三船美優「仕切りの向こうに」 (28)


美優「はあ……とても雰囲気のあるところですね」

美優「こんなに素敵な温泉に入れるなんて、なんだか皆に申し訳ないですね」

美優「でも、せっかくPさんと来たんですから……」

美優「思い切って楽しんじゃって、いいんですよね?」

美優「それじゃあPさん、女湯はこちらなので……」

美優「ええ。ゆっくり浸かって、日頃の疲れを癒してくださいね」


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美優(貸切だから私たちだけなんですよね……)

美優(お風呂、すごい……独り占めするには広すぎるくらい)

美優(お湯もちょうどいい加減……)

美優(こんなチャンス、滅多にないし……早速入ろうかしら)

美優(ふぅ……)

美優(久しぶりにゆったりできて……これもPさんのおかげ……)

美優(Pさんのためにも、今回のお仕事頑張らないと、ですね)


美優(やっぱり一人だと、ゆっくりできるけど何だか寂しい気が……)

美優(これならPさんと一緒に……)

美優(お背中を流してあげたり……肩を寄せ合って……)

美優(……なんて)

美優(やだ、日菜子ちゃんの癖が移っちゃったのかしら……)

美優(変なこと考えてないで、お仕事に集中しなきゃ)


美優(今度の衣装は色気の強い和装だから……)

美優(ちょっと……役作りしたほうがいいかしら……)

美優「ふふっ……プロデューサーはん?」

美優「そんなとこおらんと、あちきと一緒にお風呂」

美優「どうど……す~……?」 <まいこはん混ざっとります


ゴホゴホ


美優(あ……ら……?)

美優(今の声……)

美優(この仕切りの向こう……男湯……だった……?)


美優「……」

美優「あっ、あの……」

美優「えぇっと……その、勘違いだといいんですけど」

美優「さっきの……聞きましたか……?」

美優「ああっやっぱり……」

美優「違うんですっプロデューサーさん……」

美優「お風呂で役作りの練習を……っ」

美優「あれは演技です……演技ですから……っ!」


美優「だって……今度の衣装が色気のある和装だから……!」

美優「セクシーな役もこなせるようにっ」

美優「決して、本音が漏れたとか、日菜子ちゃんみたいに妄想してたとか、そういうわけではありませんから……っ」

美優「だからそのっ……聞かなかったことに……!」

美優「……え?」

美優「いい演技だった……? これで仕事も完璧……?」

美優「あ、いえ……分かっているならいいんですけれど……」


美優「……へ? また聞きたい?」

美優「も、もうっ! しません、しませんから!」

美優「そもそも、プロデューサーさんがまたあんな衣装を着せようとするから悪いんです!」

美優「た、たしかにお色気くのいちではありませんけど……」

美優「だからって和装でも……え、似合って……ますか?」

美優「そ……そうやって誤魔化そうとしてもだめです!」

美優「その、嬉しいといえば嬉しいですけど……それとこれとは話が別ですっ」


美優「というより、どうして女湯に聞き耳立ててたんですかっ?」

美優「じとー……」

美優「私の声が大きかったから……?」

美優「なっ……大きな声なんて出してませんっ!」

美優「うう……も、もうこの話は終わりです!」

美優「そんなことより、そろそろ部屋に戻りましょう? ね、ねぇ?」


美優「はぁ……お風呂から出た途端に疲れましたね……」

美優「知りませんっ。プロデューサーさんのせいです」

美優「……それじゃあ、お互いの部屋に……」

美優「……」

美優「あの……プロデューサーさん、ここ私の部屋で……」

美優「あれ、プロデューサーさんも?」

美優「え、ええっ?」


美優「……あ、どうでしたか?」

美優「他の部屋は空いて……」

美優「……なかったんですね」

美優「そうですか……夫婦と勘違いされて……」

美優「いえ、説明してなかったのは私もですし、プロデューサーさんのせいじゃ……」

美優「とはいえ……」

美優「こ、困りましたね……」


美優「く、車で寝るなんてそんな……」

美優「えーと……あの、とりあえず休憩していきませんか」

美優「それから考えても遅くないですし……ね?」

美優「じゃあ……部屋に入っ……」

美優「……」

美優「見事に……その……布団がくっついてますね」

美優「あっ、は……離しましょうか、ええ……!」

美優「わ、私テレビでも見てますから……」

美優「プロデューサーさんはお疲れでしょうし……お昼寝でもいかがですか?」

美優「はい、ご飯になったら起こしますから。それまで、ゆっくり……」


美優(……プロデューサーさん)

美優(いつも私達のために頑張ってくれて…)

美優(プロデューサーさんにはたくさんお世話になっているのに……)

美優(あんまりお返しできてなくて……)

美優(今日くらいは、お礼をしても……)

美優(……いいですよね)


美優「ふふっ……プロデューサーはん?」

美優「そんなとこおらんとあちきと一緒のお布団……」

美優「どうどす~……?」

美優「……」

美優「…………」

美優「………………Pさん?」

美優「……ね、寝てる……!」


美優「……あ、おはようございます……って、もう夕方ですけど」

美優「夕食ですか? もう終わっちゃいましたよ?」

美優「……あら、私は起こしましたけど、プロデューサーさんが起きなかったんです」

美優「ですから、プロデューサーさんは晩御飯抜きですっ」

美優「……なんて」

美優「ふふっ……冗談です。これからですよ、お夕飯は」

美優「びっくりしましたか? ごめんなさい、うふふ……」

美優「でもプロデューサーさんが悪いんですからね。あんなことさせておいて……」

美優「こほんこほんっ。こちらの話です……」


美優「とにかくっ。私、さっきのことも怒ってますっ」

美優「……だめです、許しません。恥ずかしかったんですからね」

美優「許して欲しいなら……その……」

美優「や、役作りの練習に付き合ってくれたら……許します」

美優「……付き合ってくれますか?」

美優「ふふっ……ありがとうございます」

美優「じゃあ、いきますよ……?」


美優「プロデューサーはん? そんなとこおらんと、あちきと一緒のお布団、どうどす~……?」

おしまい

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