【ゆるゆり】櫻子「特別な笑顔」 (23)

櫻子「忘れ物ー!」

あかり「櫻子ちゃん? どうかした?」

櫻子「忘れ物しちゃったんだよ」

あかり「そっか、帰るときもしっかり確認しなきゃだめだよ」

櫻子「したんだけどなー」

あかり「あった?」

櫻子「うーん、ないー」

あかり「なにを忘れたの?」

櫻子「数学の宿題。あれー?」

あかり「櫻子ちゃん、今日数学の宿題出てないよ」

櫻子「えっ? でもいつもプリントくれるじゃん」

あかり「今日はプリントすり忘れたからって授業のとき言ってたよ」

櫻子「そんなこと言ってた?」

あかり「うん」

櫻子「宿題がないことを忘れてたのか。なんだよもー、もう一回家から来たのにー」

あかり「あはは、お疲れ様」

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櫻子「で、あかりちゃんはなにしてんの? ごらく部は?」

あかり「今日のごらく部はもう終わりだって。それで献立表の画鋲が外れてたの思い出したから探してるの。誰かがふんじゃったら危ないからね」

櫻子「つまり今教室のどこかに画鋲が落ちてるの!? は、早く探して動けないよ!」

あかり「その辺りは探したから大丈夫だよぉ。あ、あった」

櫻子「ふぅ、危ないところだった。きっと忍者の仕業だな。画鋲をまきびしに使ったんだ」

あかり「たぶん違うと思うよ。さてと、これを献立表に刺して、他の画鋲が抜けそうになってないか調べて」

櫻子「宿題がないとわかったらこっちのもんだよ。花子とねーちゃんが必死に宿題してる横でゲームしてやろう」

あかり「あんまり邪魔しちゃだめだよ」

櫻子「終わった? だったらあかりちゃんも一緒に帰ろうよ」

あかり「ちょっと待ってね。まだ黒板の掃除が終わってないから」

櫻子「黒板掃除してないの? まったく誰だよ掃除係は」

あかり「えっと、大室櫻子って書いてあるね」

櫻子「……」

あかり「……」

櫻子「……ごめんなさい」

あかり「気にしないで。誰でも忘れちゃうことってあるから」

櫻子「うぅ、あかりちゃんの優しさが身にしみる」

翌日

櫻子「給食だー!」

ちなつ「今日の献立はなんだっけ?」

櫻子(あ、あそこ画鋲が落ちてたとこだ)

ちなつ「うんうん、私の好きなものばっかりだわ」

櫻子(普通床なんか見ないもんね。あかりちゃんがいなかったら画鋲ふんじゃってるところだったね)

あかり「ほんとおいしそうだね」

櫻子(ちなつちゃんのこと助けたんだって言わないんだ)

向日葵「なにやってますの櫻子。あなたも給食当番でしょう」

櫻子「おっとそうだった」

櫻子(まあ本当にふんじゃってたかわからないし、ちょっとおしつけがましいか)



櫻子「今日こそほんとに忘れ物ー!」

あかり「あれ櫻子ちゃんまた忘れ物?」

櫻子「うん。そっちもまた画鋲?」

あかり「いや画鋲は昨日しっかり押し込んだから大丈夫。今日はお花さんの水換えだよ」

櫻子「あかりちゃんいつもお花の水換えしてるけどお花係だっけ?」

あかり「ううん、というかお花係はないよ」

櫻子「へーお花係なかったんだ。じゃあなんで水換えやってるの?」

あかり「なんでってお水を換えないとお花さんが枯れちゃうからだよぉ」

櫻子「先生とか誰かがやってくれるんじゃない?」

あかり「そうかもしれないけど誰もやってくれなくてお花さんが枯れちゃったら悲しいし、櫻子ちゃん達も嫌な思いするでしょ?」

櫻子「気分良くはならないよね」

あかり「だよね。だからあかりがやるの」

櫻子「なるほど……」

あかり「お花さんだって生きてるんだからちゃんとしてあげないとね」

櫻子「そうだね。うん、やっぱりあかりちゃんはカッコいい!」

あかり「えっ?」

櫻子「こうやってみんながめんどくさがること自分からやったり、困ってるときにすぐに助けてくれたりすっごいカッコいいよ!」

あかり「そ、そう?」

櫻子「私なんてもう何回助けられたかわからないもん。本当にすごい」

あかり「なんだか照れるよぉ。けどありがとね櫻子ちゃん」

櫻子「あっ……」

櫻子(今の笑顔すごい綺麗だった)

あかり「どうしたの櫻子ちゃん顔赤いよ?」

櫻子「うえ!? たぶん夕陽のせいだと思うよ!」

あかり「だったらいいんだけど風邪とかひかないようにね」

櫻子「大丈夫大丈夫、私一度も風邪ひいたことないから」

櫻子(あかりちゃんいつもにこにこしてるけどあんな笑顔もできるんだ)



翌日

櫻子「おはよー!」

向日葵「おはようございます」

あかり「おはよう櫻子ちゃん、向日葵ちゃん」

ちなつ「おはよう」

櫻子「おー今日も元気に咲いてるな! 枯れないようにしっかり育てよ」

向日葵「なにを急に花に話しかけてますの?」

櫻子「さむっ! やめろよ向日葵寒さで花が凍っちゃうだろ」

向日葵「ダジャレじゃありませんわよ!」

ゆき「二人とも今日も朝から元気ね」

めり「そういえばあの花誰が水換えてるのかな? 掃除のときにも水換えしてないよね」

櫻子(おっ……)

あかり「……」

櫻子(えっ? なんで自分だって言わないの?)

ゆき「先生がやってくれてるんじゃない?」

めり「たぶんそうだね」

櫻子(違うのに!)

向日葵「櫻子? どうしましたの?」

櫻子「うっさいおっぱい!」

向日葵「きゃあ!? いきなりなにするんですの!?」

櫻子(本当のこと教えたい。けどあかりちゃんが言わないのはなんか理由があるかもしれないし、ああもうもやもやする!)



櫻子(特に忘れ物もないけど教室に戻ってきてしまった。あかりちゃん今日もいるかな?)

あかり「えっと、これはここに。こっちはここで……」

櫻子「いた。あかりちゃん」

あかり「櫻子ちゃん。今日も忘れ物?」

櫻子「うんまあ。あかりちゃんは今日はなにしてるの?」

あかり「学級文庫の本がぐちゃぐちゃになってたから並び変えてるの」

櫻子「学級文庫の本?」

あかり「うん、わかりやすいようにジャンルを分けてあいうえお順にね」

櫻子「ねえあかりちゃん。あかりちゃんはいっつも人のために色んなことしてくれてるけど、空しくなったりしないの?」

あかり「空しくってなんで?」

櫻子「だって誰も褒めてくれないじゃん。それどころか誰もあかりちゃんがやってるって気づいてすらないし」

あかり「うーん、あかりは褒められたくてやってるわけじゃないから」

櫻子「褒められたくないの!?」

あかり「褒められたくないんじゃなくて、褒められなくてもいいの」

櫻子「なんで? 褒められたら嬉しいじゃん。私は誰も褒めてくれないならわざわざめんどくさいことやらないよ」

あかり「褒められたら嬉しいのはあかりも同じだよ。でも自分からこれやったから褒めてって言うのは違うと思うの」

櫻子「そうかなぁ?」

あかり「少なくともあかりはそう考えてるよ。それにあかりがやってることって全部あかりのためでもあるんだよ」

櫻子「あかりちゃんのため?」

あかり「画鋲はあかりがふまないように。お花は昨日も言ったけど枯れちゃったらあかりが悲しいから。学級文庫を並べてるのだってあかりが取るときに取りやすいように」

櫻子「でもみんなのためでもあるんでしょ?」

あかり「自分のためになることをやってみんなの役に立てるって素敵なことだよ」

櫻子「これが箒の心ってやつなのか」

あかり「箒?」

櫻子「向日葵のやつがいつもうるさいんだよ。あなたも仮にも生徒会役員なら箒の心を持って他人につくしをあげなさいって。意味わかんないよ」

あかり「奉仕の心を持って他人につくしなさい、じゃないの?」

櫻子「そうそうそれそれ。まったくそんなの私の勝手だろうに」

あかり「たしかに強制されてやることじゃないね。自分からやりたいと思ってやらないと」

櫻子「だよね? 向日葵のやつめあかりちゃんの爪を飲ましてやりたいよ」

あかり「爪全部はあかりも痛いよ。それを言うなら爪のあかだよ」

櫻子「でもさあかりちゃんがやってることが全部あかりちゃんのためになることならさ、私を助けてくれるのもあかりちゃんのためになるの?」

あかり「友達が困ってたら助けてあげたくなるのが当たり前だよぉ」

櫻子「さすがに私を助けるのはあかりちゃんのためにはならないか」

あかり「……そういうわけでもないけど」

櫻子「へっ?」

あかり「櫻子ちゃん言ったよねあかりがやってること誰にも気づいてもらえてないって」

あかり「でもちゃんといるんだよあかりのことに気づいてくれてる人」

櫻子「だれだれ?」

あかり「櫻子ちゃん」

櫻子「はい?」

あかり「櫻子ちゃんはあかりのやってること気づいてくれてるでしょ? 昨日も一昨日も、たぶんその前も」

櫻子「あっ」

あかり「櫻子ちゃんだけはあかりのやってること褒めてくれる、カッコいいって思ってくれてる。あかりはそれがとっても嬉しいの」

あかり「だから櫻子ちゃんのことを助けて笑顔見られたら幸せな気持ちになれるんだよぉ」

あかり「あっ、他のお友達の笑顔もだよ? だけど櫻子ちゃんのは特別。特別な友達だから特別に幸せ!」

櫻子「と、特別って……」

あかり「ありがとう櫻子ちゃん。あかりのことに気がついてくれて」

櫻子「……」

櫻子(またこの綺麗な笑顔だ)

櫻子(そっか、あかりちゃんのこの笑顔は私のための特別な笑顔なんだ)

櫻子(それってすごい、嬉しい)

櫻子「や、あかりちゃんがお礼言うことじゃないよね。私――みんなのために色々してくれてるのはあかりちゃんなんだから、むしろ私がお礼を言わなきゃ」

あかり「それでもありがとう」

櫻子「じゃ、じゃあどういたしまして」

あかり「ふふふ、今日はもうこれで終わりだから一緒に帰ろうよ」

櫻子「う、うん……」

櫻子(あれぇ? なんかドキドキするぞどうしたんだ?)

あかり「そういえば櫻子ちゃん来てからずっとあかりと話してたけど忘れ物は?」

櫻子「えっ!? いやーそのー」

櫻子(そうだった、忘れ物したって言ってここに来たんだったよ!)

あかり「今日は数学の宿題出てるからちゃんと持って帰らないとだめだよ」

櫻子「ええっとー」

あかり「櫻子ちゃん?」

櫻子(こ、こうなったら勢いでごまかそう!)

櫻子「私の忘れ物それは……あかりちゃんだー! 連れて帰っちゃうぞー!」ガバッ

あかり「ちょ、櫻子ちゃん……きゃあ!」

櫻子「うわっ!」

櫻子「いたた……」

あかり「大丈夫? 櫻子ちゃん」

櫻子「大丈夫ー、あかりちゃんの方こそ頭打ってない?」

あかり「あかりも大丈夫だよぉ」

櫻子(あかりちゃんを押し倒したみたいになってる。うぅ、なんか知らんけどドキドキが強くなったきたぞ)

櫻子(ん? これはあかりちゃんの心臓の音? こっちもすごいドキドキしてるような――)

あかり「さ、櫻子ちゃん!」

櫻子「ああごめんね今どくから」

あかり「よいしょっと。はぁ……」

櫻子「ごめんね」

あかり「ううん、いいよ。それよりも櫻子ちゃん、さっきの」

櫻子「さっきの?」

あかり「忘れ物はあかりで連れて帰るって言うのは……」

櫻子「あ、ああ! 冗談だよ冗談!」

あかり「なんだ冗談だったんだ……残念」

櫻子「えっ?」

あかり「な、なんでもないよ! さあ帰ろう!」

櫻子「あかりちゃん早いよ待ってー!」

櫻子(よーしなんとかごまかせたぞ。でもあかりちゃんめちゃくちゃ顔赤いけどほんとに大丈夫なのかな?)

翌日

あかり「おはよう櫻子ちゃん、向日葵ちゃん、ちなつちゃん」

櫻子「おっはよー!」

向日葵「おはようございます赤座さん」

ちなつ「おはようあかりちゃん本持ってきた?」

あかり「持ってきたよ。お姉ちゃんが貸してくれたんだぁ」

向日葵「私は昨日書店に買いに行きましたわ」

櫻子「本? なんの話?」

向日葵「今月は読書月間ということで朝のホームルームの後に読書時間があるから本を持ってきなさいって昨日先生がおっしゃってたでしょうが」

櫻子「えー!? 聞いてないよ!」

向日葵「一緒のクラスなんですから聞いてないわけがないでしょう!」

櫻子(あかりちゃんが学級文庫の整理してたのはこういうわけか)

ちなつ「忘れたなら学級文庫の本を読むしかないね」

櫻子「漫画置いてないかなー」

向日葵「もっと教養のある本を読みなさいよ」

櫻子「教養のある本を読むことを強要するって、向日葵お前杉浦先輩の真似してるのか?」

向日葵「変に深読みするんじゃありませんわよ!」

ちなつ「そういえば学級文庫の本が綺麗に整頓されてたね。前見たときはぐちゃぐちゃだったのに誰がやってくれたんだろう」

櫻子「……!」

向日葵「読書月間で使う人が増えますからね。先生がやってくれたのではないですか?」

ちなつ「そうかもね。先生も大変だね」

あかり「……」

櫻子(やっぱり言わないんだね。でも無理に隠すことはないんだから私が――)

櫻子(あれ、なんでだろう。教えたくない)



櫻子(朝からずっと考えてたけどなんで教えたくないのかわからない)

櫻子(褒められたくないわけじゃないって言ってたし教えったって問題はないはず。むしろ教えたほうがあかりちゃんも喜んであの笑顔をみんなに――)

――ありがとう櫻子ちゃん。

櫻子(……そっか。私は特別でいたいんだ。あかりちゃんが特別な笑顔を見せてくれる特別な相手で)

櫻子(あんな綺麗な笑顔だったらきっと誰だって一人じめしたいって思うもんね)

櫻子「ふふっ」

櫻子(あかりちゃん今日もいるかな? またあの笑顔見せてくれるかな?)

櫻子「あかりちゃーん!」

櫻子(もしいたのなら――)

あかり「櫻子ちゃん、今日もまた忘れ物?」

櫻子(私も笑おう。あかりちゃんにだけ見せる特別なとびっきりの笑顔で)

短いですけどこれで終わりです

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