姫「イケメンの王子と結婚したい」 (264)

むかしむかし、あるところにお姫様がいました。

姫「ねえメイド」

メイド「なんですか姫様」

姫「イケメンの王子と結婚したい」

メイド「唐突ですね」

姫「いいから話を聞いてよ」

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姫「いろんな本を読んでたのよ」

メイド「そうですね、この図書室で毎日のように」

メイド「バイオリンのお稽古までさぼって」

姫「それはいいのよ」

メイド「いいんですか」

姫「で、いろんな本を読んでて思ったの」

メイド「はい」

姫「たくさんのお話でね、やっぱりそこにもお姫様が出てきて」

姫「悪い奴にさらわれるの、そしてね、イケメンの王子様に助けられて」

姫「二人は結ばれる」

姫「ねえ、素敵だと思わない?」

メイド「そうですね」

姫「でね。私はどう? 現実はどうなると思う?」

メイド「そうですね……おそらく、何十人と言う貴族や王子様とお見合いをさせられて」

メイド「よりこの国にメリットがある人と結婚させられることになるでしょうね」

姫「でしょ? そんなの全然ロマンチックじゃないじゃない」

姫「ピンチの時に助けてくれる正義の味方」

姫「そういうのに助けられたいと思わない!?」

メイド「女の子なら誰しもあこがれちゃいますよね」

姫「でしょ!? やっぱりわかってるじゃない」

メイド「でも隣の国のバーセル王子とか、どうですか? かっこいいじゃないですか」

姫「違うの! 確かにかっこいいけど、そういうなんかこう、簡単な感じで結ばれるなんて、全然ロマンチックじゃないじゃない!」

姫「バイオリンのお稽古なんて何の意味があるのよ、むしろ私には、こういうことを考える方が大切よ」

メイド「いや先生もせっかく来ていただいているんですから」

姫「それは置いといてよ、とりあえず、お見合い結婚とか絶対にいや!」

メイド「ピンチの時に助けてくれる正義の味方ですか」

姫「そうそう」

メイド「お見合いも悪くないと思いますよ? 現に国王様も王妃様も、お見合い結婚ではないですか」

姫「それはそれよ。あの二人、私の話なんか、ちっとも聞いてくれないし」

姫「私のそばにいてくれたのは、いつだってあなただったじゃない」

メイド「光栄な話です」

姫「はあ」

姫「もういいわ」

バタン!

姫(こんな平和な国だもんね)

姫(そんな都合のいいこと、起こるわけがないのに)

姫(でも、どうせなら姫、誘拐くらいされてみたいものね)

姫(みんなが私がいなくなって、あわてふためくのよ)

姫(考えるだけでわくわくするわ)

ガシャン!

?「うわっ! やっちまった!!」

姫「何かしら」

姫(あの廊下の曲がり角ね)

姫(お皿の破片が散らばっている……飾っていたやつね)

姫(あと……トマト? が転がってるわね)

?「どうしよう、どうしよう!」どたばたどたばた

姫「なにあの[ピザ]」

[ピザ]「どどどどどどうしよう!」

ゲシッ!

[ピザ]「いたっ!」

姫「ちょっと落ち着きなさいよ」

姫「なによあんた、そんなにあわてて」

姫(皿の破片に、トマト……あっ)

姫「なるほど、ずいぶん派手にやっちゃったわね」

デブ「そうなんですよ、厨房にうちの採れたての自慢のトマトを持って行くところだったんです」

デブ「毎年この時期はおらのところの野菜を持ってきているんですだ」

デブ「でも、こんな高そうなお皿を割っちまって、おら、どうしたら……」

姫(きいてもないことベラベラ喋ってるし)

姫(面白いやつね、こいつ)

デブ「と、ところであなたh」ジー

デブ「はっ! まさか、あなた! ビオラ姫様!!」

姫「まさかじゃなくて、姫よ、この国の」

姫「ていうかわからなかったの?」

デブ「おおおおお、お許しを!!!」ズザー

姫「うわすごいきれいな土下座」

デブ「わざとじゃないんですだ! ちょっとトマトが重たくて、ふらっときちゃって」

デブ「そ、それに昨日の夜はあんまり眠れなかったんです!」

デブ「そうです、寝不足でつい、お皿を……ど、どうか勘弁してください!!」

ビオラ(すっごいださい、ほんとに大人? このデブ)

ビオラ「あんた、間抜けねえ」

ビオラ「というか滑稽と言うか、なんというか」

デブ「ええ、誠におっしゃる通りでごぜえます!」

デブ「子供の頃からマヌケのポタといじめられてきたのであります!」

姫「ポタ?」

デブ「お、おらの名前です」

姫「おいもみたいな名前ね」

デブ「え、ええ、おいもみたいな体なので、よく言われます」

姫「ふーん」

姫(あ、ひらめいた)

デブ「?」

姫「ちょっと! 誰か来て!!」

デブ「!?!?!?」

ガシャンガシャン

兵士「どうかされましたか、姫様」

姫「あのね、この割れたお皿なんだけど」

デブ「」がたがたがたがた

兵士「ああ、こいつはひどい、姫様、お怪我は」

姫「ええ、大丈夫よ」

デブ「」がたがたがたがたがたがたがた

兵士「まさか! この男が!」

デブ「!」ビクン!

姫「私がやっちゃったの」

兵士「ひ、姫様が?」

ポタ「えっ?」

姫「そう、だから、掃除してもらえる?」

兵士「はっ! ではほうきと塵取りを取ってまいります」

ガシャンガシャン

姫「……行ったわね」

ポタ「ひひ、姫様ああ」うるうる

姫「泣かないでよ気持ち悪い」

姫「感謝しなさいよ、別に今まで城の物を壊して死刑になったとか、きいたことはないけど」

姫「褒められることじゃないからね」

姫「それにお父様、ああいうのうるさいから」

ポタ「あああ、ありがとうごぜえます! もうこの恩は一生忘れません!」

姫「ええ、ほんと感謝してもらいたいわね」

ポタ「おっしゃる通りでごぜえます!」

姫「私がいなけりゃ、どうなっていたことか」

ポタ「まっことその通りでごぜえます!」

姫「言葉だけで感謝されてもねえ」

ポタ「ええ、もう、言葉じゃ足りないほどでごぜえます!」

姫「そうね、確かに言葉じゃあ、足りないわね」

ポタ「ええ、姫様がお望みなら、どんなものでも差し上げますだ!」

ポタ「と言ってもおらには野菜くらいしかありませんが」

姫「物ねえ。ふうん」

ポタ「いいえ、そんなめっそうもない! 姫様のこの恩のためあらば」

ポタ「このポタ、どんなことでもいたします!」

姫「どんなことでも?」

姫(待っていました)にやにや

ポタ「ええ! どんなことでも、なんでもいたします!」

姫「言ったわね」

ポタ「ええ、言いました!」

姫「ほうほう、じゃあそうねえ」

ポタ「何なりとお申し付けください!」

姫「じゃあ」

その夜、姫、自室にて

姫(……十一時、そろそろね)

窓の外をのぞきこむ姫

姫(よし、来てる来てる)

ポタ「姫様!」

姫「声でかい! 今から降りるから!」

姫の部屋まで伸びる大きな木

そこからするすると猿のように降りていくビオラ姫

ポタ「ひ、姫様危ないですだ!」

姫「なれたらこんなもんよ」

ポタ「案外姫様って、おてんばなんですな」

ポタ「で、姫様、なんでこんなところにおらを」

ポタ「しかも、こんな時間に」

ポタ「こんな大きな台車を持ってこいだなんて」

姫「決まってるじゃない」

姫「私を誘拐するためよ」

ポタ「」

姫「なんでもする……だったわよね?」

また明日(`・ω・)ノシ

ポタ「えええええ! ゆ、ゆ、誘拐ですだ!?」

姫「ええ、誘拐よ、誘拐」

ポタ「誘拐って、ああ、あの誘拐だか?」

姫「あの誘拐以外何があるって言うのよ」

ポタ「で、で、でも!」

姫「声が大きいわ、早く行くわよ」

台車に姫は入り込む

ポタ「ちょ、ちょっと!」

ポタ「こ、困るだよ! 姫様!」

ポタ「それにばれたらおら、どうしたらいいか……」

姫「なんでもするんじゃなかったの?」

ポタ「そ、それは」

姫「嘘吐き、男のくせに、情けない」

ポタ「……わかりましただ」

姫(素直な奴)

姫(ていうか誘拐と皿が割ったのがばれるのだったらどっちのがやばいって話よ)

姫(腹もでてりゃ頭も悪いだなんて)

姫(いいとこなしね)

姫「じゃあ、行くわよ」

ポタ「は、はい!」

ゴロゴロ

姫(寝心地悪いなあ)

姫(かたいし痛い)

ポタ「重い野菜だなあ」ぼそ

姫「なんか言った?」

ポタ「いえ、なにも」

台車を引きながら城門をくぐりぬけ、町を歩き、町はずれの草原にまでやってきました

月はいつの間にか真上に来ていました。

月明かりがポタと姫のいる台車を静かに照らします。

ポタ「で、姫様」

姫「なによ」

ポタ「どこに行くんですだ?」

(`・ω・)また夜に

姫「どこって?」

ポタ「仮にも誘拐なんですから、どっかしらに目的地を決めとかねえと」

姫「それもそうねえ、じゃあ、あんたの家」

ポタ「むむ、無理ですだ!」

姫「じゃあどこならいいのよ」

ポタ「うーん……じゃあ、あの山とか、どうですだ?」

姫「あの山? ああ、古代遺跡がてっぺんにある」

ポタ「そうですだ、あそこならしばらく生活もできるし」

ポタ「人目もつかないだ」

姫(拒んでた割に案外アイデア出すのね)

姫「よし、さっさと行くわよ」

ポタ「べ、別にいいですけど姫様」

姫「なによ」

ポタ「なんで、こんなことしてるんだか?」

ゲシッ

ポタ「いてえ!」

姫「質問攻めは嫌いなの」

そう言うと姫はまた布の下にもぐりこみました。

ポタはしぶしぶ台車を動かします。

草原の先にはその山、タンザ山が高々と天を貫くようにそびえていました。

姫(これで、城なんてところから離れられるわ)

姫(いろんなことが待っているのでしょうね、本の中のことみたいな)

姫(山の中で小鳥たちと一緒に、木の実を食べながら、穏やかな時間を過ごす)

姫(なんて素敵)

山道にさしかかり、道が悪くなります。

ガタガタと音を立て、台車は激しく揺れました

姫「もう、痛いわねえ!」

ポタ「そんな理不尽な」

ポタ「こんな山道ですよ? 乗り心地がいいわけないじゃないですだ」

ポタ「もういっそこれなら、降りたほうが痛くないかもしれないだ」

姫「はだしなのよ? 歩かせる気?」

ポタ「はだしで来たんだか!?」

姫「気がつかなかったの?」

台車から足を出し、ぱたぱたと足を動かす姫

ポタ「……」

姫「ほら、もっと穏やかに行きなさい」

ポタ「承知しましただ、お姫様」

夜の闇はだんだんと薄まり、東の空がほんのりオレンジがかっていたころには

姫はすやすやと寝息を立てていました。

姫は夢を見ていました。

お父さんとお母さんの夢でした。
 
太陽が真上に上ったころ、姫はようやく目が覚めました。

姫(……台車の板の感触じゃない)

姫(ふかふかしてる?)

姫(でも、お布団じゃないわね)

姫(鼻になにかこしょこしょ当たるわね)

姫(それになんだか、良い香りだわ)むずむず

姫「へくちゅっ!」

ポタ「あ、起きただか?」

姫は眠い目をこすりながら、体を起こすと

ポタが両手いっぱいに果物や木の実を抱えていました。

おなかもいつもより膨らんでいます。

姫「お腹にまで詰め込めるのね」

ポタ「この服の下、結構便利なんですよ?」

部屋を見渡すと、マキが積まれていたり、果物や野菜が詰められた籠も置いてありました。

どうやら山の上にある遺跡の一つのようです。

自分が寝ていたところに目を向けると、わらが敷き詰められていました。

即席のベッドにしてはなかなか寝心地は悪くありません。

ポタ「この遺跡の周りにな、木の実や野菜や果物がたっぷりあっただよ」

ポタ「川も近くに流れていただ、魚くらいは釣れるかもしれないだよ」

姫(……元気な奴)

姫「ふわー」

姫「あー、そっか」

姫「私、誘拐されたのか」

ポタ「させた、の間違いじゃないんですだ?」

姫「そこのリンゴおいしそうね」

ポタ「……」

姫「あ、そっか、あんた農家なんだっけ?」

ポタ「まあな。これでも果物の善し悪しくらいはわかるだよ」

姫「頼もしいことね」

姫「で、これどうやって食べるの?」

ポタ「? 普通にかぶりつけばいいでないか」

姫「切ってないリンゴを食べろっての?」

姫「私は姫よ?」

ポタ「……姫様」

姫「なによ」

ポタ「ナイフは使ったこと、ありますか?」

姫「あるわけないじゃない」

姫「怪我なんかしたら危ないし」

姫「第一、する必要なんてないもの」

ポタ「でも、今日からはおらとしばらく暮らすんだから」

ポタ「協力し合わなきゃいけないだ」

姫「ふーん、でもこわいわ」

ポタ「危なくないように使えばいいだけだ」

ポタはにやりと笑い、もう一本ナイフを取り出しました。

そして籠から一つリンゴを取り出し、ナイフを駆使し、軽やかな手つきで皮をシュルシュルとむき出しました。

一本になった細い赤い皮が、ゆっくりと伸びていき、やがて白いリンゴの実だけになりました。

そのリンゴを、要しておいたまな板で小さく、一口サイズに切り分けました。

それをひょいとつまみ、自分の口に放り込みました。

ポタ「うん、絶品だ」

姫「……」

ポタ「さあ、やってみるだ」

チャレンジ一回目

姫「実がなくなった」

ポタ「もっかいだ」

二回目

姫「指切った、痛いわ」

ポタ「消毒してあげるだよ、もっかいだ」

三回目

姫「ねえ、もう諦めていい?」

ポタ「こんなデブに姫様は負けるんだか?」

姫「……りんごちょうだい」

その日姫はナイフを使ってリンゴの皮を剥く作業に一日を要しました。

どんなにやっても実が一緒に削れ、一本の皮になることはありませんでした。

姫「……なに、農家って人はみんなこんなことができるの?」

ポタ「当たり前だ、これくらいは朝飯前ですだ。ていうか町の人はみんなできるはずですだ」

 姫はあきらめてナイフを壁に叩きつけました。

ポタ「で、姫様、そろそろきかせてくれないだか?」
 
姫「なによ」ぐったり

ポタ「おらに誘拐させた理由だよ」

姫「おとぎ話のお姫様ってのはね、悪い奴に連れさらわれて」

姫「そこにカッコいい王子様が登場して、その人と結ばれるのよ」

ポタ「まあ、確かにそんな話は多いだな」

姫「でしょ、だから、実行したの」

ポタ「なんだって? つまりオラは悪者か」

姫「そういうことね」

ポタ「なんとまあ」

ポタは話を聞きながら、火打ち石で火をつけることに成功しました。

火種の草に燃え移らせ、小枝で小さな焚火を立てました。

姫「怒らないのね」

ポタ「別に、怒るほどのことでもないだ」

姫(普通に犯罪なのに)

ポタ「でも、ちょっと思ったんだ」

姫「なにをよ」

ポタ「王様にお妃さま、心配してるんだろうなあって」

姫「……」

姫「別にいいのよ、ずっと私を一人にしていたんだわ」

姫「一緒にいてくれたのはメイドだけよ」

姫「いつも国の仕事国の仕事」

姫「メイドに小鳥に木登り、そして本だけが友達だったわ」

ポタ「……なるほどな」

姫(なんか、真面目にこんな話聞いてくれる人、あまりいなかったな)

ポタ「わかっただ」

姫「なにがよ」

ポタ「姫様の王子様、見つけるお手伝い、させてもらいますだ」

姫はその言葉で、胸のあたりがポカポカとあたたかくなりました。

夜はあたりを闇に包みました。

いつもなら寝ている時間の姫でしたが、ポタといろんな話をしていたので、なかなか眠ることができませんでした。

ではまた(`・ω・)ノシ

姫たちが数日すごした遺跡は別名空中都市とも呼ばれ、人々から神聖な場として扱われていました。

姫「まるでおもちゃの家を並べたみたいね」
 
ポタ「どうしてですだ?」

姫「だって、天井がない岩の家がほとんどよ。まるでおもちゃじゃない」

ポタ「確かに言われてみればそうですな。オラたちがいるところはたまたま天井がありますけどね」

姫「ここなら雲に触れそうね」

ポタ「おや、姫様はご存じないんですか?」

姫「なにが?」

ポタ「曇ってのは空気みたいなもんで、触ろうとしても手がすり抜けちまいますよ?」

ゲシッ

ポタ「いてえ!」

 二人はあの夜から十日、奇妙な共同生活を送っていました。
 
最初のころ、ポタが釣りに行くと言ったときです。

姫「釣りって、みんなできるもんなの?」

ポタ「まあ、たいていの人は、知ってるだね」

姫「ふーん」

ポタ「まあ、おとなしく待っててもいいですだよ?」

姫「……」

姫「やらせなさい」

姫「いやっ! なにこれミミズじゃない! きもっ!」

ポタ「これが魚たちの大好物なんだよ」

姫「信じられない、あんたが餌つけてよ」

ポタ「嫌ですだ」

姫「姫の命令よ?」

ポタ「姫様が自分でやるって言っただ」

姫「……」

姫「もうっ! めんどくさい男!」

姫「でもさ」

ポタ「なんですだ?」

姫「バイオリンのお稽古よりかはましかも」

ポタ「そうだんですだ?」

姫「うん。なんでやってるのか、意味がわからなかったから」

姫「魚釣りは、しなかったら晩御飯できないし」

姫「バイオリンが得意でも、こんなところじゃ役に立たない」

姫の中で、初めて意味のある活動と言う物を見つけたような気がしました。

また別の日のことです。

一緒に果物も探しました。

姫「結構あるものね」

ポタ「自然が豊かな場所ですからなあ」

姫「あ、これなんかいいんじゃないかしr……」

姫「ぎゃあ!」

ポタ「ど、どうしたんだっ!?」

姫「むっ!虫! 虫がいるわ!」

ポタ「山なら当然だよ」

姫「もうやだ、帰る」

ポタ「じゃあ食べ物はオラのぶんだけしかとらねえだよ」

姫「ひっどい、最低」

ポタ「じゃあ、がんばるだ」

姫「う……うう……」つんつん

ポタ「」にやにや

姫「笑うな!」

げしっ

ポタ「いてえ!」

また別の日、キノコ狩りにも行きました。

姫「このキノコはなに?」

ポタ「ああ、そいつはいけねえ。眠りキノコだ」

姫「ああ、食べたら眠ってしまうやつ?」

ポタ「その通り、お、ここにあるキノコは食べれるだよ」

姫「へえ、さすがね」

ポタ「褒められることのほどじゃないだよ」

姫(結構頼もしいところもあるものね)

姫(なんか、かっこいいかも)

また別の日

姫「退屈ね」

ポタ「そうですだね」

姫「王子様は今日も助けにこないし」

ポタ「ですだね」

姫「なんか遊び道具でも作らないの」

ポタ「うーん、そうだ!」

ポタ「竹トンボでも作りますだ?」

 一緒に木でおもちゃも作りました。

小さなコマを作りました。

竹トンボを作りました。

二人でどれだけ飛ばせるか、回せるかを競い合い、笑いあいました。

姫「あんた器用なのね」

ポタ「姫様が不器用なだけだ」
 
最初はちぐはぐでうまくいかない姫の作品は、形は歪み、お世辞にもきれいなものとはいえませんでした。

姫「ふん、いいわ、姫だもの」

ポタ「不器用な姫より、器用な姫のほうが王子様はうれしいだよ」

姫(・・・・・・・)

姫はしぶしぶ作業を進めました。

 二人の服は、ポタが台車に積んでいた着替えを洗いながら使いまわしていました。

姫「汚い服、こんなのいや」

ポタ「裸で過ごすだか?」

姫「もっといや!」げしっ

ポタ「いてえ! いい加減やめてくれないだか! すねは痛いだよ!」

姫「うるさいわね、むかつくことを言うからよ」

姫「ねえ、やたらとこの台車には物が多いわね」

ポタ「そうだか?」
 
姫「そうよ、服に水に布に食糧。生活できるためのものがそろってるじゃない」

ポタ「オラだって城にだけ物を持ってってるわけじゃないだ」

ポタ「たまに遠いところに果物や野菜を運ぶこともあるだよ」

姫(いつもより早口ね)

姫(いつものんびりしているのに)

姫「へー、大変ね」

ポタ「食ってくためにはしかたないだ」

姫「ねえ、ポタ」

ポタ「なんだ姫様」

姫「なんであんたは農家になろうと思ったの?」

姫(生まれたときから、国を治めることとか)

姫(そういうこと以外教えられなかったし)

姫(他の仕事なんて、全然知らない)

姫(なんにもしらないな、私)

ポタ「さあ、なんでだろうなあ」

ポタ「野菜が好きなんだ」

姫「野菜?」

ポタ「そうだ。姫様、おらの野菜、食っただか?」

姫「そんなわけないじゃない。野菜なんて嫌いよ、大嫌い」
 
ポタ「もったいないだ。後で台車に積んでる野菜食わしてやるだ」

姫「いいわよ、そんなの」

ポタ「まあいいだ。野菜が好きだから、農家になった。それだけの話だ」

姫「そうなの?」

ポタ「ああ、オラの両親は両方ともオラが十五歳くらいのときに死んじまっただ」

ポタ「だけど、親父の育てた野菜は、どこの八百屋にも負けないうまさだった」

姫「……お父さんとお母さん、いないの?」

ポタ「いないだ。今はオラ一人で暮らしてる」

ポタ「だからここにいても、誰も心配しないだ」

ポタ「仕事は毎回その場で受けて持って行くだけだから、抱えてるもんもなんにもないんだ」

姫「……ふーん」

ポタ「そしていつか、オラの野菜を使ったレストランを開いて、国で一番おいしい野菜レストランを作るのが夢なんだ」

姫(なんだろ)

姫(お腹もでてるし、イケメンでもないのに)

姫(胸が苦しい)

姫(顔が熱い)

ポタ「まあ、姫様には無縁のことだ」

ポタ「姫様にはカッコいい王子様のほうがお似合いだよ」

姫「……当然じゃない」

姫(……そうだった、私は王子様を待ってたんだった)

姫(自然に囲まれながら)

姫(こいつと過ごすのが当たり前になってきて)

姫(終わってほしくないなあって思った)

ポタ「姫様もずいぶんとたくましくなっただな」

姫「そうかしら」

 そしてその日も釣りをするために、二人で川に向かっていました。

お城では教えてくれなかったことを、ポタはすべて教えてくれました。

そして一つ一つのことに驚きながら、姫はいろんなことを身につけていきました。

ポタ「最初は服が汚い、温かいシャワーを浴びたい、トイレが外なんて信じられない」

ポタ「なんて言っていたのにな」

姫「ほんとうよ、最初はこんなところにするんじゃなかった、帰りたいって何度も思ったわ」

ポタ「でも姫様、帰ろうとはしなかっただね」

姫「当たり前じゃない」

姫「……」

姫「王子様を待たなきゃいけないんだから」

姫「それに、あんたみたいなおデブさんに、いっつも頼りっきりなんて」

姫「そっちのほうが恥ずかしいわ」

ポタ「あはは、姫様ひっでえ」
 
川にたどり着き、釣り糸を垂らしながら、魚をのんびりと二人は待っていました。ポタはビオラに尋ねました。

ポタ「そういえば姫様」

ポタ「王子様というか、国ではちゃんと姫様のこと、誘拐されたって、わかっているんですだ?」

ポタ「もしかしたら、ただの家出って思われているかもしれないだよ」

姫「そこら辺は心配ないわ。ちゃんと書置きを残してきたから」

ポタ「ほほー、それはどんなものですかい?」

姫「姫は誘拐させてもらった、見つけてみろ、ってね」

ポタ「安直な内容だなあ」

姫「わかりやすくていいじゃない」


姫「みたいね、これは大物よ」
 
ぐっと力を入れた瞬間、糸を引く魚の力も強くなりました。

バランスを崩した姫は、そのまま川のほうへ倒れこみ、ばしゃんと音を立て、落ち込んでしまいました。

ポタ「姫様!」

姫「た、たすけて!」

溺れる姫を助けるため、ポタは川に飛び込みました。

底は案外深く、ポタでもつま先がつく程度でした。

流れは風のように速く、姫はどんどん河口まで流されていきます。

ポタは息を止め、水の中にもぐり、両手両足を駆使しながら、必死で姫を追いかけました。

姫は溺れるさなか、伸びている細長い小枝を見つけ、ぐっと手を伸ばし、つかみました。

しかし頭が後ろにそれ、ゴツンと岩に頭をぶつけ、姫はそのまま気を失いました

遠ざかる意識のさなか、ポタの必死な呼びかけが聞こえていました。

目が覚めた時はあたりはすっかり暗くなっていました。頭は熱く、体はゾクゾクと寒気が残っています。

「お、大丈夫だか?」
 
姫のおでこに乗っかっていたのは、濡れた小さな布でした。

おでこを触るとほんのりと熱があることに気がつきました。

ぞくぞくと寒気がし、体は鉛のように重たかったのです。

ポタ「まさか風邪ひいちまうとわな、いいだよそのまま寝てて、無理しちゃいかん」

姫「あなたは、大丈夫なの?」

ポタ「あの程度、へっちゃらだよ」

姫「でも、結構流れも速かったし」

ポタ「姫様のためなら、あのくらい平気だよ」

姫「……生意気、デブのくせに」

その日ポタは、朝まで姫の頭を冷やすため、起きていました。

ポタの作った即席のお粥は、とてもまろやかで、やさしい味がしました。

ポタ「ごめんな姫様、野菜と少ないお米しかなかったから」

姫「別に」
 
これがポタの作った野菜と思うと、なんだかとても美味しく感じられました。

ポタ「王子様、きっとすぐきてくれるだよ」

姫「ねえポタ」

ポタ「なんだ、姫様」

姫「あなたは私が王子様に助けられた後、どうするの?」

ポタ「家には帰れねえだな」

ポタ「誘拐犯の罪は重いだ」

ポタ「こっそり逃げ出して、遠くの国で暮らすだよ」

姫「……あなた、この国の生まれでしょ」

ポタ「……ああ」

ポタ「そうだよ」

姫「国を、捨てるの?」

ポタ「それしか方法はないだ」

姫「なにか方法はないの?」

ポタ「だって、姫様を誘拐するってのは、それくらいのことですだ」

姫「……なんで、そこまでしてくれたの?」

ポタ「頼まれたからしかたないだ」

姫「……本当?」

ポタ「ああ、本当だ」にこっ

姫(憎たらしいほど、やさしい笑顔)

姫(むかつく)

姫(かっこいい王子様って、そんなにいいものなのかしら)

姫「王子様、くるといいだな」
 
ポタの言葉に答えたかどうかは定かではないまま、ほどなく姫は目を閉じ、眠りの世界に行きました。

夢は何も見ませんでした。
 
まどろみの中、姫は目覚めました。

部屋にポタはいません。もう外は明るくなっていました。

寒気はすっかりなくなり、体も軽くなっています。

どうやらポタの看病のかいはあったようです。

姫「これ、西日だわ。もう夕方になってしまったのね」
 
姫はどうやら丸一日眠り込んでしまっていたようです。

ポタはどこに行ったのでしょうか。すると、外から声が聞こえます。

?「貴様! 早く姫様を出せ! ここに隠しているのはわかっている!」

姫(……この声は)

姫(バーセル王子?)

姫は顔をひょこっと出しました。

剣を片手に持ち、マントを翻し、きりっとした眉をした男性でした。

何度か話したことはあり、メイドともカッコいいと話していました。

隣国、デュシャンヌ王国の王子様、バーセル王子です。

ついに念願の、姫の待ち望んだカッコいい王子様が来てくれたのです。
 
ですが、姫の顔から笑顔は消えました。

ポタに今にも切りかかりそうなバーセル王子の姿より。

棍棒を片手に持ち、おなかをふくらましたポタのほうばかり見てしまいます。

ポタ「さあ、そいつはオラを倒してからだな」

ポタこのたくさんの建物の中、どこにいるのかあんたにわかるのかな」

力の差は歴然です。のろまなポタなんか、バーセル王子はすぐにやっつけてしまうでしょう。





王子「覚悟しろ、このけだものめ!」

バーセル王子は剣を振りかざし、ポタのほうへ駆けだそうと、一歩を踏み出そうとしました。

姫(や、やばい!)

姫「えいっ!!」

ゴツン!!

王子「がはっ!!」

バーセル王子の頭になにか固いものが当たりました。

それは玉ねぎくらいの大きさのとげとげした岩でした。
 

 ポタは何事かと岩が飛んできた方向を見ました。

そこには姫がいました。

立ちすくみ、両手は泥だらけです。

まるで、さっきまで地面に落ちていたなにかを、もっていたかのように。

バーセル王子は頭にたんこぶを作り、寝込んでいました。

ポタ「……どうして、ですか?」

姫はその問いに答えることなく、ポタに背を向けました。

そしてそのままはだしでかけだしました。
姫(痛い)

姫(一歩歩くたびに、石とかが足に食い込んでくる)

日はどんどん傾きながら、姫の姿を闇に隠そうとしていました。

姫(あ、そっか)

姫(私、ずっと待っていた王子様に)

姫(岩を投げつけたんだ)

それと同時に流れてきたのは涙でした。
 
ほほをぬらし、ただ息を切らしながら走り続けました。

姫(逃げなきゃ)

姫(逃げなきゃ)

姫(逃げなきゃ)

姫(……なにから?)

(`・ω・)ノシ

姫(すっかり暗くなっちゃったわ)

姫(もうここがどこだかわからない)

姫(森に迷い込んだ白雪姫を思い出すわね)

姫(何も見えない)

姫(足も疲れた)

姫(お腹も減った)

姫(もう、動けないわ)

姫(でも、こんなところで眠っちゃ、だめだわ)

姫(どこか、ないかしら)

姫(あ、あんなところに洞窟がある)

姫(あそこに逃げましょう)

よろよろ

姫(中も外も暗いのに変わらないけど)

姫(外よりかは安心する)

しとしと

姫(雨ね、来てよかった)

姫(さみしい)

姫(つらい)

姫(胸が痛い)

姫(どれくらいここにいるのかしら)

姫(お父さん、お母さん)

姫(心配してるのかな)

姫(メイドも心配しているわよね)

姫(帰ったら、謝らなきゃいけないわ)

姫(ポタ)

次に浮かんだのは、ポタの顔でした。
 
ポタが今どうしているかとか、そういうことを思い出していたわけじゃありません。
 
ポタとの時間を思い出していました。

一緒にご飯を食べて、

遊んで、

話して、

楽しかったあの時間は、

何よりもの宝物でした。
 
バーセル王子の顔が浮かぶことはありませんでした。

姫(会いたいな)

ざーざー

姫(雨、強くなってきたわね)

姫(地面はごつごつしてて、寝られるわけないし)

姫(ほんと、これからどうしよう)

姫(なんであんなことしちゃったんだろう)

姫(バーセル王子がポタをやっつけて)

姫(それで連れて帰ってもらえば、計画通りだったのに)

姫「ほんと、なんでよ」

雨の音は強くなるばかりで、姫の問いかけに答えるものはいませんでした。

ザッ、ザッ

姫(え、これ)

姫(足音、かしら)ドキドキ

姫(なんだか明かりも見えてきた)

姫「ポタ!? ポタなの!?」

そのあと、姫は明かりに照らされました。

それと同時に足音の主も照らされました。

その男は無精ひげを生やし、頭はフケで真っ白な、

ポタとはかけ離れたあまりにもみずぼらしい男でした。

姫「」

男「お、女の子じゃねえか」

姫(下品な声……)

姫「あんた、誰よ」

男「しかもかわいいときたもんだ」

男「しばらく女には飢えていたところだ」

姫「や、やめ」
 
男は姫に手を伸ばしてきました。

その瞬間、ゴツンと鈍い音がしました。

男の表情はかたまり、白目をむいたままずるずると倒れてしまいました。

姫「ポタ!」

ビオラは思わず、後ろの人影にそう言いました。

王子「大丈夫ですか、姫様」

姫「」ぺたん

姫どんな顔をしていいのかわからず、

ただ茫然とバーセル王子の顔を見ました。

その顔がきっと安心した顔だと王子は思ったのか、

やさしく頭をなでてきました。

姫(……全然気持ちよくない)

雨はいつの間にか止んでいました。

ですが空はどんよりと暗いままで、月はどこも照らしていませんでした。

王子はたいまつであたりを照らしながら、姫の手を引っ張っていました。

王子「いやあ、驚きましたよ」

王子「まさかあの男、岩を私の頭にぶつける仕掛けをしていたなんて」

王子「おかげで気絶してしまいました」

姫「……」

王子「でも、すぐに目覚めましたよ。私だって訓練を積んでるんです。あの程度平気です」

姫「……」

王子「まるでおとぎ話みたいですよね」

王子「王が国どころか隣国にまで姫が誘拐されたことを広めて」

王子「国を挙げて大捜索です。時間はかかりましたが、無事で本当によかった」

姫「……」

王子「その汚い服は誰のですか?」

王子「まさかポタのですか?」

王子「まったく、粗末なものを着せたものだ」

王子「どうせ姫への待遇も、ひどいものだったんでしょう」

姫「……」

王子「姫様、でももう安心してくださいよ」
 
近くの木に囲まれた大きな池に差し掛かったあたりで、王子は言いました。

王子「ポタの野郎には、きちんとした制裁を加えました」

姫「」

王子「腹には、剣を深く差しこんでやりました」
 
姫「」ピタ

王子「?」

王子「血を流して、あいつは地獄に落ちました。

王子「だから、もう心配しなくていいんですよ」
 
姫は足をとめたまま、俯きました。

王子「どうしました?」

姫「ねえ」

王子「はい」

姫「私ね、ずっと待ってたの」

王子「はい」

姫「ずっとずっと、運命の王子様が来てくれるのを待っていたの」

王子「光栄な話です」

姫「ずっと、ずっとよ。ずっと待ってたの」

王子「はい、わかってますよ」

姫「でもね」

王子「はい」

姫「あなたには、こんなところまで来てもらって、すごくうれしいわ」

姫カッコいい剣に、カッコいいマント。カッコいい顔に、もう最高よ。でもね」
 
王子は姫が何を言いたいのかわからず、茫然としていました。

雲が少しだけ薄くなり。まん丸のお月さまが顔を出しました。

姫「あなたじゃないの、ごめんなさい」

姫は王子の背中を押しました。

その先には池がありました。

王子は体勢を崩し、そのまま池にばしゃんと音を立てて落ちました。

ノシ

>>100
はああああああああああああああああああああああ!?
ここでじらすかこの野郎!

次待ってる乙

>>101さん含め
いつも読んでくださってありがとうございます
また明日の夜か朝に更新します

バシャーン!!

王子「ひっ! つっ! 冷たい! 姫様! なにを!」

姫(行かなきゃ)

ダッ

姫は山を駆け上がりました。

足の裏の痛みも、寒さも忘れて走りました。

途中で蜘蛛の巣にひっかかりましたが払いのけました。

落ちてる小枝を踏み、枯れ葉を蹴散らし、水たまりをよけることなく、足をぬらし、水しぶきを散らしながら、

そのまま進みました。

姫(痛くない、痛くない)

姫(水も、虫も、今は関係ない)

姫(とにかく上に登らなきゃ)

姫(上にあいつはいるんだから)

姫(でも、あいつ、こんな険しい山道を)

姫(荷車引きながら、私を運んでいたのね)

姫(……すっごい、かわいそうなことしちゃったな)

姫(ううん、それだけじゃないわ)

姫(誰かが私を助けたとしたらさ)

姫(あいつがただで済むわけないって)

姫(考えたらわかったじゃない)

姫(考えなしにも、ほどがあるわ)

姫(挙句の果てに、せっかくきてくれた王子様たたき落とすし)

姫(もう、最悪)

姫「ごめん……ごめんね」

姫は走る足を止めずに、なんどもそうやって誰かに謝り続けていました。

ポタが死んだ、そんなことを

そんなことを信じたくなくて

姫は登り続けました。

姫(……やっ、やっと見えてきた)

姫(あの遺跡の形、間違いないわ)

姫(あそこに、ポタが……)

姫「ポッ、ポタ!」

姫「」

姫(お腹にべっとり、赤いのがついてる)

姫(すっかり目も閉じてるわ)

姫は膝を落とし、そのまま泣きました。

姫「ねえ、ポタ、起きてよ」

ゆさゆさ

姫「ねえ、ポタ」 

姫「ごめんなさい」

姫「あんなこと言いださなければ、あなたは死ぬことはなかったのに」

姫「ごめんね。ごめんね。」

姫「ねえ、私の王子様はあんなやつじゃないの」

姫「もっともっと素敵な人なのよ」


姫「ねえ、ポタ」

姫「二人でもっと遠いところに逃げて、暮らそ」

姫「いつかきっとカッコいい王子様がまた私を助けに来てくれるわ」

姫「あんまりよくなかったら、そうよ、また逃げて、それで、ずっとあんたと一緒!」

姫「ねえ、素敵でしょ」

姫「私約束するわ」

姫「自分のことは全部自分でするし、わがままも言わない」

姫「嫌なことだってがんばるわ」

姫「あんたみたいに」

姫「やさしい人になるから」

姫「ねえ、お願い。目を開けてよポタ!」

ポタ「そいつは素敵だなあ、姫様」

姫「!」

ポタの豆のような小さな瞳が、姫を見つめていました。

ポタのそのやさしい声は、確かに姫の耳に届いていました。

姫「う、うそ」

ポタは自分の赤く染まった服をめくりました

ゴロゴロ

姫「……ト、トマト、つめてたの?」

ポタ「一晩中姫様の看病してたんで、ついウトウト眠っちまいました」

姫「」ぽろぽろ

姫は泣きじゃくりながら、ポタのおなかをグーでポカポカと叩き続けました。

二人は焚火を囲み、いつものように座って話をしていました。

王子様が来たことなんて、なかったことのように

ポタ「さすがに刺されるときは冷や汗ものだっただよ」
 
姫「よくやるわ、死んだふりして、そこからは?」

ポタ「この間言った通りだよ。国を逃げるつもりだっただ」

ポタ「よその国で、のんびり野菜を育てるつもりだっただよ」

姫「のんきなもんね」

ポタ「なあ、姫様」

姫「なに?」

ポタ「なんで、戻ってきただか?」
 
姫「……」

ポタ「なんで、石をぶつけただか?」
 
姫「……」

ポタ「王子様は、どうしたんだ?」
 
姫「……」

ポタ「……ハア」

ポタは立ち上がりました。

姫「どこいくの?」

ポタ「今晩はごちそう、作ってやるだよ」

ポタはそう言うと、荷車から運んできた大量の野菜と木の実を取り出してきました。

お湯を沸かし、キノコを中に入れ、だしをとります。

キャベツにネギに、そのほかたくさんの野菜を入れ、少ないお米も突っ込み、塩と胡椒をかけます。

ふつふつと煮たってきたところで、鳥の巣からとってきた卵をとき、鍋の中に入れました。

太陽のように黄金色のお粥が完成しました。

野菜たちの青々しさが、より食欲を掻き立てます。

姫のおなかがぐうとなりました。

ポタ「こんなものしかできないけんど、我慢してくれるだか?」

姫「ええ、いいわ、ううん。これがいい」
 
姫はお粥をスプーンで一口頬張りました。

とろけるようなお米の感触と、しゃきしゃきとした自然の味を再現したような野菜は

姫の舌を虜にしました。

そのまま二人は笑いあいながら、ゆっくりとお粥を食べ、時間は過ぎて行きました。



ポタ「なあ、姫様」

姫「なによ」

ポタ「これからどうするだ?」
 
姫は持っていたスプーンを下ろし、腕を組みました。

姫「さっき言った通りよ」

ポタ「ああ、これからも逃げ続けて、本当の王子様が来るのを待つってやつだか」

姫「そうよ」

ポタ「じゃあ、お城には戻らないんだな」
 
ポタは顔をうつむけながら、横に置いてあるトマトにかぶりつきました。

姫「そういうことね」

ポタ「本気なんだか?」

姫「ええ、もちろんよ」
 
ポタはしばらく黙りこんだ後、横にまだ散乱しているトマトを一つつかみました。

ポタ「ほら、姫様もお食べ」

姫「ありがとう」
 
トマトは大きく、姫の片手では収まらないほどの大きさでした。

焚火に照らされたトマトは赤みがより一層増し、太陽を思わせるほどの輝きを放っていました。

姫はそれにかじりつきました。

はじけるような甘みが、口いっぱいに広がりました。

姫「おいしい、トマトってこんなにおいしかったのね」

ポタ「ああ、すごいだろ? 野菜ってな、作る人の愛情が強ければ強いほど、甘くなるんだ」

姫「それって自分で言っちゃだめでしょ」

そう言いながらトマトをがぶがぶと汁をまきちらしながら食べ続けました。

口の周りはトマトでべたべたになりました。

ポタ「姫様、なかなか豪快な食べ方をするだなあ」

コツン

姫は足でポタのすねを軽く小突きました。

ポタ「痛いだよ、姫様」

ポタは笑いながら姫の足を蹴り返しました。

姫「あら、姫になんてことをするのでしょうこの男は」

ポタ「お返しですだ、お姫様」

姫「私ね、ここにきていっぱいいろんなことが知れたわ」

姫「魚の釣り方にリンゴの向き方」

姫「天気の読み方に食べられるキノコの見分け方。数えきれない程よ」

ポタ「まだまだお嬢様が残っている気がしますがねえ」

姫「うるさいわねえ。私だってがんばったんだから、見逃しなさいよ」

ポタ「あはは、わかっただわかっただ。そうだ、姫様」

ポタ「食後のスープは飲みますかい?」

姫「ええ、いただくわ」

ポタ「どうぞお飲みください」

ポタはまるで執事のような芝居じみた動作でコップにスープを注ぎました。

姫「執事にしてはえらく肥えているわね。ブタを執事にした覚えはないわ」

ポタ「ダイエットしていくんで、どうぞお許しくださいだ、お姫様」

姫は笑いながら、湯気の立つスープにふーふーと息を注ぎ、冷ましました。

中にはキャベツやニンジンが細かく切られ、キノコにパセリのさわやかな香りが中から漂ってきます。

姫は一口、スープに口をつけました。

姫「とてもおいしいわ」

ポタ「お褒めの言葉、とても光栄でごぜえます」

姫「ねえ、ポタ」

ポタ「はい」

姫「あんたのおかげで、ちょっとは私、変われたかな」

ポタ「少なくとも、ただのわがままの姫様ではなくなっただよ」
 
姫「生意気な口のきき方、打ち首にしてやる」

ポタ「ごめんなさい、そんなに変わってなかっただ」

姫「なによそれ、ひどいやつ」

姫は二口、三口とスープを飲み続けました。するとだんだん瞼が重たくなってきました。

姫「……ん、なんだか眠いわ」

ポタ「一日走っていたんだ。しかも病み上がりときたもんだ。眠くなって当然だ」

姫「そ、そうね」
 
姫は眠い目をこすりながらスープをまた飲みました。

体の力がだんだん抜けて来ました。

まるでお城で以前に強い風邪薬を飲んだ時のように感じました。



姫「ねえ、ポタ」

ポタ「はい」

姫「私たち、ずっと一緒よね」

ポタ「なにかあった時は、いつでも駆けつけますだ」
 
ポタの返事が聞こえたか、聞こえなかったかあやふやなまま

姫の意識は闇の底に沈んでしまっていました。

目が覚めました。

姫「…………………………………………え」

姫(石の天井じゃなくて)

姫(大きなシャンデリア)

姫(草のベッドじゃなくて)

姫(真っ白なシーツ)

姫(あ)

姫(キノコ……)

姫(見分け方、覚えてたはずなんだけどなあ)

姫は、自分のお城に戻ってきていました。

ノシ

姫が城に戻ってから、いろんなことがありました。

まずは、王様と女王様は、泣きながら姫を抱きしめていました。

姫「ごめんなさい、お父様、お母様、あと、苦しいわお父様」
 
そうは言っても王様は泣くばかりで、まともに返事すらしてくれませんでした。

姫はその日から、王様と女王様に対して、いつもより目を見て話すことが多くなったようでした。
 
メイドも当然、同じ反応でした。


メイド「姫様姫様姫様姫様」ミシミシミシ

姫「痛い 痛い! ちょっ! きもいわ!」

メイド「もう姫さま! 本当に誘拐なんてされてどうするんですか! もう、この馬鹿!」ミシミシ

姫「わかったわかったわかったから、腕を離してよ、体が折れそうだわ」

メイド「あ、すいません、つ、つい」パッ

姫「あんたどこにそんな力あったのよ、その細い腕で」

メイド「姫様はたくましくなりましたね」

姫「ほっといて」

姫「ねえ、それより教えてくれる?」

姫「わたしがこの城に戻ってきた状況を」

メイド「状況というか……そんな説明するほどのことじゃないんですよね」

メイド「姫さまが夜に城門前で毛布にくるまれていたところを兵士が発見したんです」

姫「ほんとに、それだけなの?」

メイド「はい、それだけです」

姫「……毛布ねえ」
 ビオラは不満げに窓の外に目を向けました。ついこの間まで過ごしていたタンザ山は、今日も高々とそびえ立っています。天気はあまりすぐれず、灰色の雲がタンザ山の頂上を隠していました。

メイド「むしろ姫様は、本当に何も覚えてないんですか?」

姫は、自分が誘拐されたことに対して

知らぬ存ぜぬを通しました。

ショックで記憶をなくすというのはよくある話なので、疑う人はいませんでした。

姫(でも、メイドに嘘をつき続けるのは)

姫(多分、無理だろうな)

姫「ねえ、メイド」

メイド「はい」

姫「命令よ、誰にも言わないで」

メイド「はい、承りました」

姫は、ポタとの長いようであっという間だった共同生活の話をしました。

メイドは笑ったり、涙ぐんだり、姫と一緒に怒ったり

とても真剣に耳を傾けていました。

メイド「全く、姫様って人は」

姫「ごめんね。危ないことをしたのはわかってる」

メイド「いいんですよ。今無事なんですから」

姫「……よかった」

姫(メイドの言葉に、私はいつも救われてたわ)

姫(昔も、そして今も)

姫「なんか話してたらポタのこと思い出してきたわ」

メイド「どういうことですか?」

姫「なんかね、あいつがしていたこととか、顔とか、言葉とか」

姫「そういうこと一つ一つじゃなくて」

姫「ポタっていう存在がね、頭にいっぱいになってきてね」

姫は床に寝転がりました。

メイド「どうされたんですか?」

姫「うん、なんかね」

姫「今、体を動かしたくないの」

姫(だめ、話してても寝転がっても」

姫(あいつの言葉とか顔とか、いろんなものがわいてくる)

姫(頭の中が、あのデブのことでいっぱいになってる)

姫「ねえ、メイド」

メイド「なんですか?」

姫「ずっと一緒って言ったのよ」
 
姫「約束したのに。あいつは私を捨てたのよ」
 
メイド「……」

姫「本当最低な奴、デブで間抜けで、ドジで、でもやさしくて」
 
姫「ねえ、メイド」
 
メイド「はい」

姫「ポタは、いま、どこに、い」

姫は言い終わる前に泣きだしてしまいました。


わんわんと子供らしく、大声を出して泣きました。

メイドは何も言えませんでした。

姫はどうして自分が泣いているのかわかりませんでした。

ひとしきり泣いて、姫の喉は枯れ、ひっくひっくと嗚咽を漏らしました。
 
姫(今感じているのが、なんなのかよくわからない)

姫(だけど、それはなんだか)

姫(大きくて、温かくて、やさしいなにかね)

メイド「ポタさん……ですか」

姫「どうかしたの?」

メイド「いえ、ポタという農家を営む人は」

メイド「今一つきいたことがなかったので」

姫「そうなの?」

メイド「はい、姫様がさらわれた時も、主犯は誰かと騒がれましたが」

メイド「結局容疑者は特定できなかったんです」

姫「……変な話ね」

姫「ポタは毎年野菜をうちに運んできているって言ってたわ」

メイド「確かに野菜を運ぶ業者さんはいますが、少なくとも、ポタという名前ではありません」

姫「あれ? ちょっとまってよ」

姫「じゃあ、あいつは誰なのよ」

メイド「……私にはわかりませんね」

姫「うーん……」

メイド「ただ、もしかしたらなんですけど」

姫「なに?」

メイド「手掛かりなら、あるかもしれません」

メイドが見せてきたのは、一通の手紙でした。

姫「ポタからの!?」

メイド「いいえ、違います」

送り主は、デュシャンヌ王国の王子、バーセル王子でした。

姫「なにかしら、池に落としたことでも怒ってるの?」

メイド「いいえ、なんでも後日謝りたいことがあるとか」

姫「ふーん」

姫「じゃあ、明後日で」

メイド「承知しました」

バーセル王子が姫を助けに行ったことは、国中が承知していました。

それから王子はずぶぬれの恰好のまま国に帰ってきて、

王子「誘拐犯は殺した。だが姫はいなかった」

と言ったそうです。

おそらく姫に池へとつき落とされたことを言えなかったのでしょう。

姫がさらわれてから、一番に救いに行くと言ったのは

バーセル王子だったそうです。

だから国では、姫を救えなかったことの謝罪だろうとささやかれていました。

誠実なバーセル王子なら、だれしもが納得する結論はそこでした。

姫(でも、そんな内容を言いに来るはずがない)

姫(だって、池に突き落とされたんだから)

姫(謝る理由なんて、ないはずなのに)

姫(向こうのお父さんもくるみたいだし、きまずいな)

姫は謁見室で、バーセル王子と国王が来るのを待ちました。

お昼過ぎに、王様と王子は申し訳なさそうな顔でとことこと部屋に入ってきました。

王子の頬は腫れていて、ガーゼを貼っていました。

姫(……怪我?)

王子「姫様、お久しぶりです」

姫(どうこたえよう)

姫(一応記憶なくしてる設定だし)

姫(まあ、あいつと私と、国王様の三人だし)

姫(ここだけの話ってことで)

姫「ええ、お久しぶり)

王子「なぜ記憶をなくしたと嘘を?」

姫「ポタのことを話すとややこしいでしょ」
 
姫「で、何しに来たの」

王子「じつは、姫」

国王「息子の愚行を許してくれ」

王子「父上!」

国王「まだ殴られたりないか?」

王子「うっ……」

姫「……」

姫「説明しなさい」

王子「まず先に謝罪の言葉を述べさせてください。このたびは」

姫「いいから、早く」

王子「は、はい」

王子「私は、以前からビオラ姫様のことをお慕いしておりました」

王子「国同士の距離も近く、私たちは何度もお会いしましたね。」

姫「まあ、そうね」

王子「このままうまくいけば、結婚し、むすばれる流れにはなるかもしれない」

王子「しかし私は思いました」

王子「ピンチの時に駆けつける、そういう英雄のような存在に」

王子「世の女性たちは皆憧れているのでは、と」

姫「……」

王子「ですから私は、そんな子供じみた思想で、ある男に声をかけました」

王子「我が国の、作物係です」

姫「」

王子「その男はあまり城でも目立たず」

王子「いてもいなくても変わらないような男でした」

王子「そういう男が必要だと思ったのです」

王子「そう、私はそいつに、ポタに金を渡し、姫の誘拐を依頼しました」

姫「」

頭はその言葉で真っ白になりました。

口の中は渇き、今までの出来事が走馬灯のようにかけぬけます。

握ったこぶしには汗がじわじわとしみだし、部屋の温度が一気に下がったように感じました。

外から聞こえる喧騒は、はるか遠くのもののようでした。

王子「そしてポタは、計画通り姫をさらいました」

王子「そして違和感がないように、時間をかけてゆっくりと」

王子「指定しておいた遺跡へと捜索の手を伸ばしました」

王子「それからは、姫様のご存じのとおりです」
 
バーセル王子はソファから立ち上がり、床に座り、頭をつきました。

王子「申し訳ありませんでした!」

姫「………………………………………………」

姫「え?」

姫(つまり、私がお願いする前から、あいつは誘拐するつもりだったってことで)

姫(あの荷車もそのためのやつで)

姫(あの遺跡のセッティングもしてて)

姫(え? あ、ああ)

姫(お互いが同じお願いをしちゃったって、ことか)

机の上にあるコーヒーは、とうにぬるくなってしまいました。

土下座を続けるバーセルの頭のてっぺんを、姫はじいっと見つめます。
 
そして、一度深呼吸をしました。

姫「……一つ」

王子「はい?」
 
王子は頭をあげ、姫を見上げました。

姫の表情は今まで見たことがないくらい無機質で、

怒っているのか悲しんでいるのかもわかりませんでした。

姫「一つだけ、ききたいの」

王子「なんでしょう」

姫「ポタはどこ」

王子「何を言っているんですか」

王子「私は、あの男を刺し殺しました。」

姫「いいえ、死んではいないわ」

姫「だってあの後ポタとご飯を食べたもの。ねえ、ポタはどこなの」

バーセル王子は姫が何を言っているのかわからず、とまどいました。

姫は立ち上がりました。

目からぼろぼろとこぼれた涙が、絨毯に染みを作りました。

そしてヒールで王子の頭を踏みつけました。

鈍い音とともに、王子は頭をじゅうたんに押し付けられます。

姫「ねえ、ポタはどこなのよ!」

姫「教えなさいよ!」

姫「あいつに会って、ぶん殴ってやる!」

姫「あの勝手なブタ野郎を!」

姫「お願いしたのがあんただとしてもなんでもいいの!」

姫「あいつはどこよ!」

姫「どこなのよ!」

姫「あいつはどこに住んでいたのよ!」

姫「あいつはなんなのよ!」

姫「ねえ、答えなさいよ!」

姫「この馬鹿王子!」

踏みつけられながら、王子は何も言えず、ただただ攻撃を受け続けました。

国王はその風景を、おろおろと見つめていました。

しばらく罵倒を続けた姫は、足をどけ、椅子に力尽きたようにもどりました。

バーセル王子は痛む身体を起こしながら、ビオラの顔を見ました。

ビオラの目は真っ赤にはれていました。

王子「姫様」

姫「出てって」

王子「……その」

姫「いいから!」

姫「早く出ていって」

姫「二度と私の前に出てこないで」

姫「あんたの国との貿易は別に続けるわ」

姫「なんにもなかったことにしてあげる」

姫「でも、二度と私の前に現れないで」
 
そう言って姫はソファにへたりこみました。

王子と国王は深く頭を下げ、部屋を後にしました。

部屋にはビオラだけが残りました。

姫(……すっごい、静かね)

メイド「姫様」
 
外からメイドの声がしました。

姫「来ないで」
 
メイド「」ガチャ

メイド「姫様」

姫「一人にして、お願い」
 
姫は顔を入り口から背け、メイドの顔を見ないようにしました。

アリアは頭を下げ、部屋を後にしました。
 
そのあとまた、姫は静かに泣きました。


姫(あー、そういえば、なんかの本で書いてたな)

姫(初恋は、報われないんだっけ?)

外では、例年より早めの雪が、こんこんと降り、少しだけ町を白く染めました。




ノシ

メイド(あれから一週間)

メイド(部屋から一歩もでて来ません)

メイド(どうしたものでしょry)バン!

姫「メイド!」

メイド「姫様!」

姫「ねえメイド」

メイド「なんですか姫様」

姫「次のバイオリンのレッスンはいつ!?」

先生「姫様、今日のレッスンはここまでで」

姫「いいえ! まだよ! 今のところまだ納得がいかないわ!」

姫「きっちり教えてもらうわよ!」

先生(人が変わったみたい)

姫「先生! 聞いてる!?」

先生「は、はい! 聞いております!」

朝も、昼も、夜も、姫はバイオリンを弾き続けました。

メイド「本当にどうなされたんですか?」

メイド「あんなに意味のないことはお嫌いだと申しておりましたのに」

姫「意味のないことはいまでも嫌いよ、当然よ」

姫「でもね、意味のあることは大好きよ」

バレエに格闘の稽古も同じくらい熱心になり

バイオリンの音が聞こえない日は

大抵誰もいない大広間でステップを踏むか

回し蹴りの練習をサンドバックに延々としていました。

  速報! ビオラ姫バイオリンコンクール賞を総なめ!

                         格闘技コンテスト一位入賞!

     バレエ大会金賞受賞!!

                   次々とトロフィーを手に入れるビオラ姫! いったいなにが?

      バイオリンコンテストまたもや入賞!!

   数年に一度の奇跡!! 

                美しく、バイオリンに格闘技の天才、ビオラ姫様へのインタビュー


         巷ではバイオリン姫とあだ名されており


                        「おい、最近うちの国の姫様すごくないか」

             「この数年でああも変わるものなのか」


     「わがままなだけだったのに」
 
                             「誘拐されたらふさぎこみやすくなるとはよく言うが」

           「なんにせよ、ビオラ姫様万歳! バイオリン姫様万歳!」 

棚に飾るトロフィーも賞状も、年を重ねるごとに増えて行きました。

姫が十九歳になるころには

部屋中にトロフィーや賞状が散乱しているようなありさまになっていました。

メイド「ずいぶんと増えましたね」

姫「でしょ?」

メイド「この間のコンクール、行くことができずに申し訳なく思っております」

姫「いいのよ、友達の結婚式でしょ? 行くべきよ」

メイド「ありがとうございます!」

メイド「でも、姫様」

メイド「とても頑張りになられましたね」

姫「まだまだよ、私より上の人は、たくさんいるんだから」

メイド「この十年で、姫様はずいぶん変わられました」

メイド「子供っぽいしぐさも、言動もなくなって」

メイド「すっかり大人の女性へとなっておりますよ」

姫「よしてよ、照れくさいわ」

メイド「でも、私に対してはなにも変わられない気がしますけどね」

姫「なにそれひっどい、打ち首よ打ち首」

メイド(私がいくらほめても、姫様は一向に喜んでいるようには見えない)

メイド(まるで、目的が優勝以外のどこか違うところにあるようで)

メイド「格闘技の大会にはもう出ないんですか?」

姫「出たかったんだけどね。お父様に反対されたわ。さすがに野蛮すぎるって」
 
姫「まあ、私が出ちゃったら男どもは顔負けしちゃうしね、勘弁してあげるわ」

メイド「あらさすが姫様、お優しい」

姫「そうでしょ」

姫「まあもう私、ここの兵士と組手で負けたことないけどね」

メイド「それはすごいですね」

姫「この城の最強の警備員は私だから」

メイド「私も安心して眠れますわ」

姫「あんたは守らないわよ」

メイド「ひどい!」

メイド「あ、姫様」

姫「なによ」

メイド「先週の姫様の優勝の記念もあり、少し遠いですが」

メイド「アンタム王国で姫様のバイオリンを是非とも聴きたいとお便りが来ていますよ」

姫「支度をするわよ」

メイド「姫様、コンクールより他国訪問のほうが嬉しそうですね」

姫「……そう?」

姫のバイオリンの名声は海の向こうまで届いていました。

王族のたしなみ程度の音楽は、そこまでの技量を求められていたわけではありません。

ですが姫の場合は、その求め以上の演奏を見せていたため、

バイオリン姫が最近の通り名でした。

姫「船の上は久しぶりね」

メイド「船酔いは大丈夫ですか?」

姫「大丈夫よ、私、強いから」

姫「それにしても、皮肉な話よね」

姫「名前はビオラなのに、バイオリン姫だなんて」

メイド「姫様の名前のビオラは楽器からきたわけじゃないんですよ」

姫「え、そうなの?」
「そうなの?」

メイド「ビオラってお花があるんです。パンジーとてもよく似ていてかわいらしいんですよ」

姫「へえ、知らなかったわ」
 
姫はアンタム王国への船へと乗り込みました。

アンタム王国は距離が離れていますが、ビオラの国とは親交があり

以前にも何度か訪問はしていました。

メイド「姫様、今回の演奏会が絶賛されれば、姫様はさらに有名になりますよ」

姫「それは悪くないわね」

メイド「姫様は、どうして有名になりたいのですか?」

姫「……」

メイド「あなたは姫という高貴な立場」

メイド「努力をせずとも、その美貌である程度は有名にはなれるはずです」

メイド「それなのに、どうして?」

姫「」

メイド「ポタさん、ですね」

姫「隠し事はできないわね」

メイド「わかりますよ」

メイド「有名になれば、いつかポタさんが会いに来てくれる。そう思ったんですよね」

姫「安直な考えだと思う?」

メイド「いいえ、ちっとも」

姫「正しいことをしていたら、真面目になにかを取り組んでいたら、いつかたどり着けると思ったんだけどねえ」
 
姫「難しいものね」

メイド「きっと、なにかしらの結果は出て来ますよ」

姫「そうね」

姫「やってやるわよ」

そう言って姫はこぶしを天に振りかざしました。

海を照らす太陽が、姫のこぶしを赤く染めました。

その姿は十年前と何ら変わりなく見えました。

メイド「姫様は変わりませんね」

姫「背は伸びたけどね」

メイド「ポタさんにいつか会ったら、まず何をします?」

姫「ヒールで足を踏んでやる」

翌日、アンタム王国の港に一行はたどり着きました。

馬車に乗り換え、城へと進みます。

町は賑やかに人々が行きかい、笑顔であふれていました。

姫「この町に来たのは、私は初めてかしら」

メイド「二回目ですかねえ、姫様をお妃さまが出産されてからしばらくして訪問したんです」

メイド「この国の王子様ともその時遊ばれたんですよ?」

姫「覚えてるわけないわねそんなの」

姫「どうりで懐かしくはあるけど記憶にないのね」

姫「王子ねえ、どんなやつ?」

メイド「さあ、わたくしもしばらくお会いしてないのでなんとも」

メイド「おそらく今日の演奏会でお顔を見ることにはなりますけど」

姫「なるほどね、演奏会は明日だっけ」

メイド「ええ、明日のお昼過ぎになります」

姫「ふーん」

姫(うちの国よりずいぶんとにぎやかなのね)

姫(市場も活気だってるし)

姫(たまにはこういう風景もいいわね)

女性「キャー!」

路地裏から現れたはげ頭で筋肉質の男が

女性のカバンをひったくって、すたこらさっさと道の向こうへと逃げて行きました。

姫「大変!!」

姫は馬車から飛び降り、

町の人が男を追いかけようと駆け出しているところをすり抜けるように

ひったくり犯を追いかけました。

スカートの裾を持ち、ヒールは脱ぎ捨ててはだしで駆け出しました。

兵士「姫様! お待ちを! 危険です!」

姫「関係ないでしょ!」

姫「誰だってこういうときには一番に動かなきゃいけないのよ!」

 兵士の止める言葉を聞き入れず、姫は男を追いかけました。

姫(バイオリンにバレエに格闘技)

姫(ランニングやトレーニングは欠かしてないのよ)

姫(あんなはげなんかすぐに追いついてやるんだから)

ハゲ「……ちっ」

姫「路地裏に行く気ね」

姫(スカート邪魔! 走りにくい!)

姫(てか臭い!)

姫(瓶の破片こわい!)

姫「足音がまだ聞こえるわ」

姫「こっちね」
 
音を頼りに、路地裏を右へ左へ曲がります。

しばらく進んだ先は行き止まりになっており、

ひったくり犯は壁へ追い詰められていました。

姫「さあ、観念して荷物を返しなさい」

ハゲ「へっ、えらくべっぴんさんな格好してるなお譲ちゃん」

姫「お譲ちゃんじゃないわ、姫よ」

ハゲ「姫だあ? ああ、バイオリン姫とかいうやつか」

姫「ビオラよ」

ハゲ「なんでもいいさ」

ハゲ「なんだってそんな高貴な方が、ちんけな国民のためにわが身を呈してやってきたんだい?」

姫「関係ないでしょ」

姫(ポタとの約束)

姫(やさしい人になる)

姫(どれを人に言っちゃ、だめな気がした)

姫「タイマンなら負けないわよ、さあ」

ハゲ「タイマン?」

ハゲ「すまねえ、生憎俺たちはひきょう者でな」

その時でした。後ろから足音が聞こえました。

それも一人や二人ではありません。

ぞろぞろと五人以上はいます。

ビオラが振り返るころにはもう遅すぎました。

男たちがバールやこん棒など、大小さまざまな武器を構えていました。

姫「…やばっ」

ゴン!

ノシ

姫(……固い板の感触)

姫(ごとごと揺れてる)

姫(ポタといたときの荷車みたい)

姫(でも、あいつより乱暴な運びかた)

姫(あちこち痛いわね)

姫「……むぐっ、ふご」

姫(猿轡されてるみたいね、しゃべれない)

姫(体も縛られてるわ)じたばた

姫(完全にさらわれたみたいね)

姫(ここがどこかも、今がいつかもわからない)

姫(ていうか)

姫(こわい)

姫(初めてさらわれることになるんだけど)

姫(こんなに怖いだなんて、思わなかった)

姫(泣きたい)

姫(あんなに深追いしないでもよかったじゃない)

姫(さっさと取り返して、そのまま逃げたらよかった)

姫(いや、それよりも一人は危険なのなんて、考えればわかるじゃない)

姫(誰かに助けを求めればよかった)

姫(集団で立ち向かった方が、効率いいに決まってるのに)

姫(あーもう)

姫(ほんと、ばか)

姫(これからどうなるんだろう)

姫(あいつらにいろいろ乱暴にされるのかな)

姫(それともどこかの金持ちに売られるとか?)

姫(いいえ、誘拐なら身代金が妥当かしら)

姫(もう考えれば考えるほど悪いことしか出てこない)

姫「」ぽろぽろぽろ

姫(だめ、泣いちゃ、だめなのに)

姫(やさしくて、強い人)

姫(そんな人になりたかっただけなのに)

姫(結局そんなの私の自己満足)

姫(結果がこれじゃ、意味ないじゃない)

ピタッ

姫(?)

姫(どこかに着いたのかしら)

?「どうもお疲れ様です」
 
どこかで聞いたことのある声でした。

?「こんな時間にずいぶんと大きな荷物ですねえ」

ハゲ「そうなんだよ警備員さん」

ハゲ「すぐにこいつを運ばないと。さ、早く通してくれ」
 
警備員の男は少し声を大きくしました。

?「いえねえ、今なんでも来訪された姫が行方不明とのことで」

?「王国全体で警戒態勢なのです」

?「ここは範囲外とのことだったのですが」

?「名バイオリニストのビオラ姫のためなら、広い範囲を見なければならないと判断したため」

?「個人的にこちらを警備しておりました」

ハゲ「へ、へえ、そいつはご苦労なこって、じゃあ、俺らは」

?「中身を拝見させてもらえませんか」

ハゲ「お、おいちょっと」

バサッ

姫「」

?「こんばんは、姫様。夜分遅くに変わったとことろで会えましたなあ」

警備員の男は、

ポタ「どうされたんですか? お化けでも見たような顔して」

ポタでした。

無精ひげを生やした顔で、にかっと笑ってビオラの頭をなでました。

ひったくり犯の仲間たちはどうしようと顔を見合わせています。

ポタ「あんたら、誘拐するにしても相手を間違えただなあ」

ポタ「こいつは重罪だ」

ポタ「一国のお姫様を誘拐するだなんて、正気の沙汰じゃないだね」

ポタ「一生牢屋の覚悟はできてるんだか?」

 ひったくり犯たちは武器を構え、じりじりとポタに近寄ってきました。

男1「そう、確かに俺たちは重罪を犯している」
 
リーダー格の男が言いました。続いて長身の男が言います。

男2「だが、それを目撃したのは、今のところあんただけだ」
 
姫(あいつらは全部で十人くらい)

姫(ポタ一人くらいなら口をふさげると言いたいんでしょう)

ポタはそんなことは百も承知といった具合に、澄ました顔をしています。

男1「じゃあな、警備員さん。地獄で会おうな」
 
そう言って男たちはポタに殴りかかろうと一斉に飛びかかりました。ですが、

男2「うぎゃあああ!」ドサ

男たち「「な、なんだ」」ざわ

姫「詰めが甘いわよ、お間抜けさん」
 
そこには縄がほどけたビオラがナイフを持って

得意そうに仁王立ちをしていました。

姫「縄、ありがと、ポタ」

ポタ「どういたしまして、姫様」

男1「てめえ!」
 
姫へと敵意を向けたときには、ポタに誰も目を向けていませんでした。

ポタはポケットからハンカチのようなものを取り出し、男たちにかがせました。

目をとろんとさせた男たちはそのまま地面に倒れこみ、いびきをかいて眠ってしまいました。

どうやら眠り薬を仕込んでいたようです。

姫「やるじゃない、ポタ」

ポタ「姫様もなかなかですよ」
 
そう言って二人は握手を交わしました。

男3「な、何者だあんたら!」

姫「別に、ただの姫と」

ポタ「農家だよ」

男3「く、来るな」

姫は鍛えていた柔道の技を駆使し、相手の体制を崩した後、球をかかとで踏みつぶしました。

男3「」

ポタ「ひゅー、おっかねえな、姫様」

姫「そう?」

男たちは台車にあった縄で縛りつけられ、

「姫をさらった悪者たちです」と書かれた紙を頭に貼られる羽目になりました。

姫は面白がって犯人をパンツ一丁にしてしまい、大笑いしていました。
 
ポタは台車からひったくられた荷物を肩に下げ、それから夜の道を歩きました。

城まではしばらく距離がありそうです。

ポタ「姫様、靴は?」

姫「脱いだわ、ヒールは走りにくいし」

ポタ「あの日と同じじゃないか」

姫「そうね、懐かしいわ」

そう言うとポタはひょいと姫の膝と腰を大きな腕で抱え

お姫様抱っこをしました。

その安定感は姫を安心させるには十分なものでした。

姫「ポタのくせに生意気ね」

ポタ「姫様眠らせて城までもこれで運んだんですだ」

姫「あっそ、ご苦労なこと」

ポタ「姫様、怒ってるだか?」

姫「なにを?」

ポタ「お城につき返したことだよ」

姫「怒ったわ、ふざけるなって思ったわよ」

ポタ「ごめんな、姫様」

姫「言い訳くらいはきいてあげるわ」

ポタ「おらな、家族がいないんだ」

姫「きいたわ」

ポタ「でもな、おらが親なら、あんなに長い間、娘がいないなんて」

ポタ「耐えられないと思ったんだ」

姫「……」

ポタ「だから姫様には、おらより王様とお妃さまと一緒にいるべきだと思ったんだよ」

姫「じゃあ誘拐なんて引き受けなきゃいいのに」

ポタ「ほんの十日ちょっとだけだ。だから引き受けただ」

姫「バーセル王子からいくらもらったの」

ポタ「なんだ、そこまできいていただか」

姫「当たり前じゃない」

ポタ「後払いの約束だっただ」

ポタ「でもな、バーセル王子は本気でおらを殺しにきただ」

ポタ「だからこの人、おらをだましたんだと思って、お金はあきらめただ」

姫「ほんと間抜けね、あんな男の言葉を信じるなんて」

ポタ「おっしゃる通りですだ」

姫「ほんと、間抜け」
 
姫(あったかいな、ポタの腕)

姫(ずっとずっと、求めてた)

姫(しばらくこのままでいたいな)

ポタ「姫さま、背伸びただなあ」

姫「でしょ、もう子供じゃないのよ」

ポタ「成長して、すっかり大人だ」

姫「重いとか言ったらぶん殴るから」

ポタ「姫様くらいなら軽いもんだ」

姫「でもあんたは太ったわね」

ポタ「あ、ばれただ?」

姫「見りゃわかるわよ。あれよりぶくぶくになってどうすんの」

ポタ「これでも運動とかがんばってるんですだよ」

姫「あれからどうしてたの?」

ポタ「あの後、デュシャンヌ王国にいるのは気が進まなかったので」

ポタ「よその国でやって行こうと思ったですだ」

ポタ「別に失うものはなにもなかったですだ」

ポタ「育てていた野菜は惜しかったですけどな」

姫「ふーん、もったいない」

ポタ「今頃もう全部土になってるですだよ」

姫「もう野菜は作ってないの?」

ポタ「そうさなあ、全然ですだ」

姫「なによ、熱い夢を語ってくれたくせに」

ポタ「おらにも生活がありますだ。やりたくてもやれないですだよ」

姫「警備員って儲かるの?」

ポタ「まあ、普通ですなあ。昔のほうが稼ぎは上でしただよ」

姫「かわいそうに」

ポタ「別にいいですだ」

姫「また野菜育てたい?」

ポタ「当たり前ですだ、でも現実は難しい。そんな感じですだ」

姫「難しいのね、普通の人って」

ポタ「姫様も姫様なりに難しそうですがねえ」

姫「そうかしらね」

姫「あ、ねえポタ、私ね」

姫「バイオリンがんばったのよ」

姫「とっても、とっても、がんばったのよ」

ポタ「みたいですなあ、おらびっくりしましたよ」

ポタ「あの怠け者の姫様にあんな才能があっただなんて」

姫「素直に褒めなさいよ」

ポタ「すごいですだよ姫様、よくがんばりましただね」

姫「なんかむかつくわね」

ポタ「じゃあどう言えばいいだか」

姫「もういいわよ、鬱陶しい」

ポタ「一度でいいから聴きたいと思ってたんですだが

ポタ「仕事が忙しくて、全然休めなかったんですだ」

ポタ「でもな姫様、本当なら演奏会のときの会場の警備はおらが担当だったんですだよ」

ポタ「仕事しながら姫様のバイオリンが聴けるの、楽しみにしてましただ」

姫「ごめんなさいね、余計なことして台無しにして」

姫「今頃王国はどうなってるのかしら」

ポタ「国中が姫様探しまわってるだよ。早く帰らなきゃ」

姫「またどっかの遺跡で暮らしましょうよ」

ポタ「もうそれは勘弁してください、姫様」

姫「それもそうね。じゃあポタ」

ポタ「なんですだ、姫様」

姫「誘拐した罰として私と結婚しなさいよ」

緊張して、姫の口調はいつもより早くなっていました。

二人とも黙りこんでしまいました。

ポタは姫を抱えたまま、ゆっくりと城への道を進んでいました。

夜空を照らす満月は

あの誘拐された初日に浮かんでいたものにとてもよく似ていて

まるで二人の様子を窺っているようでした。

ポタが草原を踏み締める音と、

鈴虫が鳴く音、

風の音、

ほのかに聞こえる町の喧騒。

たくさんの音が強調されて聞こえました。

いつもと空気の香りが違うことに、姫は今更気がつきました。

ノシ

毎回毎回完結なのか続くのか分からない終わりかただの……

>>211
もーちょいでおわりまふ

ポタ「姫様」

姫「なによ、文句あるの」

ポタ「おら、もう奥さんがいるんだ」

 また二人とも無言になりました。

お互い何を言えばいいのかわからないという感じでした。

姫「奥さんのこと、好き?」

最初に口を開いたのは、姫でした。

ポタ「ああ、大好きですだ」

姫「それは奥さんも?」

ポタ「そうだとおらは信じています」

姫「デブなのに、よく結婚してくれたわね」

ポタ「おらも信じられないですだ」

ポタ「あんな子と出会えて、本当に幸せだ」

姫「ふーん」

ポタ「姫様は、どうして結婚しないんですだ?」

姫「あんたを見つけるまではしないつもりだった」

ポタ「……そうですだか」

姫「思いついたんだけどさ」

ポタ「なんですだ?」

姫「あんたの奥さん打ち首にしていい?」

ポタ「だめに決まってるじゃないですか」

姫「じゃあ私と結婚しなさい」

ポタ「そんな無茶を言わないで下せえ」

姫「訴えてやる」

ポタ「ひどいお人だ」

姫「本気だからね、覚悟しなよ」

ポタ「ああ、わかった。覚悟しときますだ」

そこからも、ポツリポツリと、会話をしながら、いつのまにか姫は

眠りについていました。

目を開けたら、すでにそこはお城のベッドの上でした。

姫「……いつのまにかついていたのね

?「zzzzz」

姫「……なに、このデブ」

姫「ポタじゃないわね」

姫(服は正装だけど、あちこちぼろぼろに破けてる)

姫(誰かしら)

?「あっ! 姫! お目覚めになっていたのですね!」がばっ

姫「あんた誰」

?「」

?「お、王子ですよ! この国の王子!」

?「存じておりませんか!」

姫「あー、そっか。顔確認してなかったわね」

姫「どうしたの、そんなにぼろぼろになって」

でぶ王子「なんでって……国中で探しまわったんですよ!」

デブ王子「どれだけ心配かけたと思っているんですか!」

姫(なにこいつ、ポタそっくり)くすくす

デブ王子「なにを笑っておられるのですか!」

姫「別に、なんだかあんたおかしくて」

デブ王子「おかしいだなんて……全く、とんだおてんば姫様が来日なされたことだ」

姫「おてんば姫だなんて、デブ王子に言われたくないわね」

デブ王子「デブだなんて、ひどいですねえ」
 
姫「で、あんた名前は? 王子様」

デブ王子「パラスです。ビオラ姫」

パラス「僕たち、子供のころに会っているんですよ」

姫「みたいね」

パラス王子「覚えてます?」

姫「いいえ、全く」

パラス王子「僕もです」

姫「なによそれ」

姫「ねえ、私をここまで運んできた男は?」

パラス王子「ああ、警備員の男ですか。仕事があるからとすぐに部屋を後にしましたよ」
 
姫「……そう」

パラス王子「実はですね、あそこは警備対象ではない範囲だったのですけど」

パラス王子「別の国の王子が、そこも警備せよと便りを送ってきていたのです」

パラス王子「誘拐事件が起きる前に」

パラス王子「不思議なことですけどね」

姫「別の国の王子?」

パラス王子「バーセル王子ですよ」
 パラス王子は、ビオラの手をそっと握りました。その笑顔は本当にうれしそうで、まぶしいなと、ビオラは思いました。

少し前、草原にて

男1「くそ、なかなかやるなあいつら」

男2「こんな仕打ち受けるとはな」

ザッザッ

男3「おい」

バーセル王子「みんな、ご苦労だった」

男1「こんなにお礼、いいんですか?」

バーセル王子「ああ、結構だ」

男2「それにしても、なんでこんな命令を」

男2「あの女の荷物を奪って、姫を拉致して、ここに逃げろだなんて」

男1「実際俺たちはしくじってますよ?」

バーセル王子「いや、いいんだ。それで」

バーセル王子「卑怯者には、卑怯者らしい罪滅ぼしがあるということだ」

男3「ふーん、よくわからないですけどね」

バーセル王子「とにかく、ありがとう」



コンコン

姫「あれ?」

パラス王子「誰でしょう」

メイド「しつれいしまry」

ドアの向こうにいたのはメイドでした。

紅茶を淹れてきたようです。

メイドは手を握るパラス王子と姫を交互に見つめ、顔を赤くしました。

メイド「し、失礼しました」

姫「ま、待って! 違うの! そ、それよりごめん、心配かけて!」

メイドはため息をついて、紅茶をテーブルの上にそっと置きました。

そしてそのまま姫に近づき、

パチンと乾いた音が部屋に響きました。

メイドが姫に平手打ちをしたのです。

メイド「今度心配かけたら、本当にしりませんからね」
 
メイドは涙をこらえるのに必死で、

頬の内側をかみしめているようでした。

姫は途端に自分のした行為がどれだけの迷惑だったのかを思い知りました。

姫「ごめんなさい。メイド」

メイド「……わかればいいんです。もう勘弁してくださいね、こんなことは」
 
メイドはそう言うと、部屋の隅のバイオリンを姫に突き出しました。

パラス王子「え、メイドさん、まさか今日やらせる気ですか?」

パラス王子「なにも姫はお疲れでしょうに」
 
メイド「いいえ、ビオラ姫はやる気です」

メイド「そうですよね、姫」
 
姫「」コクン

姫「あいつに見せてやらなきゃ、私の晴れ舞台」にこっ

演奏会は午後三時。それまでは後三時間を切っていました。
 
それからは城の兵士や王族関係者に謝罪して回る作業で、軽く一時間は消費してしまいました。

姫「本当に申し訳ありませんでしたって、何回言ったっけ」

メイド「十回あたりで数えるのをやめました」

姫「奇遇ね、私もよ」

姫「うわあ、外すごいわよ」

メイド「ほんとうですね、あんなに国民が」

メイド「姫様の演奏会の順番待ちですよ?」

姫「ご苦労なことね」

メイド「ねえ姫様」

姫「なによアリア」

メイド「ポタさんに会えたらしいですね」
 
姫「////////」バシンバシン

メイド「痛いです、痛いです! 嬉しかったのはわかりましたから!」

姫「でもね、きいて」

姫「あいつ、結婚してたの」



メイド「……それは、まあ、おめでたいお話ですね」

姫「そうよね、祝福、しないとね」

メイド「姫様」

メイド「それで、満足しているんですか?」

姫「どういうことよ」

メイド「いつもしぶとい姫様です」

メイド「姫様なりの戦い方、納得の仕方があるんじゃないですか?」
 
姫(私なりの戦い方)

姫(いやまあ、あるんだけどね)

姫(強引かもしれないけれど、一つの結論が)

姫(目の前にぷらぷらと垂らされているから)

姫(あとはそれをつかむだけ)

姫「……なるほど」

メイド「姫様?」
 
ビオラはバイオリンを持ち、部屋のドアの前に立ちました。

姫「どんな答えでも受け止めてくれる?」

メイド「はい、私はあなたのメイドです」

姫「そうね」
 
ビオラはドアを見上げました。

目を閉じ、鼻で大きく息を吸い、口で吐きました。

肺の中の空気をすべて交換し、頭をすっきりさせてから、ビオラは言いました。

姫「とりあえず、弾いてくるわ」

メイド「はい、いってらっしゃい、ビオラ」

姫「呼び捨てなんて、無礼ねアリア」

メイド「たまにはいいじゃないですか」

姫「ま、許してやるわ」くすくす

姫「いろいろありがとうね」

メイド「はい、ビオラ」
 
二人は固く握手を交わしました。
 
演奏会の時間にはまだ早いですが、ビオラは舞台へと歩き始めました。

一時間後、バイオリンの音色が城中に響き渡りました、

庭園の小鳥までもが鳴きやみ、その音に聞き入っていたとのちに言われるほどでした。

静かに、それでいて力強く、

会場に入っていたお客さんの心を、ビオラは鷲掴みにしました。

そこには大きくて、温かくて、やさしいなにかがたしかにあって、

それを受け止めたお客さんは、静かに涙を流していました。
 
ビオラはただただ無心に弾き続けました。

今まで持っていたしがらみや思いをすべて忘れ、バイオリンと一体になり、

音を楽しむことだけが、今のビオラのすべてでした。
 
演奏会は大成功に終わりました。

過去最高のバイオリンだったという声も上がっていました。

今までにきいたことのない拍手を、ステージ上のビオラは受けていました。

体は震え、鳥肌が立っています。その時間はあっという間のようでした。

あまりにも現実感がなく、まるで夢でも見ているようでした。

 ビオラは会場の入り口にいる警備員を見ました。

あの太った体型、見間違えるわけがありません。

ポタです。

ポタは目があったことに気がつき、小さく手を振りました。

ビオラはその姿ににこりと笑いました。

そして言いました。

ノシ

姫「みなさま。本日はご来場いただき誠にうれしく存じ上げます」

姫「このような場を用意していただいたアンタム王国の皆さまへ、深く感謝の意をささげます」

姫「先日の無礼をお許しください」

姫「このように私は無事でございます」

姫「多大なる迷惑をおかけしたことを、改めてお詫び申し上げます」

姫「今後とも私は、アンタム王国と親交を深めていきたいと考えております」

姫「ですが、このままでは私は」

姫「貴国との親交を深めることはできません」

姫「なぜなら、貴国には」

姫「私に対して、非常な無礼を働き」

姫「重罪を犯した男がいます」

姫「それは私の追いかけたひったくり犯などではございません」

姫「あの件は私に全責任があり、そのこととは一切合財関係はございません」

姫「ですが、一人」

姫「たった一人の男がどうしても許せません」

姫「それは十年前、私を誘拐した犯人です」

姫「そしてその男は、この国の警備員をしており」

姫「この会場の警備を澄ました顔でしているのです」

姫「この私に恥をかかせた、世界で最低の男です」

姫「その男の名は、ポタ」

姫「その男をわが王国は告訴させていただきます」

姫「以上です」

姫「本日はご来場、誠にありがとうございました」

姫「この後の舞踏会、どうぞお楽しみください」
 
ビオラは満面の笑みで、そう告げました。

会場全体を、しばらく静寂が包みました。

ビオラ・マリ・スカーレット姫誘拐事件についての裁判の記録。

被告:ポタ・ウィリアムの証言。

「約十二日間の軟禁を行った」

「場所はタンザ山にて」

「計画、実行はすべて単独」

「原告の証言に偽りはない」

動機についての証言。

「ビオラ姫に対し、昔から異性としての憧れを持っていた」

「それの欲求を満たすために行った」

「危害を加える行為は一切していない」

「ただ軟禁生活を楽しんでいた」

ビオラ姫を帰還させた理由についての証言

「しばらくの生活はとても楽しかったが」

「次第に罪悪感が湧いた」

「普通に戻らそうと試みたが」

「半錯乱状態だった」

「よって、眠らせるためネムリダケを溶かしたスープを飲ませた」


救出に行ったバーセル王子についての証言

「胸にトマトをあらかじめ詰めていた」

「それで胸を刺された際、死んだように偽装した」

「姫は隠し部屋に寝かせていた」

「よって発見されなかったのだと思う」

誘拐後の被告の行動に対しての証言

「国から離れたかった」

「誰も自分の知らないところに行きたかった」

「船や馬車を乗り継ぎ、アンタム王国へたどり着いた」

「妻とは旅の道中で巡り合った」

「妻は自分の行いをすべて告げている」

「それを承知で婚姻を結んだ」

姫に対する謝罪

「本当にひどいことをしたと思っている」

「反省している」

「あの時の自分はどうかしていた」

「けれど、どうか、自分の家族との生活を取り戻させてほしい」

「妻を一人にしたくない」

     判決内容について

メイド「姫様、本当によかったんですか?」

     被告、ポタウィリアムの終身刑

姫「いいのよ」

     被告の妻の死刑

次回最終回

ノシ

 判決内容に対してのビオラ姫の補足を以下に記す

姫「お姫様は王子様と結ばれるものよ?」

メイド「これがお話だとしたら、おとぎ話とは、ほんの少しだけ違いますけね」

姫「おとぎ話なんて信じているの? 子供ねー」
 
メイド「でもこれはこれで、おとぎ話みたいな話じゃありませんか?」

姫「それもそうね」

姫「ちょっといってくるわ」
 
メイド「どちらへ?」

姫「昨日運ばれたやつのとこ」
 
ビオラは廊下を進み、階段を駆け下りました。

裏口へと回り、倉庫に向かいます。

倉庫の中を見ると、荷車に大量に積まれた野菜がありました。

ハクサイ、トマト、キュウリ、レタス、ピーマン

色とりどりの野菜はどれも新鮮そうで

倉庫の中でもきらきらと輝いて見えました。

?「どうだ姫様、なかなかのもんが採れただろう?」

      被告に対するビオラ姫の言葉

 
    
姫「当然でしょう、ポタ」


姫「私が提供した畑とお金を使ったのよ?」

姫「これくらいものは当たり前のでき、何も私は驚いてはいないわ」


      被告は毎年、スカーレット国より提供された資金と畑で野菜を作り

      城へと届けること。

      これを正当な理由なしに怠った場合、刑を実行する


ポタ「でも冷や汗もんでしたけどねえ、姫様も人が悪い」

姫「驚かせたかったのよ」

姫「サプライズがなければ、楽しくないじゃない?」

ポタ「おら本気で死ぬ覚悟だったんですだよ!」

姫「じゃあなんで、私やバーセル王子のこと、何も言わなかったのよ」

ポタ「そ、それは……」

ポタ「だ、だって姫様。あそこでそんなこと言っても、誰も信じてくれるはずないじゃないですか」

姫「まあ、確かにね」

ポタ「それにですだ、姫様をうそつき呼ばわりしちまうことになります」

姫「実際うそつきだけどね」

ポタ「そいつもそうですな」
 
そう言って二人は笑いました。

ポタ「なあ姫様、一つ言い忘れたことがありましただ」

姫「なによ」

ポタ「ご結婚、おめでとうございます」

姫「あら、ありがとう。あのデブ王子もね、結構いいとこあるのよ」

姫「優しいし、たまにドジだけど私のことわかってくれるから」
 
ポタ「パラス王子はすごくいい王子様だ。おらも尊敬しているだよ」

姫「それはよかったわ。私の旦那を悪く言われたら、私も気分悪いわ」

そう言ってビオラは、台車からトマトを一つつかみ、かじりました。

まるで果物のようなはじける甘さが、口いっぱいに広がりました。

姫「言うことなしね、すごくおいしいわ」

ポタ「お褒めいただき光栄でごぜえます。姫様」

姫「ねえポタ」

ポタ「なんですかい? 姫様」

姫「あんた今、幸せ?」
 
ポタは笑顔でうなづきました。

姫「そう」

ビオラは満足そうにトマトをもう一口かじりました。

倉庫の天窓から降り注ぐ太陽の光が、トマトを赤く照らしました。


ポタ「それはそうと姫様。おらも一つ言いたかったことがあるんだ」

姫「なによ」

ポタ「パラス王子とおら、なんだか似ていないか?」
 
ビオラはヒールでポタの足を思い切りふんづけました。

ポタ「いでえ!!!!」

 こうして、ビオラ姫とパラス王子。ポタとリディアは、いつまでも幸せにくらしました。


                           おしまい

読んでいただきありがとうございました。

前回同様自作小説のSSアレンジです。

また応募してだめだったものをこんな風に載せるので、その時はまた読んでくれたら嬉しいです

では(`・ω・)ノシ

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