亜美「亜美だって大人だよ」 春香「うん、そうだね」 (68)


「亜美、なにか乗りたい乗り物ある?」

「ジェットコースター」

「えぇ……ここのやつ怖いって有名なのに」

「んっふっふ~だからこそだよ~」

などと楽しく会話していたのが1時間前

ジェットコースターに並ぶ長蛇の列

亜美達は一時間もの間そこに拘束されていたわけである

仕事がたくさんある中の大事なオフを

なぜ亜美達が遊園地に使っているのかというと

そこには止むにやまれぬ深すぎる事情がある

事の発端は、真美との口喧嘩だった

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それは先週のこと

亜美達の部屋での出来事である

「亜美は子供だからダメ」

「な、なにさ! 真美だって子供のくせに!」

と、私達が取り合ったのは

えっちぃものではないけど

まこちんが好むような少女漫画である

内容がそれはもう恋愛色がバリバリに強いものらしく

真美は自分は亜美よりも大人だからと言い貸してはくれなかった上に

「じゃぁ、亜美は恋愛とかしたことある?」

「え? 告白ならあるけど?」

「ほら子供だよ。恋愛を知らないから平然と言えるんだよ。普通は……恥ずかしいもん」

と、良くわからない理由で子供とされたわけだ

ほうほう。なら恋人同士で良くするデートというものを体験してみようじゃないか。と

相手を探した結果、見事マッチしたのがはるるんである


要するに、はるるんはただのとばっちりを受けた可哀想な相手役だったりする


もちろん、マッチしたというのは

亜美の理想の相手ということじゃなく

スケジュール上のオフのことだ

クラスの男子とかを誘えば一発OK間違いなしだけど

亜美は今や有名な765プロのユニット竜宮小町の1人である

というわけで、そんなけーさつだかけーそつだかのことはできず

兄ちゃんを誘ったわけだけど

アイドル十数人を抱える兄ちゃんに暇はない

というわけでまこちんを狙ったけど

ゆきぴょんと仕事でダメだった

ミキミキはともかく、やよいっちやいおりんでは

恋愛要素が必要なデートに(笑)が付くこと間違いなしだから却下

ほかの人はたとえ仕事がなくても

お姫ちんも千早お姉ちゃんも詳しくなさそうだし、ひびきんはやよいっち達と同じく無意味っぽいし

あずさお姉ちゃんに至っては遊園地に着くまでにオフが終わる

そんなわけで、最終手段。悪く言えば選択肢の残り物であるはるるんにお願いすると

なんと快く引き受けてくれたわけで

その1週間後である今日、遊園地に来たというわけだ


「はるるん、今日はありがとね→」

「気にしなくて良いよ。たまにはこういうのも悪くないし」

「でも、明日もまた仕事じゃん……」

「頼まれて引き受けたんだから。亜美は気にしなくていいの」

はるるんはそう言ってニコッと笑い

亜美の頭を撫でてくれた

子供っぽさの際立つことなのに

不思議と嫌ではなく

亜美はそれを受け入れてしまった

期待


「なでなで~♪」

受け入れたのは間違いだと気づいたのは

えへへっはるるんの手気持ち良いと

ピヨちゃんみたいにおかしくなって3分程度

チキンラーメンが出来るか出来ないかくらいの時間が経ってからだった

「はるるん、そろそろ止めて?」

「あ、うん」

「はるるんの頭もなでてあげよっか→」

「あははっ、それはちょっと」

はるるんは困ったように笑うと

前の人が動いたのを確認して先に進み

亜美はそのあとについていった


はるるんが困ったのには理由が有り

実は、亜美とはるるんは同じ身長なのである

前までは見上げていたはるるんの顔も

いまや同じ目線で見ることができるわけで

はるるんはそのことでちょっと嘆いているらしい

自分は高校生なのに、中学生に身長で負けなきゃいけないの?

と、千早お姉ちゃんに話したとかなんとか

答えは冷静な笑顔で

身長くらい別にいいじゃない。身長くらい。と

いうものだったというのが兄ちゃんの情報

千早お姉ちゃんの言葉はともかく

はるるんが身長についてちょっとよく思っているのは今の反応的に確かかもしれない


「次の方どうぞー」

「はーい。亜美、乗るよ~」

はるるんのお姉ちゃんっぽい

チョイチョイッと手招きする仕草に思わず可愛いと感じてしまった

「ぃ、イエッサー!」

飛んでいきそうな荷物を係員に預け

亜美達はジェットコースターに乗り込んだ


「ねぇ、はるるん」

「ん?」

「ジェットコースター好き?」

「ぅん」

それが嘘だというのは

ちょっと声が小さくなったことで分かった

そういえば、

言い出した時にはるるんは嫌そうな顔を一瞬だけどしたなぁと

今更ながら申し訳なく思う

付き合わせているくせに、苦手なものに乗らせるとは……

でも、はるるんは文句を言わなかったし

今だって気を使ってか小さい声だったけど平気だって頷いてくれた

そういう風に気を配れないのは

やっぱり真美の言う通り、恋愛云々抜きで

亜美が子供だから……なのかもしれない


だんだんと登っていく中で

チラッとはるるんを見てから、切り出す

「はるるん、手を握ろうよ」

「えっ?」

「ほ、ほら。言ったしょー? 亜美達はデートしてるんだよ?」

「それはそうだけど……」

デートでジェットコースターといえば

お手てつないで「わーっ!」が定番らしい

いや、そういうのも良いね。というくらいだけど

はるるんはきっと怖いだろうし

手をつないであげれば落ち着くかなって思ったから

「ね?」

「う、うん……」

だからこそ、少し強引にはるるんの手を掴んでしまった


その結果

ジェットコースターがその凶悪な急下降や回転

上昇、落下。そして反転急下降

を全て終え、亜美達が降りる頃には

はるるんは青ざめた表情で震えてしまっていた

「は、はるるん……」

「あ、あははは……ははっ……ごめん」

謝るのは亜美じゃなくちゃいけないのに

はるるんは申し訳ないという感じで謝ってきた

悪いのは亜美だ

片手が安全バーを掴むことができないことが

どれだけ怖いことかなんて考えず

勝手に楽だって考えて、掴んじゃったんだから


「少し……休んでいい?」

「う、うん。ごめんね?」

「ううん、私こそごめん」

はるるんと並んでベンチに座り込み

周りの家族やら、友達同士やら、本物のカップルが

楽しげな会話や楽しそうな声を上げる中

亜美達は防音設備のあるレッスンスタジオにいるかのように

それらからは、切り離されてしまっていた

「もしも、私が男の子だったら。幻滅するよね」

「そ、それは……」

「女の子でも、このくらいでへばって根性ないなって、思うよね」

はるるんは申し訳なさそうに言いながら

悲しそうに笑った

「私じゃない方が……よかったね」


「そ、そんなことないよ!」

「だって、こんなだよ? 明らかにつまらなくさせちゃったよ」

あははっと笑うはるるんの悲しげな表情

それがなんだか胸に痛かった

はるるんに気を使わせた挙句

気を使ってみたら失敗して余計に辛い思いをさせて

亜美は……全然ダメだなぁ

呆れたようなため息は心の中で吐き出して

「はるるんのことも、楽しくさせてあげられてないよ」

「………………」

どっちが男の子役で、どっちが女の子役で

そんな細かい設定は決めていない

でも、相手に楽しんでもらいたいという気持ちはどちらにせよあった

それなのに、全然ダメ

せっかく付き合ってくれてるのに、笑顔が見れなくて

それがあまりにも申し訳なく、すごく、残念な気持ちになった


「えっと、だから。その……仕切り直し!」

「え?」

このまま解散になってしまうのが嫌だった

このままつまらないままで終わらせたくなかった

でも、それだけじゃないような気がして

でも、うまく言えなくて

だから、その提案だけをした

「どっちもダメ。引き分け。前半しゅうりょー、後半戦!」

いきなりのジェットコースターのおかげで

既にお昼になる頃

仕切り直すには、ちょうどいい時間だった

呆気にとられていたはるるんは

小さく笑って頭をかき、微笑みとともに首を少しかしげた

「えへへっ、亜美が良いなら」

その嬉しそうな笑顔に

亜美はちょっとだけ、ドキっとした

・・・優しい世界だ

支援です。


「じゃぁさ、お昼にしない?」

「そだね→、どこかいいお店――」

「あははっ、ごめん」

あたりを見渡す亜美に対して

はるるんは小さく笑って大きめなカバンを見せてきた

「うん?」

「えっとね、作って……来ちゃった」

遊園地デートって

お弁当とか作ってくるものなのかなーなんて考え始め

したことないし調べてないから判らないよーと思考を投げ捨てるまでコンマ数秒

そして私がとった行動は

「やった! はるるんの手作り!」

大歓喜である。

はるるんのクッキーは最高だし、

そんな人の手料理が頂けるのだから、ちかたないね

「そ、そんな大したものじゃないよ?」

「しかしだね。自分がそう思っててもそうじゃないものなのだよ。天海君」

「社長の真似? ちょっとだけ似てるよ~」

さっきまでの気落ちした空気はどこへやら

亜美達は周りと同じような楽しそうな空気に混ざりながら、昼食をとることにした

はるあみすき


「サンドイッチ……って、今日ピクニックだっけ」

「そ、そういうわけじゃないけどっ、お出かけデートって言ったらさ。ほら。手料理食べたいでしょ?」

「う~ん……」

亜美的にはそれはそれで嬉しいけど……

いや、亜美が女の子だから作る側?

それなら嫌だ。考え終了

「自分で作るのは面倒くさいかなぁ」

「こらこら」

はるるんのちょっと呆れた言い方に

すかさずボケて返す

「アミ的には、男の子が作っても良いって思うの」

「もう、亜美だって女の子なんだから。結婚したら主婦になるかもしれないんだよ?」

「うっ……そうかもしれないけどさー」

正直な話

結婚とかどうとかは亜美にとってはまだ遠い話だから実感が湧かないし

そもそも、それ以前の恋愛というものを知るために

こんなデート体験なんてしてるんだよね……

「結婚とか、まだ先の話だもん」

仕事はええ
はるあみは切ない


「あははっまぁそうだけど」

はるるんはそう言って笑い

サンドイッチの詰められた箱を差し出してきた

「いつか考えればいいことだけど、あとから焦るよりは今から考えてもいいと思うよ?」

「ん~……そう言われても困るんだよねぇ」

亜美のイメージカラー

エッグサンドに決め、一口齧る

「遅いのもアレだけど、早すぎるのもダメだよね」

「モグモグ……でも、それって子供だから考えられないってみたいでちょっと嫌かも」

「そっか。じゃぁ考えてみる?」

興味だけか、お姉さんとして真面目なのか

はるるんはどちらかを読めない表情で笑って聞いてきた

「ん……後でまた考える。レタスハムサンドある?」

エッグサンドを飲み込み、サラっと流す

「あるよー。そうだね、今は遊園地を楽しもっか」

ついでみたいに話したところで意味ないし

なにより、亜美がまだ子供であることは事実だし

今はそういうことを話しても仕方ないよね?


「ゴチだよはるるん! 超美味しかった! デザートと合わせたフルーツサンドも最高だった」

「本当はしっかりしたお弁当でも。なんて考えてたんだけどね」

「ううん、サンドイッチでよかったよ。お弁当は次がいいな」

「次?」

ぴしっと、石化魔法でも喰らったかのように

亜美は固まってしまった

デートしているとは言っても

これは模擬デートでありはるるんとは付き合ってるわけじゃない

だから、次なんてものはきっとないはずで……。

「うーん残念。今の流れなら次のオフも奪えると思ったのに」

冗談ぽく笑いながら、亜美は適当にごまかした

「あ、あははっ。残念だったね」

ほんと、残念だよ

それが当たり前のことなのに

なぜか、亜美は悲しくなってしまった


適当に歩きながら

次に遊ぶものを探していると、はるるんが提案してきた

「食べたばっかりだし、激しい乗り物は避けておこうか」

「そだね。じゃぁ……あのシューティングなんとかっていうのやってみる?」

正確に名前を読むとシューティングスパイダー

近くの看板には、クモが苦手なお客様や

心臓の弱い方などはご遠慮いただいております。とのこと

「へぇ~っこういうのもあるんだね」

「はるるん、2人でできるって」

「ほんと? じゃぁやってみよっか」

と、流れるように決まったこのアトラクション

乗ってすぐに感じたのは

人が居らず、待ち時間もなしに乗れるということを

もう少し危険視するべきだった。という後悔と。

クモの異常なまでの再現率と

射撃されたクモの反応のグロテスクさによって引き起こされた

吐き気であった


「………………」

「………………」

あおいそらはーきれいだなー

したをむいたらーにじができるよー

とりあえず、注意書きをよく読まなかったのがいけないのだから文句を言うことはできないし

あまりのグロテスクさに半狂乱になって最高得点を叩き出し

クモ……ではなくカエルのぬいぐるみを貰えたから良しとして

ベンチに座ることにした

「………………」

「………………」

しばらく黙り込み

喉元まででかかっていたそれが胃の中にまで戻ってようやく

亜美達は互いに顔を見合わせて

ぎゅっと手を握り締め合った


「ま、まだ手が震えてるよ」

「う、うん。亜美もヤバかった」

イタズラでそういうおもちゃを使うことは良くあるけど

それはおもちゃだと判りきっているし

本物とはやっぱり違うから平気……だったのに対し

あのアトラクションはジェットコースターより凶悪だった

というのも、あちらこちらからクモが飛び出してくるわけだけど

撃ち落とせずに接近されると

足元からなにか変なものが出てきて

サワサワサワ......と這っていくし

蜘蛛の巣に当たると

天井から無数の糸が垂らされ……ぅっ

とにかく、あれは食後にやるべきものじゃなかった


「あ、はるるん。このカエルのぬいぐるみいる?」

「ううん、亜美が欲しいならそのまま貰って良いよ」

「…………………」

カエルのぬいぐるみは

園内で市販されているやつよりもちょっと特別で

普通のが緑色なのに対し

このぬいぐるみは金色だった

そんな特別なやつを

付き合わせてる側の亜美が貰えるわけがない

「ううん、はるるんが貰ってよ。亜美はいいから。お礼として」

「えへへっ、そう? ありがとー大事にするね」

笑顔は可愛いし

サンドイッチは作ってきてくれるし、美味しいし

今みたいに喜んでる姿を見ると、こっちまで嬉しくなれるし

亜美は男の子で、はるるんは女の子って設定がぴったりな気がする


なんだろう。

自分達を女の子同士ではなく

男の子の目線からはるるんを見てみただけなのに

ちょっと変な感じがする

なんていうか、こう……緊張するというか

「部屋に飾ろーっと」

喜んでる姿を見て嬉しくなって

「ありがとね、亜美」

笑顔を見て、ドキっとした

昼前とは違う、もっと強く打たれたような感じで

言葉が詰まって出てこない

「亜美?」

「ぁ、ぇ、その……喜んでくれたなら亜美も嬉しい!」

慌てて視線を逸らし

はるるんにではないと言い聞かせてようやく出た声は

思った以上に大きくて

それは、亜美や真美に告白してくる男の子に似ていた


終わらなかった

とりあえず中断

明日の朝で終わらせます、たぶん

はるあみわっほい!

ゴミスレっと

こんなほのぼのの後、まさかあんな事になるなんて・・・

止めろよ
この世界線のちーちゃんを信じろよ

はるあみの初夜も書くんだろうな?


「ねぇねぇ、次何に乗る?」

「え~と……ん~……」

考えて、探すように見せながら

亜美ははるるんから目をそらした

元気にはしゃいで

次のアトラクションを楽しみにしているのは

朝からずっと変わらないことだったのに

それがどうしようもなく可愛く見えてしまう

亜美は女の子で、はるるんも女の子

だから、別になにか思うようなこともないはずなのに

なんだか気恥ずかしかった


「あっ、ねぇ亜美!」

「な、なに?」

「あれなんか面白そうじゃない?」

「あれ?」

はるるんの顔ではなく手を見てそれが何かを見つけた

なんかお城みたいな建物

中は、3階から地下2階までの超巨大な迷路で

宝探しみたいなことをするものらしい

見つけられたら景品もあるらしく

途中退場もOK

制限時間は特になし

つまるところ、暇つぶし専用アトラクションである


それでも、はるるんが面白そうだしやってみようよ。と

高校生なのに子供みたいにはしゃぐものだから

亜美達はその迷路をやることにした

「えへへっ、迷路だよ。迷路。あずささんがいたらどうなったのかな~」

「知らないよ」

自分でも驚くほど冷たい声で

それには、はるるんの表情が曇った

「ぁ、亜美?」

「はるるんはデートの時に他の女の子の話されてもいいんだ」

「え、あ、そ、そうだね……ごめん」

確かにデートの体験をしてるけど、ただの模擬デート

そんなところまで気にして貰う必要なんてないはずなのに

なんで、はるるんがあずさお姉ちゃんの名前出した時に嫌な気分になったんだろう……。

理解のできないその何かを噛み砕くように歯をギリッと噛み合わせ、首を振った

「んっふっふ~、じょーだんだよ。でも、はるるん。そういうところ気をつけないと。失敗するよん?」

「うっ……き、気をつける」

はるるんはあはは。っと困ったように笑った

冗談だって、思ってくれたかな……


「どうぞー」

「は~い」

「いっくよ~」

途中退場のためのことなどの説明を受け

いざ、入場、入城?

とにかく、城の中の宝物庫襲撃作戦の開始である

「天海分隊長、敵兵の姿が見えません!」

「恐らく身を潜めているのだろう。油断はしちゃダメだよ……だぞ」

「口調までやらなくてもいいよ?」

「えへへっ、じゃぁ真美、油断は禁物だよ。しっかりと警戒しておくように」

「イエッサー!」

はるるんはこういう突発的な遊びにでも

ちゃんと乗ってくれるから嬉しい

ほかの人は困惑したりするのに

はるるんは真美みたいに、すぐに合わせてくれる

そのおかげで、心の中の違和感は

少しだけ感じなくなっていた


それからしばらくして、問題は起きた

広い上に、迷路ということでかなり複雑な道となっているわけで

面倒なことを省くと、亜美は迷った

そこで【亜美は】となるのは

傍らに我らが765兵団の分隊長、天海春香がいないからである

なんでそうなったのかは結構簡単に説明できる

お城ということもあって

内装はかなり綺麗で、しかも凄かった

で、亜美はそういうものが好きなわけで

……はい。その通りでございます

「はるる~んっ!!」

亜美の声は虚しく響く

よーするに、亜美が勝手な行動をした結果はぐれた上に現在位置も解らない迷子となったわけだ

本当の意味での兵団所属なら、生還しても打ち首じゃないだろうか


「はるるん、どこ~?」

返事がきた。ただの山びこのようだ

「うあうあ~っ、もう……」

迷子になってはやくも20分経過した今、

声を上げるのも憂鬱だった

大声を出せば響くから良いかなーと思った20分前

反響した自分の声しか帰ってこないことにイラついた10分前

はるるんの声が聞きたくて泣きそうな30秒前

意図してない一人ぼっちがここまで心細いものだとは思わなかった

「……ケータイは圏外だしなぁ」

ため息一つ、携帯を握り締めた亜美は

おもむろに写真フォルダを開いた


ひびきんがへび香に首を絞められていたり

ゆきぴょんが振り下ろしたスコップを白刃取りしてるお姫ちんとか

罰ゲームで千早お姉ちゃんにまな板見せて千早さんが2人と言わされてるやよいっちとか

あずさお姉ちゃんが事務所に来る途中で立ち寄った江ノ島の写真とか

はるるんが転ぶ瞬間とか、はるるんがまこちんと腕組んでるところとか

はるるんが、はるるんが……。

「亜美、フォルダの中だとはるるん多いなぁ」

気にしたことはなかったけど

思えばはるるんを狙うことが多かった気がする

それはリアクションがいいからなのか、それとも……。

気を紛らわそうとしたのに

今までの楽しさと今の心細さの激しい差が逆に、

寂しさを増しちゃったのかもしれない。

携帯の液晶画面に、ぽろっと雫が落ちてしまった


「はるるん、どこ?」

呼んでも返事は返ってこない

「はるるん、はるるんっ」

呼んでも返事は返ってこない

時間を潰すためのアトラクションであり

その広さのせいか、ほかの参加者にも中々会うこともない

「うぇっ……うぅっ……」

我慢はしていたつもりだった

ううん、我慢していたからこそ

一度溢れ出したら、止められない

だから、泣かないなんて無理だった


迷子になってから40分くらいが経過する頃には

泣くのも、歩くのも、立っているのも面倒くさくなって

亜美は、近くの壁に持たれるようにして座り込んでいた

「……はるるん」

握り締めた携帯の画面に表示された女の子

今日、わざわざ付き合ってくれた女の子

美味しいサンドイッチを作ってくれた女の子

喜んでる姿を見ると、嬉しくさせてくれる女の子

恥ずかしくて、つい背けてしまうような笑顔を見せる女の子

亜美のことを、女の子のくせにドキドキさせる女の子

そして何よりも今、一番会いたい女の子


「――見つけたよ。亜美」


そんな声が聞こえ、ぎゅっと優しく抱きしめられた

その女の子は

なぜか乱れた呼吸だった。なぜか汗をかいていた


その女の子は一旦離れて

亜美の顔を睨んだ

「馬鹿! 勝手にどっか行っちゃダメでしょ!」

「ぁ……はるるん……?」

それは、亜美が一番会いたい女の子だった

すごく、怒ってる表情だった

「ごめ、なさ……」

「無事でよかった。見つかってよかった……もぅ、もぉっ……心配、したんだからっ」

でも

怒っていた表情はすぐに崩れて

安心したように笑って、また。抱きしめてくれた

「ごめん……ごめん、はるるん」

はるるんは亜美を見つけてくれた

きっとすごく心配したんだろう

亜美が立ち止まったりしている間も

せっかくのオフなのに、疲れることも気にしないで

この広いお城の中を……亜美のために走り回ってくれていたんだろう

抱きしめられて暑いし、汗が体についてちょっとだけ気になったけど

でも、でも……すごく、安心できる温もりだった


それから、お城のイベントをしっかりとクリアして景品を貰って

お城を出てからも、亜美とはるるんは手を繋いでいた

「はるるん、もう迷路出たよ」

「だから?」

「えっと……」

はるるんはやっぱり

まだちょっとだけご機嫌斜めだった

そうだよね

亜美が物凄く不安だった時間

同じかそれ以上にはるるんも不安で心配だったんだから

「ありがと、はるるん」

「え?」

「見つけてくれて、嬉しかった」

「……もう、勝手なことしないでよ。私、心配したし、不安だったし、怖かったんだから」

「うん、ごめん」

はるるんの手に込める力が、ほんの少しだけ強くなって

それに応えるように、亜美も少しだけ強く握った


はるるんは特に何も言わないけど

かなり疲れているのは解った

と、いうのも

迷路以降、あれ乗ろう、これ乗ろうと

元気に言うこともなく

歩く速度も、かなり落ちていたからだ

「はるるん、休もっか」

「え、でも」

「良いから良いから」

はるるんははるるんのためにって言うと

必ずと言っていい確率で拒否する

そのため、亜美も休みたいからと付け足して、ベンチに座り込んだ


「もう、夕方だねぇ」

「うん、時間って結構早く経つものみたいだね」

「学校だと、授業が早く終わらないかなーって待ち遠しいのに」

「こらこら、ちゃんと受けなきゃダメだよ?」

「解ってるって」

今は、終わらないで欲しい

もっと長く、もっと続いて欲しい

でもそれは無理な話

「はるるん明日も仕事だよね」

「うん」

「しかも、学校もあるんだよね」

「うん」

「じゃぁ、あと一つだけ、乗ってさ……終わろう?」

デートの定番とか言われる観覧車

遊園地の中で、2人きりになれる。場所

「うん、良いよ」

はるるんは笑顔で、受けてくれた


観覧車には意外と人が並んでいた

高いところが好きな子供達、その親

景色を見たいという感じの大人

そして、いい雰囲気の恋人達

その中に入る亜美達は

周りから見たらどういう関係なんだろう?

ただの、友達かな

「結構待つみたいだね」

「観覧車って意外と人気なんだね」

「ジェットコースターより高い位置に来れるし、落ないし」

「はるるんって、高いところがダメなわけじゃないの?」

「絶叫マシーンが嫌なだけかな」

はるるんは朝のことを思い出したのか

少しだけ身震いして、笑った

あれは酷い事をしちゃったなぁ……


「次の方どうぞー」


しばらくして亜美たちの番

その頃には、夕方らしい、夕焼け空が広がっていた

「じゃ、乗ろっか」

「うん」

はるるんと2人で観覧車に乗り込む

少し、ううん。

かなり緊張していた

だって、2人きりなんだもん

元気なはるるんは可愛いけど

疲れて、大人しくなったはるるんは

高校生らしく大人びて見えて……亜美は。


また、心を乱されてしまった

やっぱはるあみっていいわ


「………………」

「………………」

夕焼けを2人して黙ったまま見つめる

こういうのなんていうんだっけ

中二病? いや、お姫ちんが声優やったアニメの題名で

教えてもらったんだけど……たそ。たそ……

「ねぇ、亜美」

「な、なに?」

はるるんの静かな声は亜美をドキッとさせる

怖いとか、そういうんじゃなくてなんかこう、魅力的というか。なんというか

「綺麗だね。空」

「うん、綺麗だよ」

段々とてっぺんに近づきつつある観覧車

高層ビルの上からちょこっと見える夕日は綺麗だった

そしてその光を受けてるはるるんは……もっと綺麗だった

でも、亜美はそんなことを平然と言えるほど

大人あるいは無邪気な子供じゃなくなっていた


「はるるん。今日はありがと」

「ううん、こちらこそありがと。可愛いぬいぐるみも貰っちゃったしね」

はるるんは夕日ではなく、

亜美の方へと顔を向けて、にこっと笑った

今度は、そらさない

今だけは、そらせない

「亜美、おかげで恋愛ってどういうものだか解ったんだ」

「へぇ、どんな感じなの?」

はるるんの声はやっぱり落ち着いていて

だからこそ、あのお昼の時の表情が

興味じゃなくて、お姉さんとしての真面目なものだったんだと解った


「ドキドキする」

「うん」

「笑顔が見たくなる」

「うん」

「でも、見るとドキドキするし恥ずかしい」

「うん」

「喜ぶ姿が見たい」

「うん」

「大変な時に、傍にいて欲しい」

「うん」

「辛い時も、苦しい時も、悲しい時も、傍にいて欲しい」

「うん」

「だからはるるん、亜美と一緒にいて」

「……………………」

やったぜ。


それは勇気をかけた告白

返事は沈黙

だけど、亜美は続けた

「今まで、2人きりでこういうことがなくて、気付けなかった」

「…………………」

「亜美は、はるるんだけじゃなく、みんなの笑顔が好きだって思ってた」

でもね。と

続けながら、迷路の中で作った

携帯の中の特別なフォルダをはるるんの前に表示した

「これ全部、はるるんの写真」

全部で800枚近くある写真の中の

半分以上を占めるはるるんと分けられた写真

「亜美はずっと、はるるんのこと。見てたんだ」


「悲しい顔や、辛い顔をされた時に胸が痛くて、嫌な気持ちになった」

それは

自分が好きな人が自分によって悲しそうにしているということの罪悪感

「それで解った。亜美ははるるんに辛い気持ち、悲しい気持ちでいて欲しくないって思ってるって」

「……………………」

「はるるんの笑顔が大好きなんだって」

それに。と

黙り込むはるるんに対して、言い続けた

「お弁当は次がいいって言って、次?って聞き返されて」

ああ、これが最初で最後のデートなんだ

付き合ってるわけじゃないんだから

それは当然だって解ってたけど

「もう、デートなんてできないのかもしれない。そう思ったときすごく、悲しい気持ちになった」


「亜美がはるるんを好きだって。それが恋愛だって気づいたのはあのクモおかげだった」

あの気持ちが悪かったクモのアトラクション

でもあれをやらないで

あの景品をもらわないで

それをはるるんに上げていなかったら

きっと、こんな気持ちを知ることはできなかった

「景品をあげたはるるんの、嬉しそうな姿、笑顔。それが堪らなく、亜美をドキドキさせたんだ」

「……………………」

「そこではるるんに喜んでもらえて嬉しい。そう言って気づいた」

学校で告白してくる男の子達

みんながそわそわしながら

恥ずかしそうに、そして、大声になるその姿

それがその時自分と一緒だってことに

「亜美は好きな子の前に……いるんだって」


「それで、あの迷路で迷子になって亜美は確信したんだ」

「……亜美」

「大変な時、辛い時、悲しい時、苦しい時、傍にいて欲しい人がはるるんだって、解ったから」

全部言った

今日一日で気付けたこと

気づいてしまった自分の気持ちを

だからもう、変に濁したりもしない

一緒にいて欲しいって言い方ではなく、単刀直入の言葉を


「双海亜美は、天海春香が好きです。今までも、これからも……ずっと好きです」


夕日が、観覧車の中を照らし出す

立ち上がった亜美と、座ったままの春香お姉ちゃん

それは、天辺が近づいた合図

春香お姉ちゃんが目を閉じて、小さく息を吐く

それは、答えを言う合図



「うん。ありがとう。私も好きだよ。亜美」

エンダァァァ


春香お姉ちゃんは、にこっと笑った

夕日が、亜美達を包み込んだ

ガシャンッと、天辺に到達したことを告げるように揺れた

動いているはずなのに

止まってしまったかのような感覚

「……は、春香。お姉ちゃん?」

「なに?」

「ほ、ほんと? 嘘、じゃない? 友達とか、そういうオチじゃない?」

緊張して声が震えた

ここでドッキリですとか

観覧車が外れて垂直落下

びくっと震えて目を覚ますと自分の部屋

そんな嫌な考えばかり浮かぶ

でも、春香お姉ちゃんは首を横に振った

「嘘でも、夢でも、なんでもない。天海春香の言葉だよ」


「亜美」

「っ……」

春香お姉ちゃんは

今にも泣きだしそうな亜美を抱きしめてくれた

柔らかい、温かい、優しい感触

「春香お姉ちゃん、亜美、亜美っ……」

「いつも通りはるるんで良いよ。そんな、年上を意識した言い方は必要ない」

はるるんはそう言いながら、頭を撫でてくれた

「恋にはね。年齢も、身分も。人種も。性別だって関係ない」

「…………………」

「その人が好き。それでもう恋なんだから……ね?」


はるるんを見つめると嬉しそうに笑っていた

デート、観覧車、告白、恋人

ほら、見たか真美。亜美はこの先に行くんだ

「亜美だって、大人だよ」

「うん、そうだね」

「だからはるるん」

「ん?」

「キス、しよ?」

揺れる観覧車の中

淡い夕日の光に巻かれ

亜美とはるるんはキスをした

大人の階段登った亜美は

少女漫画には手を出すことはないだろう

だって、本当の意味で大人になったし


なにより。亜美には――はるるんがいてくれるからね!


終わり


はるあみわっほい!

この世界のちーちゃんはアブを駆除してる子

情事がないだと

情事に期待すんなし
このキスまでで終わるのが良いんじゃん
まぁ過剰な愛見た後だと期待したくなるが…

>>35
> 「えへへっ、じゃぁ真美、油断は禁物だよ。しっかりと警戒しておくように」


oh

自分が警戒してなかったと
はるるんは罰としてそう受けかな
>>35訂正


「どうぞー」

「は~い」

「いっくよ~」

途中退場のためのことなどの説明を受け

いざ、入場、入城?

とにかく、城の中の宝物庫襲撃作戦の開始である

「天海分隊長、敵兵の姿が見えません!」

「恐らく身を潜めているのだろう。油断はしちゃダメだよ……だぞ」

「口調までやらなくてもいいよ?」

「えへへっ、じゃぁ亜美、油断は禁物だよ。しっかりと警戒しておくように」

「イエッサー!」

はるるんはこういう突発的な遊びにでも

ちゃんと乗ってくれるから嬉しい

ほかの人は困惑したりするのに

はるるんは真美みたいに、すぐに合わせてくれる

そのおかげで、心の中の違和感は

少しだけ感じなくなっていた

じゃあ総受けはるるんから書き始めようか(ニッコリ)

乙 あみはるは癒し


そしてはるるん総受けで精神崩壊フラグですね(ゲスマイル)


修羅場も好きだけど、やっぱりほのぼのは良いもんだ

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