鳴上「月光館学園?」 No.2(1000)

・ペルソナ4の主人公(鳴上悠)が月光館学園で最後の高校生活一年間を過ごす話。

・過去のペルソナシリーズのキャラとコミュを築きます。一部捏造設定有り。


前スレ

鳴上「月光館学園?」
鳴上「月光館学園?」 - SSまとめ速報
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前スレまでの取得コミュとランク


 0 愚者  特別課外活動部   Rank 5

 Ⅰ 魔術師 伊織順平      Rank 2

 Ⅱ 女教皇

 Ⅲ 女帝  桐条美鶴      Rank 1

 Ⅳ 皇帝  藤堂尚也      Rank 3

 Ⅴ 法王  メティス      Rank 2

 Ⅵ 恋愛

 Ⅶ 戦車  アイギス      Rank 2

 Ⅷ 正義  天田乾       Rank 1

 Ⅸ 隠者  パオフゥ      Rank 4

 Ⅹ 運命  橿原淳       Rank 3

ⅩⅠ 剛毅  コロマル      Rank 2

ⅩⅡ 刑死者 チドリ       Rank 4

ⅩⅢ 死神  謎のイヤホンの少年 Rank 5

ⅩⅣ 節制  トリッシュ     Rank 3

ⅩⅤ 悪魔  ヴィンセント    Rank 3

ⅩⅥ 塔   ラビリス      Rank 1

ⅩⅦ 星   星あかり      Rank 1

ⅩⅧ 月

ⅩⅨ 太陽  周防達哉      Rank 4




1スレ目埋めてきたんで、次回からまたここで本編再開になります。

時間が出来たらまた投下にきますね。

あと>>1にある前スレのurlがたぶん携帯用のなので、正しくは

鳴上「月光館学園?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1329486637/)

になるんじゃないかと思います。

ではではまた次回。

監視ネタワロタwwwwwwwwwwww
キタローと言い番長と言い急にスイッチはいるよな

>……


第四階層 第一エリア


鳴上「……今度は何処だ?」


>目の前には、例のごとく石の壁が並んでいる。

>……今回に至っては、ほぼ石の壁しか並んでいないと言ってもいいだろう。

>要するに、自分で階段を作っていかなくては一段も上へ登る事が出来ないという訳だ。

>広さがあるところはまだいいが、狭い場所は考えて石を引き出さないと、そこから一歩も動けなくなってしまう……

>だが、考えられる時間は無限な訳ではない。

>下の足場はそうしている間にも、今までのように徐々に崩れ落ちていっている。

>今まで以上の冷静な判断力と行動が求められている……


鳴上「こういう時こそ言うべきだな」

鳴上「……落ち着け」


>自分に言い聞かせるように、そう呟く。

>持てる知力と体力、そして根性のすべてを使って石の壁に挑んだ。


鳴上(これを、こうして……)

鳴上(……ああ、そうか!)


>石の壁だけという状況は一見絶望的に見えるが、逆に考えるとそれしかない訳だから一度登れる足場作りの動かし方のパターンを理解してしまえば、あとはそれを繰り返せばいいだけの事だった。

>この調子なら、上まで辿り着けるだろう。

>……



踊り場


>最初のエリアを登り終わったところで、一匹の羊がこちらに近付いて話しかけてきた。


羊人間「なあ、アンタ凄いな!」

鳴上「……え?」

羊人間「他の羊たちの間でアンタ噂になってんだよ。斬新かつ的確な技で登ってる羊がいるって!」

羊人間「俺も見てたけど、ホント凄いわ! ここでその技かー、みたいなさ」

鳴上「それは、どうも」

羊人間「こいつは見習わねーとな! お互い、挫けず頑張ってこうぜ!」

鳴上「ああ、そうだな」


羊人間「そうそう、アンタに用があるって羊がいるみたいだぜ」

鳴上「ん? 俺に?」

羊人間「ほら、あそこで群がって話してる羊たちがいるだろ?」

羊人間「みんなで登る技を研究しあってるんだけど、その中でもやたら技を知ってる羊がいてさ」

羊人間「そいつだよ。輪の真ん中にいる羊」


>羊人間の指した方向には確かに羊の群がある。

>その中心で、周りに色々と技を教えている羊がいるようだ。

>その羊……イヤホンをかけた羊と、目があった。

>イヤホンの羊は手招きをしてこちらの事を呼んでいる。

>いったい、なんの用だろうか……?

>とりあえず行ってみる事にした。


イヤホンの羊「……や。待ってたよ」

帽子の羊「お? 昨日のキノコ頭のじゃん」

鳴上「あ、帽子の……無事だったんだな」

帽子の羊「当ったり前だろ!」


>様子からすると、帽子の羊もイヤホンの羊から色々と話を聞いていたようだ。


鳴上「……で、そっちのイヤホンは、俺に用があるって?」

イヤホンの羊「ああ」

イヤホンの羊「君にも……いや、君にこそ色々と俺が知っている事を教えておきたくて」

鳴上「登る技の事か? それはありがたい話だな」

鳴上「でも、俺にこそっていうのはどういう意味だ?」


イヤホンの羊「……羊の習性ってのは面白くてね、先に行くヤツにくっついていくんだって」

イヤホンの羊「だから、先頭の羊が落ちれば、みんな次々と落ちていってしまう」

イヤホンの羊「逆に言えば、登るのを先導する羊がいれば、犠牲も少なくなる訳だ」

イヤホンの羊「俺は、君こそがそのみんなを導くに相応しい羊だと……そう考えている」

イヤホンの羊「だから、ここまでやってきて君に話をしにきたんだ」

鳴上「? そういえば、アンタ何処かで……」

鳴上(……ダメだ。思い出せない)

鳴上「でも、わざわざ俺にそんな事させなくても、アンタの方が色々と知っているみたいだし……」

イヤホンの羊「いや。俺は、招かざれる客……もとい羊だから、この先一緒に行く事は出来ないんだ」


鳴上「え、それって……?」

イヤホンの羊「……。とにかく、持っている知識をみんなに叩き込む事でしか、役に立てない」

イヤホンの羊「あとは、君たち次第……って事」

鳴上(……そうだよな。同じ境遇に立っている仲間がいて、どうすれば生き残れるか話し合いが出来たとしても、それを自分でやらなきゃどうにもならない)

鳴上「わかった。詳しい話を聞かせてくれ」


>イヤホンの羊は静かに頷いた後、知っている事のすべてを丁寧にわかりやすく教えてくれた。

>……


イヤホンの羊「……大体こんな感じ。理解できたかな?」

鳴上「ああ。これだけ聞ければ、じゅうぶんだ。あとは、実際そういう動きを出来るかって問題だな」

イヤホンの羊「油断は禁物」

鳴上「わかってる。ありがとう。教えて貰った事を忘れないうちに次へ行ってくる」

イヤホンの羊「気をつけて」


>イヤホンの羊と別れた。


イヤホンの羊「……君が生きてあの部屋で起きる日が、明日もまた来る事を信じているよ」


>……


告解室


鳴上「高校生一枚頼む」

代行人「なんだか意気込んでるな? そうでなきゃ……だけど、まずは座ってからだ、いい加減覚えろ」

代行人「……さて。この階層は次のエリアが最終エリアだ。短くてよかったな」

鳴上「という事は、……またくるのか、デカいのが」

代行人「ああ」

鳴上「……なあ、あれはなんなんだ? どうしてあんなものが襲ってくる?」

代行人「さあな。聞くなら、自分の胸に手を当てて聞いてみろよ」


代行人「まだ理解出来ていないみたいだから言っておくけど、ここがおかしな場所だからと言っても根本はお前の見る夢だって事に変わりはないんだ」

代行人「つまり、何が出るのもお前次第なんだよ。……俺も含めて、な?」

鳴上「は……?」

代行人「……さ、質問の時間だ」

鳴上「……」


機械的な声「第四問です」

機械的な声「愛情さえあれば、どんな事をしても許されると思いますか?」


>『オールオッケー』と『場合による』のロープが垂れてきた。


鳴上「……」

鳴上「……こっちで」グイッ

代行人「なるほど」


鳴上(こんな心理テストみたいな事を繰り返してまで、こいつが知りたい事ってなんなんだろう……)

鳴上「お前、ひょっとして俺の事好きなのか?」

代行人「……」

鳴上「いや、流石に冗談だからツッコんでくれないと……」

代行人「……冗談、ね。俺にそんな事言えるくらいには、心にゆとりが出てきたって受け取っていいのか?」

代行人「喜ぶべきなのかな、これは」

鳴上「……気持ち悪いな、お前」

代行人「……」

代行人「いい加減、上へ行こうか」


>告解室が、今回の最終エリアへ向けて上昇を始めた。


鳴上(……そう。『気持ち悪い』んだよ、アイツ……)

鳴上(生理的に気にくわないと言った方がいいのかもしれない。でも、どうして……)

鳴上(……)


>……


第四階層 最終エリア



鳴上「……さて。今夜は何が出てくるのやら」

鳴上「胸に手を当てて聞いてみろ、か」

鳴上「……」


>目を閉じて、一応格好だけそうしてみた。

>しかし、思い浮かぶものも思い浮かばない。

>……何故なら、さっきからバサバサと何か羽ばたくような音がうるさくて、集中出来ないからだ。


?『……フフ、アハハハハッ!』

鳴上「……これ、は」


>恐る恐る、下の方へと視線を向けてみた……


?『見つけた! 見つけたわ! 私の王子様!』


鳴上「天城の、シャドウ……!」


>以前対峙した時よりも何倍も大きい、雪子のシャドウがこちらに迫ってきている……!


鳴上「こんな格好の王子がいてたまるかっ……!」

シャドウ雪子『ねえ、待って! 待ってよ! 待ってったら!』

シャドウ雪子『待てっていってんでショッ!? 待ちなさいよおぉぉぉぉぉォォォッ!!』

鳴上「熱ッ……!」


>雪子のシャドウは炎を吐いてこちらが登るのを邪魔してくる。

>このエリアの構造自体は先ほど登ってきた場所と大差がないのだが、雪子のシャドウの追ってくるスピードが早い事もあって足場を作る事にかなりの苦労を強いられていた……


鳴上(落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着けっ!)


>足場を作る作業の手順を間違えてはならない。

>だからといって手と足を動かすのを一瞬でも止めるのも命取りだ。

>……

>……そうこうしているうちに鐘の音がようやく聞こえてくる。

>長くて高い壁がやっと終わる……!


シャドウ雪子『王子様! 私をここから連れ出して!』

鳴上「……悪い。俺には、出来ない」

鳴上「すまない、天城……!」


>勢いよく引いて開けた扉から、光が放出される。


シャドウ雪子『キャアアアア! イヤアアアアアアアア!』

鳴上「……ごめん、な」


>雪子のシャドウは塵となって消えていった……



代行人「……おめでとう。これで審問法廷は終わりだ」

代行人「やっと半分まできたな。でも、本当の地獄はここからだ」

代行人「明日の夜、また会おう……」



>…
>……
>………


4th day


05/11(金) 晴れ 自室


【朝】


pipipipipi……


鳴上「!」

鳴上「……あつい」


>寝汗で体が気持ち悪い……

>今日は朝から気温が高いようだ。


pipipipipi……


鳴上「……」


>そして、さっきから無視を続けている携帯の着信は一向に鳴り止む気配が無い。


鳴上(まったく、誰だよこんな朝から……


>携帯の画面を見てみるが、登録されていない番号からのようだ。

>長い間無視をしても切れる様子がないので出る事にした。


鳴上「……もしもし?」

?『おっはよー、悠!』

鳴上「あの、……どちら様で?」


>相手は自分の事を知っているようだったが、こちらの記憶に心当たりはなかった。

>というよりも、そう思いたかったと言った方が正しいのかもしれない。

>何よりも信じがたかったのは……

>その声は、携帯を当てている右耳と何もない筈の左耳の方向から同時に聞こえているという事実だった。

>……見たくはなかったが、左方向へ首を動かしてみた。


?「もう、ひどいなあ。寝ぼけてるの?」

鳴上「ッ……!?」


>自分のベッドの左隣には、……以前、一夜を共にしてしまった(らしい)あの女が薄着で寝そべりながら携帯を手に持っていた。

>その姿を見て硬直していると、女はくすりと小さく笑って携帯を切り、同時に自分の右耳からも声が消えてツーツーという音が響くだけになった。


鳴上「なっ、なん……!?」

?「えへへ、斬新な起こし方だったでしょ?」

?「本当はもっと悠のかわいい寝顔見てたかったけど……」

鳴上「いや、そうじゃなくてっ……!」

鳴上「なんでまたここにいるんだ!?」


>昨日の夜は確かに一人で寮に帰ってきた筈だ。

>それは記憶にきちんと残っている。


鳴上(……あれ。でも、寝る前に誰かと会話してたような)

鳴上(えっと……誰と、だっけ……?)

鳴上(……)


>混乱していて、記憶が引っ張り出せない……

>そんな風にしている姿でさえ、女は見て楽しそうに笑っている。


?「もう、本当にかわいいんだから」

?「……一昨日の夜。約束してたでしょ? クラブでさ」

鳴上「一昨日の夜、約束……?」


>その時の事は、今思い出そうとしている事以上にはっきりとした記憶がない。


>女が何を言っているのかさっぱりだ……


?「今夜はダメだけど次の日の夜だったらバッチリ! って、悠が言ったんだよ?」

鳴上「バッチリ! って……何が?」

?「だーかーらー」

鳴上「!?」


>女は馬乗りになってずいっと顔を近付けてくる。


?「部屋に来てもいいって。だからここにいるんじゃない」

鳴上「……そんな、事」


>言った記憶は、ない。

>でも、本当にそうだという自信が何故かもてなかった。


?「ふふっ」


>女はいたずらっぽく笑ったかと思うと、首に腕を回して抱きついてきた。


?「……なーんて、ウソ! 私が会いたかったから、こっそり会いにきちゃったのー!」

鳴上「は……!?」

鳴上「おい、冗談もいい加減にっ……」

?「あんまり騒ぐと見つかっちゃうよ?」


>女はこちらの唇に人差し指を押し当ててきて、囁いた。


鳴上「……」

?「ふふ、ごめんね? でも、悠にどうしても会いたくて我慢出来なかったの」

?「……気付かれないうちに、もう行くから」


>女は離れると、簡単に身なりを整えて部屋から出ていこうとする。


鳴上「あっ、おい!」

?「ん? 何?」

鳴上「……こういう事、もうやめて欲しい。ここ寮なんだし、突然来られるのはちょっと」

鳴上「君の名前も、その……記憶にない訳で」

?「名前。んー……」


>女はしばしの間考え込んだあと、こちらを見てニコリと笑った。


?「キミコ」

鳴上「……え?」

キミコ「私の名前。これでいいよね?」

キミコ「それと私の番号、登録しといてね!」

キミコ「今度はちゃんと連絡するから」


>キミコと名乗った女は、それだけ告げて扉を開けて出て行ってしまった。


鳴上「ちょっ……」


>一歩遅れて、反射的に彼女を追いかけるように部屋を出た。

>しかし……


鳴上「あ、れ……?」


>キミコの姿はもうそこには無かった。

>次の瞬間、自分の部屋ではない部屋の扉がガチャリと開いた。


天田「鳴上さん?」


鳴上「あ、天田……!」

天田「どうかしましたか? なんだか騒がしかったような気が……」

鳴上「い、いや! なんでもない! なんでもないんだ!」

天田「そうなんですか?」


>天田は首を傾げて少し怪しんでいるようだったが、それ以上の言及はしなかった。


天田「……あ、そうだ」

鳴上(今度はなんだ!?)

天田「ずっと言いそびれてましたけど、この間貰った鳴上さんの手料理、すごく美味しかったです」

鳴上「……なんだ、その事か。いや、気に入ってくれたならなによりだ」


天田「はい。僕、本当に感動しちゃって」

鳴上「大袈裟だな」

天田「そんな事ないですよ! なんていうのかな……家庭的な、お母さんの味ってあんな感じなのかなって」

鳴上「え……」

天田「あっ、ごめんなさい! なんか変な事言っちゃいましたねっ!」


>天田は誤魔化すように笑っている。


天田「えっと、それでなんですけど。良かったらレシピなんかを教えてもらえたらなあって」

鳴上「ああ。といっても、入れてる調味料の分量とか結構適当だから……」

天田「そうなんですか?」

鳴上「そうなんだ。だから、そんなのでもいいのなら暇なときに書いて渡すな」

天田「じゅうぶんです。よろしくお願いしますね!」


>天田は期待の眼差しをこちらに向けている。



>『Ⅷ 正義 天田乾』のランクが2になった


天田「じゃあ、僕はもう学校に……」

美鶴「君たち、おはよう」


>美鶴が一階から昇ってやってきた。


天田「あ、おはようございます、美鶴さん」

鳴上「おはようございます」

天田「どうしたんですか? こんな朝早くに寮にくるなんて」

美鶴「ああ。ひとつ天田に確認したい事があってな」

天田「僕に、ですか?」

美鶴「そうだ。こちらも時間がないので、手短に言うぞ」

美鶴「……」

天田「?」


>言っている事とは裏腹に、美鶴はしばしの間沈黙した。

>そして、言うかどうするか迷ったような素振りを見せてから、結局は口を開いた。


美鶴「……天田の部屋の、目の前の部屋の事なんだが。近々、改装工事をする事になるかもしれないんだ、構わないか?」

天田「僕の部屋の前の部屋って……荒垣さんが使っていた場所、ですか?」

美鶴「……ああ」

天田「……」

天田「どうして、僕の許可がいるなんて?」

美鶴「ん、いや……それは」

天田「あ、工事の騒音くらい平気ですよ? 僕、結構我慢強い方ですし」

天田「工事が必要だっていうのなら、すればいいと思いますよ」

美鶴「……そうか。わかった」

美鶴「実はこの寮にまた一人、入寮候補者が出ているんだ」


鳴上「という事は、新しいペルソナ使いが見つかったんですか?」

美鶴「ああ、割と前からではあったんだが……その人物から、なかなか入部の了承をもらえずにいてな」

美鶴「現段階ではまだ特別課外活動部に入るかは未定だ。だが、彼の希望条件として静かに勉強できる場所が欲しいというのがあって……」

美鶴「もし、彼から了承が得られれば、入寮前に部屋の防音強化をしたいと思っているんだ」

美鶴「それにしても、あと一押しってところなんだが……まあ、これ以上無理強いは出来ないしな」

天田「そうなんですか……」


天田「その人も、月光館の生徒なんですか?」

美鶴「いや。私と同い年の大学生だ」

美鶴「もし、入寮する時がくれば、その時改めて紹介しよう」

美鶴「では、私はもう行く。君たちも遅刻するなよ」


>美鶴はこの場を去っていった。


天田「……」

天田「じゃあ、僕、行きますね」

鳴上「ん、ああ」


>天田も、下の階へ降りていってしまった。


天田「……そっか。あの部屋、他の誰かの部屋になっちゃうかもしれないんだ」

天田「……」


>……


自室


>部屋に戻って、学校へ行く支度をした。

>その間、ふと天田に言われた言葉を思い出していた。


鳴上「お母さんの味、か……」

鳴上「母さんの手料理なんて、もう随分と食べてない気がする」

鳴上「もう、そんなものを恋しがる年頃でもないけど……」

鳴上「……」

鳴上「元気にやってるかな。母さんも、父さんも」



鳴上「……行くか。学校」


>荷物を鞄に詰めて、部屋を出た。


今回は短めですが、これで終了です。

キミコって誰……って?それは、

おっと、誰か来たようだ。また次回

番長がどっちの選択肢を選んでいるのか、その辺の描写の曖昧さについては読んでいる人それぞれの解釈に任せます。今は。

では今回も短めですが続き投下します。

月光館学園 3-A 教室


>学校に着いてから携帯にメールが二件届いていた事に今更気が付いた。

>受信の時間は二件とも昨日の夜。送ってきた相手は……

>雪子だった。



from:天城雪子

こんばんは、鳴上くん。

こうやってメールするのも久しぶりだね。

本当は電話で声を聞きたかったんだけど、もう夜遅かったからやめておきました。

ところで、ニュースで見たけど鳴上くんが今暮らしている方面で変な事件が起きてるみたいだね。

もしかしてそれもまたシャドウの仕業なのかな?

花村くんから聞いたけど、マヨナカテレビも映ってたんでしょ?心配だな…

遠くにいるから何も出来ないとか迷惑とかそんな事考えないで、なにかあったら何時でも相談してね。

鳴上くん、花村くんとばっかり連絡とってるみたいだからちょっと



>一件目はここで終わっている。

>続けて二件目のメールを開いてみた。


from:天城雪子

ごめん!さっきのメール途中で送っちゃったみたい!

とにかく、私も鳴上くんからの連絡いつでも待ってるからねって言いたかったの。

それだけだから。おやすみなさい。



鳴上(『ちょっと』……なんだって言うんだろう)

鳴上(……早いうちに返事しておくか)


>短くもなく長くもならない範囲の文面で、雪子に返信メールを送った。


男子A「鳴上ーおはよーっす」

鳴上「おはよう」

男子A「……お前、なんか顔色悪くね?」

鳴上「……。そうか?」

男子A「目の下のクマできてんぞ?」

鳴上「……最近あまり寝れてなくて」

男子A「んー? なんだか意味深ですなあ」

鳴上「そんな事ないけど」


男子A「そういえば、最近ポロニアンモールんとこのクラブに鳴上が毎晩来てるって女子が噂してんの聞いたけど、もしかして……」

鳴上「えっ、いやそれは」

男子A「やっぱそうなんだな! 鳴上イケメンだし、女の子と遊び放題してるんだろー?」

鳴上「ち、違うって!」

男子A「その動揺の仕方は怪しんでくれって言ってるようなもんだぞー?」

男子A「いいよなー。それに、鳴上くらいイイ男なら、目にクマ作って少しくらいやつれてても、きっと『今日の鳴上くん、いつもより弱々しげでなんだか守ってあげたくなっちゃうわ! キュンキュン!』とか女子に思われんだぜー?」

鳴上「なんだそれ……」

男子A「それでなくとも両手に花状態なのにさ。きっと、クラスの男子で鳴上爆発しろ! って思ってるヤツ結構いるんじゃね?」

男子A「仮にいなくても、今俺が言うね! 鳴上爆発しろ!」

鳴上「どかーん」

男子A「うっわー、口で言いやがったー。腹立つなー。あはははっ」

鳴上「あはは」


鳴上「……ところで、両手に花ってなんの事だ?」

男子A「えっ」

男子A「いや、それを自覚なしってのは、流石に笑えない……」

鳴上「えっ」

男子A「これもまたイケメンのみに許される所業か……」

男子A「……ほら、あの二人だよ」


>クラスメイトは、ここから少し離れた場所で話しているメティスとラビリスを指さした。


男子A「鳴上、あの二人とよく一緒に登下校したりしてるじゃん」

鳴上「それは、一緒の寮にいるからだよ」

男子A「ひとつ屋根の下とかそれこそじゃねーかよ!」

男子A「もしかして、どっちか彼女だったりすんの!?」

鳴上「前にも誰かにそんな事聞かれた気がするけど……それはない」

男子A「……ふーん?」


男子A「じゃあ、どっちか俺に紹介する気ない?」

鳴上「紹介って。クラスメイトなんだから、自分から話しかければいいだけじゃ……」

鳴上「それに、あの二人は正直俺からはオススメ出来ないかな」

鳴上(……ロボットだってバレたら面倒だろうし)

男子A「えー!?」

男子A「もしかして、彼女じゃないけどどっちか狙ったりしてるとか?」

鳴上「……それもないな」

男子A「本当かねー?」

男子A「じゃあさ、鳴上的にはどっちがタイプ?」

鳴上「ん……? そう、だな」


>メティスとラビリス……

>どっちが自分の好みかと聞かれたら、



キーンコーンカーンコーン……



淳「HR始めるよー、席について」

男子A「うわ、先生はやっ!」

男子A「さっきの話、後でちゃんと聞かせろよな!」

鳴上「……」

鳴上(うーん……)


>そんな事考えたこともなかったが、聞かれてみると結構難しい質問のような気もする……色々な意味で。

>しかし、下らない話だったにせよクラスメイトとのその時間が、朝起きてからの陰鬱な気分を少し解消してくれたような気がしていた。


>……


【昼休み】


>連日寝不足を感じているせいか、やはり少し体調がよくないような気がする……


鳴上(保健室へ行って薬もらおうかな)

鳴上(それか少し寝かせてもらうか……)


>これ以上具合が悪くなる前に、どうにかしなければ……

>保健室には妙な噂話もあったような気もしたが、今はそんな事を気にしている余裕もない。

>……行くだけ行ってみる事にした。


>……


保健室


鳴上「失礼します」

?「こんにちは。……江戸川先生の方に用事かな?」

?「それだったら、ごめんね。今ちょっといないの。すぐ戻ってくる筈だから待っててもらっていい?」


>保健室には女性がひとりいる。

>確か、保健医は男だと聞いていたような気がするが……

>しかし、この女性にはどこかで見覚えがあった。

>口元にあるほくろとショートカットの髪型が今でも印象に残っている。


鳴上「あれ? 貴女は、たしか……」

?「ん? ……あ」

?「キミ、確か前に街の中で会った……よね?」

?「あの時の怪我、大丈夫だった?」

鳴上「はい。大した傷じゃなかったので。その節は、お世話になりました」

?「いえいえ、どういたしまして」

鳴上「まさか、学校の先生だったなんて……今まで気付きませんでした」

?「そんな頻繁に学校へ来ている訳じゃないからね。私のこと知らない生徒も多い筈だよ」

?「学校の教師っていうのともちょっと違うし」

鳴上「というと……?」

?「スクールカウンセラー。生徒さんたちの悩みや相談を聞くようなお仕事って思ってもらえればいいかな」

?「園村麻希です、よろしくね。えっと……」

鳴上「三年の鳴上悠です。よろしくお願いします」


麻希「鳴上くんね。それで、今日はどうしたのかな? なんだか顔色が悪いけど……」

鳴上(スクールカウンセラー、か……せっかくだから、少し話を聞いてもらおうかな)

鳴上「それが……」


>最近寝不足気味である事や、はっきりしないが悪い夢を見ている事、記憶が曖昧になる事がある等、今自分が悩んでいる事を大まかに話してみた。


麻希「……なるほどね」

鳴上「はい。それで、今日は体調がよくないんで少し保健室で休ませてもらおうかと」

麻希「そっか。江戸川先生には言っておくから、ベッド使っていいよ。私もしばらくここにいるから」

鳴上「ありがとうございます」

麻希「休んですっきりしたら、もう少し詳しくお話しようか。鳴上くんがよければ、だけど」

鳴上「……はい」


>今は言葉に甘えて、保健室のベッドを借りる事にした。


半端なところで時間がきてしまったのでまた後で続き投下しにきます

>……



鳴上「……ん」


>あれからどれくらい経ったのだろうか……

>ベッドから体を起こし、辺りを見回してみた。

>窓の外に見える空はすっかりオレンジ色のようだ。

>授業の方はもうとっくに終わっているだろう。

>今の今までずっと寝ていた訳だが、その間は夢を見る事もなかった。

>おかげで、体の調子も少しは楽になったような気がする。

>ベッドから出る事にした。


麻希「おはよう、鳴上くん。ぐっすりだったみたいだね」

麻希「その様子だと、悪い夢は見なかったのかな?」

鳴上「……はい。そうみたいです」

麻希「もうすぐ、部活動の時間も終わって最終下校時刻になるからちょうどよかったかもね」

鳴上(そんなに寝てたのか……)

麻希「あともう少し早ければ、あの女の子たちにも会えたんだけど……」


鳴上「女の子たち?」

麻希「クラスメイトのメティスさんとラビリスさんっていう」

麻希「二人ともすごく心配してたよ。でも、もう時間も時間だったから、私が帰らせたの」

麻希「鳴上くんはひとりで帰れそう?」

鳴上「大丈夫です。よく眠れてすっきりしました」

麻希「よかった」

麻希「今日はもう、私も帰らなきゃいけないんだけど……」

麻希「次に会った時にでも、また鳴上くんのお話聞くからね」

麻希「これ、一応渡しておくね」


>麻希の名刺をもらった。

>メールアドレスと携帯の番号も書かれてある。


麻希「何か相談があれば、ここに連絡してくれてもいいから」

鳴上「ありがとうございます」

麻希「じゃあ、もう出ようか」

鳴上「はい」


>スクールカウンセラーの園村麻希と知り合いになった。



>『Ⅱ 女教皇 園村麻希』のコミュを入手しました

>『Ⅱ 女教皇 園村麻希』のランクが1になった



>麻希と別れて学校を後にした。

>……


巌戸台駅周辺


「ゆーうー!」

鳴上「!?」


>突然、後ろから誰かに抱きつかれた。


キミコ「やっぱり悠だー。わーい」

鳴上「キミコ……!?」


>キミコは抱きついた状態のまま無邪気に笑っている。


キミコ「こんなとこで会うなんて運命だね!」

鳴上「いや、あの……」

鳴上(まさか、こんな場所で会うとは思わなかった……)

鳴上(気持ちよく寝れてすっきりしてたのに頭痛が……って、え?)

鳴上「お前、その格好はっ……」

キミコ「え、格好? なにかおかしい?」

鳴上「いや、だって、制服、」

キミコ「うん、制服だね」

キミコ「月光館学園の」

鳴上「……高等科の?」

キミコ「これでもし初等科や中等科だったら、悠どうするの?」

キミコ「……私にあんな事までしておいて」

鳴上(だから、あんな事ってなんだ! 恥じらう姿を見せないでくれ……!)


鳴上(どうして何も覚えてないんだ! 覚えがあればまだ儲けものだったのに……じゃなくて!)

鳴上「えっと……何年生?」

キミコ「んー……?」

キミコ「……」

キミコ「二年生、かな?」

鳴上(何故疑問形……)

鳴上「だったら、俺より年下じゃないか」

鳴上(同じ学年じゃないだけよかった、のか?)

鳴上(いや、そういう問題じゃない……)

キミコ「あ、そうなんだ」

キミコ「でも悠は悠だし悠でいいよね!」

鳴上「いや、よくない……」

キミコ「もしかして、先輩とか……あるいはお兄ちゃんとか呼んでもらってプレイしたい派?」

鳴上「お前はいったいなんの話をしているんだ?」

鳴上「ちなみに俺をお兄ちゃんと呼んでいいのは世界で一人だけだ、覚えておけ」

キミコ「悠こそなんの話してるかわかんないけど、わかった!」

鳴上「……いや、違う。俺が話したいのはそういう事じゃなくて!」

鳴上(ダメだ……! この子といるとペースが乱れる!)

キミコ「ねえ、悠。これからちょっと付き合って!」

鳴上「えっ?」

キミコ「すぐそこだから! こっち!」

鳴上「なっ……お、おい!」


>キミコに無理やり引っ張られて連れて行かれた……


>……


甘味処 小豆あらい


キミコ「ごちそうさまでした!」

鳴上「……いや。これで満足したなら、いいんだけど」


>何故かいつの間にかこんな場所で奢らされる羽目になっていた。


キミコ「悠は満足した?」

鳴上「えー、あー、うん」

キミコ「……」

鳴上「……何?」

キミコ「元気、出た?」

鳴上「え」

キミコ「甘いモノ食べたら元気出してくれるかなあと思ったんだけど、失敗だったかな?」

キミコ「っていうか、引っ張り回しちゃったから余計疲れちゃったかな?」

キミコ「私はただ、悠が心配だっただけなんだけど……」

鳴上(この子……俺の事、気遣ってたのか?)

鳴上(元気じゃないのは半分この子のせいだし、やり方ってもんがあるだろ……)

鳴上(……でも、元気がないってよく気付いたな)

鳴上(……)


キミコ「これ」

鳴上「?」


>小さな包みを渡された。


キミコ「持ち帰り用に包んでもらったの。バナナ大福、私のオススメ!」

キミコ「次に会う時まで、元気になってなきゃヤダからね」

鳴上「あっ……」


>じゃあね、と手を振ってキミコはその場から走り出していった。


キミコ「そしたら、またデートしよーねー!」


>キミコはその言葉を最後に、人の波の中に姿を消した……


鳴上「……」

鳴上「悪い子って訳ではない、のか?」

鳴上「でもなあ……」


>もらったバナナ大福が入った包みと睨めっこをしつつ、寮へ戻ろうと歩いた。


>……


美鶴「鳴上!」

鳴上「!」

美鶴「こんなところにいたのか……探したぞ」

鳴上「桐条さん?」

鳴上「探したって……何かあったんですか!?」

美鶴「ああ、そうだ。何かあったから迎えにきたんだ……まったく」

美鶴「学校で倒れたそうだな?」

鳴上「え、倒れたって、誰が?」

美鶴「君がだ!」


>美鶴はなにやら凄い剣幕で怒っている。


鳴上「いや、倒れたというか……保健室のお世話になっていただけですけど」

美鶴「似たようなものだろうが!」

美鶴「……アイギスから連絡があったんだ。鳴上が学校の保健室で寝ているから迎えにいって欲しいと」

鳴上(メティスやラビリスが言ったのか)

美鶴「それなのに、学校に行ってみればひとりで帰ってしまっているし……」

美鶴「近くに車を待たせてある。寮まで送るから、早くこい」

鳴上「は、はい」


>強制的に車に押し込められた。


>……



車の中


美鶴「目の下のクマが酷いな」

鳴上「……自分で確認してないんで、よくわからないです」


>美鶴は、はあっと深いため息を吐いた。


美鶴「最近世間を騒がせているあの連続衰弱死事件について、夜まで外で調べ回っていると聞いたが」

鳴上「はい」

鳴上「桐条さんもそうだって話ですよね?」

美鶴「まあな」

鳴上「何か気になる事とか、わかった事とか出てきましたか」

美鶴「……」

美鶴「今はその事はどうでもいい」

鳴上「え?」

美鶴「近頃、どうにも君の様子がおかしい気がしてならない……と報告を受けている」

鳴上「……」


美鶴「何か隠している事はないか? あるいは……」

美鶴「何かひとりで抱え込んでいる事がある、とかな」

鳴上「それ、は……」


>キミコの事は置いておくとしても、話していいのかどうか躊躇う事ばかりだ……

>麻希には話せた事も、仲間にとなると余計な気を使わせたくはないと思ってしまい、口には出せなくなる。


美鶴「……みんな心配しているぞ。もちろん、私もな」

鳴上「……」

美鶴「もしかしたら……」

美鶴「もしかしたら私は、君にリーダーという立場と責務を押し付け過ぎだったか?」

鳴上「……え?」


美鶴「私は以前、君ならみんなを引っ張っていってくれると……君がいるから戦えると言った事があるだろう」

美鶴「あれは事実だ。今でもそう思っている。しかし……」

美鶴「リーダーであるからといってなんでもかんでも一人で背負いこんでくれとは言っていない」

美鶴「だが、君はどうも無意識にそうしているように思ったんだ」

美鶴「そのきっかけが私の言葉だったら……撤回する」

美鶴「私は……私たちは、君と一緒に君と並んで戦いたいんだ」

美鶴「リーダーだから、誰かに頼ってはダメだなんて言わない」

美鶴「君はリーダーであると同時に私たちと等しい仲間であるという事をどうか忘れないで欲しい」

美鶴「ひとりでどうにかしようなんて事だけは、絶対にしないでくれ」


>美鶴は唇を噛んで俯いてしまった。


鳴上「そんな、事は……」

鳴上「……」

美鶴「……とにかく」

美鶴「今夜は外出は禁止だ」

美鶴「君は休むという事を覚えた方がいい」


>美鶴からの気遣いが伝わってくる……



>『Ⅲ 女帝 桐条美鶴』のランクが2になった



鳴上(心配させたくなかったのに、余計に心配増やしてしまった……って事か)

鳴上(でも……)

鳴上(もっとみんなに寄りかかってみても、いいんだろうか……)

鳴上(……)

美鶴「寮に着いたぞ」

美鶴「私はこのまま行くところがある。君は早くみんなに顔を見せてやれ」

鳴上「……はい」


>車を降り、美鶴と別れた。

>……


学生寮



鳴上「ただいま」

アイギス「!」

メティス「鳴上さん!」

ラビリス「よかったあ! 悠が帰ってきたあ!」

天田「おかえりなさい! 倒れたって聞いたからびっくりしましたよ……!」

コロマル「ワン!」


>ラウンジにみんなが揃いに揃っている。


鳴上「ごめん、心配させたみたいで……」

アイギス「具合の方は、今はどんな感じですか?」

鳴上「よく眠れたんで、今はいい感じです」

アイギス「美鶴さんから、今夜はもう出かけさせるなと言われています」

鳴上「俺も直接言われました」

アイギス「それから、明日の朝は病院に行かせるように……と」

鳴上「病院……」

鳴上「わかりました」


メティス「今日はもう、部屋に戻ってください」

ラビリス「そやね。こんなところで立ち話してる暇あったら休んだ方がええわ」

鳴上「……メティス、ラビリス」

鳴上「保健室まで来てくれてたんだってな、ありがとう」

メティス「いえ……」

ラビリス「はよ元気になってな?」


>おとなしく部屋に戻ることにした。


天田「……あの!」

鳴上「?」


>部屋の扉を開けようとしたところで追ってきた天田に呼び止められた。


天田「その……鳴上さん」

天田「最近、変な夢をみたらしいってラビリスさんから聞いたんですけど」


鳴上「……」

鳴上「ああ。それがどうした?」

天田「あの、それって……」

天田「どんな夢だか覚えてますか?」

鳴上「……」

天田「……」

天田「僕、もしかしたら」

天田「もしかしたら……」

鳴上「……天田?」


>天田の顔が青ざめている……


天田「っ……」

天田「やっぱりなんでもないです!」

天田「ごめんなさい、引きとめたりして。お大事にしてください」


>天田は一礼してから、自分の部屋に駆け込んでしまった。


鳴上「天田……?」

鳴上「……」


>……


今度こそこれで終了です。

ゴールデンウイーク?なにそれ美味しいの?状態で書き溜めが思うようにいってないです。

来週からもうちょっとまとめて投下出来るようになればいいなと思ってます。

また次回。

男子Aさんにはもう名前とコミュ用意出来るレベル

乙乙ー

>>88
魔術師コミュが既に埋まってるのが残念だな

>>88 >>90

彼の名前はきっと壇志英(だん しえい)とか言うに違いない。

実は永劫コミュの担い手だけど番長は永劫アルカナのペルソナは作成しないので永遠に永劫コミュは発生しないしランクも上がらないんだ(適当)

本日の投下いきます

自室


>休む前にPCを付けて今日のニュースを軽くチェックする事にした。


鳴上(朝はバタバタしてて確認出来なかったからな……)


>……

>ざっとニュースサイトに目を通したところ、今日も衰弱死した人間が出ているようだ……

>日に日にその人数が増えてはいるが、警察の捜査にも進展はないし、何故こんな死体になるのか理由もまだ明らかになっていない。


(――おとなしく休めって釘刺されたばかりだろ? 早くこっち側に来いよ)

鳴上「っ!?」


>誰かの声が聞こえたような気がして、振り返り部屋の中を見回してみた……が、当然部屋には自分しかいない……


鳴上(っ……)

鳴上(疲れてるんだ。気のせいだ……)


>もう、寝よう……ぐっすり眠れる自信は未だにないが。

>そう思ってPCの電源を落とそうとしたその直前に、メッセンジャーの音が鳴った。

>パオフゥからだ。


鳴上「あっちの方から話しかけてくるなんて珍しいな」


>……


番長:こんばんは、パオフゥさん。

パオフゥ:よお

パオフゥ:突然悪いな。ちょっと面白い話を耳にしたもんで、お前さんにも教えておこうかと思って

番長:面白い話ですか?

パオフゥ:この前、伝説の男の話をしただろ。それに関する事だ



鳴上「伝説の男の……新情報!?」



パオフゥ:お前もこの件を気にしてる風だったからな

番長:是非聞かせてください。お願いします。


>とは言ったものの、こちらからパオフゥに提供出来そうな目新しい話は、今のところ思い当たるものがない。

>パオフゥの事だから、タダで教えてくれるなんて事はないだろう。

>どうしたものか……

>……などという心配をよそに、パオフゥは持っている情報をひとりでに語り出した。


パオフゥ:ポロニアンモールに、ゲームセンターがあるのは知ってるか?

パオフゥ:そこにあるラプンツェルっていう古いゲームのランキングトップが伝説の男だって話があって

パオフゥ:三年もの間その記録が破られていなかったって結構有名な話があるようだ

番長:三年もトップですか。凄いですね。

パオフゥ:元々、プレイする人間の数自体そんなに多くなかったようだけどな

パオフゥ:でも驚く事に、最近になって何故かそのゲームが密かなブームになっている

パオフゥ:前に若いのの間でいくつかゲームが流行ってるって話をしただろ?

パオフゥ:例の携帯アプリの話しかしてなかったが、実はこのゲームもそのうちのひとつに含まれてる



鳴上「また、最近流行ってるゲーム、か……」


番長:そのゲームが流行るようなきっかけや理由なんかはあったんでしょうか?

パオフゥ:色々と理由はあるのかもしれないが

パオフゥ:実際、ラプンツェルを今よくプレイしてるって奴らに聞いた話だと、トップの記録を塗りかえてやりたいからよく遊んでるってのが多いな

パオフゥ:なんで今になってっていう話は置いとくとして

パオフゥ:つい最近本当に記録が塗りかわったんだ

番長:そうなんですか!

番長:三年守られた記録を破った人も凄いですね。

パオフゥ:でもその記録を破ったのは

パオフゥ:伝説の男本人、だそうだ



鳴上「!?」


パオフゥ:ランキングに入ると名前を入力する事になるんだが

パオフゥ:今、ラプンツェルの筐体に記録されているトップと2位の名前が同じになっている

パオフゥ:だからといって、それだけでは同一人物である確証にはならないだろうが

パオフゥ:今まで誰が挑戦してもそんな事無理だった。それどころか、3位のスコアですら2位に遠く及んでいないって点から、専らそういう噂が流れているな

番長:それはまたなんというか……。

番長:そんな話もあるから、伝説の男なんて言われてたりして。



鳴上「……なんて。まさかな」


パオフゥ:順序が逆だったのかもってのなら、考えられない事じゃないな

パオフゥ:つまり、初めはランキングのトップを飾るほどのゲーマーで話題になっていた男が

パオフゥ:悪夢から生還した事で、違う伝説も残す事になった

パオフゥ:しかもそれは、時が経つに連れ話が混ざり誇張されて、人の興味をひくには十分過ぎる話題になった

パオフゥ:それが本当でも嘘でも、もはや関係ないって訳だな

パオフゥ:それが時にこの世を滅ぼすこt



鳴上「……え?」

鳴上「この世を滅ぼす……って」


パオフゥ:この事でひとつお前に頼みたい事がある

番長:今のはどういう意味ですか?



>こちらが文章を打つよりもパオフゥの発言の方が早かったようだ……



パオフゥ:もしかしたらその男がまたゲームセンターに来るかもしれない

パオフゥ:それらしき人物を見かけたら是非教えて欲しい

パオフゥ:それと、ラプンツェルをプレイするような機会があったら感想を聞きたい

パオフゥ:それだけだ



>しかもスルーされた……


鳴上「……」



番長:それは構わないですけど。

番長:パオフゥさんの方も、随分というこの件に熱心みたいですね?


>パオフゥの発言まで少しの間が開いた。


パオフゥ:俺の勘が只事じゃねえって訴えやがるから、気になるだけだ

パオフゥ:出来ればその勘が外れて欲しいもんなんだがね

番長:じゃあ、どうしてこんな話を俺に?

パオフゥ:これでもお前さんの事はそれなりに信用してるって事だよ

パオフゥ:って、さっきから何言ってんだか俺は……

パオフゥ:とにかく、頼んだからな

パオフゥ:じゃあ、また



>言いたいことだけ言って、パオフゥはメッセンジャーから落ちた。



>『Ⅸ 隠者 パオフゥ』のランクが5になった



鳴上「ラプンツェル……か。なんかどっかで聞いたようなタイトルだけど」

鳴上「そういえば、どういうゲームなのか聞くの忘れてたな」

鳴上「プレイした感想なんて……どうしてそんな情報まで知りたいんだろう」

鳴上「……まあ、行ってみればわかるか」


>明日にでもゲームセンターに足を運んでみよう。

>病院に行くのが最優先ではあるが……

>……さて、今度こそ本当に休もう。

>PCを落とし部屋の電気を消して、ベッドに潜った。



>…
>……
>………





吹き荒れる風が、この身も心も凍らせる

降り注ぐ石の雨が、死を招く――


Next→


――stage 5 Quadrangle


暴風の中庭――




Night mare


第五階層 第一エリア


鳴上「……さ、」

鳴上「寒っ……!」


>扉から出てまず感じたのが、その強烈な寒さだった。

>周りは完全に凍てついている。

>いつも行く手を阻む石でさえ、氷の塊に変貌していた……


鳴上「今までの場所と比べて随分と雰囲気が違う……」

鳴上「冷たっ……うわっ!?」


>氷の石に足を乗せた瞬間、滑ってそのまま下に落ちそうになった。


鳴上「あ、危ない……」

鳴上「氷の上にはあまり乗らない方がいいって事か」

鳴上「……このままぶら下がって移動した方が、ここは楽かも」


>場にあった攻略法を頭に思い描き考えながら、今夜もまた登り始めた。

>……


踊り場


>最初のエリアを通過し、告解室の前までやってきたが……

>周りにいる羊の数が今夜は特に少ない気がする。


鳴上「……くそ」

鳴上「こんな事早く終わらせないと。……いや」

鳴上「この世界を……終わらせないと」


>……


告解室


鳴上「今夜もお招きどうも」

鳴上「……」

鳴上「……?」

鳴上「おい?」


>告解室の小窓に向けて話しかけてみても返事がない。

>隣に気配はするようなのだが……


鳴上「おい! 聞いてるのか!」

代行人「……そんなに大声出さなくとも聞こえてる」


>隣の部屋にいる代行人の声色は、なんだか機嫌が悪そうな感じだった。


鳴上「やるならさっさと何時ものアレやってくれないか。毎度の事だけど、時間が惜しい」

代行人「……」

代行人「いいや」

代行人「ここでの質問はやめておく」

代行人「……そういう気分じゃない」

鳴上「……は?」

鳴上「それならそれでいいけど。……勝手なのは相変わらずだな」

代行人「うるさい」


>告解室が激しく揺れる。


鳴上「うわっ……! ちょっ、まだ座ってな……!」

代行人「……」


>そのまま告解室は上昇を始めた……

>……


第五階層 第二エリア


鳴上「……」

鳴上「なんだよ、さっきのあれは」

鳴上「やたらゴキゲンナナメって感じだったな」

鳴上「ま、俺には関係ないけど」

鳴上「関係はない、けど……」

鳴上(……でも、腹立つ)

鳴上「……っと、余計な事考える前に進まないとまずいな」


>苛々する気分を押し込んで、上を目指して登り始めた。

>……



踊り場


>相変わらず見える羊の数は少ない。

>しかしその少ない数の中に、見知った姿を発見した。

>帽子の羊とイヤホンの羊がもう一匹小柄な羊を交えて話をしている。

>イヤホンの羊がこちらに気付いて、いつかと同じように手招きをして呼んでいる。


イヤホンの羊「……順調に進んでるみたいだね」

鳴上「ああ。ていうか……」

鳴上「お前、登ってこれないんじゃなかったのか?」

イヤホンの羊「うん、そうだね」

イヤホンの羊「俺はこの踊り場に来る事が出来るだけだから」

帽子の羊「は!? じゃあ、あの石の山登ってねーの!? ショートカットしてるっつーの!?」

イヤホンの羊「だから、そう言ってる」

帽子の羊「それずっこい! スッゲーずっこい!」

帽子の羊「俺たちが毎回どんな思いでここ登ってると思ってんだよー!」

イヤホンの羊「……それについては、ごめん」

イヤホンの羊「本当は彼と一緒に君たちを誘導出来れば一番だけど」

イヤホンの羊「……見えない力に阻まれて、一緒に行く事が出来ない」

イヤホンの羊「この踊り場にだって勝手に侵入してるだけで……こうして来れているのは奇跡」

イヤホンの羊「たぶん、君たちに会えるのも今夜が本当に最後かもしれない」

イヤホンの羊「だから攻略法についてのおさらいと応用……しっかり聞いて欲しい」

イヤホンの羊「そこの彼も……ね?


>イヤホンの羊は傍にいたもう一匹の、小柄で外ハネの茶髪の羊に声をかけた。

>羊姿だとよくわからないが……おそらく、自分よりも年若い少年だろう。


鳴上(こんな子まで……)

小柄な羊「あの……よろしくお願いします」


>小柄な羊は困惑しながらも丁寧に深々と頭を下げた。


小柄な羊「なんとかここまで一人でやってきましたけど、正直不安で……」

小柄な羊「ここに来る度、普段と姿形が変わるし、もう何がなんだか」

鳴上「みんな一緒だ。なんで羊に変わるのか……いや、自分以外が羊に見えるだけなのか」

小柄な羊「いいえ、そうじゃないんです」

鳴上「?」


小柄な羊「確かにここにいる皆さんの事は羊に見えるけど、僕自身は人間のままですよ。まあ、羊の角みたいなのがはえてはいるみたいですけど」

小柄な羊「でも僕の場合、人間の姿のままではあっても……何故か体格が小学生くらいの時に戻ってるんです」

小柄な羊「なんで、そんな姿に……」

鳴上「本当か……!?」

帽子の羊「まじかよ。なんか気味悪ぃな……」

イヤホンの羊「……」

イヤホンの羊「それはたぶん、君の精神状態に起因している現象だ」

小柄な羊「僕の、精神状態……?」

イヤホンの羊「それだけじゃない」

イヤホンの羊「この夢は、ここにいる羊が全員が共通して見ている夢ではあるけど、登る先で見るもの聞くもの感じるもの……それは全て自分次第でどうとでも変わる」

イヤホンの羊「特に階層の最後に出てくるデカいのについては……ね」

鳴上(あの代行人もそんな事を言っていたけど……)


帽子の羊「じゃ、じゃあ! あのデカいゴスロリっ子と毎晩戦ってんのって俺だけって事!?」

帽子の羊「お前らは何が出てくんだよ!?」

鳴上「俺は魔女探偵とか……その他色々」

小柄な羊「僕は……光る大きな馬……とか」

帽子の羊「……はあ? わけわかんねーな」

イヤホンの羊「つまり、そういう事」

イヤホンの羊「ここでわかるのは自分の事だけだ」

イヤホンの羊「いや、自分の事さえわからない者の方が多いかもしれない」

イヤホンの羊「何故あんなものが出るのか、理解出来ない……否定したい、見たくないって思ったりしてる者もいると思う」

鳴上「……」

イヤホンの羊「……話がそれたな」

イヤホンの羊「本題に移ろう。夜が明けてしまう前に……」


>……


帽子の羊「なんかさっきから頭パンクしそうな話ばっかだぜ……」

小柄な羊「メモとかとったところで意味もないですよね。登っている最中そんなもの見る余裕もないし」

鳴上「それでも、ここまで来る事は出来たんだ。諦めたりはしたくない……絶対に」

イヤホンの羊「……そう」

イヤホンの羊「大事なのは上だけを見続ける事。脆く崩れかけてはいても、その心を自ら折ってはダメだ」

イヤホンの羊「そして……」

イヤホンの羊「……」

帽子の羊「え、なんだよ?」

イヤホンの羊「なんでもない」

帽子の羊「言い掛けてやめるなよ!」

イヤホンの羊「……自分で気付かなきゃ意味のない事だから」

帽子の羊「……」

帽子の羊「……なんかなあ」


鳴上「どうした?」

帽子の羊「いや、さっきから気になってたんだけど」

帽子の羊「俺、こいつの事知ってる気がすんだよな」

小柄な羊「え……あなたもですか?」

小柄な羊「実は僕も、そんな感じがしてて」

小柄な羊「しかもそれだけじゃなくて」

鳴上・帽子の羊・小柄な羊「ここにいる全員知ってる気がする」

イヤホンの羊「……」

鳴上「……どういう事だ?」

イヤホンの羊「どうでもいい」

帽子の羊「そう、それ! それだよ、その感じ!」

帽子の羊「ぜってー知ってるヤツだよ、お前!」

帽子の羊「……いや、でも」

小柄な羊「……。そうですよ、そんな筈は……」

小柄な羊「だってあの人は……」

鳴上「……?」


イヤホンの羊「……どうでも、いい。気にしなくていい。だってこれは」

イヤホンの羊「夢なんだから」

帽子の羊・小柄な羊「……」


>場が静まり返ってしまった……


イヤホンの羊「それより、早く行かないと時間が」

帽子の羊「……。俺はもう少し考え事してから行くわ」

小柄な羊「僕も、ちょっと」

イヤホンの羊「そう。君は?」

鳴上「俺は……もう行く」

イヤホンの羊「ん。……気を付けて」


>みんなに見送られつつ、告解室へ行く事にした。

>……


告解室


鳴上「……」


>無言のまま腰を下ろした。


代行人「……やっときたか。随分と長いお喋りをしてたみたいだが」

鳴上「どうでもいい」

代行人「……」

代行人「そうだな。そんな事はどうでもいい……俺にはな」

鳴上「質問、あるんだろ? するなら早くしろ」

代行人「……なあ、お前は何をそんなに焦ってるんだ?」

鳴上「自分が死ぬかもしれないのに焦らないやつなんていないだろ。それに」

鳴上「俺が先へ進む事でどうにか出来るかもしれない」

鳴上「ここに落ちたみんなを救って……ここをどうにか出来るかもしれない」

代行人「……」

代行人「どうしてお前がそこまでする?」

鳴上「どうして、って」

鳴上「放っておける筈ないだろ」

鳴上「俺の力で、絶望の中にほんの少しでも光が照らせるのかもしれない」

鳴上「その可能性があるのなら、俺は、」

代行人「だから」

代行人「どうして“可能性がある”なんて自分で言い切れる?」


鳴上「それは……」

代行人「……そうだな。お前は他人からそういった言葉を言われてきた事が何度もあった」

代行人「君ならできる、お前ならやれる……って」

代行人「でもそれって実は」

鳴上「おい」

鳴上「俺はお前と長いお喋りはしたくない」

鳴上「……お前に対する答えは、ロープを引っ張ってでしかしてやらない」

代行人「……」

代行人「なら、いこうか」



機械的な声「第五問です」

機械的な声「人に頼られる事に喜びを感じますか?」


>『感じる』と『苦痛でしかない』のロープが垂れ下がってきた。


鳴上「……」

代行人「……」

鳴上「……」

代行人「わかった」

代行人「じゃあ進もうか」

代行人「今夜のデカいやつのところへ」


>告解室は上を目指して動き出した。

>……


第五階層 最終エリア


鳴上「……」

鳴上「ここが今夜の最後、か」

鳴上「……さむ」


>下から大きな振動が徐々に迫ってくるのがわかる。


鳴上「ラブリーン、里中のシャドウ、天城のシャドウ……ときたら、次は」


>ゆっくりと下へ視線を移した。


シャドウりせ『お待たせしましたあ、もろみせタ~イム!』

シャドウりせ『私のことはも・ち・ろ・ん♪』

シャドウりせ『アナタもばっちり丸裸!』

シャドウりせ『骨の随からノウミソまで、私にぜえ~んぶ、晒け出して!』

鳴上「それは流石にちょっと……ゴメンだな」

シャドウりせ『そういう、つれないところもス・テ・キ♪』

シャドウりせ『でもぉ~、ゼーッタイ私がつかまえちゃうんだから!』


>今夜の鬼ごっこが開始された……


>今夜最後を飾るに相応しく、足場はほぼ氷で埋め尽くされていた。

>間違って踏み出してしまうと、そのまま滑って下に落ち、りせのシャドウの熱い抱擁を受ける事になるだろう。

>寒い中であたためてもらえるのは歓迎だが、捕らえられたら最後、その腕の力で背骨が粉砕されそうな勢いだった……

>ただ、りせのシャドウ自体のスピードはそれほど早くもない。

>慎重に進みさえすれば、そのまま振り切れる事も可能かもしれない……

>と一瞬考えたが、それはどうやら甘かったようだ。

>りせのシャドウは本体からの攻撃が殆どない分、こちらの移動先を正確に予測、把握して今までのデカいのに比べると的確に狙いを定めにきていた。

>そして、それは上に進むにつれてその環境を味方につける……

>だいぶ登ってきたところで、氷の石は足場としてでなく、上から降り始めてきたのだ。

>しかもそれは無差別ではなく、りせのシャドウのアナライズの補正を受けてこちらに迫る。

>反応が少しでも遅ければ、氷の石に潰され見事にりせのシャドウに己の骨とノウミソを見せる事になってしまうだろう……

>そんな風に、予想以上の苦難に強いられながらではあったが、今夜のゴールは目前にまでやってきていた。


鳴上「これで……!」


>指が扉の取っ手に触れた……

>が、その指に力が入らない。

>冷たい氷の石に触り過ぎて、赤くなり痛みも酷い……

鳴上「っ……」

鳴上(こんな、ところで……)

鳴上「……終わっ、て」

鳴上「終わって……たまるかああああああ!」


>目一杯握った指で掴んだそれを力任せに引っ張った……!


シャドウりせ『イヤアアアァアアアァァァァアアアアアアァァアァァァァアアァァ!! ヤダアアアァア!! オイテカナイデェェェェェ!!』


>扉の光によって断末魔を上げながら、りせのシャドウは消えていった……


鳴上「……」



代行人「……おめでとう。第五階層、暴風の中庭はこれで終わった」

代行人「明日の夜……」

代行人「……」


>代行人の言葉は最後の方まで耳には届かなかった……



>…
>……
>………


5th day


05/12(土) 曇り 自室


鳴上「っ……」

鳴上「寒い……」


>ベッドに寝たまま窓の方に視線を向けてみた。

>……どうやら昨日、戸締まりを怠っていたらしい。

>窓が半分開いていてそこから強い風が部屋の中に吹き込んでいる。

>おまけに掛け布団が完全に捲れて、床に落ちてしまっているようだ。

>そして

>……頬や腕、その辺りの肌に違和感を覚える。

>何かが蠢いているような……

>そっと頬に指で触れてみた。

>その蠢きは、今度は指へと伝わってくる。


鳴上「これ、は……虫?」

鳴上「……」


鳴上「蟻……」

鳴上「――ッ!?」


>蟻が自分の体を伝って歩いていたのだと瞬時に理解した。

>その不快さに、思わずベッドから飛び起きる。

>……一匹ならまだよかった。

>でもその蟻は……蟻の大群は

>開いている窓から列を作って部屋の中へ入り

>ベッドと自分の体を伝って床に行き

>そこに置かれている何かに群がっているのだ。

>そこに置かれている『何か』は、初め蟻にまみれて真っ黒になっていてなんなのかはっきりしなかったが……

>蟻が群がる隙間から『小豆』という文字だけ見え隠れしていた。


鳴上「っ……!」


>急いで自分にまとわりついている蟻の群を払い、床に置かれていた甘味処・小豆あらいの袋をつまみあげる。

>ぼとぼとと蟻が床に落ちていく……


鳴上「このっ……」


>部屋にいる蟻を外に追い出そうと躍起になり……

>その勢いで誤って持っていた袋まで外へ落としてしまった。


鳴上「あっ……」

鳴上「……」


>地面に落ち、ぐちゃりと潰れたバナナ大福に蟻の群が一層集っているのが、目に映っていた……


終わります。

また次回。おやすみ。

>……


>アイギスから美鶴がわざわざ診察の予約をしてくれたという病院の場所を聞き、一応学校へ行く準備も整えてから向かう事にした。

>外に落としてしまった大福とその包みは寮を出た際に回収したのだが……

>あれだけ多く集っていた蟻たちの姿はもう何処にもなく、周りに蟻の巣があるような気配もなかった。

>いったい何処からあの蟻は部屋に侵入してきたのだろう……


鳴上(……せっかく貰ったのに、ごめん)


>心に痛みを覚えながらも仕方なく、拾った大福を包みごと街のゴミ箱の中に捨てた。

>……

>病院に向かう途中、携帯を見てみるとメールが届いている事に気が付いた。

>二件受信していて、どちらとも寝てしまった後に届いたもののようだ。

>一件目のメールを開いた。



from:久慈川りせ

悠センパイこんばんは。

また変な事件?事故?病気?がそっちで起こってるってテレビで見たよ!

センパイは大丈夫…だと思いたいけど、いつセンパイの顔と名前がニュースで出たりしないか不安でたまんないよ→(;_;)

また仕事でそっち方面行くかもしれないから、その時にでもセンパイの元気な顔みて安心したいなあ('_')

せめて元気な声だけでもいいから聞きたい!

暇な時にでも電話しよ→ね(>_<)

じゃあ、また近いうちにね(^_^)/

愛しのりせち→より



>メールにはデコレーションされたりせの写真も添付されていた。

>着ているのは仕事でのものだろうか……普段着にしては露出度が高めで、メイクも派手のような気がする。

>写真の感想を入れるべきなのか悩みながらも、りせに返事を送ってから二件目のメールを読んでみる事にした。


鳴上「……ん? これ、誰からだ?」


>どうやら登録されていないアドレスから送られてきているようだ。

>しかも添付データがくっついている……


鳴上「知らないアドレスから添付データつきのメール……って、まさか!」


>藤堂が持っていたあのゲームがまさか送られてきたのだろうか……!

>急いでメールを開いた。



from:

ヤッホー少しは元気になったかなー?

それともまだ不調?

そんな悠には元気になっちゃう写メをはっしーん♪

結構似合ってるでしょ?(*^_^*)



鳴上「……」

鳴上「どうやら違いそうだな」

鳴上「というか、本当に誰だ……」


>添付されているのは文面通り写真のデータのようだ。

>多少ガッカリした気持ちを覚えながら、気構える事もなくそのデータを開いてみた。



鳴上「!?」

鳴上「これは……キ、キミコ!?」

鳴上「なんていう恰好だ……」


>写真の中のキミコは男心をくすぐる挑発的な服装をしていた。

>まず肌の露出がさっき見たりせの写真とは比べものにならないほどに多かった。

>ぱっと見はビキニの水着を着ているように見えるが、それにしてもその布地の面積はあまりにも狭く、俗に言うハイレグカットと呼ばれるデザインである事がうかがえる。

>そのくせ、二の腕まである手袋にオーバーニーソックスと隠している部分はとことん隠していて……

>デザインの揃ったカチューシャと首輪もアクセントとしては十分だ。

>その大胆さがけして下品になっていないのは、全体的なカラーが白基調である事と彼女の持つ健康的な色気によって上手くバランスが保たれているからだろう。

>まさに奇跡の一枚と言えなくもない写真だ。


鳴上「……この写真は保存しておくにしても」

鳴上「いつの間にメアドまで知られていたんだ?」

鳴上「……」

鳴上「大福の事、謝った方がいいよな」


>キミコに返信しようかどうするか迷っている間に、目的地である病院に辿り着いてしまった。


鳴上「……また後で考えよう」


>……


>診察の結果は、少し熱っぽかった事もあり風邪と診断された。

>寝不足の事についても少し話してみたが、医師の話によるとここ数日でそういう男性の患者が増えているという事らしい。

>一晩の内に変死体が出来上がる事件が発生して以降からなので、皆そのニュースを聞いた事により無意識に不安やストレスが溜まってそのような状態になっているのかもしれない……というのが、医師の見解のようだ。

>安静に、とは言われたが寮に戻って部屋に籠もっていても余計ストレスが溜まりそうな気がする。

>やっぱりこのまま学校へ行く事にした。

>……



辰巳ポートアイランド駅前


鳴上「……あれ?」

順平「ん? おー、鳴上か。こんな時間にこんな場所にいるって事は、遅刻か? サボリか?」

鳴上「遅刻の方です。病院に行ってたので」

順平「病院? そういやお前、なんか顔色悪いな」


>そういう順平の方も目の下にクマが出来ていて、あまり顔色がよくないように見える。


順平「実は俺もこれから病院。って言っても、ただの見舞いだけどな。それから帰る予定」

鳴上「誰のお見舞いですか?」

順平「……チドリだよ。また入院しちまってさ」

鳴上「えっ、チドリが!? しかも、またって……」


順平「あれ? チドリから聞いてなかったのか? 前に鳴上から渡された手紙に書いてあったのって、その事についてだったんだけど」

鳴上(だからしばらく来れないって言ってたのか……)

順平「結構そういうの多いんだけどさ、アイツ。体あんま丈夫じゃねーんだ」

順平「だから入退院と検査を繰り返してんだけど……」

順平「……今回の事は俺が原因。チドリとの約束守れなくて、ストレスかけちまったせいだ」

順平「俺さ、本当はGW中にチドリに会いにくる予定だったんだ。前にこっち来た時、一緒に遊ぼうってそう言ってさ」

順平「でも急に外せない用事が入っちまって……」

順平「チドリに連絡したかったけど、アイツ携帯嫌いで持ってないしどうしようもなくて」

順平「……きっと、ずっとここで朝から晩まで待ってたんだろうなあ」


>順平は帽子を深く被り直して表情を隠そうとしている。


順平「なんとか事情はわかってもらえたけど、今のままの状態ってやっぱまずいんかな……」

鳴上「……あの、順平さんにとってチドリって」

順平「一番大切にしたい人」

順平「なんてカッコよく言ってもさあ……信じてもらえねえか」


順平「実際出来てねーし、そんな風に」

鳴上「でも、チドリにこうやって会いに来てるじゃないですか」

鳴上「誰か一人を大切にして守りたいって思うだけでも素敵な事だと思います」

鳴上「俺にはそういう特定の人って……いないから。羨ましいっていうか」

順平「……思ってるだけじゃあ、な」

順平「でも、気使ってくれてありがとな。改めてチドリとの事、考えてみる気になったわ」


>順平はやっと笑顔を見せてくれた。

>順平の事が、少しわかったような気がする……



>『Ⅰ 魔術師 伊織順平』のランクが3になった



鳴上「あの俺も一緒にお見舞いに……いえ、チドリが入院している病院と病室教えてもらってもいいですか?」

順平「ん、ああ。辰巳記念病院の、208号室だぜ」

順平「鳴上が行ってやったら、きっと喜ぶぜ。顔には出さないかもしんねーけどさ」

順平「じゃ、もう行くな」


>順平と別れて学校へ向かった。

>……


【昼休み】


月光館学園 3-A 教室


メティス「鳴上さん!」

ラビリス「えっ、悠!?」

メティス「病院に行ったんじゃ……」

鳴上「ああ、行ってきたよ。風邪だってさ」

ラビリス「だったら大人しく帰って寝てればいいやろ!」

鳴上「いや、なんか、寮にいたら気が滅入りそうで」

メティス「……。熱が少しあるようですね」

鳴上「このくらいなんともないって。薬もらってきたしさ」

メティス「……」

メティス「まったく、貴方という人は……」

メティス「昼食をとったらきちんと飲んでくださいね?」

ラビリス「せや。そうするまで、ウチら見張ってるからな?」

鳴上「わかった、わかったって!」


>二人にもだいぶ心配をさせてしまっていたようだ……


鳴上「その前に、先生のところに顔出してくるから」

メティス「あ、そうですね。先生には今日鳴上さんは欠席すると伝えてしまいましたから……」

ラビリス「ウチらもついて行こか?」

鳴上「小さな子供じゃないんだから、それくらい平気だ」


>職員室へ行く事にした。

>……


渡り廊下


>職員室を訪ねたら姿が無かったので、またあの花壇にいるのではと思いやってきた。

>予想の通り、花壇の世話をしている橿原の姿を発見した。


鳴上「先生」

淳「鳴上くん? あれ、今日はお休みじゃ……」

鳴上「病院に行ってからそのまま学校に来ました」

淳「大丈夫? 今日は土曜だから次の授業で終わりだし、帰って安静にしてた方が」

鳴上「いえ、学校にいた方が元気になれそうな気がするんで」

淳「そう? ならいいんだけどね」

淳「最近、ずっと調子悪そうに見えてたから心配だったんだ。昨日も保健室に行ってたみたいだし。この間の進路の話でストレス感じたのかな……とかね」

鳴上「それもまあ、あったのかもしれませんけど。でも、……ただの風邪ですから。大丈夫です」

淳「……。そっか。あまり無理はしないようにね?」

淳「クラスの子みたいに、ずっと入院するような事にならないように……ね」

鳴上「そういえば、まだ退院出来ていないんですか?」

淳「うん……」


鳴上(目を覚まさなくなって徐々に衰弱してるって話だったよな)

鳴上(もしかして、今起きてる事件と関係が? いや、それにしては症状が少し異なってるよな……)

淳「鳴上くんだけじゃなくて、他のクラスや学年にも体調がよくないって子が最近多いみたいなんだよね」

淳「風邪が流行ってるのかな。それとも……」

淳「……」

鳴上「先生?」

淳「あっ、いや、ごめん。なんでもないんだ!」

淳「何かあるとついネガティブに変な方向へ考える悪い癖があってね。あはは……」

淳「えっと……明日は休みだし、鳴上くんも早く風邪治してね」


>橿原は気をかけてくれているようだ……



>『Ⅹ 運命 橿原淳』のランクが4になった


淳「……あ。もう少しでお昼休みも終わるみたいだね」

鳴上「やばっ……俺、昼まだなんでこれで失礼します!」


>橿原に頭を下げて、急いで教室に戻った。
>……


【放課後】


>授業が終わり、教室の生徒達はそのまま帰宅したり部活へ向かったりして散り散りになった。

>ラビリスは生徒会の方へ、メティスはアルバイトがあるからとそれぞれ教室を出て行ってしまった。

>二人からあまり寄り道をせずに真っ直ぐ帰るようにと釘を刺されたが……さて、どうしよう?


男子A「鳴上ー、放課後ひまかー?」

鳴上「ん? ああ、まあ暇だな」

男子A「だったらさ、一緒にゲーセンに遊び行かねー?」

鳴上「ゲーセン……」

鳴上(……ラプンツェル、だったか。どんなゲームかやっぱり気になるしな)

鳴上「ああ、いいぞ。行くならポロニアンモールのところのゲーセンにしよう」

男子A「お、わかってんじゃん! ていうより、もしかして鳴上もあのゲームハマってたりとか?」

鳴上「え?」

男子A「ほらー、ネットなんかで話題になってるラプンツェルとかってやつ」

男子A「俺やった事ないからさ、一度くらい遊んでみようかなって思って。でも、この辺だとあそこのゲーセンしか置いてないんだよね」

男子A「しかも古いゲームだから一台しかなくて何時も順番待ちの列が出来てるって話だぜー?」

男子A「どんだけ面白いんだよって話じゃね?」

鳴上「へえ……」

鳴上(そこまで流行ってたのか)

男子A「とにかく行ってみようぜ!」

鳴上「ああ」


>……


ポロニアンモール

ゲームセンター ゲームパニック


>話に出ていたゲームは、ゲームセンターの中の一番奥の目立たない場所に置かれてあった。

>しかし、クラスメイトが話していた通り、人が並んでいるのが見えたのですぐにみつける事が出来た。

>今は四人ほど順番待ちがいるようだ。

>並んでいるのはいずれも若い男で、その中には月光館学園の制服を着ている同じ学校の者もいる。


男子A「で、結局鳴上はこのゲームやった事あんの?」

鳴上「いや。話に聞いて少し気になってただけだ」

男子A「俺と一緒かー」

鳴上「どんなゲームなんだ?」

男子A「パズルゲームだって話だけど」

鳴上(パズルゲーム? 確かに、ハマる人はとことんハマりそうなジャンルではある……のか?)

男子A「あ、俺たちの番きたぜー」

鳴上「お先にどうぞ」

男子A「いいのか? サンキュー」

鳴上(まずはどんなゲームなのかよく観察してみよう)


>クラスメイトがプレイする様子をじっくりと窺う事にした。

>……


>『ラプンツェル』の内容は、王子が魔女に捕らえられている姫・ラプンツェルを救いに塔を登っていくという、非常に単純でよくあるストーリーであった。

>塔を登るというのが、肝心のゲーム部分にあたるパズルになっている訳なのだが……

>残機は3あり、決められた手数以内でブロックを押したり引き出したりして足場を作り、塔の上にいるラプンツェルのところへ行ければクリア。

>ステージをクリアした時の残り手数と取得したアイテムによって点数が加算されていくが、落ちたり潰されたり手数がなくなったりして残機が減った時点で0に戻ってしまうので注意が必要だ。

>そうして合計で64あるステージを突破すればED……という感じのゲームのようだ。

>それだけの数のステージをクリアするのも骨が折れそうだが、点数まで気にしていたら結構頭を使いそうなゲームだ。

>しかし、何故だかさっきから妙なデジャヴを感じる……

>何処かで見た、いや

>やった事があるような……?


男子A「わー! ダメだ! ステージ5までしか行けなかったぜー……」

男子A「ほら、次。鳴上の番だぜ」

鳴上「……」


>コインを入れて、ゲームをスタートした。

>……


男子A「お、おおっ!? 結構イイ感じじゃね?」

鳴上「……」


>……


男子A「だいぶ進んだなー」

鳴上「……」

鳴上「体が軽い……」

鳴上「こんな幸せな気持ちで登るなんてはじめて。もう何も、」

鳴上「あ、落ちた」

男子A「あー!? 何やってんだよー!」


>ちょっとしたミスで操作していた王子は足場から落ちていってしまい、ゲームオーバーになってしまった。

>ステージ20まで進んだが、ランキングにあるスコアにはほど遠いようだ。


男子A「あー、これか。噂になってるのって」

鳴上「……あ」


>ゲームオーバー後に映ったランキングの画面の1st 2ndの後に続く名前が同じなのを見てパオフゥが言っていた事を改めて思い出した。


鳴上「伝説の男……『VIN』?」

男子A「そーそー! 詳しい話は知らねーけど、凄い人なんだってなー」

男子A「最近じゃある事ない事いろいろ言われてるみたいだけど……っと、後がつかえてるから行こうぜ!」


>クラスメイトに引っ張られてゲームセンターを出た。

>……


男子A「……しっかしなあ、想像してたよりあんま楽しくなかったな、あのゲーム」

鳴上「そうか? 俺は割とイケるというかなんというか……」

男子A「マジで? そういえば超真剣だったな。目が血走ってたっつーか」

鳴上「……」


>正直な話、三分の一程度しか進めなかったのは非常に悔しい……

>しかし実際に自分で遊んでみても思ったが、やはりあのパズルを解く感じは何処かでやった事があるような気がした。

>いったい何処で……


男子A「悪い鳴上! 俺、バイトがあるからもう行くわ!」

鳴上「ああ、うん。また学校で」

男子A「またなー!」


>クラスメイトは手を振って去っていった。


鳴上「さて、これからどうしよう」

「……鳴上か?」

鳴上「?」


>今度は誰だ……?


ヴィンセント「やっぱりそうだ。こんな時間に会うのは初めてじゃないか?」

鳴上「あ、どうも。こんにちは」

鳴上「ヴィンセントさんはまたあのクラブに飲みにでも?」

ヴィンセント「いや、昼間からはさすがにちょっと……。いくら酒は置いてないっていってもな」

ヴィンセント「仕事が休みだったから、ちょっとこの辺ぶらついてただけだよ」


ヴィンセント「鳴上は買い物か?」

鳴上「ゲームセンターに遊びに行ってたんですよ。最近流行のゲームがあるとかで、それを試しにやりに」

ヴィンセント「もしかして、ラプンツェルのことか?」

鳴上「ヴィンセントさんも知ってるんですか、あれ」

ヴィンセント「まあな。昔は俺もダチと一緒によくアレで遊んだもんさ。また流行ってるのか」

鳴上「結構難しいですよね。途中までしか行けなかったんで、いつかEDまでいけたらいいけど……」

ヴィンセント「……お前はあのゲームにハマったクチか」

鳴上「え? まあ、そうなる……のかな? 続きも気になるし」

ヴィンセント「ふうん……」

ヴィンセント「ところで、さっきから気になってたけど、お前さ」

ヴィンセント「……」

鳴上「?」

ヴィンセント「……いや、ちょっとそこで待ってろ」


>そう言ってヴィンセントは近くにある薬局へと入っていった。

>数分後……


ヴィンセント「……ヒットポイントかいふくするなら~♪」

鳴上「なんですか? その歌」

ヴィンセント「え? あー、さっきそこの店に入った時、音痴……いや、味のある鼻歌声でこんな曲歌ってるヤツがいてさ。うつった」

ヴィンセント「……そんな事より、ほらよ」

鳴上「え? わっ……!」


>何かを投げ渡され、それを慌てて受け取った。


鳴上「栄養ドリンク?」

ヴィンセント「なんか冴えない顔してっからさ」

ヴィンセント「昨日の夜顔見せなかったのも、具合悪かったからか?」

鳴上「……そんなところです」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「そのやつれた感じとか……もしかしてお前……」

ヴィンセント「いや、滅多な事は言うもんじゃねえよな」


>ヴィンセントはひとりで何かぶつぶつと呟いている。


ヴィンセント「……まあ、あれだ。俺も話し相手がいねーと、寂しいからさ」

ヴィンセント「元気が出たらまた来いよ。……って、夜中にあんな店に誘う大人もどうかしてんな」

ヴィンセント「お大事に」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「……きずぐすり~と、ほうぎょくで~♪ ……あ、やべ、頭から離れねぇ……」



>手を振ってヴィンセントはゲームセンターの中へと入っていってしまった。



>『ⅩⅤ 悪魔 ヴィンセント』のランクが4になった



鳴上「……」

鳴上「……おとなしく帰るか」


>駅へ向かう事にした。

>……





青ひげファーマシー


店主「まいどー」

藤堂「~♪」

藤堂「いつも~たたかうみんなのみかた~ぼくらのまち~のおくすりや・さ・ん~♪」


>……


巌戸台駅前


「ゆー」

鳴上「!」

鳴上(この声、この気配は……!)

「うー!」

鳴上「――ハッ!」

「きゃっ!?」


>背後から迫ってきた人物を避けるよう咄嗟に体を動かした。

>そのせいで、その人物は前のめりに転んでしまったようだ。


鳴上「やっぱりお前か、キミコ」

キミコ「ひどーい! わかっててよけたあ!」

鳴上「すまない、つい」

キミコ「むー……」

キミコ「元気になったのかすごく心配してたのに……メールの返事もくれないしさ」

鳴上「!」

鳴上(そういえばそうだった……忘れてた)

鳴上「わ、悪かったって。えっと……お詫びにまた大福でもご馳走するから」

キミコ「ホント!? やったあ♪ あ、そういえばバナナ大福どうだった? 美味しかったでしょ」

鳴上「あー……それは……」

鳴上(その味を今確かめに行きたいとは言えない……)

キミコ「よっし、今日は私もお腹いっぱいバナナ大福食べてやるんだから!」

鳴上「わっ、コラ、引っ張るな……!」


>キミコに腕を引かれながら甘味処 小豆あらいまで向かった。

>……


甘味処 小豆あらい


キミコ「いっただっきまーす」


>キミコは、並んだバナナ大福の山を幸せそうにしながら口の中に入れている。


鳴上「ひとりでそんなに食べられるのか?」

キミコ「何言ってるの? 悠だって食べるんでしょ?」

鳴上「それはそうだけど」

鳴上(にしても多すぎる気が……)

キミコ「はい、あーん」


>キミコはバナナ大福を食べさせようと顔の前まで差し出してきた。


鳴上「いや、自分で食べられるから」

キミコ「あーん」

鳴上「あの、だから」

キミコ「あーん」

鳴上「……」

キミコ「あー……」

鳴上「……わかったよ。食べればいいんだろ……」

キミコ「♪」


>キミコに食べさせてもらうような形で、バナナ大福を口の中に入れた。

>周りに殆ど客がいなくて助かった……


鳴上「……」

キミコ「ふふっ、こうしてるとカレシカノジョみたいだね!」

鳴上「いや、それは流石にどうかと」

キミコ「悠ってさ、クールに見えて実は結構恥ずかしがり屋さんでしょ?」

キミコ「それでいて夜はとても大胆だし……」

鳴上「いちいちそういう話に持って行こうとするな」

キミコ「あははっ」


>キミコは無邪気に笑っている。


鳴上「……」

鳴上「なあ、キミコはどうして俺に構ってくるんだ?」

キミコ「どうしてって」

キミコ「好きだからだよ?」

鳴上「……でも、そう感じる理由が、その」

鳴上「一夜の過ちが原因……だとしたら」

鳴上「正直どうしたらいいのかわからないんだ」

鳴上「俺、あの夜の事本当に何故か記憶になくて。だからって言い逃れする気はないんだけど」

鳴上「ないんだ、けど」

鳴上「……」

鳴上「ごめん」

鳴上(謝って済む事じゃないよな……)

キミコ「どうして謝るの?」

キミコ「私が聞きたいのはそんな言葉じゃないのにな」

鳴上「でも……」

キミコ「ねえ。悠は私の事、好き? 嫌い?」

キミコ「どっち?」

鳴上「えっ。どっち、と聞かれても」

鳴上「……嫌いではない、としか」

キミコ「じゃあ、好きなんだね! やった!」

鳴上「いや、それは」

鳴上「……それは多分、キミコが俺に思っている好きとは違う」

キミコ「いいじゃない。そうだって別に」

鳴上「え?」

キミコ「今はそうでも私は構わないよ? ……今は、ね?」

キミコ「私たち、まだお互いの事知らなさすぎでしょ?」

キミコ「だからこれから改めてゆっくり始めたっていいんじゃないかな」

キミコ「私たちの関係」

鳴上「……!」


>向かいあって座っていた筈のキミコは、いつの間にか隣に座っていた。


キミコ「――それで最終的に責任とってくれるなら、それ以上の事はないけどね?」

鳴上「っ……」


>ニコリと笑うキミコを見て、何故だか背筋が冷たくなるのを感じた……


キミコ「あ、何か落ちたよ?」

鳴上「……え?」


>キミコが指さす方を見ると、ポケットに入れていた筈の特別課外活動部の腕章がそこに落ちているのが目に入った。

>素早くそれを回収した。


キミコ「それなに?」

鳴上「委員会……いや、部活の会員の証? みたいなものかな」

キミコ「ふーん」

鳴上「無くしたら大変なところだった。教えてくれてありが……」

キミコ「ねえ」

キミコ「あの夜の事、本当に覚えてないの?」

鳴上「……?」

鳴上(どうしたんだ、また急に……)

キミコ「だったら私が教えてあげる」

鳴上「!」

キミコ「悠はね、あの夜……クラブでひとりだったの」

キミコ「ひとりぼっちだったの」

鳴上「……」

キミコ「それでね、なんだか顔色悪くして、凄く疲れてた」

キミコ「どうかしたの? って聞いたら」

キミコ「長い間だんまりした後にね、……言ったの」

キミコ「どうしたいんだろう。……って」

鳴上「っ――!?」

鳴上「何の、事だ? 何が……?」

鳴上「……言ってる事が、意味が、……わからない」

キミコ「それこそ私にもわからないなあ」


>キミコはくすくすと小さく笑い声を上げている。


キミコ「でもね、その時ふと感じたの……悠はね、何か抱えてるんじゃないのかなって。それに潰されそうになってるんじゃないのかなって……ね?」

キミコ「それが何かまではわからないよ? ひとつだけじゃないのかもしれないし、小さな事が積み重なって大きな重石になってるのかもしれない」

キミコ「……そもそも、それに悠自身が気付いてないのかもね? だから余計、重い枷になってるってのもあり得るよね?」

鳴上「何が、言いたいんだ……何が目的でそんな、意味のわからない、デタラメをっ……」

キミコ「悠は言いたい事、ないの?」

キミコ「誰かに訴えたい事や、ぶつけたい怒りとか、不安とか、衝動とか」

キミコ「――ずっと奥底に押しつけておく気なの?」

キミコ「それって疲れない? 疲れるよね?」

キミコ「だって悠は頑張ってるもん。無駄なほどにね?」


キミコ「私は悠のそのどうしようもないものの捌け口になってあげたいだけなんだよ?」

キミコ「……わかるよね?」

鳴上「……」

キミコ「ふふふ……じゃあ、また近いうちに会おうね?」


>キミコは店から静かに出ていった。


鳴上「……」

鳴上「……わかるか、だって?」

鳴上「そんなもの……」

鳴上「っ……」

店員「お客様、ご注文はお決まりになりましたか?」

店員「……あら? お客様?」


>店を飛び出し、腕章を固く握り締めながら走って寮に向かった……


終わります。

また次回。

番長マミろうとすんなwwwwww

>外はただの曇り空から一変、ひどい土砂降りになっていた。

>傘を持っていなかった為その雨を一身に受ける事になったが、そんな事など今は気にも止まらなかった。

>さっきからずっとキミコから言われた言葉が色々と断片的に頭の中で反芻している。

>それに激しい雨音が混ざってひどく不愉快だった……

>……


学生寮 ラウンジ


アイギス「おかえりなさ……鳴上さん!?」

アイギス「ずぶ濡れじゃないですか! ちょっと待ってください。今タオルを……」


>アイギスは急いでタオルを持ってきてくれて、頭に被せて拭いてくれた。


アイギス「お風呂に入った方が良さそうですね。これ以上体が冷えたら、具合が悪化してしまいます」

アイギス「一度部屋に戻って、……鳴上さん?」

鳴上「……」

鳴上「……着替え取ってきます。風呂の準備、お願いしていいですか?」

アイギス「……あ、はい」

鳴上「頼みました」

アイギス「……」

アイギス「鳴上さん……?」


>……


自室


>風呂を浴びて体も温まり、落ち着きを取り戻した。

>……今の内に薬を飲んで仮眠しよう。

>今夜は出来ればまたパオフゥと話して例のゲームについての報告をしたいし、クラブにいるならヴィンセントと話もしたい。

>それまでに少しでも体力と気力を回復させておかねば。

>そして何より、さっきあった事についてもう何も考えたくなかった。

>キミコ……彼女は一体何者なのだろう。

>……

>……?


鳴上(考えたくないって……何でそう思うんだろう)


>……

>それを考える事自体がもう面倒だった。

>……寝よう。

>……



【夜】


コンコン


鳴上「……ん?」


>何かの音を聞いて目が覚めた。


コンコン


>どうやら誰かが扉をノックしているようだ。


アイギス「鳴上さん。おやすみだったらごめんなさい。起きていらっしゃいますか?」

鳴上「ちょっと待ってください。今、開けます」


>ベッドから起きあがって部屋の扉を開いた。


アイギス「調子の方はどうですか? お腹空いてないかと思ってお粥を作ってきたのですが……」

鳴上「……あ、すみません。わざわざありがとうございます」


アイギス「いえ。インスタントのものですし」


>アイギスからお粥と水の入ったコップが置かれたトレイを受け取った。


アイギス「顔色は少し良くなったみたいですね。熱もないようです」

アイギス「……。あの、鳴上さん」

鳴上「はい?」

アイギス「……」


>アイギスは何か言いたそうにしているが、黙り込んでしまった。


鳴上「アイギスさん?」

アイギス「……いえ、その」

アイギス「……! そ、そうです、明日!」

鳴上「え、明日?」

アイギス「はい。明日、メティスとラビリス姉さんとで買い物に行く予定なのですが、良かったら鳴上さんもどうですか?」

鳴上「俺も一緒に?」

アイギス「ええ。もちろん、体の具合が良ければの話になりますけど」

鳴上「明日の予定は特に決めてなかったからそれは構わないですけど……いいんですか? 俺なんかがついていって」

アイギス「三人で遊びに行こうって話をした時、鳴上さんも誘おうかという流れになったので、貴方も一緒ならメティスも姉さんも喜びますよ」

鳴上「そう、ですか? じゃあ、お誘いに乗ろうかな。荷物持ちくらいの役には立てると思うし」

アイギス「本当ですか? 良かったです」

アイギス「それじゃあ、これで失礼しますね。お大事にしてください。明日、楽しみにしていますから」


>アイギスは嬉しそうに微笑んでいる。

>アイギスとの仲が少し深まった気がした。



>『Ⅶ 戦車 アイギス』のランクが3になった



>……せっかく食事も貰った事だ。

>冷めないうちに食べてしまおう。

>……


>食事を済ませヴィンセントから貰った栄養ドリンクを飲んでから、PCを点けてニュースをチェックした。

>……

>謎の衰弱死事件は止まる気配はないようだ……

>被害者の共通項として上がっているのはいずれも男性であり、近頃寝不足を訴えていた者が多いという事らしいが……


鳴上(寝不足の、男性……)


>嫌な予感は止まらない……

>そもそも、自分が寝不足である原因になっている毎夜見る夢。

>おそらく同じ夢を繰り返し見ていると思うのだが、それなのに何故はっきりと覚えていないのだろう。


鳴上(……俺の精神的な問題が夢に反映してる、とか?)

鳴上(だとしたら、その精神的な問題って具体的には……)

鳴上(……)


ピロン♪


鳴上「――ッ!?」


>突然音が鳴ってかなり驚いてしまった。

>昨夜と同じく、メッセンジャーからパオフゥが呼びかけているようだ。

>ちょうどいい。今日の事を彼に報告しよう。


番長:こんばんは。

番長:いいタイミングでした。パオフゥさんに、例のラプンツェルについての話をしようと思ってたところです。

番長:今日、さっそく遊んできたので。

パオフゥ:おお、そうか

パオフゥ:そいつはありがたい。で、やってみた感想は?



鳴上「……」


>少し考えてから、キーボードに文字を打ち込んだ。


番長:古いゲームにしてはジャンルがパズルだからかなかなか頭を使うし難しいゲームだと思いました。

番長:でも、遊んでいて夢中になってしまいましたし、またやってみたいですね。

番長:EDも見てみたいし。


>パオフゥの反応がしばしの間止まった。


パオフゥ:そうか、お前はあのゲームに熱中した方か

番長:はい、そうです。

番長:一緒にプレイしに行った人はそんなに面白くないって言ってましたけどね。

パオフゥ:なるほど

パオフゥ:実は俺も一回だけ試しに遊んでみた事があるんだが

パオフゥ:感想は番長の連れの方と一緒だ

番長:やっぱり感じ方は人それぞれですね。

パオフゥ:それにしても、だ

パオフゥ:俺はこのゲームに関してだけは、その感想が極端に別れている気がする



鳴上「……?」


パオフゥ:中毒的にハマるというか必死にプレイするヤツと、どうでもいいってヤツとの差が激しいんだよ

パオフゥ:しかも、その中間の感想を述べるヤツも滅多にいない

パオフゥ:それを踏まえてひとつお前に聞きたい事がある

パオフゥ:変な事を聞いていると思うかもしれないが、正直に答えてくれ

番長:はい。なんでしょう?

パオフゥ:お前、最近睡眠に関する不安を抱えていたり

パオフゥ:いや、眠るという事自体に不安を覚えていたりしないか?



鳴上「――!?」


>何故彼にそんな事がわかるのだろう……

>指先が僅かに震えているのを感じながら、キーボードを叩いた。



番長:確かに最近寝不足だったりしますね…。

番長:寝ても寝た感じがしないというか。


>……

>パオフゥからの応答がなかなか帰ってこない……



パオフゥ:お前も今までのヤツらと一緒という事か

番長:今までのヤツらというのは?

番長:どうしてこんな事を聞いてくるんですか?

パオフゥ:今まで俺は、ラプンツェルをやった何人も人間の感想をネットで見たりこんな風に聞いたりしてきた

パオフゥ:その結果わかった事は

パオフゥ:ラプンツェルにハマっているのほぼ男だという事と

パオフゥ:その中で、最近変な夢を見るせいで安眠出来ていない者が非常に多いらしいという事だ

パオフゥ:ついでに、初めてプレイした筈なのにそうは感じなかったって言っているのも多かった

パオフゥ:番長はその辺どうだ?


鳴上「っ……」

鳴上「俺と同じ人間が何人もいる……?」



パオフゥ:初めはただの偶然だと思っていたが

パオフゥ:そう主張する連中は日が経つに連れて急激に増えている

パオフゥ:そして、これは少し言いにくい事ではあるが

パオフゥ:そう言っていた何人もの人間と今、連絡がとれなくなってきている

パオフゥ:お前はこの自体をどう思う?



鳴上「……いや。そんなの考えすぎ……じゃ……」

鳴上「まさか、そんな……」



番長:ニュースで上がっている衰弱死は、睡眠不足を訴える男性に多いと言っていました。

番長:まさか、それに関係しているとでも?

パオフゥ:かもしれねえと、俺は思う

番長:仮にそうだとしたら、もしかしてラプンツェルに熱中するとそうなった人間が寝不足になって

番長:何かの拍子に衰弱死してしまうとか?

番長:でも俺は、あのゲームをやるまえから寝不足に悩まされていましたよ?

パオフゥ:となると、寝不足に悩まされているからこそあのゲームにハマるという事か?


鳴上「どういう事だ……」

鳴上「どっちにせよ、あのゲームも死因に関わりがあるのだろうか?」

鳴上「いや……そもそも、噂では夢の中で落ちた時に目が覚めないと死んでしまうって話だったよな」

鳴上「それがあの衰弱死の原因かもって。医学的な根拠なんかはない訳だけど」

鳴上「でもその落ちるというのが、あのゲームのような状況で……だとしたら?」

鳴上「そうだとしとも、夢の中の出来事が現実に反映するなんて、なんでそんな事が」

鳴上「ッ……!」


>頭に急な激痛が走った。

>……何か、少し思い出せたような気がする。


鳴上「……やっぱり俺も見ているのか?」

鳴上「落ちると死ぬ夢を……」


パオフゥ:あのゲームについてはもう少し調べる価値がありそうだな

パオフゥ:さて、その話はひとまず置くとして

パオフゥ:事件について調べてわかった事がもうひとつある



鳴上「!」



パオフゥ:実はこの事件、三年前だけでなく定期的に何度か起こっていた事のようだ

パオフゥ:これしきの情報調べるのに時間がかかるとはな……思いもよらなかったぜ

番長:定期的にというと前回が三年前だから、三年ごとって感じですか?

パオフゥ:いや

パオフゥ:三年前までは百年ごとに似たような事件が起こっていたみたいだな



鳴上「百年? また随分と時間が空いてるな」



パオフゥ:つまり、三年前がその百年目にあたっていた訳だが、今回は何故かたった三年しか経たないうちに、また事件が起きているってこった

パオフゥ:それが一体何を意味しているのか……それは調べを進めない事にはわからないが

パオフゥ:もしかしたら、その百年ごとに起きていた事とは似たようで違う事が起きているという可能性もある、と思う

パオフゥ:とまあ、現在調べがついているのはこんな事くらいまでだ

番長:ありがとうございます

番長:こちらも色々考える事が出来ました

パオフゥ:今日はもうこれで落ちるが

パオフゥ:気をつけろよ

パオフゥ:何がどう、とは言えねえが

パオフゥ:お前まで連絡がとれなくなるような事にならないよう祈ってる

パオフゥ:じゃあな


>パオフゥはオフライン状態になった。

>パオフゥからまた新たに情報を入手した。



>『Ⅸ 隠者 パオフゥ』のランクが6になった



>メッセンジャーから退席して、PCの電源を落とした。


鳴上「情報はぽつぽつと揃ってはきたけど、まだ足りない気がする」

鳴上「もっと聞けるところから些細な事でいいから聞いておかないとな」


>それに今は、言い表せない不安を誰かと話して紛らわせたい気分だ……


鳴上「……あの人のところへ行こう」


>さっきまで寝ていたおかげで眠気も感じてはいない。

>再び就寝するには早いだろう。

>雨はもうあがっているようだが……

>今の状態で寮にいる者に出かけるところを見かけられたら何を言われるかわからない。

>支度を済ませこっそりと寮を抜け出し、クラブエスカペイドを目指した。

>……


クラブ エスカペイド


>いつもの席に見知った後ろ姿をすぐに発見する事が出来た。

>肩を軽く叩き、隣の席へと座った。


鳴上「こんばんは」

ヴィンセント「お、来たか」

鳴上「昼間はありがとうございました」

ヴィンセント「いや、気にすんな。具合はもういいのか? 顔色の方は……あまり変わってねぇみたいだけど」

鳴上「ええ、まあ」

鳴上「中途半端に昼寝してしまって眠くないから少し遊びに来ちゃいました」

鳴上「ヴィンセントさんの話の続き気になるし、それに」

鳴上「……俺も少し、話したい事があるんで」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「どうした? 何か悩み事か?」

鳴上「あの、実は……」



メガネの女「ちょっとッ! これ、どういう事!? 説明しなさいよ!」

鳴上・ヴィンセント「!」


>話を切りだそうとしたところで、少し離れた所から女の叫び声がするのを耳にし、思わずそちらの方を振り返った。

>そこには、睨み合っている女が二人と、その間で狼狽えている一人の男がいた。


派手な女「説明してほしいのはこっちなんですけどぉ? なんであんたみたいな女がこんなところにいる訳?」

メガネの女「貴女には聞いてないのよ! 私は彼に聞いてるの!」

男「いや、あの、これはっ……」

メガネの女「ねえ! この女は一体何なの!? 誰なの!? 答えなさいよ!」

派手な女「もー、うっさいなあ。見てわかんないの? 私は彼のカノジョなんだけど? つーか、あんたこそ何?」

メガネの女「は、……はあ!? デタラメ言わないでよ。彼の恋人は私なのよ!? 離れなさいよ!」


>派手な女は男にぴったりとくっついたままメガネの女と睨み合うのをやめようとしない……

>周りの客はみんなその三人に注目しているようだ。


ヴィンセント「なんだあ? 痴話喧嘩か?」

鳴上(迂闊に間に割って入れなそうな雰囲気だ……)

店員「ちょ、ちょっとお客様! 落ち着いてください!」


>それでも勇敢に立ち向かっていったこの店員を今は褒めてやりたい……

>女達はなかなか引き下がる気配を見せなかったが、暫くしてから男が二人の女を連れて店から出ていき、この場は収まった。


ヴィンセント「最近の若い連中は元気だねぇ」

鳴上「あはは……あれは流石にちょっと」

鳴上「あの男の人、浮気でもしてたんですかね」

ヴィンセント「そんなとこなんじゃねえの?」

ヴィンセント「俺も似たような事になって苦労した事あるなあ……それも昔の話だけどさ」

鳴上「そういえば、その浮気を清算した後って……どうなったんですか?」

ヴィンセント「ん、ああ……色々と揉めはしたけど、結婚したよ。もちろん、前から付き合っていた彼女の方とさ」

鳴上「それはおめでとうございます」

ヴィンセント「どうも」


ヴィンセント「……今はさ、一歳になる娘もいる」

鳴上「へえ、じゃあもう可愛くて仕方ないんじゃないですか?」

ヴィンセント「……」

鳴上「?」


>ヴィンセントは黙ったままグラスを傾けている。


ヴィンセント「最近さ。その娘が、……似てきてる気がすんだよ」

鳴上「え? ……ヴィンセントさんにですか?」

ヴィンセント「はは、俺みたいなのに似てきたらそれはそれで悲劇だな」

ヴィンセント「そうじゃなくて……」

鳴上「あ、じゃあ奥さんの方か」

ヴィンセント「っ……」


>ヴィンセントの顔色が徐々に青くなっていく。


ヴィンセント「そうだったら……どれほど、いいか」

鳴上「え?」

ヴィンセント「……そんな事ないってわかってる。そんな筈はねえんだ。でもっ……」


>ヴィンセントは俯いてぶつぶつと呟いた後、グラスの中身を一気に喉に流し込んだ。


鳴上「だ、大丈夫ですか!?」

ヴィンセント「っ……すまねえ、なんでもないから」


>ヴィンセントは大きく息を吐き、顔をこちらに向けた。

>表情は無理矢理笑おうとしているように見える……


ヴィンセント「それより、鳴上の話がまだだったな。どうかしたのか?」

鳴上「あ」

鳴上「いえ、その……」

ヴィンセント「ん?」


鳴上「……」

鳴上「ヴィンセントさんなら、何かわかるかもって思うから話したいんですけど」

鳴上「俺、最近……妙な夢を見てて」

鳴上「何かから必死に逃げてるって感じなんですけど、でも起きたらはっきり詳しい内容を思い出す事が出来なくて」

ヴィンセント「!」

鳴上「毎晩その繰り返しで……もしかしたら」

鳴上「もしかしてそれって、……それが噂の落ちると死ぬ夢なのかって」

鳴上「……どう思いますか?」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「もう一杯、くれないか」

店員「かしこまりました」


>ヴィンセントは何時も飲んでいるドリンクを頼むと、それを差し出してきた。


ヴィンセント「飲め」

鳴上「……ありがとうございます」


>それを一気に喉へと流し込んで、一息ついた。


ヴィンセント「どうしてそう思うんだ? 落ちると死ぬ夢を見てるって」

鳴上「色々と自分で調べてみて……もしかしたらそうかもしれないと、ついさっき感じたんです」

ヴィンセント「なるほどね……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「実を言うと……だな」

ヴィンセント「俺も最近、そんな夢を見ている気がする……って言ったら信じるか?」

鳴上「!?」


ヴィンセント「でもさ、ちょっとおかしいんだよ」

ヴィンセント「あれは、前に見た夢と何か違う気がする……いや、違うのは夢じゃなくて……」

ヴィンセント「くそっ、わかんねえ……!」

鳴上「……?」

鳴上「前に、見た夢? それって……?」


pipipipipipi……


>携帯が鳴っている。


ヴィンセント「! 俺の携帯か。悪い、ちょっと」


>ヴィンセントは席を立って、静かな場所で電話に出た。

>……


ヴィンセント「……すまないな。今日はもう、帰らないといけなくなった」

鳴上「そう、ですか。いえ、いきなり変な話したりしてすみませんでした」

ヴィンセント「いいって」

ヴィンセント「その不安な気持ち、わかるからさ」

鳴上「……」

鳴上「あの」

ヴィンセント「話の続きはまた次回にしよう。俺は大体いつも同じ時間にいるからさ」


>ヴィンセントはこちらが飲んだドリンクの代金まで支払ってくれた。


ヴィンセント「……またここで会おう」

ヴィンセント「いや、もしかしたら」

ヴィンセント「夢の中で会えるかもな」

鳴上「……」

鳴上「はい」


ヴィンセント「ああ、そうだ。うっかりしてた」

鳴上「?」

ヴィンセント「お前も興味持ってたみたいだから、あのゲームの攻略にどうかと思って。ほら」


>ヴィンセントから古い携帯ゲーム機を貰った。


ヴィンセント「中にラプンツェルのゲームが入ってる。ゲーセンに置いてあるのとは内容が違ってるけどな」

鳴上「!」

ヴィンセント「やるよ」

鳴上「でも……」

ヴィンセント「いいからいいから。じゃあな」

鳴上「ありがとうございます!」


>ヴィンセントは手を振って、クラブの出入り口から出て行った。



>『ⅩⅤ 悪魔 ヴィンセント』のランクが5になった



鳴上(何かの手がかりになればいいけど……)

鳴上(純粋に楽しめるならそれもあり、か)

鳴上(……今夜はもう帰ろう)


>……


学生寮 ラウンジ



天田「……え? 鳴上さん?」

鳴上「! 天田……」

天田「部屋で休んでいたんじゃなかったんですか?」

鳴上「あ、ああ。ちょっと気分転換に……散歩に」

天田「そうなんですか。……見つかったのが僕で良かったですね。メティスさんとかだったら、きっと凄く怒られてたんじゃないですか?」

鳴上「はは、確かに……」

鳴上「でも、天田はなんでこんな時間にこんな場所に?」

天田「寝る前にホットミルクでも作って飲もうかな……って」

天田「よかったら、鳴上さんもどうですか?」

鳴上「そうだな……貰おうか」

天田「はい。じゃあ、用意してきますね」


>……


天田「おまたせしました」

鳴上「ありがとう」


>二人でカウンターの席に座ってホットミルクを飲んだ。

>甘くて体が温まる……


天田「……ふう」


>一息吐く天田の表情はどこか暗い。


鳴上「俺が言えた事じゃないけど、……元気がないみたいだな」

天田「元気がないというか……」

天田「ここのところ、寝付きがあまりよくなくて」

鳴上「……」

鳴上「そういえば天田、少し様子が変だったな」

鳴上「俺が見た夢の事を気にしたり」

天田「……」


鳴上「……ひょっとして天田も妙な夢を見た、……いや」

鳴上「見続けているのか?」

天田「っ……」

天田「や、やっぱり……鳴上さんも、なんですね?」

鳴上「ああ……」

天田「……」

鳴上「……」


>長い沈黙が続いた……

>隣にいる天田を見ると、肩が少し震えているのがわかった。


天田「どんな夢かははっきり覚えてないんですけど。いつも何かに追いかけられて、逃げ切って……」

天田「そういう夢を見て朝目覚める度に、次にあの夢を見たらもう二度と目が覚めないんじゃないかって……何故だかそんな気持ちになるんです」

天田「おかしいですよね。たかが、夢なのに」

鳴上「……落ち着け」


>天田の肩をぽんぽんと優しく叩いた。


天田「ありがとうございます。なんだかみっともないですね」

鳴上「俺だって……平気な訳じゃない」

天田「鳴上さん……」

天田「僕たち、どうしてそんな夢を見ているんでしょうかね」

天田「なにか、したのかな……」

鳴上「……」

天田「シャドウが関係してるのかなって思った事もあるんですけど……これは、そういうのじゃない気がします」

天田「だから美鶴さん達には相談出来なくて」


鳴上「そうだな。それは天田と同意見だ」

鳴上「現実で考えていても仕方ない」

鳴上「あの夢の中で決着をつけない限りは……」

天田「……そうなんですか、ね。やっぱり」

天田「うん。でも、鳴上さんに話したら滅入っていた気分が少しよくなりました」

天田「僕、負けませんよ。あんな夢なんかに」


>天田の表情が変わった。


鳴上「ああ。俺も、天田と話が出来て良かった」

鳴上「あ、そうだ。眠る前に、少しこのゲームをやってみないか?」

天田「? なんですか、これ」

鳴上「やってみればわかる。たぶんな」


>天田に、ヴィンセントから貰った携帯ゲーム機を渡した。


天田「それじゃあ失礼して」

天田「……ん」

天田「あ、あれ?」

天田「この感じ……なんだろ」

天田「……」


>天田はゲームに熱中しているようだ。


鳴上(天田も、か……)

鳴上「あ、そこは右から二番目のブロックを引っ張った方が早いんじゃないか?」

天田「そっか! じゃあ、ここを押してぶら下がって……」


>天田と一時を過ごした。



>『Ⅷ 正義 天田乾』のランクが3になった



>……

>だいぶ夜も更けてきた……

>キリのいいところで引き上げて、自室に戻る事にした。

>そろそろ行こう。

>あの、夢の中へ……


>…
>……
>………





死への秒読みが刻まれていく


止まることも止めることも、もう出来はしない――


Next→

――stage 6 Clock Tower


時計塔――




Night mare


第六階層 第一エリア


>カチコチと一定のリズムで針が動く音が聞こえる。

>そして遠くの方でゴーンという音が響いた。

>ゴール近くを知らせる鐘の音とは違う。

>どうやら上の方に大きな時計があるようだ。

>もっとも、ここからだと見上げてもその時計の姿を肉眼で確認する事は出来なかったのだが……


鳴上「また雰囲気が変わったな……」

鳴上「上の方、なんだか少し眩しい気がするし」

鳴上「光……か?」

鳴上「……あれを目指せばいいんだろうか」


>……


踊り場


>段々と仕掛けや置かれている石の構造が複雑になっていっている。

>一言でいってしまえば、殺す気十二分な作りなのある。

>当たり前といえば当たり前なのかもしれないが……

>今回は乗ると数秒後に爆発するという石が多く置かれている。

>移動するのが遅れれば、爆発に巻き込まれ脆くなった足場が崩れ落ちて真っ逆様だ。

>周りの羊たちと話し少し休んでから告解室に行く事にしよう。

>……今日は、代行人の様子はどうだろうか。

>……


告解室


鳴上「……」


>無言で腰を下ろした。


代行人「……よお」

鳴上「……」

代行人「なんだよ、どうした?」


>それはこっちの台詞だ。

>代行人は昨日の不機嫌が治っているかのようで、発する声からピリピリした嫌な気配を漂わせているような気がしていた。

>口調はなんでもないのに……何故だかそんな風に思った。

>理由はわからない……


代行人「……まあ、いいか」

代行人「さて、今夜の階層だが……ここはちょっと長いぞ」

代行人「今まで、一晩で一階層をクリアしてきたが、……どうなるんだろうな?」

代行人「……」

代行人「俺からの質問もまた最後の告解室までとっておく事にしておこう」

鳴上「……」

代行人「では、上へ」


>……

>代行人の言葉通り、一つのエリアの距離は確実に長くなっている事を体で実感していた。

>おまけに今回はエリアの数も多くなっているようで、第二エリアを過ぎた後の告解室で次は最終エリアだとは通達されず、今は第三エリアを登っている。

>そして驚く事に、一緒に上を目指すべき筈の羊の何匹かが、こちらが登るのを故意に邪魔しようと道を塞いだり突撃したりしてくるのだ。

>呼びかけてもまるで応じてもらえず、初めから上へ行く羊たちを亡きものにしようとしているだけの存在に見えた……

>もしかしたら、終わりの見えてこないこの道のりに精神が耐えられず、狂ってしまった羊なのかもしれない。

>……



踊り場


>第三エリアを越えて、本日三つ目の踊り場と告解室までやってきた。

>他の羊の姿は殆どいない。

>見知った羊も見つける事は出来なかった……

>今はただ彼らを信じ、自分は自分のこれからの事だけを考え信じよう。

>ここまでやってきた努力をけして無駄には出来ない……

>……


告解室


鳴上「来たぞ」

代行人「ああ。待ってた。座れよ」

代行人「……」

鳴上「……」


>今夜の代行人は必要最低限の事しか喋っていなかった。

>こちらが反応を見せなくても特に怒るという事もなく(機嫌がよくなさそうなのは変わらずだったが)淡々と業務だけをこなしていた……

>それがなんだか不気味にすら感じてきていた。

>しかし、とりあえず今は、いつも通りに座っておく事にしよう。


代行人「……」

代行人「お前が登っている間、ずっと考えていた」

鳴上「……?」

代行人「俺はお前の中にある本当の価値を、きちんと見極める事が出来るのだろうかって」

代行人「お前は俺に答えを示してくれるのだろうか」

鳴上「……毎晩答えているだろ」

代行人「そういう事じゃない」

代行人「俺は。俺はいったい、どうすれば……」

代行人「……」

代行人「……いや、よそう」

代行人「俺の方が悩むなんて、馬鹿げた話だ」

代行人「質問へ移ろうか」

鳴上「という事は……!」

代行人「次が最終エリアだ」


機械的な声「第六問です」

機械的な声「人に言えない事を多く抱えていますか?」


>『そうでもない』と『それなりに』のロープが垂れてきた。


鳴上「これは……」

鳴上「……」

代行人「どうなんだ?」

鳴上「……」

代行人「……」

代行人「……そう、か」

代行人「……」

代行人「じゃ、行こうか。デカいヤツのところへ……


>告解室が今夜最後のエリアへと向けて上昇を始めた。

>……


第六階層 最終エリア


鳴上「……」


>代行人の様子は明らかにおかしかった気がする。

>そんな事を気にする義理などない筈だが、何か心に引っかかるものがあるのも否定は出来なかった。


鳴上「そもそもアイツの正体って……」

鳴上「!」


>足場に大きな揺れを感じる。

>今夜のゲストのお出ましのようだ。

>今までのパターンから考えて、それはなんだかもう大体の予想はついていたが……

>一応確認の為にと振り返り、その姿を見つめた。


鳴上「……推理は当たったな。俺にも、探偵の才能が少しはあるのかもしれない」

シャドウ直斗『フハハハハ! 改造だ! 改造手術の時間だあッ!』

鳴上「っと……ノーサンキューだ!」


>……

>直斗のシャドウは素早い動きで飛び回りながら、短い感覚で攻撃を仕掛けこちらを仕留めようとしてくる。

>持っている光線銃で直接攻撃をしかけてくるのはもちろんの事、普通の石をその光線で全て爆発する石に変えてしまったり、こちらの行きそうなルートを先の先まで予想して足場を崩してきたり、今までで一番頭を使う事を要求されていた。

>進んでも進んでも、先が見えてこない。

>これまでの分も含めて、その長い道のりに体力も気力も限界まで削られてしまっている。

>これは今度こそまずいかもしれない……

>そんな考えがちらつき始めた頃、鐘の音が響くのが聞こえてきた。


>見上げるとそこには扉が、眩しい光がある……!

>力強く伸ばした手で掴んだそれを、引っ張った。


シャドウ直斗『コンナトコロデアキラメナイ!! ニガサナイィィィィ!! ……グアアアアアアアア!!』


>今まで見た中で一番大きな光の衝撃に包まれて、直斗のシャドウは朽ちていった。


鳴上「着いた……のか」


>……


代行人「まさか本当にこんなところまで来るとは、な」

代行人「次はいよいよ、カテドラルへ続く場所だ」

代行人「……そうだな」

代行人「俺も、そろそろ……」


>…
>……
>………



6th day


05/13(日) 晴れ 自室


【朝】


鳴上「!」


>眩しい朝日が、カーテンの隙間から差し込んでいる。


鳴上「……」


>ゆっくりとベッドから体を起こした。

>目覚めは……けして良いとは言えないが、それでもここ数日と比べればマシなような気がする。

>体ももうそんなに怠くはない。

>きっと薬が効いてくれたのだろう。

>今日はアイギス達との約束をきちんと守れそうで安心した。

>せっかくの休みなのだ。

>何も考えず、存分に楽しむ事にしよう……


>>160
後日そこには頭に召喚器を押しつけながら「ティロ・フィナーレ!」と叫ぶ番長の姿が……ある訳ない。

キミコって誰なんだろうねー本当にねー。

終わります。

また次回。

>着替えを済ませ携帯をチェックするとメールを一件受信しているのが確認出来た。

>ここ数日、これもパターン化してきているような気がする。

>となると、差出人はやはり……

>……



from:白鐘直斗

こんばんは。

突然のメール失礼します。

何やら港区方面で不穏な事件が多発しているようなので心配になってメールしました。

気になったので僕の方でも色々調べたりしていますがなかなか難しい事件のようですね。

というよりも、死体の状況から考えてもとても人為的なものには思えない。

先輩達も言っていましたが、やはりシャドウが関係した事件なのでしょうか。

そういう事になると、先輩やそちらのお仲間もこの件に深く関わる事になる訳で、余計に心配です。

僕も現地で詳しく調べられればいいのですが…。

何かあったらメールでも電話でも一報貰えたら嬉しいです。

それでは。おやすみなさい。



>……

>この文面からすると直斗もおそらく大した情報は掴めていないのだろう。

>こちらでもシャドウが絡んでいる事件なのかどうなのか未だにはっきりしなくて困っているという旨を伝える文だけ打ち、自分が置かれている状況などは伏せて、返信を送った。



コンコン


アイギス「鳴上さん、おはようございます」

ラビリス「おっはよー!」

メティス「具合の方はいかがですか?」


>アイギス達が迎えにきてくれたようだ。


鳴上「おはようみんな。具合の方は大分マシになったから」

アイギス「じゃあ今日は……」

鳴上「はい。約束通りに」

ラビリス「ホントに? やったー!」

メティス「……。熱も引いたみたいですし、嘘じゃないようですね」

メティス「よかった……」


>三人とも喜んでいるようだ。


鳴上「……ところで、なんでメティスとラビリスは制服?」

アイギス「それなんですが、実は二人には制服以外の外出用の普段着がないんですよ」

アイギス「今日はそれを見立てに行こうかと思いまして」

鳴上「あ、なるほど」

アイギス「本当は美鶴さんにも同伴していただく予定だったんですが忙しいみたいで……」

アイギス「私も、どういった服装がいいのかあまり知識がないので、鳴上さんのお力をお借り出来れば助かります」

鳴上(あまり変な恰好はさせられないよな……)

アイギス「じゃあ、行きましょうか」


>寮を出て街に買い物へ出掛けた。

>……


鳴上「……さて。まず初めに聞いておきたいんだけど、二人はどんな雰囲気の服装がいいんだ?」

ラビリス「んー、どんなって言われてもなあ。……あんまごちゃごちゃしてなくて、動きやすいのがええかな」

メティス「私もあまり派手なのはちょっと。おとなしい感じのがいいです」

鳴上「そうか。とりあえず色々と店を回って見てみた方がいいかな」

アイギス「そうしましょうか」


>……


ロサカンディータ 辰巳店


鳴上「なんだか全体的に凄く値段が高そうな店だ……」


>店の中は物静かでシックな音楽が流れている。

>客層は二十代半ほどの女性が多く、自分の存在が場違いっぽく思えてきた……


アイギス「こんな場所にこんなお店があったのですか。初めて知りました」

メティス「どちらかというと美鶴さんに似合いそうな服が多い場所のように感じます」

ラビリス「なあなあ、見て! この服紙で出来とる! 面白いわあ」

鳴上「値段は……15万!? 高校生が買い物する場所じゃないな……」

アイギス「美鶴さんから現金で30万ほどいただいてきていますけど、流石にそれは無理な買い物ですね。メティスと姉さんとで一着ずつしか買えません」

鳴上「さんじゅっ……」

メティス「アイギス姉さん。私の洋服は自分のお金で買います。アルバイトでもらったお金、持ってきたから」

アイギス「そんな気を使わなくてもいいのよ? 美鶴さんもそう言ってたし」

メティス「でも……」


ラビリス「買う買わんは置いといて、試着だけでもしてみてええかな?」

鳴上「いいんじゃないか? それはタダだし……あ、さっきの紙のやつはやめとけ。破けたら後が困る」

ラビリス「じゃあ、この辺のテキトーに……あ! アイギスに似合いそうなのみっけ!」

アイギス「え? 私に、ですか?」

ラビリス「着るだけならタダなんよね? ならアイギスも一緒に着替えてみよ!」

メティス「そうです! アイギス姉さんも是非!」

アイギス「なんだか似たような事がつい最近あったような……」


>アイギスはラビリスに半ば強制的に試着室へと押し込められた。


メティス「私はこの黒いの着てみようかな。ラビリス姉さんはこの白いのなんかどうですか?」

ラビリス「あ、うん。なんかそれいいな。着てみよー」

ラビリス「アイギスはもう着替え終わったー?」

アイギス「ちょっと待ってください。なんだかこれ、すごく着にくいです……」

ラビリス「どれどれー?」


>ラビリスは自分が試着する服を持って、アイギスのいる試着室へと遠慮なく入っていった。


メティス「あの、私も一緒に着替えていいですか? どこも使用中みたいで……」

ラビリス「ええよええよ」

メティス「じゃあ、失礼して」


>メティスもラビリスに続いて中へと入っていった。


ラビリス「……ん? これ、どうやったら着れるん?」

アイギス「ここは……こうじゃないですか?」

メティス「き、きつい……」

アイギス「……。なんだか、おかしな事になっているであります」

ラビリス「え? あれ? ……んー?」

メティス「きゃっ! ね、姉さんたち、あまり動かないでくださいっ。ぶつかって痛いです……」

鳴上「……」

鳴上「み、みんな平気か?」

メティス「……鳴上さん」


>急に試着室のカーテンが開いた。


メティス「この背中のファスナーのところ、上がらないのでやってもらってもいいですか?」

鳴上「!?」


>そこにはまだ着替え途中な上、背中が丸見え状態で後ろを向いているメティスの姿があった。

>ちなみに、アイギスとラビリスもまだ奥の方で服を着るのに手間取っているようだ。


鳴上「あっ、開けるな! 見える! 見えるから!」

鳴上(主にロボ的な部分がッ!)

マヌカン「あの、お客様。他のお客様のご迷惑になりますので、もう少しお静かにお願いいたします……」

鳴上「すっ、すみません!」

メティス「きゃっ!?」


>急いでカーテンを閉めて事無きを得た……

>その後、試着もほどほどにし、結局何も買わずにその店を出た。

>ありがとうございましたと頭を下げるマヌカンの額に、うっすらと青筋が立っていたように見えたのは気のせいだと思いたい。

>……


アニマムンディ 辰巳店


アイギス「ここも初めて見る店であります」


>先程の店とは打って変わって、今度は高校生くらいの男女を中心とした若者向けの店のようだ。

>見た目が華やかで派手なものが多く、これから夏に向けてか薄着な服を大々的に売りに出している。


メティス「これはちょっと……」

アイギス「メティスたちが着るにはちょっと無理なものが多いような……」

鳴上「半袖やホットパンツなんて無理だよな」

ラビリス「……あ! これ!」

鳴上「ん?」


>ラビリスは男物のハイビスカス柄のアロハシャツを手にとっている。


ラビリス「悠! 着てみて!」

鳴上「えっ、俺!?」

ラビリス「ウチらの着替え見てるだけじゃつまらんやろ? さあ!」

鳴上「いや、俺はそれでも別にいいというか、むしろそれがいいというか……ちょっ、うわっ!」


>アロハシャツを持たされて、試着室へ押し込まれた。


ラビリス「早く! 早く!」


>どうやら着てみせるしかないようだ……

>……仕方なく、着るだけ着てみる事にした。


>……


鳴上「……」

ラビリス「……」

メティス「……」

アイギス「……」

ラビリス「……っ」

ラビリス「……ちょっ……悠のそのカッコ、なんかツボ……ツボに入ったわ! ふ、ふひひ、あはははっ!」

メティス「ラ、ラビリス姉さん! 変な笑い声上げないでくださっ……恥ずかし……くっ、うくくく……っ!」

ラビリス「メ、メティスこそ! あはっ、あはははははは!」

鳴上「……」

アイギス「……こういう時に使う言葉をひとつ、知っているであります」

アイギス「ぷぎゃー」

鳴上(なんかもう、そっとしておいてほしい……)

ラビリス「さーて、次はどれ着てもらおっかなー♪」

鳴上「まだ何か着せる気なのか!?」

メティス「こんなのはどうですか?」

アイギス「案外こういうのとかも……」

鳴上「いや……それは……やめっ……うわああああああ!」


>……三人に気が済むまで遊ばれた。

>……

>その後も色々な場所を回り、時間をかけて品定めした結果、外に着て出てもおかしくない各々の気に入った服を何着が買う事が出来た。

>……余談だが、さっきのアロハシャツはまた着ているところが見たいと言われて、自分の金で買う事になってしまった。

>そんな事もあったりしたが、長い間様々な服に着替えて遊ぶ三人を間近で見れたのは眼福だったと言えよう。

>……心の栄養を補給出来たような気がする!


アイギス「ちゃっかり私の分まで買ってしまったのはいいんでしょうか……」

メティス「美鶴さんからもらったお金はまだだいぶ余ってるみたいだから、そのくらいはいいんじゃないですか?」

アイギス「……そうね。でも、使わなかった分はちゃんと美鶴さんに返して話しておきましょう」

鳴上「あ、アイギスさん。そっちの荷物も持ちますよ」

アイギス「すみません。ありがとうございます」

ラビリス「……」

鳴上「? どうかしたのか、ラビリス」

ラビリス「……いやな、ウチ前からちょっと気になってたんやけど」

ラビリス「なんで悠はアイギスにはさん付けで敬語なん?」

ラビリス「ウチの方がお姉さんなのにー」

鳴上「え? いやほら。それは初めて会った時は、ただの寮監さんだと思ってた訳だし、その時からの癖で……」

ラビリス「うーん、でもなあ」

ラビリス「……あ。別に、ウチにもっとかしこまれーとか、ラビリス様とお呼び! とか言いたい訳やないんよ?」

ラビリス「ただ、アイギスにだけ余所余所しい感じがすんなあ……って」

鳴上「……うーん。そうかな」


>しかし、今更それを変えるのもちょっと……という気もする。

>アイギスの方はどうなのだろう、と視線をちらりと向けた。


アイギス「……」

アイギス「そう、ですね。私もラビリス姉さんの言う通りだと思います」

鳴上「え?」

アイギス「鳴上さんがよろしければ、私のことはこれからアイギスとお呼びください」

アイギス「敬語もいらないですから。……どうでしょうか?」

鳴上「……えっと。それじゃあ」

鳴上「……

鳴上「改めてよろしく。……アイギス」

アイギス「はい。よろしくお願いします」


>やはり少し気恥ずかしい気もする……


メティス「……!」

メティス「鳴上さんが、アイギス姉さんを……呼び捨てに……?

メティス「……」

アイギス「どうしたの?」

メティス「……なんだかすごく、許せない気持ちになってきました」

アイギス「?」


>メティスがどす黒いオーラを放ちながらこちらを睨んでいる……


アイギス「あ、ならば私もラビリス姉さんに倣って、これから悠さんとお呼びしてもいいでしょうか?」

鳴上「ん……ああ、俺はいいけ……ど……?」

メティス「ッ……!」

メティス「姉さんまでそんな鳴上さんに……親しげに……!」

鳴上「ちょ、ちょっと、メティスさん?」

アイギス「……ああ! そうね。メティスも悠さんって呼びたいのね」

メティス「違います! 呼びません! 呼んだりなんかしないんだからっ!」

メティス「……フン!」


>メティスはそっぽを向いてしまった。


>……と、その時、不意に誰かに背中を強く押された。


不良A「おうおう兄ちゃん、女侍らせていい気なもんだなあ……ええ?」

不良B「往来でイチャイチャイチャイチャしてんじゃねえぞ、ゴルァ!」

不良C「ねーねーカノジョ達、そんなヤツほっといてオレ達とイイトコいかなーい?」

メティス「……」


>そこには、サングラスにリーゼントのいかにも……な男達がいた。

>しかし、ここまで前時代的な不良なんて八十稲羽でも見た覚えがない気もする。

>完二の方がよほど可愛らしく思えてくるくらいだ。

>だが、このままではまずい気がする……


鳴上「あの、やめた方が」

不良A「ああん?」

不良B「テメェは黙ってろ!」

不良C「ねーねー、いいデショ? いこーよ」


>不良の一人がアイギスの腕を掴んだ。

>……瞬間、その一人の体が宙に浮き

>見事なまでに仰向けにひっくり返っていた。


メティス「汚い手で姉さんに触れるな!」

不良C「うがっ……」

不良A「な、なんだこの女……ひいっ!?」

アイギス「警告します。直ちににここから立ち去りなさい」


>アイギスは残りの不良の一人の首に手刀を当てている。そして……


ラビリス「はいはーい。これ以上なんかしようとしたら、どこまでやったら肩が外れるか試させてもらうでー」

不良B「いでででででででででででで!」


>ラビリスは三人目の不良の背後にまわり、彼の背中を膝で押しながら両腕を思い切り引っ張っていた。

>どうやらまずい事が起きるのを止められなかったようだ……

鳴上「だからやめた方がって言ったのに……」


黒沢「お前達、そこで何してるんだ!」

鳴上「!」

不良A「やべえ、サツだ! 行くぞ!」


>不良達は倒れていた一人を担いで一目散に逃げ出した。


黒沢「こら! 待て!」


>黒沢は不良達を追い掛けていってしまった。


達哉「まったく、何事かと思えばお前達か……」

鳴上「周防さん!」

メティス「あ……」

アイギス「お疲れさまです」

達哉「そう思うんなら疲れる事を増やさないでくれ」

ラビリス「誰や? その人」

達哉「ん? そっちは新入りか?」

達哉「……とにかく、お前達は自分の置かれてる立場を考えて、あまり目立つような行動はするんじゃない」

鳴上「す、すみません。気をつけます……」


>周防にこってり絞られた……

>……

>その間、不意に周防が抱えている持ち物に視線がいった。


鳴上「……あれ? その本はまさか」

鳴上「漢の世界シリーズの……」

達哉「!!」


>瞬間、周防の目の色が変わった。


達哉「知っているのか、鳴上!」

鳴上「あ、はい。愛読書の一つですけど」

達哉「そうか……!」


>周防にガシッと手を掴まれた。


達哉「まさか、鳴上が同志だったとはな」

鳴上「という事は、周防さんも……?」

達哉「ああ。このシリーズの大ファンだ」


>意外なところで思わぬ繋がりを発見してしまった……!


達哉「……ならば鳴上。このシリーズの最後に出た本は持っているか?」

鳴上「はい、持ってます」

達哉「そ、そうか! ……じゃあ、それを貸して貰う事は出来るだろうか?」

達哉「実はその最終作だけずっと買うタイミングを逃していてな……本屋に足を運ぶ暇もなくて、未だに入手出来ていないんだ」

達哉「……だから頼む、この通りだ!」

鳴上「もちろん、お安いご用ですよ」

達哉「! すまない、感謝する……!」


>周防は心底喜んでいる。

>それからしばしの間、周防と漢とは何か語り合った。

>周防と心が通じ合った気がする……



>『ⅩⅨ 太陽 周防達哉』のランクが5になった



達哉「……ゴホン。まあ、あれだ。今日のところは鳴上に免じて大目に見ておこう」

達哉「じゃあ近い内に……な」

鳴上「はい。近い内に」


>周防はこの場から去って行った。


ラビリス「結局あの人って……?」

鳴上「漢の中の漢な刑事さんだ」


>……


鳴上「あー……っと、みんなさっきは平気だったか?」

アイギス「大丈夫ですよ」

ラビリス「ウチもー」

メティス「ええ。むしろ、スッキリしました」

鳴上「は、はは……」


>メティスはさっきまでの不機嫌はどこへいったのやら、清々しい顔をしている。


鳴上「周防さんに注意されたし、そろそろ寮に戻ろうか」

アイギス「そうですね」

メティス「はい、行きましょう」

ラビリス「帰ろー!」


>みんなで寮へ戻る事にした。

>……なんだかんだあったが、三人とはまた仲が良くなれた気がする。



>『Ⅴ 法王 メティス』のランクが3になった

>『Ⅶ 戦車 アイギス』のランクが4になった

>『ⅩⅥ 塔 ラビリス』のランクが2になった



>……



学生寮 ラウンジ


コロマル「ワンッ! ワンッ!」

鳴上「うわっ!」


>学生寮の扉を開いた瞬間、中からコロマルが飛び出してきた。


アイギス「ただいまです。コロマルさん」

ラビリス「あはは、コロは元気やなー」

コロマル「ワンッ!」


>コロマルはしっぽを振りながらズボンの裾をくわえてグイグイと引っ張ってくる。


鳴上「どうしたんだ?」

メティス「みんなで出掛けてずるい。自分も散歩に行きたい、鳴上さんと遊びたい、と言っています」

鳴上「そういえば、コロマルとの散歩もしばらくしてなかったな」


>コロマルは期待するような目でこちらを見つめていた。


鳴上「……よし、行こうか」

コロマル「ワオーン!」


>コロマルは嬉しそうにぐるぐると走り回っている。


ラビリス「じゃあ、ウチも行く! 買った服着て行く!」

メティス「じゃ、じゃあ私も……!」


>二人ともさっそく手に入れた服を着て出かけたいようだ。


鳴上「じゃあ、メティスとラビリスの準備が出来たら行こう」

アイギス「私は留守番をしていますから、皆さんで行ってきてください」


>再び出掛ける用意を調えてから、コロマルを連れて散歩に出掛けた。

>……



長鳴神社


>コロマルの向く足のまま歩いてやってきた場所は、やはり神社だった。


コロマル「ワンワンッ!」

メティス「コロマルさんが、駆け足の競争をしようと言っています」

ラビリス「お、勝負か! 乗った!」

鳴上「俺、一応病み上がりなんだけど……ま、いっか」

コロマル「ワン!」

メティス「では、私がジャッジをつとめる事にしましょうか」

メティス「そうですね……この神社の外周を三周するというのはどうでしょう」

ラビリス「ウチはそれでええよ」

コロマル「ワンワンッ」

鳴上「わかった」

メティス「では並んでください。いいですか? 位置について、よーい……ドン!」


>……


コロマル「ワン!」

鳴上「は、早すぎだろ……二人とも……」

ラビリス「悠はこれしきの事でバテたんかいな。まだまだやねー」

コロマル「ワオン!」


>コロマルもラビリスも余裕綽々で勝ち誇ったようにしている。

>なんだかとても悔しい……


鳴上「もう一回勝負だ!」

ラビリス「やる気やなー! よっしゃ、やったる!」

コロマル「ワンッ」

メティス「ん? またですか?」

メティス「では皆さん一列に。……位置について、よーい……ドン!」


>……


鳴上「くそ……また最下位か……」

ラビリス「コロもなかなかやるわぁ」

コロマル「♪」


>コロマルは得意げな素振りを見せてから、神社の中をまた走り出した。


鳴上「俺も修行が足りないな……」

鳴上「……」

鳴上「……? どうしたんだ? コロマル」


>コロマルは神社の中を落ち着きなくキョロキョロと見回している。


メティス「どうしたんですか? コロマルさん」

コロマル「ワン、ワンワン、ワンッ!」

メティス「はい……そうなんですか」

鳴上「なんだって?」

メティス「なんでもお仲間の気配を感じたような気がしたんだそうです」

鳴上「仲間? って、犬の……って事か?」

メティス「おそらく」

ラビリス「でもこの辺にいるワンコなんて、見る限りコロしかおらんよ?」

コロマル「クゥーン?」

鳴上「コロマル……もしかして、犬の友達が欲しいのか?」

コロマル「!」

コロマル「ワンッ!」

メティス・ラビリス「なるほどなー」

鳴上「そっか……」


鳴上「ごめんな。今は人間の遊び相手で我慢してくれな」

コロマル「ワンワン、ワンッ」

メティス「鳴上さんと遊ぶのは楽しいから問題ないと言っています」

鳴上「じゃあ、もう少し遊ぼうか」

鳴上「ワンッ!」


>コロマルが飽きるまで遊びに付き合った。


>『ⅩⅠ 剛毅 コロマル』のランクが3になった


>空も橙色になってきたので引き上げる事にした。

>……


学生寮 ラウンジ


美鶴「……ん? ああ、ちょうど良かった。みんな、お帰り」

ラビリス「あ、美鶴さんや」

メティス「なんだかお久しぶりのような気がしますね」

鳴上「ただいまです」

美鶴「ああ」

美鶴「今日はすまなかったな。一緒に買い物についていけなくて。鳴上が代わりに同伴したとアイギスから聞いたぞ」

鳴上「あ、はい」

美鶴「具合の方もよくなったみたいだな」

鳴上「あ……その節はとんだご迷惑を……」

美鶴「そう畏まるな。元気になったのならそれでいい」

美鶴「それより、今日は鳴上の見舞いとみんなへの差し入れを兼ねて、ケーキと紅茶を用意してきたんだ。みんなでいただこうじゃないか」

鳴上「ありがとうございます」

美鶴「ん……ところで、天田はどうした? さっきから姿を見かけないんだが」

メティス「そういえば、朝から見かけていませんね」

美鶴「じゃあ、部屋にいるのか?」

鳴上「っ……!」

鳴上「ちょっと俺、様子を見てきます!」

>……


天田の部屋 扉前


>ドンドンと何度か大きく扉を叩いた。


鳴上「天田! いるなら返事をしろ!」


>再び扉を、より強く叩いた。


鳴上「天田!」


>……それから少しして、内側からガチャリと鍵の開く音がした。


鳴上「!」

天田「……なんれすか? ふぁ……」


>目を擦りながら、天田が顔を出してきた。


鳴上「よかった……今日一日姿が見えないっていうから、てっきり……」

天田「やだなあ、縁起の悪い事言わないでくださいよぉ」

天田「ずっとベッドで横になってただけですってば」

鳴上「……大丈夫か?」

天田「大丈夫です。……って、はっきり言えないのが辛いですけど、まだ生きてますから。それで十分でしょ?」

鳴上「ん、そうだな……」

鳴上「……あ。桐条さんが、みんなに紅茶とケーキを用意してくれたって話なんだけど」

天田「ケーキですか。じゃあ、ごちそうになろうかな」

鳴上「じゃあ、いこう」


>天田を連れて一階へ降りた。

>……

>ラウンジにはいつの間にかアイギスも揃っていてみんな座っており、テーブルにはケーキと紅茶が綺麗に用意されて並んでいた。


美鶴「みんな揃ったようだな。では、いただこう」

アイギス「コロマルさんには高級ドッグフードですよ」

コロマル「ワンッ!」


>和やかなティータイムが始まった。

>……


鳴上「……ずっと気になってたんだけど、メティスたちも食事って出来たんだな」

メティス「はい。ただ、食物の摂取が可能なだけで必要不可欠という訳ではないので……」

ラビリス「味なんかはどうもなー。体の中に入ると、原材料名がばーっと頭に思い浮かんでくるだけやし」

メティス「私には一応、実験的に味覚を搭載してはいるらしいのですが……今のところは、ラビリス姉さんの言ってる事と大差はないようです」

メティス「このケーキというものに対して、美味しいだとか不味いだとかいう感想までは思い浮かばないです」

メティス「でも……こうして皆さんとおやつを食べるってなんか良いですね」


>メティスが微笑み、それにあわせてアイギスの表情も緩んだ。


美鶴「鳴上はどうだ?」

鳴上「はい。ケーキもですが……何より紅茶が美味しいですね」

鳴上「俺、叔父さんの家ではよくコーヒーを飲んでたんですけど、紅茶も悪くないなあってそう感じました」

天田「僕もですね。この紅茶、いい香りがする……安物じゃないですね」

美鶴「私オススメの茶葉のひとつだ。気に入ってくれたなら何よりだ。リラックス効果も促せる代物だぞ」

美鶴「ここのキッチンに置いておくから、みんな好きに飲むといい。なんなら他にも色々と用意するぞ?」


>美鶴は紅茶が好評で喜んでいるようだ。

美鶴「たまにはこうしてみんなでお茶会をしてみるのも悪くないな」

鳴上「そうですね。なんかいいです、こういうの。新鮮な感じで」

美鶴「……そうか」

美鶴「……」

美鶴「あの、な……鳴上」

鳴上「はい?」

美鶴「この間は……悪かったな、頭ごなしに急に怒鳴ったりしてしまって」

鳴上「え? ……ああ、車で送ってくれた時の事ですか?」

鳴上「桐条さんが謝る事じゃないですよ。むしろ俺の方が……」

美鶴「いや……」

美鶴「君を心配するあまりつい短気を起こしてしまって、私も大人気なかった」

美鶴「昔からの私の悪い癖でな。どうにもこれだけは治しようもなくて……」

美鶴「その、気を悪くしないで欲しい」

鳴上「だから気にしてませんってば」

美鶴「そう、か」

美鶴「よかった……」

鳴上「紅茶、もっといただいても良いですか?」

美鶴「あ、ああ! 好きなだけ飲んでくれて結構だ」


>美鶴なりに気を回してくれてのお茶会だったのだろうか。

>美鶴の優しさが伝わってくるような気がする……



>『Ⅲ 女帝 桐条美鶴』のランクが3になった



>その後も、もうしばらくみんなと談笑しながら一時を過ごした。

>……しかし、こうものんびりばかりしていられない。

>暗くなったら、またあの時間に彼に会いにいこう。


>……


【夜】


クラブ エスカペイド


>今夜もまた、いつものあの場所に彼は一人でグラスを傾けていた。

>彼も、そろそろかと勘付いていたのか、声をかけようとした直前に、来たのを察知したかのようにこちらへと振り返る。


ヴィンセント「……よ」

鳴上「こんばんは」


>こちらを見たヴィンセントの顔は、少しやつれているように見えた。

>やはりあの夢が原因か……


ヴィンセント「調子はどうだ」

鳴上「ぼちぼち……って、とこですかね」

ヴィンセント「ふーん、そっか……」


>ヴィンセントはまたグラスを傾けて、少しの間黙り込んだ。

>話をしにきた筈なのにどう切り出したらいいのか解らなくて少し気まずい……


鳴上「……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「なあ。今更で悪いけど……鳴上はさ、毎晩こんな時間にこんな場所に来て平気なのか?」

ヴィンセント「親御さんも心配するんじゃないのか」

鳴上「……いえ。学校の寮住まいなんで。夜中も外出許可は出ているから平気です」

ヴィンセント「ふうん? 寮って規則とかもっと厳しいもんだと思ってたけど、そうでもないのか?」

鳴上「たぶん、俺のいる寮くらいじゃないかな。こんなに自由なのは」

ヴィンセント「へえ……」

鳴上「ヴィンセントさんこそ毎晩こんな店に来て、奥さんに何か言われないんですか?」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「夜の飲みは控えろとは言われてるよ。でもここはアルコールないし、それに……」

ヴィンセント「ここだけの話、なんだけどな」

ヴィンセント「今はあまり、嫁の顔も……娘の顔も見たくないんだよ」

ヴィンセント「だから許される時間の範囲でここに来て時間を潰してるって訳さ」

鳴上「え……」


鳴上「何でまた? ……なんて、聞いてもいいですか?」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「そう、だな。言葉にして誰かに聞いて貰えたら、少しはすっきりするのかもしれないし……」


>ヴィンセントは一呼吸置いてから、話の続きを始めた。


ヴィンセント「昨日も娘の話はしたよな?」

鳴上「はい。一歳になる娘さんがいるんですよね?」

ヴィンセント「そう。その娘さ……実を言うと、名前が嫁と一緒なんだよね。字は違うんだけど」

ヴィンセント「最初は紛らわしくなるからって反対したんだけどさ。でも嫁が縁起がいい画数だからとかなんとかって言って、押し切られちゃって」

ヴィンセント「でも、俺がその名前を反対した本当の理由は……」

鳴上「……理由は?」

ヴィンセント「……昔、浮気していた相手と同じ名前だったから」

鳴上「!」

鳴上「……ん、あれ? 奥さん、ヴィンセントさんが浮気してた事、知らなかったんですか?」

鳴上「それとも、名前は知らなかったとか? だってそうでもないと、普通旦那が浮気してた相手の名前なんて子供につけないですよね?」

ヴィンセント「だよな? そう思うよな?」

ヴィンセント「でも、嫁は俺が浮気してた事だって浮気相手の名前だって知ってた筈なんだよ」

ヴィンセント「だから、最初何かの嫌がらせが悪い冗談なのかと思ってた……」

ヴィンセント「でも、そうじゃなくて」

ヴィンセント「まるで最初からそんな女なんていないし知らないとでもいうようにその名前をつけた」

鳴上「……」


ヴィンセント「当時はそれが本当に不気味で仕方なかった……」

ヴィンセント「でも、そんな事もう気にしないようにしようって言い聞かせながら暮らしてきたんだよ」

ヴィンセント「それでじゅうぶん幸せにやってこれたんだ」

ヴィンセント「……つい、最近までは」

ヴィンセント「またあの夢を見始めるようになってからだよ」

ヴィンセント「娘の顔が、何故か浮気してた女に見えてくるようになったのは……!」

鳴上「!?」

鳴上「そっ……そんな事……!」

ヴィンセント「おかしいだろ? おかしよな!? そんな訳ある筈ねえよ!」

ヴィンセント「だって娘は、俺と彼女の子供で!」

ヴィンセント「彼女が産んだ子で!」

ヴィンセント「名前が同じなだけで、浮気の相手の子でも、ましてや浮気相手そのものでもないのにっ……!」

ヴィンセント「頭がどうかしちまってんだよ、俺……」


>ヴィンセントは言いたい言葉を吐き散らした後、頭を抱えて黙ってしまった……


ヴィンセント「……悪い。子供相手にみっともないトコばっか見せて」

鳴上「いえ……」

ヴィンセント「……あの夢はたぶんさ、俺に昔の事を忘れるなって警告してるんじゃないかと思うんだ」

ヴィンセント「だって。……」

ヴィンセント「それか、今度こそ死んじまえって浮気相手にでも呪われたかかな……ハハッ」

ヴィンセント「……死ぬのかな、俺」

鳴上「そんな……弱気になったらダメですよ!」

鳴上「ヴィンセントさんが死んだら、奥さんや娘さんだって悲しむんですよ?」

鳴上「……俺だって、ヴィンセントさんがいなくなるなんて嫌です」

鳴上「せっかく知り合いになれたのに……」


ヴィンセント「っ……」

ヴィンセント「……お前、結構恥ずかしい事言うヤツだな」

ヴィンセント「でも、なんかちょっと……軽く頭殴られた感じがした」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「俺もさ、こうやって年の離れた珍しい知り合いが出来たのに……すぐ別れる事になるのは嫌だな」

ヴィンセント「……うん、そうだ。そうだよな」


>ヴィンセントは強く頷いた。


ヴィンセント「やっぱ、お前に話して正解だったわ。ちょっとは胸のつかえがとれた感じがする」

ヴィンセント「ありがとう。……今夜はもう帰るよ」

鳴上「はい」

ヴィンセント「じゃあ、またな」


>ヴィンセントは軽く肩を叩いて店から去っていった。



>『ⅩⅤ 悪魔 ヴィンセント』のランクが6になった



>この悪夢との戦い……

>もうこれ以上いたずらに長引かせる訳にはいかない……

>……決着をつけにいこう。



>…
>……
>………




Night mare


第七階層 第一エリア


>……

>今夜も、石の山は高く聳え立っている。

>もうこれしきで怖じ気付く事もないが……

>……しかし、今回はまた一番上に行くまで先が長そうだ。

>奴がそうさせているのだろうか。

>告解室に居座っているアイツが……

>……



踊り場


鳴上「……」


>登った先にあったのは、自分一人だけの踊り場という絶望だった。

>自分以外の気配がまるでしない。

>あるとしたらそれはおそらく……

>もう、あの告解室しかない事はわかっている事だった。

>……


告解室



代行人「ふふ……ふふふ」


>室内に不気味な笑い声が響いている。

>今夜は今までで一番、代行人の様子がおかしい事はそれで明らかだった。

>だからといって……自分がする事に何も変わりはない。

>特に挨拶を交わすこともなく、まずは腰を落ち着けた。


代行人「ああ……おかしい。おかしくてどうにかなりそうだ」

鳴上「……」

代行人「くくっ……このステージに相応しい最高のショーを思いついたんだよ……ははっ」

代行人「今夜もまた、最後の告解室までたのしい質問タイムはお預けだ」

代行人「俺も時間が惜しいなんて思う日がくるなんてね。お前に早く上まで来て貰いたいんだ。ふふっ、あはは」

代行人「……来いよ。さあ早く!」

鳴上「……」

鳴上「言われずとも」


>……

>登っている間は、孤独との戦いになっていた。

>踊り場だけではない……

>この石の山には、誰もいない。

>もう誰も。

>一緒に登る羊も、その声すらも。

>見えない、聞こえない。

>誰もいない。誰もいない。

>ひとりだ。

>ひとりきりなのだ……

>……


踊り場


>今回はもう、いくつのエリアを越え、いくつの踊り場を通過したのか数えるのもやめてしまった。

>……

>他の羊は、やはり……

>……


鳴上「――!?」


>顔上げると、告解室の前に一匹だけ羊がいるのが目に飛び込んできた。

>自身を招かれざる羊だと称した……イヤホンの羊だ。

>彼はゆっくりとこちらを振り返った。


イヤホンの羊「やあ」

鳴上「っ……」

イヤホンの羊「どうしたんだい。そんな顔をして」

鳴上「だって……」

鳴上「……」

イヤホンの羊「……」

イヤホンの羊「君はどうも少し勘違いをしているみたいだ」

鳴上「……?」

イヤホンの羊「君はね」

イヤホンの羊「俺が託した事をきちんとやり遂げてくれているよ」

鳴上「え……」

イヤホンの羊「上だけをみろ、なんて言ったのが間違いだったかな」

イヤホンの羊「ここから少し、下を見てごらん」

イヤホンの羊「そして、耳をすませて」

鳴上「下……?」


>踊り場へと繋いでいる階段があるところから、下へと覗きこんだ……

>……

>……?

>微かに何か聞こえてくる……?

>足場が崩れるあの振動音とは違う。これは……

>声、だ。



『……みんな! 挫けるなよ!』

『続け! 前の羊に続くんだ!』

『諦めなければ登りきれるさ!』

『先頭にいる、あの羊のように、な!』



鳴上「これは……他の羊たちの、声?」


>姿をはっきり目視する事は出来ないが、他の羊たちが励まし合い言葉を掛け合いながら、上を目指しているのがわかる。

>まだ、だいぶ下の方なのかもしれないが、確実に登ってきているのだ……


イヤホンの羊「そう」

イヤホンの羊「君の周りに誰もいなかったのは……」

イヤホンの羊「はるか一番先頭で、君が登っていたからだ」

イヤホンの羊「そして他のみんなは、そんな君の姿を励みにしてここまで登ろうとしている」

イヤホンの羊「まだ来るまでにだいぶかかりそうではあるけどね」

鳴上「……良かった」

鳴上「良かったっ……」

イヤホンの羊「……まだ安心するのは早い」

イヤホンの羊「この先にあるラストステージを登り切らなければ……」


>イヤホンの羊は、上を差している。


イヤホンの羊「この先は、俺も見た事がない」

イヤホンの羊「だから……気を……つ……」

鳴上「!?」


>イヤホンの羊の体が徐々に薄れていく……


イヤホンの羊「本当に……これが……最……後……」

イヤホンの羊「……」


>イヤホンの羊は何かを伝えようとしていたが、それが終わる前に完全に消えてしまった。


鳴上「っ……」

鳴上「ラストステージ……」


>……


告解室


鳴上「来たぞ」

代行人「くくく……待ちくたびれてたところだ」

代行人「やっと来てくれたんだな! 嬉しいよ!」

代行人「ふ、ふふふ……!」


>代行人の不気味な笑い声は止まらない……


代行人「さあ、まずはショーの前の前座といこう!」

機械的な声「第七問です」

機械的な声「               」 


>『  』と『   』のロープが垂れ下がってきた。


鳴上「っ……」

代行人「……」

鳴上「……」

代行人「……ふ」

代行人「ふ、は」

代行人「ふははははははははははッ!」

代行人「そうだよな! ああ、そうだろうとも!」

代行人「その答え、しかと刻んだ!」

代行人「じゃあ、行こう! 今夜は……」



代行人「俺も一緒だ」

鳴上「ッ!?」


>告解室が上昇していく……

>……


第七階層 最終エリア


>周りはとても薄暗い……

>辛うじて何処に何があるのかくらいは解るが、歩くだけでも至難の技になりそうなくらいだ。

>早く目が慣れればいいが……

トントン

>……背中を誰かが叩いている。


?「よっ」

鳴上「! その声はっ……代行人か!?」


>距離をとり、後ろを振り返った。

>そこには……今まで周りがみんなそうだったように。

>羊が一匹、いた。


代行人「言っただろ? 俺も一緒だって」


>その羊から発せられているのが、紛れもない代行人の声だった。


鳴上「お前、その姿は……」

代行人「いつか言ってたよな」

代行人「あまりふざけた事してるとジンギスカン鍋にしてやるとかってさ」

代行人「……出来るもんならそうしてみろ、って事だよ」


>そう告げると代行人はその場から走り出し上へと目指して登り始めた。


鳴上「あっ……オイ!」


>それを追いかけようと足を踏み出した。


鳴上「まさか、この追いかけっこがお前の言う最高のショーだって言うのか!?」

代行人「ああ、そうだとも! これ以上ない演出だと思わないか?」

鳴上「ふざけるなッ!」


>まさかここに来て、追いかけられる側から追いかける側になるとは……


代行人「あー、一応言っておくけど」

代行人「お前だっていつものように追いかけられてるって事、忘れるなよ?」

鳴上「ッ――!?」


>その言葉を耳にすると同時に、背筋に寒気が走った。

>追いかけられている――?

>そんな気配なんて、さっきまで……


代行人「ほら、すぐ後ろ」


>前を行く代行人の視線が自分の背後を見つめていた。

>その視線を追う。

>後ろを振り返った。

>そこにあったのは……

>闇だった。

>黒く蠢くその闇は、人のかたちを象っている。

>それは真っ黒な大きな体に顔だけ仮面を被り素顔を隠してそこに存在していた。

>ただ静かに、静かに、自分の背後にじりじりと寄ってくる……


代行人「俺に追いついて上まで登りきれたらお前の勝ち、途中でアイツに捕まったらお前の負けってところだな」

鳴上「なんっ……だよ、あれは!!」

黒い巨人「■■■■■■■■■!!」

鳴上「っ……!?」


>黒い巨人は声を発しているが、それを意味のある言葉として認識する事は出来なかった。

>これは言葉というよりも慟哭に近い……そう感じた。


代行人「アイツが何を言ってるかわからないって?」

鳴上「!」

代行人「俺にはわかるよ」

代行人「でもお前には教えない」

鳴上「……別に、俺は」

代行人「だってお前は、わからないんじゃなくて……」

代行人「            」

鳴上「えっ……?」

代行人「……」


>一瞬、代行人の声が聞こえなくなった……

>その背後ではずっと黒い巨人が言葉になっていない叫びを続けている。


代行人「……それより、楽しいとは思わないのか?」

鳴上「は……?」

代行人「だから、この追いかけっこがだよ」

>代行人は登った先でわざと足場を崩したり石を移動させたりして、こちらが登るのを妨害している。

>それに応じて瞬時に別のルートを作って、なんとか代行人と一定の距離を保って進んでいったが……

>代行人のその行動に苛立ちを覚える事はあっても、楽しいなどとは思える筈もなかった。

>だが、代行人は笑う。


代行人「俺は楽しいね!」

代行人「今この瞬間が、楽しくて楽しくて仕方ない!」

代行人「ふふっ、あはははははっ!」


>その代行人の笑い声には、告解室で聞いた時のような不気味さがいつの間にか消えていた。

>無邪気に笑い、純粋にこの状況を楽しんでいる。

>まるで小さな子供のようだ……



ゴーン…… ゴーン……


鳴上「!」

鳴上「鐘の音が……!」

代行人「……なんだ。もう終わりなのか……」

代行人「……」


>代行人の足の動きが急に鈍くなった。

>その隙を見逃さず、代行人が通った場所とは別の方から登るスピードを上げ……

>扉の目前にくる頃には、代行人の方が後ろにいるようになっていた。


鳴上「着いた……!」

鳴上「この扉の先が」

代行人「そう。カテドラルだ」

代行人「おめでとう。お前は、祭壇への路を通過してついにここまでやってきたんだ」

代行人「……」

鳴上「カテドラル……」


>扉を開こうと手をかける。

>しかしふと思いとどまって、後ろを振り返った。

>そこには足の動きを止めたままずっと棒立ちしている羊姿の代行人がいる。


鳴上「……何してるんだ? もうゴールなんだぞ」

代行人「……」


>代行人は首を横に振った。


代行人「俺は行かない」

鳴上「ッ!?」


代行人「もうこの夢の世界ではこれが最後になるだろうから言っておく」

代行人「今までお前と色々と話をしたり、色々質問したりして……解った事はひとつだけだった」

代行人「知る事は出来ても理解出来ない事もあるんだ、って事さ」

代行人「……お前の事は結局理解できなかったよ」

鳴上「……」

代行人「それでも、俺は……」

代行人「……」

鳴上「っ……、今はそんな話をしてる場合じゃ、」

鳴上「ッ!? ……お、おい! 後ろ!!」


>代行人のすぐ後ろまで黒い巨人が迫ってきている。

>けれどそれでも、代行人は動こうとしない。

>代わりに、今までただ追ってくるだけだった黒い巨人の腕が伸びた。

>その手は代行人を握り潰すかのように掴み、そしてその瞬間黒い巨人の顔を隠していた仮面が割れた。

>その下から出てきた顔は……


鳴上「そん……な……どうして……!」


>黒い巨人は口を大きく開き

>代行人をその中へと放り込んだ――


代行人「……じゃあ」





代行人「またな」


>バリボリ、ガリゴリと、黒い巨人の口が動く度に何かが砕け擦り潰されていく音が響き続けていた……

>その動きが止まると、口端から赤い液体を滴らせる巨人がこちらを見てニヤリと笑ったのが目に映る。

>……


鳴上「……う、」

鳴上「うわあああああああああッ!!」



>…
>……
>………


05/14(月) 曇り 自室


【朝】


鳴上「ハァ……ハァ……ッ」


>自分の叫び声で目が覚めた……

>今までで最悪の目覚めだ。

>なのに、夢の中で何があったのか、……今回が一番記憶に残っていない。

>……


―♪


鳴上「ッ……!!」


>突如、携帯から流れ出した大きな音に身が強ばった。

>聞こえてくるのは、サラサーテのツィゴイネルワイゼン。

>以前は、海老原専用の着信音に設定していたそれだが、今は別の人物専用へと変えている音楽だ。

>震える指を伸ばし、携帯を掴んだ瞬間その音が止まる。

>……メールが一件、たった今届いたようだ。

>少し躊躇ってから、そのメールの中身に目をやった。

>そこには一文だけ、こう記されていた。



from:キミコ



Love is Over



終わります。

携帯からの投下は時間がかかってあかん……

また次回。

7th day


>……


>時間が経っても気分は冴えないままだったが学校へは行く事にした。

>また熱が上がったという訳では無さそうだったが、念の為病院から出された薬も飲んでおいた。

>……キミコへのメールの返事は、していない。

>だからといって、気になっていないという訳でもない。

>彼女は近いうちにまた会おうと言っていた。

>出来ればそれは避けたいと心のどこかで思っていたが……

>……

>彼女とは改めてもう一度、面と向かって話をしてみるべきなのかもしれない。

>今は、そんな風に考えていた。

>彼女の言葉を信じるなら、キミコは月光館学園高等科の二年生のクラスの何処かにいる筈だ。

>本人にメールでも電話でもして何処のクラスか聞くのが一番かもしれないが、あんなメールを送ってきた直後だ……そんな事突然聞いて、答えてくれかどうか。

>それにいつも突然出てきて驚いているこちらの気分を彼女に味あわせてやるのもいいだろう。

>……順に当たってみようか。


【昼休み】


月光館学園 二階 廊下


鳴上「……ここも違ったか」


>A組から順にキミコの姿を探し始めたがE組までは全部はずれのようだ。

>キミコという名前しか手がかりはないのだが、訪ねたいずれのクラスにもそんな名前の女子はいないらしい。

>という事は、必然的に最後に残ったクラス……F組に彼女はいる事になる。

>まずはF組の入り口から教室の中を窺ってみよう。

>……

>……今見た限りでは、ここにはいないようだ。

>近くにいる女生徒に声をかけてみた。


鳴上「あの、ちょっと」

女生徒A「はい? なんでしょう」

鳴上「このクラスにキミコって女の子、いる?」

女生徒A「キミコ?」

女生徒A「……ねー、今日ってキミコまだ学校に来てないよね?」

女生徒B「そうだねー。なんの連絡もないけど、休みなんじゃん?」

女生徒A「って、感じですけど」

鳴上「……そっか。ありがとう」

鳴上(休みか……もしかして、俺が来るんじゃないかと思って、逃げたのか? いや、そうする理由なんてキミコにあるんだろうか……)

鳴上(……)


>……



【放課後】


>あの後、結局キミコにメールを送り電話もしてみたが、通じる事はないまま学校が終わってしまった。


鳴上(いつも唐突にやってくるくせに、肝心な時に姿を現さないなんてな……今日は諦めるしかないか)

鳴上(……さて。それなら、もう一つの用事を片付けよう)


>今日はキミコの事を最優先で行動してきたが、どうにも出来ないなら仕方がない。

>……この後は、辰巳記念病院に行く事にしよう。

>チドリの具合はどうなのだろうか。

>……


辰巳記念病院 208号室


>病室の番号の下には、『吉野千鳥』という名前が書かれている。


鳴上「そういえば、チドリのフルネームって今まで聞いた事なかったな」

鳴上「……突然来て邪魔にならなきゃいいけど」


>扉をノックした。


チドリ「……? どうぞ」

鳴上「よっ、チドリ」

チドリ「!!」


>チドリは目を丸くし、大層驚いた様子でこちらを見た。


チドリ「悠……どうしてここが?」

鳴上「順平さんから聞いた」

チドリ「……そう」

鳴上「体の調子の方はどうだ?」

チドリ「別に、もう平気。こんなの慣れてるし。明日には退院するから」

鳴上「あ、そうなのか。もっと早いうちにくれば良かったな」

チドリ「……」

チドリ「なんで来たの?」

鳴上「え? 心配だったから……じゃ、ダメか?」

鳴上「……あんな姿、見た後だったし」

チドリ「……」

鳴上「順平さんと仲直りはしたんだろ?」

チドリ「……まあ、ね。でも」

チドリ「他人の心配するより、自分の事考えた方がいいんじゃないの?」

チドリ「顔色、サイアクよ。今にも死にそう。……順平もだったけど」

チドリ「バカじゃないの?」

チドリ「順平も悠も、……ホント、バカよ」

鳴上「……」

鳴上「俺はともかく、さ。順平さんはそれだけチドリの事を……」


>……

>これ以上の事は自分の口から言って良い事かどうか計り兼ねる……


チドリ「……わかってる」

鳴上「!」

チドリ「順平が、私の事考えてくれてるのはわかってるの」

チドリ「もちろんそれは私にとってはとても嬉しい事よ。本当に嬉しい。……けど」

チドリ「辛いって思う時も、あるのも本当」

チドリ「私の存在は……順平を縛ってるんじゃないかって、重荷になってるんじゃないかって、凄く不安になる」

チドリ「それなのに私は、自分の気持ちを抑えられない時があるから……嫌になるの」

チドリ「もっと順平と一緒にいたい、だなんて……」

チドリ「……」

チドリ「私も大概バカよね」

チドリ「もうやめましょう。面白い話じゃないわ」

チドリ「悠にこんな事喋っちゃうなんて、何やってるのかしらね、私……」

鳴上「バカなんかじゃないと思う」


チドリ「……?」

鳴上「チドリはさ、順平さんの事好きだからそう思うんだろ?」

チドリ「!」

チドリ「すき……?」

鳴上「そう、好き」

鳴上「だったら、そんな風に思うのはバカとかそういうんじゃなくて……仕方のない事なんじゃないか?」

鳴上「好きだから傍にいてほしい。でも好きだから相手の迷惑にはなりたくない」

鳴上「その辺、難しい感情だとは思うけど、そうやって悩む分だけ相手を……順平さんを想ってる証拠だと、俺は思う」

鳴上「チドリはそれを、順平さんに言った事はあるのか?」

チドリ「あるわけないじゃない。……そんなの、こわくてできない」

鳴上「それでも一度、チドリはその気持ちを順平さんにぶつけてみてもいいんじゃないか?」

鳴上「あの人はそれを受け止められないほど弱い人じゃないと思うし、たぶんチドリが思うほど悪い返事はしないんじゃないかな」

鳴上「ただの俺の勘だけど」

チドリ「……」

チドリ「そんな事言って、どうしようもない事になったら、悠は責任とれるの?」

鳴上「それは……」

チドリ「……冗談よ」

チドリ「……」

チドリ「でも、やっぱり順平にこのきもちを伝えるのは……今は、まだ……」

チドリ「順平の前だと、たぶん上手く言葉にできないと思うし」

鳴上「……そっか」

鳴上「もし仮にどうしようもない事になったとしたら、責任とって俺がチドリを貰おうか?」

チドリ「……バカじゃない? お断りよ」


>真顔で拒否された。


チドリ「それに、悠にはもっと素敵な子がいるんじゃないの? この前一緒にいた子とか」

鳴上「いや、メティスはそういうのじゃ……」

チドリ「……ふうん?」

鳴上「まあ、俺の事はいいからさ。チドリと順平さんが上手くいくように応援してるから」

チドリ「……」

チドリ「ありがとう」


>チドリは僅かに潤んだ瞳と紅潮させた顔を隠すように俯いてしまった。

>チドリの事が、少しわかったような気がする……



>『ⅩⅡ 刑死者 チドリ』のランクが5になった



鳴上「……あ、そうだ。チドリ、順平さんの連絡先知ってるんだろう? それ、俺にも教えてもらってもいいか?」

チドリ「別にいいけど。ちょっと待って……はい」


>チドリから、順平の携帯の番号が書かれたメモをもらった。


チドリ「それ、悠にあげる」

鳴上「え、でも」

チドリ「いいの。もう、何度も見て暗記しちゃってるから」

鳴上「……」


>携帯を取り出して、書かれた番号を登録してから、渡されたメモをチドリの手に握らせて返した。


鳴上「でもこれはチドリが順平さんからもらったものだから、俺のものには出来ない」

チドリ「……」

鳴上「じゃあ、お大事に」

チドリ「……悠」

鳴上「どうした?」

チドリ「順平に、体には気をつけてって……そう伝えて欲しい」

鳴上「それは……チドリの言葉で、声で、伝えるべき事だろ。その方がきっと順平さんも喜ぶ」

チドリ「……」

鳴上「またな」


>チドリの病室を後にした。

>……


チドリ「……」

チドリ「……公衆電話って、どこにあったかしら」


学生寮 自室


>携帯を手にとり、画面を確認してみた。

>……着信も受信メールもゼロだ。


鳴上「キミコからの連絡は未だになし……か。参ったな」

鳴上「それはそれで置いとくとして。……今、電話しても平気かな」

鳴上(順平さんに、少し思い出した事について話がしたい)

鳴上(たぶん、順平さんも……)


>電話帳のボタンを押し、つい先程登録した順平の番号を呼び出し、通話ボタンに指をかけた。

>……

prrrrrrr


順平『はいはーい。一体どちら様でしょーか?』

鳴上「……あ。順平さんですか? 俺です。鳴上です」

順平『えっ! あー、鳴上かー! いやあ、こりゃまた妙なところからかかってきたな! アッハハ』

鳴上「なんだか機嫌が良さそうですね」

順平『えー? わかっちゃう? いや、それがさあ!』

順平『ついさっき、チドリから電話があったんだよ! ビックリだろ?』

鳴上「!」

鳴上「そっか……それはよかったです」

順平『……あー、でも今なんか解ったわ。チドリにそんな事するように仕向けたの、お前なんだろ?』

順平『で、チドリから俺の番号を聞いて今電話してきている、と』

鳴上「あ、いや、それは」

順平『いいっていいって! きっかけはどうあれ、チドリが俺のところに電話してくるなんてさー、一歩前進って感じじゃね? へへっ』


>電話越しでもその声色から、順平が大層嬉しそうにしている様子が想像出来る。


順平『それで、鳴上は何の用だ?』

鳴上「はい。……」

鳴上「あの、こんな事突然聞くのもどうかと思ったんですが」

鳴上「最近、……夜はどんな感じですか?」

順平『え』

順平『……。番号まで調べて突然電話かけてきて……するのがソッチ系の話?』

鳴上「いや、そうじゃなくて……」


鳴上「俺たち、夢の中で会ったりした……なんて記憶、ありませんか?」

順平『っ……』

順平『ただの、気のせいだと思いたかった。……けど』

順平『じゃあ、あのキノコ頭の羊ってやっぱり鳴上だったのか?』

鳴上「ッ!!」

順平『あのちっこい羊は……感じからして、天田っぽいなって思ったけど』

鳴上「そうです、たぶん。天田も最近夢にうなされてるって言ってましたから」

順平『あの夢ってさ……なんなワケ? 今の話でちょっとだけ見た内容思い出したけど、いつも起きたらすぐ忘れちまうし』

順平『俺たち、共通して同じ夢見てるって事だよな?』

順平『魔女の呪いとかなんとかいう話、マジもんだったって事か?』

鳴上「それは、はっきりとは……でも、その話が本当だったとしても」

鳴上「もう、だいぶ上まで登ってきた筈……そろそろ、何かあっても不思議じゃないと思うんです」

順平『なにかって?』

鳴上「わかりません。でも、誰だったかが、上を目指せって言ってて、えっと、……そう」


>順平と話す事で、夢の中の出来事が少しずつ思い出されていく……


鳴上「カテドラル」

鳴上「そこまで行けばいいって。それで……確か、昨日の夜、俺はそのすぐ手前まで辿り着いた……筈なんです」

順平『あ、そっか。思い出してきた。お前、今先頭なんだっけ』


順平『俺はまだ少し下の方だった気がするけど』

順平『……で、どんな感じだ?』

鳴上「今日の夜を迎えてみない事には……なんとも」

順平『ま、そうだよな』

鳴上「……」

順平『……そっかー。鳴上が頑張ってくれてたって訳なのか』

順平『こりゃ、俺も負けてらんねーかな。後輩にばっか見せ場とられんのもあれだし、何より』

順平『俺は、チドリの為にも生きないと』


>順平の決意が伝わってくる……


順平『またお前に後押しされちまったみてーだな。……なんかさ、お前って』

順平『いいヤツだよな』


>順平は電話の向こう側で笑っている。

>順平と少し、打ち解けたような気がした……



>『Ⅰ 魔術師 伊織順平』のランクが4になった



順平『お互い生き延びなきゃダメだかんな?』

鳴上「わかってますって」


>しばしの間、互いを励まし合ってから通話を終了させた。

>……



【夜】


クラブ エスカペイド


>カウンターの席にぐったりしている男がいる。


ヴィンセント「……鳴上」

鳴上「! だ、大丈夫ですか!?」

ヴィンセント「んー……」


>顔がほんのりと赤くなっている。

>どうやら、ここに来る前に何処かで飲んできたようだ。


鳴上「酔ってます……?」

ヴィンセント「……いんや。これくらい、酔ったうちに入んねえよ」


>確かに、意識の方はしっかりしているし、ちゃんと話せてもいる。

>ぐったりとしていたのは別の理由だろうか。


ヴィンセント「なんかあったのか? って、聞きたそうな顔してんな。……その通りだよ」

ヴィンセント「嫁とちょっとばかし、喧嘩しちまってさ。最近、俺の様子がおかしいって言われたのがきっかけなんだけど」

ヴィンセント「誤魔化そうとしてるうちに、何故か言い争いになっちまってさ。近頃帰りが遅いとか、娘の面倒見てくれないとか色々言われて……」

ヴィンセント「……はあ」

鳴上「店員さん。水とか用意出来ますか?」

店員「……はい、ただいま」


>店員が氷の入った水のグラスを持ってきてくれた。

>それをヴィンセントの前に置いた。


ヴィンセント「……すまねえな。大丈夫だから」

鳴上「……」

ヴィンセント「それもこれも全部夢のせいだ」

ヴィンセント「……なんて、責任転嫁出来れば一番楽なんだろうけどさ。本当はわかってんだよ」

ヴィンセント「自分に原因があるって事くらい……」

ヴィンセント「でも……だから、どうしろっていうんだよ」


>ヴィンセントはこちらに話しかけるというよりは、自身に言い聞かせるように言葉を紡いでいる。


鳴上「ヴィンセントさんは、……」

鳴上「奥さんの事、愛していますか?」

ヴィンセント「愛してるよ」

鳴上「娘さんの事、愛していますか?」

ヴィンセント「愛してるよ」

鳴上「そう言えるんだったら、それをきちんと行動で示せばいいじゃないですか」

鳴上「今の言葉、少なくとも俺には嘘には聞こえませんでしたけど」

ヴィンセント「……心の奥底では俺がどう考えてるなんて、お前にもわからないだろ?」

鳴上「じゃあ、嘘なんですか?」

ヴィンセント「……んな訳ねえだろ」


鳴上「そうやってはっきりと言葉で俺には言えるのに、何をそんなに悩む必要が?」

鳴上「喧嘩したなら、ごめんなさいして」

鳴上「その後で奥さんと娘さんを抱き締めてあげて」

鳴上「愛してるって言ってあげればいいだけじゃないですか」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「……若いっていいよな。そういう事、言えてさ」

鳴上「馬鹿にしてます?」

ヴィンセント「いや、羨ましいって言ってんの」

ヴィンセント「俺だって本当はそうしたいけど。……今の状態じゃ、そんな事出来ないっていうか」

ヴィンセント「やっぱり、あの夢が気がかりでならなくて、家族の事を考える余裕なんて……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「……なあ、鳴上は今、あの夢の何処にいる?」

鳴上「え? えっと、結構上の方っていうか、カテドラルってとこに辿り着いた所……の筈です」

鳴上「あまりはっきり覚えてないんですけど、確かそうだったと」

ヴィンセント「カテドラルだって……?」

鳴上「はい。そういえば、結局夢の中ではヴィンセントさんと会えたような記憶はないんですけど……まだ下の方なんですか?」

ヴィンセント「……いや」

ヴィンセント「俺も上の方にいる……と思う」

ヴィンセント「……。上……?」

ヴィンセント「ッ、そ、そうだ……そうだよ!」

ヴィンセント「ずっと何かおかしいと思ってたんだっ……!」

鳴上「えっ、何がですか?」

ヴィンセント「俺も毎晩、あの夢を見ている! それは間違いない! ……でも、でも!」

ヴィンセント「一度として、上へ登った記憶がないんだよっ……!」

鳴上「え……!? どういう事ですか、それ!」


ヴィンセント「わかんねえよ! だからおかしいって言ってんだ!」

ヴィンセント「なのに上の方にいて、ずっと下の方を……」

ヴィンセント「ッ……!」


>ヴィンセントは頭を抱えて辛そうにしている。


鳴上「ど、どうしました!?」

ヴィンセント「……いや。何か、思い出しかけたんだけど……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「お前、今カテドラルにいるって……さっき、そう言ったな?」

鳴上「……はい」

ヴィンセント「なら、終わりはもうすぐそこだ」

鳴上「!」

ヴィンセント「……大切なものを離さずに行くんだ。そうすれば、おそらくお前はあの夢から解放されるだろう」

鳴上「大切なもの……?」

鳴上「どうしてそんな事がわかるんですか?」

ヴィンセント「……それは」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「俺が、かつてあの塔を登りきって生き延びた人間の一人だからだ」

鳴上「ッ――!?」

鳴上「じゃあ、もしかして。噂されてる伝説の男って……」

ヴィンセント「……どこから流れたんだか知らないが、そういう風に呼んでるのもいるみたいだな、俺の事を」

ヴィンセント「それがまたあの夢に落ちてるっていうんだからとんだ笑い話さ」

鳴上(この人がそうだったのか……どうりでこの話に詳しい筈だ)

鳴上「でもそれなら、ただ上にいるだけってのも解る気が……だって以前に、登りきってる訳ですよね? もう登る場所がないじゃないですか」

ヴィンセント「それはそうかもしれねえけど、じゃあ何故登りきったままの状態で、またあの夢の中にいるんだ? ……それが解らない」

鳴上「それは……」

鳴上「……」

鳴上「わかりました……俺。俺も登り切って、ヴィンセントさんのところまで行きます」

ヴィンセント「!」

鳴上「そうすれば、何か答えが解るのかも。一人では無理でも二人いるなら……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「そう、だな。きっとそうに違いない……って、そう信じたい」

ヴィンセント「ハハッ、お前は頼もしいやつだよ、本当にさ」

ヴィンセント「……上で待ってるぞ」


>ヴィンセントの言葉に強く頷いた。

>ヴィンセントとの絆が深まったような気がする……



>『ⅩⅤ 悪魔 ヴィンセント』のランクが7になった



ヴィンセント「ただな、俺の経験から言わせてもらえば……あそこは今まで登ってきた場所とはまた違った意味で厄介だ」

ヴィンセント「言葉で言ってどうにかなるもんでもないけど、……気をつけろよ」


>ヴィンセントの言葉を肝に銘じ、今夜はこれで解散する事になった。

>……今夜の舞台はどんな場所になるというのだろう。

>……



>…
>……
>………


05/15(火) 曇り 自室


【朝】


鳴上「ん……」

鳴上「……朝、か」

鳴上「……」

鳴上「――え?」


>思わずベッドから跳ね起きて、カーテンを勢い良く開けた。

>外は……太陽が雲に隠れてはいるものの、明るい。

>間違いなく朝だ。

>携帯に表示されている日付も昨晩確認した時のものから一日進んでいる。

>ただ、時刻がいつも起きる時間よりもだいぶ早めであった。


鳴上「俺、昨日の夜はあの夢……見てないよな?」

鳴上「終わった……のか?」


>まさか、こんな形で解放される事になるとは思わなかった。

>原因が解らず始まった悪夢騒動は、原因が解らないまま幕を閉じてしまったという事なのだろうか……

>……

>少しの間、考えてみたが睡眠が足りなかったのか、また眠くなってきた。

>時間もまだある事だ。細かい事は後にして……今は二度寝する事にしようか。

>……目を、閉じた。

>……





――コンコン


>扉をノックする音が聞こえる。


鳴上「……ん?」

アイギス「悠さん。起きていらっしゃいますか?」

鳴上「アイギス……? どうしたんだ?」

アイギス「悠さんにお客様ですよ」


>客? 一体誰だろう……


千枝「おっはよー、鳴上くん」

雪子「もしかしてまだ寝てた?」

りせ「もー、先輩ってばお寝坊さんなんだから!」

直斗「いえ、僕らが早く来すぎてしまったのでしょう」

鳴上「!?」


>扉の向こうからは、八十稲羽にいる筈の女子達の声が聞こえてくる。

鳴上「お前ら、なんでっ……!?」

千枝「へへー、びっくりしたでしょ?」

雪子「実はね、今日休校日なんだ」

りせ「それでー、先輩驚かしてやろっかーってみんなで相談して、会いに来ちゃったんだ!」

直斗「花村先輩と巽くんには留守番をしてもらっていますが……」

鳴上(置いてけぼりで、かわいそうに……)

千枝「でもスペシャルゲストがいるよー」

菜々子「お兄ちゃん、菜々子だよ!」

鳴上「な、菜々子まで!?」

直斗「堂島さんから責任を持ってお預かりしてきました」

鳴上「そっか……」

鳴上(みんな、会いに来てくれたのか……)

鳴上(陽介と完二には後でお悔やみのメールを入れておこう)

鳴上「でも、俺は今日学校……」

雪子「え? 鳴上くんもお休みだって言ってなかったっけ?」

鳴上「……え?」

アイギス「そうですよ、悠さん。今日は月光館も休校日であります」

鳴上「そうだったっけ? ……忘れてた」

りせ「それより、先輩早くここ開けてー!」

鳴上「ああ、今行く」

鳴上(って、寝間着のままだけど……ま、いいか)


>部屋の扉を開いた。


鳴上「みんな、よく来た――」





「皆さん、いらっしゃい」

鳴上「――!?」


>……初めはただの聞き違いだと思っていた。

>扉を開けた先にいた千枝達は、自分の姿ではなく何故かその後ろを見て口をぽかんと開けている。

>……

>簡単な話だ。

>その場にいた『彼女』以外の人間のほとんどが、その声と『彼女』の姿に凍り付いていたのだ。

>その中でただ一人、菜々子だけがきょとんとしながらその後ろを見て首を傾げた。


菜々子「おねえちゃん、だれ?」

鳴上「っ……」


>恐る恐る、ゆっくりと、菜々子が見ているその先を見ようと……振り返った。

>そこには、月光館学園の制服を着た女が一人、微笑みを見せながら佇んでいる――


キミコ「どうも、初めまして。キミコって言います」

キミコ「今後ともよろしく」


まだ残りがありますが時間なので一旦切るであります。

マヨナカテレビの時刻を30分ほど過ぎた時間にまた来たいと思います。

後半へ続く。

>……


学生寮 ラウンジ


>一階に、この寮にいる一同が集められた。

>キミコと共にラウンジにあるソファに座らせられ、その周りを女性陣で囲まれる。

>天田とコロマルだけは少し遠くにいて、何事なのかとオドオドしていた。


天田「あ、あの、これはいったい……」

美鶴「天田は少し黙っていてくれ」

天田「は、はい! 口閉じてますっ!」

コロマル「クゥーン……」


>女性陣の中で唯一椅子に座り、眉間に皺を寄せていた美鶴が大きく溜息を吐いた。


美鶴「私も、一体どういう事なのか君の口から説明して貰いたいのだが? 鳴上」

鳴上「……」


>自分が喋らなければ破られないこの静寂が身に染みて痛い……

>だが、事情を知りたいのはこっちも同じだ。

>何故、昨日まで連絡すらとれなかったキミコが自分の部屋に突然いたのか……

>俯きがちになった顔を動かさず視線だけでキミコの方を見た。

>どう答えていいのか解らない自分をよそに、彼女はとても涼しい顔をしている。

>耳に、二度目の美鶴の溜息が聞こえた。


美鶴「だんまりか。まあ、いい」

美鶴「では、そちらの彼女に聞こう」

美鶴「確か……キミコと言ったな? 君は、……」


>美鶴は一瞬言葉を選んでいるような素振りを見せてから再び口を動かし始めた。


美鶴「君は、鳴上とはどういう関係で? 何故、あの部屋に一緒にいたんだ?」

キミコ「それは、悠とは一夜を共に過ごすような間柄だからです」

美鶴・千枝・雪子・りせ・直斗「!?」

鳴上「なっ……! お、おい!」

キミコ「だってホントの事だもん」


>キミコは腕に絡みつくように抱きついてきた。


千枝「は、はあ? ちょっと意味がわかんないんですけど?」

りせ「ちょっと! 先輩に馴れ馴れしくくっつかないでよ!」

雪子「つまり……どういう事?」

直斗「……あまり理解したくはありませんが。先輩、詳しい説明を」


>四人は冷ややかな視線をキミコと自分に向けている。


アイギス「菜々子さん。女性同士の醜い争いに耳を傾けてはいけません」

菜々子「ふえっ!?」


>アイギスが菜々子の耳を両手で塞いだ。


メティス「アイギス姉さん、少し遅いと思います」

ラビリス「悠、なんか悪い事でもしたん?」


>三姉妹に関しては割と呑気なようだったが、こちらを擁護してくれる期待も出来なさそうだった。


美鶴「……君たちも少し、静かに!」

美鶴「ゴホンッ。……それで、鳴上。君から何か言う事は?」

鳴上「あ、あの……」


>どう弁明したら良いのか……言葉が思い浮かばない。


美鶴「……個人の交友関係についてとやかく言う気はない。が、ここは仮にも学生寮だ。もう少し節度を守って欲しいものだな」

鳴上「はい……」

美鶴「それに、君だって自分の立場について理解していない訳ではあるまい? 何故この寮に住まっているのか……ここに集められている者たちの意味は十分に解っているだろう?」

美鶴「むやみに部外者をこの寮に、しかも夜に招くなど……あってはならない事だ」

キミコ「あのー」

美鶴「……なんだ」

キミコ「それで、あなた達の方は悠のなんなんですか?」

キミコ「はい、まずはそこの四人!」

千枝「えっ……」

雪子「私たち?」

りせ「何ってそりゃあ」

直斗「それ、は……」

千枝・雪子「前の学校の同級生……」

りせ・直斗「……後輩」

キミコ「ふうん? じゃあ、そちらの方達は?」

美鶴「わ、私たちか? 私は……鳴上の住まうこの寮の総責任者、だ」

アイギス「私は、寮監……ですね」

メティス「……。同じ寮生ですが、何か?」
ラビリス「まあ、そういう事やね」

キミコ「そ。で、そこのちっちゃい女の子は?」

菜々子「え……?」

鳴上「菜々子の事はいいだろ……!」

キミコ「へえ、菜々子ちゃんって言うんだ」

キミコ「……それで?」

美鶴「……。何がだ?」

キミコ「それで、何の権利があって私と悠の事をあれこれ言うのかなって聞いてるの」

美鶴「それは……」

キミコ「貴女、さっき悠の個人的な交友関係にとやかく言うつもりはないって言いましたよね?」

キミコ「だったらそうしてくれませんか?」

りせ「ちょっと待ってよ! アンタさっきからなんでそんなに図々しい訳?」

千枝「そ、そうだよ!」

雪子「まったくだわ。鳴上くんさっきから困ってるじゃない!」

キミコ「……わっかんないかなあ」

キミコ「困らせてるのは、貴女達の方でしょ?」

直斗「聞き捨てなりませんね」

アイギス「メティス。……その鈍器は今はしまって」

メティス「……でも」

ラビリス「なんやの、この感じ……」

メティス「彼女のあの気配は一体……」

鳴上「ちょ、みんな落ち着……」

キミコ「ねえ、悠。言ってやったら?」

鳴上「え?」

キミコ「あいつら皆、悠の重荷でしかないんだって!」

鳴上「なっ……」

鳴上「何を馬鹿な事……!」

キミコ「だってそうでしょ?」

キミコ「いつも悠を頼りにしてくるくせに、肝心な時に力にはなってくれない! 何もかも悠に押しつけてくる! 甘えっぱなし!」

キミコ「そんな連中が、悠はホントは嫌なんでしょ? 邪魔なんでしょ?」

鳴上「やめろッ!!」

菜々子「お兄ちゃん……」

菜々子「……菜々子のこと、じゃまなの? きらいなの?」

菜々子「お兄ちゃんは菜々子のお兄ちゃんでいてくれないの?」

鳴上「違う! そうじゃない!」

キミコ「……アンタたちが」

キミコ「アンタたちがいるから、悠が苦しむのよ!!」


>そう叫んで、キミコは腕から離れゆらりと立ち上がる。

>その手には……いつの間にか、刃物が握られている。

>そして、キミコはその場にいた人間に無差別に切りかかり始めた――!


「キャアアアアアアア!!」


>誰の悲鳴ともわからない声が混じり合い、寮内に木霊した。


鳴上「やめっ、ぐ……!」


>そのうちの一人を庇い、キミコのもつ刃物が自分の脇腹へと掠る。

>その痛みで体は前へと倒れ込んだ……

>切られた場所がズキズキと疼く。


菜々子「お兄ちゃん!!」

鳴上「みんなっ……逃げ……」

美鶴「くっ……取り押さえるんだ!」


>キミコひとりくらい、この人数なら捕まえられると思ったのだろう。

>美鶴の指示でアイギスを中心に彼女を大人しくさせようと取り囲む。

>……その時、二度目の悲鳴が響いた。


「キャアアアアアアア!!」


鳴上「どっ……どうした……!?」

鳴上(まさか……誰か犠牲に!?)

鳴上「くそっ……」


>血が滲む腹部を手で押さえながら体を起こす。

>そこで目に飛び込んできたのは他の誰でもない……

>刃物を振りかざしていた張本人であるキミコの横たわる姿だった。

>彼女は、まるで自害でもしたかのように自分の腹部に刃物を突き立てながら血溜まりの中に沈んでいた。


鳴上「キ、キミコ……?」

千枝「ウソ……」

雪子「ど、どうして……?」

りせ「ちょ、冗談やめてよ……!」

直斗「っ……」

アイギス「そんな……取り押さえようとしただけなのに……その時の反動で、誤って自分を刺してしまうなんて……!」

鳴上「っ、救急車……!」


>入り口付近のカウンターに駆け寄り、置かれている電話をとって119へとダイヤルした。

>しかし……コール音が聞こえてこない。

>いくら押してみても、何処へも繋がる気配がなかった。


鳴上「なんで……――!?」


>その瞬間、扉の外から嫌な気配を感じとった。


鳴上「っ……!」


>そしてそれは、音もなく自動的に開かれていく。

>その先に続いていたのは……見慣れた外の景色ではなかった。

>そこにあったのは外とは程遠い、明らかに建物の内部であった。

>光り輝く広大な大聖堂……

>そう認識した時、寮内もまた変貌し、大聖堂の中と一体化する。

>そして目前に積まれる石の山。


メティス「なんですか、これは……!?」

鳴上「まさか、なんで……!」

鳴上「……!?」

鳴上「キミコは!?」


>気付いた時にはキミコの姿も、キミコが作っていた赤い水溜まりも無くなっていた。

>かわりに、その言葉にこたえるかのように、大きな振動がこの場の全員を襲った。

>そしてそこに現れたのは……


『フフ……ウフフ……』

『悠は私が守ってあげる……』

>巨大な怪物と化した、キミコの姿だった。

今度こそ終わります。

また次回も修羅場

鳴上「ッ……!」

鳴上「みんな、走れ!」

ラビリス「えっ!? ちょっ、何が……」

鳴上「いいから! 俺に続け!」

鳴上「……天田!」

天田「! は、はい!」

鳴上「お前はコロマルと一緒に一番後ろでみんなの安全確認と、背後からくるヤツの動きを注意していてくれ!」

天田「わかりました!」

コロマル「ワンッ!」

美鶴「鳴上! どういう事なんだ!?」

鳴上「詳しい説明をしてる暇はありません! とにかく、俺が作る道を通ってついてきてください!」

鳴上「アイツに捕まるか、足場から落ちたら終わりだ……!」

千枝「!? 後ろの方、崩れてきてる……!」

菜々子「お兄ちゃんこわいよ……」

鳴上「……大丈夫」

鳴上「お兄ちゃんがみんなを守るから」

鳴上(でも他はともかく、菜々子にここを登らせるのは……)


>菜々子の小さな体では、この石の積まれた山を登るのは困難だろう。

>自分が抱えていくしかないか……そう考えていた時、菜々子の体がふわりと浮かんだ。

>アイギスが菜々子を抱き上げている。


アイギス「菜々子さんは私達にお任せを。悠さんは私たちの誘導に専念してください」

鳴上「! ……任せたからな」

アイギス「はい。菜々子さん、振り落とされないように、私にしっかりとつかまっていてくださいね」

菜々子「うん……」

鳴上「こっちだ!」


>……


雪子「りせちゃん、大丈夫?」

りせ「う、うん。平気」

直斗「登りにくいところはみんなで手を貸し合って行きましょう」

天田「あ、美鶴さん! そこは脆くなっているので注意してください!」

美鶴「! わかった!」

天田「それから、そこを登り切ったら一度左右二手に別れて登った方が早いです! 左の方は何もしなくても登れるルートが既にありますから!」


>みんな協力し合って必死に登っている。

>天田のサポートもあって、今のところはスムーズに進めているが……気は抜けない。

>キミコだった化け物は、こちらを追ってはきているものの、今のところ何も仕掛けてはこないが……


『どうして……? そいつらなんか助ける必要ないでしょう?』

『悠だけ逃げれば楽じゃない』


>……こうやって、次々とこちらを揺さぶろうとするような言葉を吐いてくる。

>だが、そんなもの、耳に入れる気にもならない。

>無視して進もう。


メティス「鳴上さん、怪我の方は……」

鳴上「大した傷じゃない」

メティス「……」

メティス「あんな怪物、ペルソナを使って戦えばいいだけの話じゃないんですか?」

鳴上「それは無理だ。……ここではペルソナは呼べない」

メティス「そんな!」

メティス「っ……プシュケイ!」

メティス「……!? どうして……」


>メティスは己のペルソナを使おうと試みるが、やはり召喚する事が出来ない。


『そんな事しても無駄ァ』

『……決めた。アンタから消してあげる』

コロマル「ワンッ! ワンッ!」

天田「メティスさん危ない!!」


>コロマルの大きな吠える声と天田の叫びが重なった。


メティス「え……?」

『しねええええええええええええええ!』


>怪物の大きな手がメティスのいる石に目がけて勢いよく伸びてきている――!


メティス「くっ……!」

メティス「!?」


>メティスはその手をかわそうと飛び上がり見事に回避する。

>が、着地した先の石が崩れ、彼女の体は落下し闇に飲まれようとしていた――


鳴上「メティス!!」

メティス「ッ!」


>……間一髪、落ちるメティスの腕を掴む。

>しかし、メティスは宙吊りで、不安定な状態な事に変わりはない。


鳴上「つっ……」

メティス「な、鳴上さん! 私の事はいいから手を……手を離して!」

鳴上「ダメだ! そんな事出来る訳ないだろ!」

メティス「でもっ……」

『フフ……そうだよ、その女の手を離せば、悠は煩わしいものからひとつ解放されるんだよ?』

鳴上「……だ」

メティス「え……?」

鳴上「嫌だ! みんな生きてここから出るんだ!」


>腕に力を入れ、メティスの体を勢いよく引き上げた。


鳴上「っ……お前、無駄に重いな」

メティス「そ、そんな事言ってる場合じゃ! 早く先に!」

鳴上「ああ……そうだったな!」

『チッ……どいつもこいつもしぶといんだからぁ!』

『もう遊びはおしまい。くたばれェッ!』


>怪物の叫びが足場を振動させる。

>続いてきたのは、無差別に落下してくる石と雷だった。


鳴上「みんな! 周りをよく注意して走れ!」

アイギス「あれに当たったら一溜まりもありませんね……!」

メティス「邪魔な石は私が片付けます!」

ラビリス「ウチも手伝うで!」


>メティスとラビリスが、自分の得物を手に取り落ちてくる石を粉砕していく。

>アイギスは時折振り返りながら銃弾を怪物目掛けて撃ち込んでいるが、あまり効果はないようだった。


鳴上「里中たちも、ちゃんと追いてこれてるか!」

千枝「う、うん。なんとか!」

雪子「でも、逃げきれるの……!?」

りせ「も……やだ……足いたい……!」

直斗「あまり長引くようだと……まずいですね……」

美鶴「何時まで続くんだ、こんな事!」

鳴上「みんな、諦めるな! 足を止めるな! 俺を信じて追いてこい!」

鳴上(くそっ……まだなのか!?)

菜々子「お兄ちゃん……負けないで……」

菜々子「……? この音、なに?」


ゴーン…… ゴーン……


>少し遠くの方から鐘の音が聞こえてくる!


鳴上「! みんな、もうすぐ出口だ! あと少し、頑張ってくれ!」

『ダメぇぇぇぇ、逃がさないんだからあぁぁぁぁぁぁ!!』


>容赦なく、石と雷が落ちるペースがあがっていく。

>しかし、あと少しだ。ここで挫ける訳には……

>みんなを励まし、自分を鼓舞するように声をかけながら最後の階段を上がっていく。

>……出口の扉は、もう目前だ!


鳴上「みんな、ここから外に!」


>扉を開き、後から続いている者達を先にこの場から脱出させる。

>……

>後は、自分がここから逃げれば……


『どうして!? どうしてよ! 悠を縛り付ける連中なんて私がみんなみんな消してやるんだからッ!』


鳴上「!」

鳴上「やめろッ!!」

鳴上「あいつらは……俺の大事な仲間だ!」

鳴上「俺にはあいつらが必要なんだ!」

鳴上「ここから先は一歩も通さない、みんなには指一本触れさせない!」


>出口の前に立ちはだかり、両腕を広げて迫り来る怪物から目を逸らさず睨みつけた。


鳴上「……俺は負けない。誰にも何も奪わせたりしないッ! ぜったいに、みんなを守るッ!」

『キシャアアァァァァァァァァ!!』


>背後から差す光が、自分と辺り一帯を全て包んだ――







――それが、君の答えなんだね?


8th day


05/15(火) 曇り 自室


【朝】


鳴上「――!」


>見開いた目に映ったのは、今ではもうすっかり見慣れた寮の天井だ。


鳴上「え……?」

鳴上「……みんなが、来てたんじゃ」

鳴上「……」

鳴上「っ……そうだ、キミコ! キミコは!?」

鳴上「血がいっぱい出て倒れてた筈だっ……」


>飛び起きて部屋中を急いで見渡す。

>しかし、どこにもキミコの姿は……ない。
>……

>現実と夢の境目が、もうわからない。

>何が本当にあった事なのだろうか……


ドンドンドン!

>部屋の外から誰かが激しく扉を叩いている。


天田「鳴上さん! 鳴上さん!」

鳴上「天田!?」


>急いで扉を開いた。


鳴上「どうした!」

天田「どうしたじゃないですよ! 大丈夫ですか!?」

天田「き、切られたところとか! それに、ちゃんと逃げきれたんですか!?」

天田「鳴上さんあの場にひとりで残っちゃうし、僕っ……」


>天田は寝間着姿で寝癖がついたまま、あたふたしている。

>彼も寝起きで相当混乱している様子だ。

>……その様子を客観的に見れたおかげが、自分は少し冷静さを取り戻す事が出来たようだ。


鳴上「お、落ちつけ」

鳴上「俺はちゃんとここにいるだろ? 無事だよ」

天田「……ハッ!?」

天田「あ……ホントだ。ホントだ!」

天田「よかったあ……」

鳴上(……うん。無事だよ、な。傷もなくなってるし)


>刃物で切られた筈の腹部は、血が滲んでいる事もなく、どうもしていない。

鳴上「……」

天田「……。これで終わったんでしょうか?」

鳴上「え?」

天田「だって、あそこがカテドラル……ってとこだったんですよね?」

天田「そこを登りきったんだから、もう……」

鳴上「……確かに」

鳴上(でも、本当に?)


>ヴィンセントは大切なものを離さずあの場所を行けば夢から解放されると言っていた。

>しかし、それは……


鳴上「あくまで俺たちだけ、って話だと思う」

天田「え?」

鳴上「他の羊たちはまだ、あの夢に捕らわれたままなんじゃないか?」

鳴上「つまり、根本的な解決にはなっていない」

天田「……」

天田「でも、これ以上どうしろっていうんですか?」

鳴上「……」

鳴上「夢を見せている原因そのものを叩く。……それしかもう、ないと思う」

天田「でも、それが特定できなかったから、こうやって毎晩苦しんでた訳じゃないですか」

天田「いや、夢の事が現実だと曖昧な記憶でしか残らなかったんだから、そうだったのは当たり前ですけど……」

鳴上「でも、俺たちは今はこうしてきちんとあの夢のこと認識出来てるだろ? 以前よりは……だけどさ」

鳴上「それに、俺の知ってる人で以前この夢から生還したっていう人がいる」

天田「それ、本当ですか!?」

鳴上「ああ。もう少しこの夢について詳しい事を聞いてみようと思う」


>噂では彼が以前の事件で夢を見ていた大勢を救ったという話だ。

>そこまで本当の話かどうか定かではないが、全員を助け出す手立てを知っている、またはヒントを持っている可能性は高いとみて間違いはないと思う。

>しかし、今日の夢でも彼には会えなかった。

>ヴィンセントの言っていた事が事実なら、彼はあの世界の頂上にいる筈だ。

>つまり、今の自分はまだ一番上までは行けていないのだという事を意味している訳で。

>……

>なんだろう、妙な胸騒ぎがする……


ラビリス「おはよー」

メティス「鳴上さん、天田さん、おはようございます」

アイギス「お二人とも、揃ってどうしましたか?」

鳴上「いや……」

天田「……なんでもないですよ」

アイギス「早く支度をしないと学校に遅れてしまいますよ?」

鳴上「え? 学校?」


>よく見ると、メティスもラビリスも制服を着て鞄を持っている。


天田「やばっ……!」


>天田は慌てて自分の部屋に戻っていってしまった。

>自分も早く用意をしないと……


メティス「一階で待っていますから一緒に行きましょう」

ラビリス「ウチらまで遅刻にならんようにはよしてな」

鳴上「あ、ああ」

メティス・ラビリス「……」


>二人はそう言って階段を降りていってしまったが、その時見えた表情が何処か浮かない様子だった気がした。


鳴上「あの二人、何かあったのか?」

アイギス「……」

鳴上「アイギス?」

アイギス「!」

アイギス「な、なんですか?」

鳴上「いや……」


>アイギスまで様子がおかしい。

>みんな、どうしたのだろうか……

>……


通学路


メティス「今日、初めて夢というものを見ました」

鳴上「!」

ラビリス「……ウチも」

鳴上「二人揃って……?」

メティス「はい」

ラビリス「しかも、メティスの話聞いてみたらなんや似たような内容みたいでな」

鳴上「似たような、夢?」

メティス・ラビリス「……」


>二人とも黙ってしまった。

>もしや、朝から様子がおかしかったのは、その夢の内容のせいなのだろうか。

>……

>まさか……


鳴上「どういう夢だったんだ?」

ラビリス「んと、なんや変な場所沢山走ったり登ったりしてな」

鳴上(やっぱり……!)

ラビリス「あと、何故かその前に悠がめちゃめちゃ怒られとったわ。そんくらいしか覚えとらんのやけど、妙にリアルっていうか……なあ?」

メティス「ええ……不思議な夢でした」

鳴上「……」

メティス「あとは、……そう。私、鳴上さんに」

鳴上「俺に?」

メティス「重いって言われました」

メティス「重い、って……」

メティス「……」

鳴上(なんでそんな事だけ覚えているんだ……)

鳴上「えと……ゴメン」

メティス「べ、別に気にしてませんよ? 夢の中の話だし。……気にしてませんってば!」

メティス「機械の体なんだから、そうなのは当たり前だし」

メティス「……」


>メティスは自分でそう言ったのにも関わらずしょげてしまったようだ。

>……ともかく。

>今の話でわかった事は、どうやらあの夢の影響がメティスとラビリスにも現れているらしいという事だ。

>もしかしたら、今回の夢に出てきた人物全員が共通してあの夢を見たのかもしれない。

>それなら、アイギスの様子がおかしかったのもこれが原因に違いない。

>もしそうだとしたら、こんな事はこれっきりにして欲しい……

>……


月光館学園 3-A 教室


>教室の中はなにやら騒然としている。


男子A「あ、おはよっす、鳴上」

鳴上「おはよう。……何かあったのか?」

男子A「ああ……こりゃヤバいぜ」

男子A「C組で今話題の衰弱死したヤツが出たんだってさ」

鳴上「!」

鳴上(やっぱり、まだ完全に解決はしていないんだ……)

男子A「おっかねーよな。もう周りで何が起こってもおかしくないんじゃね? ……実はあの噂も案外本当だったりしてな」

鳴上「噂?」

男子A「ああ。ニュースでも言ってたからこれは知ってるかもだけど、前にも似たような事件があったんだよ、この街でさ」

鳴上「ああ、それは聞いた事あるな」

男子A「で、その時もやっぱはっきりした原因が解らなかったんだけど、ネットなんかじゃある悪夢のせいだなんて言われててさ」

男子A「そんなオカルト話があったりする中で……何故かある日突然ぱったりと死体が出なくなった訳。それは何故かっていうと……」

鳴上「悪夢から生還したある男……『伝説の男』のおかげ」

男子A「っていう噂が出たんだな、うん。出所とか詳しい経緯はしらねーけど。って、なんだ、よく知ってんじゃん」

男子A「まあ、本題はここからでさ。そこから数年しか経たないうちにまた同じような事が起き始めた……」

男子A「なんで? どうして? あの男のおかげで事件は解決したんじゃなかったの? と人々は思う訳さ」

男子A「そして、それとほぼ同時期、その男がまたこの界隈に姿を現し始めたという情報がネットに流れる」

鳴上「ゲーセンにあるラプンツェルの記録が近頃本人によって更新されたって話か?」

男子A「そう! で、誰が言い出したのか……ある日こんな大胆な仮説が立てられた」

男子A「謎の衰弱死事件が再び起こり始めたのは、その『伝説の男』がこの街に戻ってきて騒ぎを起こしてるからなんじゃないのか!」

男子A「……みたいなね」

鳴上「は、はあ!? なんだよその飛躍した……というか、こじつけみたいな説は!」

男子A「前にも言わなかったっけ? 『伝説の男』について今あることないこと言われてるって。この話がまさにそれなんだけどさ」

男子A「前の事件の時って噂では『伝説の男』が解決した事になってんだろ? それはつまり事件の原因を知ってる事になるんだよな?」

男子A「でも世間じゃそれは未だに謎になっている……という事は、事件の原因を知るのは『伝説の男』しかいないって訳だ」

鳴上「だからって、事件を起こしている張本人だとは……」

男子A「もしかしたら自分を越えるような可能性のある挑戦者を望んでるんじゃないのかって専らの噂だぜ?」

男子A「ゲームでも悪夢でもさ」

鳴上「そんな……」

鳴上(あの人がそんな事する訳ないだろ……何より、今もまた悪夢に悩まされているひとりじゃないか)

男子A「ま、所詮噂なんだけどさ、こんな話を知らない場所で色々されてるなんて、本人にとっちゃたまんねぇ話だよな」

男子A「風評被害っつーのか? こういうの。しかも、そう言ってる連中の規模がでかそうだから洒落になんねーわ」

男子A「哀れ『伝説の男』……」


>ヴィンセントとの付き合いはけして長い訳ではない。

>しかし、そんな真似をするような人間には到底見えない。

>だとすると、ヴィンセントを陥れようと誰かが情報操作をしている、とか……?

>そんな事をして得になるような人物がいるのだろうか。

>なんにせよ、彼と話したい事がまた増えたという事だ。

>……


【昼休み】


>教室の中はずっと衰弱死事件の話で溢れている。

>自分も気にはなるのだが……今は、もうひとつの気がかりになっている事で頭を悩ませていた。

>キミコの事だ。

>彼女からは依然として連絡がこない。

>あんな夢を見た後、という事もある。

>キミコは今どうしているのか……気にならない訳がない。

>またメールが電話をしてみようかと携帯を手に取った。

>が……


鳴上「……え。あれ?」

鳴上「前に送ったキミコへのメールが消えてる……?」

鳴上「削除なんかしたっけか。……」


>今度は発信履歴の画面を開いてみた。


鳴上「? 発信履歴もキミコにしたのだけ消えてる」

鳴上「……」


>反対側のボタンを押して、着信履歴の確認をした。

>しかし、やはり……


鳴上「キミコの着信だけ綺麗になくなってる……なんでだ?」

鳴上「……メール、は?」

鳴上「……!?」

鳴上「ない……キミコからのメールがない!?」

>データフォルダに保存していた彼女から送られてきた写メも消失している。

>それどころか、電話帳に登録していた筈のキミコの番号とメールアドレスのデータ自体がそっくりなくなっている……!


鳴上「う、嘘だろ……!?」


>いくら探してみても、この携帯にあったキミコの痕跡が見当たらない。

>携帯はいつも自分の手元においている筈だ。

>だから知らない間に誰かが消したという事は有り得ないと思うし、第一そんな事をされる理由が思い浮かばない。

>どういう事だ……

>言い表せない不安が、一気に自分の身に押し寄せてくる。

>……今日は学校に来ているのだろうか。

>2-Fに行ってみよう……!

>……


月光館学園 2-F 教室


>入り口に辿り着いてすぐ、近くにこの間声をかけた女生徒がいるのを発見した。


鳴上「おい! 今日はキミコは来ているのか!?」

女生徒A「え? あー、この間の。今日は来てますよー」

女生徒A「おーい、キミコーご指名だよー」


>そう教室の中に呼びかける女生徒の声に反応した一人の生徒がいた。

>そして教室の入り口までやってきたのだが……


キミコと呼ばれた女生徒「……え? あの、どなたですか? 私に何の御用が……?」

鳴上「っ……」


>そこにいた女生徒は、名前は同じでも自分の知っているキミコではなかった。

>もちろん、その人物も自分の事など知りもしない。


鳴上「す、すまない……人違い、だった」


>ショックでふらつきそうな体を支えながら、逃げるようにその場を立ち去った。

>……

>訳がわからない。

>自分の携帯の中だけでなく、キミコの存在自体がこの学校から消失したとでもいうのか……

>そんな馬鹿な話があってたまる筈がない。

>今まで自分と話したり、笑いかけたりしてきた彼女は一体何処へ行ってしまったのだろう。

>記憶の中にはその姿がきちんとあるというのに。

>……


【夜】


クラブ エスカペイド


>いくつもの悩みを抱え消化しきれないまま、また夜がやってきた。

>彼から話を聞けば、解決への糸口を見つけるくらいは出来るのだろうか。

>……

>今日もあの場所にヴィンセントはいる。


鳴上「……こんばんは」

ヴィンセント「……」


>ヴィンセントは俯いている顔を上げる事も、声で返事をする事もなかった。

>手元には、灰皿と山になった吸い殻と空の煙草の箱があった。


鳴上「煙草、吸ってたんですね」

ヴィンセント「……」


>やはり、言葉は返ってこない。


鳴上「今日はまた、気になる事がいくつか出来たので……その答えを知りたくてここに来ました」

ヴィンセント「……」

鳴上「……変な噂を耳にしたんです」

鳴上「俺はそんなの嘘だと思うけど、でもヴィンセントさんの口からちゃんと否定してもらって、安心したい」

ヴィンセント「……」

鳴上「手短に言います。……あの悪夢を見せているのは、ヴィンセントさん……伝説の男の仕業だっていう話があがっているんです」

鳴上「でも、そんなのデタラメですよね? だって貴方はそんな事するような人には見えないし。誰かが人事だと思って、面白半分に変なネタをでっち上げたとかに決まってる」

鳴上「……そうですよね?」

ヴィンセント「……」

>彼は未だに沈黙を押し通している。

>手にはグラスを持っただけで、口に運ぶ事もない。

>……その指は、カタカタと小さく震えていた。


ヴィンセント「っ……」

鳴上「……え?」


>……よく見ると、ヴィンセントはさっきから口を小さく動かしているようだった。

>しかしそれは、息が漏れているだけで言葉を発しているとはお世辞にもいえない状態だ。

>それでも、彼はその行為をやめない……

>何かを必死に伝えようとしているのだが、声に出せないのだ。


鳴上「なっ……どうしたんですか!? 俺に言いたい事があるんですか!?」

ヴィンセント「あ……っ……」


>ようやく顔を上げた彼は、額に脂汗が滲み出ていて目も虚ろだった。

>とても尋常な様子ではない……


鳴上「具合悪いんですか? 店から出た方が……」

ヴィンセント「ッ…た……て……」

鳴上「っ……!?」

ヴィンセント「たす、け……っ」

ヴィンセント「……助け、て……くれ……!」

鳴上「やっぱり気分が悪いんですか!? ど、どうすれば!?」

ヴィンセント「ちが……うっ……」

鳴上「!」

ヴィンセント「俺は……このまま、……だと、どう……なるか……っ」

ヴィンセント「何をする……か……わからなっ……!」


>言葉を言い終わる前に、ヴィンセントの首がガクリと下に落ちた。

>しかしそれはまもなく再び上を向き、背筋が今まで見た事もないほどすっと伸びて

>ゆっくりとこちらを向いた彼の瞳は、虚ろとは違う、鈍く赤い輝きが宿っていた――


鳴上「なっ……!?」

ヴィンセント?「やあ……初めまして、こんばんは」

>そのヴィンセントは、姿や声などは変わらず彼のものであっても、口調やそこから滲み出る雰囲気といったものがまったくの別人へと変貌していた。

>『初めまして』

>その言葉だけでも……理解できる。

>目の前にいるこの人物はヴィンセントではない別の『誰か』だ。


鳴上「お前は誰だ。ヴィンセントさんに何をした!」

ヴィンセント?「そう睨まないでくれよ。僕は彼の体を少し借りただけなんだから」

ヴィンセント?「夢にくる前に、君と是非話をしたくてね」

鳴上「!?」

鳴上「何者だ……お前」

ヴィンセント?「僕は本来あの夢の世界で告解室に座っている者……つまり」

ヴィンセント?「あの夢の管理者だ」

鳴上「お、お前が……!?」

ヴィンセント?「そうさ。長い間自己紹介が遅れて済まなかったね」

ヴィンセント?「僕は僕でやる事があったし、その間留守を任せていた彼があまりにも君に対して必死だったものだからね……ちょっと様子を見させてもらっていたよ」

ヴィンセント?「その彼も、いつの間にか帰ってしまっていたようだけどね。あれで彼は満足出来たのかな?」

ヴィンセント?「……それよりもだ。僕から君に頼みたい事があるんだけど、聞いてくれるかい?」

鳴上「……」

ヴィンセント?「……そんなに警戒しなくてもいいじゃないか」

ヴィンセント?「これは、この男……君には確かヴィンセントと名乗っていたね。彼の頼みにも繋がる事だよ」

鳴上「どういう事だ……?」

ヴィンセント?「うん、実はね。率直に言うと……」

ヴィンセント?「君にあの世界を壊して欲しいんだよ」

鳴上「!!」

鳴上「壊す……って。何故お前がそんな事を俺に頼む?」

鳴上「お前はあの場所を管理してるんだろ? そんな事されたら困る側の方じゃないのか?」

ヴィンセント?「それがそうでもなくてね」

ヴィンセント?「告解室の代行を任せていた彼に聞かなかったかい? あの世界はもはや、僕の管理する世界とはまったくの別物なんだよ」

ヴィンセント?「あれには僕も迷惑してね。あそこまで、形を本来のものに近付けるのにも相当苦労した」

ヴィンセント?「でも、それもこれも全て、あの場所を誰かに壊して貰う為の準備だったんだよ」

ヴィンセント?「次に君が向かう先……天上に、あの夢の元凶になっている存在が待っている」

鳴上「それは、一体なんなんだ!?」

ヴィンセント?「さっき、君も言っていたじゃないか」

ヴィンセント?「……この男だ。ヴィンセントという『伝説の男』が、世間に悪夢を見させている、という事になってしまっているんだよ」

鳴上「そっ……そんな馬鹿な事!」

鳴上「いや、ちょっとまて。なってしまっている……っていうのは、どう意味なんだ?」

ヴィンセント?「あの歪んだ夢の世界が出来た原理と一緒さ」

ヴィンセント?「今、この街に蔓延している、奇妙な『力』……それによって本来、存在しないもの、存在してはならないもの、そういったものが現実に姿を現してしまうようになっているみたいだ」

鳴上「奇妙な『力』……?」

ヴィンセント?「どうしてそんな『力』が発生しているのかまでは僕にもわからない。ただ言えるのは……」

ヴィンセント?「彼も謂わばその犠牲者のひとりという訳だね。電子の海を漂う偽りの言霊がその『力』を受けて、僕の世界に影響し彼にも影響して、そういう舞台と役者に勝手に仕立て上げられてしまった訳さ」

鳴上「……」

鳴上「じゃあ、あの世界を壊すっていう事はつまり」

ヴィンセント?「彼を救う事にもなるし、羊たちはあの場所から逃げ出す事が出来るって事」

ヴィンセント?「そして僕も、この地から解放される……」


>その話が本当なら……


鳴上「……。俺は、どうすればいい?」

ヴィンセント?「君は彼と約束していたね?」

ヴィンセント?「あそこを登り切って彼のところにいく、と」

鳴上「……」

鳴上「戦わなきゃダメなのか、ヴィンセントさんと……」

ヴィンセント?「そうだね。戦って君が勝たなければダメ、なんだよ」

ヴィンセント?「まだ僅かに残っている彼自身の意識も、君にそうして欲しいと訴えている」

鳴上「!」

ヴィンセント?「さっきのおかしな様子を見ただろう? 『力』が自身に及ぼしている影響を自覚したのか、まだギリギリ踏みとどまってはいるようだけど……」

ヴィンセント?「しかし今のこの状態だとおそらく、今夜を過ぎれば『力』の影響でヴィンセントはヴィンセントである事を保てなくなってしまうだろう」

ヴィンセント?「そうならない為にも……ね」


>まさか彼と戦う事になるなんて、文字通り夢にも思わなかった……

>だが、ここで覚悟を決めるしかないようだ。

>それで彼自身も救われるというのなら……

鳴上「わかった。俺がその舞台の幕を下ろしてやる」

ヴィンセント?「……迷惑をかけてすまない。と、ヴィンセントも言っているよ」

鳴上「俺の声が聞こえてるのか!?」

ヴィンセント?「そうみたいだね」

ヴィンセント?「お前にこんな事を頼んでしまって申し訳ない。すべてが終わったらまたこの場所で会おう、その時にお詫びをさせてくれ……だってさ」

鳴上「ヴィンセントさん……」

ヴィンセント?「……さて。そろそろ時間のようだ」

ヴィンセント?「この体は僕が責任を持って彼の家まで届けよう」

ヴィンセント?「だから君も早く帰って……あの場所に行くといい」

ヴィンセント?「僕も待っているよ」


>管理者はヴィンセントの体を借りたまま、店から静かに出ていった……



>『ⅩⅤ 悪魔 ヴィンセント』のランクが8になった



>……

>今夜の夢は長くなりそうだ。



【深夜】


学生寮 自室


>部屋の電気を消し、ベッドへと身を預けてからしばらく経った。

>しかし、今夜はまた今までとは違った意味で緊張してなかなか寝付く事が出来ずにいる。

>大勢の者の未来が、自分に委ねられている……

>……


イヤホンの少年「……まだ起きてる?」

鳴上「!」


>……気まぐれに現れては消えるあの少年が、また自分に会いにやってきたようだ。

>ベッドから体を起こし、彼と向かい合った。


イヤホンの少年「いよいよ……みたいだね」
鳴上「ああ」

イヤホンの少年「でも、決着をつけに行く前に君に少し用がある」

イヤホンの少年「俺じゃなくて、彼女が……だけど」

鳴上「彼女……?」


>そう言うと、ぼんやりとした姿の少年の隣にまたひとつ、うっすらとした人影が浮かび上がり始める。

>それは、イヤホンの少年よりも更にぼやけて希薄な存在だったが

>……確かに、以前から見た覚えのある人物の姿だった。


鳴上「っ……!」

イヤホンの少年「君に言いたいことがあるって」

イヤホンの少年「……じゃあ」


>イヤホンの少年は彼女だけを残して姿を消してしまった。

>彼女は困ったような顔をして、黙ったままそこに佇んでいる。


?「……」

鳴上「……お前」

鳴上「キミコ……だよな?」

キミコ「ん……」

キミコ「正確にはこの前までキミコと名乗ってた者……かな」

鳴上「……」

鳴上「その体、キミコは……人間じゃない、のか?」

キミコ「どうやらそうみたい」

キミコ「私もね、さっきまで自分がどういう存在だったのかよく解ってなかったの……笑っちゃう話だけど」

キミコ「でも、ようやく理解できたんだ……だから」

キミコ「最後に悠に会わなきゃって、思って。そしたら、さっきの人が力をかしてくれたの」

鳴上「お前は、一体……」

キミコ「……」

キミコ「私もね、この物語の舞台に立っていた役者のひとりだったの……勝手に選ばれた、ね」

キミコ「私はそうとは気付かないまま、無意識のうちにその役を演じていて、……そのせいで悠に沢山迷惑かけちゃってた」

キミコ「それを謝っておきたくて。ごめんなさい」


>キミコは困ったような顔をしたまま、瞳を僅かに滲ませている。


キミコ「実はこの姿も名前もね、全部借り物なの。本物のキミコにもこの事謝んなきゃって思ったけど……どうやらその時間はもう残されてないみたい」

鳴上「じゃあ……お前の本当の名前は?」


>キミコは首を横に振った。


キミコ「知らない。もしかしたら、初めからないのかも」

鳴上「……」

キミコ「でもね、自分が本当は何者なのか知らなくても、名前も解らなくても、これが仮初めの姿でも……悠と過ごした時間は本当に楽しかったんだよ」

キミコ「だって、出番が終わって舞台から降りた後なのに、……私まだドキドキしてるもん」

キミコ「悠と私の過ごした日々は嘘なんかじゃないんだって、私はそう思いたい」

キミコ「悠はそうじゃないかもしれないけど」

鳴上「……確かにお前には色々と困ったのは事実だけど」

鳴上「でも、思い返してみれば、あれはあれで割といい思い出になったんじゃないかって、今はそんな気がしている」


>そんな風に思ってしまうのは、おそらくこれでキミコとも永遠の別れになってしまうからだろうか。


キミコ「……ありがとう。気を使ってくれてるんだとしても、嬉しい」

キミコ「あーあ、ホント残念! もっと悠と一緒にいたかったな!」

キミコ「……」

キミコ「ねえ。最後の最後に、ワガママしてもいいかな?」

鳴上「え……」


>その返事を待たずに、キミコが正面からこちらに抱きついてきた。

>しかし実体が無いせいか、抱き締められているという感覚はあまり無い。


キミコ「……」

鳴上「……」


>……それでも、彼女のその背に自分も腕を回し、そっと頭を撫でてやった。


キミコ「……もう少しこのままでいていい?」

鳴上「ああ」

キミコ「ありがと。……」

キミコ「ねえ、悠」

鳴上「ん?」

キミコ「……もしも」

キミコ「もしも、私が悪魔でも、好きといってくれますか?」

鳴上「!」

キミコ「……、なーんてね。別れ際に言うような言葉じゃないよね」

鳴上「キミコ……」

キミコ「……時間がきちゃったみたい。私も、悠も」


>キミコは抱きついた状態のまま、こちらの体をベッドへと押し倒した。

>彼女の体は、もう殆ど見えなくなってきている……

>……

>何故だろう。瞼が急に重くなってきた……

キミコ「私が守らなくても、悠は平気だよね?」

鳴上「……」

キミコ「でも、私の心はずっと悠の傍にあるから」

キミコ「……じゃあね」




キミコ「おやすみなさい」


>…
>……
>………


終わります。

次回、決戦のバトルフィールドへ!

>……

>周りは濃い霧に包まれている。

>ここがあの夢の中の世界である事に気付くまで、今回は少し時間がかかった。

>今まで何度か周りの雰囲気が変わった事はあったが、そのどれとも違う。

>おまけに、あの足場が崩れ落ちていっている振動と音をまったく感じない。

>石の山もなく、上でなく前に進むしか道はないようだ。

>一体どうなっているのだろう……


鳴上「ヴィンセントさん!」


>深く息を吸って彼の名を呼んでみたが返事はない。

>……

>今は、周りに注意しながら進める場所を行くしかないようだ。

>それにしても、この景色の感じは……


鳴上「眼鏡をかけていない時のテレビの中みたいだ……ん?」


>前方に、建物の影が見えてきた。

>霧に包まれているせいでどういう外観かよくわからない。

>近付いてみよう。


鳴上「これは……告解室!?」


>いつもは一山超えたあとに現れるあの建物が霧の中にぽつんとある。

>中には誰かいるのだろうか……


告解室


鳴上「……」


>以前までは、この中に入ると隣に何時も奴が待ちかまえていた。

>しかし、今はもう……


?「やあ。待っていたよ」

鳴上「!?」


>隣の部屋から声が聞こえてくる。

>しかし、この声は奴の……代行人のものとはまったく違うものだ。

>中性的で、小さな子供のようにも感じられる声だ。


鳴上「誰だ!?」

?「随分だね……さっき会ったばかりじゃないか。もう僕の事を忘れてしまったのかい?」

鳴上「さっきって、まさかヴィンセントさんの体の中にいた……!?」

?「その通り。言っただろ。僕も待っている、って」

?「まあ、僕の本来の定位置に戻ってきただけだけどね」

鳴上「お前も俺に妙な質問を投げかけにきたのか?」

?「まさか。仮にもこちらから頼み事をしておいて、そんな無粋な事はしないよ」

?「それに君に最後の選択を迫るのは僕の役目ではないだろうし、まだその時でもないようだからね」

?「僕は君を彼のところまで案内するだけだよ」

鳴上「じゃあ、この上にヴィンセントさんが?」

?「そうだよ。でも、この世界にいる彼はもう、ヴィンセントであってヴィンセントでなくなっている」

?「ここで彼がしている事は彼自身の本意ではない事は確かだけれど、話してどうこう出来る相手ではないという事を、頭に入れておいた方がいい」

鳴上「……わかってる」

鳴上「辿り着くしかないんだな。一番上まで」

?「そういう事だ。一筋縄ではいかないだろうけどね」

?「この場所も、僕の力では修復しきれなかった。だから僕から見ても、こんな訳のわからない場所になっている」

?「この先もどうなっているのかまったく予測が出来ない」

?「でも……君は今ここで亡くすには惜しい人材だ。僕も出来る限りの助力はしよう」
鳴上「ありがとう」

?「……フフッ、まさか人間から礼を言われるなんてね。君は面白い奴だよ」

?「さて。雑談はこの辺にしておいて、そろそろ行こうか。彼もいい加減待ちくたびれているだろうからね」

?「覚悟は出来たかい?」

鳴上「ああ」


>強い頷きに応じ、告解室が上昇を始めた。

>……


???


>告解室の動きが止まり、カーテンが開く。

>そこに広がっていた景色はまた霧に包まれていた……


?「なんなんだろうね。この霧は」

?「どうやら君の影響を受けているようにも感じるけど」

?「君の夢なんだから当たり前の事ではあるけどね」

鳴上「……」

?「まあいいか。さて、僕は君が戦いやすいように世界を構築し直しにいってこよう。上手くいくかはわからないけどね」

?「じゃあ」


>告解室が辺りの霧と同化するように霧散していった。

>それとほぼ同時に、今まで感じた中で一番大きな振動に襲われる。


鳴上「ッ……来たか」


>後ろを振り返る。

>霧の中には大きな黒い影がある。

>……それは空に浮かんだ豪奢な椅子に堂々と腰掛けていた。

>これまでいくつもの奇妙な怪物に襲われてきたが、それから感じるのは得体のしれない不気味さなどではなく、一種の貫禄のようなものだった。

>頂上に立つものの威厳というべきだろうか……周囲の空気がピリピリとしたものに一瞬で変わったのがわかる。

>それは正しく『伝説の男』の姿だった。

>しかし、その両目は狂気に満ちている。

>禍々しい双眸が挑戦者を……自分を見定めている。


鳴上「約束を守りにきましたよ」

鳴上「……でも、何時までもここに立ち止まってはいられないみたいですね」


>足場がガラガラと下の方から一段ずつ崩れ始めたのがわかる。

>しかもその間隔は、いつもと比べて大分早いようだった。

>このままではあっという間に崩れる足場に巻き込まれて落ちてしまう。


『……』


>『伝説の男』が座したままゆっくりと手を上げた。

>それを合図に様々な種類の石がランダムにその場に積まれ始める。

>脆い石、罠の仕掛けてある石、動かせない石、凍った石、爆発する石……今までその扱いに苦労してきた特殊な石に加え、見た事のない新しい石まである。

>普通の石の方が少ないのではないだろうか。

>……『伝説の男』はこれをどう解いて登っていくのか、自分を試しているのだ。

>ならば、それに応えるのが筋というものだろう。


鳴上「俺だってやれば出来ますよ、このくらい!」


>霧に聳える山へと駆けだした。

>……


鳴上「……確かにこれは一筋縄じゃいかないな」


>実際に登り始めて感じたそのなんともいやらしい石の配置の仕方には、もはや苦笑しか出てこなかった。

>これは明らかにこの仕掛けを知り尽くしているもののトラップだ。

>普通ならこうした方が登りやすい、ここを動かした方が早いという手順を潰すように石が配置されている。

>特殊な石のその性質が、そこから更に難易度を上乗せにし、考える時間が必要なのにも関わらず足場はどんどん崩れていく……

>今まで蓄えた知識と経験ももちろん必要だが、ここぞという時の一瞬の閃きが大事になるだろう。


鳴上「くそっ……俺が戦いやすいようにしてくれるんじゃなかったのか?」


>管理者からはあれから何も応答がない。

>いったい何をしているのだろうか。


鳴上「……ッ!?」


>その時、今まで宙に浮かぶ椅子に座って様子を眺めているだけだったそれに変化が訪れた。

>彼の手の中に霧が集まっていく。

>それは次第にはっきりと何かの形を成し、そこにすっぽりと収まった。

>彼が持っているのは、いつもあのクラブで傾けているのと同じようなグラスに見えた。

>その透明なグラスの中に、真っ黒な液体が溜まっていく……

>そして並々と一杯までなったそれをこちら目掛けてまき散らしてきたのだ!


鳴上「うわッ……!」


>なんとか上手い具合にその黒い液体を回避する。

>さっきまで自分の乗っていた石にその黒い液体がかかり、一瞬のうちに溶けて無くなっていくのが目に映った。

>彼は、黒い液体を様々な場所にかけて、ただでさえまともでない足場を次々と溶かして、行く手を阻もうとしていた。


鳴上「このままじゃマズいッ……」


>随分と上まで登ってきた筈だが、見上げても先にはまだ多くの石が積み重なっている。

>更に霧は濃くなっていくばかりで視界も悪い。

>先が見えない……

>終わりは何処で、何時になるのか……


?「待たせたね」

鳴上「!」


>管理者の声が聞こえてくる。


?「準備は整った。まずはこの山を少し綺麗にしようか。これを使うといい」


>手の中に小さなベルが現れる。


鳴上「これは……確かトリッシュが売ってたアイテムのひとつか!」

?「ああ。あの妖精からひとつ拝借してきたよ」

鳴上「確か効果は……」


>ベルを振って鳴らす。

>すると、瞬く間に周りが全て普通の石になった。

>これで進むのも大分楽になる。


?「あともう少しの辛抱だ」

ゴーン…… ゴーン……

>鐘の音も聞こえてきている。

>ラストスパートだ……!


『グォアアアアアアアア!!』


>既に人では無くなっている『伝説の男』の咆哮が響いた。

>どうやら彼も最後の最後でしかけてくるようだ。


鳴上「っ……風!?」


>突然、強風が吹き荒れ始めた。

>石に掴まっていないと吹き飛んでしまいそうなくらいだ。

>足場の石がそれに巻き込まれて徐々に上へと飛ばされていく。


鳴上「くっ……!」


>飛んでいく石に何度も当たりそうになりながら、頂上へと繋ぐ最後の階段を作り一気に駆け上がる……!

>後は平面に大きく広がっている足場を進み、数メートル先にある扉まで行くだけだ。

ズドオォォォォォォォォン!!

鳴上「!?」


>新たにきた激しい振動に思わず体を伏せた。

>襲ったのはその揺れだけで周りにこれといった変化はないようだったが……


鳴上「なっ……!?」

『……』


>扉の前に、椅子に腰をかけた巨大な男がいた。

>さっきの振動は、彼がここに降りてきた時のものだった訳だ。

>再び、二人は向かいあったままお互いを見据える形になっていた――


鳴上「ここまで来て、どうすれば……!」

?「準備が出来たと言った筈だよ」

鳴上「!」

?「今なら君の内に眠るその力が、ここでも使える筈だ」

鳴上「俺の……力!」

?「行け。全ての解放の時はもう、すぐそこだ!」


>体を光が包み込む……

>頭にあった羊の角が消え、月光館学園の制服がその体に、腕にはS.E.E.Sの腕章が現れる。

>そして手には、己の内なる力――ペルソナを呼び起こす為の銃が握られた。


鳴上「――ペルソナッ!」

『ガアァァァァァァァァァァッ!!』


>二人の叫びが重なった。

鳴上「来い――リリム!」

鳴上「エイジング!」


>まずは相手を出来るだけ弱らせようとイチかバチかのスキルを試みる。

>……しかし、やはりというべきかその効果は彼にはちっとも現れていない。

>威勢の良い咆哮が、まだなお続いている。


鳴上「やっぱりダメか……、ッ!?」


>上から巨大な石がいくつも振ってくる。

>こちらをその下敷きにしようとしているようだ。

>それをかわしながら徐々に彼との距離を縮めていくが、石が当たった場所は脆くなり咆哮からくる振動でぼろぼろと崩れていっている。

>こんな状態が長く続いたら、登っている時と変わらない……そのうち足場を失ってこの場もろとも落ちていってしまうだろう。


鳴上「チェンジ――ヴェータラ!」

鳴上「ブレインシェイク!」


>新たに呼び出したペルソナが、突進していく。

>だが、その攻撃は当たりはしても傷一つ負わせる事が出来ていないようだった。


鳴上「ならば……チェンジ! インキュバス!」

鳴上「マインドスライス!」


>先程よりも強いダメージを直撃させる。


『グァッ……アァ……アアアァッ!』


>その瞬間、咆哮が苦しみ混じりのものへと変わった。

>石の落下もぴたりと止む。


鳴上「効いたか!? ……よし、一気にいくぞ!」

鳴上「チェンジ! パズス!」

鳴上「ナバスネビュラ!」


>更なる追撃を叩き込む。

>その効果は抜群とは言えずともじわじわと効いていっている様子だ。

>彼は追ったダメージに苦しみ頭を抱えている。

>完全にこちらに対する攻撃がなくなった――

>今がチャンスだ!


鳴上「チェンジ! サキュバス!」

鳴上「マハラギオン!」


>いくつもの炎の渦が周りの石も巻き込んで彼の身を包む――

鳴上「やったか……、ッ!?」

『グォ……オオオオオオオオッ!!』


>次の瞬間、周りの炎が一気に吹き飛び跡形もなく消え去った。

>彼の体は焼け焦げてはいるものの致命傷にはなっていないようだ……

>そしてついに、彼はその重い腰を上げ――立ち上がった。

>その周囲に黒い液体の球がいくつも浮かび始める……


鳴上「またあれかッ! ――チェンジ!」

鳴上「リリス!」

鳴上「ジオダ……、ッ!?」


>こちらが動くよりも一歩早く、球状になった黒い液体が飛んできた。

>素早く身を捩るもののかわしきれず、それが左腕を掠った。


鳴上「がッ……」


>ジュウゥゥゥという焼ける音と共に、掠った左腕部分が黒く焦げ、強烈な痛みに襲われる。

>そのダメージでよろめきかけたのを彼は見逃しはしなかった。

>残りの黒い液体が、残らずこちらを目掛けて飛んでくる……!


鳴上「ぐっ……チェンジ! ベルフェゴール!」

鳴上「マハジオダイン!」


>球体になった液体を散らすように雷が直撃し、その大きな一撃が彼の脳天も貫いた――!


『ガァッ……』


>こちらに向かっていた彼の体が、後方へと倒れていく。


鳴上「これで……ラストだあぁぁぁぁぁ!! チェンジ!!」

鳴上「ベリアル!!」

>頭上に現れたペルソナが、彼への狙いを定める――!

鳴上「刹那五月雨撃ッ!!」

>無数の光の矢の雨が降り注いでいく。

>それをよける事など出来る筈もなく。

>その全てが彼の体に命中した。

『ギャアアアアアアアアアアッ!!』

>切り裂くような悲鳴と共に、人ならざるものになってしまった彼の体が徐々に消滅していく……

>そしてそこに残ったのは、本来のヴィンセントの姿だった。

鳴上「ヴィンセントさん!」

>ヴィンセントは意識を失って倒れている。

>急いで駆け寄り体を起こすが、それと共に足場が勢いよく崩れ始めたのを体にくる揺れで感じとった。

鳴上「もうすぐここも無くなる……!」

鳴上「早く出ないと!」

>邪魔をするものはもう何もない。

>ヴィンセントを連れて、急いで扉をくぐった。

>……


鳴上「……ここは?」


>扉の先の景色はすっかり霧が無くなっていた。

>あるのはただ大きく広がる青空とそこから差し込む柔らかで優しい光だけだ。


?「よくやってくれたね。僕からもお礼を言うよ」

鳴上「終わったのか? これで本当に……」

?「そうさ。これであの街の人間は救われた」

?「ここに伝説を刻んだ新たな男の手によってね」

鳴上「……」

ヴィンセント「鳴上……」

鳴上「ヴィンセントさん!?」

ヴィンセント「ありが……とう……これでようやく……自由に……」

?「そう。君たちは自由になった」

?「後をどう生きるかは……君たち次第だよ」

鳴上「俺たち次第……」

?「長くて短い間だったけれど、君たちとはこれでお別れだ」

?「なかなか楽しませてもらったよ。それじゃあ」

?「さようなら」


>眩しい光に包まれた……

>…
>……
>………

用事が出来た。一旦中断します

05/16(水) 晴れ 自室


【朝】


鳴上「……ん」

鳴上「まぶし……」


>カーテンの隙間から陽が差し込んでいる。

>起きあがってカーテンと窓を開けた。

>気持ちよい朝の空気が部屋に満ちる。

>こんなに清々しい気分で目覚めたのは実に久しぶりのような気がする。


鳴上「新しい一日の始まり、か」

鳴上「学校へ行く準備しないとな」


>……

>これでもうニュースで新たな犠牲者の名前を見る事もなくなるだろう。

>今夜からはみんな安眠出来る筈だ。

>ヴィンセントもきっと、ほっとしている事だろう。

>……最後の約束を果たしに、また彼に会わなければ。






【夜】


クラブ エスカペイド


ヴィンセント「よっ」

鳴上「こんばんは」

ヴィンセント「昨夜は……どうもな」


>ヴィンセントは気恥ずかしそうにしながら笑っている。


鳴上「ニュース、見ました?」

ヴィンセント「ああ、もちろん。今日は犠牲者ゼロだったな」

ヴィンセント「そしてこれから先も、多分あのニュースは流れねえよ」

ヴィンセント「よくやってくれた。お前にはもう頭が上がんねえや」

鳴上「いえ、そんな」

ヴィンセント「いいや。あのままだったらきっと、もっと酷い事になってたと思う。鳴上のおかげだよ」

ヴィンセント「……にしても、あんま記憶には残ってないけどさ。お前、結構容赦なくかましてきてただろ?」

鳴上「だって、手加減する余裕無かったし。それに、お互い様ですよ?」

ヴィンセント「えっ、そうなのか!?」

鳴上「そうですよ」

ヴィンセント「ははっ、そりゃあ悪い事したなあ!」

ヴィンセント「……本当に、悪い事をした」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「今日は俺の奢りだから、好きなもの好きなだけ頼んでいいぞ?」

鳴上「それじゃあ、いつものあれを一杯」

ヴィンセント「そんなんでいいのか?」

鳴上「はい。俺もアレ、なんだかんだで気に入ってるんですよ」

鳴上「まあ……昨夜はアレのせいで大変な事になりましたけどね」

ヴィンセント「え?」

鳴上「いえ、なんでもないです」

ヴィンセント「じゃあ俺ももう一杯」


>ヴィンセントは二人分のドリンクを注文した。


ヴィンセント「俺も今夜は飲めるだけ飲んでおく事にするよ」

ヴィンセント「もうここに来るの、これでしばらくやめようと思ってんだ」

鳴上「!」

ヴィンセント「悪夢は終わった……今度こそ本当に」

ヴィンセント「だから、これまで目を逸らそうとしていた事と、もう一度きちんと向き合ってみようと思うんだ」

ヴィンセント「家族の事。そして何よりも自分自身と、さ」

ヴィンセント「そういう風に思い直す事が出来たのもやっぱお前のおかげなんだと思う」

ヴィンセント「改めてお礼を言うよ……ありがとう」


>ヴィンセントから感謝されている。

>ヴィンセントとの間に、固い絆を感じた。



>『ⅩⅤ 悪魔 ヴィンセント』のランクが9になった。



ヴィンセント「今度お前に困った事が出来たら、相談しろよ? 次は俺が力になってやるからさ」

鳴上「はい」

ヴィンセント「……さ、じゃあ今夜は時間が許すまで飲もうじゃないか!」

鳴上「……」

ヴィンセント「ん? どうかしたのか?」

鳴上「いえ、その……」

鳴上「ヴィンセントさんにさっそく相談事というか、……ひとつまだ納得が出来てない事があって。それを聞いて欲しいんですけど」

ヴィンセント「なんだなんだ。遠慮せずに言ってみろ」

鳴上「はい。あの、それじゃあ」

鳴上「今度の休日に……」


>……

数日後


05/20(日) 曇り


ラーメン はがくれ


順平「……そんじゃまあ、皆さん。ここはひとつ、お疲れ様っつー事で」

天田「久しぶりに会ったと思ったらはがくれのラーメンとか……実に順平さんらしいですね」

順平「なんだよ天田ー! 話の腰を折るなよ! それにお前だって好きだろ? ここのラーメン」

天田「まあ、そりゃそうですけど」

鳴上「というより、これなんの集まりなんですか?」

順平「だーかーらー! お疲れ様って言っただろ!」

順平「悪夢からの生還記念打ち上げお疲れ様パーティーだよ!」

天田「……。それでラーメンって。もうちょっとマシな場所があったんじゃ……」

順平「うるさい! つべこべ言わずに食べる!」

順平「いただきます!」

鳴上・天田「……いただきます」


>……


天田「あれからぴたりと事件が止みましたね」

鳴上「そうだな。本当に良かった」

順平「あの夢も見なくなったしな。……で、なんだっけ?」

順平「この街に妙な『力』が蔓延してるらしい、とかだっけ?」

順平「それって、結局どういう事なんだってばよ」

鳴上「詳しい事は俺にも……」

天田「でも、その妙な『力』とかっていうののせいで今回みたいな事件が起こった訳ですよね?」

天田「しかも、蔓延しているって事はつまり……事件は解決したけど、原因になった『力』自体はまだ残っているって意味なんでしょうか」

鳴上「……。もしかしたらそうなのかもしれない、と俺は思っている」

鳴上「4月にあった映画館の世界の事件だって、『力』のせいなのかも」

鳴上「でも『力』って……『何』の『力』なんだか」


順平「……」

順平「要するに、この街はまだこれからも何か起こるかもしれなくて、危険だって訳だよな?」

鳴上「はい。そういう事です」

順平「……心配だな。アイツひとりをここに残しておくのは」

鳴上「チドリですか?」

順平「ああ……」

鳴上「最近どうなんです? チドリとは」

順平「あー、うん。まあ、ボチボチ、な」

順平「……」

順平「……あの夢さ。気持ち悪い夢だったけど」

順平「でも、あの夢のおかげもあってチドリの事も含めて、色々と見つめ直さなきゃいけない事が自覚出来たって感じだった」

天田「……不思議な夢でしたよね」

天田「僕もそんな感じですよ。心の中にあった問題と今一度、向かい合わなきゃいけない時がきたのかな……って」

天田「まだちょっと、その勇気はないんで……今は忘れていたいんですけどね」

天田「でも……」

天田「……」

順平「……」


>二人とも黙ってしまった……


天田「鳴上さんはどうでした? あの夢を見て、何か思うところがありましたか?」

鳴上「……え? あー、そうだな」

鳴上「……」


>あの夢を見て、自覚した事。

>それは……

>……


鳴上「……何かあったかな」

順平「お前はお気楽なもんだなー」

順平「ま、そんなんだから、お前に救われたとことかあんのかもしんないけどさ」

天田「そうかもしれませんね」


>二人は笑っている。


鳴上「……」

順平「……おっと、伸びないうちに食べちまおうぜ!」


>ラーメンを食べながら三人で時間を過ごした。

>二人との仲が少し深まった気がする。



>『Ⅰ 魔術師 伊織順平』のランクが5になった

>『Ⅷ 正義 天田乾』のランクが4になった


>……


ポロニアンモール


>ラーメンを食べ終わった後はそれぞれ用事があるという事で、その場ですぐに解散となった。

>自分もこの後もう一件約束を控えている為、ポロニアンモールまでやってきている。


鳴上「……あ。すみません、遅くなって!」

ヴィンセント「いや、俺も今来たところだ」


>ゲームセンターの前に、待ち合わせ相手のヴィンセントの姿を見つけた。


ヴィンセント「じゃあ、行くか」


>二人で一緒にそのままゲームセンターの中へと入った。

>……


ゲームセンター ゲームパニック


ヴィンセント「……それで? 自信の方はどうなんだ?」

鳴上「もう、バッチリですよ。貰ったゲームで練習もしましたから」


>今、二人はラプンツェルの筐体の前にいる。

>あの事件が静かになって以来、またすっかりとプレイする人間がいなくなってしまったゲームだ。


ヴィンセント「しかし、鳴上がここまでこのゲームを気に入ったとはなあ。あれ以降すっかり飽きたかった思ってたのに」

鳴上「言いませんでしたっけ? 俺、負けず嫌いなんですよ。だから、今日こそはEDを見るつもりだし」

鳴上「ヴィンセントさんの記録も越すつもりです」

鳴上「だから、それを直に見届けて欲しくて」

ヴィンセント「へえ、そりゃあ楽しみだ」

鳴上「じゃあ……いきます」


>コインを入れて、ゲームを開始した。

>……


鳴上「……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「これは……たまげたな」


>ゲームを開始してから、結構な時間が経った。

>しかし、その間一度たりともミスはしていなかった。

>とれるアイテムは全てとり、自分が考えられる範囲での最短ルートを通っていき……

>今、遂に最終ステージである64面までやってきたところだ。


鳴上(あと……少しだ!)


>……たかがゲームではあるが、その緊張は半端ないものであった。

>レバーを握る手が汗ばむ。

>出来る事ならこのままノーミスでクリアしたい……!

>…

>……


ヴィンセント「……」

ヴィンセント「……おっ!?」

鳴上「っ……」


>姫のところまであともう少し

>もう少し……

>……


鳴上「……!」

鳴上「つっ……着いた!」


>王子が見事姫のところまで辿り着いた!

>画面には、魔女から姫を救い出した王子の姿が映っている。

>次の瞬間、周りから歓声が沸き上がった。


鳴上「ッ!?」


>どうやらいつの間にかギャラリーが出来ていたらしい。

>EDまで辿り着いた自分を見て盛り上がっているようだ。

>……ヴィンセントはパチパチと拍手をしている。


ヴィンセント「いやあ、短期間でよくそこまで出来るようになったもんだな。びっくりだ」

ヴィンセント「ほら。ネームエントリーしないと」

鳴上「え?」


>ヴィンセントの言う通り、画面がいつの間にか切り替わっていて、ネームエントリーが出来るようになっている。

>自分の出した記録は……

>今まで筐体内でヴィンセントが出した記録を僅かに上回り、見事一位になっていた。


ヴィンセント「こりゃあ、『伝説の男』の称号はお前に譲らないとダメみたいだな」


>周りのギャラリーも、新しい『伝説の男』誕生の瞬間に立ち会えた事に興奮している。

>……

>……なんだか、少し恥ずかしい。


ポロニアンモール


鳴上「あの、今日は付き合ってもらってありがとうございました」

ヴィンセント「いやいや。俺もあの瞬間を見届けられてよかったよ。凄かったな」

鳴上「時間は大丈夫ですか?」

ヴィンセント「ああ。もうすぐだな」

ヴィンセント「……と、その前に。お前に渡したいものがあるんだった」

鳴上「?」


>ヴィンセントは綺麗な包みを差し出してきた。


ヴィンセント「鳴上もここのところずっと寝不足が続いてた訳だろ? もうこんな事ないとは思うけどさ、俺オススメの安眠グッズやるからよかったら使ってくれよ」

ヴィンセント「まだまだ睡眠が大切なお年頃だろうからな?」


>ヴィンセントは笑っている。

>包みを開けると中から羊の目の描かれたアイピローが出てきた。

>『羊の目のアイピロー』を手に入れた。


?「ごめん、お待たせ!」

ヴィンセント「お、来たか」

ヴィンセント「こっちも今用事が済んだところだから、大丈夫」


>赤ん坊を抱いた女性がこちらに近付いてきた。


ヴィンセント「紹介するよ。俺の嫁と娘」

ヴィンセント「で、こっちが……」

嫁「あら、もしかして最近よくあなたが話してる鳴上くんってこの子の事かしら?」

鳴上「あ、はい。そうです。初めまして」

嫁「いつも主人がお世話になっています」


>ヴィンセントの妻は頭を軽く下げ微笑んだ。

>とても美人な奥さんだ。


娘「うー?」


>ヴィンセントの妻に抱かれている女の子がこちらを見て不思議そうに首を傾げている。


鳴上「この子がヴィンセントさんの娘さんか。可愛い子ですね」

ヴィンセント「だろ?」

ヴィンセント「俺たち二人に似てて、さ」


>ヴィンセントは幸せそうに笑みを浮かべている。


鳴上「これからご家族でお出掛けなんですか?」

ヴィンセント「ああ、そうなんだ。だから今日はこれで」

ヴィンセント「今度、家に食事にでも招待するよ。その時は絶対来いよな!」

嫁「もう、年甲斐もなくはしゃがないの! ごめんなさいね」

鳴上「いえ。楽しみにしてますから」

ヴィンセント「ああ、じゃあまたな」


>ヴィンセントは少し名残惜しそうにしながらも手を大きく振って家族と一緒にこの場を去っていった。

>ヴィンセントとの間に強い絆を感じた……



>『ⅩⅤ 悪魔 ヴィンセント』のランクがMAXになった



>……彼はもう大丈夫だろう。

>これからきっと本当に幸せになれる筈だ。

>彼ら家族の背中を見て、そう思った。

>……


【夜】

自室

>夕方から天気が崩れ、夜になっても雨が降り続いている。

>久しぶりにマヨナカテレビのチェックが必要そうだ。

>……そういえば、二週間前ほどに見たマヨナカテレビは結局なんだったのだろう。

>ただの暗示か何かだったのか……

>……

>日付が変わるまであと僅かだ。

23:59→00:00

>…
>……
>………

>テレビにこれといった変化はみられない。

>今夜は何も心配する事なく寝られそうだ。

>せっかくだから、ヴィンセントから貰ったアイピローを使ってみる事にしようか。

>電気を消して、ベッドに潜った。

>久しぶりにいい夢がみたい……

>……

――ジ――ッ


ジジッ――ジ――ッ


――パチン


ルゥ「皆さん、如何でしたしょうか?」

ルゥ「彼と彼らの奇妙な数日間……見てるこちらもドキドキの連続でしたね」

ルゥ「彼は人生の山場を越え、文字通り大人の階段をひとつ登ったってところなのかしら」

ルゥ「ゴールデンプレイシアターはこれでおしまい」

ルゥ「でもね、彼の人生はこれからもまだ続いていくの」

ルゥ「そういった意味では、まだゴールは大分先の話って事になるわよね」

ルゥ「その彼の行く末……気になる人、多いんじゃないのかしら?」

ルゥ「多分、きっとこの先にも彼にとっての人生の山場がいくつも待ち構えている筈……」

ルゥ「そんな彼の物語を、これからもそっと見守っていく事にしましょうね」

ルゥ「さて、そろそろお別れのお時間のようです」

ルゥ「お相手はわたくし、ミッドナイト・ヴィーナスこと石田☆ルゥでした」

ルゥ「それでは皆さん、またいつか何処かで」

ルゥ「ごきげんよう」



ブツン――ッ


>――あれから特に変わった事件は起きていない。

>シャドウとの接触もないまま平和な日々は続き、季節はいつの間にか衣替えの頃を迎えていた……



06/04(月) 晴れ


【朝】


月光館学園 3-A 教室


男子A「はよーっす! 元気してっかー?」

鳴上「おはよう。お前は何時になくテンションが高いな」

男子A「聞いて驚け! なんと、このクラスにまた転入生がくるんだとよ!」

鳴上「転入生?」

男子A「そう! かわいい女の子だったらいなあ~って話だよ!」

鳴上「なるほど。それでそんなテンションなのか。納得した」

鳴上(それにしても、俺たちを含めてこれで四人目の転入生か……どうなっているんだ、このクラスは)

鳴上「……ん?」


>携帯が震えている。

>メールを一通受信したようだ。

>誰からだろう。


鳴上「えーと」

鳴上「……?」


>どうやら登録されていないアドレスからのようだ。

>迷惑メールだろうかと一瞬思った時、署名部分に差出人の名前が記入されている事に気付いた。


鳴上「STEVEN?」

鳴上「誰だ? 外人か?」

淳「おはよう。みんな、席についてー」


>先生が教室に入ってきた。


>メールの中身をあらためるのはまた後にしておこう。


淳「今日はまたみんなに転入生の紹介です」

淳「どうぞ、入ってきて」


>廊下に待機していた転入生が扉を開けて教室の中に入ってきた。


女生徒A「やだ、あのこちょっとカッコよくない?」

女生徒B「ホントだあー」

男子A「なんだあ、野郎かよぅ……」

鳴上「ご愁傷様」

鳴上(しかしあの格好は……なかなかハイセンスだな)


>その転入生は少し目立つ風貌をしていた。

>制服はみんなと同じ月光館学園の制服を着ていて、きちんと衣替え済みの半袖だったのだが……

>これからどんどん暑い季節になっていくのであろうにも関わらず、首にはロングマフラーを巻いている。

>先生がチョークを渡し、彼に名前を書くように促すと、それの鮮やかな黄の色がゆらゆらと揺れているのが目に映った。

>自身の名を書き終わり、軽く手を叩くとマフラーと一緒にくるりと体が翻る。

>そして、左目下に泣きぼくろを携えた甘いマスクを女子にアピールするように微笑むと、彼は自己紹介を始めるのだった。





「――望月綾時です。これからよろしくお願いします」


終わります。

次回からは平和な平和な日常回です。

提案があったので新章入る前に簡単にあらすじまとめてみた

割と適当なので、これでわからなかったらやっぱり最初から読み直す事をオススメするであります

八十稲羽から帰って親に会ったら、月光館学園の寮に住めって言われたので春休み中に引っ越したら、新学期始まる前に何故か寮でシャドウに襲われた。



よくわかんないうちに、テレビの中でもないのにペルソナ出せたから戦った。勝った。気絶した。



イゴール&マーガレット「なんかまた大変な事起こるみたい。だけどペルソナ全書白紙になっちゃったんで、一からコミュニティ回収頑張ってね」



目が覚めたら、寮の責任者二人に半年くらい前からまたシャドウが悪さするかもって予感があったとか突然言われた。
どうやらこっちがペルソナ使いだという事を初めから知られていたようだし、向こうもペルソナ使いらしい。しかも一人はロボっ娘だ。
更にロボっ娘がやってきて、シャドウ討伐組織の部長兼リーダーになってくれと言われたのでやる事にした。



学校が始まり、新たにショタと犬が仲間に加わった。今のところ集められる人材はこれが限度らしい。そんなんで大丈夫なの?



あれ以来シャドウが現れる気配はなし。というより、そもそもこの間のシャドウは何処から何故現れたのかも不明。何か情報はないのかと探る中、警察とかゴスロリ少女とかピアスの男とか幽霊とか色々と知り合いが増えていった。



そんなある日、ネット上で駅前付近に怪物が現れたらしいと話題になっているのを知った。それ、もしかしてシャドウなんじゃね?
でも、以前のように影時間もタルタロスも現れている気配はないし……って事で、一つの仮説として、テレビの中からシャドウが這い出てきたんじゃ、などと言われたところで初めて何故かこちらからはテレビの中に入れなくなっている事に気付く。



それは置いといて、結局のところシャドウらしき怪物が本当に駅前に現れたのだとしたら何処からきたのか? と考えたところ、映画館が怪しいかもって話になり、その場の勢いで行ってみたらビンゴだった。



どうやら深夜0時を過ぎると映画館は現実と港区に似た別の世界とを繋ぐ入り口になるようだ。その世界でシャドウに捕らわれている人間がいるようで救出しなければならなくなった。そして、なんとか無事それに成功した。俺たち特になにもやらなかったけど……



事件は落ち着いたけど、変な世界だしもう少しよく調べてみようと思っていたら、突然入り口が機能しなくなってその世界に行けなくなった。結局なんだったの? まあ、あの世界が消えたのかもしれないならいっか。



結局その後、特に何もないまま何日か過ぎた。最近、ある携帯アプリゲームが流行ってるらしいという話などを聞いたりしたがゲームの事はよくわからない。まあとにかく平和で何よりだ。



平和なままGWを迎えた。ちょっと八十稲羽に遊びに行ってくる。留守は任せた。



八十稲羽の仲間は変わらずのようだ。でも、みんなもうこれからの進路について自分なりに色々と考えを決めている様子が見受けられた。俺はといえば……



最近、八十稲羽ではまたマヨナカテレビが映るという噂が流れているらしい。仲間は誰もそんなもの見ていない様だったが、向こうに戻る前夜それらしきものを見てしまう。



帰りの電車が来る前に調べようとジュネスに集合をかけるが誰一人としてやってくる気配がない。嫌な予感がする……



俺、今テレビの中に入れないんだけど、どうしよう……って、あれ? また入れるよ? なんで? まあいいや。テレビの中へ単身ダイブ!



テレビの中に入ったら、P-1 Grand Prixとかいうのが開催されるとクマのアナウンスが入る。様子がおかしい……



とりあえず進むしかないようだったので行ってみたら何故かアイギスと遭遇。しかし、やっぱりなんか様子が変だ。ペルソナファイト、レディーゴー! な展開に。



アイギスを正気に戻す事に成功した。しかし、向こうにとってはこちらの方が正気には見えなかったらしい。訳がわからない。
とりあえず、何故こんな場所にいるのか聞いたら、アイギスの姉妹機が脱走してこの場所に来ているかもしれないのだという。一緒に行く事にした。



その矢先、謎のエレベーターガール・エリザベスに絡まれる。どういう意図かはわからないが、一手交えたいらしい。遊んでる暇はないのだが、彼女が八十稲羽の仲間を人質にしていると知る。仕方ないから戦った。一方的にボコられた。挙げ句、勝ち逃げされた。



仲間は解放されたが、りせだけいない。りせから放送室にクマじゃない変なクマがいてそこに捕らえられているとSOSが入る。仲間達の方は気付いたら何故かテレビの中にいたらしい。誰かに突き落とされたみたいな感じがするとかなんとか



とりあえず放送室についた。りせと一緒に美鶴と半裸マントと誰かがいる。どうやらそれがアイギスの姉妹機・ラビリスのようだ。でも帰りたくないとごねるので取り押さえたら、彼女のシャドウが出てきた。戦ってどうにかした。ラビリスもやっと納得してくれた。



寮に戻ったらラビリスも特別課外活動部に加入する事になったと聞かされる。何故、八十稲羽のテレビの世界にいたのかという話は後日することになった。



その夜、妙な夢を見た。でも内容がよく思い出せない。



ラビリスから詳しい話を聞く事になったが、彼女も何故あの場所にいたのかよくわかっていない様子だ。他に言いたい事があるようにも見えたがなんでもないと誤魔化された。



陽介にラビリスの事を電話で話している最中、マヨナカテレビらしきものを見た。が、急な眠気に襲われる。



それから数日の間、得体のしれない悪夢に悩まされ、謎の女・キミコに振り回される事になった。
それと平行し、世間では謎の連続衰弱死事件が起こり、騒がしくなっていった。



毎夜見る夢と衰弱死事件には何か関係があるようだ。クラブで知り合った三十代の男と話すうちに、色々何かが見えてくる。



どうやらよくわからない『力』とかいうのがそもそもの原因らしい。
それが何かはわからないが、衰弱死事件を解決する手立ては掴めたので、とりあえずそっちをどうにかした。



再び平和は戻った。が、『力』というものが何の事なのかは解らないまま、数日が過ぎた。



ある日突然、転入生がやってきた。そいつは……

綾時「どうも、僕です^ ^ 」←今ココ


※ここまで、作中の時間で約二ヶ月程度


こんな感じの筈です。参考にどうぞ。

本編の方はまた後日投下にきます。

>……


【昼休み】


>転入生がクラスの女子に囲まれ質問攻めにあっているのが見える。

>授業と授業の合間の休み時間にも、もう何度も見ている光景だ。

>転入生は嫌な顔ひとつせず、自己紹介の時に見せていた甘いマスクを保ったまま、受け答えをしている。

>とても手慣れている様子だ。


男子A「にくい。顔面格差社会がにくい」


>クラスメートもずっとこんな調子だ。

>そっとしておこう。


鳴上(……ん?)


>ふとした瞬間、女子の輪の中にいる転入生と視線が合った。

>こちらを見て小さく微笑んでいる。

>つられて微笑み返してしまった。


男子A「今、アイツ、俺の事バカにしたような笑いしてなかったかッ!?」

鳴上「いや、それは考えすぎだろ」

男子A「じゃあ何か!? お前達同じイケメン転入生同士にしか解らない謎の交信でもしてたってのか!?」

鳴上「いい加減落ち着け」


>そうこうしているうちに、転入生はようやくクラスの女子から解放されたようだった。

>転入生はその隙に席から立ち上がり、女子の輪の中にはいなかったメティスとラビリスの方へと近付いていくのが見えた。

>三人は何か話しているようだったが、ここからだと少し距離がある為、内容を聞き取る事は出来なかった。

>すぐに昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ってしまったので、大した会話はしないまま離れてしまったようだが……


男子A「おい、鳴上のお花ちゃん達にまで粉かけてるぞ? いいのか?」

鳴上「俺の、っていうのは余計だろ……」

鳴上(でも、何話してたのか気にはなるな)


>後で聞いてみようか。

>……


【放課後】


ラビリス「悠、ちょっと!」

鳴上「……ん? どうした?」

ラビリス「これから転入生に学校の案内するんやけど、一緒についてきてもらってもええ?」

鳴上「転入生に?」

メティス「はい。私達……というか、ラビリス姉さんに是非お願いしたいと、望月さんが」

綾時「綾時でいいよ、メティスさん」


>転入生が二人の背後から唐突に現れた。


綾時「ラビリスさんが生徒会の人だって聞いたから、学校の事詳しいんじゃないかと思って頼んだんだけど。迷惑だったかな?」

ラビリス「んー、そういうのやないんやけど」

ラビリス「ウチもこの学校来てからそんな日が経ってないからな。悠もいた方が助かるかもと思って」

メティス「という訳です。放課後に何も予定がなければ、鳴上さんもご一緒していただけると有り難いのですが」

鳴上「そういう事か」


>昼休みに話していたのは、きっとこの事だろう。


鳴上「俺は構わないぞ。転入生がハーレムの邪魔だと思ってないならの話だけど」

綾時「ははっ、確かにちょっと勿体無い気もするね。でも、せっかくだから、よろしく頼むよ」

綾時「えっと……鳴上くん?」

鳴上「ああ、こちらこそ。改めて、同じクラスでこれからよろしくな、望月」


>綾時に学校を案内する事になった。

>……


月光館学園 高等科校舎


>少し前方で綾時と並びながらラビリスが一生懸命学校の中の説明をして歩いている。

>それを見守るかのような形で、メティスと二人で歩いていた。


鳴上「……なんだ。ちゃんと一人で案内出来てるじゃないか。これなら俺の手番はなさそうだな」

メティス「そうですね。……」


>メティスはラビリスの姿をじっと見つめている。


メティス「ラビリス姉さん、なんだかとっても生き生きしてる」

鳴上「そうだな。誰かの役に立ちたくて、生徒会に入ったんだそうだから、正に今そうする事が出来て嬉しいんじゃないか?」

メティス「そっか……姉さん、自分がやりたい事をきちんとみつけてるんだ」

メティス「……」


>メティスは少し悲しそうな、羨ましそうな目でラビリスの姿を見続けていた。


メティス「私は……まだまだ、です。いつか鳴上さんが話していた、自分だけの世界というのが未だにはっきりと見えずにいます」

メティス「そんなものないのかもしれない。あったとしても、私にはやはり必要ないものなのかも。……そんな風に考える事だって、まだあります」

メティス「でも、姉さんのあんな楽しそうな姿を見ていたら……ちょっといいなって思ってしまいました」

メティス「私も、私がしたい事、出来る事ならもっと見つけてみたい。そんな風に思うなんて、」

鳴上「おかしい事じゃない」


>メティスが言葉を続ける前にそう答えた。

メティス「……」

メティス「兵器でない時の私には何が出来るのか知りたい」

メティス「だから私だって、もっと普通の人間のような事を真似してみても……いいんですよね?」


>メティスの視線がこちらへと移った。

>その瞳には不安の色が混じっている。


鳴上「ああ、もちろん。俺がそれを止める理由はないし、メティスがそういう事思うようになったって知ったらアイギスもきっと喜ぶよ」

メティス「アイギス姉さんが?」

鳴上「そう。アイギスも言ってたんだよ。シャドウを倒す兵器として作られたけど、それだけしかしちゃいけないって訳じゃないと思うって」

鳴上「メティスの人生はメティスが自分で決めていいんだよ。誰かに意見を窺う必要なんてないんだ」

メティス「私の人生……」

メティス「人が生きると書いて……人生。機械の私にとって、その言葉は適当ではない気がします。でも」

メティス「そう言って貰えて、なんだか嬉しいと思う自分がいます」

メティス「とても、不思議な気持ちです……」


>メティスは自分の胸に手を当て目を伏せながら考えている。


メティス「鳴上さんも、不思議な人です」

鳴上「俺が?」

メティス「はい。鳴上さんといると、今まで知らなかった事を次々と覚えていっている、そんな風に感じます」

メティス「この今の感情だって、きっとそう」

メティス「……やっぱり間違ってなかったのかも」

鳴上「何が?」

メティス「私の大事は貴方の傍にいる事、というやつです」

メティス「最初、それは鳴上さんの為になる事だからと考えていましたが……そうではなくて」

メティス「私にとって為になる事だから。そういう意味だったんですね、きっと。まったく、アイギス姉さんも人が悪いんだから」

>メティスは笑みを浮かべている。

>アイギスが思っていた事が、彼女にもようやく理解出来始めてきたようだ。


メティス「だから私、これからも鳴上さんの傍にいますね」

鳴上(……本人にとって特別な意味はないんだろうけど、変な誤解しそうな言葉だな)

鳴上(でも……)

鳴上「俺も、必要だっていうのなら、メティスの傍にいるよ」

メティス「はい!」

鳴上(誰かに必要とされてるってのは、やっぱり悪い気分はしないな)


>メティスの心の変化を感じた。

>メティスとの距離が、少し縮まった気がする……



>『Ⅴ 法王 メティス』のランクが4になった



メティス「……でも、急にこんな事思うなんて、自分でも本当に不思議な話です」

メティス「世間がまた平和になったからでしょうか」

メティス「だから、人間のように平和な時間の中を、私なりに過ごしたいと思う自分がいる……?」

メティス「……」

鳴上(……平和、か)


>……


月光館学園 校門


ラビリス「……とまあ、大体こんな感じやな。何かわからん事は?」

綾時「今のところ、特には。助かったよ」

綾時「また何かあったらラビリスさんに聞こうかな。今日は本当にありがとう」

綾時「それじゃあ、僕はこっちだから。みんな、また明日ね」


>綾時は手を振って校門から出ていった。

>同じように手を振って笑顔で綾時を見送っていたラビリスだった、が……

>急に、はあっと深い溜め息を吐いてガクリと肩を落とすのだった。


ラビリス「うわあーもうーめっちゃ緊張したわあー!」

ラビリス「ウチ、リョージにきちんと案内出来とったかな!?」

ラビリス「リョージの役に立てたんかな? なぁ!?」


>ラビリスは自分がした事に不安を持っているようだ。

鳴上「きっと大丈夫。望月だって、ラビリスにありがとうって言ってただろ? また何かあったらラビリスに聞こうかともさ」

鳴上「それってつまり、ラビリスの案内が良かったっていう意味だろ?」

ラビリス「そ、そうかな?」

鳴上「ああ」

ラビリス「……。ホントにそう思ってもらえてたら、ええなあ」


>ラビリスはまだ少し不安がりつつも笑っている。


ラビリス「ありがとな。悠もメティスも付き合ってくれて」

メティス「いえ、私達は何もしていませんから……」

鳴上「そうだな。さっきの事は、全部ラビリスがやった事だから。あとで望月にお礼を催促しておくといいぞ」

ラビリス「えへへっ」

ラビリス「……でもなあ、多分ウチひとりやったら、あそこまで出来なかったと思うんよ」

ラビリス「悠やメティスが近くにいるって安心感があったからやれた事やと思う」

ラビリス「ウチもまだまだや」

ラビリス「とりあえず、学校の生徒の役に立つってどういう事なのか掴めた感じはするけどな!」

鳴上「それは良かった」

ラビリス「よっし! これからも気張っていくでー!」

鳴上「ラビリスの場合、あまり意気込み過ぎるのもよくないと思うぞ」

ラビリス「! せ、せやな……ウチ、自分の感情のままに暴走したら、きっと碌な事にならんよな……それで前にみんなに迷惑かけたんやし」

ラビリス「その辺も、肝に銘じとくわ!」

ラビリス「まずは、もうちょっと学校のルールとかも、きちんと確認しとく必要もあるかもな」

ラビリス「なんたって生徒会や。生徒の手本にならなあかんのやからな!」

ラビリス「うーん……思っていたよりもやっぱ難しい事が多いみたいやわ」


>そう言いながらも、ラビリスは楽しそうにしている。


鳴上「やりがいがあっていい、って感じじゃないか」

ラビリス「まあな! へへっ」

ラビリス「ウチ、これからも頑張るから、悠もメティスも見ててな!」


>ラビリスは、自分の中にある決意を一層固くしたようだ。

>ラビリスのやる気を感じる。



>『ⅩⅥ 塔 ラビリス』のランクが3になった

ラビリス「じゃあ、ウチらも帰ろっか」

メティス「そうですね」

鳴上「あ、悪い。俺は寄るところがあるから、二人は先に帰っててくれ」

ラビリス「え、用事あったん? なら言ってくれれば良かったのに」

メティス「私達もお供しましょうか?」

鳴上「いや。大した事じゃないから。時間もとらないと思うし、俺もすぐ戻るよ」

メティス「そうですか。それじゃあお先に失礼します」

ラビリス「じゃあなー、気ぃつけてな!」

鳴上「ああ」


>……


ポロニアンモール


鳴上(周防さん、いるといいけど……)


>タイミングが色々と悪く、前に約束した漢の世界シリーズの最終巻『漢よ、さらば』を未だに周防に貸せずに今日まできてしまった。

>今日こそはと思い、鞄の中に入れては来たのだが、彼も忙しい身である事はわかっている。

>会えるだろうか。

>黒沢に頼むという手もあるが、出来る事なら直接手渡したい……


鳴上「ん?」


>交番の方に向かおうとしたところで、靴にカチンと何かが当たったような気がした。

>視線を下に向けてみると、そこには銀色に光る四角い何かが落ちていた。


鳴上「これは……ライター、か?」


>屈んで手に取り拾ってみる。

>ライターはライターであったが、コンビニで100円で売っているような安物ではない事は一目でわかった。

>銀色のボディに洗練されたデザインが施されている。

>これひとつで、煙草がカートン単位で買えそうな値段がするのではないだろうか。

>きっとこれの落とし主は今頃ショックを受けている事だろう。


鳴上「……ついでに届けとくか」


>屈んだ体を起こした、その時。

>声が耳に届いた。

?「……ゆき……」

鳴上(……雪?)

鳴上(ていうか、この声、……周防さん?)


>声がした方を向いてみた。

>噴水近くのベンチに一人の男が座っているのが見える。

>しかしそれは、周防の姿では無かった。

>周防よりは若く、自分よりは少し年上の学生といったところだろうか。

>腕を組み眼鏡を頭の上に乗せながら、居眠りをしているのがわかる。

>声はその男の寝言のようだった。

>急に、ガクッと男の首が傾いた。

>そのせいか、彼は目を覚ましてしまったようだ。

>目を二、三度瞬かせ、まだ眠そうな顔をしている。


鳴上「あの」

?「……?」

鳴上「これ、貴方のですか?」


>男に拾ったライターを見せてみた。

>男は目を細めて顔を近付けるがよく見えていないようで、ベンチの上を手探りしている。


鳴上「ここですよ、眼鏡」


>頭の上を指差して教えた。


?「……ん。済まない」

?「……」

?「いや、これは俺のものではないな」

鳴上「そうですか。わかりました」

?「……」


>男は、眉間を指で揉んだ後で眼鏡をかけ直し、ベンチの上に積んでいた沢山の教材らしきものを抱えてフラフラと立ち去っていってしまった。


鳴上「なんだかお疲れって感じだったな。にしても……」

鳴上「やっぱり周防さんの声に似てたな、あの人」


>……

辰巳東交番


鳴上「こんにちはー……」


>交番の中をそっと窺ってみた。


達哉「ん? 鳴上か。久しぶりだな」

鳴上「ッ! いた! よかった!」

達哉「どうした? そんなに興奮して」

鳴上「約束の本、持ってきました」

達哉「!」

達哉「そうか。覚えていてくれたんだな」


>周防の表情が変わった。

>何処か嬉しそうだ。


鳴上「当たり前ですよ。どうぞ」

達哉「すまない。いつ読み終える事になるかわからないが……」

鳴上「大丈夫です。俺、もう何度も読んでますから」


>本を周防に手渡した。


鳴上「あ、それと、さっきすぐそこのベンチ近くでこれを拾ったんですけど」

達哉「なんだ? ……ライター、か」

達哉「……」


>周防は渡したライターをまじまじと見つめている。

>すると突然、キィンと良い音を鳴らしながらライターの蓋を開け、カチッとそれをすぐに閉じた。

>その動作は中々様になっていて、一瞬の事ではあったが思わず見惚れてしまったくらいだった。


鳴上(シブいな……! 大人の男、って感じだ)

達哉「……」

達哉「……?」


>周防はもう何度かその動作を繰り返した後、もう一度ライターをまじまじと見つめ直して不思議そうな顔をしていた。

鳴上「? どうかしたんですか?」

達哉「いや……」

達哉「俺も前にこんなライターを持っていたような気がしたんだが」

達哉「……そんな筈はないな。煙草は吸わないし。気のせいだ」

達哉「これは預かっておく。書類を書くから、拾った時の状況を教えてくれ」


>……


達哉「……わかった。ご苦労だったな」

鳴上「周防さんこそ、毎度お疲れ様です」

達哉「これが仕事だからな。ま、本来なら黒沢のやる事ではあるが……今はあいつの留守を任されてる訳だから」

鳴上「え? もしかして、周防さんってこの交番勤務じゃなかったりとか?」

達哉「ああ、そうだ。俺は本来別の署の人間だ。例の事の関係で、頻繁に出入りしているからよく間違われるんだが」


>例の事……武器や防具についてだ。


達哉「いっその事、本当にここの勤務になった方が楽かもしれないな。色々と……」


>周防は小さく溜息を吐いている。


達哉「何処にいようと俺がやる事は変わらないからいいんだがな」

鳴上「大変ですよね、やっぱり……色々と」

達哉「こっちの事情だ。お前が気にする必要はない。それに」

達哉「この仕事を嫌だと思った事はないからな」


>そう言って誇らしげにしている周防の姿がなんだか眩しく見える。

達哉「そういえば、鳴上は進路の方は結局どうした?」

鳴上「え? ……いや、まだ何も」

達哉「そうか……」

達哉「いっそお前も刑事を目指してみたらどうだ? この間の活躍、俺は評価しているんだぞ?」

達哉「今の警察組織には、お前のような若者の力が必要だとも俺は思っている」

鳴上「ありがとうございます」

鳴上「刑事、か……うーん」

鳴上「叔父が刑事をしているから、どういう仕事なのか知ってはいるつもりですが……」

達哉「乗り気じゃないみたいだな」

鳴上「今までそういう選択肢を考えた事がなかったので、ちょっと……」

達哉「なるほど」

達哉「ま、覚悟が決まったらいつでも言え。その答えがなんだったとしても、力になれる事があるならなってやるから」

達哉「本の礼の分くらいには、な」


>周防は笑って励ますように肩を叩いた。

>周防との仲が深まった気がした……



>『ⅩⅨ 太陽 周防達哉』のランクが6になった



達哉「もう遅い時間になってきたな……用がないなら、真っ直ぐ帰れ」


>周防に促され、寮に戻る事にした。

>……


【夜】


学生寮 ラウンジ


鳴上「ただいま……、?」


>寮に入った直後、ラウンジのテレビの前に、特別課外活動部のメンバーが勢揃いしているのがすぐ目に映った。

>はて、今日は集合をかけられていた日だっただろうか……?


ラビリス「あっ、悠!?」

メティス「鳴上さん……!」


>ラビリスもメティスも大分前に寮に戻っている筈だが、未だに制服姿のままだ。

>それにみんななんだか様子がおかしい……


メティス「っ……」

鳴上「……え?」


>つかつかとこちらへ早足でやってきたメティスに、突然腕を捕まれた。

>そして、力任せに引っ張られる。

鳴上「ちょっ、おいっ、メティス!?」

メティス「……」


>メティスにそのままテレビの前まで連れて行かれ……

>その勢いのまま、目の前の黒い画面の方へと――体を押された。


鳴上「なっ……!?」


>……

>ガツン、と音がして、次の瞬間額に痛みを感じた。


天田「な、鳴上さん!? 大丈夫ですか!」

アイギス「メティス! いきなり、そんな事しなくてもっ……!」

メティス「だ、だって……」

鳴上「つっ……」

鳴上「……メティス、お前、なんの恨みがあって突然テレビなんかにぶつけて、……」

鳴上「……え?」

鳴上「テレビに、ぶつか……った……?」

鳴上「ッ……!」

一同「!?」


>勢いよく、テレビの画面に向けて頭を突き出した。

>……

>結果は先程と同じだった。

>テレビの画面に『ぶつかった』のだ。

>そして、より額の痛みが強くなっただけであった……


鳴上「痛ッ……」

鳴上「……」

鳴上「どういう事、なんだ?」

美鶴「……」

美鶴「君が体感した通りだ」

美鶴「テレビの中に……入れないんだ。また、な」


>コンコンと、美鶴の拳がテレビの画面を虚しく叩く音が響いた。


鳴上「桐条さんも、という事は」

アイギス「ここにいる全員そうです。私も、ラビリス姉さんも……」

天田「僕やメティスさん……それにコロマルは、一度もテレビの中に入れた経験がありません」

メティス「はい。だから私たちの事はいいとして……」

鳴上「どうして俺たちまでまた入れなくなっているんだ……?」

美鶴「そう。その話を今していたところなんだ」

アイギス「天田さんにテレビの中の世界の事について、私や美鶴さんがGWの時に体験した事を話していたんです。その時、ここのテレビからだとやっぱり入れなくなっている事に偶然気付いて……」

美鶴「そのときちょうどラビリス達も帰ってきてな。彼女にも試してもらったのだが……やはり無理だった」


>どういう事だ……?

>テレビの中に入る力を取り戻したとばかり思っていたが……

>何故ここからだと、テレビの中の世界へ行けない?


鳴上「……」

鳴上「この街の異変に、テレビの中の世界やマヨナカテレビは関わっていないから……と受け取っていいのか?」

美鶴「良い方向に考えればそういう事になるのだろうな」

メティス「テレビの中の世界へ行けるのは稲羽市のみでの現象だとほぼ確定した……という事ですか」

鳴上「……そうかもしれない。でも」

鳴上「だからと言って、港区にテレビの中の世界が存在しないという事にはならないよな?」


アイギス「……。入り口が閉ざされているだけ、という事ですか?」

鳴上「そう。GWの時を考えれば俺たちはたぶん、テレビの中に入る事自体はまだ出来るんだと思う。それこそ天田やメティスやコロマルだってな」


鳴上「ただ何故かこの地域では、テレビの中の世界にはこちらからの干渉が出来なくなっている……そうは考えられないだろうか」

天田「だとしても、それならそれで何か不都合があったりするんでしょうか」

天田「テレビの世界の事、僕にはやっぱりよくわからないので詳しい説明をお願いしたいです」

天田「入り口が閉じている状態だっていうなら、現実世界のそれこそ一般の人だって誤ってその世界へ落ちてしまったりする危険もない訳ですよね?」

天田「ならば、とりあえず問題はないんじゃないですか?」

鳴上「その点については天田の言う通りだと思う。でも……」

鳴上「この先、テレビの世界で何かあってそれがこの街に影響を及ぼしたりするような事がもしあったとしたら、その時はこちらからだと何も出来ないって事を意味しているんだ」

鳴上「テレビの世界が影響しているという事自体気付けないかもしれない……」

天田「そ、そうか……!」

アイギス「こちら側が閉じているからといって、むこう側も閉じているとは限りませんしね」

アイギス「いつかメティスが言っていたように、テレビの世界の方からしかも一方通行でシャドウがやってきたりなんて事になったりしたら……」

メティス「……最悪ですね。あまり悪い方向へは考えたくないのですが」

ラビリス「だからって、街中のテレビを全部壊して解決する、なんて事もできんもんな」

美鶴「……ただの予測で終わって欲しい意見ばかりだな」


>皆、黙ってしまった……

>もし今述べられたような最悪の事態が仮に起きたとして。

>対抗出来る手段は……果たしてあるのだろうか。

>……


今回はこれで終わりです。

どうネタを広げてどう畳むかという大まかな設計は既に出来上がって、ようするにオチももう確定済みです。
だからそれ以上に妙にネタを盛り込む事はもうしないつもりです。P4G次第によって小ネタ挟む事はあるかもしれませんが。
あとの問題は書く時間があるかないかってだけです。こればかりはこちらも予想が出来ない…でも時間かかってもきちんと完結までいく気ですので。

ではまた次回。

>結局のところ、これ以上の話の進展は出来ず解散となった。

>今はただ、テレビの中の世界が港区に悪影響を及ぼすような事態にならない事を祈るしかない。

>しかし、もし万が一が起こったら

>その時は……


メティス「あの、鳴上さん……大丈夫でしたか?」

鳴上「ん。……うん?」


>頭の中で色々と考えながら階段を登っていたところをメティスに呼びとめられた。


メティス「頭ですよ。……さっきはごめんなさい。突然あんな事してしまって」

メティス「気が動転していたみたいで、つい……」

メティス「まだ痛みますか?」


>メティスはテレビにぶつけた額に触れてそっと撫でる。


メティス「確かこういう時に使う呪文がありましたね。えっと……そう、確か」

メティス「いたいのいたいの、とんでけー!」

鳴上「……」

メティス「……」

メティス「……えっ? まだ痛いんですか? 痛いんですね!?」

メティス「きゅ、救急車! 救急車の出動を要請を!」


>メティスは慌てふためている。


鳴上「……あ、いやいや」

鳴上「今のもう一度頼む」

メティス「え? わ、わかりました」

メティス「いたいのいたいの、とんでけー!」

鳴上「……」

メティス「ど、どうですか?」

鳴上「ああ。癒された」

メティス「そうですか。よかった……」

メティス「あの。本当にごめんなさいでした」


>必死なその姿を見て少しばかり和んでしまったその間に、彼女は頭を下げてから階段を先に駆けていってしまった。

>おかげでさっきまで感じていた焦りや不安や緊張が、僅かではあるが薄らいだ気がする。

>……

>何が起こるのかわからないのは今までと一緒だ。

>具体的な策はまだ考えられずとも、気構えだけはしっかりしておこう。

>……

自室


>そういえば、今朝届いたメールの確認をまだしていなかった事を、たった今思い出した。

>送信者は、STEVEN……だったか。

>そんな人物が知り合いの中にいない事は確かだが。


鳴上「間違いメールだったら返信して教えた方がいいかな。内容が英文じゃなきゃいいけど……」


>携帯を操作して朝受信したメールを開いた。

>その瞬間、画面が急に切り替わった。


鳴上「!」


>気付いた時には、携帯はメール画面ではなく、何故かWebマークが点灯して勝手にネットに接続した状態になっていた。

>画面の真ん中には横長のバーが現れ、『ダウンロードしています』というメッセージが表示されている。

>中止をしようにも、どのボタンを押してもどうする事も出来ず……

>あっという間に真っ白だった横長のバーは青色に染まり、メッセージは『完了しました』に変わっていたのだった。


鳴上「一体何が……、!」

鳴上「この画面は……」


>勝手にダウンロードされた『何か』は、初めてみるものでは無かった。

>これは、以前見せてもらった藤堂の携帯の中にあったアプリと同じものだ。

>パオフゥも気にしていた噂のゲーム……

鳴上「俺のところにもきたって事か」

鳴上「メールの方には何が書いて……あれ?」


>受信ボックスにあった筈のSTEVENのメールがなくなっている。

>アプリをダウンロードし終わったと同時に消えたのか……?


鳴上「なんだか気味が悪いな……」

鳴上「でも、藤堂さんは普通に遊んでたし」

鳴上「あ、そうだ。とりあえず、藤堂さんとパオフゥに教えないとな」

鳴上「えーと……なんてゲームなんだ? これ」


>アプリの詳細を確認してみよう。

>……?

>アプリのタイトルらしきものが見当たらない。

鳴上「呼び方に困るな。まあ、いいか」

鳴上「さて、と。パオフゥは……珍しいな、今日はオンラインにいないのか」


>パオフゥにはPCのメールアドレスの方に連絡を入れておこうか。

>まだ興味があるならあちらの方からまた接触があるに違いない。

>藤堂の方にも携帯からメールを送ってみたが、しばらくしても返事がこなかった。忙しいのだろうか。

>……

>少しそのゲームで遊んでみようかとも思ったが、だいぶ夜も更けてきている。

>また明日にしよう。

>部屋の電気を消して、今日はもう休む事にした。

>暗くなった部屋に月明かりが差し込む。

>窓の外の雲ひとつ無い夜空には、大きな満月が浮かんでいるのがくっきりと見えた。

>少しの間それを眺めてから、ベッドに横になった。

>……



?/? 雨


???


>……

>重い瞼を開き、ソファに沈んだ体をゆっくりと起こした。

>窓のカーテンの向こう側からは雨音が聞こえる。

>時間は……時計を見ると、もうすぐ0時になろうとしているようだ。

>……そうだ。マヨナカテレビのチェックをしなければ……


ジジッ――


>目の前にあるテレビには砂嵐が映っている。

>その中に――仮面を被った男が唐突に現れた。

>テレビの画面が少しだけではあるがクリアなものへと変わる。


仮面の男「こんばんは……いや、おはようか? 少なくともこんにちは、ではないよな」

仮面の男「初めまして、久しぶり」


>……?

>初めましてで、久しぶり?

>仮面の男の言っている言葉は矛盾している。

>こちらにとっては……どうだろう。

>男のつけている仮面には見覚えがあるような気もするし、声も聞いた事がある、ような……?

>でも……

>……

仮面の男「今日はひとつだけどうしても言っておきたい事があってここにきた」

鳴上「……」

仮面の男「すぐに済む話だ。でも、一回しか言わないからな」

仮面の男「……」

仮面の男「マヨナカテレビもテレビの中の世界も……あの街やあそこに住んでいる人間にとってはまったく関係のない物事だ」

鳴上「!」

仮面の男「……関係なんかさせやしない。あんな場所に繋がらせたりなんか、絶対にしない」

仮面の男「俺が、な」

仮面の男「だってあれは、あの場所は……」


ザアァァァ……


>外に降る雨が強くなって、テレビの映像が――途切れた。

>……

>重い頭を動かして、部屋の中をゆっくりと見渡した。

>……ああ、なんだそうか。

>ここ、暗くてじめじめしているのに、妙な安心感があると思ったら

>八十稲羽にある叔父さんの家の――

>自分の部屋だ。

>……



06/05(火) 晴れ 自室


【朝】


鳴上「……」


>カーテンの隙間から差す光が、一日の始まりを教えてくれている。

>天気は晴れ。窓を開けると、清々しい空気で部屋に満ちる。

>夏が近い匂いがする。


鳴上「都会でもこんな空気を一応は感じられるんだな」

鳴上「でも、八十稲羽の方がもっと……」


>……


鳴上「……っと。早く準備しないとな」






【放課後】

月光館学園 3-A 教室

>一日の授業が全て終わった。

>メティスは映画館のアルバイトへ、ラビリスは生徒会の方へと行ってしまったようだ。

>二人とも励む事があるようで何よりだ。

>自分も今日は顔を出したい場所がある。

>早く行く事にしよう。

>……

美術室

>色々あってまともに活動出来ていなかった美術部へ今日こそはと足を運んできた。

>美術室の中には……あかりの姿がある。

>正確に言えば、彼女しかそこにはいない。

>あかりは、机の上に紙を広げて何か描いているようだったが……

鳴上「あかり」

あかり「……」

鳴上「あかり?」

あかり「……え? うわあっ!?」


>肩を叩いて声をかけたら驚かれてしまった。

>その拍子に、彼女が机に広げていた紙が散乱してしまったようだ。

>拾うのを手伝おう。


あかり「あっ、だ、大丈夫だから!」

鳴上「……? これは?」

あかり「!」

あかり「いや、あのっ……!」


>てっきり、またスケッチをしているのかと思っていたのだが、拾い上げた紙に描かれていたのは、以前見た事のある彼女の絵のタッチとはまったく違う絵であった。

>これは……


鳴上「漫画、だよな?」

あかり「あわわわ……!」


>拾った紙を取り上げられてしまった。


あかり「……みちゃった?」

鳴上「みちゃった」

鳴上「なんかこう、裸体的な何かが」

あかり「わー! わー! 言わなくていいよっ!」

あかり「これは……アレだよ!? 趣味の方の原稿だから!」

鳴上「趣味か」

あかり「あっ! ……」

鳴上「趣味の方の……って事は、趣味じゃない原稿もあるのか?」

あかり「え? あー……うん。まあ、ね」

>あかりは拾った原稿を鞄の中へと入れてから、小さい溜息を吐いた。


あかり「出来ればみんなにはナイショにして欲しいな」

鳴上「さっきの原稿の事か?」

あかり「というより、漫画を描いてるって事自体、かな。別に知られるのが嫌な訳じゃないんだけど……」

あかり「……ねえ。鳴上くんはさ、この前の進路相談、どうだった? 先生になんて答えた?」

鳴上「俺は、……」

あかり「……」

あかり「私ね、小さい頃から漫画家になるのが夢だったの」

あかり「絵が好きで、いつも紙に何か描いてた」

あかり「でも、親はやっぱり勉強しろってうるさくてね……私の夢、いくら言っても認めて貰えないんだよね」

鳴上「それでも漫画を描くのはやめなかったんだ?」

あかり「うん。ずっと描き続けていれば、私が本気だって事、わかってくれるかもって思って」

あかり「結果は……まだ出せてないんだけど」

あかり「とりあえず、いつか漫画で賞をとって、親をびっくりさせてやるのが目標! ……でも、進路がそれって訳にもいかないでしょ?」

あかり「漫画家になる事が夢なのに変わりはないんだけど、この先どうしたらいいのかなって考えてたら鳴上くんが現れたから……びっくりしちゃった」


>あかりは苦笑を浮かべている。


鳴上(進路に悩んでいるのは誰でも一緒、か)

あかり「ごめんね、急にこんな話しちゃって。部活に来たんだよね?」

鳴上「……あ、うん」

あかり「今日は私達だけみたいだから、まったりやろうよ」

鳴上「ああ」


>二人で美術部の活動をして放課後を過ごした。



>『ⅩⅦ 星 星あかり』のランクが3になった

>……


あかり「うーん……」


>スケッチブックに描いた絵をあかりに見せてみた。

>感想をもらおうと思ったのだが……あかりはそれを見つめたまま、なかなか答えてくれない。

>やはり素人が描いた絵はダメなのだろうか……


鳴上「俺なりに頑張ったんだけど……」

あかり「……」

あかり「……なんだろうね。鳴上くんが描いたこの絵」

あかり「可もなく不可もなく、って感じなの」

あかり「悪く言えばただそれだけって風でさ。なんというか……言葉に出来ない絵」

あかり「下手だとは思わないよ? でもね、きちんと物を見て描いた筈の絵なのに……」

あかり「不鮮明、っていうか」

鳴上「……」

あかり「ごめんね。私も偉い事言える側じゃないんだけど、こんな感想しか思い浮かばなかった」

鳴上「いや、ありがとう」

鳴上(可もなく不可もなく、言葉に出来ない、不鮮明……か)


>……


月光館学園 昇降口


綾時「鳴上くん、君も今帰りかい?」


>校舎から出ようとしたところで綾時と会った。


鳴上「望月もか? こんな時間まで何してたんだ」

綾時「クラスの女の子に部活動見学しないかって引っ張り回されてね。それがようやく終わったところさ」

鳴上「モテる男は辛いな」

綾時「それほどでもないさ、ふふっ」

鳴上「学校はどうだ? 上手くやっていけそうか?」

綾時「んー、そうだね。今のところ不自由は感じていないよ」

綾時「いいところだね、ここは。みんな優しいし」

鳴上「特に女の子が?」

綾時「そう。女の子が」

綾時「街の様子はまだよくわからないんだけどね」

鳴上「そうか。俺でよければ街の案内くらいするぞ?」

鳴上「時間さえ合えば、メティスとラビリスもついてくるかもしれないという、豪華特典つきだ」

綾時「ん。……」


>綾時は一瞬無表情になって考えた後、笑みを浮かべて小さく頷いた。


綾時「そうだね。時間があれば、昨日のメンバーで街へ行ってみるのも……悪くないかな」

鳴上「じゃあまた今度、だな。どうせなら休日の方がいいか? 色々と遊べるだろうし」

綾時「その辺はおまかせするよ」

鳴上「わかった。メティスとラビリスにも声をかけてみる」

綾時「よろしく」

綾時「……」

綾時「そういえば、クラスの男子でまともに喋ったの、まだ鳴上くんだけだな」

鳴上(そりゃ、あの様子じゃ今は無理だろうな……)

綾時「でも……うん。鳴上くんとはこれから仲良くやっていけそうだな。そんな気がする」


>綾時は何処か嬉しそうにしながら、そう呟いた。

>望月綾時と友達になった。



>『Ⅵ 恋愛 望月綾時』のコミュを入手しました

>『Ⅵ 恋愛 望月綾時』のランクが1になった



綾時「それじゃあ、僕はこっちだから」

鳴上「ああ。また明日な」


>……


辰巳ポートアイランド駅前付近


鳴上「割と自信を持って描けた気がしてたんだけどな……」

鳴上「ま、俄かだもんな。仕方ないか」


>部活動で描いた絵を見つめ小さく溜息を吐いた。


チドリ「何の話?」

鳴上「うわっ!?」


>背後から突然ぬっと寄って出てきたチドリに驚いて思わず声を上げてしまった。


チドリ「そんなに驚かなくてもいいじゃない……」

鳴上「ご、ごめん」

チドリ「で、それは何?」


>チドリは持っていた絵の方をちらりと見た。

鳴上「……。俺が描いた絵」

チドリ「悠が? 自分で描いたの?」

鳴上「そう」

チドリ「これは。……」


>チドリは描いた絵をじっと見つめて黙ってしまった。


チドリ「とても……不確かな絵ね」

チドリ「定まってない、とも言える」

鳴上「……」

鳴上「チドリにもそう見えるのか?」

チドリ「……」

チドリ「悠はこれ、自分で何を描いたのかってはっきり言える?」

鳴上「俺は、美術室にあった花瓶の花を描いたつもりなんだけど」

チドリ「つもり」

鳴上「……ッ!?」

チドリ「その口振りだと、誰かも私と同じような事を言ってたって訳でしょ? つまり……そういう事なのよ」

チドリ「悠のこの絵は上辺だけ。本質がここには存在していない」

チドリ「絵には対象だけでなく、描き手自身の事も現れる。いえ、対象が描き手自身と融合して紙の上に現れると言った方がいいのかもしれない」

チドリ「私が描いている絵なんかが、いい例だわ。そもそも対象がなくて、心のままに描いている場合が多いけど……」

チドリ「だから、私の絵は私にしか理解出来ない事が多い。でも悠の場合は……貴方自身にも解っていないようね?」

チドリ「……意外だわ」

鳴上「え?」

チドリ「貴方にも、そういう部分があったなんて」

チドリ「いえ、私も大それた事いう資格はないわね。でも、こう言ってはなんだけど」

チドリ「少しだけ、貴方の事が見えたような気がする」

鳴上「それって……?」

チドリ「教える義理はないわね。自覚出来ないなら、それもまた一興ってところじゃないかしら」

チドリ「でもそうね。描き続けていけば、そのうち解る事も出てくる、かもね?」

チドリ「保証はしないけど」

鳴上「……」

チドリ「ま、せいぜい頑張ってみたら? 私も、貴方が描いたもの客観的に評価するくらいは出来るから」

チドリ「気が向いたらまた面白おかしい絵を見せてちょうだい」

鳴上「面白おかしいって……」

チドリ「冗談よ」


>チドリなりの励まし?の言葉なのだろうか……


チドリ「……もう行くわ。またね」

チドリ「……」


>チドリは去り際に近くにあった携帯ショップに視線を向けてから歩いていってしまった。

>……

>何故だろう。チドリの言葉が深く胸に残ったような気がした……


>『ⅩⅡ 刑死者 チドリ」のランクが6になった

pipipipipi……

鳴上「!」


>携帯が鳴っている。

>表示されている番号は……藤堂のものだ。


鳴上「もしもし」

藤堂『やあ。昨日はメールありがとう。連絡が遅れてすまなかった』

鳴上「いえ」

藤堂『それでだな、……今日はもう学校は終わってるんだよな?』

鳴上「はい。今、帰る途中ですけど」

藤堂『そうか。なら突然で悪いんだが、ポロニアンモールまで来る事は出来るか?』

鳴上「今からですか?」

藤堂『ああ、そうだ。メールでの用件、詳しい話を直接したくて』

鳴上「はあ、そうですか。わかりました」

藤堂『ありがとう。噴水の辺りで待ってるからな』


>電話はここで切れた。

>やたら必死だったような気がしたが……そこまでの事なのだろうか?

>とりあえず、言われた場所に行ってみる事にしよう。

>……


ポロニアンモール


>噴水前には既に藤堂の姿があった。

>こちらの方を見て、手を振っている。


鳴上「お待たせしました」

藤堂「こちらこそ、いきなりこんな呼び出しをしてすまない」

藤堂「場所を変えよう。そうだな……あそこでいいか」

>……


カラオケ マンドラゴラ


鳴上(何故、こんな場所に……?)

藤堂「もう少し静かな場所の方がよかったかな?」

鳴上「いえ……」

藤堂「そうか。じゃあ、早速だけど」

藤堂「まず、君が受け取ったというアプリについてだが。そのアプリが添付されたメールの送信者はSTEVENという明記だった……間違いないか?」

鳴上「はい。昨日の朝に受信して帰ってからメールを開いてみたら、急にアプリがダウンロードされて……」

藤堂「届いた筈のメールの方は消えてしまった、と」

鳴上「そうです」

藤堂「ふむ……」

藤堂「それで、君はアプリの方は起動させてみたのか?」

鳴上「いえ、それがまだ。だから藤堂さんの役には立てないと思うんですけど」

藤堂「いや。それならそれでいい。少し携帯をかしてもらってもいいか?」

鳴上「はい。どうぞ」


>藤堂に携帯を渡すと、彼も自身の携帯を取り出して向かい合わせにしたりしながら二人分の携帯の操作をし始めた。


藤堂「……よし。これでとりあえずはいいかな」

鳴上「? 何をしてたんですか?」

藤堂「君のアプリの方に、俺のデータを少し分けたんだ」

藤堂「たとえばこの右端の数値を見てみな」

鳴上「MAGってやつですか?」


>携帯画面の右上にはMAGと書かれた横に3000という数が表示されている。


藤堂「これはこのアプリに必要不可欠なものなんだ。これが無いと話にならない。まあその辺の詳しい事は、実際やってみればわかる」

藤堂「本来はアプリ所持者同士だからといって交換出来るようなものじゃないんだが、……まあ、特別にな」

藤堂「注意してほしい事がひとつ。このアプリを起動するにあたって、このMAGの数値を絶対に0にしてはいけない。絶対、だ」

藤堂「……本当なら君にこんな事をさせるの自体心苦しい事なんだが、今はなりふり構ってられなくてね。これは餞別代わりさ」

鳴上「え?」

藤堂「……」

藤堂「ゲームをするのもいいけど、ほどほどにしてくれって事だ」

藤堂「よく親が言ったり説明書にも書いてあったりするだろ? ゲームは一日一時間を目安に、続けてプレイする場合はじゅうぶんな休憩をとって……的なさ」

藤堂「後はアイテムをひとつ贈らせてもらったよ。きっと何処かで役に立つ筈だ」


>見てみるとアイテム欄に『しゃくねつのせきばん』というのが追加されている。


藤堂「わからない事はまた追々、な」

鳴上「……あの、このアプリって何か名前みたいなものってあるんですか? 起動させてもタイトルも何も表示されないでいきなりスタートするんですけど」

藤堂「名前か。これを持っている奴らの間ではこう呼ばれているな」

藤堂「悪魔召喚プログラム」

鳴上「なんか、まんまって感じですね」

鳴上「これって確か契約した悪魔を呼び出して戦わせるゲームなんですよね?」

藤堂「まあ、そうだな」

鳴上「そっか。わかりました。また後でやってみますね」

藤堂「……ああ」

藤堂「何かわからない事や聞きたい事があったら、またいつでもメールてくれ」

藤堂「こっちも聞きたい事が出てくるかもしれないから……よろしく」

鳴上「はい」

藤堂「……」

藤堂「よし。じゃあ、話したい事は一通り済んだから」

藤堂「歌うか!」

鳴上(歌いたかったのか)


>藤堂は機械を操作して早くも歌う曲を選んだようだ。


藤堂「お、MUSEのJOKERなんて入ってる。これにしようか」


鳴上(しかも一発目が懐かしの女性アイドルユニットの曲だと……!?)


>曲が流れ始めた。


~♪


藤堂「心晴れない~♪」


>……

>確かに、心が晴れなくなるような味のある歌声だ……

>しばしの間、藤堂のリサイタルに付き合ってひとときを楽しく(?)過ごした。


>『Ⅳ 皇帝 藤堂尚也』のランクが4になった



>……


【夜】


自室


>色々あって少し疲れたような気がする……

>だが、休む前にPCのメールのチェックと携帯アプリ……悪魔召喚プログラムというのがどんなものなのか少し触っておきたかった。

>パオフゥから返事はきているだろうか。

>と思った直後、立ち上げたPCからメッセンジャーの音が鳴り響いた。


パオフゥ:番長へ

パオフゥ:時間がねぇんで用件だけ言っておく

パオフゥ:メールは読ませてもらった

パオフゥ:その事についてだが、折り入って話をしたい事がある

パオフゥ:出来れば直接会ってが望ましい

パオフゥ:日時や場所についてはそちらの都合に合わせよう

パオフゥ:出来るだけ早い方が助かるが

パオフゥ:どういう事だと思うかもしれないが、大事な話だ。またメールをくれるとありがたい

パオフゥ:じゃあな

>パオフゥの打つ文字が一瞬のうちにメッセンジャーに並び、返事をする間もなく彼は落ちてしまったようだ。


鳴上(直接会って話がしたい? なんでまた?)

鳴上(藤堂さんもだったけど、ちょっと食い付き方がおかしくないか? そこまで流行ってるのか……)

鳴上(でも学校ではそんな様子はないみたいだし)

鳴上(……)

鳴上(気のせい、か?)


>悪魔召喚プログラム……

>いったいどんなアプリなのだろう。

>アプリを起動させてみる事にした。

>……


>アプリの内容は聞いていた内容の通りのものとほぼ相違ないものだった。

>マップ上を歩き、遭遇した悪魔と戦ったり仲魔にしたりする。

>仲魔にした悪魔同士を合体させる事でより強い仲魔を作り、強い敵を倒す。

>ただそれだけのゲームのように見えるのだが……

>人によっては強く惹きつけられるゲームだという事だろうか。

>やった感じ確かにそれなりに楽しめはしているが、自分の場合は少ししたら飽きてしまいそうなそんなゲームに感じられた。


鳴上「そういえば、まだ悪魔合体はしてなかったな」


>仲魔にした悪魔の並ぶ欄を見ながら考える。

>こうして改めてみると、どれも自分のもつペルソナと似たような雰囲気をもつ悪魔ばかりに見えるが……

>……

>どうやら合体をさせる際に所持しているアイテムを混ぜる事で、より強力な能力をもった悪魔を誕生させる事が可能らしい。


鳴上(藤堂さんから貰ったアイテム、さっそく使ってみようか)


>『しゃくねつのせきばん』を選択し、選んだ素材の悪魔で出来上がるのは……


鳴上「夜魔 リリム……か。これでいいか」


>決定ボタンを何気なしに押した。

>その瞬間と、時刻が0時になったのは――ほぼ同じだった。

鳴上「!?」


>突如、携帯の画面が鈍く発光し始め……

>一瞬だけ、眩しく輝いたその後に

>それは、部屋の中で姿を現したのだ。


鳴上「なっ……」


>……アプリの中ではない。

>明らかに携帯の画面から飛び出たそこに

>たった今、誕生させたばかりの悪魔がいるのだ……

>自分のペルソナにもいる、リリム。

>だが、目の前にいるそれは、自分の力のひとつとして持っているそれでない事は確かだ。

>どういう事だ……


リリム「……ん」


>リリムが、閉じていた目を開いた。


リリム「ん、んん……?」


>ぱちぱちと瞳を瞬かせた後、リリムと思わしきそれはこちらを凝視してきた。


鳴上「っ……」

リリム「……」

リリム「……ゆ、」

鳴上(ゆ?)

リリム「悠ッ!?」

鳴上「……は?」


>何故、こいつは自分の名前を知っている……!?


リリム「やっぱり悠だよね!? 悠……」

リリム「私、嬉しいっ!」


>リリムが突然、自分の体に抱きついてきた。

>……ちゃんと、その感触が伝わってきている。

>リリムが実体としてここに存在しているという紛れもない証だ。


鳴上「ちょっ……待て! お前はなんだ! どうして俺を知っている!?」

リリム「酷いよぉ、もう忘れちゃったの……って、そっか。これじゃわからないよね」

リリム「なら……」


>リリムは一度離れると、その姿を瞬く間に変貌させた。

鳴上「……え?」

鳴上「お前、は……!」


>リリムだったそれは、気付いた時には人間の姿になっていた。

>服装は、月光館学園の女生徒の制服を着ていて……

>……

>そうだ。

>この姿は、かつて自分を散々振り回した挙げ句、この部屋で消失してしまった彼女。

>それとまったく同じにしか見えなかった。

鳴上「……キ」





鳴上「キミコ……!?」


終わります。

また次回。

キミコ?「ふふっ……」

キミコ?「あたりだけど、ハッズレ~♪」

鳴上「ッ!?」


>そう笑って、目の前にいた彼女はまた抱き付いてきた。

>……あの時とは違う。

>さっき抱き付かれた時と同様に、ちゃんと抱き付かれているという実感がある。


鳴上「……」

鳴上「きちんと説明、してくれないか?」

キミコ?「前にも言った筈だけどなぁ」

鳴上「?」

キミコ?「だからねー……」


>抱き付いている女は、キミコの姿から再びリリムへと変わった。


リリム「キミコっていうのは、あの時限定の私の姿。私が勝手によそから姿と名前を借りてただけなの」

鳴上「よそから借りてた? つまり、キミコって存在はお前とは他に……そっか、お前本物のキミコにも謝りたいとか言ってたもんな」

リリム「うん」

リリム「キミコって女の子は、私自身じゃなくて人間として何処かにいる筈」

鳴上「筈?」

リリム「悠さ、クラブにいたおじさん……ヴィンセント、だっけ? あの人から、前にも月光館学園の生徒と話をした事があるって聞いた事あるでしょ?」

リリム「その子がキミコって子みたいなんだよね」

リリム「私はヴィンセントの意識を覗いて、キミコって名前とか姿なんかをトレースしてただけなの。だから実際にキミコって子を知ってる訳じゃないんだ。会った事もないよ」

鳴上「……なんでそんな事を?」

リリム「これも前にちょっと言った事だけど、あの時の私は名前もないし存在も曖昧なものだったのよ」

リリム「だから、初め悠の前に姿を見せた時は、もっと別の姿をしてた筈……私にもどんな姿だったかわからないけど、たぶん悠の望むような女の子の姿をしてたと思うよ、覚えてる?」

鳴上「んー……?」


>初めはキミコの姿ではなかった……?

>言われてみればそんな気がしないでもないが、どんな子だったかまでは思い出せない。

>今ではその記憶も、完全にキミコの姿で補正されてしまっているようだ。


リリム「それで、あの後にキミコの話が出てきた訳でしょ? 可憐で純情そうなのに男心を弄ぶ小悪魔っていう。あ、これはこっちの方が使える設定だな、とかそういう感じでキミコになりましたとさ」

リリム「まあ、私自身の意志でそうしたって訳でもなかったんだけど。あくまで、そう『させられた』ってだけ」

リリム「……おそらく、この街に蔓延している『力』ってやつのせいでね」

鳴上「!」

鳴上「お前は、その『力』について、何か知ってるのか?」

リリム「ごめん。詳しい事はちょっと……」

リリム「ただ、その曖昧な存在だった私が、こうしてリリムという名前と存在として今ここにいるのも、その『力』が影響してるんだと思う」

リリム「そのおかげで、悠によって私は前までの私に近い存在に生まれ変わった……ううん、ようやく私の存在が確定されたって言った方がいいのかな?」

リリム「……つまり! 私と悠はこうして再び会う運命だったって事だよ!」


>リリムはより強く抱き付きながらはしゃいでいる。


鳴上「ちょっ、待て! 結局、『力』は『何』に影響してお前が……リリムが実体化するようになったのか、……もっと具体的に頼む」


>……

>まさかとは思うが……


リリム「影響を受けてるのはたぶん、悠の持ってるソレだよ」

リリム「だって私はソレで召喚されたんだもの」


>リリムは手に持っている携帯を指して、そう告げた。

鳴上「……悪魔召喚プログラム」


>なんという事だ……

>書いて字の通りの事が出来るアプリだったという訳なのか?

>いや、今の話を聞く限りでは

>そういうアプリに『なってしまった』という事なのだろうか。

>『力』のせいで……


鳴上「もしかして、このアプリを持っている奴はみんな悪魔の召喚が可能になっている、って事なのか?」

リリム「じゃないかな。それ、悪魔を呼ぶ為の魔方陣とか呪文とかをデータ化して入れる事が出来るみたいなんだけど」

リリム「そんなだから、魔術に関してまったく素養がない人でも、ボタンひとつで簡単に悪魔が呼べるようになってる」

鳴上「それって危険じゃないか! 実体化した悪魔が一般人の目の前に現れたりなんてしたら……!」

リリム「仲魔にした悪魔がプログラムの所持者を襲う事はないと思う。現に、私は悠に何も危害を加えたりしてないでしょ?」

鳴上「……あ。確かに」

リリム「ただ、プログラム所持者自身が悪い人間だったら、手の内にある悪魔を使って何か企む……なんて事はあるかもね」

鳴上「!!」

リリム「それよりも……」


>リリムは窓に寄り、外をじっと見ている。


リリム「この街、いったいなんなの? 『力』の事もそうだけど、この感じは……」

リリム「……」

リリム「あっ!」

鳴上「どうした!?」

リリム「いや、あのね」

リリム「マグネタイトは大丈夫かなって」

鳴上「マグネタイト?」

リリム「えっとね……ほら、この数字だよ。まだ余裕あるみたいだね。よかった」


>リリムは携帯画面の右上に表示されているMAGの数値を指差した。

鳴上「マグネタイトって読むのか、これ」

リリム「これはね、私たち悪魔のエサみたいなものなの」

リリム「ほら、今どんどん数値が減っていっているでしょ? それは私が今ここに実体化してるせいだよ」


>そういえば、ゲームの中でも仲魔を呼び出している最中はこの数値が減っていた気がする。


リリム「マグネタイトはゼロにしちゃダメだよ? 私が出てこれなくなっちゃうからね!」

鳴上「出てこれなく……って、お前帰らないのか!?」

リリム「帰る? なんで? っていうか、何処に?」

鳴上「何処って……」

リリム「私ね、決めた」

リリム「私も悠の力になる!」

鳴上「!?」

リリム「悠はこのおかしな事になっている街をどうにかしたいんでしょ?」

リリム「私、その役に立てると思うの」

リリム「それに、悠の持っている能力だけじゃ、不安じゃない?」

鳴上「……」

鳴上「それは、確かに……」


>この先何が起こるのか未知数なだけに、ペルソナの能力とは別に戦力が増えるのはありがたい事かもしれないが……


リリム「私がこうしてまた悠と会えた事には意味があるんだって、そう思いたい。例え『力』のせいで現れられるようになったんだとしてもね」

リリム「だから、今は悠の傍にいたいの。ダメかな……?」

鳴上「……わかった」

鳴上「とりあえず、リリムは俺の敵じゃないんだって事は覚えておく」

鳴上「ただ、これからどうするかは……」

リリム「やったあ! それじゃあ、今日から悠の仲魔だね!」

リリム「今後ともよろしく!」

鳴上「あ、ああ。よろしく」


>リリムが仲魔になった。……らしい。

>……

>悪魔を呼び出す事の出来るアプリ『悪魔召喚プログラム』

>そんなものがこの街に出回っている理由は一体……

>メールの送り主のSTEVENという奴が何かを企んでいるのだろうか。

>そして、同じくこのアプリを所持している藤堂や、これについて話があると言っているパオフゥはこの事態に気付いているのか。


鳴上「今のところは引っ込んで貰ってていいか? 用があったらまた呼ぶ」

リリム「りょーかい! いつでも呼んでね、悠のところになら、すぐ飛んでくるから!」


>リリムは姿を消した。


鳴上「……」

鳴上「メール、してみた方がいいのか?」


>……


06/06(水) 曇り


【朝】


通学路


ラビリス「リョージに街を案内しに行く?」

鳴上「ああ、昨日そういう話になって。よかったら、ラビリスもメティスも一緒に行かないか? その方が、望月も喜ぶと思うし」

ラビリス「ウチはええよ。街の方は流石にちょっとウチにも案内しきれんけど、リョージと遊びに行くってのは楽しみやな!」

鳴上「メティスは?」

メティス「……」

メティス「ラビリス姉さんや鳴上さんが一緒だというのなら……構いません」

鳴上「決まりだな。今週の日曜はどうだ?」

ラビリス「オッケーや!」

メティス「問題ないです」


>……


月光館学園 3-A 教室


鳴上「……という話になったんだけど、そっちの都合はどうだ?」

綾時「今週の日曜だね。わかった。その日は空けておくよ。待ち合わせは何処にしようか?」

鳴上「巌戸台駅あたりでどうだ?」

綾時「了解。楽しみにしてるよ」


>綾時とメティスとラビリスとで、日曜日に遊びに行く事になった。

>……

【放課後】

>今日の授業が全て終わった。

>携帯を取りだし、メールか着信がないかと確認してみる。

>昨夜はあの後、どういう内容で送ろうか悩みながらも藤堂とパオフゥそれぞれにメールを送ってみたのだが、藤堂からの連絡はまだ来ていないようだ。

>パオフゥの方は今夜またPCをチェックして返事があるかみてみよう。


鳴上(藤堂さん、忙しいのかな)

鳴上(ていうか藤堂さんって普段何している人なんだろう……)


>今まで街でばったり会った事が幾度かあったが、その様子からだと会社勤めをしているようにはお世辞にも見えなかったのだが……

鳴上(昼間街を出歩いてるって事は、夜の仕事か? ホストとか? ……って感じでもなさそうか)

鳴上(……謎だな)

ラビリス「悠! 一緒かえろー」

メティス「帰りましょうです」

鳴上「ん? ああ、そうするか」


>メティスとラビリスと一緒に下校する事にした。

>……

学生寮

コロマル「ワンッ!!」

ラビリス「お、コロ! 出迎えご苦労やな」

鳴上「ただいま、コロマル」

コロマル「ウゥゥゥゥ……ワンワンッ!」

メティス「? どうかしたんですか、コロマルさん」

コロマル「ワンッ! ワンワンッ!」


>コロマルはやたらと興奮している様子だ。


メティス「ええ、はい。……はい。……え?」

ラビリス「……はぁ!?」

鳴上「?」

鳴上「コロマルはなんて? また散歩の催促か?」

メティス「散歩というか、街の方に行きたいようです」

鳴上「それを散歩っていうんじゃないのか?」

メティス「いえ、そうではなくて。……」
ラビリス「街の方に、妙な気配がするような気がする……って」

鳴上「!?」

鳴上「どういう事なんだ!?」

メティス「わかりません。だから、それを今から詳しく調べに行きたい。という事のようです」

コロマル「グルルル……」

鳴上「わかった。二人とも部屋に鞄を置いてこい。着替えはいいから、その後すぐにコロマルと一緒に街へ行くぞ」

メティス・ラビリス「了解!」


>コロマルを先頭にして、急いで街に出向く事にした。

巌戸台駅付近


鳴上「どうだ、コロマル。何かわかったか?」


>コロマルは鼻をならし匂いを辿るようにしながら進んでいる。


コロマル「クゥーン……」

メティス「ダメなようですね」

ラビリス「でも、妙な気配は僅かではあるけど確かにしてるんやろ?」

コロマル「ワンッ!」

鳴上「……」

鳴上「メティスやラビリスは何か感じたりしないか?」

メティス「いえ。私には野生の勘的なそれは備わっていませんので……」

ラビリス「ウチも特には。そう言う悠は?」

鳴上「俺も別に変な感じはしない、な」

鳴上「……」

メティス「もう少しこの近辺を探ってみましょうか」

コロマル「ワンッ!」


>その後もコロマルを頼りに、周りが暗くなるまで周囲を調べてみた。

>……


ラビリス「結局なんもなかったな」

鳴上「そうみたいだな」

コロマル「クゥーン」

鳴上「あ、いや。別にコロマルのせいとかじゃないからな?」

メティス「……」

メティス「コロマルさんはコロマルさんにしか出来ない事で私達の力になりたかったようですね」

メティス「自分も特別課外活動部の一員であり、この街を守りたいと思う者だから、と……」

ラビリス「……そやね。今の状態だと、街に気になる事が少しでもあれば神経質になって当然やわ」

ラビリス「ウチらその辺の具体的なコトまださっぱりわかってへんもんな」


>コロマルもコロマルがやれる事で頑張ってくれているようだ。


鳴上「そっか……ありがとな、コロマル」

コロマル「ワン」

鳴上「頑張ってくれたご褒美に、たまには違う餌を買ってやろうか」

コロマル「ワンッ!」


>コロマルは尻尾を振って喜んでいる。

>コロマルとの間にある絆を感じたような気がする……



>『ⅩⅠ 剛毅 コロマル』のランクが4になった

コロマル「……!」

コロマル「ワンッワンッ!」


>突然、コロマルは鼻をひくひくさせたかと思うと、歩いていた方向とは違う場所へと駆け出していってしまった。


鳴上「コロマル!? どうした!」


>ついに何か見つけたのだろうか。

>コロマルの後を走って追いかける事にした。

>……


コロマル「!」

コロマル「ワウ……?」


>コロマルは急に走る足を止めて、辺りをキョロキョロと見回し始めた。


メティス「コロマルさん?」

コロマル「ワン」

メティス「……ふむ」

メティス「前に私達と神社へ散歩に出かけた時に感じたのと同じ、コロマルさんのお仲間の気配がしたそうです」

メティス「が、急に消えてしまったとの事です」

鳴上「コロマルの仲間がいた筈なのに消えた?」

ラビリス「たしかに、この辺りにコロマル以外のワンコはいそうにないけどな」

鳴上「もう少しよく探してみようか」

コロマル「……」

コロマル「ワンワン!」

メティス「今日はもう散々付き合ってもらったし気にしないでくれ、と言っています」

ラビリス「この辺に住んでいるなら、また会う機会もあるかもしれないし、やて」

コロマル「ワォーン!」

メティス「それよりお腹が減っているみたいですね」

ラビリス「今日はこれくらいにして、はよコロのご飯買って帰った方がええんやないの?」

鳴上「……そうだな」

鳴上(しかし、コロマルのいう妙な気配といい、何がどうなっているんだ?)

鳴上(この街はどうしてしまったんだ)

鳴上(……どうして、こんな事に?)


>改めて思考を巡らせてみるものの思い当たる節は、……ない。

>映画の中の雪の女王の世界、連続衰弱死に続き、これは何かが起こる前の予兆なのか……

>……

【夜】


学生寮 自室


>PCを立ち上げ、まずはメッセンジャーをオンラインにする。

>パオフゥはオンラインにはいない。

>昨夜の慌ただしい様子からして、彼も忙しいのだろう。

>その忙しい理由が、なんなのか。……見当がつかない事はない気もするが。

>パオフゥがあのアプリを巡ってリアルに接触を求めてきた事と、きっと関係があるような感じがする。

>メールの方をチェックしてみよう。

>……

>パオフゥから昨夜出したメールの返事がきている。

>彼(もしかしたら彼女の可能性もある)と直接会う予定の詳細が書かれたものだ。

>パオフゥはこちらに合わせてくれるといったが、夕方以降なら何時でも会う事が可能だという事と訳あって港区からあまり遠くへは行けないのでその範囲内でという旨だけ伝えて後の事は任せる事にしてしまっていた。

>さて、結局どういうふうに話がまとまったのか……

>新着メールをクリックし確認する事にした。





>……

数日後


06/10(日) 晴れ


>今日は学校が休みだ。

>綾時にメティスやラビリスと伴って街を案内する事になっている。

>準備して行く事にしよう。


学生寮 一階 ラウンジ


>メティスとラビリスが既に待機しているのが見える。

>服装は以前一緒に買い物に出かけた時に買ったものをばっちりと着こなしているようだ。

>これなら、ロボットだというのもバレはしないだろう。

>二人はテレビを見ているようだが……


鳴上「おはよう。お待たせ」

メティス・ラビリス「……」

鳴上「……」


>なにやら真剣に見入っているようで、こちらがやってきた事にまだ気付いていないみたいだ。

鳴上(一体、何を見て……)

『素行調査は弊社にお任せ! 魔女探偵ラブリーン!』

鳴上(……アニメ?)

『来週もおたのしみに!』


>ちょうど放映が終わったところのようだ。


メティス「……。今週も推理してませんでしたね、この番組」

ラビリス「しゃあないんやない? 今は能力もなくなってしもうてるみたいやし」

メティス「メンバー四人のかつての栄光は何処へいってしまったのでしょうか。ずっとあのまま屋根裏暮らしなんて事には……」

ラビリス「せめて先生があの子らんとこに帰ってきてくれればなあ」


>二人は見ていたアニメの事について語り合っている。


鳴上(どんな内容なんだよ……ていうか、毎週見てるのか?)

メティス「……あ、鳴上さん」

ラビリス「え? ホントや。おはよう、悠」

メティス「おはようございます」

鳴上「おはよう。……二人でテレビ鑑賞なんてしてたんだな」

メティス「え、ええ。毎週この時間だけですけど」

ラビリス「なんか続きが気になるんでなー、な?」

メティス「はい。今では週の楽しみのひとつです」

鳴上「何時の間にそんな趣味が……」


>意外な事だったが、……二人とも楽しそうなのはいいことだ。


メティス「もう時間のようですね。望月さんとの待ち合わせ場所に行きましょうか」


>寮を出て巌戸台駅の方に向かった。

>……

巌戸台駅前

>階段下のベンチのところに既に綾時がいる。

鳴上「望月、おはよう」

ラビリス「おっはよー!」

メティス「……。おはようございます」

綾時「おはよう、みんな」

鳴上「待たせたみたいだな、悪い」

綾時「ううん。僕の方が少し早く来すぎちゃったみたいだ」

ラビリス「今日は一日楽しもうなー!」

綾時「うん。よろしく」

鳴上「じゃあ、行こうか」


>まずは四人で巌戸台駅の周辺をまわる事にした。

>……


綾時「……。これはなんて食べ物なんだい?」

鳴上「何って、たこ焼きだろ?」

綾時「たこがないのに?」

ラビリス「入っとらんな」

メティス「ないですね」

鳴上「それは、うん。ここでは、稀によくある。……あ」

綾時「ん? あ、鳴上くんのは当たりみたいだね」


>楊枝に刺さっている食べかけのそれからは、小さくはあるものの本来そこにあるべき具がきちんと入っている。


鳴上「逆にはずれたような気がするのは何故だろう」

メティス「何言ってるんですか? 食べ終わったら次いきましょう」


>……


長鳴神社


綾時「へえ、こんなところにこんな場所がね」

ラビリス「ウチらよくワンコの散歩なんかで来たりするんやで」

綾時「ラビリスさんの家は犬を飼っているのかい?」

鳴上「俺たちのいる寮で飼ってるんだよ」

綾時「君たちは同じ寮住まいなのか。それで仲が良いんだね」

鳴上「ん、まあな」

綾時「今度はそのワンコくんにも会わせてほしいな」

鳴上「そのうちな」

綾時「うん。……そうだ。せっかくだからお参りして、おみくじも引いてみようかな」

鳴上「おみくじか。俺もやってみよう」

ラビリス「じゃ、ウチらも! な、メティス?」

メティス「姉さんがそういうのなら」

>……

綾時「大吉だ」

ラビリス「ウチも大吉や」

メティス「右に同じく」

鳴上「俺は、……」

鳴上「初めて見た気がするぞ、こんなの」

ラビリス「え?」

綾時「わ、大凶? 確かに滅多に見れないよね」

鳴上「ある意味大当たりだな」

メティス「何言ってるんですか? 次行きましょう、次」

>……

カラオケ マンドラゴラ

綾時「歌はいいね。歌は心を潤してくれる。リリンが生み出した文化の極みだよ」

綾時「って、誰かが言っていたような気がする」

メティス「歌、ですか。私あまりそういうのは詳しくないのですが……」

ラビリス「ウチもやな」

鳴上「ラブリーンの主題歌は?」

ラビリス「あ、それなら! あとでメティスと一緒に歌うわ」

メティス「え? 私が姉さんと一緒にですか? ……」

メティス「が、がんばりますっ!」

鳴上「俺は、りせの曲でも歌うかな」

綾時「じゃあ僕は第九でも」

鳴上「望月って面白いセンスしてるよな」

>楽しい時間があっという間に過ぎていった。

>……

ポロニアンモール

綾時「いやあ、今日は充実した一日だったよ」

鳴上「楽しんで貰えたらなによりだ」

綾時「今までこういう機会をあまり持てなかったからね。そのせいもあると思うけど」

綾時「本当に楽しかった」


>綾時は満足そうに笑っている。


綾時「もう時間なのが惜しいよ」

鳴上「そうだな」

ラビリス「何言ってんの、また遊べばええやん!」

綾時「……。うん、そうだね。また今度があれば……」

綾時「誘ってもらえると嬉しい、かな」


>こんなに遊んだのは久しぶりのような気がする。

>綾時ともまた少し親しくなれたような気がした……


>『Ⅵ 恋愛 望月綾時』のランクが2になった

綾時「じゃあ、今日はこれで」

鳴上「また明日、学校でな」

綾時「うん」


>綾時と別れた。


鳴上(……さてと)

鳴上「メティス、ラビリス。お前たちは先に寮に戻っていてくれ」

メティス「鳴上さんはどうされるんですか?」

鳴上「俺はこれからまた少し野暮用があって」

ラビリス「悠も忙しいやっちゃなー」

メティス「そうですか。では、お先に」

鳴上「ああ。気をつけてな」


>二人の姿を見送った。

>……


鳴上(……よし、行ったな)

鳴上(時間的もちょうどいい頃合いだ)


>そのまま足をクラブエスカペイドの方へと向けた。

>……今日はこの後、この場所でパオフゥとの待ち合わせをしているのだ。


鳴上(なんだか緊張してきた……ネットでしか知らなかった人間とこんな風に会うなんてな)

鳴上(開店前に少しの間貸し切らせてもらう事にするって話らしいけど、入り口から入れるのか……?)

>おそるおそる扉に手をかけようとした。

>その時、肩にぽんと誰かの手が置かれた。

鳴上「ッ――!?」

>突然の事で驚きのあまり体を大きく跳ねさせてしまってから勢いよく後ろを振り向いた。

ヴィンセント「ちょっ……何そんな驚いてんだよ!」

鳴上「えっ……ヴィンセントさん!?」

ヴィンセント「よっ。こんな場所で会うのも久しぶりだな」

鳴上「は、はい。お久しぶりです」

ヴィンセント「でも、ここまだ開店前だぞ?」

鳴上「そうなんですけど……」

鳴上「ヴィンセントさんこそ、なんでまたこんな所に?」

鳴上(まさか、ヴィンセントさんの正体がパオフゥ……なんて事は流石にない、よな?)

ヴィンセント「あー……いや、ちょっと」

ヴィンセント「ある人との待ち合わせ場所にここを指定されてさ」

鳴上「ある人と、待ち合わせ……? 今日、この時間にここで、ですか?」

ヴィンセント「ああ、そうだ。……」

ヴィンセント「まさか鳴上も、なんて事は」

鳴上「……そのまさか、です」

ヴィンセント「……」

鳴上「あの、どういう事なんですか? どうしてヴィンセントさんが」

ヴィンセント「それは俺も聞きたい。が、奴がもうここに来ている筈だ。詳しい話は、奴も一緒に中でゆっくりとしようじゃないか」

ヴィンセント「いくぞ」


>ヴィンセントは鞄を持っていて、それとは反対の空いている方の手で扉を押した。

>……

クラブ エスカペイド


>店内はまだ営業前であるからか、最低限の照明しかついていない。

>見回してみても店員らしき人間はみつからず、代わりに一番奥にある多人数用の席にぽつりと座っている人物の後ろ姿が目に入った。


?「……きたか」


>その人物は、ふかしていた煙草を灰皿で揉み消して、こちらを振り向いた。


?「ヴィンセントと、そっちは……番長か?」

鳴上(その呼び方をするって事は……)

鳴上「貴方がパオフゥさん、ですか?」

パオフゥ「いかにも」


>長髪の黒髪に、派手な色のスーツとサングラスをかけた男は答えた。


パオフゥ「……。お前、何処かで見た顔だな」

鳴上「え? ……あ」


>このいかにもカタギには思えない空気……思い出した。

>ヴィンセントと初めてここで出会った夜、入り口でぶつかった男だ。


パオフゥ「ああ、あの時のガキか」

鳴上「……」

ヴィンセント「おい、パオフゥ。どういう事かきちんと説明してくれないか?」

ヴィンセント「なんでこの場にこいつが同席する事になっている?」

パオフゥ「なんだ、お前ら知り合いだったのか?」

パオフゥ「その話は面子が揃ってからだ。まずはこっちへ来て座れ」

鳴上「まだ、誰か来るんですか?」

パオフゥ「ああ、あと一人な」


>とりあえず今は、パオフゥの言う通り座って待つ事にした方がいいようだ。

>……


パオフゥ「……チッ。何やってんだ、アイツは」


>あれから10分ほど経過したが、最後の一人が現れる気配がない。

>その事に多少イラついているようなパオフゥだったが、そんなタイミングで彼の携帯に着信が入った。

パオフゥ「俺だ。今、どこにいる?……ああ」

パオフゥ「こっちはもうお前以外揃ってんだ。早く……あ? なんだって?」

パオフゥ「それは本当か? そういう事は早く言え。なんとしてでも引っ張って来い」

パオフゥ「ああ。じゃあな」


>パオフゥは通話を終了させた。


パオフゥ「もう一人この場に増える事になりそうだ」

ヴィンセント「なあ、オイ。この集まりって……」


pipipipipipi……


>痺れを切らせたヴィンセントがパオフゥに問いかけようとしたところにまた携帯が鳴る音が響いた。

>今度は、自分の携帯からだ。

>誰だろう。


鳴上「すみません。ちょっと失礼します」


>席を立ち、携帯を手に取った。

>画面に表示されている名前は……


鳴上(……藤堂さん!?)


>あれから一切連絡が途絶えていた藤堂からだった。

>急いで通話のボタンを押した。


鳴上「もしもし!」

藤堂『や。久しぶり。今まで音沙汰なくて悪かった。仕事の都合で少し街から離れたりしてたんでね』

鳴上「仕事、ですか」

藤堂『ああ。それで、今日戻ってきたところなんだけど……また突然の頼み、聞いて貰ってもいいだろうか』

鳴上「? なんでしょう」

藤堂「実は、この前のアプリの件で君に会わせたい人がいてね。これからなんだけど……都合はどうだろうか?」

鳴上「これからですか? すみません。俺もこれから大事な用があって」

藤堂『……。どうしても無理か?』

鳴上「はい。ごめんなさい……また今度にしてもらえませんか?」

藤堂『そっか。いや、こちらもこの間から色々と無茶を言ってすまない。でも、どうしても君に会いたいみたいなんだ。日を改めてって事でいいか?』

鳴上「はい。それは大丈夫です」

藤堂『ありがとう。今度は事前に連絡するから。それじゃあ』


>藤堂からの電話はそこで切れた。

>これから行われる話に水を差さないようにこのまま携帯の電源をオフにする事にした。

>それと同時に、クラブの入り口の扉が開く。


パオフゥ「やっとお出ましか」

「遅れてすまない。ここまで帰ってくるのに少し手間取ってさ」

「それから、さっき話した子についてだけど残念ながら……あれ?」

「なんだ、もうここにいるじゃないか」

鳴上「え、……ッ!?」


>入り口から店の中にはいってきたのは……紛れもない

>さっきまで電話で話をしていた、藤堂だった。


鳴上「なっ、どうして……!?」

パオフゥ「あ? こっちとも知り合いだったのか? それならそれで気兼ねなく話せて楽でいいが」

藤堂「でも彼の隣の人とは初対面だよ。どうも。遅れて申し訳ないです」

ヴィンセント「……どうも」

パオフゥ「何時までもそんなとこ突っ立てねえでお前も早くこっちこい。いい加減本題に入るぞ」

藤堂「はいはい」


>藤堂は持っていた荷物を一度下ろして、入り口の扉を閉めると内側から鍵をかけた。

>……


パオフゥ「……さて、まずは各々の自己紹介についてだが、それは話を進めると同時に明らかになるだろうからここでしなくてもいいな」

パオフゥ「ここにいる人間をこの場に集めたのは俺――パオフゥだが、その理由については各自で理解出来ているな?」

鳴上「……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「俺自身がここに呼ばれている理由はもちろん解ってる。だが、こいつがいる理由についてはまったく見当がつかないんだが?」

鳴上「俺も、自分はともかくヴィンセントさんがいる理由が解りません」


>藤堂については、彼もまた自分と同じ悪魔召喚プログラムの所持者である事を考えればなんとなく推察が出来るのだが……

>それにしても、藤堂やヴィンセントまでもがパオフゥと知り合いだった事には驚いた。


パオフゥ「それも話が進めば解る範囲の事だ」

パオフゥ「少なくとも俺たちは皆――悪魔召喚プログラムという代物の為にここに集まっているという事は頭に入れておけ」

鳴上・ヴィンセント「!」


>という事はつまり……ヴィンセントも悪魔召喚プログラムを持っているという事なのだろうか?


パオフゥ「その悪魔召喚プログラムだが、俺がその話を初めて耳にしたのは、そこにいる男の口からだった」


>パオフゥは藤堂へと視線を移した。


ヴィンセント「えっと……そちらさんはどういう?」

藤堂「……おっと、失礼。俺はこういう者でね」


>藤堂は、ヴィンセントに名刺を差し出した。


ヴィンセント「はあ。こんな人がなんでまた……」

藤堂「それも今から説明するんでご心配なく」

藤堂「そういえば、君にもこれは渡していなかったな」


>藤堂はこちらにも名刺を一枚渡してくれた。

>横書きのタイプのもので、藤堂尚也という名前が何故か右下の方に小さく手書きで記されている。

>その代わり、真ん中には大きくこう印字されていた。





鳴上「葛葉探偵事務所?」

謎オフ会、ここに開催

また次回。

影時間やら映画館やらの時はp3メンバー絡んでたケド最近はあんまり絡みが無いな
それよりも、今のキミコの参考画像的な物が欲しい
わがままですまん

鳴上「藤堂さんって探偵だったんですか?」

藤堂「いや、俺はこの件に関してだけの臨時所員ってだけでそういう訳じゃ」

藤堂「高校時代の同級生がここで働いててさ。応援に呼ばれてね」

鳴上「……探偵が調べなきゃならないようなもんなんですか? 悪魔召喚プログラムってのは」

藤堂「ここは探偵事務所は探偵事務所でも少し特殊な連中が特殊な事件に関わっている所なんだ」

藤堂「つまりこの悪魔召還プログラムの件は十分特殊な部類に入るって事なんだけど……」

鳴上「これはただのアプリゲームじゃないって訳ですね?」

藤堂「……」

藤堂「君ももう気付いているのかもしれないが……」

藤堂「このプログラムはその名の通り、本当の悪魔を呼ぶ事が出来るんだよ」

鳴上「……」

藤堂「まあ……あくまで本物のプログラムで出来る事、だけど」

鳴上「え……?」

鳴上(本物のプログラム?)

ヴィンセント「ほんとうのあくま……あくまでほんもの……」

ヴィンセント「ワリィ、もうちょっと詳しく解りやすく頼む」

藤堂「そうだな……」

藤堂「そもそも、悪魔召喚プログラムってのが各所にばらまかれたのは今よりも昔、90年代頃が初めのようだ」

藤堂「さっき話した俺の高校時代の同級生は、俺が通っていた学校に転入してくる前に正真正銘本物の悪魔召喚プログラムを手に入れた人間のひとりだった」

藤堂「ばらまいた奴の名はSTEVENというらしいが……」

鳴上「STEVEN!?」

藤堂「そう。君が携帯に受信した悪魔召喚プログラムが添付されたメールの署名に記されていた名前と一緒だ」

ヴィンセント「!」

ヴィンセント「そんなメールが、お前の元に?」

鳴上「……はい」

ヴィンセント「……」

藤堂「STEVENがそんなものを無差別にばらまいたのは、悪魔と対抗する為の手段として使ってもらう為だとかって話なんだとさ」

鳴上「……? ちょっと待ってください」

鳴上「それって、悪魔召喚プログラムを使わなくてもそこら辺に悪魔が現れる可能性があるって事、なんですか」

藤堂「そういう事だな」

藤堂「というより、いるよ。悪魔は」

鳴上「っ……!」


>藤堂は今、涼しい顔をしながらさらりととんでもない事を口にした。

>悪魔は、いる。

>確かに、自分もリリムという悪魔を生み出してしまってはいるが、そういう事ではなくて……


藤堂「俺とパオフゥは以前、悪魔召喚プログラムとか関係なく悪魔と対峙した事のある人間だ。だから、今更驚くような話じゃないが……」

鳴上(藤堂さんとパオフゥさんが……?)

藤堂「そちらの人もそれほどビックリしていないように見えるのはなんでだろうな?」

ヴィンセント「……」


>確かに、ヴィンセントは今の話を聞いても大きな声ひとつ上げなかったし、割と冷静なように見える。


ヴィンセント「俺も以前、悪魔との付き合いが少しあったんでな。おたくらが知ってるのとはまた別物かもしんねーが、そういう存在もあるんだっていう事は、理解してる」

ヴィンセント「もう二度と関わり合いたくはねえけどな」

藤堂「へえ。これは意外だったな」

パオフゥ「……お前が一番、悪魔の存在に無知だったらしい事を含めて、な」

パオフゥ「この感じ、どう考えても俺たちと同類の筈なのに、悪魔と戦った事もねえとは」

鳴上「え……」

パオフゥ「気配の消し方がなっちゃいねえって言ってんだ。お前、そんなんだとこの先同類の敵に出会った時、真っ先に殺られんぞ?」

パオフゥ「それとも、共鳴すら感じられないのか?」

藤堂「無理じゃないのか? だって今は気配、消してるんだろ?」

パオフゥ「それもそうだったな」

>気配? 共鳴? なんの話だ?

>同類とはどういった意味の……


パオフゥ「……これならどうだ」


ドクンッ――


鳴上「ッ!」


>自分の中で何かが震えた気がした。

>一体、何が?

>……ペルソナだ。

>ペルソナが震えている?

>こんな感覚は初めてだ……

>でも、これは、まさか


鳴上「パオフゥさんも、ペルソナ使い?」

パオフゥ「そういう訳だ」

パオフゥ「俺がお前の敵でなくてよかったな?」


>パオフゥはニヤリと笑う。


鳴上「じゃあ、さっきの話からすると、藤堂さんも?」

藤堂「ああ」

鳴上「今まで全然気付かなかった……」

ヴィンセント「え? ペル……何?」


>ヴィンセントだけはどういう事だかわかっていないようだ。


藤堂「その事については、また別の機会に話をしよう。まずは、さっきの続きだ」

藤堂「悪魔召喚プログラムは、近辺に出没する危険のある悪魔への対策の為に配られている」

藤堂「でもそれは、悪魔が出現しない地域にはまったく関係のない物だって事になるよな?」

鳴上「まあ、そうですよね」

藤堂「じゃあ更に逆に考えてみよう。ここ最近、この界隈に悪魔による悪魔のための悪魔召喚プログラムが突然ばらまかれるようになった……それは何故か?」

鳴上「まさか……この街にも悪魔が出没するようになったからって意味ですか!?」

藤堂「そうかもしれない、と思うよな。で、俺は実際にそうなのか、その調査をする為にこの街にやってきた人間なんだ」

藤堂「そして調査の結果はというと」

鳴上「っ……」

藤堂「全ッ然、的外れだった」

鳴上「……」

鳴上「え?」

藤堂「詳しく調べたら、携帯に送られてくるアプリは本当にただのゲームだった事がわかったんだよ」

藤堂「たまきにも……あ、俺の同級生で悪魔召喚プログラム持ってる探偵事務所の所員の名前な。彼女にも実際確認して貰った」

藤堂「あれは、悪魔を呼び出せるような物じゃないってさ」

鳴上「でも。……」


>自分の携帯に入っているあれからは実際悪魔が出てきている。

>ただのゲームな訳がない。


藤堂「最初にこの街であのアプリをまき散らした奴にも会った」

鳴上「!」

藤堂「どうしてそんな事したのか、もちろん聞いたさ。そしたらなんて言ったと思う?」

藤堂「過去にあった事例を聞いて自分も真似してみたくなったんだとさ。でも、本当に悪魔を呼べるものなんて仮にあったとしても自分には作れないから、それっぽいゲームにしてみた、って」

藤堂「とまあ、こんな感じのあっけない真実だった訳だが……君が思っている通り、話はそれで終わった訳じゃなかったんだ」

鳴上「やっぱり……」

藤堂「……」

藤堂「調査を終えたその後、俺の携帯に一通のメールが届いた」

藤堂「差出人に書かれていた名はSTEVEN……メールを開くと勝手に何かがダウンロードされ始め、届いていた筈のメールは消失してしまった」

藤堂「そう、君が受け取ったものとまったく同じものが送られてきたんだ」

藤堂「初めのうちは、あんな話をした後で俺の元にもこんなもの送ってくるなんていい度胸だな、なんて思いながら試しに遊んでみる事にしたんだ」

藤堂「この周辺に悪魔の気配がない事も既に調べて解っていた事だし、何も害はないだろうと思ってたからな。でも」

藤堂「あれは何時の日の事だったか……月の綺麗な夜の事だった。俺が携帯に入ってるアプリを操作していたら」

藤堂「急に目の前に現れたんだよ、本物の悪魔が。携帯の画面から飛び出してな」

藤堂「こんな風に」


>藤堂はポケットから携帯を取りだし軽く操作をする。

>すると、その画面の上に――羽の生えた妖精らしきものが姿を現したのだ。

>妖精は羽を動かして藤堂の周りをくるくると回る。

ヴィンセント「……!」

鳴上「これは……ピクシー?」

藤堂「そう」

ヴィンセント「……。もう何が起こっても不思議じゃねえって事は割と理解してる気ではいたけど……実際こんなの見せられるとやっぱ驚くな」


>藤堂はまた携帯を操作するとすぐにピクシーを引っ込めてしまった。


藤堂「さっきも言った通り、悪魔には見慣れていたからその存在自体には驚かなかったんだが、どうしてただのゲームである筈のそれから悪魔が現れたのか解らなくて……もう一度アプリを作った奴に会ってみたんだ」

藤堂「そうしたら……」

藤堂「今ではもう、そのアプリを誰かに送ったりはしていない、って」

鳴上「え!?」

藤堂「それに、メールでSTEVENなんて名乗ってはいないし、記載されたURLを踏まない限り勝手にダウンロードなんてしない筈だと、そう言っていた」

藤堂「これは、どういう事だと思う?」

鳴上「……」

鳴上「最初にアプリを送り始めた人が模倣なら、更にそれを模倣して同じようなアプリで悪魔召喚プログラムと同等の事が出来るものを配っているのが他に誰かいる、とか?」

鳴上「それこそ本物の悪魔召喚プログラムの制作者だっていうSTEVEN本人が……」

藤堂「……」

パオフゥ「……」

藤堂「実は今日ここに、友人から預かってきた本物の悪魔召喚プログラムがインストールされた機械を持ってきている」


>藤堂は持ってきていた荷物を開けてテーブルの上にそれを乗せた。


鳴上「パソコン? にしては、なんだか少し妙ですね」


>テーブルの上に置かれたそれは、一見小さめのノートPCのように見えるのだが、機械の底にアームカバーのようなものがくっついていた。

>更に、ゴーグルらしきものとケーブルで繋がっている。

ヴィンセント「ちょっと、よく見せてくれないか!」

鳴上「!」

ヴィンセント「……。改造したハンドヘルドコンピュータか、凄いな。PCの型自体は古いものみたいだけど。これ、腕にくっつけられるのか?」

藤堂「ああ。左腕につけて右手だけで操作するって感じだ」

ヴィンセント「へえ、どういう構造なのか詳しく調べてみてえな」

パオフゥ「お前に調べて貰わなきゃ困るんだよ。その中身に入ってるプログラムを詳しく、な」

ヴィンセント「……あー、そうだった。そういう話だったんだよな」

鳴上「ヴィンセントさんが、……プログラムを調べる?」

ヴィンセント「そ。俺、一応その手の職についてるもんでな」

ヴィンセント「少し前にネットでこの悪魔召喚プログラムのアプリの事を聞いた時に、どういうもんか調べてみてーなあと思ってたら、だったらやってみないか? って、パオフゥに誘われてここに来たって訳」

ヴィンセント「……話を聞く限りじゃ、俺の手に負える物なのかわかんなくなってきたけどな」


>ヴィンセントは荷物から持参してきていたらしい自分のPCをテーブルに広げ、ハンドヘルドコンピュータとコードで繋いだ。

>ヴィンセントの指がキーボードを叩く。

>……


ヴィンセント「……」

パオフゥ「どうだ?」

ヴィンセント「なんつーか……よくわかんないプログラムだな。こんなの初めて見る」

ヴィンセント「プログラムの根幹になる部分にはプロテクトが掛かってて、解析しきる事が出来ないようになってるし。でも……」

ヴィンセント「これは間違いなく人が作ったものに間違いはないと思う」

ヴィンセント「詳しく調べる時間をもう少し貰えれば、もしかしたら俺にだって悪魔召喚プログラムを組む事が出来る……かもしれない」

パオフゥ「……そうか」

藤堂「じゃあ、次はこっちを」

藤堂「最初にこの街に頒布された、ただのゲームである筈のアプリだ。制作者から直々にひとつ貰ってきた」

ヴィンセント「了解」


>……


ヴィンセント「うん、ただのゲームだな。それ以上でもそれ以下でもない」

ヴィンセント「さっき調べたプログラムとはまるっきり違ってる」

藤堂「なるほど。じゃあやっぱり、これには悪魔召喚プログラムの機能は備わってない訳だ」

ヴィンセント「そういう事になるな」

藤堂「……。じゃあ、最後に」

藤堂「鳴上。君の携帯に入っているSTEVENという人物から送られてきたアプリを調べる」

藤堂「と、その前に……ちゃんと君の口から聞いてなかったな」

藤堂「君も受け取ったアプリから悪魔の姿が出てくるのを見ている。……そうなんだよな?」

鳴上「……」

鳴上「はい、そうです」


>オフにしていた携帯の電源を入れ、アプリを選択する。

>あの夜以来、これにはまったく触れていなかったが……彼女は出てきてくれるだろうか?

>リリムの名を選び、決定ボタンを押した。

>――画面が光った。


リリム「ヤッホー、リリムちゃんだよー……って、あれ? 悠、この人達は?」

ヴィンセント「うわっ! またなんか出てきた!」

リリム「あ、ヴィンセントじゃん。ちょうど良かった!」

ヴィンセント「え? 俺の事知ってんの?」

リリム「あのさ、アンタにちょっと聞きたい事があって……」

鳴上「リリム、話はまた後だ」

リリム「えっ、ちょっと待っ……」


>ボタンを押してリリムを引っ込めた。


鳴上「と、こんな感じです」

藤堂「賑やかな子だったな」

鳴上「……ええ、まあ」

鳴上「どうぞ。お願いします」

ヴィンセント「え? あ、ああ、そうだったな」

>ヴィンセントに携帯を渡した。

>携帯はさっきまで調べていた物たちと同じようにコードでPCと繋がり

>そしてプログラムの解析が開始された

>……筈だった。


ヴィンセント「え?」


>急にヴィンセントのPCがバチバチと火花を散らし始める。


ヴィンセント「なんだ、これ……うわっ!」

鳴上・藤堂・パオフゥ「!?」


>一瞬のうちにヴィンセントのPCは小さな爆発を起こして、液晶画面も粉々になり壊れてしまった……


鳴上「これは……」

ヴィンセント「う、嘘だろ? これ買い換えたばっかなんだぞ!?」

ヴィンセント「どうすんだよ、これ……修理費……また嫁に怒られ……うわああああ」

藤堂「君の携帯の方は大丈夫か?」


>コードから外されて、藤堂から携帯を渡される。

>特に目立った外傷もなく、普通に機能しているようだ。

>アプリもちゃんと起動できる。

>再びリリムを呼び出してみた。


リリム「ねえ、今なんかしたの?」

ヴィンセント「何かしようとしたけど、出来なかったんだよ!」

ヴィンセント「プログラムを開くことさえ出来なかった! ちくしょう……俺のPCが……」

藤堂「……どうだと思う?」

パオフゥ「……」


>ヴィンセントは騒いでいるが、藤堂とパオフゥは神妙な顔をして黙り込んでしまった。


鳴上「……もしかして、今の現象もリリムが言っていた『力』が原因なのか?」

リリム「んー、どうだろうね。可能性は高そうだけど」

パオフゥ「おい。なんだその『力』がどうとかって言うのは」

鳴上「え?」

パオフゥ「いいから答えろ」


>パオフゥは静かにこちらを威圧してくる。

鳴上「あ、あの……それが、リリムから聞いたところによると、こんな風にアプリから悪魔が出てくるようになったのは、この街に広がっている妙な『力』がそれに影響してるからじゃないか、って」

鳴上「それが具体的にどういうものなのかは解らないんですが……」

パオフゥ「……」

パオフゥ「……やっぱり、そうなのか?」

鳴上「!」

鳴上「パオフゥさんには、何か心当たりがあるんですか!?」

パオフゥ「ああ……」

パオフゥ「俺が悪魔召喚プログラムの件やらなにやらを嗅ぎ回っていたのは、その確証が欲しかったからだ」

鳴上「それは、一体……?」

パオフゥ「……」

パオフゥ「お前は、噂が現実になるなんて現象を信じられるか?」

鳴上「噂が、現実に?」

パオフゥ「ああ」

鳴上「言ってる事がよく……」

パオフゥ「そうだな……例えばお前、この間まで世間を騒がせていた連続衰弱死事件について色々調べてただろ?」

鳴上・ヴィンセント「!」

鳴上「……。そうですね」

パオフゥ「あれが起きた原因が実は、『夢の中で落ちた時に目覚めなければ死ぬ』という噂が広まった事で本当にそうなってしまったのだとしたらどうする? って話だ」

鳴上・ヴィンセント「!?」

鳴上「原因を話していた訳でなく、そうやって話をしていた事自体が原因になってしまった? そんな事って……」

ヴィンセント「いや……それなら、俺があんな事になったのも納得がいく」

鳴上「え……、!」


>あの夢の『管理者』がヴィンセントの口を通して言っていた事を、今になって思い出した。

>『電子の海を漂う偽りの言霊』が、『力』の影響を受けて、存在しないものや存在してはいけないものが現れるようになったのだと。

>その『偽りの言霊』というのが……噂の事なのだ。

>ネットに溢れる、噂話。

>それが『力』によって現実と化し、ヴィンセントはその被害を顕著に受ける事となった……そういう事だ。


パオフゥ「……。今、ネットではこの悪魔召喚プログラムに関する事で、ある噂が密かに流れている」

パオフゥ「これもお前が気にしていた事だが……4月にあった辰巳ポートアイランド駅前付近で目撃されたらしいバケモノの事件」

パオフゥ「あれが、今になって妙な形で掘り返されているようだ。いや、すり替わったとでも言った方がいいのか……」

鳴上「今更ですか? だって、あれはもう……」

パオフゥ「先日、あそこでバケモノを見たと最初に口にしてそのまま意識不明になっていた人物がやっと目を覚ましたそうでな」

鳴上「!」

パオフゥ「その後、警察の調べに対して奴はこんな事を口走ったらしい」

パオフゥ「――俺はあそこで悪魔を見た、と」


>悪魔……!?

>彼を襲ったのではシャドウではなかった、という事なのか……?


パオフゥ「その話がネットに広まり、同時に悪魔召喚プログラムなんてものまで世に出回っている」

パオフゥ「過去にもそういった事例があった事も瞬く間に知られて、――そうしてこんな噂が誕生した」

パオフゥ「港区は今、悪魔によって危険に晒されようとしている。悪魔召喚プログラムのアプリはそれに対抗する為に配られている」

鳴上「っ……」

藤堂「つまり、俺が危険視していた事が噂によって現実になる可能性が出てきてしまったって事さ」

藤堂「いや、もう半分なってるんだったな。アプリからは本物の悪魔が呼べるようになっているんだから」

パオフゥ「俺は過去にも噂が現実になるという現象を目の当たりにした事がある。今回の事もそれと同じだってんなら」

パオフゥ「ヤベェってどころの話じゃねえぞ」

パオフゥ「噂の力は人の信じる意志の強さに左右される。だからこのままこの噂が広まり続け、この噂を信じる連中が増えたら」

鳴上「この街は悪魔の巣窟と化してしまう事になる……」

パオフゥ「こんなの馬鹿らしい噂だという反面、一度こんなインパクトのある噂が出たらちょっとの事でどうにか出来るってもんじゃない」

パオフゥ「もう現実になるのも時間の問題ってとこだな」

藤堂「今のところは、悪魔召喚プログラム以外での悪魔の出現は確認出来ていない。悪魔を見たと言っている彼を除いてだけど」

藤堂「だからこそ、これからどうなるのか深く注意を払わなければいけない……君も何か気になる事を見つけたら教えて欲しいんだ」

鳴上「わかりました。……それで、あの」

鳴上「……」

鳴上「この事、俺の仲間に伝えても構わないでしょうか?」

藤堂「なかま?」

鳴上「はい。ペルソナ使いの仲間、です」

鳴上「俺は、この街を脅かす危険のあるものと戦うある組織のメンバーの一員なんです。こういう事情を知ったからには黙ってる訳にはいかないんです」

パオフゥ「……ほお?」

藤堂「なるほどね」

ヴィンセント「え、マジで? 只者じゃないとは思ってたけど、まさかそんな……」

リリム「さっきからアンタだけ完全に蚊帳の外だよねー」

ヴィンセント「うっせ。俺は所詮ただの一般人だよ」

鳴上「そんなに大勢という訳ではありませんが、もしもの時悪魔に対抗するのに十分な戦力になると思います」

鳴上「俺たち全員で協力させてください」

藤堂「こちらこそ、そう言ってもらえるのは非常にありがたい。是非お願いするよ」

藤堂「じゃあ、君の仲間へ事情を話すのは任せたよ」

鳴上「はい」


>噂の現実化、それによる悪魔の出現の可能性……

>色々な話を一気に藤堂とパオフゥから聞いた気がする。

>しかし何より、二人ともペルソナ使いだという事を知った時は驚いた。

>今後、そんな先輩達の話を聞ける機会がいつかあったら嬉しいかもしれないと、そう心の何処かで思った。



>『Ⅳ 皇帝 藤堂尚也』のランクが5になった

>『Ⅸ 隠者 パオフゥ』のランクが7になった

>今日のところはひとまずこれで解散という事になった。

>改めて、僅かでも気になる事があればすぐになんでも情報を交換しあおうという約束をして……

>……


【夜】


学生寮 ラウンジ


>急遽、特別課外活動部のメンバーに全員集合して貰う事にした。


美鶴「……。君から改まって呼び出しとは、何かあったという訳だな?」

鳴上「はい。そして、これから何かが起ころうとしている事を知ってもらおと思って」

アイギス「それは、どういう事ですか?」

鳴上「まずは、これを見て欲しい」

メティス「携帯、ですか?」


>悪魔召喚プログラムから、リリムを呼び出した。


リリム「んー? 今度は何かな? まあ、悠の呼び出しならなんだってオッケーだけどね!」

ラビリス「わっ、この子なに!?」

天田「鳴上さんのペルソナ、にしてはどうして言葉を喋って……?」

鳴上「みんなよく聞いて欲しい」

鳴上「彼女は――悪魔だ。そして」

鳴上「この街はこれから先、悪魔によって危険に脅かされる事になるかもしれない」

メティス「悪魔……?」

アイギス「シャドウとはまた違う存在なのですか?」

美鶴「……みんな、静かに。まずは鳴上の話をじっくり聞こう」


>この場にいる全員に、悪魔召喚プログラムや藤堂とパオフゥから聞いた話を全て話した。

>……


美鶴「噂の現実化か……俄には信じられない話だが」

アイギス「それによって悪魔が出るかもしれないというのも、ですね」

メティス「しかし、ここには現にリリムさんがいる訳なんですよね」

天田「悪魔召喚プログラムっていうの、クラスでちょっと話題になってたの耳にした記憶がありますけど、まさか本当に悪魔が呼べるなんて……」

鳴上「実際にそう出来るものと出来ないものがあるようだ」

鳴上「俺が所持しているのはおそらく、『この街を脅かす悪魔に対抗する為に配られている』という噂の力によって生み出された悪魔召喚プログラムなんだと思う」

鳴上「だからこうしてリリムを呼べている訳だ」

鳴上「……ありがとう、リリム。今日は何度も呼び出してすまないな」

リリム「いいよ、悠の頼みだもん! でもマグネタイトが心配だから、そろそろ戻った方がいいよね。じゃあ、また!」


>リリムは姿を消した。


ラビリス「えっと、要するにウチらこれから悪魔退治する事になるって訳なん?」

鳴上「そういう事になるな。まだ、街の方に被害は及んでないみたいだけど」

メティス「もしかしたら、この間コロマルさんが言っていた妙な気配とはこの事だったのでしょうか」

ラビリス「そういやコロ、あれからもずっと落ち着きないもんな」

コロマル「グルルル……」

美鶴「では、今後の我々の活動は、悪魔に関する情報収集とその対策について考える……といったところになるのか」

鳴上「そうですね。それに、噂のチェックもしとかないと」

鳴上「これ以外にも、どんな事が噂になっていて、……もしかしたら現実になってしまいそうなのか、今後少しでも把握しとおいた方がいいと思います」

天田「噂、か……」

美鶴「私も一度その藤堂とパオフゥという人物に挨拶を兼ねて会ってみたい。連絡先を教えてはくれないか?」

鳴上「わかりました」


>……

>特別課外活動部に、新たな目標と活動指針がうまれた……



>『0 愚者 特別課外活動部』のランクが6になった

>……


06/11(月) 曇り


月光館学園 3-A 教室


男子A「鳴上! これなーんだ?」

鳴上「え? ……チケット、か?」

男子A「そう! なんと、デスティニーランドの特別優待券がここに六枚もあるのだよ」

鳴上「デスティニーランドって遊園地だよな。それがどうかしたのか」

男子A「一緒に行かないか?」

鳴上「俺とお前で?」

男子A「メティスちゃんとラビリスちゃんも誘って、だよ!」

鳴上「ああ、そういう事か」

男子A「それでもあと二枚残るから、数合わせでいいから誰か行ける奴探してさ」

綾時「おはよう。……なんの話だい?」

鳴上「おはよう。そうだ、望月も一緒にどうだ? 遊園地にタダで行けるそうだぞ」

綾時「遊園地、か。いいのかい? 僕が一緒に行っても」

男子A「ん、まあチケットは余ってるからな」

綾時「じゃあ、……うん。行こうかな」

男子A「よし。あとは女子がもう一人いれば都合いいんだけど」

綾時「都合?」

男子A「いやいや、なんでもねーっすよ?」

鳴上「あ、それなら心当たりがもう一人いるから、そいつに声かけてみよう。いつ行く予定なんだ?」

男子A「次の日曜がいっかなって思ってんだけど。メティスちゃんやラビリスちゃんも、きちんと誘ってくれよな!」

鳴上「はいはい」


>日曜日にみんなで遊園地に遊びに行く事になった。

>……

06/17(日) 晴れ


デスティニーランド


>今日はいい遊園地日和だ。


男子A「よし、みんな揃ったなー?」

鳴上「ああ」

綾時「晴れて良かったね」

ラビリス「そやねー」

あかり「誘ってくれてありがとう。今日はよろしくね」

メティス「よろしくお願いします、星さん」

あかり「あかりでいいよ、メティスちゃん」

男子A「あ、じゃあ俺もあかりちゃんって呼んでいい?」

あかり「うん、いいよー」

男子A「やった!」

ラビリス「なあ、ぐずぐずしとらんで、はよ行こ!」


>みんなで遊園地の中へと入った。

>……


男子A「うえぇぇ……きもちわる」

鳴上「食べた後に調子乗って絶叫系に乗り続けるからだろ」

綾時「大丈夫かい? 少し休もうか」

ラビリス「そうした方がええね。そこ座り」


>ラビリスはクラスメートに付き添って甲斐甲斐しく介抱してあげている。

>これなら、クラスメートも少しは浮かばれるだろう。


あかり「私、ちょっとお手洗い行ってきていいかな」

綾時「僕は飲み物買ってくるよ」


>あかりも綾時もそれぞれこの場を離れてしまった。

>ラビリスとクラスメートのいる場所から少し離れて、メティスとふたり並んで座った。


メティス「……」


>メティスはなんだかおとなしい。

>どうかしたのだろうか?


鳴上「メティス?」

メティス「……え? は、はい。なんでしょうか」

鳴上「いや、なんかずっと黙ってるから、何かあったのかと思って」

メティス「いえ、その。……」

メティス「少し、緊張しちゃってて」

鳴上「緊張?」

メティス「はい。学校の、特に男子の方と一緒に出かけるというシチュエーションが、なんというか……」

メティス「この間、望月さんと遊びに行った時もそうだったんですけどね」

鳴上「そうだったのか? 確かに望月たちとあまり話してる様子は無かった気がするけど……」


>メティスがそんな事になっていたとは意外だった。


メティス「特に望月さんの雰囲気が……苦手で。失礼な事をしているとは自分でも解っているんですけど」

鳴上「望月ね。俺は悪い奴ではないと思うけど」

メティス「それは。……」


>メティスは黙ってしまった。


鳴上「俺と話す時みたいにすればいいだけじゃないか?」

メティス「そんな。鳴上さんと望月さんたちとでは……違います」


>どういう意味だろう。


メティス「……人見知り、っていうんでしょうかね。こういうの」

鳴上「そうかもな」

メティス「私、ラビリス姉さんが羨ましい」

メティス「ラビリス姉さんは、誰とでも分け隔てなくああやって接する事が出来るんだもの」

メティス「私も色々な人と普通に仲良く出来たら……きっと世界も広がる気がするのに」

メティス「そうしたらきっと、探しているものだって」


>メティスは少し離れたところにいるラビリスとクラスメートの様子を見つめながらぽつりと呟いた。


メティス「……やだな。私、この間からずっとラビリス姉さんと自分の事を、比較してる」

メティス「そんな事したって何にもならないって、解ってるのに……」

鳴上「今、そう思えるんなら、これから少しずつやっていけばいいじゃないか。自分がそう出来たらいいと思う事を」

鳴上「まだまだこれからだ。そうだろ?」

メティス「……」

鳴上「まずは……そうだな。男はまだ無理でも、女の子の友達なら作れるんじゃないか?」

鳴上「今日はあかりがいるだろ? まずはあかりともっと仲良くなってみる事から初めてみるとか」

メティス「あかりさんと、ですか。……」

メティス「そうですね。あかりさん、いい人だし、彼女みたいな人は私も好きです」


>メティスは何かを決心したように頷いた。


メティス「ありがとうございます。鳴上さんに話したら、少しすっきりしました」

メティス「そうですよね。まだまだこれから、ですよね」


>メティスはようやく緊張が解けたようで柔らかい笑みをこちらに向けてくれた。

>メティスとの仲が、少し深まった気がする……



>『Ⅴ 法王 メティス』のランクが5になった



綾時「お待たせ」

鳴上「ん、おかえり」

綾時「みんなの分の飲み物も買ってきたけど、お茶とオレンジジュースどっちがいいかな?」

鳴上「気が利くな、ありがとう。じゃあ、俺はお茶で」

綾時「はい、どうぞ。メティスさんは?」

メティス「え? えっ、と……」

メティス「オ、オレンジジュースで」

綾時「はい」

メティス「……」


>メティスは綾時からオレンジジュースを受け取ると、小さく一礼した後にラビリスの方へと駆けて行ってしまった。


鳴上(……やっぱり、まだまだこれからだな)

綾時「あれ、逃げられちゃった」

綾時「……。メティスさんって絶対僕の事避けてる気がするんだけど」

鳴上「ああ、それはそういうお年頃だから仕方ないって事で、ここはひとつ……」

綾時「ふーん?」

綾時「さっきさ、ちょっと遠目で二人の事見てたんだけどね」

綾時「鳴上くんってたまにメティスさんのお兄さんみたいだよね」

鳴上「……え」

綾時「あ、ごめん。変な事言ったかな。あまり気にしないで」

綾時「僕もちょっとはしゃぎすぎてるみたいでさ。おかしくなってるのかも」


>見た感じは、何時もの綾時と変わらない気がするのだが……そうだったのか。


綾時「遊園地なんて本当に久しぶりでね。最後に行ったのは何時だったかな……小さな子供の頃だった気がするけど。親に連れられて」

鳴上「言われてみれば、俺もこういう場所に遊びにくるのは凄く久しぶりだ。家族でもあまり来た記憶ないし」

綾時「鳴上くんのご両親は忙しい人だったりするのかい?」

鳴上「まあな。転勤も多くて、俺もあまり一カ所に長く留まれた事がなくて、転校ばっかりしてたり……」

綾時「そうなんだ。僕と似てるね」

綾時「僕も親の仕事の都合で海外行ったり色々なところを連れ回されたよ」

綾時「今回も、どれくらいあの場所にいられるか……」

綾時「……」


>綾時は一瞬寂しげな表情を浮かべた。


綾時「……あ。あかりさんも帰ってきたみたいだ」

あかり「ごめんね。お待たせ」

あかり「あっちの彼の様子はどうかな?」


>そちらの様子を窺ってみると、クラスメートの容態もだいぶ落ち着いてきたように見える。


綾時「そろそろ平気そうだね」

綾時「まだ時間もあるし、せっかくなんだからもっと楽しもうよ」

鳴上「……ああ。そうだな」


>短い会話の中でだが、綾時の事を少しだけ知れた気がした。



>『Ⅵ 恋愛 望月綾時』のランクが3になった



>日が暮れるまでみんなで楽しく遊んだ。

>……

男子A「あー楽しかった!」

あかり「あっという間だった気がするね」

ラビリス「確かに、まだ少し遊び足りない気もするわ」

鳴上「また今度、時間がある時に来れたらいいな。な? 望月」

綾時「ん、そうだね」

男子A「じゃあ、これにて解散!」

あかり「まったねー」

綾時「みんな気をつけて」

>遊園地の前でみんな散り散りになった。

鳴上「俺たちも帰ろう」

ラビリス「うん」

メティス「そうですね。……?」

鳴上「どうした?」

メティス「何か……声が聞こえて来ませんか?」

メティス「こっちの方です」

鳴上「メティス?」


>急に走り出したメティスの後を追った。
>……


メティス「あなたの声でしたか」

「クォーン……」


>メティスは一匹の犬の前に屈み込んでいる。

>犬は弱々しい鳴き声を上げていた。

>誰かの飼い犬なのか、野良なのか。

>見た目からすると、シベリアン・ハスキーに見えるが……


メティス「お腹が空いているみたいですね」

メティス「ねえ、あなたどこから来たの?」

「クォーン」

メティス「……え?」

鳴上「どうしたんだ?」

ラビリス「ソイツ、どこから来たのかも、自分も名前もわからん言うとる」

鳴上「記憶喪失、って事か?」

メティス「……。見たところ、そうなるような目立った外傷などはないようですが」

鳴上「困ったな。どうしよう」

メティス「……」

メティス「連れて帰りましょう」

鳴上「えっ?」

ラビリス「せやな。記憶がない子をこんなトコに置き去りにできへんよ」

鳴上「まあ、確かにそうだけどさ」

メティス「決まりですね」

>……


学生寮 ラウンジ


鳴上「……という事がありまして」

美鶴「……」

美鶴「なるほどな。私はまあ構わないが……飼い主がいるのだとしたら、きっと心配しているんじゃないか?」

鳴上「でしょうね」

メティス「でも、いたとしてもそれが何処の誰かも記憶にないようなんですよ? どうしようもないです」

コロマル「ワンッ!」


>コロマルは餌を食べているシベリアン・ハスキーの傍で尻尾を振っている。


鳴上(コロマル嬉しそうだな)

メティス「え? それは本当ですか? コロマルさん」

コロマル「ワンッワンッ」

メティス「コロマルさんの言っていた、コロマルさんのお仲間……この子の気配だったそうですよ」

鳴上「え? どういう事だ?」

鳴上「だって前にその気配を感じたのってこの近辺でだったろ? それがなんであんな場所にいたんだ」

メティス「何かの原因で記憶をなくしてしまい、そのせいで住処から離れてしまいあんな所で迷っていた……というところでしょうか?」

ラビリス「でもそれなら、ここに連れ帰ってきて正解やったんやないの? コイツん家、この近くかもしれないって事やろ?」

鳴上「そうだよな」

美鶴「ふむ……一晩様子を見てから考える事にしようか」

美鶴「その間に、何か思い出してくれるといいのだかな」


>一晩、シベリアン・ハスキーを預かる事になった。


>…
>……
>………


『――ウ』

『――ユウ』

『ユウ、いつまで寝てるの?』

『休みだからって寝坊はダメよ』

『早く起きてらっしゃい』

『ユウ、いつまで寝てるの!』


>誰かが呼んでいる……?

>……

>いや、違う。

>これはどうやら自分の事ではないようだ。

>目の前に、見知らぬ少年とその少年の母親らしき人物がいる。……みたいだが

>ここはいったい何処なんだ……


『ゆうべはよく眠ってたみたいね』

『パトカーの音があんなに凄かったのに気付かないで寝てるんだから』

『きっと大きな事件ね……あれは』

『あっ、そうそう。今月のおこづかいよ』

『無駄遣いはダメよ』

『アーケードのCAFEでコーヒー買ってきて』

『お金は立て替えておいてね』

『気をつけてね、ユウ』

『あまり遅くならないようにね』


>……


『おかえりユウ、どこ行ってたの』

『あまり遅くならないでね、心配だから』

『でも、男の子は元気な方がいいか』

『ねえ、ユウ聞いた?』

『イノガシラ公園で女の子が殺されたんだって』

『物騒になったわね。安心して出歩けないわ……』

『そうそう、たまには――の世話をしてあげてね』


>少年は頷き――こちらにやってくる。

>少年の手が伸びて、頭を撫でられた。

>そのぬくもりが、とても心地良い……

>……


06/18(月) 曇り 自室


【朝】


>……

>夢を見ていた。

>不思議な夢だった。

>まるで人間じゃなくなっているような……そんな感覚がした気がする。

>……

>学校へ行く準備をしよう。


学生寮 ラウンジ


>一階には、メティスとコロマルと昨日連れ帰ってきたシベリアン・ハスキーがいる。


鳴上「おはよう」

メティス「あ、おはようございます」

コロマル「ワンッ!」

鳴上「様子はどうなんだ?」

メティス「ダメみたいです。まだ何も思い出せないらしく……」


>シベリアン・ハスキーは元気がないようだ。

>自分が何処の誰ともわからず不安でいっぱいなのかもしれない。


鳴上「まあ、無理する事ないさ。な?」


>シベリアン・ハスキーの頭を撫でてやった。


「……!」

「バウ! ワウ! バウ! ワウ!」

メティス「えっ……」

メティス「思い出したのですか! ご自分の名前を!」

鳴上「!」

鳴上「本当なのか?」

メティス「はい」

メティス「パスカルさん、と言うそうです」

鳴上「パスカル、か」

鳴上「良かったな、パスカル。少しでも自分の事思い出せて」

パスカル「バウ!」


>しかし、なんでまた急に……

>まあ、この調子でどんどん思い出していってくれればそれが一番いい事には違いない。

>……

>>472
今のキミコってどっちの事なんだろう
港区にいるかもしれないって言われてる本物のキミコ?
それとも現リリムの方?


終わります。
また次回。


藤堂やパオフゥがペルソナを出せるなら、鳴上達も現実でペルソナを出せたりはしないの?

マーラ様の出番はあるんですか?

6月中旬だけど、物語の内容は1年やってくれるのかな?

>その後、寮の中での話し合いの結果、パスカルはしばらくの間この巌戸台分寮で世話をする事となった。

>もちろん、飼い主がいるのかもしれないという事も考慮し、街に張り紙を張ったりネットに書き込みをしたりしてパスカルをここで預かっているという事を知らせた上での事だ。

>……

>それから数日経ったが、寮の方にはそれらしい連絡もなく、パスカルの記憶も自分の名前以外の事を思い出す気配をなかなか見せずにいた。

>名前があるという事は、飼い主がいるという事を意味しているようなものだと思っていたのだが……違ったのだろうか。

>だとするなら、何処で誰に授かった名なのか……

>それもやはり、今のパスカルにとっては思い出せぬ事のようだった。



06/24(日) 晴れ


>今日は休日だ。

>天気もいい事だし、コロマルとパスカルを連れて少し散歩に出掛けてみようか。

>この辺りを歩いてみれば、パスカルの記憶を取り戻すきっかけがあるかもしれない。


リリム「ねえねえ、悠」

鳴上「! 呼んでもないのにいきなり出てくるなよ。びっくりするじゃないか」

リリム「ごめん。……あのさ、散歩に出掛けるの?」

鳴上「ああ。そうだけど」

リリム「私も一緒に行きたいんだけど」

鳴上「一緒に、って」


>リリムはその姿を瞬く間にキミコの姿へと変えた。


鳴上「……その格好でか」

リリム「うん」

鳴上「……。まあ、いいけど」

リリム「やった!」


>コロマルとパスカル、そしてキミコの姿のリリムと街の方へ散歩に行く事になった。

>……

>藤堂とパオフゥの話を聞いた後、街に悪魔が出現したり住民がそれを目撃していないか細心の注意を払っているのだが……実のところ、まったくそういう話題は耳に入ってはこないのが現状だった。

>ネットでも、意外な形で蒸し返された辰巳ポートアイランド駅前付近での事件についての話はすぐに収まってしまったようで、今はもう特に何も騒がれていないようだ。

>とりあえず、何もない事は良い事ではあるが、油断せずこれからも街の様子を気にかけなければならないだろう。


リリム「……」


>リリムは、散歩に出てからずっと口を閉ざして辺りを見回しながら隣を歩いている。

>その様子は少し不自然なくらいで、周りをかなり気にしているようだ。


鳴上「急に一緒に散歩に行きたいなんていうからどうしたのかと思ったけど、……もしかして、何か気にかかる事でもあるのか?」

リリム「ん、ちょっとね」

鳴上「悪魔の気配がする、とかは」

リリム「あ、それはないから安心していいよ」

鳴上「そっか」

リリム「……」

鳴上「……」

鳴上「なあ、本当にどうしたんだ?」

リリム「……ん」

鳴上「言いにくい事なのか? それとも俺には言えない事?」

リリム「そういうんじゃないんだけど。……」

リリム「ねえ、悠。今すぐじゃなくてもいいんだけどさ」

リリム「ヴィンセントに会えたりとかしないかな」

鳴上「ヴィンセントさん? どうしてだ」

リリム「ちょっと聞きたい事があるんだよね。キミコの事で」

鳴上「本物のキミコについてって事か?」

リリム「うん、そう」

リリム「ちょっと妙だと思う事があるんだよね」

鳴上「?」

リリム「この街ね、……キミコらしき人物がいた気配がないの」

鳴上「気配がない、って確かヴィンセントさんがキミコに最後に会ったのって、三年前だった筈だし」

鳴上「もう学校は卒業して、この街から離れてるからとかじゃないのか?」

リリム「そうじゃなくて。痕跡がさっぱりないのよ。キミコがこの街に居たっていう」

鳴上「え? どういう意味なんだ?」

リリム「人の気配ってね、よく行ってた場所とかよく使っていた物とかに残ったりするんだけど……」

リリム「この街にはキミコのそういうのが一切感じられないの」

リリム「例えキミコがこの街から離れてしまっていても、……最悪死んじゃったりしてても、その気配は薄くなるってだけでそんな簡単に完全に消えたりなんかしないんだよ」

リリム「でもね、この前あのクラブに行った時も、まったくキミコの気配はしなかった。無かったんだよ」

鳴上「それはおかしいな。ヴィンセントさんの話だと、キミコと会って話をしてたのはあのクラブなんだぞ」

リリム「そうなの。おかしいんだよ」

リリム「まるでキミコなんて存在、ここには初めからいなかった、みたいな。そんな風にしか考えられないのよ」

リリム「でも、ヴィンセントの意識の中にはキミコの存在があって、だからこうして私がキミコの姿を知ってる訳なのに」

リリム「……それがどうも気になっちゃって」

鳴上「なるほど」

リリム「……」

リリム「……あ、そうだ。キミコで思い出したけど、その事とは別にもう一つ、悠に言わなきゃ……謝らなきゃいけない事あった、ね」

鳴上「謝る?」

リリム「うん……」

リリム「えっと、さ。私、悠に色々酷い事言っちゃった時があったでしょ。触れられたくない事に触れちゃったみたいな感じで」

鳴上「……」

鳴上「……?」

鳴上「一体、何の話だ?」

リリム「えっ……」

リリム「ほ、ほら! 小豆あらいでさ! 私と初めてクラブで会った時の事を話したじゃない。……あれも、私の意志で言っていた訳じゃないけど、きっと悠の事傷付けて、」

鳴上「リリム」

鳴上「言ってる事がよくわからないんだが」

リリム「……」

リリム「……そっか。うん」

リリム「悠がそう言うのなら、いいけど。……」

リリム「私、戻るね。今日はもう、キミコの事解らなそうだし」

リリム「また、用があったら呼んでね」


>リリムの体が徐々に薄くなっていき、完全に消えてしまった。


コロマル「ワオン?」

パスカル「バウ!」

鳴上「なんでもない。散歩の続きに行こうか」


>……


鳴上「どうだ、パスカル。何かこう、記憶に引っかかりそうなものがあったか?」

コロマル「ワンッ!」

パスカル「クォーン……」

コロマル「クゥーン」


>犬の言葉は解らないが、この様子からするとやはりダメそうだ……でも。


鳴上「諦めないでもう少し歩いてみよう」

コロマル「ワンッ」


>日が暮れるまで街中行ける範囲を全てまわってみる事にした。

>……


学生寮 ラウンジ


鳴上「……ただいま」

メティス「おかえりなさい」

メティス「コロマルさん達とお散歩に行っていたんですね」

鳴上「ああ。パスカルが何か思い出す手掛かりがあればいいと思って」

メティス「成果の方は……なかったようですね」

パスカル「ワウ……」

コロマル「……」

コロマル「ワン! ワン!」


>コロマルはパスカルを元気付けようとしているかのように傍で吠えている。

>そして、その後自分の足元まで寄ってきてじっと見上げてくるのだった。

メティス「これからもパスカルさんの事で色々と協力をお願いしたいと言っています」

鳴上「ああ、わかってる。コロマルもパスカルの事、よろしくな」

コロマル「ワンッ!」


>コロマルは大きく返事をして尻尾を振っている。

>コロマルに頼りにされているのを感じた。



>『ⅩⅠ 剛毅 コロマル』のランクが5になった



>寮の階段から美鶴が下りてきた。


美鶴「ん? 帰ってきたのか、鳴上。ちょうど良かった」

鳴上「あ、どうも。なんでしょうか?」

美鶴「いや、なに。夏休みの君と八十稲羽の子達の予定を聞いておきたくてな」

鳴上「俺と八十稲羽のみんなの、ですか?」

美鶴「ああ。君はまた、あの子達と遊ぶ計画を立てているんだろう?」

鳴上「そういう話になっていますね。まだ具体的な事は何も決まってないんですけど」

美鶴「ふむ。ならばちょうどいいかもしれないな」

美鶴「実はな、君の仲間達を屋久島に招待したいと思っているのだがどうだろうか?」

鳴上「屋久島!?」

美鶴「ああ。ほら、GWの時にラビリスの件で迷惑をかけてしまっただろう。そのお詫びを兼ねてな」

美鶴「ラビリスも改めて謝罪をしたいと言っている。もし都合が悪くなければ、7/20から三泊四日ほど。是非、聞いておいてもらってくれないか」

鳴上「いいんですか? そんなとこに連れていってもらって」

美鶴「もちろんだとも」

鳴上「そうですか、ありがとうございます。みんなにも聞いてみます」

美鶴「よろしく頼む」

鳴上「……あ。お言葉に甘えるついでに、八十稲羽の連中の他にも誘いたい人が何人かいるんですけども、声をかけてもいいですか?」

美鶴「ん? ……ふふっ、ちゃっかりしているな。この際だ、学校の友達でもなんでも連れてくるといい」

美鶴「君にとっては高校最後の夏休みなんだ。いい思い出を作っておきなさい」

鳴上「ありがとうございます!」


>後で陽介たちに連絡しよう。

>屋久島に旅行か……楽しみだ。


>…
>……
>………

>……

>何処かから、切り裂くような悲鳴が聞こえたような気がした。

>その直後、耐え難い腐臭が広がってきて鼻が曲がりそうになった。

>いったい、何が……

>……

>玄関から、少年が三人入ってくるのが見えた。

>それと同時に、家の奥から女性が一人やってくる。

>見覚えがある。

>この家の少年の母親だ。

>でも、この感じは……


『おかえりなさい、ユウ』

『わたしはいつもあなたのこと、心配してるのよ』

『今日もよく無事に帰ってきたわね』

『うれしいわ。さあ、こっちへいらっしゃい……』

『どうしたの? 早くこちらへいらっしゃい』

『私はいつもあなたのこと、愛してるのよ。さあ! 早く!』


>ダメだ。彼らをアレに近付けてはいけない。

>だって、アレは……!


『なんだか変ですね』

『妙なにおいだな』


>少年の傍にいる二人の少年は、訝しげにしている。

>そしてそれは、――ついに正体を現した。


『チッ……勘がいいな』


>母親の優しく包むような柔らかい声が、醜くしゃがれたものへと変わっていく……


『……お前の母親はいただいた』

『なあに、悲しむことはない』

『すぐに会わせてやるよ。俺の腹の中でな!』

『その前に、せいぜい楽しませてくれよ』


>母親の殻が破れる。

>彼らの前にバケモノが――悪魔が現れた。

>……


『ユウくん。こんな時に何を言っても慰めにはならないと思うけど……気を落とさないで……』

『気休めはよせ、タロウ』

『母親が殺されたんだぞ、そっとしといてやれよ』

『トオルくん……』

>悪魔は三人の少年の手によって討ち倒された。

>しかし、だからといって少年の母親が帰ってくるという訳ではない……

>少年は、無言のままうなだれていた。

>少年の傍に近寄る。

>すると彼は、屈み込んでこの身を強く抱き締めてきた。

>深い深い悲しみが伝わってくる。

>――この人に、ついていかなければいけない。

>これからはずっと、この人の傍にいなければいけない。

>この人の、力にならなければ――

>そう思った。

>……

06/25(月) 曇り


【朝】


>……

>目を開いた時、一筋の涙が頬を伝った。

>この行き場の無い悲しみと強い使命感は、一体何なのだろう。

>一体、誰のものなのだろう。







【昼休み】


月光館学園


>あと10分ほどで、昼休みが終わる。

>その前にトイレに行っておこうかと廊下を出たところで、忙しない様子のラビリスと出くわした。


ラビリス「あ、悠!」

鳴上「何してるんだ、ラビリス。そんなに急いで」

ラビリス「ああ、うん。ちょっとな。もう少しで終わりそうなんやけど、時間が無いから……」


>何が終わりそうなんだろう?


鳴上「俺に出来る事なら手伝おうか?」

ラビリス「ええの? なんか悪いなあ」

鳴上「気にするな。で、何すればいい?」

ラビリス「それじゃあ、悠は三年のF組に行って話を聞いてきて欲しいんやけど」

鳴上「話って、なんの?」

ラビリス「学校で流行ってる噂話や」


>……

ラビリス「ありがと、これで全部聞き終えられたわ」

鳴上「お前これ、学校内全部まわって話を聞いてたのか?」

ラビリス「うん。そうや。生徒だけじゃなく、先生にも聞いてみたんやで」


>ラビリスの手に持っているノートには、綺麗とは言い難い文字がびっしりと埋まっている。

>学校中で聞いた噂話を一生懸命そこに書き綴ったのだろう。


ラビリス「悠が噂話もチェックしろって言ってたやろ? だから、まずは身近なところからと思ってな」

ラビリス「……本当は後で悠をビックリさせたろと思って始めた事なんやけどね。結局手伝わしてしもうたから意味なかったな」


>しかし、それにしてもここまでするのには、凄い労力が必要だっただろう。

>ラビリスのその行動力には既に十分驚いていた。


鳴上「お前がそこまで考えてくれてたなんて知らなかったよ。ありがとう」

ラビリス「いやいや。どうって事は」


>ラビリスは少し照れたように笑っている。


ラビリス「でも、結局これといって凄く流行ってる気になるような噂話ってあんま無かったんよねー……」

ラビリス「大抵がトイレのなんとかさんみたいな学校の怪談話が中心で、あとは携帯電話を使った願いが叶うおまじないみたいなのとか……そんな感じの話しか」

鳴上「でも、今聞いてきたこんな小さな噂話も、広まり方次第で現実になる可能性があるんだからな。このノート、少し預かってもいいか?」

ラビリス「もちろん! 参考にしたってな」

鳴上「ああ。ラビリスの努力を無駄にしないようにするよ」


>ラビリスの集めた情報の詰まったノートを受け取った。

>ラビリスが、仲間の力になろうとしてくれているのを改めて感じとった。



>『ⅩⅥ 塔 ラビリス』のランクが4になった



>……

月光館学園 3-A 教室


HR


淳「……という訳で、二週間後からテストになります」

淳「本日から部活動も停止になりますので、用がない人は真っ直ぐ帰宅してください」

淳「以上です。日直、号令」


>起立、礼。の合図でHRが終了した。

>二週間後からのテストに備えて勉強しなければ……


メティス「テストですか。一体、どう対策すれば良いのでしょう」

ラビリス「せやなー困ったなー」

鳴上「メティスとラビリスなら余裕そうだけどな、筆記のテストなんて」

メティス「いえ……私達の記憶領域は人間のそれに近付けているので、教科書を丸暗記なんて芸当も出来ないようになっているんですよ」

ラビリス「アイギスも昔それで学校のテストは苦戦した言うてたな」

鳴上「そうだったのか。それなら図書室で一緒に勉強しようか?」

綾時「それいいね。僕も混ぜてくれると嬉しいな」


>綾時が話の輪に入ってきた。


綾時「僕がここに転入してくる前の授業の内容、よく教えて欲しいんだよね」

鳴上「俺が出来る範囲でいいなら」

メティス「図書室で勉強ですか……」

ラビリス「寮に帰っても集中出来なそうやもんな」

メティス「そうですね。鳴上さんの意見に賛成です」

鳴上「じゃあ、行こうか」


>四人で図書室に行く事にした。

>……

図書室


綾時「ふーん……なるほど、そういう事か」

綾時「鳴上くんの教え方は解り易くて助かるよ」

ラビリス「ウチも! ウチもはよ教えて!」

メティス「わ、私も……」

鳴上「わかった。わかったから図書室では静かに、な?」


>自分の復習にもなるとはいえ、三人同時に教えるのは至難の技だ。


綾時「あ、じゃあ、今日はもう聞きたい事聞けたし、僕がメティスさんの方を見ようか」

鳴上「悪いな、頼んだ」

綾時「メティスさんもそれでいい?」

メティス「は、はい……よろしくお願いします。望月さん」

綾時「だから綾時でいいって」

メティス「……」

綾時「……ま、いっか。それで、どこが解らないのかな?」

メティス「……えっと、ここなんですけれども」


>メティスはまだ綾時に苦手意識を持っているようだったが、彼女なりに綾時へ接する態度を改めようと努力はしているようで、綾時が教えるのを真剣に聞いていた。

>その様子を少し見守ってから、自分もラビリスに勉強を教える事にした。

>……


月光館学園 昇降口


ラビリス「んー、疲れたあ。今日だけで一生分のベンキョーした気分やわ」

メティス「私も……頭がショートしそうな……」

綾時「でも、メティスさんは理解するのが早いみたいだから、この調子でいけばテストでも良い結果が出せるんじゃないかな」

メティス「そ、そうでしょうか?」

綾時「うん。頑張ってね」

メティス「……ありがとうございます」

鳴上「望月も人の事ばっか気にしてないで、自分の勉強しろよ?」

綾時「そう言う鳴上くんこそね」

綾時「じゃあ、僕はこっちだから。またね」

鳴上「あ、ちょっと待った。望月に聞きたい事があったんだ」

綾時「?」


>……

綾時「……うん。僕の方は平気だけど、でもいいのかい? そんな……」

鳴上「ああ。だから、望月も是非」

綾時「そっか。じゃあ、そう言ってくれるなら……お言葉に甘えようかな」

鳴上「良かった。詳しい事はまた後で改めて話すから」

綾時「了解。じゃあ、また明日ね」


>綾時は去っていった。


メティス「何を話していたんですか?」

鳴上「ああ、ちょっとな」

鳴上(あとはあの人にも聞いてみて、アイツと一緒に来てもらえればいいんだけど……)


>……そして、あっという間にテスト期間は訪れ、あっという間に終了するのだった。

>……


07/17(火) 晴れ


【昼休み】


>今日はテストの結果が張り出される日だ。

>見に行ってみよう。

>……


ラビリス「ウチは真ん中の方やね」

メティス「可もなく不可もなくって感じですね。私もそうですが」

メティス「せっかく鳴上さんや望月さんにも勉強を見ていただいたんだから、もう少し結果を出せれば良かったんですけど」

綾時「そんな事ないよ。二人とも十分頑張ったじゃないか」

メティス「そう言ってもらえると嬉しいです」

ラビリス「あ、リョージは結構上の方やね」

綾時「うん。実は、ちょっとびっくりしてる。こんな順位になったのは初めてだよ」

綾時「鳴上くんに教えて貰えたからかな」

メティス「そういえば鳴上さんは……、!」

メティス「凄い……一番じゃないですか!」

綾時「あ、ホントだ!」

ラビリス「おめでとー、悠!」


>みんなからの尊敬の眼差しが集まっている……

>勉強を怠らないでおいて良かった。

>……

学生寮


美鶴「メティス達から聞いたぞ。試験の結果、学年で一番だったそうじゃないか。おめでとう」

鳴上「ありがとうございます」

美鶴「そういえば、八十稲羽の学校の方でも学年主席だったか。当然と言えば当然かもしれないが、頑張ったな」

美鶴「あとはもう、夏休みを迎えるだけだな」

鳴上「はい。屋久島への旅行、楽しみです」

美鶴「その事だが、八十稲羽から招待するのは八人、こちらからはアイギス、メティス、ラビリス、天田が行く他に鳴上が誘った三人での旅行という事でいいんだな?」

鳴上「はい。結構大人数になっちゃいましたね……すみません」

美鶴「気にしないでいい。私はこちらでコロマルやパスカルと共に留守番になるが、みんなで楽しんでくるといい」

鳴上「ありがとうございます」


>屋久島への旅行まであと数日だ。

>八十稲羽の仲間とも会えるし、楽しみで仕方ない。

>……


07/19(木) 晴れ


>今日は終業式だ。

>明日からはもう夏休みである。

>講堂で校長の長話を聞き、担任から休みの間は節度ある生活をおくるよう注意を受けて、すぐ帰宅となった。

>……


学生寮 二階


>自室に戻ろうとしたところで天田が部屋から出てきた。


天田「あ、鳴上さん。おかえりなさい」

鳴上「ただいま。……?」

鳴上「天田、そっちの部屋で何を? それにその箱は……?」


>天田が出てきた部屋は彼の部屋ではなく、その向かい側の部屋だった。

>天田は手にダンボール箱を抱えていて、中には果物ナイフや料理の本など少しだけではあるが物が入っていた。


天田「ああ、これですか? この部屋の整理をしていたんですよ」

天田「美鶴さん、三年前からずっとこの部屋にまったく手をつけていなかったみたいで……」

>確かこの寮は一度閉鎖されている筈だが、その時にも片付けなかったという事なのだろうか。


天田「前に美鶴さんが言っていた人、正式にメンバー入りが決まったそうです」

鳴上「!」

天田「それで、僕らが旅行に行っている間に改装工事を済ませてしまうそうで、僕はその前に掃除の方を」

天田「でも、これどうしよう……」


>天田は箱の中身を見ながら困った顔をしている。


天田「捨ててしまうのは……ちょっと」

天田「でも、僕の手元に置いておくのも……」

鳴上「この部屋を前に使っていた人に返せないのか?」

天田「……」

天田「その人、もういない人なので」

天田「返す事も出来ない、遠い場所にいるんです」

鳴上「……。そうか」

天田「あの、良かったら何か持っていって下さい。まだ使える物も残ってますから」

鳴上「……いや。天田が預かっててくれ」

鳴上「俺は、この部屋の人の事知らないし、その人の物をどうこう出来る権利はないから」

鳴上「それなら、知り合いの天田が持っていてくれた方が、その人も安心なんじゃないかな」

天田「……。そうですか、わかりました」

天田「じゃあ、僕の部屋に一応保管しておく事にしますね」

天田「……」

天田「あの、鳴上さん」

鳴上「ん?」

天田「置いていかれるのと置いてくの、どっちが辛いと思いますか?」


>それは天田の手の中にある荷物の事を言っているのだろうか。


天田「……いえ、なんでもないです」

天田「あ、そうだ。鳴上さん」

天田「夏休み入ったら、また僕が作った料理を食べて欲しいです。また新しいものを作れるようになったんですよ」

鳴上「ん、そうか。わかった、楽しみにしてる」

天田「はい、よろしくお願いしますね」

天田「それじゃあ」


>天田は頭を下げてすぐに自分の部屋へと入ってしまった。

>何かは詳しく解らないが……天田が内に抱えている何かを、一瞬垣間見た気がした。



>『Ⅷ 正義 天田乾』のランクが5になった


>……

>そして、翌日……

>ついに、旅行の日がやってきた。


07/20(金) 晴れ


【朝】


学生寮前


美鶴「それではアイギス。みんなの事は君に任せたぞ」

アイギス「了解しました」

美鶴「八十稲羽の子達には別に迎えを用意してある。途中で合流する形になるからな」

鳴上「わかりました」

順平「おーい、みんな! お待たせー」

チドリ「……」

アイギス「順平さん、それにチドリさんも。お久しぶりです」

チドリ「……どうも」

順平「今日から三泊四日、チドリ共々よろしくな!」


>順平の元気な挨拶と反対にチドリは無言で僅かに頭を下げるだけだった。


鳴上「良かったです。順平さんもチドリも来る事が出来て」

順平「お、鳴上! 今日はお誘いどうもな」

順平「最初、鳴上から連絡を貰った時は何かと思ったけど、粋な事してくれんじゃねーか」

鳴上(チドリとひと夏の思い出、作れるといいですね)

順平(おう! 俺っち頑張っちゃうぜ!)

チドリ「二人とも何コソコソ話してるの?」

順平「いんや、別にー?」

アイギス「あともう一人来るんでしたね。悠さん達のクラスメートの方なんでしたっけ?」

鳴上「ああ、そうなんだけど……遅いな」

メティス「どうしたんでしょうね」

綾時「ごめん、お待たせ!」

ラビリス「噂をすればナントカやな」

鳴上「望月!」


>手を振って綾時を迎えた。


アイギス「望月、さん?」

アイギス「……え」


綾時「ちょっと道に迷っちゃってさ。遅れちゃったかな?」

鳴上「いや、まだ平気だ」

綾時「良かった。えっと……」

綾時「鳴上くん達のクラスメートの望月綾時です。皆さん旅行中の間はよろしくお願いします」


>綾時は転入してきた時と同じような雰囲気を纏わせつつ、丁寧に挨拶をした。

>しかし

>誰も返事をする事がなく、そこには長い沈黙が続いていた。


天田「……」

美鶴「……」

順平「……」

チドリ「順平、どうかしたの? ……順平?」

アイギス「……りょ、」

アイギス「綾時、さん……ッ!?」

アイギス「どうして、貴方がここに!?」

メティス「アイギス姉さん?」

ラビリス「え、何?」

鳴上「望月、アイギスと知り合いだったのか?」

綾時「……」

綾時「……?」

綾時「あの、すみません。僕たち、……どこかでお会いした事ありましたっけ?」

アイギス「!?」

順平「どうなってやがんだよ……」

天田「……これ、何の冗談なんですか?」

美鶴「君は……」

綾時「うーん……」

綾時「こんな綺麗な人、一度会ったら忘れたりしないと思うんだけどな」

メティス「!」

メティス「望月さん! 姉さんにそういう事は言わないでください!」

綾時「え? メティスさんのお姉さんなのかい? 確かに似てるね」

綾時「どうも。妹さん達とは仲良くさせていただいています」

アイギス「……」


>綾時は改まってもう一度お辞儀をした。

>しかし、アイギスは返事をしなかった。

>返事をするのを躊躇っているように、見えた。


鳴上「……アイギス?」

アイギス「……」

アイギス「いえ。……よろしくお願いします。望月綾時さん」


>そう告げるアイギスの瞳は、言っている言葉の意味とは逆の色が浮かんでいるような気がしたのは、ただの勘違いだったのだろうか。

>こうして、屋久島への旅行は始まった。

>>510
召喚器があれば現実でも安定して出せるけど、やっぱり慣れてないしそんな機会はまだないって設定です。ここでは。

>>519
番長の心の中のマーラ様は時にイキリタツ事もあるかもしれない。

>>520
その辺も含めてお楽しみに


終わります。
また次回。

P4Gが楽しみすぎて夜は寝て昼間も寝ていたら書き溜めがまったく進んでないよ。

という訳で、>>1は明日からテレビの世界にダイブします。

さがさないでください。

ゲーム一周するまでスレもストップすると思う。

明日、出来たら一回投下にくるけど、あってもなくてもそれからしばらく更新はおやすみです。

一週間前後を目標に終わらせてきたい。

そしたらみなさん、またお会いしましょう。

以上、VITAが未知の機械すぎて戸惑っている>>1でした。

>……


雪子「あ……」

陽介「お、きたきた!」

千枝「おーい! 鳴上くーん!」


>八十稲羽から招待した仲間達が手を振っている。


鳴上「みんな、ひさしぶり」

直斗「GWの時と同じであまりそんな感じもしませんけれどね」

りせ「あれから三ヶ月も経ってないしね。でも、先輩にこうして会えるとやっぱり嬉しい!」

菜々子「お兄ちゃん!」


>菜々子が飛びついてきた。


菜々子「今日は旅行のおさそいありがとう! 菜々子、たのしみでたのしみで、きのうの夜はあまりねむれなかった」

鳴上「そんなんじゃ、途中で疲れてみんなと遊べなくなっちゃうぞ?」

菜々子「えー! そんなのやだー!」


>菜々子はとてもはしゃいでいる。


ラビリス「みんなー!」

完二「あ? オマエ、あんときの……」

雪子「ラビリス、だったよね?」

ラビリス「うん、そう。あのな」

ラビリス「みんな、あの時はホント迷惑かけてしもうて悪かった。それをもう一度きちんと謝っておきたくて……」

陽介「いいって。別に気にしてねえし。な?」

千枝「そうそう。またこうして会えて嬉しいよ」

ラビリス「……」

鳴上「ラビリス」

鳴上「みんな良い奴らだろ? だから、ラビリスの方が何時までも気にしてたらダメだ。そうだろ?」

りせ「うん。そうだよ」

直斗「全部が全部、貴女のせいって訳では無さそうですからね」

完二「だな。俺らを含めてテレビにぶち込んだ野郎って結局どこの……」

鳴上「完二。その話はまた今度だ」

鳴上「……今日はそういうのとは関係のない一般の人もいるから」

完二「あ。……スンマセン」

クマ「そうクマ! 今回は、ラビちゃん達とひと夏のアバンチュールを楽しむクマ!」

陽介「うわっ! さっきまでおとなしいと思ったら、急に元気になりやがった」

クマ「ムフフ、こんなカワイコちゃん達がいたら、そらもう元気も出てくるクマ」

クマ「でも、長時間の乗り物はもうしばらくゴメンクマ……うぷ」

クマ「というわけで。ラビちゃんおひさしぶりクマ! あなたのクマクマ!」

ラビリス「……。えっと」

ラビリス「どちらさん?」

クマ「ええっ!? シ、シドイクマ……クマの事、忘れるなんて。ヨヨヨ……」

鳴上「あ、そうか。クマの中身見るのは初めてだったよな」

ラビリス「え? クマって、あのクマなん!?」

クマ「えっへん。なにを隠そうあのクマだクマ」

ラビリス「へー。おもろいヤツやなあ」

クマ「それでそれで! そちらのお嬢さん方は一体どなたなのクマ?」

ラビリス「この子はウチの妹や」

メティス「あ……。どうも、初めまして。メティスといいます。以後、お見知り置きを」

陽介「へえ。あのアイギスって子以外にも妹がいたんだ」

完二「確かに面影が似てるようなそうでもないような」

クマ「メティスちゃん、ヨロシクマー!」

メティス「は、はい。……」


>メティスは八十稲羽のメンバーの騒がしさに若干おされているようだ。


千枝「メティス、かあ」

雪子「……うーん」

鳴上「里中も天城もどうかしたのか?」

千枝「あ、……ちょっとね」

雪子「……」

雪子「なんだか初めて会ったような気がしないんだけど。気のせいかな?」

千枝「えっ、雪子も?」

りせ「ていうか、先輩達も!?」

直斗「久慈川さん、それは僕の台詞です」

千枝「え……ちょっ、なに? どういう事?」

菜々子「菜々子もね、このお姉ちゃんたちとあっちのお姉ちゃんのこと、しってるきがするよ」

菜々子「ゆめの中でね、菜々子のことだっこしてくれたお姉ちゃん」


>菜々子はアイギスの方をじっとみている。


雪子「そう、夢! 夢の中で!」

りせ「あっ、それってちょっと前に私達が見た、変なトコ登ってる夢の事?」

直斗「そうだ。あの夢ですよ。もうあまり詳しくは覚えてないですが、僕たちが巌戸台の先輩の寮を訪ねに行った夢で、確か彼女のような人もいました」

千枝「あー、みんな揃って似たような夢見たって話があったね、そういえば」

メティス「……。実は、私も。皆さんの事、知っているような気がします」

メティス「夢の中で会った、ような……」

りせ「ホントに? 不思議な事もあるもんだねー」

直斗「これだけ集団で同じような夢を見ているのを不思議の一言で片付けるのは流石にどうかと思いますが……」

陽介「お前らさっきから何の話してんだよ」

鳴上「……」

鳴上(やっぱり、あの時の落ちると死ぬ夢、みんなも見てたんだな……)

順平「へー、鳴上のあっちの友達たくさん来てんだな」

陽介「えーっと……そちらは?」

順平「俺は、鳴上の大大先輩の伊織順平。まあ、ひとつヨロシク」

完二「先輩の先輩? よろしくっす」

順平「つーかさ、そっちの彼女もしかしてもしかしなくとも、りせちーだよな!?」

りせ「はーい、そうでーす。りせちーだよ♪」

順平「うっわ、マジで! 天田から鳴上の知り合いで後輩だって話さっき聞いたけど、まさかこんなトコで生りせちーに会えるとは!」

順平「生まれる前からファンでした! 握手してください!」

りせ「はーい。これからも応援よろしくね」

千枝「なんか、花村と似たタイプの人だね」

チドリ「順平……」

クマ「おおっと。そちらのチョッピリ不機嫌で白くてフリフリしたベイベー、お名前は?」

チドリ「……。チドリ」

クマ「チドリちゃんクマねー。ヨロシクマ!」

チドリ「……」

順平「え? チドリ?」


>チドリは不機嫌そうな表情のままその場を去ってしまった。


鳴上「順平さん。チドリの事、追った方が……」

順平「あ、ああ」

クマ「フム、なんだかただならぬ雰囲気がプンプンしてきたクマ」

クマ「これは何か事件が起きるヨカン……」

陽介「くだらねぇ事言ってんじゃねっつの」

千枝「ところでさ、そっちの彼は誰?」

鳴上「ああ、そうだ。……望月!」

綾時「!」


>少し離れたところにいた綾時に声をかけた。

>ぼーっとしていたのか急に声をかけられて驚いたように顔を上げたが、すぐにこちらへと寄ってくる。


綾時「呼んだかい?」

鳴上「ああ。望月にも八十稲羽の友達を紹介するよ」


>綾時にみんなの事を簡単に紹介した。


綾時「鳴上くんのクラスメートの望月綾時です。えっと」

綾時「花村くんに巽くんにクマくん。それから……」

綾時「鳴上くんの従姉妹の菜々子ちゃんに、里中さんに天城さん、久慈川さんと……白鐘さん、だね? 旅行の間どうぞよろしく」


>綾時はそう言って、特に女子陣に対して笑みを向けた。


直斗「よろしくお願いします」

雪子「よろしく」

千枝「ウチらの周りではあまり見られないタイプの子だね」

りせ「ちょっとカッコイイかも。ま、先輩の方が上だけどね」

陽介「……あれ? もしかして、直斗の事女だって見抜いてる?」

綾時「え? どう見たって女の子じゃないか。ね、白鐘さん?」

直斗「えっ、あのっ……」

完二「……」

クマ「リョージからはクマと同じで、ヨースケやカンジにはないモテオーラを感じるクマ」

完二「……誰がなんだってコラァ!」

クマ「ぼ、暴力反対クマー!」

菜々子「お兄ちゃんのおともだち?」

綾時「ん? ……うん、そうだよ」

菜々子「そっかあ」

菜々子「堂島菜々子です。よろしくおねがいします」

綾時「よろしくね」


>綾時は菜々子の頭を撫でた。

>少し恥ずかしそうに菜々子は笑っている。


鳴上「望月……いくらお前でも菜々子に手を出すのはちょっと見過ごせない」

綾時「え?」

クマ「ねえねえ、センセイ」

鳴上「……ん?」

クマ「アイちゃんとあっちの少年はどうかしたクマ?」

クマ「さっきからずーっとムズカシイ顔してる」

鳴上「……」


>クマはアイギスと天田を指してそう呟く。

>実を言うと、ここまでやってくる間も二人はずっとあんな感じで、口数も少なかった。

>それだけではない。

>見送ってくれた美鶴もあんな風に様子がおかしかったし、いつも賑やかな順平でさえ道中は何処か上の空で、隣にいたチドリが心配そうにしていたほどだ。

>それというのも……


綾時「……」

メティス「どうしたんでしょうね。姉さんも天田さんも」

ラビリス「寮を出る前までは普通だったのにな」

メティス「……あ。もうすぐ、船に乗る時刻ですね。アイギス姉さんに知らせてくるついでにちょっと様子を見てきます」

鳴上「ああ。頼んだ。……」


>何処となく空気が重苦しいような気がする。

>しかし、それを差し引いても……


船上


鳴上「……なんだか、肩が重い」

陽介「え、なに、どしたの?」

鳴上「いや、寮を出てからずっと肩に何かが乗っかってるような感じがしてて」

完二「先輩肩凝ってるんすか? 俺が揉みましょうか」

鳴上「そういうのじゃなくて……」

千枝「ねー、みんな」

雪子「クマさんが三人を呼んで来いって言ってるんだけど。……どうかしたの?」

鳴上「なんでもない」

完二「クマのヤツがどうしたって?」

りせ「わかんない。なんか変なおもちゃ持ってさっきからはしゃいでるんだけど」

鳴上「乗り物酔いはもう大丈夫なのか?」

完二「てか、アイツ一人にしといて平気なのかよ。勢い余って海に落ちたりしたら……」

千枝「それは大丈夫。直斗くんと菜々子ちゃんが一緒にいるし」

陽介「……。おもちゃ? あー、それってもしかして」


>……


クマ「みんなで記念写真をとるクマ!」

鳴上「写真?」

クマ「そうクマ! ほれ、ここにカメラもあるでよー」


>クマは普通のインスタントカメラにしては大きくて少し安っぽいようなカメラを手にしている。


クマ「とった写真がすぐに出てくる優れモノクマ。えっと、ポリ……ポロ……」

陽介「ポラロイドカメラ、な。おもちゃの」

クマ「それだクマ! クマがジュネスでバイトしたお金を貯めて買ったモノクマ」

陽介「やっぱりそれ持ってきてたんだな」

千枝「へえ、写真かあ」

雪子「私もカメラは持ってきてるけど、すぐに見れる写真ってのもいいね」

菜々子「菜々子、クマさんにとってもらったよ!」


>菜々子の手には菜々子の写真が既に何枚か握られている。


直斗「おもちゃにしては綺麗に写ってますよ」

完二「ジュネスも面白いもん売ってるんすね」

鳴上「良かったな、菜々子」

菜々子「うん!」

クマ「今度はみんなで海をバックにしてパシャリするクマ。クマも入るクマよ」

千枝「え、それじゃ誰が写真撮るの?」

クマ「ハッ!? それを考えてなかったクマー!」

陽介「おいおい……」

鳴上「それじゃあ、俺が」

りせ「えー!? わたし、先輩と一緒の写真がいい!」

菜々子「菜々子も、お兄ちゃんと一緒のがいい」

クマ「うーん……あ、いいところに!」

クマ「リョージ!」

綾時「あれ、みんな勢揃いでどうしたんだい?」

クマ「リョージを男と見込んでお願いがあるクマ」

クマ「クマたちの写真をリョージにパシャリして欲しいクマよ」

綾時「写真? ああ、なるほどね。クマくんのそれで撮ればいい訳だ」

クマ「クマ!」

綾時「わかったよ」

鳴上「なんか急に悪いな。何処かに行くところじゃなかったのか?」

綾時「ううん。その辺ふらふらしてただけだから」

クマ「じゃあ、頼むクマ! ここにいる人数分ね」

綾時「了解。じゃあ、いくよ」


>綾時に写真を撮ってもらった。

>……


クマ「しばらくすると浮かんでくるクマ。まだかなーまだかなー」

陽介「……お、だんだん出てきたな」

千枝「結構よく撮れてるみたいだね」

雪子「本当だ。あれ?」

雪子「鳴上くんの持ってる写真……」

鳴上「?」

雪子「……」

雪子「ひとり、多くない?」

鳴上「え」

一同「!?」

陽介「おい、ちょっとよく見せてみろよ!」

千枝「え、やだ……何コレ!?」

りせ「先輩の後ろになんかいる! 人が写ってる!」

クマ「こ、これはもしかして……!」

直斗「心霊写真、というやつですか? こんなもの初めて見ましたよ」

完二「でも、俺たちの持ってる写真にはなんも写ってねぇよな」

陽介「なんで悠の写真だけ……? てか、天城よく気付いたな」

雪子「うん。最初、望月くんが写ってるのかなって思ったんだけど、そんな訳ないしあれ? って思って」

雪子「でも凄いよね。私も初めて見た、心霊写真! ぷぷっ……あは、あはははっ!」

千枝「ここ、笑うとこなの……?」

陽介「確かに面白くはあるけどな」

完二「これ、男……か?」

りせ「そうじゃない? あ、確かに雪子先輩が言うように望月さんと雰囲気ちょっと似てるかも」

雪子「でしょ?」

完二「俺には最初、直斗が二人いるように見えたぜ」

直斗「僕?」

綾時「どれどれ……あ、ホントだ。確かにぼんやりと鳴上くんの後ろに誰か写ってるね」

綾時「でも、僕と似てるかな……よくわかんないや」

菜々子「菜々子もしんれいしゃしんみたい! みせて!」

千枝「菜々子ちゃんこういうの平気なタイプなんだ……」

陽介「そういう里中はダメな方か」

千枝「う、うっさいな!」

菜々子「……。このゆうれいさん」

菜々子「わるいひとにはみえないね」

クマ「幽霊の良し悪しがわかるとは、さっすがナナチャン! ね、センセイ」

鳴上「……」

クマ「センセイ?」

陽介「悠、どうした?」

鳴上「……いや」

鳴上(これに写ってるの、まさか)

鳴上(……まさか、な)


>……

屋久島


陽介「やっと着いたか、屋久島!」

完二「先輩、早く泳ぎましょうよ!」

鳴上「気が早いな」

千枝「結構長旅だったのに元気だね完二くん」

雪子「私、ちょっと移動疲れしたかも……」

りせ「海で本格的に遊ぶのは明日にした方がいいかもね」

直斗「そうですね。菜々子ちゃんもなんだか眠そうですし」

菜々子「ん……菜々子、へいきだよ?」


>菜々子は目を擦っている。

>来るまでにはしゃぎすぎた事もあって、既にだいぶ疲れてしまったのかもしれない。


鳴上「菜々子。少しお昼寝したらどうだ?」

菜々子「ん、でも……」

鳴上「お兄ちゃんたちとたくさん遊ぶのは明日にしよう。な?」

菜々子「……。わかった、そうする」

アイギス「皆さん。別荘へ案内しますので、こちらへお願いします」


>菜々子の手を引いてアイギスの後をついて別荘に向かった。

>……


桐条の別荘


メイド「お待ちしておりました、アイギス様」

アイギス「今日からしばらくの間お世話になります」

陽介「すっげー……生メイドだ」

順平「相変わらずだなあ、ここも」

天田「美鶴さんの家の別荘なんですよね? なんというか、……流石です」

アイギス「男子も女子も個室と大部屋の用意があるそうですが、どうしますか?」

千枝「お、みんなで大きな部屋に泊まるっていいんじゃない?」

りせ「そうだね。夜はみんなでおしゃべりしたいし」

直斗「僕もそれで構わないです」

菜々子「菜々子もお姉ちゃんたちと大きなおへやがいい」

雪子「ラビリス達はどう? 私たちと一緒の部屋でお泊まりしない?」

ラビリス「ウチらもええの?」

千枝「もっちろん」

ラビリス「じゃあ、ウチとアイギスとメティスも一緒な!」

アイギス「メティスはともかく、私もいいんですか?」

雪子「大勢の方が楽しいし」

りせ「色々と聞きたいこともあるしね」

アイギス「どうする? メティス」

メティス「……。姉さんたちがいるのなら」

アイギス「そう。じゃあ、よろしくお願いします」

直斗「チドリさんはどうですか?」

チドリ「え……」

千枝「もうここまできたら女の子全員で泊まっちゃうしかないっしょ」

りせ「そうと決まれば早くいこ。荷物置きたいし」

チドリ「ちょっ……待っ……!」

クマ「クマもナナチャンと一緒の部屋がいい」

千枝「アンタは男子部屋いけ!」

メイド「それではご案内します」

菜々子「またね、クマさん」

クマ「ナナチャーン!」


>女子達はチドリを半ば強制的に連れていくようにして大部屋へと行ってしまった。


順平「チドリンファイトー!」

鳴上(大丈夫かな、チドリ……)

陽介「俺たちも一緒の部屋でいいよな……あ、いや、でも」

完二「なんすか、その目は。なんでそんな目で俺を見るんすか」

クマ「もしかして、クマたち……テーソー危機一髪?」

順平「え、お前まさか、ソッチ系なの? 言われてみれば確かにそれっぽい感じが」

完二「ちげーよ! いい加減そのネタやめろっての!」

陽介「そう怒るなよ。もはやお約束みたいなもんだろ?」

クマ「とりあえずそういうネタをカンジに振っとけーみたいな?」

陽介「そうそう」

完二「テメェら……マジでいつかシメんぞ!」

鳴上「で、結局どうするんだ? 俺は構わないけど」

クマ「クマも! ナナチャンと一緒じゃないかわりに、センセイとおはなし沢山するクマ」

完二「……俺もいいっす」

鳴上「そっちの三人は?」

順平「あー俺も、……」

天田「……」

鳴上「?」

>順平と天田は口を閉ざしてしまった。

>二人のその視線の先には……綾時がいる。


綾時「……」


>なんだか、また重苦しい雰囲気になってしまったようだ……


綾時「……あの。僕は、」

順平「いいぜ」

順平「みんなで一緒の部屋、いいじゃねえか。な、天田?」

天田「……」

天田「そうですね。こういう機会も滅多にないだろうし。たまにはいいんじゃないでしょうか」

天田「僕も、聞きたい話が色々あるし」

順平「だな。そういう訳だから、綾時も一緒に……な」

綾時「え……はい」

陽介「じゃ、俺たちも案内してもらおうぜ」

メイド「こちらです」

鳴上「……」


>綾時に対する順平と天田の様子がおかしい気がする。

>一体、どうしたというのだろうか。

>……

>その後は、海に入る事はしないまま近辺をみんなで散歩したりしているうちにあっという間に陽が落ちてしまい、一日が終わってしまった。

>そして……


【夜】


男子部屋


完二「クマのヤツ、あっという間に寝ちまったな」

陽介「コイツも菜々子ちゃんと一緒にこれでもかってほどはしゃいでたからな。疲れたんだろ」

クマ「すぴー……」

鳴上「俺たちも早めに寝といた方がいいかもな。明日は泳ぐんだろ?」

鳴上「それに……」

陽介・完二「……」


>三人の視線が別の三人の方へといった。

>順平と天田と、そして綾時。

>この三人の間の空気は、ずっと気まずいままだった。

>順平と天田は綾時に何か言いたそうにしていたのだがなかなか切り出す事が出来ないようで、一方綾時の方はといえばこっそり話を聞いてみたところ、それが何なのか心当たりがまるでないらしく困惑している……という状態なのである。


鳴上「あの……」

順平「……ああもう、やめだ!」

鳴上「!?」

順平「やっぱ頭ん中で考えてるだけじゃ埒があかねえ! そうだろ、天田」

天田「順平さん……そりゃ、そうですけど」

天田「じゃあ、何をどういう風に聞けばいいって言うんですか?」

順平「……」

鳴上「順平さん、それに天田も。二人してどうしたんだ? 今日一日、ずっとおかしい」

綾時「その様子からすると、原因は僕にある……そうなんだよね?」

順平・天田「……」

綾時「でも、ごめんなさい。僕にはその理由がさっぱり解らない。今日ずっと考えていたけど……答えは出なかった」

綾時「もし、僕が知らない間に何か不快な思いをさせていたなら謝ります。だから、どうかはっきりと聞かせて欲しいんです」

綾時「僕に言いたい事を、全部」

順平「……。いや」

順平「まずは俺らの方から謝んないとダメだな」

順平「ずっと変な態度で、お前や関係ない鳴上たちにもきっと嫌な思いをさせてたと思う。……悪かった」

天田「ごめんなさい……」

順平「それで、だ……色々考えたけど、やっぱ単刀直入に言うのが一番だと俺は思った訳だ。それでいいよな、天田」

天田「……はい」

綾時「なんでしょうか……?」

順平「まず初めに。お前の名前は望月綾時、それで間違いはないか?」

綾時「? はい、そうですけど」

順平「じゃあ、お前は……綾時は俺たちの知ってる望月綾時なのか?」

綾時「……え?」

綾時「あなた達の知っている僕、とは?」

天田「……」

天田「確か、あなたは今、鳴上さんとクラスメートだという話でしたよね?」

天田「では、それ以前に月光館学園に通っていた事は?」

順平「ぶっちゃけて言えば、今から三年前の秋頃、二年生に……俺と同じクラスに転入してきた事はあるか?」

綾時「……。いえ」

綾時「三年前だと僕は確か親の転勤で海外にいた頃だし、まだ十五歳……中学三年生ですよ」

綾時「だからそんな事、ありえません」

順平「……そっか」

天田「それじゃあ、この人は……」

綾時「あの……?」

順平「……」

順平「いやあ、悪い! 俺たちすっげえ勘違いしてたみたいだわ! ホント、悪かった!」

鳴上「勘違い?」

順平「そ、勘違い」

順平「実はさ、俺が月光館の二年の時にいたんだよ。望月綾時って名前のお前のそっくりさんがさ」

順平「天田も、それからアイちゃんや桐条先輩もよく知ってる奴でさ、マジにそっくりだったから今日会った時はすげーびっくりしちゃって」

鳴上「桐条さんだけじゃなくて、アイギスも知ってる人?」

順平「あの頃はアイちゃんも一緒に学校通ってたからなー」

天田「それでまあ、アイギスさんとはちょっと因縁がある人だったもので……」

綾時「ああ……だから、メティスさんのお姉さん、僕を見てあんな様子だった訳か」

陽介「へえ。望月綾時なんて名前、割と珍しいんじゃないかと思うけど、同姓同名がいたのか」

完二「しかも姿まで似てるって話っすよね。そりゃ、他人に見えなくても不思議じゃねえか」

順平「だろ? だから動揺しちまって」

鳴上「動揺?」

順平「え? あっ、いや、その」

順平「とにかく、違うってんならいいんだよ」

順平「……安心した」


>とりあえず、二人の誤解はとけたようだし、綾時の疑問も解決したようだ。


順平「さ、話もまとまった事だし、そろそろ寝とこうぜ」

鳴上「……あ、はい。そうですね」

陽介「んじゃ、電気消すか」


>明日に備えてもう寝る事になった。

>……





>……周りからは寝息が聞こえている。

>みんなすっかり眠ってしまったようだ。

>自分もうとうとしてきた……


綾時「ねえ、鳴上くんまだ起きてるかい?」

鳴上「……ん?」


>声がした方に寝返りをうつと布団にくるまる綾時の背中が目に映った。

>綾時はそのまま振り返らず、言葉を続ける。


綾時「ごめんね、急に話しかけて」

鳴上「いや。どうかしたのか?」

綾時「うん。……」

綾時「僕なんかがさ、こんな場所に一緒に来て良かったのかなって、今日ずっと考えてたんだ」

綾時「鳴上くんには仲の良い友達が他に沢山いるし、なんだか歓迎されているような雰囲気じゃなかったから」

鳴上「それはもう、さっきの話で解決しただろ? アイギスにだって、明日きちんと話せばいい訳だし」

綾時「そうだね」

綾時「せっかくこんな遠い場所まできたんだ。良い思い出が作れるといいんだけど」

鳴上「そんなの出来るに決まってるだろ」

鳴上「明日はみんなで海にいくんだし、他にも色々あるだろうし、思い出が作れない方がおかしい」

綾時「……うん」

綾時「ありがとう。それが言いたかっただけなんだ。……おやすみ」


>綾時はそう言って、布団を被り直して背中を丸めた。

>綾時の感情が少し伝わってきたような気がした。



>『Ⅵ 恋愛 望月綾時』のランクが4になった



>しばらくすると、綾時からも規則正しい寝息が聞こえてくるようになった。

>再び寝返りをうつと、窓の外に月が浮かんでいるのが見えた。

>そのぼんやりとした月明かりの中。

>窓辺にいつの間にかうっすらとした人影があった事に気付いて思わず飛び起きた。


鳴上「お前か。寮の外で姿を見るのは初めてだな」

イヤホンの少年「……やあ」

鳴上「肩が重かったのもお前のせいだし、船の上で撮った写真にいたのもお前だよな?」

イヤホンの少年「さあ?」

鳴上「……」

イヤホンの少年「……。ごめん」

イヤホンの少年「ちょっと気になる事があったから。それに、もう一度この場所にも来てみたくなって……ついてきてしまった」

鳴上「屋久島に来た事があるのか?」

イヤホンの少年「まあね」

鳴上「気になる事っていうのは?」


>イヤホンの少年は無言で自分の向こう側へと視線を送っていた。

>その先にいるのは綾時だった。


イヤホンの少年「彼の事だけど。………」

鳴上「望月がどうした? なんだか誰も彼もこいつの事、気にしてるな」

イヤホンの少年「ひとつ、聞いてほしい事があるんだ」

イヤホンの少年「もしこの先、何があったとしても、君は彼の事を信じてあげて欲しい」

鳴上「……?」

イヤホンの少年「彼はただの彼でしかない」

イヤホンの少年「他の誰かが知る望月綾時ではない事を、君が知っている望月綾時である事を、君だけはずっと信じていて欲しいんだ」

鳴上「それって……」

イヤホンの少年「その意味は理解しなくてもいい」

イヤホンの少年「君が理解していなくて彼自身も理解していないからこそ、彼はきっとまだ救われている」

イヤホンの少年「それが崩れる時がこない事を祈っている」

鳴上「……」

イヤホンの少年「なんだか君には頼みごとばかりしているな。でも、くれぐれも頼んだよ」

鳴上「……よくは解らないけど」

鳴上「アイツは、俺のクラスメートで友達の望月綾時だ。その事実だけで俺にとっては十分って事か?」

イヤホンの少年「そう。ただ、それだけでいいんだ」

イヤホンの少年「それを……伝えたかっただけだから」

イヤホンの少年「それじゃあ……また」


>イヤホンの少年は姿を消してしまった。



>『ⅩⅢ 死神 謎のイヤホンの少年』のランクが6になった



>……

>なんだかどっと眠気が押し寄せてきた。

>今度こそ、本当に寝る事にしよう。

一方その頃……



アイギス「……はい」

アイギス「はい。今のところ、大きな問題はありません」

アイギス「はい……まだ、なんとも言えませんが」

アイギス「……。え?」

アイギス「それは……本当なんですか?」

アイギス「……そう、ですか」

アイギス「わかりました。では引き続き、よろしくお願いします」

アイギス「詳しい事はまた後で。失礼します」


ガチャッ


アイギス「……」

メティス「姉さん?」

アイギス「! メティス……」

メティス「こんなところにいたんですか。電話、ですか?」

アイギス「ええ。美鶴さんとちょっとね」

メティス「そうですか。皆さん、今夜の女子会とやらを終了させて、そろそろ消灯するようです」

アイギス「そう。私もすぐ戻るから、メティスは先に部屋へ行ってて」

メティス「了解しました。……あの」

アイギス「何?」

メティス「姉さん、どうかしましたか?」

アイギス「……。いえ、別に。それよりもメティスこそ」

メティス「はい?」

アイギス「貴女こそ、今まで何か感じなかったの?」

メティス「何か……とは?」

アイギス「……。いえ、いいわ。気にしないで」

メティス「……わかりました。それではお先に。おやすみなさい、姉さん」

アイギス「おやすみなさい」

アイギス「……」

アイギス「綾時さん……」

お久しぶりです。

P4G、まだ終わりは迎えてませんが、追加分のものを含めバッドEDを網羅してきたので一度戻ってきました。

これからまたEDに向かいつつ、以前よりもまだ間隔が開くかもしれませんがぼちぼち投下を再開していきたいと思います。

よろしくお願いします。

では終わります。また次回。

新しいPCから書き込みテスト

次回の更新は>>1がこのPCの扱いに慣れるまでもうしばしお待ちください

携帯からちまちま投下するのからやっと解放される!

ではまた

07/21(土) 晴れ

【昼間】


ビーチ


クマ「ワーイ、海だ海! うーみー!」

陽介「テンションたっけーな、お前は。まあ、気持ちは解るけどな」

完二「沖に目印になるようなモンねーな。泳ごうかと思ってたのに」

順平「あ、そのセリフ、なんかすっげーデジャヴ」

完二「まあ平気か。先輩たち、後で競争しようぜ」

陽介「競争って、泳ぎでか!? 流石にそれはちょっと……」

鳴上「望むところだ」

陽介「乗り気な人がここにいた!」

陽介「って、悠。何故にアロハシャツ?」

鳴上「こんな時でもないともう着る機会がないかと思って」

ラビリス「あー、それ前にウチらと買い物した時のヤツや」

メティス「……。何故でしょう。こうして改めて見てみるとソレ、鳴上さんに妙に似合っているような気がしてきました。不思議ですね」

ラビリス「んー? 言われてみると確かに様になってるような」

クマ「ナニナニ? センセイのそれ、ラビちゃんたちのチョイスクマ? 夏のオトコって感じビンビンねー」


>買った時は微妙に思っていたが、なんだかまんざらでもないような気がしてきた。


綾時「あれ、ラビリスさんたちは泳がないのかい? 水着じゃないけど」

メティス「……ええ、まあ」

ラビリス「ん、ちょっとなー。色々都合があって」

綾時「ふーん? まあ、女の子には色々あるよね」

陽介「それ、捉えようによってはセクハラ発言じゃね?」

クマ「しかし、それをそう感じさせないのがリョージクオリティクマ。ヨースケがチエちゃんあたりにこんな事言ったら、きっと靴跡の刑だけじゃすまないクマね」

鳴上「そんな思考に至ってる時点でもうアウトだな」

陽介「ひ、ひでぇ……クマはともかく、悠まで……」

鳴上「で、その里中たちは?」

メティス「まだ色々と準備中のようです」

陽介「あ、そういや今年は水着新調するっつって、この間みんなで買い物に行ったみたいなんだよな。さて、どんなんでくるのかねー」

クマ「それは初耳クマ!」

完二「みんなって、もしかして……」

りせ「おまたせー!」


>女子陣も揃ってビーチにやってきたようだ。


雪子「ごめんね、遅くなっちゃって」

千枝「いやー、いつまでもゴネてる子がひとりおりましてね」

陽介「……」

完二「……」

千枝「……え、何? この沈黙は」

順平「お、いいねえ。女子高生の生水着!」

鳴上「ジュネスの新作……グッジョブ!」

鳴上「と、おそらく陽介たちも口には出さないが思っているんだろう」

クマ「チエチャンもユキチャンもリセチャンもかあいいクマー」

綾時「うん。みんな、凄く似合ってるね」

千枝「え、ホ、ホント?」

雪子「そんな……なんだかちょっと恥ずかしいな……」

りせ「えへへー、今年はすこーし大胆に攻めてみた甲斐があったね」

鳴上「それで、ゴネてる子はどうした」

りせ「ああ、うん。それなんだけど……おーい、直斗くーん!」

直斗「……」


>少し離れた岩陰に身を隠し、顔だけを覗かせている直斗がいる。


りせ「さっきからずっとあの調子なの。ここまで連れてくるのにも苦労したんだから」

りせ「コーラー! もう、せっかく海まで来てようやく水着にも着替えたのにそんなトコで何やってるの!」

直斗「いや、あのっ、無理やり着せたのは久慈川さんだし、それにやっぱり僕……」

りせ「四の五の言わない!」

直斗「あっ……!?」


>りせに引っ張られて直斗もこちらにやってきた。

>直斗は白いパーカーを羽織り、腕でそれを引っ張りながらやはり己の身体を隠していた。


陽介「……ハッ! 直斗!? お前も、今度はちゃんと水着になったの!?」

直斗「えっと、その……」


>パーカーの下に水着は隠れてしまっているが、すらりと伸びた白く細い足をもじもじさせながら直斗は俯いている。


りせ「はい、こんなものも脱ぐ!」

直斗「や、やめてくださいよっ!」

りせ「千枝先輩」

千枝「オッケーオッケー。そりゃっ!」

直斗「ふわぁっ!?」


>千枝が直斗の脇腹を擽る。

>その一瞬直斗の体の力が抜けた隙に、りせがパーカーを器用に剥ぎ取ってしまった。


陽介「お、おおっ!?」

クマ「コレは……!」

鳴上「夏よ、海よ、ありがとう」

りせ「うーん、自分でやっといてアレだけど、直斗くんのソレやっぱずるいな」

千枝「……。ホントにね。何をどうやったら、ソコがそういう風に育つんだか」

雪子「あ、日焼け止め塗らなきゃね。せっかくの白い肌が駄目になっちゃうよ」

直斗「は、恥ずかしい……」

綾時「……あ」

鳴上「どうした?」

綾時「巽くんが鼻血出して倒れてる」

陽介「うぉ!? さっきからずっと静かだと思ってたら……」

クマ「スプラッタクマ」

鳴上「南無三」


>巽完二、早くも脱落。


クマ「あり? ナナチャンは?」

千枝「ああ、菜々子ちゃんなら早いとこ着替えちゃって、もう向こうであっちの彼と遊んでるよ?」

鳴上「あっちの彼? ……って、天田!?」


>浜辺で天田と菜々子が二人で遊んでいるのが見える。


順平「あー、こっちも誰かいねえと思ったら……」

綾時「天田くん、なんか朝からそわそわしてたよね。言葉には出してなかったけど、もしかして彼も海で遊ぶのを凄く楽しみにしてたんじゃないのかな」

鳴上「そういえば、今日いち早く部屋を出たの天田だったな」

鳴上(天田もあれでまだまだ子供らしいところがあるんだな)

雪子「ねえ、ふたりで何やってるの?」

菜々子「あのね、砂のお城作ってるの」

りせ「あ、ホントだ。すっごーい! これ、菜々子ちゃんたちが作ったの?」

千枝「うわー、結構凝ってるっていうかしっかりした作りになってんね」

菜々子「菜々子はね、ちょっとお手伝いしてるだけなの。ほとんど乾お兄ちゃんがやったんだよ」

直斗「……へえ、器用ですね」

天田「いえ、そんな大した事じゃ」

千枝「でもすごい面白そう」

雪子「ね。こんなの私、作ってみたことないし」

りせ「私たちも混ぜてもらう?」

直斗「あ、いいですね。そういうのも。どうでしょうか、天田くん菜々子ちゃん」

天田「僕は構わないですよ」

菜々子「うん、お姉ちゃんたちも一緒につくろっ!」


>女子たちはいつの間にか天田を中心に遊び始めていた。


陽介「……あれ? なんでアイツいつの間にかハーレムという名の城を築いちゃってるの?」

クマ「完全に出遅れたクマね」

順平「あっちゃー、タイミング外しちまったな。ま、チャンスはまだあるんじゃねーの? せいぜい頑張りたまえよ諸君。それじゃ」

鳴上「え、順平さんは? 水着になってないのがさっきから気になってはいたけど」

順平「あー、俺はこれからチドリと一緒に森林浴に行ってくるから。海はまた後でな」

鳴上「なるほど。そういうことか」

順平「そういうことだ。じゃ、いってきまー」

>順平は手を振ってビーチから去ってしまった。


メティス「私たちも泳げませんから天田さんのところに混ぜてもらいましょうか」

ラビリス「そうしよっか」

陽介「……。嘘だろ、海まできてこんな事って、野郎だけでって……」

陽介「ええいっ、こうなったらもう果てるまで泳ぐぞ! 競争だ! お前ら!」

クマ「ヨースケ、急に乗り気になったクマね」

綾時「僕はそれでも構わないけど」

鳴上「……」

陽介「あ? 悠、どうかしたか?」

鳴上「ん、いや。……」

鳴上「メティス」

メティス「はい? なんでしょう」

鳴上「あの、さ。……アイギスはどうした?」

メティス「……」

メティス「姉さん、今日は別荘の方にずっといるって。気が向いたらこっちにくるとは言ってましたけど」

鳴上「そう、か」

メティス「鳴上さん。……姉さんの様子、なんだかずっと変なんです。もう気づいているかもしれませんけど」

鳴上「……ああ」

メティス「一体どうしちゃったんだろ、姉さん。せっかく一緒に旅行に来れたのに……」

綾時「……」

鳴上「その原因はもうなんとなく解ってるから。あとで俺も様子を見にいってみる」

メティス「本当ですか?」

鳴上「ああ。だからメティスも今はラビリスたちと遊んでくるといい。そんなに心配することじゃないから。な、望月?」

綾時「……うん」

メティス「え、望月さんも何か知ってるんですか?」

綾時「そのあたりも含めて後で事情を説明するよ」

メティス「……。そう、ですか。約束ですよ? 後で私にもちゃんと詳しく聞かせてくださいね?」

メティス「それじゃあ、よろしくお願いします」


>メティスはまだアイギスのことを気にかけている様子だったが、そのままラビリスたちのいる方へと向かっていった。


陽介「え、何? アイギスちゃん来ないの?」

クマ「えー!? そんなあ」

鳴上「仕方ないだろ。今はこのメンバーで我慢しろ」

綾時「そうだね」

キミコ「うん、そうそう」

鳴上「……」

鳴上「おい」

キミコ「ん、どしたの? 悠」

鳴上「どしたの? って……」

鳴上「なんで、この場にしれっとお前が当然のように混ざってるんだ!?」

キミコ「私も悠と一緒に遊びたくて出てきちゃった、てへ」

鳴上「ばっちり水着姿だし……」

キミコ「どう? 似合う?」

陽介「は? え? ちょっ、誰!?」

クマ「かわゆいコがひとりいつの間にか増えてるクマー」

綾時「ん? 鳴上くんの知り合い?」

鳴上「知り合いというか、その……」

キミコ「悠の運命の相手です」

陽介「今、なんか真顔で凄い事言った!?」

クマ「赤い糸で結ばれちゃってる的なアレクマ?」

クマ「……ハッ! これってもしかして、生逆ナン!?」

鳴上「……」

陽介「こっちも特に否定しないし!」

綾時「というより、呆れてものも言えないって感じ? ……鳴上くんも、誰かにそんな冷ややかな目を向ける時があるんだね」

キミコ「そういうトコロも素敵」

鳴上「おい、リ……むぐっ」

キミコ「悠の運命のパートナー最有力候補のキミコです。悠のお友達諸君、今後ともヨロシク♪」

陽介「えっと、なんかよくわかんねーけど……キミコちゃんね、よろしく」

クマ「キミチャン、よろしクマー!」

綾時「キミコさん、ここにいたのは偶然? あ、もしかして鳴上くんを追いかけてきたとか?」

キミコ「まあ、そんなとこかなー」

陽介「こんな場所までおっかけとかお前、うらやましすぎるだろ! 恨めしすぎるだろ!」

陽介「あ、でもまだ彼女とかじゃないんだったら俺にもワンチャン……」

キミコ「ないない」

クマ「バッサリクマ」

鳴上(どうしてこうなった……)

>……


菜々子「!」

千枝「ん? どしたの、菜々子ちゃん?」

菜々子「あのお姉ちゃん……」

直斗「あ」

天田「!」

千枝「ああ!?」

りせ「……誰? 先輩の傍にいるあの女」

雪子「……。あの子もどこかで見覚えない?」

千枝「う、うん。それに」

りせ「なんかあの顔見てたら急にムカムカしてきた」

直斗「……」

ラビリス「なんや、みんな急に怖い顔になってもうて」

ラビリス「ウチもあのコ知ってるような気がせんでもないけど、そんな警戒するような……あー、いやそんな相手かもしれん、のかな? ん? あれ?」

直斗「ラビリスさんにも見覚えが? ……」

直斗「鳴上先輩にやけに親しげに接しているようですが、もしかして巌戸台の方で出来たお知り合いでしょうか? いや、だとしても何故こんな場所で会ったりなんか……」

直斗「それならそれで僕たちも知っているような気がするというのもおかしいし」

メティス「あの人から嫌な感じはしないけど、でも……」

メティス「……」

メティス「行ってみましょう」

千枝「あ! メティス!?」

りせ「いこうよ、先輩!」

天田「あ、皆さん!? ……行っちゃった」

天田(あの人ってアレだよな、あの夢の時の。でもなんで? ……)

天田(下手に割って入って二次災害を被るのは御免だけど、鳴上さん今度こそ刺されるだけじゃ済まなくなるんじゃ)

天田(とりあえず、様子みてよう……遠くから)

>……


メティス「あの、鳴上さん」

りせ「悠先輩!」

鳴上「!」

陽介「なんだよお前ら、急にずらずらと揃って」

千枝「ええと……」

雪子「ねえ、貴女。……どこの子なの?」

りせ「ていうか、誰? 先輩の何?」

陽介「ああ、この子はキミコちゃんって言って……」

りせ「花村先輩に聞いてるんじゃないからっ! ちょっと引っ込んでて!」

陽介「えっ。す、すんません……」

クマ「センセイね、さっきキミちゃんに逆ナンされたクマ」

クマ「キミちゃん、センセイと赤い糸で結ばれてる運命のパートナーなんだって」

雪子「ちょっと、クマさん! そのネタはもういい加減いいって何度言えば……え?」

直斗「運命の、相手……?」

千枝「えっと、つまり、え? ど、どういう事?」

りせ「……クマ。言っていい冗談とわるい冗談があるって知ってる?」

菜々子「ねえクマさん。ぎゃくなんって、なあに?」

クマ「それはねえ、ナナチャン」

鳴上「クマ!」

千枝・雪子・りせ・直斗「……」


>場の空気が重苦しいものに変わった……


鳴上「あ、あのな。みんな何か勘違いしてるみたいだけど、コイツは……」

キミコ「私はね、いつでもどこでも悠の傍にいる、彼の相棒なんだよ? ……あなた達と違ってね?」

千枝・雪子・りせ・直斗「!?」

陽介「え!? 悠の相棒は俺……」

綾時「花村くん。話、ややこしくなるから口挟まない方がいいと思うよ」

陽介「は、はあ」


>キミコと他の女子たちとの間とで、見えない火花が散っているような気がする……


綾時「菜々子ちゃん」

菜々子「?」

綾時「あっちにひとり、大きいお兄さんが倒れてるから運ぶの手伝ってくれないかな?」

菜々子「え? う、うん」

綾時「花村くんとクマくんも、ほら一緒に。早く」

綾時「……巻き添えで死にたくなかったら、ね?」

陽介・クマ「!?」

りせ「いつでもどこでもって、どういう意味?」

キミコ「そのままの意味だよ? ね、悠」

鳴上(そりゃそうなんだけど……)

りせ「悠先輩! どういう事なの!?」

鳴上「俺が聞きたい……」

りせ「え……も、もしかしてアンタ、悠先輩のストーカーとか!?」

キミコ「どうしてそこでそういう発想になるのかなあ」

千枝「り、りせちゃん、ちょっと落ち着いて!」

直斗「そうですね。こっちがそんな具合じゃ、聞きたい事もきちんと聞き出せない」

雪子「それに、私たちは別に仲違いがしたい訳じゃないしね。納得がいくように説明してくれればそれでいいの」

雪子「……ねえ、鳴上くんもちゃんと聞いてる?」

鳴上「あ、ああ」

メティス「……」

鳴上「何故でしょう。鳴上さんの危機のような気がするのに、助ける気にはなれないのは」

鳴上「メティス、お前……」

ラビリス「ストップ! みんな、ストップや!」

メティス「姉さん?」

ラビリス「あのな、そうやって口で争ってても何も産まれへん。ここは一度揃って深呼吸や」

鳴上「ラビリス……!」

鳴上(やっとまともなのが出てきてくれた!)

ラビリス「スー、ハー……はい、オッケー?」

りせ「ねえちょっとラビリス。私たち、まだこのキミコって子に聞きたいこと聞き終わってないの。話の腰折らないでくれる?」

キミコ「私は別に話なんてないんだけど」

りせ「あのねえ!」

ラビリス「せやから、そういうのがダメなんやて。そんな事続けてても何も解決しないまま日が暮れてまうで?」

直斗「じゃあ、どうしろと言うんですか?」

ラビリス「フフフ、簡単や。そんな時はもう……」

ラビリス「みんなで拳で語り合うのが一番に決まっとるやろ!」

一同「……」

メティス「……えっと」

メティス「あの、姉さん。流石に妹の私でも、今姉さんの言いたい事の意味がよくわからないんですけど」

ラビリス「いや、言葉でどうにもできないなら力に頼るしかないかな思って」

メティス「物理的に解決の方がタチが悪いような気がしますが……。ラビリス姉さんってそんな脳筋キャラだったんですか? 知りませんでした」

鳴上(少しでも期待を持った俺が馬鹿だった……)

千枝「……あー、でも。拳でってのはともかく、何か勝負するってのは悪くない考えじゃない?」

千枝「ケンカとかって意味じゃなくて、スポーツ的な何かでさ」

雪子「スポーツ?」

千枝「うん、そう。そういえばうちらさ、ビーチバレーしようってボール持ってきてたじゃん。それとか」

キミコ「ビーチバレー? なにそれ、面白そう」

ラビリス「お、向こうから乗ってきたな」

りせ「ビーチバレーね……いいよ、受けてたつよ! アンタなんかにぜったい、負けないんだから!」

直斗「あの、目的もなにもかもどこかズレてきてませんか……?」

りせ「いいよもう、この際。このモヤモヤをぶつけられればなんだって!」

メティス「でもチームはどうするんですか? さすがにキミコさんひとりと皆さん大勢というのは如何なものかと」

ラビリス「あ、じゃあウチがキミコの方にいくわ。そっちから代表ふたり出して2対2って事にすれば」

りせ「先輩たち、私に行かせて! 組むのは誰でも構わないから」

千枝「……。りせちゃんがそこまで燃えてると、こっちは逆に冷めてきたかも」

雪子「……確かに。なんだか見てる方が面白くなってきたかもね」

直斗「僕はこういうのあまり得意ではないので……」

千枝「じゃあ、私がいくか」

りせ「千枝先輩、速攻で決めるよ!」

千枝「ま、やるからには負けるのはヤダしね。張り切っていきますか」

雪子「行けー千枝ー! ぶっ潰せー!」

直斗「なんか、もう……まあいいか」

直斗「久慈川さん、里中先輩、ファイトです!」

メティス「審判は私がやりましょうか」

キミコ「よーし、いつでもこーい!」

鳴上「……」


>彼女たちはいったい何と戦っているのだろう……


鳴上(そっとしておこう……)

鳴上「……ん?」


>ビーチバレーで盛り上がり始めた女子たちから不意に視線をずらすと、その遠くに水色のワンピースを着た女性の姿を見つけた。


鳴上「……アイギス」


>アイギスは風にワンピースの裾をそよがせながら、ぼーっと海を眺めている。

>こちらの騒ぎには目もくれていないというよりは気付いてすらいないようだった。

>一体何故、あんな場所にひとりきりでいるのだろう。

>声をかけてみようか。


鳴上「アイギス」

アイギス「……」

鳴上「……」


>返事がない。

>こんなに近くまできたのに、こちらの気配をまるで察知していないようだ。

鳴上「アイギス!」


>今度は強めの語調で呼びかけてみた。

>それと同時にサンダルで踏んだ砂の音がじゃりっと響く。

>アイギスはそれに反応するように小さく体を震わせた後、ゆっくりとこちらへと振り向いた。


鳴上「こんなところでどうしたんだ? メティスが心配して……」

アイギス「……!」


>アイギスは先ほどまで海を映していた瞳を大きく見開かせる。

>そして、数秒もしないうちに自分の脇をすり抜けるようにして……猛スピードで駆け出して行ってしまった。


鳴上「……え? アイギス!?」


>アイギスの姿はその先にある森の奥へとあっという間に消えてしまった。


鳴上(俺を見て逃げた、……のか? でも何故?)

鳴上(……)

鳴上「……アイギス!」


>アイギスの後を追う事にした。

>……





鳴上「アイギス! アイギス!」


>アイギスの名を呼びながら森の中を駆ける。

>そこらを見渡してみるのだが彼女の姿は見つからない。


鳴上「何処に行ったんだ……アイギス!」

鳴上「!」


>前方で誰かの足音が聞こえたような気がした。

>このまま道に沿って前へと走ってみることにした。

>……


鳴上「ここは……」


>随分と大きな樹木がある。

>確か、屋久島には最大級の杉の樹があるという話を今になって思い出した。

>きっとこれの事だろう。

>その樹の説明書きだと思われる看板の影に、……彼女はいた。

>看板に隠れていた顔が、僅かに体が傾くと共に現れて、アイギスはじっとこちらを見つめてきたのだった。

鳴上「……」

アイギス「……」

鳴上「アイギス。なんで逃げ……」

アイギス「やっぱり、あなたは……」


>アイギスが看板の後ろから出てきた。


アイギス「見つけました」

鳴上「?」

アイギス「あなたをずっと探していました」

アイギス「わたしの一番の大切は、あなたの傍にいる事であります」

鳴上「!?」


>近寄ってきたアイギスに腕を掴まれて、突然そう告げられた。

>一瞬、自分を見上げてきたその表情に……胸の鼓動が早くなったような気がした。


アイギス「……」

鳴上「ア、アイギス……? 何を言って……」

アイギス「……」

アイギス「……ふふ」

アイギス「なんちゃって、であります」

鳴上「!」

鳴上「なっ、アイギス!?」

アイギス「ふふっ、今の悠さんの顔、ちょっと面白かったです」


>どうやらアイギスにからかわれていたようだ。


鳴上「まったく、急に走り出してどうしたのかと思えば……」

アイギス「ごめんなさい。気を悪くしないで」

アイギス「……つい、色々と思い出してしまって」

アイギス「本当に、何もかもが懐かしい」


>アイギスは一歩離れて杉の樹を見上げてからこちらへとまた視線を移す。


アイギス「ここ、私が眠っていた研究所があるんです」

鳴上「!」

鳴上「じゃあ、ここはアイギスの故郷みたいなものって事か?」

アイギス「そうですね。それに」

アイギス「私が美鶴さんや順平さん、……天田さんはあの時ここにいなかったけれど」

アイギス「以前の特別課外活動部の皆さんと出会ったのもここです。そして……」

アイギス「わたしの大切なあの人に再会できたのも、今からちょうど三年前の今日、この場所」

アイギス「忘れもしない、わたしの大事な記憶のひとつです」

鳴上「大切なあの人……?」

アイギス「はい。今のあの言葉は、さっきの悠さんのようにわたしをここまで追いかけてやってきたあの人に向けて、わたしが言った事です」

アイギス「だって悠さん、あの人と同じ事するんだもの。ひとりで海を見ていたわたしに声をかけてくるなんて」

アイギス「だからわたしまで同じ事をしてしまいました。びっくりしたでしょ? ごめんなさい」

アイギス「……昨日から色々と思うことがあって、少し感傷的になってしまっているみたいで。だからこんな、訳のわからない事……」

鳴上「……。メティスが心配してた。アイギスに何かあったのかって」

アイギス「そう……やっぱりあの子はあの子なのね。いつもわたしのことばかり気にしている、わたしの妹」

アイギス「……」


>アイギスは俯いて黙ってしまった。


鳴上「色々と思うことっていうのは、やっぱり望月の事なのか?」

アイギス「……!」

鳴上「順平さんや天田に教えてもらった。望月が、アイギスとは因縁があるとかっていう昔の知り合いと同じ名前ですごく似ているって」

アイギス「彼らから聞いたんですか……」

鳴上「ああ。でも、あの望月はアイギスの記憶にある望月綾時とは違う人物だって、昨日の夜話をして解ったんだ」

アイギス「……」

鳴上「望月もその事を気にしている。誤解をときたがっている。だから、アイツにあまり冷たくしないでやって欲しい」

アイギス「……あの」

アイギス「ここに一緒に来ている綾時さんは、最初から悠さんやメティスと同じクラスメートだったんですか?」

鳴上「いや。六月頃に同じクラスに転入してきたんだけど」

アイギス「それは。……」


>アイギスは表情を強張らせたまま何か考え込んでいるようだ。


アイギス「……悠さん」

鳴上「ん?」

アイギス「わたし、やはりあの綾時さんをわたしの知っている綾時さんではないと確信できるまでには時間がかかりそうです」

鳴上「……」

鳴上(アイギスの知ってる望月綾時は何をしたんだ? ここまでアイギスを思い悩ませるなんて……)

アイギス「でも、早くそうであるというはっきりとした確証が欲しいのも事実です」

アイギス「……そうでないと、困るから」

アイギス「わたしたちだけじゃない、あの人だって……」

鳴上「なあ。もうひとりの望月綾時って、……何者なんだ?」

アイギス「それは」

アイギス「……」

アイギス「ごめんなさい。今はまだ貴方にも話せません」

アイギス「出来れば、昔あったただの苦労話で終わらせたいから……本当にただの勘違いで済んで欲しいから」

アイギス「そうだと納得できるまで、もう少し、わたしに時間をください」


>アイギスは苦笑を浮かべている。

>どうやら思っていたよりもずっと、アイギスにとっては深刻な話らしいということはなんとなく理解できた……



>『Ⅶ 戦車 アイギス』のランクが5になった



チドリ「……やっぱり悠がいた」

鳴上・アイギス「!」

鳴上「え、チドリ? いつの間に……」

チドリ「ここに着いたのは今さっきよ。悠の気配がしたような気がしたからちょっと来てみたの」

順平「おーい、チドリ! 待ってくれよ!」

チドリ「順平、遅い」

順平「あんま歩くペース早いとすぐにバテるぞ……って、うわ! 本当に鳴上いるし! それにアイちゃんまで」

チドリ「ね、言ったでしょ」

アイギス「順平さんにチドリさん、こんな場所で何を?」

順平「いやさ、森林浴で適当にふたりでぶらついてたら、チドリが急にこっちに鳴上がいる気がするって言うから」

順平「海に行った筈だからそんな事ないって言ったんだけど、まさかチドリの方が当たるとはなー……」

チドリ「賭けは私の勝ちね。約束通り、アイス奢ってよ。わたし、ハーゲンダッツたべたい」

順平「いや、流石にそんなのはねえよ」

チドリ「……」

チドリ「バニラプディング……」

順平「わーった、わーったよ! あったら、な?」

順平「で、ふたりはこんなトコで何してんの?」

鳴上「いえ、ちょっと」

アイギス「思い出話を少ししていただけです」

順平「あ、そっか。ここって。……」

アイギス「そろそろ戻りましょう。悠さん、メティスたちに何も言わないでここまで来たんじゃありませんか? きっと心配するか怒ってるかしてると思いますよ」

鳴上「……さっきの状況から考えると、確実に後者だな」

順平「俺たちも海いくか」

チドリ「……泳がないのなら」


>四人でビーチの方へ向かうことにした。

>……

ビーチ


ラビリス「あ、悠が戻ってきた」

りせ「もう、先輩ってば私たち置いてどこにいってたの?」

メティス「そうです。一体何を……って、姉さん!」

メティス「姉さんも来てくれたんですね!」

アイギス「ええ。悠さんが呼びにきてくれて」

キミコ「あー、そうだったんだ。でも、バッチタイミングだね。今からスイカ割りしようって話してたんだよ」

りせ「そうそう。倒れてた完二がやっと目覚ましたから」

千枝「今、男子陣がその準備してくれてんの。もうすぐ来るんじゃないかな」

菜々子「菜々子、いちばんにやってみてもいい?」

キミコ「いいよいいよ。じゃ、その次チャレンジするのは私ね」

りせ「あ、キミコに先こされた。じゃあ私、三番目!」

キミコ「ふふーん、りせが挑戦する前に私がやっちゃうもんね。パカーン! って」

りせ「そういう事はやってみてから言ってよねー」

菜々子「菜々子もがんばるよ!」

鳴上「……。なあ、なんかあのふたり、仲良くなってないか?」

雪子「うん」

直斗「どうやら戦いを通して友情が芽生えてしまったようですよ」

鳴上(なんだそれ。これだから女子はわからないんだ……。仲が悪いよりはいいけど)

陽介「おーい、準備できたぞ!」

完二「お、いつの間にかみんな揃ってんな」

千枝「うん。いこ、みんな!」


>全員でスイカ割りを楽しみ、そのあとは残さず美味しくいただいた。

>……


キミコ「はー、楽しかった!」

鳴上「満足したか?」

キミコ「うん。ありがとね悠。みんなも」

りせ「あれ? キミコもう行っちゃうの?」

キミコ「長くいると迷惑かけちゃうから」

雪子「そんな……。もしかして、さっきの事まだ気にしてる?」

千枝「え? そ、そうなの?」

りせ「う……、確かに初対面であれは印象悪かったとは思うけど……」

千枝「そうだよね……。でも、もう私たち友達じゃん? でしょ?」

キミコ「友達かあ。うん、そうだね」

直斗「それなら気兼ねせずにまだここにいてください。キミコさんもまだ遊び足りないって顔してるじゃないですか」

キミコ「そうなんだけどさ。ホントに私、長居できないの。もう戻らないと」

鳴上(……マグネタイト、か。今日この時間だけで結構消費しただろうし、アイツもアレでいつも気を使ってくれてるんだよな)

鳴上(本当に楽しそうだったのに、なんだか悪いな……)

雪子「そっか。じゃあ、仕方ないね……」

キミコ「私の方こそ、みんなに意地悪な事しちゃってゴメンね。からかうの楽しくてつい、さ」

りせ「もー! ……また会えるよね?」

キミコ「会えたらいいね。それじゃあ」


>彼女はそう言ってビーチから去る直前に、こちらに駆け寄ってきてそっと耳打ちをしてきた。


キミコ「悠」

鳴上「?」

キミコ「いい友達もったね。なんかこういうの、すごく羨ましいよ。ふふっ」

キミコ「まあでも、彼女たちの方は悠のこと、友達以上に思ってるんだろうけどね」

鳴上「!」

キミコ「じゃあねー」

陽介「あーあ、行っちゃったな。キミコちゃん」

鳴上「……」

鳴上(友達以上、か……)


>……


【夜】


男子部屋


陽介「絶対さ、今夜あたりに仕掛けてくるんじゃないかと思うんだよね。俺の予想だと」

完二「何がッスか?」

陽介「女子たちだよ。昼間の様子から考えても……ってお前気絶してて知らないんだったな」

完二「昼間?」

クマ「オンナノコたちがセンセイを巡って大暴れだったクマ」

完二「あー、はいはい。そういう事か」

綾時「仕掛けてくるって、まさか……」

陽介「そのまさかだよ!」

陽介「ウチんとこの女子さ、旅行決まってからずっとそわそわしてたんだよね。あれたぶん、遠出の旅行するから浮き足立ってるって他に理由もあったと思うワケよ」

陽介「水着新調したのもそういう理由からなんだろうな、間違いなく」

鳴上「なあ」

鳴上「……。俺だけなのか? 話が見えてないのは」

陽介「お前さあ、この期に及んでそれはねーだろ」

綾時「昼間のアレでその発言はちょっと、ね」

完二「それも先輩らしいッスけどね」

クマ「そこがセンセイの魅力でもあり欠点でもありってかんじクマね」

天田「鳴上さんってワザとなのか天然なのかよくわからない時ありますよね。そういうのに女の子って弱いのかなあ……よくわかんないや」

順平「はー、モテる男は辛いねえ、鳴上くんよ」

鳴上「……」

順平「それで、昼間何があったのか詳しく!」

陽介「ああ、それはですね……」


コンコン


千枝「あ、あのー……鳴上くん起きてるかな?」

陽介「ほーら、きた」

順平「覚悟決めて行ってこい! 帰ってきたらその話も詳しく聞かせろよ!」

綾時「でも、場合によって今夜は部屋に帰ってこない可能性も……」

クマ「キャー! センセイがヨースケたちを大幅リードして、また一歩オトナの階段を登ってしまうクマ!?」

完二「オトナの、階段……!」

天田「ちょっ……もうやめましょうよ! こういう話は!」

順平「なんだよ天田ー。まだまだお前もおこちゃまかあ?」

天田「誰がおこちゃまですか! 僕はですね、ただ……」

鳴上「……」


>みんな好き勝手に色々と騒ぎ立てている……

>その隙に、そっと部屋を出た。


千枝「ねえ、なんか男子がいつも以上に騒がしくない? 何かあったの?」

鳴上「気にするな。それより里中。……」

千枝「……あ。う、うん」

千枝「ちょっと話したい事があるんだ。その……誰もいないところで、ふたりっきりで」


>…
>……
>………


ビーチ


>……


鳴上「……その気持ちは正直な話、とても嬉しい。俺なんかにそんな事言ってくれるなんて」

鳴上「でも。それを受け入れることはできない。……ごめん」

直斗「……」

直斗「そう、ですか」

鳴上「直斗……俺、」

直斗「いいんです、先輩。謝らないでください」

直斗「きっとそういう返事じゃないだろうかって、どこかで思ってましたから」

直斗「他のみなさんにも、そういう返事をしたんでしょう?」

鳴上「……」

直斗「先輩、嘘がつけない人ですよね。あなたのそういうところも、僕は……」

直斗「……」

直斗「僕、もう行きますね」

鳴上「! 直っ……」


>直斗は浜辺から振り返らずに走って去っていってしまった。

>その瞳はうっすらと涙が滲んでいたような気がする。


鳴上「……」

鳴上(仕方ない、よな……)

メティス「まったく、いいご身分ですね」

鳴上「!?」

鳴上「メティス……お前、なんでここに!?」

メティス「夜の海がどんなものか見たくて来てみたら、偶然。別に、したくて盗み聞きしていた訳じゃないので、その辺は理解してくれると助かります」

メティス「泣いてましたね、彼女」

鳴上「……」

メティス「他のみなさんもそう。里中さんも、天城さんも、久慈川さんも」

メティス「一人ずつ、緊張したような顔つきで部屋を出て行ったと思えば、少ししてからなんだか暗い顔で帰ってきてまた代わりに一人出ていく……白鐘さんはその最後でした」

メティス「帰ってきた人たちはそのまますぐ布団に潜って寝てしまいましたが。まさか、その原因が貴方だったとは」

鳴上「言われた事に自分もはっきりとした答えを言わない方が失礼だ。そう思ったから……」

メティス「鳴上さんがそう言うのなら、私がとやかく口出しする事ではないですが。……」


>その言葉とは裏腹に、メティスは何処か物言いたげな雰囲気を見せている。


メティス「貴方は色々な人から好かれているみたいですね」

メティス「姉さんたちや、美鶴さんや天田さん、コロマルさんなんかも貴方の事が好きなはずです。少なくとも、私の目にはそう見える」

メティス「ただ、八十稲羽の彼女たちに関しては、そういうのとはまた違う『好き』なんですね。さっきの様子を見て、それをなんとなく理解しました」

メティス「その明確な違いまでは解らないけれど、少なくとも私が姉さんに感じているような『好き』とも違うんでしょうね」

鳴上「……そうだな」

メティス「……」

メティス「難しいですね、人の心というものは」

メティス「鳴上さんも今、そう感じているでしょう?」

鳴上「まあ、な。でも今のこの状況は、きっと仕方のない事なんだと思う」

メティス「どういう事ですか?」

鳴上「……」

メティス「……。鳴上さんが言いたくないのなら、無理には聞きませんよ。私がここにいるのは、ただ夜の海が見たかっただけなんですから」


>メティスは海へと視線を移し、じっとその遠くの遠くを見つめた。

>その横顔は、昼間海を眺めていたアイギスのものと酷似している。

>改めて、そう感じた。


メティス「海。……」

メティス「命は全て心の一番深いところで海なようなものを共有している」

鳴上「……?」

メティス「……いえ。『海』という単語を聞いて実際にこの目で海というものを間近で見てから、急にこんな言葉が頭の中に浮かんでくるようになって」

メティス「以前誰かに言われた事なのか、もしくは必要な情報として私の中に組み込まれた事なのか、まったく覚えがないんですが……どうも気になってしまって」

メティス「また海を見れば、何か思い出せるかもと思ったけれど。……ダメですね」

メティス「どういう意味なんでしょう」


>命は全て心の一番深いところで海なようなものを共有している。

>その言葉の真意は、自分が考えてみてもよくわからない事だった。


メティス「……まあ、いいです。それはそれとして」

メティス「月が綺麗ですね」

メティス「いまにも消えてしまいそうなほどの細い三日月ですが、それでもちゃんと輝いている。よく観察してみるとこういうのもいいかもしれません」

メティス「確か、おとといが新月だったから、これからどんどん丸くなっていきますね」

鳴上「……」

鳴上「なあ、メティス。……月が綺麗ですねってある英文の意訳なるんだけど、なんだか知ってるか?」

メティス「いえ、知りません。なんですか? ある英文って」

鳴上「気になるなら自分で調べてみればいい。ただ人に聞くだけじゃなくて、そういう行為も自分にとってのいい勉強になると思うぞ?」

メティス「む……勿体ぶるから余計気になりますね。わかりました。旅行から帰ったら調べてみましょう」


>メティスと一緒に少しの間、海と月を眺めながら時間を過ごした。

>メティスとの距離が少し縮まったような気がする……



>『Ⅴ 法王 メティス』のランクが6になった。



>ふたりで別荘の方へと戻った。

>……

初めて専ブラ使って投下してみたんですが前と比べて見難くなっていないかな?大丈夫?

終わります。

また次回。

07/22(日) 曇り


【昼間】


ビーチ


完二「なんか今日、雲行きが怪しいな」

クマ「でも、涼しくはないクマな。ていうか、昨日よりもじめじめしてて蒸し暑いクマー」

雪子「雨降ってきたらどうしよう」

千枝「えー。私たち、まだ海ん中入ってないじゃん。昨日はここまで来ておいてビーチバレーとスイカ割りしかしてなかったし」

りせ「そうだよね。……それなのに直斗くん、今日は水着じゃないし」

直斗「も、もういいでしょう、アレは。そのかわり、濡れても平気な服装で来ましたから、あまり深いところまで行かないのであれば海でも遊べますよ」

ラビリス「ウチらもやで。潜ったりは出来ないけど、ちょっとした水遊びくらいなら」

千枝「そうなんだ、よかった。……ってあれ? アイギスは?」

ラビリス「……あ、うん。今日も別荘の方に待機してるって。昨日と同じで、出来たらこっちに来るとは言ってたけど」

クマ「アイちゃん、ずっとゲンキがないクマね。もしかしておビョーキ?」

ラビリス「そんなんとは違うと思うけど……。みんなと遊べなくてごめんなさいって言ってたわ」

メティス「……」

菜々子「お兄ちゃんたちー、はやく一緒にあそぼうよー!」

天田「そうですよ。こんな風に遊べるのはあと今日だけなんですからね!」

陽介「ああ……って、菜々子ちゃん早っ! もう海入ってるし!」

千枝「天田くんもだし……あのふたりもすっかり仲良しみたいだね」

陽介「おっと。こりゃ唯一無二のお兄ちゃんの座が危ういんじゃねーの? 悠お兄ちゃん?」

鳴上「……」

陽介「悠?」

鳴上「……ん? ああ、そうだな……」

陽介「……」

クマ「およ? そういや、ジュンペイとチドリチャンの姿もないクマね」

完二「あー……あのふたりは、ホラ」

クマ「クマー!? いつのまにかふたりっきり、浜辺のパラソルの下で涼みながらおしゃべりを楽しんでいるクマ!?」

クマ「ラブラブランデブーねー。割って入れるような空気じゃないクマ」

完二「とりあえず、俺たちは俺たちで遊ぼうぜ。向こうも海にきたくなったらくんだろ」

クマ「クマッシャー! そうと決まれば、ナナチャーン! クマもまぜてー」

りせ「波に流されないように気をつけなよー」


>みんなは海の方へと向かっていってしまった。


綾時「あの、メティスさん」

メティス「はい? なんでしょうか」

綾時「話があるんだけど。その……昨日言ってた、アイギスさんの事で」

メティス「!」

メティス「……わかりました。あちらへ行きましょうか」

>綾時とメティスはその輪から離れて、何処か別の場所に行ったようだ。

>自分も海の方へ行こうかと頭の中で思っていたのだが……それとは反対に、足がその場から動いてはくれなかった。


陽介「悠」

鳴上「!」

陽介「なにひとりでボーっと突っ立ってんだよ」

鳴上「……陽介。お前こそ」

鳴上「みんなと海に行かなくていいのか?」

陽介「なあ。ちょっと話しようぜ」

鳴上「……」

鳴上「ああ」


>……


>持ってきていたレジャーシートの上に、並んで腰を下ろした。


陽介「昨日の夜は結局聞けなかったからさ。呼び出された後のこと」

陽介「部屋に帰ってきても黙ったままですぐに寝ちまうんだもんなー」

陽介「……ま、女子たちのあの顔見れば察しはつくけどさ」

鳴上「……」

陽介「あ、言っておくけど、別に面白がってるわけじゃないからな?」

陽介「まあ、あれだよ。お前の気持ちがあいつらが持っているものとは違うものだっていうのなら、仕方ねーじゃん」

陽介「だから、お前が気に病むことはないんじゃね? って言いたいわけ」

鳴上「……そうなんだけど。でも、俺の返事はきっと里中たちを傷付けた。みんな一見平気そうに振舞ってはいたけど、目が赤かったし」

陽介「だな」

鳴上「それなのに、昨日の今日で何事も無かったような顔なんて出来ない」

鳴上「俺、まだ混乱してるんだよ。昨日の夜のこと」

陽介「……。お前さ、昨日の夜までマジでアイツらの気持ちにまったく気付いてなかったのか?」

鳴上「どうかな」

鳴上「全然知らなかったような気もするし、何処かでそうなんじゃないかって思っていたような気もするけど」

陽介「なんじゃそりゃ。りせなんかスゲェわかりやすかったのに」

鳴上「……」

鳴上「どちらにせよ、アイツらの気持ちをはっきりと言葉で聞かされてきちんと認識した時、凄く戸惑ったんだ」

鳴上「好意を寄せられて嬉しくないはずがない。俺だって男だし。でも、そこで初めて考えた……じゃあ、自分からしたらどうなんだろうって」

鳴上「確かに里中も天城もりせも直斗も俺は好きだ。大事な存在だ。何かあったら守ってやりたいと、そう思う」

鳴上「けどそれは、陽介や完二やクマや菜々子なんかにも思ってる気持ちと同じで、平等なものというか……」

陽介「かけがえのない仲間、友達の枠組みの中から出たものではない、と」

鳴上「そういう事になる、……と思うんだけど」

陽介「……はあー。どうせそんな風に考えてると思ってたわ」

陽介「でもさ、ホントにそれでよかったのか? そんなに急いで答えを出さなくても……」

鳴上「明日にはもう八十稲羽に帰るだろ? だから変に時間を置いてモヤモヤした気持ちを抱えさせたままにしとくよりはいいかと思って」

鳴上「……お互いに」

陽介「そっか」

陽介「でも勿体ない話だよなー。里中はともかく……って言い方もどうかとは思うけど、天城越えのチャンスを自ら手放したり、アイドルや探偵王子の告白もバッサリとは」

陽介「どんな子だったらお前の御眼鏡に適うのかねー」

鳴上「……あ」

陽介「え、何?」

鳴上「眼鏡で思い出した。まだ陽介たちには話してないことがあったなって」

陽介「唐突だな。話逸らそうとしてんのか?」

鳴上「そういう訳じゃなくて……」

鳴上「あのな。巌戸台の方面だとやっぱりテレビの中に入れないみたいなんだ。俺だけじゃなくて桐条さんやアイギスにラビリス、……他のペルソナ使いの連中もみんな」

陽介「えっ、マジで!?」

鳴上「ああ。腕を通すことさえ出来なかった」

陽介「じゃあ、あの世界に入れるのは八十稲羽でだけってことになるのか? やっぱり」

鳴上「そうなのかもしれない」

鳴上「最近、そっちの方はどうなんだ? 何かまたおかしい様子があったりは……」

陽介「ああ、それは問題ないぜ」

陽介「たまーにマヨナカテレビ映ったりもするけど以前と比べてボンヤリで、あの世界に誰か入れられるようなこともあれ以来起こってない」

陽介「クマが定期的にあっちとこっち行き来して様子みてくれてるし、俺たちもテレビの中の探索してるけど、これといって変わっている事は何も」

鳴上「そうか」

陽介「あの世界なんであのまま残ってるんだろうな」

陽介「……あ、今の特別捜査隊のリーダー、俺なんだぜ! まあ、(代理)だけど」

鳴上「陽介が?」

陽介「ああ。でも、みんなそれっぽい扱いはしてくんねぇんだよなあ」

鳴上「はははっ」

陽介「笑うなよ!」

鳴上「……そっか。俺がいなくても特別捜査隊はちゃんと活動してるんだな」

鳴上「万が一、何かあったら俺にも連絡くれよ。クマに貰った眼鏡もまだ大事にとってあるし」

陽介「サンキュ。でも今は、あっちの事件も解決しきってねえんだろ? あんま無理な事は頼めねーな」

鳴上「何言ってるんだよ、俺も仲間だろ?」

陽介「悠……お前ってやつは」

千枝「ちょっと、アンタたち! こんなとこで何してんの!」

陽介「わっ、里中!」

りせ「先輩たちも一緒に遊ぼうよ」

雪子「あと、花村くんには主にクマさんをどうにかして欲しい」

陽介「は? ったくクマのヤツ、今度は何してくれちゃってんの?」

直斗「今は巽くんがなんとかしてくれてます。早く応援に行ってあげてください」

陽介「しょうがねえなあ……」


>陽介は海の方へと走っていった。

>女子たちはまだこの場に残っている……


鳴上「……」

千枝・雪子・りせ・直斗「……」

>気まずい沈黙が一瞬だけ訪れた。

千枝「……ねえ、鳴上くん?」

鳴上「ん……」


>女子たちは顔を見合わせると頷く。


雪子「私たち、もう平気だから」

りせ「うん。もう大丈夫だよ」

直斗「だから先輩ももう気にしないでください」

鳴上「……。でも」

千枝「あのね、聞いて」

鳴上「……?」

千枝「私たちね。実を言うと、鳴上くんの返事……予想済みだったんだよね」

鳴上「え?」

雪子「たぶん誰に対してもそういう答えを言うんじゃないかって覚悟はみんな元からあったの」

直斗「そういう目で見られていないことは感じていましたから」

りせ「……ただ、やっぱり先輩から直接はっきり聞かないと納得しきれなかったってだけで。すごく悔しい話なんだけど」

鳴上「お前たち……」

鳴上「本当に済まな、」

千枝「ああもう、だから謝らないでってば!」

りせ「そうだよ。そんな言葉使うくらいなら、ここにいる誰かひとりを選んでよ」

鳴上「それは……」

りせ「……もー、嘘だって! 先輩、こういう時に限って冗談通じないんだからあ!」

雪子「私たちはね、この気持ちに決着をつけたかっただけなの」

直斗「悪く言えば、先輩は僕たちの自己満足のために付き合わされただけって事になりますが」

雪子「そうだね。でも、こんな機会でないともうチャンスもなかっただろうし、私たちもふとした瞬間に鳴上くんの事でギクシャクするの嫌だったから……」

千枝「だからね。君がきっぱり答えをくれた時、悲しかったけど……嬉しかったんだよ」

千枝「ありがとね。誤魔化さないでくれて」


>みんな寂しげな笑顔を浮かべている。


雪子「これでひとつ荷が下りたって感じかな」

千枝「うん。あっちに余計な気持ちを持ち帰らずに済みそう」

りせ「でも先輩との思い出は持って帰りたいから……」

直斗「あっちでみんなで一緒に遊びましょう」

鳴上「……」

鳴上「ああ、そうしようか」

千枝「よかった」

千枝「あのさ、私たちフラれちゃったけど、まだ友達……だよね?」

鳴上「当たり前だ」

鳴上「里中も、天城も、りせも、直斗も大事な友達……仲間だ」

雪子「……ん。その言葉が聞ければいい」

りせ「行こ! 先輩!」

直斗「菜々子ちゃんも先輩のこと待ってますよ」


>みんな海に向かって走り出した。

>その後を、少し遅れて追いかける。

>……

>彼女たちとの関係に自分なりのけじめをつけた。

>それを彼女たちも納得してくれたようだ。

>残り少ない時間、あとはみんなで楽しい思い出を作ろう……

>……


陽介「ゼェ……ハァ……も、無理……」

完二「んだよ、花村先輩情けねぇ。ちっとばかし遠泳したくらいで」

鳴上「そうだぞ」

陽介「俺、海を甘く見てたわ……」

陽介「てか、なんでお前らはあんなに泳いで平気なの……!?」

菜々子「お兄ちゃんおよぐの早いんだね。すごい! 菜々子もやってみたい!」

千枝「それはやめといた方がいいよ、菜々子ちゃん……」

りせ「花村先輩もうバテちゃったの? カッコわるー」

直斗「意外ですね。花村先輩ならもう少し長く泳げそうだと思っていましたが」

陽介「そりゃ、見てるだけならなんとでも言えるだろうよ……」

陽介「つーか、直斗に至っては見てすらいなかったろ!? お前、さっきから何やってんだよ!」

直斗「何って、このマッチ棒建築が何か?」


>直斗は持参してきた折り畳みのチェアに腰かけ、そのチェアとセットのテーブルの上にマッチ棒を積んで遊んでいる。


陽介「なんで! 海に来てまで! 水着にもならず! そんな事してんだって聞いてんの!」

千枝「なんだ、花村元気じゃん」

直斗「こ、これは、その……先輩達が泳ぎで勝負している間、暇だったので始めたらつい夢中になってしまって……」

りせ「だったらさあ、今からでも遅くないから水着になりなよ。いくら濡れてもいい服装って言ってもやっぱり限度があるよ」

直斗「それは断固拒否します」

完二「へー、お前も結構器用だな。それ、なんだ? 城か?」

直斗「金閣寺です。指先を使って脳を活性化させ、集中力を養う……探偵に相応しい趣味だと聞いたので、僕もたまにやっているんですがこれがなかなか奥が深くて……」

鳴上「確かになかなかの腕前だ。マッチ棒建築か、面白そうだな」

直斗「先輩もやってみますか?」

陽介「だから、海でやる事じゃねーだろって……凄いっちゃ凄いのは確かだけどさ」

雪子「みんな、少し休憩しない?」

天田「飲み物持ってきましたよ」

ラビリス「冷たい麦茶とオレンジジュースにソーダ。どれがええ?」

陽介「お、気がきくじゃん! 俺、ソーダ!」

菜々子「オレンジジュースがいい!」


>皆、各々が好きな飲み物をとって少しの間休むことにした。


鳴上「あれ、クマはどこ行った?」

陽介「そういや……」

りせ「クマなら先輩たちが勝負してる間に一度海から上がってきて、その辺にいたと思うんだけど……」

鳴上「望月とメティスの姿もないけど……まだ戻ってないのか?」

ラビリス「うん。ふたりで何処かに行ってからそれっきりや」

鳴上「……そうか」

鳴上「とりあえず、ちょっとクマを探してくる。あいつも喉渇いてるだろうし」

陽介「あ、俺も行くぜ。迷子にでもなってたら大変だしな」


>この辺りにクマがいないか探すことにした。

>……


鳴上「……あ!」


>森へと続く入口付近の木陰にクマの姿を見つけた。

>その隣には何故かメティスもいる。

>二人は腰を下ろして話をしているようだ。

>……というよりも、クマが喋っている事をメティスが黙って聞いているといった方が正しいのかもしれない。

>声はよく聞こえなかったのでクマが何を言ってるのかはわからなかったが、メティスは真剣な面立ちで耳を傾けている様子だ。


クマ「あ、センセイ」

メティス「! 鳴上さん」

鳴上「珍しい組み合わせだな。こんなところでどうしたんだ?」

クマ「メティスちゃんにクマの事をもっと知ってもらおうと思って、色々オハナシしてたクマよ」

メティス「そうなんです。クマさんについて、色々聞いていました」

鳴上「ふーん……?」

鳴上(メティスがクマに興味をもつとはなあ)

鳴上「クマ、喉渇いてないか? あっちに飲み物が用意してあるぞ」

クマ「ホント? 早く行かないとクマの分がなくなっちまうクマー!」

クマ「メティスちゃん、クマちょっといってくる!」

メティス「いってらっしゃい」


>クマは走ってその場を離れていった。


鳴上「望月は一緒じゃないのか?」

メティス「ええ。アイギス姉さんに話をしにいくと言って、別荘の方へ行ってしまいました」

メティス「望月さんに聞きましたよ。姉さんの様子がおかしかった理由」

メティス「まったく迷惑な話ですね。姉さんにとっても望月さんにとっても」

鳴上「そうだな。一応、俺からも昨日アイギスに説明はしたんだけど、やっぱり望月に対してあまり良い印象は持ってないみたいだった」

鳴上「そう簡単にアイギスの知っている望月綾時と別人だとは割り切れないとか、そんな感じの事を言っていた。望月のヤツ、今頃アイギスに話しかけるだけでも苦労してるかもな」

メティス「こんな話を聞いてしまったら、私までなんだか気になってきてしまいました」

メティス「もうひとりの望月綾時……一体何者なんでしょう」


>メティスは目を伏せて唸っている。


鳴上「当時の望月綾時が写っている写真の一枚くらい残ってないか、寮に帰ったら天田かあるいは桐条さんにでも聞いてみようか」

鳴上「仮にあったとしてそれを持っている可能性が一番高そうなのは、彼と同級生だったらしいアイギスなんだろうけど……」

メティス「姉さんにそれを聞くのは、今はタブーのような気がしますね……」

鳴上「ああ……」

鳴上(謎は深まる一方だな)


>……

>こうして屋久島への旅は早くも三日が過ぎ、帰らなければならない日が訪れてしまった。








07/23(月) 曇り


陽介「あっという間だったなあ」

クマ「三泊四日なんてコーインヤノゴトシね。でも楽しかったクマ!」

鳴上「ああ、俺もみんなと遊べて楽しかった」

菜々子「お兄ちゃん、こんどいっしょにあそべるのはいつ?」

鳴上「ん……ちょっとまだわからないな」

菜々子「そっかあ……」


>菜々子は寂しそうにしている。

>そんな表情を見て自分まで寂しくなってきてしまった。


鳴上「八月中にでも、叔父さんの家に泊まりにいければいいんだけどな……」

千枝「難しそう?」

鳴上「なんとも。部活とか、それに進路関係のことで学校にも行かないとダメってのもあるし」

完二「それ、夏休みって感じがしないっすね」

りせ「受験生は大変だあ……」

直斗「先輩の将来を決める大事な時期ですからね。仕方がないのかもしれませんが……」

雪子「もし、またこっちにこれそうだったらその時は連絡ちょうだいね」

鳴上「そうする」

菜々子「お兄ちゃん、またね」

菜々子「バイバイ」

>行きに合流した場所で手を振ってみんなと別れた。

>夏休みはまだこれからだというのに、少し物悲しい気分になった……

>……

>寮まで帰る間も、アイギスと綾時の間にある微妙な空気は……結局変わる事はなかった。

>順平と天田はもうすっかりわだかまりもなくなり、普通に接するようになったのだが……

>綾時はアイギスとふたりだけで話した時の事について何も教えてはくれなかった。

>聞いてもただ苦笑いを浮かべるだけ。

>移動中も、お互いがお互いに関わる事を極力避けているという様子が見受けられていた。

>やはり二人が和解出来る日は、まだ遠そうだ……

>……


巌戸台 学生寮


ラウンジ


美鶴「……ん。お帰り、諸君。そろそろ戻るころだと思っていた」

鳴上「戻りました」

天田「コロマルもパスカルもただいま」

コロマル「ワン!」

パスカル「バウ!」

美鶴「鳴上も天田もすっかり焼けたな。旅行は楽しんでくれたか?」

鳴上「はい。ありがとうございました。良い思い出ができました」

美鶴「……そうか」

アイギス「……」

美鶴「アイギス」

アイギス「!」

アイギス「はい。……なんでしょう」

美鶴「後で話がある。少しいいか?」

アイギス「……。了解しました」

美鶴「それから、帰ってきて早々で悪いのだがみんなに少し頼みたいことがある」

天田「なんでしょうか?」

美鶴「あの荷物を二階まで運ぶのを手伝ってくれないか?」


>美鶴の視線の先にある階段下に段ボール箱がいくつも積まれているのがすぐにわかった。


鳴上「あれはいったい?」

?「気にしなくていい。皆、旅行帰りで疲れているんだろう? 俺がひとりで片付ける」

鳴上「!」

鳴上(この声は、周防さん?)


>階段の上から聞こえてきた声色は確かに周防のものだと、そう感じた。

>だがそこから降りてきたのは、周防とは違う彼よりも若い眼鏡をかけた男だった。

>その顔には何処かで見覚えのあるような気がした。

鳴上「貴方は……」

?「ん? お前……」


>姿をはっきりと確認してすぐに思い出した。

>彼は、以前ポロニアンモールにある噴水前のベンチで転寝をしていた疲れ気味の男であるという事を。

>周防と声が似ていたという事で、記憶に鮮明に残っていたのだ。


美鶴「なんだ、ふたりは知り合いだったのか?」

ラビリス「美鶴さん、この人は?」

メティス「もしかして、この方が新しく入寮する……?」

美鶴「ご名答」

鳴上「!」

美鶴「今日付けで我々特別課外活動部の新しいメンバーとなった……」

諒「神郷諒だ。今日からこの寮で厄介になる」


>眼鏡の男、神郷諒はラウンジにいるみんなの前までやってくると短く自己紹介をした。


美鶴「神郷。彼が鳴上悠、我々のリーダーだ」

諒「お前が……?」

鳴上「はい。鳴上です。これからよろしくお願いします」


>軽く頭を下げ、手を差し出した。


諒「……」

諒「ああ」


>諒は無表情でこちらを一瞥した後、小さく呟くと差し出した手を軽く掴み、すぐに離した。

>特別課外活動部に神郷諒が新たなメンバーとして加わった。

>神郷諒と知り合いになった。



>『ⅩⅧ 月 神郷諒』のコミュを入手しました

>『ⅩⅧ 月 神郷諒』のランクが1になった



※この物語における番長は、少なくともトゥルーエンドを通ることはないまま八十稲羽から去っています

というところで今日は終わります。また次回。

>……


07/24(火) 晴れ


【昼間】


自室


>旅行の疲れもあったのか割と遅くまで寝てしまったようだ。

>しかし、いくら夏休みといえどだらだら過ごすのはいけない。

>いい加減に起きよう……


鳴上「……ん? なんだか廊下が騒がしいな」


>何処かの部屋に人が出入りを繰り返しているような気配がする。

>扉を開いてそっと様子を窺ってみる事にした。

>……


諒「お疲れ様でした」

作業服の男「はい。それでは」


>作業服の男が数人、諒と共に彼の部屋の前にいる。

>中心にいた作業服の男が帽子をとって頭を下げると、諒だけを残し連れ立ってその場から去っていってしまったようだ。


鳴上「神郷さん、おはようございます」

諒「もうおはようの時間は過ぎてるぞ」

鳴上「はは、そうですね……あの、さっきの人たちは?」

諒「引っ越し業者だ。昨日はすぐに必要なものだけ持ってこっちに来ていたからな」

鳴上「ああ、残りの荷物が届いたところって事ですか……って」

鳴上「結構な荷物ですね」


>扉の隙間から見える諒の部屋の中はダンボールでいっぱいだ。


諒「そうでもない。だが、これから整理をしないと……」

鳴上「手伝いましょうか?」

諒「……。いや、余計な気遣いはしなくていい」

鳴上「でも、この量だと一人でやってたら日が暮れちゃいますよ」

諒「……」

諒「確かに、時間を無駄には出来ないな。……頼もう」

鳴上「はい」


>諒の荷物の整理を手伝う事になった。

諒の部屋


諒「鳴上はここのダンボールの中にある本をあっちの本棚へ順番にいれてくれ」

鳴上「わかりました」


>諒の部屋の中にあるダンボールの中身はその殆どが書籍や参考書といった類のものだった。

>壁にぐるりと設置された天井まである空の本棚はそれらを収めるものに違いないが、入りきるのかどうか……といった具合だった。

>その他の生活用品などは隅の方に申し訳程度にしか置かれておらず、少し異様な空間だ。


鳴上(難しそうな本ばかりだな。一般教養から法律や経済、心理学なんかまで……色々な分野のものが揃ってる)

鳴上「っと、こんなもんかな」

鳴上「さて、次は……ん?」


>空になったダンボールを畳み新しくダンボールを開けると、そこにはさっきまで並べていた本とはまったく違ったジャンルの本が顔を出した。


鳴上「絵本?」


>一瞬目を疑ったが紛れもなくそれは絵本だった。

>そのダンボールの中にあるのは絵本だけで、どれも書いた作者は同じのようだ。

>この部屋から連想する諒のイメージとは少しギャップがあるような気がするが……どんな絵本だろう?

>こっそりどんなものか少し見てみようかと一冊手に取った。


鳴上「……あ」

諒「……」

諒「これはいい。終わったなら今度はあっちを頼む」


>すぐに諒に見つかってしまった……

>諒は手に取った絵本をそっとダンボールの中に戻しふたを閉じると、ダンボールごと抱えて向こうに行ってしまった。

>……






>諒の部屋が綺麗に片付いた。


諒「君のおかげで随分と早く片付いた。助かったよ。この礼はいつか……」

鳴上「いえ、気にしないでください」

諒「……。そうか」


>無機質な語調で何処か素気なさも感じるが、感謝しているのは事実のようだ。

>それが彼の性格なのかもしれない。

>少しだけ、諒の事を知れたような気がする……



>『ⅩⅧ 月 神郷諒』のランクが2になった



諒「……じゃあ」


>諒は部屋の扉を閉じ、中に籠ってしまった。

「ワン!」


>一階の方から動物の鳴き声がするのが耳に届いた。

>この声はコロマルかパスカルだろう。

>餌を欲しがっているのか、また散歩に連れていってほしいと主張でもしているのか……

>様子を見に行ってみる事にした。


ラウンジ


>一階にはコロマルやパスカルの他に複数の人物がいた。


メティス「本当に大丈夫なんですか?」

アイギス「平気よ。だから、そんな顔しないで」

美鶴「何言ってる。それをこれからきちんと確かめに行くんだろう」

アイギス「……そうでしたね」

ラビリス「でも、なんで急にそんな……」

美鶴「……。それも調べればわかるだろう」

コロマル・パスカル「クゥーン……」

メティス「……」

鳴上「みんな揃って何してるんだ?」

アイギス「! 悠さん」

美鶴「……ああ、君か」

美鶴「実は、アイギスが不調を訴えていてな。これからラボへメンテに連れていくところなんだ」

鳴上「不調!? メンテって事は、何処か壊れているかもしれないって事ですか?」

美鶴「そうだ」

メティス「でも、それだけじゃないかもしれない。……そうですよね?」

鳴上「それだけじゃないって……」

美鶴・アイギス「……」


>美鶴とアイギスは黙り込んでしまった。


美鶴「とにかく、私はこれからアイギスと出かける。それほど遅くはならないようにするが、留守は頼んだぞ」

アイギス「……いってきます」

ラビリス「アイギス、気を付けてな」

メティス「姉さん……」


>美鶴はアイギスを外に待機させていた車に乗せて行ってしまった。


鳴上「メティス、さっきの言葉はどういう意味だ?」

メティス「そのままの意味です」

メティス「壊れかけているのは身体だけじゃないのかもしれない……そんな気がしたんです」

メティス「そもそも、身体に影響が出たのは姉さんの心に問題が起こったからだと私は考えています。順序が逆って事ですね」

鳴上「心に問題っていうのは、やっぱり」

メティス「おそらく、そうなんでしょうね……」

ラビリス「どういう事? ウチ、なんもわからんのやけど」

鳴上「そっか。ラビリスにはまだ話してなかったな」


>ラビリスに、アイギスの様子が旅行中からおかしかった理由を説明した。


ラビリス「じゃあ、アイギスはリョージと会った事で過去の事を思い出して精神的に……?」

鳴上「たぶんな。そしてそれが身体的な不調にも現れた、と」

ラビリス「でも、少し異常やない? アイギスがそこまで追い詰められるなんて、そのリョージじゃないリョージは何したんよ?」

鳴上「そこら辺の詳しいことはさっぱりなんだ」

ラビリス「……」

メティス「肝心な部分は結局何も解ってないって事ですよね」

鳴上「アイギスはその事についてはまだ話せないって言ってた。アイギスが話したくないっていうのなら仕方がないって思ってたけど……」

鳴上「明らかに何かおかしい気がする」


>メティスもラビリスも同意するように頷いた。


鳴上「……」

鳴上「そうだ。まずは手近なところで天田にもう少し詳しく聞いてみようか?」

ラビリス「あ、乾は今日寮におらんよ。部活があるって学校に行ってもうた」

鳴上「そうか……」

メティス「……」

メティス「姉さん、いったい貴女の過去に何があったの……?」

メティス「私もそれを知っているような気がするのに、何もわからない……」

鳴上「メティス?」

メティス「……。すみません。今日は、このまま部屋で待機していますね。失礼します」


>メティスは頭を下げて、とぼとぼと階段を上り去っていった。


鳴上「……」

コロマル「ワン!」

パスカル「バウ!」

ラビリス「……おまえらもなあ、少しは空気を読むって事をなあ」

鳴上「なんだって?」

ラビリス「あー、うん。いつもみたいに散歩に行きたいって」

コロマル「ハッハッ!」

鳴上「……はは、そうか。いいよ。行こうか」

鳴上「旅行に置いてかれて寂しかったろうしな」

パスカル「バウ! ワウ!」

ラビリス「ウチもいく」


>二人と二匹で散歩に出かける事になった。

>……

>コロマルとパスカルはいつもとは違う散歩の道を通って前方を元気よく走っている。

>パスカルの記憶の方はといえば、やはりあれ以来何も進展はない。

>自分の名前以外の事はまるで思い出せていないようだった。

>だが、コロマルといるのが楽しいようで、不自由している様子はなかった。

>コロマルもコロマルでパスカルと過ごす日々が当たり前になってきているようだ。

>パスカルがこのまま自分の事を何もわからなくても、ここでずっと一緒にいるのもありではないだろうかとも思うが……


鳴上「やっぱりそうもいかないのかな」

ラビリス「ん?」

鳴上「あ、いや……パスカルの事だよ。自分の事を何も思い出せないままでも今のところ大丈夫そうに見えるけど、パスカルとしては本当のところどうなのかなって思って」

鳴上「やっぱり少しも不安じゃないなんて事はないよな……」

ラビリス「そうやなあ」

ラビリス「自分が行方不明のまま生き続けるってすごく難しいことやと思う」

鳴上(自分が行方不明のまま、か。……)

ラビリス「……。でもな、世の中には自分が何者なのか出来れば理解したくなかったっていう例だってあるんよね。たとえば、ウチみたいな」

鳴上「!」

ラビリス「パスカルは、もしかしたら何か忘れたいことがあって記憶を封じてしまってるって事もあるかもしれないやろ?」

ラビリス「だから、パスカルが自分の事を思い出すのがパルカルにとってはプラスなのかマイナスなのかウチらには断言できへん。あの子にしかわからんことや」

ラビリス「このままなるようにしかならんって事やな」

ラビリス「あの子がしたいようにさせとくのが今は一番やと思う」

ラビリス「記憶がないって事実を紛らわせようとして、コロやウチらとじゃれ合って楽しく暮らしていたいっていうのならそうしてあげよう」

ラビリス「まだ、自分を知る手がかりを探し続けたいっていうのなら、それに協力してあげよう。な?」

ラビリス「パスカルはひとりじゃない。ウチらが支えてあげればいいんや」

鳴上「……そう、だな。そうだよな」


>ラビリスは笑みを浮かべて頷いた。


ラビリス「ウチもな、自分が人間じゃない兵器なんやって事を思い出した時はすごくショックだった」

ラビリス「でもそんな自分でもいい、そんな自分と向き合って生きていこうと思えたのは、みんなが……悠たちが今まで一緒にいてくれたからや」

ラビリス「だから、ウチもパスカルに同じことが出来たらええなってそう思う。あはは、大袈裟かな」


>ラビリスは照れたようにそう呟く。

>ラビリスの優しさが伝わってくる……

>彼女のことを少し理解出来たような気がした。



>『ⅩⅥ 塔 ラビリス』のランクが5になった



ラビリス「……でも、今はパスカルよりもアイギスの方が心配やね。あの子のために何か出来ることないんやろか」

鳴上「今はメンテの結果を待つしかないな。……歯痒いけど」

ラビリス「ん……」

ラビリス「アイギスの方から色々と話してくれるのが一番ええんやけどな……」

ラビリス「ウチ、まだアイギスの姉さんとして信頼されてないのかも。だったら難しい話やね」

鳴上「それを言うなら、俺だって……」

>アイギスとはそれなりに親しくなれたような気はしているが、まだ完全に心を許しあえる間柄というわけではないのかもしれない。

>いつか、アイギスが全てを打ち明けてくれる日がくればいいのだが……


コロマル「ワン!」

ラビリス「ん? オッケー、わかったわ」

ラビリス「なあ、コロがまた神社に行きたいって」

鳴上「そうか。じゃあ、行こう」


>……


長鳴神社


>コロマルとパスカルは元気に走り回って遊んでいる。


ラビリス「お前らはいつでも元気やなあ」

鳴上「本当にな」

コロマル「ワン! ワン!」

パスカル「バウ! ワウ!」

ラビリス「え、また追いかけっこして遊ぼう?」

鳴上「いいんじゃないか。今度は負けないぞ」

ラビリス「言ったなあ? じゃあ今日はジャッジがいないから、ひたすら走り続けて最初にバテたヤツの負けって事でどうや?」

鳴上「それって俺が一番不利なんじゃ……」

ラビリス「んー? もう降参か?」

鳴上「!」

鳴上「そんなことはない! 望むところだ!」

ラビリス「じゃあ、いくで。よーい、スタート!」


>みんなで小さな子供のように走り回って遊んだ。

>……


鳴上「はぁ、はぁ……くそ……」

ラビリス「また悠の負けやなー」

鳴上「次こそは……!」

コロマル「ワン、ワンワンッ」


>コロマルがこちらを見て吠えている。


ラビリス「え? ……」

ラビリス「あはは、それもそうやな。こりゃコロに一本とられたわ」

鳴上「?」

ラビリス「あのな、アイギスの事心配する気持ちはわかるけど、ウチらまで元気なくしたらアカンって」

ラビリス「身体動かしたし、これでモヤモヤも少しは吹き飛んだか? ってさ」

鳴上「コロマル、お前……」

コロマル「ワンッワンッ!」

ラビリス「自分もその気持ちは一緒、かあ。コロ……」

>コロマルはアイギスだけでなく、アイギスに気をかける自分たちのことも心配してくれていたようだ。

>コロマルとの絆を感じる……



>『ⅩⅠ 剛毅 コロマル』のランクが6になった



>……空も赤く染まってきた。

>そろそろ帰ろう。

>……


学生寮前


ラビリス「……あれ?」

鳴上「!」



>学生寮の扉の前でちょこんと座っているメティスの姿が見えた。


メティス「あなたもひとりなんですか? ……え、違う?」

メティス「ええ、わかりますよ。あなたの言葉」

メティス「……? デビ……なんです? それは」

メティス「はあ。……いえ、すみません。そんな人は見かけていないですね」

鳴上(どうしたんだ……?)


>初めメティスは独り言を言っているのかと思った。

>しかし、彼女に近付くとその言葉はメティスが膝に抱えていた黒い生き物に向けて話しかけているのだという事にすぐ気付いた。


メティス「!」

メティス「なんだ、鳴上さんたちか……おかえりなさい」


>すごく残念そうな顔をされた……


ラビリス「メティス、こんなところでどうしたん? しかも、猫なんか抱えて」

メティス「本当は部屋でじっとしてたんですが、アイギス姉さんの帰りが待ちきれなくて……」

メティス「それで、通りかかった黒猫さんとちょっとお話をしていただけです」

鳴上「アイギスたちはまだ帰ってきていないのか?」

メティス「はい……」


>メティスは膝に乗せている黒猫を撫でていた手を止めて少し俯いた。


鳴上「メティス。心配なのはわかるけど、もうじき暗くなる。桐条さんもそれほど遅くならないようにするって言ってたし、中で待っていよう」

メティス「でも……、あ!?」


>メティスは黒猫を抱えたまま立ち上がった。


メティス「車の音です。今朝、姉さんたちが乗っていった」

メティス「こちらに近付いてきています」

鳴上「え?」

>メティスは人間の耳では感じ取れない遠くにある僅かなその音を聞き分けているのかそう告げた。

>そしてその通り、1分もしない内に朝見たものと同じ車が寮の前へとやってきて停車したのだった。

>車の中から美鶴が出てくる。


鳴上「おかえりなさい」

美鶴「ただいま」

メティス「え……? あれ、姉さんは? 姉さんはどうしたんですか?」


>車は美鶴だけを下ろしてすぐに出発してしまった。


美鶴「アイギスは、これからしばらくラボに入ることになった」

メティス「!?」

美鶴「期間は未定だが、それほど長くなる訳ではないようだな」

ラビリス「えっ!」

鳴上「アイギス、そんなに調子が悪かったんですか!?」

美鶴「……」

メティス「美鶴さん、どうなんですか!?」


>美鶴は眉間に皺を寄せて黙っている。


美鶴「こんな場所で立ち話もあれだ。……中でゆっくりと話そう」

鳴上「それもそうですね」

メティス「……あ!」


>メティスの腕の中にいた黒猫は、そこから下に飛び降りて少し距離をとった。


メティス「もう行くんですか?」

黒猫「……」

メティス「お気をつけて、ゴウトさん。機会があれば、また」


>黒猫はメティスの方をじっと見てから走って去ってしまった。


鳴上「……」

鳴上「パスカルの時も思ったけど、メティスって動物好きなのか?」

メティス「そういう訳じゃ。ただ……」

メティス「ひとりぼっちで残されるのとか、誰かに置いていかれるのって辛いんじゃないかと思って」

メティス「……」

メティス「それよりも、今は姉さんのことです。美鶴さん、行きましょう」

美鶴「……ああ」


>……

学生寮 ラウンジ


>天田と諒を除いた特別課外活動部のメンバーがラウンジに揃った。

>それぞれ腰を落ち着け、美鶴が話を切り出すまでには少し間があった。


美鶴「……さて、みんなが気にしているアイギスの容態だが」

美鶴「所員の話だと、アイギスの体には損傷も何も起こっていないらしい」

鳴上「え?」

ラビリス「それってつまり、結局なんでもないって事?」

美鶴「そういう事だな」

メティス「じゃあなんでわざわざ数日かけてラボでメンテを?」

美鶴「どこも悪くないのにアイギス自身が不調を訴えてる詳しい原因を調べるつもりのようだ」

美鶴「アイギスは何処も悪くないと検査でわかったあとも具合がよくないとこぼしていた。これを放っておく訳にはいかないだろう?」

美鶴「顔色もあまりよくなかったしな……」


>やはり精神面に相当のダメージを負っているのだろうか。

>アイギスは機械の体を持っているのにも関わらず、それと同時に人間のような心を持っている。

>それは前から知っていたことだ。

>だがそれは、相当繊細なものだったのだと今回の件で理解した……

>もしかしたら、アイギスには人間よりも脆い部分があるのかもしれない。


美鶴「そういう訳でアイギスはしばらく寮に戻らない」

鳴上「……」

鳴上「アイギスがこうなった原因の心当たり、桐条さんは少なからず解っているんじゃないですか?」

美鶴「……」

美鶴「そうだな。君の言う通りだ」

メティス「そういえば、美鶴さんは昨日、アイギス姉さんとふたりっきりで何かを話していましたね?」

メティス「それももしかして関係があるんですか?」

メティス「それまでは、元気はなくとも体調不良だなんて言ってもいなかったし」


>たしかに昨夜、美鶴はアイギスに話があると呼び止めていた気がする。

>メティスが言っているのはその事だろう。


美鶴「……」

鳴上「いったい何の話をしていたんですか?」

鳴上「教えてください、俺たちにも」


>まるで美鶴を責めるような強い語調でそう聞いた。

美鶴「……。そうは言っても、君たちももう大体察しはついているんじゃないのか?」

美鶴「私が昨日アイギスに話したのは、君たちのクラスメートである望月綾時についての事だよ」

美鶴「アイギスの話だと、伊織や天田からも聞いたようだな? 私たちがかつて、望月綾時という名の少年と出会っていることについて」

鳴上「はい。ほんの少しだけですけれど」

鳴上「それで、望月がどうしたんですか? 俺の知る望月は、桐条さんたちの知っている望月綾時とはまったくの別人です」

鳴上「もう何度か言っていますが、それでも何度でも言います。桐条さんたちが貴女たちの知る望月綾時と何があったのかはわからないけど、でも」

鳴上「それは、俺のクラスにいる望月綾時とはまったく関係のない事です」

鳴上「望月の態度から見ても、それは断言出来ると思います」

美鶴「断言出来ると思う、か。……そうだな」

美鶴「私がアイギスに昨日話したのも、そういった事だった」

鳴上「……え?」

美鶴「君たちが旅行に行っている間に調べさせてもらったんだよ。君たちのクラスメートの望月綾時についてな」

美鶴「国籍、出身地、生年月日、血液型、今まで滞在していた場所、通っていた学校、両親の素性とその家系……」

美鶴「彼のパーソナルデータや彼を構成する環境など、調べられる範囲の事は調べに調べた」

美鶴「結果、現在月光館学園高等科3-Aに所属している望月綾時は、我らの知る望月綾時とはまったくの別人である事が明らかになった」

鳴上「……ほら。そうでしょう?」

美鶴「しかし、……それがアイギスを余計に混乱させてしまったようなんだ」

鳴上・メティス・ラビリス「!!」

美鶴「彼は違う人間だ。そう知識で理解は出来ても、心がおいつけない」

美鶴「彼が彼でないのならば何故あんなにも似た人間が、今になって私たちの目の前に? これは偶然なの?」

美鶴「きっと、そういった思考がアイギスの中で巡ってしまったのだろう」

美鶴「実際、私もまだ少し納得出来ていない部分がある。本来なら安心すべき筈なのに……」

鳴上「どうして。どうしてそこまでしておいて、信じられないんですか?」

鳴上「変ですよ、こんなの……」

美鶴「……私にもわからない。ただ」

美鶴「私たちにとって、望月綾時という存在は容認出来ない……してはいけないものなんだ」

美鶴「今、私に言えることはこのくらいだ。これ以上のことはアイギスに口止めされているし、それ以前に私自身が安易に話していい事ではないと考えている」

美鶴「それは、天田も伊織も同じことだろう。だから、聞いても無駄と理解して欲しい」

メティス「そんな……」

美鶴「……メティス。君ならもしくは、いずれ気付いてしまう日がくるかもしれない。だが、それでも……」

メティス「え? それはどういう……」

美鶴「……」

美鶴「すまない。私もまだ気持ちの整理がつかないんだ。今日のところはこれで失礼させてもらうよ」

>美鶴は辛そうに表情を歪めたまま寮から出ていった。

>……話を聞けば聞くほどに、大事になっている気がする。

>いくらなんでも、大袈裟になりすぎている……

>ふたりの望月綾時。

>彼らに関連性がないと、なぜここまで断言したくないのか。

>……断言したくてもできないのか。

>彼女たちの心を覆っている霧が、その底にある真実を教えてくれない。

終わります。また次回。

【夜】


自室


>……

>今夜はいつもより早めにベッドへ横になったのにも関わらずなかなか眠る事が出来ない。

>蒸し暑く寝苦しいというのもあるが……

>だがそれ以上に、気がかりな事があるせいでそんな事になっているのは、自分でも理解しきっている事だった。


鳴上「……はぁ」

イヤホンの少年「眠れない? これでもう二十回目の溜息だけど」

鳴上「……。まあな」

イヤホンの少年「……」

イヤホンの少年「突然現れても、それほど驚かなくなったね」

鳴上「まあな」

鳴上「……はぁ」

イヤホンの少年「……」


>イヤホンの少年がいつの間にか現れてベッドに腰掛けながらこちらへと話しかけてくる。

>彼の言う通りこんな風にここで会話するのももう慣れてしまったのは確かに事実だが、今の状態は彼の事を気にしている余裕すらないからと言った方が正しいのかもしれない。


イヤホンの少年「……余計な詮索はしない方がいい」

鳴上「!」

イヤホンの少年「前に言っただろ。理解しなくていいって」

イヤホンの少年「知ってしまったら君もきっと、もっと混乱する」

鳴上「そんな事、聞いてみなきゃわからないだろ!」


>ベッドから起き上がり、思わず声を荒げてしまった。


鳴上「どうしてアイギスも桐条さんも話してくれないんだ……」

鳴上「俺たちは仲間なんじゃないのか? それとも……」


>そうだと思い込んでいたのは自分だけ、という事なのだろうか。

イヤホンの少年「仲間だからこそ話せない、話したくないって事もあるんだろう」

イヤホンの少年「きっと、彼女たちは事情を知らない君たちに、余計な気を使わせたくないんだろうね」

イヤホンの少年「それこそが君にとって気を揉む原因になっているのは俺の目から見てもわかるけど」

イヤホンの少年「……それでも」

イヤホンの少年「それでも君が彼女たちの事を仲間だと思っているのなら、今は彼女たちの気持ちを尊重してあげてほしい」

イヤホンの少年「……時間がね、必要なんだと思う」

鳴上「……」

イヤホンの少年「……ごめん」

鳴上「どうして……どうして、お前が謝るんだ?」

鳴上「どうして、お前がそこまでいう必要があるんだ?」

イヤホンの少年「……」


>イヤホンの少年は口を噤み視線を落として……それから、どこか悲しげな困ったような笑みを浮かべた。

>今まで無表情でいる事が多かった彼にしては珍しい表情の変化だと思った。

>……そして、その憂いに満ちた笑顔に同調するかのように、悲しい気分になったような気がした。


鳴上「……」

鳴上「わかった。俺だって納得できた訳じゃないけど、アイギスや桐条さんにとっても辛い事、なんだよな?」

鳴上「それに……」


>イヤホンの少年の方へ視線を向けた。

>……理由はわからないがなんとなく、彼にとってもこれは無視できない話なのだろうという事が薄々感じられる。

>それを口に出してもいいのかどうか、少し迷った。


イヤホンの少年「ごめん。……いや」

イヤホンの少年「ありがとう」


>彼は改めて謝罪の言葉とそれに続く礼の言葉を小さく口にして、自分の手を取ろうとした。

>しかし、透けた彼の体が触れる事を許す筈もなく……ただ素通りするだけだった。

>その様子にまた一瞬、悲しげな笑みを見せて、彼は姿を消した。



>『ⅩⅢ 死神 謎のイヤホンの少年』のランクが7になった



>……改めて思う。

>彼はいったい何者なのだろう、と。

>しかし、彼がどこの誰であろうとあの瞳に込められた色はおそらく……

>友人や家族、あるいは仲間に向けるようなそれと同じもののような、そんな気がしていた。

>……


07/25(水) 晴れ


【朝】


>……昨夜はあれからいつの間にか寝てしまったらしい。

>が、やはり暑さで目が覚めてしまったようだ。

>もう、起きることにしよう。

>とはいっても、今日は特に予定がある訳でもない。

>さて、どうしようか……

>……


学生寮 ラウンジ


>着替えを済ませ一階に下りるとラウンジのソファに腰をかけている美鶴の姿があった。

>テーブルの上にはティーポットとティーカップが置かれている。

>紅茶の馨しい香りが僅かに鼻をくすぐった。


美鶴「……ん。おはよう、鳴上」

鳴上「おはようございます」


>美鶴から声がかかるまでに少しの間があった。

>何か考え事でもしていたのか、こちらの事に気付くまで時間があったようだ。


美鶴「……」

鳴上「……」


>昨日の今日だ……なんだか気まずい。

>美鶴がなにも喋らないので自然とこちらも黙ってしまう。

>それからまた少しの間を置いてから、この空気に耐えられなくなって声をかける事にした。


鳴上「向かい側、いいですか?」

美鶴「……ああ」


>美鶴と反対側のソファに腰を下ろした。


美鶴「君もどうだ?」

鳴上「いただきます」


>美鶴はトレイに伏せてあった別のティーカップへポットに残っていた紅茶を注いでくれると目の前に置いてくれた。


鳴上「……ん、やっぱり美味しいですね」

美鶴「そうか、よかった」

美鶴「……」

鳴上「……。桐条さん」

美鶴「な、なんだ?」

鳴上「俺、例の件についてはもうこっちからは聞かないことに決めました」

美鶴「!」

鳴上「気にならなくなった訳じゃないんですけどね。でも、桐条さんもアイギスもどうしても話したくない、聞かせたくないっていうのなら……それはもう、仕方ないです」

美鶴「鳴上……」

鳴上「……そうですよね。考えてみれば、誰にだってそういう事のひとつやふたつありますよね。俺だって……」

鳴上「……」

鳴上「だからいいんです。でももし、話してもいいと思える日がきたら、その時は聞かせてください」

鳴上「待ってますから」

美鶴「……」

美鶴「すまない。……ありがとう」


>美鶴は苦笑をこぼして短くそう呟いた。


美鶴「……」

美鶴「……そうだ、鳴上。屋久島の旅行はどうだった? 詳しい話を聞かせてくれないか」


>美鶴はこれ以上気まずい空気にしたくないのか、別の話題を切り出してきた。

>その気持ちを汲んで、美鶴に屋久島であった出来事をゆっくりと語り聞かせてひと時を過ごした。



>『Ⅲ 女帝 桐条美鶴』のランクが4になった



>……


美鶴「本当に楽しい旅行だったんだな。行けなかったのが残念になってきた」

鳴上「俺も出来れば桐条さんとも一緒に遊びたかったです」

鳴上(夏休みの間にもう一度くらい、遠出でなくてもいいからそういう機会があればいいんだけどな……)

鳴上「……あ、そういえば、行きの船で妙な写真が撮れたんですよ」

美鶴「妙な写真?」

鳴上「はい。ちょっと待っててください」


>部屋に例の写真をとりにいった。

>……


鳴上「これなんですけど」

美鶴「ふむ。……」

鳴上「俺の後ろにこの場にいなかった人の影が写って……」

美鶴「ん、どこにだ?」

鳴上「ここですよ、……って、あれ?」

>美鶴に渡した写真をよく見てみると、確かに一緒に写っていた筈のあのイヤホンの少年の影が消えている……


鳴上「う、嘘だろ……」

美鶴「何かの見間違いじゃないのか? それよりも、この金髪の少年は誰なんだ。こんな人物、君の仲間にいたか?」

鳴上「え? ああ、桐条さんもコイツのこの姿を見るのは初めてですよね。クマですよクマ」

美鶴「クマ……というと、あのもふもふの着ぐるみっぽい彼か!? なんと、こんな中身が隠れていたとは……」

美鶴「実にブリリアントだな!」

鳴上「ブリリアントですよね」

鳴上(にしても、写真にいたと思えば消えてるとか、アイツ器用だな。……そうだ)

鳴上「あの、桐条さん」

美鶴「なんだ?」

鳴上「この寮、幽霊が出るっていう噂を聞いた事があるんですけど……」

美鶴「ここに幽霊が?」

鳴上「はい。月光館学園の男子生徒の霊が、っていう。それで、そんな話が出るような心当たりがあるかどうかちょっと気になって」

美鶴「男子生徒、の……」

鳴上「桐条さんも学生時代はここに住んでいたんですよね? 当時からそういう話、ありましたか?」

美鶴「……」

鳴上「桐条さん?」


>美鶴は黙って何か考え込んでしまった。

>こちらの声はもう届いていないような、そんな感じだ。


鳴上「あの……」

メティス「おはようございます」

ラビリス「おはようー」

鳴上「あ、おはよう」

美鶴「……! ようやく出てきたか。おはよう」


>美鶴はハッとなって顔を上げ、二人の方へ視線を移した。


美鶴「メティス、ラビリス。君たちに少し話がある」

メティス「……。はい、なんでしょうか」

ラビリス「……」


>メティスもラビリスも昨日の事があったせいか、美鶴に対して態度が何処かぎこちないようだ。


美鶴「君たちもそろそろ一度メンテにいかないか?」

ラビリス「メンテ?」

美鶴「ああ、そうだ。昨日のアイギスの様子を見て、君たちの事も心配になってきてしまってな」

美鶴「まあ、二人はどこも不調そうな様子は見られないが……」

メティス「……」

美鶴「……いや、そうでもなかったか。すまない」

メティス「私は何処にも不調なんてありません」

美鶴「……」

美鶴「とにかく、今日は少し変わった人物を招いてのメンテが行われる。君たちも是非一緒に受けてほしい」

メティス「姉さんも一緒、ですか?」

美鶴「ああ」

メティス「……。自分の事はともかく、この目でアイギス姉さんの今の様子をきちんと確認したいです」

メティス「行きましょう、ラビリス姉さん」

ラビリス「せやな。アイギスの顔が見たいのはウチも一緒や。行こう」

美鶴「よし、では車を呼ぼう。少し待っていてくれ」

鳴上「……あの。俺も一緒について行ったらダメですか?」

美鶴「君も何処か調子が優れないのか? あいにく今日は人間の医者は……」

鳴上「いえ、そうじゃなくて。俺もアイギスの様子を見たいんです。お願いします」

美鶴「……そういう事か。わかった、一緒にいこう」


>……


桐条のラボ


>病的なまでに白い長い廊下を抜けた先にある部屋の中にアイギスはいた。


アイギス「!」

アイギス「みんな、どうしてここに!?」

アイギス「悠さんまで……」

メティス「私たちも一度チェックをしてもらう事になりました」

ラビリス「だから今日はアイギスと一緒やで」

アイギス「そう、ですか……」


>アイギスはメンテのために機材やコードなどで繋がれているような様子はなく普通にしていたが、美鶴が言っていたように顔色が優れないのが一目でわかった。

>そんなアイギスにメティスもラビリスもいつもの何気ない態度で接しているが、内心では当然不安に思っているのだろう……それが僅かに表情に出ているような気がした。


美鶴「二人はまずボディのチェックとメンテからだ。こちらへ来てくれ」

メティス「そうなんですか……わかりました。それじゃあ姉さん、すぐに戻りますから」

ラビリス「またな」

アイギス「はい、またあとで」


>メティスとラビリスは名残惜しそうにしながらも美鶴に連れられて部屋から出ていった。

>アイギスとふたりきりになった。


アイギス「……」

アイギス「悠さん、あの、私……」


>アイギスは申し訳なさそうなそんな表情をしつつ、その顔を逸らした。

>見られたくないのか、見たくないのか……どちらかはわからない。

鳴上「いいよ、何も言わなくて」

アイギス「!」

鳴上「今はただ、アイギスに早く寮に帰ってきてほしい。それだけだから」

鳴上「……それを言いたくて」

アイギス「悠さん……」


>アイギスは目元を拭うような仕草を見せ、漸く視線を合わせてくれた。


アイギス「ありがとうございます」

アイギス「まだ時間がかかりそうだけど、でも……私、一日でも早くあの場所に戻れるようにします」

鳴上「ああ」

美鶴「待たせたな、アイギス」


>美鶴が部屋に戻ってきた。


美鶴「ついさっき先生が到着された。そろそろ始めるぞ」

アイギス「はい。わかりました」

鳴上「先生って?」

美鶴「アイギスの診察をしてくれるカウンセラーの方だよ。しかも我々の事にも精通している、な」

鳴上「俺たちの事にもって……まさか」

美鶴「ペルソナ使いだよ。同じ力を持つ者同士にしかわからない事もあるのかもしれない。そう思って特別にお呼びしたんだ」

鳴上「なるほど。ペルソナ使いのカウンセラーか……凄い肩書だ」

美鶴「どうぞ、こちらへ」

?「失礼します」


>美鶴が声をかけると部屋の外から人が一人入ってきた。

>……女性だ。

>ショートカットの髪型に、口元のほくろが印象的な美人の女性。


鳴上「園村先生!?」

麻希「え? ……ああ、鳴上くんか。びっくりした。なんかまた意外なところで会っちゃったね」

鳴上「まさか園村先生が?」

美鶴「そうだ。彼女がアイギスを診て下さる先生だ。普段は月光館学園でも仕事をされているからもしかしたらと思ってはいたが、やはり知り合いだったようだな」

鳴上「はい。先生にはお世話になってます」


>しかし、こんなところで会うとは本当に驚きだ。

>その上、ペルソナ使いだったとは……

>対して麻希は、口ではびっくりしたとは言うものの、全くそういう風には見えずにこやかに笑っている。


麻希「きっと縁があったらね、何処かで『仲間』として会う日もくるんじゃないかなって思ってたから」


>麻希はこちらの考えを見透かしているかのようにそう答える。


鳴上「という事は、俺がペルソナ使いだって事を既に気付いていたんですか?」

麻希「うん。共鳴でね」

>言われて気付いたが確かに麻希からじんわりとあたたかく優しいペルソナの共鳴を感じる。

>パオフゥの時に感じたものとはまた違った共鳴の仕方だ。


麻希「メティスさんとラビリスさんもそうでしょ?」

鳴上「はい。その通りです」

麻希「でもまさかロボットだっていうのは今回の話を聞くまで知らなかったな」

麻希「それで、今日お話するのは……そちらの?」

アイギス「アイギスです。今日はよろしくお願いします」

麻希「はい。よろしくお願いします」

麻希「じゃあ、向こうのお部屋に行きましょうか」

鳴上「先生、アイギスのこと……」

麻希「そんな顔しないで。大したことをする訳じゃない……大丈夫だから」


>麻希は肩にぽんと軽く手を置いて、こちらの不安まで消えてなくなってしまいそうに思えるくらいの柔らかくあたたかい笑みを向けた。

>麻希の優しい気持ちを感じる……



>『Ⅱ 女教皇 園村麻希』のランクが3になった



>麻希はアイギスと一緒に、隣の部屋へ続く扉を開いて中へと入っていった。

>そして二人の姿が消えると、今度は出入口の方から数人白衣を着た人間が現れる。

>彼らが部屋にあった機材を操作しイヤホンをつけると、麻希たちが入っていった方の部屋に面している壁が突然透明になった。

>まるでそこには壁などなかったかのように、机を挟んで向かい合って座る二人の様子がよく見えている。


鳴上「これは……!」

美鶴「あちら側からは見えていない。音声はマイクで拾ってイヤホンで聞きながら彼らも様子を窺ってくれている」

鳴上(刑事もののテレビドラマなんかで見る取調室のマジックミラーを覗いてるみたいな感じだな……)


>白衣の男たちもアイギスの不調の原因を探るためのラボにいる所員なのだろうか、彼らのしていることはあまり気持ちのいいものではないように感じた。


鳴上「……俺、帰りますね」

美鶴「もういいのか?」

鳴上「アイギスの顔を見れたから十分です。それに、これ以上ここにいても邪魔になるかもしれないし」

美鶴「そうか……。では、車で寮まで送らせよう」


>……

学生寮


天田「……あ!」

鳴上「ただいま、天田」

天田「鳴上さんか、よかった……おかえりなさい」

鳴上「どうかしたか?」

天田「いえ、その……」


>天田は両手にビニール袋をぶらさげている。

>その口からは食材や調味料などが見え隠れしていた。


鳴上「……ああ、また料理するのか」

天田「寮に誰もいないからチャンスかなって思って」


>天田は恥ずかしそうに笑っている。


鳴上「神郷さんは?」

天田「部屋に籠ってるのかなって思ったけど、出かけてるみたいですよ」

鳴上「コロマルもパスカルもいない。って事は、神郷さんが散歩に連れてってくれてるのか」

天田「あれ、そうなんですか? 僕はてっきり鳴上さんか誰かと一緒なのかと……」

天田「まあ、とにかく寮には僕たちしかいないし、よかったら一緒に昼食いかがですか?」

鳴上「そうだな。いただこうか」


>……


>天田の作る昼食の仕込みを軽く手伝う事になった。

>本当は分担して作った方が早く済むしいいかと思ったのだが、天田が一人で作りたいと思っているようだったので、少し準備を手伝ってからは天田の傍らでその様子を見守りながら待つ事にした。

>その間、さっきまでの事を簡単に天田に話した。


天田「そっか……アイギスさん、早く戻ってこれるといいですね」

鳴上「そうだな」

天田「……」


>天田もこうなった経緯に何か思うところがあるのか、手が止まり暫くの間何も言わなくなってしまった。


天田「鳴上さん、美鶴さんたちから綾時さんについての詳しいこと結局何も聞かされてないでしょ?」

鳴上「ん、まあな……」

天田「やっぱり。僕からしても、その判断は間違ってないと思ってます。鳴上さんには関係ない事、っていう言い方は横暴かもしれないけど……」

天田「だから、僕に聞かれても何も答えられないって事、先に謝っておきます。ごめんなさい」

鳴上「それも解ってる。桐条さんに言われたからな」

天田「そうですか。……でもね」

天田「ちょっと気にしすぎなんじゃって感じてもしています。こんな事、アイギスさんたちの前で言ったら怒られるかもしれないけど」

天田「あの綾時さんが僕たちの知る綾時さんじゃないって本人がそう言ってるなら、もうそれでいいじゃないですか」

天田「僕には綾時さんの言ってる事が嘘のようには見えませんでしたしね」

天田「多分、順平さんもそんな風に考えてるんじゃないかな」

天田「……僕としてはもうこれ以上この事について深く考えたくないっていうのが本音ですね」

>天田は料理を作る手を再度動かしだしてからぽつぽつと語った。

>どうやら天田はアイギスたちとは少し違って考える事を放棄することでどうにかしようとしている……そんな様子が感じ取れた。


天田「でも、本当に似てるんだよなあ。軽薄そうな感じとかそういう雰囲気も含めて」

鳴上「軽薄……まさか、アイギスは望月綾時に遊ばれた経験があるとか!?」

天田「えっ、それは流石に……いや、どうなのかな……?」

天田「っと、出来ましたよ」

天田「今日は暑いので、ジャージャー麺風冷やし中華なんてものを作ってみました」


>天田は出来上がった料理をテーブルに並べる。

>麺の上にきゅうりやハム、錦糸卵などがのっているのは普通の冷やし中華と変わらないが、肉味噌のたれが上に万遍なくかかっていて食べごたえがありそうだ。


鳴上「美味しそうだな。いただきます」

天田「いただきまーす」


>天田と肩を並べて昼食をとった。

>……


鳴上「ごちそうさま。美味しかったよ。以前のオムライスに続いて、上にのっていた玉子の焼き加減が絶妙だったな」

天田「ありがとうございます。でも、んー……僕としてはまずまずってところかな」


>天田はあまり自分の料理の腕前に納得していないようだ。

>でも、向上心があるのはいい事かもしれない。

>食後の片付けを手伝いながら、料理の知識を色々と教えたり教わったりしながら時間を過ごした。

>天田との距離が縮まったような気がする……



>『Ⅷ 正義 天田乾』のランクが6になった


>……

>それから数日、アイギスが戻る事はないまま時間が過ぎ、いつの間にか八月に入っていた……

>……


08/01(水) 晴れ


【朝】


>アイギスがラボに入ってもう一週間が過ぎている。

>時間が経てば経つほどに不安がじわじわと大きくなっているが、自分たちにできることは待つ事だけだ。

>それがとても悔しいが、どうしようもない……

>……

>気は晴れないままだが、今日は学校へ行かなければならない。

>他人を心配する前に、気持ちを切り替えてまずは自分の事を考えなければいけない……

>……

月光館学園 職員室


淳「……えっと、今月オープンキャンパスのある近場の大学短大専門学校の資料はこれで全部かな」

鳴上「ありがとうございます、先生」

淳「予約が必要なところもあるから注意してね。というか、結構量があるけど、全部目を通せそうかい?」

鳴上「ご心配なく。気合でどうにかします」

淳「そう。何かわからない事があったら遠慮なく聞いてね」

鳴上「はい」


>そろそろ自分の進路について本気で考えなければいけない。

>その為にも、様々な学校の資料に目を通し橿原に相談を重ねてた。

>……


淳「じゃあとりあえずこのメモに書きだした学校に見学にいくって事でいいんだね?」

鳴上「はい。まだ増えるかもしれませんけど、今のところはこんな感じで」

淳「わかったよ。で、鳴上くんはこのまま進学希望ってことで話を進めていいのかな?」

鳴上「いえ、それは……。就職の方もどんな仕事があるのか説明会なんかに足を運ぶ予定なので、まだはっきりそうと決めた訳では」

淳「そうなの?」

鳴上「……まだ、色々迷ってて」

鳴上「でも、夏休み中に出来る限りの行動はして、これから先の事をきちんと考えたいと思っています」

淳「なるほど、ね。わかった。鳴上くんのしたいようにするといいよ」

淳「ただ、その話を僕にもちゃんと教えてね?」

鳴上「はい」


>橿原はその答えを聞いて満足そうに笑み浮かべて頷いた。


淳「ちょっと安心したよ。まだ迷いながらも先に進もうとする姿が見られてね」

淳「鳴上くんの本当に進みたい道、きっとみつかるよ。このまま諦めなければ」

鳴上「そうだと、いいんですけど……」

淳「……。鳴上くんってしっかりしているように見えて急に弱気になったりする時があるね」

淳「もっと自信もって大丈夫だよ。ね?」


>ぽん、と軽く背中を押された。

>どうやら励ましてくれているようだ。

>橿原の優しさを感じる……



>『Ⅹ 運命 橿原淳』のランクが5になった



>この先どうしたらいいのだろうかという漠然とした不安は確かにまだ心の中にある。

>気を引き締めていかなければ……

鳴上「今日はこれで失礼します」

淳「このまま真っ直ぐ帰るのかい?」

鳴上「いえ、これから部活に行こうかと」

淳「ああ、確か美術部だったっけ? 頑張ってね」


>橿原と別れ、美術室へと向かった。

>……


美術室


>美術室では多くの部員がそれぞれ己の作業に没頭している。

>その中に、部長であるあかりの姿も当然あった。


あかり「……お。鳴上くん」

鳴上「よ。みんな頑張ってるみたいだな」

あかり「そりゃね。コンクールも近いし、特に三年生はこの夏で便宜上引退ってことになるからさ」

あかり「私も最後にいい作品残したいしね」

あかり「そうしたらきっと、その先自分の夢にも専念出来そうな気がする」


>あかりはキャンバスに気合を込めて絵を描いている。


鳴上「……あかりは結局進路の方は?」

あかり「美大に行くことに決めたよ。そこで色々学びながら漫画家を目指すつもり」

鳴上「そうか……」


>あかりはもうきちんと自分の中で目標を定めたようだ。

>それを羨ましく感じた。


あかり「この絵が上手い具合に評価へ繋がってくれるといいんだけどなー」

鳴上「それは……飛行船か?」


>キャンバスには海の上に浮かぶ飛行船が描かれている。


あかり「うん。よく夢に見るんだよね、この飛行船」

鳴上「夢?」

あかり「そう、夢。中学生の頃に住んでいた場所にね、空の科学館っていうところがあったんだけど……」

あかり「そこに大きな飛行船があってさ、なんだかそれとすごく似てるような気がするんだよね」

鳴上「その飛行船はこんな風に飛ぶのか?」

あかり「当時そういう噂が子供たちの間では流行ってたってのはあったね。でも、実際そうだったかっていうと」

あかり「……。んー……?」

鳴上「どうした?」

あかり「……いや、ちょっとね。私、その頃の事の記憶がなんだか曖昧みたいで。でも実際この船が飛んでるところを見たことがあるような」

あかり「ううん。飛んでいるこの船に乗ったことがあったような気がしてきて……」

鳴上「え?」

あかり「……。周りは火が燃え盛ってて、どこかから落ちそうになって、でも優しいお姉ちゃんに助けてもらって、それで……」

あかり「……」

あかり「あははっ、ごめん! なんでもないよ! 気のせいだよ、気のせい!」

あかり「それより、鳴上くんも部活にきたならちゃんと活動しなきゃ。ね!」

鳴上「……ん、ああ、そうだよな」


>話もそこそこに、自分も美術部の活動に取り掛かる事にした。

>あかりと美術部でひと時を過ごした。



>『ⅩⅦ 星 星あかり』のランクが5になった



>……


あかり「それじゃあ、戸締りお願いしちゃっていいかな?」

鳴上「ああ」

あかり「よろしく。じゃあね」

鳴上「気を付けて帰れよ」

あかり「鳴上くんもあまり遅くならないようにね」


>他の部員も帰りあかりが美術室から去ると、この場にひとりきりになった。

>周りが完全に静かになったところで、もう少しだけ絵を描いて過ごす事にした。

>……絵を描いてる時はその間だけ無心になれる。

>ごちゃごちゃと色々な考えでいっぱいになった頭をリセットするにはちょうどいいと思った。

>…
>……
>………


「……へえ、鳴上くんって美術部だったんだね」

鳴上「!!」


>集中しすぎていたのか後ろから唐突に声をかけられ人の気配がする事に気付くと、驚きのあまり体をびくっと大きく震わせてしまった。


麻希「わっ!? ……ごめん、驚かせちゃった?」

鳴上「そ、園村先生か……」


>そしてすぐにそこにいたのは見知った人物だとわかるとほっと溜息を吐いた。

>……が、すぐに別の事に気付いて麻希の方へと向き直る。


鳴上「あのっ、どうしてここに?」

麻希「ちょっと用事があってね。それはもう終わったんだけど、美術室の前を通ったら偶然鳴上くんの姿を見つけたから……」

鳴上「アイギスの方は……」

麻希「それは、これからまたラボの方に行って会うところ」

鳴上「様子の方はどうなんでしょうか?」

麻希「うん。心がとても不安定だったけど、もうだいぶ落ち着いてきたみたい。早ければ今日の夜にはもう帰せると思う」

鳴上「本当ですか!? よかった……」

>麻希の言葉を聞いて少し気が楽になった。

>早く、元気になったアイギスの姿をこの目で見たい……


麻希「アイギスさんのことで鳴上くんもだいぶ滅入っていたのね。ううん、鳴上くんだけじゃなくてメティスさんやラビリスさんも……」

麻希「桐条さんもアイギスさんと同じような感じで落ち込んでたしね」

鳴上「……」

麻希「……。ねえ、鳴上くん。まだ時間があるから少しお話しましょうか」

鳴上「? はい……」


>麻希は向かい側に椅子を置いてそこに座った。


麻希「それは鳴上くんが描いた絵?」

鳴上「そうです。鉛筆で描いただけで、あまり立派なものじゃないですけど……」

麻希「ちょっと見せてもらっていい?」

鳴上「どうぞ」


>麻希はスケッチブックを手に取るとじっと絵を見つめた。


麻希「ふふっ、なんだか懐かしいなあ。私も高校時代は美術部だったんだよ」

麻希「これでも賞をとった事もあるんだから」

鳴上「そうなんですか。凄いな、俺なんか俄かだからさっぱりで……最初に描いた絵も色々駄目出しくらったし」

麻希「一番初めのページにある絵のこと? 確かにこれって……でも、ダメっていうよりは……」


>麻希は何かを言いかけてすぐに口を閉ざした。


鳴上「不鮮明だとか定まってないとか言われました、その絵」

麻希「……うん。花瓶に活けられた花だって事はわかるけど……」

麻希「大袈裟に言ってみれば、ここに描かれた花は蕾が開いているのに生きているのか死んでいるのかすらわからないみたいな、そんな感じの絵だね。これって……」

鳴上「……」

麻希「……」


>麻希はスケッチブックを置いて暫く何か考えるようにしながら黙った。


麻希「ねえ。鳴上くんは今の学校生活、楽しんでる?」

鳴上「え? はい、楽しいと思ってますけど」

麻希「そっか……」

麻希「私、初めて会った時からずっと気になってたんだよね、君のこと」

鳴上「え……」

麻希「よく眠れないとか、悪い夢を見るとか、記憶が曖昧になるとか言ってたじゃない。だから心配で」

鳴上「あっ。……いえ、それはもう大丈夫です、けど」

麻希「でも、今は他に不安なことがある? アイギスさんのこと以外でも」

鳴上「……はい」

麻希「……」

麻希「鳴上くん、三年生だって言ってたよね? だとすると、進路のこととか将来についてあれこれ考えることがある、って感じかな?」

鳴上「園村先生の言う通りです」

麻希「……うん、わかるよ。私にもそういう経験あるから」

麻希「私はね、高校のころ一年近く入院していた時期があったの。あの時は凄く卑屈になっていて、不安なこともいっぱいだった……」

麻希「なんで私はこうなんだろうって何度も思ったよ」

麻希「でもね、色々な事があったけど、周りには友達がいて支えてもらって、そんな過去の苦い経験があったからこそ今の私がある」

麻希「だから鳴上くんもこれから先もっと辛い思いをする事があっても、それが自分にとっての糧になることもあるかもしれないって覚えておいてほしいの。今は解らなくても、ね」

鳴上「でも……」

麻希「平気よ。だって、私にも支えて一緒にいてくれた人たちがいたように、君だってひとりじゃないんだもの」

麻希「同じ力を持った仲間が周りにはいる。学校にくれば友達もいるし先生だって。もちろん、私だってその一人」

麻希「辛くなったら迷惑だとか考えないでどんどん人に頼っちゃいなさい。大事なのはなんでも自分だけで抱えすぎないってことよ?」

麻希「貴方に心配してどうにかしてあげたいと思っている人がいるように、貴方を心配してどうにかしてあげたいと思う人もいるんだってことをどうか忘れないで」


>麻希はあたたかい笑顔で心を優しく包んで労わるようにそう告げた。

>麻希の思いやりを感じる……



>『Ⅱ 女教皇 園村麻希』のランクが5になった



麻希「……長話になっちゃったね。もういかないと」

麻希「何か話したいことがあったら次の機会に、ね」

鳴上「はい。……ありがとうございました」


>立ち上がって一度深く礼をし、麻希が出ていくのを見送った。

>……

>自分もそろそろ学校を出よう……



辰巳ポートアイランド駅周辺


>街をぶらつき適当に買い物に回ったあと寮に帰ろうと歩いていると、携帯ショップのショーウィンドウに張り付いてる帽子の男の姿を見つけた。


鳴上「順平さん?」

順平「……あ、鳴上。オッス」

順平「この間の旅行の時はどうもな」

順平「チドリに付きっきりみたいな感じになってたけど、スゲー楽しかったぜ」

鳴上「いえ。……そんなところにへばり付いて何やってるんですか?」

順平「んー? ……ちょっとな」


>順平はガラスの向こう側にある並んだ携帯に再び目線を移して唸り声を上げた。


順平「チドリにケータイをプレゼントしようかと考えてるんだけど、どう思う?」

鳴上「!」

鳴上「チドリにですか。いいんじゃないですか。持っていないならこっちからあげればいい、って事ですね」

順平「そうなんだけどさ、でもどんなのにすればいいかなって」

順平「あまり高性能なものにしても滅多に使わないかもしれないし、だからって安すぎるものもどうかと……」

順平「うーん……」

鳴上「本人を連れてきて選んでもらったらどうですか?」

順平「それも考えたけどさ、やっぱり嫌がりそうかなって」

順平「あれ以来たまに電話くれるようになったから便利だし持たせてやりたいんだけど、そう提案して改めて拒否されたら悲しいし」

順平「それなら、こっちが用意したものを無理やりって形でもいいから、一応預けとくだけ預けておくみたいな感じで渡せばいいかなって思ってさ」

鳴上「……。いや、そんなことないと思いますよ?」

順平「え!?」

鳴上「前にこの周辺でチドリと会った時に携帯ショップを気にしているような様子を見かけたんですよね」

鳴上「だから、昔はどうあれ今はちょっと考えも変わってるんじゃないかなって、そう思います」

順平「マ、マジで!? そっか、チドリが……」


>順平は顔を緩ませてニヤニヤしている。


順平「よっし! じゃあパンフレットもらってチドリに見せてみよう! でも、あんま高いの選ばれたらバイト増やさないとダメだなー、貯金は崩したくねえし」

鳴上「え、貯金してるんですか?」

順平「……今、なんだそれ意外すぎるとか思っただろ?」

鳴上「い、いえそうじゃなくて! 純粋に偉いなあと思っただけですよ!」

順平「ふーん? まあいいけどさ」

順平「俺だってそんくらいの事はしてんだよ。チドリと会う機会もバイトすると減るけど、これもチドリとの将来の為……」

順平「なんつって!」


>順平はだらしなく笑っている。

>彼の行動はどれもこれもチドリがあっての事のなのだろうと改めて感じた。


順平「あとは祭りの誘いにのってくれるかってトコだな」

鳴上「祭り?」

順平「あれ、知らねえ? 16日に長鳴神社であるんだよ。毎年やってんだぜ」

順平「今日は元々そのお誘いにやってきたんだ」

鳴上「へえ、そうなんですか」

順平「そのついでにさりげなーくケータイのこと聞いてみよっと」

順平「話聞いてくれてありがとな、鳴上!」


>順平に感謝されている。

>順平との仲が少し深まった気がした……



>『Ⅰ 魔術師 伊織順平』のランクが6になった



>順平と別れ、寮に戻ることにした。

>……

【夜】


学生寮 ラウンジ


鳴上「ただいま、……!」

鳴上「アイギス!」

アイギス「悠さん。おかえりなさい」


>……一瞬目を疑ってしまった。

>でも、紛れもなく本物のアイギスの姿が今ここにある。

>何度か瞬きをして、やっとそう認識できた。


鳴上「それはこっちのセリフだ。おかえり、アイギス」

アイギス「……」


>アイギスは少し恥ずかしげに笑い、頭を下げた。


アイギス「もう大丈夫ですから。みなさんにはご迷惑をおかけして、大変申し訳ありませんでした」

鳴上「本当に本当にもう平気なんだな?」

アイギス「はい。この通りです」


>言葉の通り、アイギスの調子はとても良さそうだ。

>顔色も優れている。

>麻希のカウンセリングの賜物なのか……彼女には感謝しなくてはいけない。


美鶴「これでやっといつもの学生寮らしくなったな」

天田「そうですね。アイギスさんが戻ってきてくれて良かった」

ラビリス「なあなあ、こういう時って快気祝いっていうのするもんやないの?」

メティス「そうですよね。ぱーっとやりたいですね」


>みんなアイギスの復帰に嬉しそうにしている。


アイギス「そんな大袈裟な……」

美鶴「快気祝いか……いいかもしれないな」

美鶴「ただ、今日は神郷がいない。どうせやるなら皆が揃っていた方がいいだろう」

美鶴「ご馳走を用意して、な」

メティス「ごちそう……」

美鶴「神郷の入寮歓迎も含めてそのうちやろうか」

美鶴「あの男、