男「お手軽自作自演講座」(35)
女「なんだか不穏な雰囲気のタイトルですね」
男「悪意あってのことじゃないからいいんじゃないか?」
女「そのタイトルで悪意がないんですか」
男「ないない、全く」
女「じゃあなんでそんなことをしようと思ったんですか」
男「無実なのに自作自演だと言われたから……かな」
女「はあ……この人は」
男「さて、自作自演に必要な物ってなんだと思う?」
女「他人の声ですかね」
男「そのとおーり」
男「ネット上、特にこういう掲示板で他人の声を得る簡単な方法は複数のIDを得ることだな」
女「それができれば苦労はしないんでは?」
男「実はこれがわりと簡単にできるんですよ、って話だ」
女「本当に簡単なんですか?」
男「事前知識さえあれば」
男「このIDってどうやって決定されてるか知ってるか?」
女「さあ」
男「いくつか種はあると思うけど、末端ユーザーレベルで制御できるIDの種はグローバルIPアドレスな」
女「前も出てきたね、IPアドレス」
男「昔の話を出すのは嫌われるので敢えてもう一度説明すると、Internet Protocolアドレスな」
女「グローバルってのは?」
男「プロバイダから提供される世界に通用するIPアドレスだな」
女「世界に通用しないIPアドレスがあるの?」
男「今回は気にすることでないが、ローカルIPアドレス。IPマスカレードとかうんたらかんたら、今回は全く意味がないから気にするな」
女「ふーん?」
男「さて、さっきも言ったようにグローバルIPアドレスを元にしてこのIDってのは生成されてるわけだ」
女「つまりグローバルIPを変更できれば、IDも変更できると」
男「その通り」
女「じゃあどうやって変更するのか? って話?」
男「ちょっとだけ違う」
男「今回の話題はそもそもIPアドレスがどういうシステムで割り振られているか、だ」
女「そんな遠回りな……」
男「単にIPアドレスを変えるだけだったらSSにするまでもない」
女「はいはい」
男「IPを割り当てる方式にもいくつかあるらしいが、一番スタンダードなDHCPについて説明しようと思う」
女「誰が決めたのよ、そんなこと」
男「デファクトスタンダード、ユーザーが多いから勝手に標準扱いされてるシステムだな」
女「そんなのでいいの?」
男「ネットなんてそんなのが多いよ」
男「さて、ではDHCPの説明に行くぞー」
女「おー」
男「まずこれはDynamic Host Configuration Protocolの略な」
女「ふむふむ。動的なホストの設定に関するプロトコル、約束事、ですかね」
男「そだな、この動的にってところがこのシステムのキモだ」
男「IPアドレスの重要性は分かってるか?」
女「えーっと、IPアドレスを使うと"そのアドレスに対応するパソコンがネットワーク上のどこにあるか"が分かるんだよね」
男「そう、グローバルIPアドレスなら、インターネット上でどこのパソコンか分かる、ってことだ」
女「なるほど」
男「しかしIPアドレスが物理的にある場所と1対1対応していると困ることがある」
女「困ること?」
男「例えば、IPアドレスが111.111.111.111と示される土地にあった一軒家を破壊して高層マンションを建てたらどうする?」
女「その高層マンションに111.111.111.111を割り当てれば良いんじゃない?」
男「それがなかなかできないんだなあ」
女「なんで?」
男「グローバルIPアドレスはプロバイダが管理しているのだが、どのプロバイダと契約するかは各世帯に任せられるんだよ」
女「??」
男「つまりあるプドバイダAはIPアドレス111.111.111.0から111.111.111.255を管理していたとする」
男「一方、あるプロバイダBは222.222.222.0から222.222.222.255までを管理している」
男「で、このマンションに引越してきたaさんはプロバイダAと、bさんはプロバイダBと契約する」
女「そうしたらBさんは111.111.111.111を使えないの?」
男「そういうこと、Bさんは222.222.222.0から255までのどれか一つしか使えないわけだ」
男「つまり土地に対してIPアドレスを割り振るにしてもそれなりに流動的に簡単に対応できるようでなければならない、って言うような考えがあったんじゃないんですかね(適当)」
男「ほかにもIPアドレスの資源不足とか個人宅の容易な特定を防ぐとか色々な理由がある(嘘かも)だろうけど、多くのプロバイダは各家庭に割り振っているIPアドレスを適当なタイミングで変更してるわけですよ」
女「へー。……嘘とか適当とか理由雑過ぎでしょ」
男「下調べが足りないのは認めざるを得ない」
男「まあ事情はどうあれ、これのおかげでIDを自在に変更できるんだからなんでも良いんですよ」
男「DHCPの本質はすこぶる簡単です」
女「ほう」
男「登場人物はIPアドレスが欲しいパソコン(クライアント)、IPアドレスを提供するパソコン(DHCPサーバ、サーバ)、その他のパソコン、かな」
女「うわぁ……またこういう説明する気か……」
クライアント「私もインターネットとか言う広い世界に出てみたいなあ」
近所のPC「はあ? お前にそんなことができるわけねーだろ、バーカ」
クライアント「なんだよー!」
近所の「だってお前、IPアドレスもってないじゃねーか。そんなんじゃ誰もお前の存在を認めてくれないぜ?」
クライアント「IPアドレス? なにそれ」
近所「ふん、そんなもの自分で調べるんだな」
クライアント「むうぅ……!」
女「詰んでません?」
男「詰んでない詰んでない」
男「知ってる人が周りにいないならしらみつぶしに訊く、それが王道だ」
女「ええー」
クライアント「くっそう……馬鹿にしてー! 誰かー!! IPアドレスについて知ってる人はいませんかあああ!! 私、クライアントはどうしてもインターネットの世界に出たいんです! 誰かあああ!!!」
近所(チッ、うっせーな。無視無視)
クライアント「だれかあああ!!!」
DHCPサーバ「おーい!!」
クライアント「!!?」
サーバ「この辺で、クライアントさんという人がIPアドレスについて知りたいと叫んでいなかったか!?」
クライアント「それ私です! ……あなたは?」
サーバ「ああ失礼、僕はDHCPサーバという者です。IPアドレスについて知りたいと叫ぶ声が聞こえたので、馳せ参じました」
女「近所迷惑な人たちね」
男「しょーがないだろ、お互いにIPアドレスが分からない以上、ネットワーク全域に放送するしかない」
男「もう少し具体的に言うと、クライアントがネットワーク上全ての端末に対して自身のIPアドレスを要求する」
男「するとその要求に対してDHCPサーバとなるパソコンだけが答えることができる」
男「DHCPサーバは自身が管理してるIPアドレスの内空いているものをクライアントに渡すって感じだな」
女「ちょっと待って」
男「ん?」
女「IPアドレスを割り振る前なのにどうやってクライアントを見つけるの?」
男「そりゃあさっきの話のように、クライアントって名前、実際にはMACアドレスっていう端末固有の番号を使って、この放送はクライアント向けに放送してます、って宣言しながら叫ぶだけだ」
女「傍迷惑……」
男「まあ初心者には優しくな」
クライアント「あの……サーバさん、私IPアドレスがないからインターネットに加わることができないって言われたの」
サーバ「安心しなさい、幸い僕はIPアドレスをたくさん持っているからね……そうだね、君にはこのIPをあげよう」
クライアント「もらっていいの?!」
サーバ「ああ、かまわないよ。でももし、インターネットから逃げたい、と思ったときはそれを僕に返してほしい」
クライアント「はい、ありがとうございます!!」
女「なんで返す必要が?」
男「そりゃあいくらたくさん持ってるとは言え、持ち逃げされては困るからな」
女「そういうものぉ?」
男「ま、結局やってることはクライアントが叫ぶ→サーバに声が届く→サーバも叫ぶ→クライアントにIPが届く、ってだけだ」
女「ふーん。……ん? これサーバが偽物だったらどうするの?」
男「ふむ鋭い」
男「そのために、クライアントは受け取った直後に確認をするんだ」
クライアント「ふっふーん、やったー! IPアドレス、ゲットだよ!!」
近所「うるせーな、皆に聞こえてんぞ」
クライアント「いいでしょー、これ! えーっと私の番号は111.111.111.111だって! キリがいいね!」
近所「……は?」
クライアント「どうかした?」
近所「それ俺のIPと一緒なんだけど」
クライアント「え、そうなの? それってなんかダメなの?」
女「IPアドレスが一緒だとネットワーク上で識別できないからダメなんだよね」
男「そうなんだな、だからこのIPアドレスは不正なIPアドレスだ」
女「じゃあどうするの?」
男「もう一度叫ぶんじゃないかな、ダメだったときは実はよく知らん」
女「そっすか」
男「まあこれはパラレルで上手く行った場合について話を続けよう」
クライアント「前略、DHCPサーバ様。おかげさまで充実したインターネットライフを送っています、っと」
近所「どうしたんだよ?」
クライアント「いやね、せっかくIPアドレスもらったのに何も言わないのは筋が通らないかなって思って、サーバさんに手紙を出してるの」
近所「……ふーん、そうかよ」
男「こんな感じで、通達されたIPアドレスに問題がなければサーバに報告して、正式にサーバからクライアントにIPが送られるんだ」
女「ふーん」
男「まあ実際にはちょいと違うが、イメージだからいいや」
女「投げ遣り」
男「今回の目的はあくまで自演だから」
女「あ、はい」
男「さて、ここで思い出してほしいのが、DHCPサーバはインターネットが辛くなったらIPアドレスを返してくれと言ってたな」
女「言ってましたね」
男「つまり、こっちからプロバイダに対しての接続を切断すれば勝手にIPアドレスはDHCPサーバに返却されてしまうんだ」
女「勝手に?」
男「そう、勝手に。実はDHCPサーバはストーカー気質で、自分がIPを渡した相手は定期的に監視してるんだよ」
女「怖い」
男「で、その相手がいなくなると相手が持っていたIPアドレスを勝手に回収して行くんだ」
女「怖いよお」
男「悪いヤツじゃないよ」
男「ま、つまり何が言いたいかっていうと、一番簡単な方法は電話線を一旦抜いてさせばDHCPサーバは新しいIPを割り振ってくれるってことですよ」
女「たったそれだけ」
男「正直物理的に抜くと機器によっては設定変わるかも知れないから、ある程度正式な手続きを踏んでプロバイダとの接続解除してほしいけど、物理的にはそんな感じだな」
女「簡単だねー」
男「さて、ここで問題がある」
女「問題?」
男「他人の声を出せるようになったのは良いけど、これをやると自分の声が出せなくなるんだな」
女「ああー最初に使ってたIPアドレスがいつ戻ってくるか分からないね」
男「そういうこと」
男「これをなんとかする手段の一つは多分、もう一度運命的に同じIPアドレスを入手できるまで切断と接続を繰り返す」
女「そんな簡単に引けるの?」
男「プロバイダが管理してる数を考えるとたぶん無理」
男「しかも運が悪いと、返却したIPが全然IPを手放さない人の元に渡る可能性もある」
女「ダメじゃない」
男「ほかの手段としては、回線をもう一つ用意することだな」
女「もう一つ?」
男「要するにIDをじゃんじゃん変える用の回線と、固定で自分の声を出し続ける回線だ」
女「ああ、じゃあ例えば家庭用回線と携帯端末用回線で使い分ければ良いんだ」
男「その通り」
男「同じく回線を複数用意するが、両方とも家庭用、というか固定回線を使う方法もある」
女「家に二つの回線を引くの?」
男「アホ臭いけどそれもアリだな。だが違う」
女「?」
男「俺もあまり詳しく説明できないがsshを使ってトンネルを掘ってプロクシがどうのこうのってヤツだな」
女「意味不明」
男「ま、詳しいことはsshとかトンネルとか調べなさい。俺も使えるけど説明はできないんだ」
男「ああでもsshでやるときは注意が必要なんだよな」
女「sshの説明もしてないのに」
男「したらばの規制にポート開放してるユーザーからの書き込みを規制するってのがあるんだよね」
女「どういうこと?」
男「つまり今俺がやろうとした2つ目の固定回線を利用した自演を規制するってこと」
女「へー」
男「ま、ここで詳しく書くとガチで怒られそうだからやんわり言うとポート規制されるならファイアウォールがあるじゃない」
女「??」
男「これで分かる人なら最初から解決できる問題だし、これで分からないなら自演はするべきじゃないって話かな」
女「……結局ダメじゃない」
男「俺にsshサーバのファイアウォールを勝手に弄るだけの勇気があれば、このSSの>>1とラストだけIDを一致させるってこともできたんだけど、流石に職権乱用はよくないかなって思いました」
男「このスレの残りは適当にDHCPサーバから同じIP得られるかのテストでもしてるかな」
女「荒らしじゃないかよ……」
男「……じゃあやらないよ」
女「よく考えたら、自作自演って言われて悔しいから自演手段を公開って」
男「うん?」
女「やりましたよって言ってるみたいなものでは?」
男「……いやいやいやまさか、ね?」
終わり
またID変えて逃げる
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