千早「私が移籍、ですか?」(55)
高木「君の頑張りには大変感謝している」
高木「私としても、君の願い……歌いたいということを叶えたいと思っているが」
高木「いかんせん、ウチはアイドルプロダクションだ」
高木「分かってるとは思うが、アイドルというのは純粋に歌うだけでの仕事ではない」
高木「そんな折、ある申し出があった」
高木「分かるかね?」
高木「まぁ答えはもう言ってしまったんだが」
高木「君に引き抜きの話がきている」
高木「アイドルとしてではなく、歌手として再びデビューしてほしいと」
千早「っ……!」
高木「それも業界じゃ屈指のメジャー・レーベルからだ」
千早「……」
高木「ふむ、君ならもっと嬉しそうにすると思ったが……」
高木「なんにせよ、決めるのは千早君だ」
高木「返事は来週まで待っておこう」
高木「君の人生を決める決断だからね。しっかり考えるのだよ」
千早「はい、失礼します……」
P「社長となに話してたんだ?」
千早「プロデューサー……いえ、大したことでは」
P「そうか、とりあえずレッスン行くぞ」
千早「はい」
P「ほら! 亜美真美も今日は一緒にレッスンだろ」
亜美「は→い!」
真美「やった→! 千早お姉ちゃんと一緒だ!」
P「まったく、手が焼けるよ」
千早「……」
P「どうした千早、さっきから少し変だぞ?」
千早「私はいつも通りです」
P「そうか? ならいいんだが……」
亜美「兄ちゃん! 早く行くよ!」
真美「ほらほらー!」
P「わかったから引っ張るな!」
千早「……はぁ」
P「千早の様子が変?」
真美「そうなんだよー」
亜美「さっきのレッスンでもため息ばっかだし」
真美「いつもはしないようなミスするし」
亜美「きっと何か悩みがあるんだよ!」
P「う~ん……俺も気になってさっき聞いたんだがな…」
真美「え? そうだったの?」
P「結局、はぐらかされちまったけど」
亜美「兄ちゃんでもダメならどうすれば……」
千早「お疲れ様です」
真美「あ、千早お姉ちゃん…」
P「お、おうお疲れ」
千早「どうしたんですか? 3人揃って」
亜美「ううん、なんでもないよー?」
千早「まぁいいです、帰りましょう」
P「あ、ああ。そうだな」
真美「たっだいまー!」
小鳥「みんなお帰りなさい」
亜美「今日のお仕事終わりー!」
P「お疲れ様です」
千早「……」
小鳥「千早ちゃん、どうしたの?」
千早「いえ、別に……」
千早「あの、今日はこれで終わりですよね?」
P「そうだな、特に予定はないぞ」
千早「なら、私はこれで失礼します」
P「それなら俺が送っていくぞ?」
千早「いえ、1人になりたいので」
P「え? そ、そうか、お疲れ」
小鳥「千早ちゃん、何かあったんですか?」
P「それが、今朝からあの調子で……」
真美「んっふっふー! 事件ですな」
亜美「事件ですぞ」
真美「ここは名探偵双海真美と……」
P「はいはい、今日はもう遅いからお前達も帰れ」
亜美「ケチー!」
P「文句なら車で受付けるから、ほら行った行った」
真美「はーい」
P「千早のやつどうしたんだろうな……」
真美「兄ちゃんもやっぱり心配?」
P「そりゃあプロデューサーとして心配するのは当たり前だろ」
亜美「千早お姉ちゃんが悩みそうなことは……」
真美「胸?」
P「はは、何をいまさら」
亜美「あー! 今の発言はお姉ちゃんに報告ですな」
P「ちょっ! それは卑怯な!」
真美「この先のコンビニでアイス買ってくれたら見逃してあげてもいいよー?」
P「まったく、悪知恵ばかりつけおって」
亜美「んっふっふー! 兄ちゃんもまだまだですな」
P「ま、俺も真美が千早が悩みそうなのは胸だって言ったことを報告しないとな」
真美「うぐっ! そんな殺生なー!」
P「あはは、冗談だって」
千早「移籍か……」
千早「悪い話じゃないのに……ううん、すごいチャンスなのに」
千早「なんで戸惑ってるの」
千早「はぁ……時間はまだあるし、ゆっくり考えましょう」
千早「以前の私なら、こんなチャンスを前にして迷うなんてなかったのに」
千早「変わったわね……」
P「おはようございます」
小鳥「おはようございます、プロデューサー」
千早「……」Zzz
P「あれ? 千早、どうしたんですか?」
小鳥「それが、朝来たと思ったらソファーでうたた寝しちゃって」
P「やっぱり、悩み事でしょうか?」
小鳥「心配ですねぇ」
高木「おほん……ちょっと君、いいかな?」
P「あ、はい」
P「何のご用でしょう?」
高木「如月君についてだ」
P「千早に?」
高木「そうだ。担当である君は知っておいたほうがいいと思ってね」
P「それって、昨日から千早の様子がおかしいのと関係が?」
高木「おそらくは。実はだね、如月君に引き抜きの話がでている」
P「引き抜き!?」
高木「とある大手から、歌手としてデビューさせたいと」
P「千早はなんて返事を?」
高木「まだ返事は貰っていない。一応、来週までに結論は出してくれと言ってあるが」
P「そう、ですか」
亜美「……」
真美「……」
小鳥「こら! ダメよ、盗み聞きなんて」
亜美「どうしよう……大変だよぉ」
真美「千早お姉ちゃんが居なくなっちゃう…」
小鳥「え……? それどういうことなの?」
高木「なんにせよ、決めるのは如月君だ。彼女がどんな結論を出しても、君には受け入れて欲しい」
P「は、はい。もちろんです」
高木「うむ、では仕事に戻ってくれたまえ」
高木「それと、この件は内密にしてほしい。少なくとも、彼女の決心がつくまでは」
P「分かりました。では、失礼します」
小鳥「プロデューサーさん!」
真美「千早お姉ちゃんが居なくなるってホント!?」
亜美「亜美、そんなのやだよぉ!」
P「ま、待て落ち着け。本人も居るんだから」
千早「……」Zzz
P「……大丈夫そうだな」
P「さて……」
高木「……」
真美「ごめんなさい……」
亜美「もう盗み聞きはしません……」
小鳥「これからは聞き終わるまで待たないで、ちゃんと注意します…」
高木「ま、まぁ、知られてしまったのなら仕方ない」
高木「君たちも、いつも通り振る舞ってくれ」
亜美真美「はーい……」
高木「それと、音無君は少し残ってくれないか」
小鳥「ピヨっ!? そんなぁ~」
千早「ん……」
千早「私、寝ちゃってたんだ……」
亜美「あ、おはよう千早お姉ちゃん!」
真美「んっふっふーっ! 可愛い寝顔だったよ☆」
千早「っ!//」
P「お、起きたのか千早」
千早「ぷ、プロデューサー……わ、わ私の寝顔…///」
P「可愛かったぞ」
千早「くっ……///」
真美「可愛いって」
亜美「いいな~亜美にも言って欲しいなー」
P「ほら、コーヒーだ」
千早「……ありがとうございます」
P「あはは、そんな拗ねるなって」
千早「は、恥ずかしいんですからね」
P「それなら、夜はしっかり寝ておけよ」
千早「……」
P「……それ、飲んだら仕事に行くぞ」
千早「はい…」
P「それで、何か悩み事か?」
千早「なんでそう思うんですか?」
P「お前のプロデューサーだからな」
千早「……」
P「タクシーじゃなくて俺に運転させてるのも、話したいことがあるからじゃないか?」
千早「別に、そんなんじゃ…」
P「そっか」
千早「問い詰めたり、しないんですか?」
P「俺は、千早から言ってくれるのを待つよ」
千早「……」
P「ただいま戻りました」
小鳥「あ、お帰りなさい」
律子「お疲れ様です」
律子「社長から聞きましたよ、千早のこと」
小鳥「今日の様子はどうだったんですか?」
P「まぁ、いつも通りでしたよ」
P「今日は春香が泊まるとかで、スタジオから直で送っていきました」
律子「そうですか……1人であれこれ悩むよりはいいかもしれませんね」
小鳥「でも、春香ちゃんはこのこと知らないんじゃ…」
律子「知らなくても、できることはありますよ」
千早「いらっしゃい」
春香「えへへ、お邪魔します」
千早「上がって」
春香「ごめんね、いつもいつもお世話になっちゃって」
千早「いいのよ。どうせ1人で居てもすることがないから」
春香「そっか、ありがとう」
春香「ところで、千早ちゃんは晩ご飯べた?」
千早「いえ、私も今帰ったところだから」
春香「そう、よかった。実は今日、私がご飯作ろうと思って材料買って来たんだ」
千早「そんな、気を使わなくたって」
春香「ううん、いつものお礼がしたいだけだよ」
春香「それに……」
千早「それに……?」
春香「こ、この話は後ですることにして、すぐに作っちゃうね」
千早「なら、私も手伝うわ」
春香「うん、お願い」
千早「ごちそうさま」
春香「ごちそうさまでした」
千早「やっぱり春香の手料理って美味しいわね」
春香「えへへ、そうかな?」
千早「本当よ」
春香「な、なら私、ずっと作りに来るから」
千早「春香…?」
春香「だから……どこにも行かないで!」
千早「ちょっと、ど、どうしたの? 私そんなこと言って…」
春香「分かるよ! 千早ちゃんが最近悩んでるの」
春香「それで……よく分からないけど、千早ちゃんが遠くに行っちゃう気がして」
千早「そんな……私はどこにも…」
千早「……」
春香「っ…?」
春香「なんで…? 言ってよ! どこにも行かないって!」
千早「……ごめんなさい」
春香「うぅっ……ぐすっ…」
春香「なら…悩んでることだけでも教えて?」
春香「力になりたいから……」
千早「じ、実は、移籍の話が来ていて」
春香「移籍…」
千早「すごく大きなレーベルでからで」
千早「受ければ、私は歌手としてデビューできる」
千早「ずっと憧れてた……歌手になれるの」
春香「……」
千早「でも……」
春香「千早ちゃん、私、どうすればいいの?」
千早「え?」
春香「千早ちゃんが歌うのが好きなのは、誰よりも知ってる」
春香「千早ちゃんにとってチャンスなのも分かる」
春香「応援しなきゃいけないのに……応援したくない気持ちもあって」
千早「ごめんなさい。春香が私のことをこんなに考えてくれてるなんて」
千早「自分でもまだ迷ってるの……この話を受けるかどうか」
春香「ごめんね。力になるなんて言ったけど……私、なんて言えばいいのか」
千早「いいのよ。これは私が決めなくちゃいけないことだから」
千早「だから、だから春香には、私がどんな決断をしても笑って受け止めて欲しいの」
春香「うん……うん」
千早「さあ、もうお風呂に入って寝てしまいましょう」
春香「うん……千早ちゃん、今日は一緒のお布団で寝てもいい?」
千早「えっ? ……今日だけね」
春香「えへへ、ありがと//」
千早「おはようございます」
真「おはよう! えっと、喉渇いてないか?」
千早「え……特には」
真「そ、そっか」
貴音「千早、今度、共に二十朗へ行きましょう」
千早「え、ええ」
貴音「約束ですよ」
響「ど、どこか凝ってるとこないか?」
響「自分、マッサージ得意だぞ!」
千早「いえ、大丈夫よ。ありがとう」
雪歩「あ、あの、お茶ですぅ」
千早「あ、ありがとう」
千早「えっと、これは……」
律子「誰だぁ漏らしたのは」
真美「真美達じゃないよ!」
亜美「そうだそうだ!」
小鳥「♪~」
律子「小鳥さん!」
小鳥「ピヨッ!?」
千早「……」
P「いやぁ、ははは」
千早「仕事に行きましょう、プロデューサー」
P「あっ! ちょっと待ってって」
千早「はぁ……もうみんな知ってるんですね?」
P「な、何のことかな?」
千早「もういいですよ。最近おかしいと思ってたんです」
P「……」
千早「みんなあんな調子で気に掛けてくるんですから」
P「まぁ、なんだ、みんなそれだけ千早が好きなんだよ」
千早「……プロデューサーも知っていたんですよね?」
P「はい……」
千早「なら、なんで今まで知らない振りなんか」
P「それは、言っただろ。千早から言ってくれるのを待つって」
千早「……」
千早「なら、相談です」
千早「私はどうすればいいですか?」
P「それは千早が決めることだ」
千早「私だって散々悩みました」
千早「でも……結論が出ないんです」
P「千早がやりたいことってなんだ?」
千早「歌うこと……そして、私の歌を多くの人に聴いて欲しい」
P「そのためにはアイドルと歌手、どっちがいいと思う?」
千早「それは、歌に専念できる方が」
P「なら、結論なんて……」
千早「そんなこと、何十回と考えました!」
千早「考えてるうちに……自分のしたいことが分からなくなって…」
P「でも今はすんなりと…」
千早「理屈じゃないんです……」
千早「移籍しようと思っても、後悔するんじゃないかって」
千早「でも、この機会を逃したら、アイドルを引退した後じゃこんないい話は来ないかもって」
千早「そう思ったら、考えが前に進まなくなって……」
P「……」
千早「それに、プロデューサーも約束してくれたじゃないですか」
千早「私を頂点に連れて行くって」
千早「……まだ、連れてって貰ってないですよ?」
P「……」
P「俺がプロデューサーとして言えるのは」
P「千早が歌だけで成功してみせたいなら、歌手になるのが一番だと思う」
千早「……」
P「千早がどんな決断をしても、俺はそれを受け入れたい」
P「それに、千早なら実力もあるし、魅力もある」
P「歌手としても十分、通用すると……」
千早「それが本心ですか?」
P「だからプロデューサーとして……」
千早「私は、あなたの本当の気持ちが聞きたいんです!」
P「それは……」
P「……移籍なんて、して欲しいわけないだろ」
千早「……そう、ですか」
千早「決めました。この話は断ります」
P「お、おい、だからこういうことは自分の意思でだな…」
千早「私の意思ですよ」
千早「私も、プロデューサーと一緒に頂点に行きたい」
P「千早……」
P「……俺が連れて行けるのは、アイドルの頂点だぞ?」
P「歌手じゃない」
千早「知ってます」
千早「アイドルでも歌はできますし」
千早「何より、プロデューサーとならその頂点も目指せますから」
千早「……いえ、プロデューサーとじゃないとダメなんだって」
千早「なんでもっと早く気づかなかったんでしょうね」
P「……千早」
千早「というわけで、これからもよろしくお願いします。プロデューサー」
P「ああ、よろしく。千早」
おわり
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