櫻井桃華「恋しい、愛おしい、プロデューサーちゃま」 (12)

 ……プロデューサーちゃま。わたくし、分かりませんでしたの。

 恋というものがどういうものなのか、分かりませんでした。

 恋しい。恋い慕う。恋い焦がれる。

 恋というものが、恋という気持ちが、恋という想いがなんなのか、分かりませんでしたのよ。

 本では読みましたわ。

 恋をして、恋に溺れて、恋に生きるいろいろな登場人物のお話は読みました。

 考えてはみましたわ。

 恋というのはこんな感じなのかしら、こうした風なのかしら、こういう心地なのかしら……と、そうして考えました。

 恋する人は見ましたわ。

 誰かに恋心を抱いて、誰かを恋しく感じて、誰かへの恋に染まった人たちの姿は見てきました。

 でも、それでも分かりませんでしたの。

 なんとなく、霧がかった想像で、もやもやした形では考えられるようにもなりましたけれど。

 きちんと、しっかり、本当のそれがどうなのかということは分かりませんでしたの。

 だから聞きましたわ。

 恋とはいったい? 恋とはどういうこと? 恋をするというのは、どんな気持ちなのかしら?

 そう聞きましたの。

 みんな……この事務所にいるアイドルのみんなへ、聞きましたのよ。

 聞いて、そして教えてもらいましたの。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1491380000

 恋というそれがどんなものなのか。いろいろな人に、いろいろな恋を、いろいろな在り方を教えてもらいましたわ。

 プロデューサーちゃま。恋というものは、恋して慕うその人に染められることなんですって。

 その人と一緒に居たい。

 いつでも、どこでも、どんな時でもその人と一緒に居たいと願うこと。

 その人のことしか考えられない。

 近くを歩いていても、遠くに離れていても、何をしている時でもその人を考えてしまうこと。

 その人が欲しくてたまらない。

 身体の全部、心のすべて、その人の何もかもを求めて欲してしまうこと。

 その人に震える。

 些細な仕草に胸が高鳴って、なんでもない挙動に全身が熱くなって、あらゆるその人で震えてしまうこと。

 その人に汚くなる。

 他の人とその人が仲良くしていると苦しくなって、その人が自分の隣に居てくれないと辛くなって、あらゆるその人に汚くなってしまうこと。

 その人に溢れる。

 その人のことが好きだ、と。その人のことが大好きなんだ、と。その人への想いが溢れて止まらなくなること。

 その人に染まる。

 鼓動が、行動が、身体がその人のことだけに染まる。感動が、動機が、心がその人のことだけに染まる。自分の全部がその人のことだけに染まってしまうこと。

 それが恋。

 恋をするということ。恋をして慕うということ。恋に焦がれるということ。

 これが恋、なんですって。

 ……プロデューサーちゃま。わたくし、分かりませんでしたの。

 愛というものがどういうものなのか、分かりませんでした。

 愛しい。愛する。愛して尽くす。

 愛というものが、愛という気持ちが、愛という想いがなんなのか、分かりませんでしたのよ。

 目では見ましたわ。

 愛を抱いて、愛に包まれて、愛に生きるいろいろな人の姿は見ました。

 思ってはみましたわ。

 愛というのはこんな感じなのかしら、こうした風なのかしら、こういう心地なのかしら……と、そうして思いました。

 愛に満ちた人には触れましたわ。

 誰かを愛して、誰かを愛しく想い慕って、誰かへの愛に満ちた人たちの姿には触れてきました。

 でも、それでも分かりませんでしたの。

 なんとなく、朧げにしか至らない想像で、ふわふわした形では考えられるようになりましたけれど。

 きちんと、しっかり、本当のそれがどういうことなのかは分かりませんでしたの。

 だから聞きましたわ。

 愛とはいったい? 愛とはどういうこと? 愛するというのは、どんな気持ちなのかしら?

 そう聞きましたの。

 みんな……この事務所にいるみんなへ、聞きましたのよ。

 聞いて、そして教えてもらいましたの。

 愛というそれがどんなものなのか。いろいろな子に、いろいろな愛を、いろいろな在り方を教えてもらいましたわ。

 プロデューサーちゃま。愛というのは、愛するその人に満たされることなんですって。

 その人の傍へ添いたい。

 その人を支えて、その人を護って、その人の傍へ寄り添っていたいと望むこと。

 その人のとの想いを感じる。

 重なるくらいの隣へ立っていて、顔の見えない遠くへ離れていて、でもどんな時にもその人との想いを胸に湧かせること。

 その人が大切でたまらない。

 吐息や瞬きの一つ一つ、喜怒哀楽の一個一個、その人の何もかもがかけがえのない大切に感じられてたまらなくなること。

 その人と生きたい。

 どんな幸せも共にして、どんな辛苦も共にして、どんな未来も二人で一緒に手を取り合って生きていきたいと誓うこと。

 その人と死にたい。

 いろいろな全部を分け合って、いろいろな何もかもを分かち合って、そうして歩んでいった先で二人安らかに死んでいきたいと志すこと。

 その人に温かくなる。

 その人のことが愛しい、と。その人のことが愛おしい、と。その人への想いが溢れて温かく心地のいい気持ちになること。

 その人に満ちる。

 疼きが、挙動が、身体がその人のことだけに染まる。心象が、思考が、心がその人のことだけに満ちる。自分の全部がその人だけに満たされてしまうこと。

 それが愛。

 愛しいということ。愛するということ。愛して尽くすということ。

 これが愛、なんですって。

 ……プロデューサーちゃま。ねえ、プロデューサーちゃま。

 恋、というのはそういうこと。

 愛、というのはそういうこと。

 好きな人を、大好きな人を、そうして想うことなんですって。

 わたくし、やっと分かりましたの。

 それを教わって……そうしてやっと、わたくしは分かりましたのよ。

 恋というものが、愛というものが……わたくしの、わたくしのプロデューサーちゃまへのこの想いがなんなのか。

 わたくしはアナタと一緒に居たい。

 わたくしはアナタのことばかり考えてしまう。

 わたくしはアナタが欲しくてたまらない。

 わたくしはアナタに震えてしまう。

 わたくしはアナタに汚くなってしまう。

 わたくしはアナタに溢れている。

 わたくしはアナタに染められている。

 やっと分かりましたの。わたくしは、プロデューサーちゃまに恋をしていましたのよ。

 わたくしはアナタの傍へ寄り添いたい。

 わたくしはアナタとの想いを感じている。

 わたくしはアナタのことが大切でたまらない。

 わたくしはアナタと生きていきたい。

 わたくしはアナタと死んでいきたい。

 わたくしはアナタに温められている。

 わたくしはアナタに満たされている。

 やっと分かりましたの。わたくしは、プロデューサーちゃまを愛していましたのよ。

 プロデューサーちゃま、アナタが恋しい。

 プロデューサーちゃま、アナタが愛しい。

 好き。

 大好き。

 プロデューサーちゃま。わたくしは、アナタに恋していますわ。

 プロデューサーちゃま。わたくしは、アナタを愛していますわ。

 恋しています。

 愛しています。

 だから、ねえ、プロデューサーちゃま……。

「……ふふ、プロデューサーちゃまったら。そんなふうに顔を赤くして、照れてしまって」

「大丈夫。何も心配するようなことはありませんのよ。ここはプロデューサーちゃまへと与えられた部屋の中で、今日はもう誰かが訪ねてくるような予定もないのですから」

「安心して……。わたくしだけを感じて、わたくしにすべてを委ねて、わたくしを信じてくださいまし」

「ええ、もし不意の訪問があれば起こしますわ。その他にも何か必要があれば知らせます。何も、不安に思うことはありませんのよ」

「ですから、ほら。……わたくしの、桃華の膝の上でお眠りになって? ゆっくりと、柔らかい、穏やかな心地を抱きながらお眠りになってくださいな」

「照れてしまうのは仕方ないのかもしれませんけれど……でも、気にすることはありませんのよ」

「普段からプロデューサーちゃまは働き過ぎなのですわ。それがわたくしたちのため、というのは嬉しく思うところでもありますけれど……でも、それ以上に心配になってもしまうのです」

「ですから、これは必要なことなのですわ。与えられるべき時間。感じられるべき休息。受け取るべき癒しなのです」

「それに」

「それに、これはわたくしも望むこと。わたくしが、プロデューサーちゃまに『してさしあげたい』と望むもの、なのですわ」

「櫻井桃華というアイドルのプロデューサーであるアナタ。櫻井桃華という存在をより一層輝かせてくださるアナタへ。……わたくしのプロデューサーちゃまへ、わたくしがしてさしあげたいと望んでいるのです」

「ですから気にすることはありませんわ」

「もしわたくしがこうすることに対して申し訳ないような思いを抱いてしまっているのなら、それは手放してしまってくださいまし」

「わたくしは望んでいますの。こうすること。プロデューサーちゃまを癒すために尽くすこと」

「嫌だなんて、負担だなんてほんの欠片ほどにも思ってはいませんわ。純粋に心から、こうしたいと望んでこうしていますの」

「普段受け取っている恩を少しでも返したい。いつも身を粉にして働いているその労いをしてさしあげたい。そうした思いから。……そして、それ以上に」

「プロデューサーちゃま。わたくしは、アナタのことが好きだから」

「だから望んでいますの」

「大好きな人へ。恋しい殿方へ。愛おしい唯一の方へ。自分にとってかけがえのない最愛の人へ尽くしたい。そう望むのは、きっと自然なことでしょう?」

「わたくしにとってのそれはアナタ。わたくしが誰よりも恋しく、何よりも愛おしく想うのは……プロデューサーちゃま、なのですわ」

「こうしているのはわたくしの意思。プロデューサーちゃまを膝の枕へと乗せて……片手はその大きな手を握りながら、もう片方ではこの無防備に晒していただいた頭を撫でながら、そうしながら愛おしむ。これは、わたくしが望んでいること」

「こうしていることはわたくしの望みで。こう在ることはわたくしの願いで。望む願いの叶っているこの今は、わたくしにとってこれ以上ない幸福な時なのです」

「ですから気になさらないで。わたくしからこの幸福を取り上げないで。どうかこの幸福の中へ浸ることを、もう少し許していてくださいまし」

「……ええ、そう。そうですわ」

「目を閉じて。そうしてお眠りになって」

「わたくしの感触。わたくしの匂い。わたくしの吐息。わたくしだけを感じて……わたくしに包まれて、わたくしのもとで、お眠りになってくださいまし」

「……ふふ」

「可愛い人。恋しい人。愛おしい人」

「愛していますわ。誰よりも大好きで、何よりも恋い慕っていますわ。プロデューサーちゃま、わたくし、愛していますわよ……」

以上になります。
お目汚し失礼しました。

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以前に書いたものなどいくつか。
もしよろしければどうぞ。

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