モバP「原田美世をシンデレラにする」 (195)
モバマスSS
美世!誕生日おめでとう!結婚しよう!
誕生日なのに長くて暗い話ですまんの
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1384354819
美世「…不審者の出没情報?」
P「そう。うちの事務所が入ってるビルの周りで」
美世「へぇー」
P「へぇー、じゃない。もっと危機感を持ちなさい!」
美世「ごめんごめん!でもさぁ…」ニコニコ
美世「あたし達も有名になったんだなって!」
正直…俺も同じことを考えてたり。
入社して、一年は雑用、それからも先輩Pのアシスタント…
美世は俺が初めて一人でプロデュースを手掛けたアイドルだ。
そんな彼女が最近ではTVでも見かけるようになるまで成長した。
うちの事務所はあまり大きくないから、売れっ子の部類だ。
『売れる』って事はたくさんの人に見てもらえるってことで、
ファンレターなんかも順調に増えてきてるんだが…
同時に変な輩まで呼び寄せてしまう。
P(嬉しいけど悩ましいな…)
P「とにかく、気を付けること。分かったか?」
美世「はーい。あたしは車通勤だから、大丈夫だと思うけどねっ!駐車場はビルの地下だし」
P「それでもコンビニ行ったりで外には出るだろ?」
美世「あ…」
P「…外出るときは、絶対に!俺に声をかけるように」
美世「…それって、一緒に買い物行ってくれるってこと?」
P「嫌かよ」
美世「まさかー!すっごく嬉しいよ!」ニコニコニコ
P「ま、今日はもう遅いし帰りなさい」
美世「えー。でも今日は…アレがまだだよ?」
P「アレ?」
美世「そう。ア・レ♪」
P「ああ…」スッ
P「ほら、ファンレター」バサー
美世「わー♪この前より増えてるねっ!」
P「レインドロップスのイベントもあったしなぁ」
美世「だねっ!ホラ、これ見て!」
美世「『唯ちゃんと珠ちゃんのお姉ちゃんみたいな美世ちゃんがだいすきです!』だって♪」
P「ま、実際には美世も結構抜けてるんだけどな」
美世「えっ…ひどくない?」
P「ははは。ま、それ読んだら帰れよ」
美世「はーい!」
美世「イヤフォン付けてー…っと」
スイッチポチー
美世「もう伏目がちな 昨日なんていらない♪」
美世(ふふ)
美世(嬉しいな…あたしなんかに、ファンがいてくれるなんて…)
美世(クルマの整備をしてた時も楽しかったけど)
美世(かわいい服を着て…)
美世(いい仲間に恵まれて…)
美世(…すてきなプロデューサーさんが居て…)
美世(あたしアイドルのお仕事…ほんとに楽しいっ!)
美世(あ…もうこんな時間だ)
美世「Pさん、まだいるかな?」ガチャッ
P「………………」
美世(すっごく集中してるみたい…)
美世(差し入れ買ってこようかな?)
美世(って、一人で外出しちゃダメだった)
美世「…帰ろう」
<ビル 地下駐車場>
美世(…改めて駐車場を見てみると…)
美世(結構暗くて怖いんだよね…)
美世(古くて小さいビルだから、クルマも少ないし)
美世(び、ビルの中にまで変な人いないよね!?)
美世(うぅ…やっぱり戻ってPさんと一緒に)
男「あのぉ…」
美世「キャァッ!?」
男「!!!」
美世「すすすすすいません!」
美世(髪はボサボサ…服もヨレヨレ…も、もしかして)
男「あ…アイドルの原田美世さんですよね?」
美世「は、はいそうです!」
男「ぼぼぼぼぼ、ぼく」
美世(どうしよPさん…助けて…!)
<その頃事務所>
P「あ」
ちひろ「どうしました?」
P「美世に渡す…資料があったの、忘れてました」
ちひろ「あらあら。急ぐんですか?」
P「そうでも無いんですけどね。まだ残ってるかな…」
ガチャ
P「ありゃ、居ない」
男「ぼく、ぼく…」
男「…僕、美世ちゃんのファンなんです!」キラキラ
美世「…へっ?」
男「たまたま買ってた雑誌に載ってたんですけど」
男「レインドロップスのグラビア見て、すごい可愛い子だなって!」
男「歌番組も見て、やっぱり美世ちゃんいいなぁって」
男「そしたら会社のビルに入ってる事務所の所属だって聞いて!びっくりして!」
男「あ、俺上のフロアの会社に務めてるんです」
男「このビルぼろいし、まさかあの事務所に美世ちゃんがいるとは思いませんでした」
男「会いたいけど会いに行ったら迷惑だろうし…」
男「あきらめてたらまさか駐車場で会えるなんて!」
男「いやー徹夜もしてみるもんだな!ははは!!」
美世「…はぁ」
P「どーすっかなー」
ちひろ「まだ駐車場にいるかもしれませんよ?」
P「うーん…」
P「ま、いっか。明日で」
できたら文の間一行開けてけろ
男「あ、すいません!おれ…僕、興奮しちゃって」
美世(ハッ)
美世「いえ、いいんです!嬉しいなっ、こんなに近くにファンがいるなんて!」
美世「あ、良かったらサインしましょうか?」
男「いいんですか!サインもらえるんですか!やったーーーーーー!」
美世「ふふ、サインの練習もしたからね♪」サラー
男「それじゃ、これからもがんばって!」
美世「ありがとう!お仕事がんばってね!」
男「ウッヒョー!」
美世(ふふ…あんなに喜んでくれてる)スタスタ
美世(なんだ、変な人なんていなかったんだ!)
美世(きっとさっきの人があんな格好でウロウロしてたから、勘違いされちゃったんだ…)
美世「う~ん…あたしの愛車、何度見ても赤い流線型ボディがカッコいいねっ!」
美世「ロックを解除してっと」
ガチャッ
バタン
美世「…あれ?」
>>7
ありがとう!
次からそうします
男『いやー徹夜もしてみるもんだな!ははは!!』
美世(あの口ぶりだと、しょっちゅう徹夜してる訳じゃなさそう)
男『会いたいけど会いに行ったら迷惑だろうし…』
美世(あんな事を言う人が、あやしまれるような行動をするかな?)
美世(しかも自分の会社の近くを?)
美世「は、はやくクルマを…」ガタガタ
ガチャッ
?「こんばんは」
美世「!?」
美世(助手席の扉が…!)
美世「あ…」
?「……………」
美世(さっきの人じゃない…しらない、ひと…)
?「みつけた…」ニタァ
美世「!!!!!」
美世(早く、クルマを出さなきゃ!)
美世(駄目、手が震えて…)
?「おっと」
美世「いやぁ!!!!」
美世(右手が…!)
美世「は、はなして!」
男「だめでしょお?せっかく会えたのに…」
美世「くっ…!」
美世(左手で運転席の扉を開けて…外に!)
男「だからダメだって」グイ
美世「いたい!」
美世(助けて!誰か…)
美世(Pさん!!)
P「…あー…うーん」
ちひろ「ふふ。やっぱり、気になりますか?」
P「そうですね。ちょっと駐車場見てきます」
ちひろ「行ってらっしゃい」
P「はーい」
美世「な…んなんですか、あなた!」キリギリ
男「うふふ。美世ちゃんに会うために色々調べたんだ」
美世「はなして…!」
男「雑誌で見たときからずっと…会いたかったんだよぉ…」
美世「もう、なんなの!」
美世(服も時計も高そうだし、身だしなみも整ってるのに)
美世(さっきの人と全然違う…こわい…)
男「ひひっ…」
美世(ずっと独り言みたいに…あたしの声なんか耳に入ってないの?)
美世(何より、目がこわい…)
美世(あたしのことずっと見てるのに、あたしの事全然見てないんだもん…)
P「うおっ。ここの階段滑りやすいな!」
コツコツコツ
P(資料って言うか、ファンレターの渡し忘れなんだけどな)
P(…美世、喜ぶかな)
美世「やだっ…はなして、はなしてよっ!」
男「うふふふふ」
美世「はなしてったら!」
男「ねんねしやすい様にシート倒そうねぇ」
美世「きゃぁっ」
ガチャ
P「と、いう事で駐車場まで来た訳ですが」
P「美世のクルマって…どこらへんに停めてたっけ」
美世「いったぁ…頭ぶつけた」
男「美世ちゃんかわいい…かわいいよぉ…」
美世「きゃあ!ど、どいてください!」
男「うふふ」
美世「重い…!どいてったら!」
美世(どうしよう…背も力も、全然敵わない…)
美世(そ、そうだ!)
男「美世ちゃん、ちゅーしよっか」
P「お、あるじゃないか。…赤いから遠くからでも目立つな」
P「…あれ?でもライト点いてない」
P「そもそもエンジンがかかってないっぽいし」
P「まだビルの中にいるのか??」クルッ
美世「!?い、いやっ!絶対にいやっ!」
男「はい、こっち向いて。ちゅー」
美世「やだ!やだったら!」
美世(爪が顎に食い込んで…いたい!)
美世「こ…っのぉー!」キック!
P「んー。どこ行ったかな」バタン
P「買い物…は、禁止したし。トイレか?」
P「だったら声かけ辛いし…そもそもどこのトイレにいるか分からんs」
ビビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!
P「なんだ!?」クルッ
P「いまの…クラクションか?」
美世(やった…!)
男「…悪い脚だねぇ」バシッ!
美世「いたっ!で、でもすぐに誰か来るから!」
男「来ないよ。この時間に出勤してくる人間はいない」
男「警備員の見回りは2時間後」
男「あの安い監視カメラじゃあ、クルマの中の様子までは分からないだろうしね」
美世「そんな…!」
美世(そこまで調べてるなんて…それに、急に普通の話し方になったのもこわい…)
美世(…ううん、諦めちゃだめ)
美世「来るよ!」
美世「Pさんが来てくれるよ!」
P「…聞き間違い?じゃ、ないっぽいな」
P「間違って押した、にしては長かったし」
P「…イタズラ?」
P「うーん…」
P「うぅーん…」
P「…上に戻るか」クルッ
男「馬鹿みたい。ここから上の事務所まで聞こえるとでも思ってるの?」
男「君のプロデューサーの帰宅時間まであと1時間近くあるよ」
男「少なくともここ一週間、今の時間に帰ったことはない」
男「来週の君のスケジュールから言って、今週はずっと遅いだろうね」
男「それでも、来ると思ってる?」
美世「それでも、来ると思ってる)
美世(そうだよね?)
美世(信じていいんだよね?)
男「馬鹿みたい」バシッ
美世「きゃぁっ!」
男「悪い子には」バシッ
男「おしおきだよ」バシッ
バシッ
バシッ
バシッ
美世「うぅ…」
バシッ
美世「あたま、たたかないで…」
男「じゃあ顔にしようか」
パァン!
美世「!!!」
美世(顔なんて…叩かれたこと無いよ…)
男「アイドルの顔なんか叩かせないでよ。価値が下がるでしょ?」
美世「…ひくっ」
男「大人しくなったね。いい子だよ…」
男「ごほうびにちゅーしてあげようねぇ…」
美世(あたし…こんな奴とキスするんだ…)
美世(きっと…それ以上の事も…)
ゾクッ
美世(ごめんね、Pさん…)
美世(もっとあなたと、アイドルの道を走っていきたかったな…)
ガチャッ
警備員「何してる!!!」
警備員「お前…離れろ!!」
グイッ!
男「…!」
警備員「オラァッ!」
ドサッ!
美世「あ…」
美世(た、たすかった…!)
P「美世!」
美世「!!!Pさん!」
P「はぁ、はぁ…だ、だいじょうぶか!?」
美世「うん…うん!」ポロポロ
警備員「犯人は押さえました!警察は!?」
P「呼びました!すぐ来ます!!」
P「クラクション鳴らしたの、お前だろ」
美世「うん!」
P「やっぱり。お前を探しに、駐車場から上に戻ろうとしたら聞こえてきたんだ」
P「聞き間違いかと思ったけど、どう考えてもお前のクルマの音だったし」
P「お前に何かあったってすぐに分かった」
P「本当はそのまま駆けつけたかったけど、俺一人じゃ助けられないかもしれないと思った」
P「相手が何人かも分からないしな」
P「それで、まっすぐ警備員室に向かったんだ」
P「警備員さんに聞いたら、何分か前にお前のクルマに誰かが乗り込んだみたいだって」
P「不審者の話もあったから、すぐに来てもらったんだ」
美世「…!」コクコク
P「美世…!?頬が赤い…叩かれたのか!?」
美世「顔は…一回だけ」
P「他には!」
美世「体と…頭は、何回か」
P「…!」ギリッ
P「遅くなってごめんな…」
美世「わかってたから」
P「え?」
美世「Pさんが来てくれるって。あたし、わかってたから」
美世「だから、だいじょうぶ」
P「美世…」
男「馬ッ鹿じゃねぇの?」
男「てめぇが来たのは偶然駐車場に来たからだろ?」
男「そんな都合のいい話、そうそうあるもんじゃねぇ」
男「でも…そのビッチとヤりてぇと思ってる奴は、俺だけじゃねぇはずだぞ」
美世「びっち…」
P「お前…何を!!」
警備員「おい、黙れ!」
男「ビッチだろうが!あんな薄着で写真なんか撮らせやがって!!」
男「ビッチ!クソアマ!淫売!」
男「てめぇみたいば売女、ヤってもらえるだけありがたいと…」
P「黙れ!」
ガッ
男「ぐっ!」
P「この野郎…殺してやる!」
美世「やめてPさん!」
P「はなせ、美世!」
美世「やだ!」
美世「ころすとか言わないでよ!」
美世「もう痛いのも、怖いのも…やだよ」ポロポロ
P「…美世…」
警備員「…Pさん。そろそろ警察も来るでしょうから、外で誘導をお願いできますか。美世さんも」
P「…はい。美世、立てるか?」
美世「うん…」
男「忘れんな。てめぇがいつでもそのアマを助けられるわけじゃねぇんだ」
警備員「…」
男「ってぇ!」
P「行こう」
けたたましいサイレンと共に、パトカーと救急車が到着した。
美世はひとまず病院で治療を受けることになり、
残った俺や警備員さんが警察の聴取を受けた。
犯人は無事逮捕された。
調書を取るために俺は警察署に行き、解放されたのは深夜。
救急車に同乗したちひろさんからの電話によると、美世の怪我は軽傷らしい。
ちひろ『何度か頭を叩かれたようで、念のため明日精密検査をするみたいです』
P「…そうですか」
ちひろ『私も一旦帰宅しますから、Pさんもおうちで休んでくださいね」
P「はい」
疲弊していた。頭も体も。
俺もちひろさんも分かっていたが、お互い何も言わなかった。
家に帰ったところで眠れやしないこと。
明日から、地獄のような日々が始まること――
翌朝。
いつもより一時間早く出社すると、すでにちひろさんがいた。
ちひろ「おはようございます。早いですね」
P「おはようございます。ちひろさんこそ…」
プルルル
プルルルルルル
ガチャッ
ちひろ「いつもお世話になっております」
ちひろ「…ええ、その件につきましては後程発表を…」
受話器の向こうの相手には見えないはずなのに、ちひろさんは笑顔を浮かべる。
その目元にはクマが浮かんでいた。俺と同じで。
P(あ…)
P(ちひろさんも、同じの買ったのか)
なんだか無性に苛立たしくて、デスクの上に買ってきた新聞を叩きつけるように置く。
『アイドル原田美世、暴漢に襲われる!!』
俺達がまず最初に着手したのは、今回の事件の経緯を説明するための文面を考えることだった。
マスコミ各社にFAXを送ってからは、電話攻勢は多少収まった。
駐車場で男に襲われたこと。
数回殴られたこと。
警備員が駆け付けて、男は取り押さえられたこと。
男は既に逮捕されていること。
美世は検査入院中であること。
『警備員が駆け付けた』『犯人は逮捕済み』
この文言から、殴られた以上の事はされていないと匂わせたつもりだ。
P「直接聞かれたら…?」
ちひろ「正直に、何もされていないと答えれば良いだけです」
ちひろ「…各社の報道次第で、視聴者の解釈は変わるでしょうが」
FAXは俺が送った。
電話機が紙を飲み込んでいく様子をぼんやりと見ていたら、頬を熱いものが伝っていった。
関係者への対応で、午前中はあっという間に過ぎた。
俺には美世の他にも何人か担当アイドルがいたが、そちらは同期のPに手伝ってもらえることになった。
ちひろ「検査、午前中に終わるみたいです」
ちひろ「Pさん、病院に向かってもらえますか?」
P「はい!」
<病院>
医師「正式な結果が出るまでには二、三日かかります」
医師「ですがとりあえずは、安心して良いでしょう」
医師「もともと手ではたいた程度ですし、怪我も軽傷です」
医師「ご希望であれば、退院して頂いて結構ですよ」
P「ありがとうございます!」
ガラッ
P「…美世…」
美世「あっ、Pさん!」
美世「遅いよ、もー。雑誌も何にもないからさー、ヒマでヒマで!」
美世「結果、聞いたでしょ?早く帰ろう♪」
P(元気そうに見えるけど…)
P(…目、腫れてる)
P「あぁ、帰ろう。途中で飯食って行こうか」
美世「やった!Pさんとランチ~♪」
<事務所>
ちひろ「…はぁ?」
美世(ビクーッ)
P「ですよね!無理ですよね!」
ちひろ「無理です。ランチ代を経費で落とすのと同じくらい無理です」
P(ビクーッ)
美世「…Pさぁん…」
P「だから言っただろ?」
P「今日はレッスンは無し。安静にしてること!」
美世「でも…」
美世「来週はソロライブがあるのに…」
ソロライブと言っても、ソロCD発売記念のミニイベントだ。
応募者の中から抽選で、100名を招待している。
来週のソロCD発売及びミニライブに関しては、延期するかどうか大いに悩んだ。
しかし予定通り開催することにした。
発売日まで、一週間を切っていること。
事件後すぐにライブを行うことで、暴行が軽いものだったと印象付けられること。
そして。
P(今なら、取材が増える)
人気が出て来たとはいえ、CD発売とミニライブ程度ではマスコミも集まらなかっただろう。
TVに取り上げられたところで、一瞬だけ紹介されて終わった程度のはずだ。
P(でも、あの事件が報道されてしまった今であれば…!)
美世も発売延期を嫌がったのが、救いだった。
P「歌うのは2曲だし、今まであんなに練習したんだ」
P「…あんなことがあった後だ、少し休んでいなさい」
美世「でも…」
美世「あたし、なんともないよ!すっごい元気だよ?」
ちひろ「………」
P「…はぁ」
P「…ボイストレーニングだけだぞ」
美世「!」
P「ダンスは検査の結果が出てから!」
美世「…はい!」
P「よし。じゃあ送っていくから、支度しろ」
美世「はい!!」バタバタ
P「では、美世を先生のところまで送ってきますね」
ちひろ「いってらっしゃい」
ちひろ「…美世ちゃん、じっとしてると不安なんでしょうね」
P「…そうだと思います」
P「大丈夫です。俺が…」
男『忘れんな。てめぇがいつでもそのアマを助けられるわけじゃねぇんだ』
P「…ッ!」
ちひろ「どうしました!?」
P「いえ…大丈夫です、俺が美世を支えますから!」バタン
ちひろ「あ…」
ちひろ(Pさんは一生懸命だし、美世ちゃんはPさんの事信頼してるけど…)
ちひろ(このままで…いいのかしら)
P「それじゃ、がんばれよ。あとで迎えに来るから」
美世「ありがと♪それじゃいってきまーす!」
にこにこと手を振る、美世はいつもと変わらないように見える。
でも…
美世『かわいい衣装なんか、似合わないよ…』
美世『ひとり暮らしって、ちょっと寂しいときあるよねっ』
美世『モデルなんて初めて…き、緊張してきた。Pさん!ほぐして!!』
美世『あたし、なんともないよ!すっごい元気だよ?』
P「なんでこんな時だけ、素直じゃないんだよ…」
<事務所>
P「ただいま帰りましたー」
P(美世を迎えにいくまで、まずは…)
?「Pちゃーーーーーーーーーん!!!」ガバッ
P「うおっ!」ヨロッ
P「…唯!」
唯「Pぢゃあああああああああん!」ボロボロ
P「あああああああああんスーツに染みが!」
?「P殿!」
P「珠美!すまん、小さくて見えなかった」
珠美「な!なんということを!」
P「二人とも、どうしたんだ」
唯「美世ちゃんのこと聞いたの。ゆい、心配で…」
珠美「珠美もです。その場に珠美がいれば、そのような輩など叩き斬ってやったものを!」
P「竹刀で?」
珠美「………」
唯「うぅ~…」ボロボロ
P(唯…こんなに泣いて…)
P(…美世も、こんな風に素直になってくれればいいのに)
P「心配してくれて、ありがとな」
P「でも大した怪我じゃないし、美世はもう退院したよ。今はボイトレに行ってる」
唯「…ほんとに?」
珠美「美世殿…今日からレッスンなんて。珠美も見習わねば!」
CoP「いきなりいなくなるな珠美!おしおきされたいのか!」
珠美「ひっ…CoP殿!」
PaP「唯、アメちゃん買ってきたぞー」ピカー
唯「まぶし…あっ、PaPちゃん!」
P「め、目が…あぁ、お前たち。今日は悪かったな…」
PaP「ま、仕方ないだろ」
CoP「気にすんな。美世が居ない分うちの珠美が活躍したしな!」
今日はレインドロップスがゲスト出演するラジオの収録日だったのだ。
美世のCDの宣伝も兼ねていたのだが…美世が検査のために、出られなくなってしまった。
ラジオ収録の欠席をはじめ、美世以外の俺の担当アイドルの面倒に関しても、CoPとPaPは快く引き受けてくれた。
PaP「同期なんだし、困ったときは助け合うのが当然だろ!」ニカー
P「なんて眩しい笑顔なんだ…!ホント、ありがとな!」
CoP、PaP、そして俺は同期としてこのプロダクションに入社した。
正直…何度か会社を辞めて転職を考えたこともあるが、
それでも今俺がこうしてプロデューサーをやっているのも、
こいつらのお陰だと思っている。
『もし、俺たちがアイドルを担当できたら』
飲み会になる度に繰り返した言葉だ。
『ユニットとか、組めたらいいな』
だからレインドロップスの案が通ったときは、本当に嬉しかった。
美世、唯、珠美。
てんでバラバラの三人だけど、これが上手くハマった。
小柄でいつも真っ直ぐな珠美は、子供たちに。
お洒落でとびきり明るい唯は、同世代の女の子に。
そしてそんな二人のお姉さん的存在で、スタイルの良い美世は男性を中心に。
それぞれ人気を博していった。
グラビアも好評、レインドロップスのCD売り上げも順調に伸びて、
メンバーそれぞれにファンがつき、ソロでの活動も増えてきた。
今月の美世を皮切りに、来月は唯、再来月は珠美がソロデビューする予定だったのだ。
そんな、大事な時期だったのに。
PaP「唯、珠美。次の仕事の打ち合わせがあるから、行くぞ」
唯・珠美「はーい」
タッタッタッ
CoP「…美世、本当に大丈夫なのか?」
P「…元気そうには振舞ってるけど…」
P「なぁ、CoP」
P「俺の事、ちょっと襲ってくれないか?」
CoP「!?」
CoP「…すまん、P」
CoP「確かに俺は古今東西のプレイを試した男だ」
CoP「…だが…だが…」
CoP「だが、HOMOだけはどうしても」
P「ち、ちげーよ!あの犯人みたいにって事だよ!」
P「俺男だからよく分かんねーけど、やっぱ自分よりでかい人間に襲われるって相当怖いと思うんだよな」
P「お前、俺より背でかいだろ?」
CoP「ああ…」
P「っ!?」
壁に叩きつけられて、一瞬息が止まる。
背中も痛んだが、それよりも上から覗き込んでくる男が妙に怖かった。
敵わない。逃げられない。
そんな絶望感をひしひしと感じる。
P(美世…こんな目にあったのに、平気なフリなんかしやがって…!)
パシィン!
P「いってぇ!だ、誰が叩けって言ったよ!」
CoP「犯人みたいにやれって言ったのお前だろ!」
P「そうだった!でもそんなに強く叩かなくても…跡になったら…」
P「…ん?なってない」
P「…そう言えば、美世の叩かれたところも、跡になってなかったな」
CoP「ああ…跡に残らないような叩き方ってあるんだよ」
CoP「犯人もそういうのに慣れてる男だったんじゃないか?」
P「…ってことは…まさか、お前も…!」
CoP「ああ…」
CoP「…あの店の女王様は素晴らしかった…結婚と同時に引退するなんてあんまりだ…」
P「^^;」
CoP「ところで、そろそろもういいか」
P「ああ、すまなかったな」
CoP「やれやれ、てっきりみんなに誤解されるお約束的展開かと…」
珠美「………」
CoP「………」
P「………」
珠美「………」ソッ…
CoP「珠美」
珠美「…!」
珠美「ち、違うのです!珠美は打ち合わせに来ないCoP殿を呼びに」
CoP「いつからそこに居た?」
珠美「その…CoP殿がP殿を壁にドン!とするところから…」
P「………」
CoP「………」
珠美「ご、ご安心ください、CoP殿!」
珠美「歴史上の人物には男色の趣味を持つ者も多く」
CoP「唯ーーーッ!珠美をくすぐれ、記憶が飛ぶほどに!」
珠美「ひいっ!?P殿、お助けーっ!!」ズルズル
P「^^;」
P「ふー…」
ちひろ「お帰りなさい」
ちひろ「それで…帰ってきたばかりで申し訳ないのですが…犯人から、示談の申し込みがあったそうです」
P「示談!?」
ちひろ「ええ。それで、うちの事務所の顧問弁護士さん曰く…」
P「勿論断るんですよね!?」
ちひろ「いえ…受けた方が良いと」
P「なっ…!」
P「だ、だってあんな危ないやつを野放しにするって言うんですか!?」
ちひろ「相手がアイドルとは言え、今回の罪状はせいぜい傷害程度です」
ちひろ「前科もありませんし、刑事裁判に持ち込んだところで厳罰は望めません」
ちひろ「それに犯人の親はいくつも不動産を持ってる資産家で、示談金は言い値で払うそうです」
ちひろ「…実はこのビルも、犯人の親が所有しているようで…」
P「…!だから、ここのセキュリティにも詳しかったのでしょうか」
ちひろ「おそらく…社長はここの事務所からの引越しを検討中です」
P「で、でも…美世の気持ちも考えてくださいよ!」
P「自分を襲った犯人が金払っただけで許されるなんて、そんな」
ちひろ「…美世ちゃんの気持ちを考えてないのは、Pさんの方じゃないですか?」
P「!?」
P「ち、ちひろさん!俺だって怒りますよ!!」
ちひろ「犯人を罰したい。それはPさんの望みでしょう。美世ちゃんの望みは本当にそうでしょうか」
P「そ、それは…」
美世『もう痛いのも、怖いのも…やだよ』
ちひろ「もう関わりたくない、思い出したくない…そう望んでいるかもしれません」
P「………」
ちひろ「それに、もし裁判になれば」
P「………」
ちひろ「美世ちゃんが証言台に立たなければなりません」
P「…!」
ちひろ「大勢の傍聴人の前で、自分が襲われた状況を説明しなければならないんです」
ちひろ「美世ちゃんはそんな事、したいでしょうか?」
ちひろ「Pさんはそんな事、させたいですか?」
P「それ、は…」
ちひろ「勿論、ここで私達がとやかく言っても仕方ありません」
ちひろ「折を見て、美世ちゃんに相談してみてください」
P(ちひろさんの言うとおりだ…ここは美世の意思を尊重しよう)
P(ちひろさん…どんな時でも冷静で助かる…でも)
ちひろ「私達の仕事は、アイドルを守ることです。ねっ?」
P「はい…」ギリッ
P(分かってる、けど…犯人への怒りが収まらない)
P(ちひろさんも…腹が立ったりしないのか…?)
ちひろ「………」ギュッ
P(…あ…)
P(ちひろさん、あんなに唇を噛み締めて…)
P「…ちひろさんも、素直じゃないですね」
ちひろ「何のことですか?…ところでPさん、顔色が悪いですよ」
P「ああ…昨日はあんまり眠れなかったし、今日も忙しかったですからね」
ちひろ「もう。そんな顔じゃ、もうひと頑張り出来ませんよっ。はい、スタミナドリンクどうぞ」
P「あ、ありがとうございます」ゴクゴク
ちひろ「100MCでーす^^」
P「ちひろさんは素直だなぁ^^」
<数時間後>
P「ただいま戻りましたー」
美世「戻りましたっ!」
ちひろ「ああPさん、美世ちゃん。お帰りなさい」
ちひろ「そしてそのまま、帰ってください」
美世「なんかしんらつ!」
ちひろ「Pさん、ここのホテルです」
P「ああ、はい。予約してくれたんですね」
美世「…ホテル?」
P「セキュリティ的にもお前のマンションに一人で帰す訳にもいかないだろ」
P「しばらくは、ホテル暮らししてもらうから」
美世「ええー…」
P「大丈夫だ、俺も一緒だから」
美世「!!!!?」
美世「そ、それってどういう」
P「すいません、それじゃお先に失礼します」
ちひろ「おつかれさまでした」
P「着替えとか取りに、一旦マンションに寄るからな」
美世「うう…」
P「さ、ここがお前の部屋だな」ガチャッ
美世「………」ドキドキ
P「…うん、一番上のフロアだし、ベランダも無い。外からの進入は無理だな!」
P「さて。飯と風呂、どっち先がいい?」
美世「なななななななにっ!?」
P「何って…そのままの意味だけど。飯と風呂、どっち先にする」
美世「そ、それはもちろん…」
美世「お、おふろ…かな…」
P「そうか」
ガチャッ
P「じゃあ俺、隣の部屋にいるから。風呂上がったら飯行くから声かけろよー」
バタン
美世「………」
美世「だと思ったけどねっ!」
翌日は雑誌のインタビューや歌のレッスンなどで過ごした。
本当は仕事なんか入れたくなかったが、やはり美世が仕事のキャンセルを嫌がったのだ。
さらに翌日、病院から「脳に異常は無い」という最終的な回答が来てからは、本格的に活動を再開させた。
本格復帰後初の仕事は…何と、テレビ番組の収録だ。
P(こんな大きな仕事、元々断れるはずないけどさ…)
司会者「今日のゲストは…レインドロップスの原田美世ちゃんでーす!」
美世「こんにちはっ♪」
司会者「ニュース見たよ~、美世ちゃん大丈夫なの?」
美世「はい、怪我も大した事無くて。今もめちゃくちゃ元気なんです!いえいっ♪」
司会者「そっか~。それは良かった!さーて、そんな元気な美世ちゃんに、今日は5つの質問を用意しました~」
P(打ち合わせ通り、事件の話はあれだけだな)
司会者「なるほど~、美世ちゃんはほんとにクルマが好きなんだねぇ」
司会者「そんなブロロンな美世ちゃんに歌っていただきましょう」
司会者「なんと美世ちゃんのソロデビュー作です!それでは、どうぞ!」
<TV局 楽屋>
美世「は~…緊張したぁ…」
P「はは、でも凄く良かったぞ!番組のプロデューサーさんも美世のこと褒めてたし、来月の唯の収録も楽しみだってさ」
美世「良かった!唯ちゃんとたまちゃんのためにも失敗できないって思ってたからさ♪」
P「おう。良くやったな!」
美世「えへへ♪…ところでPさん、ちょっとお願いがあるんだけど…」モジモジ
P「ん。なんだ?」
美世「局の近くに、ショッピングモールがあるじゃない?あそこで買い物したいなー、なんて…」
P「なにぃ?」
P(そりゃそんなところに変質者が出るとは思えないが…ううむ)
美世「最近事務所とホテルの往復だったでしょ?あたしも女の子だもん、お買い物したいよー!」
美世(四六時中Pさんと一緒だから、服にもお化粧にも気使うんだよね…)
P「うむ…」
美世「ね、Pさん。おねがい!」キラキラ
P「…眼鏡と帽子は忘れないこと。モールから勝手に出て行かないこと。いいな?」
美世「!うん!」
P「俺は一階の店でコーヒー飲んでるから。用が済んだら電話しろよ」
美世「ありがとうPさん!大好きっ♪」ギュー
P「こら、アイドルが簡単に男に抱きつくんじゃありません!」
美世「ふふ、ごめんなさ~い!」
P(仕事も本格復帰、買い物に行きたがる余裕も出てきた…)
P(気が進まないが、そろそろあの話をするか…)
P「…そうだ、美世。その前にちょっと、相談があるんだが」
美世「ん、なに?」
P「この前の事件の…犯人の、事なんだが」
美世「…!うん」
P「示談を申し込んできたらしい」
P「この話を受ければ、恐らく…犯人は起訴されない可能性が高い」
P「示談を断れば犯人は起訴されて…裁判になる」
P「そうなれば、お前も証人として裁判に出廷しなければならないだろう…」
美世「………」
P「美世は、どうしたい?」
P「示談を受けるか、それとも、犯人に罪を償わせて…」
美世「まかせる」
P「…え?」
美世「…あ…」
美世「えと、ホラあたし、むずかしいことよく分かんないからさっ!」
美世「Pさんやちひろさんに任せたいんだけど…ダメかな?」
P「………」
P「そう…だな。よし、示談のほうで話を進めておくよ」
P「俺達に任せとけ!特にちひろさんは、お金のことになると頼もしいからな!」
美世「…うんっ、おねがいします」ペコリ
P「…買い物の前にこんな話して、悪かったな」
P「帰ってきたら何か、甘いものでも食いに行こうか」
美世「…うん、楽しみっ♪」
P「ん。じゃあ、行こうか」ナデナデ
美世「…へへっ」
P「はい…はい。それじゃ、示談の方向で調整をお願いします」
P「…いえ、もう少ししたら事務所に戻りますよ」
P「では、失礼します」ピッ
P「…ふー…」
P「………遅い」
P(夕方からレインドロップスのレッスン入ってるんだけど…分かってんのか?)
P(そろそろ電話しようか…)
美世「Pさんっ!」
P「うわっ」
美世「あはは、びっくりした?待たせてごめんねっ」
P「ほんとだよ、まったく。レッスンがあるのに…」
P(ん?)
P「美世…大丈夫か?」
美世「ん…久しぶりにおっきいところで買い物して疲れちゃった」
P「…それだけか?」
美世「それだけだよ?でも、これからレッスンなんだよね…燃料補給したら、ラストパートかけられるかも!」
P「ああ、そう言えば甘いもん食いに行く約束だったな」
P「確かここ、有名なケーキショップも入ってたよな」
美世「やったねっ!あ、唯ちゃんとたまちゃんの分もテイクアウトよろしく♪」
P「はいはい」
<事務所>
P「ほら、美世はレッスンだろ?はやく練習室行って来い」
美世「はーい。ちょっと休んじゃったから、唯ちゃんとたまちゃんに追い越されちゃったかも!」バタバタ
P「…ったく」
P(結局何かあったのか…聞き出せなかったけど)
P(…とりあえずレッスンで、気が紛れるかも知れないな)
P(俺も…今は自分の仕事に集中しよう…)
ガチャッ
P「すみません、只今もどりまs」
ちひろ「っふふふふふ…」
P「」
P「………」
ちひろ「示談金…まさか本当に言い値で払うとは…」
ちひろ「さぁて…何を買いましょうかねぇ…」
ちひろ「ふふ…ふふふふふ…」
P「………」ソッ…
ちひろ「!!!」ハッ!
P「!!!」
ちひろ「………」
P「………」
ちひろ「………」
P「…あ、あの………」
ちひろ「…………」
P「じ、示談、決まったんですね!」
ちひろ「………」
P「あ、いや、その、えーっと…」
ちひろ「………」
P「スタドリください^^」
ちひろ「200MCでーす^^」
ひとまずここまで。また今日の夜に再開する予定。
暗くてすまん…すまん…美世と全国の美世Pに幸あれ…
とりあえず乙
最後にハッピーエンドなら問題ない
そして>>1には美世ちゃんはやらん
乙。
最初はどうなることかと思ったけど、とりあえず安心。是非とも最高のハッピーエンドにして欲しい。
P「………」カタカタ
ちひろ「………」カタカタ
P(よし、このメールを送って…っと)カタカタ
ちひろ(次は…事務所のお知らせ用ツイッターを更新して…っと)ッターン
ちひろ(…!?)
ちひろ(こ、これは…Pさんにお知らせしたほうが…)
ちひろ(でも…私だってこんなこと言いたくありません…)
P「あ、ちひろさん」
ちひろ「!?は、はい!」
P「ポスターのサンプルって届いてますか?」
ちひろ「あ…ええ、届いてますよ!ちょっと待ってくださいね!」
ちひろ(うう…どうしよ…)
P「………」カタカタ
唯「Pちゃーん…」
珠美「P殿…」
P「唯に…珠美?レインドロップスのレッスン終わったのか…ってもうこんな時間か」
P「ん、美世はどうした?」
珠美「それが…」
唯「Pちゃん。美世ちゃん、ちょっと変なカンジなの」
ちひろ「…!」
P「…なに?」
唯「レッスン終わっても、美世ちゃん残るって言って」
珠美「一人でもう少し練習したいと。珠美たちも付き合うと言ったのですが」
唯「もう遅いからゆい達は帰ったほうがいいって。ほとんど無理やり追い出されて…」
P「………」
唯「お願い、Pちゃん。美世ちゃんの様子、見てきて。たぶんゆい達じゃダメなんだと思う…」
P「…分かった。わざわざありがとな。お前達も、はやく帰れよ」
ちひろ「………」
P「美世のやつ…やっぱり無理して…」
ちひろ「Pさん…これを」
P「これは…ツイッター?何ですか、美世はそんなのやってませんが…」
『今日買い物してたら原田美世いたー』
『まじあいつ嫌いだから、消えろブスってゆっといた(((*≧艸≦)』
『だってあいつ前あっくんに色目使ってたんだもん(◎`ε´◎ )ブゥーー!』
『あのストーカーにヤられちゃえば良かったのに!』
P「…これは…」
ちひろ「すみません、私もさっき気が付いて…お知らせしようかどうか迷ったんですが…」
ちひろ「以前レインドロップスが番組で共演した、アイドルグループの男の子のファンらしいです…」
ちひろ「同じグループのファンの子やレインドロップスのファンの子の批判が殺到して、今はアカウント自体消しちゃったみたいですけど…」
ちひろ「今日…お買い物行きました?」
P「…行き…ました。クソ、こんな事になるなんて…!」
ちひろ「お気持ちは分かりますけど、今は早く美世ちゃんのところに…」
P「はい!」
P(…なんだよ)
P(なんなんだよ)
P(美世はあんなにいい子で…ただアイドル頑張ってるだけなのに…)
P(なんで、こんな事ばかり起こるんだ)
P(なんで、こんな事されなくちゃいけないんだ)
男『忘れんな。てめぇがいつでもそのアマを助けられるわけじゃねぇんだ』
P(…アイツの言うとおりだったのか…?)
P「って何言ってんだ!」
P(起きてしまったことは仕方ない…なら、心のケアをしてやれれば…)
P(…いいんだよ、な…?)
コンコン
P「美世…いるか?」
「…………」
P(返事が無い、けど…ここにいるはずだ)
ゾクッ
P(…嫌な感じがする…)
P「美世、入るぞ!」
ガチャ
それは美しい光景だった。
真っ暗な部屋に一条の光が差し込んでいる。
月が照らすのは――座り込んだ美世の横顔だ。
白く冴えた光が、元より人形のように整った顔立ちに、無機質で冷ややかな影を落としていた。
中でも――ぼんやりと月を見上げる、その瞳が。
あまりに、美しくて。
あまりに、恐ろしくて。
「美世」
震えた声で名前を呼ぶ――けれど、返事は無い。
「美世!」
もつれた足で駆け寄る――けれど、美世は振り向かない。
「みよ!」
「!?」
肩を掴んで無理やり俺の方を向かせると、美世の――
美世の耳から、イヤフォンのコードが延びていた。
美世「あ、Pさん」
P「」
美世「ちょっと待ってね。今音楽止めるから…」スイッチポチー
P「」
美世「で、どしたの?」
P「いや…その…」
美世「あ、もしかして。ゆいちゃんとたまちゃんが心配してた?」
P「あ、あぁ…それもあるけど…」
P「いや!そ、それで来たんだけど…」
P(お前悪口言われてた?なんて聞けない…)
美世「…もしかして、もしかして」
美世「あたしが買い物中に嫌なこと言われたの、聞いちゃった?」
P「!?な、なんで知って…」
美世「やっぱりねー。どうせ掲示板かツイッターに書かれてたんでしょ?」
P「…どうして…」
P「…どうしてそんなに、あっさりと…」
美世「えー…だって。街中で変なこと言われるのも、ネットに悪口かかれるのも初めてじゃないし」
P「…!」
美世「最初はショックだったけどさー。もう慣れちゃったよっ」
こんな業界にいるから、インターネット上でのアイドル達の扱われ方は勿論知っている。
ファン同士の交流は微笑ましいし、一般視聴者の反応が見られるのは助かる。
問題は、アンチと呼ばれる人々のことだ。
彼らの発言の多くは容姿についての批判、根拠の無い噂、妄想に基づいた悪口などで、わざわざ見る価値は無い。
中には的を射た意見も、無くはないだろうが――あまりにもネガティブで悪意に満ち満ちているため、俺も見ないようにしている。
美世は工具を扱う方のマシンには長けているが、電子の方のマシンには滅法弱い。
携帯も、メールと電話以外にはほぼ使用しない。
クルマやバイクの部品を仕入れるにも、オンラインショップでの注文や
インターネットオークションでの落札などを俺に頼んでくるくらいだ。
だからまさか、美世がインターネットで交わされる陰湿なやり取りを知っているとは思わなかった。
美世「唯ちゃん、ツイッターやってるでしょ?それで、変なこと言ってくる人がたくさんいるんだって」
美世「それで、唯ちゃんみたいないい子がそんな事言われるんだったら…あたしはどうなっちゃうの?って思って…」
美世「調べてみたら…やっぱ色々言われてるねっ」
P「そ、それはほんの一部だ!アンチよりはファンのほうが多いs」
美世「分かってる!ファンサイトなんかあったりして、嬉しかったしね♪」
美世「…でもやっぱり…」
美世「…あそこまで酷いこと言われてるのは、さすがに嫌かな…」
P「美世…」
P「今でも見てるのか?」
美世「ううん。もう見ないようにしてるよ」
美世「あたし元々ネットとかやらないから、別に困らないしね」
P「…『街中で変なこと言われる』っていうのは?」
美世「ん?そのまんまの意味だよ。今日みたいに…いきなり知らない人から、色んなこと言われるの」
P「どうして…」
美世「ん~。ま、TV見たりなんかしてると思うところはあるんじゃない?」
美世「『TVで見るよりブスじゃね?』とか言われても困っちゃうけどさぁ」
美世「あ!でも、『生歌だと下手だな』とか言われるのは別にいいかなっ」
美世「『もっと歌のレッスン頑張ろう!』って気になるし!」
美世「あたし、負けず嫌いだからねっ♪見返してやるーってヒートアップしちゃうの!」
P「違う!」
P「どうして…どうして俺に相談しないんだ…」
P「だって俺は、お前の」
美世「Pさんに相談したところで何になるって言うの?」
P「それ…は…」
美世「どれだけあたしがレッスンしても、どれだけPさんが宣伝しても、そういう人たちはいなくならないよ」
美世「だったら…どうしようもない事だったら…Pさんに言っても仕方ないよね?」
美世「Pさんも…嫌な気持ちになるだけだし」
P「………」
P(美世は俺の事、信頼しててくれてると思ってた)
P(俺達に隠し事なんて、無いと思ってた)
P(でも…違った)
P(美世は俺の知らないところで、傷付いていた)
P(その傷を俺に見せまいとしていた…)
男『忘れんな。てめぇがいつでもそのアマを助けられるわけじゃねぇんだ』
P(本当に…そうだったのか…)
P(美世…俺じゃ、お前を…)
P(…助けられないのか…?)
――わかってたから。
美世『わかってたから』
P『え?』
美世『Pさんが来てくれるって。あたし、わかってたから』
美世『だから、だいじょうぶ』
P「…そう、だったな」
美世「…?」
P(…何を、弱気になってるんだ…)
P(美世は俺のことを、ちゃんと信じてくれてたじゃないか)
P(むしろ、美世を信じてなかったのは…)
P(…俺だ)
P「それでも俺は…言ってほしかったよ」
P「例えどうしようもない問題でも…ただの愚痴でしかなかったとしても…」
P「お前の痛みを…知っていたかったよ…」
美世「…Pさん」
P「美世…だから、」
美世「やだなぁ、もうっ。そんな大げさな事じゃないってば!」
P「…!」
美世「ちょっとクラクション鳴らされたりしたくらいで、事故を起こすようなあたしじゃないよ♪」
P「…美世」
美世「Pさんのマメなメンテ、スキだけどねっ。でも今はだいじょーぶ!」
P「美世」
美世「ん…でも…確かに。最近忙しくて、あんまり前みたいにPさんと話して無かったかも」
美世「良かったら、ここで少しおしゃべりしない?」
美世「今日は月がとっても綺麗だよ」
P(…ここはひとまず、話を合わせよう)
P「…どうして唯と珠美を追い出したんだ?」
美世「人聞きの悪い事言わないでよ~」
美世「単純にあたし一人だけレッスンの出来が悪かったから、居残り自主練習したかっただけ!」
美世「唯ちゃんとたまちゃんも残るって言ってくれたけど、二人は明日朝早いし。先に帰ってもらったの」
P「じゃあなんで…俺が入ってきたとき、座り込んでたんだ?」
美世「レッスンの後で疲れてから、音楽聞きながらちょっと休憩してただけ♪」
P(どうしてもそういう事にするつもりか…)
美世「あ、音楽と言えば…ふふっ」
P「?どうした?」
美世「ん、思い出し笑い!ねぇ…覚えてる?あたしをスカウトしに来た時のこと…」
P「ああ、勿論。美世はクルマの整備をしてたんだよな」
美世「そうそう。ツナギ姿でクルマいじってたらいきなりスーツの男の人が来てさ」
美世「90度になるまで腰まげてさぁ」
P『あなたをプロデュースさせてください!!!!!』
美世「ふふっ。あの時はほんとにビックリしたよ!」
P「し、仕方ないだろ。俺にとっては初スカウトだったから、緊張してたんだよ!」
美世「断っても毎日毎日来るしさぁ」
P「初スカウトだけど自信があったんだよ。この子は間違いなく売れっ子になるって」
美世「ふふ…あんな情熱的に口説かれたら、降参するしかないよね」
P「オイルまみれになりながら通いつめた甲斐があったよ」
美世「スーツに付いちゃったんだよね…」
P「ああ。美世のお陰で綺麗になったけどさ」
美世「えへへ。洗濯は得意なんだ♪」
美世「アイドルになるって決めてからもさ、あたしあんまりアイドルソングとか聞かないからピンとこなくてね」
P「音楽自体クルマを運転してるときくらいしか聴かないって言ってたもんな」
美世「そ。そしたら次の日Pさんが、この音楽プレーヤー買って来てくれたんだよね…」
P「ああ…それで『思い出し笑い』か」
P(ダメ元でちひろさんに頼んだけど、案の定経費で落とせなかったんだよな…)
P「765さんのところの歌をありったけ詰め込んだやつな」
美世「そ。『旬なアイドルと言えば765さんだろ!これで勉強しろ!』とか言ってね」
P「気に入ってくれたみたいで良かったよ」
美世「正直アイドルソングってあんまりいい印象無かったんだけど、すっかりハマっちゃった!」
P「ファンレター読むときなんかも、未だにそれ聞いてるもんなぁ」
美世「うんっ。カラーも赤でカッコいいし、気に入ってるんだ♪」
P「美世のクルマが赤だったな、って思って買ってみたら大正解だったんだよな」
美世「…その時はまだ赤が好き、って言ったことは無かったんだよね。『あたしの事、見てくれたんだ』ってすっごくうれしかった…」
P「そりゃな。美世が事務所に入ってくれるまで、寝ても覚めても美世のことばかり考えてたし。今でもあんまり変わんないけど」
美世「///」カァー
美世「…こほん」
美世「あ、あのね!あたしが一番気に入ってるのは、この曲なの」
P「ん?イヤフォン…俺に?」
美世「半分こして、一緒に聞こ?」
P「…お、おう」
美世「ん。じゃあ、再生…っと」
―もう伏目がちな 昨日なんていらない
―今日これから始まる私の伝説
美世「えへ。なんか歌詞に共感しちゃって」
P「美世伝説、始まったもんな」
美世「スタートフラッグを振ったのはPさんだけどねっ」
―うぬぼれとかしたたかさも必要
―そう 恥じらいなんて時には邪魔なだけ
美世「…こういうところも、共感できるの」
P「…美世」
美世「あたしの事嫌いな人がいるの、知ってる。でもそんなの気にしてられないよ」
美世「トップアイドルになるってあたしは決めたし、応援してくれる人もちゃんといるの知ってるから」
P「………」
―でもまだヘコたれない
―孤独に負けたくない!
―乙女を舐めちゃイカン
―何かが掴めたかも
美世「そうそう。乙女は強いのです!」
P「………」
美世「もー、なにー?その目は」
美世「そりゃあたしは乙女ってガラじゃないけどさ」
―男では耐えられない痛みでも
―女なら耐えられます 強いから
美世「Pさんは男の人だから…分かんないかもしれないけど」
美世「あたし、Pさんが思うよりずっと強いんだよ」
美世「強くて、したたかで…」
美世「…ずるい、人間なの」
P「美世…?」
美世「この前、男の人に襲われたとき、本当に怖かった」
美世「でもね、Pさんが助けてくれた後、落ち着いてきたら、こう思ったの…」
美世「『これはチャンスかも』って」
美世「事件になれば、新聞に載る」
美世「あたしの事を知ってもらえる」
美世「…チャンスだ、って」
美世「そんな事、考えてたんだよ」
P「美世…」
美世「最低だよねっ」
美世「Pさんやちひろさんが頑張ってくれてたのに…あたし、自分のことばっかり…」
美世「…曲、終わっちゃったね」
P「ああ…」
美世「もう。そんな暗い顔しないでよ!」
美世「だいじょーぶ。あたしは女だからね、男のPさんより強いんだよ!」
美世「だからPさん。あたしの事、心配してくれなくていいよ」
美世「誰になんて言われても、誰になんて思われても…」
美世「あたしはちゃんと、走り続けるから」
P「…そんなに辛そうな顔で笑われても、まったく!安心なんか出来ないんだが」
美世「………」
P「…ハァー…」
P「あのな、美世。それを言うなら俺もちひろさんも、そんなに綺麗な人間じゃないよ」
美世「え…?」
P「確かに俺もちひろさんも、お前のことを心配してた。それは本当だ」
P「でも…お前と同じように、これをチャンスだとも思ってた。だからCD発売もミニライブも延期しなかった」
P「正直、この業界にいれば誰でも同じ事を考えると思う」
P「わざわざお前に伝える必要も無いと思ってたんだが…美世はそんな風に自分のことを責めてたんだな。すまん、俺が悪かった」ペコリ
美世「そ、そんな!Pさんが謝ることじゃ…」
P「いや、謝ることだよ。美世の気持ちも理解しないで、俺達の事情だけで話を進めてしまった。本当に申し訳なかった」
美世「Pさん…」
P「もう一つ、謝らせてくれ」
美世「…?なあに?」
P「今までお前に黙ってたことがある」
美世「…うん」
P「お前にいつも渡しているファンレター。あれは予め俺の方で、チェックしたものだ」
P「誹謗中傷の類のことが書いてあるものに関しては、俺が処理していた」
美世「…やっぱり…」
P「気付いてたのか」
美世「うん…ネットでもあんな…うその悪口言いふらす人たちだし」
美世「嫌がらせの手紙とか送ってきてそうだなって…」
P「…そうか…」
P「お前を傷付けたくないから、黙ってたんだけど…」
P「どうも俺の判断ミスだったようだ」
P「美世。俺、お前の事信じてなかった」
美世「えっ…?」
P「お前を汚いものや怖いものから、全部シャットアウトしようとしていた」
P「24時間お前の事監視出来るわけじゃないし、そんなの…無理に決まってるのにな」
P「でも…俺の目の届く範囲では、お前を傷付けるもの全てから守ろうとしてた」
P「それが、間違いだったんだ」
美世「あたし、負けず嫌いだからねっ♪見返してやるーってヒートアップしちゃうの!」
P「批判されても、それを受け入れた上でバネにして…」
美世『…ずるい、人間なの』
P「自分の嫌いなところからも、逃げないで…」
美世『最初はショックだったけどさー。もう慣れちゃったよっ』
P「理不尽な目にあっても、めげないで」
美世『あたしはちゃんと、走り続けるから』
P「前に向かって、進むことが出来る」
P「さっき美世が言ったとおりだよ」
P「美世は…俺が思うよりずっと、強かったんだな」
P「俺は美世の強さを、信じていなかったんだ」
P「弱いと決め付けて、優越感に浸って、守るなんてエゴを押し付けて」
P「その結果、お前が本当は傷付いてることに気が付かなかった…」
P「最初から、言っておけば良かったんだ」
P「CD発売を延期しない理由も説明した上で、お前と話し合って決めれば良かったんだ」
P「アンチだって…そういう人種がいると説明した上で、気にするなって言えばよかった」
P「そうすれば…美世が一人で悩んだり傷付いたりすることも無かった」
P「重い荷物なら俺一人で背負えばいいと思ってたけど、それが間違いだったんだ」
P「二人で、分け合うべきだったんだ」
P「今まですまなかった、美世」
P「俺は本当の意味で、お前を信頼していなかった」
P「これからは…これからは、美世を信じる」
P「だから…」
P「だから。もう一度、やり直させてくれ」スクッ
美世「…Pさん…?」
バッ!
P「あなたをプロデュースさせてください!!!!!」
美世「………!」
P「お願いします!」
美世「………」
美世「…………てがみ…」
P「…えっ?」
美世「その、Pさんがあたしに渡さなかったって手紙。まだある?」
P「ああ…一応、証拠として取ってあるよ…万が一の時のために」
美世「見たい」
P「………」
P「いいのか?中には、罵詈雑言を書き殴っただけのシロモノもある」
P「はっきり言って、見る価値なんか…」
美世「いいの」
P「美世…」
美世「だってさ、コースのコンディション調べてからじゃないと、走れないでしょっ?」
美世「あたしの…」
美世「…ううん、あたし達の走る道。ちゃんと見ておきたいの」
P「…!」
美世「プロデューサーさん。一緒にトップ、目指そうねっ!」
P「…ああ!!」
P「………」
美世「………」
他には誰もいない事務所で、俺と美世は手紙を読んでいた。
美世が広げた手紙に、俺も一緒に目を通す。
美世「………」
P「………」
カサカサと紙の擦れる音と、俺達の息遣いだけが静まり返った事務所に響く。
美世「…『Mスタに出てたとき、振り付けが一拍遅れましたね』だって。よく見てるなぁ…」
P「確かにあの時は、そうだったな」
美世「うぅ…次は絶対にミスしないもん…」
その手紙を広げた瞬間、機械弄りが趣味とは思えないほど白くて華奢な指が震えた。
美世「…うわ…」
P「…これは…美世、こんなものまで見なくても」
美世「…いいの」
美世「知っておかなきゃ、ダメな気がするの」
潤んだ瞳には、それでも強い光が宿っていた。
それを見てしまえば…俺に言えることなど、何も無かった。
手紙の数はそれほど多くない。
けれど、美世は時間をかけてそれらを読んだ。
心を苛む痛みに耐えるためか。
あるいは便箋から透ける強烈な悪意を、その目に、その胸に焼き付けるためか。
全ての手紙を読み終えた頃には、深夜と呼んでも差し支えの無い時間になっていた。
美世「…なるほどねー。こりゃPさんも見せたがらないよね!」
P「さっきも言ったけど…これはあくまで、特殊な例だからな」
美世「うん。ファンからのお手紙も毎日読んでるからね、分かってるよ♪」
P「…それでも…分かってても、辛いだろ」
美世「んー…でもね。知ってたし」
P「美世」
美世「?」
P「俺は美世を信じるって誓った」
P「だから美世にも、俺を信じて欲しい」
P「美世。酷いこと言われて、傷付かない人間なんていない」
美世「………」
P「本当は美世だって辛いんだろ」
美世「………!」
P「全部吐き出しちゃえよ。少しは楽になるから」
P「そんな事で美世の事、嫌いになったりしないから」
美世「…Pさん…あたし」
P「うん」
美世「あたし…あたし、あの人たちだいっきらい…!」
P「うん」
美世「あたしが言い返せないの知ってて…いきなり嫌なこと言ってきたり、ネットに悪口書いたりするなんて、最低!」
P「うん」
美世「あたしの事嫌いなら、あたしの事見なきゃいいのに。なんでわざわざ近付いてくるんだろ!」
P「うん」
美世「わざわざ手紙なんか書いちゃったりしてさっ。お金と時間が勿体無くないのかな!?」
P「うん」
美世「もーやだ!ほんっとやだ」
P「…美世」
美世「もー!もー!!」
P「美世、おいで」
美世「………っ」ポロポロ
P「泣けばいい。吐き出せばいい。全部受け止めるから」ギュー
美世「Pさんっ…!」
P「俺には…こんな事しかしてやれないから」
P「酷いことを言われたり、されたりするのは…代わってやれないから」
美世「…ううん…」
美世「………ありがとう…………」
美世「はー…こんなに泣いたの久しぶりだよっ」グスッ
P「…そうか」
美世「でも、すっごいスッキリした!」
P「そりゃ良かった」
美世「うん、良かった♪…でも」
P「でも?」
美世「あたしって、女の子に嫌われてるんだなぁって…ちょっと自信失くしちゃって」
P「…はい?」
P「ああ、いや。さっきの手紙だと、男か女か分からんだろ」
美世「でも、あたしに嫌なこと言ってくるのって大体女の子だよ?」
P「それイコール女に嫌われてる、とはならないだろ」
美世「そうなの?」
P「そうだよ。実際に美世のファン層を調べてみても、女の子のファンも多いしな」
美世「うん。男の子はシンプルなお手紙が多いんだけど、女の子は可愛いレターセットでお手紙くれるの♪」
P「あのな。美世みたいにセクシー路線で売ってるアイドルって、ファンはほぼ男性なんだ」
P「だから同路線のアイドルと比較すると、美世のファンには女の子の割合が明らかに大きいんだ」
美世「えっ」
P「なんでか分かるか?」
美世「…なんで?」
P「美世にはいやらしさがないんだと思う」
美世「それって、色気が足りないとかそういう…」
P「いや、そういうことじゃない」
P「色気もあるしセクシーなんだけど…健康的なんだよな。ヘルシーな魅力というか」
美世「へるしー…」
P「そう。あんまりエロエロだったり下品だったりすると、女は引くからなー」
P「美世にはそういういやらしさがないんだ」
P「美世が女性ファンにも受け入れられる大きな要因だと思う」
P「あとはやっぱり、裏表の無い明るさだな」
美世「あたしにだって、裏くらいあるよ?」
P「んー…そういうことじゃなくてな」
P「男に媚びたりする女って、女は嫌いだろ?」
P「で、女はそういう女をスパッと見抜くだろ?」
P「実際この業界にいるとさ、女の見る目って馬鹿に出来ないんだよな」
P「女性人気の低い芸能人って、業界でも評判悪かったりするし」
P「美世のファンは見抜いてるんだよ。美世がいい子だって」
美世「………そ、そっか」
美世「Pさんは…」
P「ん?」
美世「あたしの事、本当によく見ててくれてたんだね…」
P「そりゃあ原田美世のプロデューサーですから」
P「他の誰よりずっと、美世の事を見てきた」
P「美世が美世のこと嫌いでも、見たくないって思ってても」
P「俺は美世のこと、ずーっと見てきたんだ」
P「だから、知ってるよ。美世が本当にいい子だって事」
P「そして、それを分かってくれてる人達がたくさんいることも知ってる」
P「…大丈夫だよ、美世。大丈夫」
美世「…ん」
美世「正直…まだちょっと、怖いけど。Pさんの事は信じてるから」
美世「Pさんがあたしの事、信じてくれるって言うなら…」
美世「あたしも…あたしの事、あたしの未来を、信じてみる」
P「…いい子だ」ナデナデ
美世「…あのね、Pさん。あたしの事嫌いな人たち…アンチっていうの?の、事なんだけど」
P「………おう」
美世「あたしね、あの人たちの気持ち、ちょっと分かるんだ」
P「!?」
美世「あたしもちょっと前まで、アイドルみたいにキラキラしたりキャピキャピしてる女の子って苦手だったんだ」
美世「ホラあたし、趣味とか男っぽいじゃん。オシャレとかお化粧もよく分かんないしっ」
美世「だから…そーゆー女の子達が羨ましい反面、どーせあたしはモテませんよっ!ってヤキモチ焼いたりして…」
美世「アンチの人みんながそうって訳じゃないだろうけど、あたしと同じ気持ちの人もいると思うんだよね」
美世「だから余計に嫌なのかも。昔のあたしを見てるみたいで…」
P「今はそうじゃないのか?」
美世「うんっ。アイドルって言ってもみんな悩んでたり努力してたりする、普通の子だって分かったし」
美世「あたしも、見た目に気を使うようになって…前よりは自信持てるようになったし!」
P「…じゃあ、それも今後のプロデュースの一環として考えておくよ」
美世「えっ!?」
P「きっと昔の美世みたいに、自分に自信が持てない女の子ってたくさんいると思う」
P「そういう子に、美世の変化を知ってもらって、その子達にも勇気をあげたいんだ」
P「少し変わった趣味は恥ずかしいことじゃなくて魅力だし、外見だって服や化粧に気を使えば…女の子なら化ける」
P「油まみれで化粧のひとつもせず年がら年中ツナギ姿だった美世も…今ではこのとおり!」
美世「さ、さすがにそこまで言われると傷付く…」
P「なんだったら俺がスカウトする前の写真でも出しt」
美世「きゃー!きゃー!やーめーてーーー!」
P「ん…なんだ、大反響を呼べると思うんだが…」
美世「うう…ちょっと考えさせて…」
P「そうか?」
美世「…でも」
P「ん?」
美世「もし、あたしを見て…元気とか、自信とか、勇気を持ってくれる子が増えたら…」
美世「それって、すっごい、うれしい…!」
P「だろ?」
美世「うん、すごいよ!」
P「ああ、すごいことだけど、美世なら出来ると…」
美世「あたしじゃなくて、Pさんが!」
P「俺?」
美世「うん!だってあたしが何となく話したことなのに、プロデュースの方向性とか…そんな風にカタチにしちゃうんだもん!」
P「ああ…そんなことか。当然だろ」
P「だって、俺は…」
男『忘れんな。てめぇがいつでもそのアマを助けられるわけじゃねぇんだ』
そうだな。お前の言うとおりだったよ。
俺は美世のことを助けられない。守れない。
そんな事、美世には必要ないから。
罵られても、蔑まれても、走り続ける脚を美世は持っているから。
――でも、
――でも、俺は――
P「俺は美世のプロデューサーだから」
P「美世が辛い時は、傍にいるよ」
P「美世が道に迷ったら、俺が手を引くよ」
P「美世がトップアイドルとして輝けるように」
P「美世を見た女の子達も、輝けるように」
P「いつか美世が、みんなの憧れに…シンデレラになるように」
P「ガレージで煤まみれの姿なのに、誰よりも輝いて見えた」
P「美世を見つけたあの日から。いつでも美世のことを想っているよ」
今日はここまで。
なんとか誕生日中に明るい方向まで持っていけた…
すみませんが、もう少しだけ続きます。
美世「…お腹すいたねっ!」
P「!?」
美世「Pさん、お腹すかない!?」
P「ああ…そういえば今日は晩飯食ってなかったな…」
P「って唐突だなオイ」
美世「だって急にお腹すいてきたんだもん!」
P「あれ、美世…なんか顔があかk」
美世「そうだ!あたし何かつくるね!!」
P「お、おう」
P「そういえば料理番組の練習のために、スペース用意してたんだったな」
美世「あたしが出るわけじゃないけどね。冷蔵庫に何かないかな…」
P「…なんでこんなにイチゴがあるんだ?」
美世「イチゴと、ビールでぎっしりだね…」
P「ん。でも調味料は揃ってるな。バターやらケチャップやら…醤油と味噌もある」
美世「イタリアンがお題だったような…醤油に、味噌…?」
P「ま、まぁ備えあれば憂いなしというだろ!」
美世「肝心の材料が無いんだけど…あ。これなんかいいんじゃない?」
P「卵と、冷凍したご飯と…ベーコンか」
美世「わぁ、このベーコン。高級なやつだよ。美味しそう…!」
P「天使か!良識人もちゃんといるらしいな」
美世「うん。ちょっと寂しいけど、今日はこれで…」
美世「チャーハンを作っちゃいます♪」
P「…ぷっ」
美世「え、なに?チャーハン嫌い?」
P「いや…冷蔵庫にケチャップもあったし、オムライスとか言うのかと思ってたんだが…」
美世「あ…」
美世「そ、そうだよね!オムライスの方が女の子っぽいよね!」カァー
美世「うう…じゃあ、やっぱりオムライスに…」アセアセ
P「いや、チャーハンがいいな。俺、チャーハンの方が好きだし」
美世「…ほんとに?」
P「男ならチャーハン派の方が多いんじゃないか?」
美世「う~…あたしって食べ物の好みまで男っぽいんだ…」
P「食の好みが合わないのはトラブルの元だし」
P「好みが似てるほうが、一緒に食事してて楽しいよ」
美世「…ふふ。そうだね。そういう考え方、素敵だね」
美世「お待たせ!」コトン
P「おお、旨そう!いただきまーす」
美世「はい、召し上がれ♪」
P「ハムッ ハフハフ、ハフッ」
P「…!」
P「こ、これは…!」
美世「な、なに?美味しくない?」
P「いや…凄く美味い」
美世「なーんだ。Pさんったら大げさ!」
P「だってさぁ。すぐ出来たし、そんなに手がかかってないと思ってたから」
美世「確かに、特別なことはしてないよ?味付けも料理酒と醤油と塩こしょうだけだし」
P「マジで?シンプルな味付けの方がいいのかな」
P「あ、でもなんでこんなにパラパラなんだ?」
P「俺が作るとベチャベチャになるんだよなぁ…」
美世「あ、それはね。ちょっとしたコツがあるの」
美世「卵を炒めてからご飯を炒めるんじゃなくて、溶き卵にご飯を混ぜてから炒めるといいんだよ」
P「卵かけご飯状態にしてから炒めるってことか?」
美世「そ!そうすればパラパラになるよ♪」
P「へぇ~!今度やってみるよ」
P「ふぅ…ご馳走様でした」
美世「ふふ、お粗末さまでした♪」
P「いや、本当に美味かったよ。美世はいいお嫁さんになるな」
美世「えっ!?」
美世(そ、それって…)カァー
P(今度料理関係の企画取って来ようかな)
P「あ、後片付けは俺がやるよ」カチャカチャ
美世「あ…お、お願いします…」
美世(すぐに片付ければ良かったな…)
P(…なんか、カップルの会話みたいだなぁ)
<ホテル>
サァーーーーーーー
キュッ
ガチャッ
P「ふぅ…」ゴシゴシ
P(メールの返信して、シャワー浴びただけでもうこんな時間か)
P(明日も早いし、さっさと寝ないと…)
コンコン
美世「Pさん…起きてる?」
ガチャッ
P「美世?どうしたんだ、こんな時間に…枕なんか持って」
美世「う、うん…そのっ」
美世「ひ、一人だと…ね…眠れなくて…」
美世「今日はPさんの部屋に…泊めてくれないかな…って…」
美世「………」モジモジ
P「………」
P「…お互い立場がある。一緒のベッドに眠るのは無理だ」
美世「…うん」
P「俺は床で寝るから、美世がベッド使え」
P「夏だし、風邪引くって事もないだろ」
美世「…!ありがとう!」
P「今日は特別!だからな」
美世「はーい♪」
美世「………」モゾモゾ
P「………」
美世「………」ゴロン
P「………」
美世「…えいっ」ボフッ
P「ぶふっ!」
美世「あはは!」
P「枕を投げるんじゃない!そんな事するなら追い返すからなっ」
美世「ごめんごめん。なんかお泊り会みたいで楽しくって」
P「ったく。一人の方が眠れるんじゃないか?」
美世「ううん…そんな事無いよ。一人だとやっぱり…寂しいし」
P「美世は石川から出てきて、ずっと一人暮らしなんだろ。まだ慣れないのか?」
美世「そりゃ上京直後よりは慣れたけどさっ」
美世「でも…ずーっと実家で家族と一緒に暮らしてたから」
美世「アパートで、部屋に自分ひとりで、周りに知ってる人が誰もいなくて…」
美世「そういうのはやっぱり、今でも寂しいかな」
P「今は?」
美世「ん?」
P「今は…俺の部屋に来て、寂しくないか?」
美世「…ん」
P「ん?」
美世「手。つないで?」
P「…ん」ギュッ
美世「ふふっ」ギュー
美世「寂しくないよ」
P「良かった」
美世「うん…でも」
P「でも?」
美世「明日からはまた一人なんだよね…」
P「………」
美世「Pさん…」
P「どうした?」
美世「あ…明日からも、ずっと…」
美世「明日からもずっと…一緒にいてくれませんか…?」
P「…今までもずっと、一緒に頑張ってきただろ?」
美世「…もうっ!」
P「なんだ?」
美世「そーいう事じゃないでしょー!もー!!」
P「??」
美世「はぁ…ふふっ。Pさんってほんっと鈍いよねっ」
美世「もういい!おやすみー」
P「ああ…おやすみ」
美世「………」
P「………」
美世(いくらPさんでも、この状況であんな事言う?)ゴロゴロ
美世(Pさんの鈍感っぷりには慣れてたつもりだけど…)モゾモゾ
美世(うう…あたしってPさんに女として見られてないんだろうな…)ボフボフ
P「………」
美世(…あたし、そんなに女としての魅力が無いのかな…)ジワ
P「………」ムクッ
美世「…?Pさん?」
P「『今日は特別』…だったな」
美世「ん…どうしたの?眠れないの?」
P「美世…」ギュー
美世「!?」
美世「Pさん!」
P「………」ギュー
美世「や、やだなぁPさんっ」
美世「Pさんが鈍感なのは知ってるけど、さすがに夜中に女の子抱きしめるのはどうかと思うよ!?」
P「………」
美世「P、さん…?」
P「………」
美世「ねぇ…どうして」
P「無理だ」
美世「!」
P「無理だよ…」
P「美世の気持ちは嬉しい。けど」
P「美世はアイドルで…」
P「俺は美世の、プロデューサーだから」
美世「………」
P「お互い、立場がある。分かるだろ?」
美世「…うん」
P「それに美世は若くて可愛くて…芸能人だ」
P「これから先、いい男なんてたくさん見つかるよ」
P「俺なんかより、ずっと…いい男が…」
美世「Pさん…」
P「だから、無理だ」
P「お前の気持ちに応える事は出来ない」
P「俺は魔法使いだ。王子様にはなれないよ」
P「美世…分かってくれるよな?」
美世「…はい」ジワ
P「………」
美世「………」グスッ
P「………」
美世「………」ゴシゴシ
P「………」
美世「………」ジワ
P「………」
P「でも」
美世「………」グスッ
P「もしいつか、美世がアイドルじゃなくなって…」
美世「…?」
P「もしいつか、俺が美世のプロデューサーじゃなくなって…」
美世「…!」
P「その時まだ…美世の気持ちが変わっていなかったら…」
P「その時は…俺と…」
美世「Pさん…!」
P「だから、今は…これで勘弁して欲しい」ギュッ
美世「…変わらないよ…」
P「…美世」
美世「ずっと。あたしだって…」
美世「あたしだってPさんのこと、こんなに想ってるもん…」ギュー
<ソロライブ当日>
ザワザワ
ワイワイ
美世「………」ソッ…
美世「!!!」
美世「Pさん!いっぱい人がいる!!」
P「そりゃお前。ライブですから」
P「美世が見たいってファンが集まってるわけですよ」
美世「ううー…そうだよね」
P「はは。緊張するか?」
美世「緊張もある…けど」
美世「うれしい!!
美世「レインドロップスじゃなくて、あたし一人を見に来てくれる人がこんなにいるなんて…」ポワー
P「…ふふ」
P「ここに来てるのは抽選で当選した人達だけだからな」
P「応募したけど落選して、ここに来れない人達もたくさんいるよ」
美世「その人達のためにも後でネットで公開するんだっけ」
P「CD購入者限定だけどな」
美世「よぉし!みんなのためにもあたし、がんばっちゃうよっ!」
P「おう、行って来い!」
美世「うん!いってきまーす!!」
美世がステージに駆け上がった瞬間、ファンから盛大な歓声が上がる。
『美世ー!』
『美世ちゃーん!!』
今回の美世の衣装は新曲に合わせて水着仕立てで、
ライブに招待したファンにも水着を用意して集まってもらっている。
舞台の上の美世の目にはきっと圧巻の光景が映っているはずだ。
俺はステージの下から見守るだけだから、美世が少し羨ましい。
あの人、腹筋八つに割れてるよ…すげぇ…
あ、あの人はちょっとお腹出てるな…俺も人のことは言えないけど。
お、あの女の子はセパレートか。いいな。
しかしワンピースも捨てがたい…ビキニもいいな…
おお!あんなに際どいのまで!!
…美世が、羨ましい。
美世「こんにちわーーー!」
『こんにちわーーーーー!!』
美世「今日はあたしのソロライブに来てくれて…ありがとーーー!!」
『わぁーーー!』
『うおぉぉーーー!!」
美世「ふふっ。それじゃ、早速一曲目。いっちゃうよ!」
美世「この曲、もう知ってる人も多いかな?」
美世「でも…あたし一人で歌うのは、今日が初めてだから緊張しちゃうなっ」
『おおー…』
美世「一曲目はレインドロップスのシングル!」
『おおーーー!!』
美世「よぉし、みんなコールしてね!タイトルは…」
美世がマイクを向けた瞬間、会場から一斉に声が上がる。
にっこり笑って頷いた後、美世が歌い始める。
いつもは美世と唯と珠美、三人で歌う曲だが、今日は一人での披露だ。
普段は歌わないパートも美世一人で歌うし、振り付けもいつもと少し違う。
それでも美世は、見事に歌い踊る。
いつかTVの収録でワンテンポ遅れてしまった部分も、今日は大丈夫だ。
そこを成功させた瞬間、美世の表情がわずかに緩むのが分かった。
その後も曲は続き、最後のポーズを決めた瞬間…
盛大な拍手と歓声が会場を包んだ。
シングルカット曲であり、ファンにとっても馴染みの深い歌だ。
盛り上がりやすかったのだろう、1曲目を終えた時点でファンは大興奮だ。
美世もノッているし、最高のコンディションで2曲目にいけるだろう。
美世「トップスピードで駆け抜けちゃったっ」
美世「みんなー、ついて来れたー!?」
『うおおおおおおおお!』
『サイコーーー!!」
『美世ちゃんカワイイーーー!』
美世「ふふっ、ありがと♪」
美世「それじゃいよいよお待ちかね…」
美世「新曲、いっちゃうよーーー!!!」
『わああああああ!!!』
美世「ふふっ、しっかりついて来てね♪」
美世「なんと本日初公開!」
美世「聞いてください、あたしのファーストソロシングル…」
美世「『ドライブ・イン・サマー!』」
軽快なイントロと共に、美世が踊り始める。
新曲は夏にぴったりの、アップテンポなポップ・チューンだ。
さんさんと輝く日を浴びて、美世が真夏のドライブへと誘う。
街を飛び出し、風が頬を撫でるのを感じながら、海へと続く道を駆け抜ける。
大切な人を隣に乗せて。
そんな心躍る情景を美世は――歌で、ダンスで、煌く笑顔で。
見る物の心に描いていく。
美世「海だよーっ!」
『きゃあああああ!』
『わぁああああああ!!』
ホースを掴んだ美世が観客席に向かって放水すると、
水着姿のファン達から悲鳴とも嬌声ともつかない声が上がる。
美世「あははっ♪」
弾けた雫がキラキラ輝いて、まるでシャンデリアの光みたいだ。
ステージの上でくるくる回る、みんなの視線は美世だけのもの。
P(どうやら…)
P(舞踏会には、間に合ったみたいだな)
美世「Pさんっ!」
関係者から花束を受け取るなり、一目散に美世が駆けて来る。
美世「見ててくれた!?」
P「当たり前だろ!」
美世「どうだった!?」
P「最高だったよ!」
美世「やった!!」
頬を紅潮させた美世がぴょんぴょん跳ねる。
美世「あのね、みんな、すごく喜んでくれてたよ!」
P「ああ、よくやったな。今回のライブは大せいこ…」
スタッフ「すいませーん!メイクを直したらすぐ記者会見です!」
「…今回のライブの出来は、どうでしたか?」
美世「はいっ。ファンの皆さんもとっても喜んでくれたし、良かったと思います!」
P(予想通り、CD発売のミニイベントとは思えないほどの取材陣の数だ…)
「新曲の紹介をお願いします」
美世「タイトル通り、ドライブのお供にピッタリの曲です!」
P(新曲とライブに関係ない質問は禁止だと通達しているが…)
「今回抽選に外れてしまったファンに一言…」
美世「CDを買ってくれた人は、公式サイトでライブ映像が見れちゃうよっ。みんな、買ってね♪」
P(定番の質問も尽きてきたし、そろそろ…)
「あのー、先日の暴行事件なんですけど」
P(ホラ来た!)
P「すいません、関係ない質問はご遠慮願えます…」
美世「はい、それですけどっ!」
P「!?」
P(どう言うつもりだ、美世!)ヒソヒソ
美世(お願い、あたしに任せて)ヒソヒソ
美世(あたしを信じて!)
P(…!)
P(…わかった)
美世「…今回の、事件ですが」
美世「どうしても、あたしの口から直接お話しておきたいです」
美世「ファンのみんなに心配かけちゃって…本当にごめんなさいっ」ペコリ
美世「でも発表のとおり、ちょっと叩かれたくらいです」
美世「今日のライブでも歌って踊れるくらい絶好調ですっ!」
美世「体も、ホラ…こんなにセクシーな衣装でお披露目できるくらい♪」クルッ
\ドッ/\ワハハ/
美世「ふふっ♪」
美世「なので…ファンのみんな、心配しないでください」
美世「これからもあたし、飛ばしていくから…ちゃんと付いて来てね!」
<翌朝 事務所>
美世『これからもあたし、飛ばしていくから…ちゃんと付いて来てね!』
ピッ
美世『これからもあたし、飛ばしていくから…ちゃんと付いて来てね!』
ピッ
美世『これからもあたし、飛ばしていくから…ちゃんと付いて来てね!』
ちひろ「あーもう!何回その録画見るんですか!」
P「だ、だって…ワイドショーならともかく、まさか朝の報道番組にまで流れるとは…」
ちひろ「だからってもう30回は見てるでしょ!」
P「せ、せめてもう一回…ホラ、この後の美世の笑顔最高でしょ!」
ちひろ「しつこーい!…あ、ワイドショーが始まる時間ですよ」
P「!!み、見なきゃ!」
ちひろ「どうせ家でも録画してるくせに…」
P「生放送でも見たいじゃないですか!」
美世『なので…ファンのみんな、心配しないでください』
美世『これからもあたし、飛ばしていくから…ちゃんと付いて来てね!』
司会者「いやぁ。美世ちゃん元気そうで良かったですね!」
コメンテーターA「新曲もすっごくいいね。ドライブ行きたくなっちゃったよ」
コメンテーターB「女の子だし、傷が残ったりしなくて本当に良かったわぁ~」
P「各社とも好意的な報道でよかったです」
ちひろ「今回の件では、美世ちゃんが完全に被害者ですからね」
ちひろ「もし批判的な報道でもしたら、それこそマスコミへのバッシングで大炎上ですよ」
美世『あ。レインドロップスもよろしくねっ♪』
美世『来月は唯ちゃん、再来月はたまちゃんがCDデビューしちゃうよ!』
司会者「わはは。美世ちゃんしっかりしてるねぇ!」
コメンテーターA「二人のお姉さんってカンジでいいよねぇ」
コメンテーターB「うちの娘も美世ちゃんみたいなお姉ちゃんが欲しかった、なんて言ってますよ」
ちひろ「ふふっ。美世ちゃんたらちゃっかりさん!」
P「ははは。意外としたたかなところもあるみたいで」
ちひろ「それにしても…よく美世ちゃん本人がここまで語りましたね」
ちひろ「事件が事件だし、言い難い面もあると思うんですが」
P「そうですね」
ちひろ「もっとも本人が語ったからこそ、ここまで大きい扱いも受けたし、ファンの支持もぐっと上がったわけですが」
P「…美世が言い出したことなんですよ」
ちひろ「あら、美世ちゃんが?」
P「ええ…」
P「美世は、強いですから」
ちひろ「強くてしたたか、か…ふふっ」
ちひろ「美世ちゃんも女ですねっ」
P「って…ちひろさんはどうなんですか?」
ちひろ「私ですか?さて、どうでしょう…」
美世「おはようございまーす!」
P「おはよう」
ちひろ「おはようございます」
美世「きゃあっ!て、TVにあたし映ってる!」
P「なんだ、見てなかったのか?」
美世「ちょっとだけ見たけど…自分で見るのは恥ずかしくて…」
ちひろ「あら。さっきまでPさん、何回も巻き戻して見てたわよ?」
P「おう、一緒に見るか?」
美世「やめてー!」
P「ホラそんな事言わずに」ピッ
美世『これからもあたし、飛ばしていくから…ちゃんと付いて来てね!』
美世「きゃああ!やめてったら」
P「いやこの時の笑顔見てみろってマジで」
美世「やーめーてー!リモコンよこしなさい!!」
ギャアギャア
ちひろ「さて、美世ちゃんも来た事ですし…そろそろ重大発表しちゃいますよ」
美世「重大発表?」
ちひろ「ええ。事務所が移転になるのは知ってるわね?」
美世「えっと…もっと大きいビルに引っ越すって」
ちひろ「そうね。で、ついでに…」
ちひろ「寮を建設することにしました!」
美世「………」
P「………」
美世「えええ!」
P「ほ、ほんとですか!?」
美世「ってPさんも知らなかったの?」
ちひろ「それも新事務所から好アクセス、24時間体制でセキュリティは万全です!」
P「そんな良い条件で寮の建設なんて、よく資金がありましたね」
ちひろ「ええ…実は当てが出来まして」
美世「当て…?」
P「…もしかして」
ちひろ「Pさんの今後ののお給料から40%程度差し引くことにしました」
P「マジか」
P「いやいやいや!さすがにそれは酷すぎる!!」
ちひろ「美世ちゃんのプロデュースも好調でお給料も上がったし、まぁ多少はね?」
P「多少じゃない!40%は多少じゃない!!」
ちひろ「40%引かれても生活出来る程度に稼げば良いのです」
P「鬼!悪魔!ちひろ!!」
ちひろ「と、冗談はさておき」
P「ああ…良かった…」
ちひろ「鬼って誰n」
P「天使!女神!ちひろ!」
美世「ちひろさんステキ♪」
ちひろ「分かれば良いのです」
ちひろ「とは言え…事務所引越しと寮建設で資金はすっからかんです」
ちひろ「Pさんにも美世ちゃんたちにも…もっと頑張ってもらいますよ?」
P「…はいっ!」
美世「ふふっ。もーっとアクセル踏み込んでいくよ!」
美世「…でも、うれしいな。寮には他のアイドルの子も入るんでしょ?」
ちひろ「そうね。希望した子はみんな入寮できるわよ」
美世「えへへ。みんなで住むなんて…楽しくなりそう♪」
P「…そうだな」
美世「あ、レッスンの時間だ。練習室いってきまーす!」
P「おう、頑張って来いよ」
美世「はーい!」
P「………」
P「ちひろさん、ありがとうございます」
ちひろ「何のことですか?」
P「寮の資金って、示談金から…ですよね」
ちひろ「…それもありますね」
P「美世の前で言わないでくれて…ありがとうございました」
ちひろ「たまたま言い忘れただけですよ?」
P「はは、そういうことにしておきましょうか」
P「それに、寮の建設も…きっと美世みたいに寂しい思いをしてる子がいるの、気付いてたんですね」
ちひろ「…セキュリティの確保は大事でしょう?」
ちひろ「それに寮があれば、もっと色んな地方からアイドルをスカウト出来ますし」
ちひろ「私は私のお仕事をしただけですよ」
P「そう、ですか…俺も俺の仕事、頑張ります」
P「ところでちひろさん、そのネックレスって前から付けてましt」
ちひろ「事務所再建祈願で、今ならスタドリがとってもお得です!」
ちひろ「Pさんいかがですか?」
P「お、俺から金取っても仕方ないでしょう!いりません!!」
ちひろ「ありがとうございます!300MCでーす^^」
P「俺の話聞いてた!?いりません!しかも高ぇ!!」
それからも、俺達は順調に仕事をこなしていった。
美世のソロライブ以降、美世の人気と知名度は急上昇…
同時に、レインドロップスの評判もますます良くなり…
唯、珠美のソロCDも絶好調!
三人それぞれが多忙な日々を送ることとなり、人気アイドルの仲間入りを果たした。
そして――
<数ヵ月後>
唯「美世ちゃーん!」ダキッ
美世「唯ちゃん!久しぶりっ」ギュッ
珠美「唯さん!いきなり抱きついては危ないですよ!」
唯「最近忙しくて、美世ちゃんとたまみんと全然遊んでないよぉ…」
美世「たまちゃんとあたしは毎日寮で会ってるけどね♪」
珠美「はい。この前頂いたサブレ、とても美味しかったです!」
美世「たまちゃんが作ったわらびもちも、すっごく美味しかったな~」
珠美「しかし、一番の料理上手はやはり響子さんか葵さんでしょうか」
唯「いいなー、楽しそう!ゆいも寮に入りたいよぉ…」
珠美「唯さんは埼玉だし、通えるではありませんか」
美世「高校もそっちなんでしょ?」
唯「うぅ~…卒業したらゆいも絶対!寮に入る!!」
PaP「寮といえば…セキュリティが凄いらしいな」
美世「うん、すっごいよ。塀は棘がついてるしだし電流も流れてるし、警備員さんも常駐してるし」
PaP「刑務所かよ」
CoP「…というか寮建つの早すぎだろ…ちひろさん一体どうやって…」
P「それ以上いけない」
PaP「移動中や仕事中は俺達が目を光らせてるし、安心できそうだな」
珠美「ええ!もし仕事中に曲者が出ても、珠美がやっつけますから!」ブンブン
CoP「珠美、竹刀を振り回すのはやめなさい。(俺が)怒られるから」
?「しないをしまいなさい、なんて…フフッ」
P「はは、ありがとな。でも俺も最近鍛えてるし、大丈夫だよ」
PaP「お、格闘技でも始めたのか?」
P「ああ。ちょっと学生時代の先輩に頼んだんだ」
P「柔道部の人なんだけど」
P「『お願いします!何でもしますから!』って言ったら快く引き受けてくれたよ」
PaP「そうか。いい先輩だな!」
CoP「…寝技には気をつけろよ…」
P「っと…おしゃべりはこのへんにしとくか」
唯「そうだ!ねぇPaPちゃん。早く新しい衣装見せて~!」
珠美「今日集まったのも試着のためですからな」
美世「レインドロップスのニューシングル用の衣装…楽しみにしてたんだよ♪」
PaP「おお。今回の衣装は豪華だぞー!」
CoP「新曲と衣装のコンセプトはPが考えたんだったな。いい仕事するじゃないか」
P「美世のお陰だよ」
美世「…あたしの?」
P「はは。まぁ、とにかく着替えて来いよ。隣の部屋に用意してあるからさ」
唯「やったー☆はやくいこっ!」
美世「よし、たまちゃんブースト!」
珠美「ふ、二人とも、珠美の髪を引っ張らないでください!」
パタパタ
美世「この箱かな?」
唯「開けてみよ☆」
パカッ
美世・唯・珠美「「「おおお~!!」」」
唯「すっごーい!フリフリのヒラヒラだー☆」
美世「ピンクがあたし、黄色が唯ちゃんで…たまちゃんのは、この水色のみたいだね」
珠美「こ、こんな衣装…珠美は着た事がありません」
唯「ゆいもだよ!あーん、早く着てみようよ♪」
美世「そうだね…直す部分があればPさんたちに頼まなきゃいけないし」
珠美「珠美に…こんな衣装が似合うでしょうか…」
美世「え、なんで?可愛いと思うよ?」
唯「へっへっへ。たまみん、ゆいが着せてあげよっか☆」
美世「あ、あたしも手伝うよ♪」
珠美「ひいっ!?お、おたすけ…うひゃひゃひゃ!」
P「遅いな…」
CoP「大方ふざけながら着替えてるんだろう」
PaP「仲が良いことは良いことだな」
P「徹底的に珠美がいじられ役だけどな」
CoP「お前が言うな」
PaP「お前も言うな」
「お待たせ~♪」
ガチャッ
P・CoP・PaP「「「おおお~!!」」」
唯「PaPちゃん!この衣装どーお!?」
PaP「うん、凄く似合ってるぞ!いつもと違う雰囲気なのもいいな!」
唯「でっしょー☆ゆい、お姫様みたい!」
珠美「CoP殿…ど、どうでしょう…」
CoP「………」
珠美「うう…や、やはりドレスなど、珠美には似合いませんよね…」
CoP「………」
珠美「分かっています…珠美は唯さんや美世さんみたいにぼんきゅっぼーんじゃないですし…」
CoP「イイ…」
珠美「!」
CoP「すごくイイ…」
珠美「!!」
美世「唯ちゃんもたまちゃんもすっごくカワイイ!ね、Pさん」
P「うん…でも」
P(俺は、美世が一番似合ってると思うぞ)ヒソヒソ
美世「!!!」カァー
美世「で、でも、あたしもこんなヒラヒラの服着たの初めてで…」
P「いつもはスポーティなのが多いからなぁ。たまにはいいだろ?」
美世「うんっ♪ふふ、嬉しいなっ」クルクル
P「あ、そうだ。大事な物を忘れてたよ」
美世「なぁに?」
P「珠美と唯も、ちょっとこっち来てくれ」
唯「ん、なになに☆」
珠美「お呼びでしょうか、P殿!」
P「ホラ、これ…」
美世「…ティアラ?」
唯「やーんなにこれ!ちょーカワイイー☆」
珠美「キラキラしています…!」
PaP「うん、今回のコンセプトには欠かせないんだ」
P「本当は靴の方が大事なんだが…足元はあんまり映らないしなぁ」
CoP「物理的にも無理だしな」
美世「ティアラ…ドレス…靴…」
美世「…あ!」
唯「ん、どしたの美世ちゃん?」
美世「もしかして、今回のコンセプトって…!」
P「そう。約束しただろ?」
美世・P「シンデレラ!」
おわり
お付き合いくださりありがとうございました
最初にも書きましたが、長い&暗くてすみませんでした
ハッピーエンドに出来て良かったです
美世はスタイル良くて健康えろすで性格も良くて料理上手でちょっぴりコンプレックス持ちで…
っていう美世の魅力を全部ダイレクトマーケティングするのが目的だったのにどうしてこうなった
美世とイチャイチャする話が読みたい、誰か書いてください
美世P増えろ!美世SSももっと増えろ!!
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