京太郎「修羅場ラヴァーズ」久「もうちょっと、近づいて」 (1000)

・京太郎スレ
・短編集的、オムニバス的な感じです
・安価もあるかもしれない
・ヤンデレとかあるかもしれない
・話によって京太郎が宮守にいたり臨界にいたりするのは仕様です
・ライブ感は大事
・ネリー可愛い

まとめ
http://www62.atwiki.jp/kyoshura/


前スレ
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SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1423892840

2月14日――の、前日。

真冬の北海道であるにも関わらず、彼女たちのキッチンは非常に白熱していた。

バレンタインという、乙女にとっての一大イベントを前にしているのだから、それは当然のこと。

だが――


「なるか、血は調味料にはならないから。そのナイフ置いて」


「ユキ、ヘラを胸に当てて何してるの? まさか部室で『私を食べて――』なんて、しないでしょうね」


「揺杏、砂糖と塩間違えてるわよ」


「爽、あなたが摘み食いしてるの――それ、私のじゃない?」


ああもう!とキッチンに誓子の悲鳴に近い叫びが響く。

あまりにフリーダム過ぎる部員たちを前に、彼女の気苦労は募るばかり。


「……ここまでさせるんだから、お返しは期待していいわよね?」


――とにかく甘いモノで、癒されたい。

渡す側だというのに、誓子は強くそう思うのだった。

こっそり小ネタ
下3まで

バレンタインデーといえば、女の子が友達や好きな人にチョコを渡す日である――が。

一人の男の子に恋する乙女たちにとっては――それは、戦争である。

「――」

「……」


いつもと違って静かな部室。

一年女子しかいないこの場にて、咲と和が無言で睨み合う。

その手に持つ小包の中身は、最早言うまでもない。


「うぅ……」


二人の敵意に挟まれた優希は、ただ気まずく視線を泳がせる。

ただ菓子を渡すだけなのに――何故、そこまでして張り合うのか。


「先輩、まだかー……?」


耐え切れずに時計をチラ見。部活が始まるまであと少し。

そんな彼女は、既に京太郎にタコスチョコを渡している。

お返しを三倍返しで貰う約束も当然のように取り付けた。


「はぁ……」


改めて、事前に渡して良かったと思う。

仮にこの場でチョコを渡していたら――きっと、ひどいことになっていた。

優希の胃痛と祈りが天に届いたのか、すぐに部室の戸は開かれた。


「お、揃っとるの」


その人物に、咲と和は落胆の声を。

優希は、安堵の溜息を零した。


「遅れてすまん。始めるとするかの」

「え? 京ちゃんは?」

「なんだ、聞いとらんのか?」


嫌な予感がする。

優希はこの先の展開を、本能的に察知した。


「京太郎は、用事で休むらしい。さっきメールがきての」

「へぇ……」

「……そう、なんですか」


火に油。

一見落ち着いているように見える二人だが、その内面は知りたくなくても伝わってくる。

そしてこういう時に貧乏クジを引くのは、勿論――


「すまんがわしも今日は店が忙しくてな。練習を見てやれん……」


優希は、養豚場の豚の気持ちを理解した。

「本命相手のチョコには血を混ぜるのが女の子の常識なんだってね――ハイ、コレ」


なんとも反応に困る言葉と一緒に差し出されるチョコレートケーキ。

こんな日でも、彼女――竹井久は平常運転であった。


「あ、ありがとうございます」


とりあえずは、お礼と一緒に口にする。

程良く甘い、京太郎好みの味だ。


「お、美味い」

「良かった。だって本命だもの」

「……え゛?」


思わずフォークを進める手が止まってしまうのは仕方のないことだろう。

たった今聞いた話の内容から、ケーキの中に赤色を探してしまう。


「あは、大丈夫よ。変なのは入れてないから」

「ほっ……」

「でさ、それより」


「もっと、聞きたいことがあるんだけど」

久が身を寄せてくる。

気付けば、吐息がかかり睫毛が数えられる距離。


「本命ってのいうのは……嘘じゃないのよ?」

「は、はい……」

「あなたの答えは……どうなのかしら」


「そ、それは……」

「それは?」

「……」


「ほ、ホワイトデーに……じゃ、駄目ですか?」

京太郎の返事は、保留。

男としては情けない限りだが――久は、くすりと笑った。


「そうね。なら、期待して待ってようかしら」

「……すんません」

「ううん、いいの。急だったしね」


「でも――予約は、しておこうかしら?」


一瞬の甘い匂い。

少し遅れて、首筋に小さな痛み。


「ふふ……それじゃ、待ってるからね?」


その傷は確かに、久という存在を京太郎に刻み込んで。

京太郎には、二度と忘れることのないバレンタインとなった。

――それは、2月の13日のことでした。

「いやー、調理室を借りれるとはねぇ」


揺杏ちゃんを先頭に帰宅する私たち。

部活動は今日はお休み。

だって、明日の準備でみんな忙しいから。


「……にしても、良かったわ。何とか形になって」


私の隣で、ホッと溜息を吐くチカちゃん。

思い返すと、彼女はずっと駆け回ってたようか気がする。


「あはは……お疲れさま」


それでいて自分のチョコも頑張って作ってたから、きっとみんなの2倍も3倍も疲れてるのかな。

でも、おかげでみんな無事にチョコを作ることができました。

「うっし! コレでフェアだからな!」


爽ちゃんが自信満々にみんなの顔を見渡して、満足気に頷く。

抜け駆けもなし。小細工もなし。

そう、私たちは――


「ええ……後は、京太郎次第ね」


――明日。

みんなで、彼に告白をします。

みんなで一緒に作ったチョコレート。

彼がどれを選ぶのかは、わからないけれど。

例えどんな結果になっても、きっと後悔は――


「……あれ?」


カバンの中に、ある筈の小包。

手で探っても、開けて確かめても見つからなくて。


「どーした?」

「……チョコ、忘れちゃったかも」


思い当たるのは、調理室に忘れて来ちゃったということ。

……学校が閉まる前に、急いで取りに戻らないと。

タイミングはギリギリ。

何とか閉まる前に、調理室の鍵を借りることが出来ました。


「あ、あった……!」


そしてやっぱり、調理室に置き忘れていた私の手作りチョコレートの小包。

一応開けて中身を確認すると、そこにはしっかりと私のお手製チョコレートがありました。

ホッと一息、これで安――


「ぁわっ!?」


――心した瞬間に、ズルりと滑る足元。

焦っていたせいでしょうか、調理室の床が濡れていたことに気が付かず。

私は、思いっきり全身で転んでしまいました。

「いったぁ……」


固い床に受身も取れず。

そして転んだ時に何かを引っ掛けてしまったのでしょうか、私の指先は小さく血が滲んでいました。


「……あ」


慌てて顔を上げて確認すると、少し皺くちゃになった小包。

その中にある、私のチョコレートは――

「……ほっ」


ようやく、安心。

箱は皺くちゃになっていたけど、中のチョコレートは無事でした。

これなら、帰りに包みを買ってお家でラッピングすれば、明日にはちゃんと彼に渡すことができる筈です。


「良かったぁ……」


今はとりあえず、この包みに入れて帰ろう。

そう思って私は、少し慎重にチョコレートを仕舞いました。


指先から、赤い血がチョコに染み込んでいることには気付かずに。

バレンタイン、当日。

彼が、私たちのチョコレートを選ぶ瞬間。

不思議と、私は確信めいた予感を抱いていました。

何故、でしょうか。



彼が、私のチョコレートを摘んだ時に。

私の胸の中に、緊張とも、ときめきとも違う、新しい高鳴りが生まれたのです。


口を動かす度に。

まるで、私そのものが、彼の下に転がされるような気がして。

気が付いた時には。

私は、ありとあらゆる幸せよりも温かい、彼の胸の中に包まれていました。

じくりと痛む指先さえも、私を祝福しているような気がして。


「……あぁ……」


私は、確信したのです。

この痛みが、私に幸せを運んでくれたのだと。

流した赤色は、幸せの彩り。


そのことに気が付いた私の未来は――きっと、幸せに満ちていることでしょう。

「部長はいつ先生に告白するんだー?」


その日、初めて。

竹井久は、飲んでいた紅茶を吹き出すという経験をした、

「な、なに言ってんの……?」


むせ返り、息苦しさに涙目になりながら優希に突っ込む。

突然の爆弾発言に、折角の休憩時間だというのに久の心はさざめき立つ。


「第一、告白ってそんなの」

「そんなの?」

「あ、ありえないし……先生と生徒だし……」


部員たちの生暖かい視線が妙に妙に突き刺さる。

頰に強く熱が集まっていくのを自覚した。

らしくない、と思っても止められない。

「立場、ということなら……部長は3年生ですし。卒業すれば年齢も問題ないですよね」


切り込んでくるのは優希だけではない。

済ましたように見えて、意外と恋愛に興味津々な和。

それなりに長い付き合いのまこは生暖かい目で見てくるし、咲も苦笑しながらも二人を止めようとはしない。


「……練習! 休憩終わり! 大会まで時間無いんだから!」

「あ、逃げた」

「ヘタレたな」


対して、久の打つ手は逃げの一手。

部長権限で無理矢理会話を終わらせ、練習を再開する。

恥ずかしさを誤魔化すように、両の手の平を強く叩いて。

「まったく、もう……」


両肩をいからせ、早足に廊下を歩く。

優希の発言と妙な空気のせいで、碌に練習に集中できなかった。


「この後、どんな顔して先生に会えばいいのよ……」


大会に向けての打ち合わせと、今後についての話し合い。

部長と顧問という関係上、当然それは避けられない。

避けるつもりもないが――どうしても、さっきの発言を意識してしまう。


「そりゃ、先生のことは……嫌いじゃ、ないけど」

全国に行きたいという久の夢に、真面目に向き合ってくれて。

宮永咲というキーパーソンを連れて来てくれた。

大人として、男性として、久の手の届かない所を一生懸命カバーしてくれた人。


「……」


背中だけじゃ、物足りなくて。

横顔を、視線で追ってしまうこともあったけれど。


「……い、いきなり……告白なんて……ねぇ」


ぶつぶつ呟きながら廊下を歩く。

生徒とすれ違うことがなかったのは、久にとって二重に幸運なことだった。

なんせ――今の自分を鏡で見れば、恥ずかしさで悶絶してしまうような表情を、彼女は浮かべていたのだから。

不意に、開けっ放しの窓から風が吹く。

程良い涼しさを持った風に、久の頬と思考は強制的に冷まされた。


「……はぁ」


一つ溜息をついて、窓を閉める。

こんなのだから、部員たちに言いようにからかわれるのだろう。


「……もう」


しかし、お陰で冷静になれた。

職員室の前で、久は気を引き締めてドアに手をかけ――



「俺も、愛してるよ……貴子」

「ああ、わかってる」



「はは、浮気なんてしないって」


「そうだな……」


「……電話じゃ、言えないから」


「全国」


「全国大会が終わったら、言いたいことがあるんだ」

身体が、意思に反して固まって。

聞きたくない言葉だとしても、耳を塞ぐことすら出来なかった。


「……ん? 竹井か?」


結局、電話が終わって久に気付いた京太郎がドアを開けるまで。

久は、まるで床に縫い付けられたかのように、一歩も動けなかった。


「……電話、してたの?」

「あぁ……待たせちゃったか。ごめんな」


ううん、と首を横に振って。

久は、職員室に足を踏み入れた。

貴子、という女性は先生の愛する人なんだろう。

私が後ろ姿を見ていた時。

きっと――その人は、私よりもずっと近い距離で。


「先、生……」


知らないうちに、手を強く握る。

強く込み上げてくる気持ちは悲しさなのか、悔しさなのか。

それすら、彼女にはわからない。

わかったとしても――その手に、彼が触れることはないのだから。

ベッドに潜り込んで、目を閉じても。

久の心の中には、彼のことばかり。


「……痛い」


爪の食い込んだ手の平から、噛んだ爪から血が出ても。

彼女の心の渦は、止まらない。

いつも、中心にあった筈の彼が、今は果てしなく遠い。


「……あぁ」


だから。


「そっか……」


痛みの中で、彼女は気が付いた。


「……そうすれば、いいんだよね」


彼が触れてくれないなら――自分で、触りにいけばいいだけ。

「竹井、二人きりで話って?」


必要なモノは、たったの3つ。


「……先生とは、3年の付き合いだから」

「おう?」

「先生にしか、言えないことがあるの」


夏が近づいている時期。

差し出したアイスティーを、彼は何の疑問も抱かずに口にした。


「貴子さんって……風越のコーチよね?」

「竹井……?」

「もし、そんな真面目な人が」


「恋人が教え子に手を出したって知ったら、どうなっちゃうのかしら?」

眠る彼に跨って。

久は、歪に微笑んだ。


「写真は撮ったし……後は」


彼が、苦しげな呻き声を上げる。

もう間も無く、目を覚ますだろう。


「あはっ」


携帯を操作しながら、久は思い付く。

電話で、彼が愛しの相手に話していた内容。


「全国大会が終わった後に別れ話とか――傑作だなんて、思わない?」

室内に、女の怒声が響く。


「お前が! お前が、京太郎を!」


振るわれた拳は、容赦なく彼女の頬を引っ叩く。


「やめろ! 貴子!」


彼女のしたことは、誰も幸せになれない行為。


「……あは」


それでも、彼女は笑みを止められない。

先生にも、女にも立場がある以上は、自分の要求を飲むしかない。

そして――


「……お腹には、触らないんだ?」

「お前……!」

「まさか……」


命の責任を。

先生が、捨てられる筈がないのだから。

ただ一つ。

彼女の、誤差は。


「……もう、いい」


何もかもを捨てても、彼を手に入れたいという願望。


「……貴、子?」


それを。


「お前が……」

「おい、貴子……!」

「お前が、いなければ……!!」


相手の女も、持っていたということ。

首にかかる、強い力。

それは、彼には止められない。

薬で動けない彼には、どうしようも出来ないから。


「あ、が……!」


足掻き、踠いても腕を退かすことは出来ず。

女の爪が、首に食い込んで血が流れた。


「……ぁ」


最後まで、声は出ず。

愛した人の、目の前で。

必死に、彼の方に、目を向ける。


降りてくる瞼と、霞む視界の中では彼の顔もわからなかったけれど。

きっと、子どもみたいに泣いているんだろうと、思った。


「――」


涙を拭おうと、伸ばした手は。

最期まで、触れられなかった。

「……あ、ん?」


智葉が部室に来た瞬間、少し間抜けな声を出してしまったのも無理はない。


「あ、サトハ」

「お疲れさまです」


ぷらん、と京太郎に両手を引っ掛けてぶら下がるネリーと、それを支える京太郎。

京太郎がネリーを抱っこしているようにも見えるが、明らかに部室でやることではない。


「……何やってんだ、お前ら」

「いや、ネリーが昨日テレビでプロレスを見たらしくて」

「スゴかった! こう、ガーッて」

「あぁ……」


つまるところ。

テレビで見た技を京太郎相手に再現しようとしたが、ネリーには体格も技量も足りていなかった、と。

その為、じゃれついているようにしか見えないということだろう。

「むぅ、全然効かないなぁ」


そりゃそうだろう、と。

智葉が突っ込む前に京太郎はキラりと歯を光らせて、


「だから言ったろ? 俺はとっくのとうにネリーに落とされてるって」


――うぜぇ。


反射的に本音が溢れてしまった。

側から見ているだけの智葉がそう感じるのだから、真正面のネリーはさぞや――


「キョウタロー……!!」


――感動、していた。

雀卓の上で数々の修羅場をくぐり抜けてきた智葉も、これには口の端を引き攣らせた。

「ねぇ、キョウタロー……もっと、プロレスの技を試したくなっちゃった」

「おう、勿論――」

「寝技、ね!」


智葉が固まっている間に、二人だけの世界が更に深まっていく。

二人は抱き合ったまま、智葉の横を通り過ぎて。

桃色の空気を振りまきながら、部室から出て行った。


「サ、サトハ……?」

「……何も、言うな」


後から部室に入ってきたメグは、試合でもないのに髪を纏めて眼鏡を着けている智葉の姿に驚いて。

その怒気を抑えているような様子に、何も言うことはできなかった。


「やって、られるか……!」


そして。

自分がサトハの憂さ晴らしの相手となることに気が付き――やれやれだと、溜息を吐いた。

有珠山だと何故かなるかちゃんと由暉子が中心になりやすい印象


後で先生編再開します

はじめますん

「……いてぇ」


自身の泊まる部屋に戻ってきた途端、京太郎は肩を押さえてソファに身を委ねた。

シロの前では痩せ我慢を通していたが、やはり肩への負担は大きい。


「……湿布でも買いに行くか」


キャラ安価、下3ー

「これでちょっとはマシになるだろ……」


ドラッグストアで購入した湿布を貼り付け、一息吐く。

これ以上悪化するならば病院行きだが、取り敢えず今日は部屋でゆっくり休もう。

そう決めて、自身の泊まるホテルへと足を早める京太郎だが――


「せーんせっ」


いつだってこの教え子は、唐突に押し掛けてくる。

京太郎を見るなり、瞳を輝かせて駆けてきた淡。

白糸台優勝の立役者で、京太郎が面倒を見た一年生の中では最も関わりが深い子。


「ちょうど良かった!」

「ん?」

「探してたの、せんせーのこと」

「探して……?」


今の白糸台は祝勝ムードに浸っているか、或いは既に個人戦に向けての対策を練り始めているところだろう。

特に団体戦で最も活躍したといっても過言ではない淡が自分を探している意味は――


あわあわ判定直下
1~50 「直接、せんせーと打ちたくて!」
51~00 「ご褒美、貰いに来た!」

「ご褒美、貰いに来た!」

「ご、ご褒……美?」


なんというか。

今の淡の姿と、飼い主の帰りを尻尾を振りながら迎える犬の姿がダブって見えた。

全身で喜びを表現しているというか、もし京太郎に淡のオーラを見ることが出来たのなら、とても眩しくて直視できなかっただろう。


「私、頑張ったもん」

「うん」

「うん!」

「……うん?」


どうやら――淡の中でご褒美を貰えることは、既に確定事項のようだ。

確かに、劣勢だった白糸台を優勝させた淡には何かしらの褒美を与えてもいいかもしれない、が――


京太郎選択肢 直下
1.「そうだな、何がいい?」
2.「他のみんなは、どうしたんだ?」
3. その他

「そうだな、何がいい?」


京太郎は頷いて、淡の求めるものを尋ねる。

腕の痛みもあり、その要望によっては後回しになるが、出来る限りのことは聞いてやろう。


「えへへ……ね、せんせー。ちょっと屈んでよ」

「ん? おう」

「んー……もうちょい!」


淡の意図が今一読めないが、要望に応えて膝を曲げる。

目線が淡と等しくなる程度に身を屈めると、淡は満足気に頷いて、


「これ、予約だから!」


頰に、彼女の唇が、重なった。

予想していなかったことに、身体と思考が固まる。


「せんせーからしてくれるの待ってたんだけど……」


そんな京太郎を前に、淡はイタズラが成功した子どものように微笑み、ペロリと自分の唇を舐めた。


「待ちきれなくて、やっちゃった♪」

「淡、お前――」

「えへ、唇は……個人戦の後に、とっとくから!」


自分のやりたいことを押し付けて、淡は踵を返して走っていく。

あっという間に彼女の姿は見えなくなって、頰に残る湿った感覚だけが、強く感じられた。

教え子たちの告白。

現実だと信じたくはないが、腕の痛みも、頰に残る感覚も、確かにあるもので。


「マジ、かよ……」


頭を過るのは、身を投げた時のシロの顔。

そして、決勝戦を終えた後の淡。

もしも、あの時に感じた危うさがシロのそれと同じものなら――もしかすると、取り返しのつかないことになるかもしれない。


「……」


京太郎が立ち上がり、ホテルへと戻れたのは、ずっと時間が経って日が沈んでからだった。

まだ大丈夫、でも


キャラ安価下3でー

淡への答えは、シロと変わらない。

その気持ちに、応えるわけにはいかない。


「……」


だが。

あの時のシロのように。

淡が、危険な行為に踏み出したら――



咏との関係 直下
1~33 何度か対局したことある人
31~66 先輩後輩
67~99 実は昔……
ゾロ目 ???

彼女にとっての須賀京太郎は――尊敬する先輩の一人という認識だった。

一部のモノがオカルトと呼ぶ、自分の特質性だけに頼らずに対局に臨む姿勢は好ましい。

加えるなら、単純に人柄と顔もタイプである。

だが、あくまでそれだけで――特別な感情は、持っていなかった。


ある時、までは。

小鍛治健夜に、彼が敗北した。

落胆する者もいたが、彼女には半ば予想がついていたこと。

だから、彼が表舞台から姿を消しても――残念に思うことはあっても、仕方ないと諦めがついた。


「……え」


全てが変わったのは、冷たい雨が降る朝。

ある駅のホームで、酷く草臥れた様子の彼を見てから。

無精髭に、皺だらけのスーツ。

目元の酷い隈に、虚ろな目付きはまるで浮浪者のよう。

あまりの変わりように、誰もが彼を避けて通る中――彼女には、一目で彼が京太郎だということがわかった。


「先、輩……?」


彼女に、いつものような飄々とした態度はなく。

気が付けば、一歩ずつ彼に歩み寄っていて。

伸ばした手は、


「そんなところで寝てると、風邪ひいてまうよ~?」


届くことは、なかった。

知らない女に手を引かれて、去っていく彼。

彼女の胸には――奪われたと、ただそれだけの想いが、残されて。


「浮かない顔をしてるねぃ――先輩?」


こうして再び巡ってきた機会に、彼女は感謝した。

今度は逃さないと、口元に浮かべた笑みを扇子で隠して。

というわけで今夜はここで区切ります

ここまで引っ張っといて初登場キャラのゾロ目でいきなり爆発はどうかと思いこんな形に
もちろん咏ENDも有り得ますが


それでは、お付き合いありがとうございました!

「浮かない顔をしてるねぃ――先輩?」


直接耳にするのは、随分と久しぶりな声。

けれども、その手に持つトレードマークの扇子と着物は忘れようがない。


「あなたは……相変わらずですね、三尋木プロ」

「先輩は老けたね」


三尋木咏。

現役時代に何度か対局を交え、プライベートでもそれなりに交流のあった同業者だ。

「今は……短期の特別講師やってんだっけ」

「はい……まぁ、今はフリーですけどね」

「ふーん?」


先輩で口元を隠したまま、咏はじいっと京太郎を見つめる。

相変わらずの遠慮のなさに、京太郎は苦笑しながら頰をかいた。


「……なるほど、わかった」

「はい?」

「悩みの中身も――多分、その教え子関連でしょう?」

「……」


「……図星ってツラしてるねぃ。そいじゃあ、どっか別の場所で話さない?」


ついでに奢りますよ、と咏は誘う。

京太郎は、その誘いに――


選択肢直下
1.頷く
2.断る

京太郎が咏に誘われた先は、とある料亭。

普段は滅多に入ることのない、格式高い場所だが。


「ここは」

「先輩とここに来るのは久しぶりだね。覚えてる?」

「あー……確かに一度、来たことあるな」


過去に一度、咏と二人きりで来た記憶がある。

なるほど――ここならば少なくとも教え子がやってくる可能性はなく、話をするにはちょうどいい場所なのかもしれない。


「そいじゃま――何から、話そうか?」

「……それは、俺の台詞ですよ」

「そもそも、何で先生なんか?」

「それは――」


全ての始まりは、健夜との再戦後。

燃え尽き症候群とでも言うのか、勝負への熱意が徐々に冷めていることを実感したこと。

それから、ある人に次の世代を育てることを勧められて。


「なーるほど。その教え子たちが決勝戦の4校か」

「はい」

「ふんふん。で、その教え子たちに告白された……と」

「はい――え?」


当たり前のように続けた咏に、コップを口に運んでいた手が止まる。

まだ、そこまでは話していない。

それどころか、郁乃や貴子、良子との関係すら明かしておらず、話の中には恋愛の影もないというのに。


「……まぁ、女のカンってヤツさ。知らんけど」

「先輩は昔っからそうだったからねぃ」


くいっと、咏はコップの中の水を飲み干す。

上品とは言えない、この場にはそぐわない飲み方だった。


「……で、まぁ。私からのアドバイスだけどさ」

「……」

「さっさとフっちゃえってのが本音。どうせ――応える気なんて、無いんだろう?」


幻想を見せる前にさっさと現実を叩き付けろ。

煮え切らない京太郎に対して、咏はきっぱりと言う。

勿論、京太郎もシロのことが無ければそうしていたが――


「フった後の相手のことなんて、先輩が考えることじゃないさ」

「……だが」

「だがもなんも無いね。恋愛なんて惚れた方の負け」


「勝手に惚れて勝手にフラれて――そこに、先輩の責任なんて何処にも有りゃしない」

それが出来れば、そういう風に切り捨てられれば。

京太郎も、ここまで悩みはしない。


「……自殺、されたら?」

「うん?」

「目の前で……飛び降り、されたんだよ。フった子に」


告白を受け入れなかった時のシロの表情は、いつまでも頭から離れない。

あんな想いは――二度と、したくない。


「何とか、その時は何とかしたけど……」

「じゃあ、今度も何とかするしかないねぃ」

「……」

「だいじょーぶ。一度出来たんだから出来るって――出来なきゃ、死ぬだけだけどさ」


「フったら面倒、受け入れる気は無い……なら、面倒でも何でもフるっきゃないっしょ」

「ま、そんときゃ私も協力するよ。乗り掛かった船だしねぇ」

「……ありがとう」

「いいって。先輩と私の仲だろ?」


頭を下げると、咏は何でもないことのようにヒラヒラと片手を振った。


「もう一個、解決案はあるんだけど……ね?」

「……それは?」

「ふふ……」



うたさん判定 直下
1~33 ……今はまだ、お預けだねぃ
34~66 ぜーんぶ、どっかにぶん投げちゃえよ
67~99 婿養子って興味ない?
ゾロ目 ???

「婿養子って興味ない?」


一瞬、咏の言葉を聞き間違えたと思った。

何度か目をまたたかせ――それでも変わらない咏の眼差しに、漸く今の台詞が幻聴でないことを理解した。


「み、三尋木、プロ?」

「ん。まーそういう手もあるってコトで」


それが咏なりの冗談なのか、本気なのかは分からない。

ただ――


「二進も三進も行かなくなったら私の元においでよ。可愛がってあげるからさ」

「は、はは……考えとく」


三尋木咏という女性が、自分のことを気に入ってくれていることは、確かなようである。

「……ま。道が全部潰れたら――もう、それしか無いからねぇ?」


扇子に遮られた言葉は、彼の耳には届かない。

咏さんの先輩呼びは某伝説のあの呼び方が好きだから


キャラ安価下三ー

豊音

「先生ー」


咏との邂逅の後、ホテルのロビーへと戻ってきた京太郎にかかる声。

見上げれば、その相手はすぐにわかった。


「お出かけしてたんですかー?」


宮守の大将で個人戦の出場選手、姉帯豊音。

その様子と口振りからするに、自分のことを探していたようだ。


「ん、まぁちょっと昔馴染みと会っててな……何か用か?」

「良かったら、個人戦への調整をお願いなーって」

「それは構わないけど……後で、でもいいか?」

「はい! いつでも大丈夫だよー!」


自分のことを頼ってくれるのは嬉しいし、そういう仕事を選んだのだから豊音の調整に付き合うことに問題は無い。

たが、今は少し休みたかった。

淡との出来事や咏との話を、頭の中で少し整理したい。


「それじゃあ、また後で連絡するから」

「あ、先生――」


部屋に戻ろうとする京太郎に、豊音は――


判定直下
1~50 「個人戦では、絶対勝つよー!」
51~98 「シロと、なにしてたのー?」
ゾロ目 ???

「個人戦では、絶対勝つよー!」


ムン、と力こぶを作るポーズを取って、豊音は自信満々に宣言した。

その瞳からは強いリベンジの意思が伝わってくる。


「大将戦では大星さんに負けちゃったけどー……絶対、リベンジするから!」


敗北を引き摺らない強い心は、先生としても教え甲斐がある。

淡との出来事の後で沈んでいた心が、少し軽くなったような気がした。


「よーし……じゃ、スパルタで行くからな!」

「どんと来い、だよー! むしろ、激しい方が……えへへ」

「……は、はは」




――先生が、いてくれるから。

――みんなとのお祭りが終わっても、先生がいてくれれば――

宮守の面子も交えて、豊音の調整を終えた後。

日も沈み、完全に夜になった頃。

京太郎のドアを叩く、ノックの音。


「先生、少し話したいことがあるんですが――」


長い夜になりそうだと、京太郎は直感でそう思った。

ということで今夜はここまで
何かスランプ気味
当たり前だけど全員が全員同じ病み方するわけではないです


それでは、今夜もお付き合いありがとうございました!

乙です

こっそり小ネタ安価 下三

男は外で働き、女は家事をする。

古色蒼然とした考えではあるが、自分が家事を担当することに不満はない。

こうして自分が家事をすることで、彼は喜んでくれるに違いないのだから。


「ふふ……」


同棲――そう、あくまでハオの中で京太郎は同棲相手。

高校生である自分たちに、夫と妻という関係は少し早い。

勿論、ハオとしてはそう呼び合うことに異論はないが――少し五月蠅い輩がいる。


「ああ、でも……共働きも、悪くはないですね」


籠から洗濯物を取り出しながら、ハオは未来を妄想する。

夫婦でタッグ戦に出る未来、京太郎が専業主婦として家を守る未来、自分がプロにならずに妻として――


「……む」


回転の速い頭で様々な将来のヴィジョンを描き出している中、籠の中から取り出した物にハオの思考が固まる。

その白い指が掴んだモノ。女としての役割を停止させたものは――


「これ、は……!」


――彼の、下着。

ただの布切れでも、その枕詞がつくだけで自分の胸の中が興奮に満たされていくのを実感する。


「……」


ゴクリと、喉がなる。

不可思議な魔力に、目が離せない。瞬きすら惜しい。

彼はまだ寝ている。つまり、この場にいるのは自分一人であり――




「……あれ。パンツが一枚無いような」

「気のせいでは?」

こっそり小ネタ安価下三

「おだやかな心を持ちながら激しい怒りによって目覚めた伝説の戦士……」


鎖で壁に繋いだ彼が、ようやく口にした言葉に――透華は、ついに愛しの彼の気が触れてしまったのかと思った。

確かに、少々強引な手段で彼を連れてきてしまったが――


「どうやら……『教育』が必要なようですね」

「……教育?」

「ええ……あなたは……少し、毒されてしまった。あの男に――」

「あの、男?」


ピシリと、鎖から不穏な音が聞こえた。

まさかと目を見開くが、不穏な音は止まらない。

それどころか段々と大きくなっていき、亀裂は壁にまで広がっていく。


「ハギヨシさんのことか……」

「っ!?」

「ハギヨシさんのことかぁあああああああッ!!!」



――その日。

龍門渕の屋敷は、消滅した――

「血の赤色が、幸せの色なら――」

「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ――」

「いらないものは全部、間引いて――」

「なぁ、京くん? あのな、ちょっと話を――」


「破ァッ!!」


研鑽された執事の技を駆使して、ハギヨシの意志を受け継ぎ、立ちはだかる女の情念を薙ぎ倒す。

次々と迫り来る悲劇の爪をくぐり、京太郎は闘い続ける彼に、安息の日々が訪れるのは――


「キョウタロ、キョウタロ」

「ん?」

「ネリー、お腹空いちゃった♪」

「……たく、しょうがねえなぁ」


――意外と、近いのかもしれない。



「なんか食いたいもんあるか?」

「んー……キョウタローのなら、なんでも!」

「……しょーがねぇなあ」


強固な壁を砕き、刃物を弾く肉体も。

くいくいと袖を引っ張る小さな手だけは、拒めなかった。


「……惚れた方の負け、だよなぁ」

「なんか言った?」

「何でもない。んじゃ、俺んち行くか」

「やた♪」

伝説のスーガーサイヤ人とかフュージョン(意味深)とか入れたかったけど忘れた

小ネタ安価下三でー

歴史は繰り返す、というか。

昔に流行ったクジ引きの指令が今の阿知賀こども麻雀くらぶで再び流行るとは、思いも寄らず。

さらに加えて言うなら――


「ひなのほっぺにチュー……あやと一緒にオフロ……!?」


指令の中身に、大きな問題がある。

指令を放棄するなら次は倍のくじを引かなければならないが――問題を先延ばしにするどころか、更に悪化する未来が見える。


「きょーちゃん?」

「どーするー?」


ジリジリと迫り来る綾たちに、京太郎の取る選択肢は――


「……あ! 俺宿題やらなきゃ! じゃあな!」


――逃げの一手、であった。

所詮、相手はまだまだ子ども。

この場さえ誤魔化せばどうにかなるだろうと踏んでの逃走である。

問題があるとすれば、


「ねぇ、きょーちゃん」

「知ってる?」

「ガムテープって結構頑丈なんだよ!」


子どもたちの行動力を、余りにも甘く見ていたこと。

寝起きの京太郎を取り囲む綾たち。

手足を雁字搦めに縛られ、口も塞がれた状態ではどうしようもなく。


「指令、全部やめたってことは――」

「この箱の二倍、やってくれるんだよね!」


ティッシュ箱いっぱいに詰められた指令の紙。

ジリジリと迫り来る子どもくらぶの面子に――


「――ッ!!」


――京太郎は、まな板の鯉の如く、身動ぎすることしか許されなかった。

綾たちの手に、なすがままにされるのを待つのみである。

小ネタ安価下三ー

数分以内の連投はなしでー

姉と妹は、無言で睨み合う。

血の繋がった相手を、憎しみの篭った眼差しで。

例え唯一の姉妹でも、彼を譲ることは絶対にできないから――


「この、ばかちん!」

「あぅっ」

「いっ」


ゴチン、と立て続けに連続で響く拳骨の音。

大きなたんこぶを摩りながら、二人は涙目で彼を見詰めた。


「刃物とか、喧嘩に持ち出しちゃダメに決まってるでしょうが!」

「だって……」

「さ、咲が……」

「言い訳しない!! 照さんもお姉さんでしょっ!!」


しゅん、と縮こまる二人。

毎度の如く、彼の仲裁で姉妹の修羅場は強制終了となる。

憎しみだとか何だとか言っても、彼に叱られるのは怖い。

それに――


「まったくもう……反省したか?」

「……はぃ」

「……うん」


「それじゃあ……仲直りの、プリンでも食べるか。ハギヨシさんに教えてもらったんで」

「え……!」

「やった……!」


毎度の如く餌付けをされては、怒りも直ぐに萎んでいく。

今日も今日とて、二人の胃袋はたった一人の少年に懐柔されていくのであった。

照ってあんまポンコツのイメージがない


小ネタ安価下三ー

――曰く、健全な精神は健全な肉体に宿る。


皆で激しい運動(意味深)をして仲直りした有珠山

吹っ切れた。

彼の気持ちを一言で表すなら、それが一番相応しい。


「ハァ……は、激し、過ぎ……」

「んっ……」


仲直りをするには、やはり運動で一緒に良い汗をかくのが丁度いい。

その証拠に――成香と由暉子の顔からはお互いへの憎しみがさっぱりと抜け落ちている。

上気した頬に浮かぶのは、隠しようもない悦びの感情だ。


「ふぅ……それじゃ、二回戦と行きますか!」

「え――」

「ち、ちょ、ま――」


――待たない。

熱したモノが冷めないうちに第二ラウンドへと突入すべく、京太郎は二人へと飛び掛った。

「へぇ?」

「楽しそうなこと、やってんじゃん?」

「……え?」


行為を中断させたのは、聞き覚えのある先輩たちの声。

真冬の北海道の冷気を吹き飛ばすような、激しい熱の込められた声。


「んじゃ――私らも、混ぜて貰うかなっ!!」

「え、ちょ」


そこに、逃げ場はなく。


「……あはっ」

「ようやく、慣れてきました……!」

「あ、ま、待――」


――待ったも、ない。

こうして――実に健全な運動に励むことによって、有珠山麻雀部の絆は、何よりも強固なモノになったのである。


「ぐ……ふっ」

「ダイジョブダイジョブ、頑張れ頑張れ男の子ー」


たった一人の少年への負担については――些細な、問題である。

小ネタ安価下三ー

「須賀くん……」

「二人まとめて――貰ってくれる?」


こんなことがあっていいのか、夢じゃないか――と頬をつねっても、目の前の光景は現実のものである。

美人な先輩二人に同時に告白されて。

しかも、どちらも選ぶことが出来るという素晴らしいシチュエーション――勿論、答えはイエス以外にあり得ない。


「なら、今から須賀くんは――私らの、ご主人さまばい!」


ちょっとはやまったか?――などと思っても、お釣りがくるレベルで可愛い二人。

今更答えなど、変わるはずもない。


「須賀くん……♪」

「はやくぅ……♪」


そして、初めての夜。

先輩二人が待つ寝室の扉を、京太郎は興奮と共に開き――

「さぁ」

「いっぱい、いじめて……♪」


床に転がる無数の拘束具。

それは、映像で見たものよりも過激なものばかりで。


「須賀くん……?」


入口に立ち尽くす京太郎に、姫子は首を傾げて。

哩は、納得したように頷いた。


「やり方がわからないなら――実践するばい!」


冗談じゃない、と。

怖気づいて、後退る京太郎の耳元に、鎖が擦れる音が聞こえて。


「――え?」


気が付けば。

身体中を、雁字搦めに縛り付ける鎖。


「あはっ♪」


蜘蛛の巣に囚われた蝶のように。

京太郎は、哩の指先を――ただ、受け入れることしか、出来なかった。

新道寺ペアなら何しても良さげな風潮
一理ある


小ネタ安価下三ー

ギスギスした臨海でネリーの無邪気さに癒やされる京太郎

「今日は、私の番ですね」


ふわりと香る髪の匂いが、鼻腔をくすぐる。

世界ランカーによる特別授業。

近過ぎる距離が伝えてくれる、彼女の柔からさと匂い。

雀士としても、男としても、これ以上の環境は無いだろう。


「……チッ」


――すぐ側からの、鋭い目線さえ無ければ。

智葉、ハオ、明華。

日中仏と、グローバルな美少女が集まる臨海麻雀部。

その子たちから好意を向けられていると知って喜べたのは、ほんの一瞬のこと。


「売女が……っ」


愛情と愛情が重なれば――それは、相手への嫉妬や憎しみに変わる。

自分を挟んで飛び交う彼女たちの視線に、京太郎の胸の内は抉られるばかり。

今日も今日とて――チャイムが鳴るのを、待つしかない。


「……ふふっ」


滑らかな明華の指を拒めない自分への情けなさも募る。

きっと彼女は、そういうところも含めて、京太郎へアプローチを仕掛けているのだろう。

「キョウタロー!」


下校途中、腕を強く引っ張られる感覚。

もはや、振り向かずともその相手は理解できるし、要件もわかっている。


「ん、何か食いに行くか?」

「え゛……キョウタロ、超能力者……ってヤツなの?」


驚いた顔で、何やらブツブツとつぶやき始めるネリー。

どうせその内容は金儲けの算段なのだろう。


「バーカ」

「あぅっ」


その小さな額に、デコピンをしてやる。

なにすんのさ、と不満顔になる彼女だが――


「……うん?」

「コレ、ステーキの半額クーポン貰ったんだけど――」

「早く行こっ! 空腹は待ってくれないよ!」


実に予想通りの反応に、頰が緩む。

裏表が無い、というか欲に忠実というか。

『女としての』駆け引きが無いネリーは、京太郎にとって一番の癒しである。



「……えへっ」


そう。

京太郎に、とっては。

ネリーのデレ度下げてちょい病めるとこんな感じ


小ネタ安価下三ー

「わかっています。わかっていますよ、京太郎様」


聞きたくない。

けれど、縛られた手では耳を塞げない。


「京太郎様も、男の子ですから……」


彼女が、その手で引き摺る誰か。

赤くて、顔はグチャグチャで。

呻き声は酷く掠れて、とても人のモノとは思えない。


「でも――コレは、別です」


だけど、京太郎は知っている。

唯一、日に焼けた肌の子を。

黒い髪で、巫女服を着た彼女を――



「身の程を、知りなさい」


鈍い音がして。

何かが潰れて、京太郎の頰が濡れた。

はっちゃんは何というか……うん

小ネタ安価下三で

――曰く、健全な精神は健全な肉体に宿る。


皆で「激しい運動(意味深)」をして仲直り -宮守編-

どんどん、とドアを叩く音がする。

自分を呼ぶ、女たちの声がする。

布団にくるまって耳を塞いでも――それらは、鳴り止むことはない。


「ねぇ――ちょっと、お話がしたいだけなの」

「あぁ……いるのは、わかっているよ?」


全国から集まったらしい、少女たち。

初めて出会う筈なのに――何故か、その声には聞き覚えがある。


「ふふふ……本当に、酷い人」

「あ……」


この声は、夢で聞いた声だ。

夢の中の自分は、超能力のようなものが使えて。

何でも好き勝手に、振舞うことが出来た。


「で、でも! あれは、夢……夢の、筈で――」

「夢……ねぇ」

「ひっ!?」


どこから、入って来たのか。

いつの間にか、ベッドの隅に、巫女服を着た女が立っていて。


「そう……夢なら」

「あ、あぁ……」

「夢なら――何でもしていいってことに、なるわね」


ゆるりと伸ばされてくる腕を前に――京太郎は、意識を失った。

夢だけど、夢じゃなかった


小ネタ安価下三ー

――曰く、健全な精神は健全な肉体に宿る。


皆で「激しい運動(意味深)」をして仲直り -愛宕家編-

小さい頃の思い出。

築き上げてきた信頼。


そんなものは――本当に、崩れる時は一緒で。


「あなたが、そんな人だったなんて」

「ち、違っ」


やめて。

そんな目で、私を見ないで。

心の悲鳴は、彼には届かない。


「……二度と」

「い、いや……」


聞きたくない。

それ以上は、言わないで。


「二度と、俺に。話しかけないで下さい」

「あ――」


縋り付く手を、彼は穢らわしそうに、弾いて。

閉まっていく扉の向こうで――二度と、彼が振り向くことは、なかった。

全員ヤンデレ阿知賀(レジェンド含む。但し全員ポンコツ)

信じていたものに、裏切られた。

今まで、友達だと思っていた、彼女たちに。


「あ、ぁ……」


信用を、全てを、奪われて。

唯一、信じられる彼も、もう行ってしまった。


「……私、は」


なら、もう。

私の、信じられる、ものは。


「……あ」


――声が、聞こえる。

本当に幼い頃から、一緒にいたものたち。

九つの、異なるものたち。



「そう、でした……ね」


決して、自分を裏切らないものたち。

もう自分には――彼女たちと、彼さえいれば。


「……待っていて、ください」


他には。


「迎えに……行きます、から!」


何も、いらない。

オカルト最強No.1

小ネタ安価下三ー

長かった髪を切った――仕事の邪魔になるから。

化粧をやめた――髪を切ったのと、同じ理由で。


「それじゃ……行って、くるわね?」


眠る彼の頰に口づけを落として、私は今日も仕事に出かける。

私の今日のシフトは朝一。

対して、彼は今日は夜勤。

もしかしたら、今日に彼と触れ合えるのはコレだけかもしれない。

そう考えると、とても寂しいけれど――仕事は、私を待ってはくれない。


「……ん。ぁ、こ……?」

「あ……あはっ」


寝惚けた彼が、私の名を口にする。

それだけで、胸の奥底から気力が湧いてくるのだから――我ながら、現金だと思う。



「ありがと」


最後に、彼の瞼にキスをして、私は部屋を出た。


短く切った髪も、手入れが出来ずに荒れて行く肌も、もう惜しくはない。

そんなことしなくても――彼は、ずっと見てくれるから。

基本的にハッピーエンド至上主義


小ネタ安価下三でー

家庭教師明華「ノーサイド♪」

全員ヤンデレ阿知賀(レジェンド含む。但し全員ポンコツ)

――健全な精神は健全な肉体に宿る。

全て任せておけ、とトシは言ったが――


「……運動しろっても、麻雀部でなぁ」


部屋の中には先輩方が5人に自分が一人。

先輩たちを仲直りさせるためにトシがセッティングした食事会だが、当の本人はここにいない。


「……はぁ、はぁ」

「せ、先輩? 大丈夫ですか?」


さらに、隣に座る豊音の様子がおかしい。

頰は赤く、汗がつたっている。

大丈夫、と豊音は首を振るが――他の先輩たちも、似たような状況だ。


「……うっ!?」


そして、自分も。

急に全身が火照り始め――どこがとは言えないが、急に元気になってきた。


「ま、まさか――」


この、食事に。

そう言おうとした口は、飛びついて来た豊音に塞がれて。


「あ、あは……!」

「なんだか、我慢できないや……!」


本能に忠実になった部員たちに囲まれて――京太郎は、心身共に、健全な運動の意味を知ることになった。

彼女たちの卒業後も、この運動会は定期的に開かれることになるが――それはまた、別のお話である。

小ネタ安価下三で

>>362

「……はぁ」


屋上で空を見上げると、白い溜息が出て来る。

どうして、こんなことになったんだろう。


「……」


あの二人は。

今も同じ空の下で、私と同じ様に空を見上げているのだろうか。

手紙だけを残して、何処かへと消えてしまった、あの二人は。


「追いかて……みようかなぁ」


あの二人のように、愛のために何もかもを捨てて。

家族も、友達も、今まで関わってきたもの全てを放棄して。

それも、魅力的なもののように思えるけれど。


「そろそろ……なるかが起きる頃かしら」


今はまだ、友人の方が大事。

きっとあの子は、彼がいなくなったと知ったら――大変なことに、なってしまうから。


「今はまだ……ね」


待っていて、と一言残して。

誓子は、屋上を後にした。

ちかちゃんはこんなポジションなイメージ


小ネタ安価下三ー

「もしかしなくてもさ――京太郎って、ユキのことが好きだろ?」


先輩に、そう言われてから。

何故か、彼の顔を直視できなくて。

「ん? ユキ、その眼鏡は」

「ええ……コンタクトを、忘れてしまって」


厚いレンズを通したからって、それが変わるわけがないのに。


「へぇ……何だか、懐かしな」

「……そう、ですね」


彼の言う通り。

出会った頃の私は、この大きなレンズの眼鏡をかけて。

髪型も、もっと野暮ったいもので。


「……うん。やっぱり、そっちも俺は好きだなぁ」


それでも――彼は、その頃から、側にいてくれて。

私を、助けてくれました。

私が持っている、今の私への自信。

それは、先輩たちが私をコーディネートしてくれたお陰。


「……須賀くん。少し、買い出しに行きませんか?」

「お、いいぜ。荷物持ちなら任せとけって」


思い出すのは、一緒にプリントを運んでいたあの頃。

あの時みたいに、二人で並んで歩くのは久しぶりだけど。


「ふふ……頼もしい、ですね」


今は――ほんの少し、一歩分。

先輩がくれた自信の分だけ、あの時よりも、近付いて。

ゆっくりと、私たちは、歩いて行きました。

ユキは王道ラブコメいける、多分


小ネタ安価下三ー

「絹が……京太郎に?」

「お姉ちゃんに教えて貰うより……私のが、京太郎くんも嬉しいやろ?」


自分を挟んで睨み合う姉妹。


「あら~末原ちゃん、今日は言わへんの? 凡人やって」

「ふん……からかうばかりでまともな指導もできない代行は黙ってて貰えます?」


自分を挟んで罵り合う、大将と監督代行。

いつから、この麻雀部はこんなに刺々しい空気になったのか。


はぁ、と深い溜息を吐いて。

同じく深く溜息を吐いた――由子と、目があった。



――今度、一緒にお茶しません?

――いいけど、みんなにはナイショなのよー。


苦労人同士――確かに、心が通じ合った瞬間だった。

小ネタ安価下三

由子が部室の戸を開けた瞬間――肌を刺すような空気を感じて、思わず数歩後退りした。

普段とは異なる――いや、普段は自分を避けて通る刺々しいモノの全てが、今は自分に向けられている。


「とんだ、食わせもんやなぁ……」


由子は、全て理解した。

彼と一緒にお茶したことが、何故かバレてしまったことを。


「……はよ、こっち来いや。ちいと、話をするだけやん」


自分は、彼にその気はない。

友人としては好ましい相手であるが、恋愛対象ではない。


「汚らしい……」


だが、それを行ったところで――彼女たちは、絶対に納得しない。

仲が良かった彼女たちの敵意の視線。

それに、彼女が耐え切れる筈もなく。


「い、嫌……」

「あん?」

「嫌っ!!」


何もかもを投げ出して、彼女は全力で逃げ出した。

二度と自分が、部室に入れなくなることも理解して。

この後京太郎にぶつかって何やかんやあってラブストーリーが始まる可能性が微粒子レベルで



小ネタ安価下三ー

>>362

あ、ごめんミスってageちまった

これなんか元ネタあるんです?

安価先の意味が正直わからんので申し訳ないですが再安価、下二で

「ええ……はい。俺も、それは――」


また、お姉ちゃんと電話で話してる。

そんな遠くにいる人より、ここにいる私の方がいい決まってるのに。


「……俺も、愛してますよ。照さん」


京ちゃんは、いつも放課後になるとお姉ちゃんに電話をかける。

会いに来れないあの人よりも、私ならそんなのに頼らなくたって、いつでもお話できるのに――


「そりゃ、お前が携帯もロクに使えないからだろうがっ」

「あぅっ」


グシグシと乱暴に頭を撫でられて、咲はカクンと膝を崩した。

ジト目で彼を見上げても、やれやれと溜息を吐かれるばかり。


「たく、お前がポンコツ過ぎなきゃなぁ……」

「もう、また馬鹿にして」

「事実だろ」

「あたっ」


少し強めのデコピンを受けて、咲はよろめいた。

彼が東京に引っ越さず、遠距離恋愛を続けている理由。

それは、この幼馴染みが危なっかし過ぎて目が離せないからなのだが――


「もう……今度こそ、お姉ちゃんから京ちゃんを奪ってやるんだからっ!!」

「はい、はい」


――知らぬは、本人ばかりである。

以前明華ネタであった「家庭教師のトライ」→トライ……・ラグビーか→トライ(得点)からノーサイド(試合終了)→明華大勝利
なつもりだったけど意味不明過ぎたな、ゴメン

というわけで今夜はここまでで
何かスランプ感が拭えない

次の更新は多分先生編です
ちょっとした非安価の小ネタを挟む可能性はありますが、安価更新は先生編です

それでは、お付き合いありがとうございました!

シノハユ三巻で京はや妄想が捗る


先生編再開しますー

話がある、そう言って部屋に訪れてきたのは良子だった。

その雰囲気からして立ち話では済みそうになく、京太郎は良子を部屋に通すと備え付けのコーヒーを二人分淹れた。


「すいません、夜に……」

「いいって」


ソファに座らせた良子の前のテーブルに、カップに注いだコーヒーを置く。

芳しい香りが立ち上るカップを、良子はじっと覗き込んだ。


「……先生」


カップを手に、逡巡して。

コーヒーが少し冷めた頃に、漸く良子は再び口を開く。

「赤阪監督から……昔の話を、聞きました」


京太郎は、ピクリと自分の眉が動いたのを感じた。

赤阪郁乃の名前が、目の前の教え子の口から出て来るとは、思わなかったからだ。


「昔の、話……か」

「……はい」


それはきっと、自分が堕落しきっていた頃の話だろう。

小鍛治プロに惨敗して、何もかもがわからなくなった頃。

あの頃の自分は――郁乃がいなければ、どこかで野垂れ死にしていた。


「それは……本当、なのですか」

「……」

「彼女の……彼女の言っていたことは……本当、なんですか?」


教え子には、誰にも伝えていなかった話。

大人でも――あの時の自分を知るのは、貴子しかいない。


「……本当だ」

「……」


「彼女の――郁乃さんの言ってたことは、本当だよ」

「牌を握るのすら、怖がっていた……と?」

「……あぁ」

「そんな……」


良子の手が、震える。

白いカップの中に、黒い波紋が生まれる。


「どうして……私を、頼ってくれなかったんですか」


ポタリと、コーヒーに一滴の雫が滴れる。

良子の表情は、俯いてわからない。


「それは……」


あの頃の自分は――何もかもが無気力で。

郁乃の下で休むまで、あらゆるものが抜け落ちていた。


「……一つ、教えてください」

「……」

「私の告白に答えてくれないのは――彼女が、いるからですか?」

「……」

「先生!」

シロ。淡。良子。貴子。そして、郁乃。

自分を求めてくれる女性は、たくさんいて。


「俺、は……」


――ずっと待ってたんよ。京ちゃんを


「……あぁ」

「……」

「そうだ、俺は」


「彼女に……郁乃さんに、答えを出さなきゃ、いけない」

「……なるほど」


京太郎の答えに、良子はその身を震わせる。

口調は、冷静なものを取り繕うとしているが――奥に隠れた激情が、隙間から見えている。


「良子……」

「……なん、だ」



「あの人の、言っていた通りですね――私は」



かいのー判定直下
1~60 どうやら……私に、その資格は――。
61~98 ……それ、でも。私は、諦めるなんて――。
ゾロ目 ???

――あの人の格好いいとこしか、見とらんもんなぁ

――そんな人に……資格が、あると思うん?


「……あぁ」


郁乃の言葉が、胸のうちを抉る。

彼への憧れが、自信を持っていた想いが、削られていく。


「……それ、でも」


良子は、諦められない。


「私は、諦める、なんて――」


長く想い続けてきた気持ちは――まだ、捨て切れない。

例えそれで、誰かが悲しい想いを、してでも。

ここぞという場面でゾロ連続で出した時からいくのんはもう


キャラ安価下三でー

翌日。

朝の10時頃、携帯の着信が鳴り響く。

かけてきた相手は、教え子の一人。

恐らくは個人戦に向けての調整だろうと、京太郎は通話ボタンを押して――


「はい、須賀で――」

「先生っ!」


――電話口からの余りの大声に、耳を押さえて目を瞬かせることになった。

酷く焦った声の呼び出し。

朝からの剣呑な雰囲気に、京太郎は眉を顰めた。


「……染谷、一体どうした?」

「すいません、でも、久のやつが――」

「久……竹井に、何かあったのか?」

「はい……兎に角、はやくきてください!」


通話を切り、携帯のポケットにしまう。

嫌な予感が、胸を過ぎった。

清澄の泊まる宿泊所では、まこが酷く焦った様子で京太郎を待っていた。


「……染谷、何があった?」

「あ、先生……それが――」


久の様子が――酷いことになっていると、まこは言った。

決勝戦が終わった後。

中堅戦で、稼いだ点数で洋榎に負けた時から――彼女は、おかしくなってしまった。


「爪を、噛むんです」

「……爪を?」

「はい、それから――自分は、先生に、相応しくないって」

「……」

「それが……今朝は、特に酷くて……」


「お願い、します」


「多分、先生しか――今のアイツを慰められる人は……いません」

久がいる部屋の前まで行くと、優希と美穂子が心配した顔で戸の前に立っていた。

咲と和は、この場にはいないようだ。

彼女たちは京太郎の顔を見ると、少し複雑そうに眉をひそめて――深く、下げた。


「竹井……入るぞ?」


ノックをしても、返事はない。

少し間を置いてから、京太郎は戸を開けて久のいる部屋に足を踏み入れた。

久は――すぐに、見付かった。

部屋の隅に、布団の上で、蹲っている。


「……」


久は、まだ京太郎には気が付いていない。

虚ろな目と、少し痩けた頰、小さく開いた口はしきりに何かを呟いている。

そして、両手の指先には――全てに、包帯が巻かれていた。

今朝、という話からして新しく巻かれたものの筈だが――全てに、赤黒い染みがついている。


「……竹井」


久は、酷く追い詰められている。

京太郎は、彼女に――


選択肢 下二
1.近付いて、声をかける
2.近付いて、手をとる
3.その他

京太郎は、静かに久へと歩み寄った。


「私は、相応しく……ない」


彼女の、自分を責める声が聞こえる。

団体戦での敗北は――深い傷となって、彼女の胸に残っていた。


「竹井」

「……ぁ」


声に反応して。

ようやく、彼女はこちらに気が付いた。


久 判定 直下
1~50 彼女は、呆然とした様子で呟いた
51~80 彼女は、両掌で自分の目を覆った
81~98 彼女は、酷く取り乱した
ゾロ目 ???

「あ」


虚ろだった目が、徐々に開かれて。

久の瞳が、京太郎を映した。


「ああ……」

「竹井、お前――」


一歩、京太郎は久へと近寄る。

それが、きっかけとなったのか――


「あああああああああああぁぁぁぁっ!!」


彼女は、酷く取り乱した。

手足を滅茶苦茶に振り回して、自分を傷付けて。

赤い染みが、白いシーツの上に点々と増えていく。


「竹井っ!」


黙って見ているわけには、いかない。


「話を、聞いてくれっ!」

「……ぁ」


身体中を、真っ赤に染めて。

久を抱き止めるように、京太郎は彼女を取り押さえた。


「先……せぇ?」

落ち着いた、と言っていいのかはわからない。

けれど、彼女の動きが止まったのは、確かだ。


「先生……私、私……」

「……大丈夫。ゆっくり、落ち着いて」


息を切らしながら、久の頭を撫でてやる。

密着している彼女の呼吸が、徐々に緩やかなものになっていく。

浅く乱れていたものから、深くゆっくりしたものに。


「先生……」

「……」

「私……」



「私、負けたんだ」

「私、部長なのに」

「……」

「あなたみたいに、なりたくて……部長に、なったのに」

「……」

「でも――私、愛宕洋榎に負けた」


白いシーツに、京太郎のシャツに、赤い雫と透明な雫が染み出していく。


「……私、だめなの……こんなので、先生の、教え子なんて――」



「……そんな大したものじゃないよ。俺は」

その言葉に、久は少しだけ驚いた顔を見せ。

京太郎は、彼女の頭を撫でてから、短く息を吐いた。


「嘘……だって」

「……」

「先生は、凄くて……。強くて、大会だって……」


「なぁ、竹井」

「……」

「今のお前さ――何というか、少し似てるんだよ。昔の、俺にさ」


思いもしない憧れの人の台詞に――久は、言葉を失った。

京太郎は、また一つ息を深く吐いて、口を開く。


「小鍛治プロに惨敗した試合――勿論、知ってるだろ?」

「……うん」

それまで順調に勝ち星を連ねて来た彼が、酷い敗北を見せた試合。

それから暫くの間、彼は公式戦から姿を消したが――


「……でも、先生は……リベンジだって」

「うん……でも、負けて暫くは、本当に酷かった」


今まで信じてきたものは、全てが折れた。

牌を握ることすら怖い。

何もかもが、どうでもいい。


「自暴自棄……っつーのかな」

「……」

「全部、どうでもよくなって――その時に、ある人が助けてくれたんだ」

「……ある、人?」

「言っとくけど――あの時の俺は、本当に酷かったぞ?」

「……」

「格好は酷かったし……なんつーか、一歩間違えたら浮浪者そのものだったし」


本当に。

彼女の助けがなかったら、今の自分はここにいない。


「まぁ……でも、そんな俺を助けてくれる人がいた」

「……」

「彼女に休ませてもらって――俺は、また強くなれたんだ」

「彼女……ね」

「ああ……お前にも、いるだろ? 助けてくれる友達がさ」


必死に自分を連れて来たまこや、部屋の前で信じて待つ少女たち。

あの時、一人になってしまった時に郁乃に救われた自分とは違って――久の周りには、まだまだたくさんの人がいる。


「まぁ……だからさ、その……」


今一締まらない言葉でも、京太郎は久の瞳を真っ直ぐに見て。

思っていることを、伝えた。


「大舞台で負けたくらいで、俺の教え子じゃないってのは絶対おかしいし」

「……」

「ある意味で――お前が、一番俺の教え子っぽいぜ」

その言葉を受けて――久は、ゆっくりと目を閉じた。

それから、暫く二人の間に沈黙が流れる。

時計の音や、外で待つ美穂子たちの焦燥とした様子が伝わってくる。


「……そっか」


目を開けて、ポツリと呟く。


「私、先生の教え子で、いいんだ」

「だから、そう言ってるだろ?」

「……」


両手の指を絡めて、久は微かに俯いた。

何かを考えるように目を細めて、それからふと何かを思い出したかのように口を開く。


「……ねぇ」

「ん?」

「その、先生を助けてくれた人って」

「おう」


「銀色の、イヤリングを持ってる人?」

一緒、彼女の言うことが理解できず怪訝な表情を浮かべてから。

すぐに京太郎は、焦ったように目を見開いた。


「お、お前……どこで、それを?」

「ふふっ」


さっきまで格好付けて決めていた人の、慌てる姿。

それが妙におかしくって、久は吹き出すように笑った。


「ナイショ……だけど先生、あんまり無防備すぎちゃダメよ?」

「あー、もう……」

「あはっ」


最後に笑ってから、久は布団に体を任せた。

疲れた体は、柔らかい布団によく沈んだ。

「あ、竹井。寝る前に綺麗にしとかなきゃダメだぞ」


布団も彼女の体も、血だらけで休むには適していない。

弱った体なのだから、尚更清潔にしなくてはならない。

そう告げると、久はイタズラっぽい笑みを浮かべた。


「あ、そうね……じゃあ先生、あなたが体を拭いてくれる?」

「なっ」

「もう随分恥ずかしいところを見られちゃったし――こうなったら最後まで……ね?」


からかうようにウィンクをすると、やれやれだと京太郎は肩を竦めて立ち上がった。


「……福路や染谷にやってもらえ」

「もう、つれないわね」

「10年早いっつーの」


軽く体を叩いて埃を払い、京太郎は部屋から出て行った。

美穂子たちを呼びに行くためだ。

一人、部屋に残されて――久は、深く溜息を吐いた。

色んな人に、迷惑をかけてしまった。


「……ちゃんと、謝らなきゃ」


心配してくれたみんなにも、立ち直らせてくれた恩師にも。

そして――


「名前も知らない……あなたにも、ね」


あの日見つけた、イヤリングの持ち主にも。

久保コーチかと思ったけれど、何となく違う気がする。


「10年早い……かぁ」

彼に対する恋慕と憧れ。

それが、いつからかごちゃ混ぜになって――酷いことになっていたけれど。


「そりゃー……あなたには、勝てないわよねぇ」


彼と私が出会う、ずっと前から。

支えていた人がいたのなら。

私に勝ち目なんて――最初から、あるわけがなかった。


「初恋は実らない……か」


心はもう、落ち着いた筈なのに。

何故か、布団の染みはどんどん増えて。


「ううん……大丈夫、だから」


美穂子たちが来た頃には――もしかしたら私の顔は、先生が来る前より酷くなっていたかもしれない。

というわけで今夜の更新はここまでー
イヤリングのくだりは清澄編のアレから

それでは、お付き合いありがとうございました!

このスレ初めて読むんだけどwikiだけで追いつける?

ロッカーさんやたら失恋してる印象。タラシなのに

ふと、背中から首に回される腕。

密着した彼女の吐息が、うなじの辺りを擽るのを感じた。


「今日は、やけに甘えん坊ですね」

「……ん」


何があったのか、彼女は語らない。

さっきまで部室のベッドで仮眠をとっていたのだから――何か、特別な夢でも見たのだろうか。


「……ちょっとだけ」


こうして部活が始まる前に彼女から甘えて
のは珍しいが、悪い気はしない。

むしろ望むところであり、京太郎は頰を緩めて彼女の頭を撫でた。


「あったかい……」


短い間でも、互いの温もりを味わう二人。


肩口に残った髪の毛から、後から来た部員に妙な勘繰りをされることになるが――それはまた、別の話である。

最近ハジけが足りない気がしてきた今日この頃
先生編始めます


>>484
今やってる先生編はまとめと前スレ読んでれば追付けるのではないでしょうか
基本的にその場のノリと勢いで書いてるので細かいことは気にしないスタイルでお願いします


>>490
このスレだと清澄書くときは大体京久なんですけどね

「失礼しまー……ってなんや、代行おらんのかいな」


洋榎がノックの返事も待たずに開けたドアの先には、誰もいない。

個人戦に向けての話があると郁乃に呼び出しを受けて部屋を訪れたものの、肩透かしを食らった気分になった。


「ん、コレ……って」


手持ち無沙汰にキョロキョロと部屋を見渡して目についたもの。

机の上に置きっ放しのスマートフォン。

画面が点きっぱなしでロック状態になっていないことから、たったさっきまで操作されていたのだろう。


「……ごくり」


色々と謎に包まれている赤阪監督代行――の、スマートフォン。

これを機にあの人のことが色々とわかるかもしれない。

好奇心猫を殺す――とは言うものの、今は警戒心よりも好奇心が上回る。


「さ……さきっちょだけ、やん?」


そして、その行為を咎める者もいない。

洋榎は一切の躊躇いなく、机に置かれているスマートフォンに手を伸ばし――

判定直下
1~33 「お待たせ~」
34~66 「……ん? このメールの相手……」
67~99 「え……この、写真……」
ゾロ目 ???

「こういう時の定番は――まず、メールからや」


自分で決めた独自のルールに従って、メールの履歴を辿っていく。

仕事ではない、プライベートの時の郁乃はどんな文章を書くのだろうか。

少々品の悪い笑みを浮かべて、洋榎は郁乃のスマートフォンを操作する。


「んー……意外と面白味は……お?」


ピタリと洋榎の指と目が止まる。

『京ちゃん』と書かれた連絡相手。個別に作られている保存フォルダ。

その相手は間違いなく、洋榎の敬愛するセンセイだろう。


「あー……そういや……」


郁乃と京太郎は何かしら関係があるらしい……が、彼が姫松にいた時はその詳細について全く知ることはできなかった。

謎に包まれた先生と監督代行の関係。

今ならそれについて知ることが出来る。


「……ていっ」


洋榎は少しだけ間を置いてから、勢いよくメールを開く。

怖いものなど知らないというように、今まで知ることのなかった彼の過去に、片足を踏み入れた。

新しいシャツとジャケットを袖を通し、京太郎は一息ついた。

今朝に着ていたものは、久を落ち着かせる時に血だらけになってしまったために、今までの礼と詫びを兼ねてまこが買って来たものだ。

最初は断ろうとしたが――店の宣伝を手伝ってくれた時の謝礼とまで言われて、素直に受け取ることにした。


「……ふぅ」


――さて。

久は現在、疲れて眠っているが――



キャラ安価下三ー

布団で眠る久の表情は安らかだ。

少し顔色が悪いが、それはこれから良い物を食べてしっかりと休めば治っていくだろう。


「お疲れさま――お?」


最後に一言声をかけて、ホテルに戻ろうとした時。

寝相なのか――彼女にジャケットの端を掴まれてしまった。


「……やれやれ」


久を起こさないような指を解くのは簡単だが、それはやってはいけない気がする。

京太郎は腰を降ろして、もう少しだけ彼女の寝顔を堪能することにした。


「あったかい……」

「そりゃ良かった」



判定ナシ

命短し恋せよ乙女ー


キャラ安価下三

「……先生」

「弘世か」


ホテルへの帰宅途中、京太郎は誰かを探している様子の菫に遭遇した。

優勝校の部長である彼女だが、今はその表情に陰りが見えている。


「淡を……知りませんか?」

「……大星を?」


淡も個人戦に向けて忙しい――筈だ。

あの時の宣言を、今でも本気にしているのなら。


「はい……なんでも、先生のところに行くと……」

「……」


頭に過る、淡の去り際の笑顔。

想起するのは、頰に残った小さな感覚。


「……先生?」


sss判定直下
1~50 「先生も、淡を探してくれませんか?」
51~00 「……何か、淡とありましたね?」

「先生も、淡を探してくれませんか?」

「……ああ、わかったよ」


どの道、淡には言わなきゃならないことがある。

もしかしたら、シロの時のようなことが起きるかもしれないけれど――そうしたら、シロの時のように何とかするしかない。

怖がっているだけでは、ただ問題を先延ばしするだけだ。


「私は、もう少しこの辺りを探します」

「じゃあ、俺は向こうを」


菫と別れた後で――京太郎は、携帯を取り出した。

寝落ちしたので今日はここまでー
もうちょいで先生編終わります、多分

淡「コスモミラクル!」

「エスペシャリー!」

誠子「ぐわーっ!!」


ノリノリで見知らぬ男の子とポーズを決める大将。

そして、同じくノリノリで吹っ飛ぶフリをする副将。


菫「……なにやってるんだ、お前らは」


インターハイまでもう時間が無いというのに、この後輩たちは何をやっているのか。

部室の戸を開けた瞬間に飛び込んできた光景に、菫は目を閉じてこめかみの辺りを抑えた。

淡「あ、センパイ」

誠子「あ……すいません、ちょっとコレには込み入った事情が……」

菫「……ほう?」


――曰く、あの小さな男の子は須賀京太郎である。

言われてみれば、可愛らしい顔の中にどこか面影があるように見える。

何でも、風邪薬の副作用で身体が縮んでしまったとのことだが――



照「美味しい?」

「うん……お姉ちゃん、好き!」

照「……」ぐっ

尭深「こっちの羊羹もどうぞ」

「わっ……ありがと、お姉ちゃん!」

尭深「ふふ……どういたしまして」



菫「……まぁ、それが本当のことでも。練習の邪魔になるなら外で遊んでもらわないとな」

淡「えー?」

誠子「ま、ですよねー……」

淡「どーしても?」

菫「ダメなものは、ダメだ」


じぃっと、淡が懇願の眼差しを向けてくるが却下。

遊んでいられるほど夏のインターハイに余裕はない。


淡「そっかー……じゃ、きょーたろー!」

「なーにー?」

淡「あっちで一緒にあそぼー!!」

「うん!」

菫「待て、ちょっと待て」


まさかの言葉に慌てて二人を引き止める。

流石に大将を抜いて練習を始めるわけには――


「う?」

菫「……うっ」


――くりっとした、丸い瞳が菫を射抜く。


「おねーちゃん、だれ?」

「お、おねえ……ちゃん?」


――小さな口が、自分を呼ぶ。


「いっしょに……あそぶ?」

「あ……あぁ」


――そうか。

私は、今この時のために――


誠子「……先輩?」

菫「はっ……んん、コホンッ」


菫「ま、まぁ……うん。たとえ小さくても彼も部員だ。ここにいてもらわなくてはな」

淡「やたっ!」

「わーい!!」


後輩と同期の呆れた視線には――全力で、気が付かないことにする。

こうして――白糸台麻雀部の、少し変わった一週間が幕を開けたのである。

しかし始まらない


後で先生編やります

書くなら有珠山あたりで書きたいショタネタ


というわけで先生編、再開しますー

「せーんせっ」

「うぉっ」


唐突な背後からの衝撃に、京太郎は携帯を片手につんのめった。

菫の姿が見えなくなった瞬間に、である。

もう振り向かずとも、その相手が誰かはわかる。


「……いたのか、淡」

「だってー……うちのミーティングより、せんせーに教えてもらった方がいいんだもん」


どうやら、淡はずっと近くに隠れて様子を伺っていたらしい。

菫が去った途端に出て来たあたり、今までのやり取りもしっかりと見聞きしていたのだろう。

あ、ちょっと訂正で

>>519

京太郎「俺は、もう少しこの辺りを探す」

菫「なら、私は向こうを」

「ねね、また私に色々教えてよ! ネトマじゃなくてさ!」


グイグイと、ジャケットの袖を引っ張る淡。

京太郎は、淡に対して――



選択肢 下二

1.「……そうだな、俺も話がある」
2.「それより……ちゃんと、弘世たちのところに戻るぞ」

「……そうだな。俺も、淡に話がある」

「話? なになに?」


キラキラと、瞳を期待に輝かせる淡。

……だけど、今から彼女に伝えることは、本当に残酷なことで。


「……少し、場所を変えよう」


本当に申し訳なく思うが――避けては、通れないこと。

京太郎は、淡を連れてその場から離れた。


「……」

京太郎は、淡を連れて自分の泊まるホテルへと戻ってきた。

トシに連絡をしているので、宮守のメンバーと鉢合わせをする心配はない。


「ほぇー……」


部屋の中を、キョロキョロと見渡す淡。

時に目新しいものが置いてあるわけではないが、彼女にとっては新鮮なのだろう。


「それで、話って?」

「……」

「せんせー?」


「……淡」


「俺は――お前の気持ちには、応えられない」

一瞬、淡は何を言われたのかわからないという顔を浮かべて。


「……せんせー?」

「慕ってくれるのは、凄く嬉しいよ……けど、応えるわけにはいかないんだ」

「……」


あわあわ判定、直下ー
1~33 「……私、フラれたの?」
34~66 「……やだ」
67~99 「……いらない」
ゾロ目 ???

「……私、フラれたの?」


何度か瞬きをして、少し間を置いてから、淡は再び口を開いた。


「……なんで」

「それは」

「私のことが好きじゃないから? なら、もっともっと、私がんばるから」

「……違うんだよ」

「他に、好きな人がいるの? 私よりも、もっと好きな人?」

「……あぁ」

「その人よりも……私を好きになっちゃダメなの?」


淡が、俯く。

いくつもの透明な雫が、カーペットに染み込んでいく。


「……ヤダ」

「ヤダ! 私、ヤダ!」


「がんばったもん! 私、がんばったもん!!」


「バカみたいじゃん! 私、ヤダよ!」


「せんせーのために、私がんばったのに!!」


「もっと頑張れば、私を見てくれるって!」



「私だけを! 見てくれるって――!!」



感情を爆発させて、淡は泣きじゃくる。

幼子のような彼女に、京太郎は――


選択肢 下3
1.あやまる
2.抱き締める
3.その他

京太郎は、淡を両手で抱きしめた。

胸元に彼女の涙が染み込み、少しくぐもった泣き声が聞こえてくる。


「……ほんとーに、ダメなの?」

「……ごめんな」

「せんせー……」


ぎゅうっと、淡が京太郎の腰に両手を回す。

爪が痛いほどに、背中に食い込む。


「……もう」

「……」

「もう、ワガママ言わないから」


「今……今だけは、もっと」



「こう、させて……?」


何も言わず――京太郎は、淡の頭を撫でた。

ごめんなさい。

真っ赤に泣き腫らした目で、淡は最後にそう言って、京太郎の部屋を後にした。


「先生、淡が――まだ、戻ってこないんです」


菫からそう連絡があったのは、淡が部屋を出てから大分経った後だった。

日の沈みかけた頃、ふらふらと街の中を歩く。

インターハイ会場からも、宿泊先からも大分遠い。

きっとここなら、友だちも知り合いも誰もいない筈。


『間もなく、電車がまいります。黄色い線の内側まで――』


もう、ワガママは言わない。

せんせーを、困らせたりもしない。

だから――



「さよなら」

たったの数秒後に、たったの数歩。

それだけで、私はさよならできる。

最後に、せんせーのあったかさを覚えたまま。

段々と近付いてくる音と光。


「……」


私は。

最後に、せんせーの顔を思い浮かべて――


「ちょい、待てや」


ぐいっと。

誰かに、手を強く引っ張られた。

というわけで今夜はここまででー
先生編もあと一、二回で終わります……多分


先生編の後は臨海の続きからでしょうか
それともまた新しいところか、どっかの高校をコンティニューするか
変化球でショタネタもあるかもしれません


それでは、お付き合いありがとうございました!

後ろで、電車が止まる音がする。

ドアが開いて、すれ違うように乗客たちが降りていく。


「なんや、センセと二人っきりでおかしいと思ったら……」


赤い髪のポニーテールに、特徴的な垂れ目。

関西弁の女子が、淡の手を掴んだまま淡々とした口調で話す。


「なにしとんねん、お前」


静かに、それでも確かな怒りを瞳に宿して。

問いかけてくる少女に、淡は――


「……だれ?」

「んなっ」

関西弁の女は淡のことを知っているらしいが、淡には目の前の女の記憶はない。

変なヤツに腕を掴まれている、その程度の認識だ。

そして――


「……離してよ」

「ん、まぁ……ソコの電車が行ったらな?」


この女は、淡の意図も理解している。

強引に振り解こうとしても、女はそれ以上の力を込めて淡を引き留める。


「……」

「……」


睨み合いが続き、その間に電車は次の駅に向けて走って行った。

降りた乗客たちも、改札口に向かって行った。

駅に残されたのは、淡と女の二人だけだ。

「なんで、邪魔すんの」

「なんでって、そら――」


ようやく、掴まれていた腕が解放された。

指でポリポリと頰をかき、淡を睨み付けながら女は静かに口を開く。


「先生に、迷惑かかるからに決まっとるやろ」

「っ!」

「お前の自己満足であの人に面倒かけるとか――許せるわけ、ないやん」


何も知らないクセに、知った風な口を利く女。


「……あんたに、なにがわかんのっ!?」


淡々とした口調だが――それだけに、その態度は淡の激情を駆り立てる。

怒りのままに淡は女の頰を叩き、喚き立てた。

自分の気持ちが否定された悲しさを。

温めてきた想いが、叶わないと知った時の想いを。

目の前の女が、理解できる筈もない。


「……ああ」


しかし。


「痛いほど……うん、このほっぺの痛みくらい、よう分かるわ」


目の前の女は、赤く腫れた頰を押さえながら頷いた。

息を荒くする淡を、見透かすように見詰めながら。

「センセに、フラれたんやろ?」

「……」

「うちも、同じや」


フン、と女は鼻を気に食わないと言わんばかりに鳴らした。

この女は、淡と同じように先生に憧れて、そしてフラれたのだという。


「……なら、邪魔しないでよ」


気持ちが理解できるなら。

止めないで、そのまま行かせて欲しかった。

あのままなら、先生の温かさを覚えたままで、さよなら出来たのに。


「……ハ」


そんな、尊い淡の気持ちを。

女は、鼻で笑った。


「お前――それでも、あの人の教え子か?」

その言葉に、落ち着きかけていた心が再び掻き立てられる。

その言葉は、その言葉だけは、絶対に許せない。


「……ふざけんな」

「ふざけてんのはどっちや」

「私に、負けたクセに」


よく見れば女が着ている制服は、姫松のものだ。

決勝でなす術もなく負けた、その程度の高校。

負け犬の分際で、その言葉を口にするのは――絶対に、許すわけにはいかない。


「……勝ち逃げとか、尚更許さへんし。個人戦じゃあうちが勝つに決まっとるからな」

「……負け惜しみ」

「なんとでも言え。どの道、このままならうちの不戦勝や。優勝はもろたで?」

「……」


「……フン。あの人の教え子っちゅーなら、たった一回折れた程度で諦めんなや」

「……意味わかんない」


それだけを言い返して、淡はくるりと踵を返した。

この女の言うことを聞くわけじゃない。

ただ――ここまで言われっぱなしで、やられっぱなしなのは許せない。


「……100回倒して、100回泣かす」

「やれるもんならな」

「……」


それで、会話はお終い。

淡は振り返らず、女も引き止めず。

駅には一人、女だけが残された。

「……はあぁ」


淡の姿が見えなくなった頃に。

女――洋榎は盛大に息を吐いて、がくりと肩を下げて力を抜いた。


「……らしくないにも、程があるねんけど……」


郁乃のスマートフォンから、彼の過去の一部を知り。

確かめようと部屋を出た先で、大星淡と先生が話しているのを見た。

どうしても気になって、尾行したら二人でホテルに入っていって――少ししたら、淡が一人で出て来た。


「あーぁー……」


淡は先生にフラれた。

そして、自分も似たような立場だというのに――


「……なんやねん、ホンマ」

ホームのベンチに、ぐったりと寄りかかる。

今は、もう少しだけ休んでもバチは当たらないだろう。


「……ぁ」


ようやく落ち着いたところで――ふと思い出すのは、郁乃の呼び出しをすっぽかしたということ。

それも、無断で。

洋榎は恐る恐る携帯を取り出し――溜まったメールと着信履歴に、顔を青くした。


「……メゲるわ」


つい、口から溢れた言葉。

同級生の気持ちが、少しだけわかったような気がした。

今夜はここまでー
次回、先生編最終回……に、なるかなぁ

インターハイのために、遠路遥々東京にまでやって来た千里山麻雀部。

恋も麻雀も絶好調、後に狙うは優勝のみ。

強い意気込みを見せる部員たちだが――ここで一つ、問題が発生した。

それは――


竜華「き、京くーん……?」

京「っ!」サッ

浩子「あーらら……」


――何故か。

彼――須賀京太郎が、小さな子どもになってしまったこと。

泉「にしても須賀くんって……ちっちゃい頃は内気な子だったんですねぇ」

怜「さっきから逃げまくりやしなぁ……」


小さくなった彼とも打ち解けようとジリジリにじり寄る竜華に、浩子の陰に隠れる京太郎。

部活を差し置いて、かれこれ一時間はこの鬼ごっこが続けられている。


セーラ「オレでも駄目だったしなぁ……何でフナQは平気なんや?」

浩子「あー……多分、それは――」


雅枝「何の騒ぎや、一体」ガラッ


泉「あ、かんと――」

京「おかーさんっ!」


泉「――へ?」

部屋に入ってきた雅枝を見るなり、顔をほころばせて雅枝に駆け寄る京太郎。

対して雅枝は、ほんの一瞬だけ驚いたように目を見開き――京太郎が駆け寄ってくると、直ぐに身を屈めて彼を両手で抱き締めた。


雅枝「おー、よしよし」ナデナデ

竜華「か、監督……? おかーさんって、その」

雅枝「ん……なんちゅーか、京太郎の家庭事情はちと複雑でなぁ……ちっこい頃はよくウチで面倒見てたんやけど……ふむ」

泉「……監督?」


雅枝「京太郎……私な、ちょっとお仕事行かないとダメなんよ」

京「……」

雅枝「でな? その間、ここでこのおねーさんたちと一緒に仲良く待っててもらえるか?」

京「……うん」

雅枝「ん、いい子や」チュッ



雅枝「ちゅーわけで。私は仕事あるし……ついでに京太郎がこないなった原因も調べてくるから。その間の京太郎の面倒、頼んだで?」

竜華「は、はい!」

雅枝「練習もしっかりな。それじゃ、行ってくる」

京「いってらっしゃいっ」



雅枝が部屋を出て行って、取り残された彼と千里山の部員たち。

果たして京太郎は元に戻れるのか? 竜華たちは彼と仲良くなれるのか?


竜華「……ゴクリっ」

京「っ!」


千里山麻雀部の、奇妙な全国大会が始まろうとしていた――。

始まるとは言ってない


もうちょい後で先生編やりますー

先生編、再開しますん

あの後、菫から連絡があり、夜遅くに淡が帰ってきたとのこと。

それも、何故か個人戦へのやる気を今まで以上に引き上げて。


「ふむ……」


もう間も無く、個人戦は始まろうとしている。

インターハイ女子の部。

団体戦は白糸台が優勝したが、個人戦では誰が勝つかわからない。


誰が勝つのか、どのような結果が待つのか。

彼女たちの練習に関わった身としては、先は非常に興味深いが――



キャラ安価、下三ー

「ちょっとはマシな面になったねぃ」

「三尋木プロ」


相変わらず扇子で口元を隠しながら、咏が話しかけてきた。

途中まで団体戦の解説役を務めていた彼女だが、今は別のプロがその役目を担っている。

そのため、今の彼女は暇を持て余しているのだろうが――


「……で」

「はい?」

「考えといてくれたかい? あの話」

「あの話……って――」


――婿養子って興味ない?


「で。どうなのさ」

「……どうと言われましても。それにはお応えすることはできませんよ」


咏判定 直下
1~60 「そ。ならまた来るよん」
61~80 「……ふぅん?」
81~00 ころしてでも うばいとる

「そ。なら仕方ないねぇ」


やけにあっさりと、咏は退いた。

やはり、あの言葉は彼女なりの冗談だったのだろう。

広げた扇子で自分に風を煽る咏に、京太郎は苦笑した。


「それじゃあ、俺はここで」

「ん、なんか仕事?」

「いぇまあ、仕事といいますか……」

「……」

「……個人的な用ですが、とても大事なものです。絶対に、やらなきゃいけない」

「……そうかい」


咏に軽く頭を下げて、踵を返す。

待ってくれていた彼女に、答えを出さなければ――


「多少、強引でも――やむなし、かぁ」


一瞬の浮遊感と、首筋に何かの衝撃。

霞む視界の中で――が何か口を動かしているのを最後に、京太郎は意識を失った。

ほんの少しだけ――彼には、眠っていてもらう。

逃さないように。邪魔をされないように。

彼の閉じた瞼を愛おしげに撫でて、咏は微笑む。

あとは――


「……先生から、離れなさい」


邪魔なヤツを、排除するだけ。

「先生……ふぅん、あんたも先輩の教え子なのかい」

「……」

「まったく、やれやれ……罪な男だねぃ」


答えず、彼女――戒能良子は、一歩踏み出す。

その瞳は、咏と同じだ。

彼への、強い執着を宿している。


「……離れろ」

「そいつは――できない、相談だよ」


彼女が、その手に持つもの。

灯りを受けて、白く光る刃。


咏は、静かに扇子を閉じた。

良子が、ナイフを。

咏が、短刀を構えて。


人に突き立てれば、簡単に命を奪えるそれを。

彼女たちは一切の躊躇いもなく、相手に向けて――


判定直下
1~40 着物の花柄が、赤く染まった。
41~80 黒いスーツが、赤く染まった。
81~00 ???

短刀は、良子の胸に深く突き刺さった。

ナイフは、咏の喉を一文字に切り裂いた。


「……あ」


するりと、良子の手から落ちたナイフが彼の頰を切り裂く。

赤い一筋の線は、まるで涙のようにも見えて。


「……せ……」


最期に。

白い指が、彼の頰を撫でた。

個人戦に出ている彼女たちは、今ここで起きたことを知らない。

先生が見てくれていると信じて試合に挑む彼女たちは、この場を見る事が出来ない。


だから。

胸騒ぎを感じても、この場に来ることが出来たのは、彼女だけ。

「だから、言ったのに」


「みんな、京ちゃんを傷付けるって」


「私だけは、京ちゃんを守ってあげるって」




「なぁ、京ちゃん」

「もう……無理や。こんなん、見たら」



「もう――絶対、離さへん」




「ずっと、ずぅっと――いっしょやで」

「嫌なことは……全部、忘れるとええよ」


「ふふ……」



「私だけが、側にいてあげるからなぁ?」



【果たせなかった、約束】

コンティニューしますか?
やり直しはキャラ安価からで

「――あ?」


まるで、白昼夢でも見ていたかのような。

吹き出す汗。熱を感じる頰。

気が付けば、ホテルの廊下で一人立っていた。


「……少し、休んでから行くか」



キャラ安価、下三ー

「あっ」

「あ」


ホテルから出て、会場へ向かう途中。

ばったりと、久に出会した。

指の怪我も少しずつ治ってきているようで、顔色も良くなっている。


「こんにちは、先生」

「おう……咲たちは?」

「もう行ってるわ。私はちょっと忘れ物しちゃったから」

「そうか……」

「……先生、大丈夫? 顔色悪いけど」

「いや……大丈夫だ」


不快感は未だ胸に残るが、無視すれば問題ないレベルだ。

とはいえ教え子に心配をかけさせたのは事実であるため、京太郎は少し気を引き締めた。


「そう……なら、いいけど」

「ああ……」


二人並んで、会場までの道を歩く。

久は個人戦には出ないが、いよいよ終わりが近付いているインターハイに向けて何か感じるものがあるのだろう。

平静を装っているが、どこか緊張しているように見えた。


「……ね、先生?」

「ん?」

「私ね――先生に会えて本当に良かったって、思ってるの」

久が、京太郎よりも三歩先に踏み出す。

その表情を見ることはできないが――耳が少し、赤くなっているようだ。


「んー……唐突だけどさ、言っておきたくて」


「私ね、先生に憧れてここまで来たから」


「画面の中じゃなくて、本物に触れて」


「……」


「うん」


くるりと、久が振り返る。

朱に染めた頰で、はにかみながら。


「私の大好きな先生――本当に、ありがとうございました」


「あは、それじゃ――私は行くからっ」


恥ずかしいのか、久は再び踵を返すと京太郎を置いて駆け足で会場へと向かって行った。

京太郎は段々と小さくなる後姿を見送りながら、照れ臭そうに頰をかいた。


「……俺にも、お礼を言わせてくれよ」

担当した高校の全てに、個人戦出場選手がいる。

まったくもって、誰を応援すればいいのやら。


「……本当に、贅沢な悩みだよなぁ」


こうして個人戦出場選手のリストを眺めるだけでも、教え子たちの優秀さに驚かされるばかりである。


――先生に会えて、本当に良かった


さっきの久の言葉を思い出しても、頰が緩む。

勧められるままに始めた麻雀講師だが、本当にやりがいのある仕事だ。



最後っぽいキャラ安価、下三ー

「……始まりますね」

「……貴子」


開始まであと間も無く、というところで話しかけて来たのは――かつての恋人。

彼女は少し寂しげに微笑みながら、掲示されている個人戦出場者のリストを見上げた。


「……長野では負けましたが、今度は勝ちますよ」

「……あぁ。だけど、こっちだって負けちゃいないぜ?」


風越からの出場者であり、長野個人戦では三位に食い込んだ福路美穂子。

彼女の対局も何度か見てはいるが、油断ならない相手である。


「……あと」

「ん?」


貴子が、少し目を伏せて――それから、京太郎の瞳を真っ直ぐに見上げて。

その眼差しを揺らしながら、静かに問いかける。


「……先輩は」

「……」

「先輩は……今は……」

「……」

「……いえ」



「先輩は――ここまで来て、良かったって……思っていますか?」

貴子の問いに、京太郎は瞳を閉じた。

思えば――彼女に振られてから、全てが始まった。

拠り所をなくして、我武者羅にやってきて。

小鍛治健夜に敗北して――郁乃に、拾われて。


「……そうだなぁ」

「……」

「色々……うん、本当に色んなことがあったけど」



「……心の底から、思うぜ。ここまで来て良かったってな」

「……そうですか」

「ああ……思えば困ってばかりだったけどさ。みんながいたから、ここまでやって来れた」

「……」


「もちろん――そのみんなの中にはお前もいるぜ、貴子」

「先、輩……!」

もう、彼に迷惑はかけない。

今更、昔の女の顔をして彼に接するなど余りにも図々しい。

郁乃の言う通りだ。

一番彼が辛かった時期に、彼を支えてやれなかった自分。

そんな自分が、また彼に迷惑をかけるなんて。


「せん、ぱい……!」


わかっていても、涙は止まらない。

その言葉に、救われたような気がして。


「……今だけ、だからな」


そんな自分に、彼は優しく頭を撫でてくれた。

ただ、それだけで、良かった。

――団体戦、そして個人戦。

女子高生雀士の頂点を決める大会は、幕を閉じた。

勝っても負けても、それは思い出として一生胸に残り続ける。


「ぜーんぶ、終わってしもたなぁ」

「そうですね……」


夜。

生徒たちが、消灯時間を迎えた頃。

とある駅にて、二人の男女が向かい合う。

「ん……答え、聞かせてくれるんやろ?」

「その前に、一つ」

「ん~?」

「この、イヤリング……あなたのですよね?」

「せやで? 京ちゃんが寂しくないよ~にって」

「はぁ……おかげで、生徒にからかわれましたよ」

「ええやん、この色男~♪」

「まったく……」


「……」

「……」



「色々、考えました」

「みんなのおかげで、俺はここまで来れた……でも」

「……」


「一番は、あなたが――あなたが助けてくれたおかげだって」

「……」


「郁乃さん」

「……」



「これから――これからも、俺をそばで支えてくれませんか?」

「私、嫉妬深い女やで?」

「知ってます」


「意地悪、いっぱいするかもしれんよ?」

「どんとこいですよ」


「……ほんまに、ええの?」

「また、始めましょう」



「……京ちゃん」

「郁乃さん」



――結婚してください。

電灯の下で、二つの影が一つに重なる。

互いの温もりを分け合うように、二度と離れないように。


「……」


そして。

その、重なった影に――


直下判定
1~50 「っ! 郁乃さん!」
51~00 ホームのベンチが、赤く染まった。

――頰が、焼け付くように痛む。

ぞくりと、背筋に冷たい何かが走った。


「っ! 郁乃さんっ!」

「え?」


咄嗟に彼女を庇い、前に出る。

灯りを受けて、白く光るナイフ。

簡単に人の命を奪えてしまう刃物を持って――かつての教え子が、そこにいた。


「先生……どいて、くれませんか?」

「……その、刃物を捨てたらな」

「それは、できません」


彼女の瞳には、理性は無い。

その歩みの先、刃物を向ける先は――


「戒能プロ……」


京太郎の背にいる郁乃、ただ一人。

「……どうしても。何をしてでも。私は、あなたが欲しい」

「……だからって」

「ええ。わかっています。あなたの心は、手に入らない」


――ですが。


「そこの女に取られるよりは、ずっと良い」


ナイフを躊躇わずに構えて、良子は踏み込んだ。

彼女の瞳に映るのは、郁乃だけ。

ならばせめて、彼女だけは守ろうと、京太郎は一歩踏み出し――



「女々しいんだよテメェッ!!」

「――は?」


京太郎も、良子も、そして郁乃でさえも。

完全に、意識の外からの怒声。

そして、振るわれた拳は容赦なく良子の頬を打ち抜いた。


「がっ!?」


良子の手から落ちたナイフが、ホームの床を跳ねる。

彼女――貴子は、躊躇いなくナイフを蹴り飛ばした。


「た、貴子……!?」

「……すいません。陰から、見てました」


貴子は、蹌踉めく良子を睨みつける。

何度か瞬きをして、良子はようやく状況を理解した。

「あ、あなたも……彼女、に……」

「あぁ……けど、一緒じゃあねえよ」

「そんな……筈、は……」


「手に入るとか、入らないじゃねえだろ……」

「……」

「……好きな人に……」

「あ……」


「先輩に……京太郎さんに、幸せになってもらわなきゃ、ダメだろうがっ!!」

自分と同じ、あの時郁乃に何も言い返せなかった筈の貴子。

けれども、今の彼女は――


「一番、大事なのは……それだろ?」

「……」

「良子……お前は……」


「……わかり、ました」


ようやく、良子は。

どうやっても、彼が手に入らないことに。

例え、郁乃を殺してでも――彼は郁乃のものでしかないことを、理解した。

「……先生」



「私は、その人を殺そうとしました」

「……」

「自首をします……罪を、償います」

「戒能プロ……」


「……良子」

「先生……」

「全部、終わったら……また、色々教えてやる」

「……」

「だから……待ってる。みんなと、一緒に」



「……はい」

先生。


人にものを教えて導く立場でありながら、多くの教え子を悲しませて、歪めてしまった。

その事実は、彼の心を重く縛る。


けれど――


「でも……京ちゃんは、また行くんやろ?」

「うん……大丈夫」

「私が、私たちが――ついとるから」


多くの人が支えているから。

彼は、折れない。

どんな障害があっても、乗り越える。


側に、彼女の温もりを感じている限り。




【いつまでも】

というわけで先生編、一旦終わります

次は
1.臨海編、続き
2.有珠山編、ちょっと今までと感じが違うかも。場合によってはすぐ終わる
3.その他

をやりますが今夜はここで切ります
それでは、お付き合いありがとうございました!

とりあえず恒例のアンケ出しますー


次にやる話は

1.臨海編の続きから
2.有珠山編
3.その他
EX.「須賀くんが小さくなったって……?」

の何れかになりますー

直下のコンマでー
1~50 有珠山
51~00 ショタ

ではつぎはショタネタでー

ショタ編の高校決めます
下7まででとりあえずコンマが一番デカイところでー

では阿知賀にてー……京太郎の設定は松実編とは変わりますのでご了承くださいー

こども麻雀クラブ再び・・・
ショタ化で池田ァ家居候(姉妹で小さい子に慣れていた華菜ちゃん大勝利)、「見た目は子供、頭脳は高校生」天江京太郎(合法ショタ)ルートも見たい。

ショタ(阿知賀編)、始めますん

10才にも満たない金髪の少年が、病室のベッドで眠っている。

子どもらしく、無邪気な寝顔を浮かべているが――



キャラ安価、直下でー

病室の戸を開けて入ってきたのは、おかっぱ頭の少女。


「お医者さんの話だとそろそろ起きるらしいけど……」


ベッドに近付き、幼い寝顔を覗き込んでみる。

規則正しい安らかな寝顔を浮かべるばかりで、目覚める気配はない。


「……」


突如熱を出して倒れた――かと思えば、身体が縮んでしまった彼。

マネージャーとして部に貢献してくれた彼の身に何が起きたのかと思えば、何でもおかしな病気で一時的に身体が少年時代にまで遡ってしまったのだとか。


「……」


未だ眠り続ける彼に、灼は――


あらたそ判定、直下
1~33 起きるまで待つ
34~66 ほっぺをつついて見る
67~99 この……胸の、ときめきは……?
ゾロ目 ???

――とくん、と胸が高鳴った。

熱を帯びる頬。溢れる吐息。

これはまるで、憧れの人の――


「この……胸の、ときめきは……?」


思わず、彼に手を伸ばす。

無防備に、無邪気な寝顔に、灼は――


「……んっ」

「っ!」


彼の瞼が少しずつ動き始め、灼は必要以上に飛び退いた。

破裂しそうな心臓の鼓動を何とか抑え、軽く頭を振る。

……そう。相手は須賀くん。いい人だけど、そういう相手じゃない。

灼が何度も自分に言い聞かせている間に、ゆっくりと彼が目を開く。


「……あれ……?」


変声期を迎える前の前の高い声。

気分はどうかと、灼は問い掛けるべく口を開き――


「……おねーちゃん、だれ?」


――そのまま、固まることになった。

大変なことになったと、灼からの連絡に急いで駆け付ければ――


灼「しかし、ゆーしゃハルエはやられてしまいました。すべてはだいまおうスコヤンのさくせんだったのです……」

京「ハルエ、しんじゃうの?」

灼「大丈夫……ハルエはつよいから」


――そこには、灼の膝の上で絵本を広げる京太郎の姿。

灼が読み聞かせてあげているようで、時折優しげな微笑みを浮かべて彼の頭を撫でているではないか。

果たしてこれは、どこから突っ込んだものか。

憧を始めとした全員が悩んでいるうちに、全員が揃ったことに気が付いた灼が説明を始めた。

……絵本の読み聞かせが終わった後で。


憧「えっと……それって、記憶とかまで若返ったってこと?」

灼「……そうみたい」


ちらりと、憧はベッドに目を向ける。

そこには、足をパタパタさせながら絵本を読む京太郎。

……成る程、確かに見た目だけではなく中身まで幼児化しているようだ。

晴絵「お医者さんから話聞いてきたんだけど……」

灼「あ、ハルちゃん」


――曰く。

彼はいずれ元に戻るようだが、小さくなっている間にやったことは本来の幼児化の記憶と混ざって後の人格に変化を及ぼすらしい。

つまりは――


晴絵「……須賀京太郎、育成計画」


誰かが、唾を飲み込む音がした。

OP故、控え目に

キャラ安価下三でー

玄「穏乃ちゃんよりちっちゃいんだなー……」


あんなに背の高かった彼が、今や阿知賀で一番小さい存在に。

なんだか新鮮な気分になっていると、彼がトテトテと歩み寄ってきた。

何か用だろうかと、玄は身を屈めて彼に目線を合わせた。


京「おねーちゃん、だれ?」

玄「え、私?」

京「うん」

玄「あ、そっか……記憶ないんだっけ」

京「?」

玄「……うん」


玄「私は――>>759だよ」

おねーちゃん(おもち道の師匠)

玄「私は――」


――その時、玄の脳裏によぎった言葉。

須賀京太郎、育成計画。

普段から彼を見ていて感じること。

それは、もう少し私に甘えて欲しいということ。

そして、おもちについても色々と教えてあげたい。

ならば――



玄「君のおねーちゃんだよっ」



――自分が、彼のおねーちゃんになれば。

元に戻った後でも、もっともっと自分に頼ってくれるに違いない。

更に、遠慮という壁が無くなればおもちについて好きに語ることができる。


玄は、自信満々に鼻を鳴らした。

京「おねえ……ちゃん?」


よくわからないという風に、小首を傾げる彼。

なんという可愛らしさか。きゅんと高鳴る胸を押さえて、玄は人差し指を立てた。


玄「そう。だから、京太郎くんはもっともーっと、私に甘えていいんだよ?」

京「甘え……?」

玄「うん。だから――」


ぎゅっと、玄は京太郎を抱き締めた。

小さくなった彼は、玄の両腕の中にすっぽりと収まってしまう。

彼を抱き締めた玄は、そのまま耳元に囁きかける。


玄「いつでも、こうやって抱き締めてあげるね」

京「いつでも……」

玄「うん……ずっと」


玄「ずーっと……ね?」

あらたそ 絵本読んでくれたお姉さん
くろ おねーちゃん


キャラ安価下三ー

京「おねーちゃん……あつい」

宥「もうちょっと……ね?」


ぎゅうっと、京太郎を湯たんぽの代わりに抱き締める宥。

子ども体温に加えて、彼を抱き締めていると胸のうちからも温かくなってくる。


京「うぅ……」

宥「あったかーい……」


ぬくぬくと内と外から温もりを味わっていると、やがて腕の中から寝息が聞こえてきた。

時計を見ると午後の14時。

宥も、瞼が重くなってくる時間であるが――


ゆうちゃー判定 直下
1~33 おやすみなさい……
34~66 ちょっとなら……いいよね?
67~99 ……おねーちゃん、大好き……
ゾロ目 ???

宥「ちょっとなら……いいよね?」


そう静かに呟くと、宥は彼の頰に口付けを落とした。

いつもなら恥ずかしくて、とても出来ないこと。

でも……小さくなった彼になら。


宥「ごめんね……でも、今だけだから」


少し、暑いかもしれないけれど。

ちょっとだけ、我慢をしてもらう。

今は素直になれる、数少ない機会だから。

キャラ安価下三ー

憧「これがアイツ――ねぇ?」

京「う?」


自分を見上げてくるあまりにも邪気のない顔。

よく見れば、確かに面影はある。

よく玄や宥姉の胸をチラチラ見てたり、だらしなかったりするけどたまにイケメンな時もあったりする顔の――じゃ、なくて。


京「おねーちゃん?」

憧「あ、えっと」


くりっとした眼差しが見上げてくる。

そう――須賀京太郎育成計画、とかハルエは馬鹿らしいことを言っていたが。

もしかして、この時に麻雀について、ちょっとだけ教えたりしてたら――


あこちゃー判定 直下
1~80 ……ねぇ、ちょっとあっちで遊ばない?(麻雀)
81~00 ……ねぇ、ちょっとあっちで遊ばない?(意味深)
ゾロ目 ???

憧「……ねぇ、ちょっとあっちで遊ばない?」

京「いいよ! なにするのー?」

憧「ふふ、ちょっと難しいけど――とっても、楽しいコト」



憧が指差す先にあるものは、前から使っていた自動卓。

京太郎がやる気になっているのを見て、憧は携帯でメンバーを呼び出した――が。


京「ふあー……」

憧「あー……」


少し、やり過ぎた。

頭から煙を出して、グルグルと目を回している彼。

あまりにも素直なモノだから、教えている憧もつい気合いが入り過ぎて――調子に乗ったら、このザマである。


京「くらくらするー……」

憧「あはは……ごめんね。ちょっとお休みしよっか」

京「うん……」


ゆっくりと、彼を椅子から降ろして寝かせてあげる。

彼が大きいままだったら、とても考えられないことだ。


憧「ねぇ、初めての麻雀だけど……楽しかった?」

京「んー……よく、わかんなかった」

憧「そっかぁ……」

京「うー……」


憧「……でも、そうね。頑張ったご褒美に、後でアイス買ってあげる」

京「やった! おねーちゃんだいすきっ!」

憧「ふふ……もう、現金なヤツ」


……そして。

そんな言葉に元気を貰っている自分も、また。


京「はやくいこっ!」

憧「まったくもー……全然元気じゃないの」

――そして。


穏乃「ふいー! 久しぶりに思いっきり遊んだぁっ!!」

憧「うわ、あんた泥だらけ……って京太郎も!?」

京「あしいたい……」


どうやら――穏乃に引っ張られて近所の山を駆け巡って遊んでいたらしい。

走ったり外で遊んだりするのは京太郎も好きだが――いかんせん、穏乃について行くには体力が足りない。


玄「ああ、お風呂に入れてあげなきゃ……」

宥「しっかりあったまらないと……」

憧「そうね。風邪引いたら困るし……」


灼「……で。誰の家に連れてく?」

彼は家庭の事情で一人暮らしである。

アパートから阿知賀学院へと通う日々を繰り返していたが――


憧「……そうね。今は一人で返すなんて出来ないし……」

玄「うちならお部屋に余裕はあるよ?」

宥「……」こくり

灼「……うちも、大丈夫」


――当然、一人で返すなんてのは論外。

ならば必然的に、誰かに家に彼を泊めることになるが――


誰の家に泊まる? >>789

憧「じゃん――」

玄「けん――」

灼「――ぽんっ!!」


睨み合いが続いた末に、決まった結果。

グーが二人に、パーが一人。

よって――


憧「ね、京太郎。今日はわたしんちに泊まってきなさい」

京「え?……でも、おかーさんは……」

憧「だいじょーぶ。おかーさんから頼まれたの」



玄「私、おねーちゃんなのに……」

宥「あったかくない……」


灼「……悔しく、ない」

あこちゃー強い
というわけで今夜の更新はここまででー
ショタ編はあまり長くならないです


それでは、お付き合いありがとうございました!


瑞原はやりには、憧れの人が二人いる。

ある日の休日――枕に突っ伏すように転寝をしていたはやりは、母親の声で目を覚ました。


「はやりー。起きてるー?」

「うー……?」

「ちょっと、お店番おねがいしたいんだけどー」

「う~……」


モゾモゾと身動ぎするが、中々に起きる様子を見せない。

そんな娘の様子に、美月は仕方ないかと溜息を吐いて――


「はー……金髪のお客さん、待たせちゃってるんだけど――」

「っ!」

「はやっ」


その言葉を聞くなり、勢いよく起き上がるはやり。

眠気に負けていた眼差しは既になく、キリっとした顔付きで階段を降りていく。

慌ただしい足音は、彼女の心の中そのものだ。


「我が娘ながら……」


こんなので元気になるとは、現金なヤツ――と美月は独り言ちて娘の部屋を見渡す。

さっきまではやりが眠っていたベッドの枕元には、いくつかの麻雀牌が転がっていた。

急いではやりが降りていった先には――母の言葉通り、金髪のお客さん。

ショーケースの洋菓子を前に、腕を組んで悩んでいる様子の男の人。


「いらっしゃいませっ」

「お、はやりちゃん」


小さいのに偉いね、と微笑みかけてくる彼。

この人こそ――はやりが異性として憧れる男の人。


「おすすめとかあるかな?」

「はいっ このマドレーヌとか――」


年上のお兄さんの、須賀京太郎だ。

彼と出会ったのは、おばあちゃんのお見舞いに行った帰りのこと。

少し考えごとをしていたら、階段から転げ落ちそうになって――思わずギュッと目を瞑ったら、彼に抱きとめられていた。


「大丈夫? ケガない?」


病院の灯りのせいか、その顔は何だか眩しく見えて――それでも、ずっと見つめていたくなるような不思議な気持ち。


それからずっと、胸の奥がフワフワするというか。

こうして客として訪れてきた彼とお喋りしているだけでも、幸せな気持ちになる。

小学2年生のはやりには、この感情の正体はわからない。

けれども――この時が長く続いてほしい。


そう、思っていた。


「ありがと。また来るよ」

「はいっ! 焼き立ていっぱいつくってますからっ!!」


片手にお持ち帰り用の袋を持ち、もう片方の手でバイバイと手を振る彼を見送る。

店の扉が閉まり、彼の背中が見えなくなって、ようやくはやりは胸を撫で下ろした。


――ちゃんとおでむかえできたかな? また来てくれるかな? こんどは――


「まったく、見事にませちゃってー」

「わっ」


ドキドキが収まらないうちに肩に手を置かれたものだから、落ち着く暇もなくはやりは文字通り飛び上がった。

振り向くと、母が頬に手を当てて何とも微笑ましい表情を浮かべている。


「そ、そんなんじゃないよっ」

「へぇー? じゃあ、どんなん?」

「うっ……」


年齢相応か、不相応か。

どの道、そっちの方向にはまだまだ疎い彼女だった。

また、ある日のこと。


「あれ……は」


おばーちゃんの病室から見付かった忘れ物を受け取りに行った時。

うちの洋菓子店の紙袋を持った憧れの人が、廊下の奥に向かって歩いていったのを見付けた。

その隣に、女の人を連れて。


「……」


彼はまだ、はやりに気付いていない。

そして、その女の人が誰なのか――はやりは、知っている。

用事は済ませたけれど、はやりは家に帰れなかった。

どうしても、彼らが気になってしまったから。

こっそりと、彼らの足取りをはやりは追いかけて。


「あら」


――その先の、病室。

そこには、彼と、一緒に歩いていた女の人と――


「最初の見舞い客はずいぶんとかわいらしいのね」


はやりの心の中を占める、もう一人の人。

はいの

用事は済ませたけれど、はやりは家に帰れなかった。

どうしても、彼らが気になってしまったから。

こっそりと、彼らの足取りをはやりは追いかけて。


「あら」


――その先の、病室。

そこには、彼と、一緒に歩いていた女の人と――


「最初の見舞い客はずいぶんとかわいらしいのね」


はやりの心の中を占める、もう一人の人。

牌のおねえさんこと、春日井真深がベッドに寝ていた。

はやりにとって、春日井真深は不思議な人だ。

落ち込んでる時に元気付けてもらったことがある。

危ないところを助けてもらったことがある。

だが、京太郎と真深が一緒にいる理由は――?


「あれ、はやりちゃん? どうしてここに?」

「あ……」


彼の問い掛けで我に帰る。

そうだ、今は――


「あ、あの……勝手に入っちゃってごめんなさい……っ」


「それと……前は助けてもらって、ありがとうございました!」


勝手に入ってしまったことの謝罪と、助けてもらったことへのお礼をする。

彼と彼女の関係がどうであれ、やらなきゃいけないことはある。

「いいのいいの。偶然の出会いが3回ってことは縁があるってことだし……お見舞いうれしいわ」


何てことのないように、真深は笑った。

京太郎と、女の人――真深のマネージャーも驚いた顔は浮かべているもののはやりを咎める気はないようだ。

はやりはほっとして、もう一つ気になっていることを口にした。


「あの……」

「ん?」

「お二人は、お付き合いしてるんですか?」


京太郎と真深を交互に見渡して、はやりは質問をぶつける。

内側のドキドキを抑えながら、返ってくる答えに耳を傾け――


「いや、ないから」

「即答っすか」

「そうなんだ……」


その返答に――自分でもビックリするくらいにホッとして。

結局はやりは、その日に気が付くことはなかった。

京太郎が、足繁くうちの洋菓子店に通っていた理由を。

その次の日から、はやりは何度も真深の見舞いに行った。

晴れの日には、お店のお菓子を持って行ったり。

雨の日には、てるてる坊主を作りに行ったり。


「外が暗くなってきたな……」

「もう子どもは帰る時間だなー。京太郎」

「はいはい、わかってますよ」


そして、真深とのお話が終わった後には京太郎に家まで送ってもらえる。

真深が入院しているから有り得た時間。

本当は喜んじゃいけないのに――はやりは、この時間が好きだった。


彼女の容態が、悪化するまでは。

――春日井真深が、東京の病院に移った。


はやりの手元に残されたのは、真深に貰った髪飾りだけ。

彼女の連絡先も聞きそびれた。

あの病室での時間は、もう無い。

仕方のないことだ、と理解していても寂しさは拭えない。


「はやり宛に手紙とー……ライブチケットだって」


だから。

その機会が巡って来た時に、はやりは一も二もなく飛び付いた。

こうがんざい。

以前の真深との会話の中で出て来た言葉。

それがどんな薬なのかはやりは知らないけれど――身体にあまり良くないものだ、というのは理解できた。


なのに。


「はやりちゃん」


ライブ会場の控え室で再会した真深は、何てことのないように、はやりの頭を撫でてくれて。


「楽しんでってね」


マネージャーも、京太郎も、真深を強く信頼していた。



「私」


「ちょーがんばるからっ!」


ステージの上の春日井真深は、とてもキラキラしていた。

サイリウムとか、舞台の照明とか、衣装とか――そんなのじゃない。

まるで、春日井真深という人そのものが、輝いているように見えて。


「……すごい」


みんなを元気にしてくれる人。

自分が大変なのに――それ以上に、頑張る人。


「……私も」


――こんな人になりたい。

見ているみんなを、元気にできるような人に。

ライブが終わっても、観客の興奮は収まらない。

勿論はやりもその中の一人。

素直な気持ちをメールに書き出して、手紙に記された連絡先に送信する。


「……返事ないなぁ」


忙しいのか、送ったメールへの返信は返って来ない。

はやりの足は、自然と真深たちのいた控え室へと向かった。

建物の中に入って、少し角を曲がった先。

控え室へと続く廊下で、すぐに真深と京太郎は見付かった。


「……」

「……」


真深は、大分疲れているように見えた。

会話は聞こえないが――二人の口の動きと雰囲気から、真剣な話し合いをしているらしい。

この機会を逃したら、次に会える時がいつになるのかわからない。

はやりは、少し駆け足気味に二人に駆け寄ろうとして――


「あ……ぇ?」


二人が、抱きあって。

映画のCMで見たかのような、キスをしている姿に、足を止めた。

それからはずっと、頭の中がグチャグチャで。

帰りの寝台列車のベッドに包まって目を閉じても、二人の姿が心の中を離れなかった。


――須賀さんは憧れの人。異性として、憧れた人。

――真深さんは憧れの人。同性として、憧れた人。



「ないからって……言ってたのに……?」


あの二人の姿は、夢なんかじゃない。

だったら、真深はウソをついたのか。

答えてくれる人は、いない。

「おかえりー。ライブどうだったー?」

「うん……」


「はやり?」

「うん……」


「……お風呂入る?」

「……うん」



「……疲れてるのかしら?」

「はやりー。ちょっと店番おねがいー」

「はーい」


ある日の休日――ベッドに寝っ転がって本を読んでいたはやりは、母の呼び声で身を起こした。

とんとん、と静かに階段を降りていく。


「……あ」

「やっ」


お店のショーケースの前には――ライブが終わってからずっと会えなかった人。

春日井真深が、はやりを待っていた。

真深と二人で店を出て、近場の公園を歩く。

風も静かで、二人の他に人影は見当たらなかった。


「この前はゴメンね。ライブ終わった後ちょっと色々あって」

「いえ……」


真深と、二人きり。

聞きたいのは、彼との関係。


「まだ病気……のこってるんですか?」


でも――それを口にするのが、今はとても怖い。

もっと前は、すぐに言葉にできたのに。

「うん……手術することになった。もし成功してもしばらく養生だって」


真深が足を止めて、空を見上げる。

彼女が今、どんな顔をしているのか。

はやりには、わからない。


「できれば元気な春日井真深のまま去りたかったんだけどね」

「はやりちゃんとは仲良くなりすぎて話すか迷ったんだけど……今、話しちゃった」


「ゴメン」



初めて聞く、真深の心の底からの弱音。

涙で滲む彼女の瞳。

いつもみんなを元気にしようと、笑顔でいた彼女が。


「死ぬのかな……私」


その姿を見て。

はやりは――やっと、一つの答えを見つけた。


「私が、がんばります!」


こんな人みたいに、なりたい。


「私ががんばって牌のおねえさんみたいになって、みんなを元気にします!」


だって。


「だから真深さんもがんばって! 病気に負けないで!」


こんな人みたいに、なれば――

「もう……完全に負けてたんだけど」


この人が、いなくなった後で。


「はやりちゃん見てたら……また、頑張れそうな気がしてきた」


この人みたいに、彼といっしょになれるから。

はやりは、ずっと笑顔だった。

真深と別れた後も。

そんな人になるために、自分がどうするべきかを、ずっと考えて。

二年経った今でも、それは変わらない。



「頑張れよ」

「はいっ」


彼に頭を撫でて貰いながら、はやりはステージの上に立つ。

お客さんのみんなを笑顔にできるように。


「はーややー! みなさーん! こんばんはーっ!!」


どこか遠くにいる真深に届くように。

あなたの居場所はないと――歌声を、響かせて。

シノハユ3巻を読んだら京はやが熱い。京まふが熱い。京美月が熱い。
93ページのまふふホント良い
なおこの設定のまま書くと本編時の京太郎の年齢がとんでもないことになる模様


あと小ネタな気分なので小ネタ安価下2でー

松実玄は献身的でありながら、少し自虐的である。

想い人の為に何かしてあげたい。

けれども、彼の周りには魅力的な女の子ばかり。

悩んでいるうちに、どんどん彼はどこかへと行ってしまう。


「……ああ、そっか」


だから、彼を誰の手も届かないところに閉じ込める。

準備はできた。

後は、彼をここに連れ込むだけ――


「で、ついうっかり自分が閉じ込められたと」

「……てへっ」


「……」

「……」


「あと一晩、そこで反省を」

「そんなーっ!?」


――惜しむべきは、彼女のうっかりである。

松実宥は、嫉妬心が強い。

彼が他の女と話しているだけで、胸の奥が焼かれるような気持ちになる。


「……いなくなっちゃえ」


邪魔をするなら、たとえ、妹でも。

その細い首を、このマフラーで――



「……自分のマフラー踏んづけて転ぶって……」

「うー……」


「まぁ、そりゃ長過ぎますもんね……これ」

「だって……」


「はぁ……とりあえず救急箱とってくるんで、待っててください」

「……うん」


――惜しむべきは、彼女の運動神経の低さである。

新子憧は、玄以上に自虐的である。

彼が欲しい。振り向いてほしい。

でも、自分の女としての魅力は足りてない。

まだ足りない。

なら、無理矢理彼を振り向かせる為に。


「……あはっ」


彼女は、ハサミを手に――



「おーい、憧ー。ハサミ持ってなにやってんだ?」

「ふきゅっ!?」


「もしかして工作? 久しぶりにアレ作るか?」

「あ、アレ?」


「クジだよ。指令引くやつ……でも紙がないな。よし、一緒に貰ってこようぜー」ぐぃっ

「あ、あんた……て、手……!?」



――惜しむべきは、手を握られただけで満足する、彼女のチョロさである。

鷺森灼は、努力家である。

好きな人に振り向いて貰いたければ、何だってする。


「……あぁ」


それこそ、自分の体にメスを入れる覚悟も――



「……バイトし過ぎで倒れたって」

「……面目ない」


「おばあちゃんも心配してましたよ?」

「……」


「とりあえず、今日は一日看病しますから……」

「ありがと……」



――惜しむべきは、彼女の懐事情である。

穏乃は、依存している。

彼がいなくなったら、生きていけない。

二度と離したくない。

ずっと一緒にいたい。


「あは……だったら……」


彼と、山の深いところで――



「おーいシズー。久しぶりにうちでマリカーやろうぜー」

「おー、やるやるー!!」


「おわ、引っ付くなっての!」

「いーじゃん、どーせ一緒に行くんだしー」


「はぁ……んじゃ、さっさと行くぞ」

「おー! ゴーゴー!」


――惜しむべきは、三歩歩いたら全て忘れる彼女の能天気具合である。

赤土晴絵は、生徒思いである。

いつだって、彼に立派な教育を施したいと思っている。

毒牙を向ける女から、彼を守るために。


「こうすれば……良かったんだよ」


そうして彼女は、彼を自分の部屋に監禁し――



「ほら、起きろ!」

「あ、あと五分……」


「今日のゴミ当番レジェンドだろ!?」

「う、明日もやるから……」


「んなこと言ってると今日メシ抜くぞ!!」

「あ、待って! それだけは勘弁!!」



――惜しむべきは、彼女のプライベートのだらしなさである。

ポンコツ
ポンコツってなんだ

小ネタ安価下3でー

神。

それは本来ならば、人の手に負えるものではない。

彼女たちが借りている力も、あくまで一時的なもの。

過ぎたように扱えば、それは己の身を滅ぼす――


「オラァッ!!」

「ひっ!?」


――などと、格好付けても。

目の前の光景は、何一つ変りなく。

とある執事の元で修行を積んだ。

金色の気を身に纏い、そう語る京太郎には、どのような神であれ通用しないだろう。

一歩ずつ近付いてくる彼に、小蒔はヘタレ込み――


「……すいません。俺が、間違ってました」

「……え?」


そっと、涙を拭われる。

それは、小蒔が予想していなかった――けれど、ずっと欲しかった優しさ。


「全部……ウソだったんですね」

「あ……あぁあああっ!!」


彼の鍛え抜かれた胸の中で、子どものように泣きじゃくる。

京太郎は彼女の涙を染み込ませ――もう二度と離さないと、彼女を強く抱き締めた。

なんか混ざった
九面があっさりぶちのめされて涙目って時点でギャグにしか見えぬ……

小ネタ安価下ニでー

東横桃子には、悩みがあった。

それは、同じ一年生の男子のことで――


「おーモモ。よかったら一緒に学食いかね?」

「っ……」


ズケズケと、心の中に踏み込んでくる男。

何故か自分のことが見えているようで、ベタベタ構ってくる男。

なんと昨晩は夢にまで出てきた男。

それも、内容は――


「お、おい……モモ? 頭痛か? なんか凄い顔してるけど――」

「……大丈夫っす。ええ。問題ないっすよ」

「そ、そうか……?」

「はい……ちなみに、今日は私はお弁当持参」

「あら、残念。なら――」

「ちょい、待つっす」


「……ちょっと、量が多過ぎるんで。ちょっとくらいなら、分けてやってもいいっすよ」

「……なんてことがあったんですよ」

「それは……珍しいな。モモが男子に……」


「……お返しとか、した方がいいんですかね?」

「まぁ……別にモモはそういうつもりだったわけじゃないだろうが――ふむ」


――先輩に手作り弁当とか、貰えたらなぁ。

――そうか。モモが……。


「そうだな。良ければ次の休みに一緒に何か探しに行くか? モモの好みは私の方が知ってるからな」

「マジすか!」


――どれ。可愛い後輩のために一肌脱ごうじゃないか。

――先輩と一緒に買い物……いや、そういう目的じゃないけど……でも。



交わらない感情のベクトル。

それは、少しずつ歪みを生んでいく。

後輩の恋を応援してたら本命は自分でしたと知らされた時のかじゅが見たい



小ネタ安価下3でー

「京太郎くん……今日は、どこに行きますか?」


頬を赤らめて、はにかみながら聞いてくる成香は本当に可愛らしいと思う。

周りから聞こえてくるヒソヒソ話さえ無ければ、だが。


「京太郎……くん?」


何も答えないのを不安に感じたのか、上目遣いで袖をくいくいと引いてくる。

全国大会が終わってから、成香は本当に積極的になった。

その潤んだ瞳が何を求めているのか。

今なら――それを、理解できる。


「あの……良かったら、私のお家に――」

「先輩」


成香の言葉を遮って、手を払う。

困惑したように彼女は眉を寄せるが、止めるわけにはいかない。

だって――


「俺、ユキと付き合ってるんで……先輩と一緒には、行けません」

「あーあ、泣かしてやんの」

「先輩」


全てが終わった後で。

物陰から様子を伺っていたらしい爽が顔を出した。


「でも……キツく言わないとダメだと思って」

「そう、ユキに言われたのかー?」

「……」

「ふーん……ま、別に私がどうこう言うのもアレだけどさー」


「成香、泣かすとこわいぞー?」

次の日。

京太郎と由暉子が手を繋いで下校すると――下駄箱に、成香が立っていた。


「……なんですか」


京太郎が何かを言う前に、由暉子が一歩前に出た。

不機嫌な様子を隠そうともせず、眉に皺を寄せて。


「……ごめんなさい」

「……はい?」

「昨日は、ごめんなさい」


それだけを言うと、成香は振り向いて去って行く。

よく見ると、右手の人差し指には包帯が巻かれていた。

部活でも――どこか、ギスギスした空気が流れているように感じる。

京太郎は、その原因が自分たちだということに気が付いてはいるが――


「京太郎くん。良かったら一緒に」

「……須賀くんの指導は、私がしますから」


成香が伸ばした左手を、由暉子が押し退ける。

叩くような勢いだが、成香は何も言わず。


「……」


ただじっと、赤くなった自分の手の甲を見つめていた。

「……なぁ、ユキ」

「なんですか」

「少しさ……その、先輩に厳し過ぎないか?」

「……」

「あ、いや……ユキの気持ちもわかるんだ……でも」


――あの人も、俺を思ってのことだから。

喉まで出かかった言葉は、由暉子に見つめられて引っ込んでしまった。


「……わかりました」

「え?」


「須賀くんは、あの人を気にかけるんですね」

「……」

「なら……私も」


「考えることが、あります」

「あなたが、邪魔なんですよ」


二人っきりの部室で――由暉子は、成香に言い放った。

「私が……」

「はい」


成香を見やる由暉子の眼差しには、軽蔑の色が宿っている。

理解していない様子の彼女に、由暉子は更に苛立った様子で口を開いた。


「あなたの存在そのものが。須賀くんにとって邪魔なんです」

「そんな……」

「その指の包帯は、自分でつけた傷でしょう?」

「……」

「その左手のガーゼも……私が叩いた場所ですが、そこまで強くは叩きませんでした」

「……」


「そうやって、自分を傷付ければ彼が見てくれるとでも?」

「……っ」

「あなたは彼の優しさに付け込んで……だから、もう一度いいます」


「あなたは――邪魔です」

それ以来――成香を、部室で見ることはなかった。

一人がいなくなると、少しずつみんなも来なくなって。

自然と――有珠山麻雀部は、消えつつあった。

本当に、これで良かったのか。

一人での登校中に、物憂げな溜息が出てくる。

もっと、うまいやり方はあった筈だ。

誰も傷付かない、そんな方法が。


「……?」


携帯に、着信。

その相手は――成香だ。


「先輩……?」

「……」

「先輩ですよね? 何を――」



「さようなら」

ぐちゃり、と。

目の前に、何かが落ちてきて。

嗅いだことのない、酷い匂いが鼻を突き刺す。


「……え?」


理解が、できない。

目の前には、黒いような、赤いような。

ぐちゃぐちゃになった、何か。


「……あ」


その中にある、包帯が巻かれた何か。

そして、糸のようなアレは、きっと髪の毛で。

その色と、リボンには、見覚えが――

「――っていうお話を考えたんですけど……」


成香が考えたという話のあらすじに、言葉を失う麻雀一同。

ハッキリ言うならばドン引き状態であるが――部長である誓子が咳払いをしつつ、真っ先に口を開いた。


「却下よ」

「ダメですか……」


しゅん、と肩を落とす成香。

普段なら誰かが何かしらの慰めの言葉をかけるのだが、今は誰も何も言えない。

何を言えばいいのか、かける言葉が見つからない。


「あ、じゃあ――」

「そ、それじゃ! 次は爽が話してくれる? 文化祭の案!!」

「お、おう。じゃあ、こんなのはどうよってか――」


妙な空気を払拭すべく、全力で話を爽に振る。

とりあえず成香をキレさせるのは絶対によそう――と、麻雀部一同は堅く心に誓ったそうな。



【有珠山愛憎劇場.V3】

有珠山は書いてて楽しい
成香有珠山で一番好き
ショタ阿知賀が終わったら普通の有珠山かショタ有珠山をやろう

有珠山が終わったら臨海の続きにしよう
臨海終わったら……どうしよう

という予定


それでは、今夜の更新はここまでで
お付き合いありがとうございましたー

有珠山わりと前から好きですけどね
話の中心が成香ちゃんになりがちなのはご愛嬌

ネリーはもうちょい待ってくださいネリー可愛い


というわけでショタ阿知賀再開ー

憧(私が京太郎をおんぶして帰る……なんて、本当にあり得ないわよねー)


背中ですやすやとのんきな寝息を立てる京太郎。

穏乃より小さくて軽くて――本当に、この子が成長するとあんな風になるなんて信じられない。


憧「まぁ、悪い意味じゃないけど……ほら、着いたわよ」

京「ん……んー?」


グシグシと、背中で彼が目を擦る。

その仕草にもう少しだけ寝かせてあげたくなるが、そういうわけにもいかない。

憧は彼が目覚めるように、それでいて苦しくならない程度に軽く体を揺すった。


憧「ほらほら、起きて起きて」

京「あ……ん…おはよ……?」

憧「うん。おはよ」

京「……あこちゃん、いいにおいする」

憧「えふ」


不意打ちで受けた言葉に、どきりと胸が高鳴る音がして。

子ども相手に何を――と、憧は頭を軽く振った。


憧「ん、んん……とりあえず、降りてね」

京「はーい」

憧「ただいまー」

京「おじゃましまーす」


憧「あれ……出かけてるのかな。まぁ、説明省けていいけど」

京「おゆはん?」

憧「その前にお風呂。アンタ泥塗れに汗塗れでしょ」

京「おふろ……」

憧「どうかした?」

京「……」


憧「まぁいっか。とりあえず案内するわね」

京「うん……」



憧「これがシャンプーでこっちがボディソープ。体を洗うヤツね」

京「……」

憧「……ちゃんとわかってる?」

京「うん」

憧「そう。一人で入れる?」

京「うん!」

憧「なら大丈夫ね。ちゃんと100数えるのよー?」

京「はーい!」



憧「さて……今のうちに――」

京「でたよー!」

憧「速っ!?」

憧「……って、アンタ」

京「なに?」


ガシ、と彼が逃げ出さないように肩を掴む。

じっと近付いて匂いを嗅ぎ――憧は、確信した。


憧「ちゃんと、入ってないでしょ」


精々がお湯を少し浴びた程度。

体の汚れも疲れも、ちっとも落とせていない。


京「うっ……」

憧「……キレイにしないとカッコよくなれないわよ?」

京「だって……こわいんだもん」

憧「こわい? お風呂が?」

京「……」


憧「なら――」


あこちゃー選択肢 直下
1.私が一緒に入ってあげるから
2.私がお風呂場のところで待っててあげるから
3.その他

憧「私が一緒に入ってあげるから」

京「あこちゃんが……?」

憧「そ。どんなこわいオバケが出たって私がやっつけてあげる。それでもまだこわい?」

京「……」ふるふる

憧「いい子ね。じゃあちょっと待ってて。準備してくるから」


着替えやら何やらを用意しながら、憧は苦笑した。

お風呂がこわい、とは変わった子だ。

アイツが元に戻ったらコレをネタにからかってやろうかしら――って。


憧「……よくよく考えたら私」

憧「もしかして、結構スゴイこと言ってない……?」

京「まだー?」

憧「あ! う、うん! 大丈夫! すぐ行くからー!!」


憧「……そうよね」

憧「これは、あくまでちっちゃい子のお世話なんだから」

憧「うん。何も、おかしいことなんてない。やましい気持ちなんてないんだから……」


京太郎「あこちゃんー?」

憧「……お待たせ。それじゃ、入りましょ」


憧に手を引かれながら、京太郎は再び風呂場に足を踏み入れた。

隣で「ゾウさんなんかに負けはしない」とブツブツ呟く憧に、首を傾げながら。

京「うー……」ざばーっ

憧「こら、ちゃんとシャンプーも使いなさい」

京「だってしみるし……」

憧「なら目を閉じて。私がやってあげるから」

京「うん……」


憧「かゆいところない?」わしゃわしゃ

京「だいじょうぶ……」

憧「じゃ、流すから。しっかり目を閉じててよー」

京「はーい」ざばーっ


憧「ね? 痛くなかったでしょ」

京「うん。ありがとーっ!!」ダッ

憧「こら、風呂場で急に――」


京「あっ」つるっ

憧「あっ!?」




憧「せ、セーフ」

京「……やわらかい」

憧「……あんた。よく見たら体の洗い方もテキトーね」

京「ちゃんとやってるよー」

憧「いいえ、ダメッダメよ。背中とか垢が残ってるし……ほら、ここ座って」

京「はーい……」


憧「はい、万歳してー」

京「はーい」

憧「脇とかこーいうとこもしっかりね。ハイ、手を降ろしてー」


憧「じゃあ、次ね」

京「まだあるのー?」

憧「だって、アンタ。ちょっと大雑把過ぎるし」

京「うぅ……」

憧「ガマンなさい。じゃあ次……は……」

京「あこちゃんー?」


――そう。

彼はとっても小さな子ども。

故に、体の洗い方はとても大雑把で、憧が手伝ってあげないといけない部分がたくさんある。

だから、垢が残っているところをスポンジで洗ってあげると、次に洗うべき場所は――


憧「ぞ、ゾウさん……」

ゴクリ、と喉がなる。


京「あこちゃん?」


何を緊張しているのか。


京「もう終わり?」


負けないと、自分に言い聞かせたばかりではないか。


京「……むぅ」


そう。

相手は、子どもで。

京太郎だけど、今は穏乃よりちっちゃい京太郎で。


憧「こども……こども……!」


子供で、子どもで、こどもで――



あこちゃー判定 直下
1~50 ……あたし、なにやってんだろ
51~00 だ が オ ト コ だ

――だ が オ ト コ だ。

どこからか、そんな声が聞こえてきた気がして――


憧「……あはっ」

京「あこちゃん……?」


困惑している彼をよそに、憧は彼の下の部分へと手を伸ばす。

そこはデリケートで、未知だった場所。

それに憧は躊躇いなく、よく整えられた白い指を伸ばした。


京「ひゃっ!?」

憧「あら、女の子みたいな声」

京「あこちゃ、そこは洗えるから――」

憧「ダーメッ♪」

京「ひぃんっ」


彼が身動ぎして、悶える声を上げるたびに。

ゾクゾクと、全身を何かが走り抜ける快感。


憧「しっかり洗って……しっかり覚えてもらうんだから」

京「あ、あこちゃん……こわいよ……」

憧「ふふ……」


抵抗する力も可愛らしいもの。

ぎゅっと彼の手首を握って、憧は耳元で囁く。


憧「だって――次は、私がアンタに洗ってもらうんだから」

ぷるぷると小刻みに震えて――なんとも、可愛らしい。

やわらかい肢体はまるで女の子のよう。

これが京太郎なのだと思うと、その気持ちは、益々強くなっていく。

荒くなる呼吸。乱れる吐息。


憧「ふ、ふふ……♪」



あこちゃー判定 直下
1~33 やりたくなったら やっちゃいな!
34~66 あこは しょうきに もどった!
67~99 おや……? きょうたろうのようすが……?

憧「こら、暴れないの……♪」


ビクビクと震えるが、それも大した抵抗にはならない。

むしろ、手が退かされる分だけ色々なところに手が届く。


京「あ、あ……!」

憧「いい加減、諦め――て?」


暴れているのかと思ったが、何かがおかしい。

震えている、というよりは痙攣しているといった方が正しい。


京「あ、いたっ……あああっ!?」

憧「京太郎……!?」


明らかにおかしいその様子に、火照った頰から血の気が引いていくのを感じる。

そういえば、京太郎がこうなった元々の理由は奇病。

もしかして、何か命に関わるような症状が今になって――


京太郎「あ………アレ? 俺は……」

憧「……へ?」

泡まみれだが、よく見慣れた顔。

元ハンドボール部らしく、細身ながらも引き締まった肉体。


京太郎「あ……あ、こ?」

憧「京太郎! 戻ったのね!」


いずれ元に戻る、とは確かに言っていた。

タイミングについては詳しく聞いていなかったが――偶々それが今だった、ということだろう。


憧「大丈夫? 痛いところとかない?」

京太郎「い、いや……そういうのは大丈夫だけど……」


彼の様子がどこかおかしい。

真っ赤になって、恥ずかしそうに憧から目を逸らしている。


京太郎「あ……あのさ……」

憧「なに? どこかやっぱり悪いところ――」

京太郎「ふ、服……?」

憧「ふ……く?」


服とは、何だろう。

今は風呂に入っているんだから服を着るのはおかし――


憧「……あ」


風呂。お互いに裸。元の体。

そして目の前にはゾウさんというよりマンモスさん。

冷静になった後でこの状況に置かれて、憧が導き出した答えは――


憧「ふ、きゅぅ……」

京太郎「ちょ、憧ォッ!?」


意識を、失うことだった。

――そして。


京太郎「憧!? おーい!?」


京太郎にしてみれば、この状況は訳がわからない。

気が付いたら憧と二人っきり。それも風呂場で全裸で。

倒れそうになった憧を慌てて抱え、ペシペシと頰を叩くが起きそうにない。


京太郎「……どうすんだコレ」


泡で所々が隠れているとはいえ――憧の肢体は実に魅力的で。

殆ど密着状態にあるというのは、色んな意味で心がヤバい――ではなく。


判定直下
1~30 何とか、憧が目覚めるまで介抱した
31~60 「ただいまー」
61~98 えへ、来ちゃった♪
ゾロ目 ???

――ピンポーン。


京太郎「ちょ、今は……!」


来客らしいが、とても今はそれどころじゃない。

悪いが、帰って貰わないと――


「いない……? でも、電気が……」


「あれ、開いた……」


「そっちの方に、いるのかな……?」


パニクる京太郎には、この場を切り抜ける知恵は思い浮かばず。

段々とこっちに近付いてくる声と足音の正体は――


1~33 あらたそ
34~66 ゆうちゃー
67~99 くろちゃー
ゾロ目 全員

宥「あ、お風呂入ってるんだ……」

京太郎「っ!」


どきりと、心臓が跳ねる。

その声の主――宥は、ちっとも止まりそうにない。

どこかへ行ってくれと、京太郎の願いも虚しく――


宥「憧ちゃん? 京太郎くんのわすれもの……が」

京太郎「あぁ……」


ばっちりと、見られてしまった。

宥の立っている場所から見れば――裸の憧を、同 裸の京太郎が抱きかかえている姿を。

宥「二人とも……?」


底冷えするような、宥の声音。

思わず後退りするが、風呂場の壁にぶつかるばかりで逃げ場は無い。


京太郎「いや、これは違くて、その……!?」


慌てて弁明しようとも――京太郎自身、今の自分の状況を理解していない。

口が上手く回らず、一歩ずつ距離を詰めてくる宥を止めることができない。


京太郎「あ、あぁ……」

宥「あったかく……ない……」

京太郎「あ、いや……っくしゅっ」


土壇場になって出てきたのは、この場にはそぐわないくしゃみ。

体が濡れたままだし、宥によって心身共に冷たい気持ちになっている。

しかし、それが功を奏したのか――宥は、ピタリと足を止めた。


宥「京太郎くん……寒いの?」

京太郎「いや……まぁ……」

宥「そっかぁ……憧ちゃんと一緒なのは……寒いんだぁ」

京太郎「いっ!?」


くすくす。

妖しげに笑う宥の雰囲気は――普段のそれとは、あまりにかけ離れていて。


宥「じゃあ……私が、あったかくしてあげるね」


宥「憧ちゃんより――ずっと♪」

マフラーを解き、カーディガンを脱ぎ捨てる。

スカートも下着も、何の躊躇いもなく。

驚くばかりで頭の回らない京太郎には、宥を止めることはできなかった。


宥「あは……っ」

京太郎「ゆ、宥さん……!」

宥「そんなに震えて……かわいそう」


宥「すぐに私が……憧ちゃんより、あっためてあげる」




憧「宥姉が……私より?」

京太郎「憧!」


胸の中で、憧が目を覚ます。

唯一この状況を説明できる彼女なら、きっと宥を止めてくれるだろう。

漸く救いの手が差し伸べられたと、京太郎は胸中で胸を撫で下ろし――


憧「バカ、言わないでよ」

京太郎「あこ……?」

憧「私の方が――ずっと、京太郎のことを知ってるんだから」


何かのスイッチが入ってしまったのか、今の憧はまるで別人のようだ。

何を言っているのか、問い質そうとしても。

憧の指に、太ももの内側を撫でられると――まるで幼少期のトラウマのように、恐怖心に体が縛られて一歩も動くことができなかった。


宥「……そんなこと、ない」

憧「ふふ……やってみる?」


京太郎「あ、ああ……!」


ゆるりと伸びてくる、二人の指。

京太郎に出来るのは――ただ、蹂躙されることだけだった。

――変わったことは、3つ。



晴絵「いやー、京太郎が戻って良かったねぇ!」

穏乃「思ったより速かったねー」

京太郎「は、はは……」




――やけに、部長が世話を焼いてくれるようになったこと。


灼「……京太郎」

京太郎「あ、部長」

灼「この教本、お勧めだから……読んでおいて」

京太郎「うす、ありがとうございます!」

灼「……」こくり




――やけに、甘えさせてくる先輩。


玄「京太郎くん、ちょっと疲れたでしょ? 休みなよ」

京太郎「そっすね。じゃあちょっとだけ――」

玄「はい、どーぞ!」ぽんぽん

京太郎「……えっと」

玄「? 膝枕、だよ?」

京太郎「じゃあ、遠慮なく……」

玄「うん!」

――そして。



憧「京太郎っ♪」

宥「どこ、行くの……?」

京太郎「あ……」



憧「今日も……」

宥「これから……」


「たっぷり」


憧「可愛がってあげる……♪」

宥「あっためてあげる……♪」



――誰にも言えない、秘密の関係。

憧「……私、最近食欲なくて……」

京太郎「大丈夫か?」

憧「でも、酸っぱいものはたべたいのよねぇ……」

京太郎「えっ」

宥「あ、私も」

京太郎「え゛っ」



――明るみに出るまで、あと少し。

というわけでショタ阿知賀編終了ー
モノホンのショタが二人も出来るよ、やったね

次は有珠山編か臨海編ですが書くのは次スレで
このスレは小ネタで埋めようかと思います


というわけで小ネタ安価下2でー

「京太郎……今、なんて……?」


信じられない。

今、聞いたことが間違いであって欲しい。

そう願って、再び聞いても――彼は、嘲るように口の端を歪めるだけ。


「だからぁ……何度も、言わせないで下さいよ」

「っ! いややっ! 聞きとうないっ!」

「あーもぅ、面倒いなぁ」


ゆっくりと、彼が私の眼鏡を外す。

前は、このまま優しく瞼にキスをしてくれた。

けれど、今は――


「一回ヤッたくらいで、彼女面しないでくださいよ」

「あ……」


余命宣告を受けたように。

私の体の震えが、止まらない。


「じゃあ、そういうことで……もう、部室で話しかけないでくださいね」

「あ、ま、まって」


彼は一度も振り返らず、足を止めず。

追いかけようとしても、上手く立ち上がれなくて、私は近くの机の中身をブチまけてしまった。


「……あ」


床に散らばる教本や、筆入れの中身。

鉛筆や、定規――そして、銀色の鋏。


「……京太郎、くん」


私は。

蛍光灯の光を白く反射する、その刃から目を離すことができなかった。

無自覚なクズ京太郎は書いてたけど意図的にゲスクズ京太郎書いたのはコレが始めてかしら


というわけで次スレです
京太郎「修羅場ラヴァーズ」揺杏「絶対無敵のラブラブラブ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1426519302/)

このスレは埋める方向でー
小ネタとかリクあって書けそうならいくらか書きます
ついでに>>1000で臨海が有珠山かどっちやるか希望あればどうぞ

有珠山ー

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