【咲-Saki-】京太郎「アラフォー?」咲「アラサーだよ!」霞「その2よ」【安価】 (1000)


注意

※息抜きで書きます

※咲ちゃん? いえ、おそらく咲さんです

※京太郎はそろそろ登場するのかも?

※亀更新:一日一回くらいは更新したい鈍亀スタイル

※龍門渕と永水の闇は深く、清澄はドロドロでしたね

※無効安価(ageや無理なものなど)は安価下へ

※一部キャラは無理なのですよー

※エロ? わっかんねー

※目的はあるようなないような

※キャラが崩壊していようとノーウェイノーウェイ


ルール?
・独断と偏見+出身高校+既出キャラ+特別なコンマ=現在の状況が判定されております
・特別なコンマはゾロ目と4と7、42と44の二つは封印されております
・一度選択されたキャラは直下になります


◆前スレ
【咲-Saki-】京太郎「アラフォー?」咲「アラサーだよ!」【安価】
【咲-Saki-】京太郎「アラフォー?」咲「アラサーだよ!」【安価】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1441546565/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1443093284

前スレ>>1000のかれいなるさきさんのいちにち了解しました。

次が花田煌と>>1000が決まった所で本日の更新は終了いたします。次の更新は明後日以降ということで……

咲はキャラクターが多いので毎週誰かしらの誕生日がありますね。


―かれいなるさきさんのいちにち―


A「プロ雀士宮永咲の一日を私、某フリーアナウンサーAと」

Y「某局アナウンサーのYがお送りするの」

A[宮永咲と言えばネットの界隈では魔王とも呼ばれている雀士ね」

Y「かつてのインターハイでは戦慄のプラマイゼロでうちの大将を務めたSをカタカタさせたのよー」

A「無名のインターハイ初出場校だった清澄を優勝させた立役者。あの宮永照の妹で化物よね」

Y「Aと私の高校は彼女に負かされたの」

A「意外な共通点ね。高校一年生のときは活躍した咲だけど、二年生の時はあんまり目立った記録は残していないわね」


Y「それは仕方ないのよー。宮永姉妹の出身地であの天江衣、東神と呼ばれた片岡優希や電王のどっちに……アレ? 長野ッテ魔窟過ギ」カタカタ

A「……他にも何人かのプロや元プロがいるわね。三年生になった宮永咲は前年とは違って大暴れだったわね」

Y「あれは酷かったの。何人もの雀士が牌を置いて卓上から姿を消したのよー」

A「プロ入りした後も姉妹で大いに麻雀界隈を湧かしているわ」

Y「端から見れば大迷惑なの。煽りを受けて引退を決めた雀士が何人いたのやら……」

A「私生活の方でも迷惑をかけてくるし、はあ……」

Y「Aは大変なのよー」

A「Yも一度、一緒に何かしてみたら?」

Y「全力でお断りなの!!」


【AM 06:00】


Giririririririr Giririririririr Giririririri――

部屋に響き渡る大量のアラーム音。

ベッドの上からのそりと立ち上がり、止めて回ると再び柔らかな布団に包まって静かに寝息を立て始めた。


A「余裕で二度寝ね」

Y「まるで夢遊病みたいなのよー。この部屋には幾つの目覚まし時計が置いてあるん?」

A「さあ? でも意味がないわね」

Y「そうなのよー」

A「だらしなく涎を垂らして、締りのない顔ね」

Y「額に落書きしたくなってくるの」


【AM 07:00】


『いつまで寝取るんや! このドアホ、さっさとおきんかい!!』

『ふぇ!?』

『今日は順位戦の対局日や、はよシャワー浴びて目を覚ましてこんと、仕舞いにはどつくで?』

『あれ? 何でいるの?』

『はあー、前に寝坊して遅刻しくさったアホはどこの誰やったん? 一度や二度やのうて何回もな……せやから、重要な試合前はうちが泊まるようにしたんやろ?』

『…………』


AY「「…………」」

Y「一人で起きられないの?」

A「いつもじゃなくてたまにだそうよ……」

Y「ポンコツなのよー」


【AM 08:00】


A「マネージャーが朝早くから作った朝食を食べ」

Y「今日来ていく服をコーディネートされ」

A「忘れ物などがないかもチェックされる」

Y「マネージャーが完全にお母さんなのよー」

A「しかも、今日の対局がある会場まで送迎してくれるわよ」

Y「公共の交通機関ではなく自家用車なの?」

A「咲は目を離すと迷子になる可能性があるから……」

Y「箱に入れて、逃げ出さないように囲わないとダメってわけなのね……」


【AM 09:00】


試合会場に降り立った宮永咲。

本日のリーグ戦に出場するプロたちと通路ですれ違う。

しかし、日本を代表するトッププロたちは自ら壁際に寄って彼女のために次々と道を空けていく。

誰一人として宮永咲と目を合わせようとする者はいない。

それどころか、小鹿のように足を震わせるもの、目を潤ませるもの、過呼吸に陥りそうなものまでいる始末。

他を圧するあまりの迫力に誰もが怯えていた。

ギロリと咲の目が他者の値を計るかのように視線を送り、悲鳴が上がる。

彼女たちは暴君に触れざるように距離を空け、ただ過ぎ去るのを待った。

しかし、何かが咲の琴線に触れたのだろう。

それは恐怖、卓上で幾度も味わされた忌まわしき記憶の数々の逆光に本能が動く。

魔王が声を掛けようとした時には、我先にと誰もがその場から走って逃げだしてしまった。


ポツンっと残された咲は呟いた。


『何でみんな逃げるのかな? 私はトイレの場所が聞きたかっただけなのに……』

『じゃかましい!』ゴツンッ

『いッ、痛いよぉ、もう、何で叩くのさ?』

『妙な迫力でうろついとるからや。ほんま、勘忍してあげんとあかんで……遊び友達以外から何て呼ばれとるんか自覚してえや』


A「魔王」

Y「悪魔」

A「咲はえげつな過ぎて性質が悪い」

Y「やり口は宮永照や小鍛治健夜が可愛く思えてくるの」

A「あの二人はどちらかと言えばパワータイプだからね……」

Y「目に見える形で分かりやすいのよー」

A「咲はテクニックタイプだから、気づかなければ幸せ……」

Y「一度気づいてしまうとカタカタせずにはいられないの……」


【AM 10:00】


A「対局が始まったわね」

Y「十時に開始って意外と遅い。今日はどれだけ打つ予定になっているの?」

A「昔は一節で四回戦が基本だったそうだけど、今は麻雀人口の増加や人気がすごいことになっているでしょ?」

Y「世界で十億人が麻雀を楽しんでいるって凄いことなのよー」

A「だから、より強さをきっちりと測るために一節は十半荘、つまり同じ面子で十回戦が行われるわ」

Y「へえー、一日で十回も戦うの?」

A「そうよ。ただ、自動卓だし、一級のプロなら打つ速度も早いからね。場合によっては夕方頃には終わるそうよ」

Y「逆に遅ければどうなるの?」

A「日を跨ぐこともあるそうね。今日の対局は順位戦、咲はS級雀士だから相手も日本のトッププロたちになるわ」


Y「S級?」

A「S、A、B1、B2、C1、C2の六階級にプロ雀士を振り分けてリーグ戦が開催されているの。年間を通して二十節の試合が行われ、成績上位の数名が上の階級に昇格するわ。逆に成績の振るわなかった下位数名は下の階級へと降格される」

Y「ん? S級の上位とC2の下位はどうなるの?」

A「S級の上位三名は名人とのタイトル戦ね。ちなみに今の名人は照よ。C2級の下位数名には降格点が付与されて、何点か付くとフリーランクへ落とされるわね」

Y「フリーランク? プロじゃないってこと?」

A「他のタイトル戦には出場できるし、プロではあるわよ。ただ、順位戦には呼ばれないし、年齢によっては引退も考える必要があるわね。それに、一度フリーランクに落ちてしまうと戻ってくるには幾つかの条件を達成しないといけないし」

Y「ん? 国内無敗の健夜さんとかどういう扱いなの? 無敗なら名人は彼女じゃないとおかしいのよー」

A「彼女はフリーランクを宣言したから、もう順位戦に出ることはないわね。順位戦の仕組みを考えれば分かるけど、名人位を取るには数年が必要よ。だから、健夜は名人を持っていないんだよね」


【PM 00:30】


Y「マネージャーの手作り弁当」

A「栄養面から消化効率まで考えられているわね。昼は注文したりすることも多いらしいけど」

Y「至れり尽くせりなのよー」

A「それが仕事だし、お給料分はちゃんと働くでしょ」

Y「そう言えば、年間に二十節しか戦わないならプロ雀士ってもしかして暇なの? どこかのプロはリーグ戦で年間2000試合だって言っていたはずなのよー」

A「一つのリーグ全体で2000試合になるだけで個人が2000回も麻雀しているわけじゃないわ。まあ、その中でも咲は暇なプロだけどね」

Y「トッププロの方が忙しいんじゃないの?」

A「取材や広報活動とか、麻雀界の顔としての仕事はあるわよ。ただ、咲はS級だからタイトル戦への一部予選は免除されるし、タイトルを持っているから挑戦者とタイトルを賭けた麻雀しか打たない場合もあるからね」

Y「もしかして、下手なプロの方が忙しい?」

A「下手過ぎるとトーナメントですぐに負けるからどうなのかしら? それに、プロでもプロの団体チームに所属しているかどうかでかなり変わってくるからね。咲はそれも辞めたから……」

Y「……月に数回、麻雀を打つだけで億万長者?」

A「……国際大会にも出てはいるけど、あのネリーみたいに年中何かしらの大会に出ているわけじゃないわね」

AY「「…………」」


【PM 05:00】

A「今日も早い時間に終わったわね」

Y「まだ、他のプロたちは対局が続いているから夕食を取ったら試合再開なのよー」

A「卓を完全に支配しているから、咲の思うがままに進行していたっけ……」

Y「プラス収支で必ず上がっているの。あれでまだ本気出していないとか……それが分かっているから対戦相手は皆カタカタなの」

A「プラマイゼロで覚えた技術を応用して他家までも強く支配してくるから……」

Y「まさにやりたい放題」

A「咲はたいていの場合、夕食を食べる前に試合を終わらせに行くのよね」

Y「それは、また何で?」

A「ご飯をゆっくり食べたいのとこの後の感想戦に向けて考える時間が欲しいそうよ」

Y「彼女は少しコミュニケーションが苦手だから……」

A「感覚派だから、言葉にするのが得意じゃないのよね……」


【PM 08:00】

AY「「おめでとう」」

咲「わざわざお祝いに来てくれたんだありがとう」

A「まあ、順位戦後はいつも祝っているでしょ」

Y「むしろ、負けてる記憶が全くないのよー」

咲「今日も勝ったからね。明日は暇だし朝まで飲むつもりだけど、二人は?」

Y「明日も仕事だから零時前には帰るの」

A「私は暇だから付き合うわ」

咲「そうなんだ。後から今日他に勝った子たちも食材やお酒を持って来るそうだから」

Y「負けた人は呼ばないの?」

咲「弄られるって分かってるから来ないですよ。まあ、負け犬は枕を濡らすのがお似合いと言うか」

AY「「…………」」

咲「費用も負けた人持ちにしているから余計に悔しいでしょうね。会場はいつも通り私の家ですけど。あっ、二人は遠慮しないで良いからね。後、健夜さんも来るそうだから」


【PM 11:00】

Y「人の驕りで食べるご飯は美味しいのよー」

A「あんた、遠慮なく食べたわね……」

Y「ひもじい頃が忘れられないから仕方ないの」

A「もう帰るの?」

Y「仕事があるから。そうじゃなかったらもっとたくさん食べたかった……」

A「そう。かれいなるみやながさきのいちにち……」

Y「どこが華麗なのかと聞きたい所なのよー」

AY「「AとYでお送りしました」」


咲「あっ、煌さんがCMに出てますね」

健夜「彼女の進路についてはちょっと予想外だったよね」

由暉子「でも、すごいですよ。私は応援しています」

霞「衆議院議員に二期連続当選だものね……」

咲「天が味方した結果なのか、議員の最年少記録も更新しちゃいましたもんね」


ちゃちゃのんショックによる政財界の混乱は当時の既存政党にも大きなダメージを与えていたんだよ。

与党も、野党からも幾つものスキャンダルが次々と明るみになり政治への信頼は失墜してしまったと言っても良かった。

メディアは連日に渡り批判を浴びせ、大々的にニュースとして取り上げ、ネット上には証拠が次々とアップロードされていく。

日本の政界は大混迷を極め、世界的な不況の引鉄が引かれた。


今、思い返すならあそこでああしておけばと思える選択肢はたくさんあるんだよ。

その中の一つに不正、公序良俗に反する行為を行っていた議員に対する各党の扱いの甘さもあった。

大物、派閥上層部からも多数出てきた話だからこそ、決然とした対応が取れなかったんだよね。

仕舞いには当時の与党は分裂して衆院の過半数を割り、衆議院の解散を余儀なくされてしまった。

そして、選挙の結果は政治への不信からどの政党も過半数を取ることはなく、選挙前の与野党が連立を組む不安定な政治体制へと移行したんだ。

打ち寄せた不況に対してちぐはぐな方針で有効な対策も取れず、民意は不満からデモも増え、失業率の高まりと比例して犯罪率も増加していった。

そんな中で煌さんは政治活動を始めたんだよね。

彼女の何がそうさせたのかは分からないけど、与党から分裂した新政党に協力して働いていた。

そして、元々不仲だった与野党が長く協力体制を敷けるはずもなく、連立政権は空中分解して再び解散総選挙となったんだ。

煌さんは選挙の直前に被選挙権を得る年齢に達していたことで新政党から立候補して当選したんだよ。


咲「煌さんはインターハイに出場していたので知名度がそれなりにあったことも大きかったんでしょうね。具体的な名前は分からなくても見覚えのある人として、麻雀の人気が背中を押した面は大きかった気がするな」

霞「あくの強いと言えばいいのかしら、個性的でとてもポジティブだものね。あの準決勝で照さんを相手にしても一人だけ楽しそうに麻雀を打っていたり、翌年の決勝卓で小蒔ちゃんに大暴れされても心が折れない姿には勇気づけられた人も多かったと思うわよ」

由暉子「他の人への影響力も意外と大きい人ですからね。あの哩さんが稀に漏らす『すばらっ』な元ネタの人ですし」

咲「そうそう。それに、彼女を慕って長野県から新道寺にわざわざ進学した子がいるのも私は知ってるよ。優希ちゃんや和ちゃんも彼女のことを慕っていたからね」

健夜「暗い世情だったからこそあの子の明るさはとても受けた側面もあったんだろうね。だから、こうして党のピーアールCMに抜擢されているわけだし」


新政党の背後に龍門渕がいるのはおそらく間違いないんだよね。

政治への影響力を強めたかった龍門渕と資金面や情報網などを求めていた彼らの利害は一致していただろうし、その証拠に不況の中で龍門渕が買収したメディアでは新政党が大きく取り上げられていたりする。

龍門渕の力強い後押しもあり、前回選挙では大きく議席を伸ばして第一党へと躍り出ている。

今度の参議院選挙でも優勢との予測が出ていて、国会の捻じれ状況がようやく終わると言われているんだ。


そんな新政党の広告塔として扱われている煌さんはどこまでいくんだろうね。

いずれは大臣か、日本初となる女性総理大臣までもあり得るのか、私には分かんないや。

ただ、彼女のことを私も応援している。


咲「政治のことはどうなるか分からないけど、煌さんとの麻雀は楽しいですよね」

健夜「分かるよ咲ちゃん。彼女って不思議なことにどれだけ本気を出してもなぜか飛ばないからね」

咲「そうなんですよ。しかも、決して諦めない、どんな苦境でも楽しもうとしますし、最高ですね」

健夜「そうだね。最高の玩具というか、壊れないサンドバックというか、そういった相手は貴重だから」

咲「ええ、本気で打った相手は次々と麻雀を辞めていきますからね。それを見ることってやっぱり心苦しいですから、煌さんみたいな人はすごいとしか」

霞由暉子「「…………」」


健夜「あれで火力もあればプロとしても通用したかもしれないよね」

咲「いっそ、私と健夜さんで彼女を鍛え上げてみますか?」

健夜「ああ、それも面白いかも。照ちゃんも呼んで、照魔鏡で測りながらやれば効率も良いかな?」

霞「……煌さんがどうして支持を集めて議員になれたのか納得だわ」

由暉子「咲さんと健夜さんはアレ過ぎです。それに付き合える彼女の精神も並ではありませんよ」



System
・宮永咲   ◇◇:6


↓2


System
・安価先が岡橋初瀬で下一桁がコンマ4のため……


シズ、少し違いますが和、そして初瀬とアコチャーの親しい同学年の友人は……あるぇ?

それでは2スレ目初の4が初瀬に決まった所で本日の更新は終了いたします。次回の更新は明日ということでー


由暉子「咲さん、煌さんにおかしなことをするのは止めましょう。昔のことを思い出してください」

霞「咲ちゃんなら大丈夫、まだ何とか引き返せるはずよ」

由暉子「そうですよ。健夜さんはもう手遅れですけど、咲さんはギリギリ踏みとどまれるはずです」

健夜「」グサッ

霞「あなたは反省したから今の麻雀スタイルなんじゃなかったの? それ以上、そっちに行っては戻れなくなるわよ」

由暉子「生涯を独り身で終えたいんですか?」

健夜「」ザグッ


ユキちゃんの言葉が健夜さんにダメージを与えているよ。

アラフィフルートは流石に私も嫌だからね……

まあ、私が今の麻雀の打ち筋なのは反省じゃなくてお姉ちゃんへの当てつけの面が大きいんだけどさ。

それでも、一番荒れていた時期については反省している。

あの玩んで壊すような打ち方だけはすることはもうないだろうね。


昔の衣ちゃんも酷かったけど、私のはあれに更に輪を掛けて戯れていたから。

今の私はかつてのプラマイゼロを目指した頃と同じように独自の目標を設定して麻雀をしているけど、全力を出すと持たない相手が悪いんだって言いたいよ。

だけど、お姉ちゃんみたいに誰に対しても手加減なく潰していくよりはましだと思う。

今の私と全力で楽しめる相手は上位の世界ランカーか、国内なら東場の優希ちゃんや南場の数絵ちゃんとか一部に限られるんだよね。

それ以外は半分接待プレイになってしまうのも許して欲しい。

左手を使用したユキちゃんや神を降した霞さんなら十分に遊べる相手だけど……


咲「分かったよ。花田煌改造計画は諦めるね……はあ、残念……」

霞「ふう、諦めてくれてよかったわ。煌ちゃんは大切な選挙が控えている時期なんだから、万が一はダメよ」

由暉子「それでも煌さんならなんともない気もしますね。あの人ならあの頃の咲さん相手でも心が折れなかったかもしれません」

咲「ごめんなさい」

由暉子「私は気にしていないですよ。むしろ、もっと頑張ろうって思ったくらいですから。おかげで私は強くなりましたし」


皆がユキちゃんみたいに強いメンタルを持っていたなら私も遠慮なんてしなくて済むんだろうけどさ。

清澄の私たちが暴れた高校三年生の頃に、相対して麻雀を打った子は大きく分ければ二つに分類される。

ユキちゃんやマホちゃんみたいに心が折れなかった子と淡ちゃんのようにバキッと砕けてしまった子にね。

前者の子たちはとても強くなる傾向が多かったけど数が少ないんだよ。

後者の子には更に色々なタイプに分けられるんだけど……

麻雀の牌を置いて完全に卓から離れてしまった人が一番多いかもしれない。

そして、真っ当な道から逸れて堕ちて行ってしまった人は他人よりも才能があった人たちが多かったように思う。

一番少ないのが再起してもう一度、何らかの形でちゃんと麻雀に向き合った人たちなんじゃないかな。

そんな数少ない一人として岡橋初瀬さんの名前が挙げられる。

私にとって彼女は知人以上友人未満な間柄だった。

私の方は何とも思っていなかったんだけど、彼女の方が私を少し苦手としていたんだよね……


初瀬さんは高校一年生のインターハイで自身の通う晩成高校が敗北したことにショックを受けていて、中学の時はほぼ同じ実力だった憧ちゃんの活躍にはやっぱり悔しさを感じていたそうなんだよ。

だから、彼女は一年間必死で努力したんだよね。

伝手は全部使って、憧ちゃんと開いてしまた実力差を埋めるため我武者羅に力をつけたんだ。

そして、強豪校である晩成高校でレギュラーの座を奪い取り、個人戦には興味のなかった阿知賀の皆に挑戦状を叩きつけてまで戦う舞台に引きずり込んだりとかしたらしい。

それで、高校二年生のインハイ個人戦の県予選ではお望み通り憧ちゃんと戦ってリベンジに成功したんだよ。

ただ、団体戦の方は前年のインターハイ決勝卓出場メンバーである四人がいる阿知賀には及ばなかったみたいだけど。

私としては来年もインターハイの会場で会おうと約束していたのに、清澄は個人団体ともにインハイの切符を逃すと言う完全敗北を喫していたから阿知賀の皆には申し訳なく思ったけどね……

高校三年生のインハイ個人戦は穏乃ちゃん、憧ちゃん、初瀬さんが奈良県の代表になったんだ。

団体戦の方は晩成高校が三年ぶりにインハイへの出場権を取り戻したんだよ。

春大会の方でも晩成高校が全国へと出て来ていたからその結果はある程度は予想できていたんだけど、その時は昨年と違って穏乃ちゃんたちが私たちに謝っていたね。

春大ではトーナメントの組み合わせで当たらなかったけど、インハイで私たちとぶつかってしまった晩成高校はエースとして先鋒に初瀬さんが出てきた。

私たちの先鋒は優希ちゃんが務めていて、ボッコボッコにしちゃったんだ。


そして、個人戦の方では私と当たって麻雀を楽しんだよ、私はね。

国麻でも不運なことに彼女は私と卓を囲んでしまって、弄り玩んじゃった……

それがトラウマになったみたいで国麻終了後は牌を置いてしまったらしい。

季節は巡り、春となって初瀬さんは京ちゃんと同じ大学に無事合格した。

そこには和ちゃんも通っていたわけで、彼女と再会した初瀬さんはキャンパス中に響き渡るような悲鳴をあげてしまったんだってさ。

憧ちゃんの助けもあって初瀬さんは再び牌を握り、インカレに出場したんだ。

和ちゃん、憧ちゃん、初瀬さんの三人はデジタル派で、その活躍から麻雀の上手い一年生トリオとして話題になっていたよ。

彼女たちの活躍によって激戦区の東京を勝ちぬいたわけだしね。

そんな夢と希望だけに満ち溢れていた楽しい時間も一年で終わってしまった。

穏乃ちゃんが行方不明になったからね。

憧ちゃんと和ちゃんは当然落ち込んだ。

ただ、和ちゃんについてはそれさえも計算に組み入れて京ちゃんに甘えたみたいだから、本当に怖い女だよ……


憧ちゃんは初瀬さんを含めた周りに支えられて立ち直ったんだけど、一年後に今度は和ちゃんの失踪だからね。

当時の憧ちゃんの心情を考えると、和ちゃんは鬼だよ。

初瀬さんには随分と和ちゃんの捜索に協力してもらったんだよね。

憧ちゃんは和ちゃんがプロへは行かないと聞いていたから早い段階で就職することは決めていたんだと思う。

ただ、その中でどうしてアナウンサーって言う職業を志望したのを考えると、テレビに出られるからだったんじゃないかな。

行方不明になった二人の親友の目に、もしかしたら留まるかもしれない。

そして再会することができるかもしれないって言う淡い希望があったんじゃないかと私は思うんだよ……

まあ、翌年に和ちゃんは見つかったわけだけど、憧ちゃんは切れちゃったね。

事情を理解して、会うや否や頬を殴り、髪を引っ張って引き倒し、マウンドポジションで拳を振り下ろそうとしたからね。

唖然とした私たちの中で初瀬さんが逸早く羽交い絞めにして止めなかったら、最悪の場合は憧ちゃんまで逮捕されていたのかもしれない。

本当に初瀬さんの素早い対応がなかったらどうなっていたのやら。


大学を卒業した初瀬さんは研究者となるために大学院へと進学した。

無事に修士の課程を修めた彼女は海外の有名な大学でドクターの課程へと進んだんだよ。

でも、ある日一報が届いたんだ。

初瀬さんが留学先で爆弾テロに巻き込まれて死んだとね。

行方不明なら希望があるのに、確実に届いた死の報告はとても悲しかった……

既に私の相方だった憧ちゃんとその日はずっと一晩中飲み明かした。

翌日、頭は痛いし、吐き気はするし、心はやさぐれて、酷い気分だったのをよく覚えている。

だけど、その日は対局日だったから私はその最悪な気分で麻雀に挑んだんだ。

多分、高校三年生の国麻と同じくらい荒んだ麻雀をしてしまった。

それを見咎めたお姉ちゃんとはまた喧嘩になった。

そして、テレビのニュースでも事件が報道され、初瀬さんとはもう会えないのだと嫌が応にでも理解させられる本当に最悪な日だったよ……



System
・石戸霞   ■■:25


↓2


健夜「どうせ私は結婚なんかできませんよぉーだぁ。良い寄ってくるような男の影なんて皆無だしぃー、麻雀を始めてからは距離を空けられるっていうかねぇー」グスグス

霞「健夜さんも素材はそこまで悪くないはずなのよ。身形に気遣えば機会も訪れるはずじゃないかしら?」

健夜「ふふふ、残念でした……昔、こーこちゃんが綺麗にコーディネートしてくれたんだけどね、ダメだったよ……」

由暉子「どうしてダメだったんですか?」

健夜「普段の私って地味でしょ? だから、着飾ると私とは中々分からないみたいで、だから途中までは上手くいくんだよ。だけど、相手に私の名前が伝わると直ぐに逃げ腰になるんだよね……」

霞由暉子「「…………」」

咲「……積もり積もった過去の悪行が尾を引いているんですね」

健夜「私が何をしたって言うのかな? ただ、麻雀を打っていただけなのに、真摯に向き合っていただけなのに……」

霞「健夜さんには麻雀が鬼門なのね。それなら、麻雀にまったく興味のないお相手ならどうかしら?」

健夜「そんな人いるのかな?」

由暉子「競技人口が十億人を突破しているわけですからね。この世界的流行の中で麻雀に興味のない、全く関わりのない人は少ないかもしれませんね」

咲「もしも興味がなかったとしても、二十年以上前から健夜さんはネット上でネタにされているわけで、悪い意味で情報が拡散されてしまっているんですよね。はっきり言って、健夜さんのことを全く聞いたことのない日本人を探す方が難しい気がするよ」


まあ、それは私にも言えるんだけどね。

本当に、名誉棄損で訴えられるレベルのデマとかが飛んでるからね。

麻雀で人を殺したとか、通り過ぎるだけで人が気絶するとか、現代に現れた魔王とか、なんなのかな……

それと私が結婚できないとか言っている人は一緒に麻雀しようよ。

きっと麻雀を通してなら口下手な私でも上手く話ができると思うんだよね……


霞「幼馴染の男性とか、昔から交流のある良い人とかはいないのかしら?」

健夜「咲ちゃんじゃあるまいし、そもそも学校の同級生たちはもうほとんどが既婚者だよ」

由暉子「いっそ愛のある結婚は諦めてはいかがでしょうか?」

霞「私としてはおすすめはしないわね。でも、それなら健夜さんでも大丈夫かもしれないわ」

健夜「それは嫌!」

霞由暉子「「…………」」


咲「健夜さんの周りが幸せな恋愛結婚をしている人が多いから割り切れないんですよね。だから、紹介された人も断ってしまうというか……」

健夜「…………」

霞「まあ、私も恋愛には憧れを持っているから分からなくもないわ」

由暉子「恋愛したことがないので何とも言えませんね」


はあ、恋愛か。

私だって周りを見渡せば幸せな結婚をしていたりする人の方が多いんだよ。

でも、京ちゃんを含めた清澄の皆の印象が強すぎるんだよね。

入籍日に生涯の別れとか、愛のために自殺とか、倫理を無視するとか、不倫や既成事実とかさ、あげくには監禁って……

だから、正直に言って私の恋愛観は随分と歪んでいるって自覚がある。


咲「いっそのこと専門家に調べてもらいますか?」

霞「専門家?」

由暉子「百戦錬磨の恋の達人がいるんですか?」

健夜「そんな人が!?」

咲「そんな人じゃないよ。あれ? ある意味ではそっちも一人心当たりがあるようなないような……」

健夜「咲ちゃん、お金なら幾らでも詰むから頼むよ」

咲「はははは……」


和ちゃんなら狙った相手を確実に落とす術とか知っていそうなんだよね。

ただ、あれは和ちゃんだから可能なんであって万人には無理か……


咲「彼女は特殊なので意味がないですね。私が言う専門家は情報を扱うスペシャリストのことですよ」

由暉子「スパイの方ですか?」キラキラ

咲「スパイじゃないから」

由暉子「そうですか……」シュン

咲「皆は龍門渕の沢村智紀さんのことって覚えていますか? 彼女がその人なんですけど」

健夜「その子に頼めば私も結婚できるの?」

咲「さあ?」

霞「断定はできないのね……」

咲「彼女は分析家としては非常に優秀ですから、健夜さんの結婚できる可能性や希望に沿う相手くらいなら見つけてくれるんじゃないかと思います」

健夜「是非、お願いします!!」


現在、智紀さんは龍門渕において諜報部門の長に就任している。

ある意味ではユキちゃんの期待したスパイではなく、そのボスの立場なんだよね。

一応、多忙ではあるんだけど、やることは部下に指示を飛ばし、収集してきた情報を統合、分析して伝達する役割だから半ば引き籠りだって言っていたよ。

だから、透華さんよりも会うことは簡単なんだよね。

まあ、健夜さんの件を依頼するなら透華さんに話を通さないといけないわけだし、貴重な時間を割いてもらうんだから友達だからって無料ってわけにはいかないかな。

お金については健夜さんが出すから問題はないと思うけど……

それにしても龍門渕の誇る情報網、分析能力を駆使してお願いすることが健夜さんの結婚についてってどうなんだろう。


咲「健夜さんもあまり期待し過ぎないでくださいね?」



System
・石戸霞   ■■:26


↓2

清澄は聖人枠だったはずのまこもゾロ目で澱んでしまったのです。

次が井上純に決まった所で本日の更新は終了いたします。

これで龍門渕もハギヨシや歩を除いた五人が選ばれましたね……それではまた明日~

少し体調を崩しておりまして本日も更新はお休みさせていただきます。

更新を再開します。



健夜「グフェフェ……あはあは、結婚、婚姻、ブライダル、私も結婚イェイ~♪」

咲霞由暉子「「「…………」」」

霞「咲ちゃん、健夜さんどうするの?」ボソ

由暉子「結婚できると完全に信じ切っていますよ……」ボソ

咲「……」


いやいやいや、私のせいじゃないから……

私が話したことはあくまで可能性の話であって、期待しないでとも断りを入れているんだよ。

行き遅れのアラフィフには希望的幻想を抱かせるような甘言に聞こえたのかもしれないけど、それは私のせいなのかな?

都合の悪いことには耳を貸さない、シャットアウトする健夜さんが悪いんだから。

私に責任はないからね!!


霞「……もしもダメなら」

由暉子「ッ!」カタカタ

咲「私、海外へ高飛びしようかな……」

霞由暉子「「…………」」

咲「その時は暫く二人にも会えないんだろうね。はあ、明日は早速マネージャーに相談して、純さんにも隠れ場所や身辺警護について頼まないと……」


純さんは龍門渕家から出て行ってしまったハギヨシさんの代わりに透華さんの執事をやっているんだよね。

それだけじゃなく、透華さんや来客の安全を守る身辺警護などを統括する立場にもある。

流石に執事としてはハギヨシさんの域には達していないけど、私みたいな一般人から見れば人外としか言いようがないかな……

ただ、本人はハギヨシさんを知っているからこそ自分の不甲斐なさを嘆いていたり、少し劣等感があるみたい。

彼女も一さんと一緒で透華さんの側へと常に控えているから中々会うことは難しいんだよ。


由暉子「身辺警護の必要性があるんですか?」

霞「幾ら健夜さんが麻雀においては人ではなくても、それは過剰じゃないかしら?」

咲「……海外では何があるか分からないからね」


雀士行方不明事件なんてものも起きていたりする。

それに以前から純さんには注意喚起されているから念のために必要なんだよ……

現在は下がってきてはいるけれど、国内の犯罪率だってちゃちゃのんショック以前に比べればまだ高い水準にあるわけで世の中は物騒だから。

このマンションを購入するときだって彼女のアドバイスからセキュリティーには十分気をつけたんだよ。

まあ、ある意味では商売上手と言うか、だからこそというか、ここって龍門渕系列のマンションなんだよね。


健夜「三人ともどうかしたの?」

咲霞由暉子「「「気のせいです!」」」ピクッ

健夜「そう? ねえねえ、結婚式はやっぱりウェディングドレスが着たいし洋式かな? でも、白無垢も着てみたいし、どうするのが良いかな?」ニコニコ


相手もまだいないのに気が早すぎるよ……

現実を正しく見つめて欲しいね。

冷静に考えるほどそうじゃないことを祈ってしまう事柄もあるんだけれど。

そう、気のせいなら良いのに。

衣ちゃんが亡くなる以前から純さんたちはハギヨシさんによって主人に仕える者としての手解きをされていた。

それは、衣ちゃんが亡くなってからはより厳しいものへと変化したそうなんだよ。

多分、その時にはハギヨシさんは龍門渕を出奔する気でいたからこそ、彼女たちを完璧な従者へと仕上げるつもりだったのかもしれない。

だけど、ハギヨシさんは自身が居なくなった後に透華さんがどうなるのかを見越していたのではないかと純さんは口にしたことがある。

そう考える明確な証拠や根拠はなく、勘だとは告げていた。

もしも、その彼女の勘が正しいのだとしたら、ハギヨシさんは透華さんのお父さんが急死することを知っていたことになるんだよね…


龍門渕家当主が突然亡くならなければ、透華さんはああなることはなかったように思う。

純さんは透華さんたちにはその考えを伝えてはいないらしい。

私にそれを教えた意図はよく分からない。

ただ、私が京ちゃんの幼馴染で龍門渕の外側にいる人間だからこそなんだろうか……

仮に彼女の勘が当たっていたのだとしたら透華さんのお父さんの死にハギヨシさんが関わっているかもしれないことになる。

それは透華さんには酷な話しだからこそ、気のせいであればいい……



System
・龍門渕主要メンバー五人が選択された結果、"その時"の後に龍門渕の闇が判明します
・石戸霞   ■■:27


↓2


由暉子「健夜さんはもしも結婚されたらプロ雀士を引退するんですか?」

霞「女性のプロ雀士は寿を機に辞めてしまう人も多いものね」

咲「結婚や出産で雀士を引退した人って理沙さんや雅枝さんなんかがそうですね」

由暉子「はい、それで健夜さんは万が一にも結婚できたならどうするんですか?」

健夜「えっ? 私はプロ雀士を辞めないよ」

霞「あら? 結婚って騒いでるくらいだから辞めてしまうのかと思っていたのだけれど……」

健夜「私は家事って苦手だし、多分、私の方が稼ぎが良いと思うんだよね」


健夜さんは一線からは退いたとはいっても、実力は一級のプロ雀士だ。

未だに破られていない幾つもの記録や信じられないような逸話も残している。

赤土さんは"レジェンド"の異名で呼ばれてはいるけれど、生きる伝説とも呼ぶべき健夜さんと比べたら霞んで見えると言うか、格が違うと言うかね。

まあ、こんなことを灼さんの前で口にしたら赤土さんフリークの彼女には烈火の如く反論されそうだけど。


それはともかく、個人のスポンサー契約やクラブチームとの契約金もあるし、並の人じゃあ健夜さんより稼げるはずがないんだよ。

もしも、本気を出して一線に復帰すれば収入も跳ね上がるはずだから。


霞「ユキちゃんは仮に結婚したら辞めてしまうの?」

由暉子「ええ、私は引退すると思います。プロの生活と家庭の板挟みが大変なことははやりさんを見ていれば分かりますから。そういう霞さんはどうなんですか?」

霞「私? そうね、もしも……私は麻雀も辞めてしまうと思うわね」

咲由暉子健夜「「「麻雀まで?」」」

霞「私は麻雀への拘りがそこまで強くないのよ。始めた切っ掛けも、続けた理由も他人のもの。プロになったのは私の意志ではあるのだけれどね……」

咲「含みのある言い方ですね。霞さんは麻雀が好きじゃないんですか?」

霞「……嫌いではないかしら」

健夜「麻雀に情熱を傾けていないプロも少なくはないからね……」

由暉子「健夜さんが言うと皮肉が強すぎます」


私も元は麻雀があまり好きじゃなかったから他人のことをとやかくは言えないんだよね。

健夜さんが言うとアレだけど、日本のトッププロに数えられる霞さんもそうだったんだ……

ただ、私がそれについて言及すると各所から文句が飛んできそうだよ。

だって、私のせいで麻雀が好きだったのに嫌いにさせてしまった人も少なくないはずだから。

まあ、世の中には麻雀が好きでも続けられなかった人もいる。

今ならそう思える人の一人として藤原利仙さんが挙げられるよ。

藤原さんはお姉ちゃんと同期でプロになった一人だったんだけれど、一年も経たずに辞めてしまったんだ。

彼女が引退を表明する少し前にお姉ちゃんと戦ってボロボロにされたことがあったから、それが原因なんだと私は思っていた。

お姉ちゃんはそれはないって言っていたんだけどね。

藤原さんはインターハイで神代さんに完封されようと、個人戦でもケチョンケチョンにされても麻雀を辞めなかった人だ。

だから、自分が原因で麻雀を辞めたとかは彼女の性格上あり得ないってお姉ちゃんは考えていた。


それが言い訳か何かにしか思えなかったんだけど、霞さんから少しだけ霧島神境の話を聞けた今の私には別の可能性も思い浮かぶ。

おそらく藤原さんは霧島神境とも関わりがあるのだと思う。

彼女の少し後にプロ雀士を辞めてしまった良子さんも多分それと関連があったのでないかはないかと今なら考えられる。


咲「はあ。ねえねえ、どうして三人とも私には結婚したら辞めるのかとは聞かないのかな?」

霞由暉子健夜「「「…………」」」



System
・石戸霞   ■■:28


↓2

宥って出たっけ


System
・安価先が荒川憩で下一桁がコンマ4のため……


>>152
ユウチャーは既に出てますーぅ……

次が憩ちゃんに決まりましたね……
それでは次の更新は夜か明日以降ということで……


健夜「咲ちゃんは私と同じアラフォールートだよ」

霞「咲ちゃんは間違いなく結婚できないわ」

由暉子「できないと言うよりも、結婚の意思がないですよね」

霞「初恋の人を引き摺り過ぎているのよね……」

由暉子「京太郎さんは既に結婚しているんですから、諦めて次の恋へと向かうのが健全だと思います」

健夜「幼い頃から一途に思っているのに告白する勇気のなかったヘタレだしね」

霞「生活の各所に問題点の見える重度のポンコツだもの」

由暉子「世間では魔王の異名で恐れられていますから」

霞由暉子健夜「「「結婚は無理だね(かしら)(ですね)」」」

咲「うぅぅッ……」


改めて言われるとどれも事実だけど、だからこそ辛いよ。

私が一途に京ちゃんのことが好きで何が悪いのかな。

健夜さんみたいに婚期を逃して往生際悪く喚き立てるアラフィフよりはマシだから。

肉感的で官能的な体をしているくせに男に恵まれない霞さんよりずっと良いはず。

未だに中二病から抜け出せない痛い子のユキちゃんよりは大丈夫だよ。


咲「そういうことは三人からは言われたくないね。結婚してから口にして欲しいんだけど」ムスッ

霞「……結婚か、虚しいわね」

由暉子「そうですね。咲さんが言うことも一理あります」

健夜「わ、私は咲ちゃんの伝手で今度結婚するはずだから」ガクガク

咲霞由暉子「「「…………」」」


健夜「何かな?」ギロッ

霞「別に何でもないわ」

由暉子「そうです、気のせいですよ」

咲「健夜さんの結婚はともかくとして、子供はどうされるんですか? 年齢的に早い人だとそろそろ……」

健夜「まだ大丈夫だから!」

由暉子「早い方が良いですよ。高齢出産は何かとリスクも高いですから」

霞「まあ、それでも医療技術は進歩しているもの。昔に比べれば色々な方法も存在しているわ。いざとなればIPS細胞もあるからそこまで気にしなくても大丈夫じゃないかしら?」


他にも卵子の凍結保存なんて手段もあるんだよ。

灼さんから聞いた話だと赤土さんは二十代後半の段階で自分の卵子を冷凍保存したらしい。

流石は赤土さんと言うべきなのかな。


情報収集と分析力に長けていると言うべきか、自身の婚姻時期さえも見越していたんだろうか。

私もその話を聞いて、一応保存していたりするんだけどね。

ふふふ、使うことは一生ないのかもしれないけど……


由暉子「場合によっては"リバーレスト"と呼ばれる医者に頼めば何とかなるかもしれませんし……」

健夜「"リバーレスト"? それって誰なの? 外国の人?」

咲「天才医ですよ」

霞「ここ数年で一部の界隈だと有名になりつつある闇医者ね。国籍、性別、本名さえも不明な無免許医よ」

健夜「無免許!? そんなモグリの医者なんて危ないよ……」

由暉子「リバーレストは医師免許こそ所持していないそうですが、どんな病気や怪我をも治療してしまう腕を持っているそうです」

霞「高額の診療報酬と引き換えにしてらしいけれどね。世界的に権威のある名医さえも匙を投げた患者さえ何人も救ってしまったらしいわ」


健夜「それって都市伝説か何かじゃないの? 本当に実在する人物なの?」

咲「間違いなく実在している人ですよ」


私は京ちゃんから"リバーレスト"の正体を教えてもらったことがある。

その正体はあの荒川憩さんなのだそうだ。

正体を知るものの間では"Dr.K"の通称で呼ばれているらしい。

憩さんは京ちゃんと同じ大学に通っていて、在学中には和ちゃんたちと一緒にインカレにも出場して活躍していた。

同じ部活に所属する仲間として京ちゃんとも懇意にしていたから私も彼女のことはよく知っている。

憩さんは国内最大の医療法人だった荒川グループの創業者一族の出なんだよね。

幼少の頃から医学知識を独学していた麒麟児でもあり、あのコスプレも実は伊達ではなかったらしい。

将来を有望視されていた彼女だけど医師免許を剥奪されて日本の医学界から追放された異端児でもある。


由暉子「リバーレストは私が一番会いたい人なんですよね」

咲「それって……」

霞健夜「「…………」」

由暉子「治療不可能と呼ばれるようなものさえ治してしまうその人なら、爽先輩のことも治療してもらえるかもしれません……」

健夜「ユキちゃんの事務所は龍門渕の系列なんだよね。龍門渕さんとも面識があるんだから頼めばどうにかなるんじゃないの?」

由暉子「それが、どうやら芳しくないそうなんですよね……」

霞「意外ね。天下の龍門渕財閥なら簡単に見つけてしまいそうなイメージがあったのだけれど」

由暉子「龍門渕の情報網でさえ発見が困難らしく、国内外で目撃情報はあるらしいんですが神出鬼没で行方が掴めないそうなんです……」


憩さんが現在のように名を隠し、正体を晦ませて風来坊のような生活を送る原因は全てあそこから始まっている。

そう、運命が変わったのはあのちゃちゃのんショックからなんだよね。


政界で露わになったスキャンダルの中には医師会や荒川グループに関連するものも存在していた。

当時の医師会会長は憩さんの祖父であり、十五年以上もの長きに渡って会長職に座していたんだよ。

特に三師会と政財界に対して強い影響力を保持していて、一部からは陛下とまで呼ばれるほどの権勢を誇っていた。

だからこそ、出てくる膿もとんでもなく濃いものばかりだったんだよね。

そして、荒川グループからは過去の医療過誤が発覚し、メディアも大きく取り上げて大問題と化していった。

巨大グループの不祥事に信用は失墜し、取引先との関係も悪化していったそうなんだ。

だけど、大きな企業になるほど粉飾決算をしていようが中々潰れないものなんだよね。

もちろん、貯えられている資本による企業体力ってものもあるんだけれど、大きいからこそ潰せないという側面もある。

大企業の倒産に伴う影響がもたらす不利益よりもその企業を存続させたことで得られる便益が上回っている場合なんかがそれに当たる。

常ならば、荒川グループもそうなるはずだったのだと思う。


だけど、この時は状況がそれを許さなかった。

世界的不況の波と世論、医師会における派閥争い、同業の企業連合による攻勢、全てが噛み合ったことで急速に経営が悪化していったんだ。

そして、滅多なことでは医師免許の剥奪を行わない医師会までも大きく動いた。

権力を握っていたからこそ、疎ましく、忌々しく思っていた人も多かったのだと思う。

今では荒川グループは姿形も綺麗に消え去り、研究所なども他の企業などに吸収されてしまっている。

荒川一族だった憩さんはまだ医師免許を取得して間もないペーペーだったにも関わらずその免許を剥奪されてしまった。

その理由は医師としての品位を損するような行為があったためだとされている。

それはとても不明瞭であやふやな答えだと思う。

彼女の年齢を考えれば過去の医療過誤に関わっているはずがないんだよね。

一応、彼女のまだ公にはされていなく、発表を控えていた研究論文の内容に問題があったのだと言われているけれど真実は分からない。

おそらく、政治的な理由が大きかったんじゃないかと私は思っている。


医師免許を喪失した憩さんが力なく笑っていたことをよく覚えている。

その消え入りそうな儚い様こそが、私が最後に見た憩さんの姿だった。

それから間もなくして、彼女は姿を晦ましてしまい行方が分からなくなってしまったんだよ。

彼女が消えてから少しして奇跡の腕を持つ医師の噂が流れ始めたことを京ちゃんが教えてくれた。

その正体こそがリバーレストこと荒川憩なのだともね。

彼女は裏にも表にも独自のネットワークを持っているらしく、今では龍門渕の情報網でさえ所在地を把握できないでいる。


健夜「うーん、行方が掴めない人なのは理解できたけれど、それならリバーレストはどうやって患者とコンタクトを取ったりしているの?」

咲「協力者がいるらしく、その人物を仲介することで医療行為を受けられるらしいですよ」

由暉子「その協力者もアンダーグラウンドの住人らしく、一般人の私たちでは手が出せないんです……」

霞「それでも、お金持ちや著名人ばかりがリバーレストの治療を受けたわけではないとの話だけれどね」

咲「恩義には律儀に報いるそうですから。ネット上には協力者が運営する特別なサイトが存在するのは間違いないらしいとのことですけど、ウィザード級のハッカーが運営しているのだとか」

由暉子「各国に秘密の研究拠点を持っているという話も聞きますね。どこかの国や研究機関からは命を狙われているという噂話も存在していますし」

健夜「リバーレストね……」


憩さんは卓越した医療技術を持っていようとも一応犯罪者なんだよね。

国内では指名手配や逮捕状は出ていないそうだけれど、国外ではそうでもなかったりするらしい。

奇跡の腕と呼称されるほどの腕を持つ彼女の技術や頭脳を欲している機関は実際に存在しているらしく、色んな所から身柄を求められているのは間違いないそうだ。

誰かの命を助けることで不利益を被る人もいて、命を狙われているのも事実だと聞いている。

だからこそ、憩さんは姿を隠し、名を隠し、一カ所に留まれない、ある意味での逃亡生活を余儀なくされているのだと思う。

ただ、彼女が何のために高額の医療報酬を求めていたりするのかは分からない。

あの人の性格を考えると何だかそこに違和感を私は覚えてしまう……



System
・石戸霞   ■■:29


↓2

それでは次が新子望に決まった所で本日の更新は終了とさせていただきます。次回の更新は明日以降になります。

ところで一つ質問があるのですが、今後の"その時"については前回と同じ範囲指定による安価での投票で問題ないでしょうか? それとも時間指定での投票の方がよろしいでしょうか?

参考として答えて頂けると助かります。


健夜「リバーレストって人のことは凄い人なんだって分かったけれど、私が知る限りで一番腕の良い医者は憩ちゃんだね」

霞「けい? 憩って言うと荒川憩のことを言っているのかしら?」

健夜「そうだよ。友達の親友が患った奇病を彼女は治療してくれたんだよ」

由暉子「そんなことがあったんですか。荒川グループが大変なことになったのは知っていましたけど、荒川さんは今は何をしているのかと思っていたらお医者さんを続けていたんですね」

霞「プロにも実業団にも誘われていたけど断っていたものね。それでも、医者をしているなら安心ね」

健夜「まあ、私も直接会ったわけじゃないから彼女の詳しいことは知らないんだけれど、赤土さんは憩ちゃんのことを絶っさ、あッ!」

由暉子「友達って赤土さんのことだったんですか」

健夜「ち、違うから、別の赤土さんのことだから!!」アセアセ

霞「態度でまるわかりよ……」

健夜「はあ、プライバシーの問題もあるからあまり詮索しないでね」


由暉子「奇病なんて呼ぶくらいの病気だったのなら分かります。敢えて人に教えるようなことじゃないですからね」

霞「分かっているから聞かないわよ」

健夜「ありがとう。赤土さんの親友が罹った病は普通のものじゃなかったんだよね。原因不明の難病だったんだけど、憩ちゃんが完治させたんだよ」

由暉子「荒川さんって凄いんですね」

霞「難病を治してしまうなんてまるでリバーレストみたいね」

咲「……」


三人はリバーレストの正体が憩さんであることを知らないんだね。

私も京ちゃんとの約束があるから教えることはできないんだけど、会話を聞いていると違和感を覚える……

どうやら憩さんが医師免許を剥奪されてしまっていることも知らないみたいだし。


赤土さんの親友は私もよく知っているというか、何度も会っていてお世話になったことのある人なんだよ。

その人は憧ちゃんのお姉さんの望さんだからね。

望さんは婿を取って実家の神社を継いでいるんだ。

どこかのポンコツお姉ちゃんと違って、妹には厳しくも甘い優しいお姉さんなんだよね。

ただ、病気になっていたことを憧ちゃんの仕事に差し障るからって秘密にしていたりした点は何とも言えない。

憧ちゃんは今でもその一件についてはとても怒っているんだよね。

それで姉妹仲が拗れたりしているわけじゃないんだけど、とても大事なことを秘密にされるのってやっぱり頭にくるから。

私だってお姉ちゃんが密かに結婚していたことは絶対に許せないんだからさ……

今では望さんが重病にかかっていたなんて信じられないくらい元気にしている。

赤土さんの地元後援会の運営に携わっていたり、阿知賀こども麻雀クラブを支えていたりするんだよね。

麻雀クラブは玄さんが引き継いでいて、宥さんも手伝っている。

地元に帰ってきたプロが指導したりもしているからか、あのクラブ出身の子が全国小学生麻雀選手権やインターミドル、インターハイに出てくることがあったりもするんだ。


話しに聞く常のDr.Kなら望さんに高額の医療報酬を請求するはずなんだけど、彼女は治療費を求めなかったらしい。

だから、神社の存続が立ち行かなくなるなんてことも起こっていない。

多分、憩さんは可愛い後輩の家族が病に罹っていることをどこかで耳にしたから助けてくれたんだろうね……



System
・小鍛治健夜 ◆◆:5
・小鍛治健夜のカウンターが増えた結果、再び選択の時が到来しました


選択肢
①:"その時"が来た!
 幾つかのコンマ判定などを経て結末が少し変化する予定。条件が満たされているので永水や龍門渕の闇も判明します。

②:まだ時間じゃない!
 まだ選ばれていないキャラを安価で指定していく現状維持。"その時"は小鍛治健夜のカウンターが再び増えるまで選べません。


↓2~10で多数決(番号などがないものは安価下にずらします)

投票ありがとうございました。

選択肢②の現状維持に決まりましたので次の人物を決めますね。

↓2

ともきーは既に出ておりますので下へとずらしていくのんですね。

それでは次が赤阪郁乃に決まった所で本日の更新は終了いたします。次の更新は明日以降ということで~

乙です
健夜のカウンター大人組だと上がるのか?


大阪出身の憩さんが話題に出ていたからではないんだろうけれど、テレビの映像には大阪に関連する人物が映し出された。

それは今年のインターハイのダイジェスト映像のようで、決勝卓に出場した姫松高校へと丁度焦点が当てらている。

姫松の選手たちが着ているものは昔と比べて随分と奇抜で良い感じの制服になっているんだけど、あんな服だったかな。


健夜「郁乃ちゃんだ……」

霞「赤阪さんね……」


彼女の顔を見た健夜さんは渋面を作り、霞さんは苦虫を噛んだような表情を浮かべている。


由暉子「二人とも怖い顔ですね。そんなに渋い表情をしていると皺が増えてしまいますよ」

霞健夜「「はっ?」」

咲「はは、二人は郁乃さんが苦手みたいですね」

由暉子「赤阪さんを避けるプロの人って多いですよね」


咲「わりと好き嫌いが両極端に分かれている感じだからね。実際、少し面倒な人ではあるし」

由暉子「ですが、彼女は姫松高校を何度も優勝に導いている名伯楽です」

霞「実績と能力については私も認めているわ。ただ、あの緩いと言うか、どこかふざけた感じの態度とかあの性格がどうにも受け付けないのよ……」

健夜「郁乃ちゃんは女狐なんだよ。顔がとても広くてさ、昔から食えない性格をしているし……」


まあ、私も郁乃さんが良い性格をしていることはよく知っている。

年に何回か彼女から生徒の子たちを苛……ゴホンッ、扱……そ、そう鍛えて欲しいって頼まれるんだよ。

ちょっとインターミドルで活躍して天狗になっている子とか、少しだけ才能に恵まれている子の鼻っ柱を手折りたい場合とかに呼ばれることが多いかな。

私は手加減が得意だから、郁乃さんのオーダに合わせる感じで好きなように調節して料理できるからなんだろうね。

それに、わりと時間に暇のあるプロだってばれているのも大きいのかも。

自分の教え子だった洋榎さんよりも私の方にそういう話が多いっておかしくないかなとは思うんだけどさ……

まあ、その代わりに毎回大阪を中心とした関西圏の美味しい食べ物屋とかに連れて行ってもらえるから良いんだけどね。


あの人は本当に伝手が色々と豊富なんだよ。

久先輩が存命の頃なんかは二人の気があったのか、姫松と清澄で合同合宿を開いていたりもしたらしいし……


霞「少し姫松の学生には申し訳ないのだけれど、連覇が防がれて個人的には少し胸がすく思いがしたわ」

由暉子「姫松は決勝卓で負けて準優勝ですから。今年はダークホースが現れることもなく、ほぼ下馬評通りの進行でしたね」

咲「各県の名門校、伝統校が順当に勝ち上がってきたから少し面白みに欠けていた気がするよ。私としては長野の風越が優勝して嬉しかったけど」

霞「それはあの頃に比べると運の要素が弱められているルールだから仕方がない側面があるわよ」

健夜「そもそもダークホースが優勝を掻っ攫ってしまう方が珍しいんだよ。インハイ初出場校が優勝を決めるなんて話しはもっと稀なことだから」

由暉子「元々麻雀の強い子は初めから強豪校に通いますし、普通の高校と比べれば練習の質と量が段違いだったりしますからね」

霞「それを覆してしまうほどの才能を持つ選手が出てくることは中々ないもの。それに、やっぱり指導者の存在も大切よ」

咲「分析や対策、指揮を取れる人がいないと勝ち残るのは難しいのは分かりますけど……」

由暉子「ここにいる四人はあまり実感がない所ですよね。有珠山では爽先輩がそのような役割を担ってくれていましたし」


健夜「まあね。それでも郁乃ちゃんが指導者として優秀なのは私でも分かるよ。才能を見つけたり、伸ばしたりするのが得意と言うか、指導方針は大分緩いように見えて的確だったりするし」

霞「人の苦手としている所とか粗を見つけるのが上手い感じかしら」

咲「あの人の入れ知恵で余計に苦戦させられたんですよね。おかげさまで弱点を克服はできましたけど……」

由暉子「そうだったんですか。そう言えば赤阪さんは揺杏先輩と気が合うみたいなんですよね。インハイの開催中に一緒に飲んでいたって聞きましたし、何着か服を仕立てたらしいです」

咲霞健夜「「「(学生の着ていた服の正体はそれか!)」」」



System
・小鍛治健夜 ◆◆:6
・小鍛治健夜のカウンターが増えた結果、再び選択の時が到来しました


選択肢
①:"その時"が来た!
 幾つかのコンマ判定などを経て結末が少し変化する予定。条件が満たされているので永水や龍門渕の闇も判明します。

②:まだ時間じゃない!
 まだ選ばれていないキャラを安価で指定していく現状維持。"その時"は小鍛治健夜のカウンターが再び増えるまで選べません。


>>239
その通りです。大人組みが選ばれることで小鍛治健夜のカウンターは上昇します。


昨日の今日ですが、カウンターの上昇に伴い選択安価となります。

↓2~10で多数決(番号などがないものは安価下にずらします)

2
もし選べる大人がいなくなったらどうするん?

その時ルートに固定とか咲か誰かのきっかけでその時が来るように変えるか……とかそんなんじゃね?
2


>>251
選べる大人がいなくなれば>>254が言うような感じにする予定です。

それでは、2ということで次の人物を決めますね。

↓2


咲「見たい番組が始まるのでチャンネルを変えますね」

由暉子「あれ? 咲さんも見ていたんですか」

健夜「ん? この時間から始まるのってはやりちゃんも出演しているドラマだよね。確か、原作は漫画だったかな?」

霞「漫画で合っているわよ。その漫画の作者がエイちゃんなのよね」

健夜「エイちゃん?」

霞「覚えていないかしら? 私が三年生の時のインターハイで岩手代表の宮守から出場した留学生の子がいたでしょ?」

咲「ほら、ニュージーランド出身のエイスリン・ウィッシュアートさんですよ」

由暉子「照さんを押さえて和了率が全国一位だった選手です」

健夜「ああ、ウィッシュアートさんか。そっか、あの子って漫画家になっていたんだ。知らなかったよ」


咲「漫画はアニメ化もされているんですよね。二期の放送がされていて、三期目はあるのか分からないですけど」

霞「スピンオフ作品の方が映像化される可能性が高いんじゃないかしら?」

由暉子「どうなんでしょうか?」

咲「私は聞いてないです」


エイスリンさんはインハイ終了後、新年を迎える前に留学を終えてニュージーランドへと帰国した。

母国で大学に籍を取得して、一年後に日本へと再び渡航してきたらしいんだ。

大学の方で基本的なことを学び、日本でもインターネットの通信を利用して講義を受けながら単位を取得していたとは聞いている。

日本にいる間は当時プロになっていた豊音さんの付き人みたいなことを少しの間だけしていたみたい。

それも一時期なことで、本分としては画家になろうと頑張っていたらしいんだよ。

慣れ親しんだ日本に再び来たのは大学と提携のあるヨーロッパの学校が開校する時期までの骨休みだったそうなんだ。

彼女はヨーロッパへと留学して絵描きになるために活動を続けたそうなんだけど、結局は評価されなかったんだよね。

だから、かなり落ち込んでしまってニュージーランドに帰国して祖父母の営む牧場でのんびりと酪農をして過ごそうかと考えたらしい。


ニュージーランドへ帰る前に彼女は友達のいる日本に立ち寄ったんだ。

丁度、その時はインターハイの開催されていた八月の時期で、当時プロになっていた私は解説に呼ばれていたんだよね。

豊音さんも他局だけど同じ仕事で地方から東京の方に出てきていて、一昔前を一緒に懐かしんでいたのを覚えている。

だから、東京にいた豊音さんの所にエイスリンさん来日の一報が届いたときには頼られたんだよ。

その頃はまだ彼女は恵比寿に所属していなかったから活動拠点が東京じゃなかったんだよね。

私は頼られたことが嬉しくて東京の案内役を引き受けたんだけど、はっはっは、迷子になったよ……

他にも数々の失敗をした観光案内でエイスリンさんも少しは気分が紛れたのかもね。

それで、お酒を飲んで、妙なテンションのまま彼女が息抜きで書いていた漫画を三人で出版社に持ち込んじゃった。

それが思いの外に好評で、月刊誌で連載してみないかと言う話しにまで進んだんだよね。

もしかしたら、私と豊音さんがエイスリンさんの側に控えていたのが一種の圧力になっていたのかもしれないけど……


霞「随所にブラックな話題が散りばめられているのよね」

咲「現代麻雀の抱えている闇と言うか、裏側にスポットが当てられていることも多いですから」

由暉子「出てくるキャラクターのモデルとなったと思われる人物に心当たりがありすぎて、プロなら別の意味でも楽しめますよね」

健夜「へえー、そうなんだ。咲ちゃん漫画持ってる?」

咲「ありますよ。エイスリンさんの直筆サイン入りの保存用と布教用のものが。良ければアニメと合わせて漫画も全巻貸しましょうか?」

健夜「じゃあ、後で借りさせてもらうね」

由暉子「そう言えば、作中には健夜さんをモデルとしたキャラクターも出ていましたね」

健夜「えっ!?」

咲「正確には私とお姉ちゃんに健夜さんの要素がブレンドされたキャラだけど」

由暉子「作中最強の実力者で、強くし過ぎたせいか作者も持て余している節があります」

霞「まあ、扱いは完全にラスボスって感じよね」


エイスリンさんは現在二本の連載を抱えている。

一つは今ドラマ化もされている作品でデビュー作でもあり、日本を舞台としている。

もう一つは同じ世界観なんだけれど、海外を舞台にしたお話しでこちらはWebで連載されている。

Webの方は日本語版と英語版の二つが用意されていて、海外ではこちらの方が人気が高かったりするんだよね。

世界的な麻雀ブームの影響で数多くの麻雀を題材とした漫画が連載されているんだけれど、彼女のものは異彩放っている。

そんな人気作家と呼べるエイスリンさんなんだけれど、本人としては純粋な絵の方を評価されることが夢なんだとか。

だから、今も空いている時間には絵画を描いていたりする。

まあ、残念ながら純粋な画家としては鳴かず飛ばずらしいんだけれど……



System
・真屋由暉子 □□:23


↓2

既に玄は出ておりますので一つ下へとずらしてかおりんですね。

それでは次が妹尾佳織に決まりましたところで本日の更新は終了いたします。

次の更新は明日以降ということで~


番組の間に挟まれたCMを見て健夜さんがポツリと呟いた。

健夜「宝くじか……」

咲「宝くじがどうかしたんですか?」

健夜「オータムジャンボの発売があるでしょ? 買わないといけないなって思いだして」

咲霞由暉子「「「!?」」」

由暉子「健夜さんが宝くじを買う必要なんてないと思うんですけど?」

咲「買ってもまず当たらないんですから無駄遣いですよ」

霞「どうして宝くじを買うのかしら?」

健夜「家では昔から買っているから。もしかしたら当たるかもしれないし、咲ちゃんたちは買わないの?」

霞「私は買わないわ」

由暉子「一度だけ興味本位で買ってみたんですが、全部外れてしまいましたから」

咲「お父さんとお母さんが昔は買っていたんだけど、家族がバラバラなったのを機に辞めちゃったし。関係が修復された後も買ってないみたいで、私も必要がないから買ってないですよ」


健夜「あれ? 最近の若い子はひょっとして買わないの? 当たるかもしれないドキドキと当選番号を一枚一枚確認するのが面白いのに……」

由暉子「夢を買っているんですね」

霞「あれは興行主が儲かるようになっているのよね。昔は寺社が主催して開いていたりもしたのよ」

咲「へえ、そうなんですか。でも、私の知り合いに宝くじに当選した人がいますね」

健夜「それってどうせ十万円とかって落ちなんでしょ?」

咲「いえ、ジャンボ宝くじで一等ですよ」

健夜「ふぁ!?」

由暉子「それは、すごいですね」

咲「本当にすごいよ。生まれて初めて買った宝くじで当たったんだから」

霞「強運の持ち主なのね」

咲「色んな意味でビギナーズラックが強い人なんですよ。麻雀を始めたばかりの頃は役満を何度も出していましたし……」


健夜「私もそうだったよ」

由暉子「健夜さんと同じだと考えると、その人が化物か何かに思えてきました」

健夜「ちょっと、ユキちゃんどういう意味かな?」

霞「健夜さん並に強い人の話しなんて聞かないわね」

咲「まあ、健夜さんみたいな人が早々何人もいたらアレですから。彼女は麻雀のルールを覚えてからは平凡な打ち手に変わってしまいましたし」

霞「本当にビギナーズラックなのね……」

咲「他にも色々と逸話があるんですよね――


初めて飛行機に乗ったらエンジントラブルによる胴体着陸に遭遇した。

テーマパークへ訪れたときには丁度総来場者数のキリ番になって記念品を贈呈されたことも。

新卒で入社した会社はちゃちゃのんショックの煽りで潰れてしまって、再就職も思うようにいかない中で偶々購入した宝くじが当たったらしい。

資産を分散しようとよく分からずに購入した株が大化けしてしまった。

結婚相手を探して最初にお見合いした相手が詐欺師で逮捕の切っ掛けになるお手柄をあげたりしたなんて話し。


咲「――他にも色々と。初めてするようなことでは何かと妙な奇縁がある人なんです。その後は打って変わって平凡になるみたいなんですけど」

健夜「なんだか、一部不穏なものも入り混じっているんだけど……」

由暉子「もしかして、その方は呪われているのでは?」

霞「興味深い人ね」


佳織さんの話しは全て幼馴染である智美さんからの又聞きなんだけどね。

最初は私も脚色しているんじゃないかって疑ったんだよ。

だけど、証拠となる写真とか色々見せられて信じざるを負えなかったんだ。

今は結婚して地元の長野で暮らしていると聞いている。

ただ、下手にお金を持ってしまったせいで一時期は苦労したらしい。



System
・真屋由暉子 □□:24


↓2


2スレ目の現在までの結果(前スレは>>20 改行限界の都合で見辛いかもだけど)

煌:衆議院最年少議員 応援したい、その背中 コンマ59 >>43
初瀬:風に舞う木の葉のような人生でした コンマ84 >>74
智紀:龍門渕情報部のボス コンマ60 >>93
純:龍門渕執事(警備主任兼任) コンマ70 >>133
利仙:プロ雀士になるも1年で引退。霧島神境の意向か? コンマ31 >>148
憩:リバーレスト―闇の医師― コンマ84 >>166
望:実家の神社を継いだり赤土後援会の運営に携わっていたり阿知賀こども麻雀クラブを支えていたり難病に罹ったり コンマ58 >>199
郁乃:姫松の名伯楽。でも苦手に思う人多数 コンマ02 >>242
エイスリン:人気漫画家。だが画家の夢は断ち難く コンマ68 >>264
佳織:ビギナーズラックは健在。ゆえに波乱の人生 コンマ68 >>289
怜:コンマ36 


番外編:―かれいなるさきさんのいちにち― >>21


謎カウンター
・宮永咲   ◇◇:6
・石戸霞   ■■:29
・真屋由暉子 □□:24
・小鍛治健夜 ◆◆:6("その時"を待つ。増えたら選べるかも)
("その時"の到来で永水と龍門渕の闇が判明します)

>>303
まとめていただいてありがとうございます。



霞「運は大切よね。麻雀も含めた全てのことでそれが言えるわ」

由暉子「運さえよければ素人でもプロに勝てると言われてしまうのが麻雀ですからね」

咲「理論上はそうなんだけど、健夜さんに勝てるのかって尋ねたら殆どの人は首を横に振るよね」

健夜「あはは、でも麻雀において運の要素はやっぱり大切だと思うよ。だけど、麻雀は運だけだと言い切ってしまうようなプロは三流だとも思っているけど」

由暉子「オカルトの使い手が運について論じるのは変な気もします」

健夜「計算上では説明できない牌の偏り、不可解な和了とか色んなタイプがいるからね」

咲「だから、完全なデジタル派とは麻雀の考え方が根底から合わなかったりするんですよ」

霞「オカルトを一切認めようとしない完全デジタル派は近年では少数派ね」

由暉子「有名な人だと和さんくらいです」

霞「だからこそ、ネット麻雀では他の追随を許さない無類の強さだとも言えるわ」

咲「一部からはコンピュータとまで呼ばれていますから」


健夜「優れた人工知能と比べたらどちらの方が勝つのかな?」

咲「和ちゃんが言うにはまだ人間に追い付いてはいないそうです。ただ、いずれ究極のデジタル雀士は機械から生まれてくるのではと言っていました」

由暉子「まだ先は長そうですよね。コンピューターとプロ雀士の対戦では今の所は雀士がずっと勝ち越していますし」

健夜「あれは面白い企画だよね。ロボットに卓へと座らせて牌を打たせるんだから」

霞「実際に牌を握って麻雀を行うことでオカルトの能力が発動して、コンピュータが弾き出した計算が狂ってしまっている側面もあると思うわ。もしも、勝負がネットワーク上でなら軍配は機械の方に上がる可能性も高いのじゃないかしら?」

咲「そうかもしれませんね。その内に、機械もオカルトの予測も含めて打つようになるんじゃないですか?」

由暉子「実際の雀士、デジタル派もオカルト派も関係なく行っていることをAIがするようになるんですか?」

咲「そうじゃない? 傾向と対策、過去の牌布から読み込んで相手に合わせた打ち方をする」

由暉子「そこまで到達したのなら、人と機械に大きな差があるんでしょうか?」

霞「機械はオカルトを使えないわ。だから、オカルト雀士ならそう簡単に負けることはないと思うわよ」

咲「そうかな……」


由暉子「機械とは少し違いますが、実際にデジタル派の雀士が強力なオカルト雀士に打ち勝てない場合が多いのも事実です」

健夜「理論、技術、運、色んな要素があるけれど、麻雀は四人で競う点も大きいよ」

咲「確かに一対一なら読み切れても、人数が増えるほど予測は困難になりますから」

霞「完全な予測。未来を知ることなんて……そう言えば、それができる子もいたのよね」

咲「怜さんですね」


園城寺怜さんは高校卒業後に最新の医療技術、科学の粋を集めるアメリカへと渡ったんだよね。

そして、病の完治を目指して長い療養生活を始めたんだ。

だけど、アメリカの医療費は高く、ご両親が集めた資金も次第に尽きていってしまった。

だから、怜さんは自分でお金を稼ぐことにしたんだよ。

そのために取った手段がカジノでのギャンブル。


一巡先を見る能力は何も麻雀だけに限定されるものではなくて、あらゆることに利用できる脅威の性能だった。

未来を視ることができるなら負けることなんてまずあり得ず、とんとん拍子で大金を稼いでいったんだ。

むしろ、巻き上げたって言い方が正しいような気がする。

僅か数十ドルから短期間に巨額なお金を稼いだんだけど、彼女は勝ち過ぎたんだよね。

不正を疑われて裁判沙汰となり、勝訴はしたもののケチがついてしまったと言うか。

今では"先読みの魔女"と呼ばれてカジノ業界からは怖れられ、ラスベガスではブラックブック入りを果たして入場禁止になっているらしい。

そして貯えた潤沢なお金で治療を続けたんだけれど、完治にまでは至らなかった。

十分にお金はあるのだから、そこで満足して辞めていれば良かったのに怜さんはプロのギャンブラーになってしまった。

今では語り継がれるような生ける伝説のギャンブラーだよ。


由暉子「彼女は超能力者です」

健夜「博徒としては有名だけど、雀士としては微妙だよね。未来が見えていても勝てない程度の腕なんだから」


霞「人間を辞めてしまっているような人から見ればそう見えるのよね……」

咲「お姉ちゃんを相手に三人がかりでも止められなかったんだから、健夜さんの評価も仕方ないんじゃないかな?」

霞由暉子「「…………」」

健夜「だよね」

咲「でも、昔よりは強くなっている気がします。今は三順先までなら大丈夫だって聞いていますから」

由暉子「三順ですか。インハイで倒れたときは驚きましたよね」

咲「確かに、あれにはビックリだったね。でも、あの頃よりは健康みたいだよ」

霞「あら、そうなの?」

咲「ええ、この前、ここに訪れた大阪組の中に彼女もいてそう口にしていました。それに、命を懸ければ一局だけなら誰にも負けないと豪語していましたね」

健夜「へえ、命懸けなの?」

咲「死の四順目から先を使えば生死に関わるのだとか」

由暉子「死の四順目!」


霞「大袈裟ね」

咲「冗談とかじゃなくて、実際に無理をして生死の境を彷徨ったそうですから」

健夜「まさか」

咲「吐血したり、耳目や鼻からも血が溢れて来たって言ってたんですよ」

霞由暉子健夜「「「…………」」」

咲「偶然居合わせた凄腕の医者がいなければ命を落としていたとか……」


人の運命って言うのは奇々怪々なもの。

私は怜さんの自業自得だったとも思うんだけどね。

ギャンブルに深入りしすぎた彼女は、華僑の運営する賭博場で勝ち過ぎてマフィアと命懸けの賭けをすることになったらしい。

勝負に負ければ殺される状況だったからこそ、随分と無茶をやらかしたのだとも聞いている。

本人は若気の至りとか口にしていたけどさ。


それで、血反吐を吐き、命を使って血みどろの勝利をもぎ取ったんだけど、まさに体は風前の燈火。

偶々、マフィアの頭目を治療するために訪れていたとある医者、Dr.Kがいなければ三途の川を渡っていたんだろうね。

リバーレストは顔見知りである怜さんの体を治療したそうなんだけど、彼女が目を覚ます前に姿を晦ましていたそうなんだよ。

だから、怜さんは自分を治した医者の正体を知らない口ぶりだった。

ただ、書き置きが残されていたらしい。

もしも、病を完全に完治させたいのなら改めて連絡を寄こすようにとね。

代償として、未来を視る能力は失われることになるとも書き添えられていたと言っていた。

そして怜さんは病の完治をすっぱりと諦めた。

流石はリバーレストと称賛すべきなのか、治療を施した結果、以前よりも体調がすこぶる良くなっていたそうだからね。

日常生活では困らないし、ある程度の運動も問題ない水準まで快復していたのだとか。


健夜「無茶をやらせなければ、少しは楽しめるのかな? 咲ちゃん、園城寺さんとのセットを頼めるかな?」

咲「ああ、多分無理ですね。麻雀はもう長いことやっていないそうですから」

健夜「あれ?」

咲「お姉ちゃんに負けて燃え尽きたそうですから。遊びでならともかく、健夜さんが楽しめるくらいの本気を出すことはないと思いますよ」

霞「憐れな犠牲者は生まれなそうね」

由暉子「安心です」


この前来たときも、手品みたいな未来予知能力を披露してはくれたんだよね。

懐かしい顔ぶれが一堂に集まったわけだから麻雀もしたんだよ。

だけど、怜さんは観戦するだけで決して打とうとはしなかった。

多分、あのインハイで雀士としての怜さんはお姉ちゃんに殺されてしまったんじゃないかな。


怜さんが何を考えているのかは分からないところが多々ある。

お金は十分あるはずなのにギャンブルを続けていたりするのも理解できない。

能力を失う代わりに健康な体を手に入れられたかもしれないのに、それを袖に振ってしまっているしさ。

それでも流石に反省はしたそうで、安全なカジノでしか遊ばないとは言っていた。

だけど、完全に足を洗うわけじゃないのがなんとも言えないよ。

最近は博徒以外の仕事として予想屋のようなことも始めたらしい。

脅威の的中率を誇っているから、非常に人気があるそうだけどね。

まあ、本人が楽しいなら良いんだけど……



System
・真屋由暉子 □□:25


↓2


System
・安価先が二条泉で下一桁がコンマ4のため……


それでは次が泉に決まった所で本日の更新は終了いたします。次回の更新は明日以降ということで~


由暉子「漫画などのフィクション世界では格好良く描かれていますけど、博徒なんて今もいるんでしょうか?」

咲「いると思うよ。だけど、私には博徒っていう存在が分からないけどね……」

霞「一応、ギャンブラーとして名を馳せている怜ちゃんは博徒に当たるのかしら?」

咲「怜さんは一応博徒ではありますけど、イメージとは離れていると言うか、本の中からそのまま出てきたような人とは違いますから」

由暉子「そうですよね。私はそんな人とは会ったことがありません」

健夜「大昔と違って麻雀は裏よりも表の方が稼げる時代だからね。イメージに合うような真の博徒なんて呼ばれる麻雀打ちは少ないと思うよ」

霞「そうね。今では麻雀も幾つもの大企業がスポンサーとして控えていて、開かれる大会の興行収入も大きいわ。世界で十億人が遊んでいる巨大市場なのだから当然なのだけれど」

健夜「まあ、動くお金の桁が違うからね。世界のトッププロなら年に数十億単位のお金を稼ぎだすのが普通だから」

咲「ネリーちゃんも二十代の若さで小国の国家予算規模の資産を貯め込んでいますね……」

由暉子「咲さんや健夜さんだってすごいじゃないですか」

咲「だから、余計に分からないんだよ。十分に実力があるのに裏で活動する人たちが何を考えているのかなんて」


由暉子「裏と伝手のある人ならプロの中にもいますよね……」

健夜「ちゃちゃのんショックで追放されたのも一部だからね。今も裏と関わっている人が多いのも事実だよ」

霞「あら、そんなことを協会の本部と関わっている人が口にしても良かったのかしら?」

健夜「公然の秘密だから。皆分かっていながら敢えて踏み込まないんだよ……」

由暉子「裏と関わっているのは男性プロの方が多いですよね」

健夜「そうだね。加えるなら古い時代を生きた人も裏と関係している傾向が高いかな」

霞「麻雀が世界的ブームになる前の時代、黎明期は表よりも裏の方が稼げたらしいから年配の方はそうなのかしらね」

咲「それに、景気が良い頃は高レートの雀荘が街中に幾つも立っていたのだとか」

由暉子「今は景気が良くとも昔のような勢いはありませんから」

健夜「まあ、もうその頃を知る人も少なくなっているよ。私だって伝え聞いたものしか知らないし……」


私には分からない。

命を賭けてまで麻雀に挑む人の心理には理解が及ばない。

人の生死が関わる麻雀なんて二度とは打ちたくはないと思う。

勝っても後味が悪く、負けて勝手に死を選ぶ人は本当に迷惑だよ。

そう言えるのは私が二条泉に引導を渡したのだから。

二条さんは高校一年生のインハイで敗北し、国麻では惨敗したことでそれを糧に成長した。

私たちの出場できなかった二年生時のインハイでは、個人の方でも決勝卓に残ったんだよ。

そして、国麻でも良い成績を残した。

だから、翌年までは彼女の方が世間的には私たちよりも高く評価されていたんだ。

まあ、本人としては直接対決がなかったから認めていなかったみたいだけどね。


そして、春大では千里山のエースとして先鋒を務めた結果、優希ちゃんに大量失点してしまった。

続くインターハイでは大将に据えられていたんだけれど、出番が来る前に試合は終了したんだよ。

その後の個人戦ではインターミドルの頃からライバル視していた和ちゃんに敗れ去った。

高校最後の公式戦となる国麻では初戦から私と卓を囲むことになったんだ。

まあ、その時の彼女は啖呵を切って私に勝負を挑んできたから、全力で叩きのめしてあげた。

それで完全に調子を崩してしまったのか、その後もボロボロの麻雀を打って国麻史上で最多となる失点を記録している。

この記録は今も破られることなく、これから先もそう簡単には塗り替えらることもないんじゃないかな。

そんな二条さんは、それでも淡ちゃんよりはある意味でメンタルが強かった。

最強を自称していただけのことはあったというべきなのか、それへの拘りが強かったからこそああなってしまったのかもしれない。

私に完全敗北を喫したことで流されるのではなく、自ら道を踏み外した。

大学からの推薦や実業団からの勧誘も断ったんだ。

常道を進んでいたのでは決して私には勝つことができないことを悟ったのだと彼女は口にしていた。


二条さんはオカルト持ちじゃない、麻雀の上手な子に過ぎないのだから。

だからこそ、向こう側の住人に勝つ力を求めて野へと流れ、裏へと進んだ。

地元の関西で肩を慣らした後、彼女は東京へと進出する。

そこで、本格的に裏プロを相手にし、目当ての人物を求めて組のシマを荒らして回ったそうだよ。

そして、彼女はお姉ちゃんとも渡り合った辻垣内智葉へと弟子入りした。

二条さんは自身の目的を打ち明け、組の代打ちとなって地獄廻りを始めたんだ。

裏に潜む住人達と死闘を繰り返し、汚れ、堕ちていった。

二条さんが高校卒業後、表舞台から姿を消して何年も経ってから一本の電話がかかってきた。

発信元はお姉ちゃんで智葉さんから頼まれたらしく二条さんと卓を囲んで欲しいとのお願いだった。

私はそれを軽い気持ちで引き受けたんだよ――


麻雀を打つ場所は智葉さんの家が保有する長野にある避暑地の別荘だった。


泉『ようやく来たんか、久しぶりやな宮永咲』


再会した彼女を見ても、私はそれが二条泉だとは思えなかった。

頬は痩せこけ、左手の指を三本失い、サングラスを掛けた両目の中身は光を映さない義眼へと変わっていたのだから。

何よりも、身に纏う雰囲気が、かつての彼女とは比べられないものへと変じていたんだ。


咲『二条さん?』

泉『ああ、こんななりやから分からんかったん? 二条泉で間違いあらへん。宮永咲に勝つために地獄に半分ほど浸かってきたんや。ここまでご足労してくれたんやから、勝負を受けてくれるんやな?』

咲『……ッ!』


呆気からんと笑いながら彼女は座していた。

世界のトップランカーから感じたものとは別種の、勝るとも劣らない異様な気配を放っていたんだよ。

私は初めて感じたそれに萎縮し、返事に躊躇を覚えてしまったほどだ。


泉『あかんで、勝負を受けてくれへんなら私は死にますよ?』カチャッ

智葉『泉ッ!?』

泉『止めんでください姐さん。私はこのために生き延びてきたんやから』

照『本気?』

泉『ほんまやで』


二条さんは懐から取り出した拳銃を自分の側頭部へとあてがっていた。

死ぬことなんて恐れていないとばかりに、平然とした顔で笑っていたんだ。

もしも、誤って引鉄を引けば死んでしまうのに、暴発が起きたら命を落とすのに、それを意にも介さない彼女に私は呑まれかけていた。


咲『う、受けるから!』

泉『おおきに。ルールは持ち点が十万点で私か宮永咲のどっちかが飛んだら終了や。点数を持ち越して決着がつくまで半荘を永遠と繰り返す』

照『私と智葉は?』

泉『二人は好きに打ってええですよ。ただ、箱を一度でも割ったらツモを切るだけに徹してください。それと、目が見えへんから打牌を読んで欲しいですね』

智葉『分かった』


細かなルールの確認を終えて、忌まわしい対局が始まった。

目が見えていないのに、二条さんは迷いなく山から牌を取る。

何千、何万と繰り返してきたからこそよどみはなく、本当に見えていないのかと疑ってしまうほどに流暢な動作だったよ。

そして、盲牌で牌を識別して第一打を打つ前に口を開いたんだ。


泉『宮永咲、本気で打ってもらえます?』

咲『分かってるよ』

泉『いや、分かってへん。うーん、やっぱり理由が必要みたいやな。実はなあんたの両親の身柄を押さえさせてもらってます』

咲照『『はっ!?』』

泉『嘘やと思うんやったら電話してみてくださいよ。通じませんから』


私とお姉ちゃんは確認のために何度も電話を掛けたが、お父さんとお母さんが出ることはなかった。


照『智葉、これは何のまね?』

智葉『いや、私は何も聞いていない。泉、どういうつもりだ?』

泉『本気を出してもらうには必要やと思いましたもんでね。二人の両親のことを思うなら姐さんも下手な真似はせんといてくだいよ』


智葉『お前ッ!?』

泉『宮永咲が勝てば何の心配もありませんから』

咲『負けたら?』

泉『聞きたいんですか?』


そう言って二条泉は口角を吊り上げ、サングラスを外して義眼を取り外した。

手の中からコツンコツンと音が響き、目玉のない両目の穴が私を覗いていたんだ。

不気味で、容易に残酷な結末へと想像をかき立てるには十分な脅迫だった。


智葉『三対一だ。悪いが早々に勝たせてもらうぞ』

泉『姐さん、とっくの昔に現役を退いたあんたが私の相手になると思うてはるんか? 私もなめられたもんやな』


照『能書きは良い。早くやろう』

泉『夜は長いんやから、チャンピオンも焦らんでええと思うんやけど。ああ、ちなみに言っとくで、私が負けたら死ぬつもりやから』

咲照智葉『『『!?』』』

泉『ほな、命を賭した麻雀を始めましょか』


人の命が賭しられた麻雀を打つことは初めてだった。

決して負けることが許されないこの勝負は、三対一と私たちの方が優位であるはずなのに異なる趨勢を示していった。

そして、最初に智葉さんが飛ばされてしまった。

じりじりと減らされていく点棒と、ひりひりと渇いていく喉。

この日まで命を削り、私を倒すためだけに戦い続け、研ぎ澄まされてきた彼女は想像を遙かに超えた強さだったんだよ。

それでも、負ければ大切なものを失うこの勝負に私は必死で喰らい続けた。


怪物となった二条泉を前にお姉ちゃんもいつしか倒れ、私と彼女の一騎打ちとなった。

何時間、何局、打ち続けたのかさえ分からないほどに勝負は続く。

死線を越え、視覚を失い、人知を超えた二条泉の強さは本物だった。

裏の世界でもより深い所で生き残り続けた彼女の麻雀は生命力に溢れ、私の知らない世界を見せてくれたんだ。

我武者羅に学び、吸収し、一局の中で成長して、最後に目の前の14牌を倒せば勝ちが決まる所で私の手は止まっていた。


咲『二条さん、ほ、本当に死ぬつもりなの?』

泉『ほんまや。だから、その手牌を倒して勝負を早う決めえや……』

咲『…………』

泉『罪悪感なんかこれっぽちも抱く必要はあらへんよ。どうせ、放っておいても私はもうすぐ死ぬんやから……』

咲『えっ!?』

泉『目や指だけやなく、ここまで辿り着くまでに体の臓器も幾つか失っとってな、余命幾ばくかなんや。だから、最後に心の残りが無いよう勝負に勝ちたかったんやで……』

咲『どうして、そこまで?』


泉『頂点を目指したら、凡人の私にはこれしか道がなかったんや。園城寺先輩かて死にかけて強くなれたんなら、私かてそうするしかないやろ?』

咲『分からないよ……私には理解できないよ……』

泉『そりゃそうやろな。ほんまに、あんたは骨の髄まで向こう側の住人なんやから、凡人の考えなんてわかるわけあらへん。その手配を倒して勝負を決めてや』

咲『うぅぅっ……』グスッ

泉『泣くなや! 勝者に泣かれたら、敗者の私が惨めやろうが……』


私は勝った。

手は痺れるように重く、命の重さが乗っているかのように牌も重かった。


泉『姐さん、長いことほんまにお世話になりました。最後までご迷惑おかけしてすんませんでした』

智葉『泉……』


照『私たちの両親はどこに?』

泉『ああ、アレな嘘や。おたくらのおとんとおかんは自宅でぐっすり眠っとるはずやで』

咲照『『はっ!?』』

泉『私の舎弟に命じて、薬を使うて眠らせたんや。三人とも騙されてくれはるんやから、私はアカデミー賞を取れる女優になれたかもしれへんな』


二条さんの軽い言葉によって私たちが呆気に取られた瞬間を見計らって彼女は懐から取り出した何かを呷り飲んだ。

そして、念を入れるように銃口を自身に向けていた。


泉『宮永咲、私に勝ったんやから負けるな。いつか、頂点を取ってこいや、これがほんまに最期の私のお願いや』


そう告げて、彼女は満足気な表情で引鉄を引いた。

部屋には銃声の音が響き渡り、薬莢の臭いが広がる。

卓上に倒れ伏した二条泉からは真っ赤な液体が流れていき、強い血の香りが鼻を満たしていった――


咲「本当に、裏で生きる人間は何を考えているのか私には理解できませんよ」

霞「知り合いでもいるのかしら?」

咲「ええ、いましたよ」

由暉子「いたですか……」

咲「そう、いたんだよ」


私に勝ちたいがためだけに身を持ち崩した博徒が一人ね……



System
・石戸霞   ■■:30


↓2


System
・安価先が江崎仁美でゾロ目のため……


それでは次が仁美に決まった所で本日の更新は終了いたします。

次回の更新は明日以降ということで……久しぶりのゾロ目ですね……


咲「うーん、原作の漫画やアニメの方と比較すると少し表現とかが柔らかくなってるよね」

由暉子「フィクションでもドラマですから仕方ないんじゃないですか?」

霞「関係各所へと配慮している感じよね。冒険心が足りないわ」

健夜「えっ!? 十分に協会とか批判的に映されているように見えるんだけれど……」

咲「原作を知らないとそう感じるのかな」

由暉子「同時期のドラマと比較すれば高い視聴率を取っていますし、これで十分なのしかもしれませんね」

霞「ドラマの影響で原作の売り上げの方も伸びているみたいよ」

健夜「割と出来が良いからそれには納得だよ。元のネタになっている部分をよく調べてあるというか、ウィッシュアートさんって外国の人なはずだよね?」

咲「まあ、麻雀関係者へのコネがあるのが大きいんでしょうね」

由暉子「牌布などについては咲さんが一部監修していますよね。ドラマのテロップにも名前が出てますし」


健夜「あれ? そういう仕事をしない咲ちゃんが珍しいね」

咲「あはは、その、私がエイスリンさんを漫画家にしてしまった責任があるので……」

霞「なるほどね。ドラマは学生麻雀編で終わりなのかしら?」

由暉子「尺の長さや展開速度を考えると、そうなりそうですね。次期があるのでしたら次のお話へと繋がるような終わり方をするのかもしれませんけど」

咲「うん、学生麻雀編の所で終わりだよ。二期については聞いていないから知らないけど」

健夜「編ってことは他にも第何部みたいな感じであるの?」

由暉子「裏麻雀やちゃちゃのんショックをネタにしている話があります」

霞「中々に穿った見方と解釈がされていて面白いのよね。作品の中心に麻雀が置かれているからそちらがストーリーの軸というわけではないのだけれど」

咲「まあ、ちゃちゃのんショックの起こりを考えれば麻雀こそが中心にあるのもあながち間違っていないような気がするよ」

由暉子「現役アイドル雀士のスキャンダルや政財界の混乱、そこから始まったリセッションの方へと目が向きがちですけど、そもそもの震源地には麻雀が関わっていますからね」

霞「そう考えると、現実の方が奇なものだわ」


健夜「あの前後のことについては陰謀論や様々な憶測が今でも飛び交っているからね……」

由暉子「最も有力なのは龍門渕財閥黒幕説です」

霞「不況の前後を比較すれば、一番利を得たのはそこだものね」

健夜「そもそも一財閥の行動で不況なんて起こせるものなのかな? それに、財閥なら景気の減速、後退は痛みを共うはずだから積極的に行うとは思えないんだけれど」

咲「短期的には損となっても、長期的に利益を回収できる見込みなら否定できないと思いますよ」

健夜「未来は不確実なんだから、ちょっとリスクが高すぎないかな? 世界規模にまで広がってしまった不況を制御できるとは思えないし」

霞「そう言われてしまうと黒幕だとは断言できないわね……」

由暉子「次に人気があるのは新政党黒幕説です」

霞「政界の汚職が次々と暴露されたわけだけれど、明らかに内部からの告発がなければ分からないようなものが多数あったものね」

由暉子「はい、そう考えるとクリーンなイメージを持たれているあの党が怪しく見えてくるわけです」

咲「今では衆議院での第一党になり、今度の参議院選挙でも勝利は確実だと言われているからね」


健夜「それって現在の状況から逆説的に考えるからそう見えるわけだよね。今の状況になるまで三回も選挙行われているんだけれど、そう上手くいくものなのかな?」

由暉子「民意を操れもしない限り難しいですか」

咲「アジテーター」

霞「あじっ? 咲ちゃんそれって何のことかしら?」

咲「扇動者という意味の英語ですよ」

由暉子「もしも民意を扇動し、誘導できるような何者かが存在するならば新政党が黒幕であってもおかしくないというわけですか」

咲「うん、歴史を見てみれば実際にそういうものが存在しているわけだからね」

健夜「現代の情報社会でそれは可能なのかな?」

由暉子「恣意的な報道やインターネットでの情報工作は実際に行われているわけですから不可能ではないと思いますよ」

霞「そう難しく考えなくても、昔からサクラという存在はいたわけだものね。それが不可能だという道理は通らないと思うわ」

健夜「そんなに上手くいくものなのかな?」


私は京ちゃんが龍門渕に関わる仕事をしていることしか知らない。

具体的にどんなことを行っているのかは聞いてもはぐらかされるし、教えてはくれない。

だから、彼が何をしているのかを知る手掛かりは少ないんだよね。

その内の一つが実はこのアジテーターという言葉だったりする。

偶々、京ちゃんが誰かと電話をしているのを盗み聞きしてしまった時に、会話の中でその単語が幾度か出ていた。

私にはアジテーターなのではないかと思う人物に少しだけ心当たりがある。

それが江崎仁美さんなんだ。

彼女は私が高校一年生時のインターハイで新道寺の中堅を務めていた人で煌さんの先輩に当たる。

私と煌さんの間には優希ちゃんや和ちゃんたちを通じての交流があったんだけれど、他の新道寺の人とまでは付き合いがなかったんだよね。

そんな彼女と私が深く関わりを持ったのは、京ちゃんが和ちゃんに監禁されてしまった時だった。

二人を見つけるために協力してくれた人の中に仁美さんもいたんだ。


協力者の顔ぶれには私の全く知らない人も多くいたんだけれど、共通点としては京ちゃんか和ちゃんのどちらかとそれなりに関係がある人たちだった。

そして、仁美さんは和ちゃんではなく京ちゃんの関係者だったんだよ。

私にはいつの間に京ちゃんと仁美さんが知り合っていたのか分からなかった。

少なくとも、京ちゃんから彼女の名前を聞いたことは一度もなかったし、どこで一定の信頼関係を作ったのかも見当がつかなかったんだ。

通っていた大学は別々で、そもそも同じ都道府県ですらない。

仁美さんは大学では麻雀の部やサークルに所属していなかったからそちらで出会う線も考えられない。

合コンとかも京ちゃんには恋人の和ちゃんがいたからあり得ないわけで、本当にどういった伝手なのかがよく分からなかった。

だから、彼女に疑問に思ったことを正直に尋ねたら仕事仲間だと答えてくれたんだ。

当時は京ちゃんが行方不明という非常事態でそれになんの疑問にも思わなかったんだけれど、思い返してみれば変なんだよね。

仁美さんは大学卒業後に当時与党だった政党の職員に就職している。

京ちゃんは学生だけど透華さんの仕事を手伝っていたから、龍門渕の関係者でもないのに仕事仲間という言い方はおかしい。

それが仁美さんこそがアジテーターなのではないかと疑う根拠の礎なんだ。


彼女の経歴には不自然な点もあるんだよ。

ちゃちゃのんショック後に与党は分裂したんだけれど、彼女はどういうわけか新政党の幹部職員となっていた。

たとえ人手不足だとしても、平の職員からいきなり抜擢されることなんてあるのかな。

新政党には煌さんが所属しているわけなんだけれど、彼女を政界に引き入れたのは仁美さんなのではないかとも私は疑っている。

仁美さんは煌さんの先輩なのだから、高校卒業後も関係が継続していても不思議ではない。

煌さんは今では党の看板に立っているわけだけど、政治家を目指していたなんて話しは一度も聞いたことがなかったんだから。

彼女の性格を考えれば、もしも誰かに頼られたならば期待に応えようとすると思うんだ。

だからこそ、仁美さんが余計に怪しく思えてくる。

私が知る限りでは京ちゃんの知り合いの中で政党と深く関係があって疑わしい人物は仁美さんだけなんだよ。

仁美さんと京ちゃんに何らかの関わりがあるのは間違いない。

もしかしたら、彼女は龍門渕と政党を結びつける単なるパイプ役なのかもしれない。

でも、わざわざアジテーターなんて呼称されている人物が彼女だったのなら、もっと大きな役割を担っていたとしても不思議じゃないと思うんだ……


咲「私は不可能じゃないと思っていますよ。技術の発達と蓄積されたノウハウはバカにできないんじゃないかな」

霞「作られた民意ね」

由暉子「サブリミナルと言うものもありますし、知らない内に思考を誘導されていたとしても不思議じゃないですよね」

健夜「陰謀論的だね……」



System
・安価先が江崎仁美でのゾロ目により、江崎仁美は――とならず、――――はなりませんでした
・安価先が江崎仁美でのゾロ目により、須賀京太郎は信頼のおける仲間を得ました
・石戸霞   ■■:31


↓2


System
・安価先が安河内美子で下一桁がコンマ4のため……


ま、まだ、姫松や風越、鶴賀には希望があるはずですから……4とゾロ目が続いてますけど……

次が美子に決まった所で本日の更新は終了いたします。

それと明日は更新をお休みさせていただきます。


霞「内輪でちゃちゃのんショックについて話しをするのは問題ないのだけれど、実際に真相を追求することは辞めておいた方が良いんでしょうね……」

由暉子「消される可能性があります……」

咲「佐々野さんだけじゃなく、何人ものジャーナリストが行方不明や謎の不審死を遂げていますよね」

霞「警察もきちんと捜査をせずに明らかにおかしいものまで自殺で済ましている件があるわ」

由暉子「命が助かっても爽先輩のようなこともあり得ますから……」

健夜「見せしめや警告なんだろうね」

咲「雀士の行方不明事件もちゃちゃのんショックと関係があるのかな?」

由暉子「素人では判断できませんよ」

霞健夜「「…………」」


ちゃちゃのんショックの真相を究明しようとした結果、命を亡くした人の中には安河内美子さんの名前もある。

彼女は高校を卒業して大学へ進学するのではなく大手の報道機関へと就職した。

そこで数年の下積みを経た後にフリーのジャーナリストへと転向したんだ。

安河内さんがフリーの記者へと転じたのは、上からの圧力などで揉み消された真実などがあったことへの反発だったと煌さんから教えてもらったことがある。

企業に縛られることがなくなった彼女は独自の調査で大きな事件を何度かすっぱ抜いたこともあった。

そんな安河内さんだからこそ、ちゃちゃのんショックへと関心を持つのは当然だったのかもしれない。

おそらく、真相を追う内にどこかの段階で知られてはまずい情報を彼女が掴んだことがばれたのだろう。

だからこそ、安河内さんは消されることになってしまったのだと思う。

彼女の遺体は某県のとある埠頭にある倉庫で発見された。

正直に言って、顔を背けたくなるような酷い仕打ちがなされていたらしい。


彼女を殺害した犯人は既に捕まっている。

裁判では現場に残されていた体液と犯人たちのDNAが一致したことが決め手となった。

実刑を受けている彼らの素性は規模の小さな組の構成員。

彼らは蜥蜴の尻尾のようなものなんだろうね。

安河内さんの自宅は荒らされ、実家も不審火で消失してしまっている。

そして、彼女の友人だった人たちの所にも一時の間、怪しい風体の人影がちらついていたらしい。

何よりも、命懸けで掴んだであろう情報は綺麗に消されてしまっていた。

ネットワーク上に保全されていたはずのファイルまで、完全に消去されていたんだよ。

これらの全てはどう考えても小規模な組が行えるようなことじゃないと思う。


霞「真相は闇の中へと永遠に葬られ、いつかは人々の記憶からも忘却されるのかしら」

健夜「そうれはどうかな。人の口に戸は立てられないんだから、どこからか噂として漏れてしまうかもしれないよ」

咲「そうかもしれないですね。だけど、真実が判明しても失った人の命は帰って来ないんですよね……」

由暉子「私としては真実よりも平穏が欲しいと思います。爽先輩には穏やかなまま過ごして欲しいですから」


安河内さんの葬儀には私も参列している。

彼女との関わりは薄かったけれど、仕事の関係で何度か顔を合わせていて見ず知らずの中じゃなかったからね。

参列者の中には新道寺の人たちも当然いて、煌さんや姫子さんは泣いていた。

哩さんは気丈に振る舞っていたけれど悲しんでいるのが傍目からもよく分かる表情をしていたんだ。

その中にあって仁美さんは少し違っていた。


悲しんではいたけれど後悔の色合いが深く、少しだけ、本当に僅かだけど侮蔑の感情も交っていたように思う。

それが気になって彼女の側にいたら『そいけん、言わんけんこつやなかん』っと呟いたのが聞こえてきたんだ。

仁美さんは事前に安河内さんに警告を発していたのかもしれない。

真実は分からない。

未だにそれは闇の中にあるのだから。

ただ、仁美さんがそれについて知っているなら、京ちゃんも知っている可能性が高いのかもしれない……



System
・石戸霞   ■■:32


↓2


健夜「ドラマの中に咲ちゃんみたいな子がいるね」

由暉子「咲さんと比べるのは失礼ですよ」

霞「そうよね。咲ちゃんの方がよっぽど酷いわ」クスッ

咲「ちょっと霞さんそれどういう意味ですか? 私も確かに迷子になりますけど、無口でもあそこまで口下手でもありませんし、痛いファッションもしていないですよ。それに、あんなにお菓子ばかり食べている偏食家でも怠け者でもありませんから!!」

由暉子「列挙されるとすごいですよね」

霞「照さんに、エイちゃんの友人である白望さんね」

健夜「理沙ちゃんとはやりちゃんも交ざってるよ」

由暉子「咲さんともこさんもです」

咲「ほら、どう考えても私より酷いから」

霞「ふふ、分かってるわ冗談よ」


おっぱいオバケがぁあああ!!

全く冗談なんかに聞こえなかったんだけど!?

霞さんは腹黒いからどうせ内心ではそう思ってるんでしょ。


由暉子「この役者さんはすごいですよね」

健夜「台詞はほぼ和了や鳴きしかないなかで魅せてくるからね。体の動かし方や表情の作り方、仕草がとっても上手いよ」

霞「コミュニケーション能力に問題のある人たちに爪の垢を煎じて飲ませるべきだわ。特に咲ちゃん」

咲「私よりもこちゃんの方が酷いじゃないですか」

由暉子「要介護要員がいる三雀士には必要なのでは?」

霞「別名、マネージャー殺し三人衆ね」

健夜「誰が酷いかちょっと決められないよね。以前は理沙ちゃんも入れて四天王だったっけ?」


由暉子「外面は完璧な身内殺し照! 迷走する魔王咲! ぼっち皇帝もこ!」

霞「少し照さんのキャッチコピーが弱くないかしら?」

由暉子「即興で考えたものですから」

健夜「マネージャーの死に体度で比べたら照ちゃん、咲ちゃん、もこちゃんの順番で最悪だよね」

霞「世間から見たコミュニケーション不全度はもこちゃん、咲ちゃん、照さんの順番ね」

由暉子「総合すると咲さんが一番アレだと思います」

咲「ユキちゃん、私が? いや、そんなまさか……」

由暉子「いえ、咲さんは酷いですからね?」


私はお姉ちゃんやもこちゃんよりはマシだと思っているんだけど。

お姉ちゃんは言わずもながらだけど、あのもこちゃんなんだよ。


世間では"無冠の帝王"なんて呼ばれているプロ雀士で、私から見ても第一線で活動する日本のプロの中では五指に入る実力者だと思うけどさ。

ただ、私以上にメディアへの露出を極端に避けているんだよ。

メディアに出たくないばかりに大きなタイトル戦への出場は避けているしね。

だから、規模の小さな大会やあまり知られていないような国際大会にばかり出ているから"無冠の帝王"なんて呼ばれているんだ。

その徹底したスタイルは高校生の頃から変わらずに続いている。

もこちゃんはインターハイや国民麻雀大会にさえ一度も出てこなかったからね。

私はプロになるまで彼女と卓を囲むことは一度もなかったんだ。

初めて戦ってみて、思いの外に強くて驚かされたことをよく覚えている。

公式戦に出場することなく東海を制した実力は伊達じゃなかったんだよ。


咲「やっぱり、お姉ちゃんやもこちゃんよりも絶対に私の方がマシだと思う」

霞由暉子健夜「「「…………」」」



System
・真屋由暉子 □□:25


↓2


咲「世の中には人とコミュニケーションを取りたくても取れない人もいるんですよね……」

健夜「そうだね。それに比べたら、コミュ能力が低いなんて贅沢な悩みだね」

霞由暉子「「????」」

健夜「でも、あれは一つの才能だよ」

咲「そうですけど、皮肉と言うかなんというか……」

健夜「靖子ちゃんに頼んで資料を確認させてもらったんだよね。それでプロへと勧誘したら断られたけど、もったいないよね」

霞「誰のことを言っているのかしら?」

咲「東横桃子ちゃんですよ」

由暉子「誰ですか?」

咲「あれ? 確かユキちゃんとはインターハイの個人戦で対戦経歴があったはずなんだけど?」

由暉子「えっ!?」


健夜「まあ、十年以上も前のことだからね。それに、あの子は特別に影が薄いから記憶に残っていなくても仕方がないんじゃない」

咲「そうですかね。うーん、それならインハイにまつわる怪談は知らないかな。存在するのにいない156人目の選手って話なんだけれど?」

霞「ああ、その話なら知っているわよ」

由暉子「私もです。昔のインハイで敗北して自殺した少女の怨霊が卓に入っているってお話ですよね。麻雀に負けてしまうと後日に大切なものを失ってしまうとか……」

咲「怪談話の落ちとかには色々と亜種があるみたいだけれど、オバケと卓を囲むのが共通点だね」

由暉子「噂の出所は高校二年生のインターハイの頃からでしたね。私も怖くてベッドの中で震えていたことをよく覚えています」

霞「昔、それに関連するオバケ騒動で霧島神境にお祓いの依頼がきたことがあったのよね。皆で調査したのだけれどそんな気配はどこにもなかったわ」

咲「へえ、霞さんそんなことをしていたんですか」

霞「そういう依頼は多いのよ……」

健夜「学生には教えなかったけど主催者側でも何かいるんじゃないかって騒がれていたからね。くしくも、インターハイって八月のお盆と重なるから……」

由暉子「怪談シーズンで色々と盛り上がっていますから、噂が流れるのも早かったです」

咲「その噂の原因が桃子ちゃんなんだよ」


桃子ちゃんは一つの極致へと到達している人なんだよ。

影が薄い、存在感のない特殊な体質で牌をも巻き込んで見えなくなる能力を持っている。

高校一年生の時は個人戦で苦戦させられたんだよね。

まあ、私が最終的には彼女の牌を鳴いて槓して嶺上開花して勝ったんだけど。

だけど、それが悔しかったのかな。

自らのアイデンティティともなっていた能力を破られたんだからね。

だからこそ、桃子ちゃんは自己の体質をより強化する方向に取り組んだらしい。

高校二年生のインハイ個人戦県予選で清澄の誰一人としてインハイの切符を獲得できなかった原因のキーパーソンが彼女だ。

まあ、衣ちゃんが個人戦にも出場したことが一番大きかったとは思うけどね。

強化された桃子ちゃんの能力でも和ちゃんには効かなかったけれど、私と優希ちゃんは見事に見失って狙い撃たれた。

そして南場で暴れ続けた数絵ちゃんに得点で競り負けてしまったんだよ。

その年の長野における個人戦代表は衣ちゃん、数絵ちゃん、桃子ちゃんの三人だった。


由暉子「怪談を生んだ人ですか。やっぱり思い出せないですね……」

霞「健夜さんからプロへと直接勧誘されるなんて、そんなに強い人なのかしら?」

咲「今の私なら勝てます。以前の私は幾度となく負かされました……」


二条さんと戦う前の私は桃子ちゃんには勝てないことの方が多かった。

あの夜の麻雀はそれだけ私の中で強く息づいている……


霞「咲ちゃんが負けていたなんてよっぽどなのね」

健夜「オカルトの中にはタネが割れていても、どうにもならないものもあるからね。彼女のそれはそう言うもので、相性の問題もあると思うけど」

咲「彼女を認識することができない。手牌も読めなければ、河も分からない状態で打たないといけない。注意していたはずが意識から消えてしまう……」

由暉子「慮外の放銃が起きてしまうわけですか」

咲「そうだよ。それが支配の緩む原因になるし、個人用の能力でも相手取れないのも大きいかな」


霞「健夜さんならその能力を破れるのよね?」

健夜「私には無理だったかな。勝負すれば絶対に勝てるけど、彼女を認識することはできなかったよ」

由暉子「理不尽大魔王の健夜さんがですか!?」

霞「本当にその子は生きている人間なのかしら?」


桃子ちゃんはオバケじゃなくて生きているよ。

むしろ、死人じゃないから私は麻雀を打っている時限定で彼女の存在を少しだけ感じることができる。

命を賭したあの人との勝負の中で私が掴み、残してくれた感覚だからね……

それがなければ勝つことが極めて困難な人だよ。

まあ、彼女の能力が全く効かない人は完全なデジタル思考を持つ人だけかな。

そんな人はオカルトが一世風靡する今の時代には絶滅危惧種のようなもの。

私が知る限りで真正面から認識して突破できるのは四人、行方不明のあの人はおそらく可能、可能性があった後輩が一人いたかな。


当時、高校三年生のインハイ県予選で私たちが最も警戒した相手が桃子ちゃんだった。

練習しようとマホちゃんにコピーさせても、真似できる成功確率は極めて低かったことを覚えている。

和ちゃんは対策を立てる必要すらなかったんだけれど、私と優希ちゃんはそうもいかなかった。

そのために取った戦略が桃子ちゃん以外から稼ぐという火力主義の方法だった。

ある意味でそれは彼女に負けを認めるようで悔しかったね。

それでも、当時の私たちにはそれが勝つための唯一の方策だったんだよ……

でも、それほどにオカルトを極めてしまった弊害と言うべきなのかな。

桃子ちゃんは誰にも認識されなくなってしまったんだ。

特異な感性、あるいは特別な訓練を積んだ人以外には絶対に気づかれない。

目の前でたとえ何をされても分からない。

日常生活にも完全に支障が出る域にまで到達してしまっている。


現在は、透華さんがスカウトして龍門渕で直属の部下として働いていると言っていたけどね。

あそこには桃子ちゃんを認識できる人がいるから大丈夫なのかもしれない。

冷たい透華さんは彼女を看破してしまうそうだし、執事の純さんも分かるらしい。

一応、ハギヨシさんから厳しく鍛えられたことのある一さんと京ちゃんも認知はできるそうだよ。

ただ、一さんと京ちゃんについては桃子ちゃんがより意識的に存在を消そうとすれば分からなくなってしまうとも聞いている。

智紀さんは鍛えられた方面が違うからなのか無理らしい。

今では誰かとコミュニケーションを取ろうと思ったら桃子ちゃんは機械を通さないとダメみたい。

それでも、彼女が気にすることなく心底から楽しそうに笑っている姿を私は何度も画面越しに見ている。

たとえ誰からも認識されなくなったとしても、繋がりが消えるわけじゃない。

確かにそれがあることを彼女は知っているんだよね……



System
・真屋由暉子 □□:26


↓2

これで63人が安価で選ばれましたね。

その内で下一桁で4が出たのは10回、ゾロ目は6回となっております。

ころたんは44で重複しているので一つ差し引いて計15回。

数えてみると4の多さに驚きです……7なんて二回しか出ていませんし……


それでは次が絹恵に決まりましたところで本日の更新は終了いたします。次の更新は明日以降ということで~


私は麻雀しか知らないけれど、おそらくどんな分野でも才能の壁は存在する。

努力を続ければ誰でも一定以上には到達できるのかもしれない。

だけど、凡人がその先へと進むには並大抵の方法では不可能なのだろう。

たとえば、彼女のように死線を越えるような劇的なことでもなければね……

持って生まれた肉の才は変わらなくても、感性を磨き研ぎ澄ますことはできるはずなんだから。


咲「桃子ちゃんは稀有な才能の持ち主ですよね」

健夜「間違いなくこちら側の住人かな」

霞「はあ、それなら私やユキちゃんよりも上なんでしょうね……」

由暉子「そうですね。私は今が一番心身ともに充足している時期だと思いますけど、限界点も分かってしまうんですよね」

霞「私もとっくの昔に天井がはっきりと見えているわ」


由暉子「悔しいですが人の皮を被った怪物の領域には決して届かない」

霞「より高位の神を降ろすことが可能でも、それで器が持たなければ意味がないのよ……」

由暉子「それでも、無茶をすれば一矢報いることくらいは可能だと思いたい所です」

霞「そうね。人の身でこそ化物を倒す夢を見てしまうものよね。私はそれを成し遂げなければならない……」

由暉子「ただ一度の奇跡でも、この手に掴みたいです」

咲「私も本気の健夜さんを相手にしていつか倒したいって思ってますよ」

健夜「いやいや、咲ちゃんは倒すべき目標とされている方だと思うよ?」

由暉子「二人とも麻雀に巣食う怪物です」

霞「世界でも指折りの化物よね」

咲健夜「「…………」」


霞「これまでにどれだけの人々に絶望を振り撒いてきたのかしらね」

由暉子「かくも高き壁を知れば、才能の有無に苦悩させられざるを負えないものですよ」

霞「ふふふ、ええ、私にも覚えがあるわね。真剣であるほど、悔しくて、身を裂かれるような屈辱や不甲斐なさに嘆かずにもいられないわ」


日本のトッププロの二人でも才能の壁に阻まれている。

それを超えられるのは本当に一握りの選ばれた人だけなんだよ。

そして、選ばれなかった、超えられなかった大多数の上に私や健夜さんは君臨している。


健夜「人生は麻雀だけじゃないよ。私には麻雀しかないけど……」

咲「はあ、好きな人と結ばれるのを夢見て破れた時点で、私にもそれしかありませんし……」

健夜「私から麻雀を取ったら、だらしのないアラフォー女だよ。お金はあるけど、他に何があるのかな?」

咲「ないですよね。スレンダーな身体だから女性らしい魅力もなく、料理はできますけどプロじゃないですし……」


健夜「私は料理さえできないよ……」

咲健夜「「はあぁぁー」」

霞「その才能がなくて身を持ち崩す人もいるのだから贅沢な悩みじゃないかしら?」バイン

由暉子「確かに麻雀だけが人生ではありませんよね。プロで活動することが麻雀と関われる唯一の道ではありませんし」パルン

咲「世界は理不尽なんだよ……」ペタン

健夜「所詮この世は持つ者と持たざる者だからね……」ストン

霞「そうかしら? 監督やコーチなんかの育成に回る道もあるわよ」

由暉子「私の身近な人だと洋榎さんの妹の絹恵さんがそうですね」

咲「あの二人も持つものと持たざる者だね」

霞「絹恵ちゃんは他人に教える方面では洋榎さんよりも上でしょう?」


絹恵さんか、彼女は高校卒業後は大学へと進学して麻雀を続けていたんだよね。

プロで活躍する愛宕洋榎の妹、あるいは元プロの愛宕雅枝の娘としてインカレでも注目を集めていた。

彼女はその期待に応えるだけの実績は作れたんだよ。

だからこそ、プロアマ親善試合にも呼ばれることになった。

ただ、その年のプロ側の参加者には洋榎さんもいたんだ。

そして起きてしまった姉妹対決は絹恵さんの酷い惨敗で幕を閉じた。

そのことで洋榎さんには愚痴を零されたこともあったっけ――


洋榎『うちは絹のおねえやんか。加えてうちは勘もええからな。せやから妹の実力とか、伸び代とかまで分かってまうんや……』

咲『まあ、私もお姉ちゃんがどれくらい強いのとか分かりますからね』

洋榎『せやろ……絹はなプロにはなれてもな、一流には決して届かへんねん』

咲『…………』


洋榎『それにや、いつまでもうちの背中を追わせるんはようないと思ったんや……』

咲『だから、彼女を潰す気で打ったんですか?』

洋榎『せや。プロになったら遅かれ早かれそれに気づかされるはずやんか。絹は運が良かったから、これまでめちゃ怖い相手とは打ってこんかったけどな……』

咲『そうですね……』

洋榎『咲みたいにほんまに手酷く壊しかねん人もおるからな』

咲『あ、あれはですね……』

洋榎『冗談やて、昔のことやって知っとるで。深みに陥る前に、引き戻せる間にうちが道を断たなあかんて思うたんや……』

咲『私は洋榎さんが妹想いの良い姉だと思いますよ。私のお姉ちゃんはアレですからね』

洋榎『照も咲のことは気にかけていると思うんやけど?』

咲『…………』


洋榎『姉妹仲良くせなあかんで』

咲『喧嘩中の人に言われても』

洋榎『絹のやつ、おかんとも喧嘩して家出したそうやからな』

咲『大丈夫なんですか?』

洋榎『漫んちに転がり込んでいるそうやから大丈夫や。はあ、おかんは言われたそうなんや。うちやおかんに絹の気持ちは分からんってな』

咲『それは……』

洋榎『うちは間違ったことをしたんやろうか?』


私には洋榎さんの問いに応えられる答えを持ち合わせていなかった。

私も洋榎さんも彼女に比べれば持つ側なのだ。

想像はできても、本当に理解できるのかと問われれば頷くことはできない話なのだから――


咲「姉妹でも才能に差があるんですよね……」

由暉子「むしろ、咲さんたちのような人が珍しいと思いますけど?」

霞「そうね。どちらも麻雀に対して圧倒的な才覚を持っているものね」

健夜「片方は結婚できたけどね……」

咲「くうッぅぅ……」イラッ


絹恵さんは姉妹や親子で喧嘩しようとも麻雀を辞めることなく続けた。

結果的に彼女は実業団に入り、日本リーグで活動したんだよね。

ただ、ちゃちゃのんショックの影響でその企業が経営不振になり、麻雀部門の閉鎖が決まってしまった。

会社に残り麻雀から離れて普通に働くか、退職して上乗せされたお金を得るかの選択を求められたらしい。

絹恵さんは退職を選んで、実家に帰ったそうなんだ。


それから、麻雀に関連する仕事を探したそうなんだけれど不景気だからね。

実業団の門戸も狭まっていたし、プロへの道は洋榎さんによって断たれていた。

先行きが見えない中で、彼女が大阪に帰ってきた情報を掴んだ郁乃さんにコーチへと誘われたんだよ。

どうやら麻雀を自分で打つよりも指導する方が向いていたみたいなんだよね。

今は姫松高校でコーチとして勤めている。

名伯楽なんて世間では呼ばれているけれど、郁乃さんはあの性格だからね……

エトペンを蹴ってしまうお茶目な所があろうとも、しっかりしている絹恵さんみたいな必要なんだよ。

強い人を知り、弱いことを知っている彼女だからこそ向いているのだと思う。

私は他人を教えるのは向いていない。

アドバイスとかが上手くできないし、感覚的に打っているのを言語化するのも苦手だから。

私はマホちゃんたちにしたみたいに、麻雀で叩いて鍛えるしかできないからね。

それで潰れてしまうようなら、それまでと言うか……



System
・真屋由暉子 □□:27


↓2

それでは次が熊倉トシに決まった所で本日の更新は終了いたします。

次回はまた選択がありますので前回と同様に①か②で多数決を取ります。

次の更新は明日以降ということで~


咲「はあ、なんだかんだとあっても姉妹の仲が良い人たちが少し羨ましいですよ。洋榎さんや華菜さんの所なんてそうじゃないですか……」

由暉子「咲さんが照さんを許せば今回の騒動は解決するのでは?」

咲「無理だよ」

健夜「そうそう、結婚していた裏切者を許す必要ないよ。もしも、今度のタイトル戦で咲ちゃんが負けるようなら私が照ちゃんを懲らしめてあげても良いくらいだし」

霞「これ以上、姉妹喧嘩を面倒にすることは止めなさい」

由暉子「そうですよ。既に色んな所で問題が起きているんですよ」

霞「日本代表チームなんて特に大変なのよ」

咲「お姉ちゃんと同じチームとか組みたくない……」

霞「こんなことを主張している状態なのよね」

由暉子「前回大会までは不動の一番槍を務めていた優希さんも育休でいませんし、咲さんか照さんのどちらかが欠ければ優勝は厳しいと思います」

霞「実力のあるもこちゃんは出場を拒否しているものね。それに、もしかしたら洋榎さんはあの調子だと産休になる可能性も否めないわ」


健夜「監督は厳しい采配を求められそうだね」

由暉子「ジュニアには期待の新人がいますが、まだ世界のトッププロと渡り合えるようなレベルじゃありませんし……」

霞「トシさんも頭を悩ませているのじゃないかしら?」


ふん、何を言われようとお姉ちゃんと同じチームは組まないからね。

どうしてもって言うなら、私の前で土下座して謝るなら考えてあげるだけならしても良いけど……

まあ、トシさんにも迷惑をかけているし、他にも色々と問題もあるだろうけどこればかりは譲れないよ。


由暉子「たとえ"世界の熊倉"でも切りたい牌を抱えたまま和了し続けるのは無理だと思います」

健夜「大変だね」

霞「他人ごとみたいに言っているけれど、健夜さんも悪いのよ」

由暉子「毎回、招聘されているのに断っていますからね」


健夜「ほら、私って半分引退しているような身だし……」

咲「大丈夫ですよ。健夜さんやお姉ちゃんがいなくても私がいれば十分でしょう?」

霞「いくら咲ちゃんでもそれは流石に……」

咲「点棒が0からでも勝ってみせますよ」

由暉子「相手にも人外レベルの人がいたら……」

咲「中国代表のハオさんはルールの縛りがある。強国のドイツも今はかつての力はないし、イギリスやフランスだって怖くないよ。少し警戒する必要があるのはアメリカかな」

霞「傲岸不遜ね」

咲「個人戦ならともかく団体戦ならオーダーが自由に変更可能だからね。噛み合う可能性も高くないし、トシさんが率いるなら尚更に大丈夫ですよ」


熊倉トシさんは日本麻雀界で最も顔の広い人だろうね。

表も裏も、アマもプロもよく知っている。


本気で勝つつもりでいるならプロに所属していない知られざる強者さえも引っ張ってくるんじゃないかな。

あの人のフットワークの軽さと才能を発掘する嗅覚は本当にすごいからね。

それに、奇策と奇襲を用いて勝つためのオーダーを組んでくるはずだよ。

ジュニア選抜のときには私も大変お世話になっている信頼できる人だし。

ただ、放浪癖があるのか稀に所在が掴めなくなる時があるんだよね。

以前もジュニアの国際大会が終わって監督を辞めたら行方知れずになっていたし……

まさかアメリカでプロチームの監督を務めていたことを知った時は本当に驚かされたよ。

現在は日本代表の監督を任されているけれど、任期を終えたらまたふらりとどこかへと行ってしまうんじゃないかと思う。

豊音さんもエイスリンさんも非常に心配しているから、そろそろ自分の年齢を考えて自重すべきだと私は思っていたりする。



System
・小鍛治健夜 ◆◆:7
・小鍛治健夜のカウンターが増えた結果、再び選択の時が到来しました


選択肢
①:"その時"が来た!
 幾つかのコンマ判定などを経て結末が少し変化する予定。条件が満たされているので永水や龍門渕の闇も判明します。

②:まだ時間じゃない!
 まだ選ばれていないキャラを安価で指定していく現状維持。"その時"は小鍛治健夜のカウンターが再び増えるまで選べません。


↓1から5票集まった方


System
・選択の結果"その時"を迎えます


選択ありがとうございました。

本日はこれにて終了とさせていただきます。次の更新は少し遅くなるかもしれません……

それでは~

"その時"到来記念で今までのまとめ2(1は>>303

怜:さすらいのギャンブラー(あ、ダメな人だこれ) コンマ36 >>304
泉:咲さんを超えるために闇堕ち。後に咲さんに挑むも敗北し、満足してその場で自決。今は獄卒と卓を囲んでいるのだろうか コンマ24 >>336
仁美:京太郎の信頼できる仲間。現在新政党の幹部職員 コンマ99 >>384
美子:フリージャーナリスト……だった。麻雀界の闇を暴こうとしたがために消された コンマ04 >>414
もこ:プロ雀士。"無冠の帝王"だけどコミュ障でぼっち コンマ35 >>430
モモ:極限に到達したステルス。現在龍門渕で透華直属 コンマ50 >>443
絹恵:姉に引導を渡されるも麻雀を続ける。現在は姫松のコーチを務める コンマ60 >>474
トシさん:アメリカで監督やってたところを日本代表の監督として招聘される。新たな才能を求めて放浪する癖は治っていないらしい コンマ78 >>500


謎カウンター
・宮永咲   ◇◇:6
・石戸霞   ■■:32
・真屋由暉子 □□:27(もこのところで増えてなかったから実際は28)
・小鍛治健夜 ◆◆:7("その時"が来た)


>>528
まとめありがとうございます。

そして、ミスの指摘ありがとうございました……全く気づいていませんでしたので……


本日は"その時"を迎えた本編の更新はまだ書けていないのでありません。

少しネタバレになりますが本編の方でコンマによる麻雀が行われる予定です。

個人でシミュはしてみたのですが色々と不備があるかもしれませんのでテストプレイ(東風戦)に協力して頂ければ助かります。


↓1~4でお好きなキャラをどうぞ(被りは安価下へ)

─麻雀ルール─


・00について

 0と100で有利な方で取り扱います


・親決め

 安価↓1~4でコンマ値が大きい順


・雀力について

 四人の雀力の平均値に対する比がコンマに乗算させられます
 
 その雀力比は小数点第三位を四捨五入


・聴牌判定について

 コンマ判定を行います

 その時の>>1のコンマが判定値①

 ①≦聴牌判定値(=コンマ×雀力比)+補正値ならば聴牌します


・和了判定について

 コンマ判定を行います

 その時の>>1のコンマが判定値②

 ①+②≦和了判定(=聴牌判定値+コンマ×雀力比+補正値)かつ最も数値が高いものが和了します


・和了と放銃について

 和了コンマがゾロ目か下一桁が7ならツモかロンの相手も任意選択、奇数はツモ、偶数はロンです

 和了判定の値が最も低いものが放銃します

 対戦相手はツモかロンなら基本的にはツモを選択

 和了ってしまうと負けてしまう場合は聴牌で止めることができます


・点数について

 ①が77かつ聴牌判定コンマが77の場合、天和もしくは地和

 聴牌判定と和了判定のコンマがどちらもゾロ目の場合は役満

 聴牌判定のコンマがゾロ目の場合は満貫以上

 通常点数判定は①+聴牌判定と和了判定の素コンマの平均値(小数点以下は切り上げ)

 満貫点数判定は聴牌判定と和了判定の素コンマ合計値



  親 ロン(ツモ)
00~03  1500(500オール)
04~11  2000(700オール)
12~15  2400(800オール)
16~23  2900(1000オール)
24~27  3400(1200オール)
28~39  3900(1300オール)
40~43  4400(1500オール)
44~51  4800(1600オール)
52~59  5800(2000オール)
60~63  6800(2300オール)
64~75  7700(2600オール)
76~79  8700(2900オール)
80~87  9600(3200オール)
88~91  10600(3600オール)
92~99  11600(3900オール)

00~79  満貫  12000(4000オール)
80~139  跳満  18000(6000オール)
140~179 倍満  24000(8000オール)
180~199 三倍満 36000(12000オール)

役満 48000(16000オール)


  子 ロン(ツモ)
00~03  1000(500/300)
04~11  1300(700/400)
12~15  1600(800/400)
16~23  2000(1000/500)
24~27  2300(1200/600)
28~39  2600(1300/700)
40~43  2900(1500/800)
44~51  3200(1600/800)
52~59  3900(2000/1000)
60~63  4500(2300/1200)
64~75  5200(2600/1300)
76~79  5800(2900/1500)
80~87  6400(3200/1600)
88~91  7100(3600/1800)
92~99  7700(3900/1500)

00~79  満貫  8000(4000/2000)
80~139  跳満  12000(6000/3000)
140~179 倍満  16000(8000/4000)
180~199 三倍満 24000(12000/6000)

役満 36000(18000/9000)

新子憧:雀力【85】


原村和:雀力【90】
<のどっちモード>
 発動:ぞろ目・コンマ7
 効果:基礎雀力を+15 [永続]

<SOA>[常時]
 効果:自身に対する特殊な場合を除いたプラス補正、マイナス補正を無視する


大沼秋一郎:雀力【115】
<火薬>
 発動:ぞろ目・コンマ7
 効果:以後の点数を一段階高める


ネリー:雀力【120】
<運命>
 発動:ぞろ目・コンマ7
 効果:コンマ下一桁が偶数ならその値を自身に+補正、奇数ならその値を相手全員に-補正 [永続・重複]
 
<牌に愛されし魔物>[常時]
 効果:+5の補正値


憧ちゃんは無能力枠……細かいスキルとか設定してないので堪忍して―

テストプレイにおけるプレイヤーは最初に安価で名前を出された新子憧となります。


親決めです!
憧↓1
和↓2
大沼プロ↓3
ネリー↓4


大沼【74】「私が親からかね。それにしても対戦相手が全員孫に相当する年齢の子達か」

ネリー【67】「はあ、お金にならない勝負とか興味ないよ。早く終わらせる」


System
・親決めにおけるネリーのコンマ下一桁が7のためスキル<運命>が発動します


憧【60】「明らかに私って場違いよね。往年のスター選手、賞金王、ネト麻の王者……」

和【68】「頑張ってください憧!」


【東一局】聴牌判定
大沼プロ↓1
和↓2
ネリー↓3
憧↓4

【東一局】場のコンマ【99】

大沼秋一郎 29×1.12=32.48   ノーテン

原村和   19×0.88+6=16.72 ノーテン

ネリー   68×1.17=90.56   ノーテン

新子憧   40×0.83=33.2   ノーテン



大沼「ふむ、ノーテンだな」

和「ノーテンですね」

ネリー「私もノーテンだよ。おかしいな……」

憧「ノーテンだけど、このメンバーを相手に何もなかっただけましなのかしら?」


【東二局】
大沼↓1
和↓2
ネリー↓3
憧↓4


【東二局】場のコンマ【45】

大沼秋一郎 50×1.12=56    聴牌

原村和   36×0.88=31.68   ノーテン

ネリー   43×1.17+11=61.31 聴牌

新子憧   5×0.83=4.15    ノーテン



大沼「まだまだ、私も若い子たちに負けないところを見せねばなるまい」

和「大沼プロはまだシニアに所属していたでしょうか? 私には覚えがないんですけど」

ネリー「知らないし興味ないよ」

憧「大沼プロが選ばれていたら下一桁4じゃなければ生存していた設定よ」

大沼「ふむ、長生きはするものだね」



【東二局】和了判定

大沼↓1
和↓2
ネリー↓3
憧↓4


【東二局】場のコンマ【45】+【69】=【114】

大沼秋一郎 56+26×1.12=85.12   ‐1000 = 24000

原村和   31+97×0.88=116.36   ‐2000 = 23000

ネリー   61+67×1.17+11=150.39 +3900 = 29000

新子憧   4+33×0.83=31.39    ‐1000 = 24000

 和了コンマ67によりネリーのツモ

 45+43+67 = 195÷3 = 51.67 ≒ 52 → 点数表より2000/1000

 

この面子相手だからというべきなのかしら。

ツモって来る牌がどれもこれも……

大沼プロとネリーはどうやら聴牌しているみたいね。

ここは慎重に……


ネリー「ツモ、点数は2000の1000。ようやく調子が乗ってきたかな」

憧「くッ……次はネリーの親か」

大沼「君大丈夫かね? 熱でもあるかのように顔が真っ赤なんだが……」

和「大丈夫です」


和も本気になったみたいだし、ネリーから感じるプレッシャーも一段と高まって感じるわね。



System
・和のコンマ下一桁が7のため<のどっちモード>が発動します
・ネリーのコンマが67のためスキル<運命>が重複発動します



【東三局】聴牌判定

大沼↓1
和↓2
ネリー↓3
憧↓4


【東三局】場のコンマ【37】

大沼秋一郎 01×1.08=1.08     ノーテン

原村和   08×0.99=7.92     ノーテン

ネリー   19×1.13+17=38.47  聴牌

新子憧   73×0.80=58.40    聴牌


勝負は東風戦一回。

オーラスは私が親だけれど、このメンバーを相手に何度も和了する自信はないわね。

ここでネリーに連荘されたら、勝ち目はないと考えるべき……


ネリー「そんなに私を見てもお金はあげないよ?」

憧「誰も恵んでくれなんて言ってないでしょうが!」

ネリー「物乞いみたいに物欲しそうな顔してたから」

大沼「トラッシュトークもほどほどにしておきなさい」

和「はぁ、ふぅ」ポー



【東三局】和了判定

大沼↓1
和↓2
ネリー↓3
憧↓4


【東二局】場のコンマ【37】+【03】=【40】

大沼秋一郎 01+78×1.12=85.24    ‐1300 = 22700

原村和   07+75×0.88=81.25    ‐1300 = 21700

ネリー   38+31×1.17+17=90.03  +3900 = 32900

新子憧   58+37×0.83=87.60    ‐1300 = 22700

 和了コンマ31によりネリーのツモ

 19+31+37 = 87÷3 = 29 → 点数表より1300オール

 

なんとか聴牌にまで漕ぎつけられたわね。

和や大沼プロは手が遅いみたいだし、ネリーよりも早く……


ネリー「運命は残酷だね。ツモ、1300オール」


同じ牌を待って、先にツモったのはネリーか。

やっぱり世界のトッププロとしがないフリーアナウンサーじゃ持っているものが違うっていうの?

それでも、一度くらい和了してみせたい所よ。

点数はまだまだ分からない。


大沼「ふむ、やはり年には敵わないと言う所だろうか……」

ネリー「人生の運は等しく平等だからね」

和「運? 何を言っているんですか? そんなのはありえません」

ネリー「ふーん、運が一番大切だと思うけどね」

和「いえ、計算し、努力することでたいていのことはどうにかなりますよ」


和、あんたが言うと洒落にならないわよ。

その結果、逮捕されて起訴されそうになったバカはどこのどいつだったっけ?



【東三局一本場】聴牌判定

大沼↓1
和↓2
ネリー↓3
憧↓4


【東三局一本場】場のコンマ【04】

大沼秋一郎 12×1.08=12.96    聴牌

原村和   43×0.99=81.25    聴牌

ネリー   71×1.13+17=97.23  聴牌

新子憧   31×0.80=66.40    聴牌


ネリー「努力するなんて当たり前だよ。それには限界があるからね」

大沼「きみたちはデジタルとオカルトだろう。信ずるところが違うのは仕方がない所だ」

和「オカルトなんてありえません。全ては偶然です」

憧「何十回もそれが続いても?」

和「天文学的数字でも、起こり得るものですよ」

ネリー「頑固だね」



【東三局一本場】和了判定

大沼↓1
和↓2
ネリー↓3
憧↓4


前局までの計算式にミスを発見……東三局は憧ちゃんのアガリが正解でした。

つまり、今局こそがオーラスだったんです。

点数を修正するとこれが終局の結果でした……


【東四局】場のコンマ【04】+【83】=【87】

大沼秋一郎 12+63×1.12  =80.04  ‐800      = 23200

原村和   42+46×0.88  =87.54  ‐800      = 22200

ネリー   80+52×1.17+17=155.76  ‐1600+2900  = 30300

新子憧   58+10×0.83  =74.00  +3200‐2900  = 24300

 和了コンマ52によりネリーのロン、憧の放銃

 71+52+04 = 127÷3 = 42.33 ≒ 43 → 点数表より2900



憧「あれ? 私、何時の間に和了したのかしら? 記憶にないのに点棒は増えてる……」

ネリー「それロンだよ」

憧「えっ……」

和「焼き鳥ですか」

大沼「東風戦ならよくあることだ」

ネリー「勝っても一文にもならないね」


ご協力ありがとうございました。

問題の個所も判明しましたし、次はミスをなくしたいと思います。

コンマでの麻雀ですがテンポを考えるともっと簡易の方が良いんでしょうか?

それともコンマの判定を一回にするか、いっそなくしてしまった方が良いのか……

それでは次回の更新は明後日以降ということで~


色々とご意見ありがとうございました。

そもそも闘牌スレではありませんし、面倒なシステムはなしで補正値ありのコンマで決めます(原初案)。

下手に手を出しても、上手く描写できそうにないこともテストで分かりましたので迷走せずに行きたいと思います。

それと更新についてはもう少しかかりそうです……早ければ明日の夜には~


雀士行方不明事件。

ことの始まりがいつから起こっていたのかは分からない。

日本では年間数万人もの行方不明が発生し、その大多数は所在が確認されている。

しかし、その内の数パーセントは行方不明のままなんだよ。

だからこそ、雀士行方不明事件の始まりの時期についても確証が得られない。

この件が事件として世間で広く認知されるようになったのはちゃちゃのんショック以後の話しでもある。

日本のプロ麻雀協会は佐々野いちごさんの件から責任が追及されることを怖れるように、裏と関わりのあった多くのプロ雀士からプロ資格を剥奪した。

そんな世間から冷や飯を食うことになった元プロたちの中から何人も連絡が取れなくなる人が現れたんだ。

それによって過去の行方不明者についても注目が集まり、調べられる運びとなった。

調査の結果、過去にインターミドルやインターハイ、インターカレッジで活躍した選手たちの中にも消息不明となっている人たちがいることが判明した。


こうして謎の雀士行方不明事件が明るみになったわけだけれど、捜査は難航する。

調査が進むほどに事件の奇怪さだけが目立ち、今日まで何の進展も見せないでいる。

私の友達や知人にも事件の犠牲者と思われる人たちがいるんだよ。

海外の麻雀大会中に行方知れずとなったマホちゃんは確定的だ。

そして、幼い頃から慣れ親しんでいる山に入ったのを境に見つからない穏乃ちゃんも怪しい。

報道では裏社会が関わっているのではと目され、ネット上では現代の神隠しや新しい都市伝説として一部では扱われている。

そんな怪事件についての最新情報がテレビから流れてきて私は驚愕した。


由暉子「そんな、嘘ですよね?!」

咲「逮捕……えっ? えっ!?」

霞健夜「「…………」」


テレビで報道されているニュースの内容が信じられなかった。

プロ雀士としてリーグでも活躍している臼沢塞さんが雀士行方不明事件の犯人として殺人などの容疑で逮捕されたと伝えているのだから。

ニュースキャスターは家宅捜索の結果、幾つもの物的証拠が発見されていると言うのだ。

驚愕と不審が胸中に満ちてきて、理解が中々追いつかない。

塞さんは高校卒業後、大学に進学してインカレで活躍した後にプロになった。

プロリーグでは対オカルトキラー、エースを止めるストッパーとして活躍するトッププロの一人でもある。

そんな人が奇怪な事件の犯人?

マホちゃんや穏乃ちゃんをどうにかしたかもしれない人?

あのインターハイで干戈を交えた相手高校、同じプロとして少なからずの交流だってある。

私の家に遊びに来たことだって何度もある人が犯人だなんて……

頭が混乱していく中でふとつっかえるものがあり、思い出す。

そうだ、健夜さんと理沙さんがこの件が近日中に動くと言っていたじゃないか。


咲「健夜さん……」

健夜「残念だけど、塞ちゃんが事件に関わっていたのは事実だよ」

由暉子「どうして、それを健夜さんが知っているんですか?」

健夜「私は協会の本部に関わっている人間だからね。有望なアマチュアの雀士や元プロに行方不明が相次いで起きているってことは、現役のプロにまで被害が及ぶかもしれない。だから、この件については私に調査辞令が上から回って来ていたんだ」

由暉子「じゃあ、本当に塞さんは……」


普段のどこか抜けいるような表情が健夜さんから消えていた。

感情を殺して見たこともないような冷徹な眼差しで見ている。

その射抜くような視線の先には霞さんがいたんだ。


健夜「霞ちゃんは友達が逮捕されたのに眉一つ動かさないんだね」

霞「驚いているわ。ただ、表情に出ていないだけよ」


健夜「この事件は複雑に絡み合っていてまだ全てはひも解けてはいない。でもね調べはついているよ」

霞「あらあら、いったい何のことかしら?」

健夜「事件の裏で霧島神境が糸を引いていたのはもう分かっているって言ったんだよ!」

霞「……テレビではそんな報道はされていないわよ?」

健夜「事件の幕を穏便に降ろすために各方面との取引や調整が行われたからね……」

咲「取引、……もしかして無関係な事案や色々と不都合なことも塞さんに被せるつもりですか?」

健夜「そういうことになるね。テレビで報道されたってことは最終的な合意が得られた証拠だから」

由暉子「たった一人に?」

健夜「龍門渕を筆頭とする財界、旧家や名家、裏社会の組織、麻雀協会、そして政界も同意している。実際にはこの後も何十人かの逮捕者が出る予定になっているけど、塞ちゃんは主犯格の一人とされることが決まっている」

咲由暉子「「…………」」

霞「ふふ、塞ちゃんは可哀想ね。死人に口なしとはよく言うものよね。既に死刑となることまで決まっているか、むしろ拘置室での不審死にまで話は通っているのじゃないかしら? 法廷で下手なことを漏らされでもしたら迷惑だものね」


健夜「……」

霞「沈黙は肯定として受け取るわよ」

由暉子「不審死ってそんなの!?」

健夜「ユキちゃんの気持ちは分からなくもないけど、落とし所としてはそれが一番穏便なんだよ。それに塞ちゃんは爽ちゃんを手に掛けた実行犯の一人だったよ。これは協力していた組が吐いた確かな情報だからね……」

由暉子「塞さんが先輩を!? ……彼女の能力なら先輩を封じ、でも、あれ? 霧島神境って、なら霞さんも関わっているんですか?」

咲「……マホちゃんや穏乃ちゃんの行方も知っている?」

霞「ふふふ、それで健夜さん。事件の全貌としてはどの程度まで分かっているのかしら?」


霞さんは私やユキちゃんを無視するように笑いながら健夜さんへと尋ねた。

どこかこの状況を面白がっているようにも見える。

ユキちゃんはそんな彼女の態度に敵意をむき出しにして憤怒の形相で彼女を睨んでいた。


健夜「霧島神境による犯行だと言うことは分かっている。だけど、あそこは秘密主義過ぎて神境内部の事情や詳しい情報については全く分かっていないよ」

霞「あらそうなの。私はてっきり外様の誰かが情報を漏らしたのかと思ったのだけれど……」

健夜「神境の内部から内通者がいれば苦労しなかったよ。必死の調査で手掛かりを掴んだんだから」

霞「利仙ちゃんや良子さんあたりが反旗を翻したわけじゃなかったのね。予想以上に従順だったと見るべきか、それにしてもあそこを外部から調べるなんてすごいわ。いったい誰が行ったのかしら?」

健夜「……新子望」

咲「えっ、望さんが!?」

霞「新子、もしかして憧ちゃんの血縁者かしら? そう言えば彼女の実家は神社だったわよね……」

咲「憧ちゃんの実姉です」

霞「そう、それは残念ね。もう生きていないか、少なくとも真っ当な生は歩めていないのじゃない?」

健夜「やっぱり、あの奇病は霧島神境の仕業だったんだね」

咲「……望さんの命は憩さんが救っています」

霞「普通の医者が救えるわけ……ああ、なるほどね。つまり荒川憩がリバーレストの正体ね。それにしても呪殺に失敗するなんて神境の腕も落ちたもの。いえ、ここはその望さんの腕を讃えるべきなのかしら。ともかく憧ちゃんのお姉さんが無事で良かったわ」


霞さんは人として当たり前のように憧ちゃんのお姉さんである望さんの安否を心配するように言った。

でも、その同じ口で呪い殺すことについても語っている。

そして霞さんは真実を知りながら私たちとこれまで普通に接していたことになるんだよね。

気持ち悪いくらいに矛盾していて異常にしか見えず、不気味に感じて仕方がない。


霞「健夜さん、既に取引は終わっているのよね? 察すると霧島神境にまで累はあまり及ばないのでしょう? それなら事件はもう終わりでしょうに、どうしてこの場でそれを言及したのかしら?」

健夜「霞ちゃんの言う通り、この件は既に上の方では話しもまとまって解決済みだよ。後は機械的に処理されていくだけだろうね。だけど、それで納得できるわけがないよね。私は真実が知りたいし、親しい人に犠牲者がいる咲ちゃんやユキちゃんには知る権利があると思う」

霞「そうかもしれないわね。だから、霧島神境が関わっていることを口にしたのね」

健夜「素直に話してくれると助かるんだけど?」

霞「はあ、……私のお願いを聞いてくれるなら知る限りのことを教えてあげても良いわよ」

健夜「お願い? 頼める立場だと思っているのかな?」


霞「詳しい事情を知る方法が健夜さんには私しかないからこんな真似をしているのでしょう?」

健夜「……」

咲「何が望みなんですか?」

由暉子「私も知りたいです。できることなら何でも構いません」

霞「ユキちゃん、安請け合いをしても本当に良いのかしら? 私の望みは場合によっては命を失うわよ」

咲由暉子健夜「「「!?」」」

霞「ふふふ、怖気づいたかしら?」


冗談で命を口にしたわけじゃない。

私にはそれが分かってしまう。

霞さんから感じる雰囲気にかつての二条さんを彷彿させるものが乗り始めている。


それを敏感に感じ取れたのか、ユキちゃんは怯えるように視線を逸らした。

そして、問いの矛先を健夜さんへと変えてしまう。


由暉子「……健夜さんは爽先輩のことについて何を知っていますか?」

健夜「爽ちゃんは協会が裏の事情を探るために送り込んだスパイだと私は聞いていたよ。でも、実際は龍門渕家が麻雀界の裏と表を探るための諜報員こそが真の正体だったらしい」

咲「二重スパイですか。でも、スパイだったからこそ裏と関係があったとされるプロの中で彼女の処分は甘く済んでいたんですね……」

健夜「そうだよ。爽ちゃんがどうして危ない役を引き受けたのかは私には分からない。そこは龍門渕さんに聞いた方が正しい情報が得られると思う」

由暉子「……」

咲「霞さん、それであなたの望みは具体的になんなんですか?」

霞「命を賭けた麻雀。闇の麻雀とでも言うべきかしら。それをこの四人で打つことよ」

咲「命を賭けた……それをすれば京ちゃんのことについても教えてくれるんですよね?」

霞「ええ、話すわ」


咲「それなら私はその麻雀をするよ。ユキちゃんと健夜さんはどうしますか?」

由暉子「私は……」

健夜「咲ちゃんとユキちゃんの二人が麻雀をするつもりなら私も行うよ」

由暉子「……」

霞「二人とも受けてくれるようで嬉しいわ。でも、このままだとユキちゃんは受けてくれないかもしれないわね。だから、良いことを教えてあげるわ」

咲健夜「「良いこと?」」

霞「そう、死のリスクに見合うだけの飴があるの。勝者には望みを叶える機会が得られるわ。ねえ、ユキちゃんは元の元気な爽ちゃんに会いたくないかしら?」

由暉子「ッ!!」

健夜「……麻雀に勝てなければ死ぬのかな?」

霞「それは勝者の選択次第ね。麻雀を受けるかどうか、心して選びなさいユキちゃん」



System
・累積された石戸霞のカウンターが真屋由暉子の値を上回っているため、真屋由暉子は麻雀を受けることを選択します


ユキちゃんにとって爽さんの一件は渇望とも呼ぶべき願いだ。

そこを刺激されれば彼女が断ることがないことを霞さんはよく知っている。

私にとって命の懸かった麻雀をするのはこれで二度目になる。

臆するところが見えない健夜さんは似たような経験が何度かあるのかもしれない。

もしくは、自分が敗北することを微塵も信じていないかのどちらかなんだろうね……

麻雀卓のあるプレイルームへと移動して、席も決まった。

そして開幕を迎えた瞬間に私はこれまでに感じたことのない異様な力が場を満たしたことに気づいた。


霞「私の親からね。ふふふ、席に座ってしまった以上はもう逃げられない。だから、私が山から牌を引く前に話しをしましょうか」

咲由暉子健夜「「「…………」」」

霞「全ての始まり咲ちゃんの直感通り、十一年前の八月にあるわ」


健夜「八月ってことはインターハイに原因があったのかな?」

霞「違うわよ」

咲「京ちゃん、キーパーソンは須賀京太郎と神代小蒔の二人ですよね?」

霞「ええ、本当に咲ちゃんは勘が鋭いわね」

由暉子「京太郎さんと霧島神境にどのような関係が?」

咲「京ちゃんは高校二年生の夏休みをそこで過ごしているんだ。彼のお父さんの実家が関係していたと私は聞いているよ」


そう、京ちゃんは霧島神境に行ったことは教えてくれたんだ。

だけど、そこで何があったのかについては頑なに話そうとしなかった。

聞いてもはぐらかされるばかりだったのを覚えている。


霞「そもそも三人は霧島神境がいかなる地かを知っているのかしら?」

咲「日本神話における天孫降臨の地だよね」

霞「その通りよ。そして、その土地を古くから治めているのが神代家。この国には古代から続く尊き血筋を組む家があるのは当然知っているわよね。神代家も祖を辿れば同じ血脈へと至るわ」

健夜「そんな神話の話しと今回の件に何の関係があるって言うのかな?」

霞「焦らないで欲しいわね。それに話しの腰を折られるのはあまり好きじゃないの」

健夜「……」

霞「神代家もまた神の血を引く一族であり、天津神の系譜に当たる。日本神話の話しに関連させたうえで須賀と聞いたら何か思い浮かぶことはあるかしら?」

由暉子「素戔嗚尊ですか?」

霞「正解よ。そして須賀家とは国津神の系譜に連なり、京太郎くんはその一族の末裔ね。現代においては古の血は薄れ、古い家でも知識や超常の力も失われてしまっている場合が多いわ。おそらく神代家は最も濃い血を保っている家の一つであり、それを守ることを宿命としているの」

咲「血、須賀、神代、京ちゃんがあの夏に霧島神境へと呼ばれた理由はもしかして……」

霞「咲ちゃんの察している通りよ。年齢も近く、血の素養はある。神気の濃い神境の神域で過ごせば力に目覚める可能性があった。婿候補なんて言えば聞こえはいいけれど、つまる所は種馬ね」


健夜「なんていうか、時代錯誤のような」

霞「個人主義の世の中では理解しにくいかもしれないわね。婚姻とは古来から家と家を結びつけるものでもあるし、血を残してこそ意味があるのよ」

由暉子「翌年のインターハイを制したわけですし、霧島神境の目論見通り京太郎さんはオカルトに目覚めたわけですね」

霞「むしろ、想定以上だったわ。須賀家の血筋から力が失われて久しいことも分かっていたの。だからこそ、そこまでの期待はしていなかったと言うか、少しでも異能が発現すれば儲けもの。そして、どこかの分家と縁を結んでもらえれば良いと考えられていたわ」

咲「ふふん、流石は私の幼馴染だね」

霞「……もしも、力に目覚めなければ厄介なことになっていた可能性も高かったわ。その意味では彼は恵まれていた。大きな力を発現したことで面倒も起きたのだけれどね」

健夜「その面倒なことが今回の原因?」

霞「関係はしているけれど、主な要因は少し違うわ。咲ちゃんは彼について知りたがっていたわよね」

咲「……当然じゃないですか」

霞「姫様の潜在能力は霧島神境において群を抜いていたのよ。あの子は彼を一目見た瞬間に看破し、本能的に惹かれてしまった。同時に京太郎くんも小蒔ちゃんに感応した。ふふふ、それがなくても相性は良かったみたいなのだけれどね。二人はほんの短い時間で、恋に墜ち、思慕を深め合い、相思相愛の間柄になったのだから」

咲「それはおかしいよ。私は京ちゃんからそんな話を聞いたことがない。それに、もしもそれが事実なら京ちゃんがその同じ年の内に衣ちゃんとの交際を始めなかったはずだよ。そんな簡単に付き合ったり別れたりできる器用な人じゃないから……」


霞「あは、はっはははぁ……ふっふふ、ふふ……」

咲「何が可笑しいの?」


私の問いを無視するように、否、嘲笑うかのように彼女は顔を歪めた。

心底から可笑しくて仕方がないとばかりに、性悪というよりも邪悪な悪意に満ちている。

だから、私は確信する。

この女は京ちゃんに何かをしたのだと……


霞「霧島神境は神代家を頂点としていながらも一枚岩ではなかったの。古い因習が幾つも残る堅苦しい場所でもあり、生き難い世界よ。だからこそ、力に覚醒した彼の取り扱いについても大いに揉めることになったわ」

健夜「人が寄り合えば自然と派閥は生まれるものだし、それは仕方ないんじゃないかな?」

霞「そうね。当初は一顧だにもしていなかった神代本家は彼を姫様の伴侶にする方へと傾いた。元々は分家の婿にと考えていたのだから反目する者も当然だけれど出てきたわ。一方で須賀家、国津神の血筋であることを忌避する一派もあれば、想像を遙かに超えていた力に恐れをなして危険視する人たちもいた。処遇について、実に面倒なことが起きたのよ」


由暉子「過ぎたるは猶及ばざるが如しですか。軽いお家騒動と考えれば良いのでしょうか?」

霞「まあ、似たようなものよね。もっとも、そんな問題が起きていることを当事者の二人だけは知らなかったのだけれどね」

健夜「家の醜聞だからかな?」

霞「違うわよ。健夜さんは神境について調べていたのでしょう? それなら姫様に仕える六仙女がどのようなものでどうして麻雀を行っていたのかも知っているのかしら?」

健夜「トシさんに教えてもらった程度しか知らないよ。あの人だって詳細に知っていたわけじゃないからね。ただ、単なる趣味や競技精神よりも修行の意味合いが主な理由だとは聞いているけど……」

霞「私たちが麻雀をしていた理由はその認識で凡そ合っているわ。六仙女はそれぞれ役割を持っていて、単なる姫様の付き人や友達ではないのよ」

由暉子「役割? 友達ではない? それっていったい……」

霞「小蒔ちゃんは良い子だから友達だとも思っていたでしょうけどね。六仙女は姫様にのみ傅き、御身を守る者。危険が迫れば自らの身を挺して最優先に扱い、当代でも才能のある者が務めるのが役目と言えばいいのかしら」

健夜「想像がつかないね。なんていうか、封建的というか、前時代的と言うか」

霞「外から見ればそう見えるでしょうね。春ちゃんと巴ちゃんは祓いの専門家、初美ちゃんはあの小柄な身だけれど一番の武闘派ね。明星ちゃんと湧ちゃんは優秀な守り手だったわ。そして私は生きた天倪」


健夜「あま、がつ?」

霞「姫様に代わり凶事を移し負う者よ。形代と言っても良いわ……」

咲「少し話しが逸れていないですか?」

霞「そうでもないわ。でもそうね、結局、霧島神境は小蒔ちゃんと京太郎くんの婚姻を認める方が優勢だったわ。最終的な結論は彼が法的に結婚の認められる年齢までに出すこととされた」

由暉子「それなら、どこにも問題がないように聞こえるんですけど?」

健夜「咲ちゃんの話しだと須賀くんと衣ちゃんがその年の内に付き合いだしたんだよね。じゃあ、彼が神代さんを裏切ったから問題が起きたってこと?」

咲「京ちゃんはそんなことしません!」

健夜「いや、でも今に繋がるような問題が起きたって考えたらそう言うことじゃ……」

咲「京ちゃんは絶対にそんな不誠実なことしないから!!」

由暉子健夜「「…………」」

霞「ふふふ、すごく信用しているのね咲ちゃん。あは、ふふふっふ……」

咲「……」


霞「咲ちゃんが正しいわ。裏切ったのは京太郎くんではなく、六仙女の筆頭だったこの私なのだから。そして、その裏切りが巷を賑わせている事件の原因へと繋がっているのよ」

由暉子「……どうして、何故、何をしたんですか?」

霞「私は姫様の天倪だと言ったわよね。普通は人形などを本人に似せることで行うものなの。でも、私は生きながらに姫様の身代りを務められる。それがどうしてか分かるかしら?」

咲「近い血縁関係があるからですか? 神代家の分家筋として血が近いからとか……」

霞「その程度では少し遠すぎるわ。私と小蒔ちゃんに流れる血の半分は同じものよ」

由暉子「それって……」

霞「異母姉妹。血を薄れさせないために分家に本家の血を入れることが昔から行われてきたの。その因習の一つが私のルーツ……戸籍上は少し離れた親戚。そして石戸明星は私の異父妹でもあるわ」

咲「……以前に明星ちゃんのことは従妹だと言ってませんでしたか?」

霞「法律上はそうよ。私の養父から見れば明星ちゃんは紛れもなく姪でもあるのだから」

健夜「霞ちゃんは……」

霞「想像しているのと違うわよ。祖母上には良くして頂いたし、別に私は不満には思っていなかったわ。私の担うべき役割に誇りすら持っていたもの……」


由暉子「それなら……」

霞「私と小蒔ちゃんの待遇が違うことも納得していた。悪かったのは廻り合わせね。私と小蒔ちゃんの京太郎くんに出会う順番が逆なら良かったのよ……」

健夜「……」

霞「私の方が先に出逢って彼の能力にも気づいたのだって早かった。側にいた時間も私の方があの子より長かったの。愛や恋が叶う身とは思っていなかったけれど、でも、儚い夢を見てしまった。ふふ、魂が惹かれて、魅せられ、恋をする。そんなものを知らなければ良かった。彼が先に小蒔ちゃんに会ってさえいれば……私の心は惑わされずに済んだはずよ……」

由暉子「……」

霞「綻びの生まれた心にこそ邪は宿る。姫様に降りて来ようとする恐ろしいものを身に受けるのが私の役目。それも災いへと転じた。きっと心のどこかで考えていたのでしょうね。深層意識でずっと抱いていた認識のしていない思い。自身の境遇への憎悪、神境に対する不満、何もかもを持っているあの子に対する嫉妬。無垢に笑う笑顔への嫌悪、心の底、澱に沈んだ暗い感情を身に宿した神によって暴かれ自覚させられてしまった。だから、私は……」

咲「何をしたんですか?」

霞「神代本家の転覆」

由暉子「転覆、クーデターですか?」

霞「本家に不満を抱く者の中には私を押す分家が以前から幾つもあったわ。でも、担がれるべき私は六仙女、神代の姫を守る者。姫様からの信頼も厚く、裏切りなどあり得ないと信じられていた。神境にとって大切なのは神を降ろせる姫と本家の当主。普段は同じ屋敷に滞在し、堅く守られている。普通はクーデターなんて成功するはずがないのよ……」


健夜「でも、成功させたんでしょ?」

霞「ええ、小蒔ちゃんたちがインターハイへと出場するために神境から出れば、彼女の身を守るためにも守り手は二つに分けられる。そして、信頼されている私が内側から内応することでね」

咲「……神代さんは暴走したと言ってましたよね。京ちゃんにもあなたは何かしたんでしょ?」

霞「ええ、インターハイの最終日を終えて、疲れて戻ってきた彼女たちを拘束した。小蒔ちゃんに同行していた京太郎くんも一緒にね。ねえ、どうすることが一番の復讐になるのかしら? 愛する二人を引き裂くためには何をするのが良いと思う?」


私はそれを見て知っている。

衣ちゃんを失って、生きることにさえ無気力になっていた京ちゃんを見たんだ。

愛が深ければ、情が厚ければ、それに比例するように喪失の悲しみに包まれる。

それは絶望と呼ぶに相応しいものだと思う。


咲「片方が死ねば、残された方は苦しみますよ……」

霞「野蛮ね。でも、死んでも愛は失われないわよ? 私はその愛こそを奪ってあげたかったの」


由暉子「真に愛し合っている二人からそれを奪うことなんてできませんよ……」

霞「そうね。たとえ、脅されようと、凌辱されようと、命を奪われようと、何をされようと無理だと私も考えたわ。だから、私は術を使ったのよ」

健夜「術?」

霞「ふふ、そうよ特別な術。それを行うために私は京太郎くんの身体を操り、小蒔ちゃんの前で交わったわ。泣いて懇願する小蒔ちゃんの顔は今でも鮮明に覚えているの。あの声や表情を忘れることなんてできないわね」

咲「下衆が……」

霞「咲ちゃん、本当は羨ましいんでしょ? 彼の初めての相手はこの私よ。心は拒絶しているのに身体は快楽を感じてしまう。情けなくも小蒔ちゃんに謝りながら私の中で吐精した彼の泣き顔も最高にそそるものだったわね」

咲「死ね……」

霞「肉体を交えたのは縁を深めるため。本命はその繋がりを利用して京太郎くんの記憶を奪い、認識を改変するためよ。小蒔ちゃんを生涯認識不可能にし、思い出さえも消去する。彼はね霧島神境について話さないのではなく、話せなかったのよ咲ちゃん」


ああ、京ちゃんが一夏で変わってしまったのも分かったよ。

おもち好きの嗜好すらも変化したのは神代さんとの思い出を失った影響だったのかな。


どことなく寂しそうで、笑うことが少なくなっていたのは喪失の後遺症。

思い出したくても、思い出せない。

それでも胸中には何かを失った感覚だけがあったのかもしれない。

衣ちゃんは早くに両親を亡くしていたから、私よりももっと深くそれに気づけたのかも……

だから、それを埋めることで京ちゃんの心を手に入れたんだろうか。

もしも、霞さんがそんな真似をしていなければ、京ちゃんの横にいたのは神代さんだった可能性もあるんだよね。


健夜「術なら解けば……」

霞「封印ではなく消去なのよね。認識の改変も正確には破壊が正しいわ。それに、神代の姫の天倪を務められるほど色濃く血を受け継いでいる私を舐めないで欲しい」

由暉子「その後はどうなったんですか?」

霞「彼の状態を知り彼女は暴走したわ。感情が極へと振り切れば、そうなる可能性を姫様は元々内包していた。強すぎる資質に対して、御する能力が拙かったのよね。だからこそ、彼女は神代の闇を何も教えられずに生きてきたの。言ったでしょ、二人は何も知らなかったとね」

咲「本当に純粋なお姫様だったんですね……」

霞「ええ、頑張り屋の良い子だったわ。暴走してしまった彼女は誰にも手がつけられないほどに大いに暴れた。結局、クーデターを成功させたにも関わらず、捕えた当主や本家の一派も交えて総員で鎮めにかからなければどうにもならなかったのだからね。初美ちゃんたち六仙女の子も総出で立ち向かい、大きな代償を支払わずには済まなかったの」


健夜「彼女たちのあの怪我はそれが理由で……」

霞「神代家の当主であった小蒔ちゃんの祖父と跡継ぎであった私の実父も再起不能となり、多くの犠牲者を出した……」

咲「封印殿にいるという神代さんは……」

霞「御し切ることもできない高位の神を身に降ろしたのよ。肉体は神を宿せる器足り得ても、その心は持たず、矮小なる人の魂など消えてしまったわ。空になったあの子の身体には今も神が宿っている。だからこそ、神境の封印殿に幽閉されているの」

健夜「それが事件の発端?」

霞「ええ、史上最高とも、歴代随一とも呼ばれた資質を秘めた姫様の喪失。神代本家当主も含めて多くの犠牲者を出し、神境のあり方をも揺らがしてしまった。それによって外縁や少し離れている血筋の利仙ちゃんや良子さんを神境へと呼ばなければならないほどにね」

咲「何で霞さんは生きているんですか? 雀士行方不明事件を起こすような所がそんな事態を招いたあなたを生かしておくとは思えないんですけど……」

霞「私に代わって六仙女筆頭となった初美ちゃんの恩情とこの身に宿る血のおかげよ」

由暉子「血?」

霞「ふふふ、神代本家は壊滅してしまったようなもので、最も濃い血を持っていたのは私だけ。だから、私は生かされた。外聞のために籍を入れさせられ、毎晩、分家筋の男たちに抱かれ続けた。結婚している間に何人の子を産んだのかしらね。私の体を労わるよりも中の子供がいれば良いんだもの……」

由暉子「そんな目にあっていたんですか……」


霞「皮肉よね。医療技術が向上したからこそ、簡単には死ぬこともない。取り出しても十分な頃になれば腹を裂いて安全に子供を産むこともできる。倫理を無視すれば、本当に色々とできるわ……」

由暉子「……」

霞「そんな無茶をされたから、私の身体は早くに限界を迎えた。女としての価値を失った私からご丁寧にも壊れた子宮と無事な卵巣は摘出され、無一文で着の身着のままに神境の外へと放り出されたわ。少しだけ同情してくれた良子さんの伝手でプロになれなかったら、私はどうなっていたのかしらね……」


自業自得だよ。

由暉子ちゃんは少し同情しているみたいだけれど、私にはそんな感情は一切ない。

生い立ちはどうあれ、その後の処遇に問題があれど、彼女は加害者だ。

京ちゃんと神代さんが何をしたって言うのか。

神やオカルト、超自然的な何かはあったのかもしれない。

それでも、最終的に選び実行したのはこの人自身だ。

自分の心に折り合いをつけることができず、憎しみに駆られて選択を誤ったんだよ。


健夜「どうして霧島神境は雀士を集めたの?」

霞「誤解があるようだけれど、別に雀士を集めていたのではないわよ。集めていたのはオカルトを持つ子、何かしらの異能の持ち主で偶然にも雀士に多かっただけでしょうね」

咲「雀士行方不明事件と考えることが間違っているってこと?」

霞「そう、雀士以外の行方不明者たちの中にも霧島神境が関わっている人たちは相当多いと思うわよ」

由暉子「何のために誘拐したんですか?」

霞「既に手遅れの小蒔ちゃんを助けるためでしょうね。私と違って彼女たちは本物の六仙女だから、そのために必要とあれば何でもするわ」

健夜「どうして異能の持ち主を集めることが神代さんを救うことに繋がるのかな?」

霞「ふふ、あの子たちは私よりも能力的には低いし、私のように小蒔ちゃんと特別な繋がりがあるわけではないの。だから、あの子の身体から小蒔ちゃんの魂が失われていることに気づいていなかったのだと思うわ。宿っている神を祓うことができれば、小蒔ちゃんが元に戻ると信じているんじゃないかしら?」

咲「もう助かることがないことを知っていて教えなかったんですか?」

霞「今となっては霧島神境への憎しみはあっても情はないのよ。それに、裏切者の言葉を信じるような愚かな真似はしなかったと思うわ。だから、どちらにせよ神を祓うための必要な力を補うために異能の持ち主を集めたでしょうね」

咲「マホちゃんや穏乃ちゃんは生きているんですか?」


霞「既に気づいていると思うのだけれど、私と神境は既に袂を分かち縁が切れているわ。だから、残念だけれど被害者の安否までは分からないの。でも、おそらく生きている可能性は低いんじゃないかしら……」

咲「そう、ですか……」

由暉子「具体的に誘拐した人たちに何をしたのかは分かりますか?」

霞「これでも元六仙女の筆頭だから見当はついているわよ。大量に人を集めていたことから見てもおそらく蠱毒の亜種ね。厭魅の亜種は私自身を使って散々に試してくれたもの……」

健夜「蠱毒、えっ? 毒虫とかで人を呪う術のことだよね?」

霞「分かりやすく蠱毒と言ったのだけれど、それは巫術とも呼ばれるものの一種よ。巫術とは生贄を用いる術を指しているわ。蠱毒の蠱に使われている蟲という字は必ずしも虫を指しているわけではないのよ。足のある動物全般の総称と言っても良いわね。例えば、爬虫類の虫は古くは蟲の字が用いられていることからも理解できるかしら?」

咲「生贄の術ってそれじゃあ本当に……」

霞「力を得るために命を捧げるのはよくある手法よね。蠱毒のように強い呪いの力を持つ蟲を生み出せるなら、人でも似たようなことができるとは思わない?」


それは人の命を軽んじ冒涜している。

少なくとも古代ならともかく、現代の価値観では考えられない悪行だ。


人を助けるために何人もの命を生贄に捧げるってそんなの間違っている。

想像するだけで唾棄するような嫌悪感を感じざるを負えない。

霞さんは霧島神境と縁が切れていると言ったけれど、何が行われているのか知っていたんだよね。

もしかしたら、呪いや監視の目があったのかもしれないけれど、見て見ぬふりをしていたのは変わらない。

真実を知りながら口を閉ざしていた人に何の罪もないなんて私は思わないよ。


霞「霧島神境は昔から国の中枢や財界、社会の裏にも通じていたわ。だから、人を一人消すなんて容易いことで、超常の力を使えば簡単に人を攫うこともできたでしょうね。事実、多少の罰は与えられても、今回の事件でも取り潰されるような大きな事態には陥らないようだもの……」

健夜「いったいどれだけの犠牲者が……」

霞「百では足りないし、千でもどうかしら。国内だけでなく、海外でも行っていたようだから万に届いている可能性もあり得るのかしら?」

咲「いかれているよ」


霞「そうね。私もそう思うけれど、神境以外も似たようなものでしょう? 私が塞ちゃんを可哀想だと言ったことは覚えているわよね?」

由暉子「覚えてます」

霞「あの子は操られていただけでしょうね。便利な能力を持っていたから利用されて、都合が悪くなったから切り捨てられる。そうでしょう健夜さん?」

由暉子「本当なんですか?」

健夜「……」

霞「真実を闇に葬るなら少しの事実を混ぜた嘘で偽るのが一番よね」

由暉子「どうして……こんなふうに……」

霞「霧島神境の積もっていた業を私が崩したのが始まりね。もしもそれがなくても、因果は廻るものでいつか似たようなことは起きていたと思うわ。様々な過去の出来事が結びつくことで、今日の結果へと繋がっている。問題があったのは神境だけではないでしょうしね……」

健夜「そうだね……」

霞「ふふふ、そろそろ麻雀を始めましょうか?」


願いが叶う機会を得らえると霞さんは口にした。

それがどういう意味で、どのように与えられるのかはまだ何も言われていない。

機会であり、願い事そのものが叶うわけじゃないという点がどうにも気になる。


霞「私が麻雀を嫌いではないけれど、好きだと明言しなかったことは覚えているわよね?」

咲「……覚えていますよ」

霞「麻雀は小蒔ちゃんが好きだったのよ。競技人口の多さと麻雀に特化している異能の持ち主の存在。普段、私たちが行う所とは異なる領域で力を扱うことは修行の一環に成り得るからインターハイに参加することも決まったの」

由暉子「麻雀が修行と言うのがよく分からないんですが……」

霞「咲ちゃんや健夜さんのような怪物を相手に戦うことを考えれば分かりやすくはないかしら?」

由暉子「それなら修行に、いえ、苦行になりそうですね」

咲「そんな風に納得しないで欲しいんだけれど?」


霞「ふふ、過去の思い出もあるからこそ、私はそこまで麻雀が好きではないわ。それでも食べていくためにプロになり、十分なお金を稼いでも続けたのは何のためだと思う?」

健夜「……修行のため?」

霞「ええ、その通りよ。姫様の天倪を務めた私には彼女との間に深い縁がある。それに、初美ちゃんたち六仙女によって色々と実験もされたから」

由暉子「それでは救えなかったんですよね?」

霞「そうよ。でも、何も干渉することができなかったわけじゃないの。神を御せる力がないから危険すぎて無理だったのよ」

健夜「二度目の暴走が起きれば、今度も抑えられるか分からなかったんだね」

霞「ええ、今の私は麻雀を続けて昔と比べればより高みへと到達している。そして、この麻雀で人の枠を超えた怪物を贄にすることができれば、おそらく一度だけなら神を完全に御せるはずよ」

咲「神を御す? まさか、今更になって贖罪のつもりでもあるんですか?」

霞「ある意味ではそうなのかしらね。本質的には自身のためよ。私はね神様の力を用いて因果へと干渉し、過去の幼い私へと遡るつもりなの……」

由暉子「そんなことが可能なんですか?」


霞「私はそれを目的に今日まで生きてきたのよ。予定よりも早くなってしまったけれどね。だから、咲ちゃんと健夜さんには死んでもらうわ。ユキちゃんには申し訳ない気もするけれど仕方がないわよね。過去では三人とも気にかけてあげるから気にしないでね」

由暉子「過去へ行ければ、爽先輩を救うことも……」

健夜「若さを得られれば結婚できるかな……」

霞「勝者にはその選択が与えられる。そういう術式を組んであるわ。そして勝者は遡及を拒絶して今を生きることを選んでも良い……」

咲「それを選べば人が死に、否定すれば死なないんですね」

霞「咲ちゃんはユキちゃんと違って覚悟の決まっている表情をするのね。過去に命のやり取りしたことでもあったのかしら?」

由暉子「……咲さん?」

咲「……」

健夜「トラッシュトークはもういいよ」

咲霞由暉子健夜「「「「…………」」」」


System
・設定されている雀力の差により宮永咲に+60、小鍛治健夜に+70の補正値が入ります

・累積されたカウンターの値により、宮永咲に+6、石戸霞に+32、真屋由暉子に+28、小鍛治健夜に+7の補正値が加算されます

・宮永咲と須賀京太郎を除く清澄の主要メンバーが安価で選択されているため、宮永咲に+5の補正値が加算されます

・石戸霞を除く永水女子の主要メンバーが安価で選択されているため、石戸霞に+5の補正値が加算されます

・真屋由暉子を除く有珠山の主要メンバーが安価で選択されているため、真屋由暉子に+5の補正値が加算されます

・小鍛治健夜を除く過去のインターハイでの対戦相手が安価で選択されているため、小鍛治健夜に+5の補正値が加算されます

・龍門渕の主要メンバーが安価で選択されているため、宮永咲+5の補正値が加算されます

・宮守の主要メンバーが安価で選択されているため、宮永咲と石戸霞に+5の補正値が加算されます

・阿知賀の主要メンバーが安価で選択されているため、宮永咲+5の補正値が加算されます

・新道寺の主要メンバーが安価で選択されているため、宮永咲+5の補正値が加算されます

・コンマ00は100とし、ゾロ目の場合はゾロ目に+100として扱います

・判定は二回行われます


石戸霞:+42 ↓1

真屋由暉子:+33 ↓2

小鍛治健夜:+82 ↓3

宮永咲:+91 ↓4


私の人生は傍目から見れば成功していると言えるのだろう。

生涯不自由なく暮らせるだけの資産を得、幾つものタイトルを獲得して威名をとどろかせるスター選手。

結婚もネタにされることがあるけれど、晩婚化の世の中でもあるからまだ健夜さんほど危惧されてもいない。

有能なマネージャーのおかげで少し気の抜けている所も割と隠れている。

そう、私は幸福に見えるのだろう。

でも、私自身の手で自分の過去を振り返ってみれば、後悔していることばかりだよ。

一番の悔恨は京ちゃんのこと。

彼のことが好きで、ずっと好きでいたのに、思いを告げることもできなければ、他の人たちのように肉体関係を結ぶこともなかった。
京ちゃんからすれば私は幼馴染で異性の親友という認識か、あるいは手のかかる妹のようにしか思われていないのかもしれない。

特別ではあるけれど、私の求めていた関係とはやっぱり違う。

あの時にああしていれば、こうしていればといつだって思ってしまう。

そうすれば、京ちゃんの隣にいたのは私だったかもしれない……


私の青春時代を彩る清澄の皆のこともそうだ。

インターハイを制するために一緒に同じ所を目指した仲間なのに今ではバラバラになってしまっている。

どうにかすれば、あんな風にはならなかったのではないかと思わずにはいられない。

助けを求めて来たマホちゃんを感情のままに冷たくあしらったことだって悔やんでいるよ。

今も起きてしまっているお姉ちゃんとの不仲も、幼い頃の仲違いで離れている時間がなければ関係が何度も悪化することはなかったのだと思う。

本当に私は多くの失敗と過ちを繰り返してきた。

淡ちゃんのように真っ当な人生を送れなくさせてしまった相手が何人いるのだろうか。

本人が満足していようとも、二条さんを若くして死へと追いやったのは私なんだ。

私自身にはそれをどうにかする力がなかったのかもしれないけれど、穏乃ちゃん、衣ちゃん、初瀬さんのことも悲しまずにはいられない出来事だった。

親しい人を失ったことで私の友人たちに暗い影が落ちている。

憧ちゃんにせよ、透華さんたちにせよ、煌さんでも、もしもを考えればそれを願わずにはいられない。

そして、そのもしもを、その全てをやり直せるのだとしたらどうするだろう。

私は……



石戸霞:82+42 = 124 +42 ↓1

真屋由暉子:100+33+100 = 233 +33 ↓2

小鍛治健夜:09+82 = 91 +82 ↓3

宮永咲:40+91 = 131 +91 ↓4


たった一度の半荘での勝負。

麻雀のプロを名乗るなら勝つべき時に絶対に勝利を掴めなければならない。

一線を退いても頂点に君臨し続けてきた小鍛治健夜。

執念で喰いついてくる石戸霞。

迷いながらも勝ちを諦めずに勝利へとリーチをかける真屋由暉子。

ああ、こんなに本気で麻雀を打ったのはいつ以来だろうか。

二条さんと戦った、あの時が最後なのかもしれない。

彼女は私に頂点に立てと言った……勝手に、私に夢を託して死んだ大馬鹿ものだった……

強い、三人とも本当に強いよ。

負けられない、勝ちたいという信念が、想いが伝わってくる。

それでも、全員、倒して私が勝つんだ。

これまでの人生を、麻雀に懸けてきたすべてに思いを捧げて、一打一打に、牌を掴む手に想いを乗せる。

その意気で挑んだ短くも長い戦いも終局を迎えた。


勝負は終わりを告げ、体から力を吸い上げられていく感覚がする。

この場に神々しいまでの力が満ちていく……


霞「はあ、……はあ、結局、私は届かなかったのね……収支を見れば一人だけ酷いものね……因果は返ってくるものなのかしらね……」

健夜「……くっ…ぅぅ、はあ、私が負けるなんて……最後の最後に、咲ちゃんに超えられちゃったのか……まさか、ユキちゃんにも負けちゃうなんてね……」

由暉子「…さ、さきさん……お願、いします……さ、さわ…先輩、のこと……を………」


三人が倒れて動かなくなった。

卓の上に体を倒し、牌を下にして精も根も尽きたみたいだ。


「選びなさい」


卓の上には神々しいものが降臨している。

その姿は記憶の中にある神代さんにどことなく似ていた。

霞さんの言っていた神話や神の血を引くというのも真実なのかもしれない。

この女神の正体はもしかしたら……


咲「私は――――――


Result

石戸霞:124+42+05 = 171

真屋由暉子:233+33+73 = 339

小鍛治健夜:91+82+11+100 = 284

宮永咲:131+91+88+100 = 410

勝者は宮永咲となりました



System
・宮永咲は選択の機会を得ました
・宮永咲に蓄積されている"◇◇" = "選択"は6のため、安価により宮永咲の行動が決まります


①:過去へ遡ります

②:現代に残ります


↓1から先に6票集まった方


咲「――――――私は現代に残るよ」

「人の子の選択を私は尊びましょう」


私の選択に対して、女神はニコニコと優しげに微笑んでいる。

その表情を見て私は確信する。


咲「ねえ、あなたの正体って神々しくて、大人びているけれど神代小蒔さんだよね?」

小蒔「……こんなに頑張って演出したんですけど分かりますか?」

咲「なんとなくね」


正体を看破されたからだろうか、女神の周りから発せられていた過剰な光が弱まっていく。

光が薄まったことでその輪郭はよりはっきりと見え、大人びていた姿が私の知っているかつての神代さんへと変わっていく。


咲「何で、縮んだの?」

小蒔「うーん、上手くいかないものですね。こちらの姿の方が基本なので戻りました。それにしても宮永さん、本当にその選択で良かったんですよね?」

咲「うん。過去に行ってやり直すのも良いと思うよ。でも、私のこれまで歩んできた人生を否定して、それを選ぶのは何か違うと思うんだ……」

小蒔「そういう考えもありますよね」

咲「……神代さんは神様になったの?」

小蒔「神を身に降ろし、その座を奪ったという言い方が正しいんでしょうか?」

咲「私に聞かれても……」

小蒔「霞ちゃんから私と京太郎様のことは聞いていますよね?」

咲「うん、京ちゃんは神代さんとの思い出も失って、あなたを認識することもできなくなったんですよね」

小蒔「はい。私はそれをどうにかしたくて、神を降ろしました。ですが、私の身で御すことができるような御方ではなかったんです……」

咲「そうみたいだったけれど、どうして女神みたいになってるのさ?」


小蒔「肉体を手に入れた神の御霊と私の魂が座する位置を入れ替わってしまったのだと思います。正確な所はよく分かりません」

咲「そうなんだ。神様ならさ、このどうにもならない世の中をどうにかすることとかはできないのかな?」

小蒔「私にできたことは人を見守るくらいですね。ほんの少しだけなら干渉できましたけれど、天変地異を起こしたりするような真似は元が人の身たる私では無理でした」

咲「干渉って何かしていたの?」

小蒔「ずっと京太郎様の守護霊をしていました!」ドヤッ

咲「……」


神様の身でやっていたことがストーカー?

しかも、京ちゃんに気づかれることなくそんな真似をしているとか……羨ま……

いやいや……待った、もしかして、干渉って言ったけど、まさか!?


咲「京ちゃんの周りでの不審な死とか、女性関係がおかしかったのって神代さんのせいだったりするのかな?」

小蒔「いえ、私がそれを緩和していた方ですよ? なるべく人の死が出ないように頑張ったんです! ダメでしたけど」シュン

咲「あっ、その、疑ったりしてごめんね」

小蒔「私は京太郎様には幸せになってもらいたいんです。衣さんのときは京太郎様の命を繋ぐだけで精一杯でしたし……」

咲「そうなんだ……」

小蒔「神様になろうとも万能の力はありません」

咲「儘ならないものなんだね。神代さんはこの後も京ちゃんの守護霊をするつもりなの?」

小蒔「私は過去へと遡りますよ?」

咲「あれ?」

小蒔「見守っているのも楽しいですが、彼と触れ合えないのはやっぱり悲しいです。せっかく、霞ちゃんが私を降臨させてそれを可能にしてくれたんですから使ってあげないと」

咲「それをすると、その、三人とも死んじゃうんじゃないの?」


小蒔「大丈夫です! 少し申しわけない気もしますが、力は十分にあるのでそちらを使わせていただきますから」

咲「力?」

小蒔「初美ちゃんたちが私のために捧げた方々の命です」


この子、可愛らしい顔で恐ろしいこと言ってないかな。

もう人の身ではないんだから、神様から見ればそれは普通のことだったりするのかもしれないけど……


咲「その人たちを助けることとかはできないの?」

小蒔「単に死んでいるだけでしたら生き返らせることくらいはできるんですが、その、身体が既に失われている方々までは……」

咲「はあ、神代さんが過去に飛んで、過去の出来事が改変されたら今の私とかにも影響はあるのかな?」

小蒔「世界そのものを分岐させるので心配はないですよ。頑張ります!」

咲「……この世界みたいにならないように気にかけてもらえる?」

小蒔「はい、約束します。それでは、そろそろお別れですね」


咲「うん、何か京ちゃんとかに伝えて欲しいこととかはある?」

小蒔「何も。今なら私のことを京太郎様に思い出していただくこともできますが、きっとそれは悲しませてしまうことになると思います……」

咲「そっか、なんか変な感じもするけど、神代さん元気でね?」

小蒔「はい。宮永さんは頑張ってくださいね!!」


神代さんの姿が薄れて行き、見えなくなっていく。

私に微笑みかけながら元気に手を振る姿を見ると、本当に神様なのか疑わしくなる。

ただ、私に応援する言葉を告げたってことは私の真意に気づいていたのかな。

もしかしたら、心を読むこともできていたのかもしれない。

だって、神様なんだからね。

それにしても長い夜が終わった。

窓の外はいつの間にか薄らと白み始めていた。

体が非常に疲れていて、私は自然と背もたれに体を預けてしまう。


咲「神様が応援してくれたんだから、私にも望みの目があるのかな? ねえ、京ちゃん――――



System
・安価の選択によって宮永咲は現代に残ることを決めました
・視点が須賀京太郎へと変化します

本日の更新はここまでとなります。

①が選ばれるかなと思っておりましたが、②が選ばれましたね。

それでは次からは須賀京太郎へと視点を移して話しは進んで行きます。

また安価もある予定です。

次回の更新については、少し疲れましたのでちょっと休んでからの再開になると思います。それでは~

過去に戻ってたしたら、麻雀部にいれさせなければなんとかなったのかな?
麻雀部への入部が全ての元凶だろうし

それと元々のプロットだとどうするつもりだったか気になるなぁ
何度かプロット破壊されてるはずだし、物語終了後にでも知りたいな

>>725
完結したら、安価が話の内容に与える影響だとかといった、
このスレで使われたルールの子細についても解説をしてほしいところだな


System
・真屋由暉子と小鍛治健夜が安価で選択可能となりました
・神代小蒔が安価で選ばれた際のコンマがゾロ目、また宮永咲が安価の選択により現代に残ることを決めたことで……



>>723, >>727
完結後ということで了解しました。


今日も更新はありませんがこの後の展開について少し……

次回から京太郎視点に移行するわけなんですが、まだ選ばれていないキャラクターを安価で選択していくことになります。

選べる人物の数も少なくなってきましたし、それが丁度良い感じの按配で(選ばれるかは分かりませんけど)残っておりましたのでのんびり書いていこうと思います。

次の更新ですが来週中には再開しますので、それでは~


選べない人物

【咲・ハギヨシ・霞】



既に選ばれた人物

【和・優希・久・まこ】

【衣・透華・純・一・智紀】

【美穂子・華菜】

【桃子・佳織・智美】

【数絵】

【マホ】

【小蒔・春・巴・初美】

【エイスリン・白望・塞・胡桃・豊音・トシ】

【由子・洋榎・漫・絹恵・郁乃】

【成香・誓子・揺杏・爽】

【ネリー・ハオ】

【いちご】

【憧・玄・宥・灼・穏乃・晴絵・望】

【初瀬】

【怜・セーラ・泉】

【煌・姫子・哩・美子・仁美】

【照・淡・誠子】

【憩・利仙・もこ】

【咏・はやり・理沙・良子】



これが一覧ですので参考にしていただけると助かります。

どうしても無理なキャラは安価下へ行くので好きに選んでもらって大丈夫ですよー

それではまた来週に~

otu

咲編で選ばれたキャラで京太郎と関係の濃い人物について京太郎視点でやるわけじゃないのか、もしくは京太郎視点から見た咲編の登場人物とか。
まぁやらないとは言ってないみたいだから期待しちゃうけど


お久しぶりです、今日から再開します―ぅ


>>735
完全な京太郎視点で書こうとすれば久や和はR18短編になりそうな気がする……エロ? わっかんねー



俺の名前は須賀京太郎、27歳バツイチの既婚者だ。

来春には小学校へと入学することになる二児の子供がいる父親でもある。

まあ、その頃には守るべき家族が増えている予定なんだけどな。

十年前の俺に言っても、今の生活はきっと信じることができないだろう。

そう思うとこの十年は本当にいろんなことがあった……


京太郎「衣、……ようやく一区切りがつきそうだよ。多分、知ったら怒るようなことも色々した。それでも、けじめはつけないといけないからな……」


祖霊舎のお供え物の取り替えを行い、俺は衣への報告も終えた。

これは自宅にいるときは必ず行う毎朝の習慣だ。

さて、そろそろ朝食の準備に取り掛からないといけないか。


香ばしく焼いたベーコンを玉子で閉じたベーコンエッグ。

妻の友人が作っている野菜を用いたフレッシュなトマトサラダ。

食べやすいようにカットした自家製フランスパン、シリアルにヨーグルト。

甘味としてのフルーツゼリーも用意した。

日々の食事が体を作り、活力を生み出す。

だから、朝の食事を大切にしているんだよな。

テーブルの上に四人分の朝食を並べると背後に人の気配が突然現れた。


京太郎「ッ!?」

桃子「京さんおはようっす。朝からご苦労というか、何品も用意するのって大変じゃないっすか?」

京太郎「……おはよう桃子。いつも言っているけど気配を殺して近づいてくるなよな、ビックリするだろう。まあ、慣れているし、手も抜いているから大変じゃないな」


桃子「あはは、これで手抜き?」

京太郎「パンは事前に作り置いていたものだし、シリアルとヨーグルトは市販品だ。サラダやベーコンエッグなんて手間もかからないだろう? フルーツゼリーは昨晩仕込んでおいたものを冷蔵庫から出したわけで作業量は多くないよ」

桃子「いやいや、私なら朝は面倒だから残り物や一品もので済ましてしまうっすよ。だいたい、京さんは昨日も日を跨ぐまで働いていたのに、睡眠時間は大丈夫なんすか?」

京太郎「体は鍛えているからな。それを言うなら桃子も同じように遅くまで起きていただろう? 俺が起こすまで寝ていても良かったんだぞ?」

桃子「京さんが既に起きているのに熟睡しているのはダメな奴っすからね」


律儀というか殊勝な心がけを持つ東横桃子は俺のパートナーだ。

こいつは少し特殊な人でもなければ認知することが不可能な能力を持っている。

かつてあの人に鍛えられ、執事に半歩身を踏み込んでいる俺でもモモが本気で隠れたならば所在が分からない。

だからこそ、一般人では全くもって認知不可能というとんでもない女性なんだよな。


照「京ちゃんおはよう。桃子、それは誰のことを指しているの?」

桃子「げっ、今日は朝から早いじゃないっすか照さん」

照「……」ジー

桃子「あはは、はは……」


まったく、寝癖も直さずに、口元には涎の跡も残ってるじゃないか。


京太郎「おはよう照。ご飯は逃げないから顔を洗って来いよ、せっかくの美人が台無しだぞ?」

照「う、うん、分かった」トテトテ



System
・"その時"を迎えるまでに安価先のコンマで77が出なかった結果、須賀京太郎の後妻は宮永照となりました


旧姓宮永、年上の幼馴染が俺の再婚した人だ。

人生は本当に分からないもので、まさか俺と彼女が夫婦の関係になるなんて幼い頃は思いもしなかった。

昔から彼女の方が年上なのに頼ることよりも、世話していることの方が多かったんだよな……

まあ、その関係は今も変わっていないか。


桃子「私には分からないっすね。何で京さんは照さんと結婚したのか」

京太郎「そうか?」

桃子「こう言ってはなんすけど、あの人はかなり残念じゃないっすか? 京さんなら他にも選べたというか、もっとしっかりした人もいたのにどうして照さんなのかとずっと不思議に思っていたっすよ……」


照は日本を代表するプロ雀士である。

そんな彼女は取り繕うというか、猫を被るのがわりと上手く、加えて周囲が必死にイメージを守るためにポンコツな所を隠したことで外面は長らく評判だった。


照と俺は幼馴染だから実態を知っている身からすれば、いつ化けの皮が剥がれ落ちるのかと気が気じゃなかったんだけどな。

しかし、幼馴染とは言っても彼女は小学校を卒業すると長野を離れて東京へと移り住んだこともあり、長いこと疎遠になっていた。

もう一人の幼馴染である咲と姉妹でありながら仲違いしたことに原因があり、照は連絡先を俺に知らせなかった。

二人は俺が高校一年生の八月、あのインターハイを境にして関係を修復した。

その時に俺も照と連絡先を交換し、旧交を温めたんだ。

もっとも住んでいる場所が長野と東京では距離もあり、彼女はあまり機械を得意としていなかったから連絡の頻度はそれほど多くはなかったっけ。

翌年からプロとなった彼女は忙しく、長野に帰ってくるのはお盆や正月くらいなもので小さな頃と違って会うことも滅多になかったな。

それでも、あの日には彼女も俺たちを祝うために東京から来てくれていた……

そして俺が失意のどん底に落ちていた時も照は忙しい身であるにもかかわらず、何度も見舞いに来てくれていたらしい。

あの頃のことは霞がかかったように記憶があやふやな点もあり、その事実を長いこと知らなかった。


成香さんのおかげで立ち直った俺は東京の大学に通い出し、同じ都市に住んでいた照と出会う機会は増えた。

だからと言って色恋沙汰の関係は全くなく、俺は和と恋仲になったもんな。

もっとも今の俺と和の関係は一言で表せないくらいに複雑だ。

そして、和の産んだ二人の子供を育てるために当時は色んな人から助けてもらった。

両親、友人、透華さんや咲、それに照も手伝ってくれたんだよな。

それが一応は馴れ初めになるのかね……


京太郎「確かに照は重度のポンコツだけど、あれでしっかりしている所も多少はあるんだからな」

桃子「重度? 多少? マネージャーのSSSさんを病院送りにしたのにその程度の表現っすか?」

京太郎「まあ、……ちょっと度は過ぎているかもな。でも、その件があったことであの人が快復するまでの間、俺が照の世話をすることになったんだよな。それがあいつとの結婚に繋がっているわけだし……」

桃子「つまり、あの人がキューピッドだったと、それで照さんのどこに惹かれたんっすか?」


京太郎「シャープシューターだけにか? 惹かれたって言うか、照の世話をしているときに思ったんだよ。ああ、こいつには俺がいてやらないとダメだって」

桃子「いやいや、ポンコツに惹かれるとか京さんの感性が私には理解できないっすよ。えっ? だって、あの二人と照さんはタイプが全く違うじゃないっすか!?」

京太郎「確かに、俺の好みのタイプは世話好きな方なんだと思う。衣や和はそっち側だし」

桃子「じゃあ、何で……」

京太郎「ダメな子ほど可愛い理論だな」

桃子「それなら同じポンコツとして魔王さんもいるっすけど?」

京太郎「咲か、あいつも確かにポンコツだけど照に比べればましだと思う。料理はできるし、あれな所も多いが一応は自活できているからな」


咲は東京に住んで長いのに平気で迷子になったりする。

それでも、照よりは安心感があるんだよ。

一人暮らしでもまともな食事を食べているし、手の込んだ料理だってお手の物だ。

家事全般もそつなくこなせるから生活力は段違いであり、照とは比べるまでもなくポンコツのレベルが違う。


桃子「……分かんないっす」

照「二人ともおまたせ、ご飯食べよう」

京太郎「そうだな」

照「それで、何が分からないの桃子?」

桃子「はあ、……世の中は理不尽だってことっすね」

照「??」


世の中が無情で理不尽なことばかりであることはよく知っているさ。

そう考えると桃子も結構大変な生活を余儀なくされているんだよな。

他人から認識されないって言うのは想像するだけでおそろしい。

彼女は小さな頃からその環境に慣れているから平気だと言うけれど、本当は寂しく思っていることを俺は知っている。


機械を通せば認識することも可能だが、肉眼では目の前で何を言っても声すら届かない。

だから、買物だって満足にできなかったりするんだよ。

そんな桃子の能力については龍門渕の研究機関で先輩が嬉々として検証をし尽くしたっけ。

結果は芳しくなく、能力の弊害を改善するような手も見つけられずに終わったが、あの人は良いデータが取れたと満面の笑みを浮かべていたな。

特異なオカルトの持ち主は珍しく、それを研究できる機会も多いわけじゃないから面白かったのかね……


京太郎「どんなに理不尽でもへこたれたり、諦めるわけにはいかないんだよな。技術は進歩しているし、それが普及すれば桃子も一般の生活に戻れるようになるだろう?」

桃子「はは、十年は先のことっすね。まだまだ多くの問題を抱えているじゃないっすか」

京太郎「まあな」

照「でも、この眼鏡があれば私でも桃子を認識できるよ?」


照が着けているのは眼鏡型のウェアラブルデバイスで龍門渕が開発したものだ。

最先端の技術と影響力を利用してネットワークを介在することで豊富なコンテンツへとアクセスすることもできる。

テストモデルに近いから値段は少し高く、軽量化や電池の持続時間にもまだ難があるんだよな。

AR技術も組み込まれており、電話やメールはもちろんのこと様々なことが可能ではあるんだけど……


桃子「そりゃあ機械を通せば私のことは認識できるっすからね。それが普及したら私は御役御免でこの生活からも離れることになるはずだから正直に言えば微妙なとこっすけどね……」


桃子は高校卒業後に透華さんに勧誘された。

俺が大学生の頃から透華さんの手伝いをするときは仕事を共にすることが何度かあった。

それが正式に相棒として組むようになったのは和に監禁された後だったりする。

透華さんが俺の身を案じたこともあるが、おそらく監視の意味合いも含めたお目付け役として任命されたんだろうな。


それに桃子は認識できる人が側にいないと不便な面もあるから、俺と組み合わせることが都合が良かったってこともあるだろう。

透華さんの思惑は推測の域を出ないが、桃子が普通に認識可能な社会が到来すればパートナーは解消されるか。


照「そうなれば桃子のいる生活も終わりなんだね」ニコニコ

桃子「何で嬉しそうなんすか!? ……照さんは私がいると迷惑っすか?」

照「もしもそうなら部屋の一室を提供したりしていない。京ちゃんと私と子供たちで家族水入らずも悪くないとちょっと思っただけだから」


桃子は安心したようで止まっていた手を動かして食事を再開した。

それにしても、照は本当に美味しそうにご飯を食ってくれるよな。

甘いものに目がないのはちょっとあれだけど、舌は肥えているから作り甲斐がある。

その笑顔を見ていると俺も嬉しくなってくるよ。


桃子「ふう、ごちそう様っす。洗いものは私がしておくから京さんたちはあの子たちに連絡してあげたらどうっすか?」

京太郎「悪いな桃子。しっかし、親父の話しだとのびのびしているというか、俺から離れていてもわりと平気らしいんだよ。そう思うと父親としては少し悲しいな……」

照「そんなことないよ。京ちゃんが毎日欠かさずに画面越しでも話しているから大丈夫なんだと思う」

京太郎「そうか?」

照「うん。私も昔、お父さんと別れて暮らすことになった時は寂しかったよ。毎日電話で話をしたいとも思ったけど咲がいるからできなかったし……そういうのを口にしたり、表に出すと心配させるから隠していたからね」


そういうものなのか。

現在、子供は一時的に長野の龍門渕家の本邸で預かってもらっている。

ここ数週間は慌しく、身の危険性も否定できなかったために十分に警備されている安全な場所へと避難させていたんだ。

ついでに俺の両親なんかも一緒に守ってもらっている。

お袋はともかくとして、親父は居心地がかなり悪いらしいけどな。

まあ、事態は収束しつつあることだし、そろそろ迎えに行かなければならないな……



↓2(まだ選ばれていないキャラ)


System
・安価先が清水谷竜華で下一桁が4のため……


再開後、開幕コンマが4!?

不意を衝かれた気分になりながらも、次が竜華に決まった所で本日の更新は終了いたします。

それでは次回の更新はおそらく明日ということで~

きっと竜華は、ギャンブラーになってしまった怜を真人間に戻そうとして返り討ちに……

そういえばさらっとSSSさんの今が語られてたけど、コンマなしで決まったのってガイトさんもそうだよな。

菫さん=照のマネージャー兼飼育係
ガイトさん=侠客
でいいのかな。あとこの二人も安価で選んでいいんだよね?
ガイトさんで4が出たら咲さんと泉のアレの後で出入りで死亡とかありそうだけど


>>769
ギクッ! ……リュウカハ……4ガデタカラ……


>>778
二人とも安価で選んでもらって大丈夫です。



咲さんと違って京太郎は回答編みたいなもので思っていたよりも書くのに時間がかかることに気づきました。

そのため今日の更新はお休みで、次回は明日か明後日になりそうです。

次からの更新も連日ではなく隔日から週2~3回くらいになるかもしれません……


子供たちにもうすぐ迎えに行けることを伝えた所、とても嬉しそうな表情をしていた。

その顔を見て照が言っていたことは本当なのだと思うとともに、寂しい思いをさせていることを自覚させられる。

しかし、聞くところによると息子は昔の俺と同じようにおもちが大好きらしい……

子供特有の無邪気さなのかおもちの大きいメイドに絡んだり、智紀さんにも懐いているとのことだ。

それを聞いた俺は恥ずかしさで悶えそうになった。

我が息子ながら何をやっているんだよ……

透華さんの子供とも仲良く過ごせているようで、よく三人で麻雀をして遊んでいると教えてくれた。


京太郎「はあ、オカルトか……自宅で麻雀を打っていた時はそんな兆候はなかったよな?」

照「私は本気で打ってなかったから、本質まで見ていないよ。でも、京ちゃんの子供だからね」

京太郎「娘がオカルトに覚醒したって言うのは複雑だよ」

照「麻雀が強くても困らないよ?」


このご時世だから麻雀が鬼のように強ければ将来困ることはないだろうな。

本人が望むかは分からないが、雀士としての道を歩むならば贅沢な環境にいる。

俺たちの交友関係にはその道のプロが何人もいて、気軽に教えを乞うこともできるのだから。

しかし、俺にはオカルトに対しては複雑な思いを抱かずにはいられない理由がある。


桃子「お茶を淹れるけど二人とも飲むっすよね?」

京太郎「ああ、貰うよ」

照「お茶菓子も欲しい!」

桃子「そう言うだろうと思ってもう準備してあるっすよ」


透華さんに雇われた桃子はメイドとしての研修も積んでいる。

あの人は誰かを雇用する際はメイドや執事の研修を受けさせる癖がある。


それが悪いとは言わないが、副当主に就任してからは龍門渕本社の新人教育にも組み込んだからな……


照「京ちゃんの淹れた方が美味しいけど、桃子のも美味しい」

桃子「はは、京さんと比較されたらしょうがないじゃないっすか。それにしてもおっぱいストーカーさんの子供がオカルト持ちって違和感あるっすね。京さんの心配は分からなくもないですけど大丈夫じゃないっすか?」

照「実生活まで影響のあるオカルトは多くないよ」

京太郎「……照には俺が何をしているのかについては大まかに話していたから、覚えているよな?」

照「もちろん」


表向きに龍門渕家のトップを務めているのは現在入院中の当主だ。

しかし、実際に采配を振るい様々な最終決定を行って財閥を動かし支配しているのは透華さんなんだよ。

これは若年ゆえの矢面に立つことで生じる面倒事を避けるための措置でもある。

龍門渕における俺の立場は裏方だ。


その活動はグレーではなく完全にブラックであり、工作、諜報、時には暴力すらも用いて荒事を専門に取り扱う。

俺の上にいるのは龍門渕家当主と透華さんのみであり、智紀さんは部下だったりする。

龍門渕の裏部門を統括する立場であり、衣の夫であっただけの俺が本来は就けるような役職ではない。

そのことについて長いこと疑問には感じていたが、それだけ信頼されているのだと納得させていた。

先日、その理由も長年龍門渕に仕えているとあるメイドから当主直筆の手紙を渡されたことで判明したんだけどな……


京太郎「世間を騒がせていた雀士行方不明事件の真相は霧島神境による犯行だった」

照「……私に教えても良かったの?」

京太郎「知っておいて欲しい。桃子、すまんが説明は頼むよ」

桃子「了解っす。霧島神境が事件を起こしたそもそもの原因はツ神ツ妥」ツ渉ャツ篠ェっす」

照「ツ神ツ妥」ツ渉ャツ篠ェ?」


桃子が照に事件のあらましを説明していく中で、聞こえてくる音の中に理解不能な言葉が混じっていた。

それは壊れた再生機か何かのようにノイズが走り、意味の分からない音の羅列として聞こえてくる。

前後の会話から特定の何かについての話題において問題が起きているのだとは分かっている。

この事件がその何かのために起こされたものだとは理解しているが、本当に分かっているのかは少しばかり自信がない。

俺の記憶には虫食いで穴だらけになっているような部分がある。

そのことを自覚したのは高校二年生の八月の終わりだ。

俺は親父に請われて夏休みに鹿児島の霧島神境へと赴いたはずなんだが、その記憶の大部分が抜け落ちてしまっていた。

それ以外にも思い出せないことや心に去来する虚無感など、おかしな所が多々あったんだよな。

かつて医療機関で調べてもらったが結果は芳しくなく、解決には至らなかった。

医者は心因性の何かではないかと答えていたし、症状については詳しく説明されてもどういうわけかそれを理解できなかったんだ。


もっとも生活していく上で困ることがあったわけではない。

否、あんなに大好きだったおもちへの欲求が薄れてしまったことを考えれば問題がなかったとは言えないか……

そのせいで玄さんには裏切者呼ばわりされたしな。

どういうわけか、和クラスのおもちを見ていると寂寥感が自然と募って来たりもしていた。

俺は表面上は隠していたつもりだったんだけど衣に見抜かれて慰められたっけ。

悲しい、苦しい、原因さえも分からないそれに悩んでいた俺を理解しようとし、痛みにも似たそれを分かち合おうとしてくれた。

自分よりも背の小さな女の子に甘やかされるのは恥ずかしかったけれど、確かに救われたんだ。

喪失感を埋めるように俺の心へと温かなものが注ぎ込まれ、少しずつ満たされていった。

衣は"お姉さん"をよく強調していたっけ……

そんな意味の分からない症状と失われている記憶が、疑ってはいたがオカルトに起因しているのだと先日教えられた――


目の前に座る巫女服を着た小柄な女性は射抜くように俺を見ていた。

会談の目的を考えれば油断できないのだろう。


初美『お久しぶりですね京太郎。こうして直接顔を合わせるのは十年ぶりですかー?』

京太郎『高校三年生のインターハイ会場で会って以来だからそうなるのか』

初美『再び会うことはないと思っていましたよ……』

京太郎『……昔を懐かしむのは止めましょうか』

初美『そうですね。本日の本題は落とし所ですかー?』

京太郎『いや、最後通告だよ。霧島神境の選べる道は二つ、従うか滅ぶかのどちらかだ』

初美『ははは、何を言っているのですか。日本政財界のフィクサーである龍門渕家でも霧島神境を潰すことはできませんよー。掟については知っていますよねー?』

京太郎『見誤ってるな。それに傲り高ぶってもいる。龍門渕を舐めるなよ? 神境の代わりは用意できないが、ルールがあろうとも潰すだけなら可能だ』


初美『虚仮威しには付き合いませんよ。何よりも利に聡い商家がそんな真似をするとは思えないですねー。他の家も黙ってないと思いますが?』

京太郎『利よりも情を取ることもあるだろう。少なくとも、透華さんにはそれを行う理由があるのは理解しているだろう?』

初美『……』


十年前、龍門渕家の当主であった透華さんの父親が急死した。

その死はあまりにも突然にして不審な死であり、龍門渕家は大いに混乱することになった。

透華さんの苦労と苦悩の始まりであり、優しさや甘さも捨てて全てを拒絶するかのように冷たく変貌したのだ。

前当主の死を暗殺だと疑い、親父の伝手を使って須賀家の本家筋の手を借りることで呪殺であることが判明する。

そして、それを行ったのが霧島神境であることまでは早い段階で分かっていた。

過去の事例からしても神境が主体的に執り行ったのではなく、何者かに依頼されたゆえの犯行だとも理解していた。

霧島神境に龍門渕家当主を殺める理由はなく、得もないのだから。


むしろ、主体的に行われたものであると露見すれば被ることになるリスクが高すぎるからこそ、それはあり得なかった。

しかるべきものの手で調べれば呪殺などはすぐにばれてしまう。

龍門渕家の当主が死ぬことで最も得をするのはどこかと言えば分家である。

だから、徹底的な内部の調査を行ったが全員が白であることが証明されてしまった。

そうなれば外部の犯行と言うことになるわけだが、龍門渕ほどの家ともなれば外には敵や恨みを持つものが多過ぎて、簡単に特定することはできなかったんだ。


初美『それは、ルール違反なのですよ。それをすれば龍門渕と言えどタダで済むとは思えないです』


特別な力を所持しているからこそ、霧島神境を縛る掟がある。

たとえ依頼により呪殺が行われようとも神境は責任を問われない。

むしろ、糾弾しようものなら古くから結びつく名家や旧家、財閥などの手によって取り潰されることになる。

呪殺を防ぐ手段も存在するのだから、それを怠っていた方に問題があるとの見解がなされている。


古より培われ、磨かれてきた呪いという技術は貴重なものだ。

それが特定の誰かの手に渡ることは恐怖でしかなく、畏れのあまりに潰してしまうにはもったいない。

だから、神境は特別な地位を約束され、保護されてきた。

彼らに対抗する勢力も存在しており、一定の相互監視機能が働いている。

各方面と結びついた強固な関係、一蓮托生とも呼べる恐ろしくも深い闇を抱え、それが表に出ることを怖れてどこの家も神境を潰すことなく守ろうとする。

だからこそ、今回起きてしまった神境の暴走も闇の中へと隠され続けてきた。

調べることにすらリスクを伴い、慎重にことを進めなければならなかったんだよな。


京太郎『だから、龍門渕を舐めるなと言っているだろう。共倒れにはさせないための手筈は既に整えてあるんだよ』

初美『まさか、そんなはずが……』

京太郎『十年近くの歳月をかけて準備を行った。龍門渕がこの十年で幾つの家を潰し、呑み込み、壊してきたか分かるか? 龍門渕はこの国で絶対的な立場を確立しているんだよ。霧島神境のように閉鎖的で、外への関心が薄い所では理解していなかったのか?』

初美『……その目、本当なんですね』


巧妙に隠して犯行を行って来ていたが、霧島神境はやり過ぎた。

国内だけの行いならば神境の擁護に回る勢力を削り取ったとは言っても、おそらく龍門渕の意向でも取り潰すことまでは認められなかっただろう。

海を越えた外国の地でも行ったことが最大の過ちであり、家ではなく国と言う大局的な観点からこの問題を解決する必要が生じ始めていたのだ。


京太郎『神境をどうするかは龍門渕の決定次第で決まる。どうすれば良いのかは分かるよな?』

初美『……京太郎がツ神ツ妥」ツ渉ャツ篠ェの諠ウ縺ココでなければ、殺してしまいたいくらいに憎らしいですねー』


隻眼の瞳が濁り、屈辱に耐えるように静かに怒りと憎しみの交った光を灯す。

しかし、そこには何故か同じくらいの憐憫の感情もあり、俺には理解できなかった。

初美さんが口にしたこともよく分からない。

それが表情に出てしまったのだろう。


初美『やっぱり聞こえてませんか? はあ、本当にあの女の呪は強力ですねー』

京太郎『お前、……神境は俺のこれについてやっぱり何か知っているのか?』

初美『知ってますよー、よくね。神境の恥晒しが残した呪ですからねー。京太郎が理解できるのかどうか分かりませんが――


俺は初美が何を言っているのかさっぱり分からなかった。

意味のない音の羅列やノイズが走り続け、何を伝えようとしているのか理解できない。


初美『――、っと言うわけなんですが、……どうやらダメみたいですねー』

京太郎『……みたいだな』

初美『はあ、これでは京太郎のお情けに期待するのも無理ですかー。分かりました、降参します。とりあえず、生存者と遺体を返却しますねー』

京太郎『それは当然だろう? 遺族などへ支払うべき金も出してもらうし、次代の当主となるような子供がいるなら欲しいそうだよ。それで透華さんは表面上は納得する』

初美『恩情で生かされることで利益を得るだけではないんですか。血を交えるということは家を乗っ取るつもりでもあるんですかねー?』


京太郎『さあな?』

初美『……まだ、何か条件があるみたいですね』

京太郎『細かい所はまだまだ詰める必要があるし、話し合うことは多いだろう。一つだけ聞きたいことがある』

初美『怖い顔して、いったい何を聞きたいんですかー? 神境を守るために必要ならたいていの要求なら飲みますけど……』

京太郎『衣を殺したのもお前らか?』

初美『……天江衣は私たち六仙女にとっては殺したいほど憎らしい人でしたが、違いますよ。その依頼は確かにありましたけど、断っています。六仙女の誇りにかけて真実です』


俺が龍門渕家で働いている理由はただ一つ、衣の死の真相を知るためだ。

衣の死から立ち直り始めていたある日、単なる事故なのだと信じていたそれが違う可能性があるのだと透華さんに教えられた。

その日から俺とあの人は共犯者であり、復讐者でもある。

透華さんは衣だけでなく父親を殺した相手にも牙を剥いているけどな。

彼女の手によってこれまでに龍門渕の勢力を拡大する中で候補者は何人も追い込み、伝統ある名家や旧家の歴史に幾つも幕を下ろしてきた。


初美『依頼主については流石に教えられません。それを話せば掟破りとなり、呪いが発動しますからねー』

京太郎『そこまでは求めていないさ。疑わしかった神境の犯行ではないと分かっただけで十分だ』

初美『そうですか』


もしも、初美が是と答えていたならば、神境に対して優位な立場を得られることやそこからの利益を無視しても決定を下していただろう。

むしろ、俺はそうであること願っていたんだ……


京太郎『……それと最初に聞くべきだったのかもしれないが、どうしてこんなことをしたんだ?』

初美『あなたがそれを聞きますか……』


なんとも言えない、やるせない表情で初美は動機を口にしていく。

しかし、それさえも俺には理解できない所が多過ぎた――


あの会談の場に忍ばせていた桃子は全てを知っている。

だからこそ、俺に代わって照に説明をすることが可能だった。

おそらく、事件の根幹には俺も関わっていたのだろう。

それを理解できないのはオカルトの力であり、俺としてはどう考えれば良いのか分からない。

分かりたくとも理解できないそれをどうすれば良いのだろうか。

オカルトは俺の人生にも大きな影響を与えている。

自らの持つそれに助けられたこともあるが、こういった害を与えているものも存在している。

桃子の能力も生活に弊害をもたらしており、娘がそんな類の力に目覚めたことを喜ばしいことだとは単純に考えられない。

そう考えるのは裏の仕事に就くことで、異能の力が人を不幸にさせる事例を幾度も見てきたことも関係しているんだろうな。

だから、いつの日か娘に災禍が訪れるのではないかと不安に思ってしまう。


京太郎「薬も過ぎれば毒となるように、あらゆるものは過分に過ぎれば身を滅ぼす原因になるもんな」

照「京ちゃん?」

京太郎「そういうこともあるから心配なんだよ。もちろん、そうならないようには気を配るつもりではあるけれど……」

桃子「まあ、考えたら切りがないっすよ。だって、人を大切に思う愛さえもそうじゃないっすか? 生存していた犠牲者の中には友愛を起因に身を窶した人もいたっすから……」

京太郎「清水谷竜華か」

照「清水谷さんも事件の犠牲者?」


清水谷竜華は元プロ雀士である。

彼女は大学の在学中にプロへと転向し、高い実力を持つ有望な選手として期待されていた。

普段は人外と呼べるような領域には踏み入れていなかったが、時折その片鱗を覗かせることもあったと照が以前言っていたな。


桃子「そうっすよ。あの膝枕さんについて照さんはどれくらい知っていたっすかね?」

照「突然プロを辞めてしまってそれ以来行方知れずなことだけ。怜が喧嘩別れしてしまったことを気にしていることくらい」


怜さんはたまにふらりと遊びに来ることがある。

インターハイで干戈を交えたことを切っ掛けにした交流が続いているらしく、照は玄さんや煌さんとも連絡を取り合っているらしい。
あの人が家に泊まる時は怠惰の権化で照の世話と重なると俺の苦労は倍以上に跳ね上がる。

清水谷さんと怜さんが仲違いした原因はギャンブルだ。

長い闘病生活の末に怜さんは真っ当な道から外れて、賭博の世界へとのめり込んでいった。

それを窘めようとした清水谷さんと喧嘩し、反発するようにより危険な深みへと堕ちていったのだ。

どうしてギャンブルをするのかと俺は尋ねたことがある。

健常には程遠く、完治するのかさえ分からない不安定な身体を長年抱えてきたことで歪んでしまったのだと自嘲していた。

人の欲望渦巻く中に一瞬の輝きがあり、されど次の瞬間には高く積み上がったものが一気に崩落する可能性がある。

表裏一体にして刹那的な享楽が面白く、生きていることを実感できるらしい。

その感性は健康な体を持つ俺には理解できないものだ。


そんな怜さんは一時、表の世界から姿を消したことがある。

そして連絡の取れなくなった親友を追って清水谷さんは裏の世界と接触した。


京太郎「清水谷さんがプロを辞めた理由は怜さんの行方を追ったからだ。それが間違いであり、元プロ雀士であった彼女は幸か不幸かその実力から連戦連勝を重ねたことで裏の深淵に少しばかり触れてしまった……」

桃子「私たちが膝枕さんの行方を調べたのは雀士行方不明事件の行方不明者について独自に調査していたからっす。彼女の場合は辻垣内組との接触が確認取れたので京さんが話を持ち込んだっすよ」

照「辻垣内、……智葉も関わっていたの?」

京太郎「勘違いさせたみたいだな。辻垣内組は巻き込まれたが正しく、あまり深くは関わっていない」

桃子「膝枕さんにとっては助けられた方っすね……そのせいで余計に面倒な方へと転がってしまったみたいっすけど」

京太郎「賭博を行っていれば胴元の想定を超えて勝ってしまう客が出てくるのは分かるよな?」

照「運の要素が入り込む以上は、絶対は存在しないからね」

京太郎「それが一時の単なる幸運なら金の回収は容易だろうけど、実力で勝ち続けるような強者なら別だ。公営カジノではなく違法な賭博場だからこそ、ときには暴力で解決を図る所もあるがそれは褒められた方法じゃない」

照「短期的には良くても、信頼が失われれば客足は遠のくから……」


桃子「そうっすよ。だから、そういった強い客に対応するために代打ちのような手飼いの実力者を置いているっす」

京太郎「清水谷さんは怜さんの情報を求めていたからこそ、蛇の道は蛇と言うように賭博場を荒らして回った。裏社会に特別なコネもなかったから、情報を持ち得る相手を引き摺り出すために無茶をしたんだよ」

桃子「それがいけなかったんすよね。何の後ろ盾もなくそんな真似をするのは危なすぎるっすから……」

京太郎「幸運に恵まれたのか、整った容姿が悪かったのか……海外の組織と取引もあり、怜さんの行方を知っていた随分な好事家に目を付けられた」

照「へ、変態に!?」

桃子「そいつがまた悪趣味の持ち主で、膝枕さんに麻雀での勝負を持ちかけたんすよね。賭けられていたものは金と情報、彼女の体まで色々っす」

京太郎「麻雀は基本的に四人で打つものだから、その組の代打ちと清水谷さん以外にもう二人必要だ。そのために呼ばれたのが辻垣内組だった。運命の悪戯と呼ぶべきなのか、その場の代打ちとして現れたのは二条泉だったそうだよ」

照「二条さん……」

桃子「運命と言うよりも、代打ちとして直接指名されていたらしいっすから作為的なんすけどね」


組の大紋を背負っている以上は負けは許されず、手を抜くことなど認められない。

情に流され勝敗を譲るような生半可な覚悟しかない者が見抜かれずに生き残れるほど裏は甘い所ではない。


だからこそ、友人同士で潰し合う悲劇が起きた。

本当に良い趣味をしていたと言うか、それを見たかったからこその指名だったのだろう……


京太郎「智葉さんも見届け人として立ち会っていたそうだ。誰が相手なのかはその場に来るまで知らされていなかったらしいけどな」

桃子「結果は最強さんが勝負の中で恐ろしいほど強くなり、終わってみれば圧勝だったらしいっす」

京太郎「既に裏の世界で命のやり取りを行っていた泉と表の世界でプロとして活躍していた清水谷さんでは経験の質が違う。智葉さんの見立てでは地力の差はなかったらしいが、気概や勝負の運び方、底力が違っていたらしい」

照「友人、恩や情もあった相手を二条さんは追い込み、突き落としたんだ……だから……」

桃子「最強さんは非情には徹しきれない甘ちゃんすよ。勝者であるのに敗者の身代りとなることを希望したっすから」

京太郎「勝負事だ。事前に決定されていた約束を変えるようなことは認められるはずがない。ただ、その相手が良くも悪くも変態だった……泉の提案した代償にそいつの趣向が合致したんだ」

照「何を差し出したの?」

京太郎「両目だ。泉は提案が受け入れられるとその場で両目を抉り出した」

照「……ッ!」


京太郎「その両目は防腐処理が施されて観賞用のコレクションとして保存されているらしいって噂だ……」

桃子「膝枕さんが荒稼ぎしていたお金は回収されたっす。彼女の軽率な行動を最強さんは大きく咎めたらしいっすよ」


怜さんのために後輩を犠牲にする覚悟もなかったこと。

他人の人生に口を出すのは傲慢であると指摘し、清水谷さんの行いを否定した。

その結果として何が起きたのかを見せしめるように、彼女の前で自傷したんだ。

それは多分、二条泉の優しさであり、警告でもあったのだろう。

裏の世界に関わるな、表の世界へと帰れと言う口ではなく行動で示したのではないかと俺は思う。

ただ、口にしなければ伝わらない思いと言うものもある。


京太郎「後輩に敗北し、あまつさえ情けをかけられて助けられた。清水谷さんはプライドも何もかも、心を折られて裏から追放された……」

桃子「刺激が強すぎたんすよね」


京太郎「強い責任を感じたのか、それが原因で心を窶したのか麻薬に手を出したらしい。薬欲しさに深みへと嵌まっていき、ある時点で消息を完全に断った」

桃子「私なんかは借金漬けになって薬への依存から場末の風呂屋にでも沈められたんじゃないかと思っていたっすけどね。実際は似たようなものと言うか、麻薬を扱っていた組織に神境へと売られたそうっすよ」

京太郎「清水谷さんは限定的な未来視を行えたから、神境では随分と重宝されていたそうだ。だから、生かされていた……」

桃子「未来が見えるなんて強力な異能の能力っすからね。そのせいで随分と尻尾を掴めなかったと言うか、神境の連中はやり方がえぐいんすよね……」

照「何をされていたの?」

京太郎「オカルトを上手く引き出し、都合よく利用するために特殊な調合を施された麻薬の一種で薬漬けにされていたらしい。龍門渕の方で保護はしたんだが、ほとんど廃人状態だよ。奇跡的に回復の兆候は見られるんだけどな……」

桃子「あそこまでだと薬物中毒から抜け出すのは無理っすよ。薬への依存を抑えるために別の薬を服用する必要があるし、生きているだけ儲けものすね」


清水谷さんの精神も肉体もボロボロだ。

おそらく長生きはできないだろう。

それでも命が助かっただけ良かったと思うしかない。


照「……ねえ、京ちゃん。京ちゃんたちは淡の行方も知っているの?」

京太郎桃子「「…………」」



System
・宮永咲   ◆◆:1
・神代小蒔が安価で選ばれた際のコンマがゾロ目、また宮永咲が安価の選択により現代に残ることを決めたことで一部のオカルト持ちには"生存判定"が行われます


↓1:大星淡の生存判定
01~80
81~98
特殊コンマ


↓2:人物の指名

…霧島の次代の頭首って多分、霞さん相手に種付けしてできた子供だよなあ


System
・生存判定でコンマ下一桁が4のため大星淡は……


次回がすこやんに決まった所で本日の更新は終了いたします。

生存判定まで4とか淡は……

次の更新は土日までにはしたいと思いつつ、それでは~

しかもこの後塞さんは獄中で死亡することが決まってる
竜華みたいにヤク漬けなのか、なんかしらの術を掛けられたのかはわかんないけど、操られた挙句にトカゲのしっぽ役まで押し付けられるとか、コンマ42ってマジ怖いわ

過去に戻っても姫様今回の記憶を継承しているせいで霞さんにきつく当たったりするようになるけど霞さん自身は全く身に覚えがなくて困惑。とかなるんだろうか。
もしそうなったら霞さんがクーデター起こすのは姫様のせいだな。


if世界のその後とかもちょっと気になるな。今度の姫様はうまくやったのだろうか


>>823
お察しの通りですよーぅ


>>833
術の方で操っていたという感じになっております……コンマ42はね……


>>834
IF世界は咲さんが過去へと遡っていたら描写する予定でしたが、今はどうするか保留中です



京太郎「大星淡は死んだ」


簡潔に告げた事実を理解すると照の瞳が見開き、瞬く間に潤んでいく。

悲しみに耐える表情を見ていると俺まで胸が締め付けられるような気がした。


京太郎「詳しく聞きたいか?」

照「……止めておく、元々期待はしていなかったし、安否が分かっただけで十分。それ以上を知っても私はきっと後悔するし、行き場のないどうしようもない感情を抱いてしまうと思うから」

京太郎「そうか」


照は尋ねられるまで俺たちが教えようとしなかったことから察しているのだろう。

淡が本人の望まない人生の終わり方をしてしまったことを……


照「京ちゃん、今度、とびっきり甘くて美味しいお菓子がたくさん食べたい」

京太郎「ああ、好きなだけ作ってやるよ。食べきれないほどのお菓子を大量にな」


俺は照を悲しませている淡に対して不穏な感情を抱いてしまう。

彼女の死は誰に責任があったのかと問えば、本人にもその所在はあったようにも思うのだ。

淡と俺には直接の交友はない。

お互いの名前や顔くらいは知っていたし、会話をしたこともあるが友人ではなかった。

高校一年生のインターハイ終了後に卓を囲んだこともあったが当時の俺は初心者に毛の生えたようなオカルトもない凡庸な打ち手。

照の顔を立てるために表面上は友好的ではあったけれど、ちょっと見下されているようにも感じていた。

あいつには他人を侮って舐めて掛かる所があり、咲に敗北した程度で崩れてしまうような精神的未熟さが破滅へと繋がった原因だと思ている。

こんな風に考えるのは俺が何回も咲たちにボロ負けにされながらも、それでも挫けなかったからこそ少し軽んじてしまっているのかもしれない。


思い返せば、清澄の麻雀部はちょっと初心者には厳しい環境だったような気がするからな……

人生は麻雀だけではない。

淡には確かに才能があり、麻雀で生きていくことが可能な道が開かれていた。

咲に手酷く敗れたとは言っても弱いわけではなく、評価が極端に覆るわけでもない。

推薦による進学やプロや実業団へと進む勇気がなく、麻雀から逃げ出した意気地なしさ。

それでいて定職に就くのでもなく、アルバイトや派遣さえも長続きしなかった。

逃げたはずの麻雀を完全に捨てきることもできずに雀ゴロとなり、実力は本物だからこそ組の代打ちなんかにまでなってしまった。

心配する照たちを無視し、どこまでも堕ちていった。

本気で麻雀を打ち込むもりなら再起して実業団やプロへと進むべきだったんだ。

覚悟もなしで勝ち続けられるほどに裏も甘くなく、手酷い敗北により調子を崩してからは負けが込んで多額の借金を抱えてしまった。

それを返済するために無茶をして、もう戻れない限界点を越えてしまったんだよな。


それでも淡には助かる方法があった。

プライドも何もかもかなぐり捨てて、ただ助けを求めれば良かったんだよ。

間違いなく照は救いの手を差し伸べただろう。

淡の自尊心がそれを許さなかったのかもしれない。

しかし、そうしていれば体を売る必要もなければ、望んでもいない妊娠や堕胎なんかも経験することはなかったはずだ。

人生を転がり落ち、転落した底に至っても麻雀しか寄る辺もなく、最後も麻雀で敗北して神境へと売られて死んだ。

それが大星淡の人生だった。

俺たちが行方を調べ上げて突き止めたときには既に手遅れであり、全てが終わっていたのだから。


桃子「暗い話ばかりしても気が滅入ってダメっすね。何か他の明るいことでも考えないっすか?」

照「……そうだね」


京太郎「そう言うなら何か面白い話しでもあるのか?」

桃子「え、えーと、……そ、そうっすよ、アラフィフさんの話しがあるじゃないっすか!!」

照「あれには私も驚いた。健夜さんは実質的には引退していたようなものだけど、本当にプロを辞めてしまったんだから」


御年40才となるプロ雀士、小鍛治健夜引退の一報は日本麻雀界を震撼させた。

照が言うように表舞台に立つことはずっとなかったが、最強の雀士として常に名前が挙がる化物だ。

公式戦の記録はたった一度の敗北を除いては全戦全勝という本当に人間なのか疑いたくなるような記録を残している。

雀力に比例するように女性雀士は何かしらの問題を抱え込むのか、結婚願望があるのにできない人でもあった。


京太郎「ああ、俺も驚かされたよそれとは別の件で」

桃子「驚愕っすよね」

照「引退以外に驚くようなことが他にも何かあったの?」


京太郎「実は、つい先日なんだけど智紀さんが咲に頼まれごとをされたと報告してきた」

照「……あの子が?」

京太郎「龍門渕の伝手を使って健夜さんの結婚できる可能性を検討し、相手をどうにか探して欲しいと調査依頼を打診されたそうだ」

照「冗談?」

桃子「いやあ、冗談なら笑い話っすよね。マジっすよ」

京太郎「しかも、費用には糸目を付けずに幾らでも払うときていてさ、画面越しで健夜さんは土下座までしたらしくてな。断るに断れなかったそうで引き受けてしまったらしい……」

照「咲が何を考えているのか分からない。ゼロはどこまでいっても一にはなれない」

桃子「やっぱ無理っすよね。私は協会側の情報を探るためにアラフィフさんに密着して調べたことがあるっすから余計に……」

照「そんなに酷いの?」

桃子「生まれてから40年間ずっと実家暮らしで、家事能力は皆無っすよ。自堕落な生活で体型も崩れ始めていたっす」

照「……」


桃子「もう親も諦めたのか何も言わない、言えないような状態でその話題に触れないようにしていたっすね」

照「魅力的な所とかは?」

桃子「お金と麻雀の強さくらいじゃないかと思うっす。周りが結婚していく中で随分と捻くれたと言うか、拗らせたと言うか、性格が歪んでいるっすよ」

照「女性のプロ雀士では有名な話で、結婚や恋人の話題はあの人の前でするのは禁句なんだよ。それはもう、恐ろしい目に合うからね……」

桃子「あー、それが簡単に想像できる時点で問題っすね」

照「京ちゃん、男性の視点から見たらどうなの?」

京太郎「健夜さんか、……ポンコツじゃない点は評価できるけど、結婚はないな」

桃子「注目点がおかしいっすよ」


ポンコツかどうかは非常に重要な要素だぞ。

それが重度か軽度なのか、見誤れば悲惨な目に合うことを分かっていない。


なにせポンコツはどこまでいってもポンコツであり、何かを任せることは非常に危険が伴いかねない。

しかも、どうあがいても改善のしようがないのがポンコツの怖い所だ。

だが、ポンコツでなければ改善の余地があると言うことであり、希望があるのだから。


京太郎「俺は既に結婚している身だからな。健夜さんとは年齢も一回り違っているわけだし、年齢の割に子供というか年上の包容力とか期待できなさそうだろう?」

桃子「照さんも年上なのに性格は子供っぽいすよね」

照「桃子?」

京太郎「家事能力はないし、お菓子には自制心が働かないからこっちで管理しないといけいないしな」

照「京ちゃんごめんね」

京太郎「照はポンコツだけど俺の嫁なんだから気にしなくて良いさ。それが分かっていて結婚したんだからな」

桃子「はあ、照さんは胸もないし、隠れてお菓子を食べているポンコツなのに京さんの妻なんっすよね……」


京太郎「……桃子、それ本当か?」

桃子「黙っていようかとも思ったけど、事実っすからね。証拠の写真とかも欲しいっすか?」

京太郎「おい、こっち向けよ照?」

照「桃子ッ! 何で喋ったの!?」

桃子「ははは、自業自得っすよ」

京太郎「はあ、約束を破るとか。照のお菓子は暫く抜きだな……」


この世の終わりだとばかりに絶望した表情を浮かべているが仕方がない。

子供たちの手前、約束を破っても良いものだとか思われたら困るし、しっかりと罰を与えないとな。

泣き出しそうな顔を見ると可哀想に思えるが鬼にならねばなるまい。

しかし、照を抱き上げたりしたときに感じる重さが増えているのは気のせいだと思っていたんだが感覚の方が正しかったのか。


京太郎「健夜さんの一件はどうしたもんだかな?」

桃子「あの人の場合は有名過ぎてイメージが先行しているのも問題っすよね」

京太郎「しかも、その噂の内容が実態に即した事実であるのも痛いな」

桃子「結婚相手はそのまま探しても見つからないと思うっすよ」

京太郎「となればだ、根本的に生活習慣から改めさせて、頑なに歪んでしまっている性格もどうにかしないとな」

桃子「本人の意識改革っすね」

京太郎「龍門渕本宅で働くメイド用の教育プログラムを流用するか?」

桃子「教育係としては一さんか純さんの都合がつけば一番だけど無理っすよね?」

京太郎「あの二人は忙しいから無理だ。本宅で働いている誰かに頼むのが妥当だろう」

桃子「アラフィフさんが実は家事もできて、性格も巷の噂とは違うとなればギャップでいけるっすかね?」


京太郎「元の素材はそこまで悪くないし、何とかなるかな? 不良が善い行いをするとすごく良く見える理論だな」

桃子「悪すぎるイメージが反転してプラスへと働くわけっす」


結局のところは本人の意思次第でもある。

健夜さんが本気で取り組まなければ、結婚なんて不可能だろう。

人を紹介するだけなら簡単なんだが、それで運良く結婚したとしても終わりじゃないからな。

離婚なんて結末にならず、円満な家庭生活を営んでもらうためにもあの人には努力が必要だ。


照「ふふ、ふふふ、フハハハハ、お菓子、デザート、スイーツ、私の甘味を! 許さない、赦さないぞ、お菓子の仇だ桃子ッ!!」


お菓子禁止令のせいで照が壊れた。

たかが、お菓子のお預けで血走った目で人を睨むなよな。


桃子「な、なんなんっすか?」

照「よくも京ちゃんに私の秘密を教えたな。もちろん、覚悟があるんだよね?」

桃子「自分が悪いんじゃないっすか……」

照「嘘だッ!! ひっひっひぃひぃひゃあははは、私は知っているんだよ桃子?」

桃子「はあ、何を知っているんすかポンコツさん?」

照「お前が変態だってことをだあっ!!」

桃子「ハッ!? 突然何を言い出すっすか、わけわかんないっすよ」

照「ふふーん、私と京ちゃんがしているときに覗いていたよね?」

京太郎「はあっ!?」

桃子「な、何を言ってるッすか?」


照「今、動揺したよね? この変態」

桃子「勘違いっすね。言いがかりを吹っ掛けるの辞めて欲しいっす。何か証拠でもあるっすか?」

照「くふふ、残念だけど証拠はあるんだよ」

桃子「へっ?! う、嘘……」

照「操作の仕方が分からなくなってこの端末を録画状態で放置しちゃったことがあったんだけど、そこに映っていたよ。私たちのを見ながら一人で慰めている桃子の痴態が!!」

桃子「せらえうぉえいあrw?!」

照「さあ、皆で証拠映像を観賞しようか?」

桃子「や、ヤメ、それは止めて欲しいっすよ!!」

照「食べ物の恨みを思い知るが良い。観賞会♪ 楽しい楽しい観賞会♪」ニヤニヤ

京太郎「……桃子」

桃子「あっ、きょ、京さん……」


照「桃子は淫乱、人の行為を覗き見る変態、HENTAI、大へんた~い♪」

桃子「しょ、しょうがないじゃないっすか! 私は二十八の熟した女っすよ、普通なら結婚していてもおかしくない年齢なのに、誰も、世の中の男性も女性も私の存在に気づいてくれないじゃないっすかあ!! 女だって性欲はあるし、どうしようもなく体が疼いてしまう時くらいあって、どうせ見ていたって気づかれないんだから問題ないでしょ!? 親しい人のセックスって背徳感があって興奮するし、私は清い体のまま一生過ごすことになりそうだし、見るくらい減るもんじゃないしいいじゃないっすかあああ!! 文句があるならアラフィフだけじゃなく私の相手も見つけて欲しいっす……先輩たちも家庭を持っていたりするし、子供を見ていると欲しいって感じるのはダメっすか? 私を見てくれる人なら妻帯者でも気にしないし、もう京さんでも良いっすよぉ」グスッ

京太郎照「「…………」」


照に煽られ、恥かしさやら何かやらで感情が爆発したのか桃子は泣き出した。

本気で泣いているのを見て照も申し訳なくなったのか口を噤んだ。

桃子がオカルトで苦悩していることは知っていた。

しかし、結婚とか恋愛で悩んでいたなんて聞いてないな。

まあ、男である俺よりも桃子の頼りなる先輩や同僚の女性たちの方には相談していたんだろうか……



System
・宮永咲   ◆◆:2
・須賀京太郎 □□:1


↓2

System
・安価先が善野一美でゾロ目のため……


三連続での4がなくて安心すれば、今度はゾロ目でしたね……

トシさんって既婚者か独身なのか……どちらなんでしょうか?

次が善野監督に決まった所で本日の更新は終了いたします。それでは~


目の前にいたはずの桃子が何時の間にか見えなくなっていた。

照は機械越しでその姿を見ているために認識できているようだが俺にはもう分からない。

自分が口走ったことで気まずいからか、本気で姿を隠されたらお手上げだ。

照が俺に目配せをしてから部屋を出たのを考えると桃子は自室にでも向かったんだろうか。

しかし、心配しているからこそ後を追ったんだろうけど追い込んだのは照だよな……


京太郎「はあ、……どうしたもんかね」


桃子をはっきりと認識できる人物は非常に少ない。

豊富な人材を抱えている龍門渕でさえも一握りにしかできない芸当だ。

俺が知る限りでは結婚が可能な相手としてリストに挙げられる相手となると現在は皆無だな……

機械越しでなら見えるような相手を桃子は求めていないし、それでは共に生活することが難しい点も多々あるだろう。


京太郎「これって本人の努力次第で解決なりそうな健夜さんの方が難度は楽なんじゃないか?」


考えをめぐらすために、空になったお茶の代わりに珈琲でも飲もうかとした時だった。

メール着信を知らせる振動が伝わってくる。

その種類からプライベート用のものであると分かっているけど誰からだろうか。


京太郎「へえ、珍しいな善野監督からメールだなんて」


健夜さんたちの同世代として学生時代に活躍したのが善野一美監督だ。

元姫松高校の監督であり、俺が高校へと入学する一年前に病気で倒れたんだよな。

病のために職を辞し、数年間に及ぶ闘病と療養生活。

それによって今では完全に病気は完治していると聞いている。


快癒の後に、最近じゃあ名伯楽なんて呼ばれている赤阪さんから監督に復帰しないかと打診されたそうだけど断ったらしい。

その理由はブランクよりも、あの人の色に染まった姫松で監督をするのが大変そうだからなんて酒の席で漏らしていたっけ。


京太郎「ふーん、同窓会のお誘いか」


医者のお墨付きで完治したと保証されても、一度でも病気で倒れた人を雇うのは雇用者側からすれば不安を抱いてしまう。

たとえ実績や確かな実力があったとしても、同じか少し劣る程度な能力の持ち主がいたならば健康な人を選ぶだろう。

だからこそ、善野監督は新たに職を見つけることに苦労したらしい。

結局、コネクションの力で我が母校である大学麻雀部の監督に就任したんだけどな。


京太郎「名前だけは有名でも優勝経験が一度もなかった麻雀部……」


俺が通っていた大学麻雀部は弱かった。

創部以来何十年もの歴史があると言うのに、ただの一度もリーグ戦を勝ち抜いたことがなかったのだから。

俺が入学する前年に個人戦の部では憩さんが優勝を果たしたけれど、団体戦では無残に敗北していた。

そもそも、本当に麻雀が強い人は高校卒業後にプロか実業団へと進む。

そこから少しばかり力の劣った強者も強豪校へと進学するもんだ。

母校が弱いわけではなく、地力は総じて高い方だと思う。

しかし、突出した能力を持っている人は通年いないのが基本的だ。

なにせ麻雀で生きていこうとする人は普通あの大学に行かないし、そんなわけだからチームの総合力を求められる団体戦で勝てるはずがない。


京太郎「っと言っても、やっぱり負けるのは悔しい。だから浩子さんは勝つためにコネを使って善野監督を引っ張ってきたんだよな」


俺が大学へと入学する年に善野監督も就任している。

本気で優勝を狙えるメンバーが入学してくる可能性が高いことをあの先輩は理解していたんだろうな。

だからこそ、愛宕家のコネと学校との交渉で暇をしていた一流の監督を用意し、入学早々にインハイで活躍した俺や和なんかを勧誘しにきた。

俺にとって善野監督は麻雀の恩師とも呼べる人だ。

あの人こそ俺が初めて教えを受けた麻雀を指導する専門家なのだから。

部の存続すら危うかった無名の高校であった清澄に麻雀を指導できる大人なんていなかった。

顧問も名ばかりで普段の部活動に顔を出すこともない。

それは横から口を出されることもなくて、自由気ままで楽ではあったんだけどな。

俺は高校入学後に麻雀を始めた初心者で、部活メンバーと比較すると実力に大きな差があった。

だから、インターハイ優勝を目指していたこともあってか、なんらかの指導を受けることは殆どなかった。

咲が入部する前は暇な時間に和や先輩が見てくれることもあったんだけど、本格的に始動し始めてからはそれもさっぱりだ。


俺が一人でネト麻を打っていると幼馴染の咲や馬の合った優希がダメだしや口出しをよくしてくれた。

しかし、その説明が感覚的であまりにもあれ過ぎだから意味がない。

まあ、俺は元々体育会系の部活出身だから、勝つために強い奴を優遇したりするのは理解できるし不満はなかったんだ。

それに一年生なんてどこもそんなもんだろうって思っていたんだけど、後になって久から謝罪された。

どうやら普通だと考えていた環境が実は普通じゃないと知って驚いたね。


京太郎「そう言えば、新しく入部してきた一年生にも俺って勝てなかったな……」


全国制覇を果たし、一躍有名となった清澄高校の麻雀部には男女ともに新入部員がいっぱい入ってきた。

そして全員が麻雀経験者で俺よりも強かったもんな。

男子の方は唯一の同性で先輩となった俺がまとめ役として面倒を見ることになったんだけど、後輩よりも弱いからか結構舐められていたっけ。

嫌われていたわけじゃないんだが、そこは勝負の世界だ。


それでも実力がないから団体戦の枠も譲ったりして、かなり悔しかったことを覚えている。

インハイの個人戦には俺も出場して、運よく一次予選を突破することができたんだけど全国への切符は取れなかった。

女子も敗北してしまったから二年の夏は良い所が全くなかったな。


京太郎「……夏休みに霧島神境に行って、俺がオカルトに覚醒してからは違ったけど」


当時の男子高校生にはオカルトを持っている能力者が殆どいなかった。

当たりや外れの年があるからそれは仕方がなく、今は女性が強い時代だ。

古くを遡れば全く逆の時代もあり、そういうものにはやはり波がある。

そんな中でほぼ男子唯一のオカルト使いの俺は特異な存在だった。

協会の意向によって運の要素が高められたルール変更により、基礎的な雀力よりも異能の力がどうしても自然と優遇されてしまう状況だ。


俺の中で目覚めた能力は強力な支配を持ち、単一のものではなかったから余計に有利へと働いた。

だからこそ、翌年のインハイでは優勝を掻っ攫ってしまったんだ。


京太郎「あの頃の俺は素では中級者に届かない実力でオカルトに頼り切っていた。だから、地力の成長も伸び止まっていたっけ」


それでも、プロへの勧誘がなかったわけではない。

近年では表に出てくる異能の打ち手の男性雀士はいなかったから注目はされていた。

俺自身は衣を支えたかったし、透華さんからの勧誘もあって将来は龍門渕で働く予定だったから断ったんだ。


京太郎「何の因果か、強引な先輩に誘われて、大学の入学後も麻雀部に所属して善野監督に随分と鍛えられたんだよな」


高校生の頃にあの人から麻雀についても多少の手解きを受けることは何度かあったんだ。

しかし、そもそも本職ではなく俺への教育は他の分野にこそ多くの時間が割かれていた。


だから、今の俺がいる。

そして本格的な麻雀の指導を行ってくれた善野監督のおかげで俺は強くなった。

高校生の頃に幾度となく部活で一流の雀士と打ち続けた経験。

オカルトに頼り切っていようとも全国の舞台で渡り合った記憶。

それらの全てを血肉とし、適切な方法と正しい知識に基づく教えにより高みへと監督は俺を導いてくれた。

プロに男女の垣根がないように、インターカレッジなんかでもそれは存在しない。

和、憧、初瀬、憩さんや浩子さんを擁する麻雀部で補欠や時にはスタメンとして抜擢される実力を身に着けることができたのは善野監督あってのものだろう。


京太郎「長き伝統に栄えある記録を飾れたのは間違いなく監督の力があってこそだった。対戦相手の分析から采配、部員の指導まで辣腕を振るっていたっけ」


一時期は子育てのために休職していたけど、現在は監督に復帰している。


あの頃の懐かしい顔ぶれに会えると思うと麻雀部の同窓会に参加するのも悪くないかもしれない。

既に大きな案件は片付いているし、差し迫った危険もないだろう。

本人の希望ではあるけれど、施設に引き籠っている和を連れ出して一緒に参加するのも良いかもな。



System
・安価先が善野一美でのゾロ目により、善野一美は――とならず、――――はなりませんでした
・安価先が善野一美でのゾロ目により、須賀京太郎は基礎雀力が大幅に向上しました
・東横桃子  ■■:1


↓1:夢乃マホの生存判定
01~80
81~98
特殊コンマ


↓2


System
・生存判定でコンマ下一桁が7のため夢乃マホは……


特殊なコンマが連続で続きますね。

次が末原恭子に決まった所で本日の更新は終了いたします。

どうして末原さんはカタカタ、……苦労させたくなるんでしょうね。それでは~

乙です

マホは『生きてるだけ』って可能性もありますよ
そう……『自分では呼吸も出来ないけど生きてる』ってだけな可能性も……


京太郎「それで、いつまで隠れているつもりなんだ?」


僅かにしか感じなかった気配が途端に大きくなる。

メイドとしての能力が低い桃子は認知できてはいなかった。

巧妙に死角へと潜んで照の視界にも入らないように気をつけていた。

しかし、俺の目には見えていたんだ。


マホ「先輩はすごいですね。いつから気づいていたんですか?」

京太郎「最初からだ。もったいないから朝食を残さず食べておけよな」

マホ「はい、いただきます」


食事を取り始めたマホは可愛らしく健康的に見える。


しかし、その姿は失踪から何年も経ていたにも関わらず変わっていない。

否、むしろ、それどころか十代半ばにまで若返ってさえいた。


京太郎「何で桃子の異能をマネしてまで隠れていたんだ?」

マホ「……」


食事の手を止めたマホは下を向いてしまった。

その表情から読み取ると強い不安を感じているのだと察せられた。

彼女の事情を慮ってみればそれは仕方がないのかもしれない。


マホ「マホは自分がおかしいことを自覚しています。京太郎先輩だって気味が悪いと思っていますよね?」

京太郎「そんなことはない。確かに驚きはしたが、マホのことはずっと心配していたし、こうして再会できて良かったと思っている」


マホ「本当にそうですか?」

京太郎「本当だ。俺だけじゃなくて親御さんや咲たちだってマホのことを心配していた。会えば喜んでくれると思うぞ」

マホ「嘘ですよ。咲先輩たちはマホのことを嫌っていますから……」

京太郎「咲や優希はマホがいなくなって泣くほど後悔していたよ。和だってマホのことをもう許している」

マホ「信じられません。マホが悪いのは分かっているんです。でも、頭を下げて助けて欲しいって頼んでも拒否されました。連絡を取ることさえ拒絶されていたんですよ?」

京太郎「それでも事実だよ」


俺が最も可愛がっていた後輩は目の前にいる少女、夢乃マホだろう。

俺と衣が交際を始めてから部内の空気は著しく悪くなっていった。

優希とは告白され、交際を申し込まれたのに断ったことから関係が気まずくなることは覚悟していたんだ。

しかし、予想を超えて胃が痛くなるようなピリピリとした雰囲気が満ちることになった。


優希が荒れるって言うのなら俺も理解できるんだ。

だけど、咲や和までどこか苛々として恐ろしい気配を漂わせていた。

毎日の部活動における麻雀も熱が入っているという表現では足りず、苛烈な厳しさで行われていた。

その年はインハイを団体でも個人でも逃していたから、元々かなり厳しく入れ込んではいたんだけどより激しくなった。

だから、耐えきれずに春を待たずして部員の半分が辞めてしまったな。

新部長は和で内定していたのに、後輩からの嘆願で俺が務めることになったんだよな。

オカルトに目覚めてからは後輩たちの態度にも変化が起きていたんだが、あんなに必死でお願いされるとは思いもしなかったよ。

春になり、新入生が入学し部員も増えた。

しかし、一週間も待たずして女子は団体戦に出場できる最低人数の五人まで減ったんだ。

男子の方も大半が心折られて麻雀を投げ捨てた。

注意しようにもあいつら三人は暴言や暴力は一切振るっていない。


単に麻雀打っているだけなのだから性質が悪い。

懇切丁寧に細かい粗を指摘し、直るまで続く麻雀地獄。

和が理論から、咲がオカルトから、優希が流れからとそれぞれ独自の観点で苛め抜くんだ。

それに耐えた部員は実力が否応なく向上していたけどな。

俺にはオカルトがあったし、部長としての働きや後輩へのフォローで忙しかったからあの地獄巡りには合わされなかったけど……

マホは入部したばかりの頃は幾度となくチョンボを繰り返していた。

潜在能力の高さは既に周知されていたから期待も大きかったのだと思う。

それにチョンボは褒められるようなことではないから、三人は鬼となって指導していた。

ムロも三人からの指導で自分自身のことで手一杯になっていたし、後輩の男子たちはビビッて役立たず。

必然的にマホのフォローへと回れるのは俺だけだったんだ。


マホ「京太郎先輩に酷いことしようとしたマホをあの三人が許すはずがないです。それに、先輩だってマホのことを受け入れてくれなかったじゃないですか……」

京太郎「そりゃあ、恋人がいるんだから浮気はダメだろう? マホの行いは間違いだ。それでも俺は避けたりはしていなかったはずだ」

マホ「……」


マホが俺に好意を寄せていたことに気づいていなかった。

妹のように思っていて、恋愛対象としてなんてこれっぽっちも考えていなかったんだ。

プロになってから頻繁に横浜から訪ねてくるのだって新天地での生活が上手くいっていなかったり、友人ができない寂しさやホームシックから近場に住んでいる俺の所へ遊びに来ているのだと考えていた。

しかし、俺はそうでもマホは違っていたんだ。

未成年とお酒を飲むのは良くないが、自宅のアパートで親しい後輩との宅飲みだから油断していた。

自分がお酒に余り強くないことは自覚していたが、それで何かが起こるとは思っていもなかった。

酩酊状態になった俺にマホが性的に迫ってくるなんて予想外だし、信じられなかったよ。


和が乱入してこなければおそらくマホに銜え込まれて、逆レイプされていたんだろうな……

そこから起きた一連の顛末だって予期できなかったさ。

和が可愛がっていた後輩を徹底的に排除へと動くことや、透華さんさえそれに協力するなんてな。

当時の俺に与えられていた龍門渕家での権限は今ほどには大きくない。

だから、何が行われていたのかを知ったのはずっと後になってからだった。

あの頃の俺がマホにしてやれたことはその行いを許して、避けたり、逃げたりすることなく先輩と後輩の関係を変わらずに続けることだけだ。

マホが追い込まれていく中で、最もどん底へと落ちた頃は和に監禁されていて手助けもできなかった。

それがなければ、マホが裏と関わることはなかったのかもしれない。


マホ「マホの味方は京太郎先輩に裕子先輩、ミカ先輩と煌先輩、それに咏先輩だけで、両親にも怒られました……」

京太郎「……咏さんが裏へと誘ったんだろう?」


マホ「そうですけど、咏先輩は悪くないです。おっちょこちょいなマホをいつも助けてくれたし、危ないことにならないように気を遣ってくれていました」

京太郎「あの人がマホを可愛がってくれていたのも、本当に気にかけてくれていたことも知っているよ。裏のことも本人は息抜きや単なる大人の嗜みの感覚だったと聞いている。まあ、結果はともかくな……」


三尋木家は古くから続く名家の一つである。

政財界にも影響力を持ち、裏社会にも顔が利く。

咏さんにとって裏との関わりは本当に遊びでしかなく、やましい気持ちは欠片も持っていない。

三尋木という後ろ盾がある彼女は裏からすれば上客でお得意様であり、常に失礼がないように対応されていたのだから。

同じ横浜ロードスターズに所属していたマホを気に入って連れて行っていただけなんだ。

その遊びが原因でマホがプロ資格を喪失した時は本気で申し訳なく思っていたのだろう。

マホがプロを続ける方法として海外での麻雀を勧め、家の力でスポンサーを斡旋したことも分かっている。

可愛がっていた後輩が行方不明となったときは、自身の祖父に掛け合って龍門渕への協力を申し込んできたのだから。


マホ「マホはこれからどうすれば良いんですか?」

京太郎「選択肢は用意してある。一つは夢乃マホとして生きることだ」


行方不明となってからこれまでのことを聞き出そうとする輩が現れるかもしれない。

圧力は掛けるが、権力に屈しないで危険も顧みずに真実を追い求める人はいつだっている。

見た目の違いで騒がれたり、日本でのプロ資格を失っているから麻雀を続けるなら海外での活動が中心になるだろう。


京太郎「もう一つは全くの別人として生きることだ。新しく戸籍を用意することなら容易いから、過去のしがらみを捨てていける。見た目中学生なんだから、その辺りの年齢から人生をやり直せるぞ?」

マホ「もう、マホの感覚では既に成人している身なんですよ」

京太郎「そう言う選択も可能だって話だよ」

マホ「……マホは本当に本物のマホなんですか?」

京太郎「マホがマホじゃないなら誰なんだよ?」


マホ「だって、マホには死んだときの記憶があるんです。あの苦しさや痛み、最期の記憶だってしっかり残ってます……」


当初、初美さんから渡された生存者リストの中にマホの名前はなかった。

彼女が語るには拉致後すぐに術と薬で意識を縛り、その模倣する能力に注目して神降しが執り行われたらしい。

目的を叶えるために最上位の神をその身へと宿したが、肉体が耐えきれずに死んだのだと聞かされていた。

霧島神境側で間違いなく死亡が確認されている。

マホは他の犠牲者たちと異なり、神を一時的にせよ降ろしたことで丁重に土葬で埋葬されていた。


京太郎「マホの両親が保管していた臍の緒を用いてDNA鑑定を行ったけど、マホは間違いなく夢乃マホと同一人物だと断定された。記憶と記録に齟齬も見えないし、心配し過ぎじゃないか?」

マホ「クローンとか、人為的に記憶を植え付けるって話がよくありますよね?」

京太郎「考えすぎだろう……」


そういった技術が存在していることは否定しない。

実際にそれが闇へと消えた医者、憩さんの手で実用に耐える水準のものが開発されたらしく、医療行為に使用された形跡が発見されている。

今回の件に関わった痕跡は残されていなかったからその線はないだろう。

だから、マホたちに何が起きたのかはさっぱり分からない。

彼女の他にも確かに死んだはずの人が生き返ったことが数は多くないが確認されているんだよな。

ゾンビのように墓穴から出て来たのではなく、神境側から生存者の引き渡しが行われる日に何時の間にか交ざっていたんだ。

蘇生した彼らもいつから、どうしてそこにいたのか分からないときている。

誰もが死んだことを自覚していて、気づけばその場にいたと答えていた。

彼女たちの共通点は死体が丁寧に埋葬されていたと言うことだけであり、年齢や性別も含めて他に関連性は見つからなかった。

一応、念のために埋葬されていた墓も暴いたのだが、中身はもぬけの空となっていた。

ただ、それ以前に墓が荒らされたり、掘り返された形跡もなく、本当に謎が深まるばかりだ。


これについては龍門渕も霧島神境も大きく混乱している。

問題があるとすれば、蘇生した人々の年齢がおかしかったり、髪の色や顔の形が僅かに違っていたりとちぐはぐな点も見受けられる点だろう。

一様に彼女らを保護した龍門渕では、念のために研究施設で徹底的に身体や記憶に異常はないかの検査が行われたが、健康体そのものであるとの結論が出ている。

そんな彼らの身の振り方を含めて、本当に忙しい日々を先日まで送っていたんだよな。

山場は超えたけど、まだ終わっちゃいない話だけどさ。


京太郎「奇跡としか呼びようがない。まあ、どんな形でも俺はマホが生きていてくれて嬉しかったよ」

マホ「京太郎先輩……」

京太郎「拉致されて、死んだと思ったら数年後にいるんだから戸惑っているのは分かるし、不安に感じているのも想像できるけどな。もっと肩の力を抜いて楽にしたらどうだ?」

マホ「……」


死んで生き返っている時点で意味が分からない。

感覚的には未来に放り込まれたようなもので理解が追いつかない。

若返っていたりとか、何それだよな。

年月が親しかったはずの人さえも赤の他人のように見させてしまうのだろう。


京太郎「マホの姿が少し変わっていようとも、気にしないで受け入れて喜んでくれるはずさ。だから、引き籠らずに両親や親しい人に連絡を取ってみたら良いと思うけどな」


生存が絶望視されていた人が生きていたなら、もう会うこともできないと考えていた人と再会したなら嬉しいはずだ。

マホが不安に感じている一部のことなら、おそらくどうにでもなるだろう。

生活の基盤を整えるなんて楽なもんさ。

権力と財力があれば無理を通すくらいわけないことだから。


マホ「京太郎先輩は昔から頼りになりますね。ダンディーになってもっと魅力的に見えます。大好きです! マホと結婚してください!!」

京太郎「いや、俺は既婚者なんだけど」

マホ「知ってます。マホは不倫と言うものも悪くないと思うんです」

照「……何を言っているの?」

マホ「ヒッィヒャァッ!?」

京太郎「お帰り照。それで、桃子は?」

照「部屋で休んでるよ。マホ、それで?」

マホ「うっ、て、照先輩だって略奪愛みたいなもんじゃないですか!」

照「だから?」

マホ「何で和先輩じゃなくてあなたが京太郎先輩の奥さんになっているのか、マホは意味が分かんないです」

照「ふーん、京ちゃんと私が結婚しているのは揺るぎようのない事実だよ。来年の春には子供も生まれる予定だし」


マホ「はっあああ!?」

照「それに、和とは互いに了承済みでもあるからマホが口を挟むことじゃない」


和の件もあり、俺には再婚する気がなかった。

照のことは愛おしく思えたけれど、その想いを伝えるつもりもなければ関係を深める予定もなかったんだ。

踏み込んできたのは照の方からであり、押し切られた形だな。

子供たちにも好かれていたし、和も納得させてきた。

さらに外堀を埋めて互いの両親や透華さんをも説得してきたのだから、そこまで固い信念で再婚しないと決めていたわけじゃないから俺が折れた。


照「マホは龍門渕の支援もあるんだから過去は忘れて新しい人生を歩んだら? 京ちゃんのことも忘れた方がきっと幸せ」

マホ「マホは……」


照「マホの立場には同情するし、身の振り方が決まるまでは好きなだけこの家にいて良いよ。京ちゃんに甘えたい気持ちも分かるから、少しなら許してあげる」

マホ「照先輩……」

京太郎「おい、照?」

照「京ちゃんも悪いんだよ。優しい所は私も好きだけれど、だから勘違いする子が出てくる。女性関係で苦労したのならもう少し自覚を持つべき」

京太郎「……」


耳の痛い話ではある。

久や和の件でも苦い思いを味わってはいる。

俺は普通に接しているつもりで、特別なことをした気はない。

それでも、照が言うなら俺は必要以上に甘いのだろうか……


照「私から見れば京ちゃんもマホも苦労人だね。まあ、程度の差こそあれ菫や末原さんもそうだけど……」

マホ「すえはら、……末原恭子さんですか?」

照「うん、あの人は借金王だからね」

マホ「えっ? 何ですかそれ? ちょっと格好良い響きですし気になります」

照「平均生涯年収を軽く超えた借金を抱えているんだよね」

マホ「ほぇ、何をしたらそんなに? そう言えば、マホの貯金はどうなっているんですか?」

京太郎「マホの親御さんが手を付けずに保管しているよ。自前のお金が欲しいなら神境から払われた慰謝料みたいなものがあるから、その口座のカードを渡すけど?」

マホ「い、如何ほどですか?」

京太郎「被害者の数が多いし一人辺りはそこまで多くないな。マホの場合は七桁の後半だ」

マホ「大変な思いをした割には高いのか低いのか微妙な額ですね……」


霧島神境は歴史があるから豊富に資産を貯えてはいたけれど、キャッシュが多かったわけではない。

神境は年間を通して安定した収入がそれなりにあったから、龍門渕家が立て替え、借金として貸し付けている。

あそこが潰れる心配は全くないのである意味安心な貸付先だ。


マホ「それで末原さんはどうしてそんなことに?」

照「彼女の両親が借金を残して蒸発したからだよ」

マホ「えっ? 親の借金を子供が返済する義務はないですよね」

照「名義を勝手に使用されていたし、ちょっと危ない所からいっぱい引っ張ってきていた結果だね」

マホ「うわぁ、そう考えるとマホは両親に恵まれていましたね」


末原さんは知り合いで苦労人ランキングを組んだならば上位に入る人だ。

普通の人生を歩んでいたはずなのに、いきなり不幸が押し寄せたわけだしな。


彼女は高校卒業後は東京の某有名私立大学へと進学している。

準決勝で咲に敗れたことがトラウマとまではいかないが、大きな影響を与えたのか大学では麻雀を続けなかった。

そして、一般的な大学生としての日々を送っていたんだ。

そう、学業にアルバイト、サークル活動や恋愛、そして就職。

どれも特筆すべきことはない普通の大学生活だ。


京太郎「末原さんは一挙に不幸が嵐のように到来したんだよな」

照「ちゃちゃのんショックから人生がマイナスに振り切った感じだったよね」

マホ「あの前後はマホも大変でした……」

京太郎「そうだったな。末原さんは上場企業に入社していたんだがあの不況で会社が倒産した。丁度、マホが行方不明になった少し後くらいか?」

照「マホがいなくなってからが不況の本番だったからね」


マホ「そうだったんですか。大企業も刈り取られる時期が到来したと」

京太郎「職を失い、不況だから再就職も上手くいかなかったみたいだ」

照「不幸は重なると言うべきなのかな。よく乾燥した寒い冬の夜に彼女の住んでいたアパートが全焼した」

マホ「えっ!? それって、家財から何かまでどうなっちゃうんですか?」

京太郎「火災保険に未加入だったらしく、失火責任法もあって重過失とは認められなかったそうだから損害賠償請求ができなかったらしい」

マホ「そんなのおかしいです……」

照「法律がそうなっているから仕方がないよ」

京太郎「職もなくし、住むところも失った彼女は当時交際していた相手を頼ったんだ」

照「あれも悲しい事件だったね……」

マホ「えっと、まさか?」

京太郎「恋人の浮気を発見してしまうし、知らない内に貯金を使い込まれていた……」


マホ「それが全部、短期間に起こったことなんですよね?」

照「もちろん。信じていた愛も失ない、更なる不幸が末原さんを見舞ったんだよ」

京太郎「両親が借金を残して蒸発だからな。現れた借金取りも堅気の人間じゃなかったわけだし」

照「末原さんも覚悟したそうだね。風呂屋に沈められ、余分な臓器を売られ、最後は海外に売り飛ばされることを」

マホ「三倍満、いえ、役満コースじゃないですか……」

京太郎「そこからは住所不定無職、僅かに残ったお金を頼りにした逃亡生活さ」

マホ「住所不定で無職なんて聞くと事件の犯人みたいですね」

照「まともな生活を送れていなかったから病気になるし、通院するお金もなければ行く宛もない。迷惑がかかるのではないかと友達に頼ることもできずにいたそうだよ」

マホ「それでどうなったんですか?」

京太郎「偶然、街中で迷子になっていた咲と再会したらしく、あいつに拾われて借金も肩代わりしてもらったそうだ。その借金を返済するために咲のマネージャーを引き受けて働いているよ」

マホ「マホのことは助けてくれなかったのに……」


末原さんは公私ともに咲を支えているマネージャーだな。

あの人のおかげで俺は安心していられる。

ポンコツ係としての共感を感じざるを得ないが、彼女なら大丈夫との安心感もある。

何時の間にか主従の力関係が逆転していて、咲のポンコツ具合をよく理解してくれているからかな。

俺や菫さんを相手にポンコツについての愚痴を漏らす時もあるけど、割と苦労を背負い込むタイプだ。

照も咲もよく知っている身としては、同意できる事項が多すぎて毎回ため息が漏れる。

マネージャーとしての能力は高く、対戦相手の分析から日々のスケジュール管理、過去の失敗から法律についても学び、どんな問題が起きようとも対処できるように様々な知識を身に着けるに至っている。

咲本人の前では決して言わないが、恩義を感じていて一生かかっても返せないと思っているそうだ。



System
・宮永照   ◇◇:2


↓2


System
・安価先が加治木ゆみでゾロ目のため……


このまま特殊コンマが出続けるのかとビクビクしつつ、次がかじゅに決まった所で本日の更新は終了いたします。

確率上は三割にも満たないはずなんですが……それでは~


マホ「は? 優希先輩が妊娠、出産? えっ、お相手は誰なんですか?」

京太郎「聞いたんだけど教えてはくれなかったんだよな……」


俺と照はマホにここ数年で起きた事について話していた。

その中で最も驚いた反応を示したのは優希のことだった。


マホ「やっぱり、京太郎先輩ですか?」

京太郎「はあ、咲にも聞かれたけど俺には身に覚えがないっての」

照「でも、赤ちゃんの髪は金色だったし、どことなく京ちゃんに似ているように見えるんだよね」

京太郎「無実だ。だいたい優希とはそんな関係になったことはないし、あいつとは再婚してからは二人っきりで会ってもいない。常に桃子か照が側にいたさ」

照マホ「「…………」」


二人とも怪しんでいるな。

まあ、優希には一度ならず三回も告白されているからな。

一度目は衣と交際を始める前の高校二年生の時だ。

二度目は和と付き合いだしたばかりの頃だった。

そして、最後は照と再婚を決める少し前にな。

あいつが一途に好いてくれる気持ちは嬉しかったし、可愛い奴だとは思う。

だが、俺にとって優希は仲間で親しい友人以上には考えられない。


マホ「京太郎先輩はお酒に弱いですよね。マホが言えた義理ではないですけど、記憶を失くすほど泥酔状態で襲われていたとか?」

京太郎「おい、優希に失礼だろう」

照「でも、子供の名前は京ちゃんから一字取ってるよね」


京太郎「……偶然だろう」

照「優希はずっと京ちゃんが好きだったし、他の男はないと思う」

京太郎「……」

桃子「知りたいっすか?」

京太郎「ッ!?」

照マホ「「????」」


ウェアラブル端末を外している照にも、異能の力を模倣していないマホにも桃子は認識できていなかった。

しかし、俺が驚いた反応を示したことで察したのだろう。

照は机に置いていたデバイスをかけ、マホも何かしらの異能をコピーしたようだ。

神境での神降しか、死の淵から蘇ったからなのかマホの能力は随分と強化されたらしく、制限が緩まり麻雀にも限定されていないんだよな。


桃子「タコスさんの子供は怪しかったから京さんには知らせずに調査がされていたっす」

京太郎「誰の指示で?」

桃子「透華さんっすよ」


あの人の立場から考えれば、俺の血縁者は調べておく必要があるか。

俺さえも知らない内に隠し子がいたりしたことが判明すれば、その影響がどこで出てくるか分からないからな。


マホ「それで桃子先輩、優希先輩の子供は京太郎先輩の子供だったんですか?」

桃子「一応、遺伝子上は京さんの子供っすね」

照「やっぱり、……京ちゃん?」

京太郎「待てって、本当に俺には心当たりがないんだけど?」

マホ「優希先輩狡いです……」


桃子「技術進歩は恐ろしいっす。タコスさんは京さんの細胞を回収したっすよ。現在の技術だと髪の毛一本からでもiPS細胞を作り出せるのでDNA情報を得るのは楽っすね。それで始原生殖細胞を作り出し、精子へと分化させて人工授精で子供を授かったわけっす」

照「えっ?」

マホ「マホは難しいことはよく分からないです……」

桃子「つまり、タコスさんの子供は遺伝子的に見れば京さんの子供に間違いないということっすよ。現代技術による処女懐胎っすね」


思考回路がショートして頭の中が真っ白になった。

あいつ、何をやっているんだ!?

知らないうちに子供?

俺の子供になるのか?

えっ? こんなのどうすればいいんだよ……


桃子「ちなみにDr.Kが関わっているらしく、子供の健全は保証されたようなもんっすね」

京太郎「は? えっ? ……あの人も関わっているのかよ」

桃子「透華さんは京さんが認知するつもりなら認めるそうだから、好きにして良いとのことっす」

照「京ちゃん?」

マホ「羨ましい、マホも京太郎先輩の子供が欲しいです!」

京太郎「落ち着け、正直に言って突然のこと過ぎて混乱してる。すぐに答えは出せそうにねえよ……」

桃子「当然っすね」

京太郎「何でこのタイミングでそんな重要なことを話したんだ? あいつに子供が生まれてから半年以上が経過しているし、普通はもっと早く教えてくれるべきじゃないのか?」

桃子「調査に時間がかかったのと、数日前までの状況を考えれば分かっているっすよね?」

京太郎「悪い、確かにそうだな。……今だからか」

桃子「子供の養育についてはタコスさんの両親が孫を可愛がっているし、あの人はプロ雀士だから資金面には何の心配もないっす。Dr.Kが関わっているとはいえ、タコスさんの勝手な行動だから京さんに義務はないっすよ」


京太郎「……」

照「……ねえ、桃子。他にも京ちゃんには隠し子とかいるの?」

桃子「私にまで情報が上がって来ていないので答えられないっすね。可能性は否定しないけど、タコスさんみたいなケースは発見されていないとだけは言えるっす」

マホ「京太郎先輩と肉体関係を持っていそうな人って誰ですか?」

照「怪しい人が何人かいる」

桃子「まあ、京さんはお酒を完全に断つべきっすよ。私が側に居て守らなければ危ない場面が何度かあったっすから」

京太郎「記憶にない。俺は無実だ……」


禁酒しよう。

照がいない所で飲むのは絶対に辞めよう。

確かに、酒を少し飲み過ぎて記憶を失ったことが何度もある。


だけど、起きてみれば隣に裸で誰かが寝ているとか、着衣に乱れがあるようなことは一度もなかった。

そんなことはなかったっと信じたい。


桃子「京さんには悪いけど、肉体関係があった人を一人知っているっす」

京太郎「えっ? う、……嘘だ、ろ?」

照「誰?」

マホ「マホも知っている人ですか?」

桃子「断っておくけど照さんと結婚する前の話しだから、怒ったりはしないで欲しいっす」

照「嫉妬はしちゃうけど、婚前なら仕方ないよ。それで?」

桃子「ゆみ先輩っす」

京太郎「嘘だ、記憶にないし、身に覚えだって、何かの間違いだろう……」ブツブツ


桃子「酔った勢いで一度だけやってしまったらしいっす」

照「それはいつ頃の話しなの?」

桃子「京さんが大学生の頃っすね」

マホ「えっ? 和先輩の監視を潜り抜けたんですか?」

桃子「おっぱいストーカーさんと付き合いだす前のことだったと聞いてますから大丈夫だったんじゃないっすか? ちなみに、それが先輩の初体験っすよ」


俺は知らない。

そりゃあ、学生の頃にゆみさんとは龍門渕の仕事で一緒に働いたこともある。

仕事明けに二人で打ち上げをしたことも何度かあるさ。

その頃にそんなことがあったとかゆみさんから聞いたこともないし、どういうことだよ?

はあ、真相を聞きたくともゆみさんは今どこにいるのか……


彼女は麻雀の魅力に骨の髄まで憑りつかれてしまっている。

大学を自主退学して雀ゴロになった人だからな。

プロへと進む道もなかったわけではない。

しかし、ゆみさんはトッププロとは友人の伝手で打てるからと断り、野に隠れ潜む強者との打ち合いを求めた。

彼女はお金が欲しかったわけでも、名声を求めて麻雀を打っていたのでもなく、ただ強い相手との楽しい麻雀を打ちたかったのだ。

東京はもとより、国内の主要都市から地方まで雀荘を渡り歩く麻雀行脚。

田舎に隠居していた往年のスター選手や麻雀黎明期を戦った歴戦の老兵、伝説と呼ばれるような打ち手など様々な人と出会い別れて、麻雀を打ち続ける毎日。

裏と関係を持つこともあり、後ろ盾を持たないことに対するリスクを理解していたからあの人は龍門渕の諜報員になったのだと聞いている。

いざという時に身を守ってもらう代わりとして、噂や裏の情報を流してくれていた。

俺は学生の頃、下積み時代にあの人と一緒に行動を共にして社会勉強をしていた時期がある。

現在は活動範囲を世界へと広げて気ままに麻雀を打っているんだ。


だけど、近況報告を電子メールではなく、エアメールで一方的に報せてくるんだよな。

前々回はアフリカで、前回は中米だったか?

風来坊となったゆみさんだけど、海外で伴侶を見つけて結婚したとも教えてくれていた。

そんなあの人と俺がしていたとか信じられない……


桃子「照さん、京さんを貸してくれないっすか? ゆみ先輩と竿姉妹になることには憧れがあるし、京さんのことも嫌いじゃないと言うか、悪くないと言うか、それなりに想っているし」

マホ「マホも京太郎先輩の子供が欲しいです」

照「嫌だ。和がiPSで同性とも子供が作れると言っていたし、桃子は憧れの人と子供を作れば?」

桃子「ゆみ先輩は私を置いていったっす。私が今一番気になる人は京さんっすから」

マホ「マホは一途に先輩のことを愛してます!」

照「下手をすれば小学生に見えるロリっ子が何を言っているの? 京ちゃんを犯罪者にするつもり?」


照桃子マホ「「「――――!」」」ヤイヤイ


女性が三人寄れば姦しいとは言うが、好き勝手なことを言われているな……

はあ……昼飯作るか……

ちょっと考えることから逃げ出したい気分だ。

だから、言い争いを始めている三人を無視して、俺は昼食の準備に取り掛かった。



System
・安価先が加治木ゆみでのゾロ目により、加治木ゆみは――とならず、――――はなりませんでした
・安価先が加治木ゆみでのゾロ目により須賀京太郎は対応力が高まりました
・東横桃子  ■■:3


↓2

これも姫様ってヤツの仕業なんだ…


>>957
な、なんだってー!

姫様め、ゾロ目を出してきたことからも疑っていたが、ま、まさか!?


連続する特殊判定に疲れを感じながら本日の更新を終了いたします。

次は船Qですねー、次回の更新は数日の間が開くかもしれません。それでは~


トウモロコシから作られた乾燥マサに水を加えて生地を練り上げる。

トルティェロを使って生地を適切な大きさへと広げていく。

生地をそのまま焼いても良し、油で揚げてハードタコにするのも良い。

タコスに挟むものは各自のお好みで選べるように用意しておいた。

俺は呪われたタコス好きの血族ではない。

しかし、高校時代に優希のタコスを買い出しに行くことや作っていた因果なのだろう。

今では一週間に最低一度はタコスを食べないと落ち着かない体になってしまったんだ。

タコスは美味いし、挟むもの次第で野菜、肉、魚だってバランスよく食べられる。

味だってソースを変えれば幾らでも飽きもせずに食べていける。

生地をハードかソフトに変えるだけで食感も違ってくるもんだ。

タコスは最高だぜ。


昼食の準備が整ったが三人の姿が見当たらない。

どこにいるのかと家の気配を探れば自動卓も置いてある遊戯室にいるようだ。

ん? 三人のはずが四人に増えていることに疑問を感じたが、とりあえず大人五人分となるように昼食を増量する。

あの人直伝の技術を用いて素早く作業をこなし、俺は食事を運んでいく。


浩子「おう、京太郎。お邪魔しとるで」

京太郎「げっ、浩子さん!」

浩子「なんやねん先輩に向かってその反応はないわ。……ふーん、昼はタコスか、片手でも食べられるし都合がええな」

マホ「タコスでマホはパワーアップします。つまり、タコス力でマホが勝つということです」

桃子「はあ、二人ともそれを着けて麻雀するの反則じゃないっすか? 私の能力が意味ないじゃないっすか……」

浩子「は? その能力の方が反則やないか」

照「勝負は時に非情」


マホなら和でも真似れば桃子のステルスを破ることができる。

しかし、国内のタイトルを幾つも持ち、世界ランク一桁の照でも桃子を見ることはできない。

昔の桃子を相手になら可能だったんだろうけどな。

浩子さんはオカルト持ちでもないし、データを利用した雀風だからやはり見えない。

だからと言って、機械を使って麻雀を行うのはどうなんだろうか。

高性能なカメラ機能を利用して画像認識ソフトを用いればガン牌できるよな。


京太郎「はあ、何で浩子さんがいるんっすか?」

浩子「研究の息抜きに後輩の家へ遊びに来ただけやないか、あかんのか?」

京太郎「……そんな見え透いた建前を言われてもね」

浩子「うちの信頼値ちょっと低すぎるんとちゃう?」


京太郎「何で麻雀を?」

浩子「いや、訪問したら面白い話しを三人がしててやな」ニヤニヤ


あくどくいやらしい笑みを浮かべる浩子さんを見て俺は三人へと視線を向ける。

おい、顔を逸らすな、こっち見ろよ?


浩子「揉め事にけりをつけるんなら、雀士ならやっぱ麻雀や。勝者がルールなんや」

京太郎「俺の意思は無視ですか、そうですか……」

浩子「京太郎の子供は研究対象としてはほんまに興味深いんやで」


浩子さんは大学時代の先輩だ。

大学卒業後は海外の大学院へと進学し、飛び級で博士号を取得した。


帰国後は龍門渕の研究機関に勤めている。

潤沢な研究予算を使って好き勝手に研究を行っているからな。

専攻が多分野に亘っており、各分野ではそれなりの成果を出しているが本命については難航していると聞いていた。


浩子「京太郎も男なんやから、ハーレムに憧れへんの?」

京太郎「頭のネジは大丈夫ですか?」

浩子「せやけど旦那さん、スレンダー、ロリータ、巨乳、そして眼鏡のうちと豊富な属性を取り寄せとるで?」

照「その口閉じようか? 京ちゃんはお嫁さんの私が守る」

桃子「ポンコツに守れるとは思えないし、陰ながら実際に守っているの私っすよ?」

マホ「マホは恐ろしい事実に気づいてしまいました。十代の瑞々しい肌ですし、薹が立ち始めた人たちよりずっと良いと思うんです」

照桃子「「は?」」


京太郎「はあ」

浩子「不満そうな顔しとるな。据え膳喰わぬは男の恥言うやないか? ほんまヘタレやな」

京太郎「見て、煽って、楽しんでいるだけの外野は黙ってくれませんかね? だいたい、あんた既婚者でしょうが……」

浩子「まあ、うちのことは冗談やけど、今更やないん? 妻公認の愛人を囲んでいる男が、一人か二人の女が増えても困らへんやろ?」


浩子さんの指摘は痛い所を突いてくる。

俺は照と籍を入れながら、和との関係を清算していないのだから。

麻雀を始めた切っ掛けは、入学式で見かけた少女が気になったからと言うちょっぴり不純な動機だった。

俺は世界的な人気を博していた麻雀にも興味がなく、昔から体を動かす方を好んでいた。

どれだけ興味関心がなかったかと言えば、幼馴染たちが麻雀を打てることさえも全く知らなかったくらいだからな……

だから、テレビでも報道され、雑誌にも取材されていた有名人であるその少女の名前も知らなかった。


友人の高久田誠にあの子を知っているかと聞いたらバカにされたんだよな。

そして有名だからかすぐに彼女の情報は集まった。

その子が麻雀のインターミドルチャンプであり、親友の存在や両親の仕事など、魅力的な大きなおもちの美少女とお近づきになりたくて俺は麻雀部を訪ねたんだ。

入部は果たしたけれども、何故だか和よりも優希と仲良くなったんだよな。

和から俺への関心はあまり高くなく、咲が入部してからはこれぽっちもなくなった。

全く異性としての魅力や興味がありませんなんて態度を取られたら、流石に恋愛の芽はないと悟っちまうよ。

だから、俺の和に対する想いは憧れ止まりで恋焦がれるような所までは発展しなかった。

俺と和の関係に変化が起きたのは大学に入学してからのことだ。

成香さんのおかげで立ち直り、少しずつ前へと歩み始めたが完全に復調したとは言えなかった。

端からすれば不安定に見えていたのではないかと思う。

衣のことを忘れることなんてできるはずもなく、思い出に変えるには短過ぎる。


自身では冷静なつもりでもやはり平静とは異なり、成香さんに指摘されるまで周りは愚か自分のことさえも見えてはいなかった。

狭まっていた視野が広がり、安定した頃合いを見計らって透華さんから話しが来たんだ。

学業を疎かにせず、部活も手を抜かず、龍門渕の仕事も行う。

体力に自信がなければ危うかったような気がするが、問題なく慌しい毎日を過ごしていった。

その内に気づいたんだよ。

いつの間にか和が俺の日常の中に自然と溶け込んでいたことにさ。

隣同士と言うほどではないけれど近所だったから朝は一緒に登校し、昼食を同席して食べて、部活でも共に過ごす。

夕飯を互いの家で食べる頻度も多く、季節外れのインフルエンザを引いたときには手厚く看病もしてくれた。

講義の合間に部室で寝入ってしまった時になんてさり気なくブランケットを掛けてくれていたり、常に近くに居て気遣ってくれていたんだ。

そんな様子を客観的に見れば俺と和は交際しているのだと多くの人が思っていたし、噂が耳に入るのも仕方がない。

流石の俺も普通ではないのだと気づき、和に真意を尋ねた。


その回答は事前に予測していた内の一つではあったけれど、高校一年生の頃を知っている身からすれば信じられないものだった。

だけど、和はその場では俺に答えを求めなかったんだ。

おそらく気づいていたのだろう。

俺が衣への想いを抱き続けていたことにな……

答えを出せないまま曖昧な関係が一年近く続き、大学二年時に俺はようやく結論を出した。

随分と待たせたと思うが、長い時間をかけなければ心に折り合いをつけられなかったんだ。

和は急かすことなく、望む結果が出るかも分からないというのに甲斐甲斐しく、寄り添うかのように近くにいて気長に待ち続けてくれた。

まあ、それすらも彼女の計算の内だったと教えられたけど、愛情は本物だったと俺は知っている。

全てが狂い、過ちを犯したのは生涯で二度目のプロポーズをしたあの年暮れの夜。

実際に籍を入れるのは大学を卒業してからの予定だったが、俺に結婚を申し込まれた和は本当に喜んでいた。

だからこそ、後ろめたさもあったからか和は俺に隠してきた秘密を暴露したんだ……


俺はそれを聞いて、戸惑い、信じられず、和のあるがままをすんなりと受け入れることができなかった。

そうなることも予期していたのだろう。

食事に薬を盛られたのか、タイミング良く意識が混濁していったのだから。

その時の和はとても悲しそうで苦しそうな表情を浮かべていたことが強く印象に残っている。

目が覚めたとき、俺は逃げられないように鎖で足を繋がれ、見知らぬ部屋に和と一緒にいた。

太陽の光も届かない密閉された一室で俺と和の新しい生活が始まる。

俺は和を説得しようとしたけれど、聞き入れてくれることはなかった。

人は得たものを失うことを恐れるのか、あの夜に和を受け入れられなかった俺の言葉を彼女は信じ切ることができなかったんだ。

一度の掛け違えで全てが望まない方へと転がっていった。

和に排泄物の処理から食事まで全てを管理されていた俺に拒否権なんてあるはずもない。

それでも、俺が強く拒めば監禁生活を終えてしまいかねないことでなければ和は何かを強要しようとはしなかった。


娯楽と呼べるものは何一つなく、変化の兆しもない毎日、話題はいつしか尽きてしまう。

いつまで経っても救助の兆候もなく、自力での脱出も不可能と分かり、俺は諦めた。

人は環境に順応すると言うべきなのか、和に求められ、俺はそれを受け入れた。

それからは筋肉の衰えを防ぐための筋トレ、一日三度ある和の手料理、睡眠時間などを除けば和とのセックスに耽っていた。

ゴムもなく毎日やっていれば不能でもない限り妊娠するのは当たり前だ。

懐胎が判明してから、より強く和を必死に説得し続けた。

それでも頑なな彼女が折れることはなく、本当に産気づくまで監禁は継続されたんだよな。

子供を出産して和は変わった。

俺との目に見える消えない繋がりが生まれたことで価値観が変化したとでも言うのだろうか。

ほぼ一年に渡る監禁を経て、鎖に繋がれながらも約束したように俺は和と籍を入れるつもりだった。

しかし、それは和に反対されてしまう。


寂しそうに、泣きそうな顔をされて自分を忘れてくれと勝手に頼むんだからな。

子供のことも俺が面倒を見なくてもいいとか言うし、本当にふざけるなって思ったよ。

和は頑固者だから、説得は不可能だといい加減分かっていた。

それに、あいつが俺を嫌いになったわけでもなく、愛しているからそんな行動を取っているのだと理解していた。

だから、俺も勝手をすることにしたんだ。

子供を引き取り、周りに協力してもらいながら育て、和のことも決して忘れてやらない。

忙しない日々が続き、親としても、社会に生きる一人の男としても成長したのだと思う。

その中で予想外のことだって幾つもあったし、子育てにも悩まされ、今だってそうだ。

外堀を埋められて照に再婚を申し込まれたとき、俺は一つだけ条件を付けた。

それが和との関係だった。

照もそれを最初から分かっていたのかすんなりと承諾したんだ。


照「和は別。彼女を放り出すこともできないことも含めて私は京ちゃんを愛しているから」

浩子「はあ、うちには分からん。まあ、京太郎が甘ちゃんやさかい和が安定してくれてるみたいやし、一部のオカルトを無視する貴重なサンプルやからその点はほんま助かっとるで」

桃子「人をサンプル扱いとか、相変わらずマッドっすね」

浩子「科学の進歩には犠牲がつきものやし、倫理観に囚われ取ったらあかんこともあるんやで」

桃子「人として許されないこともあるんじゃないっすか?」

浩子「平行線やな……」

京太郎「浩子さんは変わりましたね。初瀬が見たらどう思うか……」


大学時代の浩子さんは倫理観が欠落するほどではなかった。

彼女が研究に傾斜するようになったのは岡橋初瀬が死んでからだ。

浩子さんが研究している内容はオカルト。

確かに存在しているそれを分析し、解明して、最終的には再現することを目標としている。


浩子「……軽蔑するかもしれへんな。せやけど、止まれへんのは京太郎も分かるやろ?」

京太郎「……そうですね」

マホ「えーと、マホは事情がよく分からないんですけど、どういうことなんですか?」

照「初瀬は分かる?」

マホ「インハイで会ったことがありますし、京太郎先輩の友人だから分かりますよ。インカレでも活躍して、今は海外の大学院にいるんじゃないんですか?」

照「違う。もういない、初瀬は死んだ」

マホ「えっ? 嘘、ど、どうして?」

浩子「うちを庇ってあのアホは死んだんや」


初瀬は大学時代からの友人だった。

面識自体は高校の頃からあったけれど、連絡先を交わすほど親しい間柄でもなかった。


同じ大学に入学し、同じ麻雀部に所属する一年生だからな。

憧や和を含めて四人で徹マンすることも何度かあり、次第に親しくなっていったんだ。

そんな彼女は研究者の道を選び、奇しくも浩子さんと同じ研究を目的としていた。

行きつくべき先は同じだったというべきなのか、二人は海外の留学先で再会する。

そして、テロに遭遇した。


京太郎「オカルトが研究されることを好ましく思っていない人たちは世界中にいる。その手の研究者や研究施設は昔から狙われていて、初瀬が死んだテロも大学が標的にされて巻き込まれた結果だよ」

浩子「うちを通路の奥に突き飛ばして、自分は死んでるんやからほんまにアホなやっちゃ」

マホ「……」

浩子「生き残ったからには初瀬の分まで、どんな手段を使うてもうちは研究を進めるで。だから、京太郎はもっといろんな人と子供を作ってくれへんかな?」


冗談ではなく本気で言っているから性質が悪い。

俺が若い世代では比較的珍しいオカルト持ちの男だからだろう。

先日、霧島神境との手打ちで生存者を保護した際に最も狂喜していたのもこの人だった。

麻雀であることを問わずとも、異能の持ち主は貴重だ。

それを態々労することなく世界中から集められたオカルト持ちたちを調べられる機会を得たんだからな。

神境で行われていた非人道的な行いを顧みての検査という名目で、随分と念入りに多岐に渡る項目を必要以上に調べていたと報告が上がってきていた。

しかも、後遺症の可能性などを建前にして継続的な定期検査まで約束させたとも聞いている。

研究にかける情熱は本物であり、ときに無茶もやらかすんだよな……


照「ダメ、子供を実験動物か何かみたいに扱わないで」

浩子「ダメか。それじゃあマホを貸してくれへん?」


マホ「えっ? マホですか?」

浩子「模倣する能力ってある意味で研究の完成形みたいなもんやんか。ちょっと解剖させてくれたら嬉しいんやけど?」

マホ「ヒィィッ――!?」

京太郎「浩子さんが興味を持つのは分かっていたんでこっちで保護して正解でしたね」

浩子「過保護やな。本人の同意を得てからやないと危ないことはせえへんよ?」

桃子「物言わぬ遺体からは一部を勝手に回収して調べているって知っているっすよ?」

浩子「犠牲者の大半が火葬されて誰のものかも分からへん状態や。奇跡的にDNAが無事に残っているかもと思うて身元が判明するかもしれない可能性があるから善意で調べてるだけやで」

桃子「ああ言えば、こう言うっすね……」

浩子「まあ、欲張ってもあかんか。大量のデータやサンプルを得られたし、清水谷先輩もおるからよしとするわ」

桃子「廃人同然のあの人に何かするとか、血も涙もないっすか?」

浩子「薬の影響が強すぎるって知っとるやろ? そりゃあ、うちも生きていてくれたのは嬉しかったで。せやけど、あの人を完治させるのはうちには無理や、それでも希望を見つけるにはよく調べなあかん。そのついでや……」


京太郎「……それでなんのために家には来たんですか?」

浩子「京太郎にも監督からメールきてたん?」

京太郎「来てましたね。俺は和も誘って参加しようかと思っていますけど?」

照「京ちゃん、何の話し?」

京太郎「善野監督から麻雀部の同窓会開催を知らせるメールが届いたんだよ」

照「なるほど、分かった」

浩子「京太郎はあいつも来ると思うか?」

京太郎「……性格的には来る可能性もあると思いますけど、俺たちを警戒して来ないんじゃないですか?」

浩子「やっぱ、そうやろか? うちとしては頭下げてでも協力を頼みたいんやけどな……」


憩さんが同窓会に来るかは分からない。

あの人には間違いなく恨まれているだろうからな……



System
・宮永照   ◇◇:3
・須賀京太郎 □□:2


↓2

>>1000なら咲ヒロインの誰かが刑務所に服役している

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