男「また、最近変な声が聞こえるんだけど」(255)

『ネ、ネ、ネ』

男「ん…なんだ…?」

『聞こえるんだよネ? このコエがアナタには聞こえるんだよネ?』

男「はぁ? なんだいきなり……当たり前だろ。ちゃんと日本語だし」

『ケラケラケラ』

『こいつぁスゴイ! ニンゲンのクセして聞こえちゃってるんだネ!』

男「どういう意味だよ?」

『キミってーヤツはスゴイってーこと!』


『ニンゲン! ニンゲン!』
           『ニンゲンのクセしてワタシタチのコエ聞こえる!』
 『ニンゲンのクセしてスゴイやつ!』



男「ぐぉ…やかましぃ…!」

『ニンゲン! キミはどうして【こんな所】にいるのかナ?』

男「はぁ? つかアンタ誰なんだ…? ていうか、あれ? ここは…どこだよ…」


『ケラケラケラ』


男「…何笑ってんだ」

『忘れちゃったのかナ? キミがここに居るリユウは、とってもとっても大切なことなのにネ!』

男「大切な、コト?」

『大切なコトなのにネー! キミはどうして忘れちゃったのかナー! ケラケラケラ────』


ケラケラケラ  ケラケラケラ  ケラケラケラ


男「お、おいっ! それはどういう意味だッ───くそ、笑うなって───この……ッッ」




男「ばっきゃやろぉおおおおがぁああああああああああ!!!」がばぁっ!!

猫『おう!?』

男「はぁっ…はぁっ…?」

男(ゆ、夢? なんだ凄い息苦しい…寝汗がやべぇぐらいかいて、)チラリ

猫『びっくりしたー……おいガキ! お前さんは静かに起きることも出来ねーのかよ!』

男「………」

猫『あ”? どうしたおっちゃんの顔をボー然と見つめて───』

猫『───へへっ、なるほどなぁ! 今頃になっておっちゃんのキューティさに気づいたってわけかぁガキ?』

男「おまままままままままっ!?」がしぃっ

猫『ぎゃーっ!? なんだなんだ急に抱きつくんじゃねぇー!!』

男「な、なんで喋って!? つか俺はもう、」

猫『なっなっ何を言ってやがるんだテメーはぁ!? ガキは前からオレの声は聞こえてただろうが!?』

男「───…………」

男「あ、あれ?」

猫『なんだって言うんだよ一体……つか離しやがれガキ! オスに抱きつかれて喜ぶほど発情しちゃいねぇよ!』ジタバタ

男「………」

猫『ったく、なんだまだ寝ぼけてんのかガキ。まあこんな廃れた寺の日陰で呑気におねんねする馬鹿だもんな』

男「…馬鹿言うなデブ猫」

猫『デブじゃねーよ、これは毛太りなの』ペロペロ

男「……」

猫『んぁ? マジでどうしたんだ? さっきから様子が変だぞ?』

男「な、なんでもねぇよ…ただ、ちょっと変な夢を…」


『ケラケラケラ』


男「……変な声を聞いただけだ」


※※※


妹「あ。こんな所に居た、おにーちゃーん!」

男「ん? なんだ妹じゃん、どうしたこんな所に来て」

妹「本当にこんなところ過ぎるよ…探すのどれだけ手間だったか…」

男「そりゃ悪かったな。で、なんか用事でもあんの?」

妹「捜索ミッションが発生しました」

男「…は?」

妹「あたしのクラスの子がね、飼ってる猫ちゃんが逃げ出しちゃった感じッス」

妹「脱走は一週間前。以前から家から逃げ出して外をウロウロするのは当たり前だったらしいんだけどね」

妹「一週間も姿を一度も表さないのは、今までで初めてこのことらしいのですよ」

男「ま、待て。なにそれとなく話を進めてるワケ…? え、なに? 捜索って誰がするんだ…?」

妹「マイ・ブラザー」

男「おい」ぐにゅっ

妹「ふにゃっ!」

男「お前は、一体、なにをいってるんだ」

妹「ひゃっ…ひゃってぇー! 痛たた…、前にも探してくれたことあったじゃーん!」

男「前にもって……ああどっかのアホが開けっ放しして逃がした九官鳥か」

妹「あ、ひっどーい。ちくってやろー」

男「うるさい。それはそれ、これはこれだ。俺は便利屋じゃねーんだよ、その呑気なクラスメイトにも言ってやれ馬鹿かってな」

妹「流石に酷いよお兄ちゃん! 困ってるんだよ…! 人が困ってるのに助けないのはお兄ちゃんらしくないと思う!」

男「じゃあお前が思う兄とはどんなヤツだ、語ってみろ」

妹「何気なく自慢した兄の話を思ってる以上に真剣に受け取られて困ってる妹を助けてくれるお兄さまですぅ~……っ」

男「よく素直に言ったな、褒めてやろう」

妹「え、じゃあっ!?」

男「ダメやだやりたくない」

妹「この鬼畜! ひとでなし! 猫の命が可哀想じゃないのかー! むしろ困ってる妹がかわいそうじゃないのかぁー!?」

男(やかましい…)

妹「だ、だってお兄ちゃんってばさ! 時折、動物の声が聞こえてるんじゃないかってぐらいに動物に懐かれやすいじゃん!」

男「うぐっ」

男「そ、そんなことないだろー? べ、別に動物に懐かれやすいとか、むしろ嫌われてるっていうかぁ…」

猫「にゃーん」スリスリ

妹「ほらほらほら! 今だって野良猫にぴったりくっつかれてるじゃんか!」

男「ち、ちがう! これはお前が聞こえてないだけでコイツはッ」

妹「へ?」

男「な、なんでもないっ」

男(そう、俺はどんな巡り合わせか動物の声が聞こえるようになってしまった)


猫『なぁなぁこの可愛いポニーテール嬢ちゃんは誰なんだよー? ちょいとおっちゃんにも紹介しろよー?』スリスリ


妹「わ~可愛い…超懐っこいね、この野良猫」

男「…お前はそう思うんだろうな」

妹「お兄ちゃんは思わないの? コロコロしてて超おいしそうじゃんか」

男「美味しそう…?」

猫『むふふっ!』きゅぴーん

猫『おっちゃんの野良猫センサーがびんっびん来たぜ? このポニ嬢ちゃん…猫好きだなっ?』


とてとて


妹「わっわっ! こ、こっちきたぁ…」

猫『ほれ』スリスリ

妹「んきゃー! か、かわいい…!」

猫『フフン、じゃあこれはどーだー?』ゴロン

妹「っ…!!」キラキラ

猫『がっはっはっは! わかるわかるちょろいなぁ嬢ちゃん! 野生の動物が腹を見せたら何故か人間様ってのは喜ぶってのは知ってるぜぇ?』

妹「ふぉぉぉ」スッ

猫『さぁ…撫でな…このふわふわのお腹をな…』

男「えい」むぎゅっ

猫『ぎゃあああああああああ』

妹「ちょ! お兄ちゃん!?」

男「静かにしてるんだ。端から見れば酷いことをしたかもだが、反省はしない』

猫『ガキ…よくも無防備な腹を…鷲掴みしやがったな…覚えとけよ…』

妹「あ、あれ? でも逃げ出さないねこの子……凄い、やっぱり懐いてるんだお兄ちゃんに」

男「これで懐いてるように見えるのなら、お前は一回眼科に行って来い」

男(はぁ、周りとの認識にの違いにも疲れる。多少は慣れてきたつもりだったけどよ、まあ誤魔化す余裕はあるぐらいだしな)


「かぁー! かぁー!」

    「わんわん!」「きゅーん!」

「にゃー! にゃん!」「クルルルルル」



バッサバッサ ガサガサガサ  ハッハッハッ



男「とにかく、だ。俺としても手助けしたいのは山々だけどよ、適材適所、そういった捜索関連はもっと適した人間がいるもんだ」ウンウン

カラス『チッス! ニンゲンが見えたから会いに来たっすよー?』

カラス『ニンゲンニンゲン! 駅前近くのゴミ捨て場に美味しいタベモノあったから持ってきてやったぜー?』

野犬『よーあんちゃん昼に会うなんて珍しいな!』

野犬『聞いてくれよあんちゃん! この前やっと娘に恋人が出来てオレ嬉しいのなんのって!』

野良猫『おでぶちゃんの声が聞こえてきたけどまぁまぁ今日も仲良しねー』

猫『どこを…どうみて仲良しだと言えるんだよこれが…』


わさわさ わさわさ


男「まあそういうことだ、わかったか?」

妹「う、うん。わかった、もうお兄ちゃん以外頼める人居ない絶対居ない」

男「はぁ? どうしてそんなこと───おおおいっ! テメーらなに俺の周りで集ってやがるんだ!?」

妹「すごいよ…ここまでお兄ちゃんが動物に好かれてるなんて…妹として凄く感動してるよ…良かったねお兄ちゃん…っ」ホロリ

男「違う違う違う! これは何かの間違いだッ! だから…! 俺は絶対にそのクラスメイトの話は聞かないし、会いに来ても全力で合わないからな!」

妹「えーいいじゃんんかーケチー」

男「ケチで結構だっ! お前らもワラワラ寄るんじゃねぇー! シッシッ!」ブンブン

野良犬『またなあんちゃん!』ダダダ

野良犬『今度孫に合わせてやっからよ!』ダダダ

カラス『今日はピーピーうるさいっすねぇニンゲン~! ほれ、これでも食べて元気出すッス!』ポト

男「え、汚ッ!? なにこれゴミだろ!?」

妹「む~…」

男「はぁ…はぁ…と、というわけだから…お、俺は動物が嫌いなんだ…探すなら他をあたってくれ…」ゼーゼー

妹「納得出来ないけど、お兄ちゃんがそういうなら…」 

妹「ということで、ごめんね眼鏡ちゃん」

眼鏡「いえ、駄目なら駄目でいいですから」

男「ってぇえええええええ!?」ビックゥゥウウウ

妹「わわっ!? 何急に大声あげて!?」

男「居たのかよクラスメイト! 何時から!?」

眼鏡「先ほどから居ましたが」

男(まったく気づかなかった…存在すら認識できなかったとか…)

眼鏡「…」

妹「なんかごめんねぇ~っ……うう、予想してたよりヘタレだったでしょ、うちのお兄ちゃんってば」

眼鏡「そうでもないと思う。貴女のお兄さんは一見、言動も全て動物嫌いだと思えるけれど」カチャ

眼鏡「ちゃんと動物の目を見て言葉を伝えてるから。本当は、大好きなんだと思うよ動物のこと」

眼鏡「──だからイイ人だとは思う」

男「……へ?」

妹「すっげー! ねぇねぇお兄ちゃんってば眼鏡ちゃんに褒められてるよ!」

男「いや、よくわからないんですが、急に褒められたとか言われても…」

眼鏡「動物」

男「は、はい?」

眼鏡「お好きなんですね、貴方」

男「い、いや、だからね? 別にそういうこと言われても、ね?」

眼鏡「いえ、別に褒めておだてて探させるなんて考えてませんから」カチャ

眼鏡「単に思ったことを言ったまでです。勘違いさせてしまったのなら謝ります、すみませんでした」ペコリ

男「は、はあ…いや頭を下げられるほど怒ってるわけでもないし…」

妹「すげー! 出会って間もない女子中学生にお兄ちゃん頭下げさせてる!」

男「テメーはよくもまぁ人聞きの悪い事をズケズケと…ッ!」ギリギリギリ

妹「つぶれひゃう! あたしゅの顔面つぶれひゃう!」ミチミチミチ…ッ

男「っはぁー分かってもらえたんなら、それでいいよ。その飼ってる猫も、別に脱走自体初めてじゃないんだろ?」

眼鏡「ええ、まあ」

男「だから一週間ぐらいどうってことねーよ。猫ってもんは時間のことなんて考えてない、所詮それも人様の価値観だ」

男「…だから」ボリボリ

男「お前がもし、その猫が『本当に居なくなったかもしれない』と本気で思ったら……まぁ相談してこいよ、話ぐらいは聞いてやる」

眼鏡「……」

男「な、なんだよっ?」

眼鏡「お優しいんですね」

男「ち、ちげーっつの! 単にめんどくさがりなだけだ…っ」

妹「これがツンデレってやつだよ?」

眼鏡「うん。やはり話に聞いてた通りの人だったね」コクリ

男「待て。なんだそのやり取りは、非常に不愉快に感じるッ」

妹「まーまーでもでも? 確かにお兄ちゃんの言う通り、もう少し様子見してたほうが良いかもだね」

眼鏡「うん」

男「ったく…」

妹「てーことで? んふふ、お兄ちゃんのひねくれっぷりを利用した所で、遊びに行こうぜっ?」キラリン

眼鏡「行こう」カチャ

男「…………」

男「どーいうことだお前ら!? ま、まさか断れること前提に相談しやがったってことかー!?」


妹「あははー! 今日の晩御飯は餃子だってさー!」ダダダダダ


男「知るかーっ! 覚えとけアホ妹ーっ!」

男「一度あの馬鹿は兄というものを再度教えないと駄目だな畜生…ッ」

猫『ふわぁ~…今日もガキはメスどもとつるんで楽しそうだなぁ~』

男「…まだ居たのかよ、お前」

猫『ここらへんは、おっちゃんの縄張りなんだぜ。まあおれ様ほどの風格ならどの縄張りも素通りだけどよっ!』

男「ふん。単に身体がデカいだけじゃないんだな」

猫『おーおーそりゃ当たり前だろ? でかい、ふとい、は猫にとっちゃそれだけで脅威になるモンだ…』

猫『特に飼い猫の縄張りは一段と凄いぞ。アイツらは野良と違ってイイもん食ってやがるからな、しかも量も多いときたもんだ』

男「…野良より飼い猫のほうが強いのか?」

猫『あったりまえだ。食いもんが違えばデカさが違うし、ちからも差が出るぞ」

猫『そんじょそこらの野良じゃひと睨みで終わるぜ? ま、そも猫自体の性格もかんけーあるがな』ペロペロ

男「へー……じゃあ野良なのにデカいお前は、一体どうしてそうなるんだ? あぁそっか他の猫のエサまで奪って食ったらそうなるんだろうな…」

猫『やかましい! おれ様のむっちりポテポテぼでぃは自前なんだよ! ちゃーんと縄張りで取れるメシだけくってるわ!』

男「どうだか…」

猫『あーあーこれだこれだ、呑気に出される飯だけ食って生きてる人間様ってのにはわっかんねーだろーなぁー? 野生のオスってもんをなーっ!』

男「そうですかハイハイハイ、そりゃわるーござんしたね」

猫『まったく聞いてやがらねえなガキ。はぁーあ、ガキはガキらしく大人の言うことを聞くモンだぜ』

男「アホ言え。年月的にはこっちが年上だ」

猫『へぇーえ、そう言っちゃうのか? 確かに人間様は長生きだろーな、しっかしテメーは子供一匹ぐらい仕込んだことあんのかよ?』

男「な、なにっ!?」

猫『ねぇーだろーなぁー? がはは! こいつぁお笑いだぜ、年だけ食って年上気分ちゃ腹も膨れねーよ』

猫『良いかガキ? 大人のオスってのはメス一人、子供十匹産ませて一匹前だぜ? 弱虫意気地なしの猫でも盛って子供を作りたがるモンだ…』

猫『…んな度胸もねーガキがいっちょまえに語るんじゃねーぞ、がっはっはっは!』

男「ね、猫と人間を同等に語るんじゃねえっつの! こ、こっちはこ、子供……つくるとか、そういったことは、色々と考えるべきことであって……」ゴニョゴニョ

猫『おーおーなにを想像してる?』

男「う、うるせぇ! なにも想像してないわ!」

猫『クック、良いよ良いよガキも正直になりな。そうすりゃ『あの嬢ちゃん』も尻尾ふって喜んでくれるだろーよ、がはは』

男「なぁっ!? ち、ちがっ……変なこと言うな変態セクハラデブ猫!」


『───ヘェ……語るじゃあないかい、良い身分になったもんだねぇ』

男「おっ? なんだこの『声』は…」

猫『ッッ~~~!?』ビックゥゥウウウ

男「ん?」

猫『あっ、がっ、ちょ…ちょいとおっちゃん…用事、思い出したわ…』シュタ!

男「お、おい。急にどうしたんだよお前」


『こりゃたまげたよ。かっか、些かのんびり生き延びすぎたんじゃあないかい? …あたしゃガッカリだよ』


シュタリ!


猫『うっ!?』

ボス猫『姿を表さなきゃ逃げる準備も整わないとはねぇ。昔に、こっぴどく叱ってやったことを忘れちまったようだ』

男「お、おお…見かけない猫だな…」

ボス猫『おやおや…アンタがここ最近でウワサになってるあたしたちの声が聞こえる人間様ってガキかい』ニャーン

ボス猫『ずいぶんとまぁ間抜けな面構えだよ。ちゃんとメシを食ってるのかい? それじゃあメス一匹すら振り向いてすらもらえないよ、まったく』

男「なん、」

ボス猫『なんか文句でもあんのかい?』キラリン

男「えっ、あっ、な、ないです…」

ボス猫『そうかいそうかい。正直なオスは好かれるよ…どれ今度あたしが精がつく餌でも持ってきやるから、それでも食べてガキを沢山つくりな』

男「あ、ありがとうございます…」

男(あ、あれ!? なんか普段みたいに抵抗できない!?)

猫『………』ガクガクガクガク

ボス猫『おやおや。なにをそうも必死になって目を逸らすんだい? あたしとアンタとの仲じゃあないか、同じ縄張り持ちのボス猫だよ…』

猫『…う、うるせぇよババァが…』ボソボソ

ボス猫『ほほう! 言うじゃあないか! かっか! あたし相手にとうとう威嚇できるようになったわけかい!』

ボス猫『嬉しいねぇ…楽しいねぇ…あんなちっこかったガキがいっちょ前にあたしに威嚇をねぇ…』

ボス猫『──ナメんじゃないよ、こちとら生きて十数年一度足りともシマを取らせなかったボス猫よ』

猫『ひっ!』

ボス猫『あたし相手に語るにはちと猫生が足りないんだよ、出なおしてきなッ!』

猫『おッ…ごッ…う、うるせぇ死にぞこないのババアが!』シャーッ

猫『む、昔のガキの頃みたいに弱っちいままだと思うんじゃねーぞ! が、がはは!』

男「…そう言いつつ俺の後ろに隠れるなよ」

猫『おいガキぃ! こ、こいつはぁやべぇ猫だ! しらねえだろうが『三毛猫』はどいつもこいつも性格がずぶとい!』

猫『しかもコイツは飼い猫だ! 飼い猫風情が…野生のオスを馬鹿にしやがってッ…さっさとくたばりやがれ!』

ボス猫『フンッ! 身体だけじゃなく態度もデカくなったようだね、まったく見苦しいったらありゃしないよ』

ボス猫『…昔はあーんなに可愛らしかったのにねぇ、アンタがろくに餌が取れなくて、あたしに泣きついてきた時は…』

猫『だぁー!!』ダダダダダ

男「あ、逃げた…」

ボス猫『ハン! ボス猫がシマ放っておいて逃げるんじゃないよまったく、そんで人間のガキ、ちょいと話を聞きな』

男「お、おう…な、なんですか?」

男(なぜ俺は敬語になってるんだ…)

ボス猫『さっきまであんたらのことを見てたんだよ。ああ、悪いねぇ。こっちも立場ってもんがあるからね、不快な思いをさせたら謝るさ』

男「あ、いやっ! 別に平気なんで、大丈夫っす…」

ボス猫『そうかい。くっく、素直で良いオスだよ、あのデブにも分けてあげたいぐらいさ』

ボス猫『用というのはさっきの『あたしの飼い主様』のことさ』

男「え? も、もしかして…」

ボス猫『言ってたんじゃあないかい? 飼い主様があたしのことを探してる、なんてね』

男「あ、ああ……言ってたっすね、一週間も姿を表さないのは珍しいって、だから探して欲しいと」

ボス猫『やっぱりかい』

男「アンタが飼われてる猫、なのか?」

ボス猫『もちろんさ』

男「…じゃあ帰ってやれよ、いや、帰ってやってくださいよ。随分と心配してたみたいだしよ」

ボス猫『無理だよ』

男(なんとなく、言うと思った)

ボス猫『ちっとばかし野暮用があるのさ。あたしゃその後始末にてんてこまいでね、ろくに帰ることも出来やしないんだよ』

男「じゃあ、それが無事に解決できりゃ戻るって、ことですか?」

ボス猫『ま、そうなるかね? くっく、さっきからなんだい? 変に喋りにくそうじゃあないか、顔色伺う弱気な猫みたいだよ。しゃきっとしなしゃきっと!』

男「え、あっ、ハイッス! …あーわかったよ、これで良いのか?」

ボス猫『良い子だ。オス前っぷりが上がったじゃあないか』

ボス猫『良く食べ、よく眠り、そしてメスの前では格好つける。それがオスがモテる秘訣だよ、覚えときな』

男「本当かよ…」

ボス猫『かっか! あたしゃ嘘つかないさ、猫も人様も変わらんもんさね。それに……飼い主様を困らせてるってのも知ってるよ』

ボス猫『あたしは必ず戻ってくるよ。ちゃんとやることやってさ』

男「…じゃあそれを飼い主に伝えておいてもいいのか」

ボス猫『おやおや。長生きするもんだよ、確かにこりゃ便利だ』

男「んだよ?」

ボス猫『──【伝えておいても】、ねぇ。いいコトバだ、アンタはあたし達の声も飼い主様の声も聞こえるからこそ言えるコトバだよ』

ボス猫『忘れなさんなよ、そして無視もするんじゃあないよ』

ボス猫『その理由はちゃんとした意味があるはずさね。人間のガキよ、あたりまえだと思っていたら何時か絶対に後悔するからね』

男「お、おう?」

ボス猫『かっか、嫌になるよ年食うと説教好きになる。それじゃそこんところ、よろしく頼むよ』シュタリ

男「………」

男(少し違った雰囲気の猫、というより動物だったな。人間臭い、というか動物らしくない感じ…というか)

男「まぁ変わってる動物なんて今まで居なかったけどさ…」

猫『居なくなったか』スボォ

男「よぉチキン猫、てっきり二度と姿を見ることないと思ってたぞ」

猫『ぐぐぐっ! わぁーるかったな! アイツは駄目なの、おっちゃん全然敵わないの、つかこの辺の猫じゃ別格なんだよ!』

男「くっく、らしくねえじゃねえか。いつもみたいに文句の一つも零さねえとか」

猫『色々とあるんだよ全く…あーおっちゃんちょー疲れた、なぁガキちょっと首あたり揉んでくれよー』

男「嫌だ気持ち悪い」

猫『気持ち悪い!? なにそれおっちゃん凄く傷ついたぞ!?』

男「ったく…」コショコショ

猫『おっおっ! や、やるじゃねえか…おほっ! じょ、嬢ちゃんには到底及ばねえがな、なかなか…うひぃ~~!』ビョーン

男(喘ぐから嫌なんだよコイツ…)

猫『ま、でもよ。元気そうでよかったわ、そろそろ死に場所探してるとか聞いてたからな』

男「ん? 死に場所…?」

猫『おうよ。あんな見た目でもおれ様以上に生きてるババアだ、何時くたばってもおかしくねぇよ』

男「……」

猫『ふわぁ~んあ? 何その顔?』

男「…猫ってのは一々何考えてるのかわかんねえな」

猫『そりゃそうだ。おれ達にとっちゃ人間様のほうが意味不明で見てて面白いぞ、とくにガキとかな』

男「うるせぇ」ギュムッ

猫『ぎゃー! しっぽ駄目って言っただろーっ!』

男「とにかく、色々と知っちまったからには…頼まれちまったからには言いに行かなくちゃな」パンパン

猫『あ、まーた厄介事頼まれたのか? ったく変態だなーガキはなー』

男「……、死に場所か」

男(いやに耳にこびり付くな、この単語。どうしてかわかんねーけど、ま、いっか)

男「俺は聞こえることだけを、伝えに行くだけだ」


※※※

中学校


男「……」キョロキョロ

男(今は夏休み。この時期に学校に来るのは部活をやってる奴、だろうけども)


チラチラ ヒソヒソ ザワザワ


男(い、いかん。予想以上に目立ってやがる、登校中の中学生に露骨に怪しまれてる)

男(あの馬鹿妹が連絡先を教えてくれれば簡単だったのによ、まさか…)


妹『え、眼鏡ちゃんの連絡先? あっははー知るわけないよー! あの日に初めて遊んだんだぜ?』


男「以前から思ってたが、アイツのコミュ力は些か度を越してるな…」


ヒソヒソ


男(うむ、潮時か。変に騒がれて合いにくくなるのも困るし、焦って伝えるほどのことでもないような気もするしな)

男(妹に改めて連絡先を聞いてもらえるよう、頼んでおくか)クルッ


「あれ? お兄さんじゃないですか?」


男「おう?」

「わー珍し、こんな所で会えるなんて。あ、妹ちゃんに何か届け物です?」たったった

男「いや、別にそういったことじゃないんだが、つか久しぶりだな」

妹友「ええ、本当に、本当にお久しぶりですね」ニコッ

男「…なんだその何か言いたそうな笑顔は」

妹友「いえ別になにもー? 最近は変にお兄さんと会えてないなーなんて、思ってなんか居ませんよー?」

男「か、勘ぐり過ぎだっての。別に他意はねえし、避けてるわけじゃないっつの」

妹友「ふーん、そうですかそうですか。お兄さんが言うのなら、しんじてあげましょう」

妹友「それで? どうして中学校の校門前に居らっしゃらるんですか?」

男「え? ああ、ちょっとした野暮用……というか伝言があってだな、人を探してた」

妹友「人を? へぇーそれってわたしの学校の子ですか?」

男「ん、まあそうだな。妹の友達に用があるんだが、どうにもこうにもあれでな…」キョロキョロ

妹友「なるほど。露骨に不審者感出しまくってますしね、そりゃ居心地悪いのも納得ですね」ウンウン

男「うるせぇな…俺だって好きでやってるわけじゃねえんだよ」

妹友「いえいえ。違います、好きで人の問題にどんどんと関わっていこうとするのが…お兄さんでしょう?」

男「お前は一度、妹と一緒に俺という人間を再教育しなくちゃいけないみたいだなッ」

妹友「こっちは正論だと思ってます。お兄さんはそんな人ですよ」

男「違うっつーの!」

妹友「いーえ! お兄さんは昔から今までもずっとずっとそんな人です!」


「なにをやってるの?」


妹友「おやっ? あー眼鏡ちゃん、おはよう」

眼鏡「おはよう妹友さん」ペコリ

男「おっ?」

眼鏡「たしか妹さんのお兄さんですよね、おはようございます」ペコリ

男「昨日ぶりだな。すまん、今日ここに来たのは伝えなくちゃいけないことがあってだな…」

眼鏡「はい」

男「ああ、実は昨日のことなんだが」

眼鏡「寺で私が告白したことですか?」

男「ん、まぁそうだな。一度は断ったが、色々とその後に状況が変わってな」

眼鏡「もしかして、あの事を了承していただけるんですか?」

男「いや、それも少し違う。俺が探すことはしない、たださっきも言った通り少し出会いというか…」



妹友「むぅー」じぃーーーーーーーーー



男「…さっきから何だ、お前。俺のこと見つめて?」

妹友「知り合いだったんですか、彼女とは、眼鏡ちゃんとは」

男「そうだって言っただろ。妹の友達に会いに来たって」

妹友「言いましたね、言いましたけど! …でもなんなんですぅ、その会話は」

男「……」

眼鏡「……」

男「…なんか変なコトいったか、俺?」

眼鏡「いえ、わかりませんね」フルフル

妹友「だ、だって! こ、コクハクとか…断ったとかぁ…了承していただけるとか…っ」

男「別に普通だろ」

眼鏡「普通だよ?」

妹友「普通じゃないよ! 全然普通じゃないってば! …だってこ、これってどう聞いてもそういうことでしょう!」

男「はぁー意味がわからないのは時々出る方言だけにしておけよ、妹友」

妹友「なんですかその言い草ぁ!」

男「俺らは大切な話をしてるんだよ。邪魔するならシッシッ、あっち行っとけ」

眼鏡「…大事な話だと思って頂いてたんですね」じぃー

男「え? あ、いや……確かに思ってたが期待した目で見るなよなっ? 俺は探すと入ってない、要があるから会いに来たんだ」

眼鏡「結構です。私的にはこのようなことで、きちんと話を聞いてもらえるだけで…感謝してますから」

男「そ、そうか?」

眼鏡「はい」コクリ

男(なんか気恥ずかしいな…別に大したことしてるつもり無かったんだが…)

眼鏡「…」ニコ

妹友「じいー」ズモモモモモ

男「…だから、なんだよさっきから」

妹友「わかりました、もう聞いちゃいますけど、どうして仲が良いんですか」

男「悪いほうが嬉しいのかよ」

妹友「そうじゃありません! なにをどーいうこと…コクハク…されたのか分かりませんけどぉー?」

妹友「フン! 眼鏡ちゃんがここまで親しくされてるのって珍しく見えるので! どーしてかなって!」

妹友「…あのね眼鏡ちゃん? この人はね、一見無害そうに見えるかもしれないけれど、違うんだよ、狼なんだよ噛み付くんだよ」

男「おい」

眼鏡「狼なの?」

妹友「そのとーり! だってね? とある女子生徒さんと毎夜毎夜首に───」

男「はぁーーいっ! わかったぁ、どーしてお前がそれを知ってるかわっかんねぇが黙ろうかちょっとー!」がしっ

妹友「ひぁあああ!? へ、ヘンタイ! 高校生が女子中学生を拘束してるぅー!」バタバタ

男「なんなんだよお前は…」スッ

男「──良いか、今は大事な話をしてる最中だ」ずいっ

妹友「うぐっ」

男「何が気に食わねぇかしらねーけど、…構って欲しいなら今度、家に遊びに来い」

妹友「…ぇ」

男「ちゃんと相手してやるよ。それよか、そーだな…」

男「久しぶりにマリカーでもすっか? にしし、また俺のボロ勝ちだろうけどよ」ナデナデ

妹友「…うん、するばい」コクリ

男「おう」

眼鏡「……」ジィー

男「よし、だいぶ話はそれたが──どうした?」

眼鏡「噂に違わぬ…」ボソリ

男「うん?」

眼鏡「ぁ、いえ、お二人共仲が良いなと」

男「このチンチクリンと? まあ小さい時から知り合いだしな」ナデナデ

妹友「チンチクリンとか言うなしっ!」ばしっ

男「くっく、はいはい」

眼鏡「……」ジッ

男「おっと、それでだな。アンタに言いたいことは一つだけだ」

男「──その飼い猫を見た人が居たらしい」

眼鏡「本当ですか?」

男「…? お、おお。そうなんだよ、あーソイツが言うにはだなぁ…どうも忙しそうに走り回ってる感じだとよ」

眼鏡「忙しそうに…」

男「そうそう、だからその『忙しいこと』が終われば自然と戻ってくるかもしれん…と思う、かな?」

眼鏡「わかりました、では、その見た人に伝えておいてください」コクリ

眼鏡「またもし『彼女』──ボス猫さんと遭遇したら、」

眼鏡「私の名前を呼びかけて欲しい、と」

男「…呼びかける?」

眼鏡「お願いします」ペコリ

男「まぁそういうのなら伝えておくけれど」

眼鏡「ありがとうございます、あ、ごめんなさい、私もうそろそろ部活に行かないと」

男「あぁ、すまなかったな。呼び止めちまって」

眼鏡「いえ、わざわざご報告しに来てくださってありがとうございます」


たったった


男「……むぅ」

妹友「ね。お兄さん、いい子でしょう」

男「まぁな。俺の知り合いには居ないタイプかもな」

妹友「男子生徒にも人気なんですよ、まぁ近寄りがたい雰囲気もあるんですけどね」

男「そうか? こう…守ってあげたくなるよな、か弱い感じじゃんか」

妹友「へぇ~そういったタイプがお兄さんの好みなんですか」

男「…だから、お前は一々ツンツンし過ぎだっつの」

妹友「あんまり他の子にうつつを抜かしてると、怒られちゃいますからね」フィ

男「うぐっ」ビクッ

妹友「──今は親御さんの実家に帰られてるようですけど、あの人、勘というか鼻が利きますから」

妹友「あっちにワンワン、こっちにニャンニャンしてると噛み砕かれますよ」ジィー

男「く、砕かれるのは怖すぎる」

妹友「でしょう、だから、しっかりしてください」

妹友「困ってるヤツが居たら駆け寄りたくなる、それが貴方かもしれないけれど…」

妹友「…お兄さんにはまず最初にどーにかしなくちゃいけない問題があるはずですよ?」

男「そ、そうだよな…『アイツ』がまだ素直に…」


                                                 『ケラケラケラ』


男「───………」

妹友「? お兄さん?」

男「…え、あ、いやっ……なんでもない……」

男「……。つか気になったんだがお前なんで学校来てんの? 部活やってないだろ?」

妹友「えっ? さ、さーて?」キョトン

男「夏休みに登校…帰宅部…早朝…ま、まさかお前…」

妹友「………」びくっ

男「赤点で補修受けに来たとか言わないよな…?」

妹友「……」

男「う、うちのアホ妹さえも大丈夫だったのに…」

妹友「ッッ!!」ダダッ

男「逃げた!? おまっ! ばかー! しっかり勉強してこいアホったれ!」

妹友「うっさかばい! ばああああかっ!」

男「馬鹿はお前だー! 何やってんだアイツは…」

男「ったく…ん?」ピクン

男(なんだ、いきなり、何処からか視線を感じる? 確かに目立っていたけど変な…)キョロキョロ

男「? …男子生徒?」

『──行ったぞ』『ああ、じゃあ俺もいくか』『わかった』ソソクサ

男「…?」

男(なんか変な雰囲気だったな…)


自宅 部屋

男「…」

ネズミ『こんにちわ! だよ!』

男「ピーナッツ…」

ネズミ『そうだよピーナッツなんだよ! 人間さん!』

男「…良いかもう何度も言ったかもしれんが、もう一度だけ言ってやる」

ネズミ『なんだよ?』

男「……」トントントン トン

男「…この机の上に置かれた、ドングリの山は何だ?」

ネズミ『ごちそうなんだよ!』

男「違う、俺が聞きたいのはそこじゃない」

ネズミ『人間さんドングリ知らないんだよ?』

男「知ってるわ! 違う、違うんだピーナッツ…俺が言いたいことはそうじゃなくってだな…」

男「はぁ、じゃあ言い方を変えるが…どうしてここにドングリの山があるんだ?」

ネズミ『ぼくが持ってきたんだよ!』

男「どうしてだ」

ネズミ『それはもちろん! えへへ、人間さんにあげたくて!』

男「……」

ネズミ『いっつもウレシイことシてくれるから、おれいしたいんだよ…!』

男「そうか、だがな人間はドングリを食べない」

ネズミ『え…?』

男「食べる人もいるが俺は食べない。食べたこと無いし、実際…食べたくもない」

ネズミ『食べたく…ないんだよ…?』

男「ああ、食べたくないんだ」

ネズミ『そうなんだよ…知らなかったよ…ごめんなさい人間さん…』

男「いや、お前の気持ちは非常にありがたい。だが、どんな生き物にも苦手なモンがあるんだ」

ネズミ『うん…うん…』

男「うむ。けど妹は食べるぞ、どんぐり」

ネズミ『かいぬしさん食べるの!?』

男「食べる」コクリ

ネズミ『本当にっ? だいすきっていってくれるんだよっ?』

男「ああ、超すきー言いながらボリボリ喰うな。この帽子みたいになってる堅い奴もむしゃぶりつくすぞ、どうだ怖ろしいだろう?」

ネズミ『それはすごいんだよ! ぼくたちもボウシたべないよ!』

男「だろうだろう、お前の飼い主は食欲の権化だ。そのうち俺も食べられるかもしれん」

ネズミ『ひぁー!』

男「だから俺からお願いがある。お前の気持ちはありがたい、しかし、俺はどんぐりを食べられない…」

男「もしお前が良ければ、俺が食べられてしまう前に、アイツの腹をお前のどんぐりで満たしてやってくれ」

ネズミ『わかったんだよ! ぼくがんばるんだよ!』

男「うむ。では、さっそく行ってくるんだ、応援してるぞ」

ネズミ『行ってくるんだよー!』

男「……」

男「さて、復讐は完了したし、課題でも終わらせるか」

ピロピロピロ

男「ん、電話か……知らない電話番号…?」ピッ

男「えっと、もしもし?」

『……』

男「あの、もしもし? 誰っすか?」

『窓を開けろ』

男「…は?」

『良いから、窓を開けろ』

男「あ、アンタ誰ですか。つか何、言って…」チラリ

男(なんだこの電話、…外から誰か見てる、のか? さり気なく窓から確認すれば…)ソソクサ


チラ


ボス猫『ちょいと開けな、人間のガキ』カリカリカリ

男「ぶっ!? ちょ、お前!? なんでここに居るんだ!? …まさか電話も…!?」

ボス猫『意味わからないこと言ってないで、早く開けるんだよ』

ボス猫『──早くしないと良くないことが起きるよ、さぁチンタラしてないでさっさとおし!』

男「なんだよ急に」ガラリ

ボス猫『……』キョロキョロ

男「つか今電話中だから静かにしとけよ? つか、電話の相手も意味が分からんけど…」

『開けたな』

男「えっ? あ、ああ開けたけど一体アンタ何者、」

ボス猫『人間のガキ』

男「ちょっと待て、なんだよ? こっち電話中だって言ってるだろ」


ボス猫『良いかい? あたしが鳴いた合図で───』

ボス猫『──すぐさま、その間抜けな顔の横で右手を握りな』


男「はい?」

『そのまま立ってろ』

男「いや、だから、つか、お前ら揃って意味の分からんことをぺちゃくちゃ言いすぎだろ!」

ボス猫『今だよ! 十一時の方向さね!』

男「なに言って…」



           ───シュン…ッ!!!



                                              パシィンッ!


男「…………、え?」チラリ

ボス猫『ほほお?! やるじゃあないか人間のガキ! 言われて掴み取るなんてたいしたもんさね!』

男「はっ? えっ? ナニコレ? …待て、コレ飛んできたのか…?」スッ

男(丸いプラスチックみたいなモンが…急に俺に向かって飛んできやがった…?)

『チッ』ブツン

男「ちょ!? オイ!? ──くそッッ! 誰だこんなことした奴は!?」ガッ キョロキョロ

ボス猫『いまさら探したって逃げてるよ。あっちも人間にしちゃ大した逃げ足だよ、かっか』

男「……ッ…一体どういうことだよ…ッッ」

ボス猫『さてさて、気まぐれに話に来てみりゃ厄介事かい。人間のガキも面白い猫生じゃあないか』

男「…顔は見たか?」

ボス猫『舐めるんじゃないよ、バッチシみたさね』

男「そうか、どんな奴だった言えるか?」

ボス猫『アンタと同じ人間のガキだったさ、後は毛がなかったね』

男「毛が無い? …坊主ってことか?」

ボス猫『あたしが呼び方を知るわけ無いだろ。それよりもだよ、あんたが持ってるそれ、見せてみな』ヒョイ すたん

男「お、おお? これか…? なんだろうな、コレ」スッ

ボス猫『こりゃ【鍔】だよ』

男「ツバ?」

ボス猫『アホタレ、刀や竹刀につける奴だよ。あたしゃ腐るほど見たことあるから名前も知ってるんだ…』

ボス猫『なんにせよだよ。こんなアブナイもんを投げつけてくるなんて、あんたどんな恨みを買っちまったんだい?』

男「…わからん、危害を加えてくる程のことなんてしたつもりは無いんだけどな」

ボス猫『かっか、ならそりゃ宣戦布告かもしれないね』ニャーン

男「せ、宣戦布告?」

ボス猫『威嚇されちまったのさ、人間のガキ』

ボス猫『──オスがオスを威嚇する意味は、ガキにだってわかるだろう?』

男「お、オスがオスを威嚇する意味…」

ボス猫『思いだしな。アンタは何か忘れちまってる──いや【見逃して】いるんじゃないかい?』

男「…」

ボス猫『大変そうだねぇガキ。あたしゃお邪魔になるなら去っておくよ』

男「いや、今は思い出しそうにもない。それよかお前に伝えておくことがあるんだ」

ボス猫『飼い主様からかい?』

男「お、おお。そうだよ、それとなくお前が忙しいことを伝えておいてやったが…」

ボス猫『そうかい、それで?』

男「ああ、そしたら名前を呼びかけてくれと…言ってたな」

ボス猫『…………』

男「たったそれだけだったが…」

ボス猫『いや十分さ。なんだい、さばけるじゃあないか人間のガキ。こんなにも早く済ませてもらえるなんて思ってもなかったよ』

ボス猫『ありがとう、感謝するよ』シュタリ

男「…なぁ猫」

ボス猫『聞いたんだろ、デブにさ──あたしが【死に場所を探してる】とね』

男「…えらく察しがいいな、俺が言いたいことがわかったのかよ」

ボス猫『かっか! 長く生きてるとつまらないことを真面目に考えるもんさ、猫様だって変わらんよ』

男「…本当に帰るつもりはあるんだよな?」

ボス猫『いっちょ前に気を使うんじゃないよ、ガキ──あたしが嘘つくようにみえるのかい?』

男「……」

ボス猫『疑ってるなら、あのデブに聞いてみな。あたしゃ生きてきてこの方、一度も嘘はついたことは無いさね』

男「わかってると、思うがな。悲しませるなよ飼い主を」

ボス猫『本当に余計なお世話だ。かっか、けれどイイ世話好きだね』


ボス猫『なぁ人間のガキ、一つ聞いておくさね。強いってなんだと思うかい?』


男「強い? そりゃ色々とあるだろうが…まぁ喧嘩が強い奴は、強いってことになるか」

ボス猫『いい答えだよ。あたしゃその強さを追い求めて、今の立場にいるもんだ』

ボス猫『野生の中で生きるためには──この世界で生きるためには強くなきゃ駄目なのさ』

男「……」

ボス猫『そして死ぬまで、あたしはその強さを貫き通すよ。どんなワガママだって、やりきるのさ』

男「…わからん考えだ」

ボス猫『まだガキには早かったかようだね。それとも、忘れちまってるかもしれないかい?』

男「…っ…忘れてる?」

ボス猫『かっか、あたしゃもう帰るよ、色々といい話も聞けた』ストン

ボス猫『──猫ごときの頼みを聞いてくれてありがとさん、また、会えたら会おうじゃあないか』





男(…いまいちスッキリしないな)

男(なんかこう、あのボス猫と眼鏡の子は違和感がある気がする)

男(頼まれたことを済ましただけだし、俺が色々と考える必要なんてねえけど…うまく説明できないモンが…)


ネズミ『にんげんさん! にんげんさんにんげんさん!』


男「おお、お帰り」

ネズミ『えへへ! ただいまだよ! ちゃんともってきたよ!』

男「ん?」

男「持ってきたってなんだ…」


「ぎゃああああ! なっ…なっ…なんじゃこりゃーっ!? どんぐりー!?」


男「……」

ネズミ『これでかいぬしさんよろこんでくれるんだよ! どんぐり、たくさん!』

男「ど、どんぐり沢山…あ、ああそうなんだ…」

ネズミ『あとね! にんげんの顔に似せてどんぐりならべてみたよ!』

男「なんだそのトンデモ技術!?」

ネズミ『かしこでしょ?』

男「ネズミ君は賢いなぁっ!」


「え、ちょ、待って、えっ、なにこれ…お兄ちゃ…お兄ちゃん…? おにぃいいいいいちゃああああああああッッッ!!!」


男「ちょっと飲み物買ってくる」ガタリ

ネズミ『いってらっしゃいだよー!』

男「行ってきますッ!」バッ

歩道 自販機前

男「はぁ…なんとか逃げ切れた…」ピッ ガタン

男「よもやベッドの上に数百個ぐらいのどんぐりがあるとは…」ゴクリ


猫『んぉ? なんだよガキじゃねえか』とてとて


男「うおっ! な、なんだお前か…」

猫『ここで何してんの? あーあ、なるほどつまりはガキも夜のサンポがクセになっちまったのか』

男「違うわ。色々とあんだよ、つか良いところで会ったな。ちょっと良いか」

猫『どしたどした。ガキもとうとうおれ様の立派さに頼ることを知ったか?』

男「昨日会ったボス猫のことなんだけどよ」

猫『……』シュタタタ!

男「待て」ぎゅむっ

猫『うにゃー!?』

男「ったく、お前は臆面もなく逃げるよな」

猫『や、やめろ! はなせアホ! いやだー! おれ様をはなせー!』

男「どんだけ苦手なんだよあの猫のこと…」

猫『くそっ、ガキはしらねーだろうが、ほんっとにヤバイんだっての! アイツは!』

男「なにがヤバイんだよ」

猫『…おれ様が小さい頃、アイツはこの縄張りを統一しちまったことがあるんだよ』

男「へー! そりゃ凄いな…この辺つったら沢山猫居るだろ?」

猫『前はもっと居たぞ…今じゃ軒並みババアに追い出されたがな、そりゃもう敵なしだったぜ』

ストン

猫『どんな勇敢なやつも、どんな荒くれ者なやつも、どいつもこいつも敵わなかった』

猫『…それがどれだけ凄いことがわかるか、ガキ』

男「……」

猫『頭がおかしいなんて言えるモンじゃねえ。生きることをじぶんから捨ててることといっしょだ』

猫『いつまでも一匹で立ち向かっていく、どんな他猫だって…絶対に喧嘩を売りに行っていた』

男「…惚れてたのか?」

猫『ハァ!? ば、ばかいえ、一度でものしかかってみろ…一生使い物にならなくされるぞ…』

男「うっ、それは恐いな…」

猫『だが、今はただのババアだ。ナワバリだって今じゃ飼われてるところしか残ってねえしな』

男「ん? 確かアイツは縄張りを取らたことがないって言ってなかったか?」

猫『ババアを慕ってた猫にほとんどあげちまった』

男「あぁ成る程な。じゃあお前の縄張りもそうなの?」

猫『…悪いか』

男「悪くねぇよ、貰ったってことは信頼されてるってことだろ。お前の強さを」

猫『ハン! 何をわかったようなことを言ってるんだよ、ガキのくせに』

男「なぁデブ猫」

猫『んだよ…アイツはやると言ったら絶対にやるぞ』

男「え?」

猫『どーせ無事に飼われてる所に戻ってくるか疑ってんだろ。あほ、ばか、嘘つくほど器用じゃねえっつのあのババアは』

猫『それはおれ様がみとめてやる。ババアになっても変わんねえだろうな、そういうことろは』

男「…そうか、なら良いけどよ」

たったったっ

男「ん? 足音…?」くる

「はぁっ…はぁっ…きゃっ!」ぽすっ

男「おっと、だ、大丈夫か? 前向いて走らねえと危ないぞ」

「あ、すみません…ごめんなさい…」

男「まぁ怪我ないなら、えっ?」

眼鏡「あ…」

男「眼鏡の…」

眼鏡「お兄さん…?」


「そっちに行ったぞ!」「見つけた!」「早く追いかけろ!」


男「……」

眼鏡「! あっ、えっと、ごめんなさい。私もう行かないとっ」

男「おい、何人居る?」

眼鏡「えっ?」

猫『人間様ってのは夜目もきかねーのかよ、五匹だガキ』

男「あいよ。ちょいと眼鏡さ…ああ面倒だから呼び捨てにするけど、眼鏡、少し担ぐぞ」

眼鏡「え、嘘、きゃあ!」ぐいっ

男「うっ…」

猫『ばか、かっこつけろガキ。重いとか抜かすんじゃねえぞ』

男「女子中学生見くびってた…道案内頼む! デブ猫!」ダダッ

猫『わぁーてるよ!』シュタタ


「な、なんだ!?」「誰かに担がれて…」「おいこっちだ!」


眼鏡「あ、あの…」

男「いまいち掴めないけど、困ってるんだろ?」

眼鏡「っ…」

男「なら大人しく抱っこされててくれ、とりあえず安全な所まで運ぶから」

眼鏡「…あ、ありがとうございます…」

男「よし! って猫!? ちょっと待て…! なぜ平然と塀の上を行くんだよ!?」

猫『逃げるんならこっちだろ、早くこい』とてとて

男「うぐぉ…! くそったれ! 揺れるから掴んどけ!」ダッ ダッ ダン!

眼鏡「は、はいっ」ぎゅううううううう

男「むぐぅううううう!? し、しまっ!? 首締まって…!?」

猫『なに遊んでるんだよ…』


「よしこっちは行き止まり…」「え、嘘だろ…」「姿が消えた!?」


中央公園


男「ぜーっ…し、死ぬかと…ぜーっ…思っ…ぜーっ」

眼鏡「ご、ごめんなさい」ペコペコ

男「い、いや、大丈夫だ。これでも夜に動きまわるのは慣れてる…から…っ」

眼鏡「っ…?」

猫『がっはっは! 確かになぁ!』

眼鏡「あ、あの、私なにか飲み物を買ってきます」

男「あ、ありがと」

猫『おっ? 飲みもん買いに行ったのか? …いい嬢ちゃんだな。身体のラインが実に好みだぜ、がはは』

男「お前は一々セクハラ発言しなきゃ満足できないのかよ…」

猫『ガキも一々言わせるな、それが野生のオスのサガなんだよ』

眼鏡「あ、あの」

男「どぅあっは!? いつの間に帰ってきてたの!?」

眼鏡「えっと、お兄さんが猫にセクハラと言ってた辺りから…」

男「うぐっ、そ、そうなんだ…飲み物ありがと…」ヒョイ

眼鏡「……」じぃー

男「ごくごく…」チラリ

眼鏡「……」じぃー

男「…な、何?」

眼鏡「動物と会話できるんですか?」

男「ぶふっぅ! な、なわけねーだろー!? ばっかだなちょっとなー!」

眼鏡「でも道案内も猫に頼んでた…」

男「たっ! たまたまだっつーのなぁ!? こんな小汚いデブ猫知らねぇし!?」

猫『…今は聞き逃してやるよ、ガキ』

眼鏡「……」じぃー

男「っ…じ、実は俺…ね、猫と会話しちゃうほどの…猫好き、なんですよ…ええ…」キョドキョド

眼鏡「……」じぃー

男「だ、だからねっ? なんつぅか、別にキミが疑ってること、ないから、ね? うん、そういうことっ!」

眼鏡「かわいい癖をお持ちなんですね」

男「ソウデスネ…ハイ…」

猫『ギャハハハハハ! ね、猫と会話しちゃうほどの猫好きーぃ!? ブホォッ! ちょ、おっちゃん笑い殺す気かよぉ!?』

男「ッ…ッ……仕方ねぇだろ…ッ」

猫『似合わなすぎーぃ!ww』

眼鏡「あの…?」

男「お、おおっ! その、色々と聞きたいことがるんだが…聞いちゃっても良い、のか?」

眼鏡「……」

眼鏡「はい。助けてもらったので話さないわけもいかないと思いますから」

男「いや、好き勝手やっただけだし。気にも留めなくていい、感謝で語ろうとするなら聞かないでおく」

男「…ただ、妹の友達が困ってんなら見逃せないかなって思ってる程度だから」

眼鏡「…貴方は凄い人ですね」

男「へっ? な、なんで?」

眼鏡「ボス猫さんの時も、今も、ちゃんと相手の目を見て会話してるから」

眼鏡「…本当に【そう思って言っている】ことが伝わってくるから…」

男「そ、そうなの?」

眼鏡「はい。だから凄い人だと思います、お兄さん」じっ

男(う、なんという真っ直ぐな瞳…)

猫『見惚れてないで、話はちゃんと聞いてやれよガキ』

男「わ、わかってるよ…」ボソボソ

眼鏡「…それで、」

男「お、おう。その言ってくれんのか」

眼鏡「言いたい、と思ったので。感謝するわけじゃなく、単純に私の気持ちで言いたいので、言います」

眼鏡「…お兄さん」スッ


眼鏡「私と、付き合ってくれませんか」

男「…………」

眼鏡「……」

男「…………」


男「え? 付き合う?」


早朝 中学校 


眼鏡「ハッ! ハッ! ハィイイイイイイ!!」


スッ スッ …シュッルル


眼鏡「…」ペコリ

男「お見事」パチパチパチ

眼鏡「いえ、単なる試合の型を行っただけですから」シュルシュル スポン

男「飲み物飲むか? ポカリ買ってきたけど」

眼鏡「ありがとうございます」

男(うん、一応突っ込んどこう。付き合うって部活の練習にかよ!)

眼鏡「今日は朝早くからご付き合いしてもらって、感謝します」

男「い、いや、ちょっと俺としても聞き逃せなかったというかね…」

眼鏡「え?」

男「それよりも! つか凄いな! 眼鏡ってば剣道部だったワケか?」

眼鏡「はい、一応部長です」

男「しかも部長か!」

眼鏡「日々精進、練習を怠ったことはありませんよ」スッ

男(お、おお…朝日が後光となって神々しい…)

眼鏡「…その、少し聞いてもいいですか」

男「あ、うん。どうした?」

眼鏡「……」

男「おう?」

眼鏡「私は、様になってますか…?」

男「様になってる? えっ? 滅茶苦茶似合ってるし、かっこいいけど…」

眼鏡「ほ、本当ですか?」パァアア

男「お、おお」

眼鏡「それは、とても嬉しい言葉です。私にとってとても…」

男「そうなのか?」

眼鏡「ええ、そうなんです。それに、貴方のような正直な方に言われるのなら…尚更です」

男「……」

男(あれ? これ馬鹿正直だってばかにされてる?)

眼鏡「あ。すみません、また勝手に話をしてしまって」

男「い、いや、気にするな」

男「それよりも、今日は呼んでもらったわけだけど…なにか俺に言いたいことがあるじゃなかったか?」

眼鏡「はい。その通りです、お兄さん」

眼鏡「──今、お兄さんはこの道場を見てどう思われますか」

男「うん? 綺麗に片付いてるとは思うけどな、それに…」キョロキョロ

眼鏡「それに?」

男「なんで、お前一人で練習してんのかな。とは思わんでもないけど」

眼鏡「そう、ですよね。確かに剣道部は私を含めて──七人、ですが今は私一人で部活動を行ってます」

男「へー、なのに今は一人か。理由は?」

眼鏡「……私が不甲斐ないからです」

男「どういう、ことだよ」

眼鏡「今年になって、私は部長に就任しました。他の六人と比べ剣道の経験が多かったからとの理由で…」

眼鏡「けれど、部長という長を務めるのは…今回が初めてでした、だから、色々と上手く出来なくて…」

男「ふむ。でも部長として上手く出来なかったとしても、部員が来ないのは変な話しだな…いざこざでもあったのか」

眼鏡「……。実は六人の部員は元より、教師から目を付けられている…という言い方は少しアレですけれど」

男「…不良学生?」

眼鏡「っ! は、はい、そう呼ばれても間違いではないと思います…」

男「そりゃ大変だな。面倒な奴らを抱えちまったもんだな、お前も」

眼鏡「でも!」

眼鏡「でも、悪い人たちじゃないんです、決して…周りが評価するような、そんな人たちじゃ…」

男「……」

眼鏡「私は、たくさん考えたんです。まだ部長としての立場を勘違いしてるんじゃないかと、肩書だけでは何も変われない…」

眼鏡「部長になることは、全ての部員をまとめあげ、そして強い精神を持ち続けること…」

眼鏡「甘いんです…だからこうやって、私は一人で居ることになっている…」

ぎゅっ

眼鏡「…私は弱いままで…」

男「うーん、そうか」ポリポリ

眼鏡「すみ、ません。このような話をしても困ってしまいますよね、本当に、ただ何か一つ吐き出しておきたくて」

男「まぁ、そうやって吐き出すことは大切だと思うけどな。それに、吐き出す相手を俺に選んでくれたことも、なんとなく分かる」

男「よく知らない相手、出会って間もない人間。簡単にいえば顔見知り程度の相手のほうが案外、悩みを言い出しやすい」

眼鏡「え、あ、はい、その通り…なんでしょうか、これは…」

男「無意識で俺を選んだって言うのなら、正解だと俺が言っておいてやるよ」

男「それにもう一つだけ」スッ

眼鏡「は、はい」

男「変に背負い込むな、後々辛くなるだけだぞ」ぽんぽん

眼鏡「…しかし」

男「まぁ、なんつーかさ。まとめあげるのは大変だと思うぞ、人はみな他人だ」

男「それぞれ違う考えや感性って奴がある。人も、それに動物だってそうだぜ」

男「ワガママなやつだって居る、自分が動物だって言っちゃうとんでもないやつだって居る」

男「それを一つに。なんてことをやり遂げようとするなら───それこそ、命を掛ける必要だってある」

眼鏡「命…?」

男「まぁ仮言葉だけどな。けれど確かに、そこまで自分を追い詰めちまうと自分一人だけが辛くなるだけだ…」

男「一つ聞くぞ、じゃあお前はそいつらを手下にしてボスになりてーのか?」

眼鏡「え、ち、違います」

男「だろう。だったら、お前のその考えは間違ってる」

男「部員を大切に思ってる。けど、結局それが原因で自分を責めるのは駄目に決まってんだろ」なでなで

眼鏡「……」

男「ボスになりてえのなら命を張って気張っていけ、文句も言わん。だが、単純に皆でちゃんと部活をやりたいと思うのなら…」

男「…もうちっと笑ったらどうだ、余裕を持って、それこそ強い部長さんみたいによ」ニカッ

眼鏡「…はい…」ギュッ

男「うむ」

男(よし、それとなく年上としてカッコイイこと言えた気がする!)グッ

眼鏡「お兄さん…」キラキラキラ

男「おうっ! どうした? まだ何かあんのか?」

眼鏡「ありがとうございます、やはり、噂通りの方でした! 本当に…本当に…」

男「うわさどおり?」

眼鏡「はい。貴方のことはよく、部員の人たちが噂してましたから」

男「うぇっ!? な、なんで…?」

眼鏡「? そういえばどうしてでしょうか? 名前はよく耳にしましたが…それと後、」

眼鏡「『黒姫』という単語がよく交わされてましたね…? なんですそれ?」キョトン

男「………………………」

眼鏡「お兄さん?」

男「あ、ああ、わかった、うん、そういった感じの噂の奴ね、あはは、はぁ~っ」

眼鏡「ですが本当に相談して良かったです…なにか少しだけ、落ち着けたような気がします」

男「そっか、手助けになれたんなら良かったぜ、うん」

眼鏡「はい!」ニコ

男「……、よし! 今日はお呼ばれしちまったしな! 最後まで練習に付き合ってやるよ!」ぐいっ

眼鏡「え、本当ですか?」

男「勿論だぜ! ここ最近は運動不足だしな、うん、散歩も行ってないし」ぐっぐっ

眼鏡「で、でも」

男「遠慮するなっての大将さんよ、どんと受け入れるの部長としての強さじゃねえか?」

眼鏡「! わかりました…では、通常の練習メニューに付き合ってくださいますか?」

男「おうよ!」

眼鏡「はい! では今から道着を着て校舎の外周二十周です、よろしくお願いします」ペコリ

男「おう、よ?」

眼鏡「後に五分の休憩、スクワット五十腹筋七十特殊腕立て伏せ百回を3セット」

眼鏡「二十分水分補給と筋肉を休憩させ、帰宅時間まで道場にて私が考案した練習メニューを行います」

男「…………、ハイ」



男「」

眼鏡「ふぅ」カポッ

男「おつ、おおおつ、おつおつおつかれ、さまっす…」

眼鏡「お疲れ様です。本当に付いてこれましたね、流石ですお兄さん」

男「なっ、なめるなじゃ、ないよ」

眼鏡「はい。では私は着替えてきますので、また後程に」スタスタスタ

男「ハイー……」

ガラガラ パタン

男(なんだコレやべぇ死ぬよこれ…全身の筋肉が断裂しちまったかのような悲鳴をあげてるよ…)ピクピクピク

男(し、しかし、眼鏡が帰ってくる前に着替えちまわないと…道場の鍵も閉めるだろうしな…)いそいそ

男「───うぐぉ!?」ぴきーん

男「足っ!? 足が吊って、うぉおぉっ? わあぁあぁッ!?」ずるっ

ドシン!!

男「あいたた…っ」

男「転んじまうなんて情けない、痛ッ!? あっやべっ足が吊ったまんまとかっうぉぉぉっ」びくんびくん


眼鏡「──お兄さん!? 大丈夫ですか!? 急に大きな物音が…!」がらり


男「お、おおう!? ちょっと今はお見苦しい姿というか…っ」

眼鏡「あ…」バッ

眼鏡「…ご、ごめんなさい」カァァ

男「う、うん! こっちこそごめんな! けどね! ちょっと俺ってば少しばかり大変な目に合ってて、痛ぁ”あ”あ”!?」ピキーン

眼鏡「え、あ! 足がつってるんですかっ?」

男「な、情けない話なんだがなっ」

眼鏡「いえ、大丈夫です。こちらに足を向けて、そうです」スッ

男「痛つぅッ」

眼鏡「落ち着いて、深く息を吐いて、はい、少し伸ばしますよ」ぎゅっ

男「ふぅーむぐぃ! むぐぐ、痛がるな痛がるな…むぎぃっ!」

眼鏡「痛いでしょうけど後に良くなります、今はゆっくりと息を吸って、吐いてを繰り返してください」

男「は、はぁぃい…っひぎぃっ!?」ビクン

眼鏡「……」

男「ほぉっ!? ほぁっ…ほぁー!? んふんふっ! んふーー!!」

眼鏡「だ、大丈夫ですか?」スッ

男「だ、大丈夫だっての! 全然平気だしぃッ!? こんなのこれっぽっちも、あだだだだだだッ!?」

眼鏡「…………、ぶほぉッ」

男「いぢぢぢぢッ…うんッ…?」

眼鏡「ク…クスクス…ぷひっ…ブフゥ…」ぷるぷる

男「ちょ、ちょとぉ眼鏡さんッ…? 何を笑ってらっしゃるんですかねぇ…ッ?」

眼鏡「す、すみません。だ、だって貴方の出す声が、ちょっと、おかしくて、」

眼鏡「あはははっ! なんですか! んふんふって! クスクスクス…」

男「だ、だってしかたねえじゃん! こちとらマジで死ぬぐらい痛いんだもんよ!」

眼鏡「痛がりすぎですよぉ…もう、そろそろ良くなってませんか」

男「ぇ、ホントだ…痛くない…」

眼鏡「痛がり方が異常でしたから、少し筋肉が断裂気味かもしれませんね」ぐいぐいっ

男「断裂気味!?」

眼鏡「ええ、ですが病院に行くほどのものではないと思います。ほら、歩るけますよね?」

男「う、うん、歩けますね…」

眼鏡「一応明日に疲労がなるべく残らないようマッサージメニューをメモにしますから、待っててください」

男「あ、ありがと。あ、まってくれ! どうせならケータイのメアドを教えてくれよ、そっちのほうが楽で助かるし」

眼鏡「めあど?」

男「うん? なにそのカタカナわからない人みたいな反応?」

眼鏡「ご、ごめんなさい…私機械のことは苦手で…めあど、とはなんですか?」

男「嘘だろ…え、えーっとだなぁ。メアドと言うのは、」

眼鏡「ふんふん」ハラリ

男「互いに連絡するための番号のようなものでって……あぁあっ!? おま、道着が着崩れて!?」

眼鏡「え──きゃああ!?」ばばっ

数十秒前 道場付近


妹「……」コソコソ

妹友「あれ? 妹ちゃんどうしたの?」

妹「シィー! 静かにしてて!」

妹友「あぁうん、ごめんなさい…」

妹「今日ね、お兄ちゃんがね、珍しく早起きしてふざけたニヤけ面で出かけたからつけて来たの」

妹友「暇なんだね妹ちゃん…」

妹「そうとも言う! てっきり彼女さんに会いに行くかと思えばところがどっこいの助なんだよ!」

妹友「どっこいの助?」

妹「眼鏡ちゃんに会いに来てた感じなんだよー! びっくりこいたよ、こりゃ妹も兄貴の手の早さに腰抜かすよ!」

妹友「なんば…いっちょると…?」

妹「今ね、ちょうど眼鏡ちゃんが道場に入った所なんだよ、聞き耳立ててみなよ」

妹友「ど、どげんことなっとるとね…!?」そそくさ

『むぐぐ、痛がるな痛がるな…むぎぃっ!』

妹「なんかお兄ちゃん痛がってるね」

妹友「そ、そうやね…大丈夫なんかな…眼鏡ちゃんは一体なんばしちょっと…?」

『痛いでしょうけど後に良くなります、今はゆっくりと息を吸って、吐いてを繰り返してください』

妹「───良くなります!? 眼鏡ちゃんがお兄ちゃんを痛みつけてるやつ!?」

妹友「!?」

『っひぎぃっ!?』

妹「あぁあぁっ…い、今のはぜ、絶対色々とヤバイ感じの悲鳴だよっ!」カァアア

妹友「はわわわっ」ボッ

『あはははっ! なんですか! んふんふって! クスクスクス…』

妹「よ、悦んでる…眼鏡ちゃんがSっ気全開でお兄ちゃんの痛がる姿を嗤ってる…?」

妹友「不潔ばいっ! こ、こんなの不純すぎるっち!!」

妹「こりゃー…思わぬ展開になってるよ…」

妹友「ッッ…あの人はッ…彼女が居ながらなんてっ…なんてっ……!!」

がばぁ!

妹「い、妹友ちゃん?」

妹友「──お兄さん!? 貴方は彼女も居ながらッ…う、うちという女子中学生をはべらかせながら何をしちょっとねッ!?」ガラララ!


男「え?」

眼鏡「あ…」


妹友「ふぇ?」キョトン

妹「だ、駄目だよ妹友ちゃん乗り込んじゃっ……あーっ!? に、兄ちゃんが半裸の眼鏡ちゃんを押し倒してるぅ!?」

男「お、お前ら何でここにって馬鹿!? と、とんでもねーこと抜かすんじゃねー!?」

妹「しかもパンツ一丁だし!」

男「事情があるんだよアホ妹ッ! ほ、ほら眼鏡も説目してくれよ…っ?」

眼鏡「っ…」プイ カァァ

男「なに顔そむけちゃってるの!? 誤解を招くようなことしないでお願い!」

妹友「おぉおおぉっ…おにっ…おにいさっ…おにさァアアアアアア!!」

男「まっ待て待て待てッ!」バッ

妹友「見損ないましたすっごく滅茶苦茶ド変態のお兄さん!!」

男「だから誤解だっての!」

妹友「何が誤解なんか言ってみ!? そげんことしちょってッ…!」ズンズンズン

妹友「あっ」コケッ

ガッ

男「おう?」ずりっ


───ストン


妹友「あいたた…あれ、なんだろこの布…」ギュッ

眼鏡「ッ~~…ッ~~!?」カァアアア

妹「……」プ、プイ

男「きゃーっ!?」ババッ

妹友「あ、あ…………ああ? なにか黒い…ものが…?」

男「ば、ばかぁ! この馬鹿ぁ! おっちょこちょい!」ぎゅっ

眼鏡「お、お兄さん恥ずかしがる前に…早くジャージか何かを…」チ、チラリ

男「わ、わかってるよ! 何処だジャージは…!?」くるっ

眼鏡「お兄さん! お、お尻見えてます!」

男「うぉおおおっ!? す、すまねぇ!!」くるっ

妹友「ぎゃあーっ!?」

男「づぁー!? どうしたら良いんだよぉー!?」

妹「…はぁ」ポリポリ


妹「はい、みんな一緒に目をつぶろう! いっせーのーせ!」


眼鏡&妹友「…っ」ギュッ

妹「これでオッケー、はいお兄ちゃんは着替えを探して頂戴な、あと妹友ちゃんが持ってるパンツも回収してね」

男「お、おお? ありがとな妹…!」

妹「まかせんしゃい」

男「これでやっと落ち着いて着替えられる…」スッ

妹「っ!? おにっ、ば、ばかぁー!」くるっ

男「え?」

妹「な、なんで隠すのやめちゃうのばかじゃないの!」

男「は? 別に妹だし…」

妹「…今日のことお母さんに報告するよ、そんなこと言ってると」

男「すんませんしたッ!」


~~~~


男「今日はありがとな、練習の邪魔だったろ」

眼鏡「いえ、こちらこそお付き合いしてくださってありがとうございます」

男「…うん、その言い方はこれから止めようか」

眼鏡「はい?」

男「な、なんでもない。つか、これからも頑張れよな、応援……してるからよ」

眼鏡「! ありがとうございます、そういって頂けると…私も頑張っていけそうな気がします…」ギュッ

男「おう!」

妹友「…」ジィー

男「そ、それじゃあ俺はもう帰るから、また機会があったら道場に来るかもしれん」フリフリ

眼鏡「はい、お待ちしてます」

妹「んじゃねー! お兄ちゃん!」ブンブン


すたすたすた


男「…ふぅ、お前は一緒に帰らなくて良かったのか」

妹友「あんちゃんの馬鹿」ぷいっ

男「うぐっ、まだ言うのかよお前は…」

妹友「彼女も居るくせに、う、うちだって……居るくせに、またそうやって他の女の子にちょっかいを出してっ」

男「わぁーるかったっての! 本当にそう思ってるからよ、なぁ? 機嫌直してくれよ…」

妹友「……」ぶっすー

男(上手く回らねえもんだな色々と…)ボリボリ

妹友「…それで、何か解決できたんですか」

男「え?」

妹友「眼鏡ちゃんのこと。あんちゃん、色々と手助けされてたんでしょう」

男「ん、いや別に大したことはしてねえよ、ただ…」ゴソリ

妹友「?」

男「一応納得は出来たみたいだ、眼鏡のやつも、それに」

すっ

男「──俺自身もな」

妹友「よく分かりませんが、なんですかそれ?」

男「これか? 竹刀の持ち手と刀身の区切りの部分につける、まぁ鍔ってやつだな」

妹友「ほぇー…そういえばたくさんありましたね、道場の中にも」

男「そうだな…」

男「…本当に上手く回れねえもんだ、色々と」ボソリ

夜 中央公園

男「あぁ、わかった。ありがとな同級生」ピッ

猫『あんだって?』

男「ん、予想通りだった。剣道部の連中は、過去に些か過激なことをやってたらしい」

猫『そりゃそーだろおよ! ガキにモノを投げてくる連中だしなあ』

男「……」

猫『んで、どうすんだ? おっちゃんもちょい心配だぜ、あの眼鏡の嬢ちゃんはよお』

猫『そんな人間どもを甲斐甲斐しくまとめようって言ってんだろ? ガハハ! 肝っ玉は座ってるがなあ』

男「…変に疑いたくは無いんだけどよ」

猫『眼鏡嬢ちゃん追われてた時もよ。ぜったいにアイツらけんどうぶ? ってやつらだぜ』

男「そうだよな…多分、戻って来いとか説得してたんじゃねえのかとは思う」

男(眼鏡のやつ、あの時の状況を説明はしなかった。変に悪い連中だと思われたくなかったんだろうな)

男「…うまくいくと思うか、眼鏡が部長として」

猫『おっちゃんは人間様の上下関係わからねえよ。でもな、ああいった強さを求める奴は…そだな、なにか後悔しちまってるやつだよ』

男「後悔?」

猫『強い奴はそれだけ理由があるってことだ。じゃなきゃ只のあたまのおかしいやつになる、嬢ちゃんは違うだろ』

男「…まぁな」

猫『だから嬢ちゃんは一つ後悔しちまってるんだ。その後悔をどうにかしない限りは、だめだろうな』

猫『だから上手くも行かねえよ。色々とな』

男「……」

猫『おいガキ、ちょっと良いか』

男「どうした?」

猫『こんな時に言うのも何だけどよ、言っとかないと後で怒られそうだから言っちまうけどよ』

猫『──実はな、前ボス猫が戻ってきたらしい』

男「は?」

猫『こいつはすげえやつだった。あのババアさえも手を焼いた暴君でな、誰も太刀打ち出来無いヤバイ猫だったよ』

男「っ…そいつが戻ってきたってお前…それじゃあ…」

猫『あのババアがほうっておく訳がねえな』

男「じゃ、じゃあ…」

猫『言っちゃなんだがよ。ババアの動きは変だった、自分のナワバリから出ることは滅多になかったアイツが…』

猫『おっちゃんの…おれ様のナワバリまで出向いてたのはおかしいことだったぜ、ガキの家にだって来たんだろ?』

男「…前ボス猫に感づいてたってことか?」

猫『だろうな』


『聞いたんだろ、デブにさ──あたしが【死に場所を探してる】とね』

『いっちょ前に気を使うんじゃないよ、ガキ──あたしが嘘つくようにみえるのかい?』

『野生の中で生きるためには──この世界で生きるためには強くなきゃ駄目なのさ』


『そして死ぬまで、あたしはその強さを貫き通すよ。どんなワガママだって、やりきるのさ』


男「アイツ…」

猫『ふん! くだらねェな、ババアのクセして今だ全盛期キブンかよ、笑えねえ』

男「ッ…!」ぎゅっ

猫『何するつもりだ、ガキ』

男「…止めるに決まってんだろ」

猫『たかが猫同士のナワバリ争いだぞ、人間がちょっかいだすことじゃねえ』

男「お前はッ! お前は良いのかよ…ッ! 大切な猫なんだろ!? お前が小せえ時からの仲間なんだろ!?」

猫『ああ』

男「だったらたかがとか抜かすんじゃねえよッ! アイツはもう大した年だッ…昔みたいに無敵に強がれるほど強くもないはずだろ!?」

猫『だろうな』

男「だったらッ!」


猫『──語るな、人間風情が。お前に何が分かるんだ?』


男「…っ」びくっ

猫『アイツの何が分かる、アイツの言葉をどれほどわかってやれてる、たかが十数年生きた程度で知った口聞かせるな』

猫『おれ様がテメーの顔面に飛びついて、目ん玉抜き出す前にその口を閉じるんだな。…良いか、おれ様は本気だぞ』

男「…お前…」

猫『猫の覚悟は絶対だ。どんな惨めな生き方でも、猫は絶対に──生き延びようとする』

猫『人間のようにアホみたいに自殺なんかもしねえ、いつだって本気で立ち向かってる』

猫『生きるために全力で『ここ』にいるんだよ』

男「……そう、だったな、すまん」

猫『わかってくれとは言わねえよ。けどそれがババアが選んだ生き方だ、誰も邪魔は出来ねえさ』

猫『──おれ様だって邪魔はしない、それはアイツの生き方だから』

男「…信用するよ、だったら」

猫『おう?』

男「あのボス猫は絶対に帰ってくると言ってた。だったら、俺も、その言葉を信用する」

猫『ガキ…』

男「…だって聞こえちまってるからな、アイツの言葉が」


男「【アイツの本音】が聞こえちまってるんだ、俺もお前みたいに信頼するよ」


~~~~~

自宅前 


男「じゃあな、デブ猫」

猫『じゃあなガキ、あとガキも自分のことを考えろよ、いっぱしに威嚇されちまってるんだからよお』

男「お、おう。理由はイマイチ分かってないんだけどな…」

猫『そうか? オスがオスを威嚇する意味は、ナワバリ以外にもあるもんだぜ?』

男「……」

猫『けんどうぶ、の人間どもは何を守るためにガキを威嚇したんだろーな?』

猫『まあ人間様と猫様を同等に語るのも野暮ってもんか。それぞれ違う、それが生き物ってモンだからよお』シュタリ

猫『…気をつけろガキ、何があっても生き延びろよ』

男「心配すんな、わかってるよ」

猫『がっはっは! 心配してねーよばか、おっちゃんは嬢ちゃんが悲しむ顔が見たくねえだけだよ!』


部屋

男「む?」prrrrrrr

男「妹か、アイツまだ帰ってきて無かったのかよ」ぴっ

『お兄ちゃん!? いまどこにいるの!?』

男「家だよ、つか早く帰って来いよ、お袋がカンカンだぞ」

『そ、それどころじゃないよ! 眼鏡ちゃんが…眼鏡ちゃんが…!』

男「え?」


『───連れて行かれちゃったよ! 剣道部の部員の人たちに…っ!』


男「な、に…?」

『ねえどうしよう!? お兄ちゃん…あたしどうしたら…っ!?』

男「…っ…今何処にいる? 連れて行かれた場所は分かるか?」

『実は追いかけてる! こそこそ隠れながら尾行中だったり!』

男「やっぱお前はばかだなーっ!! やめろやめろーぉ! 見つかったらただじゃ済まされないぞ!?」

『あ、中学校に入っていった…ど、道場の方に行ったよ! も、もうだめ…暗くてもう見えなくなった…!』

男「そこら辺で引き返せ! 良いからもうお前は帰って来い!」

『う、うん…どうしようお兄ちゃん…一応先生に伝えたほうが良いかな…っ?』

男「そ、それは…っ」

男「…駄目だ、教師には言うんじゃねえ。そうなったらもう取り返しの付かないことになる」

男(ただえさ目をつけられてる連中だ…大事になったら、アイツの頑張りは全て無駄になる…ッ)

『で、でも』

男「わかってる。俺が行くから安心しろ」

『お兄ちゃんが…?』

男「当たり前だ。お前の友達だぞ、ほうっておくわけがないだろ」

『…でもお兄ちゃんがケガしたら…』

男「信用しろ。ちゃんと無事に戻ってくるし、眼鏡も連れて帰ってくるから」

『っ…駄目だよ…絶対に…こんなの…』

男「……」スッ


男「──俺がお前に嘘をついたことがあるか?」

『っ……な、ない…全然ない…馬鹿正直のお兄ちゃんだった…』

男「一言余計だアホ。だったら信用しろ、安心して家に帰って来い」

『わ、わかった…ちゃんと戻ってきてよ…? 絶対絶対だよ…?』

男「まかせろ」

『…うん』

ぴっ

男「…行くか」


『嘘をついたことがあるか、ねぇ───いい言葉じゃないか、人間のガキ』


男「! お、お前は!」

ボス猫『かっか、話は大体掴めてるよ、飼い主様が危ないんだろ?』

男「っ…今から助けに行ってくる、お前はどうする?」

ボス猫『野暮なこと聞くんじゃないよ』

男「ああ、そうだな。じゃあちょっくら助けに行くぞ!」

~~~~

男「はぁっ…はぁっ…」タッタッタッ

ボス猫『何をそうも頑張るだい、人間のガキ』トットットッ

男「あんっ…? な、なにが?」

ボス猫『たかが小娘一匹。あんたにゃなーんにも関係ないだろ?』

男「そう、だな…確かにそうだ…」

ボス猫『かっか、あたしの飼い主様に惚れでもしたのかい?』

男「…ばかいえ…っ」

ボス猫『なら教えてくれよ、なにをそうも頑張るのかをさ』

男「……俺は、声が聞こえるようになっちまった」

男「動物の声が、人と同じように聞こえるようになった…それがどんだけ凄いことなのか…実はそんな実感がわいてない…」

男「結構普通に受け止められた。飯だって普通に食えるし、肉だって食べる…」

男「…それはふつうのことだと思うか?」

ボス猫『かっか、普通じゃあないねえ。変だよそりゃ』

男「だろ、俺もわかってる、俺は…どこかおかしいんだと思う…」

ボス猫『……』

男「だから、認めることにしたんだ」

男「人も動物も、何も変わらねえ。けど根本的に違ってる、その感覚を認めることにした」

男「動物も悩んでる。人だって悩んでる。でも悩み方は違う、生き方が違うからな…」

ボス猫『だったら、どっちの悩み方も分かるようにしたって?』

男「…そう、だな。そうなると思う」

ボス猫『あんたは動物の生き方を理解しようとしてるわけかい。人間のクセして、動物をわかろうとしてるのかい』

男「ああ…」

ボス猫『なるほどねぇ、だったらまずは人間のこともわからないと動物のことも知れないってワケさね』

男「……」

ボス猫『そしたら、あたしの飼い主様も放っておけないと。知ろうとしてるから、こうやって駈け出してると』

ボス猫『とんだ馬鹿げた人間だよ。あんた、長生きできないよそれじゃあ』

男「…そこまで言うか」

ボス猫『かっか、言うさ言うさね人間のガキ。あたしだからこそ言えるんだよ』

ボス猫『生きるためには拒絶だって必要だよ、無理だと認めることも大切さね』



ボス猫『苦しみ後悔する前に、聞こえなくなることも正解なんだよ?』



男「………」

ボス猫『どうなんだい人間のガキ、それでも、あんたは知ろうとするのかい?』

男「例えこの考えがガキみたいなモンでも…」ギュッ

男「俺はやろうと決めた…【今の俺】は聞こえることを、大切だと思ってる…!」

男「だから、後悔だって乗り越える。聞こえることで、何かとても凄く傷ついたとしても…」



男「俺は捨てない。お前たちの声を、聞き続ける」



ボス猫『…言うじゃあないか、惚れちまいそうだよ人間のガキ』

男「くっく、抜かせ、おばさん趣味はねえよ」

ボス猫『かっか! そりゃ経験が狭いのさ人間のガキ!』

ボス猫『あんたの覚悟は立派だ。けど、本当の後悔ってのはデカイもんさ…』

ボス猫『あたしは聞こえるなくなる方が、アンタの為だと思うよ、本当にね』

男「……」

ボス猫『あたしだって後悔はある。むしろ後悔があるからこそ…今もなお強くあろうとしてるさね』

ボス猫『でも、それは、猫だからだろう? なぁ?』

男「…そうかもな」

ボス猫『人間と動物は違うさ』

男「知ってるよ、でも、俺は知ろうとするよ」

男「──お前のことも、眼鏡の事もな」

ボス猫『…そうかい』


~~~~~

中学校


ボス猫『ついたね、確かに人間の匂いがするよ…五、六、…あと飼い主様も居るね』

男「ぜはぁぜはぁっ!」

ボス猫『だらしないねぇ、なにをそうも疲れてるんだよ』

男「ま、待て、俺今日は朝からハードすぎるんだよッ」

ボス猫『締まらないね気を引き締めな! これからいっぱしにカッコつけるんだろ!』

男「わ、わかってるってッ」

ボス猫『それにあんた、夜目は効いてるかい?』

男「え? …すまん、まったく見えないな…」

ボス猫『かぁーっ! これだから人間ってのは、仕方ないね、あたしが案内するよ!』

男「う、うっす…」

道場付近


男「暗…っ」

ボス猫『中に何匹か居るよ、明かりが小さいねぇ、集まって何かしてるのかもしれないよ』

男「お、おお…バレないようにしてるのかもな…」

ボス猫『いやな感じだね』

男「…俺もそう思う」

ボス猫『変な声は聞こえないけど、人間のガキはどうだい?』

男「特に、は…悲鳴なんかも聞こえないし…」

ボス猫『いやらしい想像するんじゃないよまったく』

男「俺悪くないよね今の!?」


──ガタリ


ボス猫『シッ! 誰か来たよあほたれ!』

男「わ、わかってるてば…」

ボス猫『どうするんだい。このまま乗り込むつもりかい?』

男「…そうしたいけど、俺まったく見えてないからどうしたら…」

ボス猫『くんくん、おや? 良いもん持ってるじゃないか、それ使いな』ぺしぺし

男「ん? なんだポケットに何か…うわぁああ…」

ボス猫『硬さも上等さね。いけるかい?』

男「…なんとなく想像付いたが、うまく出来る自信ないぞ…」

ボス猫『しゃきっとしなしゃきっと!』

男「だぁーもう! わかったよ!」


~~~~~


「誰かの声が聞こえた気が…」

にゃー

「? ね、猫?」

にゃんにゃん

「こんな所に猫が居るなんてな…だ、誰だそこにいるのは!?」

「───……」

「…? その顔…!? た、確かにお前は噂の…!?」

「ああ、噂の奴だよ」

「なんでここにっ!? くそ、お前…!!」

「……」


             にゃーん

                           バッッチィイイイン!


「痛ぁ!? な、なんだ急に顔に…!?」ポロリ

「───ど、どんぐり? どんぐりか?」


ビュン ビュン! ビュン!!


「痛!? いたぁ!? いたたたッ!?」

「退け」ぐいっ

「うわぁ!?」ドシン

「テメーの顔は聞いてたとおりだなオイ、よくも鍔を投げてくれたな」

「あっ…あぁあっ…」ズリッ


男「ドングリ百発、全弾顔面だ。……覚悟しろ」ギチッ


「や、やめてっ──」

「──ひぁあああああああああああッ!!!!!!」


「ど、どうした!? なんだ今の悲鳴は!?」

「オイ! 何があったんだ!?」

「お、おい…こいつって…まさか…」


『来るよ、構えな』

男「わーってるよ! おいテメーらッ! 眼鏡を返してもらいに来たぞゴラァッ!!」

「し、竹刀を持て! 気絶でもいいやっちまえ!」

「うぉおおおおおお!!」

『十二時正面、打ちな』


男「おらァッ!」ビュン

「──ぐはぁっ!? な、なんだこれ…なにか飛んでき…!?」


『次、しゃがんで振り返りながら飛び上がるんだ』


男「ふんッ! とりゃッ!」バッ くるん ボッ!

「死ねッ! えっ、外…ごはぁっ!?」

男「痛ッ…!」ジンジン


『馬鹿次行くよ! 両手に持って三時と九時に同時に打つ!』


男「また無茶を──ふんぐッ、おるぅあッ!」ビン!

「いたッ!?」「どぅはっ!?」

男「おお、いつの間にか挟まれてたのか…」

「な、なんだコイツ…奇襲しかけても直ぐに対応される…!」

「背中に目がついてんのかよ…!!」

「ぶ、武士が来た! 駄目だこのままじゃまた…!!」

にゃー

男「ふんッふんッふんッ!!」ビュンビュンビュン


「痛い!?」

「あだっ!?」

「鼻の中に何か、ぶぇっくしっ!?」


「だ、駄目だ敵わねえ…!」

「ど、どんぐりなのに強ええ…!」


男「テメーら、そこを退け」ズシャ

男「じゃねえと俺もそろそろ本気を出し──うぉおおっ!?」ぐらっ

男「え…」コテン

ブルブルブル

男(あ、やべぇ、身体の限界着てるコレ、ここでかよ!?)ガクガクガク


「た、倒れたぞ!」

「今だやっちまえ!」


男「くそっ!」ガリッ

男「──見くびんじゃねぇぞガキどもォ! こちとら噂の男だぞォ!」ガリガリガリ


男「近づいてみろ…お前らの喉仏に噛み付き殺すぞ…ッ」ゾゾゾ


「ひぃっ!?」

「ば、ばかいえっ…そんな倒れて──やっちまえ! 絶対に近づけさせるな!」


男(あぁくそ、駄目かやっぱりッ)

「タコ殴りにしちまえーっ!!」


ボス猫「シャアアアーッッッ!!」


「うわっ!?」

男「…っ…ぼ、ボス猫…!?」

ボス猫『よくやったよガキ、あとはあたしに任せな』

男「おま、何言って、できるわけっ」

ボス猫『何時だってあたしゃ本気さね、覚悟を決めたら絶対さ』ジリジリ

男「で、でも!」

ボス猫『あたしに任せなって言ってんだい!!』バッ

「こ、こええ…」

「ね、猫ってこんな顔すんのかよ…っ」

ボス猫『一つ頼みがあるよ、人間のガキ』

ボス猫『──これが終わったら、一緒に…どうか一緒にあたしと謝りに行ってくれるかい…』

男「え…?」

ボス猫『あんたとなら、素直に謝れる気がするんだよ。まあ無事に終わったら、だけどね』

男「お前…!!」

ボス猫『さァそこを時なガキもッッ! ここいらでトップのボス猫、三毛様のお通りだよッ!!』バッ

「ど、道場の中に猫が!?」

「やめろうわぁあああああ!!」

男「あぁあっ……ボス猫ぉおおおおおお!!!」



「フニャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」



男「…え、ぁ、……ボス猫……?」

男(うそ、だろ何だよ今の悲鳴は…お前は無事に帰って眼鏡と一緒に…! 嘘は着かねえっていったじゃねーか!)

男「デブ猫だってお前のことを信用してッ……くそ、お前らぁあああああああ!」ギチギチギチ

男「ゆるさねえからな! 覚えてろッ! 絶対に絶対に──……」

男「どんなことをしたって罪をッ」


「──何してるんですか、お兄さん」


男「ふぇ?」


「こんな時間に、それに皆も、そして…」


眼鏡「…この馬鹿猫も、本当に、本当に」ぐいっ

ボス猫『いやだよ離しな飼い主様っ!? あたしゃこんな惨めな姿恥ずかしいよぉっ!?』ニャーン

眼鏡「久しぶりに顔を見たらと思ったのに。なに、また私に勝負を挑みに来たの?」

ボス猫『こんのッ! まーたあたしのこと普通のネコのように扱いやがってさぁ!?』ジタバタ

男「……は?」

眼鏡「まあいいです。それはこれ、ですしね」キョロキョロ

眼鏡「で? なにしてるの皆?」ニコッ

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「いやーそのっ…これはデスね…」

「こ、こいつがまた…部長さんに悪戯しにきたかと…」

眼鏡「あれは誤解だと言ったはずですよね」

「で、でもこいつは!!」

眼鏡「──コイツは?」

「…ナ、ナンデモアリマセン…」

眼鏡「そうですか」

男「あ、あの…うまく状況がつかめてないんですけど…?」

眼鏡「あ、ごめんなさい。それにしてもどうしてお兄さんがここに?」

男「え、えっと妹が剣道部員に連れられたと言われて…」

眼鏡「え? でもちゃんと説明したはずですけど…」

男「説明…?」

眼鏡「はい。そうですよ、これです」パチリ

パッ!

男「まぶしっ!」ぎゅっ

眼鏡「見てください、お兄さん」

男「え…」パチクリ


【頑張れ頑張れやれば出来る子! 赤点補修合格勉強会☆】


男「……勉強会?」

眼鏡「はい。実はみなさん、総じて赤点を取ってしまってて…部活に来れなかったんです」

眼鏡「私としても勉学にまで指図するのは、部長としてやり過ぎかと思ってたんですか…」


「俺らは馬鹿でどうしようもないっすから!」

「部長さんに教えてもらうしか駄目なんスよ! けど頼みに行っても部長さん逃げちまうし!」

「せ、センコーも馬鹿にして…話聞いちゃくれねえし…」


眼鏡「みんな…」

男「あ、あー……なる、ほどー………」

眼鏡「…私は自分が駄目な人間だと思ってました」スッ

眼鏡「強くあろうとしても、部長として張り切ったとしても、人はみな付いてこれない」

ボス猫「にゃーん」

眼鏡「くす。でもそうやって居ても、認めて集まってくれる──仲間も居るんですね」

男「お、おお…」

眼鏡「お兄さん、貴方のお陰です」

眼鏡「私が部員たちの声を素直に聞けたこと、それにボス猫さんが帰ってきてくれたこと──」

眼鏡「──すべてお兄さんのおかげ、ですよね」ぎゅっ

男「え、えーと、う、うん? そーかなぁ…?」

眼鏡「はい!」

男(なにが何だか、もうわからんし、頭がぐるぐる回って、うぁー)ガクン

眼鏡「お兄さん…」

眼鏡「お兄さん!? 気絶してません!?」

ボス猫『おやおや、気張りすぎたようだね』

眼鏡「みなさん保健室に!」

ボス猫『かっか、もしやちょいと勘違いさせちまってたかねこりゃ』

男「………」


数日後 神社


猫『あほくさ』

男「…とんだ空回りだった」

猫『なんだつまりはババアが、あの飼い主のところをナワバリにしてる理由は』

男「若い時に無茶して挑んだ人間──つまりは眼鏡にコテンパンにやられたことがあって、」

男「それ以来、ずっとずっと眼鏡に挑み続けてるらしい…」

猫『やっぱ頭おかしいわアイツ』

男「若すぎるだろ…ワガママもここまで通せばむしろ尊敬するわ…」

猫『つまりは、あの飼い主の家がババアにとって【死に場所】ってわけかよ』

男「そうなるんだろうな、多分」

猫『ったく、変わらなすぎるぜ、まったく』

男「…それに」


回想


男「…お前はどうしてボス猫を探して欲しかったんだ」

眼鏡「それは、何時までも挑み続けるクセに、ずっとそばに居て…」

眼鏡「何時もは凄く大人しくて、可愛くて、大事な私のボス猫さんで…」

眼鏡「…でもあの日、ボス猫さんは居なくなってしまった」

男「……」

眼鏡「とうとう嫌気が差したのかなと、思ったんです」

眼鏡「挑み続けることとか、私が……強くあろうとすることに…」

男「そうか。お前はボス猫に強く対処しすぎたと思ってたんだな、それで逃げ出したと思ったと」

眼鏡「…はい」

男(それが後悔か、眼鏡の)

眼鏡「人間と猫とじゃ考えが違う…分かってます、わかってたんです…」

眼鏡「でも、それがずっと心残りで…今までの自分が駄目なヤツじゃないかと思ってしまって…」

男「なるほどな…」

眼鏡「けれど、彼女は戻ってきてくれた」

ボス猫「にぁあ」

眼鏡「…くす、私の所にまた挑みに来てくれた」なでなで

ボス猫「ごろごろ」

眼鏡「ありがとう…私を認めてくれて…本当にありがとうね…」

ボス猫「にゃーん」

男「くっく、なんだ伝えればいいのか?」

ボス猫「くるる」

男「おう、わかったよ」

眼鏡「お兄さん…?」

男「あのな、眼鏡よ」

眼鏡「は、はい? なんですか?」

男「一つだけアドバイスだってさ、ほら、俺って猫と会話しちゃう趣味だし」

男「…なんとなくコイツが言ってることもわかったよ」

眼鏡「は、はあ…」

男「伝えておいてくれってさ、お前に」


『飼い主様の強さはあたしが認めるよ、だから一緒のナワバリで住んでるんだろう?』


男「だってよ」

眼鏡「……」

眼鏡「…はい…」ニコッ


~~~~

猫『そら来た迷惑ババアの登場だぜ』

男「おっ? やっときたか…」

ボス猫『かっか、なんだいアンタも来るなんて珍しいじゃないか』

猫『うるせえ死にぞこないが』

男「心配してるんだよ、昔の暴れん坊にお前のこと傷つけられやしかな」

ボス猫『ほぅ』

猫『ばっ! 何言ってんだよおコイツは!』

男「じゃあどうして今日は来たんだよ? ん?」

猫『たまたまだっての!』

ボス猫『相も変わらずだよ、素直にならないと惚れたメスの一匹にも振り向いてもらえないさね』

猫『あーそうかいそうかい! じゃあ素直に心配してると言ったら聞き入れんのか!?』

ボス猫『いやだ気持ち悪い』

猫『泣くぞごらっ!?』

男「くっく、ほら、そうこうしてるうちに──あの猫がそうか?」

ボス猫『…ああ、そうだね。久しぶりに見る顔だよ』

男「そうか…」

ボス猫『あんたには感謝してるよ。飼い主様のことも、今回もまたね』

男「遠慮するなっての」

ボス猫『アンタが居なくちゃ、多分、…謝ることも出来なかったよ』

男「……」

ボス猫『昔にこっぴっどく追い出して、今更謝るなんて虫が良い話さね』

男「良いじゃねえか、その分、強くなったってことだろ?」

ボス猫『───……』

ボス猫『かっか! そうか強くなったねあたしも!』

男「おう」

ボス猫『猫って生き物は一度決めたらやり切るのさ。むろん、飽きるまでね』

ボス猫『人間様はどうやら猫を飽き性だと思ってるフシがあるだろうけど、違うのさ』

ボス猫『──恐いんだよ、いつかこれが無くなっちまう恐怖があって自分で抑えてるのさ』

男「へー…そうだったのか、知らなかった」

ボス猫『かっか、猫は矛盾してるんだよ。知ってて飽きるし、知らなくても怖がってる』

ボス猫『本当に気まぐれなのさ。あたしら猫が説明できないぐらい、本当に』

猫『気まぐれに人間に挑んで、そこに居着くのも猫とっても変猫だっつの』

ボス猫『かっか、言うじゃあないか』

猫『…うるせぇ、だったらその気まぐれ最後まで押し通せよ』

ボス猫『言われなくても、やるさ』

猫『おう』

男「………」

ボス猫『よし、じゃあこれから一発アイツと決めてくるからあんたら何処か行きな』

男「はっ?」

猫『なにッ!?』

ボス猫『謝ることが目的だったけどねぇ、かっか、やっぱいいオスだよアイツは…未だ衰えてないよ…』ギラギラギラ

男「お、おまっおまあああ!」

猫『おぇえええええ想像したらおぇええええええ』

ボス猫『なんだい失礼な奴らだね』

男「い、行こうぜこの感じマジだ…」

猫『おぇえええええええ』

ボス猫『ったく、いつまでたってもメスはメスさね、しっし! ガキは呑気に飯でも食ってな!』

男「はいはいわかりました、行くぞデブ猫」

猫『アバズレ淫乱猫が…』ボソリ

ボス猫『聴こえてるよ!』

猫『うひぃっ!?』ダダダッ

男「ちょ、逃げ足速いっての!」


タッタッタッ


男「───………」クルッ


『久し振りだね』

『ああ、お前も変わってないな』

『一つ伝えたいことがあるんだよ』

『ん…』


『それは、それはね、あはは、いやだね、…本当に嫌になります、昔を思い出すのは…』

『ふふっ』

『ええ、笑っちゃいますよね。気恥ずかしくて顔から火が出そうです、でも…貴方に伝えたくて』

『ああ、なんだ?』



『──本当に、ごめんなさい』




男「………」

男「…あーまた今日も、変な声が聞こえちまったな」くるっ


たったったっ

第一話 終わり

まだ続きます
気まぐれに更新

過去作

男「最近、変な声が聞こえるんだけど」
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男「最近、変な声が聞こえ過ぎるんだけど」
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男「最近、変な声が聞こえ過ぎて困るんだけど」
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『ケラケラ ケラケラ ケラケラ』

『またキミはきたんだネ!』

『懲りないネ! どうしたっていうんだヨ! キミは!』


男「………」


『どーしてキミはココにいるのかナ!』

『ケラケラケラ ケラケラ ケラケラケラ』

『ケラケラ──』


男「おい」ぎゅむっ


『──ひゃああっ!? な、なにをするんだヨ!?』

『つかまれた! ニンゲンにつかまれてるヨ!』


男「……」ギュムギュム

『ひぅっ!? ひぁっ!?』

『にげるんだヨ! どーにかしてにげるんだヨー!?』

『ひ、ひどいぞニンゲン! かわいそうだヨ!』


男「…お前らは一体ナニモンだよ、まずはそれを教えろ」くりくりっ


『ッッ~~~~……っっ!!??!』

『びくんびくんしてるヨ!』

『ばかーっ! ニンゲンのばかーっ!』


男「はぁ…」ぱっ


『はぁ…はぁ…』

『かおがまっかだヨ~…』


男「とりあえず、だ。これが俺の夢だってことは理解してる、けどお前らは何なんだ?」

『……』

  『……』

『……』


男「…黙られると困るんだがなぁ」ボリボリ


『わすれてしまってるのは──』

  『──そっちじゃないか──』

『──ニンゲンのほうだヨ』


男「だから、なにをだよ…俺が一体何を忘れてるって?」


『すべてだヨ』


男「なんのすべてだ」


『───キミはどうしてまた、コッチにきたのかナ?』

男「…また?」


『キミはえらんだハズだヨ』

          『コタエはたしかにきめたはずだヨ?』

                     『わすれてしまってるのかナ?』                





     『『『なのに、どうして、ボクたちの【声】がきこえるんだヨ?』』』




男「声が、って……まさかお前ら動───」


『……しゃべりすぎたね』

『だね、それにこの口調も疲れてきたね』

『このニンゲン横暴だもん。変に演技しなくてもバレないよ』

男「お、おい…」


『あー早く気づいてどっか行っちゃえばいいのにねー』

『お腹すいたー』

『あ、もうニンゲン勝手に起きていいよ。ボクら帰るから』


男「ちょっと待てッ! 急にフランクになりすぎだろ!」


『今日の晩御飯なに?』

『まだきめてないよー』

『カレー食べようよ! カレー!』


男「おまっ! 声が遠くに──ちょっと待って本気で待てっての!」


『きゃー! またニンゲンに触られるーっ!』

『ヘンタイヘンタイ!』

男「んだとゴラ…ッ! 舐めたこと言ってると撫でまわし尽くすぞッ!」バッ


『わはー! きたきたこっちきたー!』

『おっぱい触られるーっ!』

『えっちすけっちわんたっちー!』


男「さっわんねーよ馬鹿共ッ! こっちは理解できないことばっかで困ってんだってのッ!」グイッ


『あ』ドサリ


男「──良いか、あんまり俺を困らせるんじゃねえよ…」

男「我慢強い方じゃないんだ、見て見ぬふりなんてのも苦手な方なんだ…」

男「俺はやると言ったらやる、だから、……っ?」


『しってるよ、ニンゲン』ニコ


男「…え」

『だからはやく思い出してね。でも、思い出さなくてもいいよ』

『それがボクたちの願いでもあるんだから』

『キミはきっと、【また】良い答えを選んでくれたらいいのさ』


男「……─────」


チュンチュンチュン  チュン チュンチュン


男「──はっ!」バッ

男(あぁ、くそ同じこの夢か、なんだって言うんだよ全く…)チラリ


眼鏡「っ……っ……っ…」ギュッ ブルブルブル


男「えっ?」

眼鏡「ん……おにい……さんっ……!」ぐぐぐっ

男「おぉおぉおどッうぉおおおおぉぉおぉぉッーーー!?」ババッ

眼鏡「はれ…?」キョトン

男「な、何何何えっ!? どうしてアレェ!? ここ…俺の家だよねっ!?」ズサササーッ!

眼鏡「そう、ですけど…」

男「あぁうんッ! …違う違う違う…今はそこじゃないだろ俺ッ……ちょ、ちょっと待ってくれ!」

眼鏡「は、はい」ぴしっ

男「い、今さっきの行為は…どういう経緯で…?」

眼鏡「…なかなかお兄さんが起きられなかったので、妹さんに頼まれて貴方を起こしに来たんですが…」

眼鏡「部屋をノックした途端……起きてたお兄さんが私を部屋に引き入れて…」

眼鏡「それから、急にお兄さんが私に壁ドンを…」

男「壁ドンしちゃった!?」

眼鏡「は、はい! そ、それに……我慢強いほうじゃないんだ、俺はやると言ったらやると、耳元で強く言われたので……」モジモジ

眼鏡「──もう、覚悟を決めるしか無いとっ…思って私…」ギュッ

男「諦めるの早いよ! もっと頑張れ! もっと抵抗してッ!」

眼鏡「ご、ごめんさない! 私とても気が動転していて…!」

男「あぁあっ…す、すまん…! そもそもやっちまったのは俺の方だよな、本当にごめんっ!」ぱんっ

眼鏡「あ、い、いえっ! 私の方こそ抵抗しなかったのは悪いなって…」

男(何を女の子に、しかも年下に謝らせてるんだよ俺…寝ぼけてたとしても襲いかけちまったことには変わりねぇだろ…っ)

男「…その、今度またこんなコトがあったらさ」

男「次は問答無用に殴ってくれていいから! マジで!」ドゲザー

眼鏡「ええっ? な、殴るなんて…」

男「いやいや遠慮しなくていいから! ガチの張り手でも金的でも良いぞ!?」

眼鏡「お、お兄さん落ち着いてください、私別にそこまで…!」

男「そうだとしても、俺が納得出来ないんだよ…ほ、ほら! 試しにいっちょ殴ってみろよ!」

眼鏡「なに言ってるんですかお兄さん!?」

男「けじめってやつだ…! これが俺なりの覚悟の現れなんだよ! 頼むッ! じゃなきゃこれからお前と顔見て会話できない…っ」

眼鏡「…あぁもう……そこまで言うんでしたら…」モジッ

男「ほ、本当かっ? 殴ってくれるのか!?」

眼鏡「は、はい。じゃあ…その何処が良いのか教えてくださるのなら…」

男「腹筋……腹、かな?」

眼鏡「お腹ですか…?」

男「う、うん」

眼鏡「わかりました! お兄さんの頼みですから、一切の手を抜きません…!」シュッ スタン

眼鏡「──一家直伝護身術系統……『柳打ち』、いざッ!」

男「なにそれッ!? 一家直伝!?」

眼鏡「せいっ!」


シュバアアアア!


男(あれ俺死んだんじゃ───………)


妹友「ど、どへんたいあんちゃあああああああんッッ!!」バン!


眼鏡「わわっ」ピッタァアアア

男「ひぃっ!?」

毎日10レス前後更新して行こうと思いまふ

よろしくお願いします、ではではノシ

妹友「なんっなん…っ!? なんばしちょっとねッ!? あぁんッ!?」

男「おぉおぉ」ヘニャニャ ストン

眼鏡「い、妹友ちゃん? これはそのあのねっ?」ワタワタ

妹友「言い訳なんかききたくなかっ! うちは聞いとったんよ──」

~~~

『ほ、本当かっ? 殴ってくれるのか!?』

『…その何処が良いのか教えてくださるのなら…』

妹友『!?』コソコソ

~~~

妹友「ヘンタイヘンタイ! あんちゃんも眼鏡ちゃんもド変態ばっかやぁああぁぁうわぁあぁあぁあ~っ…!」へたり

眼鏡「えええっ? ご、誤解だよ妹友ちゃん!? そうですよねおにい、」チラリ

男「」チーン

眼鏡「お兄さん!?」

妹「ちょいコラー! みんなで勝手に楽しそうにしてあたしもまぜろーっ! …ん…?」

妹友「わぁあぁあぁっ」ボロボロ

男「」

眼鏡「お兄さんしっかり! お兄さん!?」ユサユサ

妹「ふむ」

眼鏡「あ! 妹ちゃん! じ、実はね…っ」

妹「…」スッ ピト

眼鏡「んむふっ?」

妹「みなまで言わなくていいよ、妹のあたしには分かってるんだから」

妹「───お兄ちゃんが全て悪い、きっとそうだね?」

眼鏡「ぷはっ、えっ? ち、ちがっ」

妹「もーまんたい」フルフル

妹「何も悪いことなんてないんだよ? これが現実、すべては…ククク…計画通りなのさ…」

眼鏡「どういうこと…?」

妹「ということで! さっさとお兄ちゃん起こして出かけるよー? ほらほら妹友ちゃんも泣き止んで!」

妹友「だってな! だってな! あんちゃんがしらんうちにヘンタイになっとるんやもん…!」ゴシゴシ

妹「大丈夫だよお兄ちゃんなんて何時も、あんな感じだってば」

妹友「え、そうなん!?」

妹「うん。妹友ちゃんが怒って殴るときも結構、嬉しそうだったりするよ?」

妹友「ふぇぇぇっ」

眼鏡(お兄さん…さっきのは実は己の快欲の為に…?)ドキドキ

男「──んがっ? ん、なんだ俺また寝てたのか…?」ムクリ


妹「なのでして、お兄ちゃん」ずんっ


男「うぉっ? な、なんだよ急に?」

妹「女子中学生二人を部屋に呼び込んで、しかも一人は泣かせて、一人は困らせちゃったあたしのお兄ちゃん?」

妹「これ、お母さんとお父さんに言ったらどう思われるかな?」

男「……。な、何をタカる気だお前…!」

妹「えっへへ、今からちょいとみんなでプールに行こうと思うんですがねぇ~? 一人持ち物番してやりたい人、居ないかなぁなんてね!」

男「…やれってか」

妹「なーんにも言ってないけど?」テヘペロ

男「うぐっ」チラリ


妹友「あ、あんちゃん来るんか?」

眼鏡「えっと」ドキドキ


男「……、あーもう、わぁーったよ! やりゃーいいんだろ、やれば!」


プール


男(という風に安請け合いしちまったが、はぁ、何してるんだろ俺…貴重な夏休みを…)ドヨーン

男(ていうかさ……今更の話なんだけどさ、俺彼女持ちだよね)

男「こういうイベントは彼女と来るべき…だよな…うん…」ボソボソ

「あの、」

男「ん、あーはいはい。浮き輪は膨らんだよ、勝手に持っていけお前ら──おおっ?」

妹友「……っ」モジ

男「な、なんだ。意外に派手な水着を着るんだなお前…」ジッ

妹友「はっ派手とはなんか! ふ、普通やろっ?」

男「いやてっきりスクール水着で来るもんだと思ってたからよ…」ポリポリ

妹友「あ…そ、そうなんか…そんで…?」

男「うぇ? そ、そんで?」

妹友「やけん! そっ………その、似合っちょるか聞いとるんよっ!」

男「そりゃ勿論、可愛いと、思うけど」

妹友「ほ、ほおー? かわいい?」

男「なんだよ、わ、悪かったな短絡的な感想で」

妹友「ふふん。べっつにいいですよー? 可愛いと言われるのは、女の子は特に悪い気はしませんしー」

男「…急に方言抜けたなお前」

妹友「えっ!? な、なんにもありませんよ別に!?」

男「まさか、水着姿を俺に見せることによって興奮して…!?」

妹友「んばかーッ! そげんことあるかっち!」バシバシ

男「だ、だって緊張とか嬉しい時とかすぐ方言出るだろ! 痛い痛いっ!」

妹友「すーぐそうやって人を馬鹿にして……あっ!」ピタリ

男「ん…?」チラリ

妹友「……」

男「ど、どうした?」


妹友「……」サッ

妹友「あんちゃんのえっち…」


男「んっ!? どういうことっ!?」ビクッ

妹友「そうやって人を誘って…自分の快楽にしてたんやね…」じー

男「意味が分からん説明しろちゃんと!」

妹友「いややっ! もうあんちゃんなんかしらんもん! この…!」ググッ

妹友「………あほんだら…っ」ポス

男「……、なんだその甘っちょろい攻撃は! 文句があるんだったら本気でやって来いよ!」

妹友「ふぇえっ!?」

男「なんか怒ってんだろ、意味不明だが、だったらもっとちゃんとやってこい」

妹友「な、ななっ」

男「あぁん? 正直に言うことがテメーの信条だったんじゃねえのか、」


妹友「──あんちゃんのド変態ッ!」ブォン 


男「おぶうふッ!?」ガコン!

妹友「うわあああああんっ!」ダダダダダ

男「ぐ、ふふ………そう、文句があるのならそうそれでいいんだ妹友…」ガクン


眼鏡「だ、大丈夫ですかお兄さん?」


男「…今は消沈中だ、最近仲良くなれたと思ってた間柄の奴が、またもや意味不明になってしまってな…」

眼鏡「はぁ、それはなんというか、大変…ですね」

男「うん…」チラリ

眼鏡「あ…」ぎゅっ

男「? なんだパーカーなんて羽織って、泳がないのか」

眼鏡「その、自信が無いというか」ボソボソ

男「何の自信?」

眼鏡「えっ!? え、えと、そのー、あの、妹友ちゃんみたいに…スタイル…良くないですし…」

男「なんて?」

眼鏡「な、なんでもないんです! ごめんなさい! わ、わすれてください今の!」あたふた

男「何言ってんだお前は…」ムクリ

男「自信がないなんて言うなよな。そう言われると困るぜ、男の俺としてはよ」

眼鏡「ふぇ?」

男「大丈夫だっての、お前は十分に立派だ。誰に見せても恥ずかしくないモンを持ってるぞ」ポン

眼鏡「ッッ……ええっ!?」びっくぅうううう

男「何を怖がる必要があるんだ。うん、俺がちゃんと保証してやるって。だから胸を張って泳いでこい」

眼鏡「ぁの…ぇっと…」あたふた

眼鏡「…ほんとうに?」

男「おう! ハッキリと言ってやるぜ!」

眼鏡「は、はい! お兄さんがそう仰ってくださるのなら! 私……行って来ます!」

ぎゅっ ばっっ!

眼鏡「わぁーっ!」ダダダ シュン


トポン…


男(うむ。やっぱりな、飛び込んでおきながら無駄な音が無い。泳ぎに自信がないと言ってたが…)

男「見込んだ通り泳ぎの才能あるだろアイツ」

妹「いやー見てて聞いてて飽きないね、お兄ちゃんの会話ってさ」

男「おう?」

妹「やはろ! 愛しい妹ちゃんがきましたよ? んふふー? んでんでー?」チラチラ

男「なんだよ、その期待した目は…」

妹「もーお兄ちゃんは一々聞かなくちゃダメなタイプなわけー?」

男「…んだよ、似合ってるよ水着」

妹「おっ? えへへ、ほんとっ?」

男「嘘はつかねえよ、つか、兄貴に感想言われて嬉しいのかね、お前さんはよ」

妹「そりゃ嬉しいとも!」

男「…彼氏一匹でも捕まえて褒めてもらえ、何時かは」

妹「うっ…頑張りますぅ…」ショボン

男「ほれ、浮き輪だ。他の二人は好き勝手に遊んでるみたいだしよ、お前が見つけて渡してやってくれ」ヒョイ

妹「……」

男「どうした、受け取んねえのか」

妹「んーん、ありがと」ヒョイ

男「?」

妹「なんかさ、こういうのって昔におばあちゃん家行ったとき思い出すよねー」

男「ばあちゃん家? なんで?」

妹「おぼえてない? ほら、一緒に山にカブトムシ取りに行ったじゃんか」

男「あーでも、だいぶ前のことだろ。小学生の頃だったと思うけど、記憶が曖昧過ぎるな…」

妹「そっか」ニコ

妹「…でも、あたしはずっとおぼえてるよ」

男「ん?」

妹「にひひ! なんでもないっ!」タタタッ

男「オイ! プールサイドは走るなっての!」

妹「だったら他の二人の時にも言ってあげなよーっ! バイバーイ!」ザッパーン

男「ったく、客が少ないから良いものの…」

男(つか今の言い草、ずっと影で俺たちのこと見てやがったなアイツ…はぁ、つまんねえこと気にするな妹のやつも)


~~~


妹「んー……」ユラユラ

妹(気持ちい、こうやって泳ぎに来るのはいつぶりだろー……)

ジジジジ ジジッ ミーンミンミンミン

妹「……たしか」チャプ

妹(これぐらい暑かったっけ、あの日は───)


~数年前~


妹「おにいちゃん!」

男「…ん、どした?」

妹「もー! ずっとさがしてたんだよ! 朝ごはんたべたら遊ぶ約束してたじゃんか!」プンスカプン

男「あーわりぃわりぃ、忘れちまってた」

妹「そーやってすぐにおにいちゃん嘘つくからキライ!」

男「あん? 馬鹿言うな、俺がウソなんてつくかよ」

妹「うそつきうそつき!」

男「うるさいうるさい。良いじゃねえか、これから遊べば問題ない」ウム

妹「むーっ」

妹「…でもお兄ちゃん朝ごはん食べないで、何してたの?」

男「む? まぁちょっとな」

妹「お母さんとおばあちゃんが心配してたよ? アタシ等のメシ食わねぇとは良い度胸だ、覚悟しろって」

男「それ心配されてないじゃん…」

妹「ねえねえおしえてよおにいちゃーん! ヒミツにしなくたっていいでしょ? みんなには言わないから!」

男「ったく、コレだよコレ」ひょい

妹「ナニコレー!」キラキラキラ

男「どーだ? 凄いだろ? 昨日、爺ちゃんと夜に仕掛けておいたんだぜ…カブトムシとか捕まえるワナなんだがよ」スッ

ワシャワシャ

男「デヘヘ! 大量だぜ!」ニカッ

妹「すっごーい! なんかゴキブリみたい!」

男「なんだその感想!? 失礼なやつだなまったく…ッ! 教えて損したキブンだ…」

妹「うんうん、おにいちゃんがこんな廃れた神社にきてた意味はわかったけど、それどうするの?」

男「この捕まえた虫か? 飼うか迷ってる、かな…」

妹「へぇ~…」

男「おう」

妹「え、たべないの?」

男「食べる!?」

妹「食べるつもりだと思ってた…こんな数飼うなんておにいちゃんのお小遣いだけじゃムリだよ…?」

男「いやに冷静なコト言いやがるな!」

男「…食わねえっつの、何言ってんだよお前は、カブトムシ喰うやつなんて居るかよ」

妹「そうだねゴキブリみたいだもんね…」

男「お前はよぉー! なんだかさぁー!」


「──お、来とるな可愛い孫ども」


妹「あ! おじいちゃーん!」

爺「おうよ。どうだ取れてたか」

男「爺ちゃんの言う通りだったぜ! めちゃくちゃとれた!」ヒョイ

爺「おっ? ガハハやっぱな! ここは昔っからよく取れるんだよなぁーこりゃ、いい釣れ具合だ」

男「うん! コイツとかめっちゃデカくてかっけーよな!」

爺「ほう、確かに随分と立派じゃねえか」

男「だろ! それにコイツとかも…それに…あとこれも…!」

爺「うむうむ」ガシガシ

男「にへへ」ぐりんぐりん

爺「こりゃお前が頑張って眠い中仕掛けたから、たくさん取れたんだぜ」ポンポン

爺「じっちゃんがやってもここまで取れねえさ。よくやったぞ、男」

男「お、おう!」テレテレ

爺「がはは!」

爺「じゃあさっそく喰うか」

男「爺ちゃん!?」

爺「んだよ、食わねえのか? なら取った意味ないだろ…」

男「意味はあるだろアホんだらッ! なに俺の家族ってカブトムシ食うの常識なの!?」

爺「そりゃお前…居なかったから知らねえだろうけど、今日の朝飯カブトムシだったぞ?」

男「マジで!?」

爺「こんなちまいやつな! しっかしお前が取った奴は食いごたえありそうだ、やったな爺ちゃん嬉しい!」グッ

男「おぉおぉおッッ!! ぜってえ爺ちゃんには食わせねぇえええッ!」ガッシィイイイ

爺「ったく、とんだ食い意地はった孫だなあ」ポリポリ

男「くっわねーーーよッ!」

妹「……」

爺「ん? どした?」

妹「…ううん、なんでもない」

爺「そうは見えなかったけどなぁ? んだよ、昨日の夜に一人放って置かれて寂しいのか? ん?」ガシガシ

妹「ち、ちがうよっ」

爺「がはは! ガキは正直なほうが好かれるぞ! 大丈夫だってのよ、ちゃんとホレ! 持ってきてやったぜ?」ヒョイ

妹「あ…!」

爺「釣りがしたかったんだろ? お前らの分まで持ってきてやったから、後で婆ちゃんに『良いお爺ちゃん大好きお小遣い増やしてやって!』と言っておくんだ…わかったか?」

妹「お爺ちゃん良い人でお小遣い大好き!」

爺「どうしていい間違えた? そうなるとじっちゃんの欲が見え見えだろー?」

男「爺ちゃんこの釣り竿新しいやつじゃん…前にカタログ見て欲しい言ってたやつだろ…」

爺「……」

爺「さて、今日の晩飯を豪華にするぜー超するぜー」スタスタスタ

妹「そうやってお婆ちゃんのゴキゲンとりしなくちゃね!」

爺「がはは! 魚程度でご機嫌取りじゃ爺ちゃん殺されちまうよ! うん…」

男「…いいよ、俺らがねだって買わせたことにすればいいじゃん」

爺「おいおい、んなことちびっ子が気を使わすんじゃねえ」

男「じゃあどうすんだ爺ちゃん。婆ちゃんキレたらマジやべぇって…」

妹「この前お婆ちゃん怒った時、本気で逃げ出したお爺ちゃんのえりくびいつの間にか掴んでたもんね…」

爺「そりゃお前ら…爺ちゃんも男だ、女房を黙らせるテクぐらいあるモンよ」

爺「良いか? これはお前らだけに言うが、爺ちゃんはなんとだな───」

爺「──土下座、っていう最強の技を使って婆ちゃんを納得させることが出来るんだぜ?」

男「いや、それ…」

妹「怒られた時やってたよね?」

爺「……、やっぱ二度目はだめか?」

男「二度目だけじゃないだろ爺ちゃん…」

妹「『テメェの下げられた後頭部なんぞ見飽き果てたわドグサレもんがァァアアア!!』とか言われてたじゃんか」

爺「がっはっは! こりゃ参ったぜ爺ちゃんまったくお前らにいいところみせてねーやぁ!」

妹「でもでも! お爺ちゃん大好きだよ?」

爺「おおっ?」

男「お、俺も嫌いじゃないし…」ボソボソ

爺「おお! お前ら…じゃあ一緒に婆ちゃんに謝ってくれるか?」

妹「やだ!」
男「嫌だ」

爺「だよなー! んじゃ魚バンバン釣って婆ちゃんのゴキゲンどりだ! 爺ちゃんもまだ長生きしたいから!」ダダダッ

男「ったく…」

妹「…」

男「ほら行くぞ、妹」

妹「え、あ、うん…良いの?」

男「何がだよ。今日は一緒に遊ぶって言っただろ」

妹「…でもおにいちゃん、お爺ちゃんと二人で遊ぶのが楽しそうだから」

男「ばか。なに言ってんだよ、意味わっかんねーこと言ってないで行くぞ」グイッ

妹「…」

妹「うん!」


川辺


爺「釣れたか?」

妹「んーん、ぜんぜん」

爺「そうかいそうかい、やっぱりな。爺ちゃんも妹も釣りの才能ないのかもなあ」トポン

妹「かもねー」

爺「それに比べアイツは、まさに入れ食いって奴だ」チラリ


男「どぁー! また釣れたーッ!」ザッパーン


妹「……」

爺「まったく不思議なこった。カブトムシもそうだが、アイツは生き物ってやつに好かれやすいのかもしれん」

妹「うん…」

爺「昨日の夜もそうだった。一緒に神社付近を出歩いてる時にな、」


『おい、どこいくんだ』

『ここらへんだと思う、爺ちゃん』スッ

『はあ? なにがだよ?』

『聞こえるんだよ』

『──声が聞こえるんだ、たくさんの声が』


爺「そしたらあの大量具合だぜ。かっか、虫の声でも聞こえてんのかね」

妹「……」

爺「面白いやつだよまったく、これからどう成長していくのか楽しみでしょうがねえ」

妹「…うん」

爺「それにだ」

爺「──お前もだ妹、爺ちゃんはむしろ男よりも妹がどう成長するのか分からなくて楽しみだぞ」

妹「んー? どうして? あたしなんて別に、なんもないけど?」トポン

爺「そうか? お前ら兄妹は不思議なモンを感じる…例えるなら兄貴が『聞いてやれるヤツ』だとしたら、」


爺「妹のお前は『聞かないフリをしてやれるヤツ』だな」


妹「どういうコト?」

爺「簡単に言っちまえば、知らないふりが上手だってことだ」

爺「爺ちゃんもながーく生きてるけどな、そういう奴は凄く頭がいい。そして、凄く良い奴が多かった」

爺「…それと同時に苦労も多かっただろう」シュン

トポン

妹「よくわからないよ、お爺ちゃん」

爺「かか! …だろうな爺ちゃんもよく分かってないわ」


爺「──でも覚えとけ、賢く生きようとすると辛くなっちまうぞ」


妹「ふーん…だからお爺ちゃんはいつも馬鹿騒ぎするの?」

爺「こりゃ性格だ、元々爺ちゃんは賢くねえからいつも通りなんだよなーがっはっは」

妹「くすくす」

爺「それにお前の兄貴も爺ちゃんにそっくりだな、流石はあの馬鹿の息子だよ」

爺「お前さんは母ちゃんにそっくりだ。美人のところも、我慢強いところもだな」

シュン

           …トポン

爺「…何が言いてえかって言うとな、あんまりいい子ちゃんぶってると本当に自分が欲しいことがわからなくなる」

爺「けどな妹、別にいい子じゃなくてもいいんだぜ?」

爺「ちゃんと周りはお前がどんな奴だって好きで居てやるよ。悪い子であっても、むしろ爺ちゃんは好きで居てやるよ」

妹「……」

爺「ああ、何度だって言ってやるよ。お前がどんな奴でも、爺ちゃんにとって大切な孫に変わりねえってな」

ミーンミンミンミン…

爺「賢くなくてもいい、馬鹿でいい、ちゃらんぽらんでも一緒のちゃぶ台で一緒のメシを食ってやる」

爺「どんと甘えろ、家族ってモンはそういうモンだからな」

妹「…そっか」スッ




                                                          『今日はニンゲンがいっぱいいるよ』


                『ああ本当だたくさんいるね』


                               『仲間が沢山つれられていった天国に行ったんだね』




妹「…そう、だねお爺ちゃん」ギュッ

※※※

あたしは物心つく頃から『不思議な声』が聞こえていた。

すぐにそれが動物の声だと気づいた。

けれど、あたしにとって、それは何の意味もない、ただの聞こえてしまう声──


──だと思うには、少しばかり成長しすぎてしまっていたのだろう。


男「……」

妹「…死んじゃったね、カブトムシ」

男「ん…」ガッシガッシ

妹「寿命だったんだよ、あれだけ大きかったんだもん」

男「……」ガシガシガシ 

ザクッ

男「…あんだけ元気だったのにな、どうしてだろ」

妹「仕方ないよ、虫は長生きできないし」

男「そう、だよな。うん、人みたいに長生きしないもんな」ザクザク…

妹「うん…」

男「仕方ないんだよな。これが生き物だもんな、死んじゃうのは…みんな一緒だもんな」

妹「…───」



カナカナカナカナ…
    『死にたくない!』

ミーンミンミンミン
    『まだ生きていたい! 子孫を残したい!』



妹「──まだ元気な子は?」

男「いつも寝てる部屋に居るよ、あいつらも死んじゃうのかね…」

妹「そんなワケないじゃんか。おにいちゃんがちゃんと大切に育ててるんだから」

男「…おう」

妹「ほらもう行こ? お母さんとお婆ちゃんが、美味しい魚焼いてくれてるよ?」くいっ

男「…そうだな」

妹「うん!」


~~~~


あたしには死に際の声が聞こえていた。

                     『あれ? からだがうごかない?』


あたしには死ぬ瞬間の声が聞こえていた。
 
                     『どうして仲間のお腹を切っちゃうの?』

あたしには死ぬ動物の声【だけ】が聞こえていた。


『──嫌だ嫌だ嫌だ天国じゃないこんなの嫌だいやだいやだ──』


妹「……」

いつだってそれはあたしの側で容赦なく響いていた。

彼らの命の叫びは際限なく、いつだって必死に生を乞いている。

迫り来る寿命と純粋な殺意を受け入れられずに、いつだって彼らは全力で叫んでいた。


妹「いただきます」


ああ、聞こえてしまう。今目の前に広がった夕食を彩る色取り取りの魚達。

彼らは死に際まで仲間を想って死んでいった。

あたしの家族によって、家族を殺され、いまこうやってもう一度並べられて。


妹「もぐ」


───ああ、聞こえなどしない。


妹「もぐ、うん! 美味しいよお婆ちゃん!」


声なんて、聞こえない。食べてるのはただの魚だ、焼き魚、なにも変わらないし何も起こりなどしない。

それが普通だ。いい子だから、ちゃんとご飯を食べるしか無い。ちゃんと可愛く生きないとダメに決まってる。

妹「…美味しいよ…」


あたしは、きっとそうやって生きなければ駄目なんだ。


※※※


シューバチバチバチ! ポン!


男「うぉー! めっちゃ飛んだ見たか妹!?」

妹「ちょーきれー!」

男「だよな! 爺ちゃんも花火買ってたなら教えろよなー! こんな最後の日じゃなくてよ!」

爺「がはは! ばかいえ、最後に渡さねえと婆ちゃんにどやされるだろう! 初日に言ってたら爺ちゃん今頃病院だっつの!」

男「おおぅ…」

爺「ホレ、気にせず遊べ。爺ちゃんはもう釣り竿の件で怒られちまってるしな、たんと使い果たしちまえ」

男「なんか遊びにくくなったよ爺ちゃん…」

妹「…あたし新しい花火取ってくるね」

居間

妹「えーっと、これだこれ」ガサゴソ

妹「うわぁ…沢山の花火…いくらしたんだろコレ───」


『…メ…ナ…』


妹「──…?」

妹(この声もしかして…)ガラリ


『ワタシラ、シヌ、モリヘカエリタイ』


妹「……ッ! やっぱり…カブトムシだ…」


『ニンゲン、ツカマルト、シヌ』

『アア、アア、ナカマ、ナカガ、シヌ』

『シヌ、シヌ、シニタクナイ、シニタクナイ』

妹「…うそ、だめだよっ」


『シニタクナイ、ナカマ、マッテル──』

『──イヤダ、シニタク、ナイ』


妹「ど、どうして!? ちゃんとご飯だって用意してるのに…っ」ガタタ

妹「なん、で死んじゃうの…? どうして、どうして死んじゃうなんて言っちゃうの…!?」


『ナカマ、アイタイ』

『モリヘ、カエリタイ』


妹「───……ここだって、いいところだよ…? ちゃんとごはん食べれるし、ちゃんと長生きだって出来るもん!」

妹「なのに、なんで、わからないよ…どうして、どうしてみんな……!」


『ニンゲン、ワタシタチ、コロス』


妹「そん、な、コト……無い……無い、無いよ、コロスなんて無いッ!」

妹「人間はそんなことしないッ! あなたたちをコロしたりしないもん…!」

ダダッ ガララ!

妹「ほら…! 窓も開けたし、蓋もあけたよ…っ! これなら森にだって帰れるよっ!?」


『カエリタイ』
   『ナカマアイタイ』


妹「…っ……もう、飛べないの…?」ゾク

妹(や、だ…やだやだやだ…もうそこまで弱ってたなんて……!)

妹(……、何やってるのあたし、いつだってこんなことあったよね)

妹(死んじゃう声なんていつだって聞こえてた、今更、聞こえたものに、)


『…死んじゃったね、カブトムシ』

『ん…』

『寿命だったんだよ、あれだけ大きかったんだもん』

『…あんだけ元気だったのにな、どうしてだろ』

『仕方ないよ、虫は長生きできないし』

『そう、だよな。うん、人みたいに長生きしないもんな』

『仕方ないんだよな。これが生き物だもんな、死んじゃうのは…みんな一緒だもんな』


「…───」くるっ

「しなせ、ないもん……そんなこと、させないもん…っ」ダダッ

「良い子だから、あたしはあなた達をコロしたりなんかしないもん!」


森林

妹「はぁ…はぁ…っ…ん、はぁっ……!」

妹「ここ、なら…ちゃんと仲間も居るはずだよ…ホラみんな…っ」カパリ

妹「ちゃんと、戻ってこれたよ…あなたたちの家に帰ってこれた…あなたたちの家族に会える所まで連れてきた…!」

妹「だから、シヌなんて言わないで───」

妹「───ねえ……なん、で…? どうして、動かないの……?」

妹「ねぇってば! 言う通りに連れてきたのにっ! どうして動いてくれないの!? あなた達の言う通り…連れて、きた…のにっ」

妹「…っ」


あたしには死ぬ動物の声だけが『聞こえていた』。


妹「ああ…っ」


あたしには死ぬ動物の声だけを聞き取れた、だから、

あたしの声は【彼らには届かない】。いつだって、それは一方通行で。


妹「ああああっ! もうっもうっイヤダよこんなの! どうして死んじゃうの…!」



──あたしは何時だって、声が聞こえてしまっていた。



妹「もうこんな声聞こえたくない! 死んじゃう声なんて聞きたくないっ! いやだいやだいやだ───」

妹「あああああああああっ!」

『──コロサレタ』

妹「ひぅっ」


                              『コロサレタ、コロサレタ、ナカマヲコロサレタ』

                      『ニンゲンナカマヲコロス』

                   『マタ、コロサレタ、マタ、マタマタマタマタマタ──』


妹「や、だ……違う……」


『コロシタ、コロシタ』

    『コロシタコロシタ』

                                      『人間はお兄ちゃんも爺ちゃんも殺す』


『お婆ちゃんもお母さんも、友達も』

『お前は殺した。お前は殺すんだ、人間は何時だって仲間を死なせる』

『殺すんだよ、殺した、殺した、殺した、殺した───』

妹「──……うぷっ」

ビシャビシャッ

妹「おぇっ…うっ…」


『──喰ったの?』


妹「…ぇぁ…」


『食べたの? 仲間を食べたの? それ、仲間だ、それ仲間だ!』

『人間は仲間を食べるの? じゃあ連れられた仲間は何処に言ってしまったの?』


『──殺すんだ、人間は仲間を殺すんだ』


妹「あああぁ…ごめん、なさい…ごめんなさい…ごめんなさい…っ」ブルブルブル

妹「悪い子でごめんなさい…っ…あなた達を食べてしまって、ごめんなさい…」ギュッ

妹「声が、聞こえてしまってごめんなさい…あたしはきっと悪い子だから…っ」


妹「──聞かないふりをしてて、ごめんなさい…っ…」

あたしは良い子であろうとした。

あたしは悪い子で、聞かないふりをしてる悪い子だった。 

けれど『聞かないふり』をしなくちゃ皆は悪いことだと言うに違いない。


あたしは、一体、どっちが【自分がなりたい良い子なのだろう】。

どちらがもあたしが求めてる、あたしが欲しがっていた良い子なんだろう? 


妹「あたしは、ただ、良い子でいようとした……だけなのに……」

妹「…お爺ちゃん…お婆ちゃん…お母さんお父さん…っ」ガクガク

妹「おにいちゃん…っ…あたしは、あたしは、」


『殺した』『殺した』『殺した』『殺した』
『殺した』『殺した』『殺した』『殺した』『殺した』『殺した』 
『殺した』『殺した』『殺した』『殺した』『殺した』『殺した』    
『殺した』『殺した』 『殺した』『殺した』  『殺した』『殺した』 『殺した』『殺した』


妹「……いやだよ、こんなの……」ポロポロ



「黙れ」


ガサリ

妹「…ぇ…」


「…何が殺しただよ、勝手に死ぬ奴らが文句を垂らすな」

「───一々うるせえんだよッッ!! 黙ってろクソどもッ!!」


妹「…ぁ…ああ…!」


「っ…妹…!」


妹「おにい、ちゃん…っ」


男「大丈夫か? ケガとかしてないよな?」

妹「うん…うん…っ」ぎゅうう

男「…そっか、それは良かった」チラリ

男「死んじまったのか、カブトムシ」

妹「っ……うん、ごめんなさい…」

男「おい…何謝ってるんだよ、お前のせいじゃないだろ」

妹「……」

男「別に誰も責めたりなんてしねえって」


『殺した』


男「…それに、別に人間の責任でもないだろ」

妹「え…?」

男「良いかッ! お前らがどう言っても俺らはなんの責任も取らねーよっ!」

男「俺は魚だって食う、カブトムシだって捕まえて虫かごに入れる!」

男「それで死んじまった原因が俺のせいかもしれねえ!」

男「──だけどな、そりゃ何時だってそんなモンだろッッ!」

男「じゃあテメエらはメシを食わねえのかッ!?」

男「虫も、魚も! 犬だって猫だって生きてるヤツを喰って生きてる!」

男「それが悪いことだと誰が言ったんだ!? …誰も悪くねえよ、それが生きるってことだろ!」

男「何時だってそんなモンだ! 俺らが人間だからお前らを捕まえられる!」

男「じゃあカブトムシ、お前らはも餌場を求めて仲間を殺すことだってあるだろ!? 縄張り争いだってするはずだぜ!?」

男「──いい加減にしろよ、ボケどもッ……喰って何が悪い、強いやつで何が悪いッ!」

男「テメーらが仲間のために怒るんだって言うんだったら……」


男「…俺の大切な妹の為に、俺は怒ってやるッ! 家族のためにお前らを否定しやるッ!」


妹「おにいちゃん…?」

男「はぁ…はぁー……お前もだ、妹」

妹「…え」

男「別にどんな奴だって俺は嫌ったりしないし、ちゃんと聞いてやるよ」

男「──苦しかったら声に出して言ってくれ。俺には聞こえてるんだからよ、お前の声がさ」

妹「…っ…おにい、ちゃん…!」

妹「うわぁああっ…ごめ、んなさい…ごめんなさいごめんなさい…っ」ぎゅうっ

男「良いって、大丈夫だっての」

妹「うん…うん…」コクコク


『なんて人間は我儘なんだろうね』


妹「…っ…!?」ビクッ


『──【殺せる】というものは、どんな種族だって恐怖の対象源に変わりないっていうのにさ』


妹(この声、なに、何時もと違って、まるで──)


『ならボクたちが君たちの恐怖となろうじゃないか』


男「…? どうした妹?」

妹「おにい、ちゃ───逃げて…! なにか、とってもこわい声が聞こえて…!?」

男「声が? 俺も微妙にしか声なんて聞こえないけど…」

妹「お兄ちゃんっっ!!」バッ

ぐいっ ドサ!

男「痛…急にどうしたお前……、………っ!?」

妹「なにあれ…っ?」



『さあか弱き小さな命たち』

『今宵は力あるものを喰らい尽くそう』

『ボクたちが全ての罪をゆるそうじゃないか』


男「毛むくじゃら…犬…猫…?」

妹「っ…!」

男「妹、逃げるぞ。はやく! 行くぞッ!」ぐいっ

妹「う、うん!」

~~~

男「早くッ! こっちだ!」ぐいっ

妹「はぁっ…はぁっ…!」


『ケラケラ!』

『逃げろ人間! 逃げろ逃げろ!』

『ケラケラ──ケラケラケラ──』


男「んだよッ…! なんなんだよあの唸り声はぁ…ッ!?」

妹(おにいちゃんには聞こえてないんだ…この声が…)

男「くそっ!? 確かコッチだったような…違う違う違うッ…来たのはこっちだったような…!?」キョロキョロ

妹「…お兄ちゃん」パッ

男「どうしたっ? どうして手を…」

妹「いいよ、もうおにいちゃんだけ逃げて…あたしのことを引っ張ってたら、いつになっても…逃げ切れない…」

男「お前…」

妹「一人で、こんな場所に来たのが悪いんだもん…」

男「…」

妹「あたしは、お兄ちゃんの迷惑になりたくなんか無いよ…だから、あたしのことは放っておいて…」


 ピン!


妹「あいたっ!」

男「…そういやまだ、お前の本音を聞いちゃいなかったな」

妹「え、えっ?」ヒリヒリ

男「お前の本当の言葉。みんなに隠してること、あんだろ絶対に」

妹「っ…それは」

男「聞かせろよ、言いたくなくてもちゃんと言ってくれ…俺はお前の兄貴なんだ」

男「妹の涙なんて見たくない」

妹「……」

男「言ってくれ、頼む」

『キャハハハハ! 人間諦めたー?』

『やったやった! 今日はご馳走だね!』

『ケラケラケラケラケラケラケラケラケラ!!』


妹「っ…! お、おにいちゃ…! そんなこと今聞かなくても───」

男「……」ジッ

妹「──……」

男「聞かせろ、お前の本音を」

妹「……」

妹「…あたしは、良い子で居たかった…」ボソリ

良い子で居るためには聞かないふりをしなくちゃいけない。

妹「でも、でも、あたしには…いっぱいの死んじゃう声が聞こえた…」

聞かないふりをしていたら、彼らはあたしを悪い子だと言った。

妹「…あたしはどっちが正しい『良い子』なのか、わからなくなっちゃって…」

妹「だから…っ!!」


──あたしの本音はきっと、そう。


妹「…もう…何も『本当に聞きたくなんか無い』…ッ!!」


結局、あたしは逃げたいに違いない。

この声から、自分が位置づけた良い子という場所から。

一人の人間として、普通に、ただただ普通に生きたいだけ。


悪い子だって、良い子だってそんなのどうだっていい。


妹「…あたしは強い子じゃない…っ」

男「……」

妹「…だから、だからおにいちゃん…」


──助けて、お兄ちゃん。

男「よく言ってくれた、あんがとな」ポン

なでなで

妹「ひっぐ…ぐしゅっ…」

男「辛かったろ。言いづらかったろ、本当に我慢強いな…お前は、凄いって」

妹「お”に”ち”ぁっ…!」

男「おう、すごい声になってんぞ」ぽんぽん

妹「ごめんなさいっ…ごめんなさい、こんな妹で…っ」

男「馬鹿、謝るなって、なんも悪くねえ大丈夫…」スッ

ぎゅっ

男「──後は『強い兄貴』に任せろ、お前は目を瞑って抱きついとけ」ギュッ

妹「お兄ちゃん…?」

男「おいおい、心配そうな声を出すなよな。…俺がお前に嘘をついたことあったか?」

妹「…ううん、無い、絶対に無い…」コク

男「よし、じゃあ目をつぶれ、もう一度開けたら…ちゃんとお前の前に俺が立っててやるからよ」

妹「…うん」スッ

男「おう」


『見つけた!』

『食べよう! 喰らい尽くしてやろうよ!』

『観念しろよー人間』


男「…なんか喋ってんだろうな、どうせロクなこと言ってないだろうけどよ」ぎゅっ

男「人間様を舐めるんじゃねえ…」

男「──やるときはやるんだぜ、生きることを必死に考えてるのは…」


男「別に、お前ら動物だけじゃねえこと教えてやんよッ!」バッ!


『あっ! 人間が!』


男「ッ!!」ぎゅうう

『崖から落ちて──』


ドッポーン!


『やられた』

『逃げられた?』

『川に流れていけばふもとに行けるだろうね』



『まぁでも! 逃すわけ無いけどね!』

~~~


男「はぁ…はぁ…」バシャバシャ

男「だい、丈夫か…妹…っ」

妹「う…お兄ちゃん…?」

男「おう…良かった、溺れてなかったな…うぐっ…」ドタリ

男「…っ…」タラリ

妹「おにちゃ…っ! あ、頭から血が…!」

男「…平気だっての、お前だって、怪我してるじゃん」すっ

妹「お兄ちゃん! しっかりして…!」

男「大丈夫、大丈夫だって…」がしがし

妹「あぅ」

男「お前は…大事な妹だからな…ほら、ちゃんと守らないと…」

男「兄貴なら、ちゃんと…やらなくちゃ…お前のことを…見てやらなくちゃ…」

ガクン

妹「…お兄ちゃん…」


「──ここかっ!? ここに居るのかお前ら!?」


妹「あ…お爺ちゃん…!」

爺「ッ…! 大丈夫か!?」

妹「お兄ちゃんが! お兄ちゃんが大変なの…!」

爺「ああ、後は任せろ。ほらお前も爺ちゃんの背中に乗れ」

妹「お爺ちゃん! お兄ちゃんを助け…て…よぉ…」カクン

爺「おいっ!? 妹…」


ガサガサガガサ


爺「……」

爺「よく探されてたな、立派な兄貴だぞ」

爺「…よく最後まで兄妹を心配したな、立派な妹だ」ナデナデ

『ケラケラケラケラケラケラ』

爺「…あとは爺ちゃんが何とかしてやる」スッ


爺「──テメェ等、ちと調子に乗りすぎたんじゃねえか?」

『やっぱりお前の子孫だったんだねえ』

『生意気なところがそっくりさ』


爺「脅かすにもやり方があるってモンだろうが、わかってんだろ」


『今宵は無礼講さ』

『一つや二つ、命が散っても森は認めるものだよ』


爺「…人間には人間の生き方、テメエらはテメエ等の生き方」

爺「全部は一緒くたに出来ねえもんさ」

爺「長生きしてりゃ納得出来ないことも頑固になる。つまりなんだ、死にかけの爺にも胸張って───」


爺「──頭でっかちに怒っちまうこともあるんだぜ」

…ピシッ

『おおこわいこわい、人間が出す気配じゃないねえ』

『でもたかが人間一人、粋がってもボクらに対して何が出来るって───』


ガルルル…
           キィキィキィッ!!

ギャギャ! ガァーガァー! シャアアアアアッ!!



『──これは…っ!?』


爺「…誰が人間一人だって?」

『野良の動物たち…ッ! どうして人間の仲間になる!』

爺「舐めんじゃねえよ」

爺「…テメエらには一生分からねえだろうな、人間と動物を種族別に捉えてちゃあよぉ…」

爺「命が惜しけりゃ尻尾巻いて逃げ出しな、おれは首を掻き切られようが…」


爺「おれ【たち】は最後まで喰らいつくぞ、覚悟しな」

『───』クルッ

ガサガサガサ ガサ…


爺「……腰抜けどもが、おう、おめえらもありがとな」フリ

妹「…おじいちゃん…」

爺「お? まだ意識があったか…すまねえな、分かってたが爺ちゃんには何も出来なかった」

爺「これからも、ずっとだ」

爺「けどな、お前が選んだ『本当の欲しいこと』があるんだったらよ───」

爺「──もし、それが相手にも認めてもらったんだったらな」


爺「安心して【預けろ】。…大丈夫だ、コイツは爺ちゃんに似て強い奴だからな」


妹「……───」

爺「今は眠っちまえ。起きたら全部、悪い夢だと思えるだろうからな…」ポン

妹「───」

※※※

ジジジッ ミーンミンミンミン


妹「ん…」

妹(いけない、昔のこと思い出してたら寝ちゃってた)プカプカ

妹「…蝉の声…」


あの時から、あたしは動物の声は聞こえなくなってしまった。

それと同時に。幼少期の体験も歳を重ねるごとに、まるで夢だったと言わんばかりに薄れていった。

本当に動物の声が聞こえていたのか、それすらも疑ってしまうぐらいに。


妹「ん~っ!」ノビー


けれど記憶としてしっかり残ってるのは、あの不思議な声。

動物に違いなく、でも人間と同じそれに近い『彼ら』は一体何者だったのだろう。

妹「…」


でも、あたしはそれを知る機会は訪れない。

聞こえないふりではなく、本当に聞こえなくなってしまったあたしの前には二度と現れることはないだろう。


妹「…お兄ちゃん」


あたしは今でもきっと悪い子に違いない。

問題から逃げるだけでなく、大切な一人の家族に預けてしまったモノ。

彼らも、人間も、あたしを悪い子と呼ぶだろう。


妹「……」


【だからあたしは聞かないふりをして、良い子になる】。


あたしがほしい本当のモノ。その代わりに、あたしはお兄ちゃんにとって良い子で居続ける。

妹「…また、聞こえるようになっちゃったのかな、お兄ちゃんってば」


それならあたしが支えよう。

何かあったのか聞かないふりをして、誰よりも一番にお兄ちゃんの好き理解者で居よう。


妹(大切な彼女が出来ても、一途な幼馴染に告白されても、可愛い後輩に想われていても…)


──あたしは、そんな彼女らの言葉を聞かないふりして、お兄ちゃんの側にいる。


妹「クフフ…悪い子だね、こりゃ」


ああ、それがあたしの良い子としてのありかただ!


妹「あーあ、報われなよねぇこういうのってさー」

男「なにがだよ」

妹「どぅあっ!?」ザパーン

ぶくぶくぶく

妹「ぷはぁっ! お、お兄ちゃんってばいつの間に!?」

男「さっきから一緒に、浮き輪で浮いて水上を彷徨ってたぞ」

妹「え…え…?」ポカーン

男「…その、なんだ、急に憂い顔で俺の名前呼ぶなよ…なんか照れるだろ…」

妹「ば、ばかーっ!」パシャパシャッ

男「わぷ!」

妹「居るなら居るって最初から言っててよあほあほー!」バシャバシャ

男「んだよ良いだろ別にっ! ブツブツ言ってた所はよく聞こえなかったし…!」

妹「それでもダメなものはダメなのー!」

男「めんどくせえ…」

妹「めんどくさくないっ」

男「いや面倒臭い! ここ最近のお前の態度はチョーメンドクサイ!」

妹「なにおー!?」

男「なんかミョーに俺のこと見てるだろ? 観察してるっていうか、変に距離をおいてるって言うかよ!」

妹「むっ! そんなことしてないよ別に!」

男「いーやしてるね! 今日だって誘っておきながら露骨に離れようとするしよ!」

妹「そ、そりゃだって…!」

男「なにがそりゃだってだ。…良いか? 変に気を使うんじゃねえ、面倒臭いの、わかる?」

妹「使うわッ!」

男「使うなッ! 俺は好きで来てんだよ、好き勝手やって今があんだよ…」

男「意味がわからんが、心配なんてするんじゃねえよ」

妹「だって! ……だって、そんなこと…」

男「……」

妹「…むりだもん」

男「…そうかよ」ボリボリ

男「…だったら、」

ぽんぽん


男「もうちっとだけ良い子ちゃんぶっとけ、まーなんだ、ありがたいしな…そういうのもな」


妹「……」

妹「…うん…」ぶくぶくぶく

男「どうした?」

妹「なんでもないっ!」ばっ

妹(ばか、言われなくたってやるんだから…それがあたしが欲しい…ものなんだから…)

男「?」

妹「…じゃあお兄ちゃん、今日はあたしを優先して遊んでよ」

男「なんで?」

妹「可愛い妹が心配してあげてるんだから! 日頃のお礼としていいじゃないのって思うんですが!」

男「…ったく、別に構わねえよ」ぐいっ

妹「きゃっ」

男「今日はたくさん遊んでやる。ほら、前に一緒婆ちゃん家行った時……」

男「…よくおぼえてないけど、一緒に泳いだ記憶ないしな」

妹「……ひきょうだよ、それ」

男「うぇ?」

妹「っ…」

バシャバシャー!

妹「あっちまで競争して負けたらお昼ごはんおごりねー!」バシャバシャ

男「んだとッ!? 卑怯なのはどっちだゴラァ!!」

妹「ん、んふふっ!」


妹「聞こえないよーだっ! ばかお兄ちゃん!」

第二話 終

予定通り明日から10レスずつ更新ガンバリマス!


あとご報告

男「見られてない?」イケメン「…」じぃー

続きを昼ごろに。

ではではノシ

自宅

男「はぁーふぅー」

男「よし!」パチン

男(…気合は入った、いざ)カチャ


ぴぽっ ぴぽっ ぽぽっ


男「……」prrrrrr

ガチャ

男「あ、もひもひぃっ!?」

『おかけになった電話番号は電波が届かない──』

男「…もひもひ…」

男「はぁ、やっぱりダメか…今日もアイツに繋がらない…」

男(親の実家に帰ってるとか行ってたけど、電波が届かないとかどんな山奥だよ…)ずーん

男「電話をかけるこっちの身にもなれよな…毎回妙に緊張するんだよコレ…」

男「…」ピラリ

男(電話番号だけ書かれた紙を、行く前に渡されたけど…片方はわかる、アイツの携帯の番号だろうな)

男(けどもう一つの電話番号は何だ? 知らない番号なんだけど…)

男「かけてみるか…?」

男(いやいや! アイツの事だ、なんかとんでもない相手の可能性も否定出来ない…全然出来無い…)

男「ぐぁー! もうもうもう!」バタバタバタ

男「…くっそー……アイツめ俺を悶々とさせやがって…っ」

男(そんな風にか、彼氏を放って置いてると、俺だって勝手にフラフラしちまうぞ…)

男「なんてな! ははっ!」


prrrrrr


男「ん? この電話番号は…」

『もしもし?』

男「あぁ、どうしたよ。お前から電話してくるなんて珍しいじゃん」

『もちろん、僕だって願い下げさ。君のような野蛮人に電話なんて、毎回ちゃんと繋がるか不安で仕方ないからね』

男「…相も変わらず面倒臭え口調だな」

『え、めんどくさいの…? ごめん…』

男「急に我に返るな、会話しにくい」

『そ、そう? ──フゥーハハハ! ならば! いつもの通りと行こうじゃあないか!』

男「うるさい」

『どうすりゃいいのさ!?』

男「んで何の用事だ。電話してくるほどなんだろ」

『君はまったく本当にっ……いいさ、どうやら君が忘れてしまっているようだから敢えて、僕から電話したんだよ』

男「? なんかあったっけ?」

『コラーッ! やっぱり忘れていたんじゃあないか! ったく、先日僕が『黒式メンバー』について教えてあげただろうっ?』

男「ああ、剣道部員の一人がメンバーだったな…」

『そのお・れ・い! 君は教えるかわりにお礼をしてくれると言ってくれたはずだ!』

男「言ったぁ~? 俺そんなこと言ったかなぁ~?」

『言っちゃってたよ! 忘れるんじゃない、なかったコトにするんじゃあない!』

男「…はいはい、言いました。で? なに? 何をやって欲しいわけ?」

『それがお礼をする人の態度なのか…っ?』

『もういい、君の人間性を語っていては日が暮れてしまう。簡単に要件だけ伝える、それでいいかい』

男「金なら無いぞ」

『困ってない。バイトしてる』

男「へぇー! お前がバイトしてんの? どこどこ?」

『ぐぁー! 変なことを言ってしまった…! く、くるんじゃ無いぞ!? 陰ながら様子を伺いにくるなよ!?』

男「堅いこと言うなよ馬鹿、俺とお前の仲じゃねえか」

『気軽にバイト先に様子を見に来る仲じゃないことはわかってるなァ…!』

男「確かにな。つか、ほらまた話が脱線してるぞ、なんだなんだ、早く言えよ」

『…あぁ…もういやだ君と会話してると疲れくるよ…』

『…頼み事は一つ、今週の金曜日に駅前に来てくれ』

男「おう?」

『出来ればオシャレなんてして来るんだ。その時間にかける努力は無駄じゃないと思うからね』

男「どういう意味だ…?」

『合コンだ』


『──僕の願いはそう、君にメンバー合わせとして合コンに出て欲しい』



当日 駅前


男「……」

同級生「……」じぃー

男「な、なんだよ。時間通り来ただろ…」

同級生「来るんだね、やっぱり君は来るんだね」じぃー

男「き、来ちゃ悪いって言うのか! お前が来いって言ったんだろ!」

同級生「そうさ僕が誘ったさ。けれどもなんだい、君は最愛にて最強にキュートなあの彼女が居ながら──」

同級生「──誘われた程度でほいほいと合コンに来ちゃう人間なんだね、ガッカリだよ」

男「メンバー合わせだろ…っ? だ、だったらなーんも問題ねえもんさー!?」

同級生「サイテー」

男「ぐぐっ」

同級生「はぁ、この先の君と彼女の関係が思いやられるよ。可哀想に、こんな盛った猿ような人間を好きになってしまった彼女がね…」

男「やかましい!」

同級生「それになんだ、その格好は」

男「…え、変かな?」ソワソワ

同級生「いや無難で良いと思うよ。高校生にしては頑張りすぎず、持ち味を上手く活かした服装だと思うね」

男「お、おう」テレテレ

同級生「……」

男「や、やってますぅー! アイツと出かけるときもちゃんとオシャレやってますー!」

同級生「本当に…?」じぃー

男「本当だっつの!」

同級生「そうかい、それは良かったよ。実は彼女の運動性に合わせて、常に軽装で換気の良い生地の味気ない格好じゃないかと疑ってたからね」

男「………」ダラダラダラ

同級生「じゃないよね…?」ジトー

男「あっ! あぁー!! ほ、ほらもうこんな時間! 合コンの待ち合わせ場所に行かないと怒られるぞー!?」

同級生「まだ三十分もあるけど?」

男「馬鹿だなー! お前なー! 三十分前行動も出来ないのかよー!」

同級生「なら僕との待ち合わせ時間に君は間に合ってないことになるけど?」

男「うるさい! 黙って付いてきなさいあほたれ!」

同級生「ったく、まあいいさ。これぐらいで僕との約束を忘れてたことをチャラにしてあげよう、でもね男くん」

同級生「──彼女はとても鼻が利くんだ。誘っておいて何だけど、変に浮かれて問題を起こさないよう気をつけるように」

男「…う、うっす」

同級生「ならよしだ。あとそれと、…本当に良かったのかい?」

男「な、なにが?」

同級生「合コンだよ。ここまで言っておいてあれだけど、君らしくないと言えば君らしくないからさ」

男「…別に良いんだよ、俺だって一度は合コン…体験したかったし…」

同級生「…君らしくもない理由だ、びっくりするよ」

男「俺の何を知ってるんだお前は…」

同級生「勿論、彼女に対する【愛】さ」

男「…ぐっ…よくもまあ恥ずかしい事をぶっちゃけられるな…」

同級生「当たり前だよ、だからこそ───僕は諦めたんだからね」

男「…そうかよ」

同級生「僕の頼みだからという理由でムリをしてるなら、ここで帰ってしまっても構わないよ」

男「はぁ? ムリじゃねえよ、むりなんてしてないっつの」

男「──俺はお前の頼みだから、やってるんだ」

同級生「……、忘れてたくせによく言うよ」

男「わ、悪かったな」

同級生「ううん、悪くない。それに君のその言葉を聞けて安心できた」

同級生「ありがとう、今日は僕の頼みを聞いてくれて。凄く感謝してる」

男「あっそ、これで貸し借りはチャラだからな。別に感謝も要らねえよ」

男「にしてもどうして合コンなんだ? それこそお前に合わねえ休日の過ごし方じゃねえか」

同級生「……。僕だってこんな無駄な時間を過ごしたくもなかったさ」

男「お、おう?」

同級生「でも…止められ…の人を…しか…」ボソボソ

男「なんだ、急にボソボソ喋って…」

同級生「………」

同級生「もう一度君にはこの言葉を伝えておく。ありがとう、今日は来てくれて本当にすごく感謝してる」

同級生「【僕の都合に付きわせてしまって申し訳ないという気持ちと共に、君に感謝の意を贈るよ】」

男「おい、その言葉で嫌な予感がマックスだぞ!?」

同級生「些か気づくのが遅いなぁ! フゥーハハハ! 君は既にハメられたのだよ馬鹿めッ!」ぐいっ

同級生「──もう逃げられないぞぉ! 実は待ち合わせ場所は、近くに見えるカラオケボックスなのさ!」ぐいぐい

男「おおぉぉおおっ?」

同級生「君の言う通り三十分前行動しても構わないだろうねぇ! フハハ! とくと味わえ!」

同級生「──この合コン主催の【存在の恐ろしさ】を!」

カラオケ

同級生「この部屋だね」

男「…俺トイレ行っていいかな、先に」

同級生「さっき済ませたじゃあないか、怖気づいてるのかい?」

男「う、うるさい」

同級生「なにもそこまで緊張するんだ、たかが合コンごときで…」

男「おぉー!? だったらテメーは緊張はしないってか! そりゃ慣れてる奴はいいなァー! お手軽だもんなァー!」

同級生「ばかいえ、僕も合コンは初めてだ」

男「え、そうなの?」

同級生「そうともさ。始めから興味もないし参加する意欲すら皆無だよ、けどね」

同級生「やらなくちゃいけないことは、必ずしも社会に出てから経験することでもないんだよ…」

男「や、やめてくれよ…不安になること言うのやめろって…」

同級生「クックックッ…」

男「その笑い方もやめろって!」

男「何なんだよ…お前さっきから俺を怖がらせるようなことばっか言いやがって…!」

男「さ、察するにその『主催者』がどうもきな臭いんだが…どんな奴なんだ?」

同級生「会えば分かるさ」キィ

ギィィィィ…

同級生「──君が一番理解できるはずさ、絶対にね」

男「っ……」


「あら、早かったわね同級生くん。待ち合わせ時間はもうちょい先よ?」


男(ん? この声、どっかで聞いたことがあるような)

「他の娘たちもまだ来てないし、それに出来れば丁度いい感じに───」

男「あのぉ…」ヒョイ

「───ィィィいいいいいいいいいっ!!???」ビッックゥウウウ

男「うわぁ!?」

同級生「どうかされましたか、お姉さん」

「ちょッ、うそッ? なっなっ!? …ど、同級生くん…っ? これは…っ? 一体…っ?」

男「あ、ああああああああっ!?」ビッックゥウウウ

同級生「これは一体も何も、勿論彼が人数合わせで呼びかけた一人ですよ」

同級生「なにか問題でもありましたか?」


「っ……あるでしょすっごく!」

男「滅茶苦茶あるだろばかっ!」


同級生「ほう、それは一体…?」



女姉「妹の彼氏じゃん!」

男「彼女の姉ちゃんじゃん!」



同級生「ですよねー!」

男「な、何をしてくさっとんだお前はァ…!」グイッ

同級生「ヘッ! …ここまで来ておいて今更無しにしろってのも無理な話だよ、男君」

男「んぐっ!」

同級生「君は期待などせず断るべきだった。知ってたさ、君が長らく彼女と会えてないことをね」

同級生「その寂しさと憤りで、普段の君とは違った……ちょっとした冒険なんてのに手を出す可能性を僕は考えたのさ…」

男「……ぐっ…た、確かにそのとおりだ…っ」スッ

同級生「予想以上の食付きに焦らさせれたよ、だがね、その冒険もこの人が居たら…」

同級生「元の木阿弥となるだろうね」

女姉「む」

男「…お姉さん」

女姉「い、色々と戸惑ってるけれど、確かに君はこんな所に来るべき人間じゃないはずだよね」

男「うっす…」

女姉「君には彼女がいるはず。しかも、私の妹…これがどういう意味かわかってる?」

男「わかってます…」

女姉「そっか。なら、あの娘の姉として断言しておきます」

女姉「もう二度と妹の前に───」

男「ッ…!」ギュッ


同級生「待ってください、お姉さん」


女姉「え、あ、うん?」

同級生「そう言い切る前に、少しだけ宜しいですか」

男「っ…?」ぱち

同級生「わかってると思いますが、彼は合コンに呼ばれてここに来ました」

同級生「彼は彼なりに思うことがあって来ている、それはそれとしてお姉さん」

同級生「──お姉さんは何故、合コンを開かれたんですか?」

女姉「そ、それは言ったよね? キミの新しい恋を私も一緒に探してあげるって…」

同級生「いいましたね。ありがとうございます、本当に感謝でいっぱいです」


同級生「──じゃあなぜ? なぜ、お姉さんが合コンメンバーのひとりとして参加されてるんですか?」

女姉「え、だってそれは…」

同級生「それは?」

女姉「わ、わたしも新しい恋を…」

同級生「そうでしょうね。この前も僕のバイト先に、誰か男性と一緒に買物に来られてましたね」

女姉「ほぉぅ!? な、なぜしょれを…!? 君の姿は見えなかったのに…!」

同級生「もう一度聞きます、お姉さん」


同級生「──なぜ、合コンメンバーの一人に入られてるんですか?」


男「お前…」

同級生「…君にももう一度言っておくよ」ボソボソ

同級生「これは僕の問題だ。巻き込んでしまって申し訳ないと思う、けど…こうするしか方法はなかった…」ボソリ

同級生「ありがとう、これでやっと合コンなんて誘われなくなるだろうしね」ニコ

男(大胆過ぎる作戦だろコレ…!!)

女姉「…ううっ…」ショボン

同級生「事情はお察ししますが、今は時間がない」チラリ

同級生「今日の合コンはひとまず参加します、けれどお姉さんの『都合』に付き合ってられるほど…すみません、僕もヒマじゃないので」

女姉「…強くなったね、キミ」

同級生「勿論、…だって応援されましたから」チラリ

男「おう?」

同級生「んべっ」

男「な、なんだよ…」

女姉「じゃ、じゃあ今日は付き合ってくれるのね…? 今回だけは…?」

同級生「はい」コクリ

女姉「そっか、ありがと。友達にも面目が立つわ…それと、キミよキミ」

男「は、はいっす!」

女姉「……。とりあえず後でわたしのこと説明するから、キミのことも説明して頂戴」

男「う、うっす」

同級生「そろそろ時間ですね、じゃあ飲み物でも頼んで待ってましょうか」

カラオケ 通路・自販機前


男「…」ポケー


「──ちょっと電話きたから、出てくるねー」キィ パタン


男「あ…」スッ

女姉「ふぅ。待った?」

男「あ、いえ、全然っす…」

女姉「うん。じゃあこれから二人で抜けだそっか」

男「ええっ!? い、いいんすかそれっ!?」

女姉「平気よ別に。それぐらいやってる娘いるし、普通よ普通」

男「友達に変な感じに思われるんじゃ…それに同級生のやつも…」

女姉「彼は大丈夫。君と合わせて呼んでおいたもう一人の男性は、同級生くんと同じバイト先なの、気まずくならないと思うし」

女姉「…あとその友達に変な感じに思われるって何? どゆこと?」キョトン

男「いや、だからあの、色々と二人で抜け出すって意味が…深く取られるんじゃないかと…」

女姉「はー? あ、そういうこと! アッハハ! ばっかねー! そう思われるワケないでしょ!」クスクス

男「むぐぐっ、ならいいっすけどぉっ?」

女姉「なになに? やっぱり高校生となれば大人に見られたがりになっちゃう感じ? くすくす…」

男「すみませんねェ…これでも一応年頃なんでね…」

女姉「くす、案外かわいい所もあんのね。ま、それは置いといて」パン

女姉「──近くのファミレスで良いかな?」


※※※


男「ズゴゴゴゴ…」

女姉「話ってのは合コンのことよ、良いかしら」

男「あ、はい。とりあえず今日はスンマセンした…いや、本当にどうかしてたっていうか…」

女友「そうね。確かに君はやっちゃいけないことをしたわ」

女友「…けどまあ、あたしが言えたことじゃないからあれなんだけど…」

男「いや、だからあの、色々と二人で抜け出すって意味が…深く取られるんじゃないかと…」

女姉「はー? あ、そういうこと! アッハハ! ばっかねー! そう思われるワケないでしょ!」クスクス

男「むぐぐっ、ならいいっすけどぉっ?」

女姉「なになに? やっぱり高校生となれば大人に見られたがりになっちゃう感じ? くすくす…」

男「すみませんねェ…これでも一応年頃なんでね…」

女姉「くす、案外かわいい所もあんのね。ま、それは置いといて」パン

女姉「──近くのファミレスで良いかな?」


※※※


男「ズゴゴゴゴ…」

女姉「話ってのは合コンのことよ、良いかしら」

男「あ、はい。とりあえず今日はスンマセンした…いや、本当にどうかしてたっていうか…」

女姉「そうね。確かに君はやっちゃいけないことをしたわ」

女姉「…けどまあ、あたしが言えたことじゃないからあれなんだけど…」

男「?」

女姉「実はね…あたし、彼氏がいるんだ…うん…」

男「え、えぇ…じゃあ何で合コン来たんですか…?」

女姉「じ、実に君に言われたくないわね! あぁんッ?」

男「スンマセンッ!」

女姉「いやいや……違うのよ、彼氏と言っても告白されただけであって…」

女姉「そ、そのトモダチが言うには? キープとかになっちゃってるワケで? うん…」

男「そうなんすか…うん…」

女姉「いやね、わかってるのよ? こういったこと君に言う必要ないと思うし、何言ってんだろなって自分でも思うし」

女姉「でも言っとかないと、君を怒れない理由も言えないわけでね」

男「…返事は?」

女姉「おー? 意外に冷静に聞いてれてるのね、良い質問。まだ返事は返してないの」

男「あ、いや、俺が思うお姉さんなら、駄目なら断るだろうなって思ったんで…」

女姉「あっはは…期待されてるほど強いやつじゃなくてごめんね~…」

男「いや! 俺も知ったようなこと言ってすんませんした…っ!」

女姉「良いの良いの、わかってることだから」

女姉「…あたし見栄っ張りなのよ、どうしようもなくね、いちいちどうしてもお高く止まってなきゃ気がすまない感じでね」

女姉「これが私なんだー凄いだろーこんなこと知ってるぞー、だなんて見せびらかせないと生きられないわけ…」

女姉「そうこうしてると、あれよあれよのまに、案外近くに男友達が出来てて」

女姉「これがまたシンプルに意識高い奴が、『どうだ…? この俺ならお前と引けをとらないモノを持ってるぞ…?』なんてドヤ顔で迫ってくるの」

男「へ、へー…」

女姉「あたしもあたしで見えを貼りたいから、邪険に扱わずそれとなーく受け流してたら…コレよ、まいっちゃったわ、あははっ…はぁ~…」ズーン

男「こ、告白されて…後に引けなくなったと…」

女姉「うん…みっともない話でしょ…」

男「す、すみません。どうにもこうにも俺にとっちゃ規格外の話しすぎてよく…」

女姉「そお? 君だって今日は合コン来ちゃってるじゃん」

男「おおう…それは…」

女姉「あはは、まあ何となくわかるけどねー。あの娘、今は親に連れられて実家に帰ってるし、寂しかったんでしょ?」

男「……」

女姉「うん?」

男「実は少し…ちっとだけ反抗意識っていうか、こんなこともあったんだぜーなんて、いっちょ煽ってみようかなぁーなんて…」

男「今にしてみればアホなことしたなとマジで反省してるんすけどね…いや、これも彼女の姉ちゃんに言うセリフじゃないなんっとに…」ガシガシ

女姉「……」ポカーン

男「ど、どうしたんスか? あ、俺なんかやべーこといいましたよねやっぱり!?」

女姉「あ、ううんっ! ごめんねっ? まさかって言うか本当に思った通りの理由で驚いったっていうか…」

男「へっ?」

女姉「あのさ、キミちょっと性格変わった?」

男「わ、わからないっすけど…なんか気になることありました…?」

女姉「うん…なんかね以前会った時みたいな【必死さ】が無いっていうか、むしろ人間味が戻ってきたというか」

男「必死さ?」

女姉「あれだけ妹のことに執着してたのに、すっかり抜け落ちてるかなって。別に嫌いになったわけじゃないでしょ? 妹のこと?」

男「めちゃくちゃ大好きですよ!」

女姉「そっか。そうだよね、だからこそ合コンなんて来て、それをダシに妹を困らせようと考えてたんだもんね」

男「…ハイ…」シュン

女姉「くすくす、だから言ってるの。そんな駆け引きみたいなことする子じゃなかったよなーってさ」カチャッ

女姉「そっかそか。まだ大好きで居てくれたか、妹のこと」ニヤニヤ

男「…うぐっ…」カァァア

女姉「君の考えは間違ってないと思う、コレお姉さんからの助言ね。あの子は疎いっていうか、こと恋愛とかになると変な言い訳を口走るし」

男「言いワケ?」

女姉「縄張りだとか、噛み付くとか、匂いとか?」

男「あぁそれ多分本音だと思いますけど…まだ言ってんのか、アイツ」

女姉「そうなんだ、あはは、姉の私よりすっかり君のほうが分かってあげられてるね」

男「…うっす」

女姉「別に気を使わないで良いから、私は私で今の立ち位置で納得してる。そう君が入ってくれたじゃない、そうでしょ?」

女姉「むしろ嬉しいわ。君のようなやつが彼氏で居てくれて、私の気苦労が減るしね」

男「……」コクリ

女姉「ふぅー結構長くお喋りしちゃったかな? ま! もうこんな時間…君門限とか大丈夫?」

男「あ、大丈夫っす! お袋がうるさいですけど、まあ別に言うほど面倒じゃないんで!」

女姉「くす、そっか。ならここでお別れね、久しぶりに君と話せて良かったわ」

男「そ、そうっすね。今度はこんなびびった出会い方じゃなくて普通な感じで、また」

女姉「アハハ! うんうん、確かにねー」


自宅


男「…今日の俺は酷い勘違いをやっちまった」

男(なにが困らせてみようだよ、たしかにアイツは連絡一つも寄こさず一人勝手に自由気ままに生きてる奴だ)

男(それを不満に感じても、やっていいことと悪いことがある。最低だ、俺は超最低だ)スッ…

男「合コンなんてジャンクフード食べて骨がスッカスカ共のナヨナヨした人間が行う不純! 俺は違う白飯大好きだ!」カッ!

男「──日本男児たるもの、巧妙に仕組まれた罠に嵌められこそすれ…」

男「…この集中力を持ってして湧き出る欲望に喝をいれる…」


男「カァーッ! 悪霊退散ッ! 南無阿弥陀仏ッ! ナンミョウホウレンソウッ!」


男「……」スッ

男(もう…もう一秒前までの俺は存在しない…ビバ・ニュー俺…ここに承り参上する…)

prrrrrr

男「ああ、俺だ」カチャ

『うわっ? え…えっと…この電話は男さんの携帯電話…とかで間違いないでしょうか…?』

男「何を言う。むろん、俺の携帯で間違いないに決まってる」

『ほ、本当に…?』

男「二言なし」

『はぁ~…驚いた…何なんだよ君はびっくりしたじゃないか! 急にひっくいトーンで出るから他人かと思ったぞ!?』

男「それは失礼した、この男。世に生を受けたばかりで何も分からぬ身の上の為…」

『だから、さっきからその変な口調はなんなのさ…会話しにくいからやめてくれ』

男「お前に言われたくねえ!」

『うるさい!』

男「はぁ、んだよ人が真剣に悔い改めてるとこで…」

『悔い改め? あぁ、今日の合コンのこと? ごめん、僕が君を誘ったからこうなったことは…本当に申し訳ないと思ってる』

男「別にいいよ。お姉さんにも許してもらったし、気づけたこともあったしな」

『……。そう言ってもらえるとありがたい、何をどう謝ればいいのか散々迷ってたからね。君が断言してくれるのなら、僕としても気が休まるばかりだ』

男「それで?」

『あぁ、うん。カラオケから君とお姉さんが居なくなったから気になってたのだけど…上手く話はつけたみたいだね』

男「まあな、色々とお姉さんも大変みたいだったよ」

『だろうね。まあ同情はしないけど、僕としては願った展開に違いはないからさ』

男「…今度からどうにかしたい問題があったら、普通に頼めよ。こういうのが一番心臓に悪い」

『…ごめん』

男「別に責めてるわけじゃねえっての。それともなんだ、普通に頼んでも聞いてもらえないと思ってたのかよ」

『…実は少しだけ』

男「バカ言え。確かにお前とはメンドクセェことあったけど、今は今だ」

男「変に遠慮なんかするんじゃねえよ。良いように使われたことよりも、そっちのほうが腹が立つ」

『……』

男「今度からは素直に相談してこい、わかったか?」

『…ありがとう』

男「うむ」コックリ

『君は本当に…なんていうか…図太いって言うか、神経が磨り減ることを知らない人間だね』

男「何故このタイミングで暴言を吐くのかお前は…」

『一応褒めてるんだよ、これは』

男「なら単純に褒めろよ、分かりやすい言葉のほうが伝わりやすいだろ?」

『じゃ、じゃあ言うけど? 良いの?』

男「どうぞ」

『…かっこいいと思う…』ボソリ

男「おおぅ…」

『ほら微妙な空気になったーッ!』

男「な、なんていうか素直に褒められると、ちと気持ち悪いんだな…」

『気持ち悪い!? ぐっ…やっぱ君のことは大っ嫌いだッ! 死ねッ!』ブツン

男「……死ねは酷すぎる」ピッ

男「ふぅ、色々と問題は解決できた。今回で俺がきょうくんとなったことは…」

男(やれることを全部やって、それから行動しろだ)ピラリ

男「アイツから渡された電話番号のメモ───もうひとつの電話番号…」

男(かからないし、かかって来ないからと愚直に迷うな。やれることを全部やれ、よし)

男「…一体誰につながるか分かったもんじゃねえが、アイツの縁のある人物に間違いないだろ」prrrrrr

男(誰だ…知らない番号…実家か…それとも普通にアイツの家か…まさかの父親の携帯とかやめろ…やめろよ…?)ドッドッドッ

カチャ

男「あぁうッ!? モッシモシーッ!?」びくん

『っ…!』

男(で、電話越しでも分かる息を呑む音…まずい、変な声をビビらせちまった…! 耐えろ俺!)

男「あのでしゅねッ! こちらは…ッ」

『あ…』

『…キミは男くん…なの…?』

男「彼女さんと良くさせてもらってる男という───……はい?」

『そう、だよね…? 男君だよね…?』

男「え、ええ。そうですけど、あれ? この声……お姉さん?」

『う、うん』

男「はっ………はぁあぁあぁああ~~………お姉さんでしたか…良かった…あぁ父親とかじゃなくってよかったぁ~……」

男「じ、実はですね、アイツから電話番号が書かれたメモにかけた所……」

『ま、待って、それよりも…ちょっと良いかな』

男「は、はい?」

『……ううん、なんでもない、気にしないで』

男「えっ?」

『ピーヒャラリ~』

男(? 近くからラッパのような……これってチャルメラ? 外にいるかお姉さん…?)

『それじゃ、もう切るね』

男「あ、待ってくださいお姉さん、こんな時間に出かけてて大丈夫なんすか…?」

『あ…ッ!』

男「お姉さん?」

『きゃあっ!? な、なんで…来ないでよ! 嫌ッ!』

男「! お姉さんッ!?」


ブツン


男「………」スッ

カサカサ がさっ ごそごそ!

男「居るんだろ、出てこい」

ネズミ「チュー!」

男「ピーナッツ」

ネズミ「チューチュー」

男「あぁ、ちょっと仲間を呼んで探して欲しい。美味しそうな匂いを引っ張る人間、それと変な音を鳴らしてるヤツだ」

ネズミ「チチッ」

男「出来るか?」

ネズミ「チ!」

男「良い返事だ。後でピーナッツ沢山やってやる、頼んだぞ」コショコショ


タタタタタ


男「…俺も行くか」ガタッ


~~~~

女姉「……はぁ…」

ジャリ

女姉「ぁ…」びく


「良かった、無事で」


女姉「ぇ…どう、してキミが…ここに…」

「どうしても何も、来るに決まってるじゃないですか」

男「──大事なお姉さんっすもん、全力で探しますよ」

女姉「……」

男「大丈夫っすか? 怪我、とかは見た目ないっぽいですけど…立てますか?」スッ

女姉「…っ」バッ

ぎゅうっ

男「うっひゃいっ!?」

女姉「ごめんなさい…ちょっとだけ…少しの間だけ抱きつかせて…」ブルブル

男「おっ…おおう…う、うっす…わかり、ました…」

女姉「……」ギュッ

男(どうしよう! こういった時って俺何すればいいの!?)チラリ

女姉「……」ブルブル

男(…た、試しに抱きつき返してみるとか…あ、安心させるためにも…)スッ


チャララーララ ちゃらららら~


おっさん「よっ! 熱いねそこのお二人さん! ヒューヒュー!」

男&女姉「っ!?」ばっ


~~~~~


男「ずぞぞぞ…うわっ美味しい…」

女姉「こんな時間にラーメン…」

男「お、美味しいですよコレ! 食べたほうが絶対に良いですって!」

女姉「ううっ…」ズゾゾ

女姉「わっホントだ美味しい…」

おっさん「あんがとなぁ~!」

男(夜に食べる屋台のラーメン…親父から聞いてたけどマジで美味いな…)ズゾゾ

女姉「…何も聞かないのね、あんた」

男「うぇっ?」

女姉「ううん、なんでもない」フルフル

男「……」

女姉「ちゅるる」

男「別に、言いたくなかったら言わなくて良いですって」

女姉「…」

男「お姉さんが無事ならそれで構わないっていうか、言いたくないことなら…俺も訊かないし」

女姉「…そっか、あんた優しいのね」

男「あははっ」

男「いや、優しいって言うか、面倒臭いことが嫌なだけっていうか…それだけなんで」

女姉「なら、私なんて放っておいて一緒にラーメンなんて食べなきゃ良いじゃない」

男「あーそうっすね、確かに。でも一緒にラーメン食べれて、俺嬉しいですし、いい機会かなって」

女姉「いい機会?」

男「お姉さんとは色々と、まぁ本当に色々とあったから…こうやって落ち着いて喋れる機会は珍しいと思えるんスよね」

女姉「……」

男「勝手な俺の考えなんで、無視してくれても構わないっす」ズゾゾ

男「──でも、俺は心配してますから、言いたいことがあったら聞くぐらいは出来ますよ」

女姉「うぇっ」

男「うえ?」

女姉「ひっぐ…うぇえっ…あぁあっ…ぐすっ…」

男「えええっ!? なんで泣くんスか!? えっ!? ちょっと!?」

女姉「ガキのくせに何優しい言葉吐くんだよコノヤロォっ! うわぁああああっ!」ガチャン

男「ちょ、ちょっと…んな急にガチ泣きをされても…!」

女姉「そうやって妹も落としたんだな畜生がぁあっ」

男「なにいってるんすかマジで!?」

女姉「ぐすっ…」

男「…っ」オロオロ

女姉「…来て」ボソリ

男「えっ?」

女姉「これから…家に…ぐす…話したいから…」スッ

ぎゅっ

男「うっ?!」

女姉「──私のアパート、来て」


アパート


女姉「そこのクッション使っていいから、座って待ってて。お茶いれてくるから」カチカチ

男「ハイッ!」

女姉「…緊張しすぎ」

男「ハイッ! …あ、すんません…」

女姉「くす、ばかね」スタスタ

男「…っ…っ…」ドッドッドッ

男(来ちゃったよお姉さんのアパート着ちゃたよ俺!?)

男「うっ」キョロキョロ

女姉「あんまり女の子の部屋を見渡さない、失礼だよ」

男「うっひゃい!? しゅんましぇんっっ!」

女姉「だから緊張し過ぎだってば」

男「そ、そんなこと言われましても…」ソワソワ

女姉「…ごめんね、なんか連れ込んじゃって、恐いよね」

男「恐くなんて! 全然!」

女姉「そう?」

男「…むしろいい経験が出来てるっていうか…」

女姉「あ、やっぱりー? 年上の女性の家にお呼ばれなんて高校生にとっちゃ感激モノだったりするんだー?」

男「……」カァアア

女姉「あはは! キミ、本当にすぐ顔に出るね、いい子だなー可愛いなー」コトリ

女姉「はい。烏龍茶、コレでも飲んで少しは緊張和らげでもしたら?」

男「アリガトウゴザイマス」ゴクゴクゴクッ

女姉「うんうん」

兄「ああ、選んだともさ。でも断られた、ばっさりぐっさりとどめを刺された」クス

眼鏡「…なんて言われた?」

兄「くっく、酷いことを訊くもんだよ」

眼鏡「あ、ごめん…」

兄「いいや、良い。こう言われたよ──」


『アンタは良いヤツだよ。そして偉いと思う、でもそれは正解じゃないな』

『時に人の優しさは物事を覆して、ごちゃごちゃにして、周囲へと迷惑を掛けることもあるんだよね』

『あたしには無理だ。みんなを裏切れない、あんたの優しさを受け取れられない』


兄「…よく憶えてる、忘れられんなやっぱ」

眼鏡「それ…は…」

兄「時には酷いことをしなくちゃ駄目なんだとよ、応援されたよ。酷い男であり続けろとさ」

兄「…みんな好きから始まってしまえば、もう、オレだけの想いじゃどうにもならない」

眼鏡「……」

兄「良いか、弟よ。優しくて頑固で、可愛い可愛い弟よ」スッ

誤爆

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年08月11日 (木) 15:33:04   ID: C5UTXtli

続きまだ?(´・ω・`)

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