城一郎『やれやれ、この前は肝心なところで電話切っちまって……』
創真「あぁ、悪ぃ。で、料理が上達する秘訣って何だ?」
城一郎『それはな……自分の料理の全てを捧げたいと思えるような、そんな女と出会うことだぜ』
創真「はぁ? 何だそりゃ?」
城一郎『ははは、その年じゃまだピンと来ねぇか。ま、そのうちわかる日が来るさ』
創真「とか親父が言ってたけど……一体どういう意味だ?」
創真「ようは恋人ができれば、上達するってことだよな」
創真「つっても彼女なんていないし、よくわかんねー……誰かに聞いてみるか」
創真「俺のまわりで、一番相談相手になりそうな人っていうと……やっぱ一色先輩かな。料理も上手いし」
一色「やぁ幸平くん、話って何だい?」
創真「実は俺の親父が、こんなことを言ってたんすけど……」
・
・
・
・
一色「ふんふん、なるほどね」
創真「正直俺には、恋人ができれば料理が上達するってのが、よくわからないんすけど……」
一色「愛する人を喜ばせたいと思えば、その分だけ美味しい料理が作れるようになっていく……ってことかな?」
創真「そんなもんっすかね……」
一色「幸平くんは、恋人とかいないのかい?」
創真「今のところは。一色先輩はどうなんすか?」
一色「決まっているだろう。僕にとっては、極星寮のみんなが恋人さ!」
創真「あ、はい……そーっすね……」
一色「まぁ、実際に恋人がいる人に聞いてみたら、何かわかるかもしれないね」
創真「極星寮で、誰か恋人いる人は?」
一色「いるかもね、残念ながら僕は知らないけど」
創真「ふぅん……」
一色「伊武崎くんとか、丸井くんとか、色々聞いてみると得られるものがあるかもよ」
創真「じゃあ、そうしてみるっす。ありがとうございました」
恵「あれ、創真くんに一色先輩。何を話してるんですか?」
創真「お、田所。ちょうどいい、ちょっと聞きたいことがあるんだが」
恵「何?」
創真「田所って、彼氏とかいるのか?」
恵「ふええええええええええっ!?」
一色(まさか女子にも堂々と聞くとは思わなかったよ……)
恵(え、え!? 彼氏って、何でそんなことを急に!?)
恵(そ、創真くん、私に彼氏がいるのか気になるってことだよね!? それって、もしかして……)
恵(いやいや! そりゃ創真くんのことは好きだけど、そういうんじゃないし、まだ早いし……)
恵(って何考えてるの私! 早いって何が早いの! あ、そういえば創真くんには一度裸見られて……)
恵(な、何で今そんなことを思い出すのおおおおおおおお!)
恵(えっと、えっと!)
恵「ふ……ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」
創真「一色先輩。田所、何言ってんすか?」
一色「幸平くん、ちゃんと説明した方がいいと思うよ……」
恵「……な、何だぁ、そういうことか……」
恵「うん、やっぱり好きな人がいたら、その人のために美味しい料理を作りたいって気持ちになると思うよ」
創真「田所もそうしたら、もう少しいい成績取れるかもしれねぇのにな」
恵「しくしく……」
創真「ま、今日は遅いし明日また色々な人に聞いてみるか」
一色「幸平くん、くれぐれも聞く相手は選ぶようにね」
創真「わかってるっす。さすがに知らない人には聞けないし、知り合いにだけ聞きますよ」
一色(本当にわかっているのかな……)
創真「ちわーっす」
小西「お、幸平じゃねえか。どうした、まさか丼研に入ってくれるのか?」
創真「いや、今日はちょっと小西先輩に聞きたいことがあって」
小西「聞きたいこと?」
創真「はい。小西先輩って、彼女とかいるんすか?」
小西「」グサッ
創真「先輩?」
小西「ふ、ふふふ……何を隠そう、俺の恋愛戦績は0勝12敗だぜ……」
創真「あ……す、すんません……」
小西「いや、いいんだ。いつか俺のことを好きになってくれる子が……と、最初に言ってから何年経ったかな……」
小西「誰かいねぇかな、そういうスタイル抜群の子が……」
創真(モテないわりに贅沢言うんだな……)
創真「いやー、悪いことしちまったな……」
創真「ん……あそこにいるのは、肉魅じゃん」
創真「ちょうどいい、肉魅にも聞いておくか」
創真「おーい、肉魅」
郁魅「肉魅って呼ぶな……って、幸平!?」ササッ
創真「おう、ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいか?」
郁魅「な、何だよ……」
創真「肉魅って、彼氏とかいるのか?」
郁魅「」
郁魅(か、か、か、彼氏って……な、何でそんなこと!?)
郁魅(私に彼氏がいるかどうか、幸平が気にするって……これって、まさかまさか……)
郁魅「い……いないけど……」
創真「なんだ、そうなのか」
郁魅「あ、あぁ……まぁ、募集中ってとこだな……」チラッ
創真「へー……ん? 募集中……?」ピーン
創真「なぁ、もしお前と付き合いたいって男がいたらどうする?」
郁魅(き、来たっ!)
郁魅「そ、そうだな……まぁ、考えてやっても……」
創真「そうか、よかった! ちょっと来てくれ!」
小西「…………」
創真「こちら、丼研部長の小西先輩。スタイルいい子がタイプらしく、彼女募集中」
郁魅「…………」
創真「こちら、肉魅。彼氏募集中」
小西「お、おい、幸平……やばいって……」
創真「あとは仲良くな! それじゃ、お邪魔虫は退散するとしますかね」
郁魅「……幸平……」
創真「ん? 何だ?」
郁魅「……ばっきゃろおおおおおおおおおおおお!」バキッ
創真「痛ぇ!」
小西(肉魅……哀れなヤツ……)
タクミ「恋人だと? そんなもの、興味もない」
イサミ「あれ? 兄ちゃん確かイタリアにいた時、一度告ってフラれ……」
タクミ「言うなあああああああああああああああ!」
榊「あら、幸平くんも恋愛に興味あるんだ?」
吉野「よーし、今夜はみんなで丸井の部屋でコイバナすっかー!」
丸井「だからいちいち、僕の部屋に集まらないでくれよ!」
日向子『はい、霧のやです……あら、幸平くん。お久しぶりですね』
日向子『今日はどういった要件で……えぇ、恋人!?』
日向子『うぅ……実は最近、お父さんとお母さんが、そろそろいい人見つけろってうるさくて……』
恵「で……どんな感じなの?」
創真「いやー、それがサッパリ」
一色「遠月は生き残るだけでも大変だから、みんなそっちに必死で余裕ないのかもね」
創真「誰か一人くらいは、モテる奴がいるかと思ったんだけどなぁ」
一色「……まぁ、確実に超モテモテの人は一人知ってるけどね。あまりにモテすぎて逆に敬遠されるくらいの」
創真「え、そんな人いるんすか!?」
一色「うん、君もよく知ってる人だよ」
恵「……あっ」
創真「むむむ……俺の知り合いでまだ聞いてない人っつーと……ま、まさかふみ緒さんとか!?」
一色「本気でわからないんだね……」
恵「えっと、薙切さん……ですよね」
一色「正解。彼女、男子からの人気凄いよ」
創真「薙切が? いやいやいや、あいつだけはないっしょ。やたら喧嘩売ってくるし、性格悪すぎだろ」
恵「それは多分、創真くんに対してだけだと思うよ……」
一色「何と言っても、彼女は美人だからね。幸平くんはそう思わないかな?」
創真「そうっすか? よくわかんねーけど、やっぱあいつがモテるとは思えないけどなぁ」
恵「そ、そうなんだ……」
創真「……何で田所、ホッとしてるんだ?」
恵「え!? い、いやいや、別にホッとなんかしてないよ!」
一色「ただ、彼女に聞くのはお勧めしないよ。どんな目に遭うか」
創真「よっし、明日は薙切に聞いてみるか!」
一色「幸平くん……本気かい……」
翌日
秘書子「えりな様、紅茶が入りました」
えりな「あら、ありがとう」
えりな「……うん、いい味ね。美味しいわ」
秘書子「お、お褒めいただき光栄です!」
えりな「こうやってお茶を飲みながら、ゆっくり過ごすお昼休みはいつでも良いものね」
秘書子「そうですね、えりな様」
ガラガラガラ
創真「おーい薙切! ちょっと聞きたいことがあるんだが」
えりな「ブーーーーーーーッ!」
秘書子「ゆ、幸平創真ぁ! ノックくらいせんか!」
創真「あ、それもそうだな。すまんすまん」
えりな「げほげほっ! ゆ、幸平君……私の麗しいお昼休みに何の用かしら……」
創真「おう、ちょっと聞きたいことがあってな」
えりな「……何よ」
創真「薙切って、彼氏いるの?」
えりな「」
秘書子「き、貴様ぁ! 無礼にもほどがあるぞ!」
創真「えー、いいじゃんかよ。そんくらい」
えりな「ど、どういうつもり……?」ピキピキ
創真「それが、恋人いる奴は料理が上手くなるって話を聞いてさ。薙切はどうなのかなーって」
えりな「……あなたに答える義務はありません、以上」
創真「何だ、いないのか」
えりな「……だとしたら?」
創真「いやー、やっぱりモテないんだなって思ってさ」
えりな「」ブチッ
えりな「出てけーーーーーーーーーーー!」
恵「そ、創真くん……」
一色「やぁ。本当に聞いたんだね」
創真「あ、田所に一色先輩。いたんだ」
恵「気になって……部屋の外で、ずっと聞いてたんだ」
一色「で、やっぱり怒られたみたいだね」
創真「はい。そんな気に障ること、言ったつもりはなかったんすけど」
恵「創真くん……その無神経さ、もはや尊敬すら覚えるよ……」
その夜
榊「え、薙切さんにそんなこと言ったの!?」
吉野「うへー、さすが幸平……」
創真「何か知らねーけどブチ切れてたな、あいつ」
一色「うーん……僕も外で聞いてたけど、ちょっと驚いたね」
恵「私も創真くんのデリカシーのなさには、びっくりだよ……」
一色「それもあるけど、それ以上に驚いたのは薙切くんの方さ」
創真「どういうことっすか?」
一色「同じ十傑同士、彼女のことはよく知ってるけどね。いつもクールで、落ち着いた子なんだ」
一色「あんな風に感情をあらわにしているところなんて、初めて見たよ」
吉野「ほほー、てことは幸平は、氷の女王に感情を芽生えさせる王子様ってとこですかな?」ニヤニヤ
創真「なんだそりゃ」
伊武崎「……ツンデレってやつ?」
一色「案外、脈がないわけじゃないのかもしれないね」
榊「ふふふ……思わぬライバルが出現したかもね、恵?」
恵「な、何のこと!?」
丸井「ところでみんな、僕はもう寝たいんだが帰ってくれないか……?」
数日後
ザワザワ
えりな「…………」
秘書子「…………」
「えりな様……なぜあんな男に……」
「こんなの、何かの間違いだ……」
「そういえば、あの編入生の試験を担当したのは、えりな様らしいぞ」
「ま、まさかその時、奴の料理に心惹かれて……」
「もう駄目だぁ……この世には神も仏もいなかったんだぁ……」
えりな「ねぇ、ちょっといいかしら」
秘書子「は、はい……」
えりな「何だかここ最近、みんなの私を見る目が変わってる気がするのよね。特に男子」
秘書子「…………」
えりな「何か、心当たりはない?」
秘書子「そ、その……非常に申し上げにくいのですが……」
えりな「構わないわ」
秘書子「実は……ある噂が学園中に流れてまして」
えりな「噂?」
秘書子「はい。えりな様が、その……幸平創真に、惚れているという……」
えりな「…………」
えりな「は?」
えりな「ど、どういうこと!? 何で私が、よりによって幸平創真に!?」
秘書子「何でも、何十人という告白してきた相手も含め、今まで男子なんて誰も彼も全く相手にしませんでしたよね」
秘書子「だけど、幸平創真にだけは感情を表に出す……ということから、憶測が憶測を呼んで……」
えりな「な、何よそれ! 誰なの、そんなくだらない噂の発信源は!」
秘書子「そ、そこまでは……ここまで広まってしまうと、もう……」
吉野「へっくち」
えりな(くっ……思えば確かに、幸平創真には他の男子とは違う接し方をしていた……)
えりな(でもそれは、彼のことが大嫌いだからで、決してそういう意味じゃなかったのに……)
えりな「こ、こんなの恥だわ、恥! 何とかしなさい!」
秘書子「も、もう手遅れですよぉ~。でも、人の噂も七十五日と言いますし……」
えりな「七十五日も耐えられるわけないでしょ!」
秘書子「ですよね……あの噂は嘘だと、えりな様自身が言いふらすくらいしか……」
えりな「いや、それはむしろ逆効果になる気がするわ……」
秘書子「やっぱり、一度広まった噂は自然の沈静を待つしか……」
えりな「ぐぬぬ……」
えりな「……いや、ちょっと待ちなさい。いい手があるわ」
秘書子「え?」
吉野「あ、恵に幸平じゃん」
榊「校内で会うなんて、珍しいわね」
創真「お、吉野に榊」
吉野「今日も恵は、幸平におんぶにだっこかー?」
恵「うぅ……恥ずかしながら、いつも創真くんには頼りっ放しで……」
創真「そんなことねーって。田所には、俺の方こそ結構助けられてるぜ」
榊「頑張ってね、恵。何せ、あのパーフェクトお嬢様が相手だもんね」
恵「や、やっぱりあの噂って事実なの……?」
吉野「そりゃそうなんじゃない?」
創真「噂? 何のことだ?」
吉野「え、幸平はまだ知らないの?」
創真「多分な」
吉野「ふっふっふ……朗報です。何を隠そう、あの薙切えりなが……」
秘書子「幸平創真、ちょっといい?」
創真「あん? お前は確か……」
秘書子「えりな様がお呼びだ。今すぐ来い」
創真「薙切が?」
吉野「おぉ!? こ、これはついに……」ワクワク
榊「あらあら……ん、恵?」
恵(うぅ……薙切さんが相手じゃ、勝ち目なんかないよ……)ズーン
榊(ファイトっ!)
ガチャ
秘書子「えりな様、お呼びしました」
創真「失礼しまっす」
えりな「ありがとう。さて、幸平君。あなたに話があるわ」
創真「話?」
えりな「えぇ。実はあなたに、食戟を申し込もうと思ってね」
創真「食戟を!?」
えりな「あなたが勝ったら、遠月十傑の座をあげるわ」
創真「へぇ……面白ぇじゃん、いつか俺の方から申し込むつもりだったけどな」
えりな「そして私が勝ったら……」
創真「…………」
えりな「来週の朝礼で……そ、その……」
創真「…………」
えりな「その……全校生徒の前で……」
創真「何だよ」
えりな「全校生徒の前で、私に……その……あ、愛の告白をしなさい!」
創真「」
えりな「わかった!? まさか逃げはしないわよね!」
創真「ど、どういうつもりだ……お前……」ドンビキ
えりな「受けるの! 受けないの!」
創真「ま、まぁ俺は挑戦されたら逃げないが……」
えりな「その言葉、承諾したと受け取ったわ! あと、この食戟は極秘よ、他言無用! いいわね!」
創真「お、おぅ……」
秘書子「えりな様、うまくいきましたね」
えりな「えぇ。これであとは食戟で勝てば、幸平創真は全校生徒の前で私に告白する」
秘書子「そこをこっぴどく振る……と」
えりな「幸平創真は『噂を聞いて調子に乗り、大失敗した惨めな男』と全校生徒に知れ渡る」
えりな「噂は消滅すると同時に、幸平創真の校内での立場も全くなくなる……ふふ、きっと自主退学するわね」
秘書子「完璧な作戦です、えりな様!」
えりな「ふふふ、あなたの哀れな姿を想像すると胸が躍るわ、幸平創真!」
数日後
司会「それでは食戟を開催します! なお、この食戟は極秘とのことで無観客試合になります!」
司会「そして判定員は、わざわざいらしてくれた卒業生のお三方!」
堂島「面白そうなカードだったので」
四宮「暇だったので」
日向子「薙切さんは可愛いって聞いたので」
えりな「幸平君、わかってるわね。あなたが負けたら……」
創真「告ればいいんだろ? でも一体、何の意味が……まぁいっか」
司会「勝者、幸平創真!」
えりな「そ、そんな……私の料理がなぜ……」
堂島「薙切くんの料理も、本来ならば幸平くんのものに勝るとも劣らぬほど、素晴らしいものだっただろう」
四宮「あぁ。だが、君の料理から伝わってきたものは、相手を叩きのめしたいという欲望だった」
日向子「幸平くんの料理からは、美味しく食べていただこうという愛情が伝わってきました~」
堂島「その差が勝敗を分けることになったな」
えりな「くっ……」
秘書子「え、えりな様……」
司会(何だかただの精神論な気がするけど……)
えりな「こ、こんな男に十傑の座を奪われるなんて……」
司会「それでは、遠月十傑第10位は、ただいまをもちまして幸平創真君に……」
創真「あー……いや、いいよ」
えりな「……え?」
創真「そのかわりに、一つお願いしていいか?」
えりな「……何よ」
創真「この料理、今度俺に食べさせてくれよ」
創真「少し見てたけど、お前の料理の腕、やっぱすげーって思ったよ。もしかしたら、俺以上かもしれねぇ」
創真「だからこそ、美味しく食べてもらいたいって作ったものを、食べてみたいんだ。今日の薙切は、鬼気迫りすぎてたし」
創真「十傑の座が全く惜しくないってわけじゃねーけど、やっぱり本気のお前を倒して手に入れるもんだしな」
えりな「…………」
創真「な?」
えりな「……し、仕方ないわね、負けたのは私だし……」
えりな「いい、食戟の約束だから仕方なく作るのよ! 他意はないわ、勘違いしないでよね!」
創真「おう!」
堂島「ふむ、これも青春だな」
四宮「ん……どうしたんだ?」
日向子「私より……私より、ずっと年下なのに……」ズーン
後日
創真「うん、美味ぇな! さすが薙切だな!」
秘書子「当然だ、えりな様が愛情を込めて作った料理だ、よく味わえ」
えりな「そうそう……って、愛情なんか入ってないわよ!」
創真「ふぅ、ごちそうさま。食戟でこれ出されたら、負けていたかもな」
えりな「いいこと、好きで作ったわけじゃないわ! 仕方なくなんだからね!」
創真「ははは、そうは思えなかったけどな。ま、そういうことにしておくか」
えりな「
まったく……本当に迷惑な男だわ」
秘書子「えりな様……本当に彼のこと、何とも思ってないんですか?」
えりな「ど、どういう意味!?」
秘書子「……えりな様は、この世代ではダントツの腕で、誰も追随を許さない存在でした」
秘書子「自分と張り合える幸平創真の存在が……迷惑ながらも、嬉しく思う気持ちも少しはあったのでは?」
えりな「…………」
秘書子「はっ!? す、すいません、生意気な口を!」
えりな「いえ、いいわ。でも、やっぱり幸平創真は腹立たしい存在でしかないからね!」
秘書子「そ、そうですよね……あれ、窓の外に見えるの……幸平創真では?」
えりな「え?」
創真「ほら、俺の新作料理、炙りゲソのピーナッツバター和えだ。喰ってみ喰ってみ」
恵「ま、まず、匂いの時点でやばそうなんだけど……」
えりな「……隣にいる、冴えない女は誰?」
秘書子「確か、田所恵とかいう……授業でペアを組んでいる、劣等生です」
えりな「へぇ……二流同士、お似合いってところかしらね。ふふっ」
創真「どうだ、うまいか?」
恵「ま、不味いよ~!」
創真「遠慮するな、喰え喰え」
恵「やめてー!」
秘書子「仲、良さそうですね」
えりな「…………」
えりな(……何だか、イライラするわね……)
えりな「……男子って、ああいう子が好みなのかしら?」
秘書子「え?」
えりな「容姿も、スタイルも、料理の腕も……全部私が圧勝だと思うんだけど……」ブツブツ
秘書子「あの、えりな様……?」
えりな「はっ!? な、何でもないわ! 全く、いつ見ても不愉快ね、幸平創真の顔は!」
秘書子「は、はぁ……」
一色「変な匂いがすると思ったら……幸平くん、君かい」
恵「あ、一色先輩」
創真「先輩も、お一つどうっすか?」
一色「遠慮しておくよ……ところで、お父さんの言っていたこと、結局わかったのかい?」
創真「いやー、サッパリっすわ。やっぱり俺には、まだ早いみたいっす」
創真「そもそも、俺を好きになる女の子なんて、そうそういないと思いますしね」
一色「いや、そうでもないと思うよ。ね、田所ちゃん?」
恵「ふえぇ!?」
創真「まぁ、今まで通り自然体で行きますよ、俺は」
一色「それがいいかもね。幸平くんがどこまで行くのか、僕も楽しみさ」
創真「見ててくださいよ。俺はこの遠月の、頂点まで行くつもりっすから」
創真「だから、その時までよろしくな、田所」
恵「……! う、うん、私も頑張るから!」
一色(幸平くん……君は本当に見ていて飽きないよ。この遠月で、どこまで駆け上がっていくのか)
一色(そして、その時……彼の隣には誰がいるのかもね。田所ちゃんか、薙切くんか、はたまた他の誰かか……)
一色(頑張れ、少年少女たち!)
御粗末!
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