魔女「もう最悪だわ……」(988)
~とある森~
魔女(また、ハーフエルフだとバレて、村を追い出されて早三日……)
魔女(もう、食料も尽きたわ……)
魔女(幸い、師匠から召喚術を教わっていたから、なんとか殺されずに済んでいるけど……)
魔女(一体、いつまでこんな生活が続くのかしら?……)ハァ……
護衛兵達「……」
魔女(まぁ、次の拠点を決めたら考えましょ……)
魔女(私だって、好きでハーフエルフになった訳じゃないのに……)
魔女(一体、何で私がこんな目に遭っているのかしらね?……)
護衛兵達「……」
ガサガサッ、ガサガサッ……
魔女「……誰?」
ガサガサッ、ガサガサッ……
魔女「だ、誰かいるの?……」スチャ
ガサガサッ、ピタッ……
鹿「……?」
魔女「ふぅ……」
魔女「なんだ、鹿か……」
魔女「全く、驚かせないでよ……」
鹿「……」
護衛兵達「……」
魔女(とりあえず、この鹿を捕まえて焼こうかしら?……)
魔女(それとも、逃がした方が得策かしら?……)
鹿「……」
魔女(なんか、私の方をじっと見てるわね……)
魔女(一体、何が目的なのかしら?……)
鹿「……」
ガサガサッ、ガサガサッ……
魔女「……?」
ガサガサッ、ガサガサッ……
「居たぞ!」ピィー-ッ!
魔女「しまった。罠だったのね!?……」
ピィ-ーッ、ピィー-ッ!
ピィー-ッ、ピィー-ッ!
魔女「総員、戦闘用意!」
魔女「防御体制!」
護衛兵達「はっ!」スチャ
ザッ、ザザッ……
ガサガサッ、ガサガサッ……
ザッ、ザザザザッ……
魔女「くっ、数が多い……」
魔女「まだこんなにも、兵を残してるとは………」
護衛兵達「……」タァラン
騎士「貴様が、件のハーフエルフか?」
騎士「まだ、こんな場所にいたとはな」
魔女「……」
騎士「まぁ、良いだろう」
騎士「ここで、お前はもう死ぬのだ!」
騎士「そして、穢れた血も全て一掃出来るのだ!」タァラン
敵兵達「……」
騎士「総員、掛かれ!」
騎士「残り一名のハーフエルフを、完全に抹殺するのだ!」ブン
敵兵達「おーーっ!」
ダッ、ダダダダッ!
ダダダダッ、ダダダダッ
キーー--ン!……
キンキン、キンキン!……
敵兵「とりゃあ!」ブン
魔女「はっ!」キ--ン!
敵兵2「隙あり!」ブン
護衛兵「させるか!」ドゴッ!
敵兵2「ぐあっ!」ドサッ
魔女「ていっ!」ボゥ!
敵兵「ぎゃああああ――――っ!?」ボワワワッ!
敵兵3「うわっ、こっち来るな!」サッ
敵兵「ぎゃああああ――――っ!?」ドサッ
魔女「手の空いている者、騎士を狙え!」
魔女「騎士を狙って、時間を稼げ!」
護衛兵達「はっ!」ダダダダッ
騎士「くっ、やるな……」
騎士「従騎士、突撃せよ!」
騎士「敵の狙いは私だ! 一気に踏み潰せ!」ブン
従騎士「はっ!」ダッ
キンキン、キンキン!
魔女「焼け焦げて、死になさい!」ボゥ!
敵兵達「ぎゃああああ――――っ!」ボワワワッ!
従騎士「うわっ!?」ササッ、ドサッ
魔女「くっ、まだかなり残ってる……」
魔女「敵はまだ、そんなには消耗はしていない……」
従騎士「……」ムクッ
魔女(あの従騎士、まだ子供ね……)
魔女(大体、私と同じくらい……)
魔女(あまり、殺したくはないなぁ……)
従騎士「……」ダッ
魔女(でも、どうやら戦わなければならないみたいね……)
魔女(せっかく、ここまで逃げ切れたんだし……)
魔女(そろそろ、この体とも潮時かもしれないわね……)
ダッ、ダダダダッ
従騎士「ハーフエルフ、覚悟せよ!」ダッ
従騎士「この俺が相手だ!」ブン
魔女「……」キーーン!
従騎士「貴様、何故そこまで生きようとする?」
従騎士「穢れた血が、何故そこまで生に執着をするのだ?」ギリギリ
魔女「……」
従騎士「……そうか。何も答えてはくれぬのか」
従騎士「なら、潔くここで死ね!」
従騎士「この俺が、貴様をこの手で殺してくれる!」
従騎士「貴様らハーフエルフは、全て殲滅をするのだ!」
魔女「……」ポロポロッ
魔女「……そう」
魔女「なら、貴方の好きにしたら?」
魔女「私を殺して、それを貴方の武勲にしたらどうかしら?」ポロポロッ
従騎士「……何?」
魔女「言っとくけど、私も好きでハーフエルフなんかになったんじゃない!」
魔女「私も、皆と同じ様に平穏に暮らしていきたい!」
魔女「それが、何がいけないって言うのよ!」
魔女「私にだって、それくらいの権利はあるでしょうが!」ポロポロッ
従騎士「!?」
魔女「……」ブツブツ
魔女「……」ボワワッ!
従騎士「なっ、こいつ火を……」バン
従騎士「こいつ、自分の体に火を着けやがった!……」ササッ
魔女「……」
騎士「従騎士、何をしてる!」
騎士「早く、ハーフエルフを斬れ!」
騎士「早く、斬るんだ!……」
従騎士「……」
魔女「どうしたの? 早く斬りなさいよ……」
魔女「どうやら、もう完全に潮時みたいだからね……」
魔女「早く、私を殺して貴方の武勲にしなさいよ……」
従騎士「……」
従騎士「……いいだろう」
従騎士「貴様の望み通りにしてやる……」スチャ
従騎士「そして、貴様のもう一つの願いは来世で叶えろ!」
従騎士「良いな?」
魔女「ええ」
従騎士「はっ!」ブン!
魔女「ぐっ!……」ズバッ!
従騎士「とりゃあ!」ブン
魔女「ぎゃああああ――――っ!」ズバババッ!
従騎士「……」
魔女「……」ドサッ
キンキン、キンキン!
魔女「……」ボワワッ
キンキン、キンキン!
従騎士「……」
騎士「従騎士、やったか?」
騎士「ハーフエルフは、死んだのか?」
従騎士「はい!」
魔女「……」ボワワッ!
騎士「そうか。よくやった!」
騎士「さすがは、私が目を掛けていた男!」
騎士「そなたは、誠に良くやってくれた!」
従騎士「はっ! お誉め頂き有り難うございます!」サッ
騎士「総員、ハーフエルフは死んだ!」
騎士「後は、残党のみだ!」
騎士「従騎士が、ハーフエルフを討ち取ったぞ――――っ!」
敵兵達「うぉ――――っ!」
キンキン、キンキン!
魔女「……」ボワワッ
キンキン、キンキン!
従騎士「……」
従騎士「さらば、ハーフエルフ」
従騎士「貴様の願い、必ず来世にて叶えるのだぞ」
魔女「……」ボワワッ
スタスタスタッ……
本日はここまで。
書き溜め投下終了。
不運な一人のハーフエルフの物語です。
~とある酒場~
「言っとくけど、私も好きでハーフエルフなんかになったんじゃない!」
「私も、皆と同じ様に平穏に暮らしていきたい!」
「それが、何がいけないって言うのよ!」
「私にだって、それくらいの権利はあるでしょうが!」
あの時、あいつはそう俺に向かって言った……
あれから20年経った今も、ずっとその言葉が頭から離れない……
今まで何人もの敵を斬ってきたが、あいつだけはそうはっきりとこの俺に向かって、そう訴え掛けてきた……
俺は、間違っていたのか?……
あの時の俺は、あいつを斬って良かったのだろうか?……
今となっては、その答えすらももう出ない……
何故なら、もう時が流れ過ぎた……
あいつは、もうこの世にいないからだ……
出来る事なら、“あいつが今はハーフエルフ以外に転生している事”を切に願う……
今の俺には、本当にそう願うしか何も出来ずにいたのだからだ……
ガチャ……
カランカラン……
バタン……
「いらっしゃい」ニッコリ
スタスタスタッ……
ストン……
「ママ。いつもの……」
「もう私、生きる気力すら無くなってきてるから……」
「あいよ」
「それと、チーズとジャーキーもお願い……」
「なんか、今日は物凄く最悪な目覚めをしたからね……」
「以前、私を斬り殺した相手が没落した夢を見ちゃった……」
「それで、今の私まで生きる気力すら、朝から大分失われてきたからさ……」
「!?」ムクッ
店主「そう。あんたも大変ね」
店主「ハーフエルフやって、もう今年で100周年だっけ?」
魔女「ええ。そうだけど……」
店主「あんた以外に、五回転生して五回ともハーフエルフなのって、他にいるの?」
店主「今まで、色んなお客を見てきたけど、あんたみたいなのは完全に初めてなのよ」
剣士「!?」ガーン
魔女「いや、私も好きでなった訳じゃないから……」
魔女「言っとくけど、これについてはエルフの里の族長とかにも、何度も抗議済みだから……」
魔女「私も、皆と同じ様に平穏に暮らしていきたいのに……」
魔女「私、何も悪い事なんてしてないのに……」
魔女「それが、何がいけないって言うのよ?……」
魔女「私にだって、それくらいの権利はあるでしょう?……」
魔女「一体、私が何したと言うのよ!……」
魔女「もうこんな生活、沢山なのよ!……」ポロポロッ
店主「……そうね」
店主「あんた、一体何をしたんだろうね?」
店主「でもさ、エルフの里の族長とかにも話たんなら、何か解決法は聞かなかったの?」
店主「それくらい、今のあんたなら聞いてきたんでしょ?」
店主「ただでさえ、今のあんたはかなり特殊なのに……」
店主「本当に、神様って奴も今のあんたに対して、物凄く残酷な事をするわね……」
魔女「……」ポロポロッ
剣士「……」ガクッ
カチャカチャ、カチャカチャ……
トポポポポポポポッ……
スッ、ストン……
店主「はい。お待ち」
魔女「ありがとう」ポロポロッ
剣士「……」ゴクゴクゴクッ
店主「そこの剣士さん、おかわりは?」
店主「次は、あんた何を飲むんだい?」
魔女「……」モグモグモグッ
剣士「そうだな。同じワインをもう一杯」
剣士「それと、そこのハーフエルフと一緒のつまみを頼む」
剣士「そろそろ、勇者はここに来る頃だからな」
剣士「今度こそ、俺を仲間にしてくれると良いんだが……」スッ
店主「あいよ」スッ
魔女「……?」ピタッ
剣士「……」
カチャカチャ、カチャカチャ……
トポポポポポポポッ……
スッ、ストン……
店主「はい。お待ち」
魔女「そう言えば、その胡散臭い族長が言うには、亡くなった前の族長が原因なんだって……」
魔女「私の母、当時の族長と大喧嘩したから……」
魔女「それが原因にて、今の私はずっとハーフエルフ……」
魔女「その事さえなければ、私はエルフの里にいれた……」
魔女「今みたいな生活、全く送ってなかったらしいの……」ポロポロッ
剣士「……」モグモグモグッ
店主「それで?」
魔女「何でも、当時の族長が好きだった男の人が私の母の婚約者……」
魔女「だから、私の母をエルフの里から何も告げずに強引に追い出した挙げ句、近くの山賊に襲わせた……」
魔女「その時は、幸い子供は出来なかったけど……」
魔女「それが原因で母と大喧嘩になって、私の母に逆ギレの形にてある種の呪いを掛けてしまい……」
魔女「今の私は、そのとばっちりを受けてるんだって……」ポロポロッ
店主「……は?」
剣士「!?」ポトッ
店主「ちょっと、何なのよ。それ?……」
店主「あんた、それかなりのとばっちりじゃないの!……」
店主「今のあんた、全くもって何もしてないじゃないの!……」
魔女「ええ。そうよ!……」ポロポロッ
店主「それじゃあ、解決法は?……」
店主「何か、今の族長から聞き出せなかったの?……」
魔女「うん。無いに等しい!……」
魔女「いい歳をした、ショタコン性悪女が死ぬまで口を一切割らなかったから!……」ポロポロッ
店主「そんな!……」
魔女「でも、まだ向こうでも何か解決法はないか、色々と検討に入ってるみたい……」
魔女「あの性悪女、私の母以外にも多数の被害者を増産し続けていてね……」
魔女「ただでさえ、族長の権限はかなり強大……」
魔女「特に、私の母については、かなり残酷な仕打ちを死ぬまでし続けたんだって……」ポロポロッ
店主「……」
魔女「だから、私は現族長に抗議したわ……」
魔女「今の族長、私の母の弟だったみたいだから……」
魔女「その際に、私は母の幻影を出して、“私をいつまで不幸にするつもりなの?”……」
魔女「“貴方まで、私の事をレ〇プし続けるの?”……」
魔女「“お願い、もう止めて!……”」
魔女「“お願いだから、もう私を自由にして!”……」
魔女「そう、私は母の幻影を出して現族長に抗議したり、現族長の夢の中で魘したりした……」ポロポロッ
魔女「そしたら、向こうからわざわざ私に使者を送ってきて、“貴方の思いは十分に分かった”……」
魔女「“こちらでもなんとか出来ないかどうか検討をするから、今すぐ毎晩私の夢の中に無惨な姿をした姉さんを出さないでくれ!”……」
魔女「そう、私は現族長からの悲痛な叫びを、何故か聞く羽目になってしまったのよね……」ポロポロッ
店主「……」
剣士「……」
魔女「……」ゴクゴクゴクッ
魔女「……」ストン
店主「……大体は、分かった」
店主「つまり、どうしようもない性悪女の所為で、今のあんたは物凄く不幸な目に遭ってるのね?……」
店主「それが原因にて、あんたは未だにハーフエルフのままなのよね?……」
魔女「ええ。そうよ……」ポロポロッ
店主「けどさ、あんた五回も転生して辛くないの?……」
店主「今のあんた、このままずっとハーフエルフに転生し続けるの?……」
魔女「……」ポロポロッ
店主「……」
魔女「今の私、少なからずエルフの能力を持ってるから……」
魔女「エルフ特有の“来世でもエルフになれる能力”を、ハーフエルフへと変更されちゃったから……」ポロポロッ
店主「ああ……」
魔女「その結果、私は今後転生したとしても、ずっとハーフエルフ……」
魔女「以前までの記憶や能力等すら、完全にそのまま引き継いだまま……」
魔女「私以外に、そんな特殊な例は存在しない……」ポロポロッ
魔女「だから、エルフの里もこれに関しては、なんとか出来ないか検討に入ってるみたいなのよね……」
魔女「このまま行くと、エルフの里から女性が消えてしまう……」
魔女「私の母みたいに、無理矢理人間に集団でレ〇プされ続け、ハーフエルフを量産し続けちゃう……」ポロポロッ
店主「……」
魔女「けど、あまり良い案がエルフの里にも、なかなか出ないみたいだからね……」
魔女「私みたいなハーフエルフ、またここ最近は増えてきてるし……」
魔女「今更ながらも、エルフの里自体がこの私に対して、正式にこれまでの事で謝罪をしてくる程だからね……」ポロポロッ
剣士「……」
魔女「……」ゴクゴクゴクッ
魔女「……」ストン
魔女「……」モグモグモグッ
ガチャ……
カランカラン……
バタン……
スタスタスタッ、ストン……
店主「いらっしゃい」ニッコリ
魔女「……」モグモグモグッ
剣士「おっ……」
勇者「ママ。エールを」
勇者「それと、ある人物に関する情報がほしいんだが」
店主「あいよ」
カチャカチャ、カチャカチャ……
トポポポポポポポッ……
ストン……
店主「はい。お待ち」
勇者「すまない」
店主「それで、誰の事を知りたいの?」
店主「その人、何かしたの?」
勇者「いや、特には」
勇者「俺は、その人をウチの仲間に引き入れたいだけだ」
剣士「!?」ピカァ!
店主「それで、その人の特徴は?」
店主「男か女、どっちなのかしら?」
剣士「……」ゴクリ
勇者「俺が探してるのは、かなり幸薄な女だ」
勇者「でも、戦闘面に関してはかなりの腕前」
勇者「特徴は、ハーフエルフで金の長髪の爆乳美女」
勇者「確か、口癖は“私は好きでハーフエルフになった訳じゃない!”」
勇者「数々の伝説を作っている、年齢は18歳くらいのハーフエルフの女なんだが」
剣士「……」ガクッ
魔女「……」フキフキ
店主「あらあら……」ニヤニヤ
彼もまた魔女同様に苦労してます。
魔女「それって、まさか私の事?……」
魔女「私を探しに、わざわざこんな辺境の地にまで来たの?……」シャキン
勇者「!?」ガタッ
魔女「あんたも、結構物好きね……」
魔女「私みたいな女を、仲間にしようとするなんて……」
勇者「じゃあ、あんたが……」
勇者「あんたが、あの伝説の傭兵部隊を率いるハーフエルフ!?……」キラキラ
剣士「!?」ガーン
魔女「……ええ。そうよ」ニッコリ
魔女「私が、貴方の探している例のハーフエルフよ」
魔女「今は、ここのマスターの元でお世話になっていてね」
魔女「今でも、冒険者として各地を出歩いていたりもしているわ」
勇者「おおっ……!」キラキラ
剣士「……」ズーン
勇者「お会い出来て光栄だ。カーネル」ニッコリ
勇者「俺の名は、勇者×××」
勇者「これでも、一応は勇者をしている」
魔女「初めまして」ニッコリ
勇者「今回は、あんたに是非とも協力してもらいたい事があって、ここまで来た!」
勇者「実は、俺の仲間がとある元騎士によって重傷を負わされた!」
勇者「そいつは、俺の仲間の武器や所持金やアイテム等を全て奪い、今現在も逃走をしてしまってるんだ!」
剣士「!?」
勇者「それで、是非ともあんたにその元騎士の捕縛に協力をしてもらいたい!」
勇者「そいつはロメオと名乗り、目当ての品や女をジュリエットと名付けて力付くで何もかも強奪!」
勇者「その被害は、民間人も含めたらかなりのもの!」
勇者「中には、無理矢理レ〇プされて妊娠してしまい、自ら命を絶った者さえもいる!」
魔女「酷い!」
剣士「……」ダラダラダラッ
勇者「だから、是非ともあんたには協力をしてもらいたい!」
勇者「被害に遭った俺の仲間も、あんたと同じハーフエルフ!」
勇者「今回は、そいつからの紹介でここまで来た!」
勇者「確か、あんたも周囲にはジュリエットと名乗ってるよな?」
勇者「あんたの使用する特殊な召喚術等で、その元騎士を捕縛するのに是非とも協力をしてもらいたい!」
剣士「……」ガクガク
魔女「ええ、任せといて!」
魔女「必ず、私がこの手で地獄に突き落としてあげるわ!」ニッコリ
勇者「よっしゃあ――――っ!」ギュッ
魔女「よろしく!」ギュッ
店主「あらあら」ニヤニヤ、チラリ
剣士「マスター、勘定を頼む……」ガタッ
剣士「なんか、急に悪酔いした……」ガクガク
剣士「少し、風に当たってくるわ……」ガクガク
店主「あいよ」ニヤニヤ
正直、俺はあの二人のやり取りを見て、強烈な寒気を感じた。
全くもって事実無根の噂を流され、俺は足早に酒場を後にした。
多分、ママは気づいていたのだろう。
俺が、勇者の探している人物だと。
だが、俺は確かに今まで数多くの盗みをしてきたが、レ〇プまではしていない。
あれは、“借金や生活苦が原因”で、仕方なくやっていただけなんだ。
一体、誰がそんな事実無根な噂を流したのだろうか?
あの時のハーフエルフは、またしてもハーフエルフに転生してしまっていたのか……
しかし、時の流れとはあまりにも残酷なものだな。
幸薄なハーフエルフに、それを討伐しに来た一人の従騎士。
思えば、俺があのハーフエルフと出会ったのは、あの時が最初。
それ以来、俺は騎士としての経験を着々と積み上げ、一人前の騎士となり……
今ではすっかり騎士の身分を剥奪されてしまったが、あの時が一番俺にとっては輝いていた瞬間でもあったのだった。
~とある船着き場~
その頃――
ザザーーン、ザザーーン……
従者a「のどかだなぁ……」
従者b「ああ、そうだな……」
従者a「それにしても、勇者は遅いな……」
従者a「勇者どころか、他のメンツすらいないんだが……」
従者b「ああ。そうだな……」ズズッ
従者a「もしかして、俺達置いてかれたとか?……」
従者a「また、色々と理由を付けられてハブられた様だな……」ポリポリ
従者b「ああ、多分な……」
従者a「相変わらず、人間は差別が好きなんだな……」
従者a「俺達も、好きで生まれた訳でもないのにな……」ズズッ
従者b「ああ。そうだな……」ポリポリ
ザザーーン、ザザーーン……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ピタッ……
漁師「ん? あんたら、旅人か?」
漁師「わざわざ、よくもまぁこんな所に来たもんだなぁ」
従者a「あ、どうも」
従者b「少し、ここまでお使いで来まして」
漁師「そうか。あんたらも大変だな」
漁師「ここは、主に故郷を追われた者達がよく集まる島なんだ」
漁師「つい最近、美人なんだがかなり癖のあるハーフエルフが来てな」
漁師「あんた達も、そいつが目当てなのか?」
従者a「ええ。そうです」
従者a「主に、ウチの主人がなんですけど」
ザザーーン、ザザーーン……
漁師「そうか。そりゃあ、災難だな」
漁師「あの女は、色々と幸薄だからな」
漁師「大方、また何か厄介事に絡まれたんだろ」
漁師「以前も、ここにわざわざエルフの里から使者が来た」
漁師「それからすぐ、あの女はかなり大きな土産を持って、ここに帰還してきたからな」ハァ……
釣り人「……」ガタッ
従者b「厄介事?」
従者b「そんなに、その人幸薄なんですか?」
従者b「俺達の聞いた話では、かなり腕のある冒険者だとか」
従者a「俺達は、そう聞いてここまで来てるんですけど」
漁師「……は?」
釣り人「……」シュルシュル
ザザーーン、ザザーーン……
カァ、カァ、カァ……
漁師「おいおい、何なんだよそれは?……」
漁師「あの女、そんなに強かったのか?……」
従者a「ええ。そう聞いてますけど」
従者b「そうじゃないんですか?」
漁師「いや、それ冗談だろ……」
漁師「それだったら、この島の住民達が皆死んでるだろ……」アセアセ
従者a「はい?」
釣り人「いや、それは確からしいぞ」
釣り人「あの女、本気出したら、この島なんかいとも簡単に制圧出来るらしいぞ」ヌッ
漁師「ま、まじかよ……!?」ガーン
釣り人「特に、自分と同じハーフエルフが酷い目に遭っていた時なんかは、私兵を率いてその場所に突撃をしてるみたいだ」
釣り人「その所為で、その場所は物資等を全て買い上げられて、被害に遭った全てのハーフエルフをあの女は一人残らず保護」
釣り人「ここに、やたらとハーフエルフが増えたのは、全てそれが原因らしい」ヨイショ
釣り人「あの女、更にはエルフの里とは完全に和解したそうだ」スタッ
ザザーーン、ザザーーン……
漁師「じゃあ俺達、かなりヤバイんじゃないのか!?……」
漁師「下手したら、確実に殺されるんじゃないか!?……」
漁師「今まで、あいつらには酷い目に遭わせてきた……」
漁師「このまま行くと、この島は完全に乗っ取られるんじゃないか!?……」
釣り人「まぁ、確実にな」ポリポリ
漁師「そ、そんな……」ダラダラッ
釣り人「でも、あの女はこっちが何もしなければ、何もしてこないぞ」
釣り人「あの女がその気なら、とうに今頃俺達は奴隷として売買されてるぞ」
漁師「!?」ビクッ
釣り人「実際、あいつはかなり苦労してるみたいだ」
釣り人「もう百年もの間、ずっと誰かに裏切られたり追われたりする毎日」
釣り人「特に、この島に初めて来た時もそんな感じだった」
釣り人「俺も初めてあいつと出会った時は、自身の目を完全に疑っちまったからな」ハァ……
漁師「……」ダラダラッ
ザザーーン、ザザーーン……
釣り人「まぁ、あいつに殺されたくなかったら、お前は嫌がらせを止めるんだな」
釣り人「ここ最近のあいつ、お前の事をとことん調べてたぞ」
釣り人「例えば、お前の生まれ故郷や現在の自宅や家族構成」
釣り人「お前は、漁に出てていなかったけど、今のお前かなりヤバイらしいぞ」ズズッ
漁師「!?」ビクッ
釣り人「まぁ、そう言う事だから、お前は夜道には気を付けろ」
釣り人「そこのお二人さん。あんたらも、あの女と同じハーフエルフなんだろ?」
従者達「!?」
釣り人「俺も、あいつとは、一時期生まれ故郷が同じだったからな」
釣り人「相変わらず、誰かにずっと騙され利用され、挙げ句の果てには裏切られるだけの生活」
釣り人「俺自身も、そんなあいつの姿を間近で見てきたからな」
釣り人「特に、あいつは何度でも何度も同じ姿で蘇り続けるんだ」
従者達「……」
ザザーーン、ザザーーン……
従者a「よく、俺達がハーフエルフだと分かりましたね……」
従者「確かに、俺達はハーフエルフです……」
従者a「でも、そんなにすぐ分かるものなんですか?……」
従者a「あまり、人間達とは身体的にも変わりないと思いますが……」
従者b「ああ。そうだな」
漁師「……」ガクガクガクッ
釣り人「そりゃあ、そうだ」
釣り人「あんたら、さっきエルフ語で話してただろ?」
釣り人「人間の言語とエルフ語を話せるのは、ハーフエルフぐらいだ」
釣り人「エルフの言語は、人間にとってはとても難しい」
釣り人「それを自然に話せるのは、今はまだハーフエルフぐらいなもんなんだよ」
従者a「ああ……」
従者b「つい癖で……」
ザザーーン、ザザーーン……
釣り人「それに、あんたらの今その手に持ってる物」
釣り人「それは、ドライソーセージとワインだ」
釣り人「普通、そんな外国産のソーセージやワインを、こんな船着き場では食わない」
釣り人「あんたらが今食ってるソーセージは、あの女が考えた特殊な召喚術によるもの」
釣り人「それを使って、本来は外国や貴族向け等の食料を召喚」
釣り人「じゃなきゃ、すぐハーフエルフだなんて見破られたりはしないんだよ」
漁師「……」ガクガクガクッ
釣り人「まぁ、この島では“ハーフエルフを泣かせると、ハーフエルフに泣かされる”と言うことわざがある」
釣り人「実際、俺もあの女に泣かされた者の一人だ」
釣り人「昔は、よく皆してあいつの事を泣かせててな」
釣り人「それが原因で、今ではこの島の住民」
釣り人「妻や子供に罵倒され裏切られ、無一文でこの島に流れ着いてきた」
釣り人「その後、流れ着いた後はこの島で釣りをする毎日」
釣り人「ある意味、この島は俺にとっては天国とも言える」
ザザーーン、ザザーーン……
釣り人「後、この島ではハーフエルフだと言う理由で差別する奴は、あまりいないぞ」
釣り人「そこの漁師は、つい最近ここに流れ着いてきてな」
釣り人「まだ、あまりこの島の事についてはよく分かってないんだ」
釣り人「実際、あんたらの主人が会いに来たあの女は、この島では数少ない有力者」
釣り人「本来なら、明らかにエルフの里では貴族階級」
釣り人「それが不運にも、今では俺らと全く同じ様な庶民生活を送る毎日」
釣り人「それで、あの女は幸薄の女だと言われてるんだ」ハァ……
漁師「……」ガクガクガクッ
従者a「そ、そうなんですか……」
従者a「想像以上に、あの人は苦労してたんですね……」
従者a「本来なら、明らかな貴族階級……」
従者a「それが、今ではただの庶民だなんて……」
従者b「ああ。そうだな……」
釣り人「……」
ザザーーン、ザザーーン……
ええ、そうです。
従者a「でも、よくそんな生活で我慢してますね?……」
従者a「普通なら、明らかにそれは耐えられない……」
従者a「それが、もし仮に俺達だったとしても、なかなかその現実については受け入れ難いと思いますが……」
従者b「……」
漁師「……」ガクガクガクッ
釣り人「さぁ、それについてはあいつに聞いてくれ」
釣り人「あいつはよく、この島の酒場で飲んだぐれてる」
釣り人「つい最近は、何故かあいつの魔術の師匠が流れてきてな」
釣り人「その人と一緒に、よく酒場で飲んだりしてるみたいだからな」
漁師「……」
ザザーーン、ザザーーン……
カァ、カァ、カァ……
ストトトトトッ、スストトトトトッ……
ピタッ……
剣士「すまん。ちょっと良いか?」
釣り人「ん? 何だ?」
釣り人「そこの剣士さん、俺らに用があんのか?」
剣士「ああ。そうだ」
釣り人「悪いが、もう船は出せねぇぞ」
釣り人「これから、確実に一雨来る」
釣り人「つうか、今からなら、この島には生きて戻ってはこれねぇよ」
剣士「!?」ガーン
釣り人「まぁ、どうしてもって言うのなら、そこの漁師が船を出してくれるぞ」クイクイ
釣り人「つい最近、こいつハーフエルフ泣かせたんだわ」
釣り人「その所為か、そのハーフエルフが今復讐に燃えていてな」
釣り人「あの女に復讐される前に、この島から出たいんだとよ」
釣り人「今のあんたと全く同じ様にな」
漁師「……」ガクガクガクッ
従者達「……」
ザザーーン、ザザーーン……
剣士「そうか……」
剣士「それで、船は出してくれるのか?……」
剣士「今すぐ、ここを出たいんだが……」
漁師「む、無理だな……」
漁師「もし仮に、あんたがハーフエルフから守ってくれると言うのなら別なんだが……」ガクガクガクッ
剣士「……訳を説明しろ」
漁師「今の俺、本気でヤベェんだわ……」
漁師「このまま行くと、本気であの女に殺されてしまうんだわ……」ガクガクガクッ
剣士「!?」ガーン
漁師「それで、どうする?……」
漁師「あんた、今から船出してほしいか?……」
漁師「俺的には、まだ隠れてた方が良いと思うぞ……」
漁師「この空じゃあ、どこももう船は出せねぇ……」
漁師「今出したら、確実に俺らまで死んでしまうからな……」ガクガクガクッ
ザザーーン、ザザーーン……
剣士「分かった。今回は諦める……」
剣士「だが、明日は出してくれ……」
剣士「それと、この辺に宿はないか?……」
剣士「出来れば、酒場以外な場所を頼む……」
釣り人「まずないな」
剣士「え?」
釣り人「酒場の所くらいしか、この島には宿はないぞ」
剣士「……」ガクッ
釣り人「あんた、もしかしてあの女に追われてるのか?」
釣り人「それだったら、もう既に諦めろ」
釣り人「この島では、“ハーフエルフを敵に回したら、生きて帰る事は出来ない”」
釣り人「実際、俺は何人も見てきた」
釣り人「あの女を敵に回して、己どころか生まれ故郷に住む家族までもが被害に遭っている現場をな」
ザザーーン、ザザーーン……
剣士「なら、どうにかして回避する方法ないか?……」
剣士「あの女から、どうやったら逃げれるんだ?……」
釣り人「う~ん、まずは謝罪してこい」
釣り人「謝罪して、あの女が抱いている恨みを全て消して貰ってこい」
剣士「……」
釣り人「それが終わったら、ここの炭鉱で四年間勤務しろ」
釣り人「今でも、この島の炭鉱は人手不足」
釣り人「それが終われば、晴れて無事に自由の身だ」
剣士「……」
釣り人「まぁ、それが嫌なら諦めて殺されるんだな」
釣り人「でもあいつ、サクッとすぐには殺さないぞ」
釣り人「特にあいつに酷い仕打ちをした奴は、苦しめて苦しめて苦しめぬいて、いざ命乞いをし始めてからが本番」
釣り人「そこからは、一生奴隷としてコキ使われる毎日」
釣り人「勿論、家族まで道連れでな」
ザザーーン、ザザーーン……
支援有り難うございます。
~とある酒場前~
ゴロロッ、ゴロロッ……
魔女「なんか、今日は雨が降ってきそうね」
魔女「早めに、宿を決めといた方が良いんじゃない?」
勇者「ああ。そうだな」
魔女「それで、貴方の仲間のハーフエルフは?」
魔女「どこか、その辺を見て回ってるのかしら?」
勇者「多分、そうだと思う」
魔女「う~ん。やっぱ、今日は朝から不吉な予感がしてるかも」
魔女「さっきの剣士、誰かに似てる様な気がするの」
勇者「……?」
魔女「確か、昔会った事があるはずなのよね……」
魔女「あれから、もう20年経つし……」
魔女「さっきの剣士、今すぐ見つけた方が良いかもしれないわね……」
勇者「……は?」
勇者「カーネル。どう言う事だ?」
勇者「あの剣士、何かあるのか?」
魔女「ええ、多分」
勇者「いや、それはないだろう」
勇者「あんな悲壮感漂う落ちぶれ剣士が、何かある訳ないだろう」
魔女「そうかしら?」
勇者「それに、俺の仲間を襲った奴はもっと勇ましかった」
勇者「それは、もう鬼神のごとき強さ」
勇者「あんな安物のワインを啜り飲みながら酔いつぶれていた、悲壮感漂う剣士が何かあるはずない」
魔女「……」
勇者「多分、これはあんたの思い違いだと思う」
勇者「あいつの装備、かなり貧弱だった」
勇者「今時珍しいくらい、安物の剣に年代物の革鎧」
勇者「元々、どっかの下級兵士崩れだろ」
勇者「あんな奴が、俺の仲間を襲った奴だとは信じたくない!」
魔女「う~ん。やっぱ、思い違いかしら?」
魔女「あいつ、生きてたら確実に30越えてるはずだからさぁ」
魔女「師匠が言うには、あの後一人前の騎士になったみたいなのよね」
魔女「私、あの後一度も会ってなかったし」
魔女「あんな悲壮感漂う落ちぶれ剣士に昔斬り殺されたなんて、出来れば私も信じたくないわ」
勇者「同感だな」
魔女「でも、貴方の仲間が話してくれた特徴には、少なからず一致してるのよね」
魔女「特に、髭の濃さや髪の長さ」
魔女「肌の色合いに、唯一違うのはあの死んだ魚みたいな目」
魔女「後は、身長や体格に剣士だと言う事は一致している」
魔女「まぁ、この天気じゃもう船も出せないだろうし」
魔女「宿は、今さっき私達がいた酒場くらいなもんだからね」
勇者「……」
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
「待て~~っ!」
支援有り難うございます。
勇者「?」キョロキョロ
魔女「何かしら?」キョロキョロ
勇者「……」キョロキョロ
魔女「……」キョロキョロ
「頼む。そいつを誰か捕まえてくれ~~!」
魔女「あ……」
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
「くっ……」
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
「待て~~っ!」
勇者「げっ……」
「ああ。まだ追いかけてくる……」
「あいつら、不死身か?……」
「ついさっき、膝から下は斬りつけたはずなのに!……」
勇者「……」
「魔法使い。もう一度火炎攻撃!」
「今後こそ、あのハーフエルフ共を全て焼き付くしてくれ!」
「了解した!」
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
ピタッ、ササッ……
「……」スチャ
「てやっ!」ボワッ!
「わわっ!?」ササッ、ドサッ
「魔法使い。ナイスだ!」
「さっさと、勇者と合流するぞ!」
「おう!」
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
「ああ、僕達の家が~~っ!?」
「僕達の家が~~っ!?」ポロポロッ
ゴゴゴゴッ、ゴゴゴゴッ……
ガヤガヤッ、ガヤガヤッ……
「おい。誰か消火手伝え!」
「ハーフエルフの自宅が放火された!」
「これがバレたら、俺らまで死ぬぞ!」
「せっかく、明日妻や子供に会えると思ったのに、全てが台無しになるぞ!」アセアセ
魔女「……」
「お姉ちゃん。早く来て!」
「僕達の家が、僕達の家が――――っ!!」ポロポロッ
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
勇者「……」
「ほれ、水を持ってきた!」
「早く消火しろ!」
「皆、早く手伝ってくれ!」
「このままだと、俺達の家まで燃え広がるぞ!」アセアセ
ゴゴゴゴッ、ゴゴゴゴッ……
そんな感じです。
勇者の仲間達(従者二人除く)は、「自分達は勇者の仲間だから、何しても許される」と思っています。
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
ピタッ、ササッ……
警備兵「申し上げます!」
警備兵「勇者様の仲間が、ハーフエルフの自宅に放火!」
警備兵「今現在、最寄りの住民達が消火活動を開始!」
警備兵「現在も、勇者様の仲間は逃走を続けております!」
勇者「……」
魔女「大至急、勇者様の仲間を捕縛せよ!」
魔女「伯爵様と司教様にもすぐに報告!」
魔女「船着き場をすぐに封鎖!」
魔女「住民の避難及び負傷者の救援並びに消火活動を継続せよ!」
警備兵「はっ!」
勇者「……」
ムクッ、クルッ……
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
魔女「さて、勇者様。何か申し開きは?」
魔女「貴方のお仲間の不祥事、どう弁解をなさるつもりなのですか?」ニッコリ
勇者「そ、それは……」ダラダラッ
魔女「はぁ……」
魔女「せっかく、あそこの住宅は建てたばっかなのに……」
魔女「ついこの間、私が保護したハーフエルフ達の為に、伯爵様の許可を取って建てたばかりの住宅なのに……」ムスッ
勇者「誠に、申し訳ない!」ササッ、ペコッ
魔女「……」
勇者「……」
魔女「まず、あの住宅の建造費用については全額弁償ね」
魔女「それが終われば、国王陛下に勇者一行による民間人への強盗致傷及び放火の罪に関する報告させてもらうわ」
魔女「後は、この島を治める伯爵様に勇者一行を裁いてもらい、有罪ならこの島で四年間奴隷として炭鉱勤務」
魔女「まぁ、良くて住宅の再建費用は取り戻せるわね」
魔女「勿論、全額弁償していただけますよね? 勇者様」ニッコリ
勇者「は、はい……」ガクガク
魔女「とりあえず、あんた今いくら持ってるの?」
魔女「出来れば、早期に支払って貰いたいんだけど」
勇者「……」ガクガク
魔女「まさか、あの元騎士に全額奪われたとか?」
魔女「勇者ともあろう人物が、強盗被害に遭っていたとでも言うの?」
勇者「誠に、申し訳ない……」ガクガク
魔女「はぁ、呆れた……」
魔女「まさか、勇者がここまで弱かったとは……」
勇者「……」ガクガク
魔女「とりあえず、あんたの仲間を先に捕まえましょ」
魔女「まだ、そう遠くには行ってないと思うし」
魔女「今のあんた、私の取った人質だから」
魔女「だから、あんたは絶対に逃げないでよね」ニッコリ
勇者「はっ、仰せのままに!……」ガクガク
プシューーーーッ……
勇者(こりゃあ、まずい事になったなぁ……)
勇者(まさか、あいつらがあんなヘマをするなんて……)
勇者(つうか、戦士に魔法使い、お前ら一生恨むぞ……)
勇者(僧侶は、まだ何もしてないみたいだけど、あいつらだけでも十分過ぎる……)ガクガク
ガヤガヤッ、ガヤガヤッ……
勇者(なるべく、被害を軽減しないとな……)
勇者(このままでは、俺の命すら危ない……)
勇者(ただでさえ、カーネルを敵に回したくなかったのに……)
勇者(カーネルの持つ戦力は、今後の展開を大きく左右する程なのだからな……)ガクガク
ガヤガヤッ、ガヤガヤッ……
「誰か、また水を持ってきてくれ!」
「このままじゃ、マジでヤバイ!」
「司教様達が、逃げ遅れた!」
「教会にまで、引火したぞ――――っ!!」アセアセ
勇者「!?」ガーン
「くそっ、火が強すぎる!……」
「火が強すぎて、司教様の救出が出来ない!」
「誰か、水系魔法の援軍を頼む!」
「このままだと、役場や自警団本部にも被害が出るぞ!」
「早く、市場にも被害が出る前に消火を急ぐんだ!」アセアセ
プシューーーーッ、プシューーーーッ……
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
魔女「あらあら、かなり大事になってきたわね……」
魔女「これ、下手したら勇者の身分剥奪もの……」
魔女「場合によっては、勇者一行全員が死刑になるわよ……」
勇者「……」ガクガク
魔女「あ、ちなみに私は水系魔法は使えないから」
魔女「主に、私は燃やす方……」
魔女「そう、今みたいな火炎が私の持つ属性だからね」
勇者「orz……」ガーン
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
ピタッ、ササッ……
警備兵2「申し上げます!」
警備兵2「逃げた犯人達は、船着き場周辺にて発見!」
警備兵2「ですが、不審な剣士一名が外部から来たハーフエルフ及び民間人4名を、船着き場にて殺害!」
警備兵2「現在も、船着き場にて駆け付けた警備隊員らを相手に交戦しております!」
魔女「何ですって!?」
勇者「!?」ムスッ
魔女「至急、その不審な剣士をすぐに捕縛しなさい!」
魔女「その不審な剣士は、私達が追っている重罪人!」
魔女「あいつは、数々の強盗や強姦致死を働いてきた!」
魔女「だから、すぐに捕縛しなさい!」
警備兵2「はっ!」
ムクッ、クルッ……
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
魔女「まさか、あいつがあの時の従騎士なの?……」
魔女「本当に、あいつもあそこまで落ちぶれていたの?……」
勇者「……」ガクガク
魔女「いや、違う。そんなはずない……」
魔女「師匠が言うには、まだ騎士として輝かしい働きをしているはずなのに……」
勇者「……」ガクガク
魔女「ねぇ、勇者。あんたはどう思う?……」
魔女「あいつが、そんな事をすると思う?……」
勇者「……」ガクガク
魔女「はぁ……」
魔女「勇者は、何も答えてくれないんだ……」
魔女「今の私、また裏切られたわ……」
勇者「……」ガクガク
ガヤガヤッ、ガヤガヤッ……
プシューーーーッ、プシューーーーッ……
魔女「まぁ、今はそんな事なんてどうでも良いわ……」
魔女「あんたの仲間のハーフエルフは、一体どこ?……」
魔女「この島のどこにいるの?……」
勇者「ふ、船着き場です……」ガクガク
魔女「……そう」
魔女「まさかとは思ったけど、船着き場だったなんて……」
魔女「これで、あんたの仲間のハーフエルフは全て死んだ……」
魔女「また、今回も最悪な結末だわ……」
勇者「……」
魔女「ねぇ、勇者……」
魔女「これは、私にとっては因果応報なの?……」
魔女「それとも、自業自得なの?」
勇者「……」ガクガク
ガヤガヤッ、ガヤガヤッ……
プシューーーーッ、プシューーーーッ……
魔女「……そう」
魔女「また、そうやって何も答えてくれないんだ……」
魔女「勇者もまた、師匠やあの従騎士達と全く同じ気持ちなんだ……」ポロポロッ
勇者「……」ガクガク
魔女「結局、誰も私に味方してくれないのね……」
魔女「また、私は誰かに裏切られてしまうのね……」ポロポロッ
勇者「……」ガクガク
魔女「なら、仕方ない……」
魔女「私が、全て消してあげるわ……」
魔女「あの落ちぶれ騎士と共に、全てを葬ってあげるわ……」ブワッ
勇者「!?」ビクッ
「待て、ジュリエット。早まるな!」
「お主は、まだ死んではならん!」
魔女「!?」プシューーーーッ
勇者「あ、あんたは……!?」ガクガク
「ジュリエット。まだ死ぬな!」
「お主は、まだ死んではならんのじゃ!」
「幸い、儂は蘇生魔法を使える!」
「それで、あ奴等を蘇らせてやる!」
「じゃから、お主は死ぬ必要はない!」
「良いか? 絶対に死ぬのじゃないぞ?」スタッ
魔女「……はっ、仰せのままに」ペコッ
勇者「……?」ムクッ
鹿「……」トコトコ、ピタッ
魔女「……」フキフキ
勇者「……鹿?」キョトン
鹿「……」スリスリ
魔女「師匠……」ニッコリ
勇者「えっ!?」ガーン
プシューーーーッ、プシューーーーッ……
支援有り難うございます。
~とある船着き場~
ザザーーン、ザザーーン……
カァ、カァ、カァ……
剣士(ああ、またやってしまったな……)
剣士(たかがハーフエルフごときに、つい感情的になってしまった……)
従者a「……」
剣士(しかし、何故ハーフエルフがこんな良いワインを?……)スッ
剣士(これ、明らかに貴族向けのワインだろ……)ムカムカ
従者b「……」
剣士(まぁ、今となってはどうでも良いか……)
剣士(ついうっかり、その辺にいた漁師や釣り人も斬り殺してしまったが……)
剣士(元々、ハーフエルフごときがこんな良いワインなんか飲んでんじゃねぇよ……)
剣士(俺ですら、こんな良いワイン飲んだ事ないのに……)
剣士(本当に、色々とムカつくな……)ハァ……
ザザーーン、ザザーーン……
戦士「おい、そこのおっさん」
戦士「お前、一体何者だ!?」
戦士「何故、お前なんかが勇者のハーフエルフを殺してるんだ!?」
剣士「……」モグモグモグッ
戦士「場合によっては、俺達はお前の事を斬らなきゃならない!」
戦士「そこに転がってる二匹は、一応勇者の持ち物でな!」
戦士「それをお前が叩き斬ってくれたから、俺達はお前の相手までしなくちゃいけなくなっちまったんだよ!」スチャ
剣士「……」ゴクゴクゴクッ
魔法使い「ほう、やけに余裕だな……」
魔法使い「あんた、俺達が怖くないのか?……」
魔法使い「俺達は、泣く子も黙る勇者一行!」
魔法使い「俺達は、神のご意志によって選ばれた存在なのだ!」スチャ
剣士「……あ?」ムカムカ
戦士&魔法使い「!?」ビクッ
ザザーーン、ザザーーン……
剣士「おい、貴様ら。今なんて言った?」
剣士「自分達は選ばれた存在だ?」
剣士「貴様ら、本気でそう思ってんのか?」ムカムカ
戦士「……」ビクビクッ
剣士「言っとくがな、今の貴様らは単なる糞生意気なガキだ!」
剣士「たかが、警備兵数人斬ったくらいでいい気になるな!」ムカムカ
魔法使い「……」ビクビクッ
剣士「それに、今の貴様ら対人戦闘はまだまだだぞ!」
剣士「俺は、数多くの強者を見てきた!」
剣士「それに比べたら、今のお前らは単なるヒヨコ!」
剣士「俺が今まで戦ってきた奴等の方が、むしろ神に選ばれる様な奴等ばかりだったんだよ!」ドヤッ!
戦士「!?」ガーン
魔法使い「う、嘘だ!?……」ガーン
ポツ、ポツ、ポツ……
ザザーーン、ザザーーン……
魔法使い「嘘だ、嘘だ、嘘だ!」
魔法使い「そんなのあんたの言うデタラメだ!」
魔法使い「あんた、俺達に対して嘘言ってんじゃねぇ!」
魔法使い「俺達は、神に選ばれた存在だ!」
魔法使い「そんなの絶対に嘘に決まってる!」ムカムカ
剣士「……」モグモグモグッ
ゴロゴロゴロッ、ゴロゴロゴロッ……
ポツ、ポツ、ポツ、ポツ、ポツ、ポツ……
戦士「ああ、そうだ!……」
戦士「俺達は、神にも勇者にも選ばれた存在だ!」
戦士「そんな俺らが、目の前にいる格下の付けたランクに惑わされない!」
戦士「いやむしろ、お前の方が単なるヒヨコだ!」
戦士「そんなみすぼらしい格好をしている奴の言う事が、本気で信用出来るか!」ムカムカ
剣士「……」ゴクゴクゴクッ
ザザーーン、ザザーーン……
剣士「いや、嘘じゃねぇよ!」
剣士「俺は、今の貴様らに本当の事を言ってんだよ!」
剣士「俺は、こう見えても元騎士でな、数々の戦場を駆け巡ってきた!」
剣士「特に、騎士同士のイベントの一つでもある馬上槍試合!」
剣士「その試合が開かれる時、各地から腕に覚えのある騎士達が多数駆けつけてくる!」
剣士「貴様らが、神にも勇者にも選ばれた存分なんて、数百年早いんだよ!」ブアッ!
ドゴオオオオーーーーン!
戦士「!?」ドサッ
魔法使い「うわっ!?」ドサッ
剣士「……」ストン、ムクッ
戦士「……」ビクビクッ
魔法使い「……」ビクビクッ
剣士「……」スチャ
ザーーッ、ザーーッ……
ザザーーン、ザザーーン……
剣士「お前ら、そんなに信じられないか?」
剣士「そんなに、自分達が弱いと言う事を認めたくないのか?」
戦士「……」ビクビクッ
剣士「なら、今ここでお前らに証明してやるよ」
剣士「所詮、お前らはただの糞ガキ」
剣士「世の中の厳しさ、この俺がとくと教えてやるよ!」タァラン
魔法使い「……」ビクビクッ
剣士「ん? どうした?」
剣士「掛かって来ないのか?」
戦士&魔法使い「……」ビクビク
剣士「まぁ良い」
剣士「お前らも、どうせ生きてここから出れねぇんだ!」
剣士「あの女に殺されねぇ事を、しかと感謝するんだな!」スチャ
ザーーッ、ザーーッ……
ザザーーン、ザザーーン……
剣を抜いた時の音です。
なんだ、剣士は過去の事悔やんでるのかと思ったら更にクズになってただけなのか
クズしか出てこんのか
勇者もなにやら腹に一物あるみたいだし
本当にクズが多いです。
>>88
剣士は、若い頃から騎士の身分を悪用し、犯罪に手を染めています。身分を剥奪された後も犯罪を繰り返し、自身の犯した罪には後悔はしていません。
>>89
勇者は、魔女の持つ戦力を目当てに近づき、魔女の事をそのまま利用するつもりでしたが、仲間の思わぬ不祥事により頓挫してしまいました。ハーフエルフに対しても、主に家畜又は奴隷として利用するべきと言う考えを持っています。
「全員、すぐに武器を捨てろ!」
「さぁ、早く捨てるんだ!」
剣士「!?」
戦士「何だ!?」
魔法使い「……敵の援軍か?」
剣士「ちっ……」
ササササッ、ササササッ、ピタッ……
スチャ、スチャ、スチャ……
ヒヒィーーン!
警備隊長「xxx島警備隊だ!」
警備隊長「さぁ、早く武器を捨てろ!」
警備隊長「全員、大人しく投降をするんだ!」
警備兵達「……」
ザーーッ、ザーーッ……
ザザーーン、ザザーーン……
剣士「ほぅ、島の警備隊か……」
剣士「今度は、多数の兵を連れてきたんだな……」
剣士「だが、そんな兵はただの雑魚ばかり!」
剣士「今の俺には、そんな子供だましは通用しない!」
警備兵達「……」
警備隊長「いや、それはどうかな?」
警備隊長「大人しく、貴様らは武器を捨てるんだ!」
警備隊長「貴様等の方が、今の俺達にとってはただの雑魚!」
警備隊長「カーネルに鍛えられた俺達の腕、存分に見せてやる!」
剣士「何!?」
警備隊長「弓隊、構え――――っ!」
ササササッ、ササササッ……
警備隊長「放て――――っ!」
パパパパパパパパッ、パパパパパパパパッ!
ザザーーン、ザザーーン……
剣士「甘い!」バタッ
魔法使い「シールド!」シャキン
戦士「くっ……」バタッ
スパパパパパパパパッ、スパパパパパパパパッ!
剣士「……」ドキドキ
魔法使い「……」ドキドキ
戦士「……」ドキドキ
剣士「……」ムクッ、キョロキョロ
剣士「……ふっ、回避出来た」
剣士「本当に、良い矢だったぜ……」ホッ
警備隊長「ちっ……」
戦士「……」ドキドキ
魔法使い「……」ドキドキ
ザーーッ、ザーーッ……
ザザーーン、ザザーーン……
剣士「ふっ、どうした?」
剣士「貴様らの力は、そんなものなのか?」
剣士「今の俺達、まだ生きてるぞ!」
剣士「そんなしょぼい攻撃、全く効いてないぞ!」
警備兵達「……」
魔法使い「いや、あんた、俺が守ってたんだから……」
魔法使い「俺の張ったシールドで、今のあんたは生きてんだから……」
剣士「!?」ガーン
魔法使い「普通、敵に守ってもらうか?……」
魔法使い「ついうっかり、橋全体にシールド張ったから仕方ないけど……」
魔法使い「今のあんた、物凄く格好悪い……」
魔法使い「さっきと比べて、かなり格好悪いぞ……」
戦士「ああ、そうだな……」
剣士「……」プッチン
ザザーーン、ザザーーン……
剣士「あ、文句あんのか?」
剣士「これも、生き残る為の常套手段だ!」
剣士「貴様らと違って、俺は数々の戦場に出てきた!」
剣士「今みたいなシュチエーション、かなり沢山ある!」
剣士「時には、敵を盾にしてでも守りに入る時は、戦場の中では多数あるんだよ!」ムカムカ
戦士「……」
警備隊長「弓隊、炸裂矢用意!」
警備隊長「敵のシールドを砕くのだ!」
ササササッ、ササササッ……
警備隊長「放て!」
パパパパパパパパッ、パパパパパパパパッ!
ヒューーッ、チュドドドドドドドーーーーーーーーン!
剣士「!?」グラッ
ヒューーッ、チュドドドドドドドーーーーーーーーン!
魔法使い「な、何だ!?」バリリン
剣士「今の攻撃、炸裂矢か!?」
剣士「あいつ、俺達を殺すつもりか?」
戦士「!?」
剣士「魔法使い、早くシールドを張れ!」
剣士「じゃねぇと、また奴等が仕掛けてくるぞ!」
魔法使い「お、おう……」シャキン
戦士「勝手に、指図すんな!」
ドッゴオオオオオオオオーーーーーーーーン!
剣士「!?」バタッ
戦士「なっ!?」バタッ
魔法使い「第三射か!?」ビクッ
警備隊長「弓隊、再度炸裂矢用意!」
ササササッ、ササササッ……
警備隊長「放て!」
パパパパパパパパッ、パパパパパパパパッ!
ヒューーッ、チュドドドドドドドーーーーーーーーン!
戦士「くっ……」
ヒューーッ、チュドドドドドドドーーーーーーーーン!
魔法使い「うわっ!?」バリリン!
剣士「ちっ……」
警備兵達「……」
警備隊長(大体、第二射までは耐えきれるのか……)
警備隊長(あの魔法使いの張ったシールド、相当硬いな……)
剣士「おい、ガキ共、無事か?……」
剣士「まだ、戦えるか?……」
戦士「ああ、なんとか……」
魔法使い「まだ、いけるぜ……」
剣士「なら、早く再びシールドを張れ!」
剣士「良いな?」
魔法使い「おう!」シャキン
警備隊長「弓隊、大爆裂弾用意!」
警備隊長「船着き場の後ろを狙え!」
ササササッ、ササササッ!
警備隊長「放て!」
パパパパパパパパッ、パパパパパパパパッ!
魔法使い「き、来たぞ!」
戦士「……」サッ
剣士「……」サッ
ヒュー------ーッ!!
魔法使い「……」
戦士「……ん?」
剣士「……何か、様子がおかしい?」
剣士「まさか、フェイントを掛けられたのか?……」
警備隊長「……」ニヤリ
ザザーーン、ザザーーン……
ヒューーーーッ、ポチャ……
ドッゴオオオオオオオオーーーーーーーーン!!
剣士「!?」グラッ
ヒューーーーッ、ポチャ……
ドッゴオオオオオオオオーーーーーーーーン!!
戦士「な、何だ!?」ガクガク
魔法使い「う、海が……!?」ガクガク
ザザーーン、ザザーーン……
ドバババッ、ドバババッ……
戦士「う、うわああああ――――っ!?」
魔法使い「な、波が――――っ!?」
剣士「おうふっ!?……」バリリン
魔法使い「け、剣士だけ流された!?」ガーン
ザザーーン、ザザーーン……
ドバババッ、ドバババッ……
戦士「……」ゼェゼェ
魔法使い「……」ゼェゼェ
剣士「……」ブクブクブクッ
戦士「……」ゼェゼェ
魔法使い「……」ゼェゼェ
剣士「……」ブクブクブクッ
警備隊長「どうだ? 凄い威力だろ?」
警備隊長「これでも、貴様らは俺達の事を雑魚と言うのか?」
警備隊長「今の俺達からしてみたら、貴様らの方が遥かに雑魚なんだよ!」ニヤニヤ
警備兵達「……」ニヤニヤ
剣士「……」ザバッ
剣士「くっ……」ゲホッ、ゴホッ
剣士「おえっ……」ゴホッ、ゴホッ
ザーーッ、ザーーッ……
ザザーーン、ザザーーン……
剣士「くそっ……」
剣士「なんて、威力だ……」
剣士「あの爆発、前より強くなってやがる!……」
剣士「あの女、本気で攻めてきやがった!……」スイスイ
戦士「ま、魔法使い……」
戦士「今のは、一体何だ!?……」
戦士「あれも、魔法の一種なのか?……」ビクビクビクッ
魔法使い「わ、分からない……」ビクビクビクッ
剣士「いや、違うな……」
剣士「あれは、ただ火薬を入れた特殊な何かを爆発させただけだ……」
剣士「おまけに、雨の日でも水中でも使えるように加工……」
剣士「あの女、以前よりも格段に強くなってやがる!……」
剣士「あんな手使うのは、俺が知る限りではあの女しかいない!……」スイスイ
ザーーッ、ザーーッ……
ザザーーン、ザザーーン……
警備隊長「ほぅ、貴様この大爆裂弾に見覚えがあるのか?」
警備隊長「この大爆裂弾は、カーネルが俺達に授けられた武器!」
警備隊長「俺達は、これを使用して大勢の敵兵を撃破してきた!」
警備隊長「魔王軍相手にも、これを使用して多数の魔物を撃破してきたのだ!」
剣士「!?」スイスイ
警備隊長「それに、今の俺達は貴様らの事を殺すつもりなどない!」
警備隊長「貴様らは、大人しく投降をすれば良いのだ!」
警備隊長「でなければ、勇者が余計に泣く事になる!」
警備隊長「貴様らが犯した罪により、お前達の仲間の僧侶は火炎に飲み込まれて焼け死んだ!」
警備隊長「この島の司教様を助ける為に、自らが犠牲となったのだからな!」
戦士「!?」ビクビクッ
魔法使い「なんだと!?」ビクビクッ
剣士「……」スイスイ
ザーーッ、ザーーッ……
ザザーーン、ザザーーン……
警備隊長「もう一度言う。全員投降をしろ!」
警備隊長「もう既に、勇者はカーネルの前で投降をした!」
警備隊長「後は、貴様ら達三人のみだ!」
剣士「くっ……」スイスイ
警備隊長「あ、そうそう、今なら特別に情状酌量が付くみたいぞ!」
警備隊長「カーネルは、貴様ら全員を捕縛しろと俺達に命令をした!」
警備隊長「まだ、貴様らの命は絶対に奪うなとカーネルに命令をされてるんでな!」
戦士「……」ビクビクッ
警備隊長「だから、早く貴様らは俺達の前に投降をしろ!」
警備隊長「今回の件、貴様らは色々とやり過ぎた!」
警備隊長「今ならまだ、特別に情状酌量の余地がある」
警備隊長「さぁ、早く投降をするんだ!」
魔法使い「……」ビクビクッ
ザーーッ、ザーーッ……
ザザーーン、ザザーーン……
「戦士、魔法使い、もう止めろ!」
「もうこれ以上、カーネルを敵に回すな!」
戦士「!?」ビクッ
魔法使い「ゆ、勇者!?」ビクッ
「頼む。もうこれ以上は止めてくれ!」
「俺の愛する僧侶は、本当に死んだ!」
「今ならまだ間に合う。カーネルの前に、早く降伏をするんだ!」
警備兵達「……」
戦士「い、嫌だ……」
戦士「俺達は、神によって選ばれた者達なんだぞ!……」
戦士「たとへ、勇者からの命令でもそれは出来ない!……」
魔法使い「そうだ、そうだ!」
剣士「……」ザバッ
ザーーッ、ザーーッ……
ザザーーン、ザザーーン……
「あんた達、本当にそんな風に思ってたの?」
「いくら、勇者の仲間になれたからといって、やって良い事と悪い事があるでしょ?」
戦士「うるさい!」
「はぁ、あんた達本当に馬鹿ばっかだわ」
「そんなんだから、勇者はこの私に助けを求めてきた」
「ただでさえ、色々と周囲に対して傲慢で偏見のある仲間」
「だから、そんな自分の仲間を何とかしてほしいから、この私に助けを求めてきたのよ」
戦士「!?」
魔法使い「そ、そんな……!?」
魔法使い「そんな馬鹿な話があるか!?」
「いや、あるから」
「そうじゃなきゃ、勇者がわざわざこんな辺境の地にまで、絶対に来ないから!」
「今のあんた達、ただの躾のなっていない野獣そのもの」
「これだから、勇者は色々と苦労をする」
ザザーーン、ザザーーン……
「でも、今ならまだ間に合うわ」
「あんた達は、本当に神によって選ばれたんだから」
「だから、早くあんた達は投降をして」
「今なら、まだ罰金刑のみで済ませてあげれるから!」
「この島で生き地獄を見たくないのなら、さっさと早く投降をしなさい!」
警備兵達「……」
剣士「……分かった。投降をしよう」
剣士「それで、全ての俺の犯した罪が済むのなら……」ヨイショ
魔女「……は?」ストッ
剣士「まさか、以前と全く逆の立場になるとはな……」
剣士「お互い、人生何があるかは全く分からない……」
剣士「本当に、近頃はそう思えてしまうんだよな……」スタッ、ポトッ
勇者「え?」スタッ
ザーーッ、ザーーッ……
ザザーーン、ザザーーン……
魔女「ちょっと、あんた何してんのよ!?」
魔女「今のあんたは、罰金刑のみでは絶対に済まされないわよ!」
剣士「!?」ガーン
魔女「あんたの場合、もう既に指名手配されてるから!」
魔女「最低でも、火炙りが妥当みたいだから!」
剣士「……」ガクッ
魔女「それで、何であんたは騎士を辞めてんのよ?」
魔女「一体、あんたの身に何が起きてたのよ?」
剣士「話せば、長くなる……」
魔女「まぁ、あんたの長い話は後で聞くわ……」
魔女「偶々、今日はここに私の師匠が来てくれている……」
魔女「その人、今でも国王陛下に顔が利くみたいだからね……」
魔女「向こうに移送するまで間、私があんたの話くらいは聞いてあげるわ……」
剣士「……」
ザザーーン、ザザーーン……
警備隊長「カーネル。あの二人は?」
警備隊長「あの二人は、如何致しますか?」
勇者「……」
魔女「あの二人も、一緒に捕縛しといて」
魔女「解放するには、勇者が全ての件の罰金を支払った後」
魔女「だから、あの二人も早く一緒に捕縛しなさい!」
魔女「今ならまだ、大した被害も出る事もないわ!」
警備隊長「はっ!」
勇者「カーネル!」
警備隊長「総員、そこの三人を捕縛せよ!」
警備隊長「今ならまだ、ろくな抵抗をする事は出来ない!」
警備隊長「さぁ、早く捕縛するのだ!」
警備兵達「はっ!」
ダダダダッ、ダダダダッ……
ザザーーン、ザザーーン……
勇者「カーネル、どう言う事だ!?」
勇者「今回の事は、全て罰金刑のみで済ましてくれるんじゃなかったのか!?」ガシッ
魔女「ええ。そうだけど」
勇者「それなら、何故戦士達を捕縛する!?」
勇者「今の戦士達なら、捕縛は必要ないはずではないか!?」ギリギリ
魔女「そうは思わないわ」キッパリ
勇者「どうして!?」イラッ
魔女「何故なら、彼らはこの島で数々の罪を働いてきた」
魔女「ハーフエルフの件は罰金刑のみで済むけど、他の民間人に関してはそうは行かないわ」
勇者「くっ……」
戦士「ううっ、くそっ……」シュルシュル
魔法使い「はっ、離せ……」シュルシュル
剣士「……」シュルシュル
ザーーッ、ザーーッ……
ザザーーン、ザザーーン……
魔女「後、あんたは何か勘違いをしてるみたいだけど、ここの最高権力者は伯爵様!」
魔女「私は、その伯爵様の下でこの島の治安維持及び防衛を担当してるだけ!」
魔女「実際に、この島で起きた事を裁くのは全て伯爵様のみ!」
魔女「だから、いくら私に命乞いをしても無駄よ!」
魔女「今回は、ハーフエルフ以外にも被害が出てしまったから、それ以外の事は今の私にはどうしようもないのよ!」
勇者「そ、そんな……!?」ガーン
魔女「だから、今のあんたは他の人を頼りなさい!」
魔女「まぁ、どうしてもって言うのなら、まずは司教様に対して謝罪してくるのをお薦めするわ!」
魔女「そのすぐ後、伯爵様の元にまであんた達は司教様と共に直行」
魔女「そこで、あんた達は伯爵様から全ての件についてで裁いてもらい、情状酌量又は執行猶予を認めてもらう」
魔女「そうすれば、あんた達は晴れて無事にこの島から脱出」
魔女「上手く行けば、最低でも1億gの罰金刑のみで済むんだし」
魔女「後は、あんた達の運次第なのよね」
勇者「……」ガクッ
ザザーーン、ザザーーン……
魔女「まぁ、そう言う事だから、あんたは早く司教様達に謝罪してきなさい」
魔女「今のあんた、勇者なんでしょ」
魔女「勇者なら勇者らしく、誠心誠意被害者全員に謝罪して、今後は再発防止に努める」
魔女「それさえ出来れば、あんたやあんたの仲間達の落ちた評判は少なからず挽回」
魔女「私も、昔は色々と苦労したからね」
魔女「人間、見た目と印象と評判はかなり大事なものの一つなのよ」ニッコリ
勇者「……」
魔女「あ、それと、あんたの所のハーフエルフどうするの?」
魔女「僧侶と一緒に、蘇生しとくの?」
勇者「……僧侶だけで良い」
魔女「なら、あの二人は私が引き取るわ」
魔女「それでも、構わないかしら」
勇者「好きにしろ……」スッ……
ザーーッ、ザーーッ……
ザザーーン、ザザーーン……
警備隊長「カーネル。捕縛完了致しました」
警備隊長「これより、駐屯地まで移送致します」
魔女「ご苦労様」
勇者「カーネル。僧侶はいつ目を覚ます?……」
勇者「早くて、明日くらいには目を覚ますのか?……」
魔女「ええ。それぐらいだけど」
魔女「私の師匠、かなり優秀な方でね」
魔女「たとへ、それが焼死体だろうがすぐに蘇生してしまうわ」
勇者「そうか……」
魔女「とりあえず、あんたは早く司教様達の元に向かいなさい」
魔女「私は、まだこの辺でやる事があるから」
魔女「だから、あんたは早く行きなさい」
勇者「……了解した」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ザザーーン、ザザーーン……
魔女「さて、警備隊長。被害状況は?」
魔女「今は一体、どれだけの被害が出ているのかしら?」
警備隊長「はっ、ご報告致します」
警備隊長「今現在、火災による全焼8棟。その内訳は、教会1、資材倉庫3、住宅4」
警備隊長「司教様は、近隣住民達による消火活動中に無事救助」
警備隊長「ですが、一緒にいた勇者殿の仲間一名が、司教様を逃がす際に逃げ遅れ焼死」
警備隊長「他にも、消火や避難等の際に多数の住民達が負傷」
警備隊長「現在も教会は炎上を続けており、付近の住民達による懸命の消火活動が執り行われております」
魔女「……そう」
警備隊長「後、伯爵様より至急伝」
警備隊長「犯人の身柄は、駐屯地にて厳重に拘留せよ!」
警備隊長「島全体に、引き続き非常事態体制を維持!」
警備隊長「“特に、住民の間に渦巻く不穏な空気に注意せよ!”との事です」
ザーーッ、ザーーッ……
ザザーーン、ザザーーン……
魔女「ええ。分かったわ」
魔女「早速、犯人達を駐屯地にまで移送して頂戴」
魔女「それと、ハーフエルフの死体は全て師匠に回して」
魔女「せっかく、今日はハーフエルフ二人も保護出来たんだし」
魔女「今日は、久し振りに師匠と飲もうかしらね」
警備隊長「はっ!」スッ
クルッ、パカパカパカッ、ピタッ……
警備隊長「総員、これより帰還する!」
警備隊長「行くぞ!」
警備兵達「はっ!」
魔女「……」
犯人達「……」
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
ザーーッ、ザーーッ……
ザザーーン、ザザーーン……
剣士は、身勝手でずうずうしい男ですから、やたらとショックを受けています。
~とある教会前~
「ねぇ、聞いた?」
「今回の火災、勇者様が絡んでるんだって」
「えっ、嘘!?」
「ホントかよ!?」
「何でも、偶々買い物途中のハーフエルフの子供達に因縁を付けて、所持金等を無理矢理全て強奪」
「その際に、そのハーフエルフの子供達に対して暴行を繰り返し、更にはその子供達の自宅にまで放火」
「私、これ聞いた時かなりびっくりしたわよ!」
「いくら何でも、『勇者がこんな事をして良いの?』と本気でそう思ったわよ!」
「うわっ、それ酷い!……」ガーン
「全くだな!……」ガーン
「あ、俺、それ見かけたぞ」
「あれは、勇者様じゃなくてその仲間がやった事らしいぞ」
「えっ、嘘……!?」ガーン
ザーーッ、ザーーッ……
「いや、嘘じゃねぇよ」
「今その子供達は、かなり酷い怪我を負っているみたいだ」
「中には、この火事で逃げ遅れて火傷を負ったり、余計に怪我したり」
「司教様が負傷されたのも、勇者様の仲間が原因らしい」
「うわあぁ、ひでえぇ……」
「でも、何で勇者の仲間はそんな事をしたんだ?」
「勇者の仲間となれば、国王から十分な支援を受けれてるはず」
「主に、魔王の配下を倒しておけば済む話」
「こんな所で油売ってないで、さっさと魔王を倒しに行けよっての」ムカムカ
「多分、勇者様達もお金に困ってたんじゃない?」
「噂によると、勇者様達はここに来る途中に強盗に遭ってた」
「その時、勇者様達は全ての所持金等を強盗に奪われてしまい、それでハーフエルフを狙ったんじゃないかって」
「うわぁ、最悪……」ガーン
「最低だな……」ガーン
ザーーッ、ザーーッ……
「でもよ、勇者たる者そんなに弱いものなのか?」
「勇者と言えば、強くて勇ましいヒーロー的な存在」
「俺の知る勇者は、そんな弱くはなかった」
「そいつ、本当に勇者なのかよ」ムカムカ
「うん。そうだね……」
「う~~ん、それはちょっと分からないわね」
「なんか、勇者様はこの島の有力者達に挨拶をしてなかったから」
「それに、この島の環境と外の環境はちょっと違う」
「その違いが、今の勇者様達には理解出来なかったみたいだからね」
「……えっ?」
「ああ、そりゃそうだな」
「この島の外から来たんなら、すぐには理解出来んわな」
「元々、この島はかなり荒れ果ててた」
「それを、今みたいに立て直したのが、とある一人のハーフエルフだったみたいだからな」
ザーーッ、ザーーッ……
「でも、そのハーフエルフも可哀想にね」
「利用するだけ利用され、この島を追い出されちゃうなんて」
「それ以来、この島は大いに荒れ果ててた」
「時には、かなりの食料難がこの島全体を襲ってきて……」
「うちのお婆ちゃんが、ずっと毎晩泣き続けていたみたいだわ……」
「……」
「ああ、そうだな……」
「俺の親父が、ずっとその事を死ぬまで後悔し続けていたからな……」
「あの時、何で自分達はあのハーフエルフを迫害をしたんだ?……」
「あの時のハーフエルフは、自分達の恩人ではないかって……」
「それからすぐ、この島にいた住民達は相次いで餓死した」
「ろくに水や食料もなく、更には疫病が蔓延をし続けた」
「気がついた時には、島の半数が死亡」
「それが、今から20年前になって、ようやくなんとか落ち着いたみたいだからね」
ザーーッ、ザーーッ……
「ああ、その話は私も聞いた事あるわ」
「何でも、あのカーネルがその時のハーフエルフと完全に瓜二つだったみたいだから」
「その後、カーネルがこの島で生まれて以来、何故かこの島の環境がすぐ改善」
「さすがの司教様達も、こればっかりは本気で泣いてた」
「もう二度と、この島の住民達にはハーフエルフを迫害するなって、伯爵様と共に御触れを出したんだって」
「ふ~~ん……」
「ああ、それでか」
「それで、勇者達はあんな行動に出てしまったのか」
「俺も、この島に来た時には全く意味が分からなかった」
「その所為で、俺もあのカーネルに本気で殺され掛けたからな」
「本気で、あの時は死ぬかと思ったぜ」
「はい?」
ザーーッ、ザーーッ……
ドッゴオオオオオオオオーーーーーーーーン!
ピッカーーッ……
「あんた、そう言えば外から来たんだったな」
「いつ、生まれ故郷に戻れるんだ?」
「明日だ」
「ほぅ……」
「もう、そんな経つんだ……」
「ああ、まあな……」
「でも、正直あんたここを出たくなだろ?」
「ここは、本当に島の外から来た奴等にとっては天国」
「俺達みたいな庶民にも、豪華なフルコースの食事が食える」
「本当なら、騎士や貴族が食ってそうな物を、週に一度は食う事が出来る」
「その所為で、生まれ故郷に帰ったはずの奴等が、再びこの島に戻ってくる事がよくあるからな」
「その時に、何故か家族まで一緒」
「時には、噂を聞き付けた関係ない奴等まで流れてくるからな」
「ああ、そうだな……」
ザーーッ、ザーーッ……
「正直な所、俺だって帰りたくない……」
「最初は、かなり嫌々だったけど……」
「今の俺自身は、帰りたくねぇよ……」ポロポロッ
「……」
「俺の生まれ育った村は、こんなに豊かじゃなかった……」
「朝は、毎日ライ麦のパンとエール……」
「昼は、毎日ライ麦のパンとエールと肉入りスープとチーズ……」
「夜に至っては、スープが豆入りに変わったくらい……」
「ここに来て初めて、ソーセージやあんな白いパンを食う事が出来た……」
「この島に来て初めて、新鮮な魚や大量の肉を食う事が出来たんだよ……」
「ううっ……」
「ううっ、ううっ……」ポロポロッ
「よしよし」
「……」
ザーーッ、ザーーッ……
「なら、早く役場に行ってこいよ」
「役場に行って、“ここに永住します”って申請してこいよ」
「役場に行けば、親切に手続きしてくれるぞ」
「ここにいる連中、半分は島の外から来た奴等だ」
「だから、早めに申請しといた方が良いぞ」
「!?」ポロポロッ
「だったら、私もついてってあげるわ」
「私も丁度、役場に行かなきゃいけなかったから」
「おおっ、すまん……」ポロポロッ
「それに、今月の家賃まだだったからね」
「ここ最近は、島の人口も増えてきたし」
「確か、またカーネルが新たなメニューを考案してるってさ」
「今度は、一体何を呼び出すつもりなのかしら?」
「さぁな」
ザーーッ、ザーーッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
「おっ、島の警備隊だ……」
「ようやく、消火が終わったみたいだな……」
「ああ、そうみたいだな……」
「でも、何かやけにピリピリしてるな……」
「一体、何があったんだ?……」
「さぁ……」
スタスタスタッ、スタスタスタッ、ピタッ……
騎士「止まれ!」
騎士「ここから先は、立ち入り禁止区域だ!」
騎士「まだ、一般人は立ち入ってはならん!」
勇者「……」
騎士「貴様、聞こえないのか?」
騎士「ここは、まだ立ち入り禁止区域だ!」
ザーーッ、ザーーッ……
勇者「……失礼、大至急、司教様にお目通りを願いたい」
勇者「今の俺は、大至急司教様に会わなければならないのだ」
騎士「何故だ?」
勇者「今回の放火の件で、司教様にお話したい事がある」
勇者「だから、ここを通してもらいたい」
騎士「……」
助祭「失礼、貴方のお名前は?」
助祭「まずは、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
騎士「……」
勇者「俺の名は、勇者xxx」
勇者「今回の件についてで謝罪したく、大至急、司教様にお目通りをお願いしたい!」
騎士達「!?」
ドッゴオオオオオオオオーーーーーーーーン!
ピッカーーッ!
ザーーッ、ザーーッ……
支援有り難うございます。
ザワザワッ、ザワザワッ……
助祭「……これは、失礼致しました。勇者様」
助祭「私、当聖堂に所属しております助祭のxxと申します」ペコッ
助祭「残念ながら、本日は司教様にお目通りする事は叶いません」
助祭「現在の司教様は、まだ病院にて治療中の身」
助祭「今回の火災でお体を痛められ、今はまだ誰とも面会は出来ないのです」
勇者「!?」ガーン
ザワザワッ、ザワザワッ……
助祭「ですから、本日の所はどうかお引き取り下さい」
助祭「貴方様には、改めてこちらから損害賠償の通知をお送り致します」
助祭「ですので、勇者様はどうかお覚悟を」
助祭「司教様は、私にとっては親代わり」
助祭「その司教様に何かあった場合には、勇者様もただでは済まないと思って下さいね!」ゴゴゴゴッ
勇者「……」
ザーーッ、ザーーッ……
「おい、見たか?」
「あんなガキが、勇者だってよ」
「えーーっ、嘘!?」
「ウチの息子と、変わらない歳じゅない」
「つうか、かなり貧相な装備してんな」
「勇者の癖に、革鎧に安物の剣」
「あれじゃ、強盗に襲われても無理はないわな」
「ええ、そうね」
勇者「……」
騎士「助祭様、落ち着いて下さい!」
騎士「まだ、司教様はお亡くなりになると決まった訳ではありません!」
騎士「ですから、どうか落ち着いて下さい!」アセアセ
助祭「ですが……」ゴゴゴゴッ
勇者「……」
ザーーッ、ザーーッ……
騎士「助祭様、今の貴方は落ち着かなければなりません!」
騎士「今の貴方まで、勇者殿に斬られたらどうするのです?」
騎士「それこそ、司教様が酷くお嘆きになられます!」
騎士「貴方様は、まだ死んではなりません!」
騎士「どうか、お気を確かに!」アセアセ
勇者「!?」ガーン
助祭「ああ、そうでしたね……」
助祭「勇者様は、ただのろくでなしでしたね……」
助祭「私、その事をすっかり忘れていました……」
助祭「ただでさえ、聖堂が全焼した所為でかなり落ち着きがありませんでした……」ゴゴゴゴッ
勇者「……」
騎士「なら、ここはどうか穏便に!」
騎士「相手は、無差別に民間人もを斬り殺す程の野蛮人です!」
騎士「ですから、助祭様もどうかお気をつけ下さい!」アセアセ
ザーーッ、ザーーッ……
ガヤガヤッ、ガヤガヤッ……
助祭「……分かりました」
助祭「今回は、貴方の言う通りに致しましょう」
助祭「勇者様、また後日ここにまでお越し下さい」
助祭「その頃には、司教様もお体の調子を良くされた頃」
助祭「その時に、勇者様の愛するお方をお返し致しますね」ペコッ
勇者「……」ガクッ
騎士「……」
勇者「……」
クルッ、スタスタスタッ……
騎士「……」
助祭「結局、口だけの人でしたか……」
助祭「あれじゃあ、野盗となんら変わりないですね……」
騎士「ええ、そうですね……」
ザーーッ、ザーーッ……
スタスタスタッ、ピタッ……
司祭「ん? 何かあったのか?」
司祭「やけに、付近が騒がしいが」
助祭「司祭様……」ペコッ
騎士「はっ、つい先程、勇者殿がこちらに参られました」ビシッ
騎士「どうやら、司教様にお目通りをする為、ここを訪れた様です」
助祭「……」
司祭「……そうか」
司祭「また、勇者様がお越しになった時は、失礼のない様にな」
司祭「あの方には、今回の件の責任を取って貰わねばならん!」
司祭「だから、あまり勇者様を刺激せぬよう穏便にな!」
騎士「はっ!」
助祭「了解致しました……」
周囲「……」ザワザワ
ザーーッ、ザーーッ……
司祭「あ、それと騎士xx……」
司祭「今しがた、カーネルより急報が入った」
司祭「君の元従者ロメオが捕縛された」
司祭「今回の件に大きく絡み、例の勇者の仲間達と共に捕縛されたらしい」
騎士「!?」ガーン!
司祭「どうやら、彼はこの島の民間人を二人も殺害した様だ」
司祭「その原因については、偶々、外部からカーネルを訪ねてきたハーフエルフ」
司祭「彼らもまた、君の元従者によって殺害され、あのカーネルが本気でブチ切れとる!」
司祭「元々、彼らはカーネルを訪ねにこの島に来たらしく、その際に君の元従者に強盗目的で殺害されたらしい」
司祭「つい先程、カーネルによって彼は捕らえられ、駐屯地にまで移送された様だ」
騎士「……」プルプル
助祭「……騎士xx」
ザーーッ、ザーーッ……
ドッゴオオオオオオオオーーーーーーーーン!……
ピッカーーッ……
司祭「まぁ、今の君の気持ちは分からなくはない……」
司祭「彼は、昔から私利私欲に走りすぎた」
司祭「一人前の騎士になってから、その傾向が強くなっただけの事だ」
騎士「……」プルプル
司祭「だが、今の君は彼に会うな!」
司祭「今の君は、もう彼とは無縁の存在なのだ!」
騎士「……」プルプル
司祭「その方が、今の君にも彼のとっても最善の策!」
司祭「今の彼は、ただの極悪で残忍な盗賊!」
司祭「だから、今の君は絶対に彼とは会ってはならん!」
騎士「……」プルプル
助祭「……」
ドッゴオオオオオオオオーーーーーーーーン!
ピッカーーッ……
ザーーッ、ザーーッ……
騎士「……はっ、了解致しました!」
騎士「司祭様、お心遣い感謝致します!」
騎士「この騎士xx、今後もxxx教会の為に全身全霊を掛け、お仕えする所存であります!」ビシッ
司祭「うむ」
助祭「司祭様……」
司祭「騎士xx、また勇者様がここを訪ねられた時は、すぐ私に報告せよ!」
司祭「今回の件で、司教様は勇者様を仮想敵と定めた!」
司祭「それについては、伯爵様やカーネルとて同じ事!」
司祭「勇者様が我らに対して敵対行動を取り次第、即座に勇者様を捕縛するのだ!」
騎士「はっ!」ビシッ
助祭「了解致しました!」ビシッ
周囲「……」ザワザワ
ドッゴオオオオオオオオーーーーーーーーン!
ピッカーーッ……
ザーーッ、ザーーッ……
ザーーッ、ザーーッは波の音です。教会の近くに海と船着き場があるので。
騎士は、過去に従騎士だった頃の剣士に「ハーフエルフを殺せ」と命令した騎士と同一人物です。今は、傭兵として教会の警備を担当しています。
~とある道~
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
勇者(くそっ、なんて事だ……)
勇者(かなり、事態がややこしくなっていく……)
勇者(この島に来てから、やたらと不運が続いてる……)
ザワザワザワッ……
勇者(でも、どうすれば?……)
勇者(俺は、一体どうすれば?……)
勇者(幸い、俺はまだ何もしていない……)
勇者(今なら、まだ俺にも何かしらのチャンスがあるはず……)
勇者(今はただ、どれだけ戦士達が出した損害を回避するかだな……)
ザワザワザワッ……
「おい、そこのお前止まれ」
「お前が、件の勇者か?」
「少し、顔を貸して貰おうか?」
スタスタスタッ、ピタッ……
勇者「……」クルッ
盗賊「そうだ。それで良い」
盗賊「今のあんた、かなり困ってる様だな」
盗賊「なんなら、俺達があんたの助けになるぜ」
武闘家「……」
勇者「……」クルッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
盗賊「おい、ちょっと待てよ」
盗賊「今のあんた、かなり困ってるんだろ?」
盗賊「せっかく、あんたに良い情報を持ってきてやったんだし」
盗賊「少しは、聞く耳を持てよ」
勇者「……」
スタスタスタッ、ピタッ……
ポツポツポツ、ポツポツポツ……
勇者「情報?」
勇者「一体、お前ら何のつもりだ?」
勇者「それを知って、俺が今後どうなるって言うんだ?」
武闘家「……」
盗賊「実は、俺達は今あんたが最も取り返したい仲間の情報を持ってるんだ」
盗賊「そのあんたの仲間って言うのは、ついさっき焼け落ちた教会の中にいた女の僧侶」
盗賊「今は、この島の山の上にある別の教会に遺体が運ばれた」
盗賊「そこで、この島の桟橋で斬り殺されたハーフエルフと共に、今蘇生の準備に取り掛かっている」
勇者「何!?」
盗賊「それに、今のあんた司教様にも伯爵様にも命を狙われてるぜ」
盗賊「つい先程、司教様達はあんたの事を仮想敵に認定した」
盗賊「その上、司教様と伯爵様の使いがもう既にこの島を出立」
盗賊「時期に、今のあんたも立派なお尋ね者だ」
盗賊「早くても、数日の間には祖国全土に伝わる事になるぜ」
勇者「!?」ガーン
盗賊「まぁ、そう言う訳だから、俺達はあんたの手助けをしてやるぜ」
盗賊「ついこの間から、俺達はあんたの事を探してた」
盗賊「あんたの旅の仲間になる為に、わざわざあんた達の後を追ってきたと言う訳だ」
勇者「……」
盗賊「なぁに、心配をするな」
盗賊「こう見えても、俺達は旅に慣れてる」
盗賊「あんたが望むなら、他の仲間二人も脱獄させてやるぜ」
盗賊「お互い、今はあの女ハーフエルフにも命を狙われてるんだし」
盗賊「ここは仲良く、共同戦線を張ろうといかないか?」
武闘家「……」
勇者「分かった。良いだろう」
勇者「俺も、丁度仲間が必要だった所だ」
勇者「あの糞生意気な女ハーフエルフ、次は必ず血祭りにあげてやる!」
盗賊「……」ニヤリ
ポツポツポツ、ポツポツポツ……
盗賊「なら、早速、俺達の隠れ家に案内してやるよ」
盗賊「どうやら、今はまだ巡回はしてないし、小雨も降ってきた」
盗賊「そこで、今の話の続きをしよう」
勇者「了解した」
武闘家「よろしく頼む」スッ
勇者「ああ、よろしく」ギュッ
盗賊「こちらこそ」ギュッ
鹿「……」ヌッ、ストン
武闘家「よし、そろそろ行こう」
武闘家「そろそろ、奴等が来る」
武闘家「先を急ぐぞ」
勇者「了解した」
盗賊「おう」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
鹿「……」
密偵「大魔導師様、追いますか?」
密偵「今なら、まだ追跡が可能ですが」スッ
鹿「ああ、頼む」
密偵「はっ!」サッ
鹿「……」
ザワザワザワッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
鹿(あの若造、まだ勇者としての自覚は無い様だな……)
鹿(じゃから、儂はあれ程言うたのに……)
鹿(最低でも、必要最低限のマナーやモラルは併せ持たなければ……)
鹿(あ奴等が行っているのは、ただの野蛮な殺戮行為……)
鹿(そう、民間人も含めての数多くの犠牲の上でのな……)
ポツポツポツ、ポツポツポツ……
パラパラパラッ、パラパラパラッ……
「あっ、鹿だ」
スタスタスタッ、スタスタスタッ、ピタッ……
「わーーっ、鹿だ……」
「何で、こんな人通りの多い道に?」
「しかも、なんか首輪付いてるよ」
鹿「……?」
「ああ、こらこら駄目でしょ」
「急に、鹿さんの前に来たら」
「鹿さんも、かなり困ってるじゃない」
鹿「……」
「でも、この鹿さんかなり大人しいよ」
「もしかして、誰かに飼われてるとか?」
「普通、野生の鹿がここまで大人しくないと思うよ」
「これ、絶対誰かが飼ってるよ」
鹿「……」
パラパラパラッ、パラパラパラッ……
「ああ、坊主」
「それ、カーネルの鹿だぞ」
「その赤い首輪に、切り取られたばかりの角」
「カーネルが、今度食用にするって言っていた鹿みたいだぞ」
鹿「!?」ガーン
「へぇ、そうなんだ」
「今度は、鹿さんを使った料理なんだ」
「でも、何でこんな所に?」
「僕達に食べられると気付いて、逃げてきたのかな?」
鹿「……」ダラダラダラッ
「とりあえず、この鹿は警備兵に引き取って貰いましょ」
「多分、カーネルもこの鹿の事を探してると思うし」
「今回の火事の所為で、どこかからこの鹿は逃げ出してきたのかもね」
鹿「……」ダラダラダラッ
パラパラパラッ、パラパラパラッ……
鹿(ジュリエット……)
鹿(お主、儂の事を食うつもりじゃったのか……)
鹿(今の儂をただの鹿として、この儂の事を亡き者にしようとしておったのか……)
鹿(じゃが、儂もそう簡単には食われん……)
鹿(今の儂は、大魔導師なのじゃ……)
鹿(儂を殺せば、確実に困るのはお主の方なんじゃぞ……)
ザワザワザワッ……
鹿(もしや、まだあの時の事を根に持っておるのか?……)
鹿(この儂が、お主の若くて育ちの良い肉体に溺れ我を忘れてしまった事を、未だに根に持っておるのか?……)
鹿(いや、あり得る……)
鹿(あ奴なら、確実に有り得る……)
鹿(あれに関しては、ただの事故……)
鹿(ただでさえ、あの時はヒステリックな妻の老いた顔や体に愛想を尽かしていて……)
鹿(あの時の儂は、かなり禁欲が出来ておらんかったからな……)
パラパラパラッ、パラパラパラッ……
鹿(とりあえず、ここを早く出るとしよう……)
鹿(どうやら、誰かが警備兵を呼んで来たた様じゃし……)
鹿(今の儂は、ただの鹿……)
鹿(ここで、人語を話せば確実にパニックになるのじゃからな……)
ザワザワザワッ……
魔女「あっ、こんな所にいた」
魔女「一体、こんな所で何してるのよ?」
魔女「貴方、本日の私の夕食なのに」シュタッ
鹿「……?」キョロキョロ
魔女「全く、本日の夕食の食材が逃げちゃ駄目でしょ」
魔女「今夜は、鹿肉を使ったメニュー」ナデナデ
魔女「さぁ、早く帰るわよ」
魔女「ママが今日、あんたの事を捌いてくれるからね♪」ニッコリ
鹿「!?」ガーン
パラパラパラッ、パラパラパラッ……
ある意味、これから鹿=大魔導師が不運に見舞われます。
魔女「ほらっ、ボケッとしてないで早く立つ」
魔女「今夜は、絶対に貴方の事を料理してあげるから♪」
魔女「ついこの間も、何故か隙を突かれて逃げられたし」
魔女「今度こそ、鹿肉を使ったメニューを皆に出すんだからね♪」
鹿「……」ウルウルウルッ
ザワザワザワッ……
「おい、聞いたか?」
「今度のメニューは、鹿肉らしいぞ」
「あの鹿、やっぱりカーネルの鹿だったみたいだぞ」
鹿「……」ウルウルウルッ
「鹿肉か……」
「今まで、鹿肉なんて食った事ないな」
「一体、どんな味がするんだ?」
「豚や牛に比べて、旨いんだろうか?」
パラパラパラッ、パラパラパラッ……
「さぁな」
「俺も、鹿肉を食った事ないから味は分からん」
「確か、貴族や騎士も鹿肉を食うみたいだぞ」
「だから、今度出る鹿肉も俺達の舌にも合うのかもな」
鹿「……」ウルウルウルッ
魔女「師匠、後でお話があります」
魔女「今夜の夕食のメニューになりたくなかったら、大人しく私に着いてきて下さい」ボソボソッ
鹿「!?」ウルウルウルッ
魔女「もし逃げたら、師匠の事を鹿肉として皆に振る舞います」
魔女「それが嫌なら、私に着いてきて下さいね」ボソボソッ
鹿「……」コクン
スタッ、スタスタスタッ……
サッ、ササッサッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
パラパラパラッ、パラパラパラッ……
「お待ち下さい。カーネル」
「少し、お願いしたい事が」
スタスタスタッ、ピタッ
魔女「?」クルッ
鹿「……」ウルウルウルッ
侍祭「……」ペコッ
魔女「ああ、貴方は確か司教様の所の」
魔女「また、何か問題でも起きたのかしら?」
鹿「……」ウルウルウルッ
侍祭「はい、そのまさかです」
侍祭「つい先程、勇者様が当聖堂に参られました」
侍祭「その際、勇者様は司教様に対してお目通りを求め、対応をした助祭様に追い返された様です」
魔女「あらら……」
鹿「!?」ウルウルウルッ
パラパラパラッ、パラパラパラッ……
侍祭「それに、勇者様は各地で野蛮な行為を行っていると、司教様からお聞き致しました」
侍祭「今回の事件でも、この島のなんの罪の無い住民達数人を殺害」
侍祭「その際に、被害に遭った方達から巻き上げた金品等は、まだ見つかっておりません」
侍祭「それに関しての捜索を、司教様からカーネルに依頼したいと仰せの事です」
ザワザワザワッ……
魔女「ええ。了解したわ」
魔女「今すぐ、私の私兵に捜索をさせておく」
魔女「それと、他に何か被害は?」
魔女「他に、何かあるのかしら?」
鹿「……」ウルウルウルッ
侍祭「いえ、今の所ありません」
侍祭「ただ、ウチの副助祭様が昨夜から行方不明でして」
侍祭「それくらいしか、今の所は何も変わった事はありませんし」
侍祭「被害総額は、この島を含めて10万gに上るようです」
パラパラパラッ、パラパラパラッ……
魔女「そう。了解したわ」
魔女「司教様には、後で改めてお見舞いに行くと伝えといて」
魔女「それと、今回の被害に遭ったハーフエルフ達の住居に関しては、私の方で用意しておく」
魔女「その間、そっちにも数日の間はお世話になるけど、その費用や物資に関しては私の方で用意するから」
鹿「……」ウルウルウルッ
侍祭「はい。かしこまりました」
侍祭「司教様にも、そうお伝えしておきます」
侍祭「カーネルが保護されたハーフエルフ達に関しては、私達の方にお任せ下さい」
侍祭「カーネルには、常日頃からご贔屓にして頂いておりますし」
侍祭「それくらいの事でしたら、いつでも私達はご協力致しますので」
魔女「そう。じゃあお願いね」
侍祭「はい」
鹿「……」ウルウルウルッ
周囲「……」ザワザワザワッ
パラパラパラッ、パラパラパラッ……
侍祭「では、私はこれで失礼致します」
侍祭「カーネルも、道中をお気をつけて」ペコッ
魔女「ええ、さようなら」ペコッ
鹿「……」ウルウルウルッ
クルッ、スタスタスタッ……
ザワザワザワッ……
魔女「さぁ、私達も行きましょうか?」
魔女「今日は、貴方の事をしっかり料理してあげる♪」
魔女「だから、絶対に逃げないでね♪」
魔女「お願いだから♪」
鹿「……」コクン
クルッ、スタスタスタッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ドッゴオオオオオオオオーーーーーーーーン!
パラパラパラッ、パラパラパラッ……
師匠も結構な駄目人間です。主に、実生活に関しては。
~とある酒場~
ガチャ……
カランカラン……
バタン……
店主「いらっしゃい」ニッコリ
店主「って、あら?……」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ストン……
魔女「ママ、今は何も言わないでね」
魔女「ちょっと、師匠と話をするだけだから」
鹿「……」ウルウルウルッ
店主「……そう」
店主「今のあんた、かなり悪い場面ね……」
店主「今の私には、食用にされると分かって逃げていた鹿を、またここにまで連れ戻してきた風にしか全く見えないんだけど……」
鹿「……」ウルウルウルッ
魔女「う~~ん、やっぱり?」
魔女「なんか、周りの視線がおかしいと思ったら、その所為なんだ」
店主「……」
魔女「でも、今度のメニューは鹿肉で決まりなのよね」
魔女「今の私、もう既に鹿肉は仕入れてるし」
魔女「わざわざ、師匠を焼いて皆に振る舞うなんて、まだ一言も言ってないんだけど」
鹿「……」ウルウルウルッ
店主「とりあえず、あんた達何か飲む?」
店主「今はまだ、例の火事の所為で客足があまり良くなくてね」
店主「ついさっき、あんたの保護した子供達がここに来たわ」
店主「暫くの間は入院したり、教会の方でお世話になるって、そう言っていたわよ」
鹿「……」ウルウルウルッ
魔女「ええ。知ってるわ」
魔女「司教様の使いからも、そう連絡を受けていたから」
スタスタスタッ、ストン
魔女「ママ、私と師匠に赤ワイン二つ」
魔女「今の師匠、ただの鹿だけどね」
魔女「鹿の癖に、赤ワイン飲んじゃうし」
魔女「そろそろ、いい加減に人の姿に戻ってほしいのよね」
鹿「……」ウルウルウルッ
店主「……え?」
魔女「ん? どうかしたの?」
魔女「今の私、何かおかしな事を言った?」
鹿「……」ウルウルウルッ
店主「その鹿、人になれるの?」
店主「それ、あんたのペットか食肉用に仕入れた奴じゃなかったの?」
鹿「!?」ガーン
魔女「ええ。なれるけど」
魔女「だって、元は人間だもの」
店主「……」
魔女「まぁ、何で私の師匠が鹿になったかと言うと、話せば色々と長くなるわ」
魔女「今はそんな昔話より、今回起きた事件の方がかなり重要」
魔女「ここ数日、この島全体が騒がしくなるわね」
魔女「何故なら、勇者の仲間が大不祥事を起こした」
魔女「その所為で、今の勇者はかなり窮地に立たされていて」
魔女「もしかしたら、勇者達との間で戦闘状態になる可能性があるかもしれないからね」
鹿「……」ウルウルウルッ
店主「……そう、了解したわ」
店主「注文は、赤ワイン二つで良かったわよね?」
店主「相変わらず、あんたは手の掛かる義娘だわ……」
店主「あんたを引き取ってから、もう今年で約20年……」
店主「今のあんた、またあの時みたいな顔をしてしまっているわ……」
魔女「ん? そうかしら?」
元店主「ああ、そうみたいだね」ヌッ
鹿「……」ウルウルウルッ
魔女「あっ、マスター……」
魔女「一体、いつ戻ってきてたんですか?」
魔女「今の私、マスターが戻ってきたって全く聞いてませんでしたけど」
魔女「と言うより、なんで樽の中から顔を出してんですか?」
鹿「……」ウルウルウルッ
店主「ああ、ちょっとね……」
店主「兄さん、また奥さんと喧嘩してここに逃げてきたのよ……」
店主「せっかく、兄さんは結婚して新しいお店を任されてるのに……」
店主「何でまた、妹の私に泣きついてきたのかが全く解らないのよね……」ハァ……
魔女「……」
元店主「おい、妹よ」
元店主「あまり、この子の前で俺の家族の話をするな!」
元店主「俺の妻は、色々とヒステリックでバイオレンスなんだ!」
元店主「だから、この子の前で俺の家族の話をするな!」ムカッ
魔女「……マスター」
店主「だったら、兄さんはここに逃げてこないでよ!」
店主「いつもいつも、兄さんはここによく逃げてくる!」
店主「その度に、あの人はウチの店をめちゃくちゃに破壊!」
店主「何故か、その途中で矛先が私やジュリエットに向かう!」
店主「いい加減、兄さんに振り回されるのはもううんざりなんだけど!」ムカッ
鹿「……」ウルウルウルッ
元店主「ああ? 俺に文句言うな!」
元店主「あいつは、ただ単にヒステリックでバイオレンスなだけだ!」
元店主「元々、あいつとは風呂屋で知り合っただけの事!」
元店主「気がついたら、子供まで出来てた!」
元店主「だから、仕方なく結婚しただけの事だ!」
元店主「雇われ店主の分際で、所有者の俺に口答えするな!」ムカムカ
魔女「……」
鹿「……」ウルウルウルッ
スポッ、シュタッ……
店主「ああ? 俺の所為にするな?」
店主「またどうせ、兄さんの事だから愛人と一緒に風呂屋にでも行ってたんでしょ?」
店主「あの人、かなり泣いてたわよ!」
店主「さすがに、ジュリエットぐらいの若い子に手を出すなんて、あまりにも酷い仕打ちだわよ!」ムカムカ
元店主「黙れ!」ムカムカ
魔女「……」
店主「とりあえず、兄さん……」
店主「兄さんは、さっさと自分の奥さん所に戻りなさい!」
店主「そして、愛人と綺麗さっぱり手を切ってくる!」
店主「早く、さっさと奥さんに謝ってきなさい!」ムカムカ
魔女「……」
元店主「ああ。そうか……」
元店主「お前まで、俺を見捨てるのか?……」
元店主「元々、俺は被害者なんだぞ!……」
元店主「本当の所、あんな奴とは結婚したくはなかったんだぞ!」ムカムカ
店主「ちょっと、それどう意味よ!?」
店主「兄さん、それは人として最低よ!」
店主「全く、兄さんはいつもこうなんだから!」
店主「相変わらず、兄さんはただのろくでなしなんだから!」ムカムカ
元店主「何を!?」ムカムカ
魔女「二人とも、落ち着いて下さい!」バン
魔女「今は、兄妹喧嘩をしてる場合じゃありません!」
魔女「この島に、つい先程から非常事態体制が発令されています!」
魔女「ですから、今は兄妹喧嘩は控えて下さい!」
店主「あ……」ハッ
元店主「そうだったね……」ハッ
鹿「……」ウルウルウルッ
魔女「とりあえず、皆席に座って」
魔女「後、師匠は早く人に戻って下さいね」
師匠達「はい」サッ
この中では、師匠が一番魔女を敵に回したら恐ろしいと実感をしていますから。
しばらくして――
大魔導師「ふぅ、久し振りに人間に戻れた……」
大魔導師「さすがに、何日も鹿として過ごすのは結構辛い事だわい……」フキフキ
店主「……」
大魔導師「それで、ジュリエット」
大魔導師「儂に話と言うのは?」
大魔導師「出来れば、手短にしておくれ」
元店主「……」
魔女「実は、つい先程の火事の件でお話が」
魔女「今回の火事の件、勇者xxxが関わっています」
魔女「今はまだ勇者は何もしていませんが、いずれは勇者もまたこの島で何かをする可能性が極めて高いようなんです」
大魔導師「ふむ」
魔女「ですので、師匠には国王陛下にその事についての報告を」
魔女「もう既に、司教様と伯爵様が個別に使いを送っている様ですが、師匠にも国王陛下に対してご報告をお願いしたいのですが」
大魔導師「あい分かった」
魔女「後、これは別件の事なのですが、例の元騎士を捕らえました」
魔女「彼もまた、勇者一行の犯す罪に荷担し、この島の民間人数名を殺害」
魔女「勇者一行とも面識があるようですし、各地でも数多くの強盗致死及び強姦致死を働いております」
大魔導師「……」
魔女「ですから、師匠はどうか今の私にご協力の程を」
魔女「師匠は、過去にその元騎士とも面識はありますし、師匠が相手ならその元騎士も逃げようとはしません」
魔女「今の私は、そう簡単にはこの島を離れる訳には行きませんし」
魔女「師匠には、その元騎士の移送の際の護送をお願いしたいのです」
魔女「今回のこの私からの依頼を、師匠は受けて頂きたいのですが」
大魔導師「……」
魔女「……」
大魔導師「すまん。それはとても出来ぬ依頼なんじゃ……」
大魔導師「今の儂は、絶対に王都には帰りたくない……」
魔女「……は?」
魔女「その訳を、今すぐお聞かせ下さい!」
大魔導師「実は、またウチの嫁がヒステリックを起こしてな……」
大魔導師「それが原因で、ウチの息子嫁と大喧嘩……」
大魔導師「その際に、儂の可愛い可愛い孫娘が戦死……」
大魔導師「丁度、今のお前さんぐらいの歳であのヒステリックでバイオレンスな儂の妻に、何故か八つ当たり気味に斬りかかられ……」
大魔導師「そのまま、無惨にも殺害されてしもうたんじゃ……」ウルウルウルッ
魔女「!?」
大魔導師「おまけに、儂の息子嫁まで殺害された……」
大魔導師「それが原因で、儂の妻は牢獄に入れられた……」
大魔導師「じゃから、今の儂は王都には帰りとうもない……」
大魔導師「更には、あの糞国王達に色々と愚痴や嫌み等を言われてな……」
大魔導師「ここに永住するつもりで、わざわざ海を渡ってここに来たんじゃ……」
大魔導師「すまぬ……」ウルウルウルッ
店主「……」チラッ
元店主「……」サッ
魔女「そんな……」ガクッ
大魔導師「じゃから、今回の件は別の人物にしておくれ」
大魔導師「それに、今の儂は魔導士ではない」
大魔導師「元々、あの糞国王とは幼馴染みじゃっただけの事」
大魔導師「あの頃は、仕方なく魔導士としてあの糞国王に対して出仕」
大魔導師「晴れて無事に引退した今は、自身の余生を静かにこの島で過ごしたいのじゃ」フキフキ
魔女「……」
店主「……」
元店主「……」
魔女「……了解致しました」
魔女「師匠が、そこまでそうおっしゃるのなら……」ブチッ
大魔導師「……ジュリエット?」ハッ
魔女「ですが、師匠にはやっぱり鹿肉として、皆に対して振る舞わさせて頂きます!」
魔女「今の師匠は、あの時と全く同じ態度!」
魔女「私の事なんか、どうせ単なる体目当てでしかなかったと言う訳なんですね!」ゴゴゴゴッ
大魔導師「ジュ、ジュリエット!?」ビクッ
大魔導師「まっ、待て、ジュリエット……」
大魔導師「誤解じゃ! あれはお主の誤解なんじゃ!……」アセアセ
魔女「……」ゴゴゴゴッ
大魔導師「実際、あの頃の儂は何も出来んかった!……」
大魔導師「ヒステリックでバイオレンスな妻に重傷を負わされ、入院を余儀なくされていたんじゃ!……」アセアセ
魔女「……」ゴゴゴゴッ
大魔導師「それに、儂は一度もお主の事を性的な目では見ておらん!……」
大魔導師「いくら、儂の妻の顔や体が老いたからと言って、風呂屋でお主ぐらいの歳の愛人としか全く相手はしとらんぞ!……」アセアセ
魔女「……は?」ゴゴゴゴッ
大魔導師「じゃから、お主は何も誤解をしないでおくれ!……」
大魔導師「今の儂は、もう隠居したただの年寄り!……」
大魔導師「じゃから、少しは大目に見てくれんかのぅ?……」アセアセ
魔女「……」ゴゴゴゴッ
店主「……」ゴクリ
元店主「……」アワアワ
魔女「申し訳ありません。師匠」
魔女「それは、とても無理な注文です!」
魔女「今の私、まだあの夜の事は覚えてるんですよ!」
魔女「師匠に、生まれて初めて裏切られたあの日」
魔女「未だに、私は覚えてるんですよ!」ニッコリ
大魔導師「!?」ビクッ
魔女「確か、あれは師匠が私の初めてを無理矢理奪った日でもありましたよね?」
魔女「あの頃の私は、師匠にとても懐いていました!」
魔女「この私がハーフエルフだと知りながら、家族ぐるみで私の事を長い間匿ってくれていたあの懐かしい日々……」
魔女「それなのに、師匠は私の事を裏切った!」
魔女「何も知らない私にとても邪悪な魔法を掛け、執拗に一ヶ月に渡って自身の夜の相手をさせていましたよね?」スチャン
大魔導師「――――――――っ!?」ビクッ
元店主「なん……だと……!?」
店主「なん……ですって……!?」
大魔導師「……」ガクガクガクッ
魔女「まぁ、そう言う事ですから、どうか師匠はお覚悟を!」
魔女「と言っても、まだ師匠の事をすぐには殺したりはしません!」
魔女「今はまだ、勇者xxxと野盗ロメオとか言う問題が立て続けに発生!」
魔女「今の私達のすべき事は、その二つの問題を速やかに解決する事!」
魔女「だから、まだ師匠の事は殺さないでおいてあげます!」
大魔導師「……」ガクガクガクッ
魔女「とりあえず、師匠は速やかに国王陛下に対して使いを出して下さい!」
魔女「明日の朝、今回の事件の裁判が開かれます!」
魔女「その際に、勇者は何かしらのアクションを仕掛けてくるはず!」
魔女「場合によっては、勇者との戦闘もあり得ますし!」
魔女「師匠も、その裁判には出席をして頂きますね!」ニッコリ
大魔導師「……っ!?」ガクッ、ドサッ
魔女「……あっ」
店主「あらら……」
大魔導師「……」
魔女「師匠、大丈夫ですか?」
魔女「どこか、お体でも悪かったのですか?」
大魔導師「……」
魔女「あれ? おかしいなぁ?」
魔女「師匠は、こんなにメンタルは弱くなかったはずだったんだけどなぁ?」
元店主「……」サッ
店主「いや、あんた、何してんのよ?……」
店主「あんたの師匠、倒れちゃったわよ……」
魔女「ええ、そうね」
店主「兄さん、この人の具合はどう?……」
店主「まさか、死んじゃったって事はないわよね?……」
大魔導師「……」
元店主「いや、大丈夫だ」
元店主「少し、気絶しているだけだ」スッ
店主「そう。良かった……」
魔女「なんだ、ただ単に気絶しただけなんだ……」
魔女「やっぱり、師匠でも歳を取っちゃうんだ……」
魔女「昔は、私の体を好き放題汚してたのに……」
魔女「私の事を、執拗にレ〇プし続けていたのに……」
魔女「何で、こんな人にレ〇プされてたんだろう?……」
魔女「あの頃の私、何でこんな人を本気で信頼してたんだろうか?……」ハァ……
大魔導師「……」
店主「ジュリエット、もうその辺で止めてあげなさい」
店主「今のあんたの師匠、かなり可哀想でしょ」
店主「いくら、昔酷い仕打ちを受けたからと言って、今のあんたはもう何ともないでしょうが」
元店主「うん。そうだね……」
魔女「いや、そんな事ないから」
魔女「今の私、前世の記憶はしっかり引き継いでるから」
魔女「これについては、ママ達は黙っといて!」
魔女「これは、私と師匠の問題でもあるんだから!」
店主「でも、やって良い事と悪い事があるでしょ?」
店主「今のあんたの師匠は、もう既に高齢!」
店主「ただでさえ、家庭にも問題があるのに!」
店主「わざわざ、あんたの事を頼りにここまでやって来たんだから、もう少し優しくしてあげなさいよ!」
大魔導師「……」
魔女「う~~ん、そうかな?」
魔女「これでも、かなり手加減した方なんだけどなぁ……」
魔女「それに、師匠が私の元にやって来る=全て厄介事!」
魔女「ただでさえ、師匠の息子さんが背負った借金の立て替えに、師匠の生まれ故郷に出没した山賊退治!」
魔女「更には、私との生活を綴った官能小説を勝手に出版され、その中の私は師匠と愛人関係にあった!」
魔女「その所為で、今の私は師匠の奥様からマークされている身」
魔女「何度も、師匠の奥様には本気で殺され掛けた事もあった!」
魔女「私が、師匠にされた事に比べたら、遥かにこれは軽い方だけど」
魔女「そうは思わない? ママ」
店主「……」
魔女「後、今思い出したんだけど、あの時の私は師匠の所為であそこを追い出されたのよね」
魔女「あの時の私、師匠に対して完全に懐いてたから」
魔女「元々、師匠の生まれ故郷はハーフエルフに関しては、そんなに厳しくなかったけど」
魔女「それにも関わらず、私がすぐさま追い出されたのは、師匠が起こした大不祥事の所為」
魔女「あの頃の私は、まだ幼かったし」
魔女「何故か、全裸のまま私は師匠によって鎖に繋がれていて……」
魔女「師匠の出した白いお汁まみれの私の姿を見て以来、皆が涙ながらに私の事を追い出したんだけどね」
店主「!?」ガーン
元店主「なっ!?」ガーン
大魔導師「……」
魔女「ママ、話変わるけど、ちょっと師匠の事をお願い」
魔女「私、まだする事がかなりあるから」
魔女「多分、夕方頃には戻ってくると思う」
魔女「だから、それまでの間は師匠の事をお願い出来る?」
店主「……ええ、良いけど」
魔女「それと、ママは鹿肉は好き?」
魔女「今度のメニュー、鹿肉だけは止めた方が良い?」
店主「あんたの好きにしな……」
魔女「ええ~~っ?」
店主「はぁ……」
店主「全く、あんたは本当に手の掛かる義娘だわ……」
店主「今のあんた、まるで狩りに行く時みたいな顔してんだから……」
店主「後、鹿肉のメニューだけじゃ不安なんなら、牛や豚や鳥とかも出しときなさい」
店主「ここの連中、肉さえ食べれたら文句言わないんだし」
店主「それが、ウチの売り上げに反映されるのなら、私は何も文句は言わないわ」
魔女「そう」
元店主「とりあえず、ジュリエットはもう行っといで」
元店主「ちょっと、この爺さんには色々と聞きたい事がある」
元店主「主に、君の師匠の妻の事で」
元店主「それを聞けたら、今後の何かの参考になるかもしれないから」
魔女「マスター。間違っても師匠にだけは、絶対にアドバイスを求めないで下さいね!」
魔女「この人、大魔導師としてはかなり優秀だけど、実生活に関してはかなりの駄目人間!」
魔女「おまけに、女癖も悪いし、何人もの未婚の女性を数多く孕ませたりもしてもいる!」
魔女「見掛けによらず、自分自身が大魔導師と言う事をとことん利用し、恩着せがましく今も私に金銭を要求してくるただのろくでなし!」
魔女「だから、絶対に実生活に関してはアドバイスを求めないで下さいね!」
元店主「え? あ、ああ……」
店主「ええ。了解したわ」
店主「今の兄さん達は、この私が監視しとく」
店主「だから、あんたは早く行っておいで」
魔女「そう。了解したわ」
魔女「それじゃあ!」
店主「行ってらっしゃい」
元店主「気を付けてね……」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ガチャ、バタン……
正直な所、私は師匠とまた再会出来て嬉しかった。
けれど、それと同時に悲しい思い出が沢山蘇ってきた。
こんな私を、未だに頼りにしてくれる事については、かなり嬉しい。
でも、厄介事だけは勘弁願いたい。
何故なら、私はずっと一人だった。
師匠が、私を唯一認めてくれた人間だったからだ。
それにも関わらず、師匠は男としての欲望には打ち勝つ事が出来ず、私の事を執拗にレ〇プ。
あの時の私は、師匠にずっとされるがまま。
師匠しか、全く頼れる人間は皆無。
今みたいに、誰からも迫害をされていない平穏無事な生活は、師匠と過ごす時間以外には全く無かったのだ。
その後、私はそれが発覚してすぐに村を追い出された。
皆、私がハーフエルフだと言う事を知っていて、それでもあの時の私に逃げる時間や三日分の食料等を与えてくれた。
それ以来、私は師匠とは長年会っていなかったが、まさかこんな形で再会を果たすとはね……
それと同時に、あの時私を殺した従騎士とも何故か再会。
今の私の運命の歯車が、再び大きく動き出したのだった。
支援有り難うございます。酉付けてみました。
お察しの通り、魔女の周りには問題のある人達が多いですが、まともな人達も存在します。
魔女は、傭兵隊を率いているので「カーネル」と呼ばれており、島の住民達からも「カーネル=魔女」と言うのが定着をしています。
~とある教会前~
翌日――
チュンチュン、チュンチュン……
僧侶「結構、酷い有り様ね……」
僧侶「まさか、昨日の騒ぎがあの二人が原因だったとはね」
従者a「ええ。そうですね……」
僧侶「それで、勇者様は?」
僧侶「勇者様は、一体どこで何をしているのよ?」
従者a「さぁ……」
僧侶「さぁって、貴方達二人は勇者様の従者でしょ?」
僧侶「従者なら従者らしく、今すぐ勇者様を探してくるの!」
僧侶「それくらい、私が言う前にさっさと調べときなさいよ!」
僧侶「本当に、役立たずなんだから!」
従者a「も、申し訳有りません……」
従者a「何分、自分達も今さっき目を覚ましたばかりでして……」
僧侶「はぁ?」
僧侶「勇者様の従者の分際で、この私に対して口答え?」
僧侶「私、この戦いが終わったら勇者様の妻になるのよ!」
僧侶「今の貴方達、私の従者でもあるのよ!」
従者a「……」
僧侶「大体、何で私は朝っぱらから貴方達と同じ場所で目を覚ましてんのよ?」
僧侶「今の貴方達、本当なら家畜以下なんでしょ?」
僧侶「それにも関わらず、私と家畜二匹を同じ場所に寝かしとくなんて!」
僧侶「一体、この島の教会は何考えてんのよ!?」
従者b「……」
騎士「おい、そこの口汚い女の僧侶」スッ
騎士「貴様、ここが神聖な場所だと言う事を忘れているな」
騎士「いい加減、貴様は静かにしろ!」
騎士「貴様も、あの勇者達と全く同じ犯罪者だ!」
騎士「だから、少しは大人しくしろ!」
僧侶「あっ、申し訳有りません」
僧侶「何分、ウチの従者達が問題児でして」
僧侶「本当なら、この二人は家畜以下の扱い」
僧侶「ついいつもの癖で、本当に役立たずな家畜二匹に対して、我を忘れておりましたわ」
騎士「……」
僧侶「それと、今の貴方はこの私まであの二人と全くの同列な犯罪者だとおっしゃいましたよね?」
僧侶「私、あの時は何も悪い事はしておりませんよ」
僧侶「しいて言えば、この島に滞在をされていた司教様をご救出して差し上げただけの事」
僧侶「ですから、この私をあの犯罪者二人と同列に致すのは、何かの筋違いだとお思いですが」
従者a「……」
騎士「いや、そうも行かんのだ」
騎士「司教様が、勇者xxxに関するあるお触れを出されたからだ」
僧侶「はい?」
僧侶「何なのでしょうか? そのお触れと言うのは」
従者b「……」
騎士「ああ、そうか」
騎士「貴様らは、まだ何も知らされていないんだったな」
騎士「昨日付けで、勇者xxxはこの島においては仮想敵に認定された!」
騎士「もう既に、この件に関しては国王陛下にも報告済み!」
騎士「昨日、貴様らの仲間が起こした事件の裁判が終わるまで、今の貴様らはこの島から一切出れなくなったのだ!」
僧侶達「!?」
騎士「後、そこのハーフエルフ二人はカーネルが引き取るそうだ」
騎士「だから、今の貴様はそこの二人の主人でも何でもない」
騎士「それについては、勇者xxxにとっても同じ事」
騎士「この島では、ハーフエルフ迫害禁止令と言う法律に違反した場合には、問答無用でカーネルによる私的制裁が加えられる!」
騎士「命が惜しければ、この島でハーフエルフに対して、迫害やら何やらをするのを今すぐ止めるんだな!」
従者a「……は?」
従者b「ま、まじかよ……?」
騎士「ああ、全て事実だ!」
僧侶「そ、そんな!?」ガーン
そんな感じです。
僧侶は、勇者を愛するあまり残念な子になってしまってます。
僧侶「ちょっと、それ一体どう言う事ですか!?」
僧侶「そんな無茶苦茶な要求、勇者様が呑む訳ないじゃないですか!?」
従者a「……」
僧侶「大体、ハーフエルフを迫害して何が悪いんですか?」
僧侶「ハーフエルフは、神の意思に反した許されざる存在!」
僧侶「本来なら、この世に生まれてはいけないはずです!」
僧侶「国内法でも、特例を除いて保有は大きく制限されているはずですよ!」
従者b「……」
騎士「ああ。その通りだ!」
騎士「本来なら、ハーフエルフはすぐにでも滅ぼすべき存在だ!」
騎士「だが、この島の中ではそう簡単には行かない!」
騎士「この島は、実質的にとある一人の女ハーフエルフによって、以前から支配されている!」
騎士「しかも、その女はかなりの腕の持ち主!」
騎士「この島にいる警備兵自体が、あの女の率いている私兵なのだ!」
僧侶「!?」
僧侶「くっ、何でよ?……」
僧侶「何で、この島の警備兵がそんな事になってるのよ?……」
僧侶「なら、この島の自警団は?」
僧侶「この島の自警団も、ハーフエルフの手に落ちてるのですか?」
騎士「ああ。そうだ」
僧侶「そんな!?」
騎士「しかも、去年からそのハーフエルフは傭兵ではなくなり、恐れ多くも今では伯爵様の臣下だ!」
騎士「伯爵様は、そのハーフエルフの事をとても信頼されている!」
騎士「その上、この島の住民達ですらハーフエルフに対しては、かなり友好的!」
騎士「中には、各地に点在するハーフエルフをこの島にまで移送してくる者もまでもいる!」
騎士「更には、つい最近になって“エルフと人間との間でハーフエルフ迫害禁止条約が締結をされ”、この島の中では一切何も出来ない!」
騎士「この島自体が、国内法でもハーフエルフの定住地と言う位置付けとなってしまっているのだ!」
僧侶「!?」ガーン
従者a「わおっ……」
従者b「さすが、カーネルだ……」
騎士「だから、今の貴様も命が惜しければ、今すぐハーフエルフを迫害する事を止めるんだな!」
騎士「たとへ、この島の中でなくともハーフエルフ迫害禁止条約に基づき、この島の外でもハーフエルフ迫害禁止令は適応をされてしまう!」
騎士「実際、私もそれに違反して所領を没収された一人だ」
騎士「所領を没収されただけでなく、長年仕えていた主君からもその所為で解雇された」
騎士「その上、過去のハーフエルフに関する事件の慰謝料やら賠償金やらで、毎月の給金すらほぼ無しに等しい」
騎士「この島では、ハーフエルフを敵に回せばその者の家族全体にまで、そのハーフエルフによる報復が及ぶのだ!」
僧侶「……」ポカーン
従者a「……」ポカーン
従者b「……」ポカーン
騎士「……」
僧侶「それ、おかしい……」
僧侶「それ、絶対におかしい!……」
騎士「……ん?」
僧侶「何で、この島の住民達はそれに反対しないのよ?……」
僧侶「普通に考えたら、そんなの絶対に間違ってるでしょ?……」
騎士「なら聞くが、何か手はあるのか?」
騎士「今の貴様には、その手立てはあると言うのか?」
従者a「……」
騎士「もし仮に、それが無いのなら今すぐ止めておけ!」
騎士「あの女は、見た目に反してかなり凶悪!」
騎士「その所為で、司教様も伯爵様も大いに狂われてしまった!」
騎士「いやむしろ、この島の住民全体が大いに狂ってるだけなのかもしれないがな……」
従者b「……」
僧侶「悔しいけど、何も浮かばないわ……」
僧侶「本当に、何でこんな事になったんだか……」
騎士「……」
僧侶「おまけに、周囲の目線もかなりあるみたいね……」
僧侶「ついさっきから、今の私は色々と叫び過ぎた……」
僧侶「じゃなきゃ、これだけの群衆がここにまで集まるはずなんてないわ……」
周囲「……」ザワザワザワッ
騎士「いや、違うな」
騎士「あれは、ただ単に本日島を出る者達の列なだけだ」
騎士「これから、あの者達は晴れて無事に生まれ故郷に戻れる」
騎士「あの者達も、カーネルによってこの島に連れてこられた元違反者達だ」
騎士「今回は、かなり多いみたいだな」
僧侶「!?」
騎士「とりあえず、貴様らはさっさとここを出ろ」
騎士「これから、ここの復旧作業が始まる」
騎士「本当なら、貴様らも牢に入れられていてもおかしくない」
騎士「それだけ、今の貴様らの仲間はこの島で大きな罪を犯したんだからな」
僧侶「……」
「あら、今回はかなりお早い目覚めね」
「今日は、いつもの司祭様は出払っているのかしら?」シュタッ
騎士「くっ、貴様か……」
騎士「一体、何の様だ?……」ギリッ
お馴染みの魔女さんです。
魔女「何って、そこにいる二人を引き取りに来たのよ」
魔女「私、これからあの子達の保護者になるんだし」
魔女「何か、今のあんたは文句でもあるの?」
僧侶「……」
騎士「なら、さっさとそいつらを引き取ってもらおうか」
騎士「ただでさえ、今の私は貴様の顔を見たくない!」
騎士「貴様から受けたあの時の遺恨、今の私は未だに覚えているのだぞ!」ギリギリッ
僧侶「……」ハッ
魔女「ふ~~ん。そうなんだ」
魔女「今のあんた、まだあの土地に執着をしてたんだ」
魔女「あれだけ、あんたも領民を苦しめていたのに」
魔女「それにも関わらず、あんたはまだ被害者面してるんだ」
騎士「黙れ!」
僧侶「……」ビクッ
スチャ、タァラン……
騎士「貴様、早くこの場から離れろ!」
騎士「さもないと、私は貴様を殺す!」
騎士「貴様のおかげで、私は全てを失った!」
騎士「これは、騎士として正当なフェーデなのだ!」ギリギリッ
魔女「……」
騎士「貴様、聞こえないのか?」
騎士「さっさと、この場から離れろ!」
騎士「さもないと、私は貴様を殺す!」
騎士「これは、決して脅しではない!」ギリギリッ
魔女「……」
従者a「カーネル、よろしいのですか?……」
従者a「相手は、かなり本気みたいですが……」
騎士「……」ギリギリッ
魔女「少なくとも、相手はただの馬鹿」
魔女「それ以上でも、それ以下でもないわ」
騎士「やけに、余裕だな……」
騎士「貴様、そんなに斬り殺されたいのか?……」
魔女「ええ。そのつもりだけど」
騎士「なら、望み通りにこの私が貴様を斬り殺してくれる!」
騎士「さぁ、貴様も武器を持て!」
騎士「来なければ、私から行くぞ!」
僧侶「……」アワアワッ
魔女「あんた、私がこの島の治安維持及び防衛を担当をしている事を忘れたのかしら?」
魔女「今の私は、有事の際には今のあんたにも指揮命令する事が出来る」
魔女「それについてを、今のあんたはすっかり忘れている様ね」
魔女「正直、ここまで馬鹿だとは全く思わなかったわ」ハァ……
騎士「……何が言いたい?」
魔女「騎士xx。本日付で、貴方を強盗犯ロメオの王都までの護送を任命する」
魔女「これについては、司教様及び伯爵様からの許可が出たわ」
魔女「だから、この私からの命令に従いなさい」
騎士「貴様、何のつもりだ!?」
騎士「何故、私があの馬鹿の護送をしなければならないのだ!?」
騎士「今の私は、司祭様からここの警備を命令されている!」
騎士「貴様の指揮命令は、一切受けない!」
僧侶「……」アワアワッ
魔女「そう」
魔女「なら、後で司祭様にでも聞いてみなさいよ」
魔女「今のあんた、ここ最近職務怠慢みたいだから失職間近」
魔女「今のあんたは、かなり危ない状態なんだし」
魔女「だから、今回の任務には最適の人材でもあるのだからね」
騎士「くっ……」
魔女「とりあえず、私の用件は済んだ」
魔女「さぁ、そこの二人は私の元に来なさい」
魔女「今なら、まだ何もしてこないから」
従者達「……はっ!」サッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ピタッ、ビシッ……
従者a「お会い出来て光栄です。カーネル」
従者a「自分達は、元勇者xxxの従者アルファとブラボー」
従者a「不束ものですが、どうぞよろしくお願い致します!」
司祭「……」ヌッ
騎士「!?」ハッ
魔女「ふぅ、こうやって二人に会うのは初めてなのね」
魔女「ようこそ。xxx島へ」ニッコリ
魔女「私の名は、ジュリエット」
魔女「今現在は、この島を治めている伯爵様の臣下」
魔女「主に、この島の治安維持及び防衛を担当しているわ」
司祭「……」ジーッ
騎士「ちっ……」スチャ、カシャン
僧侶「……」アワアワッ
魔女「まぁ、今はそんな堅苦しい挨拶とかは、この際なしにするわ」
魔女「早速、今ここにいる二人にも私の指揮下に入ってもらう」
魔女「貴方達二人は、私が今から連れていく酒場の中で待機しといて」
魔女「そこは、私の活動拠点の一つ」
魔女「今の貴方達二人は、そこで待機しといてくれるかしら?」
従者達「はっ!」
魔女「後、そこの女の僧侶さん」
魔女「勇者に会いたかったら、今から私に着いてきて」
魔女「なんか、勇者は昨日から行方不明みたいでね」
魔女「確実に勇者に会えるとしたら、裁判の時ぐらいしかないみたいだからさ」
僧侶「え? はっ、はい……」
騎士「……」
魔女「あっ、司祭様」
魔女「ここの二人、今から移送します」
魔女「昨日、お送りした物資は上手く活用出来てますでしょうか?」
司祭「ああ。大丈夫だが」
司祭「君から送られてきた物資は、全て被害者全員に行き届いてる」
司祭「何か、その事で心配事でもあるのか?」
司祭「君に頼まれていたハーフエルフ達なら、全員無事の様だったが」
騎士「……」
魔女「そうですか」
魔女「なら、何も問題はないですね」
魔女「てっきり、どこかの失職間近の方がハーフエルフに対して、物資を渡さないようにしていたんじゃないかと心配でしたから」
騎士「……」ギリッ
司祭「ああ。そんな事かい?」
司祭「それなら、何も心配はいらないよ」
司祭「実際、彼は何も出来なかった」
司祭「この島でハーフエルフに何かしたら、確実に解雇だと言い渡していたからさ」アハハハッ
騎士「……」ギリギリッ
魔女「でも、その彼も可哀想にねぇ」
魔女「新しい主君が、まさかハーフエルフを保護してるなんて」
魔女「今の彼、かなり荒れてるでしょ?」
魔女「このまま行くと、自身の胃に大穴が開いてしまうんじゃない?」
騎士「……」ギリギリッ
司祭「ああ。確実に開くな」
司祭「今の君なら、確実に開けそうだな」
騎士「……」ギリギリッ
魔女「とりあえず、騎士xxには例の件を改めて通達をして下さい」
魔女「本日から、しばらくの間はこの島は荒れに荒れます」
魔女「もう既に、この島全体を私の私兵1000名で包囲しました」
魔女「たとへ、勇者が神に選ばれたとしても、さすがにこの数には敵わないでしょう」
魔女「今の私は、確実に勇者を潰す気でいますからね!」ニッコリ
僧侶「!?」
司祭「そ、そうかい……」
騎士「貴様、戯れ言を申すな!」
騎士「何故、貴様如きが私兵1000名もを保有してるんだ?」
騎士「今の貴様は、かなりの大ホラ吹き!」
騎士「一体、この島のどこに私兵1000名がいると言うのだ!?」
僧侶「そ、そうね……」
司祭「……」
魔女「あれ? あんた見てなかったの?」
魔女「今さっき、ここを通ってったじゃん?」
騎士「!?」
魔女「私、彼らをもう既にこの島中に配備したわ」
魔女「だってそうしなきゃ、勇者がまた無駄に民間人に対して被害を出しちゃうし」
魔女「今のあんたは、本当に自分の都合の良い所しか見てないのね」
魔女「それだから、奥さんにまで逃げられちゃうのよ」
魔女「本当に、あんたは駄目人間なんだから」
騎士「……」ブチッ
騎士「司祭様、あの者を討伐する許可を!」
騎士「これは、この私に対する侮辱だ!」
騎士「今の貴様は、誇り高き騎士を侮辱しているのだぞ!」プルプル
司祭「……」
騎士「さぁ、司祭様。早く許可を!」
騎士「ただでさえ、この私はあの者に痛め付けられてきました!」
騎士「ですから、早くあの者を討伐させて下さい!」
騎士「司祭様!」ギリギリッ
司祭「……」
魔女「騎士の誇り?」
魔女「そんなの今のあんたに有ったの?」
魔女「だって、本当ならあんたはとっくに牢に入れられてた」
魔女「それを、ここの司教様の下で働かせてあげれる様にしたのは、この私でしょうが」
僧侶「えっ!?」ガーン
騎士「黙れ、黙れ!」ギリギリッ
魔女「それに、今のあんた40越えてんだからさぁ、もう少し丸くなったら」
魔女「今の世の中、いつまでも騎士が偉いと言う訳じゃないのよ」
魔女「だって、元々のあんたは所領すらろくに持ってなかった、ただの貧乏騎士」
魔女「過去に、この私を仲間達と殺す事によって、今のあんたは所領を頂いてた」
魔女「もうここら辺で、下手な意地や誇りなんて捨てて、素直になればいいじゃないの」
魔女「あんた、ここに来てもう二年も経つんでしょ?」
騎士「黙れ!」ギリギリッ
僧侶「……」アワアワッ
司祭「カーネル。もうそこら辺で止めてあげなさい」
司祭「このままだと、彼は本当に死ぬ」
司祭「今の彼は、ここ最近ずっと胃の調子が悪いんだ」
司祭「いくら、過去にこの者に何かされたとは言え、君自身もまた下手な挑発をするのは止めてあげなさい」
騎士「……」ギリギリッ
僧侶「……」アワアワッ
従者達「……」アワアワッ
魔女「はいはい。分かりましたよ」
魔女「今後一切、彼に対して下手な挑発は繰り返しませんわよ」
魔女「けれど、これだけは言わせて下さいね」
魔女「彼の所為で、本当に苦しめられていた領民が数多くいた!」
魔女「ろくに食事を取る事が出来ず、それで餓死した人達が大勢いたとしても、自分達だけが常に良い思い!」
魔女「自身が盗賊ロメオの様に捕らえられなかったからと言って、あんた自身の犯した罪は全く消えないと思ってよね!」
騎士「何!?」ギリギリッ
司祭「ああ。了解した」
司祭「彼自身もまた、本当ならここにいるべき人間ではなかったのだったな」
騎士「……司祭様?」
司祭「カーネル。君は、早く彼らを連れて行きなさい」
司祭「騎士xxとは、この私がよく話しておく」
司祭「だから、君は早く持ち場に戻りなさい」
司祭「今の君は、伯爵様に仕える臣下なのだからな」
魔女「はい。かしこまりました」ペコッ
魔女「それでは、司祭様。私達は、これで失礼致します」
魔女「また後日、ここに保護されたハーフエルフ達の事をお引き取りに参ります」
魔女「また、何か必要な物があればこの私にお申し付け下さい」
魔女「この私が、すぐにそれをお持ち致しますので」ペコッ
司祭「ああ。了解した」
司祭「カーネルも、道中お気をつけて」
従者達「失礼致します」ペコッ
司祭「気を付けてな」
従者達「はい」
僧侶「……」ペコッ
魔女「さぁ、行くわよ」
従者達「はっ!」
クルッ、スタスタスタッ、スタスタスタッ……
騎士「!?」ブチッ
騎士「……」バタン
司祭「ん? 騎士xx?」
司祭「一体、どうした?」
司祭「まさか、本当に胃に大穴でも開いたのか?」スッ
騎士「……」
司祭「はぁ……」
司祭「これは、明らかに重傷だな……」
司祭「相変わらず、あの子は実に器用な事をするな……」サッ
騎士「……」
司祭「助祭xx、そこにいるか?」
司祭「もしくは、侍祭xxでも良い」
司祭「どっちかいるなら、すぐに返事をしてほしい」
助祭「はっ!」シュタッ
侍祭「お呼びでしょうか?」シュタッ
司祭「うむ。来たか」
騎士「……」
司祭「早速で悪いんだが、この馬鹿を速やかに蘇生させろ」
司祭「今なら、まだ間に合う」
司祭「さぁ、早くこの馬鹿を蘇生するのだ!」
助祭「はっ、仰せのままに!」
侍祭「しかと、承りました!」
騎士「……」
助祭「……」サッ
侍祭「……」サッ
ポワーーーーーーーーン……
ポワーーーーーーーーン……
騎士「……」シュルシュルシュル
ポワーーーーーーーーン……
ポワーーーーーーーーン……
騎士「……」シュルシュルシュル
司祭「……」
はい。切れました。
今、助祭達が司祭からの命を受けて蘇生中です。
~とある道~
「なんか、今日はやけに警備兵が多いな」
「やっぱ、昨日の火事が原因なのか?」
「ああ。そうだろうな」
「でも、何でこんなに沢山」
「元々、今日は帰省する予定の人達は多いけど、ここまで増やす必要はないんじゃないの?」
「ああ、全くだ」
「だが、それも仕方ないだろうな」
「昨日、例の勇者の仲間以外にも大物が何名か捕縛されたそうだ」
「え?」
「それで、カーネルは警備兵を通常よりも倍の数をすぐに動員」
「その数、なんと1000名」
「カーネルが、あちらこちらに増援を要請して、今みたいな厳戒体制が敷かれてるらしい」
「へぇ、そうなんだ」
「そりゃあ、凄い数だ」
「何でも、その昨日捕まった大物って言うのは、各地を荒らしていた元騎士だそうだ」
「そいつの腕は、かなりのもの」
「次々と、迫ってくる警備兵を瞬く間に瞬殺」
「その所為で、警備兵自体も多数戦死」
「例の勇者の仲間達二人と手を組んで、付近にいた民間人までもを殺害したらしい」
「うわぁ……」
「それ、最悪……」
「ああ、全くだ……」
「けど、何でそれにも関わらず、今日の帰省は許可されたんだ?」
「カーネルは、かなり何か自信でもあるのか?」
「さぁ?」
「しかし、解らん」
「この警備兵の数、かなり多い」
「こりゃあ、他にきっと何かあるな」
「じゃなきゃ、ここまでこんな数の警備兵がいたりしねぇよ」
「なら聞くが、一体何が起こってるんだ?」
「俺達、これからどうすれば良いんだ?」
「……」
「でも、カーネルならきっと何かしてくれるはず」
「ここまでしてくるんだから、何か色んな理由があるはず」
「……」
「とりあえず、俺達は普通に過ごしてたら良いのか?」
「今の俺達、安全なんだろうか?」
「ああ、多分な」
「それに、ここまでしてしまったら、勇者様も何も出来ないわよ」
「この島では、カーネルを敵に回したら生きていけない」
「カーネルは、私達にとっては救いの女神」
「もし仮に、敵に回した時は“ただの殺戮魔”になっちゃうけど」
「この島では、カーネルと敵対する住民達はまずいない」
「それだけ、今の私達はカーネルからの恩恵を受けているんだからね」
店主姪(義姉さん、意外と苦労してるんだ……)
店主姪(町の人から、あんな風に言われてても、この町を守ろうとしてるんだ……)
店主姪(実際、義姉さんはかなり苦労してる)
店主姪(今の私達が想像してる以上に、遥かに苦労してる)
店主姪(それでもなお、義姉さんはこの町の人達の為に尽力)
店主姪(中には、あまり着いていけない事もあるんだけど、義姉さんは常に真面目)
店主姪(出来れば、義姉さんにも春が来たら良いなぁ)
店主姪(意外に、義姉さんにも春が来てるのかな?)
店主姪(いや、あり得ない)
店主姪(やっぱり、あの義姉さんにはあり得ない)
店主姪(けど、義姉さんはハーフエルフだと言う事もあって、整った美人でナイスバディ)
店主姪(確か、過去の義姉さんを知る人が言うには、昔はそんな時期もあったって)
店主姪(実際、あのお爺さんの言う事は、かなり胡散臭いし)
店主姪(義姉さんも、かなり鬱陶しそうにしていたんだったよね)
「あっ、鹿だ」
商人「おや、ママさん」
商人「どうしたんですか? その鹿」
商人「どこか、今から競りに出すんですか?」
鹿「……」
店主「ああ、この子?」
店主「ちょっと、ジュリエットに頼まれてね」
店主「あの子のいない間、私がこうして散歩を頼まれたのよ」
店主姪「……?」クルッ
商人「そうですか」
商人「この鹿、確か食用にするって言っていた鹿でしたよね?」
商人「昨日、てっきりカーネルに食べられたんじゃないかと、皆が噂してたんですよ」
商人「あれだけ、目立つ様にカーネルに引きずられてましたから」
商人「この鹿、かなり運が良いみたいですね」ジーッ
店主「ええ、そうね」
店主姪「……」
店主「でも、この子、昨日はかなり沈んでたわよ」
店主「あの子に引きずられた後、暫くの間はずっと脅えてたもの」
店主姪「!?」
店主「おまけに、予定外に鹿肉を仕入れてしまった」
店主「だから、この子は次の機会に食べるんだって、あの子はそう言っていたわ」
店主「その所為か、今日のこの子は割りと元気そうでね」
店主「昨日と違って、今日は気晴らしに私が散歩に連れ出してる訳」
商人「へぇ……」ジーッ
店主姪「……」
店主「まぁ、そう言う訳だから、今度のメニューにこの子は出ないわ」
店主「この子は、当分の間はあの子のペットになるみたいだから」
鹿「……」
商人「でも、いずれはその子を食べるんですよね?」
商人「意外に、この鹿の肉付きがかなり良い」
商人「これ、もし仮に市場で競りに出した場合には、かなりの高値になりますよ」ウズウズッ
店主「あははっ、それは考えとくわ」
店主「残念だけど、この子の飼い主はウチのジュリエットだから」
店主「でも、商人さんは鹿肉はお好きだったかしら?」
店主「まだ、この島でも一部にしか鹿肉は出回っていないはず」
店主「まさかとは思うけど、この子をジュリエットから買い取るつもりなのかしら?」
店主姪「……」ゴクリ
商人「ええ。そのつもりですよ」
商人「この鹿、かなり気に入りましたもの」キラン
鹿「!?」ビクッ
商人「実際、この子を焼いて食べたら美味しいんでしょうか?」
商人「もしくは、シチューに入れたり、赤ワインと一緒にっても良さそうですしね」
商人「カーネル、今ご在宅ですか?」
商人「もし、カーネルがいるのなら、この子を今すぐ買い取りたいのですが」ウズウズ
鹿「……」ビクビクッ
店主姪「……」アワアワッ
店主「う~~ん、それ無理かも」
店主「あの子、自分自身の手で料理するって言っていたもの」
商人「……」ウズウズッ
店主「まぁ、他にもあの子は沢山の鹿を仕入れているみたいだし、一応聞くだけ聞いてみるわ」
店主「今のあの子、朝から色々と忙しいみたいよ」
店主「何故なら、昨日の事件の所為であの子は常に厳戒体制」
店主「なんか、また勇者がこの町で何かをやらかすみたいでね」
店主「それで、今のあの子は朝早くから出払ってるわ」
商人「はい。かしこまりました」ウズウズ
鹿「……」ビクビクッ
店主姪「……」アワアワッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ、ピタッ
「あら? ジュリエットちゃんじゃない」
「今日は、朝から色々と忙しそうね」
商人「!?」クルッ
師匠ピ~ンチwwww
魔女「ああ、奥さん。お久し振りです」
魔女「今日は、とても良い天気ですね」
元店主嫁「ええ、そうね」
商人「……」ジーッ
店主(ああ、なんて、タイミングが悪い……)
鹿「……」ウルウルッ
元店主嫁「ジュリエットちゃん。昨日、ウチの主人が逃げ込んでこなかった?」
元店主嫁「ウチの主人、また仕事を放り出して愛人と会っていてね」
元店主嫁「その所為で、ウチの店がかなり大忙しになっちゃったのよ」
店主姪「……」アワアワッ
魔女「ああ、逃げてきましたね」
魔女「昨日、ウチに一泊した後すぐに出ていきましたよ」
元店主嫁「ああ、やっぱり……」
魔女「それで、今度は何があったんですか?」
魔女「また、以前みたいな借金絡みのトラブルですか?」
元店主嫁「ええ、そうよ……」
元店主嫁「そのまさかなのよ……」
元店主嫁「ウチの主人、愛人にかなりの額を貢ぎまくっててね!」
元店主嫁「“お前と別れて、若い愛人と一緒になる”って、そう通告をされたわ!」
魔女「なっ、酷い!」ガーン
店主「……」ガクッ
元店主嫁「更には、殺し屋に大金を払って、私の事を暗殺をしようとしていた!」
元店主嫁「義姉さんをクビにして、ウチの娘と共に借金の形に娼館にまで売り飛ばす計画まで立てていたのよ!」ウルウルッ
店主「!?」ガーン
店主姪「ほえっ!?」ガーン
元店主嫁「それを知ってから、私は何度も何度も逆に主人の事を殺し掛けたわ……」
元店主嫁「私の父が、その所為で暗殺者に毒を盛られ、今も病院に入院をしているの……」ウルウルッ
魔女「……」ウルウルッ
店主「……」ポカーン
店主姪「……」ポカーン
元店主嫁「お願い、ジュリエットちゃん」
元店主嫁「ウチの主人を、すぐにでも捕縛してくれる?」
元店主嫁「今の私、ジュリエットちゃんしか頼る人がいないし……」
元店主嫁「大事な大事な一人娘を、今の私は娼館に売り飛ばしたくはないのよ……」ウルウルッ
僧侶「……」ポカーン
元店主嫁「後、そのついでに、ウチの主人が背負った借金の処理と愛人の捕縛と私と娘と私の父の身辺警護もお願い!……」
元店主嫁「今日はまだ、ウチの主人が雇った暗殺者二人は姿を見せてはいないけど……」
元店主「いつ、またどこで命を狙われるかが分からないし……」
元店主「だから、この私からのお願い、ジュリエットちゃんは聞いてくれるかしら……」ペコッ、ウルウルッ
従者達「……」ポカーン
魔女「……はい。かしこまりました」
魔女「ちょっと、待ってて下さいね……」
魔女「今すぐ、手配してくるんで……」ウルウルッ
元店主嫁「うん。ありがとう」ポロポロッ
周囲「……」ザワザワッ
「おい、今の聞いたか?」
「あそこの奥さん、かなりまずいみたいだぞ」
「あのままだと、本気で旦那に身勝手な理由で殺されるみたいだぞ」
店主姪「……」ポロポロッ
「あそこの娘さん、儂の孫と同じ歳じゃ……」
「それにも関わらず、娼館に売り飛ばすとはなんたる事じゃ!」
「これは、絶対に許されざる出来事じゃぞ!」
「こればっかりは、とことん血祭りに上げてしまっても良いぞ!」
「そうだ、そうだ!」
元店主嫁「みんな……」ポロポロッ
「カーネル、これについてはとことんやってくれ!」
「俺の死んだ娘も、同じ歳でレ〇プされた挙げ句に殺されたんだ!」
「その所為で、俺の嫁は後追い自殺しちまったんだ!」ウルウルッ
僧侶「ぐすん……」ポロポロッ
店主姪「……」ポロポロッ
「頼む、カーネル、とことんやってくれ!」
「以前から思ってたが、こればっかりはもう仕方ねぇよ!」
「大体、何であんな奴が結婚して家族を持ってるんだ!」
「妻や娘を、一体何だと思ってるんだ!」
従者達「……」ポカーン
「カーネル。私達も、協力をさせて!」
「私も、同じ歳頃の娘を二人も持つの!」
「ついこの前、質の悪い二人組が流れてきて、ウチの娘を何度も尾行してた!」
「その二人は、若い盗賊と武闘家でね」
「ウチの娘を、やけに執拗に付け狙っていたのよ!」
元店主嫁「!?」クルッ
店主「ああ、あの二人か……」
店主「本当に、もう最悪だわ……」
魔女「……?」
店主姪「……」ポロポロッ
>>228
これから、師匠は更にピンチを迎えます。主に、鹿としての生活を強要されている為ですが。
元店主嫁「ちょっと、今の誰!?」
元店主嫁「その二人組、私の父に毒を持った連中なのよ!?」
元店主嫁「ウチの主人が寄越した暗殺者なのよ!」ポロポロッ
魔女「なんですって!?」ポロポロッ
「ごめん。それは言えないわ……」
「ウチの娘も、執拗に狙われているから……」
「おまけに、ここ最近はウチの近所にも何度も出没……」
「一応、以前から見回りはして貰ってるんだけど、それでもなおしつこく付け狙っているみたいだからね……」
元店主嫁「……」ポロポロッ
魔女「とりあえず、皆さんはその二人組を見かけたら、すぐに近くにいる警備兵に知らせて下さい!」
魔女「本日付で、酒場xxxの所有者xxは、妻に対する計画的な殺人の罪により指名手配犯になりました!」
魔女「ですから、皆さんはどうか捜査にご協力を!」
魔女「話を聞く限り、マスターが犯した罪は万死に値します!」ポロポロッ
魔女「もうこれ以上、不幸になる女性を今の私は見たくありません!」
周囲「お――――――――っ!」ザワザワッ
魔女「それと、皆さんはあまり無茶はしないで下さいね!」
魔女「何故なら、マスターの犯した罪はかなり重罪!」
魔女「愛する家族を平然と殺そうとし、常に自身の欲を満たそうとしている!」
魔女「今のマスターは、確実に人としての道を大きく外してしまっています!」ポロポロッ
店主姪「……」ポロポロッ
魔女「後、勇者xxxの所在についても、すぐにご一報を!」
魔女「今回の警備体制は、勇者xxxに対して備えるもの!」
魔女「勇者xxxは、いつでもこの町の住民達を殺害し、この町を火の海にします!」
魔女「所詮、勇者一行はただの屑の集まり!」
魔女「皆さんも、そんな屑の集まりには絶対に注意して下さいね!」ポロポロッ
周囲「お――――――――っ!」ザワザワッ
店主姪「……」ポロポロッ
元店主嫁「ぐすん……」ジーン
僧侶「……」ポロポロッ
店主「……」ハッ
ザワザワザワッ、ザワザワザワッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ、ピタッ
ザワザワザワッ、ザワザワザワッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ、ピタッ……
店主「ちょっと、ジュリエット!」
店主「今のあんた、少し煽りすぎよ!」
店主「これ、一体どうするつもりなの!?」
元店主嫁「あっ、義姉さん……」ポロポロッ
店主姪「……」ポロポロッ
魔女「ああ、ママ、いたんだ……」
魔女「物凄く、丁度良かった……」ポロポロッ
魔女「今から、そっちに向かおうとしてたんだけど……」
僧侶「……」ポロポロッ
商人「……」ジリジリッ、ガシッ
鹿「ピィーーッ!?……」ウルウルウルッ
店主「それで、あんたどうするつもりなの?」
店主「兄さんの事、本当に処分するつもりなの?」
魔女「ええ、そのつもりだけど……」ポロポロッ
店主「なら、もう少し穏便に事を運びなさいよ!」
店主「おかげで、私まで悪い印象を持たれちゃうわよ!」
店主「私まで、兄さんみたいな犯罪者にされたら、あんた一体どうするつもりなのよ!?」
元店主嫁「あっ……」ハッ
店主姪「……」ポロポロッ
魔女「いや、その辺はちゃんとするから……」
魔女「今の私、ママの事まで潰すつもりなんかないから……」
魔女「とりあえず、この話の続きはウチでするね……」
魔女「今の私、まだ色々とする事があるから……」
魔女「いつ、勇者が来てもいい様に、今の私はまだまだ色々と準備しなきゃいけないからね!……」
店主「……そう。了解したわ」
周囲「……」ザワザワッ
警備下士官「カーネル、如何致しますか?」
警備下士官「自分でよければ、部下を率いて身辺警護を致しますが」
店主姪「……」ポロポロッ
魔女「そうね、伯爵様に至急報告……」
魔女「勇者は、この島の民間人をいつでも殺害する事が出来る!……」
魔女「何の罪もない、女性達を数多く不幸にしようとしている!……」
魔女「それを理由に、勇者xxx及びその意思に従う男達数名を、本日付で指名手配!……」
魔女「ママと僧侶に関しては、何も問題はないので今の私が身柄を預かる事にする!……」
魔女「そう、伯爵様に伝えといて!……」
警備下士官「はっ、了解致しました!」
警備下士官「隊長にも、そう報告を致します!」
魔女「そう、お願いね!」フキフキ
商人「うふふっ……」ナデナデ、ニヤリ
鹿「ピィーーッ、ピィーーッ!」ウルウルッ、ビクビクッ
周囲「……」ザワザワッ
支援有り難うございます。
元店主は、元店主嫁を殺して元店主嫁の実家が持つ財産を得る為に、あの様な事を計画をしていました。
ちなみに、元店主嫁との出会いは島の中にある公衆浴場。そこで二人は出会い、結婚をするにまで至りました。
従者b「なぁ、アルファ……」
従者a「何だ? ブラボー……」
従者b「カーネルって、一体何者だ?……」
従者b「何で、俺達と同じなのに、あんなに人望があるんだ?……」
従者a「さぁ?……」
従者b「今の俺、改めてスゲェと思った……」
従者b「だから、あんな数多くの伝説が作れるんだなって……」
従者a「ああ、そうみたいだな……」
従者b「とりあえず、俺達はこれからどうしようか?……」
従者b「本日の宿、ここで取れるんだろうか?……」
従者a「さぁ、まだ何も分からないな……」
従者b「一応、酒場に着いた後に宿を探そう」
従者b「今日から、俺達はカーネルの配下なんだし」
従者b「以前までとは、全く違う生活が待ってるんだからな」
従者a「ああ、そうだな」
僧侶(くっ、何でよ?……)
僧侶(何で、私、泣いてんのよ……?)
僧侶(あの女は、元々は家畜以下の癖に、何であれだけの人望があるのよ?……)ポロポロッ
鹿「ピィーーッ、ピィーーッ!」ウルウルッ、ビクビクッ
僧侶(今の私、それについてが全く分からない……)
僧侶(本来なら、あの女は家畜以下……)
僧侶(何で、あの女がこの町では有力者になってんのよ!?……)
僧侶(これ、絶対に何かがおかしいでしょうが!?……)ポロポロッ
鹿「ピィーーッ、ピィーーッ!」
僧侶(それに、今の私は勇者様の妻……)
僧侶(あの女は、勇者様を貶めようとする憎むべき相手……)
僧侶(けど、今の私には何も出来ない……)
僧侶(戦士も魔法使いも捕まり、おまけに敵兵が1000名も出た……)
僧侶(ここは、何もせずに大人しくしとくのが得策……)
僧侶(じゃないと、私まで戦士達みたいに捕まっちゃうからね……)フキフキ
店主「ねぇ、ジュリエット……」
店主「あんたの鹿、なんか鳴いてるわよ……」
店主「と言うか、気がついたら商人さんに捕まってるんだけど……」
鹿「ピィーーッ、ピィーーッ!」ウルウルッ、ビクビクッ
店主「今の私、何かの見間違いかしら?……」
店主「このどさくさに紛れて、商人さんがあの鹿を自宅にまで拉致監禁……」
店主「そのまま、あんたみたいに自身で捌いて食べてそう……」
店主「今の私、本当にあの商人さんがしそうで、かなり怖いんだけど……」
鹿「ピィーーッ、ピィーーッ!」ウルウルッ、ビクビクッ
魔女「ああ、あれね……」
魔女「なんか、うるさいけどほっといていいわ……」
魔女「以前、私が師匠に助けを求めた時もあんな感じだった……」
魔女「結局、師匠はただの私の体目当て……」
魔女「どれだけ、助けを求めても師匠は何もしてくれなかったから、別に良いのよ……」ポロポロッ
鹿「ピィーーッ!?」ガーン
魔女「それに、あの商人さんも悪い人じゃないわよ……」
魔女「また、師匠が私を置いてどこかに逃げようとしていたから、それを確保してくれただけの事よ……」ポロポロッ
店主「……」
魔女「まぁ、実際、あの時も私はあんな感じだった……」
魔女「三日三晩、私はずっと師匠の助けを待っていたけど、この私の目の前に現れたのは一匹の鹿と敵兵のみ……」
魔女「結局、師匠は一度も助けには来てくれず、別の愛人宅で愛の営みの真っ最中……」
魔女「それに気づいた師匠の奥様+村人達が、本気で師匠に対してブチギレ!……」
魔女「それが原因で、師匠は怒り狂った奥様に重傷を負わされ、そのまますぐに入院……」
魔女「師匠が退院した時には、もう既にあの時の私は死んでいたと言う訳……」ポロポロッ
店主「……」
魔女「だから、師匠はあのままで良いわ……」
魔女「その方が、今の師匠には物凄くお似合いだから……」
魔女「まぁ、あの商人さんに食べられそうになった時には、全力ですぐに止める……」
魔女「だから、ママは何も心配はしないでね……」フキフキ
店主「……そう。了解したわ」
商人「うふふっ……」
商人「そんなに、切なそうに鳴かなくても良いわよ……」
商人「今の私、何もしないわよ……」ギラギラッ
鹿「ピィーーッ、ピィーーッ!」ウルウルッ、ビクビクッ
商人「今のあなた、本当に良い肉付きね……」
商人「これだけ、感じの良い鹿肉は初めてだわ……」
商人「今のあなた、本当に今すぐ食べちゃいたい!……」
商人「カーネルから買い取って、今晩の夕食にしたい!……」ギラギラッ
鹿「ピィーーッ、ピィーーッ!」ウルウルッ、ビクビクッ
商人「あははっ、冗談よ……」
商人「ほらっ、ちょっとした気の緩みから起きる冗談よ……」
商人「今の私、専門は家畜の取引だから……」
商人「せっかくの目玉商品、そう簡単には逃したりは絶対にしないから!……」ギラギラッ
鹿「ピィーーッ、ピィーーッ!」ウルウルッ、ビクビクッ
店主「……」
商人「でも、あなたはかなり運が良いわね……」
商人「本当だったから、もう昨夜の内に食べられちゃってるんだって?……」
商人「もし仮に、この子を買い取ったら何にしようかしら?……」
商人「家畜として買うのも良いし、ステーキやシチューに入れるのも良い……」
商人「この子の種類、最低でも200kg以上の大型種……」
商人「場合によっては、食肉部位だけなら最低でも5万gはいけるかも……」
商人「それだけ、この子の価値は高いんだし……」
商人「なんとか、この子を買い取れないかしら?……」ギラギラッ
鹿「ピィーーッ、ピィーーッ!」ウルウルッ、ビクビクッ
商人「まずは、カーネルに交渉をしないとね……」
商人「早くても、数日後くらいにはこの騒ぎが終わる……」
商人「その時が、私がこの子を手に入れるチャンス……」
商人「そう、私自身のものとしてね……」
商人「うふふっ……」ギラギラッ
鹿「ピィーーッ、ピィーーッ!」ウルウルッ、ビクビクッ
魔女「あの、商人さん。少しお話が……」
魔女「ちょっと、今そこにいる鹿の事でお話があるんですが……」
鹿「!?」ピカァ
商人「!?」ピカァ
魔女「商人さん、確か家畜専門のお取り引きをされていましたよね?」
魔女「ウチのママから、そう伺ってきたんですけど」
魔女「それで、合ってますでしょうか?」
商人「はい、その通りです!」シュタッ
商人「鹿肉、馬肉、豚肉、鶏肉、牛肉、それら五種類の肉を私は取り扱っております!」ニッコリ
鹿「……」ウルウルッ、ビクビクッ
魔女「実は、ちょっとここ最近この子の世話があまり出来てなくって」
魔女「それについてで、商人さんにご相談したい事があるんです」
魔女「元々、この子は食肉用」
魔女「それに気づかれ、よく最近は小屋の中から脱走する事が、やけに多いんです」
商人「……ほう、それで?」ニコニコ
魔女「ですから、今度この子を捌く時までの間、この子を商人さんに預かってほしいんです」
魔女「勿論、この子を捌く時には商人さんにも、ちゃんとその時の分をお渡し致しますよ」
魔女「今の私、少なからず考えなしに食肉用の鹿を沢山仕入れ過ぎちゃいましてね」
魔女「それが原因で、この子以外の費用も結構掛かってるんです」
商人「ふむふむ……」ニコニコ
魔女「だから、今度の食事会の日が終わったら、この子を捌くのを手伝って頂けませんでしょうか?」
魔女「だいぶ、この子は商人さんにも懐いているみたいですし」
魔女「少し身勝手なお願いですが、この子の事を商人さんにお任せ致したいのですが」
商人「はい、かしこまりました!」ニッコリ
鹿「ピィーーッ!?」ガーン
魔女「ありがとうございます! 商人さん!」ニッコリ
魔女「おかげで、助かりました!」ペコッ
商人「いえいえ!」ニヤニヤ
鹿「ピィーーッ……」クラッ
鹿「……」ドシン!
商人「あら? 倒れちゃった」
商人「そんなに、この子は食べられたくなかったんでしょうか?」ニヤニヤ
魔女「ええ。多分ね」ニヤニヤ
鹿「……」
商人「でも、この子はいずれ私達に食べられる……」
商人「後もう少しで、この子は捌かれる……」
商人「それに、今更逃げようたって無駄な事……」
商人「私は、家畜の扱いに関しては、それなりに慣れています……」ニヤニヤ
鹿「……」
商人「カーネル。この子の事は、この私にお任せを!」
商人「この私が、責任を持ってこの子をお預かり致します!」
商人「ですから、カーネルはご安心を!」
商人「今の私、こう言うのは昔から慣れてますから!」
商人「だから、カーネルはご安心下さいませ!」ニッコリ
魔女「ええ、お願い致します!」ニッコリ
魔女「ママ。そう言う事だから、この子を商人さんに預けるね!」
魔女「それと、私が今連れてきてるそこの男女三人の宿泊手続きを、今すぐお願い!」
魔女「今の私、ちょっとまた行かなきゃならないから!」
魔女「後、マスターの奥さん達は、ここ数日の間は店を閉めて!」
魔女「まずは、マスターの寄越した暗殺者達の排除!」
魔女「それをしなきゃ、マスターの奥さん達の身の安全の保障が確約出来ないからね!」
店主「……そう、了解したわ」
店主「あんたも、気を付けてよね……」
魔女「ええ、分かったわ」ニッコリ
従者達「行ってらっしゃいませ!」ビシッ
僧侶「くっ……」
店主姪「ぐすん、義姉さん……」ポロポロッ
元店主嫁「ジュリエットちゃん……」
商人「……」ペコッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
~とある牢獄~
剣士(ここに入れられて、早一日)
剣士(久し振りに、獄中で寝たな)
剣士(いつもは、適当に野宿とかしていたが、こんなに落ち着いて眠たのは物凄く久し振だ)モグモグッ
剣士(それに加え、獄中の中では食事が出る)
剣士(いつもの様に、食事に困る事はない)
剣士(ここは、朝はライ麦パンとミルクとチーズなんだな)
剣士(前にいた場所は、生水に皿代わりにされたパン)
剣士(明らかに、待遇の差があるな)スッ、モグモグッ
カァ、カァ、カァ……
剣士(しかし、あの女は何故この島に?)
剣士(それに、何故この島の住民達はハーフエルフ達に対して、全く何もしていない?)
剣士(おまけに、ここの酒場のママともかなり親しいようだ)
剣士(これは、色々と探り出す必要があるな)モグモグッ
ザザーーン、ザザーーン……
戦士「なぁ、魔法使い……」
戦士「俺達、大丈夫なんだよな?……」
戦士「勇者の事、信じて大丈夫なんだよな?……」
魔法使い「ああ、多分な……」
戦士「今の俺、物凄く不安なんだわ……」
戦士「昨夜、勇者に見捨てられた挙げ句に、そのまま俺達が処刑された夢を見てしまったんだわ……」
魔法使い「……」
戦士「その癖、勇者は何のお咎めもなく、僧侶と共に旅を継続した」
戦士「やがて、二人は結婚をし、俺達は一生罪人としてこの世にその名を残してしまうんだわ……」
魔法使い「……」
戦士「俺、そんなの絶対に嫌だぞ……」
戦士「こんなの、絶対に俺は納得が行かないぞ……」
戦士「何故なら、俺達は選ばれた存在なんだ……」
戦士「神にも勇者にも、俺達は選ばれた存在なんだ……」
ザザーーン、ザザーーン……
剣士「なら、何で貴様らはここにいるんだ?」
剣士「てっきり、もう既に脱獄してると思ってたんだが」
戦士「!?」
剣士「しかも貴様ら、まだそんな事を言っていたのか」
剣士「本当に、神にも勇者にも選ばれたんなら、今の貴様達はここで捕まってはいない」
剣士「今ここにいる時点で、今の貴様らは選ばれた存在ではないと思うぞ」
戦士「うるさい!」
魔法使い「……」
剣士「まぁ、そんなかっかするな」
剣士「チャンスは、まだいくらでもある」
剣士「そこの窓から、試しに外を眺めて見ろよ」
剣士「何やら、勇者がまた動いてる様だ」
剣士「昨夜も、またこの辺で何かしてたし、上手く行けばすぐにもここを出れるかもな」
戦士「何!?」バッ
ザザーーン、ザザーーン……
戦士「あれは、伝書鳩か?……」
戦士「勇者が、何かメッセージを送ってきてるのか?……」
魔法使い「ああ、そうみたいだ……」
戦士「魔法使い、魔法であの鳩の足に取り付けてある手紙を、こっちに送れないか?」
戦士「今なら、勇者達もすぐに気づくはず」
戦士「今のお前の魔法で、なんとかならないだろうか?」
剣士「……」
魔法使い「いや、それは無理みたいだな……」
魔法使い「昨夜、色々と試してみたが全て無駄に終わった……」
戦士「!?」ガーン
魔法使い「あの女、見た目に反してかなり手強いぞ……」
魔法使い「あいつに勝てるとしたら、せめて俺の師匠レベル……」
魔法使い「今はもう、現役を引退なされた大魔導師様レベルじゃないと、確実に勝ち目ねぇよ……」
戦士「そ、そんな……」ヘナヘナ
ザザーーン、ザザーーン……
剣士「なぁ、そこの魔法使い」
剣士「その大魔導師様って言うのは、見た目が髭面で白髪の爺さんの事か?」
剣士「確か、その爺さんなら、俺がいた港町の酒場で数日前に見たぞ」
剣士「やけに、鹿がどうこう言っていたが、この島に渡ったのは確かな様だ」
魔法使い「!?」
戦士「おい、あんた。それ誰の事を言っているんだ?」
戦士「その爺さん。右頬にクロスした切り傷みたいのは、ちゃんと有ったんだろうな?」
剣士「ああ、そうだ」
魔法使い「なら、やけにジュリエットとか言う女の名前を口にしてなかったか?」
魔法使い「俺の師匠は、未だに昔見殺しにしてしまった弟子の幻影を追い続けているんだが」
戦士「……」
剣士「ああ。そんな事を言ってた」
剣士「確か、その爺さんの生まれ故郷は、xxx地方のxxx村だったよな?」
魔法使い「……ああ、そうだ」
ザザーーン、ザザーーン……
剣士「それなら、その俺が見た爺さんで確実に合ってる」
剣士「あの爺さん、以前はその村で家族と共に住んでた」
剣士「だが、ある事が原因で生まれ故郷から追い出された」
剣士「その時、俺はその爺さんの住んでいた村を治める騎士の配下」
剣士「だから、すぐにあの時の爺さんだと気づいてしまったんだよ」
魔法使い「……」
戦士「……そうか」
戦士「じゃあ、ジュリエットと言う女は?」
戦士「何か、それについては深く聞いていなかったのか?」
魔法使い「……」
剣士「ああ。聞いてる」
剣士「俺も、昔その女にあった事があった」
剣士「その爺さんが言うには、今までの中で最高の教え子」
剣士「主に、男女の仲になる程、あの爺さんにはかなり従順で相思相愛だったらしい」
ザザーーン、ザザーーン……
剣士は、結構しぶといです。ここ最近は、不運続きですが
魔法使い「ああ、やっぱりか……」
魔法使い「それ、紛れもなく俺の師匠だ……」
魔法使い「もしかして、その時に女は一緒にいたか?……」
魔法使い「まさかとは思うが、師匠はその時も女連れだったのか?……」
剣士「ああ。そうだ」
魔法使い「……」ガクッ
戦士「……魔法使い」
剣士「……」スッ、ゴクゴクゴクッ
カァ、カァ、カァ……
剣士「後、その爺さんが探してる女はもう既に死んでいるぞ」
剣士「確か、今の貴様らと同じくらいの糞餓鬼だったぞ」
魔法使い「!?」ガーン
剣士「あの時、爺さんは本気で泣いてたからな」
剣士「あればっかりは、皆がどうしようもなかった」
ザザーーン、ザザーーン……
剣士「でも、何でその爺さんがここに?」
剣士「良い歳して、何で未だに昔見殺しにした弟子の幻影を追っているんだ?」
戦士「さぁ?」
剣士「まぁ、とりあえず貴様らは精々神に祈っとくんだな」
剣士「俺なんかと違い、今の貴様らはすぐに出れる」
剣士「だから、いつでも戦える様に準備しとくんだな」
戦士「……は?」
戦士(何言ってんだ? こいつ……)
魔法使い「ふふふっ、そうだな……」ニヤリ
魔法使い「ご忠告、どうも感謝する」
魔法使い「いずれ、俺達がここを出る時に勇者が現れるぞ」
魔法使い「勇者は、僧侶と共に全力ですぐに俺達を奪還」
魔法使い「その後は、船でこの島を出るんだ」
戦士「なっ!?」
ザザーーン、ザザーーン……
魔法使い「なぁ、あんた」
魔法使い「俺達と一緒に、時が来たらこの島を出ないか?」
魔法使い「今のあんた、かなりの腕があるんだろ?」
魔法使い「昨夜は、酒に酔ってて手加減してたけど、本当の所はかなり強いんだろ?」
剣士「さぁ、どうだろうか?」
魔法使い「それと、今のあんたは何で騎士を辞めたんだ?」
魔法使い「騎士になったら、それなりの特権階級」
魔法使い「俺達の様な庶民は、絶対に騎士にはなれない」
魔法使い「なのに、何であんたは騎士を辞める事になったんだ?」
戦士「……」
剣士「それについては、あまり答えたくねぇよ」
剣士「しいて言えば、あの時この俺が斬り殺したはずだったある一人のハーフエルフが、そもそもの原因だ」
剣士「そいつは、今もこの島に生きている」
剣士「そいつの所為で、今の俺は騎士を辞める事になってしまったんだよ」
ザザーーン、ザザーーン……
魔法使い「もしかして、俺の師匠と何か関係があるのか?」
魔法使い「俺の師匠は、それで未だに幻影を追い続けてるのか?」
剣士「ああ。そのまさかだ……」
剣士「その爺さんの弟子と言うのが、あの女と完全に容姿が瓜二つなんだわ……」
魔法使い「!?」
剣士「それだけでなく、あの女はあの後すぐにまんまと逃げおおせた」
剣士「俺が斬り殺したのは、その女ではなくあの爺さんの弟子の方だった」
剣士「それが原因で、俺は後に騎士の身分を剥奪され、更には盗賊にまで没落」
剣士「おまけに、その場にいた俺の兄騎士まで没落してな」
剣士「あの女に関わって以来、皆が立て続けに不運に見舞われているんだ……」
魔法使い「……」
戦士「そうか、それは災難だったな……」
戦士「あの女は、かなりの疫病神と言う訳か……」
剣士「ああ。そうだ」
ザザーーン、ザザーーン……
戦士「だったら、あんたも俺達に協力をしてくれ!」
戦士「この島を出るには、一人でも多くの仲間が必要だ!」
戦士「幸い、今の俺達には共通の敵がいる!」
戦士「たとへ、過去に色々とあったが、今はそんな事は言ってられない!」
戦士「だから、あんたも今の俺達に協力をしてくれ!」
魔法使い「……」ゴクリ
剣士「ああ。構わないぞ!」
剣士「俺でよければ、いつでも協力をしてやるぞ!」ニヤリ
戦士「よっしゃあ――――――――っ!」ニヤリ
魔法使い「……」ニヤリ
剣士「だが、まずは食事からだ!」
剣士「ここを出された時が、本当の勝負の時だ!」
剣士「まずは、それに備えての腹ごしらえだ!」スッ
戦士「おう!」
ザザーーン、ザザーーン……
魔法使い「とりあえず、食事が終わり次第、作戦会議に移ろう」
魔法使い「今はまだ、俺達の裁判は始まらないみたいだし」
魔法使い「まだまだ、時間はたっぷりとある」
剣士「……」
戦士「なら、今回の事を記念して乾杯をしようぜ」
戦士「と言っても、ここにはミルクしかないが」
戦士「今はまだ、ミルクで我慢だ」
戦士「そして必ず、美味い酒と肉を沢山食うぞ!」
三人「お――――――――っ!」
密偵2「……」
密偵2(あいつら、かなりバカだな……)
密偵2(何で、こんな所で丸聞こえな会話をしてるんだか……)
密偵2(まぁ、精々そこで粋がっておけ)
密偵2(今の貴様らには、とても明るい未来等ないのだからな)
ザザーーン、ザザーーン……
~とある民家~
勇者(僧侶達、大丈夫だろうか?……)
勇者(カーネルに、手荒な事をされてなきゃいいんだが……)
勇者(しかし、今日はやけに警備兵が多い……)
勇者(その数、大体500以上……)
勇者(主に、歩兵が中心となっているみたいだな……)
勇者(昨日見た弓兵達もかなり強敵……)
勇者(さすがは、伝説の傭兵部隊を率いているカーネル……)
勇者(出来れば、カーネルだけは絶対に敵に回したくなかったんだけどなぁ……)ハァ……
武闘家「……」モグモグッ
勇者(だか、今の俺はそんな事を言ってられない……)
勇者(今の俺自身は、逃げたくても出来ない……)
勇者(おまけに、ここを出る手段は船着き場のみ……)
勇者(そこはもう既に、カーネルが抑えているはずだからな……)ハァ……
武闘家「……」モグモグッ
盗賊「どうした? 勇者」
盗賊「そんなに、あいつらの事が気になるのか?」
勇者「ああ、まあな……」
盗賊「あまり、外は見ない方が良いぞ」
盗賊「奴等、いつも以上の兵を動員してきてやがる」
盗賊「普段は、およそ150~200」
盗賊「自警団を合わせても、普段はそれくらいしか兵は出していなからな」
武闘家「……」モグモグッ
勇者「なら、何で今日はこんなに警備兵が多いんだ?……」
勇者「昨日の俺達の騒ぎが原因なのか?……」
盗賊「ああ、まあな」
勇者「くっ……」
盗賊「おっと、そんな顔するなよ」
盗賊「理由は、他にもあるんだよ」
盗賊「だから、そんな顔をするなって」
勇者「なら聞くが、他の理由とは何なんだ?」
勇者「まさか、もう既にカーネルが俺達の関係に感付いてしまったとか?」
盗賊「いや違う」
武闘家「……」モグモグッ
勇者「じゃあ、他に何かイベントがあるとか?」
勇者「戦士達以外にも、誰か大物が捕まったとかか?」
盗賊「ああ、そのまさかだ……」
盗賊「しかも、あんたの仲間以上の極悪人がな……」
勇者「何!?」
武闘家「……」モグモグッ
盗賊「だから、勇者は何も心配するな」
盗賊「今日は、炭鉱で働いていた連中の帰省日でもあるんだ」
盗賊「それに加え、昨日の火災現場の復旧作業に周辺の治安維持」
盗賊「元々、この島はよく各地から前科者達も数多く流れてくる」
盗賊「今更、この島の住民達もあまり気にしてもいない」
勇者「それで、昨日捕まった大物とは?」
勇者「一体、どんな奴なんだ?」
盗賊「……」スッ、ゴクゴクゴクッ
勇者「なぁ、勿体振らないで教えてくれよ」
勇者「俺達は、もう既に仲間じゃないか」
盗賊「ああ、そうだったな」ストン、チラッ
武闘家「……」ニヤニヤ
勇者「……?」
盗賊「……」モグモグッ
勇者「……」
武闘家「実は、昨日捕まった大物って言うのは、勇者も何度か会った事がある」
武闘家「ほらっ、昨日勇者も見ただろ?」
武闘家「あの悲壮感漂うおっさん剣士」
武闘家「あいつが、昨日捕まった大物だったんだよ」ニヤニヤ
勇者「!?」ガーン
盗賊「ああ、そうだな……」
盗賊「あいつ、ああ見えてかなりの大物だったからな……」
盗賊「しかも、あの容姿で実は総額1000万g越えの賞金首……」
盗賊「騎士になってから、馬上槍試合でも悉くライバル達を撃破!」
盗賊「だが、ある事がきっかけで騎士の身分を剥奪され、今ではすっかり悲壮感漂うただのおっさん剣士……」
盗賊「おまけに、全財産もその所為で没収され、その後は馬上槍試合でも連戦連敗……」
盗賊「どうやら、昔カーネルそっくりのハーフエルフを斬り殺したらしくてな……」
盗賊「それが原因で、今のあいつはあんな風になっちまったんだと……」アハハハッ……
武闘家「……」ニヤニヤ
勇者「……」ズーン
盗賊「まぁ、そう言う事だから、勇者は何も心配するな」
盗賊「いざと言う時の脱出経路は、もう既に確保してある」
盗賊「この島の中にも、少なからずは反カーネルも存在」
盗賊「そいつらと共に、この島を脱出」
盗賊「ここを出る為の船ですらも、そいつらが数隻用意してくれているからな」
勇者「ああ、そうか……」
勇者「そりゃあ、色々と有り難いな……」
勇者「それで、僧侶の件はどうなってる?……」
勇者「まだ、教会の中にいるんだろうか?……」
盗賊「ああ、多分な」
武闘家「とりあえず、情報収集は俺達に任せろ」
武闘家「勇者は勇者で、裁判に出る準備を進めてればいい」
武闘家「戦士達が、駐屯地から出てきたらその時が勝負」
武闘家「俺の読みでは、戦士達も何らかの策を練っているはず」
武闘家「だから、勇者は何も心配する事はない」
勇者「……」
盗賊「……とりあえず、勇者も何か食えよ」
盗賊「今ここで食っとかないと、いざと言う時に体が持たないぞ」
盗賊「今回の敵は、かなり強敵」
盗賊「そう、あのカーネルが相手なんだからな」
勇者「なら、カーネルの部隊の編成は?……」
勇者「その辺も、情報は入ってるのか?……」
盗賊「ああ、まあな」
武闘家「大体、500~1000」
武闘家「主力は歩兵と弓兵」
武闘家「この島では、狭くて騎兵はあまり使えない」
武闘家「だから、歩兵や弓兵がこの島では中心となっているんだ」
勇者「……」
盗賊「まぁ、そう言う事だな」
盗賊「奴等が使う、炸裂矢はかなり威力が高いからな」
盗賊「勇者も、昨日見てたんだから分かるだろ?」
盗賊「あいつらの目、完全に死んでた」
盗賊「あれは、ただの人間ではないってすぐに気がついただろ?」
勇者「ああ、まあな」
武闘家「……」
盗賊「あいつら、噂ではカーネルが呼び出した特殊な兵らしい」
盗賊「しかも、自身の操る特殊な召喚術の効果によって」
盗賊「その所為か、カーネルに対しては常に絶対服従」
盗賊「ここの伯爵も、それを知っててカーネルを雇った」
盗賊「今ではすっかり、カーネルはこの島では無視出来ない存在になっちまったんだわ」
勇者「!?」
盗賊「それで、勇者はどうする?」
盗賊「何か、策とかはあるのか?」
盗賊「今の俺達、どう動けば良い?」
勇者「……え?」
盗賊「今のあんたは、俺達のリーダーなんだ!」
盗賊「リーダーの言う事は、常に絶対!」
盗賊「そうじゃなきゃ、今の勇者はまともに自身の仲間を完全にコントロール出来やしないぞ!」
盗賊「昨日の火事の件、勇者の統率力にも問題があったから、あんな事態にまでなってしまったんだよ!」
勇者「……」
盗賊「だから、勇者はリーダーならリーダーらしく、皆に対して振る舞え!」
盗賊「じゃなきゃ、今の勇者はずっと同じ事を繰り返す!」
盗賊「そうじゃなきゃ、今の戦士達はカーネルなんかには、絶対に捕まってはいない!」
盗賊「今回の原因は、勇者にも大きな責任があると思うぞ!」
盗賊「その事を、今の勇者はちゃんと分かってんのか?」
勇者「……」
武闘家「盗賊、声が大きい」
武闘家「せっかく、賢者が張ってくれた結界が全て無駄になる」
武闘家「まぁ、勇者もそう気を落とすな」
武闘家「俺達も、以前は別の勇者のパーティにいた」
武闘家「それで、今の盗賊は少なからず熱くなってるんだ」
勇者「!?」
盗賊「ちっ、武闘家、余計な事を……」
盗賊「それに、今の勇者に言ってどうする?……」
盗賊「今の勇者に、その事を言ったとしても、何の解決にもならねぇよ……」イライラ
勇者「……武闘家、お前達は別の勇者の仲間だったのか?」
勇者「それって、まさか俺の兄の事か?」
勇者「まさかとは思うが、あの兄さんの仲間だったのか?」
武闘家「ああ、そうだ」
盗賊「ちっ……」イライラ
勇者「……」ガクッ
武闘家「だから、俺達は今の勇者に力を貸してるんだ」
武闘家「今の勇者の兄は、それはとても良い男だった」
盗賊「……」スッ、ゴクゴクゴクッ
武闘家「だが、今の勇者も知っている通りに、前の勇者は仲間を次々と見捨てた」
武闘家「魔王の策略により、前の勇者のパーティは完全に崩壊した」
武闘家「その時の生き残りは、俺達二人のみ」
武闘家「他にいた戦士に魔法使いは、勇者に見捨てられた後に死亡」
武闘家「僧侶は、前の勇者と二人仲良く愛の営みの真っ最中に、何故か勇者と共に死んでいった」
勇者「……」
盗賊「武闘家、もうその辺で止めろ……」
盗賊「飯が、完全に不味くなる……」
盗賊「それで、賢者はどうした?……」
盗賊「まだ、戻ってきてはいない様だな……」イライラ
勇者「……」
武闘家「なぁに、心配はするな」
武闘家「あいつなら、絶対に大丈夫だ」
武闘家「伊達に俺達、死線を潜り抜けてきてはいない」
武闘家「それは、今のお前もよく知っているだろ?」
盗賊「ああ、まあな」イライラ
武闘家「後は、戦士達の裁判がいつ開かれる事についてだな」
武闘家「今回は、あの元騎士まで捕まっちまった」
武闘家「だから、いつ裁判が始まるかが全く分からない」
武闘家「それについても、今賢者が調べに行っていてくれているからな」
勇者「……」
勇者(まさか、この二人が兄さんの仲間だったとはな……)
勇者(兄さんもまた、かなり罪作りな男な事だ……)
勇者(しかし、未だに分からない事がある……)
勇者(どうして、兄さんは自身の仲間を見捨てた?……)
勇者(何故、兄さんはこの二人の事を見捨てたんだ?……)
勇者(一体、魔王戦の時に何があったんだ?……)
盗賊「……」モグモグッ
勇者(まぁ、それについてはもう分からないな……)
勇者(何故なら、もう兄さんはこの世にいないからだ……)
勇者(それに、兄さんは魔王と直に戦い、後寸前の所で撃破された……)
勇者(その後は、人が変わったかの様に僧侶だけを愛し、他の仲間達は完全に切り捨て……)
勇者(おまけに、珍しく外出をしたと思えば、僧侶以外の仲間達を魔物達の巣の中に放置する始末……)
勇者(そりゃあ、あの兄さんも恨まれて仕方ないわな……)
勇者(本当に、兄さんも罪作りな男な事だ……)ハァ……
武闘家「……」モグモグッ
~とある役場前~
賢者「言いたい事は、それだけですか?」
賢者「今更、過去に捨てた子供に老後の面倒を見ろとは、かなり虫が良すぎませんか?」
警備兵「……」
賢者兄「頼む! 弟よ、この通りだ!」
賢者兄「父も母も、もう年老いた!」
賢者兄「だから、俺の代わりに年老いた両親を引き取ってくれ!」
警備兵2「……」
賢者「いくら、兄上に頼まれてもこればっかりは譲りません!」
賢者「私は、過去に父や母に酷い仕打ちを受けてきました!」
賢者「ろくに水や食事を与えて貰えず、着る物すら兄上のお下がり!」
賢者「おまけに、生まれてからずっと私は暴力を受けてきました!」
賢者「“お前は、我が家には必要のない子だ!”」
賢者「“だから、どこへでも好きな場所に行きな!”と、裸同然で追い出されたのを未だに私は覚えてるのですよ!」ギリッ
賢者兄「!?」ガーン
賢者「それに、兄上はもう結婚されて子供までいる!」
賢者「どうせ、兄上の事だから奥さんが同居を嫌がって、私に同居させようとわざわざ来たのでしょ?」
賢者「けれど、私は絶対にあんな卑劣な両親は引き取りません!」
賢者「何故なら、私は過去に捨てられた子供だ!」
賢者「今更、私を五歳の時に捨てた両親を引き取るなんて、絶対に出来るものか!」ギリギリッ
賢者兄「……」ポロポロッ
周囲「……」ザワザワ
賢者「すみません。警備兵の皆さん」
賢者「この男を、すぐに島から追い出して下さい!」
賢者「今の私は、この男の顔など二度とみたくない!」
賢者「こんな男に、親不孝者なんて思われる筋合いもない!」ギリギリッ
警備兵「……」
賢者兄「すまん。弟よ、この通りだ!……」
賢者兄「今の俺には、大事な家族がいるんだ!……」
賢者兄「借金も抱えていて、もうどうしようもないんだ!……」ポロポロッ
賢者「は? それが何だって言うんですか?」
賢者「今度は、同情に漬け込んで金の無心ですか?」
賢者「言っときますが、今の私は兄上の事も恨んでいます!」
賢者「兄上にも、私が家を出るまでよく暴力を振るわれました!」
賢者「あの時の私、本気で何度も何度も死に掛けてたんですよ!」
賢者「偶々、そこを通りがかった大賢者様に拾われるまで、私はずっと残酷な仕打ちをほぼ毎日の様に受けてきたんですよ!」ギリギリッ
賢者兄「……」ポロポロッ
賢者「だから、兄上はどうかお引き取りを!」
賢者「もう二度と、私の前に顔を出さないで下さい!」
賢者「今の私は、兄上達と違って地位や名誉もある!」
賢者「今更、私に会いに来て金の無心に年老いた親の引き取りの要請!」
賢者「相変わらず、兄上達は身勝手だ!」
賢者「今更、この私の前にのこのこと姿を見せるんじゃねぇ!」ギリギリッ
賢者兄「……」ポロポロッ
周囲「……」ザワザワ
賢者「警備兵の皆さん。早くこの男を島から出して下さい!」
賢者「私の頼みを、貴方達は聞いて下さらないのですか?」
賢者「やはり、今の貴方達はカーネル以外の命令には、絶対に従わないと言うのですか?」ギリギリッ
賢者兄「……」ポロポロッ
警備兵長「いや、そう言う訳ではない」
警備兵長「今の貴方は、かなり冷静さを欠いている」
警備兵長「周囲をよく見てみろ」
警備兵長「人が多すぎるだろ?」
警備兵長「この状態で、どうやってこの男を船着き場まで連れていく?」
警備兵長「少しは、貴方も冷静になったらどうだ?」
賢者「なっ!?」ハッ
賢者兄「……」ポロポロッ
周囲「……」ザワザワ
賢者「……」ギリッ
魔女「……」
魔女「コーポラル。この騒ぎは何?」
魔女「一体、何があったのかしら?」
賢者兄「……?」ポロポロッ
警備兵長「はっ! ご報告致します!」
警備兵長「つい先程から、賢者殿とその兄上が口論をしており、周囲の者達がそれを聞く為に集まって、今の様な状態になってしまっていたのであります!」
賢者「くっ……」ギリッ
賢者兄「……」ポロポロッ
魔女「そう。なら、理由は?」
魔女「もしかして、金の無心?」
魔女「だったら、それは確実に断られるわよ」
魔女「なんたって、今そこにいる賢者殿は過去に両親から酷い虐待を受けてた」
魔女「私も過去に似た様な経験があるから、賢者殿の気持ちはよく分かるわ」
魔女「だから、今すぐ追い出してあげなさい!」
警備兵達「はっ!」
賢者兄「そ、そんな!?……」ガーン
賢者兄「あんた、ちょっと待ってくれ!」ガシッ
賢者兄「もしかして、あんたが今噂のハーフエルフなのか?」シュルシュル
賢者兄「だったら、今の俺は良い情報を持っている!」シュルシュル
賢者兄「だから、俺の頼みを聞いてくれ!」ポロポロッ
魔女「……?」サッ
警備兵達「……」ピタッ
賢者「……」
魔女「情報?」
魔女「貴方、一体何の情報を持っているの?」
魔女「それを聞いて、今の私は得をする事があるの?」
賢者「……」
賢者兄「ああ、ある……」
賢者兄「俺の弟は、勇者一行を匿ってるんだ!……」
賢者兄「そればかりか、この島に住むハーフエルフ達を皆殺しにするつもりだ!……」ポロポロッ
魔女「なんですって!?」
魔女の周りには、何かしらのトラブルを抱えてる人達が多いです。
賢者の様に、過去に色々あったのにも関わらず、掌返しでその両親達が擦り寄ってきて、大いに迷惑している人達も沢山います。
賢者「兄上、出鱈目を言うな!」
賢者「そんな証拠、どこにあるんだ?」ギリッ
魔女「……」
賢者「カーネル。貴方はこの男の言う事等聞く必要はない!」
賢者「今の私は、清廉潔白だ!」
賢者「こんなみずほらしい浮浪者の言う事等、絶対に信用するな!」ギリギリッ
警備兵達「……」
魔女「まぁ、待ちなさい」
魔女「まだ、話は最後まで聞かないと」
魔女「なら、その証拠はどこにあるの?」
魔女「今の貴方は、賢者殿が勇者一行を匿っていると言う証拠はあるの?」
賢者「……」ギリギリッ
賢者兄「ああ、ある!……」
賢者兄「俺の弟は、勇者一行とこの近くの山沿いの民家に入って行った!……」
賢者兄「そこには、勇者の他にも盗賊と武闘家がいた!……」ポロポロッ
賢者「兄上、もういい加減にしろ!」
賢者「今のあんたは、ただ単にこの私を貶めようと、出鱈目を言ってるんだ!」
賢者「そんな出鱈目、一体誰が信用するって言うんだ?」ギリギリッ
賢者兄「……」ポロポロッ
魔女「そうね」
魔女「そこは、昨日調べたけど何も出なかったわ」
魔女「唯一居たのは、やたらと大きなゴキブリが三匹」
魔女「後は、それを飼ってる賢者殿くらいしか見つからなかったけどね」
賢者「!?」ガーン
賢者兄「……そんな……」ポロポロッ
魔女「まぁ、せっかくわざわざこの島に来たんだし、ここは穏便にね」
魔女「今なら、賢者殿も付いてきますし」
魔女「いっその事、今日の所は賢者殿と兄弟水入らずでお過ごしになられたらどうでしょうか?」
賢者兄「!?」ピカァ
賢者「カーネル!?」ギリギリッ
魔女「コーポラル。縄を解いてあげて」
魔女「その代わりに、賢者殿にはしっかりと縄を」
魔女「今の話、少なからず興味あるし」
魔女「だから、本日の所は牢獄の中で二人仲良く過ごして頂くわ」
賢者兄「……え?」ポロポロッ
賢者「!?」ガーン
魔女「まぁ、そう言う事だから、賢者殿を捕縛しといて」
魔女「賢者殿には、昨日のハーフエルフ達が住む民家への放火に関与した罪により、この場で捕縛させて頂くわ」
魔女「その所為で、教会や周辺の倉庫や民家にまで引火」
魔女「負傷者の数はかなりのもの」
魔女「だから、賢者殿にもその罪をしっかりと償ってもらわないとね」
賢者「くっ……」ギリギリッ
賢者兄「……」ポロポロッ
警備兵達「……」ササッ
賢者兄「……」ザバッ
賢者「カーネル。よくも余計な事を!……」
賢者「あれは、神の意思に背いた当然の報いだ!……」
賢者「今の私は、決して間違ってなどいない!……」ギリギリッ
魔女「……」
賢者「だから、今の私を捕縛するのを今すぐ止めろ!」
賢者「今の私は、貴方の事が心底憎い!……」
賢者「何故なら、今の貴方がハーフエルフの権利等を確立させた!……」シュルシュル
賢者「元々、ハーフエルフなどすぐにこの世から滅ぼさなければならない存在!……」シュルシュル
賢者「ハーフエルフ迫害禁止令など、絶対に存在してはいけない法律なのだ!……」シュルシュル
警備兵達「……」ササッ
賢者「だから、今すぐ私に巻いた縄を解け!」
賢者「今の私は、大賢者様の弟子だ!」
賢者「今なら、まだ特別に恩赦を掛けてやる!」
賢者「だから、さっさと私に巻いた縄を解くんだ!」ギリギリッ
警備兵達「……」
魔女「う~~ん。それ無理かな」
魔女「大賢者様云々とか言う前に、この島に住む民間人に被害出しちゃってるから」
魔女「だから、今の私は自身の職責に則って、賢者殿の事を捕縛させて貰う」
魔女「今の貴方は、勇者一行の犯した罪に関与した」
魔女「その話は、後でじっくりと聞くから、今日の所は兄弟水入らずで過ごして頂戴」
賢者「……」ギリギリッ
賢者兄「……」ポロポロッ
警備兵長「カーネル。如何致しますか?」
警備兵長「この者達は、どこの牢獄に入れておきましょうか?」
賢者「……」ギリギリッ
魔女「そうね」
魔女「今回は、自警団本部の方に収容しといて」
魔女「じゃないと、先に入ってる勇者の仲間達と結託」
魔女「また、昨日みたいな被害が出ても困るだけだからね」
賢者兄「……」フキフキ
警備兵長「はっ! 了解しました!」
警備兵長「すぐに、この者達を移送します!」
警備兵長「総員、賢者殿達を自警団本部へ」
警備兵長「その後、問題の民家にまですぐに捜索に行くのだ!」
警備兵達「はっ!」
賢者「……」ギリギリッ
賢者兄「……」ペコッ
魔女「皆さん。ちょっと道を開けて下さい」
魔女「これから、賢者殿を移送致しますので」
魔女「それと、ここ当分の間は今みたいな厳戒体制が続きます」
魔女「それについては、全て勇者一行に対する備え!」
魔女「ですから、どうかご了承下さい」ペコッ
周囲「……」ザワザワ
ササッ、ササッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
賢者「ええい! 離せ、離せ!」
賢者「私は、決して何も悪い事はしていない!」
賢者「おかしいのは、カーネルの方だ!」
賢者「ハーフエルフ如きが、人権なんて持つべきではない!」ギリギリッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
賢者「誰か、今の私の事をすぐに解放する様に直訴してくれ!」
賢者「伯爵様なら、すぐに私の事を解放してくれる!」
賢者「元々、伯爵様もカーネルのする事にうんざりをしていた!」
賢者「本当なら、私が伯爵様に遣えるべきだったんだ!」ギリギリッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
賢者「頼む! 誰か、カーネルによる横暴を止めてくれ!」
賢者「カーネルは、この島には不要な存在だ!」
賢者「こんな横暴は、絶対に許されない!」
賢者「絶対に、許されないんだ!」ギリギリッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
賢者「皆、頼むから、誰か止めてくれ!」
賢者「と言うより、どうして誰も止めてくれないんだ!」
賢者「そんなに、カーネルの事が怖いのか?」
賢者「ハーフエルフ如きが、ここまで権力を持って良いのか?」ギリギリッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
賢者「頼む。本当に、どうにかしてくれ!」
賢者「皆、カーネルに騙されてるんだ!」
賢者「本当に、皆どうにかしている!」
賢者「この島は、ハーフエルフに支配されてしまうぞ!」ギリギリッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
賢者「何故だ? 何故だ? 何故だ?」
賢者「どうして、誰も助けてくれないんだ?」
賢者「こんなの絶対に間違ってる!」
賢者「これは、不当な捕縛なんだ!」ギリギリッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
魔女「ああ、なんかうるさいわね……」
魔女「誰か、あの馬鹿を黙らせといて……」
魔女「サージェント。マスターの方は?」
魔女「マスターの方は、もう既に捕縛出来たのかしら?」
警備兵達「……」
警備下士官2「はっ! 今現在、マスターは未だに逃走中!」
警備下士官2「その際に、愛人とその家族もまた一緒に逃走!」
警備下士官2「そのまま、船着き場の方に向かっております!」
警備兵達「……」
魔女「そう」
魔女「なら、残りは他の賞金首の確保!」
魔女「この島は、元々お尋ね者達がよく流れてくる!」
魔女「今の間に、少しでも多く不穏分子を排除しなさい!」
魔女「この島の平和は、我々の手に掛かっているのよ!」
警備兵達「はっ!」
「カーネル。ウチに来る迷惑な客もこの際だから取り締まってくれ!」
「ウチの店は、またならず者達が出入りし出してるんだ!」
「だから、すぐにでも取り締まってくれ!」
魔女「……」
「カーネル。ウチの店もお願い!」
「ここ最近、よく盗みが多いの!」
「特に、最近ここに流れてきた盗賊とか」
「それを、早くなんとかして頂戴!」
「そうだ、そうだ!」
魔女「はい。かしこまりました!」
魔女「本日より、夜間警備を強化し、この町の治安をより一層に良くしていきます!」
魔女「つきましては、他に被害がある方は今すぐご一報を!」
魔女「先日より、この島は非常事態体制に入っています!」
魔女「勇者とその仲間を見掛けた方は、すぐに最寄りの警備兵にご一報を下さい!」
警備兵達「……」
「カーネル。それは、昨日の事件の所為なのか?」
「昨日の事件が原因で、今日はこんなに警備兵が多いのか?」
魔女「はい。その通りです!」
魔女「今も勇者は、逃走を続けてます!」
魔女「特に、勇者は平気で民間人をも虐殺します!」
魔女「ですから、皆様も十分に注意して下さいね!」
周囲「……」ザワザワ
役人「カーネル。それで私達はどうすれば良いのですか?」ヌッ
役人「このまま、通常の業務を続けても宜しいのですか?」
魔女「ええ、それは構いません!」
魔女「昨日の損害につきましては、全て勇者一行に支払わせます!」
魔女「勇者とも、もう既に支払いに関しては合意済み!」
魔女「ですから、役人の皆さんは通常業務に戻って下さい!」
役人「はっ、承知致しました!」
周囲「……」ザワザワ
スタスタスタッ、スタスタスタッ、ピタッ……
警備兵3「伝令、マスターの身柄を船着き場にて確保!」
警備兵3「一緒にいた愛人とその家族もマスターと共に捕縛!」
警備兵3「今現在、自警団本部に移送中であります!」
役人「……」
魔女「サージェント。少し、マスター達の様子を見てくるわ」
魔女「どうせ、マスターの事だから絶対に言い逃れをする」
魔女「昔から、女とお金絡みで問題を起こしてたし」
魔女「ここの警備、しっかりとお願いね!」
警備下士官2「はっ! 了解致しました!」
警備下士官「カーネルも、道中をお気を付けて!」
魔女「それじゃあ」
警備兵達「……」ビシッ
住民達「……」ビシッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
いずれ、まともな人が出てくるかもしれません。
~とある酒場前~
スタスタスタッ、スタスタスタッ、ピタッ……
店主「さぁ、着いたわよ」
店主「ここが、当分のあんた達の宿」
店主「ウチは、宿泊施設も兼ねていてね」
店主「この島では、唯一の宿ってとこね」
店主「まぁ、今のあんた達が文句を言いたくなるのも無理はないわ」
店主「ウチの酒場、ついこの間建て直したばっかりでね」
店主「これに掛かった費用は、全てあの子持ち」
店主「主に、私の趣味を数多く反映させて貰ったわ」
店主「とりあえず、義妹ちゃん達も当分の間は、ウチにいときなさい」
店主「あんた達の宿代、全てあの子が払ってくれるから」
店主「この島、昔から宿をやってても泊まりに来る人があまりいなくてねぇ」
店主「今日みたいに、大勢で来られるのは始めてなのよ」
商人達「……」ポカーン
店主「ん? どうかしたの?」
店主「何で、皆入らないの?」
店主「やっぱり、この島に似付かない大きさだから?」
店主「もしかして、この店の外観に何か問題でもあるのかしら?」
店主姪「……」チラッ
元店主嫁「……」サッ
店主姪「……」ジーーッ
元店主「……」ガクッ
店主「……?」
元店主嫁「あの、義姉さん。ちょっと、お話が……」ムクッ
元店主嫁「この店、かなり外観が変わりましたね……」
元店主嫁「昔の方が、断然良かった様な……」
元店主嫁「まだ、遥かに昔の方が集客性も有って良かったと思いますが……」
店主「え? そうかしら?」
元店主嫁「……」コクン
店主「ええ~~っ? そんな事ないわよ!」
店主「この外観、ジュリエットも良いって言ってくれたもの!」
元店主嫁「!?」ガーン
店主「それに、ウチを建て替える時にジュリエットはこう言ったわ」
店主「あのマスターなら、確実にまた問題を起こしてここに逃げ帰ってくる」
店主「それを阻止したければ、ママの趣味全開にしたら良い」
店主「そしたら、マスターもすぐに諦めるし、やがてこの店はママの物になる」
店主「だから、後の事は私に任せといて」
店主「伯爵様に頼んで、この店+土地自体をマスターから買い取ってくるからって」
元店主嫁「……」ガクッ
店主姪「義姉さん……」アワアワッ
鹿「……」
店主「とりあえず、ここじゃなんだし中で話しましょ」
店主「中に入れば、ウチの店は完全に別世界」
店主「よく常連さん達の間でも、話題に上がっているわ」
元店主嫁「なら、もう少し外観に気を遣って下さい……」
元店主嫁「と言うか、よくこれを建て直す時に許可が出ましたよね?……」
元店主嫁「今の私、ここは宿と言うより娼館かと思いました……」
元店主嫁「ウチの主人がよく通ってた娼館と、完全に外観がそっくりなんですけど……」
店主姪「……」アワアワッ
店主「へぇ~っ、そうなんだ」
店主「そう言えば、兄さんがウチに女の子入れたいとか、よく昔から言ってたわね」
店主「あの子、昔からその話を兄さんから聞いてたから」
店主「だから、兄さんに私が話を通した時も、あっさりokしてくれたのね」
元店主嫁「!?」ガーン
店主姪「あの、叔母さん……」
店主姪「これ、明らかにもう一度建て直した方が……」
店主姪「明らかに、色々と場違いです……」
店主姪「今の叔母さん、ウチの父による悪い影響を受けまくりだと思いますけど……」
元店主嫁「……」コクン
店主「あれ? 言ってなかったっけ?」
店主「実は私、昔は娼婦だったの」
店主「あの子が生まれる前まで、休みの日はよく娼婦として活動していたの」
店主姪「!?」ガーン
店主「だから、私は義妹ちゃんの気持ちはよく分かるわ」
店主「あの頃の兄さん、よく私が娼婦やってる時は、涙ながらに私の幼馴染みに慰めて貰ってたから」
店主「その所為か、兄さんが私に足を洗えと言って来たのよね」
店主「その時の私、丁度お客さんと風呂屋でしてる真っ最中」
店主「それ以来、私はここの雇われ店主をしててね」
店主「あの時、ジュリエットが生まれてなかったら、未だに娼婦やってたわね」
店主姪「……」ポロポロッ
元店主嫁「義姉さん、それは今ここで話す事じゃないと思います……」
元店主嫁「今の私、子供連れなんですけど……」
元店主嫁「また、義姉さんがあの頃の感覚に戻り掛けてる……」
元店主嫁「過去の昔の仲間として、かなり辛い事なんですけど……」
店主「ああ、そう言えば、そうだったわね」
店主「義妹ちゃん。昔はよく私と組んだりしてたわね」
元店主嫁「ええ、そうですね……」
店主「でも、あの頃はそうでもしないと生きていけなかった」
店主「私の母も、義妹ちゃんの母も娼婦だったのよ」
店主「今の若い子達は全く知らないと思うけど、副業で娼婦をしないと皆生きていけなかったのよ」
店主姪「!?」ガーン
商人「……」ウルウル
店主「今みたいに、この島の若い子達がそうしなくなったのも、全部あの子が生まれたおかげ」
店主「私達が若い時は、それがこの島では当たり前の光景だった」
店主「それを目当てに、炭鉱の従業員達を定期的に確保」
店主「今みたいに、楽して暮らせる様になったのは、つい最近になってからだったものね」
元店主嫁「ぐすん……」ポロポロッ
商人「……」ポロポロッ
店主姪「そんな……」ポロポロッ
すみません。内容が偏ってしまったばかりに、不快な思いをさせてしまって。
今書き貯めてる分がまだ24レス分残っていて、店主達の話が暫く続きます。
以前から、魔女は今と同じ様に各地の権力者や住民達からは、何でも頼れる都合の良い存在でした。
ですが、魔女が歓迎されているのは最初の内のみであり、心の中では魔女の事を快く思わない住民達が数多く存在。
各地の権力者や住民達は、魔女の事をとことん利用するだけ利用して、それを終えた後は魔女を何かと理由を付けて追い出すか処刑してしまいました。
今の魔女は、それを各地で何度も何度も繰り返している状態であり、今住んでいる島でもその様な空気が流れています。
魔女自身もそれに気づいていますが、住民達から「貴方は、もう必要はない」と言われるまでは、そこの住民達の為に一生懸命尽くし、その後は新たな拠点を求めて宛もなく旅をしていくと言う物語です。
以後、偏った話にならない様に十分気を付けさせて頂きます。
これまで、皆様に不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ありませんでした。
はい。分かりました。
残り24レス分は、今後も投下させて頂きます。
魔女達が住んでいる国の法律では、ハーフエルフは家畜以下と定められています。
ハーフエルフに生まれた場合は自由が全くなく、魔女が尽くし続けるのは「生き残りたければ、数多くの人間達の為に死ぬまで仕える事」を義務付けられているからです。
ちなみに、ハーフエルフは7歳~12歳までの間に王都にて各分野での職業訓練が行われ、13歳になると王都の市場で安値で売買されます。
魔女の様に、フリーランスとなって各地を歩き回るのはごく少数。
その場合は、国王からの許可状が必要であり、魔女もその許可を得ている存在です。
ですが、ハーフエルフと言うだけで毛嫌いをしているエルフや人間達は多く、ハーフエルフは各地では未だに迫害されています。
それを知った魔女は、ハーフエルフの地位向上に積極的に動き、自身の母親が現在のエルフの族長の姉だった事を利用して、エルフの里の族長に何度も何度も直談判。
その際に、現在のエルフの里の族長は「前族長が原因の深刻な内政問題」+「魔女による直談判」に根負けし、魔女達の住む国の国王との間で「ハーフエルフ迫害禁止条約」を締結。
それに未だに反対してる人間やエルフ達は多く、魔女が今現在住んでいる土地の住民達の中にも賢者や僧侶の様な考えを持つ者も存在します。
後、勇者一行は改心はしません。
島の住民達も、表向きは魔女達ハーフエルフと友好的に付き合っていますが、実際は「使えるものは使えるまでとことん使え」と言う心情です。
今回の場合、予想外に魔女の持つ力が大きく、島の住民達は困惑を隠せないと言う表情。
以前、自分達の住む島を救ってくれたハーフエルフ(魔女)と全く同じ様に利用するつもりでいて、過激派の中には「勇者を島に招いて、いずれ魔女を討伐する」と言う計画を今現在実行している人達もいます。
店主「まぁ、もうその話は止めにしましょ」
店主「今の私達は、もうそんな事をする必要すらないんだもの」
店主「だから、皆も早く中に入って」
店主「もう既に、ジュリエットから手配されてるから」
店主「だから、皆早く入ってよね」
僧侶「……」ポロポロッ
元店主嫁「義姉さん。入る前に、鍵を開けて下さい……」
元店主嫁「今の私達、義姉さんが鍵を開けるのを待ってるんですけど……」
元店主嫁「そうしないと、私達は店に入れないと思いますが……」
店主「あっ……」
店主姪「……」ポロポロッ
店主「商人さん。その鹿、ちょっとこっちに」
店主「この子の首に、鍵を付けてたから」
店主「だから、早くその鹿をこっちに連れてきて」
商人「……はい」ポロポロッ
スタスタスタッ、ピタッ……
商人「どうぞ……」
店主「有り難う。商人さん」
鹿「……」
スッ、カシャ……
スタスタスタッ、ピタッ
カシャ、カシャ、ガチャ……
店主「開いたわよ」
店主「さぁ、皆入って」
店主姪「……」ポロポロッ
元店主嫁「……行きましょう」ギュッ
店主姪「……うん」ポロポロッ
スタスタスタッ……
僧侶「……」ポロポロッ
スタスタスタッ……
商人「あの、ママさん……」
商人「この子の小屋、どこにありますでしょうか?……」
商人「今の私、この子を小屋に入れたいんですけど……」
商人「この子の小屋、どこにありますでしょうか?……」ポロポロッ
従者達「……」
店主「ああ、その子の小屋?」
店主「それなら、ここの隣にあるわよ」
店主「でも、またこの子は脱走をしないかしら?」
店主「以前にも、何度か脱走をしてしまってるし」
店主「その度に、あの子が引きずって帰ってくるんだけど」
鹿「……」
商人「ああ、大丈夫です……」
商人「それに関しては、全くもって大丈夫です……」
商人「何故なら、私は家畜を専門に扱ってますから……」
商人「この子逃げ出すなんて、それこそ死に直結致しますから……」
店主「そう。なら、この子を小屋に入れとかないとね」
店主「そこの二人、悪いけど先に入って」
店主「ちょっと私、商人さんとこの子を小屋に入れてくるから」
店主「だから、あんた達は先に入ってて」
従者達「え? あ、はい……」
スタスタスタッ、バタン……
店主「……」ハァ……
商人「……」ポロポロッ
店主「商人さん。こっち着いてきて」
店主「今日は、市場に出なくて良いの?」
店主「いつもなら、もう既に市場に入ってる頃だと思うけど」
鹿「……」
商人「はい。問題はありません……」
商人「今日は、主人一人でも大丈夫ですから……」ポロポロッ
店主「そう」
商人「それと、出来れば私や義妹さんの古傷を抉るのを止めて下さい……」
商人「今の私、もうあの頃には戻りたくはありませんから……」
商人「今は、お互いもう幸せに暮らしてるんでし……」
商人「それも、わざわざ若い子達の前でああ言う事を言うのは、今後控えて下さいよ……」
鹿「……」
店主「ああ、悪かったわね……」
店主「なんか、ウチの兄さんの所為で昔の事を思い出しちゃってね……」
店主「商人さんも、私達と同じだったの?……」
店主「私、商人さんもあの時いたって知らなかったけど……」
鹿「……」
商人「ママさんは知らないと思いますけど、私も昔同じ事をしていました……」
商人「元々、私は王都近くの港町の生まれ」
商人「今の主人と出会う前まで、私も娼婦だった事もありましたもの……」
店主「……」
鹿「……」
商人「それから、私は今の主人に足を洗えと言われました……」
商人「借金の形に、実の両親に売られた私を妻にと迎えてくれました……」
商人「その後は、私は主人の仕事の都合でこの島に移住……」
商人「元々、私の実家は貿易商でしたし……」
商人「だから、主人の両親も私を妻に迎える事には、反対はしなかったんです……」ポロポロッ
鹿「……」
店主「……そう。悪かったわね」
店主「お互い、若い頃から色々と苦労してたのね……」
商人「ええ、そうみたいですね……」ポロポロッ
店主「とりあえず、この子を早く小屋に入れましょ……」
店主「もう時期、ここも人通りが多くなるし……」
店主「だから、通行の邪魔になる前にこの子を早く小屋に入れないとね……」
商人「ええ、そうですね……」
鹿「……」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
~とある酒場~
僧侶「以外に、店内はちゃんとしてた……」
僧侶「この広さ、王都にある店と同じぐらいね……」
従者a「ええ、そうですね……」
元店主嫁「貴方達、王都から来たの?」
元店主嫁「その割には、かなり軽装ね」
店主姪「うん。そうだね……」
従者a「ああ、これにはちょっと訳がありまして……」
従者a「実は、ここに来る途中に強盗被害に遭ってたんです……」
従者a「それで、仕方なく今みたいな軽装になってしまってるんですよ……」
僧侶「……」ギリッ
元店主嫁「へぇ、それは大変だったわね」
元店主嫁「そう言えば、昨日ジュリエットちゃんが各地を荒らしていた元騎士を捕まえたわよ」
元店主嫁「その元騎士も、どう言う訳かこの島に流れて来た」
元店主嫁「と言っても、すぐあの子に捕まってしまったけどね」
僧侶「あの、その元騎士って、まかさロメオとか言う人でしょうか?……」
僧侶「あの人、本当にここで捕まったんですか?……」
従者達「……」
元店主嫁「ええ、捕まったわよ」
元店主嫁「だって、昨日から皆が噂してたもの」
僧侶「……」
元店主嫁「もしかして、貴方達も被害者だったとか?」
元店主嫁「もしかしなくても、そんな風な顔をしてるわね」
店主姪「うん。そうだね……」
従者達「……」
元店主嫁「だったら、後であの子にそう申告しときなさい」
元店主嫁「今のあの子、伯爵様の臣下だから」
元店主嫁「昔から、あの子は伯爵様や司教様に目を掛けられていてね」
元店主嫁「あの子に頼めば、私みたいにすぐ私兵が動いてくれるわよ」
元店主嫁「だから、早めにあの子に頼んでおきなさい」
従者a「ええ、かしこまりました」
従者a「今後は、遠慮なくカーネルに頼らさせて頂きます」
従者a「失礼ですが、カーネルと貴方達はお知り合いなのですか?」
従者a「つい先程、カーネルとはやけに親しく会話をされていた様ですが」
僧侶「……」
元店主嫁「ああ、あれね」
元店主嫁「あの子は、私や義姉さんからしてみたら、娘みたいなものなのよ」
元店主嫁「あの子自身は、ここに来るまでずっと苦労してた」
元店主嫁「この島以外では、ずっとハーフエルフだとバレた瞬間に、住む所を追われる様な生活を送っていたのよ」
従者達「!?」
元店主嫁「でも、あの子はここに来てから大きく変わった」
元店主嫁「この島では、過去に一度とある一人のハーフエルフによって助けられていたから」
元店主嫁「そのおかげで、あの子はここで平穏無事な毎日を送ってるわ」
元店主嫁「今のあの子にとってここは、ようやく見つける事が出来た安住の地」
元店主嫁「だから、あの子以外のハーフエルフ達も、数多くここに流れてくるのよ」
従者a「そうですか」
従者a「カーネルにも、そんな過去が」
従者a「でも、余所から来た人達からの評判とかはどうなんですか?」
従者a「その人達からも、カーネルは支持されているのですか?」
僧侶「……」
元店主嫁「ええ、この島の9割の住民達はね」
元店主嫁「だって、あの子が生まれてすぐこの島の現状が大いに改善されてしまったもの」
元店主嫁「元々、この島の半数の住民達は、あの子によって無理矢理ここに連れてこられた人達だった」
元店主嫁「それにも関わらず、帰省日の日には6割の人達がここに永住を希望」
元店主嫁「後の四割の内、二割は家族連れでここにまでuターン」
元店主嫁「あまり、この島ではハーフエルフだからと言って差別はされないし」
元店主嫁「昔から、不自由民としてここに連れてこられた人達からの評判も悪くないわ」
僧侶「……」ムカッ
従者a「おおっ……」
従者b「さすが、カーネルだ……」
元店主嫁「まさか、貴方達二人もハーフエルフなの?」
元店主嫁「貴方達二人も、あの子に保護されてここにまで来たの?」
店主姪「……」
従者a「ええ、そうなんです」
従者a「実は、昨日からこの島に来てたんです」
従者a「でも、昨日は例の元騎士に襲われてしまいましてね」
従者a「目が覚めたら、二人仲良く病院のベットの上で眠ってました」
僧侶「……」ムカムカ
元店主嫁「ふ~~ん、そうなの」
元店主嫁「だから、そんなに整った顔立ちをしているの」
元店主嫁「あの子は、よくハーフエルフの事になると、かなり感情的になるからね」
元店主嫁「昨日もまた、数多くのこの島に住むハーフエルフ達が被害に遭ってた」
元店主嫁「だから、今のあの子は昨日からやけに不機嫌なのよね」
従者達「え?」
僧侶「!?」ガーン
僧侶「あの、今のどう言う事なんですか!?」
僧侶「昨日の事件の犯人達、一体どうなるんですか!?」
従者達「……」
僧侶「聞く所によると、その犯人達は勇者xxxの仲間でした!」
僧侶「今のままでは、確実にすぐには解放されない!」
僧侶「これについては、カーネルはどうおっしゃってられたのですか!?」
従者達「……」
元店主嫁「う~~ん、今の私は詳しくは知らないわ」
元店主嫁「だって、昨日は自分の店が忙しかったから」
元店主嫁「詳しく聞きたいなら、義姉さんに聞けばすぐに分かるわ」
元店主嫁「そろそろ、商人さんと一緒にここに戻って来る頃」
元店主嫁「だから、詳しい事はここのママの義姉さんに聞いてみてちょうだい」
僧侶「……」
従者a「はい。かしこまりました」
店主姪「……」
ガチャ……
カランカラン……
バタン……
店主「あら?」
元店主嫁「あっ、義姉さん」
店主「あんた達、何でこんな所に突っ立ってるのよ」
店主「と言うか、宿帳に記入はしたの?」
商人「……」ウルウルッ
元店主嫁「あっ、まだだったわ」
元店主嫁「ついさっきまで、ここの内装に見とれてたから」
僧侶「……」
店主「そう。だったら、早く宿帳に記入しといて」
店主「それが終わったら、あんた達はそこのカウンターに座りなさい」
店主「なんか、商人さんが朝から飲みたいって言ってるからね」
店主「今日は特別に、私があんた達にサービスするわ」
元店主嫁「ふ~~ん、義姉さんからのサービスか……」
元店主嫁「今日は、一体どんなのが出てくるのかしら?……」
元店主嫁「まさか、あの子が仕入れてきたレアなお酒?……」
元店主嫁「あれ、かなり値段が高かった気がする……」
元店主嫁「いくら義姉さんでも、自身の秘蔵のお酒まで出してきたりはしないわよね?……」
商人「……」ウルウルッ
店主「ええ、出すつもりなんてないわ」
店主「あれ、昨日兄さんが勝手に全部飲み干してしまってたから」
元店主嫁「!?」ガーン
店主「しかも、この島に来てたあの子の師匠と妙に馬が合ってね」
店主「気がついた時には、自分の周りにいる女の口ばかり言ってた」
店主「だから、今の私は出したくてもそれは出せない」
店主「文句があるなら、ろくでなし二人に言っといてよね」イライラ
元店主嫁「……」ガクッ
店主姪「お母さん……」
店主「まぁ、そう言う事だから、今日の所は安酒で勘弁してよね」
店主「また、あのお酒はあの子に仕入れてきて貰うから」
店主「今のあの子、まるで狩人みたいな目をしてしまってるし」
店主「ここ当分の間は、いつ戻って来るかが全く分からないから」
元店主嫁「……」ウルウルッ
店主「だから、あんた達はさっさと宿帳に記入しなさい」
店主「もう時期、私は店を開けなくちゃならないから」
店主「その間、ちょっと貯まってる安酒の処理に付き合ってよね」
店主「見た所、今のあんた達全員成人なんだし」
店主「私一人じゃ飲みきれないから、皆で協力をしてほしいのよ」
元店主嫁「……」ポロポロッ
商人「ええ、かしこまりました……」
商人「お言葉に甘えて、とことん付き合って差し上げます……」
商人「今の私、かなり傷物ですから……」
商人「今さっき、ママさんに古傷を抉られて、かなり傷ついてますから……」ポロポロッ
店主「ああ、悪かったわね……」
店主「商人さん、まだ根に持ってるのね……」
店主「だったら、つまみの方もサービスしてあげるわ……」
店主「だから、ついさっきの事はもう許して頂戴よ……」
商人「……」ポロポロッ
元店主嫁「ふふっ、商人さん……」
元店主嫁「今日の所は、とことん二人で飲んでしまいませんか?……」
元店主嫁「お互い、今日は朝から散々な日でした……」
元店主嫁「信じていた人達に裏切られ、自身の古傷まで抉られた……」
元店主嫁「だから、とことん今日は二人で飲みましょうよ」ポロポロッ
店主「……」
商人「ええ、そうですね……」
商人「今の私達、ママさんによる被害者ですもんね……」
商人「私も、今日はとことん飲みたいです……」
商人「嫌な事全部忘れる為に、とことん飲んでしまいます……」ポロポロッ
元店主嫁「娘、私達の代わりに宿帳に記入しといて……」
元店主嫁「今の私、ちょっと大事な用があるから……」
元店主嫁「義姉さん、さっさと赤ワイン二つ……」
元店主嫁「今日は、とことん商人さんと飲んでやる!……」
元店主嫁「今更、しかも私の娘の前で黒歴史を晒してんじゃねぇ――――――――っ!」ポロポロッ
商人「そうだ、そうだ!」ポロポロッ
店主姪「……」
店主「はいはい。分かったわよ……」
店主「あんた達、さっさと座りなさいよ……」
店主「全く兄さんにも困ったものだわ……」
店主「元々、全て兄さんが悪いんだし!……」
店主「今日の所は、私もとことん飲むわ!……」
店主姪「!?」ガーン
従者達「……はっ?」
僧侶「……」ポカーン
元店主嫁「義姉さん、久し振りに飲み比べしない?……」
元店主嫁「今の私、今回は商人さんとタッグ組むわよ……」
元店主嫁「それで、今余ってるのはいくつあるの?……」
元店主嫁「まさか、樽ごとだったりとか?……」ポロポロッ
店主姪「……」
店主「ええ、そのまさかよ……」
店主「だって、昨日の事件の所為で客が遠退いちゃったもの……」
店主「おまけに、兄さん達が良いお酒を全て飲み干してた……」
店主「だから、今の所は安酒しかないわ……」
商人「そんな……」ポロポロッ
店主姪「ちょっと、叔母さん……」
店主姪「何で、叔母さんまで飲もうとしてるんですか?……」
店主姪「今日の店、一体どうするつもりなんですか!?」
従者達「……」
店主「う~~ん、やっぱ臨時休業かしら……」
店主「だって、ここ当分の間は安酒のみ……」
店主「それ以外のお酒がないと、店の売り上げにも大きく関わってくる……」
店主「ウチに来るお客、皆が良いお酒ばかり飲んでいくから……」
店主姪「……」
店主「まぁ、安酒しかなくても、店を開ける事は出来るわ……」
店主「その代わり、大勢の客から文句が出てしまうけど……」
店主「それでもなお、昨日の火事の所為でウチの店員達が被害に遭ってんだし……」
店主「本当に、今日は飲まなきゃやってられないわ……」
店主姪「……」ブチッ
商人「……?」
元店主嫁「……」ハッ
店主「姪っ子ちゃん?……」
店主姪「……」プルプル
元店主嫁「……」フキフキ
店主姪「大体は、分かりました……」
店主姪「つまり、良いお酒さえあれば良いんですよね?……」
店主姪「それさえあれば、叔母さんは店を開けてくれるんですね?……」ゴゴゴゴッ
店主「ええ、そうよ……」
店主姪「だったら、ウチで余ってるお酒を使って下さい!」
店主姪「それを使って、叔母さんはさっさと開店準備をして下さい!」ゴゴゴゴッ
店主「……え?」
元店主嫁「!?」
店主姪「お母さん、別に良いよね?」
店主姪「ここ数日、ウチは休業なんだし、別に良いんだよね?」ニッコリ
元店主嫁「ええ、まぁね……」
店主姪「なら、早く店に戻ってウチにあるお酒を運ぶの手伝って」
店主姪「そこのお兄さん達、貴方達も手伝って下さいますか?」
店主姪「つい最近、この店ではハーフエルフを店員として多数雇ってますし」
店主姪「その店員達が、昨日の火事の所為で全員負傷してしまいました!」
店主姪「だから、そこのお兄さん達や僧侶さんも今すぐ手伝って下さい!」
店主姪「じゃないと、この店は完全に潰れてしまいますよ!」
店主姪「ただでさえ、売り上げが落ちたのは私の両親の所為!」
店主姪「何故なら、私の両親が問題を起こす度に叔母様がよく巻き込まれる!」
店主姪「私のお爺ちゃんが毒を盛られたのも、全て私の両親の所為なんだから!」ムカムカッ
従者達「!?」
店主姪「叔母さん、どうかご決断を!」
店主姪「今なら、まだ損害分はすぐにでも取り戻せます!」
店主姪「じゃないと、私達の店まで潰れてしまいますよ!」
店主姪「ただでさえ、義姉さんが足り内分を補填してくれていたのに……」
店主姪「今の私が、それを知らないとでも思っていた訳?」ムカムカッ
元店主嫁「ああ……」
店主姪「それで、お母さんはどうするの?」
店主姪「叔母さんの店を潰すの? 潰さないの?」
元店主嫁「……」
店主「はぁ……分かったわ……」
店主「今回は、姪っ子ちゃんの言う通りにするわ……」
店主「それで、良いでしょ?……」
店主「姪っ子ちゃんは、それで納得をしてくれるのかしら?……」
店主姪「はい」
店主「なら、今日は特別に安酒は無料で飲み放題にするわ」
店主「義妹ちゃん、店から大至急お酒を持ってきて」
店主「義妹ちゃんの所、良いお酒はどれくらいあるの?」
店主「それ次第では、ウチは店を開ける事が出来るわ」
店主姪「……」
元店主姪「……確か、樽にしたら50個程」
元店主姪「ウチの主人、義姉さんの店にはあまり良いお酒は回してなかったから……」
元店主嫁「だから、余裕で義姉さんの店にそれを回す事が出来てしまうわ……」
元店主姪「ウチの店、私の父が倒れたから売り上げが急減してしまったもの……」
店主「!?」
店主姪「じゃあ、ウチにある良いお酒は全て回して良いんだよね?」
店主姪「お爺ちゃん、本当に死んだりはしないんだよね?」
元店主嫁「……」コクン
店主姪「叔母さん、早く開店準備をして下さい!」
店主姪「私は、今から店に戻って良いお酒を持ってきますので!」
店主「え、ええ……」
店主姪「そこのお兄さん達、荷物置いて私に着いてきて下さい!」
店主姪「じゃないと、開店まであまり時間がありません!」
店主姪「つうか、さっさと荷物置いて動かんかい!」
店主姪「この木偶の棒どもが!」
従者「はっ、はい!……」
商人「……」ポロポロッ
元店主「義姉さん、ちょっと私出掛けてくるわ……」
元店主「だから、飲み比べの勝負、次回までお預けね……」
店主「ええ、了解したわ……」
ガチャ……
カランカラン……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
店主姪「お母さん、何してんの?」
店主姪「さっさと、早く出てきてよ!」
元店主嫁「……」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
カチャ、カチャ……
シュバッ、シュタッ……
従者a「ママさん。ちょっと出掛けてきます」
従者a「すぐに、戻ってきますから」
店主「ええ、分かったわ……」
店主「気を付けて行ってらっしゃい……」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
バタン……
~とある民家~
盗賊「くそっ、賢者が捕縛された!」
盗賊「カーネルは、俺達の事に気づいてやがった!」
勇者「何!?」
盗賊「いずれ、ここも危なくなる!」
盗賊「その前に、ここから逃げるぞ!」
盗賊「勇者、武闘家、早く支度するんだ!」
武闘家「おう!」サッ
カチャ、カチャ……
シュバッ、シュバッ……
勇者「……」
盗賊「ん? どうした?」
盗賊「何をもたもたしている!」
盗賊「勇者も、早く荷物を纏めてさっさと逃げる支度をするんだ!」
勇者「……」
勇者「盗賊、武闘家、逃げる宛はあるのか?」
勇者「この島から、確実に逃げれるのか?」
盗賊「ああ、まあな」
勇者「なら、まだ逃げる必要はない!」
勇者「カーネルは、すぐには動かん!」
勇者「ここは、俺を信じて任せてくれ!」
勇者「カーネルの狙いは、この俺のみ!」
勇者「俺が、カーネルの前に再び姿を現せば済むだけの話だ!」
盗賊「何!?」
武闘家「……」
盗賊「勇者、何を企んでいる?」
盗賊「カーネルは、そんなに甘くはないぞ!」
盗賊「それに、賢者が何故か捕縛された!」
盗賊「それについては、どう説明をするんだ!」
武闘家「……」
勇者「盗賊、落ち着け!」
勇者「賢者が捕縛されたのは、昨日着けてきた賢者の身内が原因だ!」
勇者「どうせまた、賢者の身内が賢者に対して金の無心!」
勇者「その所為で、賢者が捕縛された!」
勇者「それくらいなら、すぐにカーネルによって釈放されるはずだ!」
武闘家「……」
盗賊「いや、それはないな!」
盗賊「カーネルは、血も涙もない様な女だ!」
盗賊「勇者も、カーネルが率いる傭兵隊の戦闘を見ただろ?」
盗賊「あれは、かなりレベルの高い歴戦の勇士達だ!」
盗賊「そんな奴等を率いる女を、端から信用するなんて大いに馬鹿げてる!」
武闘家「……」
勇者「盗賊、何度も言うがここは俺に任せてくれ!」
勇者「今の俺は、お前達のリーダーだ!」
勇者「今後は、俺が全ての事についてで決断をしていくんだ!」
盗賊「……ほう? それは面白い話だ」
盗賊「ようやく、お前もリーダーとしての意識に目覚めたのか」
盗賊「なら聞くが、勇者は何を企んでいる?」
盗賊「そこまで言うなら、リーダーとしての意見をこの場で今すぐ聞かせて貰いたい!」
武闘家「……」
勇者「盗賊、武闘家、今はいくら持ってる?」
勇者「二人の所持金は、一体今いくらあるんだ?」
盗賊「は?」
勇者「……」
武闘家「大体、二人合わせて50万gだ」
武闘家「それが、どうかしたのか?」
盗賊「……」
勇者「なら、回復剤の数は?」
勇者「二人の持っているアイテムも、全てこの場で申告して貰いたい」
武闘家「……」
盗賊「勇者、こんな時に所持品のチェックか?」
盗賊「今のお前は、かなり楽天家なんだな」
武闘家「……」
勇者「ああ、そうだ!」
勇者「今の俺は、楽天家だ!」
勇者「それでもなお、カーネルはすぐに俺達の事を捕縛しに来ないと言える!」
勇者「何故なら、俺達は勇者一行だからだ!」
勇者「勇者一行を捕縛するには、それなりの根拠と証拠が必要!」
勇者「おまけに、今の俺達はハーフエルフに対して何もしていない!」
勇者「今後の俺達をどうするかは、全て伯爵様が決める事!」
勇者「たとへ、カーネルに俺達が捕縛されたとしても、カーネル自身には俺達を裁く事は全く出来ないんだ!」
盗賊「……あっ……」
武闘家「そうか、成る程な……」
勇者「……」
フラッ、ドサッ……
勇者「それで、二人は今何を持ってるんだ?」
勇者「何か、役立つ物は沢山あるか?」
盗賊「……」
武闘家「回復剤なら、お互いに10個ある」
武闘家「後は、緊急用の短剣に火打セットと食器セットと非常食」
武闘家「替えの衣類に地図に雨具に寝袋」
武闘家「これが、俺達の今持っている装備なんだが」
盗賊「……」
勇者「そうか」
勇者「盗賊達も似た様なものか」
勇者「てっきり、兄さんから何か渡されてないかと思ったが……」
勇者「どうやら、俺の勘違いだったか」
武闘家「……?」
盗賊「勇者、お前どうするつもりだ?」
盗賊「何か、策があるんじゃないのか?」
勇者「ああ、ある」
勇者「今の俺は、兄さんからある物を預かっていた」
勇者「そのある物と言うのは、兄さんがどこかで手に入れてきた石」
勇者「それを、今の俺はここにまで持参してきてるんだ」
盗賊「!?」
勇者「二人とも、この石に何か見覚えはないか?」
勇者「二人は、兄さんからこの石については、何か聞かされてなかったか?」スッ
盗賊「……」ジーーッ
武闘家「……」ジーーッ
勇者「……」
盗賊「これ、確かあいつが魔王戦前に見つけた石だったよな?……」
盗賊「この石は、所有者をとことん不幸にしてしまう恐るべき石……」
盗賊「俺達は、絶対に捨てた方が良いって言ったんだが、あいつは頑なに捨てなかった……」
盗賊「その所為で、勇者はすぐに人が変わってしまい、俺達の事をすぐに邪険にする様になっちまったんだ……」
勇者「!?」ガーン
武闘家「ああ、そうだったな……」
武闘家「まさか、再びこの石と巡り会うとはな………」
武闘家「これを手に入れてから、前の勇者はずっと僧侶ばかりを優遇した……」
武闘家「魔王戦に差し掛かろうとしても、前の勇者は常に僧侶といちゃついてばかり……」
武闘家「さすがに、これは本格的にヤバイと言う事もあって、勇者に僧侶からその石をすぐに手放した方が良いと言って貰ってたんだがな……」ズーン
盗賊「……」ズーン
武闘家「それから、勇者はその石を“どこかへと捨ててきた”と言った……」
武闘家「その石の効果は、最初の内はかなり良い思いをする事が出来るが、最後はその分悪い思いをする事が出来ると言う恐ろしい物……」
武闘家「その所為で、前の勇者は俺達の事を次々と見捨てた……」
武闘家「俺達を見捨てた後、前の勇者は僧侶と共に魔王戦を放棄……」
武闘家「酒と女とギャンブルとs〇xに溺れ、それはもう別人になったかの様に人が大きく変わってしまったんだ……」ズーン
勇者「……」ズーン
盗賊「それで、お前はいつそれを預けられた?」
武闘家「勇者は、いつお前の元に戻ってきたんだ?」
武闘家「……」ズーン
勇者「確か、兄さんが死ぬ一週間前のはずだ……」
勇者「突然、兄さんが何の連絡もなく自宅に戻ってきて、この石を置いてった……」
勇者「それと同時に、俺の自宅にあった所持金が全てなくなっていて、兄さんが死んだ後すぐ多数の借金取りが押し掛けてきて……」
勇者「それが原因で、俺の両親は憤死……」
勇者「なんとか、兄さんが背負った多額の借金については、全額すぐに完済する事は出来たんだが……」
勇者「国王陛下は、それをネタに弟であるこの俺に「後任の勇者を今すぐしろ」と、命令をしてきたんだ……」
盗賊「……」ガクッ
武闘家「……」ズーン
勇者「それで、これはどうする?……」
勇者「やっぱり、捨てた方が良いか?……」
勇者「それとも、カーネルに引き取って貰うか?……」
盗賊「!?」ハッ
勇者「今の俺、これをカーネルに引き渡そうと思う……」
勇者「これがあれば、今の俺達はカーネルを倒せる……」
勇者「カーネルにも、絶対にギャフンと言わせる事が出来る!……」ニヤリ
盗賊「勇者、お前正気か?……」
盗賊「それ持って、まさかカーネルの前に姿を現そうとしてるのか?……」プルプル
武闘家「ぶほっ……」プルプル
勇者「ああ、そのつもりだ!」
勇者「それに、今の俺は勇者だ!」
勇者「だから、二人は俺を信じて着いてきてくれ!」
勇者「俺は、絶対に兄さんの様にはなったりはしない!」ニヤニヤ
盗賊「……」プルプル
武闘家「……そうか」
武闘家「なら、今回の事は勇者に任せるとしよう……」
武闘家「幸い、今の勇者はまだまともだ……」
武闘家「それで良いか? 盗賊……」プルプル
盗賊「ああ、まあな……」ニヤリ
勇者「よっしゃああああああああ――――――――っ!」
武闘家「……」プルプル
盗賊「でも、どうやってカーネルと会うんだ?……」
盗賊「カーネルの居場所に、どこか心当たりでもあるのか?……」ニヤニヤ
武闘家「……」プルプル
勇者「ああ、ある……」
勇者「カーネルは、この島にある“まるで娼館の様な外装をした酒場”にいた……」
勇者「そこに、あの元騎士も客として来訪……」
勇者「だから、必ずカーネルはそこにいる!……」
勇者「俺は昨日、そこでカーネルと会っていたからだ!……」ニヤニヤ
盗賊「……」ニヤニヤ
武闘家「なら、早速だがそれをカーネルに引き渡してきてくれ……」
武闘家「今の俺達、かなり危険なんだが……」
武闘家「それを使えば、確かにカーネルを倒せる……」
武闘家「それ所か、カーネルをこの島から追放する事が出来る……」
武闘家「だから、早いとこ行ってきてくれ!……」プルプル
勇者「おう!」
勇者「それじゃあ、ちょっと行ってくるな!」
勇者「すぐに戻ってくるから、暫くの間は留守番を頼む!」
勇者「それと、また何か分かったらすぐに教えてくれ!」
勇者「これで、俺達は英雄だ!」
勇者「元々、カーネルが嫌いな奴等はすぐに大喜び!」
勇者「今の俺達こそ、正義なのだ!」ニヤニヤ
盗賊「お――――――――っ!」ニヤニヤ
武闘家「勇者、気を付けてな……」
武闘家「必ず、生きて戻って来いよ……」プルプル
勇者「ああ、分かってる!」
勇者「それじゃあ、行ってくるな!」
勇者「二人も、無事でな!」ニヤニヤ
二人「おう!」ニヤニヤ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ガチャ、バタン……
~とある山道~
魔女(あっ、出てきた……)
魔女(本当に、あそこにいたんだ……)
魔女(今なら、勇者を捕縛するチャンス……)
魔女(後は、武闘家達二人のみね……)コソコソ
勇者「……」キョロキョロ
魔女(とりあえず、どうやって勇者と接触をしようかしら?……)
魔女(昨日みたいに、普通に接すれば良いのかな?……)
魔女(でも、向こうはやたらと警戒しきってるし……)
魔女(一体、どうすれば?……)コソコソ
勇者「……」ハッ
魔女「う~~ん……」
勇者「……」ジーーッ
魔女「あっ……」
勇者「……」ジーーッ
勇者「そこに、誰かいるのか?……」
勇者「まさか、僧侶なのか?……」
魔女「……」ビクッ
勇者「頼む、誰だか知らないがすぐに姿を現してくれ!……」
勇者「じゃないと、今の俺はかなりマズイんだ!……」
勇者「このまま行くと、マジでカーネルに何をされるかが全く分からないんだ……」
魔女「……」ビクビクッ
「もう、仕方ないわね……」
「せっかく、上手く隠れてたと思ってたのに……」
「いつ、私がここにいると分かったの?……」
「今の勇者は、どこから今の私に気づいていたのかしら?……」
魔女「!?」ビクッ
勇者「……あら?」
子豚「……」スッ
子豚「……」トコトコッ
勇者「何だ、大賢者様の所の子豚か……」
勇者「全く、驚かせるなってぇの……」ハァ……
魔女「……」ホッ……
子豚「もう、勇者ったら相変わらずそっけないわね……」
子豚「私の兄弟、遠慮なく丸焼きにしてた癖に……」
子豚「今の私、大賢者様からの手紙を預かってるの……」
子豚「だから、早く用を済ませて帰りたいんだけど……」プリプリッ
魔女「……」
勇者「ああ、すまんな……」
勇者「こっちも、色々と立て込んでんだ……」
勇者「おまけに、賢者殿がカーネルに捕縛された……」
勇者「俺の仲間二人も、カーネルに捕縛されてしまったんだ……」
子豚「何ですって!?」ガーーン
魔女「……」
警備兵達「……」ヌッ
子豚「勇者、賢者殿が捕縛されたってどう言う事よ!?」
子豚「あの人、何か悪い事でもしたの!?」
魔女「……」
勇者「いや、何もしてない……」
勇者「ただ単に、賢者殿の身内がまた押し掛けてきてすぐ、金の無心をしてきた……」
勇者「それが叶わず、賢者殿の身内がある事ない事を言って、カーネルに捕縛を依頼……」
勇者「その所為で、賢者殿が捕縛されてしまったんだ……」
子豚「そんな……」
魔女「……」
勇者「それで、大賢者様からのお手紙とは?」
勇者「よく、俺がこの島にいると分かったな?」
魔女「……」
子豚「まぁ、大賢者様が優秀だから!」
子豚「この国では、その大賢者様の右に出る者はいない!」
子豚「ただそれだけの事なのよ!」
勇者「ああ、分かった分かった……」
勇者「その話は、また今度ゆっくり聞いてやる……」
勇者「それと、この石をカーネルに届けてくれ……」
勇者「この石は、カーネルが探している盗品の一部……」
勇者「例の各地で荒らしていた元騎士の所持品だ……」
勇者「それを偶々拾ったから、すぐにカーネルに引き渡してくれ……」スッ
子豚「なっ!?」
魔女「……?」ジーーッ
子豚「……勇者、これどこで手に入れたの!?」
子豚「こんなの、あのカーネルなんかに渡したら物凄く危険なのよ!?」
勇者「……え?」
子豚「これ、何がなんでもカーネルには渡しちゃ駄目よ!」
子豚「この石、カーネルになんかに渡したら、今までの不幸な人生が全て清算されちゃう!」
子豚「元々、私はあの子もその母親も嫌いだった!」
子豚「今でも、あの頃を思い出すだけでかなり腹が立ってしまうわ!」ムカムカッ
勇者「あんた、もしかして昔のカーネルの事を知っているのか?……」
勇者「カーネルは、一体何であそこまで力を持っているんだ?……」
魔女「……」ドキドキッ
勇者「頼む、どうか今すぐ教えてくれ!」
勇者「今の俺達、本当にヤバイんだわ!」
勇者「このまま行くと、一生汚名を着せられる事になるんだ!」
魔女「……」ドキドキッ
子豚「……実は、あの子の母親はとても優秀なエルフだった!」
子豚「エルフの里でも、魔術師として類を見ない程の強さ!」
子豚「その当時、私はエルフの里に滞在!」
子豚「あの子の母親は、現族長の実の姉!」
子豚「その母に決して退けを取らない美貌と魔術の才能等を、今のあの子自身は生まれながらに持ってしまっているのよ!」ムカムカッ
勇者「!?」ガーーン
魔女「!?」ピカァ
子豚「……」ムカムカッ
子豚「思えば、あの時に私があの子の母親に喧嘩さえ売らなきゃ良かったのよね……」
子豚「あの子の母親は、元々はエルフの里でもかなり爵位が上の家柄の生まれ……」
子豚「今の族長、あの子の姿を見た瞬間、すぐに子供みたいに号泣しちゃってね……」
子豚「そんな族長に対して、あの子は何度も何度も直談判……」
子豚「今まで、ハーフエルフに対して否定的だったエルフの里を大きく揺さぶった……」
子豚「あの子自身が、現族長に対して数々の嫌がらせをし続けていった……」ムカムカッ
勇者「……」ゴクリ
子豚「その時のあの子、現族長に対して何をしたと思う?……」
子豚「あの子自身が、母と容姿が瓜二つな事を利用し、夜の相手を何度もしてた……」
子豚「それだけでなく、まるで今の自分自身が実の姉だとでも言わんばかりに、現族長の目の前で実の母親に完全に成りきり……」
子豚「それをされる度に、現族長は余計に号泣……」
子豚「仕方なく、あの子からの無茶苦茶な要求を全て呑んでしまったのよ……」
子豚「ハーフエルフを保護すべきでないと言う勢力すら、無理矢理押し込めちゃった訳」ムカムカッ
勇者「……」
魔女「……」
子豚「それ以来、エルフの里も大分変わったわ……」
子豚「今まで、ハーフエルフに否定的だった人達が、次々とハーフエルフへと転生してしまったから……」
子豚「それについては、前族長が仕掛けたとある魔術の所為……」
子豚「その時、出来たのが今勇者が持っているその石……」
子豚「これを使えば、エルフの里は救われる……」
子豚「それ所か、あの子自身に掛けられている負の連鎖すら一瞬に解き放ってしまう……」ムカムカッ
魔女「!?」キラキラッ
子豚「だから、勇者は絶対にそれをあの子には渡しちゃ駄目よ!」
子豚「それがあの子の手に渡った時が、本当にこの世の地獄!」
子豚「何故なら、ずっとあの子はもう100年もの間、負の連鎖に繋がれていた!」
子豚「あの子を初めとするハーフエルフが、エルフと人間に対して復讐をするチャンスをすぐにも与えてしまう!」
子豚「元々、それはあの子の母親がこの私に復讐をする為に、自ら作った物!」
子豚「その所為で、今の私は何度も豚の姿!」
子豚「もうこんな生活、今の私は嫌になるわ!」
子豚「だから、絶対にハーフエルフにだけは渡しちゃ駄目よ!」ムカムカッ
勇者「……分かった」
勇者「これは、カーネルには渡さないでおく」
勇者「その代わりに、大賢者様からの手紙を渡してくれ」
勇者「それさえ済めば、今のあんたはもう帰っていい」
勇者「だから、早く手紙を渡してくれ」
魔女「……」キラキラッ
子豚「はい、大賢者様からの手紙」クルッ
子豚「今の私の背中の上にくくり付けてるでしょ?」
子豚「それ、早く抜き取ってくれる?」
子豚「今の私、重くて重くて仕方ないんだけど」
魔女「……」キラキラッ
スッ、ポツ、コロン、シュッ……
勇者「子豚、手紙取ったぞ」
勇者「ついでに、あの石も入れといた」
勇者「だから、それを大賢者様にお渡しをしてくれ」
子豚「了解、任せといて」
子豚「この石は、至急大賢者様の元で保管して貰うわ」
子豚「あっ、それと、大魔導師様がこの島に来てるみたいよ」
子豚「確か、つい数日前からこの島に来てるはず」
子豚「今後は、大魔導師様にも助けを求めた方が良いのかもしれないわね」
魔女「……」キラキラッ
勇者「おお、そうか……」
勇者「あの大魔導師様が、この島に来てるのか……」
勇者「それはそれで、色々と心強い……」
勇者「大魔導師様がいれば、かなりの戦力……」
勇者「さすがのカーネルも、大魔導師様には叶うはずない!」
魔女「……ん?」ハッ
子豚「そうね、色々と心強いわね」
子豚「あの人、今は鹿に化けてるから」
子豚「なんか、あの人は鹿に化けるのが趣味みたいな人だから」
勇者「鹿?」
勇者「あの人、鹿になれるのか?」
勇者「一体、それはどんな鹿なんだ?」
魔女「……」
子豚「さぁ、よくは覚えてないわ」
子豚「でも、勇者ならすぐに気づくはず」
子豚「あの人、鹿のままでも人語は話せるから」
子豚「だから、鹿に話し掛けてみて反応があったら、それが大魔導師様だから」
魔女「……」
勇者「分かった。探してみる」
勇者「それと、大賢者様には賢者殿達の件をしっかりと報告をしてくれ!」
勇者「このままだと、今の俺達は確実にカーネルによって汚名を着せられる!」
勇者「今の俺達には、決して非はない!」
勇者「だから、是非とも大賢者様にもお力添えをお願いしたい!」
魔女「……」
子豚「ええ、了解したわ」
子豚「大賢者様にも、そう伝えとくわ」
子豚「勇者、絶対に気を付けてよね」
子豚「今のあの子、勇者達の事を完全に潰す気だから!」
子豚「自身にこれまで酷い仕打ちをしてきた人々に対して、本気で復讐をするつもりだから!」
魔女「……」
勇者「分かった。子豚も気をつけてな」
勇者「今後会う時は、丸焼きにしないでおく」
勇者「だから、もう行って良いぞ」
勇者「そろそろ、ここも人通りが増える」
勇者「だから、早く子豚もここを出るんだ!」
子豚「……そう、それじゃあね!」
勇者「またな」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
シュッ、シュン……
勇者「……」
魔女「……」
勇者「……」
魔女「……」
勇者「……」パサッ
勇者「……」パラパラッ
勇者「!?」ガーーン
魔女「……?」
勇者「……」プルプル
勇者「……」プルプル
魔女「……」
ユラッ、ユラユラッ……
魔女「……?」
ユラユラッ、ユラユラッ……
ドサッ、バタッ……
魔女「なっ!?」
勇者「……」プルプル
魔女「……」ジーーッ
勇者「……」プルプル
警備兵達「……」サッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ピタッ、カシャン、スッ……
警備兵「おい、大丈夫か?」
警備兵「このまま、病院にまで運んでやろうか?」
警備兵長「……」
勇者「いえ、大丈夫です……」
勇者「ちょっと、急に目眩がしただけです……」
魔女「……」
警備兵「そうか、只の目眩か」
警備兵「その分なら、まだ大丈夫そうだな」
警備兵長「勇者殿、カーネルからの御伝言がございます」
警備兵長「昨日捕縛された戦士と魔法使いの裁判は、明日の午後三時より山上にある教会にて執り行われます」
警備兵長「勇者殿には、身元引き受け人として裁判に出廷して頂き、僧侶はその裁判を傍聴」
警備兵長「戦士と魔法使いは初犯ですので、罰金刑又は執行猶予が下される可能性が高く、今後も魔王を討つ旅を続ける事が出来る様です」
勇者「……」ピクピクッ
警備兵長「それと、僧侶に関しては“まるで娼婦の館の様な外観をした酒場”にて、本日から宿を取っています」
警備兵長「あまり、勇者殿は逃げ隠れをせずにそこで宿をお取り下さい」
警備兵長「勇者殿は、全くもって何もされていないのですから、自由に僧侶とは面会が可能」
警備兵長「なるべく、僧侶と一緒にいてくれた方が探す手間が省けるとの仰せです」
勇者「……」ピクピクッ
警備兵長「とりあえず、我々はこれで失礼致します」
警備兵長「勇者殿も、お気を付けて」
勇者「……」ピクピクッ
魔女「……」サッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
魔女(勇者、何で倒れたのよ?……)
魔女(一体、あの手紙を読んだ後に何があったのよ?……)
魔女(まずは、勇者の元に近づいて手紙をすぐに奪取……)
魔女(後は、引き上げさせた警備兵を呼び戻し、勇者達を捕縛すると言うのも良いわね……)
勇者「……」ピクピクッ
魔女(でも、この辺って確か盗賊達がいるって話なのよね?……)
魔女(元々、この辺は鉱員の為の住宅……)
魔女(それが、知らない内に移民によって勝手に使用されてた……)
魔女(これ、かなり問題なはずなのよね?……)
勇者「……」ピクピクッ
魔女(あっ、何か盗賊達が出てきた……)
魔女(さすがに、今の勇者には気づいたみたいね……)
魔女(まぁ、今の所はまだあの二人は捕縛しなくて良いか……)
魔女(それより、今の私はあの子豚の方がとても重要……)
魔女(後で、大賢者様に頼んでみよ~~っと……)
盗賊「おい、勇者、大丈夫か!?」ダッ
盗賊「まさか、もうカーネルにやられたのか!?」ガシッ
勇者「……ちっ、違う……」ピクピクッ
盗賊「だったら、一体何が原因なんだ!?」
盗賊「今のお前、完全に死に掛けてるぞ!?」ユサユサッ
勇者「……」ピクピクッ
武闘家「盗賊、勇者を家の中に入れるぞ!」
武闘家「今なら、まだ人では少ない!」
武闘家「だから、早く家の中に入れるんだ!」
盗賊「おう!」サッ
魔女「……」ジーーッ
「ジュリエット。どうするつもりじゃ?」
「あの三人は、まだ捕縛せぬのか?」ヌッ
魔女「!?」ビクッ、クルッ
大魔導師「……」
魔女「いつ、あそこから抜け出して来たんですか?……」
魔女「まだ、あの三人を捕縛するつもりはありません……」
魔女「相変わらず、かなり師匠はしぶといですね……」
魔女「今度は、ゴキブリにでもして差し上げましょうか?……」
勇者「……」ピクピクッ
大魔導師「……ジュリエット。今は冗談を言っている暇はない!」
大魔導師「今は平時ではなく、有事なのだ!」
大魔導師「とりあえず、ここを移動するぞ!」
大魔導師「少し、お主には儂に付き合ってもらう!」
大魔導師「良いな?」
魔女「はっ、仰せのままに!」ビシッ
ガチャ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
シュッ、シュン……
~とある砂浜~
ザザーーン、ザザーーン……
カァ、カァ、カァ……
大魔導師「この島は、のどかじゃのぅ」
大魔導師「王都と違い、海に近い」
大魔導師「お主が、この島を新たな拠点にしたのも頷ける」
大魔導師「ここは、王都にも遠くハーフエルフを匿うには売って付けの場所じゃな」
魔女「……」
大魔導師「のぅ、ジュリエット」
大魔導師「お主は、ここの伯爵に仕えて何年になる?」
大魔導師「お主の事じゃ、もう結構長いのじゃろう」
大魔導師「今回、儂がここに来たのは、ある目的の為じゃ」
大魔導師「今のお主は、良い意味でも悪い意味でも目立ち過ぎた」
大魔導師「そう、この国全体を大きく揺るがす程にな」
魔女「……」
大魔導師「ジュリエット、儂の質問に答えよ」
大魔導師「お主は、ここで一体何をするつもりなのじゃ?」
大魔導師「今のお主は、あの糞国王ですら恐れておる」
大魔導師「主に、お主の経歴や親類等」
大魔導師「今のお主は、この国だけでなく世界全体にも、大きな影響を持つ様になってしまったのじゃ」
魔女「……」
大魔導師「まぁ、今のお主が儂の事を信用していないのも頷ける」
大魔導師「お主にとって、儂は裏切り者じゃ」
大魔導師「あの時、儂はお主の事を助けなかった」
大魔導師「それが原因で、あの時のお主は哀れにも討ち死」
大魔導師「その後は、こうして今この島で平穏無事に過ごしておる」
大魔導師「今のお主は、本当に昔と比べて大きく変わったのぅ」
魔女「……」
ザザーーン、ザザーーン……
カァ、カァ、カァ……
魔女「師匠、一体何をおっしゃりたいのですか?」
魔女「今の私、師匠のおっしゃりたい意味が分からないのですが」
魔女「それに、私はただこの国に散らばっているハーフエルフ達を保護しているだけの事」
魔女「それが、一体何故いけないのでしょうか?」
魔女「国王陛下が、今の私如きを恐れる等かなり不可解な事だと思いますが」
大魔導師「……」
魔女「やはり、師匠も私の事を邪魔だと思っておられるのですね」
魔女「この島の住民達の中にも、今の師匠の様に私の事が邪魔だと言う人はかなりいます」
魔女「それでもなお、私は伯爵様に仕える身」
魔女「今後も、この島の住民達の為にお仕えするのが私の役目」
魔女「それが、ハーフエルフとしてこの世に生まれた私の課せられた宿命」
魔女「“この世に生を受けたハーフエルフは、人間の為に死ぬまで尽くせ!”」
魔女「それが、私達が教えられてきた事の一つでもあります!」
大魔導師「……」
ザザーーン、ザザーーン……
大魔導師「ジュリエット。お主は、本当にそう思っておるのか?」
大魔導師「今のお主に、嘘偽りはないのじゃな?」
魔女「はい!」
大魔導師「なら、この島に駐屯する異常な数の兵は一体何じゃ?」
大魔導師「お主は、一体どこからそれらの兵を連れて来たのじゃ?」
魔女「え?」
大魔導師「この島に来た時から、儂は妙な違和感を感じておった」
大魔導師「あの兵達は、お主が扱う特殊な召喚術によるもの」
大魔導師「あの時より、今のお主は強くなり過ぎた!」
大魔導師「それが原因で、今のお主は色々と誤解されておる!」
大魔導師「何故なら、それを広めていたのがお主自身じゃ!」
大魔導師「お主が、ハーフエルフ達の為に取った行動が全ての原因!」
大魔導師「下手したら、自分達の身すら大いに危うい!」
大魔導師「それ程、あの糞国王を始めとする多くの人間達が、今のお主の事を恐れておるのじゃ!」
ザザーーン、ザザーーン……
魔女「へぇ~~っ、そうなんですか」
魔女「よっぽど、皆さんには身に覚えのある事が多過ぎるのですか」
魔女「それなら、今の私はこの国に住む全てのハーフエルフ達の為に、今後も行動をさせて頂きます!」
魔女「今まで、私達ハーフエルフは大いに人間及びエルフ達によって、長年苦しめられてきました!」
魔女「たとへ、師匠が国王陛下に命じられ、私の事を始末すると言うのなら、喜んでこの場で殺されます!」
魔女「私が死ねば、師匠達も満足でしょう?」
魔女「邪魔者は、ただ無言で消え去るのみ!」
魔女「師匠は、こんな私でも長い間可愛がって下さりましたからね!」
魔女「師匠に殺されるのなら、今の私は大いに本望です!」ニッコリ
大魔導師「!?」ガーン
魔女「それで、師匠はどうなさるのですか?」
魔女「私の事、師匠自らの手で殺せますでしょうか?」
魔女「なんなら、私自らこの場で命を絶って差し上げても宜しいのですよ!」
魔女「生まれて始めて、本気で愛した人に看取られて死ぬ!」
魔女「そう言うのも、ロマンチックで良いのかもしれませんね!」ニッコリ
大魔導師「まっ、待て、ジュリエット!」
大魔導師「儂がここに来たのは、お主の暮らし振りを見に来ただけじゃ!」
大魔導師「儂は、そんな事は決して望んどらん!」
大魔導師「あの糞国王からも、そんな命令は受け取らん!」
大魔導師「じゃから、決して早まるな!」
大魔導師「また、儂だけを残して死に急ぐでない!」アセアセッ
魔女「……」
大魔導師「それに、儂はもう二度とお主の事を死なせないと誓ったのじゃ!」
大魔導師「あの時は、儂の所為でお主は死んだ!」
大魔導師「その事だけが、ずっと心残り!」
大魔導師「未だに、糞国王からはその事で嫌みを言われ続けておる!」
大魔導師「今の儂は、未だに世間からは異端者扱いされておるんじゃ!」
大魔導師「あの糞国王にも、そんな命令は受ける立場ですらない!」
魔女「……」
周囲「……」ザワザワッ
支援ありがとうございます
魔女「じゃあ、何であんな誤解を受ける様な事をおっしゃられたのですか?」
魔女「今の私、本気でそうなると思ったのですけど」
魔女「元々、私達ハーフエルフは家畜以下」
魔女「この世には、絶対に生まれてきてはいけない忌々しい存在」
魔女「そうして、長い間エルフと人間からは差別されてきました!」
魔女「私が死ねば、ハーフエルフ迫害禁止条約が無効に出来る!」
魔女「今の私からしてみれば、ただ単に邪魔者を排除しに来た様にしか全く思えなかったのですけど!」
周囲「!?」
大魔導師「じゃから、それはお主の誤解じゃからって!」
大魔導師「儂がここに来たのは、今のお主の暮らし振りを見に来ただけじゃ!」
大魔導師「第一、今の老いた儂じゃ、お主に勝てるかどうかもさっぱり分からん!」
大魔導師「お主は、儂が育てた中でも最高の弟子じゃ!」
大魔導師「あんな、“神にも勇者にも選ばれたとかほざく馬鹿者”とは、遥かに違う!」
大魔導師「じゃから、今のお主は儂の事を信用してくれって!」アセアセッ
ザザーーン、ザザーーン……
魔女「なら、この場ですぐそれを証明して下さい!」
魔女「師匠は、私の事を本気で愛してくれたのですよね?」
魔女「あの時の私、実は本当の所はあまり嫌じゃなかったのですよ!」
魔女「師匠が望むのなら、私はあのまま師匠にされるがままの状態にいました!」
魔女「あの時の私、師匠に買われてまもない頃でしたし!」
魔女「師匠だけは、私の事を昔から可愛がって頂きましたから!」
周囲「!?」ガー-ン
大魔導師「ジュリエット!?」アセアセッ
魔女「だから、師匠は私の事を今すぐ抱いて下さい!」
魔女「今でも私、あの頃の事を思い出すんですよ!」
魔女「特に、師匠の股間に付いているアレは、とても大きかった!」
魔女「気がついた時には、その事ばかり考えているんです!」
魔女「師匠が望むのなら、大人になった私の体を味わっておいても宜しいのですよ!」テレテレ
周囲「……」ギロッ
大魔導師「……」ダラダラッ
魔女「まぁ、そう言う事ですから、師匠は今晩空いてますでしょうか?……」
魔女「久し振りに、私は師匠に抱いて貰いたいです……」
魔女「師匠は、私の初めてを奪った人でもありますし……」
魔女「あの頃の私、もしかしたら出来ちゃってたと思います……」テレテレ
大魔導師「……」ダラダラッ
魔女「ですから、今後は無理矢理に私の事を犯さず、優しくして下さいね!」
魔女「今の私、師匠にならこの身を委ねる事が出来るんです!」
魔女「師匠は、生まれて始めて本気で愛した男の人ですし……」
魔女「師匠が望むのなら、昔みたいに奴隷になる事も構いませんからね!」ニッコリ
大魔導師「……」ダラダラッ
周囲「……」ギリギリッ
魔女「……」ニコニコ
ジリジリッ、ムギュッ……
大魔導師「!?」
魔女「……」ニコニコ
役人2「おい、そこの警備兵……」
役人2「今すぐ、あの爺さんを捕らえろ!……」
役人2「あの爺さん、とても良い度胸してるよな?……」
役人2「俺達ですら、あんなカーネルクラスの女に手を出せねぇのに、カーネル自らご指名ときた……」
役人2「一体、あんな年老いた爺さんの何が良いんだ!?……」
役人2「いくらカーネルの師匠だからって、あんな年老いた爺さんが良い思いをして良いのか!?……」ギリギリッ
周囲「……」ギリギリッ
役人3「ああ、そうだな……」
役人3「俺の妻も、あんなカーネルぐらいの美人だったら良かったんだよな……」
役人3「それに比べて、今の俺の妻なんて歳を取る度に金金金……」
役人3「俺の娘も、若い頃の妻に似て美人なんだがカーネルにはとても及ばん……」
役人3「おまけに、ここ最近は反抗期ときた……」
役人3「いくら、ここが治安が良過ぎるからって、夜遊びまでするなっての!……」ギリギリッ
周囲「……」ギリギリッ
ザザーーン、ザザーーン……
役人2「それで、警備兵……」
役人2「あの爺さんの事、今すぐ捕縛してくれるのか?……」
役人2「それとも、あのまま放置しておくのか?……」ギリギリッ
役人3「……」ギリギリッ
警備下士官3「いえ、ご心配なく!」
警備下士官3「これより、あの老人の捕縛に向かいます!」
警備下士官3「コーポラル。至急、警備隊長に連絡!」
警備下士官3「カーネルが、敵の誘惑魔法に掛かってしまった!」
警備下士官3「これより、容疑者を捕縛するとな!」
警備兵長3「はっ! 了解致しました!」
警備兵長3「これより、報告に行って参ります!」
周囲「おおっ!」ザワザワッ
役人2「さすがは、カーネルに忠実な警備兵達だ!」ピカァ
大魔導師「……」ダラダラッ
ザザーーン、ザザーーン……
魔女「師匠、これからどうなさるおつもりですか?……」
魔女「私の事、今夜は抱いて頂けるのですか?……」ニコニコ
大魔導師「……」ダラダラッ
魔女「私、師匠が来る事をお待ちしております!」
魔女「あの時と同じ様に、師匠は必ず私の元に来て頂けると信じております!」ニコニコ
大魔導師「……」ダラダラッ
魔女「ですから、師匠はもう二度と私の事を裏切らないで下さいね!」
魔女「私、師匠の事を信じてますから!」
魔女「この私からのお願い、師匠は受け入れて頂けますでしょうか?」ニコニコ
大魔導師「……」コクン、ダラダラッ
魔女「!?」ピカァ、ムギュッ
周囲「!?」ガー-ン
役人2「なん……だと……!?」ギリギリッ
役人3「そんな……馬鹿な……!?」ギリギリッ
ザザーーン、ザザーーン……
警備下士官3「コーポラル、何をもたもたしている!」
警備下士官3「早く、警備隊長の元に行かんか!」
警備下士官3「このままだと、本当にカーネルが襲われてしまう!」
警備下士官3「そこで、突っ立ってないでさっさと行かんか!」
警備兵達「……」
警備兵長3「ですが、カーネルからの許可が出ていません!」
警備兵長3「カーネル自身が、“邪魔をするな”と言うサインを出しております!」
警備兵長3「今の所、カーネル自身は無事!」
警備兵長3「このまま、カーネルが襲われる確率は低いと思われます!」
警備兵達「……」
警備下士官3「なら、何故カーネルはあんな年老いた爺さんに色目を使ってるんだ?」
警備下士官3「あれは、普段のカーネルからしてみたら、絶対にあり得ない光景だろ?」
警備下士官3「今まで、カーネルには男気が全くなかった!」
警備下士官3「いくら何でも、あれは普段と違ってかなりおかし過ぎる!」
ザザーーン、ザザーーン……
警備兵長3「サージェント。ここは、少し様子を見る事に致しましょう!」
警備兵長3「カーネルにも、何か考えがあるはずです!」
警備兵長3「今の我々は、当初からの命令通りに帰省者達の護衛!」
警備兵長3「それを果たすのが、筋だと思います!」
警備兵達「……」
警備下士官3「ああ、了解した……」
警備下士官3「悔しいが、カーネルを信じるしかない様だな……」
警備下士官3「総員、すぐに列を整えろ!」
警備下士官3「帰省者達は、前を向いてすぐに整列!」
警備下士官3「生きてこの島を出たかったら、すぐに我々の言う通りにしろ!」
警備下士官3「これから、再び船着き場へと向かう!」
警備下士官3「元々、貴様達全員は犯罪者!」
警備下士官3「海を渡って本土にある港町に着くまでが、貴様達に課せられた最後の試練なのだからな!」
周囲「……」ギリギリッ
ザザーーン、ザザーーン……
役人2「さぁ、並んだ並んだ」
役人2「きちんと整列をしないと、船着き場にまで辿り着けないぞ!」
役人2「特に、あの二人の姿は絶対に見るな!」
役人2「生きてこの島から出たいなら、絶対に見るんじゃないぞ!」
周囲「……」ギリギリッ
ササッ、ササッ……
役人2「よ~~し、それで良い!」
役人2「さぁ、再び船着き場まで行くぞ!」
役人2「サージェント、先導を頼む!」
役人2「コーポラルは、帰省者達の背後!」
役人2「さぁ、皆早く進むんだ!」
役人2「もたもたしてると、全くカーネルに捕縛されるぞ!」
周囲「……」ギリギリッ
クルッ、スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ザザーーン、ザザーーン
魔女「うふふっ……」
魔女「かなり、今の私達は目立ってましたね……」
魔女「まるで、本当のカップルかの様に……」
魔女「どうやら、私の思い過ごしだった様です……」
魔女「あの中には、私の命を狙う刺客は含まれていない!」
魔女「それが分かっただけでも、かなりの収穫でもありますよ!」ニコニコ
大魔導師「……」
魔女「師匠、まさかとは思いますがお気づきになられなかったとか?」
魔女「今の私、師匠の事をからかっていたんですよ?」
魔女「ああして、この私の命を狙う刺客を炙り出し」
魔女「まぁ、今回は何も起きませんでしたが、それはそれで仕方ないですよね?」ニコニコ
大魔導師「……」
スッ、スタスタスタッ……
ザザーーン、ザザーーン……
カァ、カァ、カァ……
魔女「それで、師匠はどうなさるんです?」
魔女「このまま、この町に滞在なさるのですか?」
魔女「もしくは、王都にまで戻られるのですか?」
大魔導師「……」
魔女「今の私、どちらでも構いませんよ」
魔女「このまま、この島に留まるのでも良いし、王都にまで戻られるのも良い」
魔女「それについては、師匠ご自身がお決めになる事」
魔女「私は、それ次第ではここの軍の責任者としての職責を果たさせて頂きます!」
大魔導師「……」
魔女「ですから、今後は鹿としてこの島に滞在するのではなく、人としてもこの島に滞在をして下さいね!」
魔女「今の師匠は、失礼ながらこの島の住民達にとっては不穏分子!」
魔女「この島には、よく昔からお尋ね者達が数多く流れて参ります!」
魔女「今の私は、この島の治安維持及び防衛を担当している伯爵様の臣下」
魔女「場合によっては、今ここにいらっしゃる師匠の事すらも取り締まる必要が出てきます!」
ザザーーン、ザザーーン……
魔女「ですから、師匠は今後は鹿としてでなく人としても行動をなさって下さいね」
魔女「じゃないと、またつい数日前までの様に師匠の事をずっと鹿の姿にしたまま」
魔女「おかげで、色々と遥か昔の辛い記憶すら思い出してしまいましたし……」
魔女「本当に、師匠はよく私の事を泣かせるのがお好きな様ですね……」ニコニコ
大魔導師「……」
魔女「……」ニコニコ
大魔導師「……ジュリエット」
大魔導師「そなたの気持ちはよく分かった」
大魔導師「この数日間、久し振りにお主と直に接してみたが、お主は昔と全く変わらない様じゃな」
魔女「……?」
大魔導師「今の儂は、それを知る事で少なからずは安心した」
大魔導師「あの糞国王にも、今のお主の気持ちを嘘偽りなく伝える事が出来る!」
大魔導師「今まで、儂はずっとお主の事が心配じゃった!」
大魔導師「この島で、お主が転生をしたと知った時は、すぐにでもお主の元に駆けつけたかった!」
ザザーーン、ザザーーン……
大魔導師「じゃが、それは当時の儂にはとても出来んかった!」
大魔導師「その当時の儂は、不覚にもお主の事を死なせてしまった事が原因で、お主の元に行く事が禁じられておった!」
大魔導師「何故なら、お主はずっとハーフエルフとして五度も転生!」
大魔導師「今のお主は、人間だけでなくエルフ達の間にも大きく知れ渡っておる!」
大魔導師「それだけ、今のお主は人によってはかなり危険な存在!」
大魔導師「今後も、お主の前は数多くの苦難が立ちはだかるであろう!」
大魔導師「じゃが、今のお主なら、その苦難には難なく立ち向かえるはずじゃ!」
大魔導師「今のお主には、お主を慕って着いてくる者達がおる!」
大魔導師「お主の事を、種族を越えて認めてくれている者もおる!」
魔女「……」
大魔導師「ジュリエット、決して己の信念を曲げずに困難に立ち向かえよ!」
大魔導師「これから、儂はどれだけお主の事を守れるかどうかは、さっぱり分からん!」
大魔導師「今のお主は、ハーフエルフ達にとっては救世主!」
大魔導師「今ここにおるお主こそが、ハーフエルフの長になるべき存在なのじゃ!」
魔女「……は?」
大魔導師「まぁ、そう言う事じゃから、お主はこれからハーフエルフの長を名乗るが良い!」
大魔導師「これについては、もう既にあの糞国王やエルフの里の族長にも話を通しておる!」
大魔導師「それに、今のお主の為に儂は新たな拠点を用意しといた!」
大魔導師「その新たな拠点とは、ハーフエルフ専用のこの島のすぐ隣にある無人の島じゃ!」ニヤニヤ
魔女「!?」
大魔導師「そこに、お主は新たな居住区を築くが良い!」
大魔導師「これについても、お主の主君でもあるxxxxxxx伯も認めておる!」
大魔導師「じゃから、就任おめでとう! ジュリエット!」
大魔導師「今後は、お主はハーフエルフの長として、全国各地からここに転居してくるハーフエルフ達の面倒を全て見て貰う!」
大魔導師「おまけに、全国各地のハーフエルフを所有する者達が、相次いで何故か素直に手放してのぅ」
大魔導師「それだけ、今のお主の名は世に知れ渡った!」
大魔導師「今のお主は、今までこの儂が手掛けてきた中では、最高の弟子じゃ!」ニヤニヤ
魔女「……」ポカーーン
ザザーーン、ザザーーン……
カァ、カァ、カァ……
大魔導師「さて、儂はお主に対する用件は済んだ事じゃし、本日の宿でも取るとしよう」
大魔導師「やはり、宿を取るにはあの酒場でないと駄目か?」
大魔導師「あそこは、若い女の子とヤレるサービスはあるのかのぅ?」ニヤニヤ
魔女「……」ポカーーン
大魔導師「ジュリエット、儂の話を聞いておるのか?」
大魔導師「今の儂は、かなり禁欲が出来とらんぞ!」
大魔導師「ついさっきまで、儂は本気で理性が崩れ掛けとった!」
大魔導師「お主に、生まれて始めて誘惑魔法なしで迫られて、必死に理性を働かせておった!」ニヤニヤ
魔女「……」ポカーーン
大魔導師「とりあえず、今宵はお主が拠点としている酒場の方に、宿を取る事にしよう!」
大魔導師「お主は、そのまま夕食後に儂の部屋に来れば良い!」
大魔導師「何故なら、今回はお主の方から迫ってきた!」
大魔導師「今更、それを取り消せと言うのはとても無理な相談じゃ!」ニヤニヤ
魔女「……」ポカーーン
ザザーーン、ザザーーン……
大魔導師「それで、お主の返事は?」
大魔導師「お主は、儂の部屋に来るのか? 来ないのか?」スッ、ムギュッ
魔女「!?」ハッ
大魔導師「……」ニヤニヤニヤ
魔女「……」ポカーーン
大魔導師「まぁ、今のお主の意思がどうこう言うより、儂の意思はそう簡単には変わらん!」
大魔導師「今のお主、本当に良い体つきになったのう!」
大魔導師「特に、そのお主の胸とか……」
大魔導師「お主は、本当に母親似じゃ」
大魔導師「元々、母に似て顔や体型等は常にトップクラス……」
大魔導師「お主の母親も、是非とも味わいたかった!」
大魔導師「それだけ、今のお主はナイスバディ!」
大魔導師「そう、この今の儂ですら未だにすぐさま欲情させる程の存在なのじゃ!」
魔女「……」ガクッ
ザザーーン、ザザーーン……
魔女「師匠……」
魔女「今宵は、つい先程のお約束通りに師匠の部屋に向かわせて頂きます……」
魔女「師匠には、ずっと長い間これまでお世話になってきました……」
魔女「この私が、ハーフエルフだと知りながらも、師匠だけが常に私の事を庇い続けてくれました……」ウルウルッ
大魔導師「……」ニヤニヤ
魔女「ですから、本日の夕方、この島に滞在しているもう一人のお弟子さんにも会ってあげて下さいね……」
魔女「師匠には、明日の裁判の事に関する通達を、この私に代わってして貰う事になります……」
魔女「その方が、この私に捕縛された戦士達もすんなりと納得をするはず……」
魔女「戦士達は、師匠とも面識がございますし、今回の役目は打ってつけかと思います……」ウルウルッ
大魔導師「……」ニヤニヤ
魔女「後、勇者xxxにもちゃんと会ってあげて下さいね……」
魔女「今の私は、師匠の性欲を処理するだけの奴隷です……」
魔女「師匠は、今後も私の事をお好きに利用して下さい……」
魔女「そのまま、お好きなだけレ〇プし続けて下さい……」ウルウルッ
大魔導師「……」ニヤニヤ
魔女「でも、これだけは絶対に覚えといて下さいね!」
魔女「それが済んだ後、師匠にはすぐさま残酷な死に方をして貰います!」
魔女「たとえば、ヒステリックでバイオレンスな奥様と一対一で決闘をするとか……」
魔女「望んでもいないのに、ただ一人だけで魔王軍に挑んで貰うとか……」
魔女「確実に、今の師匠にはそれに似合う残酷な死に方をすぐさまして貰う事になります!」ブワッ、ゴゴゴッ!
大魔導師「!?」ハッ、ガクガクッ
魔女「ですから、師匠は絶対に覚悟して下さいね!」ムクッ
魔女「師匠が私の事をレ〇プしたいなら、師匠の気が済むまでとことんさせて差し上げます!」
魔女「それが終われば、師匠の前に立ちはだかるのは、常に絶望のみ!」
魔女「それだけ、今の師匠は昔と全く変わらず、最低最悪な女たらし!」
魔女「今の私、本気ですから!」
魔女「師匠が、その気なら今の私は確実に今の師匠に対して、それに似合った復讐をさせて頂きますからね!」ゴゴゴッ
大魔導師「……りょ、了解した」ガクガクッ、ササッ
ザザーーン、ザザーーン……
カァ、カァ、カァ……
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
ピタッ、ササッ……
警備兵4「伝令!」
警備兵4「子爵様が、御乱心!」
警備兵4「今現在、伯爵様は子爵様と伯爵邸内にて交戦中!」
警備兵4「伯爵邸を警備する兵士達が、多数負傷しております!」
大魔導師「!?」
魔女「何ですって!?」ゴゴゴッ
警備兵4「カーネル。如何致しますか?」
警備兵4「至急、駐屯地から救援を向かわせますか?」
大魔導師「……」
魔女「私に聞かなくても、救援を差し向けなさい!」
魔女「一体、警備隊長は何してるのよ!?」
魔女「何で、私に救援を差し向けるかどうかの問い合わせをしてくるのよ!?」
ザザーーン、ザザーーン……
警備兵4「はっ、今現在、警備隊長は伯爵様と共に伯爵邸内にて戦闘中であります!」
警備兵4「ですが、子爵様の率いる私兵がかなり手強く、我が軍は苦戦!」
警備兵4「当初、救援に駆けつけた一個小隊が壊滅!」
警備兵4「その後は、隊長自らご出陣なされ、今現在も膠着状態となっております!」
大魔導師「……」
魔女「……至急、伯爵邸に向けて二個中隊を向かわせるわ!」
魔女「伯爵邸内にいる守備兵は、確か40ちょっと!」
魔女「一個小隊が壊滅をするくらいだから、敵はかなり手強いはず!」
魔女「私も、すぐにそちらに向かう事にするわ!」
大魔導師「!?」
警備兵4「はっ、了解致しました!」
警備兵4「至急、警備隊長にもそうお伝えします!」
警備兵4「それと、敵の数はおよそ40!」
警備兵4「主に、歩兵を中心とした編成となっております!」
ザザーーン、ザザーーン……
魔女「何だ、たった40ちょいなんだ……」
魔女「てっきり、もっと大群で来たと思ってた……」
魔女「その割には、何で報告が遅れたのよ?……」
魔女「伯爵邸のすぐ真横には、警備隊の駐屯地があるのに……」
魔女「何で、すぐ私に伝わらなかったのよ?……」
大魔導師「……」
警備兵4「はっ、それについては、例の賢者殿が一枚咬んでいた模様です!」
警備兵4「子爵様の目的は、伯爵様を暗殺して自身がこの島の領主になる事!」
警備兵4「それを終えた後に、この島に住むハーフエルフを一人残らず殲滅!」
警備兵4「実際、子爵様の率いる私兵の一部が病院にも押し掛けており、多数の負傷者を出しております!」
大魔導師「……」
魔女「なら、病院の方にも至急援軍を向かわせる!」
魔女「あんたは、大至急教会+役場に向かって非常事態宣言を発令!」
魔女「子爵様は、余計に自身の立場を悪くされた!」
魔女「このままだと、司教様達の身が危ないとすぐに伝えてきなさい!」
警備兵4「はっ、了解致しました!」
警備兵4「至急、ご報告致します!」
警備兵4「敵は、かなり手強いようです!」
警備兵4「カーネルも、どうか道中をお気を付けて!」
魔女「了解したわ」
大魔導師「……」
スッ、クルッ……
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
魔女「……」
大魔導師「……」
魔女「……」スッ
魔女「……」ササッ、ササッ
魔女「……」ビシッ
魔女「……」スッ
大魔導師「……」
魔女「師匠。今から、少しお時間を頂けますか?」
魔女「今度は、師匠が私の用事に付き合って頂けると嬉しいのですが!」
大魔導師「……」
魔女「このままですと、伯爵様は子爵様に撃ち取られます!」
魔女「伯爵様だけでなく、司教様まで撃ち取られてしまいます!」
大魔導師「……」
魔女「ですが、師匠がどうしてもご都合が悪いとおっしゃるのなら、今から私一人で突撃を開始致します!」
魔女「その代わりに、師匠は本日の子爵様によるご謀反を、今すぐ国王陛下に連絡を!」
魔女「大魔導師でもある師匠が、国王陛下にお目通りをされれば子爵様も無視出来ません!」
魔女「いずれ、子爵様はこの島を治めるべき存在!」
魔女「それが、今回のご謀反が原因にて全てが水の泡!」
魔女「元々、子爵様は7歳の頃から王都にてお過ごしでした!」
魔女「今回のご謀反についても、それが原因だと推測されます!」
大魔導師「……」
魔女「ですから、師匠はどうかご決断を!」
魔女「私は、師匠の事を信じてます!」
魔女「時間がないので、私は先に行かせて頂きますね!」
魔女「師匠も、どうかご決断の程を!」
魔女「今こそ、師匠は表だって再び動く時!」
魔女「それをなされば、後は周りが何とかお膳立てをして下さいますからね!」
大魔導師「……」
魔女「……」ペコッ
クルッ、ストトトトトッ……
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
大魔導師「相変わらず、あの子はトラブルに巻き込まれるのぅ……」
大魔導師「ここ最近、まともに運動をしておらんかったし……」
大魔導師「少しは、良い運動になりそうじゃな……」
ザザーーン、ザザーーン……
カァ、カァ、カァ……
支援有り難うございます。
~伯爵邸前~
ズバッ……
ズバスバッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ……
キーーーーン!
キンキン、キンキン……
ダダダダッ、ダダダダッ……
キーーーーン!
魔導士「くそっ、数が多過ぎる!」
魔導士「このままだと、全滅するぞ!」
キンキン、キンキン……
「弓隊、構え!」
「放て!」
スパパパパパパパッ!
魔導士「くっ、シールド!」シャキン
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
カンカン、カンカン……
魔導士「……」
副官「魔導士、兵はどれだけいる?」
副官「今の貴様は、後どれだけの兵を出せるんだ?」
キンキン、キンキン……
ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ダダダダッ、ダダダダッ……
魔導士「もうこれ以上、兵を出す事は出来ません!」
魔導士「カーネルの兵は、予想以上に多かった!」
魔導士「このままだと、我々は全滅します!」
魔導士「私の場合、まだ100名が限界なんです!」
魔導士「あんな無茶苦茶な数、今の私には到底出す事は出来ません!」
キンキン、キンキン……
ズバスバッ、ズバスバッ……
副官「ちっ、この約立たずが!」
副官「貴様、それでも大魔導師様の息子か!」
副官「元はと言えば、全てあの憎きハーフエルフの所為!」
副官「でなければ、我らはここまでする必要はなかった!」
副官「あんな悪法、国内で制定される自体大きな過ちなのだ!」
魔導士「……」
スパパパパパパパッ、スパパパパパパパッ……
副官「魔導士。大至急、大魔導師様をここへ呼んで来い!」
副官「大魔導師様に、あの憎きハーフエルフ討伐に加勢して貰う!」
副官「そして、我らの理想を現実のものにするのだ!」
カンカン、カンカン……
魔導士「申し訳ありません。副官殿……」
魔導士「我が父は、昔からハーフエルフに肩入れをしております……」
魔導士「この島に訪れたのも、以前自宅で匿っていたハーフエルフに会う為……」
魔導士「その為に、我が父はこの島に来たのでございます……」
副官「ほう……あの大魔導師様がか?……」
副官「あの、大魔導師様が憎きハーフエルフ如きに骨抜きになっておるのか?……」
ダダダダッ、ダダダダッ……
キーーーーン、キーーーーン!
魔導士「はっ、正にその通りでございます!」
魔導士「我が父は、息子である私ではなく、そのハーフエルフばかり可愛がっておりました!」
魔導士「その上、そのハーフエルフは我が父ですら遥かに上回る実力の持ち主!」
魔導士「今現在は、この島を治める伯爵様の臣下!」
魔導士「今私達が戦っているカーネル・ジュリエットこそが、我が父が溺愛をしていたハーフエルフなのでございます!」
副官「なん……だと……!?」ガーーン
魔導士「……」
「歩兵隊、突撃用意!」
「敵の数は、大分減らせた!」
「後は、門前に残ってる指揮官達のみだ!」
魔導士「!?」ハッ
副官「くそっ、やられた!?」
副官「残っているのは、我々のみか!?」
魔導士「……」
「ええ、そうみたいね!」
「大人しく、あんたたちは投降をしなさい!」
「伯爵様に牙を向いた罪、今この場で思い知らせてあげる!」
「だから、命が惜しけばさっさと投降しなさい!」
魔導士「!?」
副官「カーネル……!?」ギリギリッ
ササッ、ササササッ……
ササササッ、ササササッ……
ササッ、ササッ……
魔女「……」シュタッ
警備兵達「……」チャキッ
負傷者達「……」ボロボロッ
魔導士「久し振りだな。ジュリエット……」
魔導士「まさか、こんな形で再会するとはな……」
副官「……」ギリギリッ
魔女「ええ、久し振りね。魔導士」
魔女「あんたとこうして会うのは、20年振りぐらいだったかしら?」
警備兵達「……」
魔導士「ジュリエット。何故、貴様は未だに生きている?」
魔導士「何故、そう何度も同じ姿でこの世に生を受けている?」
副官「!?」
魔導士「今の私には、それについてがさっぱり解らん!」
魔導士「父上に何度聞いても、頑なにそれだけは教えてはくれなかった!」
魔導士「おまけに、貴様は私から父上を奪った!」
魔導士「実子であるにも関わらず、ろくに父上に可愛がられた事のない私の気持ちが、今の貴様に分かるか!?」ギリギリッ
魔女「……」
負傷者達「……」ボロボロッ
魔女「う~~ん。全く、解らないわね」
魔女「だって、昔からずっと私は一人で生きてきたから」
魔導士「……」ギリギリッ
魔女「だから、師匠は私の親代わりだった」
魔女「ハーフエルフなのにも関わらず、私にも皆と同じ様に愛情を注いでくれた」
副官「……」ギリギリッ
魔女「それに、あんたは激しく嫉妬していたのよね?」
魔女「私が、ハーフエルフなのにも関わらず、師匠に愛されていたから」
魔導士「……」ギリギリッ
魔女「でも、師匠の目当ては所詮若い女」
魔女「その時、偶々師匠の視界に私が入っただけ」
魔女「それに加え、師匠は何かと理由を付けて私の事を執拗にレ〇プ」
魔女「それを見かけたあんたは、すぐに騎士xxの元にまで訴えに行った」
魔女「止める村人達の事を何度も振り切り、私の事を追い出す為に必死で訴えに行った」
警備兵達「……」
魔女「まぁ、今の私はあんたには少なからず感謝してるわ」
魔女「今の私は、この島を治める伯爵様の臣下」
魔女「こうして、色々と好き勝手に動けるのも、あの時のあんたが犯した唯一のミス」
魔女「そのおかげで、私は色々と力を手に入れたわ」
魔女「私と同じハーフエルフ達の為に、今の私は行動をする事が出来ているのよ!」ニッコリ
魔導士「……」ギリギリッ
魔女「それで、今のあんた達はどうするの?」
魔女「まだ、このまま戦うの?」
魔女「それとも、投降をするの?」ニコニコ
副官「……」ギリギリッ
魔女「とりあえず、今のあんた達を即刻捕縛させて貰うわ!」
魔女「これについては、もうどうしようもない!」
魔女「それだけ、今のあんた達は極悪人なんだし!」
魔女「だから、この場で全員捕縛させて貰うわ!」ニコニコ
警備兵達「……」
魔女「第三中隊、伯爵邸内に突入せよ!」
魔女「第四中隊は、負傷者の確保及び敵指揮官達の捕縛!」
魔女「さぁ、早く掛かりなさい!」
警備兵達「はっ!」
ダダダダッ、ダダダダッ……
ダダダダッ、ダダダダッ……
魔導士「くそっ、来るな、来るな!」
魔導士「来るなって、言ってんだろうが!」ボウッ
警備兵5「ぎゃあっ!」
副官「貴様ら、来たら殺すぞ!」
副官「今の私は、本気なんだぞ!」ブンブン
ダダダダッ、ダダダダッ……
ズバスバッ……
ダダダダッ、ダダダダッ……
シュル、シュル……
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
ピタッ、ササッ……
警備兵6「伝令!」
警備兵6「病院付近及び病院内に展開中の敵部隊を撃破!」
警備兵6「その際に、多数の民間人の負傷者が出た模様!」
警備兵6「司教様に関しては、お命は無事!」
警備兵6「ですが、多数のハーフエルフが意識不明の重体です!」
負傷者達「……」ボロボロッ
魔女「そう、了解したわ」
魔女「他に被害は?」
魔女「どこか、他に被害は出なかったの?」
魔導士「ーーっ、ーーっ!」フガーッ、フガーッ
警備兵6「はっ、今の所特には」
警備兵6「ですが、今回の騒ぎで多数の住民達が混乱!」
警備兵6「各地で、今回の騒ぎに関する問い合わせが殺到しております!」
魔女「う~~ん、どうしようかな?」
魔女「誰か、代わりに上手く説明しといて」
魔女「私、ちょっと中に入ってくるから」
副官「ーーっ、ーーっ!」モゾモゾ、モゾモゾッ
魔女「それと、第一中隊はそのまま病院内及び病院付近を警備!」
魔女「第二中隊は、住民達に対する周辺道路の交通規制!」
魔女「後、弓隊は伯爵邸内に突入をした第三中隊の援護!」
魔女「さぁ、早く作業に戻りなさい!」
警備兵達「はっ!」
大魔導師「……」ヌッ
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
バッ、シュタッ……
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
ギギィーーーーーーーーッ!
ガチャ、ダ--ン……
ズハッ……
ズバスバッ……
「ぎゃああああああああーーーーーーーーっ!?」
ズバスバッ、ズバスバッ……
グサッ、ドサッ……
「グエッ!?」
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
ガチャ、ギギィーー--ッ、ダン……
「皆、玄関が開いたぞ!」
「さぁ、早く突入をするんだ!」
「おーーーーーーーーっ!」
大魔導師(ジュリエット、まさかここまで強くなってるとは……)
大魔導師(下手したら、確実に儂まで殺される……)
大魔導師(ただでさえ、色々と不機嫌にさせてしまったし……)
大魔導師(本当に、一体どうすれは?……)ハァ……
~伯爵邸内・伯爵の部屋~
数分前ーー
子爵「父上、何故分かって頂けないのです?」
子爵「ハーフエルフは、全て皆殺しにするべきだ!」
子爵「今の私は、決して間違った事はしていない!」
警備隊長「……」
伯爵「黙れ! この愚か者めが!」
伯爵「貴様は、過去の先人達と同じ過ちを犯すつもりか?」
伯爵「我々が治めるこの島は、二度もハーフエルフによって救われた!」
伯爵「貴様は、一体王都で何を学んできたのだ?」
警備隊長「……」
子爵「父上、我が一族が王都にて何て呼ばれているかご存じですか?」
子爵「我が一族は、ハーフエルフによって傀儡にされた愚か者の一族!」
子爵「今の私には、その汚名がどうしても耐えられない!」
子爵「だから、こうして兵を出しているのです!」
伯爵「ふん、貴様。何も分かってはいない様だな」
伯爵「所詮、貴様は母と共にこの島を捨てた臆病者!」
伯爵「今更、この島が豊かになったから、この島を治めたいだと?」
伯爵「今の貴様に、この島を譲る道理はない!」
警備隊長「……」
子爵「父上、それは出来ぬ相談です」
子爵「今の私は、資金ぶりにもかなり苦労しているのです」
子爵「何故なら、今の私は貴方の嫡男だ!」
子爵「嫡男なら、それを相続する権利や義務がある!」
伯爵「……」
子爵「もうここらで、父上には退いて貰う!」
子爵「本日から、この島は私の領地だ!」
子爵「だから、ハーフエルフも全て殲滅をするのだ!」
警備隊長「……」
伯爵「……」
警備隊長「子爵様、もうこれ以上はお止め下さい!」
警備隊長「今の貴方がなさっているのは、ただの謀反だ!」
警備隊長「嫡男なら嫡男らしく、その時が来るまでお待ち下さい!」
警備隊長「今の貴方は、ただの愚か者だ!」
警備隊長「お父上を殺害して、民達が着いてくるとお思いか?」
伯爵「……」
子爵「黙れ! このカーネルの犬めが!」
子爵「私は、幼き頃よりずっと苦労してきた!」
子爵「我が一族の名を聞けば、皆が私の事を蔑みだす!」
子爵「今まで、私はずっとそれに苦しんできた!」
子爵「貴様なんかに、この私の苦しみが分かるものか!」
警備隊長「……」
伯爵「何だ、たったそれだけの事か」
伯爵「たったそれだけの事で、今の貴様は謀反を起こしてるのか?」
子爵「!?」
伯爵「言っとくがな、私は貴様以上に幼き頃より苦労してきた!」
伯爵「貴族でありながら、貴族とは思えぬ極貧生活!」
伯爵「この島では、身分すら関係がなく皆が同じ物を食べてきた!」
伯爵「時には、深刻な食料難が襲い、民達が次々と私の目の前で飢えて死んでいった!」
子爵「……」
伯爵「だから、今の私はカーネルがこの島に生まれた時、xxxxxx司教と共に強く誓った!」
伯爵「今後、我らはハーフエルフを決して迫害をしてはならない!」
伯爵「カーネルのおかげで、この島は再び救われた!」
伯爵「今この私の元に仕えているカーネルは、過去に一度この島を救ったハーフエルフの生まれ変わりなのだ!」
子爵「!?」
伯爵「貴様、その事を知らずにカーネルの事を追い出そうとしていたのか?」
伯爵「カーネルは、たとへどんなに自身が蔑まれようがそれに耐えておる!」
伯爵「私も、この島の過去を知る住民達も、カーネルの事を追放するつもりはない!」
伯爵「そんな事を言っているのは、それを知らぬ者達のみだ!」
伯爵「特に、各地から流れて来たりする者達がな!」
子爵「父上、貴方はやはりカーネルによって毒されている!」
子爵「貴方達が見たのは、ただの幻だ!」
子爵「たった一人のハーフエルフに、一体何が出来る?」
子爵「父上も、いい加減カーネルの事を神格化するのをお止め下さい!」
警備隊長「……」
伯爵「ふん。はざけ、ほざけ!」
伯爵「いくら、貴様がそれを否定しようと、その事実は変わらん!」
伯爵「私は、それをこの目でずっと見てきた!」
伯爵「今の貴様と違って、今の私は完全に正常なのだ!」
警備隊長「……」
子爵「父上、こんなに言ってもまだ分かっては下さらないのですか?」
子爵「父上は、あのカーネルによって完全に騙されているのです!」
子爵「元々、母上もハーフエルフの事を信用すらしていなかった!」
子爵「それが原因にて、母上と離婚!」
子爵「今でも母上は、この島に住むハーフエルフ達の事を、大いに嫌っております!」
伯爵「ほう、あの腐れアマがか?」
伯爵「あの腐れアマ、まだ生きていたのか?」
伯爵「どうせ、あの腐れアマの事だ、今の私が良い暮らしをしているからそれを妬んでいるのだろ?」
伯爵「今の貴様に、この島を相続する権利は微塵もない!」
伯爵「この島は、いずれ別の者が支配する事になるのだ!」
伯爵「それについては、国王陛下にもそう文書で伝えてもおる!」
子爵「!?」ガーーン
伯爵「だから、今の貴様がこの私を殺したとて無駄な事だ!」
伯爵「そもそも、離婚してすぐ母と共にこの島を去った貴様に、この島を相続をする権利はない!」
伯爵「私は、カーネルが生まれてすぐそれをしといた!」
伯爵「カーネルは、この島の繁栄には絶対に欠かせぬ存在!」
伯爵「それを欠けば、再びこの島は即刻地獄と化す!」
伯爵「それだけ、カーネルはこの島ではとても重要な存在であり、この島の住民達もカーネルには何の手出しはしていないのだ!」
子爵「……」プルプル
警備隊長「……」
そう子爵に言っとかないと、今後の自分達(島の住民達含む)の生活が成り立たなくなりますから。
偶々、その場に警備隊長もいましたし、ハーフエルフ絡みで魔女が全く耐えきれてない事は、伯爵自身もよく知っています。
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
ピタッ、カシャン……
敵兵長「伝令!」
敵兵長「カーネルの軍勢が、再びここにまで接近!」
敵兵長「各地にいた味方は、既に全滅!」
敵兵長「まもなく、ここにまで到達する模様です!」アセアセッ
子爵「くっ……」プルプル
伯爵「子爵、もう諦めよ!」
伯爵「いずれ、カーネルは貴様の事も捕縛するであろう!」
伯爵「今の貴様は、本当に数多くの血を流させた!」
伯爵「だから、絶対にカーネルの差し向けた追っ手からは、逃げ切る事は出来やしない!」
子爵「……」プルプル
敵兵長「子爵様、如何致しますか?」
敵兵長「このままでは、全滅です!」
敵兵長「今の我らには、完全に勝気はありません!」アセアセッ
警備隊長「子爵様、もうお止めなさいませ!」
警備隊長「今の貴方は、まだ若い!」
警備隊長「こんな所で、人生を棒に降るのは勿体ない!」
子爵「……」プルプル
警備隊長「だから、どうか今すぐ投降をしてください!」
警備隊長「時期に、カーネルもここに到着を致します!」
警備隊長「今ならまだ間に合います!」
警備隊長「子爵様、早く投降して下さい!」
子爵「……」プルプル
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
ピタッ、カシャン……
敵兵長2「伝令!」
敵兵長2「カーネルの率いる軍が、門前にまで到達!」
敵兵長2「その数、およそ200!」
敵兵長2「我が軍は、完全に包囲されています!」アセアセッ
敵兵長「子爵様、どうかご決断を!」
敵兵長「このままでは、我らは全滅をしてしまいます!」
敵兵長「やはり、本日に攻め込むのは無理がございました!」
敵兵長「賢者様がいない今、我らだけでは到底無理な様です!」アセアセッ
子爵「……」プルプル
伯爵「貴様、あの賢者とも通じておったのか?」
伯爵「あの者は、執拗にこの私にカーネルと縁を切れと訴えてきた」
伯爵「だが、今の私がカーネルと縁を切るつもりはないと知ると、xxxxxx司教にも同様な事をしていた!」
伯爵「その所為で、今のあの者は謹慎中の身」
伯爵「本当に、今の貴様は愚か者の様だな」
子爵「……」プルプル
警備隊長「子爵様、もう勝ち目はございません!」
警備隊長「ご自身の率いる兵と共に、今すぐ投降をされよ!」
警備隊長「今なら、まだ間に合います!」
警備隊長「今こちらにいらっしゃる伯爵様も、寛大な措置を取って頂ける様です!」
伯爵「子爵、もう諦めよ!」
伯爵「このまま行くと、今の貴様が待っているのは死あるのみぞ!」
伯爵「今回は、特別に寛大な措置を取ってやる!」
伯爵「だから、早く貴様は投降をするのだ!」
子爵「……」プルプル
敵兵長「子爵様、カーネルの軍勢が迫ってきております!」
敵兵長「もう時期、ここにまで到達をする頃でしょう!」
敵兵長「出来れば、早めにご決断をして頂きたい!」
敵兵長「今の私には、妻や子供もいる!」
敵兵長「出来れば、早く決断して頂きたい!」アセアセッ
子爵「……」プルプル
ガシャ----ン!……
ワーーッ、ワーーッ!……
キンキン、キンキン……
ダダダダッ、ダダダダッ……
ズバッ……
ズバッ、ズバッ……
「ぎゃああああああああーーーーーーーーっ!?」
ダダダダッ、ダダダダッ……
キ----ン!
子爵「……」プルプル
伯爵「……」
警備隊長「それで、どうなさるのです?」
警備隊長「この邸内に、私の部下が流れ込んで参りました!」
警備隊長「いずれ、カーネルはここにまで到達を致します!」
警備隊長「出来れば、早く決断をして頂きたいのですが?」
子爵「……」プルプル
キンキン、キンキン……
ズバッ、ズバッ……
「ぐわああああああああーーーーーーーーっ!?」
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
ピタッ、カシャン……
敵下士官「申し上げます!」
敵下士官「カーネルの軍勢が、邸内に流れ込んで参りました!」
敵下士官「敵の数が、かなり多過ぎます!」
敵下士官「早く、早くご撤退を!」
敵下士官「カーネルが、もう既にそこまでーー!?」アセアセッ
シュン、グシャッ……
敵下士官「ぐはっ……!?」
敵下士官「……」グラッ、ゴテッ
敵兵長達「!?」
伯爵「なっ、何事だ!?」
子爵「……」プルプル
敵兵長「し、子爵様……早くお逃げを……」
敵兵長「カーネルが……カーネルが……」ガクガクッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ピタッ、ササッ……
魔女「遅れて申し訳ございません。伯爵様」
魔女「カーネル・ジュリエット、只今参上致しました」
子爵「!?」プルプル
敵兵長達「……」ガクガクッ
警備隊長「……」
伯爵「ご苦労、カーネル」
伯爵「まだ、午前九時の鐘は鳴っとらんぞ」
伯爵「今のそなたは、朝から色々と走り回っていた様だな」
伯爵「そなたのする事、しっかりと全てこの私の耳にも入っておる」
子爵「……」プルプル
魔女「はっ、今私が謝罪したのは、この様な事態が起きていたのにも関わらず、救援が遅れた事についてです」
魔女「本来なら、今の私は極刑もの」
魔女「言い訳がましいかもしれませんが、勇者xxxを捜索中に今回の事件の知らせを受けたのでございます」
伯爵「うむ、そうか」
伯爵「相変わらず、そなたはよくこの島を走り回っておるな」
伯爵「して、勇者xxxのいどこは?」
伯爵「勇者xxxは、もう捕縛したのか?」
敵兵長達「……」ガクガクッ
魔女「はっ、未だ勇者xxxは捕縛しておりません」
魔女「ですが、今現在の勇者xxxは新たに加えた仲間二名と共に、この島の現在は使用されていない山上沿いの鉱員住宅に潜伏」
魔女「その中に、恐れ多くも執拗に伯爵様に付き纏っていた賢者殿の姿も確認され、今現在は別件にて捕縛中」
魔女「勇者xxxについては、まだ様子見の段階となっております」
子爵「……」プルプル
伯爵「ふむ、そうであったか」
伯爵「まさか、あの賢者が勇者とも関わり合いがあったとはな」
魔女「……?」
伯爵「……」ポリポリ
伯爵「……」スチャッ、カシャン
伯爵「カーネル。これより、新たな命令を下す!」
伯爵「即刻、別件でも賢者を捕縛せよ!」
伯爵「罪状は、本日の謀反に加担した罪!」
伯爵「それで、賢者及び今ここにいる子爵達を捕縛するのだ!」
子爵「……」プルプル
魔女「はっ、了解致しました」
魔女「これより、子爵様を捕縛させて頂きます」
魔女「他の者達も、捕縛致しますか?」
魔女「まだまだ、本日の謀反に加担した者達がいるはず」
魔女「今の私には、その様にしか全く思えないのですが」
敵兵長達「……」ガクガクッ
伯爵「ふむ、そうだな」
伯爵「その辺については、今のそなたに任せるとしよう」
伯爵「それで、まだ生き残りはいるのか?」
伯爵「まだ、各地で戦闘は繰り広げられているのか?」
魔女「はい、そのまさかです」
魔女「今現在、邸内以外にも各地で戦闘が繰り広げられております」
魔女「今の所、我が軍に敵う者なし」
魔女「司教様の元に差し向けられていた刺客達は、全て始末済みでもあります」
子爵「……」プルプル
伯爵「おおっ、さすがだ」
伯爵「そなたは、本当によく私の為に働いてくれる」
伯爵「それと、例の件については大魔導師から聞き及んでおるか?」
伯爵「そなたには、より一層この島の為に働いてもらう!」
伯爵「今のそなたは、この島に住む二千の民達の命運を握っておるのだ!」
警備隊長「……」
魔女「はっ、存じ上げております」
魔女「その件につきましても、大魔導師様から聞き及んでおります」
魔女「ですが、私の様な者が本当にその様な地位に就いても宜しいのでしょうか?」
魔女「どちらかと言うと、今の私には過ぎたるものとお思いますが」
伯爵「ふふっ、ふはははっ……」
伯爵「ふはははっ、ふはははっ……」
伯爵「カーネル、安心せよ!」
伯爵「今のそなたは、それに相応しいものを多数兼ね備えておる!」
伯爵「これについては、国王陛下はおろかエルフの里の族長ですら承認済み!」
伯爵「そなたには、昔からよく世話になった」
伯爵「だから、これは今までの事に対するそなたへの褒美なのだ!」ドヤッ
敵兵長達「……」ガクガクッ
魔女「はっ、しかと承りました」
魔女「今後も、私はより一層この島の住民達の為に尽くしていく所存です」
魔女「ですので、今後もどうか宜しくお願い致します」
魔女「たとへ、この私が過ぎたる地位に就きましても、これまでの上下関係には何も変わりません」
魔女「今の私は、今後も伯爵様の臣下であり続けます」
魔女「この島に生まれた時から、私の主君は伯爵様でございます」
警備隊長「……」
伯爵「うむ。合い分かった」
伯爵「早速、子爵を捕縛して下がられよ」
伯爵「あっ、そうそう、大魔導師に会ったらすぐにここに来る様に伝えてくれ」
伯爵「あの者に貸した100万g」
伯爵「まだ、私はそれを返して貰ってないのだからな」
魔女「はっ、仰せのままに」
警備隊長「……」スッ
子爵「……」シュルシュル
敵兵長達「……」シュルシュル
警備隊長「……」サッ、ササッ
伯爵「……」
魔女「……」
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
ピタッ、カシャン……
「申し上げます!」
支援有り難うございます。
伯爵「む? お主か」
伯爵「一体、何があった?」
魔女「……」
執事「はっ、恐れながら申し上げます!」
執事「たった今、大魔導師様がここにまでご到着!」
執事「至急、旦那様にお目通りをしたいと、仰せになっております!」
魔女「……」
伯爵「うむ。そうか」
伯爵「大魔導師を、ここへ連れて来い!」
伯爵「カーネルは、子爵達を駐屯地内にてすぐに拘留!」
伯爵「今回、捕縛した者達全員から徹底的に尋問をせよ!」
魔女「はっ、仰せのままに」ペコッ
警備隊長「……」
執事「……」チラッ
魔女「……」ササッ
魔女「警備隊長。表に、中隊が二つ展開している」
魔女「貴方は、引き続きその中隊二つを率いて伯爵様の警護」
魔女「残り四つは、船着き場、病院、炭鉱周辺、各主要道路に展開」
魔女「本隊は、まだ一部の弓隊を除いて駐屯地内にて待機してるわ」
伯爵「!?」
魔女「それと、今回の死者は計25名」
魔女「昨日の死者と合わせても、50名は越えている」
魔女「だから、今の貴方は十分注意して行動をしなさい」
魔女「“今回は、偶々相手が悪かっただけ”と言う言い訳は、私は絶対に聞きたくない」
魔女「今回の事を教訓に、新たな部隊や規定等を新設するから、覚悟しといてよね」
警備隊長「はっ、了解致しました!」ビシッ
伯爵「……」チラッ
執事「……」コクン
魔女「……」
子爵「……」プルプルッ
執事「では、カーネル、参りましょう」
執事「カーネルは、大魔導師様とお会いになられますか?」
執事「それとも、このまま業務をご継続なされますか?」
伯爵「……」
魔女「ええ、そのつもりです」
魔女「子爵様には大変お気の毒ですが、民達の混乱は必死の模様」
魔女「今回の件、民達にもすぐさま公表をしなくてはなりません」
魔女「勇者一行がまだ捕らえられていない今、更なる第二第三の本日の事件が起きかねませんから」
子爵「……」プルプルッ
執事「そうですか」
執事「その辺につきましては、まだご公表はお止め下さい!」
執事「今回の件は、子爵様が大いに絡んで参ります!」
執事「下手をすれば、旦那様のお命だけでなく大勢の民達の命までもが危うい!」
執事「ですから、旦那様の沙汰が出るまで公表は控えて頂きたい!」
子爵「!?」
魔女「ええ、かしこまりました」
魔女「民達には、今回の件は伏せさせて頂きます」
魔女「ですから、執事様はどうかご安心を」
魔女「子爵様のお身柄に関しましては、丁重に扱わさせて頂きます」
子爵「……」プルプルッ
伯爵「カーネル。すまんな」
伯爵「お主には、昔から世話を掛ける」
伯爵「子爵に関しては、沙汰が出次第すぐに伝える」
伯爵「それまでの間は、民達には何も伝えんでくれ」
伯爵「これは、私からの命令だ」
魔女「はっ」ペコッ
執事「では、行きましょうか? カーネル」
執事「警備隊長。この者達をすぐに外に」
執事「これから、私は後片付けに入ります」
執事「カーネルには、その際の人員の手配をして頂きたい」
魔女「ええ。かしこまりました」
魔女「それでは、伯爵様失礼致します」
魔女「何かまた起きましたら、すぐにお申し付け下さい」
魔女「ここにいる警備隊長が、本日より伯爵様の身辺警護をなさいますので」
伯爵「合い分かった」
警備隊長「……」
魔女「……」ペコッ
執事「……」ペコッ
クルッ、スタスタスタッ、スタスタスタッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
警備兵達「……」ササッ
子爵「……」ムクッ
敵兵長達「……」ムクッ
クルッ、スタスタスタッ、スタスタスタッ……
伯爵「……」ポリポリッ
メイド長「失礼致します」
メイド長「旦那様。役場の担当者から、使者が来ております」
メイド長「今回の事件についてで、旦那様に問い合わせをしたい」
メイド長「そう、民達からの陳情が多く寄せられている様です」
伯爵「……」
メイド長「旦那様。如何致しますか?」
メイド長「役場からの使者だけでなく、民達からの陳情も多く寄せられていますが」
警備隊長「……」
伯爵「……メイド長」
伯爵「役場からの使者達には、こう伝えよ」
伯爵「今回の事件は、勇者xxx絡み」
伯爵「よって、明日の裁判が終わるまでの間は公表を差し控える」
伯爵「そう、民達にも伝えておけ」
メイド長「……え?」
メイド長「この私めがですか?……」
伯爵「うむ。そうだ」
伯爵「役場からの使者なら、そなたでも十分だ」
伯爵「私は、これから色々とする事がある」
伯爵「さすがの私も、あの娘には敵わん!」
伯爵「あの娘は、本当によく働いてくれるからな!」
伯爵「ふはははっ!」ニコニコ
警備隊長「……」
メイド長「……」ポカーーン
伯爵「あっ、そうそう」
伯爵「そなたのすぐそこにいる警備隊長は、本日から私の身辺警護に回る様だ」
伯爵「これについても、全ての原因はあの愚か者の所為」
伯爵「なぁに、心配は入らん」
伯爵「あの娘が、私の身を案じてこの者を私の身辺警護へと着けてきた!」
伯爵「今のそなたにも、今のそなたが望めば身辺警護を着けるぞ!」
伯爵「何故なら、今のそなたの体はそなた一人のものではないのだからな!」ニコニコ
メイド長「はっ、かしこまりました!」
メイド長「慎んで、承ります!」
メイド長「それと、旦那様……」
メイド長「少しばかり、この私めの我が儘を聞いては頂けませんでしょうか?……」
メイド長「今の私、カーネルの事が怖いです……」
メイド長「いつ、旦那様にカーネルが牙を向くかと思うと、物凄く怖いのです……」
伯爵「ふむ、それで?」ニコニコ
メイド長「ですから、旦那様はカーネルばかりに気を取られていないで、私めの方も今まで以上に大事に扱って下さい!」
メイド長「今の私は、ただの一介のメイド!」
メイド長「本来なら、この様な私めの我が儘を旦那様は聞いては頂けません!」
メイド長「今の私は、本当に死ぬ覚悟でそう旦那様にお願い申しております!」
メイド長「ですので、今の私めの態度が気に入らなければ、このまま私めの事もすぐにお裁き下さい!」
メイド長「今の私めは、旦那様までもがカーネルに奪われるのではないかと怖いのです!……」
メイド長「これから先、カーネルはずっと今後も戦い続けます!……」
メイド長「いつ、旦那様がお命を落とされるかもしれなくて、かなり不安なんです!……」
伯爵「うむ。そうか」
伯爵「そなたの気持ちは、よく分かった」
伯爵「だが、あの娘の事で何も心配をする必要はない!」
伯爵「あの娘は、完全に私の隷下にいる!」
伯爵「あの娘は、絶対にこの私を裏切らん!」ドヤッ
メイド長「……」
伯爵「とりあえず、そなたはすぐに使者達に対して、私からの伝言を伝えよ」
伯爵「それが終わった後、そなたは通常の業務にすぐ戻ってくれ」
伯爵「ここから先は、全て私の役目だ」
伯爵「今のそなたは、普段と変わらない平穏な日常を送っていれば良い」
伯爵「それを死力を尽くして守るのが、今の私の役目でもあるのだからな!」ドヤッ
メイド長「はっ、かしこまりました」
伯爵「うむ、下がって良い」
メイド長「……」ペコッ
クルッ、スタスタスタッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ピタッ、ササッ……
執事「旦那様。大魔導師様をお連れ致しました」
執事「何か、他に私めに申し付ける事はありますでしょうか?」
大魔導師「……」
伯爵「うむ。特にないな」
伯爵「お主も、通常の業務に戻るが良い」
伯爵「それと、暫くの間は誰も私の部屋に通すな」
伯爵「これから、大魔導師殿と二人っきりで話がある」
伯爵「だから、緊急の用件以外は絶対に通すでないぞ」
執事「はっ、仰せのままに!」ペコッ
警備隊長「……」ビシッ
大魔導師「……」
クルッ、スタスタスタッ……
ガチャ、バタン……
伯爵「して、大魔導師殿」
伯爵「本日は、どう言ったご用件かな?」
伯爵「また、この私に対する金の無心か?」
伯爵「それとも、貴殿の教え子達の事か?」
大魔導師「……」
伯爵「まぁ、今の貴殿の事だから、自身の教え子達の事であろう」
伯爵「今の貴殿は、“正に、惜しい人物を自らの犯した過ちで手放してしまった!”」
伯爵「特に、貴殿が本気で可愛がっていたハーフエルフ」
伯爵「そう、カーネル・ジュリエット唯一人に関してはな!」
大魔導師「……」
スッ、カシャン……
トポポポッ……
スッ、ゴクゴクゴクッ……
伯爵「ふぅ……」
スッ、ストン……
大魔導師「伯爵殿。今回、儂が参ったのはある目的の為じゃ!」
大魔導師「どうか、今から儂が話す内容については、絶対に他言無用でお願い致す!」
大魔導師「でなければ、この島にも存在する多数の刺客達が、すぐにでもあの娘の命を狙う!」
大魔導師「今のあの娘は、人からの恨みを買い過ぎてしまった!」
大魔導師「今はなんとか、貴殿の後ろ楯があるから何もされずに済んでいる状態なのじゃ!」
伯爵「……」
大魔導師「伯爵殿、どうかあの娘の事を儂と共に今後も守ってやってほしい!」
大魔導師「実は、今しがた起きた事件に関しては、儂の倅も深く関与しておる!」
大魔導師「どうやら、あの娘の命を狙う輩が多数王都には存在!」
大魔導師「伯爵殿にも、その件についてでこの儂にお力添えをして頂きたい!」
大魔導師「その事についてで、今の儂は再び貴殿の元にまで馳せ参じたのじゃ」
伯爵「……」
スッ、カシャン……
トポポポッ……
スッ、ゴクゴクゴクッ……
伯爵「大魔導師殿、貴殿にとってあの娘は何なのだ?」
伯爵「自身が育てた可愛い教え子か?」
伯爵「それとも、自身の欲望の捌け口となる性奴隷か?」
大魔導師「……」
伯爵「今の私は、それを先に聞きたい」
伯爵「貴殿が、あの娘にした仕打ちは私のも耳にも入っている」
伯爵「個人的には、あのまま鹿肉として民達に振る舞われても良い」
伯爵「それだけ、今の貴殿はただの淫獣」
伯爵「あの娘を、私は貴殿の元に再び預けなくて良かった」
伯爵「あの娘が、必死になって“お主の元に帰りたくない”と、この私に泣きついてきたのも今では納得がいくな」
大魔導師「……っ!」ギリッ
伯爵「……っ!」ギリッ
バチバチバチッ……
大魔導師「……」ギリギリッ
伯爵「……」ギリギリッ
大魔導師「伯爵殿、今の貴殿は何か誤解をしておる!」
大魔導師「今の儂は、決して同じ過ちを繰り返すつもりはない!」
大魔導師「つい先程、私はあの娘の前でそう誓った!」
大魔導師「今の儂は、貴殿が思っておる程淫獣ではない!」ギリギリッ
伯爵「……」ギリギリッ
大魔導師「それに、今回儂がここに来たのはあの娘を助ける為じゃ!」
大魔導師「何度も同じ事を言うが、今の儂は昔の儂と違う!」
大魔導師「何故なら、今の儂はあの娘にとっては必要不可欠!」
大魔導師「今後のあの娘の運命を、大きく左右する程の存在なのじゃぞ!」ギリギリッ
伯爵「……」スッ、ストン
カチャ、チャキ……
伯爵「なら、ここに来る前の風呂屋巡りはどう説明するのだ?」
伯爵「ここへ来る途中、貴殿は風呂屋巡りをしていた」
伯爵「それについては、一体どう説明するつもりなのだ?」ギリギリッ
大魔導師「……」ギリギリッ
伯爵「大魔導師殿、今の私が何も知らないと思っておるのか?」
伯爵「ここへ来る途中、貴殿が娼館の方にも足を運んでおった事を知らぬとでも思ったか?」ギリギリッ
大魔導師「!?」ガーーン
伯爵「その時の私は、貴殿に対してかなり失望した!」
伯爵「せっかく、貴殿がここに来た暁には何か慰めの余興を用意しようと思っていたが、全てが白紙となった!」ギリギリッ
大魔導師「……」ギリギリッ
伯爵「それで、貴殿は一体どう説明するのだ?」
伯爵「今の貴殿に、あの娘の事を本当に守る事が出来るのか?」ギリギリッ
大魔導師「出来る!」ギリギリッ
伯爵「なら、今の貴殿は今までの様に裏方に回られよ!」
伯爵「私は、貴殿と違って今まで通りに表だってあの娘を守る!」
伯爵「あの娘は、この島に住む民達にとっては恩人だ!」
伯爵「今の私とて、あの娘に対して強い恩義を感じておる!」
伯爵「貴殿と違って、今まで私はあの娘に一切手出しすらしていない!」ギリギリッ
大魔導師「……」ギリギリッ
大魔導師「伯爵殿、それは出来ぬ相談じゃ!」
大魔導師「儂も、今回は表だって動かさせて貰う!」
大魔導師「今の儂には、もう完全に後がないのじゃ!」
大魔導師「ただでさえ、つい先程までの騒動の中に儂の倅が深く関わっていた!」
大魔導師「王都にいる何者かが、あの娘を潰す為に本格的に動き始めたのじゃ!」ギリギリッ
伯爵「何!?」ギリギリッ
大魔導師「じゃから、今回は儂も表だって動かさせて貰う!」
大魔導師「でないと、あの娘は確実に殺されてしまうぞ!」
大魔導師「今回は、まだこれだけの騒ぎで済んだまでじゃ!」
大魔導師「時期に、王都の方にも何か再び動きがあるはず!」
大魔導師「それだけ、今のあの娘は遥かに危険な状態にあるのじゃ!」ギリギリッ
伯爵「……」ギリギリッ
大魔導師「……」ギリギリッ
トントン、トントン……
伯爵「何だ?」ギリギリッ
「旦那様、王都からの使者がお見えです」
「至急、旦那様にお話がしたい」
「そう、王都からの使者が申しておりますが」
大魔導師「くっ……」ギリギリッ
伯爵「……合い分かった」
伯爵「これから、そちらに向かう」
伯爵「今はまだ、門前にいるのか?」
伯爵「それとも、もう応接室にいるのか?」
大魔導師「……」
「はい。今はまだ、門前にいらっしゃいます」
「ですが、見るからに少し怪しい雰囲気が」
「その方は、王都からの使者と名乗るだけで、他は一切話そうとは致しません」
大魔導師「……」
伯爵「うむ。そうか」
伯爵「これは、少し何かありそうだな」
伯爵「お主、その王都からの使者を応接間に案内しろ」
伯爵「その者は、本当に王都から来た者かどうかは、実際に会って確かめなくてはならん」
伯爵「それと、大魔導師殿。貴殿も、一緒に参加されよ」
伯爵「その方が、何かと動きやすい」
伯爵「今日の儂は、何かの策謀によって命を狙われた!」
伯爵「今回の席に、大魔導師殿や警備隊長が同席しても、何も問題はないのだからな!」
「!?」
大魔導師「了解した」
大魔導師「儂も、今回は同席をいたそう」
大魔導師「ささっ、伯爵殿。そろそろ行きましょうか」
大魔導師「あまり長く客人を待たせるのは、失礼に当たります」
大魔導師「今の儂がいれば、伯爵殿も安心できますからな」
伯爵「うむ、そうですな」
「くっ……」ギリギリッ
ガチャ……
ギギィーーーーッ、バン!
ダダダダッ、ダダダダッ……
大魔導師「むっ!」
スチャ、キーーン!
キンキン、キンキン!
伯爵「……」ギリギリッ
刺客「……」ギリギリッ
大魔導師「……」ブツブツ
ボワッ、ボワッ!
刺客「ぐわっ!?」
刺客2「どわっ!?」
刺客3「くそっ!?」
ドサドサッ、バタッ……
伯爵「……」スチャ
側近「……」ギリギリッ
伯爵「お主、一体何のつもりだ?」
伯爵「まさか、お主まで私の命を狙っておるのか?」
側近「……」
伯爵「相変わらず、お主も馬鹿な奴だ!」
伯爵「今まで、散々あの娘には世話になってきた!」
伯爵「今のお主は、再びこの島の民達を飢えさせたいのか?」
伯爵「あの娘なくして、一体どうこの島を治めると言うのだ!」
大魔導師「……」
側近「……伯爵様」
側近「やはり、今の貴方様はカーネルに毒されている!」
側近「このまま、カーネルの事を見逃す事は出来ない!」
側近「たとへ、カーネルがこの島の恩人の生まれ変わりであったとしても、もうこれ以上は我慢出来ないのです!」ギリギリッ
大魔導師「……」
伯爵「ほぅ、それでか……」
伯爵「お主も、愚息同様にこの私に歯向かうつもりなのか?……」
側近「ええ、そのつもりです……」
側近「伯爵様には、本当に長い間私は仕えて参りました……」
側近「時には、同じ場所で寝食を供にし、敵が来ればお互いに協力をし合って打ち勝ってきた……」
側近「ですが、もうそれも本日で終わりです!……」
側近「伯爵様が無理なら、カーネルにはこの島から完全に立ち退いて貰う!……」
側近「それが、今の我々の目的!」
側近「国王陛下自身も、勇者一行によるカーネル討伐を強く望んでおります!」
大魔導師「!?」ガーーン
伯爵「……」ギリギリッ
側近「ですから、もうこれ以上伯爵様は我々の邪魔をしないで頂きたい!」
側近「この島の統治は、本日を持って子爵様に代替わりをして頂きます!」
側近「それについても、もう既に国王陛下も承認済み!」
側近「今の貴方は、全ての爵位も財産等も奪われた!」
側近「だから、もうこれ以上我々の邪魔をしないで頂きたい!」
伯爵「……」ギリギリッ
「う~~ん。ちょっと、それ無理かな」
「今の私、物凄くあんたの事が気に入らないんだけど」
側近「!?」ハッ
「つうかさぁ、あの糞国王が本当にそんな事を望んでると思うの?」
「以前、私がエルフの里の族長と一緒に例の条約の調印に行った時、本気でずっと泣き怯えていた」
「それはもう本当に子供みたいに、王妃様の後ろに隠れてずっと泣き怯えていたのに」
大魔導師「……」
「とりあえず、今あんたが言っている事は全て出鱈目みたいね」
「でも、それを今ここで強行をするのなら、あんたの命はない!」
「私が仕えるのは、そちらにいらっしゃる伯爵様のみ!」
「だから、今のあんたは覚悟しなさい!」
「伯爵様に牙を向いた罪、今この場で私が後悔させてあげるわ!」シュタッ
側近「なっ!?」
魔女「……」スチャ、ダッ
ザシュッ……
側近「ぐはっ……!?」
ザシュッ、ザシュッ……
プシューーーーッ!
側近「……ぐあっ!?」
シュッ、プシューーーーッ!
ドサッ、バタッ……
側近「……」ピクピクッ
魔女「……」ポタポタッ
大魔導師「……ジュリエット。聞いていたのか?」
大魔導師「今の儂らの話を、全て聞いておったのか?……」ビクビクッ
魔女「はい」ポタポタッ
大魔導師「一体、いつからじゃ?」
大魔導師「お主は、あのままここを出たはずではなかったのか?」ビクビクッ
伯爵「……」
側近「……」ガクッ
魔女「う~~ん。きっかけは、執事様がこの部屋に来た時からでしたね」
魔女「執事様、何やら怪しげな動きをなさっておりましたから」フキフキ
伯爵「!?」ガーーン
魔女「それに、伯爵様が夜のベットの上でお食べになったメイド長も、とても王都より遣わされた優秀なスパイ」
魔女「彼女は、伯爵様の子供を身籠ってはおらず、実際の父親は子爵様の方」
魔女「どうやら、本格的に今の私の事を消したい人達が、ずいぶん多いみたいですね」
魔女「ここの邸内、スパイの巣窟でした!」
魔女「それについても、全て私の手によって捕縛させて頂いております!」ニッコリ
伯爵「!?」ガーーン
大魔導師「orz……」ズーーン
魔女「あっ、それと大魔導師様」
魔女「大魔導師様の方にも、複数の女スパイが配置されてましたよ!」
魔女「例えば、ここに近い本土の港町とか」
魔女「大魔導師様が訪れたお風呂屋さんとか」ニコニコ
大魔導師「!?」ガーーン
魔女「まぁ、そう言う事ですから、大魔導師様達は今後十分気を付けて下さいね!」
魔女「今の私、お二人にまで裏切られたら何も残りませんから!」
魔女「ただでさえ、世間からは冷たい風を受けているのに……」
魔女「お二人にまで裏切られたら、今後私が何をするかが全く見当がつきませんから!」ニコニコ
伯爵「……」
魔女「ですから、大魔導師様は今後は女遊びも控えて下さいね!」
魔女「今の大魔導師様、完全に性病に掛かってらっしゃいますよ!」
魔女「それも、かなり重度の……」
魔女「この分じゃ、今夜私と添い遂げる事すら夢のまた夢!」
魔女「今の私、過去にニ度も大魔導師様には裏切られてますし……」
魔女「今後こそ、私は大魔導師様の事を信用しても宜しいのでしょうか?……」ウルウルッ
大魔導師「……」ビクビクッ
伯爵「……」チラッ
大魔導師「……」ビクビクッ
魔女「……」ジーーッ、ウルウルッ
大魔導師「……ジュリエット」
大魔導師「本日のお主の行動、誠にご苦労じゃった」
大魔導師「やはり、お主は儂が直々に育てた甲斐があった」
大魔導師「今のお主は、本当に良い働きをしてくれる」
魔女「……」ウルウルッ
大魔導師「ジュリエット。儂は、本当にお主の事を誇りに思うぞ」
大魔導師「今まで、数多くの弟子を取ってきたが、お主だけが常に一番」
大魔導師「それだけ、今の儂はお主の事が大事」
大魔導師「今後も、儂はお主の事を表立って守る事になるじゃろう」
魔女「……師匠?」ウルウルッ
大魔導師「じゃから、儂が今性病に掛かっておるとか言わないでおくれ!」
大魔導師「儂は、儂はそんな事を絶対に信じとうにない!」
大魔導師「それについては、絶対に今のお主による勘違い!」
大魔導師「今の私は、決してどこも悪くない!」
大魔導師「今の儂から女遊びを取ったら、一体何が残ると言うのじゃ!」ウルウルッ
伯爵「……大魔導師殿。今の貴殿が、それを認めたくないのも分かる気がする」
伯爵「だが、それも事実なのだ!」
伯爵「私の元にも、今の貴殿が性病に掛かったと言う報告が上がっておる!」
伯爵「その治療の為に、今の貴殿が多額の金をつぎ込んでいる事も、今の私やカーネルも十分承知しているのだ!」
大魔導師「!?」ガーーン
魔女「ええ、そうですね」
魔女「伯爵様のおっしゃる通りですね」
魔女「今の師匠、本当に性病に蝕まれていますよ」
魔女「それが原因で、今の師匠は違う意味で命が危ういんですけど」フキフキ
大魔導師「……」ウルウルッ
伯爵「やはり、貴殿は今回も裏方で十分だな……」
伯爵「このままでは、確実に足手まといになるな……」
大魔導師「……」ウルウルッ
伯爵「まぁ、それはそれで仕方ない事……」
伯爵「いずれ、貴殿にも表立って活躍するチャンスくらいある……」
伯爵「とりあえず、カーネル」
伯爵「子爵一味を、完全に全て捕らえよ!」
伯爵「国王陛下には、私の方から抗議しておく!」
伯爵「だから、カーネルは子爵一味を全て捕らえよ!」
伯爵「勿論、勇者一行も今すぐにな!」
魔女「はっ!」ペコッ
大魔導師「……」ウルウルッ
伯爵「それと、カーネル」
伯爵「少し、お主の兵を貸しては貰えぬか?」
伯爵「私は、明日の裁判が終わり次第、国王陛下の元に抗議しに行くつもりだ!」
伯爵「お主は、その間この島を守備せよ!」
伯爵「これは、私からの命令だ!」
魔女「はい。かしこまりました!」
大魔導師「……」ポロポロッ
警備隊長「……」ヌッ
警備隊長「伯爵様。明日の出立には、この私が同行致します」
警備隊長「それに関する兵力は、歩兵600に弓兵200」
警備隊長「後は、支援兵が200程付き従います」
伯爵「!?」
警備隊長「場合によっては、カーネルから援軍が差し向けらる事もあるでしょう」
警備隊長「カーネルの手持ちの兵力は、最大で1万」
警備隊長「その1万の兵を持ってすれば、国王陛下とて無下には出来ません」
警備隊長「明日の交渉も、すんなりと済む事になるでしょう」
魔女「……」
伯爵「……あっ、合い分かった」
伯爵「どこに、一体そんな数の兵を隠しておったのだ?……」
伯爵「今のお主は、本当によく解らぬ……」
伯爵「これも、そこの性病持ちによる度重なる調教の賜物かの?」チラッ
大魔導師「……」ポロポロッ
魔女「……はい。正に、その通りです」ガクッ
伯爵「カーネル。今日は、儂の側にいよ!」
伯爵「今日の所は、お主もまたここに宿泊!」
伯爵「いつ来るか解らぬ刺客達に対する備えを、ここでそこの性病持ちと供に果たせ!」ドヤァ!
魔女「はっ、仰せのままに」
伯爵「さて、そうと決まれば、早速色々と手配の方を頼むぞ!」
伯爵「今後は、お主が出してきた使用人達のみで周囲を固める!」
伯爵「だから、精々首を洗って待っておれ!」
伯爵「今の私には、カーネルがついておるのだ!」
伯爵「カーネルとその師である大魔導師がついておるのだ!」
伯爵「ガハハハッ!」ドヤァ!
魔女「……」ペコッ
大魔導師(まさか、儂の性病持ちが周囲にバレとったとは………)
大魔導師(確実に、今の儂まで命を狙われておる……)
大魔導師(さて、これから本当にどうしたものか?……)
大魔導師(今後、今の儂は生き残る事が出来るのかのぅ?……)ハァ……
魔女自身が、常にトラブルを引き寄せる体質みたいなもので、これについてはどうしようもありません。
大魔導師は人間としか交わらず、野生の鹿達からも何故か本能的に避けられています。
~王都・国王の間~
その日の夜ーー
大臣「何!? 失敗しただと!?」
大臣「誠なのか!? それは!?」
国王「……」
密偵「はっ、それについては誠にございます!」
密偵「今朝の襲撃、カーネルによって阻止されました!」
密偵「その結果、xxxxxxx子爵は捕らえられ、現在も島内のどこかにて拘留!」
密偵「予想外に、カーネルの持つ私兵は大軍でした!」
密偵「その数、およそ1000名以上に上ります!」
国王「……」
大臣「大賢者殿。如何なされる?」
大臣「今の我らに、勝算はあるのか?」
大臣「このまま、我らはカーネルによって攻め滅ぼされるのか?」
国王「……」
大賢者「今の所、何とも申し上げられません」
大賢者「私が知るカーネルは、ただの幼いハーフエルフの少女でした」
大賢者「それが、今ではエルフの里ですら陥落させる程の力の持ち主」
大賢者「今の我らには、カーネルを止める手段は限られております」
国王「……」
大臣「して、その手段とは?」
大臣「今の貴殿には、何か策があるのか?」
国王「……」
大賢者「はっ、恐れながら申し上げます」
大賢者「ここは、カーネルと和睦すべきです」
大賢者「今の我らに、正面からカーネルに立ち向かう力はとてもありません」
大賢者「今現在、勇者xxxですらカーネルによって捕らえられた後」
大賢者「大魔導師は、カーネルによって手玉に取られた“ただの性病持ち”」
大賢者「今の我らには、カーネルに立ち向かえる人材がおりません」
大賢者「ここは、カーネルと和睦する以外に道はないでしょう」
国王「……うむ。分かった」
国王「そちも、カーネルの側に付くのだな」
国王「今の世は、かなり悲しいぞ」
国王「ただでさえ、大魔導師がカーネルによって手玉に取られているのに」
国王「まさか、そちまでもがカーネルによって手玉に取られるとはな」
大臣「……」
大賢者「もし仮に、カーネルと戦うとおっしゃられるなら、今まで以上の犠牲が出る事を覚悟して頂きたい!」
大賢者「今の私は、この国の為を思って申し上げているのです!」
大賢者「このまま行くと、この国はカーネルによって攻め滅ぼされてしまうのですぞ!」
大賢者「ここは一つ、和睦する以外に道はないのです!」
国王「……」
大臣「では、和睦するに至っての条件とは?」
大臣「そこまで言うなら、貴殿の意見をお聞きしたい」
大臣「今の貴殿は、どんな意見をお持ちで?」
大臣「それを元に、カーネルとの交渉を進めていきたい」
大賢者「国王。今から私の言う事を、必ず守って下さるようお願い申し上げる!」
大賢者「今のカーネルは、“長年に渡ってある大きな問題に悩まされて参りました!”」
大賢者「国王も存じているはず!」
大賢者「本来なら、カーネルはエルフの里のとある上級貴族の娘だった!」
大賢者「それが、ハーフエルフだと言う理由でエルフの里を追われ、常に各地を転々としている生活!」
大賢者「未だに、カーネルはこの世をさ迷っております!」
大賢者「今現在のカーネルの悩みを解消して差し上げれば、この国もカーネルによって攻め滅ぼされる心配はないでしょう!」
国王「……」
大賢者「ですから、国王には今から私が言う和睦の条件を全て認めて頂きたい!」
大賢者「カーネルの目的は、正にそれである可能性があります!」
大賢者「でなければ、カーネルはあそこまで兵を出してくる事はなかったでしょう」
大賢者「今のカーネルは、ずっと毎日の様に怯えているのです」
大賢者「いつ、自分が捨てられるのか?」
大賢者「いつ、また追い出されるのか?」
大賢者「それについてで、カーネルはずっと毎日の様に怯えているのです!」
大臣「それで、和睦の条件とは?」
大臣「一体、貴殿は陛下に何を呑ませるおつもりか?」
国王「……」ゴクリ
大賢者「一つ、ハーフエルフの地位を人間とエルフと同等にし、ハーフエルフの生活基盤を保障する事」
大賢者「二つ、ハーフエルフ迫害禁止令を廃さずに、今後も徹底する事」
大賢者「三つ、ハーフエルフの定住地に対して、攻撃又は侵略等を一切行わない事」
大賢者「四つ、違反者がいた場合には、今後もカーネルによって取り締まりをさせる事」
大賢者「五つ、ハーフエルフに対する差別・犯罪行為等を、しっかりと処罰する事」
大賢者「六つ、カーネルに対して国内でも貴族待遇で迎える事」
大賢者「七つ、カーネルが自衛の為の必要最低限の権利及び権限等を持つ事を認める事」
大賢者「八つ、国内にいるハーフエルフを全てカーネルに引き渡し、今まで蔑ろにされてきたハーフエルフの人権等を保障する事」
大賢者「これが、私の考えた和睦の条件です」
大賢者「如何致しますか?」
国王「……」ポカーーン
大臣「……」ポカーーン
大賢者「おや、どうしました?」
大賢者「お二人とも、かなり顔色がすぐれない様ですが」
国王「……」ポカーーン
大賢者「やはり、この条件はとても呑めそうにはありませんね」
大賢者「今の私ですら、かなりカーネルよりの思考になってしまっております」
大臣「……」ハッ
大賢者「まぁ、この私が出した和睦の条件が呑めないのならば、全面戦争もやむなし」
大賢者「聞く所によりますと、国王の持つ兵はたった500」
大賢者「それに対して、カーネルの兵は1000以上」
大賢者「これでは、かなり結果が見えてきますな」
大賢者「いくら、国王が民達に武器を持たせたとしても、カーネルの率いる兵には敵いませんからな」
国王「……」ポカーーン
シュン……
ドバドバッ、ドバドバッ……
「ぐはっ……!?」イテテテッ
賢者と大魔導師は、魔女と同様に特殊な召喚術を用いて兵を出す事は出来ます。
ですが、魔女の育ての親(魔女が7~15歳までの間)でもある二人は魔女の事をこのまま無惨に殺したくなく、なんとかして魔女の事を生き残らせようと国王に対して魔女と和睦する様に仕向けている状態です。
大臣「む? 何だ貴様は!?」
大臣「一体、どこから入った!?」
国王「……」ハッ
鹿「ううっ……」イタタタッ
大賢者「大臣、少しお待ちを」
大賢者「大魔導師、久し振りだな」
大賢者「そなたと会うのは、いつ以来だったかな?」
大臣「!?」
鹿「うむ。久し振りじゃな……」
鹿「まさか、そなたとここで会う事になろうとは……」
鹿「今の儂は、そこにいる糞国王に話がある……」
鹿「すまんが、少しばかり回復魔法を掛けてくれんかのぅ」
大賢者「ああ、了解した」
スッ、シューーーーッ……
シューーーーッ、シューーーーッ……
しばらくしてーー
大魔導師「うむ。力が戻った」
大魔導師「すまんな。そなたに手間を掛けさせて」
大臣「……」
大賢者「それで、今更ここに何の用だ?」
大賢者「今のそなたは、もう国王の臣下でも何でもないのだろうが」
国王「……」
大魔導師「まぁ、難い事を言いなさんな」
大魔導師「今の儂は、あの娘からの伝言を預かってきておる」
大魔導師「明日の午後三時、あの娘は糞国王に対してお礼参りをする様じゃ」
大魔導師「その際に、xxxxxxx伯も一緒に同行」
大魔導師「今回の事件で、かなりの数のハーフエルフが被害に遭ってしまった」
大魔導師「だから、そのお礼参りを糞国王に対してするそうなんじゃ」
国王「!?」ガーーン
大臣「orz……」ズーーン
大魔導師「まぁ、そう心配なさんな」
大魔導師「今のそなた達の返事次第で、あの娘は糞国王に対するこれまでの復讐をしないと言ってくれておる」
大魔導師「後、今のそなたが勇者から預かった“特殊な石”を、あの娘に引き渡してくれ」
大魔導師「でなければ、今のあの娘は王都に兵を率いて侵攻をする」
大魔導師「それだけ、あの娘はかなり不機嫌なんじゃ」
大魔導師「じゃから、あの娘を止める為にも今のそなた達には、是非とも協力をして貰いたい」
国王「……」ガクガクッ
大臣「……」ガクガクッ
大賢者「……うむ。分かった」
大賢者「そなたの言う通り、例の石を引き渡すとしよう」
大賢者「だが、こちらもそれなりに条件を出させて貰う!」
大賢者「今のあの娘は、本当に脅威だ!」
大賢者「民達の不安を拭い去る為にも、あの娘にはもうこれ以上生きていられては困るのだ!」
国王「……」ガクガクッ
大臣「……」ガクガクッ
大魔導師「うむ。そうじゃな」
大魔導師「あの娘には悪いが、もうここらで身を引いて貰うとするか」
大魔導師「今の儂とて、そなた同様にあの娘の事を殺しとうない!」
大魔導師「出来る事なら、今後もあの娘には生き残って貰いたい!」
大魔導師「それが、今の世でも出来ぬとはなんたる事か!」
大魔導師「あの娘は、結局はまたもや短命で終わってしまうのか!」ギリギリッ
国王「……」ガクガクッ
大臣「……」ガクガクッ
大賢者「大魔導師、落ち着かれよ!」
大賢者「今のそなたの気持ちは、私とて痛い程分かる!」
大賢者「あの娘は、殺すにはとても惜し過ぎる逸材だ!」
大賢者「今まで、ハーフエルフを含めてかなりの数の教え子を受け持ってきたが、あの娘ほど才に恵まれた逸材はこの世に存在しなかった!」
大賢者「それでもなお、あの娘を無様に殺せとおっしゃるのか?」
大賢者「今の貴殿方に、一体あの娘の何が分かる!」
大賢者「あの娘が、一体貴殿方に何をしたと言うのだ!?」ギリギリッ
大臣「……大魔導師」
大臣「今の貴様は、何を企んでいる?……」
大臣「今の貴様は、あの娘の側に付くのか?……」
大臣「あんなハーフエルフの一匹や二匹、無惨に殺してしまって何の問題があるのだ!」
国王「……」ガクガクッ
大魔導師「ああ、ある!」
大魔導師「今の貴殿達には、大いに問題がある!」
大魔導師「なら、今の貴殿達があの娘の命を狙う理由は何なんじゃ?」
大魔導師「ただ単に、ハーフエルフだと言う理由だけか?」
大魔導師「今の貴殿達は、あの娘から何かされたのか?」
大魔導師「どうなんじゃ?」ギリギリッ
大臣「くっ……」
大賢者「大臣殿、もうこの辺で止められよ!」
大賢者「このまま行くと、王都は火の海になる!」
大賢者「明日の午後三時、カーネルは今の貴殿達次第で兵を率いてここに来る事だろう!」
大賢者「もし仮に、それを防ぎたければ、私の出した和睦の条件を全て呑まれよ!」
大賢者「そうすれば、この王都に住む3万の民達の命が全て救われる!」
大賢者「国王なら国王らしく、こんな時くらいしっかりされよ!」
大賢者「今の国王は、本当にだらしがない!」
大賢者「そんなんでよく、長い間国王が勤まっておるな!」
大賢者「今の国王は、この事態をどう対処するのだ!」ギリギリッ
大魔導師「……」ギリギリッ
国王「……」ガクガクッ
大臣「……」チラッ
国王「……」ピタッ
大臣「……陛下?」
国王「……」
大魔導師「それで、返事は?」
大魔導師「一体、この事態をどうするつもりなのじゃ?」ギリギリッ
大臣「……」ゴクリ
国王「……大臣、国内全土に通達」
国王「カーネル・ジュリエットは、世に対する謀反を企てた!」
国王「ハーフエルフは、一人残らず全て殲滅をせよ!」
国王「これは、私からの命令だ!」
大魔導師「!?」ギリギリッ
大臣「……はっ、仰せのままに」
大賢者「……」ギリギリッ
国王「後、そこにいる愚か者二人もすぐに捕らえよ!」
国王「この者達もまた、カーネルと共に世に対する謀反を企てた!」
国王「それと同時に、xxx島を治めるxxxxxxx伯も捕縛!」
国王「明日の朝一番で、再び刺客を送れ!」
国王「最後に、勇者一行は全面的に無罪じゃ!」
国王「xxx島もろとも、跡形もなく全て消し飛ばせ!」
大臣「はっ!」ビシッ
密偵「……」
大魔導師「おい、糞国王……」
大魔導師「貴様、後悔しても知らんぞ!……」
大魔導師「あの娘は、かなりしぶとい!」
大魔導師「自身の復讐を遂げるまでは、何度でも蘇ってくる!」
大魔導師「今の儂は、あの娘の持つ力をよく知っているのじゃ!」
大魔導師「今の貴様は、本当に愚か者じゃ!」
国王「黙れ!」
大臣「……」
国王「大臣、この二人を早く捕らえよ!」
国王「今の儂は、かなり不快なのだ!」
国王「ただでさえ、この二人は憎きハーフエルフの手玉に取られた!」
国王「今の世達は、全くもって完全に間違ってなどいない!」
大魔導師「……」ギリギリッ
大臣「密偵、この二人をすぐに捕らえよ!」
大臣「今のこの二人は、国王陛下に対して謀反を企てた!」
密偵「はっ、しかと承りました」
密偵「お二方、少しばかり腕を後ろにお出し下さい」
密偵「これから、お二方の事を縛らせて頂きます」
密偵「これについては、国王陛下からの命令なので」
大賢者「……」スッ
密偵「……」ササッ
シュルシュル、シュルシュル……
大臣「……」
大魔導師「ほれ」
密偵「……」ササッ
シュルシュル、シュルシュル……
国王「……」
大臣「陛下、謀反人二人を捕縛しました」
大臣「この二人は、どこに拘留致しますか?」
密偵「……」
国王「うむ。城の地下にでも拘留しておけ」
国王「そこなら、この二人とてすぐには出られん」
国王「これで、邪魔者が二人いなくなったな」
国王「大臣、さっさとこの二人を早く連れて行ってくれ」
国王「もう二度と、今の世はこの二人の顔等見たくない!」
大臣「はっ、仰せのままに」
密偵「……」
大魔導師「糞国王、最後にこれだけは言わせて貰う!」
大魔導師「大賢者が、勇者から預かった石だけは決して触れるな!」
大魔導師「その石は、持つものを完全に不幸のどん底に突き落とす!」
大魔導師「今の儂らは、それを使ってあの娘の事を亡き者にするつもりじゃった!」
大魔導師「儂らの代わりに、それを果たしてくれ!」
大魔導師「これは、儂らからの遺言じゃよ!」
大賢者「……」
国王「……?」
大臣「ああ、了解した」
大臣「そなた達の企み、聞くだけ聞いてやった」
大臣「その石についても、何か秘密がありそうだな」
大臣「まぁ、それについては後でゆっくり聞いてやる」
大臣「密偵、ドアを開けろ」
大臣「これより、この二人を移送するぞ」
密偵「はっ!」サッ
大魔導師「……」
国王「大臣。その石とやらが見つかり次第、すぐに世に報告せよ!」
国王「その石とやらは、カーネルと何らかの秘密がありそうだ!」
国王「どうせ、今先程の大魔導師の言葉はただの虚言!」
国王「それを使って、カーネルを助けるつもりだった!」
国王「今の世には、そう見えてならんのじゃ!」
大賢者「……」
スタスタスタッ、スタスタスタッ、ピタッ……
ガチャ、キギィーーーーッ、ダン……
密偵「大臣、どうぞ」
密偵「何名かの衛兵達がここに参りました」
密偵「今から、そちらに衛兵達が向かいます」
衛兵達「……」
大臣「うむ。ご苦労!」
大臣「今ここに縛っている謀反人二人を、地下の牢に入れよ!」
大臣「この二人は、国王陛下に対して謀反を企てた重罪人!」
大臣「だから、しっかりとな!」
衛兵達「はっ!」
大賢者「……」ハッ、チラッ
大魔導師「……」ハッ、チラッ
大賢者「……」コクン
大魔導師「……」コクン
スタスタスタッ、スタスタスタッ、ピタッ
誤字指摘有り難うございます。
世ではなく、余ですね
衛兵「さぁ、歩け!」
衛兵「これから、貴様らを地下牢にまで案内する!」
衛兵「たとへ、世間から尊敬の意を集めようと地下牢では別だ!」
衛兵「今の貴様らは、国王陛下に対して謀反を企てたのだからな!」
大魔導師「……」
衛兵「ん? どうした?」
衛兵「何故、歩かない?」
衛兵「貴様、耳が聞こえないのか?」
衛兵「早くさっさと歩け!」
大賢者「……」
クルッ、スタスタスタッ、スタスタスタッ……
国王「……」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
大臣「……」
ギギィーーーーッ、バタン……
国王「……」
大臣「……」
密偵「……」
国王「……」
大臣「……」
密偵「……」
国王「密偵、今のそなたに新たな命を下す!」
国王「カーネルを始めとするハーフエルフを暗殺せよ!」
国王「明日の朝、xxx島にはハーフエルフ討伐の為の兵が向かう!」
国王「それまで、カーネル達の情報を出来るだけ集め、兵が着き次第カーネルを暗殺せよ!」
密偵「はっ!」
大臣「……」
国王「大臣、何をもたもたしている!」
国王「早く手配をするのだ!」
大臣「はっ!」
大臣「密偵、もう下がって良い」
大臣「そなたには、まだまだこれからも働いて貰う!」
大臣「そなたは、本日から私の指揮下だ!」
大臣「今後は、全ての情報をこの私に回せ!」
大臣「良いな?」
密偵「はっ!」
サッ、シュン……
国王「……」
大臣「……」
国王「……」
大臣「……」
国王「大臣、兵は如何程出せる?」
国王「王都にいる兵は、本当にたった500なのか?」
大臣「はい。正にその通りです」
国王「……」
大臣「ですが、民達を煽ればいくらでも兵は出せます!」
大臣「例えば、ハーフエルフを一人狩る毎に賞金を出すと言うのはどうでしょうか?」
大臣「さすれば、民達もすぐに動きます!」
大臣「国内には、ハーフエルフを憎む勢力がかなり台頭!」
大臣「エルフの里にも使者を出し、カーネルに味方する者達も一人残らず殲滅するのです!」
国王「おおっ……」
大臣「ですから、陛下はどうかご安心を!」
大臣「カーネルなど、我らの手に掛かればいとも容易く殺害する事が出来ます!」
大臣「今まで、我々は何度も何度もカーネルを討伐して参りました!」
大臣「所詮、カーネルにはどこにも居場所は全くない!」
大臣「“ただただ利用されるだけ利用され、不要になればすぐに捨てられる消耗品”でしかないのです!」
国王「うむ。そうだな」
大臣「……」
シュン、シュタッ……
国王「!?」
大臣「陛下、どうなさいました?」
大臣「かなり、顔色が優れない様ですが」
国王「……」ガクガクッ
魔女「……」ニッコリ
大臣「陛下、今日はもうお休みになられては如何でしょうか?」
大臣「ここ最近の陛下は、あまり体調が宜しくない」
大臣「ですから、もう今日の所ははお休み下さいませ」
国王「……」ガクガクッ
大臣「……?」
魔女「……」チョン、チョン
大臣「……?」クルッ
魔女「……」ニコニコ
大臣「ーーーーーーーーっ!?」ビクッ
魔女「少し、早いですけど、ここに来てしまいました」
魔女「私がここに来た意味、今のお二人はもうお分かりですよね?」
国王「……」ガクガクッ
大臣「……」ガクガクッ
魔女「……」ニコニコ
国王「……」ガクガクッ
大臣「……」ガクガクッ
刺客達の生首「……」
スッ、シャキン……
魔女「……」ブツブツ
魔女「……」ブツブツ
シューーーーッ、シュン……
国王「!?」
大臣「なっ!?」
「明日の午後三時、兵を率いてそちらにお伺いを致します……」
「ですから、覚悟だけはしといて下さいね……」
刺客達の生首「……」
国王「……」ガクガクッ
大臣「……」ガクガクッ
刺客達の生首「……」
国王「……」ガクガクッ
大臣「……」ガクガクッ
刺客達の生首「……」
大臣「へ、陛下、お怪我は?……」
大臣「カーネルの事、すぐに追わせましょうか?……」ガクガクッ
刺客達の生首「……」
国王「いや、その必要はない……」
国王「どうやら、本当に向こうから来てくれる様だ……」
国王「すぐに、各魔導士を動員して兵を集めよ……」
国王「これは、余からの命令だ……」ガクガクッ
大臣「はっ、仰せのままに……」ガクガクッ
刺客達の生首「……」
ガチャ、キギィーーーーッ、ダン……
ササッ、カシャン……
衛兵隊長「申し上げます!」
衛兵隊長「何者かが、城内に侵入!」
衛兵隊長「各地で、大量の首なし死体が発見されました!」
国王「!?」ガクガクッ
衛兵隊長「今現在、その数はおよそ200!」
衛兵隊長「主に、全裸のままの状態!」
衛兵隊長「中には、女性の首なし死体も含まれており、身元の特定を急いでおります!」
大臣「……」ガクガクッ
国王「……隊長、そこにカーネルの姿は?」
国王「今のそちは、カーネルをどこかで見かけなかったか?」ガクガクッ
大臣「……」ガクガクッ
衛兵隊長「いえ、誰も見かけてはおりません!」
衛兵隊長「兵達も、皆そう申しております!」
国王「そ、そうか……」
国王「他に、報告すべき事は?……」
国王「今ここにある、大量の生首もそれが原因なのか?……」ガクガクッ
衛兵隊長「!?」
大臣「恐らく、それもカーネルの仕業かと……」
大臣「今のカーネルは、恐れ多くも陛下に対して謀反を企てました……」
大臣「明日の午後三時、カーネルによる侵攻が開始されます……」
大臣「今からでは、とても間に合うかどうかは分かりません……」
大臣「王都にいる魔導士だけでなく、エルフの里にも使者を送る必要があります……」ガクガクッ
国王「……」ガクガクッ
衛兵隊長「陛下、その生首の山はいつ?……」
衛兵隊長「そこの生首の山、確かxxx島に潜伏している刺客達のはずなのですが……」
国王「!?」ガーーン
大臣「まさか、そんなはずは……」
大臣「出来る事なら、何かの見間違いであってほしい……」ガクガクッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
スッ、ポトポトッ……
大臣「……」
大臣「……」
グラッ、ドサッ……
大臣「ううっ……」ウルウルッ
大臣「ううっ……」ポロポロッ
衛兵隊長「……」ガクッ
国王「大臣、一体どうした?……」
国王「まさか、その中に見知った顔でもあったのか?……」
衛兵隊長「……」ウルウルッ
大臣「……はっ、恐れながら申し上げます」
大臣「この生首の中に、私の息子二人の生首も存在していました……」
大臣「私の息子は、つい最近xxx島に向かったばかり……」
大臣「それだけでなく、私の娘の生首ですら存在をしています……」
大臣「陛下、至急全軍に対して号令を!……」
大臣「本日を持って、非常事態体制に移行したいと思います!……」
大臣「でなければ、本当にカーネルはこの王都にまで侵攻!……」
大臣「明日の私達の言動次第で、民達がこの様な無惨な姿になる事でしょう!……」ポロポロッ
国王「……」
大臣「陛下、重ね重ね具申致します!……」クルッ、ササッ
大臣「今の私にも、兵をお与え下さい!……」
大臣「今の私は、とても悔しゅうございます!……」
大臣「たかがハーフエルフ如きに、愛する子供を奪われた!……」
大臣「嫁入り前の娘を、無惨にもあんな家畜以下に殺された!……」ポロポロッ
衛兵隊長「……」ポロポロッ
大臣「ですから、今すぐ私に兵をお与え下さい!……」
大臣「今度こそ、今の私はカーネルを仕留めて参ります!……」
大臣「それが、今の私に出来る唯一の復讐!……」
大臣「どうか、この私の一生のお願い、陛下はお聞き届け下さい!……」ペコッ、ポロポロッ
国王「……大臣」
国王「今のそなたに、兵を与える!」
国王「各魔導士を率いて、カーネルの首をはねよ!」
国王「これは、余からの命令だ!」
大臣「はっ、仰せのままに!」ペコッ、ポロポロッ
衛兵隊長「……」ポロポロッ
国王「衛兵隊長。明日の午後三時に、カーネルがここに来る!」
国王「そなたは、衛兵を全て集めて城内を守備せよ!」
国王「決して、カーネルを城内に入れな!」
衛兵隊長「はっ! しかと承りました!」ビシッ、ポロポロッ
国王「後、大臣は至急民達に対して通達!」
国王「明日は、ハーフエルフがここに攻めくる!」
国王「民達に対し武器を持たせ、向かい来るハーフエルフを全て殲滅をするのだ!」
大臣「はっ!」ポロポロッ、ビシッ
衛兵隊長「……」ポロポロッ、ビシッ
シュン、スタッ……
子豚「国王陛下、夜分遅くに申し訳ありません」
子豚「少し、お話したい事がございます」
子豚「お時間の方、宜しいでしょうか?」
大臣「……?」クルッ、ポロポロッ
衛兵隊長「!?」ポロポロッ
国王「……ああ、構わぬが」
国王「今の余に、一体何の用だ?」
国王「今のそちは、ただの醜い子豚」
国王「とても、以前までの様な力を持っているとは思えぬが」
大臣「……」ポロポロッ
子豚「……本日、私が伺ったのは、とある石の事でございます」
子豚「その石は、私達エルフにとっては絶対に必要な物」
子豚「それを、我々エルフに是非とも返還して頂きたく、本日はここに参った所存にございます」
衛兵隊長「……」ポロポロッ
国王「……ほぅ、そちもか」
国王「そちも、あの石を欲しておるのか?」
国王「して、その石の威力は?」
国王「今のそちが欲しがる程、それだけ大事な石と言う訳か?」
大臣「……」ポロポロッ
子豚「はい。正に、その通りでございます!」
子豚「その石は、今現在のエルフ里の窮状を救う唯一の手段!」
子豚「私の生まれ故郷のエルフの里は、あの娘の前になす術もなく陥落を致しました!」
子豚「数多くのエルフ達が、あの娘によって一方的に無惨な末路を迎えさせられました!」
大臣「……」ポロポロッ
子豚「ですから、どうか今現在この国が保有している例の石を、エルフの里に即刻返還して頂きたい!」
子豚「それが叶った暁には、我々エルフの里は反カーネルで統一!」
子豚「元々、あの娘自身はかなり評判が悪いですからね!」
子豚「たかがハーフエルフの分際で、エルフの里には何度も出入り!」
子豚「おまけに、現族長を手玉に取り、裏で現族長を操っています!」
子豚「ですので、どうかこの私のお願いお聞き届け下さい!」
子豚「あの石を、絶対にカーネルにだけは渡してはならないのです!」
子豚「もし仮に、あの石がカーネルの手に渡れば、我々エルフも人間もハーフエルフの支配下に入ります!」
子豚「これまで、我々が長岐に渡ってハーフエルフを苦しめてきた分……」
子豚「あの娘は、我々の事を自身の支配下に置き、今までの立場を完全に入れ換えるつもりなのです!」
国王「!?」ガーーン
大臣「なん……ですと……!?」ガーーン
衛兵隊長「ーーーーっ!?」ガーーン
子豚「……」
国王「……」
大臣「……」
衛兵隊長「……」
子豚「……それで、ご返答の方は?」
子豚「我々エルフに、例の石を返還して頂けるのでしょうか?」
国王「……」
大臣「……子豚殿。その石については、もう少し話を聞かせてはくれませぬか?」
大臣「その石を、カーネルが使用した場合にはどうなるのです?」
大臣「今の我々も、つい最近その石を保有したばかり」
大臣「さすがに、すぐにはお返しし難い」フキフキ
国王「……」
子豚「ええ、かしこまりました」
子豚「その例の石について、もう少し説明させて頂きます」
子豚「その例の石の使い道は、全部で二つ」
子豚「一つは、前族長であったこの私が仕掛けたある種の呪いを全て解除する事」
子豚「二つ目は、あの娘が背負う“不幸な運命を全て清算する”事」
子豚「それらの為に例の石を使う場合、例の石はそのどちらか一つにしか使う事は出来ません!」
大臣「……」シャキン
子豚「ですから、その石がカーネルの手元に行く前に、エルフの里に持ち帰る必要が出てきます!」
子豚「幸い、反カーネル派のエルフ達は、私の族長復帰を強く希望!」
子豚「現族長を暗殺をし、再びこの私を族長に据える計画が、今現在も進行をしているのです!」
国王「うむ、合い分かった!」
国王「大臣、その例の石を今そこにおる次期族長に!」
国王「今の余は、そちの事を信じても良いのだな?」
国王「今の余とそちは、反カーネルについてで同盟を結ぶと言う事なのだな?」
子豚「はい!」
国王「では、至急それを手配させよう!」
国王「明日の午後三時、カーネルはここに攻めて来る!」
国王「今のそちにも、いくらかの兵を出して貰いたい!」
国王「カーネルは、今の余に対して大魔導師達と共に謀反を企てた!」
国王「これは、もう戦なのだ!」
大臣「……」
子豚「はい。かしこまりました!」
子豚「例の石が届き次第、私はエルフの里に戻ります!」
子豚「明日から、今の私は再びエルフの里の族長に就任!」
子豚「今まで、あの親子に散々酷い目に遭わされてきた分、それまでの報いを絶対に受けさせて差し上げます!」
国王「うむ、合い分かった」
国王「大臣、もう下がっても良いぞ」
国王「至急、そち達は明日の為の準備を開始せよ!」
国王「次期族長も、もうお帰り下され!」
国王「ここでもたもたしていれば、カーネルに遅れを取る!」
国王「ただでさえ、カーネルはここに何の連絡もなく忍び込んできて……」
国王「更には、そこに転がる無数の生首を置いて去ったのだからな……」
刺客達の生首「……」
大臣「はっ、仰せのままに!」
大臣「隊長、子豚殿、ここを出ますぞ!」
大臣「この床に転がっている生首は、後で処分しといてくれ!」
大臣「ここにあっても、ただの邪魔なだけ!」
大臣「もうこ奴等は、ただの約立たずのみなのだからな!」
衛兵隊長「はっ、かしこまりました!」フキフキ
国王「……」
魔女さんは、今後ますます窮地に立たされます。
個人的に、「たとえ」より「たとへ」の方が良い感じがしたので、「たとへ」の方を使用しています。
~伯爵邸内・伯爵の部屋~
伯爵「そうか、失敗をしたか……」
伯爵「あの性病持ち、しくじったのか……」
魔女「はい……」
伯爵「カーネル。一体どうする?」
伯爵「今の貴殿に、他に策はあるのか?」
魔女「はい。ございます」
伯爵「なら、その策を用いてこの事態を打破せよ!」
伯爵「明日の出立には、この私一人で行く!」
伯爵「そなたには、これまでずっと世話になり続けた!」
伯爵「今度は、我々がそれを返す番だ!」
魔女「……」
伯爵「なぁに、心配はいらん!」
伯爵「本来なら、私はもう既に死んでいた身だ!」
伯爵「あの愚息が謀反を起こさなくても、あの執事達によって毒を盛られていただろう!」
伯爵「だから、カーネル」
伯爵「今のそなたは、明日をどう乗り切るかについてを考えよ!」
伯爵「今のそなたは、この島にとっては絶対に必要不可欠!」
伯爵「今では、恩を仇で返そうとする不届き者が多くなってしまったが……」
伯爵「その者達についても、いつまたそなたの命を狙う刺客に成り代わるかについてが、まだ分からぬのだからな!」
魔女「……」
スッ、ゴクゴクゴクッ……
ゴクゴクゴクッ、ゴクゴクゴクッ……
スッ、ストン……
伯爵「ふぅ……」
魔女「……」
トントン、トントン……
ガチャ、バタン……
警備隊長「失礼致します」
警備隊長「伯爵様。少し宜しいでしょうか?」
伯爵「うむ。どうした?」
伯爵「何か、動きでもあったのか?」
魔女「……」
警備隊長「はっ、恐れながら申し上げます!」
警備隊長「賢者殿と魔導士殿が、逃亡を図りました!」
警備隊長「今現在、賢者殿と魔導士殿はこの島をもう既に脱出!」
警備隊長「その際に、勇者一行もまたそれに同行!」
警備隊長「どうやら、まだまだ間者が潜んでいた様子!」
警備隊長「酒場に待機していた僧侶も、勇者に連れられて逃走を図った模様です!」
伯爵「!?」
魔女「……」
警備隊長「それと、例の元騎士も逃亡を図りました!」
警備隊長「ですが、例の元騎士に関してはすぐに捕縛!」
警備隊長「何でも、逃走中に足を負傷した為に身動きが取れず、すぐに捕縛されたそうです!」
魔女「……」ガクッ
伯爵「……うむ、そうか」
伯爵「勇者一行にまで、逃げられてしまったか……」
伯爵「これで、我らはますます不利になるな……」
伯爵「あの糞国王に、大義名分を与えてしまったな……」
魔女「……」
伯爵「警備隊長。島の警戒を厳にせよ!」
伯爵「明日の出立には、兵は1000名だけではとても足りぬ!」
伯爵「少なくとも、兵は5000名は必要となってくる!」
伯爵「この島の警備に支障がないだけ、明日の出立に回すのだ!」
警備隊長「はっ、かしこまりました!」
魔女「……」
伯爵「カーネル。そなたは、もう休まれよ」
伯爵「ここ最近のそなたは、よく働き過ぎた」
伯爵「明日は、我らにとっては大事な一戦!」
伯爵「明日の午後三時に、我らの運命が決まってしまうのだからな!」
魔女「はっ、了解致しました!」
魔女「本日は、もうこの辺りで下がらせて頂きます!」
魔女「警備隊長。伯爵様の身辺の警護をお願い!」
魔女「私は、もう今日はこの辺りで下がるけど、くれぐれも伯爵様の身辺にだけは絶対に気を付けてよね!」
警備隊長「はっ、了解致しました!」
伯爵「……」
魔女「……」ペコッ
クルッ、スタスタスタッ、ピタッ……
ガチャ、バタン……
伯爵「……」
警備隊長「……」
スッ、トポポポポッ、ストン……
ゴクゴクゴクッ、ゴクゴクゴクッ……
伯爵「ふぅ……」
警備隊長「……」
伯爵「……警備隊長」
伯爵「今の私は、そなたに少し聞きたい事がある」
伯爵「今のそなたは、カーネルに仕えて何年だ?」
伯爵「もう、かなり長いのか?」
魔女「……」
警備隊長「はっ、かれこれ6年になります」
警備隊長「カーネルとは、カーネルが13になられた頃から仕えて参りました」
警備隊長「その時は、まだ私を含めてたった25名」
警備隊長「一時期、カーネルを含めて“アルファベット傭兵隊”と名乗っていた時期もあったりもします」
魔女「……」
伯爵「ふむ、そうか」
伯爵「そう言えば、そんな時期もあったな」
伯爵「あの頃のカーネルは、まだ幼き少女」
伯爵「今と大きく違って、王都から遣わされた刺客なんぞとは、かなり無縁の状態だったからな」
魔女「……」
伯爵「警備隊長。そなたは、カーネルの事をどう思う?」
伯爵「今のそなたにとって、カーネルは守るに値する存在か?」
伯爵「それとも、それに値しない存在か?」
魔女「……」
警備隊長「はっ、今の私にとってカーネルこそが守るに値する存在であります!」
警備隊長「カーネルとは、長い間共に戦って参りました!」
警備隊長「時には、たった二人のみで敵と戦う事もありましたし!」
警備隊長「ここまで、今の私が強くなれたのもカーネルのおかげなのです!」
魔女「……」
伯爵「ふむ、そうか」
伯爵「今のそなたは、カーネルの事を信用しているのだな!」
伯爵「正直、今の私だってカーネルの事を信用している!」
伯爵「カーネルには、散々世話になった!」
伯爵「こうして、ようやく貴族らしい生活が出来ているのも、全てカーネルのおかげなのだからな!」
魔女「……」
伯爵「だから、警備隊長」
伯爵「カーネルの事を、絶対に死なせないでくれ!」
伯爵「今のあの娘は、完全に死ぬ気だ!」
伯爵「この島の民達の為だけでなく、国内全ての民達の為に今の自分自身をとことん悪にするつもりだ!」
魔女「……」
伯爵「あの娘は、本当に昔からそうだった!」
伯爵「以前、私が王都に連れて行った時も、あの娘は自分自身が私の代わりに悪になろうとしていた!」
伯爵「それが原因で、カーネルは無実なのにも関わらず、王都の民達にはずっと恨まれる毎日!」
伯爵「その時、私はずっとそんなカーネルの事が不憫でならなかった!」
伯爵「見ず知らずの大賢者殿にすぐに面会をし、カーネルの事を大賢者殿の元に預けたりもした!」
魔女「……」
伯爵「一体、私は何を間違ったのか?」
伯爵「あのまま、カーネルを大賢者殿に預けず、この島にすぐ連れて帰れば良かったのか?」
伯爵「それについては、今のそなたはどう思う?」
伯爵「あの時の私は、何か間違っていたのだろうか?」
警備隊長「伯爵様」
警備隊長「あの時の貴方は、何も間違ってはおりません」
警備隊長「何故なら、ああしなければカーネルは死んでいました」
警備隊長「ハーフエルフだからと言う理由で濡れ衣を着せられ、大賢者様が無実を証明して頂けなければ、カーネルはもう既にこの世にはいなかった事でしょう」
魔女「……」
警備隊長「ですが、カーネルはそれが原因で人によっては過ぎたる力を得てしまいました」
警備隊長「それをネタに、反カーネル派はすぐに台頭」
警備隊長「王都で過ごしていた時のカーネルは、常に刺客によって命を狙われた状態でした」
警備隊長「今の我らの前任達が、ずっとカーネルの事を守り続けていたのです」
魔女「……」
警備隊長「伯爵様」
警備隊長「どうか、ご自身をお責めにならないで下さい」
警備隊長「カーネルは、ずっと貴方に感謝していますよ」
警備隊長「今の自分がハーフエルフなのにも関わらず、司教様と共に今の自分自身を守って下さっていた事に対して感謝しています」
魔女「……」
伯爵「だが、今の私は、カーネルには申し訳ない感じだ」
伯爵「長年、苦労を共にしてきた側近に裏切られた」
伯爵「それに加え、離婚した私の妻の愚息がカーネルの命を狙う刺客」
伯爵「更には、この島にやっとの思いで避難してきた多数のハーフエルフ達に対して、かなりの狼藉の数々」
伯爵「今の私は、本当にカーネルには申し訳ない感じだ」
伯爵「いつから、この島はこの島の恩人に対して牙を向く様になったのか?」
伯爵「その事が、いま私にとっては大きな心残り」
伯爵「いずれ、私やカーネルは確実に死ぬ」
伯爵「それが済んだ後、この島は再び地獄と化すであろう」
魔女「……」
スッ、トポポポポッ、ストン……
ゴクゴクゴクッ、ゴクゴクゴクッ……
伯爵「……」
警備隊長「……」
スッ、ストン……
魔女(まさか、伯爵様に今の私の考えを見抜かれていたとはね……)
魔女(このまま行くと、確実に伯爵様も死ぬ……)
魔女(今の私だけでなく、確実に伯爵様まで死んでしまう……)
伯爵「……」スッ、ムキムキッ
魔女(はぁ……)
魔女(一体、どうしようかしら?……)
魔女(師匠も何故か捕まっちゃったし、明日はどうしようかしら?……)
警備隊長「……」
魔女(おまけに、例の石はエルフの里に渡り、確実に現族長は下ろされる……)
魔女(また、私だけが常に迫害をされ、他の皆は助かっていく……)
伯爵「……」モグモグモグッ
魔女(とりあえず、師匠の件は放置しとこ……)
魔女(師匠達なら、私が何かしなくても勝手に脱出をするはず……)
魔女(思えば、この島を追われるのはもう二度目なのよね……)
魔女(一体、この私の何がいけないのかしらね?……)ハァ……
伯爵「警備隊長。今日はもう下がっても良い」
伯爵「明日は、かなり大事な戦だ」
伯爵「今のそなたも、カーネルと共に体をよく休めておけ」
魔女「!?」ハッ
警備隊長「はっ、了解致しました!」
警備隊長「本日の所は、もうこの辺りで下がらせて頂きます!」
警備隊長「伯爵様、どうかご無理をなさらない様にお願い致します!」
警備隊長「伯爵様がお体を悪くなされたら、それこそこの島の一大事!」
警備隊長「ですから、どうかご無理だけは絶対になさらないで下さいね!」
伯爵「うむ、合い分かった」
警備隊長「……」ペコッ
クルッ、スタスタスタッ、ピタッ……
ガチャ、バタン……
伯爵「……」
魔女「……」スッ、シュン
~とある酒場~
店主「本当に、今日は忙しかったわね」
店主「今の貴方達がいなかったら、確実にウチの店は潰れてたわ」
元店主嫁「ええ、そうですね……」
店主「まぁ、あの子が男の子二人置いてってくれたから、なんとかなってたけど」
店主「やっぱり、ハーフエルフは力があるわ」
店主「元々、ウチは昔からハーフエルフを数多く雇ってたけど」
店主「物凄く久し振りに、お客さん受けの良い子達が来てくれたわ」
店主姪「……」
元店主嫁「あの、義姉さん……」
元店主嫁「ちょっと、お話が……」
元店主嫁「いつから、ここは売春宿になったんですか?……」
元店主嫁「私達、そんな事は一言も聞いていませんでしたけど……」
元店主嫁「つうか、何で多数の娼婦とか雇ってんですか?……」
娼婦達「……」
店主「え? 言ってなかったっけ?」
店主「ウチ、伯爵様の許可を貰って営業をしてるんだけど」
店主「つい最近、この島の娼館が何故か潰れたでしょ?」
店主「あの子に頼んで、すぐに許可を得たわ」
店主「何でも、この子達は色々と訳有りだし」
店主「だから、ウチは売春宿も兼ねてる訳」
元店主嫁「……」
店主「まぁ、とりあえず今日はもうお開きにしましょ」
店主「本日は、結構稼ぐ事が出来た」
店主「本当に、義妹ちゃん達には感謝してる」
店主「ここ当分の間は、義妹ちゃん達は手伝ってくれるんだし」
店主「その分、給金は弾むからね♪」
元店主嫁「……」ガクッ
店主姪「叔母さん……」ウルウルッ
従者達「……」
シュン、シュタッ……
魔女「あれ? もう終わってた?」
魔女「今日は、もうお開きなのかしら?」
店主姪「あっ、義姉さん……」ウルウルッ
魔女「ん? どうしたのよ?」
魔女「何で、姪っ子ちゃんはそんな顔をしてるのよ」
店主姪「……」ウルウルッ
魔女「私、また何かやった?」
魔女「また、何かしちゃってたのかしら?」
元店主嫁「……」コクン
店主姪「義姉さん。一体、どう言う事?……」
店主姪「何で、ここ売春宿も兼ねてるの?……」ウルウルッ
魔女「え?」
店主姪「今の私、そんな事全く聞いてない……」
店主姪「叔母さんからも、全く聞いてなかったんだけど……」ウルウルッ
魔女「……あっ、言うの忘れてた」
魔女「姪っ子ちゃん、そう言うの嫌いそうだから、奥さんに言うのも完全に忘れてた……」タジタジッ
店主姪「!?」ガーーン
魔女「いや、これにはちょっと深い訳があってね……」
魔女「そこにいる女の子達、親に捨てられてたのよ……」
魔女「しかも、借金の形に今の姪っ子ちゃんくらいの歳で娼館に売られててね……」
魔女「だから、私がこの子達を保護してきた訳……」タジタジッ
店主姪「……」ウルウルッ
元店主嫁「だったら、何でここで売春をさせてるのよ?」
元店主嫁「普通、可哀想と思うなら、そんな事をさせないでしょ?」
店主姪「……」ウルウルッ
魔女「うん。そうだね……」
魔女「本当の所は、そう言うのはしてほしくなかったんだけど……」
魔女「なんか、ママとマスターがかなりはっちゃけちゃって……」
魔女「衣食住については、完全に店側が保証するって事で……」タジタジッ
店主姪「……そう、そうなんだ」
店主姪「だから、あの僧侶さんは何も言わずに逃げちゃったんだ……」
店主姪「そりゃあ、普通の人が見たら逃げちゃうよね?……」
店主姪「まさか、自分達が宿泊する部屋の近くで売春をしてるなんて、夢にも思わないわよね?……」ウルウルッ
魔女「……」タジタジッ
店主姪「とりあえず、義姉さん……」
店主姪「少し、今の義姉さんに対してお仕置きをさせて……」ウルウルッ
魔女「!?」ハッ
店主姪「大丈夫。別に怖がらなくたって良いから……」
店主姪「今日の私、朝から散々な目に遭ってきたし……」
店主姪「だから、今の義姉さんに少なからずは八つ当たりさせて貰うね……」ウルウルッ
魔女「……」ドキドキッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ピタッ、ムギュッ……
魔女「!?」
ムギュッ、ムギュッ……
ムギュッ、ムギュッ……
魔女「んんっ、んんっ……//」
ムギュッ、ムギュッ……
ムギュッ、ムギュッ……
魔女「あっ、あっ、はああん……//」トロリ
店主姪「……」ウルウルッ、ピタッ
従者達「……」ポカーーン
元店主嫁「……もしかして、した事あるの?」
元店主嫁「何で、全く抵抗してないの?……」
店主「……」ゴクリ
魔女「え? 大分前に……//」
魔女「私、こう見えても副業で娼婦やってますから……//」トロン
店主姪「ーーーーーーーーっ!?」ガーーン
娼婦達「……」ピカァ
元店主嫁「ああ、それでなんだ……」
元店主嫁「どおりで、私達と同じ臭いがした訳だ……」ガクッ
店主姪「……」ウルウルッ
元店主嫁「義姉さん。もしかして、また隠してた?……」
元店主嫁「義姉さんは、その事を知ってて私達には何も言わなかったの?……」
店主「……え?」フルフル
魔女「う~~ん、そんなに意外だった?……//」
魔女「私、脱いだら結構凄いのよ……//」
魔女「師匠とも、ほぼ毎日の様にやっちゃってたし……//」
魔女「師匠に引き取られる前までは、各地を渡り歩くついでに副業で娼婦とかもやってたんだけど……//」トロン
店主姪「……っ!?」ユラユラッ、ポロポロッ
魔女「……//」スッ、ガシッ
店主姪「……」ポロポロッ
魔女「……//」トロン
元店主嫁「……」ガクッ
店主「……ジュリエット」
店主「今度、ウチの店にヘルプで入ってくれない?」
店主「あんたが、ウチの店に入ってくれたら、すぐに売り上げが上がるわ!」
店主「あんた、昔から顔も良いし胸は大きかったんだし!」
店主「あんたの休みの日とか、ヘルプで是非とも入ってほしいんだけど!」
店主姪「!?」ポロポロッ
元店主嫁「義姉さん!?」イラッ
娼婦達「……」ドキドキッ
魔女「うん。別に良いけど……//」
魔女「その前に、先に色々と予約が入っちゃってるの……//」トロン
店主「!?」ピカァ
魔女「その前に、先に入っちゃってる予約とか消化しても良い?……//」
魔女「今予約入ってるのは、主にエルフの里関係……//」
魔女「私の実の母も、向こうでは娼婦にまで堕とされちゃったし……//」
魔女「生前の私の母の事を知るエルフからは、よく予約が入っちゃうから……//」トロン
店主「……そう」
店主「それなら、別に構わないわよ」
店主「今のあんた、色々と忙しそうだし」
店主「ちなみに、その人達の職業は?」
元店主嫁「義姉さん!……」ギリギリッ
店主姪「……」ポロポロッ
魔女「え? その人達の職業?……//」
魔女「主に、私は貴族相手に営業をしてるんだけど……//」トロン
魔女以外「!?」
魔女「エルフの里において、昔からハーフエルフのは娼婦扱い……//」
魔女「特に、女の子の場合は優先的にエルフの里に送られる……//」
魔女「その後、ある程度研修を受けたら、渡航及び就労許可書がエルフの里から発行されるのよね……//」
魔女「私も、そこで研修を受けた事があるし……//」
魔女「生まれて初めてエルフの里に入った時は、エルフの里全体が大騒ぎになってしまったわ……//」トロン
魔女以外「……」
店主「あんた、向こうでも何かやったの?」
店主「それ、一体いつの話なのよ?」
元店主嫁「……」
魔女「え? いつの話って……//」
魔女「確か、私が初めて生まれ故郷を追い出された時だったかしら?……//」
魔女「その時の私、偶々ながらも私の母の知人に拾われて……//」
魔女「そのまま、エルフの里に行ってみたら、何故か大騒ぎになっちゃった訳……//」トロン
店主「……」
魔女「まぁ、そんな訳で今の私は副業として娼婦をしてるの……//」
魔女「姪っ子ちゃんが思ってる程、私結構汚れちゃってるのよ……//」トロン
店主姪「……」ポロポロッ
魔女「思えば、あの時の私は戸惑いの連続だった……//」
魔女「何故、ハーフエルフの自分がエルフの里に入れたのが常に疑問だったわ……//」
魔女「でも、皆がすぐにその理由を教えてくれた……//」
魔女「私の母は、エルフの里ではかなりの有名人だったから……//」トロン
魔女「それから数日経って、私はちゃんとそこで娼婦としての研修をすぐに受講したわ……//」
魔女「その時の皆の心境は、今すぐそんな事を止めて欲しそうな感じで、よく泣いていたわ……//」
魔女「それでもなお、今の私はハーフエルフ……//」
魔女「その当時のエルフの里では、法律で女の子の場合は原則的に娼婦として扱われていた……//」
魔女「いくら、私の母を知る人達が泣こうが喚こうが、これについては本当にどうしようもなかった訳よ……//」トロン
従者達「……」ポカーーン
魔女「だから、私は逆にそれを利用し続けた……//」
魔女「主に、私の母を知る人達に対して、営業をよくやっていたわ……//」
魔女「それが、つい最近になってようやく実を結び、エルフの里ではハーフエルフの地位がかなり向上……//」
魔女「今では、すっかりエルフの里でもハーフエルフの扱い方が変わってきてね……//」
魔女「あれ以来、私はエルフの里でもよく知られてるわ……//」
魔女「エルフの寿命は、無駄に長いし……//」
魔女「その血を受け継ぐ私も、無駄に長かったりしてるからね……//」トロン
店主姪「……」ポロポロッ
元店主嫁「……」
店主「……大体は、分かった」
店主「つまり、あんたウチに来る前から娼婦やってた訳ね?」
元店主嫁「……」
魔女「うん。そうだけど……//」
魔女「今でも、一日四人はお客さん取っちゃってるけど……//」トロン
店主姪「……」ポロポロッ
魔女「もしかして、言ってなかった?……//」
魔女「今の私、その事すら言ってなかった?……//」トロン
従者達「……」ポカーーン
店主「ええ、聞いてないわ」
店主「この私ですら、そんな事すら初めて聞いたわよ」
娼婦達「……」
魔女「う~~ん。そうだっけ?……//」
魔女「無駄に100年もハーフエルフをやっちゃってたし……//」
魔女「てっきり、ママ達も知ってると思ってたわ……//」トロン
元店主嫁「ねぇ、ジュリエットちゃん」
元店主嫁「そろそろ、そんな話はもう止めてくれる?」
元店主嫁「ウチの娘、完全に傷付いてんだけど」
元店主嫁「ついさっきから、ずっと泣きっぱなしなんだけど」
店主姪「……」ポロポロッ
魔女「ああ、ごめんなさい。奥さん」
魔女「つい、副業の方のスイッチが入っちゃって」シャキン
元店主嫁「……」ギリッ
魔女「今日の私、また師匠に汚されてましたから」
魔女「師匠には、主に海辺で何故か体を要求されてましたから」ニッコリ
店主姪「……」ポロポロッ
元店主嫁「……そう、そうなの」
元店主嫁「ジュリエットちゃん、まだそんな事をされてるの?……」
元店主嫁「と言うか、何でその人を捕縛しないの?……」
元店主嫁「なんか、いつものジュリエットちゃんらしくないんだけど……」
店主「ええ、そうね」
店主「いつものあんたなら、すぐに捕縛しそうな勢いなんだけどね」
店主「もしかして、また誘惑魔法でも掛けられていたとか?」
店主「それが原因で、今のあんたは何も出来なかったとか?」
元店主嫁「……」ギリギリ
魔女「うん。そうだけど……」
魔女「私、昔から師匠にだけは全く逆らえないの……」シュン
店主「!?」ガーーン
魔女「思えば、師匠が私の体を要求してきた時は、常に従順だった……」
魔女「あの頃の私は、師匠に捨てられない為に必死だった……」
魔女「たとへ、師匠が魔法なんて掛けなくても、あの当時の私はどこも行く宛もない……」
魔女「師匠が、私の体を要求してきた時は、そのままずっとされるがままだったわ……」
店主「……」
魔女「多分、それが原因なのかな?……」
魔女「未だに、私が師匠に体を要求されても全く逆らえないのは……」
魔女「だから、今の私は師匠にだけは絶対に逆らえないわ……」
魔女「今日もまた、師匠に体を要求されてしまったから……」
魔女「確実に、師匠は死ぬまでこの私の事を汚し続ける……」
魔女「ママ達が思ってる程、そんなに私は強くないのよ……」
魔女「あの頃から、師匠も私もずっとそのまんま……」
魔女「今更、それを止めさせても、絶対に師匠は長続きしないわ……」
店主「……」
店主姪「……」ポロポロッ
元店主嫁「……」ギリギリ
娼婦達「……」ウルウルッ
従者達「……」ポカーーン
魔女「とりあえず、ママ」
魔女「明日、ちょっと王都にまで出掛けてくるから」
魔女「なんか、またあの糞国王が煩くてね」
魔女「それが原因で、ちょっとばかり兵を率いて王都に向かわなくちゃ行けないから」ニッコリ
店主「へえ、そうなの。あんた、明日王都にまで行くの」
店主「だったら、何かお土産とか買ってきて」
店主「今のあんた、昨日から狩人みたいな目してたし」
店主「今更、今のあんたに何を言われても、もう今の私は全く驚かないわ」
従者達「……」ポカーーン
魔女「うん。分かった!」
魔女「お土産に、糞国王の生首とか持って帰ってくるわ!」
魔女「それあったら、何か色々と変わるでしょ?」
魔女「今まで、私達ハーフエルフは散々苦しめられてきた!」
魔女「だから、そろそろ我慢の限界だし、兵を率いて王都攻めてくるわ!」ニコニコ
元店主嫁「ああ……」ガクッ、ユラユラッ
店主「……」サッ、ガシッ
元店主嫁「……」ウルウルッ
店主姪「……」ポロポロッ
娼婦達「……」ポカーーン
魔女「とりあえず、私もう行くね」
魔女「それを伝えに、ここに来ただけだから」
魔女「だから、もし仮に今の私が死ぬ事になったら、私の使ってる奥の部屋の中にあるお金を好きに使って」
魔女「今まで、ママには長い事お世話になってきたし」
魔女「私のお葬式とかも、別にあげなくても良いから」ニコニコ
店主姪「ーーーーーーーーっ!?」ガーーン
店主「……そう。そうなの」
店主「今のあんた、もう既に死ぬ覚悟は出来てるの」
店主「今のあんた、本当にあの時とそっくりだわ」
店主「あんたが、王都に職業訓練に行った時も、今の私に対して全く同じ事を言っていたわね」
元店主嫁「……え?」ウルウルッ
店主「でも、今のあんたの場合は、すぐに復活出来るんでしょ?」
店主「ここ最近のあんた、ずっと何かの書物を読み漁ってた」
店主「確か、それはエルフ語で書かれた古い書物」
店主「今のあんた、エルフ語もなんなく読めるだったはずだったわよね?」
魔女「うん。そうだけど」
魔女「私が読んだの、実の母が書き残してくれた書物だったの」
魔女「それを元に、私はずっと研究もしてきた」
魔女「私の母が、死ぬまで私の事を思って書き残してくれた書物を、全て解読をしていたわ」ニコニコ
店主「……」
魔女「けど、今の私は母の様に上手く出来ない箇所が多いのよね」
魔女「人間とエルフの魔術は、かなり違う」
魔女「主に、私が使うのは人間向きの方」
魔女「私の母が使い慣れていたエルフの方は、かなり難しかったから」ニコニコ
店主「……」
魔女「だから、下手をしたら私の命は明日までだわ」
魔女「私が死ねば、大勢のエルフや人間達は祝杯をあげる」
魔女「それだけ、今の私は国内の人達からはかなり嫌われていてね」
魔女「だから、今の私は死ぬ覚悟も出来ている訳」ニコニコ
店主「……」
魔女「もう、そんな顔をしないでよ」
魔女「まだ、今の私が死ぬと決まった訳じゃないのよ」
魔女「今の私、まだ死ねないから」
魔女「ハーフエルフの長として、他のハーフエルフ達の面倒も見ないといけないんだから」
従者達「!?」
魔女「だから、ママ達は何も心配はしなくても良いわよ」
魔女「私は、まだ死ぬつもりはない」
魔女「じゃなきゃ、こうして今ここにいたりしないし」
魔女「本当に、私が死ぬつもりなら、ママ達に会わずにここをすぐ出ていたわ」
店主姪「……」ポロポロッ
店主「……そう。気を付けてね」
店主「今のあんた、よっぽど危ない橋を渡ってるみたいだからね」
店主「この島で、あんたの事を悪く言う人が増えているのもまた事実」
店主「今まで、私はそんな人達の事を数多く見てきた」
店主「皆、影ではあんたの事をよく罵っていた」
店主「でも、あんたはそれにも関わらず、よくこの島の人達の為に尽くしてるわよね?」
店主「この島自体が、あんたがいないとやっていけない!」
店主「皆、それは分かってる!」
店主「それにも関わらず、今のあんたがハーフエルフだと言う理由で蔑んでいる!」
店主姪「……」ポロポロッ
店主「だからね、ジュリエット!」
店主「もう、あんたはこの島の人達の為に尽くすのを、もうこの辺で止めたら?」
店主「また、以前みたいに痛い目を見ないと、この島の住民達は理解しない!」
店主「いくら、今のあんたが頑張った所で、この島の住民達の意識は全く変わらない!」
魔女「……」
店主「もう今の私は、あんたのそんな辛い思いをする姿を見たくないのよね!」
店主「いつもいつも、あんただけが皆から酷く憎まれている!」
店主「この島に来てから、ずっとあんただけが皆からは蔑まれてる!」
店主「だから、もう今のあんたは自分の為だけに生きていきなさい!」
店主「この子達の面倒は私が見るから、今のあんたは思いっきり暴れてきなさい!」
魔女「うん。分かった!」
魔女「ママ。私ちょっと王都にて暴れてくるね!」
魔女「その時のお土産、糞国王の生首でも良い?」
魔女「それとも、また別のでも良い?」
店主姪「……」ポロポロッ
店主「う~~ん。そうね」
店主「あの糞国王の生首より、あんたの事を不幸のどん底に突き落とした性悪女の生首が欲しいわね」
店主「今のあんた、本当だったら貴族の娘だったんでしょ?」
店主「あの性悪女の所為で、今みたいな生活をずっと送ってるんでしょ?」
従者達「!?」ガーーン
魔女「うん。そうだけど 」
魔女「本当だったら、今頃エルフの里で悠々自適に暮らしてたわよ」
魔女「けど、今の私にはそれすら許されないみたいなのよね!」
魔女「今後も、今の私はずっとこのままハーフエルフ!」
魔女「だから、私達ハーフエルフの地位向上の為には、絶対に明日の戦は負けられないのよね!」
店主「なら、今のあんたは、さっさと準備して行ってきなさい!」
店主「明日もまた、この島は荒れに荒れる!」
店主「三日連続で、この島はずっと荒れに荒れ果てる!」
店主姪「……」ポロポロッ
店主「良い? ジュリエット!」
店主「今のあんたは、絶対に生きてここに帰ってくるのよ!」
店主「じゃないと、今の私は承知しないから!」
店主「また、自分自身の目の前で、もう何度目かも分からない我が子の死亡通知を受けるのは、絶対に嫌だから!」ウルウルッ
元店主嫁「……義姉さん」ウルウルッ
店主「だから、あんたは早く行きなさい!」
店主「生きて必ず、ここに戻ってきなさい!」
店主「今のあんた、私からのお願い聞いてくれるよね?」
店主「今まで、ずっとあんたには色々とお世話になってきた!」
店主「その恩すら、ろくに皆が返せていないのに!」
店主「それを今の私達がする前に、今のあんたが再び無惨に死ぬなんて、絶対に許さないんだからね!」ウルウルッ
魔女「うん。分かった……」
魔女「必ず、生きてここに戻ってくるわ……」
魔女「その間、そこにいる子達の事をお願い……」
魔女「私と同じハーフエルフがここを訪ねてきた場合には……」
魔女「今まで通りに、常に優しく接してあげて頂戴ね……」ウルウルッ
店主「……ええ、了解したわ」ウルウルッ
店主姪「……」ポロポロッ
元店主嫁「……」ポロポロッ
娼婦達「……」ウルウルッ
従者達「……」ビシッ
魔女「……」フキフキ
魔女「……」スッ
店主姪「……」ポロポロッ、ササッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ピタッ、ビシッ……
魔女「それじゃあ、ちょっと行ってくるね♪」
魔女「皆、お留守番宜しくね♪」
店主姪「……」ポロポロッ
魔女「後、そこの二人はまだここでお留守番♪」
魔女「だから、大人しくしといてね♪」
店主「うん。行ってらっしゃい……」ウルウルッ、ニッコリ
元店主嫁「気を付けてね……」ポロポロッ
店主姪「……」ポロポロッ
魔女「……」スッ
シューーーーッ、シュン……
店主「……」ウルウルッ
店主姪「……」ポロポロッ
元店主嫁「……」ポロポロッ
娼婦達「……」ウルウルッ
従者達「……」
店主姪「義姉さん、行っちゃったね……」
店主姪「本当に、生きて帰ってくるんだよね?……」ポロポロッ
元店主嫁「……」コクン
店主姪「ねぇ、叔母さん……」
店主姪「何で、抱き締めてあげなかったの?……」
店主姪「あそこは、普通抱き締めてあげるんじゃないの?……」ポロポロッ
元店主嫁「……」フキフキ
店主「あのまま、抱き締めたら私が離せなかったから……」
店主「あの子も、ここをすぐに出ていけなくなる……」
店主「ただそれだけの事よ……」
店主姪「……」ポロポロッ
元店主嫁「義姉さん。本当に、良かったの?……」
元店主嫁「あのままだと、ジュリエットちゃん確実に死んでしまうわよ……」
元店主嫁「義姉さんは、それでも良いの?……」
店主姪「!?」ガーーン
店主「じゃあ、どうしろって言うのよ?……」
店主「今のあの子に、一体私達が何をしてあげれるって言うのよ?……」
元店主嫁「……」
店主「あの子は、ずっと昔から一人だった……」
店主「ハーフエルフだと言う理由でろくに友達すら作れず、この島の中でもそんな感じだった……」
店主姪「……」ポロポロッ
店主「それでも、あの子はずっと頑張ってきたわ……」
店主「あの子自身は、“いつか必ず復讐を成し遂げてやる!”って、ずっと心に決めていた!……」
従者達「……」
店主「それを、過去の私が始めて知った時、一体何が出来たと思う?……」
店主「あの頃の私、全く何も出来なかった……」
店主「自分自身の実の子供が、いつかあの子みたいに迫害される……」
店主「それに怯えて、あの子の事をろくに守ってさえ出来なかったわ……」
元店主嫁「……」
店主姪「……」ポロポロッ
店主「だから、今の私達には何も出来ない……」
店主「あの子はあの子で、自分で勝手に何とかする……」
店主「あの子自身も、別に今の私達に何かして欲しいと言う気持ちじゃない……」
店主「あの子は、これまでずっと苦労し続けてきたんだし……」
店主「今の私達が、今のあの子にしてあげる事なんて、何もありゃあしないのよ……」
元店主嫁「……」
店主姪「……」
従者達「……」
娼婦達「……」
ガチャ……
カラン、カラン……
バタン……
「あら? もう閉店なのでしょうか?」
「今の私、ちょっと人を探してるんですが」
店主「!?」ハッ、クルッ
仮面の女「あの、もしかして、もう営業時間外でしたか?」
仮面の女「もう既に、閉店されてるんでしたら、また改めて出直してきますが」
店主「……」ポカーーン
元店主嫁「あの、失礼ですがどちら様で?」
元店主嫁「見た所、今の貴女は私達と全く同じ臭いがする」
元店主嫁「もしかして、今の貴女も私達と同類?」
元店主嫁「その仮面の下には、一体どんな顔があるのかしら?」
店主姪「……」フキフキ
仮面の女「ああ、これは失礼致しました」
仮面の女「私、エルフの里から流れてきたジュリエットと申します」ペコッ
仮面の女「実は、この島に私の娘が住んでいると聞いて来ましてね」
仮面の女「それで、遥々実の娘に会いに、ここにまでやって来たと言う訳です」スッ、ニッコリ
元店主嫁「!?」
店主姪「ええ――――――――っ!?」ガーーン
店主「……」ポカーーン
仮面の女「それで、私の娘はどこに?」
仮面の女「町の人からは、ここに行けば分かると言われて来たんですが」
店主「……」ポカーーン
仮面の女「どうやら、私の娘はここにいないみたいですね」
仮面の女「本当に、あの子は昔から無茶ばかりしちゃうんだから」
店主姪「……」ポカーーン
元店主嫁「……貴女、一体何者?」
元店主嫁「何で、貴女までジュリエットちゃんと全く同じ顔をしてるのよ?……」
従者達「……」
仮面の女「ふぅん、ジュリエットか……」
仮面の女「まさか、実の母と全く同じ名前を名乗ってたとは……」
仮面の女「この分だと、またあの子は無茶ばかりするわね……」
仮面の女「その度に、今の私のお腹の中に逆戻りしてくるんだし……」
仮面の女「本当に、そろそろいい加減にしてほしいわね……」
娼婦達「……」ポカーーン
仮面の女「ああ、何かすいませんね」
仮面の女「突然、おしかけた挙げ句に嫌な思いをさせちゃって」
仮面の女「今の私、長い間ろくに会ってなかった娘の事を探してましたから」
仮面の女「ここなら、確実にあの子に会えると思って、遥々ここに来ただけですから」
店主「……」ポカーーン
仮面の女「後、かなりずうずうしいかもしれませんが、ここの部屋はあと何部屋空いてますでしょうか?」
仮面の女「なんか、こんな小さな島では、ここにしか宿泊施設はないみたいですし」
仮面の女「出来れば、今夜中にあの子に会いたいのですが」
店主「……」ポカーーン
シュン、シュタッ……
魔女「ごめん。ママ、忘れ物した」
魔女「私が読んでたエルフ語の書物は、どこにあるか知らない?」
魔女「あれ、明日いるやつだから――」ハッ
魔女「!?」ガーーン
仮面の女「!?」ピカァ
魔女「……」
仮面の女「……」
店主「……」
店主姪「……」
元店主嫁「……」
従者達「……」
娼婦達「……」
魔女「ママ、この人誰!?」
魔女「何で、私と全く同じ顔をしているの!?」ワナワナ
店主「……」
魔女「ねぇ、ママ。なんとか言ってよ!」
魔女「つうか、何で皆は黙ってるの!?」
店主「……」
仮面の女「まさか、ここまで今の私に瓜二つなんて……」
仮面の女「本当に、神様は余計な事をしてくれるわよね……」
魔女「……」
仮面の女「……」
店主「……」
店主姪「……」
元店主嫁「……」
従者達「……」
娼婦達「……」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ピタッ、ムギュッ……
魔女「!?」ビクッ
仮面の女「……」ニッコリ
魔女「……」ビクビクッ
仮面の女「……」ニコニコ
魔女「……」ビクビクッ
仮面の女「……」ニコニコ
魔女「あっ、あなた、だれ?……」
魔女「一体、誰なのよ?……貴女は?……」ビクビクッ
店主「……」
魔女「今の私、貴女の事なんて知らない……」
魔女「お互い、初対面のはずなんだけど……」ビクビクッ
店主姪「……」
魔女「だから、そろそろ私の事を離してくれる?……」
魔女「じゃないと、今の私は貴女の事を捕縛しないといけない……」
魔女「たとへ、同じ女性同士だったとしても、無理矢理してるには変わらないんだから……」ビクビクッ
元店主嫁「……」
仮面の女「う~~ん。そんなに嫌?」
仮面の女「実の母に、こうやって抱き締められるの、そんなに嫌?」ニコニコ
魔女「!?」ガーーン
仮面の女「久し振りね。ジュリエット」
仮面の女「まさか、私と全く同じ名前を名乗っていたとはね」ニコニコ
魔女「あ、貴女……」
魔女「一体、何を言っているの?……」
魔女「私の母は、私を産んですぐ亡くなったはずだけど……」
店主「……」
仮面の女「うん。そうだけど」
仮面の女「と言うか、ただ単に別の場所で眠ってただけなんだけど」ニコニコ
魔女「!?」ガーーン
仮面の女「じゃなきゃ、一体誰が今のあんたの事を産むのよ?」
仮面の女「つうか、何で今のあんたは、五回転生して五回ともハーフエルフなんかやってんのよ!?」ギリッ
魔女「……」ビクッ
仮面の女「今の私、さすがに目を覚ましたから!」
仮面の女「今のあんた、ほっといたらまた確実に死ににいくから!」
仮面の女「だから、今ここにいる私があんたの事をみっちり指導してあげる!」
仮面の女「見た所、今のあんたはそれなりに魔術とかは使えてるみたいだし!」
仮面の女「だから、少しは感謝くらいしなさいよね!」ギリギリッ
魔女「……」ビクビクッ
仮面の女「……」ジーーッ
魔女「……」ビクビクッ
仮面の女「……」ジーーッ
魔女「……」ビクビクッ
仮面の女「……」ジーーッ
魔女「……」ビクビクッ
仮面の女「それで、返事は?」
仮面の女「今のあんた、何で黙ったままなのかしら?」ジーーッ
魔女「……」ビクビクッ
仮面の女「もしかして、あんたエルフ語読めないとか?」
仮面の女「私の書いた術式とか、全く解らないとか言わないわよね?」ギロッ
魔女「……」ビクビクッ
仮面の女「……」ジーーッ
魔女「……」ビクビクッ、コクン
仮面の女「はぁ!?」
仮面の女「あんた、この100年もの間一体何を学んできたの!?」
仮面の女「つうか、何であんたはずっとハーフエルフのままなのよ!?」ギリギリッ
魔女「……」ビクビクッ、ポロポロッ
仮面の女「今の私、それが全くもって信じられない!」
仮面の女「私の娘は、こんな風になるはずじゃなかった!」
仮面の女「こんな物凄く可哀想な人生、絶対に送らせてなんかいなかった!」ギリギリッ
魔女「……」ビクビクッ、ポロポロッ
仮面の女「とりあえず、あんた明日予定とかある?」
仮面の女「もし仮に、あるんだったら今すぐここで言いなさい!」
仮面の女「じゃないと、今のあんた跡形もなく消し飛ばす!」
仮面の女「それだけ、今の私はストレスが溜まりまくってるんだし!」
仮面の女「本当に、あんたもいい加減にしてよね!」ギリギリッ
魔女「……」ビクビクッ、ポロポロッ
仮面の女「……」ギリギリッ
しばらくして――
仮面の女「へぇ、エルフの里+xxxxx王国との戦争とはね」
仮面の女「さすが、私の愛する娘!」
仮面の女「やってる事、全てこの私とそっくりだわ!」ニコニコ
店主「……」
仮面の女「でも、あんたどうやって1万もの兵を集めたの?」
仮面の女「今の私、私兵1万なんて持ってなかったわよ」ニコニコ
店主姪「……」
仮面の女「まぁ、他の子達に聞かれたくなかったら、エルフ語で言って!」
仮面の女「じゃないと、本当に私あんたの事を消し飛ばすわよ!」
仮面の女「あんた殺した後、良い歳をした性悪女の首を取りに行きたいんだけど!」ニコニコ
元店主嫁「……」
魔女「……どうしても、言わなきゃ駄目?」
魔女「さすがに、お母様相手でも守秘義務と言うのがあるんだけど……」ポロポロッ、ビクビクッ
従者達「……」
魔女「だから、こればっかりはたとへお母様にも言えない……」
魔女「私の母は、こんな怖い人じゃない……」
魔女「もっと、今までずっと優しい人だと思ってた……」
魔女「こんな良い歳をした性悪女……」
魔女「絶対に、私の母だとは認めたくない……」ポロポロッ、ビクビクッ
店主「……ジュリエット」ウルウルッ
仮面の女「……へぇ、あんた本当に良い度胸してるわね」
仮面の女「今の私、実の母親失格なんだ……」ガクッ
魔女「……」ビクビクッ、ポロポロッ
仮面の女「そりゃあ、今の私だってあんたに対して、罪悪感とかはあるわよ!」
仮面の女「過去の私が、あのショタコン性悪女に負けた所為で、今のあんたが物凄く不幸な目に遭ってるのは、嫌でも知ってるわよ!」ウルウルッ
魔女「……」ビクビクッ、ポロポロッ
仮面の女「でも、今の私はちゃんとそれに対する備えをしといた!」
仮面の女「今のあんたが、すぐに問題を解決出来る様な手段等を、ちゃんと書き残しておいたはずなんだけど?」ウルウルッ
魔女「……」ビクビクッ、ポロポロッ
仮面の女「まさか、あんた本当に何も出来なかったとか!?」
仮面の女「私の書き残しておいた術式とか、全く今まで理解してなかったとか!?」ガーーン
魔女「……」ビクビクッ、ポロポロッ
仮面の女「はぁ、呆れた……」
仮面の女「本当に、呆れた……」
仮面の女「まさか、ここまで実の娘がダメな子だったとは……」
仮面の女「今までの私の苦労は、一体何だったのか?……」ウルウルッ
魔女「……」ビクビクッ、ポロポロッ
仮面の女「まぁ、過ぎた事はもう仕方ないわ……」
仮面の女「今のあんた、ハーフエルフの長みたいだから……」フキフキ
魔女「……」ビクビクッ、ポロポロッ
仮面の女「とりあえず、あんたは私と共に今夜から一緒に行動をしなさい!」ムクッ
仮面の女「今後は、この私がみっちり指導してあげる!」
仮面の女「今まで、あんたは散々酷い目に遭ってきたんだし!」
仮面の女「今度こそ、あの性悪女の息の根を止めてあげるわ!」ニコニコ
魔女「あ、あの、お母様……」
魔女「もしかして、お母様も出るの?……」
魔女「お母様も、まさか兵を率いて攻め込むと言うの?……」ビクビクッ、ポロポロッ
店主「……」
仮面の女「ええ、そうよ♪」
仮面の女「それ以外、何があるって言うの?」
仮面の女「今の私達、全く同じ顔をした親子なんだし♪」
仮面の女「だから、何も問題はないはずなんだけど♪」
店主姪「……」
魔女「いや、問題あるから……」
魔女「何も、お母様まで兵を率いる必要なんてないから……」ビクビクッ、ポロポロッ
元店主嫁「……」
仮面の女「……そんなに、私の事が嫌い?」
仮面の女「やっぱり、私みたいな無数の男達の血や精子で汚された母は、認めたくない?……」ウルウルッ
魔女「……」ブンブン
仮面の女「なら、一体何が気に入らないの?……」
仮面の女「私の何が、一体駄目だって言うのよ?……」ウルウルッ
従者達「……」
魔女「なんとなく、同族嫌悪と言う言葉が思い浮かんだ……」
魔女「今の私には、本当にそうとしか言いようがない……」ポロポロッ、ビクビクッ
仮面の女「!?」ガーーン
魔女「あっ、ママ……」
魔女「大至急、お母様の部屋を用意して……」
魔女「私、明日お母様と出掛けてくるから……」
魔女「そうしないと、今の私がお母様に殺されるから……」
仮面の女「……」ウルウルッ
店主「ええ、了解したわ……」
店主「まだまだ、部屋は余ってるから好きに使って頂戴……」
店主「後、夕食の方はどうする?……」
店主「今のあんた達が必要なら、すぐに用意するけど……」
魔女「うん。頂くわ……」
魔女「お母様、今夜はここに泊まって……」
魔女「今のお母様には、本当に色々と聞きたい事があるし……」
魔女「下手をしたら、明日で今の私の命が完全に尽きてしまいそうだからね……」ビクビクッ、ポロポロッ
仮面の女「ええ、了解したわ……」ウルウルッ
魔女「……」ビクビクッ、ポロポロッ
スッ、ムクッ……
パンパン、パンパン……
店主「はい。皆動いて」
店主「ちょっと、遅いけど夕食にするわよ」
店主「ジュリエット。あんたは、実の母親を部屋に案内して」
店主「あんた、明日も早いんだし!」
店主「必ず、生きてここに戻ってきなさい!」
魔女「うん。分かった!」フキフキ、シャキン
仮面の女「!?」ウルウルッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ギギィーーッ、ギギィーーッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
カシャ、カシャ、ストン……
仮面の女「……」ウルウルッ
魔女「……」
仮面の女「……」ウルウルッ
魔女「お母様、行こう!」
魔女「つうか、何で今になって会いに来たの?」
仮面の女「……」ウルウルッ
魔女「もしかして、私の事が心配になったから?」
魔女「あまりにも、出来の悪い娘で失望しちゃったから?」
仮面の女「……」ウルウルッ、ムギュッ
魔女「……?」
仮面の女「……」ウルウルッ
仮面の女「あんた、ここのママさんと仲良いのね……」
仮面の女「まるで、本当の親子みたい……」ウルウルッ
魔女「……」ハッ
仮面の女「やっぱり、今の私は母親失格だわ……」
仮面の女「こんな、無数の男達の血や精子で汚れた女……」
仮面の女「実の母親だって、名乗る資格すらないわ……」ウルウルッ
店主「……」ウルウルッ
魔女「お母様、そんな事ないから!」
魔女「ただ単に、私はお母様とは初対面だっだけだから!」アセアセ
元店主嫁「……」ウルウルッ
仮面の女「でも、あんた私の事を恨んでるでしょ?……」
仮面の女「あの時、私があんな奴に負けてなかったら……」
仮面の女「今のあんたは、こんなにも不幸な目には遭ってなかったもの……」ウルウルッ
魔女「……」
店主姪「……」
魔女「お母様。大丈夫だから!」
魔女「私も、お母様みたいに無数の男達の血や精子で汚れてるから!」アセアセ
仮面の女「!?」ムクッ、ガーーン
魔女「私、こう見えても副業で娼婦してるのよ!」
魔女「エルフの里では、結構有名な娼婦の一人なのよ!」アセアセ
仮面の女「――――――――っ!?」ガーーン、ポロポロッ
魔女「だから、お母様は何も気にしないで!」
魔女「私は、お母様の事をずっとこれまで恨んでなんかいないから!」
魔女「主に、この私が恨んでるのは、諸悪の元凶とも言える前族長!」
魔女「まぁ、明日には再び現族長を名乗るんだし!」
魔女「だから、お母様は何も心配しないでね!」ニッコリ、アセアセ
仮面の女「……」ポロポロッ、ガクッ
魔女「……?」
仮面の女「……」ポロポロッ
魔女「……お母様?」
店主「ねぇ、ジュリエット……」
店主「何で、今のあんたはトドメ刺してんの?……」
店主「言って良い事と悪い事、それくらい分かると思うんだけど……」ウルウルッ
仮面の女「……」ポロポロッ
魔女「……え?」
店主「まさか、あんた気づいてなかったとか!?……」
店主「あんたの母親、果てしなく絶望の海にまで叩き落とされてるわよ!……」ウルウルッ、ガーーン
仮面の女「……」ポロポロッ
魔女「え? ああ、ごめん……」
魔女「私、またやっちゃった?……」
魔女「また、お母様に大変失礼な事をしちゃった?……」アセアセ
仮面の女「……」ポロポロッ
店主「ええ、してるわ……」
店主「あんたの母親、目や表情等が完全に死んでしまってるわよ……」ウルウルッ、ハァ……
仮面の女「……」ポロポロッ
店主「とりあえず、あんたこれ以上余計な事を言わないで……」
店主「ただでさえ、今日はよく姪っ子ちゃんの事をよく泣かせてるんだし……」
店主「今のあんたが、よくエルフの里で営業をしてるなんて、絶対に言っちゃ駄目よ!……」ウルウルッ
仮面の女「……」ポロポロッ
魔女「うん。分かった!」
魔女「これからは、お母様や姪っ子ちゃんの前では注意しとく!」
魔女「私、ちょっとお母様の事を部屋まで案内してくるね!」
魔女「さぁ、お母様。行こう!」
魔女「まだ、ちょっとお客さんが別室でしてるかもしれないけど、早く部屋に行こうよ!」ニッコリ
店主「ぐすん……」ガクッ、ポロポロッ
店主姪「義姉さん……」ウルウルッ
魔女「あれ? どうかしたの?」
魔女「ついさっきから、お母様完全に気絶しちゃってるけど?」ハッ
仮面の女「……」ポロポロッ
魔女「……?」
店主「あんた、もうその人は部屋で寝かしといて……」
店主「まさか、ここまであんたが馬鹿だったとは……」ポロポロッ
仮面の女「……」ポロポロッ
店主「昔から、あんたちょっと変だとは思ってたけど……」
店主「まさか、ここまでだったとはね……」ポロポロッ
店主姪「義姉さん……」ガクッ、ポロポロッ
元店主嫁「……」ウルウルッ
娼婦達「……」ウルウルッ
従者達「……」ズーーン
仮面の女「……」ポロポロッ
魔女「……とりあえず、私お母様の事を部屋まで運んでくる」
魔女「だから、先に準備してて……」
店主「ええ、了解したわ……」ウルウルッ
スッ、フワフワッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
私にとって、「母」と呼べる存在はママだけだった。
これからも、ママ以外の人を「母」と呼ぶ事は一生ないはずだった。
それにも関わらず、この私の目の前に今更ながらも実の母親が出現。
どうやら、深い眠りから完全に目を覚めたらしく、遥々エルフの里から抜け出してきた様だ。
でも、それをすぐには認める事は出来なかった。
むしろ、この私が「ずっと今までイメージしていた実の母の姿」が、大きく音を立てて瞬時に崩れ去ってしまったからだ。
あんな、「私そっくりな性格や言動等をする実の母」なんて、すぐさま認められるはずがない。
「顔」や「体」はともかく、出来れば「魔術」や「能力」とかも、そのまま今の私に全て受け継いで欲しかった。
けれど、皆がすぐにそれを認めた。
本当に、「同族嫌悪」と言う言葉がピッタリと似合う親子でもあった。
その後、私は「決戦前のほんの安らかな一時」をママ達と過ごし、実の母と共に明日の決戦に向けての準備をしていく。
その際に、私は実の母から様々な事を学び……
何故か、私の実の母も私から様々な事を学んでいったのだった。
~王都・国王の間~
翌朝――
国王「大臣。戦の支度はどうなっている?」
国王「もう既に、カーネルは島を出たのか?」
王妃「……」
大臣「はっ、まだカーネルは島を出てはおりません」
大臣「どうやら、島の内部にて向こうも戦の準備中」
大臣「多数の船が、xxx島に集結をしております」
王妃「……」
国王「して、その兵力は?」
国王「一体、如何程なのだ?」
王妃「……」
大臣「はっ、その数は推定5000」
大臣「その内、xxxxxxx伯が1000名を率いております」
王妃「……」ガクッ
国王「……うむ、合い分かった」
国王「以外に、向こうも兵を増やしてきたな」
国王「それで、我が軍の方は?」
国王「如何程、兵は集まった?」
王妃「……」
大臣「はっ、まだ2000名程です」
大臣「王都にいる魔導士20名を緊急召集をし、昨夜から兵を抽出」
大臣「それに合わせて、衛兵500を入れたとしても2500」
大臣「とても、兵は足りていません」
国王「……」
王妃「大臣、王都にいる賢者にも召集を掛けてみて下さい」ムクッ
王妃「賢者も、確か独自に兵を出せるのでしたよね?」
王妃「ここまで来たら、もうどうしようもありません!」
王妃「なるべく早く、兵を集めて王都にいる民達を救うのです!」
国王「……」
大臣「殿下、それについてはもう既に実行済みであります」
大臣「ですが、王都にいる賢者20名は、昨日の大賢者による事件が原因により出仕を拒否」
大臣「大賢者の早期釈放と謝罪を我々に求め、それがない限りは出仕を拒否し続けると申しております」
王妃「……」
国王「なら、如何致す?」
国王「賢者達が兵を出さないのなら、我らは到底不利」
国王「もし仮に、大賢者を釈放したとしても、我らに兵を出してこないだろう」
国王「大賢者は、何故かカーネルの事を昔からよく可愛がっていた」
国王「王都では唯一、カーネルに味方した人間でもあったからな」
王妃「……」
大臣「陛下、ここは傭兵を使うしか手はないでしょう」
大臣「実際、今の私は傭兵をあまり使いたくはありませんでした」
大臣「この国は、とても多数の傭兵を雇う程財源がありません」
大臣「今いる衛兵だけでも、もう既に限界なのです」
王妃「……」
国王「大臣、それはまだ良い」
国王「今は、エルフの里からの援軍を待つ」
国王「場合によっては、王都にいる日雇いの民達を使え」
国王「さすれば、その民達も一時期の間は良い暮らしを堪能出来るであろう」
王妃「……」
大臣「はっ、了解致しました」
大臣「早速、民達にお触れを出して参ります」
大臣「それと、その民達に支払う額は如何程に?」
大臣「なるべく、国庫からの出費を抑えたいのですが」
王妃「……」
国王「う~~む……」
国王「それについては、そちに任せるとする」
国王「ちなみに、大体その民達は如何程必要なのだ?」
国王「良くて、一月分が妥当ではないのか?」
王妃「……」
大臣「はっ、恐れながら申し上げます!」
大臣「今現在、定職を持たずにいる民達の数は、およそ4000名!」
大臣「その民達の一日辺りの給金は、僅か6000g!」
大臣「仕事のない日は適当に徒労を組み、王都周辺の魔物等を退治している模様!」
大臣「中には、犯罪に走る者達も数多くいる様です」
国王「……」
王妃「なら、彼らを兵として徴集を」
王妃「それだけいれば、十分にカーネルに対抗が出来ます」
国王「……」
大臣「殿下、そう簡単には上手く参りません!」
大臣「それだけの兵を雇う事が出来ないから、魔導士達から兵を抽出しているのです!」
王妃「……」
大臣「一人辺り、魔導士と賢者は兵を100程出せます!」
大臣「ですが、それを仕込んだ大魔導師と大賢者は、昨日の事件が原因により牢の中!」
大臣「おまけに、カーネルもそのお二方に師事していた愛弟子の一人なのです!」
国王「大臣、そう狼狽えるな」
国王「まだ、我らが負けると決まった訳ではない」
国王「カーネルもここに来るまでには、かなりの時間が掛かるだろう」
国王「何故なら、一度出した兵は死ぬまで消えない」
国王「それは、カーネル自身もよく分かっているはずだ」
王妃「!?」
大臣「はっ、正にその通りでございます!」
大臣「カーネルが海を渡って来た場合には、必ず港か浅瀬に停泊をしなくてはなりません!」
大臣「それに、カーネルが使用している船は全てガレー船!」
大臣「その船は、漕ぎ手だけでも50~170名は必要!」
大臣「後は、魔導士達による殲滅魔法だけでも十分撃破できます!」
大臣「たとへ、カーネルが数多くの兵を失ったとしても、すぐには再び兵を出す事が出来ないのです!」
王妃「……」
国王「王妃、もう良いか?」
国王「今のそちは、自身が抱いていた疑問を全て解消出来たか?」
王妃「……ええ、もう大丈夫です」
王妃「お心遣い、感謝致します」
大臣「……」
国王「大臣、至急民達にお触れを出せ!」
国王「民達には、ただのハーフエルフによる反乱だと伝えよ!」
国王「それと、王都にいるハーフエルフは見つけ次第全て殺せ!」
国王「これは、余からの命令だ!」
大臣「はっ、仰せのままに!」ペコッ
王妃「……」
クルッ、スタスタスタッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ガチャ、ギギィーーーーッ、ダン……
ササッ、カシャン……
衛兵隊長「も、申し上げます!」
大臣「!?」
大臣「衛兵隊長、どうした!?」
大臣「一体、どうしたのだ!? その傷は!?」
国王「!?」
衛兵隊長「はっ、恐れながら申し上げます!」
衛兵隊長「カーネルが、二人に増えていました!」
衛兵隊長「一人は、島に残って戦の準備!」
衛兵隊長「もう一人は、王都付近の平地に陣を構えております!」
大臣「!?」ガーーン
国王「して、そのカーネルの兵力は?」
国王「もう一人のカーネルは、一体どれだけの兵を率いているのだ?」
王妃「……」
衛兵隊長「はっ、恐れながら申し上げます!」
衛兵隊長「今現在、もう一人のカーネルの兵はおよそ5000!」
衛兵隊長「どうやら、カーネルはその陣の中に多数の兵を配置!」
衛兵隊長「昨日から、カーネルはそこに陣を構えていた様です!」
大臣「なら、何故その様な報告が昨日にはなかった!?」
大臣「それだけの動きがあるなら、すぐに報告が入ってくるであろう!?」
国王「……」
衛兵隊長「はっ、それについては、かなり厄介な事になっております!」
衛兵隊長「私の率いる兵の中に、カーネルが潜ませていた間者が紛れ込んでいました!」
衛兵隊長「そのおかげで、私の率いる兵は多数負傷!」
衛兵隊長「その内、100名近くの兵をもう既に失いました!」
衛兵隊長「今現在も、その間者達は逃走を続けております!」
国王「!?」ガーーン
大臣「なら、大魔導師達の動きは!?」
大臣「まさか、もう既に脱獄をしたと言うのか!?」
王妃「……」
衛兵隊長「いえ、特に動きはありません!」
衛兵隊長「二人とも、暢気に世間話をしておりました!」
大臣「ほっ……」
国王「衛兵隊長、速やかに間者を全て始末せよ!」
国王「負傷した衛兵隊長達については、すぐに手当てを!」
国王「カーネルの狙いは、民達の混乱だ!」
国王「なんとしても、民達にいらぬ不安を与えぬのだ!」
衛兵隊長「はっ!」
大臣「陛下、各魔導士達による市内警備をお命じ下さい!」
大臣「今なら、まだ間に合います!」
大臣「このままでは、いずれ民達にまで被害が!」
大臣「そうなれば、カーネルの思う壺となってしまいます!」
王妃「……」
国王「うむ。合い分かった!」
国王「大臣、各魔導士を市内警備にすぐに充てろ!」
国王「賢者達には、適当な理由を付けてすぐに出仕させろ!」
国王「でなければ、大賢者達の釈放はない!」
衛兵隊長「……」
大臣「はっ、仰せのままに!」ペコッ
大臣「衛兵隊長、急ぎますぞ!」
大臣「もう既に、カーネルが戦を仕掛けてきた!」
大臣「今のこの国は、完全に戦闘状態に入りました!」
王妃「……」ガクッ
衛兵隊長「はっ、了解致しました!」
衛兵隊長「ですが、我らだけではとても手に負えません!」
衛兵隊長「敵の数は、およそ100名!」
衛兵隊長「その内、25名程しかまだ討ち取ってはおりません!」
国王「……」
大臣「衛兵隊長。それは向こうで聞く!」
大臣「今は、一刻も早く間者を殲滅をしなければ!」
大臣「陛下、これにて失礼致します!」
大臣「どうか、陛下もお体の方をお気をつけて!」
国王「うむ、そちもな!」
王妃「……」
大臣「……」ペコッ
衛兵隊長「……」ムクッ、ペコッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ギギィーーーーッ……
ガチャ、バタン……
王妃「……」
国王「……」
王妃(正直な所、あの子だけは敵に回したくなかった……)
王妃(一体、どうしてこうなったのかしら?……)ハァ……
~王都・中央広場~
その頃――
ズバッ……
ズバババッ……
「ぐあっ……!?」
グサッ……
グサグサッ……
「ぐうううっ……!?」
ドサドサッ、ドサドサッ……
ポタポタポタッ、ポタポタポタッ……
スチャ、カシャン……
衛兵「はぁ、はぁ、はぁ……」
衛兵2「はぁ、はぁ、はぁ……」
衛兵「……」ストン
衛兵2「……」ストン、バタッ
衛兵「生き残ったのは、俺達だけか?……」
衛兵「結構、やられたな……」
衛兵2「ああ、そうだな……」バタッ
衛兵「ああ~~っ、腕痛え……」
衛兵「剣振りすぎて、かなり痛え~~っ!」
衛兵2「……」
衛兵「つうかさぁ、何で俺達はこんな目に遭ってんだよ?……」
衛兵「なんか色々と、間違ってるだろ?……」
衛兵2「……」
衛兵「いずれ、またあいつらが出てくるかもしれねぇし……」
衛兵「本当に、腕痛えわ……」
衛兵2「……」
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
衛兵「……」
衛兵2「……」
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
衛兵「……」
ストトトトトッ、ストトトトトッ、ピタッ……
衛兵2「……」
「おい、誰かいるか!?」
「誰か、生存者はいないか!?」
衛兵「ん? 味方か?……」
衛兵「ようやく、味方が追い付いてくれたのか?……」
衛兵2「……」
「誰か、生きていたら返事をしてくれ!?」
「俺達は、衛兵隊の者だ!」
衛兵2「……」
衛兵「はぁ……これで、助かる……」
衛兵「本当に、今日は最悪な気分だよ……」
衛兵2「……」
衛兵「おい、こっちだ!」
衛兵「誰か、水をくれ!」
衛兵2「……」
「おい、今の誰だ!?」
「今何人生き残ってる!?」
衛兵2「……」ムクッ
衛兵「今の所、二人だけだ!」
衛兵「そっちは、どうなんだ?」
衛兵2「……」
「待ってろ。今から、そっちに行く!」
「俺達は、まだ無傷な方だ!」
衛兵「……」
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
ストトトトトッ、ストトトトトッ、ピタッ……
「いたぞ!」
衛兵3「おい、大丈夫か!?」
衛兵3「他に、味方はいないのか!?」
衛兵長「……」
衛兵「ああ、いないな……」
衛兵「ここは、今見た所は俺達だけだ……」
衛兵2「……」
衛兵長「くっ、僅か四人だけか……」
衛兵長「敵は、まだ多数いると言うのに……」
衛兵「……」
衛兵3「衛兵長、どう致しますか?」
衛兵3「このまま、捜索は続行致しますか?」
衛兵2「……」
衛兵長「ああ、勿論だ……」
衛兵長「今の我々は、捜索を続行する……」
衛兵長「敵は、まだ市内にいるはずだ……」
衛兵長「だから、捜索を続行する……」
衛兵「……」
衛兵2「すみません。衛兵長……」
衛兵2「少し、休憩をして良いっすか?……」
衛兵2「俺達、ずっとここで戦い続けてました……」
衛兵2「さすがに、これ以上は無理なんですが……」
衛兵「……」
衛兵長「ああ、構わん……」
衛兵長「お前達二人は、そこで休んでろ……」
衛兵長「本当に、今日は最悪な日だな……」
衛兵長「まさか、あのカーネルが俺達の敵に回るとはな……」
衛兵3「……」
衛兵「衛兵長。何で、今回の敵がカーネルなんですか?……」
衛兵「今の俺達、カーネルに勝てるんですか?……」
衛兵長「……」
衛兵「はっきり言って、今の俺達は結構ヤバイですよ……」
衛兵「たった100人弱とは言え、結構手強いんですけど……」
衛兵2「……」
衛兵長「さぁ、詳しくは知らんな……」
衛兵長「またどうせ、大臣辺りが何かカーネルにいちゃもんでもつけてきたんだろ……」
衛兵長「そうじゃなきゃ、あのカーネルが王都に兵を出してこない……」
衛兵長「今の俺には、それ以外に理由が全くないと思うんだが……」
衛兵「……」
衛兵2「衛兵長……」
衛兵2「俺、もう限界っす……」
衛兵2「あのカーネルを敵に回して、生き残れた奴等はかなり奇跡です……」
衛兵長「……」
衛兵3「でも、俺達の任務は王族の警備だ……」
衛兵3「こうやって、城に潜入をしていた間者達を追うのも任務の内だ……」
衛兵長「……」
衛兵「けど、その割りにはかなり相手が悪くないか?……」
衛兵「カーネルは、確実に俺達の事を殺すつもりだ!……」ムクッ
衛兵3「……」
衛兵「衛兵長。衛兵長の方から、何とか言って貰えませんか?」
衛兵「このままだと、俺達は確実に死ぬ!」
衛兵「今まで、ハーフエルフを苦しめてきた分、確実に仕返しをされる!」
衛兵2「……」
衛兵「おまけに、今回は民間人にも被害が出た!」
衛兵「かなりの数が、カーネルによって惨殺された!」
衛兵長「……」
衛兵「それに、今の俺達はかなりの痛手を受けてます!」
衛兵「このまま行くと、確実にこの国自体が消えて無くなりそうなんですけど!」
衛兵長「ワン、落ち着け!」
衛兵長「まだ、この国が滅ぶと決まった訳ではない!」
衛兵長「今隊長が、大臣達に掛け合ってる!」
衛兵長「次期に、必ず応援が来る!」
衛兵長「今は付近の警戒及び生存者の発見が、第一優先だ!」
衛兵「しかし!」
衛兵3「ワン、落ち着け!」
衛兵3「まだ、手段は残されているはずだ!」
衛兵3「カーネルも、好き好んで王都に攻め込んだんじゃない!」
衛兵3「今回の原因は、全て上の責任なんだよ!」
衛兵「……」
衛兵長「ああ、そうだな……」
衛兵長「俺達がこんな目に遭ってんのは、全て上の責任なんだ……」
衛兵長「カーネルは、和平の道を探っていた……」
衛兵長「今まで、ずっと人間やエルフとの共存を目指してもいた……」
衛兵長「だが、それも上の所為で全て無に帰した……」
衛兵長「カーネルは、それに絶望をして兵を挙げたんだろう……」
衛兵長「じゃなきゃ、カーネルがこうして攻めてきゃしない!」
衛兵長「今回ばかりは、さすがのカーネルも我慢の限界に達した様だ!」
衛兵「……」
衛兵2「衛兵長、俺達このままどうなるんですか?……」
衛兵2「皆、カーネルによって無惨に殺されていくんですか?……」
衛兵長「……」
衛兵「俺、さすがにそんなの嫌ですよ!」
衛兵「来月、姉の結婚式に出なくちゃいけないのに!」
衛兵「このまま、俺達は犬死にですか?」
衛兵「いつの時代も、所詮俺達兵士は捨て駒なんですか?」
衛兵長「……」
衛兵3「ワン、ツー、落ち着け!」
衛兵3「二人とも、落ち着くんだ!」
衛兵「スリー、今は黙っててくれ!」
衛兵「今の俺は、衛兵長と話をしている!」
衛兵「衛兵長、どうなんですか?」
衛兵「このまま、俺達は本当に犬死にをするんですか?」
衛兵2「……」
衛兵長「スリー、少し付近を見てくる……」
衛兵長「お前達は、ここで待機してろ……」
衛兵「なっ!?」
衛兵2「衛兵長!?」
衛兵長「……」
クルッ、スタスタスタッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
衛兵「衛兵長、どこ行くんです!?」
衛兵「説明して下さい!」
衛兵長「……」
衛兵「衛兵長、逃げるんですか!?」
衛兵「俺達を置いて、自分だけ逃げるんですか!?」
衛兵長「……」スタスタスタッ
衛兵「衛兵長、これだけは言わせて下さい!」
衛兵「俺達は、絶対に犬死になんかしたくない!」
衛兵「たとへ、カーネルがここに来ようが、俺達は俺達の任務を全うする!」
衛兵「それだけは、絶対に覚えておいて下さいね!」
衛兵長「……」スタスタスタッ
衛兵「……」バタッ
衛兵2「……」ガクッ
衛兵3「……」
衛兵「俺達、もう終いだな……」
衛兵「本当に、何でこうなったんだか?……」
衛兵2「……」
衛兵3「……」
~王都付近・魔女達の陣地内~
スッ、トポポポポポッ……
トポポポポポッ、トポポポポポッ……
スッ、コトン、コトン……
ゴクゴクゴクッ、ゴクゴクゴクッ……
魔女母「ふぅ……」
魔女母「やっぱり、ストレスを発散した後のワインは格別だわ!」
魔女母「今日は、本当によく出たわ!」ニコニコ
魔女「……」
魔女母「うん。どうしたの?」
魔女母「何で、まだあんた飲んでないのよ?」ニコニコ
魔女「……」
魔女母「まさか、あんたこのワインは嫌いだった?」
魔女母「それで、今のあんたはまだ飲んでいない訳?」ニコニコ
魔女「……」
魔女母「もう、どうしたのよ?」
魔女母「そんなに、今の私と飲むのが嫌だったの?」ニコニコ
魔女「……」
魔女母「そりゃあ、あんたには昔から色々と迷惑を掛けたわよ」
魔女母「だからと言って、今はまだその辺の話はなしにしましょうよ」ニコニコ
魔女「……」ガクッ
スッ、ポリポリポリッ……
ポリポリポリッ、ポリポリポリッ……
スッ、ゴクゴクゴクッ……
魔女母「ふぅ……」
魔女「まさか、ここまで瓜二つだったとは……」
魔女「何だか、今の私物凄く複雑な気分……」
魔女「そりゃあ、数多くの人々から、あんなに私の悪評が出回るのも無理はないわね……」
魔女「今の私、それについてを今更ながらも気づいちゃった……」ウルウルッ
魔女母「……?」
魔女「ねぇ、お母様……」
魔女「お母様も、よくストレスを発散をしたい時にはあんな感じなの?……」
魔女「今さっきみたいに、村ごと殲滅魔法で吹き飛ばしたりするの?……」ウルウルッ
魔女母「ええ、そうだけど」
魔女「今までの私、ずっとこんな感じだったんだ……」
魔女「ハーフエルフだと言う理由で迫害されてたのって、これも含まれてたんだ……」ウルウルッ
魔女母「……」
魔女「ねぇ、お母様……」
魔女「これからは、もう少し穏便に侵攻をしない?……」
魔女「もう少し、一般人の被害を抑えたりしない?……」ウルウルッ
魔女母「……は?」
魔女「今更、私はハーフエルフが何故迫害されるかが分かっちゃった……」
魔女「そりゃあ、あんな感じに村々を襲ってたら、誰だってハーフエルフを迫害しちゃうわよね……」ウルウルッ
魔女母「……」
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「……ジュリエット」
魔女母「あんた、それ本気で言ってんの?」
魔女母「今のあんた、そんなんで本当にハーフエルフが迫害されずに済むと思ってるの?」
魔女「え?」ウルウルッ
魔女母「はっきり言って、今のあんたはかなり甘いわ!」
魔女母「今まで、数多くの人間達に苦しめられてきた事に比べたら、今のそんな甘い考えは絶対に通用はしないわ!」
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「今の私はね、今のあんたを見てて本当に不憫に思う……」
魔女母「まさか、ここまで実の娘を苦しめていたとは……」
魔女母「これまで、ハーフエルフにはかなり否定的だったけど……」
魔女母「今のあんたのそんな姿を見ていたら、嫌でもすぐに自身の考えを変えてしまうわ……」
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「思えば、エルフの里において“ハーフエルフを娼婦扱いにしよう”と最初に言ったのは、私の実の父だったわ……」
魔女母「私の父は、女癖が昔から悪くってね……」
魔女母「よく、私の母にはその事で咎められてた……」
魔女母「そんな時、私の父はある事を思い付いたの……」
魔女母「当時、族長だったあの性悪女に、その話を何故か持ち込んでしまったのよ……」
魔女「!?」ガーーン
魔女母「それがきっかけで、父は“ハーフエルフを娼婦扱いにする事”を認めさせた……」
魔女母「偶々、xxxxx王国の中では“ハーフエルフは家畜以下”……」
魔女母「それを理由に、xxxxx王国にハーフエルフの引き渡しを、すぐに要請……」
魔女母「それで、ハーフエルフを安値で上手くxxxxx王国から買い取ってね……」
魔女母「xxxxx王国とエルフの里が手を組んで、ハーフエルフの有効活用をしようと言う話になった訳……」
魔女「……」ウルウルッ
スッ、トポポポポポッ……
スッ、ストン……
ゴクゴクゴクッ、ゴクゴクゴクッ……
魔女母「ふぅ……」
魔女「それで、どうなったの?……」
魔女「何で、そんな話を今になってするの?……」ウルウルッ
魔女母「さっきも言った通りに、今のあんたが本当に不憫だと思ったから……」
魔女母「私の母も私自身も、その話が出た時に賛成をしてしまったからよ……」
魔女「!?」ガーーン
魔女母「それがきっかけで、xxxxx王国内では身分の低い若い女性がターゲットにされたわ……」
魔女母「エルフの里でも同様に、元からいた若い娼婦達が対象となった……」
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「それから十数年が経って、ハーフエルフの第一陣が娼婦とされた……」
魔女母「xxxxx国内でも同様に、ハーフエルフの女性は各地の娼館に引き渡された……」
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「そこから、私が成人を迎えてね……」
魔女母「私の婚約者と、将来は結婚して暖かい家庭を迎えようねって、話をしてる時……」
魔女母「何故か、あの性悪女が矛先を私に向けた……」
魔女母「あんたも知ってるかもしれないけど、それが原因であの時の私はあんたを身籠ってね……」
魔女母「私は、数多くの人間達に集団レ〇プされて出来た子供を、あの性悪女からの勅令で出産させられる事になってしまった訳……」
魔女「……」ウルウルッ
スッ、トポポポポポッ……
スッ、ストン……
ゴクゴクゴクッ、ゴクゴクゴクッ……
魔女母「ふぅ……」
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「……」
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「はっきり言ってね、最初はあんたなんて産みたくはなかった……」
魔女母「あんな誰が父親かが全く分からない子供なんて、堕胎か流産とか今すぐ本気でしたかった……」
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「それでもなお、私は全くもって何も出来なくてね……」
魔女母「エルフの里では、一度娼婦に堕ちたエルフは一生娼婦だった……」
魔女母「私の場合、あの性悪女による意向が強くてね……」
魔女母「私の両親は、更なる出世を餌に完全に私の事を見捨ててしまってた……」
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「それが理由で、私はあんたの事を産んだわ……」
魔女母「あんたの事を産んだ後、すぐにエルフの里を後にした……」
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「それからすぐ、私はあんたがいたxxx島に流れ着いてね……」
魔女母「そこで、娼婦として生計を立てながら、あんたの事を育ててた……」
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「でも、それが里にバレて私だけ連れ戻されてね……」
魔女母「その時のあんたは、xxxxxxx伯の先祖の娼婦として、あの島に置いておかれた」
魔女「!?」ガーーン
魔女母「けれど、あんた自身がそれをすぐに止めさせた……」
魔女母「娼婦として置いておくには、かなり勿体無いくらいの才を持ってしまっていたからよ……」
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「それで、今のあんたの何だかよく分からない数多くの伝説が生まれちゃってね……」
魔女母「さすがは、私の産んだ娘だと感心しちゃった訳……」
魔女「……」ウルウルッ
魔女「大体は、分かった……」
魔女「その当時のお母様からしてみたら、私は産まれてきちゃいけない子だったんだ……」ウルウルッ
魔女母「……」
魔女「でも、どうして私の事を産んで育てようとしたの?……」
魔女「たとへ、産んだ後でも、どこかに養子に出すか殺したりすれば良い……」
魔女「その頃のお母様には、全くもってそんな選択枠とかなかったとか?……」
魔女「それ程、あの性悪女は何枚も上手だったとか?……」ウルウルッ
魔女母「……」
魔女「……」ウルウルッ
スッ、ストン……
魔女母「ええ、そんな所よ……」
魔女母「あの頃の私、レ〇プされた影響で頭が完全におかしくなっちゃってたの……」
魔女母「あの頃の私、臨月の状態でもずっとしてた……」
魔女母「何故か、自分からよく“レ〇プして下さい”って、お客さんを多数取っちゃってた……」
魔女「!?」ガーーン
魔女母「それから、あんたを産んで育ててたのは、私が一人だったから……」
魔女母「あの頃の私は、もう既に実の親達から勘当をされていた……」
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「それから、ずっと私は皆から蔑まれていてね……」
魔女母「あんたを産んだ時なんかも、皆からは余計にあんた共々蔑まれていた……」
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「だから、私はあんたの事を産み育てた……」
魔女母「私は、もう既に親からも勘当をされて帰る場所もない……」
魔女母「せめて、自身が産んだ子供と二人で暮らしていきたい……」
魔女母「そう、私は心に決めてエルフの里を抜け出して行った……」
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「でも、それも叶う事なかった……」
魔女母「私の事を、私の両親はすぐにあんたと離ればなれにした……」
魔女「え?」ウルウルッ
スッ、ゴクゴクゴクッ……
魔女母「それから、私は私の両親によって幽閉されたわ……」
魔女母「あんたが、死ぬ度に私のお腹の中に再び何故か戻ってくる様になった……」
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「その間は、何故かあんたが今まで何をしていたかが、すぐに分かってね……」
魔女母「私の意識もはっきりとしていて、あんたを身籠っている時だけは何故か外出を許可された……」
魔女母「私の弟も、よくその度に私の元を何度も訪ねに来てくれたわ……」
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「それから、私はずっと今までどうしてたと思う?……」
魔女母「あんたを身籠っている時だけは、何故か起こされ再び娼婦として活動をさせられてた……」
魔女母「その間に、私はあの性悪女に対する復讐の為の計画を練ったり……」
魔女母「あんたが、いち早く自身の不幸な運命をすぐに清算する為の方法を、ずっと必死に書き残しておいた……」
魔女「ああ……」ウルウルッ
魔女母「それなのに、何であんたは何も出来てなかったのよ!?」
魔女母「私のあの苦労は、一体何だったのよ!?」ギリッ
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「だから、ここからは今の私も口出させて貰うわ!」
魔女母「今のあんただけじゃ、確実にあの性悪女には勝てるはずがないから!」
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「まぁ、とりあえずある程度は説明も済んだし、あんたも満足はしたでしょ?」
魔女母「今度は、常にあんたとずっと一緒だから!」
魔女母「今まで、散々酷い目に遭わされていたんだし!」
魔女母「今回ばかりは、私の弟も味方だからね!」ニッコリ
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「……」ニコニコ
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「……」ニコニコ
スッ、スタスタスタッ……
ムギュッ……
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「……」ニコニコ
~とある島・船着き場~
ザワザワッ、ザワザワッ……
ザザーーン、ザザーーン……
警備士官「隊長、出港準備完了致しました!」
警備士官「いつでも、出撃可能です!」
伯爵「……」
警備隊長「うむ。ご苦労」
警備隊長「船は、どれだけ用意出来た?」
伯爵「……」
警備士官「はっ、今現在、我が軍は25隻のガレー船を保有!」
警備士官「一隻につき、最大200名が乗船可能!」
警備士官「その内、漕ぎ手として50~170名が乗船しております!」
伯爵「……」
警備隊長「うむ。了解した」
警備隊長「カーネルは、まだ向こうに行ったままなのか?」
警備士官「はっ、カーネルは別動隊を率いて王都付近の平地に布陣し、陣を設営!」
警備士官「今現在は、母君と共に陣地内を視察!」
警備士官「こちらに戻るには、まだ少し時間が掛かる様です!」
伯爵「……」
警備隊長「うむ。そうか」
警備隊長「我々は、まだ動かない方が良さそうだな」
警備隊長「それで、他に報告は?」
警備隊長「まだ、勇者達の動きは掴めてないのか?」
伯爵「……」
警備士官「はっ、今の所、まだ現在地は掴めてはおりません!」
警備士官「どうやら、昨夜の内に船を使ってこの島を脱出!」
警備士官「新たに、勇者は賢者殿達を同行させ、王都の方へと向かった可能性があります!」
伯爵「……」
警備隊長「なら、カーネルの命を狙う刺客達は?」
警備隊長「そちらも、まだ動きはないのか?」
警備士官「はい。まだ、何も掴めてはおりません!」
警備士官「昨夜の段階で、カーネルの命を狙う刺客達は全て殲滅!」
警備士官「おかげで、カーネルは別動隊を率いて早々と陣を敷く事が出来ました!」
警備士官「今回ばかりは、そう簡単に体制を整える事はかなり難しいでしょう!」
伯爵「……」
警備隊長「ご苦労。もう下がって良い!」
警備隊長「出撃命令があるまで、皆待機してろ!」
警備隊長「今回は、かなり大事な一戦だ!」
警備隊長「カーネルだけでなく、こちらにいらっしゃる伯爵様の運命すら大きく左右する程の一戦なのだ!」
警備士官「はっ、了解致しました!」
伯爵「……」
警備士官「……」ペコッ
クルッ、スタスタスタッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ザザーーン、ザザーーン……
伯爵「……警備隊長。ちょっと、良いか?」
伯爵「一体、何なのだ? この船の数は?……」
伯爵「昨夜、カーネルからは何も聞いてないが……」
伯爵「まさか、これがカーネルの言っていた策の一つなのか?……」
警備隊長「はっ、正にその通りです!」
伯爵「なら、この船団を今すぐなんとかしろ!」
伯爵「民達が、多数ここに集まっている!」
伯爵「これでは、まるで我々は侵略者だな!」
伯爵「この島以外の貴族や民達から、いらぬ不安や恐怖等を与えかねない!」
住民達「……」ザワザワッ
警備隊長「はっ、了解致しました!」
警備隊長「至急、船団を移動させます!」
警備隊長「キャプテン、出港用意!」
警備隊長「隣島まで、船を全て移動させろ!」
各船長「はっ!」
伯爵「待て! 警備隊長!」
伯爵「それを、どこに移動させるつもりだ!」
伯爵「まさか、本当に隣島に移動させるつもりなのか?」
警備隊長「はい。そのつもりですが」
伯爵「……やっぱり、少し待たれよ!」
伯爵「カーネルが、ここに戻ってくるまで暫く待機!」
伯爵「今、隣島に移動したら、それこそまずい!」
伯爵「ここ最近、よく海賊が出る話だ!」
伯爵「隣島にも、海賊達がよく出没している様だ!」
住民達「……」
警備隊長「なら、敢えて今から殲滅を致しませんか?」
警備隊長「このまま放置してれば、この島にまで被害が及んでしまいます!」
伯爵「!?」
警備隊長「今日は、いつもより波はありません!」
警備隊長「潮が退けば、隣島から陸路で攻められてしまいます!」
警備隊長「ここは、早急に隣島にまで派兵!」
警備隊長「あそこは、元々は墓地及び火葬場ですし!」
警備隊長「今の内に、後顧の憂いを絶っておく必要ががあると思いますが?」
住民達「……」ザワザワッ
伯爵「……うむ。そうだな」
伯爵「後顧の憂いを絶っていた方が、良いのかもしれないな……」
警備隊長「……」
伯爵「警備隊長。至急、隣島に船団を移動させろ!」
伯爵「カーネルにも、この件をすぐに報告!」
伯爵「この際、これだけの兵がいるなら上手く使わないとな!」
伯爵「じゃなきゃ、これだけの兵を揃える意味が無いのだからな!」
警備隊長「はっ、かしこまりました!」
ザザーーン、ザザーーン……
警備隊長「キャプテン。出港用意!」
警備隊長「進路を、隣島に取れ!」
警備隊長「この島の警備に、五隻はこのまま待機!」
警備隊長「他は、すぐに隣島に進路を取るのだ!」
各船長達「はっ!」ビシッ
伯爵「後、島内にいる不審者は纏めてすぐに拘束をせよ!」
伯爵「隣島にも、勇者一行が逃げ込んでいる可能性がある!」
伯爵「警備隊長。そなたは、ここに残り兵の指揮を!」
伯爵「そして必ず、勇者一行を捕らえてくるのだ!」
警備隊長「はっ!」
シュン、シュタッ……
ササッ、カシャン……
伝令兵「警備隊長。カーネルより、伝令です!」
伝令兵「警備隊長は、このまま島内で待機!」
伝令兵「伯爵様と共に、島内で待機するようにとのご命令です!」
警備隊長「ん? 島内で待機?」
警備隊長「カーネルは、本当にそう申したのか?」
伯爵「……」
伝令兵「はっ、正にその通りでございます!」
伝令兵「警備隊長は、隷下の兵1000名と共にこの島で待機!」
伝令兵「隣島には、船五隻を残して王都にまで進軍!」
伝令兵「もう時期、カーネルは別動隊と共に動きます!」
伝令兵「本日の午後三時に、王都城門に対して攻撃を仕掛ける模様です!」
伯爵「……」
警備隊長「うむ。了解した!」
警備隊長「xxx島警備隊以外、この島からすぐに移動しろ!」
警備隊長「本日の午後三時に、カーネルは王都にまで兵を進める!」
警備隊長「急げ!」
各船長達「はっ!」
伯爵「……」
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
ザワザワッ、ザワザワッ……
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
ザワザワッ、ザワザワッ……
ザザーーン、ザザーーン……
カァ、カァ、カァ……
伯爵「……」
警備隊長「……」
シュン、シュタッ……
魔女「ふぅ……間に合った……」
魔女「なんとか、これで上手く兵を進めるわね……」
魔女「相変わらず、警備隊長は安請け合いをし易いんだから……」
魔女「本当に、貴方は困った部下だわ……」
伯爵「……」クルッ
警備隊長「……」クルッ、ビシッ
ササッ、カシャン……
魔女「遅れて申し訳ありません。伯爵様……」
魔女「カーネル・ジュリエット、只今参上致しました……」
警備隊長「……」
伯爵「うむ。ご苦労」
伯爵「相変わらず、そなたは朝から晩まで働き詰めだな」
伯爵「それだけ、そなたの寿命は長いと言う訳か?」
住民達「……」ザワザワッ
魔女「ええ、その通りです……」
魔女「昨夜、私の産みの母が訪ねて参りまして……」
魔女「その所為か、今日も朝から独断で動いてしまっております……」
警備隊長「……」
伯爵「ん? 産みの親?」
伯爵「一体、誰の事を申しておるのだ?」
シュン、シュタッ……
魔女母「お初にお目に掛かります。伯爵様」
魔女母「私の名は、ジュリエット」
魔女母「今現在、カーネル・ジュリエットとしてその名が知られている娘の実の母でございます!」ササッ
伯爵「!?」ハッ
住民達「!?」ガーーン
魔女母「この度は、我が娘の引き起こした厄介事に巻き込んでしまい、誠に申し訳ありません」
魔女母「何分、我が娘は昔から気性が荒く喧嘩っ早い性格」
魔女母「私も、我が娘には赤子の時より手を焼いておりました」
魔女母「本当に、伯爵様には申し訳なく思っております」
魔女「……」ガクッ
伯爵「う、うむ……」
伯爵「遠路遥々、ご苦労様……」
伯爵「カーネル、これはどう言う事だ?……」
伯爵「死者を蘇らす事も、そなたの策の一つなのか?……」
住民達「……」ザワザワッ
魔女「はっ、正にその通りでございます!」
魔女「我が母にも、この度の戦には参加して頂きます!」
伯爵「!?」
魔女「私の母は、エルフの里では名を知られた有能な魔術師でした!」
魔女「ですが、エルフの里内部での権力闘争に巻き込まれ、母はエルフの里を追われる事となります!」
魔女「その時に、母はこの島に上手く流れ着き、その後私が生まれました!」
魔女「母にとって、この島は第二の故郷!」
魔女「ですので、今回の戦には参加して頂きます!」
魔女母「……」
伯爵「……うむ。合い分かった」
伯爵「相変わらず、そなたはやる事がかなり大胆だな……」
伯爵「母君殿、今のそなたは実に良い娘をお持ちで……」
伯爵「本当に、そなたの娘は、この島の為によく尽くしてくれる……」
伯爵「この島では、そなたの娘に感謝しない者は一人もいないのだからな……」
ザザーーン、ザザーーン……
魔女母「はっ、お褒めに頂き、誠にありがとうございます」
魔女母「今の私は、大いに感激をしております」
魔女「……」
魔女母「ですが、本当に宜しいのですか?」
魔女母「ウチの娘は、皆様に多大なご迷惑を掛けてはおりませんか?」
警備隊長「……」
伯爵「いや、掛けてはおらんぞ!」
伯爵「むしろ、このままいて貰わないと、かなり困る程の存在となってしまった!」
住民達「!?」
伯爵「思えば、そなたやそなたの娘がいなければ、この島はもう既に滅んでいた!」
伯爵「そなたの娘は、昔からこの島の民達には尽くし過ぎだ!」
魔女母「……?」
伯爵「そのおかげで、この島の民達には慢心が芽生えている!」
伯爵「つい昨日も、そなたの娘を妬む輩が多数そなたの娘の事を襲撃をした!」
魔女「……」
伯爵「だから、母君はどうか安心をなされよ!」
伯爵「私の目が黒い内は、カーネルには指一本触れさせる事はない!」
伯爵「今まで、この島の民達にはそれが当たり前となってしまった!」
伯爵「カーネルの事を排斥をするとは、もってのほかだ!」
住民達「……」ザワザワッ
伯爵「カーネル。隣島に拠点を構えた後も、この私の為に尽くせ!」
伯爵「今の私は、そなたが必要だ!」
伯爵「今のそなたがいなくなれば、この島は再び地獄と化す!」
伯爵「今後も、私の為だけに尽くせ!」
住民達「……」ザワザワッ
魔女「はっ、仰せのままに!」
魔女「今度も、私は伯爵様の為に尽くす所存でございます!」
魔女「ですが、本当に宜しいのですか?」
魔女「私は、まだこの島にいても宜しいのでしょうか?」
住民達「!?」ガーーン
伯爵「うむ。構わんぞ!」
伯爵「その代わり、今のそなたには私の為だけに、今後はずっと働いて貰う!」
伯爵「今のそなたには、本当に色々と苦労や迷惑を掛けた!」
伯爵「今のそなたは、もうこれ以上この島の民達の為に尽くす必要はない!」
住民達「……」ザワザワッ
伯爵「それと、母君……」
伯爵「今のそなたには、行く宛はあるのか?」
伯爵「今のそなたが望むのなら、カーネルと共にこの島に暮らすのを許可する!」
伯爵「今のそなたが良ければ、この私の臣下になって貰いたい!」
魔女「……」チラッ
魔女母「はい。かしこまりました!」
魔女母「伯爵様のご厚意、心より感謝致します!」
魔女母「今後は、娘と共に伯爵様の為に働く所存です!」
魔女母「伯爵様より受けたこのご恩、一生忘れません!」
住民達「……」ザワザワッ
伯爵「うむ、合い分かった!」
伯爵「二人とも、今後は私の臣下として行動をして貰う!」
伯爵「カーネル、別動隊の現在地は?」
伯爵「もう既に、戦闘は始まっているのか?」
警備隊長「……」
魔女「はっ、ご報告致します」
魔女「今現在、我が軍の偵察隊が王都衛兵隊と遭遇」
魔女「王都衛兵隊は、偵察隊に対して攻撃を開始」
魔女「偵察隊に、多数の死者が出た模様です」
魔女母「……」
伯爵「うむ。他には?」
伯爵「他に、報告をする事はないのか?」
警備隊長「……」
魔女「はい。ございます」
魔女「しかし、これは少し厄介な件でございます」
伯爵「うむ。構わんぞ」
伯爵「その辺については、そなた達に任せる」
伯爵「それで、一体何が起きた?」
伯爵「まさか、王都の民達にもう既に犠牲者が出てしまったのか?」
警備隊長「……」
魔女「はっ、そのまさかです」
魔女「我が軍の偵察隊は、王都にいる民達ともすぐに交戦」
魔女「ですが、その者達はろくに定職も持てない日雇いの労働者達」
魔女「彼らは、魔物退治の気分で我が軍とすぐさま交戦を致しました」
魔女「それによる死傷者が、かなりの数に上っております」
住民達「!?」ガーーン
伯爵「ん? そんな事か……」
伯爵「てっきり、あの糞国王達がまた厄介な事をしてきたと思ったのだが……」
魔女「……は?」
ザザーーン、ザザーーン……
伯爵「カーネル。そなたは母君と共に、別動隊の陣地へと戻れ!」
伯爵「この島の警備は、私と警備隊長のみで十分だ!」
伯爵「これだけの数、さすがの野盗も海賊もすぐには手出し出来ない!」
伯爵「今のそなた達は、王都との戦闘のみに集中をせよ!」
住民達「……」ザワザワッ
魔女「はっ、かしこまりました」
魔女「至急、現地に向かいます」
魔女「伯爵様、どうかお体の方をお気をつけ下さい」
魔女「いつ、またどこで刺客と遭遇をするかが分かりません」
魔女「ですから、伯爵様はどうかお気をつけ下さいませ」
伯爵「うむ。合い分かった」
魔女「……」ペコッ
魔女母「……」ペコッ
スッ、シュン……
ザザーーン、ザザーーン……
伯爵「警備隊長。出港の用意は?」
伯爵「出港の用意が出来た船は、すぐにこの島から出せ!」
住民達「……」ザワザワッ
警備隊長「はっ、了解致しました!」
警備隊長「伯爵様より、水軍に対して発令!」
警備隊長「出港準備が出来た船は、直ちに出港せよ!」
警備隊長「目的地は、第一大隊以外は王都だ!」
警備隊長「第一大隊のみ、隣島に進軍をせよ!」
各船長達「はっ!」
伯爵「……」
住民達「……」ザワザワッ
「第一大隊、出港!」
「目的地は、隣島だ!」
「総員、漕ぎ方始め!」
「はっ!」
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
「第二大隊、漕ぎ方始め!」
「目的地は、王都だ!」
「進め!」
「お――――っ!」
伯爵「……」
警備隊長「……」
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
警備隊長「伯爵様。各自出港致しました」
警備隊長「それと、我々はどう致しますか?」
警備隊長「通常通りに、兵を市内に戻しますか?」
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
伯爵「うむ。そうだな」
伯爵「市内にいる兵は、今後もそのままで良いだろう」
伯爵「だが、油断は禁物だ」
伯爵「いつどこで、私の命を狙う輩が出るか分からん」
伯爵「昨日も、そのおかげで私が襲われた」
伯爵「カーネルには、本当に苦労を掛ける」
住民達「……」
警備隊長「はっ、了解致しました!」
警備隊長「至急、兵に通達を送ります!」
警備隊長「xxx島警備隊、通常通りに任務を継続せよ!」
警備隊長「伯爵様より、新たに発令!」
警備隊長「xxx島警備隊は、通常通りに任務を継続せよ!」
警備兵達「はっ!」
住民達「……」
ザザーーン、ザザーーン……
「第三大隊、漕ぎ方始め!」
「第二大隊の後に進め!」
「おーーーーっ!」
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
「第四大隊、漕ぎ方始め!」
「第二、第三大隊は目的地は同じだ!」
「進め!」
「はっ!」
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ササッ、カシャン……
警備兵「伯爵様、少し宜しいでしょうか?」
賢者兄「……」ペコッ
伯爵「ん? どうした?」
伯爵「今度は、何があったのだ?」
賢者兄「……」
警備兵「はっ、恐れながら申し上げます!」
警備兵「何者かが、昨夜の内に民達の船を奪いました!」
警備兵「この者が、その時の様子を見ていたらしく、おまけに追い剥ぎにもあった模様です!」
警備隊長「……」
伯爵「うむ。そうか」
伯爵「それはまた、災難だったな」
住民達「……」ザワザワッ
伯爵「警備隊長。この者に、代わりの服と路銀を与えよ!」
伯爵「それが終わり次第、民達に新たな船を作ってやれ!」
伯爵「他にも、まだまだ被害があるはすだ!」
伯爵「カーネルがいない今、我々の手でそれを解決をするのだ!」
賢者兄「!?」
警備隊長「はっ、了解致しました!」
警備隊長「至急、手配致します!」
警備隊長「おい、そこのお前!」
警備隊長「その者を、今すぐ自警団本部に!」
警備隊長「そこで、路銀と代わりの服を渡してやれ!」
警備隊長「その後すぐ、他の被害状況をすぐに報告せよ!」
警備兵「はっ!」
賢者兄「……」
伯爵「警備隊長。邸内に戻るぞ」
伯爵「私の用件は、もう既に済んだ」
伯爵「行くぞ」
警備隊長「はっ!」
賢者兄「……」ペコッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ザザーーン、ザザーーン……
~とある島・市場~
ガヤガヤッ、ガヤガヤッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
店主姪(義姉さん。大丈夫かな?……)
店主姪(また、無茶とかしてなきゃ良いんだけど……)
店主姪(ここ最近、義姉さんはよく外出しているし……)
店主姪(一体、何をするつもりなのかしら?……)ハァ……
ガヤガヤッ、ガヤガヤッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
店主姪(まぁ、義姉さんの事だから、多分大丈夫だと思うんだけど……)
店主姪(今回は、保護者同伴だし……)
店主姪(義姉さん、あの人の事をまた泣かしてなきゃ良いんだけど……)
店主姪(やっぱり、義姉さんがまた余計な事を言わないか心配かな?……)
ガヤガヤッ、ガヤガヤッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
商人「あら、姪っ子ちゃんじゃない」
商人「今日は、一人でお使いかしら?」ニッコリ
ピタッ、クルッ……
店主姪「あっ、こんにちは」ペコッ
牛「……」
商人「こんにちは」
商人「今日は、お母さんと一緒じゃないの?」
商人「もう一人で出歩いてて、大丈夫なのかしら?」ニコニコ
牛「……」
店主姪「はい。大丈夫です」
店主姪「昨日、義姉さんが一斉検挙をしてくれたおかげで、もう大丈夫みたいです」ニッコリ
牛「……」
店主姪「へぇ、そうなんだ」
店主姪「相変わらず、仕事が早いわね」
店主姪「うちも、今度カーネルに頼もうかしら?」
店主姪「あの、何かあったんですか?」
店主姪「また、お客さんとのトラブルでもあったんですか?」
牛「……」
商人「ううん。違うわ……」
商人「私の両親が、ここに住みたいって連絡をしてきたの……」
商人「しかも、今更ながら多額の借金で首が回らないから援助してほしい……」
商人「おまけに、自分達の老後の面倒も見ろってしつこくてね……」
店主姪「……」
商人「だから、カーネルに何とかして貰えないかしら?……」
商人「どこをどう調べたのか、今の私がここに住んでるってのがバレたみたい……」
商人「それに加えて、私の子供達にも会わせろってしつこくて……」
商人「何故だか分からないけど、ウチの店にも借金取り達が押し掛けてきたわ……」
牛「……」
店主姪「……」
商人夫「……」ヌッ
店主姪「ああ、そうなんですか……」
店主姪「なんか、昨日も似た様な事件があった様な……」タジタジッ
牛「……」
商人「ええ、そうね……」
商人「賢者様のご家族がね……」
商人「本当に、何で今更過去に捨てた子供に会いたがるんだか……」
商人夫「……」
店主姪「とりあえず、後で義姉さんに連絡をしてみます」
店主姪「義姉さん。今ちょっと、王都にまで用事がありましてね」
店主姪「いつ戻るかが、まだ少し分からないんですよ」
牛「……」
商人「……ふぅん。そうなの」
商人「やっぱり、カーネルは王都にまで出掛けちゃったの……」
商人「なんか、今回ばかりはさすがにカーネルもかなり危ないみたいね……」
商人「今まさに、カーネルは絶体絶命のピンチを迎えてしまってるみたいだから……」
店主姪「ええ、そうなんですよ……」
店主姪「さすがの義姉さんも、“いつ自分がどこで死ぬか分からないからって”、私達に別れの挨拶までしていったんですよ……」
店主姪「おかげで、昨夜は皆がしんみりとした感じでしてね……」
店主姪「結局、昨日はよく眠れない時間の方が長かったです……」
商人「……」
商人夫「でも、カーネルならなんとかするんじゃないかな?」
商人夫「ついさっき、船着き場に行ったらカーネルがいたんだ」
店主姪「え?」ハッ
商人夫「しかも、かなりの大船団を率いてるみたいでね」
商人夫「それを、間近で見ていた伯爵様も完全に度肝を抜かれてた」
商人夫「それについては、その大船団を間近で見ていた通行人達も全く同じ顔をしていたよ」
店主姪「……」
商人「ああ、貴方いたんだ……」
商人「一体、いつからそこにいたの?……」
牛「モ~~ッ」
商人夫「ああ、今さっきだ」
商人夫「新たに来る家畜を引き取りに行こうとしたら、何故か船着き場が満杯でね」
商人夫「どうやら、カーネルは王都にまで兵を差し向けるらしい」
商人夫「ほら、昨日の朝起きた伯爵様暗殺未遂事件の所為で、カーネルが本気でブチギレてしまったみたいだから」
店主姪「……」ガクッ
商人「ああ、そうなの……」
商人「それで、今日もこんなに警備兵が多いの……」
商人「本当に、カーネルも大変ね……」
商人「まさか、伯爵様までお命を狙われてしまうとはね……」
店主姪「……」
商人夫「ああ、そうだな……」
商人夫「伯爵様と司教様がいないと、カーネルはこの島を追い出されるみたいだからな……」
商人夫「それに、カーネルは本日から拠点を隣島に移すらしい……」
商人夫「それに関する準備も、もう既に昨日から始めてる様だ……」
牛「モ~~ッ」
店主姪「ええ、知ってます……」
店主姪「義姉さん。本当に、この島を出るつもりらしいんです……」
店主姪「後は、この島にいるハーフエルフ達を隣島に移して拠点を築くだけ……」
店主姪「それに掛かる時間が、まだ今の義姉さんにはあるみたいですけど……」
商人夫「……」
商人「でも、カーネルも気の毒にね……」
商人「今更、この島を追い出されるなんて……」
店主姪「……」
商人夫「いや、カーネルはこの島を追い出された訳じゃないぞ」
商人夫「伯爵様は、今後もカーネルにこの島での居住等を許可してるんだが」
商人「え?」
商人夫「ついさっき、伯爵様がそれを食い止めてた」
商人夫「おまけに、カーネルの実の母親もこの島での居住等を許可された様だ」
店主姪「!?」
商人「本当なの!? それ!?」
商人夫「ああ、本当だとも」
商人夫「カーネルの実の母親が、カーネルと完全に瓜二つでね」
商人夫「伯爵様は、カーネルの母親も自身の臣下に組み入れてた」
商人夫「それを、間近で聞いていた通行人達の中には、嫌な顔をしてる人達もちらほらいたが」
商人「……」
商人夫「だから、君達はカーネルの事で何も心配をする必要なんかないぞ」
商人夫「あの子はあの子で、本当によくこの島の住民達の為に働き過ぎている」
商人夫「その事についてを、伯爵様がかなり気に病んでいた様でね」
商人夫「司教様と連名で、今後もカーネルをこの島に置いておくのを許可した様だ」
店主姪「……」
商人「……そう。成る程ね」
商人「今後も、カーネルはこの島にいてくれるのね」
商人「けど、他の人達が何か文句を言ってこないかしら?」
商人「今回の決定、他の皆はどう思うのかしら?」
店主姪「……」
商人夫「ああ、それに関しては、本当に何も言えない……」
商人夫「ここ最近、反カーネルの動きが活発になってきてるから……」
商人夫「でも、それを今の自分達がした場合には、完全に自滅」
商人夫「今まで、自分達はカーネルにお世話になってきた」
商人夫「今回の決定は、それを抑える効果もあるみたいだからさ」
店主姪「……」ウルウルッ
商人「……」チラッ、ムギュッ
店主姪「……」ウルウルッ
商人夫「……」
商人「とりあえず、貴方……」
商人「他の家畜、引き取りに行ってきて……」
商人「今の私、この牛を連れていくから……」
商人「それが終わった後、姪っ子ちゃんをママさんの所まで送ってくるから……」
店主姪「……」ウルウルッ
牛「モ~~ッ」
商人夫「ああ、分かった」
商人夫「ちょっとまた、船着き場まで行ってくる」
商人夫「その間、店の事も頼むぞ」
商人夫「昨日の君は、そのままママさんの所で飲み潰れてしまってたんだし」
商人夫「今度は、すぐに真っ直ぐ帰ってくるんだね」
商人「ええ、分かったわ……」
商人夫「それじゃあ」
商人「行ってらっしゃい……」
店主姪「……」ウルウルッ
牛「モ~~ッ」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ガヤガヤガヤッ、ガヤガヤガヤッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ガヤガヤガヤッ、ガヤガヤガヤッ……
「あっ、こんな所にいた」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ピタッ、ペコッ……
元店主嫁「娘、何でこんな所にいるの?」
元店主嫁「頼まれてたお肉類、もう仕入れたの?」
店主姪「……」ウルウルッ
元店主嫁「商人さん。すいませんね」
元店主嫁「ウチの娘が、お仕事のお邪魔をしちゃって」ニッコリ、ペコッ
店主姪「……」ウルウルッ
商人「いえ、そんな事ないですよ」
商人「今仕入れの交渉をしていた所ですよ」ニッコリ
店主姪「……」ウルウルッ
元店主嫁「とりあえず、その牛を一頭お願いします」
元店主嫁「今日は、牛肉を中心としたメニュー」
元店主嫁「後で、商人さんもウチにいらして下さい」ニコニコ
商人「はい。かしこまりました」ニコニコ
スッ、ササッ……
チャラチャラ、チャラチャラ……
シュッ、チャラチャラ、ササッ……
商人「はい。確かに」
商人「後で、主人達とお伺い致しますね」
商人「それじゃあ、私は先に失礼します」
商人「今度も、ウチの店をご贔屓に」ニコニコ、ペコッ
元店主嫁「はい。かしこまりました」ニコニコ、ペコッ
店主姪「……」ウルウルッ、ペコッ
クルッ、スタスタスタッ、スタスタスタッ……
元店主嫁「娘、私達も帰るわよ!」
元店主嫁「義姉さん達、もう仕込みを始めちゃってるし!」
元店主嫁「だから、私達も急ぐわよ!」
店主姪「は~~い……」ウルウルッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ガヤガヤッ、ガヤガヤッ……
「モ~~ッ!」
ガヤガヤッ、ガヤガヤッ……
「メェ~~ッ!」
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
キキィーーッ、ピタッ……
「くそっ、カーネルを追い出すのに失敗した!……」
「このままだと、俺達マジでヤバイみたいだ!……」アセアセッ
「何だと!?……」
「ああ、そうだな……」
「まさか、カーネルに全てを見抜かれてたとは……」
「ここもいずれ危なくなる……」
「警備兵達が、また多数戻ってくる……」ギリギリッ
「……」ガクガクッ
「ま、まじかよ……!?」ガーーン
「ああ、まじだ……」
「それも、何故かカーネルが二人に増えてた……」
「しかも、あの余計な事しいな伯爵様が引き留めてな……」
「あの伯爵様さえいなければ、カーネルをこの島から追い出す事が出来たのに……」ギリギリッ
「……」
「でも、何で伯爵様は止めたんだ?……」
「カーネルは、この島を出るつもりだったみたいじゃないか?……」ビクビクッ
「……」ガクガクッ
「ああ、それがな……」
「あの余計な事しいの伯爵様が、今後もこの島に住む許可を与えてしまったんだ……」
「それを理由に、カーネルはこの島に残留……」
「カーネルの地位や待遇等も、今まで通りになるらしい……」ギリギリッ
「!?」ガーーン
「そ、そんな……!?」ビクビクッ
「もう、終わりだ……」ガクガクッ
「で、でもよ……」
「まだ、望みはあるはずだ……」
「カーネルが、王都に行っている間に伯爵様達を始末すれば良いんだ……」ビクビクッ
「……」
「そしたら、カーネルもこの島から出るはめになる……」
「元々、カーネルは家畜以下……」
「今まで、ハーフエルフなのにも関わらず、あんな地位や待遇等を受けてる自体が、大きな間違いなんだ……」ビクビクッ
「……」
「けど、一体どうやって?……」
「カーネルは、私兵を多数持ってるぞ……」
「今さっき、カーネルの私兵が多数王都に向かったんだぞ……」ガクガクッ
「!?」ガーーン
「しかも、カーネルは5000もの私兵を持っている様だ……」
「それを使って、王都にまで派兵する様だ……」ガクガクッ
「……」
「おまけに、伯爵様や司教様は完全にカーネルに守られてる……」
「昨日の暗殺未遂事件の所為で、邸内にいた使用人全てを斬り殺してる……」
「それに加え、カーネルが用意した新たな使用人達を邸内に入れさせ、常に警備隊長が伯爵様に同行……」
「今さっきも、伯爵様の命令一つで大船団が動いてた……」
「カーネルは、俺達の事を完全に潰すつもりだ……」ガクガクッ
「……」
「とりあえず、この話を他の皆にも連絡を……」
「特に、酒場xxxには注意するんだ……」ビクビクッ
「え?」ガクガクッ
「お前、もしかして知らないのか?……」
「あそこは、カーネルの実家だぞ……」
「あそこのママが、カーネルの今の育ての親なんだぞ……」ギリギリッ
「!?」ガーーン
「ああ、そうだな……」
「あそこのママ、カーネルの育ての親なんだわ……」
「それだけでなく、酒場xxxxxもカーネルの身内だ……」
「あそこは、カーネルがよく資金援助している店の一つ……」
「ここ最近、あそこの爺さんが体調崩してただろ?……」
「その爺さんの入院費用とかも、カーネルが出していたらしい……」
「……」ギリギリッ
「くっ、あそこまでもか……」
「この島にある酒場全てが、カーネルの拠点の一つなのか……」
「……」ビクビクッ
「それに、カーネルはこの島にある教会にも、昔から多額の寄付をしているぞ……」
「元々、この島の教会は山上以外は全て閉鎖されてた……」
「それが、カーネルが寄付をしだしてから金回りが急に良くなって、次々と閉鎖されていた教会が復活……」
「そのおかげで、司教様や伯爵様は昔からカーネル派だ……」
「お二人とも、今の暮らしを絶対に捨てたくはない様だ……」
「!?」ガーーン
「orz……」
「ああ、そうだな……」
「じゃなきゃ、ハーフエルフをあそこまで手厚く保護なんかしないわな……」
「ハーフエルフを手厚く保護すれば、カーネルから資金が入る……」
「今の様な贅沢な暮らしを、今後も死ぬまで続ける事が出来る……」
「……」ギリギリッ
「それについては、俺達だって同じだよ……」
「所詮、今の俺達はカーネルの事を妬んでるだけ……」
「元々、この島に住んでる老人達の多くは、カーネルの事を全く嫌っていない……」
「今の俺達みたいなのが、その老人達からしてみれば、かなり罰当たりみたいだからな……」ハァ……
「……」ギリギリッ
スッ、ゴソゴソッ……
ササッ、ササッ……
密偵(意外に、カーネルに敵意を向ける住民達が多数あり……)
密偵(今現在、カーネルは外出中、と……)
スッ、ゴソゴソッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ピタッ……
賢者兄「……」
警備兵「ん? どうした?」
警備兵「何か、気になる事でもあるのか?」
警備兵2「……」
賢者兄「いえ、特には……」
賢者兄「この島は、本当に豊かなんですね……」
警備兵2「……」
警備兵「お前、出身はどこだ?」
警備兵「これくらいの規模、他の町にもあるはずだが」
警備兵2「……」
賢者兄「……出身ですか?」
賢者兄「自分の出身は、xx地方のxx村です……」
賢者兄「それが、何か?……」
警備兵「いや、特にないな」
警備兵「この島には、遠方からわざわざ来る奴等が多い」
警備兵「お前と同じ村からも、何人もの男達が移住してきた」
警備兵「今のお前の様に、この島の独特な雰囲気にはすぐにはついていけない様子だったからな」
賢者兄「……」
警備兵「まぁ、今のお前がそうなるのも無理はない」
警備兵「この島では、実質的にハーフエルフが権力を握ってる」
警備兵「特に、カーネル・ジュリエット唯一人のみは別格扱い」
警備兵「司教様と伯爵様が、カーネルの事を保護してるのだからな」
賢者兄「!?」
警備兵「それで、どうする?」
警備兵「今のお前は、まだこの島の中にいるか?」
警備兵「それとも、すぐこの島を出るか?」
賢者兄「……」
「モ~~ッ!」
警備兵「もし仮に、この島にまだいるのなら、役場に申請だけはしとけ」
警備兵「それをしないと、またお前の事を捕縛しなきゃならない」
警備兵「この島では、一度捕縛された人間が滞在やら出入りやらをする場合は、役場にて申請をしなければならん」
警備兵「過去に、それを忘れて捕まったバカがかなりいた」
警備兵「そいつら全員、今はなんとかこの島では豊かに暮らしているけどな」
警備兵2「……」
賢者兄「……分かりました。そうさせて頂きます」
賢者兄「後、宿はどこでにありますでしょうか?」
賢者兄「何分、遠路遥々田舎から出てきたものですから、家族に土産の一つは買っていきたいのですが」
警備兵2「……」
警備兵「それなら、後で俺達が案内をしてやる」
警備兵「さぁ、もう行くぞ」
賢者兄「はい」
警備兵2「……」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
密偵(今の男は、賢者兄か……)
密偵(どうやら、目的は同じみたいだな……)
密偵(それにしても、この島は何か妙だな……)
密偵(そこら中に、ハーフエルフが出歩いてる……)
密偵(皆、普通にハーフエルフとも接してもいる……)
牛2「モ~~ッ!」
トコトコトコッ、トコトコトコッ……
密偵(一体、これは、どう言う事だ?……)
密偵(普通なら、ハーフエルフはあんな風に笑顔で出歩いたりはしないはず……)
密偵(おまけに、この島はカーネルによって占領された……)
密偵(皆、それを今では受け入れた……)
密偵(まぁ、これだけ王都並みに何故か溢れた物資の山があれば、自然とそうなるか……)
密偵(ここは王都と違って、あのハーフエルフ達の事をすぐさま追い出すのは、かなり困難みたいだからな……)
牛2「モ~~ッ!」
トコトコトコッ、トコトコトコッ……
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
キキィーーッ、ピタッ……
密偵2「はぁ、はぁ、はぁ……」
密偵2「はぁ、はぁ、はぁ……」
密偵「……」
スッ、シュポッ……
ゴクゴクゴクッ、ゴクゴクゴクッ……
密偵2「ふぅ……」
密偵「……」
スッ、シュポッ……
密偵2「……」
密偵「……」
密偵2「密偵、今すぐ逃げるぞ!」
密偵2「カーネルが、動いた!」
密偵2「しかも、かなりの兵を引き連れてな!」
密偵「は? お前、それどう言う事だ?」
密偵「カーネルの兵は、1000名じゃなかったのか?」
牛2「モ~~ッ!」
商人夫「……」
トコトコトコッ、トコトコトコッ……
密偵2「とりあえず、急いで逃げるぞ!」
密偵2「多数の警備兵達が、ここに戻ってきた!」
密偵2「後の話は、すぐに向こうでする!」
密偵2「だから、早く撤退するぞ!」
密偵「お、おう……」
スッ、シュン……
ガヤガヤガヤッ、ガヤガヤガヤッ……
牛2「モ~~ッ!」
商人夫「……」
トコトコトコッ、トコトコトコッ……
~王都近海・とある船内~
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
魔導士「もう時期、王都に着く」
魔導士「なんとか、戦までに間に合えば良いんだが」
賢者「ああ、そうだな……」
魔導士「賢者、本当に良かったのか?」
魔導士「お前の兄、置いてきても良かったのか?」
賢者「ああ、まあな……」
勇者「……」
魔導士「けど、戦力的には一人でも多い方が良い」
魔導士「お前の兄は、お前同様に賢者だ」
魔導士「今の俺達は、独自に兵を出せる」
魔導士「お前の兄がいないと、とても兵数がカーネルにも及ばない」
勇者「……」
賢者「いや、問題はないな……」
賢者「あんな奴、いない方が良いに決まってる……」
賢者「それに、大賢者様も大賢者様だ……」
賢者「何で、あそこまでカーネルなんかに肩入れするんだが……」
勇者「……」
魔導士「ああ、同感だな……」
魔導士「ウチの親父も、ジュリエットの事を必死になって守ろうとしてる……」
魔導士「それに加え、二人揃って仲良く牢の中……」
魔導士「本当に、何考えてるんだ? ウチの親父達は……」
勇者「……」
賢者「とりあえず、後で剣士をここに呼び出しておく……」
賢者「あいつが唯一、カーネルを斬り殺した程の男だ……」
賢者「昨夜は、運悪くすぐに捕まったが……」
賢者「私の実の兄なんかよりは、よっぽど剣士の方が役に立つ……」
勇者「!?」ガーーン
魔導士「ああ、そうだったな……」
魔導士「お前、未だに実の両親達の事を許してないんだったな……」
魔導士「今の俺も、それについては全く同じだよ……」
魔導士「ウチの親父も、本当に馬鹿だった……」
魔導士「ハーフエルフ如きに、心身共に骨抜きにされてしまってたからな……」
勇者「……」
賢者「けれど、何で勇者が急に変わったんだ?」
賢者「私や君の元を訪ねて来た勇者は、もっと好青年だったはずだが」
勇者「……」
魔導士「ああ、そうだな……」
魔導士「それについては、聞いた話だと魔王による策略らしい……」
魔導士「なんか、先代の勇者がそれに引っ掛かり、仲間を次々と見殺しにした……」
魔導士「今この船に乗ってる盗賊達が言うには、それが原因で勇者が急に変わったらしい……」
賢者「!?」ガーーン
勇者「……」ウルウルッ
魔導士「けど、今回の勇者はかなり不安だ……」
魔導士「魔王云々とか関係なく、かなり弱そうだ……」
勇者「……」ウルウルッ
魔導士「それに、何故か今回の勇者は、よりにもよってジュリエットに協力を求めていた……」
魔導士「ジュリエット自身も、最初はかなり乗り気……」
魔導士「だが、今回の勇者の仲間達が原因でそれがすぐさま破談となった……」
魔導士「今回の勇者は、それが原因でハーフエルフに命を狙われてもいる……」
勇者「……」ウルウルッ
魔導士「だから、盗賊達も動いたんじゃないのか?」
魔導士「今の勇者は、本当にどうしようもなく貧弱だったからな」
勇者「……」ウルウルッ
賢者「おまけに、従者二人もカーネルに奪われた……」
賢者「それなら、割りと仕方ないかもしれないな……」
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
賢者「魔導士。今の兵の数は?」
賢者「今、魔導士はどれだけ出せる?」
勇者「……」ウルウルッ
魔導士「ああ、良くて100だ」
魔導士「そっちは、どうなんだ?」
勇者「……」ウルウルッ
賢者「私も、君と同じ数だ」
賢者「今二人合わせたとしても、たった200しか手持ちの兵はいない」
勇者「……」ウルウルッ
魔導士「けど、やっぱりお前の兄を呼んだ方が良いな」
魔導士「それなら、少しは手持ちの兵の数が増える」
勇者「……」ウルウルッ
賢者「魔導士。くどいぞ!」
賢者「今の私は、絶対に兄上なんかには会いたくない!」
賢者「今の私の家族は、大賢者様お一人のみだ!」
魔導士「ああ、悪かった……」
魔導士「今度は、お前の兄の話をしないでおく……」
魔導士「後は、王都に辿り着くだけだな……」
魔導士「もう時期、王都に辿り着けそうだし……」
魔導士「早くしないと、ジュリエットに王都が攻められてしまうからな……」
賢者「ああ、そうだな……」
勇者「……」ウルウルッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ピタッ、ペコッ……
魔法使い「先輩、交代の時間です」
魔法使い「先輩達は、もう休んでて下さい」
戦士「……」
魔導士「ん? もうそんな時間か」
魔導士「賢者、俺達も休憩に入るぞ」
賢者「ああ、了解した」
魔導士「ああ、そうそう、魔法使い」
魔導士「お前、剣士の事は知ってたよな?」
魔導士「ほら、昨日一緒にいた奴だ」
魔導士「そいつ、今からここに呼び出す」
魔導士「その件についてを、他の皆にも伝えといてくれ」
賢者「……」
魔導士「あの、宜しいのですか?」
魔導士「剣士は、昨日置いてきたはずですが」
戦士「……」
魔導士「ああ、別に問題ない!」
魔導士「あいつは、過去にカーネルを斬り殺した程の男だ!」
魔導士「この俺が、あいつの腕を保証する!」
魔導士「だから、今のお前達は何も心配はいらない!」
賢者「……」
魔法使い「しかし……」
魔導士「しかし、何だ?」
魔導士「あれは、ただの事故だった!」
魔導士「その件については、上手く俺達が言いくるめておく!」
魔導士「じゃないと、カーネルには勝てないぞ!」
魔導士「見た目はあんなんだが、過去にカーネルを斬り殺した腕は確かなんだからな」
魔法使い「……はい。かしこまりました」
戦士「……」
賢者「魔導士、行こうか?」
賢者「私達は私達で、他にまだする事がある」
賢者「王都についたら、船を片付け兵を出すぞ」
賢者「じゃないと、カーネルに色々と遅れを取ってしまうからな」
魔導士「ああ、了解した」
魔法使い「……」
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
魔導士「後、勇者は今どこにいるか分かるか?」
魔導士「ついさっきから、全く顔を見せていないんだが」
賢者「……」
魔法使い「いえ、見てませんけど」
魔法使い「また、僧侶とどこかでいちゃついてんじゃないですか?」
魔法使い「ここ最近、ずっと僧侶といちゃついてましたし」
魔法使い「本来なら、進む筈のものが全く進んでいませんでしたから」
勇者「……」ウルウルッ
魔導士「……そうか」
魔導士「ここは、二人に任せるとする」
魔導士「それじゃあ、見張りしっかりと頼むな」
魔導士「勇者が戻ってきたら、さっきの件きちんと話しといてくれ」
魔法使い「はい。かしこまりたした」ペコッ
戦士「……」ペコッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
戦士「……」
魔法使い「……」
勇者「……」ウルウルッ
戦士「……」
魔法使い「……」
勇者「……」ウルウルッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
パカッ……
勇者「あ……」ウルウルッ
戦士「……」
魔法使い「勇者、何してんだ?」
魔法使い「何で、そんな所に隠れてるんだ?」
勇者「……」ウルウルッ
魔法使い「お前、僧侶と一緒じゃなかったのか?……」
魔法使い「何で、樽の中に隠れてるんだ?……」
勇者「実は、ここ最近、僧侶が色々と病んできたんだ……」
勇者「“今の自分のお腹の中には、勇者様の子供がいる!”……」
勇者「“だから、勇者様は他の女に手を出さないで!”……」
勇者「特に、カーネルとか!……」
勇者「“カーネルに取られるくらいなら、勇者様を殺して私も死ぬ!”と言ってきたんだ……」
魔法使い「!?」
戦士「ああ……」
勇者「だから、俺はここに隠れてんだ……」
勇者「僧侶は、今はまだ船室に閉じ込めてある……」
勇者「頼む、王都に着くまで誰にも言わないでくれ……」
勇者「このままだと、俺、確実に兄さんと同じ運命を辿る……」
勇者「兄さんみたいに、すっかり病んだ僧侶と腹上死してしまう……」
僧侶「……」ヌッ、パンパン……
戦士「!?」ビクッ
魔法使い「!?」ビクッ
勇者「戦士、魔法使い。どうした?……」
勇者「今の俺、本当に兄さんと同じ末路を辿りそうなんだが……」ウルウルッ
戦士「……」ビクビクッ
勇者「今の俺は、まだ僧侶に殺されたくはない……」
勇者「本当に、まだ僧侶には殺されたくはないんだ……」ウルウルッ
魔法使い「……」ビクビクッ
勇者「……?」ウルウルッ
僧侶「戦士、魔法使い、そこどいてくれる?」
僧侶「今の私、勇者様と話があるから」
僧侶「だから、さっさとそこを退いてくれる?」ニッコリ
二人「はっ、はい……」ササッ
勇者「!?」ウルウルッ
僧侶「……」
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ピタッ、ヌッ……
僧侶「……」
勇者「……」ウルウルッ
僧侶「……」
勇者「……」ウルウルッ
僧侶「おはようございます。勇者様」
僧侶「今日も、いいお天気ですね」ニッコリ
勇者「……」ウルウルッ
僧侶「とりあえず、そこから出ませんか?」
僧侶「今の私、何もしませんよ」
僧侶「勇者様の事、殺したりはしませんから」
僧侶「今さっき、勇者様が話していた事は全て出鱈目」
僧侶「今の私、全く病んではいませんけど」ニコニコ
勇者「……」ウルウルッ
僧侶「後、朝のご奉仕がまだでしたね」
僧侶「本日も、また勇者様のを気持ち良くして差し上げます」
僧侶「今の私、勇者様だけのものですから」
僧侶「勇者様のお子を孕んだ状態でも、勇者様が望むのであれば好きなだけさせて差し上げますから」ニコニコ
勇者「……」ウルウルッ
戦士「……」ビクビクッ
魔法使い「……」ビクビクッ
僧侶「戦士、魔法使い……」
僧侶「勇者様を、早く樽から出して……」
僧侶「じゃないと、勇者様の事を食べるわよ……」
僧侶「勇者様の望み通りに、腹上死をさせてあげるけど……」
勇者「!?」ウルウルッ
戦士「わ、分かった……」
戦士「今から出す……」
戦士「今から出す……」
勇者「ま、待て……」
勇者「お前、俺の事を裏切るのか?……」
勇者「今のお前は、そんな酷い奴だったのか?……」ウルウルッ
僧侶「……」
戦士「すまん、勇者……」
戦士「ここで出さないと、俺達の命にも関わるんだわ……」
戦士「さすがに、今の俺は女なんかに殺されたくはない……」
戦士「そんな死に方、産まれ故郷にも知られたくもない……」ビクビクッ
魔法使い「……」ビクビクッ
勇者「魔法使い、お前なら分かってくれるよな?……」
勇者「今のお前は、俺の味方なんだよな?……」ウルウルッ
魔法使い「……」ビクビクッ
勇者「頼む、なんとか言ってくれ……」
勇者「今の俺、本当にヤバイんだ……」
勇者「このままだと、僧侶に何をされるかが全く分からないんだ……」ウルウルッ
魔法使い「許せ、勇者……」
魔法使い「せめて、お前の葬式ぐらいは出してやる……」
魔法使い「後、今まで世話になったな……」
魔法使い「お前との旅、本当に良い修行になった……」ビクビクッ
勇者「!?」ガーーン
戦士「勇者、許してくれ……」
戦士「頼むから、化けて出てこないでくれ……」
戦士「お前の墓、ちゃんと立ててやる……」
戦士「産まれ故郷に、ちゃんと遺体も運んでやる……」ビクビクッ
勇者「戦士――――――――っ!?」ウルウルッ
僧侶「勇者様、もうそろそろお覚悟を……」
僧侶「今の私、何も怒ってませんから……」
僧侶「実際、今の私達は何度も何度も愛し合ったんですし……」
僧侶「だから、その責任を今すぐ取って下さいね」ニッコリ
勇者「……」ウルウルッ
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
しばらくして――
盗賊「……」
武闘家「……」
盗賊「……」
武闘家「……」
盗賊「なぁ、武闘家……」
盗賊「歴史って、繰り返すもんなんだな……」
盗賊「今の俺、その言葉についてをすぐさま納得をしてしまったんだが……」
武闘家「ああ、そうだな……」
盗賊「今回、大丈夫だろうか?……」
盗賊「前の勇者みたいに、あいつもああなってしまうんだろうか?……」
武闘家「さぁ、まだ分からないな……」
盗賊「とりあえず、あの剣士とか言うおっさんが仲間に加わるらしい」
盗賊「大体、何であんな奴を仲間に加えるんだ?」
盗賊「今の俺、全くその事についてが納得をいかないんだが」
武闘家「ああ、まあな……」
盗賊「まぁ、前の勇者みたいにならない様にすれば良いだけの話だ」
盗賊「元々、あれは魔王による策略だったんだし」
盗賊「今の俺達は、前の勇者達の仇を討ちたいからな」
武闘家「ああ、まあな……」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ズルズルッ、ズルズルッ……
盗賊「!?」ハッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ズルズルッ、ズルズルッ……
僧侶「♪~~♪~~♪」ニコニコ
武闘家「……」ガクッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ズルズルッ、ズルズルッ……
僧侶「♪~~♪~~♪」ニコニコ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ズルズルッ、ズルズルッ……
僧侶「♪~~♪~~♪」ニコニコ
ピタッ、ガチャ
ズルズルッ、ズルズルッ……
バタン……
盗賊「……」
武闘家「……」
盗賊「……」
武闘家「……」
「さて、どう料理しようかな~~っ?」
「やっぱり、スタンダードなプレイも良いかもね♪」ニコニコ
盗賊「……」
武闘家「……」
盗賊「……」
武闘家「……」
「い、いやああああああああ――――――――っ!?」
「いやああああああああ――――――――っ!?」
「いやああああああああ――――――――っ!?」
「いやああああああああ――――――――っ!?」ポロポロッ
「もう、煩い!」
盗賊「……」
武闘家「……」
盗賊「……」
武闘家「……」
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
「そ、僧侶……」
「頼む、許してくれ……」
「許してくれ、許してくれ……」ポロポロッ
「嫌です!」ニッコリ
盗賊「……」
「そ、僧侶、落ち着くんだ……」
「今のお前のお腹に、子供なんていない……」
「二日前に、お前は一度死んだだろ?……」
「それが原因で、お腹の中の子供も一緒に死んでるはずだ……」ポロポロッ
武闘家「……」
「ええ、知ってますよ……」
「もう既に、私のお腹の中に赤ちゃんなんてもういない事を……」
「あの時の私、本当に勇者様のお子を身籠っていたんです……」
「だから、今から再び作るんですよ?」
「それに、何か問題でも?」ニコニコ
「だ、だが、今作る必要はない……」
「俺達、まだ成人をしたばっかだぞ……」
「つい最近まで、子供だったんだぞ……」ポロポロッ
盗賊「……」
「ですから、再び子作りを開始するんです」
「じゃないと、次の勇者が産まれてこない」
「今の私は、その為にここにいます」
「どうか、再びこの私のお腹の中に、勇者様のお子を身籠らせて下さい!」ニコニコ
武闘家「……」
「た、頼む……」
「どうか、見逃してくれ……」
「今の俺、まだ死にたくはない……」
「兄さんみたいに、死にたくはない……」ポロポロッ
「無理です!」
「もう諦めて下さい!」ニコニコ
「だ、誰か……」
「誰か、助けてくれ……」
「このままだと、本当に殺される……」
「本当に、殺される……」ポロポロッ
盗賊「……」
「大丈夫。全て私にお任せを」
「なるべく、痛くなんてしませんし」
「今の私は、勇者様の妻なんですからね!」ニコニコ
「い、いやああああああああ――――――――っ!?」
武闘家「……」
「いやああああああああ――――――――っ!?」
「いやああああああああ――――――――っ!?」
「いやああああああああ――――――――っ!?」
「煩い!」
ビシッ、バシッ!
更にしばらくして――
盗賊「……」
武闘家「……」
魔導士「……」
賢者「……」
ギシギシッ、ギシギシッ……
「んんっ、んんっ……」
ギシギシッ、ギシギシッ……
「ああん、はあ~~ん……」
盗賊「当分、そっとしといてやろう……」
武闘家「じゃないと、俺達まで殺されるからな……」
魔導士「ああ、そうだな……」
賢者「勇者……」
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
ザバーーッ、ザバーーッ、ザバーーッ……
~エルフの里・女王の寝室~
女王(ようやく、あんな醜い姿から解放されたわ……)
女王(やっぱり、今の私はかなり美しいわね……)ニコニコ
侍女「……」テキパキ
女王(まぁ、そのついでにあの娘の封印まで破れちゃったけど……)
女王(今の私からしてみたら、全く大した問題じゃないのよね……)ニコニコ
侍女「……」テキパキ
トントン、トントン……
女王「誰?」
「お母様、私です」
「少し、宜しいでしょうか?」
女王「……そう、入りなさい」
ガチャ、バタン……
王女「……」ペコッ
侍女「……」テキパキ
王女「お久しゅうございます。お母様」
王女「こうして、ここでお会いするのは何年振りでしたっけ?」ニッコリ
侍女「……」テキパキ
女王「ええ、久し振りね。我が娘よ」
女王「今の私は、ようやく戻ってこれた!」
女王「本日から、私は再び族長になるわ!」ニコニコ
侍女「……」テキパキ
王女「ええ、存じ上げております」
王女「族長就任、おめでとうございます」
王女「本日は、それを伝えに参りました」
王女「私も、これからはお母様の下で働かさせて頂きます」
王女「ですので、どうか宜しくお願い致します」ニコニコ、ペコッ
侍女「……」テキパキ
女王「……そう、今の貴女は、もうそんな歳なんだ……」
女王「本当に、今の私は母親失格だわ……」ガクッ
女王「たとへ、それがあの親子による陰謀だとしても、今の私はろくに何もしてあげれなかった……」
女王「あんな醜い姿に変化する前でも、ずっと仕事に掛かりっきりの毎日……」
女王「それが原因で、今の貴女には随分迷惑を掛けたわね……」
女王「本当に、その事については申し訳なく思ってるわ……」
侍女「……」テキパキ
王女「お母様。大丈夫ですよ」
王女「今の私、昔の事はもう気にしてはいませんよ」ニコニコ
女王「……」
王女「今はこうして、私の目の前にお母様が戻って参りました」
王女「本当に、私はお母様にずっと会いたかった……」ウルウルッ
侍女「……」テキパキ
王女「ですから、お帰りなさいませ。お母様……」ペコッ
王女「私、これでようやく安らかに眠る事が出来ます……」
王女「今まで、散々寂しがらせてきた分……」
王女「今度こそ、確実に償って頂きますからね……」ウルウルッ
侍女「陛下。着付け完了致しました」
侍女「これで、宜しいでしょうか?」
王女「……」ウルウルッ
女王「ええ、構わないわ」
女王「もう、下がって良い」
侍女「はっ!」ペコッ
王女「……」ウルウルッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ガチャ、キキィーーッ……
クルッ、ペコッ、バタン……
王女「……」ウルウルッ
女王「……」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ピタッ、ムギュッ……
王女「……」ウルウルッ
女王「……」
王女「……」ウルウルッ
女王「……」
王女「……」ウルウルッ
女王「……」
王女「……」ウルウルッ
女王「ねぇ、xxx……」
女王「本当に、ごめんなさいね……」
女王「今の私、あの頃の自分を本気で殴り倒したいわ……」
女王「あれさえなければ、今の貴女にずっと辛い思いをさせずに済んでいたわ……」
王女「……」ウルウルッ
女王「やっぱり、私の事を恨んでるわよね?……」
女王「今の貴女、本当の所はもう既に私の事なんか、親でも何でもないと思ってるのよね?……」
王女「……」ウルウルッ
女王「……」
女王「まぁ、今の私はそれでも構わないわ……」
女王「所詮、私は母親失格なんだから……」
王女「……」ウルウルッ
女王「でも、これだけは言わせて……」
女王「私は、貴女の事をずっと愛してる……」
女王「今まで、あんな醜い姿になっていた時も、貴女の事を片時も忘れた事はなかった……」
女王「それでも、貴女の元にすぐさま戻らなかったのは、あんな姿でどうしても戻れなかった……」
王女「……」ウルウルッ
女王「だから、今日は好きなだけ今の私に、常日頃からの恨みをぶつけなさい……」
女王「今の貴女、本当の所は、それをしにここにまで来たんでしょ?……」
女王「本当に、今の貴女には申し訳なく思ってるわ……」
女王「本当に、今までずっとごめんなさいね……」
王女「……」ウルウルッ
女王「……」
王女「……」ウルウルッ
トントン、トントン……
女王「誰?」
「陛下。近衛連隊長のxxxxxxです」
「偵察部隊より、急報が入りました!」
女王「そう、それで?」
「陛下。恐れながら、申し上げます!」
「カーネル・ジュリエットが、王都付近にて陣を設営!」
「今現在、カーネル・ジュリエットの兵力は、およそ5000!」
「もう既に、王都衛兵隊との間で交戦中であります!」
王女「!?」ウルウルッ
女王「何ですって!?」
「陛下。如何なさいますか?」
「今現在、我らの兵力はおよそ10000!」
「昨日より、出撃準備を整えております!」
「ご命令とあれば、すぐにでも兵を率いて王都に向かいますが」
女王「連隊長。貴方は、出撃をする必要はないわ!」
女王「貴方は、里に残って境界線の守備!」
女王「どうせ、10000って言っても、その内近衛連隊は1000名規模でしかないんでしょ?」
女王「だったら、使い捨ての雑兵だけ送りなさい!」
王女「……」ウルウルッ
「はっ、了解致しました」
「ですが、使い捨ての雑兵だけだと、王国に気づかれる恐れがありますが……」
王女「……」ウルウルッ
女王「……そうね」
女王「適当に、死んでも別に構わない様な貴族に、大隊長を任せといて……」
女王「例えば、あの腰抜けの一族とか……」
女王「あの親子の身内全員とかに、今すぐ出撃を命令しなさい!……」
王女「……」ウルウルッ
「はっ、了解致しました!」
「すぐに、手配をして参ります!」
「それと、陛下……」
「カーネル・ジュリエットの親類の件ですが、一人とても怪しい人物がおります……」
「その者は、カーネル・ジュリエットとは完全に瓜二つ……」
「そう、それも、まるでxxxxxxx侯のご嫡女ジュリエットの様な振る舞いをなさっていた様なのです……」
王女「!?」ウルウルッ
女王「……」
「陛下。如何なさいますか?」
「その者も、同時に始末しておきますか?」
王女「……」ウルウルッ
女王「ええ、構わないわ!」
女王「ただし、まだその者に対する攻撃は控えといて!」
女王「その者が、この里に来た場合には、真っ先にこの私に連絡!」
女王「後、昨日退位させた若造も始末しといて!」
女王「そいつが、昨日の内に禁忌を破った!」
女王「だから、もう殺しなさい!」
「はっ、仰せのままに!」
「それでは、私はこれで失礼致します!」
女王「ご苦労様」
王女「……」ウルウルッ
女王「……」
王女「……」ウルウルッ
女王「……」
スッ……
女王「これ、使いなさい」
女王「貴方、さっきからずっと泣きっぱなしよ」
女王「そんなに、私に会うのが楽しみだったの?」
王女「……」ウルウルッ、スッ
女王「……」
王女「……」フキフキ
女王「……」
王女「ええ、そうですよ……」
王女「今まで、私はずっとお母様が戻ってくるのを心待にしていましたもの……」ニッコリ
女王「……」
王女「最初は、お母様の事を恨みました……」
王女「良い歳をして、何で実の娘と歳が近い男を略奪をするんだと、そう思いました……」ニコニコ
女王「……」
王女「でも、それは今ではお母様のお気持ちが、かなり分かりますよ……」
王女「あの方は、今は亡きお母様の実の兄の生まれ代わりだった……」
王女「当時は、まだ幼くブラコンだったお母様が、本気で愛した方だとすぐに分かりました……」ニコニコ
女王「……」
王女「だから、あの方を略奪をしたんですよね?」
王女「今度は、お互いに血が繋がってないから、結婚出来るって浮かれてたんですよね?」ニコニコ
女王「……」
王女「まぁ、その方はまたもや短命でお亡くなりになられましたけど……」
王女「それはそれで、本当に良かったと思っております……」ニコニコ
女王「とりあえず、xxxx」
女王「これから、私は執務室に向かう」
女王「貴女も、一緒に付いてきなさい」
女王「この話は、後でゆっくりと聞くわ」
王女「はっ、仰せのままに」ニコニコ
女王「……」
王女「さぁ、参りましょうか? 陛下」
王女「本日の陛下のスケジュールは、かなり一杯です」
王女「まずは、就任の挨拶にxxxxx王国との件」
王女「それに、長老衆との会合に新体制発足の準備」
王女「本日は、かなり長い一日になりそうですね」
王女「まぁ、陛下とご一緒出来るのなら、私はそれでも構いませんからね」ニコニコ
女王「ええ、了解したわ」ニッコリ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ガチャ、キキィーーッ、バタン……
~王都・城門前~
その日の午後三時――
カァーーン、カァーーン、カァーーン……
カァーーン、カァーーン、カァーーン……
敵偵察兵「申し上げます!」
敵偵察兵「カーネルが、動きました」
敵偵察兵「今現在、カーネルは陣を出てこちらに向けて接近!」
敵偵察兵「その数、およそ4000に及びます!」
大臣「……」
敵偵察兵「それと、カーネルは歩兵を中心とした編成で、ゆっくりと進軍!」
敵偵察兵「ですが、カーネルが何故か二人同じ場所に存在!」
敵偵察兵「どちらが本物のカーネルかが、全く見分けのつかない状態です!」
傭兵隊長「……」
大臣「ふむ、そうか」
大臣「これは、かなり厄介になるな」
大臣「傭兵隊長、全隊に指示を!」
大臣「今こそ、カーネルを潰す良い機会!」
大臣「これが成せば、ハーフエルフは一人残らず殲滅出来る!」
大臣「所詮、ハーフエルフなど家畜以下の存在なのだ!」
「お――――――――っ!」
傭兵隊長「大臣様。ここは、我々にお任せ下さい!」
傭兵隊長「必ずや、カーネルを討ち取ってみせましょう!」
傭兵隊長「ですから、どうか吉報をお待ち下さいませ!」
大臣「了解した!」
各大隊長達「……」
傭兵隊長「第一大隊、戦闘用意!」
傭兵隊長「カーネルが布陣し終えた後、一斉に掛かれ!」
敵大隊長「はっ、かしこまりました!」ビシッ
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
「ヒヒィーーーーン!」
「第一大隊、前へ――――――――っ!」
「カーネルは、すぐ目の前だ!」
「行くぞ――――――――っ!」
「お――――――――っ!」
大臣「……」
傭兵隊長「……」
ササッ、カシャン……
敵大隊長2「傭兵隊長。我が第二大隊も、早く出撃をさせて下さい!」
敵大隊長2「第一大隊だけでは、かなり劣勢です!」
敵大隊長2「我々も、第一大隊の援護をさせて下さい!」
敵大隊長2「必ずや、カーネルの首を取って参りますので!」
傭兵隊長「……大臣」
大臣「良いだろう」
大臣「第二大隊にも、出撃を許可する!」
大臣「ただし、それには条件が必要だがな!」
傭兵隊長「条件?」
傭兵隊長「何なのです? その条件とは?」
敵大隊長2「……」
大臣「なぁに、簡単な事だ!」
大臣「まずは、小手調べに中隊規模から出撃をさせよ!」
大臣「じゃないと、我が軍はすぐに全滅!」
大臣「カーネルの率いる弓隊は、かなり精強なのだからな!」
敵大隊長2「……」
傭兵隊長「ええ、分かりました!」
傭兵隊長「第一大隊にも、すぐに指示を出します!」
傭兵隊長「おい、そこの偵察兵!」
傭兵隊長「至急、今の話を第一大隊に伝えて来い!」
傭兵隊長「モタモタするな!」
傭兵隊長「敵は、すぐそこまで来てるんだ!」
敵偵察兵「はっ!」ビシッ
スッ、クルッ……
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
大臣「……」
傭兵隊長「……」
傭兵副長「……」
敵大隊長3「……」
「第二大隊、前へ!」
「我々の任務は、第一大隊の援護だ!」
「進め――――――――っ!」
「お――――――――っ!」
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
大臣「……」
大臣「……」シュッ、シュポッ
大臣「……」ゴクゴクゴクッ
シュン、シュタッ……
ササッ、カシャン……
密偵「大臣様、急報です!」
密偵「勇者一行が、王都近くの港に到着を致しました!」
大臣「!?」
密偵「どうやら、勇者一行はカーネルを追っていた模様!」
密偵「大臣様に対して、速やかにお目通りを求めてきております!」
傭兵隊長「……」
大臣「傭兵隊長。どう思う?」
大臣「勇者一行は、信用に値するか?」
密偵「……」
傭兵隊長「まだ、何とも言えません」
傭兵隊長「ここは、私が言ってきます」
傭兵隊長「大臣様、許可を頂けますでしょうか?」
大臣「いや、その必要はない」
大臣「ここは、私が直接勇者に会いに行く!」
大臣「傭兵隊長。少しの間、ここを開ける」
大臣「私がいない間、しっかりと頼んだぞ!」
傭兵隊長「はっ!」
傭兵副長「……」ビシッ
敵大隊長3「……」ビシッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ピタッ、シュン……
傭兵隊長「……」
傭兵副長「……」
敵大隊長3「……」
傭兵隊長「副長。今回の件、どう思う?」
傭兵隊長「今の俺達、完全に使い捨てだな」
傭兵隊長「これだけの規模、実際に率いたのは初めてなんだが」
傭兵副長「ええ、そうみたいです!」
傭兵副長「今の我々は、完全な使い捨てなのでしょう!」
傭兵副長「ですが、今の我々にはこうするしか道はありません!」
傭兵副長「カーネルがいれば、今の我々は完全に不要だった!」
傭兵副長「皆、カーネルの事を疎ましく思ってました!」
傭兵隊長「……」
傭兵副長「ですから、今の我々は、カーネルを討伐する事のみに集中をしましょう!」
傭兵副長「そうじゃなきゃ、今の我々の存在は常に脅かされる!」
傭兵副長「今でも、カーネルに代わって魔導士達が召喚兵を使用してきます!」
傭兵副長「魔導士一人で、最大100名の召喚兵を出現可能!」
傭兵副長「それが原因で、失業を余儀なくされた者達はかなり多い!」
傭兵副長「今の我々にとって、カーネルだけが敵ではないのです!」
敵大隊長3「……」
傭兵隊長「ああ、了解した!」
傭兵隊長「副長の言う通りにしよう!」
傭兵副長「でしたら、第三大隊にも出撃の許可を!」
傭兵副長「今、第一と第二が行軍をしております!」
傭兵副長「どうやら、カーネルも陣形を整えた様です!」
傭兵副長「今こそ、我らの手でカーネルを討ち取るのです!」
敵大隊長3「……」ビシッ
傭兵隊長「ああ、了解した!」
傭兵隊長「第三大隊、出撃用意!」
傭兵隊長「第一と第二に、その件をすぐに伝えよ!」
傭兵隊長「敵は、我々と同じ歩兵だ!」
傭兵隊長「副長は、弓隊を率いて援護しろ!」
傭兵副長「はっ!」ビシッ
敵大隊長3「しかと、承りました!」ビシッ
傭兵隊長「……」
スッ、クルッ……
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
傭兵隊長「……」スッ
傭兵隊長「……」シュポッ
傭兵隊長「……」ゴクゴクゴクッ
傭兵隊長「……」ゴクゴクゴクッ
傭兵隊長「ふぅ……」
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
ササッ、カシャン……
敵伝令兵「申し上げます!」
敵伝令兵「第一大隊、第二大隊と合流!」
敵伝令兵「双方から先遣隊を出し、まもなく先遣隊が敵部隊と遭遇する模様です!」
傭兵隊長「うむ、ご苦労」
傭兵隊長「もう、下がっても良い」
敵伝令兵「はっ!」ビシッ
スッ、クルッ……
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
傭兵隊長(しかし、困ったな……)
傭兵隊長(何で、今更カーネルは兵を出すんだ?……)
傭兵隊長(ここ最近、王都ではかなりきな臭い動きが多数あり……)
傭兵隊長(まさか、カーネルもそれに関わっているのか?……)
傭兵隊長(カーネルは、本当にこの国を攻め滅ぼすつもりなのか?……)
シュッ、ストン……
傭兵隊長(カーネル……)
傭兵隊長(一体、あんたは何を考えている?……)
傭兵隊長(何で、あんたはいつもこう波風を立てまくる?……)
傭兵隊長(まぁ、そのおかげで久し振りにまともな仕事にありつけた……)
傭兵隊長(ここ最近、ずっと魔物ばかり退治してきたし……)
傭兵隊長(今回みたいな、ハーフエルフの反乱とはかなりレアな体験なのだからな……)
スッ、ゴソゴソッ……
ポリポリッ、ポリポリッ……
ゴックン……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
傭兵隊長「おっ、始まったか」
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
傭兵隊長「……?」
傭兵隊長(ん? 何かおかしい?……)
傭兵隊長(何故か、味方が次々と門を離れている……)
傭兵隊長(まさか、カーネルの罠か!?)
傭兵隊長(このままだと、味方に大損害が出る!)
傭兵隊長(出撃させた味方全員が、カーネルの餌食になるぞ!)ガタッ
~王都付近・魔女達の陣地内~
その頃――
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
魔女「……」
魔女母「……」
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
魔女「……」
魔女母「……」
「ヒヒィーーーーン!」
魔女母「ねぇ、ジュリエット」
魔女母「何で、あんた出撃させないの?」
魔女母「敵、迫ってきてるんだけど」
魔女「……」
魔女母「もしかして、怖じ気づいたとか?」
魔女母「代わりに、私が指揮しようか?」
魔女「……」
魔女母「……」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ササッ、カシャン……
偵察隊長「報告、敵部隊接近!」
偵察隊長「敵の兵力は、およそ4000!」
偵察隊長「所属は、王都臨時傭兵隊です!」
偵察隊長「如何なさいますか?」
魔女「……」
魔女母「ねぇ、ジュリエット」
魔女母「あんた、今の話聞いてるの?」
魔女母「敵、すぐそこまで迫ってきてるけど」
魔女母「今のあんた、何で迎撃をしないの?」
偵察隊長「……」
魔女「ただ単に、罠を仕掛けてあるから何もしてないだけ」
魔女「今ここで、私達が先に動いても全く意味ない」
魔女「だから、まだ何もしなくても良いわ」
魔女「私の出した幻影が、上手く敵を引き付けてくれてるから」
偵察隊長「……」
魔女母「そう、罠ね」
魔女母「あんた、いつの間に罠なんか仕掛けてたのよ?」
魔女母「今の私、全くそれ聞いてないし」
魔女母「あんた、それを先に言っときなさいよね」
偵察隊長「……」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ササッ、カシャン……
伝令兵「伝令!」
伝令兵「勇者率いる別動隊が、王都近くの港に到着!」
伝令兵「今現在、勇者率いる別動隊の兵力はおよそ200弱!」
伝令兵「上陸次第、王都裏門より入る模様です!」
魔女母「……」
魔女「そう、了解したわ」
魔女「これで、役者は全て揃った」
魔女「後は、罠が発動するのを待つだけね」ニヤリ
魔女母「……」
魔女「総員、戦闘用意!」
魔女「各大隊は、弓隊に大爆裂弾を用意させよ!」
魔女「さぁ、早く支度しなさい!」
「お――――――――っ!!」
「弓隊、大爆裂弾用意!」
ササササッ、ササササッ、ササササッ……
ササササッ、ササササッ、ササササッ……
「目標、迫り来る敵部隊!」
「放て――――――――っ!」
スパパパパパパパパッ、スパパパパパパパパッ!
スパパパパパパパパッ、スパパパパパパパパッ!
魔女母「……」
ヒューーーーーーーーッ……
チュドドドドドドドド--------ン、チュドドドドドドドド--------ン!
魔女母「!?」グラッ
ヒューーーーーーーーッ……
チュドドドドドドドド--------ン、チュドドドドドドドド--------ン!
魔女母「なっ、何なの!?」
魔女母「これ、一体何!?」グラグラッ
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
ピタッ、カシャン……
偵察兵「伝令!」
偵察兵「敵部隊、弓隊による攻撃を受け大いに混乱!」
敵部隊「着弾付近にいた敵兵は、多数死傷!」
敵部隊「それが原因にて、敵の後続の動きが止まっております!」
魔女母「……」
魔女「弓隊、後続に対しても大爆裂弾を!」
魔女「敵は、浮き足立ってる!」
魔女「早く、攻撃を再開しなさい!」ニヤニヤ
「はっ!」
魔女母「……」
「弓隊、大爆裂弾用意!」
「目標は、更に向こうの先!」
「放て――――――――っ!」
ササササッ、ササササッ、ササササッ……
ササササッ、ササササッ、ササササッ……
スパパパパパパパパッ、スパパパパパパパパッ!
スパパパパパパパパッ、スパパパパパパパパッ!
ヒューーーーーーーーッ……
チュドドドドドドドド--------ン、チュドドドドドドドド--------ン!
魔女母「……」グラグラッ
ヒューーーーーーーーッ……
チュドドドドドドドド--------ン、チュドドドドドドドド--------ン!
ヒューーーーーーーーッ……
チュドドドドドドドド--------ン、チュドドドドドドドド--------ン!
魔女「わぁお!」ニヤニヤ、グラグラッ
魔女母「……」グラグラッ
魔女「……」ニヤニヤ、グラグラッ
魔女母「……」グラグラッ
シュ--------ッ……
ボワワワワワワワワッ、ボワワワワワワワワッ……
ボワワワワワワワワッ、ボワワワワワワワワッ……
ドッゴ----------------ン!
グラグラッ、グラグラッ、グラグラッ……
グラグラッ、グラグラッ、グラグラッ……
ドッゴ----------------ン!
グラグラッ、グラグラッ、グラグラッ……
グラグラッ、グラグラッ、グラグラッ……
魔女「わぁ~~~~~~~~っ!」ニヤニヤ
魔女母「……」ポカーーン
偵察隊長「……」
偵察兵「……」
伝令兵「……」
魔女「……」ニヤニヤ
数十分後――
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
ササッ、カシャン……
偵察兵2「申し上げます!」
偵察兵2「敵部隊、もう既に撤退!」
偵察兵2「敵の死者は、およそ1000名以上!」
偵察兵2「まだ正確な数は分かりませんが、王都にかなりの大ダメージを与えています!」
偵察兵2「運良く助かった敵兵隊は、皆王都にまで退却致しました!」
魔女母「……」ポカーーン
魔女「そう、ご苦労様」
魔女「第五、第六大隊、攻城戦用意!」
魔女「進め!」
「お――――――――っ!」
魔女「……」
魔女母「……」ポカーーン
「第五大隊、進め!」
「敵は怯んだ、全て皆殺しにしろ!」
「お――――――――っ!」
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
「第六大隊、進め!」
「今こそ、カーネルの期待に応える時だ!」
「お――――――――っ!」
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
魔女「……」ニヤリ
魔女母「……」ポカーーン
魔女「これで、少しは静かになるかも……」
魔女「今まで、散々苦しめられてきた分……」
魔女「今ここで、張らしてくれるわ!」ニヤニヤ
魔女母「ねぇ、ジュリエット……」
魔女母「あんた、結構残酷なのね……」
魔女母「さすがは、私の実の一人娘……」
魔女母「今のあんたのその姿、あそこのママさん達には絶対に見せたくはないわ……」ガクッ
偵察隊長「……」
魔女「え? そうなの?」
魔女「今の私って、結構残酷な方なの?」
魔女母「!?」ガーーン
魔女「今まで、人にこんな姿は見せた事なかった」
魔女「偶々、お母様が私と同類だから、今の私は何も隠さずに今の姿を見せてるんだけど」
魔女母「……」ウルウルッ
魔女「とりあえず、制圧終わるまでもうちょっと掛かりそうかも」
魔女「海から来る船団は、ここに間に合うかしら?」
魔女「今の私、それだけが少なからずミスしたのよね」
魔女母「……」ウルウルッ
魔女「まぁ、今はそんな事より、一緒に飲もうよ?」
魔女「今日は、事前にママから良いお酒を手渡されていたの♪」
魔女「それ飲んで、少し気が早いけど前祝いとかしない?」
魔女「今の私、ようやく長年夢見てきた悲願が叶いそうだから!」ニッコリ
魔女母「……」ウルウルッ
魔女「あれ? どうしたの?」
魔女「何で、お母様は泣いてんの?」
魔女母「……」ウルウルッ
魔女「ああ、そっか……」
魔女「実の娘が、大戦果を上げたから感涙をしてくれてるんだね……」
魔女「ありがとう。お母様」
魔女「こう言った所なんかも、全て遺伝なのよね?」
魔女母「……ええ、そうね」ポロポロッ
ヒューーーーーーーーッ……
チュドドドドドドドド--------ン、チュドドドドドドドド--------ン!
~王都・城門前~
ヒューーーーーーーーッ……
チュドドドドドドドド--------ン、チュドドドドドドドド--------ン!
グラグラッ、グラグラッ、グラグラッ……
グラグラッ、グラグラッ、グラグラッ……
ヒューーーーーーーーッ……
チュドドドドドドドド--------ン、チュドドドドドドドド--------ン!
グラグラッ、グラグラッ、グラグラッ……
グラグラッ、グラグラッ、グラグラッ……
傭兵隊長「くそっ、やられた!」
傭兵隊長「カーネルは、本当にこの国を滅ぼすつもりだ!」
ガシャン……
傭兵隊長「己れ、カーネル!」
傭兵隊長「何故、あんたはそれだけの力を持っているんだ!?」
傭兵隊長「今のあんたは、一体何なんだ!?」
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
ササッ、カシャン……
敵伝令兵「も、申し上げます!」
敵伝令兵「第一、第二大隊、壊滅!」
敵伝令兵「敵の弓兵からの攻撃により、死傷者は1000名以上!」
敵伝令兵「第一、第二大隊長が戦死!」
傭兵隊長「!?」
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
ササッ、カシャン……
敵伝令兵2「伝令!」
敵伝令兵2「弓隊及び第三大隊壊滅!」
敵伝令兵2「副長が、敵による攻撃により死亡!」
敵伝令兵2「第三大隊長が、瀕死の重傷です!」
傭兵隊長「くっ……」ギリギリッ
シュン、シュタッ……
大臣「傭兵隊長。一体、どうなってる!?」
大臣「この様は、何だ!?」ギリギリッ
密偵「……」
傭兵隊長「はっ、申し上げます!」
傭兵隊長「カーネルが、総攻撃を仕掛けて参りました!」
傭兵隊長「その影響で、各大隊が壊滅!」
傭兵隊長「更には、各大隊長及び副長が戦死しました!」
大臣「!?」
ヒューーーーーーーーッ……
チュドドドドドドドド--------ン、チュドドドドドドドド--------ン!
大臣「!?」
グラグラッ、グラグラッ、グラグラッ……
グラグラッ、グラグラッ、グラグラッ……
大臣「のわっ!?」ドスン
密偵「大臣!?」ササッ
傭兵隊長「おい、伝令兵!」
傭兵隊長「大至急、撤退の合図を出せ!」
傭兵隊長「このままだと、皆殲滅される!」
傭兵隊長「カーネルは、本当にこの国を滅ぼすつもりだ!」
大臣「!?」ガーーン
敵伝令兵「はっ、了解しました……」
敵伝令兵「至急、伝えて参ります……」
敵伝令兵「行くぞ……」
敵伝令兵2「おう……」
スッ、クルッ……
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
ヒューーーーーーーーッ……
チュドドドドドドドド--------ン、チュドドドドドドドド--------ン!
敵伝令兵達「ぐわああああああああ――――――――っ!?」
バラバラッ、バラバラッ……
大臣「……」ポカーーン
バラバラッ、バラバラッ……
傭兵隊長「くっ……」ギリギリッ
残骸「……」ボロボロッ
「だ、だれか……」
「助けてくれ……」
「俺の弟が……」
「俺の弟が――――――――っ!?」ウルウルッ
大臣「うぐっ、おえっ……」
密偵「……大臣」
「頼む、誰か来てくれ……」
「弟の足が、粉々なんだ……」
「所々、血が出てる……」
「それどころか、下半身すらないんだ……」ウルウルッ
「誰か、誰か来てくれ……」
「兄さんが、兄さんが……」ウルウルッ
大臣「げほっ、ごほっ……」ウルウルッ
密偵「……」サスサスッ
「頼む、なんとかしてくれ……」
「こいつ、明日結婚式だったんだ……」
「親や婚約者に、何て言えば良いんだ?……」ウルウルッ
傭兵隊長「……」ギリギリッ
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
密偵「隊長、敵だ!」
密偵「敵が、もうすぐそこにまで迫ってる!」
密偵「このままだと、本当に皆殲滅される!」アセアセッ
傭兵隊長「密偵、大臣様を避難させろ!」
傭兵隊長「ここは、俺達が食い止める!」
傭兵隊長「予想以上に、カーネルは手強い!」
傭兵隊長「さっさと、大臣様を連れて行くんだ!」
密偵「しかし!」
傭兵隊長「密偵、早く行け!」
傭兵隊長「どうせ、今の俺達は捨て駒だ!」
傭兵隊長「そうじゃなきゃ、いきなり緊急召集なんてされない!」
傭兵隊長「こんな数、今まで率いた事すらない!」
大臣「おえっ……」ウルウルッ
傭兵隊長「だから、さっさと早く行け!」
傭兵隊長「早く避難して、国王陛下にさっさと報告をしろ!」
傭兵隊長「このままでは、敵が城内に押し寄せる!」
傭兵隊長「その前に、なんとか敵を出来る限り食い止めるとな!」
密偵「……」
傭兵隊長「どうした?」
傭兵隊長「何故、さっさと行かない?」
傭兵隊長「敵は、すぐそこに来てんだぞ!」
傭兵隊長「だから、さっさと早く行け!」
大臣「……」フキフキ
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
ササッ、カシャン……
敵伝令兵3「伝令!」
敵伝令兵3「勇者隊、西側より接近!」
敵伝令兵3「その数およそ200弱!」
敵伝令兵3「こちらに向けて、進軍中であります!」
傭兵隊長「何!?」
敵伝令兵3「それと、東側よりエルフの里の援軍が到着!」
敵伝令兵3「その数およそ9000!」
敵伝令兵3「こちらに向けて進軍中!」
傭兵隊長「大臣、どう言う事だ?」
傭兵隊長「エルフの里から援軍が来るなんて、一言も聞いてないぞ!」
大臣「……」ムクッ、パンパン
傭兵隊長「そうか、俺達が捨て駒だからか」
傭兵隊長「それで、必要最低限の情報しか与えなかったと言う訳か」
密偵「……」
大臣「傭兵隊長。ご苦労だった!」
大臣「これで、この国は救われる!」
大臣「君の事は、戦が終わり次第に騎士として召し抱えよう!」
大臣「今の君は、実によく働いてくれたのだからな!」
傭兵隊長「ふざけるな!」
密偵「……」
大臣「別に、ふざけてなどいない!」
大臣「君の役目は、もう終わりだ!」
大臣「後は、彼らに任せたまえ!」
傭兵隊長「任せる?」
傭兵隊長「部下を見捨てて、逃げろと言うのか?」
傭兵隊長「今ここで戦っているのは、この国の民達でもあるのだぞ!」
密偵「……」
大臣「ああ、そうだ!」
大臣「これで、少しは市内の警備がし易くなる!」
大臣「元々、彼らはこの町の不穏因子だ!」
大臣「いつ、どこで、誰が凶悪な犯罪を犯すかが、全く分からぬのだからな!」
密偵「……」
傭兵隊長「なら、俺達は棄民か?」
傭兵隊長「後に、恩賞を与えると言う名目で集めた民達は、今の貴様にとってはただの不要物でしかないのか?」
密偵「……」
大臣「ああ、その通りだ!」
大臣「民達は、いつでも替えが効く!」
大臣「だから、何も問題はない!」
大臣「密偵、城に戻るぞ!」
大臣「エルフの里から援軍が来た!」
大臣「勇者も、上手く焚き付けた!」
傭兵隊長「……」ギリギリッ
大臣「これで、我らも実際にカーネルと戦っていると、内外に示す事が出来た!」
大臣「後は、彼らに任せるとしよう!」
大臣「魔導士隊及び賢者隊は、そのまま市内の警備をさせておけ!」
傭兵隊長「……」ギリギリッ
大臣「ん? どうした?」
大臣「君は、ここに残るつもりのか?」
密偵「ええ、そうです」
大臣「なら、好きにしたまえ」
大臣「私は、先に城に戻ってる」
大臣「君達の健闘、心より祈ってるよ」
密偵「……」ペコッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
シューーーーッ、シュン……
密偵「……」
傭兵隊長「……」
伝令達「……」
傭兵隊長「伝令、密偵、各隊に至急連絡……」
傭兵隊長「総員、退却だ!」
傭兵隊長「出来る限り、数多くの仲間を救うんだ!」
密偵達「はっ!」ビシッ
傭兵隊長「後、勇者隊にも撤退を要請!」
傭兵隊長「これ以上、民達を犬死にさせるな!」
傭兵隊長「勇者隊にも、協力を仰ぐんだ!」
伝令達「はっ!」ビシッ
スッ、クルッ
シューーーーッ、シュン……
~王都城門付近・エルフ側~
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
キーーーーン!
ズバッ、ズバズバッ……
ズバズバッ、ズバッ……
「ぐああああああああ――――――――っ!」
シュシュシュシュシュシュッ……
シュシュシュシュシュシュッ……
グサグサッ、グサグサッ……
「ぐっ……」
「ほぎゃっ……」
ドサドサッ、ドサドサッ……
シュシュシュシュシュシュッ……
シュシュシュシュシュシュッ……
グサッ、グザグサッ……
グサグサッ、グサッ……
「ぐわっ……」
「うっ……」
「のわああああっ!」
ドサドサッ、ドサドサッ……
シュシュシュシュシュシュッ……
シュシュシュシュシュシュッ……
グサッ、グザグサッ……
グサグサッ、グサッ……
「ぎゃああああっ!」
「うげばっ!」
「うぇっ!」
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
ササッ、カシャン……
エルフ従士「申し上げます!」
エルフ従士「エルフ傭兵隊、カーネルの部隊と遭遇!」
エルフ従士「カーネルの部隊は、すぐさま弓で応射!」
エルフ従士「多数の味方が、被害に遭っています!」
エルフ団長「……」
エルフ副団長「団長。如何致しますか?」
エルフ副団長「まだ、様子を見られますか?」
エルフ従士「……」
エルフ団長「ああ、そのつもりだ」
エルフ団長「ここは、傭兵隊に頑張って貰う」
エルフ団長「一応、弓隊に援護射撃の用意を」
エルフ団長「所詮、傭兵等その場しのぎ」
エルフ団長「我らには、痛くも痒くもないのだからな」
エルフ副団長「はっ、かしこまりました!」
エルフ副団長「至急、手配致します!」
エルフ副団長「おい、そこの従士!」
エルフ副団長「至急、弓隊に連絡!」
エルフ副団長「敵に向けて、弓を射よ!」
エルフ副団長「たとへ、敵ではなく味方の傭兵達に当たっとしても、それについては何も問題はないとな!」
エルフ従士「はっ!」
スッ、クルッ……
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
エルフ団長「……」
エルフ副団長「……」
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
ズバッ、ズバズバッ……
グザグサッ、グサッ……
「ううっ!」
ズバッ、ズバズバッ……
ズバズバッ、ズバズバッ……
「ぎゃああああああああ――――――――っ!?」
エルフ団長「……」
エルフ副団長「……」
「弓隊、構え――――――――っ!」
「放て――――――――っ!」
シュシュシュシュシュシュッ……
シュシュシュシュシュシュッ……
シュシュシュシュシュシュッ……
シュシュシュシュシュシュッ……
ドッゴオオオオオオオオ--------ン!
ドッゴオオオオオオオオ--------ン!
ドッゴオオオオオオオオ--------ン!
ドッゴオオオオオオオオ--------ン!
エルフ団長「……」
エルフ副団長「……」
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
ササッ、カシャン……
エルフ従士「申し上げます!」
エルフ従士「カーネルの部隊に、援軍が多数到着!」
エルフ従士「その数およそ2000!」
エルフ従士「一部の部隊が、王都城門に攻撃中!」
エルフ団長「……」
エルフ副団長「団長、如何致しますか?」
エルフ副団長「後は、傭兵に任せて、撤退致しますか?」
エルフ従士「……」
エルフ団長「ああ、そうだな」
エルフ団長「後は、傭兵達に任せるとしよう」
エルフ団長「副団長、全隊に通達!」
エルフ団長「これより、我らエルフ騎士団は撤退する!」
エルフ団長「たとへ、我らが撤退したとしても何も変わらん!」
エルフ団長「カーネルは、我らには手を出さん!」
エルフ団長「それが、カーネルとの密約なのだからな!」
エルフ副団長「はっ!」
エルフ従士2「……」
エルフ副団長「全隊、移動用意!」
エルフ副団長「目標は、エルフの里だ!」
エルフ副団長「これより、我らエルフ騎士団総勢1000名は、この場から撤退する!」
エルフ副団長「今の我らに、カーネルと戦う理由等ない!」
エルフ副団長「後は、全て傭兵隊に任せて撤退するのだ!」
「お――――――――っ!」
エルフ団長「よし、移動開始だ!」
エルフ団長「全隊、我に続け!」
エルフ団長「行くぞ――――――――っ!」
「お――――――――っ!」
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
ササッ、カシャン……
エルフ従士「申し上げます!」
エルフ従士「カーネルの増援部隊が、傭兵隊と衝突!」
エルフ従士「傭兵隊に、多数の死者が出た模様!」
エルフ従士「各傭兵隊が、もう既に壊滅寸前です!」
エルフ団長「!?」
エルフ副団長「一体、どう言う事だ!?」
エルフ副団長「今現在、我らの方が優勢ではないのか!?」
エルフ副団長「どう見ても、我らの方が優勢ではないか?……」
エルフ団長「……」
エルフ従士「はっ、恐れながら申し上げます!」
エルフ従士「実際の所は、カーネルの部隊の方が常に優勢!」
エルフ従士「カーネルと交戦した部隊が、次々と離反!」
エルフ従士「それもどう言う訳か、死んだはずの味方の兵士達が味方に多数襲い掛かっているのです!」
エルフ副団長「なん……だと……!?」
エルフ団長「それは、アンデット類いか?」
エルフ団長「奴等は、確実にアンデットの類いなのか?」
エルフ副団長「……」
エルフ従士「はっ、その通りでございます!」
エルフ従士「王都側にも、多数のアンデット達が出現をした模様!」
エルフ従士「それが原因で、次々と味方が多数死傷!」
エルフ従士「おまけに、高度な幻覚魔法まで掛けられております!」
エルフ副団長「……」
エルフ団長「……副団長、少し見てこい」
エルフ団長「それが、本当かどうかを確かめてこい」
エルフ副団長「はっ、仰せのままに!」
エルフ副団長「暫し、撤退をお待ち下さい!」
エルフ副団長「今の我らは、高度な幻覚に掛かっております!」
エルフ副団長「それを解くには、何か方法があるはずです!」
エルフ従士「……」
エルフ団長「ああ、了解した」
エルフ団長「その辺については、お主に任せるとする」
エルフ団長「副団長、気を付けて行け!」
エルフ団長「今のお主は、我が騎士団には必要な存在なのだからな!」
エルフ副団長「はっ!」ビシッ
エルフ従士「……」ビシッ
クルッ、パカパカッ……
パカパカッ、パカパカッ……
エルフ団長「……」
エルフ従士2「……」
数十分後――
パカパカッ、パカパカッ……
パカパカッ、ピタッ……
エルフ副団長「団長、ご報告致します!」
エルフ副団長「エルフ従士の言う通り、カーネル側が優勢でした!」
エルフ副団長「各傭兵隊長に問い合わせた所、次々と討ち死した傭兵達がアンデットにまで変化!」
エルフ副団長「その数、およそ1000名以上!」
エルフ副団長「今の我らにも、援護要請が入っております!」
エルフ団長「……」
エルフ副団長「団長。如何致しますか?」
エルフ副団長「このまま、予定通りに撤退を致しますか?」
エルフ団長「ああ、そうだ」
エルフ副団長「なら、早く急ぎましょう!」
エルフ副団長「今なら、まだ間に合います!」
エルフ副団長「早く、この場から撤退をしましょう!」
エルフ団長「全隊、撤退開始!」
エルフ団長「予定通りに、我らは撤退を開始する!」
エルフ団長「全隊、敵のアンデットには十分に注意せよ!」
エルフ団長「さぁ、急げ!」
「お――――――――っ!」
パカパカッ、パカパカッ……
パカパカパカッ、パカパカパカッ……
「ヒヒィ――――ン!」
「ヒヒィン、ヒヒィ――――ン!」
パカパカッ、パカパカッ……
パカパカパカッ、パカパカパカッ……
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
「ヒヒィ――――ン!」
「ヒヒィン、ヒヒィ――――ン!」
~王都城門前・勇者側~
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
勇者「何か、様子がおかしい……」
勇者「一体、何なんだ? この感じは?……」
僧侶「……勇者様」
勇者「戦士、魔法使い、盗賊、武闘家」
勇者「今の俺から、決して離れるな!」
勇者「何か、様子が明らかにおかしい!」
勇者「僧侶は、聖なる守りを全開にしろ!」
勇者「魔法使いは、シールドを全開だ!」
僧侶「はっ、はい!」
剣士「……」
魔導士「勇者、俺達はどうする?」
魔導士「このまま、兵を出しとくか?」
魔導士「まだ、俺達の兵は戦闘を繰り広げているが」
賢者「……」
魔導士「もし仮に、兵は出しとくのなら出しとく」
魔導士「今この場では、お前がリーダーだ」
魔導士「さぁ、早く指示を出せ」
剣士「……」
勇者「……先輩達」
勇者「先輩達の兵は、そのままに!」
勇者「先輩達は、敵部隊に対して援護射撃をお願いします!」
勇者「今のままでは、とても持ち堪えられません!」
勇者「特に、火炎系の魔法で援護射撃をお願いします!」
魔導士「了解した」
賢者「任せてくれ」
剣士「勇者、俺はどうする?」
剣士「今の俺は、フリーか?」
剣士「俺だけ、何も指示を受けてないが」
僧侶「……」
勇者「あんたは、カーネルが見つかるまでそのまま」
勇者「そこにいる先輩二人達の警護」
勇者「実際、あんた魔法使えないよな?」
勇者「あんたが実際に使えるのは、剣ぐらいだからな」
剣士「……」
ストトトトトトトッ、ストトトトトトトッ……
ササッ、カシャン……
密偵「勇者殿、傭兵隊長より連絡です!」
密偵「我が傭兵隊は、城門より撤退を開始する!」
密偵「その理由については、あの糞大臣が裏切った!」
密偵「だから、撤退を開始するとの事です!」
勇者「なっ、どう言う事だ!?」
勇者「何故、傭兵隊が撤退をするんだ!?」
密偵「……」
勇者「それに、大臣様の裏切りとは一体!?」
勇者「一体、ここで何が起きているんだ!?」
密偵「……」
魔導士「勇者、落ち着け!」
魔導士「まずは、密偵からの話を最後まで聞こう!」
魔導士「お前は、確かウチの親父の元部下だったよな?」
魔導士「一体、王都で何があった?」
勇者「……」
密偵「はっ、恐れなから申し上げます!」
密偵「大臣様は、国王陛下からの命令で臨時に民達を徴兵!」
密偵「その民達は、元々は定職に就けない日雇いの労働者!」
密偵「今の彼らは、ただの捨て駒と成り下がっており、傭兵隊長はそれが原因で撤退をするとの事です!」
密偵「後、大臣様はエルフの里からも援軍を要請をしておりました!」
密偵「そのエルフの里から遣わされた援軍が、つい先程到着!」
密偵「ですが、カーネルの部隊からの攻撃により、多数の部隊が次々と壊滅!」
密偵「おまけに、多数の死者達がアンデットと化し、多数の味方に次々と襲い掛かっている模様です!」
魔導士「……」
賢者「なら、城の守りは?」
賢者「一体、誰が担当をしているんだ?」
剣士「……」
密偵「はっ、それについては、王都にいる魔導士及び賢者達が!」
密偵「王都にいる魔導士及び賢者達は、大魔導師様達の弟子!」
密偵「各自、兵を100ずつ出し、市内の警戒に当たっています!」
賢者「……」
魔導士「……そうか。親父達の弟子がか」
魔導士「ウチの親父と違って、少しはまともな判断が出来た様だな」
賢者「ああ、そうだな」
魔導士「密偵、他に連絡は?」
魔導士「傭兵隊長は、他に何も言ってなかったか?」
賢者「……」
密偵「はっ、出来る限り多数の仲間達を連れて生きて帰る!」
密偵「その為には、勇者殿達の協力が絶対に必要!」
密偵「今現在、各隊に伝令を送っており、撤退をするまでかなり時間が掛かる様です!」
勇者「……」
魔導士「ふむ、そうか……」
魔導士「それで、勇者はどうする?」
魔導士「このまま、俺達も撤退するか?」
密偵「……」
勇者「ああ、撤退する!」
勇者「皆、撤退用意!」
勇者「城門前の傭兵隊に、すぐさま合流!」
勇者「皆、急げ!」
剣士「勇者、お前正気か!?」
剣士「今のままでも結構苦しいのに、傭兵隊に合流出来るのか!?」
勇者「……」
剣士「お前、こう言った戦場は初めてだろ?」
剣士「このまま突っ込んだら、皆全滅だ!」
剣士「今は、出来るだけ犠牲を少なく、速やかにここから撤退!」
剣士「城門前まで、かなりの距離があるぞ!」
勇者「……」
魔導士「勇者、俺からも言わせて貰う!」
魔導士「この人数では、とても無理だ!」
魔導士「今の死者は、もう既に40を越えた!」
勇者「!?」
魔導士「お前、俺達の出す兵はカーネルと全く同じぐらいだと思ってるだろ?」
魔導士「今の俺達、100が限度だ!」
魔導士「一度死んだ兵は、最低でも24時間は待たなければ復活出来ない!」
勇者「なら、一体どうしろと言うんですか?」
勇者「傭兵隊長から、救援要請が入ってるんですよ!」
勇者「このまま行けば、確実に傭兵隊は全滅!」
勇者「あともう少しで、カーネルの兵達が多数王都に雪崩れ込んでしまうのですよ!」
密偵「……」
魔導士「勇者、それでも無理な場合は無理だ!」
魔導士「今の王都は、完全に腐り出してしまっている!」
魔導士「俺も、あの糞国王に仕える魔導士の一人だ!」
魔導士「今のお前は、俺達まで犬死にさせるのか!?」
勇者「……」
剣士「勇者、ここは今すぐ撤退をしよう!」
剣士「敵がもうすぐそこにまで来てる!」
剣士「たとへ、僧侶や魔法使いがシールド等を張っていても、すぐに壊れる!」
剣士「実際、この二人の力はまだまだ未熟だ!」
剣士「そんなお前らを、こんな場所で死なせれる訳ないだろうが!」
勇者「剣士、あんたは黙ってろ!」
勇者「大体、何であんたがここにいるんだ!?」
勇者「昨日、置いてきたはずだろ!?」
勇者「普通、すぐさま捕縛されるべきだろ!?」
剣士「……」
勇者「大体、皆して何だ!」
勇者「そんなに、今の俺は間違っているのか?」
勇者「だったら、今の俺がすぐさま正しい事を証明してやる!」
勇者「剣士、覚悟しろ!」スチャ、タァラン
盗賊「!?」ガーーン
武闘家「ゆ、勇者!?」ガーーン
僧侶「……」ポッ
剣士「へぇ、面白れぇじゃねぇか……」
剣士「今のお前、本当にバカなんだな……」
勇者「何?」
剣士「だったら、逆に今の貴様を正気に戻してくれてやる!」
剣士「今の俺が、貴様らの味方だった事に感謝しろ!」
剣士「所詮、今の貴様はただの青二才!」
剣士「そんなバカみたいな考えでは、すぐさま死にさらすとな!」ダッ
スチャ、シュン、カキーーーーン!
勇者「!?」
スッ、ブン、ドスッ……
勇者「ぐわああああああああ――――――――っ!?」フワッ
ドサッ、カチャ……
剣士「……」シュタッ
剣士「……」カシャン
僧侶「!?」ガーーン
戦士「勇者!?……」ガーーン
魔法使い「な、なんて強さだ!?……」ガーーン
勇者「……」ピクピクッ
剣士「ふん、雑魚が!」
剣士「そんな腕で、この俺と殺りあおうなんて数百年早いわ!」
勇者「……」ピクピクッ
剣士「ああ、一応、この俺に感謝くらいはしろよ!」
剣士「いつもなら、確実にぶっ殺してた!」
剣士「わざわざ、今の貴様が死なねぇ様にしといてやったからな!」
勇者「……」ピクピクッ
魔導士「僧侶、勇者の回復を今すぐしろ!」
魔導士「密偵、俺達は俺達で撤退を開始する!」
魔導士「今の勇者は、まともな判断が出来ていない!」
魔導士「前の勇者と、全く同じ症状だとな!」
密偵「!?」ガーーン
魔導士「それと、俺の親父を今すぐ解放してこい!」
魔導士「親父達にも、アンデット狩りを手伝って貰う!」
魔導士「さすがに、この数ではとても手に負えん!」
密偵「はっ、了解を致しました!」
密偵「至急、手配をして参ります!」
密偵「魔導士殿、我々の願いをお聞き届け頂き、誠にありがとうございます!」
密偵「今の貴方は、かの大魔導師様にも劣らぬ決断力の持ち主!」
密偵「この密偵、心よりご英断感謝致します!」
魔導士「……」
賢者「密偵、早急に大魔導師様達の元へ!」
賢者「あの糞国王達に何か言われても、適当に誤魔化しとけば良い!」
賢者「じゃないと、この国は確実に滅ぶ!」
賢者「民達を捨て駒にする国など、そう長くは持たないのだからな!」
密偵「はっ!」ビシッ
シューーーーッ、シュン……
勇者「……」ピクピクッ
勇者「……」ピクピクッ
僧侶「……勇者様」ウルウルッ
~王都・国王の間~
一方――
国王「ふむ、見抜かれたか……」
国王「さすがに、あれは明らかに分かりやす過ぎたか……」
国王「して、犠牲者の数は?」
国王「一体、どれだけの民達が死んだのだ?」
王妃「……」
国王「はっ、恐れながら申し上げます!」
国王「今現在、死者の数は1500名!」
国王「主に、カーネルの部隊との交戦中によるもの!」
国王「その全てが、今回雇った使い捨ての民達!」
国王「市内における死傷者は、全く発生しておりません!」
王妃「……」
国王「ふむ、そうか」
国王「まだ、2500も残っておるのか」
国王「大臣。エルフの里の方はどうだ?」
国王「まだ、兵はかなりいるのか?」
王妃「……」
大臣「はっ、まだ十分におります!」
大臣「エルフの里の兵力は、およそ9000!」
大臣「しかも、次々とカーネルの率いる部隊に勇敢にも突撃!」
大臣「そのおかげで、傭兵隊の指揮も格段に上がりました!」
大臣「今では、すっかり我が軍の方が優勢となっております!」
国王「ふむ、そうか」
王妃「大臣、民達の様子は?」
王妃「市内にいる民達は、本当に大丈夫なのですか?」
国王「……?」
王妃「今朝も、カーネルが斥候を送って、多くの民達を殺害しました」
王妃「それが原因で、今の民達はかなり困惑しているはず」
王妃「その事についても、何か情報は入っていないのですか?」
大臣「殿下、ご心配には及びません!」
大臣「王都にいる賢者全てが、すぐに兵を出しました!」
大臣「そのおかげで、市内に駐留している兵の数は、総勢4500!」
大臣「カーネルの軍勢は、およそ5000!」
大臣「エルフの里から遣わされた援軍を入れたとしても、勝機は我々の方にあります!」
大臣「ですから、どうかご安心下さい!」
王妃「……」
国王「うむ。そうだな!」
国王「今の我らに、勝機があるのだからな!」
王妃「……」
国王「大臣。他に何か分かったら、すぐに伝えよ!」
国王「エルフの里にも、使いをすぐに送っといてくれ!」
国王「今回の戦は、我らの勝ちだ!」
国王「今度こそ、カーネルも完全に終わりなのだ!」
王妃「……」
大臣「陛下。重ね重ね申し上げます!」
大臣「カーネルの部隊は、かなり精強!」
大臣「今はまだ、油断してはいけません!」
大臣「いつ、どこで、何があるかが全く分かりません!」
大臣「それだけ、今のカーネルは油断ならない相手なのです!」
王妃「……」
国王「うむ。分かっておる!」
国王「あのカーネルが、しぶといのは昔から知っておる!」
国王「だが、今の我らには少なからず心にゆとりが必要だ!」
国王「今回の戦いは、人間対ハーフエルフの戦いなのだ!」
王妃「……」
大臣「陛下、くれぐれもご用心下さい!」
大臣「つい先日も、カーネルがこの場に突然と現れました!」
大臣「それは、まるで音も立てずに煙りの如く!」
大臣「そう、あんな風に――!?」ハッ
国王「うん。どうした?」
国王「何か、思い出した事でもあったのか?」
大臣「……」
国王「まさか、カーネルがもうこの場にいるのか?」
国王「どうなのだ? 大臣!」
大臣「……」
国王「……?」
王妃「……」キョロキョロ
大臣「……」キョロキョロ
国王「……」
大臣「ふぅ……」
大臣「ただの、私の思い過ごしでした……」
大臣「誤解を招き、誠に申し訳ありません」
国王「……」ホッ……
王妃「え?」
国王「大臣、もう下がっても良い」
国王「余も少し、トイレにまで行ってくる」
国王「王妃、そなたはどうする?」
国王「部屋で休んどくか?」
国王「ここにいても、今のそちにする事等ないぞ」
大臣「……」
王妃「ええ、かしこまりました」
王妃「私は、部屋で休ませて頂きます」
王妃「大臣、後の事は頼みましたよ」
王妃「どうか、この国と民達をお救い下さいませ!」ペコッ
大臣「ははっ!」ペコッ
国王「……」
スッ、ストッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ガチャ、ギギィーーーーッ、バタン……
大臣「密偵2、出てこい」
大臣「何か、殿下に聞かせられない話でもあるのか?」
「はっ!」
国王「!?」
シュン、シュタッ……
ササッ、カシャン……
密偵2「大臣様、少し宜しいでしょうか?」
密偵2「カーネルの件で、お知らせしたい事があります」
大臣「ふむ、構わん」
国王「……」
密偵2「つい先程、私は密偵と共に城門前を偵察しておりました」
密偵2「すると、カーネルの部隊が城門に対して攻撃を開始」
密偵2「ですが、それもすぐに傭兵隊が素早く阻止」
密偵2「カーネルの部隊は、すぐに包囲されました」
大臣「ほう、それで?」
密偵2「実は、傭兵隊が城門から撤退をする動きを見せました」
密偵2「その理由については、アンデットが多数出現をした為」
密偵2「それが原因で、傭兵隊は撤退を決意」
密偵2「それに、勇者一行も同調した様です」
国王「!?」
密偵2「それに加え、いち早くエルフの里からの援軍が、一部撤退をしました」
密偵2「その撤退をした部隊は、エルフの里では精強と名高いエルフ騎士団」
密偵2「どうやら、何らかの密約をカーネルに対してしていた様子」
密偵2「同じくエルフの里では精強と名高いエルフ近衛連隊も、カーネルとは何らかの密約がある様です」
国王「……」
大臣「ふむ、そうか」
大臣「して、撤退をした兵の数は?」
大臣「騎士団全体となれば、かなりの兵がいるはず?」
大臣「一体、どれだけの兵が撤退をしたのだ?」
国王「……」
密偵2「はっ、撤退をした兵の数は全部で1000名」
密偵2「エルフの里から送られてきた援軍は、傭兵が主体」
密偵2「およそ8000名程が傭兵であり、残りの1000名が例の騎士団」
密偵2「ですから、戦局的にも大した問題ではないと思われます」
国王「……」
大臣「うむ。そうだな」
大臣「今のこの状態で、1000名規模なら大した問題にもならないな」
国王「……」
大臣「密偵2、カーネルの様子は?」
大臣「カーネルは、まだ姿を現していないのか?」
国王「……」
密偵2「はい。その通りです」
密偵2「カーネルは、まだ陣の中に閉じ籠っております!」
密偵2「それだけでなく、カーネルの今の陣内にいる兵は、たった1000名」
密偵2「他の兵達は、エルフの里から送られた援軍と交戦をしております」
大臣「うむ。了解した」
大臣「もう、今のそなたは下がって良い」
大臣「それと、大魔導師達の動きには注意せよ!」
大臣「今はまだ、二人とも大人しいが絶対に何かあるはす!」
大臣「でなければ、あの二人がああもあっさり捕まる事はない!」
大臣「大魔導師達の動きも、十分に注意するのだ!」
密偵2「はっ!」ビシッ
シューーーーッ、シュン……
国王「……」
大臣「……」
国王「……」
大臣「……」
ガチャ、ギギィーーーーッ、ダン……
ササッ、カシャン……
「も、申し上げます!」
大臣「ん? どうした?」
大臣「一体、どうしたのだ? 衛兵隊長」
国王「……」
衛兵隊長「はっ、恐れながら申し上げます!」
衛兵隊長「城門前に布陣していた傭兵隊が、一人残らず全滅!」
衛兵隊長「傭兵隊長も、敵との戦闘の際に討ち死!」
衛兵隊長「城門前には、多数のアンデット達が押し寄せております!」
大臣「!?」ガーーン
国王「何だと!?」ガーーン
衛兵隊長「今現在、魔導士達が火炎攻撃にて攻撃中!」
衛兵隊長「ですが、敵の数があまりにも多過ぎて、とても手が回っていない状態!」
衛兵隊長「至急、大魔導師様達に出撃の用意を!」
衛兵隊長「このままでは、多数のアンデット達が市内に雪崩れ込んでしまいます!」
大臣「くっ……」ガクッ
国王「……」ポカーーン
大臣「衛兵隊長。大魔導師達をすぐに解放しろ!」
大臣「責任は、全て私が取る!」
大臣「だから、さっさと早く解放しろ!」
大臣「急げ!」
衛兵隊長「はっ!」
スッ、クルッ……
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
ギギィーーーーッ、バタン……
国王「……」
大臣「……」
国王「……」
大臣「……」
国王「大臣、後で話がある」
国王「特に、今後についての話がな」
大臣「はっ、仰せのままに!」ペコッ
~エルフの里・酒場~
「なぁ、聞いたか?」
「あのカーネルが、とうとう反乱を起こしたそうだ」
「もう既に、今朝からxxxxx王国との間で戦闘が勃発」
「数多くの兵が、カーネルの餌食になっているらしい」
「なん……だと……!?」
「何それ!?」
「……」
「聞いた話だと、カーネルはxxxxx王国との間で何度も交渉をしてた様だ」
「その交渉内容については、ハーフエルフ迫害禁止令の徹底」
「ここ最近、ハーフエルフに転生をしたエルフ達が多いだろ?」
「それを含めて、カーネルはxxxxx王国に対して、何らかの交渉をしていたらしい」
「……それで?」
「話の続きは?」
「一体、何があったんだよ?」
「実は、俺は昔カーネルに会った事があるんだ」
「その時のカーネルは、まだ何も出来ないただの少女」
「今では、すっかりただのs級危険人物」
「その割りには、よく貴族相手には夜の営業をしてるらしい」
「!?」ガーーン
「あのカーネルが!?」ガーーン
「……う、嘘だろ?」
「……」ポトッ
「……」ガシャン
「そ、そんな……」ガクッ、ウルウルッ
「いや、嘘じゃねぇよ」
「実際、カーネルが貴族相手に夜の営業をしてるのは、割りと有名な話だぞ」
「今では、すっかり貴族達の間では、カーネルを寝室に招いて抱く事が密かなブーム」
「そのおかげで、カーネルはハーフエルフ迫害禁止令を承認させた」
「そうじゃなきゃ、ハーフエルフの分際であそこまで好き勝手に出来るか」イラッ
「ああ、そうだな」
「そうじゃなきゃ、カーネルが好き勝手に出来たりしないわな」
「俺達が子供の頃、ハーフエルフは本当に悲惨な目に遭ってた」
「若い女は、xxxxx王国での職業訓練が終わり次第、問答無用で娼婦に転職」
「夢や希望をすぐさま打ち砕かれ、無数の男達の肉〇器にされる毎日」
「カーネルも、昔はその中の一人だった」
「今では、カーネル自身がその悪習を全て打ち破ってったんだがな」
「……」ウルウルッ
「でも、何でカーネルは今更ながらも反乱なんか起こしたんだ?」
「カーネルがその気になれば、もっと早くに反乱を起こせたはず」
「今更、ハーフエルフが反乱を起こしたとて、全くの無意味」
「あの条約がある限り、カーネルは何も心配する必要なんかないはずじゃないのか?」
「ああ、そうだな」
「何で、今更」
「……」ウルウルッ
「まさか、例の条約が撤廃される事になったとか?」
「それが原因で、カーネルは反乱を起こしたのか?」
「え?」
「ああ、そのまさかだ」
「カーネルは、仲間のハーフエルフ達の為に反乱を起こしたんだ」
「!?」ガーーン
「しかも、カーネルは本気でxxxxx王国を潰すつもりでいる」
「それに危機感を抱いたxxxxx王国は、ウチの里に援軍を要請した」
「なっ!?」
「実際、昨夜からやけに騒がしかっただろ?」
「今現在、エルフの里もカーネルとの間でもう既に交戦状態」
「カーネルは、俺達エルフにも恨みがある」
「本当なら、エルフの里では上級貴族の娘だった」
「カーネルの実の母親は、xxxxxx侯爵のご令嬢だ」
「――――――――っ!?」ガーーン
「おいっ、今のどう言う事だ!?」
「何で、そんな上級貴族の娘がハーフエルフなんか出産してんだ!?」
「……」ウルウルッ
「なんかそれ、絶対におかしいだろ!?」
「本来なら、絶対に有り得ない事なんだろ!?」
「……」
「ああ、そのまさかだ……」
「カーネルの実の母は、xxxxxx侯爵のご令嬢だった……」
「!?」
「だが、今から100年も前にそのご令嬢は、エルフの里を去る事になった……」
「その当時、族長だったのは、急に再選が決まった年増女の族長……」
「その年増女が原因で、カーネルの母は娼婦にまで転落……」
「更には、人間達の集落で無理矢理何度も集団でレ〇プされ続け……」
「あのカーネルを、出産させられるまで至ったらしい……」
「そんな……」
「それ以来、カーネルはずっと戦ってた……」
「俺も、昔カーネルとは実際に会った事はあるが、本当に母親と瓜二つだった……」
「その娘が、今でもずっとハーフエルフ……」
「もう既に、あの事件から100年近くも経過……」
「本当に、昔仕えてたご令嬢と瓜二つでな……」
「しかも、自身の名前すら全く同じジュリエットを名乗っていたんだ……」ウルウルッ
「……」ウルウルッ
「じゃあ、カーネルは何か?」
「本当だったら、今頃はエルフの里で暮らしてたのか?」
「ああ、そうだ……」ウルウルッ
「おまけに、前族長はカーネルの叔父にあたり……」
「そんなカーネルの姿を見た瞬間に、前族長がすぐさま泣き崩れてた……」
「それに加え、カーネルはカーネルでしっかりと娼婦としての研修を、全て短期間の内に終了……」
「この俺の目の前でも、無数の男達の肉棒をくわえてて……」
「それを間近で見た、カーネルの母親を知る連中は、皆その場で泣き崩れてた程だ……」
「ああ、なんかそれ酷い話ね……」
「ウチの娘も、そんな風には絶対になってほしくはないね……」
「ああ、そうだな……」
「でも、今の俺らにはそんなの関係ないだろ」
「俺達、昔からハーフエルフは嫌いだった」
「あんな穢れた血が、少しでも多く減ってくれるだけでも良いだろうが」ダン
「……」ウルウルッ
「だが、今の俺達にも関係があるぞ……」
「カーネル、下手したらウチの里にも攻め込むかもしれねぇぞ……」
「!?」ガーーン
「何故なら、前族長が禁忌を犯した……」
「亡くなったはずのカーネルの実の母を蘇らせ、昨夜の内にカーネルと引き合わせた様だ……」
「――――――――っ!?」ガーーン
「しかも、カーネルの母は、里の中ではかなり名の知れた凄腕の魔術師……」
「そのカーネルの母も、カーネルと共に私兵を率いて出陣中の様だ……」
「それが原因なのか、近衛連隊が朝から厳戒体制……」
「おまけに、あの騎士団すら慌てるかの様に、xxxxx王国にまで出撃……」
「今の俺達、下手したらマジで危ないかもな……」
「カーネルは、本気でこの里すら滅ぼすかもな……」
「orz……」
「うわぁ……」
「ううっ……」
「……」ガクガクッ
「……」ビクビクッ
「……」ウルウルッ
スッ、ゴクゴクゴクッ……
ポリポリッ、ポリポリッ……
ガチャ、カランカラン、バタン……
「いらっしゃい」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
「ママ、ワインを」
「つまみは、ジャーキーで頼む」スッ、ストン
「かしこまりました」
スッ、シュポン……
トポポポポポッ……
スッ、ストン……
カシャ、カシャ、カシャ……
スッ、ストン……
「はい。お待ち」
「……」
「で、さっきの話の続きなんだが……」
「カーネルは、もう既にウチの里とも交戦してる……」
「今朝から、傭兵9000名と騎士1000名が出撃……」
「皆、生きて帰ってこれるかが、全く分からないらしい……」
「!?」ガーーン
「でも、カーネルは大丈夫なのか?……」
「そんな事して、本当に大丈夫なのか?……」ウルウルッ
「……」ビクビクッ
「いや、分からん……」
「普通なら、カーネルは間違いなく処刑ものだ……」
「それでもなお、カーネルは自身の目的を果たすまでは、何度も何度も蘇る……」
「今はまだ、これだけで済んでる……」
「これ以上、カーネルが力を付ければ、魔王以上に恐ろしい存在になりそうだな……」
「……」ガクガクッ
「……」ウルウルッ
「……」ガタッ
「ママ、トイレどこだ?……」
「今の俺、トイレに行きたいんだが……」
「え? 店の奥だけど……」
「そ、そうか……」
「ちょっと、あんた見ない顔ね……」
「今のあんた、どっから来たの?……」
「……?」
「ああ、俺か?」
「俺は、ついこの間までカーネルのいる島に囚われていたんだ」
「それで、ここを出る前より筋肉がついてな」
「ひたすら、炭鉱で鍛え抜かれた俺の肉体」
「今ここで、あんたに見せてやっても良いぜ」
「そう、遠慮しとく」
「なんでだよ?」
「……」ガクガクッ
「……」ビクビクッ
「……」ウルウルッ
「……」ポカーーン
「……」ムクッ
「あんた、さっさとトイレ行きなさい」
「早く行かないと、出入り禁止にするわよ」
「え~~~~っ?」
「あんた、かなりウザイわ」
「今の私、露出狂なんかに興味ないから」
「oh……」
「だから、あんたはさっさとトイレに行きなさい」
「じゃないと、今のあんたは出入り禁止だからね」
「へいへい」
スッ、スタッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ガチャ、バタン……
「全く、今の私は年下になんか興味ないのに……」
「何で、ここの若い子達は、女に飢えてるのかしらね……」ハァ……
スッ、ゴクゴクゴクッ……
~王都付近・魔女達の陣地~
魔女「そう。撤退したの」
魔女「これで、少しはやり易くなる」
魔女「予定通りに、エルフ騎士団は撤退」
魔女「勇者隊及び王都傭兵隊も撤退を開始した様ね」ニヤニヤ
伝令兵「……」
魔女「ねぇ、お母様」
魔女「このアンデット達、どこから出てきたの?」
魔女「今の私、こんなの出した覚えなんてないんだけど」
魔女母「!?」
魔女「あれ? お母様でもないの?」
魔女「お母様が、あの無数のアンデット達を出したんじゃないの?」
伝令兵「……」
魔女母「いや、私出してないから」
魔女母「私、アンデットなんか使う趣味なんかないから」
魔女「じゃあ、誰が出したの?」
魔女「私も、あんなの出した覚えなんてないんだけど」
伝令兵「……」
魔女母「まさか、あの性悪女が……」ハッ
魔女母「いい歳をしたショタコンなら、やりかねないわ……」
魔女「え?」
魔女母「ねぇ、ジュリエット」
魔女母「今、あんたいくら兵があるの?」
魔女母「私も、あんたみたいに沢山の私兵を出したい」
魔女母「そろそろ、私にも独自の私兵の出し方教えなさいよ」
伝令兵「……」
魔女「うん。良いけど」
魔女「と言うか、私の使う奴は元々人間用なんだけど」
魔女「私の場合、師匠から召喚術を習う課程で教えて貰ったのよね」
魔女「だから、お母様に使えるかどうかも、まだ分からないわよ」
魔女母「え? 召喚術?」
魔女母「あんた、あれ召喚術で出してたの?」
魔女「うん。そうだけど」
魔女母「!?」
魔女「私の場合、ずっとハーフエルフだと言う理由で差別されてた」
魔女「行く先々で常に命を狙われ、ろくに食事や睡眠すら取る事が出来ない毎日」
魔女「そんな時、私は師匠と出会った」
魔女「師匠は、そんな私を見かねて、様々な魔法や魔術を教えて下さったのよ」
魔女母「……」
魔女「それから、私は師匠から教わった通りに様々な物を出していったわ」
魔女「時には、旅の資金に三食の食事」
魔女「自分の身を守る為の護衛に、日常生活の為に必要な家や物資等」
魔女「師匠は、そんな私を見て大いに驚愕してた」
魔女「その頃の私は、師匠の御自宅で匿われていた存在」
魔女「師匠の奥様も、この私がハーフエルフだと知りながらも、上手く匿ってくれていた」
魔女「でも、そんな師匠と過ごす日々も呆気なく終わった」
魔女「師匠が駄目なら、私は別の拠点へと移る事にした」
魔女「そしたら、私は再びすぐさま追っ手に見つかり、三日三晩逃げ続ける毎日」
魔女「その時の私、召喚術を使い過ぎて全く使えなくてね」
魔女「そのまますぐ、追っ手に斬り殺されてしまったわ」
魔女母「……」
魔女「まぁ、その後すぐ私は転生を開始」
魔女「今の拠点に引っ越して、今度は大賢者様と出会った」
魔女母「……?」
魔女「それに、師匠が私の召喚術の基礎だとしたら、大賢者様は私の召喚術の発展」
魔女「大賢者様も、事前に私の正体を知っていたのか、やけに可愛がってくれていてね」
魔女「おかげで、私は今みたいな力を手に入れる事が出来た」
魔女「これで、ようやく私の野望が果たせると、狂喜乱舞してしまったわ」
魔女母「……」
スッ、ゴクゴクゴクッ……
魔女「ああ、なんかごめんね」
魔女「あまり、お母様が聞きたくない様な話までしちゃって」
魔女「私の場合、常に私兵は召喚術で出してるの」
魔女「良くて、最大10000が限度なの」ニッコリ
魔女母「……」
魔女「まぁ、私兵以外にも出そうと思えばすぐに出せるわ」
魔女「例えば、今私が仕えてる伯爵様の使用人達とか」
魔女「種族年齢性別問わず、出そうと思えばすぐに出せる」
魔女「なんか、私の場合は負のオーラが物凄く強いらしくてね」
魔女「今まで、無数の男達に汚されてきた分、私の持つ魔力が上がってくみたい」ニコニコ
魔女母「……」ガクッ、ウルウルッ
伝令兵「……」
魔女「……?」
スッ、ゴクゴクゴクッ……
スッ、ストン……
魔女母「ねぇ、ジュリエット……」
魔女母「あんた、辛くないの?……」
魔女母「そんな、この世の生き地獄みたいな生活、辛くないの?……」ウルウルッ
伝令兵「……」
魔女「うん。辛いかな」
魔女「もうこんな生活、絶対に嫌かな」
伝令兵「……」
魔女母「そう……」
魔女母「なら、あんたの好きなだけ暴れてきなさい……」
魔女母「今の私、本気であの性悪女をこの手でぶっ殺したくなった……」
魔女母「今のあんた、本当に痛々しくて見てられないわ……」ウルウルッ
伝令兵「……」
魔女「でも、それはまだ止めといた方が良いと思う」
魔女「あの人、娘さんが一人いるよ」
魔女「その娘さん、今の私と同じぐらいの年齢なんだけど」
魔女母「ああ、いるわね……」
魔女母「確か、一人いたわよね……」
魔女母「でも、今の私にはそんなの関係ない……」
魔女母「今まで、散々苦しめられてきた……」
魔女母「だから、あの性悪女にも全く同じ目に遭って貰うわ……」ウルウルッ
伝令兵「……」
魔女「う~~ん。それ無理かな?」
魔女「だって、あの性悪女は再び族長になっちゃったじゃん」
魔女母「あ……」ウルウルッ
魔女「だから、あの性悪女にそんな事しようにも全く出来ないわ」
魔女「その代わり、つい最近まで子豚として何度も転生を繰り返して貰ってた」
魔女母「!?」ウルウルッ
魔女「おまけに、実の一人娘ともろくに会えなくてね」
魔女「だから、向こうも今頃は感動の再会でもしてるんじゃないのかな?」
伝令兵「……」
魔女母「……そう、わかったわ」
魔女母「今回だけは、同じ母親として見逃しといてあげる……」
魔女母「でも、何で豚になったの?……」
魔女母「私、そんな事をした覚えなんてないけど……」ウルウルッ
魔女「!?」
魔女母「大体、何であの性悪女が、あの石を持って帰ってるのよ……」
魔女母「あれ、あんたの為にせっかく作っといた石だったのに……」
魔女母「何であんた、あれすぐを取り返さなかったのよ……」
魔女母「私のあの苦労は、一体何だったのよ?……」ウルウルッ
魔女「……」
魔女母「まぁ、もう過ぎた事は仕方ないわ……」
魔女母「今更、あの石を取り返した所で、もう二度と使えないから……」ウルウルッ
魔女「!?」ガーーン
魔女母「あんた、まさか何も知らなかったの?……」
魔女母「あの石、ちゃんと回数制限があるのよ?……」ウルウルッ
魔女母「まぁ、今のあんたが何も知らないのも無理はないわ……」
魔女母「あの石は、“エルフの里を救うか”、“あんたを救うか”のどちらか一回しか使えないから……」ウルウルッ
魔女「!?」ガーーン
魔女母「それに、あの性悪女の事だから、もう既にそれを使用した後……」
魔女母「これで、あの性悪女は英雄となった……」
魔女母「今の私達は、本当にただの謀反人だわ……」ウルウルッ
魔女「……」ガクッ、ウルウルッ
魔女母「とりあえず、今のあんた馬鹿さ加減は分かったから、さっさと教えて頂戴……」
魔女母「それやったら、私は再び“今のあんたが救えるかどうか”を検討する……」
魔女母「今のあんた、この私の予想以上の力を持っちゃってるし……」
魔女母「場合によっては、この私と互角……」
魔女母「いや、それ以上かもしれないわね……」ウルウルッ
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「……」ウルウルッ
伝令兵「……」
シュン、シュタッ……
王女「よいしょっと……」
伝令兵「ん?」サッ
魔女母「何者?」ハッ、ウルウルッ
魔女「あ……」ハッ、ウルウルッ
王女「……」キョロキョロ
王女「……」クルッ、ペコッ
魔女母「……?」ウルウルッ
魔女「……久し振りね。王女様」
魔女「まさか、こんな場所で会うなんてね」ウルウルッ
魔女母「え?」ウルウルッ
王女「お久し振りです。カーネル」
王女「本日は、母の名代として参りました」
王女「少し、お時間の方宜しいでしょうか?」
魔女「ええ、構わないわ」フキフキ
王女「では、早速本題に入ります!」
王女「私の母は、本日からエルフの里の族長に再任致しました!」
王女「族長に再任する前から、母は貴女方親子がかなり気になっている様子!」
王女「特に、カーネルには昔からよく苦しめられて参りました!」
王女「今の私も、貴女方親子の事を昔から恨みに思っております!」ギリギリッ
魔女「……」
王女「ですから、カーネルは無用な戦を今すぐ止めて、エルフの里にまで出頭をして下さい!」
王女「今の貴女方親子がいなくなれば、この戦は終わります!」
王女「もうこれは、貴女方親子の我が儘一つでは、到底済まされない事なのです!」
王女「例の条約も、私の母は即刻破棄すると仰せでした!」ギリギリッ
魔女母「……」フキフキ
王女「ですので、カーネルはどうかご出頭の程を!」
王女「今なら、まだ特別に罪が軽減されます!」
王女「貴女のお仲間のハーフエルフ達も、皆死なずに済むのです!」ギリギリッ
伝令兵「……」
王女「カーネル。もうここら辺でお止め下さい!」
王女「もうこれ以上、貴女が戦ったとしても全くの無意味なのです!」
王女「元々、私も昔からハーフエルフが嫌いでした!」
王女「特に、貴女だけは絶対に許せないと常々思ってました!」ギリギリッ
魔女「……」
王女「ですから、どうかご出頭の程を!」
王女「期限は、本日の夜九時まで!」
王女「それがなければ、我々は再びハーフエルフを迫害致します!」
王女「それが嫌なら、カーネルはエルフの里まで出頭をして下さいね!」ギリギリッ、ペコッ
魔女母「……」
シューーーーッ、シュン……
魔女「……」
魔女母「……」
魔女「相変わらず、あの子は身勝手なのね……」
魔女「本当に、ああ言った所もそっくりなんだから……」ハァ……
魔女「……」
魔女母「……」
伝令兵「……」
魔女「……」
魔女母「……」
伝令兵「……」
魔女母「ねぇ、ジュリエット」
魔女母「今さっきの一体誰?」
魔女母「なんか、誰かに似ていた様な気がしてたんだけど」
伝令兵「……」
魔女「ああ、さっきの?」
魔女「あれが、あの性悪女の娘さん」
魔女「昔から、よく私の事を敵視しててね」
魔女「今でも、私はあの子に恨まれてる訳」
魔女母「!?」
魔女「しかも、何であの子が名代なんだろう?」
魔女「あれ、明らかに人選ミスだと思うんだけど」
魔女母「……」
魔女「昔から、あの子はハーフエルフを見下してた」
魔女「私が、沢山魔法や魔術を使えると知ったら、それに張り合おうとしてきた」
魔女母「……」
魔女「でも、あの子そんなに魔法や魔術は使えないのよね」
魔女「実の母は、結構使えるのに」
魔女「何で、あんなコンプレックスの塊を産み出すんだか……」
魔女母「……」
「ああ、やっぱりミスしたかしら……」
「あの子ったら、ちゃんと用件を伝えきれてなかったみたいね……」
魔女「え?」
シュン、シュタッ……
魔女母「!?」ハッ
「久し振りね。ジュリエット……」
「こうして、貴女に会うのは何年振りだったかしらね?……」
魔女母「……」ギリギリッ
「相変わらず、貴女は私の事を常に不快にさせてくれる……」
「今回の戦に関しても、すぐにそう……」
「今の貴女、本当に羨ましい程の強大な力を持ってしまってるわ……」
「やっぱり、こう言った所も遺伝かもしれないわね……」
魔女母「……」ギリギリッ
スッ、ササッ……
魔女「お久しゅうございます。女王様」
魔女「この度はご尊顔を拝し、恐悦至極に存じ奉ります」ペコッ
魔女母「……」ギリギリッ
女王「ええ、久し振りね。ジュリエット」
女王「今日ここに来たのは、今の貴女に話があったから」
女王「この私からのお話、今の貴女は聞いてくれるかしら?」
魔女「はっ、一体それは何でございましょうか?」
魔女「それもわざわざ、この様な場所に出向かれる程、人に聞かれたくないお話なのでしょうか?」
魔女母「……」ギリギリッ
女王「ええ、そうよ」
女王「今の私、貴女に死んで貰いたいの」
魔女母「!?」ギリギリッ
魔女「……」
女王「それが済んだら、その代わりに貴女をエルフにしてあげるわ」
女王「表向きには、ハーフエルフのジュリエットは死んだ」
女王「今回の戦で、志半ばで戦死したと言う風にしたいのよ」
女王「そうじゃなきゃ、xxxxx王国も黙ってはないでしょうね」
魔女「……」
女王「そのついでに、今の貴女の母親も貴族に戻してあげるわ」
女王「貴女は、再び今の貴女の母親のお腹から産まれ、今度こそエルフとして人生をやり直す」
女王「もう二度と、親子共々娼婦なんてする必要なんかなくなるのよ」
女王「だから、今の貴女には死んで貰うわ」
女王「私の娘、その事を伝えていなかったみたいだから」
女王「お願い、ジュリエット」
女王「エルフの里の為に、死んでくれる?」
女王「今の貴女が死ねば、今度こそ来世で平穏無事な生活を送る事が出来る」
女王「今の貴女、ずっとエルフになりたかったんでしょ?」
魔女「……」
女王「それについては、今の貴女の母親とて同じ事」
女王「この私からのお願い、今の貴女は聞き入れてくれるかしら?」
魔女「……」
魔女母「……」ギリギリッ
女王「……それで、返事は?」
女王「貴女は、エルフの里の為に死んでくれるのかしら?」
魔女「はっ、仰せのままに!」
魔女母「!?」ガーーン
女王「そう、良かったわ!」
女王「今の貴女、実の母親と違って、話が分かる子で本当に良かったわ!」ニッコリ
魔女「……」
女王「本当に、ありがとうね。ジュリエット!」
女王「今の私、貴女には本当に感謝してる!」
女王「思わず、勲一等もしくは名誉勲章とか貴女に挙げたいくらい、舞い上がっちゃってる!」ニコニコ
魔女母「……」ギリギリッ
女王「それで、いつ死んでくれるの?」
女王「このまま、戦を継続するの?」ニコニコ
魔女「はっ、その通りでございます!」
魔女母「ジュリエット!」ギリギリッ
女王「ふぅん。そうだったの!」
女王「今の貴女、本当に死んでくれるの!」
女王「とりあえず、それが終わったら、貴女の母親をエルフの里に移送するわ」
女王「貴女の新しい体、すぐに貴女の母親のお腹の中で用意されちゃうから!」ニコニコ
女王「本当に、ありがとうね。ジュリエット!」
女王「今の私、早速再任早々大戦果を納めちゃうし!」
女王「これで、エルフの里も完全に救われたわ!」
女王「今の私、本当に今の貴女には感謝してるから!」ニコニコ
魔女母「……」ギリギリッ
魔女「はっ、お褒めに頂き、誠にありがとうございます!」
魔女「これより、私は最後の攻勢に入ります!」
魔女「女王様。もう暫くお待ち下さいませ!」
魔女「エルフの里の為に死ねるのならば、それはそれで本望でございます!」
魔女母「ジュリエット!」ギリギリッ
女王「そう。了解したわ!」
女王「そしたら、さっさと終わらせて来て頂戴!」
女王「今の私、向こうで用意とかしとくから!」
女王「だから、早く終わらせて来てね!」ニコニコ
魔女「はっ、仰せのままに!」
シュン、シュタッ……
王女「よいしょっと……」
魔女「……?」ハッ
魔女母「……」ギリギリッ
女王「あら、また来たの?」
王女「……え?」ハッ
伝令兵「……」
王女「どうして、お母様がこちらに?……」
王女「今のお母様は、会議中では?……」アセアセッ
魔女「……」
女王「は? 会議?」
女王「そんなのもう終わったわよ」
女王「貴女、もしかして何も見てなかったとか?」
女王「長老衆との会合とか、とっくに済ませてきたわよ!」イラッ
王女「!?」ガーーン
女王「はぁ、全く……」
女王「貴女、相変わらずどこか抜けてんだから……」
女王「一体、どうしてこんな子が出来ちゃったの?……」
女王「これだったら、まだ今ここにいるジュリエットの方が、まだマシだったりするわよ……」ガクッ
王女「!?」ガーーン
魔女「……」
女王「と言うか、何でまともに用件すら言えてないのよ……」
女王「今の貴女、私の名代すら出来ていないの?……」イライラッ
王女「も、申し訳ございません!……」アセアセッ
女王「まぁ、それについては、後で鍛え直すわ……」
女王「そうじゃなきゃ、本当に貴女は何も出来ないみたいだから……」イライラッ
王女「……」ウルウルッ
女王「ジュリエット。例の件、宜しくね」
女王「私は、貴女の事を信じてる」
女王「どっかの糞生意気な小娘と違って、まだ貴女の方が信用出来たりする」イライラッ
女王「だから、私は先に戻ってるわ」
女王「貴女も、早く私に言われた事をすぐにしてきて」
女王「それが済んだら、今の貴女達二人はエルフの里に戻れるんだし」
女王「せっかくの千載一遇チャンス、全て不意にする事なんてないのだからね」イライラッ
魔女「はっ、仰せのままに!」
王女「……え?」ウルウルッ
魔女母「……」ギリギリッ
伝令兵「……」
スッ、クルッ……
シューーーーッ、シュン……
魔女「……」
魔女母「……」ギリギリッ
スッ、ストン……
スッ、ポリポリッ……
ポリポリッ、ポリポリッ……
魔女母「ねぇ、ジュリエット……」
魔女母「今のあんた、本当に死ぬつもりなの?……」
魔女母「何で、あんな性悪女の言う事聞いてんの?……」ギリギリッ
魔女「……」
魔女母「まさか、あの性悪女の虚言を信じてるとか?」
魔女母「本当に、あの性悪女があんたの事をエルフにしてくれると思ってるの?」ギリギリッ
魔女「……」
魔女母「ジュリエット。今すぐ、あんな性悪女の言う事を聞くの止めなさい!」
魔女母「じゃないと、今のあんたは一生泣きを見る事になるわよ!」
魔女母「また、下手したら来世でもハーフエルフになるかもしれないのよ!」ギリギリッ
魔女「……」
魔女母「お願い。ジュリエット!」
魔女母「私の言う事を聞いて!」
魔女母「じゃないと、あんたの事をすぐにぶっ飛ばす!」
魔女母「この私が、代わりにあんたの事を始末してあげる!」ギリギリッ
魔女「お母様。少し、黙っててくれる?」
魔女「今の私、エルフの里の為に死ぬつもりなのよ!」
魔女「たとへ、それがあの性悪女の吐いた嘘だと分かってても、それでも今の私はエルフの里の為に死ななきゃならない!」
魔女「ハーフエルフは、エルフの里の為に死ぬまで尽くせ!」
魔女「それが、エルフの里で定められた法律でもあるのよ!」
魔女母「!?」ガーーン
魔女「だから、お母様……」
魔女「私は、もうすぐ死にに行くわ……」
魔女「私が死ねば、お母様はエルフの里に帰れる……」
魔女「上手くやれば、お母様はまた貴族に戻れる……」
魔女母「ジュリエット!」ギリギリッ
魔女「だから、さよなら。お母様……」
魔女「所詮、私はずっとハーフエルフ……」
魔女「今まで、ずっとお母様の事を苦しめてごめんなさい……」
魔女「もうこれ以上、お母様には迷惑を掛けられないわ……」ウルウルッ、ペコッ
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「……」ギリギリッ
伝令兵「……」
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「……」ギリギリッ
伝令兵「……」
魔女「伝令。至急、全隊に通達……」
魔女「カーネル・ジュリエットが、これより出撃をするわ……」
魔女「王都に向かっている第二から第四大隊にも、その件を通達……」
魔女「オペレーション・バッドエンド、これより開始するわ……」ウルウルッ
伝令兵「はっ!」ビシッ
魔女母「?」キョトン
シューーーーッ、シュン……
スッ、ゴクゴクゴクッ……
魔女母「ちょっと、あんた何するつもりなの!?」
魔女母「オペレーション・バッドエンドって、一体何なのよ!?」
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「あんた、また何か隠してるの!?」
魔女母「また、私に話してない事とか沢山あるでしょ!?」ウルウルッ
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「あんた、これ以上何もしちゃ駄目!」
魔女母「いくら、自暴自棄になってるからと言って、自分の命を粗末にしちゃ駄目!」
魔女母「今のあんたが死んだら、あの子達はどうなるのよ!?」
魔女母「今のあんたの帰りを待ってる子達が、沢山いるんでしょ!?」ウルウルッ
魔女「……」ウルウルッ
魔女母「だから、今のあんたは絶対に生き残りなさい!」
魔女母「あんたが、再び死ぬなんて絶対にこの私が許さない!」
魔女母「今のあんた、本当に痛々しくて見てられないわ!」
魔女母「何で、あんたばかりそんな目に遭ってんのよ!?」ウルウルッ
魔女「お母様。本当に、黙っててくれる?……」
魔女「今の私は、ハーフエルフなのよ……」
魔女「お母様達と違って、純粋なエルフじゃないのよ……」ウルウルッ
魔女母「ジュリエット!」ウルウルッ
魔女「そんなに、オペレーション・バッドエンドが何か知りたいの?……」
魔女「オペレーション・バッドエンドとは、その名の通りに今の私が報われない終わり方をするだけ……」
魔女「その代わりに、せめてお母様だけは救ってあげる……」
魔女「また、来世でも私は確実にハーフエルフ……」
魔女「それでも、今の私は一人で生きていけるから……」ポロポロッ
魔女母「……」ポロポロッ
魔女「だから、お母様は先にエルフの里に向かってて……」
魔女「今の私、まだまだ沢山するべき事が山程ある……」
魔女「所詮、私とお母様の違いは純血かどうか……」
魔女「今の私は、産まれた時からずっと穢れてる……」
魔女「だから、娼婦として活動をしろと命じられても、躊躇いもなく今まで出来ていたのよ……」ポロポロッ
魔女「まぁ、そう言う事だから、お母様は先に行ってて……」
魔女「せめて、お母様だけは救ってあげる……」
魔女「今の私、本当に汚れてるし……」
魔女「このまま、王都かエルフの里で捕まって、集団でレ〇プされ続けるのがお似合いかもしれないわね……」ポロポロッ、ニッコリ
魔女母「……」ポロポロッ、ガクッ
魔女「……」フキフキ
魔女母「……」ポロポロッ
魔女「……」スッ、カシャン
魔女「……」ブツブツ
魔女「……」ブツブツ
シューーーーッ、シュン……
バシン……
魔女「あっ……」
魔女母「……」
シュッ、バシン……
魔女母「……あんた、何するつもり?」
魔女母「この私の事、エルフの里に転送させるつもりだったとか?……」ポロポロッ
魔女「……」ポロポロッ
魔女母「でも、今の私は向こうにいくつもりなんてない!」
魔女母「あんた残して、向こうに帰るつもりもない!」ポロポロッ
魔女「……」
魔女母「やっぱり、これは私の所為なのよね?……」
魔女母「私の所為で、今のあんたはこんな酷い目に合い続けているのよね?……」ポロポロッ
魔女「……」
魔女母「だったら、この私も付き合ってあげるわ!」
魔女母「あんたが無惨に死に行く様、すぐ目の前で見届けてあげるわ!」ポロポロッ
魔女「……」ポロポロッ
魔女母「本当に、何でこんな所まで似てるのよ!?」
魔女母「何で今のあんたは、昔の私そっくりなのよ!?」ポロポロッ
魔女「!?」ポロポロッ
魔女母「今の私も、過去に全く同じ事をしていたわ!」
魔女母「せめて、あんただけでも私みたいな酷い目に遭わないでほしいと、ずっと今まで頑張ってきた!」
魔女母「けれど、それが何度やっても叶わなかった!」
魔女母「族長だった私の実の弟に頼んでも、大して全く何も変わらなかった!」ポロポロッ
魔女「……」ポロポロッ
魔女母「だから、私はもう諦めきってた……」
魔女母「何度やっても、あんたの運命を変えてあげる事すら叶わなかった……」ポロポロッ
魔女「……」ポロポロッ
魔女母「本当に、今の私は母親失格よね?……」ポロポロッ
魔女母「あんたの事、ずっとろくに守ってあげれなかったもの……」
魔女母「本当に、今までごめんなさい……」
魔女母「お願いだから、もうそんな事止めて……」
魔女母「あんたのそんな無惨な姿、この私の前に見せないで!……」ポロポロッ
魔女「……」ポロポロッ
魔女母「ひぐっ、ひぐっ……」ポロポロッ
魔女「……」ポロポロッ
魔女母「……」ポロポロッ
魔女「……」ポロポロッ
魔女母「……」ポロポロッ
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
ササッ、カシャン……
偵察兵「申し上げます!」
偵察兵「第五、第六大隊が敵部隊を撃破!」
偵察兵「第七、第八大隊はアンデットの群れと未だ戦闘中!」
偵察兵「撃破した部隊は、王都傭兵隊にエルフ傭兵隊!」
偵察兵「第二、第三、第四大隊は、王都付近の港にたった今入りました!」
魔女「……」ポロポロッ
偵察兵「カーネル。如何致しますか?」
偵察兵「このまま、ご出陣なさいますか?」
魔女母「……」ポロポロッ
魔女「ええ、出陣するわ……」
魔女「第九大隊と共に、王都に入る……」
魔女「第二、第三、第四大隊には、上陸を終え次第王都に進軍せよと伝えて……」
魔女「ここの陣地は、すぐに撤去……」
魔女「これより、全軍総攻撃に入る……」ポロポロッ
魔女母「……」ポロポロッ
偵察兵「はっ、了解致しました!」
偵察兵「すぐに、準備致します!」
偵察兵「それでは、自分はこれで!」
偵察兵「カーネルも、どうか道中をお気を付けて!」
魔女「了解したわ……」フキフキ
魔女母「……」ポロポロッ
スッ、クルッ……
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
スッ、ゴクゴクゴクッ……
魔女「……」
魔女母「……」ポロポロッ
魔女「……」
魔女母「……」ポロポロッ
魔女「……お母様」
魔女「お母様もついてくるんなら、別に好きにして良い……」
魔女「でも、これだけは言わせて……」
魔女「私は、これまでずっとお母様の事を恨んでなかった……」
魔女「今の私、ハーフエルフになる前は純粋なエルフだったの……」
魔女「しかも、エルフの里の中でも親に捨てられた娼婦の中の一人だったわ……」
魔女母「!?」ポロポロッ
魔女「確か、その当時のお母様は、まだ成人をする前だったわよね?……」
魔女「xxxx侯爵のご子息と、自宅の庭でよく二人して談笑をされてた……」
魔女「本当に、その当時のお母様は幸せの絶頂だった……」
魔女母「……」ポロポロッ
魔女「その当時の私、町の中心部の娼館で働いてたわ……」
魔女「お母様が、娼婦として活動を開始する前にも何度かあった事があった……」
魔女母「え?」ポロポロッ
魔女「実は、その時から今と同じ様にジュリエットと名乗ってて……」
魔女「本当なら、お母様の腹違い妹になる……」
魔女「それでも、娼婦の産んだ娘だと言う事もあってか、ろくに生活費すら貰えなくてね……」
魔女「本当に、お母様が羨ましかった……」
魔女「“同じ姉妹なのに、何でこれだけの差があるんだろう?”って、いつも悩んでたわ……」
魔女母「……ジュリエット?」ポロポロッ
魔女「だから、私はお母様の事なんて、これっぽっちも恨んでなんかないわ……」
魔女「今の私が、たとへエルフになれたとしても、親に捨てられた娼婦……」
魔女「女王様は、完全にその事を見抜かれてた……」
魔女「エルフになっても、私は娼婦として生きて行かなきゃならなくなるのよ……」
魔女「所詮、お母様と私は完全に住む世界が違いすぎるのよ……」
魔女母「……」ポロポロッ
魔女「まぁ、そう言う事だから、お母様はついてきたいならついてきても良い……」
魔女「その代わり、お母様は私の事をすぐに見殺しにして……」
魔女「今の私、ただの悪女だから……」
魔女「歴史にその名を残すくらい、最低最悪な悪女だから……」
魔女母「……」ポロポロッ
魔女「それと、お母様……」
魔女「エルフの里に戻ったら、もう完全に私の事なんて忘れて……」
魔女「ハーフエルフは、お母様が産んだと言う記録は一切残ってない……」
魔女「おまけに、私の事はエルフの里の戸籍にはない……」
魔女「その辺については、もう既にエルフの里にも確認が取れてる……」
魔女母「……」ポロポロッ
魔女「だから、もう二度と、私みたいな穢れた女を実の娘だとも思わないで……」
魔女「私は、もう貴女の娘でも何でもない……」
魔女「今から、私達はもう親子の縁を切るわ……」
魔女「今の私、もう二度とお母様のお腹の中になんて、戻ってこないから……」
魔女「だから、今度こそ本当にさよなら……」
魔女「私は、ハーフエルフの長としての務めを果たしてくる……」
魔女「今まで、散々迷惑を掛けてごめんなさい……」
魔女「もう二度と、貴女の目の前にも現れる事なんてないのだから――――!?」
シュッ、ドゴッ……
魔女「ぐふっ!?」
ドゴッ、ドゴッ……
魔女母「ふざけないで――――――――っ!」ポロポロッ、ギリギリ、シュバッ
魔女「きゃああああああああ――――――――っ!?」フワッ
魔女「……」ドサッ、ピクピクッ
魔女母「……」ポロポロッ
魔女「……」ピクピクッ
魔女母「本当に、こんな所まで似ちゃうなんて……」
魔女母「何で、私が昔実の弟に吐いた嘘まで引用しちゃうだか……」ポロポロッ
魔女「……」ピクピクッ
~王都付近・勇者側~
魔導士「おい、全く勇者起きねぇぞ」
魔導士「お前、本当に手加減をしたのか?」イライラッ
剣士「ああ、したが」
魔導士「その割りには、何でこんなに延びてんだよ」
魔導士「これ、明らかにやり過ぎだろ」イライラッ
勇者「……」ピクピクッ
剣士「ああ? 文句あんのか?」
剣士「こいつ生意気だったから、矯正してやっただけだ」イライラッ
勇者「……」ピクピクッ
魔導士「だったら、限度くらい考えろよ」
魔導士「勇者不在で、一体どうする気だ?」
魔導士「まだこの辺、敵だらけなんだぞ?」イライラッ
剣士「ああ、悪い悪い」イライラッ
勇者「……」ピクピクッ
魔導士「ああ、本当にお前は……」
魔導士「昔は、もう少しまともでイケメンだったのに……」
魔導士「あの頃のお前、有能な騎士だったのに……」
魔導士「何で、こんな風になっちまったんだか……」イライラッ
剣士「うるせぇ!」イライラッ
賢者「まぁ、今となってはそんな面影はどこにもないがな」
賢者「どっちかと言うと、馬上槍試合で連戦連勝していた時の方が輝いて見える」
賢者「けれど、今のお前は騎士をクビになってしまったし」
賢者「本当に、どうしてこうなったんだろうか?」チラッ
魔導士「ああ、そうだな」イライラッ、コクン
剣士「……」イライラッ
魔法使い「あの先輩……」
魔法使い「やけに、この剣士と仲が宜しいのですね……」
魔法使い「もしかして、昔からの知り合いだったのですか?……」アセアセッ
魔導士「ああ、そうだが」イライラッ
賢者「何だ、話してなかったのか?」
賢者「俺達三人、幼馴染みだぞ」
賢者「以前は、全く同じ村に住んでたんだが」
魔法使い「!?」ガーーン
賢者「その時、あのカーネルも同じ村にいた」
賢者「皆、カーネルには何もせずに、普通に接してもいた」
魔法使い「!?」ガーーン
魔導士「ああ、そうだったな」
魔導士「俺の親父が、そこんとこ上手くやってたんだがな」
魔法使い「……」
魔導士「だが、それも呆気なく見つかっちまった」
魔導士「俺の親父が、カーネルの事を監禁レ〇プしてたんだわ」
魔法使い「!?」ガーーン
魔導士「それが発覚して、カーネルは村を追い出された」
魔導士「今ここにいる俺も剣士も、カーネルの討伐隊に参加していた」
剣士「その時、この俺があの女に止め刺したんだよ」
剣士「あの女、元から死ぬつもりだった」
剣士「この俺に対して、“早く私の事を殺せ!”」
剣士「“それを武勲に、あんたは騎士になるんだ!”って、自ら死を選んでいた」
魔法使い「……」
魔導士「ああ、そうだったな」
魔導士「俺は、遅れてしまったが、お前からその話は聞いた」
魔導士「実際、俺がしていたのは兵力の提供」
魔導士「カーネルは、俺と同じ様に独自に兵を出せる」
魔導士「だから、すぐさま俺の力が必要だった訳だ」
魔法使い「……」
剣士「まぁ、そんな所だ」
剣士「お前らも死にたくなかったら、態度にはだけは気を付けろ」
剣士「今の俺、貴様らが思ってる程強えぞ」
剣士「こんな薄汚れた顔や姿してるが、貴様以上に戦場は渡り歩いてるぞ」
剣士「後、戦士」
剣士「今の貴様がよければ、この俺が剣の腕を鍛えてやる」
剣士「今のお前、ずっと自己流だったろ?」
剣士「そんな整ってない乱れた剣筋じゃ、ろくに強くなれない」
剣士「今ここにいる雑魚達にも、なかなか勝つ事が出来ないだろう」
戦士「……」
魔導士「まぁ、そう言う事だ」
魔導士「魔法使いは俺が見て、賢者は僧侶を頼む」
魔導士「盗賊、武闘家、お前達はどうする?」
魔導士「お前達も、何らかの修行をつけてやった方が良いか?」
武闘家「……」
盗賊「ああ、お願いします」
盗賊「俺達に合った魔法とかをお願いします」
盗賊「カーネルの奴、独自に旅の資金や食料等を独自に出してました」
盗賊「あんな芸当、今の俺達にはとても出来ません」
魔導士「ああ、そうだな」
魔導士「あの芸当、カーネルが俺の親父に教えたやつなんだわ」
盗賊「!?」ガーーン
魔導士「カーネル。なんか色々出せるだろ?」
魔導士「俺の親父が教えた召喚術、すぐにモノにしやがった」
魔導士「一体どう言う訳か、資金や食料とかを独自に出せる様になってたんだ」
魔法使い「!?」ガーーン
魔導士「そっから、逆に俺の親父が教えられる立場になっちまった」
魔導士「カーネルは、あの親父にすぐさま溺愛され、大賢者様までもがカーネルの事を溺愛するにまでなってしまった」
魔導士「その後、俺の親父がカーネルの事を執拗にレ〇プ」
魔導士「元々、行き場のなかったカーネルは、ずっとされるがまま」
魔導士「それが原因で、俺の親父が完全に狂っちまった」
魔導士「今まで、よく女遊びが原因で俺のお袋の事を泣かしていたが、余計に火に油を注いじまった」
魔法使い「……」ガクッ
戦士「……」ポカーーン
魔導士「それかバレた後、親父はすぐにカーネルの行方を探した」
魔導士「てっきり、皆がそう思っていた」
賢者「……」
魔導士「だが、実際はカーネルの事を一切探しもせず、別の愛人宅でくつろいでいただけ」
魔導士「さすがのお袋も、完全に殺す気満々だった」
魔導士「いくら何でも、可愛い弟子を執拗に監禁レ〇プした後に、愛人宅で愛の営み」
魔導士「誰だって、親父が本気で殺され掛けた事には納得がいく」
魔導士「実際、それを知った村人達も本気で切れていて」
魔導士「せっかくの毎週のご馳走が食べれなくなって、ウチの親父の事を未だに恨んでるからな」
魔法使い「……」ウルウルッ
僧侶「……」ウルウルッ
戦士「……」ポカーーン
盗賊「……」ポカーーン
武闘家「……」ポカーーン
賢者「……」ポカーーン
剣士「とりあえず、こっから早く移動しねぇか?」
剣士「アンデット達、もうすぐそこまで来てんぞ」
剣士「いくら、何重にシールドを張っていたとしても、そろそろ限界じゃねぇ?」
勇者「……」ピクピクッ
魔導士「いや、それお前が言うか?」
魔導士「元々、お前が手加減しねぇのが悪いんだろうが」イラッ
勇者「……」ピクピクッ
剣士「ああ? まだ文句言うのか?」
剣士「だから、悪かったって言ってるだろうが!」イラッ
勇者「……」ピクピクッ
賢者「二人とも、喧嘩してないでさっさと撤退するぞ」
賢者「今の俺達、完全に孤立してるんだし」
賢者「いつ、俺の兵が切れるかが全く分からないんだが」
勇者「……」ピクピクッ
剣士「へいへい」イライラッ
魔導士「武闘家、勇者の事を頼む」
魔導士「お前、一番体格良くて力強いから、勇者の事を背負ってくれ」
武闘家「了解した」
魔導士「皆、ここから移動するぞ」
魔導士「賢者、後どんだけ兵が残ってる?」
武闘家「……」スッ、ササッ
賢者「大体、後18名ちょっと」
賢者「そっちは?」
盗賊「ほらよ」ササッ
魔導士「大体、11名ぐらい」
魔導士「結構、兵を消費したな」
魔導士「このまま突っ込んでたら、マジで全滅してたな」
勇者「……」ピクピクッ
賢者「ああ、そうだな」
賢者「本当に、今回の勇者は駄目そうだな」
僧侶「ちょっと、今のどう言う事ですか?」
僧侶「私の勇者様が、そんなに駄目なんですか?」イラッ
賢者「ああ、そうだけど」
魔導士「何か、間違った事は言ったか?」
剣士「……」
僧侶「ええ、言ってますよ!」
僧侶「私の勇者様は、貴殿方が思ってる程駄目人間ではないのですよ!」ギリギリッ
勇者「……」ピクピクッ
剣士「なら聞くが、こいつに何が出来る?」
剣士「今まで、なんか役に立った事はあったか?」
剣士「つうか、どう言う経緯でこいつは勇者に任命されたんだ?」
勇者「……」ピクピクッ
僧侶「……それについては、神のご意志です!」
僧侶「私の仕える神が、勇者様こそが勇者になると仰せになられました!」
僧侶「だから、今の勇者様は、勇者としてこの場にいらっしゃるのです!」ドヤァ
剣士「……ああ、そうか」
剣士「そりゃあ、疑う様な事を言って悪かったな」
剣士「だったら、早くこいつを移動させるぞ」
剣士「今ここで、その勇者様を死なせてしまえば、それこそ一大事」
剣士「いつ、どこで、魔王が何をしてくるかが全く分からないからな」
勇者「……」ピクピクッ
僧侶「ええ、そうですね!」
僧侶「私だけの勇者様は、清く正しい清廉なお方ですからね!」ニッコリ
剣士「!?」ビクッ
僧侶「ですから、勇者様の移送に関しては丁重にお願い致します!」
僧侶「でなければ、私の仕える神が何をなされるかが全く分かりません!」
僧侶「それだけ、今ここにいらっしゃる勇者様は、とても高貴なお方なんですからね」
僧侶「今の私は、勇者様の妻でもあるのですからね!」ニコニコ
剣士「……」ポカーーン
勇者「……」ピクピクッ
魔導士「……とりあえず、一度王都にまで撤退をしよう」
魔導士「そこに、俺達の住む寮がある」
魔導士「お前達は、市内にある酒場に宿を取ってくれ」
魔導士「今ここで、王都に帰還しなければあらぬ疑いを掛けられる」
魔導士「実際、剣士も冤罪を掛けられて追われている身だ」
魔導士「まずは、剣士や勇者の件を何とかしないとな」
剣士「……」
賢者「皆、私に掴まってくれ」
賢者「これから、王都にまで転移魔法で移動する」
賢者「目的地は、市内の酒場だ」
賢者「皆、早く掴まってくれ」
ササッ、ササッ……
賢者「……」ブツブツ
賢者「……」ブツブツ
シューーーーッ、シュン……
~王都・地下牢~
大賢者「随分、騒がしくなってきたな」
大賢者「一体、いつまで続くのやら」
大魔導師「ああ、そうじゃな」
大賢者「大体、我らの要求を全て呑めばこんな事にはならなかった」
大賢者「この様な無用な戦、する必要すらなかったのだ」
大魔導師「うむ。その通りじゃ」
スッ、ゴクゴクゴクッ……
大賢者「しかし、大魔導師」
大賢者「お前、よく耐えたな」
大賢者「私はてっきり、今のお前があの糞国王達の事を、そのまま始末すると思ってたぞ」
大魔導師「うん。何の事じゃ?」
大賢者「大体、お前まであっさり捕まってんだ?」
大賢者「お前で、こうして捕まる必要はあったのか?」
スッ、ゴクゴクゴクッ……
大魔導師「ああ、あったとも!」
大魔導師「少なくとも、今の儂はただの年老いた老人じゃ!」
大魔導師「今更、あの糞国王に出仕してたまるか!」
大魔導師「儂は、あの糞国王の事が昔から大嫌いじゃった!」
スッ、ポリポリッ……
大賢者「その割りに、よくあの糞国王が開いた宴には足を運んでおったな」
大賢者「まぁ、昔からお前は自他共に認めるただの女好き」
大賢者「それが原因で、今のお前は性病に掛かった」
大賢者「その費用すら、弟子に集る程の愚か者じゃからな」
スッ、ポリポリッ……
大魔導師「あ? 何を言うか?」
大魔導師「と言うより、一体誰が儂の病気を漏らしたのじゃ?」
大魔導師「それを知っているのは、ごく限られた人間にしかいないはず!」
大魔導師「今の儂は、ただの被害者なのじゃ!」
大魔導師「そんな人の気にする様な事を、むやみに外部に漏らす出ない!」イラッ
大賢者「ああ、すまんすまん」
大賢者「実際、私とてそれを聞いたのは、つい最近の事だ」
大賢者「今のお前が、性病に掛かったと聞いた時に、すぐさま笑いが止まらなかった」
大賢者「あの女たらしが、とうとう本当に痛い目にあったのを知った時にはな」ワハハハッ
大魔導師「黙れ!」ギリッ
スッ、ポリポリッ……
大賢者「まぁ、落ち着け」
大賢者「その詫びと言っては何だが、良い医者を紹介してやる」
大賢者「その医者と言うのは、とても若くて美人でグラマーな娘だ!」
大賢者「ほれ、つい最近やたらと評判な娘がおるじゃろ?」
大賢者「今のお主には、その者が適任だとは思わないか?」
大魔導師「!?」ハッ
大賢者「ん? どうした?」
大賢者「何か、問題でもあったのか?」
大魔導師「……」
大賢者「まさか、もう女には興味はないのか?」
大賢者「今のお主も、とうとう性欲が減退したのか?」
大魔導師「……」
大賢者「……?」
大魔導師「ああ、すまんすまん」
大魔導師「ちょっと、歯にジャーキーが詰まってしもうた」
大魔導師「今の儂も、本当にただの年寄りと言う訳か」
大賢者「……」
大魔導師「それで、大賢者よ」
大魔導師「今回の戦は、どう見る?」
大魔導師「今の儂には、あの子が負ける可能性が出てきた」
大魔導師「また、あの時の様に無茶をしなければ良いのだが」
スッ、ゴクゴクゴクッ……
ポリポリッ、ポリポリッ……
大賢者「……」
大魔導師「それで、今のお主はどう見る?」
大魔導師「あの子は、本当にこのまま勝てると思うか?」
大魔導師「今のあの子は、本当にあの時とそっくりな状態なのじゃ」
大魔導師「いつ、どこで死ぬかが全く予測がつかん」
スッ、ポリポリッ……
大賢者「大体、良くて門を開けるまでだろう」
大賢者「そこから城に攻め入り、天守へと向かう」
大魔導師「ほう? それで?」
スッ、ゴクゴクゴクッ……
大賢者「私が懸念するのは、市内にいる民達の事だ」
大賢者「あの子は、昔から王都の民達にも嫌われていた」
大賢者「あの子自身が、それを肌で嫌でも感じてもいた」
大魔導師「……」
スッ、ポリポリッ……
大賢者「だから、今の私は門を開けた後からが、本当に危険なのだと思う!」
大賢者「あの子は、これまでずっと一人で戦ってきた!」
大賢者「時には、どこぞの性病持ちの汚ならしい体液で汚れ、無数の男達の流す血で自身の体を汚す毎日!」
大賢者「あの子が門を開ければ、王都の民達はなす術がない!」
大賢者「それも一方的に、あの子は王都の民達を完全に虐殺!」
大賢者「さすれば、あの子の悪名が瞬く間に広がるであろう!」
大賢者「それが原因で、再び各地でハーフエルフを迫害!」
大賢者「今の私的には、あの子にその様な事だけは、絶対にしてほしくはないのだ!」
大魔導師「……」
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
ササッ、カシャン……
密偵「大魔導師様、ここにいらっしゃいましたか」
密偵「少し、お話したい事がございます」
大魔導師「……うむ。申せ」
スッ、ポリポリッ……
密偵「はっ、恐れながら申し上げます!」
密偵「カーネルが、今現在王都を攻撃!」
密偵「その際に、王都臨時傭兵隊が一人残らず全滅!」
密偵「エルフの里から派遣されたエルフ傭兵隊も、一人残らず全滅をしました!」
密偵「城門前に、多数の何者かが呼び出したアンデット達が出現をしております!」
大魔導師「!?」ガーーン
大賢者「なんだと!?」ガーーン
ポトポトッ、ガシャン……
密偵「大魔導師様。すぐに、ご加勢を!」
密偵「今現在、城門前でなんとか食い止めております!」
密偵「数が数なので、各魔導士達ではとても手に負えないのです!」
大魔導師「……」ガクッ
密偵「ですから、どうかご加勢を!」
密偵「このままでは、とても持ちそうにありません!」
密偵「今こうしている間に、城門がアンデット達によって破られようとしています!」
大賢者「して、カーネルの位置は?」
大賢者「あの娘は、一体何をしているのだ?」
大魔導師「……」
密偵「はっ、カーネルは王都付近の平地に昨夜から陣を設営!」
密偵「そこに、今朝からずっと引き籠った様子!」
密偵「自身の手勢4000に城門を攻撃をさせ、今現在も陣からは一歩も外に出てはおりません!」
大魔導師「……」
大賢者「大魔導師、どうする?」
大賢者「我らも、王国に加勢するか?」
大賢者「それとも、このままここで朽ち果てるのか?」
密偵「……」
大賢者「今ここで出ないと、あの子は確実に死ぬ!」
大賢者「今のお主も、あの子の事を絶対に死なせたくはないのだろ?」
大魔導師「……ああ、そうじゃ」
密偵「……」
大賢者「なら、我らも今すぐ加勢せねば!」
大賢者「ここで、もたもたしていている訳にはいかない!」
大賢者「今の私とて、あの子の事を絶対に死なせたくはない!」
大賢者「今ああして、城門前で踏ん張っている弟子達に対しても、今の私は全く同じ気持ちだ!」
密偵「……」
大魔導師「じゃが、鍵がないぞ!」
大魔導師「ここの牢は、特殊な鍵がないと開ける事が出来んのじゃぞ!」
密偵「……」
大賢者「密偵、お主鍵は?」
大賢者「今のお主は、鍵を持っておるのか?」
密偵「いいえ」
大魔導師「なら、とても無理じゃな!」
大魔導師「今の儂らは、またしても大事な弟子達を見殺しにしてしまう様じゃ」
大賢者「くっ……」
密偵「……申し訳ありません」
「いや、絶望されるのはまだ早い!」
「大臣様から、貴殿方二人の釈放命令が出ております!」
大魔導師「ん?」
大賢者「誰だ?」
密偵「……」ハッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ピタッ、カシャン……
衛兵隊長「……」ビシッ
大賢者「うむ。そなたか」
大賢者「早う、開けてくれ!」
衛兵隊長「はっ!」
カシャ、カシャ、カシャン……
ガチャ、ギィ----ッ、バン……
衛兵隊長「開きました」
大賢者「うむ。ご苦労!」
スッ、ムクッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ガチャ、バタン……
カシャ、カシャ、カチャン……
大魔導師「……」
大賢者「……」
密偵「……」
衛兵隊長「……」
大魔導師「して、衛兵隊長」
大魔導師「どう言う心変わりじゃ?」
大魔導師「今のお主、儂らの話を聞いておったのか?」
衛兵隊長「はい!」
大魔導師「なら、話は早い!」
大魔導師「今回の一件、感謝致す!」
大賢者「衛兵隊長。そなたはどうする?」
大賢者「儂らと共に来るか?」
大賢者「それとも、まだ城内いるか?」
大魔導師「……」
衛兵隊長「はっ、私の任務は城内の警備です!」
衛兵隊長「我ら衛兵隊は、城内の警備を仰せつかりました!」
衛兵隊長「市内については、各魔導士及び賢者が担当!」
衛兵隊長「城門の前は、傭兵隊が受け持っておりました!」
大魔導師「……」
大賢者「うむ。了解した!」
大賢者「儂らは、これより城門に向かう!」
大賢者「今回の一件、そなたには感謝致す!」
大賢者「そなたもまた、気を付けてな!」
衛兵隊長「はっ!」ビシッ
シューーーーッ、シュン……
~王都付近・魔女達の陣地~
スッ、ゴクゴクゴクッ……
ゴクゴクゴクッ、ゴクゴクゴクッ……
魔女母「ふぅ……」
魔女「……」ピクピクッ
魔女母「……」
魔女「……」ピクピクッ
魔女母「全く、何でここまで似ちゃうのかしら?」
魔女母「何で、やってる事とか考えてる事とか、ここまで似ちゃうのかしら?」
魔女「……」ピクピクッ
魔女母「ねぇ、ジュリエット」
魔女母「そんなに、私の事が嫌いなの?」
魔女母「私の事が嫌いだから、あんな棘のある様な事ばかり言うの?」
魔女「……」ピクピクッ
スッ、ポリポリッ……
魔女母「やっぱり、今のあんた私の事を恨んでるでしょ?」
魔女母「今更、のこのこ出てきて母親面するなって、完全に私の事を嫌ってるんでしょ?」
魔女「……」ピクピクッ
魔女母「そりゃあ、私は本当に駄目な母親だわよ!」
魔女母「ろくに、実の娘の事すら助けてあげれなかった、最低最悪な母親だわよ!」
魔女「……」ピクピクッ
魔女母「それでも、今の私はあんたの事を愛してる!」
魔女母「あんたの事を愛してたからこそ、あそこまで頑張れたのよ!」
魔女「……」ピクピクッ
魔女母「けど、今の私の思いは、今のあんたに全く伝わってなかったみたいね……」
魔女母「今の私、本当に母親失格だわ……」
魔女母「こんな事なら、あんたに一目会いに行くんじゃなかった……」
魔女母「今の私は、ずっとあそこで汚されてるべきだった……」
魔女「……」ピクピクッ
シュン、シュタッ……
魔女母「とりあえず、今の私は、あんただけでも助けてあげる……」
魔女母「あの石は、どの道また作ってあげる……」
魔女母「所詮、今の私は本当に母親失格なんだし……」
魔女母「こんな事ぐらいしか、今の私は何もしてあげられないみたいだけどね……」
魔女「……」ピクピクッ
女王「……」
魔女母「……」
スッ、トポポポポポッ……
ゴクゴクゴクッ、ゴクゴクゴクッ……
スッ、ストン……
魔女母「ふぅ……」
魔女「……」ピクピクッ
女王「……」
魔女母「それで、今度は一体何の用?」
魔女母「私の娘が、ちゃんと死んだ事を確かめに来たのかしら?」クルッ、ギリッ
女王「あら、気づいてたの?」
女王「てっきり、酔っぱらってて気づかないと思ってた」
魔女「……」ピクピクッ
女王「でも、今の私は本当に来て良かった」
女王「この私との約束通りに、本当に死に掛けていたから」
魔女「……」ピクピクッ
女王「あれ、もしかして貴女がやったの?」
女王「まさかとは思うけど、実の娘を瀕死の状態にしたりしてないわよね?」
魔女「……」ピクピクッ
魔女母「ええ、その通りよ!」
魔女母「あまりにも、私そっくりだったから、思わずぶん殴ってあげたわ!」
魔女「……」ピクピクッ
女王「……ああ、そうなの」
女王「今の貴女も、ああやって躾とかするの?……」
魔女「……」ピクピクッ
魔女母「ええ、そうよ!」
魔女母「今の私、最低最悪な母親だもの!」
女王「……」
魔女母「それで、一体何しに来たのよ?」
魔女母「まさか、本当に私を連れ戻しに来たの?」
魔女「……」ピクピクッ
女王「ええ、そうだけど」
女王「今の私、とても機嫌が良いのよ」
女王「所で、あの無数のアンデット達について何か知らない?」
女王「ウチの出した兵が、一人残らず食べられたの」
女王「なんか、聞く話によるとあんたの娘がやったんじゃないかって」
女王「その確認の為に、今の私はここに来たんだけど」
魔女「……」ピクピクッ
魔女母「……もしかして、あんたの仕業じゃないの?」
魔女母「ウチの娘も、出した覚えはないと言ってるんだけど」
女王「ええ、私ではないわ」
女王「ウチの里は、昔からアンデットなんか扱ってなんかないじゃないの」
魔女母「……」
女王「てっきり、あんたの娘が出したと思ってたわ」
女王「あんな無茶苦茶な魔法とか使えるの、あんたの娘ぐらいしかいないから」
魔女「……」ピクピクッ
魔女母「でも、この子人間のしか使えないわよ」
魔女母「私、エルフの魔法とか全く教えてないもの」
女王「!?」
魔女母「それじゃあ、一体誰が?」
魔女母「一体、誰があれを出したと言うのよ?」
女王「……私に聞かないで」
魔女母「とりあえず、ウチの娘を回復させるわ」
魔女母「だから、ちょっと待ってて」
女王「ええ、了解したわ」
しばらくして――
魔女「……あれ?」
魔女「何で、女王様がここにいるの?……」
魔女「ついさっき、お帰りにならなかった?」
女王「……」
魔女母「ええ、そうよ」
魔女母「ちょっと、あんたに確認したい事があってね」
魔女母「だから、また戻ってきたんだって」
女王「……」
魔女「それで、お母様。聞きたい事とは?」
魔女「もう既に、聞いちゃった後だったとか?」
女王「……」
魔女母「ええ、そうよ」
魔女母「あのアンデット達の事よ」
魔女母「あんた、あれ本当に何も知らないの?」
魔女「うん。知らない」
魔女「私、何もしてない」
魔女「ただ単に、ちょっと爆破したり、草原を燃やしたりしただけ」
魔女「それ以外には、上手く誘引魔法を使って敵を動かしたりしていただけだけど」
魔女「何か、問題とかあった?」
女王「!?」
魔女母「なん……ですって……!?」
魔女「……?」
女王「貴女、誘引魔法使えるの?……」
女王「あれ、かなり高度な魔法なんだけど……」
魔女母「……」
魔女「はい。使えますけど」
魔女「あれを使って、上手く敵を誘引をしていたんですけど」
女王「……」ポカーーン
魔女母「……」ポカーーン
魔女「あれ? どうかしたの?」
魔女「それ使っちゃったまずかったとか?」
魔女母「……」ポカーーン
魔女「ああ、やっぱ駄目だった?」
魔女「それが原因で、アンデットを大量に発生させちゃったとか?」
女王「……」ポカーーン
スッ、ゴクゴクゴクッ……
スッ、コトン……
魔女「……」
魔女母「……」ガクッ
女王「……」クラクラッ
魔女「……?」
魔女母「あんた、本当に凄いわ……」
魔女母「違う意味で、私の才能を受け継いでいた……」ウルウルッ
魔女「え?」
女王「ええ、本当にね……」
女王「まさか、今の貴女がここまでやってくれるとは……」
女王「今の私、本当にどうして良いのかが全く分からないわ……」
魔女「……」
魔女母「ねぇ、ジュリエット……」
魔女母「あんた、何でそんな強くなり過ぎたの?……」
魔女母「この私ですら、誘引魔法なんか怖くて使った事なんてないわよ!……」ウルウルッ
魔法「!?」ガーーン
魔女母「まさか、あんた何も知らなかった!?」
魔女母「あんた、何も知らずにあの魔法使っちゃったの!?」ウルウルッ
魔女「え? そうだけど……」
魔女母「……ああ」ウルウルッ、クラクラッ
女王「もう、終わりかしら?……」クラクラッ
魔女「……」ダラダラッ
スッ、ポリポリッ……
魔女母「ねぇ、そこの性悪女……」
魔女母「ウチの娘、あんたに引き渡すわ……」
魔女母「私も、今すぐエルフの里に戻る事にするわ……」ウルウルッ
魔女「!?」ガーーン
魔女母「今の私、本当に駄目な母親だわ……」
魔女母「これ、今からでもちゃんと直せるのかしら?……」ウルウルッ
魔女「……」ダラダラッ
女王「う~~ん。何とか、やってみる……」
女王「貴女の娘には悪いけど、本当に一度死んで貰うわ……」ウルウルッ
魔女母「……」ウルウルッ
女王「その後すぐ、貴女は貴女の娘をお腹の中に入れて……」
女王「私の仕掛けた各種の呪い、もう解けてるから……」
女王「これがバレたら、エルフの里すら完全に終わりだわ……」
女王「絶対に、何がなんでも隠し通すのよ……」ウルウルッ
魔女「……」ダラダラッ
魔女母「ええ、了解したわ……」
魔女母「とりあえず、ジュリエット……」
魔女母「あんた、今すぐ死んできなさい……」
魔女母「じゃないと、この国全土がアンデットに占拠される……」
魔女母「墓場の近くでそんな危なっかしいの使うから、こんな事になるのよ……」ウルウルッ
魔女「……」ダラダラッ
魔女母「だから、先に行ってるね。ジュリエット……」
魔女母「今度は、確実にあんたの事を純粋なエルフとして産んであげる……」ニッコリ
魔女母「それじゃあ、私達もう行くね……」
魔女母「ジュリエットも、早くこっちに来てよね……」ウルウルッ、フリフリ
女王「先に行ってるわ……」ウルウルッ、フリフリ
シューーーーッ、シュン……
魔女「……」
魔女「……」
魔女「もう最悪だわ……」ガクッ、ダラダラッ
はい、そうです。
後もう少しで、終わりになります。
暫く、一斉投下が続きます。
~王都・城門~
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ドーーーーン、ドーーーーン、ドーーーーン……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ドーーーーン、ドーーーーン、ドーーーーン……
ヒューーーーッ……
チュドドドドドド--------ン、チュドドドドドドン--------!
ドッカーーーーン!
グラグラッ、グラグラッ、グラグラッ……
ヒューーーーッ……
チュドドドドドド--------ン、チュドドドドドドン--------!
グラグラッ、グラグラッ、グラグラッ……
ドッカーーーーン!
バジャバシャ、バジャバシャ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
「くそっ、突破された!」
「敵が、雪崩れ込んできたぞ――――――――っ!」
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
「全隊、迎撃!」
「敵をこれ以上入れるな!」
「お――――――――っ!」
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
キンキン、キンキン……
キンキン、キンキン……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
キーーーーン、ギリギリッ
ギリギリッ、ギリギリッ……
キーーーー----ン!
ズバッ、ズバズバッ……
ズバズバッ、ズバズバッ……
ズバズバッ、ズバズバッ……
「ぐあっ!?」
「ぐげぇっ!?」
ブスッ、ブスブスッ……
ブスブスッ、ブスブスッ……
ズルッ、ドサドサッ……
シュシュシュシュシュシュッ、シュシュシュシュシュシュッ……
グサグサグサッ、グサグサグサッ……
ドサドサッ、ドサドサッ……
シュシュシュシュシュシュッ、シュシュシュシュシュシュッ……
グサグサグサッ、グサグサグサッ……
ドサドサッ、ドサドサッ……
「隊長、防ぎきれません!」
「援軍の要請を!」
キンキン、キンキン……
キンキン、キンキン……
ズバズバッ、ズバズバッ……
「ぐあああああっ!」
ズバズバッ、ズバズバッ……
「た、隊長――――っ!」
ドサドサッ、ドサドサッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
キンキン、キンキン……
キンキン、キンキン……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
シュン、シュタッ……
「第五大隊、進め!」
「第六大隊、敵を打ち破れ!」
「お――――――――っ!」
大魔導師「……」
大賢者「……」
密偵「……」
「隊長、援軍は!?」
「援軍は、まだ来ないのですか!?」
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
「弓隊、もう一度斉射だ!」
「敵を全て射ぬけ!」
ササッ、ササッ……
シュシュシュシュシュシュッ……
シュシュシュシュシュシュッ……
グサグサグサッ、グサグサグサッ……
ドサドサッ、ドサドサッ……
ササッ、ササッ……
シュシュシュシュシュシュッ……
シュシュシュシュシュシュッ……
グサグサグサッ、グサグサグサッ……
ドサドサッ、ドサドサッ……
ドッゴオオオオオオオオ--------ン!
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
大魔導師「大賢者、お主今如何程に?」
大魔導師「これ、明らかにまずいぞ!」
大魔導師「城門が、完全に突破されとる!」
密偵「……」
大賢者「ああ、大体10000が限度だ」
大賢者「今のそなたも、同じぐらいだったか?」
密偵「……」
大魔導師「まぁ、そうじゃな」
大魔導師「今更、呼び出しても遅い気がするが」
密偵「……」
大賢者「なら、出来る限り殲滅魔法で数を減らす!」
大賢者「そなたも、すぐに手伝え!」
大魔導師「了解した!」
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
大魔導師「……」ブツブツ
大賢者「……」ブツブツ
大魔導師「……」ブツブツ
大賢者「……」ブツブツ
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
大魔導師「はっ!」ブワッ
大賢者「はっ!」ブワッ
ボワワワワワワワワッ、ボワワワワワワワワッ……
ボワワワワワワワワッ、ボワワワワワワワワッ……
ドサドサドサドサドサドサドサドサッ、ドサドサドサドサドサドサドサドサッ……
ドサドサドサドサドサドサドサドサッ、ドサドサドサドサドサドサドサドサッ……
密偵「……」
大魔導師「うむ。衰えておらんな!」
大魔導師「まだまだ、儂は戦える様じゃ!」
ドサドサドサドサドサドサドサドサッ、ドサドサドサドサドサドサドサドサッ……
大賢者「ああ、そうだな!」
大賢者「今の内に、兵も出しといて迎撃をするぞ!」
大魔導師「おう!」
ドサドサドサドサドサドサドサドサッ、ドサドサドサドサドサドサドサドサッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
大魔導師「……」ブツブツ
大賢者「……」ブツブツ
大魔導師「……」ブツブツ
大賢者「……」ブツブツ
シュンシュンシュンシュンシュンシュン、シュンシュンシュンシュンシュンシュン……
シュンシュンシュンシュンシュンシュン、シュンシュンシュンシュンシュンシュン……
「た、隊長!」
「味方です。味方の援軍が現れました!」
シュンシュンシュンシュンシュンシュン、シュンシュンシュンシュンシュンシュン……
シュンシュンシュンシュンシュンシュン、シュンシュンシュンシュンシュンシュン……
「隊長、どうしたんです?」
「返事して下さい!」
シュシュシュシュシュシュッ、シュシュシュシュシュシュッ……
グサグサグサッ、グサグサグサッ……
ドサドサッ、ドサドサッ……
シュシュシュシュシュシュッ、シュシュシュシュシュシュッ……
グサグサグサッ、グサグサグサッ……
ドサドサッ、ドサドサッ……
「お前、何してる!?」
「隊長は、もう死んだ!」
「早く、ここから下がるんだ!」
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
大魔導師「……」ブツブツ
大賢者「……」ブツブツ
大魔導師「……」ブツブツ
大賢者「……」ブツブツ
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
大魔導師「はっ!」ブワッ
大賢者「はっ!」ブワッ
密偵「……」
ボワワワワワワワワッ、ボワワワワワワワワッ……
ボワワワワワワワワッ、ボワワワワワワワワッ……
ドサドサドサドサドサドサドサドサッ、ドサドサドサドサドサドサドサドサッ……
ドサドサドサドサドサドサドサドサッ、ドサドサドサドサドサドサドサドサッ……
密偵「……」
ボワワワワワワワワッ、ボワワワワワワワワッ……
ボワワワワワワワワッ、ボワワワワワワワワッ……
ドサドサドサドサドサドサドサドサッ、ドサドサドサドサドサドサドサドサッ……
ドサドサドサドサドサドサドサドサッ、ドサドサドサドサドサドサドサドサッ……
密偵「……」
大魔導師「とりあえず、これで少しはマシになったな」
大魔導師「後は、私兵達に任せるとするか」
大賢者「ああ、そうだな」
密偵「……」
スッ、ゴクゴクゴクッ……
~王都・酒場前~
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
キンキン、キンキン……
魔導士「くそっ、門が突破された!」
魔導士「敵が、そこらじゅうに雪崩れ込んで来てる!」
キンキン、キンキン……
魔導士「剣士、戦えるか!?」
魔導士「この数、相手出来るか!?」
キンキン、キンキン……
剣士「ああ、なんとか!」
剣士「お前らもさっさと応戦しろ!」スチャ、タァラン
キンキン、キンキン……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
戦士「魔法使い、応戦だ!」
戦士「剣士に続け!」スチャ、タァラン
魔法使い「おう!」
キンキン、キンキン……
キンキン、キンキン、キーーーーン!
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
勇者「……」ピクピクッ
勇者「……」ピクピクッ
僧侶「勇者様……」シャキン
キーーーーン、キーーーーン……
キンキン、キンキン……
シュシュシュシュシュシュッ、シュシュシュシュシュシュッ……
グサグサグサッ、グサグサグサッ……
ドサドサッ、ドサドサッ……
ドコッ、ドゴッ、ドゴッ……
ドコッ、ドゴッ、ドゴッ……
ブワッ、ドスドスッ……
ドスドスッ、ドスドスッ……
武闘家「……」
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ドコッ、ドゴッ、ドゴッ……
ドコッ、ドゴッ、ドゴッ……
ドスドスッ、ドスドスッ……
武闘家「……」
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
盗賊「はっ!」
ズバズバッ、ズバズバッ……
ズバズバッ、ズバズバッ……
ドサドサドサドサドサドサドサドサッ……
ズバズバズバズバズバズバズバズバッ、ズバズバズバズバズバズバズバズバッ……
ドサドサドサドサドサドサドサドサッ、ドサドサドサドサドサドサドサドサッ……
ズバズバズバズバズバズバズバズバッ、ズバズバズバズバズバズバズバズバッ……
ドサドサドサドサドサドサドサドサッ、ドサドサドサドサドサドサドサドサッ……
剣士「……」スチャ、シュタッ
戦士「……」ポカーーン
魔法使い「……」ポカーーン
剣士「……」サッ、クルッ
戦士「……」ポカーーン
魔法使い「……」ポカーーン
剣士「おいっ、ボケッとするな!」
剣士「貴様らも、早く戦え!」
戦士「お、おう……」ハッ
魔法使い「りょ、了解した……」ハッ
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
キンキン、キンキン……
ズバズバッ、ズバズバッ……
キンキン、キンキン……
ズバズバッ、ズバズバッ……
「ぐああああっ!」
ドサドサッ、ドサドサッ……
戦士「……」スチャ
魔法使い「……」ブツブツ
魔法使い「……」ブツブツ
魔法使い「はっ!」ブワッ
ボワワワッ、ボワワワッ……
「ぐあああっ!」ゴゴゴッ
「なっ、こっち来んな!?」
魔法使い「……」チラッ
剣士「……」フリフリ
剣士「お前、まだまだだな!」
剣士「もう少し、火力強くしろ!」
剣士「後、連射とか出来ないか?」
剣士「それしないと、この数ではとても無理だ!」
魔法使い「……」
魔導士「まぁ、ここは俺に任せな!」
魔導士「俺達が、手本を見せてやるよ!」
魔法使い「はっ!」
戦士「よろしくお願い致します!」
魔導士「……」スチャ
ボウンボウンボウン、ボウンボウンボウン……
魔法使い「!?」
ボウンボウンボウン、ボウンボウンボウン……
戦士「み、水が……」
ドサドサドサドサドサドサドサドサッ、ドサドサドサドサドサドサドサドサッ……
魔導士「魔法使い。今のやり方教えてやる!」
魔導士「よく、見てろ!」
魔法使い「はっ!」ピカァ
剣士「戦士、お前は俺を見てろ!」
剣士「俺の剣筋や手捌き、ちゃんと見とけ!」
戦士「はっ!」ピカァ
僧侶「……」ジーーッ
勇者「……」ピクピクッ
賢者「僧侶、君はここで私と一緒にいるんだ」
賢者「そうじゃなきゃ、勇者が死ぬ事になる」
勇者「……」ピクピクッ
僧侶「はい。かしこまりました」
僧侶「私は、ここで勇者様の事をお守り致します」ガクッ
賢者「……」
勇者「……」ピクピクッ
ドコッ、ドゴッ、ドゴッ……
ドコッ、ドゴッ、ドゴッ……
ドサドサッ、ドサドサッ……
武闘家「……」
ズバズバッ、ズバズバッ……
ズバズバッ、ズバズバッ……
ドサドサッ、ドサドサッ……
盗賊「……」
スッ、ゴクゴクゴクッ……
ゴクゴクゴクッ、ゴクゴクゴクッ……
盗賊「ふぅ……」
武闘家「……」
盗賊「あいつら、もう既に師弟関係出来てるな」
盗賊「こりゃあ、すぐにあいつら上達するわ」
武闘家「……」
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
サッ、カシャン……
密偵「申し上げます!」
密偵「大魔導師様、大賢者様、ご出陣!」
密偵「今現在、城門にて戦闘中!」
密偵「物凄い勢いで、敵部隊を蹴散らしております!」
賢者「何!?」
密偵「賢者殿、魔導士殿は?」
密偵「魔導士殿は、一体どちらに?」
勇者「……」ピクピクッ
賢者「ああ、あそこだ」
賢者「今ちょっと、新人教育中だ」
賢者「代わりに、私が伝えとく」
賢者「密偵は、大賢者様の元に戻られよ」
密偵「はっ!」ビシッ
シュシュシュシュシュシュッ、シュシュシュシュシュシュッ……
グサグサグサッ、グサグサグサッ……
ドサドサッ、ドサドサッ……
シュシュシュシュシュシュッ、シュシュシュシュシュシュッ……
グサグサグサッ、グサグサグサッ……
ドサドサッ、ドサドサッ……
盗賊「……」
武闘家「……」
弓兵「おい、大丈夫か?」
弓兵「皆、無事か?」
盗賊「ああ、大丈夫だ!」
弓兵「すまん。矢がもうない!」
弓兵「新たな矢が届くまで、持ちこたえてくれ!」
盗賊「了解した!」
武闘家「……」
ズバズバズバズバズバズバズバズバッ……
ズバズバズバズバズバズバズバズバッ……
ドサドサドサドサドサドサドサドサッ……
ドサドサドサドサドサドサドサドサッ……
戦士「……」シュタッ
剣士「お~~っ」
ボウンボウンボウン……
ボウンボウンボウン……
ドサドサドサドサドサドサドサドサッ……
ドサドサドサドサドサドサドサドサッ……
魔法使い「……」スチャ
魔導士「……良い感じだ」
剣士「魔導士、どんな感じだ?」
剣士「こっち、もう基本覚えちまったぞ」
戦士「……」ドキドキッ
魔導士「ああ、ウチもだ!」
魔導士「こいつ、呑み込み早い!」
魔法使い「……」ドキドキッ
剣士「ああ、そうか。そっちもか」
剣士「こりゃあ、戦が終わったらみっちり修行だな」
剣士「久し振りに、良い弟子に出会えた!」
剣士「お前ら、合格だ!」
戦士「よっしゃああああああああ――――――――っ!」ピカァ
魔法使い「ありがとうございます!」ピカァ
僧侶「……」
魔導士「よしっ、一旦集合!」
魔導士「密偵が、何か伝えに来た!」
魔導士「少し休憩だ!」
剣士「おう!」
勇者「……」ピクピクッ
~王都・城内の天守最上階~
国王「そうか、もう市内に入ったのか……」
国王「予想以上の速さだな……」
王妃「……」
国王「して、大魔導師達はどうだ?」
国王「もう、出撃をしてるのか?」
大臣「……」
密偵2「はっ、もう既に出撃をされております!」
密偵2「それも、目にも止まらぬ早さで敵兵を一掃!」
密偵2「今現在、お二方は10000の兵を出し、すぐさまカーネルの部隊を攻撃!」
密偵2「付近にいた多数のアンデットの群れも撃破!」
密偵2「市内に入り込んだ敵兵達は、勇者一行が次々と撃破しております!」
国王「……」
大臣「ほぅ、それはまた良き知らせだ」
大臣「ようやく、大魔導師達も目を醒ましたか」
大臣「密偵2、カーネルの現在地は?」
大臣「カーネルは、まだ見つかっていないのか?」
国王「……」
密偵2「はっ、まだ発見は出来ておりません!」
密偵2「それと、新たな敵増援が付近の港に上陸!」
密偵2「大魔導師様は、酷くお怒りのご様子でした!」
密偵2「それについては、大賢者様も全く同じの様です!」
王妃「……」
大臣「ともかく、早くカーネルを発見するのだ!」
大臣「早く見つけて、カーネルを斬らなければならん!」
大臣「密偵2、お前は至急他の密偵達と共に全隊に通達!」
大臣「カーネルを、すぐさま捜索せよ!」
大臣「カーネルを発見次第、すぐさま斬り殺せとな!」
密偵2「はっ!」
国王「……」
大臣「陛下。お聞きになっておりました?」
大臣「今私は、カーネルの暗殺及び捜索命令を発令致しました!」
王妃「……」
国王「ああ、聞いておる」
国王「外の景色は、かなり悪いな」
国王「今までにない規模の大災害なのだな」
王妃「ええ、そうですね……」
大臣「陛下。今後も、私は大臣として兵の指揮を執らせて頂きます!」
大臣「今の私は、この王都の民達だけでなく、この国全体を守ろうとしているのです!」
国王「……」
大臣「どうか、それについてで誤解のない様にお願い致します!」
大臣「今の私に、野心等ございません!」
大臣「ただ純粋に、この国と民達を守ろうとしているのです!」
国王「うむ。合い分かった」
王妃「……」
大臣「密偵2、行け!」
大臣「早く、全隊に伝えよ!」
密偵2「はっ!」ビシッ
シューーーーッ、シュン……
国王「……」
王妃「……」
大臣「……」
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
ササッ、カシャン……
衛兵隊長「報告!」
衛兵隊長「カーネルの部隊、援軍到着!」
衛兵隊長「援軍の数は、およそ3000!」
衛兵隊長「王都付近の港を制圧をし、王都に向けて進軍!」
衛兵隊長「大賢者様の部隊が、同港に向かいました!」
衛兵隊長「城門前に多数出現したアンデットの群れについては、大魔導師様達のご活躍により急激にその数を減らしております!」
大臣「うむ。了解した」
大臣「他に、報告はあるか?」
大臣「カーネルの現在地は、何か掴めたか?」
王妃「……」
衛兵隊長「いえ、まだ掴めてはおりません!」
衛兵隊長「陣を引き払い、1000名規模の兵が大魔導師様の部隊と交戦している以外は、何も掴めてはおりません!」
国王「……」
大臣「なら、カーネルはどこにいったのだ?」
大臣「まさか、もう洗浄を離脱しているのか?」
王妃「……」
衛兵隊長「いえ、それはありません!」
衛兵隊長「最後に目撃された地点が、城門の付近!」
衛兵隊長「それに気づいた大賢者様がカーネルの後を追われましたが、すぐに引き離された様です!」
大臣「ふむ。そうか……」
シュン、シュタッ……
「陛下。ご報告したい事がございます」
「少し、お時間を頂けますでしょうか?」
大臣「!?」ビクッ
国王「なっ!?」ハッ、クルッ
王妃「ジュリエット!?」ハッ、クルッ……
衛兵隊長「!?」ハッ、スチャ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ササッ、カシャン……
魔女「……」
国王「……」ビクビクッ
大臣「……」ビクビクッ
王妃「……」
衛兵隊長「……」スチャ、タァラン
王妃「隊長、お止めなさい!」
衛兵隊長「はっ!」スチャ、カシャン
王妃「面を上げなさい。ジュリエット」
王妃「これは、一体どう言う事ですか?」
魔女「……」
王妃「今の私、貴女には失望を致しました!」
王妃「今の貴女は、もう少し理性的な人だと思っていましたが」
魔女「……」
王妃「今から、貴女に弁解の時間を与えます!」
王妃「今回の事に至った経緯を、今すぐ説明しなさい!」
魔女「はっ、仰せのままに!」
国王「……」ビクビクッ
大臣「……」ビクビクッ
衛兵隊長「……」ポカーーン
スッ、ゴソゴソッ……
ササッ、ササッ……
王妃「……?」
王妃「ジュリエット。この紙は何ですか?」
王妃「何で今の私に、紙とペンを渡すのですか?」
国王「!?」ビクビクッ
王妃「しかも、これは契約の結ぶ時に使う紙じゃないですか?」
王妃「一体、これをどうしろと言うのです?」
大臣「……」ビクビクッ
魔女「はっ、恐れながら申し上げます!」
魔女「今回の戦のそもそもの原因は、ハーフエルフとの間に結ばれている地位協定に関する事柄!」
魔女「私は、幾度もなくハーフエルフの地位待遇の改善を訴えて参りました!」
魔女「ですが、こちらにいらっしゃる国王陛下には一度も取り合っては貰えず、常に大臣様に命じて門前払い!」
魔女「私は、これ以上のない屈辱を受け続けました!」
魔女「これまで、理性的な対応をして参りましたが、もうこれ以上は限界なのです!」
衛兵隊長「……」
王妃「それで、今の私にどうしろと?」
王妃「今の私が、陛下の代わりに、この紙に書かれた事を受け入れろと言うのですか?」
魔女「はっ、正にその通りでございます!」
魔女「今の私は、ハーフエルフの長として、xxxxx王国との間に新たな契約を結びたいのです!」
国王「!?」ガーーン
魔女「ですから、差し出がましい様ですが、国王陛下に代わって王妃殿下がご調印下さい!」
魔女「これまで、私達ハーフエルフは幾度もなく迫害を受けて参りました!」
魔女「王妃殿下は、我々ハーフエルフの惨状をご存じでしょうか?」
魔女「男の場合、ろくに水も食事も休息もなく過酷な肉体労働!」
魔女「女は、毎日の様に娼婦として扱われ、無数の男達に集団でレ〇プされ続ける毎日!」
魔女「私は、今まで数多くのハーフエルフ達の惨状を目の当たりにしてきました!」
魔女「実際に、今の私も娼婦として毎日の様に、集団でレ〇プされ続けているのです!」
王妃「!?」ガーーン
魔女「ですから、どうか我々ハーフエルフをお救い下さい!」
魔女「これ以上、我々ハーフエルフを迫害されるのであれば、我々は何度でも反乱を起こします!」
魔女「王妃殿下、どうかこの私のお願いをお聞き届け下さい!」
魔女「我々ハーフエルフを救えるのは、王妃殿下だけなのです!」
魔女「……」
国王「……」ビクビクッ
大臣「……」ビクビクッ
王妃「……」ウルウルッ
衛兵隊長「……」
魔女「……それで、ご返事の程は?」
魔女「王妃殿下は、この私のお願いをお聞き届けて頂けるのですか?」
王妃「……」ウルウルッ
魔女「……」
王妃「……」フキフキ
スッ、ササッ……
ササッ、ササッ……
王妃「……」スッ
魔女「!?」ピカァ
衛兵隊長「殿下!?」ガーーン
王妃「ハーフエルフの長、ジュリエット!」
王妃「本日より、ハーフエルフとの間に交わされた契約を更新します!」
王妃「その代わり、早く貴女は兵を退きなさい!」
王妃「今の貴女には、今回の戦に関する責任を取って貰います!」
国王「……」ビクビクッ
魔女「はっ、仰せのままに!」ビシッ
魔女「王妃殿下、私の差し出がましいお願いをお聞き届けて頂き、誠にありがとうございます!」ウルウルッ
魔女「これで、数多くのハーフエルフ達が救われます!」ポロポロッ
魔女「もう二度と、皆がこの世の生き地獄の様な生活をせずに済む事になります!」ペコッ、ポロポロッ
スッ、ササッ……
王妃「ジュリエット。本当に、今までごめんなさいね……」
王妃「同じ女として、民を率いる者として、今の貴女に謝罪させて頂く……」
王妃「もうこれからは、xxxxx王国では、ハーフエルフは迫害されない!……」
王妃「貴女が、長年体験してきた様な事は、もう二度と起きない!」
王妃「だから、今の貴女はもう安心してほしい!……」ウルウルッ
魔女「はっ、勿体ないお言葉……」
魔女「これで、今の私も思い残す事なく、母の元に参れます……」
魔女「王妃殿下。私は、もうこれで……」
魔女「下で、勇者一行を待たせています……」
魔女「もし仮に、またお会いする時があれば、今の私は勇者によって討ち取られ、市内で晒し者にされている事でしょう……」
魔女「それでは、私は失礼致します……」
魔女「王妃殿下も、どうかお元気で……」ポロポロッ、ペコッ
王妃「ううっ、下がりなさい……」ウルウルッ
魔女「ははっ!」ポロポロッ、スッ
シューーーーッ、シュン……
国王「……」ビクビクッ
大臣「……」ビクビクッ
王妃「……」ウルウルッ
衛兵隊長「……」
王妃「……ジュリエット」ポロポロッ
~王都・酒場前~
勇者「ううん……ううん……」
勇者「もう、無理かも……」ムニャムニャ
僧侶「……」
勇者「僧侶、もう中に出させるのは、止めて……」
勇者「さすがに、腰が痛くなってきた」ムニャムニャ
賢者「……」
勇者「ああ、兄さん……」
勇者「何で、兄さんがここに……」
勇者「もう安心して、兄さんが残した借金は、全て返済したから……」
勇者「俺も、今からそっちに行くから」ムニャムニャ
僧侶「……」
ブチッ、ドスン!
勇者「――――――――っ!?」ハッ
賢者「ああ……」
ドスン、ドスン!
勇者「げぼらっ!?」
僧侶「……」ゴゴゴゴッ
ドスン、ドスン!
勇者「ぐわわっ!?」
僧侶「……」ゴゴゴゴッ
賢者「oh……」ガクッ
勇者「……」ピクピクッ
シュン、シュタッ……
魔女「……」
賢者「!?」ハッ
魔導士「ジュリエット!?」ビクッ
剣士「敵襲、敵襲!」ハッ
スチャ、タァラン……
カチャ、カチャ、カチャ、カチャ……
魔導士「ジュリエット。何しに来た!?」
魔導士「まさか、今の勇者に止めを刺しに来たのか!?」
僧侶「!?」ガーーン
魔導士「残念だが、それは無理だぞ!」
魔導士「今の俺達には、今の貴様は絶対に勝てない!」
魔導士「今ここにいるのは、皆歴戦の勇士達だ!」
勇者「……」ハッ
魔女「う~~ん。違うけど」
魔女「今の私、師匠達の事を探してるんだけど」
魔導士「何!?」ギリッ
魔女「あれ? ここにいないんだ?」
魔女「もしかして、まだ城門の方なのかしら?」
賢者「……」ギリギリッ
シュン、シュタッ……
シュタッ、シュタッ……
大魔導師「ジュリエット。呼んだか?」
大魔導師「今のお主は、自身の目的を果たせた様じゃな!」
大賢者「……」
大魔導師「ジュリエット。もう投降せよ!」
大魔導師「今なら、お主の命だけは助けてやる!」
大魔導師「さぁ、今すぐ兵を退くのだ!」
大賢者「……」
魔女「ああ、師匠良い所に」
魔女「これ、師匠が預かって頂けませんでしょうか?」スッ
魔女「これから、私は兵を退きます!」
魔女「もう自身の目的を果たす事が出来ましたから、後はもう死ぬだけなんです!」ニッコリ
大魔導師「!?」ガーーン
大賢者「何!?」ガーーン
魔女「……」ニコニコ
周囲「……」ポカーーン
大魔導師「……ジュリエット。正気か?」
大魔導師「今のお主は、本気で言っておるのか?」
魔女「はい!」ニコニコ
大魔導師「今の儂は、お主の事を殺したくない!」
大魔導師「また、今のお主が死ぬ姿など見たくもない!」ウルウルッ
大賢者「……」ウルウルッ
周囲「……」ポカーーン
魔女「いや、それ無理ですから!」
魔女「今の私、糞国王に弓引いた謀反人ですから!」ニコニコ
大魔導師「……」ウルウルッ
魔女「ですから、今から師匠達は、この私が勇者に討ち取られる姿を見ていて下さい!」
魔女「今の私、ただの極悪人ですし!」
魔女「今、私がこの場で死ねば、王都にいる民達の事を救えるのですからね!」ニコニコ
大賢者「……」ウルウルッ
周囲「……」ポカーーン
勇者「あ、あの、ちょっと良いか?……」
勇者「あんた、そこの爺さん達と知り合いなのか?……」
勇者「つうか、よくあんな強面な爺さん達の事を泣かせれるよな……」
僧侶「……」
勇者「一体、あんた何者だ?……」
勇者「何で、ハーフエルフの癖に、そんな強大な力を持ってるんだ?……」
僧侶「……」
魔女「ただ単に、こちらにいるお爺さん達の愛弟子だったから」
魔女「私が、あそこまで強くなれたのは、師匠達のおかげだから!」ニコニコ
勇者「!?」ガーーン
魔女「じゃなきゃ、今回みたいな事が出来る訳ないでしょ」
魔女「今の私、師匠達によく調教されていたもの」ニコニコ
周囲「え――――――――っ!?」ガーーン
魔女「……」ニコニコ
老人達「……」ポロポロッ
勇者「大賢者様、どう言う事ですか!?」
勇者「カーネルは、貴方達二人の愛弟子だったんですか!?」
ザワザワッ、ザワザワッ……
魔女「うん。そうだけど」
魔女「よく、夜の相手とかもしていたけど」ニコニコ
周囲「え――――――――っ!?」ガーーン
老人達「……」ポロポロッ
ザワザワッ、ザワザワッ……
魔女「だから、私は今回みたいな事が出来た」
魔女「師匠の股間についてるアレ、とても大きかった……//」ニコニコ
老人達「……」ポロポロッ
ザワザワッ、ザワザワッ……
魔女「まぁ、そう言う事だから、師匠達の事を責めないで」
魔女「ただ単に、師匠達は私の体が目的だったから」
魔女「私はよく、師匠達の夜の相手のついでに、魔術とかを教えて貰っていただけだから」ニコニコ
魔女「とりあえず、師匠」
魔女「これ、預かってて下さい!」
魔女「本日から、この国全体でハーフエルフの地位待遇等が改められました!」
魔女「今の私は、ようやく悲願を達成させる事が出来ましたから!」スッ
老人達「……」ポロポロッ、スッ
魔女「後、最後に今の私の事を抱いときますか?」
魔女「今の私、死ぬ前に師匠達の相手をしてもよろしいですよ!」
魔女「だって、もう時期、私は勇者に討ち取られるんですし!」
魔女「師匠達が望むのなら、師匠達の手で殺されても構いませんからね!」ニコニコ
老人達「……」ポロポロッ、ガクッ
周囲「……」ポカーーン
ザワザワッ、ザワザワッ……
スッ、スタスタスタッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ピタッ、ムギュッ……
しばらくして――
魔導士「なぁ、親父はまだ帰って来ないのか?……」
魔導士「一体、いつまでヤってんだか……」ハァ……
賢者「……」ウルウルッ
魔導士「それで、勇者はどうする?……」
魔導士「カーネルと、この後戦うのか?……」
魔導士「あんなイカ臭いカーネルと、今のお前は戦いたいのか?……」
賢者「……」ウルウルッ
勇者「いや、戦いたくないです……」
勇者「カーネルの体には興味はありますが、あんな事をした後すぐの相手と戦いたくないです……」
僧侶「……」
魔導士「ああ、俺もだ……」
魔導士「でも、あいつ顔と体だけは良いんだよな……」
賢者「……」ウルウルッ
勇者「……」
大魔導師「剣士、お前はどう思う?」
大魔導師「カーネルの体に、興味あるか?」
大魔導師「今のお前、連続レ〇プ魔扱いされたままだったな」
大魔導師「そんなお前は、カーネルの顔と体はどう見える?」
賢者「……」ウルウルッ
剣士「いや、どうも思わん……」
剣士「あいつ、また誰かに手柄やるつもりだ……」
剣士「けど、あいつから手柄貰うのは止めといた方が良いぞ……」
剣士「俺の人生、本当に最初だけは良かった……」
剣士「後の残りは、今みたいな転落人生真っ只中だからな……」
賢者「……」ウルウルッ
魔導士「ああ、そうだな……」
魔導士「ウチの親父も、あんなんになっちまったからな……」
魔導士「そのおかげで、俺は家を出たんだ……」
魔導士「何故か、生まれ故郷からも村八分にされちまった……」
魔導士「とりあえず、勇者はご指名みたいだから、カーネルと戦え」
魔導士「あまり、勇者はしたくないと思うが、我慢してやれ」
勇者「……」ウルウルッ
僧侶「勇者様……」ギュッ
魔導士「勇者、ここが正念場だ」
魔導士「今こそ、兄の影に隠れた人生に光を当てるべきだ」
勇者「……」ウルウルッ
魔導士「お前の兄は、本当に良い男だった」
魔導士「よく旅先で、武闘家の尻を突いてたもんだ」
勇者「!?」ガーーン
魔導士「実際、奴は王都の娼館に通い詰めて仲間を集めていた」
魔導士「今のお前も、戦士と魔法使いについては、全く同じ集め方をしていた」
僧侶「は!?」ブチッ
勇者「……」ウルウルッ
武闘家「……」コクン
魔導士「だから、勇者は俺の親父が帰ってきたら、すぐに戦え」
魔導士「今のカーネルを倒せるのは、お前一人だ」
魔導士「今のお前は、神に選ばれし勇者なのだからな」
勇者「……」ウルウルッ
僧侶「……」ゴゴゴゴッ
武闘家「ウホッ……」
盗賊「はぁ……」
魔導士「……」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ピタッ、ストン……
魔法使い「先輩、後もう少し掛かります……」
魔法使い「師匠が、かなり絶倫過ぎて、カーネルが汁まみれです」ウルウルッ
戦士「……」ウルウルッ
魔導士「はぁ……」ガクッ
勇者「……」ウルウルッ
~とある田舎町・風呂屋~
その頃――
魔女「……」アクメ
大魔導師「……」
大賢者「……」
魔女「……」アクメ
大魔導師「……」
大賢者「……」
ツンツン、ツンツン……
魔女「……」アクメ
大魔導師「……」フリフリ
大賢者「……」ガクッ
魔女「……」アクメ
ザバァ、ザバァ……
ザバァ、ザバァ……
ガチャ、ガラガラッ……
店長「お客さん。終わりましたか?」
店長「もう、店を閉めたいんですけど」
魔女「……」アクメ
店長「ああ、こりゃあ酷いわ……」
店長「いくら、何でもこりゃあやり過ぎでしょう……」
魔女「……」アクメ
大賢者「大魔導師、どうする?……」
大賢者「とうとう、やってしまったが……」
大賢者「もしや、この子はもう死んでるんじゃないのか?……」
店長「!?」ガーーン
大魔導師「ああ、そうじゃな……」
大魔導師「とうとう、死んでしまったか……」
大魔導師「いずれ、こうなると思っていたが……」
大魔導師「案外、儂もまだまだ出来る様じゃな……」
店長「ちょっと、お客さん!?」
店長「この人、よく見たらカーネルじゃないですか!?」
店長「カーネル相手にこんな事して、大丈夫なんですか!?」アセアセッ
魔女「……」アクメ
大魔導師「ああ、大丈夫じゃ!」
大魔導師「今の儂らは、あの糞国王からの命令でこんな事をしたんじゃ!」
魔女「……」アクメ
大賢者「ああ、そうだな!」
大賢者「全ては、あの糞国王が悪い!」
大賢者「じゃないと、今の儂らは決してこんな事をしとらん!」
大賢者「これは、あの糞国王が引き起こした悲劇なのだ!」
魔女「……」アクメ
店長「いや、でもまずいでしょ!?」
店長「相手は、あのカーネルですよ!?」アセアセッ
魔女「……」アクメ
大賢者「ああ、心配はいらない!」
大賢者「全て、今の我らに任せておけ!」
大賢者「それと、今ここで見聞きした事については内密に!」
大賢者「じゃないと、カーネルの部下がそなたの事を襲うぞ!」
大賢者「下手したら、この店自体がすぐさま潰されるぞ!」
魔女「……」アクメ
店長「え? あ、はい……」
店長「全て、貴殿方にお任せ致します……」
店長「つうか、あんたら何なんだ?……」
店長「本当に、あの糞国王の臣下なのか?……」
大賢者「ああ、そうだ!」
魔女「……」アクメ
店長「……」
ガラガラッ、バタン……
ザバァ、ザバァ……
シュン、シュタッ……
魔導士「親父、まだ掛かんのか?」
魔導士「一体、いつまで掛かるんだ?」
魔女「……」アクメ
魔導士「のわっ!?」
魔導士「ジュリエット、無事か!?」
魔導士「まさか、もう死んでんじゃねぇだろうな!?」アセアセッ
魔女「……」アクメ
大賢者「ああ、死んどる!」
大賢者「つい先程、息を引き取った!」
大賢者「実際に、この娘に手を下したのは、お主の父親だ!」
魔女「……」アクメ
魔導士「……親父、どう言う事だ?」
魔導士「何で、親父がジュリエットに手を掛けてるんだ?……」
魔女「……」アクメ
大賢者「それが、あの子の望みだった!」
大賢者「せめて、自身が本気で愛した男によって殺されるのが、あのこの望みだったからだ!」
魔女「……」アクメ
魔導士「だったら、もう少しまともな死に方があるだろ!?」
魔導士「普通、こんな死に方、誰も喜ばないだろ!?」ギリッ
魔女「……」アクメ
大魔導師「黙れ、愚息が!」
大魔導師「今の貴様に、一体何が分かる!」
大魔導師「今更、この子の事で口を出すな!」
大魔導師「この子が、どれだけ過酷な運命を歩んできたか、今の貴様に分かるのか!」ギリッ
魔女「……」アクメ
魔導士「ああ? そんなの知るか!」
魔導士「どうせ死なすなら、もっとまともな死に方とか他にあっただろ!?」
魔導士「今のあんた、本当に最低だな!」
魔導士「そんなんだから、いい歳をして性病に掛かるんだよ!」ギリギリッ
大魔導師「ああ? 何で貴様がそれを知ってるんだ!?」
大魔導師「一体、誰からそれを聞いたのだ!?」ギリギリッ
魔女「……」アクメ
大魔導師「それに、今の儂はこの子を本気で愛していた!」
大魔導師「思わず、一日に何度もしたくなる程、愛していたのじゃ!」ギリギリッ
魔女「……」アクメ
大魔導師「それに、今の貴様に何が分かる!?」
大魔導師「この子を、今の貴様は救ってやれたのか!?」
大魔導師「今の貴様に、一体何が出来たと言うのだ!?」ギリギリッ
魔女「……」アクメ
魔導士「親父、もうあんたも終わりだ!」
魔導士「俺は、もうあんたとの親子の縁を切る!」
魔導士「今まで、ずっと我慢してきた!」
魔導士「あんたが良いのは、魔導士としてだけだ!」ギリギリッ
魔女「……」ハッ
大魔導師「ああ? 魔導士だけだと!?」
大魔導師「貴様、今まで一体何を見とった!?」ギリギリッ
魔女「……」
大魔導師「今まで、儂はずっと苦手な子育てを頑張ってきた!」
大魔導師「特に、実の娘にだけは完璧に出来とった!」ギリギリッ
魔導士「……」ギリギリッ
大魔導師「はっきり言うて、儂は男なんていらんかった!」
大魔導師「儂が欲しいのは、女だけじゃった!」
賢者「……」
大魔導師「とにかく、さっさと貴様は王都に戻れ!」
大魔導師「今の儂は、この子の遺体を埋葬しなければならん!」
大魔導師「今まで、この子には散々辛い思いをさせてきた!」
大魔導師「だから、儂自身のこの手で、ジュリエットを殺害したんじゃ!」ギリギリッ
魔女「……」
賢者「……」ハッ
魔女「あの、師匠……」
魔女「私、まだ死んでませんけど……」
魔女「さすがに、こんな死に方物凄く嫌なんですけど……」
大魔導師「!?」ハッ
魔導士「ジュリエット!?」ハッ
大賢者「……」
魔女「とりあえず、水とか貰えませんか?」
魔女「今の私、喉が乾いてるんで」
魔女「今すぐ、自分の体を綺麗にしたい」
魔女「ウチの母が、こんな不名誉な死に方今すぐ止めてこいって、いわれちゃったんですよ」
大魔導師「……」
魔導士「……」
大賢者「ジュリエット。少し、待っていなさい」
大賢者「私が、すぐに水を汲んでくる」
魔女「はい。かしこまりました」
更にしばらくして――
ザバァ、ザバァ、ザバァ……
ザバァ、ザバァ、ザバァ……
シュン、シュタッ……
賢者「魔導士。大賢者達の様子は?」
賢者「まだ、終わらないのか?」
賢者「!?」ビクッ
魔女「あっ、賢者殿」クルッ
賢者「……//」カアァ
賢者「……//」ブハッ
賢者「……//」スッ、シュシュッ
賢者「……//」フーーッ
魔女「……?」フキフキ
魔導士「賢者。お前、女抱いた事ないな?」
魔導士「つうか、鼻血出し過ぎだ」
賢者「魔導士。これは、一体どう言う事だ!?」
賢者「何で、今のお前はそんな平然としてられんだ!?」アセアセッ
魔女「……」フキフキ
魔導士「え? おかしいのか?」
魔導士「だってここ、風呂屋なんだぞ」
魔女「……」フキフキ
賢者「だからって、何で お前が平然とここにいるんだ!?」
賢者「つうか、そのワインとつまみは何なんだ!?」アセアセッ
魔女「……」シュッ、パタン
魔導士「ああ、これか?」
魔導士「これは、ここで売ってるワインとつまみだが?」
魔導士「実際、風呂屋と言うのはこんなものだ」
魔導士「よく、ここで密会とか愛の営みとか、よく頻繁に利用されているぞ」
賢者「――――――――っ!?」ガーーン
魔女「……」スッ、スパッ、クルッ
魔女「ああ、なんかごめんなさいね。賢者殿」
魔女「少し、師匠の相手するのに時間が掛かっちゃった」
魔女「もう着替えたから、すぐにでも向こうに帰りましょうか?」ニッコリ
賢者「……//」ガクッ
魔導士「うん。そうだな」
賢者「……//」ブハッ
魔女「もしかして、賢者殿は童貞だとか?」
魔女「やっぱり、王都にある大学に通われていたから、あまり女の子の体なんて見る機会なんてないみたいね」ニコニコ
賢者「……//」クラクラッ
魔女「まぁ、文句あるのなら師匠達に行って下さいね」
魔女「今の私、ただの被害者なんですし」
魔女「そろそろ、向こうに帰りましょうか?」
魔女「勇者達の事を、ずっと待たせたままでしたから」ニコニコ
魔導士「ああ、そうだな」
賢者「……//」ユラユラッ
~王都・酒場前~
シュン、シュタッ……
シュタッ、シュタッ、シュタッ、シュタッ……
剣士「おっ!」
戦士「……」ブンブン
盗賊「……」ゴクゴクッ
武闘家「……」ポリポリッ
魔女「ああ、なんかごめんなさいね」
魔女「早速、始めちゃいましょうか?」ニッコリ
勇者「……」ムクッ
僧侶「勇者様……」
剣士「なぁ、魔導士」
剣士「お前の親父さん、顔変形してるな」
剣士「つうか、一体向こうで何があったんだ?」
魔導士「……」
賢者「ああ、剣士……」
賢者「今の魔導士に、何も言うな……」
賢者「今の魔導士には、そっとしといてやれ……」
魔導士「……」
剣士「うん。そうか」
剣士「なら、さっさと始めてくれ」
剣士「この辺一帯、王都衛兵隊が封鎖してる」
剣士「だから、さっさと始めてはくれんか?」
魔女「ええ、了解したわ」ニコニコ
勇者「……」スチャ、タァラン
魔女「……」ハッ
勇者「……」ギリッ
魔女「……」スチャ
剣士「ちなみに、審判は大賢者様に任せる」
剣士「大賢者様、早く号令を」
大賢者「うむ。了解した」
大賢者「二人とも、少し距離を取られよ」
ササッ、ササッ……
大賢者「よし、それくらいだ」
大賢者「後は、横にずれてくれ」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
勇者「……」
魔女「……」
スチャ、スチャ……
大賢者「では、両者とも準備は良いな?」
大賢者「よしっ、始め!」
勇者「……」ダッ
魔女「……」スチャ
ブゥン、ブゥン、ブゥン、ブゥン、ブゥン、ブゥン……
勇者「のわっ!?」ササッ
ブゥン、ブゥン、ブゥン、ブゥン、ブゥン、ブゥン……
ドカドカドカッ、ドカドカドカッ……
勇者「くっ……!?」
ブゥン、ブゥン、ブゥン、ブゥン、ブゥン、ブゥン……
ドカドカドカッ、ドカドカドカッ……
勇者「げぼはっ!?」
ブゥン、ブゥン、ブゥン、ブゥン、ブゥン、ブゥン……
ドカドカドカッ、ドカドカドカッ……
勇者「ぐああああああああ――――――――っ!?」
ドサッ、カシャン……
魔女「……」
僧侶「ゆ、勇者様!?」ガーーン
戦士「……」ポカーーン
魔法使い「つ、強ええええっ……」ポカーーン
大魔導師「……」ニヤニヤニヤッ
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ピタッ、ササッ……
勇者「……」ピクピクッ
勇者「……」ピクピクッ
僧侶「勇者様、しっかり!?」
僧侶「勇者様、勇者様!?」
勇者「……」ピクピクッ
勇者「……」ピクピクッ
大賢者「勝負あり!」
大賢者「勝者、カーネル・ジュリエット!」
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
魔女「……」スチャ
魔女「……」ペコッ
大魔導師「……」ニヤニヤニヤッ
剣士「カーネル。今度は、俺と勝負しろ!」
剣士「この俺が、再び今の貴様を斬り殺してやる!」
魔女「……」
剣士「ん? どうした?」
剣士「今更、怖じ気づいたのか?」
剣士「この俺に、また斬り殺されるのがそんなに嫌なのか?」スチャ、タァラン
魔女「……」
魔導士「剣士、やる気か?」
魔導士「今さっきまで、ジュリエットとしたくないとかほざいてなかったのか?」
賢者「……」
剣士「ああ、気が変わった!」
剣士「今のこいつ、この俺が今すぐ斬り殺したい!」
魔女「……」ニコッ
剣士「大賢者様、良いよな?」
剣士「今の俺、戦っても良いんだよな?」
大賢者「ああ、構わんが」
大賢者「今の君の好きにするが良い」
剣士「よしっ!」ニヤッ
大賢者「ただ、今の君がジュリエットを斬ったとしても、大した功績にもならん」
大賢者「それでも構わないのなら、今すぐ始めたまえ」
剣士「おう!」ダッ
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
スチャ、ブン、キーーーーン!
魔女「……」ギリギリッ
剣士「……」ギリギリッ
パ----ン、シュタッ……
ダッ、ブンブンブン、ブンブンブン……
ブンブンブン、ブンブンブン……
魔女「はっ!」ボワッ
剣士「!?」ササッ
魔女「……」スチャ
ブゥン、ブゥン、ブゥン、ブゥン、ブゥン、ブゥン……
剣士「!?」ササッ、ササッ
ブゥン、ブゥン、ブゥン、ブゥン、ブゥン、ブゥン……
剣士「くっ」ササッ、ササッ
シュタッ、シュタッ、ダッ……
キーーーーン!
魔女「……」ギリギリッ
剣士「……」ギリギリッ
パ----ン、シュタッ、シュタッ……
ブゥン、ブゥン、ブゥン、ブゥン、ブゥン、ブゥン……
ドカドカドカッ、ドカドカドカッ……
剣士「ぐわっ!?」
ドサッ、カシャン……
魔女「……」
剣士「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
剣士「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
魔女「……」
剣士「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
剣士「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
魔女「……」
剣士「お前、前より強くなったな……」
剣士「いや、それがお前の本当の実力だったのか?」
魔女「……」
剣士「なぁ、ジュリエット……」
剣士「何であの時、勝ちを譲った?……」
剣士「今のお前の実力なら、別に死ぬ必要なんかないんじゃないのか?……」
魔女「……」
剣士「まさか、またハーフエルフだけと言う理由なのか?……」
剣士「今のお前、一体何の為に生きている?……」
魔女「ええ、そんな所よ」
魔女「今の私が、ハーフエルフだから死ななきゃいけないのよ」ニッコリ
剣士「!?」ガーーン
魔女「実際、私はずっと一人だった」
魔女「ほぼ毎日の様に刺客達に襲われ、行く先々で何度も何度も迫害された」
剣士「!?」ガーーン
魔女「だから、今の私は死ななきゃいけないのよ」
魔女「こんなに強いハーフエルフがいたら、皆が恐怖を抱いちゃうもの」ニコニコ
剣士「……」
魔女「あの時、あんたに勝ちを譲ったのもその為だけよ」
魔女「あんたは、それで念願の騎士になれた」
魔女「あの時、私を斬り殺す事によって、あの時のあんたは騎士になれたんたんだし」
魔女「さぞ、今まで良い思いをしてきたんでしょうね」ニコニコ
剣士「……」
ムクッ、スチャ……
魔導士「剣士、それ以上は止めろ!」
魔導士「今のジュリエット、本気みたいだぞ!」アセアセッ
魔女「……」
賢者「剣士。それ以上は止めとけ!」
賢者「カーネルは、今のお前に止めを刺す!」
賢者「そしたら、今のお前はずっと汚名を着せられたままなんだぞ!」
剣士「うるさい!」
賢者「……」
魔女「へぇ、まだやれるんだ?」
魔女「また、あんなに勝ちを譲ってあげようか?」ニコニコ
剣士「何!?」ギリッ
魔女「そしたら、今のあんたは汚名を返上出来るんだし」
魔女「別に今の私は、それでも構わないけどね」ニコニコ
剣士「くっ……」
大魔導師「……」ニヤニヤニヤッ
大賢者「ジュリエット。もうその辺にしてやれ」
大賢者「彼との勝負は、もう着いた」
大賢者「今のそなたは、本当に死ぬつもりみたいだな」
魔女「……」
大賢者「まぁ、それがそなたの望みならば、もう私は止めはせん」
大賢者「今のそなたは、実際に一度死んだ」
大賢者「もうこれ以上自身の命を無駄にするな」
魔女「……」
大賢者「一旦、この勝負は後日に持ち越しとしよう」
大賢者「今は、もう夜になり始めている」
大賢者「だから、もう皆は宿に戻れ」
大賢者「それと、大魔導師とジュリエットは、私に着いてきてくれぬか?」
魔女「はっ、仰せのままに!」
大魔導師「了解した」
剣士「ちっ……」スチャ、カシャン
~王都・大賢者の自室~
その日の夜――
ガチャ、ギギィーーーーッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
バタン……
大賢者「座りたまえ」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ストン、ストン、ストン……
魔女「……」
大魔導師「……」
大賢者「……」
スッ、ポンポン……
ポンポン、ポンポン……
大賢者「うむ。良い出来具合だ」
大賢者「我ながら、良く出来てるであろう」
魔女「あの、大賢者様……」
魔女「これは、一体?……」
魔女「まさかとは思いますが、これは最後の晩餐とか言う事でしょうか?」
大賢者「ああ、その通りだ」
魔女「……」
大賢者「ジュリエット。私はさっき言ったぞ」
大賢者「あの風呂屋で、そなたは一度死んだ」
大賢者「この私が、そなたの考えていた事すら知らぬと思っていたのか?」
魔女「……え?」
大賢者「ジュリエット。今のそなたは、いつ入れ替わった?」
大賢者「いつ、実の娘と入れ替わったのだ?」
魔女「!?」
大賢者「そなたの娘は、殺すには惜し過ぎる逸材だった」
大賢者「今ここにいるのは、姿か形が全く同じ母親の方だ!」
大魔導師「……」
大賢者「ジュリエット。もう、そろそろ全てを話されよ」
大賢者「今のそなたは、もう自由なのだ!」
大賢者「今まで、そなたはずっと苦労してきた!」
大賢者「そなたの娘も、ずっと苦労をし続けてきたのだ!」
魔女「……」
大賢者「それに、今のそなたは幻術を掛けておるな?」
大賢者「いつ、どこで、そなたの娘と入れ替わったか知らぬが、そろそろ今の我らに本当の事を話してはくれないか?」
大魔導師「……」
魔女「……了解致しました」
スッ、カシャン……
シューーーーッ、シュン……
魔女「……」
魔女母「……」
大賢者「……」
大魔導師「……」
大賢者「うむ。解いてくれたか」
大賢者「今のそなたに、こうして会うのは初めてだったな」
魔女母「はい」
大賢者「それで、そなたの名前は?」
大賢者「今のそなたは、純粋なエルフなのか?」
魔女「……」
魔女母「お初にお目に掛かります」
魔女母「私、エルフの里に住むジュリエットと申します」
魔女母「実は、私と娘は名前が同じでしてね」
魔女母「娘と同様に、私の事はジュリエットとお呼び下さい」
魔女「……」
大賢者「それで、そこに今一緒にいる娘は、そなたの娘か?」
大賢者「今のその娘には、魂が入っておらん」
大賢者「これも、今のそなたがやった事と言う訳か」
魔女母「ええ、その通りです」
大賢者「では、いくつか改めて質問をさせて貰う」
大賢者「いつ、どこで、娘と入れ替わった?」
大賢者「そなたの娘は、まだ生きているのか?」
魔女「……」
魔女母「いえ。もう既に死んでおります」
魔女母「それが、この子自身の望みだったからです」
魔女「……」
魔女母「後、この私が入れ替わったのは、貴殿方に私の娘がレ〇プされた後の事でした」
魔女母「その際に、あの子自身は“もうこれ以上生きる事を取り止め”、すぐに自身の心臓を停止」
魔女母「その後、魂だけの状態で私の元に参りましてね」
魔女母「また再び、私のお腹の中に戻ってきたと言う訳です」
大賢者「……」
魔女母「……」
大魔導師「……」
魔女「……」
大賢者「うむ。そうであったか……」
大賢者「やはり、あの時には死んでおったのか……」
大魔導師「……」
大賢者「では、何故そなたが入れ替わった?」
大賢者「今のそなたが、入れ替わる必要などあったのか?」
魔女「……」
魔女母「ええ、ございました」
魔女母「私の娘が、あんな不名誉な死に方をしたなんて、絶対に許せませんでしたから」
魔女「……」
魔女母「それに、あの子は自分から無惨な死に方を選んでしまいましてね」
魔女母「この私にすら、その事についてを何も教えてはくれませんでした」
大魔導師「……」
魔女母「やっぱり、今の私は母親失格ですね」
魔女母「自身の愛する娘すらろくに守れないなんて、本当に最低な母親ですよね?」
大賢者「……」
大魔導師「お母君、そう気を落とされるな」
大魔導師「今のお主のお腹に、あの子が入っておる」
大魔導師「次生まれる時は、純粋なエルフ」
大魔導師「だから、気を落とされる事はない」
魔女母「……」
大賢者「うむ。そうだな」
大賢者「今のそなたは、気を落とすな」
魔女母「……」
大賢者「その代わり、そこの死体は我らが預かる」
大賢者「この死体がなければ、民達が納得をしない」
大賢者「いずれ、この死体は晒し者になるだろう」
大賢者「しかも、墓地に埋葬される事なく、火をかけられて」
魔女母「……」
大賢者「だから、何も心配は致すな」
大賢者「我らは、そなた達親子の味方なのだ」
大魔導師「うむ。そうじゃな」
大魔導師「儂らは、お主達の味方じゃ」
大魔導師「そなたの娘には、本当に悪い事をした」
大魔導師「まさか、あの時に死ぬと思わなんだ」
魔女母「……」
大魔導師「だから、今のお主は儂らの事を信用をしてほしい」
大魔導師「大賢者、例の物を」
大魔導師「あの子が、生前に勝ち取ってきた契約の証じゃ」
大魔導師「これを、今のお主に譲り渡すから、どうか儂らの事を信用してくれんかのぅ?」
大賢者「……」スッ
魔女母「!?」ササッ
魔女母「……」プルプルッ
魔女母「……」プルプルッ
魔女母「……」プルプルッ、ウルウルッ
魔女「……」
魔女母「たった、こんな紙切れ一枚の為にですか?……」プルプルッ
魔女母「ウチの娘は、こんな物の為に命を掛けていたのですか?……」ウルウルッ
魔女「……」
大魔導師「ああ、その通りじゃ」
大魔導師「印鑑については、儂らが預かった時に押しておいた」
大賢者「……」
魔女母「しかも、これはハーフエルフの地位待遇を改める為の契約書……」プルプルッ
魔女母「ウチの娘は、本当にバカですね……」プルプルッ
魔女母「こんないつ破られるか分からない紙切れの為に、あそこまでするなんて……」ウルウルッ
魔女「……」
大魔導師「お母君、そう言いなさんな」
大魔導師「そなたの娘は、よくやってくれた」
大魔導師「これを勝ち取ってきただけでも、かなりの大戦果なのじゃ」
魔女母「しかし……」ウルウルッ
大賢者「……」
大魔導師「お母君。今のお主は、何か勘違いをしておるな?」
大魔導師「そなたの娘は、ハーフエルフの長じゃった」
大魔導師「あの子は、ずっと長い間この世の生き地獄と言うものを、嫌程味わってきた」
魔女「……」
大魔導師「だから、あの子はとうとう武力行使に至ったのじゃ」
大魔導師「今まで、何度も何度もあの子は訴えていた」
大魔導師「最初は、エルフの里すら全く耳を貸さなんだ」
大魔導師「それについては、この国とて全く同じ事だったのじゃ」
魔女母「……」
大魔導師「ジュリエット。今のお主は、本当に良くやってくれた」
大魔導師「お主は、儂らにとっては最高の弟子じゃ」
大魔導師「結局、今の儂らに出来たのは、あの子の望み通りに死なせただけ」
大魔導師「それ以外、全く何も出来とらん」
大魔導師「今の儂らは、本当に里親失格なのじゃ」
魔女母「……」ウルウルッ
大賢者「ささっ、母君殿」
大賢者「今宵は、とことん飲み明かしましょう」
大賢者「今のそなたが嫌なら、我らはそれでも構わん」
大賢者「そなたが帰った後、そなたの娘が代わりに席につくだけの事だ」
大賢者「そなたの娘は、我らが丁重に葬ってくれる」
魔女母「……」ウルウルッ
大魔導師「ささっ、母君殿」
大魔導師「今宵は、一体どうなさるおつもりじゃ?」
大魔導師「儂としては、今のお主の事も抱いてみたい」
大魔導師「今のお主が、今宵どうするかは、今のお主の自由にしても構わないのだぞ」
魔女母「……」ウルウルッ、チラッ
魔女「……」
魔女母「……ごめんね」
魔女母「本当に、ごめんね」ウルウルッ
魔女「……」
魔女母「大魔導師様、大賢者様……」
魔女母「失礼ながら、今宵はおいとまさせて頂きます……」
魔女母「今の私、まだやる事があります……」
魔女母「あの子の死体、せめて丁重に葬って下さい……」ウルウルッ
魔女「……」
大賢者「うむ。了解した」
大賢者「気を付けて帰られよ」
大賢者「出来れば、転移魔法を使ってな」
大賢者「そうじゃなきゃ、またいらぬ混乱を招きかねないからな」
魔女母「はい。かしこまりました……」ウルウルッ
スッ、シューーーーッ、シュン
大魔導師「さて、儂ら二人だけで飲み明かすとするか」
大魔導師「今夜は、とことん付き合ってくれ」
大賢者「望む所だ」
魔女「……」
~王都・城内の食堂~
国王「そうか。カーネルが死んだか……」
国王「これで、この国も安泰だな……」
王妃「……」
国王「して、誰に殺された?」
国王「やはり、勇者による手柄なのか?」
王妃「……」
大臣「はっ、恐れながら申し上げます!」
大臣「カーネルを討ち取ったのは、大魔導師と大賢者の二名!」
大臣「今現在、カーネルの遺体は、大魔導師達が大賢者の自宅にて保管!」
大臣「確実に、カーネルは息を引き取った様です!」
国王「ふむ。そうか」
王妃「……」
大臣「陛下。如何なさいますか?」
大臣「大魔導師達を、処分致しますか?」
国王「ああ、そうしてくれ!」
国王「王妃が交わした契約共々、全て葬ってしまえ!」
王妃「!?」ガーーン
国王「あの二人は、余の前で幾度もなく無礼を働いてきた!」
国王「時には、余の事を妬み蔑み、カーネルの擁護をずっとこれまで繰り返していた!」
王妃「……」ギリッ
国王「だから、あの二人は死罪で構わん!」
国王「カーネルの遺体と共に、明日の朝火炙りに致せ!」
王妃「陛下!」ギリッ
国王「ん? 何か問題でもあるのか?」
国王「今の余は、何か間違った事をしているか?」
王妃「……」ギリギリッ
大臣「いいえ、何もしておりません」
大臣「全て、陛下の判断はただしいのでございます!」
王妃「大臣!」ギリギリッ
国王「王妃。少し、黙れ!」
国王「今の余は、大臣と話しておるのだ!」
国王「それに、今のそちは勝手にカーネルとの契約を交わした!」
国王「国王である余を蔑ろにし、ハーフエルフの地位待遇を大きく改善させてしまった!」
大臣「……」
国王「だから、今のそちも死罪じゃ!」
国王「xxx島には、再び兵を送れ!」
国王「今度こそ、ハーフエルフを全て仕留める!」
国王「これは、余からの命令だ!」
大臣「はっ、仰せのままに!」
王妃「……」ギリギリッ
ガチャ、ギギィーーーーッ、ダン……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ササッ、カシャン……
衛兵隊長「……」
大臣「む? どうした?」
大臣「何か、報告をする事でもあるのか?」
国王「……」
大臣「そなた、何を黙っておる」
大臣「一体、どうしたと言うのだ?」
王妃「……?」
衛兵隊長「大臣様。恐れながら申し上げます!」
衛兵隊長「どうか、大魔導師様達の事を処分なさるのは、お止め下さいませ!」
国王「!?」
大臣「どう言うつもりだ!?」
王妃「……」
衛兵隊長「今回の戦において、大魔導師様達は幾度もなくご活躍をなされました!」
衛兵隊長「時には、カーネルを討ち取り、城内に入り込んだ敵兵をすぐさま撃破したり!」
衛兵隊長「それだけの大戦果を上げておきながら、何故処分されるのですか?」
衛兵隊長「それをなされば、民達だけでなく、前線で戦ってきた多数の兵士達が黙っておりません!」
大臣「衛兵隊長。何の真似だ?」
大臣「今のそなたも、処分されたいのか?」
衛兵隊長「……」
大臣「大魔導師達の処分理由は、カーネルを擁護した事!」
大臣「カーネルは、今回の戦の首謀者だ!」
大臣「だから、今回の決定には何も間違ってはいない!」
衛兵隊長「……」
大臣「衛兵隊長、不服か?」
大臣「今のそなたも、カーネルの事を擁護するのか?」
大臣「そんなに、大魔導師達の事を助けたいのか?」
大臣「どうなのだ?」
衛兵隊長「……」
国王「大臣、もういい!」
国王「隊長も一緒に処分しろ!」
国王「衛兵副長!」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ササッ、カシャン
衛兵副長「はっ!」
衛兵隊長「……」
大臣「……」
王妃「……」
国王「副長。明日から、そちが新隊長だ!」
国王「今そこにいる衛兵隊長は、余に逆らった!」
国王「王妃共々、この場で始末致せ!」
王妃「!?」ガーーン
衛兵副長「陛下。宜しいのですか?」
衛兵副長「その様な事を、陛下の前でする訳には」
衛兵隊長「……」
国王「ああ、構わん!」
国王「今宵は、カーネルを討伐をした最初の夜だからだ!」
衛兵副長「はっ、仰せのままに!」
衛兵副長「隊長。申し訳ございません!」
衛兵副長「明日からは、この私が隊を引き継ぎます!」
衛兵副長「ですから、安心して安らかにお眠り下さい!」
衛兵隊長「……了解した」
スチャア、タァラン……
衛兵副長「……」
衛兵隊長「……」
衛兵副長「……」
衛兵隊長「xxxxx王国に、栄光あれ!」
衛兵副長「はっ!」ブン
ザシュ、プシューーーーッ
衛兵隊長「ぐっ!?」
王妃「きゃああああああああ――――――――っ!?」
衛兵副長「……」
ザシュ、ザシュ……
ザシュ、ザシュ……
衛兵隊長「ぐっ、ぐぐっ……」
衛兵隊長「え、衛兵副長……」
衛兵隊長「後は、頼んだ……」
衛兵隊長「……」ガクッ
衛兵副長「はっ!」スチャ、カシャン
衛兵副長「……」ビシッ
王妃「……」ガクガクッ
国王「……」スッ、ゴクゴクッ
大臣「……見事な腕前だ」
衛兵副長「……」
衛兵隊長「……」
国王「副長、王妃にもやれ!」
国王「王妃自体も、この場で殺せ!」
衛兵副長「はっ、仰せのままに!」
衛兵副長「衛兵、王妃様をこちらに!」
衛兵副長「早く、こちらに連れてくるのだ!」
「はっ!」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ササッ、ギギィーーーーッ
クイッ、ガシッ……
王妃「はっ、離して……」ガクガクッ
王妃「離して、離して……」ウルウルッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ズルズルッ、ズルズルッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ズルズルッ、ズルズルッ……
クイッ、ドサッ……
王妃「あっ、ああああっ……」ガクガクッ
王妃「ああああっ、ああああっ……」ウルウルッ
衛兵隊長「……」
衛兵副長「……」
スチャ、グイッ、タン……
王妃「……」ガクガクッ
王妃「……」ウルウルッ
衛兵副長「王妃様。申し訳ありません!」
衛兵副長「これも、この国の為なのです!」
衛兵達「……」
衛兵副長「xxxxx王国に、栄光あれ!」
ザシュ、プシューーーーッ!
王妃「ぎゃああああああああ――――――――っ!?」
衛兵副長「……」
国王「……」
ザシュ、ザシュ、ザシュ……
王妃「へっ、陛下……」
王妃「……」ガクッ
衛兵隊長「……」
衛兵副長「……」
衛兵達「……」ビシッ
国王「……」
大臣「衛兵副長。ご苦労だった!」
大臣「死体は、すぐに片付けてくれ!」
衛兵副長「はっ!」スチャ、カシャン
衛兵達「……」ビシッ
国王「後、その死体は焼いて捨てよ」
国王「カーネルの死体は、市内に全裸にして晒せ!」
国王「それが、あのカーネルに相応しい最後だ!」
国王「あの娘は、不名誉な形にて死んだのだからな!」
衛兵副長「はっ、仰せのままに!」
衛兵副長「すぐに、掛からせて頂きます!」
衛兵副長「総員、死体を霊安室に運べ!」
衛兵副長「さぁ、急ぐのだ!」
衛兵達「はっ!」
大臣「……」
クイッ、ガシッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ズルズルッ、ズルズルッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ズルズルッ、ズルズルッ……
ギギィーーーーッ、バタン……
スッ、ゴクゴクッ、ゴクゴクッ……
国王「うむ。酒が上手い!」
大臣「……」
~王都・中央広場~
翌朝――
ザワザワッ、ザワザワッ……
ザワザワッ、ザワザワッ……
衛兵長「黙れ、騒ぐな!」
ザワザワッ、ザワザワッ……
ザワザワッ、ザワザワッ……
衛兵長「騒ぐなっと、言っておるだろうが!」
魔女「……」
王妃「……」
衛兵隊長「……」
大魔導師「……」
大賢者「……」
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
ササッ、ササッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ピタッ、ピタッ……
大臣「静粛に!」
大臣「静粛に――――――――っ!」
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
シーーーーーーーーン……
大臣「これより、昨日の戦の件についてで、民達にご報告致す!」
大臣「昨日の戦については、ハーフエルフによる反乱だった!」
大臣「恐れ多くも、ハーフエルフの分際で王都侵攻を計画!」
大臣「それが原因で、大賢者殿、大魔導師殿、衛兵隊長、王妃様が亡くなられた」
大臣「その首謀者は、ハーフエルフのジュリエット!」
大臣「世間からは、カーネルと呼ばれ恐れられていた、ハーフエルフの女だった!」
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
大臣「静粛に!」
「大臣、どう言う事だ!?」
「何で、あのカーネルが反乱を起こしたんだ!?」
「それ絶対に、何かおかしいだろ!?」
大臣「静粛に!」
「カーネルは、確かにハーフエルフだった!」
「俺は、ハーフエルフの事が大嫌いだ!」
「だが、カーネルにはあの島で世話になり過ぎた!」
大臣「静粛に!」
「聞け! 大臣!」
「カーネルは、ずっと共存を望んでいた!」
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
「これまで、ずっとハーフエルフ達は苦しめられてきた!」
「男は、休みもなくろくに水も食事も与えられずに過酷な肉体労働!」
「女は、嫌でも娼婦として扱われ、毎日の様に集団でレ〇プされ続ける!」
「だから、俺はカーネルが反乱を起こした理由には納得が行くぞ!」
「あんな、この世の生き地獄みたいな毎日、誰が受け入れられるか!」
大臣「黙れ!」
「大臣。これだけは、言わせて貰う!」
「カーネルがやった事は、当然の結果だ!」
「これは、今の俺達に対する警告なんだ!」
大臣「黙れ、黙れ!」
「大臣。何で、カーネルを殺したのよ!?」
「また、カーネルがこの世に復活をしても良いの!?」
大臣「!?」ハッ
「カーネルは、ハーフエルフがこの世にいる限り、何度も復活を遂げる!」
「カーネルは、ハーフエルフが差別や迫害等をされる限り、何度もハーフエルフの為に戦い続ける!」
「それ程、カーネルは執念深いんだ!」
「俺達人間に対して、カーネルはずっと恨みを抱いたままなんだ!」
大臣「……」プルプルッ
「大臣。今すぐ、カーネルを丁重に葬れ!」
「せめて、最後くらい敬意を払って、服くらい着せてやれ!」
大臣「……」プルプルッ
「そうじゃなきゃ、カーネルがまた再びこの世に現れるぞ!」
「いつ、どこで、カーネルがこの世に復活を果たすかが、全く分からないんだぞ!」
大臣「……」プルプルッ
「大臣、お願い!」
「せめて、服くらい着せてあげて!」
「同じ女として、カーネルのその最後は色々と間違っている!」
「絶対に、今の大臣は間違った事をしてしまっている!」
大臣「……」プルプルッ
衛兵副長「民達、もういい加減に黙れ!」
衛兵副長「国王陛下の前であるぞ!」
衛兵副長「今回の決定については、正当な物だ!」
衛兵副長「大臣様は、何も間違ってなどいない!」
「いや、間違っているだろ!」
「カーネル所か、王妃様まで殺す自体何かおかしいだろ!?」
衛兵副長「黙れ!」
「そもそも、何で衛兵隊長が死んでいるんだ!」
「昨夜までは、普通にその辺を歩いていただろ!」
衛兵副長「黙れ、黙れ!」
大臣「……」プルプルッ
「国王、あんたからも何か言ってくれ!」
「このままだと、再びこの国は攻められる事になるぞ!」
「カーネルは、本当に何度でも蘇ってくる!」
「俺は、そんなカーネルの姿を生で見てきた!」
「だから、何とか言ってくれ!」
衛兵副長「黙れ、黙れ!」
大臣「……」プルプルッ
国王「……」
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
国王「衛兵副長。民達をなんとかしろ!」
国王「もしくは、見せしめとして何人か殺しても良い!」
大臣「!?」プルプルッ
衛兵副長「陛下、宜しいのですか?」
衛兵副長「民達も、火炙りに致しますか?」
衛兵達「……」
国王「うむ。そうだな!」
国王「適当に、民達も火炙りにしろ!」
国王「まずは、大賢者達が先だ!」
国王「後、カーネルは最後でも良い!」
衛兵副長「はっ!」
衛兵達「……」ビシッ
大臣「……」プルプルッ
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
衛兵副長「衛兵長、民達を何名か捕らえよ!」
衛兵副長「そして、火を着けよ!」
衛兵長「はっ!」
衛兵副長「副衛兵長は、大賢者様達の死体に火を!」
衛兵副長「カーネル以外は、即刻火を着けるのだ!」
副衛兵長「はっ!」
衛兵達「……」ビシッ
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ガシッ、グイッ……
「なっ、何をするんだ!?」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ズルズルッ、ズルズルッ……
「はっ、離して!」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ズルズルッ、ズルズルッ……
「離して、離して!」
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
グイッ、ドサッ、ドサッ……
スチャ、タァラン……
民達「!?」ポカーーン
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ……
「ぐっ!?」
「げほっ!?」
「いやああああああああ――――――――っ!?」
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
チャッチャッ、チャッチャッ……
ボワッ、ボワワワッ……
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
ボワワワッ、ボワワワッ……
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ……
「ひっ、火が着いたぞ……」
火が着いたぞ「――――――――っ!?」
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
国王「……」
大臣「……」
衛兵副長「……」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ササッ、カシャン……
衛兵長「副長、完了致しました!」
衛兵長「他に、ご命令は?」
副衛兵長「……」
大臣「いや、今は良い……」
大臣「民達の事を、しっかり見張っていろ……」
大臣「本当に、カーネルとは恐ろしき女よ……」
大臣「あの島だけでなく、王都の民達まで焚き付けていたとは……」チラッ
魔女「……」
国王「大臣。そう狼狽えるな!」
国王「カーネルは、もう死んだのだ!」
魔女「……」
国王「それに、カーネルはすぐには復活はせん!」
国王「その為に、今朝からあの島には、勇者一行を再び行かせたのではないか!」
大臣「はっ、そうでしたな……」
大臣「今の私、少々狼狽えておりました……」
魔女「……」
大臣「陛下。大変お見苦しい姿をお見せして、誠に申し訳ございません!」
大臣「以後、この様な事がない様に致しまする!」
大臣「ですので、どうかご容赦を!」
大臣「今後も、私は陛下の為に尽くしとうございます!」ペコッ
国王「うむ。合い分かった!」
衛兵副長「……」
ボワワワッ、ボワワワッ……
ボワワワッ、ボワワワッ……
シュン、シュタッ……
魔女母「……」
魔女「……」
衛兵長「なっ、何者だ!?」スチャ、タァラン
大臣「む? 何だ貴様は?」
大臣「今すぐ、その面を外せ!」
魔女母「……」
大臣「貴様、聞こえないのか?」
大臣「今の貴様も、火炙りにされたいのか?」
国王「……」
ササササッ、ササササッ……
スチャ、タァラン……
魔女母「……」スッ
魔女母「……」バッ
大臣「!?」ビクッ
国王「――――――――っ!?」ビクッ
衛兵隊長「なっ、なんだと!?」ガーーン
衛兵達「かっ、カーネルが二人!?」ガーーン
魔女「……」
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
国王「……」ビクビクッ
大臣「……」ビクビクッ
衛兵副長「……」ガクガクッ
魔女母「……」チラッ
魔女「……」
衛兵長「……」ガクガクッ
副衛兵長「……」ガクガクッ
衛兵達「……」ガクガクッ
魔女母「お約束通りに、私は蘇って参りました……」
魔女母「この世に、再びこの私が蘇ってきた訳……」
魔女母「今の貴方達に、分かりますでしょうか?」ニッコリ
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
「か、カーネルが蘇った……」
「本当に、あれは間違いなくカーネルだ……」
国王「……」ビクビクッ
「ああ、あれは確かにカーネルだわ……」
「それじゃあ、あそこに晒されているのは、一体誰なの?……」
大臣「……」ビクビクッ
「でも、あの姿は間違いなくカーネルだ……」
「あんな美人を、そう簡単に見間違うか……」
衛兵副長「……」ガクガクッ
魔女母「……」ニコニコ
衛兵長「か、カーネル……」
衛兵長「一体、何しにきた?……」
衛兵長「まさか、陛下のお命を奪いに来たのか?……」
魔女母「はい。そうですけど!」ニコニコ
国王「!?」ガーーン
衛兵長「なら、好きにするが良い……」
衛兵長「貴殿の気の済むままにするが良い……」ガクガクッ
国王「!?」ガーーン
副衛兵長「衛兵長……」
衛兵達「……」
魔女母「ええ、分かりました!」
魔女母「存分にやらせて頂きます!」
魔女母「後、国王陛下……」
魔女母「外に、私の私兵達を待機させてあります!」
魔女母「本日も、また昨日の様な戦を引き起こさせて頂きます!」ニコニコ
国王「!?」ガーーン
魔女母「ちなみに、勇者一行につきましては、私が先に処分しときました!」
魔女母「案外、勇者一行ってかなり弱いんですよね!」
魔女母「私が、ちょっと本気出したぐらいで、すぐさま全滅してしまいましたから!」ニコニコ
国王「……」ビクビクッ
魔女母「それと、王都の民達……」
魔女母「もし仮に、逃げるのなら今の内ですよ!」
魔女母「実際、私は私兵を城門前にもう既に待機させております!」
魔女母「この私の命令一つで、王都は火の海になる事でしょう!」ニコニコ
国王「……」ビクビクッ
魔女母「だから、もし仮に逃げるのなら今の内ですよ!」
魔女母「今の私、陛下に再び弓引くただの極悪な謀反人!」
魔女母「陛下と共に死を選びたいのなら、それでも私は構いません!」
魔女母「私はこれまで、ずっと人間達の事が嫌いでした!」
魔女母「この私に殺されたくなければ、早く逃げる事ですね!」
国王「……」ビクビクッ
大臣「……」ビクビクッ
衛兵副長「……」ガクガクッ
衛兵長「総員退避!」
衛兵長「皆、早く王都の外に出るんだ!」
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
衛兵長「……」クルッ、ビシッ
副衛兵長「……」ビシッ
衛兵達「……」ビシッ
魔女母「……」ビシッ
魔女「……」
衛兵長「この王都に住む民達に継ぐ!」
衛兵長「大至急、王都から離れよ!」
衛兵長「繰り返す、王都から離れよ!」
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
衛兵長「これから、カーネルの部隊が総攻撃に入る!」
衛兵長「だから、早く外に出るんだ!」
魔女母「……」
「皆、逃げろ!」
「カーネルは、本気だ!」
「カーネルは、王都を攻め落とす気だ!」
国王「……」ガクガクッ
「ああ、そうだな!」
「皆、早く逃げろ!」
「昨日のみたいな戦が、再び始まるぞ!」
大臣「……」ガクガクッ
衛兵長「副衛兵長、民達を誘導せよ!」
衛兵長「私は、後から行く!」
衛兵長「さぁ、早く行くのだ!」
副衛兵長「はっ!」ビシッ
衛兵達「……」ビシッ
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
ザワザワッ、ザワザワッ、ザワザワッ……
「大臣、このクソッタレ!」
「あんたが、カーネルを敵に回すからこんな事になるんだ!」
「元々、あんたの事は昔から嫌いだった!」
「今後の俺達の生活、どうしてくれんだ!」
国王「……」ガクガクッ
「死ね! この糞国王!」
「そもそも、カーネルなんか敵に回してんじゃねぇ!」
「王妃様の方が、遥かにまともだった!」
「あんた、それでよく国王なんかやってんな!」
大臣「……」ガクガクッ
衛兵長「民達に継ぐ!」
衛兵長「これより、我ら衛兵隊が先導をする!」
衛兵長「だから、どうかご安心されよ!」
衛兵長「民達の今後の生活、カーネルがちゃんと保障をしてくれる!」
魔女母「……」
衛兵長「だから、総員速やかに退避!」
衛兵長「さぁ、早く外に出るんだ!」
衛兵長「急げ!」
「お――――――――っ!」
国王「……」ガクガクッ
大臣「……」ガクガクッ
衛兵副長「……」ハッ
魔女母「……」
魔女「……」
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
衛兵副長「……」
衛兵副長「……」ダッ
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
国王「……」ガクガクッ
大臣「……」ガクガクッ
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ピタッ、スッ……
魔女母「……」シュッ、シュルシュルッ
魔女母「……」シュルシュルッ、シュルシュルッ……
魔女母「……」ムギュッ
魔女「……」グッタリ
国王「……」ガクガクッ
大臣「……」ガクガクッ
グイッ、フワッ……
国王「……」ガクガクッ
大臣「……」ガクガクッ
魔女母「……」クルッ
国王「……」ガクガクッ
大臣「……」ガクガクッ
魔女「……」
魔女母「陛下……」
魔女母「私は、ハーフエルフがこの世に生まれる限り、何度でも蘇ります!」
魔女母「私は、ハーフエルフが差別や迫害等をされる限り、何度でも戦います!」
魔女母「それだけは、どうか忘れないで下さいね!」
シューーーーッ、シュン……
国王「……」ガクガクッ
大臣「……」ガクガクッ
国王「……」ガクガクッ
大臣「……」ガクガクッ
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
国王「……」ガクガクッ
大臣「……」ガクガクッ
国王「……」ガクガクッ
大臣「……」ガクガクッ
国王「もう、これで終わりか……」
国王「余の人生も、これで終わりの様だな……」ガクガクッ
大臣「へ、陛下……」
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
~王都・城門前~
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
伯爵「うむ。爽快な眺めだ!」
伯爵「本日は、本当に良い朝を迎えたものだ!」
警備隊長「ええ、そうですね!」
伯爵「しかし、あの娘を生かす事が出来なかったのが、かなり心残りだ!」
伯爵「今の私は、結局の所、あの子にはろくに何もしてやれなかった!」
警備隊長「……」
伯爵「警備隊長。総員攻撃用意!」
伯爵「今回の戦は、今は亡きカーネル・ジュリエットの仇討ちだ!」
伯爵「絶対に、必ずやあの糞国王の首を討ち取ってくるのだ!」
警備隊長「はっ!」ビシッ
シュン、シュタッ……
魔女母「……」
魔女「……」
スタスタスタッ、スタスタスタッ……
ピタッ、ペコッ……
魔女母「伯爵様。ただ今、帰還致しました!」
魔女母「もう既に、準備は整っております!」
魔女「……」
伯爵「うむ。ご苦労であった!」
伯爵「カーネルも、よく帰還なされた!」
魔女「……」
伯爵「カーネル。そなたの仇は必ず討つ!」
伯爵「だから、どうか安らかに眠っててくれ!」
伯爵「そなたの墓は、あの島の中に立ててやる!」
魔女「……」
伯爵「警備隊長。カーネルに何か着せる物を……」
伯爵「まさか、こんな形でカーネルと再会するとはな……」
伯爵「本当に、そなたはどこまで不憫なのだ……」
伯爵「こんな姿になってまで、今のそなたは自身の目的を果たしたかったのか?……」ウルウルッ
魔女「……」
伯爵「カーネル。どうか、答えてくれ……」
伯爵「この私に、いつもの様な笑顔を見せてくれ……」
伯爵「今まで、本当に世話になった……」
伯爵「結局、今の私は何も出来なかったと言う訳か……」ウルウルッ
魔女「……」
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
ピタッ、カシャン……
衛兵副長「失礼。xxxxxxx伯爵とお見受けする」
衛兵副長「私は、衛兵副長のxxxxxです!」
衛兵副長「後、もう少しお待ち下さいませ!」
警備隊長「うむ。了解した!」
警備隊長「民達の避難が終わり次第、我らは王都に侵攻をする!」
警備隊長「衛兵副長。ご苦労であった!」
警備隊長「ここからは、我々に任せてくれ!」
衛兵副長「はっ!」ビシッ
伯爵「……」フキフキ
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
ササッ、カシャン……
衛兵長「副長。後もう少しです!」
衛兵長「後、もう少しで終わります!」
魔女母「……」
衛兵副長「ご苦労!」
衛兵副長「民達は、外で待機させろ!」
衛兵副長「絶対に、終わるまで中に入れるな!」
衛兵長「はっ!」
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
魔女母「ジュリエット。よく見ておきなさい……」
魔女母「これから、あんたの悲願がようやく達成される……」
魔女母「これで、暫くの間は安らかに眠る事が出来る……」
魔女「……」
魔女母「あんた、本当にこう言った所なんかも、私そっくりなのよね……」
魔女母「さすがは、私の実の娘……」
魔女母「まさか、ここまでやっちゃうなんてね……」
魔女「……」
ストトトトトッ、ストトトトトッ……
ササッ、カシャン……
副衛兵長「も、申し上げます!」
副衛兵長「副長。民達の避難、完了致しました!」
副衛兵長「もう城内には、誰も残ってはおりません!」
衛兵長「……」
衛兵副長「そうか。ご苦労だった!」
衛兵副長「xxxxxxx伯爵、どうぞ!」
衛兵副長「今は亡きカーネルの仇、存分に取ってきて下さい!」
伯爵「合い分かった!」フキフキッ
副衛兵長「……」
伯爵「全隊、突撃!」
伯爵「カーネルの仇を取れ!」
伯爵「進め――――――――っ!」
「お――――――――っ!」
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
伯爵「……」ダッ
警備隊長「警備隊。伯爵様に続け!」
警備隊長「進め!」
「お――――――――っ!」
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
魔女母「……」
大隊長「第一大隊。進め!」
警備隊長「必ずや、カーネルの仇を取るんだ!」
「お――――――――っ!」
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
魔女「……」
衛兵副長「衛兵隊。外にいる民達をそのまま保護せよ!」
衛兵副長「絶対に、終わるまで中に入れるな!」
衛兵達「はっ!」ビシッ
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
魔女母「……」
魔女「……」
シュン、シュタッ……
女王「……」
スタスタスタッ、スタスタスタッ、ピタッ……
女王「何だ。もう始まってたの?」
女王「少し、遅れてしまった様ね」
魔女「……」
魔女母「ええ、そんな所よ」
魔女母「やっと、この子の願いが叶った」
魔女母「今のこの子は、本当に満足をしているわ」ニッコリ
女王「そう。それは良かったわね」
女王「あんたも、これで少しは気が晴れたみたいね」
魔女母「……」ニコニコ
女王「とりあえず、あんたその死体はどうすんの?」
女王「もしかして、エルフの里に持って帰ってしまうとか?」
魔女「……」
魔女母「いや、持って帰らないわ」
魔女母「この子は、あの島に眠らせておくわ」ニコニコ
魔女「……」
魔女母「だから、今の貴女は安心をして」
魔女母「私の処分は、甘んじて受け入れる」
魔女母「元々、私とあんたは敵同士だったんだし」
魔女母「だから、今のあんなが望むのなら、また再び娼婦にでも戻るわ」ニコニコ
女王「あらあら……」
魔女「……」
魔女母「さぁ、私達の帰りましょうか?」
魔女母「今のあんた、早くあの島に帰りたいんでしょ?」
魔女「……」ニコニコ
魔女母「その前に、エルフの里に寄って着替えないとね」
魔女母「今のあんた、ずっと全裸だったし」
魔女母「棺に入れる前に、色々と綺麗にしないといけないからね」ニコニコ
魔女「……」
女王「なら、さっさと早く行きましょ」
女王「その準備とかは、もう既にしてあるから」
魔女母「あっ、そうなんだ」
女王「まぁ、今回だけは特別に多目に見てあげるわ」
女王「今の貴女達親子は、一応はs級の凶悪犯罪者達」
女王「けれど、エルフの里を救った事は事実」
女王「だから、今回ばかりは多目に見てあげる」ニッコリ
魔女母「やった!」
女王「それと、今更聞くけど、何で貴女は若返ってんのよ?」
女王「と言うか、双子の姉妹って名乗られても違和感はないわね」ジーーッ
魔女「……」
魔女母「ああ、これ?」
魔女母「どっかのシスコン野郎がね、私の姿を成人してすぐのままの状態にしていたの?」
魔女母「あのシスコン、この子にまで手を出してた!」
魔女母「だから、帰ってみっちり絞め上げてあげる!」ニコニコ
魔女「……」
女王「ああ、そうなの」
女王「それで、今の貴女は若いままなんだ」
女王「そのシスコン、死刑にする前に問い詰めて良いかしら?」
女王「それさせてくれるなら、貴女を再び貴族に戻してあげる」
女王「そのシスコンの代わりに、家と爵位を継がせてあげる」ニッコリ
魔女母「!?」ビクッ
魔女「……」
女王「それで、返事は?」
女王「この私のお願い、今の貴女は聞き入れてくれるのかしら?」ニコニコ
魔女「……」
魔女母「……ええ、了解したわ」
魔女母「さぁ、早く行きましょ」
魔女母「この子、ずっと昨夜からこのままだったし」
魔女母「ちゃんと、防腐処理もしてあるからね」ニッコリ
魔女「……」
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
ダダダダダダッ、ダダダダダダッ……
ワーーーーッ、ワーーーーッ、ワーーーーッ……
シューーーーッ、シュン……
衛兵達「……」ビシッ
王都の民達「……」ポカーーン
こうして、私の戦いは終わった。
私は、ようやくハーフエルフ達の事を解放する事が出来た。
これがきっかけで、私達の住むxxxxx王国以外でも、ハーフエルフ解放運動が勃発。
数多くの国や地域で、ハーフエルフが蜂起していく。
その結果、世界はハーフエルフ達の存在を、渋々ながらも認める事となった。
ハーフエルフ独自の国家が、xxxxx王国の後継としてxxxxx王国の内部に誕生をした。
その後、私は再びこの世に生を受け、お母様と共にxxxxx王国の跡地を訪れる。
皆、私の事がすぐに分かったらしく、数多くのハーフエルフ達からは敬礼をされてしまった。
この時には、すっかり私の生まれ故郷でもあるxxx島は衰退。
勇者一行もまた、お母様の手によって一人残らずコテンパンに撃破。
さすがに、xxx島の人達は不憫だとは思ったが、こればっかりは自業自得である。
今更、私に擦り寄ってきた所で、私は何もする事はない。
そして、私は再び旅に出る事にした。
お母様と二人で、世界各地を回る旅に出る事となった。
その時に、偶々xxx島付近の港町に転居していたママ達と再会。
皆、かなり年相応に老け込んでいた様子。
私の姿を見るなり、すぐさま涙ながらに駆け寄ってくる。
皆、この私と再会出来た事に関しては、かなり感涙をしてしまっていた。
だが、それも長くは続かなかった。
ママと姪っ子ちゃんが、何故か本気でブチ切れてきたからだ。
終いには、「今まで迷惑を掛けてきた分の迷惑料」をすぐさま私に請求。
それを受け、私とお母様のテンションがすぐに急降下。
結局、私はただのママ達の金づる。
それ以上でも、それ以下でもない。
おまけに、何故かお母様と再びママが経営する酒場兼売春宿で、娼婦として働く事になってしまい……
それを聞き付けたあの性悪女が性悪娘を引き連れ、私達の働き振りをすぐに観覧。
たとへ、純粋なエルフに転生したとしても、私が持つ「数多くの不運を引き寄せる体質」だけは、完全に消し去る事が出来なかった。
結局、私もお母様も、「一生死ぬまで搾取され続ける」と、嫌でもすぐさま悟ってしまったのだった。
魔女「もう最悪だわ……」/完
ええ、これでこのお話は終わりです。
これまで読んで下さった皆さん、本当にありがとうございました。
このSSまとめへのコメント
二度とかくな。