勇者「パーティ組んで冒険とか今はしないのかあ」 (670)


男「八百年ぶりに復活したけど色々とちがいすぎて困るなあ」

女僧侶「どうした、勇者?」

男「そう、まずキミだよ」

僧侶「なにが言いたいんだ?」

男「一週間前に初めて顔合わせしたときはいかにも僧侶って感じの服装だったじゃん?
  なんで今は格闘家みたいになってるの?」

僧侶「逆になにがおかしいのか私にはわからんのだが。
   私たちは密使としてこれから魔王の帝国へ向かう。
   教会の尼僧服なんて来ていたら我が国の人間だってバレる可能性があるだろ」



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男「いや、まあ服装についてはそうかもしれないよ?
  でも僧侶なのになんで杖とか持ってないの?」

僧侶「杖……錫杖のことか?」

男「いやいや杖は杖だよ、だいたい杖がなかったら呪文唱えられないじゃん」

僧侶「杖が呪文と関係あるのか? だいたい私は呪文や魔法の類はほとんど使えないぞ」

男「ええっ!?」


僧侶「なにを驚くことがある、私たちのような尼僧は心身を鍛える厳しい修行から肉体派になることがほとんどだ。
  この前も西の森でワイバーンとやりあったがもちろんこの拳一つで下したぞ」

男「本当にキミは僧侶なのか? 
  オレの時代の僧侶は杖持って髪のご加護うんぬん言って傷をよく癒してもらってたのになあ」

僧侶「そういえば聞いたことがあるな、当時の僧侶は癒し手だったらしいな。
   まあお前の知っている時代の僧侶と今の時代の僧侶は別物なのだろう」

男「どうやらそうみたいだな。
  オレの旅のお供だった僧侶とは明らかにべつものと」

僧侶「そうだ」

男「ていうかもう一つ聞いていい?」

僧侶「なんだ?」



男「口調だよ、口調。オレと最初に会ったときはもっとそれっぽい口調だったじゃん。
  なんか語尾に『まし』とかついてたし」

僧侶「普段はな、だが今は私は僧侶というよりも陛下から密使の仕事を授かった遣いだ。
   そしてお前は私の同伴者というわけだ」

男「はあ……」

僧侶「まあもともと私の性格上あのような話し方は向いていないのだ、気にするな」

男「まあ個人によってそりゃあ色々とちがうのか」

僧侶「いちおう私は今回、お前の護衛の任務も任されている。わからんことはなんでも聞いてくれ」

男「わかった。
  じゃあ次は……キミだな」

戦士「ん? もしかしてボクのことかい?」



男「やはり見た目からのツッコミになるんだけどキミは戦士なんだよな?」

戦士「なにが言いたいんだい? ボクほど男らしくかつ色男な戦士はいないよ?」

男「いやあなんて言うかオレの時代の戦士とはかなりちがうからさあ。
  たしかオレの時代の戦士はもっとこう鎧とか甲冑とかゴリゴリに装備してたからさ」

戦士「そうなのかい?」

男「だからキミみたいにそんな高級そうなローブを身にまとって、なんか色々とよくわからない装飾品をつけてると戦士に見えないんだよ。
  どちらかというと魔法使い、みたいな感じかな」

戦士「ハハハハ、そんなボクは国のお抱え騎士じゃないんだから。
   それにそんなごっつい格好してたら疲れちゃうし女の子にもモテないじゃん」


男「いやあ、オレの知ってる戦士っていうのは戦い大好きな熱血漢だったからなあ」

戦士「まあ別にそういう時代錯誤な戦士はいくらでも世の中にいるよ?
   でもそんな暑苦しい格好して剣を振り回すなんてナンセンスさ」

男「いや、でもなあやっぱり戦士っていうのは……」

戦士「あのさあ、勇者くん。キミみたいな生きた化石の常識はもはや時代がちがいすぎるんだからいちいち気にしてたら負けだよ?」

男「い、生きた化石……」


僧侶「この人はこの若さでいくつもの公的ギルドの経営を任されている。
   名門貴族出身ですでに官僚にまで上り詰めているからな」

男「そんなすごい人なのか、キミ?」

戦士「まあ、武功を立てるだけが立身出世の方法じゃないってことさ。
   もちろん剣の腕もたしかなボクだけど、頭もいいからさ。官僚試験も一発合格なわけ。
   おかげで今は人事や監督とかも任されてるよ」

男「今の時代の戦士はキミみたいなのが主流なのか」

戦士「いやいや全然! ボクなんかはむしろ異端だよ。
   でもボク、頭悪い暑苦しいのはキライだからさあ。剣を振るうことだけが戦士のできることじゃないだろ?
   ボクは魔法もかなり使えるしね、おっとごめんよ。さっきから自慢話ばかりになってるね」

男「なんて言うかすげーな」


戦士「まあ仲良くやろうよ。本来なら僧侶ちゃんとかはボクの部下にあたるんだけど今は苦楽を共にするパーティー。
   特別にタメ口を許してあげるよ、対等な仲間としてね」

僧侶「まあ私のほうが年上だからな、お前がそう言うなら私は敬語を使うつもりはないしそのような接し方もしない」

戦士「いいよいいよ、キミみたいな美人なら口を聞けるだけでハッピーだからね」

男(大丈夫なのか、このパーティ)

男「あー、で最後の一人なんだけど」

魔法使い「…………」



魔法使い「私は魔法使い、よろしく」

男「あ、ああ……」

魔法使い「…………」

男「…………」

魔法使い「なにか言いたいことでも?」

男「ああ、キミは魔法使いなんだよな? 身につけている黒いローブとかトンガリ帽子を見るかぎり」

魔法使い「その通り」

戦士「どちらかと言うと魔法使いと言うよりは魔女みたいだけどね」

男「魔法使いはオレの時代と変わらないのか?」


魔法使い「あなたの時代を知らないからなんとも言えないけれど私は魔法を使うから魔法使い。
     ギルドにも魔法使いとして登録している」

男「ってことはオレの知ってる魔法使いと変わりがないってことか、なんか安心した」

僧侶「安心した? なぜ?」

男「八百年経っても変わらず残ってるものがあるんだなあと思ってさ」


戦士「ところで勇者くん、キミはほとんど記憶がないんだってね」

男「ああ、実はさっきから八百年前とのちがいを振り返ってたんだけど記憶がほとんどないからな。
  さっきみたいな一般知識はあるんだけど、冒険していたときの記憶なんかはほとんどない」

僧侶「記憶がないのにあんなことを言っていたのか」

男「だから、八百年前の一般知識ぐらいの記憶はあるんだよ」

戦士「記憶がない勇者くんが本当に戦力になるのかなあ?」

男「それはオレも疑問に思う」

男(そもそもなぜオレが八百年間の封印から目覚めさせられ、現在このよくわからないパーティで船着場まで向かっているのかと言うと……)

一週間前、突如オレは復活した。
いや、国の上級魔法使い――賢者たちにより八百年の封印を解かれた。

今回封印されて八百年もの間眠っていたオレを復活させるよう命令した王は、オレを見つけるなりまくし立てて来た。

今回オレを復活させた理由は魔王が君臨する帝国への視察をオレに頼むためだった。
かつて勇者として魔王を滅ぼしたオレだったら視察し得た情報を確実に国に持ち帰ることができるから、という理由らしい。

現在人間と魔物の対立や戦争はほとんど沈静化されて今のところは目立った争いはないそうだ。
しかし、今度は人類同士での争いが絶えないらしい。

この国も隣国との小競り合いが絶えないらしい。
そこで魔王の帝国、通称魔界へ行き魔界の技術がどれほどのものなのか見て、
場合によっては魔王と交渉してあちらの技術者を『お雇い外国人』として雇い国の発展に利用したいらしい。

いやいや、魔物を雇うって……。

ていうか世界を救うのが勇者の役目のはずなのに王とは言え、これでは単なる使いっ走りじゃないか?

ちなみに記憶喪失のことを王に伝えても王はオレへの仕事の依頼を下げようとはしなかった。

なぜオレは八百年前魔王を倒したあと自らを封印したのか、それについてはオレ自身も覚えていないし国の史料や記録にも残っていない。
つまり、オレは自分のことがまるでわからないのだ。


そして現在に至る。


男(誰かがオレのことを勇者として見てくれないかぎりオレは自身が勇者であるかどうかすらわからないわけだ)

男「ところで気になってたんだけどこのパーティはどういう理由で選ばれてるんだ?」

僧侶「たしかに。私たちの立場は言ってみれば勅使だ。適当な寄せ集めのメンツというわけではないだろうな。
   しかし私のような凡愚がなぜ選ばれたのかわからん」

戦士「それについてはボクから説明するよ。
   まあ、と言ってもやっぱり半分は寄せ集めのメンツさ。
   なにせボクらの国は今はどこもかしこも人手不足だからね」

僧侶「むっ……」

男(僧侶が少し残念そうな顔したな)
   


戦士「しかも人手不足な上に勇者くんが復活した一週間前、賢者たちが謎の爆発事故に遭遇していてね。
   護衛兵士たちもそのときにかなり負傷してしまった」

男「なんか大変なんだな」

戦士「そんなわけで選べる少人数の中からボクが選りすぐったのがキミらなわけさ」

僧侶「お前が?」

戦士「そう、陛下に頼まれたからねー。
   魔界好きと言われるほどに魔界に詳しい僧侶ちゃん。
   魔物を扱った魔法のエキスパートの魔法使いちゃん。
   そして言うまでもなくこのボク、完璧とはいかなくてもそこそこに優れたメンツさ」

男「なるほど……って、魔物だ!」


戦士「魔物って……あれはスライムだろ?」

男「いや、だからスライムだから魔物だろ!?」

魔法使い「昔はたしかにオーソドックスな魔物だった。雑草のようにどこにでも現れる存在だった」

男「今は違うっていうのか?」

魔法使い「今は時代の変化とともに天然のスライムは駆除され、食用に改良されたスライムがこの国のスライムの九割を占めている」

男「しょ、食用!? スライムって食べられるの!?」


僧侶「知らないのか? スライムと言えば回復系アイテムのグミやドリンクの定番じゃないか」

男「え、ええっ!?」

僧侶「さすがに刻んで焼いて食べるというわけにはいかないがな」

男「こ、これも時代の変化というヤツなのか……?
  しかも普通に襲ってこないな」

魔法使い「今の魔物たちはスライムのように品種改良とある程度のしつけを受けて人を襲わないようにしてある。
     もう少し街を離れればスライム以外の魔物も出てくる。そいつらは一定の周期ごとに人を襲わないように魔術でおとなしくしてある」

男「いや、そうなのか。それはある意味いい時代になったな」

戦士「そんなに驚くことなのかい、ボクたちからしたらどれも普通のことなんだけどなあ」



僧侶「そもそもそうやって魔物をおとなしくさせていなかったら人なんて簡単に襲われるぞ。
   行商なんかもできなくなってしまうし、街から街への移動もかなり大変になるだろうな」

男「オレたちのころは魔物は襲ってきてなんぼだったからなあ」

戦士「もちろん人の手が及ばない山奥とか砂漠に行けばいくらでも魔物は襲ってくれるよ」

僧侶「試しに私が持ってるスライムを調理したものを食べてみるか?」

男「グミかなにかか?」

僧侶「いや、刻んでお手頃なサイズにして幾つかの薬草とヴィネガーとニンニクに二日つけたスライム饅頭だ」

男「遠慮しておく」

僧侶「なぜか皆、お前のようにこれについては遠慮するな。美味しいのに」

男(怖くて食えるか! 
  ……しかし、記憶がほとんどないのにジェネレーションギャップを味わうことになるとは)


男「魔物が襲ってこないせいで簡単に港までたどり着いたな」

戦士「船乗るためだけに魔物に襲われてたらたまったもんじゃないけどね」

男「ところで船はどこだ?」

僧侶「なにを言っている? 目の前にあるじゃないか?」

男「え? ……こ、これええぇ!?」

戦士「キミのリアクション無駄に大きいけどわざとじゃないんだよね?」

男「いやいや、なんとなくデカイ建物みたいなのが海に浮いてるなと思ったけど……これが船なのか」

戦士「なるほどね、勇者くんの時代には汽船なんかなくてちっちゃな帆船ぐらいしかなかったのか」



男「すまないが、いったいなぜこの船はこんなにデカイんだ?
  あとそのなんだ『キセン』っていうのはこの巨大な船のことか?」

戦士「そうだよ、まあキミが知っている時代の船とはまったくの別物だと思った方がいい」

男「しかも一つじゃない、十隻はあるか?」

魔法使い「そろそろ出港の時間。乗りましょ」

戦士「船についてはまた乗ってから説明してあげるからとりあえず行こうか」

僧侶「お前、驚きすぎて今日で死ぬんじゃないのか?」

男「たしかに今の時点で驚きだけで疲労困憊って感じだからな」


船内にて


男「は,はやい!なんてスピードでこの船は走ってるんだ!?
  中もすごい、普通に揺れていなかったらなにかの建物の中だと勘違いしてしまいそうだ。
  うちの国の技術はすでにここまでの発展を遂げていたのか?
  いや、これよりすごいものが魔界にはあるというのか?」

僧侶「そんなにはしゃがなくても……」

戦士「どうだかねえ、この船がすごいこと自体は確かだけどこれは他国から買い取ったものだからねー」

男「買い取ったってことはこの船はべつにこの国が作ったわけじゃないのか。まあだとしてもすごいけど」

戦士「でもボクの推測が正しければこの船みたいなのを買い取り続けたりすれば待っているのは国としての破綻だと思うけどね」

男「破綻? どうして」



戦士「キミは気づかなかったかい? あの港にあった船の大半が老朽化してることに」

男「すまん、興奮しすぎてあまり見てなかった」

戦士「まあ、そうだろうね。あの港にあった船の大半は朽ち果てかけている。
   なぜかと言えばうちの国には技術者が致命的に足りてないんだ。船こそ買い取ったがメンテナンスをやる技術者も船員もいない。
   もともとあの船は前の王が買い取ったものなんだけど、まともなメンテナンスもしないせいで老朽船と化してしまった」

僧侶「たしかそのせいで我が国の汽船会社の経営も悪化の一途をたどってるらしいな」

戦士「そりゃあそうでしょ。船は大きいだけでボロくて旅客船でありながら船員の接客態度は最低、出港時国もまともに守れない。

   ボク、女の子をデートで誘っときここの船使ったけどホントに最悪だったよ。
   しかも船が足りないから客も満足に捌けない、悪化しないほうがどうかしてるよ。
   今は技術者を外国から雇ったりしてるけど、その技術を自分のものにしなければ結局破綻しかしないよ」

男「…………?」
   
戦士「さらに言えば海軍のほうの船も汽船が主流になってるけどこれもやっぱり船員や技術者が追いつけていない。
   船が壊れるたびに新しいものを買ってたんだよ、前の王様までは」


男「金、ヤバくないか?」

戦士「前の王様とか豪遊しまくりだったからねえ、宮廷の奢侈とかもすごかったらしいよ。
   ていうかうちの国って外債とかにも手を染めてるし、いずれは借金で身動きがとれなくなるかもね、ははは」

男「笑って言っていられることなのか?」

戦士「笑えないね。だが、だからと言って今のボクらにできることはないからね。
   ボクらは今やれることを全力でやるしかないんじゃない?」

僧侶「必要な技術の横流しではなく、それをきちんと咀嚼し嚥下して自分の国のものにする。私たちはそのために魔界へ行くんだ」

男「…………」

戦士「そういうことだよ。あと二時間もすれば魔界の遣いと落ち合う場所につくだろうから、ボクはそれまで寝させてもらうよ」


男「あの距離をこれだけの時間で来られるとは本当にすごいな。
  で、ここはいったいどこなんだ?」

僧侶「――という街みたいだが」

戦士「ここは魔物たちの経営する会社がいくつかあってね」

男「ま、魔物が会社!?」

僧侶「いや、そこは驚くところじゃないだろ。なぜ我が国にヤツらの会社が……」

戦士「そんなに驚くことでもないでしょ? だいたいそういうのがなかったら今回の魔界の視察という企画も提案されなかったでしょ」

男「ここで魔物と落ち合うんだよな?」

戦士「一応、時間ではもうすぐのはずだよ」



男「いったいどんな魔物が来るんだろうな」

僧侶「おそらく人型だとは思うが……」


?「あなた方が我が魔界への遣いの方々でしょうか?」


男「うおぉ!? 急に背後から……っ!?」

魔法使い「驚きすぎ……ローブで姿は隠しているみたいだけど。ゴブリン?」

ゴブリン「そのとおりでございます。さすがは魔法使い様」

戦士「キミが今回ボクらの魔界への案内役でいいのかい?」

ゴブリン「そのとおりでございます。私は陛下の勅命を受け、あなた方を迎えにきた次第です。
     本来ならもう少しきちんとした挨拶をしたいところですが私の姿を見られるのは困りますゆえ、先に目的地へのご案内をさせていただきたいと思います」

男(魔物が普通にしゃべってる……けどみんなが驚かないってことは今はこれが普通なのか)


勇者魔王系初めて書くんでめちゃくちゃかもしれませんけどよかったら見てください
今日はここまで

再 開


ホテルにて


男「小さな宿泊施設みたいだがこれもお前たちの会社なのか?」

ゴブリン「左様でございます。もっともこちらはダミー会社でありますゆえ客人が入られることはありませんが」

男「ダミー会社?」

僧侶「ようはここはコイツら魔物どものアジトとしての役割しか果たしてないということだ」

戦士「さすがに魔物たちが大っぴらに商売できる会社はほとんどないよ。
   そのごく一部さえほとんど知ってる人間はいないだろうけどね」

男「いやはやすごい時代だ……ていうかちょっと待て」

戦士「どうしたんだい、勇者くん?」



男「お前……さっきら喋ってるよな?」

ゴブリン「それがなにか?」

男「イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤいやイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ。
  魔物がしゃべってんぞ! 魔物がオレに敬語で話しかけてんぞっ!? やべえよっ!」

魔法使い「……なるほど」

僧侶「どういうことだ、魔物が口を聞くのがそんなに珍しいのか?」

魔法使い「彼の生きていた時代、つまり八百年前には言語を扱う魔物はいなかった」

男「たぶん……記憶は曖昧だけどそれでも魔物とおしゃべりした記憶は……ないはず」


戦士「じゃあ魔王との最終決戦の時は? ラスボス戦の時はどうだったんだい?
   魔王との対決前にはやっぱり会話はあってしかるべきだと思うんだけど」

男「いや……オレの記憶では、たしか『ウバアアアア』とかしか言ってなかった気が……」

魔法使い「そう、魔物たちが言語を介したコミュニケーションをし出したのは確認できる範囲では少なくともあなたが死んで以降」

男「うわあ~なんかちょっと感動を覚えているオレがいるわ」

戦士「まあ魔物がみんな話せるわけじゃないけどね」

男「しかもオレたちと同じ言語を使ってるけど勉強したのか?」


ゴブリン「いえ、我々の帝国とそちらの国の言語は同じもの使用しております」

戦士「世界には色々な言語があるけどボクらの国の言葉とキミらの国の言葉が同じというのはなかなかびっくりだよね」

男「なんかよくわかんないけど感慨深いなあ」

僧侶「勇者、お前は記憶がない上に時代のギャップに対応するのは大変だろうがとりあえず一旦そういうのはあとにしないか?
   話が一向に進まなくて困る」

男「悪い、たしかにそうだな。これからオレたちはどうするんだ?」

ゴブリン「これから移動魔法であなたがたを我が帝都へと案内いたします」

男「移動魔法……?」



ゴブリン「少々離れていてくださいませ……」

男「これは魔法陣か?」

魔法使い「魔術によって開かれたワープ空間。しかもこの規模なら、人間なら一度に百近く程度運べるようになっている」

ゴブリン「皆様にはこの空間に飛び込んていただければあとは一瞬で我が国まで飛ぶことができます」

戦士「ちょっと待ってもらっていいかな?」

ゴブリン「なんでございましょうか?」


戦士「一応ボクにこの魔法陣の確認をさせてほしいんだよ。 もちろんキミたちのことは信用してるけどね」

僧侶(……)

戦士「なあに、ボクは石橋を常に叩きながら渡るタイプだからね……ふむふむ、いやあ素晴らしい魔法空間だ。
   これほどの高次元な魔法空間となると作成にも相当時間がかかったんじゃないかい?」

ゴブリン「誠に申し訳ございませんがこの魔法陣については私のような下々には答える権利はありません」

戦士「いやいや、気にしないでくれよ。さあ、みんなさっさと魔界へと向かおうじゃないか」

男「緊張するな」


戦士(頼んだよ……魔法使い)

魔法使い(…………)

ゴブリン「一瞬で長距離を移動する魔法空間ですのでもしかしたら酔ったりするかもしれませんがご容赦ください」

戦士「まあボクらがやろうとしてるのはチート行為、多少の厄介ごとは受け入れるさ」

ゴブリン「それではどうぞ、あなた方の幸運を祈っております」

男「よし、行くぞ」

――
――――
――――――

  


男(魔法空間……オレはこんなのに入ったことあるのか……あ、あれ?

  景色がゆがんでいく、いや、そうか。移動魔法なんだからな。
   うわあ、みんなもゆがんでいく……き、気持ち悪いかも。

  んっ……あのゴブリンも魔法空間の中に入ってないか? 目の錯覚か?)

僧侶「――な、に……おか、 ない―――― か?」

戦士「え―― な、 ん……て ―――― 」

男(なにかがおかしい? やばい、景色がゆがむどころか極彩色の光が……亜,ぁ亜ぁ頭数甘与ア当頭が……っ!?)


男「う、  うわぁ ―― 、、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ」 

――――――
――――
――

男「――っ!? ぷはぁっ!?」

男(なにが起きたかわからない、だがあの空間の中でなにか爆発のようなものが起きた気がしたが……)

僧侶「……っ!
   ハァハァ……ま、魔界にはつ、ついたのか?」

魔法使い「……ついた」

男「なにかあの空間にいるときおかしくなかったか? くそっ、頭が痛いし視界がボヤけて……」

戦士「ボヤくのはあとにしたほうがいいよ、勇者くん」

男「…………って、なんだよこれ!?」

















僧侶「……オークとゴブリンが十体ずつ、か」

男「まったく状況はわからんがなんでオレたちは魔物の群れに囲まれている?」

戦士「本来なら魔界帝都にある建物に飛ばされるはずだったんだけど、ここは普通に海辺だねー」

男「で、この状況どうするんだよ?」

戦士「そうだねえ。なんらかの手違いがあったみたいだしまずはボクらの自己紹介をして誤解を……」

魔法使い「……残念ながらそれは無理みたい。この魔物たちは酷く興奮しているみたい。既に臨戦体勢」

男「戦うしかないってことか……」

今日はここまで

感想ありがとうございます














ゴブリン「ぐおぉ……」

ゴブリンがもっていた棍棒をいきなり勇者たちに投げつける。
勇者は自分にめがけて飛んできた巨大な棍棒をとっさに横っ飛びによける。

男「こっちは争うつもりはないがそっちがその気なら仕方ない、応戦するぞっ!」

戦士「どっちかって言うと今のは最後の通告っていう風にも思えたけどね……ていうか勇者くんは闘い方を覚えてるのかい?」

男「えっ……?」

そういえばそうだ。自分は八百年前いったいどうやって魔物たちと相対していたのだろう。
その疑問に固まってしまった勇者目がけてゴブリンたちが一斉に棍棒を投げつけた。

僧侶「勇者っ!」

ヤバイ、と思った瞬間鈍い音と共に重い衝撃が地面に走る。
勇者の目の前の砂が衝撃に津波のようにせりあがり投擲された棍棒をすべて弾いた。



男「な、なにが起こった?」

僧侶「あとで説明する! 全員口を閉じてろ!」

勇者の背後で僧侶が地面に向かって拳を振り落とす。
再び衝撃。
先ほどよりも遥かに膨大な砂の波が生じる。遅れて屈強なゴブリンとオークを飲み込む。

僧侶「とにかく一旦逃げるぞ」

砂の波に飲み込まれた魔物たちを無視して勇者たちを逃げ出すことに成功した。


僧侶「どうやら逃げ切ることはできたみたいだな」

魔法使い「先ほどの魔物の気配はかなり離れたみたい」

男「ふぅー、なんとか助かったな。
  しかし僧侶のあの砂の衝撃波の術はすごかったな」

戦士「たしかにあれのおかげでずいぶんあっさりと逃げれちゃったからね。
   それに比べて勇者くんはねえ……」

男「……むう、たしかに我ながら情けなかったが。だが次こそはこのオレが……」

戦士「まあ勇者くんの番外編は楽しみにしておくとして……これからどうしようね?
   当初の予定とはだいぶかけ離れてしまったしねえ」

男「オレたちは帝都の建物につくはずだったんだよな?
  ならどうして海辺についたんだ?」



魔法使い「原因は不明、ただあの魔法空間は明らかにおかしかった」

男「やっぱりそうなのか? なんか入った瞬間から気持ち悪いし光が明滅して視界がメチャクチャになったりしてヤバイなとは思ってたけど」

僧侶「あの魔界からの遣いのゴブリン……アイツがなにかした可能性は?」

戦士「その可能性はあるかも、しれないけど。
   どうしてわざわざそんなことをしたのかねえ、座標変えてボクらにオークをけしかける理由もわからないし」

僧侶「たしかにそんなことをするぐらいならあの魔法空間の中で[ピーーー]ほうが容易いか……」

男「考えてもわからないことはわからないし、とりあえずこの森を抜けよう」

戦士「そうだね、実はここが魔界でもなんでもなくて敵外諸国のどこかなんて可能性もあるしね。
   情報収集のために街へ向かおう、この森を抜ければ案外すぐそこに街があるかもしれない」


二時間後


男「なにが森を過ぎればすぐ街があるかも、だ。メチャクチャ長い距離歩いたぞ」

戦士「仕方ないじゃん。魔界なんて始めてくるんだから」

僧侶「……しかし、すごい綺麗で壮観な街だ。我が国よりも下手したら素晴らしいかもな。
   人もたくさんいるが、祭典であるのか」

男「ていうかこれだけ人がいる時点でここは魔界じゃないんじゃないのか?」

戦士「どうだろうねえ、とりあえずどこかで情報収集しないと自分たちの状況もわからないしこれからどう動くかにも困るからね」

少女「おやおやお兄さんたち、お困りかなあ?」

戦士「……おや、キミは? 誰だい?」

少女「ええっ!? 私を知らないの!?」


戦士「ゴメンね、ボクは毎日厳しい修行に身を置いてるから下界のことはよくわからないんだよ。普段は山にこもってるし。
   お嬢ちゃんはいったい誰なのかなあ?」

少女「あたしは魔界の「ミレット地区」の「ブドウの風」の看板娘だよ? 知らないのー?」

戦士「うーん、ゴメンね知らないやー」

僧侶「と言うか知らなくて当然じゃないか、ブドウの風というカフェの看板娘だろ。わかるわけがない」

少女「あれれ? バレちゃった?」

男「ていうか「ミレット」ってなんだ?」

少女「ええ!? 私のことは知らなくてもそっちは知っていようよ。
   ミレット地区は別名が「人間地区」。私たち人間の巨大な自治体だよ……ってなんでそんなこと知らないの?」

男「っていうか、待て! 魔界なのか、ここは……?」

少女「そうだよ、なにを言ってるの?」




僧侶「見渡す限り、人であふれてるように見えるが……」

男「いや、奴隷ってことじゃないのか? 魔物たちの奴隷としてここで働かされてるってことじゃあ……」

戦士「なにをキミたちは言ってるんだ、今お嬢ちゃんははっきり自治体って言ったろ?
   少なくとも奴隷ではないし、そうじゃなくても奴隷はこんな顔してないよ」

僧侶「たしかに、な」

少女「なあにかな美人なお姉さん? 私が可愛すぎて見とれちゃってんのかなあ?」


戦士「とりあえず彼女の店に入らないかい? ボク、歩きすぎて疲れちゃったよ」

男「一旦腰を落ち着ける、か。じゃあ四人がけできる席に案内してくれる?」

少女「毎度ありだねー、変なパーティさんたちー。
   じゃあとりあえずブドウの風にようこそ、入って入ってー」

僧侶「……無駄にさわがしいな」

男「元気があってオレは好きだな、あの娘」

戦士「おや、もしかして勇者くんはロリコンかい?」

男「オレの年齢でいったらたいていのヤツ好きになった時点でロリコン扱いされちまうけど……ってそういう意味じゃないからな!」

戦士「年齢だけでいったら仙人だからねえ」

カフェ店内



戦士「じゃあ状況を少し整理しよう。
   ボクらは魔法空間を通って魔界には来れたみたい、ただし当初の予定とはちがうポイントに、だけどね」

男「オレが気になったのはオレたちがあの海辺についた時点で既に囲まれていたということだな。
   まるであらかじめオレたちがあそこに現れることをわかってたみたいだ」

僧侶「あのゴブリンとオークも変だったな。あれは戦闘型の魔物だが、言葉が話せない。
   本来なら指示を出すリーダー的存在がいなければならないし、あの統率の取れた動きにしても奇妙だ」

魔法使い「……」

男「ていうかここは本当に魔界なのか? とてもそんな風に見えない」

戦士「魔界についての資料は我が国にはほとんど存在しないからなあ」

戦士(まあ、存在しない、というよりは意図的にボクらが調べたりできないようになってたり、資料の存在そのものを消している……そんなとこかな)

僧侶「ここは人間の自治区らしいが……」

男「とりあえず飲むもん飲んだしここから出ようぜ。お会計たのむー」



少女「はい、じゃあ……だね」

男「……ちょっと待った、魔界の金なんてもってない!」

戦士「あ、そーだ! あのゴブリンから本当ならこっちについてから換金してもらうはずだったんだ」

男「じゃあ金がないってこと……?」

魔法使い「…………」

僧侶「……」

戦士「……」

少女「おやおや、もしかしてもしかして、まさかのお金が払えないとか?」

今日はここまで

この話のはるか昔世界観だけ同じのSS

魔王「姫様さらったけど二人っきりで気まずい」


そして感想くれた人ありがとー



始 動


男「いやあ、そんなわけはないんだけどなあ。あははは……」

少女「やっすいドリンクかもしんないけど、そんなのがこの店の利益になって最終的には私の懐に入ってくるわけだからねえ。
   払ってもらわないと困っちゃうなあ」

男「いやいや、オレたちはべつに払う意思がないわけじゃない! ただ、その事情があって……」

少女「ふーん、ほんとに?」

男「本当だ、この真実を語る者特有の真摯な眼差しを見てくれよ」

少女「どれどれ…………まあ、お兄さんたち実際のところ悪い人には見えないんだけどねえ」

戦士「そうだなあ、もしよかったらボクらになにかお手伝いをさせてくれないかい?
   お金は払えないけどボクらの時間を代価にできないかな?」

僧侶「そんなことをしている場合ではない……と言いたいところだが完全に私たちに非があるからな」



少女「まあ本来なら出るとこに出てもらっちゃおうかなっと思ったけどちょうどいいや。
   じゃあお言葉に甘えて、って言うのも変だけどお兄さんたちには働いてもらおうかな」

勇者「ああ、まかせてくれ。奴隷のようにはたらいてやるよ!」

戦士「キミの奉仕の精神は素晴らしいけど、できれば払えていないお金の分だけの労働しかしたくないよ」

僧侶「と言うより私たちにはやることがあるからな」

勇者「あーそうだったな。じゃあ、やっぱりそんなに長くは働かないぞ!」

少女「本当なら逮捕されてるところなんだから多少長く働かされてもお兄さんたちは文句を言えない立場なんだけどなあ。
   まあ安心してよ、そんな疲れるようなことはしないし。とりあえずあがりの時間まであと一時間だからそれまで待ってて」

男「りょうかい」


一時間後


少女「おまたせー、さあさあ金なしの皆さんにはこれから精一杯働いていただきまーす」

戦士「てっきりボクは店内の仕事を任されるかと思ったけど森の中に来たってことはちがうみたいだね。
   残念だなあ、客の中に一人すごくボク好みのレディーがいたんだけどなあ」

僧侶「で、私たちになにをさせるんだ?」

少女「…………」

男「どうした?」

少女「見知らぬ土地でたまたま入った店をきっかけに起きるイベントに期待したのかなあ、お兄さんたちは?」

男「なにを言ってんだ?」

僧侶「それより今、「見知らぬ土地」って言ったな?」

少女「うん、言ったよ。だって間違ってないでしょ?
   キミたちは外の世界から来たんでしょ、知ってるよ」


男「な、なんでわかったんだ……ってそうか! そう言うことか!」

少女「声大きいなあ、勇者のお兄さん」

戦士「いったいなにがわかったんだい勇者くん?」

男「コイツ、さてはオレたちの会話を盗み聞きしてやがったな! じゃなきゃオレたちが外から来たことがわかるわけがないっ!」

戦士「残念ながらそれはないんだよねえ、勇者くん」

男「なんでだ!?」

戦士「彼女の魔法の施しをボクらは受けているからね」

魔法使い「私たちの会話は周囲の人間の耳を素通りするようになってる」

男「いつの間にそんな魔法をかけられてたんだ!? まったく気づかなかったぞ!」

少女「そう言われてみると意識を傾けていないときはキミらの声は聞こえなかったなあ」

僧侶「いったいなにをお前は知っている?」



少女「やだなあ、お姉さん怖いよお。美人の怒り顔ほど人を怖気つかせるものはないんだよ?」

僧侶「いいから話せ、お前の回答次第では……」

少女「警戒したくなる気持ちはわかるけど私はお姉さんが思ってるような人間じゃないよ?
   ただちょ~っとだけ街のうわさとか情報とかに敏感なだけのカワイイ女の子なの」

男「結局誰なんだよ」

少女「ふふふっ、教えてあげよう。私は情報屋を営んでいるんだよ」

男「情報屋? なんだよ情報屋って?」

少女「そのまま名前の通り。人が求める情報を右から左へ流す職業だよ。
   情報商売は普通にバイトをするよりもはるかに設けられるからね」



少女「やだなあ、お姉さん怖いよお。美人の怒り顔ほど人を怖気つかせるものはないんだよ?」

僧侶「いいから話せ、お前の回答次第では……」

少女「警戒したくなる気持ちはわかるけど私はお姉さんが思ってるような人間じゃないよ?
   ただちょ~っとだけ街のうわさとか情報とかに敏感なだけのカワイイ女の子なの」

男「結局誰なんだよ」

少女「ふふふっ、教えてあげよう。私は情報屋を営んでいるんだよ」

男「情報屋? なんだよ情報屋って?」

少女「そのまま名前の通り。人が求める情報を右から左へ流す職業だよ。
   情報商売は普通にバイトをするよりもはるかに設けられるからね」



戦士「情報屋ねえ、ボクらの国にもいないことはないけれど実際に会うのははじめてかな」

少女「そんな胡散臭そうな顔で見ないで欲しいなあ。じゃあそーだね、お兄さんたちがこの国に来て最初に襲われたモンスターを教えてあげようか?」

男「オレたちがゴブリンたちに襲われたのを知ってるのか!?」

少女「もーこれから答えを言おうと思ったのに先に言わないでよ!」

僧侶「……で? 私たちが外部から来たことを知ってるお前はいったい私たちをどうするつもりだ?」

少女「逆に聞くけどどうするつもりだと思う?」

魔法使い「……」

戦士「あまり想像がつかないなあ。それにこっちも状況的に危険になるようだったらボクらも死に物狂いで何とかしようとするよ?」

少女「私がなんの対策も考えないでこんな森にお兄さんたちを呼んだと思う?」


僧侶(見たところ、十五、六ぐらいの小娘だがなにかできるというのか。いや、この娘の顔…どこかで見たことあるような…)

少女「……と、まあこんなセリフを言っておいてなんだけど安心してよね。
   私は情報屋だけどこの情報を回すつもりはないし、むしろお兄さんたちにとっても悪くない話がある」

男「どういう話だよ?」

少女「お兄さんたちが用があるのはズバリ魔王様でしょ、正解?」

男「す、すごい! なんでもわかるっていうのかお前!?」

戦士「おおかた、ボクらが魔方陣から出現したのを見たんじゃない?
   魔方陣の数はかなり少ないし、ボクらは魔王の遣いを通してここに辿りついた。
   おそらくあの魔方陣がどこの誰が使ってるかわかれば簡単に理由はわかるんじゃない?」

少女「まあ想像にそこらへんはまかせるよ」



戦士「悪くない話ってのは?」

少女「私がお兄さんたちに隠れ家を提供する。その代わりにお兄さんたちには今から一週間後にある依頼をしたい」

僧侶「お前の依頼を受ければ隠れ家を提供してくれるのか? 理由がよくわからないが」

少女「だから言ってるでしょ、依頼を受けてもらうって」

僧侶「依頼の内容は?」

少女「ひみつ。さあどうする? 私としてはお兄さんたちにはこの依頼を受けて欲しいなあ。
   決して悪い内容じゃないし」

魔法使い「……」

僧侶「どうする?」

戦士「どうする、勇者くん? ボクらのリーダーはキミだからキミにまかせるよ」

男「その依頼うけるよ!」

少女「えらくあっさり決めてくれるね、まあキミらがいいならそれでいいよ」


僧侶「なにを根拠にこの女の話に乗った?」

男「いや、なんて言うか直感」

戦士「……まあ、いいんじゃない? このままじゃボクら野宿してしまう可能性もあったからね」

男「そうそう。と言うわけでよろしく頼む」

少女「こちらこそね」

蟆代@莨第?



男「隠れ家の地図を頼りになんとかそれっぽい場所にたどり着いたけど、本当にここであってんのか?」

僧侶「地図の通りだったらな。
   しかしずいぶんと不親切だな、あの女の子。私たちがこの街の土地に明るくないことはわかりきってたはずなのに」

男「たしかにな。

  『私はこの後もちょっと用事が色々あって案内できないけど地図渡すから自力でたどり着いてねー』って言われて来たけど」

戦士「おかげでこの街の土地に少しだけ詳しくなったけどね」

男「見たところごく普通の家みたいだな、とりあえず入るか」


キイィ……


戦士「……へえ、想像していたよりいい場所を提起してくれたようだね。
   猫の額みたいなサイズを我慢すれば調度品もしっかりしてるし全然いけるね」

僧侶「猫の額だと? 十分すぎる広さの家だ」

戦士「ゴメンごめん、ボクってば名門貴族の出身だから家も無駄に広いんだよね」


男「まあ無事についてなによりだ。とりあえず今日は休憩しよう」

僧侶「勇者がこの程度で疲れたのか?」

男「実を言うとかなりな」

戦士「仕方がないよ、なにせ八百歳のおじいちゃんなんだから。
   普通だったら腰は曲がって肉も皮もない骸骨の頭頂部に毛だけ生えたゾンビみたいになってるはずだしね」

男「普通だったら生きてないだろ」

僧侶「休憩するなら私は情報収集に行ってくる」

戦士「ボクも情報収集兼ねたナンパでもしてこようかな、うちの国とちがってお上品な女の子が多そうだったからね。キミはどうするんだい?」

魔法使い「私もてきとうにブラブラする」

男「みんななにかしらするのか、じゃあみんなで行動しないか? そのほうがなにかと都合よさそうだし」


戦士「ボクは悪いけど一人で行動させてもらうよ」

僧侶「私も少しだけ一人になりたい」

男「え? でも……」

戦士「情報収集なら手分けしてやったほうが効率がいいでしょ?」
   
僧侶「そういうことだ。私は荷物を置いたらすぐ行く」

戦士「ボクもね、善は急げと言うし」

男「……お前は?」

魔法使い「……付き合って」

男「はい?」

魔法使い「私は酒屋に行く、付き合って」

また夜に更新します

乙です
>>72は「ここまで」みたいなのでいいのかな?

ここでやっとスレタイ通りの流れになったなw

それにしても勇者の肩書が「勇者」になったり「男」になったりコロコロ変わるのにはなにか意味があるんだろうか?

再開します

>>78少しだけ休憩しますと打ちましたけどまあ思いっきり寝落ちしましたすみません

>>79勇者と男が混じってしまうのは単なるミスです
ホントは勇者で統一したいんですけどスマホからだと二文字だと都合が悪くて


魔法使い「ここ」

男「ここか? なんか妙に暗いし静かだけど本当にやってるのか?」

魔法使い「バーだから当然」

男「バー? バーってなんだよ……って勝手に入るなよ」

魔法使い「すいている、先に注文。会計は私がする」

男「酒なんてほとんど飲んだことないからな」

魔法使い「ならビールにするといい。麦芽の粉末をアルコール発酵させて醸造したものだから酒に耐性がない人でも飲める」

男「ふーん、じゃあこれでお願いします」

魔法使い「私はブラックニッカ」


男「えーっとこういう時はカンパイってやるんだっけ?」

魔法使い「作法としてはグラスとグラスを合わせて音を立てるのは下品。軽くかかげるだけでいい」

男「おう、カンパイ……うげぇ、なんだこの味? こんなのがビールなのか?」

魔法使い「……」

男「……」


男(なんて言うかコイツが一番無口でなに考えてるかわからないんだよなあ。
  帽子も目深にかぶってて顔も見えないし。だいたいあの女の子から預かった金はほとんどないのにこんなとこで使っていいのか?
  そもそも情報収集ならこんなとこじゃなくてもっと賑やかなとこでやったほうがいいんじゃないのか?
  ていうかすげえ勢いで酒飲んで……席立ったと思ったらまた注文してやがる! ていうか二つグラスもってきたぞ!)

魔法使い「……」

男「すごい飲むんだな」


魔法使い「……」

男「なあ、情報収集ならもっと活気のある酒屋とかのほうが良かったんじゃないか?」

魔法使い「……」

男「……聞いてるか? なんかもう三つ目のグラスの中身も飲み干しそうなんだけど」

魔法使い「………」

男「もしかして少しだけ顔も赤くなってないか? 大丈夫か?」

魔法使い顔「…………ヒッ」

男「ど、どうした?」

魔法使い「……あー、だいぶいい感じにアルコールが回ってきたかな。
     あー少しだけカラダが熱いし頭もポーッとするなあ、いやでもいい感じ、あーいい感じ」

男「ま、魔法使い?」



魔法使い「ごめんごめん……あぁ、カラダがポカポカするなあ……ふふっ、ごめんね、私ってばお酒が入らないと言葉が出てこなくて」

男「え? え? いやいや、いったいどういうことだ?」

魔法使い「……そうだね、改めて挨拶させてもらおうかな。勇者くん、よろしく」

男「……!」

男(帽子初めてとったから顔見れたけど予想してたのと全然ちがう! てかカワイイ!)

魔法使い「急になにが起きているのかわからないだろうけど、ようは今の私は普段の私とはちがって酒の力を借りておしゃべりになってるわけ」

男「そ、そうなのか」

魔法使い「魔法使いっていうのは魔女狩り以降数も減っちゃったしわりと嫌われていたりするからさあ、沈黙は金ってわけじゃないけど。
     魔術の秘密を守るためにあまりおしゃべりは推奨されてないの」

魔法使い「そういうわけで魔法使いは無口な人間が多い。私も例外に漏れず……けれど無口な人間がおしゃべり嫌いかと言えばそんなことはない。
     私は本来はおしゃべり好きなの……ふふっ、けれど脳みそと肝臓をアルコールで満たさないと言葉が出てこないんだけど」

男「……」

魔法使い「驚いている、驚いているよね……ふふっ、仕方ないね。ごめんね、本当は普段から明るく行きたいんだけどね。
     普段から色んな言葉が思考の海を狭めてるんだけど全部沈殿してるんだよ。アルコールで脳みそを熱してやってようやくクラゲみたいに必要な言葉がそこに浮いてくる……ふふふふ」

男「まあなんとなくわかったけどなんでこんなとこに来たんだ?」

魔法使い「決まってる。あなたと話したかったの。そしてきちんと話すにはアルコールが必要でそういうわけでここに来たわけ」

男「じゃあ情報収集は?」

魔法使い「ふふっ、知らない。そんなのはあの二人に任せればいい。
     今の私の興味はあなたにしかない。あなたと話がしたかったのよ」

男「オレと話したいこと?」


魔法使い「はるか昔勇者だった存在、記憶喪失の勇者、そんな素敵な対象に興味を持たないわけがない……私はあなたのことを色々と知りたい」

男「記憶喪失のオレのことを知るって……オレが知りたいよ」

魔法使い「あなたからしたら確かにそうかも。なにせ自身の記憶を喪失してしまってるんだからこればかりは仕方ない。
     でもあなたの記憶喪失も奇妙よね?」

男「奇妙、なにが?」

魔法使い「ずいぶんとよくできた記憶喪失だなあって」

男「言ってる意味がわからないぞ、なにが言いたい?」

魔法使い「あなたの記憶は大半を失っている、しかし昔の常識などは覚えている、生きる上での知識はある。そうよね?」

男「そうだと思うが……」

魔法使い「でも記憶喪失って下手すると口がきけなかったり歩けなくなったり……結構悲惨な記憶喪失ってたくさん事例があるのよ?」


魔法使い「そう思うとなかなかあなたの記憶喪失は都合がいいわよね」

男「たしかにまあ、そう言われてみるとラッキーかもな」

魔法使い「勇者的ラッキーよね……ううぅっ」

男「ど、どうした!?」

魔法使い「あなたと一刻も早く会話したくて……ふふっ、勢いよく酒を飲みすぎたわね。少しだけ気持ち悪い」

男「おいおい大丈夫か? なにか呪文を自分にかけられないのか?」

魔法使い「ああぁ……そうね、あなたは知らないのね。今は人体に影響を及ぼす魔法はほとんど禁止されてるのよ」

男「人体に影響を及ぼす呪文が禁止!?」

魔法使い「ええ、はるか昔のある事件がきっかけで私たち魔法使いは魔女狩りにあったわ」

男「魔女狩りって……魔法使いが裁かれたのか?」


魔法使い「ふふっ……あぁ……うん、異端審問局によってね、たくさんの、魔法使い、殺されちゃったの」

男「異端審問が絡む上に魔法使いが殺されるって……なんで?」

魔法使い「今から五百年前、いえ、それより五十年ぐらい前かな。
     歴史はあまりわからないけど、とにかくその時代から『マジック?エデュケーション?プログラム』とかいうのが発足されたらしい」

男「それが魔女狩りと関係があるのか?」

魔法使い「はあ……ああ、ちょっと待って」

男「大丈夫かよ、ほんとに」

魔法使い「そしてその年から二十年ぐらいあとに人々の記憶が次々消失するという怪事件が相次いで起きた。
     人体に影響を与える魔術とそのエデュケーションプログラムを関連づけて、私たち魔法使いを次々と異端審問局の連中は裁いていったわ」

男「その際に魔術に制限ができたってことか」

魔法使い「ついでに言えば人体に影響を与えるという理由で魔法使い以外にも僧侶たちも多くの魔術を禁止されたわ。
     ここらへんから僧侶はギルドなどにおいてはその役目を変えて来たわ」

男「じゃあ僧侶が昔と全然やってることがちがうのも……」

魔法使い「そういうこと、時代の流れにより使える術のほとんどがダメになったから」


男「なるほどな、なんて言うか色々としっくり来たよ」

魔法使い「……ぷはぁっ、うまい……」

男「飲み過ぎじゃないか? いつの間にまた酒を追加したんだいったい」

魔法使い「飲めば飲んだ分だけ舌が回り会話が弾むからいいの。
     まあそもそもそんなことになったのもすべては変わり者の女王のせいなんだけれどね」

男「変わり者の女王って言うのは?」

魔法使い「かつての魔王に誘拐されて結局当時の勇者に助けられたのだけど、城に戻って以降は魔物研究に没頭した人」

男「変わり者のなのか、それ?」

魔法使い「即位して以降はそのプログラムをはじめ色々な政策をしたと言われてるけど私もそこまで興味ないしよく知らない。
     ただ色々と黒いウワサの絶えない女王だったのは確かみたい」

男「今の時代は王族ですら汚職に手を染めるとは聞いたが本当なんだな」

魔法使い「汚職、とはちがうかもしれない。結局彼女は国の混乱期に死んだわ」


今日は短くてすみませんがここまで

再開
します


魔法使い「少しだけ休憩させて。ふぅ……まあとにかくそういうわけで私たちの能力はあなたの知っている時代の魔法使いとはだいぶちがうわ」

男「状態異常の魔法が使えない上に回復魔法までダメだなんてな……でもなんで回復魔法までダメなんだ?」

魔法使い「これについては諸説がいくつかある。回復魔法の使用者への負担を考慮してというの」

男「上級魔法だとかなり術者への反動もヤバイっぽいもんな」

魔法使い「でもそれ以上に術をかけられる側の負担を考えてのことみたい、ふふっ……これはなかなか面白い説なんだけどね。
     あの手の回復魔法って実際には術者の力量よりもかけられる側の方が重要みたいなの」

男「んー、どういうことだ?」

魔法使い「回復魔法はかけた人間の自己回復力を無理やり促進しているだけって説があるの……ふふっ、意味がわかる?」

男「えーと、うーん、なんとなくわかるような……」



魔法使い「人間のカラダは薬草や回復魔法がなくても勝手に傷や病を治す力があるでしょ?」

男「あるな」

魔法使い「その自然治癒力を無理やり促進して回復させるのが、回復魔法の本来の力なのかもしれないっていう説が最近の研究でわかってきた。
     つまり、無理やりカラダの回復力をあげてるわけだから後々響いてくるって可能性があるの。勇者たち一行の寿命が勇者を含めて短いっていうことも資料からわかってね」

男「回復魔法が……」

魔法使い「でも考えてみれば当たり前なのかも。昔の賢者は指一本から人間のカラダすべてを作り直したとさえ言われてるわ」

男「なんて言うか月日の流れとともに色んなことがわかってきてるんだな。ていうか、お前は色々と詳しいんだな」

魔法使い「私は将来的には生物学者になるつもりだから、これぐらいは当たり前」

男「学者? なんか魔法に長けた魔法使いが学者っていうのに違和感あるんだけど」


魔法使い「あなたの感覚からそうなのかな? でも私たちからしたら今の魔法使いはほとんどがそういう道へと進むものなのよ。
     ふふっ……たしかに私たち魔法使いが物事を論理的に考えて紐解いていく学者っていうのは、少しだけ面白いわね」

男「べつに面白くはないけど」

魔法使い「私たち魔法使いは今は人体になんらかの形で関わる職業に就くことが多いわ」

男「魔法使いは職業ではないのか?」

魔法使い「昔は魔法使いは職業扱いされたかもしれないけど、魔女狩り以降はそういう扱いはされないわ」

男「なんでだ? お前はギルドに魔法使いとして登録してあるだろ?」

魔法使い「それはそうよ。でもそれはそれで今の話とはちがうわ。
     今の私たちみたいな魔法使いっていうのは生き様や国籍みたいなものなのよ」

男「生き様……」

魔法使い「そう、あるいは人間や魔物やエルフと言った種族ね。魔法使いは職業じゃない、こんなこと覚える必要なんてないけれどね。
     だから今は学者だったり医者だったりその手の仕事に就く魔法使いがほとんどなの」

男「医者になっても魔法で身体の傷を治したりはできないんだよな?」


魔法使い「ええ、それじゃあ意味がないから。あくまで医者は医者で魔法使いは魔法使い。
     魔法使いってだけでけっこう疎まれたりするしね、現代だと」

男「疎まれる? 魔法使いが?」

魔法使い「そうね、こういうことよ」

男「グラスを浮かせることがつまり、どういうことなんだ?」

魔法使い「私たちは普通の人間よりもはるかに手間をかけずになんでもできる。
     だから、魔法使いは人によっては職業泥棒とか畑荒らしなんて言われてね。
     筋骨隆々な屈強な男より私みたいな可憐でほっそりとした魔法使いである私のほうが、重いものを持てるっていうのはその人からしたら面白くないわよね」

男「……自分で可愛らしいとか言うなよ」

魔法使い「女にとって一番可愛いと思える生き物は自分よ。あの女傑さんだってね」


男「女傑……僧侶のことか?」

魔法使い「そう、彼女のようなタイプの女でさえ自分が一番可愛いのよ。だって女だもの」

男「女、か……って話がズレてるぞ」

魔法使い「そうね、なんの話だったかしら? ああ、魔法使いとお仕事の話ね。
     そう、結局魔法はチートってことよ。私たちはこの力で普通の人間より楽して生きられる。普通の人からしたら面白くないし社会的にもよくないわよね」

男「土木作業とかだったら魔法を使えばかなりの早さで終わりそうだな」

魔法使い「そういうこと、社会の秩序をかつて乱した魔法使いは現代で再び秩序を乱そうとしている。疎まれるのは当然よね」

男「……」

魔法使い「ふふっ、そんな顔をしないで。私たちを嫌う人間の気持ちもわかるもの」


魔法使い「あぁ……ちょっとまずいかも……き、きもちわるい……」

男「急にどうしたんだよ」

魔法使い「飲みすぎた、みたい……吐きそう……」

男「は、吐く!? ど、どうすりゃいいんだ!?」

魔法使い「ちょっとお手洗い……」

男「お、おう」

五分後


魔法使い「お待たせ」

男「おう、もう大丈夫なのか?」

魔法使い「……うん」

男「……」

魔法使い「……」

男「もしかしてもうお酒の効果が抜けたのか?」

魔法使い「……帰ろう」

男「おう」

男(酒のありとなしじゃあギャップありすぎだろ!)



隠れ家前


男「情報収集に行ってたあいつらは戻ってきてるかな?」

魔法使い「……」

男「オレたちは雑談しただけだけどな、なんか申し訳ないな」

魔法使い「……」

男「……あー、今日は色々ありがとうな、色々知らないことを知ることができた。オレはなにも知らないからさ……」

魔法使い「ひとつ、質問いい?」

男「なんだよ?」

魔法使い「……あなたは誰?」

男「は?」

魔法使い「……今の質問、忘れて」



戦士「やあおかえりー、勇者くんたち。二人でいったい仲睦まじくなにをしてたのかな?」

男「お前こそなにしてたんだよ?」

魔法使い「……私は寝る」

戦士「また明日ねー、おやすみ」

男「……おやすみ」

魔法使い「おやすみ」

男「で、お前はなにをしてたんだよ?」



戦士「言ってたじゃん、情報収集に行くって」

男「なんかわかったことはあるのか?」

戦士「聞いてくれよ! この街の女の子ってすごくカワイイ娘が多いんだよ、いやあ酒屋のお姉ちゃんなんておしゃべり上手だしなかなか楽しめたよ」

男「いや、そういうことじゃなくて……」

戦士「カワイイ娘はうちの国でもけっこういるんだけどいささか上品って言うかね。
   よく言えばおしとやかだけどさ、楽しく話せる女性の魅力って言うのは美しさに勝ると思うね」

男「……そうじゃなくて。なんかもっとあるだろ?」

戦士「カワイイ女性が多い、これ以上に有益な情報はあるのかい?」

男「お前なあ」

戦士「ただ……」

男「なんだよ?」


戦士「どうも魔王軍の警備が強化されているみたいだね、お姉ちゃんたちに聞いたよ」

男「魔王軍の警備が強化?」

戦士「空をよーく見てみるとわかるんだけど何体かのワイバーンがいるみたいなんだ、なんのためかはわからないけどね」

男「もしかしてオレたちがここに来たことと関係あるのか?」

戦士「現時点ではなんとも言えないけど、魔王の宿敵である勇者とその同行の使者が来るんだから警戒は正しいことではあるけどね」

男「オレたちそういえば、オークたちに襲われたけどそっちと関係がある可能性があるよな」

戦士「どれも考えてもキリがないよ、現時点ではボクたちはこの国のことをよくわかっていないし判断材料があまりに少なすぎる」




男「あとあの女の子のことも気になるよな。ここには来てないんだろ?」

戦士「うん、そうみたいだね」

男「あの女の子は何者なんだろうな。ただものではないみたいだけど、味方かどうかもわからないからな」

戦士「ボクのシックスセンスが正しければ彼女は敵であり味方だよ」

男「どっちだよ!?」

戦士「さあ? 言ってるだろ、判断材料が足りなさすぎるんだよ。今の時点で考えたところでなにもわかりゃしないよ。
   ああでもね、街をうろちょろして思ったことなんだけどね」

男「なんだよ、また女の子がカワイイとかそういうのはいいぞ」

戦士「まあそれもあるしそれが一番ボクには重要だけど。この街の人間はみんななかなか幸せそうだよ。
   それになによりボクが驚いたのは……」



戦士「魔物と人間がごく普通に一緒に飲んでたことだよ」

男「魔物と人間が仲良く酒を飲んでったて……マジか。街の酒場で飲んでたのか?」

戦士「うん、びっくりだよね。ていうかボクも様子見がてらそばの席に寄ったらゴブリンのおじさんと飲み比べするハメになっちゃったよ」

男「なにやってんだよ、目立ったんじゃないのかそれ?」

戦士「ちょっとしたイカサマをして勝っちゃったからねえ、拍手喝采を浴びちゃったよ」

男「おいおい」

戦士「さあ勇者くん、ここでボクからの質問なんだけどさあ」

男「なんかさっきも魔法使いからも質問されたんだけどな、なんだよ?」

戦士「キミは勇者でありかつては魔王を滅ぼした。
   いや、勇者でありながら記憶喪失のキミにこんな質問をするのはおかしいかもしれないんだけどさ」

男「まわりくどいぞ、なんだ?」

戦士「ははは、ごめんね、時折回りくどくなるのはボクの悪いくせだ。話を戻そう、そしてボクはこの街をなかなかいい街だと評している。
   さて、そんなステキな街を、人間と魔物を共存させる夢のような街を創り上げた魔王をキミは倒すのかい? 勇者として、勇者の使命に則って」


男「え? いや……」

戦士「冗談だ、今のキミにはこの質問への解答を求めちゃいない。だいたい記憶喪失のキミが勇者なのかっと言ったらちょっとビミョーじゃないかい?」

男「オレは……」

戦士「まあまた明日時間があったら話そうよ。さすがに今日は飲みすぎた、それに疲れた」

男「……僧侶のやつは? あいつもお前と同じで情報収集へ行ったんだろ?」

戦士「彼女なら一番乗りで帰って来たよ。それにもう寝てる、僧侶だから朝が早い代わりに夜も早く寝るのだろうね」

男「そうか」

戦士「ボクも明日に備えて寝るよ、おやすみ」

男「おやすみ……」



勇者の部屋にて


男(参ったな……目が冴えちまってベッドについてから二時間以上たってんのにまだ眠れない)

男(魔法使いと戦士に言われたことが引っかかってんのかな、よくわかんないけどモヤモヤする)


魔法使い『あなたは誰?』

戦士『魔王を倒すのかい? 勇者として、勇者の使命に則って』


男(そもそもオレは何者なんだ? お前は勇者だと王に言われて他の連中もそういう扱いをしてきたがオレの記憶はあまりにあやふやだ)

男(いや、まったくないわけじゃない。だがそれらの記憶に自信と実感を持てない。まるで他人から見聞きしただけのような、あるいは物語を読んだような不確実な感覚)

男(仮にオレが勇者としてオレはどうすればいい? 王の言うとおりにしていればいいのか? 魔王はどうすればいい?)

男(オレはなんなんだ?)



次の日、早朝


男「結局ほとんど眠れなかったな……なんか空も明るくなってきたし軽く外の空気でも吸うかな」


………………


男「お前、もう起きてたのか?」

僧侶「勇者か、お前こそずいぶんと早いな。昨日は眠れたのか……って聞くまでもないな、その顔を見れば」

男「ちょっとな。この国に来て感情が高ぶってんのかなあ? なかなか寝れなくてな、そんでもう寝るのはやめたわけだ。
  お前はこんな朝早くからなにやってんだよ?」

僧侶「食事の準備をすまして祈祷を終えたところだ、私も一応は神に仕える人間だしなにより習慣で朝は早い段階で目が覚めてしまう」

男「そういやお前、僧侶なんだよな」

僧侶「なにを今さら」

男「昨日の戦闘を見てすっかり忘れてたよ」


僧侶「どういう意味だ?」

男「深い意味はないよ、ただ昨日はお前のおかげで助かったからさ。そういえば礼をまだ言ってなかったな」

僧侶「気にしなくていい、お前はまだ戦闘の記憶を取り戻してないんだろ?」

男「まあ、そんなところなんだろうな。
  あ、じゃあこういうのはどうだ? オレとお前で手合わせをすればオレもお前も鍛えられて一石二鳥じゃないか?」

僧侶「程よくなら付き合わないこともないが」

男「ありがとな、助かる。いやあ、お前の昨日の拳を地面に叩きつける技すごかったな、アレ教えてくれよ」

僧侶「べつにいいけど……」

男「サンキュー、オレもみんなの足を引っ張るわけにはいかないからな、がんばるぜ。お前に稽古つけてもらえればすぐに強くなれそうだ」



僧侶「むやみやたらに持ち上げるのはやめてくれ。私はそういうのが苦手なんだ」

男「なんでだよ? 素直にオレはすごいと思ってるんだ。
  厳しい修行を積んで精神的にも肉体的にも強くなって昨日みたいな闘いができるんだろ? やっぱり学校で鍛えるのか?」

僧侶「……私は尼僧学校には通ってないんだ」

男「じゃあどうやって僧侶になったんだ?」

僧侶「…………今より五、六年ぐらい前に父に教会に入れられて僧侶見習いになったんだ」

男「そんなこともあるのか。でもそれって珍しいのか?」

僧侶「わからないが珍しいことでもないんじゃないか? 実際孤児なんかは教会に預けられてそのまま僧侶になってる者もいるし」

男「ふーん、色々とパターンがあるな。でもなんで僧侶になったんだ? 学校にも行ってなかったならお前の実力ならギルドとかでも余裕でやっていけそうなのに」





僧侶「……当時の私は優柔不断を極めたような人間だったからな。昔の私が今の私を見たら驚愕するかもな」

男「なんか意外だなあ。お前のことはよく知らないけど堅物そうだし根っからの僧侶気質かと思ってた」

僧侶「もし最初から私が僧侶の道を志していたならここまでの戦闘力はもたなかっただろうな」

男「それってどういうこと?」

僧侶「……」

男「なんで黙るんだよ、教えてくれよ」

僧侶「あぁ神よ、なぜこのような恥を晒すような真似を……」

男「急に僧侶っぽいこと言うなよ」

僧侶「うるさい」


僧侶「昔の私は勇者のような、強い存在になりたかったんだ。いや、と言うより単純に勇者になりたかった」

男「本気で言ってるのか?」

僧侶「私は冗談は苦手だ。だいたい尼僧学校でだってここまでの戦闘スタイルを築き上げるような修行はしない、もちろん教会でもだ」

男「ていうか教会で見習いやってたって言うならなおさら肉体に関してはなにもしてないよな?」

僧侶「そういうことだ、だから今の戦闘能力は教会に入る以前に身につけたものだ」

男「勇者にあこがれてか? でもなんでまた勇者に?」

僧侶「あるおとぎ話の本が昔から家にあって、それを読んでハマったんだ」

男「へえ、どんな話なんだ?」

僧侶「簡単に言うと、この世界は実は勇者と魔王のためだけに存在しているっていうおとぎ話だ」

今日はここまで

実は自分、ドラクエとかやったことなくて魔物の種類とかなにがあるか全然わかってないんでよろしかったら参考になるサイトとか教えてもらっていいですか?

ではまた

再開します

質問に対してレスくれた人ありがとうございます
是非参考にさせてもらいます


男「この世界が勇者と魔王のために存在しているってそんなわけないだろ」

僧侶「もちろんおとぎ話の中の話にすぎない。ただ今みたいに国争い……人類どうしの戦争とかなんてものがなかった昔は魔王というのは人類共通の敵であったからな」

男「今だって魔王は人間にとっての敵だろ?」

僧侶「もちろんそうだが、今の時代は我が国でも国家間の争いや関係のほうにばかり傾注しているからな」

男「人間の敵は人間ってわけか……話が逸れたな、勇者に憧れてそれでなんだったけ?」

僧侶「逸れたのではなく逸らしたんだけどな……。
   まあ見ての通り結局私はこうして僧侶をやっている」

男「諦めたってことか?」

僧侶「そんな大仰な言い方をするまでもない。挫折したとかじゃなくてなんとなくやめただけ」


男「なんとなくってなんだよ」

僧侶「なんとなくはなんとなくだ。気づいたらそういう夢をもたなくなった。
   そういえば勇者一行の誰かが書いた自叙伝かな、そういうのを読んでそれでやめようと思ったのかもしれない」

男「自叙伝? 冒険の書とかそういうのか?」

僧侶「おそらく。あまりに想像とかけ離れていたからな。
   私はもっと和気藹々としたものを想像していた。パーティを組んで時々衝突とかもするけど仲良く、そして苦難の道ではあるが最後は魔王を倒して誰一人死なずに円満に終わる。
   そんな風におとぎ話のような旅を想像していたがやはり現実はそんなに甘くないみたいだ」

男「まあ、おそらくそうなんだろうな」

僧侶「いつか記憶をお前が取り戻したならその冒険譚も聞いて見たいけど……いや、やっぱりいいか」

男「……パーティ組んで冒険とか今はしないんだよな?」

僧侶「今そんなことをやっても無意味だからな。いくら選りすぐりのパーティでも数人しかいないんじゃ、ものの数で強引に押し切られるだろうな」

男「そもそも今は魔物が国の中にいるんだから、まず国内へ侵入するっていう課題があるんだもんなあ」

僧侶「昔は意外と魔王の城の付近に街があったりしたらしい。なぜか魔物側からもなにもされなかったらしいけどな」



男「なんて言うかお互いにアホだな」

僧侶「まあ少なくとも人間側にはなにか事情があったのだろう」

男「どうだかな。ていうか結局勇者とか諦めたのはなんとなくなのかよ」

僧侶「そうだ、なんとなくだ。それに今だからこそ思うけど私は団体行動には性格的に向いていないからな。少なくともパーティを組んで冒険なんて無理だ」

男「団体行動が無理って、教会の僧侶ってたしかかなり団体行動をしいられている気がするんだが」

僧侶「そのとおりだ。朝は起きれば朝食や礼拝やら会議やらで常に誰かといるからな。部屋は狭い上に四人で共有して使う。
   女だらけの教会は意外と人間関係も面倒だしな。毎日が共同生活だから人間関係は濃いし、なにより気を遣わなければならない」

男「なんか聞いてるだけで疲れるな」

僧侶「二年前に使徒職の関係でその教会から出て、今は人里離れた山の教会に仕えているからだいぶマシになったけどな」

男「へえ、そう言えば山にも教会って稀にあるもんな。でも山なんかでなにやってんだよ?」


僧侶「基本的には信徒に勉強を教えたりとか掃除とかだが、場所が場所だけに来る人間の数も少ない。
   私みたいなゴリゴリの戦闘タイプは森で人の管理が行き届いていない魔物の退治とか、時々相談事でやってくる信徒の案内なんかをしている」

男「なんか絵が想像できるな」

僧侶「ここ数年は勇者が現れなくなったことにより教会の権威はさらに落ちていて、うちみたいな辺境の教会に来る人間も減ってるからな。
   それで使徒職の一環としてギルドに登録して働くことしたんだ。おかげでけっこう金は入って最近は欲しい本を手に入れられる割合が増えた」

男「そういやお前って魔界好きらしいけど、そういうのも本で調べたりしてるのか?」

僧侶「魔界好き? ああ、あの軽薄そうな男が言っていたことか。べつに私は魔界好きなんかじゃない」

男「あれ、でも……」

僧侶「たしかに一時期魔界に関する書物を読み漁っていたが、それは魔物の起源を知ってより効率よく魔物を倒すためという目的が一つ。
   それと書物によってあまりに魔界に関する記述がちがいすぎてどれが正しいのか妙に気になったのも一理由の一つ。
   あとは……まあ色々あるが魔界好きというより魔物好きのほうがまだしっくりくるな」

男「なんかお前、いろいろ変わってるな」

僧侶「そうか? まあたしかにそんなことは時々言われるから否定はできないな」




男「て言うか意外とお前っておしゃべりなんだな。てっきり相手してもらえないかと思った」

僧侶「いや、意外と話すのは嫌いじゃない。信徒への説法とか同僚と仕事で話したりするのは好きじゃないが。
   こういう雑談は好きだ、普段と違って素の口調で話せるしな」

男「なるほどな」

僧侶「それに短い期間とは言え、私たちはパーティだ。こういう余った時間を交流に充てることはわるくない」

男「そうだな、オレたちはパーティだ。よろしく頼む」

僧侶「ああ、こちらこそ……ってなんだその手は?」

男「なに言ってんだよ、握手に決まってるだろ」

僧侶「そうだな……えっとよろしく頼む」

男「おう」


僧侶「……」

男「……なんだよ、オレの顔変か?」

僧侶「いや、そう言えば目の前の男はかつては勇者なんだな、と思ってな」

男「まあ今はただの記憶喪失野郎だけどな」

僧侶「……国で魔界に関する資料や文献を漁っていたという話、さっきしたな」

男「うん? ああ、したけど」

僧侶「私は昨日は結局この街の図書館に行って幾つかの資料を読んだ。うちの国の書物とは書いてあることが全然ちがった。
   うちのはおそらく十中八九嘘の内容が意図的に書かれている」

男「……それで?」

僧侶「私はこの国の人間が不幸だとは思えない。そこでだ、勇者。私からの一つ気になることがあるがいいか?」

男「質問、ってことか。最近よくされるなあ……なんだよ?」

僧侶「お前は記憶を失っているとは言え勇者だ。その勇者の使命は昔だったら魔王を倒すことだったろ。
   今のお前は勇者としてなにをどうしたらいいと思う?」


男「……」

男(オレの使命……それはなんなんだろ? そういえば戦士のヤツにも似たような質問されたな。いや、そもそも……)

男「なんでオレは復活させられたんだ?」

僧侶「なんだ、藪から棒に」

男「ああ、悪い。ふと気になったんだよ。
  どうして過去に自分を封印したオレを復活させる必要があったのかなって」

僧侶「それは次の勇者が現れないから……」

男「じゃあどうして次の勇者は現れないんだ?
  これは王から聞いた話だけど、魔王はかれこれ四百年以上もの間生きているんだろ。うん、あれ? 
  魔王を倒したから勇者なのか? 勇者だから魔王を倒すのか……どっちかわかんないぞ」

僧侶「それについては説がいくつかあるがだいたいは、はじめから世界に生まれた時点で勇者は決まってるという説だな。
   神から予言されてる、みたいな話は聞いたことがある」

男「神からの予言? なんだそりゃ」

僧侶「私にも詳しいことはわからない、と言うよりこれはどちらかと言うと宗教学的な話で理解できない」

男「お前僧侶じゃん!」



僧侶「その手の学問は色々と難しいんだ。まあ勇者の生態系的なものは、魔法使いや賢者の学者たちも研究しているからひょっとしたら彼女はなにか知ってるかも」

男「魔法使いか……そう言えばあいつはなにか知ってそうな口ぶりだったな」

僧侶「ただ、これは個人的な私の意見だが勇者はやはり世界、あるいは運命によって生まれながらにして決められているんだと思う」

男「なにか根拠はあるのか?」

僧侶「ある著名な歴史家の勇者と魔王の年代記を読んだことがあるんだ。その記録には勇者と魔王の争いの記録が記されている。
   その記録が正しければ勇者と魔王は両者が存在する限り間違いなく争っている」

男「なるほど。でもそれってある意味当たり前じゃないか。自分たちにとっての脅威がいるんだから闘いには行くだろ、たとえ勇者じゃなくても」

僧侶「いや、もう一つ興味深い記録がある。
   ほとんどの闘いにおいて人類は勝利している、勇者は魔王に勝っているということだ。だが、その一方で魔王を倒したあとの勇者はほとんど例外なく十数年の間に亡くなっている」

男「……」

僧侶「そしてたとえ勇者が死んでこの世からいなくなったとしても、魔王が復活することでまた新たな勇者が国を出てパーティを組んで魔王を倒しに行っている」



男「つまり、やっぱり勇者ははじめから世界だか運命だか知らないが、とにかく決まってるってことか」

僧侶「おそらく」

男「じゃあやっぱり次の勇者が現れないのはおかしいよな?」

僧侶「……そうなるな。だがこれで一つはっきりしたことがある。
   新たな勇者が誕生しないゆえに死なずに封印されていたお前が復活させられた」

男「まあ、そういうことだよな。で、なんで新しい勇者は出てこないんだ?」

僧侶「私に聞かれてもわかるわけがないだろ。むしろ勇者であるお前が知ってることじゃないのかそれは」

男「残念ながらオレは記憶喪失だ。記憶があってもわからないような気がするけど」

僧侶「まあこれ以上は考えても仕方ないんじゃないか」

男「それもそーだな。よしっ!
  そうとわかりゃ組み手やろうぜ、勝負だ!」

僧侶「こんな早朝からか?」



男「身体を動かすのは気持ちがいい朝に限ると思うんだけどな」

僧侶「……まっ、軽く手合わせならしてやる」

男「んじゃ、簡単な準備運動をしたら始めようぜ」

僧侶「望むところだ」


………………………………………………………………


僧侶「……大丈夫か?」

男「あ、イテテテ……あうぅ、普通に完敗だったな。我ながらあまりに情けない」

僧侶「仕方がないんじゃないか? 記憶がないんじゃ闘いの仕方だって忘れてるってことだろ?」

男「そうなんだけどさ」

僧侶「それにお前は私に合わせて拳で闘ったからな。得物があればまたちがったかもしれない」

戦士「やあやあ、朝から暑苦しくなにかしていると思ったらなんだい、手合わせかい?」



男「……お前か、おはよう」

戦士「派手な物音がするから目が覚めちゃったよ。朝から元気がいいね、二人とも」

男「少しでも訓練とかしておかないと、と思ってさ。このままじゃオレはみんなの足を引っ張ることしかできないからな」

戦士「へえ、なかなか気丈だね。そうだね、今のままだと足手まといにしかならなそーだからね。なんならボクが手取り足取り教えてあげようか」

男「そういやお前が闘ってるところはまだ見てないな」

戦士「そうだっけ? まあどーでもいいや、いいよ、魔法使いちゃんが起きるまでの間稽古付けてあげよう」

男「ずいぶんと上から目線だな、いいぞ。望むところだ」

戦士「本気で来ていいよ、ボクは強いからね」

…………………………………………………………………


男「ハァハァ……本当に、つよ、いんだな……」

戦士「おやおや、ずいぶんと奇妙なことを言うねえ。ボクはこれでもこの若さで幾つかのギルドを任されてるんだよ。
   弱肉強食の世界なんだから強く、そして賢く戦わなきゃ上にはのし上がれないんだ」

男「くそっ……」

僧侶(この男……軽薄そうな外見とは裏腹に実に堅実な闘い方をしている。
   基本的には素早く出せる低下力の魔法で攻撃しつつ、相手に近づかれたら剣術で素早く相手をいなして距離をとる。
   基本的なヒットアンドアウェイ戦法だが、ここまで洗練されているのは初めて見る)

戦士「まあキミも頑張ったんじゃない? 勇者くん、でもまだまだダメだよ、それじゃあまるでダメだ」

男「……くそっ」

戦士「また機会があったら相手してあげるよ」

男「……次は見てろ、次は勝てなくてもいい勝負ぐらいはしてやる」

戦士「期待しているよ、せいぜいガンバってね」



…………………………………………………………


男「打ち所が悪かったせいか歩くだけで足が痛いな」

僧侶「薬草軟膏を塗ったから多少はよくなるだろうが……ひどくなるようだったら言ってくれ」

戦士「うーん、情けないねー勇者くんは。そんなんで大丈夫なのかい?」

男「うるさい」


男(魔法使いが起きたあと僧侶が作った朝食を食べて、休憩を挟んだあと、オレたち四人は街へ繰り出した。
  目的は今回の隠れ家を貸してくれた女の子を探すためと、魔王と連絡をとるための手段を模索するため。提案者は戦士だ)


戦士「さてさて彼女が働いている喫茶店にでも行けばおそらくバイトしてるんじゃないかなあ、と思うんだけど……って、勇者くんはちょっとキョロキョロしすぎじゃない?」

男「いや、だって本当に魔物が普通に街を歩いてんだもん」

魔法使い「ここではそれが普通。慣れて」

男「うん、まあわかっちゃいるんだけどな、とっ、案外早くついたな」



少女「いらっしゃいませーってお兄さんたちじゃん? なに、どうしたの?
   まさかまたここのコーヒー飲みにきたのかな、まあ安いしそこそこコクがあってうまいから評判いいからね」

戦士「たしかになかなかその水だしコーヒーはうまかったけど今回はキミ自身に用があってね」

少女「私? えー今バイト中だから手がはなせないんだよねー」

僧侶「どれぐらいで仕事は終わるんだ?」

少女「あと三時間ぐらいかな、あっ、おじさんいらっしゃーい」

 「おう、今日もいつもの頼む……ん?」

戦士「あっ……昨日のゴブリンの……」

ゴブリン「おい、お前!」

男「なんだ、お前の知り合いなのか?」


戦士「いや、知り合いというのとはちょっとちがうかな」

ゴブリン「そうだな、オレたちゃソウルメイトだからな! なあ!?」

戦士「えーっと、あれ? ソウルメイト、あーうん、そーだったけなあ」

僧侶「なんだソウルメイトって?」

ゴブリン「おいおい、この俺に飲み勝負で勝つツワモノのくせに、もっと堂々としろよ! あぁ!?」

戦士「イタイイタイっ、背中叩くのやめてくれよ~」

男「……なんか仲よさそうだな」

ゴブリン「おい、若いの。コイツらはお前の連れかなんかか?」

戦士「まあそんなところかな。しかしなんでこんなとこにおじさんはいるんだい?」

ゴブリン「ここのブラックを朝は絶対飲むようにしてんだよ、俺は朝が苦手だからな。
     それにモーニングだとトースト三枚とスクランブルエッグとデザートがタダで食えるからな」

少女「おっちゃんはうちの店の常連だからのサービスであって、キミたちの場合はトーストは一枚しかついてこないよー?」



僧侶「そんなことはどうでもいい。だいたい私たちはここで朝食をとるつもりはない」

戦士「目的はキミ自身だからね」

少女「えーなんか、目的はキミ自身ってエッチな響きー」

僧侶「おい」

少女「やだーお姉さんってばだから顔が怖いってー。お兄さんたちの言いたいことはだいたいわかるからー
   とりあえずこの街のどこかで時間潰しておいてよ」

男「そうだな、じゃあまた時間になったらここに戻ってくるか」

ゴブリン「おい、若いの。また今日時間があるなら酒屋に顔出しな。もう一度勝負だ、勝負!」

戦士「え? あー、うん気が向いてなおかつ時間があったらね?」

ゴブリン「待ってからな、這ってでもこい!」

戦士「あ、あははははは……」

男「えらく絡まれてんな」

戦士「勘弁して欲しいよ……」



………………

僧侶「そういうわけで時間を潰すハメになったが、しかし、どうする? 情報収集とかも今の状態で下手なことはできないしな」

戦士「迂闊なことを言うと一発でボクらが外部の人間だってわかるからね」

男「……ほえー」

僧侶「どうした、さっきからキョロキョロとしてばかりで口も開きっぱなしだし」

男「いやあ色んな魔物が街を歩いてるんだなあと、思ってさ」

僧侶「あれはオーガだな、どうもこの人間地区、ミレットには屈強な魔物が多くいるんだな」

戦士「と言うよりここにいる魔物はそういう系統が多いみたいだね」

男「でもここって人間の管理する街っていうか、自治区なんだろ? なんで魔物たちがいるんだろ?」

戦士「ささいな問題じゃないのかい?」

僧侶「昨日、私がこちらの文献で調べて得た情報によるとこの街は間違いなく人間地区と呼ばれる人間の自治区だ」




男「じゃあなんで魔物が?」

僧侶「人間が管理しているから人間地区なんて呼ばれてるだけで、この街の創設にはゴブリンやオーク、他にもデーモンなんかの魔物が関わったらしい」

男「たしかに力作業は人間より魔物がやったほうが効率いいもんな」

僧侶「そういう歴史があるからこちらの人間は自治区であったとしても魔物たちを受け入れるみたいだ。
   そういう文化や風習がもはや完璧にできているんだろうな、完璧とまではいかないがなかなかいい関係を築けているみたいだ」

男「なんかなあ」

戦士「勇者くん、キミの思うことはだいたいわかるけどなんでもかんでも自分の物差しで考えるのはよくないんじゃない?」

男「そうだな、そのとおりなんだけどそれでもなんだかモヤモヤした感じは残っちまうな。
  あ、でもこっちの人間地区の方に魔物がいるなら、逆に帝都の方には人間いるのか?」

僧侶「それについてだが、いるみたいだな」


僧侶「ただこちらの人間地区とは違ってあちらに行ける人間は限られているようだ」

男「どんなヤツがあっちに行けるんだ?」

僧侶「制度の名前は忘れてしまったんだが、魔界には人材補給制度及び人材育成制度がきちんと整えられているみたいだな」

男「どういうことだ?」

戦士「勇者くんバカだからわかりやすく説明してあげて」

男「……おう、頼む」

僧侶「簡単に言えばこちらの人間地区で暮らせない人間を自分たちの奴隷、というか遣いというか、とにかく幾つかの基準に則って帝都の貴族たちが人間の子どもを引き取るらしい。
   そうして選ばれた子どもは奴隷として主人に仕えるそうだ」

男「なんだよ、それ! 人間側には選択権はないのかよ?」

僧侶「私が調べた範囲では任意で、なんてことはないみたいだ」

男「それって子どもと親は引き裂かれて、しかも下手したら一生会えないかもしれない上に奴隷にされてしまうってことだろ?
  そんなのいいわけないよな!?」

戦士「うーん、どーだろうね」



男「なにがどーだろうね、だよ!? 許せるのかよ、そんな理不尽なこと」

戦士「落ち着いてほしいな、勇者くん。たしかにキミの意見はごもっともだよ、でもこれは考えようによっては素晴らしい制度とも言えるんじゃないかな?」

男「……どういうことだよ」

僧侶「つまり人間地区にすら住めない人間っていうのはそれだけ貧しいってことだ。この国に住む以上は国民のすべてが人頭税を払わなければならない」

男「だからなんだよ」

僧侶「それすらも払えない貧しい家庭の子どもはさぞひもじい思いをしているんだろうな。
   だがこの制度によって少なくとも選ばれた子どもは、奴隷という立場ではあっても貴族の遣いだ、今までと比較にならない良い生活が約束されるだろうな」

男「……」

僧侶「それにこの制度にはまだ続きがある。選ばれた子どもは基調な人材として大事に育てられる。
   やがてはその奴隷たちから軍を束ねる地位になれる可能性や騎士として勇猛果敢に戦うチャンスが生まれる」

戦士「一見勝手に奴隷にされちゃう上に家族とも引き裂かれてしまうヒドイ制度かもね。でもね……」

僧侶「見方を変えればその魔物貴族の奴隷になる代わりに立身出世のチャンスをつかむことのできる制度なわけだ。
   実際この国には魔物の軍を束ねる人間も多くはないけど存在しているみたいだ」




男「…………そうか」

僧侶「こういうことを言われるのはイヤかもしれない。でもお前の気持ちは私にも多少はわかる。一番始めに知った時は私とお前と同じような憤りを感じた」

戦士「でも物事は一つの面から見るのでなく、色んな方面から見るものだ。そしてそうすることで新しいことが見えてくる、今回みたいにね」

男「……その、さ」

戦士「なんだい、勇者くん?」

男「オレみたいな頭の悪いヤツにもわかるように教えてくれてありがとな……あっ、言っておくけど嫌味とかじゃないからな」

戦士「知ってるよ、キミがそんな嫌味なんてものを思いつく脳みそを持ってるわけがないからね」

男「なんだとぉ!?」

魔法使い「待って、あれは……」

男「ん? どうしたんだ魔法使い?」


戦士「あの建物の影に隠れるんだ!」

男「お、おうっ!」


…………………………


僧侶「少人数とは言えなぜこんなところに騎士の部隊が……しかも、あの先頭で先導している騎士は……」

戦士「これは驚いたね、人間が指揮しているのもそうだけどその人が乗っているのはペガサスだね」

男「ペガサス……初めて見るタイプの魔物だ」

戦士「ここ数十年の間で見かけられるようになった魔物だからね、キミが知らないのは当然だ」

僧侶「あとは人型サイズの魔物と一番後ろにいるのはトロールか」

男「て言うかわざわざ隠れる必要はなかったんじゃないか?」

戦士「いや、こんなとこにおこらくは帝都から来たであろう騎士が率いる隊がいるんだ。もしかしたらボクらを探しているのかもしれない」


僧侶「どうする……?」

戦士「このまま抜けられるなら路地裏から抜けようかと思ったけど無理みたいだしね」

男「魔法使い、お前近距離系の空間転移魔法とか使えないか?」

魔法使い「……」

男「魔法使い?」

魔法使い「空」

男「そら? 空っていったい……ってワイバーン?」

戦士「建物の間にいるせいでそんなには見えないけどそれでも今、ボクらの上を三体はワイバーンが過ぎてったね」

僧侶「まさか本当に私たちを探して?」

男「おいおい、どうすりゃいいんだ」

少女「お兄さんたちー」

男「ぬおあ!? お前っ、どうしてここに!? ていうかどうやって壁しかない背後から現れた!?」



少女「あーんもうっ! 質問多すぎるよ! とりあえずこっちこっち」

戦士「なるほどね、この店の勝手口から出て来たんだね」

僧侶「それっていいのか?」

少女「はいはい、細かいことはあとにしてとりあえずこの場は退散するよ」


………………………………


店内


戦士「とりあえずはキミのおかげで助かったよ」

少女「ホントに感謝してよねー。バイト抜けて来ちゃったし、まあ実際にはキミらが思ってるよりも全然深刻な状況じゃなかったけどね」

男「そうなのか?」

少女「今、騎士さんたちやワイバーンが空を徘徊しているのにはべつの理由があるんだよ」

男「なにか起こってるのか?」



少女「かなり深刻なことがね、起きてるんだよ」

男「もったいぶらずに教えろよ」

少女「私の手に入れた情報が正しければね、失踪したんだよ」

僧侶「まさか……」

少女「魔王様が失踪して今、上はてんやわんやなんだよ」

男「魔王が失踪って……それって本当なのか?」

戦士「昨日、酒屋のお姉ちゃんが街の警備が強くなったって言ってたけど、あれはボクらを探すためじゃなくて魔王を探すためだったってことか……」

少女「さらにもう一つね、ここに来て国にとって困るかもしれないことが起きているみたい」

男「……なんだよ?」

少女「五日前に来たんだって。


   勇者たち一同と思われるパーティがね」

今日は
ここまで

しばらくぶりに再開します


男「……ちょ、ちょっと待ってくれ。今なんて言った?」

少女「だから、勇者パーティがこの街に訪れているって……」

男「ちがう。五日前って言わなかったか?」

少女「うん、私の情報が正しければ五日前のはずだよ」

男「……五日前」

戦士「お嬢ちゃん、なにか他に情報はないかい?」


少女「うーん、現時点ではあとは侵入地点が判明しているけどやっぱり魔方陣をくぐってきたみたい」

僧侶「私たちが来るより先に勇者一行は来ていた、か」

少女「それがなにか問題あるの? あ! もしかしてその勇者パーティがお仲間とか?」

男「……仲間、なのか?」

少女「あ、じゃあ知り合いとかかな?」

戦士「……よく、わからない。少なくともボクはボクたち以外がここへ来ることになっているなんていう話は聞いていないからね」

少女「なんかどうかしたの、様子がおかしいけれど」

男「んー、あのさ。ひとつ気になったんだけど。勇者が来たって言っただろ? なにを根拠にこの魔界への侵入者が勇者たちだってわかった?」

少女「それについては私も実は気になってたんだよね。まだまだ情報があやふやだからね。ただ、侵入者がいることは間違いないよ」



男「うーん、じゃあもしかしたらそいつらは勇者じゃない可能性もあるんじゃないか?」

少女「勇者を騙るニセモノってこと?」

男「そうそう」

少女「どうだろうねえ。魔王様がわざわざ姿を隠しているという事実があるからねえ」

僧侶「現時点では何とも言えない……そういうことか?」

少女「まあそんなかんじかなあ」

男「うーん、難しいなあ」

少女「…………」

戦士「黙り込んで、どうしたのお嬢ちゃん? 熱心に勇者くんの顔を見てるけど」



少女「んー、ていうかさ。戦士のお兄さんってばこの男の人のことを『勇者くん』って呼ぶけどなんで?」

戦士「え? えーっとだね、うーん……」

僧侶(このバカ……迂闊すぎる)

魔法使い「彼は勇者に憧れて、昔から一心不乱に強くなるためだけに修行を積んで来た。
     それで勇者くん、と戦士は呼ぶ」

男「お、おう……そうだぞ?」

男(なんていうか微妙すぎるフォローだがナイスだ、魔法使い!)

少女「なにそれ、変なのー。いやあお兄さん、面白いなあ」

男「おう、当たり前だろ」

少女「うん、本当に面白いよ。見ていて退屈しないっていうかさ。
   リアクションとかもいちいち大きいし、ちょっとのことですぐ驚くもんねー」



男「……なんかバカにされてないか、オレ?」

少女「そんなことないよ。ただ見てて愉快だなあってだけだよ。だって魔物がしゃべっただけで、急に叫び出したりするし」

戦士「たしかにねえ、勇者くんはクールさにいちいち欠けてるよね。少しはボクを見習ってほしいよ」

僧侶(……ん? なにかおかしくないか?)

男「ていうか、これからどうする? オレはオレたち以外の侵入者っていうのが気になるんだけど」

戦士「そうだね、ボクも個人的に気になる。とりあえずどこか落ち着く場所で今後の行動方針を考えたい。
   そしてできれば、キミにも来て欲しいんだよねー」

少女「私? どうして?」




戦士「魔界の情報通からいくつか聞きたいことがあってね、どうだい? ついてきてくれたらランチぐらい奢るよ?」

少女「お兄さんのもってるお金、私があげたのだけどね」

戦「「それを言われてしまうと、なにも言い返せないんだけどそこをなんとかさあ? ね?」

少女「うーん、ちょっと待ってね…………いや、まあ大丈夫かな。いいよ、今回特別にキミたちに協力してあげるね!」

男「助かるよ! ありがとう!」

少女「ただし、ひとつだけ言うことを聞いて欲しいんだ」

戦士「なんだい、なんでも聞いちゃうよ」

僧侶「なんでも、とか言うな。こちらが許容できる範囲の頼みだ」

少女「べつに条件って言っても大したことじゃないよ。ただ、私が指定する場所に行こうってだけだよ」

僧侶「指定する場所? いったいどんな場所だ?」

少女「とってもイイところだよ」


……………………………………………………


戦士「ずいぶんと森の中を歩かされてるけど、いったいどこへ行ってるんだい?」

少女「もうそこまで来てるよ、目的地に。ほら、あれあれ」

僧侶「けっこう大きい建物だな、あそこになにかあるのか?」

少女「ふふっ、なんだと思う? 着くまでに考えてみてね」

戦士「もう着いちゃうじゃん」

少女「はーい、時間ぎれー! 着いちゃいましたー!」


少女「おじいーちゃーん! 入るよー?」

僧侶(見たところ普通の民家……か。念のため警戒しておいたほうがいいか?)

少女「さあ、みんな入って入って!」

…………………………………………………………


魔法使い「子供がいっぱい……」

戦士「まるで学校みたいだね。机とイスがあって……今はランチタイムかな?」


 「おやおや、またお友達をつれてきたのですか?」


少女「おじさん、急にごめんねー。みんなもげんきー?」

「わあ! お姉ちゃんまた来てくれたんだー」 「今はご飯の時間なんだよー」 「ねえねえ聞いてさっきねー」

僧侶「人間の子供と……ドワーフ、だと?」

ドワーフ「ふうむ、あなた方はいったい?」


少女「紹介するよ、おじさん。この人たちは街でバイト中に偶然出会って、うちの店で支払いを踏みた襲うとした人たちだよ」

男「おい! 事実と言えば事実だが、もうちょっと印象のよくなる紹介しろよ!」

ドワーフ「はあ……それはまた破天荒な方々なようで……」

少女「第一印象を悪くしておくと、あとからなにか人がよく見えるような行いをした時に、高評価をもらえるよ?」

戦士「第一印象が悪いのはダメだし、そんないやらしい考えは捨てなよ、お嬢ちゃん。それで? どうしてボクたちを……」


「お兄さんたちだれー!?」 「お姉ちゃんのおともだちー?」 「うわあ本物の剣だあ!」


戦士「ちょ、ちょっとボクがナイスガイで迫りたくなるのはわかるけどキミらみたいなちっちゃい子供が剣に触るのはダメだよ」

少女「ふふっ、久々の新しい来訪者にみんな興味しんしんなんだねー。そうだ、せっかくだからみんなご飯を食べてもらったあとで遊んでもらいなよ?」

「ほんとお!?」 「お兄ちゃんたちあそんでくれるのー?」 「あそぼおっ!」

戦士「えぇ!? ちょ、ちょっとボクらにはやるべきことがあるんだよ!」


少女「いいじゃーん。ちょっとぐらいこの子たちの相手をしたってバチは当たらないでしょ?
   それに、その分のお礼はきちんとさせてもらうからさ」

僧侶「……まあ、少しぐらいならいいんじゃないか?」

少女「おっ! お姉さん、話が早くて助かるよ」

戦士「まさかキミがそんなことを言うなんてね……ちょっとだけなら相手するよ」

男「よくわかんねーけど遊べばいいんだろ? よしっ! お前らなにしたい!?」

…………………………………………………………


男「どうしたどうした!? 捕まえてみろー!?」

男(なぜかこうしてガキんちょたちと遊んでるわけだが……。
  オレはカラダをはって鬼ごっこ。そんで魔法使いが……)

魔法使い「……」

「わーすごーい」 「こんなに多い数でできる人はじめてー」 

男(お手頃なサイズに切った木でジャグリングとか言うのをしている。最初の三本からどんどん数を増やして今は六本の木でジャグリングしている。
  たぶん、魔法を使ってるな。で、次に僧侶はと言うと……)

僧侶「この世界は魔王と勇者から始まりました。魔王と勇者は常にたたかっていました。やがて二人がたたかうための海が広がり島が浮かび上がりました。
   大地はどんどん広がり魔王と勇者はたたかいのあいだに自分たちの家族を作り、そして……」

「それで、それで?」 「早く続き読んでー!」

男( 僧侶は子供たちにおとぎ話の音読をしていだ。なんか意外なように思えるけど、オレたちと話しているときは全然声のトーンがちがう。
  心地のイイ声なのと読むのがうまいせいなのか、子供たちもすごい熱心に聞いている。そんで、最後に戦士のヤツは……)



戦士「ま、まだ……つ、続けなきゃダメなのかい……ぐぐっ……!」

「えーもうげんかいー?」 「もっとできるだろー」 「がんばれがんばれー」

男(戦士はなぜか逆立ちを子供たちからしいられている。すごいツラそうだ……なんでアイツ逆立ちしてんだろ、うわあ)

「まてー」 「おとなげないぞー」 「はやいよー」

男「たとえ鬼ごっこだろうとオレは全力だ!」


……………………………………………………………


戦士「も、もう……と、とと当分のあいだ、逆立ちは……ハァハァ、いいや……」

男「ずっと逆立ちさせられていたな」

少女「お兄さんたちおつかれー。子供たち、すごく楽しそうだったよ、ホントにありがと」



ドワーフ「私からもお礼を言います。子供たちがとても生き生きしていてよかったです」

僧侶「それはいいんだが、どうして魔物であるあなたが人間の子供たちの面倒を見ているんだ?」

ドワーフ「現役を退き手持ち無沙汰になりましてね。ただ老いるのを待つよりは、こうして新しい風となる子供たちと触れ合おうと思いまして」

僧侶「いや、私が言いたいのはどうして人間の子供の面倒を見ているか、ということだ」

ドワーフ「べつに、大それた理由などはございませぬ。ただ流れに乗っかってたら人間の子供たちの面倒を見ることになっていた……それだけです」

少女「おじさんは子供たちに簡単な勉強を教えているんだ、字の読み書きができるだけでもできない人と比較すれば、すごい差だからね」

男「……魔物が人間に勉強を教える、か」

ドワーフ「あなたはそのことをおかしいと思いますか?」

男「え?」



ドワーフ「魔物である私が人間の子供たちに勉学を教える、なるほど、たしかにありふれた光景ではないでしょうな。
     しかし、私たち魔物もあなたがた人間にも共通しているものがあります。なにかはわかりますな?」

男「……こころ、かな?」

ドワーフ「そうです。我々は姿形こそちがえど同じこころを持つ存在です。そして、私が子供たちに施しをする理由はそれだけで十分なのです」

男「……」

戦士「なかなかどうして含蓄のある言葉だね。あなたみたいな方ばかりだったら、世界は今よりずっと平和だったろうね」

ドワーフ「私のような考えをもつ者は少なくはないはずです。事実、私のように人間地区で生活している魔物は意外といるのですよ」

少女「そうだよ、そうじゃなきゃ、私とおじいちゃんが知り合うことなんてまずなかったんだから」

ドワーフ「そうですな」


男(世界にはたしかに人と魔物が手を取り合って生きていける場所がある……少なくともこの魔界には)

戦士「まっ、なかなか興味深い話なんだけど、それよりもボクたちは今、どうしてもやらなければ行けないことがある」

少女「そうだったね。子供たちのお守をしてもらったんだ。なにかお礼をしようと思っていたところだよ」

戦士「じゃあ単刀直入に聞こうか。魔界の帝都に行きたい。行く手段は?」

少女「帝都に、ねえ。いったいなんの用があってかな?」

男「それは……」

少女「いや、その前にキミたちは何者なのかな? 来訪者さんたち?」


ドワーフ「来訪者? まさかこの方たちは……」

少女「そう、そのとおりだよ、おじーちゃん。この人たちは魔界の外から来たんだ」

ドワーフ「なるほど。そうなると、残念ながら子供たちの相手をしてもらっているとは言え、無条件にあなたがたの要求を聞くわけにはいきませんな」

少女「まずキミたちの正体を教えてもらおうか。話はそこからだよ」

戦士「…………」

戦士(これは誤魔化せそうにない、雰囲気だね。さて、なんて答えるかな、勇者くん?)

男「オレたちは……」

今日はここまで

このSSと関わりがある関連SSを挙げておきますのでよろしかったから見てください
なお見なくても全然このSSの内容がわからないなんてことはありません


神父「また死んだんですか勇者様」
神父「また死んだんですか勇者様」 - SSまとめ速報
(http://sp.logsoku.com/r/news4vip/1381939133/)
魔王「姫様さらってきたけど二人っきりで気まずい」
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まともにURLも貼れないのか馬鹿者め

神父「また死んだんですか勇者様」
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魔王「姫様さらってきたけど二人っきりで気まずい」
魔王「姫様さらってきたけど二人っきりで気まずい」 - SSまとめ速報
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再開します

>>171すいません!ありがとうございます!


…………………………………………


男「ここが、あの女の子が言っていた地下水路か」

僧侶「当たり前だが暗いな」

戦士「いくら人間地区から魔物地区への境界を超えられないとは言え、このボクがこんな場所を歩くハメになるなんてね」

僧侶「勇者、お前は昨日の疲れは残ってないのか?」

戦士「昨日はずいぶんと勇者くんの訓練にボクと僧侶ちゃんは、付き合わされたからね。
   まあ結局はボクら二人に勇者くんがボコボコにされただけなんだけどさ」

男「……次は絶対にオレがボコボコに仕返してやるよ。ていうか昨日は夜遅くまで付き合わせちゃったけど、二は疲れてないのか?」

僧侶「まだ多少は疲労は残っているが問題ない。お前こそ大丈夫なのか?」

男「それが全然疲れてないんだよな、まだまだ全然動けるぜ」

戦士「ところでこの地下水路をぬけて魔物地区に着くにはどれぐらいかかるんだい?」

リザードマン「ミレット……人間地区を抜けるには一時間はかかるだろうな」


男「一時間、か」

戦士「一時間もこんなカビ臭い場所を歩くのかあ。やだなあ……」

僧侶「そうか、私としてはもっと長い時間歩くのかと覚悟していたから安心したぞ」

リザードマン「すまないが我慢してくれ。諸君らが正規のルートで我々の地区に来ることはまずできなかっただろうからね」

僧侶「憲兵に戸籍確認とかされては仕方が無い。むしろあなたは私たちに無条件で協力してくれているんだ、感謝しなければならない」

男「ああ、改めて礼を言う。ありがと」

リザードマン「礼なら彼に言ってくれ」

男「ドワーフ、か?」

リザードマン「彼に頼まれなければ俺は、諸君らに協力しようとは思わなかったさ」

戦士「ずいぶんと彼のことを信用してるみたいだね」



リザードマン「信用、と言うよりは信頼だな。彼はかつては私が在籍していた軍学校の教官だった……思い出すだけでも震え上がる」

戦士「教官、あの穏やかそうな彼がかい?」

リザードマン「現役を退いた今でこそずいぶんと穏やかになったが、当時は我々にとっては畏怖の象徴とも言うべき存在だった」

男「へー、そんなにコワイやつだったのか。でもそんなコワイんだったらキライになっちゃいそうだけどな」

リザードマン「はは、当時はキライだったよ。まあ、あることがきっかけでね、色々変わったのさ」

僧侶「ドワーフが教官か……私たちの国では想像つかない光景だな」

男「そういうお前だって、昨日ガキんちょたちに本を読んでいるときは本物の僧侶みたいだったよ」

僧侶「私はもとから本物の僧侶だ。しかも仕事がら音読などをする機会は少なくな……!」

魔法使い「……なにかいる」



男「なんだこの魔物は……人間のカラダに馬のカラダ?」

リザードマン「……ケンタウロスを見るのは初めてか?」

僧侶「無理もない。ここ百年の間に発見された新種だからな」

リザードマン「おい、キミたちは……」

ケンタウロス「ギイいいぃ……うああああああぁぁぁ…………っ!」

戦士「ちょっ……僕らに向かって突進してくるってことは敵ってこと!?」

僧侶「どうなっているこれは!? あなたの味方じゃないのか!?」

リザードマン「わからん! とにかく構えろ! くるぞっ!」



男「なんかよくわかんねーけど、行くぞ!」

僧侶「昨日の成果を見せてみろ!」

男「りょーかい!」

ケンタウロス三体が突っ込んでくる。
勇者は地面を蹴一番左のケンタウロスにむけて飛びかかる。地面を満たす水が飛沫をあげる。

男(勢いが、やばい……!)

正面からぶつかれば間違いなくやられる。咄嗟に跳ぶ。ケンタウロスの頭上を超えて背後に回る。

戦士「勇者くん! ケンタウロスと真っ向勝負はやめるんだ!」

魔法使い「ケンタウロスは魔物の中でも新種であり上位種。てごわい」

リザードマン「一体は俺がなんとかしよう。だから諸君らで残りの二体はなんとかするんだ!」

男「わかった!」



勇者は鞘から剣を抜くと同時に背後から飛びかかる。剣を上段から振り下ろす。
が、ケンタウロスの長い尾が鞭のようにしなり、剣を受け止められてしまう。
ケンタウロスが勢いよく振り返ると同時に、いつの間にか手にしていたトマホークで斬りかかってくる。
やむなく剣を手放す。背後に飛び退きなんとかトマホークをやりすごした。

僧侶「やはり一対一の勝負で、しかもこの狭い地下水路では分が悪いな」

戦士「そうだね、キミらには厳しいかな」

男「まったく……残念なことにな」

戦士「だけどこの地下水路という地理は、逆に利用することもできる」

勇者と同じようにケンタウロスとの格闘をこなしていた僧侶はローブを脱ぎ捨てる。

戦士「勇者くんのサポートは魔法使いちゃんに任せる。僧侶ちゃん、キミのサポートはボクが引き受けよう」

僧侶「どうやら今回はそのほうがいいようだな」

男「……サポート頼む、魔法使い」

魔法使い「まかせて」


魔法使い「一瞬でいい。あなたはあの魔物の動きを止めて」

男「オッケー!」

魔法使いが火球のつぶてを魔法でケンタウロスめがけて放った。この通路では迂闊に強力な呪文は使えない。
火の玉をケンタウロスはあっさりと両の手のトマホークでなぎ払う。一瞬だけスキができる。
勇者は魔物の足もとをすり抜けるようにスライディング。水が弾ける。
ケンタウロスの背後に回ると同時に尻尾に巻き取られていた剣の掬を掴んで、力づくで奪い取る。

男「今だ……!」

剣を下段からケンタウロスの胴体めがけて振り上げる。だが、それよりも先にすでに敵のトマホークが勇者に向かって振り落とされる。
金属と金属がぶつかる甲高い音が通路に響き渡る。咄嗟に勇者は剣の起動を変えてトマホークを受け止める。

が、もう片方のトマホークは完全にフリーだった。

男「ぐっ……!」

斧が勇者に振り落とされる……否、突然地面から生えた氷の突起がそれを受け止めていた。

魔法使い「本当に、一瞬だけの足止め……」

男「悪い、今のオレにはこれが精一杯だ」

魔法使い「……上出来」

ケンタウロスの足もとの水が瞬く間に凍っていく。ケンタウロスの足を氷が覆って行く。


男「今度こそもらいだ!」

未だになにが起きているのかを、理解できていない魔物に向かって勇者は跳んだ。
だが、ケンタウロスはトマホークで勇者を斬りつけようとする。
地面を蹴る。氷化した地面を滑りケンタウロスの足もとに飛び込む。
同時に剣をケンタウロスの腹に向ける。肉の切れる音。ケンタウロスの腹肉を剣先が切り裂く。


ケンタウロス「うぐやゃあああああああぁああぁあぁあぁ」


断末魔の叫び。確かな手応えを感じ勇者が手のひらを強く握りかけたときだった。


戦士「魔法使いちゃん、氷の壁! でっかいの作って!」

戦士の言葉が終わるか終わらないかのところで、一瞬で水が氷に豹変し、それが勢いよく隆起する。
あっという間にできた氷壁。その壁の内側にいた僧侶が、壁を飛び越えて外側へ。

僧侶「伏せろ!」

強烈な爆音と衝撃に混じって低い叫び声。




男「なっ……なんだ今のは……?」

僧侶「び、びっくりした……」

男「なんでお前がびっくりしてんだよ」

僧侶「いや、魔法使いに渡された球体を指示通りにケンタウロスの口に突っ込んでみたんだが……ここまでの威力とはな……」

魔法使い「あれは私の魔法の術式を組み込んだ魔具の一種で、ある一定量の魔翌力を送り込むことで時限式の爆弾となる。私はファイアボールって呼んでる」

リザードマン「……まるでハンドグレネードのようだ」

戦士「おっ、さすがだね。あのケンタウロスを一人で倒してしまうなんてね」

男「はんどぐれねーど? なんだそりゃ?」

僧侶「手投げ式の爆弾だ。わが国にもあるが、未だに発展段階であまり使われてはいない。
   本で読んだことがあるが、魔界ではすでに実践で投入されてるらしいな」


リザードマン「用途別に種類わけされていてなかなか便利だからな」

戦士「そういえばうちの国では、ピンを抜いてから爆発するまでの時間が長い上に、タイムラグが安定しないとか問題になってたなあ。
   投げたはいいけど時間差がありすぎて投げ返されて負傷したとか言って、裁判沙汰にもなっていたな」

男「よくわかんねーけど、武器とかも色々変わっているわけだ……って魔法使い、大丈夫か? 少し顔色悪いぞ?」

魔法使い「いささか疲れた。けど大丈夫」

男「おいおい、本当に大丈夫かよ。なんなら少し休んだって……」

魔法使い「その必要はない。それに……そんな暇はないみたい」

男「え?」

次の刹那。地下水路の水がミシミシと音を立てて高速で凍りついて行く。
魔法使いが一部だけを氷化したのに対して今度は視界に映る限りすべての水が凍っていた。

?「我らのペットをずいぶんあっさりと殺してくれたなあ」



僧侶「……何者だ?」

?「俺は礼儀を重んじるタイプだからな。本来なら名乗ることぐらいはしたいんだが……まあその必要もないか」

戦士「キミたちは……」

?「もしかしたらここで貴様らは死ぬかもしれないからなあ! せいぜい生き延びてくれよなあぁ! せっかく出会ったのに名前も知ることなく[ピーーー]なんて忍びないからな!」

男「なっ……!」


赤いローブを来た三人組が氷の地面を蹴って一斉に襲いにかかる。


男「新手か! 次から次へと……!」

剣を構えようして気づく。膝下まで絡みつくように凍りついていて身動きが取れなくなっていることに。

戦士「しまった……!」

魔法使い「……」

魔法使いが小さくつぶやく。ミシミシと軋む音ともに氷が壁となっていっきにせり上がり、通路を防ぐ。
さらに魔法使いが火術を唱えようとしたときだった。分厚い氷壁が紙でも破るかのように、あまりにもあっさりと砕かれる。

戦士「うっそーん! あの厚さの氷をああもあっさりと破るなんて!」

?「魔法使いの術か。その若さでなかなかの使い手のようだが、まだまだ二流の域を出ていないな」

僧侶「……チッ」

不意に僧侶が拳をかかげた。拳を地面に打ちつける。細腕からは想像もできないほどの衝撃とその波が地面を伝う。
地面に亀裂が走る。全員一斉に足に絡みついていた氷から逃れ、臨戦体勢をとる。

男「ナイスだ!」

リザードマン「相当な手練れだ、さっきと同じようにツーマンセルでかかれ!」

戦士「言われなくても!」



?「貴様が勇者だな」

男「……どうやってそれを知った?」

?「さあなぁっ! 知りたきゃ腕ずくでねじ伏せるんだな、この俺を!」

ローブを来た一人が広げた手のひらを勇者に向ける。距離は十分に開いている、魔法かなにかを仕掛けてくるのか……と構えようとした瞬間だった。
謎の男のグローブをはめた手が淡く光る。光の球を見た、と思ったときには既にそれは高速の弾丸と化して勇者に襲いかかった。

男「!」

横っ飛びに避ける。光弾が一瞬前まで勇者がいた位置を直撃する。水が弾ける。地面は深くえぐれていた。

男「なっ……喰らったらやばいじゃねえか!」

?「的当てゲームといこうか。何発まで避けられるかな?」

男の手が再び光る。光の球の出現。男の手を離れ、凄まじい速度で勇者めがけて飛んで行く。
勇者も先ほどと同じ要領でよける。が、もうすでに男の手には光弾ができていた。しかも次は二つ。

男「……くそっ!」



二つの光弾が勇者めがけて飛ばされる。これもかろうじて避ける。いや、わずかに腕を掠めている。籠手の光が触れた部分は消失していた。
だが、その光景に息を飲む暇すらない。光弾はすでに眼前にまで迫っていた。奇跡的に頭を低くしてやり過ごす。

男(これじゃあ、あと数分どころか次か次の次でやられる……!)

?「これは……」

不意に男の周りの氷が消え失せる。
男の周辺の氷は数千本の鋭い針へと姿を変えて、男を囲っていた。

魔法使い「……逃しはしない」

?「なかなか器用な魔法を使う。俺の大味の魔法とはえらいちがいだ」

感心したような男の口ぶり。しかしそこには微塵の焦りもない。
男は体勢を低くしたと同時に目の前の氷針へと自ら突っ込む。遅れてすべての氷針が男に飛ぶ。

魔法使い「……!?」

氷の大半は男が立っていた地面をえぐるだけに終わった。残りの氷の針は男が自ら進んで突っ込んだために刺さったものの、まるで意に介した様子はない。


?「この程度の攻撃が聞くと思うのか!」

速い……勇者へ迷わず男は突進してくる。勇者が剣を構えようとしたときには男はすでに目の前にいた。

男「……ぐあぁっ!」

腹に重い衝撃を喰らった、と思った。男の拳が勇者の腹をたしかに捉えている。さらに追撃で蹴りが勇者の顔面に炸裂する。
勇者が勢いよく吹っ飛び壁に背中から衝突する。

男「かはっ……!?」

圧倒的な実力の差が二人の間にあった。
視界が明滅して安定しない、まるで脳みそをかき回されているかのようだった。
あまりの痛みに意識が途切れそうになるのをなんとかこらえる。

?「弱いなあ、貴様。貴様、本当に勇者なのか? 街歩いてるそこらへんの奴のほうが、まだ手応えあるんじゃないか?」

顔をあげると赤いローブがすぐそばにいた。いったいどういうスピードをしているのだろうか?


?「勇者様と闘えるっていうんでちょっと気合いれて来たけど、なんだよ。全然弱いなあ」

視界のはしに僧侶と目の前の男と同じように赤いローブを来た誰かの戦闘が映る。
自分をねじ伏せた僧侶が明らかに押されていた。魔法使いがなんとかサポートして戦いになっているが、こちらも実力の差ははっきりしていた。

?「勇者よお、お前、記憶がないんだってなあ?」

男「…………なんで、それ……を?」

?「なんだっていいじゃねーか、そんなこと。なあ、記憶がないお前がなんで勇者なんだ? どうして勇者を名乗ってんだ?
  誰かが勇者だってお前に言ったからか? いや、それしか記憶喪失の奴が自分を勇者だって主張する理由はねえよな。
   だが、お前さあ。こんなに弱くて勇者名乗るっつうのはいささかおかしくねえか? お前は本当に勇者なのか、こんなに弱くてよお」

男「なにが、いいたい……?」

?「さあな、なにが言いたいのかは俺もわかんねーわ。たださあ、記憶がないお前に勇者としてのアイデンティティがあんのか?」

男「…………」

?「実はお前は昔は殺人鬼だっていう可能性だってあるよな?」

男(……たしかに。あやふやな記憶しか持たないオレは、本当の勇者だったのかその確証が、ない。
  ただ、王に言われて周りに言われてままここまで自分は勇者として来たが……オレは何者なんだ……?
  そういや同じような質問を魔法使いにもされたっけな……)



?「まっ、こんな息も絶え絶えの状態の奴に物事考えろってのも酷な話か。どうせこれから死ぬしなあ」

男(ふざけんなっ……こんなところで死ぬわけには……)

男の手が勇者の首を締め付ける。勇者は抵抗しようにも手を動かすこともできない。


戦士「そうそう勇者くんってばアホだから難しいことは考えられないよ」


?「……!?」

魔法のように男の背後に現れた戦士は、男が振り向く前に蹴りを喰らわす。
男は反射的にガードをしてこれをやりすごすが、すでに戦士は魔法攻撃に入っている。

戦士「くらってくれると嬉しいね!」

無数の青い火の玉が幽鬼のように戦士の周辺に浮かび上がり、そのすべてが男に向かって飛んで行く。男は区もなくそれをかわしていく。

戦士「キミがこの中で一番強いみたいだね……あっ、ちなみにキミのお仲間ならそこで伸びてるよ」

戦士の指指す方には仰向けで伸びている一人の赤いローブの男がいた。

?「ロン毛でいかにも軽薄な野郎だと侮っていたが……どうやら貴様らのパーティで一番腕が立つのは貴様のようだな」

戦士「そうだよ。だからさあ、伸び盛りの勇者くんじゃなくて最強のボクの相手をしてくれなきゃ」



戦士「さすがに魔法使いちゃんみたいな魔法は使えないけど、下級魔法ひたすら連発するのは得意なんだよね。
   今度はボクの的当てに付き合ってもらうよ」

再び青い炎が男に向かって飛んで行く。

?「……チッ」

男は火の玉をやり過ごすが、しかし構わず戦士は術を連発する。

ふと勇者は視線を僧侶の方へ持っていく。リザードマンとの二人がかりで赤いローブの敵と応戦していた。

僧侶「はあぁっ!」

僧侶が拳から衝撃を放ちなんとか敵を牽制していた。


不意に身体が光ったと思った。


自分が座っている場所を見ると魔方陣が浮かび上がっていた。
これは……とあたりを見回すと、僧侶にも戦士にリザードマンの場所にも同じ魔法陣が展開されていた。

魔法使い「……今」

皆と同様に魔方陣の光に包まれた魔法使いが、地面に両の手を押し当ててつぶやく。


僧侶「……はあぁっ!」

僧侶が二つの拳をかかげる。
右手は渦巻く炎をまとい、左手にはバチバチと光る雷をまとっている。炎の拳を地面に振り下ろす。
拳の炎は氷の床を容赦無く滑り溶かしていく。数秒足らずで火炎は氷を水に還元させた。

?「そういうことか……!」

男はここに来てようやく僧侶のやろうときたことに気づいたようだった。手のひらから光の玉を出し、僧侶にめがけて放つ。
が、僧侶の雷の拳が元に戻った水に直撃する方が早かった。

雷の奔流が水を伝い、その場の全員に炸裂する。

戦士「なんてメチャクチャなことをっ!」


魔法使い「大丈夫」


雷は赤いローブの敵にはしっかり効いたらしかった。僧侶とリザードマンが相対していた敵はその衝撃に背中を仰け反らせる。
勇者と戦っていた男は間一髪のところで、自身の足もとに光弾を放ち雷の流れを断ち切っていた。
それでも、ここに来て初めて男に焦りらしきものが窺えた瞬間だった。


勇者たちは魔法使いの魔法陣のおかげで僧侶の攻撃から身を守ることができたようだった。

僧侶「はぁはぁ……」

おそらく僧侶は今のでほとんどの魔翌力を使い果たしたのだろう。膝からくずおれる。
魔法使いもほとんどの魔翌力を使い切ったのか、 へたりこんでしまった。

?「力の配分はしっかりとしておくんだなああぁっ!」

男が僧侶に向かって走り出す、その速度はあまりに速い。

戦士「まったく……つくづく手強いな」

火球を男に向かって戦士飛ばす。が、速すぎて捉えることができない。

?「まずは一人目ええぇ!」

リザードマン「くっ!」

一番近くにいたリザードマンが僧侶を庇おうとしたが、赤いローブのもう一人が道を阻む。




僧侶(ここまでか……)

すでに魔法使いの魔法陣もその効果を切らしている。身を守る術はない。

?「しねえええええええぇっ!!!!」


男「オレのこと忘れてんじゃねえよ、バーカ!」


僧侶「お前……!」

男の手が僧侶にかかる間一髪のところで、男と僧侶の間に勇者は割って入っていた。男の手首を勇者の手が掴んでいた。
男の驚愕に見開かれる。勇者はせいぜい格好がつくように唇のはしを吊り上げてみせた。

?「馬鹿な……あれほどのダメージを負っていたのにどこにこんな力が……」

男「さんざんカッコ悪いところしか披露してないからな。そろそろイイところ、見せてやるよ……戦士!」

戦士「アイサー!」

勇者の合図より前にすでに放たれていた火の玉が男を襲う。


?「……やってくれる!」

男が勇者の腹を蹴り上げる。吹っ飛び、男の手首を掴んでいた勇者の手も離れる。
だが、勇者によってわずかでも身動きを封じられたのが祟った。全ての火球をかわすことはできず、男に何発か直撃した。

?「ぐおっ……」

男「ざまあみろ……」

?「チッ……なかなかどうしてやるではないか。
  いいだろう、今回のとこは引こうではないか。勇者の亡霊よ、次こそ決着をつけよう」

不意に男たちの周りを魔法陣が覆う。やがて景色がゆらめくと男たちは蜃気楼のように消え失せてしまった。

魔法使い「……あの魔法陣」

男「……結局名乗ってねーじゃねえかよ」


……………………………………………………


男「いやあ……なんとか助かったな」

僧侶「かろうじて、な」

戦士「いや、本当に全員無事なのが信じられないよ」

魔法使い「疲労困憊……」

リザードマン「……しかし、諸君やはパーティを組んで長いのか?」

戦士「え? いや、全然そんなことないよ。今日でようやく三日目の即席チームだからね」

リザードマン「そうなのか……いや、実に息のあった戦い方だったのでね。てっきりそこそこ長い期間の付き合いがあるのかと思ったんだ」

戦士「だったら僧侶ちゃんのアレにびっくりしたりしなかったよ」

僧侶「アレ? なんのことだ?」


戦士「キミのダブルパンチだよ、地面に向けてやったヤツね」

僧侶「ああ、あの『ほのおのパンチ』と『かみなりのパンチ』のことか。私が使える数少ない魔法技だ」

戦士「なにそのダサいネーミングは?」

僧侶「ダサい、か? あっ……」

男「……ど、どうしたんだ、僧侶? なんか涙目になってないか?」

僧侶「……安心したんだよ」

戦士「なるほどね」

男「どういうことだ?」

僧侶「あと少しのとこで死ぬかもしれなかった。けど、なんとか助かってホッとしたんだ……ジロジロ見るな」

戦士「そうだよ、勇者くんはデリカシーってもんがないんだから困っちゃうよ」



男「まっ、なにはともあれ生きている、それでいいんじゃないか?」

戦士「一番ボコボコにされたキミがなぜか一番清々しい顔してるのが気になるなあ。もしかして、そういう趣味があるのかい?
   そういえば昨日も何度も返り討ちにされてもボクと僧侶ちゃんに食らいついて来たけど、あれも……」

男「ちげえよ。ただ、ちょっと嬉しかったんだよ」

僧侶「なにが?」

男「いや、意外とオレたちっていいパーティなんじゃないかなって思って……」

戦士「……たかが結成から三日しかたっていないパーティなのに、なにを言ってるんだか……まあ、でもたしかに三日目のパーティにしてはよくやってるかもね」

男「だろ?」

僧侶「そうかもな」

魔法使い「……うん」




リザードマン「それにしてもあいつらは何者だったんだろうな」

僧侶「みんなは気づいたか? ヤツらのローブに刺繍されていた紋章」

戦士「ああ、あれね。例の国だね」

男「例の国?」

戦士「うちの隣の隣の国でちょくちょく小競り合いしてるとこだよ。あの連中のローブにその国の紋章があった」

リザードマン「ではヤツらは最強巷でうわさになっている、外界からの侵入者?」

魔法使い「決めつけるのは早計」

戦士「そーなんだよねー。彼らが最後に使った移動用の魔法、アレさあ」

男「なんだよ、そんな渋そうな顔して」

戦士「アレ、うちの国で主に使われている魔法陣なんだよねえ」


………………………………………………………………

………………………………………………………………


遣い「我が主は公務で帰ってくるまでにまだ時間がかかりますゆえ、こちらでごゆるりとおやすみください」

僧侶「さすがは魔界の帝国貴族の屋敷ともなると、ここまで立派な建物になるわけか」

戦士「このボクでもびっくりするぐらいの屋敷だね、これは。ていうか屋敷の遣いは普通に人だったね」


男(オレたちはなんとか地下水路を脱出し、魔界の帝都であり、同時に魔物地区とも呼ばれる街にたどり着くことに成功した。
  リザードマンとは別れ、情報屋の少女にまえもって言われていたある貴族の屋敷を訪れていた。

  あの少女が何者かはわからないが、帝国貴族の魔物とまで繋がりがあるらしく、オレたちはあっさりと屋敷に案内されてしまった。
  しかし、この館の主人は現在出払っており、オレたちはこうして広い部屋でカラダを休めることにした)


男「しっかし、暇だな。なんかやることないか?」

戦士「なにを言ってるんだよ、勇者くん。あれだけボコボコにされておいてカラダを休めなくてどうするんだ」

男「正直、もう疲れは取れたし、カラダの痛みもそんなに気にならなくなってきたぞ」

戦士「……本気で言っているの?」

男「おう……って、僧侶はなにやってるんだ?」


僧侶「いや、こんな立派な本棚があるからどんな本があるのかなって思って。魔界と私たちの言語は同じだから読もうと思えば読めるからな」

男「そう言えば僧侶は一日目のときもこっちの図書館で、本を読んでたんだよな?」

僧侶「本を読むのが好きなだけだ。あ、これって……」

男「魔法使いは本読まないのか?」

魔法使い「……読まないこともない。ただ読むなら一人で読みたい」

戦士「ボクもけっこう読書家だよ?」

男「そういやお前も頭いいんだよな。オレは本って読んだことあるのかな……復活してからはちょっと目を通すぐらいだけど」

僧侶「なあ、この本って……」

男「どうした?」


僧侶「これは……この国の王、つまり魔王と私たちの国の女王の話、なのか?」

戦士「なになに……げっ!」

魔法使い「……」

男「手記みたいだけど、内容は………なんだこれ、魔王とのことについて書かれてるな。書いているのはもしかしてこの国の姫とか……そんなわけないか」

僧侶「いや……これは、そんなことあるかもしれないぞ」

男「おいおい、なに言ってんだよ。姫と魔王の手記って……いや、でも昔の姫様とかって魔王にさらわれる、みたいな話は聞いたことあるな。
  でもそれがどうかしたのか、さらわれた姫の日記みたいなもんだろ? なんの問題もないんじゃ……」

僧侶「ただの姫なら問題ないが、この姫は……」

男「この姫は?」

僧侶「かつて私たちの国に最悪の災厄をもたらしたきっかけ、あるいは災厄そのものと言われている女王だ」

今日はここまで

なんかダラダラしていて申し訳ない

あと戦闘シーンとかもわかりづらかったら申し訳ない

感想ありがとうございます
自分でも驚くほど見返してみると誤字脱字だらけでした
すみません、アドバイスありがとうございます

再開します


男「災厄をもたらした女王?」

僧侶「そうだ、この女王が提案したあるプログラムが災厄をもたらしたと言われている」

魔法使い「……私も聞いたことがある」

男「いったいどんなことが起きたって言うんだよ、この手記を書いた女王様によって」

僧侶「具体的にこの女王がどんなプログラムを提言したのかなどは、実のところ完全には判明していない
   だが、一つ確かなのは魔物の研究に携わり、さらに新しい魔物の開発をしようとしていたらしい」

男「新しい魔物……?」

戦士「当時の資料は、ほとんど一般人が目を通すことはできなくなっている。いわゆる隠蔽ってヤツだね。
   女王が提案したプログラムの目的は今なお、判明していないしね。この女王様がいったいなにを考えて、そんなことをしたのかはわからない」

僧侶「魔法教育なんかは女王の政策の一つだが、結局これは魔女狩り事件を生んだだけで……あ、いや、すまない」

魔法使い「べつに、私はきにしていない」

男「姫様と魔王って何気に変わった組み合わせだけど、いったいどんなことしてたんだろうな。なになに……」


…………………………………………………………

魔王に誘拐されてから何日間かの日付が経過した。
だからと言って特別やることがあるわけでない。なにせ私は囚われの姫ということになっているからだ。

魔王は暇なときは私が軟禁されている部屋に来る。しかし、魔王は沈黙が得意じゃないみたい。部屋に静かな沈黙が流れると、

『なにか話せ、気まずいだろうが』

と、なにかと私に話すように催促してくる。しかし、私だって正直なことを言うと話すのは得意じゃない。
そういう時は部屋に置かれたピアノを彼の前で弾いてみた。適当に講師から教わったメロディを奏でるだけなのだけど。
でも魔王は意外と気持ちのいい反応をくれる。もっと聞かせろと。

だから、私は囚われの身のくせにこんな要求をした。

『私のピアノを聞かせてあげるから外の世界を見せてちょうだい。前にも言ったわよね、私は外の世界を知らなきゃいけないって』

『なんだと……この魔王に向かってそんな要求を……』

『あなたのその「この魔王」ってフレーズは私の前では使わなくていいわよ。と言うかそのフレーズなんだか滑稽よ』

そんな風にからかうと彼は言い返してくることもなく、むしろ肩を落とした。意外な反応に私はどうしていいかわからなくなる。
城の中では私と口論する人なんていないし、こんな風に対等に話すことなんてしないから。


『こんなことでしょんぼりしないの!』

せいぜい私が言えるのはこのぐらい。私は馬鹿だった。でもそれ以上に無知だった。

『たしかにあの時はそういう約束はしたが……周りにはなんと言えばいい?』

『あっ……そうね、たしかに。でも、バレなければいいんじゃない?』

『そうか、たしかにな。側近に相談してみるか』



………………

そんなわけで私は魔王に連れられて外の世界を知った。外の世界、とは言っても魔物たちが住む村とかなのだけど。
でも、私自身は誰かに説明できるほど自分の国や街がどうなっているのか知らなかった。
明らかに人の住む環境と魔物の住む環境は違う、それはわかっている。けれど普通の人であればもっとその明確な差異に色々思うところがあるのだろうけど。
私にはそれがよくわからない。そんな自分があまりにもどかしかった。


『魔物の世界はお前のような人間から見てどうなんだ?』


だからそんな質問をする魔王が私に意地悪をしてきたみたいに感じられて、この時の私は少しだけ苛立ちを覚えた。


『よくわからないわ。本当に、なんでかしらね。憧れていた外の世界なのに、なんだか変な気分』

『……自分の国の外の世界を見たことがないから、か』

『そうか、オレも初めて自分の世界を見たときは似たような気分だったかも。もう忘れたけど』

いったいなぜ急に彼がそんなことを言ったのかわからかった。でも少し考えてからわかった。
彼は私が抱いたもやもやとした感情を察してそんなことを言ってくれたのだ。


心の機微。


私はこの歳で初めてそういう本からでは決して学べないものを、魔物であり魔王である彼から教わったのだ。

『オレは馬鹿だからな。いつも周囲に頼ってきた、今だってそうだ。でも馬鹿なりに色々学んだよ。
 少なくとも無知であってはならないと思ったしな、魔物たちのてっぺんに立つ以上は』


魔王が自分に言い聞かせるようにそう言った。このとき私は馬鹿と無知がまったくの別物だということを知った。


……………


私はここでの生活で成長しているのだろうか。それははっきりしないけど、色々と変わってきているのは自覚できる。

ある日、魔王の側近がいつものように私の退屈しのぎのための本とニュースペーパーを持ってきてくれた。
ただしニュースペーパーについては時代はまちまちだった。
いつものことで、様々な時代のものを見ることは、今後の私の人生にもなにか役に立つかもしれない。

そう思って私は完全に読むわけではないけど、いつものように目を通していく。
そこである一つの記事が目に付いた。
いつごろの記事だったのかは見ていないけど、そこそこ古いものであることは確かだ。

教会神父が逮捕された事件のようだが、その内容と見出しは実にセンセーショナルだった。
この神父の教会の地下には五体バラバラの人間の死体が冷凍保存されていたらしい。
しかも、人間だけでなく魔物の死体までも。
さらに驚きなのはこの教会はかつての勇者と魔王が争い息絶えた、いわゆる名所らしかった。


しかし、内容は明らかに隠蔽されていた。私は側近の人に頼んで、その神父の資料を集めてもらうことにした。


そうして私が辿り着いた真実は、あまりにも恐ろしいものだった。この神父は勇者と魔王を同時に篭絡し、見事に同時に殺してしまった。あまりにも鮮やか過ぎる犯行。

だが、これがきっかけであるインスピレーションが私の中で浮かんできた。


勇者と魔王の歴史に終止符を打つ手段、それがゆっくりと淡い霧となって浮かび上がってくる。
同時に、これを明確な形にしていくことができれば、あるいは歴史は変えられるかもしれない。


……………………………


戦士「いったんここまでにしなかい?」

男「なんでだよ、これからすげー気になる内容に入ろうってところだろ」

戦士「いや、まあさ。ほら……」

遣い「お取り込み中のところ申し訳ございません。実は一つお伝えしておかねばならないことがありまして。
   実は主様なのですが、公務が想像以上に長引いてしまい、皆様にはもう少し待ってもらわねばなりません」

僧侶「……いや、私たちは無理して押しかけているんだ。そちらの都合にあわせよう」

男「そうだな。でも仕事が長引くってなにかあったのか?」

遣い「申し訳ございませんが、私ではわかりかねます。主様が帰ってき次第本人の口から聞いてください」

戦士「まあ仕方がないね。相手は魔界の名門貴族。多忙の身だろうし、今は待つしかない」

遣い「それで、皆様にはお食事を用意しています。よろしかったら召し上がりください」

男「それじゃあ、せっかくだしいただこうぜ」


……………………………


男(食事を終えたオレたちは僧侶の提案で、魔界帝都へ繰り出すことにした。なんでも僧侶はこの街がどうなっているか、どうしても見たいらしかった。
  そうして、オレと魔法使い、僧侶は街に繰り出しちょっとした観光を楽しむことにした。
  戦士は疲れたから、ということで屋敷で寝ている)

男「……」

僧侶「さっきからお前、挙動不審じゃないか。もし、私たちが魔界の人間であることを気にしているなら大丈夫だ。
   少なくとも現時点ではこの国の兵士たちが警戒しているのは、私たちではない」

男「それはわかってんだけど、なんかやっぱり緊張するだろ」

僧侶「肝っ玉が小さいな。それに念には念を入れて、こちらの国の装いも借りてきたんだ」

魔法使い「そうよ、勇者くん。あなたはいささか以上に警戒しすぎているわ。
     せっかくこうして三人でお酒を飲んでいるんだから……ふふっ、このときを楽しむべきよ」

僧侶「……しかし、酒を飲むと本当に豹変するんだな」

魔法使い「べつに、豹変しているわけではないわ。素面のときの私も私だし。
     ただ、アルコールのおかげでいつもより少しフレンドリーになっているだけ」

男(プチ観光を済ませたオレたちは、魔法使いの提案で静かなバーに飲みにきていた。
  僧侶は魔法使いの変貌振りに戸惑っている)














僧侶「しかし、さすがに国の中心ということだけあって立派な建物が多いな」

魔法使い「インフラ設備なんかもけっこう充実していたし、なにより街の景観は素敵ね。
     普段はあまりそういう感想をもたないのだけど。道路とかもきっちり舗装されていて、歩きやすかったわ」

男「背の高い建物が多いから、なんかずっと上見てて疲れたな。あと初めて見る魔物もたくさんいたな。
  オレが忘れているだけなのかもしれないけど」

魔法使い「あながた知らないの魔物がいるのも無理ないわ。魔物はその種類をどんどん増やしていってるわ」

男「あと、この街で私たちが見た魔物はほぼ人型しかいなかったな。中には人そのものもいたけど、たぶんの貴族の連中に仕えてるヤツらなんだろうな」

僧侶「そういえば、一つ気になったことがあったな」

男「なんだよ?」

僧侶「道具屋を見ただろ? そのときに私たちの国ではずいぶん前に禁止されていた薬草とかが売っていた。
   それが少し気になった」



男「え? オレたちの国って回復魔法とかだけじゃなくて、薬草とかの販売も禁止されているのか?」

僧侶「そうか、お前が生きていた時代は道具屋とかに平気で薬草やら回復アイテムやらが売っていたのか」

男「そのはずだ。回復アイテムとかなかったら、傷を負ったときに魔法以外での対処ができなくなるし」

魔法使い「あなたが生きていた時代には、おそらく医者とかもほとんどいなかったんじゃないかしら?
     当時は傷の手当てとかを生業にしている僧侶とか魔法使いもいたらしいし」

男「医者か。そうだな、おそらく医者なんていたとしても、診てもらっている人なんていなかったんじゃないか?
  ていうか、じゃあ今は医者が傷の手当てとかするのか?」

僧侶「当たり前だ。医者がそういうことをするのは当然だからな。
   そもそも昔から医者はきちんと仕事はしていたよ、今より人口は少なかっただろうが」

魔法使い「おそらく勇者くんには感覚的にわからないことなのよ。
     以前にも勇者くんには回復魔法が禁止されている理由は話したわよね?」

男「あーたしか、回復魔法が人のカラダに実はあまりよくない、みたいな話だったよな?」

魔法使い「さらに言えばもっとも回復魔法を浴びているだろう勇者一行の寿命が皆、短いのもそれのせいじゃないか。
     そんなことも話したわよね?」


男「ああ。でもそれって本当かどうかはまだ判明していなんだろ?」

魔法使い「ええ。まだ研究段階ではっきりと回復魔法が原因だとはわかっていないから。
     そもそも回復系の魔法が禁止された理由は魔女狩りなどが主な原因だしね。
     ただ、勇者一行の寿命の考察について、実はもう一つ面白い説があるの」

僧侶「当時の回復系アイテムによる遅発性の副作用、それが英雄たちの短命の理由なんじゃないかっていう説だ」

男「遅発性の副作用? 回復アイテムにそんな効果があったのか?」

魔法使い「実は色々と副作用があったのは本当よ。しかし遅発性の副作用により死を迎える、と言うと疑問ね。
     どちらかと言うとクスリの使いすぎが祟って死に至るって言った方が正しいから」

男「よくわかんねーな」

魔法使い「魔法と同じで、無理やり人体の回復スピードをあげてるから、どんどん身体に負担がかかってしまっているのよ」

僧侶「その場ではたしかに傷は治っていても、結局長い目で見たら、それは身体を痛めつけることになっているってことだな」

男「……なんとなくわかる、かな」


魔法使い「それに魔法にしろ回復アイテムにしろ、どちらも人間の身体にインヒビターを作ってしまうから。
     どんどん回復系統のものはその効力を強めていく必要があったのよ」

僧侶「そうなれば当然、回復魔法を浴びる側の後々の負担は大きくなっていくしな」

男「すまん、まったく意味がわからないんだが」

魔法使い「つまり、魔法やアイテムに対して抗体ができる……そうね、薬とかが身体に効きにくくなるのよ。
     そうなればより効果が出るように、魔法とかはより効果のあるものを選定しなきゃならない。もちろんアイテムもね」

男「なるほど。でもそれってすぐに勇者たち、気づくんじゃないのか?
  もっと早い段階で判明していてもおかしくなさそうなのに」

僧侶「それが気づけないんだよ」

男「なんで? 術を浴びるやつが一番に自覚できるだろ」

僧侶「だって、当時は魔王たちの住みかに近づけば近づくほど、魔物たちは強くなっていたんだ。
   そうなれば、どうだ? 前線で戦う者が負う傷も深いものになっていく」

魔法使い「そうして、傷を治すための回復魔法やアイテムは自然と強くなっていく。
     だから、そんなクスリとかの抗体に気づくことができないのよ。
     ふふっ、だって自然に効果の強いものを使わざるをえないんだから」

僧侶「当時は魔王の生息地に近いとこに人間の街があったりもした」


魔法使い「つまり、そんな危険地帯で扱われるクスリなんかは当然高価なクスリばかりで。
     おそらく、これは私の予想だけど店なんかに出されているのも、ほとんどそんなものばかりだったんじゃない?」

男「……な、なるほど」

僧侶「勇者たちが気づけないのは、ある種の必然だったってわけだ」

魔法使い「まあこのことが明るみになってからは国も、薬草や回復系のクスリを道具屋が販売するのを禁止した」

僧侶「と言うより、ほとんどのものが製造自体が禁止された。
   今は医療機関や医者からその手のクスリが処方されるようになっている」

男「なるほどなあ。つまり、医者は必要不可欠なわけか」

僧侶「それに、近年研究が盛んになっている毛梅雨病などの慢性的な病に対しては医者じゃなければ対応できないしな」

男「難しくてついていけない……」

魔法使い「ふふっ……」

いったんここまで!

本日二回目の再開


男「でも結局なんで、あの道具屋には普通に昔の薬草とか売ってたんだ?」

魔法使い「軍事技術に関しては発展が早いみたいだけど、おそらく医療に関してはそこまで進んでないのかもしれない」

男「なんでまた医術に関しては……」

魔法使い「魔物たちが私たちよりもはるかに丈夫で堅だからよ。
     しかも回復スピードが根本的にちがうもの、医療なんてものに頼る必要性が人間よりずっと低いんだわ」

男「オレもなかなかタフだから、医者いらずってことかな?」

僧侶「そうだな、バカに効くクスリはないっていうからな」

男「ずいぶん、あっさりとバカって言ってくれたな!  まあたしかにバカだけどさ」

僧侶「……でも私はお前みたいなバカは嫌いじゃない」

魔法使い「……ふうん」

僧侶「なんだ、魔法使い?」

魔法使い「なんにもよ」



男「オレもなにか本でも読むかなあ」

僧侶「なんだ、藪から棒に」

男「いや、あの姫様の手記を見てさ。やっぱり生きている以上はもっと色々知っておかなきゃなあ、と思って。
  ただでさえ、記憶をなくしてしまって、なんもわかんねーから余計にさ」

僧侶「そうだな、なんなら読みたい本を言ってくれたら私がピックアップしようか?」

男「そうだな、僧侶はたくさん本を読んでるんだもんな」

魔法使い「本と言えば、どうしてあの屋敷にうちの国の女王の手記があったのかしら?」

男「たしかに。言われてみると、なんであんなのが置いてあったんだろうな」

僧侶「……何か理由があるのだろう、私たちが考えても仕方のないことだ。
   それより、そろそろ戻らないか? もしかしたら屋敷の主と戻っているかもしれない」

魔法使い「その前に少し待ってくれないかしら?」

男「どうした?」

魔法使い「ふふっ……気持ち悪いから全部戻すわ」



…………………………………………


魔法使い「……」

僧侶「すっかりもとの無口に戻ったな。戻したぐらいでそんな簡単に酔いって覚めるものなのか?」

男「オレはそんな酔っ払うほど飲んだことがないからな、わからん。
  僧侶は酒を飲まないのか? 今日も一人だけど水をちびちびと飲んでたけど」

僧侶「飲まないんじゃない、飲めないんだ。 下戸なんだよ、アルコール分解酵素を身体が保持してないのか、一瞬で酔ってしまう」

魔法使い「……かわいそう」

僧侶「べつに、私は酒を自主的に飲みたいなんて思ったことないからな」

男「しっかし、本当に広い屋敷だな。こんなに広いと掃除が大変そうだな」

僧侶「……たしかにな」

遣い「おかえりなさいませ、皆様。主様はすでに帰られております」

男「すまない、もう帰ってきてたのか。もしかしてかなり待たせてるか?」

遣い「いえ、主様も今帰られたばかりですので。焦らずとも大丈夫です」



………………………………………………



戦士「ははは、そうなんですよー、もう本当にここまで大変でしたよー」

エルフ「あらあら、それは大変でしたわ。ここまで無事に来れて安心しましたわ」

少女「まあ、それもこれも全部私のおかげだけどねー」


男「…………」

僧侶「…………」

魔法使い「…………」


戦士「おっ、みんな帰っていたのかい?」

少女「お兄さんたち、無事にここまでたどり着けてよかったねー。
   安心したよ、なんでもよくわからない人たちに襲われたんでしょ?」

僧侶「……本来なら泊めてもらっている屋敷の主に挨拶するのが先なのだろうが、その前に言わせてくれないか」

少女「んー、どうしたのー?」

僧侶「なんでお前がここにいる?」




少女「ああ、そんなことかあ」

男「いや、けっこう気になることだと思うぜ。魔物地区のここに人間のお前がここにいるわけだし」

少女「お兄さんたちも人間じゃん。キミたちの言うことは、ごもっともだけど、べつにそんな深い理由があるわけじゃないからね」

僧侶「もしかして……」

少女「そう、私はこの屋敷でご奉仕さそてもらってるんだよ、遣いの一人としてね」

エルフ「その一方で学校にも通ってもらい、官僚になるための勉強もしてもらっているのよ。
    はじめまして、みなさん。この子から話は聞いているわ」

男「は、はじめまして……えっと、どうも……」

エルフ「そんなに硬くならないでいいわ。あなたたちは今はお客様だから」

男(はじめて見る魔物だ……)

エルフ「とりあえず席に座ってくださいな。落ち着いて話をしましょ」



エルフ「あなたたちが密使であり、城へ訪ねに来ることは陛下からも聞いていましたわ」

戦士「そうは言ってもせっかくボクらがはるばる来たのはいいけど、キミらの王様がいないからね」

男「そうだよ、今、魔王はどこに?」

エルフ「残念ながら不明です。そのため上層部は今、かなり混乱していますわ。わたくしも、ここ三日は屋敷に帰ることもできなかったの」

戦士「それはそれは……なんとも大変だったんだね」

僧侶「だとすると、私たちはどうすればいい? 魔王に謁見しないことには、帰るに帰れない」

男「うーん、困ったな。ていうか魔王がいないのは、実はオレたちが来たせいで身を隠した、なんてことはないか?」

エルフ「それはないわ。そもそもこれは前もってきちんと決められたことだったもの。
    ただ、イレギュラーなものがないわけじゃないけれど」

僧侶「私たち以外の侵入者か」

エルフ「そうよ。彼らの招待が不明であることも、今回の混乱に拍車をかけているわ」


少女「彼らに関しては私の情報網でも、正体が掴めていない。何者かわからないっていうのは、厄介だよ」

エルフ「そういうわけで今は城の出入りは禁止になっているわ。
    我らが王がいないなんてことを、一般市民に知られるわけにはいかないから、遣いであるあなたたちも城には入れられませんわ」

戦士「まあ当然と言えば、当然なのかもね」

男「でもじゃあ、いったいどうすればいいんだ?」

エルフ「王が戻られるまでは、ひたすら待ってもらうしかありませんわ」

少女「魔王様がいないなんてことになったら、国の混乱なんて生やしいことだけに終わらないだろうしね」

男「なにかあるのか?」

少女「基本的に私たちの国は、人間と魔物が共存してうまく生活してる。
   けれど、中には人間を嫌っている魔物もいるし、そういう人たちは魔王様に対しても不平不満をもっている」

僧侶「王がいなくなれば、そういう連中が活発になり出す可能性があるってことか」



少女「そうだね。過激派と呼ばれる人たちが動き出すかもしれないからね」

男「慎重な行動が求められているってわけだな」

戦士「でもそうなるよやることないよ、ボクたち。魔王が戻ってくるまで。それどころか、帰って来なかったら……」



「失礼いたします!」



エルフ「これはいったい……なにかあったのですか?」

僧侶「こいつらは……」

僧侶(先日の人間地区にいた兵士たち……か?)

兵士「伯爵閣下、突然の来訪失礼致します。実はある情報が我々の耳に入りまして……」


兵士「キサマら」

男「……オレたちのことを言ってるのか?」

兵士「03小隊隊長のことを知っているな?」

男「……なんのことだ?」

戦士「ボクらをここまで連れて来てくれた、リザードマンだよ」

男「ああ、あいつのことか! けっこう世話になったが、なにかあったのか?」

兵士「殺された」

男「は?」

兵士「地下水路で死体が発見された。容疑者はキサマら四人だ。この場で逮捕する」


今日はここまで

なかなか終わりが見えて来ないけどがんばっておわらせやす!

地道に再開



…………………………


僧侶「……まさか私が牢獄に入れられるなんて。
   宙ぶらりんな人生を歩んで来たとは思うし、人に胸を張れるほど立派な生き方をしていないとは思うが……。
   神よいったいなぜこのような試練を私に……」

戦士「いや、まあショックなのはわかったから元気出しなよ、僧侶ちゃん。ボクらは彼を殺してはいないだろ。
   むしろこの牢屋からどうやって脱出して、どのように誤解を解くかを考えないと。
   そしてなにより、わずかの間とは言えボクらに協力してくれたリザードマンのカタキをとらなきゃ」

僧侶「お前……意外とまともなことを言うな……」

戦士「意外とはひどいな。これでもボクは義理堅いんだよ、なあ、勇者くん?」

男「……」

戦士「勇者くん、どうしたんだい? キミまでまさか牢屋に入れられてしょげてるのかい?」

男「……ん、いや、その……リザードマンは死んだんだよな」

戦士「そうだよ。ボクらがこんなカビ臭い場所に突っ込まれてるのは、彼の死がボクらのせいにされてるからだろ」

男「……なあ。死ぬってなんだ?」

戦士「はあ? 死ぬは死ぬだろ。この世から消えるってことで、土に還るってことだよ。
   まさか死とかそういうものの記憶もないのかい?」



男「死ぬってことがどういうことかは、わかってる。でも実感ができないんだよ。この世にいないっていうことが、どういうことなのかがよくわからない」

魔法使い「…………」

僧侶「……勇者」

戦士「たぶんそれは考え続けてもわからないことだよ。目で見て、死を体験して初めてわかるものなんだよ」

戦士(記憶がないゆえの純粋さ、か。知識はあっても肝心のそれの体験の記憶がないから戸惑っちゃうんだろうなあ。
   そもそも勇者くんの場合はそんな記憶以前の問題なんだけど)

男「オレは本当になにも知らないんだな……やっぱりこんなんじゃダメだ。こんなんじゃダメなんだっ!」

僧侶「きゅ、急にどうした?」

男「自分でもよくわからない。けど、なんかこのままじゃダメだってことだけはわかったんだよ。
  オレはもっと色んなことを知らなきゃダメなんだ。こんなところで止まってる場合じゃない」

戦士「なにか思うところがあったんだろうね、勇者くん。だったらまず、ここから脱出しなきゃならない」



男「そうだな。とにかく、ここを出ることが先決だな」

僧侶「うん、勇者の言う通りだな。落ち込んでる場合じゃない」

魔法使い「…… どうするの?」

戦士「前向きになったはいいけど、今のところこの牢屋から出る手段はないんだよね」

男「どうもこの牢屋の鉄格子、ただの鉄格子じゃないみたいだな」

魔法使い「魔力と魔法による術式を組み込んで作られた特殊なもの。並大抵の威力では壊せない。
     地面にも壁にも、同じように魔力を感じる。おそらくこちらもなんらかの魔法による処理がされてる」

戦士「今のところ武器も取り上げられてるしなあ。僧侶ちゃん、これキミのパンチで壊せないの?」

僧侶「……言っておくが、私は馬鹿みたいに腕力があるわけじゃないからな。
   私専用のグローブを介して、魔力を増幅してあれだけの威力にしてるんだ」

戦士「まあ、その腕の細さであんな馬鹿力が出るのが不思議だったけど、そういうわけだったんだね」


男「でもこれ、普通に触ることはできるし……なんとかできないのか?」

戦士「どうも勇者くんはピンと来ていないようだね。ようはこういうことなんだよ……魔法使いちゃん、ちょっと頼む」

魔法使い「……」

男「手のひらサイズの火の玉を…………鉄格子に飛ばす、と。
  …………あ、鉄格子に当たる直前で消えた!」

戦士「見ての通りだよ。魔法や、強い衝撃に耐えられるようになってるんだ」

僧侶「こうなったら、無理やり魔力を増幅して私が……」

男「でもそれって負担になるから、グローブを普段は使ってるんだろ?」

僧侶「そうだが、今はイレギュラーな事態だ」

男「よせよ。これからも前みたいに戦うときが来るかもしれないし、オレたちはお前の拳に助けられて来た。
  今後も頼ることになるかもしれないしさ、とりあえず今は他の手段を考えよう」

僧侶「……わかった」



戦士「つくづく勇者くんは……」

男「ん? なんか言ったか?」

戦士「なんにもだよ、勇者くん。
   それより、とにかくみんなでアイディアを出しあおうよ、ここから脱出するためのさ」

魔法使い「脱出手段ならある」

男「ホントか!? いったいどんな手段があるんだ?」

魔法使い「…………」

戦士「わああぉっ!? なんでボクのローブを脱がすんだよ!? 
   ていうかそれ、一応オーダーメイドのそこそこいいヤツなんだよ……って、なんで地面に広げるんだい!?」

魔法使い「こうするため」

僧侶「これは……」

男「魔法陣が、戦士のローブに展開されてる……?」



魔法使い「魔法による施しを受けている地面には、魔法陣をきちんと展開できないできない可能性があった」

戦士「まあたしかにボクのローブは外側の生地は、魔法の軽減効果があるからね……」

男「ああ、だからわざわざ広げて内側に魔法陣を展したのか」

僧侶「これはいったいなんの魔法陣なんだ?」

魔法使い「簡易魔法空間を作る陣。魔法による空間転移が可能になる。
     兵士たちに連れていかれる直前に、あの部屋に簡易式の魔法陣を展開しておいた」

男「さすが! いやあ、なんだよ。それなら簡単に脱出できる!」

戦士「ところがそうは問屋が卸さないんでしょ? だったら最初からこのことを言ってるよ」

男「そうなのか?」

魔法使い「彼の言う通り。今回の魔法陣は問題がある。咄嗟に展開したものだから……」

男「だから?」

魔法使い「一人しか脱出することができない上に、一回しかおそらく使えない」



戦士「一人しか脱出できない、か」

僧侶「と、なるとここから脱出して、さらにもう一度この牢獄にまで戻ってきて鍵を開けられる人材じゃなきゃダメだな」

戦士「……ボクだね、その条件に間違いなくきっちり当てはまるのは」

男「戦士がこの中で一番強いしな」

戦士「そうだね、間違いなくこの中でならボクが一番適しているだろうね。だが、今回これについてはキミに託したい。勇者くん」

男「オレに?」

僧侶「どうして? 勇者はまだ記憶も戻っていない上に本来の力も……」

戦士「説明するのは面倒だし、行けばわかるよ」

僧侶「……わかっているのか、今の私たちの状況を。囚われの身なんだ、私たちは。
   この状況下ではなにが起きるか、あるいはなにをされるか……」

戦士「だからこそ、だと言う見方もあるんじゃないかな?」



戦士「勇者くんには悪いけど、この中で一番戦力としての重要性が低いのは勇者くんだ」

男「わかってるよ、そんなことぐらいな」

戦士「そしてボクらはこれからどうなるか、いや、どうされるかわからない身だ。
   この牢獄の中の戦力の確保こそが、真の安全なんじゃないか、とボクは思うよ。
   この三人がいれば多少の抵抗はできるだろう」

男「なるほど、たしかにそういう考え方もあるか」

戦士「それに、この中でキミが一番裏切らないだろうという確信もある」

男「裏切る、って……」

僧侶「この魔法陣でここを脱出して、そのまま私たちを置いて逃げるってこともできるだろ」

男「……わ、わかってるよ」

僧侶「本当にか?」

男「お、おう。ていうか実は今まさに魔法陣に入って脱出しようかなとか考えてたぐらいだ!」

戦士「さすが勇者くん。裏切ることを堂々と公開するなんてね」



戦士「まあ、冗談はこれぐらいにしておこうか。
   ボクらに残された時間はあとどれぐらいか、それがわからない以上急ぐにこしたことはない」

男「もう行ったほうがいいか?」

魔法使い「……うん」

男「……最後に確認なんだけど本当にオレでいいんだな?」

戦士「もちろん! ボクはキミを信じてるぜ!」

男「なんか軽いな、ノリが」

僧侶「戦士、お前がなにを考えているかはわからないが、なにか理由があるんだろう。勇者、頼んだぞ」

男「おう、まかせておけ」

魔法使い「……私たちを助けに来て」

男「言われなくても絶対に助けにいくよ……行ってくる!」

………………………………………………



僧侶「……魔法陣はまだ残っているけど、これはいずれ消えるんだな?」

魔法使い「こちらはきちんと私の術式と魔力をきっちり組み込んで作ったもの。だからまだ残っている。
     でもあっちのは、咄嗟に作ったものだから不完全……おそらく彼があちらに行く頃には、ほとんど魔法陣は消滅している」

戦士「まあ、彼は仮にも勇者なんだから。なんとかしてくれるよ。魔法使いだってそう思ってるんじゃない、なにも言わないけどさ」

僧侶「お前と魔法使いはもとから知り合いなのか?」

戦士「うん? 急にどうしたんだい、僧侶ちゃん。ボクと魔法使いちゃんが以前から知り合いだって?」

僧侶「いや、勘違いだったらすまない。ただ、なんとなくそう思っただけだ。
   魔界に来るときに、魔法陣へ入り込むときにも、思ったんだ。お前たちが目配せしていた気がしてな」

魔法使い「……」
   
戦士「隠すようなことではないし、ていうか、隠しているつもりもなかったけど。そうだよ、ボクらは以前にも仕事で同じになったことがあってね」

僧侶「なるほど、そういうことか。つまらないことを聞いたな」

戦士「べつに、言ってなかったボクらの方にも非はあるからね」




僧侶「あいつは大丈夫かな。ヘマをしなければいいが」

戦士「そうだね……まったく、もどかしいなあ。待つか祈るしかできないなんて……」

僧侶「だったらなぜ勇者に行かせたんだ?」

戦士「適任かな、と思ったんだけどなあ。ボクよりも彼の方が人間としては信頼できるだろ?
   それよりボクはキミがさっき言いかけた言葉のほうが気になるな」

僧侶「なんの話だ?」

戦士「言ったじゃん、記憶がないから勇者本来の力を出せない、みたいなことをさ。
   なんなんだい、勇者本来の力ってさ」

僧侶「咄嗟に口から出ただけだ。文献や資料に記載されている勇者は、なにかしら特有の力をもっていた。
   だから、あいつが勇者なら勇者の所以とも言える力がなにかあると思ったんだ……」

戦士「逆を言えば彼が勇者じゃなければ、彼は勇者特有の能力をもってないってことだよね」

僧侶「勇者じゃなかったら、だと。あの男が勇者じゃないわけがないだろ、仮にも王が復活を命じた存在なんだ」

戦士「……そうだね」


僧侶(なにかこいつには引っかかるものがあるが……今はそんなことを考えてる場合じゃないか)

戦士「それにしても、いざ待つ側になるとヒマだね。なにか面白い話でもない……ん?」

魔法使い「……」

僧侶「……!」

僧侶(見張りの兵士が来ただけか。見回りか?)

見張り「…………」

僧侶(一瞬だけ私たちのことを見たが……だんまりか。まあ、わざわざ私たちと口をきく必要性はないからな。
  当然と言えば当然だが、なんとかこいつを利用できないだろうか)

戦士「ねえねえ、兵士さーん。ボクたちいつまでここに閉じ込められてるのかなあ? ねえってばー」

見張り「…………」

戦士「もしかしてボクたち殺されたりしちゃうのかな……?」

見張り「……そうかもな」


戦士「聞いたかい、僧侶ちゃん! ボクたち殺されちゃうんだって! ああ、なんてことだ!
  義父上にも義母上にも別れの挨拶もできないまま死ぬなんて!」

戦士『僧侶ちゃん、てきとーにボクの演技に合わせて』

僧侶『……なにをどうやって合わせろと言うんだ』

戦士『いいから、なんかフインキで察して』

僧侶「……あ、ああ神よ! なぜこのような不幸をわ、私に……! これも試練なのですか……!?」

見張り「うるさいぞ、キサマら! 演劇ならよそでやれ!」

戦士「そんなことを言われても! これから自分の身に起きる不幸を考えたら! あぁ……」

僧侶『いったいこんなことをして、どうなるっていうんだ?』

戦士『まあ、見てなって。これからボクが魔力に頼らない魔法を見せてあげるよ』

僧侶『……?』

戦士『この見張りの魔物が、牢屋の鍵を開けてしまう魔法をね』

はい、今日はここまで!

じょじょに終わりに向かってますが……まだ先は長いかなあ。
なんとか十月中には終わらせたいです

ではまた明日書けたらまた明日

できれば場面転換の最中のできごとの種明かしを最後に頂きたいです

再開します

感想いつもありがとうございます
ハゲみになります

>>251いくつか場面転換部分ありますけどどこでしょうか??


戦士「ああ、魔法使いちゃん、ボクたちは死ぬしかないみたいだよ……」

魔法使い「……」

戦士「しかし、ボクにも……いや、ボクらにもプライドってものがある! 
   キミたち魔界の住人に殺されるぐらいなら……ここで自害してやるっ! 魔法使い!」

魔法使い「……わかった」

見張り「……なにをする気だ? おい待て……まさか本当に自害する気か!?」

僧侶「え? それって毒生成の魔法陣じゃ……」

魔法使い「……さよなら。死ぬ」

僧侶(右の手の甲に展開した魔法陣から生成した毒液を…………舐めたって……)

僧侶「な、な、な、なにをやって……! 本当に死ぬぞ!」

戦士「だーかーら、死ぬのが目的なんだからいいんだよ」


魔法使い「……っ」

僧侶(なっ……身体の色が急速に青白く変色し始めてる、だけじゃない……! 痙攣してる!)

僧侶「ボクも今、そっちに向かうよ、魔法使い。まさか毒を食らって死ぬことになるなんてね、このボクが」

僧侶「あっ……」

見張りの「貴様らっ……ふざけた真似を!」

僧侶(そうか、そういうことか。私たちはここではフォーリナーだ、そしてなにより犯罪者。
  取引材料にも使える、そんな私たちを死なせるわけにはいかない)
  
見張り「ここで貴様らに死なれたらっ……! オレの首がどうなると思ってんだ……!?」

僧侶(カギを開けた……!)

魔法使い「……どん、まい」

見張り「あっ……」


見張り「」

僧侶「一瞬で気を失ったみたいだが。いったいなにをした?」

魔法使い「これ」

僧侶(……さっきとは別の手の甲にまた魔法陣が浮かび上がってる)

魔法使い「一時的に催眠して眠りに落とす、対魔物用の魔法」

僧侶「対魔物用の魔法か、そういえば魔物を扱う魔法が得意だって言ってたな……ん、魔法使い」

魔法使い「なに?」

僧侶「ほんの数秒前まで毒にかかっていた気がするんだが?」

魔法使い「……」

戦士「まあまあ、とりあえず宣言通り出れたから、結果オーライでしょ?」


僧侶「宣言通りって……魔法使いが魔法を使ってる時点で宣言通りではないだろ」

戦士「ボク自身は使ってないから問題はないよ。
   それにしても、この見張りくんは、勇者くんがいないことに気づかなかったのかなあ?」

僧侶「たしかにな」

戦士「しかしまあ、こんな手によく引っかかったもんだよ。正直、こんなあっさりと引っかかるなんてね」

僧侶「たしかに、子ども騙しのようなやり方だったが……」

僧侶(あの瞬間、魔法使いが毒液を舐めたのは間違いがない。しかし、今は何事もなかったかのように、涼しい顔をしている。
   肉体活性の魔法は、現在は禁止されている……まさか、毒消しの類のアイテムをこちらで購入していたのか?
   いや、たとえそうだったとしても……)

戦士「ありがとね、魔法使いちゃん。キミのおかげで色々助かったよ」

魔法使い「礼には及ばない。それより上の方がなにか騒がしい気がする」

僧侶「なんだ、なにか起こっているのか?」

戦士「とりあえずここを出て、勇者くんと合流しよう」


………………………………………………………


男「のわああああぁぁっ!?」

男(二回目の魔法陣での移動だが……前回は空間がグニャグニャしててすげえ気持ち悪かったけど。
  今回は恐ろしい速度で、川に流されたような感覚だった。
  なんとか、屋敷には辿りついたみたいだな)

男「いててて、 魔法陣を作った場所がまさかあの姫の手記の表紙だったなんて……」

男(とりあえず、ここから脱出してそれから牢獄へ向かうか……)

男「…………」

男(なぜなんだろ。どうしてこんなにこ惹かれるんだろ。
  魔王にさらわれた姫。そして、そんな姫の魔王との日々を綴った手記。オレはなぜかこれを読まなきゃならない気がしてならない)

男「だけど、そんなことをしている場合じゃないしな……」



少女「そうだよ、お兄さん。お兄さんは早く仲間のところへ行かなきゃ」



男「……お前、いつの間に!?」


少女「私、わかってたんだ。魔法使いのお姉さんが、その手記に魔法陣を展開してったのをさ」

男「……」

少女「あれれ? 毎度同じみのリアクションはしてくれないの? なんだか寂しいなあ」

男「そこをどいてくれ。オレはみんなを助けに行かなきゃならないんだ」

少女「助けに、ねえ。お兄さんさ、私を自分の味方だとでも思ってるの? 
   ここから今すぐにでも飛び出して、誰か呼びに行っちゃったらお兄さんは、その時点でアウトだよ?」

男「だったらお前が逃げる前に、とっ捕まえてやる」

少女「お兄さんにそんなことができるのかなあ? 私には無理だと思うなあ。だって、お兄さんってばすごい甘いんだもん」

男(くそっ、こんなとこで話している場合じゃないのに。だが、どうすればいいんだ?
  下手な手を打てば、オレはまた牢屋にぶち込まれてしまう。武器も取り上げられたままだし)

少女「まあとりあえずさあ、落ち着きなよ。せっかくだからさ、お兄さんがさっきから気になってそうなことについて教えてあげる」

男「オレが気になっていること?」


少女「そう。私の予想だけどお兄さんは、その手記の姫様と魔王様のことが気になってるみたいだよね?
   ちがうかな? いや、ちがわないよね?」

男「気になるっちゃあ気になるが、今はそんなことを気にしてる場合じゃない」

少女「だからさ、落ち着きなって。お兄さんはひょっとして仲間のみんなが、すぐ助けに行かないと殺されると思ってるの?
   だったら大丈夫。殺すなんてことはまずないし。だいたい殺すなら、武器を取り上げた時点でやってるよ」

男「そ、そうなのか?」

少女「そうだよ」

男「だけど……」

少女「あーもう、しつこいなあ。仲間が大事なのはわかるけど。いいのかな? これ以上しつこいと、私、誰かを呼んじゃうよ?」

男「でも、話を聞いたそのあとは……」

少女「うーん、たぶんちょうどいい感じの時間帯になってるんじゃない?」

男「……よくわかんねーけど、信じるぞ」

少女「いいね、信じるって言葉。私はその言葉が大好きなんだ」


少女「災厄の女王、彼女がそう呼ばれたのは、彼女が女王となってから取り組んだプログラムにあった。
   『マジック?エデュケーション?プログラム』っていう魔法使いの育成のためのプログラム。そして、この育成した魔法使いを利用した、新しい魔物作りのプロジェクト。
   結局、これらが最終的にキミらの国を破綻寸前にまで追いやった」

男「魔法使いから、その話は聞いたな。でもなんで、姫様はそんなことを?」

少女「キミが気になってる手記のこのページに書いてある内容を見てほしい」

男「これは……」




……XXX年、魔王と勇者激しく争う。


……XXX年、新たな魔王と勇者、激闘する。両者の争いにより争いにより小さな集落が滅ぶ。


……XXX年、魔王と勇者この世に生を受け、村を舞台に闘う。死者数百人。


……XXX年、魔王と勇者また復活、街で死闘を繰り広げその地を破滅に追い込む。死者数千人。


……XXX年、何度目の復活か不明、勇者と魔王因縁の争いにより山を二つ消滅させる。


……XXX年、ひたすら続く争い、勇者と魔王、魔王が建設させた魔王城にて決闘。魔王城とともに魔王を、勇者が滅ぼす。





少女「これは彼女が文献から抜き出したと思われる、魔王と勇者の争いの記録なんだ。
   見ての通り、魔王と勇者の闘いは時代があとのものになればなるほど、その規模は大きくなっている」

男「……これがなんなんだよ? これがどうさっきの話と結びつくんだ?」

少女「魔王と勇者は歴史の中で、延々と終わらない争いを繰り返してる。そして被害もどんどん大きくなっている。
   このまま仮に勇者と魔王が、生死を繰り返して争い続けたら、その先に待っているのは世界の破滅。
   女王はそれに気づいた、だからこそ誤ちを犯してしまった」

男「でも、この記録の最後は魔王城の破滅だろ? 魔王城はさすがに街ぐらいの規模もないだろ? だったら被害の規模は小さくなったってことじゃ……」

少女「当時の魔王の城については記憶がないの? 魔王の城は様々な魔術の術式や魔法による結界が張られていて、恐ろしいまでに堅牢になっていたんだ。
   それが滅ぶっていうのが、どれほど凄まじいことか……城は魔王の住処という以上に、被害を最小限に留めるための装置という意味合いの方が大きかったんだ」

男「それじゃあ、まるで……」

男(魔王が世界を守るために、魔王城を造ったみたいじゃないか……いや、自分の手下を守るためか?)

少女「だから彼女は、考えたんだよ。世界は平和に導く手段を」

男「どうやって? 魔王と勇者の争いをしなくさせたのか?」


少女「いや、今でも大半はそうだけど人と魔物は相入れない。人間にとっては魔王や魔物は恐怖の対象だったし。大衆は勇者が魔王を滅ぼすことを望んでいた」

男「だから、姫様は王女になってその……魔法のプログラムをやったのか? でも、魔法使いを育てるのがいったい勇者魔王とどう関係あるんだ?
  魔物作りがどうとか言ってたけど、それと関係あるのか?」

少女「そうだよ。魔法使いを育て上げる目的の一つに、魔物を人間の下僕として扱えるようにするため、というものがあった。
   とは言ってもこれは表の理由なんだよね。まあこの政策だけでもかなりの非難があったみたいだね」

男「表の理由ってことは真の理由があるってことか?」



少女「うん。真の目的はべつに、いくつかあった。そしてそれこそが災厄につながったんだ。
   
   その目的は自分たちが操れる魔王と勇者を、人工的に造りあげること」



男「………………はあ?」

少女「いいね、なかなかそのリアクションはいいよ」

男「いやいや、意味がわからない。勇者と魔王を人工的に造る? なんのために?」


少女「そうだね、より突き詰めて言うと、魔王と勇者を単体の生物にしてしまおうとしたんだよ」

男「なんのために?」

少女「勇者と魔王。このある種の運命共同体とも言える二人を一緒にしてしまえば、少なくとも魔王と勇者が争うという構図はなくなる、そうでしょ?」

男「…………頭がついてきてくれないぞ。えーっと、そもそもなんでそんなことを……」

少女「ああ、重要なことを話してなかったね。
   彼女はね、勇者と魔王は世界のなんらかの力の働きによって生まれてくるという説に則って、このプロジェクトを推し進めたんだ」

男「世界が勇者と魔王を生む、か」

少女「科学とか歴史は確実に進歩してるのにね、なんでか未だに勇者及び魔王の生まれるメカニズムは、完全に判明していないんだよ」

男「なのに、そんなヤバイことをやろうとしたのか?」

少女「無謀と言えば無謀だよね。だからね、彼女は同時にいくつかべつのプロジェクトも立ち上げていたんだ」


男「べつのプロジェクト? まだほかにもあるのか? そういえば、魔女狩りの原因もそのプログラムだって魔法使いが言ってた気がするんだけど」

少女「それは…………っと、まさにこれから話がいいところに差し掛かってたんだけど。
   そろそろここを出られるタイミングかもね」

男「そうだ! 話に夢中になってたけど、みんなが……!」

少女「……お兄さん、牢獄への道は覚えてるの?」

男「たぶん、いや、絶対にたぶん大丈夫だ!」

少女「人を不安にさせてくれるセリフだね。仕方ないなあ、この子を貸してあげる」

男「なんだ、この手のひらサイズのドラゴンみたいな魔物は? ていうか、どっから出した?」

少女「細かいことは気にしないの。私のお友達で相棒。その子がお兄さんを牢獄まで連れて行ってくれるよ」

男「ホントか!? 助かる!」



少女「礼には……及ぶけど、ていうか、よく考えたら私って、お兄さんたちのお世話しっぱなしだよね。
   これはいずれ、なんらかの形でお礼をもらわなきゃなあ」

男「なんでも言ってくれよ、本当に色々と世話になってるしな。
  でも……なんで、オレたちにここまで手を貸してくれるんだ? オレたちはよそ者だし、キミになにかメリットがあるとは思えないし」

少女「未来への投資、とか言ってみたりして。残念だけど今は理由を説明してるヒマはない。
   あと数分で憲兵が消えるタイミングだしね。一時的に手薄になる、この瞬間がチャンスだよ」

男「あーじゃあ、これだけ答えてくれないか? なんでこんなにオレたちの国のことについて詳しいんだ? 」

少女「私は情報屋だからだよ」

男「答えになってないんだが。まあいいか、そろそろ行ったほうがいいな?」

少女「うん。頑張って生きるんだよ、お兄さん。そして他のお兄さんやお姉さんも助けてね。
   あと、これも持ってきなよ、中身が気になるんでしょ?」

男「姫様の手記……いいのか? これはキミの主のものなんじゃないのか?」

少女「そういうことは気にしなくていいから」


少女「あと、これは言おうか言わないか、迷ってたけどやっぱり言っておく」

男「うん?」

少女「キミたちがリザードマンを殺していないことはわかってる。そもそも証拠らしい証拠は、現場になかった。
   だけど、通報者がいたんだ、犯人を目撃したっていうね」

男「……どういうことだ? オレたちに罪をなすり付けたヤツがいるのか? いや、あの地下水路で戦ったヤツらか?」

少女「いいや、ちがう」

男「じゃあ、誰なんだよ?」










少女「通報者はキミの仲間の一人だ」


…………………………………………………


男「……ふうっ。なんとか屋敷の脱出には成功したか。あとはお前が道案内をしっかりしてくれれば、無事に着くな」


竜「お安い御用です」


男「しゃ、しゃべったああああああぁ!?」

竜「ちょっとちょっと、そんな騒ぎなさんな。なんで今さらこんなことで驚きなさるんですか?
  魔物が口をきく場面なんて、いくらでも見ているでしょう?」

男「見てるよ、ただ、人型以外の魔物が話すのは初めてだからさ。あとすごいちっこいし」

竜「魔物も日々変化し、成長しているのですよ。
  それにしてもあなたは面白く、なにより素直な方だ。実に話し手の気分をよくしてくれる聞き手です」

男「そうかな、っていうかそのことならお前のご主人にも言われたよ」

男(そういえば、オレってあの女の子に記憶がないってこと話したか? 勇者であるという自己紹介は、ドワーフのとこに行く前にしたけど……)


竜「勇者様、この通路は多少遠回りになりますが、あえてここを通ります」

男「なんで? オレは急いでるんだ」

竜「街の様子がなにかおかしい。より正確に言えばなにか騒々しい。間違いなくなにかあったのでしょう。
  憲兵もエルフ様の屋敷を抜けたのは、どうも理由があったようですし」

男「もしかして街をうろちょろしてる憲兵が増えてるのか?」

竜「ええ、おそらく」

男「なら、仕方ないか。お前の言う通りにしよう」

竜「懸命な判断です」


男「でもここがいくら人通り少ない通路だからって、まったく憲兵が来ないわけじゃないだろ?」

竜「もちろん。そう時間の経過を待たずとも、いずれはここにも操作の手は及ぶでしょうね」

男「しかも人が二人ぐらいしか通れなさそうな場所だしな、挟み撃ちされたらアウトだ」



?「挟み撃ちされなくてもアウトの可能性、あるかもね」



男「……急に背後に現れて、しかも後頭部に指鉄砲向けて……なんだ、新手の脅しか?」

?「脅しかあ、うーん、なんだろうね。たしかにうまい具合に背後に忍び寄ったんだから、そのまま黙って殺すべきだよなあ」

男(今回、声をあげなかったのは奇跡だ。くそっ、いつの間に背後にいた? 
  しかもこの暗闇のせいでわかりづらかったが、この男、赤いローブを着ている。昨日の連中か?)

男「オレになんの用だ?」


?「質問をするのはいいけど少しは自分で考えたら? 世の中、そんな親切な人間ばかりじゃないよ?」

男「アンタ、オレたちを襲った連中だよな? 地下水路で襲いかかってきた……死ぬかと思ったよ」

?「それはこちらもだね。あの尼僧の攻撃で本当に死ぬかと思ったよ。
  だいたいなんだ、あの格闘家顔負けの前線で盛んに戦うスタイルは? 私は昔ながらの僧侶がいいのに!」

男「……知らねーよ。でもあいつ、なかなか僧侶っぽいっていうか、女らしいところだらけだぜ。
  メシ作るのも上手だし、子供達への本の読み聞かせとか見てみろよ、惚れるよ」

?「それこそ知るか。どちらにしよう、あの女には殺されかけたからね。それ相応の報いを受けてもらわねば気がすまない」

男「で、結局オレはどうするんだよ?」

?「哀れな勇者であるキミにも、そうだね、死んでもらおうか、うん」

不意に首筋に強烈な殺気が突き刺さる。
自分の後頭部に向けられた人差し指、それからはっきりとした魔力の膨張を感じた。
反射的に、振り返りざまに蹴りを繰り出す。当たるとは思っていない。予想通りだった、あっさりと避けられる。

?「前回は勇者、お前と手合わせをするまでもなく、私がやられちゃったからね。楽しませてもらうよ」


赤いローブの男は人差し指をこちらに向ける。同時に、小さな光の粒子が集約していく。数瞬して、光の球が勇者めがけて放たれれる。
光の球は、前回やりあった男のそれとスピードはほとんど変わらなかった。間一髪、なんとかかわす。
が、光球が頬を横切った瞬間、感じ取った魔力の量は決して少なくない。喰らえば十分すぎるほどに危険だ。

なにより、今、自分は武器を持ってない上に装備もない。頼れるのは己が拳だけだ。
しかもこの通路が行動範囲を極端に狭めていた。明らかに分が悪い。

?「私も忙しいからねえ、さっさと終わりにしよう」

再び人差し指がこちらに向けられる。もはや躊躇っている場合ではなかった。
相手が攻撃する前にこちらから仕掛けるしかない。勇者は地面を蹴り、一気に敵との距離を詰めようとする。


?「残念だけど、だいぶ遅いなあ」


男の人差し指の先端で光が弾ける。だが、それは勇者に向けられたものではなかった。
光球は通路を形成する建物へと打ち込まれていた。衝撃と建物が破壊されるけたたましい音。
崩れた建物から発生した煙で、視界はあっという間にゼロになった。


男「くそっ……」

?「のんびりするなよ」


勇者が悪態をつき終わる頃には、煙を振り払い、あっさりと距離を詰めた敵が目の前にいた。


声をあげる暇すらなかった。腹に鉄球でもぶつけられたかのような、強烈な衝撃。蹴りか、或いは拳か。
敵の攻撃は勇者の腹をはっきりと捉えていた。あまりの衝撃に勇者は床に転がりうずくまることしかできない。

?「弱す……も感……ね…………しょせんお前は……か」

上から降ってくる男の声はひどく淡々としていた。腹の痛みが聴覚の働きを阻害しているのか、うまく聞き取れない。


?「終わり…………なに、安心……よ。死は唯一人間が平等に神から授…………ものだ。それゆえ………………ごの世界は心地………ずだよ」


顔をなんとか起こす。鈍い輝きが視界に入ってくる。
ナイフは残像が空間に滲むかのような緩慢さで、勇者の首筋へと運ばれていく。


男(やばい、このままじゃ……死ぬ。殺される。なんとかしないと……なんとか…………)


勇者の目にあの姫の手記が飛び込んでくる。手を伸ばせば、届く距離に手記が落ちていた。
おそらく吹っ飛ばされた衝撃で、ポケットから出てしまったのだろう。
不意に勇者は思いついた。可能性としては限りなく低いが、もはやこれ以外に自分が生き残る方法が浮かばなかった。


「 し   ね 」


その二文字だけは明確に聞こえた。勇者は最後の力を振り絞り、手を伸ばす。

災厄の女王が残した手記へと。


今日はここまで

なんとかテンポ良く進もうと話飛ばしててわかりづらいところも、あるかもしれません

軽く再開


伸ばした手は手記を掴んでいた。掴んだ手記にはまだ魔力の残滓が感じられた。
戦士と手合わせしたとき、彼が言っていた言葉を思い出す。


戦士『魔力が勇者くんにはないのかって? そんなわけないじゃん。多かれ少なかれ、魔力は誰もが保持しているものだよ。
   え?じゃあなんで自分には魔法が使えないのかって? そりゃあ使い方がよくわかっていないからだよ。まあ、けっこう魔法って才能とセンスに拠るところが大きいからね。
   でも、自分が触れてるものに魔力を流すぐらいなら、できるんじゃない? どうやるのかって?』


わずか一秒か、否、それ以下の時間。刹那を永遠に引き伸ばすかのような集中力。頭にイメージを一瞬で浮かべる。
魔法使いによって手記に展開された魔方陣。それに勇者は自身の魔力を流し込む。想像の中で魔方陣に力を注いでいく。


?「なっ――」


手にした手記から力の波動が蘇るのがわかった。まばゆい光が弾ける。勇者はその強すぎる光に目を閉じた。
やがて、まぶたの裏を包む光は消え失せ、闇と静寂に取って代わった。


……………………………


男「……はあぁつ!」

男(ここは……あの、牢獄だな。手記に無理やり魔力を流し込んで、魔方陣を展開させたけど、どうやら成功したみたいだな)

男「あ、イテテ。しかし、さっきもそうだったけどこの魔方陣、勢いが強すぎるだろ……ってみんながいない!」


男(この魔物は、オレたちを捕まえた憲兵と同じ格好をしているってことは、見張りかなにかか?
  だがなぜか気絶しているみたいだ。みんなもいないし……カギが開いている。
  もしかしてみんなここをどうにかして脱出したのか……)

  
男「いや、でも結果的によかったな。
  もしこれでみんながここにたら、オレがなんのために脱出したのかって話になるからな」

男(とにかくここから、脱出して……いや、できるなら、脱出前にみんなと合流しよう)



……………………………


僧侶「なんとか勇者の剣も含め、すべての武器の回収には成功したが、まったく懸念していない方面の事態になったな」

魔法使い「……うん」

僧侶「まさか、見張りとの戦闘中に戦士とはぐれることになるなんて。
   なんとか合流しないと。ただでさえ、勇者と別合同しているというのに」

魔法使い「……」

僧侶(まったく、戦士め。だいたいあんな雑魚相手に、煙幕を張る小細工をした意味がわからない。
   結果から見れば私たちパーティがはぐれただけだしな)

魔法使い「どうする?」

僧侶「なにがだ?」

魔法使い「……このまま私たちのみで脱出するか。もしくは、ここに残って戦士を探すか。
     あるいはここを出て勇者と合流するという選択肢もある」



僧侶(どうするのが正解だ? 実のところ戦力としてきちんとそろっているのは、今のところ私たちだ。
   戦士はまだ一人でも上手に立ち回れるかもしれない。だが、勇者はどうだ?)

魔法使い「勇者が心配?」

僧侶「……よくわかったな」

魔法使い「それぞれの実力のことを考えれば、わかる。それに表情に出てる」


僧侶(もう一つ気になるのは、武器を回収した際、戦士がいくつか魔法使いになにかを渡していたが……)


僧侶「もしここを脱出したとしても、外は見張りだらけだ。いや、それはここも同じだが。
   あの牢屋でおとなしくしている方が、ベターな選択肢だったのかもな」

魔法使い「あのときの私たちの行動はいささか軽率すぎたかもしれない」



?「そうだなあ。だから、この俺と戦うハメになる」



僧侶「赤いローブの……あのときの連中の一人か」


?「ふっ……あの勇者の亡霊と生意気な戦士はいないのか?」

僧侶「生憎な。いったいなぜこの牢獄にキサマがいる?」

?「話す義理はないなあ。昨日俺に傷を負わせた勇者と戦士なら、まだ軽口を叩く気にもなったが。
  いや、だが、キサマには俺の仲間がやられていたな」

僧侶「それはこちらも同じだ。私も危うくキサマに殺されかけた」

?「そうだったな。あと一歩というところで、あの勇者に邪魔をされた。
  だが、こちらは先にケンタウロスもやられているからな……そうだな、やはりお前たちは始末しておいたほうがいいだろう」
  
僧侶(戦いは避けることはできない。決して狭くはない通路だが、さすがに隙をついて逃げられるという広さではない。
   昨日の水路には及ばないが…どういう戦術をとるべきだ? 
   一対一では十中八九、勝てない。しかもまだ、私のコンディションは完全ではない)


魔法使い「先手必勝」


思考をめぐらす僧侶の背後から、魔法使いがつぶやく。
一筋の水が刃となって男に襲いかかる。さらに、水の刃を間髪入れずに魔法使いは次々と繰り出していく。


?「この程度で俺を止められると思うなっ!」

男が長剣で水の刃を容赦なく斬り捨てる。おそらく魔力を剣に流し込んでいるのだろう。
魔法使いに襲いかかろうとする男の前に、僧侶は立ちはだかる。
僧侶はグローブから衝撃波を放つ。地面を凄まじい勢いで這いずる衝撃を、しかし男は跳躍で避ける。


?「あまいっ!」


男の長剣が跳躍とともに振り落とされる。余裕を持って避けるが、男の剣が地面を穿った衝撃で足もとがふらついた。
そして、それを見逃す敵ではなかった。一瞬で距離を詰められる。避けられない――


?「……!?」


突如、地面から天井を突き刺すかのような勢いで、僧侶と男の間に水柱が湧き上がる。魔法使いの術だ。
すぐさま飛び退き距離を稼ぎつつ、衝撃波を続けざまに放つ。
魔法使いも僧侶に続くように、水弾で連続攻撃する。


いつしか地面は水で満たされていた。



?「どうした魔法使いよ!? 前回はもっと繊細な魔法を俺に見せてくれたではないか!?
  それがどうだ!? 俺は水遊びにでも付き合わされているのか!?」

魔法使い「……」


魔法使いは、男の言葉には構わず、水の波動を飛ばしていく。しかし、これを男はどれも神業的身のこなしで捌いていく。


?「つまらんなあ! そろそろこっちから仕掛けさせてもらうぞ!」


刺突の構え、男は猛牛のごときスピードで僧侶に迫ってくる。
不意に僧侶の身体を淡い光が包んだ。そしてそれは魔法使いも同様だった。


僧侶「悪いが、これで詰みだ」


いつの間にか僧侶の拳は雷をまとっている。
前回と同じように、自分たちには魔方陣を展開して守りの体勢は作ってある。

僧侶の拳がみなもを撃つ。雷の奔流が炸裂し、通路全体が鮮烈な光でいっぱいになる。


電撃による光が一瞬だけ、僧侶の視界を奪った。前回とはちがい、かなり距離を詰めさせた上で攻撃した。
成功していれば、それ相応のダメージを負っているはずだが……そこまで思考したところで、僧侶は目を見開いた。
部屋を満たしていた光が鳴りを潜め、代わりにに巨大な影が滲むように浮かび上がってくる。


僧侶「これは……」

?「芸がなさすぎるんじゃないか? 一回見れば見飽きる技だ。そして、たいていそんな技は簡単に攻略される」


僧侶の目の前には、巨大な犬の魔物がいた。その巨躯を覆う漆黒の毛は、怒り立つように逆立っていた。
おそらくこいつが自分の攻撃を受け止めたのだろう。いったいどのようにして、電撃を放電したのだろうか。
さらに足の付け根の部分と爪先部分には、鎧のようなものが装備されている。明らかに人工的な施しを受けていた。


魔法使い「ケルベロス……」


?「正解だ。近年の研究が生み出した優秀な魔物だ。
  せっかくだ、お互いフェアプレーと行こうじゃないか。お前ら二人のペアと俺とケルベロスのペア」

僧侶(動物から魔物を生成する技術、魔界では既にこのレベルの魔物を作り出せるのか)

魔法使い「……構えて。来る」


相変わらず魔法使いの声は淡々としていた。
が、その小さな声に焦りのようなものを感じたのは自分こそが、焦燥感に駆り立てられているからだろうか。
こめかみを伝う汗をぬぐう余裕すらなかった。僧侶は言われたとおり構える。


ケルベロスが咆哮する。それが戦いの火蓋を切る合図となった。



……………………………

とりあえずここまで

まったりと再開



男「見事に迷ったな、これは」

男(牢屋から脱出しようと、特になにか考えるわけでもなく、上に向かっててきとーに歩いていたら見事に迷ってしまった。
 不幸中の幸いなのは、今のところ見張りの連中に遭遇してないことだ)


男「っ……!? なんだ、今のでかい音は……?」


男(そうだ、仮に他の三人が見張りのヤツらと争っていたら……音がした方はあっちだ)

男「急がないと……!」


………………………………………………………



男(さっきから何度かでかい音がしてるが、おそらくそれはこっちから聞こえていた……)

男「あれは……まさか行き止まり!? いや……」

男(パッと見だと壁のように見えて、行き止まりかと思ったが、ちがう。扉のよう…………)


再び轟音がした。激しい揺れに転びそうになるのをなんとかこらえた。
またもや恐ろしいほどの衝撃が起こる。真上からだ。

男「なっ……!?」

ほとんど反射的に飛び退く。天井だった部分が瓦解して、なにか巨大なものが落ちてくる。
瓦礫により発生した煙のせいで、前が見えるようになるには時間が必要だった。


男「魔物!?」


巨大な犬ような魔物が瓦礫の下敷きとなっていた。
だが、それだけではなかった。瓦礫の隙間から淡い光が漏れていた。
次の瞬間、大量の破片が爆ぜる。

男「魔法使い……と僧侶!?」


瓦礫の中から現れたのは、魔法使いと彼女の腕に抱かれて気絶している僧侶だった。


男「な、なにがあったんだ!?」

満身創痍の二人に駆け寄ろうとしたときだった。
低い腹の底から響いてくるかのような咆哮がして、勇者は思わず足を止める。そして見た。

巨大な魔物が起き上がり、こちらを睨んでいるのを。犬のような魔物は傷だらけであちこちの皮膚がただれていた。
特に顎の部分はまるごと吹っ飛んでおり、剥き出しの歯は血に染まっていた。
しかし、異様に蘭々と光る目や荒い息遣いからはとてもそんなダメージを感じさせない。

ケルベロスが魔法使いたちの方へと身体を向ける。

男「魔法使い!」

魔法使い「なぜ来たの? ……あなたでは、ケルベロスには勝てない……」

男「ケルベロスって言うのか、あの魔物」

魔法使い「逃げたほうが、いい」

男「逃げるのはべつにいい。だけど、お前らをおいていくわけには……」


魔法使い「……どうする気?」

男「お前と僧侶の二人がかりでも勝てなかったんだよな?」

魔法使い「……うん」

男(どう戦えばいいんだ? いや、ちがう。どうやってこの二人を逃がすか、だ。僧侶は気絶してるし……)

僧侶「……おい、勇者」

男「僧侶! 意識が戻ったのか……立てるか?」

僧侶「なんとか、な……だが、さっきヤツとやりあったときに攻撃を食らってる。長くはもたない。
   それと、お前の武器だ」

男「オレの剣……お前、ずっと持っててくれたのか?」

僧侶「……話しているヒマはない。逃げるなり戦うなり、なにかしなければ私たちは、ただ死ぬだけだ」

男「……オレが最前をやる。二人はバックアップを頼む」



勇者は僧侶から渡された剣を構えた。握った柄から魔力を注ぐイメージを浮かべる。


僧侶「くるぞっ!」


ケルベロスが地を蹴り、高く飛び上がる。僧侶と魔法使いの背後をとられる。
魔法使いが火球を放ち、僧侶も衝撃波を拳から繰り出しケルベロスを牽制する。

だが、まるで効いていないのか、敵は構わず突っ込んでくる。
勇者は二人を守ろうと距離を詰めようとしたが、ケルベロスの速度はあまりに速い。追いつけない。
勇者は剣に魔力を注ぐイメージとともに、剣をケルベロスに向かって投げつける。

剣はケルベロスの目に吸い込まれていく。直撃、ケルベロスの咆哮が響き渡る。








男「いけるかっ!?」


仰け反るケルベロスのふところに飛び込む。目から剣を引き抜きとどめをさせば……という勇者の思惑は大きく外れる。
ケルベロスは痛みに暴れ出し、めちゃくちゃに巨大なかぎ爪のついた手を振り回す。

咄嗟に避けるも、巨大なかぎ爪は瓦礫の山を吹っ飛ばし、その破片は勇者に直撃する。


魔法使い「……!」


ケルベロスはさらにそのまま勇者へと向かって突っ込んでくる。
どうすることもできない、瓦礫の破片のせいで体勢を崩した勇者へとケルベロスの爪が振り落とされる。


僧侶「勇者……っ!」


僧侶がいつの間にかそばにいた。華奢な腕が勇者を突き飛ばす。そして……。


勇者「あっ……」


僧侶はケルベロスの爪に切り裂かれた。飛び散る赤い血がやけに遅く見えた。


だが、それだけでは終わらなかった。ケルベロスは大きく口を開いたと思うと低い唸り声をあげた。
本能が危険だと告げる。ピタリと魔物の声が止まる。次の瞬間、ケルベロスは巨大な炎弾を口からはいた。

強大な火の塊が迫ってくる。

不意に勇者の足もとから水柱が沸き起こる。その水柱は勇者を勢いよく吹っ飛ばした。

男「ぬあぁっ!?」

なんとか受け身をとったが、さすがにすべての威力を吸収するのは不可能だった。
それでもなんとか身体を起こし、勇者が構えようとして気づく。

炎弾は今まさに魔法使いに当たった。勇者を庇うために結果として、魔法使いは自身の身を守ることができなかった。
巨大な火の玉は魔法使いに直撃し、そのまま壁を破壊した。

男「あ、あああぁ…………」

二人は死んだのか? なにが起きてしまったのか、勇者の脳はすでに考えることを放棄しようとしていた。

ここまて

再  開


獰猛な魔物は次なる獲物を勇者へと定めたらしい。首を低くし跳躍の構えをとる。


男(オレは……オレはどうすればいい?)


間違いなく自分は死ぬという確信。
足は凍りついたように動かない。
剣の柄を握っている手が指先から急速に冷えていく。
身体の震えが止まらない。

魔物が吠える。

どうしたらいいのかがわからなかった。
本能で恐怖を感じることはできる。
だが、空っぽの記憶は虚空そのもので、この状況でどうするべきなのかまるで検討もつかない。

過去の自分……記憶があったときの自分ならどうしたのだろう。


男(そもそもオレは……)


勇者の思考はそこで途切れる。
襲ってくる衝撃と激痛。ケルベロスの爪に横から腹を切り裂かれたのだ。
血が噴き出る。大きく吹っ飛んで壁に衝突した。
様々な感覚が一度に身体を苛み、勇者は呻くことすらできなかった。


男(……死ぬのか、オレは)



勇者の感情は、嵐が過ぎ去ったあとの海のように穏やかだった。
なぜかはわからなかったが、勇者はここに来て自分という存在を突き放していた。
そもそも自分はとうの昔に死んだのだ。なにを今さら生にしがみつく必要がある?


男(ああ……でも……)


自分を庇ってくれた二人はまだ生きているのだろうか? 顔をあげる余力すらないため、確認はできなかった。
どうして、彼女たちは自分をかばってくれたのだろう。どうして勇者であるはずの自分が庇ってもらっているのだろうか。

このパーティを守らなければならなかったのは、他でもない自分のはずだ。

まだまだ短すぎる付き合いでしかない連中だが。

たしかにこれからも一緒にいたい、そう思えた仲間たちなのだ。

獣の息遣いがすぐそばでした。すでに目は機能していないのかもしれない。なにも見えない。
僧侶、魔法使い、戦士、ここに来てから会った人たちの顔が脳裏をよぎる。


男「ごめ、ん……み、んな…………」


獣の咆哮が聞こえる。自分が潰れる音がした。もっと生きたい、と思った。


どこまでも深い闇に飲み込まれていく気がした。


男(オレは死んだのか?)


死後の世界、だろうか。あたりを見回してみても、闇一面の景色が広がってるいるだけ。
しかし、なにかが聞こえる。規則正しくリズムを刻むそれは胸の内側にこびりつくように響く。


男(……なんだ?)


初めて味わう形容しがたい感覚。奇妙なそれに思わず勇者は訝る。
なにもない空間に、走馬灯のように凄まじい速度で景色が浮かんでは消えていく。それは勇者の脳に直接入って来るかのようでさえあった。


男(……なんだこの感覚……!?)


頭蓋骨に熱い液体を注がれたような感覚に、勇者はひたいを押さえる。
見たことのある光景もあったが、大半は見たことのないものばかりだった。
なぜかそれが過去の誰かの記憶であるということが、本能的にわかった。

規則正しく刻まれるリズム音が徐々に大きくなっていく。
同時に気づく。その音が自分の胸の内側からしていることに。


勇者が暗闇の中で最後に見たのは、魔王と姫が楽しそうに笑いあっている光景だった。



ケルベロスは勇者の背中を容赦無く潰した。間違いなくそこでこいつは死んだ。
真っ先に殺せと命じられていた勇者は殺した。あとはまだ虫の息ではあるが、かろうじて生き延びている二人の女。

残りの獲物を仕留めようと、死んだ勇者に背中を向ける。

突如背後でおぞましほどの魔力の奔流を感じて、ケルベロスは飛び退いた。全身の毛が逆立っていた。
体勢を素早く整え、背後へと向き直る。


魔物は見た、目に見えるほどの質量を持った魔力を身にまとった人間を。
それはさっき殺したはずの勇者だった。


黒い霧のような魔力は勇者の輪郭を縁取るように、虚空に滲んでいた。
ケルベロスの爪にやられたはずの身体の傷を縫合するかのように、魔力の霧が傷口に染みていく。
瞬く間に勇者の傷口が癒えていく。

男「……」

黒い霧のせいで勇者の表情は見えない。だが、明らかにさっきとは別人だ。
魔物は本能的に、ここでこいつを殺さないと危険だと判断し、その男に飛びかかる。
胴体めがけて、爪で横薙ぎにする。並の人間ならこれだけで死ぬ。

だが、そうはならなかった。



男の腕がケルベロスの爪を受け止めていた。ケルベロスの表情が驚愕のそれになる。
人間の腕力で、ケルベロスの攻撃を受け止められるわけがない。なのに、こいつはあっさりと受け止めた。

男の腕を霧が包み込む。すぐに霧が弾けるように消える。男の腕はまるで取り替えたかのようにべつのものになっていた。
オークの腕を思わすそれは、しかし、手は黒々と変色しており、異様に長い爪はケルベロスの足に食い込んで肉をえぐっていた。

なにが起きているのケルベロスには理解できなかった。

さらにあり得ないことが起きた。勇者の腕に掴まれた部分が、恐ろしいほどの膂力により肉ごとえぐり取られたのだ。

ケルベロスが激痛に悲鳴をあげる。咄嗟に距離をとる。目の前の男は化物そのものだった。
ケルベロスはすぐさま火炎球を放つ。直撃、炎の塊に勇者が飲み込まれる。

否、炎の球は勇者に当たってはいなかった。
猛禽類を思わす翼が勇者を包み込むように展開され、炎弾から身を守っていた。

男「……」

ケルベロスはここに来て完全に確信した。自分ではこの化物に勝つことなどできないと。逃げるしか、ないと。

だが、それは叶わなかった。



男「…………のが……さ、ない……」

初めて勇者だった化物が口を開いた。
ケルベロスが逃げようとあげた足を、なにかツタのようなものが掴んでいた。

それは勇者のところから伸びていた。

勇者のオークの腕とは反対側の腕。その腕は関節部分から指先にかけて、蔓植物のようなものに変化していた。
信じられないほどの力で、そのツタのようなものに引っ張られる。
ケルベロスは抵抗するものの、まるで意味がなかった
ツタに引きずられ、気づけば化物はすぐそばにいた。

足に絡みつていたツタが解かれる。ケルベロスが逃げるなら、この瞬間しかない。

だが、突然違和感が身体を突き抜けた。熱の塊に肉体を侵されたかのようだった。


男「……にが……さない……」


ケルベロスの口腔に勇者のツタが突き刺さっていた。


男(……オレは、なにを、してる……る?)

視界にツタのようなものが映る。それはケルベロスの身体を何度も突き刺しては抜き、また突き刺すという行為を続けていた。
とうにケルベロスは絶命していた。

魔法使い「……正気に、もどって…………」

男「あっ……」

魔法使い「あなたは……はぁ、勇者、なんだから……」

モヤがかかったかのような思考が鮮明になっていく。
勇者の身体を包んでいた、黒い霧が消えていく。腕も元どおりになったが、翼だけはそのままだった。
勇者は満身創痍の魔法使いに駆け寄る。

男「魔法使いっ……! よかった……よかった!」

魔法使い「……なんとか、咄嗟に魔方陣を展開できた……それより僧侶を……。
     まだ、助けられるかもしれない」

男「本当か!?」



……………………………………………………



男「僧侶、しっかりしろ! おいっ!」

魔法使い「……下手に、動かしては、ダメ。まだ、息はある」

男「オレが……オレのせいなんだ! お前も僧侶もこんな風になったのは……! 助かる方法があるならなんでもする……! たのむ!
  魔法使いっ! なにか、なにかないのか!? 僧侶を助ける手段は!?」

魔法使い「……手段なら、ある……はぁはぁ……」

男「お、おい、魔法使い……大丈夫なのか?」

魔法使い「早めに処置をしないと、私も危険かもしれない……けど、今は彼女が先」

男「わ、わかった。どうすればいい?」

魔法使い「この先は行き止まりのように、見える……けど、あれは別室へとつながっている。まずはそこへ」

男「わかった……」


男「たしかに扉のようには見えるが、これをどうすればいい?」

魔法使い「少し待って……」

男「ああ……」

魔法使い「……おそらく、こうすれば……」

男「扉が開いてく……よしっ、中に入るんだよな?」

魔法使い「……ここで、間違いない。ついてきて」


……………………………………


男「な、なんだこの部屋は……? 魔物が……」

魔法使い「数々の培養槽……そこに入れられた魔物たち。ここは、魔物開発の研究機関」

男「なんで、牢獄のあるところにこんな場所が……」

魔法使い「魔物実験の材料調達のため……」

男「それってどういう意味……いや、そんなことは今はどうでもいい! それよりどうやって僧侶を助けるんだ!?」

魔法使い「……私たちは……運が、いい。あれ」

男「あれは、なんだ?」

魔法使い「……説明はあと。とにかく、こっちへ」



魔法使い「この培養槽へ、僧侶を……」

男「このガラスの槽みたいなものに入れればいいんだな?」

魔法使い「……うん」

男「よし……できたぞ、魔法使い」

魔法使い「この培養槽の培養液は、術の効果を増幅させる効果がある。これで私の回復魔法の効力を底上げして、僧侶を治癒する……」

男「回復魔法って……使えるのか!?」

魔法使い「説明はあと……そして、彼女を助けるために一つおねがいしたい」

男「なんだ? なんでも言ってくれ!」

魔法使い「あなたの魔力を……私に託して」



男「魔力をお前に渡せばいいのか? でもどうやって?」

魔法使い「この杖を媒介にする。もはや私の魔力はほとんど残ってない。だから、あなたの魔力を私に流し込んで」

男「ああ、わかった。オレの魔力をお前に託す。頼んだ」

魔法使い「……まかせて」

魔法使い(……とは言っても私の使える回復魔法単体は、そこまでのものじゃない。
    文献とかを探しても、やはり上位のレベルの魔法になればなるほど、当時の資料などは見つからなくなっている。
    だからこの培養装置で無理やり、私の術を強化するしかない……これだけの傷、成功する確率は低い。でも、やるしかない)

魔法使い「……魔力を、送って」

男「……いくぞ」



魔法使い「……っ!」

魔法使い(送られてきた魔力をひたすら術に変換して、培養装置を経由して僧侶へ送る……)

男「……頼むぞ、魔法使い……っ!」

魔法使い(だけど、彼の魔力はやはりおかしい……送られてくる、魔力の半分も術に変換できない……)

魔法使い「……くっ」

魔法使い(媒介のための杖が、彼の魔力で壊れかけている……このままじゃあ……回復を続けられない)

男「オレは、最悪どうなってもいい……! 魔法使いっ! だから、僧侶を……」

魔法使い(……)

魔法使い「……どうして?」

男「え?」



魔法使い「どうしてそこまで、人のために必死になれる……?」

男「それは、僧侶がオレを助けてくれたから……いや、それだけじゃない。
  ただ、なにもわからないオレでも。僧侶や、お前や戦士が死んだら悲しい……それだけはわかる。
  だから、オレは必死になるんだと思う」

魔法使い「……!」

魔法使い(私たちが死んだら悲しい、か……)

魔法使い「送る魔力の量をあげて……」

男「おうっ!」

魔法使い( 術のレベルを技術ではなく、魔力で強引に引き上げる……集中して……集中!)

魔法使い「おねがい……!」


…………………………………………………………


男「…………杖が、壊れた……!」

魔法使い「……大丈夫。おそらく、回復魔法による治癒は成功した。傷口は完璧に治っている」

男「本当か……!? おい、僧侶! 今、こん中から出してやるからなっ!」

魔法使い(単純な自然回復とちがって、魔法による回復は傷を癒すだけじゃなく、他人の魔力の施しを受ける。
     ……血管に他人の血を流される、とまではいかなくても、それに近い種類の負担があると言われている。
    だからこそ、人体への後々の影響が危険な場合がある。今回は私と彼の二人の魔力を流したけど、はたして……)

男「僧侶! しっかりしろ、大丈夫か? 僧侶……!」

魔法使い「……大丈夫、みたい」

男「……あっ」

僧侶「……ん、うん……わた、しは? ……生きているのか?」


男「僧侶! やった……やったぞ! 魔法使い、成功したぞっ!」

魔法使い「うん」

僧侶「なっ、なんだ……なにが起きている? 私はたしかケルベロスの攻撃を受けて……って、傷がない……どうなってるんだ?」


男(オレたちは僧侶に、僧侶が回復するまでの経由を簡単に説明した。
 僧侶は目を白黒させて聞いていたが、やがて納得したのか、そうか、と一言だけこぼした。
 そして同じようにダメージを負っていた魔法使いも、槽の中で回復魔法を自分に使い、傷を癒した)


僧侶「なぜ、国で禁止されている回復魔法が使えるのかとか、気になることはほかにもあるが、まずはこれだけは言っておかないとな。
   本当にありがとう、二人のおかげでなんとか助かったよ」

魔法使い「礼ならお酒でしてくれればいい」

男「むしろ、オレがお前に例を言わなきゃならない。あの時おまえがオレを庇ってくれたから……」

僧侶「そうなのか?」

男「え? 覚えていないのか!?」


僧侶「いや、どうもそこらへんだけ記憶が曖昧だ……死にかけたせいかもしれない」

男「本当にオレのせいだ! すまなかった!」

僧侶「……んー」

男「オレにできることなら、なんでもする! 傷口が痛むっていうならおんぶでもする!」

僧侶「この歳でおんぶは勘弁してくれ……でも、まあそんなに謝る必要はないんじゃないか?」

男「……?」

僧侶「その時の私は死に物狂いでお前を助けたんだ。だったら……それは私がお前を本能的に助けたいと思った証拠だ」

男「どういうことだ?」

僧侶「……そういうことだ。それに、なにより二人のおかげで私は生きている。それで十分だ」


男「魔法使いも、本当にありがとう! また今度酒を飲みにいこう」

魔法使い「奢ってくれるなら……」

男「もちろん。いくらでも飲ましてやるよ」

僧侶「とりあえずここを出よう。見張りたちがきてもおかしくない頃合いだ」

魔法使い(どうする、か……このままここを出るか)

男「どうした、魔法使い? なにか気になることでもあるのか?」

魔法使い「……なにも。脱出する」


次の刹那、勇者の横を青い炎が勇者の頬をかすめた。

男「……!? なんだ!?」

勇者が振り返った先には二人の男がいた。

一人は赤いローブを身にまとい、ケルベロスを僧侶たちにけしかけた張本人。
そして、もう一人は。

男「……なんで、お前がそいつと……一緒にいるんだ?」



戦士「……なんでだろうね。勇者くん」



戦士は剣を鞘から抜き、それを勇者へと向けた。

戦士「キミは危険すぎる。それゆえに始末しなきゃならない。悪いけど、死んでもうよ」

今日はここまで

地の文ばっかになってすみません

再開
レス
あり
がと
うご
ざいはげみに
ますなります


魔法使い「まって……! 彼は……」

戦士「待たないよ。ボクは辛抱強い方じゃないし、どちらにしよう、これは王の命令に含まれていたことだ」

男「なに言ってんだ!? 戦士、お前はオレたちの仲間だろうが!」

?「話にならんな。俺も手を貸す。さっさとおわらせるぞ」

戦士「悪いけどボク一人にやらせてくれない? もとからキミたちはボクらのバックアップみたいなものだろ?
   お手伝いと余計な世話はまったくの別物だよ」

?「……勝手にしろ。俺はその間にここらの実験データを回収させて……」

戦士「だからさあ。余計なことはするなって言ってんだよ。すべてボクがやる、キミは黙って見てろよ」

?「ふっ、いいだろ。そこまで大口を叩くのなら見学させてもらおうか」


戦士「構えなよ、勇者くん」

男「……本気なのか?」

戦士「どうもキミはキミ自身の認識ができていないみたいだね。勇者様くん、自分の姿がどうなっているかわかっていないのかい?」

男「オレの姿?」

戦士「背中に意識を傾けてみなよ。わかるだろ、自分の背中に生えてるものが」

男「……え? な、なんだこれ……」

僧侶「私もずっと気になっていたんだが、その勇者の背中から生えている翼はなんなんだ?」

男「なんだよこれ!? オレの背中から生えてんのか!?」



?「ふっ、哀れだな。自分が何者かわからない、自分が異形の存在だというのに自覚がないとは」

男「どうなってるんだ!? なんなんだよこれは!?」

魔法使い「それは……」

戦士「勇者くん、戸惑ってるところに悪いけどそろそろやらせてもらうよ」

魔法使い(……やっぱり私の回復魔法は完璧には程遠い。表面上の身体の傷を取り除くことはできても、戦闘できるほどには回復していない……)

僧侶「なにを考えてるんだ、戦士!?」

戦士「さあね!」

戦士が仕掛けてくる。勇者が自身の身体の異変に戸惑っている隙に、素早いステップで距離を詰める。

戦士「ボクより遥かに弱いんだから集中しないと、死ぬよっ!」


男「ま、まてっ……」

戦士「何度も言わせんなよ、ボクは待てないんだよ」


気づけば戦士が勇者の懐に入り込んでいた。
未だに戦闘体勢を作れないでいる勇者のみぞおちを、剣の柄で容赦なく突く。


男「ぐっ……!」

戦士「ボクが本気だっていうのが伝わってないのかな? 仕方ないな、じゃあボクが本気でキミを殺す気だっていうのをわかってもらおうか」


腕を掴まれる。戦士は器用に剣の柄を持ち替えていた、剣の刃が勇者に吸い込まれる。


男「ちっ、くしょおおぉっ!」


剣の先端が勇者の服に触れる直前、渾身の力で勇者は戦士を蹴り飛ばした。素早く距離をとる。
しかし、それを戦士はなんなくガードしてやりすごす。それどころか青い炎がすでに勇者に目がけて放たれていた。


男(なんとかこの炎をなんとかしないと……!)


まだ魔力が身体に残っているというのは、感覚でわかった。
魔力を剣の刀身に込める。徐々にコツが掴めてきたのか、初回よりも時間をかけずにできた。

炎が迫ってくる。剣を横薙ぎにし炎を魔力で振り払う。だが炎の数が多すぎる。炎が肩や足を掠める。
咄嗟に横転してなんとか炎をやり過ごす。防戦一方だった。


戦士「手応えがなさすぎて不安になるよ、勇者くん?」


炎を相手に手間取っていたら、戦士がすぐそこまで迫っていた。
細身の剣で勇者の胴体に向かっての突きを繰り出してくる。
なんとか、剣の刀身で受けるも鋭すぎる突きは、手の感覚を奪うほどの痺れをもたらした。


男「……っ!」

戦士「どうしたの、勇者くん? いや、勇者。キミは勇者じゃないのかい? この程度でやられていいのかい?」

男「お前こそ……! なんで、どうして……」

戦士「ボクに質問されても困るね。ボクに質問したいのなら、ボクを力づくでねじ伏せろ!」


戦士が飛び退く。距離を置いたかと思うと、剣を中空に向けて突き立てる。
ここにきて勇者は魔力の強力な流れを感じた。戦士の剣に魔力が集中していくのがわかる。


戦士「そろそろ終わりにしようか」




男「やらせるか!」


魔力が別の物質へと転換されていく。火の玉だ。だが今度はサイズも数もさっきのものとは比較にならない。
無数の巨大な火の玉が、浮かび上がる。明らかに室温が上がっていた。
あれを発動されたらよけきれない。術が発動する前に術者を叩くしかない。


男(間に合うか!?)

戦士「遅いんだよ、キミは」


戦士の言った通りだった。勇者が戦士のもとへとたどり着く前に術はすでに発動していた。
巨大な火の玉が勇者に向かって降り注ぐ。

剣に魔力を込めようとするが間に合わない。超高熱の青い炎が迫る。


男(やばい……!)


胸の奥で低く響くかのような鼓動がした。身体の内側のどこかで水が湧くような、魔力が溢れてくるのがわかる。

炎が直撃する。視界が青く染まり、全身を灼熱が支配した。



………………………………………………


戦士「普通ならこれで死ぬんだけどな」

自分が扱える呪文の中でも、かなり高い魔力を要する魔法を使った。
青い炎が空間を埋め尽くし、景色を歪ませていた。


僧侶「勇者!」


僧侶の悲鳴のような叫び。それに答える声はなかった。
しかし、戦士は確信していた。彼が死んでいないことを。勇者はまだ生きていると。

不意に炎が切り裂かれたかのように割れた。
否、黒い霧のようなものが、突然蜃気楼のように現れ青い炎をぬりつぶしていく。
禍々しい魔力をはっきりと感じた。肌が泡立つのを自覚した。さっきまで相対していた勇者が、炎の中から姿を表す。

勇者は猛禽類を思わす巨大な翼に身を包み、炎から身を守っていた。


戦士「それがキミの本来の姿ってわけかい」


勇者はなにも答えない。


戦士「まったく……さっきまではうろたえまくってたのに、今度はえらく超然としてるじゃないか。今度こそ殺す……」


再び火を放つ。さすがに先ほどのレベルの術を連発するのは負担がかかりすぎる。
低下力魔法でまずは相手の出方をうかがうことにする。



勇者「……」


勇者の翼がはためくように大きく開く。同時に凄まじい突風が起こり、炎をすべて吹き飛ばした。


戦士「なるほど……」


翼が開くとともに起きた風が炎を払った、ように見えたがそうではない。
翼から発せられた強すぎる魔力が、炎をなぎ払ったのだ。人間とはかけ離れた技だ。


勇者「ううぅ……」


勇者の翼が大きく動く。勇者が地面を蹴り、凄まじい勢いで走り出す。
黒い霧とともに身にまとった殺気の凄まじさに、戦士は知らないうちに後ずさりしていた。

戦士が放つ炎は茶褐色の翼がなぎ払ってまるで効果をなさない。

しかし、戦士は構わず炎を連発する。

戦士(この程度の火力じゃ、無理か)

勇者の持つ剣を黒い霧が包みこむ。闇の剣と化したそれを勇者は予備動作なしで投擲する。
もちろん、対象は戦士だった。魔力の塊が神速のスピードで戦士に吸い込まれる。

初めて戦士の表情が焦りに歪む。


戦士「……っ!!」


凄まじい衝撃。部屋全体が揺れ、土煙が戦士そのものを覆い隠した。


戦士「……さすがに、命の危険を感じたよ」


間一髪だった。煙の中から戦士が現れる。魔力の塊と化した剣は壁に突き刺さっていた。


戦士(今なら武器はない、素手の状態……畳み込むチャンス)


その考えが甘いと知るのに時間はかからなかった。
勇者の手が黒い霧に覆われていく。霧から現れたのは関節から下が長剣と化した手だった。
勇者はその場から動こうとはしなかった。剣と化した腕、それを戦士に向ける。
訝る戦士の表情が驚愕のそれに変わる。


戦士「うそだろっ……!?」


刀身が伸びたのだ。速すぎる。横っ飛びに避ける。剣が風を斬る音が、耳にこびりついた。息を飲む。
少しでも動きを止めれば、間違いなく殺される。気づけば狩る側と狩られる側が入れ替わっていた。
伸びた剣が壁を深く穿つ。魔法を唱える……否、不可能だった。

戦士「しまった……」

謎の触手が足首に絡みついていた。


剣で触手を切り落とそうとしたが、恐ろしいほどの力で引きずられ体勢が崩れ尻から落ちる。
なんの抵抗もできないまま、戦士は勇者の目の前まで引きずられていた。

濃密な霧が勇者を覆っていてその顔は見えない。それでも自分の知っているだろう表情がその顔に浮かんでいないのだけは予想がついた。


戦士(ここまで、か……)


死の剣が振り上げられる。奇妙な感覚だった。死を目前にして、胸中はひどく穏やかだった。
ずいぶん昔、誰から見ても子どもと言われる年齢のときにも死にかけたことがあった。あのときはただひたすら泣き叫んでいた。

振り上げられた剣が、落ちる。

一瞬が永遠に引き伸ばされる。剣が止まって見えた。

色々なことが一瞬で脳裏をかけめぐる。ローブ下に隠していたものを取り出す。そしてそれを放とうとして……戦士はやめた。


勇者「ぐおおおぉぉ……」


苦痛に呻くかのような悲痛な声。勇者の剣は止まって見えたのが自分の錯覚だと知った。
実際に止まっていたのだ。勇者がその剣をギリギリで止めたのだ。

勇者「うおおおおおおおおおおおぉっ」

霧が勇者の咆哮とともに霧散する。戦士の足に絡んでいた触手が黒い霧となって、同じように消えていく。

戦士「なるほど、ね……」



どうして自分が死を目前にして、ここまで穏やかにいられたのかを理解して戦士は独りごちた。
勇者の前まで引きずられたときには、彼の殺気はすでに完全に消え失せていたのだ。


男「はぁはぁ……オレは…………オレは……」

戦士「やあ、調子はどうだい? ずいぶんと破天荒になったもんだね。勇者くん?」

男「……オレはいったいなにを……」


翼も霧となって蒸発していく。完全にもとの姿に戻っていた。


戦士「ボクが誰かはわかるかい?」

男「……戦士」

戦士「オーケー、そこまでわかってるなら大丈夫だね。じゃあ……パーンチッ!」

男「いってぇ! な、なにするんだ!?」


戦士「なにをする? 今キミはボクにそう聞いたのかい?」

男「ああ言った! 状況がまったく掴めていないのに急に殴られたからなっ!」

戦士「なにを言ってるんだ!? こっちは危うく死にかけたんだぞ!? パンチ一発で済ますボクの懐の広さに感謝しろよ!」

男「それは……いや、たしかに危うく殺しかけたがそれはお前もだろうが!」

戦士は剣の柄を握り直した。魔力を込める。

戦士「あ、いや、それを言われると……」

剣を抜けるように、柄を握る。

戦士「いや、じゃあさ、こうしない?」

男「……なんだよ?」

剣を引き抜く。











次の瞬間、戦士の背中を目がけて光弾が放たれる。






戦士は引き抜いた剣で自らの背中を襲おうとしていた、光の球を切り裂いた。










男「……!」

戦士「……とりあえず、まずはボクらで共闘して敵を倒そう。交流を深めるための親睦会だ」

?「……なぜだ、戦士。そいつを殺さないという選択肢をとる? 血迷ったか?」

戦士「わりとボクって悩みとかと無縁な人間に思われるけど、意外としょっちゅう迷ったりしてるんだよ」

?「……」

戦士「けど、まあ血迷うのは初めてかもね。勇者くん!」

男「……なんだ。さっきからオレだけ置いてけぼり状態で困ってんだけど」

戦士「とりあえずこの流れで言うのはいささか以上におかしいんだけどさ。ボクを信じてくれないか?」

男「まったく……裏切ったり信じてくれって言ったり、お前、メチャクチャすぎるだろ」



戦士「我ながらそう思うよ。理路整然からは程遠い」

男「お前は間違いなくなにか知ってるな?」

戦士「少なくとも頭の悪いキミよりはね」

男「オレのこともなにかしってるだろ?」

戦士「うーん……まあね」

男「全部洗いざらい教えろ、それでオレは許してやるよ」

戦士「ボクの方は……まあいいや、とりあえずはボクとキミでこいつを倒す。話はそれからだ」

男「了解……!」

?「……まったく、手間をかけさせてくれる」


?「俺はてっきりこいつが正気に戻った隙をついて、刺し殺してくれるのかと思ったのになあ」

戦士「残念だったね。ボクは卑怯なことをするにしても、正々堂々とやるタイプなんだよね。
   まあそれに、キミとボクって致命的に相性があわないしね」

?「……ハナっからこうする予定だったのか?」

戦士「言ったろ? 迷っていたって。まあ天秤は彼の方へと傾いたみたいだね」

?「まあいい。貴様らに生きていられては都合が悪いことになりそうだ。
  利用価値もなくなった以上……消えてもらおうか」

僧侶「……私たちも加勢する」

戦士「いや、キミと魔法使いの傷は……」

魔法使い「……完治には程遠い。無理に動くことは……推奨できない」

僧侶「だが、二人であの男とやるのは厳しいんじゃ……」

男「らくではないな……でも!」

戦士「倒せない敵じゃない!」


戦士「今回はキミら二人はオブサーバーってことで頼むよ。せいぜいボクらのかっこいい姿を堪能してくれ。
   と、その前に……」

男「ん?」

戦士「これを飲んでくれよ……なに、悪いものじゃない。さっきみたいなキミの暴走を抑えるものだ」

?「来ないのならこっちからいくぞっ!」

戦士「とりあえず飲め! 飲むんだ勇者くん!」

男「あぁーもういい! ……んっ、飲んだぞ!」

戦士「よし、いくよ!」

男「ああ!」



僧侶(……あのとき、ケルベロスをよこした後、私たちはこいつからは逃げ切ってなんとかケルベロス一体を狙った。
   こいつは強い、少なくとも私と魔法使いのペアでは勝てる可能性はかぎりなく低かった。
   この二人はいったいどうやって戦う気だ……?)

戦士「勇者くん、キミは前衛を頼むよ! サポートにはボクが回る!」

男「言われなくても!」

?「ふっ、勇者でオレを引きつけ、その間に戦士の魔法術で狙い撃ち……浅はかだな!」

僧侶(その戦略と似たものは私たちもやったが……前回使った戦術は読まれてまるでこいつには通じなかった)

戦士「すばっしこいなあ! 勇者くん、もっと引きつけて!」

男「うるせえ! とっくにやって……うおっ!?」

?「貴様ごときがこの俺の相手になると思うなっ!」

僧侶(勇者はまだ普段通り動けている。しかし……戦士の出す術の頻度が少ない。
   魔力が足りなくなってるということが、明らかじゃないか……)



?「どうしたどうした!? 二人がかりでこの程度か……!?」

男「くっ……」

男(こいつ……やっぱり強い……!)

戦士(さっきの戦いでボクの魔力はだいぶもってかれたみたいだ……くそっ、下級魔法を連発することもできないなんて)

?「さっきの強さはどうした勇者!? 戦士を圧倒したように俺もあの力で圧倒してみせろよっ!」

男「お前相手にあの力は必要ねーんだよっ!」

勇者はなにか思いついたのか、素早く飛び退き男との距離をとる。

戦士「おいおい、勇者くん。なにキミ、勝手に戻ってきてんだい」

男「べつに勝てないと思って逃げたわけじゃない。戦士、一つ提案がある」



戦士「言ってみてよ」

男「……………………………………………………って、ことだ。どうだ?」

僧侶「……本気で言ってるのか?」

男「一通りの攻撃は試した。その上で、この提案をしてんだよ」

戦士「まあ、たしかに意外と言えば意外な方法だけど……」

魔法使い「成功の保証はない。はっきり言って危険すぎる」

男「でもこのままじゃあ、オレたち、死ぬぞ。あいつに全員殺される。だったらオレだけが死ぬけど、あいつを倒せる可能性にかけるべきじゃないか?
  なによりオレは特別だ……オレが適任だろ」

?「いいかげんに飽きたなあ……終わりにしよう」



男「……やらなきゃやられるぞ!」

戦士「今回ばかりはあまりに気が進まないけど……」

男「さっきまでオレたちは戦ってんだ。その延長だと思えよ」

戦士(他に思いつく手段はない……これしかない、ってことか)

戦士「キミたちは回復の準備を頼むよ……」

僧侶「本当にやる気なのか……?」

男「安心しろ。オレはこいつを倒す。そしてその上で生き延びる」

魔法使い(記憶がないゆえにできる暴走か……あるいは
、そういう風に勇者として…………)

男「いくぞっ!」



?「ふっ……また懲りもせずに突っ込んでくるばかりか!」

?(なにか相談していたが……だが少なくともこいつ一人ではなにもできまい)

男(勝負は一瞬……オレはただこいつと直線ラインに立っているだけでいい!)

男「終わりだああああああ」

男は最初なにが起きたのかわからなかった。
ただ、急に脇腹のあたりが溶岩でも垂らされたかのように熱くなったのだ。
そこに視線を移動させる。杖が脇腹に刺さっていた。

そして次の瞬間、杖から男の全身に魔力が行き渡り、激痛が走り男は膝をついた。
なにが起きているのかまったく理解できなかった。


?「ぐっ……ぐあああああぁ!! な、なにをしたっ……!? いったいどうやって……!?」

勇者がなにかやったのかと思ったがちがった。彼もまた同じように、膝からくずおれて腹を押さえていた。

男「……どうだ、オレたちの……攻撃は…………見えなかったろ?」



顔から血の気が失せた勇者がニヤリと紫に変色した唇を歪める。
ようやく男は理解した。勇者パーティの攻撃方法を。

?「貴様……自分を盾にし視界に入らぬように……っ!」

男「……正解だっ、見える攻撃じゃあ…………お前に、かわされることは……わかってた、からな」

しかも杖を投擲したせいで余計にわからなかった。

戦士「杖はもっとも魔法に長けた魔法使いが扱い、魔法を媒介とする上では一番適しているからね。
   ボクの魔力をかなり消費させてもらったけどね」

?「ぐっ……まさかこんな手段をとってくるとはな……」

戦士「勇者くんをなめすぎだよ、そしてそれが今の状況にそのままつながったんだよ」

?「まったく……ヤキが回るとはこういうことか……」

戦士「さあ、おとなしく捕まってもらおうか。リザードマンを殺したのはキミなんだろ?」

?「……ふっ、俺がたたで捕まると思うのか?」



?「悪いがこんな状態になってしまえば、もはや生きていても仕方ない。どの道、近いうちに死ぬだろうしな」

不意に男の身体が光る。全身に謎の術式が浮かび上がる。

戦士「しまっ……死ぬ気か!?」

?「貴様のような若造に利用されるなんてごめんだからなあ!
  くくくっ、勇者よ……いや、ニセモノの勇者よ」

男「……なん、だ……?」

?「見事な攻撃だったなあ! 怖くはなかったのか、なにも感じなかったのか!?」

男「お前を倒すためだったからな……これぐらいしなきゃ勝てないと思ってな……」


勇者は必死で途切れかかる意識をつなぎとめる。が、指先から冷えていく。痛みが意識を侵食していく。


?「勇者の亡霊よ、貴様はニセモノにしてはよくやったな」


男「ニセモノだと……なにを……言って、る?」

?「わからないのか……あんな状態になっても自分が勇者だと思えるのか?
  気になるならそこの戦士か魔法使いにでも聞けばいい」

魔法使い「……」


男「……なにが、言いたい……?」

景色がゆがんでいく。痛みが流れ出る血と共にどんどん大きくなっていく。

?「……くくくっ、人の手により作られし哀れなニセモノよ…………」

男(ニセモノ……オレは封印された……昔の勇者ではない、ということなのか……?)

男の声がどんどん遠くなっていく。
僧侶や戦士の声が上から降ってくるが、なにも答えられない。景色は暗くなっていく。
ニセモノ。その言葉だけは消えていく意識の中でも、ぼんやりと浮かび上がっていた。

地面がなぜか近づいてくる。なにかが倒れる鈍い音。まばゆい光。遅れて衝撃と爆発音。

男(ニセモノ……オレは……)


勇者の意識はそこで途絶えた。

今日はここまで

終わりが少しずつ見えてきましたー


縺輔>縺九>


………………………………………………


男(ここは……オレは死んだのか?)


なにもない真っ白な空間。そこに自分は羽のようにぼんやりと浮いていた。
どうにかして敵を倒したのは覚えている。いや、本当に倒せたかどうかは自身がない。


男(これは……)


真っ白な景色にうっすらとなにか浮かんで来る。様々な景色が波紋が広がるように浮かび上がる。


男(オレの記憶なのか……いや、ちがうか)


色々な景色や出来事。空間を埋め尽くす様々な光景は、しかし、自分の記憶ではない。
それだけはなぜか本能的に理解できた。

ふと様々な記憶の中で、一つの光景だけが大きくなっていく。


男「あっ……」


その光景に一人の少女が映る。勇者はなぜかその人が姫だとわかった。


姫の背後には……魔王がいた。姫の対面にいるのは剣を構えた男。


男(こいつは……勇者だ。なんで勇者と姫が対立してるんだ?)


姫は両手を広げてなにか、その勇者である男に言っている。必死でなにかをうったえようとしている。
一方で男もなにかを必死にうったえている。
よく見れば姫の背後の魔王はかなりの傷を負っていた。


男(なんで姫が魔王を庇うんだ……?)


さらに先を見ようと身を乗りだす。

だが、またべつの光景が現れる。


男(なんだ……)


凄惨な光景が広がっていた。人々が逃げ惑う街は魔物が暴れ、建物を破壊していた。
勇者と思わしき男が魔物と戦っている。他にも兵士たちが戦っている。だが、明らかに魔物が多すぎた。

男がなにか叫んでいる。
男の視線の先には姫の面影を残した女性がいた。そしてその女性は、魔物に襲われようしていた。
一つ目の巨大な身体を持つ魔物が、腕を振り上げる。男が手を伸ばす。

それ以上は勇者が先を見ることはできなかった。
ふっ、とその景色が消えてしまう。



淡い光。空間が光で満たされてその光景が淡くなっていく。


不意に勇者は目が覚めた。


……………………………………………………


男「……っあ」

竜「おや……お目覚めですか?」

男「お前は……たしかあの女の子の……」

竜「ええ。四日前、あなたを例の牢獄へ案内しようとして……」

男「そういや、あの赤いローブのやつから逃げるために魔法陣使ったんだよな……。
  あのあとお前はどうしたんだ? 逃げたのか?」

竜「はい。身の危険を感じたものですから。あと、手記についてはなんとか回収しましたよ」

男「ああ、ありがと。で、あの赤いヤツはどうなったんだ?」

竜「わかりません。私は逃げましたし、特に情報は入ってきていません」

男「そうか……って、さっき四日前って言わなかったか!?」

竜「ええ、言いましたけど」



竜「あなたは三日間、ずっと眠っていたのですよ。一瞬だけ意識を取り戻したりもしていたみたいですが……」

男(……三日間も寝ていたのか、オレは。あのときあの赤いローブの一人を倒すためにオレと戦士は……)

男「そうだ! みんなは!?」

竜「戦士様と僧侶様は、ある公爵家に向かわれましたよ。
  目的は私は聞いていませんが、もしあなたが目覚めたらそのときはそう伝えるようにと言われていました」

男「公爵……?」

男(そういえば本来はオレたちは、最初の魔法陣で直接帝都に行って、魔王に会う予定だったんだよな。
  そうだとすると、その公爵のとこが本来最初に向かうところだったのかな)

竜「魔法使い様は少し席を外しているだけなので、次期に戻られると思います」

男「……そうか」




男「ていうか、ここはどこだ?」

竜「エルフ様の屋敷です……もう身体を起こして大丈夫なんですか?」

男「んー、そういえば身体には異常はないみたいだな」

竜「それはなによりです」

男 「なんかまだ記憶がぼんやりとしてるが……そうだ! オレたち、本当なら捕まってたんだよな? みんな大丈夫なんだよな?」

竜「先に言ったとおりです」



魔法使い「私たちは無事」



男「魔法使い! よかった、無事だったんだな!」

魔法使い「……」



魔法使い「……あなたは大丈夫? 人間地区の方から町医者を呼び出して、診てもらった。大丈夫みたい、だけど……」

男「ああ、特になんともない。好調みたいだ」

魔法使い「そう……」

男「……」

魔法使い「……」

男「ああー、あのさ……」

魔法使い「少し、待ってて。部屋からものをとってくる」

男「お、おう。なにをとってくるんだ?」

魔法使い「……お酒」



…………………………………………………………



魔法使い「ふふっ……あぁ……うん、少し飲み過ぎだかしらね」

男「なんでわざわざ酒を飲む必要があるんだよ?」

魔法使い「このほうが、色々と話しやすいのよ。素面だと、これからあなたに話そうとすることをうまく伝えられるか自信ないし」

男「そうか……まあたしかに、色々と疑問が残ってるしな」

魔法使い「ところで記憶はしっかりしてる? あなたは酔った勢いでサキュバスを襲って、返り討ちにされて今に至るのよ?」

男「堂々とうそをつくな。オレは死に物狂いで、あの赤いローブのヤツを倒そうとして、今の状態になってんだよ」

魔法使い「ふふっ、安心したわ。これ以上記憶をなくされても困るからね」

男「ひどいこと言うなあ……」

魔法使い「……ごめんなさい。なんとか明るい雰囲気を作ろうとしたのだけど」

男「あー、いや、気をつかってくれたのか……」



男「単刀直入に聞く。オレはいったいなんなんだ?」

魔法使い「……」

男「悪いけど、覚えているよ。オレは勇者なんかじゃないんだろ? 本当はオレは何者なんだ? いや、なんなんだ?」

魔法使い「……意外と冷静なのね。私、実はマントの下に杖を隠しているのよ」

男「なんでだよ?」

魔法使い「目覚めた瞬間に暴走……なんて可能性を考えていたからよ」

男「なるほど……自分で言うのもなんだけど今のところは冷静だよ。
  なんでだろうな……なんて言うか、こういうときはやっぱり取り乱したりするもんなのか?」

魔法使い「……」

魔法使い(記憶を蓄積して人格を形成していく普通の人間とは、やはりずれているのかしら……?)



魔法使い「どうかしら、ね。あなたって意外と冷めてるのかも」

男「冷めてる、か」

魔法使い「あなたは勇者じゃない。まして、普通の人間ですらない」

男「……そうなんだろうな。まあ普通の人間は腕からツタ出したり、翼生やしたりはしないんだろうな。
  でも、だったらなんなんだ? どうしてそんな異常なことがオレの身体には起こる?」

魔法使い「いつか話した『マジックエデュケーションプログラム』については覚えてる?」

男「ああ、話してたな」

魔法使い「そしてそのプログラムの発足から起きた記憶喪失事件は……覚えてる?」

男「ああ、なんかあった気がする……」




魔法使い「覚えてなくてもいいわ。
     このプログラム……災厄をもたらした女王による人工勇者を作るために発足されたプログラムなのよ」

男「ああ、知ってる」

魔法使い「知ってる? どういうこと……? 説明した覚えはないけど」

男(オレは例の情報屋の女の子から、聞いたことを魔法使いに伝えた。
  魔法使いは不思議そうだったが、とりあえずは話を続けるために少女には触れなかった)

魔法使い「このプログラム……一つはそういう方面に特化するであろう魔法使いを選定することだった。
     そしてもう一つは、人の記憶に干渉することができる魔法使いの選定」

男「人の記憶に干渉なんて、魔法でそんなことまでできるのか?」

魔法使い「できるわ、ただし肉体だけに影響を与える魔法よりも遥かに高度だから、本当にごく少数だけどね」

男「まさか、オレの記憶は……」

魔法使い「……そうよ」


魔法使い「あなたの記憶は失われてなんかいなかったのよ。人の手で作られたあなたには、そもそも肉体だけがあった。
     けど記憶や感情、それらによって形成されていく人格がない。そう、あなたには、はじめから記憶なんてなかった……だから無理やり作ったのよ」

男「ちょ、ちょっと待ってくれ。えーと、うまく整理できない。先にプログラムの説明の続きをしてくれ」

魔法使い「……プログラムは表向きは魔法教育の強化が目的だった。実際にはある方面に特化した魔法使いを育てることだけどね。
     そして、その魔法使い……その中でもとびっきり魔法使い、ようは賢者ね。
     その人たちによって人工的に作った勇者にさらに記憶干渉できる賢者が記憶を与えたのよ」

男「つまり、そのプログラムは人工勇者を作るためだったってことだった。でも結果的に災いが起きたんだよな?」

魔法使い「ええ、人の記憶の干渉はかなり高度な上に危険そのものだったわ。
     しかも記憶を引っ張り出す実験体に一般市民を用いたのよ」

男「まさかそれが例の魔女狩りにつながった記憶消失事件なのか……?」

魔法使い「あら、よく覚えていたわね」

男「わりと最近に情報屋の子から聞いたからな」


魔法使い「そう、魔法使いたちは最後は情報漏洩を恐れた政府によって大勢殺されたわ。
     異端審問局を利用した大量抹殺……まあでもまったくの嘘でもないのよね」

男「……」

魔法使い「魔法使いたちが記憶を一般市民から奪っていたのは本当だし、彼らがいなくなったあとは記憶の消失事件はなくなったわけだしね」

男「でも、そんなのって……」

魔法使い「あんまりだと思うけど、でも過去の話よ。それに、本当に重要なのは、人工勇者を作るために行われた前段階の実験による被害」

男「前段階の実験って……他にもなにかしてたのか?」

魔法使い「人の記憶を他のものに定着させる。これがとどんな結果を生むかわからなかった、だから実験機関では、盗った記憶を魔物に定着させたのよ」

男「……」

魔法使い「さらに、魔王と勇者、両方の血をもつ存在を作るための前段階として魔物の混合もやったわ。
     そうしてこの実験はエスカレートしていって、最終的には魔物の暴走」

男「それで国は魔物たちによってめちゃくちゃになったんだな」


魔法使い「そしてその混乱期に女王は死んだ……魔物手にかかってね。自業自得よね、どうして人口の勇者を作ろうとしたのか……。
     まして、魔王の血を合わせもつ勇者なんて……」

男(あの子はたしかそのことも言ってたような……いや、今はそのことはいいか)

男「そのプログラムのことについてはわかった。で、次はオレだ。オレのこの半端な記憶はどこから引っ張ってきた?」

魔法使い「ごめんなさい、私も正確な情報はわからないわ」

男「そもそもオレは八百年前に生まれた勇者なんかじゃないんだよな?」

魔法使い「ええ、ごく最近生まれた勇者とはちがう人工の誰か。それが、あなた」

男「でも、オレには八百年前のうっすらとした記憶がある……それって八百年前の勇者の記憶を流用したってことなんじゃないか?」

魔法使い「そうね、その可能性はないこともないわ。ただ、それだと……」

男「……なんだよ?」

魔法使い「八百年前の勇者の記憶はどうやって引っ張ってきたのかしら? 肉体については細胞を利用したりどーとでもなるわ。でも記憶は……」


魔法使い「記憶は脳にあると言われているわ……でも現時点では死んだ脳から記憶を持ってくるのは不可能なのよ」

男「だんだんわからなくなってきたな。オレの身体ってでも明らかに勇者の身体だけがもとにはなってないよな?」

魔法使い「……おそらく」

男「たとえば魔王とかの肉体がもとになっていたりしないか?」

魔法使い「どうしてそう思ったの?」

男「わからん。ただ、なんとなく魔王だと思わしき記憶が時々よぎるんだよ」

魔法使い「興味深い話ね」

男「しかし、なんで魔王の身体をオレに使う必要があったんだ? 勇者の身体だけをベースにしちゃダメだったのか?」

魔法使い「……わからないわ」


男「ていうか、なんでお前はオレの身体について知ってるんだ? 戦士も知ってるみたいだったけど」

魔法使い「それは簡単よ。私もあなたを作り出した実験機関に所属しているからよ。
     と、言っても中途半端な位置にいる私は、あなたに関してはなにも携わっていないのだけど」

男「ったく、わけわかんねーよ。ややこしくて頭に入らない……イライラするな」

魔法使い「……」

魔法使い(自分の中のもどかしさをどう解消していいのかもわからない……か)

魔法使い「あとのことは……彼に聞いたほうがいいわね。ねえ?」

男「よお……」



戦士「やあ、勇者くん。気分はどうだい?
   色々な疑問が残るだろうけど、それについてはボクがお答えするよ」


今日はここまで

自分でもなんだかよくわからなくなってきた……

まったりさいかい

ヒロインかあ
ヒロインについては……ええ、ちょっと迷ってるというか、正直あんま考えてませんでした


男「……」

戦士「どうしたんだい? なんだか元気がない気がするんだけど?」

男「いや……ていうか、みんな無事だったんだなって思ってさ」

戦士「キミのおかげでね。真面目な話、助かったよ。ありがとう」

男「……」

戦士「さっきから沈黙が多いけど、本当に大丈夫なのかい?」

男「いや、べつに……それより気になってることが色々ありすぎる。
  あの赤ローブのヤツらとかのこととかな」

戦士「彼らについての詳細はボクも知らない。一応彼らについては、陛下から直接聞いてはいたけどね。
   彼の本来の役割はボクらのバックアップだったんだ」

男「バックアップ? あいつら、オレたちを襲ったじゃないか!?」


戦士「それどころか、魔法使いちゃんと僧侶ちゃんは殺されそうになったしね。まあ、ケルベロスを仕掛けた彼は自害したけどね。
   バックアップって言うのは万が一、キミが暴走したときのためのね」

男「お前と魔法使いはオレが……作られた勇者だって知ってたんだよな?」

戦士「黙っていたことは謝る。すまなかった」

魔法使い「……ごめんなさい」

男「口止めされてたのか、王様から」

戦士「うん。キミのことは黙っているように承ってはいたよ。だけどまあ、そういうこととは関係なく、黙っていたのは事実だ」

男「……まあ、今はまだ正直なところさ、よくわかってねーんだよ。自分が実は作られてました、とか言われてもさ。
  だから、そんなことよりその赤ローブのヤツらについての話、続けてくれ」

戦士「さっきも言った通り、詳しいことは不明。陛下もなぜか彼らについての情報は開示しなかった。
   ボクが伝えられたのは、ボクらよりあとで来るということと……」

男「なんでそこで止めるんだよ?」

戦士「……キミが暴走したときは、キミの始末をしろって言われたんだよ」


男「……王様はオレがああなることをわかってたのか」

戦士「いや、あくまで可能性の一つとして、だよ。そして、キミが暴走したらボクでもどうにもならない可能性があった。
   だから保険としての彼らってわけさ」

男「でも、あの連中はオレたちより先に来てたじゃないか」

戦士「これはボクの予想なんだけどね。彼らはもしかしたら、とある宗教の一味なんじゃないかって」

男「ある宗教?」

戦士「魔物を敵視し、根絶やしにして人間だけの楽園を築くことを目的にしてるという過激な新興宗教団体。
   例の赤ローブの連中がその一味なんじゃないかってね」

男「そんなヤツらがいるのか……」

戦士「まあ、可能性だ。それに異端審問局とかも捜査にはあたってるけど、未だに実態はわかっていない」


戦士「そういうわけで、彼らは陛下の命のとおりに動かなかった。そして、さらにボクらを追い込みにきたわけだ」

男「……」

戦士「だが、あのとき。ボクがキミを殺そうとしたのは本気だった。
   ヤツらと組んでキミを始末しようと思った」

男「……みんなを危険な目に合わせる可能性もあったもんな。お前を殺しかけたし……。
  でも、じゃあなんでお前はオレを殺すのをやめたんだ?」

戦士「キミの暴走はギリギリのところで止まった。だからだよ」

男「……そう、か」

戦士「キミを殺そうとしたことも謝る……と言いたいところだけど、さすがに殺人未遂を謝罪の一言で終わらすのはさすがに図々しいね」


男「いや、オレは……」

男(…………)

戦士「そういえば、例の人については話したかい?」

魔法使い「まだ」

戦士「なら、キミにも話しておこう。さっきまでボクと僧侶ちゃんは、ボクらの協力者にして魔王のもとへの案内人でもある、公爵の屋敷にいたんだ」

男「本来最初に行くはずだったところだろ?」

戦士「そう。公爵様のとこに行ってそのまま魔王様のもとへ行く……っていうのが本来の予定だった。
   ところがどっこい。魔王がいない今、どうするかって話なんだよ」

男「その公爵の屋敷に行って来たんだろ? なにかしら話しあったのか?」


戦士「とりあえずは、彼らの施設を見て回ることになったよ。
   これはもともとの予定としてあったけど、本来は魔王に謁見したあとの予定だったんだよね」

魔法使い「この視察については私と彼とで行うわ。あなたはまだしばらくは、養生するといいわ」

戦士「そうだね。ああ、そうだ。
   しばらくしたら、僧侶ちゃんが帰ってくるしなんなら二人でどっか見て回れば?」

男「んー、そうだな……」

戦士「なんだい、なんか言いたそうに見える気がするけど」

男「…………いや、なんにもだ」

戦士「そうかい? 魔法使い、あとはキミから伝えておくことはある?」

魔法使い「なにか言おうと思ってたけど、いいわ。忘れちゃったし。そういうあなたはもうなにか言うことはないの?」

戦士「……べつに。とりあえずはこれですべてさ」

男「……」


…………………………………………………………


戦士「さて、勇者くんのことは僧侶ちゃんに任せたし、ボクらは公爵閣下――ハルピュイア殿が来るまで休憩していよう」

魔法使い「ずいぶんと彼に対して、説明を省いたわね」

戦士「あれ? いつもだったらとっくに回復魔法使って酔い覚まししてるのに、今日はしないのかい?」

魔法使い「少し酔っていたい気分なのよ」

戦士「珍しいね。キミは酔いが顔には出ないから、そんなにちがいがわからないけど。
   ……で? 説明を省いたって、ボクがなにか説明し忘れたことなんてあったかな?」

魔法使い「わざとらしいわね。自分のことで頭がいっぱいになってるから、彼は気づいてなかったみたいだけど。
     たとえば、リザードマンの殺害。あれを通報したのはあなただけど、それについての説明は?」

戦士「それを言ったら、どうしてキミがあの牢獄に魔物の研究機関があったことを知っていたのか、とかもだろ?
   それについては話したのかい?」

魔法使い「……いいえ。てっきりあなたから説明があるかと思ったから」


戦士「まあたしかにね。でもさ、そもそもあの研究機関で魔物開発のデータについて、陛下から頼まれていたのはキミのはずだ」

魔法使い「ええ。一応、彼が気絶したあと多少はあの機関については調べたけど。あなたのやり方が強引すぎたのよ。
     まさかリザードマンが殺害されたのを利用して、進んで牢獄に入って機関に潜り込む……そんなやり方をするなんて予想外だったわ」

戦士「今回、ある意味一番難しい課題だったからね。仮に彼が殺害されてなかったら、機関に入り込むことはできなかったかもしれない」

魔法使い「結局、リザードマンが殺されたのは……」

戦士「ああ。ボクらのバックアップである、あの赤ローブの連中で十中八九間違いない」

魔法使い「私たちが牢獄にいるとき、同時進行で城にあの連中の一人が侵入してる。おそらく、混乱を起こすため」

戦士「そして、ボクらと同じように研究機関のデータを盗もうとしていた」

魔法使い「あなたはあの連中が侵入したのに気づいて、わざと私たちとはぐれて、機関に侵入した」

戦士「あの機関を調べるのに一番適していたのは、キミだったんだろうけどね。
   しかし、そうも言っていられない。なにせ、赤ローブのヤツらが先に侵入していた可能性があった。
   さらに戦闘になる可能性があった。ならば、ボクが行くべきだった」



魔法使い「思い返してみると、奇妙なことはまだあるわよね?」

戦士「陛下のことだね」

魔法使い「ええ」

戦士「あの赤ローブの連中が、例の新興宗教の一味だという情報はボクでも知っていた」

魔法使い「あなたが知っていることを陛下が知らないわけがない。そして、そんな嫌疑を密使のバックアップに選ぶわけがない。
     あなたの独断で、あの魔法陣を破壊したものの先手を打たれていた」

戦士「あの赤ローブのヤツらの仕業で、たぶん間違いない。魔法陣の座標を変えられたせいで、ボクらは予定外の場所に来ちゃったわけだ……」

魔法使い「そして、まだ三人のうちの二人は捕まっていない……」

戦士「まったく……課題は増えていくばかりだ」

戦士(そして、賢者が大怪我を負った爆発事故。あれは勇者くんが作られ、生まれた時期とほぼ一致している……)


魔法使い「ずっと聞こうと思ってたんだけど、あなたは彼らを利用しつつ、あの時点では勇者くんをどうするつもりだったの?」

戦士「……そもそも、あのときは色々と際どかったんだよ。
   キミらが機関に入ってきたのにボクはすぐ気づいた。彼の背中から翼が生えていたのも確認した。
   だけど、勇者くんは正気を保ってた。だから、あの赤ローブのヤツにキミらが気づかれないように必死だったよ」

魔法使い「場合によっては、彼を利用しつつ勇者くんを殺すつもりだった?」

戦士「うん……まあ、ギリギリまで迷った結果が戦って確かめるってことだったけど」

魔法使い「私たち、よく生き残ったと思うの。まさかあの連中だけじゃなく、ケルベロスが出てきたときは死を覚悟したわ」

戦士「ボクがキミに持たせたものもほとんど役に立たなかったみたいだね」

魔法使い「例の対勇者くん用の魔力封じのヤツだけね、まともに使えたのは」


魔法使い「結局あなたは彼を殺さなかった。いいえ、本当のところ、あなたは彼を殺す気なんてなかったんでしょ?」

戦士「さあ、どうだかね」

魔法使い「ふふっ……はぐらかさなくてもわかるわよ」

戦士「キミこそ、わざわざアルコールを接種して勇者くんと話をしようとしたのはなぜなんだい?」

魔法使い「……べつに。説明するならお酒モードのほうが都合よかっただけ」

戦士「そうかい? 状況を説明するだけならそんなことをしなくても、素面のままでよかったと思うけどね。
   わざわざ饒舌になるようにアルコールをとったりしたのには、なにか意味があったと思ったんだけどなあ」

魔法使い「……そういうあなたも、なにか言葉を探しあぐねてたように見えたけどね、私には」

戦士「……女の子への口説き文句はすぐ浮かぶのにね。
   まあ、とりあえずはキミの魔術と例のクスリで彼の潜在能力は封じた」

魔法使い「彼女は勇者くんに対して不安はないのかしらね?」

戦士「今回、ボクらとちがってほとんど事情を知らないからね、僧侶ちゃんは。
   まあ彼女にも一応持たせるものは持してある。大丈夫さ」







遣い「失礼します。ハルピュイア公爵の遣いの者が参られました」

戦士「おや、ずいぶんと早いね。仕方ない、行こうか」

魔法使い「……ええ。気を引き締めて行きましょ」

戦士「うん、敵陣に突入だ」







………………………………………………………………


僧侶「……」

男「……」

僧侶「……お腹、空かないか? どこかへ入らないか?」

男「んー、そうだな……てきとーなとこに入るか」

僧侶 「あ、でもここは魔物圏の場所だからな……まあ、この貴族の遣いであることを示すブレスレットがあれば、大丈夫みたいだが」

男「そーだな」

僧侶「……まあ、入るか」


………………………………………………………………


僧侶「戦士と魔法使いから、どこまで話は聞いてる?」

男「……」

僧侶「……私の話、聞いてる……?」

男「……ん? ああ……ごめん。なんだって?」

僧侶「どこまであの二人から聞いてるのかって、聞いてるんだ」

男「ああ、そういうことか。オレ自身のこと。あと、なんか近況報告も聞いたな。
  そういえば、お前らオレが気絶したあと、すぐ牢獄を脱出したのか?」

僧侶「いや、あのあと無理やり回復させたお前をつれて、脱出を試みたが結局憲兵に捕まったんだ」

男「でも、今はこうして自由の身になってるよな?」



僧侶「それなんだが、不思議なことに二日で私たちは釈放された」

男「なにか理由があるのか?」

僧侶「しいて挙げられるとするなら、あの赤いローブの男がリザードマンを殺していた……その証拠が見つかった。
   いや、だが、やはりおかしいと思う。私たちをそんな簡単に釈放するなんて……」

男「でも、助かったんだしよかったんじゃないか?」

僧侶「それはそうだが……」

男「気になるのか?」

僧侶「ああ、やっぱり不安要素は少ないほうがいい。なにより、私はあの二人からきちんとした話は聞いていなかった」

男「……」


僧侶「お前はどう思った?」

男「なにが?」

僧侶「私たちを騙していた、というわけではないが、それでもあの二人については、私は釈然としない」

男「……」

僧侶「いや、仕方ないのはわかる。わかってる……」

男「あのさ」

僧侶「なんだ?」

男「お前はオレのことを知ったんだよな? オレがニセモノだって」

僧侶「……ああ」


僧侶「正直なことを言わせてもらうが、よくわからない。お前は作られた勇者であり、魔王の血すら取り込んでいるかもしれない……」

男「そうだ、オレはめちゃくちゃな存在だ」

僧侶「たしかに私はお前が異形の存在になる瞬間を見た。だが……」

サキュバス「 はーい、すみませーん。メニューお持ちいましたー。
      ていうか人間が来るとか久々だね。なに、二人は学生かなにか……ってそんな感じじゃないね」

僧侶「……」

サキュバス「なに? なんかアタシの顔になんかついてる? あ、もしかしてこんな定食屋で働いてるサキュバスが珍しい、みたいな?」

僧侶「いや……」

サキュバス「いやあ、アタシだってそういう方面の職業につこうかな、とか思ったけどね。
      みんながみんな似たような職業つくのも面白くないじゃん? まあそういうわけで、こんなビミョーなメシ屋で働いてんの」


サキュバス「まあ、これでもアタシもサキュバスのはしくれだし、けっこう男客なら連れてこれんのよね」

僧侶「……それだけ胸元が開いた制服なら、男はそれにつられるんだろうな」

サキュバス「あはは、わかる? アタシけっこう胸大きいからさー。あれ? お姉さんったら、ちょっとムッとしてない? もしかして、ひん……」

僧侶「さっさと仕事にもどれ……!」

サキュバス「うわー、こわーい。ねえねえ、あなたのお連れの方、すごくコワイよー?」

男「え? オレに言ってるの?」

サキュバス「やっだー! お兄さん以外に誰がいるの? なにか悩みでもあるの? 悩みがあるなら聞いてあげようか?」

男「……人間の客は珍しいって言ったけど、キミは人間についてはどう思ってるんだ?」

サキュバス「なになに、どーゆう質問これ? えー、べつに人間ってだけで特に思うことはないなあ」

男「……じゃあオレのことはどう思った?」

僧侶「……?」


僧侶(なにを考えてるんだ、勇者のやつ)

サキュバス「オレのことはどう思ったって……もしかして新手のナンパ? やだなあ、人間にナンパされたのはじめてー」

男「いや、そういうわけじゃないんだけど」

サキュバス「お兄さんの印象ねえー、うーん。なんかフツー」

男「なんだよ、普通って」

サキュバス「あ、でもなんかやさしそー」

男「……そうか」

サキュバス「まあ、印象良くみせたいならもっと、シャキッとすることだねー。あ、注文入っちゃったから、またねー」


僧侶「魔物にあんなことを聞いて、いったいどういうもりだ?」

男「……なんとなく、魔物から自分を見るとどう思われるかを知りたかった、それだけだ。
  そういえば、なにか言いかけてお前、やめたよな?


僧侶「……お前は自分をめちゃくちゃな存在だと言ったな?」

男「まあ、言ったな」

僧侶「じゃあ聞くが、そんな自分をどうするべきだと思う?」

男「どうするべきって……そんなことを言われてもな。そんなもんわかんねーよ」

僧侶「……少しだけ、私の身の上話を聞いてくれないか?」

男「身の上話? べつにいいけど」

僧侶「ありがとう。まあ、とは言っても大した話なんかじゃない」



僧侶「私がなあなあに生きてきて、父に言われるまま教会に入れられた話はしたよな?」

男「うん。たしか、オレが意外だなってそれに対して言ったんだよな」

僧侶「一時期、教会の生活に嫌気がさして家に帰ったことがあった」

男「なんか本当に想像つかないな」

僧侶「私の家はそこそこ裕福な家だったんだ。だから、多少は甘やかされて育てられた。
   なのに、途中から急に教育方針が変わって、厳しくなったものだから、当時の私は理不尽な怒りのようなものを感じた」

男「教会に入れられたのも、そういうのが原因なのか?」

僧侶「そうだ。学校を卒業して意味なく武術を鍛える日々を送っていた私は、父によって教会に入ったが、その厳しさに耐えられなかったんだ」

男「そんで家に帰ったら、なんて言われたんだ?」

僧侶「色々口論したが、最終的になぜかどっかの家に嫁入りしろって話になってな」



男「嫁入り……?」

僧侶「私も最初は驚いた。しかし、同時に結婚すれば少なくとも教会の暮らしから逃れられると考えると、当時の馬鹿だった私にはそこそこ魅力に思えたんだ」

男「でも、こうしてるってことは……」

僧侶「ああ、もちろんその話は最終的には断った。結局、私は教会に謝って戻させてもらった」

男「そう、なのか……」

僧侶「人生は選択肢だらけだ。いつでも取るか取らないかを迫られる。
   そして、同時にそんな選択肢を放棄することもできる」

男「……」

僧侶「私はずっと、選択することから逃げて生きてきたけど。嫁ぐか、教会に戻るか。その選択肢からは逃げなかった。
   それだけは絶対に選択肢を考えないって選択はなかった」

男「後悔はしてないのか?」



僧侶「したさ。たくさん、未だにすることはある。でも、この選択の結果が生まれたものはかけがえのないものだって、私はそう思ってる」

男「かけがえのないもの……」

僧侶「初めての決心だったとも言える。でも、その選択肢から逃げないことを決めた瞬間の私の選択は、私自身の新たな可能性にもなった」

男「オレは……」

僧侶「お前だって、選択を迫られる瞬間は簡単に訪れる。いや、今がそのときかもしれない。お前はこれからどうする?」

男「わかんねーよ。どうしたらいいんだよ……ニセモノにして化物のオレは……」

僧侶「お前が化物だろうが、ニセモノだろうが選ばなければならないときはくる」

男「わかってるよ。でも……」



僧侶「ケルベロスと戦ったとき、私はお前を庇った。お前がニセモノだろうと本物だろうと、少なくとも私は、お前を庇おうと思ったから。
   そして、私が死にかけたとき、魔法使いとともに助けてくれたのはお前だ」

男「……そうだな」

僧侶「お前が私を助けようとした気持ち、それはうそか?」

男「……ちがう」

僧侶「たとえ、お前がニセモノだとしても。私を助けてくれたお前の気持ちまでが、ニセモノだとは思たくない」

男「……」

僧侶「その意思は本物だと思うし、お前がその選択肢をとってくれなかったら私は死んでいた。この事実に本物もニセモノもない」

男「……」



僧侶「どうするかを決めるのは、すべて自分だ……私がえらそうなことを言える立場なんかじゃないけど」

男「……僧侶」

僧侶「ああ」

男「オレも、考えてみるよ。自分なりの選択肢を。僧侶」

僧侶「……なんだ?」

男「ありがとう」

今日はここまで

最近シリアスな話が多くて疲れてたので息抜きに中身がなさすぎるss
勇者「魔王が仲良くしようとか言い出したがそんなの関係ねえ」
書いたのでよかったら息抜きにみてください

それではまたこんど

再開します

あのうんこみたいなss見てくれる人がいて嬉しいです


……………………………………………………


サキュバス「また来てね、お兄さんとお兄さん」

男「わざわざ見送ってくれるんだな」

サキュバス「今はお客さんが、あんまり入らない時間だからね。あと、人間にナンパされたのは初めてだし」

僧侶「……また来るかどうかは知らないが、食事はうまかった」

サキュバス「あはは、それはよかった。お姉さん、いっぱい食べないとおっぱい大き……」

僧侶「……」

サキュバス「いや、そんなに睨まないでよ。冗談だから、じょーだん。
      ……それにしてもお兄さん、さっきと雰囲気少し変わった?」

男「オレ?」


サキュバス「なんか心なしか、さっきよりも男前に見えるよ? 少しだけ憑き物が取れたみたいな?」

男「よくわかんないな」

サキュバス「ねえ、お姉さんもそう思うよね?」

僧侶「……いや、私にもわからない」

サキュバス「それにしても最近、常連のお客さんがことごとく来ないから困ってるのよね」

男「客が来ないのはたしかに困るな」

サキュバス「ここのところ色々と街がざわついてるのよね。至るところに警備の連中とかもいるし」

僧侶(魔王がいなくなったからな……とは言えはしないな、さすがに)

サキュバス「ただ、ここんとこの二日間はさらに警備が強化されてるみたいなんだよね」


男「オレが眠ってる間になにかあったか、僧侶?」

僧侶「いや……私が知るかぎり、警備強化をしなければならないようなことは、なかったと思う」

僧侶(私たちやあの赤いローブの連中のことと関係あるのか?)

サキュバス「あ、でも一つ気づいたんだけどさ。ここ二日間ぐらいね、街の警備にあたってた連中なんだけど。
      ミレットの警備にあたってるみたいだね、なぜかは知らないけど」

男「ミレットって人間地区のことだよな? だけどそれがなんだって言うんだ?」

サキュバス「ミレットは帝都の入口でもあるんだよね」

僧侶「街の入口の警備を急に固める、それって……」

サキュバス「そう。まるで今誰かに侵入されたら困っちゃうみたいな、ね」


…………………………………………………………


僧侶「今、屋敷に戻っても手持ち無沙汰になるな。どうする、他にどこか行くか?
   いや、あまり動かない方がいいか。憲兵も少ないとは言え、いるにはいるからな」
   
男「そうだな……あ」

僧侶「どうした?」

男「いや、あのサキュバスを見ててなにか違和感のようなものが胸につっかえてたんだけどさ。今、なんとなくわかった。それの正体が」

僧侶「違和感? なんだ?」

男「オレの中にある記憶……その中のサキュバスの記憶っていうか、イメージなのかな?
  それと一致しなかったんだよ、全然」

僧侶「それはつまり、昔の勇者の記録、それと一致しないってことか?」

男「ああ。オレが知ってるサキュバスは、あんな人間と寸分変わらない姿をしていなかった」

僧侶「より魔物として、わかりやすいような姿だったってことか? 彼女も翼はあったが……」

男「でも、オレの知ってるサキュバスはもっと翼も大きかった」



僧侶「でも、だからってなんなんだ? 時代の変化とともに魔物の姿が変わったってことか?
   だいたい、魔物だって生き物だ。個体差がある。
   さっきのサキュバスのように人間よりのものがいる一方で、お前の記憶の中のように魔物としての色を濃くするサキュバスもいる」

男「……」

僧侶「そういうことじゃないのか?」

男「……すまん。やっぱりオレの勘違いなのかもしれない」

僧侶(勘違い、その可能性は十分あるが、あの魔物を作る研究機関……あんな施設があることを考えれば、勘違いで済ますのは……)
   
男(オレの記憶違いなのかな? なにか調べる方法はないのか?)

僧侶「そうだ、帰ってきたら魔法使いに聞くのはどうだ? 魔法使いなら、魔物についてはかなり明るいからな」

男「なるほど、そうだな。だが、それまでに自分でもなにか調べておきたいな」


男(そういえば、まだあの姫様の手記をきちんと読んでいなかったか。あれ、読みたいな……)

僧侶「私は少し、街の様子を見て回る。ついでに図書館にも寄っておきたい。お前は?」

男「屋敷に戻る。少し気になることがあるんだ」

僧侶「……」

男「な、なんだよ。そんなじーっと見られても……」

僧侶「帰ったら体調の確認を兼ねた手合わせをしよう」

男「ん、ああ、それはありがたい」

僧侶「じゃあまたあとで」

男「おう」


…………………………………………………………


男「ってなわけで、屋敷に戻ってきたわけだけど……」

男(少し、気分も落ち着いたのか? よくわからないけど、僧侶の話を聞いたらなんだか胸のモヤモヤが消えた気がする……)

竜「おやおや、ずいぶんと早く戻られましたね。お連れの方は一緒ではないのですか?」

男「あいつはまだ街にいるよ。オレは例の手記の続きが読みたくて戻ってきたんだ」

竜「左様で」

男「……いま思い出したんだが、お前のご主人はどうしたんだ? バイトか?」

竜「主は……まあ、そんなところです」

男「あやふやな言い方だな。あの子のおかげでオレは助かったからさ、礼を言いたかったんだよな」

竜「また会ったときにでも。会えたなら、ですが……」

男「……?」



竜「それでは私はこれで」

男「ああ、またな。さて……」

男(なぜかは、わからない。なぜこの手記に惹かれるのかはわからないが、オレはこの中身を見なければならない気がする)


…………………………………………………


 ある日のこと。私は気になることがあって、ひたすら本を読み漁っていた。
 片付けるのは面倒だったので、そのまま本は出しっ放しにしておいた。普段は誰かがてきとうに片付けてくるので、私には片付けの習慣はなかった。
 ちょうど、そのとき彼が部屋に入ってきた。彼は部屋に入ってきたとたん、顔をしためた。私はすぐ本に視線を戻す。


『いくらなんでも散らかしすぎじゃないか……?』

『べつに。あなたが来なくて暇だったから。ねえ、魔王様?』

『……』

『やっぱり、勇者様と魔王は世界に存在し続ける……これは太陽が登って沈むぐらい自然なことなのね』

『今さらそれがどうした? オレでもそんな当たり前のことはわかるぞ』

『そうね、そのことはたいして重要ではないわ。問題は、存在し続ける勇者様と魔王の関係……そうね、なんて言ったらいいのかしら』


 私が言葉を探して黙ったりしているときに、彼の表情を盗み見るのは、密かな楽しみになっていた。
 まるで忠犬が餌を待ってるような、そんな佇まいなのだ。きっと彼自身が聞いたら怒ってしまうだろうから、それについては私は特に言わない。
 その代わり、私だけの小さな楽しみということにしておいた。
 ようやく言葉がまとまる。私がしゃべろうとすると、彼が身を乗り出す。これも私が知った彼の癖のひとつだ。


『魔王対勇者……この対立構造ってある意味、もっとも犠牲の出ない形なの。
 軍隊は街を守る。そういう名目で動かない。そして、勇者たち一行だけが、魔王たちを倒しに行く』

『まるで魔王への貢物のようだな。それだけを聞いていると』

『ある意味そうなのかもね。それに色々と奇妙よね……』

『どういう意味だ?』

『だって、少人数でパーティを組ませているのは、本来勇者一行の存在を魔物たちに知られないためよね?』

『……そーなんだろうな』


 どうやら私の思考はまだまとまってはいなかったみたい。
 考えが次々に沸き起こって、意味があるのかないのか、あやふやな言葉に変わっていく。


『でも国民は勇者という存在がなければ、不満が出る……絶対に存在する回復魔法を使える者の存在……確実にそろう勇者パーティ……』


 近年、回復魔法について疑問の声があがっている。魔法による回復の人体への影響。

 勇者様と魔王の戦いはまるで誰かに仕組まれているようだ。
 しかも、なるべく犠牲を出さない形をとっている。私はふと、自分が目を通して積み上げた本たちを見た。


『よく、これだけ、きちんと勇者様たちの記録が残ってるわよね』

『ん、そうだな。誰が記録を残しているんだろうな』

 戦い続ける勇者様と魔王。
 犠牲を出さない最小限の戦争。
 半永久的な争い。
 誰かによって記され続ける記録。

『そう、まるで誰かが勇者様と魔王の争いを仕組んでるみたい』

 積み上げられた記録たちを、私は見た。なにかが、おかしい。

 だが、よくよく考えれば、私と彼の関係もひどく奇妙なものか。

 私は答えを見つけられない。魔王の顔を見る。彼の瞳に映る私の顔は、不安に揺れていた。


……………………………………………………



男(なんか、 たまたま開いたページだったけど、あやふやだし、本人もなにが言いたいのかわからないって感じの内容だな……)

男「んー、もうちょっと読もうかな……あ、これは……」

男(勇者パーティについてか)



…………………………………………………………



男「ふむふむ……なるほど」

エルフ「少しよろしいですか?」

男「ああ、はい……って、うおわあ!?」

エルフ「あの方が言っていた通り、反応が大仰ですわね」

男「それは急に話しかけられたから……」

エルフ「部屋に入る際にもノックはしましたがね。あなたが帰ってきてることは、伝え聞いていたものですから」

男「ああ……それは、申し訳ない」

エルフ「いえいえ。私も、もう少し配慮すればよかったですね。
    それにしても、ずいぶんと熱心に手記を読んでますね。本の内容はどうですか?」

男「えっと……そう言えばこの手記ってあんた……あ、あなた……のものなんだよな?」

エルフ「まあ、一応そういうことになっていますわ」


男「あやふやな言い方だな」

エルフ「物事に対して断言できない。私の悪い癖ですわ……あら? そんなに凝視されると照れますわね、なにか私に言いたいことでも?」

男「あのさ、えっと、あなたたち……魔物は……」

男(なんか、このヒトの前だと妙に緊張するな……なんか、すごい変わった雰囲気というか……)

エルフ「ストップ。私たちは自分たちのことを魔物なんて言いません。魔族と言います」

男「あ、はい……魔族……」

エルフ「ええ。魔物って言い方を私たち魔族は好みません。あしからず」

男「はあ……」


エルフ「それで、私になにを聞こうと思ったのですか?」

男「魔物……じゃなくて、魔族であるアンタたちは、人間についてどう思うんだ?」

エルフ「ずいぶんと抽象的な質問ですね。もう少し具体性が欲しいですわ」

男「だから、たとえば……人間に対して憎しみを抱いたり、とか嫌悪感を覚えたりしないのか?」

エルフ「人それぞれですよ、そんなもの」

男「えらいあっさりと言ってくれるな。そりゃあ、人それぞれだろうけど……アンタはどうなんだ?」

エルフ「少なくとも人間だから、という理由で嫌悪感を他人に抱いたことはありませんわ。
    と言うより、私が人間だから、という理由他人に嫌悪を感じたりはしませんわ」

男「えらくはっきりと言うな」


エルフ「ええ。間違いなく、人間だからという理由で嫌悪を感じることは私にはありませんわ。
    逆に質問しますけど、人間相手にあなたは腹を立てないと言い切れますか?」

男「それは……そりゃあ、人間相手に腹立つことなんて、いくらでもあるだろ」

エルフ「そう、結局そういうことでしょう?」

男「……あ」

エルフ「湧き上がる感情が、魔族だから……人間だから。そんな理由で変わるなんて愚かなことこの上ないですわ」

男「たしかに……」

エルフ「この街を見てあなたはわかったはずです。人間だろうが魔族だろうが、変わらないってことが」

男「……」

エルフ「たとえ、あなたが何者でもない誰かだとしても、その胸に抱いた感情は本物でしょう?」




男「抱いた感情は本物、か」

エルフ「だから、もしなにか胸の内になにかを溜め込んでるなら、吐き出すべきですわ」

男「……魔界の魔族はみんな、アンタみたいな考え方なのか?」

エルフ「ほとんどは。ただ、やっぱりいさかいが全くないわけじゃないですわ」

男「まあ、仕方ないことなんだよな。それもアンタの言う通りなら」

エルフ「いさかいや争いは同じ種族でも起きる。当然、と言えば当然です。
    でも、歩み寄ることは心の持ちようで、いくらでもできますわ」

男「……心の持ちよう、か」

エルフ「ええ、大事なのは心ですわ」


…………………………………………………………


戦士「……で、勇者くん。はるばる視察から帰ってきたボクらに、いったいなんの用だい?」

男「オレのリハビリ会だ。眠ってたせいで、カラダが訛っちゃったからな」

僧侶「……なにを考えてる?」

男「なあに、本を読んでたら心と心を交わすのには拳が一番、って書いてあったんだよ」

魔法使い「……」

魔法使い(自分なりのアプローチをする、か。やはり勇者くんは常に変化し続けてる)

戦士「なにに影響を受けたのかは知らないけど、いいだろう。実力の差を見せてあげよう」

男「本気でこい。オレも本気でいく」



ここまで

再開いたします


僧侶「私とは手合わせしよう、と言っていたが、なぜ戦士となんだ?」

男「……この前の決着がついてないから」

戦士「決着って、いったいなんの話をしているんだい?」

男「あの牢獄で、オレとお前は闘ったろ。忘れたのかよ」

戦士「あれのことか。あれはボクの完敗だったよ、あと少しで殺されかけた。今さらなにを蒸し返そうっていうんだい?」

男「あれはオレじゃない。オレの中のなにかがお前を殺しかけた。でも、『オレ自身』は完敗だった。
  だからこそ、リベンジしたいんだよ。オレのままでオレはお前に勝つ」

戦士「……なるほど。魔法使いちゃんや僧侶ちゃんもせっかくだ、見ててくれよ」

魔法使い(戦いによって闘争本能が刺激され、またあの力が暴走する可能性がある。
     だからこそ、私や彼女もこの場にいたほうがいい、か)

僧侶(なにか考えてるのか……勇者は)


男「さっきも言ったが、本気でこい」

戦士「闘いの状況次第では本気を出してあげるよ」

男「……いくぞ!」

男(たぶん、勝負の時間が長くなればなるほどオレの勝算は減ってく……ならっ!)

魔法使い(これは……)

僧侶「なにを考えてるんだ……?」

戦士「……っ!?」


戦士が思わず声をあげてしまったのは、勇者が手にしていた剣に極端すぎるほどの魔力を込めていたからだ。
ほとんど身に宿したすべての魔力を注いでいると言ってもいい。刀身は、その膨大な魔力によって輪郭を朧げなものにしていた。


くらえばおそらくそれ相応のダメージを負う、いや、そんな生易しいものではない。
大怪我ですら、生ぬるい。間違いなくやられる。
戦士は素早く魔力を剣に先端に手繰り寄せ、火を操る。狙いは……


男「うおおおおおおおおおっ!!」


勇者の咆哮。屋敷の庭全体に広がる叫び声が、雲すらも震わせる。
勇者が地面を蹴る。体勢を低くして、いっきに駆けてくる。以前よりもスピードが速い。戦士は魔法を放つ目測を一瞬でつけ――火の粉を放った。

戦士と勇者の距離はそこまでない。距離をとらなければ、あの剣の餌食にされるかもしれない。
後退しようとして、戦士は気づいた。剣をいつの間にか片手持ちにしているのだ。
刀身どころか、持ち主の手までも魔力が包みこんでいた。投げの構え、あの膨大た魔力の塊をあろことか、この男は投げるつもりなのだ。


戦士「ほ、本気なのか!?」


焦るあまり、声をあげていた。魔力をいっきに高める。剣の投げよりは先に魔法を放たなければならない。
間に合うか間に合わないかの限界を見切り、青い炎を放った。


しかし、火の球の狙いはあくまで勇者の足もと。そして、彼の手もとをギリギリ掠めるぐらいの位置。
牽制こそがこの魔法の狙い。


男「悪いけど、予想通りだ……全部なっ!」

戦士「……!?」


勇者の口もとのはしが釣り上がる。獲物が網にかかったことを喜ぶ狩人のようだった。ようやく戦士は自分の間違いを知った。
投げの構えをとっていたはずの勇者は、気づけば刺突の構えをしてそこまで迫っていた。


戦士(フェイク!?)


投げの構えは見せかけなだけだった。
彼の手に目がけて放った火球は、魔力の剣に当たって消滅した。足もとを狙った火を無視して、勇者は突き進んで――


戦士「くっ……!」

魔法使い「勝負あり、ね」


勇者はその剣を戦士の首に当たる直前で止めた。剣に注がれた魔力が解かれていく。
わずかな時間でありながら、勇者の額にはたまの汗が浮いて輝いている。
勇者は剣を鞘にしまうと、得意げに言った。


男「……言ったろ? 本気でいくって」


戦士「素直に驚いたよ、勇者くん……」

僧侶「よく、あんな思い切ったことをしたな」

男「いやあ、僧侶とわかれて一人になったあとずっと考えていたんだ」

戦士「考えていたって、ボクに勝つ方法をかい?」

男「いや、自分のことを考えてて、次にパーティのみんなのことをずっと考えてた」

僧侶「どうして?」

男「最初はさ、自分のことをほとんど知らないから、自分について考えてたんだ。でも、そうしてるうちにお前らのことも全然知らないことに気づいてさ。
  だから、なにかわかることはないかって考えてた。それで、オレがわかるみんなのことは戦闘のことだ。
  というか、オレ自身が戦闘のことしかわからなかった」

戦士「でも、それがどうボクのリベンジに結びつくんだい?」

男「んー、なんていうか、考えて考えて、その考えの結果って感じだな。
  オレが考えた結果が正しいのか、知りたかった」



男「戦士とは一番手合わせしていたし、僧侶からオレが暴走したときのことも、戦士が帰ってくる前に聞いてたんだ」

僧侶「いったいなんで私に、あのときのことを聞いたのかと思ったがこういうことだったんだな」

男「うん。暴走したオレ相手でも、本気で殺そうとはしなかった……そのことを聞いたときに確信したよ。
  模擬戦でも、戦士は呪文を牽制にしか使わなかった。
  だから、オレがむやみやたらに突っ込んだとしても、確実に攻撃は当たらないだろうなってさ」

戦士「……ボクの性格を考えた上での、戦法だったわけか」

戦士(戦略を考える上で、敵の性格を考慮するのは基本中の基本だ。
   もっとも勇者くんの場合は、仲間であるボクだからこそとれた戦略、か)

男「まあ、こんなインチキみたいなやり方で勝ったと言うのは、ちょっと卑怯だけど。でも、オレにしちゃあ上出来だろ?」

戦士「そうだね、『ボクの油断』を見事についたイイ作戦だったよ」

僧侶「そうだな。どういう形であれ、戦士は負けたわけだからな」

戦士「……まあね」



戦士「で? 結局、勇者くんはなんのためにこんなことをしたんだっけ?」

男「いや、なんて言うのかな? 心を通わせるには、こういう風に全力でぶつかるのが一番だって聞いたからさ」

戦士(……経験もなければ、記憶もない。そんな勇者くんなりの歩み寄り方ってわけか)

男「オレは作られた偽物だ。だから……」

僧侶「だから、なんだ?」

男「……わからない。いや、なんとなく自分がダメな存在だっていうことはわかる」

戦士「なんとなくなんだろ? 絶対にダメってわけじゃないんでしょ、キミの存在」

男「……それは、わからない」

戦士「だったらいいじゃん。なんとなく程度のダメな存在なら。絶対にダメじゃないなら、ボクがキミとこうして一緒にいる理由に十分になるさ」

僧侶「私も前にも言った。お前を助けたいと思って、お前を助けたこともあるし。
   助けられたこともある。そういう意味じゃあ、私にとっての勇者はお前だ」



男「……そ、そうなのか」

僧侶「魔法使いはどうだ?」

魔法使い「……あなたは、危険な存在」

男「……うん」

魔法使い「内に秘めた力を、暴走させればすべてのものを、不幸にするだけの力があるかもしれない。でも……。
     それだけ危険な力を暴走させながら、それを最後に制御できたのは、他でもない。あなたの強い意思」

男「魔法使い……」

魔法使い「私はそんなあなたの強い意思を、信じたい」


戦士「なにより、ボクたちはパーティだ。ボクはこのパーティ、まあまあいいと思うよ。
   急遽集められた、言ってしまえば単なる寄せ集め集団だけどさ」

僧侶「妙に上から目線なのが気になるが。でも、同意だ。私たちはこの数日間だけで、いくつかのピンチを乗り越えることをしている」

魔法使い「……うん、悪くない」

男「……みんな」

戦士「きちんと言っておくよ。僧侶ちゃんや、魔法使いちゃん、そして……勇者くん。
   ボクは任務が終わるまでは、このパーティで頑張っていきたい。そう思っている」

僧侶「そうだな。私も同じだ」

魔法使い「うん」

男「……」

僧侶「どうした?」

男「……なんか、すごく変な感じなんだ。なんだろ、この感覚。嬉しいとかそういうのに似た感じなんだけど」



魔法使い(植え付けられた記憶は、やはり不完全。それゆえに、幼少期から段階を踏んで経験から感情を学ぶのとはちがう。
     自分の感情の発露に戸惑うことが多々ある、か)

戦士「おやおや、もしかして勇者くんは感動してるんじゃないの?」

男「感動……ってこういうことなのか? ああ、でも、なんかそういうのなのかな、この感覚は」

戦士「まあ、これからもよろしく頼むよ」

男「戦士……おう! こっちこそ、これからもよろしく頼む、みんな!」

魔法使い「……よろしく」

僧侶「うん、これからもこのパーティでがんばっていこう」


……………………………………………………………



三日後


男(そういえば、この三日間で結局あの子に会うことはなかったな。
  情報屋だから、あそこまで国の事情や秘密に詳しかったのか……)

男「色々と気になるんだけどな、あの子の言っていたこと」

男(……目が疲れてるみたいだな。なんだか眠りも浅いし、こういうのは感情が昂ぶってたりするからなのかな)

僧侶『勇者、入っていいか?』

男「おう、入っていいよ」

僧侶「おはよう」

男「うん、おはよう」

僧侶「明かりがついてたから来たんだが、ずいぶんと早くから起きてるんだな」

男「んー、まあな。でも、僧侶はもっと早くから起きてたんだろ?」




僧侶「私の場合は、その分だけ先に寝ているからな。それにこの早起きは習慣だからな。
   お前の場合、あまり眠れてないんじゃないか? 昨日も夜、遅かったらしいし早く起きてただろ?」

男「なんでか知らないけど、寝てもすぐ目が覚めちゃうんだよな。まあ、でも寝てはいるし大丈夫だよ」

僧侶「私が選んだ本、読んでたのか?」

男「うん。本、これを読むと色々とわかるんだな」

僧侶「まあ、そういうものだからな。本というものは」

僧侶(ちがう、勇者にとってはそんな私たちにとって当たり前のことさえも、当たり前じゃなくなるのか)

男「記憶としてはわかってるし覚えてるのにな。
  不思議だな、こうやって体験することで、ようやく記憶に自信……っていうか、まあそんな感じのものを感じられる」

僧侶「そうか。だけど少し、今詰めて読みすぎな気がしないでもないけどな」

男「そうかな?」

僧侶「時間があったら剣技についての鍛錬をするか、読書をするか、それしかしてなくないか?」




男「たしかにな。なんか焦ってんのかな?」

僧侶「焦ってる?」

男「自分でもわからないんだ。ただ、オレは誰よりもなにも知らない。だからさ、がんばろうかなと思ってさ」

僧侶「……そうか」

男「昨日も夜に、魔法使いから魔力の効率のいい使い方を聞いてたんだ。あいつの話を聞いて、自分の知識のなさに驚いたよ」

僧侶「魔法使いは魔力や魔物に関して、並の人間より精通しているからな」

男「うん。知識は実践経験と同じぐらい大切なんだって思ったんだ」

僧侶「だから、今も本を読んでたのか?」

男「んーまあ、それもあるのかもな」



僧侶「せっかくだ。先に朝ごはんを食べてしまおう」

男「……先に食べちゃうのか?」

僧侶「お腹すいてるだろ? それに読書や運動、とにかくなにかをするならその前に栄養をとっておくべきだ」

男「まあ、それもそうか」

僧侶「今日は私の新作料理を食べてもらいたい」

男「へー、それは楽しみだな。いったいどんな料理なんだ?」

僧侶「名前はまだ決めていない。よかったら食べたあとにでも決めてくれ」


…………………………………………………………



僧侶「で、どうだった?」

男「……正直に言っていいんだよな? 朝ごはんはおいしいよ」

僧侶「朝ごはん自体はたいしたものではないし、ここの遣いの者に教えてもらったものだ」

男「そういえば、遣いの人に朝ごはんだけは、わざわざ自分で作るように言ったんだよな」

僧侶「ああ。私の教会は人数が少ないからな。ほとんど毎日、食事は私が作ってる。こっちに来てもその習慣ぐらいは続けておきたかったんだ」

男「どうして?」

僧侶「そうやって継続的になんでもやっていないと、意思の弱い私は料理をすることをやめてしまうかもしれないからだ」

男「そんなことないと思うけどな。むしろ、なんかすげー頑固って感じがするのに」

僧侶「たぶん、お前が見ている私と、私が知っている私はちがうんだ。
   私は一番、私を信用していない。自分のことは自分が一番よくわかっている」

男「…………自分のことは自分が一番よくわかっている、か」


僧侶「……一番、付き合いが長いからな」

男「ん? どういうことだ?」

僧侶「なんでもだ」

男(……もしかして、オレに気をつかって冗談でも言ったのか?)

僧侶「話が脱線したな。新作料理の評価を私は聞きたいんだ」

男「えーっと、正直に言うぞ?」

僧侶「構わない。むしろ、こういうことは正直に言ってくれないと困る」

男「……すごく、まずい」

僧侶「……まあ、 そうだろうな」

男「え?」



僧侶「だが、そちらの人参料理はそこそこうまいと思うんだが、どうだった?」

男「ああ、これはなかなか食べやすいし、おいしかったと思う」

僧侶「前々から色々と試行錯誤していた料理なんだ。酢に塩や砂糖、そして細かく刻んだ人参を二日ほど漬けたものなんだ。
   ただそれだけだと、どうにも物足りなくてな。色々と考えた末に、にんにくを摩り下ろして一緒に漬けておいたんだが。
   これがなかなかによくてな。ぼやけてた味がパンチがきくようになった」

男(なんか料理のことを話してる僧侶は、すごい生き生きしてるように見えるな。これで、料理をしなくなるなんてことがあるのか?)

男「へー、よくわかんないけどこれはなかなかおいしかったよ。ただ……」

僧侶「こっちか?」

男「うん。なんだったんだ、このなんかよくわからない、煮込み料理は? なんか妙に赤いんだけど」

僧侶「赤いのはトマトだ。トマトは加熱した方が栄養価が上がるからな」



男「じゃあ、この謎の肉塊は?」

僧侶「いや、それは私にもわからない。遣いからもらったんだ。栄養価が高いらしい」

男「……なんか他にも色々と入ってるけど、この料理を僧侶は味見したのか?」

僧侶「当たり前だろう。料理をして味見をしない人間などいない。
   仮にいるとするなら、そいつは間違いなく料理が下手だろうな」

男「……じゃあ、これがおいしいわけがないってことぐらい、わかるよな?」

僧侶「もちろん。だから、私はおいしいかは聞かなかっただろう。私が聞きたいのは食べられるかどうかだからな」

男「食べれると言えば食べれる。でも、食べないですむなら、食べたくない。そんな味だ」

僧侶「やっぱりそうなのか」

男「なんでこんなまずいものを食わせたんだ?」


僧侶「この料理はたしかに間違いなく美味しくないが、でも、確実に栄養価は高いからだ」

男「そうなのか?」

僧侶「そもそもこの料理は、うまいものを作ろうと思って作ったわけじゃないからな。
   栄養がきちんと摂取できる料理、それが今回のテーマだ」

男「まあ、理由はわかったけど、もう少し味はなんとかならなかったのか?」

僧侶「……数年前に世界各地を歴訪してきた元軍人の方が教会を訪れたことがあった」

男「なんの話だ?」

僧侶「まあ聞いてくれ。そのとき、その人と話したんだが、野戦食の話になってな。彼らにとって、食糧というのはなかなか重要な課題らしい。
   大量かつ保存もきき、衛生面の安全も確保する野戦食というのは、なかなかできないらしい。なにより、味は最悪そのものだそうだ」

男「うん……」

僧侶「その人から聞いた野戦食で、もっともまずい代わりに一番栄養価の高いというもの……それを参考にしたのがこの料理だ」

男「なるほど、まずいわけだ」



僧侶「その人が言ってたんだ、野戦食はまずいが栄養はそこそことれる。むしろ、まずいほど栄養が確保できる、と。
   その彼の話を聞いてから、私の料理の持論は『栄養価が高い料理はまずい』になった」

男「なんか暴論なような気がするぞ」

僧侶「暴論と言えば暴論だが、言った人が言った人なだけに、含蓄のある言葉になんじゃないか。
   その話を聞いてから、私も日持ちする料理を考えるようになった。特に野菜の類なんかだな」

男「酢に漬けたりしておくと、長持ちするのか?」

僧侶「ああ。だいぶちがうな。塩揉みとかでもいいんだが」

男「なるほどな。まあでも、そうだな……」

僧侶「なんだ?」

男「オレも料理を覚えようかなってちょっと思ったんだ。いつも僧侶に作ってもらってばかりだし」

僧侶「それは私が進んでやってることだからだ。気にしなくていい」



男「まあ、そうなんだけどさ。いずれは魔界を出るだろ?」

僧侶「そうだな」

男「そうしたら、ご飯のことで僧侶に頼ることはできない。自分で作らなきゃいけないだろ?
  だから、自分でも作れるようになるべきかな、ってさ」

僧侶「……」

男「それにこの三日間は、メシも腹六分目までって戦士に言われてるから、この任務が終わったら、たらふくご飯くいたいしな」

僧侶「ささやかだけど、いい目標だな」

男「今までご飯作ってくれたお礼に、僧侶には真っ先にオレの作ったのをご馳走するぜ」

僧侶「ふっ……楽しみにしてるよ」

男「なんで今ちょっとだけ笑ったんだよ?」

僧侶「べつに、気にするな。楽しみがひとつ増えた、それだけのことだから」

僧侶(そうだ、私たちは帰るんだ。任務を終えたら自分たちの国へ。そして……)


……………………………………………………



男(さて、ご飯も食べ終わったし、とりあえず、まだ寝てるだろう魔法使いを起こしに行くかな)

男「魔法使いの部屋はどこだっけ? 本当にここの屋敷広いよなあ。迷いそうになるな……ん?」

男(なんだ、この感覚……)

魔法使い「私なら、ここ」

男「のわあっ!?」

魔法使い「相変わらず大きいリアクション」

男「そ、そりゃあリアクションも大きくなるだろ!? どうやって背後から突然現れた!?」

魔法使い「……まだ秘密」

男「ん、ていうか起きてたんだな」

魔法使い「さっき目が覚めたところ。とりあえず部屋まで、来て」

男「……なんでだよ?」

魔法使い「寝巻き、だから」


…………………………………………………



男(起きてすぐに、部屋を抜けたのか……いや、なんらかの魔法を使ったのか、よくわからないけど。
  起きてから着替えもせずに、オレを驚かせに来たせいで、着替えてなかったらしい)

魔法使い「お待たせ」

男「えっと、入っていいのか?」

魔法使い「……うん」

男「おジャマします……カーテン、開けないのか?」

魔法使い「……開ける」

男(なんかいつにも増して、しゃべり方がゆったりしてるな。寝起きだからか……テーブルに空き瓶があるけど、これって酒だよな)

男「昨日、酒飲んでたのか?」

魔法使い「飲んでた」



魔法使い「飲酒は彼から禁止はされていない。自分が飲める量はきちんと把握している。アルコール分解の魔法もあるから、問題ない」

男「……そうか。それで、なんでわざわざ部屋まで連れてきたんだ?」

魔法使い「言いたいことがあった」

男「言いたいこと?」

魔法使い「……うまく言葉にできない」

男「は?」

魔法使い「……このことについては、また、今度。それよりこれを……」

男「これって魔具だっけ? 魔力が込められてるっていう道具で、たしか、ケンタウロスと戦ったときにも使ったよな?」

魔法使い「そう。これはあのとき使ったものとは、べつ。使い方は、あとで三人にも教える」

男「ありがと、助かる」


魔法使い「……」

男「……ん」

魔法使い「……」

男「あー、そういえばさ、魔法使いは酒を飲むのが好きなんだよな?」

魔法使い「そう、だけど」

男「どんなときに酒を飲みたくなるんだ? 前から少し気になってたんだ」

魔法使い「……飲みたい、と思ったとき」

男「いや、その飲みたいって思うきっかけをオレは知りたいんだよ」

魔法使い「……いやなことがあったとき、基本的には」



男「そういえば、酒は気分を高揚させてくれるんだってな。飲んだけど、オレにはよくわかんなかった」

魔法使い「他にも、ある。人と本音で話したいときとか……」

男「魔法使いの場合は、お酒飲むと別人みたいになるもんな」

魔法使い「……自分でも、変っていうのは、わかってる」

男「……そうだな、きっと変なんだよな」

魔法使い「……」

男「……あ、ごめん」

魔法使い「……事実だから、いい」




男「戦士に言われたけど、もっとオレはクールになったほうがいいらしいな。なんか、女にはその方がいいとか」

魔法使い「……意味、わかってる?」

男「……たぶん。一応、わかってるつもり」

魔法使い「彼の言ってることは、間違ってない。でも、今は必要のないこと」

男「そうなのか? てっきり、魔法使いとか僧侶とかも女だから、パーティについての話なのかなと思ったんだけどな」

魔法使い「……」

男「あれ? もしかして今、笑ったか?」

魔法使い「……気のせい」

男「……ホントにか?」

魔法使い「……ん」



魔法使い「……お酒の話」

男「え?」

魔法使い「……なんでお酒を飲むのか、って話」

男「おう」

魔法使い「みんなで酒を飲むのは、楽しい」

男「そういえば、まだ全員では酒を飲みに行ったことはないんだよな」

魔法使い「……だから、すべてのことが終わったら……」

男「そうだな」

魔法使い「飲みに行きましょう」



…………………………………………………………



男(さて、と。まだ戦士には会ってないな。戦士のヤツ、まだ寝てんのか?
   昨日も帰ってくるの遅かったみたいだしな……って、テラスにいた)

男「……なにやってんだろ、戦士のやつ」

男(紙になんか色々と書いてるみたいだな。なんか、あーでもないこーでもないと、唸ってるようにも見えるな。
  ……あ、紙をぐちゃぐちゃにしちゃった。ちょっと覗いてみるか)


戦士「……ふーむ、なんだか台詞回しがおかしい気がするなあ。うーん……」

男「……」

男(なんか殴り書きしてるけど、なんだこれ……)

戦士「……勇者くん。盗み見とはずいぶんとお行儀が悪いんじゃない?」

男「気づいていたのか……べつに盗み見するつもりはあったけど……なにやってるんだ?」

戦士「息抜きに今度の脚本を書いてるのさ」



男「脚本? 脚本って劇の物語のシナリオとかのことだよな?」

戦士「ボクの父が買い取った小さな劇場があるんだけど、そこで月一で演劇を披露して、今はそこの劇場はボクのものになっている」

男「お前が演技したりするのか?」

戦士「ボクは監督兼脚本家だよ。仕事の合間をぬって、趣味でやってるんだ。なかなか面白いんだ」

男「よくわかんないけど、とにかくなんか劇のシナリオを書いてたってことなんだよな?」

戦士「報告書を書くのに疲れたからね。使われてる兵器や、人材、その人材の育成やらまあとにかく色々レポートがあってね」

男「すっかり忘れかけてたけど、本当はこの国の技術がどんなもんか見極めるのが、目的だったんだよな」

戦士「より正確に言えば、契約を結んで魔界の技術者たちをうちの国で雇うのが、密使であるボクらの本来与えられた任務だった」

男「そうなんだよな。色々とありすぎて本来の目的を忘れてたな」

戦士「さすがだね、勇者くん」




戦士(勇者くん以外のメンバーにはなにかしらの報告書を書く義務が与えらているんだけど、それを言う必要はないか)

戦士「まあ、以前の君主は酷くてね、お雇い外国人を連れてくるだけ連れてきて、技術を自国の技術者たちに習得させようとはしなかった。
   そのせいで、お雇い外国人や他国の雇用者が離反したときには痛い目を見ることになった。
   さすがに陛下は、そんな二の舞を演じたりすることはないだろうけど」

男「…………なるほど」

戦士(勇者くんはここのところ、人が話しているときに、その言葉を吟味するかのように考え込むことが増えたな……。
   知識のなさを少しでも考えて補おうとしてる、そういうことなのかな)

男「ところで、いったいどんな話を書いてるんだ?」

戦士「残念ながらこれはオフレコなのさ。まだ世に出ていない、ボクの作品だからね」

男(気になると言えば気になるけど、まあいっか)



戦士「そういえば勇者くん、キミには趣味とかはないのかい?」

男「趣味か? うーん、特にはないと思うな」

戦士「だったらなにか見つけたらどうだい? 趣味とかやりたいことがないって、なかなか悲しいことだと思うよ。
   ボクにとって、人生の価値っていうのは限られた時間の中でどれだけ好きなことを見つけ、それをやれるかってことだと思ってる」

男「……やりたいことを見つける」

戦士「ボクの場合はやりたいことが多すぎて、時間が足りないぐらいなんだけどね」

男「多趣味ってやつか。なんとなくだけど羨ましいな」

戦士「もっとも趣味だからって、なんでもやっていいってわけでもないしね。特にいわゆる芸術なんて種類のものはそうだ。
   父にも言われたんだ、演劇などがいったいなんの役に立つのかってね」

男「はあ……」

戦士「もちろん、理屈を詰めて反論することはできたよ。
   演劇における演技が実は非常に実用性があり、かつ、様々なことに活かせるということについて、語ろうと思えばいくらでも語れたさ」



戦士「まあ、とは言っても結局は趣味の話で、究極的には自分のやりたいことをやりたいようにしているだけだからね。
   好きという理由に理屈をつけて、うだうだ語るのもアホらしいと思って結局やめたのだけどね」

男「……なんの話をしてるんだ?」

戦士「ああ……ごめんよ勇者くん。ついついこの手の話には熱くなってしまうんだ、悪い癖だ」

男「なんか意外だな」

戦士「なにがだい?」

男「だって、お前はこの前もオレに向かって男はクールであるべきとか言ってたじゃん。
  だから、そういうふうなことを言い出すとは思わなかったんだよ」

戦士「おやおや。ボクとしたことが……そうだね、いささか熱くなってしまったね。
   でもさあ、勇者くん。たしかにボクはそんなことは言ったけど常にクールなんてヤツはたいていつまらない人間だよ」

男「そうなのか?」

戦士「普段はクールに、けれども好きなことには熱く。これこそがボクのモットーなのさ」

男「なるほどなあ」




戦士「どうせ、人生の中で好きなことができる時間なんて、やりたくないことをやる時間より遥かに短いんだからさ。
   だったら、好きなことや、やりたいと思うことはできるときにやるべきだ」

男「オレにもやりたいこと、見つかるのかな」

戦士「さあね、やりたいことや好きなことなんて、人それぞれだ。漠然と人生を終わらせてしまう人だっているだろうね」

男「……なんか、それは悲しいな」

戦士「ボクもそう思うよ。で、キミもそう思うなら探しなよ」

男「なにを探すんだよ?」

戦士「決まってるだろ? やりたいことだよ」

男「やりたいこと、か。なんなんだろうな、いったい。ていうか、そもそもオレがオレ自身のことをわかってないのにそんな、やりたいことだなんて……」

戦士「関係ないでしょ、それは」



男「関係ないのか? オレはまず自分のことを知って、それから……」

戦士「そんな悠長なことを言っていると、あっという間に人生が終わるよ。
   いいじゃん、べつに。キミがどんなヤツだろうと、好きなことを見つけるのには関係ないだろ?」

男「なんかてきとうに言ってないか?」

戦士「そんなことはないよ。まあ、そういう風に聞こえるかもしれないけどさ。
   好きなこともやりたいことも見つけられない、もしくはあってもなにもできないまま、死んでいった人をボクは色々と見てきた。
   ボクなんかがどう言おうが、最終的に決めるのは勇者くんだ。」

男「……そうだな」

戦士「いいじゃん。色んなことをどんどんやっていけば。そうすればそのうち、色々と見えてくるよ。きっと」

男「……そうだな。さっさと任務終わらせて、趣味を探す旅にでも出ようかな」

戦士「自分探しの旅に似てるね。まあ、とにかくまずは目の前の課題を潰さないとね」

男「おう」



……………………………………………………


二日後


戦士「さて、とりあえず最終調整としてはこんなものかな」

男「……っいてて、容赦無くやってくれたな、戦士」

戦士「悪いね。油断すると負けてしまうということが判明したからね。
   手合わせとは言え、ボクを一度は屈服させたキミ相手に手加減や油断なんてとんでもないと思って本気でやらせてもらった次第だよ」

男「へっ、まあそういうことなら、気分は悪くないかな」

僧侶「まったく、これから敵陣に乗り込むというのに、ずいぶんと余裕だな、二人とも。
   手合わせでケガでもしたらどうするつもりなんだ?」

魔法使い「彼女の言う通り」

戦士「そうだね。今後は気をつけるよ」

僧侶「戦士、魔法使い。二人はこれから……」

戦士「そう、当初の打ち合わせ通り、ボクたちは公爵閣下の屋敷を訪問しに行くよ。勇者くん、わかってるだろうけど、常に気を張って待っててよ。
   あと、エルフさんにも……ってまあ、そっちの準備は大丈夫か」

男「きっちりオレと僧侶は待機してるし、あっちも準備はすでにできてるみたいだ」

戦士「じゃあ、行ってくるよ」

男「ああ、頼んだ」



…………………………………………………………



ハルピュイア「毎度、ご足労を煩わせて申し訳ないな」

戦士「こちらこそご多忙にも関わりませず、こうして謁見を賜る機会をいただけたこと、感謝いたします」

魔法使い「……」

ハルピュイア「どうした? えらくカタイな。もう少しラクにしてくれたほうが私としては話しやすいのだが」

戦士「そうですか? それではお言葉に甘えてもう少しらくーに話させてもらいますよ」

ハルピュイア「構わん。しかし、急遽私のもとを訪ねてきたがいったい全体なんの用だ?」

戦士「こうしてわざわざ閣下のもとを訪ねてきたのにはわけがありまして。
   実は気になることがありましてね、それについて聞きたくて……」

ハルピュイア「回りくどいな。さっさと話せ。私も暇ではない」



戦士「すみませんね、回りくどい性分なもんで。公爵閣下、我々とあなたは本来であればもっと早く邂逅をすませているはずでした」

ハルピュイア「そうだな。だが、結果としてこちらの魔方陣の不備によって、そなたらは当初の予定地点とはまったく違うポイントに着くことになってしまった」

戦士「勘違いしないでくださいね、べつにそのことを今さら詰ろうなどという気は、毛頭ないですよ。
   しかし、本来なら我々は閣下を介して魔王……国王との謁見を実現するはずでした」

ハルピュイア「だから、言っておるだろうが。こちらの不備によってそれは叶わなかったと」

戦士「さらに、魔界での滞在期間中は、我々は閣下の屋敷でお世話になるって聞いてたんですけどね。
   エルフ殿、つまら伯爵閣下のもとでお世話になることになりました」

ハルピュイア「そなたらも知っておるだろう、国王陛下が不在であることは。それゆえ、私がそなたらの面倒を見る余裕がなかったのだ」

戦士「なるほど、わかりました。しかし、本当にそうなんですかね?」

ハルピュイア「……なにが言いたい?」

戦士「実は空いてる時間を利用して、閣下について調べているうちに、さらにあることが判明しました。
   例の牢獄にある研究機関、あれの最高責任者が閣下であるということがわかったんですよ」



戦士「さて、ここでボクらの最初の魔界にたどり着いた状況を振り返ってみ ましょうか。
   街から離れた港、そしてゴブリンとオークに囲まれた状態」

ハルピュイア「その話も聞いた。だが、それがいったい私とどう関係があるというのだ?」

戦士「そろそろダラダラ語るのもめんどくさくなってきましたね。
   あとは謎を解く要素だけを並べてみましょう、そうすれば自ずと答えが顔を出すはずです」

ハルピュイア「……」

戦士「到着地点を変えられた魔方陣。
   そして、到着と同時に現れた魔物たち。
   あの日、ボクらが魔方陣を使うことを知っていた人物は誰か……おやおや、これはいったいどういうことなんでしょうか?」

ハルピュイア「言いたいことはそれだけか?」

戦士「まだあるんですよ。魔界常備軍03小隊隊長のリザードマン。
   彼の殺害の容疑がかかっている、ボクらと同じようにこの魔界へ来た例の赤いローブの一味。
   その連中とボクらは何度か交戦をしているんですが、魔物を引き連れていた」

ハルピュイア「……」

戦士「しかし、いったいそれはどこから連れて来たんでしょうか? ケンタウロスや、ましてケルベロスなんて大型の魔物を引き連れていたら、間違いなく目立つでしょう?
   自国から魔方陣を使って連れてこようにも、魔方陣は魔法使いが破壊してしまっている」

魔法使い「……」



戦士「そうなると、魔物を連れてくる方法はただ一つ。こちら側で調達する、それしかない。
   しかし、ゴブリンやオークも含めて、あれほど戦闘に特化した魔物だけをいったいどうやって調達するか」

ハルピュイア「ふっ、つくづく回りくどいな」

戦士「魔物の研究機関の最高責任者である閣下なら、簡単にヤツらに横流しできますよね?
   あの魔物たちをヤツらによこし、勅使であるボクらを殺す……そうすることでいったいどうなるか。
   なにが目的なのかはだいたい検討はつきます。わざわざ比較的平和主義である、現魔王の不在を狙ってこんなことをするあたりからもね」

ハルピュイア「で、わざわざ私の屋敷にまで出向いて、どうするつもりだ? 殺されにでも来たのか?」

戦士「答える義理はないね。
   魔法使い、準備はオーケーかな?」

魔法使い「……時間稼ぎ、ありがと」

ハルピュイア「……ふっ、なにをコソコソと話しているのかは知らんが、そなたらを帰すことはできなくなった」

戦士「……なるほど、これはこれは。なかなかヤバそうな魔物だね」

魔法使い「……この、魔物はいったい……?」

ハルピュイア「泥や土といった無機物から生み出した巨人型の魔物、ゴーレムだ!」



魔法使い「ゴーレム……」

戦士「まったく、本当に魔界っていうのは恐ろしいところだね。こんな化物を産み落とすなんてさ」

ハルピュイア「愚かだな。あんな風に長広舌をふるっている暇があるなら、さっさと私を殺しにかかるべきだったな」

戦士「たしかに、と言いたいところだけどおそらく、そうしていても、ボクにとって都合の良い展開へと運ぶことはできなかっただろうね」

ハルピュイア「なら、なおさら愚かだな。他にもやりようはあったはずなのにな」

戦士「はあ……ボクはこれでも脚本家なんだよ? 物語の展開をいかに運ぶかを考えるかが、ボクの仕事だ」

ハルピュイア「まだ、減らず口を叩くか。ならば……」

戦士「個人的にはもう少し引っ張りたかったんだけど、まあいいか。魔法使い――頼んだよ!」

魔法使い「りょうかい」

ハルピュイア「なっ……これは、魔方陣!? いつの間にこんなものを仕込んでいたんだ!?」



いつの間にか床に仕込まれた魔方陣が光り輝く。
真っ白な光。空間を包む輝きが終わるとともに、二つの人影が浮かび上がってくる。



勇者と僧侶が、魔方陣の中心に背中合わせで現れた。



僧侶「ようやく私たちの出番……か」

戦士「いやあ、遅くなって申し訳ないね。予想外に時間を喰ってしまったよ」

男「まあ、なにはともあれ、さっさと終わらせるぞ」

魔法使い「……かまえて」

ハルピュイア「なるほど。長ったらしい語りは無駄ではなかった、ということか」

戦士「さて、ボクたち勇者パーティの実力、ここで披露させてもらおうか」



今日はここまで

ようやくストーリーが動き出して来た

少しだけ再開



男「これがハルピュイア、まるで鳥人間だな」

ハルピュイア「ふっ……おぬしが例の勇者か」

魔法使い(限りなく人間に近い容姿をした魔物……魔界に来るまでは、私も見たことはなかった。
     ハルピュイアの亜種である、ハーピーなら確認されるようになったけど、それすらも数は多くない)

戦士「勇者くん、公爵のことは意識をしつつも、今は目の前のゴーレムだよ」

僧侶「私と勇者で前衛をやる……いくぞっ!」

男「後方支援は頼んだぞ!」


勇者は軽く息を吸った。外気を吸うと同時に自身の魔力を高めていく。剣の刀身へと魔力を滾らせる。
ゴーレムが低い唸り声をあげる。土と泥で構成される巨体は軽く見積もっても、勇者二人分の高さがある。

この広い空間でさえも、三体のゴーレムのせいで狭く思えた。


ゴーレム三体が同時に動き出す。見た目に反して、素早い動き。
ゴーレムの一体が勇者へと振り上げた拳を振り落とす。なんとか避ける。泥の拳が地面へと叩きつけられる。
それだけで、立っていられないほどの衝撃が起きた。なんとか体勢を整え、その拳目がけて剣を振り下ろす。甲高い音。


男「……っ! カタイっ!」


刃が文字通り、歯が立たなかった。魔力を込めたにも関わらず、剣はあっさりと弾き返された。


僧侶「させるかっ!」


僧侶がゴーレムの拳をかわし、高く跳ぶ。魔力を増幅させやすい素材でできたブーツ。
それに魔力が行き渡ったのが、勇者にも確認できた。だが、その跳躍をもってしても高さが足りない。


男「僧侶……っ!」


勇者の心配は杞憂に終わった。僧侶は起用にゴーレムの顔を蹴り、背後へと回る。
華麗に地面に着地。拳を容赦なく叩き込む。あのゴーレムの巨体が背後からの衝撃でたたらを踏んだ。

だが、致命傷には程遠い。





僧侶「拳では致命傷にならないか」

男「こいつらめちゃくちゃカタいぞ……」


拳や剣では到底ダメージを与えられない。自分たちの役割がだいたい見えてきた、と思ったときだった。


戦士「じゃあ、試しにボクがやってみようかな」


青い巨大な火の塊が、宙空に現れる。魔力の塊はそのままどんどん膨張し、四散した。三体のゴーレムへと直撃する。
ゴーレムの低い唸り声が、鼓膜を震わせる。だが、ダメージを食らっているようにはとうてい見えない。


僧侶「いや、これは……!」


僧侶の拳が真っ赤に燃え盛る。ゴーレムの拳をかいくぐる。再び跳躍。炎の拳を胴体に直撃させる。
素早く飛び退き、僧侶は距離をとる。


僧侶「やはり、か」

戦士「……なるほど、そういうことか」

男「なにが、やっぱりなんだ?」


戦士「勇者くん、今ボクの炎と……」

僧侶「私の『ほのおのパンチ』が直撃したところを見てみろ」

男「あっ……」


勇者もそこでようやく気づいた。ゴーレムを見れば、すぐわかることだった。
二人の火に当たった部分は見事にただれたかのように、どす黒い泥が剥がれて、赤黒い肌のようなものを窺わせた。


男「こいつら、火に弱い!」

戦士「そのとおり!」

魔法使い「例のものをつかって」

男「言われなくても!」


魔法使いが次々と水弾を生成して、ゴーレムを牽制していく。地面が水で満たされてなお、攻撃を続ける。



僧侶が地面へと拳を打ち込む。衝撃波とともに地面から突起が生え、足もとからゴーレムを攻撃する。
なまじ上背がありすぎる分、足もとの攻撃はそこそこに効果があるようだった。
徐々にゴーレムたちを一角に追い詰めて行く。ふと、勇者は屋敷の主に視線を移した。


ハルピュイア「……」


魔物……否、本人たちは魔族と言っていたか……はひたすらこの戦いを観戦しているだけだった。
だが、ハルピュイアからは確かな魔力を感じた。だが、いったいなにに使っているというのか?


戦士「勇者くん! とりあえず今はゴーレムに集中だっ!」


戦士も気にはしていたらしい。が、彼がそう言うなら、そうするべきだろう。


魔法使い「いま……」


不意に空間の温度が急激に下がる。足もとの水がパリパリと音を立てて、凍りついていく。



戦士「僧侶ちゃん、頼んだよ!」

僧侶「任せてくれ!」


僧侶の拳から炎があがる。超高温の熱を放つ。放たれた炎はうねりのように広がりゴーレムを襲う。


戦士「勇者くん! 例のヤツおねがい!」

男「おうっ!」


戦士も魔法による炎を起こす。場所は、ゴーレム三体の中心。青い炎が渦のように湧き上がった。

急激に空間の温度が上昇。

そして、勇者は取り出した球体へと魔力を込める。すでに何度かお試しで何度か使ったことがあった。
練習時と同じように魔力を込め、全身全霊で投げる。
僧侶と戦士に続き、勇者も全速力で距離をとった。


魔法使い「――発動」


足もとの氷が勢いよくせり上がる。分厚い氷の壁だ。しかも、一つじゃない。
次々と氷の壁が作られていく。作りすぎなのでは……と、思ったが魔法使いの行動が正解だと、勇者が知ったのはその直後だった。




強烈な爆発が起きた。予想していたよりも遥かに強い衝撃が建物を揺らした。空間そのものが軋むかのようだった。
魔法使いが片っ端から氷壁作るが紙細工でも破るように瓦解して行く。
鼓膜を貫かれるのでは、と思えるほどの轟音に焦ったが、それは自分だけではなかった。戦士も僧侶もさすがに驚いたらしい。


僧侶「……なるほど。魔法使いが氷を作ったのはこのためか」

戦士「……そういうことか。急激な温度変化を利用したわけね」

魔法使い「そう」

男「えーと、どういうことだよ?」

戦士「まあ、それはまた暇なときに教えてあげるよ。
   それよりは今は、目の前の敵がどうなったかでしょ?」


魔法使いが作った氷は、爆発の衝撃で跡形もなく消え失せている。
煙が立ち込めているせいで、なにが起きているかわからなかった。
魔力の流れを感じて、勇者が目を細める。魔力の正体は風だった。煙を振り払うように現れた風の拳。
直感で勇者はその風が、ハルピュイアのものであると確信した。




視界を遮っていた煙から見えたのは、粉々に砕け散ったゴーレムだった。


戦士「……さすがにあの爆発で死なないわけはない、か」

ハルピュイア「ふっ……見事だな、人間」


ハルピュイアは片翼こそ、もがれていたがそれ以外はところどころ煤を浴びて黒ずんでいるだけで無事だった。


男「よくあの爆発で無事だったな……」

ハルピュイア「無事……? 無事なものか。魔術で無理やり治癒して、ようやくここまでだ」

戦士「あのさ、ボクらも鬼じゃないからさ。ここらで投降してくんないかな?」

ハルピュイア「人間相手に降伏か……私がこんなとこで終わるのか?
       国王がいない今こそ、私は死ぬわけにはいかないのに……本懐を遂げずして終われ、だと?」

男「アンタのしもべはやられた、残るのはアンタだけだ」

戦士「ついでに忠告すると、あなたの部下の大半はあなたを守りにはこないだろうね」

ハルピュイア「伯爵か……そなたらのことは監視はしていたが、しかしきっちり手回ししてくるとはな……」

戦士(伯爵がどのようにして部下を懐柔したかは、正確には知らないけど。まあ予想はつく)



男「そう。あのエルフさんの協力によってアンタの逃げ道はもうない」

僧侶「潔く諦めるんだな」

ハルピュイア「笑止。我らより遥かに生物として劣る人間に降伏? それなら最後まで見苦しく足掻く方が、数段マシというもの……」

戦士「魔族としての矜恃ってやつかい? まったく、命を捨ててまで守るものなのかなあ、そういうのって」

ハルピュイア「どうだかな。だが、私はまだ死なない。そしてこいつもまだ死んでいない」

魔法使い「……まずい」


最初に異常に気づいたのは魔法使いだった。
魔法陣に仕込んでいた転移用の術式とはべつの、もう一つの魔法陣の能力を発動させる。


魔法使い「雷を……」


言われてようやく僧侶も、原型をまるで成していないゴーレムだった土塊たちに、魔力が集まっていくのに気づく。
魔力を操っているのは無論、あの魔物だ。
僧侶は一瞬で魔力を電撃へと変換し、グローブを介して増幅させた。

魔法使いは魔法陣を展開する一方で、魔法による水弾を繰り出す。普通の魔法使いにはできない芸当だった。
狙いは術者であろうハルピュイア。
ハルピュイアは片翼をはためかせ、水を弾き返す。


僧侶「魔法陣に入れっ!」


パーティ全員で魔法陣へと飛び込む。地面を満たす水が集約する。一筋の川がハルピュイアに向かって伸びる。
それに向かって僧侶は雷の拳を放つ。魔法陣の光と雷の奔流が視界を空間を真っ白に染め上げた。


僧侶(術者本人を狙うなら、火よりも速い電撃。だが……)


手応えを感じなかった。光が淡いものになっていく。


男「つ、土の壁……?」


電流を魔法のように現れた、巨大な土の壁が遮断していた。
ただ、でかいだけではない。極端に分厚いのだ。だが、いったいどこからこんなものを出したというのか。


ハルピュイア「攻撃のバリエーションが意外と多くて焦ったよ。つくづく、こいつを開発しておいてよかった、そう思うよ」


言葉とは裏腹に口調にはまるで焦りなどなかった。
タクトでも降るかのように魔物は、手を掲げた。
土の塊が崩壊していく……ように見えたが、ちがった。土塊だったものはその姿を変えて、先ほどよりもさらに巨大なゴーレムへと変貌する。


男「あの壁はゴーレムだったのか……」

戦士「……たくっ、これはまたずいぶんと大きくなったものだね」


すでに戦士は魔法で巨大な青火を出現させている。ゴーレムに炎が直撃。


ハルピュイア「ふっ……なかなか手が早いな。ただ、す同じことを繰り返すことほど愚かなことはない。
       これは戦いに限った話ではないが……」


ゴーレムの腕に火炎球は直撃したものの、腕はあっという間に原型を取り戻している。
明らかに先ほどのゴーレム三体より強い。


男「だったらもう一度、さっきと同じように……」

ハルピュイア「やるというのか?」

僧侶「攻略の術をすでに知ってるからな」

ハルピュイア「……ならば、その攻略手段をさせる気すら起こさせないようにしてくれよう」



魔法使い(魔力が流れている……足もと……いや、天井……ちがう、これは……この空間のすべて…………)


魔力の激しい流れがどこから起きているのか、それを知った瞬間、魔法使いの無表情が凍りつく。


男「な、なんだこれは!?」


ゴーレムの足はいつの間にか、地面と一体化している。
まるで植物が根から栄養を吸収するかのように、足もとから魔力を吸い上げていく。
ゴーレムの巨体は馬鹿みたいに高い天井に、頭がつくほどまでに大きくなっていた。


魔法使い(あの爆発でもこの空間は、無事だった。それは、この空間一帯に、魔力が仕組まれていたから。
     今の魔力の流れで魔法陣もかき消された……)


戦士が連続で炎を放つが、まるで効いていない。


戦士「でかくなっただけでなく、カタさも見事なものみたいだね」

男「反則だろ、こんなの……」

僧侶「ゴーレムを狙うな、勇者。こうなったらゴーレムを操っているハルピュイアをやるしかない」

男「ああ……」



そうは言ったものの、ハルピュイアに攻撃が通ることはなかった。
それどころかゴーレムに傷を負わせることすら、満足にできない。しかもゴーレムの動きは、その巨体からは想像もつかないほど速い。
逃げるので手一杯だった。魔法使いがなんとか転移の魔法陣を展開しようとするも、守るので手一杯でその隙すら与えられない。


ハルピュイア「いずれはそなたらを殺すつもりだった。が、こうも早くに始末することになるとはな。もう少しそなたらの国の情報が欲しかったが……」


淡々とした口調でハルピュイアはそう言った。このままでは、あと十分もしないうちに本当に始末されてしまう。


男「……戦士、これってけっこうヤバイんじゃないか?」

戦士「今さら気づいたのかい?」

男「さっきまで、こんな強いヤツ出せるなら最初から出せよ、とか思ってたけど出されなくてよかったな」

戦士「同感だよ。あんな巨大ゴーレムが最初から出てきたら、やる気出なくなっちゃって、即死していたかもしれないよ」



僧侶「なに馬鹿なこと言ってるんだ。どうにかしないと……」

男「一つ、オレに案がある。この前、魔法使いに教えてもらった魔力の使い方なんだけど」

戦士「残念ながら説明を悠長に聞いてる暇はないよ、勇者くん」

男「なら……っと!?」

僧侶「言ってるそばから攻撃がくるな……」

戦士「攻略手段があるなら、実行してくれよ! できるかぎり手伝うからっ!」

男「頼む……!」

男(おそらく、やれるのは一回限り……一撃に集中するっ……)


状況は極めて悪かったが、絶望的だとは思えなかった。少なくとも勇者にとっては。
いや、戦士にしろ僧侶にしろ、魔法使いにしろ、彼らの闘志は消えていない。


男(こいつはデカい上に速い……けど、だんだん動きが目で追えるようになってきた)


横薙ぎの拳を、地面を滑るように避ける。間一髪、やはり余裕はない。
勇者と戦士、そして僧侶の三人がかりで土の魔物を攻撃する。魔法使いは魔法で後方支援。

勇者は攻撃をひたすらかわしつつ、ゴーレムの堂々たる巨躯を精一杯観察する。
だが、魔力だけでなく体力にも限界がある。さすがに動きすぎて、肺が酷使に悲鳴をあげそうになっていた。
時間がない。魔力も体力も尽きれば、なにもかもが終わる。
もはや決断するしかない……勇者は叫んだ。


男「三人とも! みぞおちだ! そこに攻撃……とおっ!?」


ゴーレムの拳が再び迫ってきて、勇者はなんとかこれをやり過ごす。


戦士「オーケー! みんないくよっ!」


三人の技が発動する。




ハルピュイア「やはり愚かだな、人間」


ハルピュイアは小さく独りごちた。なぜ、わざわざ攻撃をする箇所を叫ぶ必要があったのか。
それではこちらに、そこを防御してくれと言っているようなものだ。もはやそこまで気が回らないのかもしれない。

ゴーレムのその巨体すべてに魔力を回すことは、いくら魔族と言えども不可能。
だからこそ、最初にこの状態のゴーレムを出そうとはしなかった。しかし、この弱点は技量で埋められないものではない。
どうするか。常にゴーレムの身体に流れる魔力を移動させればいい。

敵の攻撃が来るタイミングに合わせて、自分が魔力をコントロールし集中させたり、四散させたりする。

勇者一行は宣言通り、ゴーレムのみぞおちを集中して攻撃してきた。
ならばそこに魔力を移動させる。ただ、それだけで簡単に攻撃をやり過ごすことができた。


ハルピュイア(ふっ……この程度か。そろそろ終わらせるか)


だが、そこで気づく。まだ今の攻撃で肝心の勇者が攻撃をしていないことに。


男「やっぱりな……」


自分と勇者の距離はかなりあるはずなのに、なぜかそのつぶやきは聞こえた。唇のはしが、なにかを確信したのかつり上がっていた。
刺突の構えとともに地面を蹴り、勇者はゴーレムの股関節部分へと跳んでいた。



男「やっぱりな……」


ここ何日間かの訓練でわかったことが、勇者にはあった。
自分は魔力の流れに鋭敏である、ということだ。
そして、戦っている最中に気づいたことがある。魔力がゴーレムの体内で絶えず移動しているということだ。

ならば、魔力の流れが薄い場所を狙えば……勇者は駆ける、賭ける。
魔力を集中させる。体力も限界が近い。この一撃にすべてを込める。
魔力を剣に注ぐ。刀身、否、剣の先端。本当に剣のわずかな部分だけに自身のすべての魔力を注ぎ込む。

なぜか、ゴーレムの魔力の流れが勇者には手に取るようにわかった。
三人の攻撃によりゴーレムの中の魔力の大半が、みぞおちに集まっていた。


男「そこだあああああああああっ!」


地面を蹴る。股関節部分、そこに目がけて剣を突き立てる。


男「……っ!!」


今まで一度も刺さらなかった剣が、たしかにゴーレムの肉体に刺さっていた。



剣先にのみ収斂していた魔力。それを勇者は解き放つイメージをする。
ほんのわずかだけ逡巡したが、勇者は最初に決めていたイメージを脳裏に描く。

突き抜けるイメージ。魔力を一筋の流れに変えて、剣のように放つ。
一秒あるかないかの時間の中で、勇者はその脳内の映像を現実へと変える。


男「っおおおおおおおおおっ!!」


なにかが裂ける音が聞こえた、と思った。魔力は確かな質量をもって見えない剣となり、ゴーレムを突き抜けた。


ハルピュイア「なっ……馬鹿なっ!?」


ゴーレムの股関節部分を突き抜け、剣の先端から放出された魔力が、魔族の身体へと吸い込まれる。
超高速の刃は、ハルピュイアの大腿部を肉体を切り裂いていた。


ハルピュイア「ぐっ……!!」


ハルピュイアの顔が苦痛にゆがむ。ゴーレムの動きが止まった。


ハルピュイア「な、なんだこの魔力は……!?」


単純な傷だけでなく、これを負わせた魔力がハルピュイアの体内の魔力をかき乱していく。
ゴーレムの制御ができない。これだけの巨大な質量をもち、かつ特別な魔物は、魔力がなければ制御できない。

ゴーレムが膝からくずおれる。腕や手、胴体など次々と身体のパーツが崩れ落ちた。
ゴーレムのすべてのパーツが煙をあげ泥と土へと還っていく。


男「や、やった……のか?」

戦士「お見事。でもまだ、終わってはいないよ」

魔法使い「ハルピュイアは、生きてる」

ハルピュイア「お、おのれ……人間の分際で……」

ハルピュイアが地面に手をつく。この広間を構成する魔力を吸い上げているのだ。

僧侶「まだやる気か」

ハルピュイア「私の野望を成し遂げる。そのためには、ここでやられるわけにはいかんのだ!」















「ごめんなさい、ハルピュイア。貴方のすべてはここで終わりよ」













凛とした声だった。決して声量があるわけではなかった。
しかし、この広すぎる空間に、その声は透き通る鐘の音のように響いた。

最初に気づいたのは戦士だった。ハルピュイアの背後の壁が突如、壊れた。
けぶの中から巨大な手が現れた。皮膚が剥がれ落ちたかのような、真っ赤なグロテスクな巨大な手。
人間一人より遥かに大きなその手がハルピュイアを握ったのだ。


ハルピュイア「かっ……!?」

 「私のいない間になにをしようとしたのかしら? いいえ、すでに伯爵によって調査は終わっている」

ハルピュイア「……ぐああぁっ……へ、へい、か……!?」


巨大な手が魔物を地面へと押しつける。断末魔の悲鳴。肉が潰れる悲鳴。
ハルピュイアという魔族は一瞬にして血と肉塊に成り果てた。



勇者パーティは突然起きたその現象に、ただ驚くことしかできなかった。
今しがたハルピュイアを圧砕した手は、勇者が瞬きをしたときには消えていた。


男「な、なんなんだ今のは……?」

エルフ「駆けつけるのが遅くなって申し訳ございません。少々他のゴーレムに手こずりましたわ」


突き破った壁から現れたのはエルフだった。
一瞬あの手がエルフのものだったのか、という考えがよぎった。
だが、勇者は本能的にその思考がちがうことに気づいていた。


僧侶「今のはいったいなんなんだ?」

 「私の『手』だよ」


僧侶の声に答えたのは、もう一つの声だった。そして、その声は先ほどハルピュイアへ死の宣告をした声だった。
エルフの背後に小柄な影が一つあった。


少女「やあ、お兄さんとお姉さん。久しぶりだね、って言うほど久しぶりでもないかな。
   いや、でもでも。元気そうでなによりだよ」

男「お前……」


情報屋の少女だった。だが、なぜ彼女がここに?


少女「おやおや? まるで私がここにいることが不思議みたいだね」


少女は無邪気に笑った。僧侶の顔が、なにかを思い出したように驚愕の表情を作る。
しかし、そのことについて聞こうとした勇者は、胸の内側でなにかが脈打つのを感じて口を閉じた。

この感覚は……この少女から感じる『なにか』にどこか、覚えがあった。
まるで鏡の中の自分に話しかけられたような、未知の感覚。
自分の中の一部か、あるいは全部が少女によって騒ついているようだった。


男(なんだ、この感覚は……いや、そうじゃない……)

男「お前は……何者なんだ……?」


無意識にそんな言葉が口をついた。少女は勇者へと向き直ると「私?」とにっこりと笑った。

少女は言った。












少女「私が魔王だよ」

今日はここまで

500いってしまった
みなさんありがとうごさまいます

意図的なのか、メタ視点による勇み足なのか
「私”が”魔王」とは、あの手の持ち主は誰なのか?(=誰が魔王なのか?)という疑問に対しては相応しいけど、
会話としてはあなたは誰ですか?との問いかけなので、その直の答えとしては違和感があるなぁ
とかいってますが、
本当に言いたいことは乙

繝励メ蜀埼幕



全員の表情が驚愕に凍りつく。


戦士「いやいや、なにを言ってるんだ? キミが魔王だなんて……」


戦士の言葉はそこで途切れた。


少女「なにかな? 私が魔王であることが、そんなにおかしいかな?」


少女の小さな唇は、相変わらず笑みの形を保っていた。
あどけなささえ感じさせる表情から、彼女が魔王であると思う者などいるはずがなかった。
しかし戦士の口を塞いだのは、まぎれもない少女の全身から撒き散らされる魔力だった。
その小柄な身体から溢れる魔力は尋常ではなかった。近づいただけで、その魔力が毒のように身体を蝕んでいく。

なにより、一番恐ろしいのは。


男(これだけの魔力を、どこに隠していたんだ……)


自分たちは何度か、少女と会っている。会話さえしている。
だが、そのときの少女からは魔力の片鱗すら感じられなかった。


少女「こうして会うのは、初めてだね」




男「魔王……キミが魔王なのか?」

少女「そうだよ。キミたちの気持ちはわかるよ、そうだね。
   いきなり魔王だ、なんて自己紹介されても困っちゃうよね?」

男「……」


少女が一歩一歩近づいてくる。足もとから未知の恐怖が這い上がってくる。指一本動かすことすらできない。瞬きすらも。
全身の毛穴が開いて、汗が滲み出る。鼓動が早くなっていく。
目の前の少女が、魔王であるというのは最早疑いようがないことだった。


少女「こんなに早く覚醒してくれるなんてね。『あなた』に、早く会いたかった」


絹織物を素材とした長衣に身を包んだ少女は、魔王に相応しい風格を漂わせている。
気づけば少女と勇者の距離は、ほとんどなくなっていた。自分の胸ほどしかない少女相手に、勇者は紛れもない恐怖を感じていた。

少女の白い繊手が、勇者の胸に置かれる。



勇者「……っ」


胸に触れた少女の手。わずかに浮いた青い血管がやけに目についた。
胸に手を置かれただけなのに、喉は締めつけられ、呼吸は浅くなっていく。


少女「色々と協力、ありがとう」

エルフ「陛下を弑逆奉ろうとした者は、あなた方のおかげで排除することができました、感謝します」


少女の背後で、エルフが頭を下げた。
言葉は、喉に張り付いていて何も出てこなかった。そんな勇者を少女は慈しむように見上げる。
赤みを帯びた黒い双眸が、勇者の顔を覗き込む。幼い闇を湛えた赤い瞳の向こうに映っているのは、自分であって、自分じゃない。

胸に置かれた手をゆっくりと滑らせ、勇者のおとがいへと持っていく。


少女「ねえ――私のものにならない?」


じだを打った声は、甘く呪うかのようだった。胸の鼓動が大きくなっていくのとは裏腹に、すべての音がぼんやりと曖昧に溶けていく。
身体の内側で得体の知れないなにかが、疼く。これは……。


少女「……なるほどね。私がこの状態だと勝手に覚醒してしまうんだね」


なにを言っているのか、まるで理解できない。
少女の手が離れる。自分の中のなにかの鼓動が止んだ。




時間にして数十秒のことでありながら、あまりにも長く感じられた。勇者は顎を伝う汗を拭った。


少女「キミたちには、色々と迷惑をかけたね。色々と話したいことは、あるけど状況が状況だ。
   とりあえずは、いったんここは任せて。キミたちは……」

エルフ「私の屋敷で待機させますわ。よろしいかしら?」

戦士「……現時点では、全然状況もつかめないしね。それでいいんじゃない?」


誰もなにも言わなかった。発言した戦士の唇も血の気が失せ、頬は青ざめていた。


エルフ「誰か。この者たちを屋敷へ」

少女「またあとでね」

男「……」


勇者たちはエルフに軽く会釈をして兵士についていく。
少女たちに背を向け、勇者たちは歩き出す。背後に『魔王』の気配を感じながら。


………………………………………………………………


戦士「はあ……とりあえず無事に屋敷に戻ってこれてよかったね。
   しかし、予想していた形とは、まったくちがう結果になったね……」

男「……」

僧侶「……いったいなにがどうなってるんだ……そもそも、魔王は失踪していたんじゃないのか」

魔法使い「……」

戦士「うーん、ていうか、あの子が魔王だったなんてね。ちょっと信じられないよね」

戦士(あの子が魔王だっていうなら、単なる人間としてバイトしてたってすごい事実だけど。
   魔界の人間は魔王の顔を知らなかったのかな?)

僧侶「だが、あの雰囲気や魔力は少なくとも、ただの人間じゃない」

戦士「ていうか、魔法使いちゃんはともかくさ。勇者くんは黙りこくったままだけど、大丈夫かい?」

男「ん……ああ、悪い。オレもけっこう衝撃的だったからさ」

戦士「なんか勇者くん、あの子に言われてたけどあれは新手の勧誘かなにかなのかな?」

男「さあな」



戦士「わからないことばかりだけど、それはボクらが考えても仕方ないことだ。
   まあ、持ってきた親書や勲章とか贈り物が無駄にならなくてよかったよ」

男「これからどうなるんだ?」

戦士「魔界外交ってだけで極めてイレギュラーな外交だからね。
   普通、こういうのって歴訪経験があって、かつ、留学とかしたことがある人間がやるもんなんだけどね」

僧侶「お前も留学経験とか、あるんじゃないのか?」

戦士「短期で何国かはね。まあ、そもそも……」

戦士(今から考えれば、外交なんて二の次だったしね。
人手不足という理由だけで、こんな人選はありえない。
   陛下がなにを考えられているのかは、わからなけど)

男「なんだよ?」

戦士「いや、とりあえずこうして魔王に会えたんだ。それにボクらでもある程度の調査はできてるからね。
   細かい段取りはわからないけど、そう長くは滞在しない。国へ戻って陛下に報告。後任者に引継ぎ。それでボクらの旅は終わりだ。
   もしかしたら、こっちでもなんらかの宴ぐらいはしてもらえるんじゃない?」

僧侶「そうか。もう少しここにいて、魔界を見たい気もするが」



男「難しいことはよくわからないけど、旅はもう少しで終わるのか」

戦士「まあ、もしかしたらこれを機に、和親通商条約締結とかも視野にあるのかもしれない」

僧侶「魔物たちとそんなことをするなんて、現実は物語より、よほど奇妙だな」

戦士「うちの国からしたら、魔界よりも近隣諸国の連中の方がよほど驚異なんだよ。利用できるなら陛下は魔界だって使うつもりなんだよ、おそらく」

魔法使い「本当にこれで、終わる……」

男(全然釈然としないな。この冒険が終わる? 本当にこれで何事もなく終われるのか?)

戦士「釈然としない、って顔をしてるね。勇者くんはなにか気にいらないことでもあるのかい?」

男「自分でもよくわからん。でも、無事に終わるならなんでもいいのかもな」

僧侶「コトはあまりに大規模だ。しょせん、私たちのような凡愚市井にどうこうできる話ではない」

戦士「それでもさ。これがきっかけでボクらの国が発展していけば、ボクらは後々まで語り継がれる英雄だよ。それこそ、勇者のようにね」

男「……」


…………………………………………………………



エルフ「こうして陛下がその椅子に腰掛ける姿を拝見するのは、久々なような気がしますわ」

少女「そうね。とは言ってもそれほど、離れていたわけでもないのだけどね。
   でもなぜか、彼らがこちらに来てからの何日間は、密度が濃くて不思議と長く感じたわ。
   まあ、『アレ』のせいもあるのだけど」

エルフ「……あの者たちの処置はどうするのですか?」

少女「……」

エルフ「お言葉ですけれど、なぜあの場であの男から力を奪わなかったのです?」

少女「いいえ、あの場で彼の力を奪取するのはおそらく不可能だったわ。『彼ら』が私を警戒していたわ」

エルフ「それでは、不可能……?」

少女「難しい、わね。でも無理ではないわ。ようは警戒させなけれざいい、それだけよ」

エルフ「なにか考えがあるみたいですわね」

少女「一応ね」



エルフ「魔界への闖入者……例の03小隊隊長殺害容疑のかかっている者たちはどうなさるんですの?」

少女「これだけ調査の手を伸ばしても見つからない。もしかしたら、もうこの国にはいないかもしれない」

エルフ「いいのですか?」

少女「今は、ね。これが人間同士なら国際問題に発展する可能性もあるけれど。今はそのことはいいわ」

エルフ「公爵の部下たちの処置はどのように?」

少女「任せるわ」

エルフ「一つ、質問よろしいですか?」

少女「どうして、ハルピュイアを殺したのか、ってことでしょう?」

エルフ「ええ。いくら公爵が本格的に動き出す前から、調査をしていたとは言え、殺めては聞きだせるものも聞き出せませんわ。
    彼は機関の責任者でもありましたし」



少女「……殺すつもりはなかったのよ。」

エルフ「では……」

少女「確実に限界が近づいてる、そういうことかしらね。力の調節すら既にできなくなってるわ」

エルフ「力を使いすぎたのでは?」

少女「もちろん、それもあるかもしれないけど。それと、機関の後任者については、すでに決まっているから問題ない……少し席を外すわ」

エルフ「また、あの場所ですか?」

少女「ええ。あとのことは頼むわ。彼らの監視は続行すること。あと手厚い待遇をね」

エルフ「……御心のままに」


………………………………………………

今日は少なくてすみません
ここまで


>>515たしかになんか変ですね。まあ早く魔王だよーって名乗りたかった勢いってことで流しちゃってください


最下位


…………………………………………………………



鬱蒼とした木々の下、彼らは戦っていた。

『勇者』は襲いくる魔物の攻撃を避け、背後に回った。
敵は大柄な魔物だ。しかし、なぜかその魔物の姿ははっきりしない。が、そんなことはどうでもよかった。
とにかく倒す、それだけだ。剣を振り上げ、切っ先に魔力を集中。バチバチと大気を震わす音。
強烈な光。帯電体と化した剣。それで容赦なく冗談から切りつける。当たった――いや、敵の皮膚を掠めはしたもののなんとか、かわしていた。


『戦士』、と叫ぶ。すでに戦士は魔物の足もとに狙いを定め、その大剣で切りつけた。
筋骨隆々とした腕による切りつけは、魔物の脚を切り落としていた。苦痛の悲鳴。得意げに戦士が勇者に向けて、視線を送る。


背後で高らかに『魔法使い』が呪文を唱えた。巨大な火柱がなんの前置きもなく湧き上がる。
たちまち、炎は魔物を飲み込んだ。魔物がその熱さに耐えかね、地面を転がる。
彼女はこれ以上攻撃をする必要はないと判断したらしい。任せたわよ、と叫んだ。


最早勝負は決まっている。


突如、身体を高揚感が包んだ。足の爪先から頭頂部まで熱で覆われたような感覚。力がみなぎってくる。
『僧侶』の魔力強化の呪文だ。全身の細胞が覚醒し、魔力が膨れ上がる。増幅した魔力を刀身にみなぎらせる。
窮鼠猫を噛むとはまさにこのこと、魔物はやけくそになって最後の突進をしかけてくる。が、あまりに遅すぎた。
『勇者』の雷を帯びた剣は、その魔物が悲鳴をあげる暇すら与えることなく首から上を切り落としている。


戦いが終わった。額に浮いた汗を拭い、一息つく。『勇者』は仲間の顔を見た。見慣れた光景だ。
冒険の記憶の断片――いや、なんだこの記憶は? 誰だお前らは? 今の戦いはなんだ?
突如、違和感が頭をもたげる。不意に誰かの叫び声とともに、なにもかもが一瞬で暗闇にとってかわった。


……………………………………………………



男「……っ、あれ? オレ、寝てたのか」

男(なんだ今のは? いや、単なる夢か? それにしては妙に鮮明な気が……ていうか、今何時だ?)

男「……本、読んでたら寝ちゃったみたいだな」


男(オレたちが魔王と名乗る少女と出会って、五日が経過した。
  あれからオレたちと魔王が直接会ったのは、一度しかなかった。皇宮で親書や贈呈品を渡したそのとき限りだった。
  その後エルフさんの屋敷で、こっそりと宴をしたり、魔界のいくつかの施設の視察をしたり意外なほど平和にことは進んでいった。
  だが、戦士いわくオレたちもそうそう長居はしていられないらしい。いよいよ、明日には帰ることになった)

竜「ちょっとちょっと、大丈夫ですか? うなされていたみたいですが」

男「ん、ああ……そうなのか。けっこうカッコいい夢を見てたはずなんだけどな」

男(あの子……魔王の下僕のこの小さなドラゴンは、オレたちパーティの監視ということで、ずっとオレにつきまとっている。
  まあ、べつになにかをされるわけでもなければ、基本的には見えないところにいるようにしているみたいだ。
  だからそんなに気にならないが、一回だけ僧侶と魔法使いに色々されていた)

竜「顔色もいささか悪いようですが、なんならお冷でも持って来ましょうか?」

男「お前、コップよりちょっと大きいぐらいなのにそんなことできるのか……」

竜「ええ。これでも一応本来は魔王様に仕えるドラゴンですからね」



男「ていうか、あの女の子……魔王はあれから姿を見せないけどなにやってんだ?」

竜「あなたが言っているのは陛下のことですか? それなら、残念ながら私の口からは……」

男「そうか。じゃあさ、なんかオレについては聞いてないか?」

竜「どういうことでしょうか?」

男「いや、魔王のヤツ、オレよりオレのことに詳しそうだったからさ。なにか知らないかなあと思って」

竜「……あなたについて、陛下からはなにもお聞きしていません」

男「そうか。あの子ならオレの秘密も知ってるんじゃないかと思うんだ。いや、たぶん間違いなく知ってるんだ」



『ねえ――私のものにならない?」』

『……なるほどね。私がこの状態だと勝手に覚醒してしまうんだね」』



男(そう、あの子は間違いなくオレのことを知っている。オレの中のなにかがあの子にも反応していたし……)



竜「どちらにしよう、あなたたちは明日には帰途につくわけです。ならば、細かいことを気にせずに、この魔界を堪能するべきなのでは?」

男「たしかにな。視察とか、事情聴取とかに追われて案外、魔界のことよく見れなかったもんな」

竜「魔界に来るような機会は生きてるうちには、もうないかもしれませんよ?」

男「そうだな。ああ、そうか……本当に明日にはここを出ちゃうんだよな」

竜「今さらですね」

男「帰ったらどうなるんだろう?」

竜「そんなことを私に聞かれても、ねえ……」

男「べつにお前に聞いてないよ。ひとり言だ」

竜「……」



男(帰ったら……オレはどうなるんだ? 勇者でもなければ、そもそも人間でもない。
  王様がなにを考えてるのか、それすらもわからない。この任務が終わったあと、オレにどういう処置を取るべきだったんだ。
  八百年前、封印された勇者。そうだと思っていたオレは得体の知れない作りものだ。帰るべき場所もない。
  この任務が終われば、パーティもバラバラになる。みんなと一緒にいることもなくなる……)

男「あっ……」

竜「どうなさいました?」

男「いや、ちょっと気になることがあってさ」

男(そうだ。オレは『八百年前の勇者』ってことになってた。なんでだ?
  そうじゃなくても、オレのこの曖昧な記憶は八百年前の勇者のもの……そうだ。自分の正体を知ったときに気づくべきだった。
  どっからこの『八百年前の勇者』という記憶はもってこられたのか)

男「明日さ、魔王には会えるかな?」

竜「陛下でしたら会えますよ、必ず」

男「断言したな。なんかこれだけ姿を見せないと会えなくても、おかしくないような気がするけどな」

竜「私は嘘はつかないんですよ」

男「じゃあ、お前の言葉を信じてみるよ」

竜「ええ、必ず会えますよ」

……………………………………………………………



魔法使い「……やはり、この魔界は人型の魔物が、多すぎる」

僧侶「ああ、私も同感だ。だが、この仮説が本当だったら、それはある意味当然なのかもな」

魔法使い「そう。仮説、だけど。あの研究機関が牢獄にあったこと。そして、うちの国にもあの機関の情報があった」

男「……なんか難しい感じの話をしているな」

僧侶「勇者か、食後すぐ寝るのは胃によくないぞ」

男「おう……いったい、なんの話をしてたんだ?」

僧侶「実は私と魔法使いで、魔物について話してたんだ」

男「二人とも魔物好きだったな、そういえば」

僧侶「まあ趣味の話をしていただけなんだが、たまたま魔界の制度のことを思い出したんだ」

男「どういうことだ?」

僧侶「いつか、お前がサキュバスの娘を見て、自分の記憶のサキュバスとはずいぶんとちがう、そう言ってただろ?」




男「……言ったな、たぶん」

魔法使い「返事が曖昧」

僧侶「他にもこの帝国には人型の魔物が妙に多い、という話もしたな? いや、覚えていないならそれでもいい」

男「それは覚えてる。ていうか実際、魔界に来てからは色んな人型の魔物を見たし。
  新しい魔物も見た。オレの記憶にはない魔物たちだった」

僧侶「そして、もう一つ。いつかこの国の人材補給制度についても話をしたな……その顔は覚えていない顔だな」

男「えっと……なんだっけ?」

魔法使い「……あなたはこの話を聞いたとき、怒ってた」

男「思い出した! 人間を魔族の奴隷にする、ってヤツだろ?」

魔法使い「せいかい」



男「でも、人型の魔物が多いって話とその制度の話がどう結びつくんだ?」

僧侶「もう一つ。あの地下牢だ。犯罪者を幽閉するあの地下牢と一緒にあったのは?」

男「魔物の研究をするところ、だな」

僧侶「最後に。調べてわかったことがあるんだが、この国の人口だ。
   通常、魔物の繁殖率は人間の比ではないんだ。だから、人口比ではどうやっても魔物たちのほうが高くなる」

魔法使い「しかし、この国では人間と魔物の人口比はほとんど変わらない。いいえ、魔物のほうがわずかに低い」

僧侶「人型の魔物の多さ。昔よりも人に近くなっている魔物。人間を魔族の奴隷にする人材補給制度。牢獄と研究機関。
   そして、本来ならあり得ない人間と魔物の人口比。これらが示すのは……」

戦士「ふあああぁ……」

男「……え?」

僧侶「……」



男「ソファで寝てたのかよ。全然気づかなかった」

戦士「キミたち、声が大きいよ。ボクがせっかく夢の中で美女たちとの宴を楽しんでいたというのに……」

男「知らねーよ」

僧侶「話を続けるぞ。これからようやく話の核心に入ろうとしていたのに……」

戦士「その話をすることに意味はあるのかい?」

魔法使い「……」

僧侶「なにが言いたい?」

戦士「キミらの話し合いは、夢うつつで聞いてたよ」



僧侶「……私たちは単なる話し合いをしているだけだ」

戦士「ボクらには見張りもついている。今だってどういう手段を用いてかはわからない。
   けど、間違いなく監視はされてるよ」

男「危険、だってことか?」

戦士「勇者くんにしては、なかなか察しがいいね。そうだ、ボクらは必要以上に魔界のことに首を突っ込むべきじゃない」

魔法使い「……間違ってはいない」

戦士「帰るまでは胸に閉まっておくべきだろうね、そのことは」

男「……」

戦士「知らない方がいいこともある。少なくとも今は」

僧侶「……そうだな。勇者、悪いがこの話はなかったことにしてくれ」

男「……わかった」




戦士「まあ、今日は最後の魔界だ。せっかくだしどこかで飲まない?」

魔法使い「ほう……」

僧侶「たしかに。明日には私たちは帰らなければならないからな。
   最後ぐらいは羽を伸ばしてもいいかもな」

魔法使い「みんなで……飲む」

男「なんか嬉しそうだな、魔法使い」

男(みんなでお酒を飲みたいって、言ってたもんな)

戦士「そういうわけだし、街へ繰り出そうじゃないか!」

魔法使い「……おお」

男「最後の晩餐ってわけだな!」

僧侶「……うん、そうだな」


……………………………………………………



魔法使い「ぷはぁっ……うまいわね、ふふっ。あら、なにかしら? そんなにじっと見られても、私はなにもあなたにはあげないわよ」

僧侶「べつに。私はただ、魔法使いの豹変ぶりを見ていただけだ。それに……」

魔法使い「どうしたの? 気になることでもあるの?」

僧侶「いや、この地域でこうやってお酒を飲んでる人間が珍しいのか、色んな魔族が見てくるから少し気になっただけだ」

魔法使い「そんなの気にしなければ、いいじゃない」

僧侶「魔法使いはお酒を摂取すると、とことん変わるんだな」

魔法使い「アルコールは人を変えるのよ。あなたはお酒、飲まないの……って、たしかアルコールはダメだったかしら?」

僧侶「ああ。前にも言ったとおりだ。基本的にアルコールは飲めない」

男「魔法使い、すごい勢いで飲んでるけど大丈夫なのか? ここんところ飲んでなかったからか、すげー飲んでるな」


僧侶「ある意味羨ましいな」

男「僧侶もほんのちょっとぐらい口つければいいじゃん」

僧侶「いや……なにかあったら困る」

男「なにがあるんだよ」

僧侶「……それより、戦士は? 三十分ぐらい前に席を立ってから一向に戻ってこないが」

魔法使い「魔界のビールは薄いわね。おそらく醸造の仕方がかなり古いやり方だからなんだろうけど、これじゃあいくらでも飲めてしまうわ……ひっく」

男「本当に大丈夫かよ」

魔法使い「あなたもこのビールなら飲めるんじゃないかしら?」

僧侶「しつこい。私は料理だけで十分だ」

魔法使い「お酒を飲めないっていうのは、人生の七割は損してると思ったほうがいいわよ」


僧侶「……そんなに?」


魔法使い「ええ」

男「あ、戦士のヤツ、女の子連れて戻ってきた……って、あれって……」

僧侶「あの定食屋のサキュバスじゃないか?」

戦士「やあやあ! たまたまそこで会ったんだけど、話が合うもんだから一緒に飲もうって話に……」

サキュバス「わあお! あのときのお兄さんとお姉さんじゃん! アタシのこと覚えてる!?」

戦士「え? なに、勇者くんと僧侶ちゃんはサキュバスちゃんと知り合いなのかい?」

男「知り合いっていうか、まあ、たまたま入った店の店員だっただけの話だけどな」

サキュバス「なに言っちゃってんの? アタシのことナンパしたくせにー」

戦士「ナンパ? キミがこんな麗しい女性をナンパだなんて、ちょっと信じられないね」


男「だから、あれはナンパじゃないって言っただろ?」

サキュバス「へー。あんな神妙な顔して、『オレのこと、どう思った?』なんていきなり聞いてきたくせにー」

戦士「おやおや、勇者くん。ボクはどうやらキミを見くびっていたようだよ」

男「どういうことだよ!?」

サキュバス「いやー、でも世間ってすごく狭いよね。こんな風に、意図してなくても簡単に再開しちゃうなんてね」

 「おいおい、ソウルメイトじゃねーか!? お前!?」

戦士「んんんっ!? この声は……」

ゴブリン「よおソウルメイトぉっ! まさかこっちでお前に会うとはな!」

戦士「あ、ああ……どうも」



ゴブリン「おいおい! どうしたよ、顔が引きつってるぜ。さては、オレと飲めるから武者震いでそんな顔になっちまってんのか?」

戦士「え? あ、いや……」

ゴブリン「まあなんでもいい。あっちでヤロウだけで飲もうぜ!」

戦士「だれかたすけて~!」

男「たしか、あれは戦士か飲み比べで勝ったとか言ってたゴブリンだったな」

僧侶「こっちの地区にいるのは、魔族だから当然か」

サキュバス「なんかよくわかんないけど、世間ってやっぱり狭いんだね」

男「どうやらそうみたいだな」

サキュバス「まあ、アタシらはしっぽりと飲もうよ。お兄さんの話も聞きたいしね」

男「べつに話すようなことなんて、なんもねーよ」



サキュバス「つまんないなあ。男はスキャンダラスな話題を常に一つくらいは持ってなきゃ」

男「そうなのか、魔法使い?」

魔法使い「スリルなものを求める女には、そういうのが必要なんじゃないかしらね。ふふっ、まあおつむりの軽い女にはそういうのがわかりやすいのよ」

サキュバス「あれ? もしかしてアタシ、悪口言われてない?」

魔法使い「ごめんなさい、そんなつもりは毛頭なかったんだけれど……ふふっ」

サキュバス「……せっかくだし飲みましょうか」

魔法使い「ええ、喜んで」

僧侶「なんか、すごいな……」

男「ああ。あっちじゃ戦士とゴブリンが飲み比べし始めてるしな」

男(そういえば、ゴブリンと言えばずっと気になってることがあったな……)

男「なあ、僧侶。魔界に来るとき、魔法陣を使ったときのこと覚えてるか?」

僧侶「ん? どうしたんだ藪から棒に」

男「実はけっこう前から、気になってたことがあったんだけど……」



…………………………………………………………



戦士「ああ……今日ほど魔法使いがいてくれてよかったと思ったことはなかったよ」

僧侶「見ているこっちが、怖いぐらいに飲んでたな。いくら今日が魔界最後の日だからって、ハメを外しすぎなのはどうかと思うぞ」

魔法使い「……でも、楽しかった」

男「そうだな。オレも楽しかったよ。魔法使いがいなかったら、オレも屋敷まで戻れなかったかもしれなかったけど」

僧侶「私も飲めればなあ……」

男「なんか言ったか?」

僧侶「……なんにもだ」

戦士「本当に、楽しかったね」

男「……そうだな。魔物がどうとか人間がどうとか、そんなの関係ないんだなって、あの空間にいて思ったよ」

僧侶「たしかにな。酒のテンションのせいもあるのかもしれないけど、みんな楽しそうだった」

魔法使い「……私も、楽しかった」



男「これで、明日になったらオレたちのパーティは解散なんだよな……」

戦士「当然だね。ボクらにだって、戻るべき仕事や場所があるからね」

男「…………」

僧侶「お前は、どうするつもりなんだ?」

男「まだ決めていないんだ。いや、どうしたらいいのか、わからないって言ったほうが正しいか」

戦士「帰ってからのことは、キミ自身が考えることだ。ボクらが干渉するようなことじゃない」

男「……そうだな」

魔法使い「……素直、じゃない」

男「え? オレ?」

魔法使い「あなたじゃない。彼」

戦士「……どういうことかな? ボクは勇者くんに対して、思ったことをそのまま言っただけだよ」



魔法使い「……昨日、私に相談して来た。『勇者くんのことはどうすればいいと思う』って」

戦士「……」

男「戦士……お前」

戦士「まっ、ボクらは短い期間とは言え、パーティなんだ。それに勇者くんってアホじゃん?」

男「んっだと!?」

戦士「仕事のアテぐらい、斡旋してあげてもいいかな。なんて慈悲ぐらいなら与えてあげようと思ってね。
   勇者くんが本当に困り果てて、どうしようもないっていうなら言ってくれよ」

男「……ありがとな、本当に」

戦士「べつに。人として当然のことをしたまでさ」

男「……みんなも本当にありがとう」

僧侶「どうしたんだ、急に。まだ私たちの任務は終わっていない。帰ってからだって、引き継ぎとか陛下への報告とかもあるんだ」



男「いや、今のうちに言っておきたかったんだ。自分でもなんか変だなって思うんだけどさ。
  僧侶には命がけで守ってもらったりしてるし、魔法使いにもピンチのときは助けてもらった。
  戦士、お前にはなんだかんだ戦当面での面倒をよく見てもらったしな。
  こんなオレを、見捨てないでくれたんだ」

魔法使い「……見捨てる、わけがない。私たちは、パーティだから」

僧侶「持ちつ持たれつだ。何度も言ってるはずだ。私はお前を助けたが、お前も私を助けたんだ」

戦士「そうだよ、キミは赤ローブの連中を命を賭けて倒したりもしてる」

男「みんな……」

戦士「まあ、帰ってからの話は帰ってから考えればいいことなのかもしれない。深く考えすぎると、勇者くん、頭パンクしちゃうよ」

男「……とりあえず、帰ったら勉強しようかな」

僧侶「博識な勇者か、想像つかないな」

男「うるせー。ああ、本当さ……もっとこのパーティで冒険したいなあって、本気で思ってる」

魔法使い「……そう、ね」



戦士「ふっ、いつかまたできるときがくるかもしれないよ?」

男「なんかあるのか、そういう機会が」

戦士「いや、全然ないよ。でも、冒険とかって言うのは自分でしようという意思が一番大事なんじゃない?」

僧侶「そうだ、自分でなにかをしようとする意思が一番重要なんじゃないか。私がそんなことを言えた義理ではないが」

戦士「なんなら、仕事とかそういう厄介なしがらみが、なくなる年になったら冒険でもなんでもすればいい」

魔法使い「……それは、それで楽しそう」

男「まっ、なにはともあれ。まずは明日になってきっちり帰るところだな」

僧侶「うん、そのとおりだ」

男「というわけてだ、みんな」

戦士「ん? まだなにか言いたいことがあるのかい?」

男「ああ。これだけは、どうしても伝えておく必要のあることだ」

戦士「……聞こうか」



………………………………………………



次の日


エルフ「わざわざ皇宮にま足を運んでもらい、感謝します。しかし、生憎国王陛下は現在席を外しておりますわ」

戦士「おやおや、これは残念だね。ボクら、お金借りたり空き家借りたり、かなり世話になってるからお礼ぐらい言っておきたかったんだけどね」

僧侶「多忙なのだろう。仕方がない」

エルフ「ご理解、感謝いたします」

男「なんだよ、ドラゴンのヤツ。絶対に魔王は来るって断言してたのに」

戦士「まあ、いいじゃないか。ボクは正直、彼女に会わずに終わるなら、それに越したことはないと思うよ」

エルフ「今回の外交が、後の互いの発展に繋がることを祈っていますわ」

戦士「ええ、こちらこそ。本当にお世話になりました。また会える日を、楽しみにしています」

エルフ「あ、そうだ。勇者さん、あなたに言い忘れていたことがありますわ」

男「オレに? なんか用でもある……があぁっ!?」


勇者は振り返ろうとして、そこで足を止めてしまう。不意に腹部を焼けるような痛みが走る。
腹部には長剣のようなものが刺さっていた。


立っていられない。あまりの痛みに、声にならない声が喉を狭める。
熱いなにかが逆流してくる。鉄錆の匂いが、口腔内に充満して思わずむせる。


男「ぐっ……ううぅっ…………!」

僧侶「ゆ、勇者!?」

エルフ「ごめんなさいね……いいや、ごめんね。お兄さん?」


エルフの手は、二の腕から下が鋼鉄の剣と化し勇者の腹部を貫いていた。
不意にエルフの輪郭がぼやける。やがて、淡い光がエルフを包み込むと、瞬く間にその魔物は姿を変えた。

気づけばそこにいたのは、少女――魔王だった。


戦士「なっ……!?」

少女「やっぱりね。私の姿のままだと、キミの中の『彼ら』が反応するけど、化けて魔力を抑えていれば騙せるわけだ」


少女はあくまで無表情のままだった。鋼鉄の剣をそのまま、べつの物質へと変換。
蔓植物に変化させ、勇者の中の獲物を捉えるために、侵食していく。


少女「あっ……」


不意に強烈な違和感が腕を襲った。今、まさに勇者の中を蹂躙していたはずの腕が、不意に重くなる。
それどころか、熱に浮かされたように腕が熱くなっていく。

少女はとっさに危険を感じて、腕を勇者から引き抜く。勇者の口もとは、はっきりと笑っていた。



少女「なにを……なにをした?」


勇者の身体から引き抜いた鋼鉄の剣は、錆びつき超高熱で熱されたように真っ赤になっていた。
しかも、勇者の肉体の傷は煙をあげ、みるみるうちに塞がっていく。まるで、上級回復呪文を浴びたかのようだった。

いや、よく目を凝らせば勇者の腹部には魔法陣が浮いていた。
おそらくそれは回復と攻撃を同時に行う、かなり高度な魔法陣だ。だが、なぜそんなものが勇者の腹には拵えられている?


男「わかってたんだよ。いや、ちがうな。想定してたんだ、が正解だな。
  お前がオレを襲うパターンの一つとして、姿を変えて攻撃してくる可能性があるってな」

少女「なんで……どうして、私にメタモルフォーゼの能力があるってわかったの?」


勇者は立ち上がる。パーティのメンバーはすでに構えていた。


男「お前さ、オレと会う前からボロを出してたんだよ。もちろん、会ったあとでもな。
  だがら、わかった。だから、お前が変身能力を持ってる可能性に気づけた」

少女「どうやら、私はキミを侮ってたみたいだね」

男「悪いが、オレはこんなところで死ぬつもりはない。どういう事情があるのかも知らないが、お前のものになるつもりはない」


勇者は叫ぶ。生きるために。自分のために。仲間のために。


男「勝負だ……!」


今日はここまで

ラストに近づいていってます

再開します

どうして少女に返信能力があるかわかったのかはこのあと↓




………………………………………………………………



昨夜



男「実はけっこう前から、気になってたことがあったんだけど……」

戦士「勇者くん、ストップ……魔法使い。あれを頼む」

魔法使い「大丈夫。すでに魔法は発動している」

男「……オレたちは監視されているんだったな」

戦士「勇者くんは顔にすぐ出るからね。けっこう重要な話をしようとしたろ?」

男「さすが、よくわかってらっしゃる」

僧侶「監視と言えば、例のドラゴンは? 私と魔法使いが色々としてからは、少し避けられてるみたいだが」

男「二人でいるときは、顔を出してくれるんだけどな。今もどこかにはいるんだろうど、まあいいや。話しても大丈夫なんだろ?」

魔法使い「……大丈夫」




戦士「屋敷には戻らないで、このまま歩き続けよう。なに、酒場でランチキ騒ぎした後だし、違和感のない行為だよ」

僧侶「屋敷の中が一番危険だろうな、秘密話をするなら」

戦士「さっ、勇者くん。話してくれよ」

男「ああ。オレたちを魔界に繋がる魔法陣へと、案内したゴブリンのことを覚えてるか?」

僧侶「覚えてはいる。けど、それがどうかしたのか?」

戦士「彼は案内するだけ案内して、ボクらを見送ってそれで終わったでしょ?」

男「やっぱりか」

魔法使い「……なにが?」

男「あのめちゃくちゃな魔法空間の中で、オレはたしかに見たんだ。
  ゴブリンが魔法空間の中にいたのを」


戦士「それはたしかなのかい?」

男「たぶん、間違いない。証拠はないけど……」

僧侶「しかし、そのことがそんなに重要なことなのか?」

男「もう一つある。あの子……つまり、魔王のことなんだけど、あいつが言っていたことで奇妙なことがあった」

僧侶「『だって魔物がしゃべっただけで、急に叫び出したりするし』って言ったことか?」

男「そう、それ!」

僧侶「私たち以外の勇者パーティが来ていると、魔王から聞いたときだ。私も引っかかっていた」

戦士「んー、それってあの魔王が言っていたこと? 勇者くんがゴブリンがしゃべり出して、びっくりして……あっ」

魔法使い「……なるほど」

男「そうだ。オレがゴブリンが話し出してびっくりしたのは、魔界行きの魔法陣に入る前。
  そして、それを知ってるのはこの中のメンバー以外では、ゴブリンだけだ」




男「この魔界に来てから、一番最初に話しかけてきたのもあの子だったことも、そうだとすると辻褄があう」

戦士「ちょっと待ってくれ。つまり……勇者くんは、彼女がゴブリンだったって言いたいのかい?
   いや、ごめん。酔いがまだ残ってるなね……つまり、魔王には擬態のような能力があるってことか」

男「うん。オレの予想だけどな。そもそも、オレはあの子に記憶がないなんてことを一度も言ってない。
  なのに、記憶がないことも知っていた」

戦士「勇み足なような気がしないでもないけどね。魔王に擬態能力がある、っていう根拠はそれだけかい?」

男「実はもう一つある。ゴブリンのくだりを思いだして、さっきサキュバスから話を聞いたんだ」

魔法使い「……アバズレ」

男「ん? なんか言ったか、魔法使い?」

魔法使い「……なにも」

僧侶「話が進まない。お前が聞いたのは、魔王の容姿についてだったな」

男「そう。ほとんどの魔界の住人は、魔王を見たことないらしいな。それでも、噂でどんな感じなのかぐらいは耳にするらしい」




戦士「へえ、どんな容貌なんだい、魔王っていうのは」

男「似ても似つかない、とだけ言っておく」

戦士「……ふうん。影武者とか他にも可能性はないこともないけど、考えの一つとしてはありだね」

僧侶「仮にも魔王だ。それぐらいの力を持っていたとしても不思議ではない」

男「で、みんなにこのことを伝えたのは、あの子がオレのことを狙っている可能性があるからだ」

戦士「勇者くんを狙う? どうして?」

男「わからん。でも、言っていたんだ。自分のものにならないかってこと。もしかしたら、オレの中のなにかを奪おうとしているのかも」

魔法使い「……あなたの中の、力を?」

男「うん」

男(あの女の子の目は、オレの中のなにかを見ていた。恋い焦がれた人みたいに……)




戦士「単なる考えすぎってわけでもないみたいだね……あっ、勇者くんにかぎって、考えすぎってことはないか」

男「いーや! 今回は単なる考えすぎってことはない、はず」

戦士(ここまでボクたちは色々とあったけど、魔王との邂逅を果たして以降は、かなりの好待遇だ。はたして……)

僧侶「警戒するべきなのかもな。私たちは、すっかり気が抜けてしまっていることだし」

戦士「たしかに。勇者くんの潜在能力は、まだまだ未知数だけど。
   それでも魔王が手にしたいと思うだけのものなのかもしれない」

男「あと、最後に一つ。魔王が言っていたことで、『私がこの状態だと勝手に覚醒してしまうんだね』とも言っていた。
  あの子がオレの近くに来たとき、オレの中のなにかが反応した。魔王だからかもしれない」

僧侶「その言葉と今まで検証してきたことを照らし合わせたとき、一つあるな。勇者の力を奪うつもりが、魔王にあるなら」

戦士「どうやらもう少し酔い覚ましのために、歩く必要があるみたいだね」

魔法使い「夜は長い――」



…………………………………………………………



少女「できれば、手間をかけずに終わらせたかったけど……仕方ないわね」

男「いくぞっ!」


魔王の力がどれほどのものか、見当もつかない。先手必勝。勇者は魔王に飛びかかる。
魔法使い一人を後方支援に。戦士と僧侶も勇者に続く。


男「うらああぁっ!」


鞘から剣を抜き、斬りかかる。一瞬で魔王の小柄な影が、視界から消える。
遅い。そんな呟きが上から降ってくる。勇者が顔をあげようとしたときには、上から蹴りが下される。
頭部を鋭い痛みが襲う。視界がぶれる。一瞬のうちに勇者は、床に這いつくばっていた。


僧侶「勇者……!?」


僧侶が衝撃波を拳から放つ。床を這う衝撃波をしかし、少女はあっさりと避ける。
華麗に舞うかのようにステップを刻み、少女はいっきに距離を詰めてくる。
戦士がとっさに火の魔法を打ち込む。だが、魔王はなんなくやり過ごし――あっさりと僧侶の懐に入ってくる。


僧侶「……っ!」

少女「遅い」


僧侶が蹴りを繰り出す。
魔王は、自分の顔に目がけて繰り出されたその足を両手で掴み、その勢いを利用して僧侶を投げ飛ばす。



なんとか僧侶は受け身をとり、すぐさま飛び起きる。
だが、それすらも遅すぎた。魔王の拳が視界に飛び込んでくる。
身体を仰け反らせ、ギリギリこれをかわす。同時に後転跳びと、蹴りを織り交ぜて距離をかせぐ。
僧侶へと追撃しようとした魔王の背後を青火が襲う。戦士の魔法だ。


少女「だがら、遅いのよ」


体勢を低くし、魔王は火球をかわす。突如、少女の小柄な身体を影が覆った。
勇者が魔力を込めた剣を魔王へと振り落とす。


男「くらえっ!」


だが、その隙をついた渾身の一撃はなんなく止められる。
少女のしなやかな両手が、勇者の剣の柄を握っていた。刃はあと少しで少女の黄金の髪に触れるところまで来ている。
だが、それ以上剣が先に進まない。体格差はかなりあるはずなのに。
勇者の力は華奢な少女の手を、押しのけることすらできない。


少女「どうしたのかしら? 本気で私を殺す気でいる?」

勇者「ぐっ……!」


少女の声はあまりに淡々としていた。気づけば、剣の柄を握る少女の手は、一つになっていた。



少女の手が離れる。慣性の法則のまま、たたらを踏む。隙だらけになった勇者の鳩尾を、少女の拳が捉える。
手の輪郭がぼやけるほどの魔力を、込められた拳の威力は想像を遥かに超えていた。


勇者「かはっ……!!」


勇者の身体が宙を舞った。背中から落ちる。激痛が背中を走る。肺が圧迫され呼吸が詰まる。


少女「……これは」


少女の足が凍りつく。魔法使いの氷の魔法。魔王の動きを封じた瞬間を見逃す戦士ではない。
細身の剣へと魔力を集中させる。戦士は地面を蹴り、魔王へと斬りかかった。


戦士「……!?」


鈍い音とともに、戦士が瞠目する。
見えない壁が、戦士の剣を受け止めていた。パリパリと砂糖菓子が割れるような軽快な音。
魔王の足を掴む氷は、あっさりと砕かれていた。少女が身を翻す。
と、思ったときには戦士の顔面を少女のしなやかな蹴りが襲う。とっさに剣で顔を庇う。


戦士「っ痛……!」



剣とともに戦士が吹っ飛ぶ。戦士自身は受け身を取るが、剣の刀身は折れてしまっていた。


少女「本気を出すまでもなく、力の差は絶対。べつに私はあなたたち全員を殺すつもりはない」


少女が黄金の髪をかき上げる。ようやく立ち上がった勇者たちを見る、赤銅色の瞳に殺意はない。
嵐を前にした海のように、静かな双眸を細め、勇者パーティを見つめる。

勇者「力の差は絶対、か……」

僧侶「まったく歯が立たない。さすがは魔王といったところか」

戦士「ホントにやんなるね。正直、久々に逃げ出したいと思ったよ」

少女「その男を渡してくれれば、あなたたち二人は見逃してあげるわ」

戦士「……ほほう。それはなかなか魅力的な提案だ。どう思う、僧侶ちゃん?」

僧侶「そうだな。私もまだ死にたくないし、やりたいことは山ほどある」

少女「なら……」

戦士「ところがどっこい! 生憎だね。魔王相手に、命乞いをした挙句、仲間を売ったなんてことがバレたら、男として台無しだ」



戦士「それにね。ボクは今、新しい脚本を書かなきゃならないんだけどさ。今度のは勇者くんを主役とした話を書くつもりだ。
   これから勇者くんと提携して、大作を作るつもりだ。だから、ここで勇者くんに死なれるのは困るんだよ」

僧侶「私もだ。国へ帰って、勇者の作った手料理を食べさせてもらう。私と勇者はそう約束した」

魔法使い「……私はまだ、酒を奢ってもらっていない」

少女「……理解できないわね。これだけの差があって、なお抵抗しようとするの?
   あなたは、あなたの命を差し出せば仲間が助かるというのに私と対峙するの?」
  
男「…………」

少女「……勇者なら自己犠牲の精神ぐらい、見せてくれてもいいんじゃないかしら?」

男「そうだな。勝てる可能性が、本当にゼロならな」

少女「……」




男「今、みんなが言ったとおりだ。オレは約束がある。死んだら約束を果たせない――だったら生きるしかないだろ」

少女「こんなに聞き分けが悪いとは、思わなかったわ」

戦士「勇者くん、まだ生まれてから全然時間たってないんだぜ。むしろ、お利口だよ」

男「うるせーっつーの……まあ、とにかくそういうわけだ。オレは死なない。みんなも死なない。お前を倒して、それで終わりだ」

少女「……あなたバカなのね」

男「言われなくても知ってるよ。でも、バカなりにわかることがある」

少女「…………なにがわかると言うの?」

男「生きることを諦めたら、絶対に死ぬってことだ――魔法使い!」



魔法使い「おまたせ」



魔力が床に染み込むように、広がっていく。魔法陣が次々と展開され、床を埋め尽くしていく。


少女が小さく溜息をつく。伏せられた瞳がゆっくりと見開かれる。


少女「そう。なら、こちらも力ずくでいくしかないわよね」


赤銅色の瞳が、嵐の夜の波のような怒りを湛えて、爛々と輝く。
身の毛もよだつような魔力が群青色の輝きとなって、少女を掴む。
輝きが収まったときには、少女の身体を包み込むように翼が出現していた。
コウモリの翼を思わせる漆黒のそれが、大きく広がりはためく。


少女「今度は、手加減できないかもしれない。最後の通告。今なら、まだ助けてあげるわ」

男「……みんな」

僧侶「しつこい。とうの昔に決めている、魔王と闘うって」

戦士「そういうこと。闘って、勝って!」

魔法使い「生き残る……!」


魔法使いの言葉が終わるか終わらないか。そのときには勇者の眼前に、魔王が躍り出る。
その手には不釣り合いな、鋭利な長爪が勇者に振り落とされる。

だが、その爪が勇者を切り裂くことはなかった。
魔法陣が煌めく。勇者は一瞬にして溶けるように、魔王の前から消え失せた。


少女「……?」


消えた。文字通り、目の前から。勇者は跡形もなく。
いったいどこへ……と、こうべを巡らせようとしたときだった。
背後に魔力と人の気配が顕現した。魔王は一瞬で踵を返し、背後からの剣を漆黒の翼で受け止める。


少女「おしい、けど……」

男「ちっ……」


魔王の背後の魔法陣にはまだ、光の残滓が散らついていた。少女はこの時点で、床に無数に展開された魔法陣が、どういうものか理解した。

少女「まだまだ甘い――」


少女の手が群青色に輝く。少女の手はグロテスクかつ、歪で巨大なものに変わっていた。
飛び退き、距離をとろうとする勇者を少女の巨大な手が掴む。いや、掴んでいない。

眩い光。いったいなにが起きたのか。勇者がまたもや視界から消えていた。


男「っ……あぶねえ。危うくやられるところだった」

戦士「迂闊に近づくのは危険だ、勇者くん」



男「そんなこと言われても、オレは魔法の類は使えないんだ。接近する以外の方法が……」

戦士「そうなんだよねえ、勇者くんってば魔法使えないんだよね……」

僧侶「だからこそ、空間移動の魔法陣を展開してるわけだがな」

少女「小賢しいっていうのは、こういうことを言うのよね、まったく」


いくつも展開された魔法陣はすべて、空間転移の魔法陣だった。
移動する人間が魔法陣に魔力を注ぎ込むことで、発動するタイプのものだ。
勇者パーティのメンバーは、自分のスピードより遥かに劣るものの、魔法陣によってその部分をカバーしようというわけだ。


僧侶「一人で突っ込むのは危険だ。私も前衛をやる。後方支援は、戦士と魔法使いに任せる」

魔法使い「……任せて」

勇者「いっきにいくぞっ!」



前方から勇者が魔王に向かって踊りかかる。魔王も同時に突っ込んでくる。
勇者の剣が魔王に届くよりも、彼女の方が明らかにスピードは速かった。巨手が勇者を握り潰す……いや、すでに魔法陣が発動している。
勇者が一瞬で移動する。


僧侶「うしろだっ!」


僧侶の炎をまとった拳が少女の背中を捉えた。否、翼がはためき魔力による強烈な風が湧き上がる。


僧侶「っああぁっ!?」


拳の炎は掻き消え、僧侶が吹っ飛ぶ。咄嗟に勇者が僧侶を受け止める。が、勢いを殺しきれずに壁まで追いやられる。

だが、攻撃はそれだけでは終わらなかった。少女の足もとから火柱が立ち昇る。やはり、かわされる。
戦士は舌打ちこそするが、魔法を休めはしない。火の粉を連続で放ちひたすら魔王への攻撃を続ける。

攻撃の手を休めれば、一瞬で反撃され殺される。



魔法使い「……発動」


強烈な魔力が床から湧き上がる。巨大な波がうねりをあげて、魔王へと襲いかかる。
小柄な影が一瞬にして荒波に飲み込まれる。空間が水を覆う。


魔法使い「今……」

僧侶「まかせろ」


最早定番のコンビネーション技とも言える、魔法使いの魔法からの僧侶の雷の拳。
雷撃が魔王へと下る。だが、魔王は翼で身を包み、直撃を逃れていた。
荒れ狂う波は一瞬でやみ、全員が防御用の魔法陣から飛び出し、さらなる攻撃へと移る。


戦士「勇者くん! 準備はいいかい!?」

男「いつでも!」


勇者と戦士が、同時に魔王へと挟み込むように走り出す。魔王の片方の変化していなかった手が、突如変化する。
両の手が巨大かつグロテスクなものとなり、今まさに仕掛けようとしていた勇者と戦士を捉えようとする。



しかし、魔法陣を利用し二人が同時に消える。べつの位置へと現れた二人が再び魔王へと飛びかかる。

勇者はこのわずかに自身の魔力をすべて、剣へと集中させた。
瞬きをする間もあるかないかの、極小の時間。その刹那のときの中で、自身の魔力を剣の先端へと収斂させる。
時間が許す限り、やってきた修練の中で身に付けた技能。その集大成をここで――発揮する。

魔王の手が勇者に向かって、再び伸びてくる。自分の身体より、さらに巨大な手が勇者へと掴みかかる。

さっきは、これを魔法陣でかわした。しかし、集中させた魔力が、時間の経過とともに解けてしまうかもしれない。
ここで決める。勇者をそのまま、刺突の構えで魔王の手を迎え打った。


男「うおおおぉっ!!」


魔力が炸裂する。一瞬だけ恐怖が顔を出した。それすらも切り裂くイメージを脳裏へ焼きつける。
自身の覚悟を剣に乗せ、勇者は咆哮し――その手を突き破った。


甲高い悲鳴が、室内に響き渡る。足もとを満たすみなもに赤い血が飛び散る。



戦士「ふぅ……」


戦士もどうやら上手い具合に、巨大な手をかわし、手首を切り落としていた。
少女の腕は瞬く間にもとの状態に戻る。魔王が膝からくずおれる。両の肩を自らの手で抱くその姿は、魔王とはあまりにかけ離れていた。

なにかがおかしい。あまりにも手応えがなさすぎる。
これならまだ、以前に戦ったゴーレムや赤ローブの男の方が、強く感じるぐらいだった。


僧侶「……観念するなら今のうちだ、魔王」


少女は俯いたまま、なにも答えなかった。勇者が一歩踏み出す。金色の髪が邪魔して、少女の表情は窺えない。


男「……もう終わりにしよう。オレはこれ以上キミと……」

少女「ふふふふっ……ねえ、いったいなにが終わるって言ったの?」

男「これ以上、オレは闘いたくないんだ。だから……」

少女「どうして? 私はあなたを殺そうとしたのよ? なのになんで、あなたは私を殺そうとしないの?」

男「そんなことをしても意味がない。それにオレはキミを殺したいわけじゃない」




戦士「勇者くん、待て。それ以上近づくのはやめるんだ」

僧侶「こんな姿とは言え、魔族の王だ」

男「……」

少女「……そう。私は魔族の王。この国を束ねる者。彼女に頼まれた。だから。守らなきゃいけない……」


少女の瞳はひどく虚ろだった。足もとのみなもを見る赤い瞳は輝きを失っていた。


男「彼女? いったいなにを言って……」


勇者はそこで口を噤んだ。自分の中のなにかが疼くのがわかった。本能が危険だと言っている。
気づけば、広すぎる空間を、名状しがたい緊張が張り詰め、圧迫していた。


少女「――約束を果たさなきゃいけないのは、私もなのよ」


張り詰めた空気が、悲鳴をあげる。少女を群青色の霧が包み込む。幼い闇はあっという間に夜のそれにとってかわる。


男「な、なんだこれは……!?」


どこからか出現した猛烈な風に、足もとをすくわれそうになる。いや、これは単なる風ではない。
黒い風……そうじゃない。
視認できるようになり、触れることさえ可能になった魔力が、荒れ狂っているのだ。





  「  ――――やく、そ く  ……は、た   す  」



地の底から響くかのような、低い声が荒波のような魔力の流れを縫って、勇者の耳に届く。
ただの声でありながら、聞いた瞬間、指先から凍りつくように体温を奪っていく。
闇をまとった少女の姿は明確には視認できない。だが、それでも真っ赤に輝く瞳だけは、異様な存在感を放って勇者たちを見据えた。


戦士「いよいよ、敵も本気のようだね……!」


戦士の声には明らかに、焦りが含まれていた。魔法使いと僧侶にも恐怖の感情が見てとれた。

絶望の象徴のように闇をまとった魔王が、高く飛び上がる。

嵐のような魔力を身にまとった魔王が、宙空に浮いたまま身体を屈曲させる。
魔法使いが、一瞬できた隙をついて魔法を使おうと魔力を集中させる。

肉が裂ける不快な音ともに、先ほどの翼よりも遥かに大きな翼を羽ばたく。


魔法使い「くる……っ!」


魔力の集中を中断し、魔法使いは警告する。
不意に魔王が身体を仰け反らせる。闇をまとった女王が、獣の慟哭にも似た声をあげる。
巨大な紫炎が、次々と少女の周りを囲むように浮かび上がる。



巨大な紫炎のせいで、空間の温度が急激に上昇していた。剣を構える。額の汗を拭おうと、勇者が腕をあげようとして、止めた。

炎塊が四方に飛び散る。


男「……ウソだろ!?」

魔法使い「 ―― 」


魔法使いが呪文を唱える。みなもが刹那のうちに凍りつき、次の瞬間には次々と隆起し氷の壁となる。


魔法使い「隠れて」


だが、炎弾はあまりにもあっさりと氷壁を粉砕し、溶かしてしまう。
そのまま床を穿ち、魔法陣までも破壊する。

魔法使い、戦士の二人が同時に魔法を放つ。が、縦横無尽に空間を駆け巡る魔王を、捉えることはできない。
勇者は残った魔力を刀身へと込め、魔王へと投擲する。が、魔王に当たる前に、超高温の熱の塊が一瞬のうちに剣を溶解させてしまった。


気づけば炎を避けることで、精一杯という状況になっていた。


男「ちくしょおっ!」


ひたすら走る。止まれば、火の餌食にされてしまう。頭上から紫炎が降ってくる。



跳ぶ、かわす。わずかに身体のどこかを火が掠めた。だが、そんなことには構っていられない。
動きを止めれば、間違いなく火に焼かれて死ぬ。

反撃するタイミングなど、どこにもない。ひたすら逃げ惑うことしかできない。息が切れる。眩暈がする。
鼓動は速くなっていく一方だった。いったいあとどれだけ逃げられる?


勇者「ま、魔法使い……!?」


空間内を走り続ける勇者の目に、飛び込んだのは、魔法使いがつんのめる光景だった。
石畳の足場は火炎によって、最悪な状態になっていた。今まで自分が蹴躓いていないのが、奇跡にさえ思える。

地面を蹴る。すでに火の塊が、魔法使いに迫ろうとしていた。間に合え。叫ぶ。

身体のの内側で、なにかが胎動する。鼓動が一際強く鳴った音が響いた気がした。


魔法使いに火が直撃する直前。勇者は飛び込む。炎弾と魔法使いの間に割り込み――


魔法使い「……!」


炎は勇者の背中を直撃した。



魔法使いは目をつぶった。身体を超高温の熱に覆われる。溶岩の中に突っ込まれたような熱が、全身を襲った。


魔法使い「……あっ」


だが、自分はまだ死んでいない。生きているという感覚がある。
目を開くと、誰かの影が自分に覆いかぶさっていた。魔法使いが目を見開く。恐怖に擦り切れた記憶が、一瞬にしてもとに戻る。


勇者「だ、い……じょうぶ、か…………?」

魔法使い「……あなたは…………どうして!?」

勇者「お前だって、あのとき……ケルベロスのとき、助けて……くれた、だ、ろ……」


魔法使いはどうしていいかわからず、こんな状況にも関わらず呆然とする。
だが、勇者は苦痛に顔を歪めながらも、唇のはし釣り上げた。

勇者、と叫び声が聞こえる。火がそこまで迫ってきていた。


魔法使い「にげ――」

男「にげねーよ」


暗い霧のように現れた魔力が突如、勇者の背中にのしかかる。
猛禽類を思わす翼が、勢いよくはためく。勇者の背中へと直撃するはずの紫炎を、その翼が薙ぎ払った。



勇者に手を引っぱられて、魔法使いはすぐさま立ち上がる。
勇者はいつかと同じように、暗い霧のような魔力を身にまとい翼を生やしていた。


魔法使い(自身の危険に反応して、潜在能力が覚醒した……?)

男「走るぞ!」

魔法使い「あ、ありが……」

男「礼はいらない! それより、なんとかして魔王の火を止めないと……!」


勇者は正気を失ってはいなかった。以前までは、覚醒すると意識をなくしていたが……身体が力に馴染んでいってるのかもしれない。
火が次々と襲ってくる。走る。


男「どう……どうすれば、いい!? なにか……ヤツを止める手段はないのか!?」

魔法使いは、走りながら飛んでくる火を見て……一瞬で気づいた。
いや、これは明らかにわかりやすいことだった。


魔法使い「火の威力が、はぁはぁ……弱くなっている……」

男「火の威力……そういえば、さっきより……火力が弱い……?」




考えてみれば、当たり前の話だった。いくら魔王といえど、魔力には限界がある。
床に仕込んだ魔法陣すらも、無効果にする高威力、高魔力の火炎をこれだけ連発すれば、魔力だって足りなくなる。

勇者が無事だったのは潜在的な力も去ることながら、火炎の魔力が明らかに弱くなっているからだった。


魔法使い「これを、あなたに……!」


魔法使いがマントの下からから、あるものを取り出す。走っているせいで、一瞬だけそれを手に取るのに手間取る。


男「これは、あれか……!?」

魔法使い「魔王の虚をつくならっ……これ、しかない……」

男「わかった……!」

僧侶「勇者!」

男「……っ!?」


僧侶の叫び声が聞こえたときには、魔王が超高速でこちらに迫ってきていた。
武器もなにもない、どうすればいいんだ――迫る魔王を前に勇者が身構える。


戦士「そこだあああぁっ!!」


迫る魔王の横から、戦士が斬りかかる。魔力から生んだ炎で、刀身を包んだ剣が魔王を捉える。
気迫の一撃だった。魔王である少女が、戦士の気迫の一撃によって吹っ飛ぶ。

炎がやむ。できた隙をついて、僧侶も勇者たちのもとへと駆け寄る。


男「……助かったぜ、戦士」

戦士「まったく……相変わらずキミは無茶するね」

男「魔王は……やったのか?」

僧侶「……いや、まだだ」


吹き飛び壁に衝突した少女は、すでに起き上がっていた。強力すぎる魔力の波動が少女の髪を持ち上げ、さか立てる。


 「  ――、 じゃ ま   ■■ す ■る な……――  」


少女が再び飛翔する。紫炎が幽鬼のように少女を囲む。やはり、さっきよりは明らかに数が少ない。


僧侶「勇者、それを貸せ。私がその役目をやる」

男「……いいのか?」

僧侶「時間がない。迷ってるヒマはない」




戦士「ボクからも、ボクの剣を渡しておく。ボクの形見だと思って、今だけ大事に使ってくれ」

男「まだ死んでないだろうが、縁起でもねえ。ていうか、なんで剣をオレに……?」

戦士「剣しか使えないキミが、剣を持ってないっていうのは致命的だろ。
   ボクなら魔法も使えるからね」

僧侶「そろそろ、構えた方がいい……!」

男「……僧侶、これについてはお前に任せる。頼んだぜ」

僧侶「大丈夫だ。まかせておけ」

魔法使い「……私たちで、時間をかせぐ」

男「……やるぞっ!」


勇者の声が合図となる。魔王の周辺を囲っていた紫炎が、一斉に勇者たち目がけて放たれる。




勇者、魔法使い、戦士、僧侶が散開する。


火の威力も数もやはり弱くなっていたが、しかし、余裕はこちらにもまるでなかった。
魔力が尽きかけているのは、お互い様だった。そうでなくとも、体力的な限界が近づいている。

魔法使いと戦士は、魔法攻撃で魔王を狙い撃ちするが、やはり魔王の動きは尋常じゃないスピードだった。
勇者と僧侶はひたすら魔王を引きつけ走り続ける。苦しい。呼吸過多によって肺が擦り切れるようだった。
視界が霞む。何発か火が身体を掠めている。

どれぐらい時間が経過しただろうか。不意に勝機が訪れる。


僧侶「――もらった」


ようやく僧侶が魔王の背後をとった。右拳に魔力を込め、グローブでそれを増幅。雷の拳を魔王の背中に見舞う。




 「  ■ま、 … ■■……おう…………を、 なめる……  な  」



突如、魔王の翼に魔力が行き渡る。雷の拳は、翼の魔力によって弾かれる。
僧侶が吹っ飛ばされた。壁に背中から衝突し、そのまま動かなくなる。


男「僧侶……っ!」


勇者が無意識のうちに、僧侶に駆けつけようとしてしまうのを戦士が引き止めた。


戦士「僧侶ちゃんのことはまかせろ! キミは魔王に集中するんだ!」



そうだ。彼女がくれたチャンスをここで無駄にするわけにはいかない。
僧侶の一撃は、魔王の魔力を削りとったらしかった。火の数が明らかに減っている。

自分に向かってくる炎の処理は、魔法使いと戦士に任せることにした。
魔力を集中させる。全集中力を細身の剣へと向け、魔力を剣へと注ぎ込む。剣の輪郭が黒い霧によって、ぼやける。
すべての魔力……自身の得体の知れない力さえも、刀身へとみなぎらせる。己がすべてをこの剣へと込める。

当てれば、魔王さえも倒せるかもしれない。だが、外せば自分の魔力は空。勝機は確実に消えてしまう。
タイミングを間違うわけにはいかない。


魔王が勇者に向かって、突進してくる――この瞬間だ。


魔王がなにかを叫んでいる。どうでもよかった。自分はただ、この一撃に集中すればいい。
勇者は魔王を迎え撃つために、地面を蹴る。魔王へと飛びかかる。


男「――――おわりだ!」


魔力の剣が魔王の首を捉える……瞬間、魔王はしなやかに身体を斜め横にしならせ、これをかわす。
かわされた。魔王の薄い唇がゆがむ。魔王の長爪が勇者の身体を切り裂く。

いや、ちがう。実際には少女の爪が裂いたのは、虚空だった。


男「今度こそ正真正銘の終わりだああぁっ!」


気づけば、魔王の背後に勇者がいた。刀身に込められた魔力が、暗い霧から淡い光へと変わって眩い輝きを放つ。
光の剣を、勇者は魔王に振り替える間も与えず、突き刺す。

















――淡い光が強烈な光となって勇者の視界を埋め尽くす。唐突に勇者の意識はそこで途切れた。



勇者(ここは……)


暗い闇に勇者は一人でいた。あたりを見回しても誰もいない。
この感覚には覚えがある。たしか、以前にもこんなことがあった。記憶が走馬灯のように、次々と現れては消える空間。

その空間の中央に少女がいた。少女はこちらに気づいていないのか、暗闇を見回して戸惑いの表情を浮かべている。


男(やはり……)


映像がふいに現れる。その映像の中には、幼い少女がいた。その少女の顔には見覚えがあった。魔王に瓜二つだった。
少女は誰かを見上げて、しきりに頷いたり首を傾げたりしている。

これは、魔王である彼女の記憶なんだろうか。

やがてしばらく待つと、少女が見上げた先にいる女性が映った。
赤銅色の瞳。黄金の髪。その女性もまた、魔王である少女に瓜二つだった。恐ろしいほど似ている。
あの少女が大人になれば、おそらくこのような女性になるのだろう。

しばらくすると、会話のようなものが聞こえてきた。だが、音は小さくなにを言っているのか聞き取れない。
待ってはみても、一向に音は大きくならなかった。

女性がしゃがみこんで、幼い少女の瞳を見つめる。なにかを言っている、ということだけはわかった。
女性に瞳は時間が経つごとに熱を帯び、潤んでいく。

なぜか最後の言葉だけ、聞こえた。



『世界と、あのヒトを守って』



不意に光がどこからか漏れてくる。淡い光はやがて濃くなり、視界を真っ白に埋め尽くす。
そして、唐突に意識は現実世界へと戻った。



勇者「――!」


目が覚めると同時に、勇者は直感した。
すぐさま、身体を起こそうとしたが、激痛が走って勇者は呻き声を漏らした。


戦士「大丈夫かい? 勇者くん」

僧侶「よかった……目、覚めたんだな」

魔法使い「……安心した」

男「オレ……」

戦士「勇者くんは気絶したんだよ、不思議なことにね。魔王に剣を刺そうとしたら、その剣がメチャクチャに光ってね。慌てたよ」

僧侶「光がやんだと思ったら、勇者は気絶していたんだ」

男「そうだったのか……そうだ! あの子は!?」

戦士「あの子って、魔王のことかい? 魔王ならキミが目覚める数分前に目を覚ましたよ」

少女「…………」



男「……よお、元気か? っイテテ……」

僧侶「っと、無理に起き上がるなよ」

少女「……身体中、ボロボロ。その上、あなたたちに負けるしね。いくらこの状態とはいえ、負けるとは思わなかった」

男「4対1、だったからな」

少女「私にはちょうどいいハンデ、どころか全然足りないぐらいの戦力差のはずだったんだけどね。
   それで? なにか聞きたいことが、あるんでしょ?」

男「聞きたいこと、というか、確認だな」

少女「言って」

男「……これはオレの予想だけどさ。いや、ほとんど直感だな。けれども確信はしてる」

少女「前置きが長いわね。さっさと言いなさい」

男「わかった」














男「……お前さ、本当は魔王じゃないだろ?」

今日はここまでー


まさか昨日の21時からここに至るまでにこんなに時間かかるなんて……眠る

再開します


ていうかついに600か

訂正
>>593>>594の冒頭で

それぞれ 勇者「
となっていますが 男「 ですね、すみません



少女「……」

僧侶「どういうことだ」

戦士「彼女は影武者で、真の魔王はべつにいるとでも言うのかい?」

男「そうじゃないよ。
  魔王。お前はたぶんさ、オレと同じなんじゃないか?」

僧侶「同じ……人工的に作られたと!?」

男「どうなんだ?」

少女「……どうしてそう思った?」

男「……オレが魔法陣を仕込んだ護符を利用して、お前を背後から斬った。たぶん、そのあとだ。
  あのあと、お前はたぶんオレと同じ景色を見たはずなんだ」

少女「……あれを、見たのね」




男「今までにもあったんだ。真っ暗闇の景色の中に、突然、色んな記憶みたいなのが流れてくるのを」

少女「あんな曖昧なものだけで、私を魔王じゃないって判断したの?」

男「もう一つある。オレ自身のなにかが、お前に反応している。
  最初は勘違いしてた。正直、魔王であるお前にビビってて、身体がおかしくなったのかと思ってた。でもちがった」

少女「共鳴、ね」

男「共鳴?」

少女「認めるわ。あなたの言ったとおり、私はあなたと同じ造られしモノよ」

戦士「……!」

僧侶「信じ、られない……」

魔法使い「……」




少女「……これで終わりでいい?」

男「いやいや、早すぎるだろ! むしろ、これから真実を解明するところだろ」

少女「私はあなたたちを殺そうとした。それなのに、こうやって呑気に話してるっておかしいわよ」

男「まあ、たしかにそうだけど……そこは闘った中というか……」

少女「今の私は魔力もほぼ空だし、見ての通りの有り様。殺すのには、絶好のチャンスだと思うのだけど」

男「な、なに言ってんだ……!?」

戦士「勇者くん、落ち着きなよ。
   キミを殺すだけならね、たしかに楽勝さ。ただ、ここは仮にも魔王様の本拠地だ。
   そんな場所に近衛兵や部下がいないとは、思えない」

少女「……安心したわ。きちんと気づいてくれていて」

魔法使い「初めから逃げる算段はしていた」

少女「魔力を込めた護符……空間転移の簡易魔法陣は用意していたのね」



僧侶「魔王一人でもこの様だった。増援を呼ばれたら、勝ち目はなかった。なぜそうしなかった?」

少女「……最後の最後、私は自分の力を制御できず暴走したわ」

男「あれは、暴走だったのか」

少女「あなたにだって覚えはあるはずよ。自我が飲み込まれ、得体の知れない力に身体が支配される不気味な感覚を」

男「……今までに何回かあったな」

少女「万が一二人が暴走したら、誰も止めることはできないわ。だから、臣下たちは皇宮の外に待機させたわ。
   私の暴走がさらにエスカレートしたときは、皇宮ごと吹き飛ばさせるつもりだったから」

男「……そ、そこまでの力なのか、オレたちの力は」

少女「私とあなたの中にあるのは、それほどまでに強大な力なのよ。
   ……で、結局私をどうするの? このまま見逃してもらえるなら、ありがたいけど。それは都合が良すぎる発想よね」

戦士「なら、こういうのはどうだい? キミを見逃してある。その代わりに勇者くんに真実を教えてあげてほしい」

男「戦士……いいのか?」



戦士「まあ、ボクも色々と気になってるからね。みんなもそれでいいかい?」

魔法使い「……うん」

僧侶「私も聞きたい」

少女「……すごくいい仲間ね」

男「え?」

少女「あなたのパーティ。とても仲間思いで、素敵ね」

男「……そうだよ。自慢のパーティだよ」

少女「……あなたは真実を知りたいのよね?」

男「ああ。お前はオレについてもなにか知ってるな? 
  オレは、自分も知らない自分のことを知りたいんだ、頼む」

少女「いいわ……ただ、その前に彼女、エルフを呼びたい。いいかしら?」

男「わかった」




…………………………………………………




エルフ「陛下……姫っ、これはいったい!?」

少女「見ての通りよ。私は彼らに負けたのよ。それと姫はやめなさいって何度も言ってるでしょ。
   大丈夫よ、ボロボロだけど死に至るほどの傷ではないわ」

エルフ「今すぐ治癒を施し……」

少女「大丈夫よ。簡単な応急処置なら、彼女がやってくれたから」

魔法使い「……」

エルフ「……陛下。なぜ、増援を要請しなかったのですか……?

そうすればここまでの傷を負うこともなければ、彼らを……」

少女「いいのよ。この傷は、私が自分の力をきちんと制御できなかったことこそが、真の原因なんだもの。
   私はすでに自分の力の半分以上を制御できなくなっている」

男「どういうことだ、自分の力を制御できないって?」

少女「さすがにね、私も寿命が近づいているのよ」

エルフ「姫……そのことを他言してよろしいのですか……?」




少女「だから姫はやめてって言ってるでしょ。
   彼らは私の寿命について知ったところで、どうもしないわ」

戦士「わかんないよ? ボクらだって……」

僧侶「うるさい。話がこじれるようなことを、わざわざ言うな」

少女「エルフ。彼らを例の空間へ」

エルフ「……あそこへ、この者たちを案内するのですか?」

少女「彼らはすでに私の正体を知っているわ。そして、その先にある真実を知りたい、ってね。
   そこの彼がそう言ってるのよ」

エルフ「……あなたが?」

男「どうしても知りたいんだ。どうしてかはわからない、けど、知らなきゃいけないって本能がそう言ってるんだ」

エルフ「…………なるほど。まっすぐな瞳ですわね
    昔のあなたを見ているみたいですわね、陛下」



少女「そう? それはよくわからないわ。でも、彼らに真実を語ってもいいと思うに値する瞳でしょ?」

男「目? なんかオレの目が特別なのか?」

戦士「……勇者くん。とりあえずは、目のことは気にしなくていいよ」

エルフ「陛下、立つことはできますか?」

少女「なんとか、ね」

僧侶「どこかへ行くのか?」

少女「ええ。真実を知るのに相応しい場所へ、案内するわ……おねがい、エルフ」

エルフ「ええ」

魔法使い「魔方陣……」




…………………………………………………………




男「……っうぅ………ここは?」

戦士「ていうか、魔方陣やるなら唐突にやらないでほしいなあ! びっくりしちゃったよ……ええ!?」

僧侶「な、なんだこれは!?」

魔法使い「巨大なドラゴン……」

竜「あなた方は……陛下に伯爵閣下……なぜ勇者様一行がここに?」

少女「魔王の間に用があって来たのよ」

竜「……その傷を見た限り、勇者様たちに打ち負かされたのでしょうが……よろしいのですか?
  ここから先の空間に足を踏み入れた者は、内部の人間でさえ、ほとんど存在しないというのに。
  外部の人間をこの空間内に立ち入らせるなど……」

少女「いいのよ」  

男「しかし、本当にデカいドラゴンだな。最近、超ちっこい竜を見てたから、ギャップがすごいな。
  あいつも最終的には、これぐらい大きくなるのかな」

竜「お言葉ですが、そのちっこいドラゴンというのは、おそらく私のことを言っているのですよね?」




男「え……?」

竜「街へと繰り出すときに、この姿では不便極まりないですからね。あなたがたの前では、極小サイズでいましたが、これが本来の私のサイズなんです」

僧侶「あの小さな竜が、私たちが散々いじくり回した竜の真の姿が、これ……?」

魔法使い「……」

竜「ちょっとちょっと、驚きすぎですよ」

少女「気持ちはわからなくもないわ。でも、あなたたちに見せたいのはこの子じゃないわ」

戦士「いやあ。でも、このドラゴンのギャップを体感した後だと、たいていのことでは驚かなくなれそうだね」

少女「……ドラゴン。ゲートを開けてちょうだい」

竜「承りました。勇者様……」

男「ん? どうした?」





竜「いえ、なにかを言おうと思いましたが……やはりいいです」

男「なんだよ、そりゃ? まあ、また会おうぜ」

竜「ええ」

エルフ「ゲートを開きますわ。皆様、少しお下がりくださいまし」

僧侶「この扉の先には、いったいなにがあるんだ?」

少女「見ればわかるわ。行きましょう」



男(……なんだろう。オレはこの先にあるものを知っている気がする……)


…………………………………………………………………………


魔法使い「……っ」

僧侶「ここは……妙な息苦しさを感じるが、どうなっているんだ。暗くて周りもよく見えないし……

少女「あたり一帯にある一定の割合で空間に魔力を放出する、魔方陣を展開しているから。

慣れていないと苦しいかもしれないわ。けど、三分もしないうちに慣れるはずよ」

男「オレは特になんともないな」

戦士「勇者くんは鈍いから、わかんないんじゃないの?」

男「んー、そうなのかなあ……」

僧侶「結局ここには、なにがあるんだ? まさか、こんな暗闇空間だけ見せて、終わりではないだろ?」

少女「もちろん。エルフ、灯りを」

エルフ「はい……陛下があなたたちに見せたかったのは、これです」



戦士「灯りがついたとはいえ、まだ少しくらいね。
   ……この巨大な水槽みたいなのは、培養槽みたいだけど、中に入っているのはなんだい?」

少女「目を凝らしてみて。そこにあるものが見えるはずよ」

僧侶「たしかに集中すれば見えてきたが、これは……ヒト型の魔物?」

戦士「この魔物はいったいなんなんだい?」




男「魔王だ」




戦士「!?」

魔法使い「じゃあ、これが、本当の魔王……?」

少女「ええ。あなたには彼の記憶があるのね。だから彼が魔王だってわかる……そうね?」

男「記憶、っていうか、まあ。それに近いものを何度か見たことがある」

僧侶「どうなっているんだ?」

少女「なにが?」

僧侶「この魔王からはまるで魔力を感じない。まるで、死んでいるかのようだ。
   いや、そもそもコイツは生きているのか?」




少女「生きているとも言えるし、死んでいるとも言えるわね。仮死状態というのが、正確ね」

戦士「これが真の魔王だって言うなら、なぜキミが魔王として魔界に君臨してるんだ?
   それに、なぜこんな状態になっているんだ? いや、そもそもこれは本当の魔王なのかい?」

少女「むぅ……質問は一つずつにしてほしいわね。ところで、最後の質問はどういう意図で言っているのかしら?
   まさか彼も、私みたいに造られしものだって言うの?」

戦士「キミの寿命はつきかけている。そう言ってたでしょ?
   ならば、新しい魔王を作ろうとする発想は、べつに不思議ではないでしょ?」

少女「そうね。たしかに発想としては間違っていないのかも。でもね、その考えは外れよ」

戦士「なぜ? この五百年間の間、勇者も魔王も生まれてこなかった。
   どうして彼らがこの世に現れないのかは、定かではない。
   けど、勇者と魔王は常に同時に存在し続けた。もしその法則に則るなら、魔王だけがこの世に生きているのはおかしいじゃないか」

僧侶「たしかに。戦士の言っていることはもっともだ」

少女「……なるほど。あなたたちはそういう考え方をするわけね。

じゃあ、一つ私から質問してもいいかしら?」

僧侶「なんだ?」

少女「どうして、私は彼……勇者を殺してその力を奪おうとしたんだと思う?」




男「それは……おそらくオレの中にある、なにかの力を奪おうとしたからだろ?」

少女「そう、正解。では、そのあなたが言う『なにか』とはいったいなんなのかしら?」

男「それは……魔王とかの力か……ちがうか?」

少女「いいえ、ほとんど正解よ」

魔法使い「……彼の中にある秘められた力は、魔王のもの……?」

少女「私の予想では、魔王、そして勇者の力も彼の中には眠っているはずなの」

戦士「じゃあ、キミが勇者くんを殺して、その力を奪おうとしたのは……?」

少女「彼の力を奪って、それをもとに魔王を完全に封印しようとしたのよ。
   私では、どんなに力を尽くしても彼を復活させられなかったから」

男「なんでだ? お前は魔王ではないかもしれないけど、それでも魔王のようにとても強かったじゃないか」



少女「そうね。全盛期の私であれば、あなたたちを殺すのは容易かったでしょうね。
   けれども今や私も、死を待つだけの身となってるのよ」

僧侶「じゃあやっぱり、自分の代わりとなる新たな国王を作るため?」

少女「それもまったくないとは言えないわ。でも、本当の目的はそうじゃない」

男「その……わかりやすくサクッと説明してくれないか?」

戦士「そうだね。ボクもかなり回りくどいおしゃべりの仕方をするけど、ここで焦らされるのは、ちょっとね」

少女「回りくどいかしら? まあいいわ。
   つい五百年前までは、勇者と魔王は争い続けていた。そして、魔王と勇者が死ねば、また新たな魔王と勇者が世界に誕生する」

男「でも今は、魔王は……」

少女「新しい魔王が現れないのは、かろうじて生命を繋ぎとめてこの世に生きているからよ」

僧侶「ということは、この魔王が死んだら、新しい魔王が生まれるってことか?」

男「あっ……」

男(――魔王と勇者の闘いは時代があとのものになればなるほど、その規模は大きくなっている――)



男「その、新しい魔王になったら、また強くなって……えっと、なんだ……」

少女「そうね、それもあるわね。でも、それだけじゃない。
   新たに生まれる魔王が、どんな魔王かわからない。制御が効くのかも。破綻した人格の持ち主かもしれない。
  もしかすれば、この国をメチャクチャにする可能性さえあるわ」

戦士「だから、今ここにいる魔王を復活させようって言うのかい?
   だけどこの魔王だって、もしかしたら、とんでもない人格の持ち主かもしれないじゃないか」

少女「勝手なことを言わないで! 彼はそんなヒトじゃないわ……!」

戦士「し、失礼……」

少女「……ごめんなさい。私の方こそ、感情すらも制御できなくなっているのかも……」

男「……ちょっと待った。おかしくないか?」

僧侶「どうした勇者? なにか引っかかることでもあったのか?」

男「ああ。おかしいだろ? 魔王は死にかけとはいえ生きている。なのにどうして勇者はいないんだ?」


少女「……」

戦士「……たしかに。勇者くんの言うとおりだ。
   ボクらはすっかり魔王がいて、勇者がいないことを当たり前だと思っていたけど、これってよくよく考えれば、やっぱりおかしいことだ」

魔法使い「……あなたは、最初、八百年前に封印された勇者……ということになっていた」

男「……そういえばそうなんだよな。すっかり忘れてかけてたけど。
  オレは八百年前の勇者で、長い封印のせいで記憶をなくしていたって。でも、それは単なる王様の嘘ってことじゃあ……」

少女「じゃあ、あなたのその断片的な八百年前の記憶は、どこから――いいえ、誰から拝借してきたの?」

魔法使い「……そう、彼女の言うとおり。
     いかに賢者と言えども、無から有は生み出せない。記憶は記憶の在り処からしか引き出せない」

戦士「そうだよ! それにボクらが八百年云々信じたのだって、その封印の記録自体はあったからだ。
   もちろん、詳細についての記録はまるでなかったけど……」

僧侶「それじゃあ……」

少女「そう。これらの要素を突き詰めて考えていけば、一つの事実が浮かび上がってくるわ」

男「つまり――」















少女「本当の勇者は今もどこかで生きている」

今日はここまで。そして次回でこの話は終わり(のはず)です。
読んでくれてる人ありがとうございます


感想レスにありましたけど、名前で勇者が男になっていたり、魔王が少女になっていたのは
こいつらがニセモノであるってヒントのつもりでした

ではまた

再開します


その前に

>>617
少女「彼の力を奪って、それをもとに魔王を完全に『封印』しようとしたのよ。
   私では、どんなに力を尽くしても彼を復活させられなかったから」

ここ、『封印』じゃなく、『復活』です。すみません



僧侶「勇者が生きてる。
   ……お前は本当の勇者に会ったことがあるのか?」

少女「……さあね。これに関しては答えるつもりはないわ」

僧侶「どうして?」

少女「その勇者について、『直接は』私には関係ないもの」

僧侶「……」

戦士「ちなみに先に言っておくけど、ボクはそんなことは知らなかったよ。
   と言うより、発想としてまず、浮かばなかったね」

男「本当の勇者、か……」

魔法使い「…………」

僧侶「なら質問を変えよう。お前は誰に造られた?」

男 「そうだ! オレは王様の命令で造られた。じゃあお前は誰に造られたんだ?
  そもそもお前って、何歳なんだ?」


少女「細かい年齢は記録を調べればわかるけど……四百五十は確実に超えてるかしらね」

男「よ、四百五十!? そ、そんなに長生きできるものなのか……」

少女「魔族の寿命はもとから人間より長い。その上、私には魔王の力があるから」

戦士「見た目はボクらなんかよりも若いのになあ……」

僧侶「年齢も……まあ、たしかに気になることではあったが、本当に気になることはそこじゃない」

少女「ずいぶんと私の顔を凝視してくるけど。私の顔がなにか?『お姉さん』」

僧侶「……。どこかで見たことのある顔だと思ってた。でも、ずっと誰かわからなかった。
   だが、お前が魔王だと名乗ったときに気づいた。ある女王にそっくりだって」

戦士「ある女王?  …………ああっ!?  あ、あの災厄の女王……そうだよ! 
   言われてみれば、そっくりだ! ボクが見たことがあるのは成人後のだけだけど……」

少女「…………」

男「お前は、姫様のことを知ってたよな? それに他にもオレたちの国のことについて、色々と知ってた」

少女「そうね、せっかくだから、かいつまんで教えてあげる。私はあなたたちの国が、混乱期に陥る以前よりも更に前。
   私はあなたたちが、災厄の女王と呼ぶ彼女によって生まれた」

男「え……それってつまりはどういうことなんだ?」



戦士「……つまり、彼女はボクらの国で生まれたってことだよ……」

男「オレたちの国で!?」

僧侶「混乱期より前ってことは五百年近く昔ってことか……」

男「そんな昔に、お前は生まれたのか……」

少女「今のでいっきに様々な疑問が湧いたでしょうね。でも、畳みかけるような質問の仕方はやめてね」

男「じゃ、じゃあ。どうしてオレたちの国で生まれたお前が、今は魔王としてこの国に君臨しているんだ?」

少女「あなたが、勇者の代替え品として造られたように、私は魔王の代替え品として造られたのよ」

戦士「魔王の代替え品……?」

少女「先にこれだけは言っておくわ。女王……彼女は誰よりも、この世界の平和を考えられていた方だった」

戦士「あの女王が世界の平和を?」

少女「結果から見れば、自国を滅ぼしかけたけど。それでも彼女は、たしかに世界を守ろうとしたの」

僧侶「だが、女王はどうやって世界を守ろうとしたんだ?
   彼女がやろうとした政策ならいくつか知っているが、世界を守るという名目のものなんてなかったはずだ」


少女「当然よ。なにせ、彼女がやろうとした世界の守り方は、世界の理そのものを敵に回すようなものだったから。
   彼女は、人工的に勇者と魔王を造り上げ、世界を騙そうとしたのよ」

戦士「そ、そんな……馬鹿げたことを……?」

魔法使い「……マジックエデュケーションプログラムは、その計画の一環だったということ?」

少女「……さすが、魔法使いね。そう、人工勇者と魔王を造るのになにより必要だったのは、最も魔法を扱うのに長けた魔法使いだった。
   そうしてその育てられた魔法使い――そのさらに上のランクに属する賢者たちによって造られたのが、私とその他大勢の私と同じものたちだった」



少女(そして――)











『はじめまして』

『……あなたはだれ? わたしは……だれ?』

『私はこの国の女王。よろしくね』

『じょーおー? じょーお……あなたは、じょーおー。じゃあ、わたしはー?』

『……あなたはまだ、今は……誰でもないわ。……ごめんなさい』

『……どうして泣いてるの?』

『ごめんなさい。あなたがね、生まれるまでに……私、色んな人や魔物たちを犠牲にしてきたの。
 ……こんなはずじゃ、なかったのに』

『……よく、わからないよ。
 ……わたしがわるいの?』

『あなたは悪くない……そう、悪いのは私なの。あのヒトとの約束を守らなきゃいけないのに……』



遥か昔の記憶は、あまりに断片的でとりとめがない。
ただ、彼女が私の小さな身体を抱きしめて、肩を震わせていたことは明確に覚えている。
今思うと、私と二人きりのときは、彼女は泣いていることが多かった。



















『どうして私は、いつも勉強したり色んなところを見に行ったりするの?』

『……ごめんなさい。でも、あなたにしか頼めないからよ』

『質問の答えになってないよ。質問に答えて』

『あなたは、もしかしたら上に立つ存在になるかもしれないから』

『上に立つ? なんの?』

『それはまだ定かではないわ。人かもしれないし、もしかしたら……』



彼女は常に色んなものに謝っていた気がする。どうして謝っているのかはわからない。
そしてふと、彼女は会話の中で言葉を切ることがよくあった。そんなときは決まって私は、彼女の横顔を窺った。
でも頬に落ちる金色の髪が邪魔をして、彼女の表情はわからなかった。
それでも、きつく結んだ唇の白さだけは、今でも目に焼きついている。



















『女王陛下は私に勉強をしろって言うけど、その勉強って色んなものがあるんだよね?』

『そうよ。学ぶっていう行為は、机上だけじゃできないのよ。色々なものを見て、色々なことを体験する。
 言ってみれば、生きることじたいが、ひとつの勉強なのよ』

『勉強をするとどうなるの? した先にはなにがあるの?』

『……それは誰にもわからないわ。あなたが勉強をして、自分で探すんだもの』

『それには答えはあるの?』

『それすらも、あなたが探すのよ』



今思えば、彼女が私に向けた言葉の大半は、同時に自分自身に言い聞かせているようでもあった。
私をまるで、鏡の向こうにいる自分に見立てているように。
自分の行動が本当に正しいのか。そんな脅えとも迷いともつかないものが、彼女との日常の端々から見てとれた。



















『これはなに……?』

『料理……なのだけど』

『なんだか普段食べてるものと比べると、見た目が変だよ? 大丈夫なの?』

『……料理なんて初めてだったから』

『どうして陛下が料理をするの? そんなの他の人にやらせればいいのに』

『……親は、自分の子どもにご飯を食べさせるものなのよ』

『……私はあなたの子どもじゃないよ?』

『いいの、おねがい……あなたに食べてほしいの』

『……わかった』



彼女が作った料理を食べた。そのときの私の反応を見る彼女の真剣な顔こそ、まさに子どものそれだった。
口にした料理は、見た目から想像した味よりは美味しかった。
私が料理の感想を言うと、彼女は悔しそうで――けれども、とても生き生きとしていた。
もっとそういう表情を見せてほしい、と私は思った。



















『こんなとこにいたんだ。なにを見ているの?』

『……べつに』

『培養槽……この中にはなにがいるの? また私とおなじもの?』

『いいえ』

『じゃあ、なに?』

『そうね……強いて言うなら、あなたの……いいえ、やっぱり秘密』

『なにそれ。意味が分かんないよ』

『……今はまだ、教えられないの。でも、そうね。いつか、あなたにもこのヒトを教えてあげる』



彼女は濁りきった培養槽の中身を、食い入るように見つめていた。白い指がその表面を慈しむようになぞる。
彼女の目は雄弁になにかを語っていた。その培養槽の中の、なにかへと。
そして、その唇がゆっくりと動くのを私は見逃さなかった――『魔王』と。



















『一般市民の記憶喪失の件、異端審問局が処理するんだってね。どうして彼ら異端審問官が出てくるの?』

『あなたには関係のないことよ。あなたはこの国のことではなく、あっちのことだけを考えていればいい』

『……そうもいかないんだけど。私の同僚……いや、同胞と言うべきかな。
 ここ最近になって、彼らが次々と正気を失って暴走を起こしている。他にも実験に使われた魔物たちが研究所から抜け出して、街に甚大な被害をもたらしている。
 なんなら私が止めようか? 私なら止められるかもしれない』

『……私だってそうしたい、けど、ダメよ。あなたは知られてはいけない存在。
 それに、勇者様も今回の討伐任務には参加しているから……あなたはなにもしなくていい』

『……世界を平和にするのが陛下の夢だったんだよね? なのにどうして? 
 国の民に危険が迫っている。助けなくていいの?』

『ごめんなさい……ごめんなさい、私が情けない女王だから……』



彼女が縋りつくように私を抱きしめた。自分の肩に顔を埋める彼女は、記憶の中の彼女とどうしてか、一致しない。

こんなに彼女は小さかっただろうか?

彼女の嗚咽を聞いていたら、なぜか私の目頭まで熱くなっていた。頬を伝うものを拭いもせず、ただ私は小さくなった彼女を見つめていた。




















実験の失敗が生んだ勇者と魔王の出来損ない、そして、その過程で使われた魔物たちが暴走し、国は混乱期を迎えた。
そして、彼女は――魔物に襲われた。勇者の助けは、寸分で間に合わなかった。
私がかけつけたときには、彼女はすでに死にかけの状態だった。勇者が彼女の治癒にあたっていた。


『陛下! しっかりして……!
 勇者、なんとか……なんとかならないの!?』

『今治癒しているがダメだ……! 毒が酷すぎる……解毒しようとしているが、間に合わない……!』

『誰か……誰かっ!? 回復魔法を使える者は……!?』

『……無理だ。大半の魔法使いが異端審問局に捕まってる。そうじゃない連中もあちこちに駆り出されている……くそっ!』

『……私が彼女を助ける……』


私の能力の一つに、触れた対象の器官や一部を取り込む、というものがあった。実験の副産物的なものだった。
対象相手がある程度弱ってさえいれば、この能力は行使できる。彼女の傷口に触れた。
深呼吸をする。毒だけを抜き取る必要がある。失敗は許されなかった。口の中の水分はなぜか干上がっていた。
まるでなにかを恐れているかのように。恐怖に硬直した私の腕を、ふと誰かの手が握った。



彼女の手だった。彼女は意識を取り戻していた。しかし、開いた瞳は濁っていて、どこを見ているのかすら判別がつかない。
そこで決心がついた。自身の能力を使う。彼女の身体の中へ意識を潜らせる。


失敗したら彼女が死ぬ。


彼女の血液やなんらかの器官。毒以外のものを吸収すれば、瀕死の状態の彼女は死ぬ。
その恐怖を振り払い、彼女の毒をすべて抜き取る――そうしようとした私へ、なにかが入ってくる。
今までにも経験がある。感情の奔流。だが、なぜ――彼女は生死をさまようほどの重症を負っているのに。
血が身体をかけめぐるように、私の中が彼女の感情で満たされていく。

私は理解した。彼女が私になにかを伝えようとしているのを。
意識を傾ける。感情の奔流から、彼女の言葉を探し出す。


(……私は、もう長くない……)


私は否定をしようとしたが、彼女が言葉で遮る。


(……この国は今なお、混乱してる。それもこれも私のせい。私が『あの男』の魂胆に気づけなかったから……)

(黙って……集中できないっ! 集中しないと……あなたが死んじゃう……だからっ!)

(いいの……私は罪人。死ななければいけない)

(うるさいっ! 勝手に死ぬとか言うな……! 勝手に思想を押し付けて……勝手に役目を押し付けて! 勝手に死ぬなんて、許さないっ…………!)

(ふふっ……あなたがそんなに感情的になるのは初めてよね?)


なぜこんな場面で微笑う?

私はそんな疑問さえも声にできなかった。ただ、嗚咽を漏らすことしかできない。

自分の中に彼女の感情以外にも、なにかが侵入してくるのを感じた。血のように滾る熱いなにかが、自分の一部となって溶けていく。
彼女はここで死ぬ気だ。私に想いの一部を託して。


『なんで……!?』

(本当にごめんなさい――)


彼女の指が私の唇に当たった。目は見えないはずなのに、彼女は私の方を見ていた。彼女は笑った。


そして言った――いってらっしゃい、と。


私の唇に触れていた手が、音もなく地面に落ちる。彼女の命が終わった瞬間だった。


『ひ、姫……そんな……』


背後で勇者が茫然と呟いた。


彼女が死んだ。


生まれてからずっと、私を母親のように、家族のように育ててくれた彼女が。
世界でたった一人、心を許せる彼女が。


『俺が……俺が彼女を止めていれば…………こんなことには……』


背後の勇者の声が遠くなっていく。
自分のとも彼女のともつかない感情が、私の中で混ざり、溶けて、氾濫しそうになる。
頭が割れそうなほどの痛み。獣のような悲鳴が近くで聞こえた。意識が遠のいていく。

薄れて行く意識の中で私は誓った。



彼女との約束を絶対に果たす、と。











少女「結局、当初の勇者と魔王を混合した究極の存在を造るという、研究は人口の勇者と魔王を造るという研究に成り下がり、それすらも失敗した。
   国は半壊するまでに追い詰められた。その後の国の混乱期のことについては、あなたたちも知っているでしょう」

男「お前は、女王様が死んだあとはどうしたんだ?」

少女「魔方陣を用いて、同胞と魔王の培養槽と一緒にあの国を出た。そして、時間をかけて魔物たちを統一して……今のこの国を築いた」

戦士「ずっと気になっていたことが、これで一つ解決したよ」

僧侶「……なにがだ?」

戦士「たぶん、魔法使いと僧侶ちゃんも疑問に思ったことはあると思うよ。どうして魔界の言語がボクらの国のものと同じなのかってさ」

僧侶「……そうか、こういうことだったんだな」

少女「そう、私が支配する以上は私が知っている最も使いやすい言語がよかった。他にも、何ヶ国語かは候補があったけど」

魔法使い「……ひとつ、質問」

少女「なにかしら?」

魔法使い「この国の魔族は、通常の魔物よりも遥かに人間に近い容姿をしている。さらに、魔界の住人はほとんどが人型の魔物……なぜ?」



少女「そもそもあなたたちは、例の研究機関について知っているのだから、だいたいのところは検討がついているんじゃないの?」

魔法使い「……人により近い魔物たち。人間奴隷の、補給制度。そして、例の研究機関」

少女「やっぱり。八割ぐらいはもう答えをわかってるじゃない」

男「あ、それって昨日話してたことだよな。結局それってなんなんだ?」

少女「……あの研究機関の本来の設立目的は、自分自身の強化と魔王を復活させるためのものなのよ」

戦士「単なる研究機関ではないと思っていたけど、やっぱりね……わざわざ地下牢とセットだったりと、気づけそうな要素ではあったよね」

男「意味がよくわからん。つまり、どういうことだよ? いや、待て。やっぱり少し考え……」

戦士「残念、今回はシンキングタイムはなしだよ。答えを言ってしまうと、犯罪者を実験の材料として使ってた。そんなところじゃない?」

少女「ええ。死刑に該当するものをね」

男「そんな……」



僧侶「人材補給制度も、その研究の一環として利用されていたんじゃないのか?」

少女「鋭いわね。そう、人間奴隷を研究材料として使っていたわ」

魔法使い「人に近い、魔物の正体は……」

男「……う、ウソだろ。まさか魔物が人型ばっかりなのも、昔よりも人間に近いのも……」

少女「ええ。魔王を復活させる実験としてね、人間奴隷を使っているわ。ただし……」

男「……おまえっ!!」

エルフ「落ち着いてくださいませ、勇者様」

戦士「そうだよ、勇者くん。彼女の話はまだ途中だ。最後まで聞こうよ」

男「最後まで聞こうが、やってることが変わるわけじゃないだろ!」

戦士「勇者くん」

男「…………わかったよ、聞くよ」



少女「あなたの言う通りよ。私が真実を語ったところで、やってきたことが変わるわけではないわ」

エルフ「ですが……いえ、なんでもありませんわ、陛下。続けてください」

少女「……人間奴隷を使う実験。これなんだけど、一応は任意よ」

男「任意?  でも、そんな……自分から実験材料にされようとするヤツがいるわけが……」

戦士「いや、でも被験者になる代わりになんらかの報酬があったとしたら? そうしたら状況はちがってくるんじゃないかな」

僧侶「そうだな。たとえば……実験を受ける代わりに、高位高官にしてやる、とかな。
   犯罪者なら減刑とか……その類の交換条件を人にもちかけるわけか」

魔法使い「……ハイリスク、ハイリターン」

少女「そう。特にね、奴隷として貧しい人生を送ってきた人間は意外と多く、この取引にのるのよ」

男「……でも、実験は成功するとはかぎらないんだろ? 失敗する確率だって……」

少女「六割。現在でやっと、ここまで確率をあげることができるようになったわ」



戦士「奴隷という立場は色んな意味で、実験に都合がいいね。しかも、この人材補給制度……大半が子どもだったらしいね。
   失敗しても公になることはない、そういうことだね」

男「失敗したら……実験が失敗したら死ぬのか、その実験を受けた人は」

少女「死ぬ、場合もある。色々な実験結果があるけど、少なくともどれも悲惨であることはたしかね」

男「最悪じゃねーかよ。結局、そんな実験を受けなきゃいけないぐらいに、追い詰められてる人たちを利用してるんだろ!?」

戦士(勇者くんがここまで怒るのは初めてだな……いや、そうじゃなくても彼は怒ることなんて、今までなかった……)

エルフ「そうですわね。道徳的な視点で見れば、最低な実験でしょう。
    あなたもそう思ってるから、お怒りになられているんでしょう?」

男「ああ、そうだ」

エルフ「でも、その実験のおかげで幸せを掴んだ人間はいるのです、確実に」

男「…………」

エルフ「お気持ちはわかりますし、私たちのやっていることを理解し納得してもらおうなどとは思いませんわ。
    でも、そういう存在がいることを、どうか覚えておいてくれませんか?」

男「……納得はできない。それに、理解もしたくない、でも、そのことだけは、覚えておく」

エルフ「ありがとうございます」

少女「……」



僧侶(人間から魔物になった者たち。
   つまり、元人間の魔物はこの魔界の人間と魔物の共存という形を作る上で、必要不可欠というわけか……)

少女「そろそろ時間かしら……」

僧侶「え?」

少女「ここに来るときは、私は絶対にこの姿でいることにしているの。どうしてかわかる?」

男「……」

少女「魔王……私よ。今日も来たわよ」

魔王『 ……  ■……ひ、 …… め ……  』

魔法使い「……!」

僧侶「生きてるのか!?」

少女「だから死にかけであっても、生きてると言ってるでしょ?
   指一本動かすことすらできないけど、それでも私の……彼女の声には反応するのよ」

男「……お前のその声にしか、反応しないのか?」

少女「そうよ。私、ずっと不思議だったの。なにをしても反応しない彼が、唯一反応する手段が彼女の声で呼びかけることだったことが」




少女「最初は不思議で仕方無かった。けどね、あるときふと思いついたの。魔王と彼女は愛し合っていたんじゃないのかって」

僧侶「……魔王と女王が?」

少女「いいえ、彼女が生きている頃からそんな気はしてた。それに魔王を見ていると、私の胸の奥が熱くなるの。どう思う?」

僧侶「どう思うって……そんなことを言われても……」

戦士「演劇の中には、そういった種族間や身分の違いの問題を抱えた悲恋を描いたものもある。
   そして……そういう話は現実にもたくさんある。とても悲しいけどロマンチックな恋物語がね」

少女「もしかしたら、恋じゃないかもしれない。
   でも、この二人の間にはとても深くて太い絆があると思うの」

男「種族を超えた絆、か」

少女「まあ、この話はこれまでにしましょう。重要な話が一つあるの、あなたに」

男「オレに?」

少女「ええ。あなたになら、頼めるんじゃないのかって思ってたこと。あなたたちと闘う前から決めていたこと」



男「オレに頼みごとって?  オレにできることなんてなんもないぞ」

少女「今はね。でも、時間をかければあなたなら、できるんじゃないのかしら。いいえ、できると思うの」

男「なにをだ?」

少女「この魔界の王になることよ」

僧侶「なに……?」

戦士「……いやいや、勇者くんのおツムの悪さは半端じゃないんだよ、国を統治する王なんて無理だよ」

男「そこじゃないだろ! なんでオレが……」

少女「理由はシンプル。あなたが私に一番近い、からよ」

男「近いって……産まれ方が似てるだけだろ?」

少女「そうよ。だからこそ、あなたには問題も抱えている。
   でも、長寿や潜在的な力は、うまく制御できるようになれば、間違いなく後々役に立つわ」

男「……本気で言ってるのか?」




少女「こんなことを冗談で言える神経は、もちあわせていないわ」

男「なんでだ?  寿命が迫ってるからか?
  だったら自分の臣下に任せるなりすればいい。エルフさんだっているだろ?」

エルフ「……私ではダメなんですよ。私も決して残りの寿命は長くはありませんから。王として君臨できる器でもありませんし」

男「でも、だったらなんとか寿命を延ばす努力をすればいいだろ?  いや、もうしてるのかもしれないけど……」

少女「もちろんそれはしているし、これからも続けるつもりよ。
   でも、私もいつかは死ななきゃいけない。と言うより、後任者が決まっているなら死ぬべきなのよ」

男「なんで!?」

少女「長く生きすぎたからよ」

男「……それのなにが悪いんだ?  生きてる時間が長いことは、べつに悪いことではないだろ」

少女「ええ、もちろん。そのこと自体を、悪いことだとは言うつもりはないわ。
   長く生きすぎることにより、価値観が凝り固まっていくことが問題なの」



少女「年月は積み重ねた分だけ、まぶたにのしかかって視野を狭めていくわ」

戦士「まあたしかにね。何事にも新陳代謝は必要だよね」

男「でも、だからってオレである意味が……」

少女「どうして?あなたはまだ誰のものでもないはずよ。だいたいあなたは、自分がなんのか、自分自身でもわかっていないじゃない。
   なにものでもないあなただから、私は頼んでいるのよ」

男「なにものでもない……」

少女「もちろん、王に相応しい存在になってもらうために、色んな勉強はしてもらうけど」

エルフ「でも、この国を手に入れ、王として君臨することができますわよ?」

男「……」

魔法使い「……」

僧侶「勇者……」

戦士「勇者くん……」

少女「どう? もう一回言う――この魔界の魔王になってくれない?」


………………………………………


戦士「そこまで長い冒険、ってわけではなかったけど。それでも過酷だったし密度が濃かったからか、ずいぶんと長く魔界にいた気がするね」

魔法使い「……まだ、終わってはいない」

戦士「まあね。自業自得とは言え、魔方陣壊しちゃってるからね、いや、壊したのはボクじゃないけど。
そして帰りは船旅……まあこれもなかなか味があっていいけどね。
   ただなあ、帰っても今回の報告とか例の赤ローブの連中のこととか、色々と問題は残ってるからね」

魔法使い「……これからのほうが大変かも」

戦士「そうだね。ていうか、僧侶ちゃんはさっきからなんでそんな難しい顔をしてるんだい?」

僧侶「いや、なんだか今ここで気を抜いたら、倒れてしまうような気がして……それに」

戦士「それに?」

僧侶「結局、彼女は教えてもらってないが、私たちの国と魔界の国はどうやって繋がっていたんだろうって気になってな」

戦士「ああ……そういえばね。ボクもどういうきっかけで、魔界との関係ができたのかは知らないな。魔法使い、知ってる?」

魔法使い「……いいえ」


男「もしかしたらあの子は魔王になってからも、うちの国に来たことがあるんじゃないのか?」

戦士「うおぉっ!?  びっくりしたなあ……急に背後から話しかけないでくれよ。
   ていうか、本を読んでたんじゃないの?  例の女王の手記を」

男「うん。読んでいて、ちょうど休憩に入ったところ」

僧侶「それで、どうして魔王……じゃないけど、魔王でいいか。魔王がうちの国に来たことがあると思ったんだ?」

男「んー、なんとなくだけどさ。この手記の中に書いてあるんだけど、姫様は魔王と一緒に色んな国や街を見て回ってるんだ。
  だから、あの子も影響を受けて、そうしていたんじゃないのかなって思って」

戦士「あの子って彼女、勇者くんの四百倍以上の年月を生きてるんだけど……まあそれはいいけど。なかなか勇者くんの意見はアリかもね」

僧侶「姿を変える能力があれば、たしかにリスクも少なく、それをすることはできるな」

男「だろ? なかなかいい発想だと思うんだけど」

戦士「勇者くんにしては、なかなかいい推理だと思ったよ」

男「へいへい。そういうお前は、なんかアイディアあるのか?」

戦士「まあ、勇者くんと似たようなのだけど、一応一個ぐらいはね」



男「どんなのだよ?」

戦士「一時期、彼女がボクらの前に一切姿を現さなかったことがあったろ?」

男「あったな」

戦士「あれって、実は魔王を復活させるために、研究所にこもってたりしてたんじゃないのかなあって思うんだ。所詮は憶測だけど」

魔法使い「続けて」

戦士「で、うちの国って軍事技術とかでは魔界に負けている。けど、医療技術では間違いなく、魔界より勝ってるんだ」

僧侶「つまり、戦士が言いたいのは、医療技術を魔王復活に利用するために、私たちの国となんらかの関りを以前からもっていたってことか?」

戦士「そういうこと。案外、勇者くんが言ったように、自らうちの国へ乗り込んでたりしてね」

男「本当にそうだったら、あの子すげえな」

戦士「まあこんなのは、全部妄想に近い発想だけどさ。ていうか、こんなことよりもさ。勇者くんは帰ってからどうするんだい?」



僧侶「なにせ魔王になるチャンスをふいにしたわけだからな。一つや二つ、やりたことがあるから、断ったのだろ?」

男「あー……」

魔法使い「ないの?」

男「そうじゃない。ただ、ふとオレが魔王の件を断ったときの、あの子の顔を思い出してさ」

戦士「ん?  またなんで彼女の顔を?」

男「深い理由があるわけじゃないけど、オレが断ったらあの子、『やっぱりか』って顔をしたからさ。
  なんでかなって思って。だって、あの子は自分から頼んできたのに……」

戦士「……ダメでもともとって言葉が世の中にはある。それが答えだよ」

男「そうなのかな……」

戦士「それに、勇者くんはやりたいことがあるんだろ、実際のところ」

男「まだはっきりとプランが決まってるわけじゃないけどな」



僧侶「なにがしたいんだ?」

男「ずばり、冒険」

戦士「……今、やり終えたじゃん」

男「だから、新しい旅をしたいんだ。そして、もっと色んなものを見たい。もっと色んな人と会いたい。
  もっと色んなことを知りたいんだ」

魔法使い「……自分のことは?」

男「もちろん、自分のことも……と思ったけど、今はいいかなって。
  結局あの子は、なにか知ってる風だったけど、時間の関係で聞けなかったし。
  ていうか教えてくれる気があったのかも、わかんないけど」

戦士「自分探しの旅をしたいってわけじゃないんだね」

男「そうだな。あの子の話とか、みんなとの今日までのことを浮かべたら、自分がなにものかってそんなに重要じゃない気がしたんだ」

戦士「なるほどね……」

戦士(彼女は勇者くんのこの考えを、見抜いていたんだろうな……)



男「自分がなにものかって、結局あとから付いてくるんだなあって。だから、今はそういう難しいことはいいやって」

戦士「さすが勇者くん。難しいことは全部後回しだよ。
   最終的には最後まで、自分のことを放置しておくんじゃないのかい?」

男「うるせー。オレだって一応は考えているよ」

戦士「本当にかい?」

男「……たぶんな」

僧侶「……旅に出たいなら出ればいい」

男「……僧侶?」

僧侶「ただ、私たちには国に戻っても、やるべきとはあるし、それにお前の問題はどうなるか……」

男「まあな。でも、きっとなんとかなるよ。いや、なんとかする!」

僧侶「そうか、頼もしいな。でも、勇者。お前はまさか忘れていないよな?」



男「忘れる? なんかオレ、忘れてたことってあるか?」

魔法使い「……私に、奢る約束」

男「あ……そうだった」

戦士「ボクの演劇の脚本作りに協力するって話。当然、忘れてないよね?」

僧侶「私に料理を作ってくれる件もだ。やりたいこともいいが、やるべきこともたくさんあるぞ」

男「……全部楽しみだよ。やらなきゃいけないことも、今のオレにとってはやりたいことなんだ」

戦士「まったく……能天気なのか、頼もしいのか」

魔法使い「……両方?」

僧侶「まあ、いいんじゃないか。私たちの勇者はこんな感じで」



彼の最初の冒険はまもなく終わろうとしていた。そして、新しい彼の冒険の始まりは、もうそこまで迫っている。










お わ り



青年の剣が、その最後に残った魔物の肉体を切り裂いた。
これで、ここら一帯の魔物は全部始末した。
周りを見回せば、青年の雷の呪文によってほとんどの魔物が跡形もなく、消え失せていた。

この程度か――青年は淡々と独りごちた。

王の命令によって、ここまで赴き魔物を排除した。
が、彼自身はこの魔物の拠点がどうなろうが、どうでもよかった。
ただ、命令されたからそのまま命令通りに行動した。行動理由はそれだけ。

ふと、青年は額をおさえる。彼は、ここ何日間かずっと頭痛に悩まされていた。
まるで脳がなにかを訴えるように、悲鳴をあげているようだった。
記憶がどこか曖昧でぼんやりとしている。しかし、それがなんなのか。そもそもその記憶は必要か、なにもわからない。

俺は勇者だ――青年は自分の掌を開いた。今まさに魔物を殺した手だ。
自分はかつて、この手でなにかとても大切なものを掴みとった。
しかし、それがなんなのか。記憶は闇の向こうから一向に姿を見せない。

だが、今の魔物との戦闘で一つ思い出せることがあった。自分が一人で戦っているという事実が、過去の自分と食い違っていることに。

かつて、自分には仲間がいた。だが、今は――

空を見上げた。澄み切った青空に一つだけ雲が浮いていた。

そう言えば――王がこの時代について説明してくれていた内容を思いだす。

そして彼は――勇者は呟いた。






勇者「パーティ組んで冒険とか今はしないのかあ」














ようやく終わりました。
色々と解決していない話もありますし、自分でもあれ?となる部分はあります。
けどひとまずはこれでこの話は終わりです

ここまで読んでくれた人、ありがとうございました


関連ss
神父「また死んだんですか勇者様」
魔王「姫様さらってきたけど気まずい」

またべつのssで




感想ありがとうございます
続きはいずれ書けたらいいなあと思い、こんな終わり方にしました


過去作

関連ss

魔王「姫様さらってきたけど二人きりで気まずい」
神父「また死んだんですか勇者様」

その他

勇者「魔王が仲良くしようとか言い出したけどそんなの関係ねえ!」
妹「くちゃくちゃくちゃ」兄「……」
女「せっかくだしコワイ話しない?」
かきふらい「え? けいおん!の続編を書けですって?」
八九寺「阿良々木さんはけいおん!をご存知ですか?」
梓「1レスごとに私のおっぱいが1センチずつ大きくなります」

じゃあまた














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