モバP「こーひーふーふ」 (52)
例えば、
A『どこやったっけ……』
B『あれならそこの棚ですよ』
A『お、ありがとう』
と、指示語で、指示語すら無しでも通じる会話。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1407680567
……例えば、
A『んーっ』
B『はい、どうぞ』
コトッ
A『いつもありがとう……相変わらず美味い』
B『いえいえ、ふふっ』
と、コーヒーを差し出すタイミングが完璧で、
周りをざわざわさせるような、調和のとれた関係。
円熟した夫婦のようで、それでいて甘々な。
「……プロデューサー。お茶入れたけど、飲む?」
「あー、今は…… あーうん、飲むよ」
「コーヒーのほうが、良かった? ……ごめんね」
「いや、そんなことないさ。ありがとう、いつも」
残念ながら、俺と俺のパートナーとは、まだその域には程遠いみたいだ。
・アイドルマスターシンデレラガールズ 渋谷凛のSSです
・凛ちゃん誕生日おめでとう!
”パートナー”、
という言葉がしっくり来ると思う。
仕事の関係以上、恋人未満。
いや、事実上恋人ではあるのだけれど。
……不都合が生じるようなら、そのときは。
想いを通じあわせた時、初めて凛とキスをした時に、
最初にそう約束した。
スキャンダルとして凛のアイドル生命に関わるようになってしまったり、
お互い仕事に支障が出てしまうような事があるなら、一緒じゃないほうがいい。
そんな静かな密かな関係。
今のところ、その心配はない。
互いの存在が互いを程よく支えている、と思う。
当然皆には秘密の関係だ。
だから、認められるような日が来るまで手は出さない、と決めている。
公私をはっきり分ける。
プライベートでもあまり二人だけのために時間を割かない。
疑われるようなことがなるべく無いように。
二人共どちらかというと仕事人間だから、割合上手く行っているとは思う。
……反面、未だにお互い「お付き合い」というのに慣れていない。
こっそり手をつないだり、間接キスにどぎまぎしたり。
小学生のような拙い恋。
15歳の凛ならまだしも、こっちは良い大人だってのに恥ずかしい限りだ。
両思いだとお互い気づいてからのほうがぎこちない気がする。
これまで自然に無意識にやっていた事が、相手のことを意識してしまうようになったからだと思う。
今まで皆の中で自然と認識していた距離感を、新しく二人のために定義し直そうとお互い努力している。
だから、このぎこちなさをあまり苦には感じない。
ただ、もうすでにそれを終えて睦み合っている恋人たちをみると、羨ましいなとは思う。
ゆっくりでいいから、二人でそんな関係を育んで行けたら。
ーーー
合わないところがいくつもある。
合うところも、いくつも見つけてきたけれど。
凛の淹れてくれるコーヒーは、牛乳たっぷり砂糖たっぷりの甘々なカフェオレだ。
ブラックにすっかり慣れてしまっていたから、初めて飲んだ時には舌がしびれるかと思うほどだった。
コーヒーの苦味があまり得意では無いらしい。
まあ、事務所の買い置きは安物のインスタントコーヒ―だから、確かにお世辞にも豆の味が云々なんて言えないが。
コーヒーは甘めのカフェオレ。
時々こっそり作ってきてくれる弁当は薄味、野菜多め。
バレンタインに貰ったチョコレートも甘かったっけ。
あの頃は、まだ義理だったけれど。
凛の作るものは……美味しいのだが、
なんて言うか、すべて彼女の好みの味だ。
いつか凛の家でいただいた夕食の味。
「どうしても、この味になっちゃうんだ」
頑固で一途な彼女らしい、と言えばらしいのだけども。
なんとなく、男と女の舌の違いみたいなものを感じる。
塩気不足糖分過多、か。
好みの味、おふくろの味?と言うのだろうか。
それを教える機会があればとは思うけれど、そんな都合の良い事はなかなか無い。
しかしながら、すこしずつその味に舌が慣れてきている気もしている。
……いつの間にか、凛の味覚にすっかり染められている。
甘ったるいと感じていたカフェオレも、今ではひとつのお決まりの味だ。
コンビニ飯と外食ばかりでひどい有り様だった食習慣もすこしずつ野菜中心に改善しつつあるし、
悪いことでは無いだろう。
仕事では俺が凛をプロデュース、
プライベートでは食生活を凛が管理、といったところか。
……こんなところまで分担しなくてもな、と。
今日はここまで
書き溜めが終わってないのとWiFiの調子が悪いので以降は明日頑張ります
前回書いた凛のやつが確かシリアスだったので今回は甘々にする
再開、最後まで
ーーー
最近、猫舌だということに気づいたらしい。
お茶やコーヒーを淹れてからもってくるまでのタイミングが少し遅くなった。
牛乳を注ぐことでだいぶ温くなってはいるはずなのだけれど、
それでも時々舌を火傷しそうになる。
そう言えば、こういう時のタイミングもなかなか合いそうにない。
……なんというか、凛は結構、端々で不器用な子だ。
長いこと一緒に仕事をしている仲でもあるから、
事務所に二人きりと言うことも実は珍しくないことだったりする。
こちらが事務作業をしている間、凛はソファーで宿題や予習復習をしたり、
音量低めでTVを見て自分の出た番組をチェックしたり、台本を覚えたり。
その合間に、休憩のためにお茶やコーヒーを入れたり、栄養ドリンクを持ってきてくれる。
最初の頃は自分の飲みたい時にお茶やコーヒーを用意してついでに、と言う感じで差し入れてくれていたのだが、
最近は少し間を見計らっているみたいだ。
……と言っても、なかなか上手く行かないみたいで、
なのでキーボードを叩く手を止めたり、少し姿勢を正したりした時に、
「プロデューサー、コーヒー淹れてこようか?」
などと一々確認をしに来る。
最近はそれを見越して、わざと大きめに伸びをしたりしてアピールしてみたりする。
……そういう時に限って気づかれなかったりするが。
なかなか、噛み合わない。だけど、悪いことじゃないと思っている。
時々不意に後ろを向いたりすると、
ソファに座って宿題をしながらもどことなくそわそわしている凛が見られたりする。
わからない部分を聞いたり、ただゆるゆると会話をしたかったりなんだろうけれど、
仕事の間は声をかけ辛いから待っているのだろう。
ペタンと座ってしっぽを振る犬みたいだ。
なかなかに愛しい。
ひっそりと仕事中の癒やしだったりもする。
ーーー
同僚との残業中、ちひろさんが皆にコーヒーを淹れて来てくれた。
久々のブラックコーヒー。
一口啜って、熱さと苦さに思わず顔をしかめる。
……うーん、砂糖が必要だ。
席を立って給湯室へ。
戻ってくるときには調度良い温度まで冷めているだろう。
生憎、冷蔵庫には牛乳のストックがなく、ちひろさんが買い込んだであろう栄養ドリンクでぎっしりだった。
仕方が無いのでコーヒーフレッシュとプラスチックのマドラーをとり、
スティックシュガーを1……いや、2つ持って行く事にする。
黒い液体の表面にゆっくりと白い渦巻きができ、だんだん混ざりあって澱んだ茶色になる。
その様子をぼーっと見ていると、誰かがこっちを見ている事に気づく。
……ちひろさんだ。
「えっと、プロデューサーさんって、そんなにお砂糖入れる人でしたっけ?」
あっ。
しまった。
2つもスティックシュガーを持ってきたのを訝しく思われているようだ。
……そう言えば、普段は人前ではブラックコーヒーしか飲まないんだった。
すっかりカフェオレを飲む癖ができてしまっていて、うっかりしていた。
「今度からお砂糖とミルク入れてから持ってきましょうか?」
「いえ、その、気分転換に甘いものが欲しいなって思っただけで」
「でしたら、チョコレートとか飴とか持ってきましょうか」
「ええっと、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
少し納得の行かない表情を一瞬浮かべたものの、また手元に視線が戻る。
なんとか、誤魔化せたかな?
ちひろさんはなかなか目聡い人だ。
事務員としてそのスキルはとても優秀で便利なのだけれど、
時々見透かすようなことを言って皆をヒヤッとさせる。
……多分、凛との関係がばれるとしたらこの人が最初だろうな、と思う。
今のところなんとか隠しおおせているけれど。
スティックシュガーをひとまず一本、するすると溶かしていく。
一口。
砂糖を入れるとやはり砂糖の甘さが際立つ。
コーヒー豆の苦味が緩み、少し粘性を纏った液体が喉を過ぎる。
こういう時のコーヒーはどちらかというとブレイクタイムと言うより眠気覚ましの意図が強いが、
ミルクと砂糖は逆効果なんだっけか。
いや、そもそもカフェイン自体日本人にはあまり効果がないんだったか?
色々とうろ覚えだが、……まあルーティーンのようなものだし、どちらでも変わらない、か。
何だか少し物足りない。
凛の淹れてくれるカフェオレは、もう少し甘かったような。
もう一つ封を切る。
さらさらさら。
半分くらい入れたところで、もう一口。
……甘い。これではない。
コーヒーフレッシュと牛乳の違いだろうか?それとも……?
あの味はどうやって出しているのだろうか。
気になる。
ーーー
久しぶりに、事務所で凛と二人きりだ。
凛の仕事が終わって帰ってくるまでにと進め始めた仕事がなかなか終わらないでいるうちに、
同僚は皆タイムカードを押して帰って行った。
ちひろさんもそのうちの一人に呑みに誘われて行ってしまった。
世間的には夏休みという事もあって、久しぶりに定時で上がったという同僚もちらほら。
時刻は未だ19時、外は明るい。
仕事上がりでちょっとつかれた様子の凛がソファに座っている。
気落ちしているわけでは無さそうだし、まあ卒なくこなしてきた、ってところか。
一日遅れではあるけれど、凛の誕生日を二人きりで祝うためにちょっとお高いディナーを予約しておいた。
昨日は事務所の皆でのお祝いだったから、今日は。
親御さんにはきちんと連絡を入れている。
……予約の時間までしばらくあるので、ゆっくりと仕事を進めよう。
少し時間が流れて。
「コーヒー、淹れて来るね」
と言って、凛が席を立つ。
丁度仕事も終わったことだし、後は時間が近づくまでソファでゆっくりと話でもしよう。
残念な事に、
うちの事務所にはコーヒーマシンもドリンクサーバーも導入されていないので、
温かい飲み物を飲むときは電子レンジを使うか、コンロで一からお湯を沸かすかしかない。
あるいは、近くのコンビニまで走るか。
なので当然の如く、10分程度の時間がかかる。
すでに保存しシャットダウンを押してしまった画面の前で待つには退屈な時間だ。
……そう言えば、気になっていたんだった。
あのカフェオレはどうやって淹れているのか。
こっそりと見てみようか。
静かに給湯室まで行くと、凛が軽快な鼻歌とともに作業をしていた。
小鍋で沸かしているのがコーヒーだろう。
2つのスティックシュガーと、マドラーと、……マグカップは、ひとつだけ?
レンジの音。
どうやらもう一つのマグカップで牛乳を暖めていたようで。
それをもう片方のマグカップにも注ぎ分ける。
なるほど、それでいつも熱めのカフェオレだったのか。
正しい淹れ方がどうとかは知らないけれど、一手間一手間が何だか嬉しい。
丁度コーヒーも沸いたようだ。
軽く鼻歌を歌いながら、2つのカップにコーヒーを注いで。
そして、
……そっと、マドラーに口付けした。
びっくりした。
思わず目を疑う。
いつもの凛とはまるでちがって。
甘い甘い少女の仕草。
まるで、……まるで、恋する乙女じゃないか。
その感情を向けられているのが自分だと改めて気づいて、
……もう上手く言語化できそうにない。
脳内を甘く緩やかな多幸感が襲う。
……思考を甘い波に侵されながらも、目は耳は、五感はずっと凛の方に向いていた。
だから聞き逃さなかった。
スティックシュガーを開け、くるくるとマドラーでかき混ぜながら、
ぼそっと、
「おいしくなーれ」。
……ああ、耳がおかしくなった。
トドメを、刺された。
脳味噌がとろけてしまうほどの破壊力。
そうして最後に、まだ湯気の立つカップを両手で包みこみ、
ふー、ふー、と……
そりゃあ、甘いはずだ。美味しいはずだ。
当然じゃないか。
たっぷりと……その、なんだ、
”愛情”を注いでくれているのだから。
凛が冷ましたカップを持って……
あっ。
……目が、合ってしまった。
何もかも忘れて見惚れていた。
ハッとした顔をして……そのままカップを置き直す。
気まずい、というか、むず痒い。
「……いつから、見てたの?」
無論最初から、だ。口には出さないけれど。
耳がみるみるうちに紅くなっていく。
照れている凛も、また愛しい。
なんだこれ。……なんだこれ。
そうやってずっと黙って見ていると、
「……馬鹿」
そういって、そっぽをむいてしまった。
ごめん、とだけ謝るけれど、口先はなんだか弛んでいる。
凛の手を離れたカップを引き寄せて、一口。
……ああ、この味だ。
「凛」
そう呼びかけて、こちらを向かせる。
二人きり。給湯室。誰も来ない。
それだけ、もう一度頭の中で確認する。
そっと肩を引き寄せる。
至近距離で、もう一度見つめ合う。
少し戸惑って、凛がそっと目を閉じた。
……やっぱり、こういう時は、こういう気持ちはちゃんと通じ合うみたいだ。
二度目のキスは、甘い甘いカフェオレの味がした。
<fin>
終了。
小岩井ミルクとコーヒー、今でも時々飲んでいます。
あの頃はマグネットとロー凛のための苦痛だと思ってたのになんだかすっかり毒されてしまったようで。
メッツコーラ……?知らない子ですね……
一日遅れたけど誕生日おめでとうSSでした。
凛ちゃんには不器用デレが凄く似合うと個人的には。
……誕生日セリフはなかなかにストイック極振りだったけれど、そんなところも大好きです。
勿論、クールな凛ちゃんも、キュートな凛ちゃんも、パッションな凛ちゃんも。
急いで書いたので内容が薄めで申し訳ない。
前日譚とか書けたら書くかも。多分、「りんとのことば」ってタイトルで。
その前に晶葉に殺される話かあいさんに首を締められる話かを書くと思いますが。
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