阿良々木暦「になショウ」 (33)
・化物語×アイドルマスターシンデレラガールズのクロスです
・化物語の設定は終物語(下)まで
・ネタバレ含まれます。気になる方はご注意を
・終物語(下)より約五年後、という設定です
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超雑談メインです。
ID変わりますがちょっとしたら書きます。
1です。
なお、一年ほど前に自分で書いたニナチャンSSを元ネタにしてますのでご了承下さい。
001
市原仁奈はアイドルだ。
彼女は弱冠齢八歳にしてアイドルを営んでいるが、彼女の特徴として絶対に着ぐるみを着るという縛りを設けている。
縛りというよりは彼女の趣味が高じて、という側面の方が強いのだが、着ぐるみアイドルという奇抜で新しいジャンルを開拓したことは幼いながらも偉大な功績とも言える。
とは言え、着ぐるみを着て可愛いと言えるのは恐らくは十代が限界だと思われるので、アイドルのジャンルという幅としては狭いが、それでも僕は有りだと思う。
ああいう類のものは十代後半あたりを境目にコスプレというジャンルにすげ変わってしまう気がするのだ。
いや、それはそれで別の魅力があるからいいのだけれど。
話を戻すが、とにかく市原は可愛い。
年齢が一回り以上離れているということもあるが、年齢の割に達しているその小生意気な性格と突っ込みの鋭さはどこか八九寺を連想させる。
先ほどは市原が着ぐるみアイドル、と表現した為に彼女がアイドル活動においてのみ着ぐるみを着る、という誤解を招くような表現をしてしまったが、それは間違いだ。
訂正すると共に素直に謝罪をしよう。
彼女は、私服ですら着ぐるみなのだ。
「おはようございまーす」
「おはようごぜーます」
そして僕は今日も出勤する。
最近では、市原と会うことが仕事において唯一無二の楽しみとなっている気さえして来た。
「おはよう、市原」
市原は、コアラの着ぐるみを着ていた。
「コアラさんのきもちになるですよ!」
コアラは漢字で『子守熊』と書き、樹に掴まりユーカリを貪り食うことで有名である。
だが愛くるしく剣呑な外見に反比例してその握力は人類のそれを遥かに超越するとか。
「うんうん、可愛いぞー」
「暦!」
「うおっと!」
突然僕の腕に飛びついてくる市原。
そのまま僕の腕を木に見立てて掴まってきた。
「いきなり飛びつくなよ、危ないじゃないか」
「コアラだからしかたないのです」
そう言って離そうとしない市原。
まあ、所詮は八歳児の体重だし全然軽いんだけど。
と、僕はその時、致命的な事実に気付いた。
「市原、大変だ。このままだと仕事が出来ない」
「コアラですから」
「そうか、コアラなのか」
コアラならば仕方あるまい。
「という訳で千川さん、僕は今日一日、コアラ市原の拠り所であるところの一本の樹として任命されましたので、仕事が出来ません」
市原を腕にくっつけたまま千川さんに頭を下げる。
言っておくが僕は大真面目だ。
千川さんにその事を告げると、一瞬の間を置いてぼきり、と鈍くかつ心地のいい音が響く。
見ると、千川さんの持つペンがへし折れていた。
同時に中から赤色のインクがあたかも血か何かのように飛び散る。
「あらいけない、欠陥品だったみたいですね」
「……!」
無言で口をつぐむ僕の傍らで、水性ペンで良かった、と上品に笑いながらティッシュでインクを拭き取る千川さん。
「……で、何でしたっけ?」
「いえ、特に何も。仕事に入ります、マム」
「はい、今日も一日がんばりましょうね」
聖母のような笑みを返す千川さんに敬礼の真似事をし、自分のデスクへと戻った。
……。
なにあれ怖い。
「暦? どうしやがりました?」
その日のほとんどを僕の腕に掴まる市原と過ごした代償は、その後三日にわたる筋肉痛であった。
002
「僕の左腕が真っ赤に燃えるぜ」
「おはようごぜーます」
そして僕は今日も出勤する。
左腕が筋肉痛でまともに動こうとはしてくれなかった。
「おはよう、市原」
市原は猫の着ぐるみを着ていた。
「ねこさんのきもちににゃるですよ!」
「猫……か」
僕に猫と言えばあまりいい思い出はない。
原因は想像通り、羽川に取り憑いた障り猫が一種のトラウマとなっているからだ。
何せ一度目は身体を真っ二つにされたし、二回目は人類滅亡の危機の真っ只中だったからな……。
だが市原ならば問題ない。
むしろ迎合すべき事態だ。
茶トラ模様の布地も猫耳も非常によく似合っているし、今すぐにでも喉を撫でてやりたい。
待て。
落ち着くんだ阿良々木暦。
こういう時に焦っていい結果になった試しはない。
素数を数えるがごとく落ち着くんだ。
そして考えろ。
今僕が導き出せる最高の展開を。
……よし、心は決まった。
後は失敗をしないよう、細心の注意を払い行動に移すだけだ。
「……くっ」
僕は邪悪な笑みを浮かべ、慎重を持して鞄を探る。
市原は何が出てくるのか警戒しているのかじりじりと身構え、こちらを睨みつけている。
猫は警戒心が強いのだ。
だがこちらも一歩も退かない。
市原への視線を外さずに、手の先の感覚を鋭敏にし集中する。
事務所の朝とは思えない緊迫感が流れていた。
満を持して現れたのは、中から先端にもふもふのついた疑似猫じゃらしである。
ペットショップで売っているアレだ。
いつか前川と遊ぼうと鞄に忍ばせていたのだ。
「……っ!!」
市原の身体がびくん、と一瞬だけ撥ねる。
眼が大きく開かれたのも見逃さない。
「ククク……さぁ、何処まで我慢出来るかな……?」
『ねこのきもち』になっている市原からしたらたまらない一品だろう。
今にも飛びついて来そうな勢いだ。
「う……ひ、ひきょうですよ暦! そんにゃもので、そんにゃもので……仁にゃをゆうわくしようだにゃんて十ねんはやいですよ!」
「クックック……ほーれほーれ」
「あ、あああ、あああぁぁぁぁ……!」
猫じゃらしを左右に振る。
それに対してもう我慢ならないと言わんばかりに身体を震わせて表情を蕩けさせる市原。
動くものに敏感に反応する猫の動体視力にとっては追わずにいられない筈なのだ。
さあ、来るがいい市原!
来たら速攻で捕獲してその喉や尻尾の付け根や首の後ろを思う存分撫でてくれるわ!
「にゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ふがっ!?」
突如として背後から襲われた。
振り返る間もなくそのまま変な声と共に顔から地面に激突し、下敷きにされる。
下手人は前川だった。
眼を爛々と輝かせて猫じゃらしを狙っている。
「猫じゃらしにゃあー! 暦チャン遊んでー!!」
「前川ああああああぁぁぁ!!」
怒りと共に阿良々木、大地に立つ。
もろに地面とキスしたせいで鼻血が出ていたがそんなことは些末な問題だ。
「何て事を! 何て事を! お前には失望した! 今日限りでみくにゃんのファンをやめてやる!」
「なんでにゃあ!?」
「僕と市原の蜜月を邪魔しやがって! 何様だお前はあああぁぁぁ!!」
「暦チャンこそ鼻血出しながら仁奈ちゃんと遊ぶなんて変態にゃ!」
「鼻血はお前のせいだ! ウナギ風呂に入る仕事でも入れてやろうかぁ!」
「職権乱用にゃあー!!」
僕と前川が不毛な言い争いを繰り広げている横で、出勤して来た和久井さんが市原と戯れていた。
僕が取り落とした猫じゃらしを使って市原を虜にしている。
「騒がしいわね……あらかわいい。ほらほら」
「にゃー!」
「ふふ、うちの子にしちゃおうかしら」
「ごろにゃー 」
僕と前川が諍いを終える頃、市原はソファーで丸くなって眠っていたのだった。
003
「顔の傷、それは男の勲章」
「おはようごぜーます」
そして僕は今日も出勤する。
顔中に引っかき傷があるのは前川のせいだ。
「おはよう、市原」
市原はパンダの着ぐるみを着ていた。
「パンダさんのきもちになるですよ……」
熊猫。
黒と白の毛色で有名な実に可愛らしい容姿をしている。
某部屋の貴婦人が大好きなことでも有名だ。
だが中身はその名の通りの熊。
本場中国ではパンダに襲われて命の落とす人も珍しくないらしい。
「パンダの気持ちになるのはいいが、ぐだぐだだな……」
「うぅん……すぅ……」
「んが……むにゃ」
市原は遊佐と双葉の三位一体でソファーに寝ていた。
市原は夢うつつだが、 遊佐と双葉は完全に眠っている。
「はたらいたらまけです……」
「双葉みたいな台詞を言うな」
実際、動物園のパンダも笹食って寝てるだけの悠々自適生活だし、間違ってはいないのだが。
しかし、確かに幼女の寝顔は可愛かった。
ロのつくコンプレックスの人の気持ちもこれならばわかってしまう。
「……」
ごくり、と自分が生唾を飲む音で我に返った。
おっと、いけないいけない、また僕の中の悪い虫が蠢き出しそうだ。
え? 僕がこの場で眠る三人の天使にイタズラをするんじゃないかって?
馬鹿を言ってはいけない。
寝ているアイドルに手を出すなんて真似、この清廉潔白の塊とも言える阿良々木Pが行うわけないじゃないか。
大体、誰かに見付かったら仕事を首になる、程度じゃ済まない。
現代は過保護とも言えるくらい幼い子供への保護意識は強いのだ。
モンスターペアレントなんて言葉が生まれたこと自体、時代の風潮を感じるじゃないか。
うっかり手を出したらア○ネ○に射殺されてもおかしくはない。
奴らにとって、幼い子供に手を出す輩は人間扱いしなくてもいいのだ。
オーケイ? アーハン?
少し長くなるが僕の意見をここで述べさせてもらおう。
幼児性愛関連に嫌悪感を抱く方や、興味のない方は三レス分ほど飛ばして欲しい。
最近の児童対象の某法律に関しては行き過ぎだと僕は思う。
いや、先に誤解を解いておくが、何も犯罪を推奨しようという訳ではない。
小さな女の子が暴漢の手によって傷を付けられること自体は決して許されることじゃあない。
もし仮に僕に娘がいて、娘が襲われた、なんて事態になったらその犯人を絶対に殺さずにおける自信はない。
それ程に幼い子は幼いが故に尊く、護られるべき存在なのだ。
ただ、僕は言いたい。
今の現状はやり過ぎだと。
現在はその類の本やデータを持っているだけで逮捕に至ることもある。
つい先日、改正案が通ったとも聞く。
何でもジュニアアイドルの動画や写真などは所持しているだけで逮捕対象となるそうだ。
二次元はまだ許容されるそうだが、笑ってしまうのがその理由だ。
何でも二次元まで許容されるとしずかちゃんまで規制されてしまうから、というものらしい。
確かに国民的アニメが児童ポルノ法に引っかかったとなれば国としてお終いだろう。
……あれ?
ひょっとして僕、超勝ち組じゃね?
原作は一次元だし、アニメになったところで二次元が限界だ。ということは僕、やりたい 放題なんじゃないか?
いや待て、実写化するという可能性も無きにしも非ずだ。仮に僕が実写化するとしたら俳優は誰だろう。キアヌ・リーブスあたりが妥当か?
閑話休題。
ともかく、勿論というか、法律で規制されているような内容の本ならば致し方ないと思うし、人によってはそんな本自体が存在することすら許せない人もいるだろう。
次元の単位を問わず、僕もあまり理解の及ばない領域だ。
しかし、だ。
気に喰わないのは彼ら規制をする側の人間の言い分なのだ。
彼らはまるでそういう本やデータを持っている、というだけで犯罪者予備軍のように一方的に価値観を押し付ける。僕にはそれが許せない。
子供を可愛いと思うことは人間として当然の感情だ。
誰だって幼く無邪気な存在を微笑ましく思ったことくらい、一度はある筈なのだ。
「そうだよね……大きなおっぱいは素晴らしいけど、幼い子の小さなおっぱいも、あのぎこちない柔らかさと将来への期待というスパイスがあって素晴らしいよね」
「ああ、その通りだ」
幼児性愛者を擁護するような言い方になってしまうが、幼児への愛情を勘違いしてしまっている、善良極まりない人間だって必ず存在するのだ。
実際、僕だってその場その時の感情でロリもののAVや本を買ってしまったことだって、一度や二度じゃない。
まあ、世間の言うロリとアダルトコンテンツにおけるロリは狭義的に違うのだが、そこはご愛嬌ということで許してもらおう。
ともかくこの善良市民世界代表の僕でもそんな有様なのだ。
そんな父性と犯罪を無理やり結び付けようとしている規制者の言い分は、僕には到底受け入れられない。
大袈裟に例えてしまえば、規制側の言っていること は犯罪者の99.99%はパンを食べたことがあるからパンを食べたことがある人間は犯罪者だ、と言っているのに等しい。
そんな愚行とも思える規制側の有無をも言わせない強引さに、怒りとまでも言わないが、常識を蔑ろにされる理不尽を感じているのは僕だけではないだろう。
それに、人類は古典を紐解けばわかるように、女の子は基本的には若ければ若いほどいい、という歴史を繰り返してきている。
この事実自体について言及するつもりは一切ない。
価値観の違う別時代と現代を比較したところで、違ってくるのは当然だからだ。
今ほど医学が発達しておらず政情も不安定な時代柄ならば、繁殖は出来るときにしておくのが生物として正しい行動だろう。
だからその事を咎めることは現代においては誰にも出来ない。
そして生物学的に若い方が身体的側面から選ばれるのは火を見るよりも明らかだ。
現代においてだって、その人となりや環境を全く無視する、という条件下において還暦を迎えたお婆さんと若い二十歳の娘、結婚すると聞かれれば特殊な一部の人間を除いて大多数が後者を選ぶだろう。
さすがにこれは顕著すぎる例だが、要するに人類のオスが若い女の子を好む、という傾向は遺伝子レベルでのことなのだ。
それを責められるのは、それこそ創造神たる神くらいしかいないだろう。
「まあ、確かにおっぱいも若い子の方が揉み甲斐もあって反応もいいよね」
「ああ、その通りだ」
それに加え人間には動物とは違い、容姿や性格、環境や言語という複雑な要素まで絡んでくる。
それが原因で好みの対象の年齢が少し下になってしまうことだって、絶対にあるのだ。
いや、なくてはならない。
多種多様な差別化をもってあらゆる要素を含む生物として進化を遂げたのが人間だからだ。
十人が十人、百人が百人、万人が万人、違う考え、外見、言語、その他数え切れない程の個性を持っているからこそ、人類はここまで進歩することが出来たと言える。
全く同じ考えの生物が億人いたところで、文化は効率化くらいはあれど一向に先へとは進まないのと同じだ。
もっと言ってしまえば、性癖なんて個人の自由だ。
それこそ国のトップを担う素晴らしい人物の性癖が、女の子に罵倒されながら鞭で叩かれたりすることだったとして、誰がそれを責められようか?
そりゃあ、その現場の映像が国民に流布してしまったりしたら間違いなく信用問題になるであろうことは容易に予測できるが、誰にも露見せず、自分だけの趣味として持ち続けるのであれば何の問題もない。
極論を言ってしまえば、実行に移すからこそ犯罪となるのであって、自分の頭の中で完結させられるのであれば、例えどんなおぞましい性癖だろうと許されるべきなのだ。
規制側の言に乗るのであれば、家族のいる人間は全員近親相姦者か?
葬儀屋の人間は全員ネクロフィリアか?
学校の教諭は一人残らず幼児愛好者なのか?
そんなふざけた事実がある筈がないだろう。
つまりはそういうことなのだ。
そんな、昔のキリシタン狩りのように教義が違うだけで処断、なんて時代ではない。
いや待て、そういう意味では幼女は宗教と言ってもいいのかも知れない。
かつての桜田門外のように、誰かにとって都合が悪いから弾圧されているのかも知れないじゃないか。
そう考えるとあの異様なまでの弾圧も頷けるものがある。
幼女は世界をも動かすのだ。
それを危惧した幼女でない女性が、幼女に世界を支配される前に先手を打っているのではないか?
そう、子供は神や天使と形容されることがしばしばあるし、あの激プリティーな少女、八九寺だって今や神様だ。
八九寺は幼女と形容するには少々年齢が高いかも知れないが、狭義では小学生というだけで充分に幼女になり得る。
この場においては少女も童女も幼女のいちカテゴリとして考えさせていただこう。
さもすれば、この考えは結構筋が通っている気がして来た。
幼女教。
文字通り幼女を神と崇め奉る宗教だ。
戒律は以下。
?幼女に触れるべからず。
?幼女を愛でよ。
?幼女を崇めよ。
週末はミサと称して幼女のありがたいお声を聞きに教会へと赴くのだ。
「ならおっぱい教でもいいんじゃない? ほら、良く言うじゃん、おっぱいは宇宙だ! とか、神だ! とか」
「ああ、その通りだ」
それに人間というものは抑圧されればされる程に増長し、反抗に意識を染める傾向がある。
規制されれば規制される程にそれは魅力を増し、何物にも代え難い蜜となる可能性があるのだ。
麻薬や酒、煙草があれだけ身体に悪いと全人類に認識されながらも無くならないのがいい例だろう。
貧乳も規制されれば規制される程にその魅力を上乗せで増していく。
だから敢えて、僕は結論として提唱しよう。
規制は逆効果でしかない、と。
いくら規制をしたところで 、貧乳を襲う不逞の輩が一切いなくなるなんて確固たる事実を実現することは不可能だとも断言しよう。
もし仮に可能だとするのならば、それは人類が人類でなくなった時だ。
それほどまでに、人類と貧乳は切っても離せない強い絆がある。
世の中には貧乳はステータス、という言葉すら存在する。
それは暗に人類というひとつのカテゴリを枠とした場合、そのキャパシティの中で貧乳を許容していることに他ならない。
だがここまで偉そうに貧乳について論議を垂れてきた僕ではあるが、そもそも僕はおっぱいを揉んだことがない。
妹と八九寺のファーストキスを奪い、ファーストタッチまで奪った僕が言うのも何だが、妹や幽霊や忍のおっぱいなどおっぱいではない。
ただの脂肪の塊だ。
何故高校三年生の春休みに羽川の胸を触っておかなかったのかと、今でも後悔のあまり夢に見る程だ。
だから僕は貧乳を語れる資格はないとも言えるが、それでも幼い女の子のプロフェッショナルとして名を馳せた僕である。
貧乳と幼女は切っても切れない関係だ。
だが僕ももう成人し大人になった。
そろそろもう一段、幼女のマエストロとしての格を上げる頃じゃあないのか?
「そうだねー、あたしも仲間が欲しかったし……プロデューサーが上を目指すなら、あたしも協力するよ!」
「ああ、ありがとう棟方」
……ん?
「ちょっと待て、いつの間に来ていたんだ?」
「プロデューサーが三人の前でブツブツ言い始めた頃かな」
道理で途中から話題が胸方向へとすげ替えられていた訳だ。
まあいい、棟方がいようといまいと関係ない。
僕には何に代えてもやらなければいけない事があるんだ。
そういう訳で僕は産まれついての紳士スキルを十二分に発揮し、彼女たちがより快適な眠りにつけるよう、毛布をかけてあげようと近付く。
おっと、寝ている間に床擦れして跡になってしまってはいけない。
ちゃんと正しい姿勢で寝かせてあげないとな。
動かす際にちょっと変なところ、具体的には胸とかおしりを触ってしまったり、スカートだからうっかりこどもパンツが見えてしまっても不可抗力だよな。
僕は彼女たちを思いやってやっているのだから、役得だなんて不純なことは言わないけれど仕方ないよな。
「うへへ……青い果実……」
「ああっ、しまったー、手が滑ってしまいそうだー」
よだれを垂らしながら手をわきわきさせる棟方を横目に、超棒読みと共にさり気なく手を市原と遊佐の胸元へ。
と、
「……阿良々木君?」
その途中で腕を万力のような力で掴まれた。
そのまま腕を握り潰されるんじゃないかと思う程の危惧を感じる中、その手の主を確認する。
「……おはようございます、片桐さん。いい天気ですね」
「そうだね、陽気もいいし、とっても気持ちよくてみんなお昼寝しちゃうのもわかるよねえ」
ひょっとしたら温情裁きが、と少しでも期待した僕が愚かだった。
片桐さんは口調こそ朗らかだが、眼が一切笑っていない。
あれは笑顔で人を殺せる眼だ。
棟方はいつの間にかいないし。
「言い訳は……しません」
「それは男らしくてたいへん結構」
ひとつの愛を貫き通して死ぬのもまた華の散り様 、か。
傾奇者の僕には相応しい最期じゃあないか。
「もうちょっとシリアスだったら恰好良かったかも知れないんだけどね」
僕は介錯を待つ侍のように眼を閉じ、警察官仕込みの熱い拳をその身に受けるのであった。
004
「前が見えねェ」
「おはようごぜーます」
そして僕は今日も出勤する。
拳の形に顔が凹む、という不思議体験は中々のものであったことを阿良々木録に記そう。
「おはよう、市原」
市原はキリンの着ぐるみを着ていた。
「キリンさんのきもちになるですよ!」
「キリンか……しかしキリンと言うには小さいな」
キリン。
麒麟と書くと空想の霊獣と読みも同じになる為、今回は片仮名で表記しよう。
正直、キリンにはあまりいい思い出がない。
その昔、家族で動物園に行ったとき、あまりの大きさに見下され、鼻で笑われた気がするからだ。
まあ、僕の勝手な思い込みでキリンに非は一ミリたりともないのだけれど。
目の前のキリン市原も単なる着ぐるみなので、キリンの顔ぶん伸びてはいるが、劇的に伸びるということはなくやはり小さい。
「ふっふっふ……きょうは仁奈におくのてがあるでごぜーますよ」
「奥の手?」
「暦、耳をかしやがれです」
こいこいと手で僕を招き寄せる市原。
幼女に招かれてノーという阿良々木暦は戦場ヶ原ひたぎの愛した阿良々木暦ではない。
市原の傍らに寄り、膝を曲げる。
それでも僕の耳に届かずに背伸びをする市原超かわいい。超ユンピル。
「そんな手があったなんて……!」
市原の内緒話を聞き、あまりの感嘆に身を震わせる僕。
まさか、そんな形で僕と市原が両得の結果を導き出せるなんて ……!
「市原ーっ! お前は天才だーっ!」
嬉しさに思わず市原を抱き上げ、天井にぶつけないよう細心の注意を払い高い高いをする。
市原もとても楽しそうだ。
「ばんざーい! ばんざーい!」
「とってもたけーです!」
その光景を、遠くから冷めた見ている二つの影があったが、敢えて気付かない振りで市原といちゃつく。
東郷さんと橘だ。
「……何をやっているんでしょうかね、あの人たちは……」
「常時あんな感じの阿良々木君はともかく、仁奈は年相応で微笑ましいじゃないか。もしかして羨ましいのかい?」
「な……っ! そ、そんなことある訳ないでしょう!」
「ふふふ……顔が真っ赤だよ、ありす」
「あいさんっ!」
僕と市原が思う存分戯れていると、間もなく標的が近付いてくる気配がした。
忘れる筈がない。
僕は奴を越えるためにこの事務所に来たと言っても過言ではないのだ!
「おっはにょわー☆ 今日も元気にきらりん☆ぱわー炸裂! きらりだよ!」
「おは……」
相変わらず事務所の扉が壊れるんじゃないかと錯覚する程の強さで(というか、実際過去二回ほど日野が壊した)開けながら出勤してくる諸星。
その脇にはとてつもなく眠そうな双葉が抱えられている。
「来たな、諸星……!」
「きやがりましたね、きらりおねーさん……!」
「う?」
「ふああ……ねみ」
二人揃って一歩引き、構えを取る。
僕と市原の息はイスラフェル戦のシンジ君とアスカ並にぴったりだ。
諸星は急展開について行けていないのか、珍しく頭の上に疑問符を浮かべて首を傾げていた。
「ようし! 合体だ市原!」
「らじゃーでごぜーます!」
がちょーん、という効果音が鳴りそうで鳴らずに、僕と市原は合体した。
そう、僕の肩の上に市原が乗るフォーメーションだ。
巷では肩車と呼ぶ。
「フハハハハハハ! どうだ諸星! ようやく僕はお前を越えたぞ!」
「すげーです暦!」
一人の力ではどうにもならない事でも、二人ならば達成出来る。
そんな当たり前のような事を僕は何故、今の今まで忘れていたのだろうか。
それが大人になるということならば、僕はずっと子供のままでいたかった。
ちなみに越えたというのは無論、身長のことである。
「にょわー! これは負けられないゆ! 杏ちゃんいくよ!」
「ふえ……?」
「ハピハピ合体・きらりんず! が っしーん☆」
僕達に対抗しようとしたのか、諸星が双葉を肩車――。
「ふげっ!?」
しようとして、失敗した。
細密に説明すると、双葉が持ち上げられる際に勢い余って天井に頭をぶつけたのである。
結構な音がした。
「うゆ?」
「き、きらりこのやろう……覚えて……ろ……」
「杏ちゃ――――ん!!」
頭にたんこぶを作ってがくりと気を失う双葉。
何というか……ご愁傷様だ。
「せいぎはかつですよ!」
「僕達、正義だったのか……しかし市原を肩車しているだけでは諸星を見降ろせないな」
全長では勝っても諸星を見降ろさねば勝った気になれんな。
そんなこと考えている時点で大人として終わっている気がしないでもないが。
「仁奈がかたぐるましてやりましょうか?」
市原が肩車?
いや無理だろ。
「だいじょうぶでごぜーます。仁奈はこれでもちからもちでいやがりますから、おまかせですよ」
「そうか、じゃあやってみてくれよ」
うんせ、と僕の肩から降りて背後に回る。
まあ、十中八九無理だとは思うけれども、アイドルの自主性を尊重するのも大切だよな。
「うううう」
しゃがんで僕の足の間に顔を差し込み、腿あたりに両腕を巻きつけ持ち上げようと力を入れる。
ああ、火憐ちゃんに肩車してもらったのを思い出すなあ。
最悪だったなあれは。
「うううー!!」
が、まあ小学生低学年の力で成人男性の僕が持ち上がる訳もなく、市原の唸り声が響くばかりだった。
「ほら市原、無理するな」
「んんんん……てやあー!」
一挙に勝負を決めようと思ったのか、気合の叫びと共にぐっと力を入れる市原。
「――――――――」
瞬間、僕は目の前が真っ白になった。
比喩ではない。
それは刹那を永遠に、懊悩を輝きに、願いは絶望に変わる。
走馬灯のように過去の思い出がよぎる。
春休みの悪夢から始まった、僕と奇妙な隣人との物語。
正直言って、いい事の方が少なかったように思える。
証拠に、僕は人間を捨て、忍は吸血鬼を廃業するに至った。
けれど、悪いことばかりでもなかった。
羽川に出会えた。
キスショットに出会えた。
忍野に出会えた。
ひたぎに出会えた。
八九寺に出会えた。
神原に出会えた。
千石に出会えた。
忍と一緒に歩んで行けるようになった。
頭の中で、『white lies』が流れ続けている。
「ふっ……」
まあ、要するに、力を入れ過ぎて滑った市原の頭が僕のプロデュースポイントに直撃したのである。
だが僕は狼狽えない。
その程度で狼狽える僕じゃあない。
痛すぎて涙が出てきたが、顔に出したらおしまいだ。
産まれたてのトムソンガゼルのように足を震わせながら、市原の肩に手を起き諭すように正面から視線を交わす。
この時の僕の顔は、世界一優しくなれたと思う。
「市原……お前は世界一のアイドルだ」
「暦……?」
「もし僕が死んだら……命日だけでも着ぐるみを着て墓参りに……来て……」
意識が遠のく。
そう長くはなかったが、波乱万丈な人生だった。
その締め括りとして可愛い担当アイドルに終止符を打って貰えるのなら、プロデューサーとして本望じゃないか。
「暦――――っ!!」
市原の叫びを最期に、僕の物語は終焉を迎えたのだった。
005
「ごきげんよう」
「おはようごぜーます」
そして僕は今日も出勤する。
人は、誰でも優しくなれる。
「おはよう、市原」
市原は制服を着ていた。
っていうか私立直江津高校の男子制服だ。
「暦のきもちになるですよ!」
「しかも男子生徒の制服……どこで調達したんだそんなもの」
その上ご丁寧にアホ毛まで着けて。
「私が用意した!」
気付くと、市原の背後に神原がいた。
神原は大学の必要単位を取得したため、絶賛暇だった記憶がある。
「おはよう、阿良々木先輩。息災のようだな」
「帰れ」
「久々の再会を果たした後輩に対しての第一声が帰れとは、流石は私の尊敬する阿良々木先輩。一線を画しているな」
うんうんと頷きながら何やら感心しているご様子。
「なんでいきなり来たんだ? 遊びに来るなら前もって連絡しろよ」
ただでさえこの事務所は神原に対して危険なのだ。
「伊豆湖さんに頼まれたのだ、そろそろだから阿良々木先輩の下へ向かえ、とな」
何がそろそろなのかはわからんが、と首を捻る神原。
臥煙さんが、か……。
ということは市原との遊びも今日で終わりだ。
しかし何だかんだであの人も姪が気にかかるのかな。
ひょっとしてツンデレだったのか。
「しかし市原、アホ毛をつけて制服を着ただけでは僕の代わりは務まらんぞ」
身長もそうだが市原の髪の色は栗色だし、何より男と女じゃ声も違う。
まあ、市原もそういうつもりでやっているんじゃないだろうけれど。
「こんなこともあろうかと!」
「うわっ!?」
突然、謀ったかのように池袋が現れた。
相変わらず神出鬼没な奴だ。
というかこいつ、僕を実験体か何かと思っている節があるから苦手なんだよな……。
「プロデューサーの声帯を完全に模写したボイスチェンジャーだ。使うがいいぞ仁奈」
「すげーです!」
「なにそのプライバシーゼロな発明!」
「大丈夫だ、こんな私でも非核三原則だけは遵守している」
「救いになってない! 何一つ救いになってないよ!」
そうこう言っているうちに市原がボイスチェンジャーを口元に装着していた。
『あららぎこよみでごぜーます』
驚くほどに神谷氏ボイスだった。
微妙に僕の声とは違う気もするが、本人が聞いている自分の声と他人が聞く声は違うと言われている。
自分の声を録音して聞いてみると別人に聞こえるあれだ。
「無駄にハイテクを駆使してんじゃねえよ」
「なに、天才である私の手にかかればこの程度お茶の子さいさいだ」
「褒めてないからな?」
『うぇひひひ、するがおねーさん、ぼくにおっぱいをさわらせやがれです』
手をわきわきさせながら神原ににじり寄る市原。
なんだそれは、僕の物真似のつもりか?
僕がレディに胸を触らせろなんて失礼な台詞、例え吸血鬼と戦う直前で死ぬかもしれない状況だとしても言う訳ないじゃないか。
声が同じでも中身が問われるいい例だ。
「やっ、やめてくれ阿良々木先輩! 阿良々木先輩には戦場ヶ原先輩という恋人がいるじゃないか!!」
『しらねーですよ! おらっ! とっととぬぐですよ!』
「ああっ! あ……んんっ、だ 、駄目だ……! そこはパンツをしまうところじゃないぞ!」
『ぐへへ……いいからだしてんじゃねーか』
……なんか始まってるし。
見てる分には神原と市原がじゃれ合ってるだけでいいんだけど(その時点でも結構危険だが)これ、僕の知り合いに聞かれたら人生終わるな……。
そうだな、今までの展開を鑑みるとそろそろ止めておかないとひたぎや千川さんが乱入してきそうだし。
何より神原が楽しそうなのが癪だ。
僕も混ぜろよ。
「おい、その辺にしとけよ」
そろそろ僕も怒るぞ、と少々真面目に叱りつける。
二人もその僕の様子に少々思うところがあったのか、大人しく昼ドラ展開を止めた。
「大体、神原お前百合でロリだったんじゃないのか? 今の市原は僕だぞ。男、オス、Maleだ」
まあ、中身は市原だからいいのかも知れないけれど。
「大丈夫だ、最近私はショタもいけるようになった」
「お前どこまで行くつもりなんだ!?」
「おねショタとショタ受けは別物なんだ!」
「何に対して怒っているんだお前は!」
もう人類初の変態より一ランク上の称号が産まれちゃうよ!
と、気付くと背後で池袋が心底楽しそうな笑顔で笑っていた。
いや、嗤っていた、と表現するのが正しいだろう。
どちらにせよこういう顔をしている時の池袋に関わるとろくなことはない。
今まで身を以て証明済みだ。
「プロデューサー、そのボイスチェンジャーはもののついでなんだ。今日は新発明があってな」
来た。
駄目だ、このままでは尺的にオチがつく!
「ようし市原、神原、同じ原の字がつく新ヴァルハラコンビ結成を祝って今からご飯を食べに行こうぜ!」
「さすがは阿良々木先輩、太っ腹だな!」
『本当でごぜーますか暦! ぼくはうれしいですよ!』
「あっ、待て助手一号!」
池袋の魔手から逃れるため、市原を抱えて事務所を飛び出した。
神原もそれに続く。
なに、池袋は理系だから僕と神原について来られる程の体力はない筈だ。
ウサミンロボを出撃されない限りは逃げ切れるだろう。
「ふう……ここまで来れば大丈夫だろう」
しばらく走った後、手頃なカフェに入り一息つく。
市原にはオレンジジュースを、神原と僕はアイスコーヒーを。
席に座り僕が何も言わず呼吸を整えていると、神原が神妙な面持ちで話しかけてきた。
「なあ阿良々木先輩……問いたいことがあるんだが」
「ああ、わかってるよ」
神原は、何故自分がここに呼ばれたのか、その理由を知りたいのだろう。
普段の言動と行動に反して中身は意外と繊細な奴なのだ。
出会ってから五年以上経ってもいる。
神原も成長せざるを得ないだろう。
「先程自分で言ってみて気付いたのだが、太っ腹、という言葉は中々にエロいと思うのだ。どうだろう」
「相変わらずで僕は嬉しいよ!」
いや待て、確かに太っ腹という言葉はそういう目で見るとエロいかも知れないな。
『女の子の』という前提がつくことが最低条件だが。
渋谷の太っ腹。
西園寺の太っ腹。
高垣さんの太っ腹。
……うん、アリだな。大アリだ。
「それで、私がここに派遣された本当の理由は何なのだ?」
「んん……また明日来てくれよ、しばらくはこっちにいるんだろう?」
「それは構わないが――」
『暦、このケーキが食べたいでごぜーますが』
「いい加減それ外せ。自分がもう一人いるみたいで気持ち悪い」
市原の口元にくっついていたボイスチェンジャーを外し、店員を呼び出す。
さて、この悪魔の機械、どうしてくれようか。
「阿良々木先輩、それ、私にくれないか」
「お前には妹たちの次に渡しちゃいけない気がするんだが」
「失礼な、個人的に使用するだけだ」
「ボイスチェンジャーをどう個人的に使うんだよ」
「それはもう、阿良々木先輩の喘ぎ声や甘々ボイスを録音して神原家の家宝として……」
「絶対に渡さないからな」
池袋には悪いが、後で処分しよう。
やって来た店員にケーキを追加注文する。
「しかし、あれだな。こう外見だけ見ると我々は家族に見えるかも知れないぞ」
「あのな、市原は九歳だぞ」
いくつの時の子供だよ。
良くて兄弟……いや、兄弟としても離れすぎか?
「……私も、恋人が欲しくなってきたな」
どこか悟り切って市原を見るその目は、少なくともいつものぎらついた野獣のようなそれとは違ったのだった。
006
後日談というか、今回のオチ。
「除霊に近いかな。この世に未練がある動物の霊を市原の衣装に取り憑かせて、市原がその動物を真似ることで成仏させるんだ」
そういう意味では僕のコスプレは要らなかった訳だが。
と、隣で神原の膝上に抱っこされていた白坂が不安そうに聞いてくる。
「……だ、大丈夫なの、それ……何だか危なそうに聞こえる……けど」
「大丈夫だよ。悪霊ではなく 、産まれることなく生涯を終えてしまった動物霊だから」
「……そう」
白坂は少し寂しそうな眼をしていた。
白坂は、産まれ付き霊の類が見える体質、らしい。
臥煙さんの話によれば、稀にそういう人間もいるとのこと。
霊を常に身近に感じている白坂には、何か思うところがあったのかも知れない。
この一連の作業については、臥煙さんからの正式な仕事の依頼だ。
報酬はないが、僕と市原にとって実益を兼ねたものだったので引き受けた。
実益とはあらゆるコスプレ衣装を無料で作ってくれる、という点だ。
市原の今後の活動において必ず有用となるだろう。
内容は白坂に先述した通り動物の霊の除霊、だ。
本来ならば取るに足らないような小さな霊だが、塵も積もれば何とやら。
死屍累生死郎の例を取って見ても判るように、あまり集まりすぎると良くないらしいので、僕にまとめてお鉢が廻ってきた、という訳だ。
しかし市原のことまで把握していた臥煙さんは相変わらず恐ろしい人だ。
いきなり電話が掛かってきて開口一番、
『こよみん、仁奈ちゃんの色んな衣装見たくない?』
だったのだから恐れ入る。
もちろん即答した。
しない理由がない。
「ちゃんと、行けてるといいね」
「そうだな」
白坂が言うのは、恐らく死後の話だろう。
僕は死後の世界を一度覗いてはいるが、そのシステムについては良く分からない。
僕はいきなり地獄に飛ばされたが輪廻転生があるのかも知れないし、信仰する宗教によって行き先が違うのかも知れない。
だがまあ、そんなことは死んでみれば判ることだ。
今からどうこう頭を捻る問題じゃあない。
「いやあ、小梅ちゃんは小さいのに優しくてしっかりしているな」
「神原……鼻血を拭け」
神原は白坂を抱いて鼻血を出していた。
言うまでもなく変質者だ。
「おっと失礼……こんな小さくて柔らかくていい匂いのする女の子たちと毎日会えるなんて羨ましいにも程があるぞ」
鼻にティッシュを詰めながらそんなことを言う神原。
確かに市原や白坂を始め、我がプロダクションには小学生組が多数いる。
「白坂、そのお姉さんから邪気を感じたらすぐ僕に言うんだぞ」
「だ、大丈夫……神原さんはいい人だから……」
子供は皆、その純真ゆえに人の善悪が感覚でわかると聞いたことがある。
傍から見たら変態にしか見えないが神原も悪人ではない。
白坂も気にしていないようなので良しとしてやろう。
「しかし、私が呼ばれた理由が未だによく解らないままだな」
「僕にも解らないさ」
臥煙さんの心中など、僕如きに解る筈もない。
それでも敢えて、理由を考えるのだとすれば。
「接点を持ち続けておきたかったんじゃないか?」
「私と?」
猿の腕から解放された神原は怪異の専門家としては無価値だろうが、それでも臥煙さんにとっては可愛い姪、なのかも知れない。
忍野、貝木、影縫さんというビックリ人間たちを統括出来るあのひとにそんな人間らしい感情があるかどうかも怪しいところだが、まさか人間じゃないなんてことはあるまい。
あくまで僕の予想、だけれど。
「私もここに就職しようかなあ」
「やめてくれ。僕の知り合いから犯罪者が出ると分かっていて看過することは出来ない」
「おはようごぜーます」
割と本気で神原をどう説得しようか言葉を選んでいると、市原が出勤して来た。
今日は鰐の着ぐるみを着ている。
顔の上下に鰐の顎があり、円錐状の歯が何本も並んでいる。
またマニアックだな……。
「おはよう市原、今日はワニか」
「ワニさんのきもちになるですよ」
鰐はともかく、市原の次の売り出し方を考えねばなるまい。
でなければここ数日、ただ遊んだだけだ。
僕はそれでもいいけれど、千川さんが許しはしまい。
「よし決めた、私は戦場ヶ原先輩と仁奈ちゃんの三人でヴァルハラトリオとしてアイドルデビューする!」
「やめてくれ! アイドル界が崩壊する!」
文房具が武器の超毒舌アイドルと百合ロリアイドルなんて斬新すぎるよ!
個性的な我がシンデレラプロでもそんな濃ゆいキャラいないのに!
「いけっ、仁奈ちゃん! 阿良々木先輩にかみつくんだ!」
「らじゃー!」
鰐の歯は、一度噛んだ獲物を二度と離さないという強い意志の顕れの元に進化したものだ。
その鋭い先端が、僕の臀部に突き刺さる。
「痛い! おい市原、割とマジで痛いんだけど!?」
「はなしてほしければするがおねーさんのいうことをききやがれです!」
「神原、いつの間に市原を籠絡した!?」
「無論、スイーツでだ」
「ばるはらこんびはむてきですよ!」
作りものとは言え、市原謹製の着ぐるみ。
このままでは僕の尻が二つに割れてしまった、なんてお決まりのボケも出来ないほどに痛い。
「だ……だが駄目だ! お前らをアイドル界に解き放つことは出来ない!」
言ってしまえば世界一ヒヨコ決定戦に狼を連れて行くようなものだろう。
それこそひたぎと神原の二人にキャラで対抗出来そうなのは阿部さんくらいしか思い付かない。
「ならば仁奈ちゃん、やってしまえ!」
「きしゃー!」
「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!」
になショウ END
拙文失礼いたしました。
試験的に雑談のみ構成です。
OFAもコンプリート。やよい最強推し。
ありがとうございました。
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