男「サンタが町にやってくる」後輩「町内会の圧力で」(35)


後輩「先輩ー!」

男「おう…お前も今、帰りか」

後輩「そうです、一緒でもいいですか?」

男「でもお前、さっき友達と一緒にいたような気がすんだけど」

後輩「あの娘は反対方向だから、ちょうどこの交差点までなんです」

男「そっか、じゃあ一緒に帰ろう」

後輩「やっほーい、どっか寄ります?」

男「うん、レンタル屋だけ寄るつもりだった」

後輩「オカズのDVD探しですか」

男「馬鹿やろ、制服着てそんなんできるかよ」

後輩(制服じゃなかったら、するのかな…でも学生会員だろうから無理か)

男「お気に入りの洋楽アーティストのアルバム、ようやく発売後一年経つんだよなー」

後輩「あー、洋楽ってだいたい一年経たないとレンタル解禁されませんよね」

男「なんでなのかねー。買おうにも、高校生の財布じゃCD一枚に三千円近く出すのはキツイからな…」


…レンタル屋から出て


男「…もうすっかり普通に歩いてるのな、良かったじゃん」

後輩「ああ、何となーく不安ではあるんですけど」

男「お前もツイてないよな、たかが体育の授業で大怪我してさ」

後輩「ホントですよ、前十字靭帯…思いっきり『ブチッ』ていいましたもん」

男「まあ、体育会系の部活やってるんじゃないのが、不幸中の幸い…と言っていいのかな」

後輩「自分でも、これからもハードなスポーツとかはしないような気がしますしね」

男「絵なら足使わなくても描けるもんな」

後輩「うん、脚立使うような大型のキャンパスじゃなかったら」

男「そんなのあるの?」

後輩「無くはないですよ。一回そんなサイズも描いてみたいな…脚立くらい上がれますし」

男「スカートで上がるんなら、下から眺めとくよ」

後輩「いやー、ヘンターイ」

男「変態じゃねえ、寧ろ正常だ」


後輩「…もうすぐ、クリスマスですね」

男「町にはとっくに来てるけどな」

後輩「ホントに、どこを見ても赤と白と緑のディスプレイばっかり」

男「最近はハロウィンも定着してきたけど、やっぱりクリスマスは盛り上がりようが違うね」

後輩「日本じゃどっちもただのお祭りイベントですけどね」

男「全くだな…でもお祭り好きな日本人らしいんじゃね?」

後輩「…先輩、イブはどうしてるんですか?」

男「忙しいんだな、これが」

後輩「またまたー、彼女いないくせに見栄張らなくていいですってば」

男「うっせ…でも、予定があるのは本当なんだ」

後輩「え…」


……………
………


…後輩宅


後輩「…ただいま」

後輩母「おかえり。寒かったでしょ、先にお風呂行ってらっしゃい」

後輩「ん…着替えとってくる」

後輩母(あら、元気無いわね…)

後輩「…あの、こないだの話」

後輩母「え?…ああ、予定の事?」

後輩「うん…その日でいいから」

後輩母「…そうなの?…まあ、いいんだけど」

後輩「ん…いいの」


………


後輩(お風呂…あったかい、けど心が寒いってば)チャプン

後輩(…先輩、来年は卒業だもんなあ)

後輩(最後のクリスマス、一緒にいたかったな…)ブクブク

後輩(……彼女は、いないんだよね)

後輩(でも、クリスマスの予定はある…か、誰かに告白…?)

後輩(それとも、誰かが先に先輩に約束をとりつけてて…告白される側とか)

後輩(……どっちも、やだよぅ)

後輩(…顔、洗おう…水で)ジャーッ…キュッ

バシャッ、ゴシゴシ…バシャッ

後輩(冷たあっ…けど、ちょっとスッキリ)

後輩(…仕方ないじゃん、自分が攻めようとするのが遅かったんだから)

後輩(うん、仕方ない……)


後輩「…………やだよぅ……先輩…」ボソッ

……………
………


…男の部屋

男(えーと、これがM下さんのとこで…順番的に次がA坂さん家だわな)

男(地図…ルート的には、こう回って…)

男(…二回くらい家に戻って、三便に分けなきゃ持ち切れねえな)

………


男母『もうOKしといたからー』

男『アホか!俺だってクリスマスの予定入れようと思ってたんだぞ!』

男母『見栄張りなさんなって』

男『ババア…てめえ、それが息子に言う台詞か』

男母『もう十件以上依頼が入ってるのよ。断れないし、それにどちら様もお心付けの封筒を下さってるわよ?』

男『何…だと…?』ピクッ

男母『そうねえ…十件で一万円には届かないけど、五千円は超えてるわ。まだあと二十件以上は依頼があるでしょうね』

男『やります、町内サンタ。やらせて下さい』キラーン


……………
………


男(…金に釣られて町内サンタ請け負ったけど)

男(高校生活最後のイブの夜に、それでいいのか…俺)

男(…今さら断れないけどさ)


『…先輩、イブはどうしてるんですか?』


男(女に縁も無く、金のために赤い服着て町内を徘徊してます)

男(…なんて、言えるかよ)

男(漠然とだけど、後輩を誘ってみようかと思ってたんだけどなー)

男(やっぱ、なんだかんだ言っても…俺、アイツ好きなんだよな…ちきしょーめ)


……………
………


…12月23日、公園


スポ刈「…後輩ちゃん!見っけー!」ユビサシッ

後輩「うああ!まだ『もういいよ』言ってから10秒しか経ってないんだけど!?」

ポニテ「あはは、やっぱり後輩ちゃんは身体大きいから、この公園じゃ隠れにくいねー」

後輩「私は大っきくないよ…クラスの女の子の中では三番目にチビだもの」

メガネ「でも、小学生二年のボク達よりはずっと大きいもん。かくれんぼには不利だよね」

スポ刈「ふははは!俺様の野性のカンから逃れられると思ったかー!」


ポニテ「明日はクリスマスだねー」

後輩「イブだけどね」

メガネ「ボク、サンタさんには『ポケモンが欲しい』って手紙書いたよ」

スポ刈「俺はキックボード!踏んで進むやつ!」

ポニテ「私は水でくっつけてビーズのアクセサリー作るセット貰うんだー」

後輩(可愛いなー、みんなサンタ信じてるんだ)

スポ刈「俺、去年サンタ見たんだぜ!」

後輩「え?」

ポニテ「私も見たよ。家のチャイムが鳴って、お母さんが『出てごらん』っていうから玄関を開けたらプレゼントが置いてあって…」

メガネ「そうそう。それでちょっと離れたところにサンタがいて、手を振って次の家に行っちゃったんだよね」

スポ刈「俺もそうだったなー。追いかけてつかまえようと思ったんだけど、母ちゃんが『そんな事したら来年来てくれないよ』って言うからさ」

後輩(なんだそれ…誰かがサンタ役をやってるのかな)

ポニテ「後輩ちゃんは?プレゼント、何もらうの?」

後輩「私?…うん、えっとね…」

……………
………


…12月24日、午後七時


男(十二件目、Y山さん家は…これだな。携帯で、お宅に電話の合図を…)

…プルルルル、ピッ

男(すぐにワン切りして、プレゼントを置いて…チャイムをポチッと)

…ピーンポーン

男(…で、逃げる!)シュタタタタッ

男(ふう…20mばかり離れて、子供が出てきたら)

…ガチャッ

アッ!サンタサンダ!
プレゼントガアルー!

男(手だけ振って、さようなら)フリフリフリ

ママー!サンタサンガイタヨー!
ホントニイター!

ガチャッ…バタンッ


男(…やっぱ、親は子供の夢を大事にしてあげたいもんなんだろうな)

男(文句も言ったけど、子供を喜ばせるのは楽しいかも)テクテク

女子中学生「あ!サンタだ!」

男子中学生「うお!まじだ!何やってんすかー」

男「子供の夢を守りにな、町内のバイトだよ」

女子中学生「うけるー、ちょっと一緒に写真いいですか」

男「いいよー」

男子中学生「撮るぞ、めりくりー」ピピッ…カシャッ

女子中学生「ありがとー、サンタさん頑張って」バイバーイ

男「あいよー」バイバーイ

男(…今日だけだよな、こんな事してても不審者に思われないのは)

男(やっぱ、結構楽しいな…町内会のじいさまが毎年やってたわけだ)

男(でもあのじいさんも、腰悪くしたもんなー)

男(よっしゃ、二代目町内サンタ…がんばるか)

……………
………


…翌朝、男の家


男(よーし、ご近所さんからの心付けも貰ったし…ちょっくら後輩にプレゼントでも買って、ビシッと告白すっか)

男(今日が本当のクリスマスなんだから、遅かないだろ)

…ピーンポーン

男(誰だ?朝から…)

男「はいはーい、今開けますよーっと」ガチャッ

ポニテ「おはよう、サンタのお兄ちゃん!昨日はプレゼントありがとう!」

男「………何の事かな?」ダラダラ

ポニテ「誤魔化さなくていーよ、お兄ちゃんがこの町のサンタだったんだね」

男「はっはっは、訳のわからない事を」ダラダラ


ポニテ「大丈夫、お兄ちゃんがサンタな事は秘密なんでしょ…誰にも言わないよ?」

男「………」

ポニテ「サンタさんって、普段は学校行ったりしてるんだね…知らなかったよ」

男(……ん?)

ポニテ「サンタさんも年に一回の仕事だけじゃダメだもんね」

男(これは…バレてるけど、夢は壊れてないな…)

ポニテ「他の大人のサンタさんも普段は違うお仕事してるんでしょ?」

男「…バレちゃったかー、そうなんだよ…サンタも普段は大変なんだ。北欧の元祖サンタさんも、普段はトナカイの牧畜とかしてるからねー」

ポニテ「やっぱりそうなんだー」

男「でも、本当に内緒にしといてね?」

ポニテ「うん、約束するよ。…でも、その代わりにひとつお願いがあるの…あと一人だけ、サンタさんの正体を教える人がいても…いい?」

……………
………


…近くの病院


男「…ここにお友達がいるの?」

ポニテ「うん、ケンサニューインしてるの」

男「正体がバレちゃいけないから赤い服は着れなかったけど、いいのかな…」

ポニテ「大丈夫、私が本当のサンタさんだよって説明するから」

男「それで信じてくれるといいけど」

ポニテ「それにその人は高校生だから、サンタさんが本当の事を話したらきっと解ってくれるよ」

男「え、高校生なの?」

ポニテ「うん…『すとーかー』なんだって」

男(ストーカーって…意味解ってんのかな…ヤバイ人なのか?)

ポニテ「ねえ、行こうよ」


…総合案内


男「まずはその人の病室を訊かなきゃね」

ポニテ「そこはお兄ちゃんにお願いします」

男「えーと、すみません…見舞いに来たんですけど、検査入院されてる……あ、名前は…?」

ポニテ「後輩ちゃん」

男「え…!?」

受付「検査入院の後輩さんですね。…北病棟の512号個室にいらっしゃいます。あちらのエレベーターからどうぞー」

男(後輩…同じ名前なだけか…?)

ポニテ「お兄ちゃん、早くー」

男「あ、ああ…」

………


ポニテ『後輩ちゃんは?プレゼント、何もらうの?』

後輩『私?…うん、えっとね…実は私、明日から入院なんだー』

ポニテ『ええっ、どこか悪いの!?』

後輩『ううん、もう悪いところが治ったから…その検査入院なの』

ポニテ『ケンサニューイン…でも、明日は家にいなきゃサンタさんが来ないよ…?』

後輩『そうだね…サンタさん、会いたかったなあ』

ポニテ『後輩ちゃん…』

後輩『ごめんね、ありがとう。今日はじめて会ったのに、私を心配してくれるなんて…ポニテちゃんは優しいね』

ポニテ『後輩ちゃん、いい人だもん。たくさん遊んでくれたから…』

後輩『いい人じゃないよ…本当はストーカーみたいなものだもん。近くまで来たけど、会う勇気が無いんだ…』

ポニテ『すとーかーって…何?』

後輩『あ、変な言葉教えちゃったね。知らなくていいよー』

……………
………


…512号室


ポニテ「お邪魔しまーす」

後輩「え…ポニテちゃん、なんで…」

男「まさか…本当にお前だったか」

後輩「先輩っ…!?うそ…!え…えっ…!?」

ポニテ「あれ?知り合い…?」

後輩「うわ…!どうしよう、髪も梳かしてないのにっ!」

男「…お気遣いなく」


ポニテ「知り合いなんだったら余計にびっくりするよね?えへへ…実は、このお兄ちゃんはサンタさんなんだよ!」

後輩「…サンタ…さん?」

ポニテ「こないだ後輩ちゃん、サンタさんに会いたかったって言ってたから…連れてきたの!」

後輩「よく解らないけど…先輩がサンタさん…」

ポニテ「うん!」

後輩「そっか…ありがとう、でもね…先輩は私のサンタさんじゃないんだ」

ポニテ「……え?」

後輩(先輩は、違うヒトの…)

男「いや、俺はお前のサンタになりにきたんだ」

後輩「………私…の…?」

ポニテ「そ、そうだよ!お兄ちゃんが町のみんなのサンタさんだったのは昨日だもん、今日は後輩ちゃんのサンタさんだよ!」

後輩「町のみんなの…サンタさん…」

男「うん…ちょっと、この娘の前じゃ言えないんだけど」

……………
………


…その日の夕方、退院後


男「…たかが一泊二日の入院だったとはな」

後輩「だって足が完治してるかどうかの検査入院ってだけですもん」

男「だからって何も24、25日にしなくても…」

後輩「…それは……先輩がイブの予定があるって言うから…」

男「俺のせい…?」

後輩「………そう、です」

男「…それは、深読みできてしまうけど…それでいいのか」

後輩「………」

男「いや…答えさせるのも、男らしくないか。…後輩」

後輩「はい…?」

男「俺、お前の事…好きなんだ」

後輩「……え…」


男「今年のイブは逃したけど毎年来るんだし。…そんでさ」

後輩「あの…!え…えと…その…!」

男「よかったら、来年のイブは一緒にいたいんだ。だから…」

後輩「ちょ…!えぇ…っと…あの…!」

男「俺と、付き合ってくれたらな…って」

後輩「…は…はい…っ」


男「ごめんな、プレゼント…何も用意できてなくて」

後輩「いいです…充分ですから」

男「よかったよ、卒業までにいいきっかけができて」

後輩「先輩が行く大学、隣の市なんですよね…?」

男「うん、でも電車で二十分ほどだよ……あっ」

後輩「あ?」

男「…プレゼントできるもの、あった」ゴソゴソ

後輩「………?」

男「これ…やるから、持っといてくれよ」チャラッ

後輩「これって…」

男「大学の近くで叔母さんが大家やってるアパート、ゆっくり引っ越しすればいいからって…もうカギ貰ってたんだ。それ、合鍵だから」

後輩「…嬉しいです、ありがとう…先輩」

男「ラッピングも何もしてなくて悪いな。せめてこれから、それをつけるキーケースでも買おうか」

後輩「サンタのバイト代、使っちゃうんですか」

男「おう、それとメシくらい奢ってやるよ」


後輩「ねえ、先輩…来年のイブに一緒に過ごす話ですけど」

男「…うん?」

後輩「私もサンタ、なれませんか?」

男「ああ…そりゃいいな。来年はお前と過ごしたいけど、そっちも気がかりではあったんだ」

後輩「ミニスカサンタやりますよ!」

男「じゃあ、後ろで屈んで見とく」

後輩「いやー、ヘンターイ」

男「はは…でも、さすがにミニスカートは寒いだろ」

後輩「厚手のタイツ履いたら、大丈夫ですよ」

男「…タイツは黒、指定な」

後輩「いやー、ホントにヘンターイ」

男「うっせ、寧ろ正常だよ」



(おしまい)

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