やよい「お茶です、プロデューサー」P「すみません、やよいさん」(502)

やよい(21)「あんまり無理しないでくださいね」

P「は、はい」

P「……ヒマだ」

 765プロのプロデューサーを始めたのはもういつの頃のことだっただろうか。

 俺がプロデュースしたアイドル達は売れに売れ、今や1人余さず国民的人気を誇っている。

 そんななか。
 俺は、昔と比べ大きく小綺麗なった事務所の俺に与えられたデスクの前で、深々と溜め息を吐いていた。

 理由?
 それは、仕事が全部デスクで済むものばかりになっていたからだ。

 もう仕事は向こうのほうからやってくる。
 業界の内外にも多くのコネクションも出来たし、わざわざ走り回って仕事を取りにいく必要がなくなった。

 アイドル達も、もう数々の仕事を自分でこなせている。
 スケジュールも自分で組めているし、何か問題や頼み事があったら、俺に相談しにくるので問題無い。

 たまにアイドル達の現場に足を運んだりもするが、そうすると仕事に慣れているはずの彼女たちはむしろ緊張するようなので、最近はめっきりそれもなくなった。

 ……ああ、これって勝ち組なんだろうなぁ……でもなぁ……。

 今日も独り、事務所で留守番兼電話番という体で、お茶を啜って過ごす。

 社長や小鳥さんは
「貴方がここに居てくれるだけで、私たちやアイドルの子たちの力になる」
 と言ってくれたけれど。

 正直、穀潰し感が否めない。
 過去の業績からだいぶいい給金を貰っているのだけど、働き盛りに働き詰めだった反動か、趣味というものを探す気にはなれなかった。

 趣味(そんなもの)に時間を費やすくらいなら、他会社のアイドル達をリサーチしていた方が有意義だし楽しい。

 ……その行為も端から観れば「事務所でTV見て雑誌読んでネットサーフィンしてくつろいでるだけ」なので、やはり気分はよくない。

 誰も何も言わないけれど、むしろ「またお仕事のこと考えてるんですか?」と心配されるけど。

 もうこれが人生の一部なんだ。こうしていないと呼吸が止まる。


 そう言えば、小鳥さんは30歳を迎えてすぐに、「……実家に呼び出されました……」と幽鬼のような表情で呟いて去っていったきり、帰ってきていない。

 たまに電話や便りがあるので無事なようだ。
 なんでも実家の手伝いで座敷牢がなんたらかんたらと、非現実的なことを話していたが……。

 ──なので、いま事務所には俺1人しかいない。

 小鳥さんのデスクは、いつ帰ってきても良いように、そのまま綺麗に残してある。
 まえに亜美真美がデスク上に花を活けていたが、律子が滅茶苦茶怒ったのでその手の悪戯はしなくなった。確かに縁起でもない。

やよい「…プロデューサー?」

P「ん…おぉー、今日はやよいかぁー」

 不意に、事務所の扉を開いて声をかけてきた少女…というには、聊か大人びている女性が、明るく笑った。

やよい「はいっ、お久しぶりです!」

 高槻やよい。
 かつて“多くの弟妹を支える、頑張り屋の小さなお姉さん”だった彼女は、いまやその『お姉さん』の部分を大きくのばし、
 明るくも大人の女性を感じさせる、笑顔のかわいい女の子になった。

P「本当にしばらくぶりだな、こうやって話すの。俺は、テレビでよくやよいのこと見かけてるんだけど」

やよい「えへへ、ありがとうございます……はいっ!」

 近付いてきたやよいが、手のひらを掲げてくる。
 コレもほんと久しぶりだ。

P「たーっち!」


「プロデューサーがヒマしてる」

 そんな身も蓋もない噂──真実が765プロのアイドル達のあいだに流れ、彼女たちは即座に連絡を取り合って決まり事を定めたらしい。
 内容はよくは知らないのだけど、要するに、

『当番制で、1人が事務所に赴いてP(俺)の話し相手になる』

 …と言うことらしい。

 いくら765プロが売れていると言っても、休みの日は必ずある。なので、話し合ったりなどして順番を決めて、こうしてわざわざ俺のところに来てくれているのだ。

 ……実のところ、これが現状に申し訳なさを感じる理由の一つでもある。

 だっていまや誰もが振り向くアイドル達が、こんなしがない中年の話し相手になる為に貴重な休日を潰して来てくれているんだぞ?

 ……胃が痛い……。

P「さて、と」

やよい「はい!」

 ちょこんと、俺の隣の空きデスクに構えるやよい。
 久しぶりに間近で見た顔は、なんだかとても輝いてみえる。

P「なにをしようか。いや、なにを話そうかな…?」

やよい「久しぶりですもんね、わたし、プロデューサーに話したいこといっぱい有るんです!」

P「え? そうなのか?」

 やよいは元々面倒見のいい性格だ。それが由来してか、自己管理能力もズバ抜けている。
 だから、なにか相談事があったら迷わず俺のところに来てくれるものかと思ってたんだが……はて?

やよい「わたし、プロデューサーにお仕事の感想が訊きたかったんです! この間のドラマとか、バラエティー番組のこととか!」

P「感想…」

 そう言えば、やよいに限らず、昔現場までついて行っていた頃の俺は、よく仕事に関する感想なんか漏らしていたな。

 やよいはそれを、楽しみに感じていてくれたんだろうか。

P「……よぉし、じゃあ今日は事務所に録画してあるやよいが出た番組を見ながら過ごすとしようか」

やよい「あ…はい! わかりました!」


 彼女たちはもう、「完成」している。

 そんな彼女たちに俺が意見を話したところで、彼女たちの“軸”、“アイドル的指針”は揺らぐことなんかないだろう。

 でも、彼女たち…やよいが、自分から俺の話しなんかを望んでくれているのなら、どうしようもなく嬉しい。

 プロデューサーってのは、やっぱり俺から切っても切り離せないものみたいだ。

 ──俺にとってアイドルは?

 娘か、妹か。
 姉ってことはないだろうけど、恋人って言うと……

P「………」

やよい「……プロデューサー?」

P「──ん、ごめん。ちょっと立ち眩みが」

やよい「大丈夫ですか?」


 ──うん、ダメだ。

 彼女たちを、“そういう目”でみれない。

 仕事を通して接しすぎたせいだろうか。
 アイドルとプロデューサーという世間体のせいだろうか。

 彼女たちは、こんなにも俺に『わかりやすい好意』を向けてくれているのに。


 やよいも、春香も、千早も、真も、雪歩も、あずささんも、亜美も、真美も、伊織も、美希も、響も、貴音も、それに律子や小鳥さんだって。

 とても、なによりも、大事なもののはずなのに。

 ……いや、だからこそか。


 『俺じゃない』
 『もっと相応しいやつがいる』
 『きっと彼女たちを幸せを望み、実行できるひとがいる』

 だから、俺は。

 俺は。

 いまもプロデューサーを逃げ道にしている。

P「お、これは『アイドルのエプロン』だな」

やよい「もうおなじみになっちゃいましたぁ」

P「やよいは料理上手だからなぁ。こう云う番組ではお手本役になってて、観てて嬉しくなるよ」

やよい「ほんとですか? やったぁ…!」

P「あー、これは『ハチャメチャいけてる』のコーナーか」

やよい「伊織ちゃんと一緒に出たときですね」

P「やよいジャイアントスイングされてるじゃないか」

やよい「怖かったですよぉー」

P「あ、伊織に当たった」

やよい「伊織ちゃん、すごく怒っちゃって…」

P「演技じゃないなこれ」

やよい「宥めるの大変でした…」

P「やっぱりやよいおりは観ててほのぼのするな。昔からの仲だし、お前たちが仲良いと嬉しいよ」

やよい「えへへ…」

やよい「あ」

P「ん?」

やよい「もうお昼過ぎてますね」

P「本当だ。メシどうしよう、出前でいいか?」

やよい「だったら、わたし作ります!」

P「いや、流石に悪い」

やよい「でも、他のみんなも作ってるんですよね?」

P「う……まぁ、嬉しいは嬉しいからな…」

やよい「うっうー! じゃあわたし作りますー!」

P「あ」

やよい「…?」

P「久しぶりに聞いた。やよいの『うっうー』」

やよい「……あっ…!」

 途端に、やよいは赤面してしまった。
 ……恥ずかしかったのか?

仕事を優先してくれ

とりあえず>>1の返答待ちだな
朝になりそうなら一回落としたほうがいい

09:00~09:00の簡単なお仕事です。


……書く気そのものはあるんです……滅茶苦茶あるんです……。

>>80
じゃあ仕事がんばってくれ

中途半端に手を出してすみません…
ティン! ときたら出さずにはいられない悪癖がありまして…

保守なさってくださいました皆々様、有難う御座いました。
建てるのはキツいところがありますので、機会有ればいずこかで代行をお頼み申したいと存じます。

ぉうえ…!?

AM09:00に仕事が明けて下番報告して着替えながらポチポチ書き始めて…ですと、
スレが立っていれば最初の投下は09:30くらいには可能です。

が、
そうなるとため無しの長期ながらになってしまいます……それでもよろしければ……
お願い致します…!!

やよいのアバ茶飲みたい


         _..  - ―‐ - ._
        , '"          \
      /"レ'/  /\_. へ、 ∧lヽ
     / /´ {/ノノ ,ィ爪Yハ`′  ',
   /  / // ノ´    ヽ ', l

   |  /   //   :    ', l |
   | l| l  /     .::     ,,l !l |      
   |l |l |  ド==、、::  ,r='"-| ! |        >>140君だっけ?
  ノ|| |l l  |t‐t・ッテ,  ィrt・ッラ|l  |          ここ座んなよ
≦ノノll│ |  |. ´¨~〃 .,,_ ヾ~´ .|l lト、
_./ノ|l | |  l:.   ゙:. ′゙    ,'|l l|ヽヾニ=‐       お茶でも飲んで
‐''"ノ| | |  ト、     `''"__  /:l  l\ー-`ニ=-       話でもしようや・・・
:::´ノ,l li l  | ヽ、 '‐ニ-'' ,イ:::l  lヾミヽ::l
:::‐"/ / ハ l  | ヽ ヽ、._"_/ l:::! l`ヽ、`二>‐
:::::/ノ/ } i l― -、ヾ三/ __ll l::::::::::::::`>― ---- 、

::::"´:::::::;.' ノ、 ', ⊂) 〈フフ  _,l l::::::::::::r'´ /¨>'" )
:::::::::::::://::| ヽ ⊂⊃ノ7 '"´l _l. ― 、`='-、/( _,∠ヽ
:::::::::/´:::(cl=  ⊂二ノ   ,r'‐、  ‐= }   `ヽ |   }
:::::::::::::::::::::::`l   ⊆¨l  ハ __ノ} <l ,' ⊂) 〈フフ\-‐'´}

::::::⊂) 〈フフ:::l    ⊂ 」  { `¨´ l_> / ⊂⊃ノ7  ヽ/}
::::⊂⊃ノ7:(cl"´┌i 00 V ム Δ /   ⊂二ノ    l/}
::::⊂二ノ:::::::::l`⊂ ⊃   {` ー''"     ⊆¨l   l/
:::::::::::⊆¨l::::::::l (フl」<)=、‐-∨⌒ヽ     ⊂ 」   /
 ̄ ̄⊂ 」 ̄ ̄ ̄r'rブノ   `  ',   ┌i 00 // ̄ ̄
  ┌i 00'" ̄ ̄} }} ̄ ¨''‐、____ノ_  ⊂ ⊃ //

  ⊂ ⊃ |`` ========''"r==、ヽ-(フl.」<)‐'´
  (フl」<) ',          ノ   } }

よく考えたらこのP、>>1の通り「やよいさん」って呼んでないな



コレやよいが一番最初ってなだけで、
そのあと順繰りに他の子たちと会って話す展開は有りか無しか

やよい「お茶です、プロデューサー」

P「すみません、やよいさん」

やよい「小鳥ちゃんのプロデュースの方はどうですか?」

P「いやぁ、なんとかやれてますよ」



みたいなスレかと

やよい「お、大人になって、この口癖はなおそうと思ってたのに…」

P「いいじゃないか。俺やよいの『うっうー』は、元気の源って感じがして好きなんだけどな」

やよい「…この歳でも癖が抜けてないなんて恥ずかしいですよぉ…」

 まだ21なのに何をいうかこの子は…。

P「そんな無理に大人ぶらなくてもいいんだ。やよいにはやよいの良さがあって、それは自分では気付けないことかも知れないんだから」

 大人だとか子供だとか、そんなのは所詮人間の社会で作り出された区別に過ぎない。
 やよいは子供のままでもやよいで、
 大人になってもやよいなんだ。

P「大人になっても子供のままでも、俺はやよいのことずっと好きだよ」

やよい「えぇ!?」

P「どうした?」

 一瞬で、茹で上がったタコみたいに顔を赤く染めたやよいに近付く。
 反射的にか、合わせやよいも後退った。

やよい「あ、あのぉ…好きっていうのは……」

P「一やよいのファンとして…って意味だったんだけど…?」

 まずい。
 意図せず勘違いをさせたっぽい。

やよい「……あー、よくみなさんが言っていた意味がわかった気がしますー」

 ジトっとした視線を向けられる。やよいのこういった表情は珍しい。
 写真撮っておこう。

やよい「なんで急にカメラ取り出したんですか!?」

P「自分への戒めとして」

やよい「うぅー…?」

 こんなやりとりをしてから、俺とやよいは【お昼休みちゅう】と書かれた看板を入口扉に貼って、2人で買い物に向かった。

P「ごちそうさまでした」

やよい「うっうー! お粗末さまでした」

 昼食終了。
 社長の趣味で給湯室にシステムキッチンが備え付けられた(ほぼ全面改装)ので、やよいに限らず765プロの子たちはよく利用している。

 ……俺に料理をつくってくれる為に、だが。

P「やっぱりやよいの料理はレベルが違うなぁー」

 1人の時は電気ケトルと電子レンジくらいしか使わない俺にとって、女の子のつくってくれる料理と言うのは本当に有り難い。一種の生命線といってもいい。

 たまに小鳥さんから漬け物や干物、米などが送られてくることがある。
 添えてある手紙には「ちゃんとごはん食べてますか? 送ったものは、私だとおもって食べてください」と書かれていたりする。
 かーちゃんか。というか小鳥さんを食べたりしませんから。

 彼女は自身のもつ魅力、破壊力に気付いていなさすぎて対応に困る。

 食えるものなら食いたい。けど多分、食べたら吐く。
 失礼な意味じゃなくて、
 自己嫌悪に殺される。

やよい「ちょっとひとより馴れてるだけですよぉ~」

P「いや、ただ技術が上手いだけじゃなくて、家庭で食べられるレベルで最上級なものばかりなんだよ」

 765プロ(ウチ)の中では、家庭料理部門No.1の座は揺るがないだろう。

やよい「ほめてもなにも出ないですよー」

 あと片付けを手伝いながらの会話。
 やよいは社交辞令のように流しているが、やはり褒められて嬉しいんだろう、表情が緩んでいる。

 ゴキゲンになってニコニコしているやよいはまるで太陽みたいに周囲を明るくする。
 やよいと一緒に過ごしていれば節電になるかもしれない。そんなバカな。

P「お茶煎れるよ」

 インスタントですが。

やよい「あ、ならわたしついでにやっちゃいますから、プロデューサーはゴロゴロしちゃっててくださいー」

 有無を言わさずキッチンから追い出された。

 「男子厨房に入らず」という諺があるが……申し訳ない。

やよい「お茶です、プロデューサー」

P「すみません、やよいさん」

 自然と遜ってしまう。

やよい「芋けんぴもどうぞ」

P「なにからなにまで…すみません」

 芋けんぴを口に運ぶ。髪に芋けんぴついてるぞっ。

 痛い。歯ぐきに刺さったちくしょう。

やよい「うっうー。今日は楽しいオフになりましたー」

P「いつもは楽しくないのか?」

 せっかくの休日を潰してしまっている身としては、こんなおっさん相手にして楽しかったと言ってもらえることが逆に恐怖に感じる。

やよい「…最近は、家に帰っても寂しぃんですよ…」

 どういうことかと訪ねたら、
 やよいの話しによると、どうやら下の子たちが思春期真っ只中で昔の様にコミュニケーションがとれないのだそうだ。

 ふむ…成長の過程で仕方がないことだとはいえ、みんなの為に頑張っていたお姉ちゃんを困らせるとは何事か。

 近いうち、久しぶりにやよいの家に顔を出してみるのもいいかも知れない。
 迷惑にさえならなければ。

P「みんな、元気は元気なのかな?」

やよい「あ…はい! ウチの子はいつでも元気いっぱいですよ!」

P「そうか、ならよかった。……親父さんは?」

やよい「お父さんも頑張ってます!」

P「よかった…」

やよい「“また”再就職先が決まったんですよ、お祝いしてあげなきゃです!」

 Oh...
 やよいさん…それは甘やかしすぎじゃないのか…?

 まぁ…絶賛穀潰し中の俺が偉そうに言えることなんか何もないよな……。

P「じゃあ俺も、頑張ってるやよいになにかご褒美でもあげようかな」

やよい「う?」

 実は言うと、日頃お世話になっている765プロのみんなには、何か恩返しをしようと思ってたんだ。

 彼女たちが頑張ってくれているから、俺は生意気にも給料なんてものを貰えてるのだし。

 そもそも彼女たちがいなかったら、俺は生き甲斐にもなっている仕事にいまでも就き続けていることは出来なかっただろう。

P「演奏者がいないと、指揮者はただの凡人以下だ」

 舞台に立つ、意味すら失う。

やよい「えぇっと…?」

P「あぁ、だからさ、日頃の頑張りに感謝とお礼の意味を込めて、なんでもプレゼントをしてあげようと思って」

 家賃、光熱費、携帯代、食費、あとリサーチ代。
 俺には多すぎる給金は、上の支払いを済ませても余り続ける。
 リサーチ代を経費で落とさないのは、当然、自分で好きなことをしてでた費用を会社に負担なんかさせたくないからだ。

P「さぁ、なんでもいいぞ? なにがいい?」

 やよいというと…真っ先に思い浮かぶのはべろちょろか。

 あいつは長年の使用にとうとう限界がきてしまい、いまはやよいの部屋で飾ってあるのだという。

 あんなに物を大事に扱ってくれるやよいになら、何を与えても惜しくはない。

やよい「えっと…その……」

 そわそわと視線を巡らせている。

 俺知ってるぞ、あれは言いたいことが言い出せずにいるやつの挙動だ!

P「いいぞ、遠慮なくこい」

 そう諭してやると、意を決したように、ソファーに座る俺の隣まで移動してきて、ジッと視線を交えた。

 ……な、なんだこの迫力は…!

やよい「あ、あの、プロデューサー…」

P「うん?」

やよい「き、嫌いにならないでくださいね?」

P「…? なんのこt──」

 言いかけた言葉は、急な衝撃で遮られる。


やよい「え───いっ!!」


 “それ”が抱きついてきたやよいなのだと理解するのは、一拍の間を要した。

P「………」

やよい「………」

 カチ、コチ、カチ、コチ。
 静まり返った事務所の中、社長の私物の、大きな古時計(アンティーク)が時を刻む。

 動け、ない。

 なんだこれ。なんだこれ?

 なんでやよいが抱きついて? なんで俺は押し倒されて?

 密着してる。
 体温やばい。
 俺の胸に顔を預けたやよいが猫が懐くように擦り付けてる。

 なんだこれ、なんぞこれ。
 なんぞなんぞなんなんぞなんぞなんぞ。

 密着してる。
 匂いがやばい。香りがやばい。
 やよいってこんなにいい匂いするのか。
 あれ? 俺はどうだろう?
 汗臭くね? 加齢臭やばくね?

 アイドルに加齢臭つける俺。変態じゃね?

やよい「…プロデューサー」

 なんですか?
 あ、臭いますか?
 じゃあちょっと薬局いってきます。
 キッチンブリーチで体洗えば体臭って消せるか?

やよい「いきなりこんなことして、ごめんなさい」

P「あ、や、まぁ、びくびっくりしたったけど、平気だにょ」

 隊長!
 脳内管制が仕事をしていません!
 下腹部あたりに感じるやわっこい感触を受信するのに全力になっています!

 うろたえるな!
 我らは、目の前の女の子にそれを悟らせてはいかんのだ!

 劣情を殺せ!
 煩悩を潰せ!
 性欲を滅せ!

 ハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーh

やよい「プロデューサー?」

P「ハリィ!?」

やよい「…こまります、よね、いきなりこんな……」

 背中に回した手を、更に深く回してくる。

 表情は見えない。
 けど、何かに怯えているのは理解できた。

P「……驚きはしたけど、困ったりなんかしないさ」

 ちょうどいい高さなので、頭を撫でてやる。
 こんなふうにするのも大分久しぶりだな。

 三十路間近の男が、二十歳過ぎたばかりの女の子にしてあげることでは無いかもしれないけど。

やよい「…プロデューサーに頭撫でてもらうの、好きです」

 やよいはくすぐったそうに首を振るものの、振り払おうとはしない。構わず続けることにしよう。

やよい「子供扱いされてるみたいで気になるときも有りますけど、いまは……嬉しいです…」

 やよいの体から力が抜けていく。
 …眠ったのか?
 やっぱり、オフの日にまでこうして俺の面倒をみるのは無理があったんじゃないだろうか。みんなに話しをして、これからは遠慮したほうがいいんじゃないだろうか。
 そんな考えが脳裏を過ぎる。

やよい「……ぷろでゅーさぁー……」

 背中に回された手が、離さんとしてシャツを握っている。

 昔から、「甘えられる人がほしい」と望んでいたやよい。
 言葉には出さなかったけど、態度というか接し方というか、それに気付くのに時間はかからなかった。

 こんな俺でもこの子の。

 もしかしたら、他の765プロの子も。

 少しでも、俺が傍にいることで、彼女たちが自分の進みたい方へ行けるというのなら。


 どこか遠く、果てしない先へ続くその分岐点までは一緒にいてあげようと、そう思えるんだ。

 彼女たちが進む道をつくるのが、
 俺の人生、俺の道なんだろうから。

 だから、やよい。
 俺は傍にいてあげるから。

 やよいが俺のことが必要なくなって、ひとりで先にいけるようになるまで。

P「おやすみ、やよい」


 彼女たちとのわかれ。
 いつかくるそのときが、できればきてほしくないなぁ、なんて思ってしまう。

一応「やよい」はここまで…です。
なんかキャラ崩壊ってレベルじゃ無いです。ごめんなさい。

本当はサクサクと日を変えてサクサクとアイドルたちと戯れさせたかったのですが……どうしませう……。

 別の日。

P「ふんふふーん」

 あの日はやよいが起きるまで待ってたら陽がとっぷりとくれてしまったので、そのまま俺が付き添って家まで送っていった。
 丁寧に携帯の電源まで切っていたやよいに連絡が取れず、
 家についたとき兄弟たちは泣きそうな表情をしていたのが印象的だった。

 やっぱり仲の良い姉弟のままだったなぁ。

 ピヨ─ッ!

P「おっと」

 ヒヨコ型電気ケトルが沸騰を知らせてくれる。

 俺は新発売のカップヌードルのフタをわずかに開き、ヒヨコのクチバシから零れる熱湯を…

春香「プロデューサーさん元気ですかー!!」

 …注ごうとしたら、けたたましい勢いで開かれた玄関から現れた存在によってその気は0にまで削がれた。

P「春香か…いらっしゃい」

春香「なんですかそのあからさまにガッカリした態度!? 私泣いちゃいますよ!?」

 む…そんなつもりはなかったんだけどな。

P「コーヒーと紅茶どっちがいい?」

 インスタントだけどな!

春香「プロデューサーさん、いまカップラーメン食べようとしてましたね?」

P「お腹減ってさ」

春香「そういうものばかり食べてると体壊しちゃいますよ?」

P「自炊は手間だし…」

春香「だから、こうして私たち765プロのみんなが順番にプロデューサーさんのお世話をしに来てるんじゃないですか!」

 そんな誇らしげに言われても…。

 俺はこの歳で要介護患者か。

春香「じゃあ、サクサクっとお昼作っちゃいますね」

 そう言って台所に向かう後ろ姿を眺めて、俺は封の開いたカップヌードルにセロハンテープを貼って戸棚にしまった。


 彼女たち…765プロに所属するアイドルたちは、何も毎日事務所に来て俺の面倒を見てくれるわけじゃない。当然ながら。

 来れない日が重なるときも勿論あって(というか週に3日はそうなんだけど)、それでいて、当然来る日に事前の連絡なんてありゃしない。
 アイドルたちは情報網で情報を逐一交換しているらしいけど……それをなぜ俺にも教えてくれないのか。

 だからなるべくすれ違いにならないように、俺は以前よりもずっと事務所に入り浸るようになった。

 せっかく来てくれたのに、誰も迎えてあげないのは失礼だし可哀相だ。

 ……ああ、陽の光が恋しい。

春香「じょーずに出来ましたー!」

P「ご飯がご飯がススムっくん!」

 俺と春香は、互いに向き合うように座る。
 テーブルの上には、春香が腕によりをかけて作ったレトルト食品がエレクトリカルパレードの様相を呈していた。

P「カップ麺を罵っておきながら…」

春香「ち、違いますよ! もうお昼近かったですし、プロデューサーさんもすぐ食べたいだろうなと思って買ってきただけですから!」

 この間も似たような話しを聞いた気がする。

P「この間も似たような話しを聞いた気がする」

 大事なことなので心と口両方でつぶやきました。

春香「ぴゅ~ぴゅぴゅ~」

 いまどき口笛で誤魔化しただと…!?

P「……それでもせっかく春香が用意してくれたんだ。温かいうちにいただくとするよ」

春香「はっ、はい! たんと召し上がれ!!」

ちょっと待っていただけませんか。ごめんなさい

ちょっとどころじゃなかったです……一時間もすみません

春香「………」

P「………」

 見つめられてる。
 そう見られていると食事も喉を通らない。

P「……美味いよ?」

春香「そうですか」

 ……反応が冷たい。
 あれか、俺があからさまに、インスタントじゃない料理──玉子焼きを避けてるからか。
 楽しみにとっておいただけなのに…。

P「あむ」

春香「!」

P「んむんむ……?」

 ガリッていった。
 うっかり殻を取り忘れたな?
 このドジッ娘めーガリガリゴリゴリ。

春香「…ど、どう…ですか?」

P「……グフッ」

春香「ぷっ、プロデューサーさん!?」


 なんと、いえばいいのだろう。

 さいしょのであいは、からかとおもった。

 でもすぐに、ちがうとわかった。


 しょっぱい。

 しょっぱいよ。

 おくちのなかがおおうなばらやぁ。

 はるか。はるか。

 なにとまちがえてこれをいれたんだい?

 これはね、

 岩 塩

 ていうものだよ。

 ほんとうならこまかくくだいてつかうものだよ。

 どうしてきように、たまごでつつむように

 岩 塩

 のかけらをまぜこんだんだい?

 …ああ、いいよ、いいよ。

 それがきみの──


 ──ドジッ娘スキルだから。

P「うーん…」

春香「ごめんなさいごめんなさい!」

 急激な塩分過剰摂取で気分が悪くなってしまった俺を、春香が看病してくれている。

 何事もないように全部綺麗に食べてあげようと思ったんだが…不甲斐なし我が臓腑。

P「もういいよ春香。岩塩なんて置いてあったのがいけないんだし」

春香「うぅ…一番手早くつくれるからプロデューサーさんに食べさせてあげたかったのに…」

P「春香が料理上手なのは知ってるよ。この間も今日も、本当に忙しくて料理の材料が買えなかったんだろ?」

春香「あ、それは単に寝坊しちゃってイヒャイレフふろひゅーひゃーひゃん」

P「…寝坊なんて、これは義務じゃないんだから、そんなに気を張ってくることはないんだからな?」

 お前たちに無理をさせてまで来てもらってるなんて、正直穴掘って埋まりたいほど申し訳ない事実なんだから。

春香「あはは…電車で来てるとどうしても……」

 電車……そう言えば春香って、2時間近くかかるところに住んでるんだっけか……ますます申し訳なくなってきたぞおい。

P「ふぅ…」

春香「大丈夫ですか?」

P「ああ。もう平気平気」

春香「私が言うのもなんですけど…無理しないで下さいね?」

P「イケルイケル!」


 ……さて、と。

 丁度良い機会だし、春香にも訊いてみよう。

P「なぁ春香」

春香「はい?」

P「なにか欲しいものとかないか?」

春香「え…なんですか? そんな急に」

P「ご飯のこととか、日頃の感謝とお礼の意味を込めて、なにかプレゼントしようとおもってさ」

春香「…お礼って……」

 春香が「呆れた…」といった表情で俺を見てくる。
 はて?

春香「そもそも、プロデューサーさんのお世話をするのが『私たちからプロデューサーさん』への恩返しなんですよ? 恩返しに恩返しされたら、私たちどうすればいいんですか」

 春香はちょっとムッとした顔で、俺を窘めるように詰め寄ってくる。
 顔が近い。
 顔近いって!

P「それはそれ、俺は俺……じゃあダメか?」

春香「………」

 すごい睨んでる。
 歳を重ねて人生経験増えた(?)ことで滅茶苦茶凄みがましてる。

 はるかっか! はるかっか!

春香「……なんかなっとくできませんけど、わかりました」

P「…おぉ!」

春香「お言葉に、甘えさせてもっちゃおうかな?」

 ペロっと舌を出して意地悪く笑う春閣下様。

 やっぱり王道アイドルは一味ちがうな…!!

やよい誕生日おめでとwww

やよいが可愛すぎて辛いwwwwww



                                  /)
                                 く◎⊃

                          /`ヽ、     i/ヾ´
                          __/   _>、___ヘ_|r'⌒i      /`ヽ、
                       // /: : : : :.       ̄ `ヽ、   , く_/ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
                      /: : :/: : : : : : : : /: : . /      \{    |           ハ
                     /: : : :/: : : :./:. : :.イ:.: : : ./: : . |   ヽ\.  L\_____/: : i
       /',、           〈: : : : : :i_____,イ>、/i/i!__: : /i_: : :| : i: : :.ハ:.:\ 〉: `ヽ、: : : : : : : \
     /  } }≧x            〉: : : :/': : : / __ `     '´`ヽ、ノi.__|: : :i: .i: : :`i >: : : : \: : : : : : /
     ,'  /./  `ミ≧x,       {:.: : :./: : : : i /r.ミ     r'、¨ヽ、 │ : |: :l:.:. :.:l{}:. : : : : :.ハ:.: : :.:./
      i___./ノ      V三7ァ、   \: :i: : : : : l { {:i!:|      |:i!ハ   } |: : :|: :| : : : 〉: : : : : (: i:.: : : :〉
       `<;';';';';;';'..    | {〉7ァ、 〈 |:.: :.:. :.,'  ヒr'     |:'':ソ   i |r..┴┴‐<: : : : : : : )l: : /
        `<;';';';';..... ハ__ノ  }ヽ、Y| : : : / ''''''  '      `´  ´/         \: : : : : Y:.:.:.\
             `<;';';';';.....  ノ : :::>、__∧    r'⌒ヽ、  '''''' / |        ハ: : : : : : :.:./
                `<;'../::::::/:::::::::::::`ヽ、  V´  {ハ    i {           i: : : : : /
                   `v'::::::::::::::::::::::::::::: :: >、 `   ノ   ,∧ `           ハ : : /'
                     └─、___::::::::::::/::::::::`ー┬─ /i::::`ヽ、.       / )/
                          \:::::::::::::::::::::::::::::{\//\:::::::::`ー─‐ '/  ´
                           \:::::::::::::::::::/´\/\::::::\___/
                           `ヽ_:::::: /      \::::::::::::::::::∧
                             \{           `ー─‐´ 〈
                                i              /   \
                                |            \   i
                                |                 `ヽ |
                              ノ                 ト、

やよいちゃんマジ天使wwwwww

                            . --、
                             _∠_厶x  ヽ
           , -‐'´ ̄`>x _ .   -┴‐-<. 〉、__\
             /    r' _,ノ             `ヽ. } ヽ
         /    r'´厂/             ヽ. }
           〈    } r'〃     /        `ヽ  '. ー-、
         }_   r'/ /    〃    ,           '.  '.  }
        . '´   {″′   .′   /   i i         ト、 廴__
      /       爿 i     l !  _厶斗 |LL !  | !  !ハ     )
    〈       く  i | | 斗i'´/从」人__ノ_j_」_`ト l i  |  `¬ァ′
      ヽ、      ヽ.Ⅵ v   ,ィf仡^    ィ仡トxiト、/ l  |    {
       ` ー- 、  }∧从   ヒ_り    ヒ.り {レ′′|

              / /   Vハ   '.       ′   ノ /,イ!レ′
          `ア     ヾハ   ト、  (_`ア  .ィ 〃/ リ
               . '´ ̄ハ  |} >‐ァ≦千l {ル'
             /   { ハ |     ′} } l|/ハ
              .′    ヽ }人ヽ__.ノノ丿!′ i
                i      ト、 、二二´イ ノ i  |
               | i    V   ` ー― '´  v′ |
              l l    ∨ /         i   l
             |∧     ∨        |   !
             l ∧    '.        .′  |
             l   ヽ    ヽ  //  {   |

どうしてこんなに愛らしいのwwww

                          /:::ヘ
            /:⌒ 〉、_ _,,..-― ,r'ニヘ_::::::::\
          /::::::::::/~/::::::::,,..-‐‐-::::: 、::\ i_:::::::::\
        /:::::::::::::< /‐‐-.-''::::::::::::::::::::::::ヽ::::ヽ i:::::::::: i_,,..∠,)_,‐、
        (::::::::::::::::::/::::::::::::::::::::::::::⌒ ヽ:::::::::::::ヽ:::ヽ〉::::/    "゛ /
        \:::::::::./:::::::::::::::::::::::::i::::::ヽ:::::ヽ:::::::::::ヽ:ヽ/ ̄\_,,..-'"

          〉::::/::::/:::::::://|::::::|i::::::::.||:::::::|::::i:::::::i::/    ./
        /:::::|::::/::::::::/|/.|::_,,.!ヾ-‐'" ̄ |::::i:::::::/    ./
       /::::::::_.| .|::::::::/ ,r==    ,ィ==ェ::::i::::/_  ./ \
       |::::::r'"_ヘ' |:::::::i |! トゝミ      |:::ヘ/   ヽ./__:::::.|
       \ し´ 人|:::::::|ヽ ヾ_ン  _,..-‐ ///、  / ,x_.)::ノ
        ゛゛''"  ',::::::|ゝ',   ヽ´   | . /   /  ゝ-'"
             ',:::::i  '-.,,_ _ヽ-=<"i/   /
             \',   /ゞ<ム--イ'-!   ./
                 ,_/-'´""゛゛゛"""''i_ / 
                ',        _..-"/

                 ', ヽ、_,,..-‐'"  /_
                 ir‐―――--┘ |
                |フ!――――--7つ

               /   ,,..-'",..'" // ´ヾ\
              /_,,..-‐'",.-'"    //   .〉-'、
              /_,,..-‐'"    //_. ‐"// ム
             .|     ,..-‐'" ~ ニ- /⌒ヽ
             !_,..-‐ニ/-‐<i_´">ヽ    |

             '--―-ニ/    ゝ"  |_,,..-‐'"
                  !___,..-‐-.!‐'"
                  {     |

                  .〉__,,. .-‐〈

昨日まで天気予報は雨だったけど
君の誕生日だから晴れちったねwwwwwww

  い 今 う  )      r =-r---‐---v´⌒\

  い 日 っ  )     r´  /      ヽヽ  ヽ
  天 も .う   )    }  /  / |  | i U   )
  気     |  >   「  { ⌒i  |´~|` |    {
  で    !  )    |  _f } ⌒  ⌒ i |   ノ ノノ
  す   ∧_ノ     レ´ | ! "r─‐ " | ハ_ノ´ぶん
  !  ノ             v丶ヽ___ノ__ノ| / rr r-,
ヽ__ノ      ぶん( (  「~}--t___/ ̄\__/Lノ
                 ├-' MARCH ト、  /ノノ

うっうー(迫真)

春香「ふんふふっふふ~ん」

 ゴキゲンな春香を連れて街に出てきた。
 キラメク風に乗ったりはしない。

P「買い物に付き合うくらいいつでもしてやるのに」

春香「いいんですよ、私がして欲しいんですから」

 伊達メガネを通して春香が朗らかに笑う。

 あぁ、訓練されたファンならこれだけで跪くんだろうな。

 春香は変装のためか髪型も変えていて、多分パッと見じゃあバレないだろうとたかを括っている。

 ウチに限らず、アイドルっていうのは自由が無くなるから大変なんだよな……。

春香「──プロデューサーさん、クレープですよクレープ!」

 春香に手を引かれて、移動式のクレープ屋台の前まで俺参上。

 パパクレープ。

春香「クレープ2つくださいなっ」

 屋台の主、熊みたいにデカいおっちゃんが「何味にする?」と訊いてきた。

春香「えっと、チョコバナナにアーモンドチップとストロベリートッピングで!」

P「ウィンナーチーズにゴーヤチップとチョリソートッピングで」

 …春香がすごい表情で睨んできた。
 たとえるなら「あんたなにデートでゲテモノ頼んじゃってるの? バカなの? 死ねよ」といった表情。

 ……春香はこんなこと言わないな。

春香「なんでスイーツなのにしょっぱいものを頼むんですか?」

P「いや、この歳になると甘いものは摂取限界があるんだよ」

 さっき塩分の摂取限界も超えたばかりだけどな。

春香「ダイエットなんて体によくないですよ」

P「油断してるとすぐタルドルって言われるぞ。ほれ」

 むにっとお腹をひとつまみ。

 ──これは…!!?

春香「うぎゃあ!」

P「…春香、お前…」

春香「せっ、セクハラですよ! セクハラ!」

 顔を真っ赤にして抗議してくる春香。
 そんなことは問題じゃない、この指先に感じたあの感触。あれは……事件だ。

P「………」

春香「………」

P「無理なダイエットだけはするなよ」

春香「プロデューサーさんのバカぁ!!」

 ドつかれた。

春香「まったく! プロデューサーさんはもうちょっと乙女心を理解したほうがいい気がします!」

 プンスカとむくれながらクレープを頬張る春香。
 ハムスターみたいにほっぺたが凄いことになっとる。

P「ごめんごめん。…食うかい?」

春香「遠慮しときますっ!」

 ありゃ?
 女の子はこう言うとき食べさせ合うのが好きだとおもったんだけどな……仕方ないから食っちゃおう。
 パクパクモグモグ。

 うん。
 チーズの心地よい塩気にゴーヤーの爽やかな苦味、そしてトッピングしてまで増やしたチョリソーの辛味が混ざりあって、

 完全にスイーツじゃなくなってます。

 それから俺と春香は、気の向くままに街を歩いて過ごした。

 服や靴をみたり、
 ゲームセンターで遊んだり、
 オモチャ屋で最近のおもちゃに感動してみたり、
 ミリタリーショップで春香がモデルガン誤射して俺の股間がブラックホークダウンしたり。

春香「あははは! プロデューサーさんすごい顔!」

 …でも、
 春香は何も「買って」と頼まなかった。

 口に出さなくても、デートの最中になにか欲しいものが見つかったなら、俺は気付ける。
 彼女たちアイドルと過ごすうちに、そういうものを感じ取れるようにはなっていた。

 でも、春香はそんな素振りは見せなかった。

 本当に、俺とのデートを楽しんでくれてる。
 他になにも望んでいない。

 ……そう思ってくれている、と考えるのは、驕りだろうか。

春香「あー、楽しかったー」

 夕暮れ黄昏。
 海の見える公園で、2人並んでベンチに腰掛ける。

P「寒くないか?」

春香「平気で……あー、はい、少し」

P「風邪ひくなよ?」

 俺の上着を脱いで、貸してあげる。

春香「これじゃあプロデューサーさんが風邪ひいちゃいますよ」

P「年寄りの冷や水っていうだろ?」

春香「それいま言うと逆効果ですよ?」

 チッ…亜美真美とかはこれで誤魔化せたのに。

春香「はい」

P「うん?」

 ぴったりとくっつく様に春香が寄り添ってきた。
 密着して、右腕が一気に熱を帯びる。

春香「…こうしてると、恋人っぽいですかね」

P「いいとこお兄ちゃんと妹だろ」

 はい、春香さんVer.ふくれっ面の出来上がり。

春香「プロデューサーさん、わかってて言ってますよね?」

P「はてさて」

春香「…そんな態度ばっかりじゃ、老後は独りで縁側ティータイムですよ?」

 そんな老後も悪くない。

P「お前たちが人生を謳歌してくれたら、俺はそれで幸せな人生だよ」

 クサイ台詞だけど、
 俺は、お前たちを幸せにするために生まれてきた。
 そんな気がするんだ。
 だから、お前たちが幸せになるためならなんでもする。なんでもしてやる。
 そうする事が、確かな俺の幸せだから。

 ……あー、俺近いうち死なないだろうか心配だ。

P「最近どうだ?」

春香「はい?」

P「仕事とか」

春香「それはもう、ごらんと通りですよ」

 エッヘンと胸をはるかっか。

P「転ばないか?」

春香「………」

P「ぅおい」

春香「だっ、大丈夫です! 1日1回が1日2回になりましたから!」

P「増えてる増えてる」

春香「…2日に一回でした」

P「今日はまだコケてないよな」

春香「フリですか?」

P「まさか。怪我しないでくれればそれが一番だ」

春香「…ちゅん!」

 ……Why?

P「いまのくしゃみか?」

春香「あ、はい」

P「…変なくしゃみだったな」

春香「ア、アイドルは大声だしてぶえっくしょんなんてしないんですよ」

P「ぶえっくしょーん!」

春香「………」

P「あー、冷えてきたな」

春香「…そうですね」

P「そろそろ帰るか」

春香「送ってくれるんですか?」

P「送ってほしいのか?」

春香「はい!」

 …今日は1日デートの約束だしな。

P「ではお姫さま、お手をどうぞ」

春香「うむ、くるしゅうない」

 それはお姫さまじゃない。

春香「……えいっ」

P「お?」

 春香が腕にしがみついてきた。座っていたときと同じ体勢だ。

春香「いいですよね…?」

 なにが、とは訊かない。
 なによりそんな上目遣いでこられたらダメとは言えない。

P「家に着くまでな」

春香「わかってますよ」


 “家に帰ってからも”

 と、言ってあげることは出来ないけど。

 いまは、このお姫さまを家に送り届けるまでの間は、
 メイっぱい可愛がってあげるとしよう。


 明日からも、彼女が笑顔で居られますように。

 「春香」…終わりでございます。

 寝落ちしてしまい申し訳有りませんでした。
 起きてすぐポチポチしはじめたのですが、正直頭がまわっていなくてただでさえキャラ崩壊のグダグダなものが、
 更にみづらくなってしまっているとおもいます。
 本当にごめんなさい。

あ、あの、すみません。
今日も仕事で明日の7時まであまり余裕が有りませんので、
このままグダグダと書いていくよりは、
また機会がありましたらその時に書きたいと思っています。

身勝手な話で大変恐縮なのですが、これ以上待たせ続けるのは申し訳無いですので、落としていただければ幸いです…。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom