【劇場版】進行選択ゲーム×仮面ライダー鎧武 Triangles of Christmas (356)

このスレは「【安価】進行選択ゲーム×仮面ライダー鎧武【オリジナル世界観】」というスレの番外編のようなものです。

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このスレを読んで頂くにあたって

1.このスレだけでも話が分かりますが、先に書いた本スレの方をお読み頂くと、更に分かりやすいと思います。

2.と、1.では書きましたが、今回の話は本編と密接に関係していますので、読んでいないと分からない部分も出てくる可能性がございます。

3.このストーリーは、本編のChapter.EX2 Side.ユグドラシルとなります。

4.皆様にご投稿頂いたオリジナルライダーが死ぬ場合がございますが、展開上仕方のない場合もありますので、あまり文句を言わないで下さい。

5.と、4.では書きましたが、死んだから二度と出てこない、というわけでもなかったりします。

6.先行登場の顔見せとして登場するライダーもおりますので、各キャラクターの出番の長さや必要性に、あまりツッコまないでください。

7.完成度が低いからと、あまり文句を言わないで下さい。

8.文章の不味さにも目を瞑っていただけると幸いです。

9.誤字脱字等は遠慮なく指摘してくださって構いません。

10.10分程の間隔を空けて投下していこうと思います。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1403869640

すみません、ちょっと大事な電話が入りました。
いきなりですが、少し席を外します。

題の綴りがあっているか、今更心配になってきました…
多分大丈夫…ですよね?

長らくお待たせいたしました。
それでは準備が完了次第、投下していきたいと思います。

それまでは、>>1の注意事項をもう一度ご確認しつつお待ちください。
前作ほど長くはない…はずです。

…12月21日、夜から。

聖夜 留奈は夜の道を歩いていた。
裏手の路地へと曲がり、そのまま進み続ける。
そして少し開けた場所へ出たとき、クルリと振り向いた。

留奈「で、いつまで尾けて来る気だ?」

彼女の一言を受け、後ろを歩いていた男がフードを取る。
その男に、留奈は何の関心も示さない。
男、神瀬 智則(かみせ ちのり)は簡潔に答えた。

智則「戦える場所までさ。」

留奈「何だ? 私を殺すために、ユグドラシルにでも雇われたか?」

智則「大正解だ。」

彼はそう答えると、戦極ドライバーを装着する。
ポケットからロックシードを取り出し、解錠した。
彼の頭上に、時空間の裂け目が開く。

『ランブータン』

その中から、巨大な果実が現れた。
赤くトゲトゲしたそれが、ゆっくりと下りてくる。

『ロックオン』

それを気にする事もなく、彼はロックシードを戦極ドライバーに施錠した。
歯車の駆動音と警報を重ねたような待機音が、辺りに流れ始める。

智則「変身。」

彼は落ち着いた声で言い放つ。
同時に慣れた手つきで、戦極ドライバーを操作した。

『スタート』

ロックシードが斬られる。
空中に浮いていたランブータンが、彼の頭に突き刺さる。

『ランブータンアームズ』

それがゆっくりと展開し、鎧へと姿を変える。
何の変哲もない路地に、異形の戦士が現れた。

『Interference Master』


黒ずんだ銅色のスーツに、外側が赤く内側が白い鎧。
その鎧と身体には、配線や回路図を連想させる青と黒の模様が走る。
黄色く光る鋭いツインアイに、髪のようにコードが伸びる兜。
彼の武器は、身体中から伸びるコード、サイバーランブである。

仮面ライダーバミューダ ランブータンアームズ


留奈は面倒そうに溜息を吐いた。
無言で戦極ドライバーを装着し、ロックシードを解錠する。
彼女は静かに、智則を観察していた。

『ブラッドオレンジ』

彼女の頭上に、巨大な果実が現れる。
これは周知の事実だが、彼女はとても強い。

『ロックオン』

ロックシードを戦極ドライバーに施錠すると、ロック調の待機音が流れ始める。
ユグドラシルが目の前いるこの男を雇ったという事は、こいつはそれなりの強さを誇るはずだ。

留奈「変身。」

彼女が静かに言う。
ならば、それなりに注意して相手をしよう。

- プロローグ -


…12月21日、夜から。

聖夜 留奈は夜の道を歩いていた。
裏手の路地へと曲がり、そのまま進み続ける。
そして少し開けた場所へ出たとき、クルリと振り向いた。

留奈「で、いつまで尾けて来る気だ?」

彼女の一言を受け、後ろを歩いていた男がフードを取る。
その男に、留奈は何の関心も示さない。
男、神瀬 智則(かみせ ちのり)は簡潔に答えた。

智則「戦える場所までさ。」

留奈「何だ? 私を殺すために、ユグドラシルにでも雇われたか?」

智則「大正解だ。」

彼はそう答えると、戦極ドライバーを装着する。
ポケットからロックシードを取り出し、解錠した。
彼の頭上に、時空間の裂け目が開く。

『ランブータン』

その中から、巨大な果実が現れた。
赤くトゲトゲしたそれが、ゆっくりと下りてくる。

『ロックオン』

それを気にする事もなく、彼はロックシードを戦極ドライバーに施錠した。
歯車の駆動音と警報を重ねたような待機音が、辺りに流れ始める。

智則「変身。」

彼は落ち着いた声で言い放つ。
同時に慣れた手つきで、戦極ドライバーを操作した。

『スタート』

ロックシードが斬られる。
空中に浮いていたランブータンが、彼の頭に突き刺さる。

『ランブータンアームズ』

それがゆっくりと展開し、鎧へと姿を変える。
何の変哲もない路地に、異形の戦士が現れた。

『Interference Master』


黒ずんだ銅色のスーツに、外側が赤く内側が白い鎧。
その鎧と身体には、配線や回路図を連想させる青と黒の模様が走る。
黄色く光る鋭いツインアイに、髪のようにコードが伸びる兜。
彼の武器は、身体中から伸びるコード、サイバーランブである。

仮面ライダーバミューダ ランブータンアームズ


留奈は面倒そうに溜息を吐いた。
無言で戦極ドライバーを装着し、ロックシードを解錠する。
彼女は静かに、智則を観察していた。

『ブラッドオレンジ』

彼女の頭上に、巨大な果実が現れる。
これは周知の事実だが、彼女はとても強い。

『ロックオン』

ロックシードを戦極ドライバーに施錠すると、ロック調の待機音が流れ始める。
ユグドラシルが目の前いるこの男を雇ったという事は、こいつはそれなりの強さを誇るはずだ。

留奈「変身。」

彼女が静かに言う。
ならば、それなりに注意して相手をしよう。

『ブラッドオレンジアームズ』

ブラッドオレンジが彼女の頭に刺さり、鎧へと展開する。
仮面の下で、彼女の瞳が紅く染まった。

『邪ノ道 オンステージ』


群青のスーツに紅い鎧。
それには、黒いツタのような模様が浮かび上がっている。
紅く呻くバイザーと、その上に飾られた鮮やかな紅い三日月。
腰に無双セイバーを下げ、右手には血が染み込んだように紅い刀、大橙丸を掴んでいた。

仮面ライダー武神鎧武 ブラッドオレンジアームズ


留奈はゆっくりと動きながら、智則を睨む。
彼はその場を動かず、仮面の下で歪んだ微笑みを浮かべている。
危険だが、ここで睨み合っている限り、事態が動く事はないだろう。
留奈はそう考えると、人間では成し得ない速さで前へ跳んだ。

留奈「!」

瞬間、智則の全身から生えているサイバーランブが、彼女を拘束した。
留奈は大橙丸で斬り裂こうとするが、上手く刃を振るう事が出来ない。
智則はフッと鼻で笑うと、戦極ドライバーを操作した。

『ランブータン スパーキング』

直後、鎧の模様が光る。
サイバーランブに特殊な電気信号が流れる。
それは留奈の身体を通り、彼女のロックシードへと流れ込んでいった。

留奈は感じた。
ロックシードの機能が、急激に低下していくのを。
智則から送られてくる電気信号が、留奈の戦闘能力を大幅に削っていた。

智則は余裕の微笑みを浮かべると、サイバーランブを動かし、留奈を塀に叩きつける。
そのまま、今度は反対方向に思い切り振り、彼女の身体を放り投げた。
留奈は空中での姿勢制御に失敗し、地面に叩きつけられる。

勢いに任せて転がりながら、彼女は唇を噛んだ。
こいつの能力は特殊だ。
今の状態で戦っても、こちらに勝機はない。

ヨロヨロと立ち上がる留奈を見ながら、智則は勝負を着けようとしていた。
つまらない程に、弱い。
簡単な感想を持ちながら、彼は再び戦極ドライバーを操作した。

『ランブータン スカッシュ』

サイバーランブが、またも留奈を拘束する。
模様が光り、サイバーランブにエネルギーが流れ込む。
今度は強力な電気ショックが、防御力の低下した留奈を襲った。

留奈「ぐっ…!」

身体の自由が利かなくなった彼女を、智則は空中へ放り上げる。
そして重力のままに落ちてくる留奈目掛けて、彼は突進攻撃を繰り出した。
身体が動かせない留奈は、そのまま吹き飛ぶ。

留奈「がっ!!」

再びゴロゴロと地面を転がった。
彼女の顔は、苦痛に歪んでいる。
目の前がチカチカと点滅し、景色がグラグラと揺れていた。

まずいな、と留奈は心の中で呟く。
意識が薄れていくのが、自分でもよく分かった。
だが次の瞬間、彼女の闘志に火が付く事になる。

智則「ふっ…」

勝利を確信したように、智則は鼻で笑った。
そのとき、カチンと、留奈の頭に血が上る。
こちらが本気を出していないのに、相手は勝ったと思い込んでいようだ。

ならば、本気を見せてやろう。

留奈「…舐めるなよ、ユグドラシルの傀儡が。」

彼女が低く呟いた。
刹那、オレンジ色の光が路地を満たす。
聖夜 留奈の身体が、強く光り輝いていた。


群青のスーツに紅い鎧。
それには、黒いツタのような模様が浮かび上がっている。
紅く呻くバイザーと、その上に飾られた鮮やかな紅い三日月。
腰に無双セイバーを下げ、右手には血が染み込んだように紅い刀、大橙丸を掴んでいる。

たがそれだけではない。
身体は、オレンジ色に強く光っている。
これが自分の「本気」だと言わんばかりに。

仮面ライダー武神鎧武 ブラッドオレンジアームズ Luna's Core Full Burst


留奈「あぁぁぁぁああああああああ!!!!」

彼女は大きく叫ぶと、智則に向かって走り出す。
そのスピードは、今までの比ではない。
智則は咄嗟に、サイバーランブで留奈の身体を捕らえた。

智則「っ! がぁぁぁぁああああああああ!!!!」

次の瞬間、彼の身体に強烈なエネルギーが走る。
オレンジ色に光るそれは、サイバーランブを逆流して彼のロックシードに流れ込んでいた。
ロックシードと戦極ドライバーが、過剰なエネルギーに耐え切れず爆発する。

智則「ぐぁっ!!」

彼は変身を強制解除され、後ろへ吹き飛んだ。
すぐに立ち上がろうとするが、先程の留奈のエネルギーが、彼自身の体力をも大幅に奪っている。
留奈は彼に近づきながら、戦極ドライバーを操作した。

『ブラッドオレンジ スカッシュ』

大橙丸を構える。
未だ何も斬っていないのに、その刃は紅く染まっていた。
彼女の目が、黒い光を宿す。

留奈「死ね。」

彼女は低く呟くと、大橙丸で智則の身体を滅多刺しにした。
人としてのシルエットを失った肉塊が、彼女の足元に崩れ落ちる。
まるで噴水のように血が吹き出し、路地を紅いそれが満たしていった。

留奈「…」

無言で変身を解除する。
その表情は、ぐちゃぐちゃの肉塊を冷たく見下ろしていた。
そして何事もなかったかのように、その場を後にする。

留奈の姿が見えなくなった後、その場に複数のアーマードライダーが現れた。
彼らは智則の死体に近づくと、それを回収し、その場の掃除を始める。
まるで最初から予定されていたように、彼らの動きに乱れや動揺はなかった。


金色のスーツに、西洋風な黄緑色の鎧。
緑の差し色が入っているが、全体的に涼しいイメージを出している。
武器である弓、アローリーブの代わりに、今はモップやバキューム等を持っていた。
スマートに仕事をこなす彼らは、ユグドラシルの量産型アーマードライダーだ。

仮面ライダーヘルメス オリーブアームズ


メタリックな赤色のスーツに、真っ赤な鎧。
金の差し色が入った西洋風の鎧を身に着け、ヘルメスと全く同じシルエットをしていた。
武器の回転ノコギリ、アセローラーを今は持っていないが、彼はこのヘルメス部隊のリーダーである。

仮面ライダーヘルメスレッド アセロラアームズ


ヘルメス達は全てを片付け終えると、乗ってきた装甲車へと戻って行く。
全員が乗り終わったところで、小隊長が車に搭載された通信機を起動した。
ヘルメスレッドは完結に報告する。

隊長「神瀬 智則の回収が終了しました。」

リョウマ『ご苦労さん。それじゃ、帰っておいで。』

戦極 リョウマはそれに応えると、一方的に交信を切った。
通信機を外し、彼は独り言を呟く。
その声は、本当に楽しそうだった。

リョウマ「いやー、いいね。上手くD.C.07のエネルギーデータを採取出来たよ。」

才吾「惜しい人を亡くしましたね。」

彼のボディガード兼助手である男、黒潮 才吾が思わず漏らす。
だがそれにリョウマは、はてなと言う顔をした。
そして才吾の発言を笑い飛ばす。

リョウマ「え? 何でさ。別に死んでもいいから、彼に依頼したんだよ?」

楽しそうな声が、研究室に響いた。
才吾はその声を聞きながら、背中に冷たいものを感じる。
リョウマの狂気は計り知れない。
そして最大の問題は、それを彼本人が自覚していない事だった。

- 幕間 その1 -


…日時不明。

彼は立っていた。
海沿いの道は直線で、まるで世界の果てまで続いているかのようだ。
そこで彼は、一つの錠前を取り出す。
それを右手で解錠すると、無造作に放り投げた。

空中で、その錠前が巨大化する。
光りながら変形する。
やがてバイクの形となったそれは、ズドンと彼の足元に下りた。


禍々しい赤色をしたバイク。
それにミサイルやバルカン砲など、本来であれば必要ない武装が施されている。
所々に金色が入ったそれは、ユグドラシルが開発した新型ロックビークルだ。

マンドラゴラタイフーン


それを見届けた彼は、戦極ドライバーを装着する。
そしてマンドラゴラタイフーンに跨ると、いきなり猛スピードで走り出した。
更に左手で、ロックシードを解錠する。

『ロットン オレンジ』

彼の頭上に、漆黒のオレンジが現れた。
それは彼の動きに合わせ、猛スピードで空中を走る。

『ロックオン』

ロックシードを戦極ドライバーに施錠する。
ロック調の待機音が、戦極ドライバーから流れ始めた。

???「変身…」

左手で右側にあるカッティングブレードを操作し、ロックシードを斬る。
キャストパッドが開き、シードインジケーターが露わになる。

『ロットン オレンジアームズ』

黒色のオレンジが、彼の頭に突き刺さった。
それは瞬時に展開し、鎧へと変形した。

『悪ノ道 オンステージ』


薄汚れた黒色のスーツに、漆黒の鎧が纏われている。
スモークブラックのバイザーと、その上に付けられた黒色の三日月型の飾り。
腰には無双セイバーを帯刀し、更に黒色の刀、黒影丸を装備していた。

仮面ライダー邪道鎧武 ロットンオレンジアームズ


彼はチラリとマンドラゴラタイフーンのメーターを見る。
それとほぼ同じタイミングで、それが999を表示した。
マンドラゴラタイフーンが宙に浮き、回転し始める。
同時に、周りに大量のマンドラゴラの花びらが舞った。

彼は仮面の下で、邪悪な笑みを浮かべる。
そしてそのまま、現れた時空間の裂け目へと消えて行った。
彼の名は、聖夜 ルナ。
家族を殺された復讐に燃える、殺人鬼である。

- 第一章 : 3バカの日常 -


…12月22日、午後から。

秀は遊歩道を歩いていた。
彼の服装は、黒いスーツに黒いネクタイ。
更に黒いズボンに黒い革靴。
腕には銀色の時計をし、黒くないのはYシャツくらいだ。

今日彼は休暇を取り、伯父の葬式に出席していた。
本当はまだ続いているのだが、午後からは仕事がある、と嘘を吐いて帰路についている。
厳かな雰囲気でそれが行われている中、彼は心の中でざまぁみろと悪態を吐いていた。

伯父に良いイメージや記憶はない。
彼は秀の母親の姉の夫だった。
簡単に言うと、母親の義兄だ。

伯父は父親に捨てられた母親の事を、心の中で見下していた。
それを面には出さなかったが、幼少の秀はそれをハッキリと感じていた。
酷い言い方をするようだが、彼はこの伯父が死ぬ瞬間を、長らく心待ちにしていたのだ。

彼は葬式の後とは思えない程の清々しさで、自宅への近道である細い路地へと入った。
そのとき、後ろから確かな気配を感じる。
男の声が、彼を呼び止めた。

???「お前、ユグドラシルのアーマードライダーだな。」

秀「…」

少しだけ身体を斜めに向け、横目で姿を確認する。
顔は見えないが、腰に着けている戦極ドライバーには、他とは違う特徴があった。
完成品の戦極ドライバーは、ライダーインジケータの部分にアーマードライダーの横顔が映し出される。
しかし彼の戦極ドライバーには、何も表示されていなかった。

戦極ドライバーのトライアル。
イニシャライズを必要としない、実験用のベルト。
それを持っているのは「T.S.D.事件」の被害者だけ。
幼少の頃にT.S.D.事件に遭い、且つ今でも生きている人物と言えば…

秀「…一杉 詠多(ひとすぎ えいた)…か?」

頭に浮かんだ一つの可能性を、彼は口にする。
それに対して、男はハッキリと反応した。
どうやら、当たりだったようだ。

詠多「やっぱ、そうか…!」

詠多は秀を強く睨む。
私立彗海学校高等部の制服に身を包んだ彼は、内ポケットからロックシードを取り出した。
それを右手で構え、解錠する。

『エゴノキ』

解錠されると同時に、彼の頭上に白と薄緑を混ぜたような色の実が現れる。
それを気にもせず、ロックシードを戦極ドライバーに施錠した。

『ロックオン』

和風の待機音が流れ出す。
秀の背中を睨みながら、彼はロックシードを斬り開いた。

『ソイヤッ』

詠多「変身!」

『エゴノキアームズ』

宙に浮いていたエゴノキが、彼の頭に刺さる。
それが瞬時に鎧へと変形した。

『ポイズンフィーバー』


藍色のスーツに、薄緑色の鎧。
紫色の差し色が入ったそれに加え、腰には小型の銃、P-ZMが装備されている。
鋭く光る赤いパルプアイに、透明のバイザーが被せられた仮面。
そして彼の最大の武器は、歯を食いしばった口のような排気口と、拳の発射口から発生させるウイルス、EGO-Vである。

仮面ライダーヘイゼル エゴノキアームズ

本日はここまでにしたいと思います。
疑問、質問、提案等、いつでもお受けしております。

気になった点があれば、いつでもご指摘ください。
ですが、あまりキツい言葉は、出来るだけ遠慮していただきたいと思います。

乙でした
いやーこれからいっぱい出てくると思うと楽しみですわw


確認なんですが、この時点で三木はゲネシスドライバーなんですよね?

わーお
ライダーがいっぱいです!
ブラックなルナくんまぢ天使!

>>15さん
さぁ、どんなアーマードライダーが登場するのでしょう…


>>16さん
そうです。
Chapter.6以降、秀はずっとゲネシスドライバーを使っています。


>>17さん
ヘイゼルに関しては、投稿していただいたときも少しツッコミましたね。
結局、リョウマの前に法律なんざ関係ないって結論に至りました。


こんばんは。
本日も始めていきます。

秀はゆっくりと振り向きながら、腰にゲネシスドライバーを装着する。
懐からロックシードを取り出すと、素早くそれを解錠した。
ピコピコという感じの解錠音が鳴り、時空間の裂け目が開く。

『チェリーエナジー』

そこから、二つ繋がったチェリーが現れた。
詠多の鎧と違い、半透明なのが特徴だ。

『ロックオン』

ロックシードをゲネシスドライバーに施錠する。
戦極ドライバーと違い、淡々とした口調の施錠音が鳴る。

『ソーダ!』

彼はゲネシスドライバー両脇のグリップを握ると、右側のそれを押し込んだ。
単調な待機音がぶった切られ、ロックシードが絞られる。

秀「変身。」

ロックシードのカバー、キャストパッドが展開する。
そしてその下のカップに、果汁のようなエネルギーが溜まり始めた。

『チェリーエナジーアームズ』

カップ一杯にエネルギーが溜まった瞬間、巨大なチェリーが回転しながら彼の頭に突き刺さる。
それは軽快なメロディーと共に鎧へと展開、彼をアーマードライダーに変化させた。


薄緑のスーツに、左肩が大きなクリアレッドの鎧。
右胸には固有のエンブレムが輝き、右肩の装甲が存在しない鎧とステアリングアイの中には、気泡のような模様が浮かんでいる。
四肢のファーなどの北欧風なシルエット、左肩や兜などの茎が強調されたデザイン。
右手に構えた弓、創世弓ソニックアローは、新世代アーマードライダー全員の共通武器である。

仮面ライダーシグルド チェリーエナジーアームズ


秀「さて、と…」

伸びをし、首を回す。
手首と足首を解しながら、秀はじっくりと詠多を観察していた。
T.S.D.事件の被害者は、必ず戦極ドライバーやロックシードとの親和性が高い。
だからこそ実験台に選ばれたのであり、その分彼らはインベス化しやすいのだ。

だが目の前にいる彼は、少なくとも13年以上生き続けている事になる。
それだけ経ってもインベス化しないというのは、よっぽど戦極ドライバーの扱いに慣れているか、または改造人間かのどちらかだ。
後者の可能性は限りなく低いが…

あの快楽至上主義博士、何やっててもおかしくないからな…
頭の中に浮かんだリョウマの胡散臭い笑顔を、彼は溜息と共に消し去った。
とりあえずは、目の前の男を殺す事に集中しよう。

彼は結論を出すと、一足飛びに前へ出た。
右手に構えたソニックアローを振り下ろす。
詠多はそれを避けると、素早く右ストレートを繰り出した。

しかしその攻撃は、秀の鎧が完全に吸収してしまう。
エナジーロックシードにより生成された鎧に、通常のロックシードによる攻撃はあまり通らない。
秀はソニックアローを振り上げ、詠多を吹き飛ばした。

詠多「がっ!!」

彼は後ろへ倒れる。
秀は間髪入れずに詠多の首を掴むと、無理矢理引っ張り上げて立たせた。
その身体を、ソニックアローを使い連続で斬り裂く。

そして最後に、詠多の胴を思い切り蹴飛ばした。
彼はゴロゴロと地面を転がり、塀にぶつかる。
だが苦痛に顔を歪めながらも、彼は戦極ドライバーを操作した。

『エゴノキ スパーキング』

詠多「喰らえ!」

彼はそう叫ぶと、秀に向かって跳ぶ。
同時に、排気口からスモーク状のEGO-Vが排出された。
秀は思わず防御体制をとる。

そこにEGO-Vを纏った拳が、連続で叩きこまれた。
このウイルスは、五分足らずで全身の装甲を溶かしてしまう程の強力なものだ。
新世代アーマードライダーに効くかは不明だが、このままいけば、確実にダメージを与える事が出来る。

しかしそのとき、秀にも詠多にも予期せぬ事が起きた。
EGO-Vを感知したゲネシスドライバーが、それを一気に吸収したのだ。
瞬間、ゲネシスドライバーが壊れ、変身が強制解錠される。
EGO-Vの侵食を免れた彼は、その衝撃で後ろへ吹き飛んだ。

秀「うわっ!」

詠多「…」

EGO-Vによる攻撃が失敗した詠多は、冷静に腰からP-ZMを抜く。
生身の秀であれば、別に銃一つでも確実に殺せるだろう。
彼は引金に指を掛けると、その銃口を秀に向けた。

『メロンエナジー』

だが次の瞬間、強い衝撃波が詠多を襲った。
背中を地面に叩きつけられ、変身が強制的に解除される。
彼は驚き、衝撃が来た方向を見上げた。
建物の屋上に、一人のアーマードライダーがいた。


金色と黒色が引き締まる白いスーツに、網目模様が入った黄緑色の鎧。
左胸には固有のエンブレムが輝き、オレンジ色のステアリングアイと装甲には、気泡のような模様が浮かんでいる。
左肩の装甲は存在せず、右肩のカバーが異様に大きい。
左手に構えた弓、創世弓ソニックアローは、新世代アーマードライダー全員の共通武器である。

仮面ライダー斬月・真 メロンエナジーアームズ


現れた新手に、詠多は唇を噛んだ。
今の攻撃で分かるが、自分ではあいつに勝てないだろう。
彼はそう判断すると、別の錠前を取り出して解錠した。
それは宙に浮いて巨大化し、変形して下りてくる。


奇妙なシルエットをした一輪のバイク。
厚い装甲に重装備、先端には槍が装着されていた。
これは今のところ、詠多専用のロックビークルである。

トリカブトアタッカー


彼は素早くそれに跨ると、小さく舌打ちをして走り出した。
裕司は的確に、そのホイールに衝撃波の矢を当てる。
それによってスピードを落とす事に成功したが、結局詠多には逃げ切られてしまった。
裕司は立ち上がると、構えていたソニックアローを下ろす。

裕司「つまらん奴め。」

小さく吐き捨てると、秀の側に飛び降りた。
その場で変身を解除する。
秀は起き上がりながら、彼に頭を下げた。

秀「ありがとうございます、二月主任。」

本当ならゲネシスドライバーを破損させた事について怒るところだが、今回秀に非はない。
今までT.S.D.事件の被害者を始末していなかったという点では、彼にも責任があるが。
とりあえず、仕事以外でゲネシスドライバーを壊すなど、冗談のようにバカな話だ。

秀「とりあえず、今日中に始末書は書き上げましょう。」

彼は諦めたように呟くと、大通りに出て右手を挙げる。
やがて一台のタクシーが、彼らの目の前に止まった。
二人はそれに乗り込むと、簡潔に目的地を説明する。

秀「ユグドラシルタワーまで。」

運転手は首肯すると走り出した。
彼らの先には、巨大な樹木を模したタワーが見えている。
それこそが彼らの職場であり、この沢芽市の象徴でもある「ユグドラシルタワー」だった。

了はある人物の自宅に向かっていた。
タクシーが目的地に着き、ドアが開く。
彼は運転手に料金を支払いながら、領収書を受け取った。

「夕暮 硝子(ゆうぐれ がらす)」と書かれた表札が下げられた玄関先。
その前に立ち、インターホンを強めに押した。
やがて鍵が開き、目的の人物が顔を出す。

硝子「はい、どちら様ですか?」

了「初めまして。私、ユグドラシル・コーポレーション特任部の、佐野 了です。」

硝子「へぇ、特任部の。ま、お入り下さい。」

了「失礼致します。」

了は名刺を差し出しながら名乗った。
硝子は軽い調子で答えると、了を内に招く。
彼は靴を揃えると、硝子に応接間へと通された。

硝子「お茶を淹れて来ますよ。」

了「どうぞお構いなく。」

硝子が応接間から出て行く。
了は椅子に腰掛けながら、ザッと辺りを見渡した。
盾や症状などが、インテリアと共に並んでいる。

硝子は元々、ユグドラシルの重役であり、ある研究チームのリーダーだった。
ロボット工学の研究においては、あのリョウマにも勝ると言われていたらしい。
だが四年前、実験中の事故で身体の大部分を損失、今は頭部以外がアンドロイドとなっている。
一時期はリョウマによる計画的な犯行という噂が立ったが、それを流した人物は、全員が彼に実験台として殺された。

そんな事をするから、ありもしない噂が立つんだ。
その場にいない人間を、彼は心の中で窘める。
最も、彼は今でも、本当にリョウマの犯行だと思っているが。
そんなとりとめもない事を考えていると、硝子がバームクーヘンと紅茶を持って戻って来た。

硝子「それで、ご用件は?」

彼は了の対面に腰掛けると、軽い口調で問う。
了は少し言いづらそうに、押し黙ったままだ。
硝子は紅茶を啜ると、バームクーヘンを一口頬張る。

硝子「大丈夫。特任部が来たって事は、それなりの事があるんでしょう? 何言われても驚きませんよ。」

彼は少し笑いながら言った。
特任部は「部署を決める必要がない、どうでもいい仕事」を引き受ける部署である。
雑務を押し付けられているようなイメージを与えるが、実際には「特定の部署には任せない、特殊な仕事」をこなすのが仕事だ。
もっと言えば「表立って発表は出来ない、非人道的だが重要な仕事」を行う。

了「…夕暮 硝子、あなたの身体を回収します。」

淡々とした口調で宣言すると、了は椅子から立ち上がった。
スーツの前ボタンを外し、Yシャツの上からゲネシスドライバーを装着する。
ポケットからロックシードを取り出すと、それを構えて解錠した。

『レモンエナジー』

テクノポップ調の解錠音が、静かな応接間に響く。
半透明の巨大なレモンが、天井に現れた時空間の裂け目から姿を見せる。

『ロックオン』

ロックシードをゲネシスドライバーに施錠した。
そして両脇のグリップを握り、右側のそれを躊躇いなく押し込む。

『ソーダ!』

了「変身。」

『レモンエナジーアームズ』

カップに絞り出されたエネルギーが溜まり、レモンが展開しながら頭に突き刺さる。
それはスクラッチ調の変身音と共に、鎧へと変形した。

蒼いスーツに、右肩のカバーが大きく、左肩の装甲は存在していない鎧。
左胸には固有のエンブレムが輝き、クリアレモンイエローの装甲とステアリングアイには、気泡のような模様が浮かんでいる。
王冠と髭を連想させる仮面と、背中に装備された、黒い模様が入った銀色のマント。
右手に構えた弓、創世弓ソニックアローは、新世代アーマードライダー全員の共通武器である。

仮面ライダーデューク レモンエナジーアームズ


硝子「…おいおい、マジかよ。」

硝子は驚いたような顔をした。
特任部が来た時点で、何を言われても驚かない覚悟はしていたつもりだ。
だが実際の内容は、予想の斜め上を行くものだった。

硝子「誰の差し金だ? 戦極か?」

了「答える必要はありません。」

ターゲットであろうとも、了は元重役に対して敬語を使う。
ちなみにどうでもいいのだが、今回の指令を出したのは確かにリョウマだった。
理由は分からなければ、分かる必要もない。
彼としては、分からない方が幸せだとも思っている。

硝子「悪いけど、殺されるわけにはいかないな。」

だが硝子はそう言うと、テーブルの下から戦極ドライバーとロックシードを取り出した。
右手で戦極ドライバーを装着しながら、左手でロックシードを解錠する。
彼の頭上に、時空間の裂け目が開く。

『ドライフルーツ』

硝子「俺はこの身体で、最強のアーマードライダーになりたいんでね。」

『ロックオン』

シワシワとした特殊な果実が、時空間の裂け目から現れた。
ロックシードを戦極ドライバーに施錠すると、歯車の駆動音と警報を重ねたような待機音が流れ始める。

『スタート』

硝子「変身。」

『ドライフルーツアームズ』

ロックシードを斬り開くと同時に、彼の頭に乾いた果実が刺さる。
それが展開し、西洋風の鎧へと変形した。

『コピーオーバー』


銀色のスーツに、蒼いバイザーの仮面。
白く濁った差し色が目立つ鎧の背中には、ブースターが着いていた。
左腰には、他の戦極ドライバーにはないアタッチメントがある。
そして右手の短剣、アインドライにも、他の武器にはない特徴があった。

仮面ライダーグラディエン ドライフルーツアームズ


硝子は変身直後、左腰のアタッチメントに触れる。
するとそこから、小振りなロックシードが現れた。
紫色のそれをアインドライに装填し、施錠する。

『ロックオン』

アインドライのトリガーを引いた。
瞬間、アインドライの形が歪む。
それはブドウ鎧の武器、ブドウ龍砲の形へと変化した。

『ブドウ チャージ』

彼はそれのコックを引くと、銃口を応接間の天井に向ける。
そして躊躇いなくトリガーを引いた。
紫色に光る龍のオーラが、そこに大穴を空ける。
背中のブースターを起動させると、硝子はそこから上空へと飛び立った。

了も後を追い、驚異的なジャンプ力で穴を抜ける。
そのまま屋根の上に降り立つと、そこ一帯には、昼下がりの住宅街には似つかわしくない光景が広がっていた。
数人のヘルメスが、ダンデライナーに跨って空を飛んでいる。
アローリーブから次々と矢を放ち、硝子を撃ち落とさんとしていた。

タンポポを模したロックビークル。
バイクのようなシルエットをしているが、ホイールがついていない。
空を飛ぶこのロックビークルには、必要のない部品だからだ。
サクラハリケーン、ローズアタッカーに続いて開発されたロックビークルである。

ダンデライナー


硝子は上空に飛び立ったとき、すぐに異常を感じた。
これだけ多くのアーマードライダーが空を飛んでいるのに、一般人は一人もいない。
どんな理由をつけたのかは知らないが、ユグドラシルがこのブロックの住人を全て避難させたのだろう。
何メートル範囲かも分からないが、空間偽装装置も使用しているはずだ。

『ロックオン』

彼は舌打ちすると、腰のアタッチメントから別のロックシードを取り出す。
アインドライを元の形に戻すと、それにロックシードを施錠した。
そしてトリガーを引くと、それが何本もの武器に分裂する。

『イチゴ チャージ』

彼はイチゴクナイを構えると、空を素早く飛び回りながらそれを投げた。
了は無言でその光景を眺めている。
そこへ、一人のアーマードライダーが近寄って来た。


緑色と赤色のスーツに、ヘルメスよりもゴツい西洋風の鎧。
金色が輝くクリアカラーのそれには、気泡のような模様が浮かんでいる。
眉の部分には、オリーブの葉を模した、二つの大き目の装飾がついていた。
武器はソニックアローの他に剣、オリーブレイドを装備している。

仮面ライダーアレス オリーブエナジーアームズ


了「戦闘部隊の総隊長が来るなんて、全く聞いていなかったぞ。」

潤「悪いが、こっちも何をすればいいのか聞いていない。お前を助けろとは言われたが、具体的にはどうすればいい?」

了「そもそも、助けが必要だと思ったのか?」

潤「プロフェッサー リョウマの指令だ。必要かどうかは知らない。」

了と話しているのは、郡山 潤という男だ。
彼はその突出した戦闘センスから、ユグドラシルのアーマードライダー部隊「ヘルメス」の総隊長を務めている。
しかし、彼と「ユグドラシルの3バカ」はあまり仲が良くない。

理由は少し複雑で、ユグドラシル内に置ける階級にある。
「ヘルメス」と「特任部」では、階級にそれ程の違いはない。
しかし実際「特任部」は、上層部からおかしな仕事を任される事もあり、有る程度は他の部署に指示出来る権限を実質的に持っている。
それが「ユグドラシルの3バカ」と同期である潤には気に食わないのだ。

了「夕暮 硝子の身体を回収する。殺しても構わないが、身体は必要以上に傷つけるな。」

了は簡潔に指示すると、ソニックアローを構える。
潤もそれに合わせ、ソニックアローを引いた。
衝撃波の矢が、二つ同時に射出される。
了の矢はアインドライを、潤の矢はブースターを正確に撃ち抜いた。

硝子「なっ…!」

硝子は驚嘆の声を漏らしながら、誰かの家の屋根に撃墜される。
そのままゴロゴロと転がり、そこの庭へと落ちた。
ヘルメス達は柵をよじ登って庭へと押し入り、彼の身体を拘束する。
そして彼の戦極ドライバーを無理矢理外し、変身を強制解除させた。

了「不法侵入じゃないのか?」

潤「違う。」

特任部の疑問を、ヘルメスの総隊長は切り捨てる。
ヘルメス達は手際良く硝子を気絶させると、彼を近くに停めてあった装甲車の中へ押し込んだ。
潤は変身を解除すると、装甲車の助手席へと乗り込む。

潤「じゃあな。」

彼は一言だけ残すと、その場から走り出した。
装甲車が走り去るのを眺めながら、了も変身を解除する。
それから身体を捻って、後ろを振り返った。

少し席を外します。

なんかひさしぶりですね
この圧倒的でスマートなバトルは・・・・
頭だけ生身のアンドロイド・・・555にも頭だけの人がいたなぁ
食べたバームクーヘンと紅茶はどこにはいっくんでしょうか・・・・?

了「…で、どうするんだ? これ。」

彼の後ろには、屋根が崩れ去った家がある。
ユグドラシルがどういう言い訳をして住民を避難させたのかは知らないが、果たしてこれの説明をつけられる理由だろうか。
まるでギャグ漫画のようにバカな状況を見てから、彼は歩き出す。

了「タクシーお願いします。場所は…」

やがて空間偽装装置を装備した、ユグドラシルの装甲車群が見えてきた。
彼はケータイでタクシーを手配しながら、後片付けをする社員達を眺める。
これから行われる仕事の苦労を労わりながら、彼は交差点付近でタクシーが来るのを待った。


胡桃はリョウマの研究室にいた。
彼女の他には、研究リーダーである戦極 リョウマ、彼のボディガード兼助手である黒潮 才吾、そして今年の春にリョウマの元に配属された新人研究員、吉原 冬馬(よしわら とうま)の三人がいる。
この冬馬という男は、基本的にはロックシードの整備を任されていた。
そして快楽至上主義者であるリョウマの事を嫌っている。

リョウマ「今日皆に集まってもらった理由は他でもない。僕が開発した新しいロックシードの実験のためだ。」

リョウマはそう言いながら、右ポケットからロックシードを取り出した。
それを才吾に手渡すと、強化ガラス張りの部屋の横についているパネルを操作する。
彼が特定のキーを入力すると、シューという空気が抜ける音と共に、彼特製の強化ガラスで作られた扉が開いた。

リョウマ「それじゃ、この中に入って。指示は後からするよ。」

彼は三人に、中へ入るよう促す。
才吾は身構えながら、胡桃は面倒臭そうに、冬馬は不審な目つきで入って行った。
強化ガラス製のボックスの中には、何も存在していない。
床から天井、四方の壁全てが無色透明な部屋の中は、それだけで異様な雰囲気を醸し出していた。

リョウマ「全員準備良いかな? 実験が終わるまで水分補給は出来ないし、トイレにも行けないからね。」

そう言いながら、強化ガラスの扉を閉める。
もし誰かがトイレに行きたくても、端から行かせるつもりはなかったようだ。
ここにいる人間は、それぐらい気にしないだろうが。

胡桃は嘆息する。
本当はあまり関わりたくないのだが、秀は有給休暇、了は別の仕事、裕司は知らない。
だから消去法で、彼女がリョウマの実験に付き合う事になったのだ。

リョウマ『それじゃ早速始めよう。先ずは、全員変身してくれ。』

透明のパーツで作られたスピーカーから、リョウマの声が流れる。
完全防音らしいこの部屋では、外の音が全く聞こえない。
だからスピーカーがあるのだが、果たしてこれまで透明素材にする必要はあったのだろうか。
胡桃がそんな無駄な事を考えている内に、才吾は手早く戦極ドライバーを装着していた。

『ジャックフルーツ』

ロックシードを解錠する。
彼の頭上に、オレンジ鎧などと同規格の果実が現れる。

『ロックオン』

ロックシードを、戦極ドライバーに施錠した。
ファンファーレのような待機音が流れ始めると、勢い良くロックシードを斬る。

『カモン!』

才吾「変身。」

『ジャックフルーツアームズ』

巨大なジャックフルーツが、彼の頭に突き刺さる。
それが一気に展開し、鎧の形へと変化した。

『GIANT OF CRUSHER』


茶色のスーツに、バイザーの仮面。
薄い黒色をアクセントカラーとする鎧は分厚く、城を彷彿とさせる。
と言うよりも、彼そのものが一つの要塞のようだった。
武器は両手に持った二つのメイス、キャッスルクラッシュである。

仮面ライダーラントム ジャックフルーツアームズ

『グアバ』

冬馬も渋々といった感じで、戦極ドライバーを装着した。
ロックシードを解錠すると、彼の頭上に黄緑色の果実が出現する。

『ロックオン』

先程と同じ、西洋風の待機音が流れ出す。
彼はイライラしたように、すぐにロックシードを斬った。

『カモン!』

冬馬「変身…」

『グアバアームズ』

巨大なグアバが、彼の頭に刺さる。
それが中世ローマの騎士を模した鎧へと変形した。

『ウィンド・アンド・グラディエーター』


藍色のスーツに、橙色が入った鎧。
形状はドングリ鎧と似ているが、全体的に鋭くなっている。
彼の特徴は、胸部に扇風機のようなプロペラが存在している事だ。
武器は両腕のナックル、アルバッシュである。

仮面ライダーゲリオン グアバアームズ


他の二人が変身した事で、胡桃は諦めたように溜息を吐いた。
ゲネシスドライバーを装着し、ロックシードを解錠する。
アラビア風の解錠音が、ボックス内に鳴り響いた。

『ピーチエナジー』

時空間の裂け目が開き、彼女の頭上に巨大なピーチが現れる。
半透明のそれは、鮮やかな桃色だった。

『ロックオン』

ロックシードをゲネシスドライバーに施錠すると、特徴など皆無の単調な待機音が流れ始める。
彼女は両側のグリップを握り、右側のそれを思い切り押し込んだ。

『ソーダ!』

胡桃「変身。」

『ピーチエナジーアームズ』

ロックシードが展開し、カップに絞り出されたエネルギーが溜まる。
半透明のピーチが回転しながら彼女の頭に突き刺さり、魅惑的な変身音と共に鎧へと展開した。


赤い模様が入ったピンク色のスーツに、右肩が大きく左肩が存在しない鎧。
左胸には固有のエンブレムが輝き、クリアピンクの鎧とステアリングアイには、気泡のような模様が浮かんでいる。
前垂れとスカートの様な部分に、特徴的な仮面。
左手に構えた弓、創世弓ソニックアローは、新世代アーマードライダー全員の共通武器である。

仮面ライダーマリカ ピーチエナジーアームズ


リョウマ『よし、それじゃ次だ。黒潮、さっき渡したロックシードに換装して。』

全員が変身すると同時に、次の指示が入る。
才吾はリョウマに言われた通り、ロックシードを解錠した。

『カカオ』

再度、時空間の裂け目が開く。
彼の頭上に、巨大なカカオの実が現れる。

『ロックオン』

それをしっかりと見上げて確認すると、ロックシードを戦極ドライバーに施錠した。
待機音を聞かずに、即座にロックシードを斬る。

『カモン!』

カカオが彼の頭に刺さった。
それが鎧の形へと変形した瞬間、驚くべき事が起きる。

『カカオアームズ』

なんと才吾の意思が鎧へと移り、更に鎧だけが宙に浮いたのだ。
彼の身体はスーツだけになり、その場にばたりと倒れる。

『サイレントコーティング』

才吾は驚愕で目を見開く。
同時に、灰色の胴体と腕が、鎧の内側から生えた。


鮮やかな虹色が入った、茶色の鎧。
マントのような翼を持つそれは、ところどころドロドロと溶けている。
バイザーのみの仮面に、脚がない身体。
武器は全身からのレーザーと、カオスグングニルと言う槍である。

仮面ライダーカオス カカオアームズ


リョウマ『よし、第一段階はクリアだ。』

スピーカーから、リョウマの少し嬉しそうな声が流れる。
対して才吾は、戸惑ったように両腕を動かし、辺りを浮遊していた。
彼も相当な覚悟を持って、リョウマが作ったロックシードの実験をしたのだろう。
それでも、まさか幽体離脱紛いの事になるとは、微塵も考えはしなかったはずだ。

リョウマ『それじゃ次だ。吉原くん、それを装着して。』

瞬間、冬馬の顔が困惑と疑念に染まる。
「それ」というのは、宙に浮いているカカオ鎧以外にはない。
才吾の精神が移っているそれを「装着しろ」とリョウマは言ったのだ。

リョウマ『早くしてくれないかな?』

彼の急かす声が、ボックス内に響く。
冬馬は小さく舌打ちすると、カカオ鎧の下へ立った。
そして才吾がゆっくりとカカオ鎧を下ろし、彼の身体へ装着する。
と同時に、冬馬の纏うライドウェアが、少しだけ変化した。


グアバ鎧を完全に覆うように、カカオ鎧が装着されている。
彼のスーツには焦げたようなラインが現れ、カカオ鎧側の灰色の部分は消え去っていた。
胸部のプロペラはそのまま残り、カオスグングニルは彼の腕に装備されている。

仮面ライダーゲリオン カカオアームズ


リョウマ『よし、第二段階もクリアだ。』

再び、スピーカーから嬉しそうな声が流れた。
冬馬は驚いたように、その場で跳ねたり回し蹴りをしたりしている。
彼は一呼吸置くと、胡桃と冬馬に指示した。

リョウマ『どうやら、意識は吉原くんと黒潮の両方にあるみたいだね。それじゃ、最後だ。』

胡桃「…」

リョウマ『本気で殺し合ってくれ。それがどれほどの性能を発揮出来るのか、試してみないとね。』

胡桃は、まるで予想通りだったと言わんばかりに溜息を吐いた。
だが逆らってもいい事はないので、仕方なくソニックアローを構える。
冬馬も渋々と言った感じで、カオスグングニルを構えた。

リョウマ『いくよ。それじゃ、スタート。』

ホイッスルの音が、スピーカーを通して割れながら聞こえた。
瞬間、胡桃は一気に前へ出る。
左手のソニックアローを振りかざし、冬馬を容赦なく斬り飛ばした。

彼は痛みに耐えながら、何とか踏み止まる。
そして膝を曲げると、大きく飛び上がった。
カカオ鎧の翼が展開し、彼を高く飛翔させる。
強化ガラスの天井スレスレの位置まで浮遊すると、彼はカカオ鎧の全身から拡散レーザーを放射した。

胡桃は走ってそれを回避する。
柱などの身を隠すところがないボックスの中で、彼女は動き回りながらソニックアローを構えた。
冷静に狙いを定めると、衝撃波の矢を射出する。

冬馬「がっ!」

彼女が放った矢は、見事に冬馬の胸部、プロペラを撃ち抜いた。
それがバラバラに壊れ、彼はバランスを崩す。
レーザーの雨が一時的に止むと、その隙に胡桃は二本の矢を放った。

一本は右の翼を、もう一本は左の翼を破壊する。
更に床に落ちた冬馬に向かって、彼女は弓を引いた。
しかしそれを見計らい、冬馬は一発逆転を狙って戦極ドライバーを操作する。

『グアバ オーレ』

『カカオ オーレ』

ロックシードにエネルギーが流れるのを感知し、カカオ鎧が光った。
冬馬の身体にエネルギーが溜まり始める。
そして彼が、胡桃目掛けて強力なそれを放とうとした。
そのときだった。

冬馬「! 何だ!?」

なんとカカオ鎧が突然溶け始めたのだ。
それは彼の全身を包み、その中で冬馬の身体をも溶かしていく。
まるで床に埋まるように、彼はどんどんと崩れていく。

冬馬「!!」

声にならない叫びを上げるが、既に彼はドロドロに溶けて、鎧の面影すらないカカオ鎧と共に床に張り付いていた。
溶解が止まると同時に、倒れていた才吾が跳ねるように起き上がる。
そして彼の変身が強制解除された。何が起きたか分からないのか、彼はペタペタと自分の身体を触り続けている。

胡桃は一部始終を間近で見ていた。
無言で変身を解除するが、その顔に特別な感情は出ていない。
特任部に配属されて間もない頃は、毎日耐えられないくらい大きな何かに潰されそうだった。
だが今は、それが普通だとでも言うように、何の感情も湧き上がってはこない。

胡桃「これが『慣れ』ってやつなのかもね…」

彼女は小さく呟いた。
あの快楽至上主義博士の行動に慣れるなど、あってはならない事だとも思う。
しかし現に、彼女は冷静さを崩さない程に慣れてしまった。
感情と実際の状況が矛盾していて、バカみたいだ。

リョウマ『テスト、終了。』

リョウマの残念そうな声がスピーカーから流れ、強化ガラスの扉が開く。
そして複数のヘルメス達が現れ、カカオ鎧の残骸と、一緒に溶けた「冬馬だった何か」を回収し始めた。
それは死体と呼ぶには、あまりにも原形をとどめていない。
それには見向きもせずに強化ガラスのボックスへと入って来たリョウマは、カカオ鎧の残骸を指でつついた。

リョウマ「弾力があるね。すぐに調べようか。黒潮、ロックシード。」

そう独りごちると、才吾に歩み寄る。
リョウマが右手を出しながらそう言うと、才吾は自らの戦極ドライバーから外したカカオ ロックシードを手渡した。
リョウマは最後に、胡桃の元に行き話しかける。

リョウマ「お疲れ様。どうだい? 新しいゲネシスドライバーの感想は?」

胡桃「…素晴らしいですけど、私は戦極ドライバーの方が好きです。」

彼女は簡単に会話を終えると、スタスタとそこから出て行った。
一刻も早くシャワールームに行き、面倒に纏わりつく何かを洗い流したい。
シャワーで感情が流せるわけではないが、少しは不快感を拭ってくれるだろう。

リョウマは片付けが完全に終わったのを見届けると、才吾と共にその場を離れた。
扉を閉め、鍵を掛ける。
彼は右手でカカオ ロックシードを弄りながら、これからどのようにこれを改良してやろうかと、楽しそうに思いを巡らせていた。

了はデスクに座って、始末書を作成していた。
硝子の自宅の屋根や、名も知らぬ住人の家の屋根を破壊したのは彼ではないが、形式上何故か始末書を書く事になっている。
カタカタとキーボードを打ちながら、しかし彼にはずっと気になっている事があった。
そしていい加減作業に集中出来なくなり、遂に手を止めて行動する。

了「…おい、秀。」

秀「何だよ。」

了「今日、休みじゃなかったのか。」

秀「確かに休みとったんだけどさ。さっきベルト壊しちまったから、始末書だけ書きに来たんだ。」

有給休暇をとっているはずの親友が、何故か隣のデスクに座っていた。
だが秀は、何でもない事のように言う。
休みの日に始末書を書きに来るなど、バカみたいだ。

了「…休日にドライバーを壊して、更にその始末書だけを書きに来たのか?」

秀「簡単に言えばな。」

了「お前、バカなんじゃないか?」

秀「そういう了は何してんだよ?」

了「今日、戦闘で住宅の屋根を破壊したんだ。俺が壊したわけじゃないが、形式上俺が始末書を提出する。」

秀「お前だって始末書書いてんじゃねぇか。てか、他人のやった事の始末書作るって、バカみたいだな。」

そんな言い争いをしている間も、彼らの指は止まらない。
一見サボっている風に見えるが、二人は確かに仕事をしていた。
そんな彼らの元に、シャワーを浴び終わった胡桃がやって来る。

胡桃「あれ? 秀、あんた休みじゃなかったの?」

了「何故か今日ドライバーを壊して、その始末書だけを書きに来たらしい。」

胡桃「…あんたバカじゃないの?」

秀「そういうこいつは、他人のやった事の始末書提出するんだとさ。」

胡桃「バカみたいね。」

了「そういう胡桃は何してた?」

胡桃「さっきプロフェッサーの実験に付き合ったところ。」

秀「生きてて良かったな。」

了「で、結果は?」

胡桃「良く分かんないけど失敗っぽかった。なんか命張ったのがバカみたい。」

裕司「三木、佐野、芦原、仕事中の私語は慎め。」

そんな彼らの元に、いつの間にか特任部長である裕司が来ていた。
普段なら自分のデスクから口頭で注意するだけだが、近くまで来たということは、何か仕事が入ったのだろう。
秀と了はデスクから立ち上がると、胡桃と共に姿勢を正す。

裕司「地下二階のホールで、リョウマが作った『何か』の実験が行われる。それの『警護』が我々の仕事だ。秀のゲネシスドライバーも、同時並行で修理するらしい。」

了「主任。」

裕司「どうした?」

了「警護だけであれば、ヘルメスの部隊に任せる方が、効率が良いのでは?」

確かに、了の質問は的を射ていた。
だがその問いに、裕司は苦虫を噛み潰したかのような表情をする。
そしてその答えが出た瞬間、全員の顔がこれまでにない程歪んだ。

裕司「…桃都(もものと)財閥のご令嬢が来るんだ。」

秀「…あいつか…」

了「…本当ですか…」

胡桃「…嘘でしょ…」

裕司「…諦めて行くぞ。仕事だ。」

>>26さん
バームクーヘンに関しましては、鉄腕アトムと同じ感じで。


本日はここまでにしたいと思います。
疑問、質問、提案等、いつでもお受けしております。

気になった点があれば、いつでもご指摘ください。
ですが、あまりキツい言葉は、出来るだけ遠慮していただきたいと思います。

乙です!
すごい!・・・・・1ミクロンも先が見えない!!!

乙でした
あぁ財閥お嬢様というとジンバーレモンの時に一回出た…

>>33さん
大丈夫です。
まだ軸となる事件も起きてませんから。


>>34さん
そうです、彼女です。


こんばんは。
本日も始めていきます。

少しの間、通夜のような雰囲気が辺りを支配する。
それから、彼らはゆっくりとエレベーターに向かって歩き出した。
その足取りは明らかに重く、四人は長い溜息を吐いた。


地下二階の巨大ホール。
円形と長方形を合わせた前方後円墳に似た形である床の面積も広いが、何よりも天井が高い。
三階までぶち抜いてある円柱形の実験場を持つこの部屋は、飛行テスト等も出来るように作られている。

そこへ裕司達がエレベーターを降りてやって来た。
秀と胡桃はリョウマの元へ、裕司と了は離れた場所にあるもう一つのエレベーターへと向かう。
了は裕司と共にエレベーターの脇で待機すると、彼に聞いた。

了「どのくらいで、あの人はいらっしゃるのですか?」

敬意を全く感じさせない言い方で、了は桃都財閥の令嬢を呼んだ。
だが普段なら注意するところ、裕司は気にも止めない。
むしろイライラした様子で、その事実を口にした。

裕司「すぐだ。後五分程で下りてくる。」

了は察する。
つまり桃都財閥の令嬢は、暇潰しでここに来るのだ。
彼女が来るときは、いつも突然だ。
何故なら、彼女がここに来るときは、いつだって気まぐれだからだ。

裕司「先にアポイントメントを取るのは常識だろう…」

了「箱入り娘、なんでしょう。」

裕司はなおもイラついていた。
娘を一人で育てている彼からすれば、そのような教育をしっかりと受けさせるのが親の義務だと考えている。
だから厳密に言えば、彼は令嬢にイラついているのではなく、その親に怒っていたのだった。

そのとき、エレベーターが地下二階に到着する。
裕司と了は、すぐに姿勢を正した。
エレベーターが開き、中から数人のボディガードが出て来る。
そして、遂に彼女が姿を現した。

???「ふーん。随分とゴチャゴチャしてるわりには、以外と殺風景なんですわね。」

開口一番、失礼な事を言う。
そもそも実験場が華やかな方がおかしいだろう。
裕司は心の中で毒づきながら、了や他の職員達と共に頭を下げた。

裕司「お待ちしておりました。桃都 水面(もものと みなも)様。」

水面「ねぇ、今度はここで何をされるんですの?」

裕司「…我々の研究リーダー、戦極 リョウマが作製致しました、新型アンドロイドの実験でございます。」

水面「アンドロイド…やはりユグドラシルはすごいものを作りますわ。」

裕司「恐縮です。」

彼の言葉は、敬語を使っているにしては、敬意が全く感じられない。
それはわざとだ。
周りの人間は気づいているが、裕司の話にあまり興味がない水面は気がつかない。

彼女が桃都財閥のご令嬢、桃都 水面だ。
この自分勝手で世間知らずな態度から、ユグドラシルの面々はあまり彼女を良く思っていない。
だがスポンサーである桃都財閥の関係者であるため、無下に扱う事も出来ない。

水面「えーと…あ、いらっしゃいましたわ。」

彼女はリョウマの姿を認めると、勝手に歩き出す。
ボディガード達は、その後ろを慌ててついて行った。
裕司と了も、面倒そうに歩き出す。

そのリョウマの元には、秀と胡桃がいた。
さっきも彼の実験に付き合わされていた彼女は、正直うんざりしたような顔をしている。
対して、秀は思い出したように、破損したゲネシスドライバーを取り出した。

リョウマ「そこのゴム台の上に、赤いコードと黒いコードを繋いで置いておいて。」

リョウマは見向きもせずに言う。
こちらの姿も見ずに的確な指示を出され、秀は少し驚いた。
言われた通り、ゲネシスドライバーに黒いコードと赤いコードを繋いで、隣にある黒いゴム台の上に置く。

秀「プロフェッサー リョウマ。」

リョウマ「何?」

秀「桃都 水面嬢がいらっしゃるようですよ。」

未だこちらを見向きもしないリョウマへの意趣返しと見たのか、秀はあっさりとした口調で言った。
瞬間、リョウマはビクッとして作業の手を止める。
彼は錆び付いたロボットのように振り返ると、秀を見て言った。

リョウマ「…それは本当かい?」

秀「はい。」

リョウマ「…」

頭をフル回転させる。
作業を中止して彼女が帰るのを待てば、トラブルが起きる可能性は少ない。
が、自分の好奇心がそれを待てるはずがない。
一瞬でグルグルと頭を回転させ、リョウマは結論を出す。

リョウマ「まぁ、実験は続けよう。」

秀「だと思った。」

胡桃「快楽至上主義だものね…! 来たみたい。」

そのとき、向こうから集団で歩いて来る足音が聞こえてきた。
彼女と秀は姿勢を正すと、水面に頭を下げる。
だがリョウマは、気にもとめずに作業を続けた。

水面「戦極さん、お久しぶりですわ。」

リョウマ「…お久しぶりです。最初に警告させていただきますが、機械類には一切触れないでください。危険ですから。」

機械の方が。
とは言わないが、水面以外の全員が同じ事を考える。
このまま無視してやろうかと考えていたリョウマだったが、彼女に話しかけられ、仕方なく手を止めたのだ。

水面「今回はアンドロイドを作られたそうですわね。よろしければ、ご説明いただけません?」

リョウマ「…分かりました。今回の作品は、次世代の量産型アンドロイド開発を目的とした試作品です。」

水面の質問に、リョウマは諦めたように答え始めた。
歩きながら説明する彼を追いかけ、水面も歩み出す。
しかしそのとき、何かに足を引っ掛けてしまった。

水面「おとと…」

彼女は近くのパネルに手をつき、何とか体制を整える。
それから改めて、リョウマを追いかけ始めた。
リョウマは円形の床の中心へ近づくと、そこで足を止める。
水面とボディガード、そして秀達も足を止め、目の前のそれを凝視した。

そこに立っていたのは、華奢な女性のシルエットをした、銀色のアンドロイドだった。
身体は人型で、頭部には紡錘形のカメラアイが二つある。
耳や口などは見当たらず、それに相当するセンサーが何処にあるのかは分からない。
全体的につるりとしており、まるで銀一色のデッサン人形のみたいだった。

リョウマ「名称は『Android of Next Generation Trial Version』。」

回路の一部は、硝子の身体を即座に改造したもの。
動力源は、留奈の核から放出されたエネルギーのデータを元にした、言わゆる劣化コピー。
胴には戦極ドライバーが装着され、右腰部にはロックシードが引っ掛けられていた。
そのスペックから分かるように、彼女(人ではないが、便宜上この代名詞を使用する)は軍事用アンドロイドの試作型である。

リョウマ「略して『A.N.G.00』です。」

秀「プロフェッサー。」

リョウマ「何だい?」

秀「何で女性型なんですか?しかも何て言うか…全体的に細いと言うか、スレンダーと言うか…」

了「…お前、バカなんじゃないか?」

秀「でも、気になるだろ?」

リョウマ「お答えしよう。僕の趣味だ。」

胡桃「バカなんですか?」

秀「了、俺よりもプロフェッサーの方がバカだと思う。」

了「…開発者の特権だろう。」

裕司「桃都様、下品な言葉の応酬、深くお詫び申し上げます。」

水面「ここは、いつ来ても賑やかですわね。」

裕司は一人、水面に頭を下げる。
位が上であるリョウマに対してバカなどと言っているが、実はユグドラシルでは日常茶飯事なので誰も気にしない。
上下関係がしっかりしているのは、この企業の外面の部署だけだった。

リョウマ「さてと…ねぇ、擬似記憶はインプット出来た?」

研究員「いえ。後二時間程かかると思われます。」

リョウマ「二時間…分かった。」

彼はデスクに戻ると、研究員の一人に尋ねる。
その答えを聞いた後、頭の中で計算した。
二時間、自分の好奇心が持つかどうか。
そして、二時間で水面が帰るかどうか。

リョウマ「…よし。先に三木のゲネシスドライバーを直してしまおう。」

結論は、二時間待つだった。
今回は好奇心よりも、安全管理と危機感の方が勝ったようだ。
彼は秀のゲネシスドライバーが置かれたゴム台の前に腰掛けた。

リョウマ「君、そこの配線をチェックしてくれ。君はそこの、君はそっちの。」

研究員達に的確な指示を出す。
彼らはバラバラに分かれ、言われた箇所をチェックし始めた。
リョウマも配線を一つ一つチェックした後、パネルを操作する。

リョウマ「ん? ここおかしいな…」

小さく呟きながら、先程水面が触れたパネルの設定を弄った。
どうやら彼女が触れたときに、一部の設定が狂ったらしい。
リョウマはそれを元通りに直すと、今度はデスクのキーボードを叩き始めた。

リョウマ「えーと、確かエゴノキのウイルスにやられたんだったね。」

秀「はい。」

リョウマ「ゲネシスドライバーにウイルスバスターを付けておくべきだったかな?」

彼はそう言いながら、特殊な装置の設定を完了させる。
それは真空ケースに似たものがついた、銀色の装置だった。
リョウマはそこから太めのコードを引っ張って来ると、それを大きな穴の空いた別の装置に接続する。
その穴にゲネシスドライバーを装填すると、再びデスクに座った。

リョウマ「それじゃ、ウイルスの除去開始だ。」

そう呟くと共に、キーボードのエンターキーを叩く。
ゲネシスドライバーが装填された装置と、銀色の装置が稼働を始めた。
銀色の装置から特製のウイルスバスターが、別の装置を通してゲネシスドライバーに流れ込む。
はずだったのだが…

リョウマ「…! ストップ!」

彼は叫ぶと、急いでパスワードを入力し、装置の稼働を停止させる。
ウイルスバスターの流れ込むはずが逆流し、ゲネシスドライバー内のEGO-Vを流していた。
急いでパネルを確認するが、設定が狂ったままの部分はない。

リョウマ「ちょっと待って。これは一体どういう事だ…?」

装置もざっと見てみるが、特におかしな点もなさそうだ。
彼は立ち上がり、詳しく調べようとする。
だがその瞬間、男性研究員の大きな声が周囲に響いた。

研究員「警告! A.N.G.00、稼働を開始!」

秀「!」
了「何!?」
胡桃「!?」
裕司「…」
水面「あらあら…」

リョウマ「…!」

その場にいた六人に、衝撃が走る。
リョウマは何かに気がつくと、急いで配線をチェックした。
先程、一人の女性研究員に確認させた部分の配線が、これでもかと言う程ぐちゃぐちゃにこんがらがっていた。

リョウマ「くそっ!」

思わず悪態をつく。
何者かが研究員の振りをして侵入し、今回の事態を招いたのだろう。
直接確認しなかった自分に責任があるのは確かだ。

リョウマ「まずいね。完全に僕の失態だ。」

了「いえ、侵入を許した我々にも責任があります。」

胡桃「ないわよ。だってそんな仕事は任されてないもの。」

秀「おいおい、警備担当はヘルメスだろ。何やってんだよ…」

裕司「その辺にしろ。今は責任の所在など、どうでもいい。」

各々が勝手な事を言い始める。
裕司はその場を収めながら、怪しい人間がいないか、グルリと辺りを見渡した。
しかしそのとき、再び研究員の声が響く。

研究員A「A.N.G.00、パワーレベル上昇!」

研究員B「A.N.G.00、こちらからの指示に反応しません!」

研究員C「A.N.G.00、現在稼働率82%! なおも急上昇中!」

裕司「っ…研究員、並びに職員は全員避難! ドライバー所持者は変身し、A.N.G.00を破壊しろ!」

リョウマ「ちょっ、裕司!?」

裕司「黙れ。貴様の好奇心よりも人命が優先だ。」

裕司は舌打ちすると、リョウマのデスクに設置されたマイクのスイッチを勝手に入れて叫んだ。
その指示に突っかかってきたリョウマも、問答無用で黙らせる。
それから裕司は、了と胡桃の二人と共にゲネシスドライバーを装着した。

『メロンエナジー』
『レモンエナジー』
『ピーチエナジー』

ロックシードが解錠され、彼らの頭上に半透明の果実が現れる。
三人がロックシードをゲネシスドライバーに施錠する。

『『ロックオン』』

彼らはゲネシスドライバーのグリップを握り、右側のそれを思い切り押し込んだ。
キャストパッドが展開し、エネルギーが絞られる。

『『ソーダ!』』

裕司「変身。」
了「変身。」
胡桃「変身。」

『メロンエナジーアームズ』
『レモンエナジーアームズ』
『ピーチエナジーアームズ』

カップにエネルギーが溜まり、巨大な果実が三人の頭に突き刺さる。
その中で、彼らに仮面と兜が装着される。
そして特徴的な変身音が混ざり合いながら、それぞれが鎧へと展開した。

水面「ドライバー所持者という事は…私も?」

秀「いえ、あなたは…あぁもう面倒だな! 変身してください!」

緊急事態にも拘らず、水面はゆっくりとした口調で言った。
秀はそれに苛立ちながら叫ぶと、才吾の隣に並ぶ。
同時に、戦極ドライバーを装着した。

水面「それでは、私も。」

水面はそう呟くと、彼らと同じく戦極ドライバーを装着する。
それからぴょんと、才吾と秀の隣に立った。
三人はロックシードを取り出すと、それぞれ構えて解錠する。

『パッションフルーツ』
『ジャックフルーツ』
『マンゴスチン』

彼らの頭上に、時空間の裂け目が現れる。
その中から、巨大な果実が降りてきた。

『『ロックオン』』

ロックシードを戦極ドライバーに施錠する。
歯車の駆動音と警報を重ねたような待機音と、ファンファーレのような待機音の二つが混じり合う。

『スタート』
『カモン!』
『カモン!』

秀「変身!」
才吾「変身。」
水面「変身。」

『パッションフルーツアームズ』
『ジャックフルーツアームズ』
『マンゴスチンアームズ』

変身待機音をぶった切り、彼らはロックシードを斬った。
巨大な果実が三人の頭に突き刺さり、鎧へと変形する。

『Whip of Reign』
『GIANT OF CRUSHER』
『The Advent of Queen!』


秀が変身した姿は、橙色のスーツに機械的な鎧。
それは黒色と、黄色く光るクリアカラーが目を引く。
両腕に装備された爆弾、ボムパッションと、両腕に加え左脚にも装備されたワイヤー、ヴィンプワイヤーが彼の武器だ。

仮面ライダーヴィンプ パッションフルーツアームズ


水面が変身した姿は、白いスーツに、前面には金、背面には銀が輝く鎧。
肩はパフスリーブドレス風であり、腰部の派手なローブと合わせ、全体的に優雅なシルエットをしている。
頭部に銀色の王冠がついており、仮面舞踏会のマスクを模したバイザーが、小型の複眼を覆っていた。
クラッシャーは存在せず、武器は先端にマンゴスチン形の宝石が付いた杖、マンゴステッキである。

仮面ライダーヴィクトリア マンゴスチンアームズ


また別の場所で、潤は部下達の指揮を執っていた。
彼はゲネシスドライバーを、他の戦闘員は戦極ドライバーを装着する。
戦闘員達は決められた構えで、ロックシードを解錠した。

『オリーブエナジー』
『『アセロラ』』
『『オリーブ』』

統一感のある動きは、彼らが個人単位ではなく組織単位で訓練されている事を如実に物語っていた。
半透明のオリーブが一つ、そして大量のオリーブとアセロラが現れる。

『ロックオン』
『『ロックオン』』

全員が呼吸を合わせ、ロックシードを戦極ドライバーに施錠する。
ゲネシスドライバーの単調な待機音が、大音量の西洋風の待機音にかき消された。

『ソーダ!』
『『カモン!』』

潤がロックシードを絞り、戦闘員達がロックシードを斬る。
全てのキャストパッドが展開し、ゲネシスドライバーのカップにエネルギーが溜まる。

潤「変身!」

彼だけが、その台詞を叫んだ。
大量のオリーブとアセロラはそのまま、半透明のオリーブは回転しながら彼らの頭に突き刺さる。

『オリーブエナジーアームズ』
『『アセロラアームズ』』
『『オリーブアームズ』』

それらが鎧へと展開する。
潤の変身音のみが、歌のように聞こえるものだった。

『『イエス!アイム エンジェル!』』
『『アイアムエンジェル!』』

潤「全ヘルメスに告ぐ。攻撃展開はパターンA、総力を持ってターゲット、A.N.G.00を破壊しろ。」

彼は隊員達に簡潔な指示を出す。
了解、という言葉が、何重にも重なって響く。
ヘルメス達は、チームを組んで散開した。


一人を除き、その場にいる全アーマードライダーの変身が完了した。
リョウマは気が進まないのか、戦極ドライバーに触れさえしない。
裕司も諦めたのか、特に何も言わない。
そのとき、タイミングを合わせたかのように、その報告が飛んだ。

研究員「稼働率98%! A.N.G.00、動きます!」

瞬間、液晶が100%を表示する。
A.N.G.00のカメラアイが白く光った。
彼女はゆっくりと首を振り、四肢を動かす。

二、三歩危なっかしく歩き、彼女は立ち止まった。
両手を広げ、天を仰ぐような体制をとる。
それはまるで、一つの名画のような光景だった。

A.N.G.00「!!」

彼女が、言葉ではない声を上げる。
天使の歌声を思わせる程に澄んだそれは、同時に桁違いの衝撃波を放った。
産まれたての赤ん坊が泣くように、彼女は叫び続ける。

裕司「!」
了「がっ!?」
胡桃「何これ!?」
秀「っ!」
才吾「…!」
水面「きゃっ!」
潤「何だ!?」
リョウマ「これは…!」

その場にいる全員が、咄嗟に耳を塞いで倒れた。
A.N.G.00の声が、鼓膜を突き破り脳漿を震わせる。
彼女は叫ぶのを止めると、腰部に引っ掛けられたロックシードを取り外した。

『アテモヤ』

それが解錠され、巨大な果実が彼女の頭上に現れる。
ロックシードを戦極ドライバーに施錠する。

『ロックオン』

戦極ドライバーから、ロック調の待機音が流れ出した。
プログラムされているのか、彼女は何も考える事なく、ロックシードを斬る。

『アテモヤアームズ』

彼女の頭に、巨大なアテモヤが突き刺さる。
それがゆっくりと変形した瞬間、鎧が結晶状に変化した。

『ジジジジジ…』

少し席を外します。

真珠色のスーツに、背中がクリアレッドの刺々しい鎧。
仮面には複眼が存在し、その上からバイザーが被せられていた。
胸にはキャノン砲を装備しており、鎧の一部は赤い結晶に包まれている。
武器は右手の大型剣、アルテモイヤと、左手の大型盾、エレメントガーターである。

仮面ライダーゼネオ アテモヤアームズ


『アテモヤ スパーキング』

変身直後、彼女は戦極ドライバーを操作した。
胸部のキャノン砲に、エネルギーが溜まり始める。
裕司が咄嗟に叫んだ。

裕司「伏せろ!」

その瞬間、A.N.G.00から強力なエネルギーが放射される。
全員が一斉に屈んだ。
しかしその中で、水面だけが何故か立っている。

秀「! 桃都!」

敬語を使うのも忘れ、秀は思わず叫んだ。
だが彼女は冷静にマンゴステッキを構えると、その先端をA.N.G.00に向ける。
そして戦極ドライバーを操作し、マンゴスチン形の宝石からエネルギーを放射した。

『マンゴスチン スパーキング』

二つのエネルギーがぶつかり合った。
しかし威力の差か、すぐに水面が押され始める。
それを見た裕司が、咄嗟にソニックアローを構えた。
狙いもろくに定めず、間髪入れずに衝撃波の矢を発射する。

A.N.G.00は即座に反応した。
彼女は地面を蹴って、高く飛び上がる。
そのまま空中に浮遊し続けた。

裕司「飛行も出来るのか…」

リョウマ「まぁね。」

そんな彼女に向かって、ヘルメスから一斉に矢が放たれる。
地下一階から三階までの四つの通路に待機していた彼らが、ここぞとばかりに攻撃に出た。
しかしその弾幕を、彼女はいとも簡単に避けていく。

リョウマ「彼女に普通のアームズは効かない。ソニックアローの出番だよ。」

裕司「つくづく面倒な物を…芦原!」

胡桃「…」

裕司が胡桃に叫んだ。
彼女は無言でソニックアローを構える。
ユグドラシルが誇るスナイパーは冷静に狙いを定め、正確に衝撃波の矢を放った。

放たれた矢が、見事A.N.G.00に命中する。
しかしその攻撃は、彼女に傷一つ残さなかった。
特任部四人の顔が、驚愕に染まる。

胡桃「嘘…」

リョウマ「おっと…これは予想外だな。」

そう言うと、リョウマはすぐに動いた。
デスクに座り、A.N.G.00が暴走する直前のデータを映し出す。
それを眺め、ふっと息を吐いた。

リョウマ「なるほど、ウイルスでリミッターが外れたんだ。」

それが納得した溜息なのか、それとも諦観か、はたまた歓喜なのかはわからない。
彼の発言を受け、裕司、胡桃、了、潤の四人は、即座にソニックアローを構えた。
だがその瞬間、A.N.G.00が高速で飛び立つ。

裕司「!」
了「!」
胡桃「!」
秀「!」
才吾「何!?」
水面「あらあら…」
潤「何をする気だ…」


A.N.G.00は流星のように、真っ直ぐ上へと飛び続けた。
そして三階の高さにある天井に辿り着く。
しかし彼女は勢いを殺さず、そのまま天井をぶち抜いて飛び続けた。
人一人が通れる程の穴が、三階から最上階まで作られていく。

了「嘘だろ…」

秀「やべぇ!」

秀はヴィンプワイヤーを引っ掛けると、素早く巻き取りながらA.N.G.00を追った。
空けられた天井の穴から、瓦礫が落ちてくる。
それを避けながら、彼女に続いて穴を通った。
A.N.G.00はユグドラシルタワーの屋上まで飛び続けると、そこへ綺麗に降り立つ。

秀「…お前、意思があるのか? それとも、本当に暴走しているだけなのか?」

A.N.G.00「…」

続いて秀も、その場に着地した。
彼は何となく話しかけたが、A.N.G.00は答えない。
彼女は秀に背を向けると、ユグドラシルタワーから何処かへと飛び去って行った。

秀「…」

彼はその後ろ姿を眺めると、再び穴の中に飛び込む。
そのまま地下二階まで一気に落ちると、何事もないかのように着地した。
変身を解除しつつ、裕司の元へ走る。

裕司「三木、A.N.G.00は?」

秀「すみません、逃がしました。」

裕司「そうか。」

裕司は彼を責めない。
ゲネシスドライバーの一件と同様に、彼に責任などないからだ。
今回の責任は、事前確認を怠ったリョウマと、警備担当であるヘルメスにある。

リョウマ「A.N.G.00は南西の方角に逃げたよね? 現在ゆっくりと飛行中。」

裕司「これから緊急対策会議を開く。特任部はデスクで待機、指示を待て。」

秀「はい。」
了「はい。」
胡桃「はい。」

裕司「リョウマは被害状況の確認をしておけ。」

リョウマ「了解。」
才吾「はい。」

裕司「ヘルメスは片付けだ。」

潤「…了解。」

裕司「桃都様は、一旦避難をお願いします。」

水面「分かりましたわ。」

裕司「よし、各自仕事にかかれ。」

裕司はその場に居る全員にテキパキと指示を出し、階段を上り始める。
エレベーターが途中で止まってしまう可能性も、ゼロではないからだ。
彼の姿が見えなくなると、緊張の糸が切れたように、全員が肩から力を抜いた。

胡桃「それじゃ、久しぶりに私達3バカの出番ね。」

胡桃の声は、楽しそうな色を含んでいる。
最近は個々での仕事が多かったため、三人で仕事をするのが嬉しいのだろう。
だがそんな中、秀は一人、難しい顔で黙っている。

胡桃「…秀?」

秀「…いや、なんでもない。」

秀は静かな声で答えた。
彼は頭を回しながら、今自分が置かれている状況を考えている。
そして一つの可能性が導き出されたとき、彼の表情が僅かに曇った。

- 幕間 その2 -


…12月22日、夕方から。

警報が鳴り響く中、彼女は一人、歩いていた。
研究員の格好をした彼女は、先程まで地下二階のホールにいた人物だ。
そこで今起きている騒動のきっかけを作った後、避難するように見せかけて、ある場所へ向かっていた。

彼女は目的の場所に辿り着くと、ポケットからカードキーを取り出す。
非常時対応でドアがロックされる前に、それを使って扉を開けた。
中へ入ると、真っ直ぐにリョウマのデスクへと向かう。

釣鐘型をした透明なケースが二つ。
並べて置いてあるその中には、それぞれ一つずつロックシードが入っていた。
彼女は微笑を浮かべると、緊急用にしまってあるバールを取り出す。
先程彼女が起こした騒動のお陰で、警報と共にロックが外れていた。

彼女はバールを振り上げると、ケースを力尽くで破壊しようとする。
しかしケースは硬く、彼女の力ではヒビすら入らない。
それを認めた彼女は、一度バールを置き、戦極ドライバーを装着した。

『プルーン』

ロックシードを解錠する。
彼女の頭上に、巨大な果実が現れる。

『ロックオン』

ロックシードを戦極ドライバーに施錠した。
和風の待機音と警報とが、混じり合って響き渡る。

『ソイヤッ』

???「変身。」

『プルーンアームズ』

ロックシードが斬られ、彼女の頭に巨大なプルーンが突き刺さる。
それが変形し、鎧へと展開した。

『暗躍!イン・ザ・レディ』


薄紫色のスーツに、装甲が薄い忍者風の鎧。
腕や太ももには鎖帷子纏われており、兜にはポニーテール状のアンテナが装備されている。
銀色のバイザーに銀色のマスク、そして女性を意識させる丸みを帯びたシルエット。
武器はプルーンを模した両手の小型ヨーヨー、プルーンワインダーである。

仮面ライダー妖花 プルーンアームズ


彼女はプルーンワインダーをケースにぶつけ、いとも簡単にそれを破壊した。
二つのロックシードを取り出し、再び扉の方へと戻る。
ドアがロックされる前に研究室の外へ飛び出すと、素知らぬ顔をしながら避難場所へと降りて行った。

- 第二章 : 3バカの感情 -


…12月22日、夕方から。

裕司「今回起きた問題は二つ。一つは知っての通り、A.N.G.00が暴走し、今尚逃走中だという事。」

デスクで待機していた秀達の元に、裕司が帰ってきた。
三人は姿勢を正し、身体を彼に向ける。
裕司はタブレット端末を見ながら続けた。

裕司「そしてもう一つは、リョウマのデスクにあったロックシードが盗まれた事だ。」

了「A.N.G.00が暴走してる間にですか。」

秀「てことは、同一犯って考えて良さそうですね。」

胡桃「…待ってください。盗まれたって事は…」

裕司「あぁ、その通りだ。今のリョウマには近づかない方が良い。」

その場を沈黙が支配する。
彼らの考えている事は「面倒」で一致していた。
気が立っているリョウマに下手な事を言えば、実験と称して殺されてしまうだろう。

了「担当は?」

秀「…」

裕司「私がA.N.G.00の回収を担当する。佐野と芦原はロックシードの強奪犯を追え。」

胡桃「…秀は?」

裕司は話を終えると、タブレット端末をしまう。
そんな彼に向かって、胡桃は聞いた。
今の話では、秀の担当が分からない。

裕司「…三木は待機だ。」

胡桃「え…」

秀「ま、そうなりますよね。」

胡桃「ちょっ…待ってください。どうして…」

裕司は少しだけ黙った後、その口を開いた。
胡桃が思わず聞き返す。
それに対して、秀は何でもないという風に答えた。

秀「だってゲネシス使えないじゃん。さっきの戦闘で分かったけど、戦極ドライバーじゃ対処出来ねぇんだろ?」

胡桃「だったら、強奪犯の方を追えば…」

裕司「それは出来ない。」

胡桃「どうして…」

裕司「リョウマの話だ。今回盗まれたロックシードは、未知の力を持ってる。それが分かるまでは、戦極ドライバーで挑むのは危険だと。」

胡桃「そんな…」

残念そうな、悲しそうな声が出る。
折角、いつもの三人で動けると思っていたのに。
が、絶対にそうはならないらしい。
裕司は指示を出し終わると、エレベーターの方へと歩いていった。

裕司「以上だ。他に質問がなければ、すぐに仕事にかかれ。」

秀「それじゃ、俺も帰るかな。」

胡桃「え…」

秀「いや、そもそも俺は今日休みなんだけど…」

胡桃「それは、そうだけど…」

本日はここまでにしたいと思います。
疑問、質問、提案等、いつでもお受けしております。

気になった点があれば、いつでもご指摘ください。
ですが、あまりキツい言葉は、出来るだけ遠慮していただきたいと思います。

乙でした
予想以上にプルーンが暗躍していて嬉しい限りです
まぁ後々の事を考えるとあれですが…
本編じゃもう出れない以上活躍してほしいです

乙です!
たまにはブチギレたリョウマくんを見てみたいのです!
もう、こう、圧倒的に相手に一欠片の希望も抱かせずに容赦ではなく加減をしない感じの一方的な暴力は正義なのです!
あと、いっぱいいるザコテキをキレーサッパリお掃除するのもイイ♪
あれです、カニは一回、殻から身を全部取り出してから食べると何か嬉しいのと一緒です!

>>50さん
あれ?
本編に登場しないなんて、>>1は言った覚えがないのですが?


>>51さん
リョウマはイライラすることはあっても、怒ることはないキャラクターですね。
君付けする歳でもないかと……


こんばんは。
本日も始めていきます。

秀「非番でも仕事には来るって。別に退職するわけじゃないだろ?」

胡桃「…」

胡桃は黙ってしまう。
秀はそんな彼女を見つめた後、背中を向けて歩き出した。
了が立ち上がり、彼に耳打ちする。

了「…秀、胡桃が何を言いたいのか…」

秀「分かってるって。けど、バカだからどんな風に返せばいいか分かんねぇんだよ。」

了「…」

胡桃「…残念ね。秀がいないなんて。」

了との会話を強制的に打ち切り、秀はエレベーターの中へと消えた。
胡桃が静かに呟く。
その声はか細く、気を抜けば聞き流してしまう程だった。

了「…自覚あるのか、あいつは…」

エレベーターを睨みながら、了は呟く。
頭は了よりも切れず、動体視力なども胡桃より下な秀だが、彼は確かに三人の中心なのだ。
その男が、いない。
たとえ仕事に支障が出なくても、彼が空ける穴は大きく、更に本人にその自覚はなかった。


秀「さて、どうするかね…」

秀は河原の近くを歩いていた。
夕日が川に反射し、針のように目を貫いてくる。
色々な事を呟きながら、彼はユグドラシルタワーとは反対方向へ進んでいた。

秀「この際、溜まりきった有休を一気に使っちまうのも手か。今回の件が解決するまでは、上も無茶な要求はしてこないだろうし。」

軽い口調で呟いているが、その表情は歪んでいる。
ぼんやりと空を見上げた。
瞬間、そこに先程の胡桃の表情が過った。

秀「!…くそっ。」

咄嗟に顔を下げ、道に目を向けてしまう。
ああいう表情が、彼は苦手だった。
ドライな人間というわけではなく、どうやって慰めたら良いのかが分からない。
特に自分が原因の場合は、尚更だ。

秀「仕事道具がなけりゃ、仕事が出来ないのは当然か…」

湧き上がってきた寂しさと歯痒さ、そして悔しさを無理矢理飲み下す。
このままラーメンでも食って帰ろうか…
そう考えた彼の耳に、甲高い叫び声が聞こえた。

秀「何だ、ひったくりか?」

ぐるりと音のした方を振り向く。
そこには、三体のインベスに追われる女子高生がいた。
彼女は必死な表情で、実際必死に逃げている。
背が低めの、可愛らしい顔立ちの娘だった。

秀「…」

秀は無言で戦極ドライバーを装着する。
次にポケットからロックシードを取り出し、解錠した。
頭上に、時空間の裂け目が現れる。

『パッションフルーツ』

秀「少しだけ、助けてやるか。」

『ロックオン』

ロックシードを戦極ドライバーに施錠する。
彼は思考と感情の坩堝から抜け出そうとするかの如く、すぐにロックシードを斬った。

『スタート』

秀「変身。」

『パッションフルーツアームズ』

巨大なパッションフルーツが、彼の頭に突き刺さる。
それが鎧に展開すると同時に、彼は少女に向かってヴィンプワイヤーを射出した。

『Whip of Reign』

ヴィンプワイヤーの先端が、少女の首元を掴む。
具体的には、ワイシャツの襟の辺りだ。
それを一気に巻き取る。
ただし、いきなりやると首の骨が外れてしまう可能性があるので、あくまでそっとだ。

少女「きゃっ!? きゃぁぁぁああああああ!!!」

後ろから思い切り引っ張られ、少女は叫ぶ。
そんな彼女を、秀はお姫様抱っこの要領で受け止めた。
それでも、パニック状態になった少女の悲鳴は止まらない。

少女「きゃぁぁぁぁああああああああ!!!!」

秀「うるせぇぇええええ!! ちょっと黙れ!」

少女「きゃぁああ!…え?」

秀「オーケー、それでいい。」

秀は少女を地面に下ろすと、こちらに走ってくるインベス達に向き直る。
そして両腕のヴィンプワイヤーを射出し、二体のインベスを捕縛した。
それを振り回し、インベス達を上空へ放り投げる。

秀「ほらよ。」

そして自由落下し始める二体のインベスに向かって、両腕のボムパッションを乱射した。
インベス達の落下速度に合わせ、正確に腕を下げながら撃ち続ける。
やがて二体のインベスは、地面に落ちる前に爆炎を上げた。

少女「すごい…」

少女は目を丸くし、放心しながら呟く。
そんな彼女をチラリと見ながら、秀は最後のインベスを二本のヴィンプワイヤーで捕縛した。
間髪入れずにボムパッションを撃ち込む。

インベスは悲鳴を上げる事も叶わず、そのまま爆発した。
秀は息を吐き、変身を解除する。
少女は放心しながら、うわ言のように呟いた。

少女「もしかして…アーマードライダー…ですか?」

秀「そうそう、それそれ。」

少女の呟きに、秀はどうでもいいと言うように首肯しながら歩き出す。
久しぶりのインベス退治は、中々楽しかった。
さて、今度こそラーメンでも食って帰ろう。

少女「あ、あの! 待ってください!」

秀「…何?」

しかしそう思った矢先、彼に声がかかった。
ちょっとだけ、面倒そうに振り向く。
少女はおどおどしながら、それでもはっきりとした口調で言った。

少女「その…良ければ、助けてもらったお礼を…」

秀「…」

さて、どうしようか。
秀としては、お礼目当てで助けたわけではない。
むしろ悪い言い方をすれば、自分が思考を止める為の道具にしたとも言える。
そう考えると、お礼をされるのは少し気が引けた。

秀「…」

黙って考える。
しばらくして、彼は結論を出した。
それは…

秀「…とりあえず、寒いからそこのスタバ入ろうぜ。」

少女「え?…あ、はい。」

秀の急な提案に、彼女は素っ頓狂な声をあげてしまう。
しかし考えてみれば、ここは真冬の河原なのだ。
それを思い出した瞬間、彼女を耐えられない程の寒さが襲う。

秀「じゃ、行こうか。」

少女「はい…」

急に震え出した少女を、秀は苦笑いで見つめた。
と言うか、自分も先程から寒さを我慢しているので、いい加減ここから離れたい。
二人は寒さに耐えながら、暖房の効いたカフェへと入って行った。


胡桃と了は、ロックビークルを走らせていた。
了はローズアタッカーを、胡桃はサクラハリケーンを。
ヘルメットの内側に装着されたスピーカーから、リョウマの声が聞こえてくる。

リョウマ『そのまま、次のT字路を左に曲がって。』

怒りを含んだ、低い声が流れてきた。
二人は言われた通り左に曲がり、知果実大学方面に進む。
秀が帰った後、二人はリョウマの元へ向かった。
正直なところ、今の彼には近づきたくないのだが、強奪事件に関しての詳細を知る為には仕方ない。

了「プロフェッサー。ロックシードが強奪された件に関しての情報を開示して頂きたいのですが。」

リョウマ「開示する必要はないよ。僕は指示だけ出す。」

了「…」

リョウマ「知らないかも知れないけどね、沢芽市外を含めて、この世界に存在するロックシードが何処にあるのかは、全て僕が監視している。」

胡桃「え…」

リョウマ「君達はロックビークルを使って、僕の言う通りに犯人を追ってくれればいい。」

話はそれで終わりだと言うように、彼はデスクに身体を向け直した。
声の調子から分かるが、今の彼は本当に怒っている。
ちなみに突如明かされた新事実に、胡桃は少し口を開けていた。

了「…了解しました。」

彼は答えると、胡桃と共に研究室を出て行こうとした。
そんな彼らの背中に、リョウマの低い声が届く。
その言葉を聞いた瞬間、背筋に冷たいものを感じた。

リョウマ「必ず殺してよね。」

そして今に至る。
二人は無言でロックビークルを走らせていた。
知果実大学の横を通り過ぎたとき、再びリョウマの声が聞こえてくる。

リョウマ『二人共、聞いて。そっちに南南東の方角から、A.N.G.00が高速で接近してる。』

了「!」
胡桃「!」

リョウマ『多分、彼女は君達を見逃してくれないだろうから、君達のどちらかが残って対処するんだ。』

了「何故、どちらかなんですか? 二人で対処した方が…」

リョウマ『今の君達が彼女に挑んだところで、勝てるわけがないだろう?』

了「…」

リョウマの言う「対処」とは、こういう意味だった。
つまりどちらかが犠牲となって、A.N.G.00の足止めしろという事だ。
了は頭の中で結論を出すと、胡桃に言った。

了「俺が対処する。胡桃は強奪犯を追うんだ。」

胡桃「…分かった。」

胡桃は頷く。
確かに彼女が変身するマリカと、了が変身するデュークでは、了の方がパワーは上だからだ。
彼の判断は、妥当すぎる程に妥当だった。

了はローズアタッカーを降りると、胡桃の背中を見送る。
それから近くの路地裏へと入った。
人通りの多い場所での戦闘は、絶対に避けなければならない。
彼は路地裏の少し開けた所まで走ると、そこでゲネシスドライバーを装着した。

『レモンエナジー』

ロックシードを解錠すると、テクノポップな解錠音が鳴り響く。
頭上に半透明の果実が現れたのを確認し、ロックシードをゲネシスドライバーに施錠する。

『ロックオン』

そして両脇のグリップを握り、右側のそれを押し込んだ。
キャストパッドが展開し、カップにエネルギーが溜まり始める。

『ソーダ!』

了「変身。」

『レモンエナジーアームズ』

エネルギーが一杯になる。
同時に、巨大なレモンが展開しながら、彼の頭に突き刺さった。
それはスクラッチ調の変身音と共に、鎧へと変形する。

了「さぁ、来い。」

彼は空を見上げながら、静かに呟いた。
了は確かにバカだ。
だから、下手をすれば死ぬかも知れないという状況下においても、彼は冷静さを失っていなかった。


潤「今回の仕事を発表する。特任部の佐野 了、及び芦原 胡桃両名のバックアップだ。」

ユグドラシルタワーの地下一階。
六人のヘルメスと二人のヘルメスレッドを前に、潤は声を張り上げた。
彼は腕を背中で組み、続ける。

潤「現在、彼らはロックシード強奪犯をロックビークルを使用し追跡している。我々もこれからホウセンカハリケーンに搭乗し、彼らと合流する。」

説明を終えると、彼は肩から力を抜いた。
ふっと息を吐く。
それから、形式上言う事になっている言葉を言った。

潤「質問はあるか?」

普段は聞いたところで、実際に質問される事は滅多にない。
しかし今回は、一人のヘルメスレッドがスッと手を挙げた。
彼は不思議に思いながら問い質す。

潤「何だ?」

するとそのヘルメスレッドは、ゆっくりと歩いて、潤の目の前に立った。
彼はそれを、訝しげな表情で見る。
そしてヘルメスレッドは、予想だにしない一言を放った。

???「お言葉ですが、隊長。今回指揮を執るのは、あなたではありません。」

潤「…何?」

彼は言葉の意味が分からず、思わず聞き返した。
そんな彼の前で、ヘルメスレッドは変身を解除する。
男とも女とも分からない、不思議な顔立ちの人物だった。

???「今回は、私が指揮を執らせて頂きます。」

潤「…お前は何を言っているんだ?」

女性ほど高くもなく、男性ほど低くもない声で彼(実際に男かは不明だが、便宜上この代名詞を使う)は話す。
潤はやはり意味が分からず、疑問符を浮かべて固まってしまった。
彼はヘルメスの戦極ドライバーを外すと、別の戦極ドライバーを装着する。

『ミラクルフルーツ』

また、別のロックシードを取り出し、解錠する。
赤いベリーが、彼の頭上に現れた。

『ロックオン』

彼は潤に微笑みながら、ロックシードを戦極ドライバーに施錠する。
戦極ドライバーから、ロック調の待機音が流れ始める。

???「変身。」

彼はゆっくりと戦極ドライバーに手を掛け、一息にロックシードを斬った。
キャストパッドが展開し、シードインジケーターが露わになる。

『ミラクルフルーツアームズ』

巨大な果実が、彼の頭に刺さる。
それはゆっくりと展開し、鎧へと変わった。

『エニグマ・ノイズ』


黒色のスーツに、昆虫を模した形の鎧。
赤いツインアイに加え、兜には第三の目が存在していた。
鎧には灰色と黒色の差し色が入り、腕部には虹色の装飾が見える。
そして何よりも特異なのが、特定の武器が装備されていない事だった。

仮面ライダーファウスト ミラクルフルーツアームズ


潤「お前は…」

突如目の前に現れた謎のアーマードライダーに、潤は放心しながら問う。
戸惑いながらも、無理に強い口調を作って言った。
彼は仮面の下で笑みを浮かべながら、例の不思議な声色で答える。

???「申し遅れました。私、木陰(こかげ)という者です。以後お見知り置きを。」

潤「お前が指揮を執るなど、私は一言も聞いていない。」

木陰「えぇ、たった今決めましたから。」

潤「…お前の自己判断が、本気で通ると思っているのか?」

木陰「ご安心ください。上層部の方に『木陰が判断した』とお伝え頂ければ、必ず納得してもらえるでしょう。」

彼は潤からヘルメス達に身体を向け直すと、右手をかざす。
すると右腕の装飾が緑色に光り、掌から同色の波動を放出した。
ヘルメス達は、反射的に防御体制をとる。

ヘルメス「!」

しかし波動を防ぐ事は出来なかった。
緑色のそれがヘルメス達に当たると、彼らは一瞬苦しそうに身体を抱え込む。
だがすぐに、先程と同じ直立姿勢に戻った。

木陰「それでは皆さん、参りましょうか。」

彼は階段を上り始める。
それに続いて、ヘルメス達も一列に続いた。
そして全員が、潤の前から姿を消す。
彼はそれを、呆然と眺めている事しか出来なかった。


了「…来た。」

大気が切り裂かれる微かな音を聞き、彼は呟いた。
ロックシードをゲネシスドライバーから取り外し、ソニックアローに施錠する。
レモンイエローのエネルギーが、ソニックアローにチャージされた。

『ロックオン』

彼は上空にソニックアローを向けると、弓を引いて待つ。
瞬間、真珠色の光りが高速で通り抜けた。
彼はそれを、寸分違わず正確に撃ち抜く。

『レモンエナジー』

通常の矢では、A.N.G.00にダメージは与えられない。
だからこそ彼は、この一撃に賭けたのだ。
思惑通り、強力な矢がA.N.G.00を撃ち落とす。
彼女は体制を立て直せず、了の目の前に墜落した。

A.N.G.00「!!」

天使の歌声のような響きで、赤ん坊のような叫び声を上げる。
了は一瞬怯んだが、即座にソニックアローを構えて射撃した。
しかしA.N.G.00は、それをいとも簡単にエレメントガーターで弾く。
そしてアルテモイヤを振り上げると、人間では為し得ないスピードで跳んだ。

了は瞬時にソニックアローを両手に持ち替え、それを受ける。
強大な衝撃が、彼の手首にダメージを与えた。
普通の人間なら一瞬でグチャグチャ、通常のアーマードライダーでも手首が綺麗に折れ、血管が千切れただろう。
しかしリョウマが開発した新世代アーマードライダーである彼は、何とか耐え切る事に成功していた。

了「がっ!」

だがアルテモイヤを受けた瞬間、別の衝撃が彼の腹部を襲う。
A.N.G.00の膝蹴りが、桁外れの威力で彼を吹き飛ばした。
了は後ろに飛んで倒れる。
それとほぼ同時に追いついたA.N.G.00が、彼の首根っこを掴んだ。

了「ぐっ…!」

彼女は素早くグルリと回ると、その勢いに任せて了を放り投げる。
彼の身体は、塀にぶつかって地面に落ちた。
衝撃で崩れた塀の破片が、倒れている彼に降る。
一瞬、意識が飛びそうになった。

それでも、A.N.G.00の攻撃は終わらない。
彼女は動けない了の顔を掴むと、無理矢理引っ張り上げる。
その状態で、腹部に三発、強力なパンチを叩き込んだ。
そして先程と同じように、彼を放り投げる。

了「…」

彼はもう限界だった。
声を上げる事が出来ず、受身を取る事も出来ない。
そんな息も絶え絶えな彼の前で、A.N.G.00は戦極ドライバーを操作した。

『アテモヤ スカッシュ』

アルテモイヤを構え、一足飛びに了へ近づく。
一瞬でその眼前に立った彼女は、彼の胸倉を掴み上げ、左下から右上へ、アルテモイヤで一気に斬り裂いた。
ゲネシスドライバーが破壊され、変身が強制解除される。

了「!!」

了の意識はそのまま、暗闇の底へと消えていった。
傷だらけで血を流し続ける彼の身体は、既にピクリとも動かない。
A.N.G.00はそれをカメラアイで確認し、判断を下す。

『ダメージレベルサンシュツ』

『ゲンダイイガクデノソウキュウナキズノチリョウハフカノウ』

『ゲンダイイガクデノソウキュウナタイリョクノカイフクハフカノウ』

『ケツロン』

『テヲクワエズトモカクジツニシボウ』

『ツイゲキノヒツヨウセイハカイム』

解析が終わると、彼女は武器を仕舞った。
天を見上げ、綺麗なフォルムで垂直跳びを行う。
そのまま空中に浮遊すると、北東の方角へと飛んでいった。

ヘルズガーデン。
名称から推測出来るように、ここはユグドラシルが作った高級マンションである。
ユグドラシルタワーには及ばないが、沢芽市内でも屈指の高さを誇る建物だ。
もちろんユグドラシルの社員も住んでいるが、実は住居人の多くが、ユグドラシルとは全く関係のない一般人である。

その一階のインターホンの前に、裕司は立っていた。
部屋番号を確認し、インターホンを押す。
そしてカメラに顔を向けて待っていると、落ち着いた男性の声が流れてきた。

???「どちら様かと思えば、二月じゃないか。急にどうした?」

裕司「折り入った頼みがあって来た。開けてくれ。」

???「断っても、どうせキーで開けるんだろ?」

ユグドラシルの重役は、ここのマスターキーを所持している。
と言うよりも、沢芽市内でユグドラシルが直轄している建物や商店の鍵は、全て重役達が持つカードキーで開くようになっているのだ。
インターホン越しの会話が止むと同時に、その先にある自動ドアが開く。

裕司がそこを通ると、すぐにドアは閉まり始めた。
防犯上のためか、ここのドアは基本的に、一つの団体が通ると閉まるようになっている。
つまり、少し離れて歩いていると、後ろの人間は入れないのだ。

広いロビーを歩き続ける。
彼はおしゃれな装飾などには目もくれず、一直線にエレベーターへと向かっていた。
やがて、周りの外観に溶け込んでいるエレベーターに辿り着く。
彼はそれに乗り込むと、目的の階数が記されたボタンを押した。

エレベーターを降りて少し歩くと、目的の部屋が見えてくる。
筆記体でNaruko Majiriyaと書かれた銀色のプレートを確認すると、裕司は再びインターホンを押した。
待っていたのか、間髪入れずにドアが開く。

???「待ってたぜ。ま、上がれよ。」

裕司「失礼する。」

顔を出したのは、目的の人物、交野 鳴子(まじりや なるこ)だ。
鳴子は、裕司をリビングへと案内する。
ダイニングキッチンと繋がっているその部屋は整理されていて、小さなアンティークが数個飾られていた。

鳴子「ちょっと待ってろ。」

彼はそう言うと、キッチンの方へ向かう。
冷蔵庫から、綺麗にくり抜かれたパイナップルの容器を取り出した。
続いてオレンジやマンゴーなどを取り出し、皮を剥いて綺麗にカットしていく。
それをパイナップルの容器に入れ、即席のフルーツバスケットをこしらえた。

次にキッチンの隣へ移動する。
そこは小さなバーカウンターになっていた。
様々な種類の果実酒やジュースが飾られており、そこだけが他とは違う雰囲気を醸し出している。
彼はそこでプッシー・キャットを作ると、フルーツバスケットと合わせて裕司の元へと運んだ。

鳴子「はい、どうぞっと。」

裕司「職務中に酒を呑むと思うか?」

鳴子「その辺はちゃんと考えてるさ。そいつはミックスジュースみたいなもんだ。」

彼は裕司の向かいに腰掛ける。
そして小馬鹿にしたように言った。
プッシー・キャットを一口煽る。

鳴子「で、何の用だ?」

裕司「先ずは、先程何があったのかを説明しよう。」

裕司はユグドラシルタワーで起きた事を、大まかに説明した。
鳴子は全てを聞き終わると、再びプッシー・キャットを飲む。
それから大仰に溜息を吐いた。

鳴子「…面倒な事になったもんだな。」

裕司「もう分かっていると思うが、お前の手を借りたい。その事で今日はここに来た。」

鳴子「別にいいが、報酬は?」

裕司「最低でもお前の退職金と同じ額は出す、と言っていた。」

鳴子「退職金か…いくらだったかな?」

少し席を外します。

男の娘キタコレーーー!
ミラクルフルーツ
な、なんてファンタジーな・・・
これってたしかこれを食べた後に酸っぱい物を食べると甘く感じるやつでしたっけ?

郡山……ヘルメスが乗っ取られるなんて……
彼から貴虎兄さんと似た哀愁を感じる……

裕司「俺が知るか。」

鳴子「ま、いくらでもいい。協力してやるよ。」

裕司「助かる。」

話を終えると、裕司はすぐに立ち上がった。
彼は振り向きもせずに部屋を出ていこうとする。
その背中を見ながら、鳴子は言った。

鳴子「おい、食ってけよ。」

裕司「生憎だが、晩飯も果物も要らん。」

裕司は背中越しに断ると、玄関を開けて去って行く。
こんなに美味いのに、何が気に入らないんだろうな。
鳴子はそう呟きながら、リンゴを口の中へ放り込んだ。


リョウマ『止まって。』

リョウマの鋭い声に従い、胡桃はサクラハリケーンを止めた。
了と別れた後、彼女はリョウマの指示の下、ターゲットを追い続けている。
通信機から、冷たい声が流れた。

リョウマ『反応がそこから動かない。こちらに気づいて、迎撃する気かもね。』

胡桃「どうしますか?」

リョウマ『そんなの、決まってるでしょ。』

胡桃「…」

リョウマ『殺せ。』

胡桃「了解。」

リョウマの返答は、胡桃の予想通りだった。
彼女はサクラハリケーンから降りると、ゲネシスドライバーを装着する。
ロックシードを構え、解錠した。

『ピーチエナジー』

アラビア風の解錠音と共に、時空間の裂け目が開く。
その中から、半透明の果実が現れる。

『ロックオン』

ロックシードをゲネシスドライバーに施錠すると、すぐに右側のグリップを押し込んだ。
カップにエネルギーが溜まり、キャストパッドが展開する。

『ソーダ!』

胡桃「変身。」

『ピーチエナジーアームズ』

巨大なピーチが、回転しながら彼女の頭に突き刺さる。
そして魅惑的な変身音と共に、鎧へと変形した。

辺りを見渡す。
すると近くの路地から、一人のアーマードライダーが出て来た。
胡桃は彼女に向かって言う。

胡桃「盗んだ錠前、返してくれたら、少しは手加減するけど?」

妖花「それは嬉しいけど、無理な話ね。」

胡桃「そ。じゃ、大人しく…」

胡桃が腰を低く落とした。
瞬間、飛び出す。
彼女は妖花の眼前まで迫ると、ソニックアローを振り上げた。

胡桃「死んで。」

妖花「がっ!」

妖花の身体が、人形のように吹き飛ぶ。
が、彼女は転がって体制を立て直すと、素早く戦極ドライバーを操作した。
両手のプルーンワインダーが、高速回転し始める。

『プルーン スカッシュ』

妖花「スパイラルループ!」

彼女は叫ぶと、胡桃に向かってそれらを放った。
だが、胡桃はそれのワイヤーを、いとも簡単にソニックアローで切り裂く。
彼女はプルーンワインダーの残骸を、首を傾げて避けた。

更に左手でソニックアローを構えると、即座に衝撃波の矢を放つ。
妖花は再び吹き飛んだ。
胡桃がロックシードをソニックアローに施錠しようとする。
だが、そのときだった。

胡桃「!」
妖花「…?」

八台のバイクが、こちらに向かって走ってきた。
遠目の胡桃にも分かる、ホウセンカハリケーンに乗ったヘルメスの部隊だ。
ただ、ある一点を除いて。

胡桃「あいつは…?」

ヘルメス達の先頭を走っているのは、潤ではなかった。
見たこともないアーマードライダーが、六人のヘルメスと一人のヘルメスレッドを従えて走ってくる。
それは胡桃と妖花の前で止まると、一斉にホウセンカハリケーンを錠前の状態に戻した。

木陰「助けに参りましたよ、芦原 胡桃さん。」

男なのか女なのか、はっきりしない声で言われる。
瞬間、胡桃の身体に寒気が走った。
生理的な不快感を抱きながらも、彼女は木陰に返す。

胡桃「必要ありません。見ての通り、この一撃で終わりますから。」

木陰「必要か、必要でないか、そういう問題ではないのです。」

胡桃「…?」

木陰「私にとって、今しかないのですよ。」

胡桃「…は?」

しかし、木陰は不気味な声で胡桃の発言を流した。
彼の言った言葉の意味が分からず、胡桃は思わず聞き返す。
が、木陰にも、その意味を伝える気などない。

リョウマ『木陰…』

胡桃「木陰…?」

通信先のリョウマが低い声で言う。
胡桃はなんとか聞き取れたが、それが名前なのか、はたまた別の何かなのか、彼女には分からなかった。
そのとき、妖花が小さく呟く。

妖花「これは…少しまずいかも。」

そして別のロックシードを取り出した。
同時に、胡桃の通信機から、小さな舌打ちが聞こえる。
それは、妖花がリョウマの研究室から持ち出した内の一つだった。

『ハクトウ』

彼女がそれを解錠すると、空中に時空間の裂け目が現れる。
その中から、巨大なハクトウが下りて来た。

リョウマ『ほう…』

リョウマが小さく呟く。
それの同時に、胡桃は警戒した。
ターゲットが研究中のロックシードを使用しているにも拘らず、リョウマはそれに興味を持っている。
つまりこのロックシードには、他のそれにはなく、更に彼の興味を引く「何か」があるはずだと。

『ロックオン』

妖花がロックシードを戦極ドライバーに施錠する。
中華風の待機音が、辺りに響いた。

胡桃「…」

彼女は妖花を、そして巨大な果実を観察する。
リョウマが興味を持つ「何か」。
それが何かは、まだ分からない。
それでも、それが自分にとって障害になるであろう事は、容易に予想出来た。

『ハイー!』

妖花がロックシードを斬る。
斬り開かれた部分に、ハクトウの断面と、固有の武器が描かれていた。

妖花「…」

彼女は仮面の下で笑う。
この鎧が、自分にどんな力を授けるかは分からない。
が、少なくとも、今のこの状況は変化するだろう。
自分にとって、良い変化かは別として。

『ハクトウアームズ』

異世界の果実が、妖花の頭に突き刺さる。
それは光を放ちながら、鎧へと変形した。

木陰「そう、今しかないのですよ…」

木陰が、仮面の下で歪んだ笑顔を浮かべる。
このロックシードの効果は、内通者に調べさせた。
そして結論を出したのだ。
自分の野望を達成するときは、このロックシードが使われる瞬間しかないと。

『鉄扇! ハイヤァ、ハァァァァ!!』


薄桃色をしたチャイナドレスのようなスーツに、金色が入った白い鎧。
兜には白いポニーテール状のアンテナが装備され、仮面は胡桃のものと同型だ。
シルエットはプルーン鎧と同様であり、腰のスカートが長い。
白いパルプアイを持つ彼女の武器は、二枚の大型鉄扇、ハクトウ鉄扇である。

仮面ライダー妖花 ハクトウアームズ


妖花はハクトウ鉄扇を構えると、それを大きく振った。
強力な突風が巻き起こり、周りの物を破壊する。
それにより、ヘルメスの一部が吹き飛ばされた。
が、胡桃と木陰は微動だにしない。

木陰「違う…それじゃない。」

彼が右手を伸ばすと、右腕の装飾が赤色に光り、掌から同色の波動を放つ。
その一撃で、妖花を後方へ勢い良く吹き飛ばした。
彼女は苦痛に顔を歪めるが、すぐに立ち上がる。
そして戦極ドライバーを操作した。

『ハクトウ オーレ』

ハクトウ鉄扇に、桃色のエネルギーが纏われる。
彼女はそれを構えると、優雅に踊り始めた。
同時に、ハクトウ鉄扇から桃色の濃霧が噴出される。
それを受けたヘルメス達は、急に苦しみ始め、地に膝を着いた。

胡桃「何…?」

この中で、唯一の新世代アーマードライダーである彼女には、妖花の攻撃が効いていない。
そしてどういう理由か、木陰にも効いていなかった。
しかし木陰は、仮面の下で笑みを浮かべる。

木陰「待ってましたよ…ダンシングチャーム…!」

そして小さく呟くと、周りのヘルメスに合わせて苦しみ始めた。
胸を押さえ、その場に倒れる。
しかしそれは、ヘルメス達のそれに比べて、とても大げさだった。

>>61さん
男の娘…とはまた違うのではないでしょうか?
ミラクルフルーツに関しては、実は>>1もあまり詳しくないんです…


>>62さん
まぁ、言っても一部ですし、ね。


本日はここまでにしたいと思います。
疑問、質問、提案等、いつでもお受けしております。

気になった点があれば、いつでもご指摘ください。
ですが、あまりキツい言葉は、出来るだけ遠慮していただきたいと思います。

乙でした
さーて、ここからどう転がっていくかな…
数多の人物の思惑が交差しますね本当に

乙乙!
木陰クンに期待です!

>>67さん
この後の展開をネタバレしますと、ルナくんがゲネシスドライバーを拾います。


>>68さん
木陰さん…果たしてどうでしょうね…


こんばんは。
本日も始めていきます。

妖花の舞が終わる。
同時に、苦しんでいたヘルメス達も、糸が切れたように倒れた。
そして少しの間を置いて立ち上がる。
キリキリとした動きではなく、まるでゾンビ映画のそれだった。

胡桃「…」

胡桃は無言で身構える。
何が起きているのかは分からないが、少なくとも自分にとって悪い事であるのは確かだ。
ヘルメス達は、フラフラと動く。
ゆっくりとアローリーブを構えると、胡桃に向かって一斉に矢を放った。

胡桃「!」

彼女は咄嗟に転がりながら、ソニックアローを構える。
全ての矢を避けきると、即座に衝撃波の矢を放った。
ろくに狙いを定めずに放たれた矢は、それでもヘルメスの一人に命中する。

彼女の狙撃手としての腕は、それ程までに確かなものだった。
矢を受けたヘルメスは吹き飛び、強制的に変身が解除される。
そのままピクリとも動かないそれを横目に見ながら、彼女は再び矢を放った。

それはまたもや、別のヘルメスに命中し、変身を解除させる。
彼女は更に攻撃を続けようと、ソニックアローを構えた。
だがその瞬間、突如強力な波動を受け、胡桃は大きく吹き飛んだ。

胡桃「っ…!」

激しい苦痛が、彼女の身体を痺れさせる。
それでも何とか顔を上げると、そこには、右手をこちらに翳した木陰の姿があった。
その掌は紫色に光り、右腕の装飾も同じ色に変わっている。

倒れている彼女に向かって、一つの影が飛び出した。
ヘルメスレッドは、アセローラーを構えて走り出す。
胡桃は何とか動こうとするが、身体が痺れて動けない。
彼女が反射的に目を瞑った、そのときだった。

『ジャックフルーツ スカッシュ』

強力な衝撃を受け、ヘルメスレッドの身体が弾き返される。
胡桃が目を開けると、一本のメイス、キャッスルクラッシュが、彼の頭部に直撃していた。
後ろから、変身した才吾がもう一本のキャッスルクラッシュを構えて走って来る。
まるでハンマー投げの選手のようにキャッスルクラッシュを振り回しながら、彼はそれをヘルメスレッドの腹部に炸裂させた。

ヘルメスレッドは吹き飛び、変身が強制解除される。
中から出て来たのは、才吾の攻撃で人としての形を失った、ぐちゃぐちゃの肉塊だった。
才吾は振り回していた方のキャッスルクラッシュを左手に持ち替えると、空中から落ちて来たもう一本のキャッスルクラッシュを右手で掴む。
それらを大きく構えると、木陰と妖花を睨んだ。

妖花「…これ以上援軍が来るのも嫌だし、今回は一先ず帰りましょうか。」

妖花はそう言うと、ふぅと溜息をつく。
同時に、懐から一つの錠前を取り出して解錠した。
それが瞬時にサクラハリケーンへ変わると、それに搭乗し走り出す。
生き残った四人のヘルメスもホウセンカハリケーンを変形させ、彼女の後を追って走り出した。

木陰は、胡桃と才吾右手をに伸ばす。
右腕の装飾が橙色に光り、右掌から同色の波動を放出した。
瞬間、胡桃達が見ている空間が歪む。

胡桃「!」
才吾「…」

二人は目を閉じ、防御姿勢を取った。
が、攻撃は来ない。
目を開けると、目の前の景色は元通りになっていた。
ただ一点、木陰が消えている事を除いて。

胡桃は無言で変身を解除した。
才吾もキャッスルクラッシュを投げ捨て、変身を解除する。
胡桃は才吾の方を向き、頭を下げた。

胡桃「ありがとう、助かったわ。」

才吾「プロフェッサーの指示だ。礼はいい。」

胡桃「あいつ、何なの?」

才吾「俺も詳しくは知らない。が、プロフェッサーは『木陰』と呼んでいた。」

胡桃「木陰…」

胡桃はその単語を、歯で噛むように呟く。
やはりリョウマが呟いた「木陰」とは、名前だったらしい。
そのとき突然、通信先のリョウマが笑い始めた。

リョウマ『ははっ…ははははは…』

胡桃は訝しげな顔で才吾を見るが、彼も分からないと言うように肩を竦める。
その間にも、不気味な笑い声は段々と大きくなっていった。
リョウマの狂ったような笑い声が、通信機から流れ続ける。
胡桃と才吾に、その意味など分かるはずもなかった。


リョウマ「あはははは!! あっはははははははっ!!!」

リョウマは通信機を外して、笑い続けていた。
その笑い声の中に含まれているのは、憎悪ただ一つ。
ひとしきり笑い終えると、彼は虚空に向けて叫んだ。

リョウマ「面白いじゃないか、木陰! 君は本当に僕の神経を逆撫でする奴だよっ!!」

勢い良く立ち上がる。
椅子が倒れたが、そんなものは気にも留めない。
彼はドンッと、自らのデスクを叩いた。

リョウマ「けど、今回ばかりは我慢出来ないね!!…それ相応の対応をさせてもらうよ。」

冷たい声で呟く。
その目は赤く、狂気に溢れていた。
彼が何を考えているのか、それは誰にも分からない。
リョウマは再び、不気味に笑い始めた。


秀「で、名前は?」

少女「へ?」

秀の突然の発言に、少女は素っ頓狂な声を上げてしまう。
彼の提案に素直に従い、少女は二人でカフェへと入った。
秀は抹茶フラペチーノを、少女はココアをオーダーし、適当な席に着く。
平日の夕方でも、カフェの中はそれなりに混み合っていた。

それから、しばらく無言の時間が続く。
秀は時々「甘っ…」と呟きながらフラペチーノを飲んでいたが、少女はその沈黙に耐え切れず、何か話しかけようとしていた。
しかし何と切り出せば良いのか分からず、独りで無駄に焦って、少しだけ挙動不審になってしまう。
そんな中、急に秀は彼女の名前を聞いたのだ。

秀「いや、名前分かんないと、何て呼べばいいのか分かんないし。」

少女「あっ、そ、そうですよね!」

少女は少し焦った感じで答える。
秀としては、もちろん彼女の名前を聞きたいのもあった。
が、それ以前に、何か話そうと必死になっている彼女を痛々しく感じたというのもあった。

少女「えっと…私は、月斬 宝(つきぎり たから)って言います。」

秀「月斬…斬月(ざんげつ)か!」

宝「へ?」

秀「ごめん、何でもない。」

特任部の上司の顔が浮かんでしまい、思わず叫んでしまう秀。
宝に訝しげな目で見られ、咳払いを一つした。
少しわたつきながら、彼は宝に名乗る。

秀「俺は三木 秀。ユグドラシルでリーマンやってる。」

そう言って、いつもの癖で名刺を差し出してしまった。
一瞬、やばいと思った秀だったが、宝が名刺を良く見ずに受け取ってくれたお陰で事なきを得る。
これで「特任部ってどんな仕事をしてるんですか?」なんて聞かれようものなら、なんて答えれば良いか分からない。
了や胡桃なら上手く誤魔化せるだろうが、バカな秀が下手に誤魔化せば、何処かでボロが出るのは目に見えていた。

宝「あ、私は…」

秀「天学生でしょ? 制服見れば分かる。」

宝「は、はい。そうです。すごいですね…」

宝は感心したような目で秀を見る。
今時珍しく素直な子だ、と彼は思った。
その学校の生徒でもない人物が、制服を見るだけでどの学校か当てられるなど、少しおかしいと考えるのが普通だ。
相手が宝でなければ、秀は通報されていたかも知れない。

「天学」とは「私立天河学園高等学校」の略である。
聖夜 ルナが通う「私立彗海学校高等部」や、聖夜 留奈が学籍を置いていた「私立天樹高等学校」と並び、沢芽市でも有名な私立高校の一つだ。
秀は仕事柄、沢芽市の中学、高校の制服は大体記憶している。
そのためすぐに、宝が天学生だと分かったのだ。

秀「それとは別に、どっかで聞いたことあるんだよなー、君の名前。」

宝「多分、うちのお店だと思います。」

秀「店? ラーメン屋か何か?」

宝「いえ、刃物店です。『月斬刃物店』って名前で…」

秀「…あぁっ! 思い出した。」

彼は合点がいったように手を叩く。
ユグドラシルに入って間もない頃、彼は仕事で沢芽市中を歩き回った事があった。
そのときに、宝の刃物店の前を通ったのだ。

秀「そうだ、あのときも『斬月だ…』って思ったんだ…」

宝「はぁ。えっと、斬月って…」

秀「何でもないよ。気にしないで。」

宝「…はい。あの、それで…」

秀「?」

宝「お礼の話なんですけど…」

秀「…ん?」

宝「だから、助けていただいたので…」

秀「…あぁ!」

宝「忘れてたんですか…」

宝は小さく溜息をつくと、ココアを一口飲む。
秀も釣られて、フラペチーノを飲み…

秀「甘っ!」

最初に口をつけたときと、全く同じ反応をした。

宝「…そう言えば、気になってたんですけど…」

秀「ん?」

宝「私も前に飲んだ事があるんですけど、それって、そんなに甘くないはずですよ?」

秀「…多分ね、俺がいつも濃い目のブラックコーヒーとか飲んでて、そっちに慣れてるからだと思う。」

宝「…あの、なんでそれ頼んだんですか?」

秀「え? いや、写真見たら美味しそうだったから。」

宝「…」

宝から、秀に対する敬意が段々と失われていく。
別に写真を見ただけで決めてしまうのが悪いというわけではない。
が、最初に一気に飲んで「甘い」と顔を顰めたにも拘らず、彼は五分も経たないうちに同じ失敗を繰り返したのだ。
宝の頭の中に「もしかしたら、この人はバカなんじゃないだろうか?」という考えが浮かんでいた。

秀「しかし、お礼って言われてもね…」

秀からすれば、そんなものは別に要らない。
でも宝の性格を考えると、有難く受け取っておいた方が手っ取り早いかも知れなかった。
目の前の彼女は、律儀で素直だ。
こういう事をきっちりしないと、気が済まないのだろう。

さて、どうしたものか。
何か丁度良い解決策はないだろうかと考え、ふと窓の外に目を向ける。
すると、あるものが目に留まった。
それは宝と同じ制服に身を包んだ、二人の女子と一人の男子の集団だった。

秀「お、天学生。」

宝「え? あっ…」

秀が思わず呟くと、それに反応するように、宝も外を見る。
そのときに漏れた小さな声を、秀は聞き逃さなかった。
友達なのだろうか、と思いチラリと宝を見る。
そのときの彼女の目は、嬉しそうな輝きと、少しの憂いを帯びていた。

ほう、と心の中でニヤリと笑う。
そしてもう一度、窓の外を歩く男子を観察した。
十代後半にしては幼い顔立ちの彼は、控え目に見ても十分イケメンと言えるだろう。

秀は彼と宝を見て、少し笑う。
と同時に、心の何処かで、何かに突っかかりを覚えた。
外を歩く彼の顔を見ると、自分の中にいる誰かが、何かを訴えてくる。
まるで、自分が彼を知っていると言うように。

そして、彼がそこにいるのは、絶対におかしいと言うように。

彼の集団は歩き続け、窓から見える範囲からフェードアウトしてしまう。
秀は少し首を捻って、心に引っかかっている何かを打ち消した。
それから顔を宝に向け直すと、ニヤつきながらからかう。

秀「随分と初々しいことで。」

宝「ち、違いますよ!」

秀「え? 彼氏じゃないの?」

宝「全然違います! まだそんなのじゃ…」

秀「でも、好きなんだ。」

宝「い、いえ…その…」

秀「即否定しない時点で、好きって言ってるのと同じだよ。」

宝「…うぅ…」

秀「いいなー。俺も学生時代に戻りたいなー。」

宝「三木さんだって、まだ若いじゃないですか。」

秀「若いから大丈夫、じゃないんだよ。学生に戻りたいんだよ。好きな女の子と隣の席になったり、一緒に弁当食ったり、放課後駄弁りながら帰ったりしたいんだよ。」

宝「はぁ。やっぱり社会人になると、そういう出会いって少ないんですか?」

秀「いや、そんなことはないよ。」

宝「え? じゃあ、どうして…」

秀「学生時代に出会いがあった奴は、社会人になってもある。ただ、それだけ。」

宝「な、なるほど…」

秀には、今にも学生時代にも出会いがないのだろうか。
その真実は、宝には分からなかった。
確かに同年代に彼のような人間がいたら、迷わずに「関わらない」を選ぶ自信があるが。

秀「で、さっきのあいつが好きなんだ。」

宝「やっぱり、その話に戻るんですか…」

宝は諦めたように溜息をつく。
さっき会ったばかりの人と、こんなデリケートな話をするのは、はっきり言って異常だ。
だが何故か、秀と宝の間には、既に年代を超えた友情のようなものが出来上がっていた。
それはきっと、秀の持つ「バカな空気」が、良い方向へと働いた証拠だろう。

秀「ほら、もうすぐクリスマスじゃん。デートに誘ったりしてないの?」

宝「…そんな事、出来ませんよ。」

秀「なんで? 勇気が出ない?」

宝「と言うより、津村(つむら)君は転校生で、まだ知り合って日が浅いので…」

津村っていうのか、と秀は心の中で呟く。
しかし彼の名前を聞いても、さっきのような違和感は訪れなかった。
やはり何でもなかったのか、と秀は結論を出す。
もやもやとした疑問を飲み込もうと、彼はフラペチーノを勢い良く飲んだ。

秀「甘っ!」

宝「…大丈夫ですか?」

秀「…それ、もしかして俺の頭の事言ってる?」

宝「そ、そんな事ないですよ?」

図星を突かれ、慌てて秀から目を逸らす。
そんな宝に、秀はジトっとした目を向けた。
が、すぐに直すと、秀は話を続ける。

秀「別に好きなら、知り合った時間とか関係ないと思うけどね。そんな事を言い出したら、一目惚れとかどうなっちゃうよ?」

宝「それに…理由はそれだけじゃないんです…」

秀「何? 友達と三角関係?」

宝「ど、どうして分かったんですか!?」

秀「え、マジ!?」

宝「…」

秀「…」

秀としては冗談のつもりだったが、どうやら本当にそうだったらしい。
これはまずいな、と彼は心の中で呟く。
だがここまで踏み込んでしまったからには、もう止まれない。
主に自分の好奇心が。

秀「えっと…月斬ちゃんの友達が、その津村って奴の彼女って事?」

宝「…流石にそれ以上は…」

秀「いいじゃん。助けてあげたお礼って事で、ね?」

宝「それ、ずるくありませんか?」

秀「汚れ仕事も平気でこなせるようになってからが、一人前の大人ってやつだよ。」

宝「…何言ってるんですか?」

秀「ユグドラシルに就職すれば分かるさ。」

宝「…あの、もしかして、深く聞かない方が良い事ですか?」

秀「そうだね。学生には、まだ早い。」

宝は一瞬、巨大企業の裏側を聞いてしまったような気がした。
しかし、なんとなく怖いので忘れる事にする。
知らなくていい事も、世の中にはあるはずだ。

秀「それで、友達の彼氏なんだっけ?」

宝「…」

宝は少しだけ躊躇ったが、再び諦めたように溜息をつく。
本当なら絶対に話さないが、話さないと彼は聞かないだろう。
それに秀になら、話しても大丈夫な気がする。
彼女は無意識に、そう考えていた。

宝「…違います。私と京(みやこ)ちゃん…その友達の名前なんですけど、京ちゃんとは、小学校のときからの親友なんです。」

秀「小、中、高と一緒って事?」

宝「はい。それで、京ちゃんも津村君の事が好きみたいで…私も、京ちゃんの事を応援してたんですけど…」

秀「いつの間にか、自分も好きになってたと。」

宝「はい…」

秀「なるほどね…」

秀は短く息を吐く。
本当は関係ないはずなのに、何故か自分までモヤモヤしてきてしまった。
彼はそれを飲み下そうと、フラペチーノのストローを咥える。

宝「少しずつ飲んでくださいね。一気に吸うと、またむせますよ。」

秀「…ありがとう、忘れてたよ。」

そんな彼に、宝は笑顔で忠告した。
複雑な気持ちでお礼を言いながら、ゆっくりとフラペチーノを啜る。
それから口を離すと、秀はさらりと言った。

秀「よし、デートに誘おう。」

宝「へ!?」

秀「いや『へ!?』じゃなくてさ。」

宝「三木さん、私の話聞いてました!?」

秀「聞いてたよ。その上で言ったんだ。」

宝は素っ頓狂な表情のまま、呆然としている。
その目には、驚愕と疑問が溢れていた。
そんな彼女を見ながら、秀は真面目な顔で続ける。

秀「好きならデートして告白すればいい。」

宝「それって、ずるいですよ。京ちゃんの方が、先に好きになったんですよ?」

秀「…俺は、そういうの経験ないし、バカだから難しくは考えられないけどさ…」

宝「あ、バカって自覚あったんですね。」

秀「…」

宝「…ごめんなさい。」

秀「…俺は、そういうの経験ないし、バカだから難しくは考えられないけどさ…単純に考えて、先か後かよりも、どっちがどれくらい好きかじゃねぇの?」

宝「…でも、私が京ちゃんよりも津村君の事が好きかなんて分からないじゃないですか…」

秀「それもそうだけど、別の意味でもさ。」

宝「え?」

秀「月斬ちゃんが、京ちゃんと津村って奴のどっちの方が好きかって事。」

宝「…比べられませんよ。京ちゃんは親友だし、津村君は…その、恋愛的な意味で好きなので…」

秀「簡単に言うとさ、どっちを取るかなんだよ。」

宝「どっちを…?」

秀「京ちゃんの方が大事なら、京ちゃんの恋を応援すればいい。津村って奴の方が好きなら、告白すればいい。」

宝「そんな単純な問題じゃないんです!」

秀「単純な問題だよ。渦中にいる月斬ちゃんから見たら複雑な問題に見えるかも知れないけど、傍観者である俺から見れば、至極単純な問題なんだよ。」

宝「そんな…」

宝の表情が暗くなった。
秀はフラペチーノを一口飲む。
そして宝の表情などに構わず、彼は話し続けた。

秀「どっちを取るかだよ。親友を取るか、恋人を取るか。」

宝「…」

彼女は無言のまま、俯く。
そして蚊の鳴くような声で吐き出した。
その肩は、震えている。

宝「…選べませんよ。」

秀「どうして?」

宝「選べるわけないじゃないですか! ていうか、三木さんに一体何が分かるって言うんですか!!」

彼女は突然立ち上がり、悲痛な叫びを上げた。
店内の客の視線が、一斉に宝に集まる。
瞳に涙を浮かべながら、それでも彼女は言った。

宝「京ちゃんは親友で! とっても大事な人なんです! でも!! 津村君の事が好きなのも本当なんです!」

秀「…」

宝「津村君の事が好きでも!! 京ちゃんの事を考える度に苦しくて! 罪悪感に潰されそうなんですよ!!」

秀「…」

宝「好きなら告白すればいい!? そんなに簡単なら、とっくのとうにやってますよ!! 三木さんが言うように単純な問題だったら! こんなに苦しまなくて済むんですよ!!」

秀「…」

俯いている宝の顔を見る。
前髪で隠れて、あまりよくは見えない。
が、彼女は確かに泣いていた。
身体が小刻みに震えている。

やれやれ、と秀は溜息を吐いた。
初対面の相手に激昂する程に素直だなんて、少し将来が心配だ。
それでも、彼女がここまで素直な性格に育った理由が、今の発言で分かった。
彼女は両親に、大事に大事に育てられたのだろう。

秀「気は済んだか?」

宝「…は?」

秀「なら、今度はこっちの番だ。」

秀はゆっくりとフラペチーノを飲む。
それからふぅと息を吐くと、未だ立ったままテーブルに手をついている宝に話しかけた。
少しだけ顔を上げた宝を、彼は睨み上げる。
そして宝が聞いた事もない程の低い声で、静かに話し始めた。

秀「甘ったれた事言ってんじゃねぇよ、月斬ちゃん。」

宝「!」

秀「恋敵の親友を傷つけないで彼氏を得たい? そんな美味い話、この世の中にあるわけねぇだろ。今ある何かを捨てずに新しいものを手に入れたいなんて、身内以外に通じると思うなよ?」

宝「っ…」

秀「自分を悪者にしないで何かを成し遂げようだなんて、そんな甘い考えは社会に通用しない。結局最後には、自分の手を汚すしかねぇんだよ。」

宝「…」

話は終わりだと言うように、秀はフラペチーノを飲む。
いつの間に最後まで飲み切っていたのか、ストローは何も吸わずにズズズと唸った。
宝は俯いたまま、力が抜けたように席に着く。
そしてか細い声で、何かに縋るように言った。

宝「…じゃあ、どうすればいいんですか…」

秀「…」

宝「…京ちゃんとは親友でいたいし、でも津村君も好きなのに…こんな矛盾した気持ち、どうすればいいんですか…」

彼女は震えている。
秀は溜息をつくと、胸中の感情を飲み下そうと、フラペチーノのストローを吸った。
しかし先程飲み切ってしまったため、ストローは唸るばかり。
彼は決まりが悪そうに、手荒に頭を掻いた。

秀「だから、津村とデートして告白すればいいじゃん。」

宝「でも、それじゃあ…」

秀「大丈夫さ、心配要らない。」

秀はそう断言する。
宝は泣きそうな顔を上げると、秀の瞳を見た。
様々な感情を含んだ声で、彼に問う。

宝「どうして、そんな事言えるんですか…?」

秀「だって、その京ちゃんとは親友なんだろ? だったら、その程度で関係が壊れるはずねぇさ。」

宝「そんな事って…」

秀「そんな事だよ。恋人の取り合いなんて、ままごとみたいなもんだ。」

秀の瞳が、一瞬遠くなった。
浮かぶのは、あのときの母親の姿。
そして、忌々しき父親の姿。

宝「…秀さん?」

秀「…とにかく、親友なら、その程度で関係が壊れるわけない。京ちゃんも本気なら、正々堂々と戦うはずだ。」

宝「…それ、関係壊れてるじゃないですか…」

秀「壊れてないさ。友情と敵対関係ってのは、普通に混在するもんだぜ?」

宝「…」

秀「てか、関係の名前が変わるだけで、実際に関係の中身が変わるなんて事は滅多にないさ。月斬ちゃんよりも社会の荒波に揉まれた俺が言うんだから、間違いない。」

宝「…本当に…」

秀「ん?」

宝「本当に、それで解決するんですか…?」

秀「解決するさ。月斬ちゃんが、それだけの覚悟を持って挑むなら。」

宝「…」

秀「…」

それからしばらく、お互い無言の時間が流れた。
凍りついたように静かなその空間に、突如電子音が鳴り響く。
どうやら宝にメールが来たらしく、彼女は携帯電話を開いた。
内容を読み終えると、それを閉じる。

宝「すみません。私、もう帰らないと。」

秀「ん?…あぁ、もうこんな時間か。」

宝「今日は、助けていただいてありがとうございました。それと…怒鳴ってしまってすみませんでした。」

秀「気にしないでよ。元はと言えば、デリケートな話題に踏み込んだ俺が悪いんだし。」

宝「相談にも乗ってくださって、ありがとうございました。少しだけ、スッキリした気がします。」

秀「まぁ、無理矢理聞き出したようなもんだけどね。もう、落ち着いた?」

宝「はい。ご迷惑おかけしました。」

トレイなどを片付け、二人は店の外に出た。
外は既に真っ暗で、冷たい風が吹き抜けている。
手袋をはめながら帰ろうとした秀を、宝が呼び止めた。

宝「あの、三木さん。」

秀「何?」

宝「今日は、本当にありがとうございました。どうなるかは分からないけど、私、三木さんのアドバイスに従ってみる事にします。」

秀「…あんまり現状に困るあまり、焦って判断を間違えてない?」

宝「大丈夫です。三木さんが、そう言ったじゃないですか。」

秀「…」

本当に素直な娘だ。
こんな風に他人の意見を鵜呑みにするような性格だと、赤の他人でも本気で将来が心配になる。
それでも不思議と、彼女はしっかりと自分で分別が着けられるだろう、と秀は思っていた。

秀「…ま、ほどほどに頑張って。」

宝「はい、ほどほどに頑張ります。」

彼らはお互いに背中を向けて歩き出す。
思い返して見ればおかしな話だ。
普通なら言葉を交わすはずもない二人。
その上、あって間もないにも拘らず、相手の人生まで変えてしまうかも知れない相談に乗った。

バカみたいに不思議な話だ、と秀は笑う。
もうすぐクリスマスだ。
もしかしたら、これがクリスマスの奇蹟というやつかも知れない。

秀「だとしたら、神様ってのは俺みたいにバカなんだろうな。」

どうせ起こすなら、もっとマシな奇蹟起こせよ。
彼は夜空を見上げる。
どこまでも広がるそれに向かって、笑ながら独りごちた。

早いですが、これから予定がありますので、本日はここまでにしたいと思います。
疑問、質問、提案等、いつでもお受けしております。

気になった点があれば、いつでもご指摘ください。
ですが、あまりキツい言葉は、出来るだけ遠慮していただきたいと思います。

乙でした
恋愛物は本当に大変だねぇ
俺恋愛したこと無いからわからないけど

乙です!
羨ましいですし妬ましいですねー
私なんかカワイイ男の子とダークな殿方以外トキメキを感じませんよ
今回のリョウマくんと秀くんにはキュンッてきまきたね!(・`ω・)キリッ

>>80さん
何と…


>>81さん
世間一般的な意見を申しますと、ときめくポイントがズレている気がします。


こんばんは。
本日も始めていきます。

- 幕間 その3 -


…12月23日、早朝から。

そこには、三人の男が立っていた。
目の前の建物は、ユグドラシルが直営している大型ショッピングモールだ。
二人に挟まれるようにして中心に立つ男が、それを見上げる。

そして、ニヤリとした暗い笑みを浮かべた。
服の前ボタンを開け、戦極ドライバーを装着する。
ロックシードを取り出し、解錠した。

『レーズン』

頭上に時空間の裂け目が開く。
そこから、黒とも紫ともつかない色の、しわしわとした干し果物が現れる。

『ロックオン』

慣れた手つきで、ロックシードを戦極ドライバーに施錠した。
戦極ドライバーから、ロック調の待機音が流れ出す。

???「変身…」

カッティングブレードに手を掛ける。
そして躊躇いなく、ロックシードを斬り開いた。

『レーズンアームズ』

巨大なレーズンが、彼の頭を包み込む。
それはぐちゃりと潰れるように展開し、鎧へと変形した。

『邪ァ龍 ハッハッハッ』


黒とも緑ともつかない深緑色のスーツに、黒色と白色が差し色として走っている。
ライドウェアの形状は中華系だが、腕や脚がインベスのように異形だ。
胸の中央には、くすんだ紫色の円が、萎んで細長くなっていた。
彼の武器は、右手に持った拳銃、ジャアク龍砲である。

仮面ライダー邪悪龍玄 レーズンアームズ


彼が指を鳴らした。
すると、残った二人の男も戦極ドライバーを装着する。
ロックシードを解錠した。

『キョホウ』
『クワノミ』

二人の頭上に時空間の裂け目が現れる。
中から鮮やかな巨峰と、巨大なクワノミが降りてくる。

『ロックオン』
『ロックオン』

戦極ドライバーにロックシードを施錠した。
歯車の駆動音と警報を重ねたような待機音とファンファーレのような待機音が混じり合う。

『スタート』
『カモン!』

???「変身。」
???「変身。」

『キョホウアームズ』
『クワノミアームズ』

ロックシードが斬られ、彼らの頭にそれぞれの果実が突き刺さる。
それらは全く違う変形をし、同時に鎧へと展開した。

『装甲!バイン!バイン!バイン!』
『ギロチン オーバーキル』

青紫色のスーツに、分厚く強固な鎧。
橙色のアクセントカラーが輝き、両肩には巨峰を模したブロックが装備されている。
クリアオレンジの仮面は、まるで戦闘機のコックピットのようだった。
彼の武器は、変形機構を持つ特殊なアサルトライフル、ドライブドウガンである。

仮面ライダー装竜 キョホウアームズ


黒ずんだ赤色のスーツに、濃い赤紫色の鎧。
マクシミリアン式の重厚な鎧は、西洋の城に飾られた彫刻のように美しかった。
紫色の差し色が目を引く彼の武器は、クワガタムシのような立派な角、クワギロチンである。

仮面ライダースタッグ クワノミアームズ


二人の変身が完了したのを確認すると、中央の男は仮面の下で笑った。
彼らを交互に見ながら、左手を振って指示を出す。
そして彼自身もジャアク龍砲を構えると、目の前のショッピングモールに向かい発砲した。

- 第三章 : 3バカの万丈 -


…12月23日、朝から。

ゆっくりと意識が覚醒する。
それと連動し、彼の瞳がぼんやりと世界を捉えた。
次に感じたものは、全身を走る苦痛だ。
反射的に顔を顰めると同時に、微睡んでいた意識が強制的に引き出される。

リョウマ「おっと、お目覚めかい?」

激痛のあまり感覚が鈍っているはずだが、彼の耳は、その声をはっきりと脳に伝達した。
目だけを横に動かすと、そこにはプリントの束を眺めていたリョウマがいる。
英語で書かれているそれらが、論文なのかレポートなのかは分からない。

リョウマ「心拍数、血中酸素濃度、共に異常なし。他もそれなりだね。」

了「プロフェッサー…ここは…」

リョウマ「ユグドラシルが運営してる総合病院さ。色々とアレな患者が集まる場所でもある。」

了「…」

周りをゆっくりと見渡す。
急に動かせば激痛が走るが、ある程度までの動きなら耐える事が出来た。
そこは、白い壁で仕切られた特殊な病室。
完璧な立方体の形をした部屋の中は、居るだけで逆に精神を疲弊させそうだった。

了「A.N.G.00は…」

リョウマ「当たり前だが、君は敗北したのさ。ゲネシスドライバーも破壊された。」

そこまで言うと、彼はあるものを持ち上げる。
その小さな黒いパーツ、ゲネシスコアにはレモンエナジー ロックシードが装填されていた。
更にそれの後ろからコードが伸びており、それが了の左手首に刺されている。

リョウマ「だが幸いにも、このゲネシスコアだけは無事だった。お陰でエナジーロックシードのエネルギーを抽出し、君の治癒力を爆発的に上昇させる事が出来た。」

了「すみません…」

リョウマ「始めから勝てるとは思ってないよ。それにゲネシスドライバーを一つ直すのも二つ直すのも、使う労力はそんなに変わらないからね。」

そう言ってリョウマは、二つの壊れたゲネシスドライバーを取り出した。
片方は、秀が詠多にEGO-Vで破壊されたもの。
もう片方は、了がA.N.G.00にアルテモイヤで破壊されたものだ。

リョウマ「ま、今はとりあえず休んでなよ。そんな状態じゃ、何にも使えない置物と同じだし、こっちでも色々と面倒な事が起きてるしね。」

リョウマは立ち上がると、病室を出て去っていった。
ユグドラシルタワーの研究室へ向かう彼の背中を見送りながら、了は考える。
面倒な事とは、どんな事なのか。
その答えが出るはずもないが、この病室で横になりながら出来る事など、そんな意味もない事しかなかった。


秀「おはようございまーす。」

朝、特任部に顔を出した秀は、タイムカードを挿入してデスクに着く。
特別な仕事が入っていないからと言って、仕事がないわけでは勿論ない。
むしろ今回のようなケースは特異中の特異で、普段は全員が雑務仕事ばかりやっている。
彼は欠伸を噛み殺すと、パソコンの電源を入れようとした。

胡桃「ちょっと待って。」

だがそのとき、ボタンに伸ばした彼の腕を、同僚の胡桃が掴んだ。
まず最初に彼の頭に浮かんだのは、昨日の胡桃の顔だった。
瞬間、振り向こうとした首が、凍りついたように止まってしまう。

このまま動かないという選択肢は存在しない。
この状況をどうにかするには、何か別の事を考えて、バカな自分を騙すしかないようだ。
秀は即座に結論を出すと、自分を落ち着けるため、昨日からの状況を整理するため、そして貼り付く罪悪感から逃げために頭をフル回転させた。

胡桃「秀?」

次に浮かんだのは、疑問だった。
胡桃は昨日、了と共に強奪されたロックシードを追う仕事を任されていたはずだ。
それはもう終わったのだろうか?

その可能性は高い。
あり得ないと思うかも知れないが、この特任部において、一晩で仕事を片付ける事など珍しくもないからだ。
だが、それならばやはりおかしい。

胡桃「ねぇ、秀。」

何故、胡桃がいるのに、了がいないのか。
仕事中に致命傷を負っている可能性が最初に浮かぶが、これも別に珍しい事ではない。
どんな致命傷であれ、リョウマが人体実験ついでに治してしまうからだ。

やはり恐ろしい人物だ。
おちおち怪我する事も出来ない。
秀はリョウマの不気味な笑顔を思い出しながら、一度だけ身震いした。

そして、問題は戻って来る。
今まで呼び止められた理由の可能性ばかりを考えていたが、良く考えてみれば、自分は腕を掴まれた直後、彼女の行動に違和感を感じていた。
昨日の一件が初めに浮かんでしまったせいで、その事に気づくのが遅れてしまっていたのだ。

胡桃「秀ってば。」

つくづくバカだなと思いながらも、その違和感の正体を探る。
しかしそれは、考えるまでもなく分かっていた。
呼び止められた理由を考えていた時間が、全て無駄だったと言うかのようだ。

普段の彼女なら、いきなり腕を掴んだりはしない。
少し前に三人で夜の市街を歩いていたとき、突然手を握ってきたときはあったが。
あのときはどうして胡桃が自分の手を握ってきたのか分からなかったから、とりあえず自分も了の手を握って三人で横並びになった。
だが何故か了には手を解かれ、胡桃には結構強めに手を握り締められた。

胡桃「秀!」

結局、あのときはどうすれば良かったのか。
バカな秀には、未だにその答えは分からない。
彼は考えても意味がない回想を早々に止めると、違和感の正体を突き止める作業に戻った。

話を戻すが、彼女が何の前触れもなく腕を掴むなどおかしい。
例えそれが、家族のように仲の良い間柄においてもだ。
精々、急に肩を叩いて驚かせたりするくらいだろう。

胡桃「無視しないでよ!」

その理由を知るためには、振り向くしかなさそうだ。
丁度、先日の胡桃の顔を忘れかかっている今が、自分にとってもベストなタイミングだろう。
秀は覚悟を決めると、頭の中で「この間、僅か0.2秒。」と呟き、ぐるりと胡桃の顔を見上げた。

秀「どうした?」

胡桃「なんで無視したのよ!?」

秀「…え?」

胡桃「今までずっと呼びかけてたのに、全部無視したじゃない!」

秀「…悪ぃ、聞こえてなかった。」

胡桃「は?」

秀「それより、何か話があるんじゃないのか?」

胡桃「…午前中は仕事休んで、了のお見舞いに行きましょう。」

なるほどそういう事か、と秀は納得する。
今日了がいないのは、任務で怪我を負ったからだったのだ。
同時に、ここ最近了の入院も多くなったなと秀は感じた。

ゲネシスドライバーが開発される以前は、秀一人が前衛で近接戦闘を行い、了と胡桃は彼の後方支援というのが普通だった。
そのため、当たり前かも知れないが、基本的に戦闘で怪我をするのは秀だったのだ。
しかしゲネシスドライバーが開発されて以降、了も近接戦闘を行うようになった。
それが関係しているのかも知れない、と秀はどうでもいい考察を巡らす。

秀「別にいいけど、一度に抜けるのはまずいんじゃないか?」

胡桃「大丈夫よ。」

秀「実際には大丈夫かも知れないけど、主任がうんって言うか?」

胡桃「それも心配要らないわ。」

秀は次々と浮かんでくる疑問を胡桃にぶつけるが、彼女は澄ました顔だ。
彼は首を捻る。
根拠があるようには見えないが…

秀「なんで言い切れるんだ?」

胡桃「それはね…」

裕司「私も行くからだ。」

胡桃が秀の質問に答えようとした瞬間、裕司が横から割って入った。
その言葉に、秀は少し驚く。
まさか裕司まで仕事をほっぽり出して了の見舞いに行くとは、思ってもみなかったからだ。

秀「主任もですか? じゃあ、特任部の仕事は?」

裕司「さっき戻ってきたリョウマに任せた。」

秀「えー…」

裕司「元はと言えば、あいつのおかしな研究のせいだ。」

秀の呆けた顔とは対照的に、裕司の顔は涼しい。
リョウマに全てを押し付けた事にも、全く罪悪感などを感じていない様子だった。
彼の狂った感覚で事務仕事を熟せるか、とても不安だが。

胡桃「それに私は、ロックシードの奪還以外の仕事はないようなものだし。しかも今は、それも遂行出来ないのよ。」

秀「なんでだ? 了が怪我した以外にも、何かあったのか?」

胡桃「それがね…」

秀、胡桃、裕司の三人は、ユグドラシルタワーから出ると、予め手配してあったらしいタクシーに乗り込んだ。
それで了のいる病院を目指す。
その中で秀は、胡桃と裕司から昨日あった事を聞いた。

強奪犯を追っている際中、A.N.G.00に遭遇した事。
それを了が引き受け、彼が致命傷を負った事。
木陰がヘルメスの指揮権を潤から奪い、妖花に操られた(?)事。
そして全てを聴き終わった瞬間、秀は苦り切った顔で言った。

秀「…嘘だろ…マジかよ…」

胡桃「それで、その木陰って奴のせいで、盗まれたロックシードの位置がまだ特定出来てないのよ。」

胡桃は話を終える。
しかし秀は、別の何かを気にしているように見えた。
小さな声で、何か呟いている。

秀「木陰…あいつが?」

そんな彼を、胡桃と裕司は訝しげな目で見た。
もしかしたら、かも知れない。
胡桃はある可能性を考えながら、彼に問い質した。

胡桃「ねぇ、もしかして、木陰って奴の事を知ってるの?」

秀「…まぁ、な。」

裕司「それは、是非とも聞きたいな。」

秀の回答に、胡桃は動揺する。
が、裕司は冷静に続けた。
どうやら、彼は木陰について聞いているのではないらしい。

裕司「あいつは、ユグドラシルのスポンサーの一人だ。それも、色々と機密のだ。…何故、お前があいつについて知っている?」

秀「…」

裕司の目が、細くなる。
彼に睨まれた秀は、一瞬呆けた表情をした。
秀は裕司の目を見て、彼の問いに答える。

秀「…そうなんですか?」

裕司「…は?」

そして今度は、裕司が呆けた表情になる番だった。
秀と裕司は、どちらもポカンとしている。
そして胡桃だけが、蚊帳の外だった。

秀「あいつ、そんなすごい奴だったんですか…」

裕司「…ちょっと待て。明らかに何かが噛み合っていないぞ。」

裕司はこめかみを抑えながら、ゆっくりと息を吐く。
そんな彼に変わり、今度は胡桃が秀に質問した。
気になるというよりかは、一人だけ会話に入れないのが嫌という感じだが。

胡桃「…ねぇ、秀。」

秀「ん?」

胡桃「木陰って、どんな人?」

秀「どんな人って、いつもウチのバーにいる奴だよ。看板娘だろうが。」

胡桃「…」

記憶を探る。
ユグドラシルタワーの地下一階には、確かにバーがある。
そこには、確かに看板娘がいる。
そう、彼女の名前は…

胡桃「! 木陰って、マナちゃんの事!?」

秀「? 当たり前だろ?」

胡桃は思わず叫んだ。
同じように、裕司もはてなという顔をしている。
そんな二人に、秀は何でもないと言う風に返した。

胡桃「…そっか。あの娘、木陰って名前なんだ…」

秀「そう。木陰 愛花(こかげ まなか)って名前なんだとさ。」

胡桃「…」

胡桃の全身から、力が抜けていく。
頭が冷えていき、冷静な思考が可能になった。
会話が噛み合わなくて、当然だったのだ。

胡桃「…つまり、同じ名字の別人だったわけね…」

秀「ややこしいな。二月主任、スポンサーの方の木陰は、何と言う名前なんですか?」

裕司「知らん。」

秀「…え?」

裕司「不明だ。本人が明かそうとしないからな。偽名という可能性も十分にあり得る。」

胡桃「じゃあ、性別は?」

裕司「不明だ。あいつが何者なのか、私にも分からん。」

裕司の答えに、二人は押し黙る。
片方の「木陰」の名前が判明した事で、もう一人の「木陰」の謎が、更に深まってしまった。
しばらく、タクシー内は静寂に包まれる。

胡桃「…待って、もうちょっと待って。あんた、何でマナちゃんの本名を知ってたの?」

そんな中、胡桃が沈黙を破って秀に言った。
彼女の質問は、一見聞く程でもない質問に聞こえる。
確かに、これが別の誰かであれば、彼女もこんな質問はしたりしない。
問題は、相手が愛花である事なのだ。

彼女はバーの看板娘であり、彼女を知らない人間は社内にいないと断言しても過言ではない。
その幼い顔と、それに似合わない見事なスタイルが、主に男性社員を虜にしている。
女である自分も、彼女のような妹がいたら愛でたであろう程だ。

しかし、そんな彼女の本名を知る者は、少なくとも胡桃の周りには、ただの一人としていなかった。
それだけではなく、アドレスも、年齢も、他の何もかもが不明なのだ。
彼女の事で分かる事は、唯一「マナちゃん」という愛称だけである。
彼女もカウンターでは、自分の事を「マナ」と呼んでいた。

そんな彼女の名前を、秀は知っていたのだ。
もう一人の「木陰」が謎に包まれている今、それも偽名の可能性は十分にあるが、問題はそこではない。
他の誰もが知らない事を、何故秀は知っていたのだろう。
それを踏まえた上で、胡桃は彼に聞いたのだ。

秀「え? そりゃ、あいつ本人が教えてくれたからだよ。」

胡桃「教えてくれた!?」

秀「あぁ。ついでに、メアドと番号も知ってる。」

胡桃「…」

そして秀の答えは、簡潔だった。
胡桃は開いた口が塞がらない。
ここに、他の男性社員がいなくて良かった。
もしもここが社内だったら、秀は確実に大変な目に遭っていただろう。

胡桃「…どうやって、聞いたの?」

秀「俺から聞いたわけじゃねぇよ。少し前に、エレベーターん中で向こうから教えてきたんだ。」

彼はそう言いながら、ケータイを弄った。
連絡先には確かに「木陰 愛花」と登録されている。
片方だけ教えるというのは不自然なので、当然愛花も秀のメアド等を知っているはずだ。

秀「まぁ、一度も連絡した事はないんだけどな。」

胡桃「…」

タクシー内に、再び沈黙が舞い戻った。
裕司は目を閉じたまま、秀は窓の外を眺めながら、どちらも一言も喋らない。
そして病院に着くまで、胡桃が小さな声で何かをブツブツと呟く以外、一切の会話が生まれなかった。


暇だ。
今日何度目になるか分からない呟きと共に、了は目を開く。
自分の身体を見ると、確かに傷は治ってきている。
自分の傷が埋まっていくのが目に見えるというのは、中々に奇妙で潜在的な恐怖心を掻き立てられた。

了「…これがエナジーロックシードの力か。」

彼は溜息と共に呟くと、繋がれているゲネシスコアとレモンエナジー ロックシードを眺める。
エナジーロックシードは、何処かの誰かの魂をロックシードが吸収して出来た物だ。
つまり、今この瞬間に自分の身体を治しているのは、知らない誰かの魂という事になる。
無駄に思考を巡らせると、そんなゾッとする結論に辿り着いてしまった。

別の人間の魂に治された部分から、D.C.のように汚染されたりしないだろうか。
傷が完全に癒えたとき、性格が豹変していたりしないだろうか。
そんな微かな不安を抱いていると、病室の扉が勢い良く開いた。
そこからぞろぞろと病室に入って来たのは、心の何処かで最も強く待ち望んでいた、二人の人物だった。

秀「よう、了。見舞いに来たぜ。」

了「…病室の扉は、もっと優しく開け。」

秀「いいじゃん。どうせ、他の患者はいないんだろ?」

了「俺という怪我人が目の前にいるだろうが。」

秀「心配ねぇよ。どうせ了だ。」

了「どうせって何だ、どうせって。」

胡桃「二月主任は、少し後から来るわ。多分、気を遣ってくれたんだと思う。」

秀「どうよ、調子は?」

了「見ての通りさ。良くない。」

胡桃「どのくらいで治るって言われたの?」

了「…明日には治るらしい。」

胡桃「…え?」

了の簡潔な答えに、胡桃は目を丸くした。
昨日聞いた話によれば、了は致命傷を負ったはずだ。
それなのに、それが明日には治ると彼は言う。
それを不審に思ったのは、秀も同じだった。

秀「は? おかしくね? あの変なロボットにボロボロにされたんだろ? そんなに早く治るのか?」

了「それだ。」

二人の疑問を当然だと思いながら、了は目でベッドの横を示す。
秀は疑問符を浮かべながら、ベッドサイドに引っ掛けてある装置を持った。
黒いそれにはレモンエナジー ロックシードが装填されており、後ろからコードが伸びて了の左手首に繋がっている。

秀「これ…ゲネシスコアか?」

了「あぁ。エナジーロックシードのエネルギーを使って、俺の治癒力を爆発的に上昇させているそうだ。」

胡桃「なるほどね…あのプロフェッサーもたまには良い事するじゃない。」

秀「でもさ、それってどっかの誰かの魂使って治してるって事だろ。本当に大丈夫なのか?」

了「それについては、俺もさっき考えた。大方、今回もプロフェッサーの実験を兼ねているんだろう。」

胡桃「…前言撤回。たまにすら良い事しないわね、あの快楽至上主義博士…」

秀「ははは、間違いないな。」

了「ま、あのプロフェッサーだからな。仕方ないだろう。」

やれやれといった空気を漂わせながら、三人は誰からともなく笑い始める。
昨日は秀が非番を言い渡され、先程までは了が独りで入院していた。
実際にはそれ程の時間は経っていないはずだが、三人にはこの「ユグドラシルの3バカ」としての空気が、とても久しぶりに感じられていた。

了「そう言えば、昨日はあれからどうなった?」

胡桃「…それがね…」

一頻り笑った後、了が胡桃に聞く。
彼女は一つ一つ、昨日あった出来事を話した。
大体の内容を把握すると、了は短く息を吐く。

了「なるほど…それだけか?」

胡桃「うん。」

秀「何だ? 何か気になる事でもあんのか?」

了「いや、な。今朝、プロフェッサーが『色々と面倒な事が起きてる』と言ってたんだ。」

胡桃「それって、今話した事とは違うの?」

了「分からない。」

秀「…ま、考えてても仕方ねぇだろ。それより、もうすぐクリスマスだぜ。」

真面目な話から一転、秀は軽い口調で話題を変えた。
これは彼自身の経験から来る話だが、入院しているときには、仕事の話のような堅苦しい話題ではなく、明るく楽しくバカな話の方が精神的に良い気がする。
この体験談が性格の違う了に当てはまるかは分からないが、少なくとも、彼もバカな話題は嫌いではないはずだ。
そうでなければ、彼も秀や胡桃と積極的に会話したりはしなかっただろう。

少し席を外します。

了「クリスマスか…まぁ、今年も普通に仕事だろうな。」

胡桃「それに、明日までに今回の諸々が解決出来るかしら?」

秀「そこは意地でも片付けるんだろ。去年みたいに、沢芽市から出ようとした馬鹿なアーマードライダー共を狩りならが過ごすなんて、俺は嫌だぜ?」

胡桃「確かに、アレは酷かったわね…じゃ、今年はさっさと仕事片付けて、何処か遊びに行こうかしら。」

了「クリスマスに独りで遊びに行くのは自殺行為だぞ?」

胡桃「なんで独りって決めつけてるのよ。独りだけど。」

秀「ノリノリじゃねぇか。それじゃ、俺は今年は…」

病室の扉の前。
真面目な話をしている間に部屋に入ろうと試みたが、秀が急にオフの話題にシフトさせてしまったため、入るタイミングを逃してしまった。
流石に部下だけで盛り上がっているところに入るなどという、無粋な真似は出来ない。
裕司は再び真面目な話題に切り変わるのを待ちながら、缶コーヒーのタブを開けた。


特任部のメンバーが病室に集まっているとき、潤は独り、ホウセンカハリケーン走らせていた。
特任部が病院に到着する少し前。
彼は無線端末を介してリョウマに呼び出された。
研究室に顔を出すと、リョウマがデスクトップから目を離して潤に顔を向ける。

リョウマ「や。ヘルメスの指揮権を奪われた気分はどうだい?」

潤「…用件は、それだけですか?」

リョウマ「つれないなぁ。ま、いいけど。用件は別にあるんだ。」

リョウマはそう言うと、デスクトップに緑色の簡易的なマップを表示させた。
そこのある一箇所に、赤く光る点が見える。
少しずつ移動しているので、示されているものは固定されていないようだ。

リョウマ「僕のデータにないロックシードの反応なんだ。行って、ぶっ潰してきて欲しいんだよ。」

潤「了解しました。」

リョウマ「あ、でも速攻潰しちゃ駄目だよ。僕がアレスのステアリングアイを介して解析するから、それが終わってからね。」

潤「心得ています。」

リョウマ「お願いね。じゃ、いってらっしゃい。」

潤「失礼します。」

そんなやり取りを経て、潤は今、目的地に向かってホウセンカハリケーンを走らせる事になっているのだった。
しばらく進んでいると、そこで止まるよう、リョウマから指示が飛ぶ。
潤は言われた通りホウセンカハリケーンを降りると、それを錠前の形に戻して懐に仕舞った。

リョウマ『そこからは歩いて行って欲しい。相手に気付かれちゃったら、元も子もないからね。』

リョウマ特有の軽い口調を聞きながら、潤は言われるままに歩いて行く。
人通りの少ない道に面した、地下駐車場。
果たしてそこに、ターゲットはいた。


金色のスーツに、西洋風な黄緑色の鎧には白色の差し色が入っている。
身体には騎士や天使を彷彿とさせる追加装甲が施されているが、ライドウェアには一切の変更点が見られない。
仮面には騎士風のメットが被さっており、背中には蝶の羽と天使の翼を融合させたようなブースターを装備している。
そして武器は、元から装備されている弓、アローリーブに加え、細長い形状の銃、フェアリースノーを装備していた。

仮面ライダーホワイトヘルメス ホワイトオリーブアームズ


潤「ヘルメス…か?」

潤はその姿を見て、少し驚いたような声で呟く。
しかし無線からは対照的に、リョウマの冷たい声が響いてきた。
小馬鹿にするような、機嫌の悪い声だ。

リョウマ『僕があんなにゴチャゴチャとした量産型を作るわけがないだろう?』

それもそうだ。
量産型と言うのは、如何にコストを抑えた上で高い性能を発揮できるかにかかっている。
そのため、ヘルメスの装甲などは最小限に抑えられているはずだった。

潤「じゃあ、あいつは…」

リョウマ『とりあえず変身してくれ。じゃないと解析を始められない。』

リョウマの冷静な声を受け、潤はゲネシスドライバーを装着する。
ロックシードを構え、解錠した。
特徴的な解錠音が、地下駐車場に響く。

『オリーブエナジー』

時空間の裂け目が開く。
その中から、半透明のオリーブが現れた。

『ロックオン』

ロックシードをゲネシスドライバーに施錠する。
流れ出す単調な待機音をぶった切り、ゲネシスドライバー右側のグリップを押し込む。

『ソーダ!』

潤「変身!」

『オリーブエナジーアームズ』

巨大な果実が、回転しながら彼の頭に突き刺さった。
それは歌声のように聴こえる変身音と共にグルリと展開し、西洋風の鎧へと変形する。

ホワイトヘルメスと潤が睨み合った。
ゆっくりと動きながら、タイミングを探る。
次の瞬間、潤がオリーブレイドを構え、ホワイトヘルメスとの距離を一気に詰めた。

ホワイトヘルメスはアローリーブでそれを受けるが、オリーブレイドはそれを何の抵抗もなく斬り裂く。
彼は目の前で起きたそれに驚いたのか、破壊されたアローリーブを取り落としてしまった。
潤の戦闘能力を甘く見ていた事を後悔しながら、彼はブースターを起動させ素早く後ろへ下がる。
しかしそれを見越していたのか、潤は即座にソニックアローに持ち替えると、彼の戦極ドライバー目掛けて衝撃波の矢を放った。

ホワイトヘルメスはよろけるが、ブースターを使い、すぐに体制を立て直す。
同時にフェアリースノーを構えると、その銃口を潤に向け、強力な光線を発射した。
それを避ける事など、新世代アーマードライダーである潤にとっては造作もない。
しかしそこで、彼にとって予期せぬ事が起きた。

光線が地面に当たる直前で、彼に向かって屈折したのだ。
突然起きた予想外の攻撃に、潤は咄嗟にそれを避けようとする。
が、間に合わない。
光線が当たり、爆炎が彼を包んだ。

ホワイトヘルメスは一言も発さず、ゆっくりと爆炎に近づいていく。
彼は炎の中から、潤の死体を探し出そうとしていた。
手で炎を払いながら、顔を地面に向ける。
だがその瞬間、彼の頭に衝撃波の矢が降った。

ホワイトヘルメスは先程の潤のように、突如起きた事態に思考が追いつかない。
その隙に、天井から飛び降りて来た潤は、背中のブースターをオリーブレイドで大きく斬り裂いた。
エナジーロックシードにより強化されたアームズウェポンは、普通のそれでは傷付ける事すら不可能なはずの装備をも破壊する。

光線が当たる直前、潤はソニックアローの刃でそれを地面に向かって弾き返していた。
地面から爆炎が上がったとき、その影に隠れて高く跳ぶ。
そのまま天井に張り付き、ホワイトヘルメスが下に来るのを待っていたのだ。

彼は右手にオリーブレイド、左手にソニックアローを構え、連続でホワイトヘルメスを斬りつける。
その一撃一撃は重く、ホワイトヘルメスの白い装甲を次々と砕き散らしていった。
そしてソニックアローの斬撃を直接ライドウェアに受け、ホワイトヘルメスは吹き飛ぶ。

潤「プロフェッサー、解析の方は?」

リョウマ『やってるけどね、どうも不可解な点が多いね。ちょっと時間かかるかも。』

潤「後どれ程の時間、戦闘を続けますか?」

リョウマ『んー…もういいや、殺しても。』

潤「了解。」

リョウマから止めを刺す許可が下ると、潤は左手のソニックアローを投げ捨て、オリーブレイドを左手に持ち替えた。
空いた右手でゲネシスドライバーのグリップを押し込み、オリーブエナジー ロックシードのエネルギーを絞る。
左手のオリーブレイドに、緑色のエネルギーが流れ込んだ。

『オリーブエナジー スカッシュ』

潤はそれを両手で構えると、腰を低く落とす。
ホワイトヘルメスが、体制を立て直して立ち上がった。
その一瞬の隙を突き、潤は一気にホワイトヘルメスへと走る。

次の瞬間には、潤は既にホワイトヘルメスの後ろにいた。
ホワイトヘルメスの腹部には、大きな傷跡が出来ている。
彼はゆっくりと膝を突き、そして盛大な爆炎を上げた。

リョウマ『お疲れ様。お見事だよ。』

通信機からリョウマの気の抜けた声と、乾いた拍手が聞こえてくる。
とても興味なさそうな声だった。
潤は一度長く息を吐くと、変身を解除する。

リョウマ『それじゃ、一旦帰って来て。解析が大体終わったら、また呼ぶからさ。』

潤はリョウマの指示を聞き終えると、ホウセンカハリケーンの錠前を取り出し解錠させた。
それをバイクに変形させると、それに跨がり走り出す。
そのために、彼は気がつく事が出来なかった。
爆炎の中に、まるで蛇のような、手足の存在しない影が浮いている事に。


宝は携帯電話を握り締めたまま、固まっていた。
手は汗をかき、身体は震えている。
心に余裕はなく、酷く緊張していた。

携帯電話の画面には、アドレス帳が表示されており、その中の一つが選択されている。
それは、津村 更季(つむら こうき)と呼ばれる青年の番号。
彼女が想いを寄せる男子の番号だ。

昨日の夕方、秀に背中を押された彼女は一晩中考え、遂に更季をデートに誘う決心をした。
が、いざやろうとすると、どうしても最後の一歩が踏み出せない。
実は先程からこの状態のまま、もう三十分以上も動けないでいた。

そうやっていると、次第に決心も曖昧になっていく。
よく考えなくとも、彼女がやろうとしている事は、親友である布裁之 京(ふたつの みやこ)を裏切る行為だ。
そんな事はしない方が良いに決まってるし、もしそんな事をすれば、関係が崩壊する可能性もある。

そう思った途端、彼女の決意は風船のように萎んだ。
同時に、手の汗も、身体の震えも、緊張も、全てがフッと消えさる。
まるで、その決断が正しいと言うかのように。

諦めよう。
それが、道徳的にも正しい事だ。
何よりも、その方が、自分が楽だ。

彼女はそう結論を出すと、携帯電話を閉じる。
糸が切れたように椅子に腰掛け、何となく外を見た。
彼女の家は刃物店であり、店先は大通りに面している。
そのガラスドアから無心で外を眺めていると、ある一人の女性が、彼女の目に飛び込んできた。

足早に歩く、スーツ姿の女性。
左手にバッグを持ち、右手にスターバックスコーヒーのプラスチックカップを持っている。
その中身は正しく、抹茶フラペチーノだった。

秀『甘っ!』

突如彼女の頭に、昨日の秀の顔と言葉がフラッシュバックする。
彼女は何かに命ぜられるように、財布を開けて一枚の名刺を取り出した。
そこには、沢芽市でよく目にするユグドラシルのロゴマークと「ユグドラシル・コーポレーション特任部 三木 秀」という文字、そして電話番号とメールアドレスが印字してある。
特任部と言うのが、どんな仕事をしている部署なのか、その名前からは今一把握出来ないが。

秀『解決するさ。月斬ちゃんが、それだけの覚悟を持って挑むなら。』

彼の言葉が、表情が、目の前に蘇る。
宝は突き動かされるように携帯電話を開くと、即座に通話ボタンを押した。
携帯電話から、単調なコール音が流れ始める。

押してしまった。
もう、後戻りは出来ない。
それでも、だとしても。

名刺を握った左手と、携帯電話を持った右手に力が入る。
先程消え去った震えと緊張が、冷汗と共に戻ってきた。
コール音が止まり、電話口から更季の声が聞こえる。
彼女は小さく深呼吸をすると、決意と共に口を開いた。

本日はここまでにしたいと思います。
疑問、質問、提案等、いつでもお受けしております。

気になった点があれば、いつでもご指摘ください。
ですが、あまりキツい言葉は、出来るだけ遠慮していただきたいと思います。

乙でした
幕間のメンバーはルナが遭遇したメンバーにいましたね。
そろそろ、ルナも出てくるかな?

乙です!
リョウマスマイルはミッチスマイルには劣るケド大好きです!

>>97さん
まだ23日ですからね。
ルナくんが龍玄たちに遭遇したのは24日なので、もう少し先です。


>>98さん
彼もミッチほど狂った笑いはしないでしょうね。


こんばんは。
本日も始めていきます。

了の見舞いを終え、昼食をとった後、三人はユグドラシルタワーの特任部へと帰って来た。
胡桃はリョウマに呼び出され、裕司は再び外へと出て行く。
そして特任部のデスクに残ったのは、秀一人となった。

秀「…ま、俺には雑務しかないからな。」

彼はそう呟くと、デスクトップパソコンの電源を入れる。
そのとき、また別の人物が話しかけてきた。
振り向くと、そこに立っていたのは才吾だ。

才吾「三木。」

秀「んだよ?」

才吾「お前の戦極ドライバー、一旦こっちに預けてくれ。」

秀「あ? 何で?」

才吾「プロフェッサーが、何やら改造するらしい。ゲネシスドライバーが壊れてしまっている今、いつまでも性能の低い戦極ドライバーでは対処出来ないからだ。」

秀「…あっそ。」

秀は素っ気なく言うと、戦極ドライバーを才吾に手渡した。
それを受け取ると、彼はさっさと研究室に戻って行く。
その背中を見送りながら、秀は再びデスクに向き直った。
そして早速仕事を始めるが…

秀「…」

やる気が出ない。
ラノベ風に言えばやる気殺し(モチベーションブレイカー)。
そんな意味の分からないバカな考えが度々頭を過ぎり、彼はいつもの十分の一も作業を進められていなかった。

理由は多々ある。
いつものメンバーが根刮ぎいないというのもあるが、最大の理由はそれではない。
彼は独り言を溜息混じりに吐き、椅子の背もたれに体重を預けた。

秀「…気になる…」

そう、気になるのだ。
昨日会った少女ではなく、その恋の行方でもない。
そのときに見た、一人の青年の事がだ。

秀「…ちっと調べてみるか。」

このままの状態で作業を続けても、思うように進まないであろう事は火を見るよりも明らかだった。
そんなのは、時間の浪費でしかない。
であれば、昨日も感じたこの違和感を早々に突き止めてしまった方が、後々の仕事も効率良く進むはずだ。

彼はそう結論を出すと、作業中のウィンドウを一旦閉じ、別のウィンドウを開いた。
それに伴って表示された小窓に、ローマ字で自分の名前、ユグドラシルの社員ID、特任部所属である事を表す八桁のコード番号、最後に特任部内共通のものと秀個人のものの二種類のパスワードを入力する。
そして二秒程待つとデータの処理が完了し、彼に与えられているユグドラシル・コーポレーションズ・データベース、通称「Y.C.D.」へのアクセス権が認証された。

秀「本当、相変わらず入るまでが面倒臭過ぎるよな…」

Y.C.D.の初期画面を前に顔を顰める。
セキュリティのためと分かっていても、やはり一々現れる小窓に五つの情報を入力しなければいけないのは、いささか面倒だった。
彼はグンと伸びをしながら、手首をコキリと鳴らす。
それから立ち上がって、首と足首をグリグリと解した。

再び座ると、検索画面にキーワードを入力する。
一つ目のそれは「私立天河学園高等学校」。
エンターキーを押すと、瞬時に多量の情報が画面に並ぶ。
彼はそのウィンドウを右クリックすると、そこに出てきた「絞り込む」という項目をクリックした。

情報が羅列されているウィンドウの上に、小さな検索画面が現れる。
次に彼が入力したキーワードは「名簿」。
エンターキーを押すと、その小さなウィンドウが消え、大きなウィンドウに表示されていた情報が、一気に絞り込まれる。
そしてそこには、天河学園高校設立以来の卒業生、在校生、教職員など全種類の名簿情報がズラリと並んだ。

再びウィンドウを右クリックし、そこの「絞り込む」をクリックする。
出てきた検索画面に、彼が新たに追加したキーワードは「在校生」。
検索画面が消え、大きなウィンドウに羅列されている名簿が一瞬で消え去る。
残った名簿は、各学年に対応した三種類の名簿だった。

彼は「絞り込む」をクリックし、最後のキーワードを入力する。
検索画面に「津村」と入れてエンターキーを押すと、残っていた名簿情報が全て消え、代わりに二つの生徒情報が表示された。
その内一人は男子、一人は女子。
彼が迷わず男子の方をクリックすると、ウィンドウに「津村 更季」と呼ばれる生徒の情報が現れた。

秀「津村 更季…こいつか。」

文章による情報と共に、隣には生徒証に貼られている顔写真が表示されている。
間違いなく昨日見た顔だ。
と同時に、昨日と同じ違和感が襲ってくる。

秀「…何なんだろうな、この感じ。」

更季に関する情報を、一言一句漏らさないように慎重に読む。
しかし最後まで読み切っても、違和感の正体は分からなかった。
彼は軽く目頭を抑えながら、長く息を吐く。
それから再びマウスを掴むと、画面を最初の検索画面に戻した。

その検索画面に、今度は「津村 更季」と入力する。
ウィンドウに、更季に関する様々な情報が並んだ。
更に「絞り込む」をクリックし、出てきた検索画面に「戸籍」と入れる。
そして表示された情報の中から、更季の戸籍を表示した。

その戸籍情報も、隅々までゆっくりと読み進める。
だがやはり、違和感の正体には気がつかなかった。
再び短く息を吐く。

秀「…やっぱ、ただの勘違いか?」

ウィンドウとにらめっこをしながら呟いた。
もう少しだけ調べてみるかとキーボードに手を伸ばしたところで、彼にメールが届く。
開いてみると、新たな事務仕事の内容が書かれていた。

秀「…」

無言でY.C.D.の画面を閉じると、先程までやっていた仕事の画面を開く。
やる気は全く出ないが、締切がある以上やるしかない。
やる気がなくてもやらなければいけないのが仕事だ。
秀は無理矢理自分の意識を切り替えると、彼にとっては至極どうでもいい書類の作成に戻った。


胡桃は昨日と全く同じように、サクラハリケーンを走らせていた。
言うまでもなく、リョウマの指示によるものだ。
だが、昨日と大きく違う点が存在する。
それは仕事の内容だ。

了の見舞いを終え、昼食をとってからユグドラシルタワーへと帰って来た胡桃は、直後にリョウマに呼び出された。
面倒臭くて仕方なかったが、仕事である以上はやるしかない。
彼女が研究室に入ると、リョウマがすぐに話に入る。

リョウマ「や。実は君にやって欲しい事があってさ。」

胡桃「強奪されたロックシードが、見つかったんですか?」

リョウマ「いや違う。アレを見つけ出すには、もう少し時間がかかりそうだね。」

胡桃「では、何でしょうか?」

リョウマ「例のロックシードを見つけ出すまでの間、別の仕事を頼みたいんだ。」

胡桃「別の仕事…」

リョウマ「実は今朝から、僕達ユグドラシルが資金援助をしている商業施設などが、次々と何者かによって破壊されていてね。」

胡桃「これまた凄いタイミングですね。」

リョウマ「うん。多分、僕達がA.N.G.00でてんやわんやになってるのを分かってて、その上で実行してるんだと思うよ。」

胡桃「…つまり犯人は…」

リョウマ「D.C.シリーズのどれかだろうね。ま、倒してみれば分かるだろうさ。」

そのようなやりとりを経て、胡桃は今、サクラハリケーンを運転していた。
目指しているのは、次に襲われると予想される老人ホーム。
胡桃はそれが襲われる前に決着をつけようと、急いでいた。

リョウマ『もっとゆっくりでもいいよ。襲われてからの方が、何かとやりやすい事が多いし。』

胡桃「…市民を見殺しにするんですか?」

リョウマ『どうせ少しの若者と老害しかいないんだ。むしろさっさと死んでくれた方が、この沢芽市も綺麗になると思うけど?』

通信先のリョウマが、さらりと恐ろしい事を口にする。
彼が言う事は過激なジョークに聞こえなくもないが、それは彼に始めて会った人しかしない勘違いであろう。
既に何度も彼の狂ったような実験を目の当たりにしている胡桃からすれば、今の発言がジョークではない事ぐらい、簡単に理解出来てしまった。

胡桃は目的地に着くと、サクラハリケーンを錠前の形に戻す。
それをポケットに仕舞い、代わりにゲネシスドライバーを取り出した。
それを装着すると、今度は右手でロックシードを取り出し、解錠する。

『ピーチエナジー』

アラビア風の解錠音と共に、半透明の果実が頭上に現れる。
それを確認すると、ロックシードをゲネシスドライバーに施錠した。

『ロックオン』

単調な待機音もそこそこに、彼女はゲネシスドライバー右側のグリップを押し込む。
キャストパッドが展開し、カップにエネルギーが絞り出される。

『ソーダ!』

胡桃「変身。」

『ピーチエナジーアームズ』

カップがピンク色のエネルギーで満たされると、巨大なピーチが回転しながら彼女の頭に突き刺さった。
それは三方向に展開し、鎧へと変形する。
最後にピーチの果汁のようなピンク色のエネルギーが弾け、変身が完了した。

ゆっくりと周りを見渡しながら、敵を捜す。
彼女がステアリングアイを通じて見ている景色が、通信先のリョウマのディスプレイにも表示されていた。
更に、リアルタイムでロックシードの反応を感知出来るようになっている。

リョウマ『…いた。』

通信機から、静かな声が聞こえた。
胡桃はそう言われた方向へ走り出す。
やがて老人ホームの正面裏に回ると、そこには三人の青年が立っていた。

???「おっと、来ちゃったか。ユグドラシル。」

リョウマ『なるほど、こいつだったか…芦原、誰だか分かる?』

その中心の男が、胡桃を見て言う。
それを見たリョウマが、胡桃を試すように言った。
彼女はリョウマの問いに対して、簡潔に答える。

胡桃「D.C.03 黄昏 光実(たそがれ みつざね)、よね?」

光実「へぇ、僕の事知ってるんだ。」

胡桃「D.C.07が脱走したときに、一緒に脱走した個体でしょ?」

光実「彼女には感謝してるよ。お陰で、悲願の復讐が叶うんだから。」

そう言って、光実は胡桃をギロリと睨んだ。
彼が戦極ドライバーを装着すると、他の二人も合わせて戦極ドライバーを装着する。
三人はロックシードを取り出し、同時に解錠した。

『レーズン』
『キョホウ』
『クワノミ』

空中に三つの時空間の裂け目が現れ、その中から巨大な果実が並んで現れる。
それを気にも留めず、彼らはロックシードを戦極ドライバーに施錠した。

『『ロックオン』』

ロック調、機械風、西洋風の三種類の待機音が、混じり合いながら流れ出す。
三人は戦極ドライバーのブレードに手を掛け、勢い良くロックシードを斬り開いた。

『スタート』
『カモン!』

光実「変身!」
???「変身。」
???「変身。」

『レーズンアームズ』
『キョホウアームズ』
『クワノミアームズ』

三人の頭に、それぞれレーズン、キョホウ、クワノミが突き刺さる。
そしてそれらが同時に鎧へと展開し、三人をアーマードライダーへと変貌させた。

『邪ァ龍 ハッハッハッ』
『装甲!バイン!バイン!バイン!』
『ギロチン オーバーキル』

リョウマ『黒潮がそっちに向かってる。独りで戦ってもいいけど、少しだけ時間を持たせて、二人で戦う方がいいんじゃないかな?』

胡桃「…その二人、誰かしら? あなたの部下らしいけど。」

光実「え? …そうだね、折角だから紹介しといてあげるよ。こいつらは僕が作ったD.C.、名付けてAnother Designed Childさ。」

三人と胡桃が睨み合う。
胡桃はリョウマのアドバイスを聞くと、光実に向かってそう聞いた。
光実はジャアク龍砲を持っていない左手で、装竜とスタッグを順番に指差す。

光実「こいつはA.D.C.01 秋葉 刻矢(あきは ときや)、そしてこっちはA.D.C.02 芒野 桂治(すすきの けいじ)。それと、別にもう一体いる。」

リョウマ『そいつに聞いてくれ。もう一体って言うのは、白いアーマードライダーかって。』

胡桃「…その『もう一体』って、白いアーマードライダー?」

光実「あぁ、やっぱもう見つかってたんだ。そうだよ、あいつだよ。」

胡桃「…名前は教えられないって事かしら?」

光実「別に教えたって構わないよ? A.D.C.03 新治 白夜(にいばり びゃくや)ってね。」

リョウマ『なるほどねー。やっぱりアレも人間じゃなかったか…芦原、来たよ。』

リョウマの鋭い声が聞こえた瞬間、胡桃の耳にもバイクのエンジン音が微かに届いた。
その音は、段々と近づいて来る。
そしてそれは、胡桃のすぐ後ろで止まった。
リョウマの側近的存在である才吾が、乗ってきたローズアタッカーを錠前の状態に戻す。

才吾「待たせた。」

彼は胡桃に一言だけ言うと、戦極ドライバーを装着した。
ロックシードを構え、解錠する。
頭上に、時空間の裂け目が開いた。

『ジャックフルーツ』

その中から、巨大な果実が降りてくる。
ロックシードを戦極ドライバーに装填し、施錠する。

『ロックオン』

流れ出す西洋風の待機音。
彼は即座にロックシードを斬り開いた。

『カモン!』

才吾「変身。」

『ジャックフルーツアームズ』

巨大なジャックフルーツが、彼の頭に突き刺さる。
それが一瞬で、鎧の形へと展開した。

『GIANT OF CRUSHER』

才吾が二本のメイス、キャッスルクラッシュを構える。
それに合わせ、胡桃も再度ソニックアローを構え直した。
光実が喉の奥で、クッと笑う。

光実「オッケー、どっちも叩き潰そうか。」

パチン、と彼が指を鳴らした。
瞬間、刻矢と桂治が動き出す。
五人のアーマードライダーが、一気にぶつかった。


胡桃が光実達と戦闘を行っている間、潤も戦闘を始めようとしていた。
対峙しているのは、白いアーマードライダー。
午前中にも戦った、あのアーマードライダーだった。


橙色のスーツに、中華風な橙色の鎧には白色の差し色が入っている。
身体には騎士や天使を彷彿とさせる追加装甲が施されているが、ライドウェアには一切の変更点が見られない。
仮面には騎士風のメットが被さっており、背中には蝶の羽と天使の翼を融合させたようなブースターを装備している。
そして武器は、元から装備されている爆弾、カキ極彩弾に加え、細長い形状の銃、フェアリースノーを装備していた。

仮面ライダーホワイト李呪 ホワイトカキアームズ


潤「お前はさっき俺に倒されたはずだ。何故ここにいる? 別の個体か? それとも…」

不死身なのか?
潤は白夜に問おうとする。
だがそう言おうとしたところで、リョウマの通信が割り込んだ。

リョウマ『どっちも違うよ。こいつはD.C.だ。』

潤「解析結果ですか?」

リョウマ『いや、そいつの製作者が言ってた。』

潤「…は?」

リョウマ『だから、そいつの製作者が今、芦原と対峙してるの。それで製作者自身が、そいつはD.C.だって言ってたの。』

潤「…」

リョウマ『呼び名があった方が楽でしょ。そいつはA.D.C.03 新治 白夜。核の解析は今してる。』

潤「…分かりました。」

リョウマ『とりあえず、そいつ潰そうか。もしかしたら、ひょっこり核が飛び出して来るかも知れないしね。』

リョウマはいつも通りの軽い口調で指示を飛ばす。
潤は彼の言葉に答える代わりに、ゲネシスドライバーを装着した。
ロックシードを構え、解錠する。

『オリーブエナジー』

時空間の裂け目が開き、半透明の果実が現れる。
それを確認し、ロックシードをゲネシスドライバーに施錠した。

『ロックオン』

そしてゲネシスドライバーのグリップを掴み、右側のそれを押し込む。
ロックシードのエネルギーを絞り出す。

『ソーダ!』

潤「変身!」

『オリーブエナジーアームズ』

彼がそう叫んだ。
同時に、巨大なオリーブが回転しながら、彼の頭に突き刺さる。
それが歌声のような変身音と共に変形し、彼をアーマードライダーへと変化させた。


裕司は薄型のタブレット端末を手に、車の助手席に乗っていた。
地図を表示させながら、運転手に指示を出す。
裕司は人差し指と親指を端末に当て、ディスプレイ内の地図をクルクルと回していた。

裕司「東に向かえ。」

鳴子「どっちだ? 右折か? 左折か?」

裕司「ちょっと待て…右折だ。」

鳴子「右折だな、分かった。」

裕司「…すまん、左折だった。」

鳴子「気づくのが遅い!」

裕司は地図を睨む。
その地図上を、赤い点が走っていた。
それこそが、今彼らが追っているターゲット、A.N.G.00の位置を示しているマーカーだ。

裕司「…また方向を変えたぞ。」

鳴子「どっちだ? 方角で言うなよ。」

裕司「…右折だ。」

鳴子「本当か?」

裕司「…あぁ、右折だ。」

鳴子「よし。」

裕司「…!」

鳴子「どうした?」

裕司「A.N.G.00が止まった。急げ、このまま真っ直ぐだ。」

裕司の言葉を受け、鳴子がスピードを上げる。
法定速度ギリギリで走行しながらも、その運転技術は目を見張るものがあった。
やがて彼らが辿り着いたのは、沢芽市で最も広くて深い湖。
そこは沢芽市の中央公園の真ん中にあり、平日のこの時間でも、それなりに人がいる。

だがA.N.G.00のいる湖は、運良く誰もいなかった。
裕司と鳴子は車を降りると、現場に走る。
彼らがA.N.G.00を目視出来る位置まで近づくと、彼女も裕司達に気づいた。

A.N.G.00「!!」

彼女が、例の天使の歌声のような叫び声と共に衝撃波を発する。
周辺の石や湖を囲う柵が吹き飛び、木々がざわめいた。
鳴子がニヤリと笑う。

鳴子「あいつがA.N.G.00ってやつか…」

彼はそう呟くと、戦極ドライバーを装着した。
合わせて、裕司も戦極ドライバーを取り出す。
が、彼はそんな裕司を片手で止めた。

鳴子「待てよ。あいつは俺が倒す。」

裕司「何を言っている。あいつは一人で勝てる相手ではないぞ。」

鳴子「まぁ見てろって。それに、俺は1対1が好きなんだ。」

裕司「そんな事を言っていられる相手ではない。」

鳴子「お前が何と言おうと、俺はそんな騎士道に反した事はしない!」

鳴子の叫びに、裕司は黙る。
こうなった彼は、何を言っても聞かない。
それを裕司は分かっていた。

『カクテルフルーツ』

裕司が口をつぐむと、鳴子はロックシードを解錠する。
彼の頭上に時空間の裂け目が開き、巨大な果実が現れる。

『ロックオン』

ロックシードを戦極ドライバーに施錠した。
ファンファーレような西洋風の待機音が、公園に鳴り響く。

『カモン!』

鳴子「変身。」

『カクテルフルーツアームズ』

ロックシードが斬られ、空中に浮いていたカクテルフルーツが彼の頭に突き刺さる。
それは四方に展開し、鎧へと変形した。

『フラッシュ・オブ・ファイター』


青色の和風のスーツに、赤色が入った橙色の鎧。
シルエットはオレンジ鎧と同じ甲冑だが、表面がつるりとしていた。
肩は赤色で、バイザーは二重になっている。
武器は双剣、ツインビーラーと、両腕に備えたリフレクター、サワーフラッシャーだ。

仮面ライダーデスティニー カクテルフルーツアームズ


鳴子「それじゃあ始めるか、A.N.G.00。」

彼はそう言うと、双剣を構えて走り出す。
A.N.G.00も、アルテモイヤを構えて飛び出した。
そんな彼を見ながら、裕司はある考察を巡らす。

彼、交野 鳴子に今回の件を手伝わせると決定を下したのは、裕司と同じ重役の一人、大口 弘明(おおぐち ひろあき)だ。
何故、彼が鳴子を指名したのか、裕司は特に考えていなかった。
が、今のこの状況を目にしたとき、ようやくその理由が分かる。

弘明は、鳴子がこのように行動すると分かっていて、その上で彼にA.N.G.00を任せたのだ。
鳴子は既に、ユグドラシルを退職している。
そんな彼からユグドラシルに関する情報が漏れ出ないように、ここで彼を始末するのが目的だったのだろう。

その事実にようやく気がつき、裕司は歯噛みする。
が、時既に遅し。
鳴子とA.N.G.00との戦闘は、幕を開けてしまっていた。


才吾は刻矢の相手をしていた。
二本のキャッスルクラッシュを構え、刻矢へと一直線に走って行く。
刻矢は武器であるアサルトライフル、ドライブドウガンを構えると、その銃口を才吾に向けた。

ドライブドウガンを高速で連射する。
マシンガンの如き弾丸の雨が、才吾を真正面から襲った。
しかしそれでも、彼の脚を止めることは出来ない。
リョウマのボディガードを務めているだけあり、彼の装甲は、並大抵の攻撃では傷一つ付けられなかった。

刻矢はそれを認めると、ドライブドウガンのレバーを動かす。
するとドライブドウガンのパーツが動き、別の形へと変化した。
「銃」という点では先程と同じだが、シルエットは変わり、銃口は比べるまでもなく大きくなっている。
それを見た才吾は、流石に防ぎ切れないと判断したのか、戦極ドライバーを操作した。

『ジャックフルーツ オーレ』

二本のキャッスルクラッシュを振り回し、そこからエネルギーのバリアを作り出す。
変形したドライブドウガンから発射された超火力のエネルギー弾が、その防壁を叩いた。
強大な衝撃が才吾を襲い、バリアにヒビが入る。
だが彼が張ったそれは、遂にドライブドウガンのエネルギーを耐え切った。

才吾が左手のキャッスルクラッシュを投げる。
それは真っ直ぐに飛んで行き、刻矢の真正面まで迫った。
刻矢はそれを、頑丈なドライブドウガンを盾にして防ぐ。

その瞬間、キャッスルクラッシュと一緒に、ドライブドウガンまでもが吹き飛んでいた。
刻矢が驚いた顔で見ると、既に眼前まで近づいていた才吾が、右手のキャッスルクラッシュをバットのように振り上げている。
才吾はキャッスルクラッシュを振り回すと、刻矢の身体を思い切り叩き飛ばした。

頑丈な刻矢の身体が、地面を転がる。
彼は立ち上がるまでの時間を稼ぐため、肩に付いている巨峰を模したブロックを取り外した。
左肩のそれは飛行型射撃メカ「飛道」に、右肩のそれは獣型突撃メカ「武猪」にそれぞれ変形し、才吾を襲う。

才吾は左手を空中に上げ、ドライブドウガンと共に落ちて来たキャッスルクラッシュを掴んだ。
彼は右手のキャッスルクラッシュを構えると、それをハンマー投げのように振り回して投げる。
それは猛スピードで飛道に飛んで行き、それを叩き落とした。

次に、彼は左手のキャッスルクラッシュを両手に持ち直し、走って来る武猪を見る。
そしてタイミングを見計らい、先程と同じように、バッティングの要領で武猪を叩いた。
それを何度も何度も繰り返し、武猪の動きを止める。
そして武猪を掴み上げると、今正に再び飛び立とうとしている飛道に向かって放り投げた。

武猪が飛道に衝突し、再び落ちる。
才吾は最後に、持っていたキャッスルクラッシュで思い切り叩きつけた。
武猪と飛道はバラバラに壊れ、爆炎を上げる。

瞬間、才吾の目の前に刻矢が飛び出した。
拳を握り、素手で才吾を殴りつける。
彼もまた拳を握り、刻矢の顔を殴った。

拳と拳のぶつかり合い。
頑丈な装甲と強靭な肉体を持つ二人の殴り合い。
武器を捨てた彼らは、己と己の本気を出して戦い始めた。


潤と白夜は睨み合っていた。
どちらも共に相手の出方を窺っており、一向に動こうとしない。
腹の内を探り合っているばかりで、行動に移そうとは全くしていなかった。

埒が明かない。
痺れを切らした潤が、オリーブレイドを構えて一気に飛び出した。
それに合わせ、白夜もカキ極彩弾を投げる。

潤はそれを、滑らかなフットワークで華麗に避けた。
それを見た白夜が、戦極ドライバーを操作する。
潤の頭上に、巨大なカキのオーラが現れた。

『ホワイト カキ オーレ』

彼を包み込んでしまえる程に大きなそれは、一気に落ちる。
そして莫大なエネルギーの塊が潤を押し潰すと同時に、盛大に爆発した。
辺り一体が燃え盛り、煙と粉塵が舞っている。
その中で、白夜は驚愕した表情を浮かべていた。

煙の中に、潤が立っている。
まるでダメージなど受けていないと言うように、先程と同じ位置に彼はいた。
ソニックアローを構える彼のシルエットが、宙を舞う粉塵に映る。

潤「新世代を舐めるな。」

彼は怒りの混じった言葉と共に、一直線に飛び出した。
白夜は咄嗟にフェアリースノーを取り出すと、光線を空中に向けて放射する。
それはランダムに屈折し、潤を襲った。

が、潤はギリギリまで光線を見逃すと、自分に当たる直前、ソニックアローの刃でそれを弾き返す。
光線は地面に当たると、そこを軽く吹き飛ばした。
潤の走りは止まらず、どんどんと白夜に近づいていく。

そのとき、白夜が背中のブースターを起動した。
目を見張る程のスピードで潤まで近づくと、フェアリースノーを刀身のようにして前へ突き出す。
その場でソニックアローとフェアリースノーが鍔迫り合った。

そこでようやく、潤は自らの失策を知る。
幾ら新世代と言えど、相手は特大のブースターを装備しているのだ。
彼は段々と押され始めた。

白夜は仮面の下で笑う。
午前にも目の前の相手と戦い、敗北した。
その借りを、今ここで返す。
彼はブースターの出力を上げ、潤を押していった。


鳴子は戦闘開始直後、サワーフラッシャーから強力な閃光を放った。
辺り一体が白くなり、何も見えなくなる。
これは彼の常套手段の一つだった。
これで相手の視界を奪い、攻撃を加えるのだ。

しかし、今回ばかりはケースが別だった。
相手はアンドロイド、しかもあのリョウマが作り上げたA.N.G.00だ。
この技は、きっと効かない。
裕司は頭の中でそう考えながら、辺りが見えるようになるまで待っていた。

白い世界が色を取り戻し、ようやく視界が戻る。
裕司が目を開けると、そこには既に、地面に倒れている鳴子がいた。
A.N.G.00は天を仰ぎながら、再び叫びを上げる。

A.N.G.00「!!」

強力な衝撃波が辺りを揺らした。
裕司はその場に立っている事が叶わず、思わず膝を着く。
しかし鳴子は、それに負けじと立ち上がった。

鳴子「うぉぉぉおおおおおお!!!」

彼は両手のツインビーラーを構え、A.N.G.00に斬りかかる。
A.N.G.00も、アルテモイヤとエレメントガーターを掴みそれを受けた。
大きく身体を動かしながら、鳴子の双剣とA.N.G.00の剣と盾がぶつかり合う。
しかし、やはりアンドロイドの反応速度には追いつけないのか、徐々に鳴子が押され始めた。

鳴子「ならこれだ!」

彼は叫び、後ろへ跳ぶ。
空中で姿勢を整えながら、戦極ドライバーを操作した。
そして着地すると同時に、両腕のサワーフラッシャーをA.N.G.00に向ける。

『カクテルフルーツ オーレ』

ロックシードのエネルギーがサワーフラッシャーに流れ込み、周りの光を吸収した。
サワーフラッシャーがビーム状の刃を無数に形成し、それらを一気に放つ。
それぞれの刃は、不規則な飛び方をしながらA.N.G.00を襲った。

しかし彼女のカメラアイは、それらを全て捉える。
A.N.G.00は迎撃しようと、ターゲットを一時的に鳴子からそれらに変更した。
アルテモイヤを構え、全ての刃を打ち払わんとする。

『カクテルフルーツ スカッシュ』

そして、それこそが鳴子の狙いだった。
A.N.G.00の意識が刃に集中した瞬間、彼は再び戦極ドライバーを操作する。
ツインビーラーにエネルギーが流れ込んだ。
彼はそれを大きく構え、A.N.G.00に向かって跳ぶ。

鳴子「終わりだ!!」

ツインビーラーが、A.N.G.00を斬り裂いた。
同時に、全ての刃が彼女に突き刺さる。
が、裕司は苦い顔を崩さない。
それはある確信から来ていた。

鳴子「…何!?」

そしてそれは、不幸にも当たってしまう。
鳴子のツインビーラーは、A.N.G.00を斬ってなどいなかった。
その刃は彼女の結晶状の鎧に阻まれ、本体には傷一つ付けていない。
更にビーム状の刃も、全てその鎧によって砕かれていた。

A.N.G.00が、ターゲットを鳴子に設定し直す。
彼女は鳴子の首を掴むと、そのまま放り投げた。
アンドロイドの力で投げられた彼は、公園の大木に激突する。

鳴子「がっ!!」

彼は苦痛のあまり、声を上げた。
A.N.G.00はそんな事は気にせず、追撃を行うために近づいて行く。
このままでは、鳴子の死は確定だ。

裕司「…ええい!」

そのとき、裕司が動いた。
後で文句を言われようと関係ない。
この件を任されたのは自分だ。
その自分が見ているだけなど、職務を放棄しているのと同じじゃないか。

それでは主任として、部下である三人に顔向け出来ない。
何よりも、娘の手本になるべき全世界の父親の一人として、このままでは鶴魅に顔向けが出来ない。
彼は自分を納得させるかのように、頭の中で言った。
彼はゲネシスドライバーを装着すると、ロックシードを解錠しながらA.N.G.00に向かって叫ぶ。

本日はここまでにしたいと思います。
疑問、質問、提案等、いつでもお受けしております。

気になった点があれば、いつでもご指摘ください。
ですが、あまりキツい言葉は、出来るだけ遠慮していただきたいと思います。

乙乙!
A.N.G.00に勝てる未来が見えない
人造人間ならともかくサイボークって
でもなんかWに出てきたバイオ?ドーパントが頭をよぎったのはなんでかな?
ミッチスマイルはまぢ天使!!!

>>111さん
サイボーグ…ではなく、完全なアンドロイドですね。

頭部以外がアンドロイドだった硝子の身体を少し改造。
その上で頭を取っ払い、純粋なロボットの頭部に変更。
そこへ、リョウマが作ったコンピュータとプログラムを入れてあります。


こんばんは。
本日も始めていきます。

『メロンエナジー』

裕司「A.N.G.00!!」

『ロックオン』

ロックシードをゲネシスドライバーに施錠する。
A.N.G.00が彼の叫びに反応し、こちらを向いた。
裕司の頭上に、半透明の果実が現れる。
ゲネシスドライバーのグリップを握り、一気に押し込む。

『ソーダ!』

裕司「変身。」

『メロンエナジーアームズ』

キャストパッドが展開し、エネルギーが絞り出された。
巨大なメロンが回転しながら、彼の頭に突き刺さる。
そして特徴的な変身音と共に、鎧へと展開する。

裕司はソニックアローを構えて走り出した。
それに応えるかのように、A.N.G.00も飛び出す。
新世代アーマードライダー最強と、新世代アンドロイド最強の一騎打ち。
その火蓋が、遂に切って落とされた。


胡桃は苦戦していた。
彼女が得意とするのは、基本的に遠距離攻撃である。
そもそも彼女は新世代アーマードライダーであるマリカになるまで、近接戦闘など行った事は滅多になかった。

無論、今は戦闘訓練を行い、通常のアーマードライダーとなら当たり前に善戦出来るまで成長している。
だが、それはあくまで相手が一人だった場合だ。
今回の相手は二人、しかも片方が近接戦闘を行い、片方が援護射撃を行って来る。

彼女は桂治のクワギロチンをソニックアローで受け止めた。
が、その隙を完璧に突き、光実がジャアク龍砲を放つ。
強力な黒紫色のエネルギー弾が、クワギロチンを跳ね返そうとしていた胡桃を襲った。

胡桃「っ…」

彼女は地面を転がるが、すぐに体制を立て直し、膝立ちの姿勢になる。
ソニックアローを構えると、即座に二連続で衝撃波の矢を放った。
それらは正確に、光実と桂治に命中する。

光実はその衝撃に吹き飛び、後ろに倒れた。
が、桂治はクワギロチンを使い矢を叩き折ると、胡桃に向かって走り出す。
胡桃は彼に、連続で矢を浴びせようとした。

しかし次の瞬間、彼女の左手を光実が撃ち抜いた。
その攻撃で、胡桃はソニックアローを取り落としてしまう。
そしてそれを拾って構え直すまでの一瞬で、桂治が彼女の眼前に迫った。

胡桃「がっ…!」

胡桃は宙を舞っていた。
ソニックアローを拾い直した彼女の身体を、桂治がクワギロチンで叩き飛ばしたのだ。
更に地面に落ちるまでの間に、光実がジャアク龍砲で胡桃にダメージを与える。

胡桃「がっ! かはっ…」

空中でエネルギー弾を撃たれた彼女は、その痛みが少しも引かぬ間に地面へ叩き付けられた。
全身を電撃のような痛みが走り、身体が痺れる。
そうして動けない彼女に照準を合わせ、光実は此処ぞとばかりにジャアク龍砲を連射した。

胡桃「…!」

胡桃は苦痛のあまり、声を出す事も出来ない。
それでも、追撃が躊躇われる事はない。
光実がジャアク龍砲の連射を終えたと思うと、それとほぼ同時に、彼女の身体が持ち上がる。

胡桃「っ!」

桂治がクワギロチンで胡桃を挟み込み、上へ持ち上げていた。
強力な力で挟まれ、彼女の身体にクワギロチンが食い込む。
その状態のまま、桂治は戦極ドライバーを操作した。

『クワノミ スカッシュ』

クワギロチンの力が増し、更に膨大なエネルギーが胡桃の身体に流れ込む。
それは彼女の体力を奪い去り、意識を遠のかせていった。
その様子を眺めていた光実は、仮面の下でニヤリと笑う。

が、これで終わりではなかった。
胡桃が力を振り絞り、ソニックアローを桂治の脳天に叩き刺したのだ。
同時に、ピーチエナジー ロックシードのエネルギーが、彼の身体を駆け巡る。

桂治「!!」

彼は思わず、胡桃の身体を投げ出した。
彼女は宙を飛び、地面に落ちる。
そのまま伏せって動かなくなり、変身が強制解除された。

虚ろな視界で確認すると、ゲネシスドライバーが壊れている。
先程の桂治の攻撃エネルギーから胡桃を護るために、ゲネシスドライバーがそのエネルギーを吸収したのだろう。
秀が詠多のウイルス攻撃を受けたときと、同じように。

リョウマ『手を貸そうか?』

そのとき、彼女の通信機から声が聞こえてきた。
いつもと変わらない、どうでも良さげな抑揚で。
それでも今の胡桃にとっては、それが最も頼りになる声でもあった。

通信に答えるため、声を絞り出そうとする。
しかしどう頑張ってみても、それが叶う事はない。
そんな彼女に、光実が歩いて近づいて来る。

光実「そろそろ終わりだよ。」

彼はそう言うと、ジャアク龍砲の銃口を胡桃に向けた。
彼女はリョウマの通信に答えようと、必死に努力する。
しかし、それは虚しくも無駄な努力だった。

彼女は無意識から、倒れた状態で頷く。
だがそんなジェスチャーで答えたところで、通信先のリョウマに届くわけはない。
死を覚悟し、胡桃は静かに瞳を閉じる。

リョウマ「あっそ。じゃ、面倒臭いけど、特別に助けてあげようかな。」

その声は、すぐ後ろから聞こえた。
それは微睡んでいく彼女の意識を、強制的に引き戻す。
痛む身体を転がすと、そこには確かに、バイクに跨ったリョウマがいた。


所々に青色の朝顔が描かれた、白く美しいボディ。
見た目は全く普通のバイクと同じだが、これには特殊な機能がある。
それはメーカーの近くにあるスイッチを押す事で、視認を不可能にする特性迷彩と、レーダーから消えるステルスフィールドが張られるというものだった。

アサガオタイフーン


光実「いつの間に…?」

現れたリョウマの姿に、彼も疑問を口にする。
その声には、驚きと焦りが聞き取れた。
この事から推測すると、どうやらリョウマが姿を現したのは、本当にたった今だったようだ。

リョウマ「別に教えたって構わないよ? この試作段階のロックビークルを使ったってね。」

戦闘開始前の光実の口調を真似ながら言う。
リョウマはロックビークルから降りると、それを錠前の状態に戻してポケットに仕舞った。
そして相変わらずの相手をイラつかせる表情で、光実と対峙する。

突如この場に現れた、正にイレギュラーなリョウマ。
それがどんな変化をもたらすのか、この場にいる誰もが予想出来ない。
それでも胡桃にとっては、彼がある種の希望である事に変わりはなかった。

潤は鍔迫り合ったまま、白夜に押されていた。
踏ん張り押し返そうとするが、パワーレベルが違い過ぎる。
彼はそのまま押され続け、遂に溜まった力によって吹き飛ばされた。

潤は地面に倒れる。
その衝撃で、ソニックアロー取り落としてしまった。
ソニックアローは彼の手を離れ、すぐには届かない位置まで滑る。
その一部始終を見ていた白夜は、即座に戦極ドライバーを操作した。

『ホワイト カキ スカッシュ』

多量のカキ極彩弾が、一気に宙を舞う。
そして潤に向かって、それらが同時に飛んでいった。
絶え間ない爆発のラッシュに、潤は再び吹き飛ばされる。
白夜はとどめを刺すために、フェアリースノーの銃口を向けた。

強力なエネルギーが、その銃口に収束していく。
これをまともに喰らえば、流石のあいつも一溜まりもないだろう。
白夜は仮面の下で笑い、トリガーを引く。

だが次の瞬間、白夜は後ろに吹き飛んでいた。
何が起きたのか、二人とも分からない。
潤は驚き、顔を上げる。
そこには、一台のロックビークルが到着していた。


モスグリーンに灰色が入った、小型の装甲車型マシン。
台に乗った灼煙砲台には可変構造として、エネルギー弾を放つ機能も搭載されている。
更にこのロックビークルは、自走砲として使用する事も可能だった。

ターバコンバット


そのロックビークルから、一人の女性が降りて来る。
その人物を、潤は知っていた。
と言うよりも、ユグドラシルタワーに入った事のある人間で、彼女を知らない人間はいないはずだ。

愛花「大丈夫ですかー?」

それはユグドラシルタワーの地下一階で働いているバーテンダー「マナ」だった。
彼女の本名(かどうかは定かではないが)である「木陰 愛花」を知っているのは秀とリョウマだけなので、無論潤は知らない。
それよりも疑問なのは、どうして彼女が此処にいるのかだ。

潤「どうして…」

愛花「戦極さんに言われたんですよー。もしかしたら危ないかも知れないから、助けてあげてって。」

そのとき、白夜が起き上がった。
彼は新しく現れた敵である愛花に向かって、フェアリースノーから光線を放つ。
潤は愛花を背中に庇うように立ち上がると、それをオリーブレイドで足元に弾いた。

潤「下がってろ。こいつは…」

愛花「何カッコつけてるんですか。無理しても勝てませんよ?」

潤「知るか。この場であいつと戦えるのは…」

愛花「勝手に決めつけないでくださいよー。」

愛花は可愛らしい声でそう言うと、何と戦極ドライバーを取り出した。
潤は驚愕した表情で、それを見る。
何故、彼女がそれを持っているのだろうか。

潤「どうしてそれを…」

愛花「郡山さん、覚えておいた方が良いですよ?」

しかし愛花は、彼の疑問には一切答えなかった。
そして戦極ドライバーを装着し、ロックシードを取り出す。
それを可愛らしく構え、解錠した。

『ホップ』

愛花「男のコが思ってる程、女のコは弱くないんです。」

『ロックオン』

黄緑色の実が彼女の頭上に現れる。
それを確認し、ロックシードを戦極ドライバーに施錠する。

愛花「変身。」

ロック調の待機音が、彼女らのいる一帯に響き渡った。
彼女は楽しそうな声でそう言うと、ロックシードを斬り開く。

『ホップアームズ』

待機音が止まり、巨大なホップが彼女の頭に突き刺さる。
それが展開し、ミリタリー風の鎧へと変形した。

『ミス・コマンド!』


緑色の模様が入った淡い青色のスーツに、黒色が刺された分厚い装甲。
鎧には、毬花と呼ばれるホップの松かさのような部分を模した装飾が施されていた。
頭部の兜鎧には照準用のバイザーが隠されており、その下の仮面には赤色の鋭いツインアイ。
武器は二丁のハンドガン、ドットホップだ。

仮面ライダーバンデット ホップアームズ


愛花は変身完了直後、即座にドットホップから弾丸を放つ。
それらは綺麗に、白夜の手に命中した。
その攻撃を受け、彼は思わずフェアリースノーを落としてしまう。

そうして時間を稼ぐと、愛花は振り返ってターバコンバットに近づいた。
その灼煙砲を切り離すと、それは大型狙撃銃へと変形する。
同時に、照準用のバイザーが赤いツインアイを覆った。

彼女は、白夜がフェアリースノーを拾い直した一瞬の隙を貫く。
強大なエネルギーと衝撃が、彼を人形のように吹き飛ばした。
愛花はバイザーを戻すと、潤に言う。

愛花「今ですよ。」

潤「言われなくても分かってる。」

潤は既に愛花の近くにはいなかった。
ソニックアローが落ちていた場所まで移動し、それを構え直している。
そしてゲネシスドライバーからロックシードを取り外すと、それをソニックアローに施錠した。

『ロックオン』

ソニックアローを引き、照準を合わせる。
強力なエネルギーのオーラが、ソニックアローの周りを渦巻いた。
彼は倒れている白夜に向かって、一息にそれを発射する。

『オリーブエナジー』

桁違いの威力を誇る衝撃波の矢が、白夜の身体を撃ち抜いた。
彼の身体が、盛大な爆炎を上げる。
同時にその爆炎の陰で、何かが飛び出していった。

愛花「いやー、終わりましたね。」

愛花はどうでもよさげに言いながら、変身を解除する。
それに合わせ、潤も変身を解除した。
が、その表情は硬く曇っている。

あいつは、午前中にも俺が倒したはずだ。
だが現に、あいつはたった今も現れた。
そして今も、確かに倒したはずだ。
でもきっと、あいつはまた現れる。

潤「何なんだ、あいつは…」

彼はそう呟きながら、愛花と共にその場を後にする。
一体どんなカラクリなのか、はたまたあいつ自身のD.C.としての能力なのか。
彼は様々な想像を巡らせながら、ホウセンカハリケーンで走り出した。

裕司の振り下ろしたソニックアローは、重い音を立ててA.N.G.00のエレメントガーターとぶつかった。
彼女は間髪入れずに、アルテモイヤを振りかざす。
しかしその切っ先が、裕司を捉える事はない。

彼はA.N.G.00の攻撃を予測し、ソニックアローが受け止められた瞬間、彼女の土手っ腹を思い切り蹴り飛ばしていた。
A.N.G.00の身体は後ろに吹き飛び、そのためにアルテモイヤは、彼を傷付ける事が出来なかったのだ。
裕司は即座にソニックアローを持ち替えると、弓を引き絞る。
そして空中で体制を立て直していたA.N.G.00を撃ち抜いた。

対処が遅れたA.N.G.00は、空中での姿勢制御が上手く出来ず、そのまま吹き飛び倒れる。
裕司は追撃を加えるため、ソニックアローを構えて走り出した。
だがそのとき、立ち上がった鳴子が噛み付く。

鳴子「手を出すなって言っただろう!」

裕司「黙れ、 死ぬぞ!」

鳴子「卑怯な手を持って勝つぐらいなら、死んだ方がマシだ!」

裕司「アンドロイド相手に、卑怯もラッキョウもあるか!」

鳴子「いつか、相手が誰であろうと礼節を持てって言ってたのは、何処のどいつだ!!」

裕司「何だと!!」

二人の口論がヒートアップしていく。
そしてそれを待っている程、A.N.G.00は賢くなく、甘くない。
彼女は跳ね起き、戦極ドライバーを操作した。

『アテモヤ オーレ』

エレメントガーターにエネルギーが纏われ、そこからチェーンが伸びる。
彼女はそれを掴むと、エレメントガーターを思い切り放り投げた。
チェーンに繋がれたエレメントガーターが、まるでフリスビーのように飛んでいく。

裕司「! どけ!」

エレメントガーターが、鳴子に迫った。
それを視認した裕司は、間一髪で彼を突き飛ばす。
その代わりに、強力なエネルギーを纏ったエレメントガーターは、裕司に命中した。

裕司「がぁ!!」

それは彼の身体を吹き飛ばし、ゲネシスドライバーを真っ二つに斬り裂く。
空中で、裕司の変身が解除された。
そして生身の彼の身体が、公園の地面を転がる。

鳴子「裕司!」

まずい、と言う意識と共に、それはA.N.G.00へとシフトした。
彼女はエレメントガーターを手元に戻すと、一気に裕司に向かって走り出す。
鳴子はツインビーラーを構えて跳ぶが、スピードが段違いだった。

間に合わない。
彼の頭を、最悪の予想が過る。
だが、果たしてそうはならなかった。

『ハクトウ スパーキング』

突然甘い空気が漂い始めたと思った途端、A.N.G.00が動きを止めたのだ。
A.N.G.00も突如起きた変化の原因を探ろうと、レーダーとカメラをフル稼働させて周りを見渡している。
しかしその動きは段々と、目に見えるスピードで衰えていった。

裕司「何だ…?」

裕司もその光景を見て、戸惑いを露わにしている。
そして遂に、A.N.G.00は俯いたような状態で動きを止めてしまった。
更に、それを見越していたのか、新たに四人のアーマードライダーがその場にやって来る。


赤紫色のスーツに、黒色の差し色が入った茶色と橙色の鎧。
その全身は、まるでゴムのような質感をしていた。
四角いバイザーの仮面。
武器は両腕から精製されるトリモチ爆弾、チューインサッポウだ。

仮面ライダーゲベト サポジラアームズ

濃い目の黄色に緑色が混じった鎧。
凹凸状のプレートアーマーが、黒色のスーツを覆っていた。
右手に持ったドリル状のランス、ラセンランスと、円形の盾、アグリバッシュが武器である。

仮面ライダーベルゼ アグリアームズ


橙色のスーツに、ほぼ同色の鎧。
和風のそれはオレンジ鎧に似ており、アクセントカラーに緑色が入っていた。
武器は緑色の柄と橙色の刀身を持つ小太刀、穏蜜と、同色の刀、柑撃だ。

仮面ライダー武蔵 ミカンアームズ


上半身は白色に紅色、下半身は紅色に白色が入ったスーツ。
腰部は袴状で、手首には着物のような意匠が入っていた。
緑色の鎧はオレンジ鎧とよく似ているが、所々にリベットがある。
武器は、今は腰に差している小太刀、雷鳴小太刀だ。

仮面ライダー麗夢 ライムアームズ


彼らは全員、右手にタンクとホースが付いた何かを持っている。
それらをA.N.G.00に向けると、レバーを押した。
すると白い冷気が、一気にA.N.G.00を包み込む。
動きを止めたA.N.G.00を、彼らは急速冷凍していった。

鳴子「おい待て!」

何が起こったか分からず、鳴子は彼らを止めようとする。
が、その瞬間、強力な一陣の風が彼を吹き飛ばした。
鳴子は地面に倒れながら、見上げる。
そこには、また新たな二人のアーマードライダーが現れていた。

鳴子「お前らは…」

妖花「さぁ、誰でしょう?」

木陰「…」

妖花がパチンと指を鳴らす。
すると木陰が、その右手を空中に掲げた。
右腕の装飾が橙色に光り、右掌から同色の波動を放出する。
そして昨日の胡桃達と同じように、裕司と鳴子の見ている空間が歪んだ。

裕司「くっ…」

二人は思わず目を閉じる。
次に彼らが目を開けたとき、もうそこには、木陰達も四人のアーマードライダーもA.N.G.00もいなかった。
代わりに、彼らの目の前には、一人の男が立っている。

鳴子「! お前は…!」

???「お久しぶりです。交野君、二月君。」

その姿を見た瞬間、鳴子は驚いたような声を上げた。
それに対し、その男は挨拶で返す。
そして裕司が、苦々しい声でその名を呼んだ。

裕司「瓦鋳(かわらい)…」

立っていた男の名は、瓦鋳 嶺二(かわらい れいじ)。
元々ユグドラシルに所属していた、裕司と鳴子の同期だった。
鳴子が立ち上がりながら、嶺二に聞く。

鳴子「何しに来た…?」

嶺二「障害になるであろうものを、先に片付けに来ただけです。」

『ビワ』

そう答えると、嶺二は戦極ドライバーを装着した。
同時にもう片方の手で、ロックシードを解錠する。
彼の頭上に、巨大な果実が現れる。

『ロックオン』

少し席を外します。

ロックシードを戦極ドライバーに施錠した。
流れ出す和風の待機音をぶった切り、ロックシードを斬る。

『ソイヤッ』

嶺二「変身。」

『ビワアームズ』

巨大なビワが、彼の頭に突き刺さる。
それはゆっくりと展開し、鎧へと変形した。

『奸雄上等』


黒色のスーツに、銀色の入った橙色の陣羽織を模した鎧。
クラッシャーの代わりに髭のようなパーツが存在し、頭部には銀色をした三又の兜飾りが付いていた。
複眼は緑色のものが二つと、兜飾りの中央と一体化した赤色の第三の眼がある。
武器はギターにも変形する大型軍配団、琵琶弦配だった。

仮面ライダー曉 ビワアームズ


鳴子「障害になるであろうもの…? 一体どういう事だ?」

嶺二「こういう事です。」

鳴子は嶺二が目の前で変身した事に疑問を覚えながらも問う。
瞬間、彼は琵琶弦配で叩き飛ばされていた。
彼は地面を転がりながら、嶺二に叫ぶ。

鳴子「おい! いきなり何しやがる!」

嶺二「先程言ったでしょう。」

鳴子「さっきだぁ?…! そういう事か…」

鳴子はようやく理解した。
嶺二は昔の仲間を助けに来たわけではない。
むしろ反対で、この場で潰しに来たのだ。

彼は即座に跳び上がった。
ツインビーラーを構え、一息で嶺二との距離を詰める。
目と鼻の先まで迫ると、鳴子はツインビーラーで連続斬撃を放ち始めた。

嶺二はそれを、冷静に琵琶弦配を盾にして防ぐ。
鳴子は何とか隙を突こうとするが、嶺二は無駄な動きを省いた最低限の動きだけで、彼の攻撃を防いでいた。
ワンパターンな攻撃では駄目だ。
そう気づいた鳴子は、嶺二の胴を蹴って後ろへ跳ぶ。

『カクテルフルーツ スパーキング』

空中で戦極ドライバーを操作すると、サワーフラッシャーから特殊なエネルギーが空中へ放たれた。
それらが日光を受けた途端、強靭なエネルギーエッジに変化し、嶺二を襲う。
更に、鳴子はツインビーラーにエネルギーを込め、彼に突撃した。

『ビワ スカッシュ』

無数の刃が、嶺二を襲う。
しかし彼は慌てず、戦極ドライバーを操作した。
ビワを模したエネルギー弾が、無数に彼の周りに現れる。

彼はそれを、琵琶弦配で扇ぐようにして一斉に放った。
光の刃を、エネルギー弾で相殺する。
そして鳴子が振りかざしたツインビーラーも、彼はエネルギーを纏った琵琶弦配で防いだ。

鳴子「ちっ…」

鳴子は自らの得意技が防がれた事に舌打つ。
そんな彼に向かい、嶺二は淡々と言い放った。
同時に、戦極ドライバーを操作する。

嶺二「貴方は確かに優秀なアーマードライダーです。ですが…」

『ビワ オーレ』

嶺二「攻撃パターンがとても読みやすいのですよ。」

今までよりも更に強力なエネルギーが、ツインビーラーと鍔迫り合っていた琵琶弦配に流れ込んだ。
彼は鳴子の身体を蹴って隙間を作ると、それを一気に振り上げる。
下から上へ、斬撃が鳴子を斬り飛ばした。

鳴子「がぁぁぁああああああ!!!」

彼は地面を転がり、ぐったりと倒れ込む。
変身が強制的に解除され、中から傷だらけの身体がが露わになった。
裕司はすぐに、鳴子に駆け寄る。

裕司「交野!」

出血量、傷の数とそれぞれの深さ、呼吸、意識、鼓動、それら全てを瞬時に確認した。
裕司は携帯電話を取り出し、登録してある番号をコールする。
それは、今も了が入院している場所。
ユグドラシル直轄の総合病院の番号だった。

嶺二「二月君、覚えておいてください。」

裕司「…」

嶺二「我々は『アカツキ』…あなた方の上に立つ者です。」

携帯電話から焦れったいコール音が響く中、嶺二は彼に背を向けて去って行く。
数秒のコール音の後、担当の人間が電話に出た。
相手が何か言い始める前に、裕司は電話口に叫ぶ。

裕司「二月だ! 今すぐ救急班を中央公園ど真ん中の湖まで寄越せ!!」

普通の人間であれば、もっと詳細な情報も聞かれるだろう。
だが重役の一人である裕司の名前が出た瞬間、それは全て後回しになる。
最優先事項は、彼に言われた『中央公園ど真ん中の湖』に救急班を寄越す事だ。

裕司「…アカツキ、だと…」

彼は携帯電話を切り、嶺二が去って行った方を睨む。
苛立ちと疑問とが混じった声が、自然と口から漏れ出た。
だがそれよりも先ず、今はまだ、やるべき事がある。

裕司は即座に頭を切り替えると、鞄から市販の水のペットボトルを取り出した。
ネクタイを解き、Yシャツを脱ぐ。
それをアーミーナイフの鋏で適当に切り裂くと、すぐに鳴子の傷の手当にかかった。


リョウマは相手をイラつかせる表情で、光実達の前に立っていた。
彼は研究室で潤と胡桃のバックアップをしていたのだが、どちらも一人では確実に任務を遂行出来ないだろうと判断した。
だから知り合いである愛花に潤のサポートを任せ、自分は胡桃のサポートに来たのだ。

彼は一旦、視線を倒れている胡桃に移す。
それから、転がっている壊れたゲネシスドライバーを見た。
そして溜息を吐くと、愚痴るように言う。

リョウマ「…全く。特任部ってのはいつからドライバーを壊す部署になったんだい? 一人一台壊すのがノルマなのかい?」

胡桃「…」

リョウマ「それとも何だい? 皆で僕を虐めてるのかい? これで裕司まで壊してたら洒落にならないよ。」

彼はそう言いながら、それを回収した。
実際にその洒落にならない事態が、他の場所では起きていたが。
そんな事は露も知らない彼は、それを鞄に仕舞い、再び光実達に向き直った。

リョウマ「随分と、僕の知り合いをボロボロにしてくれたね。こんなんじゃ、実験材料にだってなりゃしない。」

光実「さっきからゴチャゴチャ言ってるけどさ…君、一体何なんだい?」

リョウマ「え? もう開発者の顔を忘れちゃったの? それは少し傷付くなぁ…」

瞬間、リョウマの瞳が狂気に染まる。
懐からゆっくりと、戦極ドライバーを取り出した。
その片頬が釣り上がる。

リョウマ「僕はユグドラシル・コーポレーション研究部長、戦極 リョウマ。」

光実「…」

リョウマ「またの名を、アーマードライダーフィ…」

しかし、その続きは言えなかった。
突如猛スピードで、才吾が吹き飛んで来たのだ。
彼はリョウマの横を掠めると、老人ホームの壁に激突する。
衝撃でその壁の一部が崩れ、彼の変身も強制解除された。

才吾を投げ飛ばしたのは、紛れもなく刻矢だ。
彼はドライブドウガンを拾い直すと、才吾と、新たに現れたリョウマを見る。
才吾は立ち上がる事も出来ず、ぐったりとしていた。
そんな二人を順繰りに見た後、リョウマは冷たい目を二人に向けながら、吐き捨てるように言う。

リョウマ「…あのさ、僕が折角カッコよく決めてたんだけど? 何でこのタイミングで邪魔するかな? それともやっぱり、皆で僕を虐めてるのかい?」

そんな台詞と共に、彼は戦極ドライバーを腰に当てた。
それは他の戦極ドライバーと違い、ベルトが伸長されない。
代わりに背骨のようなオーラパーツが彼の腰に巻き付き、それが歪んで銀色のベルトに変化した。

ロックシードを取り出す。
他のそれと違い、果実など描かれていない。
そこには肋骨のようなものがデザインされていた。

『フィフティーン』

それを解錠すると、彼の頭上に時空間の裂け目が現れる。
それは普通のジッパーのようではない。
ベルトと同じく、ゴツゴツとした背骨のようだ。

裂け目の周囲とその奥からは、紫色の禍々しいオーラが漂っていた。
その中から、巨大なフルーツではなく、人間の頭蓋骨が降りてくる。
彼はそれを気にも留めず、ロックシードを戦極ドライバーに施錠した。

『ロックオン』

流れ出すのは、ロック調の待機音。
それを聞きながら、少し踊るようにステップを踏む。
そしてカッティングブレードを下ろし、ロックシードを斬り開いた。

瞬間、巨大な頭蓋骨が、彼の頭部を覆う。
半開いている頭蓋骨の口元から、笑うリョウマの顔が覗いていた。
彼は楽しそうに、その台詞を言う。

リョウマ「変身。」

その声は頭蓋骨に反響し、とても薄気味悪く響いた。
ロックシードから流れる変身音は、関節がコキコキと鳴るような音。
それに悲鳴と歌声を混ぜてメロディーにアレンジしたような、不気味な音楽だ。

頭蓋骨の背面からベルトと同じ背骨のようなオーラが伸び、彼の背中にピタリと張り付く。
更にその両側から肋骨のようなオーラが何本も生え、彼の身体を抱き締めるように囲った。
そして頭蓋骨、背骨、肋骨がぐちゃりと身体に貼り付き、スーツへと変化する。

黒一色の仮面が不気味に光った。
全身から紫色の波動が放たれる。
誰もが潜在的な恐怖を覚える中、彼の変身が完了した。


鎧が装着されていない、スーツだけの姿。
黒と銀のシンプルなカラーリングで、額には金色の「十五」という装飾が付いていた。
人骨をイメージさせるデザインに、特徴的な白いたてがみ。
右手には、不気味な剣を握っている。

仮面ライダーフィフティーン


胡桃も、才吾も、光実も、刻矢も、桂治も、彼の異様な変身に目を奪われていた。
リョウマが剣に力を込めると、ロックシードから紫色のエネルギーが流れ込む。
彼はそれを光実に向け、その場で大きく振った。
紫色の波動が剣から放たれ、目にも留まらぬ速さで飛んでいく。

光実「がぁっ!!」

それは光実に回避する暇も与えず、彼を後方彼方まで吹き飛ばした。
何とその一撃で、彼は変身を強制解除されてしまう。
そこでようやく、その場にいる全員が、フリーズしていた状態から動き出した。
桂治すぐに反応し、リョウマに向かっていく。

彼のクワギロチンが、リョウマに迫った。
しかしリョウマは、余裕綽々な態度で剣を振る。
それは何の抵抗もなく、綺麗にクワギロチンを斬り落とした。
驚愕の表情を浮かべる桂治を、リョウマはヤクザのように蹴り飛ばす。

桂治は地面に倒れ、変身が強制解除された。
リョウマがつまらなそうにそれを眺めていると、無数の弾丸の雨が、彼の背中に降りかかる。
しかし幾ら弾丸が当たろうとも、彼がそれでダメージを受けているようには見えない。
リョウマはゆっくりと振り向くと、刻矢を見て言った。

リョウマ「そっか。そう言えばもう一人いたんだったね。」

彼が振り向くと同時に、刻矢はドライブドウガンを変化させる。
トリガーが引かれると、超火力のエネルギー弾がリョウマを襲った。
しかし彼は、慌てた様子を微塵も見せない。

リョウマはゆったりとした態度のまま、剣に紫色のオーラを纏わせた。
煩そうに、それを一振りする。
すると、何とエネルギー弾が真っ二つに斬り裂かれ、彼を挟んで両脇後方に着弾した。

リョウマ「あの黒潮を投げ飛ばしたところを見ると、結構パワータイプみたいだね。」

刻矢は驚き、ドライブドウガンを取り落としそうになる。
リョウマはそんな彼を見ながらそう言うと、新たに別のロックシードを解錠した。
頭上に、通常と同じ形の、時空間の裂け目が現れる。

『マンゴー』

リョウマ「なら、これかな。」

『ロックオン』

戦極ドライバーにロックシードを施錠する。
ロック調の待機音が流れ出し、辺りに響いた。
彼は再び短くステップを踏むと、ロックシードを斬り開く。

『マンゴーアームズ』

巨大なマンゴーの一部が展開し、彼の頭に突き刺さる。
そして細部が変形し、鎧として纏われた。

『ファイト オブ ハンマー』


黒と銀のシンプルなスーツに、赤、橙色、黄色の派手な鎧が装着されている。
上半身は頑丈な鎧に包まれているにも関わらず、腕や下半身は変わらず骸骨のようなデザインのせいで、随分とアンバランスにも見える姿だ。
仮面は目元から口元まで橙色に染まり、同色の頑丈そうなメットの上からは、彼のアイデンティティである白髪が生えている。
武器は剣に代わり、新たにメイス、マンゴパニッシャーが装備された。

仮面ライダーフィフティーン マンゴーアームズ


リョウマはマンゴパニッシャーを構えると、刻矢に近づいていく。
刻矢はもう一度ドライブドウガンを構え直すと、先程と同じエネルギー弾を放った。
しかしそれもやはり、リョウマのマンゴパニッシャーの一振りで防がれてしまう。
刻矢は覚悟を決めると、ドライブドウガンを捨てて彼に向かっていった。

彼がリョウマを殴り飛ばそうとした瞬間、リョウマはマンゴパニッシャーで刻矢の身体を叩く。
経験した事もない力が、彼を襲った。
内蔵が全て破裂するのではないかと思われる程の衝撃を受け、刻矢は光実達の方へ吹き飛ぶ。
そして倒れ込むと同時に、変身が強制解除された。

光実「…これは、少しまずいかもね。」

光実はそう言うと、懐から錠前を取り出す。
それに合わせ、刻矢と桂治も錠前を取り出した。
全員がそれらを解錠し、空中へ投げる。
それらは別々のバイクへと変形し、彼らの元に降り立った。

本日はここまでにしたいと思います。
疑問、質問、提案等、いつでもお受けしております。

気になった点があれば、いつでもご指摘ください。
ですが、あまりキツい言葉は、出来るだけ遠慮していただきたいと思います。

卑怯もラッキョウもあるか・・・・
シザースくんでしたっけ?
ボルキャンサーくんのゴハンになった人
リョウマくんの無双、これってライダーロックシードとかもでてくるんですかねぇ。
どっちにせよまっているのは地獄以外の何者でもないでしょうけど
今のうちに敵の人に手を合わせておきます<ガッショウ

乙でした
ラッキョウはシザースもそうだけどやっぱりメフィラス星人の台詞かな。
アカツキにD.C.、A.N.G.00とかなり厄介そうですね……。
それと今思ったんですが、T.S.D.ってトライアル戦極ドライバーの略だったりします?

あれ、今日はお休みかな?

メロン兄弟対決決着!
しかもショタミッチキタコレーーーーーーーー!!!
兄弟対決を制したのは道種くん
どんっどん堕ちていきますっ!
童顔×僕×弟×フワサラヘアー×闇堕ち×巧みな話術なんて私特すぎるっ
さぁて、甘さを捨てた甘々フェイスのミッチくんの活躍に期待大です!
紫のライダーって私好みの人が多い中!浅倉くんと同立一位!あぁ、浅倉くんの理不尽で不条理なイライラの捌け口にも成りたいし
ミッチくんの自分に心地良いだけの嘘の中で溺れたくもあると言う感じなんですよ!
私は基本、コウタくん見たな熱血は嫌いですけど、お兄ちゃんと兄貴分とでミッチの事を助けたい的な事を言ってたのでよしとしましょう
コウタくん、以外にも嘘つきの気持ち解ってるじゃないですか!
私(嘘つき)的には救われますよぉ。
まぁ、それ以上にイラ付くケド(笑)
とゆーか、嘘に慣れ始めた頃は皆あんな風に自分と嘘を分けようと躍起になるんですよねー、まぁ、それも自分を守る為の嘘だって気付いて『あぁ、本当の自分なんてもう捨てちゃったんだ』って気付いた時からが真のウソツキなのだよ(・`ω・)
強盾お
かが兄
っ無ち
たくゃ
 てん
 も 





まぁ、紘太も舞に隠し事してたからだろうな

龍玄は紫ライダーというより緑ライダーなんですが

>>127さん
すみませんが、ライダーロックシードは出て来ません。
このスレでは、レジェンドライダーは出さない方針を取っております。


>>128さん
S.D.はそうですが、Tはもう1つ意味を持っていたりします。
T.S.D.事件に関しては最後の方で説明されますので、もう少しお待ちください。

メフィラスの台詞でしたっけ…
>>1は「よそう…」の台詞しか思い出せません。


>>129さん
昨日は腹痛でした。
報告が遅れて申し訳ありません。


>>130さん
そう言えば、ライダーで水落ちと言えば生存フラグですね。
果たして、貴虎は本当に死んでしまったのか…


>>131さん
最近、いつから嘘を吐くのが悪いことだと思わなくなったのかなと思います。
多分、それがシド辺りの言う「大人になる」ということなんだなぁと。


こんばんは。
本日も始めていきます。

>>132さん
すると、レンゲルに近い感じですね。

禍々しい赤色をしたバイク。
それにミサイルやバルカン砲など、本来であれば必要ない武装が施されている。
所々に金色が入ったそれは、異世界のロックビークル、マンドラゴラタイフーンとよく似ていた。

ヒガンバナアタッカー


光実はヒガンバナアタッカーに、刻矢はサクラハリケーンに、桂治はローズアタッカーにそれぞれ跨り、走り出す。
去り際、光実はヒガンバナアタッカーに搭載された重火器から、無数の弾丸を放った。
一部はリョウマを攻撃するために、一部は地面に撃ち煙幕を作るために。
そして土煙が立ち上り、三人の姿は全く見えなくなった。

リョウマ「…やれやれ、逃げられちゃったか。」

土埃の中から、リョウマの姿が露わになる。
その身体に、重火器による傷は一つも付いていなかった。
彼は変身を解除すると、アサガオタイフーンをバイクの状態に変形させる。

リョウマ「その傷なら、自力で帰って来れるでしょ?」

彼は胡桃と才吾を見てそう言うと、アサガオタイフーンに跨って走り去った。
非情な対応に見えるが、これが普通だ。
胡桃は虚ろな視界で、リョウマの後ろ姿を見送った。

戦極 リョウマ。
ユグドラシル・コーポレーション研究部長であり、いつも研究室にいる男。
アーマードライダーに変身する事は薄々分かっていたが、まさかあんな姿だとは思いもしていなかった。

そもそも、彼が変身したアーマードライダーはおかしかった。
第一に、果実ではなかった。
第二に、鎧が装着されていなかった。
第三に、パワーが桁違いだった。

新世代アーマードライダーですら倒せなかった相手を、彼は一撃で変身解除まで追い込んだのだ。
その戦闘能力は、一体何処から来るのか。
ロックシードか、戦極ドライバーか。
それとも、彼自身か。

胡桃は起き上がりながら、目の前で起きた事を考えていた。
だがその答えは、どれだけ考えたところで分からない。
疑問は止め処なく湧いてくるが、今はそれよりも先ず、自分の身体を癒す方が先だ。
彼女は血と汗でベッタリと身体に張り付いてくるライダースーツを疎ましく思いながら、サクラハリケーンを変形させた。


秀「お疲れ様でしたー。お先に失礼しまーす。」

午後6時。
仕事が面倒臭いという理由だけで、彼は定時に帰宅する事にした。
ノルマは達成しているので、別に構わないはずだ。

秀「…まぁ、俺しかいないんだけどね。」

それに、今は咎める人もいない。
照明などを落とし、タイムカードを押す。
そして高速エレベーターに乗り込むと、一気に地上まで下りた。

駅に向かって歩き出す。
ヒップホップミュージックを聞きながら、彼は取り留めもない事を考えていた。
考えなくてもいいような事が、別段すぐに忘れても構わないような事が、頭の中で浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。
そんな中、フッと、彼の頭に残ったものがあった。

昨日会った少女、月斬…月斬…
…月斬…何だっけ?
斬月のお陰で苗字はハッキリ覚えているが、肝心の下の名前が思い出せない。
彼はしばらく考えてから、まぁ、どうでもいいかと結論を出した。

とにかく彼女、月斬ちゃんはどうなっただろうか。
昨日、結構キツく言ってしまったような気がして、今更心配になってくる。
深く考えたり、重く抱え込んだりしてしまっていないだろうか。
その悪い考えは、心の中で段々と大きくなっていった。

そしていよいよ、確かめなければ気が済まなくなる。
彼は自他共に認めるバカなので、こういう気持ちのコントロールが出来ない。
気になった事は、確かめずにはいられないのだ。
深く考えてしまっていないだろうかという事を、彼自身が深く考えてしまっていた。

彼はクルリと踵を返すと、駅とは反対の方向へ歩き出す。
確か彼女の家は「月斬刃物店」と言う店だったはずだ。
そこは以前にも歩いたところなので、迷わず行ける。
彼は私立天河学園高等学校の横を通り抜け、河原を過ぎり、足早に道を歩いた。

しばらく早歩きで進むと、看板が見えてくる。
少し古臭い印象を与えるデザインで「月斬刃物店」とちゃんと書いてある。
ここだ。
彼は店の前まで来ると、何の躊躇いもなく扉を開いた。

内は外の見た目通り、何処となく懐かしさの漂う店内だ。
鑢やノコギリなどの様々な刃物が、合間なくびっしりと並べられている。
普通のデパートでも買えるようなナイフから、明らかに高そうな美しい鋏まで、本当に色々な種類の刃物が彼を出迎えた。
ここには世界中全て種類の刃物が揃っていると言われても信じてしまう程、その量は膨大だ。

彼がキョロキョロと店を見渡しながら歩いていると、ある一本の包丁が目に飛び込んでくる。
それを見つけた瞬間、彼は思わず足を止め、それをまじまじと見つめてしまった。
彼は一人暮らしのため、毎日自炊している。
勿論料理をする度に包丁を使うが、その包丁にも、こんなに美しいものがあるだなんて知らなかった。

それは四角いケースに入れられ、ワインレッドのクッションの上に置かれている。
店内の照明を反射し、その刃がギラギラと光を放っていた。
彼がそれに見惚れていると、店の奥から、年配のお爺さんが出て来る。
見た目からすると、店主だろうか。

店主「いらっしゃいませ。何かご入用でしょうか?」

そう聞かれた途端、秀は言葉に詰まった。
自分は月斬ちゃんに会いに来たのだが、そんな事を言って大丈夫だろうか。
いや、大丈夫じゃないだろう。
悪くすると、通報されてお終いた。

しかしこのまま黙っているのも、やはりおかしい。
万引きと間違われる可能性もあるが、それ以前に、ここは刃物店なのだ。
犯罪を企てていると思われたらまずい。
秀が何とか誤魔化そうと頭を捻っていると、店主の方から話しかけてきた。

店主「そちらの包丁、ですか?」

秀「え?…あ、はい。綺麗な包丁ですよね。」

店主「そうでしょう。こちらは普通に使うと言うよりも、飾ってコレクションするためのものという面が強いんです。」

秀「やっぱりそうだったんですか。」

店主「刃物を集めて飾る人は、結構多いんですよ。貴方もその口ですか?」

秀「俺は違いますよ。でもこの包丁を見たら、集めている人の気持ちも少し分かったような気がしますね。」

店主「それは嬉しい。他にも色々お見せしましょう。」

そう言って店主は、隣にある鋏の棚へと案内する。
秀は何とか誤魔化せた事にホッと胸を撫で下ろしながら、店主について行こうとした。
そのとき、店の扉が開く。
新しいお客さんかな、と秀は何気なく振り向いた。

宝「ただいま…三木さん!?」

秀「…や、月斬ちゃん。」

宝「ど、どうして三木さんがいるんですか!?」

秀「まぁ、ちょっとね。」

店主「お帰り、宝。お兄さん、孫と知り合いだったんですか?」

秀「…えぇ、まぁ…」

宝「…おじいちゃん、少し奥で話してもいいかな?」

店主「そら構わないが…」

お爺さんは、秀を訝しげな表情で見る。
それはそうだ。
大事な孫が、いつの間にか誰とも分からない男と知り合っていたら、誰だって心配するだろう。
秀はそれを察すると、昨日宝に渡したものと同じ名刺を差し出した。

秀「申し遅れました。ユグドラシル・コーポレーション特任部の、三木 秀です。」

店主「ユグドラシルの…特任部とは?」

秀「えっと…まぁ、主に雑務仕事をやる部署です。」

嘘は言っていない。
特任部が、普段は雑務仕事しかやってないのは事実だ。
彼は自力で上手く誤魔化せた事に、心の中でガッツポーズを取っていた。

店主「そうでしたか…孫とは、いつ頃知り合ったのですか?」

秀「…昨日、お孫さんが襲われていたのを、助けたんですよ。」

嘘は言っていない。
ただ、インベスに襲われたと言っていないだけだ。
それにインベスと言っても、この人は分からないだろう。

店主「襲われた!? 宝、本当かい!?」

宝「え、あ、うん! えっと…万引き! じゃなくて…引ったくり!」

店主「そうだったのかい…それは、本当にありがとうございました。」

秀「いえ、いいんですよ。それより、少し奥で話しても大丈夫ですか?」

店主「どうぞどうぞ。ゆっくりしていってください。」

先程の態度とは打って変わって、お爺さんはにこやかに去って行く。
秀は宝に連れられて、店の奥へと入った。
宝はどうやら、お使いから帰って来たところらしい。

宝「それで、どうして三木さんがいるんですか!?」

秀「いや、昨日の事なんだけどさ。俺、結構キツい事言っちゃったかも知れないじゃん? それで、重く受け止めたり、深く考えたりしてないか、少し心配になって…」

宝「そういう事でしたか。心配入りませんよ。三木さんだって、そう言ってたじゃないですか。」

秀「…それにしちゃ、表情が少し暗く感じるけど?」

宝「…よく分かりましたね。出ないようにしてるはずだったのに。」

秀「仕事柄、他人の表情見るのは得意なんだよ。」

宝「…今更ですけど、特任部って本当に雑務仕事だけなんですか?」

秀「今はそういう事にしておこうか。それで、何があったの?」

宝「あ、ちょっとそっちの居間で待っててください。これ仕舞って、お茶淹れて来ます。」

秀「どうぞお構いなくー。」

宝はお使いの袋を持つと、部屋の奥へと入って行った。
秀は言われた通りに、畳カーペットが敷かれた居間に座り込む。
店主のお爺さんの趣味だろうか、居間にも美しい鋏や包丁などが飾られていた。
しばらく待つと、宝が盆に天目茶碗を載せて現れる。

宝「どうぞ。」

秀「どうも。それで、何があったの?」

宝「…」

宝ははちゃぶ台を挟んで、秀の真向かいに座った。
秀はゆっくりと抹茶を飲む。
いい感じの苦さだ。

宝「…実は今日、津村君をデートに誘ったんです。」

秀「…マジ?」

宝「どうして三木さんが驚くんですか…」

秀「いや、まさか即日に実行するとは思わなかった。」

宝「み、三木さんが言ったんじゃないですか!?」

秀「ごめんごめん。それで、どうしたの? …もしかして、振られた?」

宝「いえ、買い物に付き合ってもらうって形ですけど、誘うのには成功したんです。集合時間と場所も決めました。」

秀「…意外とやるじゃん。じゃあ、何でそんなに暗いの? 緊張してる?」

宝「…津村君を誘うのには成功しました。でも…どうしても、京ちゃんにそれを伝えられないんです…」

秀「伝えなければいいじゃん。」

宝「それじゃ、本当に裏切った事になっちゃうじゃないですか。正々堂々勝負しろみたいな事を言ったのは、三木さんですよ。」

秀「じゃあ、伝えればいいじゃん。」

宝「その決心が出来ないから困ってるんです!」

秀「津村を誘う決心は出来たのに、京ちゃんを誘う決心は着かないってか?」

宝「…どうしても、着かなくて…」

秀「…」

秀は一度、溜息を吐いた。
本音を言うと、面倒臭い。
今まで恋愛にそれほど興味がなかった自分からすれば、至極どうでもいい事なのだ。
特に、赤の他人の恋路など。

でも、彼女を嗾けたのも自分だ。
ならその責任も、自分で取らなければなるまい。
それに、この月斬という少女になら、協力する価値がある気がしてならなかった。
何故だかは分からないが。

津村 更季と言う青年の顔を見たとき、俺は違和感を感じた。
そして今は、目の前の少女に、何処か懐かしさを感じている。
この二つの感覚の間に関係があるのかは分からないが、もしもこの場で月斬ちゃんに協力したら、俺はその正体を知る事が出来るかも知れない。
彼は少し考えた後、宝を見て言った。

秀「…ねぇ、月斬ちゃん。」

宝「…はい。」

秀「月斬ちゃんはさ、夏休みの宿題って、先にやっちゃうタイプ? 後に溜めちゃうタイプ?」

宝「…はい?」

秀「夏休みの宿題って…」

宝「いえ、質問の内容は聞こえてます。」

秀「じゃあ、どっち?」

宝「…私は、先に終わらせておくタイプです。昔からお父さ…父にもそう教えられたので。」

秀「なるほどねー。俺は後に溜めちゃうタイプだったんだよ。」

宝「はぁ。」

秀「アレね、最終日がめちゃくちゃキツくなって、結局全部はやって行かないんだよな。それで翌日、先生にどやされるんだ。ま、どこ吹く風なんだけど。」

宝「はぁ…あの、それが何か…」

秀「…月斬ちゃんはさ、どうして夏休みの宿題は、最初に片付けた方が良いんだと思う?」

宝「…それは、今三木さんが仰ったように、後々大変になるからです。」

秀「そうだね。それと同じだよ。後になればなる程、大変な事になっちゃうのは。」

宝「…」

秀の話は終わったが、宝は相変わらず俯いている。
その目には、まだ迷いが残っていた。
当然だ。
秀は軽く頭を掻くと、優しく諭すように言う。

秀「…俺、昨日も言ったじゃん。どっちかしか取れないって。二兎追う者は二兎とも得ずってやつだよ。このままここで悩み続けたら、結果は最悪のものになっちまう。」

宝「…じゃあ、どうすればいいんですか…?」

秀「電話かければいいじゃん。」

宝「…でも…」

秀「大丈夫。京ちゃんって娘が本当に親友なら、思ってるような事は絶対に起きないよ。絶対に。」

宝「…本当、ですか?」

秀「俺が保証する。この俺、ユグドラシル・コーポレーション特任部の、三木 秀が。」

宝「…」

宝は少し黙っていたが、急にクスリと笑った。
それを見た秀も、ふっと息を吐く。
どうやら、またバカな空気に助けられたようだ。

宝「…その肩書き、信用出来るんですか? そんな何やってるのか全然分からない部署の人なんて、信じていいんですか?」

秀「当たり前だよ。結構重要な仕事してる部署だぜ?」

宝「本当ですか? 雑務仕事だってさっき言ってましたけど。」

秀「そりゃ重要な仕事がないときだけだっての。いいか、よく聞け。特任部の本当の仕事は…」

宝「仕事は…?」

秀「…危ねぇ、言っちゃいけないんだった。誘導尋問しやがったな。」

宝「あ、バレました?」

秀「まんまと嵌るところだった。けど企業秘密だよ、企業秘密。悪いが、こればっかりは教えられないな。」

宝「三木さんってバ…単純だから、引っかかるかなって。」

秀「おい、ちょっと待て。今、バカって言おうとしたよね?」

宝「そそそそんな事ないですよ?」

秀「いや、絶対言おうとしたよ。『バ…』って聞こえた。」

宝「き、気のせいじゃないですか?」

秀「…」

取り繕う宝を、秀は軽く睨む。
しばらくその状態が続いたが、急にどちらからともなく笑い出した。
理由は分からないが、何故か笑いが止まらない。
そして一頻り笑った後、秀は確認を取る。

秀「…もう、大丈夫?」

宝「…はい。」

秀「そっか。それじゃ、俺はそろそろ…」

秀はそう言って、抹茶を飲み切った。
それから、よっこいしょと立ち上がる。
が、それを宝が慌てて引き止めた。

宝「待ってください!」

秀「?」

宝「その…独りになったら、また決心が鈍っちゃいそうなので…」

秀「…電話が終わるまで、ここにいろと?」

宝「…」

宝は力なく、コクリと頷く。
秀は小さく溜息を吐くと、先程と同じ場所に座り直した。
抹茶、飲み切らなければよかったな。

秀「じゃ、さっさと掛けちゃおう。」

宝「…はい。」

宝は携帯電話を開いた。
キーを操作し、アドレス帳から京の番号を表示する。
その姿は、傍から見ている秀にも、酷く緊張しているのが分かった。

表情は硬くなり、身体は小刻みに震えている。
秀はそっと、宝の携帯電話を覗いてみた。
本来なら怒られそうなものだが、緊張している宝には、周りが全く見えていない。
画面を見てみると、彼女は京の番号を前にして固まっていた。

秀「…」

秀はしばらく待ってみたが、宝が動く気配はない。
どのくらい時間が経っただろうか。
一時間にも感じるが、実際には五分も経っていないかも知れない。
段々と焦れったくなってきた彼は…

秀「…えい!」

宝「あ!」

宝の指を上から押し、通話ボタンを押してしまった。
彼女が呆然とした目で見てくるが、秀は素知らぬ顔をしている。
そんな宝の目を見て、彼は言った。

秀「ほら、もう後戻りは出来ないよ。」

宝「…」

宝はゆっくりと、携帯電話を顔に近づける。
無機質なコール音が、ピッと止まった。
宝は一度深呼吸し、その重い口を開く。

宝「もしもし、京ちゃん。宝だよ。少し話があるんだけど、今大丈夫かな?……うん。」

秀「…」

秀は宝の横で、固まっていた。
自分には関係ない事のはずなのに、手汗が噴き出て、身体が震える。
鳥肌が立ち、胃が痛くなってきた。

宝「……! そう、クリスマスの話! どうして分かったの!?……うん……うん……!…そう、だったんだ……何?……! うん、分かった。…ありがとう。……うん、じゃあね。」

宝は通話を終え、携帯電話を閉じる。
そして意図が切れた人形のように、ぐったりとした。
秀は喰いつくように宝に聞く。

秀「で! で! どうだった!?」

宝「…京ちゃん、私が津村君と約束したの、知ってました。」

秀「…何で?」

宝「それが…京ちゃんも津村君を誘おうとして、津村君に断られたかららしいんです。そのときに、津村君から聞いたって。」

秀「なるほど…それで?」

宝「…京ちゃんが『今回は、宝に譲ってあげる。』って言ってくれました。これって…」

秀「…試合開始のゴングだろうね…」

宝「…じゃあ…」

秀「…うん、成功だよ…」

呆然とした顔で見つめ合う二人。
それから二人の表情が、満面の笑みに変わった。
その表情のまま、無言でハイタッチを交わす。

今の彼らに、言葉は不要だ。
と言うよりも、言葉が出て来なかった。
それから二人は、店の方に戻って来る。
秀は宝を見ながら、真面目な顔で言った。

秀「明日が本格的な勝負だからね。気合い入れて頑張れよ。」

宝「はい。任せておいてください!」

秀「京ちゃんとの戦いも始まっちゃったからね。ウジウジしてたら、すぐに取られちゃうよ?」

宝「大丈夫です。私、夏休みの宿題は、先にやっちゃうタイプですから。」

秀「ははっ、なら安心だ。」

秀はクルリと踵を返すと、店のドアへ歩いて行く。
昨日と同じく今日もまた、一人の少女の運命を変えてしまったかも知れない。
それが正しいのか、正しくないのかは分からないが。
それでも、そんな事は関係ない。

彼女は自分の意思で、親友と戦う事を決意した。
これから彼女達と更季の三人の関係が、どう変化していってしまうのか、それは秀にも分からない。
でもきっと、もしも関係が崩壊するような事になってしまったとしても、彼女が後悔する事はないだろう。
秀が刃物店から出ようとしたとき、宝が呼び止めた。

宝「あの、三木さん!」

秀「ん?」

宝「今日は、ありがとうございました。」

秀「いいよ。勝手に押しかけたのは、俺だしね。」

宝「また、遊びに来てくださいね。」

秀「…また、いつかね。」

彼は簡潔に別れの言葉を済ませると、一思いに店を出る。
冬のこの時間は、既に夜中のように真っ暗になっていた。
それでも大通りは、多くの人が忙しなく歩いている。

秀は静かに歩き出した。
刃物店から遠ざかる度に、世界がどんどん暗くなっていくような錯覚が襲う。
彼は夜空の星を見上げると、その中で一番輝いているそれを睨んだ。

明日のデート、成功させなかったら承知しねぇぞ。
心の中で、喧嘩腰にそう呟く。
それに応えるかのように、その星が一度だけ瞬いた、気がした。

- 幕間 その4 -


…12月23日、夕方から。

その男の名は、太井 星男(おおい ほしお)と言った。
彼は沢芽市のある交番に勤める警察官だ。
頭も身体能力もそこまで高くはないが、その正義感だけは見上げるものがある。
事実、彼は近所の奥さん方や子供から、とてもよく慕われていた。

長閑な夕方。
冬休みの今は、学校帰りの小学生が交番の前を通らない。
注意する事が減って楽だが、少し寂しくもあった。
そんなゆったりとした時間を過ごしながら、彼は缶コーヒーに口をつける。

星男「うわっ!!」

瞬間、交番が爆発した。
その爆風と衝撃で、彼は吹き飛ばされてしまう。
壁や屋根が崩れ、炎が出ていた。
周りを歩いていた人々は、皆一斉に悲鳴を上げて逃げていく。

『トウチュウカソウアームズ』

星男は痛みに耐えながら、顔を上げた。
粉塵が舞い、何も見えなくなっている。
その中から、一つの影が浮かんできた。
足も手もない幽霊のようなそれは、段々と彼に近づいて来ている。

『Dark Erosion』


焦茶色のスーツに、血管のような赤色が走る黒色の鎧。
手足はなく、巨大なブースターを背負った節足動物のようなシルエットをしていた。
武器は身体の末端が変化した尻尾、フェアリースノーである。

仮面ライダーオペーク トウチュウカソウアームズ

少し席を外します。

その姿が、次第にはっきりと見えるようになってきた。
腰には、戦極ドライバーがある。
アーマードライダーだ。
そう気づいた星男は、すぐに自身も戦極ドライバーを装着した。

『ジャガイモ』

時空間の裂け目が現れ、その中から巨大なジャガイモが降りてくる。
彼は、一度ロックシードを頭上に掲げると、戦極ドライバーに装填する。

『ロックオン』

ハンガーを下ろすと、和風の待機音が流れ始めた。
彼は立ち上がり、ロックシードを斬り開く。

『ソイヤッ』

星男「変身!」

『ジャガイモアームズ』

巨大なジャガイモが、彼の頭に突き刺さる。
それが展開し、ピッタリとした鎧に変形した。

『ミッションスタート』


白と茶色のスーツに、ジャガイモの皮のような色の鎧が貼り付いている。
アクセントに緑色のラインが走るそのシルエットは、警官の制服を連想させた。
右手に持った警棒、ポテロッドは、ファストフードのフライドポテトのようだ。

仮面ライダーペローネ ジャガイモアームズ


星男はポテロッドを構えると、オペークに向かって走って行く。
オペークは、何故か動かない。
星男はオペークにギリギリまで近づき、勢い良くポテロッドを振り下ろす。

星男「やぁっ!」

しかしそのとき、オペークが背中のブースターを起動させた。
高速で飛び立ち、一瞬で星男の後ろへ回り込む。
そしてオペークが頭の中で念じると、戦極ドライバーが自動でロックシードを斬った。

『トウチュウカソウ スカッシュ』

彼の尻尾、フェアリースノーから、強力なエネルギーが放射される。
それは無防備な星男の背中に命中した。
エネルギーが彼の全身を駆け抜け、強烈なダメージを与える。

星男「うわぁぁぁぁああああああああ!!!!」

彼は絶叫し、気を失って倒れた。
だが、まだ死んではいない。
オペークは彼にゆっくり近づき、その身体にグサリと尻尾を刺した。

『ホワイト ジャガイモアームズ』

すると、何とオペークの身体が溶けるように、変身したままの星男と同化していく。
鎧には白い装甲が追加され、ロックシードは白く侵食されていった。
そして現れたのは、潤を二度に渡って襲った、白いアーマードライダーだ。

『ミッションスタート』


茶色のスーツに、ジャガイモの皮のような色の鎧には白色の差し色が入っている。
身体には騎士や天使を彷彿とさせる追加装甲が施されているが、ライドウェアには一切の変更点が見られない。
仮面には騎士風のメットが被さっており、背中には蝶の羽と天使の翼を融合させたようなブースターを装備していた。
そして武器は、元から装備されている警棒、ポテロッドに加え、細長い形状の銃、フェアリースノーを装備している。

仮面ライダーホワイトペローネ ホワイトジャガイモアームズ


オペークの変身者、白夜は立ち上がり、身体を軽く解した。
今度こそ、あいつに引導を渡してやる。
彼は潤の顔を思い浮かべながら、その場に迫るサイレンを背に歩き出した。

- 第四章 : 3バカの登場 -


…12月24日、朝から。

ゆっくりと意識が覚醒する。
それと連動し、彼の瞳がぼんやりと世界を捉えた。
昨日と全く同じ風に覚醒した彼は、ゆっくりと上体を起こす。
視界に景色が生じ始めると同時に、微睡んでいた意識が段々と引き出された。

リョウマ「おっと、お目覚めかい?」

寝起きで感覚が鈍っているはずだが、彼の耳は、その声をはっきりと脳に伝達する。
首を横に動かすと、そこにはプリントの束を眺めているリョウマがいた。
英語で書かれているそれらが、論文なのかレポートなのかは分からない。

リョウマ「心拍数、血中酸素濃度、共に異常なし。他もそれなりだね。」

周りをゆっくりと見渡す。
身体を動かす度に、脳がしっかりと働き出した。
そこは昨日と全く同じ、白い壁で仕切られた特殊な病室。
完璧な立方体の形をした部屋の中は、居るだけで逆に精神を疲弊させそうだった。

ふと、了は自分の身体を見る。
痛みもなければ、傷も見えない。
まるで魔法にでもかかったかのように、彼の身体は元通りになっていた。
彼は背筋に冷たいものを感じながら、リョウマに聞く。

了「…プロフェッサー、少し聞きたい事が。」

リョウマ「ん? 何かな?」

了「完全に回復しているように感じるのですが、眠っている間に、何かしましたか?」

リョウマ「勘がいいね。」

リョウマはそう言うと、ベッドの横に引っ掛けてある器具を取り外した。
言わずもがな、それはレモンエナジー ロックシードが装填されたゲネシスコアだ。
了は何となく、自分の左手首に視線を持っていく。
そして、ギョッとした。

了「…プロフェッサー…これは…」

リョウマ「そ、当たり。」

リョウマの手には、二つのゲネシスコア。
片方にはレモンエナジー ロックシードが装填され、片方にはチェリーエナジー ロックシードが装填されている。
それらのコードの先端が、了の左手首に集中していた。
彼は冷汗をかきながら、更にリョウマに問う。

了「…大丈夫なんですよね?」

リョウマ「さぁ? 何せ初めてやったからね。」

了「…」

リョウマ「もしかしたらインベス化するかなーとは思ったけど。結局しなかったし、見ている側としては凄くつまらなかったよ。」

リョウマは悪びれる様子もなく続けた。
了の質問に答えながら、彼はゲネシスコアからエナジーロックシードを外し、了の手首からコードを抜いている。
ベッドに腰掛けながら、本気で転職を考え始める了。
そんな彼の心情など気にせず、リョウマは言った。

リョウマ「それより、治ったならやって欲しい仕事があるんだ。」

了「何ですか?」

リョウマ「今朝、急に変なクラックが出現してね。調べて来て欲しいんだ。」

了「変な?」

リョウマ「そ。簡単に言えば、少し前に、D.C.07とそのオリジナルを異世界に飛ばした事があったでしょ? あのときと同じエネルギーが感知された。」

了「と言う事は…」

リョウマ「異世界からの訪問者って事だよ。」

了「…分かりました。行きます。」

彼はリョウマの話を聞きながら、普段のスーツ姿に着替える。
備え付けられた洗面器で顔を洗い、髪を軽く梳かした。
素早く歯を磨き、綺麗に髭を剃る。
全ての身嗜みを整え終え、彼はリョウマに聞いた。

了「ですが、そのゲネシスコアを見る限り、ゲネシスドライバーはまだ修理が完了していない様子ですが…」

リョウマ「そうなんだよ。あの後、君と三木に引き続いて、芦原と裕司も壊してね。」

了「…本当ですか?」

リョウマ「マジマジ。本当、君達はいつからそんなにドライバーを壊すようになっちゃったのさ? それともアレかな? 僕の作ったゲネシスドライバーの強度が弱過ぎるのかな?」

了「そんな事より、どうしますか? ドライバーがなければ、いざと言うときに対処出来ないでしょう?」

リョウマ「そんな事ってね…」

リョウマは一度、はぁと溜息を吐く。
それから鞄を引っ掴むと、ゴソゴソと漁った。
そしてその中から、あるものを取り出す。

リョウマ「…ま、いいや。とりあえず、ゲネシスが修理出来るまでは、これ使って。」

彼が取り出したもの。
それは以前まで了が使っていた、戦極ドライバーとロックシードだった。
ライダーインジケータに表示された、アーマードライダーの横顔が懐かしい。

了「これを…」

リョウマ「まだ感覚は覚えてるでしょ。それより、さっさと片付けて来て欲しいんだ。ロックシードを強奪された件も、A.N.G.00の件も、どっちも未だに解決してないんだから。」

了「分かりました。」

了はそう言うと、戦極ドライバーとロックシードを懐に仕舞った。
そしてリョウマと共に、病室を飛び出す。
病院の外に出ると、リョウマはあるものを取り出した。

リョウマ「おっと、忘れ物。」

そう言って、一つの錠前を投げてくる。
了はそれを受け取ると、リョウマと共にそれを解錠した。
錠前が空中で巨大変形し、バイクの形となって降り立つ。

赤い薔薇があしらわれたロックビークル、ローズアタッカー。
青い朝顔があしらわれたロックビークル、アサガオタイフーン。
二人はそれらに跨ると、了は時空間エネルギーが感知された場所へ、リョウマはユグドラシルタワーの研究室へ、それぞれ一気に走り出した。


鶴魅はとあるカフェで紅茶を飲んでいた。
ゆったりとした店内は、雰囲気の通りそれなりに高級なカフェだ。
そんな場所にいて何の違和感も感じさせないという事実が、彼女が上流階級の人間であると証明していた。

彼女はある人物と約束をしている。
だがその三十分程前から、既に彼女はここにいた。
理由は一つ、ある事の確認のためだ。

彼女が再びカップを口元に運んだとき、店の扉が静かに開いた。
入って来たのは、一人の男子高校生。
彼こそ、彼女が待っていた人物でもあった。

彼は鶴魅の姿を認めると、彼女の座っている席に向かって歩いていく。
鶴魅は紅茶のカップを置くと、優しい笑みを浮かべた。
男が席に着くと、二人は挨拶を交わす。

鶴魅「お久しぶりです、月山(つきやま)さん。」

男「よう、鶴魅。」

月山 敦(つきやま あつし)。
彼は鶴魅と同じく、ユグドラシルの幹部の御曹司だ。
同時に、私立彗海学校高等部の二年生でもあり、鶴魅の先輩にも当たる。

敦「悪ぃ、少し待たせたか?」

鶴魅「とんでもございません。急にお呼び致しましたのは私の方です。来てくださって、本当にありがとうございます。」

本日はここまでにしたいと思います。
疑問、質問、提案等、いつでもお受けしております。

気になった点があれば、いつでもご指摘ください。
ですが、あまりキツい言葉は、出来るだけ遠慮していただきたいと思います。

乙でした
オペーク厄介ですね。郡山も苦労するなぁ
郡山は3バカ嫌いだけど裕司のことはどう思ってんだろうか

乙です!
あれは死体を操ってるのか
死にたてホカホカ、今なら二十円引きの死体の脊髄とか脳髄をロックシードのエネルギーで傷を治した時の要領で保存して、そこに自分の意識をインストールして更にロックシードで栄養を体に与えて寄生してるのか・・・・
私の味方では後者ですかね、イニシャライズ技能?の事を考えると寄生か同化をしている可能性を考えますね・・・・・

カトゴリーAにのっとられてる睦月くんみたいな感じ?
あぁ、あの子も大好きです!
おっきいお肉をガブッてワイルドにかじって「チッ、血が足りねぇ・・」とか言われた日にはもうっっっ
何でレンゲルくんだけJとかKフォームがないんだぁーーーーー
って思ったケドあのままでもカリスに圧勝して弱すぎるとか言ってたから普通にブレイドJF以上の強さがある模様
それでパワーアップしてたら多分チートになってたと思います

異次元からの侵入者


ミラモンかな?(すっとぼけ)

>>148さん
白夜は、正攻法では絶対に殺せませんからね…
ちなみに、裕司は同期ではないので、普通です。


>>150さん
イニシャライズ機能ですね。
ムッキーは滑舌が良い分、他の3人より強いんですよ。


>>151さん
いえ、ウツボカズラ怪人です。


こんばんは。
本日も始めていきます。

敦「…俺は鶴魅のためなら、いつだって駆けつけるぜ。」

鶴魅「まぁ、何と頼もしい。月山さんに相談しようと思ったのは、やはり間違いではなかったようです。」

敦「おう…なぁ、そんな堅苦しく苗字じゃなくて…な、名前でいいぜ?」

鶴魅「あら。とても嬉しいお言葉ですが、私は、やはり年上の方には敬語を使うべきかと考えます。」

敦「そ、そうか…それで、相談ってのは?」

敦はウェイトレスにコーヒーをオーダーすると、鶴魅に向き直った。
彼女は紅茶を一口飲む。
それから如何にも悩んでいるという風な表情で言った。

鶴魅「実は…あるご友人の方に、デートに誘われたのです。」

敦「…は?…は!?」

鶴魅「私も、その方が嫌いではないのです。むしろご友人として、とてもお慕いしております。ですから、このお誘いも是非受けようかと考えているのですが…」

敦「いや、ダメだ! 絶対やめとけって!」

鶴魅「あら、どうしてです?」

敦「そりゃお前…ほら…そんな、何処の馬の骨とも知れないやつとデートなんて、絶対危ないっての!」

鶴魅「そうでしょうか?」

敦「そうだって! 絶対!!」

そのタイミングで、ウェイトレスがコーヒーを運んで来る。
敦の興奮した様子を見ても、我関せずと言った表情で去って行った。
鶴魅はまた一口紅茶を飲んで、喉を潤す。

鶴魅「随分と真摯に心配してくださるのですね。私、こんなに良い先輩を持って、とても幸せです。」

そして、柔らかな笑顔を浮かべた。
いつもの微笑とは異なる、満面の笑みだ。
敦の顔が、赤くなった。

敦「…鶴魅のためなら、俺はどんな事でも本気になるさ。」

鶴魅「ありがとうございます。お陰で、決心がつきました。」

敦「! じゃあ、デートはやめるんだな!?」

鶴魅「いえ。」

敦「え?…え!?」

鶴魅「少し、私の考えを聞いてください。」

鶴魅はまた紅茶を飲むと、ふぅと短い溜息を吐く。
さぁ、勝負のときだ。
彼女は今までと変わらない余裕を持った表情で、敦に話しかける。

鶴魅「月山さんは、確かとても強いという噂があります。」

敦「おう…まぁな。もしもの事があっても、鶴魅を護り抜ける自信があるぜ。」

鶴魅「そんな月山さんに、その方がどれくらい強いか、確かめて欲しいのです。」

敦「…どれくらい、強いか?」

鶴魅「はい。勝負方法はお任せします。それでその方が勝ったら、私はデートをお受けする事に致します。」

敦「…俺が勝ったら?」

鶴魅「そのときは…」

彼女はニコリと笑いかけた。
纏われている雰囲気が、少しだけ変わる。
艶かしく光る唇が、ゆっくりと動いた。

鶴魅「…私、月山さんにデートを申し込みます。」

悪女や……

敦「! そうか! よし、分かった!」

敦はそう言うと、席を立ち上がる。
そして威勢良く、店を出ようとした。
そんな彼を、鶴魅は優しく呼び止める。

鶴魅「落ち着いてください。まだその方の名前も、顔写真も見せていません。」

敦「おぉっと、そうだったな。それで、そいつは誰だ!?」

鶴魅「それは…この方です。」

彼女はそう言いながら、一枚の写真を取り出した。
敦は焦ったそうに写真を覗く。
それに写っていた人物は…

鶴魅「聖夜 ルナさん。私と同じ彗海高校一年生です。」

敦「聖夜…よし、分かった。」

鶴魅「よろしくお願いします。ご報告をお待ちしております。」

敦「任せとけ!」

敦は強い語気でそう言うと、コーヒーの代金を払って店を出て行った。
店員が困った顔をしているが、多分お釣りを持っていかなかったのだろう。
鶴魅はゆっくりと緊張を解くと、紅茶のカップを持った。

鶴魅「…一先ず、第一段階は成功、と言ったところでしょう。」

その顔には、先程までと同じ微笑が浮かんでいる。
が、纏う雰囲気は大きく違っていた。
彼女の笑みは暗く、鉛のように黒く染まっている。
暖かな朝の光を浴びる店内で、彼女だけが夜闇の中にいるようだった。

彼女は紅茶を飲み切ると、カップを置く。
敦とルナの決着を、この目で確かめなければならない。
鶴魅が立ち上がったそのとき、ほぼ同時に店の扉が開いた。
入って来たのは、鶴魅のよく知る顔だ。

水面「えーと…あら、二月さんではありませんか。」

鶴魅「あら。お久しぶりです、桃都さん。」

水面「随分と悪い笑みを浮かべていらっしゃいましてよ。」

鶴魅「…出てしまっていましたか。醜いものをお見せしてしまい、お恥ずかしい限りです。」

水面「面白そうな事を考えてらっしゃいましたわね? 私にも教えてくださらないかしら?」

鶴魅「構いませんが、一つ条件が。」

水面「何ですの?」

鶴魅「戦利品は、私がいただきます。」

水面「えぇ、構いませんわ。」

鶴魅「では。」

鶴魅が右手を差し出し、水面がそれを握る。
鶴魅は凶悪な微笑みを浮かべ、水面は邪悪な微笑みを浮かべた。
この二人の思惑は、一体何処にあるのか。
それは当人達を除いて、他の誰にも分からない。


潤は研究室に向かって歩いていた。
少し前にリョウマが病院から帰って来たと思えば、すぐに彼を呼び出したのだ。
彼は研究室に辿り着くと、その扉を開く。

潤「失礼します。」

リョウマ「お、来たね。待ってたよ。」

潤「用件は何でしょう、プロフェッサー。」

やだ、この子ら怖いww

リョウマ「うん。簡単に言うとね、今度あいつと戦闘するときに、ゲネシスドライバーじゃなくて戦極ドライバーでやってって話なんだ。」

潤「…何故です?」

リョウマ「ゲネシスドライバーだと秘密兵器が使えないからだよ。」

潤「…秘密兵器? 何のですか?」

リョウマ「…はぁ…オッケー、少し詳しく説明しようか。」

リョウマの急な命令に、潤は訝しげな表情を見せた。
しかしリョウマは、相変わらずの軽薄な口調で続け、キーボードを叩く。
ディスプレイに、潤が昨日二度に渡り戦闘を行った白いアーマードライダー、つまり白夜の姿を映し出した。

リョウマ「この二体、今までに現れたアーマードライダーとよく似た特徴があるんだ。片方は言わずもがな、ヘルメス。もう片方は九月の始めに現れた、カキの爆弾魔。」

潤「…」

リョウマ「僕の想像通りならね、このA.D.C.03って奴は、きっと幽霊みたいな奴なんだよ。色んなアーマードライダーに取り憑くんだ。」

潤「では、どう対処すれば良いのですか?」

リョウマ「そこでこの秘密兵器だよ。」

リョウマが一つのロックシードを取り出す。
茶色のキャストパッドを持つそれは、潤の見た事のないロックシードだった。
一体、何だろうか。

リョウマ「これを使えば多分…いや、絶対に殺せるよ。」

潤「…本当ですか?」

リョウマ「僕を信じろって。それと、それを使うためには戦極ドライバーが必要でしょ?」

そう言うと、今度は別のロックシードと戦極ドライバーを取り出した。
変身用のロックシードと、そのための戦極ドライバーだろう。
潤は素直に、それらを受け取る。

リョウマ「それじゃ頑張ってね。今度こそ、仕留めるんだよ。」

潤「了解しました。」

潤は研究室を出た。
このロックシードを彼は始めて見るが、リョウマが「秘密兵器」と言った時点で嫌な予感しかしない。
外へ出て、ホウセンカハリケーンをバイクに変形させる。
白夜との決着よりも、先ず自分が無事に帰って来れる事を祈りながら彼は走り出した。


白夜は路地を歩いていた。
変身した状態で、私立天樹高等学校を目指しながら。
ユグドラシルの息がかかっている学校を潰すのが、彼の仕事だった。

彼は先ず、扱いやすい身体を得ようとした。
そしてあるユグドラシルの支部を襲い、ヘルメスの身体を手に入れた。
だがその少し後に、潤に敗北し身体を失ってしまった。

次に彼は、刑務所にいた猫山 反己(ねこやま はんき)という男を襲い、無理矢理変身させて取り憑いた。
それから彼は、彗海、天樹、天河の中から、手始めに天河学園高校を襲おうと思い立った。
が、そこへ向かう途中、またもや潤に敗北し身体を失った。

そして今、彼は交番で太井 星男という警官の身体に取り憑いた。
彼は交番を離れると、そこから最も近い天樹高校を襲う事にした。
だがまたもや、彼は邪魔される事になる。

聞き慣れたバイクの音が近づいていた。
振り向くと、やはり見慣れたロックビークルだ。
潤はホウセンカハリケーンから降りると、白夜を睨み付けながら言う。

潤「覚悟しろ。今度こそお前の最期だ。」

ホウセンカハリケーンを錠前の状態に戻し、戦極ドライバーを装着した。
ピピッという認識音が鳴り、ライダーインジケータにアーマードライダーの横顔が表示される。
そうして戦極ドライバーのイニシャライズが完了すると、彼はロックシードを解錠した。

『ナタネ』

空中に、時空間の裂け目が開く。
ロックシードを戦極ドライバーに施錠する。

>>157

知らないのか、男は狼だが女は魔物だ
単純な本能じゃないからタチが悪い


そう言えば本スレに彼女のルートに進みたいとのたまう猛者が居ましたな

『ロックオン』

戦極ドライバーから、和風の待機音が流れ出した。
カッティングブレードを握り、一気にロックシードを斬り開く。

『ソイヤッ』

潤「変身!」

『ナタネアームズ』

裂け目から現れた巨大なナタネが、彼の頭に突き刺さる。
それが変形し、鎧へと展開した。

『我、天の遣いなり』


金色のスーツに、緑色が入った黒色の鎧。
西洋風のヘルメスとは異なり、それは和風のシルエットをしていた。
武器は手に持った刀、制菜刀と、腰に差した小槌、菜一振である。

仮面ライダーヘルメス・シト ナタネアームズ


白夜がポテロッドを構えた。
それに合わせ、潤が制菜刀を構える。
潤と白夜の、昨日から続く因縁の戦い。
その第三ラウンドのゴングが今、響き渡った。


聖夜 ルナは歩いていた。
が、その足取りは危なっかしく、フラフラとしている。
目は光を失い、赤く血走っていた。
背中は曲がり、手はダラリと垂れ下がっている。

そんな彼の元に、一人の男が歩いて来た。
ルナはギロリと目玉を動かし、その足音がする方を見る。
そして立ち止まり、後ろに反り返るように背筋を伸ばした。
そんな彼の目の前に、その男は立ち止まる。

敦「お前、聖夜 ルナだな…」

怒りに震え、目は敵意に満ちていた。
そんな彼を、ルナは感情の読み取れない目で見る。
敦はゲネシスドライバーを装着し、ロックシードを解錠した。

『マスカットエナジー』

空中に半透明の果実が現れる。
ロックシードをゲネシスドライバーに施錠する。

『ロックオン』

単調な待機音をぶった切り、右側のグリップを押し込んだ。
キャストパッドが展開し、エネルギーが絞り出される。

『ソーダ!』

敦「変身!」

『マスカットエナジーアームズ』

カップにエネルギーが溜まり、巨大なマスカットが回転しながら彼の頭に刺さる。
それはヒロイックな変身音と共に、鎧へと変形した。


赤色のスーツの腹部に、龍の爪を模した青色のペイントが施されている。
鎧は陣羽織型であり、黄緑色に青色の差し色が入っていた。
仮面は中華風をベースに、スタイリッシュなアレンジがされている。
武器は創世弓ソニックアローの他に、ショットガン、撃龍スカットを装備していた。

仮面ライダー袁龍 マスカットエナジーアームズ

それを見たルナの瞳孔が開いた。
自分を知っている。
アーマードライダー。
そして、自分を襲おうとしている。

導き出される答えは一つ。
こいつも、あいつの仲間だ。
彼は拳を強くに握り、ギリギリと歯軋りする。
憎しみというたった一つの感情が、今の彼を支配していた。

『ロットン オレンジ』

戦極ドライバーを装着し、ロックシードを解錠する。
彼の頭上に、漆黒のオレンジが現れる。

『ロックオン』

ロックシードを戦極ドライバーに施錠した。
一帯に、ロック調の待機音が流れ出す。

ルナ「変身…!」

彼は敦に向かって走り出す。
同時に、ロックシードを叩き斬った。

『ロットン オレンジアームズ』

巨大な果実が、彼の頭に突き刺さる。
それが瞬時に展開し、鎧へと変形する。

『悪ノ道 オンステージ』

敦は撃龍スカットを構えると、近づいて来たルナに向かって強力な一撃を放った。
ルナは吹き飛び、地面を転がる。
そこへ敦は、撃龍スカットで絶え間ない追撃を行った。

敦「おらおらおら!」

エネルギーを纏った弾丸の雨の中、ルナは仮面の下で唇を噛む。
だがその目に宿る殺気は、少しも変わってはいなかった。
彼は銃弾と噴煙の中、一つの錠前を取り出す。
それを解錠すると、空中へ放り投げた。

それが空中でバイクに変形し、彼の足元へ降り立つ。
ルナはマンドラゴラタイフーンに跨ると、敦の方へ走り出した。
備え付けられたバルカン砲が、敦に向かって火を吐く。

敦「おっと…」

ルナから放たれる弾丸に、彼は一旦銃撃を中止した。
敦はルナと同じように、別の錠前を取り出して解錠する。
それはその場で巨大化し、円盤のような形状のロックビークルに変形した。


ラフレシアの花を模した、飛行型ロックビークル。
上空2000mまで飛び立つ事が可能であり、最高速度も他のロックビークルの追随を許さない。
赤色のその機体には、紫色のアクセントカラーが入っていた。

ラフレシアタッカー


彼はその上に跳び乗ると、ルナの頭上高くへと飛び上がる。
その位置から、撃龍スカットを乱れ撃った。
ルナも上空に向かってバルカン砲を放つが、敦はそれをラフレシアタッカーで上手く避ける。

敦「まさかお前もロックビークルを持っていたとはな。」

ルナ「…」

ルナは舌打ちすると、マンドラゴラタイフーンのスイッチを押した。
車体に装備されたミサイルが、発射形態へと移行する。
彼は一旦、敦から猛スピードで離れると、その場で180度ターンした。

ポイントマーカーが、ラフレシアタッカーをロックする。
ルナは即座にミサイルを放った。
敦は撃龍スカットで撃ち落とそうとするが、流石にミサイルのスピードを捕捉する事は出来ない。
ミサイルは見事ラフレシアタッカーに直撃し、それを破壊した。

敦「くそっ!」

盛大な爆発が起こり、敦の身体が地面に落ちる。
ルナは一気にスピードを上げると、敦に向かって走り出した。
そのまま、マンドラゴラタイフーンで彼を轢き殺そうとする。

敦「調子に乗んじゃねぇ!」

それを見た敦は、片膝を立て、中腰の姿勢になった。
撃龍スカットとソニックアローを合体させ、ボウガンのような武器を完成させる。
それを右手で構えると、ゲネシスドライバーを操作した。

『マスカットエナジー スパーキング』

ルナがマンドラゴラタイフーンで近づいてくる。
そして敦に触れるか触れないかの距離まで迫ったとき、彼はボウガンのトリガーを引いた。
超強力なエネルギーが、零距離でマンドラゴラタイフーンを吹き飛ばす。
それは彼の目の前で、盛大な爆炎を上げた。

敦「へっ…」

彼は立ち上がると、腰を伸ばす。
これだけの爆発に巻き込まれれば、誰であろうと無事ではないだろう。
俺の勝ちだ。
敦は得意気な表情で、その場を後する。

『ロットン オレンジ チャージ』

瞬間、爆炎の中から、何かが高速で跳び出した。
油断していた敦の反応が、一瞬遅れる。
彼は反射的に、手に持っていたボウガンで防ごうとした。
そしてルナのナギナタモードが、彼の目の前でボウガンを破壊する。

敦「何…!?」

まさか壊れるとは思っていなかった。
自分は新世代アーマードライダーだ。
こんな五万と量産されているアーマードライダーなんかに、負けるはずがない。
なのに、どうして…

ルナはナギナタモードを解除すると、黒影丸を左手に、無双セイバーを右手に構える。
その二刀で、斬撃のラッシュを始めた。
敦は防ぐ事が出来ず、それを受け続ける。
何とか反撃を試みるが、そこには一切の隙がなかった。

彼は攻撃を受け続けながら、頭の中で繰り返す。
どうして、どうして、どうして…
彼の目は、ただルナの攻撃を映すばかり。
そしてようやく、ある事に気がついた。

そうだ。
この勝負、始まったときから…
…変身前から、既に勝敗は決まっていたのだ。

自分が目の前の男と戦うとき、骨折程度で済ませる予定だった。
病院送りにし、こいつに俺の鶴魅に近づいたらどうなるか、その恐怖を与えるだけで十分だと思っていた。
だが、こいつは違った。
こいつは始めから、俺を殺す事しか考えていなかった。

敦「あぁ…あぁ!!」

それを理解した瞬間、敦の心に恐怖が広がった。
墨汁をぶちまけた半紙のように、それが彼の心を覆い尽くす。
殺される、殺される。
死にたくない、死にたくない。

ルナは、その隙を逃しはしなかった。
無双セイバーを腰に帯びると、空いた右手で戦極ドライバーを操作する。
そして黒影丸を両手で握り締めた。

『ロットン オレンジ スカッシュ』

漆黒のエネルギーが黒影丸に纏われ、荒々しく振るわれる。
今までとは比べ物にならない程の大きな衝撃が、敦を襲った。
彼は吹き飛ばされ、変身が強制的に解除される。
飛んで来たマスカットエナジー ロックシードを、ルナは握りつぶしそうな勢いで鷲掴んだ。

敦「嫌だ…俺は…!」

必死で立ち上がる。
ルナは彼を殺そうと、黒影丸を持って近づいて来ていた。
敦はまた別の錠前を解錠すると、時間を稼ぐために、ルナにゲネシスドライバーを投げつける。
そして錠前が完全に変形すると、素早くそれに跨った。


自転車型のロックビークル。
茶色の車体に、緑色のラインが入っていた。
そのスッキリとしたフレームが、スタイリッシュな輝きを放つ。

タケノコソニック


飛んで来たゲネシスドライバーを、ルナは黒影丸で打ち払った。
煩そうに弾き返されたそれは、地面に叩きつけられる。
再び敦に斬りかかろうとするが、既にそのとき、敦はタケノコソニックを漕ぎ出していた。

自転車だろうとロックビークル。
それはすぐにスピードを上げ、ルナの視界から消え去った。
ルナは悔しそうに歯軋りする。
そしてやり場のない憎しみを、濁った叫びと共に吐き出した。


潤が制菜刀を構え、白夜がポテロッドを構えて走り出す。
二人は同時にそれらを振りかざし、ぶつけ合った。
白夜がポテロッドを振り回し、潤がそれを避ける。
潤が制菜刀を振るい、白夜がそれをポテロッドで受けた。

ロックシードのランク上、普通であれば、制菜刀はポテロッドを簡単に斬り裂けるはずだ。
だが実際には、白夜が取り憑いた事で、ポテロッドの強度は何倍にも跳ね上がっていた。
白夜は接近戦では終わらない事を悟ると、背中のブースターを使い一気に後ろへ下がる。
ポテロッドを収納し、戦極ドライバーを操作した。

『ホワイト ジャガイモ オーレ』

フェアリースノーを取り出し、それを潤に向ける。
ロックシードからエネルギーが流れ込んだ。
それを十分にチャージし、光線を放つ。
強力なそれが、潤に迫った。

『ナタネ オーレ』

瞬間、潤も戦極ドライバーを操作する。
腰から菜一振を掴むと、それを大きく構えた。
ロックシードから、エネルギー流れ込む。
彼は屈折しながら迫る光線に向かって、それを思い切り振り下ろした。

そして、驚くべき事が起きる。
フェアリースノーの銃口から潤の目の前まで迫っていた光線の流れが、凍った滝のように一瞬で固まったのだ。
それを、菜一振がバラバラに砕く。
「光線」という触れる事の出来ないはずのものを、菜一振はまるでガラスのように叩き壊した。

白夜の表情が、驚愕に染まる。
その一瞬の隙を見逃さず、潤はロックシードを取り出した。
それは、リョウマが渡した「秘密兵器」。
何が起こるか想像もつかないが、使うときは今しかない。

『カカオ』

彼は意を決し、ロックシードを解錠した。
空中に時空間の裂け目が現れ、巨大なカカオの実が現れる。

『ロックオン』

それをナタネ ロックシードと交換し、戦極ドライバーに装填する。
和風の待機音など聞かず、すぐにロックシードを斬った。

『ソイヤッ』

巨大なカカオが、彼の頭に突き刺さる。
それが鎧に変形すると同時に、一昨日と同じ現象が起きる。

>>155さん
誰かが言っていました。
騙される方が悪い、と。


>>157さん
夢(野望)に向かって努力する女の子を怖がるなんて…
李呪を投稿してくださった方には申し訳ないのですが…オペークが取り憑ける条件を満たしていて、ちょうど良かったんです。


>>160さん
鶴魅…
書いてる>>1が言うのもなんですが、可愛いでしょう?


少し席を外します。

ああ、郡山も死ぬのか……

『カカオアームズ』

彼の意思が鎧へと乗り移り、鎧だけが宙に浮き上がった。
切り離された身体が、その場に倒れる。

『サイレントコーティング』

白夜が更に驚愕した。
が、それは潤も同じだ。
リョウマに渡されたロックシードで、どんな鎧が形成されるのか、てんで見当もつかなかった。
そして実際には、全てが予想を斜めに上回っている。

一瞬のフリーズ状態から、白夜が復活した。
彼はフェアリースノーを構えると、潤に向かって光線を撃つ。
だが潤は、まるでUFOのようにフワフワと空中を浮遊しながら避けた。

彼も負けじと、その全身からレーザーを放つ。
屈折して飛んで来た光線をカオスグングニルで弾き、レーザーで反撃し始めた。
白夜はそれを、背中のブースターを使って避ける。

『ホワイト ジャガイモ スカッシュ』

いつまでも決着のつかない戦いに、白夜が痺れを切らした。
彼は戦極ドライバーを操作すると、ブースターで一気に加速し、潤に近づく。
目と鼻の先まで迫ると、その眼前にフェアリースノーを突き付けた。
零距離で、必殺の一撃を放とうとする。

白夜「!」

だが、それは失敗した。
彼がフェアリースノーを突き付けたと同時に、何かが彼の肩に絡み付いたのだ。
見ると、それは潤から生えている、マントのような翼だった。

驚いたのは、潤も同じだ。
白夜が仕掛けて来た際、何とか防御を試みようとした。
そのとき、この浮遊するアーマーが、勝手にマントを白夜に絡み付けたのだ。

カカオ鎧は潤の指揮下を離れ、勝手に白夜の頭上へ昇る。
そのままマントを軸にして、白夜の頭に被さった。
その一部が変形し、白夜の上半身と一体化する。
そして潤の意識と白夜の意識が、一つの身体に収まった。


ジャガイモ鎧を完全に覆うように、カカオ鎧が装着されている。
彼のスーツには焦げたようなラインが現れ、カカオ鎧側の灰色の部分は消え去っていた。
白色の装甲とブースターはそのまま残り、カオスグングニルは彼の腕に装備されている。

仮面ライダーホワイトペローネ カカオアームズ


突然の出来事に、潤も白夜もついていけない。
それでも白夜は、何とかカカオ鎧を振り解こうと、身体を動かした。
しかしそれを阻害するように、潤が正反対の動きをしようとする。
結果、白夜の身体は痙攣を起こしたように、ビクッと反応するだけだ。

この状況を打破するため、白夜は星男の身体から離れようとする。
だがカカオ鎧がガッチリと絡み付き、彼を逃そうとしない。
どんな方法を試してみても、彼は星男の身体を離れる事が出来なかった。

白夜は何とか動こうと、全身の力を右腕に集中させる。
潤の意識が入って来ようと、この身体に取り憑いているのは自分だ。
例え潤がどんなに力を込めようとも、自分が集中している限り、完全にその動きを制御する事など出来ない。

白夜の予想通り、彼の右腕は、潤の制御を振り切って動き出した。
彼は右手を戦極ドライバーまで持っていき、それを操作する。
フェアリースノーを構え、両手で強く押さえた。

『ホワイト ジャガイモ スパーキング』

そしてその銃口を、カカオ鎧に押し付ける。
このまま、潤の意思が乗り移っているこれを吹き飛ばしてやろう。
白夜は全意識を、フェアリースノーを押さえる事に集中させる。

『カカオ スパーキング』

だから、気がつかなかった。
ロックシードのエネルギーが流れ込み、カカオ鎧が光った事に。
フェアリースノーの銃口から、強力なエネルギー溢れ出す。
それを一気に解放しようと、白夜はトリガーを引いた。

しかし、実際には引けなかった。
突如、彼はフェアリースノーを取り落としてしまったのだ。
自分でもわけが分からず、白夜は混乱する。
それでもフェアリースノーを拾おうと、即座に腕を伸ばした。

白夜「…!」

そして、気がついた。
自分の手が、ない事に。
まるで熱せられたチョコレートのように、彼の腕はドロドロと溶け落ちていた。

白夜「!」

腕だけではない。
彼の全身が、それと同じように溶け出していた。
それは白夜の身体を包み込み、彼自身をも溶かし始める。

白夜「!!」

彼は声を出そうとするが、出せない。
既に脚が溶け、腰が溶け、胸が溶け、肩が溶け、喉が溶けていた。
そして遂に、彼の頭も溶け落ちる。
人間としてのシルエットを失ったドロドロの物体へと変化し、溶け切ったカカオ鎧と共に地面に貼り付いた。

潤「!!」

瞬間、潤の意識が身体に戻る。
彼が跳ね起きると、カカオ ロックシードが戦極ドライバーから外れ、変身が勝手に解除された。
身体を触り、大きく動かす。
そうやって、自分は何ともない事を確認した。

彼の視界が、既に何の面影もない白夜を捉える。
それはもう、大量のチョコレートが道に貼り付いて固まっているようにしか見えなかった。
潤は通信機のスイッチを切り替えると、ユグドラシルタワーで待機しているヘルメスに繋ぐ。

潤「…回収班を寄越せ。場所は…」

太陽が空高くに昇り始め、陰になっていた路地を照らし始めた。
まるで何もなかったかのように、そこにはゆったりとした時間が流れている。
長閑な午前の路上において、全身から冷汗を流し続ける彼は、傍から見ればとても変だ。
そして今のこの状況こそが、沢芽市の「裏の顔」を、最も端的に表していた。


敦とルナが戦っていた場所から、少し離れた場所。
その丘の上に、鶴魅と水面は立っていた。
一部始終を見ていた水面が、笑顔で言う。

水面「まぁ、随分と強い方ですわ。」

だがそれとは対照的に、鶴魅の表情は険しかった。
作戦が大きく崩れた。
本来であれば、ルナに敦を倒させ、彼に実戦形式の強化訓練を施すと同時に、敦の持つマスカットエナジー ロックシードを回収するはずだった。
敦がルナに接触した時点までは、上手く運ぶと思っていた。

が、実際には、そうはいかなかった。
あの黒いアーマードライダーは、一体「何」なのか。
大方の予想はついている。
あれはきっと、異世界のルナだ。

ならば、と鶴魅は考える。
数秒の黙考の後、彼女は結論を出した。
本体がルナと同じ遺伝子を持つならば、幾らでも使い道はある。
作戦は失敗してしまったが、思わぬ収穫がありそうだ。

鶴魅「それでは桃都さん、行きましょう。」

水面「あら、どちらへ?」

鶴魅「勿論、あの黒いアーマードライダーを倒すのです。」

水面「あらあら、何故ですの?」

鶴魅「言ったでしょう? 戦利品は私がいただきますと。」

水面「…なるほど。大体把握出来ましたわ。」

鶴魅「とても嬉しいです。それでは、参りまし…」

鶴魅は、お嬢様という雰囲気とはあまりにも似合わない、不気味な笑みを浮かべた。
水面もそれに答え、動き出そうとする。
しかしそのとき、後ろから男の声が割って入った。

光実「ちょっと待ってもらえるかい?」

彼女らが振り返ると、そこには三人の男が立っている。
光実は刻矢と桂治の先頭に立って、鶴魅達に近づいていった。
水面が首を傾げる。

水面「あら、どちら様ですの?」

光実「どちら様だろうね。まぁ、君達と似たようなものだと思ってくれればいいよ。」

鶴魅「…何か、御用ですか?」

光実「うん。彼を倒すの、やめて欲しいんだ。だって彼、異世界の『D.C.07のオリジナル』なんだよね?」

水面「D.C.07? 何ですの、それ。」

光実「知らなくてもいい事だよ。兎に角、彼はあの『完璧なD.C.』のオリジナルと同一の存在なわけだ。」

鶴魅「…」

光実「僕も欲しいんだよね。ユグドラシルを潰すための道具として。」

そう言って、戦極ドライバーを装着した。
それに合わせ、刻矢と桂治も戦極ドライバーを装着する。
光実はニヤリと笑い、鶴魅を見た。

光実「一応聞いておくよ。諦めて、僕に彼を渡してくれないかな?」

鶴魅「…わざわざ答える必要のない質問に答えていられる程、私も暇ではないのですが?」

光実「まぁ、そうだよね。」

ギロリと鶴魅を睨む。
その一言が、戦闘開始の合図だった。
光実が一歩下がり、二つの陣営に分かれる。

『マンゴスチン』
『レーズン』
『キョホウ』
『クワノミ』

ロックシードが解錠され、空中に四つの時空間の裂け目が現れた。
彼らはそれを確認すると、ロックシードを戦極ドライバーに施錠する。

『『ロックオン』』

西洋風、機械風、そしてロック調の待機音が混じり合う。
彼らはカッティングブレードを握ると、ロックシードを勢い良く斬り開いた。

>>168さん
ご安心ください。
彼はまだ殺しません。


本日はここまでにしたいと思います。
疑問、質問、提案等、いつでもお受けしております。

気になった点があれば、いつでもご指摘ください。
ですが、あまりキツい言葉は、出来るだけ遠慮していただきたいと思います。

乙でした
いやはや皆が皆、暗躍してますねぇ
しかしこの流れ、やはり鶴魅お嬢様もアーマードライダーとなるか…!

乙でした
いやぁ、カカオが出た時は死んだって思っちゃいました。
こっからこっちの世界のルナ君も参戦するんですね

乙です!
みんな闇過ぎで病み過ぎなのです!
生きたまま、意識を保ったまま溶ける・・・・・トキメクネ♪
あーー、でもあの鎧をどうにかして溶けなくすれば相手と一緒に二人羽織みたいな事出来るんですよねぇ
あー、でもカワイイショタと一緒に溶けたくもあるかもです!

>>173さん
鶴魅がアーマードライダー?
はて、そんなこと、>>1はいつ描写しましたっけ?


>>174さん
そうです。
第四章にて、ようやく主人公が参戦です。


>>175さん
第一章で才吾と冬馬がやったように、息が合えば強力な戦力になりす。


こんばんは。
本日も始めていきます。

『カモン!』
『スタート』
『カモン!』

水面「変身。」
光実「変身。」
刻矢「変身。」
桂治「変身。」

『マンゴスチンアームズ』
『レーズンアームズ』
『キョホウアームズ』
『クワノミアームズ』

時空間の裂け目から現れた巨大な果実が、それぞれ彼らの頭に突き刺さる。
そして各々のものが展開し、鎧へと変形する。

『The Advent of Queen!』
『邪ァ龍 ハッハッハッ』
『装甲!バイン!バイン!バイン!』
『ギロチン オーバーキル』


緑色のスーツに、中華風の模様が描かれていた。
胸の中心で、ブドウが変化した鎧が紫水晶のように輝いている。
右手に持った拳銃、ブドウ龍砲は、全てを撃ち抜く力を秘めていた。

仮面ライダー龍玄 ブドウアームズ


光実「お前はあの黒いアーマードライダーを倒せ。お前はあっちの無駄に豪勢なアーマードライダーだ。」

光実は刻矢と桂治に言う。
彼の指示を受け、二人は頷いた。
軽く首を振ると、光実は水面達の方を見る。

光実「オッケー、それじゃあ始めようか。」

パチン、と彼が指を鳴らした。
空気が動く。
刻矢がルナに向かって走り、桂治が水面に飛びかかり、龍玄と光実が同時に走り出した。


走りながら、龍玄と光実は撃ち合う。
お互いが身軽に攻撃を躱し続けるため、二人のダメージはゼロのままだ。
埒が明かない。
二人は全く同じ考えに至ると、ブドウ龍砲とジャアク龍砲を構えたまま、一旦立ち止まった。

少し離れて、銃を突き付け合う。
光実はジャアク龍砲を右手で掴みながら、左手で別の錠前を解錠した。
折角だ、あの黒いアーマードライダーがやった戦法を真似させてもらおう。
彼はジャアク龍砲を発砲して隙を作ると、即座にヒガンバナアタッカーに跨った。

ヒガンバナアタッカーのマシンガンを撃ちながら、龍玄に向かって走る。
龍玄もブドウ龍砲で応戦するが、そんなもので壊れる程、彼のロックビークルもヤワではなかった。
彼はヒガンバナアタッカーのスイッチを押し、複数のミサイルを展開する。
そして先程のルナと同じように、それらを一気に放った。

全てのミサイルが、龍玄の元に着弾する。
そこから、盛大な爆炎が上がった。
光実は喉の奥でくっと笑う。
俺を甘く見たからこうなるのだ。

光実「…!」

しかし次の瞬間、彼は驚く事になる。
やがて炎の勢いが弱まり、奥が見えるようになった。
だがそこに、龍玄の死体はない。
そこには何もなく、綺麗に龍玄は消え去っていた。

光実「何…?」

彼は疑問に思い、ヒガンバナアタッカーから降りて周りを見渡す。
まだ何処かに隠れているはずだ。
しかし、ジャアク龍砲を構えて全体を見渡すが、何処にも龍玄の気配はない。
光実は警戒したまま、炎に近づいていった。

そのときだ。
突如、後ろにあったヒガンバナアタッカーが大爆発を起こした。
突然の出来事に、光実は対処出来ない。
爆風の勢いで吹き飛ばされ、地面を転がった。

光実「!?」

彼は爆発したヒガンバナアタッカーの方を見て、驚愕する。
そこには、一台のロックビークルがあった。
それから、死んだはずの龍玄が降りてくる。
そんな龍玄の身体には、一つの傷も見受けられなかった。


巨大な脚を持つ、大型ロックビークル。
この世界に存在するどんな乗り物にも似ていないそれは、一見するとカエルのようだった。
前方にマシンガンを備え、更にカモフラージュ機能として、チューリップのホログラムに隠れる仕掛けも施されている。

チューリップホッパー


龍玄はミサイルが当たる直前、瞬時に変形させたこの巨大ロックビークルをシールドにした。
ミサイルが爆発して上がった炎の中で、龍玄はチューリップホッパーに搭乗する。
そしてホログラム機能を使い、一本のチューリップに擬態した。

弱まる爆炎の中でも、小さなチューリップを見つける事は困難だ。
何より見つけたところで、自分の姿が見えずに戸惑っている光実は気にしなかっただろう。
普通であれば炎の中でも燃えずに残っている植物に疑問を抱くはずだが、警戒心に支配されていた光実には、そんな余裕もなかったはずだ。

光実が周りを見渡し始め、後ろを向いたとき、龍玄はホログラムを解き一気に上空へ跳び上がった。
そのまま急降下し、強力な蹴りを放つ。
それは見事、ヒガンバナアタッカーに直撃し、それを踏み潰して破壊した。

龍玄はブドウ龍砲を構えると、後ろのコックを引く。
紫色の龍のオーラが、ブドウ龍砲に纏われた。
そして六つの銃口が、ジャアク龍砲を構えて立ち上がった光実を撃ち抜く。
光実はノーガードでそれを受け、再び後ろへ倒れた。


ローズアタッカーを駆り、了は現場を目指していた。
異世界に繋がる時空間の裂け目が開いたという事は、そこから何者かがあちらの世界に飛んだという事か、又は何者かがこちらの世界に入って来たという事だ。
前者なら余裕を持って対処しても大丈夫だろうが、後者だとそうはいかない。

彼は現場付近に到着すると、念のためにローズアタッカーを降り、錠前の形に戻した。
突然の攻撃などに素早く対処するためには、生身の方が効率が良い。
それから走って現場に着くと、そこでは既に、混沌とした戦場が広がっていた。

六人のアーマードライダーが、それぞれ争っている。
それも三対三というわけではなさそうだ。
そして何よりも驚いた事は、その中に水面がいるという事だった。

その場にいる六人のアーマードライダーの中で、了が知っているのは、半数だけだ。
スポンサーの令嬢である桃都 水面。
「D.C.07事件」の際に脱走したD.C.03 黄昏 光実。
そして正体不明の「ブドウのアーマードライダー」。

それ以外の三人は、全く分からない。
了は黙ったまま、観察を続ける事にした。
どれが異世界のアーマードライダーなのか、誰と誰が仲間で、そもそもどれがユグドラシルにとっての敵なのか。
それらを含め、可能な限りの情報を得ようとする。

だがそのとき、刻矢が了の姿を捕捉した。
彼は擬似記憶の中にあるデータから、了が一体何者なのかを瞬時に把握する。
ユグドラシルのアーマードライダー、つまり自分の敵だ。

彼はドライブドウガンを了に向けた。
了は即座に反応すると、身体を横に翻す。
そして飛んできた火球を、既の所で避けた。

直撃を避ける事は出来たが、火球は少し離れた場所に着弾する。
そこから放たれた爆風に、了は吹き飛ばされた。
地面を転がると、追撃に備えて立ち上がる。

そこへ、異世界のルナが斬りかかった。
了は咄嗟に胴を蹴ると、ルナの体制を崩して距離をとる。
ルナは了に追撃しようとしたが、すぐに刻矢の殺気を感じ取ると、彼が射出した火球を無双セイバーで撃ち抜いた。

火球はルナに着弾せず、空中で爆発を起こす。
再び生じた爆風が、三人を跳ね飛ばした。
これにより、偶然の産物であるが、了は二人から十分な距離を取る事に成功する。

今の短い攻撃で確信した。
この黒いアーマードライダーと青紫色のアーマードライダーは敵同士だ。
そして双方とも、自分達ユグドラシルの敵で間違いない。

了は立ち上がると、戦極ドライバーを装着した。
右手でロックシードを掴み、構える。
レモンエナジー ロックシードとは異なる形状のアンロックリリーサーに懐かしさを憶えながら、彼はそれを解錠した。

『アルソミトラ』

空中に時空間の裂け目が現れ、そここら巨大な翼の付いた種子が降りてくる。
ロックシードを戦極ドライバーに施錠する。

『ロックオン』

歯車の駆動音と警報を重ねたような待機音が流れ出した。
カッティングブレードを掴み、ロックシードを斬り開く。

『スタート』

了「変身。」

『アルソミトラアームズ』

巨大な種子が彼の頭に突き刺さる。それが大きく展開し、鎧へと変形した。

『フライト・オブ・コード』


水色のスーツに、銀色のアクセントカラーが輝く姿。
グライダー状の巨大な翼を背負っていた。
メカニックな鎧に、蒼いバイザーが被せられたツインアイが黄色く光る。
武器は両手に持つレールガン型の武器、U-RINIAだ。

仮面ライダーエアネイド アルソミトラアームズ


自分の腕を見、脚を見、身体を見る。
その場で飛び跳ね、少し身体を動かした。
少し前までの感覚が、鮮明に蘇ってくる。

彼の変身から数秒の後、刻矢はドライブドウガンから弾丸の雨を降らした。
マシンガンのように高速で連射される銃弾が、了に迫る。
しかし彼は全く慌てず、脚を屈めて飛び上がった。

翼で空を切り、宙を舞う。
この感覚、懐かしい。
彼は理由もなく超高度まで上昇すると、そこから急降下を始めた。

空中で片足蹴りの体制を取り、異世界のルナを狙う。
一気に落下してきた彼のキックを、ルナは避ける事が出来なかった。
まるで彼を踏み潰すように、了のキックが炸裂する。
ルナは弾き飛ばされ、地面を転がった。

刻矢はドライブドウガンを変形させると、再び火球を発射する。
了はそれを、後ろに飛び上がって避けた。
同時に、両手のU-RINIAを起動して構える。

その二つの銃口が、刻矢を捉えた。
トリガーを引き、エネルギーを解放する。
それはレールガン状のU-RINIAから、恐るべきスピードで射出された。

刻矢は反応が遅れ、そのまま吹き飛ばされる。
頑丈な装甲を誇る彼も、流石にエネルギーの直撃を完全に相殺する事は不可能だった。
了はそれを認めると、再び上空高く飛び上がる。

楽しい。
その感情だけが、彼を支配していく。
「ユグドラシルの3バカ」に数えられるように、彼もまた冷静で賢明な性格に見えて、実際にはバカなのだ。
今、既に彼の第一目標は「異世界から侵入したアーマードライダーの撃破」から「久しぶりの姿を存分に楽しむ」にシフトしていた。


秀「おはようございまーす。」

特任部に顔を出した秀は、昨日と同じように、タイムカードを挿入してデスクに着いた。
パソコンを起動し、メールをチェックする。
今のところ、新しい仕事は入っていないようだ。

秀「あー…疲れた。」

才吾「今来たばかりだろうが。」

秀「あ? いたのか。」

才吾「あぁ、先程からな。」

秀「マジかよ…全然気がつかなかったぜ。」

彼はデスクに腰掛けながら、冗談めいた言葉を交わす。
しかし気付いていなかったというのも本当だ。
才吾はリョウマのボディガードであり、基本的には研究部にいる。
それが何故、ここにいるのだろうか。

秀「…てか、酷い傷だな。どうした?」

才吾「何、昨日手酷くやられてしまっただけだ。」

秀「お前をそこまでボロボロにするとなると…結構なパワーの持ち主か?」

才吾「あぁ。プロフェッサーによれば、D.C.らしい。」

秀「D.C.か…」

ディスプレイの横に置いてある手鏡に映った才吾の姿は、本当に痛々しかった。
秀はフッと息を吐きながら、それ以上詳しく聞こうとはしない。
と言うのも、詳しく聞いたところで、秀には分からない。

ロックシード云々に関する大半を任されている特任部の一員として、D.C.の基礎的な事は把握している。
だが、本来D.C.は特任部ではなく研究部の管轄だ。
理由は言うまでもなく、D.C.がゲネシスドライバーの試作品だからである。

秀はクルリと椅子を回転させ、背中越しに話していた才吾に向き直る。
そのとき、彼はある事が気になった。
いや、本当は出社したときから気になってはいたのだが、聞く相手がいないから忘れてしまっていたのだ。
折角なので、彼は目の前にいる才吾に聞いてみる事にした。

秀「なぁ、胡桃と主任はどうした?」

そうだ。
いつもはいるはずの胡桃がいない。
裕司は緊急の会議等でいない場合もあるが、今日はそんな連絡も入っていなかった。
才吾は少しだけ間を置いた後、静かに話し始める。

才吾「…二人は、病院だ。」

秀「…マジかよ…」

才吾「本当だ。と言っても、重い怪我じゃない。今も元気に動いているし、午後には完璧に回復するらしい。」

秀「…エナジーロックシードか?」

才吾「…プロフェッサーは、そう言っていた。」

秀「なるほどね…」

色々と不明な点も多いが、今はそんな事はどうでもいい。
とりあえず、二人が無事だと分かればそれでいいのだ。
では、もう一人はどうなっただろう。

秀「了は?」

才吾「もう退院した。しかも間髪入れずに戦闘だ。」

秀「おいおい、大丈夫なのかよ?」

才吾「…多分、心配ないだろう。」

秀「多分ってな…それより、了が戦ってるって事は、アレが修理出来たって事か?」

才吾「いや、ゲネシスドライバーはまだだ。」

秀「じゃあ、戦極ドライバーで対処してるって事か…てか、遅くないか?」

才吾「仕方がない。実はお前と佐野に続いて、芦原と二月主任も壊してしまったからな。」

秀「…マジかよ…」

本日三度目の台詞を言い、秀は椅子の背もたれに寄り掛かった。
改めて思うよ。
ウチの部署はバカばっかりだって。
呆れたように心の中で呟きながら、湧き上がってきた笑いを堪える。

秀「で、お前は何しに来たんだ?」

才吾「ゲネシスドライバーが使えない間、また何か起きたら大変だからな。プロフェッサーから贈り物だ。」

秀「あ? 贈り物?」

才吾は一つのケースを取り出した。
ロックを解除し、蓋を開ける。
その中にあったのは、昨日秀が預けた戦極ドライバーだった。
形は全く変わっていないが、唯一、ライダーインジケータだけがブランク状態になっている。

プロフェッサーが改造した戦極ドライバー。
「リョウマが改造した」という部分で、色々と悪い予感が頭を過る。
普通の戦極ドライバーでさえ、使い方を誤ればインベスに変化してしまうのだ。

その危険性が高まっているか、または新たな危険が潜んでいるのか。
とにかく、何か絶対にマイナス要素があるに違いない。
しかも命に関わる程の。

秀「…分かった。ありがとよ。」

才吾「確かに渡したぞ。じゃあな。」

才吾は空のケースを持って、特任部を去って行く。
その背中を見ながら、秀は心の中で決めた。
このドライバー、使わなければならないとき以外は、絶対に使わない。
どうしても使わなければならない状況に陥った際は、最大限の注意をする。

秀「やれやれ…」

溜息を吐き、再びデスクに向き直った。
どれだけしても意味がない心配をするよりも、今は先ずやるべき事がある。
彼は昨日からやりかけの文書ファイルを開くと、空っぽのやる気を無理矢理に絞り出し、キーボードを叩き始めた。


ルナは一部の通行人から、奇異の視線に晒されていた。
が、本人は全く気がついていない。
今の彼には、周りを気にしている余裕などなかった。

彼が変な目で見られている理由、それは表情と歩き方にあった。
顔はにやけており、瞳はキラキラと輝いている。
脚はスキップして、一定のリズムでダンスのステップを踏んだ。

しかも、それがずっと続いているわけではない。
ときどき急に立ち止まり、不安そうな表情をする。
そしてまた歩き出し、次第にスキップし始めた。

正に不審者。
通報されないのが不思議なくらいだ。
だが当の本人は、自分がそんな怪しい行動をしてしまっている事に、全く気がついていなかった。

もうお分かりだろう。
彼はこれから、彼女である五城 優とのクリスマスデートに向かっていた。
肩から下げたバッグの中には、プレゼントの黄色いマフラーと薄い狐色の手袋が入っている。

期待と不安を胸一杯に踊らせ、待ち合わせ場所に向かっていた。
しかし、そのときだ。
突然、大きな音が耳に飛び込んできた。

ルナ「! 何だ!?」

彼の立っている地面が、僅かに揺れる。
その前に聞こえた大きな音を考えると、地震というわけではなさそうだ。
今まで胸を膨らませていた期待と不安が、一気に消え失せる。

代わって彼の心を支配したのは、疑問と好奇心だった。
彼は昔から、気になった事は確かめたくて仕方がない性格だ。
いつの間にか脚はスキップを止め、音源の方へと一直線に走り出している。

震源との距離はそこまで遠くなく、彼はすぐに辿り着いた。
そして驚くべき光景を目にする。
そこでは七人のアーマードライダーが、乱戦を繰り広げていた。

彼は呆然とその光景を眺めている。
が、不思議と脳内はクリアだ。
むしろ舞い上がっていた先程よりも冷静に働いている。
七人のアーマードライダーを眺めながら、彼は思考を巡らした。

巨大な翼を持つアーマードライダーは知っている。
何度か自分の前に姿を現している、ユグドラシルのアーマードライダーだ。
つまり、敵だ。

ブドウのアーマードライダーも知っている。
が、敵か味方かは判然としない。
それ以外の五人は、全く知らない。

彼は一度アーマードライダー達から視線を外し、辺りをさっと見渡した。
そして、あるものを見つける。
赤色をした何かは、そこから少し離れたところに落ちていた。

さて、ここで目下最重要の問題を考えてみよう。
即ち、自分は一体どうすればいいのか。
戦いを止めるべきか、何者かに加勢するか、はたまた無視してその場を去るか。

だがその答えは、考えるまでもなく出てしまった。
突如目の前に、頑丈そうな青紫色のアーマードライダーが飛んできたのだ。
ゆっくりと思考していた彼の反応は遅れてしまうが、何とか横に転がり、避ける事に成功する。

了「おい、オレンジのアーマードライダー。」

翼を持ったアーマードライダー、了は、黒いアーマードライダー、異世界のルナをU-RINIAで撃ち払いながら言った。
それが自分に話しかけているのだと理解したルナは、彼をちらりと見る。
そして了の口から、とんでもない一言が発せられた。

了「そいつは任せる。」

意味が分からないその一言に、ルナは困惑する。
今のこの状況が全く理解出来ていないのに、目の前のアーマードライダーと戦えと言うのか。
しかもユグドラシルのアーマードライダーである彼とは、敵同士であるのに。

ルナ「は!?」

思わず頓狂な声を上げてしまった。
そのとき、了に弾き飛ばされたアーマードライダーが起き上がる。
刻矢はルナと了が会話しているのを聞き、ある考えに至った。

刻矢「お前も敵か?」

自分の敵と、言葉を交わしている。
つまりこいつは、あいつの仲間に違いない。
彼はそう結論付けると、ドライブドウガンの銃口をルナに突き付けた。

了「ちっ…」

了は舌打ちすると、上空へ飛び上がる。
それで異世界のルナの攻撃を避けると、刻矢にU-RINIAを放った。
予期せぬ方向からの攻撃に、刻矢はバランスを崩して倒れる。

ルナ「くそっ!」

ルナは悪態を吐くと、もう一度転がり、刻矢と了から距離を取った。
敵味方も、この状況も、それに至った経緯も、まだ何一つ分かっていない。
だがこのままでは、それを知る前に死んでしまう。

その事は、火を見るよりも明らかだった。
それだけは困る。
何故ならこれから、大事な優とのデートだからだ。

ルナ「仕方ない…」

彼は小さく呟くと、戦極ドライバーを装着した。
ここで一体何があったのか、そんな事に然程興味はない。
が、それでも戦わなければならない。

『オレンジ』

ロックシードを取り出し、解錠する。
彼の頭上に、時空間の裂け目が円形に開く。
その中から、巨大な果実がゆっくりと降りてきた。

久々の登場がコレか……

『ロックオン』

ロックシードを戦極ドライバーに装填し、施錠する。
戦極ドライバーから、和風の待機音が流れ出す。
彼はカッティングブレードを握り、それを一息に下ろした。

『ソイヤッ』

ルナ「変身!」

『オレンジアームズ』

ロックシードが斬られ、キャストパッドが開く。
空中に浮かんでいたオレンジが、彼の頭に突き刺さる。
それが展開し、鎧へと変形した。

『花道 オンステージ』


群青のスーツに、鮮やかなオレンジ色の鎧。
バイザーはオレンジ色に光り、その上には金色の三日月型の飾りがあった。
腰には無双セイバーを帯刀し、右手にはオレンジを模した刀、大橙丸を持っている。

仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ


刻矢がドライブドウガンを構えた。
ルナは無双セイバーを引き抜くと、大橙丸と連結させる。
ドライブドウガンから放たれる無数の銃弾を、ナギナタモードをバトンのように振り回して防いだ。

ルナ「いくぞ!」

D.C.07のオリジナルであり、黒いアーマードライダーと同一人物である、この世界の彼。
この乱戦が巻き起こった原因に対し、ある意味最も関係ないとも言え、ある意味最も中心にいるとも言える人物。
ルナは弾丸の雨が止むと同時に、ナギナタモードを構えて走り出した。


胡桃はベッドから上半身を起こし、カタカタとノートパソコンのキーボードを叩いていた。
裕司もベッドから上半身を起こし、カタカタとノートパソコンのキーボードを叩いている。
彼らの左手首にはコードが繋がれ、その先にはゲネシスコアがあった。
胡桃のものにはピーチエナジー ロックシードが、裕司のものにはメロンエナジー ロックシードが装填されている。

胡桃「…主任。」

裕司「…何だ?」

胡桃「…元気がありませんね。」

裕司「…ここ最近、忙しくて家に帰れてなくてな。」

胡桃「…ずっと働き詰めですもんね。」

裕司「…いや、仕事はどうにでもなるんだ。ただ…」

胡桃「…ただ?」

裕司「…鶴魅の顔を見れないのが辛過ぎる。」

胡桃「…なるほど。」

この会話中、お互いは一度も相手の顔を見ていない。
どちらの視線も、ノートパソコンのディスプレイから離れない。
別にわざわざ会話する必要もないのだが、同じ病室、それも隣のベッドに直属の上司(部下)がいる状況下で無言というのは、妙に気まずいものがあった。
そのため先程から、中身のない、取り留めもない、他愛もない会話が生まれては消えている。

裕司「…芦原。」

胡桃「…何ですか?」

裕司「…元気がないな。」

胡桃「…今、入院してるじゃないですか。」

裕司「…そうか。元気がなくて当然だな。」

胡桃「…いえ、体調面はもう回復してるんです。ただ…」

>>183さん
けどパワーアップしますし…


少し席を外します。

>>184

娘さん何やら怪しく暗躍してますよ

裕司「…ただ?」

胡桃「…病衣が落ち着きません。」

裕司「…なるほど。」

カタカタカタ。
カタカタカタカタカタカタカタ。
…気まずい。
二人の思考が一致した瞬間だ。

そしてそれは、二人の瞳孔が開かれた瞬間でもあった。
それまで無感情な瞳でディスプレイを眺めていた二人。
そんな彼らの目が、一気に覚醒した。

胡桃「見つけた!」
裕司「見つけた!」

胡桃「…え?」
裕司「…え?」

二人の声が、綺麗にハモる。
どうやらどちらも探し物をしており、それが同時に見つかったらしい。
何たる偶然だろうか。

胡桃「…何を見つけたんですか?」

裕司「…私は、A.N.G.00の居場所だ。芦原は?」

胡桃「私は、奪われたロックシードの場所を。」

裕司「分かった。」

裕司はそう確認すると、携帯電話を取り出した。
あるナンバーをコールし、スピーカーにする。
コール音が三回鳴った後、その人物が電話に出た。

リョウマ『何? 裕司。今は佐野のバックアップ中で忙しいんだけど?』

裕司「A.N.G.00とロックシードの位置を把握したと言ってもか?」

リョウマ『…へぇ。思ったより早かったじゃん。』

電話越しの彼の声が、少しだけ低くなる。
それからガサゴソと、何かを動かす音が聞こえた。
裕司と胡桃が硬い表情で見守る中、再び携帯電話からリョウマの声が流れる。

リョウマ『才吾に戦極ドライバーを持って行かせるから、それまでに動けるようにしといて。』

裕司「ゲネシスコアはどうする?」

リョウマ『そのまま手首に沿うように引き抜けば大丈夫だよ。二人で協力してやって。』

彼はそう言い終わると、一方的に電話を切った。
ツーツーツーと、無機質な音が発せられている。
裕司は通話を終了すると、胡桃を見た。

裕司「だそうだ。」

胡桃「…本当に大丈夫なんですか?」

裕司「他に方法がない。」

胡桃「…」

胡桃は嘆息すると、諦めたように左手首を裕司に差し出す。
裕司は近くに置いてあった、消毒されたガーゼを上から当てた。
それを押さえながら、スッとコードの端子を引き抜く。

少しの間ガーゼで押さえ続け、恐る恐る離した。
すると、そこには既に傷口などない。
裕司は息を吐くと、ガーゼのケースを胡桃に手渡した。

裕司「…よし。次は芦原だ。」

胡桃「はい。」

胡桃も裕司がやったように、ガーゼを当てて端子を引き抜く。
多少ピリッとした痛みが、裕司に走った。
が、それもすぐに治まる。
身体に多少残留したエナジーロックシードのエネルギーが、傷口を一瞬で塞いでしまうからだ。

二人は勢い良くベッドから立ち上がると、それぞれ自分のカーテンを引いた。
お互いに分けられたテリトリーの中で着替え、身嗜みを整える。
それら全てが終わり、再びカーテンが開けられた。
そこには直前までの冴えない病衣姿の二人はなく、ピシッとしたスーツ姿の裕司と、いつもの黒いライダースーツを着た胡桃が立っている。

こちらの最低限の準備は整った。
後は才吾がドライバーを届けに来るのを待つだけだ。
彼らは先程までベッドにいた怪我人とは思えないスピードで、テキパキと細かな支度を続けた。


飛びかかってきた桂治を、水面はマンゴステッキからバリアを張って防いだ。
先程から、桂治が攻撃しようとし、水面がそれを防ぐという構図が続いている。
それもそのはず。
ドレス風の鎧のせいで激しい動きが出来ない彼女と、近接戦闘型の桂治とでは、あまりにも相性が合っていなかった。

だが、そろそろ水面は限界だ。
いや、体力的には問題ない。
攻撃力的にも問題ない。
問題なのは、飽きてきてしまったという事だ。

それは、戦闘相手である桂治も勘付いていた。
戦闘開始直後に比べ、水面の動きはワンパターン化し、面倒臭そうになっている。
そしてそれは、彼も同じだった。
どうすれば攻撃が通るのか分からず、手探りの攻撃ばかりが続き、ダメージを与えられていない。

かくなる上は。
彼は一度、水面と距離を取ると、背中に力を籠めた。
すると、ロックシードからエネルギーが流れ出し、背面に集中する。
それは彼の背中に、虫のような羽を作り出した。

それを羽ばたかせ、空中へと飛び上がる。
今までとパターンの違う動きを見た水面は、僅かに面白そうな顔をした。
それは仮面の下にあり、桂治には見えないが。
桂治は空中を飛び回りながら、戦極ドライバーを操作した。

『クワノミ オーレ』

クワギロチンに、強力なエネルギーが纏われる。
それはクワギロチン自体を包み、巨大なオーラの角を作り上げた。
桂治は羽を仕舞うと、一気に水面へ向かって落ちる。
二本の巨大なクワギロチンで、彼女を挟み込もうとした。

『マンゴスチン オーレ』

瞬間、水面も戦極ドライバーを操作する。
マンゴステッキの宝石部分に、ロックシードからエネルギーが流れ込んだ。
彼女はそれを、桂治に向かって掲げる。
同時に、マンゴステッキに集約していたエネルギーが解放された。

巨大なエネルギーのドームが、彼女を覆う。
その強力なエネルギーシールドと、桂治のクワギロチンとがぶつかり合った。
相反するエネルギーが、互いを消滅させようと競り合う。

だがその二人には、決定的な違いが合った。
エネルギードームの中にいる水面が、マンゴステッキを動かす。
その宝石の先を、バリアに阻まれている桂治に向けた。

本体と繋がっているクワギロチンで攻撃している桂治は、この鍔迫り合い中、動く事が出来ない。
しかし、水面は動く事が出来る。
何故ならぶつかり合っているのは、あくまでエネルギーシールドであり彼女自身ではないからだ。
言わば、防壁の内側から、防壁を破壊しようとしている敵を狙い撃つのと同じだ。

それに気がついたとき、桂治はしまったと唇を噛んだ。
が、時既に遅し。
マンゴステッキの先端から、収束したエネルギーがビームとして放たれる。
それは動けない桂治に命中し、彼を思い切り吹き飛ばした。

地面に叩きつけられ、ゴロゴロと転がる。
だが彼とて、このまま負ける程ヤワではない。
即座に羽を作り出し、再び上空へ飛び上がった。

バリアを張られては、こちらに勝ち目はない。
それが分かった今だからこそ、自分が勝つための方法は自ずと思いつくものだ。
こちらから動けば、シールドを作られ、カウンターを喰らってしまう。
ならば、こちらからは動かず、相手から動くのを待てばいい。

水面は空中を飛び回る桂治を目で追いながら、次の攻撃がくるのを待っていた。
が、幾ら待てども、それはこない。
どうやら相手も、自分の戦法に気がついたようだ。

ならば、やるしかない。
あまり乗り気はしないが、このままではいつまで経っても勝負が着かない。
それは時間が無駄な上に、つまらない。
彼女はそう結論を出すと、戦極ドライバーを操作した。

『マンゴスチン スカッシュ』

マンゴステッキにエネルギーが流れ込む。
先端の宝石部分から、エネルギーで作られた刃が形成された。
彼女はそれを構え、桂治を狙う。
それを見た彼も、勝機とばかりに戦極ドライバーを操作した。

『クワノミ スパーキング』

クワギロチンにエネルギーが溜まり、バチバチとスパークする。
彼はそれを構え、一直線に水面へ近づいた。
クワギロチンを大きく開き、彼女を挟み込もうとする。

が、そのときだった。
水面はマンゴステッキを持ったまま、急に体制を崩したのだ。
まるで何かに滑ったかのように、仰向けに寝転がってしまう。

桂治「!」

クワギロチンは、空を斬った。
空中に浮かぶ桂治の下に、仰向けの水面がいる。
つまり彼の腹部が、無防備な状態で彼女に晒されていた。

これこそが、水面の狙っていた状況だ。
彼女は寝転んだまま、マンゴステッキを構えた。
そして形成されたエネルギーエッジで、桂治の腹部を思い切り突き刺す。
それは戦極ドライバーを破壊し、ロックシードを破壊し、彼自身を破壊した。

桂治「!!」

水面に貫かれた彼は、声にならない叫びを上げる。
そして、盛大な爆炎を上げた。
壊れた戦極ドライバーとロックシードが、水面の上に落ちる。
彼女はそれを、煩そうに払い除けた。

水面「ふぅ…」

彼女は溜息を吐くと、変身を解除する。
それから辺りを見渡し、足元に落ちていた「ある物」を拾い上げた。
壊れた戦極ドライバーでも、破壊されたロックシードでもない。
それは桂治の身体から爆風と共に飛び出した、見た事もないロックシードだった。

黄色く光る、パイン ロックシード。
実際に使わなくとも、エネルギーに満ち溢れているのが分かる。
水面は早速試してみようと思い立ったが、すぐに動きを止めた。
この得体の知れないものを使って、本当に自分は大丈夫だろうか。

そんな風に思うと、みるみるうちに使わない方が良いような気がしてきた。
しかし、やはり気になるものは気になる。
どうすればいいのだろう。

そのとき、彼女の視界に、ある光景が入った。
同時に、名案が浮かぶ。
自分で使いたくはないが、その力は見てみたい。

なら、話は簡単だ。
自分以外の人間に使わせればいいのだ。
彼女はそう考えると、ロックシードをピッチャーのように大きく振りかぶった。

>>186さん
息子や娘というものは、得てして親の期待通りには育ってくれないものです。


本日はここまでにしたいと思います。
疑問、質問、提案等、いつでもお受けしております。

気になった点があれば、いつでもご指摘ください。
ですが、あまりキツい言葉は、出来るだけ遠慮していただきたいと思います。

乙でした
改めて思うがルナくんは本当に災難だったなぁ…

乙です!
ここの光実くんもダーク可愛いです!

>>191さん
不幸な目に逢うのは、主人公の宿命かと。


>>192さん
実はこれを書いていたころは、鎧武のミッチが今ほど黒くないころでした。
差別化するために悪い役にしたのですが、まさかあそこまで酷くなるとは…


こんばんは。
本日も始めていきます。

『ソイヤッ』

ロックシードを斬り開いた。
断面のシードインジケーターが露わになる。

『パインアームズ』

巨大な果実が、ルナの頭に突き刺さる。
それが展開し、新たな鎧となった。

『粉砕 デストロイ』


金色に輝く強固な鎧。
肩の装甲は、腕の先まで長く伸びている。
右手にはチェーンアレイ型の武器、パインアイアンが装備された。
金色のバイザーは、オレンジ鎧と違いU字に光っている。

仮面ライダー鎧武 パインアームズ


ルナはパインアイアンを構えると、それを大きく振り回し始めた。
先程までオレンジ鎧と大橙丸で戦っていた彼だが、それでは刻矢の頑丈な身体に傷一つ付けられない。
その事を悟った彼は、刻矢から一旦距離を取り、ロックシードを換装した。
パワータイプである、パイン鎧での戦闘を試みる。

パインアイアンから攻撃を繰り出した。
最初の内は、彼が睨んだ通り、刻矢にダメージを与える事に成功する。
が、遠心力で振り回して攻撃するパインアイアンは、攻撃のタイミングやパターンがとても読まれやすい。
すぐに刻矢は、パインアイアンをドライブドウガンで防ぐ技を覚えた。

ルナ「おっと…」

攻撃が読まれ出したのを理解した彼は、後ろへ跳んで距離を取る。
そのタイミングを見逃さず、刻矢はドライブドウガンを変形させた。
巨大な銃口が、ルナを捉える。
そこから、強力な火球が発射された。

ルナ「がっ!」

ルナは吹き飛び、地面を転がる。
こんな攻撃も出せるとは、全く予想していなかった。
今の火球を受け続ければ、絶対に自分の身体は持たないだろう。
つまり、あまり長丁場な戦いは出来ない。

なら、一撃にかけるしかない。
ルナはそう判断すると、再び放たれた火球を、身体を転がして避けた。
そして立ち上がり、戦極ドライバーを操作する。

『パイン スパーキング』

膝を曲げ、高く跳び上がった。
それを見た刻矢も、即座に戦極ドライバーを操作する。
ドライブドウガンの銃口に、エネルギーが収束していった。

『キョホウ スカッシュ』

ルナが、空中でパインアイアンを蹴る。
パインアイアンの鉄球部分が、刻矢の頭部を飲み込もうとした。
そのときだ。
ドライブドウガンに収束した全エネルギーが、一気に解放される。

ルナ「がぁぁぁああああああ!!!」

強力なエネルギー球は、パインアイアンを破壊した。
それでも勢いは止まらず、その後ろに跳んでいたルナをも吹き飛ばす。
激痛と衝撃が、彼の身体を走った。
空中での姿勢制御すら出来ず、そのまま地面に叩きつけられる。

意識が遠のいていくのが分かった。
ぼやけた視界に浮かんで来たのは、優の表情だ。
幻想の中の彼女は、クリスマスプレゼントである黄色のマフラーと狐色の手袋をして、笑っている。

ルナ「…ダメだ…」

ルナは小さく呟き、身体を無理矢理に叩き起こした。
彼女の笑顔、自分の妄想だけで満足したくはない。
この目で確かに見なければ、絶対に死にきれない。

ルナ「あぁぁぁぁああああああああ!!!!」

絶叫し、身体に力を込める。
意識を引きずり出し、無理矢理覚醒させた。
傷付いた脚で、立ち上がる。
そして闘志を秘めた瞳で、刻矢を見据えた。

負けるわけにはいかない。
何故なら、これから優とのデートだから。
ルナは両脚で踏ん張り、拳を構える。
その瞬間、あるものが、彼の頭に飛んで来た。

ルナ「痛っ!」

彼は思わず首を屈め、頭を押さえる。
同時に、飛んで来て地面に落ちたものが、視界に入った。
それを右手で拾い上げる。
光り輝く、パイン ロックシードだった。

ルナ「これは…」

これと似たものを、彼は以前見た事がある。
と言うより、今も所持していた。
それは異世界で手に入れた、フレッシュオレンジ ロックシードだ。
では、これは一体何処から…

水面「さぁ? 私にも分かりませんの。」

無意識に出たルナの呟きに、答える声があった。
そちらを見ると、そこには独りの女性。
周りの状況から推察すると、先程までクワガタのようなアーマードライダーと戦っていた、女王のようなアーマードライダーの正体だろうか。
どうやら彼女が、これを投げたらしい。

水面「ですから、使ってみてくださいな。得体の知れないものを使うなんて、私は嫌ですの。」

激しく自己中心的な理由だった。
自分では使いたくないが、その力は見てみたい。
だから自分の代わりに使えと言う。
それでも今のルナは、藁にもすがりたい思いだった。

ルナ「これを何処で手に入れたんだ…?」

水面「あの角の生えたアーマードライダーを倒したら、中から飛び出て来ましたの。」

彼の疑問に、水面は正直に答える。
しかしそのせいで、ルナの疑問は更に膨れ上がってしまった。
アーマードライダーの中から出て来た?
それが事実だとしたら、つまりどういう事だ?

水面「そんな事より、早く使ってみてくださいまし。」

彼の思考など露も知らず、水面は急かす。
だが確かに、今悩んでいても答えが出る事はないだろう。
なら今は、今しなければならない事をするべきだ。
それはつまり、目の前のアーマードライダーを倒し、優とのデートに間に合う事。

ルナ「…よし。」

ルナは覚悟を決め、ロックシードを構えた。
しかし、それを解錠させまいと、刻矢がドライブドウガンを作動させる。
火球が放たれ、一直線に飛んで来た。

ルナ「! 危ない!」

水面「きゃっ!」

ルナは反射的に、水面を押し倒す形で火球を避ける。
自分だけ避ければ、この女性に攻撃が当たり死んでしまう。
そう考えた上での、苦肉の策だ。

水面「…意外と大胆ですわね。」

ルナ「ごめん、少し黙ってもらってもいいかな?」

この場に優がいなくて良かった。
もしもいたら、自分の死亡は確定していただろう。
その光景を想像してしまい、鳥肌が立つ。
そして同時に、新しいロックシードを使う事に対しての緊張も、幾許か緩んだ。

『フレッシュ! パイン』

立ち上がり、ロックシードを解錠する。
頭上に時空間の裂け目が現れる。

『ロックオン』

フレッシュパイン ロックシードとパイン ロックシードを交換し、施錠した。
戦極ドライバーから、和風の待機音が流れ出す。

『ソイヤッ』

ロックシードを斬り開く。
パイン鎧が、炭酸の泡のように弾けて消えた。

『フレッシュ! パインアームズ』

時空間の裂け目から、黄色く光るパイナップルが落ちてくる。
それが頭に突き刺さり、瞬時に鎧へと変形した。

『粉砕! デストロイ!』


黄色く光る強固な鎧。
肩の装甲は、腕の先まで長く伸びていた。
チェーンアレイ型の武器、パインアイアンは、通常のパイン鎧時とは異なり、両手に一つずつ装備されている。
金色のバイザーは、U字に光っていた。

仮面ライダー鎧武 フレッシュパインアームズ


水面「これは…」

思わず、息を飲む。
眩い光を放つアーマードライダーが、そこにはいた。
水面は目の前に立つルナを見る。

水面「…ただ光ってるだけではありませんの?」

そして、何とも正直な感想を漏らした。
正直、自分も異世界で初めてフレッシュオレンジ鎧を使ったとき、全く同じ感想を抱いたのを覚えている。
でも使ってみてから、通常の鎧とは全く違うと実感した。
ルナは少しだけ振り向き、水面を見て言う。

ルナ「いや、光ってるだけじゃねぇよ。」

そのとき、再びドライブドウガンから火球が放たれた。
ルナが後ろを見たときを狙って、刻矢が攻撃を繰り出したのだ。
水面は思わず、目を強く瞑る。
爆発音が響き、爆風と熱風が彼女の顔を撫でた。

恐る恐る、目を開ける。
瞬間、彼女は驚いた。
先程と全く同じ格好で、ルナはそこに立っている。
黄色く光る鎧には、一部に焼けた跡が見えるだけで、他には傷一つ付いていない。

ルナ「強さは別格だ。」

ルナはそう言うと、再び刻矢に向き直った。
自らの火球が防がれた事に、刻矢も驚愕する。
が、彼はすぐにフリーズ状態から戻ると、次の攻撃に移った。

両肩のブロックアーマーを外し、ロボットに変形させる。
左肩の飛行型射撃メカ「飛道」と、右肩の獣型突撃メカ「武猪」が、ルナを狙って動き出した。
飛道は飛び回りながら、小径の銃で遠距離攻撃を行う。
武猪はルナに狙いを定めると、一気に加速して突撃して来た。

『フレッシュ! パイン オーレ』

だがルナは慌てず、戦極ドライバーを操作する。
両手のパインアイアンにエネルギーが流れ込み、パイナップルを模したオーラが纏われた。
武猪がルナに飛び掛かる。
そのタイミングで、彼は二つのパインアイアンで武猪を挟み込むように叩き潰した。

次に彼は、片方のパインアイアンを両手で持ち、身体ごとグルグルと振り回す。
回転速度はどんどんと上がり、巨大な駒のように見えてきた。
そして遂に手を離し、飛道に向けてそれを放つ。

かっけーな

遠心力で威力が増したパインアイアンは、瞬く間に飛道へ迫った。
飛道は回避する事も叶わず、一撃で破壊されてしまう。
バラバラと、破片が地面に落ちた。

だが、刻矢もただ見ていたわけではない。
パインアイアンを放り投げた直後、ルナに一瞬の隙が出来た。
彼は即座に戦極ドライバーを操作する。

『キョホウ スパーキング』

ロックシードのエネルギーが、彼の全身を駆け巡った。
そして次の瞬間、誰も予想だにしない事が起きる。
何と彼の姿が、一匹の龍へと変貌したのだ。
刻矢はルナを殺すため、最後の切り札を繰り出した。

水面「あれは…」

それを見た水面が、思わず声を漏らす。
同時に、無意識に視線をルナに向けた。
実際、ルナも仮面の下で驚愕を露わにしている。
それでも確固たる自信を持って、戦極ドライバーを操作した。

『フレッシュ! パイン スカッシュ』

腰から無双セイバーを引き抜き、飛道に投げてしまった方とは別の方のパインアイアンを連結させる。
そのとき、龍となった刻矢が、口から特大のエネルギー球を吐いた。
それはルナを飲み込もうとするかように、真っ直ぐ飛んでくる。

ルナは冷静に無双セイバーを構えた。
連結部を伝って、パインアイアンからエネルギーが供給される。
彼は無双セイバーを大きく振りかぶり、目の前まで飛んで来たエネルギー球を真っ二つに斬り裂さいた。

直後、ルナは無双セイバーを逆手に持ち替える。
それを槍投げのように、刻矢に向かって投擲した。
その切っ先は、見事、龍の首元に深く突き刺さる。

驚きに震えていた刻矢が、今度は痛みに身を捩った。
ルナは何とか、無双セイバーから繋がっているパインアイアンを抑え、彼を逃がさないようにする。
だがこのままでは、無双セイバーが抜けてしまうのも時間の問題だ。
その前に決着をつけなければ。

ルナはタイミングを図り、思い切り跳び上がる。
空中でパインアイアンを手から離し、回し蹴りの要領で蹴り込んだ。
蹴り飛ばされたパインアイアンは、鎖の先に繋がれた無双セイバー、つまり刻矢の方へと飛んでいく。

パインアイアンが刻矢に当たる直前、それの鉄球部分が大きく展開した。
それが、刻矢が変化した龍の頭を包み込む。
そして刻矢の視界が奪われた直後、果汁のようなエネルギーを纏った、強力な無頼キックが叩き込まれた。

ルナ「はぁぁぁぁああああああああ!!!!」

刻矢「!!」

刻矢の身体に、致死量のエネルギーが流れる。
それに耐え切る事が出来ず、彼は盛大な爆炎を上げた。
そのとき、爆煙の中から二つの物体が飛んで出る。
着地したルナは、それを上手く受け止めた。

水面「まぁ…」

水面は、驚きと興奮が入り混じった目でルナを見る。
しかしルナには、勝利の喜びを噛み締めている暇はなかった。
彼は刻矢の中から飛び出した、二つの物を見る。
そのせいで、彼の戦闘前に抱いていた疑問が更に膨れ上がってしまった。

片方は、謎の黒いパーツ。
見た目から察すると、ロックシードを装填するスロットのようだ。
しかし何に使うかは分からない。

もう片方は、レモンエナジー ロックシード。
ルナはこれを知っている。
でも、だからこそ、彼は混乱してしまった。

彼は知っている。
これは、アーマードライダーが変化したインベスから出て来ると。
志村 菱一がそうだったように、池内 霧人がそうだったように、最上 昂がそうだったように。

だがそれでは、やはり疑問が残るのだ。
今戦っていたアーマードライダーは、言葉を喋り、知性的な戦闘を行っていた。
彼の知識や記憶を総動員してみても、今までインベスが言葉を話した事や、知性的な行動を取った事などない。
つまり今の相手は、インベスではないという事だ。

では何故、彼の中からエナジーロックシードが飛び出したのだろうか。
それに、この黒いパーツは何なのだろうか。
彼の疑問は深まり、増長していった。


了はU-RINIAを捨てると、背中の翼に手をかけた。
すると翼が変形し、二本のブレードへと変化する。
これにより飛行は出来なくなったが、斬撃が可能となった。

無双セイバーと黒影丸による二刀流を、同じくブレードの二刀流で受け流す。
異世界のルナがナギナタモードに変化させれば、こちらも連結しツインブレード状に変化させた。
しばらくの間、斬撃による膠着状態が続く。

リョウマ『ちょっと。』

そのとき、今まで無言だったリョウマが、急に通信してきた。
何かあったのだろうか。
了は異世界のルナの斬撃を受け止めながら、対応する。

了「何ですか?」

リョウマ『彼があいつを倒したよ。』

彼、とはオレンジのアーマードライダーの事だろう。
それがあの青紫色のアーマードライダーを倒した。
普通なら、わざわざ報告する必要もない事のはずだ。

だが、リョウマは自発的に無駄な事などしない。
つまりこの報告にも、何かしらの裏がある。
了は考える時間を稼ぐため、鍔迫り合っていた異世界のルナの胴体を蹴り、一旦距離を取った。

彼はブレードを翼に戻すと、上空へと飛び上がる。
異世界のルナは無双セイバーからエネルギー弾を発射し、彼を撃ち落そうとした。
それを巧みに避けながら、了は思考する。

あの青紫色のアーマードライダーは、きっとただのアーマードライダーではない。
普通の人間であれば、わざわざリョウマは報告しないだろう。
ならあいつは、インベスかD.C.のどちらかだ。
あいつは理性的な戦いを行っていたから、インベスではない。

あいつの正体がD.C.である事が分かった。
次は、D.C.を倒すとどうなるかを考えてみよう。
D.C.は核にエナジーロックシードを持ち、その周りにフィルターとしてゲネシスコアを持つ。

結論は出た。
つまりオレンジのアーマードライダーがD.C.を倒したというのは、オレンジのアーマードライダーがエナジーロックシードとゲネシスコアを手に入れたという意味だ。
それを理解した了は、リョウマに聞いた。

了「取り返しますか?」

リョウマ『いやいや、取り返しちゃ駄目だよ。むしろこれは、絶好の機会だ。』

了「…何のですか?」

リョウマ『決まってるじゃない。戦極ドライバーにゲネシスコアを装着した際、エナジーロックシードの力をどれくらい引き出せるのかを調べるんだよ。』

了「…ゲネシスドライバーが完成した今、それは必要ないのでは?」

リョウマ『必要かどうかと好奇心は別なんだよ。彼に使い方を教えるから、地上に降りて。』

了「…了解。」

了はリョウマに言われた通り、地面に向かって急降下する。
ついでに空中で身体を捻り、異世界のルナの脳天に踵落としを見舞った。
異世界のルナは脳震盪を起こし、よろける。
その隙に、了は再び、翼をブレードに変形させた。

了「おい。」

ルナ「…何だよ。」

了はブレードを構えながら、ルナに話しかける。
ルナは思考を中断されたのが嫌だったのか、酷く棘のある声を出した。
しかし了は、そんな事は気にも留めない。
このまま使い方を教えても構わないが、その前に確認しておきたい事があった。

了「お前、それが何だか知ってるか?」

ルナ「…こっちのロックシードは知ってる。でも、こっちの黒いのは知らない。」

ルナは正直に答える。
自分の敵である、ユグドラシルのアーマードライダー。
普段なら、そんな奴の話など聞くつもりはない。

しかしこいつは今、この黒いパーツについて知っているかと聞いてきた。
つまり、少なくともこいつは、この黒いパーツについて知っているという事だ。
望みは薄いが、もしかしたら、これが何なのか分かるかも知れない。

了「そうか。」

了はルナがあっさりと答えた事に対し、少し驚いた。
が、今の発言が嘘とも思えない。
何故なら、今この状況において、彼がわざわざ嘘を吐くメリットが思い浮かばないからだ。

了はルナの発言が嘘でないかを検証してから、情報を整理する。
今のこいつの発言で、ある事実がハッキリと分かった。
こいつはインベスを殺した事はあっても、D.C.を殺した事はなかったという事だ。

ルナ「? 何て言った?」

了「何でもない。それより、そいつの使い方を特別に教えてやる。」

急に何事かを聞き返されたが、どうやら先程の考えが声に出てしまっていたらしい。
了は適当に返すと、視界の端である事を確認する。
同時に、戦極ドライバーを操作した。
こいつに使い方を教える前に、やっておくべき事がある。

『アルソミトラ スパーキング』

ロックシードからエネルギーが流れ、ブレードにチャージされた。
彼はそれを構えると、脳震盪から復活して斬りかかってきた異世界のルナを斬り飛ばす。
急な反撃に異世界のルナは対処出来ず、体制を崩して地面を転がった。

説明に必要な時間は稼いだ。
了は再度ブレードを構え直し、異世界のルナからの反撃に備える。
横目で彼の動きに注意しつつ、了はルナに言った。

了「そいつをライダーインジケータの部分に付けろ。」

ルナ「…ライダー…印字…? 何だ、それ?」

了「カッティングブレードの反対側だ。顔が表示してあるだろ。」

ルナはライダーインジケータが何なのか知らないようだ。
戦極ドライバーの各部名称など、一般人は知らなくて当然だが。
了が簡潔に説明すると、ようやくルナはライダーインジケータがどれか理解したらしい。

だが次の瞬間、了を唖然とさせる出来事が起きた。
ルナはゲネシスコアを装着するために、ライダーインジケータを外そうとする。
横にではなく、前に引っ張って。

ルナ「…おい、外れないぞ?」

了「…秀みたいにバカだな。横に引け。」

前に引いても外れない?
当たり前だ。
そんな動作で外れてたまるか。

どうやらこの男は、想像以上のバカだったみたいだ。
直感で分かると思った俺もバカだったのか?
了がそう考えている間に、ルナは言われた通り横に引き、ライダーインジケータの取り外しに成功した。

ルナ「…ここ、取れるのかよ…」

驚いたような、感動したような声を上げている。
そこへゲネシスコアを差し込み、遂に装着に成功した。
了にしてみれば、まさかここまでやるのに、こんなに時間がかかるとは思わなかったが。

ルナ「こんな機能もあったのか…」

了「よし、それを……」

リョウマ『ちょっと待って。』

了は嘆息しつつ、続きを説明しようとする。
が、そのとき、急にリョウマが割って入った。
どうやら、また新しい考えが浮かんだらしい。

ルナ「…これを?」

中途半端なところで切れた説明に対して、ルナは続きを促す。
だがリョウマの指示が入っている今、こいつの事など後回しだ。
だがそんなリョウマの提案は、至極単純なものだった。

リョウマ『どうせだから、あの黒いアーマードライダーを実験相手にしよう。』

了「了解。」

リョウマの提案に、たった一言だけ返す。
そのとき、タイミング良く異世界のルナが起き上がった。
彼は戦極ドライバーを操作し、了に飛びかかる。

『ロットン オレンジ オーレ』

了は慌てず、横目で冷静に距離を確認した。
エネルギーの蓄えられた黒影丸が迫る。
それを彼は、左手のブレードで受け止めた。

『アルソミトラ オーレ』

ブレードにヒビが入り、砕け散る。
瞬間、彼は右手で戦極ドライバーを操作した。
そしてエネルギーを纏った脚で、強力な回し蹴りを放つ。
意図していなかったカウンターキックを喰らい、異世界のルナは再び吹き飛んだ。

了「そいつでその力、試してみろ。」

了はルナに向き直ると、何事もなかったかのように続ける。
しかしルナからしてみれば、いきなり過ぎて意味が分からない。
今、こいつは何と言った?

ルナ「…は?」

了「早くしろ。でないとプロフェッサーが面倒臭い。」

ルナから思わず呆けた声が漏れ出た。
が、そんな彼の気を推し量るつもりなど微塵もない了は、淡々とした口調で急かす。
そのとき、異世界のルナが再び起き上がった。
彼は一瞬周りを見渡すと、ルナを見た瞬間、ビクッと反応する。

ルナ「いや、誰だよプロフェッサーって。それに急にそんな事を言われてもな…」

同時にルナも、異世界のルナが起き上がったのを認めた。
どうやら異世界のルナは、今の今まで、この場にルナがいる事を認識していなかったらしい。
しばらくの間、無言の時が流れる。
だが次の瞬間には、異世界のルナは目の色を変え、ルナに斬りかかった。

ルナ「! おい待て! 俺はあいつの仲間じゃ…」

ルナの必死の弁明にも、聞く耳持たずと言った感じだ。
仕方ない、とルナは覚悟を決める。
ユグドラシルのアーマードライダーの言いなりになるのは癪だが、このままでは、本当にデートに遅れてしまう。
それだけは、絶対に避けなければならない。

『レモンエナジー』

左手でレモンエナジー ロックシードを解錠する。
テクノポップ調の解錠音が鳴り響く。

『オレンジ』

続けて、右手でオレンジ ロックシードを解錠した。
オレンジ ロックシードを戦極ドライバーに、レモンエナジー ロックシードをゲネシスコアに装填し、施錠する。

>>197さん
ありがとうございます。
そう言っていただけると、とても嬉しいものです。


少し席を外します。

『ロックオン』

和風の待機音が流れ出し、フレッシュパイン鎧が消える。
それと入れ替わるように、空中に半透明のレモンと巨大なオレンジが現れた。

『ソイヤッ』

戦極ドライバーを操作し、オレンジ ロックシードを斬り開く。
同時に、レモンエナジー ロックシードのキャストパッドも展開される。

『ミックス』

空中に浮かんでいた、レモンエナジー鎧とオレンジ鎧が融合した。
それは黒い四角柱のような物体、ジンバー鎧へと変化する。

『オレンジアームズ』

それが回転しながら、彼の頭に突き刺さる。
そして潰れるように展開し、鎧へと変形した。

『花道 オンステージ』

最後に、右手にアームズウェポンが現れる。
新たな鎧を身に纏った、ルナの姿は…

『ジンバーレモン ハハーッ』


漆黒の陣羽織を模した鎧が、上半身を包んでいる。
両肩と背中の鎧の形状は同一であり、正面の鎧には、レモンの断面が無数に描かれた装飾があった。
頭部のシルエットはオレンジ鎧と同じだが、三日月型の飾りと兜の装飾が銀色に、クラッシャーと兜本体が漆黒に染まっている。
右手に掴んだ弓、創世弓ソニックアローは、新世代アーマードライダーと共通の武器だった。

仮面ライダー鎧武 ジンバーレモンアームズ


ルナは新たな姿に戸惑いながらも、その膨大なエネルギーを感じ取る。
今までの鎧とは違う、確かな強さを。
異世界のルナと、進化したルナが対峙する。

ルナ「いくぞ。ここからは、俺のステージだ。」

ソニックアローを構え、静かに言った。
異世界のルナも黒影丸を構え、ルナを睨む。
一触即発の空気が、その場を支配した。

リョウマ『さてと、お手並み拝見といこうか…』

通信先のリョウマが、面白そうに呟く。
戦極ドライバーにゲネシスコアを装着する事で生まれた力。
だが了が心配なのは、ルナの進化ではなく、これを目の当たりにしたリョウマが何を計画するのかだった。


未だ、龍玄と光実の銃撃戦は続いていた。
先にも書いたように、いつまで経っても埒が明かない。
いよいよそれに痺れを切らした光実が、別のロックシードを解錠した。

『ゴールドキウイ』

時空間の裂け目が現れ、中から果実が現れる。
それを見た龍玄も、同じように新たなロックシードを解錠する。

『キウイ』

頭上から、巨大なキウイが降りてきた。
お互いに戦極ドライバーからロックシードを外し、解錠したものと交換する。

『ロックオン』
『ロックオン』

ロックシードを施錠する。
流れ出したロック調の待機音と、中華風の待機音が混ざり合った。

『ハイー!』

カッティングブレードを下ろす。
今まで装着されていた、レーズンとブドウの鎧が消える。

『ゴールドキウイアームズ』
『キウイアームズ』

二人の頭に、巨大な果実が突き刺さった。
そしてそれぞれが展開し、鎧へと変形する。

『嬰鱗 セイヤッハッ』
『撃輪 セイヤッハッ』


キウイ鎧とよく似た鎧。
その違いは、武器と、緑色の部分が金色になっているところだ。
武器のG・キウイ片輪は、キウイ撃輪と違い一つしかない。
だがこちらは、二つに分解して双刀のように使う事が出来た。

仮面ライダー邪悪龍玄 ゴールドキウイアームズ


両肩の装甲が大きい、銅色と黄緑色の鎧。
龍眼は紫色から黄緑色に変化し、兜にも黄緑色のエリマキトカゲの襟のようなパーツが付いている。
左肩と鎧正面、複眼内には、キウイの断面を模した模様も確認出来た。
装備は両手に現れた圏に似た武器、キウイ撃輪である。

仮面ライダー龍玄 キウイアームズ


光実はG・キウイ片輪が装備された瞬間、それをフリスビーのように投げた。
G・キウイ片輪は回転しながら飛び回り、龍玄を狙う。
しかし龍玄は、それをあっさりとキウイ撃輪で弾き返して見せた。

G・キウイ片輪が、光実の手元に戻る。
彼はそれを掴むと、二つに分解し双刀のようにした。
それぞれを両手に構えると、龍玄に向かって飛び出す。

迫り来る双刀を、龍玄は右手のキウイ撃輪で受けた。
同時に、左手のキウイ撃輪でカウンターを仕掛ける。
刹那、左手のキウイ撃輪が空中に飛んだ。

龍玄「!」

龍玄がカウンター攻撃を放った瞬間、光実が龍玄の左手を蹴り上げたのだ。
彼は後ろへ跳ぶと、G・キウイ片輪を再び結合させる。
そして落ちて来たキウイ撃輪を、左手で掴んだ。

光実「形勢逆転、だね。」

彼はそう言うと、一気に前へ跳ぶ。
G・キウイ片輪を右手に、キウイ撃輪を左手に構え、踊るように攻撃し始めた。
龍玄は一つのキウイ撃輪を使い、何とかそれを防ぐ。
それでもやはり、段々と押されていった。

そろそろだな、と光実はタイミングを図る。
彼は左手のキウイ撃輪を、先程のG・キウイ片輪と同じように投げた。
キウイ撃輪を投擲した直後、G・キウイ片輪を再び双刀に分離させる。
それらを、一気に龍玄に振りかざした。

すかさず龍玄は、それをキウイ撃輪で受ける。
瞬間、光実の投げたキウイ撃輪が、龍玄の背中を斬り裂いた。
キウイ撃輪で双刀を防いでいた龍玄には、それを防ぐ術も、避ける暇もない。
龍玄は衝撃で吹き飛び、地面を転がった。

『ゴールドキウイ スカッシュ』

狙い通りとばかりに、光実は戦極ドライバーを操作する。
双刀を合体させ、戻って来たキウイ撃輪を左手で掴み直した。
右手のG・キウイ片輪に、ロックシードのエネルギーが流れ込む。

光実「終わりだ…」

彼はG・キウイ片輪とキウイ撃輪を構え、倒れている龍玄に向かって跳んだ。
強力な一撃が、変身解除へと追いやるだろう。
二つの曲刃が、龍玄に迫る。

『『マツボックリ スカッシュ』』

次の瞬間、彼の身体は後ろに飛んでいた。
突然の衝撃に、彼は体制を立て直す事が出来ない。
受身を取る事も叶わず、そのまま地面に叩きつけられてしまった。
同時に、左手からキウイ撃輪を離してしまう。

龍玄は立ち上がると、飛んで来たもう一つのキウイ撃輪をキャッチした。
光実は驚き、顔を上げる。
そこには龍玄と、三人の黒いアーマードライダーが立っていた。


黒いスーツに黒い鎧。
半円形に黄色く光るバイザーに、頭部には他の鎧に比べて大きめの兜。
両手で構えた長槍、影松を含め、その姿は正に雑兵だった。
大量にいる彼らは「アーマードライダー」ではあっても「仮面ライダー」ではない。

黒影トルーパー


キウイ撃輪を取り返したところで、黒影トルーパーの仕事は終わったらしい。
黒影トルーパーは影松の槍先を上に立てて持つと、龍玄の後ろに下がった。
龍玄はキウイ撃輪を左手に纏めて持つと、右手で口元を隠すようなポーズを取る。

仮面の下で笑っているのが分かった。
光実は歯ぎしりすると、地面を叩いて立ち上がる。
今のは不意打ちだったからこそ、攻撃を受けてしまっただけだ。
今度はそうはいかない。

見た目からして、黒いアーマードライダー達は自分より弱い。
更に先程の電子音声からして、奴らのロックシードは、変身に使える最低ランクのマツボックリ。
三体程度、一分あれば全滅させられる。
自分を怒らせた事を、あの世で後悔するがいい。

光実はG・キウイ片輪を構え、黒影トルーパーに飛びかかろうとする。
が、急に彼は、それを止めてしまった。
彼は仮面の下で、動揺した表情を浮かべている。
その理由は、たった今、彼の視界に映ったものにあった。

G・キウイ片輪を構えたまま、ゆっくりと辺りを見渡す。
その度に、動揺の色は濃くなっていった。
冷汗が止まらなくなる。
そんな彼の姿を見て、龍玄は笑っていた。

彼が見たもの。
それは黒影トルーパーだった。
一人じゃない。
三人でもない。

今になって、彼はようやく気がつく。
いつの間にか、自分は囲まれていた。
周囲には、数えるのが面倒な程の、黒影トルーパーの大群。
その全員が、槍先を光実に向けて影松を構えていた。

全て時間稼ぎに過ぎなかったのだ。
こちらが本気で戦っていたときも、龍玄にとっては遊びでしかなかった。
きっとあいつは、自分がこの光景を見て絶望するのが見たかったのだろう。
そしてまんまと、自分はその罠に嵌ってしまった。

龍玄「ご理解いただけました?」

『キウイ スカッシュ』

龍玄「『我々』に挑んだ時点で、貴方の敗北は決まっていたのです。」

龍玄は右手で戦極ドライバーを操作し、優しい声でそう言う。
左手に合わせて掴んでいたキウイ撃輪を、両手に持ち直した。
ロックシードから、二つのキウイ撃輪にエネルギーが流れる。
龍玄はそれらを大きく構えると、フリスビーのように勢い良く放り投げた。

本日はここまでにしたいと思います。
疑問、質問、提案等、いつでもお受けしております。

気になった点があれば、いつでもご指摘ください。
ですが、あまりキツい言葉は、出来るだけ遠慮していただきたいと思います。

そして、少しお知らせです。
今週の土曜は、仕事の関係でお休みさせていただきます。
申し訳ありませんが、よろしくお願いします。

乙でした
数の暴力って怖い……

乙でした
エグいわー、龍玄の人、優しそうにエグいことするわーw



お嬢様、戯れが過ぎます故


数の暴力とは良く言ったものですね
数少ない強者より沢山の弱者を使って相手を叩き潰すとかエグ過ぎです!



でもそれが良い!

オリジナルのジンバーアームズに期待です!

>>207さん
量産型は集団で登場してこそだと思う>>1です。


>>208さん
怒らせなければ優しいんですけど…


>>209さん
お嬢様?
はて、水面のことですか?


>>210さん
どんなに力が強くても、イジメにあったらお終いです。


こんばんは。
本日も始めていきます。

二つのキウイ撃輪が、縦横無尽に飛び回る。
強力なエネルギーを纏った刃が、光実に迫った。
彼は身を護るべく、戦極ドライバーを操作しようとする。

その隙が、命取りとなった。
光実が意識をキウイ撃輪から戦極ドライバーに移した瞬間、二つのキウイ撃輪が挟み撃ちにする。
彼は慌てて、G・キウイ片輪で防御を試みた。
が、一つだけのそれで防ぐ事が出来るのは、一つのキウイ撃輪だけだ。

光実「あぁぁぁぁああああああああ!!!!」

彼の絶叫が、辺りに谺する。
続けて巨大な爆音が、その声を飲み込んだ。
盛大な爆炎が、彼の姿を消し去る。
その中から飛び出したメロンエナジー ロックシードとゲネシスコアを、龍玄は両手でキャッチした。

龍玄はそれらを愛おしそうに眺めながら、視線を別の場所に移す。
そろそろ、向こうも決着がつく頃だろう。
望んでいたものに加え、思いがけないクリスマスプレゼントまで手に入りそうだ。
仮面の下で優雅に微笑みながら、龍玄はルナの戦いを見守り始めた。


振り下ろされた黒影丸を、ルナがソニックアローで受ける。
同時に、異世界のルナの胴を蹴り飛ばした。
腹部に衝撃を受けた彼は、後ろへよろける。

そこへ、ルナがソニックアローから衝撃波の矢を放った。
それは異世界のルナの肩口に命中し、彼を吹き飛ばす。
彼は地面に叩きつけられ、ゴロゴロと転がった。

ルナ「強い…」

ルナは自分の両手を見つめる。
今までとは比べものにならない程のパワーを感じていた。
この力を、もっと試してみたい。
彼の中の恐れが、好奇心へと変わっていく。

彼は一足跳びに異世界のルナへ近づくと、ソニックアローに力を込めた。
ソニックアローの刃が、レモンイエローに光る。
それを大きく振りかざし、連続で異世界のルナの身体を斬り裂いた。
ステップを踏み、ターンをし、何度も何度も斬撃を放つ。

異世界のルナは一発逆転を狙い、一旦後ろへ跳んだ。
そこで無双セイバーと黒影丸を繋ぎ、ナギナタモードに変化させる。
ロックシードを装填し、施錠した。

『ロックオン』

ロックシードから、ナギナタモードにエネルギーが流れ込む。
黒いオーラスモークが、ナギナタモードを薄く包んだ。
無双セイバーと黒影丸、それぞれの刀身が光る。

『イチ、ジュウ、ヒャク、セン、マン』

彼はそれを振り回し、十字の斬撃波を放った。
漆黒のエネルギーが、ルナに迫る。
だがそれを、ルナはいとも容易くソニックアローで砕き散らした。

『ロットン オレンジ チャージ』

そこへ、ナギナタモードを構えた異世界のルナが跳ぶ。
ルナはソニックアローを左手に持ち替えると、戦極ドライバーを操作した。
オレンジ ロックシードから、エネルギーが解放される。

『オレンジ オーレ』

同時に、レモンエナジー ロックシードもエネルギーを放出した。
オレンジ ロックシードのエネルギーが、ソニックアローに流れ込む。
それを追うように、レモンエナジー ロックシードのエネルギーが流れ込んだ。

『ジンバーレモン オーレ』

ソニックアローの刀身が、オレンジとレモンイエローに光る。
ルナはそれを構え、ナギナタモードを受け止めた。
二つの刃が鍔迫り合う。

が、それも一瞬だった。
次の瞬間には、ナギナタモードは粉々に破壊されてしまう。
異世界のルナは驚き、慌てて後ろへ戻った。

その隙を、ルナは見逃さない。
ソニックアローを引き、エネルギーをチャージする。
それを異世界のルナの頭上へ向けて放った。

ソニックアローから発射されたエネルギーが、異世界のルナの真上で、レモンを模したオーラに変化する。
そしてそれが、炭酸の泡のように弾けた。
中から大量の矢が、雨の如く降り注ぐ。
武器を失った彼は防ぐ事も出来ず、それに吹き飛ばされた。

『ロックオン』

間髪入れず、ルナはレモンエナジー ロックシードをソニックアローに施錠する。
同時に、戦極ドライバーを操作した。
ゆっくりと、ソニックアローを引き絞る。

『オレンジ スカッシュ』

ソニックアローに、再びオレンジとレモンイエローに光るエネルギーが流れ込んだ。
その先端から異世界のルナまで、オレンジの断面とレモンの断面とが現れ、重なり合うように続いていく。
だがそのとき、異世界のルナも戦極ドライバーを操作した。

『ロットン オレンジ スパーキング』

彼は飛び上がり、ルナに飛び蹴りを放とうとする。
空中で、右脚を突き出した。
刹那、ルナはソニックアローから右手を離す。

『レモンエナジー』

オレンジの断面とレモンの断面とを突き破り、レモンイエローに光る矢が飛んでいった。
それは空中で、異世界のルナが放ったキックとぶつかり合う。
だが、力の押し合いは起こらなかった。
その威力の差は、比べるまでもない。

異世界のルナは大きく吹き飛び、地面に叩きつけられる。
そして変身が強制的に解除された。
瞬間、ルナと了が目を見開く。
まるでドッペルゲンガーのように、そこにルナの姿があったからだ。

リョウマ『なるほどね…』

納得したような声を、通信先のリョウマが漏らす。
異世界からの訪問者が誰なのか判明し、一先ず了の側は事件解決だ。
だがルナにしてみれば、疑問は解決どころか、更なる深みに嵌ってしまった。

彼は一度、異世界に飛んだ事がある。
そのとき、向こうの世界で大立ち回りを演じたのだが、今はどうでもいい話だ。
だから彼にも、目の前に倒れている自分が異世界の自分である事は、容易に想像出来た。

だからと言って、謎が解けたわけではない。
異世界の自分が何故この世界に来たのか、未だに不明のままだからだ。
自分のときのように、意図的に何者かに飛ばされたのだろうか。

彼が疑問と思考とを堂々巡りしていると、急に何者かが、異世界のルナの身体を持ち上げた。
数人の黒影トルーパーと、龍玄だ。
黒影トルーパーは、そのまま異世界のルナを持ち去ろうとする。

ルナ「おい!」

ルナは思わず、大声で呼び止めた。
が、黒影トルーパーが止まる事はない。
代わりに、龍玄が優しい声音で答えた。

龍玄「ご安心ください。元の世界に送り返す、ただそれだけです。」

その言葉が本当かどうか、それを確かめる術をルナは持ち合わせていない。
信じようと信じまいと、自分にはどうする事も出来ない。
ただ一つ分かったのは、倒れているもう一人の自分が異世界の自分であると、今の龍玄の発言で確定したという事だけだ。
そんな中、黒影トルーパーの一人が、今だに放置されたままの敦のゲネシスドライバーを回収しに行こうとする。

龍玄「よしなさい。あれはあのままにしておいて良いのです。」

しかし、それを龍玄がピシャリと押し留めた。
黒影トルーパーは姿勢を正し、龍玄に従う。
そして異世界のルナの身体を数人で担いだまま、その場を去って行った。

了「プロフェッサー、どうしますか?」

了は一度、リョウマの指示を仰ぐ。
もしかしたら、あの異世界のルナを実験体として使いたいと言い出すかも知れない。
しかし、そんな彼の予想に反して、リョウマはキッパリと言った。

リョウマ『いや、あれはどうでもいいよ。それよりも、君には次の仕事に移ってもらわなきゃ。』

了「別の…」

リョウマ『そ。一旦こっちに戻って来て、黒潮と合流して欲しいんだ。指示はそれから出すよ。』

了「分かりました。」

リョウマの言葉に、了は簡潔に了解した事を伝える。
それから変身を解除すると、ローズアタッカーを解錠した。
バイクに変形したそれに跨り、エンジンを吹かす。
そしてユグドラシルタワーへ向かって、一直線に走り出した。

一人取り残されたルナは、呆然としたまま変身を解除する。
状況を飲み込めていない彼は、本当にただ巻き込まれただけだ。
彼はしばらくの間固まっていたが、気を取り直してデートに向かう事にした。

彼は急ごうと、クルリと踵を返す。
そのとき、あの赤い何かが視界に入った。
そう言えば、あれが何なのか、一応確認しておこう。

彼はそう思うと、それに近づいていった。
それと言うのは、言うまでもなく敦のゲネシスドライバーである。
だがその事を知らないルナは、それを見た瞬間、驚愕した。

以前ユグドラシルのアーマードライダーが着けていたこのベルトが、何故ここにあるのか。
様々な予測が、彼の頭を駆け巡る。
しかしどれだけ考えてみても、答えが出るわけではない。
彼は無駄な思考を中止すると、一先ずそれを回収し、優との待ち合わせ場所に急いだ。


秀はデスクの前で、頭を捻っていた。
まるで真面目に仕事をしているように見えるが、そうではない。
断言しても良い。

その証拠は、彼が悩んでいるという事実だ。
彼は基本的に、仕事で悩まない。
それは今までもそうだった。

例えバカでも、彼はユグドラシルの一人だ。
更に、特任部に所属している。
いつもの態度からは全く想像出来ないが、彼はエリート中のエリートなのだ。

「ユグドラシルの3バカ」とは、秀、了、胡桃の三人を指す渾名である。
もちろん馬鹿にした…いや、バカにした呼び方だ。
だが社内でこの言葉を聞いたとき、彼らをただのバカの集まりだと思う者は、ユグドラシルに入って日が浅い新人だろう。

この三人は、ユグドラシルの中でも特に有名だ。
それはエリート思考ばかりが集まるユグドラシルの中では、珍しくバカな事をやる奴らだからというのもあるが、実はこの渾名は別の意味を含んでいる。
それはある種の、畏敬の念だ。

彼らはユグドラシルの中でも、特に素早く、とても的確に、そして冷酷に仕事を熟す。
はっきり言って仕事のレベルは、裕司などの上層部やリョウマを除けば、ユグドラシルで右に出る物はいない。
唯一、バカなのが玉に瑕だ。

ちなみに、彼らを纏める特任部長、裕司も負けず劣らずのバカな面を持っているのだが、流石に重役である彼を渾名に入れる勇気がある者はいなかったようだ。
「4バカ」よりも「3バカ」の方が、語呂が良いというのもあるが。
兎に角、そんな秀が悩んでいる事というのは、必然的に仕事以外の事だと分かる。

そして実際、彼は仕事をしていなかった。
言っておくが、決してサボっているわけではない。
残っていた仕事は、早々に片付けてしまった。

彼が睨むディスプレイの画面は、Y.C.D.だ。
そこには津村 更季の戸籍ではなく、布裁之 京と月斬 宝のそれが表示されている。
それを見、読みながら、彼は違和感の正体を探っていた。

秀「うーん…」

しかし、やはりそれは分からない。
更季だけの戸籍では判明しない違和感が、他の二人の戸籍と照らし合わせる事で浮かび上がるかと期待した彼だったが、そんな事はなかった。
そもそもこの二人と更季は、私立天河学園高等学校以外では、接点など全く存在していなかったのだ。

お手上げか…
落胆し、彼は緊張を解いた。
瞬間、後ろに気配を感じる。

秀「…いつからいた?」

ゆっくり振り向くと、そこに立っていたのは潤だった。
どうやら気配を消して後ろにいたようである。
集中していたとは言え、それに今の今まで気がつけなかったのが、秀はなんとなく悔しかった。

潤「珍しく真面目に仕事をしているかと思えば、まさか女子高生のストーカーとはな…」

秀の質問には答えず、潤は呆れた声を出す。
白夜を始末した後、一旦シャワーを浴びた彼は、特に理由もなく特任部にやって来ていた。
そこで、真面目に仕事をしている風な、実際には調べ事に没頭していた秀を見つけたのである。

秀「…あ、そうだ。おい、ちょっとこれ見てくれ。」

秀は潤の冗談を流し、彼を呼び止めた。
宝と京の戸籍を消すと、代わりに更季の戸籍を表示させる。
自分では分からない何かが、こいつなら分かるかも知れない。

秀「お前、こいつに見覚えないか?」

潤が画面を覗き込む。
秀としては、そこまで期待しているわけではなく、何か分かれば御の字という感じだ。
だがディスプレイを見た瞬間、潤の顔は強張った。

潤「…知ってるも何も、こいつは万田(まんだ)だろう?」

その口から飛び出た名前に、秀は二、三度瞬きする。
そして改めて、更季の戸籍を見た。
刹那、電撃の如き衝撃が、彼の身体を駆け抜ける。

そうだ。
俺はこいつを知っていた。
どうして、今までそれに気がつかなかったんだ。

秀「…万田 洋介(まんだ ようすけ)…」

その名前を口にする。
その度に、後悔の念が重なっていった。
特任部の一員である事が、堪らなく恥ずかしい。

万田 洋介。
一杉 詠多と同じ、T.S.D.事件の被害者。
そして、戦極ドライバーのトライアルを所持する男。

確か、年齢は三十歳前後のはずだ。
だが彼は、T.S.D.事件のせいで、肉体が変化しない身体になっている。
だから今でも、事件に巻き込まれた当時の容姿、高校生のままなのだ。

潤「何でこいつが…津村 更季?…なるほど、天河学園にいたという事か。」

潤は勝手に納得したように呟くと、その場を去ろうとする。
その腕を、秀は鷲掴んだ。
シャツ越しに、爪が喰い込む。

秀「…何処へ行くつもりだよ?」

潤「決まってるだろ。そいつは殲滅対象だ。」

潤は無表情でそう答え、再び歩き出そうとした。
が、秀は腕を離さない。
彼は潤を睨み上げ、ドスの効いた声で言った。

秀「…こいつは俺の仕事だ。」

潤「…何?」

秀「お前に譲る気はない…!」

潤「…」

しばらくの間、二人は睨み合う。
そして、潤が折れた。
と言うよりも、前にも書いたように、実質的な力関係上、彼の方が折れるしかない。

潤「今日中に処分しておけ。もしも明日まで生きていたら、そのときは俺がやる。」

彼はうんざりしたように、秀の腕を振り払う。
そう言って、ヘルメスの待機場所へと戻って行った。
潤がその場からいなくなった後、秀の身体から力が抜ける。

秀「…どうすりゃいい…」

思わず、気持ちが口を突いて出た。
本当なら、悩む必要などない話だ。
洋介は敵である。
始末する以外に選択肢はない。

しかし、悩みを振り切って決断しようとする度に、あの少女の顔がちらつくのだ。
今日のデートを取り付け、親友と恋敵になったときの、宝の顔が。
そんなものは関係ないはずなのに。
そんな一人の少女のことなど、どうでもいいはずなのに。

一昨日会ったばかりの、素直過ぎる女子高校生。
ただ、それだけの存在。
仕事にも、プライベートにも、全く必要ない記憶。
それなのに…

秀「どうすりゃいいんだよ…!」

唇を強く噛み、壊れるかと思う程の力でデスクを叩く。
違和感が消え、悩みの種が消えた。
だが次の瞬間、新たな悩みの種が、秀を苦しめ始める。

今までとは違う、比べものにならない程の。
論理性の欠片もない、感情だけの。
馬鹿だからこそ生まれてしまった、解決しようのない問題が。

- 幕間 その5 -


…日時不明。

一つの団体が、そこにあった。
六人の男が並んでおり、その前に一人の女がいる。
女は微笑を湛え、男達はにやけていたり緊張していたり、それぞれ違った表情を浮かべていた。

女はバッグを下げながら、順々に男達の前を歩いていく。
その度に何かを取り出し、手渡していた。
それを受け取った男達は、嬉しそうな顔をしたり、それを撫で回したりしている。
女は全員にそれらを配り終えると、また前に立った。

???「それでは、計画通りにお願いしますね。」

落ち着いた可愛らしい声でそう言うと、歩いてその場を去って行く。
女の姿が見えなくなると、男達は互いに顔を見合わせた。
しばらく目配せし合うと、何かを決心したかのように頷く。
そして彼らは、女から受け取った戦極ドライバーを装着した。

『『ヒオウギ』』

全員がロックシードを解錠する。
空中に現れたのは、黒い実。

『『ロックオン』』

ロックシードを戦極ドライバーに施錠した。
和風の待機音が流れ出す。

『『ソイヤッ』』

カッティングブレードを下ろす。
ロックシードが斬り開かれる。

『『ヒオウギアームズ』』

男達の頭に、黒い果実が刺さった。
それらが同時に、鎧へと展開する。

『『バトルセット!』』


茶色のスーツに、黒色の鎧。
シルエットは全員同じだが、鎧の差し色と武器は異なっていた。
それぞれ、赤、青、緑、黄、紫、橙。
武器はそれらの順に、刀、槍、薙刀、手斧、銃、弓である。

仮面ライダー頑武 ヒオウギアームズ


彼らは変身し終えると、スマートフォンを取り出し、地図のアプリケーションを起動した。
検索画面にキーワードを入力し、そこまでのルートを探る。
そして表示される経路案内を参考にしながら、彼らは見つからないように、路地を縫って動き始めた。

- 第五章 : 3バカの信条 -


…12月24日、夕方から。

胡桃はサクラハリケーンを停めた。
目の前にあるのは、廃工場。
そここそが、奪われたロックシードのある場所だった。

サクラハリケーンを錠前の状態に戻し、ポケットに仕舞う。
そして廃工場の中へ入って行こうとした。
が、その前に確認しておきたい事がある。
彼女はくるりと振り向くと、後ろにいる人物に話しかけた。

胡桃「…何で主任までここに?」

そこにいたのは、他でもない裕司である。
自分の記憶が正しければ、彼はA.N.G.00の方を追っていたはずだ。
何故ここにいるのだろうか。
だがそれに対する裕司の答えは、要領を得ないものだった。

裕司「それはこっちの台詞だ。芦原、何故お前までここにいる?」

彼はA.N.G.00の反応を追って、この廃工場を突き止めた。
自分の記憶が正しければ、胡桃は奪われたロックシードの方を追っていたはずだ。
何故ここにいるのだろうか。

胡桃「…え?」

裕司「…は?」

二人の間に、数秒の空白の時間が流れる。
それからおもむろに動きだすと、胡桃はノートパソコンを、裕司はタブレット端末を取り出した。
そしてそれぞれ、赤いポイントが点滅している地図を表示する。

胡桃「…私は、ここに奪われたロックシードがあるから来ました。」

裕司「…私も、ここにA.N.G.00がいるから来た。」

胡桃「…え?」

裕司「…は?」

胡桃「…えっと…つまり、どっちもここにあるって事なんですか?」

裕司「…多分、そういう事だろうな…」

胡桃「…なるほど…」

裕司「…」

胡桃「…」

裕司「…まぁ、行くか。」

胡桃「…そ、そうですね。」

再び、空白の時間が流れた。
二人は少し離れたまま歩き出す。
理由は分からないが、何故か気まずい。
お互いに多少の居心地の悪さを感じながら、それでも一緒に廃工場へと入って行った。

そのまま進んで行くと、開けた場所に出る。
どうやら工場内の装置などを全て取っ払い、巨大な実験施設として利用しているようだ。
そしてその奥に、二人はそれを見つけた。
透明のカプセルケースの中、何本ものコードに繋がれ、培養液の中にいるそれを。

裕司「A.N.G.00…」

裕司がその名を呟く。
そのとき、工場内に新たな足音が響き始めた。
それは段々と大きくなり、こちらに近づいて来る。
現れたのは、嶺二とハクトウ鎧の妖花だった。

嶺二「お待ちしてましたよ、二月君。」

裕司「瓦鋳…」

鳴子を傷つけた、元同僚。
裕司は嶺二を睨む。
そんな裕司に、嶺二は淡々と言った。

嶺二「二月君。少しお話しがあるのですが。」

裕司「…」

嶺二「どうです? 私の元で働きませんか?」

裕司「…何?」

嶺二「私は、君の能力を買っています。その力を、私と共に活かす気はありま…」

裕司「馬鹿か、お前は。」

嶺二「…はい?」

裕司「言っておくが、私はお前よりも高い能力を持っている。お前に使われる程、私は落ちぶれても衰えてもいない。」

嶺二「…なるほど。しかし馬鹿とは心外ですね。噂によれば、馬鹿なのは君の部下では?」

裕司「はっ。だからお前は馬鹿なんだ。」

嶺二の提案を、裕司は一蹴する。
更に、鼻で笑った。
彼は軽蔑した視線を向けながら、続ける。

裕司「確かに、俺の部下は全員バカだ。呆れる程の、バカばっかりだ。」

胡桃「主任、それ褒めてるんですか? 貶してるんですか?」

裕司「どちらだと思う?」

そこへ、急に胡桃が割り込んだ。
だが胡桃の質問に、裕司は質問で返す。
そしてその問いに、彼女は正確に答えて見せた。

胡桃「…あ、分かりました。バカにしてますね?」

裕司「大正解だ。」

胡桃は静かにガッツポーズを取る。
バカにしてると面と言われても気にせずに喜ぶ辺り、彼女は3バカである事を誇りに思っているような節があった。
実際、エリートとしての称号も兼ねているので、誇りに思っていても問題ないのだが。

少し席を外します。

裕司「兎に角だ、俺の部下はバカだ。馬鹿なんじゃない、バカなんだ。お前の馬鹿とは違う。」

嶺二「…話が全く理解出来ませんね。君もとうとう耄碌しましたか?」

裕司「理解出来ないか。お前の馬鹿さ加減が露呈したな。芦原、お前には分かるだろう?」

胡桃「もちろん。馬鹿とバカは全然違います。」

裕司「見ろ。私の部下とお前では、頭の出来が違う。」

小馬鹿にした表情で、嶺二を見る。
社内でも有名な親バカっぷりを、部下にも遺憾なく発揮する裕司だった。
嶺二は呆れ返り、溜息を吐く。

嶺二「…付き合っていられませんね。君を少しでも買っていた私が愚かだった。」

彼はそう言って、戦極ドライバーを装着した。
それを見た裕司と胡桃も、戦極ドライバーを装着する。
嶺二はロックシードを取り出しながら、妖花に耳打ちした。

嶺二「春菜(はるな)、君はあちらを。」

妖花「はい。」

春菜と呼ばれた彼女は、胡桃に近づいて行く。
胡桃は裕司から離れるように歩き、彼女と自分を彼らから隔離した。
二つの組織が、二つのフィールドに分かれて睨み合う。

『ビワ』
『メロン』

嶺二と裕司がロックシードを解錠する。
時空間の裂け目から、巨大な果実が降りてくる。

『ロックオン』
『ロックオン』

ロックシードを戦極ドライバーに施錠した。
和風の待機音が、ステレオで流れ出す。

『ソイヤッ』
『ソイヤッ』

嶺二「変身。」
裕司「変身。」

『ビワアームズ』
『メロンアームズ』

ビワが嶺二の、メロンが裕司の頭に突き刺さる。
そしてそれぞれが、鎧へと展開した。

『奸雄上等』
『天下 御免』


黄緑色の鎧と兜。
白いスーツに付く金色の装飾が、琴の音のような美しさを出していた。
左手には巨大な盾、メロンディフェンダーを装備し、腰には無双セイバーを帯刀している。

仮面ライダー斬月 メロンアームズ


変身完了直後、裕司はメロンディフェンダーを放り投げた。
捨てられたメロンディフェンダーが、地面を滑る。
それは、彼らから少し離れたところで止まった。

嶺二「…何のつもりですか?」

彼の行動の意味が分からず、嶺二は訝しげに問う。
戦闘開始前に武器を捨てるなど、一体どういう事だろうか。
それに対し、裕司は馬鹿にしたような声色で答えた。

メロンディフェンダー「解せぬ」

裕司「お前など、無双セイバーのみで十分だ。」

そして、無双セイバーを抜く。
それを聞いた嶺二は、心の中で嘆息した。
どうやら昔の同僚は、本当に耄碌してしまったようだ。

ならば、ここで人生を終わらせてやるのも良いだろう。
嶺二は琵琶弦配を構えると、裕司と対峙する。
裕司が心の奥底で、何を考えているのかも知らぬまま。


妖花こと春菜と胡桃は、裕司達と同じように睨み合っていた。
胡桃が、右手でロックシードを取り出す。
だが解錠はせず、そのまま春菜に話しかけた。

胡桃「ねぇ、ロックシード換えなさいよ。」

春菜「は? いきなり何?」

胡桃「それ、ウチから盗んだやつでしょ?」

春菜「だから大人しく返せって? 無理だって前にも言ったじゃない。」

胡桃「そうじゃないわよ。張り合いがないって言ってんの。」

春菜「は?」

胡桃「考えてみなさい。あんたがそれでヘルメス達を操ったとき、私には効かなかったわよね? つまりその鎧は、私に対しては不利って事よ。」

春菜「…」

胡桃「更に言うと、私の得意分野は狙撃なの。そうやってロックシードが剥き出しのままじゃ、すぐに取り返せちゃう。そんなの、つまんないでしょ?」

春菜「…何が言いたいの?」

胡桃「ここまで引っ張ったんだったら、少しは私にも楽しませろって話。こっちもさっさと仕事が終わんなくて、イライラしてんの。だから、原因であるあんたが解消しなさい。」

春菜「…」

胡桃「…」

しばらく、無言の時間が流れる。
が、いつまで経っても始まらないと悟ったのだろう。
春菜が嘆息して言う。

春菜「…あなた、嶺二さんが言っていた通り、本当に馬鹿ね。私、優しいから教えてあげるけど、それで不利になるのはあなたの方よ?」

胡桃「構わないわよ? 私は。」

春菜「…あっそ。」

どうやら、目の前の女は本当に馬鹿なようだ。
自分が不利になると分かっているのに、それでも楽しみを優先しようとするなんて。
少しでも優しさを見せた、自分も馬鹿だった。

彼女は先程よりも大きな溜息を吐く。
左手でハクトウ ロックシードを解錠し、戦極ドライバーから外した。
そして、彼女は後悔する。

春菜「!」

次の瞬間、ハクトウ ロックシードは飛んでいた。
痛みも何も感ぜず、まるで魔法を使われたかのように。
それは自分の掌から一瞬で弾き飛び、宙を舞っていた。

彼女の脇を、一つの影がすり抜ける。
言うまでもなく、胡桃だ。
彼女は春菜よりも一歩早くハクトウ ロックシードに近づき、跳ねる。
そして右手でそれを掴むと、地面に着地した。

更に間髪入れずに、前転する。
続けて側転とロンダートを決めると、春菜と向き直る形で立った。
春菜は慌てて取り返そうと、胡桃に向かって手を伸ばす。
だが今の一連の動きで、既に胡桃は、彼女の手が届かない位置まで移動していた。

胡桃の手を確認する。
右手にあったはずのクルミ ロックシードはなく、代わりに先程まで自分が持っていたハクトウ ロックシードが収まっていた。
そして左手には、小さな拳銃。
それが、今の一瞬で何が起きたのかを、ハッキリと物語っている。

春菜がハクトウ ロックシードを外した瞬間、胡桃は彼女に向かって跳び出した。
同時に、愛用のライダースーツに隠してある拳銃を抜く。
そのまま、間髪入れずに弾丸を放った。
普通の人間なら確実に外すであろうそれを、彼女は正確に撃ち抜いて見せる。

銃弾はハクトウ ロックシードに命中し、それを弾き飛ばした。
リョウマの作ったロックシードが、普通の弾丸如きで壊れるわけがない。
そんな彼女の予想は的中し、ロックシードには傷一つ付かなかった。

春菜が気がついたときには、もう遅い。
胡桃は既に、ハクトウ ロックシードを掴んでいた。
そして春菜から距離を取り、今の状況に至る。

胡桃「憶えておきなさい。私は馬鹿なんじゃなくて、バカなのよ。」

胡桃はハクトウ ロックシードを仕舞いながら、呆然としている春菜に言った。
その言葉に、春菜はギリッと歯軋りする。
自分を馬鹿にしたようなその言い方が、先程まで彼女を侮っていた自分を、酷く貶しているような気がした。

春菜「許さない…!」

彼女は怒りに満ちた表情で、プルーン ロックシードを取り出す。
それに合わせ、胡桃もクルミ ロックシードを構えた。
二人がロックシードを解錠する。

『プルーン』
『クルミ』

春菜が纏っていたハクトウ鎧が、泡のように消える。
ロックシードを戦極ドライバーに施錠した。

『ロックオン』
『ロックオン』

和風の待機音と、西洋風の待機音が流れ出す。
カッティングブレードを握り、ロックシードを斬り開く。

『ソイヤッ』
『カモン!』

胡桃「変身。」

『プルーンアームズ』
『クルミアームズ』

時空間の裂け目から、巨大なクルミとプルーンが現れた。
それらが彼女達の頭に突き刺さり、鎧へと変形する。

『暗躍!イン・ザ・レディ』
『Assassin Time!』


枯れた黄土色のスーツに、黒が輝く胡桃色の鎧。
シルエットはくるみ割り人形のそれだが、風化したようなカラーが異様な雰囲気を醸し出していた。
緑に光るモノアイ。
武器は右手に持ったライフル、クルライフルだ。

仮面ライダーギリードゥ クルミアームズ


春菜は胡桃を睨みながら、両手でプルーンワインダーのワイヤーを伸ばす。
胡桃はクルライフルを肩に担ぎ、注意深く春菜を観察し始めた。
お互いに腹の中を探り合い、場の緊張感が高まっていく。
ユグドラシルとアカツキの、女同士の戦いが幕を開けた。

>>224さん
盾など不要、です。


本日はここまでにしたいと思います。
疑問、質問、提案等、いつでもお受けしております。

気になった点があれば、いつでもご指摘ください。
ですが、あまりキツい言葉は、出来るだけ遠慮していただきたいと思います。

乙でした
自分が作ったオリライダーの女性同士が戦う…中々シュールな光景ですねぇ
そして彼らのバカであって馬鹿じゃない所がよくわかった気がします

乙です!
でも斬月くんは盾が無くても強すぎる位
アバレブルーに似てるのは気のせい

乙でした
しかし、クリスマス中に片付くのだろうか……。
TSD……あれってうまいこと使えば合法ロリを大量生産できるんじゃ……。

>>228さん
バカと馬鹿の違い…
実は>>1も分かっていません。


>>229さん
盾は…使うときがくれば、使うかも知れません。
使うときがくれば、ですが。


>>230さん
戦極ドライバーのトライアルに関しては、最終章にて語られます。
どんな機能がついているのでしょうね…


こんばんは。
本日も始めていきます。

宝は歩いていた。
が、それは今日のルナと同じように、挙動不審だ。
そしてこれも同様に、本人だけがその事に気がついていない。

右足を踏み出せば、同時に右手を出す。
左手を出せば、同時に左足が踏み出た。
表情はガチガチに固まっているかと思えば、時々にやける。

その理由は知っての通り、これから更季とのデートだからだ。
急いで美容院に行き、服もお気に入りの白いワンピースを纏った。
少しだけ化粧もし、準備は万端だ。

だがそれでも、不安だけは拭えない。
変に思われたらどうしよう。
失敗してしまったらどうしよう。
嫌われてしまったらどうしよう。

心の中で、不安はどんどん大きくなっていく。
そんなとき、彼女は今日、決まってあるものを眺めた。
今も一旦立ち止まり、財布からそれを取り出す。
シンプルな名刺には、三木 秀という名前が印字されていた。

その名前を見る度に、この三日間の出来事が甦ってくる。
たった数日の間で、自分の状況は大きく変化した。
それは全て、この男がいたから。
この場にいない秀が、今でも自分を支え、応援してくれているような気がした。

よし、と気合いを入れる。
彼女は名刺を財布に仕舞うと、再び歩き始めた。
大丈夫。
今日は、絶対に成功させる。

決意を新たに、一歩を踏み出した。
そのときだ。
突如、足元で何かが爆発した。

宝「きゃっ!」

彼女は驚き、尻餅をついてしまう。顔を上げると、そこには六人のアーマードライダーが立っていた。
その内の一人、紫の頑武が、銃口を足元に向けている。

そこで彼女は理解した。
自分は、彼らに襲われたのだと。
何故だか、理由は分からない。
それでも危険な事は確かだ。

普通の人間なら、本能的に走って逃げ出すだろう。
もちろん、宝もそうした。
だが彼女が他と違ったのは、同時に携帯電話を取り出した事だ。

連絡先から、ある番号をコールする。
警察でも、消防でもない。
今、頼れるのは彼だけだ。
宝は必死の思いで、彼が電話に出るのを待った。


秀はデスクで頭を抱えていた。
津村 更季が万田 洋介だと判明し、どうすればいいのか分からない。
いや、悩む必要はない。
殺す以外の選択肢など、端から存在しない。

だが、それでも。
頭では分かっていても。
無理矢理納得しようとしても。
どんなに頑張っても、気持ちが追いつかない。

秀「くそっ…」

何度目になるか分からない悪態を、誰にともなく吐く。
悩めば悩む程、何かが喉の奥まで上がって来て、猛烈に襲ってくるのだ。
こいつを吐き出せれば、決心が着くのかも知れない。
彼はそう考えると、吐気を催しているわけではないにも拘らず、手洗いに席を立つ。

しかし、そのとき携帯電話が鳴った。
腰を椅子から半分だけ上げた状態で、彼の動きが止まる。
とても微妙なタイミングで掛けてくる奴もいるもんだ。
彼は一度腰を下ろすと、携帯電話のディスプレイを見た。

同時に、彼の顔が曇る。
そこに表示されていた名前は、月斬 宝。
例の少女だった。
この状況で気が進まなかったが、とにかく出るしかない。

秀「…もしもし、俺だけど。」

いつものテンションを取り戻そうとしてボケをかますが、今一覇気がない声になってしまった。
だが電話口からは、ツッコミも心配そうな声も聞こえない。
代わりに聞こえてきたのは、荒い息づかいだ。

宝「助けてください!」

電話の向こうが本当に秀なのかも確認せず、宝は叫ぶ。
秀が彼女の言葉を理解した瞬間、先程まで喉に支えていたものが雲散霧消した。
急速に冷やされた頭で、瞬時に思考する。

乱れた息と風の音。
彼女は間違いなく走っている。
今の言葉と合わせれば、何かから逃げているのは明白だ。
そして俺に連絡を寄越したという事は、相手は十中八九アーマードライダーだろう。

秀「ちょっと待ってろ! 絶対に電話を切るなよ!」

彼は叫ぶと、携帯電話をパソコンに接続する。
ディスプレイから地図のアプリケーションを選択し、起動した。
数秒後、そこに赤い点が表示される。
ユグドラシル開発部特製、Y.C.D.とリンクさせる事で、通信相手の位置が瞬時に特定出来るアプリだ。

画面を見、彼はすぐに場所を把握した。
携帯電話をコードから無理矢理引っこ抜くと、エレベーターに向かって走る。
もどかしい思いをしながら一階まで降りると、受付嬢が驚く程の速さで外へ飛び出した。

ローズアタッカーを変形させ、走り出す。
悪い予感が、どんどん彼を蝕んでいった。
もしかしたら、月斬ちゃんがユグドラシルである俺と知り合いなのを知った万田が、彼女を襲ったのかも知れない。

秀「くそっ!」

彼は思わず叫び、スピードを上げる。
急がなければ。
制限速度も完全に無視し、彼は宝の元へ走り続けた。


宝は頑武に殴られた。
身体が倒れ、転がる。
逃げ出す力は疎か、立ち上がる力さえも残ってはいなかった。

髪は乱れ、顔には傷が付いている。
靴は脱げ、大切な服も裂かれていた。
心はボロボロに傷付き、肌は血と汗と涙で汚れている。

頑武「おい、手加減しろよ。」

青色の頑武が、赤い頑武に言った。
彼の手には、槍が握られている。
その刃の部分は使わず、柄で宝を殴った。

頑武「大丈夫だって、死にはしねぇよ。」

赤色の頑武は答える。
彼が持つ武器は、刀だ。
その刃で、宝の服を斬り裂く。

頑武「何言ってんだよ、出来るだけ傷付けねぇ方がいいんだよ。」

そこへ、黄色の頑武が突っかかった。
武器は手斧だが、今は素手だ。
彼の言葉に、橙色の頑武が付け加える。

頑武「そうそう。だって殺さなければ、ナニヤってもいいって言われてんだぜ?」

彼の武器は弓だった。
今は矢を使わず、専ら叩くのに使っている。
そんな彼に、紫色の頑武が反論した。

頑武「馬鹿か、あくまで任されたのは足止めだ。それとイントネーションがおかしいだろ。正しくは、何やってもいい、だ。」

彼の武器は銃だが、もちろん宝の足元を撃つ以外には使用していない。
そして彼らの掛け合いに、緑色の頑武が呆れた声で叫んだ。
薙刀を振り回し、地面を叩く。

頑武「御託はいいから、さっさと続きをしようぜ!」

その言葉と共に、チームワークがバラバラだった頑武達が、再び宝に近づいて行った。
三木さん…!
宝は静かに目を閉じ、心の中で叫ぶ。

頑武「がはぁ!」

瞬間、叫び声が聞こえた。
目を開けると、赤い薔薇があしらわれたバイクが飛んで来て、黄色の頑武を弾き飛ばしている。
他の頑武も、驚いて顔を向けた。
ローズアタッカーが飛んで来た方から、一つの人影が歩いて来る。

宝「…三木さん…」

彼女は安堵と共に、その名前を口にした。
秀は両手をポケットに突っ込み、俯きながら近づいて来る。
その表情は、今はまだ窺い知れない。

頑武「んだぁ? テメェは!?」

橙色の頑武が、秀に叫ぶ。
それでも、彼は歩みを止めない。
そのまま歩き続け、宝の真横で立ち止まった。

秀「…よ、待たせた。」

その表情は、宝を安心させようと、微笑みを湛えている。
が、彼女の安堵感は、一瞬にして変わってしまった。
彼の瞳に、一切の優しさが籠っていなかったからだ。

宝「…三木さん…」

怯えたような声が出るが、秀は気にしていない。
彼はポケットから携帯電話を取り出すと、宝との通話を切り、代わりに例の総合病院の番号をコールする。
それを、屈んで宝に手渡した。

秀「悪ぃけど、自分で電話してもらっていいかな? まだ話せるみたいだし。」

有無を言わさぬ強い目に、宝は頷く事も出来ない。
彼女が何も答えないのを肯定として捉えたのか、秀は再び立ち上がる。
そのとき、宝は確かに見た。
彼の顔から、微笑が消え去ったのを。

頑武「おっさん、死にてぇのか?」

赤色の頑武が、ドスの効いた声で言う。
だが次の瞬間、彼らは思わず黙ってしまった。
顔を上げた、秀の目を見たからだ。

秀「死にたいのか、か。いいな、それ。」

楽しそうな声で答える。
実際、彼はワクワクしていた。
たった今、宣戦布告された。
つまりこの瞬間から、彼が頑武達を殺そうと、ユグドラシルからは何も言われる事がなくなったのだ。

秀「俺も殺し合いは大好きだぜ?」

歪んだ笑みを浮かべ、戦極ドライバーを装着する。
強化されたドライバーのイニシャライズが完了し、ライダーインジケータにアーマードライダーの横顔が表示された。
ロックシードを取り出し、解錠する。

『トケイソウ』

頭上に、時空間の裂け目が現れる。
その中から、鮮やかなトケイソウの実が降りてきた。
ロックシードを構え、戦極ドライバーに施錠する。

『ロックオン』

歯車の駆動音と警報を重ねたような、機械系の待機音が流れ出す。
戦極ドライバーのカッティングブレードを握り、それを勢い良く下ろした。
ロックシードが斬り開かれ、シードインジケーターが露わになる。

『スタート』

秀「変身。」

『トケイソウアームズ』

巨大な果実が、彼の頭に突き刺さる。
その中で、仮面と兜が装備された。
最後にそれが展開し、鎧へと変形する。

『Time of Reign』


橙色のスーツは以前よりも暗めになっており、鎧のワンポイントであるクリアカラーも、黒地に黄色から黒地に赤色へと変化していた。
ワイヤーを内蔵した追加装甲は、赤色と橙色を混ぜたような色の鎧だ。
武器は以前と同じボムパッションとヴィンプワイヤーに加え、エアネイドの武器でもあるU-RINIAを背負っている。
そして最も目を引くのが、背中に装備されたワイヤー内蔵の大剣、エクストラパッションだ。

仮面ライダーヴィンプ・タキオン トケイソウアームズ


彼が変身したのを見て、頑武達は一斉に武器を構える。
が、その腰は引けていた。
相手が攻撃を仕掛けて来たとき、それが処分開始の合図だ。
秀は手首と足首を解しながら、頑武が攻撃してくるのを待った。


春菜が動いた。
プルーンワインダーを投げ、胡桃を襲う。
が、胡桃は瞬時に狙いを定め、クルライフルでそれを撃ち抜いた。
銃弾に弾き返され、プルーンワインダーが手元に戻って来る。

春菜は舌打ちし、第二撃を放とうとした。
だが次の瞬間、右手に激痛が走る。
彼女は思わず、プルーンワインダーを投げ出してしまった。

驚いて、胡桃を見る。
彼女は正確に、春菜の右手を撃ち抜いていた。
本当はプルーンワインダーに直接当てる事も出来たのだが、それでは彼女がそれを落とさないかも知れない。
正確に武器を落とさせるには、彼女の手を撃ち抜く方が有効だった。

プルーンとクルミ。
ロックシードのランク的には、言うまでもなくクルミの方が下だ。
しかし、勝負はそれで決まるわけではない。

胡桃はユグドラシルのアーマードライダーだ。
彼女は開発者であるリョウマが作った、アーマードライダーのための特殊な戦闘訓練を受けている。
その彼女が、他のアーマードライダーに後れを取るなど、あり得ない。

胡桃はクルライフルを構え、春菜の肩口を撃ち抜く。
春菜は後ろへ吹き飛び、地面を転がった。
このままでは、まずい。
そう彼女が思った矢先、予想だにしない事が起きた。

胡桃「きゃっ!」

突如、胡桃が弾き飛んだのだ。
春菜が顔を上げると、胡桃が自ら射出したクルライフルの弾丸に当たっている。
そして自分の目の前には、青色の波動。
その先を追うと、そこには正しく、木陰がいた。

春菜は邪悪な笑みを浮かべる。
立ち上がり、プルーンワインダーを回収した。
そして、胡桃に向かって言う。

春菜「そう言えば、知らないかもしれないけど…」

彼女は余裕を持ったまま、プルーンワインダーを放った。
胡桃はそれを、クルライフルで弾こうとする。
が、そこへ、木陰が黄色の波動を放った。
胡桃の身体が固まり、動かなくなってしまう。

胡桃「っ!」

そこへ、容赦ないプルーンワインダーの一撃が放たれた。
彼女はそれに弾かれ、後ろへ転がる。
春菜はプルーンワインダーを右手に戻し、言った。

春菜「あのロックシードの力は、解除した後も、しばらくは続くみたいよ。」

木陰の右掌と右腕の装飾が、桃色に光る。
彼は右手を春菜に翳し、そこから同色の波動を放った。
それを受けた瞬間、春菜の体力が回復していく。
傷も完全に治癒され、体調は万全の状態になった。

勝てる。
春菜の中に、確信が生まれる。
負ける。
胡桃の中に、覚悟が生まれる。

『プルーン オーレ』

木陰が右手を胡桃に翳し、春菜が戦極ドライバーを操作した。
これで終わりだ。
春菜と胡桃の思考が、奇しくも一致する。

だが、そのときだ。
春菜の隣に立っていた木陰が、突然頭から吹き飛んだ。
春菜も胡桃も驚き、思わず吹き飛んだ方と反対側をみる。

そこには、拳銃を持った壮年の男が立っていた。
瞬間、胡桃は固まる。
彼女は、彼を知っていた。
いや、ユグドラシルの関係者なら、誰もが彼を知っているはずだ。

胡桃「大口…」

大口 弘明。
裕司と同じユグドラシルの重役で、ユグドラシルが生まれたときからいると言う噂の男。
何故、彼がここにいるのか。
そんな胡桃の疑問に、答える者はいない。

弘明は拳銃をホルスターに仕舞うと、その右手をスーツの内側に差し込んだ。
そこから、戦極ドライバーを取り出す。
それを装着し、ロックシードを構えた。

『アップル』

ロックシードを解錠する。
頭上に、巨大な果実が現れる。

『ロックオン』

ロックシードを戦極ドライバーに施錠した。
和風の待機音が流れ出す。

『ソイヤッ』

弘明「変身。」

『アップルアームズ』

ロックシードが斬り開かれる。
そして鮮やかなアップルが彼の頭に刺さり、鎧へと変形した。

『天・下・無・双』

黒色のスーツに、血のような紅色の鎧。
織田 信長の甲冑によく似ているそれには、白色の差し色が入っていた。
和風と西洋風が混じったような外見に、禍々しいスモークブラックのツインアイ。
左腰と左手には無双セイバーを装備し、右手には刀、村正丸、背中には鉄砲、骸砲を負っている。

仮面ライダー天武 アップルアームズ


変身完了直後、彼は大きく高笑いした。
胡桃と春菜が呆然とする中、彼の声だけがその場に響き渡る。
それから彼は骸砲を抜き、起き上がろうとした木陰を撃った。

それを受け、木陰は再び後ろへ吹き飛ぶ。
弘明は骸砲から村正丸に持ち直し、無双セイバー共々構えて跳び出した。
突如現れた、ユグドラシル最凶の重役。
彼は一体、何のためにこの場に来たのだろうか。


愛花「あれー? 珍しいですね。」

ユグドラシルの地下にあるバー。
そこに現れた客に、愛花は少し驚いたような顔をした。
今日はクリスマスイブという事もあってか、客は少ない。

リョウマ「ちょっと話があってね。」

その客とは、リョウマだった。
彼は愛花の目の前の席に腰掛ける。
すると両脇に座っていた客が、それとなく左右に広がった。

愛花「もー。お客さん怖がらすの、やめてくださいよ。」

リョウマ「そんな事してないって、ね?」

客「え…あ、はい。勿論です。」

いきなりリョウマに話しかけられた左の客は、少し戸惑った後、敬語で返す。
ビクッとした辺り、本当に怖がられているようだ。
愛花はそれをニコニコ眺めながら、リョウマに言う。

愛花「ほら、怖がっちゃってるじゃないですか。」

リョウマ「酷いね。僕の一体何処が怖いって言うのさ。」

愛花「そう言えば、聞きましたよ。また実験体が一人、死んだんですよね?」

その言葉が出た瞬間、両隣の客がガタッと音を立てた。
他の客も、カウンターにお代を起き、静かに店を出て行こうとする。
リョウマの両側に座っている客は、何となく、帰りたくても帰れない。

愛花「ほら、お客さんが帰っちゃいましたよ。」

リョウマ「いやいや、今のは君のせいでしょ。」

愛花「それにしても、本当に珍しいですね。」

リョウマ「話聞いてよ。」

愛花「確か、お酒飲めないんじゃありませんでした?」

リョウマ「何か子供っぽく聞こえるね。飲めないんじゃなくて、飲まないの。」

愛花「何でですか? お酒って楽しいですよ?」

リョウマ「頭の回転が鈍るからね。研究者としては、好きじゃないんだ。」

愛花「じゃあ、どうしてウチに来たんですか?」

リョウマ「だから話があるんだって。」

愛花「あー、そんな事も言ってましたね。何でこんなに雑談してから本題に入ろうとしてるんですか?」

リョウマ「雑談振ってきたのは君の方だから。」

愛花「あれー? でも聞いた話だと、ゲネシスドライバーの修理してたんじゃないですか?」

リョウマ「それはもう終わったよ…ほら、また話が逸れた。」

愛花「それで、お話って何ですか?」

リョウマ「軽く流すね。うん、実はさ…」

愛花「はいはい?」

リョウマ「君のお兄ちゃん、死んじゃうかも。」

瞬間、両隣の客が立ち上がった。
早々にお代を払うと、何も言わずに立ち去ってしまう。
そんな彼らを冷めた目で見ながら、リョウマは続けた。

リョウマ「あれ? お兄ちゃんじゃなくてお姉ちゃんだっけ?」

愛花「えーと…忘れちゃいました。」

リョウマ「自分の兄姉の性別まで忘れるなんて、本当に酷いね。」

愛花「じゃあ…お兄ちゃんで。」

リョウマ「何で?」

愛花「だって妹キャラって、お姉ちゃんよりお兄ちゃんの方が輝くじゃないですか?」

リョウマ「そうかな? みなみけとか見てると、そんな感じしないけど。」

愛花「へぇー、漫画とか読むんですね。何か意外です。」

リョウマ「いや、アニメを少し見てただけだよ。」

愛花「それでも意外ですー。アニメ見てるんですね。」

リョウマ「日常系はたまにね。バトル系は、研究者としてはどうしても矛盾点を指摘したくなって、落ち着いて見れないから。」

愛花「あー、なるほど。最近の異能系ライトノベルって、物理法則とか無視してますもんね。」

リョウマ「て言うか、ロクに調べてないんだろうね。例え調べていたとしても、専攻して学んでた人から見れば、理解してないのと同じレベルだよ。」

愛花「それを面白く読んじゃう人も人ですよねー。」

リョウマ「余計な知識がないって言うのは、ある意味では楽かもね。」

愛花「それより、また話が逸れてますよ。」

リョウマ「だから、逸らしたのは君でしょ。」

愛花「違いますよ。みなみけの話題を振ったのは私じゃありません。」

リョウマ「お兄ちゃんに拘ったのは君でしょうが。」

愛花「不毛な争いですね。そろそろ本題に戻りましょう。」

リョウマ「だから話聞いてよ。」

愛花「で、兄貴が死んじゃうんでしたっけ?」

リョウマ「あれ? お兄ちゃん呼びじゃなかった?」

愛花「何でもいいんですよ。だったら、おにぃにしますか?」

リョウマ「あざといね。前からだけど。」

愛花「それで、どうしてあにぃは死んじゃうんですか?」

リョウマ「もう気にしないよ…前に、彼がハクトウ錠前の効果に紛れて、ユグドラシルに敵対したって話はしたよね?」

愛花「しましたっけ?」

リョウマ「二日前だよ…本当に他人の話を聞かないなぁ。」

愛花「まぁまぁ。それから?」

リョウマ「だからあいつを嗾けて、彼を始末する事にしたんだ。」

愛花「あいつ…あぁ、もしかしてあの人ですか?」

リョウマ「あいつで伝わるもんだね。」

愛花「まー、にぃにを殺せる人って、リョウマさん以外だったらあの人しか思いつかないかなって。」

リョウマ「多分、裕司でも殺せると思うけどね。」

愛花「あの人、そんなに強いんですか?」

リョウマ「強いよ。だって、あの特任部のトップだもん。」

愛花「んー、そう言われると凄く強そうですね。それにしても、あの人がそう簡単に腰を上げたんですか?」

リョウマ「欲に取り憑かれた人間ってのは、動かし易いものだよ。少し匂わすだけで、すぐに動く。」

愛花「あの人は確かに、疑わしきは始末しとくって感じですもんねー。」

リョウマ「それで、いいの?」

愛花「何がですか?」

リョウマ「このままだと、お兄ちゃん死んじゃうよ。」

愛花「いいですよー、別に。」

リョウマ「本当に冷たいね。」

愛花「だって私、あの人嫌いですし。」

リョウマ「遂にお兄ちゃん呼びからあの人呼びまで落ちたね。」

ゆったりとした口調の会話が続く。
カウンター越しに他愛もない会話をしているような空気を出しながら、その内容は大変なものだ。
それでもこの二人にとっては、対岸の火事も同じ。
他人の話に感情移入出来る程、彼らは優しくなかった。


弘明が振るう村正丸と無双セイバーを前に、木陰は反撃出来なかった。
そもそも、彼は武器を持っていない。
だから反撃しようにも手から波動を放つ以外に方法はないのだが、その隙が全く生まれないのだ。

弘明「…つまらん。」

一方的な戦いに、弘明は思わず呟いた。
彼は左手の無双セイバーを捨てると、再び骸砲を構える。
その銃口を木陰の胸に当て、零距離射撃を放った。

計り知れない程の衝撃を受け、木陰は後ろに吹き飛ぶ。
痛みが身体を駆け抜けるが、時間をロスしている暇はない。
遂に生まれた隙だ。
ここを突かずして、どうするのか。

彼は弘明に右手を翳す。
右腕の装飾が黄緑色に光り、掌から同色の波動を放った。
だがそれを、弘明は一蹴する。

弘明「効かぬ!」

その言葉通り、木陰の波動は、彼に何の被害も及ぼしていなかった。
だが木陰にとっても、それは予想の範疇だ。
今のはただの時間稼ぎに過ぎない。
本当の勝負は、次だ。

『ミラクルフルーツ スパーキング』

木陰は戦極ドライバーを操作した。
両腕の装飾がスモークで黒く染まり、両手に紅い稲妻の混じったどす黒い光が現れる。
彼はそれを弘明に向け、一気に解放した。

闇の如き波動光線が、弘明に迫る。
が、彼はそれを見て笑った。
その心にある感情は一つ、面白そうだけだ。

『アップル オーレ』

彼は村正丸を背負うと、空いた右手で戦極ドライバーを操作した。
左手の骸砲を、木陰に向ける。
そして銃口から、チャージされたエネルギーをビーム状に変換して放出した。

漆黒の波動と、紅赤の光線とが激突する。
お互いにお互いのエネルギーを打ち消し合いながら、押し合った。
木陰が、両手に力を込める。
すると、波動光線は段々とビームを押し返し始めた。

その勢いは止まらず、もう骸砲の銃口に届きそうだ。
木陰は笑う。
自分の必殺光線は、既に弘明の目と鼻の先だ。
この勝負、勝った。

確信が、彼の心に芽生える。
だが次の瞬間には、それは綺麗に消え去ってしまった。
今の今まで押していた波動の勢いが急に落ち、次第にビームに押され始めたのだ。

自分は威力を落としていない。
では、何故押されるのか。
答えは明白だ。
弘明が、放出するエネルギー量を増したのだ。

木陰は更に力を込め、それを超えようとする。
が、どんなに威力を増しても、紅赤の光線は止まらない。
それは漆黒の波動を完全に飲み込み、木陰を大きく吹き飛ばした。

彼は地面をバウンドし、転がり、壁に叩きつけられる。
弘明はそんな彼を見ながら、骸砲を村正丸に持ち替えた。
中々楽しかったぞ。
心の中で、木陰に賞賛を送る。

『アップル スカッシュ』

でも、それと殺さないのとは別だ。
彼は戦極ドライバーを操作し、村正丸にエネルギーを流し込む。
そのまま木陰へ向かって跳び上がると、村正丸に体重を乗せ、上から下へ一気に振り下ろした。

木陰は慌てて、両手に力を込める。
両腕の装飾が水色に光り、両掌から同色の波動がシールドとして広がった。
それが綺麗な音を立て、村正丸を受け止める。
が、それも一瞬だ。

刹那、水色の波動シールドが、ガラスのように割れた。
そして木陰の身体が、真っ二つに斬り裂かれる。
巨大な爆炎が、勢い良く上がった。
同時に、弘明の足元へ、綺麗に真ん中で斬られた戦極ドライバーとロックシードが落ちてくる。

臨時の仕事は終わった。
久しぶりに面白いと感じたが、そろそろ会社に戻らねばならない。
重役である自分には、本当につまらない仕事が山ほどあるのだ。
弘明はもう一度、今の気持ちを表すかのように豪快な笑い声を上げ、その場を後にした。


木陰が現れたとき、自分は勝ったと確信した。
が、謎の男が乱入したせいで、形勢は再び逆転してしまったではないか。
春菜は唇を噛みながら、プルーンワインダーで胡桃の攻撃を弾く。
何とかこちらからも攻撃を仕掛けたいが、正確に狙撃してくる彼女の隙を突く事は、容易ではなかった。

どうにかして反撃しようとしていた、そのときだ。
先程と同じ笑い声が、そこに響いてくる。
察するに、木陰が敗北したようだ。
春菜は舌打ちすると、胡桃の攻撃を避けながら、廃工場内にあったロボットアームの陰に身を隠した。

本日はここまでにしたいと思います。
疑問、質問、提案等、いつでもお受けしております。

気になった点があれば、いつでもご指摘ください。
ですが、あまりキツい言葉は、出来るだけ遠慮していただきたいと思います。

リ、リンゴTUEEEEEEEEEEEEE!!!です!!!
天下無双て、まんま最強って意味じゃないですかー!
相手を勝つか負けるかではなく処分するって・・・
例えるならドラクエのコマンドに『たたかう』とか『どうぐ』とかって表示されてる中に『しょぶんする』ってコマンドがある位に圧倒的です
新世代ライダーでも勝てる気がしません
こ、これはもう、両腕を骨折した全治5ヶ月の兄が私のパソコンでえっちなスレを書いてたのを見た以来の衝撃です。

久々のバロン回
あれが本当のバナナシュートってヤツなんですね
あと、何げにハセくんがあくろぶてぃっく?に良い動きをしてました!
サッカーッてあんな動きもするのですね!
ブラーボくんのユニフォームが今にも破けそう><

>>242さん
>>1もその話に衝撃を受けてます。


>>243さん
あのまま超次元サッカーしちゃってもいいと思いました。


こんばんは。
本日も始めていきます。

仕方ない、と彼女は覚悟を決める。
胡桃にハクトウ ロックシードを奪い返されてから、これは使わないと決めていた。
が、流石にもう限界だ。

これも彼女に取られてしまう可能性は、十分にある。
だが、それはあくまで負けた場合の話。
勝てば問題ない。
彼女は決心と共に、ロックシードを解錠した。

『バナップル』

頭上に時空間の裂け目が開く。
そこから、黄色い果実が降りてくる。

『ロックオン』

ロックシードを戦極ドライバーに施錠した。
西洋風の待機音が流れ出す。

『カモン!』

カッティングブレードを下ろし、ロックシードを斬り開く。
巨大な果実が、彼女の頭に突き刺さった。

『バナップルアームズ』

それが展開し、鎧に変形する。
そして現れた武器を掴むと、彼女は胡桃に向かって飛び出した。

『Amazons Javelin』


黄色のスーツに、銀色が入った黄色の鎧。
バナナ鎧によく似ているが、肩と兜の角が小さく、黄色のポニーテールが存在している。
腰には、ミニスカートを模したアーマーが存在した。
武器の槍、バナジャベリンは、バナスピアーよりも短いが、ツバにブースターが搭載されているという特徴がある。

仮面ライダー妖花 バナップルアームズ


胡桃は、鎧を変化させて現れた春菜にクルライフルを向けた。
かねてから思っていた事だが、彼女の戦極ドライバーはおかしい。
鎧を変える度に待機音とライドウェアが変化するなど、あり得ない事だ。

戦極ドライバーにイニシャライズ機能が付いているのには、理由がある。
鎧が変更された後も、それがどのアーマードライダーかを判断し、変身者を特定するためだ。
故に出回っている戦極ドライバーは、トライアル版を除いて、全てにイニシャライズ機能が搭載されている。

それが機能していない彼女の戦極ドライバーは、間違いなく改造されたものだ。
なら、やる事は一つ。
戦極ドライバーの破壊だ。

無駄な仕事が増えてしまったと、胡桃は溜息を吐く。
ロックシードを回収した上で戦極ドライバーも破壊しなければならないなど、何と面倒な仕事だろう。
彼女はゲンナリしながらも、クルライフルで正確に春菜を狙撃した。


バイクの集団が、暗くなった街を疾走していた。
と言っても、暴走族ではない。
ローズアタッカーに跨った了と才吾、そしてホウセンカハリケーンに跨ったヘルメスの戦闘員達だ。

彼らはリョウマの指示を受け、裕司と胡桃が戦っている廃工場へ向かっていた。
やがて、目的地が見えてくる。
だが、彼らはその手前で、急にバイクを停めてしまった。
その理由は、ただ一つ。

そこには既に、招かれざる客がいた。
最も目を引くのは、複数体の戦闘用アンドロイドだ。
それらは廃工場の前に立ち、今にも突入せんとしている。
そしてそのアンドロイド達の前に、それらを製作し操っていると思われる男が立っていた。

巡「ちっ、意外と早かったな。」

石狩 巡。
株式会社「イェデアングループ」の社長で、アーマードライダーの力と技術を使い、世界を飲み込もうと画策している男。
イェデアンは「アカツキ」や「ヨルムンガンド」と並び、ユグドラシルに牙を剥く愚かな組織の一つでもある。

彼は今年の秋に一度、量産型アーマードライダーを作り沢芽市を掌握しようと計画した事があった。
だが何者かによって次々と彼の工場が爆破され、生産計画は破綻。
更にそれが原因でユグドラシルにも見つかってしまい、最後は新世代アーマードライダーとなった秀に撃破されたのだ。

あのとき、彼は姿を消し、ユグドラシルの始末を逃れた。
それからしばらく音沙汰なかったが、それはどうやら、このアンドロイド軍団を開発していたかららしい。
アーマードライダー量産計画を、諦めてはいなかったのだ。

了「こんなところまで何しに来た?」

了はそう尋ねながら、ローズアタッカーから降りる。
才吾とヘルメス達もそれに続き、ロックビークルを錠前の状態に戻した。
巡は了の質問に、簡潔に答える。

巡「何、量産型アーマードライダー用アンドロイドの製作に当たって、お前らが逃がしたって言う戦闘用アンドロイドをサンプルに貰おうと思ってな。」

予想通りだ、と了は心の中で呟いた。
今の言葉と、未だに巡が変身していない事を合わせて考えると、彼は積極的に自分達と戦う気はないようである。
了は結論付けると、歩いて巡に近づいていった。

そのときだ。
一つの影が、巡の背後から飛び出した。
サバイバルナイフを構えた少女が、了の眼前に迫る。

???「!」

が、了は冷静に、少女の手を蹴り上げた。
彼女の手からサバイバルナイフが弾かれ、地面に落ちる。
少女はそれを見ると、すぐに巡の元へ戻った。

巡「やめろ、馬鹿。」

その少女に対し、彼は冷たく言い放つ。
了は地面に転がったままのサバイバルナイフを拾うと、その持ち手を巡の方に向けながら差し出した。
巡は何も言わずにそれを受け取ると、少女にそれを渡す。
悔しいのか、恥ずかしいのか、少女は憮然とした態度でそれを仕舞った。

了「で、そいつは誰だ?」

その少女を目で示しながら問う。
秋に巡の情報を洗ったとき、その少女の顔を見た覚えがなかったからだ。
だか当の巡は、頭を掻きむしって言った。

巡「俺も知らねぇ。本人に聞け。」

彼の答えに、了は少し驚く。
身元の分からない人間を側に置いているとは、一体どういう事だろうか。
了がジロリと少女を睨むと、彼女も負けじと彼を睨み返した。

了「ユグドラシル特任部、佐野 了だ。お前も名乗れ。」

生真面目にも、彼は自分から名乗った後、少女に名前を尋ねる。
世間的には全くもって正しい行為なのだが、如何せん初対面で刺し殺そうとしてきた明らかな敵に向かっても普通に名乗ってしまう辺り、彼が「ユグドラシルの3バカ」の一人と呼ばれる片鱗が垣間見えた。
そもそも敵同士であるユグドラシルの特任部とイェデアンのトップが、普通に会話しているこの状況からしておかしいはずだ。
しかし了も巡も、そんな事は全く気にしていなかった。

巡もバカだからという理由では勿論ない。
この二人は、お互いに自分の強さを理解し、相手の力量を知っている。
だからこそ、相手が正攻法以外で攻めてくるなど、微塵も考えていないのだ。
それはある種の、奇妙な信頼関係だった。

???「…夏海(なつみ)…巡の姪…」

そんな二人の空気に飲まれてしまったのか、夏海は渋々と了に名乗る。
だが彼女の言葉を聞いたとき、了は訝しげな表情をした。
彼は探るような口調で問う。

了「おい、お前は孤児じゃなかったのか?」

その質問に、巡は首肯した。
彼は天涯孤独の身だったはずだ。
それに姪がいるとは、どういう事だろうか。

了「…そう言えば、お前の名字は?」

そこで思い出したが、自分はフルネームを名乗ったにも関わらず、この夏海という少女はファーストネームしか名乗っていない。
孤児の姪だとか何だとか、そういう事を抜きにしても、それは常識的に考えておかしいのではないだろうか。
それ以前に、銃刀法違反で殺人未遂の犯罪者なのだが。

夏海「姪なんだから、石狩に決まってるでしょ…馬鹿なんじゃないの?」

彼女は敵愾心を剥き出しにしたまま、それでも了の質問に答える。
素直なのかどうなのか、微妙な奴だ。
了はどうでもいい感想を転がしながら、一言だけ訂正した。

了「馬鹿じゃない。俺はバカなんだ。」

彼の言葉と態度に、夏海はポカンとしてしまう。
まるで誇っているかのような口調で、自分の事をバカだと言う人間を、彼女は始めて見た。
と言うよりも、そもそも先ず、馬鹿とバカの違いは何なのだろうか。

了「…まぁいい。無駄話が過ぎた。」

彼女の名前は、絶対に本名ではないだろう。
偽名まで使って巡の姪を名乗る理由は分からないが、それは自分には全く関係ない事だ。
了は結論を出すと、スイッチを切り替えた。

巡「あぁそうだな。休憩時間にしちゃあ長過ぎだ。」

了がオフからオンに変わったのを感じ、巡も身体を強張らせる。
二人の態度が急変したのを理解し、才吾と夏海も臨戦態勢に入った。
アンドロイドのスリープ状態が解除され、ヘルメス達が身体を軽く解す。

巡「そろそろ、本題に入ろうか。」

その一言が合図だった。
彼らは同時に戦極ドライバーを装着する。
そのとき、巡が夏海に小声で耳打ちした。

巡「変身したら、佐野って奴を止めろ。」

夏海は彼に目で頷く。
巡は夏海の耳元から顔を離すと、ロックシードを取り出した。
アンドロイドを含め、その場にいる全員が、ロックシードを解錠する。

『アルソミトラ』
『ウミブドウ』
『ジャックフルーツ』
『ヘーゼル』
『『オリーブ』』
『『アセロラ』』
『『ソイ』』

数え切れない程の果実と種子と一つの海藻が、時空間を引き裂いて出現した。
ロックシードを構え、戦極ドライバーに施錠する。

『『ロックオン』』

機械風、ロック調、西洋風、和風の待機音が、混ざり合いながら流れ出す。
カッティングブレードを掴み、ロックシードを斬り開いた。

『スタート』
『『カモン!』』
『『ソイヤッ』』

了「変身。」
巡「変身。」
才吾「…変身。」
夏海「変身…!」

『アルソミトラアームズ』
『ウミブドウアームズ』
『ジャックフルーツアームズ』
『ヘーゼルアームズ』
『『オリーブアームズ』』
『『アセロラアームズ』』
『『ソイアームズ』』

全ての鎧が、各々の頭に突き刺さる。
それらが一気に展開し、大量のアーマードライダーが姿を現す。

『フライト・オブ・コード』
『オーシャン・ザッザッザ』
『GIANT OF CRUSHER』
『ネヴァー エンドロール』
『『アイアムエンジェル!』』
『『イエス!アイム エンジェル!』』
『『ソイッ、ソイッ、ソイッソイッソイッソイ』』


巡の変身した姿は、海のように深い青色のスーツに、水色でシャープな仮面。
濃い緑色の鎧は半透明で、クリアブルーの箇所と浮かび上がっている稲妻を模したラインが目を引いた。
手には武器であるトライデント、無道・海龍槍を構えている。

仮面ライダーアドビァング ウミブドウアームズ


夏海の変身した姿は、紫色の刺青が施された黄色のスーツ。
そこにナッツ特有の、黄土に近い色の鎧が装着されていた。
ドングリ鎧に似ているが、スマートで動きやすい形にアレンジされている。
武器はモーニングスター、へーゼルクラッシュだ。

仮面ライダーゼール ヘーゼルアームズ


アンドロイド軍団が変身したのは、ヘルメットのような兜が特徴的な姿。
スーツの色は茶色で、肌色に近い鎧には緑色の差し色が入っていた。
武器は正にそのヘルメット、豆ットである。

仮面ライダー万武 ソイアームズ


両サイドが睨み合った。
静かな呼吸音だけが、その場に聞こえている。
そして、遂に静寂が破られた。

巡「…あ!」

巡が急に叫び、了の後ろを指す。
明らかなブラフだ。
才吾やヘルメス、仲間であるはずの夏海でさえ「そんなものに騙されるわけあるか」という表情で巡を見る。

了「? 何だ?」

だが、たった一人だけ騙された者がいた。
生真面目なバカが災いした、了だ。
巡は賭けに勝ったのだ。

了が後ろを向いた瞬間、巡は工場に向かって走り出した。
同時に、夏海が了に襲いかかる。
だが武器であるへーゼルクラッシュが了に届く前に、彼女は吹き飛んでいた。
才吾が横からキャッスルクラッシュを投げたのだ。

その一連の動きが、戦闘開始のゴングだった。
人間よりも力が強く、反応速度が早いアンドロイド。
反面、アンドロイドには出来ない柔軟な対応が出来る人間。
ヘルメスとアンドロイドが、一斉にぶつかり合う。

了「…何もないじゃな…」

アンドロイドの性能と人間の意地とが火花を散らす中、ようやく了が振り向いた。
そこでようやく騙された事を悟った彼は、小さく舌打ちする。
瞬間、背中のグライダーを起動した。

夏海「ちょっと、邪魔! 私の狙いはお前じゃない!」

突如割り込んで来た才吾に、夏海は怒号を上げる。
怒りのままにへーゼルクラッシュを掴み、それを振り下ろした。
才吾はそれをキャッスルクラッシュで受けながら、何となく答える。

才吾「俺は別に誰でも構わないが。」

同時に、グライダーのブースターで加速した了が巡に追いついた。
後ろから羽交い締めにし、巡の動きを止める。
彼の身体を掴んだところで、了はブースターを切った。

が、高速で移動していたものは、急に止まる事が出来ない。
了とそれに捕まえられていた巡は、そのまま真っ直ぐに飛び続け、廃工場の壁に衝突した。
更にその壁すら破壊し、中へと転がり込む。
そして反対側の壁にぶつかった事で、ようやくスピードが収まった。

了と巡は再び離れ、廃工場の床に叩きつけられる。
ゴロゴロと転がった後、立ち上がって睨み合った。
了はU-RINIAを背中に収納し、グライダーを接近戦用のブレードに変形させる。
巡は無道・海龍槍を鞭状に変化させ、構えた。

呼吸を図り、一気に跳び出す。
鞭状の無道・海龍槍が、了のブレードを掴んだ。
瞬間、背中のU-RINIAが展開し、彼の肩の上に銃口が現れる。
強力なレールガンが、不意打ちで巡に放たれた。

巡はそれを、空気中の水分に同化する事で避ける。
彼は改造したロックシードの力で、九秒間のみ液状化する事が出来るのだ。
高速で射出された弾丸は、彼の身体をすり抜けた。
その間に、了は鞭状の無道・海龍槍をもう片方のブレードで斬り裂く。

巡は液状態から戻ると、無道・海龍槍をトライデントの形に戻した。
三又の無道・海龍槍を、了はブレードで受ける。
そのとき、巡の肩の装甲が開いた。
中から球体状のビットが、了目掛けて飛び出ようとする。

が、それは不可能だった。
肩の装甲が展開した瞬間、了がここぞとばかりにU-RINIAを放ったのだ。
それは巡の肩に直撃し、彼を吹き飛ばす。

巡「ちっ…」

彼は舌打ちすると、即座に立ち上がった。
無道・海龍槍を銛のように構え、体制を整える。
了もブレードを構え直し、相対した。
そして再び、両者が一気に飛び出す。

…が、急にブレーキングしたかと思うと、お互いの武器がぶつかり合う前に止まってしまった。
更に二人は、首をゆっくり回しながら、何かを捜し始める。
耳を澄まし、周囲の雑音から目的の音を聞き分けた。

了「…いた。」
巡「…来たか。」

巡「お前も気づいたのか? 流石はユグドラシル様って感じだな。」

了「お前も伊達に改造してはいないという事か。」

巡「趣味みたいなものだからな。」

二人は軽口を叩くが、表情は真剣だ。
どちらも目を細めて睨んでいるが、その相手はお互いではない。
ある一点、彼らが反応した「音」が聞こえてくる場所だった。

やがて足音を響かせ、三人の男と一人の女が走って来る。
その四人に、了は見覚えがあった。
確か、ヘルメスの隊員だったはずだ。

なるほど。
病院で聞いた、ヘルメスの一部が操られたという話は、こいつらの事だったらしい。
彼らは了と巡の前で止まると、戦極ドライバーを装着した。
だがそれは、ヘルメスの量産型戦極ドライバーではなく、了も見た事がないものだ。

『サポジラ』
『アグリ』
『ライム』
『ミカン』

彼らがロックシードを解錠する。
時空間の裂け目が開き、中から四つの果実が降りてくる。

『『ロックオン』』

ロックシードを戦極ドライバーに施錠した。
ロック調、西洋風、和風の三つの待機音が、響き合い混じり合う。

『カモン!』
『ソイヤッ』
『ソイヤッ』

男「変身。」
男「変身。」
女「変身。」
男「変身。」

『サポジラアームズ』
『アグリアームズ』
『ライムアームズ』
『ミカンアームズ』

ロックシードが斬られ、巨大な果実が彼らの頭に突き刺さる。
そしてそれぞれが展開し、鎧となって装着された。

『ネバー・トゥー・ルーズ!』
『ナイトオブグローリー』
『羽ばたけ ライジングドリーム』
『必殺一閃!』

巡「…なぁ、ユグドラシル。」

了「何だ?」

巡「お互いに潰し合うよりも、先ず倒すべき相手がいたようだぜ?」

了「俺はどっちでもいい。お前にせよこいつらにせよ、最後には殺すだけだ。」

巡「そうか、けど俺にとっては違うんだ。お前らみたいな巨大企業相手よりも、こういうポッと出の組織の方が潰しやすい。」

巡はそう言い放つと、無道・海龍槍を四人に向けて構える。
了も一旦彼との戦闘を中断し、ブレードを四人に向けた。
呉越同舟という奴だろうか。
共通の敵を目の前に、彼らはそれぞれの仲間があずかり知らぬところで手を組んだ。


橙色の頑武と、紫色の頑武が動いた。
それぞれ弓と銃を構え、秀に放つ。
だがその矢は装甲に当たった瞬間に折れ、弾丸は傷一つ残さなかった。

彼らは怯えた声を上げ、更に攻撃を続ける。
が、それも効果は示さない。
秀はそれをうんざりしたように眺めると、両腕からヴィンプワイヤーを射出した。
それは二人の頑武に飛んでいき、彼らの首を絞め上げる。

頑武「うぐっ…」
頑武「っ…!」

二人は首に手をかけ、何とかヴィンプワイヤーを緩めようとした。
しかし、それが叶う事はない。
秀はそれをピンと張ったまま、グルグルとふり回し始める。

遠心力で、二人の頑武の首が更に締まった。
遂には、その遠心力で二人の首の骨は外れてしまう。
橙色と紫色の頑武の意識が途切れ、死亡した。
それを感じた秀は、つまらなそうに彼らを放り投げ、ヴィンプワイヤーを回収する。

頑武「おらぁっ!」
頑武「この野郎っ!」

そこへ、青色の頑武と緑色の頑武が飛びかかった。
槍と薙刀の切っ先が、秀を突き刺そうとする。
だが次の瞬間には、彼らは意識を失う程の衝撃を受け、後ろへ吹き飛んでいた。
秀の背中に装備されていたU-RINIAが自動で展開し、二人を撃ち抜いたのだ。

二人は路地の壁に叩きつけられた。
衝撃で発生した圧力と壁とに押し潰され粉々になった骨と破裂した内臓が、スーツの中でグチャグチャに混じる。
が、それを見た秀は、特に何も感じていなかった。

『ヒオウギ スパーキング』

そのとき、ロックシードの電子音声が耳に届く。
見ると、赤色の頑武がこちらに走って来ていた。
頑武は刀を構えると、思い切り跳び上がる。

頑武「死ねぇぇええええ!!」

彼は絶叫し、刀を振り下ろした。
が、その刃が眼前に迫っても、秀に慌てた様子はない。
彼は冷静にエクストラパッションを掴むと、それを背中から引き抜いた。

そのままエクストラパッションの重みに任せ、それを横に振るう。
そして赤色の頑武の身体を、薙ぎ払うように叩き斬った。
頑武は人形のように地面をバウンドし、そのまま生命活動を停止する。

頑武「ひぃっ!」

ローズアタッカーの下敷きからようやく出て来た黄色の頑武は、その惨憺たる光景を見た。
恐怖が心を蝕み、慌てて逃げ出す。
しかし、秀がそれを許すはずもない。
彼は右腕からヴィンプワイヤーを射出し、頑武の首根っこを捕らえた。

首を絞められた彼は、先程の二人と同じようにワイヤーを緩めようともがく。
そんな彼を、秀はヴィンプワイヤーを巻き取って手元に引き寄せた。
その首を右手で掴み、ヴィンプワイヤーを外す。
そのまま右手で絞め上げながら、彼は黄色の頑武に聞いた。

秀「で、イェデアンか? ヨルムンガンドか? …それとも、万田か?」

急に出て来た言葉が、頑武には分からない。
どちらも聞いた事のない単語だ。
そもそも、万田とは誰だろうか。

頑武「…知らない…っ!」

彼は苦しそうに答えた。
瞬間、首を締める力が強くなる。
頑武の身体が、段々ぐったりとしてきた。

秀「誰の差し金だって聞いてんだよ。」

意識が薄れ、力が抜けていく。
だがここで答えなければ、本当に殺されてしまうだろう。
頑武は力を振り絞り、何とか声を出した。

頑武「…たつ…の…」

その答えを聞いた、秀の顔が曇る。
辰野などという人物を、自分は知らない。
ここにきて、全く別の事件が起きたのだろうか。
いや、それとも…

秀「たつの…! 布裁之 京か!?」

そこで、彼の思考が繋がった。
信じたくはないが、自分の記憶にある「たつの」という音はただ一つ。
月斬 宝の親友、布裁之 京だ。

間違いであって欲しい。
心の何処かで、一人の自分が叫んでいる。
だがまた何処かで、間違いであるわけないと、もう一人の自分が窘めていた。

そして前者の自分を裏切るように、黄色の頑武は力なく頷く。
秀の心の中で、何かが蝋燭の火のようにふっと消えた。
身体から少しだけ力が抜ける。

秀「…そうか。」

それにより、頑武を絞め上げていた力も緩んだ。
黄色の頑武は息が楽になった事に安堵する。
正直に答えて良かった。
これなら、自分は助かるかも知れない。

彼が胸を撫で下ろした瞬間、何かがボキッと鳴った。
同時に、頑武の意識が途切れる。
秀が右手に力を込め、首の骨を折ったのだ。

足元に落ちた死体など気にも留めず、秀は変身を解除する。
ゆっくりと歩き、宝に近づいた。
彼女は怯えたまま、秀の携帯電話を握っている。

秀「…電話は終わった?」

なるべく優しい表情と声を作り、彼女を安心させようとした。
が、思うように筋肉は動かず、先程までと同じ冷徹な表情と声が出てしまう。
宝はビクビクしながら頷き、携帯電話を秀に差し出した。

秀は無言でそれを受け取ると、別の番号を呼び出す。
それはヘルメス部隊への直通番号だ。
数秒のコール音の後、小隊長が電話に出た。

秀「さっき、総合病院の方に救急車要請の電話があったろ?…そう、それだ。そこに死体回収班を寄越せ。六人分な。」

宝に聞こえないよう、小声で要点だけを伝える。
それが終わると、今度は別の番号をコールした。
その相手に、秀は低い声のまま言う。

秀「よう、ちょっと頼みたい事があるんだ。虫がいいのは分かってるけどよ…万田の件、やっぱお前に委託していいか? 別にやる事が出来ちまってよ。……あぁ、恩に着る。」

話が終わると、彼は携帯電話を仕舞った。
それから転がっているローズアタッカーを立て、ヘルメットを被って跨る。
そして走り出そうとしたとき、宝が彼を呼び止めた。

宝「あの!…三木さん…」

秀「…」

宝「…」

だが彼女は、そこで黙ってしまう。
自分でも、何が言いたいのか分からなかった。
そんな彼女に、秀は努めて明るい声を作り、言う。

秀「…月斬ちゃん。」

宝「…はい…」

秀「俺は、馬鹿だ。」

宝「…へ…?」

秀「どうしようもない程、馬鹿だった。」

彼はそういい残し、一気に加速して走り去った。
宝はぼうっとしたまま、その背中を見送る。
頭の中で、彼の言葉を反芻しながら。

最初に出会ったときから、彼はバカだと思っていた。
彼も自分の事を、バカだと言っていた。
でも、彼がたった今言い残していった「馬鹿」は、同じ言葉でも、大きくニュアンスが異なるような気がする。
茶化したり、自分を元気付けてくれたりしたときとは違う。

まるで、自分の過去を呪うような。

秀「くそっ!」

ローズアタッカーを駆りながら、彼は夜になりかけている街に叫んだ。
最初から分かっていた。
が、無視してきた。
それが何かしらの影響を及ぼすなど、考えもせず。

その結果がこれだ。
愚かさのツケが、今になって回ってきた。
行動を決める選択肢など既にない。
待ち受けるのは、全てにとって最悪なリザルトだ。

秀「くそっ!」

彼の怒号が、バイクの駆動音にかき消される。
どれだけ自分に怒りを募らせても、何も変わらない。
現実も、感情も。
どれだけ叫んでも、走り出した歯車が止まる事はない。

どうして、自分はあの少女に関わってしまったのか。
どうして、自分はあの少女を手伝いたいと思ってしまったのか。
そんな事は、考える前から分かっていた。
全ては、過去の記憶が縛る呪いのせいだ。

あの少女を手伝わないという選択肢が、一般的にはあったのだろう。
だが、あのときの自分には、手伝う以外の選択肢など存在していなかった。
理由など、ただ一つ。
彼女の姿が、重なってしまったのだ。

父親をもう一度振り向かせようと努力していた、あのときの母親と。

今でも鮮明に覚えている。
ある日、父親の不倫が発覚した。
だが父親は謝りなどせず、むしろ開き直っていた。
当然、離婚の危機となるはずだった。

でも、母親は違った。
それでも母親は、父親を愛していた。
母親は不倫相手の女から父親を取り戻そうと、努力していた。
その姿は、子供だった俺にすら、とても愚かしく思えた。

結局、結果は変わらなかった。
父親は母親に離婚状を叩きつけ、家を出ていった。
今まであった家庭は崩壊し、うちは母子家庭となった。
それでも、俺は幸せだった。

たった一つだけ許せなかったのは、母親の親戚と学校の教師、そして同級生だった。
全員が全員、可哀想なものを見る目で、俺達を見た。
中には自分達が俺達のようではない事を誇り、見下した。
その筆頭が、母親の義理の兄である、俺の伯父だった。

俺は努力した。
力を身につけ、知識を身につけた。
俺の事を護ってくれた、母親のため。
そして、全てに復讐するため。

その憎しみをコントロール出来なかった結果、最悪の事態を招いた。
全く関係ない人間を巻き込み、一人の少女を不幸のどん底に叩き落とさなければならなくなった。
どんなに足掻いても、後戻りも、巻き戻しも出来ない。
ゴール目掛けて、駆け抜けるしかない。

秀「くそっ!!」

ありったけの憤怒と後悔と憎悪とが、悪態となって口から出る。
もう迷える余地はない。
どんなに迷っても、結果は変わらない。
今の秀に出来る事など、自分が作り出したバッドエンドを見届ける事だけだった。

本日はここまでにしたいと思います。
疑問、質問、提案等、いつでもお受けしております。

気になった点があれば、いつでもご指摘ください。
ですが、あまりキツい言葉は、出来るだけ遠慮していただきたいと思います。

ダークすぎます!キュンキュンがとまりません!
頑武くん達がおいたわしやーな事になったのは経験の差ですかね?
タゼーニブゼーをのもともしないでMI★NA★GO★RO★SIにするとかS過ぎます!
秀くんの過去にトキメキスギテ生きるのがツラィです!

願ったこと全てが叶う世界ではない

あぁ、それでも尚生きていることには意味がある

>>255さん
>>1は彼の過去にときめくポイントを1ミリも発見出来ません。


>>256さん
それは、一体…
何処かの詩か、歌の歌詞ですか?


こんばんは。
本日も始めていきます。

潤「…分かった。」

秀からの電話に、潤はたった一言だけ返した。
色々と言いたい事はあったが、言えなかった。
それを許さない空気が、彼の声から溢れ出ていた。

と言っても、今から洋介の元へ向かう必要はない。
何故なら、既に目の前にいるからだ。
彼はそこの公園で、誰かと待ち合わせている様子だった。

映画館も入っているショッピングモールが近くにあるこの公園は、この時間帯でも、多くの人で賑わっている。
特に今日は、カップルであろうと思われる男女ばかり見受けられた。
洋介も「津村 更季」として、デートの約束でもしたのだろうか。

だが、そんな事は関係ない。
彼が今、どんな状況にあろうと、殺すだけだ。
潤はベンチから立ち上がると、洋介に近づいて行った。

潤「万田 洋介、だな?」

低い声で、話しかける。
それに洋介は、一瞬ビクッと反応した。
しかし、それはただ純粋に驚いただけだ。
彼は振り向くと、憎悪に満ちた声で言う。

洋介「ユグドラシル…!」

その表情は恐ろしく、今にも襲いかかりそうだ。
が、彼の頭は、至って冷静だった。
同級生の宝と買い物に行く約束をして待ち合わせていれば、思わぬ人物に話かけられたものだ。

だが、それだけ。
デートの前に、少しやる事が出来ただけだ。
宝が来る前に、目の前のこいつを殺す。

彼は懐から、戦極ドライバーを取り出した。
それを見た潤も、戦極ドライバーを装着する。
二人はロックシードを構え、解錠した。

『ナタネ』
『カエンボク』

空中に時空間の裂け目が二つ現れる。
公園にいる人々が、騒然とする。

『ロックオン』
『ロックオン』

ロックシードを戦極ドライバーに施錠した。
和風の待機音とロック調の待機音が、混じり合う。

『ソイヤッ』

カッティングブレードを掴み、ロックシードを斬り開く。
それぞれの鎧が、頭に突き刺さった。

潤「変身。」
洋介「変身…!」

公園内にいた人々は、突然の出来事に驚き、逃げ惑う。
冷静に動かないのは、渦中の二人だけだ。

『ナタネアームズ』
『カエンボクアームズ』

頭に刺さっていた鎧が展開する。
そして変身完了時、洋介のロックシードから、獣や龍を思わせる咆哮が響いた。

『我、天の遣いなり』
『ファイアモンスター』


赤色のスーツと鎧に、橙色の炎を象った模様が描かれている。
筋肉質の身体に纏われた鎧は刺々しく、巨大な足からは二本の爪が生え、腰からは尻尾が伸びていた。
三日月型の複眼を持つ仮面は尖った顎と牙が付き、まるで龍のようだ。
武器は爪が生えた火炎放射機能付きの拳、ジャカランダである。

仮面ライダーレックス カエンボクアームズ

変身完了直後、洋介が潤に飛び掛かった。
潤は菜一振を振り、それを受ける。
瞬間、洋介の拳から炎が放たれた。
それは一撃で、菜一振をドロドロに溶かす。

潤は驚き、後ろへ跳んで距離を取った。
洋介は拳に炎を纏い、潤に殴りかかる。
彼は何とかそれを掻い潜り、制菜刀を抜いた。
その切先が、洋介の鎧に当たる。

だが鎧の強さは、半端ではなかった。
制菜刀の刃はそれに負け、折れて砕け散る。
潤がそれに驚愕したのも束の間、強い衝撃が胴を襲った。
洋介が炎を纏った拳で殴ったのだ。

よろける潤を、連続で殴る。
その度に潤の鎧は溶け、薄くなっていった。
しばらくして、パンチのラッシュが止む。
その隙を逃さず、潤は反撃を試みた。

しかし、それは叶わない。
次の瞬間、洋介の巨大な尻尾が、潤を叩き飛ばしていた。
更に、巨大な脚で蹴り飛ばし、燃え上がる爪でスーツを切り裂く。
最後に、強力な顎と牙で潤を押さえつけ、右ストレートの一撃を叩き込んだ。

炎の纏われた一発が、潤を殴り飛ばす。
彼は地面に倒れ、勢い良く転がった。
比べるのも無意味な程、圧倒的な力差。
今この状況で、潤に勝ち目など、僅かにも存在していなかった。


夏海がへーゼルクラッシュを振り下ろした。
だがそれは、やはり簡単に防がれてしまう。
才吾は右手のキャッスルクラッシュでへーゼルクラッシュを受け止めていたが、左手のそれは全く動かしていなかった。
右手だけで、軽い夏海の攻撃を流していたのだ。

彼は戦いながら、何故この少女はモーニングスターなどを武器にしているのかと訝しむ。
身体の軽い少女なら、こんな重量のある武器よりも、ナイフや刀など、スピードの活かせる武器の方が向いているのではないだろうか。
よく分からないが、敵の心配までしてしまえる程に、余裕を持って対応出来ている。
そんな事を考えながら、才吾は夏海の相手をしていた。

対して、夏海は焦っている。
こんな奴など早々に倒し、巡のところへ行かなければならない。
彼女は、もしかしたら、巡が了にやられてしまうのではないかと考えていた。
その度に焦りが募り、攻撃が雑になる。

しかし才吾は、了の心配など欠片もしていなかった。
特任部である彼が、誰かに敗北するなどあり得ない。
もし負けたとしても、自分がやるべき事は死体の回収だけだ。
その心の余裕が、夏海との大きな違いだった。

全く動かない戦闘に、夏海が痺れを切らす。
彼女はへーゼルクラッシュを左手に持ち替え、戦極ドライバーを操作した。
そしてもう一度右手に構え直し、才吾に向かって跳ぶ。

『ヘーゼル スカッシュ』

ヘーゼルナッツを模したオーラに包まれたへーゼルクラッシュが、才吾を叩き潰そうとした。
だが彼は戦極ドライバーなど操作せず、通常状態のまま、両手のキャッスルクラッシュをクロスさせて受け止める。
これがどちらも普通の男なら、勝負は攻撃した方の勝ちだっただろう。

だが攻撃したのは普通の男よりも軽い夏海であり、攻撃を受けたのは普通の男よりも力強い才吾だ。
夏海の必殺は、才吾のガードによって弾かれた。
彼女は地面を蹴ると、唸りながら後ろへ跳ぶ。
そこで着地すると、別のロックシードを取り出した。

『アメイシャ』

ロックシードを解錠する。
時空間の裂け目が開き、赤色の実が降りてくる。

『ロックオン』

ロックシードを換装し、施錠した。
流れ出すのは、西洋風の待機音。

『カモン!』

戦極ドライバーを操作し、ロックシードを斬る。
装着されていたヘーゼル鎧が、泡のように消える。

『アメイシャアームズ』

そして巨大なアメイシャが、彼女の頭に突き刺さった。
それが展開し、鎧へと変形する。

『バッド エンドロール』


過去に量産されていた、ピーナッツ鎧に似た鎧。
それよりも一回り大きく、色鮮やかなのが違いだ。
武器はチェーンメイス、アメイスである。

仮面ライダーゼール アメイシャアームズ


彼女はアメイスを振り回し、才吾を襲った。
へーゼルクラッシュよりも攻撃を推測し難いそれが、彼に迫る。
が、やはりそれも、才吾は二本のキャッスルクラッシュであしらった。

チェーンメイスのような武器は、攻撃のタイミングが分かり難く、当てやすいのは事実だ。
しかし、それはあくまで一般的な話。
ユグドラシルで、あまつさえ(立場上は)リョウマのボディガードを務めている彼にとって、そんなものは屁でもなかった。

夏海はイライラを募らせる。
その原因は、攻撃が通らない事だけではない。
彼女は、この勝負で何回か、自分でも気がつく程の隙を生んでしまった事があった。
だが目の前のこの男は、それを利用せず、あろうことか一切の攻撃をこちらにしていないのだ。

完全に遊ばれている。
その事実が、彼女を更に苛立たせた。
彼女はアメイスを振り回し、叫ぶ。

夏海「邪魔! 邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!! ふざっけんな!!」

彼女の怒号を聞き流しながら、才吾は攻撃を流した。
彼にして見れば、別に夏海が何をどう思っていようと関係ない。
自分の仕事は、ここで彼女を足止めし続ける事だけだった。


巡はゲベトと麗夢を相手にしていた。
麗夢の振り下ろした雷鳴小太刀を、無道・海龍槍で受ける。
そのとき、ゲベトが後ろから彼の腕を鷲掴んだ。

巡「!」

次の瞬間には、世界が回っていた。
一本背負いの要領で投げられた彼は、地面に叩きつけられる。
更にそこへ、ゲベトが両腕から精製した爆弾、チューインサッポウを投げた。
巡はそれを、空気中の水分に同化して避けようとする。

しかし、それは出来なかった。
彼が液状化しようとした瞬間、チューインサッポウが爆発し、中からトリモチが飛び出したのだ。
それが液状化を阻止し、彼の身体を地面に貼り付ける。
巡は逃れようと動くが、もがけばもがく程、それは彼の身体を強く押さえ付けた。

そこへ、ゲベトが追撃を加えようと迫る。
だが彼の拳が巡を捉えようとした瞬間、巡が肩の装甲を展開した。
中から、球体状のビットが飛び出す。
それらはゲベトに突撃し、彼を大きく弾き飛ばした。

巡「舐めんなよ。」

巡は低く唸ると、ビットをトリモチに突撃させる。
すると、今まで彼を捕らえていたトリモチが、一瞬にして消滅した。
彼は無道・海龍槍を構えると、雷鳴小太刀を構えて跳んできた麗夢を突く。
麗夢はすぐに反応し、それを雷鳴小太刀で防ぎつつ後ろへ跳んだ。

ゲベトが再び巡を押さえ付けようと、チューインサッポウを投げる。
後ろから飛んできたそれを、巡はビットをバリアのように展開して防いだ。
それを解除すると、今度はビットをゲベトに向かわせる。
それらにゲベトの相手をさせ、彼は麗夢との一騎討ちに臨んだ。

ビットがゲベトに突撃する。
計算上、それらは数撃でアーマードライダーを変身解除に追い込む程の力を持っているはずだった。
が、それはゲベトにあまり効果を示さない。
彼の身体と鎧はゴムのようになっており、ビットの攻撃が上手く通らないのだ。

ゲベトは素手でビットを薙ぎ払い、チューインサッポウで破壊する。
だが巡がビットを供給し続けるので、いたちごっこだ。
ビットの攻撃は、実質足止め程度にしか機能していない。
それでも、今の巡にすれば、それで十分だった。

彼は無道・海龍槍を鞭状に変化させ、麗夢を狙う。
それは上手く、彼女の雷鳴小太刀を捕縛した。
しかし次の瞬間、無道・海龍槍を伝って強力な電流が巡に流れ込む。
彼は思わず、無道・海龍槍をトライデントの状態に戻した。

あの武器は、どうやら電撃も放てるようだ。
ならば、やはりこの状態で戦うしかない。
彼はそう考え、無道・海龍槍を構えて跳ぶ。
振り下ろされた雷鳴小太刀を、三又の刃で挟むようにして押さえ付けた。


了は武蔵とベルゼの二人と戦っていた。
武蔵の小太刀「穏蜜」と刀「柑撃」を二本のブレードで受け止め、同時にU-RINIAを使用する。
不意打ちの如く射出された弾丸は武蔵の胴に当たり、彼を吹き飛ばした。

そこへ、ベルゼがラセンランスとアグリバッシュを構えて跳び出す。
了は突き出されたラセンランスをブレードで押さえ付けた。
先端がドリル状になっているラセンランスが、ブレードの刃をガリガリと削っていく。
そのとき、了の頭部に衝撃が走った。

ベルゼが、アグリバッシュで彼を殴り飛ばしたのだ。
了は頭から吹き飛び、地面を転がる。
彼は即座に体制を立て直すと、U-RINIAを展開し発射した。
が、それはやはり、アグリバッシュに弾かれてしまう。

更に、復活した武蔵が襲いかかってきた。
穏蜜と柑撃をブレードで受け止め、二刀流で鍔迫り合う。
その隙を狙い、ベルゼがラセンランスを構えて跳んだ。
了はそれを感じ取り、一瞬のうちに展開したU-RINIAで吹き飛ばす。

巡「おい、ユグドラシル。」

そのとき、巡がよく通る声で鋭く呼び止めた。
了は一旦戦闘を止め、武蔵とベルゼから距離を取る。
巡もゲベトと麗夢から距離を取ると、了と背中を合わせるように立った。

巡「…聞こえてるか?」

了「当たり前だ。近づいてるぞ。」

彼らが戦闘を止めた理由。
それは、新たに聞こえてきた足音だった。
ゆっくりとこちらに近づいて来るそれを、二人は警戒して待つ。
アカツキの援軍か、と巡は舌打ちした。

が、そうではない。
何故なら四人のアーマードライダーも、彼らと同様に、現れた人物に武器を向けたからだ。
そこでようやく、了はそれが何者かを知る。

???「ユグドラシル、イェデアン、そしてアカツキの諸君。」

一人の男が、彼らの目の前で立ち止まった。
そこに現れたのは、四人の男。
それなりに歳を取っているように見える者もいれば、まだ学生の者もいる。
そして彼らを、了は知っていた。

???「お楽しみのところ悪いが、我々の存在を忘れていなかったか?」

話している男の名は、常宮 亨(とこみや とおる)。
それから順に、花芽 連翠(かが れんすい)、御粮 界(みかれい かい)、久津 克己(くづ かつみ)。
了は頭の中で、彼らの名を呼んだ。
同時に、小さく舌打ちする。

何故、了が彼らを知っているのか。
それは冬の始めに起きたある事件のときに、了を含む特任部が彼らの身元を全て洗ったからだ。
だから、知っている。
彼らの名は…

亨「我々、ヨルムンガンドを。」

亨がそう言うと同時に、全員が戦極ドライバーを装着した。
彼らの名は、ヨルムンガンド。
イェデアンやアカツキと同じ、ユグドラシルに歯向かう愚かな組織の一つだ。

『ジャバラ』
『スネークフルーツ』
『ジャノヒゲ』
『アーモンド』

四人がロックシードを解錠する。
時空間の裂け目が四つ、彼らの頭上に現れる。

『『ロックオン』』

ロックシードを戦極ドライバーに施錠した。
戦極ドライバーからそれぞれ、ロック調、中華風、機械系の待機音が流れ出す。

『ハイー!』
『スタート』

亨「変身。」
連翠「変身。」
界「変身。」
克己「変身…」

『ジャバラアームズ』
『スネークフルーツアームズ』
『ジャノヒゲアームズ』
『アーモンドアームズ』

ロックシードが斬り開かれ、四種類の種子と果実が空中に現れる。
それらが彼らの頭に突き刺さり、鎧へと変形した。

『ヒュドラ・エンペラー』
『大・蛇・展・開』
『邪・リターン!』
『リミット・オブ・ザ・ライフ!』


亨が変身した姿は、オレンジ色のスーツに、緑色が入った黄色の鎧。
その見た目は国王のようであったが、纏うローブは魔導士のようだった。
脚がなく、下半身は蛇のようになっている異形のシルエット。
武器は両肩から生えた二頭の蛇、アジ・ダハーカである。

仮面ライダージャッハーク ジャバラアームズ


連翠が変身した姿は、白色のスーツに、赤茶けた色の鎧。
鎧の下のライドウェアのみ、黒く染まっていた。
腰部からは、白色の巨大な尻尾が生えている。
武器は、先端にスネークフルーツを模した鉄球が付いた鞭、大蛇打だ。

仮面ライダー大蛇 スネークフルーツアームズ


界が変身した姿は、白色のスーツに、赤色と黄色が入った青色の鎧。
機械的なスーツには悪魔的な意匠が入り、鎧には近世の騎兵を思わせる翼の装飾が付いていた。
蛇と龍を融合したような仮面には、スリット状のバイザーが覗く。
腰には無双セイバーを下げ、右手には大型銃、サーペントバスターを持っていた。

仮面ライダーラギウス ジャノヒゲアームズ

ユグドラシルに対してヨルガンムンド、ここは北欧神話をなぞってるのでしょうね
ヨルガンムンドが最期を迎えるラグナロクにおいてユグドラシルは倒れますからね
それともヨルガンムンドのもつ『秩序』っていう意味合いから自分達がルールだとか言いたいのですかね?
どうでもいいけど北欧神話には食べ続けると年を取らない不老の林檎が出てきます!

克己の変身した姿は、藍色のスーツに、濃い黄色が入った茶色の鎧。
兜には鷹の眼を連想させる紅色のペイントが施されており、隙間からは黒色のバイザーが覗いていた。
胴と腕は剣道着のようになっており、腰には前垂れが見える。
全身にスラスターが配備され、背中にはアーモンドを模した巨大なバインダー、ヘントウバッカーが装備されていた。

仮面ライダーライゴウ アーモンドアームズ


出来れば現れて欲しくなかったが、こうなってしまった以上は仕方がない。
了は面倒臭そうにブレードを構えた。
巡もまた、無道・海龍槍を構えながら問う。

巡「お前らもアンドロイド目当てか?」

亨「そんなものに興味はない。」

巡「あ?」

亨「この場には図らずも、ユグドラシル、イェデアン、アカツキと、我々の障害となる組織が揃っている。」

巡「…なるほどな。」

亨「この場で一気に叩いた方が、効率がいいからな。」

亨がそう言い終わると同時に、ヨルムンガンドの四人が武器を構えた。
それに合わせ、アカツキの四人もまた、各々の武器を構える。
一触即発の空気。
そんな中、了は一人、ある人物と連絡を取っていた。


リョウマ「とある魔術のなんちゃらって、面白いの?」

愛花「戦闘シーンのツッコミどころはありますけどー、結構面白いと思いますよ。」

リョウマ「それじゃ駄目じゃない。」

愛花「ライトノベルだから仕方ないです。そんな事言い出しちゃったら、そもそもキリスト教の連中がどうして魔術を使ってるんだってところからおかしいですし。」

リョウマ「じゃあ、とある科学のほにゃららの方は?」

愛花「今のと全く同じ感想でーす。」

リョウマ「じゃあ、とある飛空士へのかんたらは?」

愛花「それは全然違うシリーズですね。」

リョウマはグラスを傾けながら、愛花と話していた。
が、その中身は酒ではなく炭酸水である。
格好がつかないにも程があった。

愛花「でもー、超能力とか本当に開発してそうですよね。」

リョウマ「僕が? まさか。」

愛花「本当ですかー?」

リョウマ「超能力なんて使えないよ。」

リョウマはそう言いながら、愛花の背後にある棚に右手を翳す。
するとどうだろう、棚に立ててあったブランデーのボトルが、吸い寄せられるように宙へ浮かんだ。
それは一直線にリョウマの右手の中へ飛んでいき、そこに収まる。

リョウマ「この程度しかね。」

愛花「やっぱり使えるじゃないですかー。どうやって開発したんですか?」

リョウマ「別に。ただ、生身でロックシードの力を使えるようにならないかなと思って自分の身体を弄ってたら、いつの間にか使えるようになってたんだよ。」

リョウマがボトルキャップを外した。
右手のボトルを傾け、左掌へ中身を零す。
ボトルから流れ出たブランデーが、彼の左手に当たった。
その瞬間、ブランデーが球体状に変する。

このマッドサイエンティストは…www

それはブランデーが注がれる度に、どんどん大きくなっていった。
それがある程度のサイズになったところで、彼はボトルをカウンターに置く。
左手で透明感のある琥珀色に光るブランデーの液状球体を弄りながら、空いた右手でボトルに蓋をした。

そして最後に、彼は液状球体化したブランデーを両手で捏ねる。
それは粘土のように(それでも実際には、それとは似ても似つかぬが)形を変え、錠前の形状に落ち着いた。
彼が液状のそれを、人差し指で一回だけ叩く。
瞬間、液状だった錠前が、メタリックな琥珀色に輝くそれへと変貌した。

愛花「わぁ…」

思わず、感嘆の声を漏らす。
彼の手にあるのは、既にブランデーではない。
そこにあるのは、見紛う事なくロックシードだ。

リョウマ「形が同じってだけで、実際には使えないんだけどね。」

愛花「でもすごーいです! 液体からなら、何でも作れるんですか?」

リョウマ「別に液体である必要はないけど、果物か、果物から作られたものしか操れない。」

そう言って、リョウマは右手でブランデー ロックシード(仮)を弄り出した。
解錠して、施錠して。
また解錠して、施錠して。

リョウマ「しかも作れるのは、実際には使えないレプリカだけ。その上この能力って、僕が嫌いな自然法則完全無視の能力なんだよね。」

愛花「でもそれって、アーマードライダーも大概じゃないですか?」

リョウマ「うん。だからアーマードライダーじゃなくてもロックシードの力を使えるように出来ないかなって思ったんだ。で、結局はこのざま。」

愛花「皮肉ですね!」

リョウマ「何で嬉しそうに言うのさ…」

愛花「果物からだったら、何でも複製出来るんですか?」

リョウマ「ううん。変化前のものと変化後のものを天秤にかけたとき、同一の値を示すものじゃないと駄目。」

愛花「それって、質量が同じって事ですよね?」

リョウマ「いや、質量は違ってもいいんだ。」

愛花「え? でも天秤って…」

リョウマ「けど本当に、質量は関係ないんだ。密度も体積も関係ない。何て説明すればいいんだろう…」

愛花「…思いつきました?」

リョウマ「…ごめん、無理。どうも簡単には説明出来そうにないや。とにかく、天秤にかけたとき同じ値になるものって言うのだけが、条件なんだよ。」

リョウマは話し終えると、炭酸水を煽る。
そのとき、彼の携帯電話が震えた。
ディスプレイには「佐野 了」という文字が表示されている。

リョウマ「はいはい、僕だよ。」

彼はすぐに出た。
仕事が終わったのかな、と考える。
しかしその内容は、予想とは少し違っていた。

了『ヨルムンガンドの連中が四人現れました。この場には既にイェデアンが一人、アカツキが四人います。応援をください。』

リョウマ「…オッケー、分かったよ。」

了の言葉に、リョウマの目がスッと細くなる。
彼は簡潔に答えると、通話を切った。
それから再び愛花に向き直る。

リョウマ「ねぇ、手伝ってあげなよ。」

愛花「えー、嫌ですよ。面倒ですし。やってあげてください。」

>>263さん
実は>>1は、あまり北欧神話には詳しくありません。
聖書は大学でこれでもかってほどやったんですけどね。


>>265さん
だってリョウマですもの。


少し席を外します。

一旦乙です!
でもたしかアダムとイヴに知恵の実を食べさせたのも蛇でしたね
あれってどこにも書かれて無いのに何でみんな林檎だって言うのでしょうか?
あれは知恵の実であって林檎ではないはずでわ?
あー、でも確かあれは蛇に姿を変えたリリスでしたっけ?いや、ルシフェルでしたっけ?
でも蛇ってキリスト教だと全ての生き物の中で最も呪われる、とか塵を食べろ、とか胴ではい回り、とか
扱いが酷い気が・・・・・
神様、貴方は蛇に怨み、もしくはトラウマでもお有りですか?
あと何故に受胎告知の絵画だとガブリエルがだいたい百合の花を持っているのは何故か・・・・・・・・・
それを考えると日が沈み、考え続けると日が昇る

昔は蛇は不老不死(脱皮を繰り返していたことが不老不死に見えたらしい)の存在として人々から(人間より優れている点から)恐れられていた。そのため、蛇を悪にする風潮が広まったと思われる。

リョウマ「流石に一人で行くのは寂しいし。それに佐野は三木の親友だから、ここでいいとこ見せておくのも悪くないんじゃない?」

愛花「んー…じゃあ、分かりました。」

愛花は渋々そう言うと、店じまいを始めた。
その間にリョウマは、携帯電話から別の番号を呼び出す。
「登戸 短夏(のぼりと たんか)」と表示されている相手が、電話に出た。

リョウマ「あ、登戸? 今から送る場所に来て。」

そして相手の返答も待たず、電話を一方的に終わらせる。
次に「多田野 碇(ただの いかり)」と表示された番号を呼び出した。
短夏と全く同じ内容を話すと、また返答を聞かずに電話を切る。

彼は携帯電話の地図機能を使い、廃工場の住所と座標を書き出した。
それを先程の二人にメールで送る。
やる事を終えると、彼は伸びをしながら立ち上がった。

リョウマ「何かテンション上がんないなぁ…」

愛花「じゃあ、やっぱりお酒呑んだらどうですか? 上がりますよー。」

リョウマ「それもいいかもね。」

愛花に触発され、リョウマはグラスの中の炭酸水を飲み干す。
それから空になったグラスへ、ブランデー ロックシード放り込んだ。
すると一瞬で形が崩れ、ロックシードが元のブランデーに戻る。

そして、それを一気に煽った。
急性アルコール中毒になってもおかしくないが、彼は何ともないようだ。
酔っている雰囲気も皆無である。

リョウマ「確かに、お酒ってテンション上がるね。1885年でデロリアンの燃料噴射装置をぶっ壊したのも頷ける。」

愛花「何言ってるんですか? さっさと行きましょうよ。」

リョウマ「さっきまで面倒臭がってたくせに…」

彼らはしっかりとした足取りで、エレベーターへと向かった。
降りてきたそれに乗り込み、地上を目指す。
その中で、リョウマが思い出したように言った。

リョウマ「あ、そう言えば聞き忘れたけど。」

愛花「何ですか?」

リョウマ「ソードアート・うんたらは?」

愛花「ゲームの中で粋がってる子供の話ですね。」

リョウマ「やはり俺のなんたらはまちがっているは?」

愛花「社会不適合者が自分を正当化するために読む本ですね。」

リョウマ「…その二つ、嫌いなの?」

愛花「別にそんな事ないですよー。」


巡が連翠に向かって飛び出した。
無道・海龍槍を構え、その身体を貫こうとする。
だがそれを、連翠はいとも簡単に避けた。

連翠が大蛇打を振るう。
巡は肩からビットを展開し、それを先程と同じくシールドとして展開した。
大蛇打の先端にある鉄球を、ビットは難なく弾く。

大蛇打を防いだところで、巡はすぐに、ビットを分裂させた。
それらを一気に、連翠に向かって放つ。
しかしどれだけビットが突撃しようと、連翠はダメージらしいダメージを受けていないようだった。

連翠「そんな技、効かぬよ。」

そんな様子を裏付けるように、彼は言う。
その勝ち誇った態度、イラつくな。
巡は仮面の下で、ニヤリと笑った。

巡「そいつはどうかな?」

言うが否や、彼はビットに指示を出す。
瞬間、ビットが攻撃対象を、連翠から大蛇打に変更した。
ビットは一斉に突撃し、大蛇打の鉄球部分を粉々に破壊する。

連翠「…なるほど。」

彼は感心したように呟くと、身体を勢い良く捻った。
巨大な尻尾で、巡を叩き飛ばそうとする。
が、それは何の抵抗も受けずにすり抜けてしまった。
巡が瞬時に、大気中の水分と同化したためだ。

連翠は眉根を寄せると、鉄球が消滅した大蛇打を振るう。
巡はそれを、無道・海龍槍を鞭状に変えて弾いた。
大蛇打の先端を手元に戻し、連翠は更に不快感を露わにする。

連翠の変身した姿を見たとき、巡は直感した。
こいつは、絶対に俺と相性が悪いと。
だから彼は、了に何も言わず、連翠の相手を引き受けた。
そもそも敵である了に、わざわざ断りを入れる必要などないが。

きっと了も、巡と連翠の相性が悪い事を悟っていた。
だから何も言わず、巡に連翠の相手をさせたのだろう。
そして見事、二人の予想は的中した。

巡と連翠が睨み合う。
相性の悪いこの二人では、決着がつく事はないだろう。
だがそもそも、着ける必要はない。
了が呼んだであろうユグドラシルの応援が来るまで、持ち堪えればそれで良いのだ。


ベルゼと麗夢は、克己と戦っていた。
麗夢が雷鳴小太刀を、ベルゼがラセンランスを構えて跳ぶ。
克己は戦極ドライバーを操作し、ヘントウバッカーから刀と盾を呼び出した。

雷鳴小太刀を刀で、ラセンランスを盾で受け止める。
そこへ間髪入れず、ベルゼがアグリバッシュで打撃を放った。
克己は全身のスラスターを起動し、後ろへ移動してそれを避ける。

二人から距離を取ったところで、彼は戦極ドライバーを操作した。
刀と盾を捨て、代わりに二丁の拳銃を装備する。
それらを構え、麗夢とベルゼを撃った。

麗夢は雷鳴小太刀で弾き、ベルゼはアグリバッシュで防ぐ。
その間に、克己が一気に跳んだ。
戦極ドライバーを操作し、チェーンソーを取り出す。

高速で動く刃が、二人を斬り裂いた。
麗夢とベルゼは衝撃で吹き飛び、後ろへ倒れる。
克己はチェーンソーを構え、再び彼らに迫った。


界と戦っていたのは、ゲベトと武蔵だ。
ゲベトがチューインサッポウを投げる。
同時に、武蔵が柑撃と穏蜜を構えて跳んだ。

界はサーペントバスターを持ち、正確にチューインサッポウを撃ち落とす。
強力なエネルギーを受けたそれは、反対側に勢い良く吹き飛び爆発した。
中から飛び出したトリモチが、それを放ったゲベト自身に降りかかる。
それに抑えられ、ゲベトは動けなくなってしまった。

何とか脱出しようともがくが、強力なトリモチは彼を捕らえて離さない。
界はそれを横目で見届けながら、無双セイバーを引き抜いた。
跳んで来た武蔵の小太刀、穏蜜を、無双セイバーで受ける。
刹那、武蔵はもう片方の刀、柑撃を振りかざした。

柑撃の刃が、界に迫る。
が、それが当たる事はない。
次の瞬間、武蔵は後ろへ吹き飛んでいたからだ。
界は無双セイバーを引き抜くと同時に、コックを引いて弾丸を装填していたのだ。

無双セイバーから放たれたエネルギー弾を受け、武蔵は後ろに倒れる。
彼は立ち上がると、一先ず柑撃と穏蜜で、トリモチに捕らえられていたゲベトを解放した。
そして再度立ち上がったゲベトと共に、界と睨み合う。
界はサーペントバスターを取り出しながら、仮面の下で不気味に笑った。

亨は慎重に動いていた。
今戦っている男は、どうも様子がおかしい。
まるで本気ではなく、体力を温存させているという感じだ。

亨「援軍が来るまでの、時間稼ぎのつもりか?」

彼は何となく聞いてみる。
それに対して、了は何も答えない。
沈黙の肯定、というやつだ。

了は亨と対峙しながら、かねがね思っていた事があった。
脚がない彼の姿、まるで幽霊じゃないか。
オバQには足があるが。

こんなバカな事を戦闘中に考えてしまうのには、理由がある。
彼は先程からブレードでの攻撃を試みていたが、全くダメージを与える事が出来ないからだ。
亨の纏うローブが、攻撃を無効化してしまっているようにも感じる。
だから戦闘の事を差し置いて、どうでもいい事が頭を過ってしまうのだ。

そのとき、亨が一気に距離を詰めてくる。
了はブレードを構え、それを振り下ろした。
が、それは途中で止められてしまう。

亨の両肩から生えている蛇、アジ・ダハーカが、了のブレードを片方ずつ噛み咥えていた。
了の動きが止まったところへ、亨は蛇のような下半身をうねらせ、強力な打撃を与えようとする。
しかしその攻撃は、了に通らない。

亨は了に、思い切り蹴り飛ばされていた。
見ると、アジ・ダハーカから煙が上がり、ブレードを放してしまっている。
了が、背負っていたU-RINIAを肩の上から展開し、アジ・ダハーカに零距離射撃をかましたのだ。

亨は空中で体制を立て直し、了と向き直る。
更に、アジ・ダハーカの口から、エネルギー弾を吐いた。
了は瞬時にブレードをグライダーへと戻し、空中へ舞う。

天井の低い工場を器用に飛び回り、彼は全てのエネルギー弾を避けた。
そのまま了は、空中を浮遊し続ける。
亨は一旦攻撃を止めると、口を開いた。

亨「逃げるのか?」

軽い言葉で、了を煽る。
無視されるか、焚き付けられるか。
だが結果は、そのどちらでもなかった。

了「そうだ。」

なんと彼は、それを肯定したのだ。
それも嘘というわけではなく、本心から言っているらしい。
亨の訝しげな空気を感じ取り、了は補足する。

了「お前の相手をするのは、俺じゃない。」

その言葉が言い終わるか終わらないかのタイミングで、亨の真横の壁が破られた。
衝撃で、亨は吹き飛び体制を崩してしまう。
その大きな音に、巡とアカツキ、ヨルムンガンドの全員がそちらに振り向いた。
廃工場の中へ入って来たのは、四つのロックビークルだ。

一つは、青いアサガオが描かれた白いバイク。
一つは、モスグリーンに灰色が入った小型の装甲車。
一つは、タンポポがあしらわれた空中バイク。
そしてもう一つは、見た事もないロックビークルだった。


肌色と茶色を混ぜたような独特の色合い。
それは正に「キノコの色」としか説明出来ない微妙なカラーだった。
赤色の差し色が入った、スケートボード型ロックビークル。

キノコストライダー


四つの人影が、ロックビークルから降りてくる。
男が三人に、女が一人。
彼らは戦極ドライバーを装着すると、それぞれ勝手な事を呟いた。

>>270さん
あれは確かに蛇ですが、誑かしたのは悪魔だと言われていますね。
ちなみに蛇は、十字架にかかったキリストの象徴だったり、「蛇のように聡く、鳩のように素直であれ」などなど、意外といい扱いも受けてるんですよ。


>>271さん
なるほど、勉強になります。
それは学んだ覚えがなかったので…


本日はここまでにしたいと思います。
疑問、質問、提案等、いつでもお受けしております。

気になった点があれば、いつでもご指摘ください。
ですが、あまりキツい言葉は、出来るだけ遠慮していただきたいと思います。

乙でした
アーマードライダーの入り乱れっぷりがすごいね相変わらず劇場版はw
途中誰かわからなくなっちゃいそうだったww

本編鎧武はキカイダーといいサッカーといい割り込ませ方が無理矢理すぎると思うんですが、どうですか

乙です!
まさか聖書や蛇でここまで語れる人間が二人もいるとは・・・・ゴクリ
知恵の実、不老の林檎、黄金の林檎
ようは人間は林檎が大好きなのです!
あ、中国と日本は桃ですけど

乙でした
やっぱエアネイド格好いいなぁ…

乙でした
潤さんはまだ戦極ドライバーのままなのか……。ここで死ぬのか救援が来るのか……

スレタイのクリスマスって「Xmas」じゃないんですか?

>>277さん
>>1の6.で書きました通り、初の顔見せとしての登場というのもありますので。
ですがそれでも、分かり難くてすみません。


>>278さん
キカイダーは確かに唐突でしたが、サッカーに関しては、まだ何とも言えないですね。
電王のように、劇場版を見たとき初めて話が繋がる可能性もあるので…


>>279さん
ちなみに、聖書にも「金のりんご」という単語は出てきます。
「時宜にかなって語られることばは、銀の彫り物にはめられた金のりんごのようだ。」という部分があってですね…


>>280さん
エアネイドがお気に入りですか。
>>1は…贔屓みたいに聞こえると大変なので、やめておきます。


>>281さん
洋介が強い理由…
それは後で、ちゃんと説明されたりします。


>>282さん
XmasはChristmasの略式ですね。
そちらは親しい間柄でしか用いられることはなく、正式なものではChristmasと表記します。

ちなみに頭文字のXは、ギリシャ語のXristosからきています。
勘違いされることが多いですが、X'masやX-masという表記揺れは間違いです。


こんばんは。
本日も始めていきます。

リョウマ「おー、やってるね。」

研究部長、戦極 リョウマ。
彼はアサガオタイフーンを錠前型に戻し、ポケットに仕舞う。
同時に、ロックシードを取り出して構えた。

愛花「ていうか、人口密度? アーマードライダー密度? 何かそんなのが凄すぎませんかー?」

バーテンダー、木陰 愛花。
彼女はターバコンバットを錠前型に戻し、ポケットに仕舞う。
同時に、ロックシードを取り出して構えた。

碇「御託はいいから、さっさと暴れようぜ…」

焼却隊長、多田野 碇。
彼はダンデライナーを錠前型に戻し、ポケットに仕舞う。
同時に、ロックシードを取り出して構えた。

短夏「久しぶりだな、特任部! 大丈夫か?」

特殊戦闘員、登戸 短夏。
彼はキノコストライダーを錠前型に戻し、ポケットに仕舞う。
同時に、ロックシードを取り出して構えた。

新たに現れた四人に、その場にいる全員の目が釘付けになる。
ヨルムンガンドは訝しげな表情をし、アカツキはリョウマや愛花を知っているためか、目を見開いた。
そして巡と了の二人が、ようやく来たか、と独りごちる。

『フィフティーン』
『ホップ』
『アブラヤシ』
『カムカム』

四人がロックシードを解錠した。
空中に時空間の裂け目が開く。
その中から、三つの果実と一つの頭蓋骨が降りてくる。

『『ロックオン』』

ロックシードを戦極ドライバーに施錠した。
機械風の待機音とロック調の待機音が、双方ステレオで混ざり合う。
カッティングブレードを叩き、ロックシードを斬り開く。

『スタート』
『スタート』

リョウマ「変身。」
愛花「変身。」
碇「変身…」
短夏「変身!」

『ホップアームズ』
『アブラヤシアームズ』
『カムカムアームズ』

待機音が止まり、巨大な果実と頭蓋骨が、それぞれの頭に突き刺さった。
三つの果実が鎧へと展開し、頭蓋骨が潰れて吸収されるようにスーツとなる。
そしてユグドラシルが誇る四人のアーマードライダーが、その場に姿を現した。

『ミス・コマンド!』
『ミスター・ブレイズマン!』
『ディス・コード』


碇が変身した姿は、赤色のパターンが入った灰色のスーツに、赤色が入った黒色と赤色の鎧。
耐熱加工を施されたスーツと、鎧の所々から垂れたチューブが特徴的だった。
スプレー缶の発射口を模した仮面。
武器は消化器のようなフォルムの火炎放射器、アブリッションである。

仮面ライダーフライバー アブラヤシアームズ

短夏が変身した姿は、薄い赤色が混じった白色のスーツに、赤色と黒色が入った赤色の鎧。
関節部分は紅色の殻で覆われており、曲線的で洗練されたフォルムをしていた。
蒼色のシャープな複眼に、黄色の角。
武器は右手の剣、C.A.R.Mである。

仮面ライダーΣ9 カムカムアームズ


ヨルムンガンドの四人が、目を見開いていた。
ユグドラシルに特任部という組織があり、強力なアーマードライダーがいる事は知っていた。
だが、あんな怪奇的な姿をした幽霊のようなアーマードライダーや、量産型以外でここまで多くのアーマードライダーを保持しているなど、予想だにしない事ばかりが目の前で起きていた。

アカツキの四人も、目を見開いていた。
短夏と碇がアーマードライダーである事は知っていた。
だが、まさか研究部長のリョウマや、バーテンダーの「マナちゃん」までもがアーマードライダーだとは、誰も思っていなかった。

イェデアンの巡も、目を見開いていた。
よくアーマードライダーを改造する性格柄、どんなアーマードライダーを見ても驚かない自信があった。
だが、リョウマが変身したアーマードライダーは、改造などと言うチャチなものではなく、根本的に何かが違っていた。

そしてユグドラシルの了も、目を見開いていた。
短夏や碇はもちろんの事、リョウマも「マナ」もアーマードライダーであろう事は予想していた。
だが、リョウマの禍々しいその姿は、彼の想像を絶していた。

その場の全員がフリーズする中、リョウマは白髪を掻いた。
別に掻いたところで、頭の痒みがどうなるわけではないが。
彼は呆れたように溜息を吐くと、了に冷たく指示する。

リョウマ「とりあえず、アカツキに寝返った裏切り者共を殺しなよ。」

了「!」

その言葉で正気に戻った了が、ブレードを構えて麗夢と武蔵に飛びかかった。
それに反応したゲベトとベルゼが、彼を攻撃しようとする。
だがそんな彼らを、巡が鞭状にした無道・海龍槍で叩き飛ばした。

了、巡、アカツキの六人が戦闘を始めたのを見、克己は飛び出そうとする。
が、彼はアジ・ダハーカに肩を噛まれ、思い切り引き寄せられてしまった。
勢い余って倒れながら、亨を見る。
瞬間、克己の足元が爆発した。

愛花「あ、外しちゃいました。」

愛花が両手にハンドガン、ドットホップを持ちながら、残念そうに呟く。
どうやら、戦うべきは向こうではなく、こちらのようだ。
その事をようやく理解した克己は、立ち上がってリョウマ達を睨む。
ヨルムンガンド全員から送られる攻撃的な視線を受けながら、リョウマは言った。

リョウマ「カカトに噛み付いてくる蛇は、頭を踏み砕かれるって知らないのかい?」

呆れたような声と共に、不気味な大剣、黄泉丸を振り回す。
それに合わせ、愛花も脚に力を入れた。
短夏も腰を落とし、加速する姿勢をとる。
碇はアブリッションの口を持ち、構えた。

リョウマ「合図は何にしようかな…」

リョウマはそう呟きながら、記憶を探る。
その中で、いいものを見つけた。
今回は、彼の決め台詞を借りる事にしよう。

リョウマ「それじゃ、いこうか。ここからは、僕のステージだ。」

その言葉が発せられ、ユグドラシルの四人が飛び出した。
ヨルムンガンドも臨戦態勢を取り、それに向かっていく。
ユグドラシルが一方的に潰すか、それともヨルムンガンドが彼らを咬み殺すか。
運命のラウンドが、幕を開けた。

京は待ち合わせ場所に向かっていた。
鮮やかな服に、見る者を魅了する美しさ。
実際彼女は、道行く人に二度見される程、綺麗だった。

彼女はウキウキとした気分で歩いて行く。
最大の難関である宝は排除出来た。
つくづく男子という奴は、馬鹿ばかりで扱いやすい。

親友を傷付けるのに、心が痛まないわけではない。
だが、最初に裏切ったのは彼女の方だ。
自分が責められる謂れはない。

宝は、自分が更季に好意を抱いている事を知りながら、横からかすめ取ろうとしたのだ。
そんな事が、許されてなるものだろうか。
更季には、宝は突然の用事で来れなくなったと言っておけば良いだろう。
彼は買い物に付き合うだけだと思っているようだし、自分が代わりに行っても、何も不都合はないはずだ。

京は心の中で自らの正当性を主張しながら、宝と更季が待ち合わせしている場所へ向かっていく。
そしてようやく、目的地の公園に辿り着いた。
同時に、更季の姿が目に飛び込んでくる。

彼女は走って、更季に近づいていった。
声を上げて、彼を呼び止めようとする。
が、それは出来なかった。
自分が声をかける前に、知らない男が更季に話しかけたからだ。

彼女は気勢を殺がれ、その場に立ち止まる。
更に京は、思わぬ光景を見る事になった。
更季の表情が憤怒に染まったかと思えば、更季と謎の男が戦極ドライバーを装着したのだ。

二人はアーマードライダーに変身し、戦闘を開始する。
公園内はパニックに陥り、そこにいた人々は、我先にと公園の外へ出て行った。
その場に残った一般人は、京ただ一人だ。

戦闘は圧倒的に更季が押していた。
彼女は顎に手を当て、考える。
さて、自分はどうしようか。

このまま生身で逃げ遅れた人を演じ、更季に助けてもらうのも悪くない。
しかしそれをすれば、更季が劣勢に追い込まれてしまうかも知れない。
最悪、自分まで殺されてしまうだろう。
なら、この案は却下だ。

次に、変身して間に入るのはどうだろうか。
一見ただの邪魔者だが、戦いを好まない優しい自分をアピール出来る。
しかしこれをすると、更季の逆鱗に触れてしまう可能性もあった。
なら、やはりこの案も却下だ。

では、変身して更季を助けようか。
それも悪くない。
共に戦う事で、更季からの好感度も上がるだろう。
よし。

彼女はそう考えると、戦極ドライバーを取り出した。
そして更季の元へ、一直線に走って行く。
だがそのとき、彼女と更季の間に割って入る影があった。
それは薔薇があしらわれた、赤いバイクだ。

搭乗していた人物が、ヘルメットを取る。
その顔は、冷た過ぎる程に無表情だった。
彼はバイクを降りると、それをトントンと叩く。
すると瞬く間にバイクが小さくなり、錠前の形へと変形した。

秀「布裁之 京…だよな。」

問いではなく、断定。
この男は、自分の事を知っている。
そしてきっと、更季を襲っている男の仲間だろう。

普段なら、無駄な争いは避け、逃げるところだ。
が、愛は障害がある程燃え上がるものだとも言う。
ならば、自分は喜んでこの障害を乗り越えよう。
京は、持っていた戦極ドライバーを装着した。

『バニラ』

ロックシードを解錠する。
時空間の裂け目から、細長い鞘が降りてくる。

『ロックオン』

ロックシードを戦極ドライバーに施錠した。
流れ出す西洋風の待機音をぶった切り、ロックシードを斬り開く。

『カモン!』

すると、空中に浮かんでいた鞘が開き、中から黒色の実が幾つも現れた。
実が出終わると、鞘だけが裂け目の中へと戻っていく。

京「変身。」

その黒い実が、彼女の上半身の周りまで降りてきた。
そして彼女に貼り付き、それぞれが展開し始める。

『バニラアームズ』

全ての実が、彼女の身体に装着された。
その全てが変形し、一瞬でプロテクターとなる。

『勝利の香り!ビクトリー!』


白色のスーツに、金色の入った黒色の鎧。
胸に浮かび上がった、V字型の模様が特徴だった。
瞳のようなものが見られる、熱気を帯びた橙色の複眼。
武器は銃と剣の二つに機能する銃剣、勝剣ビクトラスと、盾、ヴァニラディフェンダーである。

仮面ライダーセイヴァー バニラアームズ


彼女は勝剣ビクトラスを構え、秀を見据えた。
が、当の秀は俯いたまま、肩を小刻みに震わせている。
そして耐え切れなくなったのか、彼は大声を上げて笑い始めた。

秀「ははっ! はははっ! はははははははっ! 」

その笑いの意味が分からず、京は訝しげな表情をする。
だが秀にしてみれば、笑いが止まらなくて当然だった。
この目で、奇跡というものを見てしまったからだ。

さっきまで、自分は恐ろしい程に苦しかった。
自分を恨み、世界を恨み、全ての負の感情に押し潰されそうだった。
京に会ったところで、何をどうすればいいのか分からなかった。
自分が何をしたいのかすら、わからなかった。

しかし、たった今起こった事で、その全てが解決してしまった。
宝に対する、大き過ぎる罪悪感が消えたわけでは決してない。
さっきと今の違いは、それを無視して行動出来るか否かだ。

京の変身は、明らかに普通のアーマードライダーと違っていた。
それが示す事実は、一つ。
彼女のロックシードが、改造されているという事だ。
ならば、自分がすべき「仕事」も、一つ。

彼女が改造したのか、それ以外の何者かが改造したのか。
そんな事は関係ない。
重要なのは、それが改造されているという事だ。

どす黒い感情がふつふつと湧き上がり、熱のようにゆっくりと広がっていった。
彼の瞳は危険な光を映し、思考は急速に衰えていく。
秀はグルリと首を回し、戦極ドライバーを装着した。

『トケイソウ』

ロックシードを解錠する。
巨大な果実が、時空間を引き裂き現れる。

『ロックオン』

ロックシードを戦極ドライバーに施錠した。
流れ出すのは、機械系の待機音。

『スタート』

カッティングブレードを掴み、ロックシードを斬る。
キャストパッドが開き、シードインジケーターが露わになる。

秀「変身…」

消え入りそうな程に小さな声。
だがその色は、狂気の楽しさに震えていた。

『トケイソウアームズ』

巨大なトケイソウが、彼の頭に突き刺さる。
そして展開し、鎧へと変形する。

『Time of Reign』

秀がエクストラパッションを引き抜いた。
自らのエゴのために周りの人間を傷付けた、二人のアーマードライダー。
ある種において、似た者同士の敵同士。
二つの刃が、鈍く光った。


潤と洋介のダメージ差は、歴然だった。
だがこれには、ハッキリとした理由がある。
それは、二人の戦極ドライバーの違いだ。

洋介が使っている戦極ドライバーは、あの詠多と同じトライアル版である。
これは完成版と違い、装着者の事を考えて作られてはいない。
トライアル版戦極ドライバーの開発における最重要項目は、データの収集だけだったからだ。

そのため、一言で言えば、発揮出来るパワーの上限が存在していない。
装着者の闘争本能が上がれば上がる程に、その力を増幅させるのだ。
それこそ、装着者が壊れてしまう事など、お構いなしに。

『カエンボク スパーキング』

洋介が戦極ドライバーを操作した。
彼の全身から、炎が噴き出す。
タイミングを見計らい、一気に加速した。

潤の目と鼻の先まで近づくと、目にも留まらぬ速さで連続パンチを放つ。
炎の纏われた拳が、潤に強烈なダメージを与えていった。
最後に、彼は口から猛烈な火炎を吐き、強力なストレートを叩き込む。

潤「がぁぁぁああああああ!!!」

潤は絶叫と共に、勢い良く弾き飛んだ。
公園内の噴水に叩きつけられ、その水の中へと倒れる。
変身が、強制的に解除された。
激痛が走り、身体が動かない。

疲労感が身体を支配し、その場に彼を押さえつけていた。
洋介が彼を殺そうと、近づいてくる。
潤は何とか脚に力を入れ、立ち上がろうとした。
が、途中で膝が折れ、噴水の中で四つん這いになってしまう。

もう、駄目かも知れない。
諦観が、彼の体力を奪っていった。
それでも、心の何処かで燻る意志だけは、未だにしっかりと立ち続けている。

彼は筋肉が緩んでいくのを感じながらも、無言で叫んだ。
ここで死ぬわけにはいかない。
抜けていく力に抗いながら、もう一度身体に力を込める。
しかし、やはり立ち上がる事は叶わず、再び崩れ落ちてしまった。

だが、そのときだ。
彼の懐から、何かがゴロッと噴水内に落ちた。
それは碧い戦極ドライバーと対をなす、紅いベルト。
ゲネシスドライバーだった。

それを見た瞬間、彼はおかしさのあまり笑い出しそうになる。
面白さで肩と膝が震え、再び噴水の中に倒れた。
それでも彼は、笑いを止める事が出来ない。

自分は何と愚かだったのだろう。
これでは特任部の三人を馬鹿に出来ない。
自分も負けず劣らずの馬鹿だった。

白夜との戦闘で戦極ドライバーを使用したのは、あの「秘密兵器」を使うため。
それ以外の理由などなかった。
ならば、自分は何故、洋介に対してまで戦極ドライバーを使っていたのだろう。

冷静に考えれば、小学生でも分かるはずだ。
旧世代と新世代、どちらが強いか。
そんなもの、新世代に決まっているじゃないか。

彼は腹を捩りながら、それでも脚に力を入れる。
すると今度は、何の抵抗もなくスッと入った。
先程とは比べものにならない身軽さで、噴水の中に立ち上がる。

潤を殺そうと近づいてきていた洋介は、それを見て立ち止まった。
彼は仮面の下で、訝しげな表情を浮かべる。
潤の腰に、見た事もないベルトが装着されていたからだ。

『オリーブエナジー』

潤がロックシードを解錠する。
時空間の裂け目から、半透明の果実が降りてくる。

『ロックオン』

ロックシードをゲネシスドライバーに施錠した。
単調な待機音をぶった切り、右側のグリップを押し込む。

『ソーダ!』

ロックシードのカバー、キャストパッドが展開する。
ゲネシスドライバーのカップに、エネルギーが絞り出された。

潤「変身!」

巨大な果実が、回転しながら彼の頭に突き刺さる。
歌のような変身音が、ロックシードから流れ出す。

『オリーブエナジーアームズ』

そして頭に刺さったオリーブが、鎧へと変形した。
再び変身した潤に、洋介は飛びかかる。
拳から炎を噴出しながら、その装甲を溶かそうとした。

跳んできた洋介に、潤はソニックアローを振るう。
それは何の抵抗もなく、洋介の両拳の爪を斬り落とした。
更に弓を引き、衝撃波の矢を放つ。
それは驚愕でフリーズしていた洋介を、一気に吹き飛ばした。

地面を転がった洋介は、すぐに体制を立て直す。
オリーブレイドを構えて走って来る潤に向かい、両拳から強力な火炎を放出した。
しかし、潤はそれをものともせず、一直線に近づいて来る。
洋介は足止めを諦めると、身体を捻り、尻尾を振り回した。

巨大なそれが、潤に迫る。
彼はオリーブレイドを振りかざし、それを受けた。
だが太い尻尾の筋力と腕の筋力では、幾ら新世代と言えど分が悪い。
段々と、潤は押され始めた。

洋介が手応えを感じ、笑う。
この鍔迫り合い、もらった。
彼は更に力を込め、潤を押していく。
潤はそれを感じ取ると、何とか左手だけで尻尾を押さえながら、ゲネシスドライバーを操作した。

『オリーブエナジー スカッシュ』

瞬間、今までの何倍ものエネルギーが、オリーブレイドに流れ込む。
彼はそれを両手で構えると、一息に力を入れた。
エネルギーの纏われたオリーブレイドが、洋介の尻尾を斬り裂く。
洋介は激痛のあまり、声を上げた。

『カエンボク オーレ』

同時に、怒りに任せ戦極ドライバーを操作する。
潤は尻尾を斬り落とすと、即座に後ろへ跳んで距離を取った。
その激情を現したかのような激しい炎が、洋介の全身に纏われる。
彼は腰を落とすと、潤に向かって突撃した。

『オリーブエナジー スパーキング』

巨大な炎の塊が、潤に迫る。
彼はゲネシスドライバーを操作すると、ソニックアローを構えた。
弓を引き絞り、エネルギーの矢を放つ。
それが洋介に当たった瞬間、彼の動きが急に止まった。

洋介「!」

ソニックアローから放たれたその矢が、洋介の身体を硬直させ、ロックする。
瞬間、潤はソニックアローを構え、動きの止まった炎の塊へと一気に走り出した。
その刃に、エネルギーが纏われる。
それを真一文字に振るい、洋介の身体を大きく斬り裂いた。

洋介「ぐぁぁぁぁああああああああ!!!!」

絶叫が、炎の中から放たれる。
そして巨大な爆炎が、彼が纏っていた炎すら包み込んで燃え上がった。
潤はそれを眺めながら、変身を解除する。
そして糸が切れたように、その場にバタリと倒れ込んだ。

視界には、真冬の寒空が広がっている。
そう言えば、雪山で寝ると死ぬらしい。
凍え死ぬのかどうか、その辺の原理は知らないが。
だが、ここは雪山ではない。

確かに寒いが、凍死する程ではないだろう。
それに、先程まで炎で熱かったから、この寒さは丁度良い。
潤は身体の力を抜き、目を閉じる。
緊張していた意識が、ゆっくりと沈んでいった。


連翠はゆっくりと歩いていた。
相手を睨みながら、間合いを見計らう。
が、当の相手は、肩の力を抜いて脱力しきっていた。

リョウマ「…ねぇ、まだ?」

リョウマはうんざりしたような声を上げる。
一見隙だらけで、やはり隙しかない。
にも拘らず、余裕の態度を崩さない。
それが彼の容姿と合わさり、異様な恐怖を漂わせている。

連翠は一か八か、素早く大蛇打を振るった。
巡によって鉄球を破壊されたそれが、リョウマに迫る。
彼は黄泉丸を構えると、それを五月蝿そうに薙いだ。

その刃が、一撃で大蛇打を斬り落とす。
連翠は目を見開くが、リョウマは相変わらずダラけたままだ。
彼はつまらなそうに、黄泉丸をカンカンと叩いた。

リョウマ「あれ? 今ので終わり?」

その言葉に反応し、連翠は大きく尻尾を振る。
白くて太いそれが、信じられない程のスピードで眼前に迫った。
だがやはり、リョウマはそれを黄泉丸で受け止める。
彼は鍔迫り合っていた尻尾を蹴ると、後ろへ跳んだ。

リョウマ「流石に、簡単には斬れないようだね。」

諦めの言葉を口にするが、感情は全く篭っていない。
更に右手に持っていた黄泉丸を、無造作に捨ててしまった。
連翠はそれを、訝しげな表情で見る。

リョウマ「…君さ、そろそろ気付こうよ。」

そんな連翠に向かい、リョウマは呆れたような声を上げた。
その言葉の意味が分からず、連翠は何も答えない。
そんな彼を、リョウマは残念そうな目で見た。

『ドリアン』

同時に、新たなロックシードを取り出す。
それが解錠されると、空中に時空間の裂け目が開いた。
中から、緑色の果実が降りてくる。

リョウマ「君が使ってる戦極ドライバーとロックシードってさ、この僕が作ったものなんだよ。」

子供を窘めるような口調で、彼は続けた。
そしてようやく、連翠は彼が言った言葉の意味を悟る。
やっと気付いたか、とリョウマは心の中で呟いた。

『ロックオン』

ロックシードを戦極ドライバーに施錠する。
リョウマの戦極ドライバーから、ロック調の待機音が流れ出す。
カッティングブレードを下ろし、ロックシードを斬り開いた。

リョウマ「他人の作ったもので戦ってる君が、その開発者に勝てるわけないじゃん。」

戦極 リョウマ。
ロックシードと戦極ドライバーの開発者。
それらの事を最も良く知っており、最も上手く扱える者。

『ドリアンアームズ』

巨大なドリアンが、彼の頭に突き刺さる。
それが展開し、鎧へと変形する。
そして二本のノコギリが、彼の両手に装備された。

『ミスター デンジャラス』


黒と銀のシンプルなスーツに、刺々しい緑色の鎧が装着された。
上半身は頑丈な鎧に包まれているにも拘らず、腕や下半身は変わらず骸骨のようなデザインのせいで、随分とアンバランスに見える姿だ。
仮面は目元から口元まで黄色に染まり、赤い鶏冠が付いた兜の上からは、彼のアイデンティティである白髪が生えている。
武器は黄泉丸に代わり、新たに二本のノコギリ、ドリノコが装備された。

仮面ライダーフィフティーン ドリアンアームズ


連翠はリョウマの新たな姿を眺める。
それから一気に加速すると、巨大な尻尾を思い切り振った。
リョウマはドリノコを構えると、溜息を吐く。

リョウマ「退き際くらい弁えてると思ったんだけどねぇ…」

そして一撃で、連翠の尻尾を斬り落とした。
痺れるような激痛が、連翠の身体を駆け抜ける。
リョウマは再び脱力した。


愛花がドットホップを乱射した。
克己は全身のスラスターを起動し、それを避ける。
同時に、戦極ドライバーを操作した。

ヘントウバッカーからビームガンが飛び出し、彼に装備される。
それを構え、素早く応戦し始めた。
が、銃撃に特化しているアーマードライダーとそれ以外では、戦闘能力に圧倒的な差がある。

愛花はビームをテンポ良く避けながら、正確にドットホップを連射していった。
次第に押され始めた克己は、銃撃戦では勝ち目がない事を悟る。
彼はビームガンを捨てると、再び戦極ドライバーを操作した。

遠距離で勝てないのなら、近距離の死角から攻撃すればいい。
彼は無双セイバーを装備すると、一気に走り出した。
ドットホップから放たれる銃弾の雨を掻い潜り、弾く。

愛花は一旦銃撃を止めると、左手のドットホップを仕舞った。
その空いた左手で、右肩の鎧を取り外す。
そしてそれを、右手のドットホップと合体させた。

ハンドガンから狙撃銃のようなシルエットになったそれを、一瞬で克己に向ける。
そして回避する隙など与えず、トリガーを引いた。
克己は無双セイバーを取り落としながら、後ろへ吹き飛ぶ。

愛花「芦原さん程の腕はありませんけど。」

誰に言いたいのか分からない台詞を、無駄に可愛らしく口にした。
その言葉を無視し、克己は立ち上がる。
彼は愛花に向かって走り出しながら、戦極ドライバーを操作した。
今までとは違う、本気の一撃だ。

『アーモンド スカッシュ』

ヘントウバッカーから、収納されている全ての武器が撃ち出される。
それは綺麗な軌道を描きながら、愛花に迫った。
彼女はそれを、身体を捻りながら全力で避ける。
それらを全て避けきったところへ、一つの影が飛び出した。

愛花「!」

克己の持ったナイフが、愛花に突き刺さる。
愛花は苦しそうな声を上げ、俯いた。
彼女は恨めしそうな目で克己を見上げ…

愛花「はい、残念。」

苦悶していた態度を一変、甘ったるい声でそう言った。
克己は驚き、ナイフを見る。
それが刺していたのは、愛花ではなく、彼女の鎧に付いていた装飾だった。

克己は舌打ちし、後ろへ跳ぶ。
しかしその瞬間、思いもしていなかった事が起きた。
ナイフに刺さっていた装飾が、爆発したのだ。

爆風に吹き飛ばされ、克己は地面を転がる。
愛花は克己が立ち上がるまでの間に、右手のドットホップから鎧を外した。
それを右肩に戻し、手をパンパンと叩く。
そして左手のドットホップを抜き、再び二丁銃のスタイルへと戻った。


碇はアブリッションから、小さな火球を連射した。
本当なら周囲にオイルを撒き散らし、一帯を焼く戦法を取りたい。
が、リョウマから事前に「この工場にA.N.G.00がいる」と説明されているため、それは出来なかった。

界はサーペントバスターを構え、それに応戦する。
お互い銃撃戦に慣れているためか、一進一退の勝負が続いていた。
というより、いつまでも戦闘に変化が訪れない。

このままやりあったところで、勝敗が着く事はないだろう。
そう考えた碇は、アブリッションのモードを変えた。
無駄な被害を出さないよう、一点集中で火炎放射が出来るモードにする。

彼は放射口を界に向け、炎を放った。
界はサーペントバスターからの射撃を止め、作戦を練る。
炎が直接的なダメージになる事はないが、如何せん熱い。
体力を内側から奪っていくこの攻撃は、中々に脅威となり得るだろう。

彼はサーペントバスターを仕舞い、無双セイバーを引き抜いた。
遠距離攻撃ではなく、近距離攻撃で攻める事にしたのだ。
無双セイバーを構え、碇へと走る。

そのとき、碇の目が光った。
界が目の前にくるタイミングで、彼は素早くアブリッションのモードを変える。
そして至近距離から、界に向かって火球を連射した。

本日はここまでにしたいと思います。
疑問、質問、提案等、いつでもお受けしております。

気になった点があれば、いつでもご指摘ください。
ですが、あまりキツい言葉は、出来るだけ遠慮していただきたいと思います。

乙です!
フォーティーンのドリアンアームズって想像するとすっっっごく似合いますよね!
ホネホネなトゲトゲですよー!
リョウマくんの「僕のステージだ」
なんかかっるそうなダウナーな感じでミステリアスでインテリジェンスなかっこよさです!
トキメキます!

>>295さん
ドリアンになった理由は、>>1が好きなアームズだからだったりします。
色が綺麗なんですよね。


こんばんは。
本日も始めていきます。

界は即座に反応し、スピードを殺す。
無双セイバーを振り回し、放たれた火球を全て払った。
更にコックを引き、無双セイバーをガンモードへと移行させる。

その銃口を碇に向け、エネルギー弾を放った。
碇はアブリッションからの射撃を中止し、それを避ける。
多少の変化はあったものの、勝負は再び膠着状態へと戻ってしまった。


戦闘開始直後、短夏は一気に走り出した。
そのスピードはあまりにも速く、残像が見える程だ。
しかもそれらには、ある秘密があった。

彼は亨の周囲を走り回りながら、C.A.R.Mから特別な電波を発する。
すると、彼の作り出した残像が、何と意思を持つが如く動き出した。
それらは亨へと、一気に突撃していく。

複数体(実際には一人だが)の短夏が、亨に迫った。
だが彼は、全く慌てた様子を見せない。
彼は本物の短夏と全ての残像との位置を、瞬時に把握する。

刹那、両肩のアジ・ダハーカが、それらに向かって毒液を吐いた。
特殊なエネルギーの纏われたそれらが、短夏と残像に降りかかる。
すると本物の短夏を残し、全ての残像が一瞬で消え去ってしまった。

本物の短夏が振り下ろしたC.A.R.Mを、右肩のアジ・ダハーカが噛み掴む。
そこへ亨自身が、蛇の尾のようになっている下半身を振った。
体重の乗ったそれを受け、短夏は思い切り叩き飛ぶ。

同時に、彼はC.A.R.Mを手放してしまった。
それを噛み加えていたアジ・ダハーカの牙から、毒液が流し込まれる。
そして左肩のアジ・ダハーカがC.A.R.Mに噛み付くと、それは粉々に砕け散ってしまった。

短夏「おっと…これはひょっとして、ヤバいんじゃないか…?」

それを見た短夏は、そう呟きながら立ち上がる。
言葉や言い方は軽いが、その心中は穏やかではない。
C.A.R.Mが壊されてしまった今、彼は残像を作り出す事も出来なくなってしまった。

亨は腕を組んだまま、彼が動くのを待っている。
しかし今の短夏にある武器と言えば、その身と高速移動だけだ。
ヨルムンガンドのリーダーに戦いを挑んだ彼は、絶体絶命の状況に立たされていた。


巡はビットを放出し、一時的にベルゼの相手を任せた。
自分は無道・海龍槍を構え、ゲベトと対峙する。
彼はゲベトを睨みながら、様々な事を考えていた。

ビットの攻撃が、こいつには効かなかった。
鞭によるダメージも、そこまで受けていない。
ならば、こいつにはどのような攻撃が効くのだろうか。

彼が思考を巡らしていると、ゲベトが動いた。
チューインサッポウを投げながら、巡に向かって走る。
巡は思考を中断すると、次々と投げられるチューインサッポウを避けながら、無道・海龍槍を振った。
無道・海龍槍の先が、ゲベトを斬り裂く。

巡はゲベトの追撃に備え、腰を低く落とした。
が、無道・海龍槍に斬り裂かれた瞬間、ゲベトは傷口を抑えながら、後ろへ下がる。
これを見て、巡はある事に気がついた。

こいつは、斬撃に弱いのか?
その疑問を解消するため、彼は無道・海龍槍を構え、ゲベトへと跳ぶ。
しかし、その瞬間、何かが高速で横から飛んできた。
彼は大きく身体を仰け反らせ、それを避ける。

見ると、ビットの大群を撒いたベルゼが、アグリバッシュを投げていた。
ベルゼは攻撃が避けられたのを認め、戦極ドライバーを操作する。
ラセンランスを右手に構え、巡に向かって跳んだ。

『アグリ スカッシュ』

ラセンランスにエネルギーが纏われ、高速で回転する。
前からはベルゼ、後ろからはゲベト。
二人のアーマードライダーが、巡を挟み撃ちにしようとした。

ならば、どうするか。
答えは一つだ。
巡は二人をギリギリまで引きつけ、一瞬で液状化した。

二人が驚いたときには、もう遅い。
ベルゼの必殺技、グロリアルクラッシュは、斬撃に弱いゲベトにクリティカルヒットする。
ゲベトは吹き飛び、変身が強制解除された。
驚愕で体制を崩したベルゼも、地面に落ちる。

巡は液状化を解くと、無道・海龍槍を構え、ベルゼに近づいていった。
そして倒れているベルゼへ攻撃を加えようとした、そのときだ。
耳を劈く鋭い声が、耳に飛び込んでくる。

了「まずい! 秀はいないんだ!」

何事だ、と思わず振り向いた。
そして目を見開く。
彼の眼前に、黄緑色のエネルギーボールが急接近してきていた。


了は、麗夢と武蔵の攻撃に対し、ブレードで応戦していた。
本当はU-RINIAを使用したいが、どちらも近距離攻撃に特化しているため、それは得策ではない。
だがこのまま戦い続けたところで、決着がつかないのは目に見えていた。

膠着した戦況を変えるため、武蔵が動く。
了への攻撃を中断し、戦極ドライバーを操作した。
それは見た了も、即座に麗夢を蹴り飛ばし、戦極ドライバーを操作する。
了と武蔵の二人が、睨み合った。

『ミカン スカッシュ』
『アルソミトラ オーレ』

瞬き適度の時間が、酷くゆっくりに感じる。
そして空間が崩壊するかのように、その一瞬が終わりを告げた。
武蔵が必殺技の居合を放つ。
その切っ先が、了を捉えようとした。

が、それは叶わない。
武蔵が居合を放った瞬間、了は両手のブレードを落とし、U-RINIAに持ち替える。
強力なエネルギーが流れ込んでいたそれを、武蔵の切っ先が届く前に射出した。
そのときの武蔵は、一撃必殺の居合を放った瞬間、つまり完全に無防備な状態だ。

U-RINIAに急所を撃ち抜かれ、武蔵は思い切り吹き飛ぶ。
そして、変身が強制解除された。
残るは麗夢だけだ。
了は再びブレードに持ち替え、雷鳴小太刀を構える麗夢と相対する。

胡桃「了!」

だが、彼がブレードを構えて走り出した、そのときだ。
胡桃の鋭い声が、彼を呼び止めた。
了は麗夢への攻撃を中止し、振り向く。
彼の眼前に、黄緑色のエネルギーボールが急接近してきていた。


胡桃がクルライフルで射撃した。
春菜はそれをバナジャベリンで弾く。
彼女のバナジャベリンは、槍にしては短く、素早く取り回し易いという利点があった。
それにより、胡桃の放つ弾丸は、先程から全て防がれてしまっている。

胡桃は溜息を吐くと、射撃を一旦中止した。
真正面からぶつかっていっても、埒が明かない。
ここは何処かへ身を隠し、春菜の死角から攻撃するしかないだろう。
彼女はそう考えると、陰となっている場所を探す。

だがその隙を、春菜は見逃さなかった。
彼女は射撃を中止した胡桃へ、ここぞとばかりにバナジャベリンを投擲する。
胡桃は即座に反応し、横に転がって避けた。

だが次の瞬間、バナジャベリンに装備されたブースターが起動し、転がった胡桃へと方向転換する。
そのまま一気に加速し、彼女を襲った。
胡桃はそれを防ぐ事が出来ず、後ろへ吹き飛ぶ。
バナジャベリンは再び方向転換し、春菜の手元に戻った。

胡桃は立ち上がりながら、瞬時に思考する。
あの槍は、何処までも自分を追尾出来るようだ。
が、それさえ分かれば、こちらにも打つ手はある。

彼女が頭の中で作戦を立てたとき、春菜が再びバナジャベリンを投擲した。
しかし、胡桃はそれを避けようとはせず、真正面から受ける。
バナジャベリンが彼女を貫こうとした、そのときだ。
胡桃が、クルライフルをバットのように振るった。

二本のバナジャベリンを、廃工場の壁と床に思い切り叩きつける。
更に、即座にクルライフルを構え直し、武器を失った春菜を撃った。
彼女は一瞬の出来事に目を奪われ、それを避けられない。

春菜は吹き飛び、地面を転がった。
思わず舌打ちすると、バナジャベリンを手元に回収する。
こんなに素早く適応されるとは、全く予想していなかった。
バカの癖に、生意気だ。

『バナップル スカッシュ』

彼女は怒りのまま、戦極ドライバーを操作した。
両手のバナジャベリンに、今までとは比べものにならない程のエネルギーがチャージされる。
そして一息に立ち上がり、それを胡桃に向かって投げた。

必殺技のバナピアッシングが、強力なエネルギーを纏って胡桃に迫る。
春菜は仮面の下で笑った。
例え避ける事が出来ても、すぐに方向転換をする。

例え弾き返そうとしても、あれ程のエネルギーを受けて、武器が無事なわけがない。
武器は壊れ、彼女もダメージを受けるのがオチだ。
つまり、彼女が自分の攻撃を防げる事など、万が一にもあり得ない。

春菜は勝利を確信する。
だからこそ、彼女は忘れてしまった。
胡桃が、バカだという事を。

『クルミ スパーキング』

刹那、春菜は正確に頭を撃ち抜かれていた。
空中を吹き飛ぶ間、何が起きたのか理解出来ない。
そして地面に叩きつけられ、強烈な痛みが襲う。
頭と身体を襲う激痛と共に、ようやく何が起きたのかを悟った。

見れば、胡桃もバナジャベリンの必殺技を受け、後ろへ倒れている。
胡桃は春菜がバナピアッシングを放ったとき、それが防げない事を瞬時に悟った。
だから彼女は「避ける」と「防ぐ」の選択肢を捨て、反撃に移ったのだ。
バナジャベリンが自分に届くまでの一瞬で戦極ドライバーを操作し、春菜に必殺技のデッドシューティングを見舞う。

それは見事に成功し、春菜を吹き飛ばした。
と同時に、自分も強烈な痛みと共に吹き飛んだ。
自分へのダメージを重く考えない辺り、バカな選択肢としか言いようがない。
それでも彼女は、その判断が間違っていたとは思わなかった。

胡桃は立ち上がり、クルライフルを構える。
それから、先ず春菜ではなく、落ちている二本のバナジャベリンを撃った。
それぞれのブースターを破壊し、春菜の手元に戻れないようにする。
そしてターゲットを春菜に変更した、そのときだ。

裕司「芦原!」

胡桃の耳に、その声が届いた。
すぐにクルライフルを下ろし、そちらへ振り向く。
彼女の眼前に、黄緑色のエネルギーボールが急接近してきていた。


嶺二は琵琶弦配をギターモードにし、それを弾いた。
琵琶弦配から、生理的嫌悪感を感じさせる爆音が響き渡る。
それは相手の思考を掻き乱す、特殊な音波だった。

裕司「がぁぁぁああああああ!!!」

裕司は頭を押さえ、跪く。
どうやら、効果は覿面のようだ。
嶺二は更に音を大きくしながら、裕司に近づいていく。

裕司「あぁぁああああ…なんてな。」

しかし次の瞬間、嶺二は驚愕した。
まるで何事もなかったかのように裕司は立ち上がり、無双セイバーのコックを引いたのだ。
その銃口を嶺二に向け、エネルギー弾を放つ。
嶺二は即座に琵琶弦配を軍配団モードにし、それを防いだ。

一体何故、自分の攻撃が効かなかったのか。
嶺二は疑問符を浮かべながら、裕司を見る。
だが当の裕司は、呆れ返った口調で吐き捨てた。

裕司「だからお前は馬鹿だと言ったんだ。バカが一々考えて戦っているとでも思ったのか?」

彼は自分のこめかみを、人差し指と中指の二本でトントンと叩く。
自分の事をバカだと言っているが、彼自身は、実際にそうだと思っているので気にしない。
嶺二は彼の答えを聞いて、自分に失望した。
少しでも正しい答えを期待した自分が恥ずかしい。

嶺二「なるほど…では、果たしてこれも効かないでしょうか?」

彼はそう言うと、一気に裕司へ跳ぶ。
目にも留まらぬ速さで眼前へ迫ると、琵琶弦配を再びギターモードに変化させた。
それを裕司に突き刺し、戦極ドライバーを操作する。
嶺二は静かな怒りを燃やしながら、それを掻き鳴らした。

『ビワ スパーキング』

必殺技のスクリームブレイクが、裕司を襲う。
相手に直接破壊音波を放つこれは、肉体と精神を回復不能な状態にまでボロボロにしてしまう危険な技だ。
裕司の絶叫が、廃工場に響く。

裕司「がぁぁぁぁああああああああ!!!!」

流石の彼でも、これでノーダメージというのは無理だったようだ。
裕司はぐったりとし、俯く。
身体の力は完全に抜け、目も虚ろになっていた。
嶺二はその姿を、微笑を浮かべて眺める。

裕司「…で、今のが何だ?」

嶺二「!」

しかし彼の表情は、再び驚愕に染まる事となった。
まるで夢を見ているかのように、裕司はノーダメージだ。
彼が人間である以上、そんな事は絶対にあり得ないはずなのに。

嶺二「一体、何が…」

裕司「昔からそうだ。お前は詰めが甘い。」

裕司はそう言い、琵琶弦配に視線を向けた。
嶺二も驚いたまま見ると、琵琶弦配は裕司になど刺さっていない。
琵琶弦配が刺していたもの、それは裕司が捨てたはずのメロンディフェンダーだった。

最初から、全て作戦だったのだ。
元同僚である裕司は、この技を知っていた。
だからこそ、何よりも先ず、この技の対処法を考えた。

最初にメロンディフェンダーを捨て、それからはずっと無双セイバーだけで戦う。
そして、いざというとき、メロンディフェンダーを手元に呼び戻す。
これらは嶺二に気づかれる事なく、全て作戦通りに運んだ。
そうして彼は、見事、この技を防いで見せたのだった。

『メロン スパーキング』

裕司は戦極ドライバーを操作し、メロンディフェンダーを右手に掴む。
強力な破壊音波を直接受けたそれには、蜘蛛の巣状のヒビが走っていた。
が、そんな事には全く構わず、裕司はメロンディフェンダーで思い切り嶺二を殴る。

嶺二の頭に衝撃が走り、後ろへ吹き飛んだ。
同時に、メロンディフェンダーが粉々に砕け散る。
裕司は無双セイバーのコック引き、ガンモードに移行させた。
また、戦極ドライバーからロックシードを外し、それに施錠する。

『ロックオン』

嶺二は立ち上がり、それを見た。
無双セイバーの銃口は、自分の方を向いている。
彼はすぐに戦極ドライバーを操作し、攻撃に備えた。

『ビワ オーレ』

琵琶弦配に、エネルギーが流れ込む。
それは巨大なオーラとなり、琵琶弦配を包み込んだ。
絶対強度の防壁が、そこに生まれる。

『イチ、ジュウ、ヒャク』

無双セイバーの銃口に、エネルギーが溜まった。
それは球体状に膨らみ、黄緑色に光る。
そして、遂にそれを放とうとした、そのときだ。
何と、裕司は急に腕を動かし、銃口を嶺二から外してしまった。

『メロン チャージ』

黄緑色のエネルギーボールが、無双セイバーから放たれる。
それは裕司の後方、胡桃の方へと飛んでいった。
エネルギーボールを目で追いながら、裕司は叫ぶ。

裕司「芦原!」

その声に、胡桃は即座に反応した。
彼女は春菜に向けていたクルライフルを下ろし、戦極ドライバーを操作する。
そしてクルライフルを、眼前に迫るエネルギーボールへと向けた。

『クルミ オーレ』

クルライフルにエネルギーが流れ込む。
彼女はそれを構え、エネルギーボールを撃った。
弾丸によって跳ね返されたそれは、了のいる方へと一直線に飛んでいく。

胡桃「了!」

了はその声に反応し、麗夢への攻撃を中止した。
そして先程の胡桃と同じように、戦極ドライバーを操作する。
強力なエネルギーが、二本のブレードに流れ込んだ。

『アルソミトラ スパーキング』

彼はそれを大きく振り、迫ってきたエネルギーボールを叩き返す。
だがそのとき、彼はある事を思い出した。
それはこの場にいる特任部の三人が、無意識に忘れていた事だ。

了「まずい! 秀はいないんだ!」

その言葉に、裕司と胡桃もハッとする。
それでも、エネルギーボールは止まらない。
それは巡の眼前まで飛んでいき…

巡「うるさい!」

彼の無道・海龍槍によって打ち返された。
それは物凄い勢いで、嶺二へと飛んでいく。
しかし彼も、エネルギーのチャージされた琵琶弦配で、それを難なく弾き返した。
嶺二が、仮面の下で笑う。

裕司「作戦成功だ!」

だがその瞬間、裕司はそう叫び、戦極ドライバーを操作した。
膝を曲げ、思い切り跳び上がる。
そして弾き返されてきたエネルギーボールを、飛び回し蹴りでシュートした。

『メロン オーレ』

エネルギーボールは目にも留まらぬ速さで、嶺二の真横を通過する。
裕司が狙っていたのは、最初から彼ではなかった。
ターゲットは、彼の後ろにあった縦長の培養カプセル。
アカツキが捕らえた、A.N.G.00が収められているそれだった。

メロン、クルミ、アルソミトラ、ウミブドウ、そしてビワの五つのロックシードの力を纏ったエネルギーボールが、カプセルに激突する。
超強力なエネルギーがカプセルを駆け抜け、それを破壊した。
同時に、カプセル全体に衝撃が走る。
それにより、A.N.G.00が再起動した。

彼女はゆっくりと全体を見回し、周囲の状況を確認する。
次にユグドラシルの人工衛星とリンクし、現在位置と時間を把握した。
それから廃工場の天井を見つめ、初起動時と同じ衝撃波を放つ。

A.N.G.00「!!」

天を仰ぐようなその姿は、相変わらず名画のようだ。
鼓膜を劈く天使の歌声のような衝撃波に、廃工場は震え、崩れ始めた。
何処かからガスが噴出し、何処かから火花が散る。
工場全体が、一気に燃え上がった。

A.N.G.00は咆哮を止め、一直線に飛び立つ。
そして廃工場の屋根を突き破り、高速で何処かへと飛んで行った。
裕司が叫ぶ。

裕司「特任部! A.N.G.00を追え!」

その指示に、胡桃と了は首肯で答えた。
裕司はそれを認めると、戦極ドライバーを操作する。
彼は嶺二に向かって走り、飛び蹴りを放った。

『メロン スカッシュ』

嶺二は琵琶弦配で、それをガードする。
が、先程の強力なエネルギーボールを弾き返したときで、その耐久力は限界に達していた。
琵琶弦配にヒビが入り、砕け散る。
裕司のキックが、嶺二にクリーンヒットした。

嶺二「がぁっ!」

彼は後ろへ吹き飛び、地面を転がる。
変身が、強制的に解除された。
裕司はそんな彼に目もくれず、工場を飛び出していく。

リョウマ「裕司、予め待機させておいたヘルメスが、A.N.G.00を追ってる。現場に着いたら、そいつらから『完全な』ゲネシスドライバーを受け取りなよ。」

その背中に、リョウマが声をかけた。
裕司は仮面の下で笑い、工場の外へ出る。
そこでサクラハリケーンを変形させ、一気に走り出した。


春菜は暫くの間、A.N.G.00の動きに目を奪われていた。
が、裕司が外へ走っていったのを見て、ハッとする。
今対峙しているこの女も、あの男の仲間だ。

ならば、彼女も確実にあのアンドロイドを追うだろう。
そんな事はさせない。
嶺二を傷付けられたという怒りも手伝い、春菜は力強く戦極ドライバーを操作した。

『バナップル スパーキング』

助走をつけ、高く跳び上がる。
同時に、バナナを模したエネルギー波が、彼女の足元に現れた。
それを思い切り蹴り飛ばす。
エネルギー波はブーメランのように回りながら、胡桃を襲った。

胡桃は考える。
裕司からの指示が下った今、最優先事項はA.N.G.00の追跡にシフトした。
だが春菜からロックシードを奪還するのも、自分の仕事だ。

では、どうするか。
答えは、方法は一つだけ。
春菜を一撃で倒し、A.N.G.00を追うしかない。

『クルミ スカッシュ』

胡桃は結論を出し、戦極ドライバーを操作した。
彼女の右脚に、エネルギーが流れ込む。
春菜の必殺技、アマゾネストライクが、彼女に迫った。
しかし、胡桃は右脚を振り上げ、それに綺麗な回し蹴りを放つ。

見事なカウンターキックが、エネルギー波に決まった。
クルミ ロックシードのエネルギーを受けたそれは、目にも留まらぬ速さで春菜に迫る。
彼女が気付いたときには、もう遅い。
春菜が放ち、胡桃が蹴り返したエネルギー波は、春菜を勢い良く吹き飛ばした。

春菜「あぁぁぁああああああ!!!」

彼女の絶叫が、燃え盛る廃工場に響く。
変身が強制的に解除され、バナップル ロックシードが飛んだ。
胡桃はそれを、無造作にキャッチする。

本当なら戦極ドライバーも破壊しておきたいところだが、今はそれどころではない。
彼女はすぐに駆け出すと、工場の外に出た。
サクラハリケーンを取り出し、変形させる。
そしてそれに跨り、夜の街へと走り出した。


了のブレードと、麗夢の雷鳴小太刀が鍔迫り合った。
さっさと勝負を決め、A.N.G.00を追わなければ。
彼は肩の上からU-RINIAを展開し、麗夢を吹き飛ばす。

『ライム スカッシュ』

麗夢は地面に倒れたが、ただでは起きなかった。
戦極ドライバーを操作し、雷鳴小太刀を構える。
強力なエネルギーが、その刃に纏われた。

『アルソミトラ スカッシュ』

それを見た了も、戦極ドライバーを操作する。
彼はブレードを背中に戻し、グライダーを再装備した。
そこへ、雷鳴小太刀を構えた麗夢が、一気に間合いを詰めてくる。

雷鳴小太刀が、大きく振るわれた。
だがそれが、了を捉える事はない。
麗夢が攻撃を仕掛けた直後、了はU-RINIAを地面に向けて放つ。
その爆発的な推進力で、彼は工場の天井スレスレまで飛び上がった。

麗夢が驚き、見上げる。
瞬間、了はグライダーを使用し、急降下した。
右脚に、エネルギーが纏われる。
了の放った直滑空キックは、見事、麗夢に命中した。

麗夢は弾き飛ばされ、変身が強制解除される。
了はグライダーの翼を折り畳むと、工場の外へ走った。
本当ならグライダーで空を飛びたいところだが、万が一A.N.G.00に空中で攻撃を受ければ、自分は一溜まりもないだろう。
そんな理由から、彼はローズアタッカーを駆り、裕司達の後を追った。


巡は心の中で舌打ちした。
ユグドラシルが開発した最新型の戦闘用アンドロイドを奪おうと思ってここに来たが、まさかあそこまでの力を誇っているとは。
なるほど、ユグドラシルがここまで回収に手こずったのも頷ける。
それを本気で利用しようと考えていた、自分もアカツキも馬鹿だった。

彼はそう考えながら、ベルゼを蹴り飛ばす。
更に肩から、ビットの大群を放出した。
それがアグリバッシュに群がり、それを破壊する。

『ウミブドウ スカッシュ』

ベルゼの身を護るものはなくなった。
そろそろ終わりにするとしよう。
彼は無道・海龍槍を構え、戦極ドライバーを操作した。

『アグリ スカッシュ』

ベルゼも後がないと考えたのか、戦極ドライバーを操作する。
ラセンランスを構え、高く跳び上がった。
先程は不発に終わったグロリアルクラッシュが、再び巡を襲う。

だがそれは、バリア状に集まったビットにより防がれた。
その一瞬の隙を、巡が無道・海龍槍で突く。
強力なエネルギーが、ベルゼを吹き飛ばした。

少し席を外します。

強制的に変身が解除され、彼は地面に叩きつけられる。
巡はそれを確認し、工場の外へと歩き出した。
変身を解除すると、彼は熱さで顔を顰める。
廃工場は炎に包まれ、今にも崩れ去りそうだった。


夏海と才吾は、上空を見上げていた。
ヘルメスとアンドロイド軍団も、上空を見上げている。
巨大な地響きが起きたかと思えば、廃工場が燃え上がった。
何事かと思えば、今度は何かが空へと昇っていったではないか。

夏海には、それが何なのか分からない。
しかし才吾とヘルメス達には、瞬時にそれがA.N.G.00だと理解出来た。
つまり、再び解放されたのだ。
それはきっと、特任部の手によって。

そこへ、工場の中から、何者かが出て来た。
他でもない、巡だ。
ヘルメス達は即座にアローリーブとアセローラーを構える。
だが巡が生身なのを認めた才吾が、それを下げるよう指示した。

夏海「巡…?」

生身で現れた巡を見て、夏海は疑問を口にする。
が、彼は彼女の疑問には答えず、アンドロイド軍団に指示を出した。
すると、アンドロイド達は変身を解除し、その場を去って行く。

巡「帰るぞ。」

巡は夏海に、たった一言だけ言った。
それから、彼女に目もくれず歩き出す。
夏海は暫くぼうっとしていたが、ハッとすると、慌てて変身を解除した。

夏海「あ! 待ってよ、巡!」

彼女は走って、巡の後を追う。
イェデアンが去っていったのを見、ヘルメスと才吾も変身を解除した。
才吾は燃え盛る廃工場へと目を向け、それから再び空を見上げる。

才吾「…頼むぞ、特任部。」

そんな呟きが、彼の口から漏れた。
ここまで長引き、大きくなった問題を解決出来るのは、彼らしかいない。
ユグドラシルが誇る、最強の四人組だけだ。


京が勝剣ビクトラスから弾丸を放った。
秀はそれを、エクストラパッションで難なく弾く。
続けて彼はU-RINIAを展開し、京に向かって射撃した。
だがそれは、彼女のヴァニラディフェンダーによって防がれる。

公園という場所は、秀にとって不利なフィールドだ。
何故なら周りに建物がなく、ヴィンプワイヤーを引っ掛ける場所がないからだ。
木は植わっているが、この追加装甲が施された新型のヴィンプ・タキオンでは、木が重量に負けてしまうだろう。
そんな理由で、彼は地上での戦闘を余儀なくされていた。

が、今の彼は、そんな事など気にしていない。
頭を支配しているのは、狂気とほんの少しの良心だけだ。
どす黒い感情に突き動かされるがまま、戦闘を続ける。

京が勝剣ビクトラスを構え、駆け出した。
秀はすかさずヴィンプワイヤーを射出し、彼女を掴む。
だが京は、それを一撃で斬り落とした。
どうやら勝剣ビクトラスの切れ味は、伊達ではないようだ。

秀はボムパッションも試してみるが、やはりヴァニラディフェンダーに防がれる。
頼りになるのは、エクストラパッションだけらしい。
彼は舌打ちすると、それを構えて走り出した。
京の振りかざした勝剣ビクトラスと、秀のエクストラパッションが鍔迫り合う。

『バニラ オーレ』

そのとき、京が戦極ドライバーを操作した。
同時に、彼女の仮面がV字型のバイザーへと変形する。
瞬間、今までとは比べものにならない程の力が、彼女から放出された。
秀が驚いたときには、もう遅い。

秀「っ!」

勝剣ビクトラスはエクストラパッションを砕き、彼を斬り裂いていた。
秀は吹き飛び、地面を転がる。
強烈な痛みが襲ってきたが、変身解除には追い込まれていない。
新たに施された追加装甲は、確かな強度を誇っているようだ。

だが秀は、そんな激痛に耐えながらも、ある事を考えていた。
京の仮面が、元の形状に戻る。
瞬間、秀は心の中で呟いた。
五秒だ。

京が勝剣ビクトラスを構え、走ってくる。
今すぐ起き上がって対応しなければならないが、生憎痛みでそれどころではない。
更に言うと、秀はある作戦を立てていた。
それを成功させるためには、ここで体力を使ってはいけない。

秀は両腕を伸ばし、ボムパッションを発射した。
それは京ではなく、彼女の足元で爆発する。
よし、今しかない。

彼は怯んでいる京へ、ヴィンプワイヤーを射出した。
それは彼女のヴァニラディフェンダーを掴み、秀の元へ引き寄せる。
京から奪ったそれを装備し、彼は立ち上がった。
今の自分が攻撃を防ぐには、これしかない。

勝剣ビクトラスのラッシュを、ヴァニラディフェンダーで防ぐ。
それを暫く繰り返していたそのとき、京が再び戦極ドライバーを操作した。
彼女の仮面が、バイザー型へ変形する。

『バニラ オーレ』

瞬間、秀はまた呟いた。
五分だ。
そして次の瞬間には、ヴァニラディフェンダーは真っ二つに斬り裂かれていた。

一か八か、秀は公園の木にヴィンプワイヤーを射出する。
それを引っ掛け、何とか空中へ飛び出した。
勝剣ビクトラスが、空を斬る。
秀は何とかそれを避け、京から少し離れた場所に着地した。

ヴィンプワイヤーを巻き取ると、引っ掛けていた木が、中途から折れて倒れる。
無闇に自然を破壊してしまったが、それだけの価値がある情報が手に入った。
ここまで、一方的にやられるだけだったが、その必要はもうない。
さぁ、反撃だ。

京が距離を詰めてくる。
残っている武器は、ヴィンプワイヤー、ボムパッション、U-RINIAの三つ。
どれも斬撃に対応出来そうなものはない。

彼は一先ず、横に転がって避けた。
それからU-RINIAとボムパッションの二つで攻撃を試みるが、中々ダメージを与える事が出来ない。
急がなければ、また五分経ってしまう。
ならば…

『トケイソウ スカッシュ』

秀は戦極ドライバーを操作した。
特殊なエネルギーが、身体を駆け抜ける。
次の瞬間、彼は目にも留まらぬ速さで動き出した。
七秒間のみ高速移動を行える必殺技、タキオンパッションだ。

京「!」

秀は京の周りを縦横無尽に走り回り、全方向からボムパッションを浴びせる。
最後に、正面から連続パンチを放った。
京は吹き飛び、木に叩きつけられる。

クロック、オーバー。
秀は心の中で呟いた。
瞬間、膨大な量の熱が、その身体から放出される。
そして追加装甲が剥がれ落ち、ヴィンプ・タキオンは改造前のヴィンプの姿へと戻ってしまった。

秀はとどめを刺すため、京に近づいていく。
しかしそこで、彼は驚くべき光景を目にした。
何と京の仮面が、V字型のバイザーへと変形したのだ。

『バニラ オーレ』

秀は驚愕する。
明らかに、まだ五分は経っていないはずだ。
それなのに、何故あの技を発動出来るのか。

そこで彼は、ようやく気がついた。
先程の京は、あくまで五分後に同じ技を発動しただけであり、リチャージに五分かかるなど一言も言っていない。
それを秀が、勝手に勘違いしただけだったのだ。

秀「くそっ…!」

思わず毒づく。
しかし、後悔しても無駄だ。
追加装甲を失った今、あれを喰らえば、自分は一溜まりもない。
残り五秒。

京が勝剣ビクトラスを構え、眼前に迫る。
秀は思わずヴィンプワイヤーを射出し、空中へ飛んだ。
京は冷静に、木が折れて彼が落ちるのを待つ。
残り四秒。

しかし、何と折れる事はなかった。
京が驚き、秀はニヤリと笑う。
追加装甲の剥がれたヴィンプは軽く、木でも十分に支えられる重さになっていた。
残り三秒。

京は舌打ちし、勝剣ビクトラスから斬撃波を放つ。
強力なエネルギーの塊であるそれが、秀を襲った。
だが彼は、ヴィンプワイヤーを巧みに操り、次々とそれを避けて見せる。
残り二秒。

秀は斬撃波を避けながら、奇妙な面白さを感じていた。
新世代アーマードライダーになる前、戦闘中に面白がって無闇に飛び回り、了に撃墜された記憶が頭を過る。
そんなバカな思い出が、彼を支配していたどす黒い感情を溶かしていった。
残り一秒。

『バニラ スパーキング』

だがそのとき、京が戦極ドライバーを操作する。
莫大な負荷が自分にかかるのも構わず、勝剣ビクトラスを握りしめた。
あれがまともに当たれば、変身解除どころの騒ぎではない。
死亡確定だ。

が、今の秀は、そこまで焦っていなかった。
バカな感覚を取り戻したのが原因か、心に余裕が出来ている。
さっきまでの自分であれば、また確実に判断ミスをしていただろう。
しかし今なら、絶対にそんな事はしないと自信を持って言える。

京が斬撃波を放った。
瞬間、秀はボムパッションを乱れ撃つ。
彼の正面に、大量の爆弾による弾幕シールドが生まれた。
斬撃波はそれに直撃し、全ボムパッションが一気に爆発する。

巻き起こった爆風が、周りの木々を全て薙ぎ倒した。
京は後ろへ吹き飛ばされ、秀は空の彼方へ吹き上げられる。
残り零秒。
チャンスは今しかない。

『トケイソウ スパーキング』

空中で戦極ドライバーを操作した。
秀の左足から、ヴィンプワイヤーが放たれる。
それは一直線に、京の戦極ドライバーとロックシードを掴んだ。

秀「でぇぇぇぇやああああああああ!!!!」

左脚を真っ直ぐに伸ばし、叫ぶ。
そしてヴィンプワイヤーが、一気に巻き取られた。
強烈なキックが、京に炸裂する。

京「あぁぁああああああ!!!」

夜の公園に絶叫が響き渡り、ロックシードと戦極ドライバーが壊れた。
変身が強制解除され、彼女は地面に叩きつけられる。
激しい痛みが走り、意識が途切れた。

本日はここまでにしたいと思います。
疑問、質問、提案等、いつでもお受けしております。

気になった点があれば、いつでもご指摘ください。
ですが、あまりキツい言葉は、出来るだけ遠慮していただきたいと思います。

乙でした
やっぱ一番やっかいなのはA.N.G.00かな
いや、メンタル的には秀側の方が後々キツい展開だろうけど

しかしヴィンプはシンプルながら武装に恵まれてるなぁ…

乙です!
でもこのあとにA.N.G.00がまってるんですよね・・・・・
消耗してる三バカVS疲れを知らないアンドロイド
どうしよう、勝てる気がしない・・・
そもそも何のエネルギーを使ってるんですかね?反物質?

こんばんは。
すみませんが、酷い腹痛のため、本日は休ませていただきます。
申し訳ありません。

了解
お大事に

了解です、無理をなさらずにリアルを大切に

>>309さん
A.N.G.00との決着は、本日つく予定です。
特任部の本気が発揮されます。


>>310さん
実を言うと、彼が最も戦闘シーンの書きやすいライダーなんです。


>>311さん
A.N.G.00のエネルギーは、>>37に書きました通り、>>10で留奈の核から放出されたエネルギーのデータを元にした、言わゆる劣化コピーです。


>>313さん
ご迷惑、おかけしました。


>>314さん
お気遣い、誠に痛み入ります。


こんばんは。
本日も始めていきます。

秀は綺麗に着地し、息を吐く。
先程までは京を殺す気でいたが、今は何となく、する気が失せていた。
その場そのときの感情に流され初志貫徹をしない辺り、バカに戻れたという事かも知れない。

秀「…ま、いっか。」

けろっとした感じで呟き、伸びをした。
そのとき、耳に着けている通信機から、裕司の声が流れてくる。
随分といいタイミングだ。

裕司『三木。今、私と佐野と芦原でA.N.G.00を追っている。現在位置情報を送るから、合流しろ。』

同時に、彼の複眼に地図が映った。
マーカーが動いているところを見ると、すぐにでも追いつけそうだ。
彼はローズアタッカーを変形させながら、簡潔に答える。

秀「了解。」

そしてローズアタッカーに跨り、一気に走り出した。
久しぶりに、了、胡桃、裕司の四人で戦える。
その事実が、何よりも先ず、嬉しい。
彼は遠足前の小学生のような感情で、夜の街を駆け抜けていった。

- 幕間 その6 -


炎に包まれる廃工場。
その中で、リョウマ達とヨルムンガンドが立っていた。
先程まで戦っていた八人だが、今はそれぞれの陣営で固まり、睨み合っている。

リョウマ、愛花、亨は無傷。
碇、界は軽傷。
短夏、連翠、克己はそれなりに傷を負っている。
リョウマは凝り固まった身体を解すように伸びをすると、亨に話しかけた。

リョウマ「ねぇ、そろそろ帰ってくれないかな?」

亨「何だと?」

リョウマ「アカツキは特任部に敗れた。イェデアンも去った。残ったのは君達と僕達だけ。」

亨「…」

リョウマ「これじゃあ、君が最初に言ってた目的は達成出来ないでしょ?」

亨「…なるほど。」

リョウマ「それに…」

彼が話を続けようとした、そのときだ。
亨のアジ・ダハーカが、一瞬でリョウマを襲った。
だが彼は慌てず、両手のドリノコを無造作に振るう。
たったそれだけで、二頭のアジ・ダハーカを綺麗に斬り落としてしまった。

リョウマ「僕がいる限り、君達に勝ち目なんてないよ?」

亨「…ふん。」

リョウマの言葉に、亨は鼻息で返す。
それから後ろを向き、廃工場の外へと出て行った。
その後ろを、ヨルムンガンドのメンバーは渋々とついて行く。
リョウマは再度伸びをすると、彼らとは反対の方向に歩き出した。

リョウマ「さて、僕達も帰ろうか。」

碇「おい、今ここで叩き潰した方が…」

リョウマ「帰ると言ったら帰るんだよ。それとも何かな? 僕の戦闘能力テストの実験台にでもなってくれるのかな?」

碇「…」

リョウマ「分かればよろしい。」

たった一言で、相手を黙らせる。
そこにあるのは、圧倒的な実力差。
知る者はほんの僅かだが、単一の戦闘能力が最も高いのは、このリョウマなのだ。
チームワークにおいての最強は、特任部だが。

リョウマ「さてと、帰ったら裕司達のバックアップしなきゃ。」

肩をグルグルと回しながら呟く。
もう就業時間外だが、まだまだ仕事は終わらないようだ。
彼らは廃工場の外に出ると、各々のロックビークルを解錠する。
そして消防車のサイレンを背に、その場を去っていった。

- 最終章 : 4バカの誕生 -


…12月24日、夜から。

A.N.G.00は、沢芽市の高台に降り立った。
沢芽市全体が見下ろせそうなそこからは、様々な色に光るイルミネーションが見える。
中でも最も輝いているのは、彼女が脱走したユグドラシルタワーだった。

彼女はアンドロイドなので、何かを感じる事などない。
だが街を眺める彼女の顔は、無機質ながら、何処か哀愁の漂うものだった。
他の音などしない、静かな広場。
そこへ、複数の足音が、彼女に迫ってきた。

センサーが感知した方へ振り向く。
彼方から、四人の人間が歩いてきていた。
他の何にも目をくれず、彼女だけを見つめて。
その足取りには、何の恐れもなかった。

向かって最も左側の男は、スーツをきっちりと着込んでいた。
それが所々に負った傷と不釣り合いで、アンバランスにも見える。
特任部員の一人で、「ユグドラシルの3バカ」の参謀。
彼は四人のうちで、頭脳とロックシードの適合率に優れる。

向かって左側の男もスーツを着ているが、了よりも年季が入っていた。
顔も若く見えるが、他の三人よりは年上である事が分かる。
特任部長を務める、ユグドラシル・コーポレーションの重役の一人。
彼は四人のうちで、全てにおいて三人を上回っている。

向かって右側の男は、スーツを着ていなかった。
よっぽどの暑がりかバカなのか、この真冬にワイシャツ姿だ。
特任部員の一人で、「ユグドラシルの3バカ」のリーダー。
彼は四人のうちで、状況判断能力に優れる。

向かって最も右側の女は、確かにスーツを着ていた。
だがそれは、他の二人の男と同じスーツではなく、ライダースーツと呼ばれるものだ。
特任部員の一人で、「ユグドラシルの3バカ」の紅一点。
彼女は四人のうちで、推理力と洞察力に優れる。

A.N.G.00「!!」

現れた四人を見、A.N.G.00は短く咆えた。
それは相変わらず、天使の歌声のようだ。
が、それは同時に、狼の遠吠えのように響き渡る。

A.N.G.00と特任部が睨み合った。
四人がゲネシスドライバーを取り出し、腰に当てる。
銀色のベルトが慎重され、彼らにピッタリと装着された。

『レモンエナジー』
『メロンエナジー』
『チェリーエナジー』
『ピーチエナジー』

全員が、一斉にエナジーロックシードを解錠する。
特徴的な解錠音が混じり合い、何とも言えない程うるさい。
空中に時空間の裂け目が開き、中から巨大な果実が降りてきた。

『『ロックオン』』

エナジーロックシードをゲネシスドライバーに施錠する。
単調な待機音が、彼らのそれから流れ出す。
四人は両側のグリップを握り、右側のそれを一息に押し込んだ。

『『ソーダ!』』

待機音がぶった切られ、認識音が鳴る。
ゲネシスドライバーに、エナジーロックシードのエネルギーが絞り出される。
同時に、エナジーロックシードのカバー、キャストパッドが展開した。

了「変身。」
裕司「変身。」
秀「変身。」
胡桃「変身。」

彼らは声を合わせ、その言葉を口にする。
ゲネシスドライバーのカップが、絞り出されたエネルギーで一杯になる。
半透明の果実が、回転、展開しながら、四人の頭に突き刺さった。

『レモンエナジーアームズ』
『メロンエナジーアームズ』
『チェリーエナジーアームズ』
『ピーチエナジーアームズ』

ゲネティックライドウェアが、彼らの身体に纏われる。
巨大な果実の中で、四人の頭部が仮面で覆われる。
同時に兜が降り、彼らの後頭部を覆った。

裕司「真の強さ、見せてやる。」

裕司の言葉に、三人の顔が鋭くなる。
四種類の特徴的な変身音と共に、半透明の果実が鎧へと変形する。
そして溢れ出たエネルギーが果汁のように飛び散り、変身が完了した。

A.N.G.00「!!」

A.N.G.00が叫ぶ。
強力な衝撃波が放たれるが、裕司達はそのまま立ち続けていた。
広場を中心に、衝撃による巨大な空気の壁が生まれる。
彼女は咆哮を止め、戦極ドライバーを操作した。

『アテモヤ スパーキング』

胸部のキャノン砲に、エネルギーがチャージされ始める。
電流が走り、強く光った。
空気の壁が震え、爆発しそうな程の圧力がかかる。
今にも発射されそうなそれを見ながら、裕司は三人に指示を出した。

裕司「胸部のキャノン砲を破壊しろ。」

了解、と三人の声が重なる。
彼らはゲネシスドライバーから、エナジーロックシードを取り外した。
炭酸飲料を開けたときのように、エナジーロックシードから少量のエネルギーが抜ける。
それをソニックアローに装填し、施錠した。

『『ロックオン』』

ゆっくりと、弓を引き絞る。
渦を巻くように、エナジーロックシードにエネルギーが収束していった。
四種類の力が、それぞれのソニックアローにチャージされる。
そしてA.N.G.00がキャノン砲を放つ直前を見計らい、彼らは手を離した。

『レモンエナジー』
『メロンエナジー』
『チェリーエナジー』
『ピーチエナジー』

強力なエネルギーを帯びた四本の矢が、一直線に飛んでいく。
それはA.N.G.00の胸部に命中し、キャノン砲を破壊した。
チャージされていたエネルギーが、行き場をなくして暴走する。
それは彼女の全身を一気に駆け抜け、身体を覆っていた赤い結晶を全て崩し落とした。

秀「決まったな、ゲネシスラブリーフォースアロー!」

了「お前は何を言っているんだ?」

胡桃「…」

秀が言ったアニメネタは、どうやら了には通じなかったようだ。
胡桃は無言だが、肩が震えている辺り、仮面の下で笑っているのが分かる。
裕司はそんな三人を見つめ、小さな溜息を吐いた。

裕司「…いくぞ!」

気を取り直し、四人が走り出す。
ソニックアローを構え、彼らは次々に斬撃を放った。
A.N.G.00もアルテモイヤとエレメントガーターを用い、彼らの攻撃を防ぐ。
しばらくその状態が続いたとき、秀が一旦距離を開けた。

秀「そろそろ面倒臭くなってきたな。了、どうすればこいつの武器を破壊出来る?」

軽い口調で喋る。
彼としては、特に答えを求めていない、ただの愚痴のつもりだった。
だが了は顎に手を当て、大真面目に考える。

了「…同じ武器に連続して攻撃すれば、あるいは…」

軽く流してもらおうと思った問いに本気で答えられてしまい、秀は仮面の下で苦笑いした。
それが次第に、本当に面白そうな笑顔へと変わる。
そうだ、これが了のクオリティだ。

秀「よし! それでいくぞ!」

彼は楽しくなり、思わずA.N.G.00に向かって駆け出した。
ならば、自分も自分なりのクオリティで行動しよう。
簡単に言えば、いつものバカな調子で、だ。

了「おい、待て!」

その後を追い、了も走る。
「連続して」と言ったのだから、普通なら仲間と段取りを確認してからするものだ。
それをしないでいきなり飛び出す辺り、秀のバカさ加減が窺える。

胡桃「ちょっと、秀!」

動き出した二人を見て、胡桃も慌てて走り出した。
それでも仮面の下は、少しだけ笑っている。
秀に振り回されるのは久しぶりで、それが何故か、異様に心地よかった。

裕司「お前ら…はぁ…」

そんな三人に続き、裕司も後を追う。
だが彼も、本気で怒っているわけではない。
何故なら、このグダグダな空気こそが、特任部「らしさ」だからだ。

『チェリーエナジー スカッシュ』

秀がゲネシスドライバーを操作する。
彼は跳び上がり、A.N.G.00に両足蹴りを放った。
A.N.G.00はそれを、エレメントガーターで防ぐ。

『レモンエナジー スカッシュ』

そこへすかさず、了が飛び込んだ。
ゲネシスドライバーを操作し、エレメントガーターに片足飛び蹴りを放つ。
エレメントガーターに、ヒビが入った。

『ピーチエナジー スカッシュ』

更に胡桃が追撃する。
跳び上がりつつゲネシスドライバーを操作し、回し蹴りを決めた。
エレメントガーターのヒビが、大きく広がる。

『メロンエナジー スカッシュ』

そして間髪入れずに、裕司がゲネシスドライバーを操作した。
強力な背面飛び回し蹴りが、エレメントガーターに炸裂する。
そして遂に、エレメントガーターは音を立てて砕け散った。

秀「よし!」

秀が小さくガッツポーズを取る。
面倒なものが一つ減った。
この調子で、剣の方も破壊してしまおう。

『アテモヤ スカッシュ』

だがそのとき、A.N.G.00が戦極ドライバーを操作した。
ロックシードのエネルギーが、アルテモイヤに流れ込む。
特任部全員の顔に、緊張が走った。
が、彼らは慌てず、ゲネシスドライバーを操作する。

『メロンエナジー スパーキング』
『チェリーエナジー スパーキング』
『レモンエナジー スパーキング』
『ピーチエナジー スパーキング』

A.N.G.00が、アルテモイヤを構えて飛び出した。
瞬間、四人は大きくソニックアローを振りかざす。
強力な斬撃波がA.N.G.00へと飛び、アルテモイヤに直撃した。
アルテモイヤの中で、アテモヤ ロックシードのエネルギーと、四つのエナジーロックシードのエネルギーが混ざり合う。

その爆発的な力が、アルテモイヤを内側から爆破させた。
A.N.G.00は吹き飛び、後ろへ倒れる。
だが戦闘用アンドロイドである彼女は、何事もなかったかのように立ち上がった。
特任部の四人が、ソニックアローを構えて走り出す。

A.N.G.00「!!」

瞬間、A.N.G.00は虚空へ叫んだ。
強い衝撃波が発せられる中、それでも彼らは止まらない。
ソニックアローを振り回し、A.N.G.00に攻撃を加える。
その抜群のコンビネーションが、彼女に反撃も回避も許さなかった。

A.N.G.00は過去の戦闘データから、次にくる攻撃を予測する。
しかしその予測は外れ、更には計算する隙すら滅多に生まれない。
特に厄介なのは、秀だった。
彼はことごとくこちらの予測を破り、攻撃を加えてくる。

しかもそれが、他の三人のコンビネーションを乱しているかと思えば、そんな事はない。
むしろ三人が、彼の攻撃タイミングに合わせているようにも見える。
この奇妙な一体感は、何なのか。
アンドロイドである彼女には、それが分からない。

実際、口で説明するのも難しい。
何の打ち合わせもしていないが、彼らは無意識下で秀の動きと波長を合わせていた。
それは主任であるはずの、裕司ですらだ。
「ユグドラシルの3バカ」のリーダーと言われる秀は、それだけの何かを持っていた。

一見バラバラのように見えて、全てが予定されていたかのように動いている。
これこそが特任部の「空気」であり、彼らが最強と言われる所以だ。
彼らの戦いを一度でも見た事のあるユグドラシル職員であれば、全員が同じ事を考えるだろう。
絶対に勝てない、と。

秀は仮面の下でニヤついていた。
楽しい、この上なく楽し過ぎる。
このコンビネーション、この四人でしか出来ない技。
やっぱり、特任部は最高だ。

秀「俺達3バカの力、見せてやるよ!」

頭に浮かんだ決め台詞(?)を、A.N.G.00に向かって叫ぶ。
しかしそれに、突っかかった者がいた。
ナチュラルにハブられた裕司だ。

裕司「それでは私が入っていないじゃないか!」

叫びながら、秀に訂正を要求する。
だが口を開けたのは、秀ではなかった。
胡桃は目を見開き、思わず叫ぶ。

胡桃「入りたいんですか!?」

その疑問は、尤もだ。
特任部長で重役の一人でもある裕司が、まさかそんな事を言うとは誰も思っていなかった。
だが裕司は、更に大声で叫ぶ。

裕司「当たり前だ! 私も混ぜろ!」

当たり前なのか。
秀、了、胡桃の考えが一致する。
もしかして、裕司は戦闘で熱くなり過ぎて、一時的にテンションが上がってしまっているだけなのではないだろうか。

了「落ち着いてください、主任!」

そう考え、了は裕司に叫んだ。
こういう状態で言ってしまう軽率な発言は、後で色々と厄介な事になり得る可能性もある。
ここは一旦、落ち着かせるのが賢明だ。

秀「キャラ壊れてますよ!?」

それに続き、秀も叫んだ。
今の裕司は、頼れる大人というよりも、望みが叶えられなくて喚く駄々っ子のようだった。
しかし彼らの健闘も虚しく、裕司の暴走は止まらない。

裕司「そうか…これが妻や息子達から仲間外れにされる父親の気持ちか…」

急に肩を落とすと、落ち込んだように呟いた。
だが攻撃力やスピードが落ちていないところを見ると、ただの演技である事は一目瞭然だ。
が、それに強い語気で反応した者が一人。

胡桃「え!? それだと私だけ歳取ってる事になるじゃないですか!」

裕司の発言に、胡桃は大声で訂正を求めた。
彼女にとっては重要なのだろうが、他の男共にとっては、至極どうでもいい事だ。
当然、この発言も流されると思われたが…

了「ツッコむところはそこじゃないだろう!」

生真面目な了は、突っ込まずにはいられなかった。
会話が二転三転してこんがらがり、本題を失ってしまっている。
これを終わらせる方法は、一つしかない。

秀「あぁ、もう面倒臭い! 俺達4バカの力、見せてやるよ!」

遂に秀が、最初の発言を訂正した。
特任部ではなく4バカにした理由は、言わずもがなだろう。
ようやくこれで、このグダグダした会話も終了だ。

裕司「これが息子に面倒臭いと言われる父親の気持ちか…」

…と誰もが思った。
それでも、裕司の駄々っ子状態は戻らない。
真面目な人間ほど、おかしくなると手に負えないと言うが、裕司もその例に漏れないらしい。

了「どうすればいいと言うんですか!?」

それを聞いた瞬間、了がキレた。
彼は大声で叫び、裕司を窘める。
これではどちらが年上か分からない。

胡桃「てか4バカって語呂悪い!」

そして会話が掻き乱れた。
軸も本題も何もかも失った会話は、どんどん転がり落ち、カオスの極みへと発展していく。
だがそこへ、新たな助っ人が現れた。

リョウマ『コントやってないで真面目に戦いなよ。』

リョウマが会話に入ったのだ。
戦闘で熱くなっている四人の会話の中へ、冷静な彼が飛び込む。
これで会話は、幾分統率された状態へ戻るだろう。

了「快楽至上主義博士は黙っていてください!」

だがそれは、リョウマにとって得策ではなかった。
急に入ってきた彼に、了が叫ぶ。
得てして冷静な意見というものは、たとえ正しくても、熱くなっている人物には届かないものだ。

秀「てかいきなり会話に入ってくるのやめてください!」

飛んで火に入る夏の虫とはこの事。
突如現れた新たなターゲットに、特任部全員からの集中砲火が見舞われる。
ある意味、統率が取れたとも言えるが。

胡桃「今回の事件の元凶だってプロフェッサーみたいなものでしょ!」

秀に続き、胡桃も叫んだ。
今回の事件の元凶についてなど、先程までは話題にも上がっていなかったはずだ。
会話の種は、どんどん飛び火していく。

裕司「事件は研究室ではなく現場で起きているんだぞ!」

何処かの有名な台詞を、裕司が真似て言った。
わざわざ言わなくてもいい事ばかり、彼らの口を突いて出る。
要はリョウマを口撃出来れば、何であろうと構わないのだ。

リョウマ『なんで僕に矛先が向いてるんだよ!?』

そしてリョウマも叫ぶ。
朱に交われば赤くなると言うように、熱い人間に関わると、こちらまで熱くなってしまうものだ。
そもそも四人を諌めるために発言したのに、何故自分が口撃されなければならないのか。

秀「一人だけ暖房にぬくぬくと当たってるくせに。」

責めるような口調で、秀が呟く。
実際には、スーツの中は快適で、真冬の夜に戦闘しようと寒くはないのだが。
更に言うと、研究室には薬品が仮置きしてあったりするため、暖房は入っていない。

了「一人だけ命懸けの戦いをしていないくせにな。」

そこへ了が追撃する。
これにはリョウマも、思わずうっと唸った。
確かに自分は一人、彼らのステアリングアイを通して映像を見ているだけだ。

胡桃「一人だけ新世代アーマードライダーじゃないくせにね。」

更に胡桃が追い打ちをかける。
リョウマはまたも唸りそうになるが、そこで少し首を傾げた。
その指摘、全く関係ないのではないか?

裕司「一人だけ名前がカタカナのくせにな。」

そして裕司がオチをつける。
流石にこれには騙されない。
リョウマは音が割れるのも構わず、通信機に叫んだ。

リョウマ『名前は関係ないよね!?』

耳を劈く大声に、四人が顔を顰める。
彼らはリョウマに言い返そうと、口を開いた。
だがそのとき、驚くべき事が起きる。

A.N.G.00「ウルサイ」

瞬間、時が止まった。
戦闘は続けているものの、その思考は、五人同時に停止してしまう。
そしてしばらく無言の戦闘が続いた後、秀が裏返った声で叫んだ。

秀「…ツッコんだぁぁぁぁああああああああ!!!!」

その一言が、全員の思いを代表していた。
戦闘用アンドロイドであるはずのA.N.G.00が、まともに喋ったのだ。
それも、戦闘には関係ない言葉を。

リョウマ『まさか、自己進化したと言うのか…自分の作品ながら、凄いね。』

まるで我が子が初めて言葉を話したかのように、リョウマは喜ぶ。
A.N.G.00は多くの言葉を理解していないので、彼らの雑談はただのノイズとしてしか把握出来ていなかっただろう。
しかし、それを行動ではなく言葉で止めようとした事自体、あり得ない程の急成長だ。

裕司「果てしなく無駄な進化だ。」

まともな状態に戻った裕司が、ぼそりと感想を漏らす。
戦闘用アンドロイドがツッコミ気質に進化したからと言って、一体何が喜ばしいと言うのか。
家庭用アンドロイドにすら、必要のない機能だ。

胡桃「どうせ進化するなら、弱くなる方に進化しなさいよ。」

溜息を吐きながら、胡桃も呟いた。
自分達の行動がA.N.G.00を進化させたのかと思うと、何となく複雑な気分だ。
むしろ戦闘能力上昇のような進化でなかった事を喜ぶべきなのかも知れない。

了「それは進化ではなく退化と言うんだ。」

そして了が、律儀に訂正を入れた。
特任部四人の会話が止む事はなく、彼らの作り出す「空気」が、その戦場を満たしていく。
それが何にどれ程の影響を与えるのか、それは当人達にすら分からない。

秀「はぁぁあああ……!」

ゆっくりと、秀が弓を引き絞った。
同時に、了がその隙を埋めるように、A.N.G.00に斬撃を加える。
そこへ胡桃が矢を放ち、A.N.G.00の気を引く。
更に、裕司が反対方向から斬撃を与え、A.N.G.00に隙を作る。

秀「はぁっ!」

膨大なエネルギーが纏われたそれを、秀は一気に放った。
衝撃波の矢は一直線にA.N.G.00へと飛んでいき、命中する。
彼女は大きく吹き飛び、地面を転がった。

裕司「そろそろ、終わりにしよう。」

その言葉に、三人が頷く。
裕司はゆっくりと、ソニックアローを引き絞り始めた。
秀と了は、ゲネシスドライバーに手をかけ待機する。
胡桃はエナジーロックシードをソニックアローに施錠した。

『ロックオン』

エナジーロックシードのエネルギーが、ソニックアローに流れ込む。
同時に、裕司のソニックアローの先に、メロンを模した黄緑色と橙色のオーラ、エネルギーボールが形成された。
メロンエナジー ロックシードの力が籠ったそれを、胡桃に向けて放つ。

裕司「芦原!」

同時に、彼女の名前を叫んだ。
飛んできたエネルギーボールに狙いを定め、胡桃はソニックアローを引く。
そしてタイミングを合わせ、矢を放った。

『ピーチエナジー』

桃色に光る衝撃波の矢が、エネルギーボールに命中する。
矢に蓄えられたピーチエナジー ロックシードの力が、エネルギーボールに流れ込んだ。
更に衝撃波の矢は、その勢いでエネルギーボールを了の方へ弾き返す。

胡桃「了!」

彼女が叫ぶと同時に、了は動いた。
エネルギーボールが眼前に迫る間合いをはかり、ゲネシスドライバーを操作する。
そしてエネルギーボールに向かい、ソニックアローを大きく振るった。

『レモンエナジー スパーキング』

刃に収束していたレモンエナジー ロックシードの力が、エネルギーボールに流れ込む。
更にソニックアローの刃が、エネルギーボールを打ち返した。
それは正確に、秀の少し先へ飛んでいく。

了「秀!」

了の合図を受け、秀はゲネシスドライバーを操作した。
強力なエネルギーが、彼の両足に纏われる。
彼は腰を低く落とし、一気に走り出した。

『チェリーエナジー スカッシュ』

秀の進行方向とエネルギーボールが、一直線上に重なる。
その瞬間、高く跳び上がった。
空中で、両脚を突き出す。

秀「でぇぇぇぇやあああああああ!!!!」

強力な飛び両足蹴りが、エネルギーボールに炸裂した。
チェリーエナジー ロックシードの力が、エネルギーボールに流れ込む。
そして戦闘用アンドロイドですら対処出来ない程のスピードで、エネルギーボールはA.N.G.00に激突した。

エネルギーボールに吸収されていた四種類のエネルギーが、スパークして一気に駆け抜ける。
その力と激突したときの衝撃で、A.N.G.00は思い切り吹き飛んだ。
戦極ドライバーとロックシードが壊れ、彼女の変身が強制的に解除される。

A.N.G.00「コレハ…ダメージ…ウルサイ…ケツロン…コーポレーション…」

強力なエネルギーが、A.N.G.00のメインコンピュータや回路を破壊していった。
途中、彼女は意味のない言葉を羅列し始める。
その中で、四人の耳に、あるワードが届いた。

A.N.G.00「タワー…ウルサイ…ダメージ…コレハ…ナニ…?」

これは、何?
その問いが発せられたのは、彼女が学習能力を搭載したアンドロイドだからだろう。
自らが対処出来なかった原因を求め、それを調べる。
それは疑問ではなく、調査に過ぎない。

それでも何となく、秀にはそれが探求ではなく疑問のように聞こえた。
思えば、最初に彼女が暴走したときも、自分はユグドラシルタワーの屋上で話しかけた気がする。
それは自分がバカだからか、それとも彼女が高性能だからか。
だがそんなのは、別にどうでもいい事だ。

これは何か、か。
なら、冥土の土産に教えてやろう。
アンドロイドも冥土に行くのかは知らないけどな。

秀「この技か? これはな…」

秀は答えながら、今の技が生まれたときを思い出した。
今でこそユグドラシルで最高のチームワークを誇る特任部だが、最初からそうだったわけではない。
むしろ当初はぶつかり合いが絶えず、裕司も手を焼いていた程だ。

だが時を重ねる毎に、次第にお互いの事を理解出来るようになっていった。
相手のバカな部分や、変に思える部分などを受け入れる事で、段々と関係が良好になっていった。
そんなとき、更に特任部のコンビネーションを高めようと開発されたのが、この技だった。

裕司が無双セイバーで、エネルギーボールを放つ。
胡桃がそれを、クルライフルで撃ち返す。
了がそれを、U-RINIA又はブレードで弾き返す。
秀が最後に、それを思い切り蹴り込む。

初めの頃は全く上手くいかなかったが、主に秀が根気良く練習した結果、ミスする事は一度もないレベルにまで完成した。
そんな中で、四人のチームワークも更に高まっていった。
それは新世代アーマードライダーとなった今でも変わらない。
この技の名前は…

秀「特任部スペシャル…いや、4バカスペシャルだ。」

A.N.G.00に向かい、秀はハッキリと言い放った。
名付けたのは勿論、安直なネーミングから分かるように秀だ。
そしてこの技こそ、特任部が誇る最高のコンビネーションを、最も端的に表すものだった。

A.N.G.00「ユグドラシル…トクニンブ…ヨンバカ…スペシャル…キオク…」

A.N.G.00の機能が停止する。
カメラアイの光が消え、ゆっくりと後ろへ倒れた。
四人は彼女に背を向け、それぞれ何となくポーズをとる。
A.N.G.00が、盛大に爆発した。

本日はここまでにしたいと思います。
疑問、質問、提案等、いつでもお受けしております。

気になった点があれば、いつでもご指摘ください。
ですが、あまりキツい言葉は、出来るだけ遠慮していただきたいと思います。

乙でした
うん、とりあえず思った
皆、バカだ!!(褒め言葉)

>>328さん
ちなみに、>>1は陰気な性格だったので、こういうタイプが凄く苦手でした。


こんばんは。
本日も始めていきます。


ところで話は変わりますが、本日から「劇場版 仮面ライダー鎧武 サッカー大決戦! 黄金の果実争奪杯!」が公開しましたね。
>>1も観て来ました。

近くに感想を聞いてくれる人がいないので、少しだけ感想を書かせてください。
ネタバレに十分注意致しますが、万が一ということもありますので、まだ観てない方は注意していただくか、読み飛ばしていただきたいと思います。

まず単純な感想から申し上げますと、とても面白い映画でした。
ギャグとシリアスの緩急もよく、ライダー同士の戦闘シーンなども「鎧武らしい」感じだったなと。

中盤の戦闘シーンは、戦国時代というキーワードよろしく、本当に「戦」のような感じでしたね。
予告でも出てる、鎧武とマルスによる馬上の一騎打ちも、迫力のあるシーンになっています。

ただ惜しむらくは、物語の過去に起こった出来事の時系列や、ラストシーンなど、幼い子供には分かりにくいであろう部分があったことですね。
特に時系列に関しては、テレビでやった戒斗の「夢」なども合わせ、考えても話が繋がらないように見えてしまいます。

マルスの強化形態や、冠、サガラなどにも、ツッコみたいところがありました。
ですが、「劇場版」と割り切って考えれば、ストーリーは上手く纏まっていると思います。

鎧武・闇となった紘汰の心の中での葛藤や、ラピスの成長など、見応えのある内容となっております。
ドライバーの音声が少し違っていたりなど、細かい部分で楽しめるところもあるので、是非一度、劇場で観てみることをお勧め致します。

ぶっちゃけ本当に個人的な感想を述べますと、テレビの戒斗サッカー回はいらなかった気がします。
あれがあるせいで、余計に話が難しく、そしてややこしくなってます、絶対。

翌朝。
秀、了、胡桃の三人は、この三日間の報告書を書いていた。
だが秀は、中々筆が進まない。
この三日間にやっていた事など、ある少女とその周りを引っ掻き回した事しかなかったからだ。

秀「…なぁ、了、胡桃。」

何となく、近くの同僚に話しかける。
こうなっては、もう静かな空気はお終いだ。
特任部の取り留めのない会話が始まる。

了「何だ?」

胡桃「どうしたの?」

秀「クリスマス、終わっちまったぞ。」

了「厳密には、今日がクリスマスだ。」

胡桃「そうね。けど日本だと、クリスマス当日よりもクリスマスイブの夜の方が大事にされるから。」

秀「結局、A.N.G.00倒した後、家帰って何した?」

了「寝た。」

胡桃「私も。」

秀「だよな…俺は徹夜でゲームやってた。」

了「健康に悪いな。」

秀「朝はカップ麺食って来た。」

胡桃「本気で死ぬわよ。」

秀「あーあ…」

了「何が言いたいんだ?」

胡桃「つまり、秀はクリスマスパーティー的な何かがしたいんでしょ?」

秀「そう、何かしたい。」

了「いや、もういっそしなくてもいいんじゃないか?」

秀「ダメだ、絶対にする。」

了「子供か。」

胡桃「でも確かに、ここのとこ働き詰めだったし、たまには息抜きしたいわね。」

秀「よし、じゃあ…カラオケで喉潰れるまで歌う。」

了「却下。」

秀「んでだよ。カラオケならケーキ食えるし、飯も食えるし、歌えるし、色々纏めて出来るじゃん。」

胡桃「クリスマスのカラオケなんて、全部予約埋まってるわよ。」

秀「明日の夜もか?」

了「明日? 何で明日だ?」

胡桃「そりゃ、明後日が土曜だからでしょう。」

了「それって、もうクリスマスでも何でもないんじゃないか?」

秀「細けぇ事はいいんだよ。けどカラオケ以外となると…」

三人の会話は、まだまだ続く。
いつもならこの辺りで裕司が止めに入るのだが、生憎今日、彼は午前だけ休みを取っていた。
ブレーキ役がいない彼らの会話は、一段落するまで終わらない。

秀「…あ、そうだ。」

了「どうした?」

秀「唐突に話題変わって悪いんだけどさ、T.S.D.事件ってあるじゃん。」

胡桃「えぇ。それが、どうしたの?」

秀「あれって名前はときどき聞くけど、実際よく知らないんだよな。」

了「…確かに、言われてみればな。」

秀「だろ? だからさ、今からプロフェッサーに聞きに行こうぜ。」

胡桃「プロフェッサー、今いないわよ?」

秀「え? そうなのか?」

了「あぁ。確か、病院に行っているとか…」

秀「病院? あの人が?」

胡桃「誰かのお見舞いみたいよ。誰だかは知らないけど。」

秀「マジか…じゃあさ、午後に二人で聞きに行ってくれないか?」

了「済まないが、午後からは黒潮と仕事だ。」

秀「おいおい、マジかよ…じゃあ、胡桃。」

胡桃「別にいいけど、何で自分で聞きに行かないのよ?」

秀「俺も午後、病院に行くんだ。知り合いの見舞いに。」

了「秀もか。確か二月主任も、午前中は見舞いに行ってるんだよな…」

胡桃「一日に三人も病院に行くなんてね。もしかして、全員同じ人だったり?」

秀「ははっ、そりゃねぇよ。」

クリスマスの話題は忘れてしまったのか、そのまま仕事に戻る三人。
その事に誰も気づかない辺り、この部署はバカばっかりだ。
特任部は今日も平和だった。


裕司は病院にいた。
見舞いの品は、色々と吟味した結果、無難な果物にしてある。
彼はネクタイを整えると、病室の扉を開けた。

裕司「失礼する。」

そこには、ベッドが一つだけある。
個室というやつだ。
当然そこにいるのは、それなりに金持ちという事になる。

鳴子「よう、二月。」

そこに横になっていたのは、元同僚の鳴子だった。
包帯がぐるぐる巻かれていたり、点滴が打たれていたりと、痛々しい姿だ。
だがこちらを向いて喋れるくらいには、回復したらしい。

裕司「調子はどうだ?」

鳴子「見ての通り、最悪だ。特にカクテルが飲めないのがな。」

裕司「なら、大丈夫だな。」

鳴子「おいおい。俺の話、聞いてたか?」

本音を混ぜながら軽口を叩く。
しばらく笑った後、急に鳴子が真剣な表情になった。
それに合わせ、裕司も真面目な顔になる。

鳴子「A.N.G.00は?」

裕司「無事、破壊した。」

鳴子「1対1か?」

裕司「そんなわけあるか。」

鳴子「それじゃ、ダメだ…」

裕司「何がだ…」

だが、真面目な話はそれだけだった。
話題は昔の思い出から、政治の話になり、経済の話にシフトする。
久しぶりに仕事外で会った元同僚との、他愛もない会話が続いた。

鳴子「なぁ、二月。」

裕司「何だ?」

鳴子「お前、今楽しいか?」

裕司「…何?」

鳴子「特任部ってところの部長やってんだろ?」

裕司「…疲れるぞ、とてもな。」

鳴子「何だよ、結構楽しそうじゃん。」

裕司「そういうお前は、今楽しいか?」

鳴子「とりあえず、病院生活はつまんねぇな。」

そんな話をしていると、もうすぐお昼時だ。
楽しい時間はすぐに過ぎると言うが、それは事実のようである。
裕司はパイプ椅子を仕舞うと、病室のドアに手をかけた。

裕司「また時間が出来たら来よう。」

鳴子「じゃあ、それまでには意地でも退院してやる。」

最後に二人で軽口を言い合い、病室を出る。
今楽しいか、か。
そんなもの、決まっている。
あのバカ共の相手は、最高に楽しい。

裕司はタクシーを呼び止め、ユグドラシルタワーへ向かった。
さぁ、これから仕事だ。
彼は三人の顔を思い浮かべ、ニヤリと笑った。


午後。
了は例の強化ガラスで作られたボックスの中にいた。
その中でストレッチをし、指示を待つ。

才吾『準備はいいか?』

実験場の外から、スピーカーを通して才吾の声が流れてきた。
了はストレッチをやめると、ゲネシスドライバーを装着する。
それからふと、才吾に聞いた。

了「おい、これから何をしろと言うんだ?」

才吾『これからそちらに転送するターゲットを、本気で殺してくれ。』

了「いや、概要は知ってる。問題は、どんなものが出て来るのかだ。」

才吾『それは今から転送する。』

才吾は了との会話を終わらせると、手元のパネルを操作する。
そして強化ガラス製ボックスの中へ、「それ」を転送し始めた。
波打つ光が、ボックス内を満たす。
そのとき、才吾が小さな声で、了に言った。

才吾『…驚くなよ。』

了「あのプロフェッサーのやる事だ。もう一々驚いたりはしない。」

才吾『…なら、いい。』

短い会話が終わると同時に、転送が完了する。
眩い光が消え、了の目の前に「それ」が現れた。
瞬間、彼は目を見開く。

今さっき、自分は才吾に、驚かないと豪語した。
が、もしも前言撤回出来るなら、今すぐにさせて欲しい。
それ程までに、「それ」は彼を驚愕させた。

了の目の前に転送されたもの。
「それ」は、神瀬 智則だった。
覚えているだろうか。
12月21日の夜、聖夜 留奈ことD.C.07によって殺害された人物である。

その男が、そこに立っていた。
だが了が驚いた理由は、それだけではない。
むしろそれだけだったら、彼は無表情で流しただろう。

智則は、身体の一部がインベスになっていた。
顔や胴体などの一部から、辛うじて、彼が人間であった事は分かる。
しかしそのシルエットは、人間と呼ぶにはあまりにも整っていなかった。

了「これは…」

了は驚愕に震えた声で呟く。
才吾は案の定という感じで、静かに目を閉じた。
そしてゆっくりと口を開き、答える。

才吾『ヴァーク。プロフェッサーが考え出した、身体の一部をインベス化させて補う事で、死んだ人間を蘇らせたものだ。』

その言葉に、了の身体から冷汗が噴き出た。
死んだ人間が、身体を持って蘇る。
それはつまり、ゾンビではないか。

才吾『それは試作型一号、神瀬 智則。コード、V.T.01 神瀬 智則。』

智則が喉を鳴らす。
口には牙が生えており、腰には戦極ドライバーが巻かれていた。
どうやらインベスと同じく、理性は存在していないようだ。

才吾『それでは、もう一度指示する。特任部、佐野 了。』

ボックス内のスピーカーから、才吾の重い声が流れる。
了は感情を押し殺すように、一度だけ深呼吸をした。
彼の瞳が、本気の色に染まる。

才吾『V.T.01 神瀬 智則を、全力で殺害しろ。』

瞬間、了はロックシードを解錠した。
テクノポップ調の解錠音が、ボックス内に響き渡る。
それを見た智則も、本能的にロックシードを解錠した。

『レモンエナジー』
『ルクマ』

時空間の裂け目が二つ開き、中から果実が降りてくる。
了はゲネシスドライバーに、智則は戦極ドライバーにロックシードを施錠する。

『ロックオン』
『ロックオン』

単調な待機音と、ロック調の待機音が混ざり合った。
了がロックシードを絞り、智則がロックシードを斬り開く。

『ソーダ!』

ゲネシスドライバーのカップに、エネルギーが一杯になる。
そして半透明のレモンが、展開しながら了の頭に突き刺さった。

『レモンエナジーアームズ』
『ルクマアームズ』

同時に、巨大なルクマが智則の頭に刺さる。
そして智則のロックシードからは変身名乗りが、了のロックシードからはスクラッチ調の変身音が鳴りながら、それぞれの果実が一瞬で鎧に変形した。

『デッド・ザ・ベルセルク』


深緑色のスーツに、黄色と緑色の鎧。
黒色の差し色が入ったそれには、竜のような表皮が浮き出ていた。
右手は巨大な鉤爪になっている。
武器は左手の大剣、ベルセルクマだ。

仮面ライダーヴァーク ルクマアームズ


智則が吠え、ベルセルクマを構える。
そのまま一気に、了に向かって走り出した。
了はソニックアローを構え、弓を引き絞る。
そのポイントを智則の頭に向け、衝撃波の矢を放った。

リョウマの狂気を実現させる研究部。
それをときにバックアップし、ときに止める特任部。
ユグドラシルの根幹を成すとも言われる、二つの部署。
そのクリスマス明け初の共同仕事が、始まった。


胡桃は研究室の扉を叩いた。
返事はない。
が、それはいつもの事だ。
彼女は反応が無いのを無視し、扉を開いた。

胡桃「失礼します。」

中に入ると、やけに薬品臭い。
リョウマがまたおかしな研究をしているのかと思えば、やはりそうだ。
彼は顕微鏡を覗きながら、何かをノートにメモしていた。
胡桃が入ってきたのにも、気づいていないのかも知れない。

胡桃「プロフェッサー。」

再度、彼女はリョウマを呼び止めた。
彼は顕微鏡から目を上げると、胡桃に笑いかける。
そのまま口を開き、矢継ぎ早に何かを話し始めた。

リョウマ「聞いてよ。実は今日、インベスと人間の合成に成功したんだ。この技術を研究し続ければ、死人を完璧な状態で蘇らせる事も出来るようになるかも知れない。」

胡桃はうんざりした顔を隠そうともせず、適当に相槌をうつ。
またおかしな事をやっていた。
死人なんかを蘇らせて、一体何が楽しいのか。
動く死体というなら、アーマードライダーが変化したインベスもそうだろうに。

胡桃「プロフェッサー、少しお聞きしたい事があります。」

彼女はリョウマの話をぶった切り、用件を話した。
特に問題もなかったのか、リョウマもすぐに話を中断する。
彼はノートと顕微鏡を一旦隅にやりながら、胡桃に聞いた。

リョウマ「何の用かな?」

胡桃「T.S.D.事件について、詳しくお話ししていただきたいんです。」

リョウマ「…ほう。君がそれを聞いてくるとは思わなかったね。三木の差し金かな?」

胡桃「頼まれただけです。」

リョウマ「そうだね。こういうところで好感度稼いでいかないと、マナちゃん辺りにとられちゃいそうだもんね。」

胡桃「…」

リョウマ「待って、ごめん、謝る。謝るから、一先ずゲネシスドライバーは外そうか。」

胡桃「…それで、お話ししていただけますか?」

リョウマ「あぁ、いいよ。あれは知っていても知らなくても、別にどうでもいい話だけど。」

彼はそう言うと、胡桃に座るよう促す。
胡桃は手近にあった椅子を引き寄せ、それに腰掛けた。
リョウマは彼女と対面するように椅子を回すと、特に変わらない表情で話し始める。

リョウマ「先ずは、T.S.D.の略称についてだ。これは当然予想がついてると思うけど、S.D.もちろんSengoku Driverだよ。TはTrial、そしてTestingの意味を持ってる。」

胡桃「はぁ…」

リョウマ「つまりT.S.D.はTrial Sengoku Driver、またはTesting Sengoku Driverの略なんだ。あ、文法的に間違ってるとか、そういうところはツッコんじゃダメだよ?」

胡桃「…」

リョウマ「…無言もそれはそれでキツいよ。とにかく、文面から想像出来るように、戦極ドライバーのトライアルを実験していたときに起きた事件だ。」

胡桃「…一体どのように実験していたんですか? 戦極ドライバー開発時にも、D.C.と同じような存在が?」

リョウマ「ないよ。そんな面倒な事はしなかった。簡単に言うとね…」

その瞬間、彼の口の端が、少しだけつり上がった。
彼の表情に、狂気が宿る。
リョウマは静かに、胡桃に言った。

リョウマ「適当な人間を拉致って、実験場で無理矢理戦わせたんだよ。」

ガタッと、胡桃は思わず立ち上がる。
そのまま本能の命ずるまま、リョウマから少し距離を取った。
しかし彼は全く気にせず、話し続ける。

リョウマ「かれこれ13年以上前になるのかな…まだ沢芽市を、計画都市化する前だった。」

胡桃「…」

リョウマ「そう言えばときどき勘違いしてる人がいるけど、ユグドラシルが沢芽市に入ったのって計画都市化と同時じゃなくて、それよりずっと前なんだよね。」

リョウマは何処か懐かしむような口調で話し出した。
今更だが、彼は今、幾つなのだろうか。
それを知る者は、このユグドラシルにいない。

リョウマ「おっと、話が逸れたね。元に戻そう。えーっと…そうそう。トライアル版戦極ドライバーには、面白い機能が搭載されていたんだ。何だと思う?」

彼の問いに、胡桃はぎこちなく首を振った。
着ているライダースーツが、酷く自分を締め付けてくるような気がする。
まるで、ここから逃がさないと言うように。

リョウマ「残念。正解は…」

頭の中で、警鐘が鳴っている。
それを聞いてはいけないと。
だがそんな胡桃の思考とは裏腹に、リョウマはあっさりと、それを話した。

リョウマ「闘争本能を無理矢理引き上げて、周囲のものが全て敵に思えてしまうようになる機能だよ。それで体力が限界に達するまで、実験体を戦わせたんだ。」

胡桃「!」

リョウマ「ほら、戦極ドライバーって、激情とかが原因で力が強くなってインベス化するでしょ? あれって、その機能の名残なんだよ。」

胡桃「…」

リョウマ「実験体は…結構何人も死んだ記憶があるなぁ。ていうか、本当に適当に選んでたから、最年少は3歳、最年長は86歳だったもんね。」

胡桃「…」

胡桃は力を失い、再び椅子に腰を下ろす。
この三年程で、リョウマの狂った実験には、もう慣れたと思っていた。
だがそれは、大きな間違いだったようだ。

短いですが、私用により、本日はここまでにしたいと思います。
疑問、質問、提案等、いつでもお受けしております。

気になった点があれば、いつでもご指摘ください。
ですが、あまりキツい言葉は、出来るだけ遠慮していただきたいと思います。

リ、リョウマくんのやる事の先が見えなさすぎです!
一体どこを目指してるのですかー!?
・・・・・まぁ、思い付きでしょうけど!
ジジイは良いとしてショタはダメです!
んー、デルタくんやレンゲルくん見たいな性能ですかね?
デルタくんのルシファーなんちゃらは格好いいです!
それと私の嫁の優たんはまだですかー!?

いや良いとしてじゃないでしょ…まぁこのリョウマにそんな良い悪いなんてある訳ないだろうしな

リョウマくんの辞書に『倫理』という文字はないっ!キリッ
あと、道徳とか理性とか・・・・・ets
それよりもミッチくんがヤバすぎですよー!
あの病んだ瞳に殺られそうです!
ヤンデレミッチは最強です!
極アームズとレモンエナジーアームズに圧勝ですよー!
それとリョウマくんの変身ポーズがインペラーくんに似てる件!
それとリョウマくんが半ズボンを穿いてるとずっっっごい違和感が・・・;

>>337さん
イメージ的には、カブトの暴走スイッチみたいなものです。
明日から本編スレに戻る予定ですが、優の出番は…もう少し先になるでしょうね。


>>338さん
結果さえ出れば、その過程は問われないものです。
実はこれ、普通の会社でも、よく言われることなんですよね。


>>339さん
ミッチの台詞連発には、思わず笑いました。
何か、RPGの村の人みたいで。


こんばんは。
本日も始めていきます。

今日でこの劇場版スレも終わる予定です。
明日からは、本編スレの方で、Side.胡桃からスタートしていきます。

リョウマ「色々面白い被験体も出たんだよ? 例えば急に身体が成長したり、逆に成長がストップしたり。見てて中々興味深かった。」

リョウマはそれを、本当に面白そうに話す。
何人もの人を無闇矢鱈に殺したのと同じはずなのに、彼はそれを一切悪いと思っていなかった。
自らの研究のためなら、彼はどんな狂気も熟してしまう。

リョウマ「で、ここまでが戦極ドライバーの実験の概要。ここからが、件のT.S.D.事件についてだ。」

胡桃「…」

リョウマ「どうしたの? もうお腹いっぱい?」

胡桃「…いえ、大丈夫です…」

リョウマ「そう? じゃあ話そうか。あれはある日、その頃は僕の共同研究者だった彼女が、ラリって起こした事件だ。」

彼女、というのに、胡桃は心当たりがあった。
その女の名は、門巻 瞬(かどまき まどか)。
今リョウマが話したように、過去に唯一の、彼の共同研究者だった人物だ。

リョウマ「被験体に同情でもしたのか、彼女は実験場の扉を開け、彼らを解放してしまった。同時に、彼女自身も何処か消えちゃったけど。」

ピクリと、リョウマの眉が動いた。
当時の事を思い出し、怒りが再燃したようだ。
彼はギリッと歯軋りをし、話を続ける。

リョウマ「本当、迷惑な事してくれたよ。それから今までで始末出来た被験体は、たったの八人だ。」

胡桃は頭の中で、その八人というのが誰か考えてみた。
東堀 彼方(あずまぼり かなた)、牧野 蓮(まきの れん)、最上 昂(もがみ のぼる)、守屋 馬騎(もりや ばき)、そして万田 洋介。
後の三人は、彼女には分からなかった。

リョウマ「結局、被験体の多くを取り逃がした。その頃、被験体以外で戦極ドライバーのトライアルを持っていたのは、僕と裕司だけだったからね。」

リョウマがその言葉を発した、そのときだ。
パキンッと、何かが割れるような音がした。
その音に、リョウマと胡桃が同時に反応する。

見ると、いつの間に持っていたのか、リョウマが右手に掴んでいた試験管が、粉々に割れていた。
幸い中身は入っていなかったのか、被害は床にガラスの破片が落ちている事と、リョウマの手が血だらけになっている事以外には見受けられない。
それで冷静な状態に戻ったのか、リョウマは軽い口調で言う。

リョウマ「あ、やっばい。」

そんな中、今の音を聞きつけた研究部員達が、次々と様々な清掃用具を持って駆けつけた。
リョウマは掃除を彼らに任せながら、専用の水道で手を洗う。
彼の傷口は、あり得ない程に早く塞がっていた。

リョウマ「ま、T.S.D.事件に関しては、そんなところだよ。三木によろしく伝えておいて。」

胡桃「…はい。」

魂が抜けたような雰囲気で、胡桃は弱々しく研究室を出る。
その扉が閉まった瞬間、彼女は床に座って蹲った。
今の話を、自分は秀に、間違いなく伝えなければならない。
だがその姿を、彼女は全く想像する事が出来なかった。


秀も扉の前に立っていた。
彼がいるのは、研究室ではなく病院だ。
ユグドラシル御用達の総合病院の一室へ、彼は入っていく。
その中にある、一つのベッドへ近づいていった。

扉口の最も近くにあるそれは、目的の人物がいるであろうベッドだ。
秀は一旦立ち止まり、深呼吸をしてから手首を解す。
それから、ガサガサとカーテンを揺さぶった。
中から、起き上がる音と声が聞こえる。

宝「はい。」

秀「月斬ちゃん? 俺だけど。」

宝「三木さん!? あ、えと、ちょっと待ってください!」

カーテンの向こうから、わたわたとした動きが感じ取れた。
別にそんなに急がなくていいのに。
ていうか、よく「俺」だけで俺だって分かったもんだ。
秀がそんな事を考えていると、再び宝の声が聞こえた。

宝「ど、どうぞ…」

秀「失礼しまーす。」

何となく一声かけてから、カーテンの中に入る。
宝は点滴を打たれながら、ベッドに横になっていた。
まだ起き上がれないのか、首と視線だけを秀に向けている。
毛布は首元までかけられ、そこから下は一切見えない状態だった。

秀「結構、辛い感じ?」

秀は努めて明るい口調を作りながら、パイプ椅子を出す。
そこに腰掛けながら、見舞いの飲み物を冷蔵庫に仕舞った。
中には既に幾つかの果物が入っていたが、多分お爺さんが持って来た見舞品だろう。
宝は、そんな秀を見つめながら笑う。

宝「いえ、実はそんなに。」

秀「そっか、なら良かった。」

秀は冷蔵庫を閉めると、ベッドと向き直るように腰掛けた。
それから暫く、沈黙が続く。
昨日あんな事があったせいで、何を話せばいいのか分からない。
その沈黙を破ったのは、宝だった。

宝「あ、あの…」

秀「…何?」

宝「その…昨日のあれは、何だったんですか?」

くると思っていた、と秀は心の中で呟く。
というよりも、その質問に答えるためだけに、今日はここに来たと言ってもいい。
彼は軽く息を吐くと、口を開いた。
そして予め考えておいた嘘を、まるで本当の事かのように話し出す。

秀「あいつらは、俺達ユグドラシルに恨みを持ってた連中だよ。俺が月斬ちゃんと一緒にいるところを見て、人質みたいにする気だったんだと思う。」

宝「…そう、だったんですか。」

秀「ごめんね。全然関係ないのに、巻き込んじゃって。」

宝「いえ、気にしないでください。」

そう言って、宝は首を横に振った。
嘘がバレないか心配だったが、どうやら上手くやり過ごしたようだ。
再び、宝が口を開く。

宝「…あの、三木さん。」

秀「何?」

宝「そろそろ、本当の事、教えてくれませんか?」

瞬間、秀の心臓が跳ねた。
しかし宝が言ったのは、その事ではない。
いつになく真剣な顔つきで、彼女は問いかけた。

宝「三木さんのいる特任部…いえ、ユグドラシルが何をしているのか。」

秀「…どうして?」

宝「だって、明らかにおかしいじゃないですか。三木さんがアーマードライダーに変身したかと思えば、突然アーマードライダーの集団に襲われたり。」

秀「…知らない方がいい。」

宝「三木さん!」

秀「月斬ちゃん、ここに俺のスマホがある。」

宝「急に何ですか!? 誤魔化そうとしても…」

秀「いいから。月斬ちゃんからは、何が見えてる?」

宝「…スマートフォンの裏です。カメラがあります。」

秀「でしょ? 俺が今、画面で何を見てるか分かる?」

興奮した口調の宝とは逆に、秀は優しい口調で話す。
ちなみにスマートフォンの画面には、カメラを通して宝の顔が映っていた。
一応言っておくが、もちろん盗撮などしていない。

宝「…見えません。何を見てるんですか?」

秀「それは言えない。けど、それと同じなんだ。」

宝「…」

秀「月斬ちゃんは、スマホの裏だけ知っていればいい。画面を知っているのは、俺だけでいいんだよ。無理に知ろうとすれば、大変な事になるかも知れないよ?」

宝「…けど、それじゃあ…」

宝の声が、弱々しくなる。
少しだけ、涙ぐんでいるようにも聞こえた。
それでも、彼女は毅然とした態度で言う。

宝「それじゃあ、三木さんは、独りじゃないですか…」

秀「…いや、独りじゃないよ。」

宝「…」

秀「月斬ちゃんに友達がいるように、俺にも仲間がいる。ま、全員が全員、バカばっかりだけどね。」

宝「三木さんがそれを言いますか。」

秀「月斬ちゃん、退院したら覚えとけよ。」

宝「すみません、口が滑りました。」

秀「それ、本心って事じゃねぇか。」

クスクスと、宝は笑った。
つられて、秀も微笑む。
宝は一頻り笑った後、また真面目な顔に戻って言った。

宝「…じゃあ、私も三木さんの友達になります。」

秀「…どうして、そこまで俺の事を?」

宝「…だって、忘れられないんです。」

彼女の頭に、あのときの秀の顔が浮かぶ。
どうしようもない程、馬鹿だった。
その言葉が、脳内に響く。

宝「あのときの、三木さんの顔が…」

まるで自分が見てきた、世界の全てを恨んでいるかのような。
まるで過去に出会った、全ての人間を憎んでいるかのような。
まるで今まで生きてきた、自分自身を呪っているかのような。

宝「まるで嫌な事を、全部全部独りで飲み込んだみたいな…」

秀「…やっぱり、月斬ちゃんは優しいね。」

ふっ、と秀は息を吐いた。
出会って最初の頃は、色々と素直過ぎて、柄にもなく思わず心配してしまったが、どうやら違ったらしい。
全く、どうしようもなく強い子じゃないか。

秀「けど、心配には及ばないさ。そんなに重く考える必要もない。」

宝「でも…」

秀「だって俺、バカだから。」

宝「…何ですか、それ。」

秀「何って、そのまんまの意味だよ。」

宝「そんな事言われちゃったら、もう踏み込めないじゃないですか。」

秀「人の心に土足で踏み込むもんじゃねぇっての。」

宝「いえ、そう言う事じゃなくて。」

秀「え?」

宝「馬鹿なら何も心配ないなって。」

秀「やっぱ、今この場で殴るか。」

宝「冗談ですって。」

秀「あのさ、俺は一応年上なんだぜ? それと馬鹿なんじゃなくて、バカなんだって。」

宝「だからそれ、どう違うんですか?」

秀「それが分からないうちは、やっぱり教えるわけにはいかないな。」

そして再び、二人は笑った。
宝としては答えをはぐらかされてしまったが、これ以上は何を聞いても無駄だろう。
今回は、諦めるしかない。

秀「…」

宝「…」

それからまた、静かに時が過ぎた。
どちらも無言だが、居心地は悪くない。
不思議な暖かみを持つ時間が、二人を優しく包んでいた。
時計の針が、ゆっくり素早く回る。

秀「…おっと、そろそろ時間だ。」

暫く経った後、秀はおもむろに腕時計を眺め、立ち上がった。
見ると、他の患者の見舞客も、いつの間にやら帰り出している。
窓から差す夕日がカーテンに遮られ、病室の床や壁がオレンジ色に染まっていた。
彼はパイプ椅子を片付けると、仕切りのカーテンに手をかける。

秀「それじゃ、早く退院出来るように祈ってるよ。」

宝「ありがとうございます。今度また、うちのお店に遊びに来てくださいね。」

秀「刃物店に何を遊びに来いって言うんだよ? ま、憶えてたらね。」

宝「馬鹿だから忘れちゃいますか?」

秀「ははっ、そう言われたら意地でも憶えておかないとな…後、馬鹿じゃなくてバカだから。」

宝「じゃあその辺りも含めて、三木さんの事を教えてください。」

秀「上手い手だけど騙されないぜ。」

宝「あはは、それは残念です。」

秀「じゃあな、月斬ちゃん。」

宝「お見舞い、ありがとうございました。」

別れを惜しむような、不思議な感覚にとらわれながら、秀はその場を後にした。
宝はそれを、笑顔で見送る。
病室の扉が開き、風でカーテンが揺れた。
そしてバタンという音と共に、カーテンも落ち着く。

瞬間、宝の顔から笑顔が消えた。
その表情は物悲しく、溢れ出しそうな何かを堪えている。
彼女はベッドから上半身を起こした。
手は毛布の下に入れたまま、顔は俯いている。

宝「ごめんなさい、三木さん。」

蚊の鳴くような声で呟いた。
目は潤み、肩は震えている。
宝は感情を押し殺しながら、自分以外に誰もいない空間へ告白した。
小刻みに揺れる唇が、その言葉を発する。

宝「私、もう全部知ってるんです。」

彼女は奥歯を食いしばり、両手に力を込めた。
瞼を強く閉じ、零れ落ちる涙を食い止める。
毛布に隠れた、その手の中。
戦極ドライバーとロックシードが握り締められていた。

- 幕間 その7 -


彼の家が、燃えている。
彼の周りが、燃えている。
彼の全てが、燃えている。

彼の父親が、燃えている。
彼の母親が、燃えている。
彼の全てが、燃えている。

彼の姉が、燃えている。
彼の妹が、燃えている。
彼の全てが、燃えている。

彼の恋人が、燃えている。
彼の親友が、燃えている。
彼の全てが、燃えている。

彼は絶望した表情で、その場に崩れ落ちる。
彼はそのまま、ゆっくりと見上げる。
彼は、彼の全てを焼き尽くした男を見上げる。

彼は怒りのままに、ベルトを装着する。
彼を見て、男が笑う。
彼と同じように、男もベルトを装着する。

『ロットン オレンジ』
『ピタヤ』

彼の頭上に、漆黒のオレンジが現れる。
彼に対して、男の頭上にピンク色のピタヤが現れる。
彼らが、ロックシードを戦極ドライバーに施錠する。

『ロックオン』
『ロックオン』

彼らの戦極ドライバーから、ロック調の待機音が流れ出す。
彼らが、カッティングブレードを握る。
彼らが勢い良く、ロックシードを斬る。

『ロットン オレンジアームズ』
『ピタヤアームズ』

彼の頭に、漆黒のオレンジが突き刺さる。
彼に対して、男の頭にピンク色のピタヤが突き刺さる。
彼らの果実が展開し、鎧へと変形する。

『悪ノ道 オンステージ』
『暴牙!ガブ!ガブ!ガブ!』


赤黒いスーツに、毒々しい紫色が目を引く鎧。
濃いピンク色で中華風のそれは、各所から牙のように鋭い黄緑色のトゲが生えていた。
両腕には潜在的な恐怖を駆り立てる鉤爪、懺悔ネイルが装備され、右手にはノコギリのように細かい刃が施された青竜刀、暴牙ブレードを握り締めている。

仮面ライダー牙獣 ピタヤアームズ

牙獣キター

彼が男に飛びかかる。
彼は目の前の男が誰だか知らない。
彼はそのせいで間違えてしまう。

彼はこの後、男を追って異世界へと飛ぶ。
彼は不幸にも飛ぶ世界を間違え、あろうことか異世界の彼自身によって倒されてしまう。
彼は異世界のある人物に捕まり、実験台とされてしまう。

この青年の全てを奪った男の名は、紅蓮 倫(ぐれん りん)。
この世界の、そしてこの世界の青年が飛んだ異世界の人間でもない。
この男は、己の野望のままに生き、そして異世界の青年によって殺される人物である。

この男の世界は、間もなく「王」に支配される運命にある。

- エピローグ -


…12月25日、朝から。

リョウマ「やっはろー!」

突如、そのカーテンが開かれた。
急な来客に、宝は驚く。
それも知り合いならともかく、目の前にいる男は、自分が全く知らない人物だった。

宝「え!? あの…病室を間違えてませんか?」

彼女はテンパったが、すぐに深呼吸をして、平静を取り戻す。
それから考えられる可能性を、その男に伝えた。
が、リョウマはパイプ椅子も出さず、壁に寄り掛かりながら言う。

リョウマ「ううん、間違えてないよ。だって君、月斬 宝ちゃんでしょ?」

その言葉に、宝は目を見開いた。
何故、この人は自分の事を知っているのだろうか。
その疑問を感じ取ったリョウマは、名刺を出しながら喋る。

リョウマ「僕はユグドラシル・コーポレーション研究部長、戦極 リョウマ。三木の…まぁ、部署は違うけど、上司みたいなもんかな。」

宝は名刺を受け取りながら、驚愕した。
どうでもいいが研究部と言うのは、秀が所属しているらしい特任部という部署よりも、何をやっているのか想像し易い。
彼女は上半身を起こしながら、そんな取り留めもない事を考える。

宝「あの、私に何か用ですか?」

リョウマを見ながら、そう聞いた。
突然現れた見知らぬ人間も疑わず素直に受け入れてしまう辺り、この女の子は面白い。
リョウマは心の中で笑いながら、口を開く。

リョウマ「昨日、君を襲った連中について、教えてあげようと思ってね。」

面白そうだから、と彼は付け加えた。
だが宝は、そこまで興味を示さない。
彼女は少し俯きながら、呟いた。

宝「…京ちゃん、ですよね。」

その言葉に、リョウマは少し目を見開く。
思わず、ほう、と感嘆の声を漏らした。
宝は自嘲気味に続きを話す。

宝「そう思った直後はショックでしたけど、考えてみたら当たり前かなって。京ちゃんの好きな人、横から掠め取ろうとしたんですから。」

リョウマ「三木の口車に乗せられてね。」

宝「いえ、三木さんのせいじゃ絶対にありません。京ちゃんが好きなのを知っていながら、津村くんを好きになったのは、私自身ですから。」

リョウマ「…ふーん、あっそ。」

リョウマはニヤニヤしながら言ったが、宝はそれを否定した。
それがリョウマには意外だったらしく、少しつまらなそうな顔をする。
だがすぐに、いつもの相手をイラつかせる笑顔に戻った。

宝「…戦極さん、お願いがあります。」

リョウマ「ん? 何かな?」

宝「三木さんについて、教えていただけませんか?」

その言葉を聞いた瞬間、リョウマの目が、スッと細くなる。
だが歪んだ微笑は崩れないので、酷く狡猾な表情に見えた。
そんな彼に、宝は静かに言う。

宝「話していて、何となく感じたんです。三木さんは明るくて、馬鹿なんですけど…」

リョウマ「…けど?」

宝「絶対、心の中に何かを抱え込んでるんです。短い間でしたけど、それがよく分かりました。」

秀の瞳の奥に、宝は何かを感じ取っていた。
それが何なのかは分からないが、彼がそれを頑張って匂わせないようにしているのが、手に取るように分かってしまったのだ。
宝は真っ直ぐ、リョウマの目を見る。

宝「教えてください。三木さんは、一体何者なんですか?」

リョウマ「何者か、ね…ユグドラシル・コーポレーション特任部の一人で、3バカのリーダー…でも、それ以上は僕も知らないね。」

宝「そんな…」

リョウマ「ていうか、それは三木の最も近くにいる仲間でさえ、知らない事なんだよ。」

リョウマの答えに、思わず溜息が漏れた。
が、考えてみれば当然だ。
もしも抱えているものが他人に軽々と話せる程度の事だとしたら、彼もあんな表情はしないはずだ。

リョウマ「けど、知る方法がないわけじゃない。」

だから、その言葉が、宝には悪魔の囁きに聞こえた。
リョウマの声は甘く、彼女の心を支配する。
彼は耳元で語りかけるかのように、小さな優しい声で続けた。

リョウマ「彼に近づけばいいんだよ。さっき言った、彼の仲間よりも、もっと近くに。」

宝「…!」

リョウマ「そうすれば、もしかしたら、三木は君に心を開いて、その事を話してくれるかも知れない。」

宝「…私、三木さんの力になりたいんです。今回は私が支えてもらったから、今度は私が三木さんを支えられたらって…」

リョウマ「なるほどねー。さて、そんな君に、少しタイミング遅れのクリスマスプレゼントがあるんだ。」

そう言って、リョウマは白衣の中に手を突っ込む。
そこから取り出されたあるものに、宝の目は釘付けになった。
今、彼が手に持っているもの。
それさえあれば、自分はもっと秀に近づく事が出来る。

リョウマの顔が、不気味に染まった。
やはり、時間を割いてこの子に近づいたのは正解だったらしい。
彼はそう考えながら、両手のそれを差し出した。
そして静かに、宝に選択を促す。

リョウマ「さて、どうしようか? きっと三木は、『これ』には近づくなと、君に言うはずだよ。」

宝「…」

リョウマ「そんな三木の心を裏切ってでも、君は『これ』が欲しいかい?」

間はなかった。
宝は即座に首肯し、彼の両手に手を伸ばす。
彼女に与えられた、サンタクロースからのプレゼント。
戦極ドライバーとロックシードを、その手に強く掴み取った。

>>347さん
宙くん、久しぶりの登場です。


以上で完結となります。
今回の劇場版は、前作と違い、本編の「繋ぎ」のような感じでした。

というわけで、明日からは、ようやく本スレの方に戻ります。
>>1のFile.8のURLからどうぞ。

乙でした
とてもおもしろかったです。
でも思っていたより生き残ったライダー達がいて予想外でした。
彼らは本編に出るの?それともこのままフェードアウト?

乙です
前回とは違い問題が残ったまま本編につながるんですね。
明日からの本編が楽しみです

乙ですよー!
嗚呼、こうやって人は汚れて傷ついて壊れて、・・・・・・・後戻りできなくなっちゃうんですよねー♪ケタケタ

やっぱり、劇場版は出てくるライダー
が多くて読んでて飽きませんね。
ようやく(恐らく)自分が投稿した
オリジナルライダーの変身者が
わかってワクワクしてます((o(^∇^)o))
何はともあれ、乙でした。

>>352さん
生き残ったライダーは、必ず本編な出ます。
しかし>>1としては、結構殺しちゃったイメージがあるんですけどね…


>>353さん
一杉 詠多、イェデアン、アカツキ、ヨルムンガンド、そして月斬 宝。
思い起こすと、結構色々な問題を残してますね。


>>354さん
それ、どっちかっていうとミッチでしょう。


>>355さん
もしかして、春菜のことですか?

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