【咲-Saki-】京太郎「アラフォー?」咲「アラサーだよ!」【安価】 (1000)


注意

※息抜きで書きます

※咲ちゃん? いえ、おそらく咲さんです

※京太郎は重要キャラですね

※亀更新:一日一回の安価取得が限界な鈍亀スタイル(更新は翌日以降)

※龍門渕と永水の闇は深いです

※無効安価(ageや無理そうなもの)は自動的に下へ

※一部キャラなどは無理ですよー

※エロ? わっかんねー

※目的はあるようなないような

※キャラが崩壊していようとノーウェイノーウェイ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1441546565


私の名前は宮永咲、職業プロ麻雀士、年齢27才独身。

世間一般ではアラサーと呼ばれる年齢だ。


咲「プッハー、やっぱり最初の一口目はビールじゃないとダメだよね」

霞「そうかしら? ビールや洋酒も飲めないことはないけれど、一番は芋ね。これさえあれば他はいらないわ」


目の前で和服を来ている女性は石戸霞、私と同じプロ雀士で先月で霞さんじゅっさいになった。


霞「咲ちゃん、あたな今、何を考えたのかしら?」

咲「ははは、気のせいじゃないかな霞さん」

霞「そう?」

咲「そうそう」


チッ、勘が鋭いおっぱいオバケめ。

おもちを見ていると胸の奥からドロドロとした感情が湧き上がってくるよね。

ああ、ゴッ倒したいな。


咲霞「「ふふふ」」

由暉子「二人とも相変わらず仲がいいんですね」


私と彼女を見て仲が良いなんておかしな思考回路をしているね。

今日は眼鏡をかけているもう一人のおもちモンスターの名前は真屋由暉子、彼女もプロ雀士だ。

ただの雀士ではなくアイドル雀士、牌のお姉さんに就任している。

世間では天然の入った性格と言われ、お茶の間と子供、そして男性たちに大変な人気を博している。

おもちか、おもちがあるからか。


由暉子「健夜さんもそう思いますよね?」

健夜「えっ!? う、うん、そ、そうだね。あはは……」

咲「ところで、健夜さんは何でジャージ姿なんですか? いくらそれなりに親しい間柄での宅飲みだからってそれはどうかと思うんですけど」

霞「そうね。親しい中にも礼儀を欠けるのは女としてどうなのかしら?」

健夜「だ、だってジャージは動きやすいし」


まったく、これだからアラフィフは……


健夜「アラフォーだよ!」

由暉子「健夜さんが今年で40才になるアラフォーなのは知っていますよ?」

健夜「グハッ……そう、もう40才なんだよね、あは、は……」


私の心の言葉にまで反応するなんて健夜さんは化物だな。


咲「霞さんは先月で30才でしたね。お祝いするの忘れてました、(霞)さんじゅっさいおめでとうございます」

霞「あらあら、咲ちゃんも再来月で28才だったわよね。そろそろ結婚相手を探さなくても大丈夫なのかしら?」

咲「あはは、私は結婚するとしても霞さんと違って初婚ですから。収入もありますし、最近は晩婚化も進んでますからまだ心配ありませんよ」

霞「そんなことを言っていると行き遅れるわよ」

咲霞「「ふふふ」」

健夜「結婚か……はあー、私も憧れていた時期があったな……まだ、ギリギリ……いや、でも……」


健夜さんはまだ未婚だ。

世間でいう完全な行き遅れだからね。


由暉子「結婚ですか。そう言えば、宮永世代と言われる中では私と咲さんだけが出産や結婚が未経験なんですよね。健夜さんの世代は今どうなんですか?」


ユキちゃんは天然な顔で傷口に塩を塗っていくよね。


健夜「ふふ、私だけ……はやりちゃんも、理沙ちゃんも、こーこちゃんだって、皆々、私を置いてっちゃったんだよ……」


健夜さんは開けたばかりのピンから直接呷り飲み始めた。

これは、何か別の話題を振った方が良いかもしれないな、健夜さんの介抱とか面倒だもんね。

それにここは私の部屋だし、リバースされて汚されるのはちょっと。



安価はキャラ名の指定、もしくは十二年前のインターハイや先代牌のお姉さんなどもありです。別に咲さんたち四人でもOKです。

↓2

誓子ですね、了解しました。
本日の更新は終わりとなります。のんびりやってきますので、また明日。

地元、長野で迎えた飲み会
リーダー健夜が結局破局、誰も恋人を作れず惨敗だった
実家に響く両親のため息、Twitterから聞こえる「今年も処女確定!」の声
終電で帰り始める淑女達の中、アラサーの宮永咲は独りベンチで泣いていた
清澄で手にした青春、親友、感動、そして何より甘酸っぱい想い・・・
それを今の宮永が得ることは殆ど不可能と言ってよかった
「どうすればいいんだろ・・・」宮永は悔し涙を流し続けた
どれくらい経ったろうか、宮永ははっと目覚めた
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たいベンチの感覚が現実に引き戻した
「やれやれ、帰って練習しなくちゃ」宮永は苦笑しながら呟いた
立ち上がって伸びをした時、宮永はふと気付いた

「あれ・・・?試合が中継されてる・・・?」
ベンチから飛び出した宮永が目にしたのは、出入口まで埋めつくさんばかりの観客を写すモニターだった
千切れそうなほどに旗が振られ、地鳴りのように各校の応援歌が響いていた
どういうことか分からずに呆然とする宮永の背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた
「咲、出番よ、早く行きなさい」声の方に振り返った宮永は目を疑った
「ぶ・・・部長?」  「なんじゃ咲、居眠りでもしてたのか?」
「そ・・・染谷さん?」  「ひどいじぇ咲ちゃん、のどちゃんが頑張ってるのに」
「優希ちゃん・・・」  宮永は半分パニックになりながらスコアボードを見上げた
先鋒:片岡優希 次鋒:染谷まこ 中堅:竹井久 副将:原村和 主将:宮永咲
暫時、唖然としていた宮永だったが、全てを理解した時、もはや彼の心には雲ひとつ無かった
「できる・・・できるんだ!」
京太郎を抱きしめ、卓へ全力疾走する宮永、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった・・・

翌日、ベンチで冷たくなっている宮永が発見され、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った

短いですが書けたので投下しておきます。



咲「宮永世代って言えばプロや実業団に進んだ人のことは知っているけど、それ以外の人たちは何しているんだろう。ユキちゃんの所だとあのインターハイで戦った次鋒戦の人とかが今どうしているのか聞いたことがなかった気がするんだけど?」

由暉子「誓子先輩ですか? 彼女なら事務所の所長ですよ」

霞「ユキちゃん、それは何の事務所なのかしら?」

由暉子「すみません、言葉が足りませんでしたね。私のアイドル方面の活動を支えている事務所です」


ユキちゃんと言えば牌のお姉さんに就任して、グラビアやテレビにもいっぱい出演しているからそういった大きな事務所に所属しているんだと思っていたけど違うのかな。

次鋒戦の人って確か私よりも二つ上だから29か30だよね。

その若さで大手事務所の経営者って線はないと思うんだけど。


健夜「それは凄いね。はやりちゃんからアイドル時代の苦労話を聞かされたことがあったけど、各メディア方面への売り込みとかも事務所がやってるはずだよね。どんどん新しい子が入ってくる業界だから大変でしょ?」

霞「私もたまにグラビアの撮影依頼とかあったから分かるのだけど、プロ雀士としてのスケジュールとも調整しなきゃいけないはずよね」


へえー、そうなんだ。

グラビアの依頼なんて来たことないし、プロ雀士としての面倒な予定の管理はマネージャーに任せちゃってるからね。

お姉ちゃんと違って猫を被るの上手くないからメディアへの露出は必要最低限にしてもらってるし、そんなに大変なのかな。


由暉子「ええ、先輩たちには本当に感謝しています。今の私があるのは先輩たちのおかげですから」

咲「事務所の所長ってことは、次鋒の人が事務所を立ち上げたってことで良いのかな?」

由暉子「事務所は龍門渕さんが出資して立ち上げましたから、誓子先輩は正確には雇われ所長ですね」


透華さんいつの間にそんなことしていたんだろう。


霞「龍門渕って、あの龍門渕よね。それっていつ頃の話になるの?」

由暉子「私が高校二年生の時ですね。秋の国民麻雀大会で私をアイドルとして売り出したかった先輩たちと目立ちたかった龍門渕さんが運命の出会いをして、互いの意向が合致した結果でしたから」

健夜「えっ? 高校の時の話なの?」

由暉子「はい。高校生オーナーと現役高校生アイドルの芸能活動として話題を集めたかったみたいですけど、龍門渕さん自身はあまり目立てなくて残念がっていました」

咲「次鋒戦の人は高校卒業後してすぐだよね……そんなんで大丈夫だったの?」

由暉子「爽先輩を除いた先輩たちは龍門渕さんの所で修業させられましたから……誓子先輩たちはよく執事が怖いって言ってましたね」


ハギヨシさんか。

あの人の指導を受けたのなら納得だよ、執事だからね。


咲「うん。それなら安心だね」

由暉子「そうですね。最初は私しか所属していない小さな事務所でしたけど、あの事件の影響もあって今は急成長中で忙しいってよく誓子先輩は愚痴を零してます」



キャラ名など↓2

霞さんバツイチなのか…
そういう失敗談も安価取れば聞けるかな?

スレタイに京太郎ってあるのに京太郎が出てこない不具合ってどういうこと?

>>19
安価次第で行けるかと

>>23
そ、そのうち出てくる機会もあると思いますから



健夜「インターハイか、そっか、もう二十年も前になるんだね。時間の流れを感じちゃうな」

由暉子「私たちが初めてお互いの顔を見知ったのはもう十二年も前になるんですね」

霞「…………」


懐かしいな。

当時はお姉ちゃんとの仲も壊滅的で、会うことも拒絶されていたんだっけ。

だから、麻雀でなら話が出来るかもしれないって思って頑張ってたんだよね。

誰もが色んな思いを乗せて麻雀に取り組んで、真剣だった。

もしも、京ちゃんが麻雀部に誘ってくれていなかったら、私が麻雀に触れることはなかったんだろうな……

お父さんも自動卓を売ってしまおうかって考えていたみたいだし、あの卓をもう一度家族で囲むこともなかったんだよね。


霞「私と咲が初めて戦ったのは二回戦だったわね。後から気づいたのだけれど、前半後半プラマイゼロで一位を決められていたことは少しショックだったわ」

咲「あはは、あの卓の皆がちょっと強かったので、当時はそうするしか勝ち目が見えなかったんですよね」

霞「今なら楽に勝てるみたいな物言いに聞こえるわよ」

咲「えっ? 実際そうですから」

霞「あらあら」


私が負けるなんてありえないよね。

もう、お姉ちゃんよりも私の方が強いし、国内で勝てない可能性があるのは健夜さんくらいかな。

絶対におもち持ちや既婚者になんて負けない、負けられないんだよ。


由暉子「私と咲さんが実際に戦ったのは国麻ですね。インターハイでは清澄の和さんが相手でした」

咲「あの準決勝でユキちゃんが左手を使ったから、和ちゃんはさらに強くなれたんだよね。そう思うと、インターハイを制することができた影の立役者はユキちゃんだったのかも」

健夜「ふふふ、皆、楽しそうな思い出がいっぱいあって羨ましいな……」

霞「健夜さんもインターハイではやりさんたちと出会ったと聞きましたけど?」

健夜「うん、そうだね……でも、私はインターハイって心残りな思い出が強いんだよ……」


健夜さんは灰色の青春を思い出したのか私のお気に入りのワインをラッパで飲みだした。

やめて、値段は気にしないけど、手に入りにくいものなんだから。

せめて味わって飲んでよー!


咲「十二年前のインターハイのときは健夜さんは解説者をやっていましたよね」

健夜「ああ、懐かしいな……そう言えば、咲ちゃんと由暉子ちゃんたちが戦った決勝戦の前日にプロが五人集まって卓を囲んだこともあったかな……」

由暉子「プロが五人もですか?」

健夜「そうそう、はやりちゃんに理沙ちゃん、赤土さん。私がインターハイ準決勝で戦った三人と良子ちゃんの五人だよ」

由暉子「一世代上のトッププロが勢ぞろいですか、凄い顔ぶれですね。麻雀の結果はどうだったんですか?」

健夜「私は当然として、赤土さんと良子ちゃんの勝ち越しだったかな。はやりちゃんがお酒弱いから東風戦三回で終わっちゃったし」
咲「良子さんて、戒能良子さんのことですよね?」

健夜「そうだよ、そう言えば咲ちゃんのお姉さんにとっては良子ちゃんは思い出深い相手だもんね……」


戒能プロはお姉ちゃんにとって好敵手だった。

高校時代に対戦した相手の中では一番印象に残っていたとも評していて、プロになってからも卓を囲めることが楽しいと言っていた。

だけど……


由暉子「ルーキーオブザイヤーやシルバーシューター、プロ入りしてからも輝かしい成績を取得していましたね。私もグラビアの方で何度か一緒に撮影したことがありました」

咲「私もお姉ちゃんの関係で良子さんとは顔を合わせたことがあったよ。でも、私が高校三年生になる直前にプロの引退を宣言して行方をくらましちゃったんだよね……」

健夜「当時は色々と騒がれてたね……今も、どこにいるのか分からないし、一説では中東で傭兵として働いているとか、秘境を旅しているとか、シャーマンの大会に出場しているなんて言われてるけど……」

霞「…………」


お姉ちゃんもすごく残念がって、落ち込んでいたことをよく覚えてる。

まあ、そのフラストレーションを爆発させて、翌年は怒濤の快進撃を見せたんだけどね。



System
・真屋由暉子 □□:1
・石戸霞   ■■:1


キャラ名など↓2

姫様は本当に何かを持っていると疑ってしまいます。まさかそこでゾロ目とか……

本日の更新は終わりとなります。次回の更新は明日行こうということで……プロットの修正が必要なんじゃあ……


良子さんのようにインターハイで活躍してプロ入りしても引退しちゃった人もいるんだよね。

私みたいにインハイからプロへ来た人だけじゃなく、インターカレッジから実業団を経てプロへと転向した人もいるし。


咲「インハイやインカレで活躍してもプロや実業団に来なかった人って意外と多いですよね。私の周りだとインカレでも活躍した和ちゃんと久先輩がそうなんですよ」

由暉子「私の身近だと爽先輩はプロですからそういった印象はそんなにありませんね。でも、言われてみれば辻垣内さんや荒川さんはプロになっていませんでしたね」

健夜「私の世代はそういう人がいっぱいいたな。赤土さんとか一時は麻雀から離れてしまっていたみたいだし」


それって絶対に健夜さんのせいだよね。

お姉ちゃんもそう言う人をいっぱい作ってたみたいだし、やっぱり点数調整ができないとダメだね。

だから、人間じゃないとか、化物とか、魔物なんて呼ばれちゃうんだよ。

私みたいに手の平の上で転がして、上手に麻雀を楽しまないと遊ぶ相手がいなくなっちゃうから。

単なるトラウマ製造機は本当、いい加減にして欲しいな。


咲「そう言えば、霞さんも赤土さんみたいに直ぐにプロへと進んできたわけじゃなかったんでしたっけ」

由暉子「確か、高校卒業からプロに来るまでの間に結婚して、家庭に入っていたんでしたよね?」

霞「ええ、そうね。それで、家の方で少し色々とあってね。伝手もあったからプロへと来れたのよ」

健夜「結婚生活か……ふふふ、あは、あははははっはっはっ……はあー…あっこれ美味しい!」グビッ


ああっぁ!

それ、明華さんからもらったフランス産のヴィンテージものだよ。

私が世界ジュニアで優勝した時にもらった記念品、美味しいから少しずつ飲んで楽しんでたのに全部飲んじゃうなんて……


由暉子「霞さんの元旦那さんってどんな方だったんですか?」

霞「思い出したくもないかしら。潰すか、もいでしまいたくなるわね」


霞さん本気で嫌なんだな。

笑っているのに全く笑ってないし、ボールクラッシュとかポッキリってことだよね。

ユキちゃんってよく平気な顔で地雷を踏み抜けるね、ちょっと感心しちゃうよ。


健夜「霞ちゃんの持ってきたこれも美味しいね。プロにならなかった子なら、一人だけ本気で戦ってみたい子がいたんだよね」

咲「へえー、健夜さんがやりたいと思った人がいたんですか」

霞「国内無敗、グランドマスターのお眼鏡に適う相手は気になるわね」

由暉子「私たちも知っている人ですよね? いったい誰なんですか?」

健夜「うん、正確には人って言うのは少し違うのかも。霞ちゃんはよく知っているはずだよ。永水にいた神代さんだよ、彼女が相手だったなら……多分、私も本気で麻雀を楽しめるんじゃないかな」


神代さんか。

彼女は確かに強かったけど、その強さには安定性がなかったかな。

弱いときはインハイの全国レベルでもないのに、強いときは私でも手がつけられない強さだったからね。

多分、健夜さんは神代さんの最も強いときと戦ってみたかったんだろうな。


由暉子「神代さんって、私が高校二年時のインターハイを最後に麻雀の大会に出て来なくなったんですよね」

咲「そうそう、その年の秋の国麻にも選抜されていたけど出場を辞退していたもんね。霞さんなら、彼女が今どうしているのか分かりますか?」

霞「私も小蒔ちゃんとはもうずっと会っていないわ。でも、今も霧島神境にいるのは間違いないかしら……」


鹿児島、霧島神境。

私はそこに行ったことはないけれど、京ちゃんはそこで高校二年生の夏休みを過ごしたんだよね。

確か、京ちゃんのお父さんの実家が関係していたからだって言ってたかな。

それで、帰って来てからの京ちゃんはまるで人が変わったみたいに麻雀が強くなっていて、何があったのか聞いたこともあったけど京ちゃんは何も教えてくれなかった。

ねえ、霞さんなら知っているはずだよね。

京ちゃんがオカルトに目覚めた理由も、あの夏で一気に大人びた訳も……

いっつも顔に笑顔を張り付けていて、他人に心の内を読ませないようにしているけど、私は気づいていたよ。

その瞳の奥に隠されている感情は私と少しだけ似ていたからかな。

神代さんや良子さんの名前が上がった時、霞さんは何でその色を深めたんだろうね……



System
・ゾロ目により神代小蒔は――となり、――――が確定しました
・安価先が神代小蒔でのソロ目により須賀京太郎はオカルトを覚えていることが確定しました
・石戸霞   ■■:3


↓2


咲「神代さんじゃないけれど、インターハイには今も毎年一人か二人はオカルトで強い子が出てくるよね」

霞「そうね。でも、私もオカルトを扱う一人に数えられるから他人のことは言えないのだけれど、あの頃はそれが異常に多かったように思うわ」

由暉子「世代の前後を比較すると突出していましたからね……」

健夜「うーん、やっぱり、キンキンに冷えたビールと塩気の強い枝豆が最高、色んなお酒を飲んでもこれに回帰しちゃうな」


凍る一歩手前まで冷やしたビールに茹でたての熱い枝豆。

喉に来る苦みと口に広がる塩の味にどんどん手が伸びちゃうもんね。

だけど、健夜さんペースが早いよ。

私たちの倍以上の速度で、半分以上を一人で消費しているから。


健夜「ああ、咲ちゃんたちがインハイに出場した年はルールの改訂が行われたからね。運の要素をあえて強めていたから、前後と比べると目立っちゃうんだよ……」

由暉子「確かに、その後はまたルールが変わって元のルールに近いものになりましたけど……」

健夜「まあ、当時は色々と上の方が揉めていたんだよ……」グビッ


麻雀。

競技人口が数億人を超え、今では十億人前後だとも言われるほどに流行している。

日本は麻雀の先進国に数えられているけれど、少し前、健夜さんたちの世代までは古豪なんて世界では評価を下されていた。

強くはあるけれど、トップからは一段落ちる。

麻雀の黎明期に世界を席巻し、麻雀の隆盛とともに栄枯していったんだよね。


霞「やっぱり、特殊な子を選り分けるためにルールを変更したという噂は真実だったのかしら?」

健夜「三人ともプロだから言うけれど、そうだよ。上の方は特別な子が欲しかったんだよね……原因の一部は私にもあったんだけど……」


魔物、牌に愛された子、色んなふうに呼ばれるその才能を見つけるためのルール変更か。


健夜「技術は研鑽すれば高められるよ。でも、才能は努力じゃ手に入らない。麻雀に初めて触れた年にインターハイを制しちゃった私みたいなのがいるわけだし……」


私から見ても小鍛治健夜は化物だ。

国内無敗、永世七冠、史上最年少八冠保持者、リオデジャネイロ東風フリースタイル戦での銀メダル獲得。

運の要素が強いはずの麻雀で負けなしって言うのは人じゃない。

私でも、負けるときがあるんだから……


由暉子「才能の前には努力は無駄だということですか?」

健夜「半分正解かな。私自身の経験から言えば、努力が本物に勝てる可能性もあるよ」

霞「銀メダルがその証明なのかしら?」


健夜さんは曖昧に笑ってグラスを傾けた。


健夜「だぁに、これぇ……」ゴホッゴホッ

由暉子「私の持ってきたお酒ですね」

健夜「ユ、ユキちゃん、これ芋虫入ってるよッ!!」

由暉子「変わっていて面白いですよね」

健夜「……ごめん、ちょっと席を外すね……」


トイレに駆け込んで行くほどのものかな。

芋虫くらい平気なのにな。

うん、よくお酒が染み込んでいて芋虫自体も良い味を出してるよ。


咲「このお酒美味しいのにね」パクッ

由暉子「そうですよね。咲さんに勧められて私も嵌ったんですけど、何が悪かったんでしょうか?」グイッ

霞「私は健夜さんに同情するわね……やっぱり芋よ。浮気しちゃダメよね」

咲「才能、オカルトか。いろんなオカルトの使い手がいるけど、二人は誰か戦いたくない相手っていますか?」

霞「そうね、私は塞さんかしら。相手の能力を封じてしまうあのオカルトとは相性がとても悪いのよね……」

由暉子「私の栄光の左手に死角はありません」フフン


霞さんは生粋のオカルト使いだからね。

オカルトなしでも強いけど、本領はオカルトを使えてこそだからそれを封じてしまえる塞さん相手にはやり難いよね。

栄光の左手って、まだ、その病が完治する兆しはないんだ。

まあ、ユキちゃんはそうなんだろうね。

本人の技術の高さもあるし、誰と戦っても一度は大きなチャンスが巡ってくるんだから特に苦手意識を持つ相手がいないんだよね。


霞「咲ちゃんはどうなの?」

咲「支配系は厄介だと思いますけど料理の仕方は色々とありますし、私も特にないですよ。まあ、単純に上手い相手の方が楽しいですかね。それでも面倒だと思うオカルト使いを挙げるなら玄さんかな」

霞「玄?」

由暉子「阿知賀のドラゴンロード! 格好良いですよね。だからよく覚えてますよ。私もああ言った異名に憧れますから」


そうかな?

確か咏さんが命名したんだよね……

私も当時は清澄の嶺上使いとか、まこ先輩からはプラマイゼロ子なんて呼ばれて微妙な気がしたんだけど。

まあ、今、ネットで書かれているような名称よりは数段マシだと思うけどさ……


霞「ああ、確か阿知賀の先鋒だった子よね。赤い牌が来やすい子だったかしら?」

咲「そっちはお姉さんの方ですね」

由暉子「玄さんはドラの使い手ですよ」

咲「玄さんが卓に入るとドラ牌が全く来なくて、卓に入る面子次第だと非常に面倒なことになりかねないんですよ。制約としてドラを捨てられないので、彼女自身はそこまで脅威ではないんですけど」

霞「ああ、それは少し面倒かもしれないわね。プロや実業団にそんな子がいるって話は聞かないし、今は何をしているのかしら?」

咲「奈良にある松実館という旅館で女将をしていますね。私は何回も泊まりに行ってますけど良い所ですよ」


松実館に初めて訪れたのはいつだったかな。

確か、高校一年生の冬休みに阿知賀で春の大会に向けての合同合宿を開いたときだったよね。

あの時はその前の合同合宿と違って京ちゃんも参加していたんだっけ。

和ちゃんの友達だから話も弾んで楽しかったな。

私の知らない間に玄さんと京ちゃんが親しくなっていた時はびっくりしたよ。

帰ってからも頻繁に連絡を取り合って、何だかよく分からないことを話していたからね。

初めておもちなんて単語を聞いた時には、何で食べ物のことを話しているんだろうって疑問に思ったんだから。

はあー、おもちか……京ちゃんのバカ……


由暉子「今度、このメンバーでその松実館に行きませんか?」

咲「良いね。後一、二ヶ月で紅葉シーズンになるし、予定空けておくことにするよ」

霞「そうね……」



System
・真屋由暉子 □□:2


↓2

System
・安価先が佐々野いちごで下一桁がコンマ4のため……


次の更新は夜か明日となります。


健夜「三人ともなんだか盛り上がっているみたいだけど何の話をしているの?」

由暉子「今度の秋に奈良にある松実館という旅館に旅行で行こうというお話です。健夜さんも一緒に行きますよね?」

健夜「うん、それは楽しそうだね。私も行って良いなら一緒に行くよ。でも、ユキちゃん大丈夫なの? 国麻の解説者に選ばれてもいるし、試合だけじゃなくてアイドルや麻雀の広報活動でびっしりと予定が決まっているんじゃなかったの?」

由暉子「先輩たちと相談してスケジュールに頑張って空きを作るので大丈夫です」ニコニコ

霞「あんまり無茶をしてはダメよ。プライベートだからって羽目を外し過ぎてもいけないわ」

健夜「そうだね。何か間違って先代の牌のお姉さんみたいになるのは本当に困るからね……」


ユキちゃんは現牌のお姉さんだ。

だけど、彼女はポストはやりを射止めたわけじゃない。

ユキちゃんの前任者は佐々野いちごさんで、彼女こそがはやりさんの後を引き継いだ牌のお姉さんだった。

佐々野さんは私が高校一年生の時に出場したインターハイで洋榎さんに役満を振り込んで涙したシーンも有名だ。

実はあのシーンはその年のインターハイを彩る映像として何度も何度もお茶の間に流されちゃったんだよね。

知名度の向上と団体戦の後に行われた個人戦で佐々野さんは奮闘したこともあって、元々あったアイドル雀士としての人気が爆発したことをよく覚えてる。


由暉子「大丈夫ですよ」

咲「ユキちゃんは見ているとちょっと心配になっちゃうからね」

由暉子「もう、咲さんまでそんなことを言って、私も良い大人なんですから大丈夫です」

健夜「スキャンダルには本当に気をつけてね。先代のおかげで麻雀に対する悪いイメージが昔のように再燃しているから……」


麻雀や芸能界には昔から黒い噂が絶えなかった。

強い男子は裏にいるとか、横浜の麻雀賭博とか、本当にいろんな噂がある。

そのほとんどは有名人に対するやっかみや面白おかしく書きたてようとするゴシップで根も葉もない話ばかりだったんだけど、数年前にあの事件が起きちゃったんだよね。

ちゃちゃのんショックなんて呼ばれる大事件が。

佐々野さんは当時、プロ雀士で牌のお姉さんとして働いていたんだ。

その人気はまさに国民的アイドルと言って良くて、とんでもない人気を博していた。

そんな佐々野さんに一つのスキャンダルが報道されたんだよ。


事件の全容は闇の中に消えて今でも分からない。

明確に分かっている事実としては、彼女が高額の賭け麻雀に参加したこと。

金銭に困っていないはずの彼女がどうしてそれに参加したのか分からないけど、結果的に彼女は敗北してしまった。

それが原因なのか、芸能界だけじゃなく、政財界の大物と呼ばれるような人たちと肉体関係を結んでいたこと。

幾つもの動画が今でもネット上で少し検索すれば見ることが出来てしまうほどに拡散して広がってしまっている。

私たちの所属する日本の麻雀を統括する協会は関与を否定したけれど、少し探ればそれはあり得ないと分かってしまう。

協会は矛先を向かうのを怖れて佐々野さんをスケープゴートにしたのは明白だった。

そして、国民的アイドルの暗部に政財界の大物が関わったことでその事件は政変にまで繋がって更に悪化していったんだ。

事件を端にして起きた政治の混乱が世界中に影響を与えて、偶然が重なったんだけどリセッションまで起きてしまった。

だから、あの一時的世界不況は俗にちゃちゃのんショックなんて名称がつけられているんだよね。

佐々野さんが最後の記者会見で問われた時に発言した『そんなん考慮しとらんよ…』は世界中に発信されて知らない人はいないくらいだったし。

彼女は今も行方不明で生死も分からない。

死体はあがっていないけれど、あの事件の真相へと至る情報を閉ざすために消されたなんて言われているくらいだから。


健夜「麻雀にクリーンなイメージを持ってもらうために苦労しているんだよ……」

霞「協会本部と関わる人は大変ね。でも、あの事件があったからユキちゃんは牌のお姉さんに就任できたとも言えるのよね」

由暉子「事件の影響があったのは否定しませんよ。あの事件で佐々野さんの所属していた最大手の芸能事務所やそれに近い規模の事務所が幾つも潰れましたから。まだ業界全体で見れば小規模だった私の事務所が躍進する機会になったわけですし……先輩たちの努力があったこそだからだと私は思っていますけど」

咲「嫌な事件だったよね……」


あの頃は少しの間とはいえ女性雀士は色眼鏡で見られてしまっていた。

まあ、どういうわけか私はそんな目で見られることもなく、ああこいつはないな、なんて言われたけどね。

本当、失礼な話だよ。

私と似たようなお姉ちゃんは少しは怪しまれたのに、何で私は問題なしと思われたのかな。

そう言えば、健夜さんも私と同じだったっけ……



System
・石戸霞   ■■:4


↓2

本日はもう一本書けたので投下します。



健夜「女性雀士に恋愛関係のスキャンダルは仕方ないって思うよ」

霞「そうね。女性には適齢期があるもの。今は晩婚化が進んでいるけれど、27なんて昔で言えば大年増も良い所なのよ咲ちゃん」

咲「霞さん、何で私だけに言うのかな? ユキちゃんだって同い年なんだけど」

健夜「ここにいるメンバーじゃスキャンダルの心配があるのはユキちゃんだけだもんね……ああ、恋愛したかったな……」グビッ

霞「私はまだ諦めていないんだけれど? 呪いをかけるわよ」

咲「健夜さんの大好きな虫がいっぱいあるんですけどもちろん食べますよね?」

咲霞「「ふふふ」」


ザザムシ、はちのこ、イナゴに蚕。

どれでも好きに選んでいいんだからね。

酒の肴にはとっても合うから食べようね。


健夜「ご、ごめんなさい、まだ、二人とも私と違ってアラサーだもんね」アセアセ

由暉子「健夜さんが言うほどにはスキャンダルは多くないと思いますよ?」

霞「あの事件があってからは小さなことなんて大きく取り上げられることもなくなってしまったものね」

健夜「最近だと優希ちゃんがスキャンダルとして取り上げられたよ」

由暉子「彼女も一昨年まではこの会にいたんですけどね……」


優希ちゃんは東神と呼ばれたプロ雀士だった。

あのインターハイで辻垣内さんやお姉ちゃんと言った格上に苦汁を嘗めさせられた経験が彼女を大きく成長させた。

東風戦に限れば健夜さんの領域に半歩踏み込んでいたと言ってもいい。

自信に溢れたビッグマウスで場を賑わせ、それを何度も現実に達成させたことのあるトッププロだ。

私にとっては同じ思いを、経験を、痛みを分かち合った心の友だった。


咲「優希ちゃんは裏切者です」

霞「まだ根に持っているの? 二人ともあんなに仲の良かった親友だったじゃない」

咲「だからこそですよ。親しかったからこそ私は優希ちゃんを許せないんです……」


彼女が京ちゃんを好いていたことは傍から見れば丸分かりだった。

部内で気づいていなかったのは京ちゃん本人だけ。

優希ちゃんは私と違って素直で、行動力に富んでいて積極的に好意をアピールしていた。

私はそんな彼女を見ていつも心の奥で不安を抱えていた。

そんな私の想いに優希ちゃんは気づいていたんだ。

だから、彼女は清々しいほどに私に向かって正々堂々と宣戦布告した。

それがあったから、私も勇気を持って一歩だけ前に進めたんだよ。

お弁当を作ったり、一緒に帰ったり、休日には遊びに誘ったりと行動したんだ。

京ちゃんに好いてもらおうと私と優希ちゃんは頑張って、それでも京ちゃんは全く気付いてなんてくれはしなかったけどね。


だから、優希ちゃんは京ちゃんに告白することを決意したんだ。

でも、優希ちゃんは私に先手を譲った。

私の方が京ちゃんに先に出逢っていて、ずっと好きだったからってだけで告白する機会を先に与えてくれたんだよ。

だけど、やっぱり私は怖かったんだね。

幼馴染としての関係が壊れてしまうことが、京ちゃんとの絆を失ってしまうことを恐れて告白できなかった。

それで、優希ちゃんが告白する期日が来て、一人部室で震えてたんだ。

二人が付き合ったらどうしよう、どうしようって、何で告白しなかったんだって後悔して……

でも、優希ちゃんは京ちゃんに振られてしまった。

私は泣いた。

優希ちゃんも泣いた。

二人でわんわんと泣いて、泣いて、バカみたいに騒いで、慰め合った。

そんな優希ちゃんは私と同じでずっと京ちゃんへの想いを引き摺っていたんだよね。

この部屋で何度も愚痴を零しては朝まで飲み明かし、その回数は数えきれない位に多かったよ。


由暉子「優希さんは妊娠して元気な赤ちゃんを出産したんですよね。父親は誰にも明かさず不明なまま……」

健夜「普通に妊娠して、結婚するならなんの問題もなかったよ。だけど、父親不明の私生児とか外聞が悪すぎてね。もう、彼女のスキャンダルが明るみになった当時は本部の方に問い合わせが殺到して、対応に苦慮させられたんだから……」

由暉子「二人目のちゃちゃのん、麻雀界の闇なんて特集がテレビで組まれて報道されてましたもんね」

霞「結局、父親は誰だったのかしら? 咲ちゃんなら聞いているんじゃないの?」

咲「聞いてませんよ。優希ちゃんは何も教えてくれなかった……」


そう、優希ちゃんは私に何も口にしなかった。

でも、その膨らんだお腹を愛しそうに優しく撫でる手や表情を見たときから私は疑っていた。

無事に生まれてきた優希ちゃんの赤ちゃんを見て、その疑問は確信に変わったんだ。

私はいてもたってもいられずに、彼を問い詰めた。

だけど、京ちゃんは否定した。

幼馴染でずっと彼を見続けてきた私には分かったよ。

京ちゃんには本当に身に覚えがないのだと。

それでも、あの赤ん坊は間違いなく京ちゃんの子供だった。


System
・石戸霞   ■■:5


↓2

コンマによって変わるっぽいけどどんな法則?
あと一目見ただけで京太郎の事がわかるくらいだから京咲はナンバーワンな

ips!ips!

>>90
独断と偏見+出身高校+既出キャラ+特別なコンマ=現在の状況が判定がされます

>>92
ips細胞から人の精子と卵子を作成するのに必要な始原生殖細胞の作製に成功したそうですね……



健夜「強い女性雀士は呪われていると思わないかな? 結婚が遅かったり、スキャンダルで騒がれたりとか。私が結婚できないのも麻雀のせいだと思うんだけど……」


健夜さんは顔も悪くないし、高収入で保有している資産はとんでもない額だからね。

結婚ができないのは今日みたいに楽だからってジャージを着ていたり、少々ずぼらな所とか本人に原因があるんだと思うんだけど。


霞「プロでも結婚している人はいるわよ。健夜さんはそういった原因を何かのせいにして逃げているから結婚できないんじゃないかしら?」

健夜「えっ、そ、そんなことないよね? 私と同じアラフィ、いやいやアラフォーだよ……そのコースを進んでいる咲ちゃんなら分かってくれるよね?」

咲「健夜さんと同じにしないでください」

健夜「そんなあ……」


私だってそこまで顔は悪くないし、高額所得者だよ。

まあ、おもちはないけど……

私が結婚できない原因は京ちゃんを忘れられないだけなんだからね。

お見合いの話が来ないのはマネージャーがきっと遮断してくれているだけだし……

告白されないのもついつい何でもかんでも京ちゃんと比べちゃうことに原因があるだけだから……


霞「結婚や出産をしてもいてもそれが幸せだとは限らないわよ……」


離婚経験のある霞さんが言うと説得力があるな。

アラフィフの健夜さんや初恋を引き摺っている私を除けば、このメンバーの中だとユキちゃんが一番結婚が早そうかな。


由暉子「霞さんはそう言いますけど、私はやっぱり結婚には憧れます。可愛い赤ちゃんを抱いている姿を見ていると羨ましくなりますよね」

咲「ユキちゃんの周りには幸せな人が多そうだからね。次鋒の人が成功していたことも分かったし、揺杏さんなんて世界的デザイナーとして活躍しているもんね」

霞「ユアンブランドは洋風の服や装飾にあまり興味のない私でも知っているわ」

健夜「私も幾つか持ってるよ」

由暉子「揺杏先輩にも感謝してもしきれないです。先輩はたくさんの依頼があっても私の専属デザイナーを続けてくれているんです」

霞「もしかして、今来ているその服もそうなの?」

由暉子「はい。私の持っている服飾関係の品は全部揺杏先輩が手ずから作ってくれたものですから」

健夜「ユキちゃんってテレビ出演とかの度に毎回、服が変わっていたよね? あれ、全部が彼女の謹製なの?」

由暉子「そうですよ。揺杏先輩は龍門渕さんの所で修業した結果、覚醒したんです。本気の彼女は一瞬で一着の服を作り上げたりしてしまうんですから」


健夜「あはは、ユキちゃんも冗談を言うんだね」

霞「ユキちゃん酔っているのかしら? 少しお水を飲んで酔いを醒ましましょう。服が一瞬で作成できるなんてあり得ないわよ」

健夜「そうそう。物理法則を超えちゃってるよ。あれでしょ、短い時間で幾つもの服とかを作成するからそんな風に言ったんだよね」

由暉子「本当なんですよ」


やっぱり執事っておかしいよ。

いったいハギヨシさんは揺杏さんをどれだけ鍛えたんだろう。

確か、ハギヨシさんは壊れた和ちゃんのエトペンを一瞬で直したことがあったはずだよね。

まさか、揺杏さんもそのレベルに達しているのかな。

京ちゃんにもタコスの作り方とか教えていたし……執事ってなんなの?



System
・真屋由暉子 □□:3


↓2


由暉子「どうして二人とも信じてくれないんでしょうか。健夜さんは麻雀で負けないとか、霞さんなんて本物の異能を扱う能力者なのに」

健夜「私はただどうしようもないくらいに麻雀が強いだけで物理法則を超えているわけじゃないから」

霞「伝統と神秘の秘術なだけで、私は人間を辞めていないわよ」

咲「二人とも、ユキちゃんは嘘なんてついていませんよ。ハギヨシさんが鍛えたなら十分にあり得る話ですから」

霞「ハギヨシさん? その人は何者なの?」

由暉子「龍門渕の執事さんで先輩たちの師匠です。武芸百般、万事に通じ、完全無欠のバトラーです」


ハギヨシさんは京ちゃんの友人で本名は荻原って言うそうだけど、能力は人外の領域だからね。

まあ、一番驚いたのは私よりも四つ年上だったていう事実だけど。

私はハギヨシさんてもっと年上で健夜さんと同じくらいだって思っていたから。


健夜「そんなにすごい人なんだ。ねえ、そのハギヨシさんて独身? 年は何才で、趣味とかは何かな? 連絡先を教えて欲しいんだけど?」

咲「健夜さん、透華さんから聞いたんですけどハギヨシさんは龍門渕を出奔してしまったそうですから……」


彼の行方は透華さんも把握していないそうだ。

ただ、友人としてハギヨシさんと親しくしていた京ちゃんなら、もしかしたら知っている可能性もあるかもしれないけど。


健夜「はあ、何で私には良い男の人との縁がないんだろう……よし、熱燗飲もう」


健夜さんは勝手知ったる台所に向かっていっちゃった。


由暉子「さあ、霞さんも認めてください」

霞「森羅万象、超常の力は確かにこの世に存在しているものね……」

由暉子「永水はそういう方たちばかりでしたね」

咲「神降しとか神憑り? 祓いとか鬼門とか、完全にファンタジーだよね」

霞「私にとっては当たり前に存在する日常のものなのだけれど……」

由暉子「日常ですか。永水には私や咲さんと同じ学年の人が一人いましたよね」

霞「……春ちゃんね」


永水の滝見春は私の記憶にも色濃く残っているよ。

高校三年時のインターハイ団体戦に永水女子が出場してくることはなかったんだよね。

あの学校から大会に出てきたのは個人戦に現れた彼女だけだった。

ただ、その姿は前年の夏と比べてあまりにも違っていて……痛ましいって言葉が良く似合っていたかな……

彼女はインハイ個人戦の会場に車椅子に乗って入場してきたんだから。

彼女の車椅子を押していた人も片目に眼帯を嵌めていたし、身に纏っている雰囲気がおかしかったのをよく覚えてる。

私はあの人の姿を見て、昔馴染みのあの子のことを思い出してしまった……

彼女は異常なまでの強さで、私も僅差で降すことしかできなかった。


由暉子「とても強くて怖かったことを覚えています。鬼気迫るものがあって、いったい春さんに何があったんですか?」

霞「……知りたいの?」


その声はぞっとするほどに冷たかった。

私もユキちゃんも霞さんの醸し出した雰囲気に一瞬で呑まれてしまった。

少し、漏れちゃったかもしれない……


霞「世の中には知らない方が良いこともあるの。誰にだって言いたくないこともあるものよ。……春ちゃんは姫様の傍にいるわ」


霞さんはどこか寂寥を含んだ声を漏らし、物々しい空気を霧散させると芋焼酎を呷り呑んだ。



System
・石戸霞   ■■:6


↓2

本日はこの投下で終わります。



健夜「おまたせ。頑張って私も肴を作ったよ。えっ? 何この空気……」

霞「何でもないわ。それよりも美味しそうね。魚の焼けた良い香りがするわね」


健夜さんありがとう。

正直に言ってちょっと助かったよ。

私とユキちゃんだけじゃ気まずくなった空気を入れ替えるのは無理だったと思うから。

それにしても、カツオのタタキは私が用意していたものだよ。

サラガイのマリネはユキちゃんだし、ウニを捌いたのは霞ちゃんだよ。

健夜さんが焼いたって言うアユは私が下拵えしておいたものなんだけどな……

全く、これだから実家住まいのアラフィフは。


由暉子「……熱いお酒に海産物って良いですよね」

霞「そうね。健夜さんが日本酒だけでなく芋焼酎の熱燗も用意してくれていて嬉しいわ」

健夜「霞ちゃんとはもう何度も飲んでいるから好みは分かってるよ」

由暉子「どの食材も新鮮で旬なものでしたけど、咲さんこれってどうしたんですか?」

咲「ん? 白糸台にいた誠子さんって覚えているかな?」

健夜「えーと、あっ、準決勝で大量失点した?」

霞由暉子「ああ、あの」

咲「あはは、まあ事実だけど」


誠子さんはいまだにあの時のことを気にしているからな。

決勝で私たちに負けたのだって自分のせいだって責任を感じていたしね。


咲「お姉ちゃんの妹だからってよく釣ったり、取ったりした獲物を貰っているんですよ。この食材もそれですね」

霞「友人の妹だからね。誠子さんてとても気を遣う人なのかしら?」

咲「別にそういうわけじゃないですよ。単にお姉ちゃんが料理下手だから私に渡すんだと思います」

由暉子「照さんが料理下手ですか? 何だか意外ですね。私は照さんって完璧超人のイメージがあるんですが」

咲「外面が良くて、猫を被るのが上手いだけだよ。本性はポンコツだからね」


お姉ちゃんてば家事は全滅だし、迷子になるし、私以上のポンコツだからね。

まあ、そのことを人に言うと私も変わらないって何故だか突っ込まれるんだけど。

特に私のマネージャーは苦虫を噛み潰したような顔で言うんだよね。

全く、妹より優れた姉なんているわけないのに。


健夜「はあ、私と照ちゃん。どこで差がついたんだろうな……人外って評価されるのに、どうして私だけ……」グビッ


ああ、また一人でガツガツと食べ始めちゃって。

健夜さん、最近腰回りが気になるって言っていたのにあんなに食べて良いのかな?


霞「誠子さんは魚釣りが趣味なのかしら?」

咲「趣味と言うよりも本職ですね」

由暉子「漁師さんなんですか?」

咲「違うよ。日本ではあんまり知られていないけど、彼女は釣りプロとしてアメリカで大活躍しているんだよ」

霞「釣りプロ?」

咲「スポーツフィッシングって言うのかな? トーナメントがあったりして高額の賞金も出るスポーツの大会があるんですよ」


由暉子「すごいですね。日本からの刺客、賞金稼ぎ。雀士の中にもそういう海外を渡り歩く方がいますけど、憧れを覚えますよね」

咲「ユキちゃんは国内での活動が多忙だから、海外に行くことはあんまりないもんね」

霞「全く異国の地で過ごすなんて大変ね。海外を活動拠点にしているなら、日本にはあまり帰って来られないんじゃないかしら?」

咲「いえ、オフシーズンや大会までの空白期間があるときは、日本に帰って来て川や磯で魚を釣って遊んでますよ。自由人と言うか、麻雀は今では完全に離れてしまっている釣りバカですね」


誠子さんには何度か誘われて一緒に釣りに行ったことがあったけど散々だったな。

ある時は、人の踏み込んでいない山の中の渓流に釣りに行き、一晩を森の中で明かして怖かったな。

別の時は、日の昇る前から起こされて彼女の船で海釣りをしに行き、船酔いで吐き出しちゃって苦しかったよ。

インドア派で文学女史の私にはアウトドアな活動は辛いんだから。

だいたい、彼女の横で釣りをしていてもあまりの腕の差に自分がそこにいる存在意義を疑っちゃうし。



System
・真屋由暉子 □□:4


↓2


Tolulululu Tolulululu Tolululu……


霞「咲ちゃん電話が鳴ってるわよ」

由暉子「早く出た方が良いですよ」


はあ、わざわざ自宅の固定電話に掛けてくるなんてどこの誰だろう。

なんだか楽しい時間に水を差されたみたいで嫌だな。

全くもう、携帯に掛けてくれればいいのに。


咲「はい、もしもし、宮永ですが」ガチャ

『ちょっと、咲! 何であんた来ないのよッ!!』


咲「えーと、憧ちゃん?」

憧『そうよ。今日は今度のプロアマ親善試合のためにあたしと打ち合わせをするって話だったでしょ!』

咲「えっ?」

憧『どうせ忘れてたんでしょ。 ああ、もう、咲を信じてあんたのマネージャーに伝えることを怠った私の失敗ね……』

咲「あっ!!」

憧『マネージャーに確認したら今日はオフだって言うし、そんな話は咲から聞かされていないってのも教えてもらったわよ』

咲「ご、ごめんね憧ちゃん……」アセアセ

憧『全く、咲はポンコツなんだから。それで、今何やってんの? 暇なら今からでも良いから来なさいよ』

咲「あー、いつものメンバーで宅飲みしてる最中なんだけど……」


憧『はあ、また憐れなアラフォー軍団が集まっているわけね……』

咲「アラサーだよ! あっ、健夜さんは違うけど」

憧『はいはい。ああ、もう分かったわ。あたしも今からそっちへ行くから』

咲「えっ?」

憧『それと、咲、また携帯の電源がオフになっているから入れときなさい。それじゃまた後でね』ガチャ

咲「もしもーし、もしもーし、憧ちゃーん?」

『…………』


はあ、言いたいことだけ言って切っちゃうんだから。

とりあえず、携帯の電源を入れとこう。


霞「憧ちゃんから?」

咲「はい。憧ちゃんからでした」

由暉子「どんな用件だったんですか?」

咲「あはは、約束をすっぽかしちゃってたみたいです……」

霞「あらあら、それで? 今日はもう解散なのかしら?」

咲「いえ、今からここに来るそうですから問題ないですね」

健夜「へえー、じゃあ憧ちゃんにお酒と肴の追加を頼んどかないと」


霞ちゃんも、ユキちゃんも昔に比べたら随分と良い性格になったよね。

好き勝手に欲しいものの名前をあげているし、健夜さんはそれを全部メモってるしさ。

しかも、幾つかの店を梯子しないと手に入らないものとか鬼だね。

私は約束を破っちゃったから今回は遠慮して頼まないけど……


健夜「送信と」

咲「憧ちゃんも健夜さんから頼まれたら断れないじゃないですか」

健夜「権力とか権限ってこういう時に使うものなんだよ」

咲「うーん、そう考えるとちょっと欲しくなってきますね」

霞「止めときなさい。そういうものを得るってことは、幾つものしがらみや面倒なことも引き受けないといけなくなるのよ……」

健夜「あはは……憧ちゃんか。赤土さんの教え子の中じゃ一番麻雀が上手な子だよね」

由暉子「そうですね。憧さんは強いと言うよりも上手いと言う言葉が似合ってます」

霞「インハイやインカレでも活躍していたのに、彼女はプロにも実業団にも行かなかったわね」

咲「オファーはいっぱい来ていたそうですよ」

霞「あら、そうだったの?」

由暉子「勿体ないですよね。私は彼女のことをプロに来ないかと誘ったことがあるんですけど、見事に振られちゃいました」


ユキちゃんは憧ちゃんをプロに勧誘したことがあったんだ。

まあ、でも憧ちゃんは断るよね。

彼女は和ちゃんがプロに行かなかったからこっちへ来るのを諦めたんだもん。

自分の思う理想的な打ち方を体現する雀士がプロへと行かないのに、そんな彼女を差し置いて実力の劣る自分が行くわけにはいかないって言ってたからな。

それで、大学を卒業後は局のアナウンサーなんかになっちゃってさ。

インハイやインカレ時代の活躍から憧ちゃんは有名だったし、一躍売れっ子として多くの番組に出演するようになっていたんだよね。

ただ、歯に衣着せぬというか、意見を求められたりしたらはっきりとした言動で喋っちゃうから批判と賛同が一杯というかね。

人気を博してはいたんだけど、やっかみもそれなりに多かったみたい。


ちゃちゃのんショックの後は業界全体がゴタゴタしていて、心機一転と言うか、憧ちゃんはフリーアナウンサーに転向しちゃったし。

今はユキちゃんと同じ事務所に所属しているって話だけど……

牌のお姉さんや人気アナウンサーの所属している事務所だから余計に大きな所なんだろうなって私は勝手に思ってたんだ。

アナウンサーとしての憧ちゃんは人気だし、麻雀関係のお仕事では確立した確固たる地位を築いているみたい。

なにせ、本人が下手なプロよりも麻雀が上手だから、どっちが解説役なのか分からないなんて言われちゃうもん。

はあ、憧ちゃんは私と違って順風満帆に人生を謳歌しているんだよね……



System
・安価先が新子憧で下一桁が7のため、宮永咲の家に訪れます
・宮永咲   ◇◇:1


↓2

姫様に次いで、衣でもゾロ目だと(白目)
しかも、44ゾロ目……なんもかんもコンマが悪い……またプロットの修正しなきゃ……
次の投下は夜か明日と言うことで


霞「憧ちゃんのようにプロへの道を嘱望されていながらならなかった子もいれば、周囲の状況やしがらみによって望んでもなれない子もいるのよね……」

由暉子「プロ雀士でも戒能プロのように突然引退を宣言して辞めてしまう人だっていますよ……」

健夜「いちごちゃんのように本人の意思とは別の所で進退が決まってしまうことだってあるよね……」


少ししんみりとしてしまった空気を紛らわすように、私たちは熱燗を口にした。

アルコールの苦みと広がる甘味、お酒の熱が心と体をポカポカさせる。

ゆっくりとした時間が流れ、インターホンから来客を告げるチャイムの音が鳴った。

私は立ち上がり、壁に設置されているインタホーンの液晶画面を見る。

そこにはマンションの入口で荷物を抱えている憧ちゃんの姿が映っていた。


憧『咲、来たから開けて』


パネルを操作してエントランスの扉を開ける。

それから程なくして二度目のコールが鳴った。

映し出されたのはエレベータの中で、憧ちゃん一人の姿が映っている。

セキュリティの関係から私の住んでいるこの階には部屋から操作しないと停止することはない。

操作を終えて一分もしない内に三度目の呼び出し音が響いた。

液晶にはエレベータから出て、私の住居への侵入を阻む最後の防壁前に佇む憧ちゃんの姿があった。

他人が入るには面倒な操作が必要だけど、私個人は簡単だ。

網膜、静脈、指紋などの生体が鍵となっている。

鍵をなくしてしまう心配がなくて本当に安心だよね。


憧「はあ、咲はバカみたいにセキュリティの高いマンションに住んでるわよね」

咲霞由暉子健夜「憧ちゃんいらっしゃーい」

憧「こんばんは。まったく、我儘なアラフォー軍団のせいで色んな店を回ってきたわよ。駄菓子からコンビニ指定のフライドチキンまでちゃんと用意したから」

霞由暉子健夜「ありがとう憧ちゃん」

憧「はいはい。あっ、アイスクリームとか冷凍庫に入れてくるから」


憧ちゃんはキッチンの方へ向かっていった。


霞「憧ちゃんが言うように咲ちゃんの住んでいるここってすごいわよね」

健夜「私の家とは比べ物にならないもんね」

由暉子「フロアーの一つを丸ごと個人の住居に使っていてとても広いですし」

憧「はっきり言って無駄遣いよ。全部の部屋を有機的に使用しないで、結構遊ばせているんだから。さてと、それじゃあお酒を飲む前に仕事の話は済ませちゃうわよ」


憧ちゃんはやっぱり最高学府に通っていただけのことはあって頭が良いんだよね。

仕事の話がスムーズというか、段取りが上手というか。

少しの時間で必要なことは全部決まっちゃうから。


憧「それじゃあ、詳細はあんたのマネージャーにも、今度は、私から伝えておくから本番はちゃんとしてよね」

咲「わ、分かってるよ。大丈夫だってば……多分……」

憧「はあ、咲のマネージャーがいなかったら頭が痛くなりそうよ。それにしても、丁度良いかもね。日本のトッププロがこうも一カ所に集まっているわけだし、仕事で使えそうなネタが欲しいから質問させてもらって良い?」

霞「良いわよ。色々と駆けずり回らせてしまったお礼もあるし、答えられる範囲なら大丈夫よ」

健夜「憧ちゃんは大変だね。咲ちゃんと相方なんか組まされちゃって。私も大丈夫だよ」

憧「おかげさまで私も厄介な雀士と組むことの大変さと恒子先輩の偉大さが身に染みて分かったわよ」

咲健夜「「あははは……」」


由暉子「憧ちゃん、どんな質問なんですか?」

憧「史上最強の雀士と名高いのはそこにいるアラフィ「アラフォーだよ!」の健夜だけど、それに近い、二番目とかって言ったら誰になると思う? 各自の思っている人をあげてみてよ」

健夜「私が実際に本気で対戦した相手の中であげるなら赤土さんかな」

憧「へえー、晴絵が褒められると教え子としては嬉しいわね」


プロのステージへと上がった赤土さんは強かった。

卓越した観察眼と分析能力で相手の隙を衝き、対策を立ててくる。

私やお姉ちゃんも中々に苦戦させられた。

まあ、私の方が強いんだけどね。

そもそも、健夜さんの評価は十年以上前で止まってるんだよ。

プロには一応の席は置いているけれど、タイトル戦や世界ランクと関わりがあるような第一線には全く出てこないんだから。


霞「ねえ、憧ちゃん。それって現役のプロという縛りはあるのかしら?」

憧「そんなことないけど、誰かアマチュアにすごい人がいるの霞?」

霞「姫様……神代小蒔よ」

由暉子「神代さんですか?」

咲「健夜さんが戦ってみたかった相手にあげたけど、そこまでの実力があるのかな?」

憧「健夜が戦いたい?」

健夜「プロにならなかった強い雀士って話をしていたときに名前をあげたんだよ」

憧「でも、彼女って強さに波があって安定感に欠けていたわよね。確かに最高潮時は神憑った異常な強さだったけど……」

霞「皆は知らないのよ。私が最後に見た姫様は、健夜さんを超えていたわ……」


今では国内最強のオカルト使いとも呼び声もある霞さんが断言するほどの強さね。

多少は身内贔屓の色眼鏡があるんじゃないのかな?


由暉子「現役のプロでしたら、やっぱり咲さんか照さんだと思います」

咲「ユキちゃんありがとう」

霞「……二人なら照さんの方が咲ちゃんよりも上よね」

憧「実績は年齢が上の分だけ照の方が積んでいるけど、最近の成績なら咲が勝ってるわ。だから、私の相方の方が上ね」


憧ちゃんは流石、私のパートナだよね。

ふふん、分かってるね。

ポンコツなお姉ちゃんが私よりも上のはずがないんだよ。

妹属性は姉属性よりも人気が上なのも明白。

妹よりも優れた姉など存在しない。


由暉子「互角ではないですか?」

霞「健夜さんはどう思います?」

健夜「アラフォー候補の咲ちゃんが上に決まってるよ。女性雀士はね、悲しい業を重ねるほど強いに決まってるんだから!」


健夜さんと同じアラフィフは嫌なんだけど……


憧「はあ、公平性に欠けるジャッジね。それで、咲は誰だと思ってるの?」

咲「衣ちゃん」

由暉子「惜しい人を亡くしましたよね……」

霞「彼女なら健夜さんに届いていたかもしれないわね……」

健夜「私さ、衣ちゃんが何かのタイトルを取ったら挑戦するつもりだったんだよ……」


衣ちゃんは享年19歳。

一年と少しのプロ生活で伝説と化したプロ雀士。

世間では第二の健夜とも騒がれていたんだ……

彼女はプロ入り後の公式戦の記録は無敗。

お姉ちゃんや健夜さん世代を叩き潰し、暴れまわっていた。

その勢いは留まることを知らず、まるで生き急ぐかのように全タイトルを奪取しようと最短ルートを邁進していたんだ。

もう、一、二年あれば健夜さんの史上最年少八冠保持者の記録は塗り替えられ、前人未到の九冠やその先に進んでいたのだと思う。


健夜「交通事故だったよね……」

霞「春には式を挙げる予定だったらしいわね……」

由暉子「私が高校二年生の時から麻雀の界隈を席巻して、インハイの個人と団体戦の制覇、秋の国麻ではさらに腕をあげていました……」

憧「本当に惜しい人を亡くしたわよね。天江衣は麻雀界全体にとっても大きな損失だったわよね……」

咲「違うよ。衣ちゃんは天江じゃない、須賀衣だよッ!」


私にとって衣ちゃんは世界で最も羨ましく、妬ましく、憎らしい人だった。

京ちゃんの隣を奪っていた人で、私は今でもあの日の対局を後悔せずにはいられない。

そう、あれは龍門渕がインターハイを個人と団体の二つを制覇し、衣ちゃんのMVP獲得とプロアマ親善試合での優勝に、彼女自身の生誕18年を祝う祝賀会の日だった。

あの日が運命の分かれ道。

あの余興で私が麻雀で勝利していれば衣ちゃんに京ちゃんを奪われることはなかったはずなんだよ。

私、衣ちゃん、透華さん、そしてクジ引きで当たりを引いた京ちゃん。

このメンバーで卓を囲んだ唯一の麻雀。

霧島神境から帰ってきた京ちゃんの変化には気づいていたのに、愚かな私は踏み込めなかった。

もしも、京ちゃんとの関係が変わってしまうことを怖れずにぶつかっていれば、まだ挽回の機会はあったのかもしれない。

だって、彼の一番近くにいたのは私で、京ちゃんのことを誰よりも知っていたのは私のはずで……

だけど、過去は変えられない。

私は選択を誤った。


夏休みから減っていた京ちゃんの笑顔が増えていくことに私と優希ちゃんはバカみたいに喜んでいた。

それをなしたのが衣ちゃんだと知りもせずにね……

何も知らない、気づかないままに、国民麻雀大会が終わったある冬の日に優希ちゃんが京ちゃんへと告白した。

彼は衣ちゃんが好きだと答えて優希ちゃんを袖に振った。

そして、京ちゃんと衣ちゃん、二人の交際が始まったんだ。

年明けを前にプロ入りを果たした衣ちゃんは破竹の勢いで勝利を重ね、京ちゃんも勉強に麻雀、文武の両面で凄みを増していった。

高校三年のインハイは清澄が圧倒的な完全勝利を決めた。

男女の個人戦、団体戦を制すると言う史上稀に見るクアドラプル優勝だったんだから。

そして、清澄の勝利の祝賀会と衣ちゃんの誕生日を祝うパーティーが開かれた。

あの日の運命の日から丁度一年後の同日、京ちゃんと衣ちゃんの婚約が発表された。

報道機関には知らされていなかったから世間はその事実を知らない。

もしも、テレビや新聞で記事になっていたら私もある意味で耐えられず、京ちゃんも無理だっただろうね。


幸せそうな二人を見ているだけで涙が零れそうになって、私は必死に我慢してお祝いの言葉を贈ったんだよ……

でも、その幸せは京ちゃんが18歳を迎えた日にあっけなく崩壊した。

本当にごく親しい人だけを集めて京ちゃんの家で行われた小さなパーティー。

私は幼馴染として参加して、彼と彼女が籍を入れるために婚姻届の提出をしに役所へと出かけるのを見送った。

二人が寄り添い合って雪の降る中を歩いていく姿に涙が零れて止まらなかった。

だけど、僅か数時間後、入籍を果たしたその帰り道で京ちゃんと衣ちゃんは交通事故に遭ったんだ。

医療への見識もあったハギヨシさんが救命に携わったそうだけど、京ちゃんは一命を取り留め、衣ちゃんは短い生を散らした。

衣ちゃんの死相は事故に遭ったのなんて嘘みたいに、とても綺麗な顔をしていたんだよ……

安っぽいけど、ただ眠っているだけのような……

幸せそうな……

本当に、そんな最期の……


衣ちゃんが死んで、京ちゃんは抜け殻のようになってしまった。

そして、ハギヨシさんは助けられなかったことに責任を感じていたのか、衣ちゃんの四十九日が明けると龍門渕から姿を消してしまった。

それ以来、出奔した彼の行方は透華さんの情報網ですら見つけることが出来ないでいる。



System
・コンマ44により天江衣は須賀京太郎と結ばれました
・コンマ44は封印され、以後の安価先がコンマ44の場合、その直下でコンマの再判定が行われます
・ゾロ目により天江衣は――となり、――――が確定しました
・安価先が天江衣で下一桁が4のため、天江衣は――しました
・安価先が天江衣でのソロ目により須賀京太郎は――――――が確定しました
・安価先が神代小蒔に続き、天江衣でのソロ目により須賀京太郎はオカルトが強化されました
・石戸霞   ■■:10

・当初のプロットが崩壊しました……


↓2

これって京太郎って聞いてもいいのかな?

ボツネタで≫1の当初のプロット上げていいのよ。

本当に交通事故なんだろうか・・・


System
・安価先が高鴨穏乃で下一桁がコンマ4のため……


>>203
京太郎やハギヨシも選択できますが……
コンマ次第でもあるんですけど、一部は他のキャラの動向が明かされてからでないと無効になる可能性があります。

>>209
当初のプロットはゴミ箱へ、しかし、修正された新プロットと被っている個所も多々ありますのでご容赦を……
ただ、闇が深い二校における最重要キャラでのゾロ目と44の結果、姫様ところたんの二人にとっては多分、少しだけ、おそらく、幸せな方へと転じております。
衣にとっては他のコンマよりも44の方が幸せだったかもしれないとゴミ箱の中身を見ながら答えておきます……


今日は大変疲れたので本日の更新を終了致します。


咲「ごめん、ちょっと感情的な言い方になってたね……」

霞「気にしないわ。誰にだってどうにも割り切れないことってあるもの……」

憧「そうね。私だってしずのことには感情の抑制が難しいし……」


穏乃ちゃんは高校一年時のインターハイ決勝戦で私の前に立ち塞がった一人だ。

奇しくも、大将戦は全員が同い年の一年生で支配系のオカルトを持つ四人が卓を囲んだ。

先行する白糸台、追いすがる臨海、直ぐ後ろを追う清澄、沈みながらも追い上げんとする阿知賀の戦い。

互いの牌への支配力が拮抗してか、何度も続く流局と連荘。

積み上げられていく点棒の山。

試合が長引くことで尻上がりの穏乃ちゃんの支配力が徐々に高まっていった。

にじり寄る支配の影を背にしても準決勝の反省からかそれを躱して上がる淡ちゃん、逃げ切ることを許さずに確実に要所を締めていくネリーちゃん。

私はプラマイゼロにすることも難しく、それでは勝てないと悟りながらもそれ以外に頼ることもできず、嶺上開花も封じられて点数を吐き出していった。

前半戦が終わった時には一人沈みの状態だった。


そして、休憩時間に私はお姉ちゃんと再会する。

思わず、私は縋りつくように声を掛けようとして、それを遮るようにお姉ちゃんが口を開いたんだ。

『なんのためにそこにいるの? ……やっぱり私に妹はいない。不様で情けなくて酷い打ち方』

私は何も返すことができず、ぐちゃぐちゃな気分で後半戦が始まりを告げた。

開幕早々に、私は普段ならあり得ないミスでネリーちゃんに振り込んでしまい呆然自失してしまった。

そして拮抗していた支配力は傾き、穏乃ちゃんの山の支配が確立する。

トップに躍り出た臨海を落とそうとする白糸台、確実に追い上げていく阿知賀による三つ巴のまま東場第四局を迎えた。

親番の私は、頭の中がグルグルと回っていた。

『テルーが妹なんていないなんて言うわけだね。ちょっとは期待してたんだけど、こんな弱い妹じゃ恥ずかしくて認められなかったのかも。テル―の妹分的である私、新生した高校百年生の本領を見せてあげるよ』

だからこそ、そんな私に失望したのか淡ちゃんが軽口を叩き、穏乃ちゃんの支配下で山の上で咲いて見せた。


それが、切っ掛けで私の中で何かが壊れ、思い出す。

口から自然と声が漏れ、気づけば大声で哄笑をあげていた。

訝しむ三人を前に、私は私が誰なのかを宣言する。

私の名前は咲。

森林限界を超えた山の上で花を咲かせる者。

そう、だから、私はこの打ち筋を身に着けたのだ……

誰がどんな風に牌を支配しようとも、私はその上で咲き誇る。

今思い返せば、そんな痛すぎることを口にして南場を戦い抜いた。

結果は、言うまでもなく私の勝ちなんだけど……

淡ちゃんは泣くし、ネリーちゃんは親を殺されたような目で私を見るし、穏乃ちゃんだけがまた遊ぼうって言ってくれたんだよね。

彼女と友達になって、何度も麻雀をして、勝ったり、負けたり、楽しい思い出がいっぱいある。


憧「しずはもう生きていないってことは頭では分かってるのよ……それでも、いつか、あのいつものジャージ姿で帰ってくるんじゃないかって思っちゃうの……」

由暉子「死亡の確認はされてませんから、希望はあるはずです……」

憧「でも、しずが行方不明なってから何年が経っていると思うの? もう、法的には死亡扱いなのよ……」グスッ

健夜「……飲もうか」

霞「…………」


穏乃ちゃんは高校卒業後はプロへと進むのでもなく、実業団に入ることもなかった。

それでも、私と彼女は何回も麻雀で遊んだ。

松実館に泊まりに行った時は、必ず皆で卓を囲んだことを覚えている。

彼女は実家の和菓子屋を継ぐために、高校時代から手伝いをしながら修行していた。

よく試作品のお菓子を送ってきてくれたので、私は感想を交えつつ手紙を書いたりもした。

一応、お小遣いとは別にお給料も貰っていたらしく、お金が貯まると海外や国内の山へと登山に出向くのを趣味にしていた。


そんな彼女が消息を絶ったのは子供時代から慣れ親しんでいた山だったそうだ。

最後に彼女の姿を目撃したのは大学の夏季休暇で帰省中だった憧ちゃんで、普段と変わったところは何もなかったらしい。

穏乃ちゃんは行方不明となり、山の捜索が行われた。

何かしらの事件に巻き込まれた可能性も高いと判断され、メディアの一部でも取り上げられた。

しかし、有力な手がかりもなく、捜査は打ち切られてしまった。

遺体が見つかっていないことが中途半端に期待を抱いてしまう。

元気な姿でひょっこりと戻ってくるのではないかと淡い希望を寄せてしまう。

彼女は今どこにいるのだろう……



System
・石戸霞   ■■:11


↓2


憧「しずのバカヤロー、貸した2400円返せ―」ケラケラ


憧ちゃんはそんなにお酒に強くないんだよね。

酔うとちょっとだけ面倒だし。


霞「さっきまでのしんみりとしていた空気が台無しよね……」

健夜「お酒は楽しく飲みたいし、その方が美味しいよ」

由暉子「憧ちゃん、あんまり飲みすぎると明日に差し支えますよ」

憧「平気、平気、大丈夫だってば。そんなことより、私が酌をしてあげるから飲みなさいよユキ、ほらほら」


ああ、明日になれば二日酔いで大参事コース確定かな。


咲「お酒を飲むと性格がころっと変わっちゃう人っていますよね」

霞由暉子健夜「「「うんうん」」」

憧「本性が出るだけよ。ストレスが溜まってるから、日頃の鬱憤が爆発するんじゃない?」

健夜「はやりちゃんは酷かったよ。残念過ぎて、もう、ファンには絶対に見せられないレベルだったから」

由暉子「成香先輩は怖いんですよね……」

咲「和ちゃんは顔が赤くなってどことなくエロいし、なんていうか、誰にでも甘える感じになっちゃうんだよね」

憧「玄のやつは胸を揉もうとするわ、服の間から手を入れてくるわ、顔を埋めようとしたり、もうエロ親父かってくらい酷いから。それに、宥姉も寒い寒いって言いながら人に抱きついてくるし、あのセクハラ姉妹はいい加減にしろっての」

霞「煌さんは褒め殺してくるのよね。はっきり言って、逆に胸が痛くなって居た堪れないのよ」

咲「菫さんは延々と愚痴を漏らし続けるの辞めて欲しいんですよね。私関係ないじゃないですか」


憧「それじゃあ、一番面白いのはだーれだ?」

咲霞憧「「「華菜さん(ちゃん)」」」

咲「あの人、飲む度に何かやってくれというか、やらかしてくれるというか」

憧「ポジティブに突き抜けているから見ていて飽きないよね」

霞「弄ると反応が面白いし、すぐに泣くけど、直後に立ち直るから最高よね」

健夜「三人とも酷いな……」


華菜さんは高校卒業後に大学へと進学し、インカレでの活躍が認められて実業団に入ったんだよね。

そしてプロへと転向して、リーグだと勝っているときにも出番があるけれど、逆境の状況で登板されることが多いかな。

相変わらずに諦めの悪い、粘り強い麻雀スタイルで頑張っていてオーダーは中堅以降が基本だね。


咲「でも、華菜さんってちょっと上下関係に手厳しいんですよ」

憧「私がため口なんかで喋ると敬語使えとか言われちゃうわよ」

霞「私は年上だから逆に気をつけているみたいよ。ただ、あの子ってすぐに調子に乗るから、そのことを指摘すると良い反応をしてくれるのよね」

健夜「……ユキちゃんはあの三人みたいになっちゃだめだよ」

憧「ちょっと健夜、それってどういう意味よ?」

健夜「ええっと、その、ね?」


健夜さんもどっちかと言えば華菜さんと同じく弄られる方だよね。



System
・真屋由暉子 □□:5


↓2


憧「だいたいね健夜、あんたが結婚できなかった理由は選り好みし過ぎなのよ」

健夜「えっ!? そ、そんなことないよ。それに、まだ結婚できる可能性もあるから……」

憧「絶対にないわよ。妥協しようとしないし、滲み出る傲慢さが透けて見えるし、晴絵たちが気を遣ってあんたに見合う相手を紹介してあげても断ってたじゃない」

健夜「だって、なんかその……」

憧「アラフィーズだっていい大人だから、昔と違って面子ってもんがあるのよ。あんた何回も断っちゃうから、先方にも失礼になるし、もう紹介できる相手なんていないっての」

健夜「うぇええ、そんなぁ……」


憧ちゃんは言い難いこともズバズバと言っちゃうからな。

的を得ているというか、外れたことは言ってないから反論もし難いし。


由暉子「憧ちゃんはすごいですよね」

霞「真摯に受け止めればためになることを言ってるものね」

憧「なぁあにお姉さんぶってんのよ霞? あんたはね離婚して、上京してから一度も地元に帰らずに頑張っているのは知ってるわよ」
霞「褒めてくれているのかしら?」

憧「聞きなさい。あんたの悪い所はねお姉さんし過ぎなのよ。甘えるのが下手過ぎて、他人に頼らないし、玄が大絶賛するような体してるのに寄ってくるのはダメ男ばかりでしょうが」

霞「そうねえ、確かにそんな気がするわね……」

憧「もう少し隙を見せなさい。そうすれば良い男だってころっと落ちるはずよ」

霞「素直になれば良かったのかもしれないわね……」

憧「それで、咲ッ!」


うぇえー、流れが拙いと思ってたんだけど、やっぱり飛び火してきたよ。


咲「な、何かな憧ちゃん?」

憧「あんたは何時までたってもウジウジ、グジグジ、グズグズと昔を引き摺り過ぎなのよ」

咲「うぅ、だってえ……」

憧「そんなに京太郎が好きだったなら、何で告白しなかったのよチキンっ!!」


言葉にして、振られるのが現実になったら耐えられないよ……

京ちゃんとの仲が壊れるなんて絶対に嫌だったんだから。

反省はしてるよ、あの時ああすれば良かったって今なら分かるし、もう手遅れだけど……


憧「今からでも良いから告白しなさい。そうすればすっきりして区切りがつけられるでしょ!」

咲「無理、もう、絶対に無理だから」

憧「はあ、麻雀と料理以外はポンコツね。卓上じゃ魔王と呼ばれてるくせにさ。だいたい、咲のプレイングはアレ過ぎて男が寄るわけないんだから、自分からアピールしていかないとダメでしょうがあ!」


咲「ユキちゃんたずけてぇ……」

由暉子「大丈夫です咲さん。全部事実ですから」

憧「ユキは良い子よ。この憐れなアラフォー軍団に席を置いてるけど、結婚できないんじゃなくてしない子だからね。牌のお姉さんを辞めて、アイドル活動を終えればすぐに結婚できるから」

由暉子「そうなんですか?」

憧「間違いないわね。私にあんたを紹介して欲しいって話は結構くるし。はやりみたいに深刻なきつくて痛いことしてないから大丈夫よ」

咲「ユキちゃんに甘くない? ユキちゃんだって中二病な発言とか、ナチュラルに傷口に塩塗ったりとかあるでしょ?」

憧「気にするほどのことじゃないわね。咲は自分のことだけ考えてなさいよ。どれだけ人に迷惑をかけていると思ってんの? あんたのマネージャのやつは胃薬常備してるし、あたしだってあいつがいなきゃ薬が必要だったかもしれないんだからね!」


こういう時こそ、憧ちゃんのお友達がいれば。

玄さんは役に立たないし、穏乃ちゃんいないし、赤土さんはダメだ。

和ちゃんは一緒になって叩いてきただろうし、灼さんはスパッと切ってくるかもしれない……

お姉ちゃんと違って、普段の生活はポンコツだけどいざという時には頼りになる宥さんなら。

良いお姉さんの宥さんがこの場にいれば……


咲「助けて宥さん……」

憧「何で宥姉? 宥姉も宥姉よ。夏でもあんなに厚着して寒がり過ぎ。寒いのが嫌だからってボイラー関係の資格を取得してバカみたいに暑いボイラー室に引き籠るってなんなのよ。会いに行っても中々出てこないし、家族にも迷惑をかけてるでしょうが。ねえ、ちょっと咲、聞いてんの?」



System
・真屋由暉子 □□:6


一度安価で選ばれたキャラは再度選択されてもその下になります。
↓2


憧ちゃんはその後も延々と愚痴や文句を吐き続けた。

アナウンサーって仕事柄、相当にストレスを溜めていたのか爆弾発言も何個か飛んでいた。

そして、唐突に操り糸が切られたマリオネットのように落ちた。

憧ちゃんってお酒を飲むとテンションが上がりきって、それに合わせてピッチも早くなっていくんだよね。

だから、割とすぐに潰れてしまう。

大学時代は危ない男の人にお持ち帰りされそうになっていたって和ちゃんや京ちゃんが言ってたっけ。

社会人になってからは信頼できる人以外の所じゃ飲まないようにしてるみたい。


霞「静かになったわね」

憧「ふきゅー……」

咲「はあ、ちょっとベットに運んできますね」

霞「私も手伝うわ、咲ちゃん」


由暉子「起きたら頭痛を訴えるでしょうし、軽く口にできるお粥の準備でもしておきますね」

健夜「あっ、何かサッパリしたもの頂戴」

咲「冷蔵庫にはフルーツや炭酸水も入ってるし、台所にあるセラーのお酒なら好きに使って良いからね」

由暉子「分かりました」


私と霞ちゃんは憧ちゃんを持ち上げ、空いているゲスト用の寝室に運んでベットへと放り込んだ。

戻って来てみれば、健夜さんはユキちゃんからもらったらしいカクテルを飲んでいた。

本当に、このアラフィフは気配りとかが足らないよね……


健夜「ユキちゃんの作るカクテルって美味しいよね」

咲「まあ、プロ顔負けですからね」


シェイカーを振る際はあのおもちが動いて、ちょっと苛っとくるけど。


霞「あの子、変わった特技を色々と持っているのよね」

健夜「趣味もちょっと変だけど、良い子だよ」

霞「メンタルも強くて、明るいもの……」

咲「確かにユキちゃんは変な子ですけど可愛いですよ」

霞健夜「「咲ちゃんに壊されなくて良かったわ」」

咲「あははは……」


健夜さんとお姉ちゃんは数多くの雀士にトラウマを刻んだ。

牌を握れなくなった人が何人もいて、今もその数を量産している。

人外の評価を下される二人だけど、お姉ちゃんよりも強い私が誰かを壊したことはないのかと聞かれれば、短期間の間に何人も壊している。


京ちゃんと衣ちゃんが交際を始めった結果、高校三年生の間は非常に荒れていたんだよ。

清澄の部活は地獄模様と化していて、マホちゃんとムロちゃんを何度も泣かせてしまったことを覚えている。

長野県下では下二つまでの後輩は私たちに対して、今でも直立不動のバカに丁寧な敬語でしか喋ってくれない。

頼みごとをしても絶対に断られない。

全国でも大いに暴れ回ったことは、少し黒歴史だよ……


健夜「あの頃の咲ちゃんはまさに外道だよね。私ですらあんなプレイはしたことがないよ」

咲「今はそんなこと全くしてないですよ……」

霞「そうね。でも、あの頃の悪行を知っている人から見れば、今の咲ちゃんって玉座にどっしりと座りながら片手で相手をしているようにしか見えないのよね……」

健夜「あれはやられた方は後からじわりじわりとくるらしいね」

霞「絶妙な、神業と言っても良いわよ。あの頃を知らない子は何をされているのすら絶対に気づかないもの」

健夜「実は関係者の間じゃ、前途ある若手を潰さないように箝口令が発せられてるよ……」

霞「妥当よね。有望な子の将来を潰した実績があるもの……」


宮永世代と呼ばれる現役のプロや実業団に所属する雀士はそんなに多くない。

極端にポジティブな人か、本当に強い人しか麻雀の高みへは進んでいないんだよね。

才能があったのに私がプチッと潰しちゃった子は何人かいて、その内の一人に淡ちゃんも数えられる。

私と彼女の因縁は高校一年生のインターハイ、団体の決勝卓から始まった。

少し、他人を見下している所のある彼女の不用意な言動が私を強くさせたと言っても良い。

敗北した彼女は悔し涙を流して、個人戦では必ずリベンジすると叫んでいたかな。

でも、私はお姉ちゃんと戦うために負けられなかったから、彼女を降して前へと進んだ。

お姉ちゃんと和解した私は、少しだけモチベーションが下がってしまっていた。

部内では和ちゃんも似たような感じになっていて、優希ちゃんやまこ先輩、京ちゃんたちは元気だったよ。

そんな思いじゃ当然なんだけど、国麻では淡ちゃんに敗北した。

次に彼女と戦ったのは春大会で、その時に私は雪辱を晴らした。

でも、その年の夏は団体戦は龍門渕に敗北し、個人戦でも衣ちゃんに負けてインハイへの切符を逃してしまった。

秋の国麻では淡ちゃんに勝利の軍配があがる。

そして、京ちゃんと衣ちゃんが付き合いだして、私は荒れた。


高校三年生、最後の春大では大口、軽口な口上を口にした淡ちゃんをボコボコにしてあげた。

夏のインハイでは大将戦に回ってくる前に飛んで終了。

個人戦では思いっきり蹂躙してあげたんだよね。

高校生活最後の公式戦である国麻では、京ちゃんたちの婚約発表があったせいでとっても荒んじゃったんだよ。

私は淡ちゃんを玩具にした。

それが多分原因だったんだろうね。

淡ちゃんはプロへの勧誘もあったのに断って、麻雀部も辞めちゃった。

高校の授業にも出たり、来なかったり、夜も遊び回って何度か補導されていたらしい。

それでも、高校はなんとか卒業できたんだけど、大学に進学することもなくフラフラしていた。

フリーターや派遣として働いていたんだけど、結局、身を持ち崩して裏の世界へと落ちていったらしい。

一時は代打ちや麻雀賭博で生活していたそうだけど、あのちゃちゃのんショック後はより深い所へと堕ちたようで、もう連絡も取れなくなってしまっている。

お姉ちゃんたちでさえ淡ちゃんが何をしているのか、その行方をもうずっと知らない。



System
・石戸霞   ■■:12


↓2

これ京太郎で安価は取れるんだろうか
しかし天照大神ほぼ全滅とか

もうこれ麻雀界の闇が深いよ。そして咲さんとすこやん霞さんがその闇を振りまいてるよ。あと一応今までの結果

咲さん:27歳未婚
霞さん:30歳バツイチ
すこやん:40歳未婚
由暉子:27歳未婚。牌のお姉さん(多分4代目)
誓子:もんぶち系列のアイドル事務所の所長 コンマ45
戒能さん:10年前に失踪 コンマ46
小蒔ちゃん:霧島神境にいるらしい あと京太郎となんかあったかも コンマ55
玄:松実館女将 コンマ28
ちゃちゃのん:三代目牌のお姉さんだったが数年前にスキャンダルで失踪 コンマ64
優希:プロ雀士だったが父親不明(だが実は京太郎らしい)の私生児を出産 コンマ12
揺杏 :世界的デザイナー コンマ76
春:車椅子生活 詳細禁忌 コンマ43
誠子 :釣りプロ コンマ20
憧:フリーアナウンサー(咲の相方) 誓子の事務所所属 コンマ17
衣 :プロ雀士にして京太郎の妻 享年19歳 コンマ44
穏乃:家業を継ぐも地元の山で失踪 (法的に死亡だから7年前か?) コンマ24
池田:プロ雀士 いじられキャラ コンマ61
宥:松実館ボイラー室に棲息 コンマ36
淡:咲さんに壊されて闇へ。消息不明 コンマ24
漫 :コンマ61

ハギヨシさん:失踪

謎カウンター
・宮永咲   ◇◇:1
・石戸霞   ■■:12
・真屋由暉子 □□:6


咲「麻雀を辞めたからってそれが悪いことだとは限らないじゃないですか」

健夜「そうだよね。私たちのせいじゃないよね」

霞「はあ、将来の選択を狭めるという意味じゃ迷惑をかけているでしょ。牌を握れないレベルだと、それってもう心的外傷じゃないかしら?」

咲「私も麻雀から離れていた時期が結構ありますし……」

健夜「ほら、私も第一線からは身を退いているから……」

霞「……別にトラウマがあるからじゃないわよね? あなたたちが与えた影響って絶対に、人生に多大な結果をもたらしていると思うのだけれど?」

咲健夜「「…………(助けてユキちゃん)」」


淡ちゃんの行動とか自分の意思だし、その後のことだって私が何かを暗示したりしたわけじゃないし……

プロや実業団に誘われたのに断る人の気持ちなんて分からないよ。

私と最も卓を囲んでいたはずの一人である優希ちゃんだってプロに来たんだから。

ああ、でも優希ちゃんも私と一緒に荒れてたけど……


由暉子「新しい肴を作ってきました」

咲健夜「「ユキちゃんお帰り―」」

咲「美味しそうな良い香りだね」

健夜「粉ものか。あれ? もんじゃじゃないんだね」

霞「……まあ良いわ。お好み焼きね。広島風じゃなくて関西風みたいね」

由暉子「はい。冷蔵庫に食材がいっぱいありましたし、お好み焼き用と書かれた粉も大量にありましたから。レシピや専用のプレートも見つけたので丁度いいかなと」


霞「レシピ?」

由暉子「はい、拘りがあるのかかなり詳しく記述されていました。幾つもの種類があってどれにしようか迷っちゃいましたね」

咲「ああ、それってこの前、関西の人たちが家に来たときに置いていったんだよね」

霞「もしかして、洋榎さん?」

咲「そうそう。千里山や姫松にいた子たちが東京の方に遊びに来て、私の家の部屋が一杯余っていることを知ってたから押しかけて来たんだよ」

健夜「強引だね」

咲「前日に連絡があったので気にしてませんよ。それに、久々に見る顔ぶれも多くて楽しかったですし」

由暉子「ああ、それでお好み焼きパーティーをしたんですね」

咲「そうそう。レシピは各家庭のお好み焼きと漫さんのマル秘レシピ集だよ」


漫さんは高校卒業後は大学に進学した。

インターカレッジでも活躍し、実業団からの勧誘もあったそうだけど断っているんだよね。

在学中から手伝いをしていた実家のお好み焼き屋で卒業後は働き出したんだ。


そんな中、ちゃちゃのんショックによる不況が生じて、かなり厳しい生存競争が行われたらしい。

幾つもの競合店や類似店が暖簾を下ろしていく中、漫さんのお好み焼き屋は果敢な行動に踏み出したんだよね。

ピンチの中にこそチャンスがあると見て、融資を受けて規模を拡大。

不況の波から抜け出し、今では関西のお好み焼きチェーンでは最大手の一角に乗り出しているとか。

上重印のマークでお好み焼き専用の粉やソースを食品業大手と提携して発売していたりする。

ここに食べきれない量の粉が置いてかれているのも宣伝の意図があるみたいだしね。

私の家には麻雀のトッププロが遊びに来たりするし、なんていうかちゃっかりしてるよ。

関西では有名でも関東じゃあ、まだまだだから、少しでもピアールしておきたいのかも。



System
・真屋由暉子 □□:7


↓2

ピアールでワロタ

ピーアールとアピールが混ざっちゃったんだな


System
・安価先が"獅子原爽"で下一桁がコンマ4のため……



>>303
それについては>>218

>>306
こうやって見てみますと、思っていたよりもアレなことになっていますね。

>>330, >>331
……(赤面)


本日の更新を終了いたします。
爽での4は微妙に予想外でした……少しプロットを微修正します……


霞「お好み焼きパーティーがあったなら呼んで欲しかったわ、咲ちゃん」

由暉子「そうですね。どうして誘ってくれなかったんですか?」

咲「ごめんね。でも、その日はユキちゃんも、霞さんも仕事が入ってるって知ってたからね」

健夜「うん、もんじゃじゃないけどお好み焼きも悪くないね」

霞「仕事があった日じゃ仕方ないかしら。そう思うと麻雀の関係者でもないと会う機会がない人って多いわね」

健夜「元プロだとしても中々会えない人もいるよ」

咲「そうですね。私もまこ先輩とはもう長いこと会ってないんですよね」


プロ雀士ともなれば年間平均2000回以上も麻雀を打つことになる。

トッププロともなればそれ以上の回数を行うことも珍しくはない。

そうなれば時間的な余裕もなくなり、故郷の長野に帰る暇などもなく、自然と会うことのできない人たちは存在してしまう。


そうじゃなくても、私と優希ちゃんのように敢えて会おうとしない場合だってあり得るのだ。

優希ちゃんは現在もプロに席は置いているけど、育児休業を取っているので試合でも会うことはない。

そもそも、あの一件で私が気づいたように、彼女も私が悟ったことを察していたのだろう。

だからこそ、お互いに連絡を取り合おうとはしないのだから。


由暉子「会える内に会っておいた方が良いですよ。……もう私が爽先輩と会えないように、そんなことだってあり得るんですから」

霞「…………」

健夜「あの一件は警察の調査も難航しているみたいだね。あの時の協会の判断は正しかったけど間違っていたのかも……本部に身を置いているものとして個人的に謝罪するよ」


爽さんは高校卒業後にプロ入りしたんだ。

プロリーグの方ではチームにとって重大な落とせない勝負所や重要な試合で投入されることが多かった。

だた、能力の制限から連投されることは滅多になく、個人でのタイトルに絡むこともなかったよ。

プロとしての評判は良くて中堅と言った所だったかな。


由暉子「協会に落ち度はあまりなかったと思っています。爽先輩は私たちにさえ何も相談してはくれませんでしたから……」

咲「その後の経過はどうなの?」


ユキちゃんはテレビの向こうでは決して見せることのない表情を浮かべて首を横に振った。


由暉子「体の方も元通りとは言えません。日常生活を送る上では不自由な面が多々あります……」

健夜「記憶の方は?」

由暉子「あれから何年も経っていますが戻るような兆しは何も……」

咲「そっか……」

由暉子「先輩は私のことを由暉子お姉ちゃんなんて呼ぶんですよ、おかしいですよね。誓子先輩や揺杏先輩とは砕けて話せるようにはなったみたいです。それでもやっぱり違うんですよね……」

霞「それでも、命が助かっただけ運が良かったわね……」


ちゃちゃのんショックによってプロ麻雀界には激震が走った。

現役の牌のお姉さんのスキャンダル内容は表であるプロの協会と裏の繋がりを臭わせるには十分すぎるほどだったと言える。

だからこそ、協会は使える限りの権力と情報を操作することで佐々野さん個人の問題として取扱い、上手く立ち回った。

あくまでも協会とは関係のない所での問題であり、裏と関わりのある雀士に対しては厳しい処断を下すとのスタンスで動いて行ったんだよ。

そのスタンスを守るために、協会は実際に裏と関わりがあったと思われる数多くの雀士を処罰した。

処分内容の多くはプロ資格の剥奪と永久追放であり、処分された中には爽さんの名前も存在した。

もっとも、彼女の場合は無期限のプロ資格停止であり、最悪の事態は避けられたと言えた。

ユキちゃんは爽さんに問いただしたそうだけど、裏と関わった理由は最後まで教えてはくれなかったらしい。


由暉子「そうですよね。発見された時点で、命があることが不思議だとお医者さんはおっしゃっていましたし、後遺症は残っても日常生活を行える水準まで回復したことが奇跡なのだそうです……」

咲「助けてもらったのかな?」

由暉子「そうかもしれませんね。……私たちがちゃんと側にいれば防げたんでしょうか?」

健夜「それはどうだろうね。多分、爽ちゃんはそうなることが分かっていたんじゃないかな?」

由暉子「……思い当たる節はあります。プロ資格の停止された先輩は、牌のお姉さんとなる私の傍に自分みたいなのがいることは問題だって口にしていました。だから、暫く距離を空けると言っていたんです……」


ちゃちゃのんショックが波及して、世情が混迷していく中で爽さんは一時行方不明になった。

しかし、ユキちゃんたちはその時は全く心配なんてしていなかったことを私は覚えている。

彼女は昔から数年に一度、そういう何らかの事故や事件に巻き込まれる体質で、それでも毎回無事に帰って来ていたらしい。

だから、ユキちゃんたちには爽さんなら大丈夫だとの信頼があったのだと思う。

その時だけは違ったんだ。


爽さんは普段あまり使われていない山荘で、偶然、山へと登っていた登山家たちによって発見された。

見つかった時点で既に虫の息であり、予断を許さない状態だったのだと言う。

両手と両足には拷問の痕があり、片目は潰され、歯は何本も抜かれ、耳は切り刻まれていた。

そして、臓器の幾つかには摘出された痕跡があったそうだ。

彼女はすぐに病院へと運ばれ、治療が施された。

数ヶ月もの間、目を覚ますことはなく、生死の狭間を彷徨い、意識が快復したときには記憶を失ってしまっていたんだよ。

正確には、幼児退行とのことであり、かなり小さい頃にまで記憶は戻ってしまっていたらしい。

だから、幼馴染のことは幼い頃の記憶の分だけ覚えていたらしいけど、ユキちゃんと成香さんのことは完全に忘却してしまっていた。

爽さんは事件の重要参考人として今も警察の保護、監視下におかれながら自宅での療養が行われている。



System
・安価先が獅子原爽で下一桁が4のため、真屋由暉子は――を覚えました
・石戸霞   ■■:14
・真屋由暉子 □□:6

↓2


風に当たりたいと言ってユキちゃんはルーフバルコニーへと出て行った。

霞さんは彼女を一人にさせるのは心配だと口にして後を追った。

私と健夜さんだけが残っている。


咲「美味しいウイスキーがあるんですけど飲みますか?」

健夜「良いね、飲もうか」


ウイスキーの飲み方って色々あるよね。

例えば、芳醇な香りとアルコール度数が身体の芯を捉えるようなストレート。

割るとしても、お湯で割ることで香りを強めるか、水で割ることで飲み易くするのか、その比率や氷の有無も大切だよ。

他にも炭酸水や他のお酒や飲み物なんかを混ぜ合わせるカクテルだってあるんだからね。


健夜「良くストレートなんて飲めるね咲ちゃん」

咲「ウイスキーはストレートが一番です。風味をゆっくりと味わい、舌の上で転がして、香りをも楽しむ。別で用意した水で口を直しつつ飲むことが長く美味しく楽しめるスタイルだと思いませんか?」

健夜「いやあ、私はストレートだとちょっとキツイから、最初から水で割って飲むよ」

咲「まあ、好き好きで飲めば良いですからね」

健夜「そうだね。……咲ちゃん、実はユキちゃんには話していない爽ちゃんの一件に関わる話があるんだけど、聞いてくれる?」

咲「健夜さん、酔ったんですか?」

健夜「そうかもね……」

咲「……止めておきます。まだ、覚悟がないですから」

健夜「そう、"まだ"、ね……」

咲「どうして私なんですか?」

健夜「んー、なんとなく、勘かな?」

咲「やだなー、日本一の的中率じゃないですか。当たっちゃいますよ……」


健夜「……今度六つ目のタイトル戦だね」

咲「ええ、勝ちますよ。それで、私は名実ともにお姉ちゃんを超えますから」

健夜「一緒に囲む中には懐かしい顔もあるみたいだね」

咲「そうですね。セーラさんがいますから」

健夜「勝てるの?」

咲「はい。あの二つのタイトルはおそらく取れないので、ここで取らなければいけませんから」


セーラさんは高校卒業後にプロ入りしたお姉ちゃんと同期で、その中では数少ない同じ年齢の現役プロ雀士の一人だ。

小さな点を複数回刻むよりも、大きな点を一度で取ることを好む雀風だったね。

和了率を下げてでも高い得点を狙うのは高校時代から変わらないスタイルで、プロに入ってからはいっそうの磨きがかかっている。

そう、今では間違いなくトッププロの一人なのだから、決して油断のならない相手なんだ。

なによりも、彼女はオカルトなんかに頼らない純粋雀士……



System
・真屋由暉子 □□:7


↓2

そういえば同じ人物をもう一度取ったら普通に安価下なのか、それとも追加で話が聞けるのか…

>>375
一応>>270には
>一度安価で選ばれたキャラは再度選択されてもその下になります。
って説明があるけど他の安価のときには書いてないからどうなんだろ


私が現在保有するタイトルは全部で五つある。

そして、こんど挑戦することになるタイトル保持者は宮永照、私のお姉ちゃんだ。

お姉ちゃんは高校時代に敗北を知らない。

高校一年生のときのインターハイ個人戦では、私は幼い頃と同じように本気でぶつかった。

お年玉を巻き上げられるのも、勝敗で文句言われるのも嫌だという、真剣だけど後ろ向きな理由で身に着けたプラマイゼロを私は団体戦の決勝で脱したんだ。

そして純粋に勝つための麻雀を打てるようになった私だけど、お姉ちゃんには届かなかった……

私はお姉ちゃんに勝てないと仲を修復することはできないと考えていて、それは強迫観念にも似ていたよ。

だから、敗北を理解したときにはその場で崩れるように泣いてしまったのも仕方ないと思う。

負けてしまったのにお姉ちゃんは昔のことを水に流して私のことを認めてくれたんだ。

強くなったって言ってもらえて、本当に嬉しかったことを覚えている。

まあ、だからといって、互いに長いこと離れていたから、すぐには昔のように振る舞えるわけがなかったんだけどね。

だけど、ぎこちなくでも、ゆっくりとだけど仲直りすることが出来たんだよ。


健夜「インハイを彷彿させる面子での姉妹対決か……咲ちゃんと照ちゃん、二人の年齢にもう少しの差があれば私の最年少八冠記録は塗り替えられた可能性もあったよね」

咲「そうですね。私とお姉ちゃんでタイトルを奪い合っているせいか、もう長いこと十個のタイトルからは永世称号を獲得する人は現れていませんし」

健夜「権威の認められる大きなタイトルは今だと十三個だっけ。でも、その中の二つは少し特殊だからね……」

咲「あの二つには私たちでも厳しいですよ。それに、東風戦に限定されるタイトルには一昨年まで優希ちゃんが君臨していましたから」


東神の異名通り、彼女は咏さんからタイトルを奪取して以降、ずっとその王座に座り続けていた。

しかし、優希ちゃんは妊娠を理由に出産と育児に専念することを宣言して、プロ活動の休業によってタイトルを返上したんだ。


健夜「優希ちゃんのタイトル返上に伴って生じた空位を照ちゃんが奪取したんだったね」

咲「そうなんですよ。私が世界戦の方で忙しく戦っている間に、お姉ちゃんに奪われちゃったんですよね。そのせいで、国内で保有するタイトル数で負けてしまって……」

健夜「まあ、時期が悪かったね。それにしても、二人は姉妹なのに数年に一回は関係に亀裂が入るような大喧嘩が発生しているよね?」


高校三年生の時、私は荒れていた。

長い、長い、小さな頃から胸に忍ばせていた初恋が、京ちゃんと衣ちゃんの婚約で完全に潰されたんだよ。

そりゃあ、私が荒んで世を恨み、誰彼構わず八つ当たりしても仕方がないよね。

心を慰めるために、麻雀で遊んで何が悪いのかな?

まあ、今なら少しやり過ぎた気はしないでもないけれど……

それで、私は淡ちゃんを潰してしまった。

それをお姉ちゃんに咎められたんだ。

まあ、可愛がっていた後輩が血の繋がった妹の手で壊されたんだから、苦言の一つや二つ言いたいって気持ちも分からないでもないよ……

当然だけど、私は反発してお姉ちゃんだって同じように何人も潰しているって反論したんだ。

その頃の私は、抜身の刃のような状態でさ、余計なことまで口にしちゃったんだよね。

お姉ちゃんにとって好敵手であった良子さんが辞めてしまったことにまで口にしたのが拙かったんだと思う。


プロに入ってからもお姉ちゃんは負けを知らずに勝ち続けた。

そんな中で起きた高校の時以来になる初めてのライバルとの直接対決。

彼女から与えられたのはプロ入り後、初となる敗北。

その辛酸をバネにして、お姉ちゃんはとっても強くなっていった……

そう、悲しいことに良子さんを何度も蹂躙してしまうくらいに化けてしまったんだ……

多分、お姉ちゃんも彼女の引退は自分のせいなのかもしれないと心のどこかでは思っていたんだろうね。

だから、売り言葉に買い言葉で、互いに言わなくて良いことまで言い合ってしまった。

お姉ちゃんとの間に再び亀裂が入り、冬が深まり、春が近づいて来た二月の初めに衣ちゃんが死んだ。

京ちゃんは酷く落ち込み、塞ぎ込んでしまった。

私は既にプロとして忙しくなっていて、彼の側にいられる時間が少なくなっていた。

このときも私は選択を誤った。


私は京ちゃんの側にいなきゃいけなかった。

プロなんていつだってなれるんだから、仕事なんて放り出して彼と一緒にいれば良かった。

でも、お姉ちゃんへの対抗意識や、私を選ばなかった京ちゃんへの歪んだ愛憎がそれを選ばせなかった。

私は本当に愚かなんだろうね。

もしもあの時、素直にそうしていれば今頃はきっと……


咲「はあ、別に私とお姉ちゃんは仲良くしたくないわけじゃないんですよ。私はお姉ちゃんのことを嫌っていない、むしろ好きです。尊敬していて、大好きなんです。だけど、何て言うか、昔から状況とタイミングが最悪って言えばいいんでしょうか?」

健夜「あはは、二人の仲違いはある意味では麻雀界の風物詩になっているもんね。週刊誌やスポーツ新聞なんかでよく取り上げられていて、『世界一の雀士はどちらだ!?雌雄を決する姉妹対決』とか煽られているもんね」

咲「健夜さんが言うと嫌味にしか聞こえないんですけど?」


最強の高校生として世間では騒がれ、プロへと鳴り物入りしたお姉ちゃんは化物みたいな成績を残している。

健夜さんのように国内無敗なんてことはないんだけど、負けた相手は私を含めても五人しかいない。

プロ入り後、最初の敗北は良子さんから与えられた。

初めてのタイトルへの挑戦では咏さんが日本最高峰の意地を見せて勝利を掴んだ。

プロ二年目は衣ちゃんに完全な敗北を喫している。

三年目からは私がプロ入りしたことでお互いに何度も潰し合った。

それに、東風戦限定ではあるけれど優希ちゃんにも負けている。

お姉ちゃんの公式戦での敗北はその五人しかいない。

団体戦を含めればもっと多くなるけれど、お姉ちゃん個人の責任とは言い難いからカウントしないけど……


健夜「私は第一線からは退いているからね。今度の姉妹対決は咲ちゃんを応援しているよ。絶対に照ちゃんなんかに負けちゃだめだよ!」


お姉ちゃんはポンコツだ。

主食は下手をすればお菓子になるし、中学の時はお母さんと一緒に住んでいて、高校からは寮生活。

当然だけど家事なんて壊滅的でダメな女なんだよ。

喧嘩の度に、『私に妹はいない』、なんて口にして私の存在を無視するあんぽんたん。

マネージャーの胃に何度も穴を開けた鬼畜だし。

なによりもアレなのが、家族の誰にも知らせることなく、何時の間にやら結婚していたんだよ?!

ふざけんなッア!!

絶対に私はお姉ちゃんを許さない。

ボコボコニして、泣かして、土下座させて、許しを乞わせてやらないと気が済まないんだから……



System
・安価先が宮永照でこれまでの選択とコンマにより……
・宮永咲   ◇◇:2


↓2

大沼

>>375, >>376
言葉足らずで申し訳ありません。
今の所は、一度安価で選択された人物の再取得は認めていません。ですから、その場合は自動的に安価下になります。
……それを採用してしまうと、コンマ次第で不幸になるかもしれませんし、プロットの大崩壊の危険がありますから。


次は灼に決まったということで本日の更新は終了となります。それではまた明日以降ということで

乙 よかったテルーは普通(?)に結婚できたみたいだ……

そういや>>1に「※一部キャラなどは無理ですよー」ってあるけどどの辺からはアウトな感じ?
>>388の人みたいに大沼プロとか狙ってみてもダイジョブ?

>>401
全くダメそうなら安価下にしますので大丈夫ですよ。



憧「ざぁぎぃっーーあ゛だま゛い゛だい゛ぃ……」

咲「起きてくるの早いなあ……」

憧「ぎも゛ぢわ゛る゛い゛ぃの゛ぉぉ……」

咲「取りあえず水飲みなよ」

健夜「吐きそう?」

憧「ッふぅぅ、だいじょーぶ……ふう」グピッ

健夜「迎え酒する?」

憧「それは、ないわよ健夜……ねえ、なにかたべるのある?」


私は溜め息を吐きながら立ち上がり、健夜さんに憧ちゃんの介抱を任せた。

台所にはユキちゃんが既に用意したお粥用の具材がある。

貝柱とその煮汁、ごま油で軽く炒められた野菜。


私は米をミルで細かく砕いた。

そのままお米を使っては何十分もかかってしまうけど、砕いてしまうことで時間を短縮できる。

鍋に水と入れて煮込んでいる間に、レモンをジューサーに掛けてジュースにする。

そこにミントと砂糖も加えて、サッパリと甘いジュースを作った。

小さなお皿に薬味としてのネギや味を調整する醤などを乗せ、完成したお粥と一緒に憧ちゃんたちの下へと運んだ。


憧「はあ、私が男なら咲と結婚してあげても良かったわね」

咲「はいはい」

健夜「ちゃんと私の分まで用意してくれるなんて、気配り上手だね」

咲「どうせ欲しがるって分かってましたからね」

健夜「あはは……」


憧「今度のタイトル戦は誰の応援をするか迷うわね」

健夜「憧ちゃんにとっては交流の深い三人が挑戦者になるんだね」

咲「そこは相方の私一択じゃないのかな?」

憧「でも、セーラにはお世話になったし」

健夜「インターハイで戦った時から交流があるんだっけ?」

憧「そうよ。それに灼さんは同じ部活だった大事な仲間で友達だし」

咲「ほら、私もお世話してるよ」

憧「いや、咲は私にお世話されている方でしょ? お世話になった人と比べるなんておこがましいわよ」

咲「そ、なことないよね?」

健夜「咲ちゃんはほら……ポンコツだから。まあ、私は咲ちゃんを応援するからね」

憧「前評判だとやっぱり宮永姉妹が断トツに高くて、三番手はセーラね。でも、灼さんの意気込みは高いし勝負は始まってみないと分からないかな?」


今度あるタイトル戦は奇しくもあのインターハイに出場していた四人で行われる。

灼さんは高校卒業後は大学へと進学し、インカレで活躍の後に実業団へと入った。

そして、日本リーグで活躍した後、プロへと転向したんだ。

そのプレイングは赤土さんへの憧れからか非常によく似ている。

観察力と分析力も高いレベルに達していて、もうオリジナルと殆ど変わらない水準にある。


咲「以前の赤土さんと同じ、つまり単なるコピー程度なら私の敵じゃないよ」

健夜「はっきりと言うね……」

憧「晴絵の届かなかったタイトルに手を届かせようと灼さんは頑張ってるわよ」ムスッ

咲「勝負に掛ける想いは誰だって変らない。彼女が赤土さんのようにオカルトの対策をしてきたのだとしても、私はその上を行くつもりだからね。オカルトを抜きにした技術だって負けていないから」


私に油断はない。

手を抜くつもりも、灼さんを甘く見るつもりもない。

彼女がどんなに赤土さんと似ていても、彼女には彼女の持ち味と武器があることだって忘れていない。

対策を取ってくるなら逆手に取り、それが甘いなら正面から潰してしまう。

隙があるならそこから壊し、卓上を私の支配下に置いてみせる。

だから、勝つのはお姉ちゃんでも、セーラさんでも、灼さんでもなく、私だよ。



System
・真屋由暉子 □□:8


↓2

System
・安価先が"本内成香"でゾロ目のため……


ゾロ目の出るタイミングとその時に選ばれる人物がことごとくおかしいですね(白目)
ほ、本来ならアレなはずだったはずなんですが……あれぇ?あれぇ?なんでぇ?

次の更新は夜か明日以降と言うことで……


霞「なんだか燃えているわね咲ちゃん」

由暉子「今度のタイトル戦のお話ですか?」

咲「そうだよ。それより、もう大丈夫なのユキちゃん?」

由暉子「ご心配をお掛けしました。霞さんが側にいてくれましたし、電話で成香先輩ともお話しをしましたから大丈夫ですよ」

憧「ん? いったい何の話?」

健夜「憧ちゃんは気にしなくて良いよ。あんまり明るい話じゃなかったからね……」

由暉子「……そうですね。それと憧さん、成香先輩から明日も仕事があるんですから飲みすぎたらダメだとの伝言を頼まれました」

憧「げっ、ユキってば私がここにいることとか喋ったの?」

由暉子「いえ、どうしてなのかは知りませんけど、成香先輩は憧さんが咲さんの家にいることを知っていたみたいですよ」


えっ? 何それ怖いんだけど……

まさか、私の家に盗聴器とかしかけられているわけじゃないよね?

違うよね? ねえ?


憧「はあ、もう今日は飲まないわよ……」

咲「憧ちゃんもマネージャーに迷惑かけている感じみたいだね」

憧「咲よりはマシよ。それに、だいたい成香は私のマネージャーじゃないから」

由暉子「成香先輩は私のマネージャーもやってくれていますけど、主な業務は違いますからね」


成香さんってユキちゃんのマネージャーなんだと思っていたけど微妙に違うんだね……


はあ、それにしても成香さんか……私はあの人に対してはとても複雑な思いを抱かざるを得ない。

京ちゃんは衣ちゃんが亡くなった後、何も考えたくなかったのか卒業まで残り一ヶ月を切っていた高校にも通ってくることはなくなった。

一日中、部屋の中に引き籠り、何もすることなく、考えることを拒否していたんだよ。

透華さんの指示でハギヨシさんが教師となり、勉強を教えていた甲斐もあって京ちゃんは推薦で最高学府を受験していた。

そして、その合格通知を受け取ってはいたんだけど、喜ぶこともなく興味をなくしていたんだ。

京ちゃんの両親が手続きをして、下宿先となるアパートも借りて四月から大学に通える準備だけはしていたんだけどね……

塞ぎ込む京ちゃんの所へ、私や優希ちゃんに和ちゃん、久先輩とまこ先輩、マホちゃんとムロちゃんたちも会いに行っていた。

だけど、落ち込んでいる彼にかけるべき言葉は見つからないし、春からの新生活への準備などで会える回数もそんなに多くはなかった。

透華さんの姻族になった京ちゃんだけど、彼女たちも悲しみにくれていて互いに励ます余裕なんてなかったんだよね。

そんなどうしようもない状況で清澄の卒業式が行われたんだけれど、彼は式には不参加だったよ。

衣ちゃんの五十日祭、つまり神道における仏教の四十九日が明けても京ちゃんが立ち直る気配はなかったし……

そんな状況を変えたのが成香さんだった。


彼女は既にアイドル活動をしていたユキちゃんのマネージャーをしていて、その仕事の関係で三月の末、透華さんに会うために長野へとやってきたらしい。

まさか、ユキちゃんの所属している事務所の出資者こそが透華さんだってことまでは私も知らなかったけどね……

そこで交わされた会話の中で京ちゃんの名前が出たんだと思う。

透華さんも京ちゃんのことは気にかけていて、どうにかしたいと思っていたんだそうだけど、二人は少し距離が近すぎたんだと思う。

実は京ちゃんと成香さんたちは私が知らない間に知り合いになっていたらしい。

二人の関係は、この時は友人と言うほどに近い距離でもなく、知り合い、知人って距離感が適切だったそうだね。

衣ちゃんとも顔を合わせていたらしく、成香さんは京ちゃんの家にお参りに行った。

成香さんは見た目とは裏腹に結構強気な性格をしている。

自分が正しいと思っていることには率直に意見も述べていく。

だから、親しすぎれば言い難いことも、友人ではなく知人であるからこそ彼女は誰も口にできなかったことを京ちゃんに述べた。

実際にどんなことを実際に言われたのかは京ちゃんははぐらかしたけれど、結構、辛辣にキツイことを言われたらしい。

でも、それが切っ掛けで京ちゃんは少しずつ前に進み始めた。


まずは引き籠りから脱却し、四月から合格していた大学へと通うために京ちゃんは上京したんだよ。

本当に大丈夫なのかとても心配だったし、私も四月から東京が本拠地になる予定だったから、時間が許す限りは会いに行くことにしていたんだ。

成香さんは京ちゃんから頻繁に相談を受けていたそうだ。

そう、私じゃなくて、成香さんにね……

だから、立ち直らせてくれたからなのか京ちゃんはある時、成香さんに告白した。

でも、成香さんはそんな京ちゃんの告白をきっぱりと断っている。

京ちゃんの成香さんへの想いは衣ちゃんを失った悲しみを埋めるための代償行為に過ぎない。

成香さんでなくても、誰でも良いのではないかと指摘した。

そして、その想いはある種の"依存"であると断言したんだ。

京ちゃんは頭をハンマーで殴られたような衝撃だったらしい。

ただ、冷静に考えてみると思い当たる節があったみたいなんだよね。

このことによって本当の意味で京ちゃんは立ち直ることが出来たんだ……

誰かに依存するようなこともなく、衣ちゃんの死を受け入れて、真摯に前へと向き始めた。


私は成香さんにとても強く嫉妬してしまう。

例え依存的関係でも良いから、京ちゃんが私のものになるなら構わない……

どうして、私は一番近くにいなかったんだろう。

彼の側から片時も離れずに、衣ちゃんに遠慮することもなく触れ合っていれば……

京ちゃんを手に入れることができたはずなんだ。

だから、いつだって私はあの頃を振り返れば後悔してしまう。

成香さんは京ちゃんを立ち直らせてくれた恩人だけど、正直に言って羨ましい。

二人は良好な友人関係にある。

そこに恋愛感情は全く介在していない。

京ちゃんは彼女には頭が上がらない、足を向けて寝られない相手なんだそうだよ。


霞「成香さんの本当のお仕事ってなんなの?」

憧「資金管理とか人材管理?」

由暉子「スケジュールの統括からメンタルケアまでする縁の下の力持ちですね」

憧「事務所の方針とか、所属しているタレントなんかの売り込み、交渉なんかは誓子や揺杏の方が主にやってるわね。でも、そういうのに必要な準備とか計算なんかは成香が全部やってんの」

由暉子「誰がどんな役割を担うかはハギヨシさんが決めたんです。成香先輩は正しい基準を与えればあかしな意見に惑わされることなく、常に正しい行動ができるとの判断で事務や管理などを任されることになりました」

憧「一番怖いのは間違いなく成香よ。かなり厳しく教えられたみたいで、ちょっと判断基準がシビアすぎるように思うけどね……」

由暉子「誓子先輩は状況を見て冷静に判断を下し、誰かを信じて任せることができる点やぶれることなく一貫した行動を続けられる点が評価されたみたいです」

憧「多分だけど、ダメだと思った相手とか拒絶して切り捨てる方向で動くから、そんな冷徹な一面があるのも重要だったんじゃない……」

霞「だから、事務所の所長なのね」

由暉子「それで、揺杏先輩は……その、見通しの甘さなどが問題視され、個人の才能と能力を伸ばしてスペシャリストとして育てる方針にしたそうです」

健夜「まあ、管理や経営向きじゃないってことなんだろうね」


咲「でも、世間的に見れば三人の中で一番成功しているのは揺杏さんだよね?」

憧「何で判断するかによると思うわよ」

由暉子「単純に持っている資産で見れば、三人の中だと成香先輩が一番のお金持ちですね」

咲霞健夜「「「えっ?」」」

由暉子「成香先輩は資産運用も行っているんですけど、それでかなり稼いでいるんですよ」

憧「あの事務所ね資金が異常なほどに潤沢なのよ。それでいて龍門渕の後ろ盾もあるでしょ? ちゃちゃのんショックで大手が軒並み潰れたから業界は群雄割拠の状況なんだけど、天下を取る日も近いわね……」


うん、やっぱり私は成香さんには色んな意味で複雑に感じるね。



System
・安価先が本内成香で44に次ぐゾロ目により、須賀京太郎の"依存"が破棄されました
・安価先が本内成香でのゾロ目により、本内成香は――とならず、――――はなりませんでした
・安価先が本内成香でのゾロ目により、須賀京太郎の精神が強化されました
・真屋由暉子 □□:10


↓2

System
・安価先が竹井久でゾロ目のため……

・プロットが痛みを訴えております……



あるぇ?……どうしてまたそこで、しかもヒッサーでゾロ目が来るんでしょうか?……あれぇ?
タイミング的に来ると一番問題がある所で、なんでぇヒッサー?
……なんもかんもコンマが悪いんよ……そうやよね?

本日の更新は終了いたします。


咲「ユキちゃんは先輩に恵まれているよね」

霞「そうね。私には先輩と呼べるような方はいなかったわ。祖母上のような先達はいたのだけれど……少し、ユキちゃんが羨ましいわね」

憧「私の所はユキの先輩たちみたいに頼りになるって感じじゃないし」

健夜「えっ? 赤土さんは?」

憧「晴絵は微妙って感じ? ちょっと頼りない所があると言うか、メンタル面に不安が残ると言うか、健夜にやられてからずっと停滞していたわけだしね」

健夜「うん、その、あはは、私もあの時はビックリして思わず……」

由暉子「咲さんの所には久さんがいましたよね……」

憧「久は清澄版のレジェンドだったわね。無名校だった清澄をインハイ優勝まで率いて行ったわけだしさ。碌に指導者なんかもいない状態だったわけでしょ? あれ? もしかしなくても、晴絵ってば超えられてない?」

霞「インターカレッジでも活躍していたわね。確かプロや実業団にも何度か勧誘されていたわよね?」

健夜「大学卒業後は指導者として母校の清澄に舞い戻って、再び全国の舞台へと何度か導いていたね。流石に優勝までは届かなかったけど……」

咲「そうですね……」

憧「順風満帆だったじゃない。だから、今でも信じられないのよ。久が自殺なんかしたことがさ……」


私にとって竹井久は世界で一番嫌いな人。

とても不快で、だけれど理解できてしまう嫌な女。

彼女とは一度だけ、この部屋で朝まで飲み明かしたことがあった――


久『清澄の麻雀部ってね、咲たちが入学した年に廃部の危機にあったのよ』

咲『へえ、そうだったんですか? 誰もそんなこと言ってませんでしたけど?』

久『あなたが入部した時には済んでいた話だから、わざわざ話す理由がなかったんじゃないかしら?』

咲『まあ、終わっていた話しならそうかもしれないですね』

久『私が高校へ入学した時点で既に部としての体をなしていなかったのよね。所属しているのは幽霊部員ばかりで、あの部屋は一部の素行のあまりよろしくない生徒が溜まり場にしていたこともあったし』

咲『ああ、だからあの部屋にはベットや本やら、何かおかしなものがあったわけですか』

久『その名残もあったけど、私が持ち込んだものも結構あったわよ。それで、二年生の時にはまこが入部してくれたんだけど、人数不足や活動の実態が何もなかったから廃部にしようって話が出たのよね』


咲『そうだったんですか? 人が足りないなら名前だけ借りれば良かったんじゃないですか?』

久『それも考えたんだけどね。二年の時は私が学生議会長になることで強引に話を撤回させたの。でも、三年に上がる頃にはそうもいかなくて、部活動としての実態を求められたのよね。部として存続するためには継続的に参加する五人が必要だったのよ』

咲『それで、女子四人に、男子一人の人数構成になっていたんですか? でも、京ちゃんって麻雀には興味がなかったはずなんですけど……』

久『んー、彼も和に憧れてきた口だったわね』

咲『も?』

久『須賀君以外にも和を目当てに入ろうとした男子が何人かいたのよ』

咲『あー、人数が足りなかったにしてもよく久先輩は京ちゃんの入部を認めましたね』

久『ああ、仮入部ってことにして思いっきりこき使ってあげたら、須賀君以外は自主的に退部していったのよね』

咲『うわー』

久『それに、初心者ながらもちゃんと麻雀を覚えようとする姿勢もあったし、ヘタレと言うか他に比べてガツガツしていなかったから優希や和の印象が良かったってのもあるわよ』


咲『京ちゃんはもう少しだけ押しが強ければ、何人も彼女を作れたかな?』

久『そうね。顔も悪くないし、家はお金持ちだし……あれ? そう考えると何で彼って彼女がいなかったのよ?』

咲『……何ででしょうね?』

久『咲、あなた……まあ、彼の入部を認めて良かったわ。そうじゃなかったらあなたが入部することなんてなかったでしょうし』

咲『そうですね。当時は麻雀のことを嫌ってましたし、そもそも、麻雀部の存在さえ知りませんでしたけど』

久『麻雀をするような子は風越か龍門渕に行くし、男子だって他の高校に行くからね。でも、私の悪待ちが冴えていたのか、それが良い方向に転んだわけだから偶然って怖いわね』

咲『仕舞いにはインハイで優勝して、あの時なんて久先輩は泣いて喜んでましたっけ』

久『う、うるさいわね。でも、須賀君には申し訳ないことをしたと思っているわ……』

咲『久先輩……』

久『買い出しに行かせて、牌譜の整理、洗牌や重たい荷物の運搬。あげくには優希のタコスや咲の迷子、雑用は全部押し付けたのよね……』

咲『あはは……』プイッ


久『彼は文句の一つも言わなかった。それどころか、タコスを作れるようになったり、積極的に雑用をこなしてくれて本当に助かったわ。でも、私は初心者の彼に何も教えず、インハイで優勝するために都合よく扱っていたのは事実なの……』

咲『京ちゃんは気にしていませんでしたよ』

久『私が最低なのはインハイが終わった後も、今度は国麻のために彼を犠牲にした。それが終わって、新人戦で彼の実力を知った私は愕然としたわ。麻雀を始めてから半年以上も経過していたのに初心者の域から抜け出していない。それどころか、変な癖までついてしまっていた……』

咲『久先輩だけの責任じゃありませんでしたよ。私たち三人と久先輩は国麻のためとかで忙しかったですし、まこ先輩だってインハイの優勝と地元での国麻の開催に伴って店の方が繁忙していて部活に来れなかったから……』

久『国麻の後だって、私は受験を理由にして指導しなかったわ……』

咲『それこそ仕方ないじゃないですか』

久『そうじゃないのよ。私は逃げたの。彼に甘えていた現実を見るのが怖くて、表面に見せないだけで恨まれているんじゃないかって怯えていたのよ。あげくに、彼には才能がないのだと決めつけて向き合わなかった……』

咲『……』

久『高校の卒業後だって、本当は時間があったのよ。だけど、インカレに注力するって言い訳して会いにも来なかったでしょ? だから、彼が龍門渕のパーティーで天江さんと龍門渕さん、それにあなたの三人を相手にして勝利したのを見たときは自分の愚かさを笑ってしまたんだから……』

咲『あれには私も驚きましたよ……』

久『須賀君には才能はあったのよ。それを潰していたのは他ならない私で、もしも、一年の初めからちゃんと指導していれば彼に悔しい思いをさせなかったはずよ……』


咲『それがプロに来なかった理由ですか?』

久『ええ、須賀君への罪滅ぼし。自己満足に過ぎないって分かっているけどね。指導者を目指したのはそれが切っ掛けだったわ……』

咲『久先輩はすごいですよ。清澄を再びインターハイの舞台に立たせたじゃないですか。立派だと思います』

久『そんなことないの。私は本当に最低な女なんだから……』


久先輩は目に薄らと涙を浮かべていた。

彼女は既に酷く酔っていて、口を滑らし、その話を聞いた私は竹井久を嫌悪せずにはいられなかった。


久『ねえ、咲? 私が須賀君のことを好きなこと知ってた?』


衝撃の事実に私の思考は一瞬停止してしまった。


久『ああ、やっぱり気づいていなかったんだ。あの頃は咲や優希に遠慮していたんだから分からないか』

咲『どうして京ちゃんを?』

久『彼が身を粉にして私たちのために働いているのを一番近くで見ていたのは私よ?』


それは酷いマッチポンプのようなものだと思った。

京ちゃんに色々と命じていたのは他ならぬ久先輩だったのだから。


久『私って両親が離婚しているでしょ? だから、ちょっとファザコンの気質があるのよね。須賀君が縁の下で部を支える姿を見ていたらあの人に重なって見えて、私が好きになったのも仕方ないわよ。ただ、天江さんのことは予想外だったわ。彼ってば和に気があるんだと思っていたから、真逆の子と交際を始めたって聞いた時は驚かされたわよ』

咲『京ちゃんは女性の体形とか、そんな所じゃなくて、本当に衣ちゃんが好きだった、愛していたんですよ……』

久『知ってるわよ。あの子の死んだときの落ち込みようは酷かったものね』


そう口にした彼女はとても妖艶な笑みを浮かべて得意気な顔をしていた。

私はその表情を見て言い知れぬ不快感を感じてしまったことを覚えている。


久『咲は知らないのよね。須賀君のものってすごいのよ。太くて、長くて、固くてね、あんな凶悪なものが小さな天江さんの中に入っていたのかと思うと驚いちゃうわ』

咲『な、何を言ってるんですか!?』

久『ふふ、分かってるでしょ? 天江さんが亡くなって彼が落ち込んでいるのを知って、私はようやく待ちに待ったチャンスが訪れたと思ったのよ……』

咲『まさか……』

久『弱っている人の心につけ込むのって楽よね。押し倒して、上に乗って犯したわ。どん底に落ちていてもあれって大きくなるんだから』

咲『あなたはなにをやっているんですかッ!!』

久『彼も気持ち良かったはずよ。まあ、最初の何回かは私が動くばかりで何の反応もなかったんだけどね。きっと拒む気力も湧かなかったんでしょうね。だから、私を天江さんの代わりに使って良いって言ってあげたの。ふふ、そしたら須賀君ってば涙を流してあの子の名前を呼びながら腰を振り始めたわ』

咲『……』

久『すごかったわ。激しく奥を何度も突かれて、壊れてしまうんじゃないかって思った。それに、気持ち良すぎて私は何度も絶頂しちゃったの』

咲『最低ですね』

久『自覚してるわ。そうまでしても私は彼が欲しかった。当然だけど私は避妊なんてしなかったわよ。危険日を狙って行為に及んだし、ゴムなんて使いもしなければピルだって服用していない。子供ができれば彼の性格を考えたら、もう私から逃げられなくなるって計算してね』


咲『子供なんていないじゃないですか……』

久『……そうね。悪待ちの私が自分の望んだ方向に転がすために、能動的に行動したことがダメだったのかもしれないわね……』

咲『どうして、私にそんな話をしたんですか?』

久『誰かに聞いて欲しかったのかもしれないわね。咲なら分かるでしょ? 狂おしいほどに愛しくて、何をしてでも手に入れたかった私の気持ちが……』

咲『……』

久『あの女さえ現れなければ、須賀君は私のものになるはずだったのよ。彼と共に落ちて、いつまでも一緒に……』


彼女はそう口にすると机に顔を伏せて泣きだした。

私には竹井久の気持ちが痛いほどに理解できてしまった。

だけど、京ちゃんの意思を無視した彼女の強引なやり口には嫌悪と不快感を感じたんだ。

私なら、そんな無理矢理体で繋ぎ止めるようなことはしない。

京ちゃんと一緒にいて、ゆっくりと立ち直るまで……でも、私は愚かにも彼の側にいなかった……だから……


数ヶ月後、彼女は清澄の旧校舎最上階にある麻雀部の部室において死体で発見された。

私の手元には生前に書き記し、届日が指定された一通の手紙が送られてきた。

そこにはどうして自殺することを選んだのか彼女の想いが記述されていたんだ。

成香さんによって立ち直った京ちゃんに関係の清算を申し込まれたこと。

それを、竹井久は拒むことなく受け入れた。

しかし、そこには一つの計算があった。

彼女は実の所、本当は妊娠していたらしい。

お腹が大きくなり、子供が生まれてしまえば京ちゃんは自分の下へと帰らざるを負えなくなる。

だから、その時が来るまでの一時的別離など気にすることなく、ただ待つつもりだった。

だけど、お腹が大きく膨らむよりも前に赤ん坊が流れてしまった。

しかも、その時の流産が原因で妊娠できない体になってしまったんだそうだ。


それからの竹井久は待っていた。

体を交えた京ちゃんが戻って来てくれることを信じてただ待ち続けた。

だけど、年月が経ち、京ちゃんが再婚したことを彼女は知ってしまう。

彼女は京ちゃんとの消えない証が欲しくて自殺を選んだんだよ。

命を絶つことで京ちゃんを傷つけ、彼の中で忘れられることなく、永遠にその存在を刻み込ませることを謀ったんだ。


――彼女の死から月日が流れ、私と京ちゃんが二人でお酒を飲んでいた時に漏らしたことがあった……

その日はいつもよりも多く飲んだためにか、意識も判然としないほどに京ちゃんは酩酊していた。

彼は竹井久が死んだ責任は自分にあったのではないかと懺悔したことを覚えている。

それを聞いて、私は彼女の目論見通り、彼の中に消えない傷が刻まれていることを知ったのだ。



Syatem
・ゾロ目により竹井久は――となり、――――が確定しました
・安価先が竹井久でのソロ目により須賀京太郎は悪運を得ました
・石戸霞   ■■:16


↓2

今までの結果

誓子:もんぶち系列のアイドル事務所の所長 コンマ45 >>14
戒能さん:10年前に失踪 コンマ46 >>26
小蒔ちゃん:霧島神境にいるらしい あと京太郎となんかあったかも コンマ55 >>38
玄:松実館女将 コンマ28 >>48
ちゃちゃのん:三代目牌のお姉さんだったが数年前にスキャンダルで失踪 コンマ64 >>61
優希:プロ雀士だったが父親不明(だが実は京太郎らしい)の私生児を出産 コンマ12 >>75
揺杏 :世界的デザイナー コンマ76 >>95
春:車椅子生活 詳細禁忌 コンマ43 >>109
誠子 :釣りプロ コンマ20 >>132
憧:フリーアナウンサー(咲の相方) 誓子の事務所所属 コンマ17 >>145
衣 :プロ雀士にして京太郎の妻 享年19歳 コンマ44 >>182
穏乃:家業を継ぐも地元の山で失踪 (法的に死亡だから7年前か?) コンマ24 >>243
池田:プロ雀士 いじられキャラ コンマ61 >>251
宥:松実館ボイラー室に棲息 コンマ36 >>266
淡:咲さんに壊されて闇へ。消息不明 コンマ24 >>283
漫 :家業を継ぐ コンマ61 >>317
爽 :拉致&拷問され、幼児退行。生きてはいる、生きてはな……。コンマ34 >>353
セーラ:プロ雀士 今度タイトル戦で宮永姉妹と戦うんだー コンマ60 >>366
照:プロ雀士 さらっと結婚してたりするので咲さん激おこ コンマ35 >>378
灼:プロ雀士 今度タイトル戦で宮永姉妹と戦うんだーその2 コンマ09 >>402
成香:誓子の事務所の事務や管理などを総括 京太郎を立ち直らせた コンマ88 >>423
久:京太郎の心に残ることを選んで自殺 コンマ88 >>471
ネリー:コンマ76

謎カウンター
・宮永咲   ◇◇:2
・石戸霞   ■■:16
・真屋由暉子 □□:10

不幸な結果になった人ほど描写に力入ってる気がする。

>>516
結果のまとめありがとうございます。
幸せなエピソードよりも不幸な方が物語としての起伏を付け易いからなのだと思います……



私たちは彼女の冥福を祈り、お酒を仰いだ。


憧「はあ、私も飲みたいな……」

由暉子「憧さん」

咲「これ以上飲んだら憧ちゃん戻すでしょ?」

憧「ああ、もう、分かってる、分かってるてば」

咲「私のタイトル戦も近いけど、日本企業主催の国際大会で霞さんが決勝リーグに出るよね。勝てそうですか?」

霞「勝つつもりではいるのだけれど、相手の方が世界ランクは上だから厳しい戦いになるでしょうね……」

憧「絶対に勝ちなさいよ! 日本で行われている大会なんだからさ」

由暉子「ですが、昨年度も総獲得賞金額世界一の"ヴォジャノーイ"も出場していますからね。彼女は大会荒らしで勇名を馳せていますから。私はあの異名とか格好良くて好きなんですよね」

健夜「普通に戦えば7:3で彼女が優勝を掻っ攫うと思うけどね」

咲「高額の賞金がかかるほどに強くなりますからね」

由暉子「変幻自在な雀士で幾つもの奥の手を持っています。神出鬼没に世界を渡り歩き、高額の賞金が出る大会で確実に奪っていく。溜め込んでいるお金は小国の国家予算に匹敵するとか!!」


ユキちゃん興奮しているな。

麻雀に関する行動だけを見たら中二病的な所があるからファンなのかな?

"ヴォジャノーイ"ことネリー・ヴィルサラーゼ。

ヴォジャノーイは東欧の伝承にある水に住まう妖精で、あまり性質の良くないものらしい。

通常、男性とされるこの妖精に彼女が例えられるのは単純に強いからでもある。

様々な姿を持ち、時には人を水の中へと引き込んでしまう怖い妖精なんだよ。

水の底にあると言う妖精の住まいは、沈没船などに眠っていた数多くの財宝で作られていると言われている。

満月の満ち欠けによって老いたり若返ったりするっていうのは、何だか昔の衣ちゃんみたいだけどね。

ネリーちゃんがこの妖精に例えられるのは強さとその打ち筋、お金を所持している点などが似ているからなんだろうね。

わざわざあまり性質が良くない妖精が異名として扱われるのは、彼女が特定の拠点を持つことなく世界を転戦していることに起因しているのかも。

大会の開催国であるホームの人間からすれば、やっぱり自国の選手にこそ優勝してほしいと思っているんだ。

だけど、彼女はそんな思いを嘲笑うかのように数多くの大会で賞金を手に入れてきた。

ホームの人間からすれば、完全にヒールな存在だと言えるんだよね。


憧「咲はネリーにずっと勝ってるでしょ。何か霞にアドバイスとかないわけ?」

咲「うーん、ネリーちゃんって常に底を見せないようにしているんだよね。口では全力と言いつつも、必ず手の内を隠し持っているんだよ。それに、思考がシビアでリスクとリターンを計算していてね」

由暉子「どうしてそんなことをしているんですか?」

咲「世界で戦い続けるには必要だからだよ。もしも、手札を全て晒してしまうと分析されて次からは対策されてしまう。それでも、勝てないことはないだろうけど勝率は下がっちゃうんだよね」

憧「あのお金にがめついあいつなら、先まで見越して下手に勝率を下げるような真似はしないってわけね」

咲「まあね。例え世界一の実力があったとしても、完全に対抗策を打たれたら負けることはありますからね?」

健夜「……そうだね」

霞「それで、結論としては何か有効な手立てでもあるのかしら?」

咲「ネリーちゃんは絶対に全力を出さないんです。そこに隙を見出して攻めれば十分に勝てる可能性はあると思いますよ。彼女はリスクがリターンを上回ると判断すれば自ら勝負を降りることもありますから」


ネリーちゃんはあのインハイ決勝で全力を尽くして私に敗北した苦い経験があるんだ。

その時に手の内を曝してしまったことで、一時、彼女は勝つことが難しい時期があったんだよね。

トラウマとまではいかないけれど、その経験を糧にしていて彼女は自らの出せる全力に上限を設けている。

それは、選択を狭めているって言えるんだけど、自ら課した戒めを破ることなく勝利しなければいけないと言うプレッシャーが上手いこと作用しているんだよ。

精神的な安定を高め、冷静で冷徹に先々まで計算するシビアな感性を強めている。

彼女には私にはない飢餓がある。

その絶対的な強い欲求は彼女を強くさせ続けている。

しかも、昔と違ってスポンサーの目を気にしていない。

既に彼女は大きく話題を攫える実力と実績を併せ持っているから、彼女の行動を制限するのは彼女自身だけなんだよね。


ネリーちゃんがキャップを外して全力を出すのはカメラのない、私的な勝負の時だけなんだ。

しかも、その時でさえ新しい奥の手の開発がほぼ完了していることを条件にしているみたいなんだよね。

正直に言って、遊びの時のネリーちゃんの方が面倒な手合いだよ。

試合の時のネリーちゃんが相手ならほぼ確実に勝てるけど、そうじゃない時は6:4でしか勝てないからな。

今度、来日したときもこの部屋に泊まりに来るんだろうね。

お土産を毎回忘れずに持って来てくれるから、昔より丸くなったのかと私は思っていたんだけどさ……

私の印象が良ければ美味しいご飯と快適な住居がタダになるからだなんて言われたよ。

それを口にするのはどうかと思うけど、彼女なりの冗談なんだと思いたいな……私たちお友達だよね?



System
・真屋由暉子 □□:11


↓2

コンマに加えて所属校と原作の人間関係も影響があるんかな
後々出てくるキャラはそれまでに出たキャラの状況によっても左右されてるみたいだけど


>>529
>>95で述べた感じですからそんな感じですよー



少し酔いが回った気がしたから、皆に一言断りを入れてルーフバルコニーに出た。

私の住居がある階は高い位置にあるから割と強い風が吹いている。

都市を見渡せる見晴らしの良い景色とセキュリティーの高さが気に入ってここを購入したんだよね。


憧「何を黄昏てんのよ?」

咲「憧ちゃんか、どうかしたの?」

憧「少し元気がなかったから気にして来てあげただけよ。……久のこと気にしてるの?」

咲「よく分かんない。彼女が死んだって聞いたとき、そんなに悲しくなかったんだよね……」


むしろ、少し羨ましく、狡いとさえ思ったんだから……


憧「はあ、阿知賀と違って清澄はドロドロしてるわね」

咲「……そうだね」

憧「京太郎ってそんなに良い男? 私とあいつは大学が一緒だった友達だけど、全く分からないわ。咲が拘るのも、和にしたってもね……」

咲「どうしても私は京ちゃんを忘れられないし、何時まで経っても諦められないんだよ……」

憧「……はあ、咲はバカよね」


私が愚かなのは知ってるよ。

なんだかんだ言って、私のことを心配してくれる憧ちゃんは良い子だよね。


憧「行方不明とかになっている旧知の人たちが多すぎるのよね……」

咲「……」

憧「その中でも自殺を選んだ久は大馬鹿者よ。遺される人のことを考えろっての」


そこまで計算して自殺したんだよとは、憧ちゃんにも教えられないかな……


咲「まこ先輩は酷く取り乱していたし、美穂子さんなんてプロを辞めちゃったもんね」

憧「美穂子は実力と人気を兼ね備えていたから、突然の引退に当時は結構惜しまれてたっけ。今は何をしてるの?」

咲「長野で子供向けの麻雀教室を開いているよ。後人の育成に力を入れてるね」


美穂子さんは大学のインカレで活躍し、プロになった。

久先輩がプロにも実業団にも来なかったことを一番惜しんでいて、何度も誘っていたことを覚えている。

あの人の死に何を感じたのかを私は知らない。

ただ、プロを引退して麻雀教室で子供たちに教えている姿には無理をしている感じはどこにもなかった。

機械の取り扱いは相変わらずダメだけれど、子供たちには懐かれているみたいだったし、良い先生をしていたよ。

美穂子さんは既に過去のものとして久先輩の死を乗り越えたんだろうね。

だって彼女はとても穏やかな表情で幸せそうに微笑んでいたのだから……


憧「麻雀教室か、私もアナウンサーを辞めたらそれをするのもありかもね」

咲「えっ、憧ちゃんアナウンサー辞めちゃうの?」

憧「辞めないからっ! 少なくとも咲がプロを続けている限りはあんたの相方をしてあげるから、心配しなくていいわよ。だって、あんたみたいなポンコツを他に任せたら大変でしょ?」


ははは、まったくもう、酷い言い草だね憧ちゃんは……



System
・真屋由暉子 □□:12


↓2


System
・安価先が染谷まこでゾロ目のため……

・宮永咲、石戸霞、真屋由暉子、小鍛治健夜、須賀京太郎、ハギヨシが安価先の場合は安価下になります



あれぇ?き、清澄で唯一の安牌、良心枠だったはずはずなんですが……あるぇ?
でぇ、でえじょうぶですぅよお……ところで、幸せってなんでしょうね?


六人に関しては当初プロットからの変更に伴い選択が不可となりました。彼らの安価を希望していた方々には申し訳ありません。
当初は特定条件の取得後に封印解除ということを考えていたのですが、これまでのゾロ目を見てこの後もプロットの大幅な崩壊が起こり得ると感じたので変更させていただきます。


本日の更新は終了となります。次回は明日以降ということで……


咲「皆がさ、憧ちゃんみたいだったら良かったのに……」


憧ちゃんが言ったように清澄の対人関係は非常にドロドロとしてしまっている。

愛憎が入り混じっていてどうしようもないくらいに複雑なんだよ。

優希ちゃんは間違いなく倫理を無視してまでの行いによって京ちゃんの子供を手に入れた。

久先輩は人の弱みにつけ込んでまで京ちゃんを手に入れようとし、仕舞いには自殺を選んだ。

和ちゃんは……

そして、清澄の麻雀部でただ一人だけ京ちゃんに興味がないと思っていた染谷まこは最悪の卑怯者だったんだから。

ああ、あのインターハイを一緒に戦ったはずの私たちはバラバラになってしまったんだね……


憧「……咲は今年も長野に帰省しなかったわね。帰りにくいの?」

咲「あそこをこれ以上は良くない思い出の土地には変えたくないんだよ。だから、私は帰れない……」


楽しいことも、悲しいことも、嫌なことも故郷には色々な思い出が存在する。

そのどれもが大切な私の思い出だからこそ、会いたくない人のいるあの場所にはあまり帰りたくないよ。


憧「咲はさ、私に話してないことが色々あるよね?」

咲「……」

憧「……無理には聞かないわ。だけど、もしも一人で抱えきれないと思ったなら話しなさいよ」


久先輩の真実を言えるわけがない。

話した所で、それはもう過ぎてしまった変えようのない過去の結果で、何の解決にもならないんだから。

それどころか、もしも話を聞いてしまえば、きっと憧ちゃんの中にある竹井久の像は崩れて見方が変わってしまう。

死んだ人でさえそうなるのだから、生きている人ならどうなるかなんて想像も容易い話なんだよ。

だから、私は染谷まこのことを話すことは誰にもできない――


まこ『久しぶりじゃの、咲、いつぶりじゃ?』

咲『久先輩の葬儀のとき以来ですね。そう言えば、今日は旦那さんと子供さんは?』

まこ『出かけてもろおておる。咲と二人で話したかったからのぉ』

咲『まこ先輩の子供には会ってみたかったですよ。久先輩の葬儀の時は連れて来ていなかったですし、あの時は何日も休みを取れなかったから見に行く余裕なんてなかったですからね』

まこ『……忙しいのは知っておるが、長野には両親もおるじゃろう。もうちぃと帰ってきたらどうなんじゃ?』


まこ先輩は高校卒業後は実家のRoof-topで本格的に働き出したんだ。

京ちゃんを除けば友人の中では一番最初に結婚し、久先輩の亡くなる少し前に出産している。

店の経営の方はちゃちゃのんショックによる不況の波をあまり影響を受けることなく無事にやり過ごした。

Roof-topはプロ雀士やインハイで活躍した選手が常連として訪れるために変わらずに繁盛している。


咲『……それで、突然呼び出した理由は何だったんですか?』

まこ『咲は久からの手紙を受け取ったかの?』

咲『まこ先輩も受け取っていたんですか?』

まこ『そうじゃ。手紙にはなんて書いてあったんじゃ?』


私はこの時、まこ先輩に違和感を感じた。

久先輩から同じ手紙を受け取ったのだとしたら、どうして改まって私に尋ねる必要があるのだろうか。

疑問に思いながらも、彼女の質問に答えた。

そして、話しをしていく間にまこ先輩の表情は曇っていき、語り終えたときには涙を零していた。


まこ『わしのせいで、わしのせいで、久が死んだのはわしのせいじゃった……』


泣き続ける彼女に事情を聴くこともできず、私はまこ先輩が落ち着くのを待つ必要があった。


咲『どうして久先輩の死がまこ先輩の責任になるんですか?』

まこ『……何から話すべきかのぉ。わしは咲や優希が表だって好意を寄せちょる裏で和や久も京太郎を好いとったことに気づいとったんじゃ。それに気づけたのはわしも京太郎が好きじゃったからだのぉ』

咲『まこ先輩まで……』

まこ『京太郎の頑張りを見ていて好ましいと思っとったんじゃ。そりゃあ咲達が寄せとった想いほどじゃないがのぉ。わしは居心地の良かった麻雀部の雰囲気を壊したくはなかったからな……』

咲『……』

まこ『……わしのガキは京太郎の血を引いておる』

咲『はあッ?! ど、どういうことですか!?』

まこ『わしと夫の間には何年もガキができなかったんじゃ。おかしいと思い、病院で検査をしたところ、夫の不妊が発覚したんじゃ』

咲『旦那さんの、不妊?』


まこ『そうじゃ。夫との間では体外受精などの人工的な方法でもほぼ妊娠は不可能と判断されたんじゃ。じゃから、ガキは諦めると結論が出たのぉ。じゃがな、わしはホンマはガキが欲しかったんじゃ。夫には謝られ、離婚を切り出されたこともあったのぉ。じゃけど、わしは夫を好きじゃったからそれは拒んだ……』

咲『それなら、どうして京ちゃんの!?』

まこ『ありゃあ京太郎が再婚の報告をするために帰ってきた時じゃった。わしとあやつの二人で酒を飲んでおった。じゃけど、京太郎のやつが酔い潰れての。そりゃを見て魔が差したんじゃ……』

咲『あなたは……』

まこ『昔好いとった男のガキなら……じゃから、わしは京太郎を襲ったんじゃ……』

咲『京ちゃんは子供のこととか知っているんですか?』

まこ『知らんよ。そもそもじゃ、あいつはわしと懇ろな関係になったことさえ知らんからな。酒のせいであやつは何も覚えておらんかったんじゃ。服の乱れなどは綺麗に直しておいたから気づかんかったんもしかたなかろうがのぉ……』


まこ先輩は知っていたはずだ。

京ちゃんが最愛の人を失ってどん底に落ちていたあの姿を見たことがあったはずなのに……

そんな彼が立ち直って再婚すると知りながら、襲うなんて真似ができるのが信じられない。

酷過ぎるよ……京ちゃんがあんまりだよ……


まこ『そん時の一回で妊娠したんじゃ。夫はわしの裏切りに気づいておったのに、なんも言わんかったよ……相手が誰かまでは知らんかったちゅうのもありゃしたのかものぉ』

咲『……』

まこ『わしは馬鹿な真似をしたことが苦しくて、久に相談してしまったんじゃ……』

咲『久先輩に……』

まこ『わしは知らんかった。京太郎と久の関係を知らんかったんじゃ。あやつが子供のできない体になっとたなんて全く知らんかったんじゃ……』


久先輩にはこの人がどんな風に見えていたのだろう。

憎んだのか、恨んだのか、妬んだのか、それとも……


まこ『久はの、わしにガキを生むように勧めおった。このことは京太郎には話すなとも言われたんじゃ。夫が黙って受け入れちょるならそりゃを認めろとものぉ……』

咲『久先輩……』

まこ『無事にガキが生まれてから、数ヶ月もしん間に久の奴は自殺しよった。あやつの死んだ同日にわしの手元には久からの手紙が届いたんじゃ』


そこには久先輩がどうして自殺したのかの真意を私に伝えたと書かれていたらしい。

他には京ちゃんとの過ちはもう忘れて、子供と旦那さんを大切にしなさいとあったそうだ。


まこ『わしは書かれていた通り、忘れようとしたんじゃ。そうして今日まで生きてきた……』

咲『それならどうして今更?』

まこ『耐えられんかったんじゃ。もう限界やった。夫とガキのことは愛しちょる。夫のやつは気づいておるのに何も言わん。それどころか血の繋がっちょる実子のようにガキを可愛がってくれとる。傍から見れば何の問題もない幸せな家庭にしか見えんかもしれんのぉ。じゃけど、わしはもう耐えられんかった。ガキが成長してあやつの面影が濃くなっていくにつれて、罪悪感で針の筵にいるような気がしてきとったんじゃ。もう、わしの心の内にだけ留めておくことができなんだ。誰かに聞いて欲しかったんじゃ……』

咲『どうして私だったんですか?』

まこ『子供が生まれようとしている優希にこんなことは言えんよ。何も知らん和も無理じゃ。事情を知っている咲だけしかおらんかった……』


竹井久への謝罪を口にしながら赦しを乞いている姿を見て、私は心の底からぐつぐつと怒りが湧いてきた。

だから、突っ伏して泣いている染谷まこの胸倉を掴み上げて顔を上げさせると、空いた片手は自ずと彼女の頬を叩いた。


咲『ふざけんなッ! お前に赦される資格なんかあるわけないだろおッ!!』


この女は自分勝手な都合で幸せになろうとしていた京ちゃんに泥を塗ったのだ。

そして、自分の過ちに不安を駆られて久先輩に寄りかかった。

彼女の過去を知らなかったのはしょうがないのかもしれない。

だけど、罪から逃れるために、今も昔も自分のしでかした行為に向き合わず、ずっと逃げ続けている。


咲『あなたは卑怯だッ! 最悪の卑怯者だあッ!!』


彼女が久先輩に話さず、胸の内に仕舞い続けていたならば、おそらくあの人は死を選ばなかった。

京ちゃんが選んで結婚した相手なら認めたはずだよ。

私と一緒で京ちゃんを愛している久先輩ならそれができないはずがないんだから……


咲『自覚しているようですが、私からもはっきりと言ってあげますよ。あなたの最悪の行いが久先輩を死に追いやったんだッ!!』


久先輩が京ちゃんとの消えない証を求めたのは間違いなくこの女の行いがあったからだ。

自分にはどんなに望んでももう子供ができないのに、京ちゃんに愛されてもいない相手には子供がいる。

私なら耐えられるだろうか、否、やっぱり耐えられなかったと思う。


まこ『すまん、すまん久……わしはどうすれば、どうすれば償えるんじゃ……』

咲『口を開くなッ! 赦されようと思わないでくださいよ。あなたはもう一生、京ちゃんには関わらないでください。私にだってもう連絡を寄こさないで欲しい。言っておきますけど、間違っても久先輩の後を追おうなんて考えないでくださいね?』


久先輩はきっと憎らしくて、妬ましくて仕方がなかったはずだよ。

それでも、生まれてくる子供には罪はないと考えたんだろうね。

半分とはいえ、京ちゃんの血が流れているって言うのもそう考慮する要因になったんだろうけど……

だから、子供が生まれてくるまではこの卑怯者の相談に乗っていた。

久先輩は京ちゃんに消えない証を求めながら、彼を不幸にする未来は極力排除しようとしたのだと思う。

だから、彼女への手紙には久先輩が自殺した経緯などは書かず、過去を忘れて家族を大切にしろと残したんだ。

私の手紙にまこ先輩のことを書かなかったのは、彼女が耐えられたのなら知らないままにしておいた方が良いとの配慮だったのかもね……

久先輩の真意を知ってしまえば、まこ先輩がどのような行動に出るか分からない。

血の繋がっている子供が実際にいる以上は、京ちゃんに累が及ぶかもしれない。

そして、真実を私が知っていると記すことで、もしも彼女が耐えられなくなったときには他の誰でもなく、京ちゃんをずっと愛しているこの私に話が行くように誘導したんだ。

私ならどんな行動をするかがあの人には分かっていたんだろうね。

本当に久先輩は不愉快で大嫌いだよ……


咲『一生、罪を背負って生きてください。久先輩が残したように真相には口を閉ざして忘れてください。そして、子供や旦那さんのために生きてください。それだけが久先輩と京ちゃんへの償いになりますから――


咲「憧ちゃん」

憧「何よ?」

咲「なんでもない。ただ、ありがとう……」


私は先輩たちの行いを秘匿して誰にも話すつもりはない。

真実は時には人を苦しめてしまうから。

霞さんが言っていたように、知らない方が幸せなことは世の中にはいっぱいあるんだからね……



System
・安価先が染谷まこでのゾロ目のため、染谷まこは――とならず、――――はなりませんでした
・安価先が染谷まこでのソロ目により須賀京太郎はお酒に弱いことが判明しました
・宮永咲   ◇◇:3
・石戸霞   ■■:18


↓2


System
・コンマ42により臼沢塞は……
・コンマ42は封印され、以後の安価先がコンマ42の場合、その直下でコンマの再判定が行われます
・臼沢塞のエピソードはまだ"その時"に至っておりません、時が来れば自ずと開示されます


↓2

コンマで何出してもバッドかデッドが基本のキャラは程度の変化しかない気がする。
イッチのコンマの基準がどんな物なのか解らん。


>>619
コンマ次第でもほぼ死ぬかそれに類することになることが予め決まっていたのは二人だけです。
それ以外のキャラについては>>95で述べた四つで決めています……コンマの基準はゾロ目と4が特別なものになっております(42は封印)


次が南浦さんに決まったところで本日の更新は終了いたします。それではまた明日以降ということで。

追記:7も特別なことを忘れていました……


私と憧ちゃんが部屋へと戻ってみると健夜さんたちはテレビを見ていた。

画面には本日行われている麻雀のプロリーグが生中継で放映されている。


由暉子「二人ともお帰りなさい」

咲「ただいま。あっ、数絵ちゃんが出てるね」

健夜「うん。それにしても数絵ちゃんは相変わらず東場じゃ弱いな」

霞「南場なら圧倒的ですけどね。だからこそ、他のプロたちは挙って狙い打っているみたいよ」

憧「いつものパターンってわけか。東場でどれだけ削れるかで勝負の行方が決まりそうね。数絵ってば相変わらず先鋒での起用が多いのね」

咲「点数に余裕がないときでないと東場でのもしもが怖いから仕方ないよ」


数絵ちゃんには高校二年生のときにインターハイ個人戦の長野県予選で土をつけられたっけ。

あの時は団体戦の方で龍門渕に敗北していたから、その尾を引いていたような気がする。

まあ、言い訳なんだけどね……

あの年は個人も団体でも全国への切符を清澄は逃したから、期待外れだとか、昨年はまぐれだったとかボロクソに言われたんだよ。

期待されていた分だけ記事には酷いことが書かれていたんだよね。

ふふふ、私はちゃんと覚えていたからプロになった後はそれらの会社のメディアへの出演とか取材は全部蹴ってあげたっけ。

まあ、ちゃちゃのんショックで立ちいかなくなって潰れたのも一杯あったから、もう溜飲は下がっているけどね……


由暉子「優希さんとは全くの反対なんですよね」

憧「そうね。あの二人の勝負は東場で狩る優希と南場を荒らす数絵だから点棒が行き来して見応えがあったわ。アナウンスする方としても楽しかったし、好カードとして人気も博していたよね」

霞「東場と南場を挟んだシーソーゲームだったわね。はっきり言わせてもらうと、同卓する身となったときは嫌だったわ」

由暉子「本当です。いつも厳しい展開で、東と南で休む間もなく颶風が暴れ続けるんですから。嵐が弱まる僅かな隙をじっと待って、勢いの弱い方を差してどうにかしないと点棒がすごい勢いで飛んでいってしまうんですよ……」


あの二人と卓を囲んだときは本当に厄介だから。

高校三年生、最後のインターハイ個人戦の時だって南場に回せば苦戦すると感じて他の人を飛ばして終わらせたくらいだし。

事実、他の試合では猛威を振るっていて点数を荒稼ぎしていたよ。

まあ、私は南場へと回さないために少し無理をしたから優希ちゃんに稼ぎ負けて県予選一位通過を取れなかったんだけど。

その卓の結果が大きく影響して数絵ちゃんは最後のインハイで全国への切符を逃したんだ。

あれが、高校時代に彼女と直接戦った最後の麻雀だったかな。

国麻には出てこなかったから、荒れる私の玩具にならなかったのは運が良かったのかも……


由暉子「"南神"の風が吹きましたね。勝負は見えました」

健夜「不調からは完全に立ち直ったみたいだね。お爺さんも安心して見ていられるんじゃないかな……」

霞「彼女は優希ちゃんがいなくなって随分と腑抜けていたものね」


優希ちゃんが"東神"と呼ばれるように、彼女のライバルと言われている数絵ちゃんは"南神"の異名が与えられている。

二人の勝敗率で見れば、優希ちゃんの方が勝っていたけれど数絵ちゃんもトッププロの一人と言えた。

攻め手と守り手、必ず先行を取る優希ちゃんの方が数絵ちゃんよりも有利なのが否めないんだよね。

彼女が暴れに暴れれば、他の手合いも点数が大きく下がって数絵ちゃんは勝つために狙い打つしかいけない状況なんてことも一杯あったし……



System
・真屋由暉子 □□:13


↓2


先鋒戦は数絵ちゃんが南場で大きく収支を稼いで次鋒戦へと移った。

四つのプロチームの内の一つはハートビッツ大宮だ。

一人浮きで独走している数絵ちゃんのチームを追撃するために、大宮からは次鋒としてオーダーされたのがはやりさんだった。


健夜「はやりちゃんか、まったく40才にもなってあんなフリフリな服を着てさ、相変わらずはややとか言っちゃって、本当にキツイんだから。歳を考えて欲しいよね。皆もそう思うでしょ?」チッ

霞「私もあの人を見ているとキツイと感じるわよ。それでも、もう、一つの個性として確立しているというのかしら? 確かに薹が立ち過ぎてはいるけれど大衆には概ね受け入れられているのよね」

健夜「ふふふ、髪の艶や肌の瑞々しさはもう衰えているよね。化粧で上手く隠しているけど皺だって目立つし、張りのなさだってよく見れば分かるんだから誤魔化し切れないよ。現役のアイドル活動をいつまで続けるつもりなんだろうね? はやりちゃんは頭が良いんだから他にも芸能面の仕事が取れるのに、アイドルにこだわり過ぎなんだよ……」

由暉子「はやりさんはとても努力していますよ。体力と健康を維持するための運動から、徹底した食事管理、アンチエイジングにも大変力を入れてますし、あの人のことを近くで見ていると私もまだまだ頑張らないといけないって思えてきます」


健夜さんの首があり得ない速さでぐるりと回りユキちゃんを見た。

その顔は歯を食いしばり、目は血走って怪しげな光を持ち、おどろおどろしい雰囲気を垂れ流している。


健夜「別に同じ事務所に所属しているからって庇う必要はないんだよ、ユキちゃん? ねえ、素直になれないんならちょっと私と麻雀をしようよ。たっぷりと可愛がってあげるから」


はやりさんは結婚を機に一度アイドルを引退しているんだよね。

そんな彼女はちゃちゃのんショックによる不況で世の中が暗くなっていくことに何かを感じたのか、アイドルとして芸能活動を再開したんだ。

だけど、元々はやりさんの所属していた事務所は不況の煽りを受けて閉鎖してしまっていた。

いったいどんな経緯があったのかまでは知らないけど、はやりさんはユキちゃんたちと同じ事務所に所属したんだよ。

ユキちゃんから見ればアイドルとしては大先輩であるはやりさんなんだけど、事務所では後輩と言うよく分からない関係が築かれている。

有珠山の人達って昔は打倒はやりを標榜していたはずなんだけど、取り込んでしまって良かったのかな。


憧「落ち着きなさいよ健夜、ユキが怯えているでしょうが!」

健夜「私は冷静だよ憧ちゃん。ああ、もう面倒だし三麻で良いよね? ふふふ、咲ちゃん雀卓を借りるね」


健夜さんは憧ちゃんとユキちゃんを引っ張ってプレールームに連れ込んでしまった。


咲霞「「…………」」

霞「ああはなりたくないわね」

咲「そうですね。と言うか、健夜さんの発言はブーメランになってますよね……」

霞「ええ、咲ちゃんも早く結婚しないとああなるわよ」

咲「お世話様ですよ。霞さんはそろそろ胸が垂れてきて大変なんじゃないですか?」ピクッ

霞「咲ちゃんには垂れるような胸もなくて羨ましいわ。きっと肩こりなんかには生涯縁がないんでしょうね?」ピククッ

咲霞「「……」」


テレビの画面は移り変わり、ブライダルのCMにはやりさんが出ていた。

あれは、年を取っても大丈夫、こんなにキツイ人でも結婚式を挙げられたんだと皮肉っているのかな。

はやりさんが結婚したのは32才、牌のお姉さんを引退してから二年後のことだった。

『瑞原はやり入籍!!』として当時は新聞やテレビで大々的に報道されたんだよね……


咲「霞さんの結婚式って、やっぱり神前式だったんですか?」

霞「ええ、私個人としてはウエディングドレスに憧れはあったのだけれど、霧島神境に伝わる由緒のある神前式が行われたわ。もしも、次に結婚するとしたなら洋風で行いたいわね……」

咲「何歳で結婚したんでしたっけ?」

霞「19才よ、形式は一応お見合いになるのかしら? そこに私個人の意向はなく、全ては家の、霧島神境のための結婚だったわ……」

咲「辛くなかったんですか?」


言ってから私は後悔した。

霞さんの表情からは感情と言うものが抜け落ちて、のっぺらとした能面が張り付いている。

彼女からはまるで生気が感じられず、無機質な人形になってしまったかのように見えた。


咲「……すみません無遠慮な質問でした」

霞「気にしていないわ。今は家や神境から解放されて好きなように生きていられるもの……」


21世紀でも所が変われば望まぬ結婚を強いられてしまうような場所もある。

そう言う意味では、私は恵まれた時代と場所に生れ落ちたと言えるんだろうね。

はやりさんも良縁な相手と巡り合えて、二子の子供もいる。

はあ、だけどそう思うと、どうして日本では重婚が認められていないのだろう。

もしくは昔のように側室の制度が明確に認められる形で存在していれば、私も京ちゃんと一緒にいられたのかな……



System
・小鍛治健夜 ◆◆:1


↓2


試合は進み、はやりさんが早い和了で点を取り戻していく。

"Whirlwind"、旋風と呼ばれた異名の通り、その実力は今も健在であると示していた。

前半戦を終え、選手たちが一息ついている合間にアナウンサーと解説役が試合を一時振り返って分かりやすく説明していく。

世界で大流行する麻雀。

プロのリーグともなれば当然だけどテレビ中継は当たり前で、毎回誰かしらの解説者とアナウンサーがいる。


霞「あら? どこかで聞いた声だと思っていたのだけれど、アナウンサーは由子さんだったのね」

咲「えっ? まさか霞さん、今まで気づいていなかったんですか?」

霞「ま、麻雀の試合に集中して見ていたから気づかなかったのよ。私はプロだから解説を聞く必要もないでしょ?」

咲「酷いですね。由子さんは頑張ってアナウンスしていたのに」

霞「ほら、牌や対局中のプロに映像の焦点は向かうから、解説の人達は基本的に映らないでしょ?」


由子さんは高校卒業後は大学へと進学し、インカレに出場はしていたのだけど目立った活躍はしていなかったんだよね。

だから、プロや実業団からの誘いが来ることもなく順調に大学を卒業し、関西の放送局でアナウンサーになったんだ。

今は地方局から本局への方へと移動したんだけど、アナウンサーとしての人気は憧ちゃんには及んでいない。

それでも、人気のある麻雀プロリーグのアナウンサーに抜擢されるだけの呼び声はあるんだけどね。


咲「あの特徴的な語尾が解禁されていて誰なのか分かりやすいはずなんですけどね?」

霞「それって、アナウンサーとしてありなのかしら?」

咲「ダメなものと良い時できっちり使い分けているそうですから大丈夫みたいですよ」

霞「そう。彼女も色々と大変だったわね……」


由子さんの家はちゃちゃのんショックの影響で一時は経済的窮地に追い込まれ、一家離散の危機になっていたらしい。

何でも、彼女の稼ぎで食い扶持を繋いでいたとか、家が競りに掛けられて売りに出されていたとかって聞かされたんだよ。

粉ものはお腹も膨れて、嵩増しも楽だからいいものよーって言われた時は反応に困ったけどね……

そんな危機的状況の中で龍門渕からの出資の打診があり、実家の家業は不況を乗り越えることができたそうだ。

今は昔のような生活ができているそうだから良かったよね。


咲「まあ、この前会った時は元気そうでしたし心配はないですよ」

霞「ああ、お好み焼きパーティーに参加していた子の一人だったのね」

咲「ええ」


不況の時でもあの赤い腕時計だけは手放さずに手元に残していたそうで、今日の放送でも身に着けているに違いないね。



System
・真屋由暉子 □□:14


↓2


System
・安価先が白水哩のため鶴田姫子のコンマ判定が行われます


↓2

次が哩に決まりましたので、本日の更新は終了いたします。
それでは次の更新は明日ということでお休みなさい。


咲「はやりさんは昔に比べたら少し弱くなってますね」

霞「ユキちゃんが言っていたように、厳しい生活規則を順守しつつ、芸能やプロ雀士として活動していることも影響がありそうね」

咲「それだけじゃなく、家事や育児にも手を抜かずに頑張っているそうですからね」

霞「集中力が切れなければ、トップに躍り出ることも難しくはなかったはずよ」

由子『結局、寄る年波には勝てないってわけなのよー』

咲霞「「…………」」


由子さんは解説者と話し合いながら、はやりさんが収支でトップに負いつけなかった理由をそのように総括した。

あーあ、言っちゃった。

それが事実でもいろんな所から文句が出そうだよね……下手をすれば三流紙あたりなら大きく記事にするんじゃないかな。


そもそも、年を取れば肉体が衰えてしまうのは自然なことだよ。

年を経ることで蓄積した経験で、若い勢いを殺して勝つのがはやりさんたちくらいの年齢に達し始めた雀士の持ち味と言うかね。

瞬間的な最大の勢いは失われてしまっても、誰もが粘り強くて、中にはまだ高い勢いを維持している人もいるからやり難いのがあの年代。

まあ、そんなものも無視して圧倒的な強さを誇っている健夜さんは異常なんだけど。

老獪な経験でのカバーにもやっぱり普通は限界があるんだよね。

だから、シニアのプロリーグが存在しているわけだし……


咲「……中堅として哩さんが出てくるみたいですよ。今日はどちらの指令が出ているのかな」

霞「……そうね、点数差を考えればリザベーションもありね。ただ、哩さんなら普通に打っても追いつけない点数差じゃないわ」

咲「あっ、フェレッターズからは華菜さんが出てくるみたいです。まあ、この点数差なら彼女に粘って稼いで貰いらたいって言うのも分かりますけど」

霞「正直に言って佐久は厳しいわ。哩さん相手に華菜ちゃんじゃ少し力不足ね」


咲「中堅の面子を見る限りだと哩さんはリザベーションを使う可能性が高いかも……」

霞「プロリーグでは事前に登録されている選手なら自由にオーダーの変更が可能だから、リザベーションが失敗したとしても姫子ちゃんを出さないって選択が取れるのは大きいわ」

咲「インターハイよりも柔軟性が高いですよね」

霞「ええ、だからあの二人はプロリーグ史上でも最悪のコンビ打ちなんて呼ばれているもの」


インターミドルの頃から哩さんと姫子さんは有名なコンビだったらしい。

哩さんは高校卒業後に大学へと進学し、一年目はエースとしてインカレを大きく湧かした。

そして、二年目には姫子さんが同じ大学へと入学し、復活したコンビがインカレを席巻して優勝を飾ったんだ。

そうなるとプロや実業団の注目もより集まって二人への勧誘が行われた。

結果、二人は揃って大学を中退して一緒にプロへと転向したんだよ。


咲「哩さんと姫子さんって非常に仲が良いですよね」

霞「そうね。二人で一つの能力持っているなんてとても珍しいタイプなくらいだし、でも、それがどうかしたの?」

咲「姫子さんは哩さんを追って新道寺へ入ったわけじゃないですか」

霞「そう聞いたわね」

咲「大学もそうですよね」

霞「言っていたわね」

咲「プロへは一緒に同じチームへと所属しましたよね」

霞「そうだけど、咲ちゃんは何が言いたいの?」

咲「哩さんが結婚したら、姫子さんも翌年に結婚しましたよね。そして、哩さんが出産したら、それに続く形で姫子さんが出産してます……」

霞「……それ以上考えるのは止めましょう咲ちゃん」

咲「…………そうですね」



System
・真屋由暉子 □□:16


↓2


Tu Tu Tutururutu Tutu Tutu Tu!  Tu Tu Tutururutu Tu……


はあ、これからまさに中堅戦が始ろうとしている時に、誰の携帯かな?

本当に間の悪い電話だよね。


咲「……健夜さんの携帯だね」

霞「咲ちゃん報せに行ってあげたら?」

咲「えっ!? 嫌ですよ。今プレールームなんかに行ったりしたら、健夜さんが満足するまで打つことになりますから。霞さんが行けばいいじゃないですか?」

霞「私も嫌よ……」

咲「……」


私と霞さんでああだこうだと、押し付け合いをしている間に携帯の呼び出し音が止まった。


Tululalalalan! Tululalalalan! Tululala……


今度は私の携帯が着信を知らせ始めた。

いったい誰からだろうと画面に表示されている名前を見てみると、理沙さんの名前が出ている。

健夜さんが携帯に出なかったから私に回ってきたんだね……


咲「はい、もしもし」

理沙『出ないッ!!』プン

咲「ああ、健夜さんは僻みから麻雀中で出れないですね。何の用でしたか?」

理沙『重大!』スコ

咲「大切な用件なんですね。メールで送って貰えれば伝えますけど?」

理沙『直接ッ!!』プン

咲「他の誰かには知られたくないんですね。今すぐにじゃないとダメな話ですか?」


理沙『行く!』スコ

咲「えっ? ここに来るんですか?」

理沙『後ッ!!』ガチャ

咲「もしもし、もしもーし?」

『…………』


霞「誰からだったの?」

咲「理沙さんですよ。健夜さんに話があるそうで、今からここに来るそうです」

霞「咲ちゃんはよく用件とかが分かるわね……」

咲「ポンコツなのにはお姉ちゃんで慣れてますから」

霞「……照さんも咲ちゃんだけには言われたくないと思っているわよ。いったい理沙さんは何の話があるのかしら?」

咲「さあ?」


理沙さんはよく結婚できたものだと感心してしまう。

まあ、この場合褒めるべきなのは彼女の旦那さんの方なんだけどね。

口下手な理沙さんと気長にコミュニケーションを取るの大変だっただろうし、それでも心底惚れていたらしいから熱烈に求愛したらしいけど……

実際にどんなやり取りがあったのかは理沙さんが恥ずかしがって全く話そうとしないんだよね。

ただ、結婚してからかれこれ十年が経つけれど、夫婦の間は新婚や付き合い始めた恋人のように仲睦まじいね。

健夜さんはそれを見る度に不機嫌になるんだけど……

まあ、理沙さんに恋人ができた当時は血涙を流す勢いでとても荒れていたらしい。

憐れな雀士が何人も犠牲になったって言うのはプロの間では有名な話。

だけど、被害者の一部は牌を置いて田舎に帰ってしまったらしいから笑い話にできないんだよね……



System
・小鍛治健夜 ◆◆:2
・宮永咲   ◇◇:4


↓2

>>1では無効な場合は安価下と書きましたが、今回は同一人物かどうかはあくまで疑惑で判断が難しいです。
別の方であったという場合は誠に申し訳ありませんが、再安価とさせて頂きます。

↓2


咲「リザベーションが結構入ったみたいですね」

霞「これなら副将は姫子ちゃんで間違いないわね。あれを防ぐことはほぼできないのだから、他のチームはどんな手で来るかしら?」

咲「佐久は華菜さんが奮闘して少しは点数を持ち直しましたけど、もう勝ち目は薄いですね」

霞「大宮は削られたけれどトップに出たわ。大将に懸けるならなんとしてもここは点数を維持したい所ね」

咲「恵比寿も数絵ちゃんが稼いだ点を失いましたし、この副将戦次第でどう転ぶのかが決まりますよ」

由子『恵比寿はここで洋榎選手を投入するつもりみたいなのよー。彼女は守りの方が上手いから正しいオーダーだと思うし、元チームメイトとしては個人的に応援しているけど、早く貸した40円を返して欲しいのよー』

咲「……恵比寿は洋榎さんか、私も合計で十万円近く貸していたかな」

霞「えっ? 咲ちゃん、あなたそんなに洋榎さんにお金を貸していたの?」

咲「ジュースやお菓子とか少額のものを買う時に立て替えていたら、いつの間にか貸していたお金が膨れていったんですよね」

霞「返済させないとダメよ。いくら稼いでいるからってお金に怠惰なことはよくないわ」

咲「ああ、分かりました。今度、洋榎さんに会った時に要求します」

霞「それが良いわ。……洋榎さんなら点数を稼ぎつつ大将に繋ぎそうね」

咲「勘が鋭いから振り込むことも少ないですもんね。リザベーションを考慮した場合、ここで起用するのは正解かな?」


洋榎さんは高校卒業後にプロ雀士になった。

プロリーグのどれに所属するかは相当悩んだらしいんだけれど、最終的に関西チームか恵比寿のどちらかに絞られたんだ。

そこで決め手となったのは彼女のお母さんである雅枝さんによる実家からの追い出しと恵比寿が提示した契約金の高さだったらしい。

雅枝さんは洋榎さんがいつまでも実家にいたら家事も上手くならないし、甘えたままだと厳しい言葉を重ね、プロになるからには独り立ちしろと告げたそうだよ。

東京に来てからは、文化の違いや言葉の違いで戸惑ったそうだけれど、調子良く順応してしまったみたい。


霞「はあ、洋榎さんも昨年まではこの会に所属していたはずなのにね……」

咲「霞さん見てくださいよ。これ見よがしに左手の薬指をアピールしてますよ」イラッ

霞「あれは私たちへのあてつけなのかしら?」イラッ

咲「飲む度に、毎回、何でうちはおかんに似てないんやろうって愚痴を零しながら泣いていたはずですけどね?」

霞「そうよね。それで、いつも私の胸を血走った瞳で見つめていたわ」

咲霞「「……」」


咲「今度、洋榎さんと当たるのいつでしたっけ?」

霞「私の方が先ね。咲ちゃんの持っているタイトルへの挑戦がかかっているリーグ戦で囲う予定よ」

咲「へえ、じゃあ、あのちょっと天狗になっている人の鼻っ柱を圧し折るのお任せしますね。まあ、負けても私がやるので無理しなくて良いですけど」

霞「ふふふ、咲ちゃんの出番はないわよ」


洋榎さんは結婚した後もよく遊びに来る。

その時に持参してきたりする雅枝さん直伝のから揚げは美味しいけどね。

それ以外も、彼女の作る料理は際立ったものはないけれど飽きない味がしているよ。

まあ、毎回、今は絶賛子作り中とか、旦那さんのこととかでたっぷりと惚気を吐いてくるからかなり苛っとするんだけどね……



System
・真屋由暉子 □□:17


↓2


System
・安価先が夢乃マホで下一桁がコンマ4のため……


次の更新は明日以降ということで本日の更新を終了いたします。

>>517で不幸な展開の方が起伏が~っていってるからないんじゃね
けど不幸ばっか続けられて京太郎関連の本題が隠され続けてるとひたすら不幸展開見るだけで進まないんだよな~


副将戦が後半戦に突入する頃に来客を告げるチャイムの音が部屋へと響いた。

少しだけ面倒な操作を行って私は理沙さんを我が家へと招き入れた。


理沙「おみやげ!」

咲「あっ、明太子ですか。わざわざありがとうございます。これって九州の実家の方から送られてきたものですか?」

理沙「……」コクコク

咲「健夜さんならまだユキちゃんたちと遊んでいるみたいですから、呼びに行きましょうか?」

理沙「行く!!」プンスコ

咲「まあ、あんまり気乗りはしないですけどね……霞さんも一緒にいきませんか?」

霞「私は遠慮するわね。咲ちゃん行ってらっしゃい」


私のプレールームにあるものはなにも麻雀の自動卓だけじゃない。

ビリヤード台や各種の家庭用ゲーム機、一部の箱型機も置いてあったりする。

まあ、部屋へと搬入する際は窓から入れなきゃいけなかったからちょっと大変だったんだけどね。

そんな遊戯部屋の中でユキちゃんは泣きながら、憧ちゃんはガタガタと震えながら健夜さんと遊んでいたよ。

うん、健夜さんは実に楽しそうな顔をしているけど、絶対に一緒に楽しみたくないかな……


由暉子憧「「ざぁぎぃ(ざん゛)!!」」

健夜「あれ咲ちゃん? それに理沙ちゃんまでいるし、いったいどうしたの?」

理沙「案件!!」プンスコ


理沙さんの言葉で健夜さんの顔つきがガラッと変わる。

そして、部屋の隅へと移動して二人は小声で話し始め、私に目配せをしてきた。

だから、私は憧ちゃんとユキちゃんの二人を連れてプレールームを後にする。


咲「二人ともお疲れさま」

憧「……私、晴絵の気持ちが分かったわ……あ、あんなのとやりあえばトラウマにもなるわよ……」

由暉子「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめん――」

咲「あはは……」


ちょっとユキちゃん、これ大丈夫なのかな?

私、友達が健夜さんのせいで壊れるなんて嫌だよ。

まるでおんぼろなレコードか何かのように謝罪を続けているんだけど……


霞『聞こえているかしら? 今、理沙さんから頂いた明太子でパスタを作ろうと思うのだけれど、三人とも食べるわよね?』

咲由暉子憧「「「食べる(ます)!」」」

咲「健夜さんたちにも食べるかどうか聞いてくるね」

霞『えっ? ああ、分かったわ。それじゃあ、咲ちゃんよろしくね』


私は由暉子ちゃんたちと別れてプレールームの方へと舞い戻った。

多分、霞さんは察してくれたんだろうね……私が直接聞きに行かなくても室内にあるインターホンの子機を通して話せるんだから。


咲「戻ってきました。それと、霞さんが明太子パスタを作るそうですけど食べますか?」

健夜理沙「「食べる!」」


室内のパネルを操作して台所の霞さんに一報を入れ、私は健夜さんたちに向き直った。


健夜「咲ちゃんも察してくれているみたいだけど、ちょっとお話があるんだ」

咲「協会本部に関わる話ですよね?」

健夜「そうだよ。私の後釜には咲ちゃんに座ってもらおうと思っているから、そろそろ色々とそういう話も耳に入れてもらわないとダメなんだよね」

咲「はあ、私も覚悟を決めないといけない時が来たわけですか……」


健夜「急なことだけどごめんね。ただ、今回はまだ全容が判明しているわけじゃないからすぐには話せない。今は追加の情報が来るのを待っている状態だよ……」

理沙「急使!」プン

咲「盗聴の可能性を排除するために理沙さんは直接来たというわけですね」

理沙「肯定!」スコ

健夜「今回の案件は複雑だからね。咲ちゃんだって他人事の話じゃないし……」

理沙「雀士行方不明事件!!」プンスコ

健夜「理沙ちゃんからの話だと、ようやく先方との話とかもまとまったみたいでね。おそらくだけど、今日明日中に事態は大きく動くよ。ただ、まだ分かっていないことも多いから、"その時"が来たときの心構えだけはしておいてね……」

咲「……分かりました」


何年も前から雀士が行方不明になる事件が起きている。

私の知っている人も何人か消えてしまっていて、状況から普通の事件や事故に巻き込まれた可能性が考えられないものもあった。

その中の一人として、私の後輩であるマホちゃんの名前が挙げられる。


マホちゃんは私が高校三年生の時に清澄へと入学してきた後輩だ。

元々は優希ちゃんと和ちゃんの中学時代の後輩で、高校一年生の時に顔合わせは済んでいた。

当時、私たちは京ちゃんが衣ちゃんと交際を始めたことで酷く荒れていたんだよね。

今から振り返ると黒歴史なんだけど、とっても荒んでいて後輩のマホちゃんとムロちゃんには厳しく当たってしまった。

マホちゃんは必ずと言って良いほどチョンボをしていたんだけれど、それが全く起きないよう教育を施してしまうくらいには容赦なく教え込んだんだよね。

そのせいで彼女にはよく泣かれ、その度に部内で唯一優しい最上級生だった京ちゃんに泣きついていたよ。

京ちゃんは衣ちゃんと付き合いだした影響なのか、マホちゃんには随分と甘い所があったんだよね。

それを見て嫉妬から余計に厳しくなり、マホちゃんはより甘えてと悪循環なスパイラルが形成されてしまっていたんだ。

まあ、思い返せば私たちがそこまでしなければあんなことは起こらなかったのかもしれない……

部内はかなりギクシャクとしていて、恐れをなした部員は何人も辞めてしまった。

男子は京ちゃんが主に指導していたからそこまで酷いことにはならなかったんだけど、女子は私たち三人とムロちゃんとマホちゃんの五人しか残らなかったよ。


その厳しさの甲斐もあって、二人の後輩の実力は飛躍的に向上したんだけどね。

特に、マホちゃんは才能が開花したと言っても良くて、私も油断を許さない雀士へと変貌していったんだ。

その年の国麻からマホちゃんは高校を卒業するまでの公式戦で黒星を刻むことは一度もなかった。

個人戦では負け知らずのマホちゃんだけれど、団体戦は私たちが暴れた影響なのか部員が集まらずに出場できたのは一年生の時だけだったりする。

マホちゃんは高校時代の活躍もあって卒業後はホープとしてプロの世界へと入ってきた。

あらゆる選手をマネて、コピーした能力を自由自在に扱う彼女は一気に頭角を現したんだよ。

元々、高校時代に勇名を馳せていたこともあってコアなファンがいたりしたんだけど、世間からの人気は非常に高いものになっていたね。

でも、その人気も一つの過ちから全部が崩れてしまったんだ。

当時、大学の三年生になっていた京ちゃんには恋人がいた。

マホちゃんは本拠地を横浜においていて、かなりの頻度で京ちゃんの所へと遊びに行っていたらしい。

彼女は京ちゃんのことが好きだったんだよね……


ある時、京ちゃんに彼女がいることを知ったマホちゃんは暴走した。

京ちゃんにお酒を飲ませて既成事実を作ってしまおうなんていう暴挙に出たんだよ。

ただ、これは京ちゃんの彼女の手によって未遂に終わったんだけどね……

マホちゃんの不幸は喧嘩を売った相手の危険性を把握しきれていなかったことだよ。

それからの彼女はまさに転落人生を進んで行ったと言っても良い。

未成年でありながらお酒を飲んでいたことがマスコミで報道されたことに始まり、私生活のありと言う粗がインターネット上にリークされていった。

世間ていうのは怖いもので、人気が高かった分だけ手の平を返した時は恐ろしい牙を剥くんだ。

有力な若手雀士の失敗に重箱の隅をつつくように過剰な反応を示し、バッシングの波が生じたんだよ。

強い苦情と批判の嵐に協会と彼女の所属していたプロチームは厳しい罰則を与えた。

彼女と旧知の仲である私たちもマホちゃんの行いを知って、味方しなかったんだよね。

だから、彼女は世間からは白い目で見られ、孤立無援の状況に追い込まれていった。


私は後悔している。

あの時、助けて欲しいと伸ばされた手を拒絶していなければマホちゃんは今も元気な姿を見ることができたのかもしれない……

マホちゃんは雀士としての実力と潜在能力は超一級品と言って良かった。

もう少し、経験を積めば私と伍するか凌駕する可能性があったからね……

普通はさ、沈んで行こうとする船や危ういものに好んで近づく人はいないよね。

もしも、そんな状況で接近する者がいれば疑ってかかるべきかもしれないよ。

マホちゃんは裏からの勧誘を受け、甘い言葉に乗せられてしまった。

そして、ちゃちゃのんショックが起き、協会によって裏と関係した雀士たちが処罰されていった。

マホちゃんはある意味では協会にとって打ってつけの存在だったのかもしれない。

彼女はプロ資格を剥奪された中では最も有名で一番の大物と言っても良かったから、協会の清廉さを示すための犠牲としてあてがうには都合の良い子だったんだよ。


マホちゃんはプロの資格を失ったことで凄く落ち込んでいた。

だけど、この処罰にも抜け穴っていう物は存在していて、あくまでも日本国内でのものに限られていたんだよね。

だから、彼女は一転して海外の大会に出場することにしたんだ。

マホちゃんの実力は本物だから瞬く間に世界の大会を荒らして回るようになっていった。

そんな中、ある国際大会の最中に突如行方が分からなくなってしまったんだよ。

世間では大きく取り扱われて現地の警察も調査を行ったんだけど、足取りは全く掴めず、何も分からないと言うことだけが分かったんだ……



System
・石戸霞   ■■:20


↓2


行方不明者の中には歴代魔王に壊された雀士が多数いそうな気配
>>1はどこまで最初から設定してたのだろう


霞さん作成の明太子パスタ。

生クリームをベースにしたクリーミーなソースの中に明太子の味と舌を刺激する辛さが活きている。

私の作っておいたオリーブオイル漬けのニンニクも使用したみたいで風味が残っているね。

冷蔵庫の中にあったエリンギも使ったんだ。

薬味として添えられた海苔とネギも良い感じだよ。

パスタも少し歯応えの残る食感、所謂アルデンテに茹で上げられているね。

流石、霞さんじゅっさい、元既婚者、料理は手馴れたものだよ。

ユキちゃんもお腹が膨れたことで壊れた状態から復帰したみたいだし。


憧「まったくもってリザベーションは反則的ね。洋榎はよく粘ったわよ」

由暉子「……健夜さんならリザベーションをも打ち破れるんじゃないですか?」

健夜「んー、どうだろうね。実際に彼女たちと打ったことがないから分からないよ……打った方が良い?」

理沙「禁止!!」プンスコ


そう言えば、理沙さんから見れば哩さんと姫子さんって母校の後輩にあたるわけだよね。

目を掛けているみたいだし、二人が健夜さんと遊んで壊されたりしたら堪ったものじゃないってことかな……


健夜「わ、分かってるよ。理沙ちゃんと約束したことは覚えているから……理沙ちゃんとしては、やっぱり二人の活躍は嬉しいものなのかな?」

理沙「大興奮!!」


副将戦が終わり、大将戦が始まるまでの間にCMが流れ始めた。

その中には岩手の魅力を伝える観光CMもあったよ。


霞「岩手と言えば宮守の人達を思い出すわね。インハイの個人戦が始まるまでの間に一緒に海で遊んだこともあったのよね」

咲「へえー、そんなこともあったんですか。そう言えば、彼女たちって今は何をしているんでしょうね? 私は三人しか知らないんですけど」

憧「麻雀を続けていない人になるとその後の動向って意外と分からないものだし、私もあの三人以外は知らないわ」

由暉子「そうですよね。でも、私はアイドルの活動として随分と前に岩手に赴いたことがあったんですけど、その時に胡桃さんには会いましたよ」


憧「胡桃? ……ああ、あの背がちっこい子ね」

咲「確かに子供みたいに小さかったけど……じゃあ、ダルそうにしていた、えっと、小瀬川さんは元気にしているのか霞さん分かります?」

霞「……偶に連絡を取りあっているから知っているけれど、白望さんは、その何て言うか引き籠りね」

憧「はっ!? 引き籠り?」

咲「えっ、働いていないってことですか?」

霞「そうね、肉体労働や責任を問われる仕事はダルいと言ってやりたくないそうよ。だから、いかに働かずに済むかを考えたみたいで株と為替の取引で食い繋いでいるらしいわ」

憧「そんなんで大丈夫なの?」

霞「最初の資金を稼ぐことが一番大変だったって言ってたわね。もうアルバイトはダルいとか、農業を手伝わされるのもダルいとか、家事もダルいとか……」

咲「本当に働きたくないんですね……」

霞「あの子は面倒くさがり屋なのよ。それで、ちゃちゃのんショックの時に大きく稼いだみたいね」

健夜「えっ!? あの不況の中で稼いだの?」

理沙「驚愕!」プン


霞「マヨヒガの、あの子は麻雀で手が迷うと高い手になるというか、そういう特性を持っていたのは覚えているかしら? あの子自身だけじゃなく世の中全体が迷走し、迷子になったことで彼女の性質が強く出たんでしょうね。だから、買いでも、売りでも大きな手が入ったみたい」

由暉子「凄いですね。成香先輩もあの時は少しだけ大変だったと言っていたのに……」

霞「普段の成績は生活を維持する分くらいしか儲からないみたいよ。ただ、不況時に稼いだお金で不動産を購入したらしくて、そこから安定した収入を得ていると聞いているわ」


不労所得って魅惑的な響きに聞こえるよね。

まあ、世の中から見れば私も他人のことは言えないのかもしれないけど。

好きな麻雀を打って、楽しく遊ぶだけでお金を稼いでいるんだからね。

そう言う意味では、私たち雀士だけじゃなくて釣りプロの誠子さんにも当てはまるのか……

それでも、小瀬川さんみたいに引き籠ってはいられないくらい多忙だから、全く体を動かす必要がないって言うのにはちょっとだけ憧れちゃうよ



System
・真屋由暉子 □□:18


↓2


由子『ハートビッツ大宮から大将として出てきたのは選手兼監督を務める阿知賀のレジェンドこと赤土晴絵選手。そしてこの解説席には同チームで次鋒を務めたはやりんをゲストとして呼んだのよー』

はやり(40)『はや~みんなのアイドルはやりだぞっ☆』

由子『ほんまキツイは……』

はやり(40)『お口の悪い由子ちゃんにはこれを上げちゃうぞ★』ムッ

由子『ッ!? ……あれっ? 甘くて美味しいのよー』

はやり(40)『はやりの手作りプチシューだよ』


憧「あの二人は解説席で何をしているのよ」

咲「本当だよね。前に私が食べ物を食べたときは怒られたんだけど?」

霞「……二人とも結構好き勝手にやっているわよね?」

咲「そんなことないです。真面目にやってます!」

憧「……そうね、結構無茶なことしてたわね」


よくも裏切ったな憧ちゃんッ!

今度のラジオ放送で憧ちゃんの赤裸々な話を暴露してあげるんだからね。


由子『赤土選手は最近調子が良いのよー。チームメイトのはやりんは何か事情を知っているの?』

はやり(40)『実は晴絵ちゃんは恋人からプロポーズされたんだぞっ☆』

由子『そ、それって、こんな所で言っちゃって良かったんですか?』

はやり(40)『本人の許可はもらっているぞ☆ だから、私生活の充実が活力になっているみたいだよ』

由子『ああ、許可があるなら安心なのよー。それにしても、あの赤土選手の結婚とはとんでもないニュースなの。明日のスポーツ紙の一面はこれで決まりと見たのよー』

はやり(40)『本当におめでとう晴絵ちゃん』

由子『これで結婚が絶望視されている女性雀士三銃士の一角が崩れてしまったわけなのよー。これについてははやりんどう思うの?』

はやり(40)『はやりは祝福するだけだぞ☆ そうそう、実は健夜ちゃんからメッセージを貰っているよ』

由子『小鍛治プロからのメッセージは気になるのよー』


『今度一緒に麻雀しようよ、本気で by 健夜』


咲霞由暉子憧理沙「「「「「…………」」」」」


テレビから聞こえてくるはずの音声さえ停止して無音の間が生まれた。


咲「健夜さん……」

霞「……酷いわね」

由暉子「鬼です、悪魔です」

理沙「醜悪!!」プンスコ

憧「健夜っ! 晴絵は幸せを掴もうとしてるのよ。それをまた、あんたは昔みたいにトラウマを刻むつもりなの!?」

健夜「……赤土さんは裏切ったんだ。結婚なんかしないって言ったのに、恋人なんか作れないよって同意していたはずなのに、仕事一筋で生きるって話してたのに、それがプロポーズ? 結婚? なにそれ? そんなの赦せるわけないよッ!!」

憧「晴絵のやつはあんたにも幸せになって欲しいって思ってたでしょ! だから、健夜にも何人もの男性を紹介していたのに、悉く断ったのあんたじゃないっ!!」

健夜「私は悪くない! 咲ちゃんなら、咲ちゃんなら私の気持ちが分かるよね?」


同意を求められても困りますよ。

赤土さんはインハイの終了後にはやりさんに誘われてプロになったんだよね。

高い分析力と情報集能力を最大限に活かして、当時は下位から中位で低迷していたハートビッツ大宮を上位グループへと引き上げた立役者なんだ。

選手をしながらコーチの真似ごとをして、仕舞いには監督にまで就任したという長いプロリーグの歴史の中でも珍しい選手なんだよ。

だから、今でもレジェンドの異名で親しまれている。

健夜さんのトラウマを払拭した後も苦手意識は残ったようでこの会に顔を出すのは稀だったけどね。


咲「……私は健夜さんに協力しますね」

憧「咲っ!? あんたはッ!!」

咲「赤土さんには牌を置いてもらいます。選手と監督の兼任は大変ですよね。それに加えて年齢的に見れば子供を作るのはギリギリです。だから、彼女には雀士は辞めてもらおうと思います」

憧「咲……」

健夜「咲ちゃんは優しいね。まあ、私は全力で徹底的に、完全に粉砕して挽き潰すけどね」


健夜さんに非難的な視線が集まるのは当然だった。

まったく、建前って重要だよね。

本心を隠してもっともらしい理由をつけないと誰かに恨まれちゃうから面倒だよ……

木を隠すなら森の中、嘘を吐くなら真実を混ぜる。

真意を悟らせないようにするには大義を掲げるのが一番だよね。

ふふふ、赤土さんにはたっぷりとお灸を据えてあげないと……

それに、麻雀は四人でするものだから、空いているあと一つの席には結婚が絶望的なんて言った由子さんを招待してあげないとダメだよね?



System
・小鍛治健夜 ◆◆:3


↓2


>>750-754
話しを進ませるには選択されていない特定の人物(まだ複数)を安価で指名すると条件が満たされるので終わりが選べるようになります。

>>773
最初のプロットはかなり緩めに作っていたので細かい所はあまり決めていませんでした。


次が豊音に決まった所で本日の更新は終了いたします。

おつ

あとどうでもいいツッコミなんだけど、ハートビッツじゃなくてハートビーツじゃなかったっけチーム名

>>814
ご指摘ありがとうございます。素で勘違いしておりました(悶)



霞「恵比寿の大将は豊ちゃんね。元チームメイトとしては応援するわ」

由暉子「私としては佐久に勝ってもらった方が所属チームにはプラスです。豊音さんは局面に応じて使い分けられる複数の能力があるのが便利ですよね」

霞「赤土さんは分析力には定評があるけれど、手札が多いから的を絞りにくいでしょうね」

由暉子「そうですね。咲さんや健夜さんのように単純に力で圧倒するか、私のように一点突破を掛けるか、豊音さんのように複数の能力で翻弄するか」

憧「私としては晴絵に勝って欲しい所ね」


豊音さんはインハイの個人戦で活躍し、国麻にも岩手の代表選手として出場したんだ。

高校卒業後は大会での活躍もあってプロ雀士の道を進み始めた。

元は霞さんの所属しているプロチームにいたんだけれど、一昨年に恵比寿へと移籍したんだよね。


憧「恵比寿は本当に有名所の選手を引っ張ってくるわよね。プロチーム一の資金力を持ってるし、お金の力は凄いってのは分かるけど……」

理沙「卑怯!」プン


咲「健夜さんの古巣ですけど文句を言われてますよ?」

健夜「咲ちゃんだって前まで所属していたよね?」

由暉子「あの、二人ともかつて所属していたチームに愛着とかはないんですか?」

咲「私がいるのにお姉ちゃんまで引き込もうとした時点で裏切者だよ」

健夜「私としてはお金は一杯貰ったし、何年もお世話になったから嫌いじゃないよ。ただ、地元のクラブチームの方がのんびりできて好きなだけでね」


私は現在プロチームには所属していなかったりする。

タイトル戦や国内、国外を問わずに麻雀の大会には出場しているけどね。

今もいろんな所から勧誘の話は来ているんだけど、全部マネージャーに断って貰っている。

お姉ちゃんがプロチームを辞めたせいで、ちょっとやる気がなくなっちゃったんだ。

恵比寿には籍だけで良いから残ってくれとも頼まれたけれど仕方ないかな……

まあ、私がいなくても洋榎さんや移籍してきた数絵ちゃんがいたし、あそこは選手層が厚いから心配はいらないんだよね。


咲「そう言えば、豊音さんはどうして恵比寿に移籍したんですかね? 霞さんなら知っていますか?」

霞「豊ちゃんはミーハーな所があるのは知っているわよね?」

咲「ああ、インハイで大将戦の後にサインを求められたりしましたね」

由暉子健夜理沙「「「私も」」」

憧「プロではないけど、人気アナウンサーだからって頼まれたことがあったわね」

霞「恵比寿は毎年実力のある有名な選手の獲得に動くでしょ。だから、あのチームに所属していれば自然と有名人に会い易いと言えるわよね」

咲「えっ、まさかそれが理由なんですか?」

霞「半分は間違いなくそうよ。もう半分はチームの監督が変わって選手のトレードが行われたのだけれど、そのせいで彼女と仲の良かった人たちが別のチームに移籍してしまったの。だから、あのチームに拘って所属する理由がなくなったのよね」

憧「チームを強化するためのトレードで大事な主力選手を逃がす理由を作ってしまうなんてダメじゃない」

由暉子「万年、リーグでは下から数えた方が早いチームですからむしろ順当な結果では?」

咲「豊音さんの性格を考えたら霞さんがいるなら移籍しないと思うんですけど?」

霞「それは私が彼女の背中を押してあげたからよ。あのチームに所属しているよりも恵比寿のような所にいた方が活躍の機会が増えるでしょ?」


健夜「有力な選手が数人しかいないチームだと勝てないから話題になることは少ないし、実力があっても埋もれてしまうからね」

霞「ええ、基本的にプロの中でも平均を下回る選手しかいないからどうにもならないわ。私や豊音さんみたいな突出した選手が一人、二人いるだけだと団体戦では勝ち残れないから」

憧「昔、晴絵も言っていたけど、団体戦で勝つにはチームの総合力で上回ることが大切だもんね」

健夜「えっ?」

理沙「例外!!」プンスコ


健夜さんはワンマンチームでもインハイを優勝した実績があるからね……

私としては愛着はあまりないけど、一応は古巣だから他のチームよりは勝って欲しいかな。

だから、豊音さんには頑張ってもらいたいな。



System
・真屋由暉子 □□:19


↓2


憧「哩たちのチームは大将に外国人選手を起用するみたいね」

健夜「そうだね。それにしても昔と比べたら日本のプロリーグも国際色豊かになったよ。海外から招かれた世界ランカーに刺激されて国内は活性化している面があるよね」

理沙「国内レベルの向上!」

由暉子「世界の麻雀競技人口は十億人の大台を超えています。プレイヤーの増加が競争を過熱させ、各国から化物染みた選手が世界の舞台へと出てきますから負けていられませんね」

霞「咲ちゃんと照さん、それに健夜さんは言わば日本と言う島国を舞台にして生み出されてしまった蠱毒のようなものよね」

咲「ちょっと霞さん、その言い分は酷いと思うんですけど」

健夜「そうだよ。それだとより競技人口の多い国から出てくる選手の方がすごいもはずじゃない?」

咲「そうそう、人口と国の強さが比例するな中国こそが世界一のはずだもんね」

憧「中国は麻雀強国ではあるけれど、世界一じゃないわね」

霞「麻雀は中国で生まれ、列強で熟成し、日本から勃興したのよ。だから、国際大会で採用されているルールは中国の麻将ではなく、日本の麻雀に似ているものとなっているわ」

健夜「もしも、中国式の麻雀が国際ルールだったなら世界一の雀士は彼女になっていただろうね」


健夜さんの言っている彼女とは郝慧宇のことだ。

ハオさんは中国麻雀界の至宝とも至強とも呼ばれている。

麻将においては私でも勝ち目がないと言い切れるくらい強いんだよね。

現在、日本国内には十三の栄誉あるタイトルが存在するんだけど、その内の一つは麻将なんだよ。

麻雀の発祥国である中国への敬意から生まれたこのタイトルはかなり異色なものなんだ。

この麻将戦と呼ばれるそれは国内タイトルであるにもかかわらず、参加資格に国籍の条項が唯一設けられていない。

だから、ハオさんは高校卒業後にこのタイトルを得ることができたんだ。

そして、彼女はタイトルを得たその日から今日までその玉座を誰にも明け渡すことなく君臨している。

既に永世麻将の称号を持っているんだよね。

麻将にはリーチもないし、花牌もあるし、役の数や点のやり取りも異なっている。

加えて、この麻将戦は半荘ではなく全荘でもあるんだよ。

正直に言って、私はハオさんに勝てないことが分かりきっているからこのタイトルは避けて挑んでいなかったりする。


憧「誰かハオからタイトルを奪える人はいないの?」

咲「無理だよ」

由暉子「難しいです」

霞「中国が世界一の競技人口を抱えながら、長年トップの座に立てないでいるのがルールの壁と呼ばれているのは知っているわよね? 麻将戦については私たちにも同じことが起きていると言えるの」

咲「ルールの壁は大きいからね……」

憧「分かってるわよ。でも、理解していてもちょっと悔しいじゃない。日本のタイトルなのに日本人が取れないって言うのは……」

咲「どんなスポーツにも言えるけど、開催国の人間が世界一になるとは限らないんだよ」

由暉子「そう言うのは世界中の多くの人に親しまれ、楽しまれている結果ですから受け入れるべきですよ」


タイトル保持者のハオさんは良い人だしね。

今日、憧ちゃんと健夜さんが食べたお粥に添えて出した醤は彼女から貰ったものだし。

海外の大会で私がマネージャーと逸れてしまったときなんか助けてもらっている。

ネリーちゃんと違って来日しても遊びには来るけど、彼女は泊まったりまではしないかな……


咲「麻将では勝てないけど麻雀でなら勝てるから、そんなに気にしなくて良いんじゃない? どうしても不満なら憧ちゃんがプロになってタイトル戦に挑んだらどうかな?」

憧「ハオは強いし、無理よ……」


麻将戦のタイトルが日本人の手に戻るのはハオさんが引退した時じゃないかな。

……マホちゃんがいたなら可能性はあったかもしれないけど。

もしくは、健夜さんがやる気を出せばね。



System
・真屋由暉子 □□:20


↓2


大将戦が始まる前にCMが入った。

まったく、続きが気になる所で入れてくるのは理解できるけど、やっぱりちょっと不満に思ってしまう。


由暉子「こうやってテレビを見ていると分かりますけど、龍門渕に関連するものの多さにはビックリしますね」

憧「そりゃあ龍門渕は日本を代表する財閥だもの。日本に在住していて関わらないでいることは無理でしょう」

霞「この家の中を探すだけでいったい関連している企業の製品が幾つ出てくるのかさえ分からないわよね」

咲「日用品から軍需製品まで、龍門渕が扱っている分野は多岐に亘っていますからね……」

健夜「あそこは協会最大のスポンサーでもあるから。プロリーグの会場には必ず企業ロゴもあって、テレビ中継を見ていれば嫌でも目に入るよ」

理沙「フィクサー!」プン

憧「龍門渕家の当主が日本の政財界を牛耳っているって噂のこと? 流石にそれは眉唾物の嘘だと思うけど……」

霞「あら? どうして否定できるのかしら?」


憧「よくある陰謀論でしょ? 世界の経済を支配する財閥とか、各国の社会を動かすようなエリート層はとある秘密結社に所属しているとか、不況も戦争もすべて何者かの掌の上で転がされているなんて話を信じろって言うの?」

霞「……陰謀がないと考えるのはおかしくないかしら? 世界は誰かしらの思惑があって動いている。開示された公文書の記録や歴史的な大事件の経緯なんかを追えば、全ての事柄の裏には必ず人の意思が介在していることが分かるものよ」

健夜「陰謀の有無は分からないけど、龍門渕家が強い影響力を持っているのは事実だね」


龍門渕家は長野に本家がある古い家だ。

この日本においては最も力のある巨大な財閥だと言えるんだよ。

私はそんな財閥を支配する一族の一人と友人関係にあって、それに連なる姻族とは幼馴染でもある。

その友人である所の龍門渕透華さんは龍門渕家において現在は副当主の地位にある。

現在の当主は彼女のお祖父さんで、私も数えられるだけしか会ったことはない。

かつては高齢を理由にして当主の座を透華さんのお父さんである実娘の婿へと譲り、隠居生活をしていた。

だけど、その当主が急死したことで復帰せざるを追えなくなってしまったんだよね。


健夜「当主の代理として赴いてくるあの子は怖いよ。協会のことでは色々と折衝するために彼女と顔を合わせなければいけないんだけれど、誰か変わって欲しいって常々思うからね……」

由暉子「龍門渕さんは変わってしまったんです。昔は先輩たちと楽しそうに話していたのに、あの頃の彼女はもうどこにもいない……」

咲「笑わないし、賑わすこともない。感情が波打つことのない、どこまでも冷たい透華さんになってしまったもんね……」


透華さんが変わった切っ掛けは間違いなく衣ちゃんの死に起因している。

多分、彼女が最も信頼していた執事のハギヨシさんが衣ちゃんの死に責任を感じたのか何も言わずに出奔したことも追い打ちになった。

そして不幸は連鎖するように、今度は透華さんのお父さんである龍門渕家の前当主が急死してしまった。

大切な人、信頼していた人、実の父親と短期間の間に別れてしまった彼女は深く傷ついていたのだと思う。

その頃の龍門渕家においては当主の突然死によって大きな混乱が生まれていたんだ。

混乱を鎮めるために隠居して龍門渕高校の理事を務めていたお祖父さんが戻らなければならないほどにね……


当然、当時の龍門渕家では次なる当主に誰が座るのかを巡る争いも始まっていた。

傍系の親族や会社を取り仕切る有力者、野心を抱く他家の人間。

様々な人が財閥を支配する後釜に座ろうと暗躍していたらしい。

そんな中での透華さんの立場はある種のトロフィーだったそうだよ。

龍門渕の正統なる血筋を引く彼女の婿に選ばれた者こそが次なる当主になると目されていたんだからね。

私は透華さんの真意を知らない。

多分、それを知っているのは彼女により近い立場にいた人だけなのだと思う。

籠の中の鳥になることを拒んだからなのか、悲しみが臨界を超えてしまったのか、理由は分からないけど透華さんは変わったんだ。

笑いもしない、泣きもしない、目立ちたがろうとする本性すら捨て去って、冷静に、冷徹に、冷酷に、一さんの言う所の冷たい透華になった。

海外の大学に在籍していた彼女は怜悧な頭脳を最大限に駆使して、それから僅か一年で学習課程を終えてしまったんだよ。

そして、修士の課程へと進み、お祖父さんの下で実施でも学び始めた。


もう、その頃には簡単に会うことが難しくなっていた。

今も連絡は取れるけど、自由に会うことができないほどに彼女のスケジュールはびっしりと詰まっている。

そして、透華さんは傍系や婿候補を黙らせるように次々と成果を上げていったんだ。

詳しいことは教えてもらってはいないけど、私が彼女の事情を少しだけ知っているのは京ちゃんが理由なんだよね。

彼は大学に在籍していた頃から彼女の手伝いをしていたらしい。

衣ちゃんの旦那に相応しいようにと施されたハギヨシさんの教育は他分野に渡っていて、透華さんをサポートするに事足りたそうだよ。

ちゃちゃのんショックが起きたときに、世情が大きく揺れる中で透華さんは冷徹に敏腕を振るったと聞いている。

その時の采配が功を奏して龍門渕は大きく飛躍したのだと。

単なる一財閥から抜け出し、絶対者へと変わったんだとね。

混迷した政界への影響力を伸ばすために新党の設立に関わり、敵対していた競合他社を不況の波に乗せて潰しては吸収した。

私の知っている人の何人かは彼女に救われ、一方では彼女の手によって路頭に迷ってしまった友人もいる。

情もなく、何人も寄せ付けない冷たい人。

それが今の透華さんなんだ……


憧「あの透華の変貌は今でも信じられない。彼女を見ると、お金や地位がどんなにあっても幸せとは違うんだってことが嫌でも理解させられる……」

霞「古い家や力のある家はどこも大なり小なりそんなものよ……」

理沙「理解不可能!」

霞「趣味や道楽ならたいていのことは可能でしょうし、それが許されるでしょうね。だけど、人生の重大な決定に関しては自由意思で決められることって少なかったりするのよね……」


霞さんはいったい誰のことについて言っているんだろう。

透華さんのことか、霞さん自身のことか、それとも神代さんのことを指しているのか分からない。

ただ、彼女の言う通り透華さんは政略結婚をしている。

少し違う所があるとすれば、その結婚は透華さんの意思によって進められ成されたということだろうね。

子供も産んでいるけれど、旦那さんたちとの間には愛情がまるでないようだった。

婿養子として入った旦那さんの実家を取り込んだことで、龍門渕家は盤石だったものを不動なものへと変えている。


夫婦間の主導権は完全に透華さんが握っていて、旦那さんはビジネスのパートナーみたいなもので、子供は龍門渕の次代を繋ぐもの。

子供や世間体のためにと表面だけを取り繕う仮面夫婦よりも、もっと冷たい関係がそこにある。

私には分からない。

どうして、透華さんがそこまで冷たくなってしまったのか分からない。

きっと、あの人たちや、消えてしまったハギヨシさん、そして京ちゃんなら知っているんだろうね……



System
・石戸霞   ■■:21


↓2


霞「それでも、龍門渕さんはまだ幸せな方じゃないかしら?」

憧「あれを幸せだって言うの?」

霞「私は彼女と交流がないから、あれとか言われても詳しいことは知らないわ。ただ、昔とは変わってしまったのだということは分かるのだけど」

由暉子「それでは、どうして彼女が幸せな方なのだと判断したんですか?」

霞「どこで見たりしたのかは覚えていないのだけれど、何かの記事だったかしらね? そこには龍門渕さん以外にも見覚えのある顔が写っていたわ」

由暉子「見覚えのある人ですか?」

霞「ええ、確かあれは国広さんだったはずよ。彼女は龍門渕さんの側に今もいるのよね?」

咲「一さんなら透華さんの側でメイドをしていますよ」

霞「信用できる子かしら?」

咲「間違いなく。透華さんは一さんを信頼しています。一さんも透華さんのためなら何でもすると思います」


一さんは透華さんの専属メイドをしつつ秘書のような役割も担っている。

同時に、屋敷内の侍従を束ねる役職も与えられているそうだよ。

彼女は最も信用されている友人の一人で、透華さんの行く所には必ず随行しているんだよね。

だから、多忙な透華さんと中々会えないように、彼女とも会うことは難しかったりする。


霞「裏切る心配がなく、心を許せる子が側にいて支えてくれているのだから龍門渕さんはやっぱり大丈夫よ」

憧「だから恵まれていて、幸せだって言うの?」

霞「私は間違いなくそう思うわ。国広さんは獅子身中の虫ではないのでしょ? 仕えるべき人が幸せになることを真の従者は望むもの。そして、主に迫る不幸を排除しようと動くでしょうね」


少しだけ思い当たる節がある。

一さんはハギヨシさんの薫陶を受けた立派なメイドなんだよね。

主を立たせ、守ることのスペシャリストで、実は暗器を使えたりもする。


一度だけ、あの隠す所のない私服姿でパフォーマンスとして見せてもらったことがあるんだけど、いったいどこからそんな武器とかを色々と取り出しているのかさっぱり分からなかったんだよ。

元々、彼女は手品を得意としていて、今では超一流の領域に達している。

彼女は少しでも透華さんに笑ったり、感動を覚えて欲しくて手品の腕を上げたのだと、少し寂しげな顔で言っていたことが印象に残っている。

その時に、透華さんは冷たくならなければいけなかったとも、そのことを理解しているとも口にしていた。

もしも、そうしなかったなら透華さんは何もかもを失っていたかもしれないと教えてくれたんだ……

そうならないために、一さんたちは様々なことに手を出さなければならなかったそうだよ。


憧「……幸せってなんなのかしらね?」

健夜「結婚!」

理沙「暖かい家庭!!」プンスコ

健夜「……理沙ちゃん、少し遊ぼうか?」


理沙さんは可哀相に健夜さんに連れて行かれてしまった。

私たちに助けを求める目をしていたけれど、思わず見てみぬふりをしてしまったのは仕方ないよね。

不用意に虎の尾を踏むからそうなるんだよ。

まあ、理沙さんはプロ雀士を既に引退しているから、健夜さんも遠慮することなく遊ぶんじゃないかな?


咲「はあ、京ちゃんに抱かれたい……」

霞憧「「…………」」

由暉子「姦淫してはならない。だから、咲さん不倫はダメですよ」


憧ちゃんと霞さんがまるでゴミを見るような目で私を見ている。

私は不倫なんてする気はないから説教は止めてくれないかなユキちゃん……



System
・石戸霞   ■■:22


↓2


憧「咲、犯罪だけは絶対にやめてよね。私は友達が逮捕されるとか嫌だから……」

咲「分かってるよ。和ちゃんじゃあるまいし、あっ!」

霞由暉子「「!?」」

憧「バカっ……」

咲「ごめん、何でもないから気にしないで!!」

霞「気にしないでと言われると逆に気になってしまうわよ」

由暉子「和さんが逮捕されたってどういこうとですか? そんなお話は聞いたことがないんですけど」

咲憧「「…………」」

霞「電王のタイトル保持者に逮捕の経歴があるなんて噂が立ったら問題になるかもしれないわよね?」

咲「あー、それは多分止めた方が良いよ」

憧「某所から圧力がかかるはずだから、逆に霞の方が危ないかも」

由暉子「本当にどういうことなんですか?」


憧「はあ、二人とも和についてはどれだけ知ってるの?」

由暉子「和さんはインターミドル個人戦の優勝者で、インターハイ個人戦の最高順位は四位です」

霞「日本で一番の大学に通っていた秀才で、インターカレッジでも活躍した雀士ね」

由暉子「在学中から電王戦で優勝し、今は最強のアマチュアなんて呼ばれています」

咲「こうやって聞くと和ちゃんも中々やるよね」

憧「私よりも強いんだから当然でしょ。それでプライベートについては?」

由暉子「インターネットを介してならよくお話しをしていますよ。あれ? そう言えば、改めて聞かれると和さんが今は何をしているのか、どこに住んでいるのかとかを知りませんね」

咲「霞さんは?」

霞「ネットで麻雀を打ったりはしているわ。私もそれ以上は聞いていないわね。でも、結婚はしているんじゃなかったかしら?」

由暉子「ええ、私は双子のお子さんの写真を拝見させてもらったことがありますよ」

咲憧「「…………」」

咲「和ちゃんのためにも何も聞かないであげて欲しいかな……」

憧「あんまり詮索しない方が良いわよ」


和ちゃんは私が知る限りで一番愚かだと思う人で、あれは頭の良いバカと言ってもいい気さえする。

そして、とても面倒で恐ろしい一面を持っている子なんだよね……

京ちゃんが麻雀部へと入った理由は和ちゃんへの憧れからだったんだけれど、その感情は恋慕にまでは至っていなかったと本人から聞いたことがある。

元々の京ちゃんの性的嗜好は胸の大きな女性だったから、まあ理解はできるんだけどね。

対して、和ちゃんは高校一年生の時は京ちゃんに対してほぼ無関心だった。

胸への視線には気づいてはいたそうなんだけど、それは昔からのことで馴れていたからたいして気にしてはいなかったそうだよ。

当時は、彼女が私や優希ちゃんの背中を押してくれていたりしたんだよね。

そんな関係が変わったのが二年生の夏休み明けのことだった。

夏季休暇の前までは和ちゃんの胸を見ずにはいられなかった京ちゃんが、ぱったりと見ることを止めたらしい。

私はそれを教えてもらった時は信じられなかったよ。

だって、昔から大きな胸が大好きで、エッチな本や写真、動画とかもそういうのばかりを揃えていた京ちゃんだよ。

同じおもち好きの玄さんとバカな会話を繰り広げていた彼が胸への興味を失ったって言うんだからね。


和ちゃんはこれに対して言語化の難しい寂寥を感じたそうなんだ。

そして、そんな一夏を越えて成長した京ちゃんにちょっと惹かれたらしい。

それが決定的になったのが龍門渕家で行われたお祝いパーティーでの余興だったそうなんだ。

私、衣ちゃん、透華さんの三人を相手にして勝利した京ちゃんの姿に大きな電流が走ったんだってさ。

ただ、和ちゃんは私と優希ちゃんに遠慮して、京ちゃんとどうにかなろうって気はなかったらしい。

だからこそ、京ちゃんと衣ちゃんが付き合いだしたことを知った時の衝撃は計り知れなかったんだって。

二人の交際を知った和ちゃんは何もしなかったことに後悔したそうで、この時から京ちゃんの観察ノートを書き始めた。

京ちゃんと衣ちゃんが別れた時に備えて京ちゃんの分析を進めていったんだ。

そして、京ちゃんが18才の誕生日を迎えた日に衣ちゃんが亡くなってしまった。

落ち込んだ京ちゃんの姿を見て、和ちゃんにも掛けるべき言葉は見つからなかったらしい。

彼女は機ではないのだと判断して一歩身を退いたんだ。

それに、大学の受験が迫っていたこともあって、それが終わっても新生活の準備に時間を取られていたんだよね。

だから、和ちゃんは京ちゃんと久先輩の関係には気づかずに済んだんだよ……


彼が成香さんによって立ち直り、東京の大学で二人は再会した。

和ちゃんは親しい友人として振る舞い、これまでの分析の成果と現在の京ちゃんの状態を照らし合わせながら熟慮を重ねていったんだ。

好み、癖、習慣なんかを当然ながら把握し、行動の傾向や性格を知り抜いて理詰めでゆっくりと京ちゃんを囲い込んでいった。

それは蜘蛛の巣に絡め取るように、ねっとりと逃げられないようしてね。

ストーカーも真っ青だよね。

心理学をも独自に学んで、海外の研究論文とかまでも読み漁っていたって言うんだからさ……

そして、一年以上もの時間を掛けて理論と計算で導き、和ちゃんは京ちゃんと交際するに至ったんだよ。

私と優希ちゃんは悔しかったけど、彼が幸せなら、それが和ちゃんならって受け入れて表面上は祝福した。

順調に交際が進み、関係が深まっていく中でマホちゃんの事件が起きたんだよね。

和ちゃんは使えるものを余すことなく投入してマホちゃんを潰したんだ。

透華さんを味方につけ、中学時代から取材などで連絡先を知っていた情報誌を利用し、ネット上でも工作活動とか、本当に怖い。

私たちは気づくべきだったんだよ。

どうして和ちゃんがマホちゃんの凶行に気づけたのかとか、それを未然に防げたのかとか、その辺りにもっと疑問を持つべきだったんだ……


マホちゃんの件があってから京ちゃんと和ちゃんは一緒にいる時間がより増え、半同棲な生活を経てから同棲へと移行していったんだよね。

その年の暮れに京ちゃんは和ちゃんに大学卒業後に結婚しないかってプロポーズしたんだ。

彼は私に相談をしてくれていたから、衣ちゃんの件で悩みつつも、それでも前を向いて歩いて行こうっていう姿勢には涙したよ。

それで、和ちゃんはバカをやらかした。

舞いあがって頭がお花畑になったんだろうね。

常に精密な計算を弾き出していた優秀な頭脳が感情によってオーバーフローしてしまったというか、バグって狂ってしまった。

和ちゃんは夫婦になるからには隠し事は良くないって考えたらしい。

彼女は京ちゃんを監視していた。

盗聴器、盗撮器、忍ばせたICレコーダー、隠しカメラ、メールの自動転送、SNSへの不正ログイン、携帯電話を介した傍聴、GPS機能を利用した所在地の把握などあらゆる方法でね……

正気を疑うし、ドン引きだよ。

流石に京ちゃんも和ちゃんとの関係に躊躇を覚えたというか、少し距離を空けたいって拒絶の意思を見せたんだよね。

その日から二人は行方不明になった。


二人と連絡が取れなくなったことに気づいた私たちは当然ながら警察にも相談したし、龍門渕家の情報網を駆使して捜索にあたった。

和ちゃんは全てを想定していたんだろうね。

大学には休学届が提出されていて、自宅はもぬけの殻、携帯電話も解約済み。

金融口座からは何年も生活できそうなお金が引き出されていたり、入念な準備が行われていたんだ。

必死の捜索も空しく、二人の行方は終ぞ分からなかった。

行方知れずだった二人は一年近く経ってから、京ちゃんの通報で発見された。

そこは田舎にある人気のない廃墟の地下室で、彼は彼女に監禁されていたんだよ。

発見された当時、京ちゃん自身は健康そのものだったんだけど、和ちゃんの方は産気づいていたんだよね。

彼の必死の説得で彼女が折れたことで助けを呼べたらしい。

和ちゃんは無事に双子の男女を出産し、その後に監禁容疑で逮捕された。


まあ、被害者である京ちゃんの嘆願と龍門渕からの圧力で不起訴処分にはなったんだけどね。

子供は京ちゃんが引き取って育てることが決まり、和ちゃんは特別な施設へと送られた。

彼は再婚するまでシングルファザーとして頑張っていたよ。

周囲からの協力がたっぷりとあったから心配は何もなかったし、私だって協力できることは何でもしたからね。

和ちゃんは最低月に一回は子供との面会が認められた。

彼女は自由な外出こそ禁止されていたけれど、外部との連絡は好きに取れたんだよね。

それに、和ちゃんも反省したのか、子供を産んで落ち着いたと言うべきか、自分の異常性を自覚したらしい。

お医者さんの判断だとその施設からの退去も認められるくらいには精神の安定を見せていたそうだけど、自分から出ないことに決めたんだ。

今もその施設からインターネットを通してプロの資格を問わないタイトルである電王戦には出場したりとかしている。

前世紀末のインターネットの黎明期から続く電王戦は誉れある13タイトルの一つなんだよね。

私はネト麻は苦手だから出場登録自体したことがないけど……

脛に傷を持つ彼女は実力があるから一部のプロチームや実業団からはオファーが来るそうだけど全部断っているらしい。


私が理解できないことが一つあって、京ちゃんと和ちゃんの関係なんだよね。

彼に彼女を愛しているのかって聞いたら鼻で笑われたし、逆に嫌いなのかって聞いたらデコピンされた。

和ちゃんにも尋ねたら、臆することもなく愛していると言っていたんだ。

だから、やっぱり二人はいつか結婚するのかなって悲しく思っていたら、京ちゃんは別の人再婚したんだよ……

和ちゃんはそのことを知っても良い笑顔で祝福したし、もう分かんない。

監視下に置かれた交際や約一年の監禁生活。

和ちゃんがポカをやらかさなければ京ちゃんが憧れていた人なんだから、二人は普通に結婚できたはずなんだよね……

自分以外の人と愛している人が結ばれることを心の底からお祝いできるものなのかな。

私にはやっぱりそんな選択は分からないよ……



System
・宮永咲   ◇◇:5


↓2


咲霞由暉子憧「「「「…………」」」」


年齢を重ねた分だけ人には言えない話って増えるものなのかな。

親しい友人にも話すことのできない秘密が私にもある。

霧島神境のことや自身の結婚の話については口を紡ぐ霞さんも良い例だよね。

逆にユキちゃんはあまり隠している話とかがないような気がするよ。


由暉子「和さんのことをお二人の口から聞くのは間違いでしたね。こういう話は本人から聞くべきです」

憧「そうね。そうしてもらった方が良いわ……」

咲「あっ、できたら私が口を滑らしたってことは秘密にしてもらえるかな?」

霞「それは少しアンフェアな気がするわ。だから、和ちゃんにはきっちりと話しておくことにするわね、咲ちゃん」

由暉子「私は和さんに尋ねられたら答えてしまうと思います」

咲「うぇえッ……和ちゃんは怒らせると怖いんだよ……」


京ちゃんを監視していた和ちゃんなんだよ。

彼女なら何らかの方法で知っている人たちを全員監視していたとしても私は驚かないよ。

怒らせて、マホちゃんみたいに粗と言う粗を暴露されたりとかあるかもしれないよね……


咲「ああ、アルコールが欲しいな……」

霞「そうね。私も芋の熱燗がまた欲しいわ」

由暉子「それなら私が作ってきましょうか?」

霞「あら、良いのユキちゃん?」

咲「ありがとう」

憧「咲、冷蔵庫の中身とか勝手に使っちゃっていいわよね?」

咲「うん、好きに使って良いよ」

憧「よし。じゃあ私も一緒に行くわ、ユキ」


ユキちゃんと憧ちゃんが台所へと向かっていった。

残った私たちは本日のプロリーグ大将戦を見ているんだけど、私も霞さんも応援しているのは豊音さんだからね。

応援するチームが異なるとかで意見の対立が生まれるわけでもないし、静かに観戦していた。


咲霞「「…………」」

咲「霞さん、一つ聞いても良いですか?」

霞「改まってどうしたの咲ちゃん?」

咲「十一年前の八月に霞さんたちは京ちゃんに会ってますよね?」

霞「……」

咲「霧島神境で京ちゃんの身に何があったんですか? あの一夏で彼は大きく変化しました。何もなかったはずがないんですよ」

霞「……」

咲「神代さんがその秋の国民麻雀大会に選出されていながら出場を棄権しました。でも、彼女の性格を考えたらそれもおかしいんですよね。あの人なら選ばれたら精一杯頑張ってやろうとするはずです」

霞「……」

咲「それに、翌年のインターハイで車椅子に乗っていた滝見さん。その車椅子を押していたのは片目に眼帯を着けた薄墨さんでしたよね。もしかして全部が繋がっているんじゃないんですか?」


高校生活最後のインターハイに出てきた滝見さんには鬼気迫る何かがあった。

その車椅子を押していた薄墨さんからも言い知れぬ恐さを感じたんだ。

薄墨さんの眼帯で覆い隠せない部分に見えた傷痕から、あの帯の下にある目は潰れてしまっていたのだと思う。

二人の体はどうして壊れたのか、その原因もあの京ちゃんが霧島神境へと赴いた八月にある気がする。


霞「……どうしてそう思うの?」

咲「勘ですよ」

霞「それを知ってどうするの? もう過去の話で、済んでしまったことは変えられないのよ」

咲「私は京ちゃんのことをできることなら何でも知っておきたいんです」


和ちゃんが京ちゃんを監視していたように、私も知ることが可能なら彼の全てを知りたいという思いがある。

本人に聞いても京ちゃんは何も答えてはくれなかった。

それなら、そのことを知っている人に教えてもらうしか知り得る術はない。

京ちゃんと結ばれることがないのだとしたら、彼のことをより深く知ることくらい許して欲しいよ……


霞「ねえ、咲ちゃんの望みって何?」

咲「京ちゃんです」

霞「……機が熟したら教えてあげるわ」


そう答えると霞さんは私から目を逸らしてテレビを見始めた。

その横顔には幾つもの色が浮かんではすぐに消えてしまった。

後悔、喜色、寂寥、憤怒、霞さんは何を隠しているのだろうか……



System
・石戸霞   ■■:23


↓2


憧ちゃんはおつまみとして各種のフルーツを盛り合わせてきた。

うん、自分が食べたかったんだろうね。


憧「本当に咲の家には色んなものがあるわよね。果物も、お菓子も、明らかに一人で食べきれる量だとは思えないんだけど?」

由暉子「お酒もいろんな種類が置いてありますね」

憧「産地で見てみたら日本で作られているワインとかも多かったわよね。意外なのが咲の地元の長野で造られているお酒が最も多かったってとこよ」

由暉子「咲さんは出身地のものを率先して購入しているんですね。故郷思いで良いと思います」

咲「あはは、そ、そうかな?」


褒められているのは悪い気はしないんだけど、ちょっと心が痛い。

地元のお酒って一部は買ったものだけど、ほとんどは貰いものなんだよね。

ちょっと言い出し難いよ。


霞「咲ちゃん、本当のことは言わないの?」

由暉子憧「「本当のこと(ですか)?」」

咲「いや、あはは、知らないと思うけど、長野に住んでいる智美さんって人の実家がワインや日本酒を製造していてね。そこで造られたものを毎年贈って来てくれるんだよ」

憧「……智美?」

咲「うん。私が高校一年生の時、インターハイ団体戦の長野県予選決勝で当たった学校の一つである敦賀学園の部長を務めていた人なんだ」

憧「敦賀、智美、部長? あれ? でも、部長は格好良い人の方だったはず……」ボソッ

由暉子「どうして毎年お酒を送って貰えるんですか?」

咲「何て言ったらいいのかな……ちゃちゃんのんショックの時に彼女の実家が資金不足に陥っちゃったんだよね。だから、智美さんはあっちこっちを駆けずり回って金策に走っていて、それで東京にも親戚がいたからこっちにも来ていたんだよ。そんな彼女と私はバッタリと遭遇したんだ」

由暉子「あの頃は本当に大変でしたからね……」

咲「うん。それで、彼女と久しぶりに会ったから会話を交えていたら、なんだか実家が苦境で立ち行かなくなりそうだって聞かされてね……」

憧「智美、わはは、部長、……ん?」ボソソ


咲「私はお金が無駄にあったから貸してあげたんだよね。そのおかげで彼女の実家は助かったんだ。だから、そのお礼? 後は私が一番の債権者だからある意味ではご機嫌伺いも兼ねているのかな?」

由暉子「咲さんも人を助けることがあるんですね」

咲「ごめん、ユキちゃんそれってどういう意味?」ムスッ

霞「咲ちゃんの場合は人を助けるよりもね……」


私だって人助けくらいしているはずだよ……ごめんなさい。

よく迷子になったりとかしているし、迷惑をかけている方が多いかもしれないかな。


憧「あっ!! 智美って蒲原智美のこと?」

咲「そうだけど、知ってるの憧ちゃん?」

憧「あのインハイで私たちはお世話になったのよ。むしろ、あそこで出会っていなかったら決勝戦まで進めていなかったかもしれない」

咲「へえ、憧ちゃんたちが知り合いだったんだ。意外と世の中って狭いみたいだね」

憧「そうね。それにしても、彼女は今は何をやってるの?」


智美さんは高校卒業後、その何て言うか大学には落ちたんだよね。

元々、実家の家業を継ぐつもりだったから進学にはあまり拘ってはいなかったそうだけど……


咲「実家の酒造業を継いでいるよ。一応資格試験にも合格していて、日夜、私への借金を返済するために頑張って働いているね」

由暉子「ちゃちゃのんショックから数年が経過していますけど、まだそんなに借金が多いんですか?」

咲「まあ、お金を貸す時に私のマネージャーが口を挟んだから。無茶をして短期的に乗り切るよりも、長期的貸付でゆっくりと返済してもらった方が経営も安定するし、焦げ付く心配もないだろうってね。利子も低利で付けてあるから私に損はないし」

憧「咲のマネージャーは相変わらず有能よね」

咲「そうだね。智美さんはまだ十年くらいかけて借金を返済する予定になっているから長い付き合いになるんだろうね」

憧「智美さんか懐かしいわね。ねえ、ユキ一杯だけ飲んじゃダメ?」

由暉子「そうですね。揺杏先輩に私は黙っておきますね」

憧「ありがとう。それで、咲、智美さんたちの作ったお酒って出してもらえる?」

咲「分かった。ちょっと持ってくるから待っててね」



System
・真屋由暉子 □□:21


↓2


憧ちゃんが一杯と言いつつ、もう一杯、もう一杯と重ねて潰れてしまった。

しかも、気持ち悪くなったのかトイレで戻してしまったんだよね。

はあ、吐くまでお酒を飲むことを止めないとかもったいないな。

お酒を飲むことを許可したユキちゃんが責任を持って別室で彼女の介抱を行っている。


咲「憧ちゃんは飲みだしたら本当にダメだね」

霞「自業自得よね。咲ちゃん、ちょっと怒っていないかしら? 部屋を汚されたから?」

咲「家で飲むことが多いので慣れてますけどね……この前の大阪組との時の方が酷いあり様でしたし」

霞「洋榎さんは、以前は飲むと世を悔やむ泣き上戸になっていたのにね。結婚してからは騒々しい人に変わってしまったわ……」

咲「あれ? ああ、霞さんは知らなかったんですか。洋榎さんは行き遅れを気にするようになってから愚痴を零すようになったんですよ。だから、最近の躁に弾けた感じが元々です」

霞「私は前の方が好みね」

咲「そこは好き好きですね。憧ちゃんが明日目を覚ましたら掃除をさせないとね」

霞「あらあら」


別に部屋がどれだけ汚れても最後は業者に頼むから問題はないんだよ。

だから、憧ちゃんに掃除をやらせるのはちょっとした不満の解消だね……


咲「神代さん、滝見さん、薄墨さんの三人に何かがあったのなら狩宿さんの身にも何かが起きたんですか?」

霞「ええ、巴ちゃんはね記憶の一部を失ってしまったの」

咲「記憶!? まさか、爽さんみたいに幼児退行とかですか?」

霞「退行ではなく喪失よ。最近の記憶を除いた過去の思い出の全てを失ったの。だから、人格に少し問題が現れてしまったのよ」

咲「……」

霞「彼女は体の一部を欠損してしまったわけではないから、日常生活を送る上では何の問題もないわ」

咲「……本当に何があったんですか?」

霞「咲ちゃんはオカルトを信じているかしら?」

咲「和ちゃんじゃあるまいし、不思議なことがあるのは認めていますけど」

霞「確か、そんなオカルトはありえませんだったかしら……」

咲「そんな感じで否定しますからね」


霞「……一言で言えば姫様が暴走した」

咲「暴走ですか?」

霞「そうよ。祓う者の二人でも祓い切れず、武闘派の彼女が無理矢理押し込んだ。そして姫様は霧島神境の奥にある封印殿にお隠れになったのよ」

咲「……」


霞さんは少し冷めてしまった熱燗を飲んだ。

その顔はどこか冷め切っていて、感情的な熱はどこにもなかった。

興味がないからなのか、既に感情を表出することもなくなるほどに追憶した話だからなのか、彼女はおそらく嘘は言っていない。

ただ、私にとって最も肝心な部分である京ちゃんが関わっている所をまだ何も語ってはくれていないのだ。

まだ機は熟していないと言うことなんだろうか……



System
・石戸霞を除く永水女子メンバー四人が安価で選択された結果、"その時"の到来で永水の闇が判明します
・石戸霞   ■■:24


↓2


由暉子健夜「「ただいま(戻りました)」」


ユキちゃんは憧ちゃんの介抱で少しだけ疲れたみたいだね。

対して、健夜さんはまるで若返ったかのように晴れ晴れとした笑顔を見せているよ。

その手に握って引き摺っている襤褸雑巾みたいなものは理沙さんじゃないですか……

麻雀をしていたはずだよね? あれ? おかしいな?


咲霞由暉子「「「…………」」」

健夜「久しぶりに本気を出したからすっきりしたよ。やっぱり、たまには全力を出さないと腕が鈍っちゃうよね。それで、咲ちゃん」

咲「は、はい、なんですか?」

健夜「これ、置いておきたいんだけど?」

理沙「」チーン


咲「えーと、適当に空いている部屋ならどこにでもどうぞ」

健夜「じゃあ、どこかの空き部屋に放り込んでおくね」


健夜さんは乱雑に理沙さんを引き摺って行った。


由暉子「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメン――」

咲「ちょっ! ユキちゃん、しっかりしてユキちゃん!!」

霞「あれを? ……化物ね」

由暉子「あれ、私は何を?」ハッ

咲「ユキちゃん大丈夫?」

由暉子「すみません。少し取り乱しました……」

咲「ふう、それにしても人って麻雀で気絶するんだね……」

霞由暉子「「…………」」


あっ、ダメだこれは別の話題を探さないと……


咲「た、大将戦がオーラスを迎えているよ」

霞「……そうね。豊音ちゃんが勝っているし、このまま逃げ切って欲しい所ね」

由暉子「豊音さんには全体効果系の能力もありますし、いけると思いますよ。それにしても、佐久はダメでしたか……」

咲「でも、彼女の能力ってそこまで支配力が強くないんだよね。赤土さんはまだ諦めてないみたいだし……」

霞「私は豊音ちゃんが勝つって信じているわよ。……ほらっ!」

健夜「ただいまー、あっ、丁度勝負が決着した所だったんだね」


由子『本日のプロリーグの勝者は恵比寿なのよー!!』


咲霞「「イェイ~!!」」

由暉子「これで今度のリーグ戦では負けられませんね」

健夜「それにしても、赤土さんはだらしないな。たかだか世界ランカーのマークなんて簡単に破れないでどうするのかな? やっぱり結婚で気が抜けているんだね」


霞「そ、そうかしら?」

健夜「そうに決まってるよ。だって、収支一位でバトンを渡されたのに、終わってみれば三位なんて結果になっているんだよ?」

由暉子「ですが、一位は狙われるものですし、今回は得点に差はあまりありませんでしたから」

咲「前半戦は息を潜めて後半戦でリーチを潰し、先勝で点差を広げてから全体効果系で場の運気を下げて逃げ切った豊音さんの作戦勝ちじゃないかな?」

霞「かつてのインハイと違って能力の出し惜しみをしていないことも大きいわよね」


由子『本日の勝利者インタビューは恵比寿の大将を務めた豊音選手なのよー、それでは一言お願いするの』

豊音『ちょーうれしいよー! 応援してくれたファンの人、地元の皆も、会場に来てくれた人たちも、私の友達も、皆、皆、ちょーありがとー!!』


霞「友達ね……」

咲「そう言えば小瀬川さんの話は聞きましたけど、えーと、背の小さい人って今は何をしているんだろう?」

由暉子「私が会ったのは随分前ですからね」


健夜「小さい子って、確か胡桃ちゃんか。咲ちゃんってさ、人の名前をあんまり覚えていないよね?」

咲「えっ、その、あははは……それで霞さんどうなんですか?」

霞「胡桃ちゃんは岩手で農業をしているわよ。天候に左右されるけれど、食べ物はお肉やお魚以外はほとんど自給できているらしいわ」

由暉子「農業ですか。こう、老後に始めるとかいうものには少々憧れを覚えます」

咲「長野は田舎だからね。私はそういうのはないや」

霞「機械の更新なんかでもお金がかかるし、ノウハウがないと作物も上手く育たない。それに、土地柄に合わせて工夫する必要もあるから色々と大変なのよね……」

健夜「それで、あの子は元気にしているの?」

霞「ええ、不況の波も問題なく乗り切ったみたいよ。元々、彼女の所は規模もそれなりにあって、育てる商品作物を厳選することで上手く黒字を出しているらしいわ」


美味しいご飯を作ってくれる人たちには感謝しないと。

まあ、私は以前、バルコニーで家庭農園を試してみたときは失敗したんだけど。

今度、挑戦するときは詳しい人にアドバイスをもらいながらやらないとね……



System
・真屋由暉子 □□:22


↓2


由暉子「はあ……」

咲「ユキちゃんどうかしたの?」

由暉子「今日は懐かしい人たちのお話を一杯しましたよね。だから、私は今のままで良いのかなって思ってしまったんです」

霞「どういうことかしら?」

由暉子「今年で私は28才になります」

咲(27)「そうだね同い年だし」

霞(30)「私はもう30才よ……」

健夜(39)「はっはっはあ、私なんてもうすぐ40才になっちゃうよ……」

由暉子「そろそろアイドルとしては引退を考える年齢なんですよね。むしろ遅いくらいだと言ってもおかしくありません」

咲「まあ、そうだよね」

霞「25才前後には辞めていく人が多いかしら」

健夜「40才でもはやりちゃんはアイドルをやっているし、まだ全然大丈夫じゃない?」


由暉子「はやりさんはものすごく努力をして維持しているんです。はっきり言って私にはそこまでアイドルへの拘りはないんですよね」
咲「えっ、そうだったの?」

由暉子「先輩たちが掲げていた打倒瑞原はやりと言う目標も達成できて、牌のお姉さんにも就任できました。同年のアイドル方たちが次々と辞めていく中、それでもアイドルを続けて来れたのは応援してくれる方々の声援に支えられていたからなんです……」

霞「応援してくれる人たちの期待には応えたいと思うものね」

由暉子「はい。ですが、先輩たちが言うにはファンの皆さんの間でも、私が第二のはやりさん化するのではないかと危惧する声が上がってきているそうなんですよね……」

咲霞「「それはキツイ……」」

由暉子「プロ雀士としての私は今が一番脂の乗っている時期なのだと分かっています。そろそろ、そちらの方に専念する方が良いのはって考えてしまったんですよね」

咲「私はユキちゃんの決定を尊重するよ。もしも、アイドルを辞めるなら最後のライブには呼んで欲しいな」

霞「引き際を見極めることは大切よ」

健夜「ユキちゃんがアイドルを引退したら……憧ちゃんが言っていたみたいに、恋愛、結婚!? う、裏切者ッ!!」

咲霞「「…………」」


由暉子「よし、思い立ったが吉日ですよね。今夜はもう遅いですし、明日の朝一番に先輩たちにアイドルの引退を伝えます!」

咲「ユキちゃんがアイドルを辞めてしまうのは少し悲しくなるね。それだと牌のお姉さんの方はどうするの?」

由暉子「後任の方が決まり次第、引き継ぎを行ってそちらも辞退すると思います」

霞「メディアでは大きく取り上げられそうね」


健夜さんは涙を流しながらお酒をがぶがぶと浴びるように飲み始めた。

ここはユキちゃんの新たな門出というか、ターニングポイント、人生の再出発を祝する所じゃないのかな?

だから、アラフィフになっても結婚できないんだよ……


咲「ユキちゃんみたいに突然引退を決めてしまった人って言うと咏さんを思い出すね」

霞「あれは誰もが予想外だったわ」

由暉子「ですよね。優希さんにタイトルを奪われたその日の会場で引退表明を出してしまったんですから」

咲「うん、優希ちゃんは責任を感じて会場でタイトル奪取とは別に涙ぐんじゃったもんね。咏さんの方はからからと笑って彼女を励ましていたけど」


由暉子「後人に道を譲る先達としてはとっても格好良かったですよね。あのいつも持ち歩いていた扇子を優希さんへと手渡していたのはとても印象的でした」

咲「優希ちゃんはその後はあの扇子を持って麻雀を打ち続けたからね。まあ、マントに扇子とかちぐはぐな感じがしていたけど……」

霞「あのタイトル戦は伝説よね。二人とも高火力と早和了を武器に真正面からの殴り合いだったもの」

咲「咏さんは妙に核心を突く言葉で玄人の心を鷲掴んで、あの飄々とした態度が粋だった!」

由暉子「優希さんは得意のビッグマウスで子供心を掻っ攫い、私も大好きでした!」

咲「卓を囲んでいたはずの他家二人には何もさせず!」

由暉子「二人ともトラッシュトークを全開で法螺を吹き!」

咲「最後は優希ちゃんが咏さんから役満の直撃出上がった劇的な幕引き!」

由暉子「録画映像を何度も何度も見ましたよ」

咲「親友の勝利に私も涙を流して喜んだよ」

咲由暉子「「イェイ~」」


霞「……なんだかんだ言いつつも咲ちゃんって優希ちゃんのこと好きよね?」

咲「クェrチュイオp@[アsdfghjkl;:]zxcvbンm,.!?」

由暉子「仲直りしたらどうなんですか?」

咲「……今度、隠し事もなく、腹を割ってお話してみるよ」

由暉子「その方が良いですよ」

霞「そう言えば、プロを引退した後の咏さんのその後って聞いたことがないわね」

咲「私も知らないな」

由暉子「健夜さんなら知っているんじゃないんですか?」

健夜「咏ちゃん? 彼女ならお見合いで婿を貰ったよ。今は実家の家業に携わってる……」ヒクッ


咏さんの家は古くから続く名家らしい。

現代の日本で日常生活でも全て和服で過ごしていたように、格式ばった家柄らしいんだよね。

彼女の実家が何を生業にしているのかとかを私は知らない。

引退後は会うことも全くなかった。

ただ、同じ横浜ロードスターズに所属していたマホちゃんのことは妹のように可愛がっていたとも聞いている。

ちゃちゃのんショックによってプロの資格を剥奪されてしまった彼女に制度の抜け穴を教えたのは他ならぬ咏さんだったらしい……



System
・小鍛治健夜 ◆◆:4
・小鍛治健夜のカウンターが4に到達した結果、"その時"が到来しました


選択肢
①:"その時"が来た!
 幾つかのコンマ判定などを経て結末が少し変化する予定。最終的には視点が宮永咲から須賀京太郎に交代するかも。

②:まだ時間じゃない!
 まだ選ばれていないキャラを安価で指定していく現状維持。"その時"は小鍛治健夜のカウンターが増えるまで選べない。場合によっては主人公の交代などはなくなる予定。


↓2~10で多数決(番号などがないものは安価下にずらします)

投票ありがとうございます。

選択肢②の現状維持に決まりましたので次の人物を決めますね。

↓2

次が煌に決まった所でこちらのスレは残りも少ないので埋めて頂けると助かります。

>>1000についてはできそうなものでしたら書くつもりですのでご自由にお願いします。

>>1000なら かれいなるさきさんのいちにち

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