面接官A「ところで、あなたの趣味は?」
男「人間観察です」
面接官A「人間観察ゥ~?」プッ
面接官B「ハハ……それは変わった趣味ですね」
女面接官「観察というのは、たとえばどのような感じで?」
男「人をじっくりと観察して……その人の人生を感じることが好きなんです」
男「あとは……人が驚いたり焦ったりするところとかも好きです」
面接官A(“とか”なんて使うんじゃねーよ)
面接官A「ふぅ~ん、ずいぶんと変わった趣味だねえ」
男「どうも」
面接官A「で、その人間観察とやらが当社で働く上でなにか役に立つと思うかい?」
男「さぁ、それは分かりません」
男「ですが……せっかくですから、今ここでちょっとやってみせましょうか?」
面接官A「!」
面接官A「今、ここで……?」チラッ
面接官B「いいんじゃないですか?」
女面接官「まだ時間はありますし……」
面接官A「よぉ~し、じゃあちょっとやってみせてくれよ」
面接官A「キミの人間観察とやらをね」
男「分かりました」
男「…………」ジッ…
面接官A(ふん、なぁ~にが人間観察だ、下らん)
面接官B(不気味な目つきだなぁ、彼はもう不採用だな)
女面接官(この面接はすぐに切り上げて、次の人の準備をしとかないと)
男「そちらの面接官さん」
面接官A「ワタシかね?」
男「お昼は……うどんを食べましたね?」
面接官A「な!? なんでそれを……」
男「歯カスがついてますよ。ほんのちょっとですがね」
面接官A「あっ……」
面接官A(ビックリさせやがって……クソッ!)
男「それと……身長と体重」
面接官A「?」
男「身長は170.5cm、体重は……イスのきしむ音から判断して」
男「72kgってとこですかね」
面接官A(くっ、当たりだ!)
面接官A「な、なるほど……なかなかやるじゃないか」
男「どうも」
男「あと……あなたの出身地は東北の××県ですね?」
面接官A「ゲェ!?」
面接官A「な、なんで……!?」
男「標準語をしゃべってるつもりでしょうですが、イントネーションで丸分かりですよ」
男「あなたがどこ出身かぐらいはね」
面接官A「…………!」
男「ああついでにもっと細かくいうと、××県△△市ってところでしょう」
面接官A(あ、当たってやがる……!)
男「あと体格と手のひらから察するに……野球をやられていた?」
面接官A「!」ギクッ
男「ですが、あなたのこれまでの言動から推測できる精神性から考えて──」
男「おそらくレギュラーは経験していない。まあまあ強い高校だったのでしょう」
男「あの地域で野球がまあまあ強い高校というと──」
男「出身校は◎◎高校ってところかな?」
面接官A(な、なんで分かるんだよ! なんで……!)
男「おや、汗をかいてますね」
面接官A「うぐっ!」
男「発汗と浮き出ている血管から判断して──血圧は上170、下105」
男「高めですね」
男「それを気にして、うどんも汁は飲まなかったんでしょう? ホントは飲みたいのに」
男「その不満が、先ほどから微妙に表情にあらわれてましたよ」
面接官A「あうあ、あああ、あ……」
面接官B「…………!」
女面接官「…………!」
男「さて、ズバリ名前を当ててみましょうか」
面接官A「な、なんだと!? バカな、そんなことできるわけが──」
男「分かるんですよ」
男「名は体をあらわす、といいますし」
男「あなたをじっと見れば……名前は浮かび上がってきます」
男「名字は、S木、名前は……T彦ってとこかな?」
面接官A「うわぁぁぁぁぁっ!!!」ガタッ
面接官A「なんなんだよ、お前!? なんなんだよ!? えぇぇ!?」
面接官B「ちょ、ちょっと落ちついて!」
女面接官「落ちつきましょう!」
面接官A「ハァ……ハァ……ハァ……」ドスン…
男「…………」クンクン…
男「ニオイがする……」クンクン…
男「おい、T彦」
面接官A「名前で呼ぶなァ! しかも呼び捨てって!」
男「S木さん」
面接官A「だからやめろ! 面接官さん、でいいよ!」
男「失礼、面接官さん」
男「ゆうべはお楽しみでしたね」
男「ほんのわずか、股間から漂ってますよ。ニオイがね」
男「ちなみに先ほど立ち上がった時、腰に疲労を覚えていましたね」
男「つまり、相手はけっこう若い……いわゆる不倫ってやつで──」
面接官A「やめろォォォォォッ!!!」
男「それと──」
面接官A「やめろォ! やめろォ! やめてくれェェェ! もういいッ!」
面接官A「ゼェッ……ハァッ……ゼェッ……ハァッ……」
面接官B「…………」ゴクッ…
女面接官「…………」
面接官A「ううう……! ううう、ううううう……!」ハァ…ハァ…
男「私……どうしても御社に就職したいんですよね」
男「分かっていただけます? 私の気持ち」
面接官A「わ、分かった……! 分かったよ!」
面接官A「だ、だから……頼む! もう帰ってくれ……!」
面接官A「きっといい返事がいくから……」
男「ちなみに今のあなたの住所もだいたい分かりました。住所は──」
面接官A「絶対いい返事いくゥゥゥゥゥ!!!」
面接官A「いくからァァァァァァァァァァ!!!」
男「本日はありがとうございました。失礼いたします」バタン…
面接官A「うう……なんなんだよ、あいつ……」
面接官A「うううぅぅ~~~~~っ! あうぅぅぅぅ~~~~~~っ!」
面接官B(私は観察されなくて、よかった……)
女面接官(とんでもない男だわ……)
面接後──
探偵「へっへっへ、どうだった?」
男「どうも」
男「あなたの調査のおかげで、面接はバッチリでした。ありがとうございます」
探偵「へへへ、しっかしアンタもすごいこと考えるねえ」
探偵「まさか、面接官の一人を当日の行動まで徹底的に調査して」
探偵「それを利用して就職面接に合格しようだなんてさ」
男「これ、調査費の残りです」スッ
探偵「へへへ、毎度」パシッ
男「ところであなた、私が来るまではあのカフェでコーヒーを飲んでましたね?」
探偵「!」
男「ニオイで分かるんです」クンクン…
男「砂糖は入れず、入れたのはミルクだけ、だな……」
男「若干、血糖値が高いようですからね。気にしておられるのかな?」
探偵「!」ギクッ
男「あと妙にテンションが高いのは、カフェでキレイな店員さんを見かけたからかな」
探偵「!」ギクギクッ
男「あなたの性格と、思考回路から察するに……」
男「あなたの好みの女性のタイプはずばり、女優のG力だ」
男「その店員さん、きっとG力に似てたんじゃないんですか?」
探偵「なんでそんなことまで……!」
探偵「もしかして……アンタ、俺にわざわざ調査なんざさせなくても」
探偵「あんな面接官の秘密の一つや二つ、面接の最中に握れたんじゃねえのか?」
男「好きなんですよ……」
男「人が焦ったり驚いたりするのを、観察するのが……」
男「あの面接官や、今のあなたみたいにね」
男「ちなみに、あの会社に就職するつもりもありません」
男「採用通知が来るでしょうが、すぐに辞退します」
男「ただ……ちょっと楽しみたかっただけなんです」
男「それじゃ」スタスタ…
探偵「…………」
探偵「趣味は……人間観察、か……」
END
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