男「趣味は人間観察です」面接官「人間観察ゥ?」プッ(33)

面接官A「ところで、あなたの趣味は?」

男「人間観察です」

面接官A「人間観察ゥ~?」プッ

面接官B「ハハ……それは変わった趣味ですね」

女面接官「観察というのは、たとえばどのような感じで?」

男「人をじっくりと観察して……その人の人生を感じることが好きなんです」

男「あとは……人が驚いたり焦ったりするところとかも好きです」

面接官A(“とか”なんて使うんじゃねーよ)

面接官A「ふぅ~ん、ずいぶんと変わった趣味だねえ」

男「どうも」

面接官A「で、その人間観察とやらが当社で働く上でなにか役に立つと思うかい?」

男「さぁ、それは分かりません」

男「ですが……せっかくですから、今ここでちょっとやってみせましょうか?」

面接官A「!」

面接官A「今、ここで……?」チラッ

面接官B「いいんじゃないですか?」

女面接官「まだ時間はありますし……」

面接官A「よぉ~し、じゃあちょっとやってみせてくれよ」

面接官A「キミの人間観察とやらをね」

男「分かりました」

男「…………」ジッ…

面接官A(ふん、なぁ~にが人間観察だ、下らん)

面接官B(不気味な目つきだなぁ、彼はもう不採用だな)

女面接官(この面接はすぐに切り上げて、次の人の準備をしとかないと)

男「そちらの面接官さん」

面接官A「ワタシかね?」

男「お昼は……うどんを食べましたね?」

面接官A「な!? なんでそれを……」

男「歯カスがついてますよ。ほんのちょっとですがね」

面接官A「あっ……」

面接官A(ビックリさせやがって……クソッ!)

男「それと……身長と体重」

面接官A「?」

男「身長は170.5cm、体重は……イスのきしむ音から判断して」

男「72kgってとこですかね」

面接官A(くっ、当たりだ!)

面接官A「な、なるほど……なかなかやるじゃないか」

男「どうも」

男「あと……あなたの出身地は東北の××県ですね?」

面接官A「ゲェ!?」

面接官A「な、なんで……!?」

男「標準語をしゃべってるつもりでしょうですが、イントネーションで丸分かりですよ」

男「あなたがどこ出身かぐらいはね」

面接官A「…………!」

男「ああついでにもっと細かくいうと、××県△△市ってところでしょう」

面接官A(あ、当たってやがる……!)

男「あと体格と手のひらから察するに……野球をやられていた?」

面接官A「!」ギクッ

男「ですが、あなたのこれまでの言動から推測できる精神性から考えて──」

男「おそらくレギュラーは経験していない。まあまあ強い高校だったのでしょう」

男「あの地域で野球がまあまあ強い高校というと──」

男「出身校は◎◎高校ってところかな?」

面接官A(な、なんで分かるんだよ! なんで……!)

男「おや、汗をかいてますね」

面接官A「うぐっ!」

男「発汗と浮き出ている血管から判断して──血圧は上170、下105」

男「高めですね」

男「それを気にして、うどんも汁は飲まなかったんでしょう? ホントは飲みたいのに」

男「その不満が、先ほどから微妙に表情にあらわれてましたよ」

面接官A「あうあ、あああ、あ……」

面接官B「…………!」

女面接官「…………!」

男「さて、ズバリ名前を当ててみましょうか」

面接官A「な、なんだと!? バカな、そんなことできるわけが──」

男「分かるんですよ」

男「名は体をあらわす、といいますし」

男「あなたをじっと見れば……名前は浮かび上がってきます」

男「名字は、S木、名前は……T彦ってとこかな?」

面接官A「うわぁぁぁぁぁっ!!!」ガタッ

面接官A「なんなんだよ、お前!? なんなんだよ!? えぇぇ!?」

面接官B「ちょ、ちょっと落ちついて!」

女面接官「落ちつきましょう!」

面接官A「ハァ……ハァ……ハァ……」ドスン…

男「…………」クンクン…

男「ニオイがする……」クンクン…

男「おい、T彦」

面接官A「名前で呼ぶなァ! しかも呼び捨てって!」

男「S木さん」

面接官A「だからやめろ! 面接官さん、でいいよ!」

男「失礼、面接官さん」

男「ゆうべはお楽しみでしたね」

男「ほんのわずか、股間から漂ってますよ。ニオイがね」

男「ちなみに先ほど立ち上がった時、腰に疲労を覚えていましたね」

男「つまり、相手はけっこう若い……いわゆる不倫ってやつで──」

面接官A「やめろォォォォォッ!!!」

男「それと──」

面接官A「やめろォ! やめろォ! やめてくれェェェ! もういいッ!」

面接官A「ゼェッ……ハァッ……ゼェッ……ハァッ……」

面接官B「…………」ゴクッ…

女面接官「…………」

面接官A「ううう……! ううう、ううううう……!」ハァ…ハァ…

男「私……どうしても御社に就職したいんですよね」

男「分かっていただけます? 私の気持ち」

面接官A「わ、分かった……! 分かったよ!」

面接官A「だ、だから……頼む! もう帰ってくれ……!」

面接官A「きっといい返事がいくから……」

男「ちなみに今のあなたの住所もだいたい分かりました。住所は──」

面接官A「絶対いい返事いくゥゥゥゥゥ!!!」

面接官A「いくからァァァァァァァァァァ!!!」

男「本日はありがとうございました。失礼いたします」バタン…



面接官A「うう……なんなんだよ、あいつ……」

面接官A「うううぅぅ~~~~~っ! あうぅぅぅぅ~~~~~~っ!」

面接官B(私は観察されなくて、よかった……)

女面接官(とんでもない男だわ……)

面接後──

探偵「へっへっへ、どうだった?」

男「どうも」

男「あなたの調査のおかげで、面接はバッチリでした。ありがとうございます」

探偵「へへへ、しっかしアンタもすごいこと考えるねえ」

探偵「まさか、面接官の一人を当日の行動まで徹底的に調査して」

探偵「それを利用して就職面接に合格しようだなんてさ」

男「これ、調査費の残りです」スッ

探偵「へへへ、毎度」パシッ

男「ところであなた、私が来るまではあのカフェでコーヒーを飲んでましたね?」

探偵「!」

男「ニオイで分かるんです」クンクン…

男「砂糖は入れず、入れたのはミルクだけ、だな……」

男「若干、血糖値が高いようですからね。気にしておられるのかな?」

探偵「!」ギクッ

男「あと妙にテンションが高いのは、カフェでキレイな店員さんを見かけたからかな」

探偵「!」ギクギクッ

男「あなたの性格と、思考回路から察するに……」

男「あなたの好みの女性のタイプはずばり、女優のG力だ」

男「その店員さん、きっとG力に似てたんじゃないんですか?」

探偵「なんでそんなことまで……!」

探偵「もしかして……アンタ、俺にわざわざ調査なんざさせなくても」

探偵「あんな面接官の秘密の一つや二つ、面接の最中に握れたんじゃねえのか?」

男「好きなんですよ……」

男「人が焦ったり驚いたりするのを、観察するのが……」

男「あの面接官や、今のあなたみたいにね」

男「ちなみに、あの会社に就職するつもりもありません」

男「採用通知が来るでしょうが、すぐに辞退します」

男「ただ……ちょっと楽しみたかっただけなんです」

男「それじゃ」スタスタ…



探偵「…………」

探偵「趣味は……人間観察、か……」





END

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