妖怪が現代入り (19)
男はやけに疲れた表情でブランコを漕ぎながら、タバコを吹かしていた。
「あー家に帰るのがだるい」
だが違法駐車している車の事を考えると、さっさと家に帰ってビールの一本でも開けた方が余程建設的である。
時刻は23時、男の汚い作業服から覗く腕時計がそれを知らせる為にピーと音を鳴らした。
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月がはっきりと見える。この工業地帯がすぐ近くにあるのに……何か良くない事とでも起きるのだろうか?
「なんてな。帰るか」
タバコを落とし、雑に消してその場から去ろうとした。
「今晩は」
その声が聞こえた瞬間、足が根を張ったように動かなくなった。体か滝のように汗が出始める。
「こ、こんばんは」
無理矢理体を振り向かせその正体を確かめた。
闇が深くて顔がはっきりと分からない。ただ体つきと声が女性なので女性と仮定する。
「今家がなくて泊めてくれる人を探しているの……だからしばらく泊めて欲しいのだけれど、いいかしら?」
これってアレだよなあ……俗に言うはいかYes以外の答えを求めてない奴ですよね。
「と、めるのは、べつにかまわんよ……?」
言った後に後悔する。やっぱやめときゃ良かったかな……と、普通に素性の分からない相手だし、強盗だったらどうする?
自分の危機管理のなさに、反吐が出る。
「あら泊めてくれるの?」
女性は驚いた様な声を上げる。
「アンタから言ってその反応は無いと思うぞ」
て言うか今普通に喋ったよな? 試しに手を握ったり開いたりして動作確認を行う。当然異常無し。
何だったのだ、今のは?
「所でアンタ名前は? 何処から来た」
「せっかちねえ……まあいいでしょ。私の名前は――風見幽香。幻想郷から来たしがない妖怪よ」
「……はあ。妖怪……ですか」
男の体から滝のように汗が噴き出す。
(妖怪って……んなもんいるわけ無いだろ。何言ってんだこいつ)
思いっきり変な顔をした男だったが、やがて諦めたように、ポケットからタバコを取り出し、火を点け紫煙を吐き出した。
「……俺は田中一郎。好きに呼んでくれ、風見さん」
「ふふ……ありがとう。これからよろしく」
「あまり気にしないでくれ、一人は寂しいから泊めようと思っただけだ……風見さんは何か飲みたい物とかあるか?」
そう言って自販機を指差した。幽香は物珍しいそうに、自販機の前まで歩いて行く。
車で自宅までの道、こんなに遠かったか? と思う。恐らく会話が無かったからだろうが、それは自分のせいなので何とも言えない。
「余り喋らないのね」
「美人がいるとな緊張するんだよ。――そう言えばどの位こっちにいるんだ?」
「さあ分からないわ。でも結構長く居るつもりだから……迷惑掛けるわね」
「別に気にしてはいない。此方として嬉しいからな」
そう言って一郎は薄く笑う。
「済まない。もう少し女性が喜びそうな話題とかがあれば良いんだが……生憎そう言うのに疎くてな」
「別に貴方が気にする事では無いわ」
ポツポツと会話し、漸く自宅が見えてきた。
一旦ここまでにします。また晩にでも。
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