あかり「京子たんチュッチュー会議?」 (68)


・ごらく部

京子「暇だなー」ゴロゴロ

結衣「数学の宿題やっとけよ。明日指されるんでしょ?」

京子「うーん……。それは結衣に見せてもらえばいいからなー」

結衣「見せねーよ」

京子「えぇー!? 結衣のケチィー!」

結衣「自分でやらないと身に付かないだろ」

京子「……あれー? 10位圏外ごときが私にそんな口きいていいのかなー?」ムクリ


京子「1位ぞ? 我、テスト順位1位ぞ?」ズズイッ

結衣「……」イラッ


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ちなつ「ちょっと京子先輩! 結衣先輩を困らせないで下さいよ!」

結衣「ちなつちゃん、もっと言ってやって」


ちなつ「京子先輩のダメ人間! クズ! ボケ! 人類の恥! カス!」

結衣「あーそこまで言っちゃうかぁー」

京子「ちぇっ、二人とも冷たいな~」


あかり「あはは、でも今日はあかりも暇なんだよぉ。京子ちゃん、仲間だねぇ」ニコッ

京子(あかり、いたんだ……)



京子「……」


京子「やっぱ私のことを分かってくれるのはあかりだけだな!」ニカッ

あかり「……んん!? その間はなに!? 京子ちゃん今失礼なこと考えてたでしょ!?」

京子「あかり、いたんだ? って」

あかり「別に言わなくてもいいよぉ! どうせそんなことだろうと思ってたし!」プンプン


結衣「まぁまぁ。でもあかりも暇なんだったら4人でなんかしようか。京子のお守をさせるのも悪いしね」

京子「失礼な」

ちなつ「だけど特別話題もありませんし……」


京子「……!」ピコーン

結衣「うわ、なんか思いついた顔したぞコイツ」

京子「あかりで思い出したんだけどさ、久しぶりに話題Box使おうぜ!」ドン

あかり「ん!? なんであかりで思い出したの!?」


京子「ふふふ、実はみんながだらだらしている間、私は毎日コツコツとこの箱に話題を入れてたんだよね」

結衣「確かにいっぱい入ってるみたいだな」ガサガサ

ちなつ「変な話題入れてないですよね?」

京子「保証はできかねます」


あかり「わぁいあかり引きたい」

京子「ほほほ、よいぞよいぞ。好きなだけ引きたまえ」

結衣「なんだそのキャラ」

あかり「やったぁ! どれにしようかなぁ」ガサガサ


あかり「これだ!」

ちなつ「どれどれ」



『京子たんの魅力について語ろう』



結衣「……!?」

ちなつ「うわっ、いきなりヘビーなのが来ましたね……」

京子「ちなつちゃん地味にひどいね」

あかり「あかりこれならいっぱい言えるよぉ」

ちなつ「ていうか、よく自分でこんなの入れられましたね……。しかも“たん”付けとか、その神経疑いますよ」


京子「え? それ入れたの、私じゃないよ?」


ちなあか「「えっ!?」」


ちなつ「え、えっと、今あかりちゃんと声がかぶったってことは……」チラッ

あかり「これを入れたのって……」チラッ

京子「もしかしなくても……」チラッ


結衣「……」



結衣「ああ、私だよ!」ドドーン

ちなつ「」チーン


結衣「いやーやっと引き当てられたかー! 京子に内緒でコツコツと入れていた甲斐があったよ」

結衣「一度やってみたかったんだよねー『京子たんチュッチュー会議 in ごらく部』!!!」


あかり「京子たんチュッチュー会議?」

京子「あ、あの、結衣さん?」

結衣「あーストップ京子。この会議には色々ルールがあるんだ」

結衣「とりあえず今日は私が議長を務めるから、三人にはまずルールを理解することに専念してほしいな」

京子「え、ルール? 議長? え? え?」

あかり「結衣ちゃんノリノリだよぉ」



ちなつ「」


結衣「さてさて、まずはこの会議の目的であるが……。まぁ、みなまで言わずとも大体は分かるだろう」

結衣「それはその名のとおり“京子たんをチュッチューしたい”者たちが集い、京子たんの魅力を存分に語らい、更に引き出していくことさ」

京子「あの、ちょっと待……」

結衣「まぁまぁ、待つんだ。その『早く語りたいよぉ』って気持ち、痛いくらいに伝わってきてる。うんうん。私も同じさ」


結衣「だがひとまず落ち着いてほしい」

結衣「情熱の赴くままに語らう、それも一つの愛の形であることには変わりない、しかし!」

結衣「この場では、極力よく考えてから発言してほしい」

結衣「なぜなら、あくまでも目的は語らいながら『引き出していくこと』だからさ」

結衣「熱意だけが空回りした独りよがりな発言はなるべく排して、今日のごらく部の活動を有意義な時間にしようじゃないか」

結衣「以上だ」


京子「急に饒舌になったな」

あかり「ちなつちゃん生きてる?」



ちなつ「」


結衣「ま、長々と説明しちゃったけど、要するに京子たんの魅力を順々に語っていくだけだし」

結衣「とりあえずはお茶会に参加するくらいの、軽い気持ちでいてくれればいいよ」ニコッ

京子(なんでだろう……。凄くいい笑顔なのに一切ときめかない……)


結衣「それじゃ、まずは各々のお手並み拝見といこうか」

あかり「はいはーい! あかり言いたいでーす!」

結衣「ははは、そう慌てなくても京子たんは逃げないよ」

京子「ごめん、今若干逃げたい気分ですわ」

結衣「おいおい京子、冗談キツいぞー?」

京子(あ、本人には“たん”付けじゃないんだ……)

結衣「さて、じゃああかりお願い」


あかり「うん! 京子ちゃんの魅力はねぇ、みんなを笑顔にするのがとっても上手なところだと思うよぉ」

京子(おほっ!? どうなることかと思ったけど、これは意外と悪くないかも……)


結衣「……おい、あかり」ギロッ

あかり「は、はいぃ!?」ビクッ

結衣「おいおいおいおい冗談だろ? そんな陳腐な発言が許されると思ったのか?」

あかり「えぇー!?」

京子(えぇ~……)


結衣「ったく、軽い気持ちで参加してとは言ったけど、さすがに限度があるよ」ブツブツ

あかり「うぅ……ごめんねぇ」

結衣「いいかいあかり? 私たちが語らうべきはそんな表面的な話じゃないんだ」

結衣「『京子たんはみんなを笑顔にするのが上手』だなんて、日本人ならだれでも知ってる初歩中の初歩の知識だぞ?」

あかり「あ、うん……」


結衣「もっと考えろよ……! あかりしか知らないような京子たんの魅力、引き出してみせろよ!」

あかり「京子ちゃんの……魅力…………あっ」



――――……

――そういえば、あかりが七森中に入学したての頃……。


あかり(うぅ……ちなつちゃん以外の友達がなかなかできないよぉ)

京子「あっかりー!」

あかり「き、京子ちゃん!? どうしたの?」

京子「へっへー実はねー……綾乃と…………」


京子「……?」


あかり「……京子ちゃん?」

京子「あかり、浮かない顔してんね。なんかあった?」

あかり「えっ、そ、そうだったかなぁ」アセアセ

京子「京子ちゃんに隠しごとなんて無駄だぞー? 素直に白状しろー?」ウリウリ

あかり「……えへへ、京子ちゃんには敵わないなぁ」


あかり「……実は、友だちがなかなか作れなくて困ってて」

あかり「えへへ、情けない悩みでちょっと打ち明けづらかったんだぁ」


京子「ふーん、そう」

あかり「思った以上に反応が薄い!!!!」ガーン


京子「それよりさー、綾乃と生徒会のおつかい行く予定だったんだけど、面倒だからあかり行ってきてくんない?」

あかり「それ完全にパシリだよねぇ!?」

京子「つーわけで任せた! じゃーねー!」キョピーン

あかり「ちょ、京子ちゃーん!?!?」


あかり「……」

あかり(本当に行っちゃった……)


――― あのときは、なんて自分勝手でワガママな糞野郎なんだ帰ったらギタンギタンにしてやるからな覚えとけよって思ってたよ。

――― ……だけど、これも京子ちゃんなりの考えがあっての行動だったんだよね。


・生徒会室

あかり「あの、頼まれてたお使いにきたんですけど」


櫻子「んー? お使い?」

向日葵「あぁ、ごらく部の方ですわよね。でしたら先程わたくしたちも杉浦先輩にお願いされましたので、一緒に行きませんか?」


あかり「えっ、いいのぉ?」

向日葵「もちろんですわ」

あかり「あ、ありがとう!」


櫻子「でも杉浦先輩もひどいよねー。自分で行くって言っときながら、突然用事ができたとか言ってわたしたちに押し付けてさー」ブーブー

向日葵「そんなこと言わないの。友人が人質に取られたんじゃ仕方ありませんわ」

あかり「え、人質……?」


向日葵「えぇ、なんでも歳納先輩という方から池田先輩を人質に取ったと脅されたらしく……あ、池田先輩ってもう一人の生徒会の先輩なんですけれど……」

あかり(京子ちゃん……もしかして)


――― そうだ。これがきっかけで、櫻子ちゃんと向日葵ちゃんとは仲良くなれたんだったっけ。

――― それも、京子ちゃんがあかりのために悪者を演じてくれたから……。



スクッ


あかり「……わかったよ、結衣ちゃん」

結衣「…………おかえり、あかり」


あかり「間違ってたよ……。あかり、この会議を甘く考えすぎていたよ!」カッ

京子「あ、あかり……?」

結衣「分かってくれればいいさ。それじゃ、語ってごらん……京子たんの魅力を、あかりの言葉で、存分に!!!」


あかり「うん、まかせて!!!!」


あかり「京子ちゃんの魅力、それは、その真髄は―――!」


あかり「そう、“自己犠牲”!! 京子ちゃんといえば、豊富な知識と、迸る行動力!」

あかり「そしてそこから見いだされるのは主人公としての才覚!」


あかり「京子ちゃん!!!!!」クワッ

京子「は、はい!」


あかり「あかり、知ってるんだよ!」

あかり「みんなの笑顔、その裏には、京子ちゃんの努力と涙、血と汗が、いつだって見え隠れしていることを!」

あかり「昼夜を問わず、笑いや団欒を提供してくれていることを!」

あかり「あかりみたいな日陰者が埋もれないよう、きちんと気遣ってくれていることを!」

あかり「あと部室で一人のとき、たまに一人三役でオリジナルストーリーのミラクるんごっこをしてることも!」


あかり「京子ちゃん…………」


あかり「えへへ、いつもありがとう」ニコッ



パチ……パチ……パチ……


結衣「合格だよ、あかり……。荒削りではあるけど、いいモノを持ってる」

あかり「結衣ちゃん……ッ! あかり、できたよぉ……ッ!」

京子「えっちょっとまって最後のなに? え、なんで知ってんの、え? 羞恥プレイかな?」


結衣「さぁおいで。今日からあかりも立派な“キョーコニスト”の一員だ」

あかり「あ、ありがとうございますッ!!!!」ポロポロ


京子「おい、変な造語つくんな。おい、さっきの話詳しく聞かせろ」


結衣「一応先輩として補足しておこう」


結衣「京子たんはたしかに自己犠牲クソ野郎だ。だがしかし、その本質は臆病で繊細な心と表裏一体」

結衣「そんな京子たんが私たちのために人一倍気を使いつつ、笑いや癒やしを提供してくれている」

結衣「その事実を覚えておくと、さらなる京子たんの魅力に気付くことができるだろう」


結衣「……期待してるよ」ニコッ

あかり「はい!」


京子(え、マジでなにこの流れ)


結衣「さて次は……っと、言いたいところだけど、ちなつちゃんが白目むいて気絶してるのはなんでだ……?」

あかり「京子ちゃんの魅力に気付いて、その素晴らしさのあまり気絶しちゃったんじゃないかなぁ」

結衣「ふふ、ちなつちゃんもかわいいところあるなぁ」


ちなつ「」


京子(かわいそうに、ちなつちゃん……)


結衣「そしたらじゃあ次は京子だな」


京子「…………は? 私もやるの!?」

結衣「当たり前だろ。今さらなに言ってんだ」

京子「いやいや、本人にやらせるとかどんなマニアックプレイだよ」

結衣「お前自分大好き人間なんだから、魅力のひとつやふたつ、知っててもおかしくないだろ」

京子「うぐぅっ……」


京子(いやいやこの流れで自分自身を褒めるとか無理に決まってんだろ!)

京子(さっきのあかり並に語ったら完全にただのナルシストゴミ野郎じゃねーか!!)


結衣「おい京子、早くしてくれよ。会議はテンポも大事なんだぞ」イライラ

京子(つーか結衣の目がマジだよ……どうにか、どうにか回避する方法は……)

結衣「おいってば、京―――」


ガララッ


綾乃「歳納京子ーッ!!!」

千歳「お邪魔します~」


京子「た、助かった!!」


綾乃「あなたまたプリント出し忘れて! 生徒会室にあるから書きに来なさいよね!」

京子「行く行く! もうめっちゃ行く!!!」

綾乃「あら、ずいぶん素直ね……。まぁいいわ、それじゃさっさと―――」


結衣「……待った綾乃。今大事なところだから、悪いけど後にしてもらえるかな?」

綾乃「大事な……? あ、もしかして例の会議中だったかしら?」


京子(んん……?)


結衣「あぁそのとおりさ。せっかくだし、良かったら綾乃もこのまま参加してってよ」

綾乃「ふふ、それじゃ少しだけ」


結衣「今日は新しい仲間を迎え入れることができたんだ。なぁあかり」

あかり「す、杉浦先輩! ふつつかものですが、よろしくおねがいします!」

綾乃「よろしくね。言っとくけど、私の指導は厳しいわよ?」


京子(あーこれは事態が悪化したパターンですわ)


結衣「実は京子がグズってなかなか始めてくれないから、まだ一巡目だったんだ。来て早々で申しわけないけど綾乃お願いしていいかな?」

綾乃「もちろん。そうね……。それじゃ先週の定例会議の続きになっちゃうんだけど……」

京子「え、毎週やってんのコレ」

千歳「……?」


綾乃「赤座さんにも分かるよう最初から説明すると、私は京子たんの無自覚について研究しているのね」

千歳「京子“たん”!?」ブボバァ

京子「ギャア鼻血!!!」


綾乃「京子たんって普段アホのフリしているくせして、常に周りに気を配っているでしょう?」

綾乃「だからその本性、いわゆる“素”の部分って、なかなか拝めなかったりするんだけど……」

綾乃「でも、時折見せるその無自覚な笑顔、行動、発言、それらがどのようにして引き起こされるかを研究することで法則を見出したり」

綾乃「キョーコニストたちの間で共有したりできたら、とっても素敵でしょう?」


あかり「素敵だと思います!」


綾乃「そうね。例えば最近だと私、この前京子たんに映画に誘われたのよ」

綾乃「でも私って普段から京子たんにツンツンしちゃうし、京子たんには船見さんみたいにもっと仲の良い友だちもいるし」

綾乃「正直、なんで私なんかを誘ってくれたのかなって思ったの」

綾乃「だから思い切って聞いたのよ。『私でいいの?』って」

綾乃「そしたらなんて言ったと思う? 首をきょとんって傾げながら『いいに決まってんじゃん?』よ!?」


綾乃「イヤー!!! もう、今思い出しただけでも頬が緩んじゃうわー!!!!」

綾乃「なによ、“決まってんじゃん?”ってー!!! 決まってるのね!? 京子たんの中では決定事項なのね!?!?」

綾乃「……っと、コホン。まぁ他にも色々あるんだけど、私はこんなふうに京子たんの無自覚について研究、分析、引き出しをしているってわけ」


あかり「すごい……! 素晴らしい研究ですねぇ!!」

結衣「京子たんの新たな一面を引き出す技術に関して、綾乃は私の上をいくエキスパートだ。謙虚に学び、よく吸収するんだよ」

あかり「がんばります!」


京子「やめろよ~やめてくれよ~」


綾乃「当日京子たんに密着されたときは理性のタガを抑えるのに必死だったわよ……。もう私の中の野獣も限界かもしれないわ」

結衣「ダメだぞ綾乃。それは世界歳納憲法第三条に抵触する重罪だ。極刑は免れない」

綾乃「もちろん分かってるわよ。だからいつもお願いしてるんじゃない」

結衣「ふふ、そうだったね」


綾乃「今度もう一つお願いしてもいい? 京子たんの抱きまくら」

結衣「もちろん。綾乃はお得意様だからね、いつだって大歓迎さ」

京子「私の貞操は得体の知れない憲法で守られてたのね……」


京子(抱き枕の話は聞かなかったことにしよう……)


あかり「さすが結衣ちゃんと杉浦先輩だよぉ……。ペーペーのあかりとは話の次元が違いすぎるよぉ……」

京子「あかり~……帰ってきてくれると京子ちゃんとっても嬉しいな~……」


綾乃「船見さんはあれから成果あった?」

結衣「ふふふ、凄いのが手に入ったよ。あとで発表するから楽しみにしていてくれ」

京子「え、待って、シャレにならなさそうだからマジでやめて?」


結衣「よし、いい感じに場の空気も温まってきたね。せっかくだし千鶴も呼ぼうか」

綾乃「ふふ、そう来ると思ってさっき呼んでおいたわ」

京子「あ~やっぱり千鶴もかぁ~。なんとなくそんな気はしてたんだよなぁ~」



* 2分後


千鶴「お待たせ。これお土産の、京子たんの髪の香り試作品」

結衣「クンクン……ふむ……。再現度87%といったところかな。大分完成まで近づいてきたね」チラッ

千鶴「完成しても課題は山積みだけど……。京子たんがシャンプーを変えた場合の対応がまだ未着手で」チラッ

綾乃「クンクン……もう少しサンプルが必要そうね」チラッ


京子「………………いや、髪の毛あげないからね!? っていうか今、割とマジでドン引きしてるからね!?」

結綾鶴「……」チッ


京子「なんて息の合った舌打ち……」


ちなつ「う……ぅん…………?」

京子「あ、ちなつちゃん!?」


ちなつ「あれ、私なにして……。うっ、頭が…………」

京子「ダメだ、ちなつちゃん! 早く逃げて―――」


結衣「さて、じゃあ京子たんチュッチュー会議、再開するか」

ちなつ「きょっ、チュッ……」ワナワナ



ちなつ「」チーン

京子「ち、ちなつちゃーん!!!」


結衣「じゃあ、千鶴にもなにかひとつ語ってもらおうかな」

千鶴「そうだね……。じゃあ最近気付いたことでひとつ」

綾乃「……」ワクワク


千鶴「京子たんの香りで、おおよその体調が判別できるようになってきたんだ」


京子「」


結衣「へぇ興味深いな。私じゃ精々入浴が何時間前だったかくらいしかわからないけれど」

綾乃「私も京子たんの香りを辿って行き先を特定できるくらいしか……」

京子「いやお前らも十分気持ち悪いからね???」


千鶴「まぁ判別とはいっても大雑把なものだけど。まだまだ研究の余地があると思う」

綾乃「具体的にはどう変化するのかしら?」

千鶴「まだ検証回数が少ないしひとえにそうとは言えないけれど、体調が悪そうなときほど基本は京子たん香が強いみたい」

千鶴「体調が悪い分だけ入浴が疎かになった結果じゃないかって推測してるけど、他の要因が関係している可能性は高いと思う……」


結衣「ふむふむ……」メモメモ

綾乃「興味深いわね」メモメモ

京子「メモんな」


千鶴「ちなみに今は……」スンスン

京子「ちょ、やめろ」


千鶴「至って健康みたいだけど、なんか気が動転している」

京子「それはお前らのせいだよ」

千鶴「あと朝食は食パンと味噌汁、トマトジュースか。変な組み合わせだな」

京子「うるせえ」


結衣「うーん、そこまでわかるとはさすが千鶴というか……」クンクン

綾乃「私もそこまで分かるようになりたい……」クンクン


京子「本当にその、歳納憲法なんちゃらで私の貞操は保証されてるんだろうね……」


あかり「……心配しないで、京子ちゃん」

京子「あかり……?」

あかり「京子ちゃんは誰にも汚させないよ……。だって、あかりが守ってあげるから」ニコッ

京子「あ、あかり……」


結衣「よーし、それじゃあ本日の会議の目玉と行こうじゃないか!!」ドーン

綾あか鶴「「「待ってましたー!」」」


京子「本当に守ってくれるんだよねぇ!?!?」


綾乃「このMP3プレイヤーには……一体なにが入ってるの?」ゴクリ

結衣「ふふ、よく聞いてくれたね。なにを隠そう、この中にはうちにセットされた盗聴器によって録音された、うちでの京子たんの独り言が入ってるんだ」


京子「へ……? 録音……?」


結衣「ああ、編集するのに苦労したけど、それだけの価値はある代物だと思うよ」

千鶴「それは楽しみだ」


京子(いやまって録音って……えっ、まずくない!? だって私このまえ結衣ん家で……)



* 回想


京子「はー、結衣ったら私を置いて買いもの行っちゃうなんてひどいよなー」

京子「ん、あれ、このパーカーって……」

京子「あかりのやつだよな? あいつまた忘れものしてるなー。相変わらず抜けてるというか……」


京子「…………あれ、なんかこのパーカーの匂い……」クンクン

京子「なんか………………なんだろ、なんともいえないけど、なんだろ…………」クンクン

京子「特別いい匂いがするってわけじゃないんだけど……」クンクン

京子「なんかクセになりそうな………………」クンクン


京子「あれ、なんか身体が変だ……………………」クンクン

京子「え、どうしたんだろ……私。あ、ヤバい、なんかヤバいかも、ぁ、んぁ…………」クンクン

京子「止めなきゃ………………止めなきゃなのに……………………」クンクン

京子「と、とまらぁ……とまらなぃ…………」クンクン

京子「ダメだってぇ……ここ結衣ん家だしそんなぁ……ぁ、でも……ぇも………………」クンクン


* 回想終わり


京子「……」サー

京子(それ以降の記憶はあまりないけど………………)チラッ

あかり「……」ワクワク


京子(き、聞かれたら私の中学校生活おしまいだぁー!!!!)


京子「……ちょ、ちょっちまっちー!!!」

結衣「中学生。……どうしたんだ京子」

千鶴「なんだいたのか、歳納なんたら」

綾乃「さっさとプリント出しなさいよ歳納京子」


京子「急に扱い悪くなるとそれはそれで複雑……」


京子「じゃなくって、ほ、ほら、チュッチュー会議だっけ? そんなことしなくってもさ、ほら」

京子「ほ、本物が目の前にいるんだからさ、ほら、愛でない? 愛でない?」

結綾鶴「……」ジー


京子「あ、あの……」

結綾鶴「……」ジトー


京子「そ、そんな怖い顔で睨みつけないで……」

結綾鶴「……」ジジトー


京子「ふ、ふぇ……」

結綾鶴「……」ジィァー


京子「う、あ、あの、なんでもありませんでした……」チーン

結綾鶴「……フッ」


京子「おいその残念そうな顔やめろ!」


結衣「ま、そんなヘタレなところがまた京子たんの魅力なんだけど」

綾乃「ついほのぼのしちゃうわよねぇ」

千鶴「チッ、録画しとけばよかった」

京子「もう好きにして…………」


結衣「よーし、そんなわけで京子たんの公認も出たところで、本日の目玉行ってみようか!」

綾鶴「「いえーい!」」パチパチ

結衣「ポチッとな」ポチー



ガチャッ ズー ズー


『あ、あー、あー、マイクテス、マイクテス、聞こえてますかー?』

結衣「……ん?」


『どうも~ゆるゆりの主人公、赤座あかりだぴょん☆』

綾乃「」


『早速ですが、赤座あかりが歌う”4分33秒”聞いてくd』ガチャッ

千鶴「……」


綾乃「あの、これって……?」

千鶴「おかしいな。京子たんの声が聞こえなかったように思えたんだけど???」

結衣「………………」


結衣「おい、どういうことだ、あかり」ギロッ



あかり「……ん? なんのことぉ?」


結衣「しらばっくれるなよ。MP3プレイヤーの中身を上書きしたの、あかりだよな?」

あかり「あぁ、うん。そうだよぉ」

結衣「こんなマネして、どうなるか分かってるんだろうな? 京子たんチュッチュー会議の目玉を潰した罪は重いぞ?」

あかり「別に重くなんかないよぉ」

結衣「世界歳納憲法第二十六条……知らないのか?」

あかり「あーそういうことかぁ。だったらあかりには関係ないよ」



あかり「だってあかり、さっき会議脱退したもん」



結衣「なに……?」

京子「えっ……」

綾乃「なっ!?」

千鶴「……ッ!!」


結衣「……京子たんが嫌いになったのか?」

あかり「違うよぉ」

千鶴「じゃあなんで……」


あかり「だって……」



あかり「だって、京子ちゃんが言ってくれたんだよ?」

あかり「あかりに、帰ってきてほしいって」



京子「私が……?」

――― 帰ってきてくれると京子ちゃんとっても嬉しいな~……


京子(あの時の発言を汲み取ってくれたのか?)


あかり「だからね。あかり、京子ちゃんが嫌がることはしたくないんだぁ」

あかり「盗聴されたものを、しかも本人の前で公開するなんて、あかりいけないと思うよぉ」

結衣「……………………」


あかり「それに、先輩方は根本から間違っています」スクッ

結衣「……なにが言いたい、あかり!!!!」


あかり「そう、先輩方は京子ちゃんの愛で方を間違っているんです」

あかり「なぜそう思うのか? どうしてそう思ったのか? それはただひとつ、この言葉に集約されます」


あかり「それは……」



あかり「それは……京子ちゃんに対する“““感謝”””! 圧倒的に“感謝”が足りないッッッ!!」


あかり「なぜ分からない!!」

あかり「どうして気付かない!!」


あかり「先輩方の京子ちゃん愛、たしかに鬼気迫るものがあります。えぇ、それもまたひとつの愛でしょう、しかし!」

あかり「そこまで京子ちゃんのことを思っていながら、どうして“感謝”しない!!!!」

あかり「それどころか、本人を前にして邪魔者扱いさえするその精神!!!」

あかり「ごらく部部長をシカトし、我が物顔でごらく部を支配するその図々しい態度!!!」

あかり「これが京子ちゃんを愛でる者たちのやることであろうか!? いや、違う!! そんなこと、断じてあってはならない!!!!」


あかり「真に、真に京子ちゃんを愛でているというのであれば!」

あかり「京子ちゃんを想っているというのであれば!!!」


あかり「あかりたちがすべきことは、盗聴でも、研究でも、調査でもない!」

あかり「そう、“感謝”だ! “感謝”するのだ! 京子ちゃんに“感謝”の意を示すのだ!!!!」


あかり「こうして今、京子ちゃんを愛でていられることも!!!!」

あかり「苦楽を共にする、京子ちゃん愛でたい仲間に出会えたことも!!!!!」

あかり「そしてなにより、京子ちゃんが京子ちゃんであることを!!!!!!」



あかり「感謝せよ!」


あかり「その心構えを自覚せずして京子ちゃんを愛でる資格なし!!!!!」

あかり「違うか!!!!!!」


結衣「……………………」



あかり「……偉そうなこと言って、ごめんなさい」

あかり「でもやっぱりあかりね、笑ってる京子ちゃんが好き」

あかり「楽しんでるときの京子ちゃんが好き」

あかり「あかりをいじって楽しんでる京子ちゃんが、好き」



あかり「そんな京子ちゃんが、好きだから」





結衣「……ッ!!!」


――― あかりの言葉を聞いて、私は思い出していた。幼いころ、淑やかさの欠片もなかった私に、京子がくれたものの話。

――― 「どうしたの、これ」「えへへ、結衣にきっとにあうとおもって」

――― 赤、白、黄色の色が咲き乱れる。それは幼い子どもが一人で作ったとは到底思えない、色鮮やかな花かんむりだった。

――― 「ありがとう」。その一言で、京子は照れくさそうに笑う。泥だらけの手を後ろに隠して笑う京子は、花かんむりよりもずっと綺麗だった。



綾乃「………………」ホロリ


――― 赤座さんの演説を聞きながら、自然と涙が溢れた。こんなことは、あの日歳納京子と出会って以来だったと記憶している。

――― 私が気が弱く断れない性格なのをいいことに、先生や一部の生徒からなにかと雑用を頼まれてる様子を見かねたあなたが、かけてくれた言葉。

――― 「ごめん、綾乃とはこれから予定があるから」そう言って私の手をとって、引っ張ってってくれた。

――― 「ありがとう」。名も名乗らずに去っていったあなたの背中は、他の誰よりも大きく、そして、他の誰よりも神聖だった。



千鶴「…………」


――― 赤座さんは語る。曰く、感謝が足りないと熱弁する。笑止、そう思った矢先だ。その勢い、熱意、根性は私の想像の遥か上を軽々飛び越していく。

――― 今まで何百、何千冊と本を読んできた私であったが、今のような感動を言葉に表すための語彙力を持ちあわせてはいなかった。

――― だがそれと同時に、この感情が歳納と対話をしているときのものに限りなく近いことだけは確かだと、自信を持って言える。

――― 「ありがとう」。滑るように口からこぼれ出た言葉がこんな陳腐な一言であることを、ただただ呪った。




ガクッ



結衣「完敗だよ…………あかり」

京子「あ、あの……」


綾乃「わ、私が……ヒック…………わた、私が、間違ってたわ………………」ポロポロ

京子「マジ泣きすんな」


千鶴「赤座さんの言葉……私の歳納筋に響き渡った」

京子「ねぇよそんな筋肉」


あかり「分かってもらえて、あかり嬉しいです……」

結衣「あぁ、あかりの京子たん愛、確実にナンバー1だ。おめでとう、そして、ありがとう」

あかり「結衣ちゃん……」


綾乃「また私が道を踏み外したら…………そのときは、目を覚まさせてね…………」グスグス

あかり「そんな泣かないでください、杉浦先輩……」


千鶴「今度……一緒に感謝させてくれ」

あかり「はい、ぜひ!」


京子「…………」


京子(やれやれ、なんだかんだあったけど、今日はあかりに一本取られたみたいだな)チラッ

あかり「……!」


あかり「えへへ……」

京子「……っ」カァッ


京子(で、でもちょっと恥ずかしいこと言いすぎ! あかりのくせに生意気なんだよ!)

京子(……うん、でも悪くない。むしろ清々しい気分だ)

京子(でもだからこそ、きっと私は…………)


京子「ありがとな、あかり」ニカッ

あかり「……うんっ!」ニコッ


・翌日

京子「結衣~おっはよ~!」

結衣「おはよう京子。そして、ありがとう」

京子「早速かよ……。つーか挨拶に感謝はいらねーよ」


結衣「いや、あんなことがあってもこうしていつもどおりあいさつを交わせるのってさ」

結衣「思えば、京子が寛容で素晴らしいからだからなんだ。感謝せずにはいられないよ」

京子「そ、そっか……」

結衣「……ありがとう、京子」ニコッ


京子(新手の新興宗教に引っかかった人みたいだな……)



ちなつ「」


・教室

綾乃「と、歳納京子ーッ!」

京子「綾乃じゃん。どしたの?」

綾乃「昨日、結局プリント出してなかったじゃないの!」

京子「あ、そうだった! わりーわりー。はいこれ、お願いね」ピラッ


綾乃「……」スッ

京子(ん? 綾乃ったら急に正座しだしてどうした?)


綾乃「……ありがとうございます!」ゲザァァァ

京子「なんで土下座!?」


綾乃「あれから考えたのよ私」

綾乃「思えば歳納京子がプリントを出さないことによって私の精神状態って保たれてるのよね」

綾乃「歳納京子に会いに行く口実がなくなっちゃったら、きっと私、おかしくなっちゃうもの」

綾乃「そう考えたら私ができる感謝って、土下座でも安いくらいだと思うのよ」

綾乃「だから今は甘んじて私の感謝を受け取りなさい!!」


京子「うん、その、いつもプリント出すの忘れてごめんね…? だから土下座はやめよう……?」

綾乃「くぅ~その優しさがまたいいっ! ありがとうございます!」ゲザァァァ

京子(駄目だコイツ早くなんとかしないと)


千歳「アカンッ!?」ジャバジャァ


・図書室

京子「よー千鶴。相変わらず不機嫌そうな顔してんね」

千鶴「……ありがとう」

京子「今の言葉の中に感謝される要素は一切ないよ???」


千鶴「だって、歳納から話しかけてこなかったら、私はきっと自分から話しに行くことはできない」

千鶴「そう思えば、歳納が話しかけてきてくれる……。それだけでもう感謝に値するから」


京子「大げさだよ!? 話しかけるくらい、いつでもするって」

千鶴「あ、ありがとう!!!! ありがとうございます!!!!!」

京子「と、図書室では静かに!」シーッ


・ごらく部

京子「ふぃ~……。やっぱここは落ち着くねぇ」

あかり「あはは。京子ちゃん、おばあちゃんみたいだよ?」

京子「昨日は騒がしかったからねぇ。今日くらいはゆっくりしたいんじゃよ~。あ、そこのおせんべい取って」

あかり「はい、どうぞ」


京子「たべさせて~」

あかり「もう、しょうがないなぁ……はい」

京子「んむんむ……おいしいねぇ」

京子「それもこれも全部、あかりちゃんのおかげじゃのう……」

あかり「そう言ってもらえて嬉しいよぉ」


京子「……ところで、あかりさ」

あかり「ん? なぁに?」

京子「次の休みとかって暇だったりする?」

あかり「うん、特に用事はないけど……。それより京子ちゃん大丈夫? お顔真っ赤だよぉ?」

京子「え、嘘!?」

あかり「ほら鏡見てみて」

京子「………………マジだ」

あかり「あはは。真っ赤な京子ちゃんもかわいいよぉ」ナデナデ

京子「う、うぅぅぅ…………」カァァァァ

あかり「それで、お休みの日は特になにもないけど……。なにか用事かな?」

京子「あ、そうだった! あ、あのね!! 良かったらその日、わ、私とデー…………」


ガララッ

京子「ん?」


結衣「よし、今日からは心機一転『京子たんに感謝カンゲキ雨嵐チュッチュー会議』を始めるぞ!」

綾乃「ほら京子たんも参加してって!」

千鶴「それでは赤座議長、上座へ……」

結衣「今まで間違っていた分を取り返すために、今日からは毎日会議をするぞー! もちろん休みの日もだ!!」

綾鶴「「いえーい!!!」」パチパチパチ

京子「」


あかり「あ、あはは、困っちゃったねぇ」

京子「も、もう……」



京子「もう勘弁してええええええええ!」



オッワリ~ン

あかりちゃん誕生日おめでとう!

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