後輩「先輩ー!」
男「おう…お前も今、帰りか」
後輩「そうです、一緒でもいいですか?」
男「でもお前、さっき友達と一緒にいたような気がすんだけど」
後輩「あの娘は反対方向だから、ちょうどこの交差点までなんです」
男「そっか、じゃあ一緒に帰ろう」
後輩「やっほーい、どっか寄ります?」
男「うん、レンタル屋だけ寄るつもりだった」
後輩「オカズのDVD探しですか」
男「馬鹿やろ、制服着てそんなんできるかよ」
後輩(制服じゃなかったら、するのかな…でも学生会員だろうから無理か)
男「お気に入りの洋楽アーティストのアルバム、ようやく発売後一年経つんだよなー」
後輩「あー、洋楽ってだいたい一年経たないとレンタル解禁されませんよね」
男「なんでなのかねー。買おうにも、高校生の財布じゃCD一枚に三千円近く出すのはキツイからな…」
…レンタル屋から出て
男「…もうすっかり普通に歩いてるのな、良かったじゃん」
後輩「ああ、何となーく不安ではあるんですけど」
男「お前もツイてないよな、たかが体育の授業で大怪我してさ」
後輩「ホントですよ、前十字靭帯…思いっきり『ブチッ』ていいましたもん」
男「まあ、体育会系の部活やってるんじゃないのが、不幸中の幸い…と言っていいのかな」
後輩「自分でも、これからもハードなスポーツとかはしないような気がしますしね」
男「絵なら足使わなくても描けるもんな」
後輩「うん、脚立使うような大型のキャンパスじゃなかったら」
男「そんなのあるの?」
後輩「無くはないですよ。一回そんなサイズも描いてみたいな…脚立くらい上がれますし」
男「スカートで上がるんなら、下から眺めとくよ」
後輩「いやー、ヘンターイ」
男「変態じゃねえ、寧ろ正常だ」
後輩「…もうすぐ、クリスマスですね」
男「町にはとっくに来てるけどな」
後輩「ホントに、どこを見ても赤と白と緑のディスプレイばっかり」
男「最近はハロウィンも定着してきたけど、やっぱりクリスマスは盛り上がりようが違うね」
後輩「日本じゃどっちもただのお祭りイベントですけどね」
男「全くだな…でもお祭り好きな日本人らしいんじゃね?」
後輩「…先輩、イブはどうしてるんですか?」
男「忙しいんだな、これが」
後輩「またまたー、彼女いないくせに見栄張らなくていいですってば」
男「うっせ…でも、予定があるのは本当なんだ」
後輩「え…」
……………
………
…
…後輩宅
後輩「…ただいま」
後輩母「おかえり。寒かったでしょ、先にお風呂行ってらっしゃい」
後輩「ん…着替えとってくる」
後輩母(あら、元気無いわね…)
後輩「…あの、こないだの話」
後輩母「え?…ああ、予定の事?」
後輩「うん…その日でいいから」
後輩母「…そうなの?…まあ、いいんだけど」
後輩「ん…いいの」
………
…
後輩(お風呂…あったかい、けど心が寒いってば)チャプン
後輩(…先輩、来年は卒業だもんなあ)
後輩(最後のクリスマス、一緒にいたかったな…)ブクブク
後輩(……彼女は、いないんだよね)
後輩(でも、クリスマスの予定はある…か、誰かに告白…?)
後輩(それとも、誰かが先に先輩に約束をとりつけてて…告白される側とか)
後輩(……どっちも、やだよぅ)
後輩(…顔、洗おう…水で)ジャーッ…キュッ
バシャッ、ゴシゴシ…バシャッ
後輩(冷たあっ…けど、ちょっとスッキリ)
後輩(…仕方ないじゃん、自分が攻めようとするのが遅かったんだから)
後輩(うん、仕方ない……)
後輩「…………やだよぅ……先輩…」ボソッ
……………
………
…
…男の部屋
男(えーと、これがM下さんのとこで…順番的に次がA坂さん家だわな)
男(地図…ルート的には、こう回って…)
男(…二回くらい家に戻って、三便に分けなきゃ持ち切れねえな)
………
…
男母『もうOKしといたからー』
男『アホか!俺だってクリスマスの予定入れようと思ってたんだぞ!』
男母『見栄張りなさんなって』
男『ババア…てめえ、それが息子に言う台詞か』
男母『もう十件以上依頼が入ってるのよ。断れないし、それにどちら様もお心付けの封筒を下さってるわよ?』
男『何…だと…?』ピクッ
男母『そうねえ…十件で一万円には届かないけど、五千円は超えてるわ。まだあと二十件以上は依頼があるでしょうね』
男『やります、町内サンタ。やらせて下さい』キラーン
……………
………
…
男(…金に釣られて町内サンタ請け負ったけど)
男(高校生活最後のイブの夜に、それでいいのか…俺)
男(…今さら断れないけどさ)
『…先輩、イブはどうしてるんですか?』
男(女に縁も無く、金のために赤い服着て町内を徘徊してます)
男(…なんて、言えるかよ)
男(漠然とだけど、後輩を誘ってみようかと思ってたんだけどなー)
男(やっぱ、なんだかんだ言っても…俺、アイツ好きなんだよな…ちきしょーめ)
……………
………
…
…12月23日、公園
スポ刈「…後輩ちゃん!見っけー!」ユビサシッ
後輩「うああ!まだ『もういいよ』言ってから10秒しか経ってないんだけど!?」
ポニテ「あはは、やっぱり後輩ちゃんは身体大きいから、この公園じゃ隠れにくいねー」
後輩「私は大っきくないよ…クラスの女の子の中では三番目にチビだもの」
メガネ「でも、小学生二年のボク達よりはずっと大きいもん。かくれんぼには不利だよね」
スポ刈「ふははは!俺様の野性のカンから逃れられると思ったかー!」
ポニテ「明日はクリスマスだねー」
後輩「イブだけどね」
メガネ「ボク、サンタさんには『ポケモンが欲しい』って手紙書いたよ」
スポ刈「俺はキックボード!踏んで進むやつ!」
ポニテ「私は水でくっつけてビーズのアクセサリー作るセット貰うんだー」
後輩(可愛いなー、みんなサンタ信じてるんだ)
スポ刈「俺、去年サンタ見たんだぜ!」
後輩「え?」
ポニテ「私も見たよ。家のチャイムが鳴って、お母さんが『出てごらん』っていうから玄関を開けたらプレゼントが置いてあって…」
メガネ「そうそう。それでちょっと離れたところにサンタがいて、手を振って次の家に行っちゃったんだよね」
スポ刈「俺もそうだったなー。追いかけてつかまえようと思ったんだけど、母ちゃんが『そんな事したら来年来てくれないよ』って言うからさ」
後輩(なんだそれ…誰かがサンタ役をやってるのかな)
ポニテ「後輩ちゃんは?プレゼント、何もらうの?」
後輩「私?…うん、えっとね…」
……………
………
…
…12月24日、午後七時
男(十二件目、Y山さん家は…これだな。携帯で、お宅に電話の合図を…)
…プルルルル、ピッ
男(すぐにワン切りして、プレゼントを置いて…チャイムをポチッと)
…ピーンポーン
男(…で、逃げる!)シュタタタタッ
男(ふう…20mばかり離れて、子供が出てきたら)
…ガチャッ
アッ!サンタサンダ!
プレゼントガアルー!
男(手だけ振って、さようなら)フリフリフリ
ママー!サンタサンガイタヨー!
ホントニイター!
ガチャッ…バタンッ
男(…やっぱ、親は子供の夢を大事にしてあげたいもんなんだろうな)
男(文句も言ったけど、子供を喜ばせるのは楽しいかも)テクテク
女子中学生「あ!サンタだ!」
男子中学生「うお!まじだ!何やってんすかー」
男「子供の夢を守りにな、町内のバイトだよ」
女子中学生「うけるー、ちょっと一緒に写真いいですか」
男「いいよー」
男子中学生「撮るぞ、めりくりー」ピピッ…カシャッ
女子中学生「ありがとー、サンタさん頑張って」バイバーイ
男「あいよー」バイバーイ
男(…今日だけだよな、こんな事してても不審者に思われないのは)
男(やっぱ、結構楽しいな…町内会のじいさまが毎年やってたわけだ)
男(でもあのじいさんも、腰悪くしたもんなー)
男(よっしゃ、二代目町内サンタ…がんばるか)
……………
………
…
…翌朝、男の家
男(よーし、ご近所さんからの心付けも貰ったし…ちょっくら後輩にプレゼントでも買って、ビシッと告白すっか)
男(今日が本当のクリスマスなんだから、遅かないだろ)
…ピーンポーン
男(誰だ?朝から…)
男「はいはーい、今開けますよーっと」ガチャッ
ポニテ「おはよう、サンタのお兄ちゃん!昨日はプレゼントありがとう!」
男「………何の事かな?」ダラダラ
ポニテ「誤魔化さなくていーよ、お兄ちゃんがこの町のサンタだったんだね」
男「はっはっは、訳のわからない事を」ダラダラ
ポニテ「大丈夫、お兄ちゃんがサンタな事は秘密なんでしょ…誰にも言わないよ?」
男「………」
ポニテ「サンタさんって、普段は学校行ったりしてるんだね…知らなかったよ」
男(……ん?)
ポニテ「サンタさんも年に一回の仕事だけじゃダメだもんね」
男(これは…バレてるけど、夢は壊れてないな…)
ポニテ「他の大人のサンタさんも普段は違うお仕事してるんでしょ?」
男「…バレちゃったかー、そうなんだよ…サンタも普段は大変なんだ。北欧の元祖サンタさんも、普段はトナカイの牧畜とかしてるからねー」
ポニテ「やっぱりそうなんだー」
男「でも、本当に内緒にしといてね?」
ポニテ「うん、約束するよ。…でも、その代わりにひとつお願いがあるの…あと一人だけ、サンタさんの正体を教える人がいても…いい?」
……………
………
…
…近くの病院
男「…ここにお友達がいるの?」
ポニテ「うん、ケンサニューインしてるの」
男「正体がバレちゃいけないから赤い服は着れなかったけど、いいのかな…」
ポニテ「大丈夫、私が本当のサンタさんだよって説明するから」
男「それで信じてくれるといいけど」
ポニテ「それにその人は高校生だから、サンタさんが本当の事を話したらきっと解ってくれるよ」
男「え、高校生なの?」
ポニテ「うん…『すとーかー』なんだって」
男(ストーカーって…意味解ってんのかな…ヤバイ人なのか?)
ポニテ「ねえ、行こうよ」
…総合案内
男「まずはその人の病室を訊かなきゃね」
ポニテ「そこはお兄ちゃんにお願いします」
男「えーと、すみません…見舞いに来たんですけど、検査入院されてる……あ、名前は…?」
ポニテ「後輩ちゃん」
男「え…!?」
受付「検査入院の後輩さんですね。…北病棟の512号個室にいらっしゃいます。あちらのエレベーターからどうぞー」
男(後輩…同じ名前なだけか…?)
ポニテ「お兄ちゃん、早くー」
男「あ、ああ…」
………
…
ポニテ『後輩ちゃんは?プレゼント、何もらうの?』
後輩『私?…うん、えっとね…実は私、明日から入院なんだー』
ポニテ『ええっ、どこか悪いの!?』
後輩『ううん、もう悪いところが治ったから…その検査入院なの』
ポニテ『ケンサニューイン…でも、明日は家にいなきゃサンタさんが来ないよ…?』
後輩『そうだね…サンタさん、会いたかったなあ』
ポニテ『後輩ちゃん…』
後輩『ごめんね、ありがとう。今日はじめて会ったのに、私を心配してくれるなんて…ポニテちゃんは優しいね』
ポニテ『後輩ちゃん、いい人だもん。たくさん遊んでくれたから…』
後輩『いい人じゃないよ…本当はストーカーみたいなものだもん。近くまで来たけど、会う勇気が無いんだ…』
ポニテ『すとーかーって…何?』
後輩『あ、変な言葉教えちゃったね。知らなくていいよー』
……………
………
…
…512号室
ポニテ「お邪魔しまーす」
後輩「え…ポニテちゃん、なんで…」
男「まさか…本当にお前だったか」
後輩「先輩っ…!?うそ…!え…えっ…!?」
ポニテ「あれ?知り合い…?」
後輩「うわ…!どうしよう、髪も梳かしてないのにっ!」
男「…お気遣いなく」
ポニテ「知り合いなんだったら余計にびっくりするよね?えへへ…実は、このお兄ちゃんはサンタさんなんだよ!」
後輩「…サンタ…さん?」
ポニテ「こないだ後輩ちゃん、サンタさんに会いたかったって言ってたから…連れてきたの!」
後輩「よく解らないけど…先輩がサンタさん…」
ポニテ「うん!」
後輩「そっか…ありがとう、でもね…先輩は私のサンタさんじゃないんだ」
ポニテ「……え?」
後輩(先輩は、違うヒトの…)
男「いや、俺はお前のサンタになりにきたんだ」
後輩「………私…の…?」
ポニテ「そ、そうだよ!お兄ちゃんが町のみんなのサンタさんだったのは昨日だもん、今日は後輩ちゃんのサンタさんだよ!」
後輩「町のみんなの…サンタさん…」
男「うん…ちょっと、この娘の前じゃ言えないんだけど」
……………
………
…
…その日の夕方、退院後
男「…たかが一泊二日の入院だったとはな」
後輩「だって足が完治してるかどうかの検査入院ってだけですもん」
男「だからって何も24、25日にしなくても…」
後輩「…それは……先輩がイブの予定があるって言うから…」
男「俺のせい…?」
後輩「………そう、です」
男「…それは、深読みできてしまうけど…それでいいのか」
後輩「………」
男「いや…答えさせるのも、男らしくないか。…後輩」
後輩「はい…?」
男「俺、お前の事…好きなんだ」
後輩「……え…」
男「今年のイブは逃したけど毎年来るんだし。…そんでさ」
後輩「あの…!え…えと…その…!」
男「よかったら、来年のイブは一緒にいたいんだ。だから…」
後輩「ちょ…!えぇ…っと…あの…!」
男「俺と、付き合ってくれたらな…って」
後輩「…は…はい…っ」
男「ごめんな、プレゼント…何も用意できてなくて」
後輩「いいです…充分ですから」
男「よかったよ、卒業までにいいきっかけができて」
後輩「先輩が行く大学、隣の市なんですよね…?」
男「うん、でも電車で二十分ほどだよ……あっ」
後輩「あ?」
男「…プレゼントできるもの、あった」ゴソゴソ
後輩「………?」
男「これ…やるから、持っといてくれよ」チャラッ
後輩「これって…」
男「大学の近くで叔母さんが大家やってるアパート、ゆっくり引っ越しすればいいからって…もうカギ貰ってたんだ。それ、合鍵だから」
後輩「…嬉しいです、ありがとう…先輩」
男「ラッピングも何もしてなくて悪いな。せめてこれから、それをつけるキーケースでも買おうか」
後輩「サンタのバイト代、使っちゃうんですか」
男「おう、それとメシくらい奢ってやるよ」
後輩「ねえ、先輩…来年のイブに一緒に過ごす話ですけど」
男「…うん?」
後輩「私もサンタ、なれませんか?」
男「ああ…そりゃいいな。来年はお前と過ごしたいけど、そっちも気がかりではあったんだ」
後輩「ミニスカサンタやりますよ!」
男「じゃあ、後ろで屈んで見とく」
後輩「いやー、ヘンターイ」
男「はは…でも、さすがにミニスカートは寒いだろ」
後輩「厚手のタイツ履いたら、大丈夫ですよ」
男「…タイツは黒、指定な」
後輩「いやー、ホントにヘンターイ」
男「うっせ、寧ろ正常だよ」
(おしまい)
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