かきね「すくーる?」 (64)


学園都市を未曾有の危機に陥れんとする魔術師の企みがあった。
これは。
その脅威に巻き込まれ、混乱と絶望のただ中にあっても諦めることなく戦い抜いた。
ある組織の記録、かもしれない。

科学と魔術が交差するとき、物語ははじまる?!


垣根帝督「はぁ? 俺はオタクじゃねえぞ」
垣根帝督「はぁ? 俺はオタクじゃねえぞ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1407332154/)

から派生して膨れ上がったネタが形をとったスレです。
よろしくドーゾ。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1507488194



「ちース」

何だ、いたのかと声を掛けられて誉望はパソコンに向かったまま返事をした。
この後隠れ家では『スクール』のブリーフィングが予定されていた。

「遅刻する前に待機してれば遅れない! どうスかこの作戦!」

だからって遊んでんなよ、と言う顔をして。
こちらはきちんと時間をあわせてやってきた垣根はいつも通り手ぶら……では、なかった。

「なんか表で配ってたぞ。試供品だってさ」

いるか? と垣根は手にした小さなペットボトルを持ち上げた。

「いや、俺はまとめ買いしたコラボ飲料がまだ家に箱であるんで大丈夫っス。ノルマ一日二本なんで」

そう断って誉望が開けたリュックサックの口からペットボトルが二本浮いて出てきて机に並ぶ。
ラベルに書いてある美少女キャラが正面に来るようにきっちり置かれたのを確認して満足そうに誉望はパソコンに向かう。
世が世なら、それも正史なら大能力者として、その有能さを存分に発揮してパシられていただろう少年も。
なんの因果か。
レベル3相当の念動力をゲームをすることに全振りしてしまっては暗部組織の構成員の見る影もない、最早ただのオタクだった。


「ねえ」

「っス。いますよー。時間、まだですよね」

キーボードを叩きながらの返事に今度はため息が返ってくる。

「君じゃないわよ。彼は? 私、この後予定があるの。早くはじめちゃいましょう?」

さっきまでそっちに居ましたよ、と誉望に言われて部屋の奥を覗いた心理定規は首を振る。
ドアを開けて隣の部屋まで探しにいった。
あれーいませんでした? と誉望も後を追いかける。

「いないみたいだけ……ど、ッ!」

「うわっ何ス……か」

ガッとシャツを引っ張られて強引に振り返った誉望と。
驚いた顔のまま立ちつくす心理定規の視線の先には何だかおかしなものがあった。
きょとんとした顔で床の上に座り込んでいる子どもがいた。
迷子だろうか。
それにしてもどこから入ってきたのだろう。
暗部組織の所有する、オートロックのこの部屋に小さい子がいるなんておかしな話だ。

そのまま一瞬固まってから二人は壁の近くまで黙って移動した。

「(なんスかあのちっちゃい子!)」

ひそひそ叫ぶ(器用な真似をする)誉望の声を聞いて、目をこすっていた心理定規がため息をついた。

「(私にだけ見えてるんじゃないのね)」

どうやら彼女は自分が幻覚を見ているのではと思っていたらしい。

「(いやー誰かに似てる気がしませんか、あのちびっこ。見覚えがあるような、さっき探していたような……)」

「(そうね……あ。前に君も言ってたじゃない。能力者のクローンを作ってるって噂。きっとそれじゃない?)」

「(でもずいぶん小さいっスよ? あれか? 研究所で事故があって、生育途中で逃げてきたクローン体がエキサイティングな事件を引き連れてやってきた展開か?)」

とんでもないが、学園都市なら実際におきてもおかしくない妄想をこぼす。
誉望はどこか遠くを見ながら、いつもなら
「つまんねえこと言ってんじゃねえよ」とスルーされそうな話題を振ったが。

「(ねえ…もし、彼がもう一人居たらって想像してみて)」

「(もろもろ倍になるんスよね……困りますね)」

「(彼二人ぶんって絶対手を焼くわ。そっか。それで小さいのよ。場所も取らないしね)」

いつもは、割と組織内でもまじめなはずの心理定規がらしくない冗談を言って乗ってしまった。
ずいぶん強引に、下らない方面に会話の舵がきられていこうとしている。

「(おおっと、クローン説が信憑性を帯びてきたような……いやまさか、垣根さんがとうとう『未元物質』での禁忌の人体錬成に成功したんじゃ……垣根さんがコピーを作成したら小さいのが出来たのか?)」

「(馬鹿なこと言わないでって言いたいけど。やっぱりあの子、誰かさんの面影があるのよね……あれ? それじゃあ本人はどこに行ったの)」

まだ二人は現状を飲み込めていない。
タイミング悪く垣根がいないからうまく事態の説明が頭のなかで追いついていない。
そう言うことに二人はしたいようだが、実際に問題が目の前にある以上いつまでも無視はしていられない。


「(まさか全身持っていかれ……いや……やっぱ、あれが垣根さんか?)」

疑問をブチ抜く誉望の呟きに二人は隠れ家にふってわいた謎の幼児をじっと見た。
よく見れば。
小さいのが着ているのは、垣根がいつもシャツの下に着ているセーターに似ていた。
参考元の着用イメージの半分以下の大きさで、袖も裾丈も余り過ぎているから何かはわかりづらかったが、きっとセーターだろう。
ぺたんと床に座り込んだ子どもは辺りをきょろきょろ見回したり、ぶかぶかの袖を振ったりいじったりしている。

なんでこんなところに小さい子どもがいて。
なんでおかしなサイズの服を着ているのか。
そして相変わらず当の本人垣根帝督はどこにもいない。
やる気さえどうにかすれば、トラブルが舞い込んでも何とかしてくれそうなあの超能力者がいない。
やっぱりふざけてばかりはいられそうになかった。
リーダー不在の事態は避けたいと考えていただろう二人の気持ちも虚しくあの子どもと垣根が一本の線で結ばれていく。
それどころか……垣根=幼児、とびっきりに意味不明な厄介ごとの予感だ。

「(大分裾が余ってるけど……そうね) なんなの! どこかの研究所が若返りの実験にでも成功したって言うの?」

「シッ! だめだ、気づかれました!」

誉望が慌てて止めようとしたが、心理定規の舌打ちと個人的な不満が乗った文句が聞こえたらしい子どもが振り返る。
誰か……壁の近くでこそこそしている怪しい人たちに気づいたちびっこは。
目があうとぱちぱち瞬きをしてから立ち上がり、そーっと後ずさるように一歩、二歩と動いた。

その場から逃げようとする子どもに心理定規はしゃがんで手招き、誉望は両手を広げてわ〜っと手を振る。
怖がらせないようにしたかったようだが、残念ながら二人ともものすごく怪しかった。

「あは、あははこんにちはっス〜……え、えーっとぼく? お名前は?」

「ていとく。いみは、とってもえらい」

「幾つ?」

ムスっとした顔のていとくくんは黙って手のひらを広げて前に出す。
数えるとちょうど指が五本。

「五歳ってことかな」

「……やっぱりこれ垣根さんっスか?」

「学園都市に何人『ていとく』さんがいるのかしら。もう、何でこんなことになっちゃったの」

「いやーもうこれ夢じゃないか? いてっ?!」

「残念だけど夢じゃなさそうね……って あの子どこに行っちゃったの?」

自分の頬…ではなくいきなり誉望の腕をつねった心理定規がふと見ると、目を離した隙に子どもは逃げてしまっていた。

「なんで俺をつねるんスか。そう言うのは自分で確認しなきゃ意味ないんじゃ」

心理定規の不意打ちをくらって痛がっていた誉望が見回すと小さいていとくはすぐみつかった。
テーブルの下に、脚の後ろに隠れるようにしてしゃがんでいた。

「……だれ、ですか」

丁寧に聞かれて、誉望が垣根さんが俺らに敬語を使った?! 今の聞きました? とあわてた様子で心理定規に確認する。
こっちはまだ現実逃避の途中らしい。

「そこじゃないわよね驚くとこ。ええと、私たちのことわかるかな」

離れた所からぷるぷる首を振るかきね(仮・小さい)。

「縮んで次は記憶喪失っスか」

「もう。しっかりしてよ。小さくなったのは見た目だけじゃないみたい。そんなところにかくれてないで、こっちでお話ししましょう?」

「やだ。しらないひとと、おはなししない」

今度はブンブン音がしそうなくらい大きく首を振る小さいかきね。

「でも一応返事はしてくれますね」

「ほら。この子の方が君よりしっかりしてるじゃない」

ひそひそ話す二人をかきねはじーっと見ていた。
幼い顔が険しくなっている。

「あー、警戒してます! って顔してますよ。不審者を見る目っスよあれ。どうしたらいいんスか」

どうしようどうしようと騒ぐばかりの誉望の横で、子どもの様子をうかがっていた心理定規は…何か考えを探るように額のあたりを押さえてから返事をする。

「ちょっと待って。まだ、うまく……いかないみたいだわ。地道に何とかしましょう。とりあえず説得しないと。なるべく怯えさせないように気をつけて」

「いきなり自信ないんですが」


「えっと、ていとくくん?」

てんでダメな誉望と違い、心理定規はにっこりと完璧な笑顔を浮かべて物陰の子どもに声を掛ける。
バイトや日頃の暗部での対応でよっぽど精神力が鍛えられているのか、異常事態にも慌ててみせたりはしない。

「それじゃあご挨拶からしましょうか? はじめましてこんにちは」

「……こんにちは」

「こんにちは~俺は、誉望万化って言いま~す」

いつもより無駄にへらへらしている誉望にも、かきねはちゃんと頭を下げていた。

「よぼー、ばんかー?」

「そっスそっス。えっとこっちは」

あれ、何て紹介すればいいんだ? と間があって、心理定規はまたにっこりして子どもに笑いかけた。

「……心理定規よ」

横にいる誉望の腕をぎゅっとつねりながら。
いてててて、と理不尽な攻撃に誉望が小さく悲鳴をあげる。
作り笑顔でそうは見せないだけで、もしかすると彼女の心の中は穏やかではないのかもしれない。
あまり騒がず落ち着いている普段のイメージからはあまり想像できないアクションだったが。
甘んじて攻撃を受けた誉望は離してもらえた腕をぷらぷら振って仕方なさそうな顔をしている。

「そんな凹まなくてもいいじゃないスか。俺が何もやり返せないからってひどくないスか?」

「はーと?」

彼女の能力名、メジャーハートがよくわからなかったのかお子さまは首を傾げる。

「心理定規おねえちゃんっス」

「おねえちゃん」

「もう……いいわ、それで」

ちびっこににっこりそう呼ばれて心理定規は仕方なさそうにうなずいた。


「俺たち怪しいもんじゃ…あるかもしれないっスけど、悪い人じゃ…ないとも言えないんスけど……あああどう説明すりゃいいんだ。どうしたらいいんスか?!」

「もう!! ちょっと落ち着いてよ」

ビクゥ、と目を丸くして固まるかきねを見た心理定規はほら、と誉望をにらんだ。

「大きい声出さないの! ほら、この子が怖がるでしょ」

「気のせいか? 俺よりずっと怖いものがあるような……あ、また隠れてますね。いや、全然見えてるんスけど」

頻繁に打撃系のツッコミをされる側な誉望は、少し怒鳴られたくらいでは別にこたえていないがちびっこには十分すぎたのか。
かきねはまたテーブルの下に避難していた。
家具の脚は残念ながら姿を隠してくれないが隠れている気分にはなるんだろう。
その後ろから騒ぐ二人のようすを見ていた。

「怖がらなくても大丈夫。垣根帝督くんね。私たち、あなたのこと見るように言われてるの。だから心配いらないわ」

「そんなこと言っていいんスか? 任務でもないのに」

状況的に間違ってはないだろうが、いきなりそんなスパイアクション映画みたいなことを言われて、子どもでも素直に信じてくれるのか。
小さな声で尋ねられた心理定規は誉望の方を見てにっこり笑った。

「あら。このままどこかに逃げられちゃってもいいのかしら? 真偽は別として、私たちは安全だってあのこが思えばそれでいいのよ」

とても合理的な、頼りになるお言葉だった。
すっかりいつもの……仕事の気分になっているのかもしれない。


「なんで、おれは、ここに……いるんですか」

「なんでと言われてもっスね。俺が聞きたいっつうか」

しどろもどろな誉望の不審な様子に、じーっとそれを見ていた子どもの目にはじわじわ涙がたまっていく。
やっぱり危ない人たちにつかまったんだ! なんて泣き出されてもおかしくない状況だった。
追い詰められた様子に誉望の方があたふたする。
子どもが泣き出すのは彼にとってオレンジ以上の警報と同じくらい効果がありそうな慌てぶりだ。

「うわわわわ、心理定規ー! にらんでる垣根さんがどんどん涙目にー?!」

「このおうちで一緒に遊ぶからよ。ほら、こっちにいらっしゃい」

「どーしてですか」

「そうね……お昼ごはんまで時間があるでしょ。いっぱい遊んだら、ご飯まであっと言う間よ。何がいいかな? そうだ。みんなで考えましょうか?」

「うーん。いいよ」

ご飯、遊ぶ、何てワードが興味を引いたのか。
少し悩んでから小さいかきねは緊急避難場所から出てきてくれた。

「垣根さん、小さいのにちゃんとしてるんスね」

「おとなのひとにはちゃんとおはなししないとだめなんです。おをつけてていねーに。しらないひととは、おはなししちゃだめ」

一生懸命、まじめな顔で話してくれるかきね。
五歳児からみたら中学生くらいの心理定規でも大人に見えるだろう。
それにしてもよっぽど厳しいご家庭だったのか。
もしかしたら親ではなく、こっちでついた教育者の方針かもしれない。
五歳はちょうど学園都市での能力開発がはじまる一番早い年齢だ。
垣根の昔のことなんて心理定規たちも詳しくは知らないが。
厳しい幼稚園の先生よりは、開発官の影響の方が……超能力者だしありえそうな話だ。

「私たちはもう知ってる人ね? いいのよ何でも気軽にお話しして」

「そっか。ごあいさつしましたね」

「……いいのか、いいのかそれで」

心理定規の言葉に納得したらしく本人はにこにこしているが。
聞き分けが良すぎる気もする小さいかきねに、誉望は不安が増したようだ。

「はー。でもよかったーひとまずテーブルからは出てきてくれたっスね。あのままじゃ落ち着いて話し合いも出来ないっスよ」

「はぁ……とりあえず興味をひければいいんだけど。小さい子って次の行動が読めないわね」

おねえちゃんにぶかぶかのセーターの袖を折ってもらったかきねは動きやすくなったのか、今は部屋の中をちょろちょろしていた。
広い室内は見るところがたくさんある。子どもの興味もひいたようだ。
その様子を気にしながら二人はお子様への対応を相談していた。
誉望は宅配デリバリーのメニューを調べるよう、早速用事が言いつけられている。

「心理定規なら能力でお子さまのハートも一発ゲットだと思ったんスけど。違うんスか」

「私の能力は、ある程度対象の心の中の尺度に依存するのよ。個人の人間関係どころか、価値観が曖昧な小さい子だと余計に不安定になりそう」

試してみてもいいけどと心理定規が言ったすぐ後、少し離れて部屋の奥の方にいたかきねはとことこ歩いてきて心理定規を見上げた。

「ね。ねー、おねえちゃん」

「はい。これでいい?」

手を引っ張られて心理定規はかきねの頭を撫でてやった。
小さくなる前と同じ明るい茶髪だ。
まさかこんな歳から染めてたのか、それとも実は地毛だったなんてことはあるのかどうか。
頭をよしよししてもらっても、かきねは不満そうに心理定規にくっついていた。

「んーん。だっこ」

椅子に座ると心理定規は膝の上にかきねを抱き上げる。

「もう……ほら、あっちのおにいちゃんに遊んでもらう?」

「んーん」

ぎゅっと背中に腕を回したちびっこは、誉望の方なんて見もしないで嫌そうに首を振った。


「これは……懐いたってレベルじゃねえべったり具合ですね? 心理定規さん」

ついさっきまで怖がっていたのが嘘みたいに心理定規に懐くかきね。
相変わらず、いや予想以上の効果だな……と誉望は大げさな丁寧口調でうなずく。

「距離単位二〇くらいのつもりなんだけどね。この子にはこれが近過ぎるのか、効果が強く出てるのかもわからないわ」

「でもコアラの親子みたいで非常に微笑ましい光景っスよ」

オヤ、シャシンヲトルンデスカ? とセリフを再生するスマホを二人に向けて、誉望はおーいと手を振ったが、

「……やだ。あっちいけ」

コアラの子どものようにおねえちゃんに抱きついていたかきねが心理定規の肩ごしに睨みつける。

「あっはい。すんません邪魔でそうですね俺なんかいても邪魔でしかないよな」

「そんなにショック受けないで。私もさっきから、このおかしな状況に驚いてる余裕くらい欲しいんだけどな。多分、小さい子は一つのことで頭も手もいっぱいになっちゃうのよ」

「ここまでばっさり他人のATフィールドに拒否られたのは久々だ……あれですか心理定規さんにツッコミ解説担当を強いてる俺のヘタレさへのおしおきっスか」

「だから私のせいじゃないってば。気にしすぎじゃない?」

そう言いながらも、いつも以上に面倒な自虐ネタに走る誉望はスルーして。
やだやだ、と不機嫌になってしまったかきねの頭をあやすようになでる。
その姿はおねえちゃんと言うよりおかあさんみたいになっている心理定規だった。
そんなことをしているうちに、不機嫌の方に傾いていたゲージの針が反対側に振れたらしい。

「おねえちゃんいいにおい」

「そう? 香水つけてるからかな」

「いーにおい」

「心理定規、小さい垣根さんがにこにこしてますよ。うわっ、いつもの垣根さんからはぜってえ想像出来ない無邪気な笑顔が……あ」

「何」

「貴重な『ドヤらない』垣根さんの笑顔じゃないスか! 営業スマイル抜くと……多分、俺初っス!」

「へえよかったわね。今私にそれ、見れると思う?」

「そっスね」

肩のあたりに抱きつかれて、見えないだろう本人の代わりに実況していた誉望だが。
こちらにもばっさり切り捨てるようなトーンでツッコミを入れられて素早くスマホを取り出した。
シャシンヲトリマース…の音声の後に保存されたブツはきっちり彼女に送信されるだろう。


その後すぐに、心理定規はかきねへの能力使用をやめた。
調節の難しい状況で距離が近すぎるのはかえってやりづらいと判断したようだ。
と、言うか。
その間かきねはカモの子どものようにおねえちゃんの後にくっついて離れようとしなかった。

「これで元通りかしら。おねえちゃんが一緒にいなくても大丈夫? 手を握ってる?」

「ううん。へーきです」

心理定規はあえて、さっきまでなら喜んで甘えてきそうなことを聞いてみた。
だが、無事に効果は消えているのだろう。
かきねはいい子の顔でお返事をした。

「良かった。問題なさそうね。いいのよ? もっとお友達みたいに話して。そうやっておしゃべりするの大変じゃない?」

「そーですか?」

「そうよ。それにそっちの方がうれしいな。仲良しみたいでしょ」

「なかよし」

仲良しがうれしかったのか。
かきねはそっかそっか! とジャンプしている。

「これから私たちとは……仲良くしてもらわないとね」

ビジネスライクな距離感を保っているといつだったか言っていた少女は内心複雑なのか、それをみて薄い笑みを浮かべる。


「おれね、もうだいじょぶ。ごさいはひとりでなんでもへーきなんだよ。えらい?」

おねえちゃんうれしい? と確認しながら仲良し仕様で喋ってくれている。
とても……これがあの垣根帝督なのか。
知っている人間ほど、ありえないと笑って首を振りそうな状況だ。

「そう。立派ね。あ、あっちでひとりぼっちになってるおにいちゃんにも声かけてあげて?」

さっきバッサリ拒否られた誉望は遠巻きに様子をみていた。
と言うか既にスマホを取り出して寂しく暇を潰している。

「おーい」

「はい……」

「ちゃーんとなかよししてやるからな」

「なんか……やっぱ垣根さんっスね?」

五歳児とは思えない立派なドヤ顔で仲良し宣言。
小さくなっても小さい時でも似ている部分はあるのかもしれない。



だんだんとここに慣れてきたのか、部屋の中を見ていたかきねは窓に駆け寄ると歓声をあげた。

「こーそーまんしょんだ! すごーい!」

第三学区のこのマンションは『スクール』の隠れ家の中でも特に眺望がいい。
夜になれば学園都市中の夜景が一望できそうな一室で、ちいさな子どもは無邪気に目を輝かせている。

「おねえちゃんたち、おかねもちか?」

「そうっスね。ま、一番は垣根さんなんだよな」

「たかーいな」

「そうね」

「くるまがありさんだ」

「そうですね」

すごいなーと窓ガラスに顔をくっつけるようにして外を見るかきね。
それを見守る二人はほほえましい姿にあいづちをうっていた。
と、大人しくしていたかきねは急にガラスをぺちぺち叩いたり押したりしはじめた。

「あかない。あかないぞー?」

「この窓はあけてないのよ。危ないから見てるだけね」

「実は外からも開くんスけどね」

「誉望君?」

本当は大きく開くだけでなく、この窓は特別仕様にされたおかげで外からもスライドする。
こどもどころか大人一人楽に通るのを今教えても危ないだけだ。
だと言うのに余計な一言を口走る誉望に素早い心理定規の牽制。
見事にきまって、誉望はあっやべっとはっきり顔に出してから話をそらした。

「ほ、ほーら垣根さん、ふははは人がごみのようだー!」

「……なに?」

ちょっと考えてから首を傾げられる。
有名な国民的アニメ映画でも、五歳のかきねは元ネタがわからなかったらしい。
通じないパロディやギャグの解説ほど虚しいものはないらしいが、スベった誉望はまるでそれが当たり前のようにセリフの意味を教えようとしていた。

「人がいっぱいいる所や高い所ではそう言うんですよ。大佐ごっこですよ。ほーら。ごみのようだー」

「ふっふっふー。ひとがごみだー」

「あらら。言い切っちゃったわね」

「それじゃあ垣根さん次は意識高い高いをですね」

「こら。もう、おかしなことを教えないの」

口げんかのように見えなくもないやりとりだが、かきねはもう怖がらずに二人の様子を見ていた。


「あの小さい垣根さん、これからどうしたらいいんスかね」

小さいかきね、もとい何かおかしなことが起きてしまったリーダーが見えなくなると、部下の二人は揃ってため息をついていた。

「今はどうしてるの?」

「隠れ家の中を探検に行きました。やってることはまるっきり子どもですよ」

漫画やアニメのように体だけ変化してしまっている可能性も疑ったようだが、誉望の期待はハズれてしまったようだ。

「そう。なんで……こんなことになっちゃったのかな」

少し落ち着く暇が出来ると、小さい子どもの世話から一歩離れて問題に目が向けられる。
原因はまだわからないが、状況を考えると垣根が子供になってしまったと見て間違いなさそうだった。
今までのやりとりを振り返るなら、見た目だけじゃなく中身も完全にだ。
垣根が実はものすごい演技派で悪趣味な体を張ったドッキリを仕掛けてきてる可能性は……あったらそれも恐ろしい。
一応、二人が垣根の知り合いなのはもちろん。
暗部組織のリーダーの一大事となると、今後の任務にも関わってくるだけに気がかりになる。

「やっぱりどこかの研究施設でおかしな研究でも成功したのか?」

そう言えばさっきジュースもらったって飲んでた気がするんスけど……と言って誉望は最初に小さいかきねがいた辺りを見に行った。

「これもあったんですが」

小さいペットボトルと、ジャケットの袖の中にシャツが通っているもの(どう脱いだものか半分ひっくり返ってる)とベルトの留まったままのズボンを能力で運びながら誉望は戻ってきた。
今、小さいかきねが身に着けているものを元の状態から引いた残骸。
中身だけ消えてしまった、着ていたままの抜け殻みたいな服はちょっとホラーだった。

「服はクリーニングね。そのペットボトルまだ中身が残ってるわ。お茶みたいだけど、こんな商品見たことないわね」

「おっと、俺は飲みませんよ」

ゴーグルをつけてさっそく商品名とメーカーを調べていた誉望が何か言われる前に釘をさす。
検索結果は該当なし。
どうやらラベルに書いてあったのは、全て虚偽か架空の実在しないものだったらしい。

「そんなことして、もしもよ? 君まで彼みたいになったら事態が悪化するだけでしょ。私一人で面倒見きれないわ」

どうせ末端の子達にも働いてもらうことになりそうだし協力してもらおうかな、なんて恐ろしいことをため息まじりで呟く。
心理定規はもちろん誉望もよくわかっていることだが。
暗部組織の人員は替えがきく。
何かあればかわりを補充できるくらいだ。
そんな中で数少ない例外が、垣根のような超能力者だろう。
それが……こんなことになっては、『スクール』だけでなく学園都市を巻き込んだ大問題に発展しかねない。
何より、わけあって暗部にいる二人はあの『電話の男』に難癖をつけられる前に少しでも目の前で生じた問題に対処しようとしていた。
この組織の圧倒的な強みがなにか、は考えるまでもない。

「そいつが原因か検証はするんスね」

厄介なことになったな……と渋い顔をして誉望はゴーグルを外した。

そんな時、とてとてちびっこが部屋に戻ってきた。
二人の深刻そうなようすなんてわかりもしないだろう。
なにかを一生懸命もって楽しそうにやってきた。

「よいしょ。みてみて。じゃーん! ぴすとるだーてをあげろー!」

楽しそうな声がして、物騒なものが二人の目に飛び込んできた。
二人の方に向けられたのは五歳児の手にもなんとか持てるくらい小さなグリップ、レデイース用の小型の銃だ。
それに、こっちもドラマでよくありそうなセリフで誉望が叫ぶ。

「垣根さん?! そんなのどこから…そいつをゆっくり下に置いて両手を上にあげて下さい!」

「……あら。すごいわね。私にも貸して?」

おねえちゃんが笑顔でそう言うとかきねはいいよ、と銃を持ち上げて渡してくれた。

「ありがとう。人に渡す時は、こうしてグリップを向けるのがマナーなのよ。銃口はこっち」

「ふーん。むこうにあった。あとこれぐにぐに。これもあげる。はいどーぞ」

「はい。ありがとう」

「あっちのおへやもみてくるね!」

「はーい、気をつけてね」


「……心理定規さーん」

手をふって、にこやかにちびっこを見送る心理定規。
二人のやりとりをビビってみていた誉望はこわごわ声をかける。
いくら暗部組織でも、銃器をおもちゃにするなんてデンジャラスすぎる日常パートには引いた様子だ。
冷静にかきねの手からおもちゃをすべて回収した心理定規は、ぱたぱた振っていた手を止めるとやさしいおねえさんのリアクションが嘘のようなむっとした顔で立ち上がった。
やっぱりかきねが持ってきたのは本物の、彼女の持ち物だったらしい。

「大丈夫。弾は別で保管してるし、こっちも信管がなければただの粘土みたいなものよ。きちんとしまっておいたんだけど」

「恐怖のファンシーグッズっスね……早いとこ、小さい子に触られちゃまずいものを片付けましょう。そっちお先にどうぞっス」

物理的にやばいのは心理定規の持ち物で間違いないだろうが、順を譲った誉望の方も相当まずい。
おもに、教育に。

少しして。
かきね探検隊がラグマットの草原を転がって、ソファの船で遊んでいる間に二人はそれぞれ隠れ家に持ち込んでいた荷物を無事整えることが出来た。
今まで以上に遠慮なくリーダーが好き勝手してしまうので危険物や重要なものは、空いている部屋に押し込んで子供にはあけられないように鍵をかけておいた。
それでも誉望の定位置の周りはそんなに変わったようにはみえない。
相変わらずゲーム機やグッズが置いてあるが本人曰く。
「無いとおちつかない」のと、
「勝手に壊されること以上にまずいことがある」ので少しの片付けでは彼の不安要素は解消されないらしい。

「まあ小さくても垣根さんだから、何かあっても心配は無さそうっスけど」

呑気にそう言った誉望の目の前で、かきねがいきなりうずくまった。
棚の下をのぞいていて、立ち上がった調子に頭をぶつけたようだ。
ゴツン、と結構な音がした。
それをみていた心理定規が慌てて様子を見に行く。

「おでこぶつけたの? 大丈夫?」


「……う」

グッとかきねの顔が歪む。
今にもうわあああん! と泣き出しそうな様子に、誉望はまるで爆弾から身を守るように素早く後方に逃げた。

「心理定規ぉおお、かっ垣根さんが痛がってますけど?!」

いつもの垣根ならちょっとやそっとの襲撃くらいは、
「いってえ」の一言で軽く済ませそうだが今はそれどころじゃない緊急事態だ。
そうは言っても、自分は家具の後ろに隠れて心理定規に確認させようとするのは大げさすぎる。

「こんな小さな子に、いつもの彼の反応なんて期待しちゃ駄目でしょう? 何で君が逃げるのよ。ほら、みせて?」

座りこんでしまったかきねのそばに行くと、心理定規は額を押さえる小さな手をそっと外させた。
少し赤くなっていたが、こぶが出来るほどひどくぶつけていないらしい。

「いやー、駄目です。これじゃただのちっちゃい子じゃないですか。俺小さい生き物は相性悪いんです。急に何するかわかんないじゃないスか」

おおごとではなさそうだ、と少し安心したのか物陰から出てきた誉望は、聞かれてもいないのに自分の弱点を晒しはじめた。
どうやら室内のオタクグッズは精神・物理両面で相手を遠ざけるためのバリケードとしても機能しているようだ。


「大丈夫よ。いたいのいたいの……飛んでったかな?」

「……いたい」

心理定規はそんな怪我はしてないのよね、と困ったようにもう一度小さい額をみた。
かきねは眉をぎゅっと寄せて泣きそうになるのを一生懸命こらえている。
涙目で見上げてくる子どもの顔に、心理定規は小さく声をだしておかしそうに笑った。


「びっくりしちゃったのかな」

「ん。おれ、えらいからなかない」

「そう、強いのね」

じっと我慢するかきねの頭を撫でてやりながら、心理定規は話かけ続けている。
少しでも気をまぎらわせてあげようとしている優しいおねえちゃんだが。
「俺くらいになるとトラブルになる前に子どもが避けてくれるんだよな……」と誉望は何だか日頃の行い込みでげんなりしていた。

「もう、こっちは頼りにならないお兄ちゃんね。『いたいのいたいの~飛んでけ~』」

「あれ。とんでった?」

「よかった。気をつけてね」

心理定規のおまじないでかきねに無事、笑顔が戻った。
もう大丈夫、と二人がほっとしていると誉望がおそるおそる近寄ってきた。
まだ距離は充分にあけていつでも待避できる。
どこの戦場か、と言うくらい姿勢を低くして警戒態勢で様子をうかがっている。

「君は……大丈夫じゃなさそうね」

「小さくても垣根さんならちょっとくらい、何とかなる気がしてたんス。だって垣根さんスよ」

「どれだけ彼を信頼してるの」

「そもそも垣根さんで『未元物質』に俺らの常識が通用するわけがないじゃないスか」

「彼を何だと思ってるのよ」

はあ、と呆れた顔の心理定規。
確かに『スクール』のリーダーはいろいろと、信頼度抜群だが。
はたしてそう言うレベルの話だろうか。

ドーモ。
覚えていないかもしれないが、>>1でいつだったか予告していた垣根が小さくなるネタです。
『スクール』のほかにもキャラがでてくる予定。
らっこさんもあとから駆けつけてくれます。

この物語に『未元物質』の少年は登場しない。(ほとんど)

ワロタ

ショタ垣根が定規さんにべったりしてるシーン2人とも可愛すぎる

このリーダー光源氏計画のために1匹欲しい

おいおい、いつのまにかこんな俺得スレができてんじゃねぇか
三期と同じぐらい超期待


『スクール』のリーダーが不測の事態に見舞われてから早くも一時間近く経過した。
誉望は下部組織に連絡をしにいったん隠れ家から外に出かけた。
心理定規は部屋でリーダーの相手をしている。
何故か小さい子どもになってしまった垣根は、いつものセーターの袖をぷらぷらさせて隠れ家の中をあちこち歩いていた。
なにしてるの、と心理定規が聞くと小さい垣根は元気よく、
「たんけんたい!」と答えた。
どうやらおうち探検隊を結成したらしい。
心理定規おねえちゃんは加入をお断りしたので現在メンバーは隊長ひとり、隊員大募集中だ。

部屋の中をいいこでみて回っていたかきねはねえねえ、と心理定規を手まねきした。

「おねえちゃんこれは?」

「それは誉望君のお人形よ。確か……机の上に並べておくとやる気が出るんだって言ってたわね」

「みてもいーい?」

「いいわよ。誉望君のだから」

危険物の取り扱いに注意して、今いるメンバーはそれぞれが私物を片づけたから子どもが不用意に触ってはいけないものはもうないはずだった。
『ひとりでお部屋のものにはさわりません』とおねえちゃんと約束をしたかきねは、ちゃんと許可を取ってから近寄った。
パソコンの横に置かれたアニメキャラの小さいフィギュア。
一般人や小さい子からみたらどれもお人形だ。
かきねも興味があったのか端の一つを手に取る。
ガシッと胴体部分をつかまれるデフォルメされた艦っち。

「ふーん……きーっく!」

そして、戦艦擬人化少女のフィギュアは近くにあった空のペットボトルに簡単な技名と一緒にたたきつけられた。
丁度そのタイミングでドアが開く。
出かけていた誉望が戻ってきたようだ。

「ちース戻りました。Dチームのやつに謎ドリンクを飲ませたらやっぱり縮みましたよ。何入ってるか分からないんで皆嫌がってました。あんなに必死なじゃんけんは俺はじめて見まし……かがっちーー?!」

「ててーん。ぺっとぼとるをやっつけた!!」

「まあすごい」

予想外の事態に報告途中で叫ぶ暗部のパシリもとい艦っちの提督。
その目の前でかわいいファンファーレが歌われた。
艦っちはどうやらレベルが上がったらしい。

心理定規は改めて……少し落ち着いたところで誉望から報告を受ける。
下部組織の下っ端一人に垣根の飲んでいたものと同じ飲料を飲ませた所、体が縮んで子どもになったこと。
異変が起きた本人と名乗り、年齢は五歳と証言したこと。
ざっと挙げても垣根と同じ異変が起きていることは確かで、今のところそれ以上の成果はないと言う。
ちなみに哀れにも実験台になった奴はそのまま所属チームのメンバーに預けられている。
これも任務だからとその後も様子をみるように言うと下っ端連中は、
「心理定規さんに、いやみなさんにこんな奴の面倒はみせられません!」と、とばっちりで召喚されたガキの世話を快く引き受けてくれた。
持つべきものはよく出来た部下だ。

「そう。原因が何かはわかったわね」

「何でか、はまだ不明っスけど。飲食物に何らかの薬品の混入か……『スクール』か、それとも垣根さん本人を狙ったなんらかのテロ……いやー『APTX4869』が実在するとは驚きっスよね! なんて……まさかですけど、酒のんで元に戻ったりすると思います?」

「何? それ」

真面目ぶった話が長く続かず途中からふざけてしまったが、確かに笑っていないといられないくらいおかしな事態ではある。
心理定規が首を傾げたので誉望はとあるアニメのタイトルを挙げた。
もう何年も続くロングヒットの推理アニメだ。

「漫画でアドラーちゃんとドイル君が飲んだあれっスよ。稀に体が小さくなる毒薬です。あ、垣根さん。そこの一番艦隊は駄目っスけどこれなら遊んでいいっスよ。シリアルコードにつられたもののコンプしたさに最終的にロット買いしたシリーズっスから。まだ家にたくさんあるんで」

誉望がそう言って指先をひょいっと振ると、近くの棚の上からさっきのフィギュアよりも小さな人形が何体かテーブルの上に降りてきた。
たくさんあると言った通りその中の幾つかは全く同じものが二個三個とある。

「ういた?! ねえおにんぎょがふわーって」

「垣根さーんこれ遊びます? いいなら戻しますけど」

「えっ! えっとね、んー。あそぶ」

ふわっとしてびっくりしたのはとりあえず良くなったのか、かきねは一つ人形をつまむとテーブルの上を走らせはじめた。

「丁度よかったわ。少しいいかな? 電話してくるから」

ひとまず原因はわかった、いやそれしかわからなかったが。
心理定規は報告が終わると部屋から出ていってしまった。
そう言えば、ブリーフィングの前に今日はなにか予定があると言っていた。
多分バイトの件だろうなあ、と納得して。
誉望は艦っちのフィギュアをひとまとめにしてかきねの方に寄せる。


「うぃーん……はっしん! し、ま?」

「それはぜかましっちっス。連装砲くんがこれっス。あとこっちのが……っと」

艦っちのおなかについていたひらがなの名札を読んでいたかきねに、誉望は椅子から立ち上がるとテーブルの上に次々人形を並べてキャラ紹介をはじめていた。
が、解説しながら段々遠くに離れていく。
流石におかしな行動は子ども相手にもばればれだった。

「なんでうーんとそっちいくの?」

「半径約一.二メートル直近五〇センチ、これが対小さい生き物仕様の俺のレッドゾーンなんで。一定の距離を保たせて欲しいんです」

「なんとかぞーんってなに」

「入ると大変なことになります。と、言うか俺的にはそれだとうっかりでさわれるってのが問題なんで。あんまりこっちには」

「よーし」

まだ説明の途中だが、かきねは質問をやめて両手をぐっと握って少し腰を落とす。
誉望の方を向いてなにやら狙いを定めていた。

「って解説中に何をしようとしてるんですか?!」

「たっくる」

「なんで!?」

「たいへんなことになるんだよな」

そう言ったかきねはとってもキラキラした目をしていた。
これはあれだ。
絶対するなよ! と言ってここ一番のおいしいネタを振るための呼び水だと思われているのか。
実はこんな純粋そうな顔をして、大変なことがみたいなんて破壊願望を持った恐るべきお子様なのか。
どちらにしても誉望本人は面白くもなんともない。

「期待されている?……違うそう言うフリじゃない! 押しちゃダメなやつなんだって、うわぁああ助けて心理定規ー!!」

唯一頼りに出来る相手を必死に呼んだが心理定規は丁度席を外している。
絶対絶命のピンチ。
誉望の後ろには別の椅子、障害物があるから逃げるなら横だがそれでかきねが転びでもしたらまた大変なことになりそうだ。
そんな風に悩んでいる間に、かきねの方は用意かチャージでも済んだのか。

「えいっ!」

ちびっこリーダー砲が駆け足で発射された。
衝撃に備えて何とかその場に踏みとどまろうとする誉望。
しかし、予想より衝撃が小さい。
小さなお子様の渾身の攻撃は日頃からダメージ慣れしている暗部の少年には軽すぎた。
もしカウントがついても一桁にしかならないだろう必殺技。
そのあまりの頼りなさに誉望の両足から力が抜けた。
ぶつかられるまま後ろに押しやられる。
椅子につまずいて転倒、挙句後頭部を強打。

目の前がチカチカしている誉望は近くにいるだろうかきねにどいてもらおうと右手を上げた。
たいへんなことを期待しているかきねは、
「なんもおきないぞ?」と言う顔をして誉望を見下ろしている。
さっき接触したばかりの小さい質量の存在をばっちり視認して、ついでに足の上の重みに彼は更に気づく。
終わってはいない、いまだ継続中である。と。
びたりと宙に止まった手がぶるぶる震え出した。

「っぎゃー!!! げふっ!」

「うわー!」

許容量を超えた精神的な負荷に思考回路をやられた誉望が悲鳴を上げる。
それにつられてびっくりしたかきねも叫ぶ。
咳き込む誉望、なにやら赤いものが口から。
更に広がる混乱。
大騒ぎになってしまった所に心理定規が戻ってきた。
騒がしい誉望の様子に、かきねに何かないかと心配したようだ。

「何してるの君たち」

「おねーちゃん! よぼーがしんじゃう!」

「いて……いてえ……」

物理小ダメージなのに相性が悪すぎて大化けしたメンタルへのクリティカルヒットにすっかり瀕死の誉望。
口元からガチで血を出しているのを見たかきねは大慌てだった。
シャツを引っ張って起こそうとする、失敗。
また起こそうとする、失敗。
ゴロゴロ床の上で転がされるその繰り返しが非道な死体蹴りになっているとは、いたいけなおこさまは気づかない。
そもそもかきねがどいてやらないと下敷きにされた誉望が自力で起きられるはずもないのだ。
混乱しきった場にためいきをつくと、心理定規はそっとかきねの肩を触った。


「鼻血くらいじゃ死なないから大丈夫よ。ほら、もう離してあげて。危ないからあっちに行ってましょうね」

とても冷静に、誉望から離れるように指示を出した。

「…………ゴホッ! うげ、むせた…いやあの、垣根さんじゃなくても出ます。ストレスキャパを超えると血管が悲鳴をあげるシステムっス。なんか事故って吐血しましたけど、別に目や耳から出ても俺は気にしないっつうか絵面ならそっちのがインパクト大でいいなあっつうか……俺は、どこかの青頭みたいに変態では御座いません。もちろん念のため」

鼻からの出血は喉から口の方に抜けたようだ。
げほごほ言いながらたかが鼻血に長々と意味不明な解説をつけていた誉望だが、かきねが離れてしゃべっているうちに少し顔色は良くなっていた。
本人もパニックで発言がめちゃくちゃになっているが、要は最後の一言が言いたいのだろう。
小さな子どもとオタク少年の組み合わせは、屋外で第三者に発見されたらそれだけでも通報されそうな状況に見えなくもない。
ついでに自覚どころか経験済みらしい口ぶりが悲しい。

「わかったから。はい、口の周りがホラー映画みたいよ」

「すんません」

ウェットティッシュを差し出されて、誉望は口元を拭いた。
濡れた紙の上で伸びた血の色は確かに中二っぽいインパクトのありそうな、そこそこの出血に見えた。

「とりあえずあの子にはここに慣れてもらわないと。こんな状態で勝手にどこか行かれても困るし。でも…困ったわね。私ちょっと出かけないといけないの」

心理定規に助けられて、ほっとしていた誉望の顔がそのまま固まった。
用事があるとは言っていたが。
この状況でバイトに行くとは……彼女なら言いそうだ。
なんだ。
問題ないじゃないか。
流れとしては。
無言のノリツッコミなのか思案、理解、笑顔で納得、まで一人で百面相をしていた誉望は最後に必死な様子で激しく頭を横に振る。

「いや、無理っスよ? 俺に、垣根さんの面倒を? いつものでも十分大変っスけど、それでもまだあっちのがマシな気がするんスけど心理定規さん!!」

できませんって! と拒否する。
誉望が嫌がるのは心理定規も分かっていただろう。
それでも彼女はにっこり笑って、
「ごめんね」の一言で話を続けた。

「なんとか時間はずらしてもらえたんだけど予定自体は断れなかったのよ。それと、後であの人にも連絡しておくから。私が戻るまでの間でいいの、あの子の相手をしててちょうだい。念のため玄関に鍵もしておいてね」

「えーっそんな! 心理定規……後半は代わりにしときますから、なんとか早く戻ってこれませんか」

あの人、『スクール』の上司にあたる謎の人物。
暗部の指令を寄越す顔も知らない電話の男だ。
組織のリーダーがこんな不可解な状況にあると知ったら暗部は、いや学園都市のもっと大きな部分にも大混乱だろう。
何しろ超能力者の一大事だ。
事態を伏せてはおけないだろうし、そこでもひと波乱ありそうな重要な連絡だ。
心理定規が説明し、上手くことが運ぶように話を進めるのが得策だろう。
だが。
普段パシリ扱いされている誉望だが、この問題にあえて名乗りを上げる。
我が身かわいさで、お子様と隠れ家に放置されたくないがために。
それをとっくに見透かした心理定規はにこりと笑う。

「じゃあ今現在の組織内の情報の把握と各部への伝達、この問題へのリスクヘッジに基づいた有効な対策を考えて『彼』と話しあって、必要な指示を出してくれる? リーダーとブレーンと、兼ねる役割は他にもあるけど、複数作業の同時進行は君も得意よね」

「すんません。もうちょっと戦略ゲームみたいに言ってもらえますか」

「もう。あんまりふざけないでよ」

「垣根さんだって少しくらい一人でも大丈夫じゃないスか? 小さいのにあんなにしっかりしてるし平気っスよ。いや、ちょっと不安要素はありますけど。グレーに近いオフホワイトっスけど」

「あの子に何かあったら……それが起きてからじゃ遅いの、わかってるかな?」

「俺がショック死して自害して更に心理定規にオーバーキルされるのは何となく理解しました」

少なくとも三回自分が死ぬ予測を立てた誉望は最終的に首を縦に振った。
今は無力なおこさまになってしまったリーダーの保護は『スクール』の最優先事項になる、正規構成員としての自覚は誉望を逃げちゃダメだ!とその場に押しとどめることに成功したようだ。
それを見た心理定規は、どこからか出した銃を手にしたままにこにこ笑っていた。


「もういいっス。何言っても出かけるんスよね。で、どれくらいかかりそうなんですか」

誉望はいっそ絶望したような諦めきった態度でこの後の予定の確認をしようとしたが心理定規は、
「あんまり急かすとモテないよ」と答えをはぐらかした。
制限時間不明のまま誉望は一人で超難クエストに臨まなくてはいけないが、げんなりした表情を見る限り覚悟はちっとも出来ていない。
さすがに放っておけなくなったのか、心理定規は頬杖をつくとじっと誉望をみつめた。

「大丈夫? 君の心の中を読めば嫌がるのもなんとなくわかるけど、なんだか意外だわ。子どもの視点には私たちの中でも一番近そうなのにね」

誉望は子供が、と言うより小さい生きものが苦手らしい。
触れないし近寄られてもだめとなると相当だ。

「犬猫や動物も見てる分にはいいんスよ。でも近寄れないんで。ひどくなるとめまい、息切れ、手が震えて汗は出るし頭痛と吐き気とあとえーっと」

いいわけっぽさを増した説明に心理定規は少し呆れて首を振る。

「血圧が急に変わって出血するの? じんましんとくしゃみは?」

「アレルギーじゃないんでそこは平気っス。本当に、見てるだけの子守しか出来ませんよ俺」

「それで充分よ。それに君も心理距離と実際の距離の差を埋めるいいチャンスかもね。誉望おにいちゃん、がんばって~?」

本人の苦手・不快感以上のひどい症状がでないことを聞いて大丈夫そうだと判断したのか。
心理定規は軽やかに手を振って出かけて行った。

「なんだかんだでちびっこ丸投げされたぞ。マジかよ……はー」

「ね。あそぼ?」

がっくりしている誉望の前に原因のリーダー様がやってきた。
さっき挙動不審でぶっ倒れた誉望に、まだ何か心配しているのかちょっと離れた所から声を掛けてくる。

「お人形で遊べます? できたら…ひとりで」

「えー。あきたあきたーあきちゃったー。よぼーあそぼーよ」

やだやだ、と文句を言うちびっこは元があの垣根とは思えないくらい可愛らしい。
見ている分には可愛いものでも、つきあわされる方は大変だ。

「と、言われても小さい子のおもちゃなんて無いしな。ゲームはまだ早いだろ」

誉望の手持ちで遊べそうなものと言うと、携帯ゲーム機くらいだ。
幼稚園児くらいのお子様にやらせるには難しそうだ。

「黒ひげどこにしまったっけ? あー、別のアジトか?」

室内で自分のエリアを検めていたが小さい子でも遊べそうなおもちゃなんてそう簡単にみつからなかった。
さっき不用品をひとまとめにした時も、お目当てのアイテムは出てこなかったからここにはおいていないのだろう。
トランプやオセロはコンビニでも売っているが今は外出できない。
一緒に出掛けるのはもっと無理だ。
そういう簡単なゲームならタブレットでも出来るだろうが……多分隣に並ばないとやりづらいだろう。
なるべく遠くにいても成立する遊びが必要だ。
鬼ごっこなんか以外で。
今ちびっこに追い回されたら、誉望はきっとガチで泣いてしまう。

がさごそテーブルや棚の周りをうろついている誉望に、かきねはさっき貸してもらった小さいフィギュアを見せた。

「これは? おにんぎょだよ?」

残念ながら、誉望も好きなアニメキャラでおままごとやお人形遊びが出来るほど強い心は持っていなかった。

「それは大きいお友達のおもちゃです。本当は集めて飾って崇めるものっス。じゃあ……なんか見ますか?」

「てれび? いいの?」

何とかあんまり関わらずに子守をやり過ごそうと出したプランだったが、かきねは意外にうれしそうな反応を見せた。

「動画サービスならいつでも番組見放題っスから。えっと、確かキッズチャンネルが……あ、カブトレンジャイなんてありますよ。ほーらそこ座っててください」

ソファにクッションを集めて、リモコンでチャンネルを変える。
かきねの視聴環境を整えると誉望はいつもの自分の椅子に座った。

「よぼーみないの?」

「俺はここから見れます。垣根さんは……そうだな。そこの特別席っス」

「すぺしゃるか」

かきねが嬉しそうにクッションを抱えたところで、スーパーヒーローたちの活躍が再生された。


「『れっど! ぶるー! ぴんく! ごーるど! く~ろ~も~いる~♪』」

「『クワガタ将軍やっつけろーみーんなーのへーいわーをまもるーためー』」

「じゃっじゃーん♪ ねえ。よぼーおうたへただな」

「垣根さんはお上手っスねー」

二話続けてみて、かきねはもう劇中のテーマ曲を覚えてしまった。
よっぽどスーパー戦隊が気に入ったらしい。
褒められると嬉しそうにステージ…ソファから飛び降りる。

「へへへーだろ。ねーねー、なんでかぶとくろはつのがないの?」

「あー、たしかカブト虫の角はオスにしかないんスよ。だからじゃないっスか」

見ていたのはカブトムシをモチーフにした戦隊ヒーロー。
その中でもカブトKUROは女の子の戦士だった。
ニンジャ風のクールなキャラで真面目、ストレートの黒髪とちょっと誉望の気になるタイプだったので特徴を覚えていた。
そっかー、と説明に納得した様子のかきねだったが。またその目が不思議そうにぱちぱちする。

「あれれ? ぴんくはおんなのこだけどつのあるよ?」

「……あれ? 本当っスね」

そう言われてみれば、確かにそうだった。誉望も首を傾げる。
基本がゲームジャンルのオタクなので特撮はほとんど管轄外だ。

「へー最近の特撮は男の娘キャラもいるのか……なんで青ピ君はこう言う時に限って連絡つかないんだ?」

誉望は最初、その辺も詳しそうなストライクゾーン未知数のオタク友達に聞いてみようとしたが、返事がちっともこなかった。
男の娘もオッケーと豪語する青髪ピアスなら必要以上に詳しそうだしなんなら、
「なにセンセそっちも興味あるん? よっしゃ今度ニチアサ通しで上映会しよか?!」とやばいテンションで食いついてきそうだったのに。
あてが外れて誉望は自分のパソコンで検索していた。
どおりでファンアートやSNSのコメントにKUROとぴんく♡の組み合わせが多い訳だ……と関連したいくつかのワードをマイナスに設定しながらカブトレンジャイのデータを眺める誉望。
その頭上にかきねも気付いたらしい。頭に乗ったまるいものを指さす。

「あ。これっスか。『ゴーグル』っス。メカですよ~」

「ふぅーん。みして?」

誉望は「ゴーグル」を外すと、能力でかきねの近くまで動かす。
本人は単にあまり近寄りたくなかったのだが相手には違ったイベントとして反映された。
念動力を目の前で展開されたかきねはそりゃもう目をまるくしてはしゃいだ。

「すごーいな? さっきもだ。なんでふわーってするの?」

「ふっふっふ……実は俺魔法使いなんスよ。クラスのみんなには内緒だよ?」

「まほーつかい……!」

誉望に向けられる視線がきらきらしたものに一変する。
さきまでのうさんくさいへんなおにいちゃんは、この一瞬でなんかすごいやつにランクアップしたのが傍目にも分かる。

「あ。いや、俺だけじゃないっスよ? ここには魔法使いみたいな人がいっぱいだし垣根さんももうちょっとしたら……あれ。やっぱり今も能力は使えないのか?」

あまりにピュアすぎる眩しさに、誉望はあわてて説明を付け足した。
同時にあることに気付く。垣根の『未元物質』は、今はどうなっているんだろう?

「これでへんしんする? まほーれんじゃーになる?」

「変身はしないっスね。被るとパワーがアップするんス」

「ぱわーが……へぇえ!」

すごいなー、とリング状の装置を持ち上げるとかきねは自分の頭に被ろうとした。
首も通過して肩の上に引っかかってしまう。
わなげで当たった景品みたいになってしまったかきねはぐるぐる首の周りで装置を回し、コードを持ってみたりと観察を続ける。

「垣根さんにはまだおっきいっスね。ああ! それはひっぱっても取れないっス!」

「……かっけー」

ひーろーみたいだ! と尊敬のまなざしを向けられて、誉望もちょっと得意げにしていた。

「俺の秘密兵器っス。見終わったらそこに置いといて下さい」

「すっげー。はい! おいたよ」

「はいどうもっス」

ひょいっと能力で「ゴーグル」を回収する。
それにまた、かきねはすごいすごいとはしゃいでいた。
小さな子どもの夢のためにも、実は誉望はヒーローじゃないし他のみんなも正義の味方とは逆のポジションなのは秘密にしておいた方がよさそうだ。


「そっかーよぼーはごーぐるのまほーつかいか。じゃ、こーどねーむはごーぐる!」

「いーっスよもう俺はそれで。なんか…いつもの感じっスね」

どうやらネーミングセンスは縮む前とあんまりかわらないらしい。
ごっこ遊びなのか、急にあだ名をつけたかきねは両手をむん、と組んで真剣になにやら考えはじめる。

「おれはなんにしよっかな~」

「垣根さんはリーダーでいいんじゃないスか。そう、実は垣根さんはとある組織のリーダーだったんスよ!」

「ひみつせんたいなのか! うーんと、やだ」

「えっ、リーダー嫌なんスか?」

「わかってないなごーぐる。なんだかわかんないのがこーどねーむなの。せんたいのりーだーはね、やってもいいよ」

「そう言うもんスか。確かにリーダーってそのまんまっスねえ」

紙とペンがほしいと言われて誉望はノートと筆記具をかきねの前に並べた。
かきねは小さい手で鉛筆を持つとぐにぐによくわからない線をひきはじめる。
お絵かきかな? と遠目に様子をみていた誉望は気を抜いて、スマートフォンを取り出した。
我慢はしていたがゲームのイベントの最中に参加を完璧に無視するのは難しかった。

「ねー。ごーぐる」

「はいっス」

「へーきか? おなか…いたい? もういたいのとんでった?」

「へ? あー……大丈夫ですよ。元気いっぱいっス」

話しかけられた内容が予想外で誉望がスマホから顔を上げるとかきねはおえかきの手を止めてこっちを見ていた。
誉望がすっころんでひどいことになったのを子どもなりに気にしていたらしい。
実際、かきねは何も悪くない。
いくら誉望の自業自得臨死の自殺点といっても、それをぶつかった子供に説明するのはややこしい。
ただかっこわるく鼻血をだしただけなのに心配してくれていたなんて、小さい垣根はやっぱりいい子のようだ。

「おれが、ふるぱわーでたっくるしたからだよな。ないぞーくちからでなかったか?」

「いやー小さい垣根さんだから平気でしたよ。いつものだったら金メダル級の威力どころか死んでましたねー」

「そっか。じゃへーきだ。こんどはちゃんとてかげんしてやる」

「手加減はありがたいんですが、タックルはちょっと…」

普段の垣根に全力でぶつかられるなんて、トラックにノーブレーキで突っ込まれる方がはるかにましだろう。
誉望は、はははと寂しく笑った。
それも元に戻れなければ無理な話なんだとつい考えてしまった。
ふと、
「あのね」とさっきまで元気よく喋っていたかきねは急に低いテンションで話しかけてきた。

「? はいっス」

誉望が返事をしてもなかなか口を開こうとしない。
どうかしたのか、と誉望が不安になった次の瞬間だった。

「……ごめんね。いたかったな」

ぺこ、と頭を下げられた。
うわあなんだこれかきねさんがあやまってるぞ? あたまを、え? かきねさんのくちからしゃざいのことばがわーあしたは槍が降ってくるんじゃないのか?
と誉望は一瞬で失礼な想像をしたが。
残念ながら、ありえない非常事態ならそれより先にまさに目の前で起きている。
これ以上の悪いニュースなんてそうそうないだろう。

「びっくりしたけど平気っスよ。ほーら元気ですよ」

「じゃなかなおしか?」

「なか……あ、仲直りスか? こんなのへっちゃらっスよー俺慣れてますから気にしてないですって」

「わるいこはごめんなさいするだろ。いけないんだ。おれ、したからなかなおしできたかな」

「そっスね。偉いっスね」

「えらいか」

「垣根さんスから」


その後。
かきねの誉望への態度は少し変わった。
おねえちゃんほどではないが、にこにこしてなにか見せたり話しかけにくるようになった。
今は二人だけなので、相手をしてくれるのが誉望だけだからかもしれないが。
ゲームなら、イベントをこなして好感度が上がったのを喜べるが、素直にそうは出来ない誉望の内心は複雑だ。

「ねー。てれびみてもいーい?」

「いいっスよ。なんか見たいのつけてください」

「うーん。おれよくわかんない。よぼーしってる?」

「俺も夜遅くない子どものテレビはわかんないっス」

番組表をみているとかきねは前に教育番組ならみたことがある、と教えてくれた。
少し検索すると、その番組内で使われている歌や踊りもキッズチャンネルの中に見つかった。

「これはなんスか? 『ありがとさんさんの歌』」

「『うーきうーきぴょんぴょーん♪ ありがーとおーさーんさんさんふってくるー』だぞ」

知っている歌らしく、かきねはソファの上でぴょんぴょん跳ねる。

「へーえ。二番もあるんスね」

「こっちのはね。『げーんきかいふーく♪ おつ・かれ・さん!』だ」

「さすが垣根さん、謎ダンスもキレッキレっスね」

さーんさんさんじゃあまたねー♪ と、頭の上に両手で三角形を作る謎の踊りも披露してくれたので誉望も拍手をおくった。


「ねーねー。おねえちゃんは?」

「心理定規は今お仕事っスよ」

「しょうがないなー。じゃあごーぐるとあそんでやーろお。よくきけ、いまからおあそびのにんむだぞー」

「わーいやったー。何するんです?」

「ぼーるあった。やろ」

かきねがまた何かみつけてきたらしく持ってくる。
今度は「ボールのようななにか」ではなくただの柔らかいゴムボールのようだった。
誉望の持ち物ではなかったから垣根か、残りの女子のものだ。
多分後の二人が美容系のトレーニングにでも使うものだろう。

「キャッチボールっスか? いーっスよ」

よーし、と両手を体の前で構える誉望だったが。

「よーし。ごーぐる、とってこーい!」

全然違う方向に勢いよく飛んでいくボール。
誉望が期待したのとはどうやら違う遊びだった。

「よしいくぞー」

「ちょっ……ま、もッ……無理っス」

「えー。なげるぞ。なげちゃう。えーい!」

ボールを取ってこさせるとかきねはすぐにまた投げる。
野球部の練習か、と言うくらい走り込みをさせられて誉望は座り込んだ。
短い距離を何度も繰り返してすっかり息があがってしまった。

「きゅ、きゅーけーしましょう。俺もうくたくたっス」

ぜいぜい言いながら、直前に飛んで行ったボールはその場で能力を使って回収した。
するとそれを見ていたかきねが、
「いままほうつかったろ! ずるいぞ」

「チートじゃないっス。俺の実力です。何だこの間髪なしの連続往復シャトルランか息がもたない」

「えー。やめちゃうのか? おれたのしくなってきたのに」

「ずっと走ってる俺はしんどくなってきました。ほ、ほら……垣根さんも取ってきませんかー」

そう言って今度は誉望が投げる。


「……」

「……」

黙って見送る二人の前をボールはひゅーんと飛んでいく。
さっきよりも遠くに飛んで行った。
誰も拾いにいかないまま床の上にぽつんと転がるかわいそうなボール。

「おれなげんのがいーい」

「すんません、ボール取ってきます」

「いってらっしゃーい!」

元気よく見送ってもらい、部屋の端まで飛んで行ったボールを拾って戻る。
と、すぐに誉望の足元にかきねが駆け寄ってきた。

「なー。ぼーるなげる。かしてかして」

誉望は慌てて、持ち上げたボールを上に掲げる。
渡すとまた終わりの見えないサドンデス玉拾いだ。
今度はそれを欲しがってかきねがちょろちょろぴょんぴょん寄ってくるのでそっちの対処も大変だった。

「かきねさーーん。俺もう取りに行けないっスよ」

「なんでだーとってよー」

仕方なくボールを渡すと、今度は抱えたままぷりぷり文句を言われる。
わがままなリーダーの任務に付きあうのも大変だが、今回はそれでも少し楽が出来そうだった。
誉望はポケットから充電器を取り出すと、壁の近くのコンセントの前に座った。
スマホをつないで、ついでにゴーグルも頭に装着する。

「俺の充電は切れちゃいました。体力の回復待ちっス。2分で1回復します」

床に座って三角座りをする誉望。
実際はサボっているだけだが。
そんなことは知らないかきねは、近くをうろうろしながらまだ? まだ? と待ちきれないでいる。

「えー。もうかいふくした? した? ねー、あそぼーよ」

仕方ないので誉望は床に一度ボールを置いてもらった。
それを拾うと、かきねによく見せてから壁に向かって投げた。

「こう言うのはどうスか。壁に投げて、取る。投げて、取ると……」

「いっぱいなげれる」

「そっス。これなら独りでもボール出来ますよ」

「えー。たのしい?」

「やってみます?」

ボールを渡されたかきねは半信半疑な様子で壁に向きあった。

「垣根さん、ふりかぶって……投げた!」

「とう!」

「今度は返ってくるぞ。それを、一度バウンド、屈んで……」

誉望がいちいち解説を入れて、最後は見事にキャッチ。
かきねは笑顔でボールを掲げた。

「とった!」

「やったー。じゃあその調子でやってみましょう」

「うん」

良い返事をしたかきねに安心して、誉望も一人で遊びはじめる。
今やっているゲームの今回のイベントは無駄にステージが多く解放条件も入り組んでいて地道に数をやらないことにはなかなか進まないのだ。


「えい」

「やっ」

「たーっ」

「……」

「きゃっち。みてみてー、やった。ねー、やったぞー」

ひとしきりボールを投げていたかきねは、誉望にできたよーと報告に来た。

「おー、上手っスねー」

またほめられたが、今度は嬉しそうではなかった。
それどころか、なんだかしゅんとしてうつむいてしまっている。

「あんまたのしくない。ぼーるしよ。いっしょしよーよ」

「じゃあ、俺が投げるから今度は取ってください」

ちょっと充電出来ましたよと言って誉望は立ち上がった。
誉望も、しょんぼりしたちびっこをいつまでも放っておくようなダメなやつではなかったらしい。

「いきますよー」

ゆっくり、大きく弧をかくように下からボールを投げてやる。
じっとボールを見上げていたかきねは、きょろきょろ顔まで動かして動きを追うと一生懸命手を伸ばした。

「よーし……きゃっち。ふふ~んとった!」

できたできた、とかきねは笑っている。

「よーしこっちに投げて下さい。よく狙って下さいっス」

「えい」

誉望は投げ返されたボールを取るとすかさず声を掛ける。

「やー、垣根さんさっすがープロ級―」

「やったね! こんどはごーぐるがなげるやつか?」

「そっス。さーて垣根さん、そうするとどうなりますか」

「じゅんばんでなげんのと、とるのができる……いっぱいあそべるな!」

「やった……垣根さんがキャッチボールを理解したぞ」

「とってくんのまたなくてもすぐなげっこできるな! よーしなげてなげて」

「ははははは。ソウデスネー」

キャッチボールが出来るようになって、二人はすこし平和に遊べるようになった。


「やるなごーぐる、ぜんぶげっとするとは」

「これくらい余裕っスよ!」

「すげー!」

他にも見つけてきたボールや誉望のおもちゃをかきねが投げると、誉望がそれを能力でキャッチする。


「できた! かみひこーき」

「よーし垣根さんそいつ飛ばしてください」

「いいよ。えい!」

「ほーらすっごい飛ぶ飛行機っス」

「わーい!」


ただの紙飛行機も、念動力があればいつまでも部屋の中を飛んでいる。

「あーっぶつかる! せんかいだ!」

「はいっス」

「つぎこっち」

「はいっス」

「ぐるぐる!」

「はいはーい」

ドローンのように操作も自由自在だ。

「へへへ。たーのしかった」

「そっスねえ」

それからずいぶん、部屋の中にあったもので二人は遊んですごした。
かきねは満足したのかにこにこして額の汗を拭く真似なんてしている。

「ふー。あそんでやるのもたいへんだ」

「そうですね。俺は充電してますねー」

「たいりょくいっぱいになったらまたあそんだげるね」

「ありがとうございまーす。垣根さんは平気っスか?」

「うん。おれはおげんきだからまだいっぱいできる」

「ははは……回復が早すぎだろ。スタミナどうなってんだ?」

両手を飛行機のように広げると、ぶーん! と言ってくるくる走り出す。
ずっとちょろちょろ動き回っているがかきねはちっとも疲れた様子がなかった。
お子様の体力はまだまだ底が見えそうにない。

「おねえちゃんもかえってきたらあそんだげよー」

「おねえちゃんさんはキャッチボールより、的に当てる方が得意じゃないスかね」

マークをつけた紙をたくさん壁にはりつけて、ボールを投げて点数を競う遊びもしていた。
外側から十点、三十点……ときていきなり真ん中が百万点になってしまうのがなんとも子どものルールらしく微笑ましい。

「おれもじょーず! ひゃくまんてんいっぱいとったもんな。おねえちゃんもおじょーずか。どして? それもまほー?」

「えーと、それはっスね……」

もしや余計なことを言ったか? と誉望が気付いた時にはもう、小さいかきねのきらきらした好奇心が向けられていた。
その迫力、と言うか熱意に圧されてすっかり引き気味になっている。
どうやら、小さい時が相手でも誉望が垣根に対して強く出られることはなさそうだった。


「何してるの? お絵かき?」

「ちがう。おれいまいそがしーの」

心理定規がやっと帰ってくると、かきねと誉望は二人でなにやら一生懸命紙に書いているところだった。

「垣根さんの暗号名を決める会議の真っ最中っス」

組織のリーダーである垣根をなんて呼ぶか。
二人は斬新で、一般人にはばれないような呼び方のアイディアを出しあっていた。

「ひみつのそしきだからこーどねーむがなきゃな。よぼーはごーぐる。おれは、りーだーにしたらっていってたけどな。やなんだ」

「あら。どうして?」

心理定規が不思議そうにすると。
かきねはよくきいてくれた! と言いたげにドヤ顔で笑った。

「こーどねーむはほかのひとにないしょにするからな。なんだかわかんないのがこーどねーむなの」

「垣根さん、何かいいのありました?」

「えびまよ、でんち、ぷれみあむ。あと、びすこもいいなー」

基準がよくわからない単語を読み上げるかきね。
心理定規は誉望の前の紙を覗きこんだ。

「どれ? こっちのはカイザー、ツヴァイ、ブラックサンダー……ずいぶん難しいのね。でもリーダーで十分じゃないかしら」

それはなんだかよくわかんない名前、のテーマに真っ向から対立する初期案だ。
秘密会議の議長がそれを聞き逃すはずがなかった。

「なんで?」

「小さい子が大人のリーダーなんて誰も思わないから。他の人は何のことだか気づかないし、もし本当のことを知ったらすごくびっくりするんじゃない?」

「そっか」

「絶対わからないわ。それにとっても素敵」

「そっか! かっこいーか?」

「そうね。誉望君、あまり変なあだ名になると間違えないように呼ぶのが大変よ?」

「そうですね。いやー気づかなかったっス」

心理定規の子どもだということを逆手に取った逆転の発想、と見せかけて何も変えずに納得させてしまった。

「少しは仲良くなれたみたいね。でも、君は今の状況を受け入れ過ぎだと思うわ」

子ども相手にそこまで合わせる必要はない、と心理定規は釘を刺す。
確かに、誉望は面倒を見ているというよりは一緒になってふざけているばっかりだ。
それもあまり度が過ぎるのはよくない傾向だろう。

「いやー、いつどこでメクちゃんが地上に来てもいいようにイメトレしてるんでこれくらいは……」

「それはなあに?」

「これらいおん。こっちしまうま」

「じゃあこれは……ねこさんかな?」

「ざーんねん。れっさーぱんだでした」

心理定規はコードネームの候補の横にかいていたお絵かきをみていた。

「私にも貸して。じゃあ……はい。なんでしょう?」

「えっとねー、おみみがあって、ながーい……うさぎ?」

「あたり」

「じゃあじゃあこれはなーんでしょー」

「難しいわね」

誉望を途中からシカトして、二人は楽しそうにおしゃべりしている。
『スクール』のよくある光景だ。
なんだかそうしていると見慣れたいつもの様子と変わらないようで、誉望はどっと疲れた肩を落とした。


ドーモ。
かまちーがいつまでも名前を教えてくれなかったから心理定規おねえちゃんはさびしがっています。
リーダーがたとえ小さくなってもゴーグルはギャーっと言う要員。果たしてこの先生きのこれるのか?

>>12
よかった笑ってもらえて

>>13
ほのぼのを目指したい

>>14
心理定規さん!こいつです!

>>15
三期楽しみだな!ありがとこっちも頑張る



かきね「とりくあとりー」

誉望「なんスか?」

かきね「とりくあー」

誉望「……あ、『トリックオアトリート』ですか?」

かきね「それ!」ハイ

誉望「なんスか」

かきね「じゅもんでおかしがもらえるんだろ。てれびでやってた」

誉望「ああ、おまけのチョコでもいいっスか? いたずらは勘弁っス」

かきね「わーい」

心理定規「ハロウィンのイベントをやってるのね」

弓箭「本当は時期じゃないんですよね。あれ、これっていつごろの話なんですか?」

誉望「やめろ。お前なんて本当はまだ出てきてもないくせに」

心理定規「第七学区のあたりだと、レンタル衣装のブースを用意して大きなイベントもするみたいね。街をあげてハロウィン・パーティをやる気かしら」

かきね「はろぃん?」

誉望「さっきの呪文をみんなで唱える子どものお祭りっスよ」

かきね「おまつり! いきたい!」

誉望「だそうです。おねえちゃんさん」

心理定規「みんなと一緒ならいいわよ」

かきね「やった!」

心理定規「迷子にならないようにしてね」

かきね「うん。よぼーもきおつけるんだぞ」

誉望「はーいっス」



第七学区、イベントブース


かきね「ついた! おみせだー。ここでみんなおきがえするのか?」

誉望「そっスね。うわーすごい人だな」

心理定規「弓箭さん、ハロウィン用のお菓子買ってきてくれる? こんなに人がいるともう売り切れてるお店もあるかもしれないけど。お願いできるかな」

弓箭「わかりました。では、わたくしおつかいにいってきますね」

心理定規「まだしばらくこのお店にいるから。戻ってきて」

かきね「いってらっしゃーい!」

弓箭「行ってまいります!」

心理定規「中もすごいわね。さーて、どれにする?」

かきね「かっこいーのがいい」

誉望「サイズを縮めてるっていっても……よくこんなに衣装用意したな」

かきね「あれーちっちゃいぞ。みんなあかちゃんのか?」

誉望「これは多分、スイッチがあってそれで大きさが変わるんです」プシュ、バサァ

かきね「わっ、すごいな」

誉望「おー…プラスーと似た原理かな」

弓箭「ただいま戻りました! あら、垣根さんと心理定規さんは?」

誉望「向こうで試着してる」

弓箭「そうですか……あ、垣根さん!」

かきね「とりっくおあとりーと! がおがお、おかしちょーだい!」

誉望「こんなこともあろうかと、はーいお菓子ですよ」バラバラ

かきね「あめだー!」

弓箭「飴が上から降ってきましたね」

誉望「……何だよ」

弓箭「いえ、飴の」

誉望「雨だよ」バラバラ

かきね「わーい!」

誉望「あれ、垣根さん。なんかセリフ違くないスか?」

弓箭「『トリックオアトリート、お菓子かいたずら』でしたっけ?」

かきね「いいの。おれえらいからいたずらしないの。いたずらやだろ?」

弓箭「そんなことはございません! こう言う時は、楽しくいたずらしましょう」

かきね「いいの?」

弓箭「はい! 誉望さんに」

誉望「やっぱりな!」

かきね「よーしいたずらだ!」

誉望「ギャー魔物が現れた?! お菓子! お菓子!」バラバラバラ

かきね「がおー!」

心理定規「あらおかえりなさい。大丈夫だった?」

かきね「おかえり」

弓箭「はい! たくさん買いましたよ。チョコレートにクッキー、キャラメル、キャンディにジェリービーンズ。ポップコーンと…」

かきね「わーいっぱいだー」

誉望「もしかして……みんな箱菓子か大袋か? 配る時大変だぞ。うわ、高いのばっかだ」

弓箭「駄菓子を買ってくればよかったんですよね?」

誉望「でたな、セレブリティジョークめ」

かきね「ふんふーん♪ いっぱいだなー。どれからじゅんばんかなー」

心理定規「それは外で他の子に会った時にあげるお菓子よ」

かきね「え」

弓箭「みなさんでお菓子の交換をするんですよね?」

誉望「そこまで分かってて、まさか菓子レートをひどいことにしようとしてるか?」

かきね「いっぱいなのに…おれ、たべちゃだめ?」

心理定規「うーん」

かきね「だめ?」

心理定規「もう。ちょっとだけね」

かきね「わーい!」

誉望「あまーい!」

弓箭「大丈夫ですよ垣根さん、ケーキも用意しましたから!」

かきね「わーいゆみや、えらーい」ナデナデ

弓箭「はわわありがとうございます」

誉望「あまあーーい!」


弓箭「垣根さんは狼男の衣装をお召しになったんですか? とっても素敵です」

誉望「カブトレンジャイがなくて大変だったんだよ」

かきね「しっぽあるんだ。かっこいーだろ? ゆみやがおつかいしてるときにおねえちゃんがおてつだいしたの。ほかにもおきがえしたよ」

弓箭「まあ、それは拝見したかったです」

かきね「おねえちゃんがね、かっこいーからおしゃしんってゆってた」

誉望「はいはい撮りましたとも」

弓箭「見せてください!」

誉望「ほら。悪魔、魔術師、猫、海賊……」パラパラ

弓箭「はわわわどれもお可愛らしいですね。もっと見せてください」

誉望「おい、送ってやるから自分ので見ろ」

弓箭「誉望さんの方が大きいじゃないですか」

誉望「これは没になった……天使」

弓箭「まあ……その、とてもよく似合ってますわ」

誉望「意外性がなさ過ぎたんだな」

弓箭「とても仮装とは思えませんね」

誉望「はー。垣根さんがドラキュラの衣装でただの厨二イケメンになってる所を、『笑ってはいけないハロウィン』してればよかったのにな……」

弓箭「もう、あんなにお可愛らしいのに文句なんていけませんよ。誉望さんはなにか扮装はされないんですか?」

誉望「へ? 俺が?」

弓箭「ええ。そう言うの好きそうですよね」

かきね「よぼーもおきがえする?」

誉望「俺はいいですよ。つうかコスプレは別に好きじゃない」

心理定規「みんなはいいの? この子は仮装パレードに出るってはりきってるみたいだけど」

かきね「はろぃんぱれーど! いこーね!」

弓箭「はい!!」

かきね「よぼーぱれーどすき?」

誉望「へ? 冷蔵庫は先鋒っスか?」

心理定規「何言ってるの」

かきね「みんなもおきがえしよ! はろぃんだもん」

誉望「えー」

かきね「なにがいっかな? かっこいーのにしようね」

心理定規「そうね」



弓箭「いろいろな衣装がたくさんありますね。どれにしましょうか……あら、垣根さんは?」

布を被ったなにか「……おばけ」

弓箭「え?」

おばけ「おばけだぞ……」

弓箭「きゃあ!!」

おばけ「ふっふっふ…こわーいぞーおばけだ」

弓箭「可愛いおばけさんです。あら、あららこのおばけ……正体はもしかして」バサッ

かきね「もー。なんでわかっちゃったの?」

弓箭「ふふふ。においですぐに」

かきね「そっかー」

弓箭「あ、誉望さんがモンスターのマスクをみてますよ。びっくりさせちゃいましょう」

かきね「うん!」



おばけ「つーんつん」

誉望「あ?」

おばけ「ぴと。おばけ……」ペタ

誉望「……」ゾッ

おばけ「おばけー!」

誉望「いやぁぁぁあああああ! 離してください!」バタバタ

かきね「だめ。よぼーはのろわれた」

誉望「そんなあぁぁ…お、お菓子あげるから、あっちいきません?」

おばけ「だめです」

誉望「チョコレート」

おばけ「…だめ」

誉望「なんと二個」

おばけ「うーん」

誉望「後でプリン食べます?」

おばけ「ぷりん!」

誉望「あー、おばけはプリン食べれないっスねー」

かきね「じゃじゃん! のろいがなくなった!」

誉望「あー、助かった」ガタガタ

おばけ「おばけー♪」

おばけ「あれ? おばけだぞー」

心理定規「どうしたの? 今度はそれにするの?」

おばけ「あれれ。おねえちゃんおばけこわいってよぼーゆってたのに」

心理定規「へえ。誉望君が?」

おばけ「ぴと」ペタ

心理定規「なぁに?」

おばけ「おねえちゃんはのろわれた」

心理定規「そうなの? 困ったわね」

おばけ「おばけだー……こわくないの?」

心理定規「こんなに小さいオバケさんを? 怖がらないわよ」ナデナデ

おばけ「やー、なでなでしないの」

心理定規「私、呪われちゃったのよね。たいへーん」ナデナデ

おばけ「んんー」

心理定規「あ、布の下は可愛いオバケだったわ。きゃー小さいほっぺ」ムニ

かきね「なくなった!のろいなくなったの。もー、なでなですとっぷ!」

心理定規「もうおしまい?」

かきね「おしまい。なでなでしてー。もー」グシグシ

心理定規「じゃあオバケから狼さんに元通りね」

かきね「あ。おみみなくなっちゃった」

心理定規「ほら、直してあげる」

かきね「ありがと」



かきね「おねえちゃんおきがえできた?」

心理定規「うーん。これどうかしら」

弓箭「まあ、黒いドレスですか? 蜘蛛の巣のタイツがとても…セクシーですね」

心理定規「女吸血鬼の衣装らしいんだけど。いつもとあんまり変わらないかも。他のも探してみましょう」

弓箭「はっ! ここで目立つ衣装を着れば一躍みなさまの注目を集めてわたくしあっという間に学園都市の人気者になってしまうのでは? どどどどどどんな格好がいいんでしょうか? ねえ誉望さん!」

誉望「俺に聞くなよ!」

弓箭「アニメの格好とかお好きなんですよね?」

誉望「嫌いじゃないがハロウィンでそれは方向性がおかしいと思うぞ」

弓箭「でも派手なのにしましょう! 折角ですので」

誉望「フルプレートアーマーか着ぐるみは? 目立つぞ」

弓箭「そう言うのではなくて、もっとこう…可愛らしいのがいいです」

かきね「ゆみやー。ふわふわのがあった。かっこいーとおもう」

誉望「……それは、まさかメクちゃんのレジェライ衣装?! なんでこんなところに……」バッ

かきね「もー。よぼーきないだろ? かえしてよー。それきるの?」

誉望「いや、確かに髪型はちょっとメクちゃんと被ってはいるが……漆黒ストレートにしてから出直してもらおうか」

心理定規「誉望君、それ持って帰れないからね」

弓箭「凝視してますね」

心理定規「じゃあ弓箭さんはこっちにしたら?」

弓箭「は、はい? 着てみます」


かきね「ゆみやーごじゅんびいーい?」

弓箭「あの、これは……」

心理定規「似合ってるわよ。小悪魔ナース」

かきね「しっぽだ! かっこいー!」

弓箭「ああああああああのおへそが出ていてあのえっとちょっと恥ずかしいんですが……誉望さん、こう言うのはどうなんですか?」

誉望「あーめだつめだつ。防御力が低そうだけどぶっちゃけどうでもいい」

弓箭「意地悪な方にはお注射を撃ちますよ?」

誉望「そこで眉間を狙うのは止めてください」

かきね「……やだ! ゆみや、もっとかっこいーのにして!」

弓箭「これはお嫌ですか? そんな、どうしましょう誉望さん! 助けてください!!」

誉望「わかった協力するからそれでこっちにくるな!」

心理定規「もう平気よ。他のお洋服に着替えてくるって」

かきね「…うん」ギュ


誉望「ほーら垣根さん、もう弓箭は怖くなくなりましたよ」

かきね「おちゅうしゃこわくないもん」

心理定規「ほら、見てあげて」

弓箭「どうでしょうか? お姫さまです」

心理定規「眠り姫のドレス?」

誉望「そうです。ほら、魔法で色が変わりますよー」

弓箭「ピンクに青、黄色、水色……すごいですよ!」ピカピカ

かきね「!!」

誉望「レインボーグラデーション搭載っス」

弓箭「どうですか?」ビカビカギラギラ

かきね「うわー! ちょーかっこいー!!」

弓箭「で、ではわたくしと一緒にパレードに」

かきね「いく!!」

弓箭「ありがとうございます!!」

誉望「いやーよかったっスねえ」

心理定規「ねえ、弓箭さん本当にあれで参加するの?」

誉望「いいんじゃないですか? 垣根さんも喜んでるし、ひとりでもエレクトリカルなパレードみたいで」


弓箭「さあ、あとは誉望さんだけですよ」

誉望「俺はいいって言ってるだろ」

かきね「だめ。よぼーなかまはずしにしないぞ」

弓箭「観念して着替えてください」

誉望「じゃあ、ほら。マジックで顔に線かいて…フランケン」

かきね「しましまは?」

弓箭「なんとなくわかりますけど、なんだか寂しいですね。『ゴーグル』もつけましょう」

誉望「電気操縦式」ウィーン

かきね「ねー。しましま。こっちのはしましまだぞ」

弓箭「本当ですね。ポスターのフランケンシュタインは縞模様のシャツを着てます」

誉望「垣根さんこだわるなあ。柄物のシャツないです」

心理定規「みんな準備は出来た?」

かきね「あ、おねえちゃんまほーつかいだ」

心理定規「ネコさんの魔女にしたの」

かきね「おみみだ。いっしょだー」

心理定規「誉望君それでいいの? いつもと変わらないじゃない」

誉望「は-。じゃあ、あっちのカボチャ被ります」



かきね「よーしみんなおかしもった? はろぃんいくぞー!!」

弓箭「ふふふ。垣根さんのバスケット、とっても大きいですね」

かきね「おかしいーっぱいもらうんだ」

心理定規「いっぱいになったら誉望君の荷物に入れてね」

かきね「うん……あれ、よぼー?」

カボチャ頭「っス」

かきね「あいことばは?」

カボチャ頭「各駅停車」

かきね「よーし。よぼーだ」

弓箭「やっぱりそのシャンプーハット、着けてらしたほうがいいのでは」

誉望「外からじゃ意味ないだろ。誰がシャンプーハットだ」

弓箭「今日はみなさんそんな格好ですし、わたくしも見分ける自信がないです」

かきね「だいじょぶ。こーどねーむがあるからな。ちゃんとみつかるよ」

誉望「垣根さん…」

かきね「『たいへんだ! ごーぐるがまいごになっちゃった! ごーぐるだめだろどっかいっちゃ! みんなじっとして、うちのごーぐるがまいごになりました。せはおっきくてぎょろっとしてます。めくちゃんがだいすきなおとこのこです。めくちゃんはよぼーのよめであにめのおんなのこです。よぼーをみつけたひとは、おれにおしらせしてください!! だいじょぶだすぐみつけてあげるからな。ごーぐるーごーぐるー』っておっきいこえでがんばってさがしたげる」

弓箭「まあ……なんて優しいんでしょう」

心理定規「よかったわね誉望君」

ごーぐる「ありがとうございます。そうなったら全力でそこから逃げます」

終わり?
ていとくんのコスプレ写真ほしい

よぼー接種……ナンデモナイッス


残念ながらクレヨンなんて気の利いたものは暗部組織の隠れ家にはなかったので、かきねは黒いペンでおえかきをしている。
もっとかっこいーのがいい! なんてわがままを言うかと思いきや、たのしそうに絵を描いてはおねえちゃんに説明したりしていた。

「垣根さん動物好きなんスか?」

誉望が話しかける。
ごほんでみた! と元気なお返事をしてくれた。
何が好きかきいてみると、かきねはなにか一生懸命考えてからギザギザしたものをかきはじめた。

「らいよん。おうさまなんだろ。かっこいーだろ? がおー」

らいよん……ライオンのことだろう。
さっきのはライオンのたてがみだったのか。
特徴をとらえた独創的な画風でもしゃもしゃした四本足の動物を描くと、びゅーん!! と言いながらその上に横線を豪快に引いていく。
心理定規の分析では、どうやら走っている躍動感を表現したいらしい。
小さな画伯は仕上がった作品をみて満足そうにうなずく。

「らいよんみたいなー。ほんもんの! どこにいるの?」

「本物は動物園ね。野生のはアフリカかな?」

「やせいって?」

「元々住んでるところだから……前のおうちかしら?」

動物園におひっこししにくるのよ、と心理定規がうまく説明する。

「へー。あふりかってどこ?」

「遠い国よ。海の向こう」

「うみ?」

「そうね……ここは海も遠いわね」

うみってなあに? と首を傾げるかきね。
知っていることもあれば、まだしらないことの方が多そうなちいさなお子様にはいろいろ難しい話が多そうだ。
海は広くておおきくて、水とおさかながたくさんあるところよ、とおねえちゃんが説明する。
その海を越えた先にある他の国がアフリカっスねーと誉望もフォローした。

「あふりかとおいのか。いっぱいかかる? ひゃくじかんくらい?」

「そっスね。外国はいっぱい時間がかかりますよ」

「あ! でもさー、ろけっとでとんでったらすぐだよ」

「ロケットは」

「すぐっスね」

「へいほー、びゅーんおそらをひとっとびー♪」

両手を翼のように広げて、ぶーーん! と飛行機ごっこをするかきね。
楽しそうだが、ロケットと飛行機で連想したものに保護者二人はちょっと苦笑いだった。
ロケットより速い超音速旅客機なんてものも学園都市にはある。
それは間違いなくあっと言う間に外国へも行けそうだったが、恐らくその後回復に充てる時間がかかりそうな代物だ。

「ロケットや飛行機もいいけど。お船でのんびりするのも楽しそうじゃない?」

「えー。ちんぼつしない?」

「ふふ。そんなに簡単にしたら困っちゃうわ」

「そっか。せかいひゃくしゅーして、だいぼーけんしたいな。おねえちゃんもつれてってか? おみやげはねー……」

「……心理定規」

「……ええ」

壮大な冒険計画をおはなししながら紙に地図か動物かよくかわらないものを描き広げている。
そんな微笑ましい様子のかきねに、ちょっと待っててねとにっこり笑って。
心理定規は声を掛けてきた誉望と一緒にテーブルから離れた。


二人して、一度肩を落としてはあ~~っと息を吐く。
小さい子どもの相手は大変そうだがこの二人の場合それ以上の事情が大きく影響してくる。
あの……普段から扱いに困る俺様超能力者のリーダーがその相手で。
何だか前とはイメージが違うような、ちょっと似ているような、やっぱりキャラがなんか違うようなそんなややこしいことになっているから余計だろう。
すでに散々遊んでいただいた誉望は疲れ切った様子で頭を抱えていた。

「ああああああー、あーあ。あれは本当に垣根さんなのか? あれがどうなると、リーダーの垣根さんに進化するのか俺にはさっぱりわからない!!」

どうやら大きなリーダーと小さなリーダーのギャップが想定以上にこたえたらしい。
かきねはどちらかと言うと素直ないいこの印象だ。
最終的には……本気かどうか底知れない笑顔で返り血や周囲の被害も構わずに容赦なく能力をブチかましてきそうな(※組織内のイメージです)お腹の中が黒そうなおっかないイケメンになるんですよ、と説明してもきっと誰も信じてくれない。
それくらい差があるから、誉望の混乱ぶりもしかたないだろう。
ビジュアルはどちらも天使なのだが、もしも。
あの健やかなおこさまっぷりが本来のスタートラインだったとしたら。
垣根の子ども時代はどこかで育成を間違えてしまったのか。

「私にもわからないわよ。小さい頃はみんなああじゃない? 君だって純粋でかわいい頃が……あったの、かしら?」

「うーん……自信ないっス」

誉望少年は……アリの巣に水を流し込んでジト目でじっと観察していそうだ。
今は、すっかり成長してキラキラした目でアニメを見ている誉望万化君、暗部構成員は。
現在よりは少し前、現状よりはずっと未来の本来の垣根に考えをやってからもう一度唸った。


「う~~ん。やっぱ、劇的過ぎるアフターの方を知ってるだけに、なんかあのビフォーの垣根さんは気まずいんスけど」

「そうね……でも、彼も割と子どもっぽいところがなかったかな。あそこまでじゃないけど」

「なんかすでに垣根さんの片鱗があるんスよね。マイペースっつうか、俺様っつうか」

「思ってたより手がかからなくて良かったじゃない。彼の子供時代があのままだったらちょっとね」

「扱いがわかんないのは……よく考えなくても一緒かもな」

大変さの種類は違っても苦労はかわらないかもしれない。
そんな風に好き勝手言い合う部下たちだが。
鼻歌交じりで遊ぶ小さいリーダーの方を見て、心理定規は口元をほころばせる。

「それでもあの子は可愛いから。大体のことには、前よりも我慢できる気がするわ」

優しい表情とセリフがちょっとあっていない気もするが彼女の場合はこれがデフォ。
クールなおねえさんキャラは、使い分けも切り替えも上手なのかもしれない。
実際は『スクール』の中でも年下の方だが精神的には一番しっかりしていそうだ。

「どっちにしても大変なんスよね、頑張って言うこと聞いてしんどさに耐えれば…なーんだおんなじだあー」

「しっかりしてね。誉望おにいちゃん」

一瞬持ち直したように見えたが誉望はちょっと遠い目をしてうっすら微笑んでいた。
嫌なタイプの悟り方をしているのを、心理定規は呆れた様子で声を掛ける。
これっぽっちも応援する気のなさそうなガンバッテーだった。

ひとりでいいこで遊んでいるかきねの所に戻る前に、心理定規はどこかに連絡をとっていた。
メッセージを送ってからわざわざ電話をかけるのをみていた誉望がどうしたのかと尋ねる。
心理定規は携帯端末に目を向けたまま答えた。

「Aチームの子たちに買い物を頼んだの。あの子の服と靴と……何かと物がいるから。必要なのものはあの人も手配してくれてるみたいだけど。すぐ使うものは早い方がいいでしょ」

「確かにいつまでもセーターおばけって訳にもいかないっスよね」

元々着ていたセーターをだいぶ余らせたままで今のかきねは活動している。
それでは不便なこともおおいだろう、何より布一枚では外には連れ出せない。
うなずいた誉望から、そんな保護者らしいまともな認識を感じたのか。
心理定規は、

「よかった。そう言う感覚が君にもあって」と、少し安心した様子でつぶやいた。

「ええっ、小さい子がこんな変なかっこしてんのを放置とかないですって。あれよりRPGの初期装備ぬののふくの方がましじゃないスか。防御は低いし、即事案っスよ? そう言えば、なんでわざわざ電話したんスか?」

もう下部組織のやつらにはHUKIDASIしたんですよね? とわざわざ二重に連絡を取ったことが誉望は不思議だったらしいが、

「直接お願いした方が効果が高いのよ」

そう言ってにこっと笑って見せる。
流石は心理定規。
彼女は日ごろから、その辺の下っ端にまで人心掌握術を駆使しているらしい。


「おねえちゃーん。てー」

「あら、またお袖が下りちゃったの? はい。これでどう?」

テーブルに戻るとかきねはとてとて駆け寄ってきた。
セーターの袖を折ってあげると、心理定規は最後に何か袖につけた。

「あれ? りぼんだ」

「こうやってゴムで留めれば落ちてこないでしょ。こっちのキラキラがよかった?」

飾りつきのヘアゴムで畳んだところを押さえておく作戦らしい。
心理定規が見せたのはどっちも女の子らしいかわいいものだったが、かきねは嫌がったりしなかった。

「ううん。これでいいよ。ねーねー、かっこいー?」

「似合うわよ」

じゃーん、おててがでてるぞ! と喜んでいるかきねに心理定規も目を細めた。

「いやー非常に微笑ましい光景っスね」シャシンヲトリマース・・・カシャ

そんな様子を保存しておく誉望。
心理定規が見られないタイミングでかきねの様子を報告したら、
「画像くらいとっておいてくれればよかったのに…」と気の利かない奴認定されてしまったので、臨時記録係としてもパシられている。

「何で君のスマホはいちいち言ってから撮るの?」

「音消すのでもよかったんスけど。持ち主を守ってくれるアプリを入れてるんス」スクショナンデスヨ・・・カシャ

そう説明されて、見せられたスマートフォンを心理定規も手に取った。

「カメラだとこっちなの」トルヨートルヨーハイポーズ・・・カシャ

「ぴーす」

カメラのセリフにあわせてにっこりポーズをきめてくれたリーダーの画像がまた一枚保存された。


ほのぼのしていたさっきまでと一転して、心理定規は、
「『スクール』では組織の現状を第二級警戒警報発令時と同等に捉えることになったわ。下部組織にも順次伝達して同様に待機させることになったから」とにこりともせずに話した。

「『コードオレンジ』か。超能力者でリーダーが欠けたチームだから仕方ないと言っても、困ったことになったな。指揮系統はそのままスライドして心理定規が?」

「適宜君たちにも分担するからね」

「もちろんですって」

「組織としての機能だけじゃなくて、同時に彼の身の安全にも警戒しなきゃいけないわね」

今のかきねは、言ってみれば脅威の無くなった超能力者だ。
もしそれを知ったらあんな小さな子相手でもおかしなことを考える人もいるかもしれない。
もしもの想定はしておかないといけない、と真剣に心理定規は言う。

「……誰とは言いませんがね」

過去にストーカー疑惑のあった某理事を思い出したのか誉望も嫌そうにうなずいた。
ここに居ない『スクール』のもう一人、まだ学校にいる弓箭にも連絡をしておいたそうだ。
珍しくそれには誉望は嫌そうな反応をしなかった。
大きな問題は大勢で分担した方が楽だ。
早く人手が増えて自分の負担が減ることの方が嬉しいらしい。

「了解っス。つか電話のあいつとまともに話しあいになったんスか?」

「それなりには。ちゃんと何があったか知ってたわ……この隠れ家だってほら、この部屋も監視カメラがついてるし」

そう言って心理定規は天井の近くを見上げる。
照明の近くにカメラが仕掛けてあるのは組織内の他のメンバーも知っていた。

「そう言えば…カメラの設置もプライバシーは守ってるって言うっスけど。あれ本当っスかね」

「今までも困るようなところにはなかったし、見た限り増えてもないから一応は平気かな。そんなこと言うなら、君こそ気をつけてよ。見守りセンサーがたくさんあるのは今は助かるけど」

「カメラはアニメキャラのメガネみたく置き忘れたりはしないっス」

「そう言うもの?」

心理定規は首を傾げたが、嫌そうな顔も引いた様子もない。
小型カメラもゴーグルも、三次元には問題を起こさない趣味にしか活用していない能力者の信頼はここでも厚かった。


「ぶーんぶぶーん。さくてき……だいじょぶです。いじょうなし」

お昼ご飯を食べたかきねはごきげんでおにんぎょで遊んでいた。
もらったダブリのフィギュアでなにやら「すーぱーみっしょんだいさくせんごっこ」をしているらしい。
両手に掴んだ艦っちをぶんぶん振り回しながら遊んでいる。
そっちの子は俺の嫁っスから、大事にしてくださいよと誉望は注意した。
手元と視線は、宅配弁当でもらったコラボグッズに向けられているがボールカメラの一台はかきねの…と言うか任務中の艦っちのフィギュアにレンズを向けている。
昼食を私的に利用してアニメグッズを増やすことに成功した誉望だったが、既存のグッズにも注意を怠らない。

「よめ?」

「心のお嫁さんス。ベストオブ特別な最推しをそう言うんです」

「んん? ねー、もちょっとわかるようにゆって」

ごさいじにもわかるように、と言われても。
誉望たちが使う「嫁」の言葉は一般的なものとは意味も範囲も用法も違うのだ。
それをお子様になんて説明したらいいのか誉望は悩んだ。

「自分が大好きなのを『お嫁さん』って呼んでるんス」

「ふーん。よぼーらいよんおよめさん?」

おれの? よめが、ライオン? となぜか身振りで確認する誉望。
おこさま語で接続詞がだいぶ抜けていると文脈がわかりにくい。
だが、それから逆に考えると……かきねが一番すきな動物はライオン、ということになりそうだ。

「ライオンは嫌いじゃないけど、俺は違いますね。好きのランキング上位がお嫁さんっスよ」

「わかった。すぺしゃるちょーかっこいーだろ! よめすごいな」

「そっスそっス。スペシャルだからそれはあんまり人に使っちゃだめな……」

「あれ、こっちもよめ?」

自己解釈でYOMEがなにか掴みかけたらしいかきねに。
念のため注意をしておこう、と誉望が言いかけたところで。
棚に置いてあったグッズを目ざとく見つけられてしまった。
確かにメクちゃんの周りにはいかにも「超スペシャル」っぽくハートマークとホロ加工で囲まれたプリントがしてある。
そして大正解も大当たり、罰音メクちゃんは誉望の嫁でも殿堂入りクラスの連続上位キャラクターだ。
それと、デスクの上にあるさっきのフィギュアを見比べてかきねは首を傾げている。
嫁と言うものは一人だと言う認識は五歳児にもなんとなくあったらしい。

「……別作品だから一夫多妻はセーフっス」

「?」

「心の嫁はたくさんいていいんスよ。好きな数だけいるんです」

「そっか! じゃあね、おれはーかっこいーすぺしゃるよめ! えびふらいおよめさん」

垣根さんの、よめが、エビフライ?とまたしてもジェスチャーをしながら聞くとかきねは大きく両手で丸を作って返事をしてくれた。

「えっと、食べる方のっスか? 作ってくれる人が嫁スか」

「よぼーはえびふらいたべないのか?」

食べるのは当たり前だろ? って顔をされた。
子どもにちょっと引いた反応をされるが誉望だって変なことは聞いていないはずだ。
誉望はエビフライがおいしいとお嫁さん枠なのかとも思ったが、どうやらエビフライ本体をそこに入れたらしい。
なんとなくかきねにはニュアンスが違って通じている気がするが、どう訂正した方がいいのか説明が難しい。
あと、小さい子どもにまで二次元が嫁wともしもバカにされたら誉望は立ち直れないかもしれない。
のでそのまま話を続ける。
小さい子どもの無邪気な会話だ、少しくらいずれてても問題はないだろう。

「もちろん食べますよ。推しは食いもんスか」

「えびふらいおいしーもん。かっこいーでおいしーはちょーすごい」

「唐揚げとどっちがかっこいいんスか」

「えびふらい。えっとね、しっぽがついてる」

尻尾の差で、みんなだいすきな唐揚げは負けたらしい。
残念だったな唐揚げ。
チューリップなら見た目の違いでワンチャンあっただろうか。

「あ、だからさっき俺達に前半分をくれたんスね。え、垣根さんすごいっスね?」


食事中、心理定規と誉望はそれぞれ自分の頼んだメニューから一品ずつかきねにあげていた。

「それはなに? へー、おいしそー」

とかきねがみんなのお昼を見てにこにこしているのを見てついカッとなってやったが二人とも今も反省していないし後悔もしていない。
それどころか、
「おかえししてやる」と言ってかきねは心理定規と誉望に自分のエビフライを切って分けてくれた。
まさか最推しを分けてくれたとは思っていなかった誉望は驚いてしまった。
そうじゃなくても自分の皿の好きなおかずを他人に食べさせることが出来るだろうか?
なんてこった、こいつぁ天使か聖人かよ……と小さな子どもに感服する。

「しっぽ」

かきねは得意そうに…折り返したセーターの袖の間から、よく揚がった海老の尻尾をだした。
昼飯の残りだろう、残したまま取っておいたのか。
日ごろからオタ友との漫才で大概のことには慣れているつもりだったが。
予想外すぎる嫁グッズの登場に、流石の誉望君もびっくり。
そんな所にしまっていたのがバレたらおねえちゃんはきっと怒るなあ、と微笑ましくなって。
誉望は珍しくにっこりした。

「あー、エビフライさんはかきねさんの嫁っスか。じゃあ……なくしたら大変スから、これあげます」

「わーい! がちゃがちゃだ!」

棚から余っていた空のケースを取り出すと、ふたを開けてかきねの近くに置いてやる。
かきねは丸いケースに海老の尻尾を入れると嬉しそうに指でつついたり回して眺めはじめた。
よっぽど気に入っているようだ。
弁当屋のエビフライであの反応。
立派な、頭のついたエビフライを見せたら飛んで喜ぶのか、怖くて泣くのか一体どちらだろう。


そんな風に楽しそうに遊んでいたかきねはいつのまにか静かになっていた。
心配して探すと、カウチソファに転がって寝ていた。
リーダーが気に入ってよく寝転がっていたソファも、今はよじ登らないといけないくらい大きくて広い。
そんな光景に少ししんみりしながら二人はそっと様子を見ていた。

「わー相変わらず寝顔は平和……っつーかあれっスね。子どもなのにハイレベルってか、イケメンは昔からイケメンなんだな」

「ね、可愛い顔しちゃって。こんなことになって一番混乱してるのはこの子だろうし、疲れたのかな。お腹がいっぱいになったら少しは安心したのかも……」

あら、と言って心理定規はかきねの額をそっと拭いた。

「おでこに汗かいてる。小さい子って体温が高いのね」

「そうなんですか」

「ほら、手もぽかぽか」

「へー……」

心理定規が楽しそうに、眠っているかきねをおもちゃにしているのを誉望は相変わらず少し離れた所から見ていた。

「どう? 触ってみる?」

小悪魔っぽい笑顔で誘ってくる心理定規だが誉望はブンブン大きく首を振った。

「ほら。早くしないと起きちゃう。こんなの、最初で最後のチャンスじゃない?」

それは超レアですね、そうねレアレア、とよくわからないノリでふざけていた二人だが。
最終的にしつこいくらいの手招きに根負けして誉望もソファの前までやってきた。

「俺はどっちかっつうと闇属性なんで、こう言う光系のは駄目なんスよね」

「変な言い訳。私も見てるし、よく寝てるから平気じゃない? ふふ、君と比べるとこんなに小さいのね」

心理定規は誉望をもう一歩近寄らせると手の上にかきねの手のひらをそっと乗せた。

「ちっさ……うー……」

「どう?」

固まってこわごわ小さいものを見下ろす誉望。
彼の言う所ところの、何をしでかすかわからない小さい生きものはすやすや寝ていて、今は危なっかしく動きまわったりはしていない。
心理定規は興味津々と言った風にその様子をみていた。
しばらく、心理定規に設置されたまま手のひらを乗せていた誉望だが、首を振るとそーっと自分の手をどけた。


「俺の胃がストレスでマッハです。光と闇が合わさると頭がおかしくなって死ぬ……」

「あら大変。現状の対策がわかるまでまだしばらくこの子と一緒だろうから……少しくらい距離が縮まったくらいじゃこれから困るわね」

どうやら心理定規の見立てでは、誉望もこの荒療治でちょっとくらい対・小さい子経験値が積まれたようだ。
それでもまだまだ克服のレベルアップには遠いらしい。
ヒットポイントでも消費してしまったのか誉望はキッチンへ向かった。
冷蔵庫を開けるが……中にあったのはいつ開けたかも怪しそうなペットボトルが数本。
普段長く居座るような隠れ家ではないからだろうが、それにしてもすっからかんだった。

「あ、俺何か冷たいもの買ってきますよ。麦茶も切れてるんで」

「じゃあお願いしようかな。この子のもよろしくね」

気分転換をかねてのパシ、おつかいの提案を心理定規は笑顔で送り出した。


「ただいま戻りましたー」

「あら……早かったのね」

誉望がコンビニから帰ってくると心理定規は独りでテーブルの前に座っていた。
かきねはまだソファで寝ているようだ。
ドアを開けたら、心理定規は一瞬慌てたようすで携帯をしまった。

「どうかしましたか?」

「なんでもない。ああ……ちょっとメイク直してくるわ。私まで汗ばんじゃった。後、いいかな」

何だか早口でそう言うと。
心理定規はかきねをみてるよう言い残してトイレにいってしまった。
普段から察しの悪いことに定評のある誉望でも首を傾げる。

「はいっス……そんなに部屋暑かったか? え。戻ってくるまで我慢してたんスかねえ」

「……よぼー?」

「垣根さん。目が覚めました?」

「ねえ。おねえちゃんは?」

誉望の声を聞いたからか、かきねはソファの上から起き上がった。
小さな声で話しかけられてなんだなんだと近づくと。
心理定規がいないと心細いのか、不安そうにかきねは誉望を見上げた。

「心理定規ならあっちに」

「おねえちゃん……どうしようって。おねえちゃんたいへんか? かえってくる?」

「へっ? どうしたんスか垣根さん」

「おねえちゃんちっちゃいこえでおはなししてた。このままじゃはなしちがうって……おれなんかしたか? おれわるいやつか? こまるといなくなっちゃうか?」

かきねも困った、というか混乱した様子だが一気にそんな話を聞かされて誉望もこまってしまった。
なによりおろおろしているかきねにビビっていた。

「ちょっちょっ待って下さい。んな……なんでまた。心理定規はそんなことしないし、もしも何かあっても垣根さんは何も悪くないですって」

「……ほんとに?」

「大丈夫っス。垣根さんてば怖い夢でも見たのか? ほら、そんな顔しないでください。えっとそうだ何か飲みましょう。ジュースも買ってきたっスよ」

もしかしたら夢じゃなく本当に任務か、バイトの電話でもはいったのかもしれない。
勘違いでも、かきねが今にも泣きそうなくらい不安がっているのは間違いない。
泣くのはまずい。
なんとかそれは回避しなければ、と誉望も必死でなだめた。


「ん~。おねえちゃん」

その後。
部屋に戻ってきていた心理定規にとてとて寄っていくかきねはぎゅっとほっぺをおさえていた。

「あら。どうしたの? しかめっ面して」

「垣根さんがコーラに挑戦して負けそうになってるんス」

炭酸飲料はお子様にはまだちょっと早かったのか。
ぱしぱしする、と言ってけわしい顔をするかきね。
炭酸を我慢したのかちょっぴり涙目だった。

「くひがいはい」

いーっと、歯を見せておねえちゃんに報告する。

「おくちが痛いの。ふふ、困ったね?」

「くちも『とんでけー』する?」

どうやらおねえちゃんは何でも痛いのを治してくれるんだと思っているのか。
ちびっこの困った相談に微笑んでいた心理定規は少し考えると、

「そうね……もっといいのがあるわ。目を閉じて、あーん、ってしてみて?」

バッグを手にして何か探していた。

「あー」

素直に口を開けて待つかきね。
巣にいる小鳥みたいで、ピヨピヨかわいらしいSEでもつきそうな様子だ。
ぱかっと開いた口の中に心理定規は何かをつまんで入れた。

「あまい!」

さっきまでが嘘みたいに笑顔になる。

「おいしいでしょ。痛いの忘れちゃったかな?」

心理定規はそう言うと、自分も同じものを口にいれた。
もっといいものの正体はキャラメル味の飴だった。

「まさかのここでヴェ○タースオリジナル……だと」

「よく飴をもらうのはいいんだけど、私はあんまり食べないから」

「それは……やっぱりおじいさんが特別にくれるんスか」

何故なら彼もまた、特別なのかどうかはわからないが、妙に感動している誉望も揃って甘くてクリーミーで素晴らしいキャンディを味わった。


ふいにドアチャイムが鳴った。
まっさきに玄関に飛び出していったのはこの部屋を隠れ家にしている組織のリーダーその人だった。

「はーい!」

届かないのにドアを開けようとしたところを心理定規に止められてしまったが、大きな声でお返事をする。
急いで誉望が出ると、そこには『スクール』の下部組織の少年が二人立っていた。
それをみた心理定規が笑顔を向けた。
少年たちはにこにこしている心理定規になにか言いたそうにしていたが、
「誉望君、荷物受け取っておいてね」
と彼女はかきねを連れてすぐ部屋に戻ってしまった。

「おーご苦労さん。急に悪いなー」

そう言えば心理定規が買い物を頼んでたな、と思い出した誉望が代わりにお礼を言うが、二人ともなんだかそれどころではない様子でそわそわしていた。

「あの、誉望さん? なんで急に子どもの服なんか……」

「さっきの小さい子なんですか?」

「ああ。実は…今ちょっと垣根さんの弟が来てるんだ」

「リーダーの親族が?」

「なんで心理定規さんが手を…じゃない世話を?」

おや、と誉望は眉を上げた。
冗談のつもりだったのに通じていない。

「お前ら何も聞いてないのか?」

二人とも、チームに心理定規から連絡があってからずっとそっちを優先していたから他の伝達事項を確認していなかった、と答えた。
直電効果ありすぎだろ…と誉望は目を丸くしたが、本来メインの組織の方をおろそかにされたんじゃプラマイゼロかもしれない。
ちなみにAチームは立候補者が多かったので、やっぱりじゃんけんで選抜して心理定規のお願いを完遂したらしい。

「そうか。じゃあこれを見ろ、多分よくわかるぞ」

そう言って、簡単に経緯を話したあとで、誉望は二人にスマホのムービーを見せる。
小さいリーダーが楽しそうにしている様子が映っていた。

二人も、あのリーダーがなぜかお子さまになってしまったことは相当ショックだったらしい。
心理定規に頭を撫でられそうになったリーダーが、
『なでなではいいの!』とぷんすか拒否をしたところなんかはすごく熱心に見ていた。

「誉望さん……なんでこんなん撮ってるんですか」

「え。だって心理定規が後で送ってくれって言うから」

誉望の趣味にこれ以上余計な誤解が追加されると困るので説明したが、

「そっか正規メンバーって連絡先知ってるのか…」

「あ、そっち?」

別に知っててもいいことはない。
組織で使っている用のアカウントだから、おそらくそれぞれの個人的なものとは別だろうし。
既読蹴られたり、しらない間に他のメンバーでグループトークがされてたり、たまにリーダーの謎なスタンプになんて返せばいいか頭を悩ませたりするくらいだ。
SNSで繋がっているからと言って、そんなにくやしがられるほどでもないだろ、と誉望は首をひねった。

「じゃあ、後でお前らにもわかるように今回の報告用のツリー作っとっくからさ。いつもみんなありがとなー」

そう話すと二人ともまめに更新してください! 画像も上げてください! と、熱く応援と催促までされてしまった。

「じゃんっ! おにゅーです!」

セーターから変身を済ませたかきねが謎のかっこいいポーズをとる。
おねえちゃんがお手伝い、と言うか着せたので仕上げはばっちりだ。

「おー、垣根さん新しい装備っスね」

「へへへー。いいだろー」

無事にリーダーの新しい服が届いて着替えも済んだ。
だが、心理定規はなんだか不満げだった。
かきねが着ているのは別にクソダサプリントでもカーチャンズセレクションでもなさそうな、よくありそうなものだったが、どうやら無難過ぎて気に入らないらしい。

「後で他のも買いましょう。もうちょっと可愛いのなかったのかな」

その辺の学生に子供服を選ばせて女子基準もクリアする衣装となると相当のファッションセンスが要求されそうだ。
これは、普段からパシられていてもこなせる任務ではない。
誉望が行かなくて大正解だった
食事に着替え、と済んでいよいよリーダーは外に出かけられるようになった。
この後、信頼できる筋の医者にかきねを診せることになっているらしい。
一応、このとびっきりおかしな異常の他にも健康上の問題がないか色々と検査をする必要があると判断したらしい。
同時に隠れ家も移動すると言う。
第三学区……このマンションの近辺では小さい子どもは目立つ。
加えて、『外』向きの施設が充実している都合上、警備もよそより厳重だ。
何か起きた時に、厄介な警備員がすぐとんできてしまっては困るのでもっとごみごみした治安の良すぎないところに拠点を移す、と言う話だった。
こーそーまんしょんとお別れすると聞いてかきねは残念そうだったが、お引越しとおでかけの話には大喜びだった。

「いい? 知らない人にこっちにおいでって言われてもついていっちゃだめよ」

「いかない……なんで?」

「垣根さんを誘拐するわるーい奴かもしれないからっス。知らないおじさんに『ここに指をペタッとしてくれたら、何でも好きなもの用意してあげる』とか、垣根さんに何かして欲しいって言われても 、お願い聞いちゃいけないっスよ。すぐ俺かおねえちゃんに教えて下さい」

お兄ちゃんおねえちゃん、保護者のみなさんに出かける前の大事なはなしをされてかきねも一生懸命聞いていた。

「おもちゃもだめか」

「だめよ」

「んー。おかしもだめ?」

「ダメっスね。そう言うのは、みんなで買いに行きましょう。まあ何かあっても、心理定規おねえちゃんが守ってくれるから平気っスけど」

「そっか……うーん。わかったがんばるな」

外には怖いことや誘惑がいっぱいだと聞いて小さいリーダーも頑張ってくれるらしい。
らしいのだが、どうにも不安な二人だった。

「あの垣根さんがお菓子やおもちゃで釣れそうだとは……」

「子どもって純粋ね」

二人とも、特別他人の世話を焼くタイプでも面倒見がいいわけでもないのだが。
振り回す側の人間がいるとついそう言う役回りになってしまいがちだ。
みんながみんなボケ倒していたらツッコミ役が必要なようにそれは組織と言う輪の中でも円滑なコミュニケートと話題の移行には欠かせないものでもあるのだが……。

「んーとね? おそとにはぷれぜんとくれるひとがいるの?」

「……普通はそんな人いないんで、近くにいっちゃだめですよ」

今までで一番、振り回してくれそうな展開を予感して。
誉望は早くもあきらめムードで力なく微笑んだ。

「意外といるんだけど、なにかくれるってことはお返しがいるから。気をつけなきゃダメよ?」
「そこはおねえちゃんさん基準だとまずくねっスか」

心理定規も珍しくふざけてくる。
普段しっかりしていそうなのに、予想外のタイミングでユーモアのセンスを発揮してくることがあるので油断できない。
案外本気なのかもしれないのが、また厄介だ。
『スクール』の戦いははじまったばかりなのに今からこの調子でなんとかなるのか。
否、なんとかしなくてはいけない。
たとえリーダーが頼りにならず、あてに出来ない状況でも組織一丸となって、この苦難に立ち向かわなくてはいけない。
と、言うのに。

「おひっこしとおかいものもいくの?」

「そうよ。みんなで出かけるの。ご飯のお買い物もしないとね」

「ごはんか。えっとねーなにがいいかなー? えびふらいかなー?」

「もう。お昼に食べてたじゃない」

「なんだ、この……ふわふわ時間」

暗部組織の隠れ家は、諸事情によりほのぼの空間になりつつあった。


ドーモ。
おひさし、今年もドーモ。
帝督・垣根・オルタ・サンタ・リリィってそれただの、幼女に陽気にサンタ帽でクリスマスデコレーションされた白い防犯ブザーさんだな?
とか言っているうちにクリスマスは終わった。
課金のBOXガチャは良い文明だけど、アイテムの無課金BOXは悪い文明。礼装とは…落ちないもの。
ていとくんにサンタさんの話するらっこさんが……。
ギリギリだけど投下おさめ。
来年もよろしくしたい。

>>36
わかりにくくってすまんな。あのあとパレードに行ってきたらしいよ
実はゴーグルが『スクール』のSNS上に小さい垣根さん用アルバムを作らされている。
おそらくそこにもハロウィンものがあるだろう。
のちのちらっこさんが同じような画像ばっかりアップしてみづらいと叱られる、そんな未出設定があったんでちょっと出した。


>>37
よぼーちがいっスね。
よーし新年のほしゅネタひとつ確保できたな。ありがとう。

ゆっくりでいいから続き頼んますゼ

心理定規さんのお願いが立候補制とは……。
俺もお願いされたい

垣根オルタ、元がこんなだから白垣根になるのかしら


かきね「よぼーせっちゅしたか?」

誉望「……? え? 何スか?」

かきね「ことしはよぼーがさいやくでたいへんなんだろ? ちゃんといいこにしてないとだめなんだぞ」

誉望「俺が……災厄? それは……いいっスね。メクちゃんの救済対象リスト上位っぽいっスね!」

心理定規「何が嬉しいのかはわからないけど。誉望君じゃなくて。インフルエンザの予防接種のことよ」

誉望「ああ。『過去最悪の痛み』、『去年の三倍腫れる』なんて感想がワインのレビューみたいになってるやつのことか」

かきね「よぼーせっちゅしなきゃっててれびがゆってたもん」

弓箭「ふふふ。予防……なんですか?」

かきね「せっちゅ」

弓箭「……」

心理定規「……」

誉望「……」プルプル

かきね「んんー」ムス

弓箭「不機嫌になってしまわれましたわ……」オカワイラシイ

誉望「それは困りましたねブフッ」

心理定規「もう。誉望君ったら我慢しきれずに笑ってるじゃない」

かきね「……ふん」

心理定規「ああしてるとやっぱり、彼なのよね」

弓箭「ほら、上手に言えないからと怒ってしまわれましたよ? どうするんですか?」

誉望「俺のせいか?! あああ、あー、垣根さん? どうしたんスか」

かきね「かっこいーりーだーはおやすみです。おれかっこわるくないもん」

誉望「えーっとじゃあ、練習しましょう」

かきね「れんしゅー?」

誉望「そっス。修行パートほどカッコいいもんは無いっスよ。少年漫画の燃え展開っス」

かきね「うーん。かっこいーならいいよ」

誉望「よーし。分けて言ってみたらどうスか。順番に繰り返してください。予防」

かきね「よぼー」

誉望「摂取」

かきね「せっ、しゅ」

弓箭「言えましたね!」

かきね「やった!」

誉望「よーし続けてみましょう」

かきね「よぼー、せっちゅ」

誉望「あー……」

かきね「んむむ。れんしゅーやだ」

心理定規「もう、予防注射でいいんじゃない? 注射は言えたわよね」

かきね「よぼーちゅーしゃ?」

弓箭「今度はお上手ですね。でもお注射なんて怖いですね」

かきね「ちゅーしゃこわくないもん。あれ? よぼーはちゅーしゃだったのか」

弓箭「誉望さんは輪っかですよ。シャンプーハットです」

かきね「ごーぐるぐる」グルグル

誉望「そうっスか。俺の本体はとことん無機物らしいな」


弓箭「予防注射は、誉望さんとは違いますよ」

かきね「よぼーは、ちゅーしゃじゃない」

誉望「俺は、注射じゃないです」

かきね「せっちゅはちゅーしゃなの?」

心理定規「それは注射よ」

かきね「なんのちゅーしゃ?」

弓箭「予防の注射です」

かきね「……? よぼーはちゅーしゃ?」

誉望「ふりだしに……戻った……だと」


弓箭「ええええええええっと、まず違いをご説明します。誉望さんは、人間の殿方です。予防はですね、病気にならないようにですとか、なっても軽症で済むようにするもののことですよ? えっと……おわかりに…なりました?」

かきね「うん。わかんないな」

誉望「いやもう少しわかるように言わないと説明出来てないぞ」

かきね「よぼーはごびょーきなの? だいじょぶ?」

誉望「俺は元気ですよー」ワーイ

心理定規「『予防』って言うのは、先に準備しておく事ね」

かきね「じゅんび、おっけー! だ! おしたくするんだね」

心理定規「そうそう」

誉望「えーっと予防を漢字で書くとこうっス。こうすると、見分けが何となくつくんじゃないか? 漢字ってのは……難しいマークです」カキカキ

かきね「おしまいがぴょんぴょんしてる」

弓箭「誉望さんはこうですね」カキカキカキ

かきね「こっちのはしゅっしゅーだ」

誉望「そうなんス。書きづらいんス」

かきね「んーんんー……ぜんぜんべつだ? よこにいっぱいとぴょんぴょーんだな?」

弓箭「そうですね。横に線がたくさんありますね……もう字の違いがおわかりになるなんて、垣根さんは天才なんじゃないですか?」

心理定規「そうねー。小さいのにもうこんなに賢いのね」ナデナデ

かきね「なに? おれえらい?」

弓箭「垣根さんはすごいですね~」

誉望「えーと、とりあえず予防注射も予防摂取も、俺とは違うものなのはわかりましたか?」

かきね「はーい」ハイ

誉望「垣根さんがしないといけないって教えてくれた予防摂取は、もし病気になっても大変にならないもののこと……それでするのが注射です、と。これでオーケーっスか?」

かきね「はーい。よぼーはちゅーしゃしましたか?」

誉望「してません」

かきね「しなさい。びょーきになったらたいへんだろ」フン

誉望「はーい……」

弓箭「はい! わたくしはちゃんとしました!!」

かきね「ゆみやえらーい」ヨシヨシ

弓箭「ああああありがとうございます!」


心理定規「ああ、この子もした方がいいわね。今流行ってるみたいだし」

かきね「え」

心理定規「小さい子はかかると大変だから。誉望君も一緒に受けてきたら?」

かきね「ちゅ、ちゅーしゃ…こわくないもん」

弓箭「そんな、弓箭もご一緒しますから! 平気ですよ!」

誉望「いや、お前もうワクチン打ったんだろ?」

弓箭「別のをしていただきます!!」

かきね「しなきゃだめ?」

心理定規「その方が安心よ? それに、しなさいって言ったリーダーはちゃんとしてないとね」

かきね「うーーん。りーだーがんばらないとなー」

心理定規「そうね。がんばって」

かきね「みんなでがんばろーね!」

弓箭「ほら、誉望さんもご一緒しましょう」

誉望「お前が来るのは確定なんだな」


心理定規「でもよかったわね。また一つ賢くなったわ」

かきね「うん。おれえらくてかっこいーから。よぼーのまーくはかっこいーね。しゃきーん、しゅしゅしゅ!」

誉望「はーいありがとうございます。俺名前だけはいいんスよ」

弓箭「誉望ってどう言う意味ですか? そんなに誉めていただきたいんですか?」

誉望「はいはいゴーグル。ちょっと調べてみる」

かきね「わっかだ!」

誉望「あー……」

心理定規「どうしたの? そんなに嫌な謂れだった?」

誉望「いや、あの」

弓箭「何ですか? そんなに仰りたくないようなものだったんですか」

誉望「誉望ってのは垣根さんにもわかりやすく言うと。そうだなー『例のすごいヤツ』なんて意味があるらしく……逆にキラキラしてそうな名前だということが判明してしまった」

弓箭「えっ……誉望さんが? どれだけ自己愛が肥大してらっしゃるんですか?」

誉望「お前に言われたくないし、そこは先祖に言ってくれ。うわー、でもみんな知らないよなこんなの。でないとますます名前負けって言われる」

かきね「まけちゃうのか? よぼーおなまえなんだっけ?」

誉望「万化っス。そっちは、すごい沢山変化する……でいいのか?」

かきね「へー。すごいすごーいのか。おれはね、とってもえらいんだよ。ゆみやは?」

弓箭「下の名前の意味ですか? わたくしは……そのままですとラッコさんでしょうか? 動物の、ラッコさん……あら。もしや垣根さん、ご存知ないですか?」

かきね「らっこ? どーぶつえんにいるの? あふりか?」

心理定規「ラッコはちょっと難しいかもね。水族館にいるのよ」

かきね「すいぞくかん?」

心理定規「海のいきものがたくさんいるところよ」

弓箭「ええっと、誉望さーん」

誉望「はいはいゴーグル。わかりやすくラッコの動画でいいんですか」


―動画再生中―


かきね「……」

弓箭「……」

心理定規「……」

誉望「なんかすごい食いつきだな」

弓箭「ふわー……可愛いですねラッコって」

かきね「おててをぎゅーってする。こんこんもするのか」

心理定規「ふわふわしてて可愛い。意外と目は小さいのね」

誉望「へー。アワビとかウニとか高いものばっかり食うんだな。ラッコ。高級志向の食いしん坊だって」

弓箭「なっ、なんでこちらを見て言うんですか。わたくしとは関係ございませんもの!」

誉望「そうでございますか」

かきね「くるくるしてねてる。かわいーね」

心理定規「海藻を巻いて寝てる間に流されないようにするんだって。ほら、群れでくっついてるわ」

弓箭「そうなんですね。みなさん一緒がいいですものね」

かきね「ねー。あ、そうだ。おねえちゃんは」

心理定規「おやつにしましょう」

弓箭「あら?」

心理定規「おやつにしましょう。弓箭さん、手伝って?」

弓箭「はははははははははい!」

かきね「?? あれれ? ねー、よぼー? いっちゃったよ?」

誉望「しっ。おねえちゃんさん曰く、女の子には内緒の話があるらしいっス。そっとしときましょう」

かきね「そーなの?」

誉望「そうなんっス」

かきね「ないしょか。しょーがないな」

誉望「心理定規はなあ……俺たちも本名知らないからな。あ、ほら。それよりおやつにするんスよね?」

かきね「そーだ!! おやつのまえに……てをあらえ! よぼー、ちゃんとおててあらうんだぞ! 『れっつ! ぴかぴかー!』」

誉望「はーい『ぴかぴかー』。じゃあ洗面所にお供しまーす」

かきね「よーし! ついてこーい」


>>37 ありがとーな保守小ネタ。

インフルエンザ流行ってるんだって。みんな気をつけてな。

1は個人的にらっこさんの名前は白虎と同じ発音で読んでる。脳内で。
実際に確認するにはレールガン四期が待たれる。

頂点決戦が終わっちまうってよ。垣根のSSR+結局凸終わらなかったよ。『スクール』でデッキ組むのが夢だったんだがこれからはどうしたらいいんだろうね。
なんてもう世間はバレンタインとやらですね。チョコが全然集まらねえ。


>>48
あざまっすまっす。がんばるゾー

>>49
『スクール』下部組織でがんばりゃワンチャン。
おそらく誉望が一番気軽に使える人材なので彼並みの名パシリにならないと個人オーダーはないだろうな(適当

>>50
『未元物質』の可能性は幅広過ぎてやばいからな。ピュアさわやかイケメンも網羅する。
白いのは意外とあのキャラが気に入っちゃったのかもしれない。
垣根はノリがよさそうだからなー。


バレンタイン間近のとある週末


かきね「ねーねー。よぼー、『はっぴー?』」

誉望「あー、この時期は……ハッピーバレンタイン?」

かきね「あたりー! はーいちょこでーす」

誉望「はーいっス。やったーチロルのいいやつじゃないスか。俺はちっともめでたくないけど。俺からもチョコですよー」

かきね「まんまるのたまごのチョコだ!」

誉望「中にフィギュアが入ってるんですよ。かきねさんのは『世界のどうぶつ』っス」

かきね「ありがと!! えっとねー、『いっぱいちゅきー』」

誉望「はーいっ…はいい?! 誰だ、垣根さんに妙なネタを仕込んだのは?!」

心理定規「さっきからチョコ回収しながら言ってるけど。誉望君じゃなかったの?」

誉望「俺だってその辺考えて喋ります。こんな小さい子にそんなカルチャーを教えてもっスね」

かきね「『えいっえいっ! おこった?』」

弓箭「怒りませんよ。 誉望さん、『えいえい』」

誉望「怒るぞ?」

弓箭「え?」

誉望「怒るからな俺だって」プルプル

心理定規「すごんでるところ悪いけど、膝笑ってるわよ」


誉望「垣根さん。さっきのは、どれくらい好きか教えてもらうって前フリがあって完成するネタなんスよ」

かきね「ちょこもらったら『ありがとだいすきー』ってやるんだろ? すきがいっぱいだからいっしょじゃないの?」

弓箭「お可愛いらしいので何も問題ございませんよ」

心理定規「それ、教えたの弓箭さんだったの」

弓箭「よく存じませんけど。流行ってるんですよね?」

誉望「よくわからないのにオタクのブームに乗ろうとするな」

かきね「おねえちゃんもちょこくれたもんね。ちゅきー」

心理定規「ふふふふ」ナデナデ

かきね「んもー。あ、ねー。おねえちゃんは?」

心理定規「え?」

かきね「おれもちょこあげたよ。おれのことすき?」

心理定規「……」

かきね「なぁに?」

心理定規「……いっぱい、ちゅき?」

弓箭「よよよよよよ誉望さぁん!! 撮ってましたか?」

誉望「えっ、何を?!」


弓箭「もうっ。誉望さんはいざと言う時に使えない……じゃなかった、頼りにならないんですから」

誉望「それ全部言っちゃってるな?」

弓箭「せっかく、心理定規さんがお可愛いらしかったのに、ご覧にもなっていないなんて! 信じられませんよ?」

心理定規「私、そう言うキャラじゃないから。忘れて弓箭さん」ナデナデ

誉望「つか心理定規もキャラとか気にするんスね」

心理定規「そんなに意外? ここの組織はそんな人ばっかりじゃない。みんな自意識過剰なのよ」ナデナデ

かきね「おねえちゃん、かっこわるくなっちゃう。ねー! すとっぷ、なでなでしないの」ワシャワシャ

弓箭「うふふ。でも大変お可愛いらしかったですよ」

かきね「おねえちゃんはかっこいーからな……んんん」ワシャワシャ

心理定規「もう触れないで。放っておいて」ナデナデ

かきね「もー! ゆみやー! おたすけ! かっこわるくなっちゃう!!」

弓箭「では御髪を直しましょうか? わたくしにまかせて下さい!」

誉望「垣根さんの頭がくっしゃくしゃだ。心理定規もこんな慌てるんだな……」

心理定規「何? 人の嫌なエピソードを掘り下げたりしないでね?」

誉望「意外なイベントに感心してたんです」

かきね「じゃーん! へんしん!」

弓箭「きゃーっ見てください! なんてお可愛いらしいんでしょう。わたくしが、弓箭がやりました!」

心理定規「あら。髪、ゴムで結んだの?」

かきね「ゆみやとおそろだよ」パタパタ

誉望「シルエットは深海生物みたいっスね」

心理定規「そうしてるのも可愛いわね。額を出してもいいんじゃない?」

弓箭「でしたら、次はこうして……」

かきね「やめちゃうのか? かっこよくだぞー?」

誉望「垣根さんが……パイナップルみたいに……くっ」エイキュウホゾンバンデスヨネ

弓箭「わあ垣根さん。とっても素敵ですよ」

心理定規「ふふふ。可愛い」

かきね「かっこよくしてねー?」

誉望「……」ジドウテブレホセイツキ


かきね「おねえちゃーん。ぶらしできた?」

心理定規「はい。出来ました。いつものでいいの?」

かきね「いーの。へんしんおしまい」

誉望「いやーやっぱり垣根さんはそれが一番カッコいいっスよー」

かきね「ふん。ぷーんだ。おれおこっちゃうぞ」

弓箭「誉望さんが笑うからですよ? せっかく色々なヘアスタイルもお可愛いらしかったのに」

心理定規「顔が可愛いと何をしても良く見えるわね」


誉望「その大きな箱なんスか?」

かきね「みんながちょこくれた。だいじにしてる」

心理定規「ハァ……これ、中身はみんなチョコレートなの」

誉望「わー、ちっちゃくてきれいな箱がどっさりですねーーいやー垣根さんはモテるんスねーーー」

かきね「へへーん。でしょ!」

弓箭「今日はお休みですから。下部組織の皆さんが持って来られるんですよね。あら、もしかして誉望さんうらやましいんですか?」

誉望「ぜんぜん。チョコは五千万を超えるとただただ面倒な作業でしかないから」

弓箭「えっ……そんなにお金をかけてらっしゃるんですか?」

心理定規「きっとゲームの話じゃない?」


ピンポーン

弓箭「あ、またお客様でしょうか」

かきね「はーい! いらっしゃいませ。ちょこですかー?」

下っ端1「そうです。リーダー、バレンタインおめでとうございます」

下っ端2「よくわかんないけどおめでとうございます」

かきね「ありがとー! みんなすきだぞ~!」

誉望「こうしてチョコが積みあがっていくのか……職場の義理チョコなのかおやつタイムなのかもうわかんないな」

下っ端1「あの……これ心理定規さんに」

下っ端2「こっちは弓箭さんに。チームのみんなからです」

心理定規「あら、リーダーのついでに? ありがとう」

弓箭「逆チョコですか? ありがとうございます。わたくしからは当日に用意しますわね」

下っ端共「はい!! ありがとうございます!!」

かきね「もー。おねえちゃんたちちゃんとおれいしなきゃだぞ? 『ありがとさんさん』だ」

弓箭「あ! 『ぴょんぴょん』のおうたですね? 存じてます! 心理定規さん。せーの、でやりましょう。せーので」

心理定規「え」

誉望「……何してんだあいつら」

下っ端1「うわぁあああリーダーマジ最高です!」

2「ありがとうございます!!」

かきね「? ふふん? いいんだぞー」


ピンポーン

誉望「今度は何だ……なんか、垣根さん宛てに荷物が来てるぞ」

心理定規「ずいぶん大きいのね」

誉望「でもそんなに重くはないんスよ」

かきね「はーい! おれのです!」

弓箭「大きいですね。開けてみましょうか?」

かきね「うん!」

弓箭「では誉望さん、こちらにお願いします」

誉望「はいはい。箱が通りますよー」ヒョイ

かきね「まほーだ! ふわふわおにもつ!」

心理定規「誰から?」

誉望「いつものあいつじゃ……なさそうだな。こっちのは……『S先生より』って書いてあります」

心理定規「『Bおねえさんからていとくくんへ』……誰?」

弓箭「まあ、すごいチョコレートですね」

かきね「わ~~~!! ねーねー、みてみて!!」

誉望「おっ? 何スか」

心理定規「どれ?」

かきね「ひこうきと、おふねと、ろぼのちょこだ!!」

心理定規「飛行機って言うか……戦闘機ね?」

かきね「こっちはかいじゅうさん!! でっかいぞ!! ゆーほーもある!!」

誉望「ウワーッ、これは……カッコいーっスね!!」

かきね「ふふふん。みんなにちょこもらっちゃった。おれ、もてもてだね?」

弓箭「そうですね。かきねさんはとってもかっこいいですからね」

かきね「おれかっこいー?」

誉望「っスねー。いやーすごいな。でもこれ、子どもへのバレンタインには規模がおかしいな?」

かきね「すごーいな。だれがぷれぜんとくれたの? ありがとしなきゃな?」

誉望「うーん……」

心理定規「そうね……?」

弓箭「良かったですねー。でしたらお手紙を書いてはどうですか? ほら、こちらに贈って下さった方の連絡先は書いてありますもの」

誉望「……どっちもどこかの研究所あてになってますけど。心理定規さん」

心理定規「まぁ……手紙くらいならいいんじゃない?」

弓箭「きっと垣根さんに喜んでいただきたい方がいるんですね。よかったですね?」

かきね「うん!!」

心理定規「本人も、喜んでるみたいだしね」


……後日、第二学区某所、某所研究施設

『せんせいへ ちょこれーとありがとござます。かっこいいからたくさんかざってます。よぼーがすけすけのはこにかっこよくしてくれました。いっぱいうれしいです ていとく』

美濃部「クレヨンの、こどもの落書きか? 一体これは」

潮岸「……くっ」

杉谷「なんだ、理事のバイタルが急に……駆動鎧の計器を確認しろ!」

美濃部「まさか、こんなものに泣いているのか?」



……その数日後、某研究所


『おねーさんへ おっきなちょこありがとござます。かっこいくておっきいはたべるのたいへんです。だいじにしてます。ゆーほーとかいじゅうさんはなかよしです。おねーさんだからはあとにしました。はっぴーばれたいん ていとく』

研究所職員「病理さんにこの画用紙と、こっちに別の包みが」

病理「……こ・れ・は、いつ届いたんですかー?」

職員「三日ほど前です。そっちのは冷蔵してあります」

病理「もっと早く教えてくれても良かったですよねー? 私宛ての荷物を放っておいたんですか?」

職員「病理さん先週の郵便物も目を通すのは『諦めた』って溜めてあるじゃないですか。その前のもそっちの山にありますよ」

病理「それは……それはそれでーす!!」

職員「先方には一応到着の連絡をしてあります」

病理「もーう! 病理さんが自分でしますから! もう一度かけて下さーい」

職員「……あれ」

病理「どうしたんですかー?」

職員「連絡先の電話番号が使われていません。プリペイド携帯ですかね」

病理「そうですか。小さい能力者の噂は聞いてますから、第二位も一度観察したかったんですが……残念でーすね」

職員「なんて、全然残念そうじゃないですね」

病理「ふふふ。あんな珍しいものはそう簡単に『諦め』られませーんもの」



誉望万化。

『念動能力』を操る大能力者(レベル4)である。
何の因果か世界の歪みか宇宙の法則でも乱れたのか、まかり間違って強能力者(レベル3)のままくすぶってしまった挙句、二次元に魂を奪われてオタクに身をやつした少年……ではない。
繰り返すが、誉望万化は大能力者だ。
学園都市の能力者の中でも、大能力と言えば少数精鋭の勝ち組。
その一つ上……超能力者はケタ違いの化け物になるが、学生の尺度で言えば相当な成功者の一人だ。
武装無能力者なんかは、その一言を聞いただけでもガタガタ震えて尻尾巻いてお家に帰るレベルだろう。
しかし、彼は格付けにあぐらをかいたただの自信家ではなくそれに見合うだけの実績も能力もちゃんと備えていた。
念動能力を応用した力を使いこなし、学園都市の暗部組織で暗躍する。
超能力者が率いる組織内でもナンバーツーを自負する実力者。
根暗でジト目、名無しの土星ヘッドギア、セリフも登場ページも少ないとか言ってはならない。
彼は出来る男なのだ。

そんな、エリート出来る男『スクール』のなんでも屋さん焼きそばパンも難なくパシってこれそうな誉望万化はこの世の終わりのような青い顔をして盛大なため息を吐いていた。
ある日のブリーフィング、いつも通り遅れてきた誉望だったが(サボっているのではない彼は多忙な男でもある。むしろ、リーダーにどやされるかもしれないリスクを彼がそう簡単に侵すのか疑問が浮かぶほどビビり…でなく、真面目な少年だ)。
高級感あふれる隠れ家で彼を出迎えたのは、高圧的で俺様でおっかないリーダー垣根帝督ではなかったのだ。
サイズは前の半分ほど、ぶかぶかの赤いセーターを着たちいさなかきねていとくくんごさいだった。
以前よりとってもメルヘンになってしまっていた。
恐偉そうおっかな人使いの荒ストレスが突然舌打ちしないで欲しい……優秀で信頼できる尊敬していたリーダーの身に起きた余りの惨事に、誉望は驚いてその場にいた心理定規を問い詰めたが。
彼女が気付いた時にはもう垣根はおこさまになっていたと言う。

原因も『スクール』総出で調べているがまだわからない。
いつものエージェント、電話の男が何か情報を持っていないか……裏で糸を引いていないかとも疑ったが、それらしい事件も手がかりもほとんどなかった。
直前に口にしたらしい飲み物に何か細工がしてあったのでは、と言うのが一番使えそうなものだったが何かおかしな研究をしていた組織や動きもつかめていない。
と、言うかいきなり子どもになるなんて全く信じられないことだった。
ファンタジーな映画の中に出てくる魔法でもなければありえない事態だ。
おかしな薬や能力でこんなことが起きるとは思えないのだが。
残念なことに幻覚ではなさそうだった。
洗脳か何かで認識を変えられている、と言う可能性も心理定規が撮った写真で潰されてしまった。
写っていたのはやっぱりちびっこだった。

「垣根さんが……こんな、ちんちくりんに」

はあ……と嘆く誉望の目の前では、小さいかきねが大きなテレビをじっと見つめていた。
かかっているのはおこさま向けに着ぐるみが踊ったりおにいさんとおねえさんが歌を歌う……そんな番組だ。
誉望は、頭からゴーグルを外すと首を振った。
彼が集めた情報によると、学園都市では垣根以外にも同じような異変が起きているらしいがまだ事件として大きく動いた様子はない。
数件観測されたものも、その対象になった……子どもの対処に追われてそれどころではなさそうだった。
どこも今の誉望たち二人のように見つかった幼児の子守で手一杯らしい。
そんな苦労や悩みは関係ないんだろう。
小さくなってしまったかきねは一人ご機嫌だった。

「『ぽんぽんぽぽーん♪ だんごっごー♪』」

テレビにあわせて振りつきで意味不明な歌まで歌っている。

「やめろ。垣根さんはそんな下らないことはしない……」

誉望はうわぁ……とうつむくと悔しそうに呟いた。
彼も、それなりにリーダーを尊敬している。
誉望の認める数少ない、自分より上位の存在の中でも垣根は少し別格だった。
垣根帝督は超能力は言うまでもなく、頭も切れて威厳もあって中身も外見も嫌味なくらい何もかも持っている完璧な存在だからまあ仕方ないよな、と納得してしまうような凄味があった。
暗部組織のトップにふさわしい冷酷な表情もよく似合う格好いい奴で、誉望はそんな垣根と居るとちょっとしたムカつきを察したり殺気にあてられて『過去のトラウマスイッチ』がはいってしまい具合が悪くなる。
そんなピンポイントでも影響力絶大な人物だった。
その垣根がどうだ、今やちんちくりんですっかりメルヘンよりのひよこさんだ。
クールな雰囲気も重圧めいたオーラも見る影もない。
たよりない幼児そのものになってしまっては、そんなの嘆かずにいられるだろうか。
誉望はやり場のない悲しみに独り拳を握った。

誉望もそれなりにプライドが高かった。
馬鹿の相手は好きじゃないし、小さい子どもも好きじゃない。
そこに、子どもになった元リーダーがバカっぽいことをしている。
まだ、そのまま大きさだけ変わったような生意気なガキだったら以前と同じように相手が出来たかもしれないが。
これは全然キャラも性格も違いそうな子どもだ。
外見以外は別人のようなのに垣根で。ちびっこ。
何をするかわからない、ムカつく、何かと面倒を押し付けられそうで、気苦労が絶えそうにない……ちびっこ。
原因は同じ垣根でも普段とは違うタイプのストレスがかかっていた。


「今は子どもなんだからそれくらいするんじゃない」

誉望の意味不明な愚痴に心理定規が珍しく反応した。
顔をあげて振り返ると、どこから持ってきたのか少女は両手に荷物を持っている。
大きく膨らんだ紙袋だった。

「ほら。そんな格好じゃよくないわ。おうたはお休みして着替えましょう」

「おきがえする?」

「そうよ。上手にできるかな?」

「うん。おれかっこいーのがいーな」

服をどさどさ広げる心理定規と素直にそれに従うかきね。
何だかんだ楽しそうに見える心理定規に、誉望の孤独感は増した。

見慣れたセーターではなくなったかきねはすっかりその辺にいそうなちびっこになっていた。
誉望はまだそれを垣根帝督、いやリーダーとは認められない。
彼が尊敬するのは長い脚で余裕たっぷりに歩くリーダーであって、とてとて部屋の中を駆け回るちびっこではない。

「ねーねー。よぼくん、あそぼ」

「……」

少し見上げるくらい威圧と身長のあるリーダーであって、屈まないと目も合わせられないちびっこではない。

「? よぼくん、よぼーばんかくん?」

「うるさい」

おいコラ、と時に胃袋がちぢみあがるくらいドスのきいた一言を放つリーダーであって、舌足らずに名前なんて呼んでくるちびっこではない。

「おねえちゃん、よぼーくんがあそばない!!」

「うるさい! いいつけんな!」

誰かに頼るのではなく利用する。そんな何事も独りでやってのけるリーダーであって、優しいおねえちゃんにすぐ甘えようとするちびっこではない。
誉望はイラついて怒鳴った。
それまでの垣根のイメージとのギャップと、意味不明な状況への不快感といらだちもあってか大きな声だった。
驚いたのか、かきねはびくっとして固まってしまう。
それまでだったら。
眉を寄せても、厳しい目でにらんでくるのがリーダーで、悲しそうに見上げてくるちびっこではないのだが。
流石に泣かれるのは困る。
自分で言ったのもあって心理定規にも押し付けられない。
息を吐いた誉望はやけになってかきねを見下ろした。

「チッ。俺のことは万化様と呼べ。俺はすごく偉いんだぞ」

「えらいのか」

「ああ。『スクール』じゃリーダーの次に偉い。それに俺は念動使いだからな。すごいぞ」

やっと相手にされたかきねだったが、まともに扱われそうにはなかった。
なんだか適当なことを語った誉望は能力で近くの棚にあったものを宙に浮かせるとドヤ顔でかきねを見る。
最初は驚いていたかきねも、誉望が操作しているのがわかると目を丸くして笑った。

「わー……かっこいー!!」

しばらくそんな風にして機嫌を取った。
誉望が能力を披露して自分がいかにすごいやつかを教えるとかきねもそれを覚えたらしい。

「ばんかさますごいな。かっこいーな」

「フン。俺はすごいからそんなに暇じゃない。わかるか」

「うん」

「邪魔するな。あっちにいろ」

「はーい」

遊んでやらないと遠回しに言われたが、かきねはちゃんと返事をしてテレビの前に戻っていった。


他のメンバーにパシリかと勘違いされるくらいに普段からよく働く誉望は、何もないのに無駄に偉そうにして椅子に踏ん反りかえっているのは何だか似合わなかった。
調査は下部組織にも回して進めているが進展は期待できそうになかった。
誉望が電子操作であちこちの情報を漁っても役に立ちそうなものは出てこない。
スマートフォンを無意味に取り出しても、数分前に開いたばかりのSNSはなにも更新がなくてただホーム画面に戻すだけだった。
そんな時、離れたところからかきねが誉望の方を見ていた。
用でもあるのかなんだか気にしているようだったが、近寄ってはこない。
邪魔をするなと言ったのを律儀に守っているつもりらしい。
誉望は一度見ないふりをして、少し考えていた。
今まさに暇ですることもなくて退屈している。
そこから更に難しい顔をして悩んだが、結局誉望は手を振った。
無言の重圧に負けてしまった。

「どうした」

「あのね。ぼーるがあった!」

かきねが持ってきたのは駄菓子屋にでも置いてありそうなおもちゃの袋だった。
小さなビニールのボールが五個はいっている。
これで遊びたいのか。
そんなの一人でしていろと思うのだが、かきねだってよっぽど遊びたければ袋くらい自分で開けるだろう。

「ぼーるしよ? いーい?」

「……貸してみろ」

「すごーい!」

パッケージを開けて、指を立てた上でボールを一つ飛ばすとかきねは大喜びした。
その後、数を増やして浮かせたり投げたりしてお子様の遊びにつきあってやった誉望だった。

「すごいなーかっこいーなー」

段々と子どもの相手も慣れてきたのか、諦めたのか。
褒められると悪い気もしないだろう。
かきねが寄ってきてもイラついた態度を見せなくなってきた誉望は舌打ちをすると頭をかいた。

「……誉望でいいよ。もう」

ふざけて調子に乗ってはじめた様付けをやめる気になったのか。
それを聞いたかきねはいいの? と首を傾げてからうれしそうににこにこする。

「じゃーね、ばんか。かっこいーもん」

「……そうか?」

「ばーん! ってかっこいーの」

「あっそ」

謎のセンスだがどうやら気に入られたようで、誉望は様付けから呼び捨てに格下げされた。


「ばんかばんか、ごほんみて。よむぞー」

子ども用に服の他におもちゃなどの荷物も運ばれてきていた。
この隠れ家にはおもちゃどころか無駄なものがほとんどなかったからだろう。
かきねはその中から絵本を持って、わざわざ誉望のところにやってきた。

「『むかしむかしあるところに、おじいさんがいました。おじいさんはまいにちやまにいってたけをきっていました』よーし、ここまでわかった?」

得意げにページを広げてみせられて、誉望は別に関心もなさそうにしていた。
ひらがなだけの絵本。
中身も有名なおとぎ話だ。
心理定規にでも見せたら、大人っぽい女子目線でつっこみもいれてくれそうだ。

「これ、かぐや姫だろ」

「おれまだなんのごほんかゆってないのに! ばんかすごいな! えっと……『あるひ、おじいさんが』……んしょ」

ネタばれまでされたのにまだ続きを読もうとする。
途中まで読んでいたかきねだが、本を持ち直すのに一度下に置いた。
そこまで分厚くもない本でも五歳には重たいのかもしれない。

「ったく、貸せ」

誉望がそう言うと子どもには大きな絵本はかきねの前で宙に浮いた。
開くと勝手にページがめくられていく。

「『金に光り輝く一本の竹を見つけました』」

「わー、まほーのごほんだ」

もしかしたら、それまでの部下としての癖がつい出ただけかもしれないが。
念動能力のエキスパートになると、子守もこなせてしまうらしい。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年11月01日 (水) 21:02:24   ID: G7ImW9ol

めちゃくちゃ可愛くて面白いじゃないですかやーだー
誉望くんにまともに出番があって地味に感動してます…
死んでない…

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