人間の世界に興味があった。
人間の世界がどういうものか、私にはよくわからなかった。
そういった点で、私は少しだけ、他の天使とは違った。
注意
・ハッピーエンドではありません
・ほのぼの不思議系がお好きな方は微妙かもしれません
だから、人間の世界に行かせてくれと神様に頼んだのだ。
「天使として修業を積めば、時間はかかるが人間に転生できるのだぞ?」
そう諭されたけれど、私はそれを待っていられなかった。
「……実地研修という形でよければ、落とすことができるが、それでいいのか」
私は頷く。
目を覚ますと、そこは崩れた建物に囲まれた小さな広場だった。
「世界中のどこに落ちるかは、運じゃぞ」
そう、神様が言っていたのを思い出す。
直感する。
ここは戦場だ。
地響きと粉塵。
血と死体。
この上なく、不幸なポイントに落ちてしまったといっていいだろう。
人間の世界に来て、何がしたかったのか。
それは自分でもよくわからない。
ただ、自分のとは違う世界へ、他の天使たちがあまり興味を示していないことに違和感を覚えた。
こんなにも似た姿のものが、すぐ近くにいるというのに。
むしろ、似ているから興味を示さないのだろうか。
そこに生きられないことが、悔しいから。
それとも、いずれ転生する世界だから、先入観を持ちたくないのだろうか。
もし人間だった頃の記憶がある天使がいたとしたら、一体どういう感覚なんだろう。
「危ないよ、こっち」
私の手を握る誰かがいた。
まだ小さな少女。
薄汚れたワンピースに身を包む少女。
裸足の少女。
私のことを不思議そうに見ながら、しかし手を握る力はか弱くはなかった。
「兵隊さんが来るよ」
そう言って、私の手を引いて小さな廃屋に連れて行った。
今にも崩れそうな、小さな。
屋根は半分しかなかった。
壁のレンガは今にも剥がれそうだ。
「ここで静かにしていたら、兵隊さんは来ないよ」
少女はそう言って、笑った。
こんな戦場にいるとは思えない、屈託のない笑顔。
「……ありがとう」
私も、少しだけ笑った。
「あなたのお洋服、きれいね? 異人さん?」
「あっ……」
私の格好は確かに、この場には不釣り合いかもしれない。
汚れはなく、靴も履いている。
「……私、空から来たの」
「……宇宙人さん?」
「……似たようなもの、かな」
「そう!」
少女は嬉しそうに笑う。
天使だとは名乗れない決まりだ。
年の頃は私と同じくらいに見える。
「お母さんは?」
「……死んじゃった」
「お父さんは?」
「……ずっと北の方で、鉄砲を撃ってると思う」
「あなた、一人?」
「あたし、一人よ」
気の毒に。
この戦争がどれくらい続いているかわからないが、こんなちっぽけな少女が一人で生きている。
それがどれだけ辛いか、私には想像がつかない。
「せっかくなら、都会に行けばよかったのに、ね」
そう言って、けらけらと笑う。
可愛い少女だ、と私は思った。
「どこに落ちてくるかは、運だったのよ」
「じゃあ、とんでもなく運が悪かったのね」
「ええ、本当に」
都会は近いのだろうか。
それとも、遠いのだろうか。
「あなたは、都会へは行かないの?」
「……行けないし、行かないの」
どういうことだろう。
「都会はずっと遠いし、お母さんのお墓があるから」
「……そう」
「ほら、あの丘を越えたところにね、お墓があるの、杭を十字に刺してね」
お墓?
お母さんが死んだというのは、戦争とは関係がないのだろうか。
「埋めてくれた、親切な兵隊さんがいるのよ」
「その兵隊さんも、すぐに撃たれて死んじゃったけど」
戦争というものは知識として知ってはいたが、こんなにも簡単に「死」が子どもの口で語られるものだとは。
私は胸のあたりがぎゅっと痛くなった。
「ここでは、一体誰が戦争をしているの?」
「東軍と西軍よ」
「あなたのお父さんは?」
「東軍!」
「勝っているの?」
「わからないわ、でも、西軍は嫌い」
「西軍はお母さんを埋めてくれた兵隊さんを殺したの」
「あたしのお家を、壊したの」
「あたしは逃げられたけど、でも、あの赤いバッチが嫌い」
西軍は赤いエンブレムを掲げているのだろうか。
父の軍を応援するのはよくわかるが、では、ここはどちらの軍の支配下なのだろう。
「ここはまだ東軍の領地だけど、たまに西軍が襲ってくるの」
「それに、兵隊さんはピリピリしているから、あんまり姿を見せたり物音を立てたらダメなの」
なるほど。
確かに戦場で、自分以外の人間に会えば警戒するだろう。
子どもとはいえ、いきなり撃たれるかもしれない。
「ねえあなた、食料は? 水は? 寝床は?」
「宇宙人も、ご飯食べるのね」
「そうじゃなくて、あなたは、どうやって生きているの?」
「死んだ兵隊さんの持っていた缶詰があるのよ」
「この間、大きな爆撃があってね、たくさんの兵隊さんが死んだの」
「でも私はちょうど地下室に隠れていたから、平気だったの」
よく見ると、汚れたワンピースには少し血が着いているようだ。
すり傷も多い。
痛ましい。
「上に出てみたら、たくさんの人が死んでいたけれど、その代わりたくさんの物を貰ったの」
「あなたもお腹が空いているなら、一緒に地下室へ行きましょう?」
私は彼女に手を引かれ、廃屋を飛び出した。
ではまた明日
終わりです
少々後味の悪いお話になってしまいました
この天使が後に「手をつなごう」で活躍してくれます
∧__∧
( ・ω・) ありがとうございました
ハ∨/^ヽ またどこかで
ノ::[三ノ :.、 http://hamham278.blog76.fc2.com/
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ハ、___|
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