更新遅いです。
台本形式と地の文の混合です。
短編の予定です。
百合要素あり。
基本的にはPKE。
以上のことが大丈夫な方は
どうぞお付き合いください。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1420556406
――――――
希「えりちはポンコツさんやから」
ウチは目の前の彼女にそう言った。
たぶんウチの口元には笑みが浮かんでたと思う。
それを見て、彼女、にこっちは
にこ「……まぁ、否定はしないわ」
そんな言葉を返した。
やっぱり、そこら辺はウチらの共通認識やんな。
たぶん、真姫ちゃん辺りもそう思ってるはず。
にこ「そのポンコツとつるんでるあんたも大変ね」
希「ウチは好きでやってることやし?」
にこ「好きは好きでも、物好きってやつね」
呆れながらそう言うにこっちに、ウチは乾いた笑いを返すしかない。
だって、にこっちの言う通りだから。
えりちこと、絢瀬絵里。
ウチの大親友で、生徒会長の君。
さらには、ウチやにこっちも所属するスクールアイドル『μ's』のお姉さん的なポジションにいる彼女。
それだけなら、完璧超人以外の何者でもないように聞こえる。
しかし、それは決して彼女の本質を捉えてない。
彼女の本質。
それはつまり――
――――――
エリチカ「のぞみ! 購買でチョコレート買い占めてきたチカ!」
――――――
希「返してきなさい」
そう。
彼女の本質は、『ポンコツ』さんなのだ。
――――――
――――――
放課後。
ウチらはダンスの練習をしていた。
屋上で九人全員が集まって行う練習だ。
屋上に響くのは、えりちのダンスを指導する声。
それに、パンパンという、彼女が手を叩いて出す音。
絵里「花陽、テンポ遅れてるわよ!」
花陽「は、はいっ!」
えりちの指摘に、花陽ちゃんが応える。
それのおかげで意識し直したようで、ウチの前にいる花陽ちゃんの動きが少しだけ速くなった。
絵里「ワン、ツー、スリー……」
それからは、他に指摘されるようなところはなく……。
絵里「はい、フィニッシュ!」
ほのりん「「いえーい!」」
ビシッと決まったっ!
穂乃果ちゃんと凛ちゃんの声は、そんなウチの内心を代わりに叫んでくれてるようにも思えた。
数秒して、緊張が解ける。
そして、そのまま皆、座り込んだ。
絵里「OK。それじゃ、少し休憩にしましょうか」
それを見て、すかさずえりちがそう言った。
希「……ふぅ」
ひとつ、息を吐く。
と、そこで、Tシャツがじっとりとしていることに気づいた。
どうやら、自分が予想しているよりもずっと汗をかいていたみたいやな。
水分水分っと!
水分補給のために、水筒をとろうとするウチ。
そんなウチの目の前に、
絵里「…………のぞみ」
希「あ、えりち」
えりちがいた。
荷物置場とウチの間に立ち塞がるように立っている。
どうしたん?
そう聞くと、えりちは
エリチカ「のぞみ、今日もキレッキレだったチカ!」
なんて、目をキラキラさせながら言ってきた。
最近は、いつもそう。
なぜかウチのことを大絶賛してくるのだ。
さっき、花陽ちゃんに指導してた人とは別人みたいやね。
そう思いながらも、言葉を返す。
希「ありがとな。でも、それもえりちの指導がいいからやと思うよ」
この台詞に間違いはない。
ダンスに関して言えば、ウチや皆が上達したのはえりちのおかげやし。
でも、えりちは、
エリチカ「そんなことないチカ! のぞみがすごく頑張ってるからチカ!」
希「そ、そんなこと……」
エリチカ「ある! いつものぞみが自主練してるのも知ってるチカ」
希「あぅぅ……」
なぜか、いつも以上に誉め殺してくる。
しかも、顔をぐっと近づけて――。
希「近い! 近い!」
エリチカ「?」
どんどん近づいてくるえりちを、押し戻す。
あかんよ。
流石のウチも、そんなに誉められて、その上えりちの顔がすぐ近くにあったら、照れてしまうやん……。
いきなりの不意打ちに、顔が赤くなってきてるのが自分でも分かる。
だから、少し俯くのだけれど、
エリチカ「!? のぞみ、顔が赤いチカ!」
えりちは放っておいてくれない。
希「な、なんでもない、なんでもないからっ」
なんて、えりちに顔が見えないよう、さらに俯く。
けれど、そんなのえりちには全く意味がなくて、さらにえりちはウチの顔を覗き込んでくる。
希「え、えりち……いいから……」
エリチカ「…………」
希「…………」
エリチカ「…………」
俯いていても、えりちは距離を詰めてくる。
近づいて、近づいて、近づいて。
そして、
エリチカ「えいっ!」
希「っ!」
おでこが重なる。
瞬間、突き飛ばしてしまいそうになるのをなんとか堪えた。
ここで突き飛ばしてしまったら、ポンコツえりちは、きっと嫌われたなんて思ってしまう。
そんなんは嫌やから。
でも、
希「~~っ!!!」
エリチカ「や、やっぱり熱いチカ!」
突き飛ばせないなら、ずっとこのままなわけで。
えりちの綺麗な顔がすぐ目の前にあったら、顔が赤く、熱くなってしまうのは当然のことだった。
けれど、そんなウチの様子を勝手に風邪と判断したえりちは――
エリチカ「はやく、保健室に行くチカァァ」
希「ちょ、えりち!?」
結局、ウチは強引に手を引かれて、屋上から連れ出されてしまったのだった。
――――――
――――――
穂乃果「絵里ちゃんと希ちゃん、行っちゃったね」
花陽「う、うん」
真姫「なんだか、鬼気迫るものがあったわね」
凛「凛はもう少し休めそうだから、なんでもいいにゃぁ……」
にこ「……はぁ」
海未「……練習はどうするのですか」
ことり「ふふふふ♪」
――――――
――保健室
希「…………」
エリチカ「えぇと、体温計は……」
えりちに強制連行されてやってきた保健室。
幸か不幸か、保健室の先生はいなかった。
ともかく、ただ照れで顔が赤くなっただけなんてことが知られたら、恥ずかしくてしゃあないし……。
希「え、えりち?」
エリチカ「なにチカ? エリチカは体温計を探すのに忙しいチカ!」
えりちは机の上にある体温計に気付かず、必死に別の場所を探している。
ほんと、抜けているというか……。
普段は少し呆れてしまうようなところでも、今は好都合やね。
よし、今のうちに……。
希「あ、体温計見つけた」
エリチカ「!」
希「早速、測らせてもらうな?」
机の上の体温計をとって、脇にはさむ。
こくこくとえりちは頷いて、ウチの目の前に座った。
ウチは、そんなえりちを見ないように、下を向いてじっと体温を測ることにする。
エリチカ「…………」
希「…………」
二人の間に沈黙が流れる。
真剣な瞳でウチのことを見守るえりち。
正直、やりにくい。
そんな真剣に待ってても、結果は変わらんし。
なぜか気まずい雰囲気から逃れるために、ふと思考を巡らせる。
今日の晩御飯のこととか、今頃みんなは何をしてるかとか、えりちのこととか。
………………あれ?
色々なことを思い浮かべていたら、ふと、ある疑問にたどり着いた。
そういえば、えりちって、いつからこんなキャラやったっけ?
こんな、って言うのは、もちろんこんな『ポンコツ』なキャラのこと。
今はこんな風になっているのは確かだとして。
しかし、昔はこんな風じゃなかったはずだ。
例えば、一年生の時。
張り詰めたような雰囲気を持ったえりちを、ウチは見ている。
そんなえりちだったから、話しかけたわけやし。
じゃあ、二年生の時は?
生徒会長になったえりち。
その時は、多少抜けていることはあっても、確かにしっかり者の生徒会長だったはず。
なら、今年は?
どうにか廃校を阻止しようと、必死になっていたえりちを思い出す。
あの頃は、どこか痛々しいまでに余裕がなかった。
だけど、少なくともポンコツではなかった。
…………あれ?
思い返せば、μ's に入った頃だって、柔らかくはなったけれど、こんな別の意味で痛々しい姿にはならなかった。
…………あれ?
じゃあ、一体いつから?
――ピピピピピ――
希「っ!?」
そこで、現実に引き戻された。
体温計が計り終わったことを知らせてくれている。
エリチカ「鳴ったチカ!」
希「そ、そうやね」
体温計を脇から取り出し、液晶を見る。
『36.7』
画面には、平熱を示す数字が写っていて、熱がないことを確かに証明してくれていた。
希「ほら、大丈夫って言ったやん?」
体温計を見せながら、そう言った。
同時に、にかっと笑って見せる。
うん、もう大丈夫。
顔も熱くない。
エリチカ「チカァ……」
そんなウチの様子を見て、えりちはしょんぼりと肩を落とした。
たぶん先走ってしまったことを後悔してるんやろね。
だから、ウチはこう言った。
希「ありがと、えりち。心配してくれたんは嬉しいよ?」
なでなで、と。
えりちの髪を撫でながら。
エリチカ「♪」
そんなこと一つで、単純なえりちは、にこりと笑顔を見せた。
エリチカ「優しいのぞみ、大好きチカ♪」
希「ありがとなぁ、ウチもえりち好きやよ?」
ぎゅっと抱きついてくるえりちの温かさを感じながら、ウチもえりちに言葉を返した。
さっき、覚えた妙な違和感も忘れて――。
――――――
短いですが
今日はここまで。
また夜に更新します。
このssで『絵里がdisられてる』と感じられた方には申し訳ないと思います。
ですが、決して絵里を軽視しているわけではありません。
また、希を神格化しようとしているわけでもありません。
もし気分を害された方がいたなら、お詫びいたします。
――――――
用事があるという、一年生組と別れて、六人で帰路につく。
歩道はそこまで広くはないから、自然と二列になる。
一番前から、海未ちゃんとえりち。
ことりちゃんと穂乃果ちゃん。
そして後ろに、にこっちとウチ。
それぞれが隣の人となにか話していて、それはウチらも例外じゃなかった。
にこ「さっきはどうしたのよ?」
希「あー、やっぱり聞く?」
話題はやっぱりさっきのこと。
突然、練習ほっぽって出ていったらそうなるわな。
にこっちの質問に苦笑いを返して、そんなことを考える。
さて、なんと答えればいいのやら……。
しばらく首をひねって考えていると、
にこ「どうせ絵里が早とちりしたんでしょ?」
そう言って、にこっちはため息を吐いた。
いつものことだし。
そう言葉を続けた。
希「あはは、まぁ、そんなところやね」
あながち間違ってもいないから、そんな風に適当に話を合わせる。
流石に、保健室でのことは恥ずかしくて言えないし。
ふと、意識が前の会話に行く。
ことりちゃんと穂乃果ちゃんは、どうやら今度の休みの日のことを話しているみたい。
海未ちゃんと三人でお菓子を作るとかなんとか。
たぶんことりちゃんの発案やろね。
そして、その前の二人は……。
海未「絵里、明日の練習なのですが……」
絵里「そうね。そろそろ歌唱練習もしないといけないわ」
海未「なら、明日は――」
しっかり者な二人らしく、明日の練習のことを話してるみたい。
……ふむ。
こうして見ていると、ほんとしっかり者なんやけどなぁ。
キリッとした表情で海未ちゃんと話をするえりちには、ポンコツなえりちの面影は全くない。
にこ「ほんと、全然別人ね」
希「え、あぁ。そうやね」
どうやらにこっちも同じことを考えていたみたいで、まるでウチの内心を代弁するようにそう言った。
にこ「まぁ、元々生徒会長やってたくらいだから、優秀ではあるんだろうけど」
確かに、その通り。
えりちは能力だけで言えば優秀で、ウチが仕事をしなくても、ウチがやるより早く仕事を終わらせてくれてたしな。
けれど、
希「ポンコツさんなのが、な?」
にこ「そうね」
二人して苦笑する。
たまに、いや。
ウチの前では、しょっちゅうポンコツになるえりち。
その姿を思い出して、なんとなく頬が緩んでしまう。
なんでやろね?
自分にそんな疑問を投げかけ、ウチは凛々しいえりちの後ろ姿をじっと見つめていた。
――――――
――――――
―― ピンポーン ――
希「んっ……」
朝。
インターホンの音で起こされる。
時計を見ると、時刻は午前七時。
今日は朝練がないから、家を出るにはまだ余裕のある時間。
こんな朝早くに一体誰やろ?
そう思って、のそのそと布団から出る。
希「はーい、今いきまぁす……」
眠気に負けそうな目を擦り、そのまま玄関へ。
一応、チェーンをして、鍵を開ける。
そこには、
希「どちらさまです――」
エリチカ「のぞみ、おはようチカ!」
満面の笑みを浮かべたえりちがいた。
って、え?
希「なんで、えりちが?」
エリチカ「? 昨日の夜に迎えにいくって、メールしたチカ」
希「……あ」
あ、そういえば、そんなメールが昨日の夜にきていたんだった。
こんな早い時間にくるとは思わなかったけれど。
希「とりあえず、上がって」
エリチカ「りょうかいチカ」
外で待たせる訳にもいかないし、とりあえず家に上がってもらう。
うぅぅ。
こんなことなら、もうちょい掃除しておくんやった。
後悔しながら、ウチはえりちを迎え入れた。
――――――
希「それで、こんな早くにどうしたん?」
朝食を一緒に食べ、食後のホットココアをえりちに出しながら、ウチはえりちにそう尋ねた。
朝練もないのに、この時間に来るってことは、なにかしら用事があったんだろう。
そんな風に予想したのだけど、えりちは、
エリチカ「?」
ただ首を傾げるだけ。
その間もしっかりココアは飲んでるけれど。
……はぁ、そうやったね。
ちゃんと言葉にしないと、このえりちは察してくれないんやった。
なにか用事があったんと違うの?
反省を活かして、今度は口に出してそれを尋ねる。
すると、えりちはマグカップを置いて、
エリチカ「ないチカ!」
きっぱりとそう答えた。
えー
ウチ、何もないのに起こされたん?
正直、久々に朝練が休みなんだから、もうちょっと寝ていたかったのに。
なんて、少しだけ不満を覚える。
……けれど。
まぁ、仕方ないなぁって。
えりちがこんなんなのはいつものことやし。
そうやって、納得しようとして、
エリチカ「ただ、早くのぞみに会いたかっただけチカ!」
不意に、そんな言葉を投げかけられた。
同時に、えりちの屈託のない笑顔が目に入ってくる。
希「っ!? …………///」
それを見て、ウチはつい黙ってしまった。
だから、あかんって!
不意打ちはずるいっ!
せっかく、いつもみたいに保護者的な視点で、しゃあないなぁってなったのに。
そんな突然、素直に好意を向けられたら……。
ウチらしくもなく、動揺してしまう。
顔も少しずつ熱くなっていくのが分かる。
だから、
希「ウ、ウチ、着替えてくるなっ!」
そう言って、その場を逃げ出した。
……本当は。
不覚にも、少しだけ、ほんの少しだけ、えりちにときめいてしまった。
そんな事実から逃げ出してしまいたかったんだけど。
――――――
――――――
エリチカ「自販機の下に小銭が入って取れないチカァ……」
希「はいはい、ウチが買ってあげるから。元気だしてな?」
にこ「…………」
――――――
希「ほら、えりち。ほっぺにご飯粒ついてるよ?」
エリチカ「! …………!」
希「いやいや、そっちやないよ」
エリチカ「?」
希「ほら、こっち」
エリチカ「んっ」
希「はい、取れたよ?」
エリチカ「ありがとチカ!」
にこ「…………」
――――――
エリチカ「のぞみ! 今日の練習でペアになるチカ!」
希「あれ? 今日は歌唱練習やなかった?」
エリチカ「あっ! 忘れていたチカァ……」
希「よしよし、明後日一緒に組もうなぁ」
エリチカ「チカァ……」
にこ「…………」
――――――
――――――
にこ「親子かっ!」
希「え、いきなりどうしたん、にこっち?」
放課後の練習の休み時間。
いきなりそう突っ込んできたにこっち。
にこ「いや、今日のあんたらよ!」
希「あんたらって……ウチとえりち?」
にこ「……それ以外にいる?」
まぁ、いない、かな?
にこ「相当だったわよ?」
希「うぅむ」
にこっちに言われて、今日のことを思い返してみる。
休み時間、昼休み、放課後。
……確かに、思い当たる節はある。
そんなウチの様子を見て、にこっちはため息を一つ吐いた後に、こう言葉を続けた。
にこ「絵里がポンコツなのは、しょうがないとして……」
にこ「あんた、甘やかしすぎよ」
にこ「このままじゃ絵里がダメになるわ」
希「……うっ」
にこっちの言葉は、的を射たもので、ウチの心にぐさりと突き刺さった。
一年の頃は、張り詰めたえりちの助けになりたくて、側にいた。
助けてあげないと壊れてしまいそうだったから。
うん。
その頃はいい。
けれど、最近は、張り詰めて壊れそうなえりちではなくなった。
その代わりに、ポンコツなえりちが姿を現すようになって……。
ウチはついついそんなえりちを助けようとしていた。
でも、それは必ずしもいいとは限らない。
しなくてもいいことまでしてあげて、許容する範囲が広がっていって……。
それは確かに、にこっちの言う通り――
希「甘やかしていたかも……」
にこ「かも、じゃなくて、甘やかしていたのよ」
きっぱりとそう断言するにこっちに、ウチは苦笑を返す。
返す言葉がないとはこのことやね。
今はまだいい。
μ's や生徒会があるから、まだえりちはしっかり者でいられる。
けれど、それがなくなった時、えりちはどうなる?
今のままじゃ、えりちは確実にポンコツが進んでいく。
そうしたら……。
希「確かに、このままじゃダメやね」
にこ「ん。まぁ、分かったならいいわ」
こくりと、にこっちの言葉に頷く。
そうやね。
これからは少し、しっかりさせんと。
ウチが甘やかしていたのでは、えりちがダメになってしまう。
それに、ウチはえりちとは対等でいたいんやし。
――――――
――――――
「うん。そう言ってたよ」
「うーん? どうしよっか」
「…………」
「確かに、このままじゃ上手くはいかないね」
「…………」
「……うん。そろそろ変えた方がいいかも?」
「それじゃあ、今度はねぇ――」
――――――
――――――
昨日とは打ってかわって、何事もなく昼休みになった。
朝早くに、えりちが迎えに来ることもないし。
自販機の下に小銭を落とすようなこともなかった。
その代わりに、
エリチカ「海未のところに行ってくるチカァ」
希「ちょっ! えりち!?」
昼休みが始まったと同時に、えりちはそう言って教室を出ていってしまっていた。
にこ「なによ、あれ?」
希「さ、さぁ?」
いきなりのことに、ウチもにこっちもただただ呆然とするしかない。
にこ「昨日まであんなに、のぞみのぞみ言ってたのにね」
希「そうやねぇ……」
二人して首をひねる。
まぁ、昨日、甘やかさないって決めたから、離れていく分には全然いいんやけどな。
ウチの制止も聞かず、出ていったえりち。
えりちが出ていった教室のドアを見ながら、えりちの扱いに困惑する海未ちゃんの姿を思い浮かべて――
希「あはは……」
つい、苦笑してしまうのだった。
――――――
――――――
海未「希、絵里をどうにかしてください……」
放課後。
歌唱練習も終わり、ユニットでの練習に入ると、海未ちゃんがウチにそう言ってきた。
その顔には、うんざりしたような、疲れたような色が浮かんでいる。
希「あはは、やっぱりそうなったかぁ」
凛「何のはなし?」
昼休みのえりちの様子を知っているウチとは、対照的にポカンとする凛ちゃん。
海未ちゃんにえりちがなついちゃったって話やね。
ざっくりとそう説明しても、凛ちゃんは首を傾げたまま。
まぁ、あのえりちを知らんとピンとこないわな。
そう思って、とりあえず凛ちゃんに説明するのは後回しにして、海未ちゃんから話を聞くことにする。
聞いてれば、凛ちゃんもピンとくるかもしれないし。
希「それで? 昼休みにえりちがそっちに行ったんだったよね?」
海未「……はい。まぁ、それ自体は問題ないのですが……」
はぁ、と。
そこで、海未ちゃんは大きなため息を吐いた。
一呼吸置いてから、詳細を話し出す。
海未「希の言う通り、絵里が昼休みに教室に来たんです。そして、穂乃果やことりと一緒にお弁当を食べました」
凛「えー! いいなぁ、楽しそう!」
海未「……楽しそう、ですか」
……あぁ。
海未ちゃんの目が死んでる。
希「え、えっと、それでなにがあったん?」
少し躊躇しながらも、話を振る。
すると、海未ちゃんは……。
海未「っ! …………///」
まるで、タコみたいに。
顔が赤くなってしまった。
海未「だから、その……」
俯きながらも、海未ちゃんはなにかを言おうとしてくれてる。
けれど、それは小声で、いまいちよく聞こえない。
なに?
よく聞こえないんやけど。
話を進めるために、ウチはそう言った。
すると、
海未「だ、だからっ!」
海未「あーん、ってされたんですよっ!!」
海未「穂乃果とことりの目の前で!」
希「…………」
凛「…………」
真っ赤になりながら、海未ちゃんはそう答えた。
それを聞いた凛ちゃんも、普段とあまりにかけ離れたえりちの行動を聞いて、絶句しているみたい。
そして、ウチは
希「…………えっ、それ、ホントにえりちだった?」
なんて。
素っ頓狂なことを尋ねてしまっていた。
えりちがポンコツになるのは知ってる。
けど、それはあくまでもウチやにこっちの前でだけだと思ってたから。
けれど――
海未「それ以外にいませんよっ」
海未「その上、私に甘えてきて……。挙げ句の果てには――」
そこで、海未ちゃんは黙ってしまった。
恥ずかしさからかさっきよりも真っ赤になっている。
挙げ句の果てには、なにっ!?
ウチは、そう聞こうとしたんだけど、どうしても聞けない。
海未ちゃんの口からポンコツで、甘えん坊なえりちの話を聞くとは思わなくて……。
だから、ウチは何も言えず、固まってしまっていた。
――――――
――――――
今日のえりちは一体どうしたんやろ?
一人、ベッドの上でウチは考える。
明らかに今日のえりちはおかしかった。
昼休みの件は勿論、学校の帰りだって、なぜか海未ちゃんにぴったりくっついていたし。
希「今まではそんなことなかったのに……」
思わず言葉がもれる。
今まではずっとのぞみのぞみって、ウチになついてくれてた。
それこそ、にこっち曰く親子みたいに。
それが今日は、海未ちゃんにべったりで。
……なんとなく。
なんとなくだけど。
希「……気に入らない」
ボソリと呟く。
なぜかイライラするような気持ちが、どこかから沸いてきてしまった。
……あかん。
心が黒くなってしまう。
どうにかイライラを押さえつけて、ウチは冷静になる。
そして、原因を考える。
この気持ちはなに?
そもそもなにが気に入らないんやろ?
希「…………」
分からない。
自分自身に尋ねてみても、答えは返ってこない。
希「…………はぁ」
ウチは枕に顔を押し付けながら、ため息を吐く。
きっと大丈夫。
明日にはえりちも元に戻ってる。
そうすれば、いつも通り。
このイライラもきっと今だけのもので、すぐに消えてなくなる。
それに、きっと海未ちゃんだって、楽になるはずや。
心のなかで、自分にそう言い聞かせて――。
――――――
けれど、ウチの期待とは裏腹に。
その後数日間、えりちは海未ちゃんにベッタリなままだった。
そして、ウチの中のイライラは……。
――――――
言葉が出てこないので
今日は恐らくここまでかと……。
言葉が出てくるようになれば
夜中にもう少し続きを書くかもです。
毎度毎度短くて
見てる方には申し訳ないです。
気長に待っていただけると嬉しいです。
――部室
エリチカ「はい、あーん♪」
海未「や、やめてくださいっ、絵里!」
昼休みの時間。
ここ数日二人は、いつもこうやって部室でお弁当を食べていた。
えりちがああやって迫って、海未ちゃんが照れながらも食べる。
そんな光景が少しずつ定着してきてる。
そして、ウチは――
希「…………」
部室のドアごしに二人を見ていた。
息を殺して、じっと見つめる。
これもここ数日の日常と化している。
何でこんなことしてるんやろ?
なんて、考えるのはもうやめた。
ただこんなことをしても、イライラが収まらないことは分かってるけど……。
でも、こうしていないと……。
???「……希ちゃん?」
希「っ!?」
突然、後ろからいきなり声をかけられた。
あわてて振り返ると、そこには、
希「こ、ことりちゃん?」
ことり「うん♪」
にこりと微笑むことりちゃんがいた。
たぶん、いつまでも部室に入らないウチのことを不思議に思ったんやろね。
ことりちゃんは首を傾げて、こう聞いてきた。
ことり「なにしてるのぉ?」
ウチは、答えに窮してしまう。
なにしてるって……。
チラリと部室のドアに視線を向ける。
と、それだけで何かを察したようで、ことりちゃんは、
ことり「なにかあるの?」
希「あっ!?」
そう言って、部室を覗き込んでしまった。
そして、
ことり「なるほどぉ……」
中の様子を見ながら、うんうんと頷いた。
しばらく中の二人の様子を観察することりちゃん。
真剣な様子で、時に、ニヤニヤとしながら覗き込んでいる。
って、ニヤニヤ?
…………な、なかで、なにしてるんやろ?
中の様子が分からないことに、モヤモヤしながら、ことりちゃんを待つ。
ことり「……ふふっ」
少しして、ことりちゃんが笑った。
そして、ドアから離れる。
それから、ことりちゃんはウチの方を向いて、こう言った。
ことり「希ちゃん、ヤキモチ妬いてるんだね♪」
希「…………」
にこりと微笑むことりちゃん。
それに、ウチは何も答えない。
いや、答えられない。
だって、
希「っ!? ……///」
顔が熱すぎて。
ヤキモチを妬いてる。
うん。
今言われて気づいた。
気づいてしまった。
ウチは、ヤキモチを妬いてた。
えりちに甘えてもらえる海未ちゃんに。
えりちのポンコツな面を見せてもらえる海未ちゃんに。
希「……そ、そんなことないよ?」
そんな風に、強がりを言ってみても、
ことり「ふふっ、顔真っ赤だよぉ?」
希「っ!?」
たぶんことりちゃんには見抜かれてる。
ヤキモチ妬きなウチの本心を。
ことり「……ねぇ、希ちゃん?」
希「……なに?」
ことりちゃんは、ウチの本心を見抜いた上で、こう聞いてきた。
ことり「このままじゃ、海未ちゃんにとられちゃうよ?」
ことり「このままでいいの?」
――――――
――希の部屋
「このままでいいの?」
そう言われても、ウチにはどうしようもない。
確かに、今の様子を見ていると、えりちは海未ちゃんにベッタリで。
最近はウチのところに来てくれない。
だからといって、それをどうにかする手なんて……。
希「……はぁ」
クッションを抱きかかえて、ため息を吐く。
今のウチじゃあ、いい考えなんて思い付かない。
なら――
――――――
ことり「告白しかないよ♪」
希「こ、告白って……」
ことり「だって、さりげないアピールじゃ、絵里ちゃん気付いてくれないよ?」
希「……それは確かに」
ことり「でしゃ? 二人で『硝子の花園』歌った時から進展もないみたいだし」
希「うぅぅ……」
ことり「だから、告白♪」
ことり「告白して、気づいてもらわなきゃ♪」
――――――
ふと、ことりちゃんに言われたことを思い出した。
希「……告白」
ボソリと口に出してみる。
確かに、ポンコツで鈍感なえりちには直接言わないとダメなのかもしれんなぁ。
まぁ。
一応、保健室で好きって言ったんやけどね。
けれど、そんなさりげないアピールじゃ無理なんだと悟った。
だから、
希「ちゃんと、言わんといけない……」
ちゃんと。
好きですって。
付き合ってくださいって。
希「………………」
希「……っ!?」
あかんあかんあかんあかんっ!
そんなの、恥ずかしすぎる!
それにウチのキャラじゃないし……。
やっぱり、告白なんて無理。
普通のままじゃ、言えっこないやん!
希「……『硝子の花園』歌ってた時はいい感じやったのにな」
確か、あの曲が出来たのは二、三ヶ月くらい前やったっけ?
あの時のえりちとウチは、いい感じやったなぁ。
あのときみたいに、なにかきっかけでもあればええのに……。
恥ずかしがり屋なウチは、心のなかでそんな風に呟くのだった。
告白なんて夢のまた夢。
――――――
――――――
海未「はい、園田ですが」
『こんばんは、海未さん!』
携帯をとると、どこか幼さの残る声が聞こえてきました。
海未「はい、こんばんは。亜里沙」
私はその声の主、亜里沙の名前を呼んで、返事をします。
海未「相談とはなんでしょうか?」
挨拶もそこそこに、私は話を進めることにしました。
事前に、亜里沙からメールをもらったときには、なにやら文面から深刻そうな雰囲気を受け取っていましたからね。
『はい、実は……』
少しの間。
それから、亜里沙はこう言いました。
『最近、お姉ちゃんがおかしいんですっ!』
お姉ちゃん。
つまり、それは絵里のことを指していて。
亜里沙が感じていること。
それは、もしかして、
海未「もしかして、家で私の話をよくする、ということではないですか?」
最近の絵里のことを思い出して、私はそう尋ねました。
最近の絵里は、なぜか私にベタベタと甘えてきます。
だから、そのことかと思ったのですが、
『? なんのことですか?』
海未「…………」
どうやら違ったようで、電話ごしの亜里沙はポカンとしたような声を出していました。
海未「っ、いいえ。気にしないでください」
どうやら自意識過剰だったみたいですね。
少しだけ顔が赤くなるのを自覚しながら、亜里沙に話を続けるよう促します。
すると、亜里沙は
『なんだか最近、夜な夜な誰かと電話をしてるみたいなんです』
不安そうな声でそう言いました。
さらに、たまに笑い声が聞こえてくる、とも。
海未「それは、確かにおかしいというか、不気味でもありますね」
『ですよね。だ、だから、海未さんに、確かめてほしくて……』
海未「……」
不安そうな声を出す亜里沙。
絵里のことが大好きな亜里沙のことです。
やはり、絵里が変なことをしてるようで心配なんでしょう。
……ふむ。
そうですね。
私は決めました。
海未「亜里沙」
『はい』
海未「私に任せてください。絵里が何をしているのか聞いてきましょう」
『ハラショー! あ、ありがとうございますっ!』
こうして、私は亜里沙の依頼を受けたのでした。
さて、善は急げです。
明日にでも真相を確かめなくては。
それに、最近の絵里の行動についても問いただすいい機会ですし。
『あの、海未さん!』
いけない。
まだ電話を切っていませんでしたね。
ついついボーッとしていました。
海未「はい。なんでしょう?」
『あ、あの、次の日曜日空いてますか?』
海未「日曜日ですか?」
亜里沙の質問を受けて、スケジュール帳を開いてみる。
予定は……特にありませんね。
海未「特に、予定は入っていませんね」
『! それじゃあ、いっしょに買い物に行きませんかっ!』
海未「……分かりました。私もちょうど買いたいものがありましたし。お付き合いしますよ?」
『っ! そ、それじゃあ、お願いしますっ』
海未「ふふ、分かりました」
それから、少しだけ他愛のない話をして。
私は電話を切ったのでした。
――――――
――――――
「うん、今日、そんな話になったんだぁ」
「……そう。ほんとうだよ」
「………………」
「うん、あと一息ってところかな?」
「だから、きっかけを作ろう♪」
「…………うん」
「あとはタイミングかなぁ?」
「………………」
「うん。がんばってね♪」
――――――
更新します。
あと数日で完結予定です。
――――――
海未「絵里、少しいいですか?」
エリチカ「なにチカ?」
朝練終わり。
部室から私たち以外がいなくなったのを確認して、私は絵里に声をかけました。
首を傾げる絵里に、私は
海未「真面目に聞いてほしいのですが……」
エリチカ「…………」
そう切り出しました。
すると、絵里は一瞬、辺りを見回して……。
そこで、表情が引き締まるのが分かりました。
絵里「なにかしら?」
最近の絵里とは違って、練習の時のようなキリッとした絵里が顔を覗かせます。
少しほっとして、私は話し出しました。
海未「最近、夜遅くに誰かと電話をしていると聞きました」
絵里「…………」
海未「……心配していますよ」
敢えて、誰が、とは言いません。
聡明な絵里のことです。
恐らくこれだけで察してくれるでしょう。
少しの沈黙の後で、
絵里「……そう。分かったわ」
絵里はそう言いました。
苦笑しながら、心配させないようにしないとね、なんてことも言います。
よかった。
分かってくれたようですね。
私はほっと息を吐きました。
これで、亜里沙も安心するでしょう。
絵里「それで、話はそれだけかしら?」
海未「あっ!」
絵里に言われて、聞こうとしてたことを思い出しました。
すっかり忘れていましたね。
きっと今なら、最近の絵里の妙な行動の理由を聞けるはずです。
そう意気込んで、私は
海未「最近の絵里はどうしたのです?」
そのことを聞いたのです。
――――――
――――――
海未「――――――」
絵里「――――――」
部室の中で、二人はなにやら話をしている。
ウチはそんな二人を部室の外で見ていた。
声は聞こえない。
何話してるんやろ?
なんとなく海未ちゃんが、えりちを問い正しているような、そんな雰囲気。
あっ!
絵里「――――」
不意に、えりちが海未ちゃんの耳元に近づいていって、なにかを言ったみたい。
それを聞いた海未ちゃんは、
海未「っ!? ――――」
真っ赤になって、驚いていた。
って、なんやそれ?
耳元で何かを囁いて、それを聞いて真っ赤になるとか……。
まるで、
希「……恋人みたいやん」
ボソリと呟く。
自分でも驚くほど、その声は消え入りそうなくらい小さくて。
それに比べて、ズキズキとする何かは、大きく、ウチの心で主張していた。
――――――
――――――
にこ「ちょ、ちょっと、希?」
希「ん? なに?」
にこっちの声に、顔を上げた。
そんなウチの顔を見て、にこっちはぎょっとした表情をする。
……傷つくなぁ。
にこ「あんた、今日、どうしたのよ?」
希「どうした? …………」
ふと、朝のことを思い出す。
思い出して、
――ズキッ――
希「…………っ!」
胸が痛む。
にこ「……酷い顔してるわ」
ウチの顔を見て、にこっちはそう言った。
分かってる。
そんなの自分が一番。
でも、それをなんとなく肯定したくなくて、
希「気のせいやない?」
なんて、強がりを言ってしまう。
それを聞いたにこっち。
きっとウチに呆れてる。
そして、ひとつため息を吐いて、にこっちはこう言った。
にこ「なんかあったら、ちゃんと言いなさい」
にこ「聞くくらいなら、いつでもしてあげるから」
たぶん、無理矢理聞いても意味がないって思ったんやろね。
そういうところは流石だと感心するわ。
確かに、今は何を言えばいいか分からない。
気持ちの整理もまだ出来てない。
だから、ウチは
希「……ありがとな、にこっち」
そんな風に言葉を返した。
笑顔、作れてるかな?
――――――
――――――
――――――
凛「それでね、かよちんがねー」
花陽「り、りんちゃんっ」
凛ちゃん達と一緒の帰り道。
楽しそうに凛ちゃんは花陽ちゃんのことを話している。
それに、花陽ちゃんがあたふたとしていて。
かわいいなぁ。
それに……羨ましい。
あんな風に、イチャイチャできて……。
って!
希「っ!?」
慌てて首をブンブンと振る。
あかんあかん。
今日のウチ、変になってる……。
仲良くしてるのを見ると、こんな風に思ってしまうのなんて、良くないことなのに。
真姫「……希?」
希「あ、なに? 真姫ちゃん」
制御できない自分の感情に悶々としていると、真姫ちゃんが小声で声をかけてきた。
真姫「大丈夫?」
心配そうな表情でそう言う真姫ちゃん。
大丈夫。
そう答えても、真姫ちゃんは信用してないみたい。
真姫「大丈夫って顔してないわよ?」
希「あはは……」
笑って誤魔化す。
まぁ、どうせ上手く笑えてないんやろうけど。
まったくもう。
そう言いながら、真姫ちゃんは言葉を続ける。
真姫「にこちゃんから聞いたわよ?」
希「にこっちから?」
真姫「えぇ。なんか悩んでるみたいって」
希「…………」
にこっち、真姫ちゃんにそう言うこと話すんやね。
やっぱり、この二人も仲いいな。
っ!?
またっ!
希「――ごめんっ」
真姫「ちょっ、希っ!」
――――――
気づけば、ウチは走り出していた。
もう、嫌だった。
ウチを置いてきぼりにして、仲良くなっていくみんなを見るのが。
みんなに嫉妬してしまう自分が。
これ以上、聞いていたらきっとウチは嫌な娘になってしまう。
だから――。
――――――
――――――
『希を探すから、早く来なさいっ』
海未「ど、どうしたんですか?」
電話に出た途端に、怒鳴り声が響いてきました。
その声は、真姫の声。
普段は冷静な分、どれだけ焦っているのかがその声から伝わってきます。
海未「と、とにかく落ち着いて! 何があったか教えてください」
何があったのかが分からないと、動きようがありません。
だから、私は落ち着いて、状況を確認します。
『……っ! …………』
海未「……何があったんですか?」
『……実は――』
少しだけ落ち着きを取り戻した真姫は、何があったのかを話しだしました。
…………。
海未「……なるほど」
真姫から、今日の希の様子と先程起こったことを聞き、私はそう言いました。
海未「分かりました。それでは、穂乃果たちにも連絡をして、希を探してもらいます」
『……お願い』
海未「では、後ほど」
そこで、私は電話を切ります。
そのまま、先に帰った穂乃果とことり、それににこに電話をしようとして、
「…………しなくていいわ」
電話を持つ手を止められました。
通話中はスピーカーにしていたので、きっと彼女も内容は分かっているはずです。
本来なら、早く連絡をして、希を探す必要があるというのに……。
それを止める、ということは……。
海未「……本当にやるのですか?」
まず、口から出たのはそんな言葉。
正直、気は進みません。
ですが、
絵里「もちろん」
隣でにこりと笑う絵里には、もうなにも言える気力がありません。
今日一日で、あれだけ説得したというのに、まだこうして笑えるのですね。
はぁ、もういいです。
なるようになれ、というやつです。
ただ、朝に聞いた通りに事が進んでいることに嫌気が指している私もいて。
それから、希に申し訳ないという気持ちもあります。
だから、私はささやかな反抗をするために、こう言いました。
海未「……貴女は最低です」
それを聞いて、絵里はにこりと笑い、
絵里「上等よ」
そう言い切ったのでした。
その表情は、清々しいほどで、私は呆れてしまいました。
――――――
――――――
希「…………はぁ」
神田明神の階段で、ウチは座り込んでいた。
あれからどのくらい時間が経っただろう?
それでも、さっきから出るのはため息ばかり。
後悔と自己嫌悪。
それらが入り交じった気持ちがぐるぐると頭の中を漂ってる。
希「ウチのばか……」
ポツリともれる言葉は、誰にも届かない。
ウチは、今、一人だった。
一人になることなんて、家に帰ればいつもなのにな。
なんで、こんなに、
希「寂しいんやろ」
そんなの決まってる。
ウチが皆にヤキモチを妬いてるから。
ウチを置いて、仲良くなっていくような感覚を覚えてしまって。
そんなわけないのに……。
ただ、ウチはナイーブになってしまっただけ。
自分のえりちへの気持ちに気づいて。
でも、それが叶わないものだと思い知らされて。
それもこれも、全部――
絵里「……探したわ」
希「っ!?」
声がした、気がした。
希「……えりち?」
声のした方を振り返る。
けれど、
希「…………」
誰もいない。
あぁ、気のせいやったんやな。
来てくれたかと思ったのに。
ただの空耳だって分かって、ウチは肩を落とした。
―― バンッ ――
希「……んっ?」
何かの音が聞こえた。
また空耳かと思ったけれど。
―― バンッ ――
やっぱり聞こえる。
今度は空耳なんかじゃない。
―― バンッ ――
また、聞こえた。
なにかが衝突するような音だ。
それが何回も何回も聞こえてくる。
希「…………」
―― バンッ ――
周りを見渡す。
いつの間にか、結構な時間が経っていたようで、辺りは夜の帳が降りはじめていた。
少しずつ、暗くなっていくのがわかる。
その中で、その音は響いている。
希「………っ」
ぶるりと、体が震えた。
寒さではなく、言い様のない不気味さに。
目を凝らして、また辺りを見渡す。
階段の方には誰もいない。
本殿の方も、やっぱり誰もいない。
じゃあ、
―― バンッ ――
この音はどこから?
―― ガサッ ――
希「っ!?」
急に、音が変わった。
これは、草を掻き分ける音?
その音も、さっきまでの音がした方と同じ方向から聞こえてくる。
希(本殿の裏から?)
たぶんそうだろう。
そこくらいしか草を掻き分ける音なんて出ないはずだし。
とすると、今までの音は一体なに?
バンッ、バンッという、なにかを叩きつける音。
―― ガサッガサッ ――
なにかが近づいてくる。
ガサガサと、草むらを掻き分けて。
暗くなっていく景色に目を凝らす。
やっぱり。
本殿の裏の方の草むらが動いている。
希「っ!?」
これは、なにか危ない。
本能がウチにそう伝えていた。
だから、ウチは立ち上がって、逃げようとした。
その時――
――――――
―― バンッ ――
―― バンッ ――
――バンッバンッ――
――バンッバンッバンッ――
―― バンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッ――
希「ひっ!?」
たくさんの音が聞こえてきた。
――――――
声が出なかった。
腰も抜けてしまった。
出来るのは、目を凝らすことだけ。
すでに真っ暗な本殿の奥を見ることだけ。
だから、ウチは音のする方を見つめた。
「……………………」
希「ひっ!?」
見なければ、よかった。
ウチはガクガクと震える体を抱いて、後悔していた。
そこにいたのは、人だった。
けれど、なにか分厚いものを着ていて、性別も体格も分からない。
ただわかるのは――
―― バンッ ――
希「っ!」
地面をなにかで叩いてる。
ものすごい力で叩くから、その音も大きくて。
ふと脳裏によぎるのは、過去にあった殺人事件とか不可解な怪事件とか。
そこまでだった。
ウチはぎゅっと目をつぶるしかなかった。
希「っ」
ウチ、ここで死ぬんかな?
なんて、思って。
そうしたら、ふっと後悔が沸いて出た。
希「……こんなことだったら、告白しとけばよかった」
死の瀬戸際にいるというのに、ふと出たのはそんな言葉で。
それで、ウチは自覚した。
あぁ、ウチって。
えりちのこと、こんなに大好きやったんやなって。
――――――
――――――
絵里「そこまでよっ!」
声が、聞こえた。
――――――
――――――
――――――
絵里「希、大丈夫?」
希「え、あ、うん……」
ウチの住むマンションの前。
えりちが心配そうな表情で、顔を覗き込んでくる。
希「大丈夫やよ?」
心配かけないように。
笑顔でそう答える。
だけど、体がまだ震えているのは自覚していた。
えりちも、それに気づいたみたいで、
絵里「まぁ、あれだけ怖い目にあったんだから、仕方ないわよね」
希「あっ……うん」
そう言って、ナデナデと頭を撫でてくれている。
絵里「…………」
希「…………」
絵里「…………」
希「…………」
黙って、撫でられる。
そのおかげで、段々震えが収まってきた。
少しして、
希「ありがと、えりち」
そんな言葉が口をついて出た。
それは、助けてくれたことにだったり。
ちゃんと家まで送ってくれたことにだったり。
そして、撫でてくれることに対して出た言葉。
絵里「ううん。当然じゃない」
それに、えりちは笑って答えた。
それを見て、ウチはさっきのことを思い出した。
――――――
絵里「やめなさいっ!」
「…………」
絵里「あなたが何をしようとしてるか知らないけれど、これ以上近づいてきたら、大声を出すわよ?」
「…………」
絵里「それに、もうじき他の人も来る。そうしたら、あなたはここから逃げられるかしら?」
「…………っ」
絵里「…………えぇ、賢明ね。私も警察には通報しないであげる。だから、早くいなくなりなさい」
「………………」
絵里「あぁ、最後に言っておくわ」
絵里「私の大切な希に、手を出さないで頂戴っ!」
――――――
――――――
そうして、不審者は去っていった。
……うん。
不審者に立ち向かったえりちはとても格好よかった。
やめなさいって言って、ウチを庇うように間に入ってくれたえりち。
怖がりなえりちのことやから、きっと自分も怖かったはずなのに。
それでもウチを守ろうとしてくれたえりち。
そして――
「私の大切な希に、手を出さないで頂戴っ!」
希「…………///」
あんな風に言われたら……。
絵里「希?」
希「あ、うん。なんでもないからっ」
熱くなる頬を見せないように、ウチはそう言う。
首をかしげながらも、えりちはウチのことをなで続けた。
そうして、少し経った頃。
絵里「そろそろ帰るわね」
えりちがそう言った。
そのまま、えりちはウチに背を向けて、
―― ぎゅっ ――
絵里「えっ?」
希「…………」
去ろうとしたえりちを、ウチは後ろから抱き締めていた。
完全に無意識の行動。
とも、言えない。
ウチは分かっててこうした。
ぎゅって、抱き締めた。
希「……あのな、えりち」
絵里「……なに?」
分かってた。
もう、こうしたら、止められないってこと。
でも、それでもいいって思ったから――。
希「ウチ、えりちが好き」
希「友達としても、女の子としても」
希「大好きで」
希「こうやって、ぎゅってしたくなるくらい大好き」
希「だからな、えりち――」
希「ウチと付き合ってください」
――――――
絵里「…………」
絵里「はい。喜んでっ!」
――――――
――――――
――――――
絵里「ねぇ、希。寝ちゃった?」
希「…………」
寝ちゃったわね。
隣で、希が寝息を立てるのを確認する。
これはチャンスかしらね。
希の頭を撫でながら、私は一人、話をすることにした。
懺悔のように。
眠っている希に話しかけるように。
絵里「私、全部分かってたのよ」
絵里「希の気持ちを、ね?」
そう。
分かっていた。
希が私のことを好いてくれているのも。
私が希を好きなことも。
けれど、
絵里「私って、そういうこと直接言えないから……」
絵里「だから、希から告白してもらえるようにしたのよ」
努力したわ。
希の母性を刺激するために、ポンコツな自分を演じたり。
ヤキモチ妬かせるために、海未になついてみたり。
絵里「まぁ、ことりの協力ありきだったけれどね」
希とにこの会話の内容を聞いてもらうことから、希に発破をかけてもらうことまで。
ふふっ。
ことりには、後でなにか奢ってあげないとね。
でも、それでもなかなか上手くいかなくて……。
絵里「……最後のあれは、やりすぎだったかしら」
さっきのことを思い出して、反省。
希、本当に怖がっていたものね……。
まぁ、あれは確かに怖いわよね。
絵里「……あとで、海未にも奢ってあげましょ」
私はそう言って、また希の頭を撫でた。
絵里「ふふっ、希、どう? まんまと私の策略にはまったわね」
希「…………」
そう言っても、希は答えない。
すぅすぅと寝息をたてて眠っている。
絵里「…………」
絵里「…………ずるい、わよね」
こんなことして、希に告白してもらって……。
絵里「こんなこと聞いたら、きっと失望するわよ」
だから、こうやって眠っている希に言うんだけれどね。
やっぱり、私はずるい。
と、心のなかで、自己嫌悪していたら――
希「……えりち」
絵里「っ!?」
起きてたのっ!?
突然、私の名前を呼んだ希。
驚いて、そう聞き返したのだけど、
希「……すぅすぅ」
まだ希は寝息を立てていた。
なんだ、寝言だったのね。
ほっと息を吐いて、胸を撫で下ろした。
そのまま、私は希の頭を撫でてる。
絵里「……いつか、ちゃんと言うから」
絵里「だから、待っててね、希」
そう呟いて、ぎゅっと希を抱き締めた。
私に今出来るのは、それだけだから。
――――――
――――――
――――――
希「ワシワシィ……MAXっ♪」
海未「いやぁぁぁぁ!?」
ことり「なんで、ことりもぉぉぉ」
朝練終わり。
二人の叫び声が屋上に響いた。
もちろん、ワシワシしてるのはウチ。
絵里「ちょ、ちょっと、希?」
突然のウチの行動を止めようとしてくるえりち。
でも、もちろん、ウチは止めない。
むしろ――
希「えりちにも、ワシワシっ……MAXっ♪」
絵里「っ!? や、やめっ――」
――――――
――――――
にこ「朝はどうしたのよ?」
教室にて。
朝のウチらの様子を見て、にこっちがそう聞いてきた。
希「んー? なんとなく、ワシワシしたくなったんよ」
そう言って、ウチは答えをはぐらかした。
あっそ。
そう言って、興味無さげに言葉を返すにこっち。
そして、ふいっと顔を反らす。
ただ、ポツリと
にこ「ま、元気そうでなによりよ」
そんなことを言った。
ふふっ。
なんだかんだで心配してくれたんやね。
そう思って、あたたかい気持ちになる。
希「……ありがとな」
にこ「ふんっ」
にこ「それにしても、また絵里は希にベッタリになったわね」
そういえば。
そう前置きしてから、にこっちはそんなことを言ってきた。
あ、やっぱりわかるんやね。
苦笑いしながら、そう返す。
にこ「そりゃ分かるわよ」
希「そやね」
まぁ。
あれだけベッタリやったら分かるか。
そう思って、頷いた。
にこ「でも、大変ね。あれだけベッタリだと」
希「まぁ、ウチも満更でもないからね」
にこ「はぁ、ごちそうさま」
たぶん、にこっちは、ウチとえりちのことに気づいてるんやろね。
ウンザリしたように、呆れたようにそう言葉を返した。
と、そこに、
――タッタッタッタッ――
廊下を走る足音が聞こえてきた。
にこ「ほら、来たわよ」
ウチ「そうやね」
にこっちにそう返したのと同時に、足音が止んで、彼女が教室の入り口から顔を見せた。
――――――
絵里「希! 購買で新作のチョコレートを買い占めてきたわ!」
――――――
希「返してきなさい」
ウチは『ポンコツ』な恋人にそう言う。
まったく、本当にえりちは『ポンコツ』さんやね。
――――――
――――――
ねぇ、えりち。
実はあの日、ウチは起きてたんよ?
起きて、えりちの懺悔を聞いていた。
えりちはウチが寝てると思って、話をしたんやろうけどね。
だから、えりちがしたことは全部知ってる。
まぁ。
失望しなかったと言ったら嘘になる。
けれど、それ以上に――
ウチは嬉しくなった。
そんな風に、色々と考えて、ウチを落とそうとして。
そうしてまで、ウチが欲しかったんだって考えたら。
失望よりもずっと、嬉しさの方が強かったんよ。
…………。
でも、やっぱりえりちは『ポンコツ』さんやね。
いきなり海未ちゃんになついたり、不審者に対峙したときに全く震えてなかったり。
色々と杜撰すぎ。
まぁ、でも。
希「そんなえりちに絆されるウチも大概『ポンコツ』さんやね」
―――――― fin ――――――
以上で
『希「えりちはポンコツさんやから」』
完結となります。
ここまで読んでくださった方
稚拙な文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
かなり急ぎ足になってしまった感は否めませんが……。
最近の過去作を貼っておきます。
よろしければ、見てやってください。
【ラブライブ】にこ「貴女の外側には」
【ラブライブ】にこ「貴女の外側には」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1417890274/)
【ラブライブ】穂乃果「私たちが真姫ちゃんの目になるよ!」
【ラブライブ】穂乃果「私たちが真姫ちゃんの目になるよ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1418568037/)
次もまたラブライブで書こうと思います。
参考までに見たいカップリングとかあれば教えてくださると嬉しいです。
では、また。
このSSまとめへのコメント
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