モバP「広い家に住んでみたいなぁ……」 高垣楓「分かりました」 (43)



 東京都 中野区


都心への良好なアクセスを持ち、年齢も様々な人たちが行き交うこの町に、
ある問題を抱えたお宅がありました。


 モバ家


この家が抱える問題、それは――


                              ナレーション
                              蛍光みどり


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 物件1
 二人で暮らせない家



 「――え? ちひ……え? 何でここに……楓さん? え…………?」


中野駅からおよそ徒歩10分ほど。
アパートやマンションが立ち並ぶ地区の一角にこの物件はありました。
鉄筋造6階建のマンション、その3階にある角部屋。
依頼者がここに居を構えてから間もなく3年を迎えようとしています。


 「何でお二人ともここに……いや、と言うか何ですその本気の撮影用カメラ……」


一見、何の変哲も無く、何も問題が無いかのように見えるこの物件。
しかしこのお家には、ある重大な欠点が隠されているのです。


それは――とにかく狭過ぎること。


広さにして僅か22平米。
部屋数に至ってはバスルームを除けば、何と一部屋のみ。
これでは快適な暮らしどころか、二人で暮らす事すらままなりません。


家の中でも外でも、担当アイドルといっしょに過ごしたい――


そんな切なる願いを受けて、一人の女性が立ち上がりました。



 リフォームの匠
 高垣楓(27) 一流アイドル
 シンデレラガールズプロダクション所属



一切のリフォーム経験が無い高垣。言わば、全くの初心者。
しかし、外堀を埋める事に関してだけは他の追随を許しません。


あらゆる手練手管手口を駆使し、担当プロデューサーとの距離を詰めに掛かるアイドル。
人は彼女を、”既成事実のイリュージョニスト”と呼びます。



 「こんにちは、プロデューサー」

 「……あ、えっと、はい。こんにちは……?」


そんな高垣は、実は依頼者であるモバPさんとは深い仲。
2年前、彼から熱烈なスカウトを受けて以来、人気アイドルとして活躍を続けています。


 「ひとまず、お茶を一杯頂けませんか?」

 「いや、あの、何なんですかこれ?」

 「アイドルが立ち話もなんですし、ひとまず、お茶を一杯頂けませんか?」

 「……………………じゃあ…………どうぞ」


快く招き上げられ、きちんと靴を揃えてからお邪魔する匠。
しかし、そこで匠は衝撃的な光景を目の当たりにします。


 「えっ……?」


キッチンを兼ねた短い廊下を抜けて辿り着いた一室。
本来であれば居間である筈のそこには何故かベットが鎮座し、他に部屋はありません。
これには流石の高垣も驚きを隠せない様子。


 「あの……プロデューサー? 他に部屋は……」

 「……? 部屋って、普通のワンルームですけど……あ、やかん取るので失礼」

 「えっ、あ、すみません」


二人すれ違うのがやっとの廊下に、ベッドの置かれた居間。
立ちはだかる難題に、匠の眼差しにも鋭いものが宿ります。


 「何はともあれ、ますは検分ですね」


そう呟いた高垣がまず目を留めたのは、部屋面積のかなりの割合を専有する一台のベッド。
高垣は無言のままそこへ寝転がると、やや皺のついたお布団を頭まで被ります。


 「ふむ……やっぱり、これでは一人が限界ですね……」


お布団に潜り込んだまま、ころころと何度か寝返りを繰り返す匠。
二分ほど続けると、満足気な表情でもぞもぞとお布団から這い出てきました。



 「プロデューサー。お風呂場を見せてください」

 「…………駄目と言っても見るんでしょうし……まぁ…………散らかさないなら……」


そして次に向かったのは浴室。
一日の疲れを癒すため、家にはもはや不可欠な存在と言っても過言ではありません。


 「…………これは……」


ですがそこにあったのは、疲れなど到底癒せそうにない、ほとんど立方体に近い浴槽。
脚を伸ばすどころか、身長の高い人は体育座りでもはみ出してしまいそうなほど。
そして横には、同じような狭さの洗い場。
これでは一人がお湯に浸かっている間、もう一人は洗い場に居なければなりません。


想定以上の有様に戸惑いを隠せない匠。
彼女はしばし呆然としながら立ち尽くすしかありませんでした。


 「楓さん、お茶入りましたよ……どうしたんですかぼうっとして」



再び居間へ舞い戻り、テーブルとお茶とを挟んで向かい合う依頼者と高垣。
すると、それだけで部屋のスペースはもういっぱいでした。
スタッフの入り込む余地もギリギリで、撮影にすら難航する始末。


 「プロデューサー。失礼ですがこのお部屋、手狭ではありませんか?」

 「まぁ狭いっちゃ狭いですけど……どうせ寝に帰るだけなんで別にいいかなと」


苦笑を浮かべる依頼者へ、高垣はどう言葉を掛けたらよいものか探している様子でした。


寝に帰るだけ。
寛ぎや安らぎといった概念から遠く離れた依頼者の自宅観。
果たして高垣は、このどうしようもない状況を見事に改善できるのでしょうか。



 「それで、プロデューサー。失礼ですが……貯金はどれくらいありますか?」

 「はっ? 貯金……ですか?」

 「はい」

 「藪から棒ですね……確か30万円前後だったかと」



 問題解決のためのリフォーム予算
 30万円



ゆとりのある空間を保ちつつも、担当アイドルと仲睦まじく暮らしたいという願い。
しかし、モバ家が用意できるのは僅か30万円。


 「あと今夜お泊りしてもいいですか?」

 「藪から丸太ですね……普通に駄目ですけど……」



お茶を3杯頂き、軽くシャワーを浴びてから一緒に夕食。
そのまま宅飲みを2時間ほど楽しんでから、匠は依頼者宅を後にしました。


 「予想はしていましたが、一筋縄にはいかないようです」


帰る道すがら、ほろ酔いのままそう語る高垣。
ですが、その表情には希望があふれているようにも見えます。


 「でも、少し工夫をすれば問題ありません。幸い頼れる友人も居ますし、ね」



 リフォームプラン
 ――――――――――――――――――――――
 単なる家の改築だけには留まらない
 子や孫の世代までを見据えた人生設計そのもののリフォーム



 「笑顔の絶えない楽しい毎日――そんな家庭にしたいですね」


既成事実のイリュージョニスト。その挑戦が、明日の夕方くらいから始まります。




 第1章
 寝具



明らかに一人で暮らすのが精一杯の部屋。
そんな物件を家族みんなで暮らせるようにするという大胆な計画。
いよいよその初日がやってきて、夕焼けがとても綺麗でした。


 「おはようございます」


業界人ならではの挨拶を交わす高垣と合流したのは、新宿某所にある大手家具店。
早速入店した彼女は、エスカレーターで一路7階のベッドフロアへと向かいます。


 「良好な夫婦生活はまずベッドから、と言いますからね」


実際に寝てみなければベッドの良し悪しは分からないとの信念を持つ高垣。
夫婦の相性と同じですねと、匠ならではの小粋なジョークも飛び出しました。
そして辿り着いたお目当てのフロアに並ぶベッドは、なんと80台以上。
都内最大級のショールームは、まさに圧巻の一言でした。


 「いらっしゃいませ。どういったベッドをお探しでしょうか」

 「アイドルとプロデューサーが愛を紡ぐのにちょうどいいものを探していまして」

 「なるほど……ちなみにご予算の程は」

 「とりあえず糸目はつけないつもりです」

 「どうぞこちらへ」



壮年の店員さんから案内されたのは、特に分厚いマットレスの並ぶ奥まった一角。
ごろごろしたり、ぽいんぽいんしたり、ぽふぽふしたり。
寝心地を確かめるべく、匠自らいくつものベッドを入念に確かめてゆきます。


 「――これにします」


一時間後、寝転がったままの高垣は上機嫌に一台のマットレスを叩きました。
通常の1.5倍の数のポケットコイルが配置された、有名メーカー製の逸品です。


 「すみません、こちらの購入手続きに移りたいんですが」

 「ありがとうございます。ただ、こちらは現在店頭在庫のみとなっておりまして」

 「そうなんですか」

 「お取り寄せならばサイズも選べますが、いかがされますか?」

 「あ。なら――」


匠が店員さんに告げたのは意外な要望でした。
よろしいのですかと確認する店員さんへ、高垣は気持ちの良い笑顔で頷きます。


匠の笑顔。それが意味するものは果たして――




 第2章
 契約



 「あ。楓さーん、おはようございまーす♪」

 「おはようございます。すみません茄子さん、朝から呼び出してしまって」

 「いえいえー。何だか面白い事が起こりそうな気がしましたから♪」


作業二日目。


とある駅前で匠を待っていた、一人の女性。
この女性こそ高垣の同僚である人気アイドル、鷹富士茄子さんでした。
リフォームが得意という噂も聞かない彼女ですが、匠の意図はいったい何なのでしょうか。


 「今日はよろしくお願いします」

 「はーい。それじゃあ……うーん、そうですね……電車に乗ってみましょうか」

 「分かりました」


少し悩んでから改札内を指さして見せる茄子さん。
そんな彼女へ頷き、匠は後をついて行きました。


 「どれにしようかな……天の神様の云う通り……と。こっちにしましょう」

 「はい」



二人が乗ったのは大江戸線の列車でした。


 「楓さん、攻略の方はいかがですか?」

 「順調ですよ。茄子さんからも色々とお世話を焼いてもらっているお陰です」

 「それは良かったです♪」


並んで吊り革に掴まったまま、匠と茄子さんが取り留めもない雑談に花を咲かせます。


三駅ほど通過した頃でしょうか。
談笑していた茄子さんがふと、少しだけ視線を上げました。


 「そうですね、この辺りで降りましょうか」

 「分かりました」


突然の下車を促す茄子さんに、匠は何ら疑問を差し挟む事なく従います。
そのまま改札を出ると、あっちにある気がします、と茄子さんが南の方を指さしました。



 「あ。ここですね」

 「茄子さんにはいつも助けられてばかりですね」

 「いえいえそんな。お互い様ですから♪」


高垣を連れて歩くこと二十分。
辿り着いたのはなんと――一軒の不動産屋でした。
どうやらこの不動産屋こそが、今回の目的地だったようです。


 「ごめんくださいな」

 「ああどうぞ、いらっしゃいませ」

 「アイドルとプロデューサーが愛を紡ぐのにちょうどいい物件を探していまして」

 「おや、それはそれは! ちょうど良かったです。是非紹介したい物件がございますよ」

 「まぁ……! 何て運が良いのかしら」

 「良かったですね、楓さん♪」


何という偶然でしょう。
どうやら匠の探していたものがすぐに見つかったようです。
これには彼女も零れんばかりの笑顔を浮かべています。


こうして、依頼者と幸せな家庭を築くべく挑んだ今回のリフォームも全て終了。
それでは、その創意工夫にあふれた鮮やかな再生の全貌をご覧頂きましょう――




 このあと
 ――――――――――――
 感動のリフォーム完成披露



 【BERORE】

中野区に建つマンション、その一角にある何の変哲も無いお部屋。
このお部屋については特に何も無くそのままですが――



 【AFTER】

――友人の助けを借り、匠は南青山で売りに出されていた戸建て住宅をお得に購入。
2階建に加え、車庫に庭付きと、一家が暮らすには十分な広さを確保しました。



 【BEFORE】

僅か一口だけのコンロに、まな板を置くのすら難儀する程の窮屈な調理スペース。
とても三食を用意するには心許ないカウンターキッチンは――



 【AFTER】

――二人睦まじく隣に並び、調理しながら家族の様子にも気を配れる、
ビルトインオーブンを備えたアイランドキッチンへと変貌を遂げました。



 【BEFORE】

帰って寝るだけと言いながら、職場に泊まる日は使われすらしなかったベッド。
引っ越し初日に近所のホームセンターで見つけ、そのまま使っていたのですが――



 【AFTER】

今では夫婦専用の寝室が用意され、匠自ら選び抜いた上質なベッドが鎮座しています。
ただ、そのサイズはダブルやクイーン、ましてやキングでもなくセミダブル。
その理由を匠へ尋ねると。


 「真夏以外はぎゅっと抱き合って寝る訳ですから。むしろこれぐらいの方がいいですよね」


何とも彼女らしい、遊び心にあふれる工夫が隠されていました。



 【BEFORE】

脚を伸ばす事もできず、体育座りのまま入浴するしかなかった浴槽。
そんな癒しとは程遠かったお風呂場は――



 【AFTER】

大人二人が一緒に入浴してもまだ余裕のある、最新のバスタブが導入されました。
そして、広々としたのはバスタブだけではありません。
洗い場も男女二人がらくらく横になれる程のスペースをしっかりと確保。
マットを敷いて寝そべる事すら出来そうな、ゆとりあるいやしの空間となりました。



 【BEFORE】

寝食をまとめて済ませるため、合理性の名の下に生み出されてしまったワンルーム。
余裕の無さが生活にまで染み出してしまいそうな窮屈さの元凶は――



 【AFTER】

――4LDKとなり、見事に解消されました。
そして、今はお部屋が余ってしまっているようですが、


 「ふふ……遠くない内に増築が必要になっちゃうかもしれませんね」


そんな言葉とは裏腹に、匠はどこまでも楽しげな表情を浮かべています。


そして、匠の遊び心はこれに留まりません。
2階に用意されたお部屋の一つ。
そのドアを開けてみると――




 ――何という事でしょう。



 そこでは匠の同僚である神崎蘭子さんが、すよすよと眠りこけているではありませんか。



蘭子さんが眠る天蓋付きのベッドやカーテンなど。
部屋のそこかしこが、レースやベルベットなどで豪奢に彩られています。


何を隠そう、ここは高垣が拾ってきた蘭子さんをしまうための専用のお部屋。


部屋の中に設置された小さめの冷蔵庫の中には、美味しいプリンが。
いつでも蘭子さんをしまえるようにと、匠の心遣いが光ります。



 モバ家リフォーム費用
 予算30万円


 工事費      0円
 材料費      0円
 調度費  2,785,000円
 購入費 297,000,000円
 ―――――――――――
 合計  299,785,000円
  (登記手数料含まず)



これらのリフォームに掛かった費用は、
匠の知恵と仲間の協力もありましたがまるで予算内に収まりませんでしたので、
最終的に匠のポケットマネーで何とかしました。


生まれ変わった我が家を、依頼者は喜んでくれるでしょうか?



 「珍しいですね、楓さんがどうしても見せたいものがあるって」

 「ふふ、きっとプロデューサーも驚きますよ」


――この日、匠は依頼者を連れて新しくなった我が家を覗きにやって来ました。


 「到着しました。ここです」

 「……? このお宅が何か?」

 「何って……ふふ、新しいお家に決まってるじゃないですか」

 「…………えっ……楓さん、この家買ったんですか!?」

 「ささ、どうぞ上がってくださいな」



 「……え……うわ。めっちゃ良い家じゃないですか」


玄関の扉をくぐるなり、依頼者から驚きの声が。
リビングやトイレ、キッチンに寝室。
一部屋ずつ確認していく間、絶えず感心するような呟きが零れ続けます。


 「いや、本当に良いお家ですね……楓さん、これから引っ越されるんですか?」

 「もちろん、明日にでも。プロデューサーもそれで大丈夫そうですか?」

 「え、何がですか?」



 「……?」

 「…………?」

 「答えよ、見知らぬ風の吹きしこのエデンの名を――」
 (あの、すみません。ここどこですか……?)



寝に帰るだけ。
依頼者がかつてそう語るだけの空間だった我が家。


そんな光景に心を痛めた匠の手により、
依頼者の家はまるで別物のように生まれ変わりました。


アイドルと共に楽しく食卓を囲み、
アイドルと一緒にゆったりとお風呂へ浸かり、
アイドルと同衾し心地良い眠りに就く。


匠は依頼者が忘れかけていたそんな憩いの時間そのものを、
リフォームを通じて見事に思い出させてくれたのかもしれません――


おしまい。


http://i.imgur.com/Z0PcNR1.jpg
http://i.imgur.com/nXSMS9j.jpg

誕生日おめでとうございます
そしてご結婚おめでとうございます 末永くお幸せに

前作とか
モバP「そういえば最近、楓さんに軟禁されてて」 千川ちひろ「……?」 ( http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1642158546 )
高垣楓「本日から楓さんポイントの運用が始まりました」 ( http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1623674798 )
モバP「Uber Kaede……?」 ( http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1590312353 )


「大改造劇的ビフォーアフター」やってみた
 http://www.nicovideo.jp/watch/sm15956148

ご存知だろうけども一応元ネタの動画貼っておきます

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