「亜美、なにか乗りたい乗り物ある?」
「ジェットコースター」
「えぇ……ここのやつ怖いって有名なのに」
「んっふっふ~だからこそだよ~」
などと楽しく会話していたのが1時間前
ジェットコースターに並ぶ長蛇の列
亜美達は一時間もの間そこに拘束されていたわけである
仕事がたくさんある中の大事なオフを
なぜ亜美達が遊園地に使っているのかというと
そこには止むにやまれぬ深すぎる事情がある
事の発端は、真美との口喧嘩だった
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1384605472
それは先週のこと
亜美達の部屋での出来事である
「亜美は子供だからダメ」
「な、なにさ! 真美だって子供のくせに!」
と、私達が取り合ったのは
えっちぃものではないけど
まこちんが好むような少女漫画である
内容がそれはもう恋愛色がバリバリに強いものらしく
真美は自分は亜美よりも大人だからと言い貸してはくれなかった上に
「じゃぁ、亜美は恋愛とかしたことある?」
「え? 告白ならあるけど?」
「ほら子供だよ。恋愛を知らないから平然と言えるんだよ。普通は……恥ずかしいもん」
と、良くわからない理由で子供とされたわけだ
ほうほう。なら恋人同士で良くするデートというものを体験してみようじゃないか。と
相手を探した結果、見事マッチしたのがはるるんである
要するに、はるるんはただのとばっちりを受けた可哀想な相手役だったりする
もちろん、マッチしたというのは
亜美の理想の相手ということじゃなく
スケジュール上のオフのことだ
クラスの男子とかを誘えば一発OK間違いなしだけど
亜美は今や有名な765プロのユニット竜宮小町の1人である
というわけで、そんなけーさつだかけーそつだかのことはできず
兄ちゃんを誘ったわけだけど
アイドル十数人を抱える兄ちゃんに暇はない
というわけでまこちんを狙ったけど
ゆきぴょんと仕事でダメだった
ミキミキはともかく、やよいっちやいおりんでは
恋愛要素が必要なデートに(笑)が付くこと間違いなしだから却下
ほかの人はたとえ仕事がなくても
お姫ちんも千早お姉ちゃんも詳しくなさそうだし、ひびきんはやよいっち達と同じく無意味っぽいし
あずさお姉ちゃんに至っては遊園地に着くまでにオフが終わる
そんなわけで、最終手段。悪く言えば選択肢の残り物であるはるるんにお願いすると
なんと快く引き受けてくれたわけで
その1週間後である今日、遊園地に来たというわけだ
「はるるん、今日はありがとね→」
「気にしなくて良いよ。たまにはこういうのも悪くないし」
「でも、明日もまた仕事じゃん……」
「頼まれて引き受けたんだから。亜美は気にしなくていいの」
はるるんはそう言ってニコッと笑い
亜美の頭を撫でてくれた
子供っぽさの際立つことなのに
不思議と嫌ではなく
亜美はそれを受け入れてしまった
「なでなで~♪」
受け入れたのは間違いだと気づいたのは
えへへっはるるんの手気持ち良いと
ピヨちゃんみたいにおかしくなって3分程度
チキンラーメンが出来るか出来ないかくらいの時間が経ってからだった
「はるるん、そろそろ止めて?」
「あ、うん」
「はるるんの頭もなでてあげよっか→」
「あははっ、それはちょっと」
はるるんは困ったように笑うと
前の人が動いたのを確認して先に進み
亜美はそのあとについていった
はるるんが困ったのには理由が有り
実は、亜美とはるるんは同じ身長なのである
前までは見上げていたはるるんの顔も
いまや同じ目線で見ることができるわけで
はるるんはそのことでちょっと嘆いているらしい
自分は高校生なのに、中学生に身長で負けなきゃいけないの?
と、千早お姉ちゃんに話したとかなんとか
答えは冷静な笑顔で
身長くらい別にいいじゃない。身長くらい。と
いうものだったというのが兄ちゃんの情報
千早お姉ちゃんの言葉はともかく
はるるんが身長についてちょっとよく思っているのは今の反応的に確かかもしれない
「次の方どうぞー」
「はーい。亜美、乗るよ~」
はるるんのお姉ちゃんっぽい
チョイチョイッと手招きする仕草に思わず可愛いと感じてしまった
「ぃ、イエッサー!」
飛んでいきそうな荷物を係員に預け
亜美達はジェットコースターに乗り込んだ
「ねぇ、はるるん」
「ん?」
「ジェットコースター好き?」
「ぅん」
それが嘘だというのは
ちょっと声が小さくなったことで分かった
そういえば、
言い出した時にはるるんは嫌そうな顔を一瞬だけどしたなぁと
今更ながら申し訳なく思う
付き合わせているくせに、苦手なものに乗らせるとは……
でも、はるるんは文句を言わなかったし
今だって気を使ってか小さい声だったけど平気だって頷いてくれた
そういう風に気を配れないのは
やっぱり真美の言う通り、恋愛云々抜きで
亜美が子供だから……なのかもしれない
だんだんと登っていく中で
チラッとはるるんを見てから、切り出す
「はるるん、手を握ろうよ」
「えっ?」
「ほ、ほら。言ったしょー? 亜美達はデートしてるんだよ?」
「それはそうだけど……」
デートでジェットコースターといえば
お手てつないで「わーっ!」が定番らしい
いや、そういうのも良いね。というくらいだけど
はるるんはきっと怖いだろうし
手をつないであげれば落ち着くかなって思ったから
「ね?」
「う、うん……」
だからこそ、少し強引にはるるんの手を掴んでしまった
その結果
ジェットコースターがその凶悪な急下降や回転
上昇、落下。そして反転急下降
を全て終え、亜美達が降りる頃には
はるるんは青ざめた表情で震えてしまっていた
「は、はるるん……」
「あ、あははは……ははっ……ごめん」
謝るのは亜美じゃなくちゃいけないのに
はるるんは申し訳ないという感じで謝ってきた
悪いのは亜美だ
片手が安全バーを掴むことができないことが
どれだけ怖いことかなんて考えず
勝手に楽だって考えて、掴んじゃったんだから
「少し……休んでいい?」
「う、うん。ごめんね?」
「ううん、私こそごめん」
はるるんと並んでベンチに座り込み
周りの家族やら、友達同士やら、本物のカップルが
楽しげな会話や楽しそうな声を上げる中
亜美達は防音設備のあるレッスンスタジオにいるかのように
それらからは、切り離されてしまっていた
「もしも、私が男の子だったら。幻滅するよね」
「そ、それは……」
「女の子でも、このくらいでへばって根性ないなって、思うよね」
はるるんは申し訳なさそうに言いながら
悲しそうに笑った
「私じゃない方が……よかったね」
「そ、そんなことないよ!」
「だって、こんなだよ? 明らかにつまらなくさせちゃったよ」
あははっと笑うはるるんの悲しげな表情
それがなんだか胸に痛かった
はるるんに気を使わせた挙句
気を使ってみたら失敗して余計に辛い思いをさせて
亜美は……全然ダメだなぁ
呆れたようなため息は心の中で吐き出して
「はるるんのことも、楽しくさせてあげられてないよ」
「………………」
どっちが男の子役で、どっちが女の子役で
そんな細かい設定は決めていない
でも、相手に楽しんでもらいたいという気持ちはどちらにせよあった
それなのに、全然ダメ
せっかく付き合ってくれてるのに、笑顔が見れなくて
それがあまりにも申し訳なく、すごく、残念な気持ちになった
「えっと、だから。その……仕切り直し!」
「え?」
このまま解散になってしまうのが嫌だった
このままつまらないままで終わらせたくなかった
でも、それだけじゃないような気がして
でも、うまく言えなくて
だから、その提案だけをした
「どっちもダメ。引き分け。前半しゅうりょー、後半戦!」
いきなりのジェットコースターのおかげで
既にお昼になる頃
仕切り直すには、ちょうどいい時間だった
呆気にとられていたはるるんは
小さく笑って頭をかき、微笑みとともに首を少しかしげた
「えへへっ、亜美が良いなら」
その嬉しそうな笑顔に
亜美はちょっとだけ、ドキっとした
「じゃぁさ、お昼にしない?」
「そだね→、どこかいいお店――」
「あははっ、ごめん」
あたりを見渡す亜美に対して
はるるんは小さく笑って大きめなカバンを見せてきた
「うん?」
「えっとね、作って……来ちゃった」
遊園地デートって
お弁当とか作ってくるものなのかなーなんて考え始め
したことないし調べてないから判らないよーと思考を投げ捨てるまでコンマ数秒
そして私がとった行動は
「やった! はるるんの手作り!」
大歓喜である。
はるるんのクッキーは最高だし、
そんな人の手料理が頂けるのだから、ちかたないね
「そ、そんな大したものじゃないよ?」
「しかしだね。自分がそう思っててもそうじゃないものなのだよ。天海君」
「社長の真似? ちょっとだけ似てるよ~」
さっきまでの気落ちした空気はどこへやら
亜美達は周りと同じような楽しそうな空気に混ざりながら、昼食をとることにした
「サンドイッチ……って、今日ピクニックだっけ」
「そ、そういうわけじゃないけどっ、お出かけデートって言ったらさ。ほら。手料理食べたいでしょ?」
「う~ん……」
亜美的にはそれはそれで嬉しいけど……
いや、亜美が女の子だから作る側?
それなら嫌だ。考え終了
「自分で作るのは面倒くさいかなぁ」
「こらこら」
はるるんのちょっと呆れた言い方に
すかさずボケて返す
「アミ的には、男の子が作っても良いって思うの」
「もう、亜美だって女の子なんだから。結婚したら主婦になるかもしれないんだよ?」
「うっ……そうかもしれないけどさー」
正直な話
結婚とかどうとかは亜美にとってはまだ遠い話だから実感が湧かないし
そもそも、それ以前の恋愛というものを知るために
こんなデート体験なんてしてるんだよね……
「結婚とか、まだ先の話だもん」
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