京太郎「修羅場ラヴァーズ」ネリー「大好きがいっぱい」 (1000)

・京太郎スレ
・短編集的、オムニバス的な感じです
・安価もあるかもしれない
・ヤンデレとかあるかもしれない
・話によって京太郎が宮守にいたり臨界にいたりするのは仕様です
・ライブ感は大事
・ネリー可愛い

まとめ
http://www62.atwiki.jp/kyoshura/


前スレ
京太郎「修羅場ラヴァーズ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1400743823/)
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(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1401090438/)
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(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1402195940/)
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京太郎「修羅場ラヴァーズ」 淡「あーいらーぶゆー」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1415203531/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1416300917

「け、喧嘩……しちゃって」


必死に自分を探してくれた美穂子に嘘をつくのは心苦しいが――正直に話すのはもっと辛い。

恐らく姉は、自分がこんな風に困るのを見通して美穂子に連絡を取ったに違いない。

今頃は京太郎の部屋の布団に包まってニヤニヤ笑ってることだろう。


「まぁ……」


京太郎の言葉を受けて、美穂子は――


判定直下
1~50 一緒に謝ってあげるから……帰りましょう?
51~00 それなら……私の家に来る?

「一緒に謝ってあげるから……帰りましょう?」

「うっ……」


心配した顔の美穂子にそう言われては、京太郎も従わざるをえない。

一度逃げ出したこともあって、戻れば何を要求されるのか大いに不安ではあるが――


「あ、おかえり」


――美穂子を連れて戻ってきた自分を、姉はあっさりと出迎えた。

ご丁寧に二杯のホットミルクまで用意してある。


「……ご、ごめん姉ちゃん」

「京太郎も、悪気はなかったみたいだから……」

「ん? いいのよ、仕方ないし。美穂子もごめんね?」


はい、と差し出されるホットミルク。

ちょっと前まで寒空の下にいた京太郎と美穂子には、姉の気遣いが実に有難い。


「あ、そうだ」

「ん?」

「美穂子――今日は泊まっていったら?」

「し、失礼します……」


おずおずと、ゆっくりと――それでもしっかりと、布団に入る美穂子。


「かもんかもーん」


どうぞ寛いで、と手招きする久。

前門の美穂子、後門の久。


――どうして、こうなった。


「ほら美穂子、しっかり押さえとかないと。また京太郎がどっかに行っちゃうし」

「そ、そうね……えいっ」


控えめな態度でも、思春期の心を掴んで離さない豊かさを秘めた美穂子の柔肌。

そういった魅力では美穂子には数段劣るが、京太郎の心理を理解して巧みに肢体を絡ませる久。

そして、この二人に挟まれた京太郎は――


「あ、あぅ……」


――金魚のように、口をパクパクさせることしかできなかった。

目を閉じれば、二人の香りが鼻腔を擽る。

それすら意識しないようにすると、二人の鼓動が伝わってくる。

加えて、広いとは言えない布団の中に三人。

はみ出さないようにすれば身体を密着させる他無く――結果として互いに温め合うことで、段々と全身が火照ってくる。


「ふぅ……」


美穂子の頬を伝った汗が、京太郎の寝巻きに染み込む。

久の指先が、京太郎の寝巻きの間から滑り込む。


「姉さん……それ、以上は……!」

「いいのよ、しちゃっても」


制止の声を、姉は聞かない。

京太郎の肌を、久の指先が嬲るように這う。


「……京太郎」

「み、美穂子さん……!」


美穂子も、止まらない。

久に負けじと、その顔を鼻先が触れ合う程に近付ける。


「男の子の布団に入るんですもの……どういうことかは、わかっているわ」

「え?……あ」


微かに、唇に触れた感触。

その意味を、理解した頃には――京太郎の意識は、二人の色香に塗り潰されていた。

――チュンチュン、と小鳥が囀る朝。

カーテンから差し込む朝の陽射しは爽やかな目覚めを呼び起こす。


「ヤッちまった……」


が。

京太郎の心境は、様々な想いが嵐のように渦巻いていた。

二人の魅力的な女を相手に初めてを捨てた達成感や、普段は自分を手玉に取る姉を屈服させた満足感。

血の繋がらない相手とはいえ致してしまった罪悪感や、性欲に流された自分への嫌悪感。


「大丈夫よ」


頭を抱えて悩む京太郎を優しく包む香り。

昨夜に散々味わった温もり。


「誰が、何と言おうと――私が、京太郎を守るから」


左右の異なる色が、京太郎を見据える。

躊躇いも戸惑いもないその瞳に――京太郎はもう、彼女たちから抜け出せないことを自覚した。

「京太郎くん、シャンプー変えましたか?」

「え?」


買い出しで頼まれた物を受け渡している途中。

和が、不思議そうな顔をして京太郎に問いかけた。


「部ち……竹井先輩のものとも、違う匂いだったので」

「え、あ――そ、そう! 実は母さん
のと間違えちゃってさ!」

「……」


顎に指先を当てて、和は何かを考える素振りを見せる。

シャワーは十分に浴びて来たのだが、女性の勘のようなものが働いているのだろうか。


「すまん、遅れた」


言い訳を考えている途中に、まこが戸を開き、久がその後ろに続いて入室してきた。


「さ、始めましょっ♪」


京太郎と目が合うなり、イタズラっぽいウィンクを一つ。

周りの三年生は受験で忙しい時期だが、久は推薦により既に進路が確定している。

『インターハイに連れて行ってくれたお礼』として、彼女が後輩の指導に精を出す姿は珍しいものではない。

今のウィンクも、さして気に留める部員はいなかった。


「……」


――約一名を、除いて。

男女の付き合いをして、初めてわかることがある。

美穂子は、思いの外――独占心が強い。


「はい、あーん♪」

「あ、あーん……」


喫茶店で、一つのパフェを一つのスプーンで食べさせあう。

絵に描いたようなバカップルのやり取りだが――意外にも、提案したのは美穂子だ。

こういうのは、久が自分をからかうために面白がってやりそうな――


「……こっち、見て?」

「あ……うん」


『今は私の時間』

美穂子が目で訴えている。

久の時間、美穂子の時間、二人の時間――三人で決めた取り組み。


独占欲の強い美穂子は、京太郎が久や他の女性について思いを巡らせているとすぐに勘付いてしまう。


「もう……」


一度崩れてしまえばこの関係はあり得ない。

全員がそれをわかっているからこそ――三人の関係は歪でありながらも、成り立っていた。

「京太郎くんは、風越の――福路さんとお付き合いしているんですか?」


部活前。

自動卓の準備やお茶の準備をしている最中にかけられた和の言葉で手が止まる。


「いえ、質問を変えます……いつから、お付き合いしているんですか?」

「の、和?」

「見ていましたから。昨日、喫茶店で」


勘違い、などとは言わせない。

和の表情はいつもと変わらないが――その質問の意図が、好奇心ではないことは明らかだ。

気圧されている。

瞳を逸らさずに見つめて来る和に、京太郎はそう感じた。


「……一週間前、かな」

「一週間……」

「姉ちゃんの繋がりで、色々あってさ」



「……母の、ではなかったのですね」

「え?」


「いえ、なんでもありません……お茶の準備、私も手伝いますね」

「それで、和――話って、なによ」


久の問いかけに和は答えず。

無言で、鞄から一つの写真を取り出した。


「……へぇ?」


写っている人物は、京太郎と美穂子と久の三人。

問題なのは、場所と行為。

学校の保健室で、三人がベッドの中でしていることは――


「『偶然』撮れてしまったものなのですが」

「……」

「このままでは――つい、『うっかり』とネットに流れてしまうかもしれません」


夕日も沈み、暗くなった部室が静寂に包まれる。

これ以上の言葉は不要だ。

久ならば、何も言わずとも自分の要求は理解できるだろうと和は確信している。


「……」


加えて、余裕がある。

久と美穂子の、決定的な弱み。

京太郎を想うのなら、従う他に道はない。

故に和は、黙って久の返答を――


「あはっ」

久の口元に浮かんだものは、焦りや怯えではなく余裕の笑み。

くすくすと、和を嘲るようにわざとらしく声を出して笑っている。


「何が、おかしいんですか……!」


久の態度に苛立ちが募る。

それが久の思う壺だとしても、問い詰めずにはいられない。


「わかっているんですか、自分の立場が」

「いや、ね? むしろ望むところかなーってさ」

「はぁ?」


この写真が流出してしまえば、久の推薦取り消しもあり得る。

更に、辱めを受けるのは久と美穂子に留まらず、京太郎も巻き込まれる。

むしろ、来年には卒業してしまう二人よりも、京太郎の方が辛い立場になる可能性もある。


「だってそしたら、これからずっと三人だけで生きてけばいいわけだし?」

「……何を、言っているんですか」

「そのまんまよ? 京太郎には辛いかもしれないけど――ほら、私。悪待ちとか得意だから」

どうにかなると、久は本気でそう思っている。

和が脅しをかけようと――そもそもの価値観が違い過ぎて、話が通じない。


「いざとなったら駆け落ちもいいかもね。倫理的にはアレだけど――こうなったらトコトンいった方が楽しそうだし」


来週までに荷物を纏めて、だとか。

指を折りながらブツブツと独り言を呟き久の瞳には、既に和は映っていない。


「おかしいですよっ!」

「ん?」


声を荒げずにはいられない。

つい先程までの余裕はなく、いつの間にかに追い詰められている。


「福路さんは――」

「言えばわかってくれるわ。京太郎の為なら何でもするだろうし」


私はオマケかもしれないけどね、と。

思い出したように付け足して、久は苦笑した。


「ああ、ありがとね。和」

「は、ハァ?」


「お陰で踏ん切りが付いたし――面白かったわ、あなたの顔」

滑稽だと。

勝ち誇っていたつもりが、泥を塗られて。

吊り上げた口の端が自分を嘲り笑っているのだと理解した時には――もう、手が先に出ていた。


「っ」


乾いた音を立てて、久の頬が痛々しい赤色に染まる。

口の端は切れて、血が垂れていた。


「……ふ、ふふ。デジタルだとか、澄ました顔をして」

「うるさい……」

「ほんと、直ぐに熱くなるんだから――笑っちゃうわ」


どこまでいっても、余裕の態度を崩さず。


「黙ってください、私は……!」

「本当に――お馬鹿さんなんだから」


それどころか、人を小馬鹿にする笑みを更に深くして。


「そんな杜撰なので――京太郎を、手に入れることができると本気で思ってたの?」


あっかんべぇ、と。

口の端の血を舐め取りながら、舌を出すその姿に――和は、自分の頭の中が白く熱くなっていくのを感じた。

久の首に両手をかけて、全力で押し倒す。

自分より身長の高い相手であるにも関わらず、久の体は叩き付けられるように壁に押し付けられた。


「がっ……!?」

「あなたが、あなたが、あなたさえ――!!」


今の和の思考は余すところなく熱に支配されている。

このまま首を締め付ければ久がどうなってしまうのか。

普段であれば思い付くその考えの先に、答えはない。


「あなたが、いなければ……!」


抵抗はない。

そして、涙を浮かべ、涎を垂らす苦悶の表情に先程までの余裕はない。

傷付けられた自尊心が満たされていく。


「あ、あはは……!」


久の指が和の手の甲に触れるが、弱々しい力ではどうすることもできない。

このまま。

このまま力を込め続けてしまえば――

和の視界と思考が一転したのは、唐突に頬に走った衝撃によって。

冷たい床に投げ出され、遅れて痛みと熱と、鉄の味が口内に広がる。

殴り飛ばされたのだと理解できたのは――ずっと、後になってから。


「けほっ」


咳き込む久を支えるのは、背の高い金髪の男子。

和からは後ろ姿しか見えず、その表情は伺えない。


「……ふふっ」


ただ、ゆっくりと彼に抱き抱えられて。

部室から出る瞬間に、久が口の端を吊り上げたのを――和は、見逃さなかった。

最初から嵌められていたのか。

それとも、偶然の巡り合わせでこうなったのかはわからない。

何れにせよ、暗い部室に一人残された和には何もできない。


「……」


震える指が、写真を握り潰す。

胸の奥底から溢れ出る激情は、彼女を立ち上がらせる。


「……」


誰の手も借りず。

支えてくれる人は、奪われた。

嫉妬とも怒りとも区別のつかない感情に、和は突き動かされる。


「……」


ふらふらとした足取りが目指す先は愛しの彼の元。

その瞳が映すのも、たった一人だけ。

それだけを目指して、和は歩き出し――


「さようなら」


――故に、気が付くことができなかった。

竹井姉弟の転校と原村和の転校。

この二つの出来事が重なったのは清澄でちょっとしたニュースになった。

同じ麻雀の面子が同時に転校したということで様々な噂が囁かれたが――


「……よいしょっと」


――本当のことを知っているのは、二つの異なる色の瞳だけ。

重箱に弁当を詰めた美穂子は、壁にかかった時計を確認すると、ほっと安心したように息を吐いた。


「良かった。間に合って」


重箱を手拭いで包み、額の汗を手の甲で拭う。

大好きな二人の為に、二人が大好きな物を沢山詰めた重箱。

中身が崩れないように、確りと両手で持って美穂子は台所を後にした。

「それじゃ、行きましょうか」


京太郎を真ん中にして、両隣に久と美穂子が寄り添う。

繋がれた手は、きっと二度と解けない。


「……」


京太郎は、名残惜し気に一度だけ振り向いて。

それから、姉に急かされて。


「うん……行こう、か」


二度と、戻ってくることはない街を背中に。

二度と離れることのない二人の女性を連れて、京太郎は歩き出した。

久たんいぇいな話の筈が眠気やら気力低下やらでやたらと時間がかかってしまった
美穂子と付き合いだして、それに久が横からちょっかい出して――な話にする予定が変な風になりました
とりあえず義姉ヒッサ編はここまでで


次の更新時は臨海再開します。お泊まりパートです
臨海の日常パートは今までで一番長くなりそう


それでは、今夜はここまでで
お付き合いありがとうございました

21時30分頃から始めたい所存

智葉の住む屋敷。

最初は訪れる度にビビっていた場所だが、今となっては何も恐れることはない。

スキンヘッドのお兄さんやら刺青のおじさんの見てくれは相変わらず恐ろしいが――カピーと笑顔で触れ合う姿を見ているうちに、ビビっているのが馬鹿らしくなったのだ。


「な、なぁ……ど、どうすればいいんだ……?」


そして、それは我らが先鋒の智葉も同じで。

カピーに懐かれてアタフタと慌てる姿は新鮮というか、大きなギャップがある。

普段の凛とした佇まいとは正反対の姿を見れば、ついからかいたくなってしまうのも仕方が無い。


「ほーらカピー、もっとやってやれー」

「ちょ、京太郎っ!?」


そしてこの後、仕返しと言わんばかりに麻雀の指導でたっぷり絞られるのもまた――お約束と言える。

スパルタに次ぐスパルタ指導。

自分の中の甘い考えが徹底的に切り落とされていくような感覚。

風呂の準備が出来た、との声で解放された頃には――京太郎の頭は大分疲れ切っていた。


「お疲れ様。先に入ってもいいぞ」

「え、まじすか」

「ああ。風呂でさっぱりして――そうだな、二時間後にはまた始めよう」

「え、まじすか……」

「当たり前だ。時間は有限だからな」


無駄を許さぬ二段構え。

それが智葉流指導。


「……まぁ、ゆっくり温まってこい」


とはいえ、先を譲ってくれるという智葉の厚意には素直に甘えるべきだろう。

京太郎は、刺青のお兄さんに案内されて脱衣所へと向かった。

広い湯船に一人で浸かる。

浴槽は京太郎が両手足を大の字に伸ばしてもまだまだ余裕がある。


「ふぅ……ん?」


リラックスの末に、もういっそこの家に住んでもいいか――と、そんな考えまで頭を過った時。

戸の向こう側に、何やら人影が見えた。


1~50 戸が開くことはなく、人影は去って行った
51~00 ……え?

「……え?」


驚きの言葉を口に出したのは、どちらが先か。

大口を開けて、目を見開いて。

まるで、鏡写しのように――全裸の智葉と、目が合った。


京太郎選択肢 下3
1.「す、すいません!」と後ろを向く
2.「ご馳走様です」と両手を合わせて拝む
3.その他 自由安価

時が止まったかのように互いの間に流れる沈黙。

やがて、状況を理解し始めると段々と互いの頬に朱が差していき――


「す、すいません!」


先に動いたのは京太郎だ。

非がないとはいえ、智葉の裸をしっかりバッチリと目撃してしまったのだから。



サトハ先生反応直下
1~60 「こ、こちらこそ、すまなかった……」
61~00 「……そんなに、畏まらなくていい」
ゾロ目 ???

「……お前が謝る必要は、ないさ」


背後で戸が閉じる音がする。

続いて、ひたひたと濡れた床を裸足で歩く音。


「よく確認をしなかった、私が悪いからな」


湯船に波紋。


「しかし――」


声が、ゆっくりと近付いて来る。


「責任は、とってもらえるか?」


智葉の指先が肩に触れて。


「なぁ……どうなんだ?」


吐息が耳にかかる程に、智葉の唇が近付いて。


「なぁ……京太郎?」


思考が固まって、身動きの取れない京太郎に――









――キョウタロー?






「すいません!!」


何に対する謝りの言葉なのか、自分でもわからないままに。

智葉の体を出来る限り見ないようにして――京太郎は、湯面を掻き分けるようにして湯船から飛び出した。


「……やれやれ」


智葉は一つ、溜息を吐き。

身体を洗うべく、湯船から出てシャワーを浴び始めた。

部屋に戻ってきた智葉を出迎えたのは、京太郎の土下座だった。

半ば予想通りの光景に、苦笑が零れる。


「顔を、上げてくれ」

「すいませんホントすいません……」

「……ふぅ」


深く溜息を吐いて、智葉は京太郎の前に座った。


「元はといえば、私が悪かった」

「……」

「だから――お前がそうするのならば、私も筋を通さなければな」

「筋……?」

顔を上げた京太郎が見たものは――額を畳に押し付けるような、智葉の土下座。


「すまなかった。責任、などと――お前を、困らせてしまった」

「そ、そんなことは……」

「いや、私が悪いのにお前を追い詰めてしまったんだ。それなのに、お前を謝らせてしまった」


深い謝罪の姿勢と言葉を口にして、智葉は顔を上げた。


「京太郎」

「は、はい……」

「私は――お前のことが気になるんだ」

「は、はい……?」


曖昧な言葉は、真っ直ぐに背筋を伸ばした智葉には似合わない。

それ故に、智葉も己の中の感情の整理がついていないのだということが伝わって来た。

「最初は、好青年だと思った」



「次に、危なっかしいヤツだと思った」



「……ハオと抱き合っていた時は――頭の中が冷えていくようでいて、熱を感じた」



「お前が麻雀に熱意を向け始めた時には――嬉しく思った」



「気になるんだ、お前のことが」


「この気持ちを恋と呼ぶのか、それはわからない」



「それでも――裸を見られた時に、『責任』を取って欲しいと思う程には、お前を気に入っている」



「そして――私の隣にお前がいるのを想像すると、悪くないと思える」



「京太郎」




「私は、お前が好きだ」

智葉の告白に、京太郎は答えられない。

予想外の事態に、理解が追い付かなかったということもある。


「いや……すまない、余計にお前を混乱させてしまった」

「……」

「それでも――言っておくのが、筋だと思ったんだ。お前にも、私にも」


それだけ言い終えると、智葉は立ち上がり、時計を見上げた。


「……今夜は、ここまでにしよう」

「智葉、さん……」

「……答えは」



「答えは、いつでも構わない」

「……」

「それがどのような答えでも――私は、待つさ」



「……いつまでも、な」

予想外の00クリティカル也


とりあえず、今夜はここまでで
臨海日常パートはまだ続く方向でー


それでは、お付き合いありがとうございました!

「なぁ、ネリー……?」


問いかけても返事はナシ。

ぷいと拗ねられては取りつく島もない。

それでいて膝の上は陣取られたままなのだから、どうしたものか。


『あれ? キョータローからサトハの匂いがするよ?』


事の発端は、いつも通りにネリーが京太郎の膝を陣取った時に。

智葉にもよくじゃれ付いているネリーだからこそ、ソレに気が付いたのだろう。


『ん、ああ。昨日泊まったからな』


ここまでなら、まだ問題はなかった。


『お泊り? サトハの家に?』

『色々あってさ。麻雀の勉強とか風呂とか……』

『……キョータロー?』


雲行きが悪くなったのは、この辺りから。

昨日の風呂場での出来事を思い出しそうになり、京太郎は慌てて話題を逸らした。

そして――


『ま、まあ! この前はハオの部屋にも行ったし! 変なことはしてねえよ!』


逸らした方向が、少しばかり不味かった。

こうして膨れっ面ネリーの出来上がり。

今思えば智葉とハオは部屋にお邪魔して、メガンは家に上げたことがある。

入部以来、学校以外の場で二人っきりになったことがないのは明華とネリーだけだ。

部員の中では一番最初に出会い、何だかんだで一緒にいる時間も一番長いが――こうして考えてみれば部屋にお邪魔したことはなかった。


「……」


――ふむ。

それならば、と京太郎はネリーの膨れた頬を指で押した。


「ふゅっ」

「あー……じゃあさ、今度ネリーの家にも連れてってくれないか?」

何すんの、と文句を言おうとしたネリーの口の形が変わる。

不機嫌なへの字から、期待を意味する緩やかな弧を描く。


「ホントっ!?」

「あ、ああ」


ネリーの勢いの良さに気圧されつつも、頷く。

少々驚いたが、どうやらこの選択は――


「夏休み、忙しくなりそう」

「……ん?」

「あ……キョータロー、パスポートないでしょ?」

「ん? んん? 何でパスポートが――」


「だって――サカルトヴェロだよ? ネリーの家」

挨拶しないとな

ネリー・ヴィルサラーゼ。

出身・サカルトヴェロ。


成る程――確かに、ネリーの言っていることに間違いない。

彼女の家、実家に行くのならば確かにパスポートが必要になる。


「あー……」


あるのは間違いではなく食い違い。

京太郎からすれば彼女の泊まる部屋にちょこっとだけお邪魔するつもりだった。


「~♪」


しかし、とても嬉しそうに笑うネリーの顔を見ていると今更訂正するのも気が引ける。


「……そうだな、今度の休みにパスポートとってくるよ」

まー、このssにおいては

・グルジアは治安が悪いエリアもあるが遺跡やら観光スポットもそれなりにある

くらいの認識でお願いします

あ、本編再開は2000を予定してます

――夏休みに、外国の友達の家に行くことになった。

そう言うと、京太郎の両親も快くパスポート取得の手続きを手伝ってくれた。


「これがなぁ」


そして今、手元にあるもの。

見た目は小さな手帳だが、海外へ行く時には必須になるもの。


「ふーん……?」


パスポートを受け取った帰り、小腹が空いたので寄り道したファミレスにて。

パラパラと中身を捲っても特に面白いものはない。

当然といえば当然だが、海外旅行というイベントの大きさを考えると少々物足りない気がする。


「それは、あまり外で見せびらかすものではありませんよ?」

「あ、はい。すいません」


注意の声に慌ててパスポートを仕舞う。

声の方向に顔を向けると、明華がトレードマークの傘を手にかけて立っていた。

散歩をしながら歌の練習をしていたら小腹が空いて。

イクラ丼を食べたくなったのでファミレスに立ち寄ったところ、パスポートを不用心にペラペラと捲る京太郎を見つけた、とのことだが。


「明華さん、何かいいことありましたか?」


それにしても、目の前でイクラ丼をパクパクと口に運ぶ明華は妙に機嫌が良いように見える。

店員が注文を運んでくるまでの間も、鼻歌なんぞを口ずさんでいたし。


「ふふ、わかりますか?」

「はい、なんか凄い嬉しそうですね」

「ええ、だって――これで、京太郎くんをフランスの母に紹介できますから♪」

「ああ、成る程」

「はい♪」


それならば、機嫌の良いのも納得だ。

京太郎も、自分の注文したハンバーグにフォークとナイフを突き立て――


「……え?」

一瞬スルーしかけたが、さらっと凄いことを言われたような気がする。


「いや、ちょっと待ってくださいよ」

「なんですか?」

「フランスの母に紹介ってことは……」

「案内しますよ、勿論。向こうに行くには……夏休みがちょうどいいですね」


明華の中で、京太郎をフランスに連れて行って母に紹介することは既に決定事項のようだ。

断られる、という考えは微塵もないように見える。


「ああ、心配しないでください。旅費は私が出しますから」


京太郎選択肢 下3
1.「すいません、先約が……」
2.夏休みは長いし……まぁ、大丈夫かな?
3.その他

「すいません、先約が……」


ピタリと、まるで時間を止めたように。

明華のスプーンを口に運ぶ動きが止まった。


「……先約?」

「ネリーの家に行く約束をしてて……」

「ネリーの……」


明華判定直下
1~50 「そうですか、残念です……」
51~00 「また、ネリーですか……」

「また、ネリーですか……」


明華の声のトーンが低くなる。

まるで、さっきまでの喜びを反転させたかのように。


「……」


以前の指導の時も、食堂でも。

京太郎が優先していたのは、常にネリーだった。


「明華……さん?」


京太郎には、明華の心中を測り知ることはできない。

折角の明華の誘いを断ってしまったのは心苦しく思うし、残念ではある。

だが、明華の雰囲気は残念がるというよりは――

「はい、わかりました♪」

「はへ?」


身構えていた京太郎の裏をかくように。

顔を上げた明華の表情は明るい笑顔。


「ネリーの家……つまり、サカルトヴェロに行くんですね?」

「は、はい」

「でしたら――どの道、フランスに行く必要はありますから」

「そうなんですか?」


サカルトヴェロへの日本からの直行便は無い。

故に、旅行に行くならパリやロンドンといったヨーロッパの各都市を経由していく必要がある。


「ですから――そこで、フランスを経由すれば」

「ああ、成る程……」


夏休みは、長い。

フランスの明華の家で何日か滞在してから、サカルトヴェロのネリーの家に向かう余裕くらいはあるだろう。

無論、きちんと計画を立てる必要はあるが、明華の提案はある意味で一石二鳥だ。

両方を立てられるのなら京太郎にも断る必要はなく、明華の提案にも首を立てに振ることにした。


「……♪」


その笑顔の裏に、何を想っているのかわからないままに。

フランスの後にサカルトヴェロ。

忙しいことこの上ないが――きっと、今までで一番楽しい旅行になるだろう。


「……あ」


帰ったら家で色々調べてみようと意気込む京太郎の胸に引っかかったことは、旅費の問題。

フランスまでの旅費は明華が出してくれるというが、サカルトヴェロまでの旅費は考えていなかった。


「……」


もし貯金で足りなかったとしたら、何かしらの方法で小遣いを稼ぐ必要があるが。

麻雀の時間も取らなければならないので、バイトに打ち込む時間は少ない。

短い時間で、それも金を稼ぐバイトとなると、それは前にやろうとした――


「いや、ない。絶対ない」


京太郎は、一瞬だけ浮かんだイメージを、すぐに頭を振って掻き消した。

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    /\'´        /{  | 从{__,. \∨Vソ }イ ト、 ∧{
    ////\ r---  ´八 !∧  ̄   ,:  :.:.:  }/ノ/ リ
.   ///////\      \}∧         u 八/
  //////////〉        込、  __    ,.: /
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【須賀京太郎】

所属:臨海
立ち位置:マネージャー兼唯一の男子部員

【ステータス】

雀力:D 頑張れ男の子

雑用:D 普通のマネージャー……だけどお茶の腕前には自信アリ
     日米仏中の食卓に自信を持ってお茶を出すことができる。最近は前より牌譜整理を熱心にやるようになりました

能力:- そんなオカルトありえません


【部のみんなへの印象】

智葉:彼女の告白に対してどう答えればいいのかわからない

ハオ:……すまん

明華:明華のお母さんか……どんな人なんだろう?

メグ:以外と家庭的なところもある

ネリー:夏休みにお邪魔します。旅費は大丈夫かな……?

アレクサンドラ:監督。痩せている。やれるだけやってみます
        

【部のみんなからの印象】

智葉:お前が好きだ

ハオ:良い匂いがする。家族に紹介したい。もっとずっとぎゅっとしたい

明華:夏休みに母に紹介予定。そして……

メグ:ダーリン。エアメールでファミリーに紹介済み

ネリー:好き。大好き

アレクサンドラ:濡れた


【その他】

照:幼馴染の姉。憧れのお姉ちゃん

淡:雀荘で知り合った子。逆ナンされた。ひょっとしなくてもアホの子

三尋木プロ:いつか見返してやりたい。いつか、必ず――でも、あの人どっかで見たような?

休み明けの日、京太郎がいつも通りに部室に顔を出すと、アレクサンドラが机に座って牌譜を捲っていた。

彼女は京太郎に気が付くと、片手を上げて京太郎を迎えた。


「早いね。感心だ」

「教室が部室に近いっていうのもありますけどね」

「ふむ……どうやら、最近は中々に頑張ってるみたいじゃない」


どうやら、アレクサンドラが見ていた牌譜の束は京太郎の対局を纏めたものだったようだ。

立ち上がって手渡された牌譜には、赤ペンで良かった点と反省点についてのチェックが入っていた。


「これは……」

「監督だからね、私も」

「……ありがとうございます!」


全ての牌譜に、読みやすく纏められてチェックが付いている。

所々に書かれている外国語の文は、文字が崩れていることもあって今一理解できないが、それを差し引いても十分に役立つ。


「はは……何か、手間かけてばかりっすね。すいません」

「手間をかけるのが監督の仕事。それに、キョウタロウ。君の存在は、サトハたちにとっても大きなプラスになっているよ」

雑用以外の部分でもね、とアレクサンドラは付け加えた。


「キミの存在が彼女たちにとっての起爆剤となっているから」

「起爆剤って」

「前以上に熱心に練習に打ち込んでる。キョウタロウの熱気に当てられたのかも」

「はは……」


こうも真っ向から褒められると、流石に照れ臭い。

京太郎はそっぽを向いて頬をかいた。


「前に風邪で休んだろう? あの時も、随分激しく戦っていたよ。誰が看病に行くかを勝ち負けで決めていたらしい」

「はぁ、そんなことが」

「私も仕事が無かったら参加したんだけどね……ああ、仕事を放り投げれば良かった」

「ふぅ……」


部活を終えて帰宅。

疲れはあるが、まだ体力に余裕はある。


「さて、と」


行動安価 下3
1.LINEに通知……?
2.ネト麻でもしようかな
3.その他

「お……」


携帯にLINEの通知。

相手は――


キャラ安価、下3で
今までに会ったキャラなら誰でも可(三尋木プロは除く)

「あ……」


辻垣内智葉。

あの日の告白以来、面と向かって会話をすることはなかった。

お互いに気まずさがあり、部活中でも自然と口数が減ってしまっている。


『話したいことがある。私の家の近くの公園に来てくれないか?』


話したいこと。

恐らくは――いや、間違いなくあの告白に関することだろう。


「……そうだよな」


いつまでも待つ、と智葉は言ったが。

中途半端な関係を続けるのは、きっとお互いとって良くない。

彼女のLINEに了承の返信をして、京太郎は家を出た。

「すまないな、急に呼び出して」

「いや、大丈夫っす」


日が沈み、暗くなった公園。

京太郎と智葉の他に人影は見えず、辺りはすっかり静まり返っている。


「……」


智葉と見つめ合い、互いに言葉を失くす。

どのように話を切り出すか、互いに逡巡して。

智葉が、自嘲の笑みを浮かべながら先に口を開いた。


「すまない、呼び出しておきながら……」

「いえ……」

「話は……お前の、考えている通りだ」


――私は、お前が好きだ。


頭の中で、あの日の告白が響く。

「すいません……俺、まだ答えが――」


迷いながらも、今の自分の気持ちを正直に伝えようとした京太郎を、智葉が首を横に振って制止した。


「いや、違うんだ。答えを急かすつもりはない」

「え……」

「ただ……」


数秒の逡巡。

長い瞬きの後――智葉は、迷いを振り切って京太郎を見つめた。


「……一つ、許してほしい」

「……」

「待つと言った手前女々しいが、私はお前を諦めたくない」


「だから――私は、お前を落とす」

「夏休みに明華の家に行くと聞いて……我慢、できなくなったんだ」


「他の誰にも、お前を渡したくない。はっきりとそれが、わかった」


「答えを出すのはお前だ」


「だから、お前が私を選ぶように」



「私は――お前を、骨抜きにする」

よく通る声で。

一歩ずつ、距離を詰めながら、智葉は宣言した。


「これは」


やがて、後一歩で互いが重なる距離まで来ると。

智葉は、京太郎の胸倉を掴んで顔を引き寄せて。


「うわっ!?」

「その、前借りだ」


有無を言わせず――口付けを、重ねた。

眠気がマックスなので今夜はここまでで
りんかいだけで別スレ立てられそうな気もして来ました
一番臨海編が長くなるのは予想してなかった……

監督の出番も予定より増えてます
割り食うキャラになってないといいですが
イベントを後一つか二つか挟んで臨海日常パートは終了予定です
意外なコンマの荒ぶりが無ければの話ですが……


それでは、今夜はここまでで
お付き合いありがとうございました!

臨海終わったらちょっと普通のイチャラブ小ネタ書いていいですか(小声)

ネリー可愛い
何だか酷い言われようである
ネリー可愛い
とりあえず今夜で臨海日常パートは一区切り付ける予定
ネリー可愛い
それでは始めてきます
ネリー可愛い

智葉の宣言と、口付け。

余りの衝撃に――その後に何を話して帰ったかは、覚えていない。


「ふぁ……」


そして、寝不足。

理由は言うまでもなく、欠伸を噛み殺した回数は数え切れない。


「……寝不足のようね」

「あ……監督」

「熱中するのも構わないけど、焦っては逆効果だ。強くなりたいなら尚更」


どうやらアレクサンドラは、京太郎の寝不足の原因を麻雀に熱中し過ぎた為だと思っているらしい。

事実を知ったら、果たして彼女はどんな顔をするだろうか。

「時間は大事にしないと。ただでさえ……」

「……?」


アレクサンドラが渋い顔をしながら取り出したプリント。

一瞬牌譜かと思ったが、そこに書かれている内容は全く違うもの。


「……文化祭?」

「そう。うちの出し物として、何人か打つところを見せてほしいんだと」


ネリーや明華という有名人を起用している以上、部員の情報が相手に知られてしまうのはある程度は覚悟しなければならない。

それでも、勝つ為には本命との対局まで出来る限り切り札は伏せておく必要がある。

世界ランカーを抱える臨海だとしても、夏のインターハイという舞台を甘く見ることはできない。


「……上の人らは、私たちとは違う考えでね。派手に売り出す機会をできるだけ増やしたいらしい」

「はぁ……」

「でも……ある意味、キョウタロウにとっては朗報かもしれないね」

「そうなんですか?」

「恐らくは、何人かの監督やプロたちも来るだろう。運が良ければ、チャンスにできるよ」


対策を練る為に来る他校の生徒たち。

選手にとっては情報が知れ渡ってしまうのはマイナスになる。

だが、京太郎にとっては新しい刺激を得る為の機会になるかもしれない。


「この機会を活かすも捨てるも君次第……まぁ、普通に文化祭を楽しむのも悪くはないだろうね」

「……」

「ここからは今までより時間が貴重になる……それじゃあ、私は少し出かけてくるよ」


面倒くさい挨拶に行かなくちゃならない。

そう言い残して、アレクサンドラは廊下の向こうに歩いていった。

京太郎を除く、部員たちの前で。


「私は――あいつが、好きだ」


智葉は堂々と、宣言した。

「……少し前に、あいつに告白したよ」


智葉の宣言に対する反応は様々。

ハオと明華は、無言で目を細めた。

メガンは、面白そうに口笛を吹いた。

ネリーはただ無言で――下を、見ていた。


「答えは……?」

「まだ、だ」

「すぐに答えられないなら……それが、答えなのではないですか」


暗に、お前は振られたのだと。

棘のある口調で、ハオは智葉に告げられても、智葉は焦りや不安を表に出さない。


「はは……かもな。でも、拒絶されたわけじゃない」

「……」


諦める気配を微塵も見せない智葉に睨まれ、憮然とした様子でハオは頷く。

智葉の宣言は、宣戦布告だ。

お前たちの彼に対する好意はわかっている。

それでも、負けない。


「私は何でもする。家の立場だって使うし、彼と同じ日本人だということも利用させてもらう」


智葉は揺るがない。

卑怯だと何だと言われても、手を緩めるつもりはない。

智葉を本気にさせたのは、明華。

そして、明華を関節的に煽り立てたのは――ネリーだ。


「……キョータロー……」


彼女の胸を占めた感情は、不安。

何よりも欲しいと感じた物が、遠くへ行ってしまう焦り。


「……」


きゅっと握った手のひらに爪が食い込む。

ネリーはキョータローが好き。

なら、キョータローは?


「……ネリーは……」


等価交換。

前に、彼が口にした言葉。


「だったら……」


だったら、ネリーがキョータローにあげられる一番大きな物は――



【臨海 日常パート 了】

というわけで臨海日常パートはここまで

いくつか1~3レス程度の普通のイチャラブ小ネタ書いてこうと思うので
リクというか要望的なのあれば

とりあえずネリーと明華は確定で書きます

「11月26日はいい風呂の日なんだと」

「ふーん。なんか強引」


広くない浴槽の中に二人。

隣り合うスペースは無いので、自然とネリーが京太郎の膝の上に座るようになる。

水着やタオルのような、二人が触れ合うものを邪魔するものは、ない。


「ねー、キョータロー」

「掃除が面倒だから後でな」

「……ケチ」


ハオや明華にも言い寄られて――結局、京太郎が選んだのはネリーだった。

好きな女性のタイプとは正反対の彼女。

『俺、ロリコンだったのか?』と小一時間ほど悩んだのは誰にも話せない秘密だ。


「今は、これでな」

「んー……しょうがないなぁ」


額にそっと口付け。

口では物足りなさそうなネリーも、満更でもない顔をしている。


「後でいっぱい、キョータローの愛情貰うからね!」


尚、この後でネリーを連れて部屋に上がったら母親によって掃除されていた為に、机の上に並ぶ数々のおもち本を見つけることになるが――それはまた、別の話である。

『そんな明華さん。日本に来てからはイクラと数の子が好きになったそうです』


涙ながらに明華の経歴を読み上げる恒子。

そのアナウンスを控室で聞いた臨海の部員たちは、意外そうな顔を浮かべた。


「プチプチしたものに目がないんですよ」

「あー、確かに」


言われてみれば、明華は食堂でもよくイクラ丼を口にしている。

アナウンサーがどこでこの情報を知ったのかは不明だが、彼女は中々に優秀らしい。


『そしてなんと! 日本にきて好きな男の子が出来たそうです!』


そして続くアナウンス。

部員たちの顔が、驚いたものから微笑ましいものを見るものに変わった。


「イヤーオドロキデスネー」

「そうだなぁ、誰だろうなぁ。そんな色男は」

「うっ……」


棒読みのメガンと智葉に肘で突つかれ、よろめきながら一歩前に出る京太郎。

当然その先にいるのは、


「そうですねぇ……ナイショです」


微笑みを浮かべて待ち構える、明華である。

明華が普段から積極的なアプローチを仕掛けているのは周知の事実。

京太郎がヘタレて答えられないのも同じ。

だが、今の逃げ道が塞がれている状況では。


「じぃー……」


なあなあで答えを返すことは、許されない。

唾を飲み、意を決した京太郎の返答は――


「お、お友達からで……」

「ヘタレ」

「ヘタレだな」

「ヘタレてますね」


「……」

「み、明華さん……?」


「お友達では……なかったのですか?」

「は、はい?」

「私と京太郎はもうお友達だと思っていたのですが……違ったのですか?」

「う゛っ……!?」

古来、女性の涙は武器である。

ただでさえ追い詰められていた京太郎の立場が、更に険しいものになる。


「私の……思い違いだったのですね……」

「ち、違っ」


前方の明華の涙。


「あーあー……」


後方の部員たちのジト目。

良かれと思って返した答えが招いた結果。

ならば、この状況を覆すには――


「明華さんっ!!」


――男を見せる、それしかない。

「お、俺と……」

「……」


「俺と……付きあって下さい!」

「はい、喜んで♪」


泣き顔がケロリと反転、笑顔で即答する明華。

京太郎の拳を手のひらで包み、喜びを全身で表現している。


「ふふ……後で、母に挨拶に行きましょうか」

「あ、後で?」

「来てるんですよ、この会場に」

「あ」


そう言えば。

さっきも、アナウンサーがそんなことを言っていた。


「ああ……そうしたら。将来はフランスで暮らすか日本で暮らすか。今のうちから考えないと」

「は、ははは……」


一気に人生の墓場まで引き摺り込まれたような。

少なくとも、今の一言で高校卒業後の進路は既に決まってしまった。


「これから、よろしくお願いしますね――あなた♪」


まぁ、でも。

こんなに美人な彼女がいるのだから――それも、悪くはない。

京太郎は、そう納得することにした。

【本編if】


「……」

「……」


気まずい。実に気まずい。

きっかけは、ハオに教本を譲り受けたこと。

あれから、脳裏からハオの匂いが離れず。

色々な意味で、京太郎の眠れない夜が続いた。


「……す、すいません」

「あ、あ……いや、これは……」


問題は。

インターハイの宿泊先のホテルで。

滾るリビドーを抑えきれなくなった京太郎が、一人で発散させようとした瞬間に。

ハオが、部屋のドアを開けてしまったこと。


「これは……私?」

「うぁ……」


更に、ベッドの上にはハオの写真。

穴があったら入りたいを通り越して、縄があったら首を吊りたい。

罪悪感と羞恥心で、京太郎の心は塗り潰された。

「私の……せいですか?」


京太郎の心境を一転させたのは、ハオの一言。

嫌悪でも恥じるでもなく、ハオは京太郎の前まで歩を進めると、身を屈めてその下腹部へと手を伸ばした。


「ハ、ハオ!?」

「私の責任なら……私が、何とかしなければ……!」


ハオの白魚のような指が、京太郎の――



【省略】

【有珠山小ネタif】


「見てて、くれますか?」


――何を、と問いかける前に。

成香は、そっとカッターナイフを手のひらに――


「……あっ」


パキン、と高い音がして折れるカッターナイフの刃。

運悪く――いや、運良くカッターナイフの刃が古くなっていた為に、その刃は何かを切りつけることなくあっさりと折れてしまった。


「えと、ええっと……」


眉をハの字に曲げて困り顔の成香と、展開について行けない京太郎。

二人の間に、気まずい空気が漂った。


「はぁ……とりあえず、帰りましょうか」

「! は、はい!」


溜息と一緒に差し出された手をしっかり握って、成香は心から微笑んだ。

想い人の温かさを直ぐ側で感じるこの距離。


「すてきです……!」

「……やれやれ」


この瞬間、成香は世界で一番、幸せだった。

【清澄と】


「竹井先輩、卒業しちゃったね」

「そうだなぁ……」

「来年からは私らが二年かー」

「そうだなぁ……」

「……須賀くん?」

「そうだなぁ……」


「……ていっ」

「あ痛っ!?」


上の空な京太郎の頬を、和が抓る。

心ここにあらずな京太郎の意識は、強制的に部室に引き戻された。


「あなたがそんなのでどうするんですか。それでは竹井先輩も卒業できませんよ?」

「……」

「あ、それもいいかも……だなんて思いましたね、今」


図星である。

そっぽを向いて口笛を吹く京太郎に、和は呆れた顔をする他ない。

「……優希」

「あいあいさー」

「お、おい!?」


和の支持で、優希が京太郎の手首に付けた物。

京太郎の手首と椅子を繋げる冷たい輪。


「な、なんだよコレ」

「玩具の手錠ですが……結構、頑丈なんですよそれ」


京太郎が聞きたいのは、そういうことではない。

困惑の視線を向けると――和は、にっこり微笑んだ。


「ここ最近――ずっと、集中力に欠けていましたからね」

「こうでもしないと、京ちゃんヤル気出さないでしょ?」

「ビシバシとスパルタ指導だじぇー」


「さぁ……一緒に麻雀楽しもうよ、京ちゃん」



哀れな悲鳴が、清澄に響いた。

それは、中学時代のお話。


「須賀くん、ちょっと付き合ってもらえませんか?」

「ん、なんだ真屋」

「このプリントを運ぶの、手伝って欲しいんですけど」


由暉子が山のような雑用を押し付けられて、京太郎に手伝ってもらう。

ここ最近、毎日のように見られる光景。


「おっけー。お安い御用だ」


そして京太郎もホイホイ請け負う。

自分好みの女子に頼られるのは悪い気はしないし、両腕いっぱいにプリントの束を抱える由暉子の姿は見てて危なっかしい。

基本的に由暉子は頼まれごとを断らないために、パシリのような扱いをされることがある。


「お願いします」

「おう、任せとけって」


由暉子本人にしてみれば、頼まれごとを断らないのは自分が頼りがいがあるためだと思っている。

ならば何故、京太郎にも手伝ってもらうのか。

それは――未だ、由暉子自身にもわからない。

それは、二人が有珠山に入学して少し経ってからのお話。


「あ、お茶とお菓子切れてる」

「じゃあ買ってきます」


部活前に戸棚を覗いた誓子の言葉を受けて、由暉子がすぐに手を上げた。

普通ならジャンケンで決めるのが有珠山麻雀部の伝統なのだが、中学からのクセを引き摺っている由暉子は雑用の機会があると率先して奪い去っていく。


「京太郎くん、ちょっと付き合ってもらえませんか?」

「おっけー」


そして、京太郎も一緒に着いて行くことになるのも同じく。

この光景が、有珠山麻雀部の日常の一部となりつつあった。


「また出遅れました……」

「よしよし」


落ち込む成香を誓子が慰めるのもまた、恒例である。

それは、夕暮れの放課後のお話。


「京太郎くん、私と――付き合ってもらえませんか?」


夕日を受けて、頬を紅色に染めた由暉子の告白。

手を胸元に添えて、上目遣いに京太郎を見やる由暉子の顔は、普段の無表情からは想像も付かない。

彼女の告白に、京太郎は――


「ああ、いいぜ。どこに行く」


――何てこともないように、あっさりと返した。

「京太郎は、由暉子とはどこまで行ったの?」


京太郎の肩幅の採寸をしながら、揺杏が京太郎に問いかける。

由暉子の衣装に使った布が大分余ったため、京太郎にペアルックを作ってやることにしたのだ。


「どこまで、ですか?」

「そうそう。まさか、言えないトコまで言っちゃったり?」

「いえ……確かこの前の日曜は、一緒にゲーセンに行って」

「ふんふん」

「あー……その後に、ファミレスで飯食って」

「ほうほう」

「それから――ショッピングモールでアクセサリーとか見繕って」

「それからそれから?」

「由暉子の家にお呼ばれして」

「おお!」


何故か妙に興奮している揺杏を怪訝に思いながら、京太郎は記憶を辿る。

由暉子の家に呼ばれた後は、確か――


「由暉子のお母さんに夕飯をご馳走してもらって、帰りました」

「……それだけ?」

「それだけって?……いやまぁ、そうですけど」



ガッカリしたような、ホッとしたような。

複雑な表情を浮かべる揺杏は、ボソリと呟く。


「親公認の仲か……でも、まだ成香にも勝ち目はあるかな?」

「どうしました?」

「こっちの話!」


変な先輩だ、と京太郎は思った。

「京太郎くんは……まだ、ユキちゃんとはしてないんですよね」

「はい……? まぁ、人に言えないようなことはしてませんけど」


薄暗い体育倉庫での片付けの途中。

成香が、椅子を整理しながらぽつりと切り出した。

確認というよりは、確信の込もった口調に京太郎は首を傾げる。


(したって……何を……?)


思い当たることは、特にない。

個人指導をしてもらったり、放課後デートのようなことはよくしているが。


「なら……」

「せんぱ……い!?」


振り向くと、ブレザーを脱ぎ捨てて、ネクタイを解く成香の姿。

止める間もなく、シャツも脱いでスカートを降ろし、成香が身に纏うものは、下着のみとなった。


「この時だけ……今だけで、いいですから」


リボンも解かれて、彼女の長い髪が舞う。

シャンプーの匂いだろうか、甘い芳香が鼻腔を擽った。


「私を――あなたの一番に、して下さい」


両手を広げて、成香は京太郎を迎え入れる。

京太郎にしてみれば、まるで意味がわからないが、据え膳食わぬは何とやら。

ちょうど後ろにはマットがあるわけだし、と理性の糸が切れかかった京太郎は成香の手首を掴み――

瞬間、勢い良く開け放たれる体育倉庫の扉。

照明を背に受けて、その表情は伺えないが、そのシルエットから扉の向こうにいる生徒が由暉子だということは瞬時に理解した。


「あ、ユキ、こ、これはだな」

「この、泥棒猫」

「……は?」


慌てた京太郎が言い訳を探している内に、由暉子の口から出たのは思いがけない言葉。

憎しみの込められた口調に背筋が凍る。

頭も胸の中もグルグルしている内に、成香も毅然とした眼差しで由暉子を睨み返す。


「『コレ』はまだ、誰のものでもないから」

「屁理屈を……京太郎くんは、私の彼氏なんですよ?」

「それでも! それでも、私は――」


「え? 俺ってユキの彼氏だったの?」


「えっ」

「えっ?」

「え?」


場が、凍り付いた。

その後、有珠山麻雀部による京太郎弾劾裁判の開幕。

結果は有罪。情状酌量の余地はあるとはいえ、乙女の純情を踏み躙った罪は重い。

由暉子も少なからず幻滅した、が――


「ユキちゃんが彼女じゃないなら……京太郎くん! 私と付き合ってください!!」

「認めませんから。そんなの」


成香もまだ、京太郎を諦めてはいない。

三角関係から紆余曲折の末、京太郎に下された判決。


「んー……じゃあさ、いっそのことみんなで付き合っちゃうとかどうよ。私も京太郎のこと好きだし」

「えっ」

「それだ!」

「ええっ」


爽の一言により、全てが来まった。

月曜成香、火曜日揺杏、水曜誓子、木曜爽、金曜由暉子。

土曜と日曜は――


「両手どころか前と後ろにも花。嬉しいっしょ?」

「は、はは……」


――全員。

当然、京太郎一人の日はない。

そして、全員が彼女という立場である以上――


「ほーら頑張れー。まだイケるイケるー」

「も、もう無理っす……」


やるべきことは、やっている。

男としては誰もが羨む立場にいながら、男としての立場は一番低いという不思議な関係。


「どうして、こうなった……!」


明日も、京太郎の拝む太陽は、黄色い。

「なるかの恋路を応援するつもりだったのになぁ……」


胸の中で穏やかな寝顔を晒す京太郎を見て、誓子の口から零れる吐息には後悔の色が混ざっている。

ベッドの中で、誓子も京太郎も、お互い何も身に纏う物はない。


「ほんと……京太郎も、男の子だったのよね……」


後輩を、一人の男子として意識したのはいつからだろう。

荷物持ちを変わって貰った時?

足を挫いて負ぶって貰った時?


「いいえ……きっと」


きっと、最初から。

成香の恋心を知っていたからこそ、自分自身に嘘をついていた。

だからこそ、京太郎の告白を受け入れて――こうして、身体でも結ばれたのだ。


「ふぅ……」


それでいて困ったことに、誓子と京太郎の相性は、ソッチの方向でも抜群だった。

もう無理だ。あらゆる意味で――誓子は、京太郎に縛られている。


「ホント……成香に、どんな顔すればいいのかしら」


悩んでも答えは出ず。

誓子は、寝相で身動ぎした京太郎の頬を、愛おしげに撫でた。

ペットとはいえ、家族の一員。

その家族を預かる立場として、軽々しく扱うことは許されない。


「……お、お座り?」


問題があるとすれば、辻垣内智葉には動物を飼った経験がまるでないということで。

中腰になってカピーに精一杯の笑顔を向けても、ぷいとそっぽを向かれてしまう。


「はぁ……」


ガクリと落ちる肩。

祖父や祖父の部下は難なくカピーと接しているのに、未だに自分は距離感が掴めない。


「だが……」


惚れた男のペットに認められないで、何が恋人か。

カピーに認められてこそ、自分は京太郎を真に落とすことが出来るのだ。


「私は――諦めない」


智葉の気迫は、更に研ぎ澄まされていく。

ある意味で、宮永照以上の強敵。

本気で挑まずして、勝てる道理はない。


「やって……やるさ」


智葉が間違いに気付くのは――まだまだ、遠い。

今夜はここまでで
次からいつめ通り長めの更新に入りますが

1.白糸台ニューゲーム
2.臨海(文化祭~大会)
3.プロ編EX か アナウンサー編
4.永水編日常パート破
5.宮守
6.松実京太郎、都会へ
7.先生編 個人戦編
8.有珠山 場合によってはすぐ終わる。安価次第で修羅場もないかも


のいずれかになると思います
それでは、お付き合いありがとうございました

かつてない程に松実に票が集まってる感じなので次は松実で
あこちゃー虐めなきゃ(使命感)


そろそろいくのん書きたくなってきたので多分先生編も近いうちに


夕日も沈み、風が冷たくなった頃。

しんと静まり返った部室内に二人。

意識せずとも、廊下の奥から下校する生徒たちの声が聞こえる空間。


「媚びた声、恥じらいもない誘惑――まるで売女だな、お前は」

「好きな人の好みに自分を合わせられないなんて――本当に、京太郎くんのことが好きなんですか?」


そのような中にいながら――智葉も明華も、お互いへの敵意を隠そうともしない。

侮蔑や嫉妬、交差する視線の先にあるのは相手への憎しみだけ。


「……精々、無様な姿を晒すがいいさ」

「京太郎くんも可哀想に……あなたみたいな人に、好かれるなんて」


鏡写しのように、お互いへ抱く想いは同じ。

彼に対する、執着の強さも。


「忘れ物――と、アレ? 誰かいるのか?」


だからこそ、彼は知らない。

彼が部室の戸を開けた瞬間に、二人は笑顔で彼を迎えるだろう。


全ては、彼の為に。

彼が好きな、自分の為に。


徐々に強くなる雑音に――まだ、彼は気付かない。


【水面の下 臨海】

夕日を受けて、紅に染まる頬。

その横顔に一瞬だけ見惚れて――京太郎はすぐに小さく頭を振って、気を取り直した。


「今日はありがとうございました……お陰で、色々な反省点が」

「いいよ。こっちも楽しかったしね」


風越のキャプテンとの交際を始めて、来週に迫る初デートの日。

予行練習の相手を久が名乗り出た為に、仮デートを行うことになった。

実際、美穂子との付き合いが長い久のアドバイスは為になったし――今日に学んだ女性をエスコートをする上での心構えは、決して無駄にはならないだろう。


「いい? デートにアクシデントは付き物だからね、あくまで応用が大事なんだから」

「アクシデント……ですか?

「そうそう。例えばこんな――ね」


くるりと、久が京太郎に振り向いて。

そのまま勢い良く背伸びをして――頬に触れた、柔らかく湿った感触。


「……ん、ご馳走様」


夕日を背に、はにかんで微笑む久。

頬が赤く染まるのは――きっと、夕日のせいじゃない。


【ガールフレンド(仮)】

松実宥にとって、京太郎はあらゆる意味で最愛の男だ。

イタズラから庇ってくれたり、寒さで震えている時には湯たんぽになってくれた。

小さいころは自分より小さかった背も、中学に入る前からドンドン伸びて、今はもう京太郎の方がずっと大きい。

頼りになって、温かい。

弟としても、男としても。

宥は、京太郎のことを愛している。

このぬくもりは、誰にも渡したくない。



それが例え――最愛の、妹が相手でも。

幼馴染み。

本当に、小さい頃から。

誰よりも、京太郎のことを見てきた自信がある。


京太郎の好きな人になりたい。

その想いで、化粧だって覚えたし、髪も伸ばした。

なのに――


『赤ちゃん、産めるから』


――どうして、なんだろう。

好きになれば、なるほど。

想いを巡らせれば、巡らせるほどに。


彼が、京太郎が、遠くに行ってしまう。


求めても、求めてくれないなら。


私は――

――いよいよ、明日。

阿知賀を離れて、東京へと向うことになる。

選手という立場ではないが、京太郎も阿知賀のメンバーに同行することになっている。


「準備は終わったけど……」


さて。

京太郎が、するべきことは――



自由安価 下3

家に帰って体を休めてもいいかもしれないが、何だか胸の奥が騒ついて落ち着かない。

こういう時は――


「う?」

「悪い、邪魔したか?」


真っ先に思い浮かんだのは、一番気楽に話ができる幼馴染み。

思い付きのままに穏乃に会いに行くと、明日に備えて荷造りをしている最中だった。


「んーん、大丈夫。あとこのダンベルだけだし」

「持ってくなよんなもん……」

「えー……?」


他にもプロテインやらリストバンドやら。

とても麻雀部の遠征とは思えない荷物が、開いたバッグから覗いている。


「……で、何かあるの?」

「ああ、えっとな――」


京太郎選択肢 直下
1.特にコレといった用はないんだけど……
2.憧のことで、ちょっとさ……
3.その他

「憧のことで、ちょっとさ……」

「……うん」


真剣な雰囲気を読み取ったのか、穏乃はダンベルを床に置いて京太郎の顔を真っ直ぐに見詰める。

幼馴染みで親友の話となれば、一番に優先しなきゃいけない。


「前から、元気なかったろ? 憧」

「そうだね……何か、上の空な感じ」


龍門渕を訪れてからは、更にそれが顕著だ。

時折、どこか思い詰めた顔をするようになって――危うさのようなものを、二人は感じていた。


「同じ女子として、何かわかることないか?」

「そう言われてもなぁ……」


穏乃には、京太郎が知りたがっている女の子らしさは分からない。

憧が色々と勉強する傍ら、穏乃は野山を駆けずり回っていたのだから。

それでも、一つわかることがあるとすれば――


「私より、きょーたろうの方が憧に信頼されてると思うよ?」

「え?」

「男子とか、女子とかじゃなくて……京太郎が一番、憧に近いとこにいると思う」


何が言いたいのか、自分でもよくわからなくなってきたのだろう。

言葉を必死に探しながら、穏乃はバツが悪そうに頬をかいた。


「えっと、だから……私とか先生に何か聞くより……きょーたろうが思ったことをするのが一番良い……と、思う」

「そうか……ありがとな、穏」

「えへへ……なんか、ごめんね?」

「いや、いいって。こっちこそゴメンな、荷造りの途中で」



「あ……」

「ん?」

「このダンベル、入らない……」

「置いてきなさい」

直下 判定
60以上で……

結局、穏乃の荷造りを一から京太郎が手伝うことになった。

女子の荷物を男子が漁るのはどうなんだと京太郎は思ったが、こんなことをさせるのも京太郎が相手だからである。

恥じらいがない訳ではないが――穏乃にとって京太郎は、もう殆ど家族同然の相手だ。小さい頃は一緒に風呂に入ったこともある。


「はぁ……何でこんなに筋トレ道具が入ってんだ」

「あはは……おつかれー」


疲労の色が見られるが、気は楽になったようだ。

さっき見た時よりも、京太郎の顔はスッキリしている。


「……ん、じゃあ帰るわ。ありがとな」

「また明日ね」


手伝ってくれたお礼にいくつか菓子を手渡して、穏乃は京太郎を見送った。

その背中が曲がり角の向こうに消えるまで、穏乃はブンブンと手を振り続け――


「羨ましいなぁ……」


手を下げると同時に、溢れた呟き。

無意識で溢れたその感情に気が付くまで、後少し。

明日は諸事情で早いのでここらで区切りー
最近更新できなくて申し訳ないです

京太郎は淡が好きで、淡は京太郎が好き。

出会ってから半年で、お互いにそのことに気が付いて。

気が付いてから、もう少しだけ時間が経って、二人は結ばれた。


12月15日。


その日は、二人にとって重要な意味を持つ。

彼女の誕生日。

出来得る限りのことはしてあげたいと張り切るのは、当たり前のこと。


――私、きょーたろーと一緒がいい。ずっと一緒。


何か欲しいものはないかと聞けば、抱擁と一緒に返ってきた言葉。

卑怯だ。そんなことを言われたら、離したくなくなってしまうじゃないか。

彼氏なりに、特別な日のデートプランを必死に練っていたというのに。


自信過剰で、楽天家で、少しばかりアホな子。

付き合う前はそう思っていたのに――


「……惚れたもん負けかぁ」

「んー?」

「なんでもない」


こうして話している間にも、淡の頭を撫でる手は止まらない。

長い金髪。手櫛を通しても引っかかることは一度もない。


「……サラサラだなぁ」

「えへへ」


京太郎は、この滑らかな感触が好きだ。

淡もこの優しい指遣いが好きだ――けれど、少しだけ物足りなさを感じていた。

その優しさが、愛情からきていることはわかる。

大事にしたい。こうして京太郎に抱き締められている今も、淡は全身で京太郎の気持ちを受け取っている。


「……ね、きょーたろー」


それでも。


「私、割れ物注意じゃないよ?」


後一歩だけでもいいから、もっと踏み込んで欲しい。

高校100年生分の愛情を京太郎に向ける淡からすれば――優しさだけじゃ、まだまだ足りない。


「……淡」


どういう因果か、チーム虎姫のメンバーはみんな京太郎のことが好きで。

それは、淡が京太郎に選ばれた後も変わりはない。


「好き。私、きょーたろーのこと大好き」


淡は京太郎のことが好きで、京太郎は淡のことが好き。

何があっても、それは絶対に変わらないこと。


だから――


「……ちょっとだけ、乱暴でもいいから」


――私を、京太郎のものにして?

翌朝、淡は京太郎より先に目が覚めた。

まだ痛みはあるが――喜びの方が、強い。


「……♪」


手持ち無沙汰で、何となく京太郎の髪に手櫛を通してみる。

淡の髪よりはいくらか硬い感触。


「……ん」


何度も繰り返し手櫛を通して遊んでいると、京太郎が身動をぎした。

起きたかな、と指を離したら――また少し経った後に規則正しい寝息の音。


「……おねーぼーさんかー」

……こんなに可愛い彼女をほっといて。

淡は頬を膨らませて、ベッドに潜り込んだ。

勿論、京太郎の腕枕は欠かせない。


「きょーたろー」


返事はない。

そもそもこれは、呼びかけじゃない。


「冬休みにさ……一緒に、スキーに行こーよ」


「春になったら、一緒にお花見して」


「夏には海に行って」


「秋には一緒にお月見」


その他にも、まだまだ一緒に出来ることは沢山。

どんなに大きな星よりもキラキラ光る、眩しい宝物。


「……ずっと、ね」


これから待っている二人だけの日々に、淡は胸を躍らせて――目を閉じた。



【淡たんいぇい】

「私、割れ物注意じゃないよ?」


その一言に――京太郎は、胸の奥をぎゅっと絞られたような気持ちになった。

淡のことが好きだ。愛していると言ってもいい。

誰よりも大切にしたい気持ちがある。大事にしているつもりだった。

だけど、それは――結局、甲斐性がなくて、度胸がない自分への言い訳だったんじゃないか。


「……淡」

「好き。私、きょーたろーのこと大好き」


淡が一番欲しくて、求めているもの。

それをわからずに――どうして、彼氏面が出来るのか。


「……ちょっとだけ、乱暴でもいいから」


ここまでお膳立てされて、答えられなかったら、それはもう男じゃない。

京太郎と淡は、その夜に本当の意味で一つになった。

翌朝、京太郎が目覚めた時――片腕に重しが乗って動かないことに気が付いた。

視線を落とすと、淡が腕を枕にして幸せそうな寝顔を浮かべている。


「……うりうり」


手持ち無沙汰で、何となく淡の頬を人差し指で押してみる。

柔っこくて、スベスベする。いつまでも飽きない感触だ。


「……ん」


何度も繰り返していると、淡が小さく身動ぎした。

起こしちゃったか、と指を離すと――また少し経った後に規則正しい寝息。


「……この、寝坊っこめ」

こんなに可愛いらしい寝顔を浮かべているけれど、部内ではエース。

同じ一年生でありながら大将を勝ち取った淡と、京太郎の実力差はそれこそ100年生分はあるだろう。


「……」


才能の差、経験の差。

どうしようもない壁があっても――それでも、追い付きたいと思うのが男の子の性分。

淡が気にしなくても――彼女とは、対等でいたいのだ。


「すぐに追い付く……とは言えないけどさ」


待っていてくれ、とも言えない。

淡だって日々成長して、インターハイで自分を負かした相手へのリベンジに向けて頑張っている。

京太郎が一歩進む間にも、淡は100歩進んでいる。

これからも。

京太郎の何気ない他の女子とのやり取りで、淡を傷付けてしまうかもしれない。

麻雀でも、100年かけても淡の立つ領域まで辿り着けないかもしれない。


「……俺、がんばるからさ」


だけど、絶対に淡を幸せにする。

自分が淡に相応しいと、胸を張れる男子になる。


そう決意を込めて、京太郎は淡の頭を撫でた。


「……♪」


さらに、京太郎に身を寄せるように。

嬉しそうに、淡が身動ぎした。



【淡たんいぇい2】

万人にとって、日曜の朝とは微睡むために存在している。

そして、その認識は京太郎も例外ではなく。

そこに漬け込む、女が一人――


「きょーたろー」

「んー……?」

「ケッコンしよーよー」


枕元で、淡が囁く。

その手に持つのはボイスレコーダー。

布団の魔力に囚われた京太郎に、まともな返答はできない。

「うん」と一言、京太郎に言わせればそれで淡の勝ちである。


「ねーねー」

「あー……もっと……あったかくなったらなー……」

「夏もそう言ってたじゃん」

「んー……」


後一押し。

確信の上で淡は自分の知略に口元を歪ませ――


「……ほれー」

「あわ?」


――寝坊眼の京太郎に、布団に引きずり込まれた。

「あー……やわっけぇ……」

「あ、あわわわ……」


冬の朝と、布団の組み合わせは最強だ。

そこに好きな男の温もりが加われば、勝てる道理はない。


「……でも!」


蕩けそうになる顔を、淡は必死に押し留める。

絶対京太郎なんかに負けない!

インターハイ決勝戦以上の強い意思を、淡は瞳に宿らせ――


「ふやぁ……」

「zzz……」


――やっぱり、京太郎には勝てなかったよ……。

もうケッコンとかどうでもいい。

これ以上ないくらいに淡はだらしなく頬を緩ませ、京太郎の腕の中で幸せを享受する。


「きょーたろぉ……」

「あわぃ……」


二人だけの、日曜朝の光景だった。


【淡たんいぇい3】

もうちょい後で本編再開ー

穏乃との会話の後、京太郎の足は自然ともう一人の幼馴染みの元へ向かっていた。

憧が何を悩んでいるのか分からない。

でも、放って置くのも嫌だ。


だって、憧は――



「……あ」

「あ……」


噂をすれば何とやら。

心の整理をする間もなく、コンビニのビニール袋をぶら下げた憧にばったり出くわした。

いくらか互いに気まずい時間を過ごした後に、京太郎は憧の部屋へと案内された。

センスの良い小物が多く並べられた部屋。

憧が女の子だということを強く感じさせながらも、京太郎の趣味にもよく合う空間。

自分の部屋以上に居心地が良い。

いっそのこと、この部屋に住みたいくらいである。


「……」


……部屋の主の悩みが解消されれば、の話であるが。

モジモジと居心地が悪そうにしている憧。

視線があっちへこっちへ落ち着かない。


そんな憧に、京太郎がかける言葉は――


選択肢 直下
a. その……さ、何か悩みとかないか?
b. 憧って、やっぱりセンス良いんだな
c. ……胸、デカくなったな
d. その他

憧が何かを悩んでいることは明らかだ。

出来ることなら、助けになってやりたい。

悩みがある? とストレートに聞くのも躊躇われるし、ここは――


「憧って、やっぱりセンス良いんだな」

「……そう?」

「何つーか、俺の部屋より居心地いいぞココ」

「……」


話の流れを作ろうとしたら、憧は頬を赤らめて俯いてしまった。

それでも、満更ではなさそうな雰囲気を感じる。


「……そういえば、憧の部屋に来るのも久しぶりだな」

「……そうね」

「うん、何か我が家以上にしっくりくるわ」



あこちゃー判定直下
1~50 「……あの二人の側より?」
51~00 「……その為の部屋だもん」
ゾロ目 「あは……ありがと。アイスティー淹れてくるわね」

「……その為の部屋だもん」


憧の声は、大きいとは言えなかったけど、不思議と部屋の中に響くように感じた。


「その為……?」


空調は程良く効いている。

冷房の風を浴びながらも頬が熱く火照るのは、胸の奥から溢れてくる何かのせいだ。


「……」


憧の口が小さく開いて言葉を紡ぐ。

さっきとは違って、聞き取ることのできない小声。

その唇から目を離すことができず、京太郎は自然と身を乗り出す体勢になる。


「アイスティー淹れてきたわよー……あら?」


そうして、憧の姉の望が部屋に来るまで。

二人は、見つめ合っていた。

判定直下
1~50 「そろそろ遅いし、帰らないと」
51~00 「姉ちゃん……俺、今日は友達の家に泊まってくるから」

憧と話をしているうちに、すっかり暗くなってしまった。

途中から望も交えて、昔話に花が咲いて。

時間を忘れる程に憧と話したのは――本当に、久しぶりだ。


「そろそろ、帰らないと」

「あっ……」


名残惜しげにする憧の頭に手を置いて、京太郎はぽんぽんと軽く撫でた。


京太郎台詞安価 下3
1.「大会、頑張れよ」
2.「俺、いつでも憧の味方だから」
3. その他

「俺、いつでも憧の味方だから」

「……」

「だから……いつでも、助けるから」

「……」




「……うん」


結局、最後まで憧の悩みは知れなかったけど。

少しでも、その胸の中を晴らしてやることは出来たんじゃないかと思った。


「……おかえり」


「……おかえり」


夕飯は既に新子家でご馳走されている。

夕日も落ちて、月が姿を見せているというのに、門の前で姉は待っていた。


「遅かったね」

「……うん」

「おねーちゃんも、待ってるよ?」


玄が、京太郎の袖を引っ張る。

その瞳が期待するものは、もう理解し尽くしている。


「……きょーちゃん?」

「姉さん……俺」


選択肢 下3
1.「今日は、1人にしてほしいんだ」
2.「……俺、もう姉さんたちとは、寝れない」
3. その他

「今日は、1人にしてほしいんだ」


玄の手を振り払い、京太郎はそう告げた。

せめて、今夜は。

ずっと、憧のことを想っていたかった。


「……」

「……ごめん」


言葉を失って立ち尽くす姉に、謝って。

それでも立ち止まり振り返ることはせず、京太郎は家の中へと入っていった。

というわけで今夜はここまでで
次回、松実京太郎都会へ行くの巻
バスが出るでー


それでは、お付き合いありがとうございました!

唐突に小ネタ安価下3

コート・マフラー・ニット帽・ミトン。

過剰なまでの防寒具に身を包んだ少女――天江衣は、ぷっくらと頬を膨らませ無言で不満の意を京太郎に伝えた。

もこもこに着膨れした衣がそのような子どもらしい顔をしていると、本当に小学生にしか見えない。

ただでさえ幼く見えることを気にしている彼女。

この感想を口にすれば、中々にからかい甲斐のある反応があるだろう。


「きょーたろー! あれ、なにかな!」


だが、それは隣の高校100年生が許さない。

恋人のように京太郎の手を引く淡の辞書に遠慮の文字はない。

衣の不機嫌な様子に気が付いていないのか、それとも意図的に無視しているのか。


どちらにせよ――衣は淡の眼中になかった。

衣はデートのつもりで京太郎を誘った。

京太郎は、単純に友人と遊びに行く感覚で誘いを受けた。

お互いの認識にズレが生じた原因は、衣の無駄にややこしい言い回し。


更に、衣にとって嬉しくないことは、デートの途中で淡と遭遇してしまったこと。

京太郎にしてみれば淡も衣も等しく仲の良い友人。

一人よりも二人、二人よりも三人。

賑やかな方が良いだろうと考えるのは、当然だった。


「くっつくな。歩きにくいって」

「いいじゃん。寒いし」


けれど、衣の心はその反対を向いている。

一番に欲しい物が手に入らないなら、他のものなど――

昼飯時。

レストランにて好物のハンバーグエビフライを前にしても、衣の心は晴れない。


「京ちゃん。このパフェ、カップル専用なんだって」


宮永照。衣の前に、更に増えた障害。

欲に塗れた眼で、穢らわしい思惑を隠そうともしない指先で、京太郎に触れている。

その落とし前、どのようにしてくれようか――


「衣さん、頬っぺたにソース付いてますよ」

「なに?」


頭の中で障害を排除する算段をつけていた途中、衣の頬へと伸びる京太郎の手。

衣が確認するよりも速く、京太郎は衣の頬に付いたタルタルソースをナプキンで拭き取った。

照や淡ですら見逃した、息もつかせぬ早業であった。


「考え事です?」

「ああ……いや、たった今片付いた」


――やはり、京太郎をハギヨシの後継にしよう。


障害を始末するよりも簡単な方法。

京太郎を手元に置いて、永遠に離さなければ良い。

それならこの先、新しい障害が生まれることもない。


この上ない妙案であると、衣は一人頷いた。

牌に愛された少女。

誰が最初にそう呼んだのかは知らないが、京太郎にしてみればただの麻雀が強いだけの女子高生である。



天江衣。

どういうワケか、あまりにも小さ過ぎる先輩。

圧倒的な実力と、それに見合った尊大な態度。


度々古びた言葉を口にすることがあるが――残念なことに、京太郎にはさっぱりである。


宮永照。

インターハイチャンピオンで咲の姉。

天然というか、ややズレているところがある。


だけど面倒見が良い、いい先輩だと思う。


大星淡。

アホなヤツ。


でも、たまにドキッとさせられて――悔しいけど、可愛いヤツ。



そして――

宿泊先のホテルの部屋に戻ってきたら、巫女服の女の子が三つ指を立ててこうべを垂れてました。


「おかえりなさいませ」


口元が引き攣るのは気のせいじゃない。

何故、彼女がここに――?


「出てってよ」と、淡。とりあえず拳骨を落とす。

「なんで……?」と、照。その疑問はもっともだが――それは、貴女たちも同じです。

「……」と、無言で京太郎の手を握るのは衣。また子供らしい仕草を――とからかう余裕は今の京太郎にはない。


「こまっちゃん、どうしたの?」

「……?」


頭上に疑問符を浮かべて首を傾げる小蒔。

埒があかないと感じた京太郎は、質問を切り替えた。


「あのさ、鍵はどうやって?」

「え? 普通に開きましたよ? こう、ドアノブに手をかけたらカチャって」


……そんな筈はない。

このホテルのドアはオートロック式で、部屋を出た瞬間に自動で閉まるようになっている。

だが現実として彼女は目の前にいるわけで、とりあえずは――


「……お茶、淹れるわ」


思考放棄である。

京太郎がお茶を淹れようと備え付けのコンロで様々な準備をしている、その後ろ。

彼の目が彼女たちから逸らされた瞬間に――彼女たちの雰囲気は、一変した。


衣は敵愾心を剥き出しにする。京太郎には聞こえない声量で、罵倒の言葉をあらん限りに口にする。

照は表面上は普段と変わらないように見えるが、その瞳の奥には彼に近付く女への憎悪が渦巻いている。

淡は無関心。京太郎が絡まなければ、何もかもがどうでもいい。

小蒔は目を閉じている。恋敵と呼ぶのも烏滸がましい醜い相手。顔を見たくもない。


炎のように熱く、泥の様に纏わり付く想い。

その中心にいる少年は――幸か不幸か、そのことを知らない。

牌に愛された少女たち。

しかし、少女たちに愛された少年は一人。


一つしかないものを手に入れるための方法。

全員が同じ答えを導き出しながらも、最後の一線を越えないのは二つの枷があるからだ。


常識という枷と、愛という枷。

彼を想うからこそ、守られている最後の一線。


「……お前たちさえ、いなければ……!!」


しかし、それも。

既に、限界は近い。

彼女たちの背後で、何かが割れる音がした。

振り向けば、京太郎が頭を押さえて屈んでいる。


「大丈夫っ!?」

「ごめん、ちょっと立ち眩みが――っ」


その指先に出来た、小さな赤い血の球。

五つに割れたマグカップの破片。


その中の一番小さな欠片を手にして――衣は、微かに唇の端を吊り上げた。



【天照大神 弱】

唇。

たったの一文字で言い表せる言葉でも、想い人のそれが持つ魔力は計り知れない。


「……」


久が仮眠から目を覚ました時、すぐ隣に無防備な寝顔を晒す京太郎がいた。

――これは一体、どう言う訳か。

寝起きで回転の鈍った頭では答えを導き出すことはできない。


「……肌、きれいね」


答えを出すことを早々に諦めた久は、起き上がるよりも想い人の寝顔を堪能することを優先した。

何か特別なケアをしているわけではないのだろうが、京太郎の肌は綺麗だ。

中学の頃はハンドボールで土と汗に塗れていたらしいが、今一想像がつかない。


「……」


頭の天辺から顎までを見渡して――久の視線は、ある一点で釘付けになった。

京太郎の、唇。


「……ん」


意識をすると、胸の奥がふつふつと沸き立つような気持ちになって――頬が赤らんでいくのを、感じた。

暫くそれを見つめてから、久は人差し指で自分の唇を軽くなぞった。

恋する乙女の唇。捧げたい相手は目の前に。


「先っちょだけなら……なんて、ね」


久は、自らの唇をなぞった人差し指で――同じように、眠る京太郎の人差し指をなぞった。

コレは、親友への裏切りである行為。

相談があるのだけれど――と、恋話を持ち掛けた彼女への背徳。


「……呑気な寝顔」


勿論、目の前で眠る後輩もそれは同じ筈。

呟いてから、ふと気恥ずかしさに襲われる。


「責任……とってくれないかなぁ」


その気恥ずかしさを誤魔化すように、眠る後輩の腕を枕にして、目を閉じる。

この場を他の誰かに見られたら――それはそれで面白くなりそうだと。

小さな笑みを口元に浮かべ、久は想い人の温かさを堪能しながら夢の世界へ旅立った。

私の母校でもハンド部はグラウンドで土塗れで練習してたんで、そんなおかしなことでもないかなと

今夜本編再開、予定

姉たちを選べば憧が悲しむ。

憧を選べば姉たちが悲しむ。


京太郎は選ばなければいけない。

片方を捨てることになっても。

或いは、両方を捨てることになっても。


誰もが笑える未来なんてものは、もう選べない。

上京途中で立ち寄ったサービスエリアのベンチに腰掛け、京太郎は浅く溜息を吐いた。

見上げた空には、少しだけ雲がかかっている。


「……ん?」

「……」


一人、ベンチに座って考えを巡らせて。

ふと、気が付けば。

隣に、白と紺のセーラー服を着た見知らぬ女子が腰掛けていた。


「……なぁ、キミ?」


気怠げな瞳に京太郎を映して、彼女が口にした言葉は――


判定直下
1~30 ……私と同じ制服着たの、見なかった?
31~60 どっかで会ったこと……ない?
61~98 京……ちゃん?
ゾロ目 ???

「どっかで会ったこと……ない?」


関西弁らしいイントネーションで、彼女はそう言った。


「会ったこと……?」


記憶を辿り返しても、目の前の彼女のような女子は覚えがない。

強いて言えば灼が似ているかもしれないが、親族というわけではないだろう。


「……いや、私の勘違いだったわ。ごめんな」


京太郎が戸惑っていると、彼女は苦笑いを浮かべて軽く頭を下げた。

確かに初対面にしては少し馴れ馴れしいような態度だが――嫌な気はしなかった。


「ああ、言っとくけど逆ナンちゃうで?」

「はは……」


見知らぬ相手ではあるが、不思議と彼女とは仲良くなれそうな気がした。


京太郎選択肢 下3
1. もう少し、話をしてみよう
2.そろそろみんなの所に戻るか
3.その他

「きょーたろー!」


彼女と見詰め合っていると、背後から大きな声。

振り向けば、千切れんばかりの勢いで手を振っている穏乃がいる。


「んじゃ、俺はみんなの元に戻るんで」

「ん、ああ……それじゃ」


軽く頭を下げて、彼女に背を向けて穏乃たちと合流すべく駆け足で斜面を登る。


「また、な」


背後の小さな呟きは、耳に届かなかった。

浜名湖サービスエリアから、更に車に揺られること3時間。

阿知賀麻雀部の面子は、無事東京へと辿り着いた。

都会の風景に目を奪われる暇もなく、早速麻雀の特訓が開始される――筈、だった。


「さて……一つ、問題があります」


宿泊先となるホテルを前に、晴絵が咳払いを一つ。


「京太郎」

「あ、はい」


「あんた――私と、同じ部屋ね」

「あ……はい?」

松実館の支援やら地元の人たちの応援やらで、零細部の宿泊先としては上等過ぎるホテルの予約を取り付けた阿知賀麻雀部だが、ここで問題が一つ。

予約出来た部屋の都合上、人数が半端なことになってしまったのである。

故に、問題が起きないように唯一の男子部員である京太郎と、顧問の晴絵が一緒の部屋に泊まる。


如何にも筋が通っているように、淡々と語る晴絵だが――


「……じゅるり」

「ひっ!?」


その舌舐めずりを、京太郎は見逃さなかった。

「あ、それなら」

「私たちと京ちゃんでも……いいよね?」


負けじと手を上げたのは松実姉妹。

晴絵は渋い顔で宥と玄の顔を交互に見詰めた。


「いや、女子と男子が同じ部屋に泊まるのは――」

「でも、姉と弟だし」


教師が相手でも引き下がるつもりはなく、玄は晴絵に言い返す。

その隣に立つ宥は、無言で京太郎を見詰めていた。



京太郎選択肢 下3
1.「……顧問なら、問題ないんじゃないか?」
2.「姉さんたちなら……問題ないんじゃないか?」
3.「……俺は、憧がいい」

「……俺は、憧がいい」


ぽつりと零れたソレは、誰かに聞かせることを意識したものじゃない。

ただ――自然と胸の内から湧いてきて、無意識に呟きとなって口から零れ出た。


「……あ」


だが、本人にその気がなくとも、口から出た言葉は全員の耳に届いて。

瞬く間に波紋のように広がり、全員の視線を向けられた憧は――


「……ふ、きゅ」


何とも言えない、変な声を上げた。

今夜の更新はここまでで
ちょっとリアルが修羅場なので更新不定期になります
小ネタならチョコチョコ投下するかもしれませんが


それでは、お付き合いありがとうございました!

「俺、成香さんが彼女で本当に良かったって思うよ」

「えっ」


どきりと、成香の心臓が跳ねた。

不意打ちで放たれた言葉は、成香の胸をときめかせるには十分過ぎる程の威力を持っていた。


「も、もう。なんですかいきなり……」

「いやさ、昨日テレビでヤンデレ? とかいうの見たんだけど……好き過ぎておかしくなっちゃうらしくて」

「ふむふむ」


相手への恋心で狂う。

それくらいなら、まだ成香も共感できる。

頷いて、京太郎に話の続きを促す。


「血とか髪の毛とか弁当に入れたりするんだって。汚いよなって」

「えっ」


どきりと、さっきとは違う意味で成香の心臓が跳ねた。


「血とか髪の毛とか、流石に汚いし……好きな相手にそんなモン食わせるなよっていうかさ」

「あ、あははは……」

「成香さんならそんなこと絶対しないだろうし」


そう言いながら、パクパクと京太郎が口に運ぶ成香特製チキンライス弁当。

程良く京太郎好みに味付けされたソレ。

成香曰く、美味しさは京太郎への愛情とのことだが――


「あ……」

「ん?」

「た、卵の殻とか入っちゃってますね!!」


そう叫ぶなり、京太郎から弁当を取り上げてしまう。

卵の殻程度なら避けて食えば問題ないのだか、成香は譲ろうとしない。


「……す、好きな人にこんなモノ……食べさせられません……」


やっぱり成香が恋人で良かった、と京太郎は思った。


【美味しさの秘訣】

変な子に懐かれたな――と、京太郎は一人ごちた。


「……俺、そろそろ帰らないとだから」


ふるふると首を横に振って、京太郎のワイシャツの端を掴む少女。

買い出しの最中に出会ったゴスロリ少女。

名前は知らない。問いかけても小さな声で何をブツブツ呟くばかりで答えてくれない。


「……これ、食うか?」


買い出し袋の中から取り出したるはコアラのマーチ。

言葉が通じない相手なら、と餌付けを試みる算段である。


「……」


すると彼女は、警戒する素振りすら見せず嬉々としてコアラのマーチの箱を開けた。

餌付け作戦は成功したらしく、ワイシャツの端から小さな指が離される。


「……あ、ヤベ」


その隙に時計で時間を確認すると、買い出しに出かけてから結構な時間が経過していた。

部長や部員たちをこれ以上待たせるのも忍びない。


「……それじゃ、な」


声が届いているかはわからないが、彼女がコアラのマーチに夢中になっている間に、京太郎は駆け足でその場を後にした。


結局、ゴスロリ少女の名前は知らないままだが――まぁ、また会うことは多分ないだろう。

京太郎がゴスロリ少女と再会したのは、それから二日後。

手持ち無沙汰に会場近辺を歩き回っていた最中である。


「……ねぇ、君?」

「……」


相変わらず返事はない。

リボンを眼帯のように顔に巻き付けた彼女は、二日前と同じように何かをブツブツと呟くだけ。


「……」


前回との違いは、掴まれているのがワイシャツではなく右手だということ。

無理矢理振り解くことは簡単だが――


「……これ、食うか?」


とりあえずは、餌付け作戦。

ポケットに入っていたビスコを彼女に差し出して、京太郎は先日と同じようにその場を後にした。

二度ある事は三度ある。

違いがあるとすれば、ゴスロリ少女に連れがいたこと。


「モコちゃんのお友達ですかー?」


ゴスロリ少女の連れはナース少女。

どことなく、イントネーションが関西っぽい。


「ええっと……」


さて、友達かと聞かれると反応に困る。

ワイシャツの端を掴んで顔を見上げてくる少女の名前すら京太郎は知らないのだ。


京太郎選択肢
1.お友達です
2.餌係です
3.運命の相手です

「運命の相手です」


キリッと格好付けて、京太郎は出来る限りのキメ顔でそう言った。

ナース少女は驚いたように目を見開いて、ゴスロリ少女は満足気に頷き――



「で、こっちのお兄さんがモコちゃんの彼氏さんの――」

「す、須賀京太郎です……」


――どうして、こうなった。


突き刺さる好奇の視線。

見知らぬ女子たちの中で居心地悪そうに、京太郎は頭を下げた。

インターハイ団体戦は、清澄が制した。

直接的に勝利に貢献したとは言えないが、それでも誇らしい気持ちはある。

ただ、一つ誤算があるとすれば。


「須賀くんも隅におけないわね」

「部長、それおばさんっぽいです……」


「……」


京太郎の膝の上に陣取ったまま動こうとしないゴスロリ少女――対木もこ。

『あ、対木さんの彼氏さんだ』と阿知賀女子の大将が零した呟きにより、瞬く間に埋められた外堀。


自業自得、なのかもしれないが。

流石にコレは、予想外過ぎた。

ふっと、もこの話が書きたくなったのでな小ネタ
思ったより長くなりそうなのでココで切ります
続きは未定

次は多分松実更新で

「ここで、合ってるよな……?」


携帯片手に、とある店の扉を開く。

待ち合わせ場所が記されている筈のそのメールには、ヒヨコやらネコやらの絵文字しか書かれていない。

まるで暗号を解くような労力を要したが、果たして――


「あっ!」


――正解だったようである。

京太郎が店内に入るなり、先に着いていた彼女は年齢よりも大分幼く見える顔を綻ばせて駆け寄って来た。


「久しぶりだね、京くん」

「おう。お前は、相変わらずだなぁ……」

「はやっ」


牌のおねえさん(28)こと、瑞原はやり。

ベテランアイドルであり、トッププロの一人。


「あっちの席、予約してるから」


そして、京太郎の昔の恋人である。

「凄いね、清澄。決勝進出」

「頑張ったからなぁ、あいつら」

「京くんが先生だからだよ」

「いやぁ……あいつらなら、俺がいなくたって決勝には行っただろうよ」


今年の清澄の新入生たちは才能の塊だ。

例え京太郎の指導が無かったとしても、彼女たちは決勝戦への切符を勝ち取っただろうと京太郎は予測している。


「……そんなこと、ないよ」

「あるさ。俺なんかより、よっぽど強いからあいつらは」


「で、でも……」


昔の話をすると、はやりは直ぐに熱くなる。

話を引き摺られる前に、はやりが言い淀んでいるうちに話題を切り替えることにした。


「それより、お前も凄いじゃん。牌のおねえさんで……まふふみたいだ」


片や、現役で活躍中のベテランアイドル。

片や、片田舎で教師をしている元プロ。


大分、差が着いたものだ――京太郎は、心の中で自嘲の笑みを浮かべる。


「……京くんだって。まだまだ、これからだよ?」


だが、そんな京太郎の心を否定するように。

はやりは、真っ直ぐに京太郎の瞳を見詰めた。


「……」

「出来るよ。京くんなら、絶対に」


瞳を逸らすことは許さないと、はやりが京太郎の手を握る。

簡単に振り払える筈の指なのに、京太郎は少しも動かすことができなかった。



「……先、生?」


はやりと見詰め合っているうちに、背後から聞こえた声。

懐かしいような、その響きに――京太郎は、今夜が長くなることを確信した。



【もしはやりんが彼女だったらな先生編IF】

松実じゃなくてすんません、でも何となく思いついちゃったので
やえさんとか憩ちゃんとかもことか書ける機会はあるのかしら

またもや松実じゃなくて申し訳ないけどちょっと大学生編の小ネタ投稿……

オタサーの姫

おたさーのひめ(一般)


――男性の割合が多い文化系サークル(オタクが集まるようなサークル)に存在する数少ない女性メンバー。

――サークル内では希少な存在であるため、圧倒的美女でなくともオタク男性メンバーに姫扱いされることから「姫」の名を冠している


――ならば、差し詰め自分は「オタサーの王子」といったところだろうか。


「……つってもまぁ、姫扱いはされてねえなぁ」


むしろ、姫たちの為にあれこれ駆けずり回る召使の立場。

チヤホヤされるイメージはちっとも湧かない。

あと麻雀サークルを「オタサー」呼ばわりしたら何人かの先輩には途轍もなく叱られそうな気もする。


「……でも」


文句の付けようがない美女揃いの我が麻雀サークルで、もし「姫扱い」されるようなことがあれば――


「速攻で堕ちるな、俺」



下らない妄想を浮かべながら、京太郎はサークルボックスとして使用している部屋の戸を開けた。

「おー、似合う似合う。やっぱ私の見立ては正しかったね」

「はぁ……なんとも」

「なに? どっかキツイところある?」

「いえ、怖いくらいにバッチリ合ってますが」


――まさか、麻雀サークルで執事服を着ることになるとは夢にも思わなかった。


「ふふん、だろ?」


ドヤ顔で胸を張る先輩、その名を岩館揺杏。

裁縫が得意らしく、高校時代にも何度か後輩に服を作ってプレゼントしていたとのこと。


「うん。京太郎、ぱっと見はイケメンだから様になるねぇ」


その揺杏が自画自賛するだけあって、この執事服の着心地は中々のもの。

そんじょそこらのコスプレ衣装より遥かにしっかりと作られているのではないだろうか。


「よし決めた。それ、やるよ」

「え? いいんですか?」

「うん……ま、私が持っててもしょーがないしねー」

「確かに、そりゃそうですけど」


京太郎にしてもあまり着る機会はなさそうだが。

それでも、この執事服。手触りや質感から上質な素材を使っているのだろうし、タダで譲り受けるには気が引ける。

「お疲れさ――わわっ! 執事さんがいるよー!」


驚きの声を上げながら入室してきた、とても背が高い女子学生。

子どものように瞳をキラキラさせるその先輩の名は、姉帯豊音。


「あ、お疲れさ」

「おいおい、違うだろ?」


普通に挨拶をしようとすれば、隣から軽く肘で突かれた。

何が? と思いながら豊音に目を向けると――キラキラ輝く瞳の中に、何かを期待する様子を感じ取れた。


(ああー……なる程ね)


咳払いを一つして、仕切り直し。

ここで、先輩二人の期待に応えるには――



「――お帰りなさいませ、お嬢様」

「……うむ! 苦しゅうない!」


時々、ここが何のサークルだかわからなくなることがある京太郎であった。

「ウチも見たかったなぁ、京くんの執事姿」

「そんな珍しいもんでもないですって」

「えー? だってアレやったんでしょー?」

「『お帰りなさいませ、お嬢様』ってやつなら、まぁ」

「ええなぁー、揺杏ちゃんと豊音ちゃん」


ぶーぶー不満気に口を尖らせながらも、テキパキと手を動かしてゼミの課題を手伝ってくれる先輩。

荒川憩。ゼミでもサークルでも京太郎の面倒を見てくれる良い先輩である。


「えーなー、えーなーぁ」

「じゃあ今度着てきますか? 執事服は貰っちゃいましたから」

「是非是非頼みますわー。楽しみやなぁ」


憩の手の動きが、見るからに速くなる。

本気で京太郎の執事服を楽しみにしているようで、こうも期待されると京太郎も乗り気になるというものである。


「それじゃあ、誠心誠意ご奉仕しちゃいますよ」

「うっはー。京くんエロイ」

「なーに言ってんすか」

「ただいまー」

「おかえり。今日のゴハンは?」

「親子丼作る。卵が安かったから」


大学での用事を済ませて帰宅した我が家。

廊下の奥から自分を迎える声。

実家の長野から遠く離れた東京の大学に通っている京太郎だが、一人暮らしではなくルームシェアという形を取っている。


「おなかすいたーん♪」

「はいはい、ちょっと待ってなって」


ソファで足をバタバタさせる女子大生――自分と同じ年齢である筈だが、ちっともそうは見えない彼女。

どういう仕組みかわからないが、感情が昂ると髪の毛ゴゴゴなことになる彼女。


「あ、ついでに団子かってきたから。あんまり腹減ってるなら食うか? 一本くらいなら大丈夫だろ」

「おー! 気がきくじゃん!!」


高校時代は自分のことを「高校100年生分の実力」と豪語し、実際に化け物染みた強さを誇る元大将。

こうしてみたらし団子に釣られる姿と卓上で猛威を振るうあの姿はちっとも結び付かないが――


「ま、いいか」


今はそれよりも、夕飯の準備を優先しなければ。

――夜、寝床に着いた京太郎。

その枕元に置いた携帯に、メールの受信を示す明かり。


from:岩館先輩

今なにしてる?



from:岩館先輩

起こしちゃった?

ゴメン……



from:岩館先輩

そう? なら良かった

実は京太郎の執事服姿が結構好評でさ

んでこう、創作意欲ってのがメラメラっときたから色々作ってみたくなって



from:岩館先輩

えっとね

今度ウチにきてよ



from:岩館先輩

色々やるから


from:姉帯先輩

カッコよかったよー

執事モードの京太郎くん

みんなにも受けてたし



from:姉帯先輩

みんなっていうのはね

私の高校の頃のお友達なんだー



from:姉帯先輩

うん

写メ送っちゃった



from:姉帯先輩

それでね

そのお友達の中に京太郎くんに似てる子がいて

会ってみたいってみんなが言ってて



from:姉帯先輩

うん?

勿論女の子だよー

宮守は女子校だったから



from:姉帯先輩

で、今度会わせるって約束しちゃって……

ごめんね、勝手に………



from:姉帯先輩

ありがとう!

みんなにも伝えておくよー


from:荒川先輩

夜分遅くにごめんな?

でも、ちょっと伝えなあかんことがあって

ウチのカバンから知らないUSBが出てきたんよ

これ多分京くんのやろ?



from:荒川先輩

あ! そう紺色の!

ゴメンなぁ、ウチが間違えて持って帰っちゃったんやな

ホントごめん!



from:荒川先輩

そう言ってもらえると助かるわー

あ、お詫びといったらアレやけど

ゼミの課題提出したら、一緒にゴハンいかへん?

××駅の近くに新しく出来たお店あるやん



from:荒川先輩

そうそう

予算は気にせんでええよ

先輩らしくここはウチが奢りますからー



from:荒川先輩

そんな褒めても何も出ますんよー?

それじゃそういうことでー

「ねーねーきょーたろー」

「んー?」

「水族館のチケット貰っちゃった」

「へぇ、おめでとう」


「なんと! 二枚組!」

「……ほう」

「ふふんっ」



「でもね、これ期日が結構近くてさー」

from:岩館先輩

私も色々と準備が必要だから――



from:姉帯先輩

でね、みんなで会う日はね――



from:荒川先輩

きちんと覚えといてな、課題提出の日は――




「ちゃんと空けといてよ? えっと、この――」



――1月、11日。


「ま、マジかよ……」


どういう偶然か、彼女たちが指定した日付は全て重なっている。

当たり前だが全てを選ぶことはできない。


「も、モテる男はつらいなー……はははは……ハァ」




――オタサーの姫。

――またの名をサークルクラッシャー

――「姫」を巡り人間関係が壊れてしまうことがあるから、そんな印象がついたのだとか



【大学生編的なアレ】

というわけで大学生編的なアレでした
実際にやるとしたらサークルメンバーやルームシェアする相手は安価で決まると思います

――淡ちゃんには、ナイショですよーぅ?

唇に人差し指を立てて、先輩は、いつものように笑った。


「……ろー? もしもーし?」

「あ、ああ。悪い、なんだっけ」


――みんなにも、言えへんなぁ。こんなこと


「お土産どーするって、何度も聞いてるんですけどー」

「あー……このボールペンとかどうよ?」

「んー……じゃ、それでいっか」


俺は、先輩の言うままに。

ただ、夢中で。誰のことも、考えないで。


「……」

「きょーたろー? お腹痛いの?」


――上手やね、京くん。

先輩は、いつものように笑って。


「きょーたろー……?」


俺も、笑った。

「うちが重い女ってよく言われるんやけど、納得いかんわー」

「あの、重い女って意味は多分」

「ああ、体重の話じゃないことはわかっとるよ?」


「重い女ってアレやろ? 事あるごとに結婚匂わせてきたりとか、束縛したりとか」

「……」

「うち、そんなことせぇへんもん。なぁ?」

「……」


「風邪ひいてる京くんにそんなこと……」

「……」

「はやく治して、一緒に学校いこうな?」



「あの、竜華さん」

「ん、なに? 何でも言ってな。うち、京くんの為なら何でもやるで」


「じゃあ」

「うん」

「ちょっと一人にしてほし」

「あ、汗かいとるな! ちょっと拭く脱がすで! 体冷やしたらアカン!!」



「……」


「……」



「俺、いつになったら学校行けるんだろうな」


【37.1℃の看病】

「あ、あの人……」

「あの二人の……」


これ見よがしに囁かれる噂話に、京太郎は小さく溜息を吐いた。

好奇の視線は留まることを知らず、京太郎の心労を積み重ねる。


「きょーたろっ」


その内心を知ってか知らずか、京太郎の右腕が柔らかい何かに絡めとられた。

最早、振り向かずともわかるシャンプーの匂い。


「鶴田、先輩」

「姫子でよか♪」


袖を余らせた京太郎の先輩は、周囲の視線にも関係なく両手で抱き寄せた腕に頬擦りをする。

甘い香りが、身体に染み込んでいくような気がした。

美人の先輩に言い寄られること。

何も考えずに喜べたのは、既に昔の話。


「なんば、しよっとね」


下がる語尾に、低めのトーン。

明らかに不機嫌であることが伝わってくる声音。


「……ぐっ」


そして、半身が鎖で雁字搦めになるような錯覚。

そこには何も無いとわかっている筈なのに、鉄の冷たさと拘束の苦しさが、京太郎を縛り付ける。


「私のに、手ぇだすな」

二人まとめて愛してやるぜ――なんて度胸と甲斐性は、京太郎には無い。

私のものだと主張する哩と、マーキングのように擦り寄る姫子。


「お、俺! 買い出し行くのでっ!!」


問題なのは、別にどちらと付き合っているわけでもなく。

どちらを選んだとしたら、その先に待つ結果は――考えたくもない。

故に、逃げる。結果の先延ばし。


どうにかしたくても――どうすればいいのかが、わからない。

美子と仁美も、抑えようとしてはいるが効果はない。

チームメイトの友情も、情念の前では脆く崩れるばかり。

校内では好奇の視線が、自宅に戻れば哩か姫子のどちらかが待ち受ける。


最後に残された、京太郎の心休まる場所は――



「はあぁ……」

「お疲れ様です」


――女子寮、花田煌の部屋。

同郷のよしみで親しくなった先輩の部屋が、今では最後の避難場所であり聖域だった。

「すいません、俺がもっとしっかりしてたら……」

「いえ、あの二人を止められなかった私達にも責任はありますから……」


「すいません、俺がもっとしっかりしてたら……」

「いえ、あの二人を止められなかった私達にも責任はありますから……」


ずるずると、哩と姫子との関係に決着を付けることが出来ず。

ずるずると、徐々にエスカレートしていく二人のアプローチから逃げるように。

ずるずると、先輩の家に匿ってもらう。


男として情けないこと、この上なし。


「ですから、先輩を――もっと私を、頼って下さいなっ!!」


だからこそ――煌の笑顔は、聖母のように。

何よりも輝いてみえて、今日も今日とて依存していく。



【何気なく書きたくなった新道寺】



松実は次スレの頭からー

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年10月07日 (水) 21:51:16   ID: lMGduAAL

相変わらず面白い

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