魔王「姫様さらってきたけど二人っきりで気まずい」 (55)


魔王「なかなかこれは気まずいな……」

姫「なにをブツブツ言ってるのかしら?」

魔王「ぬおあっ!? き、キサマ、我々の言葉がわかるのか!?」

姫「私の側近に魔物に無駄に詳しいのがいるのよ。いつもその人の魔物話を聞くついでにあなたたちの言葉も教えられて。
  それでしゃべれるのよ、書くのは流石に無理だけどね。それより今気まずいって言ったわよね?」

魔王「キサマら脆弱な人間にこの魔王がそのような感情を抱くわけあるまい。
   馬鹿なことを言うなら口を慎め、人間」

姫「そうね、下等な人間は黙っておくわ」


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さっきまでVIPでやってたけど落ちたからこっちでやります

五分後


魔王「…………おい」

姫「あら、下等生物の人間である私になにかようかしら?
  あなたと私の間で会話が弾むような話題があるとは思えないし喋るなと言われたはずだけど」

魔王「用は無いし会話をしたいわけではない。だが、なにかこの魔王に言いたいことはないか?」

姫「ないわね、髪の毛一本分すらないわ」

魔王「……いやいや、たぶん今自分が置かれている状況とかに疑問はあるでしょ?」

姫「なんなのあなたは? さては相当ヒマなのね、この立派すぎるお城の敷地に生えてる草でも抜きにいったら?」

魔王「この魔王になんて口のきき方だ!
   あまり生意気な口は叩かない方がいいぞ。キサマら人間はこの魔王が触れただけで……ぬおあぁっ!? イタイいいぃっ!?」

姫「私が指につけてるこの指輪、うちの賢者たちが何年もかけて魔翌力を込めて作った魔除けの指輪なの」


魔王「ぬうぅ、まさかそのようか代物をキサマが所持しているとは……」

姫「まさかこの指輪があなたに効くとは思わなかったわ。
  私を直接さらったあなたの側近には効かなかったのに。不思議ね、あなたには効果があるなんて」

魔王「な、なかなかやるではないか……その指輪に免じて特別にキサマにこの魔王に質問する権利をやろう」

姫「なんなのあなた、私とお話がしたいの?」

魔王「断じてちがうわ! ただ一つの空間に二人っきりでいるのに沈黙しかないというのが気まずいだけだ!」

姫「無駄に声でかいわね、と言うか気まずいって言っちゃってるし」

魔王「う、うるさいっ! いいからこの魔王に質問をするのだっ!」


姫「まあ私もここにいる限りはヒマだし、指輪によってあなたが私になにかするのも無理みたいだし質問してあげるわ」

魔王「初めから素直にこの魔王の言葉にそうやって従えばいいのだ」

姫「……まあいいわ。そうね、実のところ気になることはけっこうあるのよね。
  うちの凄腕の兵士たちをどのようにかいくぐって城に侵入したのか、とか」

魔王「ふむふむ」

姫「私をさらう理由もよくわからないし、勇者様と闘わないことはもっとわからないわ。
  しかも城へ攻撃するわけでもないし私を連れて魔王城に帰っちゃうし……まさかあなたロリコン!? 
  たしかに私の年齢ならまだロリと言えなくはないし……だとしたら指輪を持ってなかったら危なかったわね」

魔王「この魔王を愚弄する気かキサマっ!? キサマごときが私の目にかなうとでも!?」
   この魔王がキサマら人間相手に抱く感情など微塵もないわ!」

姫「さっき気まずいって言ったじゃない」


姫「疑問と言えばまだあるわね、今あなたと私がいる部屋よ」

魔王「この部屋? キサマが幽閉される部屋だが、なにか問題でもあるのか?」

姫「逆よ、問題が無さすぎるのよ」

魔王「ならばよいではないか、いったいなにを疑問に思うことがある?」

姫「だから問題がなさすぎることが問題なのよ。なんなのこの横たわった瞬間に全身が沈んでしまうような柔らかいベッドは?
  私の部屋より広いし、ピアノまで置いてあるわ!タンスを見てみれば素敵な服がたくさんあるし!
  シャワーまで備えられてるし棚には高級なお菓子がいっぱい並んでるし、私はお客様なの?」

魔王「ええい! そんなに長々と喋るな、だいたい疑問に思う前に少しは自分で考えんか!」

姫「自分が質問しろって言ったんじゃない」


魔王「まったく、これだから頭でっかちな人間は困るのだ」

姫「頭の悪そうな魔王様、質問させたんだから答えなさいよ」

魔王「 頭の悪い、だと? むぅ…………………………」

姫「今度は急に黙ってどうしたの?」

魔王「オレ、あんまり記憶力ないからこの羊皮紙に書いてくれ。
   明日には答えを教えてやろう、前言撤回の準備をしておけ」


姫「あなたって実は……」

魔王「勘違いするなよ人間、初日から過酷な環境に置けばキサマのような箱入り娘は自[ピーーー]る可能性があるからな」

姫「今のところ幽閉されてることを除けば快適そのものなのだけど……書いたわよ、これでいいかしら?」

魔王「たしかに受け取った。この魔王の解答をせいぜい楽しみにしているがいい、あはははははは」

姫「……と言うか気まずいなら一緒にいなければそれですんだと思うんだけど、まあいっか。シャワー浴びて寝よう」


次の日


魔王「ククククッ、待たせたなあ人間んんんっ!」

姫「無駄にうるさい登場ね」

魔王「今は気分がいいからなあ。特別にこの魔王への暴言も寛容関大な心で受け止めてやろう」

姫「はいはい、それで? 私の質問の解答を教えてくれるのよね?」

魔王「そ、それは……」


姫「なによ? 昨日自信たっぷりだったじゃない」

魔王「いや、側近に話したら答えてはダメだと言われてしまってなあ……あ、オレはロリコンではないぞ?」

姫「それは昨日聞いたわよ。
  それはそうとあなたは側近にダメ出しされただけめ私との約束を破るのね」

魔王「人間ごときとの約束などこの魔王が守るとでも?」

姫「私が言いたいのはそういうことじゃないわ。部下にダメ出しされることもそうだし。
  だいたい部下に答えるなって言われただけで答えないってダサいわよ?」

魔王「……だよなあ、たしかに部下に言われたぐらいでなあ……」


姫「どうして側近の言葉に従うの? あなた魔王なんだから一番えらいんでしょ?」

魔王「それは決まってるだろ、あいつがオレより賢いからだよ」

姫「あなたバカなのね」

魔王「なっ……またこの魔王のことをバカと言ったな! その生意気な口だけでも聞けぬように……っぬわあおおおおおぉっ、ひゃうぅっ!?」

姫「生意気な口を叩かせないためになにをするつもりだったのかは知らないけど、指輪をつけてる私には触れることは不可能よ」

魔王「ふ、不覚……」


姫「ねえ、すごくヒマよ。ヒマすぎてこのままじゃ私、化石になってしまいそう」

魔王「哀れだな。脆弱ゆえにこの魔王に囚われヒマを持て余すとはな」

姫「なにを言っているの? あなたがバカで私の質問に答えられないからヒマをつぶせないんでしょ?」

魔王「なんだとキサマあぁ……ぎょ、ぎょっえええぇえぇえぇ!?」

姫「だからあなたが私に触れるのは無理なの、いい加減学習しなさいよ」

魔王「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬっ! もう怒ったぞ、キサマとは口をきかん!」

姫「どうぞご自由に」


五分後


姫「…………」

魔王「……おい」

姫「あら、なんで私の部屋にまだ魔王様がいるの? さっさと出ていったら?」

魔王「この城の主はこの魔王だ! 出ていくならキサマが出ていけっ!」 
  
姫「出てっていいの? じゃあ喜んで」


魔王「あ、えっと、いや、つまりだねえ、そのだねえ、今のはいわゆる……とりあえずすまん」

姫「バカねえ」



魔王「だいたい本読んでベッドに寝転がって……くつろぎすぎだろキサマ!」

姫「やることがないのだから仕方ないじゃない」

魔王「むうぅ……あ、そうだ! キサマに一つだけいいことを教えてやろう」

姫「あなたのいいことが私にとってもいいことになるのかしらね」

魔王「安心しろ、こちらにとってはあまりいい報せではない。
   勇者がパーティを組んでいよいよキサマを取り戻すために街を出たらしい」

姫「わずか一日でパーティをそろえてもう旅に出るなんて、さすが勇者様ね」

魔王「どうだ、なかなか良い報せだっただろう?」

姫「たしかに良い報せだけど、魔王であるあなたがなんでそんなに得意げなの?」



魔王「ところでキサマはさっきからなにを読んでるのだ?」

姫「まだ全部は読んでないけどおそらくこれ、今までの勇者様と魔王の争いの記録ね」

魔王「……オレみないな魔王や勇者は遥か昔から何代にも渡って争いを続けているらしいからな」

姫「いつの時代の勇者様も魔王も争い、死んで、また生き返って……延々と同じことを繰り返すのね。世の摂理、とでも言うのかしらね」

魔王「この魔王と勇者の争いは必然だからな」

姫「でも……」

魔王「なんだ?」

姫「……やっぱりいいわ。それより少し黙っていてくれないかしら?
  もしくはこの部屋から出ていってくれると助かるのだけど。私ってば本を読むときは一人がいいの」


魔王「ふんっ、キサマにとってはこの魔王が部屋から出て行くのが一番の望みのようだな」

姫「おバカなあなたでも私の気持ちが汲み取れるようになったのね」

魔王「だがこの魔王、キサマがなにか悪さをしないように見張っていなければならない……ゆえにここからは出ていかん!」

姫「じゃあ息をする以外のことは一切しないでね。魔王様なら余裕よね?」

魔王「お安い御用だ!」

姫「…………」

魔王「…………」

魔王(切り替えが早いなあ……)


五分後


魔王「うおおおおおおいっ!」

姫「きゃああぁっ!? なんで急にスカートめくりするのよ!?」

魔王「キサマこそなぜ二人っきりなのに沈黙を保ち続けられるのだ!? キサマには気まずいという感情はないのか!?」

姫「あなたって妙に神経質っていうか繊細ね、私の家庭教師にそっくりだわ」

魔王「キサマは無駄に図太いわ!」

姫「あなたこそ私のスカートめくるなんて度胸あるわね、褒めてあげるわ」

魔王「キサマこそなかなか可愛らしい下着だったぞ」

姫「ありがとう」


姫「少しあなたたち魔物の見方が変わったわ。見方って言うか、ものの考え方っていうか」

魔王「なんだ、唐突に」

姫「あなたの言うとおり私は箱入り娘。だから外の世界なんてほとんど知らないわ。
  魔物も実物を見たことはほんのわずか。あとは本の中だけ」

魔王「……」

姫「私にとってのあなたたちは獰猛でなんの感情もない人を食らうだけの化け物だった。でも、それは案外ちがったのかも」

魔王「勘違いも甚だしいな、人間。この魔王のように感情を持ち言語を操ることができる魔族はほとんどおらんわ」

姫「そうなの? でもそうじゃなければ私が読んだ本たちは嘘になるものね。
  ふむふむ、また一つ賢くなったわ」


コンコン


側近「失礼します、魔王様。実は勇者一行のことでお話が宰相からあるようで……」

魔王「わかった……よかったなキサマ」
   
姫「なにがよ?」

魔王「これからこの魔王は仕事でこの部屋を離れる。一人で読書の時間を堪能できるぞ」

姫「それは喜ばしいことだわ、この本はなかなか興味深いし面白いわ。でも……」

魔王「なんだ?」

姫「あなたとの会話もなかなか楽しいし面白いわ」

魔王「…………やはりキサマ、図太いな。また来る、この魔王が来るまで首を長くして待っていろ」

姫「お断りよ」



姫「魔王がいなくなったら急に静かになったわね。まあ彼の言ったとおり読書に集中できるのだけど……あ、側近の方、一ついいかしら?」

側近「なんでしょうか?」

姫「今日の私に出してくれた食事は誰が作ってくれたの?」

側近「私ですが……」

姫「いえ、とても素晴らしい料理だったから作った方にお礼を言おうと思って。
  あなただったのね、素敵な料理をありがとう」

側近「いいえ、たまたま人手不足でしたので作らさせていただいただけです」

姫「握手させてもらえないかしら? こんな素敵な料理を作る方の手に触れるなんておこがましいことかもしれないけれど」



側近「いえ、ありがとうございます。お褒めに預かり光栄です。グローブをつけたままで失礼ですが……」

姫「…………」

側近「どうしました、急に凝視なされて? 私の顔に何かついていますか?」

姫「いいえ、べつに。だいたいあなたの顔はローブで隠れてて見えないじゃない」

側近「……用がないようでしたら私はこれで」

姫「ええ、夕食も楽しみにしているわ」


夕食前


魔王「入るぞ」

姫「ご遠慮くださいって言っても当然普通に入ってくるわよね」

魔王「食事前か、あまりいいタイミングではないみたいだな」

姫「私にとってはあなたが来た時点であまりよくないから関係ないわ……ああ、でも今回に限っては私はあなたを待っていたのかも」

魔王「オレを待っていた?」

姫「ええ、ちょうど私はあなたに質問したいことがあったの。質問というよりは確認っと言った方がいいかしらね」

魔王「なんの話だ?」


姫「あなたに言われたとおりに私、考えてみたの。自分の疑問に対する答えを、自分なりにね」

魔王「自分の疑問の答え?」

姫「ずっと気になってたのよ。どうしてあなたにはこの魔除けの指輪が聞くのに、あなたの側近には効かないのか。
  だってあなたは側近さんより遥かに強い魔物でしょ?」

魔王「そうだ、側近より間違いなくオレは強い」

姫「そしてあなたにさえ聞くこの魔除けの指輪があなた以外の他の魔物に効かないわけがない。
  なのにあなたの側近は私に直接触れて私をさらった。ここからわかる真実はただひとつ。

   あなたの側近は人間ってことよ」

魔王「……」


姫「他にも証拠やそれに近いものはあるわよ。
  この部屋にある本は全部私たちの国の言葉だったり。
  私の口に合う絶品料理を作ったり。
  あの羊皮紙に書いた私が書いた私の国の文字を読めたり……魔王様、あなたには間違いなく私の文字は読めてないわよね?」

魔王「よ、読めているぞ……」

姫「嘘はつかなくていいわ、どう? 私の推理は?」

魔王「むぅ…………」

側近「まあ誤魔化す必要はもうないのでは、魔王様。
   どうせ遅かれ早かれ知ること、だったら早い方がいいと私は思います」

魔王「なかなかいいタイミングだな」

側近「夕食時だったもので」



姫「さて、それで誤魔化す必要っていうのはいったいなに? やっぱりなにかあるのよね?」

側近「……」

魔王「ここからはオレが一人で話そう。お前は他の職務につけ、説明はオレがしておく」

側近「かしこまりました」

魔王「そうだな、最初に言っておく。キサマの推理は正解だ。オレの側近は人間だ」

姫「やっぱり正解だったようね。でもなぜこの魔王城に人間が? ましてあなたの側近って……」

魔王「前にも言ったはずだ。あの側近はオレより遥かに賢い。いや、おそらくどの魔物よりも、だ」

姫「なるほど、だからこそあなたの側近としてあの人を置いているのね」


魔王「キサマの昨日の疑問についでに答えておこうか。
   オレは頭が悪い、だからうまく説明できるかわからんがな」

姫「あなたのことはなんにも知らないわ。でもバカだってことは知ってるから大丈夫よ、説明しなさい」


魔王「じゃあ最初に言っておく。

   キサマらの国と我ら魔物は裏でつながっている」


姫「……ど、どういうこと?」

魔王「お前は勇者と魔王の歴史についての書籍を読んでいたな」

姫「ええ、ヒマだったからたしかに読んでいたけど」

魔王「それを見てなにかに気づかなかったか?」


姫「ちょっと待って。たしか……勇者様と魔王の戦いの記録を見てみる」




……XXX年、魔王と勇者激しく争う。


……XXX年、新たな魔王と勇者、激闘する。両者の争いにより争いにより小さな集落が滅ぶ。


……XXX年、魔王と勇者この世に生を受け、村を舞台に闘う。死者数百人。


……XXX年、魔王と勇者また復活、街で死闘を繰り広げその地を破滅に追い込む。死者数千人。


……XXX年、何度目の復活か不明、勇者と魔王因縁の争いにより山を二つ消滅させる。




姫「……いくつか勇者様と魔王の争いの記録を比較してみたけどこれって……」

魔王「なにかわかったか?」




姫「二人の闘いによる被害がどんどん酷くなってる……?」

魔王「そうだ、勇者と魔王の争いは年代が新しいものほど規模が大きくなっている」

姫「じゃあこの先、また新しい勇者様と魔王が現れ争いそれを繰り返して行ったら、これより酷いことがおきるってこと?」

魔王「おそらく、間違いなくな。今のオレでさえも本気を出さずともキサマらの国を滅ぼすぐらいなら容易い。
   いずれは世界を滅ぼすレベルの勇者魔王が現れてもおかしくない」

姫「勇者様と魔王の争いは繰り返すたび凄惨なものになっていく……このことに気づいたのは誰なの?」

魔王「キサマら人間のはずだ。オレも詳しくはわからんがな」


魔王「そして勇者にしろオレのような魔王にしろ絶対に片方だけしか存在することはない。
   魔王が存在すれば勇者が存在し、勇者が存在すれば魔王も確実に存在する」

姫「で、でも……たとえば勇者様が魔王を滅ぼしたとしたら、どうなるの?」

魔王「記録によると片方が死んだ場合、もう片方もたいていなんらかの理由で十年経たないうちに死んでいる」

姫「そ、そんな……」

魔王「そして二人が[ピーーー]ばまた数年もしないうちに両者はほとんど同じタイミングでなんらかの形で生を受けている。
   勇者と魔王の争いはこのようにして確実に起こるようになっているみたいだ」

姫「そして争いは規模を広げる……」

魔王「だから我々は裏で密かにつながっているのだ、世界を滅ぼさないために」

姫「でもいずれはこのまま勇者様と魔王の新陳代謝が繰り返されて行けば世界は……」


魔王「そうだ、オレたちはあくまで終わりへの引き伸ばしをしているにすぎない」

姫「でも、たとえば……あなたが今このタイミングで勇者様を襲えば確実に勝てるんじゃないの?
  そうすれば街や土地に被害を出さずにすむんじゃ……」

魔王「それはもっともダメだ、やってはいけない」

姫「どうして?」

魔王「オレたちはべつに時の流れとともに強くなっているわけじゃないからだ」

姫「意味がよくわからないわ」

魔王「オレたちは最初から最強ってことだ。ただ力の使い方がうまくわからないってだけでな。
   勇者とオレたち魔王では力の扱い方を身体が覚えるスピードがかなりちがう、もちろんオレたち魔王の方が早い」

姫「……」

魔王「だが、ここでたとえばオレが今から勇者を襲ったとすればどうなるか。すでに能力はもっている、ただ潜在的なものってなだけで。
   ただ、力の使い方がわからない勇者はオレが襲えば本能で自身の力を無理やり引き出すだろう」

姫「なんとなくわかってきたわ。つまり、能力の使い方がわからない勇者様は周りに甚大な被害をもたらす可能性があるってことね」


魔王「そうだ、だからこそオレたちは勇者がきちんとした成長を遂げ自分の能力をきちんと扱えるようにお膳立てしてやるわけだ」

姫「よく勇者様と魔王の物語で魔物が弱い順に出て来たり、勇者一行が都合よく洞窟内でアイテムを手にいれたりするのも……」

魔王「こちらとそちら側人間の協力のもと勇者がきちんと成長するためのルートをお膳立てしてやってるのだ」

姫「あの手の物語ってなんて都合がいいのかしら、って思ってたけど実話だったのね……」

魔王「まあオレはキサマら人間のように書物を読むなどしないからよくわからんがな」

姫「じゃあ私をさらったのにこんな扱いをしてるのも……」

魔王「そうだ、キサマら王族の娘はほとんどの場合勇者の旅のきっかけとしてなんらかの害を被る場合が多い。
   たしか側近が言ってたが、「姫様物語」という年代ごとの姫に関する記述があると言っていた。六割以上はキサマのようにさらわれているらしい」

姫「それもお膳立てされてるってわけね、私のように」

魔王「ああ、キサマが疑問に思ってた凄腕の兵士たちをかいくぐってキサマをさらうっていうのも城の中からさらってんだから楽勝ってわけだ」


姫「じゃああなたの側近の顔を私は知ってる可能性があるわけね」

魔王「許してやれ、あいつも好きでやってるわけではない」

姫「優しいのね」

魔王「オレが生まれたときからヤツには世話になっている。そしてあいつが自分の立場に苦しんでいることも」

姫「……って、待って。どうして?」

魔王「なにがだ?」

姫「どうしてあなたたちは争うの? あなたたちが戦わなければ両方とも生きていられるし被害を生むこともないわ」

魔王「キサマら人間にとってオレが脅威である限り争わないなんてことはできないだろ?」

姫「あっ……」

魔王「お前たちの国のセイジカとか言う連中の中にはオレを[ピーーー]ことをエサにリッコウホしたりするのだろ?」


姫「そうね、国民は常に魔物に怯えあなたがこの世から消えることを望んでる……」

魔王「そして勇者はそれを望まれ、皆の希望を託されて旅へ出る。だからこそ勇者一行にはこの事実は伏せられている」

姫「たしかに勇者様は今の話を信じるとは思えないわ。正義感の塊みたいな人だから。
  でも、どうしてあなたたちはこの話を信じる気になったの? この話は人間から聞いたのでしょ?」

魔王「いや、未だに半信半疑なところはある。しかし、そもそもオレたち魔族の九割以上は言語を扱えない。
   オレたち魔王でさえ言語を扱えるものが出て来たのはここ千年から数百年の間みたいだしな」

姫「うそ、意外ね……」

魔王「感情でさえ発達していないものは多い、だから国なんて集まりはないし、ホウリツなんてものもない。
   さらにオレたちにとっては勇者以外の人間は脅威にはならない。
   さらに人間が論理的にものを考える力を身につけたのに対して、オレたち魔族の大半は本能が優先される」

姫「そういう色々な要素が重なってあなたたちはその説を信じることができたのね」

魔王「オレたち魔族にとっては生き延びることこそが目的であり求めていることだからな。そしてそれはオレも同じだ」

姫「でも……」

魔王「なんだ?」


姫「こんなこと私が言うのもおかしいけれど、あなたはそれでいいの?
  まるで人間に利用されているように思えるのだけど」

魔王「そうかもな、それに魔王の行き着く先はほとんどの場合が勇者に殺されるという道だ。
   勇者と魔王では力を扱えるようになるスピードは魔王のほうが格段に上だがポテンシャルは勇者のほうが遥かに上だからな」

姫「物語でほとんどの場合で勇者が勝つのはそのためね……」

魔王「……なぜそんな変な顔をする?」

姫「変な顔じゃないわよ、たぶん。
  ただこんな顔しちゃうのはなんだかやるせない気分だからよ」

魔王「なぜだ、なぜやるせない気分にキサマがなるのだ?」

姫「たぶんあなたの行き着く先がもう決まっているからよ。あなたは魔王だけど、でもだからってそんな……」

魔王「オレの行き着く先は常に決まっているかもしれない。だが、オレが守るものの行く末は変えられるはずだ」

姫「……」


魔王「勇者はオレを倒すことで人間たちを守るのだろう?
   ならばオレはオレの死をもって同胞たちを、そして自分たちの世界を守る、ただそれだけだ」

姫「…………昔、こんな言い伝えを聞いたことがあるの」

魔王「え?」

姫「この世界は勇者と魔王の二人だけのために生まれたっていうおとぎ話。
  勇者と魔王が争うための場所として世界が生まれた。そして世界は勇者と魔王の闘いを彩る装置として空や海を生み出した。
  
  あなたたちの闘いを盛り上げるための舞台装置として山や川、街が生まれ、あなたたちのストーリーを演出するために様々なものが組み合わさっていった。
   あなたたちを中心にこの世界は作り上げられていく……そんなお話よ」

魔王「初めて聞いたがすごい話だな」

姫「私はこれを聞いたときふざけるなと思ったわ」

魔王「なぜ?」


姫「だってそれじゃああなたや勇者様以外はただの舞台装置で人ですらないのよ?
  私はまだまだ未熟で箱入りでなにも知らない子供だけどそれでも舞台装置扱いされる覚えはないわ」

魔王「……」

姫「他の人だってそうよ、みんな一生懸命自分の人生を生きて輝いてる……と、まあこんな感じでそのおとぎ話に憤慨してたわ。
  でもちょっと考えが変わったわ。ほんのちょっと、だけど」

魔王「ほお、どんなふうに?」

姫「そんなおとぎ話を作りたくなるぐらいにあなたのような魔王や勇者様にはすごい魅力があったんだろうな、って」

魔王「なるほどなあ、そういう考え方もあるのか」

姫「だから! 私は私で自分の生き方を貫いてあなたたちみたいな立派な人になるつもり!」

魔王「そうか……ならばオレはオレのやり方でオレの守るべきものを守る」

姫「ええ、そうして」

魔王「だから、勇者が来るまでここで幽閉されていてくれるか?」

姫「悪いけどお断りよ」

魔王「へ?」



姫「私はなにもわからないし知らなさすぎるの。だから囚われのお姫様なんてしている場合じゃない」

魔王「……じゃあどうするんだ?」

姫「だから、勇者様が私を迎えに来て闘いに来るまでの間にあなたの世界をできるかぎり見せて欲しい。
  私もいずれは人の上に立つ人間よ、そして私が国民を守らなければいけないときが来る。
  そして私はできるならあなたたちの世界も救いたい」

魔王「本気で言っているのか?」

姫「馬鹿な箱入り娘の戯言にしか聞こえないでしょうね、でもそれでもいいわ。
  真実を知った上でなにもしないでいるなんてそんなの死んでも無理だわ。
  私たちの世界とあなたたちの世界を救う道、それを探したいの」

魔王「……まったく、とんだお姫様だなあ。普通、魔王にそんなこと言うか」

姫「とんでもない真実を知ったんだから言動がとんでもないのは仕方ないでしょ?」


姫「それにあなた、雰囲気からして魔王ぽくないのよ。だから最初からさらされたのになんか怖くなかったし」

魔王「なんだと!?」

姫「口調も最初は頑張って「この魔王が~」って言ってたけど今じゃすっかり崩れているし」

魔王「これは……いや、まあたしかにオレには魔王としての風格が足りないんだろうな。
   でもそれはお前もだからな、お前にはひめとしてのなあ……」

姫「知ってるわよ、だからそれもこれから学んでいくのよ」


魔王「……なんで指輪を外すんだよ」

姫「はい」

魔王「え?」

姫「私たちは間違いなく敵どうしよ。でも勇者様が私を迎えに来るまではパートナーでもある。だから、はい」

魔王「…………まさかな、このオレが人間と握手する日が来るとはな」

ギュッ

姫「よろしく、魔王様」

魔王「こちらこそな、姫」



お  わ  り


RPGやっててふと疑問に思ったことから生まれた話です
ここまで見てくれた人、アドバイスをくれた方々ありがとうございました


すみません
今回の話は短いですがこれで終わりです
実はこの話の続き(って言っても千年ぐらいあとの話なんですけど)は
もうすでにss速報VIPで書いてるんで……

もしかしたらこの姫と魔王の話の続きはまた書くかもしれませんがこのスレではやらないので落としてください

続きはなんていうタイトル?

>>50勇者「パーティ組んで冒険とか今はしないのかあ」

ですが、現段階ではまったくつながりが見えない内容になってるから見ても仕方ないかも

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