提督「夕ヌキ」 (35)

提督「俺たちが集まった理由はもうわかるな」

明石「いえ」

夕張「さっぱり」

提督「かねてより依頼していた仮死薬の開発がついに成功したと聞く。それを使って、艦娘に死亡ドッキリを行うつもりだ。悲しみにくれる可愛い泣き顔を共に拝もうではないか」

明石「なるほど。名案です。そのように使用してくれるならこの薬品も喜んでくれるでしょう」

夕張「架空の死なんて少し悪趣味ではありませんか。それに提督が死亡しても悲しんでくれるかわからないじゃないですか。あ、私は提督が死んじゃうともちろん悲しいですよ」

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提督「おお! 暁じゃないか! 遠征を終えたのか?」

暁「あ、司令官! ふふん、バッチリよ、当たり前でしょ! 一人前のレディーだもの!」

提督「そうだな。レディーってすごい。話をしていると随所にユーモアを挟んできて、楽しませてくれる。そういった上品な気遣いって教養がなければできないものだから憧れる」

暁「………。ふとんが」

提督「おいおい。マジかよ」

暁「ふっとんだ!」

提督「うわああああ! レディーだああ! ふとんにふっとぶを掛け合わせる空前絶後の発想! ふとんという休息のスタティックな印象にダイナミックな動作のふっとぶを出会わせる新鮮な着想! 新時代の息吹を感じざるを得ない!」

暁「え? え? ………えへん。そうでしょ! そうでしょ!」

提督「しかし、この気持ちはなんだ!? 新しい時代の幕開けに伴う感傷だ! もはや俺にはこの時代の文化を支えるに足る柔軟な活力が存在していない! それを自覚することによる寂寥の無力感! ああ! もはやこの世界にとって俺の生存は古臭い!」

暁「ちょ、ちょっと司令官! 何を言ってるの? 疲れているなら、少し休んだ方が」

提督「そうだな。俺は疲れた。少し休もう。じゃあな、暁。お前が時代を切り開くんだ。バタンキュー」

暁「司令官!? 司令官! ………し、死んでる」

明石「どこからどうみても完璧な死に際です。よもやドッキリだとは頭の片隅にさえ浮かんでこないはず」

夕張「それより大丈夫なんでしょうね。提督の身に何かあったら」

明石「なあに? やっぱり心配?」

夕張「そういうわけじゃ」

明石「大丈夫、大丈夫。明石印は伊達じゃない。心配しなくてもいいわ。夕張は意地っ張りなんだからー」

夕張「だから、そういうのじゃありませんて。頭を撫でないでください」

暁「お願い! 司令官! 目を開けてよ! 開けてってば………! う、ぐす」

雷「どうしたの暁? すごい声が………って司令官!? 死んでる。………人殺し! 暁の人殺しい!」

暁「え? そ、そんな誤解よ! 私がしたんじゃ」

雷「じゃあどうして司令官が死んでるのよ!? まだ暖かい死体は暁がたったいま司令官の息の根をとめた証拠。現行犯よ!」

響「雷、待ちなよ。そう短絡的に暁姉さんを責めるのはやめよう。暁姉さんが犯人だというなら、動機と手段は一体どうなるんだい?」

雷「そんなの簡単なことだわ! 動機はいつも一人前のレディーとして扱ってもらえなかったからよ! だから、一人前のレディーを司令官に投与したのよ! ほら、いつもレディーじゃないと馬鹿にしてきたけど、そのレディーで死ぬのよってね!」

響「なるほど。確かに男性である司令官は十分量のレディーを服用すると性ホルモンの影響で頭がおかしくなって死ぬ。動機も筋が通る。いつも馬鹿されてきたもので殺すということは相手に大層な屈辱を与えることだ。さぞ気分がスッとしたことだろう」

暁「私はそんなことしないわよ!」

雷「喋らないで! 人殺しはみんなそういうのよ!」

響「でも、まだ暁姉さんが犯人と決まったわけじゃないよ」

雷「はあ、何を言ってるのよ! 響だって自分で今しがた私の推理の妥当性を認めていたじゃない!?」

響「暁姉さん。一つ確認しても良いかな? 暁姉さんは今でもレディーなのかい?」

暁「当たり前でしょ!? 私はずっと一人前のレディーよ!」

響「ほら聞いたかい雷。もし暁姉さんが本当に司令官をレディーで悩殺したとするならば、今の暁に一人前もレディーが残っているはずないじゃないか? 暁姉さんは二人前もレディーを保有できない。それは艦娘淑女縮小協定で定められていることだよ」

雷「淑女縮小協定………。鎮守府で余りにレディーが氾濫し、このままでは司令官の生命が危ぶまれるとして艦娘組合が艦娘ごとに保有可能レディー量を定めて何とか司令官の完全破壊のリスクを抑えようとしたものね」

暁「ね! 私は司令官殺しの犯人じゃないのよ!」

雷「ぐぬぬ。暁が犯人じゃないのは明らかなようね。でも、それじゃあどうして司令官は」

暁「知らないわよ。話していたら急に悶え苦しんで死んじゃった」

響「司令官の浮いた話を聞いたことがない。きっと司令官は男性の中でも特に女性耐性が低かったんじゃないかな。それだから、暁姉さんの微弱なレディー磁場にアレルギー反応を起こして死んだ。誰も悪くない不幸な事故だったんだ」

電「ちょっと待ってください! これは事故なんかじゃないのです! 私とずっと一緒にいた司令官が磁場なんかで死ぬはずないのです。これは計画的行われた犯行なのです!」

暁「電!?」

響「やれやれ。面倒なことになったね」

雷「それで電。計画的犯行って?」

電「司令官は凍殺されたのです!」

響「どうしてそう言えるんだい?」

電「最近の司令官は日に日に冷たくなってきていたのです。電に釘付けにされた司令官が急に冷たくなるなんて何かの策謀がなければありえないのです!」

響「そりゃあ心臓を八寸釘で縫い付けたら、いくらなんでも脈なしにもなるさ」

電「日毎に少しずつ提督の体温を奪って殺す。これは計画殺人、しかも猟奇的で極めて残虐なものなのです! 電と司令官を引き裂くなんて許せないのです!」

雷「でも、そんなことをどうやってするのよ?」

電「ダジャレなのです。ダジャレで司令官は凍死させられたのです! 時間的にそれができたのは暁お姉ちゃんただ一人! 決まりなのです!」

雷「暁! あんた司令官にダジャレを言ったの!?」

暁「い、言ってないわよ!? それはもう全然!?」

電「犯人はみんなそう言うのです!」

響「でも、まだ暁姉さんが犯人と決まったわけじゃない」

電「どういうことですか? 状況的にダジャレを司令官に放てたのは暁お姉ちゃんだけなのですよ!?」

響「暁姉さん。一つ確認しても良いかな? 暁姉さんは今でもレディーなのかい?」

暁「当たり前でしょ!? 私はずっと一人前のレディーよ!」

響「ほら聞いたかい電。もし暁姉さんが本当に司令官をダジャレで凍殺したとするならば、暁姉さんが一人前のレディーを誇れるはずないじゃないか? レディーはダジャレの完全放棄が義務づけられているのだからね」

電「ぐぬぬ」

雷「司令官の状況的に死因はレディーによる悩殺かダジャレによる凍殺かのいずれか」

暁「私はいまだ一人前のレディーだから、悩殺は出来ない。したら零人前のレディーになっちゃうもの。そして一人前のレディーである暁はダジャレを用いて司令官を殺すこともできない」

響「これで暁への容疑は完全に晴れたね」

雷「でも待って。それだとおかしくなるわ。だって司令官はレディーかダジャレで死んだのに、それが出来た唯一の存在が犯行不可能になるならば、司令官が現に死んでいるはずがないもの!」

電「そもそも暁お姉ちゃんって本当に一人前のレディーなのですか? レディーが一人前のレディーを自称するなんておかしいのです」

暁「一人前のレディーが自分を一人前のレディーと言って何が悪いのよ!」

電「でも、淑女代表みたいな金剛さんが自分のことを一人前のレディーと言うのを聞いたことがないのです」

暁「当たり前でしょ。金剛さんは十人前のレディーであって、一人前のレディーじゃないんだから。私は正直に自己申告しているだけよ」

響「司令官の死は原因もないし理由もないんだよ」

雷「そんな理由もなく急に司令官は冷たくなったって言うの!? 納得できないわ!」

電「なのです。原因なき変化はありえないのです」

響「じゃあ、司令官は生きているとでも言うのかい?」

電「それ以外考えられないのです!」

暁「でも、現にここに司令官の死体があるじゃない! ねえ、司令官は死んでいるのよね!?」

提督「死んでいるよ」

暁「ほら! 死んでるって言ったじゃない!」

響「自分のことは自分が一番知っている。当人がそう言うならば、それは真実に違いない」

雷「うう。司令官はやっぱり死んでいるのね」

電「おかしいのです! 死人に口無しじゃないのですか?」

響「電、それは理想論だよ。喋るものが生きているという考えはもう過去のものだよ。現に一番ものを言うのは金じゃないか。死体だって喋りたい時もあるさ」

電「うう。本当に理由もなく司令官は死んじゃったのですか」

響「仕方ない。この件は私に任せてもらおう」

雷「何か考えがあるの?」

響「私たちがここまで頭を悩ましている原因は司令官の冷たい死にある。ならば、それをなくせば問題は全て解決する」

暁「司令官を生き返らすわけね。でも、どうやって?」

響「私はたまに本部の学会発表を見に行くんだ。そこでは艦娘の生態などについての研究が盛んなんだ」

電「どうして今そんな話をするのです」

響「まあまあ短気は損気だよ。以前の発表でね、U511と呂500の関係性が検討されていたんだ。この艦娘は改造を重ねると明らかに別物になっているじゃないか、どういうことだという問題意識からだ」

雷「それで何か答えが出たの?」

響「艦娘にはまだまだ謎が多いから、決定的なものはないけど、幾つか仮説が提出されたんだ。その中にはドイツと日本の気温差に原因を求めるものがあったんだ。ドイツは南の都市ミュンヘンでさえ日本の札幌より以北に位置する寒いところだからね」

暁「寒さが何か関係あるの?」

響「その説によると、もともと呂500こそ本当の姿でU511はそれの冷凍保存状態だと言うことらしい。呂500はだから練度を高めた故の姿ではなく、ただ温暖な気候によって解凍されただけだという結論のようだね」

電「それで響お姉ちゃんは何が言いたいのです?」

響「呂500がもし本当にその説の言うように練度に依存せず、自然現象の産物だとするならば、練度1の呂500がいてもいいはずだとなる。そこでその研究チームはインスタント呂500であるU511を温めるために特殊な電子レンジを準備していたんだ。これがそれだ。どん」

暁「人がらくらく入れそうなぐらい大きいわね。ていうか、これを出したかっただけなら今の説明はいらないじゃない」

響「いいや、もし私がおもむろに電子レンジを出すと絶対にその理由を聞いてくるし必然性がないとうるさくなるのは分かりきったことだろう」

雷「なるほど。これに冷たくなった司令官を入れてチンするわけね!」

電「冷めてしまったものは温め直せばいいだけなのです!」

提督「いやいや。流石にこんなのでチンされると死んでしまう」

夕張「あの、提督が目を覚ましたのに、死んだものとして扱われているのですけど」

明石「だって仮死薬ですもの。生きているのに死んでいる状態を引き起こすものですから」

夕張「それでどうしたら生きているって再認識してもらえるんですか?」

明石「………困りましたね」

夕張「いや、困りましたねって。このままじゃ、本当に死んじゃいますよ!?」

明石「困りましたねえ」

夕張「何を言っているんですか!? とめにいかないと!」

明石「行ってきなさい」

提督「うわーやめろー」

響「ほらほら、無駄な抵抗はやめて入った入った」

雷「これは司令官のためなんだから!」

電「よし、入ったのです! あと少し道を開けるのです!」

夕張「ちょっと待ちなさい! そんなことしちゃダメええ!」

暁「ええ!? 夕張さんがものすごい勢いで走ってくるわよ!? このままじゃぶつかる! 避けなきゃ!」バッ

響「暁姉さん、錨を落としたよ!」

夕張「あっ!」

雷「大変! 夕張さんが錨に足を引っ掛けてレンジの中に突っ込んだわ!」

電「どうでもいいのです! さっさと蓋を閉めてスイッチを入れるのです! ぽち」

ブゥゥゥゥン、ガタガタ、バッタンバッタン、ブゥゥゥゥン、チン。

神父「汝提督は、この女夕張を妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

提督「誓います」

夕張「誓います」

響「まさか司令官と夕張さんが電撃結婚とはね」

暁「予想外よね。今までそんな素振りを見せなかったのに」

明石「そんなわけでもないわよ。提督と夕張ちゃんはもともと密かに想い合っていたけど、今まで見栄をはってお互いに干渉しないようにしていたのよ」

雷「まあ、おめでたい話だけど、私たちにとって問題は電がメロンに五寸釘を刺し続けていることなのよ。これじゃ夏のスイカ割りもメロン割りにしなくちゃいけないわ」

提督「やっぱりこういう形式ばったことは肩が凝るな」

夕張「もう、あなたったら………」

明石「おめでとうございます。お似合いですよ」

響「おめでとう。電子レンジの中で突然子作りをしはじめて、出てきたら夕張さんは重武装艦らしく身重になっているしで、まったく驚いたね」

提督「何なんだろうな。あそこで突然、夕張への欲望がどうしようもなく高まったんだ。夕張もその時は妙に積極的だったし。回転ベッドが最近減っているから珍しさに触発されたのかもしれん」

夕張「ちょ、ちょっとこんなところでそんな話をしないでってば!」

雷「あの電子レンジは情熱に火をつける機能でもあったのかしら」

暁「?」

提督「結果論としては良かったと言えるが、でも電子レンジに入れられたときは本当に焦った。ちゃんと話しかけても死んだものとして認識されたままだったんだからな。あの仮死薬は何を使っていたんだ」

明石「単純なものです。あれは架空の死を引き起こすことを目的にしていました。架空を殺すものといえば「現実」しかありません。現実を練りこんだものがあの仮死薬です」

提督「現実………? また奇妙なものを混ぜ込んだな」

響「現実を服用すると死んだようになるって、まるでこの世界自体が架空のものだと証明するような薬だね」

雷「もうまた響は馬鹿みたいなことを言うんだから!」

明石「いやいや、まさかあ!」

暁「………じゃあさ、それを深海棲艦とか鎮守府に振りかけてみたらいいじゃない」

「「「「「………………………」」」」」

提督「あはははははははは」

夕張「あはははははははは」

明石「あはははははははは」

響「あはははははははは」

雷「あはははははははは」

暁「え? え? どうして笑うのよ!?」

明石「何はともあれ今日はめでたい日です! 笑いましょう! 笑いましょう!」

雷「一人前のレディーは笑顔を忘れないものでしょ?」

響「そうだよ。淑女は今を楽しむものだよ」

「「「あっはっはっはっはっはっはっは」」」

暁「………………」

暁「えへへ」

夕張「みんな幸せそうに笑っています」

提督「そうだね。こんな幸福な世界を生きることができるのは俺たちぐらいのものだろう」

夕張「あの、あなた」

提督「なんだ」

夕張「愛しています。ずっと一緒ですよ。ずっとね」


おわり

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年02月10日 (水) 14:29:50   ID: zwRMWvrX

カオスだなぁ……

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