな。うち三位やないか」
マホ「久しぶりの麻雀だったからかマホは調子が掴めなかったです……」
照「現役プロの面目躍如」
桃子「卑怯っすよ。それなしでやれば私が最下位にはならなかったはずっす」
浩子「負け犬の遠吠えやな。牌布のデータは揃っとるから能力がなければ楽勝やで」
照「桃子は高校時代から地力はあまり伸びてないからね」
浩子「せやな。うちは喉が渇いたし、ビリの桃子は熱くて濃い緑茶をよろしく」
桃子「分かったすよ……」
マホ「マホはオレンジジュースが良いです」
照「ホットチョコレート」
桃子「あれ? 照さんはお菓子禁止じゃなかったすか?」
照「ホットチョコレートは飲物。特濃、極甘、スプーンも頂戴」
桃子「……欲しいのは殆どチョコを溶かしたものじゃないっすか? 京さん?」
京太郎「まあ、一応は飲物の分類に存在しているからな。俺はコーヒーで」
桃子「京さんが許可するなら了解っす。それじゃあ皆ちょっと待ってて欲しいっすよ」トテトテ
浩子「それで京太郎にはあてとかないん?」
京太郎「伝統的にオカルトを保有し続けている所って保守的で閉鎖的なんですよね。俺が直接に頼むと問題がありますから、紹介状でも書くので自分の足で赴いてみたらどうですか?」
浩子「今は、うち忙しいんやけどな。まあ、分かったわ。須賀の本家って島根やったか?」
本家は島根に居を構えている。
俺も足を運んだことはあるが、血縁関係はあっても親密な親戚付き合いをしているわけじゃなかったしな。
仕事などを除けば、私的にあそこを尋ねた回数は両手で足りる。
マホ「島根ははやり先輩の出身でしたね。あの人が今もアイドルを続けていることにキツさを感じてしまいます」
照「確かにあれはキツイ。島根にあるはやりさんの実家は洋菓子屋。中々、美味しかったから私は気に入っている」
浩子「照さんは本当にお菓子ばっかやな……」
照「あの人の紹介で泊まった旅館も悪くなかったよ」ムッ
浩子「はやりさんの紹介なら十中八九で稲村杏果って人が女将の旅館やろ?」
京太郎「よく分かりましたね」
浩子「うちを舐めたらあかんで。小六の松江こども麻雀大会では決勝卓に残っとるし、インターミドルやインターハイでははやりさんと団体戦でのチームメイトやったからな」
照「そんな昔の記録も覚えているの?」
浩子「過去約八十年分のインハイから地方の小さな公式戦までの記録は全部データを持っとるで」
マホ「浩子先輩はデータバカですね」
浩子「統計から面白いもんが見えてくるときもあるし、麻雀は研究の合間にする息抜きみたいなもんや」
去年、家族で島根には観光旅行しているんだよな。
照が島根出身のはやりさんに尋ねて、そのアドバイスを参考に予定を組んだ。
その際に宿泊地の一つとして利用したのが件の旅館だった。
女将である杏果さんは年相応に落ち着いており、宿泊する人を温かく見守る優し気な雰囲気を持っている人だった。
照が子供っぽい所もあるためか余計にそう見えたのかもしれないけどな。
結婚しており、高校生と中学生のお子さんがいるそうで同い年であるはやりさんと比べてしまうと早いなと感じてしまった。
浩子「まあ、今度の休みにでも訪ねてみるから京太郎は紹介状の方を用意しといてや」
京太郎「了解」
照「浩子、あの地域の銘菓や美味しいお菓子のリストを渡すから買って来てね」
浩子「……本当にこの名人は食い意地張り過ぎやないか?」
System
・宮永照 ◇◇:4
↓1:高鴨穏乃の生存判定
01~80
81~98
特殊コンマ
↓2
System
・生存判定でコンマがゾロ目のため高鴨穏乃は……
生存判定が全部特殊コンマで別々のものになるとか予想外でした。
次が辻垣内智葉に決まった所で本日の更新は終了いたします。
それでは次回更新は少し間が空くかもしれません。それでは~
浩子「お菓子か……確か高鴨穏乃の実家は和菓子屋やったか?」
京太郎「そうですよ。穏乃もお菓子を作るの上手でしたね」
マホ「……穏乃先輩」
照「高鴨さんは行方不明だったよね。あの子も霧島神境に関連していたの?」
京太郎「ああ、体は健康そのものの状態で発見されたよ。今は龍門渕の施設に保護されているけどな」
照「体は?」
穏乃の名前が出たことでマホの表情に陰りが見られた。
立場によって穏乃に関する見解は異なるからそれは仕方がないのかもしれない。
俺が照の疑問に答えるよりも早く、桃子が飲物を持って戻ってきた。
桃子「おまたせ、……したけど何かあったっすか?」
京太郎「穏乃について話そうとしていた所だ」
桃子「ああ、なるほど、だからマホの顔が暗いわけっすか」
照「どういうこと?」
浩子「簡単に言えばやな、高鴨穏乃は霧島神境の先兵として働いてたんや」
穏乃は幼い頃から祖父と一緒に日本中の山を登っていた。
そして海外の山も幾つか踏破しており、山の専門家と言っても良い知識を持っている。
山を愛し、山に愛されたからなのか、はたまた修験者のように日々山を周っていた影響からかオカルトも山に関するものに目覚めていた。
一方で霧島神境には山から異界とも言うべき神境へと出入りする術を所持している。
物理法則を無視するかのようなそれは今回の異能の持ち手を誘拐する際にも利用されていたことが判明している。
山への造詣が深い穏乃は使い潰してしまうよりも、利用する方が利益が大きいと判断されていたらしい。
そのために穏乃は思いのままに動かすための術を施されていたそうだ。
京太郎「穏乃は洗脳されて海外で人を攫うために働いていた」
照「洗脳?」
浩子「せや、それ自体は既に解除されているんやけどな」
桃子「助け出すの遅すぎたっす」
短期間で術が解除されていたのなら問題は少なく済んだのだ。
神境に加担していたという加害者としての罪の意識は残ったかもしれないけどな。
穏乃と似たようなケースでも、わりと短い間しか洗脳されていなかった人は元の生活に戻ることができている。
しかし、穏乃の場合は十年近くも術が施された影響か、記憶の混濁と定着が進行してしまっているらしい。
術が解けても穏乃は神境の高鴨穏乃であり、阿知賀の高鴨穏乃は存在しなかった。
正確に言えば、阿知賀で過ごした記憶や憧や和、俺のことまでも覚えてはいるが帰属意識は霧島神境にある。
都合よく記憶が捻じ曲がっているのか、自らの意思で神境に協力していたのだと穏乃自身は思っている。
京太郎「俺も記憶や意思を弄られるってのは他人事ではないみたいだから、穏乃には同情しているよ」
桃子「京さんはそうっすよね」
マホ「……マホは事情は理解しても複雑です」
マホは穏乃の手引きで誘拐され、神境へと引き渡されていた。
だからこそ、マホからすれば穏乃は加害者であり、被害者だとは思えないのだろう。
彼女のように操られて神境側に立って働いていた人はそれなりにいる。
拉致の被害者を国別で見れば国内が最も多く、洗脳されていた臼沢塞も多数の手引きをしていた。
海外での行いでは穏乃が主犯格の一人として動いていたことは分かっている。
臼沢塞がスケープゴートに選ばれ、穏乃が選ばれなかったのは活動していた国の違いに過ぎない。
照「高鴨さんはこれからどうなるの?」
浩子「暫くは様子見や。阿知賀に戻れるかは分からへん」
照「そっか。でも、命が助かっただけ良かったよね」
照は後輩の淡を思い浮かべているのかもしれない。
共に音信が途絶えながら、奇跡的に助かったマホ、問題は残るが生きていた穏乃や清水谷さん、既に亡くなっていた淡。
異なる結果に何も思わずにいることはできないのかもな……
穏乃の無事については家族や彼女の親友である憧には伝えてある。
そのことを知った憧には散々文句を言われた。
これまで穏乃について何も話さなかった俺に怒ることは理解できる。
憧の立場からすれば、親友の手掛かりを知りながら隠していたことになるわけだからな。
俺としては友人を後ろ暗い道に誘いたくなかっただけだが。
浩子「十年も続いていた犯行やから、色んな所に問題が残っているんや。全部が丸く収まることはあらへんし、完全に収束するのも時間がかかるやろな」
桃子「今回のことで慌しく騒ぎ始めた業界もあるっすからね」
照「……もしかして、智葉と連絡が取れないのとも関係あるの?」
京太郎「広域暴力団の再編が始まろうとしていて、あの人はそれに関係して今は大忙しだからな」
智葉さんは高校卒業後は大学へと進学している。
しかし、高校時代と異なって麻雀は引退し、インターカレッジに出場することはなかった。
それと言うのも彼女は組長の娘だからだ。
親の職業柄、彼女にはプロへの道は最初から閉ざされていた。
一般の職に就職することも身内にいる以上は難しいものもある。
結婚や恋愛もそれが足枷となり思うようにいかないだろうことも理解していた。
だから、智葉さんはそのことに反発したこともあったそうだが、結局は受け入れざるを得なかった。
どんなに願っても生まれは変えられないのだから。
桃子「国内最大の組を治めていた親分が引退した影響が辻垣内組にも波及しているっす」
京太郎「どんな組織も頭がすげ変わる時は多少のゴタゴタが起きるもんだからな」
マホ「大丈夫なんですか?」
京太郎「激しい抗争は起きないと見られているから大丈夫だとは思う」
智葉さんは女性の身であるから、その世界で生きていくことも簡単ではない。
力では敵わないし、軽く見られることも多い。
そんな彼女は辻垣内組の頭脳として動いている。
智葉さんがブレインを務めるようになってから組の利益が確実に増えているとの調査報告が上がってきている。
あの人は麻雀でも相手の機先を制するような打ち回しをしていたから、似たような行動を取っているのかもしれない。
智葉さんと俺の関係は利害の一致するときは協力もするが、そうでなければ敵対することもある。
普通に歓談を交えることもあるけれど、友人かと問われればお互いに否定するだろう。
霧島神境については協力関係にあったが、今後とも良好な関係が維持されるかは分からない所だ。
System
・須賀京太郎 □□:3
・東横桃子 ■■:4
↓2
本日の更新は終了いたします。
次は菫ですがまさか7が出るとは思っていませんでした……チョットヨテイガイ……
それでは次回の更新は明後日以降ということで~
桃子と交代で卓に入った俺は久しぶりに本気で麻雀を打った。
相手は世界でも屈指の雀士に、データの鬼、変幻自在のコピー雀士だ。
麻雀を打ち、楽しむ人は周囲に数多くいるが、仕事があるから打つ機会はそれほど多くもない。
家族麻雀ではまだ幼い子供を相手に全力を出すのは流石に大人気ないからな。
京太郎「……腕が鈍ったかな?」
マホ「マホの記憶と比べると強くなっているように感じました」
京太郎「まあ、マホと最後に麻雀をしてから数年が経過していたからな。経験を積んだ分だけ伸びてはいたかもしれない」
浩子「半荘やと判断が難しいわ。統計的には多少の揺らぎは誤差の範囲やし」
桃子「私からだといつも通りにオカルトも使えていたし、問題があったようには思えなかったすよ?」
京太郎「気のせいか?」
照「……京ちゃんを守っていた何かが消えている」
マホ「どういう意味ですか?」
照「私の能力は知っている?」
浩子「照さんは幾つかの能力を持っているからな。特徴的な一つは連続で和了することでじわじわと打点を上げて行くやつやで。これは相手にドラ牌や有効牌を抱え込む松実玄のような能力者を相手にするときは、手牌に制限がかかるから役が限定されてブレーキがかかってしまうんや。せやけど、生半可な相手ではその連続和了を止めることは不可能やから、ほんま人外や。しかも、普通は打点が高くなり、役が絞られれば聴牌や和了の速度も低下するはずやろうにそんなこともないと来てる。そして、有効牌牌を引き寄せて和了し続けるそれにばかり注目していると――」ペラペラ
桃子「長いっす!」
浩子「これからがええ所やんか?」
桃子「今、照さんが知っているかと尋ねたのと関係ない話しじゃないっすか」
浩子「はあ、人の興が乗り始めたのに水差すとか空気読んで欲しいわ」チッ
京太郎「照には相手の本質を見抜く能力があることをマホは知っていたよな?」
マホ「はい、よく分からないから真似できないですけど、聞いたことはあります」
照「私のそれはずっと京ちゃんを見ることができなかった」
マホ「えっ? それって、どういうことですか?」
照「よく分からない。ただ、まるで京ちゃんを守るかのように立ち塞がり、私の能力を妨害していた何かがあった。それが一つの能力だと解釈していたんだけど、それが消えてしまっていた」
浩子「ほう、ちょっと興味深い話しやな。それが消えた原因とか分かるんか?」
照「さあ、私には分からない。もしも、京ちゃんが違和感を感じているとしたならそれが原因だと思う」
照の能力でも分からないものが俺に分かるはずもない。
オカルトの専門家である霧島神境か、あるいは須賀の本家に尋ねれば何かしらの回答を得られる可能性はある。
折りを見て、その機会を設ける必要もあるかもしれない。
浩子「それで、照さんから見た京太郎の能力ってどんな感じなんや? データ的には把握しているんやけど、別の見解からの意見は重要やから教えて欲しいんやけど」
照「イメージとしては剣と水面に写る月」
桃子「抽象的っすね」
照「本質だからね。具体的に見えるわけじゃないから、場合によっては判断を見誤ることもあるよ」
マホ「マホの場合はどんな風に見えているんですか?」
照「マホは鏡に映った私が見えた。桃子の場合は見えているのに何も見えない。浩子は牌布が記録された紙の山だったりする感じ」
浩子「ふむ、何を暗示しているのか難しいわ。剣から連想するは武器、闘争、あるいは権力なんかも含まれるんか。剣の形状次第でもう少し絞れそうやけど、どういうことやろうな。データと聞き取りからも一つの能力ではないと分かってはいたんやけど、照魔鏡からもそう見えているならこれでデータの正しさも証明されたと言えるはな。しかし、水でも月でもなく、水面に写った月と来たか。それが意味する所は――」ブツブツ
京太郎「浩子さんは放っておくとして、もうこんな時間か。そろそろ出発しないとダメなんじゃないか?」
照「何の話?」
京太郎「いや、今日は菫さんと会う約束をしていただろう?」
照「……大丈夫だよ。菫なら分かってくれる」
京太郎桃子マホ「「「…………」」」
照「準備するのも忘れてたから、今からじゃ間に合わない。きっと、菫なら何も言わずに家まで来てくれるはず。以心伝心だね」
京太郎「昨日、準備しておけと俺は言ったはずなんだけどな……」
マホ「これは酷いと思います」
桃子「急いで間に合わせようとする気や連絡を告げることも放棄しているっすね」
照「れ、連絡は入れるから」
京太郎「菫さんはもう諦めているんだと思う」
桃子「ポンコツは治らないっすから」
マホ「こんなポンコツなのに世界でも指折りの雀士なんですよね。 理不尽というか、納得がいかないとマホは思ったりします……」
京太郎「はあ、俺は後で菫さんに怒られるパターンかな」
桃子「私にも累が及びそうっす」
マホ「やっぱり、咲先輩と照先輩は姉妹なんですね」
照「血が繋がっているからね」テヘ
遅刻や迷子ならまだましだと思ってしまうのは俺の感覚が狂っているからなのかもしれない。
弘世菫さんはこんなポンコツのマネージャーを十年近くも勤め続けていることには驚かされるよ。
俺は咲と照と言うポンコツ姉妹には昔から随分と辟易させられてきた。
同じような経験を高校時代にしていたはずの菫さんがポンコツ世話係に就いたことには同情よりも先に神経を疑った。
似たようにポンコツの下で働いている末原さんと違って彼女の家は龍門渕と比べたら数段劣るが資産家である。
お金に苦労しない環境にありながら態々苦労を背負い込んだのだから、まずは正常な状態であるかを疑うべきだろう。
まあ、その理由が勘違いに端を発していたとは教えてもらったけどさ。
しかも、その原因に多少は龍門渕が関わっているので申し訳なく思わないこともないんだよな。
桃子「菫さんもどうしてポンコツのマネージャーを辞めないんっすかね?」
京太郎「責任感が強いからなんだろうな。ちょっと、否、わりと損な性格をしているよ」
マホ「マホは理解できないです。ストレスで体調を崩してまでマネージャーを続けたなんて、そんな必要はないと思うんですけど?」
京太郎「それで投げ出せる性格をしていたらポンコツの世話係は引き受けられないからな」
桃子「私なら三日で放り投げる自信があるっすよ」
マホ「真面目な人ほど損をするんでしょうか? それなら、マホは少し不真面目になってみます」
照「マホ、下手な反抗期は止めようね。菫には感謝してるよ。お給料もたくさん払っているし、お菓子も一杯おそすわけしてるから」
桃子「確かに、一般的な職に就くのと比較したら高額な賃金が払われてはいるっすけど……」
京太郎「福利厚生も手厚いしな。菫さんの場合、苦労の一部は生真面目過ぎる所にも原因があるんだろうな」
お酒を飲むと散々愚痴を漏らしだすのに、辞めないからな。
胃潰瘍で入院した時でさえ、親や友人の反対があっても、なんだかんだと言って続けることを選択したくらいだ。
その心情は一種の愛なのかもしれない。
マホ「うーん、どうして菫先輩は照先輩のマネージャーになったんですか?」
京太郎「悲しい勘違いだ」
桃子「確か、菫さんが大学時代の話しだったすよね?」
京太郎「そうだな。照がプロになって三年目の半ばだったかな」
照「うん、当たっている。菫が深刻な声で電話をかけて来て、私は助けるつもりでマネージャーをしないかって誘ったんだ」
マホ「何があったんですか?」
照「その時に会って話を聞いたら、菫のお父さんが引き継いだ会社を手放すことになったって言われたらしい。それで、家も売却することになったとも続けられて、大学はどうするかとも質問されたと」
マホ「会社を手放し、自宅も売却、それに大学もって……」
照「そんな風に言われたら勘違いするよね。詳しく話を聞こうと思ったら急な連絡でご両親ともに出かけてしまったらしく、しかも、不安を煽るように数日間の出張だとかで大きな家に菫は一人だけ残されたんだ」
不況と言うものはある日突然に訪れるのではない。
よく見ていれば実体経済が悪化している兆しは見えていて、確かな数値としても現れていたりする。
あの不況もいちごさんのスキャンダルが引鉄を引いたように見えるが、それ以前から少しずつ悪化していた。
目聡いものは気づいていた。
そういう意味では、弘世家は上手いことやった家だ。
売り時を見誤ることなく、龍門渕へと会社を譲渡したのだから。
照「先行きが暗く見えて、強い不安を感じた菫は私を頼ってくれた。私はそれがとても嬉しかったよ、淡には何もできなかったから……」
桃子「まあ、菫さんの一件は勘違いだったっすけどね」
京太郎「会社は公平な取引による売却、自宅は仕事から解放されるなら別の所に移り住むのも良いって話だからな」
照「菫の大学は、両親が引っ越すから住む場所も変わるし、一人暮らしをする必要があったからね。言葉足らずな早とちり、菫の勘違いという笑い話し」
京太郎「勘違いだったんだから照のマネージャーなんてやらなければ良いのに、一度快諾したことを途中でなしにするとは言えなかったんだよな……」
桃子「憐れなポンコツの犠牲者っすね」
照「私はとても助かっているよ。菫の前任者たちは短くて一ヶ月、長くても三ヶ月くらいで辞めちゃっていたからね。高待遇なはずなのに」
浩子「ポンコツの世話なんかしとるせいで、菫さんは未だに独身やもんな」
マホ「あっ、浩子先輩、……あの人ってもう三十路でしたよね?」
照「私と同い年だからね」
マホ「恋人や結婚の話しとかはないんですか?」
京太郎「照のせいで一度、婚約が破談してるよ」
桃子「あれは先方もあんまり好ましくなかったからむしろ良かったんじゃないっすか?」
照「親の決めてきた結婚相手だったからね。それに弘世の資産が目当てだったみたいで、菫には感謝されたよ」
浩子「ポンコツが役立つことは奇跡やな。やけど、普通はあかんことやろう?」
照「反省はしている。最近、お見合いした相手は良い人らしいから上手く行くといいよね」
照のポンコツがもたらす菫さんの苦労譚に花を咲かせていると、家に来訪を告げる報せが響いた。
System
・宮永照 ◇◇:6
↓2
次が瑞原美月に決まった所で本日の更新は終了いたします。
彼女の年齢は62才になるのか……還暦を迎えていますね。
それでは次回の更新は明日以降ということで~
来客を迎え入れるために俺は玄関の扉を開く。
カメラの映像で既に確認済みだったからそこに誰がいるのかは分かっていた。
まさか菫さん以外にも誰かが来るとは思っていなかった。
菫「照の馬鹿はどうせ反省していないんだろう?」
京太郎「あってますけど、開口一番に挨拶もなしでそれですか」
菫「すまない。少し気が立っていたみたいだ。まあ、京太郎が照の管理不届きについても文句がないわけでもないからな」
京太郎「ははは、申し訳ないです」
菫「そうそう、途中で彼女に会ったから連れてきたんだが良かったか? どうやら暇をしていたらしくてな」
京太郎「問題ないですよ。お久しぶりですね美月さん」
美月「ええ、お久しぶりね京太郎くん。孫に会いにこっちへ遊びに来ていたんだけど、園の方に行ってしまってね。暇だから東京観光をしていたのよ」
菫「街中で偶然お見かけした時は驚きましたよ」
美月「そうね」
京太郎「そう言えば旦那さんは?」
美月「仕事の休みが取れなかったから今日も働いているんじゃないかな? もうすぐ定年なんだから諦念して、そんなに頑張らなくても良いと思ってしまうんだけどね……」
……単身で島根の方から孫に会いに来たのか。
俺の両親も孫の顔を見に長野から出てくることがよくあるし、やっぱり可愛く思うのかな。
美月「京太郎くんのお子さんたちと上の孫は年齢が一緒なのよね。同じ学校に通う可能性もあるのかしら?」
京太郎「うちは龍門渕が営む小学校へと進学する予定ですよ」
美月「あら、そうなの。あの子はどう言っていたかな……」
はやりさんと俺は一回り年齢が違うが、子供は同い年なんだよな。
元プロ雀士で現在もアイドル活動を行っている彼女とは照が以前から交流があり、その関係で家族単位での付き合いもあったりする。
世間話を交えながら俺は菫さんと美月さんを照たちのいる場所へと案内した。
照「いらっしゃい」
美月「こんにちは。いつもお菓子を購入してくれてありがとう」
照「美月さんの作るお菓子は美味しいですから気に入っています」
美月「嬉しいことを言ってくれるわ。それにしても、若い子たちの中にお祖母さんが混じっても良かったのかしら?」
照「全然、構わないですよ。まだまだ若いじゃないですか」
マホ「んー、誰かに似ている気がするんですけど、あの人は誰ですか京太郎先輩?」
京太郎「ああ、初めて会うのか……」
美月「ん? 初めまして、私は瑞原美月よ。はやりの母親って言えば分かるかな?」
マホ「えっ、はやり先輩の母親ですか!?」
美月「そうよ。それにしても、あなたどこかで見たような顔をしているわね。どなたかな?」
マホ「マホはマホです」
美月「マホちゃんね。……年齢が合わないし、気のせいよね」ボソッ
菫「あれは、夢乃マホ? 否、そんなはずがないか。若過ぎるし、名前が同じだけの別人だな。似ているように見えるから親戚か何かか……」ボソボソ
菫さんと美月さんには姿が見えていない桃子が俺に近づき耳打ちする。
桃子ならこの場で大声をあげても気づかれはしないだろうけど、警戒するに越したことはないか。
桃子「二人にはマホのことは説明しない方向で良かったっすよね? 一応マホたちには釘を刺しておきましたし、下手なことを言わないか見ておくっす」
俺は桃子に秘密の合図を送った。
仕事柄、声を出さないで意図を伝え合う術も俺たちは所持している。
まあ、世間的に見ればマホは未だに行方不明だからな。
そんな消息不明の人物がここに居ることがばれてしまうのは少しばかり面倒だと言える。
彼女の見た目は行方知れずとなる前よりも若返っていて、それを説明することは俺たちにもできない。
菫さんたちを信用していないわけではないが、事情を一般人にむやみやたらに教えるのはよろしくないのだ。
幸いなことに、現在のマホを見ても海外で消息を絶った安否不明の元プロ雀士である夢乃マホには結びつかないだろう。
まあ、マホや照がポカをして口を滑らせたりしない限り大丈夫なはずだ。
浩子「はやりさんも若作りやけど、その親もやな。蛙の子は蛙か。とても還暦過ぎた風には見えへんわ」
美月「褒めてくれているのよね? ええっと、あなたは……?」
浩子「うちは浩子。しがない研究者やで」
美月「研究者、……頭が良い人なのね」
美月さんは初めて顔を合わせたマホと浩子さんと会話を始めた。
一方、照の前にはすばらくない笑顔を見せる菫さんがいる。
口元は笑っているが、眉間には皺が寄り、青筋も浮かんでいた。
菫「照ッ! お前と言う奴はいつも、いつも!」
照「菫、あんまり怒ると小皺が増えるよ?」
菫「は? 誰のせいで、私が怒っていると思っているんだ?」
照「それで今日は何の予定だったの?」
菫「こいつは……、はあ、今度あるタイトル戦のスケジュールの確認や調整だ」
照「菫に全部任せるよ」
菫「そう言っておいて、お前が勝手に約束を取り付けてきて予定が崩れたことが何回あった?」
照「そうだっけ?」
菫「おい、京太郎からもこのポンコツに何か言ってくれ……」
京太郎「ははは、照のお菓子は既に禁止にしたんで、これ以上の罰はないんじゃないですか?」
菫「ほうほう、お菓子禁止か……本当だな?」ギロ
京太郎「ええ、隠れてお菓子を食べていたそうですからね」ニヤリ
菫「ちょっとキッチンを貸してもらっても大丈夫か?」ニヤニヤ
京太郎「どうぞ。俺も手伝った方が良いですか?」
菫「いや、今日は強力な助っ人がいるから大丈夫さ」
菫さんは美月さんを誘って台所の方へと足を運んだ。
美月さんは年季の入った本職の菓子職人だからな。
マホもお菓子作りに興味があるのか二人の後をついていった。
保護されてから人と極力関わらないようにしていたマホが誰かと交流するのは悪くないだろう。
桃子が念のために同行したので、問題も起きないはずだ。
照「ねえ、京ちゃん。もしかして、本当にお菓子抜きなの?」
京太郎「当然だろう?」
浩子「照さんが評価しているお店の人が作るお菓子を食べられるなんてほんま楽しみや」
京太郎「材料や器具は取り揃えてあるので、期待して良いと思いますよ」
浩子「名人の分まで美味しく食べんとあかんな」
照「……ずるい」
京太郎「日頃の行いが悪い。皆が食べる様子を見て少しは反省しような」
照「お菓子……」グスッ
System
・宮永照 ◇◇:8
↓2
次回が明華に決まった所で本日の更新は終了いたします。
これ以上は特殊コンマもきっと出ないはずですね……(フラry
それでは次の更新は明日以降ということで~
四人で麻雀をした後に三麻をするのもなんとなく味気ない。
お菓子作りに途中から参加するって言うのも気が引ける。
京太郎「忙しく働いてばかりいた反動かな。こう、久々の休みに何をすればいいのか分からなくなるな」
浩子「ワーカーホリックやんか。まあ、今は子供もおらへんもんな」
京太郎「浩子さんは何をやっているんっすか?」
浩子「うちは先の牌布整理とレポートのまとめや。一々端末を取り出したりする必要がなくてARって楽やわ」
京太郎「ああ、だから忙しなく手を動かしているわけですか。俺よりも仕事中毒なんじゃあ?」
浩子「はは、暇ならテレビでも見たらどうなん?」
京太郎「そうしますかね」
何がやっているかと番組一覧を見て見るが、時間が悪いのか興味を引くようなものがない。
適当にチャンネルを回してみるも、面白そうなものはやはりない。
ニュースでも見ようかと思っていると一つのCMが流れてきた。
京太郎「ああ、そう言えば来月に明華さんのライブがあったんだっけ。チケット貰っているんだよな……」
浩子「ん? プレミアムがついているチケットを何で持ってるんや?」
京太郎「照が貰った分があるんですよ。それに、龍門渕がスポンサーを務めていることもあって実は数枚チケットが余っている状況でして……」
浩子「ほう、ダブついてるんか」
京太郎「興味があるなら譲りますよ」
浩子「くれる言うなら貰うで」
明華さんは今も現役の麻雀プロであり、欧州を拠点にしている世界ランカーだ。
攻守に優れた能力で旋風を巻き起こすヴァントールは健在している。
そんな彼女はプロ雀士でありながらアーティストと言うかミュージシャンでもあるんだよな。
麻雀の対局中に歌うとか、日本じゃ信じられない常識がまかり通るヨーロッパリーグ。
歌い続けた風神は音楽業界に誘われてCDを発売。
世界で加熱する麻雀人気もあやかり、高い歌唱力もあって明華さんは歌手としても成功を収めている。
日本に留学し、インハイで活躍していたからかこの国でも人気を博しているんだ。
今度の日本公演ではチケットにプレミアムがついてしまっているくらいに……
浩子「明華と言えばプチプチが好きって話しやな」
京太郎「ああ、何でも日本に留学して味わった時からイクラみたいな魚卵系に目がないとか」
浩子「そうそう。ほんで、明華はまだ独身なんは知ってるやろ?」
京太郎「恋人が何人かいたことはあるみたいですけどね」
浩子「実は結婚までに至らない理由はプチプチが原因らしいなんて噂があるんやで」
京太郎「どうしてプチプチが? どんな噂ですか?」
浩子「明華は極度のサドって話しや。そっちもプチプチするのが好きらしいわ」
京太郎「は? サドってSとかサディストのサドっすよね?」
浩子「せや」
京太郎「……冗談ですか?」
浩子「まあ、ネットの界隈で流れている噂の一つやからな。結婚できないのは求められる変態行為についていけないとかっちゅう落ちや」
京太郎「そう言えば、サディズムの語源はフランス人の某貴族でしたっけ」
浩子「雀明華なんて東洋っぽい漢字名を持っているんやけど、フランス人やからな」
明華さんがサディストね。
ボンテージなんかを着て鞭を振るいながら罵り、弄ってくるのか?
京太郎「あくまでも噂なんですよね?」
浩子「火のないところに煙は立たんで?」
System
・宮永照 ◇◇:9
↓2
次回が尭深に決まった所で本日の更新は終了いたします。
R18な展開を書ける能力があったなら……
それでは次の更新はまた明日ということで~
浩子「見た目から人の性癖って言うもんは分からへんで」
京太郎「そりゃそうでしょうけどね」
浩子「そこで同意する京太郎も何か変な性癖あるんか?」
京太郎「俺はいたって普通だと思いますけど?」
浩子「そこのところはどうなん照?」
照「……京ちゃんはあんまり受け身に回るのが好きじゃないのか、上に乗られるのは嫌みたい」
京太郎「ちょっ!?」
照「でも、ベッドの上だと甘えてもくれるし可「照ッ!!」」
浩子「へえぇー」ニンマリ
照「一昨日は中々寝かせ「黙ろうかぁああ!」」
浩子「はあ、京太郎うるさいで」
京太郎「他人の情事を聞こうとするなよ! 照も何で教えてんだ!?」
照「だって、京ちゃんが……」
浩子「チッ、……今度邪魔者がいない所で根掘り葉掘りじっくり聞くか」ボソ
京太郎「聞こえてんだけど?」
浩子「別にええやんか。減るもんでもあらへんし、おもろいやろ?」
京太郎「俺は面白くねえよ」
浩子「データが何か研究の役に立つかもしれへんやんか?」
なんの役に立つって言うだよ。
活き活きとした表情してるだろうが、この出歯亀が。
浩子「照さん、美味しいって評判のケーキ屋があるんやけど一緒に行きまへん?」
照「ケーキ……報酬?」
浩子「せやな」
照「うん、分かった行くよ」
京太郎「おい!」
照「桃子からの情報だと、京ちゃんは加治木さんとも一夜の関係があったとか」
浩子「ほう」ニヤニヤ
京太郎「照、……怒ってるのか?」
照「うん、お菓子の仇、食べ物の恨みは恐ろしいよね」
照は割と根に持つタイプだ。
咲と何年にも渡って姉妹喧嘩を続け、不仲な関係を維持していたのは伊達じゃない。
ただ、本気で怒ると相手を無視し、いないものとして扱うからそこまで怒ってはないようだ。
自分に非があることを認めているのか、顔は笑っているし、分かった上での八つ当たりか。
京太郎「分かった。お菓子は禁止だけど、果物なら食べて良いから」
照「本当?」
京太郎「ああ、この変態に教えるのは止めてくれ」
照「……仕方ないな」
浩子「あら? うちが案内するケーキ屋はええんですか?」
照「ごめんね」
浩子「あちゃあ、振られたんか……まあ、和にでも聞くからええか」ボソッ
京太郎「今夜の食後に尭深さんから送られてきた果物でも切って出すか」
照「楽しみ」
尭深さんは高校卒業後は大学の農学科へと進学している。
大学卒業後は龍門渕の系列会社へと一般入社したんだ。
その会社はアグリビジネスを行っており、最先端の植物工場も幾つか所持している。
現在の彼女はその内の一つで将来の管理職候補として仕事に勤めている。
浩子「尭深は一度研究室の方に招聘して調査したこともあったな」
京太郎「そう言えば、そんなこともしていましたね」
浩子「中々、興味深いデータが取れて有意義な実験やった」
照「どんなの?」
浩子「うーん、ほんまは部外者に教えるんはよくないんやけど、尭深の友人でもある照さんならええか。尭深のオカルトは知ってるやろ? 同じ部活やったんやし彼女を見たこともあるか……」
照「ハーベストタイム」
浩子「あれ、植物の生育にも有意な影響を与えているみたいなんや。彼女が側にいるだけで植物の成長は促進されて、実る果実も品質が高まる。農業するなら持っていたいオカルトやな」
照「実り豊かな葡萄の木とかが見えてはいたけど、麻雀以外にも効果があったんだね」
浩子「せやで。これやから研究はおもしろうて止めれへんよ。オカルトなんて予想外で意味のわからへん発見の連続やからな。彼女みたいな能力を再現できれば、生産性とか一気に向上するはずやで」
照「へえ、私にはよく分からないけど頑張ってね。尭深の作っているような美味しい野菜とかができるなら良いことだと思う」
京太郎「調理する立場から見ると、彼女の作ったものは品質が段違いだからな」
尭深さんはその能力が判明してからは龍門渕から特別な手当ても支給されている。
それを貯えたお金で土地を購入して個人の農園を旦那さんと一緒に営んでもいるんだ。
そこは知る人ぞ知る産地となっている。
照「中でも尭深が一番拘っているのはお茶だよね」
京太郎「そうだな。あの人はお茶に一家言を持っているからな」
照「野菜や果物だけじゃなく、お茶の生産にまで手を伸ばしているもんね」
浩子「尭深特製のお茶か。うち飲みたくなってきたんやけど」
京太郎「淹れてきますね」
System
・宮永照 ◇◇:10
↓2
次回が杉乃歩に決まった所で本日の更新は終了いたします。
次の更新は明後日以降ということで~
乗られるの嫌がるってのはやっぱ初体験がアレだったからかね
京太郎視点だと経緯はよく覚えてないけど霞に襲われたみたいな認識になってんのかな?
記憶じゃなくて本能ってことだろ
体の方はそういうことがあったって覚えてんだよ
照「あとはお肉があれば完璧なんだよね」
浩子「唐突に脈絡がないこと言ってどうしたん?」
照「食材の話しだよ」
京太郎「尭深さんが旬の野菜や果物なんかを送ってくれて、誠子さんがたまに魚をくれるからか?」
照「うん。だから、お肉を融通してくれる人がいたらって思って」
浩子「京太郎なら龍門渕の伝手とかで美味しい肉も仕入れられるんとちゃうんか?」
京太郎「その通りですけど……」
照「そうじゃなくて、私の友人関係では済ませられないなって話しだよ」
浩子「ふむ、それなら菫さんなら狩猟がいけると思うで」
照「そうなの?」
京太郎「シャープシューターだから射させるつもりですか?」
浩子「あの人は実際に弓も扱える人や。実際に海外ではスポーツハンティングの経験があるんやで」
照「へえ、菫からそんな話しは聞いたことなかったな」
京太郎「そりゃあ、照はインドア派だからじゃないか? それにしても、何で浩子さんがそんなこと知っているんっすか?」
浩子「うちを誰や思ってんねん?」
京太郎「偏執的なデータ狂でしたね」
浩子「せやで、褒めんといてや」
照「じゃあ、菫にマタギにでもなってもらえば……」
京太郎「いやいや、確か日本じゃ狩猟で弓を使用することは禁止されていたはずだぞ」
照「えっ?」
浩子「そう言えばせやったな。せやけど、シャープシューターなら銃もいけるんとちゃうか?」
京太郎「同じ飛び道具だからって弓と銃では勝手が違うでしょう……」
照にせっつかれて猟銃を片手に野山を駆けずり回る菫さんか。
意外とあの人ならやれてしまいそうな気もするな……
桃子「あの人に無茶なお願いばかりしていたらまた倒れるっすよ」
浩子「はは、冗談に決まってるやないか」
照「冗談?」
京太郎「菫さんは何でもそつなくこなしてしまいそうだよな」
浩子「桃子が帰ってきたってことはもうすぐなん?」
桃子「そこまで手の込んだものは作っていないようなのでもうすぐ完成っす」
照「どうせ私は食べられない……お菓子の話しを聞きたくない」
桃子「私もあの二人には気づかれていないから人数分に含まれていないですけど、そんなことよりもちょっと京さんを借りていくっすよ」
浩子「龍門渕の方で何かあったん?」
桃子「ちょっとっす」
照「出かけるの?」
桃子「出かけはしないけど、二人っきりで内密な話があるっす」
俺と桃子は連れだって部屋を後にした。
書斎へと向かう途中で、お菓子を完成させたのだろう三人が歩いてくる。
菫「京太郎、どこかへ行くのか?」
京太郎「仕事の連絡が入りまして書斎の方でやることができました」
美月「あら、それは残念ね」
マホ「それじゃあ、マホの作ったクッキー持って行ってください」
菫「照の悔しがる写真を後で送付してやるから楽しみにしておいてくれ」
美月「ふふ、クッキーだけでなくパインパイなんかもあるのよ。これで照ちゃんはパインを感じるのかしら」
京太郎桃子マホ菫「「「「…………」」」」
ペインとパインを掛けているんだろうが、美月さんは相変わらずだ。
俺はマホからクッキーを受け取り、三人と別れた。
それにしても桃子が急を要するような話しは幾つか考えつくが果たして何だろうか。
京太郎「それで、何が起きた?」
桃子「龍門渕家当主の容体が急変して危篤状態に陥ったそうで、今夜が峠らしく、おそらく越えられないだろうと歩から本部に通達があったそうっす」
京太郎「……そうか、もう透華さんには報せてあるよな?」
桃子「もちろんというか私にこれを報せたのは透華さんで、予定を切り上げて帰国するとのことっすね」
京太郎「この機に分家が怪しい動きをしないか注視する必要があるな。もう監視は動いているだろう? 混乱が起きれば他家につけ込まれるぞ」
桃子「この日が来るのは分かっていたから万全の状態だと思うっすよ」
龍門渕家の当主である祖父さんは高齢だ。
暫く前から入院しており、いつこの日を迎えても良いように準備がなされていた。
俺には直接の連絡が来ておらず、桃子も透華さんから連絡が回ってきている時点で問題は何も起きていないのだろう。
それでも、万が一については警戒しておく必要はあるけどな。
桃子「それで……」
京太郎「言い難いことか?」
桃子「透華さんから確認するように言われたんですけど、当主が歩に持たせて京さんへと渡した手紙は遺言書っすか?」
京太郎「違う。祖父さんが残した遺言書は公正証書として役場に保管されているものだけだ。桃子も知っているだろう?」
桃子「知ってはいますけど私も確認しないといけない立場なんで、その手紙の中身を見せてもらっても良いっすかね?」
京太郎「分かった。丁度、この部屋に保管してあるから待ってろ」
祖父さんが別の遺言書を残していないか透華さんは気にするよな。
俺に猜疑の目を向けるということは、あの人は知っていたのか、それとも察していたのか……
書斎の隠し金庫の一つから件の手紙を取り出す。
結構、文量があるから通読するのに時間がかかるかもしれない。
京太郎「これだよ」
桃子「拝見させてもらうっすよ」
京太郎「ああ、見て透華さんに伝えてくれ」
龍門渕家の本宅で働く家人はよく訓練されている。
主の不利益になることには沈黙を選び、道を誤る時は諫言する。
そんな家人の中でも最も信頼が厚く重宝されているのは杉乃家のものだろう。
彼女らは先祖代々龍門渕家に仕えてきた忠臣だからな。
戦後の混乱期で財閥の力が削ぎ落とされ、多くの奉公人などが離れていく中でも支え続けた過去もある。
桃子が読んでいる手紙を当主から手渡され、俺の所まで運んできた歩もそんな杉乃の姓を持つメイドだ。
かつては透華さんや衣のメイドとして働き、現在は祖父さんの側仕えを行っている。
メイドとしての能力は侍従長を勤めている一さんよりも上で、性格の適正に問題がなければ歩がその役を務める可能性もあっただろう。
彼女は桃子をしっかりと認識できる数少ない人物の一人でもある。
桃子「京さん、これは本当っすか?」
京太郎「龍門渕の当主である祖父さんが認めているんだ。色々と納得できるだろう?」
桃子「透華さんが態々確認を取るように私へ言ったことも理解できたっす」
俺と透華さん、そして衣の三人は血縁上で見れば実は従姉弟の関係にある。
俺の母親は若い頃に龍門渕家を飛び出した当主の娘だった。
昔から母方の祖父母と会ったこともなく、いないのだと思っていたんだが事実は違ったようだ。
母の出奔も随分と昔の話しであり、龍門渕家では話題に出すことは禁句とされていた。
龍門渕家の情報網で母の所在やその後のことも祖父さんは知っており、俺の存在も認知はしていたらしい。
古くから仕えている家人は口を噤み、捨てた家と関わるつもりも俺のお袋にはなかった。
だから、このことは祖父さんが死期を悟り、手紙を綴って寄越すまで俺は知らなかったんだ。
透華さんはおそらく母親から密かに聞かされていたか、何かを感じて独自に調べたのだろう。
System
・天江衣が安価で選ばれた際のコンマがゾロ目により、須賀京太郎は龍門渕の血筋が確定しております
京太郎「龍門渕の暗部を司る裏のトップを当主以外が担うことは普通、あり得ないよな」
桃子「知られては困ることを取り扱っているから、部外者に任せるのは怖いっすね」
京太郎「衣の夫と言う理由だけでは弱いし、俺が龍門渕の血を引いていたからこそ任された。祖父さんが亡くなれば、龍門渕の当主は透華さんが継ぐことになる。長い歴史の中でも女性の当主はこれが初めてだ」
桃子「不安だったってことっすかね……」
京太郎「透華さんは能力的には申し分なくとも、女性だから軽く見られてしまうことがあるからな。祖父さん自身も昔ながらの人だから、どうしてもそう言った目で見てしまう」
桃子「京さんは成人している男性では本家直系の血を引いている唯一の男性になるわけっすか……」
京太郎「ああ、そうなる。だから、透華さんから見れば、祖父さんが俺に家督を譲る可能性があり得ないと切り捨てられなかったのかもしれない」
桃子「当主から直接教授をされていたから、余計に疑わしく見えたのかもしれないっすね」
京太郎「祖父さんとしてはもしも透華さんに何かあった時のスペアでもあったんだろう。今の肥大化した龍門渕を維持するには分家では心許ないと思ってしまうのは分からなくもない……」
俺はあの人に下地を鍛えられ、祖父さんの教えを積み上げた。
透華さんほどに俺は徹しきれないが、現状を維持するだけなら可能だろう。
彼女に万が一があれば、その子供が成長するまで繋ぐ役割を負うことになるはずだ。
祖父さんが透華さんに裏まで任せなかったのは女性であるだけでなく、若さにも危惧を感じていたからに他ならない。
巨大財閥である龍門渕家を継ぐ者としては透華さんはまだ二十代であり不安が残る。
だからこそ、祖父さんは俺も使うことにしたのだ。
そもそも、龍門渕家は本来ならば衣の父親が継ぐ予定だった。
しかし、財閥を支配する当主ではなく学者の道へと進んで龍門渕の姓をも捨ててしまった。
年の順で言えば長女であった俺のお袋が龍門渕の当主を継ぐ可能性が高く、その能力も十分にあったそうだ。
しかし、祖父さんへの反発から家を出ることを選んでいる。
それ以後、最初からいないものとして扱われていたらしい。
必然的に龍門渕の当主を継ぐものは透華さんの母親となるわけだが、能力的に足り得なかったそうだ。
だからこそ、経営者として優れた能力を持っていた透華さんの父親が入り婿となり、龍門渕家の跡目を継ぐ運びとなった。
一般的に見れば、祖父さんは一線から引くには早すぎる時期に家督を譲っている。
跡継ぎが思いのままに行かず、実の息子には先立たれ、後を追うように妻をも亡くした。
それで人生に対する諦念が生まれたのか、財界で鎬を削り合う意欲を喪失し、学び舎の理事を勤め始めた。
祖父さんが長い人生で得た様々な想いが手紙には綴られている。
本当は、桃子に見せた分以外にもあるんだよな……
死期を悟り弱気になっている男の嘆きを見せるのは忍びなく、俺はそれを誰かに見せる気にはなれない。
その文は俺へと宛てられたものなのだから。
桃子「京さんはこれを遺書じゃないっと言ったっすよね」
京太郎「遺書としての体裁は整えられていないし、財産に関しては何も書かれていないだろう?」
桃子「そりゃあ財産については一言も触れられていないけれど、人材については別じゃないっすか! 何で、歩が京さんの側に仕えることが決められているんっすか!?」
京太郎「祖父さんの心配りだな」
桃子「京さんのパートナーにはこの私がいるのに、住み込みのメイドが増えるとか……」
京太郎「歩は桃子が見えるし、見た目の態度や性格とは裏腹に有能だぞ?」
桃子「それは分かっているっす。歩が来れば随分と楽になることくらいは……乙女心は複雑なんっすよ」
京太郎「そう言うもんかね?」
桃子「そうっす。それと照さんにはこのことは既に話したっすか?」
京太郎「祖父さんが亡くなってからの話しだから、まだだ」
桃子「実の祖父が亡くなりそうなのに、京さんはあまり悲しそうに見えないっすね」
京太郎「祖父さんは厳しかったからな。孫と祖父と見るには関係が希薄で、あまり自覚できないんだよ。悲しくはあるけど、途方に暮れるほどのものじゃないさ……」
桃子「……」
親しい人が死ぬことに悲しみを覚えないわけではない。
むしろ、塞がったはずの傷口を抉られ、痛みを思い出させられる。
それでも後ろを向いて、前を見ないわけにはいかいんだ。
俺には守らなければいけない人たちがいるからな……
System
・須賀京太郎 □□:4
・須賀京太郎のカウンターが規定値に到達した結果、選択の時が到来しました
選択肢
①:"突然の来訪者"
このSSは完結へと迎います。
②:誰かが来たと思った? 気のせいだ!
まだ選ばれていないキャラを安価で指定していく現状維持。"選択"は須賀京太郎のカウンターが再び増えるまで行われません。
↓1から先に5票集まった方です
投票ありがとうございました。
選択肢②の現状維持に決まりましたので次の人物を決めますねー
↓2
ふぁッ!?
System
・安価先が真屋由暉子でゾロ目のため……
>>128 , >>129
霞さんとの行為を京ちゃんは覚えていないですよー
無自覚なトラウマは刻まれていましたが、むしろ、霞さんよりヒッサーの与えたダメージがが
由暉子でゾロ目とか、えっ、久しぶりにプロットの見直しが必要な件です。はいぃ……
それでは次の更新は間が空くかもしれません。それでは~
祖父さんが俺へと施した教育の方針は最初に座学を行い、後はひたすらに実地での学習だった。
長年、教育の学び舎へと引き籠っていただけのことはあったのか教え方は妙に上手かったけどな。
しかし、学んだ知識や技術、持てる能力の全てをつぎ込めば解決可能な事案や課題を休む間もなく次々と与えられ、スパルタで教え込んでくる。
そうして俺は多岐に渡る知識と経験を得、血肉としていった。
失敗すれば、厳しい叱責が飛ぶし、過ちを糧にするための課題が加えられていく。
失敗を恐れて委縮し、少しでも小さくまとまろうとすれば手酷く怒られたな。
経営や交渉のノウハウから、人の扱い方や細かな礼儀作法、豪遊と呼べるような金の使い方まで色々と教えられた。
海外のカジノへと連れて行かれ、十万ドルをポンッと渡されて使い切って来いなんて言われたこともあった。
祖父さん秘蔵のセラーを開けて、古今東西の酒を二人で飲んだ夜もある。
ハニートラップ対策だと称して、国籍を問わず、幅広い年齢層の女性をあてがわれたこともな。
そして、殺意や恨みを抱かせるようなことも命じられた。
必要とあればどんなことも厭わなくさせるために、非人道的な行いも随分とやらされた。
最初は動物の解体から始まり、人の死体を冒涜し、最後には人の命をこの手で殺めた。
今いる立場を全うするためにも、甘さを見せることなく、常に冷徹で怜悧な思考が求められる。
俺の手はとっくの昔に汚れているんだ。
桃子「厳しさは優しさと期待の裏返しだったんじゃないっすか?」
京太郎「それはあったのかもしれない。こっちに関わり始めた頃の俺ではいつか取り返しのつかない失敗を犯していたのは疑いようがないからな。情に流されて判断を誤らせないためにも、確かに必要な教育だった。現場に放り込んで学ばせるのも、数字や報告で分かったつもりにさせてはいけないと考えたんだろう……」
桃子「そう考えると、孫思いのお祖父さんっすね」
京太郎「それはないな。祖父さんは衣の父親が亡くなった時点で世捨て人になっていた。本当に孫のことを大切に思っていたなら、龍門渕へと引き取られた衣の待遇にも口を挟んでいたはずじゃないか?」
桃子「確かに、じゃあ何で当主は京さんを鍛えたりしたんっすか?」
京太郎「悔いを残さないためだろう」
桃子「そうなんっすかね。京さん、もう一つ報告があるっす」
京太郎「何だ?」
桃子「Dr.Kの所在が判明して、京さんの指示があれば何時でも捕えられるとのことっすよ」
京太郎「発見の経緯は?」
桃子「当主の入院していた病院にてネズミを発見し、その駆除の最中に情報を取得したそうっす」
これまで行方を掴ませなかった憩さんが果たしてそんな下手を打つだろうか。
当主が亡くなるこの時期、名実ともに頭が変わろうとしているこのタイミングでだ。
どうにも、罠か意図があって故意に情報を掴まされた可能性が高いように見えてしまう。
火中の栗を拾うようなものではないのか。
それでも仮に憩さんの協力を得られれば、メリットは大きい。
穏乃や清水谷さん、爽さんたちを助けることができるかもしれない。
特に、爽さんは少し危険な状態にあるとの報告も上がって来ている。
あの人は龍門渕の諜報員の一人だった。
どんな死地に放り込んでも必ず無事に帰還してしまうような特異なオカルトを保持していた。
だから、それを利用して、危険な調査活動を行ってもらっていたんだ。
しかし、彼女も含めて能力を過信し過ぎていたために、裏や神境を探るための任務に失敗し、捕えられ、厳しい訊問が行われた。
その際に負った傷や体験が原因なのか、爽さんは記憶障害を起こしてしまっていた。
それが先日、記憶が急に回復したとの報告が回ってきたんだ。
ただ、記憶が戻ることで必ずしも芳しい結果には結びついたわけではなく、精神が不安定な状態へと陥ってしまったらしい。
現在は投薬により落ち着かせているが、薬が抜けると恐慌した状態となり、手に負えないそうだ。
長期に渡る薬の投与は望ましくないからな。
京太郎「憩さんは龍門渕が荒川を陥れたことを恨んでいる」
桃子「間違いないっすね。彼女は龍門渕の不利益となるように、他社への技術供与や厄介な人物の延命や助命を行っていたっすから」
京太郎「優希の一件は俺に対する嫌がらせだろうしな……」
桃子「そうだと思うっす」
憩さんを捕えず放っておく理由はない。
感情面ではともかく、利の面からすれば無理矢理にでも捕えて情報を強引に吐き出させるだけでも得をするのだ。
京太郎「憩さんは善人だからな。霧島神境に囚われていた犠牲者を龍門渕が保護した情報を掴んだのか……」
桃子「それで動いたっすかね?」
京太郎「動機としては十分に考えられるんだよ。助け出した人の中には憩さんと懇意にしていた関係者もいるからな」
桃子「ふむ、それじゃあ、捕える方向で良いっすか?」
京太郎「ああ、ただし、丁重にエスコートしろよ」
桃子「了解っす」
憩さんが本気で復讐に生きるつもりなら、もっとえげつない方法が幾らでも取れた。
人工的に作成した毒性の強いウィルスを用いたバイオテロなんかもあの人なら可能だろう。
俺や透華さんと違って、非情に徹しきれない。
それは人としては正しく、手を汚していないことは好ましい。
俺たちは多くの人が不幸になると知りながらも画策し、行動に移してきた。
不況の引鉄となった政治的混乱は龍門渕の主導によって行われたものだからな。
長年に渡って調べ上げた情報をリークし、メディアをコントロールして世論も煽った。
見ず知らずの他人なら当然のものとし、たとえ知人であれど必要とあれば磨り潰す。
そして目的の邪魔とあれば消すことも厭わない。
京太郎「他には何かあるか?」
桃子「京さんの判断を仰ぐような案件は伝わって来ていないし、そろそろ皆の所に戻るっすか?」
京太郎「否、戻っても桃子の分はお菓子がないんだろう。それなら、ここでマホの作ってくれたクッキーを食べて行こう。俺がお茶を淹れている間に連絡をしといてくれ」
桃子「お気遣いありがとうっす」
マホが作ったチョコチップクッキーは少々不恰好だが、生地はしっとりとして美味しく焼き上がっている。
美月さんと菫さんの協力があっただけ、味はしっかりとしているな。
京太郎「はは、菫さんから照の写真が送られてきたんだけど」
桃子「うわあ、歯を噛み締めて実に悔しそうで、泣きそうな顔っすね」
京太郎「ちょっと可愛いから苛めたくなるよな」
桃子「はっはっは、……ん?」
京太郎「どうかしたのか?」
桃子「照さんの背後のテレビに見知った顔が写り込んでいたっすから」
京太郎「……由暉子」
俺が由暉子を含んだ元有珠山高校の五人と交友を得たのは衣と交際を始める少し前のことになる。
とある日、龍門渕の宅へと遊びに出かけた際に彼女たちと顔を合わせたんだ。
ハギヨシさんの指導の下で彼女たちも学んでいたから、その関係で親しくなっていった。
今では誓子さんとは直接顔を合わせる機会は少ないがネットを介してのやり取りは続いており、揺杏さんには服飾のコーディネートを依頼することもわりと多い。
俺は彼女たちに後ろめたさを感じていることが色々とある。
爽さんをあんな風にしてしまった責任は、協力を頼んだ俺や透華さんにあるだろう。
成香さんには多大な迷惑をかけ、感謝で足を向けて寝られないからな。
もう衣がこの世を去ってから十年が経とうとしている。
今でも彼女の死を思い出すと胸には深い悲しみが打ち寄せてきてしまう。
当時はこの比ではなく、悲しくて、苦しくて、消えてしまいたいような、虚無感に包まれる毎日だった。
頭では理解していようとも、心は衣の死と向き合うことを拒絶し、生きようとする気力も失せて全てがどうでもよくなっていたんだ。
二人で助け合い、これから新しい生活を始めようと新たに希望を胸に抱いた門出の日に一番大切な人を失った。
恨むことができたのなら、まだ少しは気力が湧いたのかもしれない。
しかし、俺たちを轢いた車の運転手も死んでしまっていたんだからな。
あの頃、一日中何をして過ごしていたのかは覚えていない。
記憶が飛び飛びになっていて、親の話しでは遠方も含めて多くの友人が見舞いに訪ねて来てくれたらしいんだが殆ど思い出せない。
色褪せた灰色の世界へと最初に色を灯したのは久だ。
彼女に覆い被され、強引に身体の関係を結ばれようとどうでも良かった。
他人事のようにそれを見つめ、衣に対する裏切り行為に自己嫌悪を感じながらも振り払う気力すら湧いてこない。
行為に快楽は感じなかった。
射精したことは自覚できても、快感も興奮もなく、それは単なる生理現象の発露でしかなかったんだ。
それでも久とは流されるまま体の関係は続いた。
彼女は俺に優しく、拒むことの難しい言葉を幾つも吐く。
それは甘美な毒のように染み込み、衣を思い出しながら俺は久を抱くようになっていた。
心は奮えず、どこまでも虚しく、傷口は塞がらずに悪化を続けていこうとも現実から逃げる誘惑には勝てなかったんだ。
衣がいない、大切な人がどこにもいない、失われた愛を求めても決して返ってくることはない。
代償行為に救いはなく、何の悦びも感じない。
それでも、人の温もりは衣との思い出を想起させ、自ら深みへと嵌まって溺れるように堕ち続ける。
逃避すればするほど虚しさは募り、それから逃れるためにさらに逃げる。
悪循環のスパイラル。
そんな日々に終止を打ってくれたのが本内成香さんだった。
あの人は腐っていた俺を罵倒し、一切の容赦なく扱き下ろした。
殴られ、部屋から引きずり出され、俺の心を抉るような幾つもの言葉を吐いた。
それでも俺への暴言だけなら、きっと心は動かなかっただろう。
成香さんは衣に対してまでも侮辱的で冒涜的な発言を述べ、それを断じて赦せない俺の心には憤怒の火が燈った。
怒りや憎しみは虚無であるよりもずっと生きる活力となる。
あの人の発言を否定するために俺は再起しなければならなかった。
正直に言って、一時は本気で殺してしまいたいほどに成香さんを憎んだ。
それはきっと鬱屈し、沈殿していた感情の矛先を向けるべき相手を得たからの反応だったのだと思う。
しかし、感情と言うものを持続させることは難しいものでもある。
怒ることは大きく気力を燃焼させ、焼べられた薪で大火となって燃え盛り、燃料が尽きれば打って変わって激しさに反するように冷めていく。
暫しの時間を置いて成香さんの行いを顧みれば、彼女があえて憎まれ役を演じたのだと理解できてしまった。
それは見返すべき相手や目的の喪失を意味していたんだ。
衣を失った悲しみが蘇り、空虚な想いに半ば支配されてしまうのは仕方がない。
しかし、どんな理由であろうとも、一度でも立ち直った俺には再び灰色の日々に戻る選択は選べなかった。
それをしたら、憎まれ口を叩いた成香さんの言葉が本物になってしまう気がしたから。
これから先、どうすればいいのか分からず、俺は切っ掛けをくれた成香さんに相談することが増えていった。
衣のことはもちろん、久との関係すらも口にし、万のことを尋ねた。
それは成香さんに言われたように依存だったのだろう。
自覚もなく、去来する様々な感情がない交ぜになり、挙句には依存心を好意と履き違えて成香さんに告白することまでしたんだよな。
我が人生最大の汚点というか、黒歴史だよ。
成香さんは俺のバカな告白をばっさりと切り捨て、再びぼろ糞に貶された。
はっきりと指摘されたことで自覚できたというか、目が醒めたんだ。
多分、あの人がいなければ今頃は碌なことになっていなかったと思う。
本当に成香さんには感謝してもし尽くしようがない。
桃子「中二病さんはアイドルを辞めて、牌のお姉さんも今期で引退するらしいっすね」
京太郎「今度、記者会見をすると聞いているな。まあ、年齢的にはアイドルを辞める頃合いだろう?」
桃子「はは、40才を迎えても現役でアイドルを続けているキツイ人もいるっすよ」
京太郎「はやりさんを引き合いに出すのはちょっとな」
桃子「まあ、そうっすね」
京太郎「由暉子はこれから麻雀一本に専念するって話だ」
桃子「らしいですけど、それで心境の変化でも起きたのかこの前のプロリーグは凄まじかったっす」
京太郎「確かにな。先鋒で抜擢されて、十万点あった三人の点を全て割っての勝利だからな」
桃子「次鋒に回さないなんて化物かと思ったっすよ」
京太郎「実は、……非公式な噂だけど由暉子は健夜さんに競り勝ったって話しがある」
桃子「嘘っ?! あの強さなら納得だけど、まさか、アラフィフさんが引退したのって彼女に負けたからっすか?」
京太郎「否、どんな面子で囲んだのかもよく分からないんだが、由暉子は二着だったらしい」
桃子「えっ!? アラフィフさんの上を行った人がもう一人いたとか冗談っすよね?」
そう言えば、桃子は健夜さんと卓を囲んだ経験があったか。
グランドマスターの強さを直に知っているんだから、その驚きも尚更なわけだよな。
俺もその話しを聞いたときは信じられなかった。
あの人外の領域に君臨する化物の中の怪物が敗北したなんて、しかも二位にすら着けていないとかとんでもない話しだ。
京太郎「プロ雀士の間では既に話しが広まっているらしく、俺も照からこの噂を教えてもらったんだよ」
桃子「照さんが言うなら、本当っぽいっすね」
京太郎「本当に由暉子が健夜さんに勝ったのが事実なら驚愕に値するな」
由暉子は牌のお姉さんに選ばれる実績と実力を持つプロ雀士だ。
国内ではトッププロの一人として数えられるが、照や咲のような人と考えるのがおかしくなる連中と比べれば格落ちする。
だからこそ、噂が真実ならば快挙と言っても良い。
雀士ではなく、アイドルとして彼女を見れば高い人気を博している。
小さな体に不釣り合いな大きいおもちと中二病な発言。
小さな子供から中高生、成人男性の高い支持とコアなファンを数多く抱えている。
同じ事務所に所属しているはやりさんとは新旧の牌のお姉さんといこともあり、比較されることも多い。
もっとも、一度アイドルを辞めて復帰した彼女は昔とファン層が違っていることもあって、棲み分けができているというか、ファン同士の対立は少ないらしいけどな。
元々、アイドルとしての方向性も違っていたのも大きいのかもしれない。
それに今のはやりさんは実の所、男性よりも女性からの支持が高いんだ。
桃子「そう言えば、昔から京さんは彼女を応援しているっすよね」
京太郎「ああ、……まあな」
俺は由暉子を支援する特別な理由がある。
簡潔に言えば、俺は由暉子のパトロンに納まっている。
俺と彼女がややこしい関係にあるのは全て祖父さんのせいだ。
祖父さんが様々なことを俺へと教授してくれたことには感謝している。
しかし、その方法は必ずしも褒められたものばかりでなく、倫理に反するものも大量にある。
その教育の一環の一つとして、俺は由暉子を抱いた。
由暉子は龍門渕の後ろ盾を得ることでアイドルとして躍進した。
彼女が如何に素晴らしい原石であろうとも、それを磨き、広める機会がなければ輝きを知る者は誰もいない。
広報、テレビへの出演、ラジオ番組などのメディアへの影響力に事務所を運営していくノウハウや演技などの技術を与えられていなければ、今日の由暉子は存在しなかっただろう。
だからこそ、由暉子には龍門渕への恩義と逆らうことのできない明確な力関係が存在していた。
透華さんの遊びで始まった芸能部門でも、その資金や技術の提供を認めたのは前当主であり、継続を許したのは祖父さんだ。
龍門渕家当主の命令に由暉子は拒絶できる立場ではなかった。
既に透華さんは昔の彼女ではなく、情よりも利を優先する冷たい人に変わってしまっていた。
だから、それが己の利益になると言うのなら、平気な顔で友人を犠牲にすることも厭わない。
そう、由暉子を利用することに透華さんも同意していたんだ。
祖父さんが由暉子を教育に使うことを決めた理由は、彼女が俺の友人であったからに他ならない。
俺が拒否すれば、由暉子への支援を打ち切ると脅しやがった。
躊躇すると祖父さんは更なる脅しをかけ、由暉子にまで頼まれた俺は彼女を抱いた。
愛情のないセックスは初めてではない。
それでも、互いに望んでもいないのに体を交え、初めての行為に痛みを訴える由暉子を見て俺の心は呵責に苛まれた。
その時から俺と由暉子は対等な友人ではなくなり、上下関係さえも生まれてしまった。
愛もないのに肌を何度も重ね、快楽に流されることもできない。
俺の考え方を矯正するためには必要な行為の一つだったと理解はしている。
しかし、他のやり方もあったのではないかと思ってしまうのは甘いんだろうか。
俺たちの関係を知る者は祖父さんを除けば、おそらく透華さんだけだ。
照や和、桃子も知りはしないし、話す気もない。
ましてや、成香さんたちには教えられない。
桃子「アイドルを引退したら、先達の牌のお姉さんと同じように恋愛して結婚するんっすかね?」
京太郎「どうなんだろうな?」
桃子「私たちと同じ年齢なのに、浮ついた話しの一つも聞こえてこないなんて流石は一流のアイドルの鏡というか、でも、夢を与える人はそうあって欲しいと思うのは我儘かもしれないっすけどね」
京太郎「夢を与えるか」
桃子「京さんは小さい頃にテレビで牌のお姉さんを見て憧れなかったっすか?」
京太郎「子供の頃は麻雀に興味なかったからな」
桃子「そう言えば、京さんは高校から麻雀を始めたんでしたっけ、そんなんでインハイ優勝とか清澄はおかしいっす」
京太郎「あの頃の長野は飛び抜けておかしいからな」
桃子「はは、はあ。あの頃の私に言ってやりたいっすね。麻雀にのめり込み過ぎるなって、そうすればオカルトで苦労することもなく、こんな私でも普通に恋愛して結婚できたんじゃないっすかね?」
京太郎「そうだな。桃子は影は薄いけど、美人でおもち持ちだからな」
桃子「意味のない話しっすけどね。あの頃の私に言っても、多分、聞く耳持たないで同じ道を選んでしまう気がするっすから」
京太郎「確かに、過去の自分に何かを伝えても、現在の俺が後悔していることを体験していないんだから本当の意味では理解できないもんな」
桃子「アラフィフさんに親近感を抱くとか口にしても分かるわけないっす。中二病さんも出演したテレビで恋愛経験がないって言っていたし、同じように感じているっすかね?」
京太郎「……さあな、そろそろ戻るとするか」
桃子「そうっすね」
由暉子が俺にどんな感情を抱いているのか俺は知らない。
憎んでいるか、嫌悪しているのか、どう思われているかを知りたいようで、知りたくない。
少なくとも、俺が彼女を友人とは見えなくなったように、彼女もまた俺を友達だとは思ってはいないんだろうな。
System
・安価先が真屋由暉子でのゾロ目により、真屋由暉子は――とならず、――――はなりませんでした
・安価先が真屋由暉子でのゾロ目により、須賀京太郎は漆黒の意思を手に入れています
・東横桃子 ■■:5
・須賀京太郎 □□:5
・須賀京太郎のカウンターが増えた結果、再び選択の時が到来しました
選択肢
①:"突然の来訪者"
このSSは完結へと迎います。
②:誰かが来たと思った? 気のせいだ!
まだ選ばれていないキャラを安価で指定していく現状維持。"選択"は須賀京太郎のカウンターが再び増えるまで行われません。
↓1から先に5票集まった方です
アチャー多重無効かー
もしよろしければ完結後にでも、出てこなかったキャラに関して、想定をちょっとだけでも教えてくれるとうれしい
System
・選択の結果"突然の来訪者"が現れます
>>206
完結後ということで~
投票ありがとうございました。
本日はこれにて終了とさせていただきます。
次回の更新は少し時間がかかるかもしれませんがお待ちください。それではまた~
それは桃子と連れ立って照たちのいる部屋へと向かっている最中のことだった。
悪感を感じて思わず足が止まる。
そして次の瞬間、数歩先に立ちはだかるかのような青い火が唐突に燃え上がり、視界を覆う。
火が消え去った時、先ほどまでは誰もいなかったはずの場所に人影が立っていた。
着物が良く似合う長い黒髪の女性。
存在を主張する大きなおもちを持つ彼女と視線が絡む。
こちらの警戒を嘲笑うかのように微笑を浮かべる。
京太郎「石戸、霞!?」
霞「ふふふ、お久しぶりね京太郎くん。元気にしていたかしら?」
京太郎「あんたの話しは聞いている。俺は理解していないが、随分と世話になったらしいな」
霞「あらあら、誰かさんはお喋りみたいね」
京太郎「事前の連絡もなく、いったい何の用だッ!」
言葉の結びと同時に俺は履物を蹴り飛ばす。
撃ち出された上履きは真っ直ぐ石戸霞の顔面に向かっていく。
顔に迫り来る飛翔物を前に、彼女は反射的に身を背ける。
それは決定的な隙だった。
彼女の姿を確認すると同時に桃子は接近していた。
霞の視線は俺にだけ向いており、近づく桃子に警戒を示すことは一切なかった。
桃子のオカルトは元霧島神境六仙女筆頭にも有効であり、横合いをすり抜けて背後を取る。
俺が隙を生み出したのを見計らい、桃子は霞を拘束するために手を伸ばした。
その手が彼女に触れた瞬間、桃子の口から声にならない悲鳴が上がる。
そして、弾かれるように桃子は壁へと衝突してズルズルと崩れ落ちていった。
霞「……無粋ね。龍門渕には見えない子がいるとは聞いていたから、念のために対策を立てて置いて正解だったわ」
京太郎「用意が良いことだな」チッ
霞「そんなあからさまに敵対的な対応をしてくれなくても良くないかしら?」
京太郎「そう言うのは、玄関から入って来てから口にして欲しいもんだな」
霞「いきなりの訪問になったのは悪かったわね。でも、こうでもしないと監視の目があるからあなたに近づくことができなかったのよ」
京太郎「そうされる理由には心当たりがあるんだろう?」
霞「そうね。それよりも、京太郎くんに耳寄りなお話しがあるのだけれど、一緒に来てくれないかしら?」
この家にはオカルトへの対策も施されていた。
それを無視する形で現れ、桃子への対策まで行われていたのだから準備は万端なんだろうな。
おそらく既に詰んでいる。
桃子の叫び声が聞こえても良かったはずなのに、誰も姿を見せない所を見ると何かの術を行使済みと考えるべきだ。
京太郎「拒否するって言ったらどうなるんだ?」
霞「……私を信じてくれないかしら? あなたにとって悪いようにはならないことを約束するわ」
無駄と分かりつつも抗うか、大人しく彼女に従うか。
果たして俺はどうするべきだろうか。
石戸霞を信じるのか。
もしそうならば、俺にとっては付き従う方が悪いようにはならないとのことだが……
System
・須賀京太郎は重要な選択を迫られています
①承諾:同行する
②拒否:抵抗を試しみる
↓1から先に5票集まった方
今日の夜には続きを投稿したかったのですが、本日の更新は間に合いそうにありません。
続きは明日の夜ということで~
抵抗した所で意味はない。
拉致が目的であるなら、この状況で石戸霞が俺の意思を確認する必要すらない。
それにも関わらず尋ねているのだから、別の意図があるのだろう。
一先ずは彼女を信じることにしよう。
俺の記憶などを弄ったのは彼女らしいが、それによる実害は寂寥感くらいなものでいまいち理解できていないからな。
京太郎「分かりました。あなたを信じてどこへでもついていきますよ」
霞「……ありがとう」
京太郎「その前に桃子をこのまま放っておきたくないんですけど、少し時間は貰えます?」
霞「私には見えないのだけれど、その辺りに倒れているのかしら?」
京太郎「ええ、呼吸に乱れとかはないですし、命に別状はなさそうですけどね」
霞「使用した術は軽いものだから、気を失っているだけのはずよ。ただ、残念だけどあまり余裕がないのよね」
京太郎「照たちへ言伝を残すことは?」
霞「諦めて欲しいわ」
京太郎「はあ、分かりました」
桃子を横に寝かせ、霞が差し出してきた手を掴む。
その手は意外なことに僅かだが震えていた。
圧倒的に有利な立場であるはずの彼女が何を恐れるのだろうか。
そんな疑問が口から出るよりも早く、視界に変化が現れる。
世界がグルグル急加速して巡り回り、全身が撹乱され、バラバラになって積み上げられるような奇妙な感覚。
慣れない現象に吐き気さえも覚えながら、次第に鼻孔には磯の香りを感じてくる。
目を開くと透明感の高い海原が広がっていた。
空も海も真っ青で、気温の高さからどこかの南国だろうか……
京太郎「海?」
霞「ここは日本のとある離島の一つよ。島民が百にも満たない限界集落、数十年後には人の記憶からも消えてなくなってしまうのじゃないかしら」
京太郎「相変わらず、オカルトは無茶苦茶ですね。東京から離島への移動が一瞬とか……」
唐突に繋がれていた手が下へと引っ張られる。
視線を移すと、霞が地べたへとへたり込んで座っていた。
その顔は青を通り越して白く染まり、今にも倒れてしまいそうに見える。
京太郎「大丈夫ですか?」
霞「少し無茶をしたから、……あの道を真っ直ぐに進めば少し先に一件の家があるの。あなたはそこへ向かって」
京太郎「一緒に行かないんですか?」
霞「それこそ無粋よ。私はここで待っているから」
京太郎「……俺、片足は裸足で、もう一方は室内用のスリッパなんですけど?」
霞「そこまで気が回っていなかったわ。私の靴でも借りて行く?」クスクス
サイズが合わないだろうな。
少し荒れている道のようだが、気をつけて進めば問題ないだろう。
それに、霞の口ぶりからしてその家までの距離は長くないはずだ。
俺は彼女と別れて道なりに歩いていく。
念のためにポケットから取り出した携帯を開いてみたが、電波は届いていなかった。
まあ、離島だと口にしていたし、そんなことだろうとは思っていたさ。
道を進んで行くと確かに霞が言ったように一件の家が建っていた。
現代では珍しく感じる完全な木製作り、二階建ての大きなログハウス。
木で作られた家屋を見て、地元長野にある昔ながらの家々を思い出してしまった。
どこか郷愁を感じさせる家の扉についているベルを鳴らした。
「はーい」
家の中からは子供特有の高く可愛らしい声が響いてきた。
パタパタと駆けてくる足音ともに、勢いよくドアが開け放たれる。
中から現れた子供の姿を見て、俺は言葉を失ってしまう。
その子もまた、俺を見て目を見開き唖然とする。
「父、しゃまー」
逸早く復帰した少女は、興奮のあまりにか呂律が回らない舌足らずな言葉と共に、飛びつくように抱きついてきた。
反射的に支えた子供の姿は、あまりにも衣にそっくりだった。
髪の色や顔の作り、若干幼く感じるが声質までもよく似ている。
瞳の色は毎朝鏡で見ている俺に似ているようにも見えた。
この子は誰だ、まさかとの疑問が脳裏を駆け巡る。
泣きじゃくり出した子供を前に、俺は優しく背や頭を撫でることしかできない。
混乱する中で、家の奥からはかつての面影を残っている男の姿が見えた。
京太郎「……ハギヨシさん?」
ハギヨシ「いつか、この日が来るかもしれないと思っておりました。お久しぶりですね京太郎くん」
十年ぶりに再会したハギヨシさんは昔と変わらない執事服を着込み、壮年のバトラーへと変わっていた。
年齢以上に老け込んでいるように見え、それがどことなくある種の風格を漂わせる。
龍門渕家を出奔した彼に導かれて、俺は談話室へと案内された。
衣に瓜二つの子供は俺から離れたがらなかったが、頼まれごとをされると渋々引き受けた。
何度もこちらを振り返り確かめていたのは、俺がどこかへと行ってしまわないかと心配しているからだろうか。
出されたお茶は香り高く、相変わらず素晴らしい手並みと言える。
アクセントとして加えられたハーブが思考のまとまらない頭をすっきりとさせてくれた。
京太郎「あの子は……」
ハギヨシ「お察しの通りです。京太郎くんと衣様のご令嬢です」
それは思っていた通りの回答だった。
しかし、だからこそ同時に疑問が溢れてくる。
京太郎「衣は妊娠していたのか?」
ハギヨシ「その通りです。妊娠後も体型に変化が表れていなかったために、衣様も最期の時まで気づいてはおられませんでした」
京太郎「子供がいたなら、どうして俺に教えてくれなかったんですか?」
ハギヨシ「……京太郎くんはどこまでご存知でしょうか?」
求める答えを知るために、こちらの認識を把握したいのか。
驚きのあまり焦り過ぎていたのかもしれないな。
彼が尋ねているのは衣の死についてだろう。
その事情をどれだけ俺が把握しているのか、か。
京太郎「明確な証拠は残されていないが、衣を殺したのは透華さんの父親だと俺たちは結論を出している。あの人は衣を恐れていたし、神境に彼女を殺すように依頼していたことまでは調べがついている」
ハギヨシ「……半分正解です。旦那様は確かに衣様を恐れておりました。正確に言えば、常識で測ることのできない龍門渕の血そのものに恐怖を感じていらっしゃったのです」
京太郎「龍門渕の血?」
ハギヨシ「京太郎くんは既にお知りだと思いますが、旦那様は龍門渕家の入り婿です。正式に龍門渕家当主の座を先代様から引き継いでいながらも、一族における立場はあまり強くはあらせられませんでした。特に、血を引いていないが故に、能力で劣る分家には軽んじられていたと言ってもいいでしょう」
京太郎「それは事実だったろうな。本家ではないからこそ、分家は血に対して傲慢な誇りを抱き、よそ者を下に見る傾向がある」
俺のことを好ましく思っていない分家筋は多い。
彼らには龍門渕の血を引いていないことを引き合いに出して陰口を叩かれたこともある。
本家と違って薄まってしまった血のために、異能の力を宿していないものが殆どだっていうのにおかしな話しだ。
まあ、最近になって俺自身がかの家の血を引き継いでいると教えられたばかりなんだけどな。
ハギヨシ「一族の中にはそう言った風潮があります。旦那様は経営能力などがいかに優れていようとも、平常の枠の中に納まる方でした。だからこそ、あの方は先代様を恐れていらっしゃいました」
京太郎「祖父さんも確かに異能の持ち主だからな。普通の感覚から見ればおかしく見えてしまうのも仕方ないのかもしれない……」
ハギヨシ「それだけならよろしかったのです。旦那様は当主の立場を譲られていながらも、先代様が本心では衣様のお父上であらせらますご子息様にこそ、跡目を継いで欲しいと願っていらっしゃることに気づいておられました。だからこそ、何時か当主の立場を奪われるのではないかとの疑心を抱いていたのです」
古くから続く、名家龍門渕。
その一族には古より脈々と異能の力が受け継がれてきたそうだ。
その血を持たない透華さんの父親が、理から外れたものを生み出す龍門渕の血を恐れたことには理解が及ぶ。
本来ならば後を継ぐはずだった義父はその血を色濃く引き継いでいたと衣に教えてもらったことがある。
一族内にある蔑視の風潮や祖父さんの真意を鑑みれば、龍門渕の血に対するコンプレックスを抱いてしまうのは仕方がないのかもしれない。
そして、その血を確かに引き継いでいた衣を恐れた感情も同意はしないが想像できる。
あの人には亡き父親に代わって、龍門渕家当主の立場を取って代わられる可能性が見えていたのかもしれない。
京太郎「だから、あの人は衣を冷遇して殺したのか?」
ハギヨシ「……京太郎くんは自身の出自について既に知っていらっしゃいますか?」
京太郎「ああ、祖父さんに教えてもらった」
ハギヨシ「そうでしたか。旦那様は龍門渕の血を恐れていたからこそ、あの日、衣様の誕生日や祝賀を兼ねたパーティーの席にて、あなたが打った麻雀を一目見て確信にも似た疑念を抱きました。そして、直ちに調査を命じられたのです」
京太郎「透華さんの父親も俺の血については知っていたのか……」
ハギヨシ「はい。だから、旦那様は京太郎くんのことも恐れました。あるいは衣様以上の脅威を感じていらっしゃった」
京太郎「俺が龍門渕本家の血を引く唯一の男だったからか?」
ハギヨシ「ええ、そんなあなたと衣様が交際を始めたことをお知りになったあの方の心中が、嵐の海のように荒波が立つのは自然の成り行きでした」
京太郎「……俺の責なのか?」
ハギヨシ「冷遇した少女と龍門渕の血に目覚めた少年が婚姻を結ぶ。もはや、旦那様の目には恐怖しかなく、どのような言葉も届くにはいたらなかったのです。だからこそ、霧島神境へと御二方への呪殺の依頼をお出しになられたのです」
京太郎「俺まで対象だったのか。だけど、その依頼は拒否されたと聞いている」
ハギヨシ「京太郎くんの父方の血筋への配慮とあなた自身が霧島神境と深い関わりを持った結果だったのだと思われます。おそらく藪蛇を突く形となったのでしょうね。旦那様の死は京太郎くんを呪い殺そうとしたことで成就される運びになったのだと思われます」
人を呪わば穴二つか。
霧島神境が独自に動いたのか、否、あそこが要人の暗殺などについては自らの意思で行うことはない。
ハギヨシさんが言うように俺が神境にとって重要な存在だったのなら、偶々あの人を殺す依頼に便乗する形で手を打ったのかもしれない。
だとすれば、この事実を俺は透華さんに何て伝えれば良いんだろうか。
彼女は疑わしきものを全て罰してきた。
俺もその行いには加担してきたが、父親の自業自得とはいえ俺も復讐の対象に選ばれる可能性も否定できないな。
冷静な話し合いの場を持ちたい所だが、復讐は感情で動くものだ。
理性でどうにかできるなら、そんな真似は端から行わない。
ハギヨシ「旦那様は神境への秘密裏の依頼が拒否された時点で八方塞となりました。先代様から表の実権については譲渡されていましたが、裏については任されていなかったのです。だからこそ、直接暴力的な手段を選べば証拠が残ってしまい、事が露見しかねず、打つ手がもはやありませんでした」
京太郎「じゃあ、まさか、衣の死は偶然の事故だったって言うんですか?」
ハギヨシ「いいえ、それは違います。事故は確かに偶然生じたものでしたが、衣様の死は運悪く起きたものではありません」
事故は偶然であると言うのに、死そのものは異なる。
ハギヨシさんが何を言っているのか分からない。
否、違う、俺は理解したくなかったんだ。
それが意味する所は……
ハギヨシ「衣様を殺したのはこの私めにございます」
京太郎「冗談だよな。嘘だって言ってくれよ、あんたは衣の執事で、俺にとって師匠で友達で、……ハギヨシさんっ」
ハギヨシ「あの日、私は衣様をお救いすることができました。しかし、それをせずに見殺しにしたのです」
京太郎「ッ!! ……どうして!?」
ハギヨシ「京太郎くんは勘違いしているようですが、私は確かに衣様の執事ではありました。しかし、忠誠を誓っていたのは旦那様に対してであり、命令で監視も兼ねて執事を担っていただけのことです。従者は主のご要望を叶えなければなりません……」
ああ、この人はそうなのだ……
胸の内に、澱へと沈んでいた積年の感情が吹き上がってくる。
記憶が鮮やかに蘇り、今体験したことのように思えてくる。
きっと頭を下げているこの人を殺してしまえば俺の心は幾分か晴れやかになるだろう。
隙を見せたことがなかったのに、今は無防備な様を晒している。
そうされても構わないと思っているのかもしれない。
あるいは願っているのか、その覚悟で口にしたのだ。
彼は確かに直接手を下したわけではないが、助けられる命を、衣のことを見捨てた。
それは殺したことと何が違う。
激情が、本能が、どんなに荒れ狂おうとも、与えられた薫陶と培った経験が頭の片隅を冷たく凍らせる。
京太郎「あんたは何で龍門渕家を出奔したんだ?」
ハギヨシ「衣様は私の立場について理解していらっしゃいました。事故後、間もなく現れた私の姿を見て直ぐに悟ったのでしょうね。同時に、両岸の淵に立たれたことで常以上に鋭くなられたのだと思います。末期の頼みとして、私に子供の安全を頼まれました……」
自分の命は助からないと悟り、お腹の子供に気づいて頼んだのか。
確かに、この人が引き受けたなら助かるだろう。
それでも、衣……
ハギヨシ「衣様のお子様がいると分かれば、旦那様はその命を狙うでしょう。小さな子供を事故に見せかけて殺すのは容易いことです。私は命じられたのなら逆らえません。あの方には多大な恩義がありましたから。形の上とは言え、仕えた主の最期の頼みを守るためにも、龍門渕家から去る必要があったのです」
京太郎「……どうして、俺には何も知らせてくれなかったんだ?」
ハギヨシ「情報を知る者がいなければ、漏れようがないからです」
京太郎「透華さんの父親が亡くなってからも伝えなかったのは?」
ハギヨシ「お嬢様は大変な未熟児であられました。それ故にか臓器にも疾患を抱えており、無事に育つ保証はなかったのです。現在は私の手で外科手術を行い完治されているので問題はありませんが……」
個別の差と言うものはあるが、妊娠していたと言う衣の体形に変化は見られなかった。
そんな彼女から生まれた子供は普通よりもずっと小さな未熟児だったのだろう。
身長25センチ、体重も300グラムに満たない子供が生まれたという記録もある。
そこまではいかないかもしれないが、おそらく小さな赤ん坊だったのだろう。
ハギヨシ「衣様を失って失意のどん底にいた京太郎くんに報せ、もしも、お子様がなくなればどうなるか。私には暗い未来しか思い浮かびませんでした。もう安心できる位に成長した頃には、京太郎くんは新たな人生を歩んでいらっしゃいました。私には報せても良いのか分からなかったのです」
京太郎「……そうか。そうかもしれないな」
俺と子供の事情が噛み合わなかった。
それでも、俺は報せて欲しかったと思うのは我儘なのだろうか。
京太郎「……幾つか疑問はある。当主の願いだからこそ、衣を見殺しにしたのならどうして俺は助かったんだ? 俺にも死んで欲しかったはずだろう?」
ハギヨシ「その点は私にも不思議に感じております。はっきり申しまして、京太郎くんの怪我は見るからに衣様よりも重態だった。助からないと私は確信していたほどです。ただ、衣様には何か分かっていたのかもしれません。あなたを見て大丈夫だと断言しておられましたから」
京太郎「衣には、何が見えていたんだろうか……」
ハギヨシ「分かりません。ただ、衣様は京太郎くんに幸せになって欲しいと願っておられました」
幸せか。
きっと、今の俺を見たなら衣は怒るか、悲しむのかもしれない。
そう言った道を選んできた自覚がある。
復讐心を俺は捨てきれなかった。
だからこそ、大切な人や親しい人を危険に晒すかもしれないと分かりながらも、俺は龍門渕の裏に関わり、深みへと進むことを選んだんだ。
今も衣を見殺しにした目の前の男への害意が溢れてくる。
それを為して復讐を完結させよと訴えてくる。
一方で、衣の願いを聞き届け、子供を守り育ててくれたことに恩義を感じている自分もいる。
衣の死、最愛の喪失は俺にその真相を追い求めさせ、人の道から外れることを選ばせた。
その決算をしなけばならない。
衣の忘れ形見は俺を父と呼んでくれた。
つまり、この人はいつか俺たちを会わせるつもりでいたのかもしれない。
もしくは、見つけてくれることを望んでいたのだろうか。
俺はどうするべきなんだろうな……
System
・須賀京太郎は重要な選択を迫られています
①赦す:憎悪を呑み込んで……
②赦さない:憎しみに囚われて……
↓1から先に5票集まった方
投票ありがとうございました。
本日の更新はこれにて終了いたします。
次回はついにあの人が出てくる予定です。それでは~
この人を殺めれば、きっとあの子は悲しむだろう。
それどころか俺と同じように強い憎しみさえ抱くかもしれない。
今日初めて会った親である俺とずっと一緒にいた人のどちらに情があるのかを考えれば、彼の方にあるのが当然だ。
あの子を不幸な目に合わせれば衣に合わせる顔もないし、嫌われてしまう。
それは嫌だな……
京太郎「これからどうするつもりなんですか?」
ハギヨシ「今の京太郎くんになら安心してお嬢さまを預けられます。私は赦されるなら、この島で旦那さまと衣さまの供養を奉りながら余生を過ごしたいと願っております」
京太郎「つまり暇であると」
ハギヨシ「いえ、暇ではなく」
京太郎「はっきり言って、衣を見殺しにしたあんたのことは憎いよ。だけど、恩義もあれば情もある。何よりもあの子のために俺はあなたを赦そうと思う」
ハギヨシ「……ありがとうございます。肩の荷が少しだけ軽くなったような気がします」
京太郎「それで、ハギヨシさんは俺に負い目がありますよね?」
ハギヨシ「そうなりますね」
京太郎「思いっ切り殴れば、一瞬は気が晴れるかな?」
ハギヨシ「はは、今の京太郎くんに殴られたならかなり痛そうですね。以前よりも鍛えこんでいるようですし、それで気が済むなら好きなだけ殴っていただいてかまいません」
京太郎「はあ、殴られることを苦に感じない人をぶっ飛ばしてもすっきりしないんですよ。だから、龍門渕ではなく俺に雇われませんか?」
ハギヨシ「それは!」
京太郎「嫌って言うほどに散々扱き使ってあげますから。それに、あなたと別れることになればきっとあの子は悲しむ。俺はそれを見たくない」
ハギヨシ「実に嫌な誘いです。だからこそ、喜んで仕えましょう、京太郎様」フフ
京太郎「よろしくお願いしますね、荻原さん」クック
俺たちは今後についての予定を話し合った。
近況の報告も行い、情報を共有する。
ハギヨシさんは寂れた離島に引き籠っていたが、能力は錆びついておらず有能であることが話し合っていてもよく分かる。
これからは大いに俺の助けになってくれるだろう。
彼が設計し、自らの手で作ったこのウッドハウスは引き払い、俺の家に移り住むことが決まった。
帰ってきた娘に事情を説明し、一緒に住めることには嬉しがってくれた。
しかし、一時的とはいえ別離となることに納得がいかないのかぐずついてしまう。
色々と約束をすることで認めてくれたけど、こればかりは仕方がないことだ。
この子の存在について、家族に説明する必要なんかもあるからな。
俺はハギヨシさんから靴を一足譲ってもらって家を後にした。
外に出れば、既に日は傾き茜色に染まっている。
霞「清々しい表情をしているわね」
京太郎「そうかもしれません。霞さんありがとうございました」
霞「あら、敬称を付けてくれるのね。でも、呼び捨てで構わないわよ」
京太郎「そうですか?」
霞「ええ、それに私は感謝を言われるような立場じゃないもの……」
京太郎「どうやってあなたは彼らの存在を知ったんですか? 龍門渕の情報でも掴めなかったのに」
霞「そこはオカルトね。あの執事さんはそちらにも知識があるみたいだけれど、専門家の私には及ばないわ。だから、ちょっとした占いで見つけることができたのよ。私レベルじゃないと無理だけどね……」
京太郎「見つけて頂いた理由を聞いても?」
霞「ふふふ、理由の一つは罪滅ぼしね。他にもあるけれど、そちらは秘密」
京太郎「秘密ですか。何だか、テレビで見たあなたと違って、今の霞は晴れやかな表情をしていますね」
霞「そうね。あなたが私のことを信じてくれたから、少しだけ救われた。悪いけれど、一方的に向こうへと送り届けるから頑張ってね。それと、あなたに惹かれて恋に落ちて苦しんだけれど、今なら悪くなかったと思えるわ……」
言いたいことを告げた彼女は俺に術を放った。
視界が歪み再び奇妙な感覚に包まれる。
それが消えると見覚えのある廊下に立っていた。
元の場所へと帰ってきたみたいだが、夕刻になるほど時間が経過していたからか桃子の姿は見当たらない。
もしかしたら俺の捜索が行われているかもしれないな。
とりあえず、家の中で気配のする方へと足を向ける。
それにしても、霞は少しだけ気になる言葉を残していた。
頑張れとはどういう意味だろうか。
そう考えつつ、扉を開いた先には――
咲「やっほー、京ちゃん」
京太郎「咲!?」
驚いた次の瞬間にはもう状況を把握しようとするのは流石だね。
倒れている人たちに気づいたからかな、少し警戒の色を深めた目で私を見ている。
それを隠しているつもりなのかもしれないけれど、私には分かるよ京ちゃん。
咲「大丈夫だよ。ちょっと麻雀を打っただけだから、命に別状はあったりしないよ」
京太郎「はあ? いやいや、当たり前みたいに言うけれど、麻雀で人が倒れるとか意味が分かんないからな?」
咲「そうかな? この前、大きな壁を突破したんだよね。今なら色んなことができるようになったんだよ」
京太郎「俺の幼馴染はついに人間を辞めちゃったのか?」
咲「京ちゃんだって半ば人を辞めているでしょう?」
京太郎「今日は何の予定で来たんだ? お前、姉妹喧嘩をしてからは一度も来なかったのにさ」
お姉ちゃんと喧嘩してから、私がこの家に遊びに来ることは一度もなかった。
それはお姉ちゃんと京ちゃんが一緒に暮らしている家に上がり込むことで、二人の関係を認めているように思えたから。
私は一度だって祝福した覚えはない。
だから、この家に来ることはずっと嫌だったんだ。
でも、もうそんなことには構わない。
咲「京ちゃん」
京太郎「何だよ、改まって?」
咲「好き、大好き、幼い頃からずっと好き。私は京ちゃんを愛しているよ」
京太郎「咲、……俺は」
咲「結婚している? 亡くなった衣ちゃんや、和ちゃんとお姉ちゃんを愛しているから? だから、私の想いには応えられない?」
京太郎「そうだ」
咲「ねえ、私の何がダメなのかな? 頑張って直すよ?」
京太郎「そう言うことを抜きにしたとしても、俺は咲のことを幼馴染としてしか見れない。異性の、一人の女性として好きになることはないと思う」
私は京ちゃんがこう答えるかもしれないことを分かっていた。
異性の友人としては一番親しかった優希ちゃんを振った時点で、彼女とは別の意味で近すぎる私にも目がないのかもと予期していたから。
だけど、決心して告白したのに、その想いを否定されるのはやっぱり心が痛いよ京ちゃん……
咲「じゃあ、幼馴染って関係を考えないで私を見てよ。そうしたら、どんなふうに見えるの?」
京太郎「……髪、小さい頃みたいに伸ばしたよな。咲は垢抜けて綺麗になったよ。昔と違って、どこかオロオロとした雰囲気もないし、自信に満ちているように見える」
咲「髪を伸ばしたのは、京ちゃんが少し長めの方が好みだって知っていたからだよ。マネージャーや友達に協力してもらってだけど、ファッションにも気を遣ってる。仕事で必要って言うのもあるけれど、私は京ちゃんに見てもらいたかったから」
京太郎「……咲は料理が上手いよな。他人を気遣える優しい所や引っ込み思案だけれど親しくなれば面白い奴だって知っているよ。他にも良い所はいっぱいある。少しポンコツだけどさ」
咲「そこは愛嬌じゃないかな?」
京太郎「愛嬌って呼ぶにはちょっと酷いだろう。それでも、咲なら俺よりもずっと良い相手が見つかるよ」
咲「私は京ちゃんが良い、京ちゃん以外は欲しくないよ」
京太郎「ダメだな。やっぱ、俺はどうしても咲を女としては見えないみたいだ」
咲「そんな特別は嫌だよ」
京太郎「咲……」
咲「私が抱いてってお願いしたらエッチしてくれる?」
京ちゃんは困った表情を浮かべている。
言いよどんでしまう時点で答えは分かり切ってしまう。
どうしてなのかな。
同じ幼馴染だったお姉ちゃんとはできて、私とはできないのは何で……
ずっと近くにいたからダメなの?
お姉ちゃんみたいに別れて再会していたなら違っていたの?
私とお姉ちゃんが姉妹だからダメだと思っているならそんな思考は邪魔だよ。
幼馴染であることがネックになるならこんな関係はいらない。
倫理観が邪魔をしているなんて言い訳は聞かないよ。
だって、私は知っている。
それなりの女性遍歴を持っていることをお酒の席で京ちゃん自身が漏らしたことを聞いていたから。
京太郎「これまで通り幼馴染の関係じゃダメなのか?」
咲「私はずっと京ちゃんが欲しくて仕方がないと思ってきた。それでも、自分を抑え込んできたんだ。でもね、もう自分を偽ることは辞めにしたの。どうしようもないくらいに愛おしくて、仕方がないよ」
京太郎「……」
咲「都合の良い女で良いから、最初は体だけの関係でも構わないから、どんな形でも良いからお願い、私を一人の女として愛して? ダメかな?」
京太郎「ゴメンな咲、多分、無理だ」
咲「そっか、ふふふ、あは、残念だよ、悲しいし、本当に残念だよ京ちゃん……」
どうして本当に欲しいものは手に入らないんだろう。
一生かかっても使い切れないお金があっても……
世界で知らない人がいないほどの名声を持っていても……
一番欲しかったものには手が届かない。
私は、彼に愛してもらえれば十分なのに。
それがあれば、他の全てはいらないってくらい大好きで、愛しているのに、この想いは彼に伝わらない、実らない。
咲「ねえ、京ちゃん。無理矢理、手に入れた愛なんて虚しいよね」
道理を捻じ曲げてこの手に掴んだ愛は本物だろうか。
少なくとも、私はそうは思わなかった。
きっと、それを手に入れた私自身の認識が偽物だと判断してしまうから。
だから、私は久先輩のように京ちゃんの心の隙を突く真似はできないって考えていたんだ。
京ちゃんの子供は欲しいけれど、本当に求めているのは心だから、私は優希ちゃんのように子供だけでは満足できない。
一時の感情に流されて、刹那的に行為に及んだまこ先輩とも違う。
あの麻雀に勝利して、神代さんの手を振り払ってここに残ったのも似たような理由だよ。
過去へと遡って、そこにいる京ちゃんは、目の前にいる彼と同じ人だって言えるのかな。
確かに、存在は同じかもしれないけれど、それはきっと別人だと私は感じてしまうのだと思う。
私が欲しいのはこの京ちゃんであって、別の京ちゃんではないのだから。
だから――
咲「京ちゃん、麻雀をしようか」
京太郎「は? 突然、何を言い出すんだ?」
咲「私はここに来て驚いたんだ。まさか、マホちゃんが生きているなんて思わなかった。しかも、昔よりもちょっとだけオカルトが強くなっていたのにびっくりしたよ。まさに、これは天の采配だって思っちゃったんだ」
京太郎「どういう意味だ?」
咲「彼女なら私の望みを最高の形で叶えてくれる。本当に、都合が良いことにね。昔、苛め抜いて鍛え上げた成果がこんな風に結びつくなんて、私にも想像できなかったな」
京太郎「咲?」
咲「そうだね。面子は私と京ちゃんを除いたら、お姉ちゃんと桃子ちゃんが良いかな? まあ、二人は数合わせだけれど、二人のどちらかが勝っても京ちゃんの勝ちにしてあげるよ」
京太郎「おい、麻雀をするなんて一言も承諾していないぞ」
咲「ふふ、京ちゃんに拒否権なんてあるわけないよ。拒むなら大切な人がどうなっても良いのかな?」
京太郎「やっぱり、霞が桃子のことを知っていたり、俺のいない間を衝くように咲が現れたのは……」
咲「衣ちゃんの忘れ形見は元気だった? ハギヨシさんは凄い人だけれど、逃げ場のない孤島で幼い子供を守りながら、島民全てを敵に回して戦い続けられるのかな?」
京太郎「咲ッ!!」
まあ、嘘なんだけどね。
霞さんと私が協力関係にあるのは事実だし、それが実際に行えるように人を操る術も用意はしてある。
ブラフは真実に見せなければ意味がないから。
それに、確認を取ろうにもあの島に携帯の電波なんて届かないし、電話も村役場くらいにしかない辺鄙なところだって調べはついてある。
京ちゃんには真実かどうかなんて分かるはずがない。
私から読み取ろうとしても、こちらは本当のことも交ざって口にしているからどこが嘘なのかは分からないんじゃないかな。
しかし、ちょっと悲しいよ京ちゃん。
私が本当に京ちゃんを悲しませるような真似をするわけがないって気づいて欲しかったな。
でも、仕方がないのかもね。
それが、彼を心の底から愛している私と親愛でしかない彼の愛の差なのだろうから。
京太郎「俺が負ければどうなる?」
咲「京ちゃんは私のことも愛するようになるだけだよ。今までの生活が壊れたりはしないから安心してね」
京太郎「他人の意思を捻じ曲げるのは問題だろうが」
咲「京ちゃんが私を愛してくれるなら済む話だよ?」
京太郎「それは……」
咲「だよね。だから、これはどうしようもない。さあ、私たちが幸せになるための麻雀を始めよう。起きてよお姉ちゃん、桃子ちゃん」
これが間違った方法なんて百も承知している。
それでも、正しさなんてもうどうでも良いんだ。
本当に欲しいものを手に入れたいなら、最大限の努力と行える全ての方法試してみるべきなんだよ。
私は勝って京ちゃんを手に入れる。
私だって、幸せになりたいから。
照桃子「「んん?」」
照「咲ッ! お前はっ!!」
咲「ふふ、おかしなお姉ちゃん。何で怒っているの?」
照「えっ、あれ? 何でだっけ? 私が咲に怒る理由があった? あれれ?」
桃子「こいつ私のことが見えているっすよ、京さん! 正真正銘の化物っす!!」
咲「酷いな桃子ちゃん。私と京ちゃんは麻雀を打つんだけれど、二人はどうするの?」
照「今度は負けない」
桃子「……私よりもマホの方が強いから、マホに代わるっす」
咲「良いの?」
桃子「良いっす」
System
・設定された雀力が東横桃子よりも高い夢乃マホがいるため打ち手が変更されました
・東横桃子に累積されたカウンターは夢乃マホへと引き継がれます
咲「ところで、私と京ちゃんの関係って何だったかな?」
桃子「えっと、確か妻? あれ? 照さんが妻で、魔王さんは愛人? 逆っすか? あれ?」
京太郎「咲、二人に何をした?」
咲「ちょっとだけ記憶を弄っただけだよ。まあ、練習を兼ねて試したんだけどね」
京太郎「そんな真似……」
咲「元世界チャンプが記憶に干渉できたくらいなんだから、私にできないはずがないでしょ? それを参考にアレンジを加えたんだからもはや別物って言えるけど」
京太郎「元に戻るのか?」
咲「京ちゃんが勝てたなら戻してあげるよ。でも、負けたら仲良く記憶と認識を弄られよっか。私もマホちゃんにコピーさせて認識を変えてもらうからお揃いだよ。あの人の魔法と違って、一生解けないように入念に行わせてもらうけれど」
京太郎「咲、何でそこまで……」
そんな悲しそうな顔をしないでよ。
大丈夫、そんな感情もすぐに忘れさせてあげるから。
そして、皆で幸せになろうよ京ちゃん。
咲「マホちゃんも起きて」
マホ「ふぁあ? あれ? 咲先輩に、京太郎先輩?」
咲「麻雀をするから卓について」
マホ「分かりました。今度はマホが勝ってみせますからね」
さあ、麻雀を始めようか――
System
・これまでに安価で選ばれたキャラクターの総数は77名、特殊条件を満たし、かつ、須賀京太郎の設定雀力を上回っているため基礎値は77とされます
・設定されている雀力の差により宮永咲に+63、宮永照に+58、夢乃マホに+23の補正値が入ります
・累積されたカウンターの値により、宮永咲に+2、宮永照に+10、夢乃マホに+5、須賀京太郎に+5の補正値が加算されます
・安価選択時のゾロ目の累積数は9により、須賀京太郎に+90の補正値が加算されます
・宮永咲が小鍛治健夜に勝利した結果、宮永咲に+20の補正値が加算されます
・生存判定におけるコンマの下一桁が7の生還により、夢乃マホに+10の補正値が加算されます
・清澄の主要メンバーが安価で選択されているため、宮永咲、須賀京太郎、夢乃マホに+5の補正値が加算されます
・龍門渕の主要メンバーが安価で選択されているため、宮永咲、須賀京太郎、夢乃マホに+5の補正値が加算されます
・永水の主要メンバーが安価で選択されているため、宮永咲と須賀京太郎に+5の補正値が加算されます
・姫松の主要メンバーが安価で選択されているため、宮永咲に+5の補正値が加算されます
・宮守の主要メンバーが安価で選択されているため、宮永咲に+5の補正値が加算されます
・有珠山の主要メンバーが安価で選択されているため、宮永咲と須賀京太郎に+5の補正値が加算されます
・白糸台の主要メンバーが安価で選択されているため、宮永照に+5の補正値が加算されます
・千里山の主要メンバーが安価で選択されているため、宮永照に+5の補正値が加算されます
・新道寺の主要メンバーが安価で選択されているため、宮永照と夢乃マホに+5の補正値が加算されます
・阿知賀のの主要メンバーが安価で選択されているため、宮永咲と宮永照に+5の補正値が加算されます
・コンマ00は100とし、ゾロ目の場合はゾロ目に+100として扱います
・判定は二回行われます
夢乃マホ:+53 ↓1
宮永照:+88 ↓2
須賀京太郎:+115 ↓3
宮永咲:+120 ↓4
咲は幼い頃から一番近くにいる女の子だった。
昔から鈍臭くて、何をやらせても上手く行かないポンコツ少女。
家が近所だったから、最初は親が友人関係だからと紹介されて親しくなったんだ。
小学校に上がるまでは咲や照、あの子も一緒に四人で遊んだ記憶が一杯ある。
だけど、小学生からは少しの道を挟んで校区が違ったから別々の学校に通うことになった。
だから、咲と照が仲違いした理由やもう一人の幼馴染に起きた不幸についても詳しいことは知らなかった。
多分、大人は知っていたんだろうけれど、子供に教えるような話しではなかったんだろうな。
新しい環境に放り込まれても、家が近いから顔は会わせることは多かったし、咲との仲は疎遠になることもなかった。
まあ、あいつは昔からちょっとだけ人見知りの気があったから、俺が連れ回して仲間の内に入れて遊んでいたからかもしれない。
高学年になる頃には異性っていうものを意識し始めるからか、ちょっと周りが囃し立ててくるのが煩わしくて少しだけ距離が空いていた時期もある。
その時に、決定的な咲と照の仲違いが起きたんだ。
中学生になり、同じ学校の生徒として再会した咲は前よりも下を向いていたり、自信のない表情を浮かべることが多かった。
俺はそれが気になって、あいつを弄ったりして元気づけようとした。
友人の誠なんかには揶揄われたりすることもあったけれど、気にならなかった。
多分、俺にとって咲は大切な幼馴染で、異性というよりも既に家族や妹のような存在になっていたからだろう。
思春期真っ盛りだから、俺も色恋に芽生え始めて高校に入ってから気になる女の子を追って麻雀を始めた。
楽しい部活にメンバー合わせとして幼馴染の咲を誘ったのは運命だったのだろう。
変わっていく咲を見て、俺は誇らしかった。
あのポンコツな可愛い少女が成長していく姿が好ましく思っていた。
多分、少しダメな子の成長を見守り楽しむ親や教師の心情に近かったのかもしれない。
咲はいつだって俺の側にいた。
大学へ進学しても、同じ都市に住まう住人として、親しい友人として良く顔を合わせた。
遊びに誘って出かけることも何度もあった。
あいつに相談したことは数知れず、頼りがいは微妙なところだったけれど気兼ねなく話せるから何でも言えた。
軽口を叩いたって、ポンポン返してくるし、互いのことを良くしていたから遠慮することはほとんどない。
麻雀のプロとして活躍する咲は自慢の幼馴染だった。
その関係はこれからも変わらないものだと俺は信じていたんだ。
咲が俺に好意を寄せていたことに気づいていた。
鈍いと言われる流石の俺でも衣と交際を始めてから、咲の荒れっぷりを見ていれば何となく察してしまう。
それでも、俺は咲を異性としては見ることができないし、俺たちの関係が壊れることを望まなかった。
それは咲も一緒だったのだろう。
優希と違って、あいつに告白されたことは一度もない。
既に心の折り合いをつけて、その想いは忘れてしまったのだと思っていた。
だけど、違ったんだな……
なあ、やっぱり咲は凄い奴だよ。
照やマホが俺への援護をしてくれなければ敵わない。
オカルトの力を使って、俺じゃない借り物の力をひっぱて来なければまともに打ちあえない。
場を鎮ませるようにもう一つの能力を行使しなければ、一方的な展開になっていただろう。
実質的に三対一の状況で、それでも勝てるか分からないんだからな。
だけど、負けるわけにはいかないんだ。
俺は、間違っているお前に勝ってみせるさ――
夢乃マホ:+53+11+100 = 164 +53 ↓1
宮永照:+88+83 = 171 +88 ↓2
須賀京太郎:+115+100+100 = 315 +115 ↓3
宮永咲:+120+01 = 121 +120 ↓4
どうして、何で届かないの。
私はあの小鍛治健夜にも勝って、世界で一番強い雀士になったはずなのに。
神様と触れて、新しい扉が開いて、超常の力さえも使えるようになったんだよ。
それなのに、京ちゃんに競り負けてる。
こんなのおかしいよ。
彼を守っていた神代さんはもういないはず。
それでも、彼を勝たせようとするのはどうしてなの……
まさか、衣ちゃん? それとも久先輩? 私の邪魔をしているのはあなたたたち何ですか?
咲「私は負けない、勝って京ちゃんを私のものにするんだからぁああ!」
京太郎「咲、お前は間違ってる! 人の想いを踏みにじって無理矢理変えようとするのはいけないことだッ!!」
咲「そう言うなら、私を愛してよ!」
私の愛に牌は応えてくれる。
山にある牌も王牌も、槓材の位置が手に取るように把握できる。
捲り上げるように親で続ける和了の連続。
誰であっても私の邪魔をするな。
ようやく、京ちゃんの背中が見えた。
これで私の――
咲「槓ッ! これで嶺上――」
京太郎「その牌に触れる必要はねえ。ゆみさんに教えてもらった搶槓、これで終局だぁああ!!」
咲「嘘、……えっ? 私が負けた? 嘘……」
京太郎「俺の勝ちだ咲ィイ!」
負けた、敗けた、私が敗北した。
あは、涙が溢れてくる。
どうして、何で、ただ愛して欲しいだけなのに、そんな願いは叶わないの?
嫌だ、嫌だよ、京ちゃんに好いてもらえないのなんて嫌だ。
照「咲……」
咲「何その目? 憐れまないでよ、同情なんかしないでよ……幸せなお姉ちゃんなんかにそんな目で見られたら惨めじゃない!」
止めてよ、ヤメテよ……お前なんかに私の気持ちは分からない。
私の想いを知っていたくせに、私を怖がってお父さんやお母さんに連絡も入れられなかったのに!
両親からでもなく、姉からでもなく、京ちゃんからでもなく、人伝に結婚を伝えられた私の気持ちが分かるか!?
京ちゃんには自分で伝えるって言っておきながら、言わなかったって私は知っているよ。
許せるわけがない、ふざけるな。
照「私は……」
咲「言い訳なんか聞きたくない!」
照「……」
咲「あは、ああもういいや。京ちゃんが手に入らないって言うなら、生きている意味もない。お前なんかに同情されながら生きるなんて耐えられない。バイバイ京ちゃん――」
ポケットから取り出したナイフ。
切味の優れた冷たい刃。
私は確実に死ぬために、頸動脈を深く抉り裂くように刃物を引いた――
Result
夢乃マホ:164+53+86 = 303
宮永照:171+88+61 = 320
須賀京太郎:315+115+90 = 520
宮永咲:121+120+100+100 = 441
System
・須賀京太郎は最後の重要な選択を選ぶ機会を得ました
・石戸霞の提案を承諾し、ハギヨシを赦したことで第三の選択肢が現れました
・須賀京太郎に蓄積されているカウンターの値は5のため、安価により須賀京太郎の行動が決まります
①:止めに入る
②:間に合わない
③:受け入れる
↓1から先に5票集まったもの
首筋に熱い液体を感じる。
だけれど、訪れるはずだった痛みは感じない。
咲「死なせてよ……もう、私に生きる理由なんてないんだよ?」
京太郎「そんな真似できるわけないだろうがッ!」
咲「だって、だって……」
刃物を握り込んだ京ちゃんの手から血がどんどん流れてくる。
痛みを感じているはずなのに、彼はそんなおくびを見せないで私から刃物を取り上げた。
そして、私を抱きしめてくれている。
温かい、京ちゃんの香りに包まれてる。
暴れようにも力強くて、身動きができない。
うんん、彼の腕の中にいるだけで少しだけ幸せを感じてしまう自分は愚かだ。
京ちゃんは私を愛してくれているからじゃないのに……
京太郎「なあ、咲。お前、俺に愛されないと死ぬのかよ?」
咲「ごめんね。でも、そうだよ。私は京ちゃんが手に入らないなら、生きたくない」
京太郎「バカだろう……」
咲「そうだね……」
京太郎「はあ、分かった。これも身から出た錆なんだろうな。悪いな照? 和に事情は説明しといてくれ」
照「分かった」
京太郎「あいつなら上手い具合に子供へも説明してくるだろうからな」
照「そうだね。私じゃ、あんまり上手く説くことができないだろうし……」
京太郎「桃子も龍門渕関係には頼んだわ」
桃子「了解っす」
咲「京ちゃん?」
京太郎「良いか、これはお前に望まれたからじゃない。俺が、俺自身の意思でそう決めたんだ。俺がお前を愛せるように俺の認識や記憶を弄っていい」
咲「良いの?」
京太郎「俺が良いって言ってるんだ」
咲「京ちゃん、ありがとう。大好きだよ」
嬉しくて涙が出る。
バカな私の愚かな初恋が実ったからだ。
きっとこれは間違った方法で、正しいことではないだろう。
それでも、京ちゃんが私に向けたそれは、間違いなく一種の愛だったから。
―Fin―
―おまけ―
桃子「はあ、釈然としないっす」
マホ「マホもちょっと認めがたいです」
照「私は丸く収まってくれて良かったけど?」
桃子「二人は目覚めたら愛し合っている状態とか、何なんっすか?」
マホ「咲先輩、無理矢理に勝っちを拾うとか……」
桃子「私たちも押して、押して、押し倒せば何とかなるっすかね?」
マホ「可能性はありですよね」
桃子マホ「「協力するっす(しましょう)」」
照「私の目の前で言うこと?」
桃子「ポンコツが二名になったわけですから、むしろチャンス拡大じゃないっすか?」
マホ「勝算ありですよね。それに、マホは今回のことで咲先輩の能力を体験し、見て、学べ、試すこともできたのでチャンスは一杯です」
照「……」
一応これにて本編は終了となりました。
スレの残りは質問などに応えていく感じとなります。
聞きたいプロットの部分や、疑問点などがあれば書いてもらえれば答えていきます!
ふー、ちょっと疲れたじぇ……
モモはいいが、マホはなあ、うん。そのやり方は…霞さんの時よか酷くねえか?
とりあえずSystemでシークレットだった部分が知りたい
まさか洗脳ENDとは…
乙
咲さんも照やまこ、和に負けじと孕むのか気になります!
後は由暉子と京太郎は今後どうなるかとか
まぁ上下関係ですし、赤ちゃんは羨ましいようですが、結婚には憧れているので京太郎には目が無いかもしれませんけれど
咲の行いを受け入れるだったか……
みんなハーレムだと思って入れたのかな?
>>310や今までにちらっと語られていた「あの子」ってでてませんよね…?
霞さんはもう子供もできない体にされたままで京ちゃんとあれでお別れかー
はっちゃんは潰される組織のトップにいるから今後は真っ暗かなあ
あんまり術重ねると精神崩壊しそうだけど、できれば幸せだと思える人数が増えるといいな。
しかしここのコンマ神は本物のエンターテイナーだったぜ。ストーリー重めだったけど面白かった。
あ、ちょっと思ったのは臨海コンプしてたら補正どうなってたのかなってことと出てこなかったキャラの現状かな。
和の両親は家族から犯罪者出しちゃったから弁護士とか検事とか続けられなくなったのかなって思うし、メグは今でもラーメン大好きなのかとか、宮永両親はいまどうなってるのかあんまり触れられてないし。
もう一つ聞いていいなら特殊コンマ出なかった場合どうなってたのかとか、特殊コンマの内訳とか、システム面が気になります
あ、エンディングその後と言うかグランドフィナーレも書いてくれるとうれしい。
小蒔救済が見たいんじゃ~
>>347
マホは一応清澄関係者、後は分かるね?
>>348
シークレット部分は以下のような割り振りでした
咲:選択 健夜:結婚 霞:絶望 由暉子:希望
京太郎編に置いてはルートによって意味をなさなくなっておりまして、照と桃子はあまり考えていなかったり
京太郎:復讐 咲:執着
>>349
自発的に選んでいるので個人的には洗脳Endとは思っていなかったりします。
ちなみに、真なる洗脳ENDは咲さんの勝利か、霞さんの選択で拒否を選んでいると……
>>351, >>352
もちろん孕みます!!
実は描写がする気がないだけでこれはハーレムルートだったりします。
幼馴染という絶対の聖域を捻じ曲げてしまった京ちゃんには求められたらもはや強く拒む道は……
由暉子はMだと思うのは私だけでしょうか?
このルートの選択により、京ちゃんと事実婚的な道は開けたりしています
>>353
あの子とは通称みなもちゃんのことです。
霞さんにも実は救いの道が残されたのがこのルートでした。
憩ちゃんなら大丈夫、再生医療もなんのそのって感じですから!
霧島神境は潰れないですが、国内のオカルト勢力的には地位の低下と龍門渕による間接的な支配の憂き目に合う予定です。
>>354
明日もあるので、詳しい所は明日の暇な時間にポチポチと書いていきますね
>>355->>357
エンディング後の話しも頭にはあるのでちょっと書きたい所です
龍門渕の問題はハギヨシさんを赦した時点で目処が立っていたりします。
姫様の二順目世界は別作として新たに作るのもありかなと思いつつも、咲さんの選択によるIFの形式でちょっと書こうかなとも考えています
本日はこれまでということで、ありがとうございました。
無事にスレの完結を迎えれて良かったです。
それではまた明日~
>>348
System部分のその他不明点の詳細はまた明日ということで~
過去へ遡ることを前提にしたシークレット部分だったりします
京ちゃん編に移る前に誰かがコンマ77を出してたら嫁さんが変わってたのかな
六女仙で出してたらどうなってたのか気になる
枕営業で夢を汚されたってこともあるけど、ユキは京太郎が事務的にするからすねたのかね
ヒッサは時々まこに取り憑いて関係を持とうといてもいい気がする。
そしてそれを利用して久のふりをして関係を持とうとするまこがいてもいい気がする。
優希も「二人目が欲しいじぇ」とか言って迫ればもう拒まれないのか。
しかし本当にドロドロした関係だな清澄。
由暉子は道具として扱われることに意義を見出しちゃったりしてたのかな。恋愛ではないけど何度も体を重ねるうちにどっかぶっ飛んだ結論に至ってそうで。
乙です
1スレ目153でまこと迷った末に衣で44だしちゃったのでもしもまこだったらどういう流れになっていたか気になる
>>363, >>368
コンマ77を出していた場合は嫁さんは変わっていました。
選ばれた人によっては咲さんの取る結末とかも色々と変わる予定でした。
コンマ44は京ちゃんの前妻的なポジションに納まるという設定でしたので、まこは何らかの理由で死んでいたでしょうね。
その場合、衣との関係もないので京ちゃんが龍門渕と関わるルートは消滅して、彼の周辺はより平穏なものになっていたと思われます。
>>366, >>367
優希の場合は遺伝子上の子供は既にいるので、押せば受け入れてしまうかと
ユキのゾロ目はかなり想定外やったんや!? 突飛な思考になっているのは否定できませんね……
>>348, >>354
一例ですが衣で説明すると
・ゾロ目により天江衣は――となり、――――が確定しました
二順目を想定しての記述となっております。一巡目の世界を覚えているか覚えていないかとかですね……
・安価先が天江衣で下一桁が4のため、天江衣は――しました
・安価先が天江衣でのソロ目により須賀京太郎は――――――が確定しました
こちらは作中でも記述しましたが、出産と龍門渕家の血筋が入ったりします。
臨海をコンプした場合の補正値は咲さんに+5が入りました。
補正値は原作における関わり合い(対戦相手など)を準拠に増加していた感じです。
出てこなかったキャラはまだ結構いましたからね。コンマ次第でも状況は変わっていましたが……
未春:実業団にて麻雀を続けています
純代:デジタル派のプロ設定だったりしますよー
文堂:こちらは実業団からプロへの移籍組だったり
風越は名門ということもあってプロや実業団に行った設定でした~
華菜ちゃんの妹である三つ子は高校一年生で風越に通っています。
既に華菜を超えているとの評判もあったりして、作中で触れた風越が今年度インハイを制したの三つ子のおかげ!
トシさんの所で微妙に触れた期待のとは彼女たちのことだったりします
コーチ:池田が三人に増えたことで苦労しつつも風越のコーチを続けています
むっきー:無難に就職して、無難に結婚済みです
メグ:ラーメン好きが転じて日本に帰化して活動している世界ランカーでーす
靖子:衣の一件もあり龍門渕のスパイとして麻雀協会と関わっていました
ムロ:マホのこともあり京太郎の部下をやっています
ミカ:すばらの秘書を務めています
明星&湧:六仙女として働いています
大沼プロ:プロ麻雀協会の会長を務めています
南浦プロ:悠々自適な老後生活 or 草葉の陰からかはあまり決めていません
やえ:王者は子供に人気のあるプロ雀士だったり
阿知賀麻雀クラブの面々はインハイや国麻に出場したけれどマホにボコボコにやられた経験がある設定だったりします。
そのため、麻雀を辞めて普通に就職したり、地元で生活していたりする感じです
シノハユ勢はすこやんが心を圧し折り続けたので原作で登場していない人たちは麻雀を辞めている感じです。
シノハユが選ばれることはまずないかなと考えていたので、綿密に設定はほとんどしていません。
慕は裏と戦い続ける麻雀戦士だったりとかは考えていましたけど、閑無は会社を立ち上げて社長をしている設定でした。龍門渕に潰されるか、傘下に組み込まれるかはコンマ次第でしたが
主要な人はこれくらいでしょうか?
和の両親は肩身の狭い思いはしていますね……逮捕はされたけど不起訴ですから弁護士は続けています
検事の方は辞めてしまいましたが、京太郎に対する申しわけなさでいっぱいだったりしますね。孫には良く会いに来ていたりします
宮永夫妻は娘たちが仕送りをしてくれたりとお金には全く困っていないし、来春には初孫も生まれるとあってウキウキしています
姉妹の不仲にはお手上げで、干渉しないことを決めていたり、ポンコツに頭を悩ませていたりします
特殊コンマ:42 44 77 X4 X7 ゾロ目の六種類です
42:龍門渕か永水の犯罪エスケープにされる運命でした
44:京ちゃんの前妻、死亡確定です
77:京ちゃんの妻、44が出なかった場合は初婚でしたね
X4:不幸のコンマ
X7:作中に登場することになり、個人の状況は割と幸せな感じです
ゾロ目:良くも悪くも京太郎と関係を持ちます。性的とは決まっていませんが
姫様ところたんでゾロ目が出なければ京ちゃんが二つの核心に触れることはなかったはずなんですけどね……ピンポイントにコンマ神が弄んでくれたおかげでプロットはがががが
全てはコンマが悪い!
ちなみにですが、割と平和なルートに入る条件はこの二人で77と44を初期の内に出すことでした。少なくとも77が出ていれば片方で問題は何も起きないことになっていました
ゾロ目が一度も出なければ、清澄でドロドロしているだけの平和な日常だったはずなんですけどね……
和は照と同じ特別枠で場合によっては綺麗な和で京ちゃんと円満な家庭を結んでいるルートもあったりしました
その他に質問など、詳しくはまた夜にでも~
スーパーメンヘラヒッサはフォースと一体化したのかただの犬死だったのか
あとHの所描写してください、大事な所なんです
ふと思ったんだが。
咲さんを引き取ると、もしかして末原さんもついてくるのかな?
全スレの冒頭のおまけを見てると、あれはもう咲さんはあの人いないと駄目だろ…。
……いや、でも末原さんは京ちゃんとはフラグないしなー
―IF 時を駆けた咲①―
咲「――私は過去へと遡るよ」
「人の子の選択を私は尊びましょう」
女神からまばゆい光が放たれて、私を包んでいく。
それは優しく、痛みを感じることもなく、体が光の中に溶けていき自分という存在そのものが曖昧になってくる。
意識そのものが薄弱となり、唐突に途絶えた。
「さき、さき!」
誰かが私の名前を呼ぶ声に目が覚める。
開いた瞼の先には私の顔を覗き見る小さく幼い顔があった。
「あっ、おきた、さき、えへへ」
「こら照、起こしちゃダメでしょ!」
「なんで?」
お姉ちゃん!?
写真でしか見たことがないくらいに幼く小さな姿に驚いてしまった。
どういうことかと体を動かそうとしてみたら、手足の感覚がとても短くなっていることに気づいてしまった。
自然と漏れた疑問の言葉も、音にならならい。
わけが分からずに混乱する。
「ああ、もうぐずついちゃったじゃない」
てる「わたしわるくないもん」ウウ
過去に遡れるとは聞いていたけれど、赤ん坊にまで戻るなんて考慮してないよ。
そんな叫びに若い頃のお母さんが反応して、あやしてくれ始めた。
泣いた私が悪いのかな。
でも、こんな予想外の状況に放り込まれて泣いちゃっても仕方ないよね……
お母さんの温もりに包まれたことで、本当に昔に戻れたのだと実感した。
それからの毎日は大変だった。
精神は肉体に引きずられるのか、感情を上手く抑えられない。
お腹が空いたりすると直ぐに泣いてしまうし、お姉ちゃんが可愛がりたいのかベタベタ触れてくるのが鬱陶しいと思うと耐えられない。
一番困ったことはトイレだよ。
まさか、老後の話しでもないのに下のお世話をされるのは結構辛い。
私は二十八年分の記憶を保持しているのだから尚更ね。
早く京ちゃんに会いたいなと思いつつも、赤ん坊が自由に出歩けるはずもない。
ご近所なんだから遊びに来てくれても良いのにと思ってしまう。
そんな儘ならない日々を過ごしていく。
ある日、カレンダーを見る機会があり、今が一月なのだと判明した。
京ちゃんの誕生日って二月だよ。
つまり、まだ彼は生まれてさえもいなかった。
赤ん坊としてすることはなく、眠かったら寝て、お腹が空いたら食べて、どんなお世話もしてるれる。
あれ? 慣れてくるとこの生活も悪くないって思い始めてしまった。
暇な時間には昔の、否、今からで数えれば未来の記憶を私は思い出すように努めた。
情報を整理してみると、私と京ちゃんが出会ったのってもう少し年齢が進んでからだ。
確か、三才か、四才だったかな。
もしかして、これから数年も会えないのだろうか?
それに気づいてしまった私は悲しくて盛大な夜泣きをしてしまった。
子供の成長は早いと人は言う。
大人の私もそう考えていたけれど、改めて子供になってみると成長するのは遅いと感じてしまう。
これは、きっと体感時間の差異なのかもしれない。
思考はいつになくクリアーで、聞いた話しから何からまでポンポンと覚えてしまう。
子供の学習能力、特に赤ん坊のそれは凄いなって思ってしまった。
これは強くてニューゲームだよ。
もしかしたら、脱ポンコツが叶うかもしれない。
未来の事象を知り得る私は凄まじいアドバンテージを持っている。
育たなかった胸だって、小さな頃から豊胸に良い運動や食事に心がければもしかしたら……
超完璧美少女が誕生しちゃうのかな?
京ちゃんに相応しい女の子になれるよう頑張らないと!!
それからの日々は楽しくて仕方がなかった。
毎日が、新しい発見の連続で、確かな成長を実感していく。
京ちゃんに会えるその日に向けて私は努力を続けた。
元気な姿をしている親戚のみなもちゃんを見たときは涙が零れた。
過去をやり直せるってことは、あの火事も未然に防げるのだと気づいた。
お姉ちゃんが麻雀牌を遊び道具にしているのを見て、姉妹喧嘩もしないで済むと希望を見た。
きっと、あの喧嘩がなければお姉ちゃんと京ちゃんが結婚する未来もないのかもしれない。
そして、ついに運命の日が訪れた。
漸く京ちゃんに会える。
お母さんに連れられて歩いていく先には、大きな家があった。
塀を越えた先でちょっと違和感を感じた。
ああ、この頃はまだカピはいないからプールはないのかと感慨深く思ってしまう。
開かれた玄関を潜り、廊下を歩いていく。
そして、案内された部屋の中には――
「その子が咲ちゃん?」
「ええ、そっちの子が京太郎くんね? そして、隣にいるのが噂の……」
「そうなのよ。まあ、私は早いと思ったんだけれど、お義父さんが必死に頭を下げて頼んでくるものだから、私も主人も結局折れてしまったわ。まあ、良い所の御嬢さんだし、お母さんも美しい人だったから京太郎は将来幸せなのかもしれないわね」
「お上手ですね。京太郎くんもお母さんやお父さんに似て格好良くなるんだと思いますよ」
三人のお母さんたちの会話なんて耳に入って来ず、私はその子から目が離せなかった。
だって京ちゃんの隣にいるその子は……
「おれはすがきょうたろうだ、さきだっけ? よろしくな。となりにいるこいつは」
「初めまして、神代小蒔です。京太郎様の許嫁です」
朗らかに笑っているその子は、多分、否、間違いなく私と同じだと確信する。
それを示すかのように近づいて来た彼女は耳打ちしてきた。
小蒔「宮永さん、お久しぶりです。よろしくお願いしますね」
咲「なっ、なっ、ふぁあ!?」
京太郎「なにおどろいてんだ? へんなやつ」
私の二度目の人生は、最初から暗雲が立ち込めるスタートだった。
スタート地点に立った時点で、ほとんど相手はゴールしかけているような状態だったのだから。
この世界は残酷だ。
神様が自分の都合が良いように色々と弄っていたのだから。
実は咲さんが過去へと遡っているとこんな落ちが待ち構えていました。
>>372
Hな文才が皆無やから無理なんやで……
書けるなら書いてみたいんですけどね。
>>377
京ちゃんと末原さんは普通に面識がありますが、フラグは立っていませんからね……
ちなみにゾロ目でもないのに桃子にフラグが立っていたのは龍門渕ルートに入った結果だったりしました。
そういや神様コマキが戻れないとは誰も言ってないもんな。
戻らないを選んだのは英断だったんだな。
ところで見返してみたら揺杏、ネリー、姫子、トシさんがニアピン賞(コンマ76か78)だったことに気が付いた。この京太郎どんだけおもちに縁がないのか。それとも霞さんの術が凄いのか。
ハギヨシが戻ったことで透華に変化はあるのかな
霞さんがやったことて、姫さまの暴走が起きなかった場合だと
・京ちゃんや姫さま他本家の人員や六女仙女を拘束
・姫さまの前で京ちゃんを動けなくして初体験し、そこから姫さまを認識できなくなるように京ちゃんの精神の一部を壊す
までで…暴走が起きなかった場合はどうなっていたんだろうか
霞さんが京ちゃんを手に入れて本家の位置に、そして伴侶である京ちゃんを当主にして…
本家筋は生涯軟禁して終わり?
………認識不可の呪いせずに京ちゃんに一服盛るなりして無理やり関係持つとかならまだ…
基本無敵でも経済という魔物には勝てなかったのか閑無さん。
そういや荒川患者で百鬼藍子と霜崎絃はまだ出てなかったっけ。
44とか77とか、一部の人は原作時点で既に高翌齢だと思うんだけど、その場合はどうなってたのかを知りたい
阿知賀編でちょっとだけ出てきた学校のキャラとか選んでたらどんなふうに書いていたのか気になる。
劔谷高校とか結構お嬢様学校らしいしちょっと気になる
もしこのコンマが77だったら嫁さん古塚梢バージョンでif書いてくれるとうれしい
過去に戻った咲さんは神姫様相手か
霞さんがジャギみたいに唆して魔王様になりそう
>>389
やっぱりおもち(姫様)のことを忘れてしまったことが……
>>390
ハギヨシさんを赦さないを選んでいると、咲さんとの麻雀勝負の結果によって京ちゃんは透華に殺されてました。
殺されない場合は、京ちゃんが透華を亡き者にして龍門渕を完全に支配するendなんですけどね……
子供たちからも怖がられたり、人への不信感が残ったりとあまり幸せじゃない感じの終わりにする予定でした。
>>391
姫様でゾロ目が出ていない場合は、恋が理由ではありませんが何らかの理由で暴走する予定でした
その場合でも霞さんはやっぱりクーデターを起こしているんですけどね。
こちらが本初のプロットで、まさかゾロ目が出るとはあんまり思っていなかったんですよね……想定が甘かっただけなんですけど
姫様で44の場合は霞さんは闇落ちしないけど、京ちゃんが神境側に立って神に乗っ取られた姫様を救うために闇落ちな感じにしたと思います。
>>392
あっ! その二人についても設定は決めてあったんですけど、書くの忘れていましたね
百鬼さんはもこのマネージャーを勤めています。
霜崎さんはプロ雀士で打倒ハオを目標に麻将で彼女を倒そうと挑んでは負け続けています。
>>393
44と77はそうそう出ないと高を括っていたので想定してなかったりします。
もしもトシさんで出ていたら、京ちゃんは独身ルートだった可能性が高かったと思います。
NTRはちょっぴり苦手なので人妻キャラでコンマが出たりしても、多分、独身ルートだったと思いますね……
同じ高齢でも同性の大沼プロや南浦プロだと京ちゃんはプロ雀士ルートに進んでいました。
>>394
劔谷高校の面々も設定だけはありました。
お金持ち設定でしたから、通常コンマでも龍門渕の毒牙によってお金持ちではなくなっていたりします。
コンマ7やゾロ目だと傘下に入っている感じで不幸にはならない予定でしたけれど……安価で選ばれることはないんだろうなと
ちなみに菫さんもコンマが7じゃなければ、末原さんよりはマシだけれど貧乏一直線で照に拾われるパターンだったり
梢さんは菫さんと同格のお金持ちらしいけれど、あんまりキャラが分からないですよね。
つまり、新たなSS設定のキャラ付け開拓のチャンス!?
……でも、ごめんなさい。そのパターンで誰かを書く気はなかったりします
>>395
昨夜に投下したIF編では違いますが、もしも霞さんが麻雀で勝利していたなら、新たな人生ではベリーハードモードだったりします
姫子で77が出てたら哩さんはどうなってたんだろう
姫様とかいうデバガメ系霊体ヒロイン
思えば初めから咲さんの家にいた人は選択すらできないから結婚できないな、コンマどころかシステムにすら見捨てられるアラフィフ
>昨夜に投下したIF編では違いますが、もしも霞さんが麻雀で勝利していたなら、
>新たな人生ではベリーハードモードだったりします
ええとこれは霞さんが勝利して過去に戻ったバージョンでも神姫さまがIf咲ちゃんの時のように立ちはだかるので
霞さんはIf咲ちゃん並かそれ以上の難易度人生になるってことでしょうか?
……姫さま、意外に黒いな。
いや、それが普通なんだけどやり直す時はもっとみんな幸せにハーレムなんて方向で行くかと考えてました
普通に純粋なだけでしょ
黒くないな
>>399
俺は咲ちゃんがベリーハードモードの人生になるんだと解釈したけど。
だって霞さんが過去に戻ったら京太郎の隣にいるのは小蒔と霞(もしかしたら他にも)になるわけだから、咲ちゃんは何のアドバンテージもない状況でその二人よりも京ちゃんに好かれなきゃならないわけだ。
3カ月ちょっと年上の妹にしか見られない可能性が高まる
>>403
咲ちゃん的に京ちゃんの横にいいなづけの姫さまって時点ですでにベリーハードだと思うんだ
それ以上だといわゆるルナティックモードになるから違うと信じたいww
しかし神姫さまは勝者分と姫さま分で2つ世界の分岐点作れば遡る人からの視点では
わりと問題無いと思うんだが、出来なかったのか?
会長の大沼プロは今回の騒動をどう思ってるのでしょうか…
>>397
姫子もしくは哩のどちらかで77が出た場合は、相手のコンマ判定次第で……
仲良く共有、二人の仲は壊滅などが起きていました。
>>398
アラフィフは麻雀で勝利して、過去に行っても結婚できない! だって中身が変化していないもの……
京ちゃん編で安価のコンマ下一桁が7ならワンチャンあったかもしれません。
今回は可能性は残りましたが、そんな高くないのです
>>399->>402
姫様も元は人の子ですからー
霞さんは生まれた瞬間からある意味詰んでいる状態のスタートですからね。
禍根を断つために消さないのは優しさなのか、霞さんに対する罰なのかはなんともかんとも……
>>403->>404
京ちゃんを独占すると言う意味では既にベリーハードモードな咲さん
咲さんが過去に戻れていない咲ちゃんだったなら、京ちゃんと結ばれる可能性は最初からおっしゃる通りルナティックモード……
ちなみに咲さん編での麻雀勝負でユキが勝っていたら、当初のプロットでは過去に遡らずに平穏に終わる予定でした。
爽がコンマで4を出してしまい、その際に書いたSystem上で隠されていた部分は後悔です。
ですから、あの時点で誰が勝っても、咲さん以外は過去に遡る結末を迎えていました。
>>405
姫様が観測者ですから、作れる世界は一つだけだったりします。
しかし、隠し設定としては神になった姫様なら世界を何度もやり直すことも可能だったりします……そのための生贄やなんらかの代償は必要ですけど……
>>406
まさか自分が会長在職時に面倒なことが起きるとは思っていなかったでしょう。
将来性のあった雀士の雛も犠牲になっているので、日本のプロ麻雀界を束ねる者としては憂慮する事態だったりします。
裏とは積極的な関わりをしていないけれど、大沼プロはあまりそちらに否定的な見解を持っていなかったりします。
麻雀黎明期に打ちたてられた数々の伝説を見て、実際に体験してきた人であったりする感じですから
個人的に気になるのは、照 衣 透華 姫様のコンマ42、衣 透華や松実玄・宥のように姉妹で片方42 もう片方が44か77だった場合
衣子供の存在が分かったら冷やし透華も少しは融解するかな
一応一周目でトウルーエンドいったぽいからもう裏設定暴露やIFしかやらないのかな。
2周めでもいいんやで…
そういやちゃちゃのんってどうなったんだろう
失踪と言うか消息不明なわけだけど、霧島行きなのか東京湾海水呑み放題コースなのかそれとも顔と戸籍を変えて生きてるのかどっかの誰かに飼われてるって可能性もあるな
>>408
緩いプロットで始めていたので、個別に詳しく設定していなかったりする所も多々あります。
闇を抱える永水や龍門渕で42を出せば、悲惨な末路を考えていたりはしました。
衣の場合で言えば、結末のように子供が生きているなんてこともなく、愛のある子供を孕むことも……
血縁関係での44と77ならば義理の家族である関係が拗れていく感じになったと思います。
こう、寂しさを埋め合わせるように、もしくは忍んでいた恋慕がみたいな展開でしょうか?
場合によっては愛憎入り混じったドロドロな展開も……
>>409
ハギヨシの存在もあるので絶対零度からは抜け出すかと
>>411-413
二週目は残念ながら無理ですね。
ネタ的には妖怪の家系である宮守とかを考えたこともありましたけど……
日本の裏で暗闘する二つの存在。
古来より、護国を担い邪を祓う役割を持つ霧島神境と闇の住人たちの争い。
一般人として過ごしてきた須賀京太郎はある日、常識の裏側と接触する。
その日から、彼の日常は崩れ、全ての認識が覆る……
オカルト持ちは妖怪子にしたり、憧ちゃんが神社の娘として活躍したり、清澄麻雀部がオカルト探索部に変わっていたりとか……没にしたネタなんですけどね
>>414
ちゃちゃのんについてはどう転んでも良いよう曖昧に考えていました。
生きている場合は、龍門渕のスパイだった、証人として龍門渕の保護下に、はたまた変態の愛妾、真なる黒幕など……
ちなみに、ちゃちゃのんと同じ立場になる可能性があったのははやりだったりします。
どちらかで先に下一桁4が出たらそうしようかなとプロットで決めておりました。
―IF 時を駆けた咲②―
圧倒的な戦力差、始めから勝負にならない理不尽なまでの差異。
それでも私は諦めない。
既に大きなおもちに執着する片鱗を、幼い京ちゃんが示していたって、敗けたくないよ……
うう、約束されたビジョンを持つ小蒔ちゃんに対して、儚い希望を胸に抱くしかできない私。
互いのお母さんを見比べただけで分かってしまう、絶壁の未来。
果たして、食生活などの改善でどれだけの成果が出るだろうか。
少なくとも、揉んで掴めるくらいにも育ってくれるかすら不安を覚えてしまう。
だって、未来の私はパインじゃなくてペタンだったんだから。
小蒔「どうかされましたか咲ちゃん?」
咲「くっ、思うんだけど許嫁なんてずるくないかな?」
小蒔「獅子搏兎と申しますし、可能なもの全てを使わずに得られるほど簡単ではないと思っています」
咲「た、確かに、それはそうかもしれないけれど……」
戦は拙速を尊ぶもの。
それは恋にも当てはまるものかもしれない。
だからって、神のお告げという名目で生まれた瞬間から京ちゃん確保に動き出すとかどうなの?
権力までフル活用して囲い込みに動かれたら、どうやってつけ込めばいいのかな。
霧島神境を統べる神代家のお姫様って日本有数のお嬢様なわけで、対する私は単なる一般人の娘。
現在、持っているお金やコネ、権力は俄然彼女に軍配が上がってしまう。
それに麻雀の実力だって伯仲しいて、どちらが上なのかは比べ難い。
前世で魔王と呼ばれた私と神様な彼女。
照「もっとちょうだい!」パリパリ
春「うん、こくとうさいこう」ポリポリ
巴「あの、そんなに食べると夕ごはんが、またおこられるかもしれないよ?」オロオロ
照春「「だいじょうぶ、だいじょうぶ」」
お姉ちゃんはお菓子に懐柔されて、既に手なずけられているようなものだし。
まあ、巴さんがポンコツの面倒をみてくれているから、昔よりも京ちゃんとお姉ちゃんの接触が少ないのは私にとっても朗報かもしれないけどさ。
ただ、実の妹よりも春ちゃんの方を可愛がる姉ってどうなのかな?
初美「ふっ、六仙女ひっとうになる予定のわたしに勝てるわけないのですよー」
京太郎「くそっ、もういっかい、もういっかいだ」
初美「はは、ちびの京太郎が一番大きい私に勝つなんてむりむりー」
京太郎「この、まてー!」
アクティブな京ちゃんと初美さんが体を動かして遊んでいる。
遊びと言いながら、やっていることは完全に訓練だよね。
体捌きや、武器とかの使い方まで遊びを通して教えているみたい。
麻雀をすることでオカルトについても馴れさせ始めてもいた。
多分、初美さんは神境の意向で、京ちゃんを小蒔ちゃんに相応しくなるように鍛えるつもりなんじゃないかな。
彼が格好良く、より魅力的になるのは私も好ましいんだけど、素直には喜べないよ。
咲「あれ? 確か六仙女の筆頭って……」
小蒔「霞ちゃんにあまり負担を掛けないようにするつもりです。だから、初美ちゃんに頑張って貰うことにしました」
咲「ふーん、そうなんだ。でも、私はまだ彼女と会ったことないよ?」
小蒔「まだ、住んでいる島から私の所には会いに来ていないですよ。早くに会うこともできたんですが、それは負担になりそうだって言われました」
咲「言われた?」
小蒔「はい。色々と助言を頂いています」
確かに、小蒔ちゃんはどこかぼんやりしているというか、ふわふわしているというか、世俗から離れているって言ったような所があるからね。
誰かが、彼女に知恵を貸していても不思議じゃないか。
何かしらの神様から神託でも貰っているのかな。
だとしたら、私は本当に孤軍な状況だよ。
近所に住んでいるというアドバンテージすら、距離も無視して現れる彼女には意味をなさない。
飛行機で鹿児島に帰ったはずの彼女が、次の日には平然といたんだから驚いたっけ。
私と京ちゃんは同い年だけれど、小蒔ちゃんは一つ年上だ。
小さい頃の一才違いって結構、色々と大きいんだよね。
学校が始まれば、一年間は私に有利かもしれない。
だけど、その翌年からは私と京ちゃんは別の学校に通うことになる。
その間に、京ちゃんとの仲を深められるかな。
でも、幼い京ちゃんに恋だとか、体で迫ったりとか意味ないよね……
六仙女を引き連れてこうやって遊びに来るってことは、二人っきりにはさせないように私への牽制も行うかもしれないし。
咲「はあ、一番深刻なことは京ちゃんが既に小蒔ちゃんと将来結婚することを受け入れちゃっている点か……」
小蒔「そういうものだって認識しているだけで、京太郎さんは私に特別な想いをまだ抱いているわけではありませんよ」
咲「だから、私にも芽があるのは分かってるけど、そう考えている時点で既に厳しいよ」
小蒔「いっそのこと諦めてしまうのはどうですか?」
咲「やだ」
小蒔「そうですか。それなら、お友達の咲ちゃんには教えますね」
咲「何を?」
小蒔「彼の心まで私は頑張って手に入れます。ただ、そちらについては焦る気はありません。結婚してからでも愛は育めますから。だから、京太郎さんが強く拒まない限り、彼が婚姻可能な年齢に達した時点で私たちは結婚します」
咲「つまり、タイムリミット?」
小蒔「はい。それまでに咲さんが彼を振り向かせることができなければこの勝負は私の勝ちです」
咲「……」
小蒔「それでなんですが、神境と関わりのある方々にお願いして、結婚が可能な年齢は引き下げてもらう予定です」
咲「ふぁ!?」
小蒔「負けません。お互いに後悔することがないように頑張りましょう!」
目的のために法律まで変えるとか、規模がおかしいよ。
これだから権力者って人たちは……我が通らぬならば、道理を曲げてしまえってどういう発想?
それに結婚年齢の引き下げって何才にするつもりなのかな?
男女平等に16才と考えるべきなのか、それすらも下回るのか。
一部の国やあるいは一部の州じゃ結婚可能な年齢に制限がない所もあるんだっけ?
さ、流石にそこまではいかないよね……
戦々恐々と感じながらも、私は彼を諦めるつもりはなく全力で勝ちにいくつもりだった。
ここで伏兵のころたんが現れたらどうなるの?
京ちゃんの女性遍歴を見守り続けてればそりゃ色々と溜まるってもんでしょうよ
荒川さんは本気で京ちゃんを憎んでるんだろうか?展開で変わってたのかな
正史では記憶喪失の巴さん以外の神境関係者はやっぱり京ちゃんには負の感情持ってるのかね…
……自分を殺したいほど憎んでるはっちゃんをベッドで屈服させる覇王ver京ちゃんとか好きです(外道
テルーとのフラグは果たして折れてしまうのか
乙です
京ちゃんと透華さんの絡みをみたかった人生だった
因果は唯一つの結末へと収束する。
時間小説物における定番の一つだけれど、この世界もその影響から完全に逃れることはできないのかもしれない。
みなもちゃんの家は燃えた。
足にも怪我を負って車イスでの生活を余儀なくされている。
お姉ちゃんは小学校を卒業したら東京に行く予定だ。
大なり、小なり、過程は異なる。
だけれど、避けようと思い注意していたことが現実には起きてしまう。
運命は決まっているのか。
顧みれば、世界は残酷だとばかりに答えは返ってくる。
私も運命からは逃れられない――
―IF 時を駆けた咲③―
衣「物憂気な気配を漂わせてどうした、咲?」
咲「ちょっと、運命について考えていただけだよ衣ちゃん」
衣「ふむ、根堅洲国から帰ってきた身としては他人事ではないか」
咲「この世界を作り上げたのは小蒔ちゃんだけど、もっと良い世界にはできなかったのかな?」
衣「……帳尻を合わせる必要があるそうだ。一つの因果の結びを目を変えるだけで多くの事象に影響が出てしまう。天上の領域へと踏み込んでなお、儘ならぬものばかりだと聞いたよ」
未来に起こる決定的な破局を防ぐために、小さなものには目を瞑る。
目に見える幸福を優先して、大局を見誤る。
それでは確かに意味がないのかもね……
咲「だからって良かったの?」
衣「父君と母君のことなら受け入れた。既に一度は旅路を見送ったのだから、再び今生で相見えることが叶っただけ、衣は幸せだった。悲しくないと言えば、嘘になってしまうけれど……」
咲「衣ちゃん……」
衣「それに、今は大切な家族もいる」
「キィ――ッ、認めません。認めませんわ、京太郎! この私より目立つとかなんですの!!」
「うるさい、バカ透華! 焼き鳥で負けたからって喚くなぁ!!」
「なっ! バカとはなんですか、それが従姉に対する口の聞き方ですか!?」
「負け犬の遠吠えを吐く不様を晒している従姉だから当然だろう?」
世界は残酷だ。
私の胸は膨らまず、小蒔ちゃんの胸は実っている。
前世で和ちゃんに小学生の頃に取った写真を見せてもらったことがあったけど、あれと同じくらいに豊かだ。
ランドセルを背負った巫女服を着た胸が大きな小学生。
ちょっと犯罪的だよね。
照「執事さんお菓子のおかわり」
ハギヨシ「かしこまりました」シュンッ
初美「なかなかやるのです、体術では私でも勝てないかもしれないですねー」
霞「鍛えれば、人はあの域にまで到達するのね……すごいわ」
前世とこの世界は随分と違っていることがいっぱいある。
みなもちゃんは確かに足を怪我しているけれど、後遺症は残らずに完治するらしい。
お姉ちゃんが東京に行くのは、前世では出場しなかった全国小学生麻雀大会で優勝を掻っ攫った結果、スカウトされたからだ。
私たち姉妹の間に、どうにもならない亀裂は入っていない。
霞さんと京ちゃんの顔合わせは慎重に行われたらしい。
だけど、事前に小蒔ちゃんの婚約者であることを触れ込んだり、待遇を改善したのか穏和に受け入れているみたい。
変化の中で一番特筆すべきことは衣ちゃんのことかな。
彼女も私や小蒔ちゃんと同じように記憶を持っている。
京ちゃんの妻だったからか、神様の気まぐれな慈悲なのかは私には分からない。
小蒔ちゃんと衣ちゃんの間でなんらかの約束を結んでいるみたいなんだよね。
咲「はあ、衣ちゃんが羨ましい。同じ屋根の下で一緒に住んでいるとか……」
衣「衣は京太郎の義姉だからな」
咲「狡いんだよ。私にはそんな特典ないのに、衣ちゃんだけ持っているとかさ」
衣「羨ましいか? だけどダメだぞ、この立場は譲ってやらないからな」
咲「分かってるよ」
衣ちゃんの両親が亡くなり、誰に引き取られるかで揉めたそうだ。
だけど、前世と同様に龍門渕家へと引き取られることにはならなかった。
その原因は小蒔ちゃんと京ちゃんの婚約に端を発していたりする。
小蒔ちゃんは霧島神境の姫様なわけで、そんな子と許嫁になった京ちゃんに注目が集まるのは当然なんだよね。
京ちゃんの家は確かに、わりとお金持ちではあるけれど、家格や財力などを比較すれば分不相応。
須賀家という霧島神境とは異なる流れを汲む一大オカルト勢力の血筋とはいえ、本家からは遠い分家なんだよ。
だから、どうしてそんな京ちゃんが霧島神境でも特別な、神代家本家の一人娘である姫様と婚約しているのか疑問に思われてしまうのは当然だよね。
しかも、許嫁にするように頼み込んで頭を下げたのは神代家だと言うのだから。
上流階級の世界では色んな噂が飛び交ったらしい。
そして、京ちゃんについて探りを入れるのは自然の成行きで、龍門渕との繋がりが露呈したそうだ。
これについては、私も知らなかったから驚いたよ。
確かに、前世で京ちゃんが龍門渕家と懇意にしているとは思っていたけれど、それは衣ちゃんの夫だったからだと考えていたから。
この事実が判明して一番慌てたのは龍門渕家だったりする。
家を出奔した娘とは関わりを断っていたわけで、与り知らぬ所で周りが騒ぎだしてしまった。
他人から見れば、龍門渕は政略結婚によって霧島神境と深い縁を結ぼうとしているようにしか見えない。
隠居を宣言したはずの前当主のそれはカモフラージュで、強い野心を隠すために娘婿を隠れ蓑にしているだけに過ぎないと思われてしまった。
それで前当主の後を継ぐはずだった息子は何をしているかと言えば、研究者になっている。
その妻の研究内容はオカルトに関連していた。
優秀な研究者であると専ら評判の夫婦であり、だからこそ、人の想像は掻き立てられる。
そして、婿養子の龍門渕家現当主は極めて有能な経済人であることからも余計にね。
不審は不信を呼び込み、真実とは異なるも怪しさにこそ恐怖する。
この世界では龍門渕は政財界を牛耳れるような立場にはなく、単なる巨大な一財閥に過ぎない。
だからこそ、暴虐の王や絶対的なる支配者ではないのだから、上位者として振る舞うことは許されない。
将来を危惧した一部の人々が恐れに従って、龍門渕と対立を始めてしまうのは止められなかったんだ。
そんな事態を憂慮した龍門渕家の前当主が重い腰を上げて、自分の子供と顔を突き合わせて話し合うことになったんだよね。
その繋がりが、京ちゃんと衣ちゃん、透華さんを交えさせた。
だから、衣ちゃんの両親が亡くなった際、彼女は須賀家に引き取られることになったんだ。
そんな裏事情を私は知ったか顔で説明する初美ちゃんから教えてもらった。
咲「衣ちゃんは法律上だと京ちゃんと結婚できるんだよね」
衣「そうだな。衣は京太郎のことは愛しているけれど、結婚はしないよ」
咲「じゃあ、お義姉ちゃんは私を応援してくれたりはしないの?」
衣「咲と衣の仲だが、小蒔とも莫逆の友だからな。衣としては少し負い目もあるから、小蒔を応援するよ」
咲「はあ、私の味方はどこにいるのかな?」
喧噪を終えた京ちゃんと透華さんが再び麻雀を打ち始めた。
小学校も半ばを越えて、それでも京ちゃんの心を私は手に入れられていない。
最近、京ちゃんの視線はおもちへとますます向かっている。
小蒔ちゃんは積極的に京ちゃんへと触れ合っているし、私も負けずに頑張っているけど勝てる気がしない。
このまま行けば、京ちゃんは小蒔ちゃんと……
それでも、どうしたって諦めきれない。
衣ちゃんのように家族としての愛情を抱き合っているだけで満足できるほどに、私の業は軽くはないのだから。
タイムリミットである高校一年生の冬まで、後――
>>428
まさか、衣の登場を見抜かれているとは!!
>>431
憩ちゃんは京太郎を心の底から憎み切れていなかったりします。
コンマが4以外なら、もう少し色々と変わっていました。
憩ちゃんが龍門渕側に所属していたり、ヤンデレ狂科学者になっていたり……
>>432
はっちゃんを含めて春たち六仙女は京太郎を少し恨んでいます。
憎しみの根源にあるのは京太郎が姫様を忘れてしまっていることですから、理不尽な逆恨みだと自覚していても憎まずにはいられなかったりする感じです
>>433
照は本編で勝利したようなものだから、IFではフラグが立ってもほぼ結ばれないですねー
>>434-439
一夫多妻は本編の方がそんなルートに入りましたから
今は亡き衣という、誰も勝てないポジション。
死んでしまったら、思い出も美化されてしまうと思うんです
傷の舐め合い、愛憎交り、純愛も良いけれどそう言うのってありですよねー……ドロドロドロロ
―IF 時を駆けた咲④―
二人が一つに重なる。
逃れられないように、後ろへと回された手。
触れるだけの優しいもので済まされることはなく、押し入り、分け入り、奥まで深く……
ネットリとした擬音さえ聞こえてきそうなほど、それは念入りに。
別れを惜しむかのように吸いつく音を残して、二人は離れた。
互いの口からは透明な糸が伸びて、途切れる。
満足気な顔で笑みを浮かべる彼女は勝ち誇ったかのように私たちを見た。
「その顔を見ると、二人とも彼とキスをしたこともまだなかったのかしら? あは、彼の初めては私ってわけね」
厭らしく上気した頬、どこか妖艶な雰囲気さえ放っている。
京ちゃんのファーストキッスが奪われちゃったよ。
彼は荒く呼吸を繰り返し、酸素を求めながら、呆然とした表情で彼女を見ていた。
どうして、何でと私の頭は予想外の事態に混乱する。
確認するように隣にいた小蒔ちゃんを見れば、彼女も驚愕に目を見開いていた。
つまり、これは彼女にとっても想定外な状況なのだろう。
咲「竹井、久、……まさか、まさか?」
久「ふふ、まだ上埜だけど、その通りよ。ただ、私の場合は悪運が良かったのかもね? 気づいたらこうなっていたんだから」
咲「なんで、あなたがこの学校に?」
久「彼がここに通う可能性があったから進学しておいたのよ」
京ちゃんの心に傷を残してまで、彼の心の中に住まおうとした彼女までも記憶を持っている。
状況を理解しても、心の動揺は直ぐに収まらない。
それでも、私は冷静に思考する。
久「それじゃあ、今日はあいさつに来ただけだから、またね、咲、神代さん。それと京太郎くん、入学おめでとう! 私はこの中学校で会長を務めている上埜久よ、これからよろしくね。それと、今の続きをしたくなったら、いつでも生徒会室まで来てくれていいわよ」
公衆の面前で口づけし、爆弾発言を残して去っていく久先輩。
その背中を追いかけることも、何かを呼びかけることもできなかった。
小蒔「……、渡しません! 京太郎様は私のものです!!」
京太郎「えっ? ちょっ、待っァ――」
悪女に触発されたのか、暴走する小蒔ちゃん。
まるで、汚れを消毒するかのように京ちゃんの口を塞いでしまった。
ただ、明らかに無理をしていると言うか、経験がないのか、久先輩のように淫靡な雰囲気はまったくなかった。
両頬を押さえて、軽く触れ合う唇。
可愛く伸ばされた舌は京ちゃんの唇をなぞるように動いた。
それを拒むかのように彼は小蒔ちゃんを突き離す。
京太郎「――おまっ、止めろって!」
小蒔「ッ!? 私と接吻するのが嫌だったんですか?」
京太郎「えっ……?」
小蒔「あの女とはあんなに長くしていたのに、……京太郎さんのバカぁ」
拒絶されたことで涙を流しながら、駆け出していく小蒔ちゃん。
京ちゃんが引き留めようと伸ばした手は空を切り、何も掴めない。
彼女の体が一瞬だけ輝くと、霞のように消えてしまった。
神隠しのような一コマに、騒然となる観衆たち。
混沌と化していく場を治めようと動く六仙女。
咲「京ちゃん、入学早々に大変なことになったみたいだね」
京太郎「……咲、俺は小蒔を傷つけたのか?」
咲「心配しなくても大丈夫だよ。私が取りなしてあげるからさ」フフッ
京太郎「すまん、ありがとな」
咲「良いよ、気にしなくて。それよりも、あの女には近づかない方が良いんじゃないかな?」
京太郎「……そうだな」
咲「あれ、ちょっと残念に思ってる? やっぱり、京ちゃんも男の子だから、キスよりも先に興味があるの?」
京太郎「な、何言ってんだ!?」
咲「冗談だよ」
これはきっとチャンスが巡ってきたってことなんだろうね。
面白いことに最大の障害である小蒔ちゃんがショックで混乱している。
ステップをすっ飛ばして動いた久先輩もことを急ぎ過ぎている。
私はこの状況を最大限に利用して動くべきだ。
さあ、春の嵐で荒れる人心を制し、私が全てを手に入れるための新しい毎日を始めよう――
IF編 カンッ!
―エピローグ―
透華「そういうことでしたの……」
京太郎「どうします? 復讐を完遂するって言うなら俺も殺しますか? まあ、死にたくないので全力で抗いますけどね」
透華「先に手を出したのはお父様です。京太郎は許してあげますわ」
京太郎「良かった。透華さんとは対立したくなかったんですよね」
透華「そう言いながら、準備は整えていたんでしょう?」
京太郎「そりゃあ、そうですよ」
透華「京太郎には手を出しませんが、予定よりも神境の締め付けは強めることにしましょう。ハギヨシ、喉が渇きましたのでお茶を」パチン
ハギヨシ「申し訳ございませんお嬢様。私めは京太郎様の執事でございますので、ご命令は御自身の従僕にお願い致します」
透華「……歩にハギヨシと、私のお気に入りだった人たちばかり京太郎のものになるなんて」
歩「すみません当主様。亡き旦那様の遺言でありますので……」
透華「まあ、良いですわ」
一「もう、透華にはボクたちがいるから良いでしょ?」
透華「ふふ、そうですわね。ですが、使える人材と言うものは幾らいても困らないものですから」
透華さんが笑うのを久しぶりに見た気がする。
多分、自分の父親がどうして死んだのか、真実が分かったことで氷が少しは解けたのかもしれない。
まあ、正式に龍門渕家当主を継いだ以上は、外で甘さを見せる真似なんてできないだろうけどな。
俺や一さんたちの前で気が抜けるなら、それで良いと思う。
透華「ええ、ところで京太郎」
京太郎「なんすっか?」
透華「愛妾を置いたと桃子から報告を聞きましたけど?」
京太郎「はは、あいつめ……」
透華「お盛んなのはよろしいですけれど、子供に変な影響を与えないように気を付けなさい。まあ、外で行って、もしもがあるよりは囲ってもらう方が私も安心できますわ」
京太郎「もう禁酒したので……」
透華「その方が良いですわ。それと、愛妾を囲む気ができたなら話しが早いですわね。実は以前からあなたに押し付けたい子たちがいるんですけど?」
京太郎「は?」
透華「家の繋がりを強く結びつけるには、血は有効です。早速、手配するとしましょう。一、リストから龍門渕に相応しい見女麗しく、優秀で健康な子を選んでおきなさい」
一「分かったよ、透華。いやあ、これで他家の乗っ取りとかも上手く行きそうだよね。京太郎くんには頑張って貰わないと」
京太郎「ちょっと、待ってくださいよぉ!」
一「はっはっは、当主のご下命には従わないと」
ハギヨシ「これもお役目ですよ京太郎様」
歩「あの、その、頑張ってください」
透華「そうそう、桃子から自分にも手を出すように頼んで欲しいとお願いされていたんでしたわ。あの子のオカルトは便利ですし、丁度良いので彼女も抱いて子供を生しなさい――――
桃子「ふふ~ん♪」
浩子「なんや桃子、上機嫌やないか?」
桃子「透華さんに報酬をお願いしたら快く引き受けてくれたから、ついに、私にも春が来そうっすよ!」
純「へえ、良かったじゃねえか。オレもその能力があるから心配してたんだよな」
智紀「意外。彼は頑固なところがあるから無理だと思っていた」
仁美「受け入れる土壌ができよったんならしょうがなか」
憩「うーん、京くんも罪な男やからねーぇ。せやけど、正式な奥さんでもないんはほんまにそれで良かったん?」
桃子「良いっす、問題ないっす! 京さんレベルの人って見つけようと思っても簡単にいかないじゃないっすか?」
憩「ん? あの執事さんなら条件を満たしているんやないですかーぁ?」
純「ハギヨシさんか……」
智紀「スペックは凄まじい……」
浩子「うちもほんまにあれは人間なのか疑ったわ」
桃子「ぽっと出の人よりも、長らく付き合いのある京さんが良いっすよ」
浩子「桃子はこれでええとして、お前らどうするんや?」
純智紀仁美憩「「「「ん?」」」」
浩子「うち以外、独身やろ? 結婚する気とかあるんかなっと疑問に思ったんや。まあ、純は年嵩が増して男ぶりがあがっとるし、そんなに焦らんでええかもしれんけどな。女の三人は急いだ方がええんとちゃうか?」
仁美「政治が悪い!」
純「オレは女だ!」
智紀「……相手を探すのが面倒」
憩「うちなら大丈夫ですよーぅ。若さは科学の力で保てますし、相手が見つからなくても優秀な遺伝子は確保済みやから子供だけはいつでも作れますからーぁ――――
優希「そろそろ、私も次のステージへと上がる時が来たようだな。聖女も辞め時ってわけなんだじぇ」
マホ「咲先輩が上手くやりましたからね。マホたちも頑張ればいけるはずです」
優希「京太郎には三回振られたが、四度目は成就して見せる。昔のことは互いに水へ流して協力するんだぞ、マホ!」
マホ「優希先輩、一緒にがんばりましょう!」
和「……二人とも、なんで私の前でそんなことを宣言しているんですか?」
優希「そりゃあ、のどちゃんが京太郎の女の中で一番怖いからに決まっているじぇ」
マホ「勝手をやった咲先輩に対する折檻、もとい、恐ろしい仕打ちにマホは古傷が疼きました」
優希「酷いよな」
マホ「はい。だから和先輩には事前に話しを通しておこうってマホたちは決めたんです」
和「はあ、煌先輩、どう思います?」
煌「ふむ、不倫はすばらくないです」
和「そうですよね」
煌「ですが、全ての男女間で同意ができているなら、いっそのこと一夫多妻制もありかな? 昨今の少子化事情を鑑みるなら、法令化するのも……」
和「えっ!?」
優希「流石、煌先輩、いや、煌大先生だじぇ! 話しが分かる!!」
マホ「マホも頑張って応援します! マホの新しい年齢に合わせて結婚年齢の引き下げもお願いします!!」
和「いやいや、待ってください。一夫多妻なんて時代に逆行するようなものを押すのは無理があるでしょう!?」
優希「ふっ、甘いぜのどちゃん。一夫多妻が男女不平等って言うなら、多夫一妻も認めた重婚にしてしまえば良いんだじぇ」
マホ「冴えてます優希先輩。それなら男女平等で問題ありません」
煌「確かに、それなら反対に回りそうなフェミニストの人たちも……」
和「バカなことを言うのは止めなさい!」
優希「はあ、全く、相変わらずのどちゃんは頭が固いな」
マホ「それが和先輩ですから」
和「怒りますよ?」
優希マホ「「ごめんなさい」」
和「はあ、先輩も結婚をどうのこうのと考える前に、ご自身のそれについて考えた方が良いんじゃないですか?」
煌「はは、一応、周りから紹介されたりはしてるんだけど、ピンと来るこれといった人が……」
和「そんなこと言っていると危ないですよ? ――――
成香誓子揺杏爽「「「「はあー」」」」
爽「なんで三人ともため息ついてんの?」
揺杏「そういう爽だってついてるじゃんか?」
誓子「龍門渕から派遣されてきた憩さんのおかげで体は治ったんだからため息吐く理由はないよね?」
成香「傷跡も綺麗に消えて、惚れ惚れするくらい素敵ですよ」
爽「いや、確かに健康にはなったけど、華の二十代を幼児退行して過ごしていたんだけど? 私ってもう三十路に入っちゃったんだから、溜め息の一つだって吐きたくなるよ!」
誓子「私も同じ三十才なんだけど……」
爽「チカもおばさんか。それで、三人は何でため息吐いてんの?」
揺杏「爽はあんな状態だったんだから感慨深くないのかもしれないけどさ……」
成香「私たちにはユキちゃんの引退は衝撃だったんです……」
誓子「事務所は変わらずに忙しく回っているけど、モチベーションがね……」
爽「ユキが輝いていたのを見逃すなんて、私も運が悪かったな」
成香「記録映像は豊富にありますからみますか?」
爽「生で見たかったけど、そりゃ見るよ! 私たちの夢がどんな風に形になっていったのか気になるからね」
揺杏「まだまだユキの衣装は構想がいっぱいあったんだけどな……」
誓子「はやりんが頑張っているから、ユキもいけないかな?」
成香「本人が麻雀に専念したいと言ってますからね」
爽「ここ数年でいったい何があったの? ユキが無茶苦茶強くなってて驚いたんだけどさ?」
成香「私たちも分からないんですよ。最近、急激に強くなったと言うか、化けたみたいですから」
誓子「あれじゃあ、すこやんだよね」
揺杏「確かに、すこやんだ」
爽「すこやんって確か、未だに独身だよね……ユキ大丈夫かな?」
誓子揺杏「「…………」」
成香「それについては大丈夫みたいですよ」
誓子揺杏爽「「「なんで?」」」
成香「どうやら、私たちの与り知らぬ所で男性との経験もあったみたいです。その人に責任を取ってもらうと言ってました」
爽「マジ? 相手誰?」
誓子「ユキに先を越された?」
揺杏「……初体験のハメ撮り映像とかない?」
成香「私たちの知っている人で、映像はあるらしいです」
爽「……! ユキのAVを作成しない?」
揺杏「ヤバイ、インスピレーションが湧いてきた! 良いね、色んな衣装を私が用意するよ!!」
誓子「身内限定品として作り上げよう!」
成香「ユキちゃん許してくれるかな? とりあえず、機材や撮影場所の手配は任せてください!」
爽「よし、燃えて来た! ――――
巴「皆さんはどうして泣いているんですか?」
利仙「大切な人が亡くなったからよ……私も、もう会うことがないのだと思うと、辛いわ」
巴「そうなんですか。私も知っている人ですか?」
利仙「知っていた人ね……」
良子「ノーウェイで済まされないですからね。まあ、悲しんでばかりもいられないんですが」
巴「そうなんですか?」
良子「神境は厳しい状態、これからビジーになりますね」
利仙「当主は再起不能、姫も亡くなり、世継ぎも奪われ、外部からの圧力も高まりそうだものね」
初美「……泣いてばかりはいられませんね。私たちがしっかりしないと」
巴「初美さん、私にできることってありますか?」
初美「これまで通り、頑張って貰えれば十分です。とりあえずは、夕飯の準備をお願いしますねー」
巴「分かりました」トテトテ
初美「……」
利仙「辛いわね」
初美「初美さんか、馴れていたつもりですが、感傷が強まっているときはダメですねー」
春「そういう時こそ、甘いものを食べる」
良子「あなたは、相変わらずにそれが好きですね」
利仙「私も頂いておくわ」
初美「はるる、ありがとです。好ましくない状況ですが頑張りましょう」
春「そう、次代へと神境を繋ぐために――――
怜「竜華の面倒はうちがみたる!」
由子「怜じゃ無理なのよー」
絹恵「せや、むしろ介護される側やろ?」
漫「こればっかりは他の人に任せた方がええと思いますよ」
怜「皆のアホ、うちかて頑張ればできるはずや! そう思うやろ、恭子?」
恭子「怜じゃ無理や、諦めい」
怜「酷いわ……」
漫「他人の面倒をみるスペシャリストの末原先輩が言うんやから、絶対ですよ」
絹恵「せやね。あの魔王を世話しとる実績のある人がこう言ってるんやから」
由子「あのポンコツクイーンは次元が違うのよー」
恭子「……確かに、咲のアホはポンコツやけど、人を専門家みたいに言うの止めえや」
怜「なあなあ、うちと彼女やったらどっちの世話が楽やと思う?」
恭子「どっちも面倒やけど、怜の方がマシやな」
怜「病弱のうちより酷いとか、ほんまもんはちゃうな!」
由子「その病弱アピールもええ加減にしたらと思うのよー」
絹恵「せやな。既にほとんど健常者と変わらんって聞いてますよ」
漫「昔はできなかった運動とかも大丈夫で、スポーツをしているネタは上がってますって」
恭子「人に甘える癖がついとって、ほんまにこの子は面倒やな」
由子「アラサーでそれはキツイのよ」
怜「ほんま酷いわ……」
漫「そう言えば、噂で聞いたんですけど、魔王さんの恋が実ったとか」
絹恵「それ、うちもお姉ちゃん経由で教えてもらったけど、嘘やろ?」
由子「あのポンコツに恋人とか、ないない」
恭子「はあ、一応事実らしいわ。詳しい事情を聞いたら、やっぱ魔王で間違ってへんけどな……」
怜「気になる言い方やな」
由子「そもそも、恭子が私たちと大阪で会っているのが珍しいのよー」
漫「お世話で忙しいはずの先輩が一人で遊びに来るなんて珍しいことですよね」
絹恵「噂の人は今どこにいるん?」
恭子「咲なら――――
トシ「……儘ならない世の中だね。まさか、教え子が私よりも先に旅立つなんてさ」
胡桃「寂しいお墓だね……」
白望「塞はどうして?」
トシ「運が悪かったんだろうね。魔に魅入られ、憑りつかれた」
白望「……」
トシ「止めておきなさい、白望。あんたが考えていることは実行に移さない方が身のためだよ」
白望「それじゃあ塞がッ!」
胡桃「熊倉先生は詳しく知っているの?」
トシ「私が知っているのはさわりのほんの一部に過ぎないさ」
胡桃「教えてもらえないんですか?」
トシ「それを聞いたら、あんたたちどうするつもりだい?」
白望胡桃「「…………」」
トシ「二人の身に何かあれば、それこそ塞は浮かばれないよ。それに、エイスリンや豊音も悲しむことになる。私だって、そんなのは嫌だよ」
白望「じゃあ、どうすればいいの? この想いは!?」
胡桃「あの二人だって、きっと分かってくれるよ……」
トシ「忙しい身である二人を早々に帰したのは、自分たちの考えに巻き込みたくなかったからだろ? 悔しくても、耐えるしかないのさ」
白望「塞……」
胡桃「……」
トシ「嫌な世の中だよ、本当に――――
照「秋はやっぱり飽食の季節」
智葉「照、お前は食ってばかりだな。太るぞ?」
照「大丈夫。冬が近づけば気温が下がって寒いから、体は熱を生み出すためにたくさんのカロリーを消費する!」フフン
菫「ほう、それじゃあお前のいる所では暖房は切っておくことにしよう。なるべく、薄着でいてもらった方が良いかな?」
照「えっ? 暖房がないと寒くて困るよ? 薄着とか風邪を引いちゃう……」
菫「痩せるんだろう?」
智葉「確かに、以前見た時よりも少し太って見えるな」
照「!?」ガガーン
尭深「運動する前にカフェインを摂取すると良いですよ。つまり、お茶を飲みましょう」ズズ
誠子「そこはコーヒーじゃないのか?」
尭深「お茶でも取れます!」
智葉「お茶か、尭深のくれる茶葉は美味いからな。客を迎えるときなんかは重宝させてもらっているよ」
菫「確かに、あれは良いものだ」
誠子「私は基本的に海外にいますから、飲む機会がないんですけど、そんなに?」
照「美味しいよ」
尭深「ふふ、自慢の茶葉です」
智葉「消費が早いからな。まだ、残っていたはずだから出すことにしよう。ついでに、誠子のくれた旬の魚も捌いておくかな」
菫「手伝おうか?」
智葉「客人にと言いたい所だが、量も多いからお言葉に甘えるか」
誠子「それなら私も手伝いますよ」
照尭深「「…………」」
尭深「先輩は行かなくて良いんですか?」
照「私が台所に立つと爆発するかも」
尭深「えっ!?」
照「前に智葉を手伝ったら、もう厨房には立つなって言われた。菫にも食材を無駄にするな勿体ないって……」
尭深「……」
照「尭深はどうして?」
尭深「私の料理は美味しいけど、一緒に作る事はしたくないって誠子ちゃんに言われました」
照「ん?」
尭深「つい、口を挟んでしまうみたいで嫌がられるんです」
照「なるほど」
照尭深「「…………」」
尭深「そう言えば、この前は残念でしたね――――
まこ「この面子じゃと、勝てんのは分かりきっとったが、ここまで点差が開くとのう」
美穂子「ふふ、ごめんなさいね」
智美「ワハハ、やっぱり元プロの実力は本物だな」
佳織「麻雀打つの久しぶりだったから、ちょっと役を忘れてたよ」
まこ「それでもビギナーズラックが発動したりせんかったから、わしとしてはあの悪夢再びとならずに済んで良かったわ」
智美「佳織はそれでも素で運が強いからな」
美穂子「そうね。捨て牌を見ていると勿体ないと思ってしまうわよね……」
まこ「そう言うなら、先生が教えてやったらどうなんじゃ?」
美穂子「麻雀教室は子供向けなのだけれど、教わりたいかしら?」
佳織「うーん、麻雀を打つ機会なんてあまりないからね……」
智美「そうだな。モモは私たちでは認識できないし、ユミちんなんて今どこにいるのか?」
佳織「私も聞いてないです」
まこ「まあ、便りがないのは無事な証と言うからの」
智美「この長野から出て、帰って来ない奴がいっぱいだからな」
まこ「……そうじゃの」
美穂子「華菜たちはよく私の教室に遊びに来てくれるわ」
佳織「風越は仲が良くていいですね」
美穂子「そうね。確か今日は、プロの仲間内で集まってくるとか言っていたわね――――
華菜「あいつ、何なんだし!? 華菜ちゃんを簡単に飛ばすとか、普通じゃないし!!」
哩「真正面からリザベーションを破られたと、どこの魔王かと思ったけんね」
姫子「怖かったと……」
洋榎「ほんま、由暉子のやつ何があったんやろか? 麻雀の打ち筋が以前から逸脱し過ぎやで!」
豊音「わ、私、健夜さんをちょー思い出したんだけど?」
数絵「いや、流石にあそこまではいかないでしょ? 確かに化物クラスだったけど……」
華菜「絶対、何かあったし!」
灼「確か、由暉子さんは魔王や健夜さんと一緒によく飲んでいたよね?」
洋榎「せやな。そこで、何かあった? でも、うちも前まであの面子に加わって飲んどったけどなんも変わらんかったで?」
セーラ「由暉子なんてまだ可愛い方だろう? 本当にヤバイんは魔王の方や!」
灼「……あれはもうおかしい」
哩「タイトル戦で姉をば蹂躙しとったと……」
華菜「前から思ってたけど、ヤバイ奴だし!」
豊音「ちょーガクブルだよー」
姫子「あいは人じゃなかと」
数絵「あれに稼ぎ勝ってインハイに出場したことは誇っても良いよね?」
洋榎「うちらはとんでもない怪物と同世代なんやな……そう言えば、咲のやつ京太郎とくっついたらしいで?」
セーラ「はは、冗談キツイで洋榎。そんな嘘やと丸分かりなこと口してもおもろうないで」
灼「……それが冗談じゃないらしい」
セーラ「嘘やろ!?」
姫子「空から槍が降ってもあり得なか!」
豊音「それが本当なら、ちょー良かったよねー」
数絵「アラフォーの惨劇は避けられたの?」
哩「酷い言い草だけど、そう思ってしまううちがおー」
華菜「あっ! 華菜ちゃん分かったし、魔王が須賀を洗脳したに違いないし!!」
数絵洋榎豊音灼セーラ哩姫子「「「「「「「アハハハハ」」」」」」」
数絵「流石に、麻雀で洗脳はないわよ」
洋榎「相変わらず、華菜は面白い奴やな」
豊音「ちょーナイスなジョークだよー」
灼「あの健夜さんでもそんな真似はできないからね」
セーラ「笑い過ぎて腹筋が割れてしまうわ」
哩「突飛な考えすぎっぎやなかろか」
姫子「華菜は飲みすぎてえーくろーたとよ」
華菜「いや、絶対そうだし、それ以外に考えられないし! ――――
ゆみ「ふう、やはり強いな」
明華「そう言うゆみも中々強いですよ」
ハオ「上位の世界ランカーを相手にこれだけ打てるんですから、プロでもやっていけますよ」
ネリー「もったいないよね。どっかのプロチームにでも紹介状書いてあげよっか? ネリーも紹介料が貰えて幸せだよ」
ゆみ「ありがたい申し出だが、遠慮しておくよ。プロとはこうやって会えば打てるからな」
ネリー「お金が稼げると思ったのに……」
ハオ「ネリーは相変わらずですね」
明華「もう十分にお金は稼いでいるはずでしょうに……」
ネリー「お金は幾らあったって困らないよ?」
明華「それはそうかもしれませんけど、あなたの場合は少しドケチと言っても良いですよね」
ハオ「そうだな。私の住んでいる都市に来るときは家に上がり込んでくるし」
明華「フランスなら私の所ですもんね。このただ飯喰らい」
ネリー「皆がネリーを虐めるよ……」
ゆみ「咲から聞いたが、日本だと彼女の家に泊まるらしいな?」
ネリー「……」
明華ハオゆみ「「「…………」」」ジー
ネリー「お金は大切、持つべきものは友人だね」
明華「はあ、まあ良いですけどね。私の好物をお土産に持って来てくれますし」
ハオ「私としては、家族の手前もあって好い加減にして欲しいんですがね」
ゆみ「家族か。そう言えば、咲が京太郎と事実婚したらしいぞ?」
ハオ「へえ、万年片思いが実を結んだんですか」
ネリー「冗談キツイな」ハハ
明華「は? あり得ませんね」フフ
ゆみ「京太郎と一緒に働いている私の後輩からの情報だから本当だよ」
ネリー「嘘!? じゃあ、ネリーは咲にお祝いの品でも送らないといけないの? はあ、まあ、仕方ないから奮発してあげようかな……」
ハオ「おや、ネリーにしては珍しいですね」
ネリー「使うべき時には盛大に使わないと。それに、咲は律儀だからお返しには期待できるよね?」
ハオ「こいつは……」
明華「あの咲ができたのに、どうして私は……」
ゆみ「まあ、先進国は軒並み晩婚化の傾向があるんだから、まだ気にしなくても良いじゃないか?」
ハオ「明華の場合、交際しても長続きしませんからね」
ネリー「趣味に問題があるんじゃないかな?」
明華「あなただって結婚していないでしょうが!」
ネリー「ネリーには相応しい人がいないだけだよ。明華とは違うから」
明華「私も問題ないはずです。相手が軟弱なのがいけないだけですから」
ゆみ「どう思う?」
ハオ「理想が高過ぎなのでは?」
ネリー「やっぱりお金持ちだよね。財力はステータス、お金がないとダメだよ」
明華「愛しているならちょっと変わった趣味くらい受け入れてくれるはずですよね」
ゆみ「程度にもよると思うな」
ハオ「間違いなく」
ゆみ「そうやって選り好んでいるとどこかのアラフォーみたいに――――
咏「いやー、晴絵さんの生還と結婚を祝ってカンパーイ」
「「カンパーイ!」」
はやり「本当によく無事に済んだね。はやりはもう絶対にダメだと思っていたんだぞー☆」
晴絵「はは、ひ、酷い目に合ったよ。不思議なことに、健夜さんが手心を加えてくれたみたいなんだよね……」
理沙「巻き添えにあった私は辛かった」
杏果「頑張ったね理沙」ヨシヨシ
郁乃「はあ、うちは晴絵の引退に賭けといたんやけど、外れるとは思ってなかったわー」
咏「いやー、大穴を狙ってみたらずばり的中だったね。知らんけどー」
一美「あなたたちは、相変わらずだったわね」
晴絵「一美さん、もう少し強く突っ込んでおいてくださいよ……人を賭けの対象にするとか」
一美「ごめんなさい」
はやり「晴絵ちゃんごめんね。実は、皆で賭けてたんだよ」
晴絵「え?」
杏果「トラウマが再発するか、引退するか、プロを続けるのかとか色々ね」
晴絵「……」
理沙「結果は咏の一人勝ち」プンスコ
晴絵「ちょっと酷くないですか?」
咏「ごめんね。まあ、ご祝儀は奮発するし、たっぷりのお祝いの品とか送るから許してよ」
郁乃「暫くは、うちらが何でも驕るから気にせずどんどん食べて、飲んでなー」
杏果「今日は貸切だからどれだけ騒いでも大丈夫だよ」
一美「もっと色んな人を呼んでも良かったんだけれどね……」
はやり「残念ながら、皆忙しかったりするから仕方がないよ」
咏「すこやん被害者の会はまた別に宴会を開くって話しらしい。まあ、私は直接被害にはあんまり遭ってないけど参加するだけどさ。はは、わっかんねー」
理沙「被害者一杯、トラウマたっぷり」
郁乃「そのすこやんやけど、今は必死に婚活を行っているらしいでー」
咏「いや、無理だろ? 知らんけどー」
晴絵「だから、手加減してくれたんですかね?」
はやり「どうなんだろうね」
杏果「健夜さんがそれくらいで手加減するかな? あの人が……」
一美「引退したことと関係があるんじゃない?」
はやり「はやりには心当たりがないぞ」
咏「私はちょっぴりあるかな。やっぱり、言えないから、わっかんねー」
郁乃「小耳に挟んだ話やと、あのすこやんが負けたらしいでー」
晴絵「その噂なら耳にしましたね」
はやり「プロの間では実しやかに流れているけど、本当かな? はやりは信じられないんだけど……」
杏果「そんな噂があるの?」
一美「ええ、あるみたいです。彼女の引退と反比例するように、明らかに実力が伸びた子がいましたよね?」
はやり「由暉子ちゃん? 確かに強くはなったけど、まさか、彼女があの人に勝てるとは思えないんだけど……」
咏「むしろ、魔王じゃね? この前のタイトル戦での咲は酷い暴れっぷりだったし」
晴絵「あの子なら確かに、いつか健夜さんに勝てても不思議じゃないですけど……」
理沙「噂が真実なら、その勝負があった時の面子は健夜、咲、由暉子、霞の四人」プンスコ
はやり「え? 理沙ちゃん、それ見てたの?」
理沙「違う。見てない……私はあの人にボロボロにされて伸されていたから……」
晴絵咏郁乃はやり一美杏果「「「「「「…………」」」」」」
咏「やっぱ、すこやんは結婚できないと思わねー? 知らんけどー」
郁乃「せやねー。あの人が頑張っても無理や思うわー」
一美「残念だけれど、同意するわ」
杏果「あのインハイでやられたことは今でも夢に見るからね……」
はやり「はやりとしては彼女にも結婚して欲しいなって思うけど、できなくても構わないかなって思う私もいるんだぞー★」
晴絵「まあ、噂が真実なら健夜さんが破れたんですから祝いましょうか」
理沙「最高」
「「「「「「「すこやんの敗北にカンパーイ!!」」」」」」」
健夜「――――ハックション」
憧「健夜、あんた風邪でも引いた?」
健夜「いや、違うよ。どこかの男性が私の噂でもしているんじゃないかな?」
咲「はは、健夜さんてば寝言は寝てから言わないとダメですよ」
健夜「ちょっと、咲ちゃん、それってどういう意味かな?」
霞「そのままでしょう。あなた、今日は這う這うの体で逃げ出して来たって聞いたけど?」
健夜「違うから、ちょっとお休みを貰ってきただけだからね!」
由暉子「そうだったんですか? 隠れるように現れたので、逃げてきたとばかり」
健夜「龍門渕のメイドは鬼だけど、私、頑張ってるよ! 結婚するために家事とか習ってるから!!」
玄「す、素晴らしいおもちなのです。テレビでしか見たことのなかったおもち☆とおもち神様が私の旅館に宿泊してくれるなんて!!」
憧「玄、あんたサボってないで働きなさいよ……」
玄「うう、このおもちを前にして女将の仕事を全うしろなんてご無体なのですよ憧ちゃん……」
宥「玄ちゃん、働けッ!」
玄「お、お姉ちゃんがボイラー室から出てくるなんて!?」
宥「玄ちゃんがサボっていたせいで私にまで迷惑が掛かって来てるの。寒い所に出されたくないから仕方ないよね……」
玄「おもちー!!、おもち神様、せめて、そのおもちを一揉みさせてもらってからぁああ―――」ズルズル
穏乃「はは、玄さんは相変わらず元気だね」
咲「そうだね。穏乃ちゃんは大丈夫?」
穏乃「うん、問題ないよ。懐かしいって言うか、すごく久しぶりな感じ」
憧「無事に助かって良かったわ」
詳しいことは知らないけど、穏乃ちゃんは憩さんのおかげで問題が解決したらしい。
私の愛しい京ちゃんはあんまり詳しいことを教えてくれないんだよね。
きっと、大切に思ってくれてるからかな?
健夜「それにしても、咲ちゃんが彼とね……」
憧「どう転んだら、そうなったのか信じられないわよね」
霞「……」
咲「私と京ちゃんは好き合ってるんだよ!」
憧「告白しろとは言ったけど、上手く行くとは微塵も思っていなかったから。振られて、咲が人生に区切りをつけて新しく前に進むんだと予想していたのよ……」
健夜「はあ、狡いよね。……麻雀、ダメだ、今の私じゃ咲ちゃんに勝てないか」
穏乃「京太郎と咲がね。うーん、よく分からないけど、彼って和とも関係を持っているんでしょ? あれ? 照さんともだっけ?
京ちゃんはモテるんだから仕方ないよね。
奥さんが一人、二人いても、赦してあげる。
私のこともしっかりと愛してくれているし、近いうちに赤ちゃんできるかな。
うん、私は間違いなく幸せだね。
由暉子「咲さん」
咲「ユキちゃん?」
由暉子「京太郎さんに伝えておいてください」
咲「なにを?」
由暉子「今度あいさつに伺うと」
咲「良いけど……ん?」
憧「京太郎のやつ、何を考えているのかしらね?」
霞「さあ? もう後は転がっていくだけじゃないかしら?」
穏乃「???」
健夜「京太郎くんか、私のことも貰ってくれないかな?」
咲霞由暉子憧穏乃「「「「「…………」」」」」
健夜「じょ、冗談だよ。流石に一回りも年下の男の人はないよね。四十才の私が二十代の男性と関係を持とうなんてダメだよね……」
咲「健夜さん、きっとその内に良い人が見つかりますよ」ニコ
龍門渕の侍従たちが徹底的に扱いているそうだからね。
骨身にまで染みついた根性もきっと改善されるはずだよ。
まあ、それでも結婚できる保証はないだろうけど……
憧「咲が大丈夫なら、私も本格的に結婚相手を探そうかしら……」
穏乃「私も見つけられるかな?」
霞「私はどうしようかしらね……」
由暉子「ふふふ」
健夜「ユキちゃん、何か怖いよ」
アラフィフルートから抜け出した私はこれからもがんばり続ける。
もう怖いものは何もない。
最近はすこぶる調子が良いんだよね。
世界の麻雀を完全制覇するのも良いかもしれない。
その前に、子供が欲しいかな。
お姉ちゃんと一緒に可愛がってもらうのも楽しいし、人生ってどう転ぶか分かんないよね。
私の名前は宮永咲、28才になったプロ雀士。
アラフォーじゃないよ、アラサーだよ!
そして須賀京太郎の内縁の妻だ。
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. / { 斗|十ト | | | ,
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//| ′ { /レ'\ ` \ }} リ |_,从 }| , } ,
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\ | l |个ト\ ィf´ ` l{ ' ' |{ 个 }
八八人|f━ヽ\^ , 八 ' | |{ | /
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{ Ⅳ 从 }} -=≦{ //∧ / \ \≧=- 、从
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これにて本当に完結となります。
読んで下さり、レスをしていただける方がいたおかげで終わりまで頑張ることができました。
本当にありがとうございました。
それではまたどこかで~
このSSまとめへのコメント
コンマで決めてるのに狙ったかのようにストーリーの根幹直撃したり連載中にリアルちゃちゃのんショック起きたりと個人的に伝説のスレだった。今でも時々読み返して戦慄してる