こいし「新しいペット連れてきたの?」さとり「ええ」 (79)

~地霊殿~

こいし「お姉ちゃん久しぶり~」

さとり「あら、こいし。またしばらく姿を見せなかったじゃないどこに行ってたの?」

こいし「えへへ、ちょっと色々あってね」

さとり「またしょうもないことをしてきたんじゃないでしょうね」

こいし「あれ?お空とお燐は?」

さとり「今日は灼熱地獄跡の管理で一日働いてるわよ」

こいし「へぇー、そうなんだ。大変だね」

こいし「なんか喉かわいちゃった。とりあえず紅茶が飲みたいなぁ」

さとり「はいはい、今用意するわね」


……

こいし「うん、久々のお姉ちゃんの淹れた紅茶飲んだけど、やっぱりおいしいなぁ」

さとり「褒めるくらいならたまには帰ってきなさいよ」

こいし「あ、お姉ちゃんも飲んで。今日は一緒にくつろぎたい気分なんだ」

さとり「じゃあお菓子も用意するわね」

こいし「じゃあ久々だし、乾杯しよう!」

さとり「ティーカップで乾杯っていうのもなんか変な感じね……」

こいし「細かいことはいいの。ほらかんぱーい!」

さとり「かんぱーい」

こいし「お空とお燐も一緒がよかったな……」

さとり「そうそう、最近新しいペットが増えたのよ。一匹だけだけどね」

こいし「ほんと?」

さとり「ここに迷い込んできたのはほんとに最近なんだけどね。こいしとも仲良くできると思うわ」

こいし「わぁー楽しみ!早く会いたいな♪」

さとり「でもまだここの暮らしにも慣れていないから、今は部屋でおとなしくさせてるわ」

こいし「そうなんだ」

さとり「早くここの暮らしに慣れさせたいのだけれど……そうだわ!こいし、一緒にその子と遊んでくれないかしら?」

こいし「いいよ!一匹のペットを一から面倒見るなんて久しぶりだもん!楽しみ♪」

さとり「ありがとう」

こいし「じゃあ私着替えてくるから」

さとり「ええ。待ってるわ」

こいし「おまたせー」

さとり「おかえりなさい。じゃあさっそく部屋にいくわよ」

……

さとり「この部屋よ」

こいし「どんな子かなぁ?」

さとり「入っていいわよ」

ギィー・・・

さとり「ほら、怯えないで。私よ」

こいし「はじめまして!」

???「……」

さとり「こちらは私の妹のこいしよ」

こいし「はじめまして!あなた、お名前は?」

???「……」

さとり「ほら、怖がらないの」

???「……」

こいし「初対面だもん、それは戸惑うよね」

さとり「この子、>>15っていう名前らしいの」

YuugenMagan

さとり「この子、YuugenMaganっていう名前らしいの」

こいし「へぇー、面白い名前だね」

さとり「この子、無口みたいであまり喋ってくれないのよ。姿も曖昧だし」

こいし「でも眼が五つもついててなんかかっこいいね♪お姉ちゃんもうらやましいでしょ?」

さとり「眼はそんなに必要ないわよ」

YuugenMagan「……」

こいし「ほら、お手!」

さとり「いくら姿があいまいとはいえ、どう見てもこの子は犬じゃないでしょ」

こいし「えー?意外と姿をいろいろ変えてくれるかもしれないよ?」

さとり「貴女ね……」

こいし「ほら、お手!」

YuugenMagan「……」

こいし「つまんないのー」

さとり「こんな妹だけどね、怖がらないでいいから。あなたはもうこの地霊殿の一員なのよ」

YuugenMagan「……」

こいし「なんか余計怯えてるように思うけど……」

さとり「……地霊殿の主である私の言うことくらいは聞いてほしいわね」

こいし「お姉ちゃん……?」

さとり「いい?あなたは一応ここに住まわせてもらっている身だということを忘れてはいけないのよ」

こいし「お姉ちゃん、流石に言いすぎだよ」

さとり「こいし、ペットを手懐けるにはね、ときどき鞭を打ってあげるのも必要なことなのよ」

こいし「でも……」

YuugenMagan「……」

さとり「主の言うことには絶対服従よ。ほら、わかったらすぐに意思表示なさい」

YuugenMagan「……」

こいし「今人影が頷いたような……」

さとり「そう、わかればいいのよ」

こいし「じゃあ、お手!」

YuugenMagan「……」スッ

こいし「いい子!じゃあお座り!」

YuugenMagan「……」スッ

こいし「えらいえらい!」

さとり「だいぶ懐いてきたようね。こいし、このこともう少し遊んであげてね。私も付き合うから」

こいし「はーい♪」

こいし「ねぇ、お姉ちゃん。この子を外に連れ出してもいい?」

さとり「いいわよ。もしかしたら知り合いが見つかるかもしれないわね」

こいし「YuugenMaganちゃんも行きたいよね?」

YuugenMagan「……」コクリ

こいし「ほら、人影も頷いてるみたいだし連れて行こうよ!」

さとり「ええ。行きましょうか」

~旧都~

こいし「こんにちはー!」

さとり「お邪魔します」

勇儀「おっ、久しぶりだねぇ」

萃香「客かぁ?」

こいし「久々に地底に帰ってきたから寄ろうと思ってね。新しいペットの紹介もしたいし」

勇儀「ペットってそいつのことか?」

YuugenMagan「……」

こいし「YuugenMaganちゃんっていうんだよ。ほら、ご挨拶して」

YuugenMagan「……」コクリ

萃香「随分珍妙な姿をしてるねぇ。実体があるのかないのかわかんないや」

勇儀「こいつとはどこで会ったんだい?」

さとり「先日地霊殿に迷い込んできたのです。それ以来私が館のほうで面倒を見ています」

勇儀「へぇ。見たところ掴みどころがなさ過ぎて扱いづらそうね」

こいし「大丈夫だよ!伝えればきちんと答えてくれるいい子だし。私だってさっき会ったばかりだもん」

萃香「とりあえず酒でも呑むか?」

YuugenMagan「……」コクリ

……

勇儀「こいつすごい呑みっぷりだねぇ……飲んだ酒がどこに消えてるかは全くわからんが」

こいし「すごいねYuugenMaganちゃん、お酒に強いんだ!」

萃香「私も負けちゃいられないね!」ゴクゴク

さとり「しかし、貴方達もこの子に心当たりはないのですか」

勇儀「見たことないもの。だけど、直感的にこの子には真に帰る場所があると思う」

さとり「分かるんですか?」

勇儀「あくまで鬼の直感だけどね。あんた心読めるんでしょう。直接心から聞いてみたらどうなんだい」

さとり「それが、この子からは何も読み取れないのです。まるで心がないかのように」

萃香「それなら霊夢に聞けばなんかわかるかもしれないね」

YuugenMagan「!」

こいし「YuugenMaganちゃんどうしたの?もしかして知ってるとか」

さとり「これは神社に行ってみる価値がありそうですね」

YuugenMagan「……」フルフル

こいし「なんだか怯えてるみたいだよ。ほんとに連れてくの、お姉ちゃん?」

さとり「この子のことが分かるかもしれないし。もし帰る場所があるなら返してあげたほうがいいでしょ」

こいし「でもさっき会ったばかりなのに……」

さとり「とりあえず行くわよ。貴方達もお相手ありがとう」

勇儀「何か分かればいいねぇ、その子のこと」

萃香「また一緒にお酒呑もうなー」

……
YuugenMagan「……」

こいし「YuugenMaganちゃん、急に元気がなくなっちゃったね」

さとり「何か神社に思い当たることがあるのかしら……」

こいし「大丈夫だよ、YuugenMaganちゃん。もし神社で何かあったら私が守るから」

YuugenMagan「……!」

こいし「お姉ちゃん、もうこの子は私のペットじゃないよ」

さとり「いきなり何を言い出すの?」

こいし「決めたの。この子は私の友達、主従関係なんて堅苦しいもので縛るのは嫌だよ」

さとり「こいし……」

パルスィ「あら?見かけない顔ね。何者かしら?」

こいし「あ、久しぶり」

さとり「この子は私が面倒みてる迷い子です。貴女は何か思い当たることがありませんか?」

パルスィ「さぁ、ないわね。しかし見なれない者となるとむやみに外に出すわけにはいかないわね」

こいし「この子は私の友達だよ!すっごくいい子だから信じてよ、ね?」

パルスィ「得体のしれない者をすぐ友達などと呼べる貴女が少し妬ましいわね。
     でも私も地上と地底を繋ぐところを見張っている以上責任っていうものがあるのよ。ただでここを通すわけにはいかないわ」

こいし「そう。そちらがその気なら戦う覚悟はできてるわよ」

さとり「やめなさいこいし!」

YuugenMagan「……!」バシュッ

パルスィ「!!」

さとり「この子、目からビームを放てるのね……」

こいし「すごーい!一撃で岩がなくなっちゃった!」

パルスィ「貴女一体何者なの……」

こいし「とりあえず通らせてもらうね」

さとり「私たち、今から博霊神社に行ってこの子のことを聞いてくるつもりなのです」

パルスィ「先に言いなさいよ……こんなの手に負えるのは確かに博麗の巫女くらいでしょうね」

~博麗神社~

霊夢「今日もいい天気ね。こんな日は縁側でお茶でも飲むに限るわ……ん、あれは」

こいし「久しぶりー!」

霊夢「あんたたち、また来たのね。今日は何の用?」

さとり「今日は少々特別な用事なのです」

霊夢「とかいって、またなんかしょーもない異変でも起きたんじゃないでしょうね」

さとり「実は、少し聞きたいことがありまして」

霊夢「何よ。早く言って」

こいし「出てきていいよー!」

YuugenMagan「……」

霊夢「こ、こいつは……」

さとり「やはり何か心当たりが……?」

霊夢「こいつは魔界にいるべき存在よ」

さとり「魔界……?」

霊夢「そう。結構前に私が魔界に行ったときに会ったことがあるの」

霊夢「元々この博麗神社はね、人間でない何かの棲む世界との接点が重なっているの」

さとり「外の世界以外の他の世界とも、ですか?」

霊夢「そうよ」

こいし「YuugenMaganちゃんって別の世界にいたんだ……」

霊夢「そして、こいつがいたのが魔界のゲートよ」

さとり「ということは、何かの拍子で魔界とこの神社の境界が曖昧になったということですか」

霊夢「そうとも考えられるわね。とりあえず、こいつはここにいてはならない存在なのよ」

YuugenMagan「……」フルフル

こいし「……もしかして、この子の存在をこの世界から消さなくちゃいけないってこと?」

霊夢「そう。こいつの存在はイレギュラーすぎるの。いるべき世界に返せなければ……」スッ…

YuugenMagan「……」フルフル

こいし「やめてよ!この子に酷いことしたら許さないよ!」

さとり「こいし……」

霊夢「いい加減理解してよね。帰す方法がわからなかったら消すしかないじゃない」

こいし「こいつ!」

さとり「やめなさい!ねぇ、この子を元の世界に返す方法はないの?」

霊夢「ないことはないかもしれないわね。この神社が他の世界との接点になっているのなら」

紫「お困りのようね」

霊夢「紫!あんたもしかして今までのこと全部見てたの?」

紫「だって面白そうだったもの」

霊夢「もしかしてこれ、あんたの仕業じゃないでしょうね?」

紫「そんなわけないじゃない。誰が得体もしれない魔界との境界に手を出すものですか」

霊夢「いつもいろんな境界に手を加えてるじゃない」

さとり「……貴女の力で、この子を元の世界に帰してあげられないのでしょうか」

紫「できると思うわよ。ただし霊夢、あんたの力も借りる必要があるかもね」

霊夢「仕方ないわね。私も厄介な存在を残したままだと責任に関わるし」

さとり「ありがとうございます」

紫「それじゃ早速準備に取りかかろうかしらね」

こいし「……」

……

紫「作戦はこうよ。私が境界を歪めるから、あなたが境界に最後の一撃を加えて境界を開く」

霊夢「もっと簡単にできないのかしら?」

紫「魔界の、それもゲートともなれば少々手間がかかるのよ。他の世界の接点があるこの神社じゃなきゃできなかったでしょうね」

霊夢「めんどくさいけどやるしかないわね」

紫「魔界のゲートとの境界はかなり強固よ。チャンスは一回、しっかり集中しなさい」

霊夢「はいはい」

さとり「やっと元の世界に帰れるのね。よかったわ」

YuugenMagan「……」

こいし「……嫌だよ!私、もう少しYuugenMaganちゃんと一緒にいたい!」

霊夢「あのね、こいつは今すぐにでも元の世界に返さなきゃいけないって言ったわよね。
   それにこいつをここにとどめておいたらどうなる事か分かったものじゃないわ」

こいし「YuugenMaganちゃんはいい子だもん!きっと悪いことなんてしないはずだよ!」

霊夢「あんたは魔界がどういうところかわかってないわ。魔界は私たちの想像以上に未知なる世界なの」

こいし「でも……」

さとり「こいし、それにどんな存在でもあるべき場所というものは必ずあるものなの。私たちに地霊殿があるように」

こいし「でも別れるのが早すぎるよ……私たち友達になったばかりなのに」

さとり「強くなりなさい!出会ったものとの別れはいつか必ず来るものよ。
    それは生きている限り何度でも経験することなの。このくらいでいちいち落ち込んでたら前には進めないわよ!」

こいし「でも……でも……!」

紫「そろそろ境界が歪み始めるわね……霊夢、準備はいいかしら」

霊夢「もちろんよ」

こいし「……」

さとり「こいし……」

紫「境界が歪んだわ!霊夢、今よ」

霊夢「まかせて!」バシュ

さとり「これが魔界との境界……」

紫「さあ早く!その子を境界の中へ!」

YuugenMagan「……」

さとり「どうしたの?」

こいし「YuugenMaganちゃん!」

紫「もう長くは持たないわ、急いで!」

さとり「早くいかないともうしばらく戻れなくなるわよ!」

YuugenMagan「……」

霊夢「早く!もう境界が閉じかけてるわ!」

こいし「……YuugenMaganちゃん、行って!元の世界に戻ってよ!」

YuugenMagan「……!」

こいし「私ね、短い間だったけど、YuugenMaganちゃんとあえてとても楽しかったよ!
    本当はもう少し一緒にいたいけど、帰る場所にはやっぱり代えられないよ」

YuugenMagan「……」

こいし「それにね、YuugenMaganちゃんと会えなくなっても、思い出だけは絶対に忘れないから!覚えてる限りずっと一緒だよ!」

YuugenMagan「!」

こいし「だから行って!早く!」

紫「もう境界が閉じきるわ!」

YuugenMagan「……」コクリ

さとり「さようなら。元の世界に帰っても元気でね」

こいし「さようなら……」

――異なる二つの世界の存在の奇妙な友情は、唐突に終わりを迎えた。

早すぎた別れは、閉ざした心を開きかけていた少女にとって重い経験を残した。

しかし、少女は別れの儚さと共に他者と触れ合うことの温かさと自らのいるべき場所の大切さを知った。

ひとつの出会いと別れを経験した少女の瞳からは、一筋の涙がこぼれていた。


~地霊殿~

さとり「ただいま」

燐「さとり様、お帰りなさい!」

空「もう夕食の準備はしておいたよ!」

こいし「ただいま!」

燐「今日はこいし様もいらしてたんですね!多めに作っておいてよかったね、お空」

空「そうだね!」

さとり「さぁ、こいし。冷めないうちに夕飯を食べましょう」

燐「さぁさぁ、こいし様も座って座って!今夜はあたい達が本気で作った料理だから味わってもらわないと」

こいし「うん!」

おわり

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