希「スーパーアイドルと生徒会役員」 (41)
2年前。
ウチが、音ノ木坂の新入生だった年の春。
そのときから、ウチには気になる子がいた。
1人は絵里ち。
3年間、生徒会のパートナーとして、ずっと一緒にやっていくことになる人。
そして、もう1人は――。
※>>1はアニメサンシャインと並行して最近アニメラブライブを視聴し、ラブライブのSSを書いたのも初めてなので、ツッコミどころはやんわり指摘してもらえるとありがたいです
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1470749166
「――それで、やっぱり生徒会って疲れるんやなあって」
「ええ、意外とね」
「でもまだ先輩のお手伝いとは言え、絵里ちは結構な早さで書類整理してたし、ホントスゴいんやね」
「そうだったかしら」
「そうやよ、だからウチも頑張らんとって思って」
「まあ、お互いこれからよ。一緒に頑張りましょう、希」
「うん――あら?」
「あっ、あの子……」
「アイドル研究部を、一緒に作りましょう!スクールアイドル目指して部員を募集していまーす!」
「確か、1年の……」
「今日もやってるのね……」
スッ
「ありがとうございまーす!興味があればぜひお声がけくださーい!」
「……」
「チラシを受け取るなんて、まさか希、やってみたいの?」
「ううん、そういうワケやないんやけど……」
「というか、どっちにしろ無理じゃない。私たちには生徒会があるし」
「そうやね……」
「あなたも本当に不思議なところがあるわね。さ、行きましょう」
その子は毎日ひたむきに、たくさんの人に向かって声をかけていた。
「そういえば今日は希の仕事ぶりを見てたけど、あなたも結構早いじゃない」
「えっ、そう?」
「私はそう思うわ」
「そっか。――ウチは今日、いつも以上に絵里ちの仕事の様子を見てる暇なんかなかったけど」
「それって、どういう意味?」
「脇目も見ずに仕事に集中して、それでやっと絵里ちと同じくらいに終わって。やっぱり、とってもスゴいんやなって」
「なるほどね。でも、私はもっと頑張らなくちゃいけないと思ってるわ」
「絵里ち、頑張り屋さんやね――」
「ぜひアイドル研究部を作りましょう、よろしくお願いしまーす!」
「あ、あの子こんな中でも……」
「夕方から降ってきたのに、スゴいなあ……」
スッ
「ありがとうございまーす!興味がある方は、ぜひどうぞー!」
「どうしたの?昼休みにも貰ったのに、また受け取ったりして」
「さあ、なんでやろね……。ウチにも分からない、分からないけど――」
「『けど』?」
「――ううん、何でもない。さ、帰ろ?」
「……そうね」
気づけばウチは、その子に話しかけてみたいと思うようになっていた。
「アイドル研究部を作ろと思っていまーす、部員募集中でーす!」
「あのっ」
「……?」
「その……」
「あれ?そういえばあなた、チラシを……」
「ちょ、ちょっとお話が」
「お話――もしかして、アイドルに興味がありますか!?それならどうぞ、我がアイドル研究部に――」
「そ、そうやないんやけど……」
「……そう、違うのね」
(えっ、いきなり喋り方が――)
「それじゃ、いったい何の用かしら?」
「えっと……。アイドルをするって言うから、素敵やなって……」
「……そう?……そうよね!?そうでしょう!!」
「っ!!?!?」
「それじゃあ一緒に、スクールアイドルやってみませんか?」
「いや、それも向いてないかなって……。生徒会の仕事もあるし、ウチは……」
「――何だ、期待して損したわ」
「……」
「時間が惜しいから、早く用件を言って」
「ウチ、何をしてあげたらいいか分からなくて……。でも……」
「『でも』、何よ」
「あなたのこと、応援してあげたくて……」
「応援?」
「うん……。あと、できれば――」
「――私は、宇宙ナンバーワンアイドルを目指しているの」
「……えっ」
「それを叶えるために必要なのは、夢を同じくする仲間。だからあんたみたいな人の助けなんて、それ以上はいらない」
「――っ」
「それに、"持つ者"の同情も私には必要ないわ。それじゃ」
「待って!それってどういう――」
「……」ダッ
たったそれだけのやりとりで走って行ってしまったその子は、私にとってとても不思議な子だった。
そんな、ちょっとおかしな出会いに包まれた春先のある日。
絵里ちと一緒にいるようになってから毎日が結構楽しかったけど、
その日は彼女がお休みで、
何だか寂しいなあ、なんて思いながら教室を出た。
あのとき言われた、"持つ者"って言葉……
あれはいったい、どういうことなんかな。
何を"持つ者"って言いたかったんやろか。
きっとウチには、何もないハズやのに。
ほんの少し久しぶりの孤独に遭遇したウチは、そんな風に後ろ向きになっていた。
「あっ」
「あっ……」
「……」
「……」
「どうしたのよ」
「へ?」
「いつも一緒にいるあの子は、どうしたかって聞いてるの」
「絵里ちのこと?それなら、今日はお休みで――」
「……そう」
「あの、なんでウチに?部員勧誘、しなくてええの――」
「……」
「あっ、その、ごめん」
「別に良いけど。私がどこで何をしようが私の勝手でしょ」
「う、うん」
「いつもの場所に勧誘しに行こうと思ったら、あんたが珍しく1人でいたから気になったのよ」
「あ、ああ、そういう」
「しかも、いつもよりずっとムスっとして」
「そうやった……かな」
「そうよ。全く――あんたは、暗い顔ちゃダメなの。そんな表情してたら、私が許さないわ」
「どうして?」
「『どうして』って……。私と違っていつも一緒にいられる人がいる、そんなあんたがしょげた顔してたら、私が惨めになるでしょ」
「そんなこと……」
「とにかく、自然に笑顔を出せる相手を持ってるあんたは幸せ者なんだから」
(でも確かに、幸せは幸せかもしれん……)
「いいわね」
(ん?"持ってる"って……もしかして)
「それに、あんたの笑顔はとっても――」
「あのね」
「何よ、言いたいことはまだあるのに――」
「ウチは、あなたと同じだったんよ」
「――何、それ」
「中学までは親の都合で転校が多くて、学校じゃいつも1人でいるばっかりで」
「……」
「そんなウチが音ノ木坂に来て、やっと笑い合えるようになった子。それが、絵里ちなんよ」
「そう」
「ウチは、あなたの言う"持つ者"なんかやない。だから――」
「じゃあ私が、今のあんたを笑顔にしてあげるわ」
「ウチを、笑顔に?」
「行くわよ。見てなさい」
「う、うん」
「にっこにっこにー♪ あなたのハートににこにこにー♪ 笑顔届ける矢澤にこにこ♪ さあ、あなたも一緒に"にこっ"♪」
「ぷふっ」
「ちょっと!そこは吹き出すところじゃなくて、微笑むところなの!」
「ごめんなあ……ふふっ」
「全く、ふんっ」
「けど、本当に笑顔に……」
「……スーパーアイドル、にこにー」
「――えっ」
「名前よ」
「にこ……」
「これを聞いたんだから、私の名前も覚えて帰ってもらうわ」
「うん、うん!――ウチは東條希って言うんよ。よろしくね、にこっち!」
「違うでしょ!にこにーって呼びなさい!」
「にこっち、ありがとう!」
「お礼はいいから!それとさっきも言ったけど、あんたはちゃんと素の笑顔でいるのよ!」
春からずっと気になっていた、もう1人の子。
その子の名前を、ウチはその日初めて知った。
その子のことが気になった理由も、そのとき少しだけ分かった気がした。
「そういえば絵里ち、もう身体は平気なん?」
「ええ。悪かったわね、生徒会もあるのに迷惑かけちゃって」
「大丈夫やよ。ウチは絵里ちとこうしてお昼ご飯が食べられたからそれで十分」
「それは私もよ。でもそのことは希にももちろんだし、先輩にもちゃんと謝っておかなくちゃいけないわね」
「そこまで気にせんでもええのに」
「アイドルに興味がある方!スクールアイドルをやってみたい方!ぜひアイドル研究部へどうぞ!」
「あ、あの子今日も……。頑張るのね……」
「そうやね。にこっちも、きっと頑張り屋さんなんや」
「"にこっち"?」
「あ、うん。絵里ちが休んでた間に、いろいろあってね」
「えっ、まさか希、アイドルを――」
「ふふっ、そうやないよ。ちょっと励ましてもらって、そのときに名前を教えてもらったんよ。"矢澤にこ"だから、"にこっち"」
「へえ、そういうことだったの」
「えっ、入部希望……!?本当!?じゃ、じゃあここにお名前と学年とクラスを――」
「……!!」
「あの子も、ついにやったのね」
「みたいやね、良かった……!」
「ねえ、希。何か、労いの言葉をかけてきたら?」
「労い……」
「まだ時間もあるし、どうかしら。私は先に教室に戻っているわね」
「そうやね、じゃあ行ってくるわ」
「それじゃ、放課後からは一緒に勧誘を……うん、またあとで!」
「にこっちーっ」
「へ!?な、何よあんた、どうしたの?」
「入部希望の子、見つかったんやね。おめでとう」
「えっ……あっああ、ありがとう」
「ウチ、これからも応援しとるから!」
「――ええ、そうね。私ももっともっと頑張るわ!」
ウチよりずっと大変な目を見てきたにこっちは、同じ夢を見る人に出会い、心から喜んでいた。
ウチに笑顔をくれた彼女のそんな様子に、ウチも目を細めずにはいられなかった。
にこっちは、人1倍努力した。
夢を追いかけて走り続けた。
持ち前の粘り強さで、仲間を集めた。
相変わらず生徒会で忙しかったウチは何もできなかったけど。
それでもアイドル研究部に新しい仲間ができたときは、欠かさず『おめでとう』を言いに行った。
そして、ウチには1つの考えが浮かんだ。
「バックアップ?ライブの?」
「うん。ウチ、先輩に頼んでみようかなって思ってるんよ」
「はあ!?まさかあんた、生徒会まで巻き込むつもりなの!?」
「そうやよ、ダメかな」
「生徒会が1つの部活だけをサポートするなんて、どう考えても問題でしょ。よく考えなさいよ……!」
「やけど今、スクールアイドルの活動は全国的に活発化してきている」
「だからって……」
「それを踏まえれば、特例として認められるんやないかな」
「ううん、やっぱり大丈夫よ」
「えっ」
「できもしないこと、言わなくたって良いわ」
「そんなこと……」
「言ったでしょ、私の夢は宇宙ナンバーワンアイドル。生徒会に頼らなくてもライブを成功させられるようじゃなきゃ、そんなものは夢のまた夢」
「でも……」
「それに今は、仲間がいる。あなただって応援してくれている。今の私に、怖い物なんてないわ」
「……」
「だから希、何も言わずに見守っていて。その素敵な笑顔で」
持たない者なりに、考えに考えて出した提案。
にこっちにそれを敢えなく却下され、ウチはとてもショックだった。
ショックを受ける、ハズだった。
けれどそのとき、目の前にはとびきり輝く笑顔があった。
ずっと追いかけてきた人の、これ以上ないくらいにこにこした微笑み。
その人を助けたいと思ったウチが、またしても救われてしまった。
にこっちたちは、積極的にライブを開いた。
たくさん歌った。
たくさん踊った。
たくさんの人を笑顔にした。
ウチも都合が合う日は、なるべくライブに行くことにした。
むしろライブに行くために、仕事を早く終わらせようという気にもなっていった。
絵里ちと一緒に、2人でライブに行くこともあった。
今日のライブもスゴかった、と口にしながら帰途に着くことも増えた。
けれどそんな日々は、思ったほど長く続かなかった。
「にこっち!」
「何?どうしたのよ、そんなに慌てて」
「アイドル研究部が、にこっち1人になったって聞いて……」
「はあ?何言ってるのよ、そんなワケないでしょ」
「じゃあやっぱり、違うんやね?」
「もちろん――」
「そっか、良かった……。それでにこっち、次のライブの日程のことを聞きたいんやけど――」
「――っ」
「……にこっち?」
「ごめん、それはまたあとで」
「えっ、ちょっとにこっち!」
彼女が嘘を言っているという可能性が、即座に頭を過った。
同時に『なぜそんな嘘を?』という疑問が浮かんだ。
その答えは無意識に後を追いかけ出したウチには見当もつかない。
でも今は、そんなことに気を取られていられる状況じゃなかった。
ウチを笑顔にしてくれた、スーパーアイドル……。
にこっち。どこに行ったんよ。
部室から、どんどん上の階へ。
至るところをウチは探した。
走り回って、探し回って。
最後に残ったのは、屋上だった。
「い、いた」
「――!」
「にこっち」
「……」
にこっちは屋上の真ん中で空を見上げ、静かに立ち竦んでいた。
「早まったら、ダメや」
「早まる?何の話かしら」
「だって、こんなところにいるんは――」
「言ったでしょ。私がどこで何をしようと、私の勝手だって」
「けど、こんなところまで来て……」
「あんた、勘違いしてるわよ」
「勘違いって――」
「私は下なんか向かない。夢を叶えるために上を向いていく」
「何を――」
「もっとたくさんの人を笑顔にしてあげる努力をする。ただそれだけ」
「……」
「同じ夢を見る人が、私の側に何人いても――もし誰もいなくても、それは何も変わらないの」
「にこっち……」
「アイドルに興味のない人に私がかけられる言葉なんて何もないわ。お願い、今は1人にさせて」
「いやや」
「同情なんていらないの、分かったらどっか行ってよ」
「いや」
「手、離して――」
「いや!!!」
にこっちは……。
ウチに元気をくれたんや。
ウチのこと、笑顔が素敵って言ってくれたんや。
いつもウチの前を走って、手を引いてくれてたんや。
あなたは、自分がどれだけつらくても、みんなの笑顔のことを考えてくれるんや。
そんな人が――
「そんな人が"持たない人"なワケないやん!!!」
「……」
「もしそれでも、自分のことをそういう風に言うんなら、ウチは――」
「もう、十分よ」
「――へ」
「あんたの思い、伝わったわ。十分すぎるくらいにね」
「にこっち……?」
「あのね希。私はあなたに応援してもらえるだけで、それ以上ないくらい幸せなの」
「そんな――」
「だからもし、あなたが私に何かしたいと思ってくれているなら、その先のことなんてしなくてもいい」
「でもっ……」
「それに、あなたは生徒会の役員でしょ。スーパーアイドルの私とは、やることだって違いすぎる。仕事が早く終わったからって、毎度毎度私のところに来る必要なんかないわ」
「っ……!」
「話は終わり。――じゃあね」
最後まで凛とした表情のまま、屋上をあとにするにこっち。
厚い雲が1つ、それを追うように、ウチの頭上を越えていった。
にこっち曰く、ウチは"持つ者"やったらしい。
にこっちの言うそれは、正しいことなのかもしれん。
でも、ウチにできることは多くなんかなくて。
目の前で苦しい思いをしている人1人、笑顔にしてあげることもできなくて。
絵里ちと一緒に仕事を熟しながら、自分なりにもう一度考えた。
ウチが誰かのためにできることって何やろか。
彼女のこともウチのことも、考えられるだけ考えた。
ウチが今の立場で、今できることって何やろか。
そしてやっと、できること、やるべきことに気づいた。
ウチにも話を聞いて、側にいてあげることはできる。
それに何より、ウチにはその大義がある。
「ねえ、にこっち」
「うわぁっ!!なんであんたがまたここに来るの!?」
「『なんで』って、不思議なこと言うなあ」
「ついこの間の話、もう忘れたんじゃないでしょうね!」
「屋上でした話のこと?それやったら、ちゃんと覚えとるよ」
「じゃあ尚更よ!早く部室から出てって――」
「それはできんかなあ」
「なっ!?」
「にこっちこそ、自分が言ったことを忘れとるんと違う?」
「な、何が言いたいのよ」
「だって、ウチは――」
困っている人を見捨てない、1人の生徒会役員やから。
おしまい
普通に見ても面白かったしどのCPも美味しいなーとか思いながら見てたけど、のぞにこは特に目が止まるCPだった
なので勝手ながら自分なりに補完してみた次第
ありがとうございました
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