鳴上「月光館学園?」 No.3(374)

・ペルソナ4の主人公(鳴上悠)が月光館学園で最後の高校生活一年間を過ごす話。

・過去のペルソナシリーズのキャラとコミュを築きます。一部捏造設定有り。


過去スレ

鳴上「月光館学園?」
鳴上「月光館学園?」 - SSまとめ速報
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鳴上「月光館学園?」 No.2
鳴上「月光館学園?」 No.2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1335610871/)


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wiki

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前スレまでのコミュランク


 0 愚者  特別課外活動部   Rank 7

 Ⅰ 魔術師 伊織順平      Rank 6

 Ⅱ 女教皇 園村麻希      Rank 5

 Ⅲ 女帝  桐条美鶴      Rank 5

 Ⅳ 皇帝  藤堂尚也      Rank 7

 Ⅴ 法王  メティス      Rank 6

 Ⅵ 恋愛  望月綾時      Rank 5

 Ⅶ 戦車  アイギス      Rank 5

 Ⅷ 正義  天田乾       Rank 6

 Ⅸ 隠者  パオフゥ      Rank 7

 Ⅹ 運命  橿原淳       Rank 5

ⅩⅠ 剛毅  コロマル      Rank 6

ⅩⅡ 刑死者 チドリ       Rank 6

ⅩⅢ 死神  謎のイヤホンの少年 Rank 7

ⅩⅣ 節制  トリッシュ     Rank 5

ⅩⅤ 悪魔  ヴィンセント    Rank MAX

ⅩⅥ 塔   ラビリス      Rank 5

ⅩⅦ 星   星あかり      Rank 5

ⅩⅧ 月   神郷諒       Rank 4

ⅩⅨ 太陽  周防達哉      Rank 7



>>1
           _,. -‐ - 、_

          ィ´      ,.¬>、
        /´     / <! l>__\
       イ  _彡  / l>,.. '´ ̄ `ヽ
     ≦彡'´  -=//] _/        }
        `ソ´ rr<⌒ヽ,イ //| / l |!リ
     =彡イ {{=Oム/  ィヱメ|/l イ }从!
        |/弋∀ノフ   !{.kッリ |/!/′
          `¨TⅥ トゝxx  リ

           r《_ !ミ∨   _._ ′                              ,r'⌒'、
         rイz__\,_>、_/                        ,.'’ヘ-、_,.._,_., ,_,/ ,ノ) _,))
       /⌒ヽ= `>'⌒ マ__rァ===rく万}__ ___    _,,_ _, _,.ィ'(,'⌒ー'^ ⌒    )ノ,.′´
.        /{    }l> {        /:.r―:.:./:/´ ┐Yヽ `¨{て》_)》 ´           ..',)'’
      { 廴____/<! \       {:.ニニ:.{::{  .{_人_「〉(´ ̄ ̄              _,ィ'ノ'     'ヽ,_
      l 辷リ彑,r-ァ/ `ーr‐-弍:.!三:.弌:廴__,ィ、 __《て》             , ' ,ィ'         ,))
.        ト、`¬''¨’ノ/   辷‐く〉 }:.:.:丁{´         ̄           , 'r'′        , ,'´
      ヽ.\t辷彡'      ./´ ̄ ̄/´⌒ヽ                   ノ,'’       ,ィ
         !  ! = {       |=:=:=:=:{ o(○o}                  ((,..(,_,. ,,. ,__ ,_ ,,ィ.'’
         j  ! =  ヽ::...  _,辷___廴_ノ¨¨`ー-rっ                `ー'’ '⌒'’
.         !  :! =  ` ー=   ト-<//    _,.ニ辷う   .
.         |   ! =       |     `ヽ、 \      こ、これは乙ではなくて硝煙であります
         }  .! =        |       `ー'        勘違いしないでほしいであります

>……


淳「何処に行っちゃったんだろう……」

鳴上「……」

淳「三人とも一緒ならいいけど……鳴上くんもこれからは一人で行動したら絶対ダメだからね」

鳴上「……はい。すみません」

淳「まあ、僕もうっかり一人で来ちゃったからあまり人の事は言えないんだけどさ」


>橿原によると、この寮の中でも常に二人以上で行動するのなら一階以外へ自由に行ってもいいのではという話が何時の間にか出ていたようだ。

>換気も容易く出来なくなってしまった今となっては、やはり大勢の人間が一か所でずっと同じ空気を吸いながら大人しくしているのは無理であると判断した為だろう。

>しかし、自分以外に橿原が上げた三人はその話をする以前から一階から姿を消していたらしく……

>とは言っても、この建物の中で一階以外に行きそうな場所など限られている。

>天田やラビリスの場合は自室という線も考えられるが、美鶴の場合は屋上にいないのなら何処にいるというのだろう。

>考えられるのは……


鳴上(……外の見回り。みんなの目を盗んでその三人で行ったんじゃ)

鳴上(それなら、先生はともかく藤堂さんたちには話を通しているとは思うけど……)

淳「あっ」

鳴上「!」


>そんな風に思いながら屋上から出て階段を下りている途中。

>話に出ていた三人の姿が、四階にある普段アイギスが自室として使用している作戦室から出てくるのが見えた。


ラビリス「あっ……悠と、先生?」

淳「良かった、いたよ。三人とも何処に行ったのかって今話をしていたところだったんだ」

美鶴「もしかして探させてしまいましたか? そうだったら申し訳ない。少しこの部屋に用があったものですから」

鳴上「用?」

天田「ええ。……まあ、ちょっとした用が」

淳「ああ、そうだったんだ」

ラビリス「ゴメンな先生。余計な気ぃ使わせてしもうて。もう済んだから、一階に戻ろ!」

天田「行きましょう」

淳「ん、そうだね」


>ラビリスに背を押されるようにして橿原たちは一階へ向かって降りていった。

>この場にまだ残っている美鶴はひとつ小さく息を吐いた。


鳴上「てっきり三人で外へ見回りに行ったのかと思ってました」

美鶴「そうしようとしていたのは確かだな。ただ、その前に少し話をしていたのとこの部屋の準備をしていた」

鳴上「準備? ここ、普段はアイギスの部屋ですよね」

美鶴「ああそうだ。だが、ここは君たちの自室よりははるかに広い。一階の他にも我々の仮眠する場所として使わせて貰おうかと思ってな」

美鶴「色々と機材も揃っている事だし武器の保管もここにする事にした。それに、ここなら何かあっても屋上に近い。危険があればすぐライドウのところへも行けるだろう」

鳴上「ああ、なるほど。でも橿原先生たちには……」

美鶴「そうだな。一般の人たちはここへ立ち入らせないようにして貰いたい。彼らにはこれからも一階で休んでもらって、その間安眠出来るよう私たちがついているようにすればいい」

鳴上「わかりました」

美鶴「あと、鳴上にもこれを」


>美鶴からライドウが渡されたものと同じ通信機を貰った。


美鶴「なんとか特別課外活動部の人数分だけは用意が出来た」

美鶴「見回りの時はもちろん、私たちから離れている時はどうしているか、何か起こっているか、通信をまめにするよう心掛けて欲しい」

美鶴「もう、神郷たちのような事は起こってほしくない……」


>美鶴は項垂れる。


美鶴「……私はあの時、神郷の一番近くにいたというのに何も出来なかった」

美鶴「挙句、屋上に駆け付けるのも遅れた。もっと迅速に的確な行動出来ていれば……」

鳴上「それは……俺も同じです。神郷さんへの援護が遅れたせいで、あんな……事に……」

鳴上「……」

美鶴「……」

美鶴「いずれにしても、もう起きてしまった事だ。今更どうこう言っても仕方がないのかもしれない」

美鶴「だが、彼が私たちを守ってくれたように、私たちにも守るべき者たちがまだいる事を忘れてはならない」

美鶴「しかしそれでも、我が身を犠牲にしてでも……などと安易に思っては駄目だ」

美鶴「神郷たちがいなくなった事で我々が悲しんでいるのと同じで、君がいなくなれば悲しむ者がいる。その事を十分理解した上でこれから戦いに臨んでくれ」

美鶴「……もう、こんな思いをするのは御免だったのに……」

鳴上「桐条さん……?」

美鶴「……いや、すまない。とにかく、一刻も早くこの影時間から抜け出す方法を見つけよう」

美鶴「そうすれば、神郷たちの事もどうにか出来るのかもしれない」

鳴上「どういう事ですか?」

美鶴「確証はないからはっきりとは言えないが……神郷はJOKERに刺された後、どうなったと君は言った?」

鳴上「どうって、そのまま姿が消えてしまって」

美鶴「そう、あくまで『消えてしまった』、だったな?」

鳴上「!」

美鶴「私たちも彼が死んでいるところを見た訳ではない。あの妖精にしてもそうだ。藤堂さんも言っていた通り、文字通りこの場所から消えてしまっている、ただそれだけなのだとしたら……」

鳴上「ここではない何処かにいるのかも……実はJOKERに人質にされているとかそういう事もあるかも、って事ですか」

美鶴「……。私が、ただ彼らがいなくなってしまった事を認めたくないだけの戯言かもしれないが」

美鶴「それでもまだ可能性が1mmでもあるというのなら、私は彼らの事までそう簡単に諦めてしまいたくはないんだ」

鳴上「……」

鳴上「……そうだ。そうだよな」


>美鶴の言う通りだ。

>彼らの遺体でも上がらない限り、既にJOKERの手にかけられた神郷やトリッシュが亡き者になってしまったなどと思うのは早計なのかもしれない。

>勿論、これはもうどうにも出来ない事という可能性もある。

>いや、その可能性の方が高いのかもしれない。

>それでも……

>自分の両頬を手で叩く。

>ばちんと大きな音が響いた。

美鶴「な、鳴上!?」

鳴上「嘆くのは足掻くだけ足掻いて本当に何も出来ないと解ってからでいい」

美鶴「……」

鳴上「桐条さんのおかげでやっと目が覚めました。ありがとうございます」

美鶴「まったく、君という奴は……」


>美鶴は苦笑混じりに呟いた。


美鶴「やっと少し元気になってくれたようだな」

鳴上「……桐条さんも」

美鶴「ん?」

鳴上「桐条さんも、一人だけで無茶な事はしないで下さいね」

鳴上「さっきの言葉をそのままお返しします。桐条さんがいなくなったら悲しむ人がここにはいる事、忘れないでください。俺もその内の一人ですから」

美鶴「!」

美鶴「……、解った。ありがとう」


>美鶴は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに小さく微笑みを浮かべた。

>美鶴との距離が少し縮まったような気がする……



>『Ⅲ 女帝 桐条美鶴』のランクが6になった



>……

>今なら話のついでに美鶴に言えるかもしれない……


鳴上「……あの、桐条さん」

美鶴「どうした? また急に深刻な顔をして」

鳴上「貴女に折り入ってお話があるんですが」

美鶴「な、なんだ?」


>ずいっと急に美鶴に近寄ると、彼女は驚いたのかその動きに合わせて一歩後退した。


鳴上「……」

美鶴「お、おい……あまりこちらをじろじろ見ないでくれないか……」

鳴上「っ!」

鳴上「す、すみません……」

美鶴「……?」

美鶴「本当にどうした。まだ何か悩みでもあるのか? この際だ、私で良ければ聞こうじゃないか」

鳴上「……ありがとうございます。多分この話、桐条さんにしか相談出来ないような気がするんで」

美鶴「ふむ……それで? 具体的にはどういった事だ」

鳴上「それが、……何から話すべきかな」

美鶴「ゆっくりで構わない。君が私に伝えたい事を、私にはっきりと理解出来るように頼む」

鳴上「ん……」

>……本当ならこれは、特別課外活動部が結成されリーダーの役目を請け負った時点ですぐに言っておくべき事だったのかもしれない。

>今までそれで特に問題も起こら無かった……いや、自分の中では問題は解決したと思っていたからずっと口に出さずにいたが、今は状況が状況なのだ。

>もし、その油断が命取りになってしまったら。

>何かあってからでは、……まずい。

>せめて美鶴だけには知っておいてもらおう。

>不安に思わせてしまうだけかもしれないが……


鳴上「これは今だから言える事なんですが……俺、もしかしたら桐条さんたちの期待に応えられなかったかもしれないんです」

美鶴「私たちの期待、とは?」

鳴上「ペルソナ使いとして貴女たちに協力する事です」

鳴上「桐条さんは確か、俺が月光館学園に転入する為にこの地へやってくる前から俺がペルソナを扱えるという事を知っていたんですよね?」

美鶴「ああ、調べはついていた。だからわざわざこの寮に招いたという話は以前にもした筈だが」

鳴上「……。でも」

鳴上「俺、八十稲羽を離れてから……多分、その力を失っていたと思うんです」

美鶴「なっ……なんだって!? どういう事だ!?」

鳴上「もともと俺や八十稲羽の仲間はみんなテレビの中でしかペルソナを出した事がなかったから、現実世界でのペルソナ召喚というのに関しては不安定で当たり前だとは思うんですけど……そういう事じゃなくて」

鳴上「おそらく、寮でのシャドウ襲撃事件の時に危機的状況に陥ってアイギスに召喚器を渡されていなければ、再びあの力を使うような事は二度と無かったのかもしれません」

美鶴「あの時の事がきっかけでまた能力を覚醒する事が出来たというのか」

鳴上「はい」

美鶴「……。どうしてそれが君には解ったんだ? 自分が力を失くしてしまったかもしれないと。稲羽市を離れてからすぐにペルソナを出そうと試みた事があったのか?」

鳴上「そういう事でも無いんですが。……ただ、あれからずっと自分の中に妙な喪失感があったような気がして」

鳴上「それが多分そういう事だったんじゃないかと」

美鶴「喪失感……」

鳴上「それを裏付ける理由もあります」


>再び契約者の鍵を受け取った時にマーガレットが言っていた。


『お客様が以前まで使われていたペルソナ全書ですが、ページが全て白紙の状態に戻ってしまいました』


>この言葉の意味、今なら理解出来る。

>自分は自分のペルソナを気付かぬうちになくしてしまっていたのだ、と。

>ただ……


美鶴「では、その原因についても心当たりはあるのか」

鳴上「いえ、それは。……」

鳴上「だから、いつまたそんな事態になってしまってもおかしくはないのかもしれない。なので、……万が一の保険が欲しいんです」

鳴上「神郷さんから聞きました。神郷さんも自分の能力が安定していないから、ペルソナの制御剤を服用しているって」

鳴上「それを俺にも分けてもらう事は出来ないでしょうか」

美鶴「……なるほど、そういう話だったのか」

美鶴「だがあいにく、私の手元にはあれは無いんだ。神郷の部屋になら予備で置いてあるかもしれないが……」

美鶴「だが、私個人としてはあまりあれを勧める事はしたくない」

鳴上「どうしてですか?」

美鶴「あの薬は身体への負担も大きい。研究と開発を重ねて大分まともにはなったが、鳴上に合わなければどういう副作用が出るか解ったものではないんだ」

美鶴「神郷があれを所持してたのはあれが彼の身体には合っていたからだし、彼が飲んでいたのは実際開発している物とは別に神郷用に多少調整もしてある物の筈だ」

鳴上「そう、なんですか……」

美鶴「すまない、力になれなくて」

美鶴「だが君の能力に関してのこれまでの事情は把握した。今のところは問題無さそうか?」

鳴上「ええ、今のところは。だって、……ッ!?」

鳴上「え……?」

美鶴「鳴上?」

鳴上「……解った」

美鶴「解った? どうして能力を失っていたのかが、か?」

鳴上「そ、そうじゃなくて!」

鳴上「違和感の正体が! やっと解った……!」


>違和感。

>昨夜、ライドウたちと屋上にいた時にふと感じた、違和感。

>あの時

>あの時、自分は……


――ジジッ――


鳴上・美鶴「!」


>その時、耳に付けていた通信機のイヤホンからノイズが届いた。


ライドウ『――桐条さん。応答願います、桐条さん』

美鶴「ライドウか? どうした」

ライドウ『……が……』

美鶴「なんだ? よく聞こえない」

ライドウ『……と……わしき……が……』

ライドウ『JOKERと思わしき人物が、近くに』


――ブツッ


>そこでライドウからの通信は途切れた。


必死に書いてた書き溜めをごっそり消失してしまった、死にたい

という訳で久しぶりなのですが短めで終わります

加えてただいま>>1の私生活が非常に不安定ですので投下の方もしばらく安定しないかもしれません

投下があるとしたら土・日辺りの可能性が高いかもです

では、また次回

美鶴「ライドウ!? おい、ライドウ!」


>美鶴が呼びかけてもそれ以降の返事は聞こえなかった。


美鶴「っ……」

美鶴「ラビリス、天田。今の通信を聞いていたか」

天田『はい』

ラビリス『そらもう、バッチリ』


>今度はラビリスと天田の声がイヤホンから聞こえてくる。


ラビリス『どうするんや、美鶴さん。このままやと、ライドウが危ない!』

美鶴「解っている。二人はまたすぐに四階まで……いや、屋上まで来てくれ。望月らの前で正面の入口から堂々と外へ出ていく訳にはいかないからな」

美鶴「アイギスとメティスはこの場で待機。藤堂さんたちへ事情の説明と、ここに残っている者へのフォローを頼む」

アイギス・メティス『了解』

美鶴「……鳴上、君はどうする?」

美鶴「我々と共に来ればおそらく君もまたJOKERと対峙する事になる。さっきは平気だとは言っていたが、ここぞという時に力が発揮出来ないという不安があるのかもしれないなら……」

鳴上「いいえ、大丈夫です」

鳴上「今に限っては、その可能性は低いかと」

美鶴「……? ついさっきまでと違って随分自信があるようだが」

美鶴「それはもしや、君の言った『やっと解った』事と関係があるのか」

鳴上「……ええ、まあ。そんなところです」

鳴上「だから俺もライドウのところへ行きます。連れていってください」

美鶴「……。解った。では、我々も屋上へ行くぞ」


>美鶴が一足先に屋上へと続く階段を駆け上っていく。

>……

>服の下に隠してある、常に携帯していたそれを手に取って確認した。


鳴上「召喚器。今はこれもあるからな。桐条さんと話をするまで忘れてたけど」

鳴上「……。どうして俺はあの時……」


>下の階段から足音が聞こえてくる。

>ラビリスと天田のだろう。


鳴上「……それを考えている時間は、今は無さそうか」

鳴上「行こう」


>……

美鶴「ラビリス。ライドウがいる位置の特定は出来るか」

ラビリス「ちょっと待って。……うん、大丈夫や。思ったより近くにいるわ。ここは……巌戸台駅近辺やな」


>屋上から、装備されているアームチェーンを利用してラビリスに下まで降ろして貰った後、彼女によってすぐにライドウの居場所が判明した。

>今渡されている通信機にはGPSが搭載されていて、アイギスやメティスにもこの通信機を持っている人間なら何処にいるのか解るようになっているらしい。


ラビリス「みんなついてきて!」


>ラビリスに誘導して貰い、ライドウの元へと急いだ。

>……



巌戸台駅周辺


ラビリス「いた! あそこや!」

鳴上「ライドウ!」


>前方に刀を構え睨み合っている二つの影があった。

>一つは黒い外套の男、もう一つは紙袋を被った男だ。

>そして、そこから少し離れたところには一匹の黒猫もいる。


美鶴「JOKER! 今度の貴様の狙いはライドウか……!」

天田「神郷さんたちの仇、ここでとらせて貰うからな!」

ゴウト『……やはりこの面妖な男がJOKERか』

ライドウ「……」

JOKER「ああ? 何だよ、次から次へとぞろぞろやってきやがって」

JOKER「まあこっちから出向く手間が省けて楽でいいけどな。このデビルサマナーとかいうのも邪魔だが、次は――」

JOKER「……!?」


>JOKERは美鶴の方に顔を向けて何か言葉を言いかける。


美鶴「なるほど、まずは女の私から狙おうという気か。確かにこの面子の中から選ぶなら妥当だ、と言いたいところだが……私も随分と甘く見られたものだな!」


>美鶴は素早く召喚器を抜き、銃口をこめかみにつきつける。

>そして彼女のその動作とほぼと同時に、美鶴の方へと意識が向いていたJOKERのその隙をついてライドウが距離を詰めた。


JOKER「――!!」


>ライドウの赤口葛葉が見事にJOKERの体を切り裂いた――ように一瞬見えたがそれは残像で、JOKERは何時の間にかまったく別の離れた場所へと移動していた。


ライドウ「!」

ゴウト『こ奴……小賢しい真似を!』

JOKER「……」

鳴上「……?」


>JOKERの意識が今度はライドウの方へといくが、それは一瞬の事で、またすぐに美鶴の方へと向くと舌打ちするのが聞こえてきた。

JOKER「チッ……また余計な事をしやがったか。予定が狂ったじゃねえか!」

美鶴「……?」

鳴上「何を一人で訳の解らない事を言ってるんだ!」

JOKER「おいテメェ、あのピエロ野郎に会ったんだろ!」

鳴上「!」

ライドウ「ピエロ……?」

鳴上「……もう一人のジョーカーを名乗る男の事か」

JOKER「ああそうだ。あのいけすかねえ野郎だ!」

JOKER「今度会ったらアイツも、そこのデビルサマナーも、何もかも! 全部まとめて俺が消してやる!」

JOKER「必要ねえんだよ、お前らなんか」

JOKER「……アバヨ。また近いうちに遊びに来てやるぜ」


>そう吐き捨てながらJOKERは一瞬のうちにこの場から姿を消した……


鳴上「なっ……くそっ! また逃がしたか!」

ラビリス「……。あいつ……」

天田「ライドウさん! 怪我はありませんでしたか」

ライドウ「ああ」

ゴウト『腐っても葛葉のデビルサマナーだ。あれしきの賊にどうこうされる様な男では無いわ』

美鶴「……」

美鶴「鳴上。さっきのピエロがどうとかいう話は一体なんだ」

ライドウ「それは自分も気になった。詳しい事を聞かせて欲しい」

鳴上「……」

鳴上「実は……」


>屋上で出会ったもう一人のジョーカーについての話をした。

>……


美鶴「願いを叶えにきた、か。……胡散臭い話だな。君の話だけでは、信用出来るに足る人物なのか測りかねる」

天田「ですね。少なくとも、僕らと同じであの紙袋の男を敵視しているってのは解りましたけど」

ラビリス「願いを叶える……ジョーカー……?」

ラビリス「それってウチが学校で聞いた噂話に出てきたジョーカー様なんと違う!? 電話で呼んだ人の願いを叶える怪人!」

天田「あっ、その噂、僕も学校で聞いた事あります! でも、そんな……!」

鳴上「……」

鳴上「俺もそうなんじゃないかって一瞬思った。でも、そうだとするなら誰かがあのまじないの手順を踏んで、ジョーカー様を呼んだって事だよな」

鳴上「あの寮に集まっている中の誰かが」

美鶴「危機的状況に陥り極限状態になって、この時間から抜け出したいと願うあまりそんな眉唾ものの話を試した者が誰かいて、結果本当にその怪人が出てきた……とでも?」

鳴上「ありえない話ではないと思います。影時間がどうこう以前に、この港区においては噂は脅威だった筈ですから」

美鶴「ふむ……これは戻ったらみんなに話を聞く必要がありそうか」

美鶴「もし本当にそんな事をした者がいるのなら怪人に願った詳しい内容も含めて、な」

ゴウト『……ライドウ』

ライドウ「ああ」

鳴上「どうした?」

ライドウ「その道化師の方のジョーカーだが。恐らく、自分が昨夜見た人影の正体が……その人物ではないかと思う」

鳴上「白い詰襟の!? まあ、確かにそんな服装だったけど……」

ライドウ「……」

ライドウ「さっきも、見かけた」

鳴上「!」

ライドウ「君たちがここに駆け付ける少し前だ。道化師のジョーカー、それに紙袋のJOKERが……互いに争っていた」

ライドウ「しかしその途中、紙袋の方が自分達が此処に居る事に気付いて」

ゴウト『その隙に、道化師の方は姿を消してしまったのだ』

鳴上「二人が争っていた……」


>だとすると、ピエロの方のジョーカーは自分たちの味方だというのは間違いないのだろうか……


ライドウ「それからもう一つ、気になる事が」

鳴上「なんだ?」

ライドウ「……何故、あの紙袋は自分がデビルサマナーだと知っていたのか」

ゴウト『ライドウからそうだと名乗ってはいないし、管も出さなかった。どういう事だ……』

鳴上「……」

美鶴「ともかく、今は寮に戻る事にしよう。こんなところにいて、また悪魔に襲われてはたまらない」

鳴上「そう、ですね。話をするだけなら安全な場所がいい」

ライドウ「……では、行きましょうか」


>……


学生寮 屋上



ライドウ「では、話に進展があったらまた報告の方を宜しくお願いします」

美鶴「ああ。君も些細な事でもまた何かに気付いたら通信で知らせてくれ」

ライドウ「了解しました」


>ライドウと別れ、一度ラウンジに戻る事にした。

>なんだかんだで一時間近く外へ出ていた。

>それに自分は夕方からずっとみんなに姿を見せていない。

>綾時やあかりたちなんかに、何か怪しまれていないか不安だ……

>……



学生寮 ラウンジ


綾時「あ、鳴上くん。おはよう」

鳴上「……?」

鳴上(おはよう?)

アイギス『綾時さんには、悠さんたちは四階に仮眠をとりにいったという事にしてあります』

鳴上「!」

>イヤホンからアイギスの声が聞こえてくる。

>綾時から少し離れた場所で気付かれないよう小声で通信してくれているようだ。


アイギス『実際には、園村先生と藤堂さんが四階の作戦室へ。あかりさんは、メティスがあの子の部屋で寝かせています』

アイギス『あかりさん、相当疲れていた様子だったのでベッドで休んだ方が良いかと思いまして……』

鳴上(あかりが……? 心配だな)


>ラウンジを見渡してみた。

>橿原、ヴィンセント、チドリも眠っていて順平はチドリの傍でその様子を見守っているのが確認できる。

>パオフゥと周防はカウンター席になっているところにそれぞれ座っていた。

>パオフゥは相変わらず自分のノートPCで何かをしているようだ。


鳴上「望月は休まなくていいのか?」

綾時「……ん。僕はまだいいよ。なんだかそういう気分じゃないし」

美鶴「例の話は皆が起きている時にした方がいいか」

鳴上「そうですね」

綾時「何の事?」

鳴上「ちょっと、な。また後で話す」

天田「なんかお腹空いたなあ。缶詰のものでも軽く何か用意しましょうか」

ラビリス「あ、じゃあウチも手伝う!」

天田「え……ラビリスさんが?」

ラビリス「なんやのその顔は! 缶詰ならウチだって開けられるって!」

天田「それもそうか」


>天田とラビリスはラウンジからまた離れていく。

>美鶴はアイギスのいる方へと行ってしまった。


綾時「鳴上くん。暇だからちょっと付き合ってよ」

鳴上「うん?」


>綾時は何時の間にかトランプを用意していて、慣れた手付きでカードを切っている。


綾時「ほら、座って座って!」

鳴上「ん。ああ……」

綾時「そうだなあ。ポーカーでもやろうか」


>同意も得ないままに、テーブルの上にカードが配られる。

>……まあ、少しの息抜きでやるくらいならいいだろうか。

>……

綾時「強いな、鳴上くん」

鳴上「望月こそ。でも、こんなの運もあるんじゃないか」

綾時「まあね。ポーカーって心理戦の筈だけど、今はレイズところがベットもしてないしねえ。ルールも割と適当。気楽なもんだ」

綾時「まあそれでも勝負するなら負けるのは嫌だけど」

鳴上「そりゃそうだ。三枚ドロー」

綾時「僕は二枚」


>もう何度かゲームを続けたが、そのいずれも綾時の表情やカードの捨て方から彼の手の内がどんな塩梅なのか探る事はほぼ出来なかった。


綾時「……!」


>そんな彼だった筈なのだが、……ここで初めて表情に変化が現れた。

>カードを交換し終えた後、手札を見てしばし硬直したのだ。


鳴上(ん? これは……いけるか? こっちの手も良い具合だし)

綾時「……」


>綾時はじっと手札を見つめていたが、それを全部テーブルに伏せて僅かながら俯いた。


鳴上「どうした」

綾時「……」

鳴上「……望月?」


>本当に急な事だった。

>さっきまでは普通にしていたのに、突然火が消えたかのようになってしまったのだ。

>顔色も何処か青いような……


鳴上「おい、具合でも悪いのか。やっぱり遊んでないで休んだ方が……」

綾時「……鳴上くん」

綾時「一つ、聞いて欲しい話があるんだ」

綾時「まさか、とは思うんだけど……今は何が起きても不思議じゃないみたいだから」

鳴上「……?」

鳴上「いきなり何だ。……今、するべき話なのか」

綾時「うん。多分、ね」

鳴上「……」


>綾時と同じように、テーブルにカードを伏せて彼が話を切り出すのを待った。

>しばらくしてから、綾時は息を吸った。


綾時「もしかしたらこんな事になったのは、こんな世界に閉じ込められたのは」

綾時「……僕のせい、なのかもしれない」

鳴上「!?」

>綾時の言葉が聞こえていたのか、ここから少し離れた場所に座っていたアイギスと美鶴もこちらの方へと驚いたように顔を向けた。


鳴上「それはどういう意味だ」

綾時「もしかしたら、鳴上くんも聞いた事あるかもしれない。学校で噂になってたみたいだし、僕も同級生の女の子から聞いたから」

綾時「……」

綾時「あの紙袋の変な奴がJOKERって名乗ったあとで、それを思い出したんだよ」

綾時「ジョーカー様のおまじないってやつ」

鳴上「!」

鳴上「自分の携帯から自分の番号にかけると願いを叶えてくれる怪人が現れる、か?」

鳴上(それとも……)

綾時「そう。それ」

綾時「それでね。……僕、夏休みが終わる直前にそれを実行しちゃったんだ。ほんの軽い気持ちで」

綾時「どうか夏休みが終わりませんように、ってさ」

鳴上「……!」

綾時「もちろん、その時は怪人なんて現れなかったんだよ。留守番サービスに繋がって自分のメッセージが入っただけでさ」

綾時「でも8/32なんて変な時間になってるのって、まるで9月になるのを拒んでるみたいじゃないか」

綾時「僕がそう思ったように……」

鳴上「望月、お前……」

綾時「この夏はさ、今までにないくらい楽しい事が色々あったんだよね。鳴上くんたちと旅行に行ったし、夏祭りで遊んだり」

綾時「でもそれだけじゃ満足しきれなかったのかそんな風に思っちゃって。もっと遊ぶ時間があればいいのになあって」

綾時「……高校生活最後の夏休みが過ぎていくのが寂しくてね」


>綾時は無理に笑おうとしている。


綾時「でももし、僕があんなおまじないをしたせいでこんな状況になっているなら、どう責任をとればいいのか……」

鳴上「……」

鳴上「考えすぎだ」

綾時「え?」

鳴上「そんなの考えすぎだ。変な事が起こりすぎてて疲れてるからそんな風に思うんだろ」

鳴上「大体、夏休みが終わって欲しくないなんて誰でも一度は考える事だ。俺だってそうだったしな」

綾時「鳴上くん……」

鳴上「やっぱりお前少し寝ろ。……うん、ちょっと熱っぽい気がするな」


>綾時に額に手を当てて体温を確かめてみる。


綾時「ん……そういうのなら、そうしようかな」

綾時「……」

綾時「ありがとう、鳴上くん」


>綾時は弱々しげに笑みを浮かべた。

>綾時の事が、また少し解ったような気がする……



>『Ⅵ 恋愛 望月綾時』のランクが6になった

鳴上「よし。じゃあもうトランプも終わりな」

綾時「あ、待って! この最後の勝負してから」

鳴上「なんだ、自信がある手だったのか? 俺はてっきり……」

鳴上「ま、俺もこんな手だけどな」


>そう言って、伏せていたカードを全部表にする。


鳴上「キングのファイブカードだ」

綾時「ファイブカード……ん? キング? ファイブカード?」

綾時「あ、あれ?」


>綾時が慌てて自分の手札を全部返す。


鳴上「ワンペアだな」

綾時「……ワンペアだね。ジャックの」

鳴上「あ、でもこの手ってキングがくれば……ロイヤルストレートフラッシュじゃないのか!?」

綾時「そうなんだよ! それでさっきカードを交換した時にキングの代わりにジョーカーを引いたような気がしたんだけど」

綾時「……見間違いだったみたいだね」

鳴上(なるほど。それで、あんな話を突然……)

鳴上「ほらみろ。やっぱり疲れてるんだ」

鳴上「……そうだ。桐条さん」

美鶴「!」

美鶴「あ、ああ。どうした」


>黙ってこちらの様子をじっと窺っていた美鶴が、突然声をかけられて驚いたように返事をした。


鳴上「望月を、俺の部屋でゆっくり寝かせてやりたいんですけど、いいですか? 俺も部屋に一緒にいますんで」

美鶴「そうか。その方がいいかもしれないな。顔色も良くないようだし、ベッドで安静にするといい」

綾時「え……そこまでしなくていいのに」

鳴上「いいから。行くぞ」


>トランプの片付けもしないまま、綾時を引っ張るようにして自室に向かった。

>……



自室


綾時「鳴上くんの部屋か」

綾時「ここも久しぶりのような気がするなあ」

鳴上「え? 久しぶり?」

綾時「最後に来たの何時だったっけ」

鳴上「ちょっと待て。俺、過去に自分の部屋まで望月を通した覚え無いんだか」

綾時「えっ」

綾時「……んん? そうだったっけ」

鳴上「お前本格的におかしいぞ。熱上がってきたんじゃないか? さっさと休め」

綾時「んー、あははっ、そうかもねー」

綾時「じゃあ遠慮なくベッド使わせてもらうよ。おやすみ」


>綾時は靴を脱いでベッドの中に潜り込んだ。

>それから彼の寝息が聞こえてくるまで、そう時間はかからなかった。

>先程の告白で抱えていた不安を吐き出した事もあって、糸が切れてしまったのかもしれない。


鳴上「まったく。案外世話の焼ける奴だな」

鳴上「まさか望月がジョーカー様をやっていたとは……」

鳴上「いや、でも。望月が原因だとまだ決まった訳じゃないのは本当だからな」

鳴上「……」

鳴上「……さて、と」


>部屋の電気を消し、その代わりにデスクの上にあるPCの電源を立ち上げた。

>せっかく自分の部屋にいるのだ。

>ずっと気になっていた事を少し調べてみようと思った。

>……


鳴上「……うん。ネットは普通に接続自体は出来るみたいだな」

鳴上「ただし、ニュースサイトなんかは載っている記事の内容が8/31のもので止まっている、と」

鳴上「辰巳ちゃんねるも、どこの掲示板も8/31の23:59が最新の書き込みでそれ以降は……ん?」

鳴上「なんだ。これは……鬼女板!?」

鳴上「今までこんな掲示板あったか? ……」

鳴上「!?」

鳴上「8/32の書き込みが沢山ある! どういう事だ!?」

鳴上「一体、どこの誰がここに書き込んで……」

鳴上「……え?」

鳴上「主人がどうの、一夫多妻がどうの……わ、わけがわからない内容しかない」

鳴上「ただ雑談してるだけみたいに見えるけど、でもこの影時間の中でなんでここだけ機能してるんだ」

鳴上「……後でパオフゥさんに相談してみようかな」

鳴上「……」

鳴上「……ふぁ」

鳴上(少し眠くなってきた……かも……)


>本当は過去に実際起こったJOKERによる殺人事件の事などネットでもっと詳しく調べたいのだが……

>睡魔がそれを許してくれそうにない。

>いや、しかしこんなところで転寝する訳には。

>――そんな風に葛藤していた時に、その音は部屋に響いたのだった。

バチィッ


鳴上「!?」


>何かが弾けるような大きな音。

>それに驚いて、思わず椅子から立ち上がる。

>……おかげですっかり頭も冴えた。

>ベッドで眠る綾時はそんな事に気付きもしないままぐっすりのようだった。

>そして再度、バチバチという音が連続して部屋に聞こえる。


鳴上「まさかこれ、幽霊が出る時にするっていうラップ音ってヤツじゃ」

鳴上「……あ!?」


>部屋の隅に、自分と綾時以外の誰かを……見つけた。

>この部屋に出てくる幽霊といえば、決まってあのイヤホンの少年だったがそれとは似ても似つかず。

>しかし、自分達を狙って唐突に現れるJOKERでも無かった。

>それは小さな女の子だったのだ。

>頭には大きなリボン。白い服を着て、熊のぬいぐるみを持った女の子が……部屋の隅で泣いているのだ。


『――けて――』

『助けて――!』

鳴上「ッ!!」


>ズドンッっと、大きな音がして天井が揺れたのはその直後だった。


終わります

また次回

>>1です

投下の時間が空いてしまっていて申し訳ないです…

あともう少しの間留守にしますが、この一週間のうちに一度投下出来ればと思います
11月に入れば投下ペースも上げられると思いますのでしばしお待ち下さい

ではまた

鳴上「なんだ今の変な揺れ……」

鳴上「!?」


>気を取られている間に部屋の中のラップ音はなくなり――白い女の子も消えていた。

>……

>妙な胸騒ぎがする……


鳴上「おい、望月! 起きてくれ、望月!」

綾時「……ううん?」

鳴上「寝たばかりなのに起こして悪い。ちょっと様子が変なんだ。ここで一人にさせたくないから一緒に来てくれ」

綾時「え……」

鳴上「鳴上だ。今の建物の揺れ、原因が解る人は? 上の方が揺れた気がしたが……」


>部屋の扉から顔を出し、二階の廊下を見渡しながら通信機を使って呼びかける。

>二階には特に異常は見られないようだった。


美鶴『こちらは一階。異常無しだ』

メティス『メティスです。三階も異常はありません。鳴上さんの言うように、私も上の方が揺れたような気がします』

鳴上「という事は……」

ライドウ『此方ライドウ』

鳴上「ライドウ!」

ライドウ『屋上には異常は無い……自分には、下の方が揺れたように感じたが』

鳴上「……!」

鳴上「なら、揺れの原因は四階か!?」

鳴上(四階には確か……作戦室に藤堂さんと園村先生が……!)

鳴上「みんな一人にならないようにして来れる人は四階まで急いでくれ!」


>ここで一度通信を切った。


鳴上「早く部屋から出ろ!」

綾時「えっ、う、うん!」


>綾時の腕を強引に引き、階段まで一気に走る。

>そこでちょうど、上がってきた美鶴たちと合流した。


鳴上「桐条さん! 一階で寝ていた人たちは?」

美鶴「みんなさっきの揺れで起きてしまったようだ。だが、伊織やパオフゥ氏、それと天田が下で一緒にいる」

美鶴「彼らは一緒に上へ連れて行くよりあの場に残した方が危険でないだろう」

鳴上「そうですね。その三人が一緒にいるなら安心だ。……望月、お前も一階に行くんだ」

綾時「え……ええッ? 何! どういう事なの!?」

アイギス「綾時さん、こちらへ一緒に!」

綾時「ちょっ……アイギスさん!?」

綾時「鳴上くん!」

ラビリス「リョージは下で大人しくしとき!」

美鶴「アイギスもそのまま下で待機だ!」

アイギス「了解です」


>綾時は訳を理解出来ないままアイギスに下へと連れられていく。

>残された美鶴とラビリスと連れ立って、四階を急いで目指した。

>……


四階 作戦室前


>作戦室の扉が半開きになっている……

>……!

>その隙間から宙に浮いている麻希の姿が見える!

>勢いそのままに作戦室に突入した。


鳴上「園村先生!」

麻希「っ、ぐ……あっ……」


>そこにはJOKERに片手で襟首を掴まれ締め上げられている麻希と、壁に凭れ掛かって立てないでいる藤堂がいた。


美鶴「藤堂さん!?」

藤堂「くっ……!」


>藤堂は頭から血を滴らせながら起き上がろうとしているが、まるで壁に縫い付けられているかのようにそこから離れられずにいる。


藤堂「園、村……ッ」

鳴上「っ……ペルソナ! キクリヒメ!」


>召喚したペルソナをJOKERへ向かわせる。

>……が、それはJOKERがもう片方の手に携えていた刀でいとも簡単に食い止められてしまう。

>JOKERはその場から一歩も動く事も体勢を崩す事もなく、腕を動かすだけで自分のペルソナを薙ぎ払ったのだ。


鳴上「なっ……!?」

JOKER「お前の力がオレに通用する筈がねェだろ。いい加減悟れよ」

JOKER「……ホントウゼエよ。とっととやる事やって次に行かせてもらうぜ」

麻希「うぐっ……」


>JOKERの腕に力が込められ麻希の表情が一層歪むのが見えた。


鳴上「やめろ!!」

藤堂「っ……、ペ……」

鳴上「……!?」

藤堂「……ペル……ソナ……!」

鳴上「藤堂さ……」

藤堂「来い……ヴィシュヌ!」

>見えない力で壁に縫い付けられたままでいる藤堂の身体が光った。

>彼の内に眠る力が徐々にその姿を現していく……!


藤堂「天驚地爆断!」


>藤堂のペルソナ、ヴィシュヌの技がJOKER目掛けて放たれる。

>――それとほぼ同時に、JOKERは麻希の身体を盾にするように振り回して

>彼女に向けて背後から刃を突き立てた……

>……


――その扉を くぐれば 誰でも
約束の地に たどり着ける
悲しみも 苦しみも 一切の不安もない
永遠の幸福へと 導いてくれる……

『楽園の扉』


>意識が、記憶が、流れ込んでくる。

>これは……


『ねえ、見て見て。きれいでしょ。これねえ、ママがお誕生日に買ってくれたの! 私の宝物なの……』

『あんな人……あんな人、私のお母さんじゃない!』

『……パパの邪魔はさせないんだから!』

『お兄ちゃんは、何で生きてるです? 生きるって、苦しくない……?』

『……無駄よ。私も無駄、あなたたちも無駄……こうして在る事に意味なんてないの』

『時々……ううん、私のこと忘れないでね。大好きよ』


>その一つ一つはどれも断片的で繋がりはない。

>向けられる言葉も自分に対してのものではないようだ。

>だからこれは何のヴィジョンなのかまでは理解出来ない。

>しかし、そこに映っている少女たちは、容姿や年齢、性格に様々な違いはあれど――どれも園村麻希のように見えた。

>……そういえば、小さい麻希の姿が、さっき自分の部屋で見た白い女の子の幽霊と似ている……ような……

>……


鳴上「――!」

鳴上「園村……先生……?」


>半壊した作戦室に既にJOKERの姿は無かった。

>そして、JOKERに捕えられていた麻希の姿も……


ラビリス「そんな、ウソやろ……!?」

藤堂「……その……むら……っ」

鳴上「藤堂さん!?」


>藤堂は意識を失い、その場に崩れ落ちた。

>彼を捕えていた見えない力は今は無くなり、床へと身体が放り出される。


美鶴「くっ……またこんな事……!」

――ザザザ……


>今さっき起こった出来事に落胆する間も無いまま、通信機のイヤホンからノイズが届いた。


メティス『貴方、また性懲りも無く……!』

美鶴「どうした、メティス!?」

ラビリス「まさか……!」


>JOKERは言っていた。


『とっととやる事やって次に行かせてもらうぜ』


鳴上「まさか、次はメティスを!? ……いや、まて。確か、メティスと一緒に……」

あかり『きゃあっ!』


>イヤホンから遠くではあるがあかりの悲鳴が聞こえてくる。


鳴上「急いでメティスたちのところへ……、っ!?」


>作戦室から飛び出そうとした時、何故か急に体から力が抜け膝を着いてしまった。


ラビリス「悠!? どうしたん!」

鳴上「いや、なんでも……ない」

美鶴「……。君はここに残っていろ」

鳴上「でも、メティスたちが!」

美鶴「私とラビリスが行ってくる。それに藤堂さんをここで一人にさせておく訳にもいかない。大人しく一緒に待っているんだ」

ラビリス「せやな。話してる時間も惜しいわ! 美鶴さん、はよ行こ!」

鳴上「桐条さん! ラビリス!」


>二人は呼ぶ声に返事をしないまま作戦室から出て行った。


鳴上「……くそ」

鳴上「チェンジ、――サトゥルヌス」

鳴上「……頼む効いてくれ。メシアライザー」


>藤堂の身体に一か八か、回復魔法を試みる、

>……


鳴上「……!」

鳴上「良かった、治ってる!」


>意識を取り戻すまではいかないものの、JOKERによって負わされた傷は塞がってくれたようだ。

>あとは彼の目が覚めるのを待って詳しい話を聞かねば……


ザザ――ザザザ――ッ

鳴上「!」

あかり『あなた……あなた、まさか……でも、そんな筈は……』

鳴上「あかり……?」


>メティスの通信機がまたあかりの声を拾っているようだ。


あかり『レオ様……レオ様なの!?』

鳴上「え……?」

鳴上「誰だ、レオ様って……」

あかり『えっ……!』

メティス『なっ……悪魔まで……!』

あかり『メティスちゃん待って! この子は……この子は違うの!』

あかり『べるちゃん!!』

鳴上「……なんだ!? 何が起こっている!?」

鳴上「おい、メティス! どうなって……」

あかり『きゃああああッ!!』

鳴上「っ……!」


>……


>身体が熱い……苦しい……

>辺りは真っ赤で……

>これは、なんだ……

>……炎?


『いやぁああー! 助けてぇー!!』


>……


『レオ様ぁ!! どうして火をつけたの!? あかりの事も殺すつもりだったの!? レオ様、どうしてぇ!!』

『なぜかだと……それはなあ……ガキが大っ嫌いだからだよぉぉっ!!』


>少女がトレンチコートに仮面をつけた男に羽交い絞めにされている……!

>少女の方は彼女自身が口にした名の通り星あかりのように見えるが、自分が知るあかりよりも少し幼いような気がした。

>そして、男の方だが……

>レオ様。

>あかりらしき少女は彼に対してそう呼びかけていた。

>さっき通信機から聞こえてきたあかりの声が言っていたのと同じ名だ。

>それに男の着るコート……見覚えがある。

>あれは、JOKERの着ていたものと同じだ。

>男は仮面を取り、――その素顔を曝した。

>……

鳴上「ッ……!?」

鳴上「今の、は……」

鳴上「さっきから何なんだ……俺は、一体……」


>くらくらしている頭を片手で抱える。

>時々不意に見える光景は何を意味しているのだろうか。

>いや、そもそも何故あんなものが見えるのだろう……


鳴上「……っ、そうだ、あかりは!?」

鳴上「おい、メティス! あかりは無事か!?」

鳴上「返事をしろっ、メティス!」

メティス『……そん……な……』

鳴上「メティス!?」

美鶴『……こちら桐条』

鳴上「桐条さん! そっちの様子は!?」

美鶴『っ……』

ラビリス『メティス! しっかりしい!』

メティス『……。鳴上さん、ごめんなさい……』

メティス『私、あかりさんを守れなかっ……』

美鶴『お、おい!』

ラビリス『メティス!?』

鳴上「っ!? メティス……メティス!」

鳴上「……ッ、あかり……」

鳴上「なんなんだよ……どうして次から次へと、みんながこんな目にっ……!」


>……


屋上


ライドウ「なるべく詳しく状況を教えて欲しい。……君達に辛い事を思い出させたくは無いが」

メティス「大丈夫です。……ちゃんと話します」

鳴上「……」

鳴上「藤堂さんはまだ意識を取り戻していないから、俺たちが駆け付ける前に作戦室で何があったのかまではまだ解らないけどな」


>あれから少し場が落ち着いたのを見計らって、ライドウに事の全てを話しに屋上までメティスとやってきた。

>メティスも藤堂と同じくあれから気を失っていたのだが、すぐに意識を回復していた。

>……とは言っても、まだ顔色は優れていないように見える。

>あまり無理はさせたく無かったが、メティスは平気だと言って一緒にここまで来たのだった。

>……

ゴウト『……ふむ。それで、作戦室から姿を消した後に今度は娘の前にJOKERは姿を現した訳だな』

メティス「はい。それで、……急にあかりさんの様子がおかしくなったんです」

ゴウト『というと?』

メティス「私にもよく解らないのですが、あかりさん……JOKERの正体を知っているかのような素振りが見えて」

鳴上「レオ様。あかりはJOKERの事をそう呼んだんだよな?」

メティス「ええ。半信半疑、といったような感じでしたけれども確かにそう言っていました」

ゴウト『レオ……それがJOKERの真の名かもしれぬというのか。しかし何故その娘はJOKERの正体に気付いたのだ?』

メティス「それは……ごめんなさい、見当がつきません」


>メティスは首を横に振り肩を落とした。


ライドウ「その後の事をもう少し詳しく教えて頂きたい。確か、悪魔まで……と君が口にしたのを聞いた気がしたが」

メティス「そうなんです。JOKERの次は急に悪魔まで現れて。それで、私は最初JOKERが悪魔を呼んだのかと思ったのですが……」

メティス「どうやらあかりさんはその悪魔の事も知っていたようなんです。べるちゃん、って呼んでいました」

ゴウト『ベルチャン……はて、そんな名の悪魔はいただろうか。それで?』

メティス「その『べるちゃん』は、あかりさんの事を守ろうとするように彼女の盾になって……彼女と一緒にJOKERに切られ」

メティス「……消滅しました」


>僅かに沈黙が訪れる……


ライドウ「……。部屋の中に、JOKERの手先の者ではない悪魔……か」

鳴上「……? どうかしたのか、ライドウ」

ライドウ「もしかしたら」


>ライドウは外套の下から一本の管を取り出しその封を解いた。


ゴウト『そういう事か。確かに試してみる価値はあるか』

鳴上「……?」


>翠色の輝きの中から、白と黒二色の体毛を纏い首輪を着けた狗が現れる。

>ライドウの仲魔だ。


ライドウ「ドアマース」

ドアマース「やあっとあたしの出番? で、何すればいいのライドウゥ」

ライドウ「そこの扉だ」

ドアマース「扉ぁ? ああ、壊せって事」

ライドウ「違う」

ドアマース「へ?」

ライドウ「そこの扉から建物の中へ入るんだ」

ドアマース「そう。それで?」

ライドウ「それだけだ」

ドアマース「……はああ? 久しぶりに呼んでくれたと思ったら、たったそれだけえ!? 戦うとかじゃなくてえ!?」

ライドウ「確かめたい事がある」

ドアマース「……」

ライドウ「頼む、ドアマース」

ドアマース「……ま、まあ、ライドウがそこまで言うんなら? そうしてあげない事もないけど?」

ゴウト『ならばさっさとせんか、狗魔』

ドアマース「うっさい、ネコマ! アンタには言って無い!」

ライドウ「ドアマース」

ドアマース「……わ、わかったよう! この建物の中に入ればいいんでしょ! 入れば!」

ドアマース「もう……」


>ライドウの仲魔は、その姿が狗だとは思えないほど前足を器用に使い――屋上の出入口の扉に触れ、ノブを捻った。

>そして何事もなく屋上から姿を消す。


ライドウ「やはりそうか。この可能性を今まで見落としていたとは……」

メティス「これは……ライドウさんやゴウトさんは無理でも、ライドウさんの仲魔なら寮の中へ行けるって事ですか!?」

ドアマース「ライドウゥ! なんなのさ、この中! ただ居るだけですっごく気持ち悪くなるよ!」


>少しして、ドアマースが勢いよく扉を開いて屋上へと戻ってきた。


ライドウ「だが、中に入る事は出来たな?」

ドアマース「ライドウも見てただろ、そんなの当たり前……キャンッ!?」


>ライドウの掌がドアマースの頭を触る。

>それと同時に尻尾が大きく跳ねたのが見えた。


ライドウ「良くやった」

ドアマース「べ、べつにこんな事で褒められても嬉しくないし」

ライドウ「お前を見込んでもう一つ、頼みがある」

ドアマース「な、何? 今だったら、まあ……聞いてあげない事もないけど」

ライドウ「自分に代わって鳴上達の傍に居るんだ」

ドアマース「どういう事? ライドウは一緒じゃないの?」

ライドウ「自分は無理だ。だからこうしてお前に言っている」

ドアマース「訳がわからない。ちゃんと説明――」

ドアマース「ライドウゥ!? どうしたのさ、この手は!」


>ドアマースが、彼女を撫でていたライドウの掌を見てぎょっとする。

>――彼の掌の皮膚が酷く焼け爛れているのだ。

>彼と握手をかわした時はこんな風では無かったのに……


ゴウト『ふん。止せと言うのに無理をして此処から中に入ろうとするからだ』


>見ると、そう言うゴウトも背中の毛が少し焼け縮れているような気がした。

>彼らの事だ。

>どうにかして自分たちの所へ駆けつけようとして、結界を破ろうと足掻いたに違い無い。

>その結果がこれという訳だ。

>……

ライドウ「……鳴上?」

ドアマース「ああっ!? ちょっとニンゲン! 気安くライドウに触んじゃ……」

鳴上「メシアライザー」


>ライドウの焼けた手と、ゴウトの乱れた毛並みに触れて回復を試みる。

>――しかし、藤堂の時のように上手い具合に彼らの傷口は塞がってはくれなかった。

>というよりも、魔法自体が発動していないような、そんな印象を受けた。


鳴上「っ……くそ! どうして……」

ライドウ「心配するな。此れしきの怪我、どうという事は無い」

ライドウ「それに、君も大分消耗している様に見える。他人の事よりも今は自分自身の事を第一に考えた方が良い」

ライドウ「……。だから鳴上」

ライドウ「そんな顔をしないでくれ」

鳴上「……」


>何時でも端正な顔立ちを崩さなかったライドウの表情が僅かに歪んだような気がした。

>だから、彼の言うそんな顔というものがどういうものなのか具体的には知りようが無かったが

>――きっと今の自分は凄く酷い顔をしているのだという事くらいは、嫌でも理解してしまった。

>……


お久しぶりです

ぼちぼち投下再開していきたいと思います

今回はこれで終わり

また次回

ライドウ「くれぐれも頼む、ドアマース」

ライドウ「お前は鼻もきく。些細な事でも異常に気付いたらすぐに誰かへ伝えるんだ」

ドアマース「はいはい。わかってるよ」

鳴上「……すまないライドウ。お前の仲魔、大切に預からせて貰う」

ライドウ「……。いや、気にしないで良い」


>ライドウは他にも何か言いたそうな雰囲気を見せていたが、結局それを飲み込むように口を噤み屋上から出ていく自分たちを見送ってくれた。

>……


メティス「……」

鳴上「……」


>屋上を出てからメティスは一言も喋らなくなった。

>それどころか、先程から視線すら合わせてくれていないような気がする。

>あかりの事でショックを受けているのは勿論解るが……

>もしかしたら、あかりを守れなかった事を全て自分の責任だと思い込み、合わせる顔が無いとでも思っているのだろうか。

>そうだとしたらこちらから何か声をかけてやるべきかもしれない。

>……でも何て? どういう言葉を言えばいい?

>中途半端な慰めをかけられても、余計に惨めな気持ちになるのは自分だってよく解っている……

>そんな風にメティスを気にかけながら階段を降りる途中、四階の作戦室の中から声がしているのを微かに耳にした。


鳴上「……ん? 誰がいるんだ」

メティス「聞こえた声はラビリス姉さんみたいですが……誰と話しているんでしょう」


>何故またラビリスがこんなところに……

>不思議に思い、作戦室の扉を開いて中の様子を窺った。



ラビリス「もうっ、そんな事せんでええですから! 今は休んでて下さい!」

藤堂「いいからいいから。気にしないで」

ラビリス「いい訳ないですやろ!」

鳴上「藤堂さん!?」

藤堂「お? お二人さん、揃ってどうした?」

メティス「どうしたって……藤堂さんこそ姉さんと一緒にこんなところで何を? 具合の方は……」

ラビリス「悠もメティスも言ったって! 起きたばっかりやのに、この人大人しくしててくれへんのや!」

藤堂「いや、だってなあ。ここ滅茶苦茶になったの半分俺のせいだし。片付けないと」

ラビリス「だーかーらー! そんなのは後でウチらがやりますからっ! 藤堂さんは休んでて下さいっ!」

藤堂「いいからいいから。気にしないで」

ラビリス「いい訳ないですやろ!」


>会話がループしている……

>藤堂は笑いながらラビリスの言葉をかわして半壊している作戦室の片付けを既にし始めている。

>だがその姿にはラビリスの言う事も聞かずに自ら進んでやっている割には気力というものが感じられなかった。

>回復魔法はきちんと効いているようで、見た限り、彼の体にはもう目立った外傷はない。

>でも、無理矢理体を動かしているような……そんな印象が見受けられた。

>ふと、藤堂が苦笑を零す。


藤堂「何かしてないと落ち着かなくってさ」

ラビリス「!」

鳴上「……」

メティス「藤堂さん……」


>藤堂もメティスと同様、JOKERに手をかけられた者の一番近くにいながらどうする事も出来なかった一人だ。

>それをどうこう言う気は少なくとも自分にはないし皆だってそうだろう。

>それでも藤堂はいたたまれないのだ……

>ならば今は気の済むまで彼のしたいようにさせてやりたい。

>勿論、無茶の無い範囲での話だが。


鳴上「ラビリス、メティス。手伝うぞ」

ラビリス「悠!」

鳴上「四人でやれば負担は四分の一になるし、すぐに終わるだろ」

メティス「……。そうですね。さっさと終わらせてしまいましょう」

ラビリス「まったく……わかった、わかったわ!」

藤堂「……」

藤堂「ありがとう」


>四人で作戦室の中を片付けた。

>……


藤堂「よし。こんなもんか」

メティス「ここ、これからどうしましょうか。壁や床が多少壊れただけで、ただ仮眠する場として使うだけなら問題無いでしょうけど……」

ラビリス「でも、JOKERが襲ってきた部屋なんかもう誰も使いたいなんて思わへんよな」

藤堂「……だな。ライドウに近い位置だと言っても、屋上まで行けなければ意味がないって証明されたようなもんだし」

鳴上「……。あの、JOKERがここに来た時の事、詳しく教えてもらってもいいですか?」

藤堂「ん……ああ、そうか。ラビリスや下にいる連中にはもう話したけど、あの場にいなかった鳴上やメティスは聞いてないんだったな」

藤堂「とは言っても、詳しいと言えるほど詳しい事は無いんだ。今までと一緒さ。突然あの場に気配なく現れて……そして、園村を消した」

藤堂「本当に一瞬の出来事だったんだ」

鳴上「そうですか……」

藤堂「……。ただそれでも、気になった事がいくつかある」

鳴上「……え?」

藤堂「JOKERはあの時、明らかに園村一人だけを標的にしていたって事がまずひとつ」

メティス「園村先生だけ、ですか?」

藤堂「ああ。JOKERは初めにわざわざ俺の身動きをとれなくしてから園村を捕らえたんだよ」

ラビリス「捕まえられた園村先生を助けようとした藤堂さんをあんな風にしたんやなくて?」

藤堂「そうだ。JOKERは初めから園村だけが狙いで、その邪魔をされない為に俺を見えない力で抑えつけたように見えた」

藤堂「でもそれってなんだか少しおかしくないか? JOKERにとって、この寮にいる者は皆等しく奴の獲物なんだろ?」

藤堂「奴の立場から見れば、まだ狩るべき相手はここに10人以上もいる。隙あらば狩れそうな奴から直ぐ様狩ると思うんだ」

メティス「それなのにわざわざ相手を選んだ……?」

鳴上「でもそれは、男の藤堂さんよりも女性の園村先生の方が非力そうだと思ったからとか……」

藤堂「それならペルソナ使いである園村よりも、一般人である女性陣をまず狙う方がより確実だろ。あいつも共鳴を感じとれると思うし」

藤堂「それらを考えると最初にターゲットになったのが神郷くんだったというのが既におかしい」

藤堂「鳴上の話を聞く限り、あの時から既にJOKERは狙いをわざわざ決めてから目の前に現れていたように思える」

藤堂「……ラビリスからさっき話を聞いたが、園村の次にすぐ消されたのは君たちの同級生の、星さんって子だったんだよな?」

メティス「……はい、そうです」

藤堂「それもさ、……おかしい話じゃないか?」

メティス「確かにあの場には私も一緒にいました。でも、先程の話を参考にするなら、ペルソナの使いである私よりも一般人であるあかりさんを狙うのは当然では?」

藤堂「その点に関してはそうだよな。でも、問題はそういう事じゃない」

藤堂「狙いが星さんであったとしても妙な点がある」

メティス「……?」

藤堂「JOKERはあの時、やる事やって次に行かせてもらう――わざわざそう宣言して、園村の他にもまたすぐに誰かを消す気でいた訳だろ」

藤堂「だからおかしいんだ」

藤堂「JOKERは何故わざわざ星さんのところまで移動したんだ? 彼女が一般人の……それも少女であったとしても、それよりも確実に仕留められた相手があの場にはいただろ?」

鳴上「それって、……ッ!!」

藤堂「園村が消された後……すぐ気絶して無防備になった俺、だよ」

メティス・ラビリス「!」

藤堂「俺はあの時薄れていく意識の中で思った。あ、俺終わったな……って」

藤堂「だから今、無事にこうして鳴上たちと喋っていられる事が不思議で堪らない」

藤堂「どういう事なんだ? これは……」

鳴上「……」

鳴上「あいつは気まぐれに狙いを決めているって訳じゃないのか……?」

ラビリス「そこには何か意味や規則性みたいなもんがあるかもしれへんって事? なんや、ようわからんなってきた……」

メティス「神郷さん、トリッシュさん、園村先生、あかりさんというこの順……これに意味があるのだとしたら、一体何を示しているというのでしょうか」


>今までのターゲットの順が示す意味……

>本当にそんなものがあるのだろうか?

>……解らない。

>しかし、仮にそんなものがあるとするなら


鳴上「それが理解できれば次の奴の狙いが読めるって事でもあるのか」

メティス「考えてみる必要がありそうですね」

藤堂「……」

藤堂「それから、彼女の残したっていうレオ様って名前がやっぱり気になるな。発言した当人がいなくなってしまった今では、もう意味の解りようのない情報なのかもしれないが」

ラビリス「JOKERの、情報……」

ラビリス「……」

美鶴『鳴上、メティス、ラビリス。なかなか戻ってくる気配が無いがどうかしたか』


>通信機から不意に美鶴の声が聞こえてくる。

>……どうやら、思った以上に長居してしまったようだ。

鳴上「鳴上です。藤堂さんも含めて今はみんな作戦室にいます。特にこれといった異常はありません」

美鶴『ならばすぐに一階まで来なさい。天田が温かい飲み物を用意してくれた』

美鶴『……君たちもいい加減、少し落ち着くんだ』

鳴上「……」

鳴上「わかりました。……あ、ライドウの仲魔も一人……いや、一匹? 預かっているので一緒に連れていきます」

藤堂「ライドウの仲魔?」

メティス「はい。……あれ、そういえばそのドアマースさんは何処に」

ドアマース「こっちにいるよ。話長いよ。もう終わったの?」


>部屋の中に姿は見えないが扉付近からドアマースの声がする。

>入口前で待機しているようだ。


メティス「ごめんなさいドアマースさん。行きましょうか」

藤堂「悪かったな、付き合わせて」


>メティスと藤堂が作戦室から出ていく。

>それに続こうと足を一歩動かしたその時……不意に腕が後ろへ引っ張られた。


鳴上「……?」

ラビリス「……」


>振り向くと服の裾を引っ張っているラビリスがそこにいる。

>彼女は無言だがとても強い視線でこちらを見つめてくる。

>まるで何かを訴えようとしているかのように。


ラビリス「メティス。藤堂さん連れて先に行ってて」

メティス「姉さん?」

ラビリス「大丈夫や。ウチらもすぐ戻るから」

メティス「……」

ラビリス「……」

メティス「……解りました」


>メティスはラビリスと少しの間視線だけで会話した後、作戦室の扉を閉める。

>二人と一匹の足音がだんだんと遠ざかっていくのが耳に届いた。


ラビリス「……行ったみたいやな」

鳴上「どうしたんだ、ラビリス」

ラビリス「ん……ちょっと」

鳴上「ちょっと?」

ラビリス「悠に話しておきたいことがあって、な」

ラビリス「……」


>ラビリスは何か言いたい事があるようだ。

>だが、そう告げる言葉自体は歯切れが悪く、話して良いのか迷っているという風だった。

鳴上「……」

鳴上「話なら下に行ってからでも出来るだろ。わざわざこんな場所じゃなくとも……」

ラビリス「ダメや!」

鳴上「!?」

ラビリス「あっ……いや、その……」

ラビリス「今はまだ、みんなの耳には入れたくない話なんよ……もっと混乱を招きそうな気ぃするから」

鳴上「……何の話だ?」

ラビリス「あの、な……ウチ……ウチな……」

ラビリス「……」

ラビリス「JOKERと何処かで会った事があるような気がするんや」

鳴上「な……」

鳴上「何だってッ!?」

ラビリス「!」

鳴上「どういう事だ!? 何を根拠にそんな……。じゃあ、ラビリスはJOKERの正体に心当たりがあるのか!? どうしてそれを早く言わなかった!」

ラビリス「ちょっ、悠……やめて! 落ち着いて!」

鳴上「っ……」


>何時の間にかラビリスの両腕を強く掴んで彼女に迫っていたようだ。

>ラビリスは何処か怯えたような瞳をこちらに向けている。

>慌てて手を離した。


鳴上「す、すまない……」

ラビリス「……う、ううん。ウチも今までゴメンな。こんな事黙ってて」

ラビリス「でも、イマイチ確証がもてなくて……な」

鳴上「きちんと説明してくれるか?」

ラビリス「うん……」

ラビリス「実はな、JOKERが初めてこの寮に姿を現した時に……なんかコイツのこの感じ、知ってるって気がふとしたんよ」

ラビリス「でもそれがどうしてなのか、なんでそう思うのか、今までずっと考えててもわからなくてな」

ラビリス「あかりの言っていたレオ様って名前にはまったく聞き覚え無かったし、もしかしたら勘違いなのかもって思ったりもした」

ラビリス「それでも、もしかしたら不意に解ったりするかもしれへん、突然何か思い出すかもしれへん。だから、ずっと悩んでたけど、悠には一応言っておいた方が良いかと思ったんや」

鳴上「どうして俺だけ?」

ラビリス「それ、は……」

ラビリス「ほ、ほら! 悠はみんなのリーダーやろ? だから……」

ラビリス「……」

ラビリス「なあ、悠。ウチ……妙な胸騒ぎがずっとしてるんや」

ラビリス「それにな、JOKERの事考えたり、JOKERが現れて対峙する度に、なんかこう……」

ラビリス「辛い気持ちになる」

鳴上「ラビリス……」


>ラビリスは胸を押さえながら苦しそうに表情を歪め、思い詰めているようだ……

ラビリス「ウチ、もうこんな気持ちになるの嫌や。みんながこんな気持ちになるのも嫌」

ラビリス「アイツ、なんでこんな事するんやろ。それを考えるだけでも、……なんか悲しくなってくるんや」

鳴上「……」

ラビリス「ア、アハハ……ホントごめんな! 突然変な事言うてもうて」

ラビリス「とにかく、今はこの事、みんなには内緒にしてて欲しいんや。不確かな事で場の空気を乱したくないし」

ラビリス「その代わり、また何か……はっきりと思い出したら、その時はちゃんと教えるから」

鳴上「ああ。わかった」

ラビリス「……」

ラビリス「悠」

ラビリス「JOKERにはくれぐれも気を付けて、な」


>ラビリスは両手で自分の手を包むようにして握った。

>みんなの事、そして自分の事を案じてくれているようだ。

>ラビリスとの距離が少し縮んだような気がする……



>『ⅩⅥ 塔 ラビリス』のランクが6になった



ラビリス「話はこれだけや。……さ、ウチらもはよ、みんなのところにもどろ!」


>そのままラビリスに手を引っ張られて作戦室を後にした。

>……



学生寮 ラウンジ


美鶴「やっと来たか」

天田「あ、本当だ。せっかく用意したんですから、これ以上ぬるくならない内に飲んで下さいね」

鳴上「ああ。すまない、天田」


>天田から飲み物の入ったカップを受け取った。

>中身はホットココアだ。

>天田の言う通りこれ以上冷めない内にいただく事にした……

>……

>ソファに腰を落ち着け、一息つきながら周りの様子を窺う。

>みんなとても静かだ……

>会話らしい会話は特に聞こえない。

>犠牲者はこれで四人になった。

>この先も犠牲者が増え続けるのかもれない。

>そして、その次のターゲットにあたるのは自分なのかもしれない。

>そういう焦りや不安、苛立ち……

>様々な感情が混じり合い、このラウンジの空気を満たしている……

>ドアマースは隅の方でコロマルと何か話しこんでいる。

>メティスが綾時らのような一般人にドアマースの事をどういう風に説明したのかは解らないが、彼らはどういう訳か悪魔であるドアマースに対してあまり興味を示していないようだった。

>……興味を示す余裕が無い、とでも言うべきなのか。

>……


淳「……JOKER……ジョーカー……」


>ふと、何かひとりでぶつぶつと呟いている橿原の声を耳にして、そちらに視線を向けた。


淳「……」


>橿原は小さな溜息を吐いて首を横に振る。

>手にはホットココアの入ったカップを持っているが、中身の方は一向に減っていない様子だった。


鳴上「先生?」

淳「……」

鳴上「橿原先生」

淳「……!」

淳「な、何かな……? どうかした?」

鳴上「そういう先生こそ……どうかしましたか? 顔が真っ青ですよ」

達哉「……本当だ。また頭痛か?」


>傍に座っていた周防も、橿原の様子を心配してかそちらを窺っている。


淳「ん……大丈夫だよ。ただ」

達哉「ただ?」

淳「こんな事になってからずっと……引っかかっている事があって」

淳「喉まで出かかっているんだけど、思い出す事が出来ない何かがあるような気がして」

淳「……で、でもそれは、絶対に思い出してはいけない事でもあるような気がしてて!」

淳「もう、何も……何も解らないんだ……っ」

鳴上「せ、先生……?」

達哉「おい、本当に大丈夫なのか?」


>今の橿原は相当錯乱しているように見えた。

>そんな彼の顔を周防は近くまで寄って覗き込んだ。


達哉「先生」

淳「周防、くん……」

淳「……」

淳「……え?」

達哉「先生?」

淳「あっ……ああ……ッ!?」

鳴上・達哉「!」


>周防と視線を合わせて少ししてから、橿原は突然目を大きく見開いて叫び声を上げる。

>何事かと自分も周防も驚いていた。


淳「どうして、僕は……こんな事今まで……!」

達哉「お、おい?」

淳「……周防くん!」

達哉「な、なんだ、どうしたんだ、いきなり……」

淳「僕だよ!」

達哉「……え?」

淳「ほら、忘れたちゃったの!?」

淳「――僕たち、以前にも会った事、あるよね?」

終わります

また次回

達哉「は……?」

淳「ほ、ほら! 珠閒瑠市の空の科学館で……ちょうどJOKER事件があった頃にだよ!」

淳「どうりで周防くんの事どっかで見た顔だと思った訳だ……!」

鳴上「ああ……二人は昔同じ地域に住んでいたとかって話していましたね」

淳「そう。それが珠閒瑠市」

鳴上(なんだ……凄く深刻そうな顔をしているから何かと思えば、そういう話だったのか。まさかの知り合いだった訳だ)

鳴上(ん? でも、空の科学館って俺も聞いた覚えがあるような……)

達哉「……」

淳「……周防くん、本当に覚えてない?」

淳「あの放火事件のこと」

鳴上「放火事件?」

達哉「……放火事件」


>思わず周防と揃って復唱してしまう。


淳「炎上する空の科学館の中で僕は妙な男に捕らえられて……それを助けてくれたのが君だった」

達哉「俺が、助けた……」

淳「あの時、君は僕の事を前から知っているようだった。その理由がずっと気になっていた筈なのに、今の今までその事を忘れていたよ」

達哉「……」

達哉「人違いじゃないか?」

淳「えっ」

達哉「俺には……そんな記憶はない」

淳「で、でも……!」

達哉「……いや、実を言うと、だな」

達哉「その珠閒瑠市でJOKER事件があった頃の記憶が……どうにもあやふやなんだ」

鳴上・淳「!」

達哉「港南区にあったあの科学館が炎上したってのは覚えている。その焼け跡は目にしたからな」

達哉「でも燃えるところを間近で見たなんて事はないと思うし……」

達哉「そもそも俺はあの頃何をしていたのかよく覚えていない」

鳴上「それって……?」

達哉「……。家族と折り合いが悪くて家にも殆どいなかったり……色々な事から逃げていた時期だったからか? 自分で自分が恥ずかしくて思い出したくない事が多かったせいか……」

達哉「いや、それにしてもなんでその時期だけすっぽりと……」

達哉「でも、とにかく、俺はアンタの事はよく知らないし、ましてや助けたなんて事もない……筈だ、橿原先生」

達哉「いくらその頃の記憶があまりないと言っても、放火事件なんてのに居合わせててしかも人助けしたのにそれをまったく覚えていないなんて事は流石に無いだろ」

達哉「アンタが言ってるのは俺じゃない。俺に似た別の誰かなんじゃないのか」

淳「そんな……。あッ……そ、そうだ!」

達哉「……今度はなんだ?」

淳「もう一人。あの時、君と一緒にいた人がこの場に……」

パオフゥ「おい」


>急に別方向から声をかけられ、皆反射的にそちらへ振り返った。

淳「あ……! ちょうどいいところに!」

淳「貴方も以前にお会いした事、ありましたよね? しかも、あの時彼と……周防くんと一緒にいた。僕を助けてくれた」

達哉「え……!?」


>周防は小さく短く、だが心底驚いたような声を上げた。

>しかしパオフゥは、まるで聞こえていなかったように自分の言葉を続ける。


パオフゥ「そっちの先生と……達哉も。お前らの休憩の時間だ。眠れるうちに眠っとけ」

淳「え、あのっ……」

パオフゥ「いいからさっさとしな」

達哉「……」

達哉「解った。そうさせてもらう」


>周防はゆっくりと腰を上げ、眉間に寄った皺を揉む仕草を見せ何か考え込むようにしながらその場を離れていった。


パオフゥ「それから鳴上」

鳴上「……え? は、はい」

パオフゥ「お前に話がある。こっちに来な」


>そう告げてパオフゥもまたこの場を離れた。

>後に残ったのは橿原だけだ。


淳「……」


>橿原もまた周防と同様に、眉間に皺を寄せ何か考え込んでいるが、その場から動こうとしない。


鳴上「あの、先生……」

淳「さっきの話だけどね、鳴上くん」

鳴上「……はい」

淳「僕を捕らえたっていう男なんだけど。後から聞いた話によると、どうやらその男が件の殺人鬼らしいって話だったんだ」

鳴上「えっ……!?」

淳「その殺人鬼……JOKERはあの日、僕に何かを告げる為に空の科学館へと僕を呼びだした」

淳「結局僕は未だにあの時あの男が何を言いたかったのは解らないんだけど、でもこれだけははっきりと覚えている」

淳「あの日を思い出せ」

鳴上「それって、俺が持っていた花の……」

淳「そう。JOKERはどういう訳かフジバカマの花を僕に渡した」

淳「一体、何を思い出せというのか……今までこの事自体、記憶の隅に追いやられていたというのに」


>橿原は首を左右に振って俯いた。


淳「今、こうしてあの時の殺人鬼と同じ名を名乗る人物が現れた事と何か関係があったとしたら……」

淳「僕は思い出さなければならないのだろうか」

淳「……いや、でも。頭の中でそれはいけない事だと言われているような気もしているんだ。さっきも言ったけれど」

淳「JOKERとは一体……それに、周防くん……彼は……」

淳「……」

>橿原は、カップの中身を飲み干すように口元に運ぶ。


淳「もしも、こんな事になった原因に僕が関わっているのだとしたら、僕はなんとしてでも責任をとらなければならない」

淳「ここには君たちも……僕の生徒もいるのだから」

淳「はっきり言って、どうしたらいいのか今は皆目見当もつかない」

淳「それでも僕は、僕なりに出来る事がないか諦めないで考えてみようと思う」

淳「僕にしか出来ない事も、もしかしたらあるのかもしれないから」

淳「……ありがとう、鳴上くん。話したら少し頭もすっきりしたよ」


>橿原の顔付きに少し変化が見られたような気がした。

>先程の弱々しげで混乱していたような雰囲気はもう無くなっていた。

>……何か決意したような目をしている。

>橿原の事を少し知れたような気がした……



>『Ⅹ 運命 橿原淳』のランクが6になった



淳「……さて。じゃあ僕もお言葉に甘えて少し休ませてもらおうかな。これからの為にもね」

淳「君もほら、呼ばれていただろ? 引き止めてしまったみたいで悪かったね」

鳴上「あ、いえ……おやすみなさい、先生」

淳「おやすみ」


>橿原はカップを置いてこの場を離れていった。

>……

>珠閒瑠市に現れていた殺人鬼・JOKERと橿原の関係。

>それももちろん気になるが、事件があった時に面識があったらしい周防との事も頭の中で引っかかっていた。

>周防本人は、橿原と今まで会った事は無いと否定していたが……

>本当に人違いなのか、それとも周防が忘れているだけなのか。

>もし、忘れているだけなのだとしたら……いや、それでもどうにもおかしい気がする。

>仮に橿原の言っている事が正しいとしたら周防も過去にJOKERと関わっている事になる。

>それなのにさっぱり覚えている様子が無いのは何故なのか。

>わからないふりをしているようにも見えない。

>……この事に、何か陰謀めいたものを感じてしまうのは考え過ぎなのだろうか?

>……

>とりあえず今は、もう一人いる橿原と以前に面識があったかもしれない人物のところへいこう。


鳴上「すみません。お待たせしました」

パオフゥ「座りな」


>カウンター席にいるパオフゥに隣に座るよう促され、素直に従った。

>パオフゥの目の前には彼のノートPCが置かれている。

>その画面を見せるように、彼はノートPCを横にずらした。

>そこには一人の男の顔が映っている。

鳴上「あの、これは?」

パオフゥ「以前珠閒瑠市に現れていたJOKER。そいつの素顔だ」

鳴上「!」

パオフゥ「お前にもこのJOKERの事について教えてやる」

鳴上「お、お願いします……!」


>今は些細な事でも情報があるに越した事はない筈だ。

>例え過去のJOKERと今のJOKERに直接関わり合いが無かったとしても、解決の糸口に繋がる何かに気付ければ……

>静かに、パオフゥの話に耳を傾ける事にした。


パオフゥ「……」

パオフゥ「殺人鬼・JOKERの本名は須藤竜也。当時、法務大臣だった男、須藤竜蔵の息子だ」

パオフゥ「須藤竜也は父親の英才教育による過度のストレスから精神に異常を来たし、殺人を繰り返していた」

鳴上「それが話に出ていた連続殺人……?」

パオフゥ「いや違う。父親である竜蔵はその事件を裏で揉み消していた。これはあくまで須藤竜也がJOKERになる以前の世に公表されていなかった事だ」

鳴上「そんな……」

パオフゥ「……それで、だ。その後、須藤竜也の存在を疎ましく思った竜蔵は、息子を山奥の病院で隔離する形で幽閉したんだ」

鳴上「え? それじゃあ、その後事件を起こす事なんて不可能なんじゃ」

パオフゥ「普通ならな。でも奴は、ある声を聞き力を手に入れ、その当時流行っていた『JOKER呪い』に乗じる形で怪人に扮し病院を抜け出しては殺人を行っていた……」

パオフゥ「それがJOKER事件の真相だ」

鳴上「……」

鳴上「力……? それに声って誰の、何の事なんですか」

パオフゥ「鳴上。お前はこの世界とは別に、似たような違う世界が存在するなんて事、信じるか?」

鳴上「は?」

鳴上「……えっと。それって、平行世界とかなんとかっていう、そういう話ですか」

パオフゥ「ああ。まさにその通りだ」

パオフゥ「須藤竜也はある声の導きによって、ここではないもう一つの世界……『向こう側』の自分の存在とその末路を知って、『こちら側』は間違いだと思い込むようになり、『こちら側』の人間に『向こう側』の事を思い出させようとしたんだ」

パオフゥ「連続殺人はあくまでその過程にすぎなかったって訳さ」

鳴上「……」

パオフゥ「何の事だかさっぱりって顔だな。まあ、無理もねえが今はそのまま黙って聞いてくれ」

パオフゥ「話を戻すぞ。重要なのはここからだ。……須藤竜也の聞いた囁きについてだ」

パオフゥ「その声の主は、もしかしたら今の事態にも……いや、これまでこの街で起きた事件全てに繋がる奴かもしれない。俺はそう考えている」

鳴上「ッ……!?」


>全ての事件の黒幕……


パオフゥ「その名は、ニャルラトホテプ」

パオフゥ「この世全ての人類が奥底に抱えている普遍的無意識……とりわけ、人間の精神の負の部分が凝縮したような存在だ」

パオフゥ「そうだな、お前に解りやすいように言うのなら……」

パオフゥ「お前が今まで戦ってきたシャドウという存在。あれの総元締めみたいなもんだと思えばいい」

鳴上「シャドウの……!?」

パオフゥ「ああ。だから……ちょっとやそっとの事で倒せるような存在じゃない。ましてや完全に消滅させるなんて事は不可能だ」

鳴上「そんな!」

パオフゥ「アレは人間が人間である限り何時でもその近くに佇んでいる。そして、隙あらば這い寄り破滅の道へと導こうとする」

パオフゥ「人間に、世界に対して慈悲の欠片も持ち合わせちゃいねえ。人の持つ希望、理想、夢、絆……そういったものを不完全だと嘲笑い決して認める事はない」

パオフゥ「俺は以前の戦いでアレと対峙し退く事に成功した。けど、影の無い人間なんていねえ」

パオフゥ「アレは今でも居るし、何があってもこれからずっと居続けるんだ」

鳴上「影の無い人間なんかいない……確かに、そうだけど……」

鳴上「完全に消し去る事は出来なくとも、抗う事は出来る筈だ。かつてパオフゥさんが退く事が出来たというのなら」

パオフゥ「……ま、俺だけの力でやった訳じゃねえんだがな」

鳴上「仲間がいたんですか?」

パオフゥ「まあ、そんなとこだな。……しかし、こんな場所でこんな形でまた会う事になるとは思ってもみなかった」

パオフゥ「周防から無事刑事になったって話は聞いちゃいたが、まさかこんな所に来ていたとはな……」

鳴上「え、周防って……それじゃ、やっぱりさっきの話は!」

鳴上「パオフゥさんは周防さんや、それに橿原先生とも面識があるんですか?」

パオフゥ「……お前んとこの先生に関しては、お互いに顔を知ってるって言えば知ってる事になるか。ただ」

パオフゥ「達哉は違う」

鳴上「……でも、達哉って下の名前で呼んでるじゃないですか」

パオフゥ「……。確かに、俺は達哉の事を知ってる。アイツの兄貴も、……そして達哉も、共にニャルラトホテプへ挑んだ人間の一人だ」

鳴上「!? じゃあ、周防さんは……周防さんも、やっぱりペルソナ使い!?」

鳴上「でも、そんな事一言も……」!

パオフゥ「……違う。あの達哉は、違うんだ」

パオフゥ「俺と共に戦った周防達哉は『向こう側』の存在だった。そして、事が済んだ後、自分の責任を果たしに『向こう側』へと帰っていった」

パオフゥ「ここにはもう『こちら側』の達哉しか残っていない。だから、戦った時の記憶は無いし、俺の事も……橿原淳の事も知らない」

鳴上「じゃあ、記憶があやふやだって言ってたのは……。そういう事、だったのか」

鳴上「なら、向こう側の事をまた周防さんが思い出せば、一緒に戦って……」

パオフゥ「それはダメだ。断じてあっちゃいけねえ事だ」

鳴上「!」


>パオフゥの語調がより強いものへと変わった。


鳴上「どうして!」

パオフゥ「達哉や淳が『向こう側』の事を思い出すと……この世界は破滅する」

鳴上「は、破滅!? 訳が解らない! どうして周防さんたちの記憶が世界の存亡に関係するとかいうスケールの話に……」

パオフゥ「……少し静かにしな。みんな休んでんだ」

鳴上「っ……」


>大声を出し思わず立ち上がってしまった自分に、パオフゥは静かに宥めるよう告げる。

>仕方なく再び腰を落ち着けると、パオフゥは話を続けた。


パオフゥ「さっきのお前と先生の話、聞こえてたぜ。自分にしか出来ない事があるかもしれないって」

パオフゥ「それはなんだと思う? ……何も思い出さないって事さ」

パオフゥ「『向こう側』の事も、達哉の事も全部……な」

パオフゥ「それがアイツらにとっても俺たちにとっても最善の事なんだ」

鳴上「……」

パオフゥ「達哉たちにあった詳しい事は俺からは語らねえ。……俺から語る事じゃねえからな」

パオフゥ「ただそれが、その思い出が、場合によっては世界にとっての脅威になりえる事もあるんだって事は覚えておけ」

パオフゥ「だから、これはここだけの話にしてくれ」

鳴上「……はい」

鳴上「周防さんと橿原先生の事についてはもういいです。でも、『向こう側』ってなんなんですか?」

パオフゥ「さっき言っただろ。『向こう側』はこちらとは別のもう一つの世界。いわゆる平行世界ってヤツだ」

鳴上「目の前にAとBの分かれた道があったとして、Aの方を自分が進んだとしてもBの方を進んだ自分も何処かにいるかもしれない。そういう事ですよね」

鳴上「じゃあ、『向こう側』と『こちら側』だと何が違っているっていうんですか?」

パオフゥ「それは……」


>パオフゥはほんの一瞬沈黙してから、小さく呟いた。


パオフゥ「達哉と淳……それから他数名の出会いが『こちら側』ではなかった事になっている」

鳴上「それだけ、ですか?」

パオフゥ「そうだ。そして、その出会いこそが『向こう側』の世界が珠閒瑠市を残して滅んだ原因に繋がった」

鳴上「滅ん……だ……!?」

パオフゥ「だから達哉たちはその罪を償う為に、自分らの記憶、思い出を手放しリセットする事でこの世界を構築した」

パオフゥ「それを思い出すって事は、『こちら側』も『向こう側』と同じ末路を辿る事になるって訳なんだ」

パオフゥ「そうならない為にも、『向こう側』の達哉は約束を果たして帰っていったんだ」

鳴上「っ……」


>パオフゥの語る事は、どれも信じられないような話ばかりだ。

>脳の処理が追いつかない……


パオフゥ「……レオ様って言葉を残して消されちまった子がいただろ。あの子はおそらく、『向こう側』の世界でレオという名だった須藤と関わり合いがあったんだ」

パオフゥ「それを、今回の事で……『向こう側』での事を僅かに思い出しちまったんだろうな」

パオフゥ「お前さんも経験ないか? ふとした時に昔にもこんな事があったような気がすると思う……デジャ・ヴュと呼ばれる感覚」

パオフゥ「あるならそれは多分、『向こう側』の……いや、それともまた違った世界でのお前さんが経験した事なのかもしれないぜ」

鳴上「あかりも関わりがあった……」

鳴上「……デジャ・ヴュ」


>……思い出した。炎上した空の科学館という場所を初めて聞いたのはあかりの口からだった。

>彼女も珠閒瑠市の出身で、奇しくもこんな状況に追い込まれてしまった者の一人で……でもそれはただの偶然ではなく。

>何処まで深く関わり合いがあるかはもう知る術はないが、あかりはただの部外者などではないこの因果関係に組み込まれている一人だったとでもいうのか。


パオフゥ「……」

パオフゥ「ここまでの話を踏まえたうえで、現在俺たち相手に好き勝手暴れてやがるJOKERという存在について俺なりに色々と考えてみたんだが」

パオフゥ「あのJOKERは須藤竜也ではないと俺は思う。姿形は確かに似てはいるんだがな。……決定的に何かが違っている」

パオフゥ「ただ、気になるのは共鳴の感じに何処かで覚えがあるって事だが……今はそれは置いとくとして」

パオフゥ「そもそも須藤竜也はもう死んでいる。それなのに何故あんな野郎がいるのか」

鳴上「ニャルラトホテプがああいう存在を生み出しているとでもいうんですか?」

パオフゥ「おそらく、な」

パオフゥ「以前にも起こった噂が現実化するという現象。あれもニャルラトホテプの力によるものだった」

パオフゥ「この港区でも少なからずその時と同様の事が起こっている以上、ヤツが関係している以外にありえねえ話だ」

パオフゥ「現にある殺人事件が原因で数日前からネットでJOKERが再び姿を現し始めたなんて囁かれてる。それが現実化してしまったというのなら辻褄があうだろ」

パオフゥ「巻き込まれた連中は、俺らのようにニャルラトホテプと多かれ少なかれ何か因果関係があるのかもしれねえ。あったとしても、自覚があるかも解らねえがな」

鳴上「……」


>ニャルラトホテプ……


パオフゥ「お前、さっき抗う事は出来る……そう言ったよな?」

パオフゥ「俺もあんな野郎にまた好きにされるのは御免なんでね。確かに倒せないとは言ったが、それでも息巻いているガキの後ろでただ指をくわえて見ているだけなんて事はしねえつもりだから安心しな」


>パオフゥの手が自分の背中をドンっと大きく叩いた。

>少し痛かったが、その手にあたたかさを感じる。

>励ましてくれているのだろう。

>パオフゥの優しさと強さを感じた……



>『Ⅸ 隠者 パオフゥ』のランクが8になった



パオフゥ「今のところ話せる事はこんくらいだ。解ったらお前も少し寝ろ。ガキの起きてるような時間じゃないぜ」


>外はもう真っ暗だ。

>色々ありすぎて時間の感覚もなくなりかけているが、本来ならもうとっくに深夜を過ぎている頃だった。

>確かに眠いし、体が重い……

>パオフゥはまだ起きているつもりのようだが、自分は彼の言葉に甘える事にして少し休む事にした。

>少しでも体力も気力も回復しとかなければ……

>きっと這い寄る混沌に抗う術もなく飲まれてしまうだろう。

>そんな事、あってはならない。

>……



アイギス「……悠さん。悠さん」

鳴上「……? アイ……ギス……?」


>身体が揺さぶられているような感覚と共に意識が浮上する。


アイギス「ごめんなさい悠さん。お休みのところ起こしてしまって」

鳴上「いや……大丈夫だ。もしかして、休憩の時間の交代か」

アイギス「それもありますが、ライドウさんが私たちを呼んでいます」

鳴上「ライドウが? 私たちって……俺とアイギスを?」

アイギス「はい。そうです」

アイギス「正確に言えばここにいる皆さん全員がライドウさんに呼ばれました。起きている人から順にライドウさんの元へ行って、さっき周防さんと橿原先生が戻ってきたところです」

アイギス「私と悠さんで終わりになります。何やら話があるようですが……」

鳴上「ライドウから話……わかった、行こう」

ドアマース「やっと起きたの? じゃあ行くよ、ニンゲン」


>屋上までドアマースも同行してくれるようだ。

>彼女たちとライドウの元へ行く事にした。

>……


鳴上「わざわざ改まって話だなんて、なんだろうな」

アイギス「人によってそれぞれ違うみたいです。世間話とか最近あった事とか他愛もない内容も多く聞かれたとか言っていましたが」

鳴上(どういう事だ……?)

アイギス「……」


>アイギスは自分より一歩進んで階段を静かに上がっていく。

>それ以降は会話は続かず、少しの間お互いだんまりになった。

>こうしていると、アイギスの姿はさっきのメティスの様子と何処か重なるような気がした……


鳴上「……なあ、アイギス。今、メティスはどうしている?」

アイギス「メティス、ですか? ……」

アイギス「本人はなんともないの一点張りだったけど、やっぱり色々とショックが重なっているみたいでした。口数も少なくなってて……」

アイギス「そのせいもあってかなかなか休もうとしてくれなくて、少し前になんとか言い聞かせてやっと休ませたところです」

アイギス「あの子が自然に起きるまでそのままにしておいてあげてもいいでしょうか?」

鳴上「……ああ。そうした方がいい」

アイギス「ありがとうございます」


>アイギスの表情は妹を心配する姉のものだった。


アイギス「悠さん。私、少し驚いているんです。あの子が……メティスの心が少しずつ人間に近くなっていく様子に」

アイギス「もっとも、私が知っていたメティスはもっともっと感情豊かな子でしたけどね」


>知っていた……過去形だ。

>以前にも、あのメティスは『正確には私の知っている彼女ではない』というような事を言っていたような気がするが……

>その言葉に不思議がっていると、アイギスは小さく笑った。


アイギス「メティスは元々は私の半身。私が捨て去ってしまいたいと思っていた部分が人格化したもの……私のシャドウともいうべき存在だったんです」

鳴上「メティスがアイギスのシャドウ……!?」

アイギス「はい。でも、ここにいる彼女は違います。私の記憶や意識を元に似せて造られた……生まれてきた、それが今のメティスです」

アイギス「あの子に内蔵されている黄昏の羽根も、ある日突然分裂した私のパピヨンハートの片方が使われています。今となっては随分と遅くに出来た双子の妹、みたいな感じになるのでしょうか」

アイギス「こうして新しく生まれ変わったメティスは、見た目はそのままでしたけれど中身の方はまったくの別人でした」

アイギス「でもそれも今は昔の話。あの子の心は皆さんと……悠さんと過ごす事で日々少しずつ変化している。成長している」

アイギス「それは私も願っていた事で、嬉しくはあるはけれど。……でも、それが返って今のあの子を苦しめているようです。自覚はないようですが」」

アイギス「そんな様子、見ていられなくて……」


>アイギスの浮かべていた笑みが翳った。


アイギス「何かを守ろうとしてそれが果たせなかった時の悲しみ。……私にも解るから」

アイギス「私はそんなあの子を、ここにいるみんなを、……悠さん、貴方の事を守りたい」

アイギス「いいえ。JOKERから守ってみせます」

アイギス「私が貴方を、守ります」


>それは、学生寮で初めてシャドウに襲われた夜にアイギスに言われたそっくりそのままの言葉だった。


アイギス「だから、私にもしもの事があった時はメティスの事……」

鳴上「アイギス。それ以上は言わないでくれ」

鳴上「そんな事、メティスも俺も望んでない。アイギスも無事でいてくれなきゃ意味がないんだ」

鳴上「これ以上、メティスが悲しむような事はしないで欲しい」

アイギス「!」

鳴上「アイギスが俺たちを守ってくれると言うなら、俺たちがアイギスの事を守るから」

アイギス「悠さん……」

アイギス「……」

アイギス「ありがとう」


>アイギスは柔らかく微笑む。

>彼女の青い瞳は少し潤んでいた。

>アイギスとの距離が少し縮んだような気がする……



>『Ⅶ 戦車 アイギス』のランクが6になった



>……


屋上


>空は僅かに白んでいる。

>もうすぐ夜明けのようだ。

>……日付は08/32のままである事に変わりはないが。


ドアマース「これで最後でいいんだよね、ライドウゥ」

ライドウ「ああ。ご苦労だった、ドアマース」

ライドウ「鳴上、アイギスさん。こんなところまでわざわざ呼び出して申し訳ない」

鳴上「いや、それはいいけど……どうしたんだ、突然。モコイまで召喚してるし」


>ライドウの傍らにはゴウトの他にモコイまで姿を現している。


ライドウ「……いや。此処にいる皆さんから改めて話を聞いてみようと思っただけだ」

ゴウト『一人ずつ丁寧に話を聞く事で見えてくる何かがあるやもしれんからな』

鳴上「ふーん……?」

ゴウト『08/32になってからは勿論だが、それ以前にあった事でこの件に関わっていそうな何か気がかりになる様な事は無かったか』

鳴上「それ以前? うーん……」


>そうは言われても、突然の事で何も思い浮かばない……

>パオフゥから聞いたニャルラトホテプという存在についても、彼ともう話をしているのなら聞いている事だろう。

アイギス「……」

アイギス「悠さん。さっきメティスの話をしましたよね」

鳴上「……ん? ああ」

アイギス「私、思ったんです。今の状況……あの時と似ているような気がするって」

ライドウ「あの時、とは? どういう事ですか」

アイギス「……私はかつてにもこんな風に同じ日を永遠に繰り返す空間に捕えられた事があるんです」

鳴上「!」

ライドウ「……。その話、詳しくお願いします」

アイギス「あの時もそう……この寮の中で、3月31日という日から抜け出せなくなったんです」

アイギス「私の半身であるメティスと出会ったのはその時でした」

ライドウ「この寮で、ですか」

アイギス「はい。あの時の原因は、私を含むかつてのSEESのメンバーの持っていたある未練がこの寮に存在していた時の狭間というものに影響していたからでした」

アイギス「もし、また誰かのなんらかの未練によって時の狭間が何処かに出現していたのだとしたら……」

アイギス「例えば、綾時さんも言っていた『夏休みが終わって欲しくない』っていう思いに反応して。……あの時に比べたら、随分な理由だとは思いますけど」

鳴上「……」

鳴上「その時の狭間っていうのは、この寮の何処に現れていたんだ?」

アイギス「一階ラウンジの下……地下です」

鳴上「今のところあそこには何も起こってないよな」

アイギス「そうですね。だからあるとしたらこの街の何処か……とか」

鳴上「随分広範囲だな……探すにしても一苦労じゃないか。でも、気になるような場所は街の中も見て回った限り無かった気がしたけど」

ライドウ「そうだな。自分も棺がそこらに生えている事を除けば、特に不自然な場所は見ていない」

アイギス「……。私の考えすぎかもしれませんね」

ライドウ「いえ、有難う御座います。参考になりました」

ライドウ「……」

ライドウ「鳴上。君は自分に話せるような事は無いのか?」

鳴上「ん……」

鳴上「悪い。今のところは、何も思い浮かばない」


>ライドウはふとモコイの方へと視線を向けた後に、こちらをじっと暫く見つめ帽子を被り直す仕草をした。


ライドウ「……そうか、解った」

ライドウ「ドアマース。二人を一階まで送ってくれ」

ドアマース「……ん? 終わったの? はいよ」

鳴上「話はもう良いのか?」

ライドウ「……。ああ、今はこれで充分だ」

ドアマース「さっさと行くよ!」

鳴上「じゃあ、またな。ライドウ」

アイギス「失礼します」


>ライドウに挨拶をして屋上から出た。

ゴウト『……それで。どうだったライドウ』

ライドウ「……」

ライドウ「様子を見た限り、この事に関して何か隠し事をしているような人物はいなかった」

ライドウ「心当たりを知っているかもしれないような者は数人いたが……どれも曖昧なもので、確信には到っていないようだ」

ライドウ「……モコイ、もういい。管に戻れ」

ゴウト『そうか……』

ライドウ「ただ」

ゴウト『?』

ライドウ「それでも。一人だけ気になる人物が――」






ライドウ「誰だ」



バンッ――



学生寮 階段


アイギス「また来ましたね……JOKER」

鳴上「っ、アイギス!」

JOKER「……」


>屋上を後にし、階段を降りようとしたその時……階下にその人物は佇んでいた。

>アイギスの指先はJOKERの方へと向けられ、煙が上がっている。

>撃たれた弾は……JOKERにはあたっていない様子だ。


アイギス「今度は、外しません」

JOKER「……フッ。いいぜ、来いよアイギス」

鳴上「アイギス!」


>その呼び声は、アイギスの二度目の銃撃音でかき消されていった――


終わります

また次回

ドアマース「ちょっ……何なのさ、コイツ! 全然気配も匂いも感じ無かったよ!?」

ドアマース「アレがJOKERってヤツな訳!? この感じは……何……凄く嫌な感じ……」

ドアマース「……ライドウ! ライドウー!」


>ドアマースの雄叫びが寮の中に響いた……

>……



屋上


ライドウ「……」

ゴウト『あの狗魔の声、か。……余所見をするな、ライドウ』

ライドウ「……言われずとも」

ライドウ「何をしに此処へと現れた。道化師」

ジョーカー「……」

ジョーカー「まずはその物騒な拳銃を下ろしてくれないか」

ジョーカー「ボクは君と争う為に来た訳ではない。――葛葉ライドウ」

ライドウ「……何故、自分の名を」

ジョーカー「ここに居る者の事は、既にある程度理解しているという事だよ」

ジョーカー「ボクも、奴も」

ゴウト『奴……』

ジョーカー「まあ、君たちの事は……まだ良く解らないけれどね」

ジョーカー「……だからこそ、ボクはまだ迷っている」

ライドウ「何の話だ」

ジョーカー「……」

ライドウ「答えろ」

ジョーカー「初めは異物である君たちの事を排除する気でいた。でも……」

ジョーカー「関わってしまったから」


バララララ――ッ


ライドウ「!」

ゴウト『また機関銃の音……ライドウ』

ライドウ「解っている。だが……」

ジョーカー「……」

ジョーカー「君は、この建物の中に入りたいかい?」

ライドウ「ッ……!?」

ジョーカー「そうか。……解った」

ジョーカー「今、この中には奴がいる」

ジョーカー「……助けて、欲しい」

ゴウト『貴様、何を……』

ライドウ・ゴウト「ッ……」

ゴウト『なんだ、今の光は……――!?』

ゴウト『奴は何処へ行った!?』

ライドウ「消えた……?」

ゴウト『! ライドウ、扉が……!』

ライドウ「まさか……」


>……


アイギス「アテナ!」

鳴上「っ……イザナギ!」

ドアマース「ああ、もうっ! あたしだって、ライドウがいなくてもッ……! 観念しな!」


>二体のペルソナと一匹の悪魔がJOKERに向かう。

>だが、イザナギの攻撃はまるで通らず、噛み付こうと飛びかかったドアマースを刀で薙ぎ払うと、JOKERはアテナに対して重い一撃を加えた。


ドアマース「キャンッ!」

アイギス「くッ……!?」

鳴上「アイギス!」


>アイギスの身体がよろめき、階段から落ちそうになる。

>それを支えようと、腕を伸ばした。

>そして、JOKERの刀もアイギスを目掛けて――


「鳴上!」

鳴上・JOKER「!?」


>屋上の扉が勢いよく開き、それと共に連続した銃声が響く。

>やってきたのは外套を纏った黒い学生服の男と、黒い猫。


ドアマース「ライドウ!」

JOKER「ちっ……!」


>アイギスを斬ろうとしたJOKERは階段を蹴って後ろへと飛び、ライドウの銃撃をかわそうとする。

>だが避けきれなかったのか、その内の一発がJOKERの左肩を掠りトレンチコートが破れた。


ライドウ「鳴上、アイギスさんも……下がって」

アイギス「ライドウさん!? 何故ここに……」

鳴上「ライドウ……」

JOKER「……ハッ。まさか、あの結界を解いちまうとはな」

JOKER「アイツも形振り構ってらんねえって事か」

JOKER「ま、オレにとっちゃあどうでもいい事だ。アイツがお前をどうしようとお前をどう思おうと、オレの仕事が一つ増えた事実は変わる事は無いんだぜェ、ライドウ」

JOKER「むしろ、アイツがお前をここに招き入れた事によって、より放っておく事が出来なくなった」

鳴上「招き入れた……?」

ライドウ「……」

JOKER「だがなあ、オレにはオレのルールとオレの中での優先順位がある。……イレギュラーのお前を消すのは最後になるだろう」

ライドウ「その前に、自分がお前を消す」


>ライドウとJOKERが互いに睨み合っている。

>……いや、JOKERはライドウだけでなくアイギスにも――そして、自分にも歪んだ感情の籠った視線を向けているのが空気で解る。

>その刹那、JOKERの左腕に電撃が走った。


JOKER「それじゃあ、また……なッ!」


>腕から持っていた刀へと電撃が伝う。

>JOKERは振り被ってまるで矢を扱うかの如く高速でその電撃を纏った刀を投げた。

>その先にいたのは、ライドウでもアイギスでもなく――


鳴上「ッ!?」

ゴウト『なっ……』

ライドウ「鳴上っ……!」



アイギス「悠さん!!」


>……


>――柔らかい日差し。

>暖かい空気。


『風、気持ちいいですね……』


>そして、聞き覚えのある優しい声。

>これは……アイギスの声?。


『わたし……春をこうやって体験するの、初めてです』


>周りには桃色の花びらが舞っている。

>……桜だ。


『でもこの季節も、やがて過ぎて行ってしまうんですね……』


>そうだ。そんな時期はもうとっくに過ぎた筈だ……


『あなたと一緒に戦って……“世界の終り”と向き合って……』

『わたし……ようやく、少し分かりました』

『わたしの探していたもの……“生きる”ってどういう事なのか……』


>生きる……?

『それは多分……逃げないできちんと考える事……』

『“終わり”と向き合う事……』

『どんなものにも、必ず終わりが来る……』

『どんな命も、いつかは消えてしまう……』

『それが自分にも来るっていう事を見つめた人だけが、きっと分かるんです……』

『自分が本当に欲しいもの……生きる証が何なのかって事が』


>生きる、証。

>……


『自分の力が足りないって思った時、悔しくなった訳も……今なら分かります』

『守る事は……もう、わたしにとって、“与えられた役目”じゃなかったんです』

『いつのまにか、わたし自身の望みに変わってて……』

『“滅び”と向き合うって決めた時、はっきり分かったんです』

『二度とあなたに会えなくなるって想像したら……自分の望んでいる事が、初めて分かりました』

『だから、わたし……決めたんです』

『わたし……これからもずっと、あなたを守りたい』

『あなたの力になりたい』

『こんなの、きっとわたしじゃなくたって出来る事だけど……でも、いいんです』

『その為なら、わたしはきっと、これからも“生きて”いけるから……』

『ありがとう……』


>アイギスは、誰だか知らない『あなた』に向かって僅かに震えた声で囁き続けている。

>……

>春の陽射しがあたたかい。

>少し眠気が差してきた……


『ありがとう、本当に……』

『疲れたでしょう……?』

『今はゆっくり休んで……わたしはずっと、ここに居るから……』


>たくさんの足音と、耳慣れた声が近付いて来る……


『みんなとも、すぐに会えるから……』


>だんだん、眠くなってきた……

>……目を、

メティス「姉さん!!」

鳴上「――ッ」


>メティスの叫び声を聞いて、閉じかけていた瞼が開いた。

>何時の間にか階段の下に、一階にいた筈の人間が揃ってそこにいた。

>JOKERの姿はなくなっている。

>……身体が痛い。

>そこでようやく、うつ伏せになって倒れていた事に気が付いた。

>傍にはライドウとゴウト、ドアマースもいる。

>しかし、アイギスの姿だけ見えない……


メティス「姉さんっ……アイギス姉さんは何処なんですか!?」

鳴上「ライドウ……一体、何が……」

鳴上「アイギスは……?」

ライドウ「……喋るな。傷に障る」

鳴上「っ……」


>ライドウが体を起こしてくれるのと同時に、左肩に痛みが走った。

>制服もそこだけ破れ、血が滲んでいる……


ライドウ「……」

ライドウ「アイギスさんは、JOKERの攻撃から咄嗟に君を庇って……」

鳴上「!?」

メティス「そ、そんな! 嘘、でしょ……嘘ですよね!? 嘘だって言って下さい!」

メティス「ねえっ、冗談なんてやめて! ライドウさん!」

メティス「……鳴上さんっ!!」


>メティスの責めるような呼び声に何も言えなかった。

>こんなの嘘だ……信じたく、ない……

>さっきまで一緒に居たのに。

>アイギスの事を守ると、言ったばかりなのに……!

>そして、メティスの叫びはまた別の叫びに消された。


達哉「……お、おい!」

達哉「橿原先生は何処だ!?」


>その言葉に、皆が辺りを見渡す。

>確かに橿原の姿が見えない……


ラビリス「えっ、……あれ、ウチらみんな一緒にここまで来たよな!?」

天田「そ、そうですよ! アイギスさんからのおかしな通信とドアマースが吠えた声を聞いて、様子を見に行こうってなって……」

美鶴「ここで分かれるのは危険かもしれないと判断したから大勢で固まって来たんだぞ!? あの場に橿原教諭も確かにいた筈……!」

達哉「あ、ああ! 俺の近くにいた! さっきまで隣にいた筈なんだ! なのに……」

達哉「っ、まさか……!」

>……



???


淳「……突然何かと思った。びっくりしたよ。此処は一体何処なんだい? 寮の中には見えないけれど」

JOKER「アンタの言葉にこたえる義理はないね。……だがよ」

JOKER「びっくりしたとか言う割にはそんな風に見えねえのはオレの気のせいなのかね、橿原センセイ」

淳「そんな事はないよ。僕は今、とても驚いている。こうして君と会話している事に、ね」

JOKER「……何だって?」

淳「だっておかしいじゃないか。こんな訳のわからない場所までわざわざ引っ張ってきて、こんな風に僕と話しているなんて」

淳「君は僕たちの事を消す為に来ている筈なのに。こんなに近くにいるのに、すぐそうしないなんて」

JOKER「その気になればすぐそう出来んだって事だよ。だからちょっとくらいお喋りを楽しんでみても良いかと思ってね」

JOKER「特に、アンタは俺たちの姿のモデルに関わってる一人みたいだし? 感謝の言葉の一つも言わせてくれよ。……ヒヒッ」

淳「……モデル? 何の事? それに俺たちって……」

ジョーカー「いい加減にしたらどうなんだ」

JOKER「……てめえ。こんなトコまで」

ジョーカー「君の世界にボクが行けない筈がないだろう。ボクの世界に君が入れるように」

JOKER「……チッ」

淳「君は……!?」

ジョーカー「橿原先生、ボクの後ろに」

JOKER「先にお前が相手になるって? 大いに結構!」

JOKER「来るなら来やがれッ!」

ジョーカー「……。確かにそれは魅力的な誘いではあるけれど、残念ながら君の相手はボクじゃないし、ボクの相手は君じゃない」

ジョーカー「そんな事、本当は解ってるだろう?」

JOKER「んな事ぁ、ないね。オレたちは互いに矛盾した存在だ。どっちが本当なのか知らしめる必要があんだよ!」

JOKER「お前だってそう思うだろ!?」

JOKER「オレはお前を認めない……お前も、認めない」

JOKER「その気持ちだけは同じの筈だ」

ジョーカー「だからといって、こんなやり方では……」

淳「君たちは、さっきから何を……」

淳「……」

淳「……そうか。なんとなく、解ってきた気がするよ」

JOKER「何?」

ジョーカー「……」

淳「ついさっきまで、JOKERという存在に対して不安や疑問、恐怖を抱いていた筈なのにこうして面と向かっている今、何故かそれを微塵にも感じない。その理由がだよ」

淳「……なんでだろうね。僕にはさっきから君の事がダダをこねている子供のようにしか見えないんだ」

JOKER「……」

淳「それにね、JOKER……僕は多分君の事を知っている」

淳「そして、そこにいる、もう一人の事もね」

淳「君たちのこの感じ。何処かで覚えがある……」

ジョーカー「……」

淳「だから僕は怖くない。だから僕は、……君がしようとしている事を受け入れようと思う」

ジョーカー「なっ……!? まさか!」

JOKER「……ふうん?」

JOKER「随分と潔いんだな。ハハッ、こっちが驚いたぜ!」

ジョーカー「そんなのダメだ!」

淳「良いんだよ。僕は諦めた訳じゃ、ないから」

淳「僕は信じているんだ。彼らの事を。僕がここで消されても、きっとどうにかしてくれるって」

淳「でも。これで……僕を消す事で気が済むのなら、出来ればこれ以上あそこにいる人たちに手は出さないで欲しい」

JOKER「そいつは出来ない相談だ」

JOKER「お前たちがここから消えるのは俺の為でもあるし、それに」

JOKER「……」

JOKER「さよならだ。センセイ」

ジョーカー「やめろ!」

淳「……」

淳「鳴上くん……」

淳「……達哉……」


>……


書く時間も投下する時間もあまり作れないので、どうしても少しずつ投下になってしまう。

また次回

>……


『ねえ、――……僕たち、そんなに似てるかな?』

『……』

『そうだね……僕、いやじゃないよ』

『そうだ』

『これ、パパからもらった宝物なんだけど……――にあげる』

『いいんだ。だって、僕はキミ。キミは僕なんだもの。僕がもってるのと変わらないよ!』

『……』

『これって……キミのパパからもらった宝物でしょ? いけないよ……』

『……』

『うん。わかった。宝物にする!』

『あははは! なんだかうれしいなぁ!』

『僕ら、どんな事があっても、さっきの約束を守っていくんだよね! いつまでも! いつまでも!』



『じゃあな、マスター。また来るよ。ああ、約束だ』

『ん~? いかんなぁ。ガキがこんな時間まで遊んでちゃあ。いい大人になれないぜ?』

『よし、酔っちゃいない。夢を掴んだ男の顔だな、薫君』

『さて、お兄さんも家に帰るから、諸君も帰った帰った!』

『逮捕しちまうぜ?』

『ねえ、――、知ってる? オトナは夢を忘れるためにお酒飲むんだって。ボク、そんな大人だったら、なりたくないな……』


>……


『僕は忘れない。犯した罪も、キミの事も、みんなの事も』

『必ずまた出会い、今度こそ一緒に――を守る。だから』

『さよならは言わないよ』

『ただ……ありがとう』

>……



学生寮 ラウンジ


ライドウ「傷はそれほど深くない。これで大丈夫だ。……鳴上?」

鳴上「……ん。ああ、ありがとう」

ライドウ「どうした。頭痛か?」

鳴上「いや、何でもない」


>ライドウに手当を受けた左肩に視線をやり、それからまた制服を着込んだ。


鳴上「そっちこそ、ライドウ……それにゴウトも。気分悪そうにしてたのはどうした」

ライドウ「? ……ああ、あれか」

ゴウト『今更だな。もう、どうという事もないわ』

鳴上「……そうか」

ライドウ「ドアマースの方はどうだ。この建物の中は気持ちが悪いと言っていただろう」

ドアマース「ん? そういえば……もうなんとも無いね。慣れちゃったのかも」

ライドウ「……」

ライドウ「解った。お前も一度管に戻れ」


>そう言ってライドウはドアマースを収める。

>彼女が常に出ている必要はなくなったからだろう。

>今この場所に、寮の中にライドウがいるのだから。

>手当を受けている間に、何故ライドウが建物の中へ入れるようになったのかその理由を聞いた。

>ピエロの方のジョーカー……あいつも一体何を考えている?

>今のところは敵ではないにしても、奴の行動も不可解なところが多く不気味だ。


鳴上「周防さんたち、遅いな」

ライドウ「……ああ」


>今、橿原が唐突に寮の中から姿を消した事で、何人かの人間が外の方にも捜索に出ている。

>周防が先陣を切ってここから一人で飛び出していってしまった為にそれを追い掛けなければならなくなったとも言うが……


鳴上「俺も様子を見に行ってくる」

ライドウ「まだ無理に動かない方が良い」

鳴上「……でも」


>僅かに視線をメティスの方へ移す。

>彼女はあれから取り乱すだけ取り乱した後急に静かになり、ソファに座り込んで俯いたまま一言も喋らなくなってしまった。

>隣には綾時がいて必死に励まそうとしているのだがまったく反応を示していない。

>自分の代わりにアイギスが消える事になってしまった事を思うと、メティスに顔向けが出来なかった。

>彼女の方もきっと今は自分の顔を見たくない事だろう……

ラビリス「じゃあウチが悠と一緒に行くわ。だから、ライドウにはここの事頼んでええ?」

ライドウ「しかし……」

ラビリス「大丈夫やて。無理はさせんようにするから。だからちょっと悠を借りるで」

ライドウ「……」

ラビリス「行こ、悠」

鳴上「あ、ああ。……ここにいる人たちの事をよろしくな、ライドウ」

ライドウ「……了解した」


>もう一度、メティスの方を見てからラビリスと一緒に寮の外へと出た。

>……



巌戸台駅周辺


鳴上「桐条さん、捜索の方はどうですか?」

美鶴『鳴上か。……いや、やはり何処にも姿が見えない。周防さんともはぐれてしまって……』

鳴上「周防さんまで!?」

美鶴『ああ。この異常事態の中でも冷静でいる方だと思っていたんだがな。橿原教諭の事を気にかけていたようだったし、認めたくないのだろう』

美鶴『既にJOKERの手にかけられてしまったなどとは』

鳴上「……」


>確かに橿原が手を下されたところを直接見た訳ではない。

>無事でいて欲しいからこうして外にまで出て彼を探しているのだ。

>しかし、今までの事を考えれば、おそらく彼ももう……

>……


美鶴『とにかく、周防さんの事も含めてもう少し辺りを探してみようと思う』

鳴上「……解りました」


>美鶴との通信を終え、思わず小さく息を吐いた。


鳴上「ラビリス、俺たちもまず周防さんを探そう。もし悪魔が出てきたら、周防さん一人じゃ……」

ラビリス「……」

鳴上「ラビリス?」

ラビリス「……悠、これ」

鳴上「?」


>ラビリスの手には封筒が握られている。

>こんなものどこから出てきたのだろう……


ラビリス「知らないうちに、ウチの制服のポケットの中にあった。手紙や」

鳴上「手紙? 誰からの……、ッ!?」


>その中には一枚の紙切れとカードが同封されていた。

>カードは……トランプのJOKERだ。

>紙切れの方には短くこう記されている。

『学校の屋上にて待つ』



鳴上「これは……!」

ラビリス「随分とけったいなラブレターやな」

ラビリス「しっかし、いつも時と場所を考えずにあっちから突然現れるくせにわざわざ呼び出しとはなあ」

鳴上「こんな誘い乗る必要ない!」

ラビリス「それは……出来んわ」

鳴上「ラビリス!」

ラビリス「だって考えてもみぃ? これは次はウチの番やっていう予告みたいなもんや」

ラビリス「だから、こっちがいかなかったら……いや、いかなくてもアイツの方から結局ウチの前まで近いうちに足を運んでくるって事になる訳やろ?」

ラビリス「それがあの寮の中で、大勢の人がいる前だったら? ……狙いがウチだけだとしても、みんなを巻き込んでしまうかもしれんやろ。そんなんウチは嫌や」

ラビリス「だから、ウチはいく」

鳴上「なら、せめて桐条さんたちにも相談してからでも……」

ラビリス「悠。……怪我してるとこゴメンな」

鳴上「な、ッ……!?」


>急に首筋へと強い衝撃が走った。

>だんだん意識が遠退いていく……

>目の前が……真っ暗に……


ラビリス「みんなにわざわざ知らせる必要もあらへんよ」

ラビリス「……でも、悠との約束があるからな」

ラビリス「これでJOKERの事、何かもっと解るかもしれへん。だから、アンタだけは一緒に連れていったる」

ラビリス「だから、……」


>……


鳴上「……」

鳴上「ッ……ここ、は……俺はいったい……、痛っ」


>生温い風を頬に感じ目を開く。

>同時に、首に痛みを覚えそこへ手を当てた。


ラビリス「お、気ぃ付いた?」

鳴上「ラビリス……?」


>目の前にあったラビリスの頭がこちらへと振り返った。

>そして、自分は足を動かしていなければ立ってもいないのに何故だか前へと進んでいる。

>どうやら彼女に背負われているようだ。

>しかもそれは片腕だけで、もう片方の手でラビリスは彼女の武器である斧をしっかりと持っている。


ラビリス「首痛い? 加減したつもりやったんけど」

鳴上「これは、どういう……」

ラビリス「あれ以上ごちゃごちゃ言われるのも面倒だったからちょっと寝ててもらっただけや」

鳴上「おい!」

ラビリス「でもいいタイミングで目覚めたな」

ラビリス「屋上、着いたトコやで」

鳴上「!」


>ラビリスの言う通り、気付けばそこは見慣れた月光館学園の屋上だった。

>まだ明るい空にうっすらと白く丸い月の姿が浮かんでいるのが見える。


ラビリス「JOKERは……まだ来てへんか」


>ラビリスは自分を降ろして辺りをきょろきょろと見回している。

>警戒しながら同様にJOKERの姿を探していると、不意にギィっという音を立てながら屋上の扉が開いた。


鳴上・ラビリス「!!」


>振り返り咄嗟に構える。

>だが、扉の先には誰の姿も無い。

>ひとりでにバタンッと勢いよく扉が閉まってから……それは徐々に姿を現し始めた。


JOKER「来てくれて嬉しいぜ、ラビリス」

ラビリス「こちらこそお誘いどーも。……なんて言うとでも思ったか?」


>JOKERとラビリスはお互いに笑いながら見つめ合う。

>それとは裏腹に、場には一気に緊張した空気が張り詰めた。


ラビリス「わざわざこんなトコ呼びだしてなんやの? 愛の告白?」

JOKER「だったらどうするんだ、ん?」

ラビリス「せやったら……答えはNOや!」


>ラビリスは月光館学園の制服を素早く脱ぎ捨てる。

>下からは鋼のボディが出てきて、持っていた斧を構え直した。


JOKER「ありのままの姿を曝してくれるのか。いいねえ……そういう元気なコ、オレは好きだぜ? 本当に惚れそうだ」

ラビリス「フン、アンタに言われても嬉しくないわ!」

鳴上「ラビリス! 俺も加勢する!」

JOKER「おっと。二人の逢瀬の邪魔はしないで貰おうか」

鳴上「!?」


>JOKERが腕を掲げると急に自分の身体が宙へと浮かんだ。

>そして間もないうちに薄い光の壁のようなもので球状に周りを囲まれ、ふざけた事にKEEP OUTと書かれた黄色のテープがぐるぐると球体の周りに張り巡らされる。

>光の壁は叩いてもびくともしなかった。


鳴上「なんだこれ……!」

ラビリス「悠!?」

JOKER「安心しな。アイツには手は出さない。今、用があるのは……ラビリス、お前だけだからな」

ラビリス「……だったら、早いとこケリつけないとな」

JOKER「そうだな」

JOKER「今、この屋上の扉は押しても引いても開かないようにしてある。結界を張ったからここから飛び降りて外へ行く事も不可能だ」


>見ると何時の間にか自分を閉じ込めている薄い光の壁のようなものは屋上の周りをも四角く囲んでいて、空が見える部屋のような状態になっていた。


JOKER「ここから出られるのはオレか、ラビリスか、どちらか一方……この勝負に勝った者だけって事になる」

ラビリス「どちらか一方……か。悪いな、ウチそういうのには慣れてるんや。悲しい事にな」

JOKER「そうでなきゃ面白くない」

ラビリス「……」


>JOKERが刀を構える。

>ラビリスの斧を握る手の力も強まったのが見えた。


ラビリス「悠! そこでしっかり見てるんやで! ウチらの戦いを……JOKERの事を!」

鳴上「ラビリス!」


>ラビリスの足が地を蹴り、大きな斧ごとJOKERへと突進する。

>その斧とJOKERの刀がぶつかり、せめぎ合う金属音が響いた。

>そこからラビリスは後ろへ下がりJOKERの足を払おうと斧を振る。

>それをかわしてJOKERは上方へと高く飛んだ。


ラビリス「甘いわ!」

JOKER「!」


>斧を片手に持ち、空いているもう片方の手を振り被るとラビリスのチェーンで繋がれた腕が勢いよく伸びてJOKERの腕を捕えた。


ラビリス「アンタにはウチの教育的指導、たっぷり受けて貰わんと……な!」


>JOKERを捕らえたラビリスの腕を繋いでいるチェーンがうねる。

>ラビリスはそのままJOKERを屋上のコンクリートに叩きつけるつもりだった。

>……だが、そうなる前にJOKERの腕から電撃がほとばしる。

>電撃はチェーンを伝ってラビリスにヒットした――!


ラビリス「きゃあっ!」

JOKER「っと、危ない危ない」

鳴上「ラビリス!」

ラビリス「っ……」


>難なく着地するJOKERに対しラビリスは斧を杖の代わりにするようにして崩れかけていた体勢を整え、腕にチェーンを収めた。

>ラビリスの体が僅かに震えているような気がする……


鳴上「平気かラビリス! ラビリス!?」

鳴上「くそっ、こんな壁……イザナギ!」


>イザナギを召還して自分の周りにある壁を壊そうと試みる。

>しかし、壊れるどころかイザナギ自体が自分の呼び声に応じてくれない……

>イザナギが、現れない。

鳴上(何故こういう時に限って……!)

ラビリス「……ア……アンタ……」

鳴上「……?」

ラビリス「この感じ……そうか……。やっと、……やっと解った。思い出したわ! アンタの事……!」

ラビリス「アンタやったんやな!?」


>ラビリスは片腕で斧を振り上げJOKERを指しながら叫ぶ。


ラビリス「八十稲羽でウチの事テレビの中に突き落とした犯人は!」

鳴上「ッ……!?」

ラビリス「ウチだけやない。多分、花村くんたちをあの時テレビに入れたんもコイツや!」

鳴上「そんな……!」

ラビリス「どうなんや! なんで、あないな事……。今だって! こんな事して何が楽しいん!?」

ラビリス「ウチらが何したいうんよ!」

JOKER「……」

鳴上「なんとか言ったらどうなんだ!」

JOKER「……オレにそんな事聞いてどうする。自分の胸に聞いてみろよ」

ラビリス「なんやの!? そのまるでウチらの方が悪いみたいな言い方……」

ラビリス「……もうええわ。それもこれも、アンタを倒して力尽くでも吐かせればいいだけの話やな!」

ラビリス「アリアドネ!」


>ラビリスのペルソナが猛スピードでJOKERに突進していく。

>同時にラビリスの斧を持つ腕がチェーンによって伸び、JOKERを挟みうちにしようとしていた。

>――その瞬間、JOKERの姿が消える。

>JOKERはその合間を器用に縫うように、その体に電撃を纏いながらラビリスの懐まで迫った――


JOKER「なかなか楽しめたぜ。じゃあな」

ラビリス「ッ!?」

鳴上「よけろ、ラビリス!!」


>そう叫ぶのも遅く……

>横に一閃、JOKERの刀がラビリスの体躯を通った。

>だが彼女の体は真っ二つに裂かれるという事はなく、切られた部分からまるで霧散するように徐々に消えていっているのが見えた……

>――それでもラビリスは最後の最後で、足掻いた。


ラビリス「……こんの……ッ!」

JOKER「!」


>ラビリスは、チェーンが伸びていない方の腕で咄嗟にJOKERが頭に被っている紙袋を剥ぎ取り……そのまま倒れた。


ラビリス「……」

ラビリス「……ごめんな……メティス……お姉ちゃんもリタイアや……」

ラビリス「……でも……メティスはまだ……ひとり、じゃない……から……」

ラビリス「……後は……お願い……」

>……

私は、あなたを信じてる。

信じる誰かに、託すことができる。

だから……満たされているのかも。

もしかしたら……

これが“生きる”っていう事なのかもしれない。


『うそ……』

『うそや……なんで……』

『武器を構えなさい』

『そんなん、ウチ……』

『戦わなければ、あなたは負ける。私によって破壊される。それでもいいの?』

『なんで……なんで、そんなん言うん!?』

『破壊される事を恐ろしいと感じるなら……恐れる心があるなら、ためらう必要なんて無い』

『それだけで、あなたには私を全力で攻撃する資格がある』

『怖いんは、あんたも同じやないの!?』

『会いたい人がおるって言うてはったやないの! せやのに、ウチがあんたを壊すやなんて……』

『お願い、こんなん止めて! ……ウチ、もう戦いたないねん!!』

『片方しか出られないのよ』

『あなたは強くて、泥仕合になった事が無いから、言われた事がないのね……』

『この場所のルールなのよ』

『私たちの気持ちなんて、最初から関係ない仕組みなの』

『……話していても時間の無駄ね。言葉だけであなたを動かすのは難しそう』

『私も、壊されるのを黙って受け入れる気はないわ。私にも……“会いたい”っていう目的があるから』

『さあ……戦いなさい!』


>……


『なあ、こっち……向いてくれへんの? もう……笑ってくれはらへんの?』

『……ごめんなさい……あなたを……ひと、りに……』

『……後は……お願い……』


――あなたが幸せになれることを、心から願っています――


『絶対……負けへん……ウチの……大事な……』

『約束なんやぁぁぁーッ!』

>……


>――気付けば、膝がコンクリートに着いていた。

>自分と屋上を囲っていた光の壁も消えているようだった。

>すぐ近くには月光館学園の女生徒の制服が落ちている。

>ラビリスが脱ぎ捨てた制服だ。

>学校に行きたいと強く願っていた彼女の……

>しかし、その彼女自身はここにはもう、……いない。

>不意に、バタンッと大きな音が耳に届いた。

>屋上の扉が再び開いたのだ。

>ラビリスを失った事実に茫然とするしかなかった自分の視界には、落ちた紙袋を拾って被り直すJOKERの背中がぼやけて映っている。

>かなしい、くやしい、――にくい。

>今すぐにでも、この男を……

>そう思うのに、体は動かない。

>手を屋上のコンクリートに着いてこの身を支えているのが精一杯だった。


JOKER「自分の無力さをもっと、もっと……思い知ればいい」

鳴上「ッ……」

JOKER「それだけじゃない。お前には、もっと色々な事を自覚して貰わなきゃならない」

JOKER「……」

JOKER「傍にあるのが当たり前だと思っていたものがなくなるのは悲しいか?」

鳴上「……当然だろっ!!」

JOKER「その気持ちが本当だと主張し続けるのなら、直に理解出来るさ」

JOKER「俺のしている事は、正しい行いなんだって事を」

鳴上「黙れ! 何を滅茶苦茶な事を言っている! 理解出来る筈ないだろ!? お前の事なんか……!」

JOKER「……。そうかよ」


>JOKERはそう呟いたきり、開いた扉を通って静かに姿を消した。

>扉は開きっぱなしのままだ。

>……

>立ち上がる気力もまだ起こらず、首だけを上に傾ける。

>――嗚呼、月が憎らしいほどに白い。



学生寮 屋上



綾時「……月が白いね」

綾時「ねえ、メティスさん。いい加減に戻ろう。そりゃ、外の空気を吸うのも大事だと思うけど……ライドウくんに怒られちゃうよ」

メティス「……」

綾時「戻りたければ僕だけ戻れ、なんて事言わないでね。もっと怒られる」

メティス「……」

綾時「……メティスさん」

綾時「泣きたいなら泣いちゃえばいいって、僕は思うよ。誰も怒ったりしないよ」

メティス「……」

綾時「胸を貸してあげるか、背中を向けて見ないフリをするくらいしか僕には出来ないけど」

メティス「……」

綾時「……」

綾時「まいったな……こういう時、鳴上くんだったらなんて言うんだろう」

綾時「何処まで行っちゃたのかな、鳴上くんたちは。いくらなんでも遅すぎやしない?」


――ザザッ――


ラビリス『……ごめんな……』

メティス「!」

メティス「ラビリス姉さん……?」

綾時「え、ラビリスさんがどうしたの?」

ラビリス『メティス……お姉ちゃんもリタイアや……』

メティス「ラビリス姉さん! どうしたんですか!? リタイアって……」

ラビリス『……でも……メティスはまだ……ひとり、じゃない……から……』

ラビリス『……後は……お願い……』

メティス「ラビリス姉さん! 返事を……! ラビリス姉さん!」

綾時「ど、どうしたの? メティスさん」

メティス「姉さんを……姉さんを助けにいかないと!」

綾時「待って、落ち着いて! そんなところよじ登ったら危ないよ! 落ちちゃうよ!」

メティス「ラビリス姉さんの……反応……早く探さなきゃ……!」


バタン


JOKER「それは多分無理な話だな」

メティス・綾時「!?」

綾時「え……なんで寮の中から……っ」

メティス「JOKER……貴方、また……まさか今度はラビリス姉さんを……?」

JOKER「なかなか楽しませてくれたぜ、ラビリスは」

メティス「……許さない!!」

綾時「待って!」

メティス「望月さん!? 貴方は下がっていて下さい! こいつは私がこの手で……!」

綾時「ダメだよ。女性を守るのは男の義務だからね」

メティス「あれは貴方が敵うような相手じゃないって解っているでしょう!?」

綾時「もちろん、知ってる。だから僕が時間を稼いでいる間に、君はみんなの所へ……」

メティス「ダメです、そんなの……!」

綾時「……そうだよね。メティスさんがライドウくんに怒られちゃうよね。だから代わりに、僕も謝ってたって事、伝えてくれないかな」

メティス「ダメ……!」

JOKER「素直にそうしておけよ、メティス。今、オレにとって用があるのは……確かに望月の方だからな」

綾時「つまりそれは。……次はボクの番、って事か」

メティス「っ……だったら尚更ダメです」

綾時「……」

JOKER「……フン。お前も先生と同じで妙に達観したような表情してるな」

綾時「そんな事ないよ。変なおまじないなんかしたからバチが当たったのかな、って思ってるだけさ」

JOKER「ジョーカー様……か」

綾時「まさかとは思うけど、それって君の事だったりするのかな?」

JOKER「そいつは違うね。オレは誰の願いも叶えたりなんかしない。……オレは、オレの願いの為だけにここにこうしている」

綾時「君の、願い? それって……」

JOKER「……でもそうだな」

綾時「?」

JOKER「特別に、お前の願っている事は叶えてやらなくもない。ひとつだけどな」

綾時「えっ……」

メティス「望月さん! そいつの言葉に耳を傾けないで!」

JOKER「なあ、――お前は自分が何者か名乗る事が出来るか?」

綾時「は……?」

綾時「僕は……望月綾時だよ。それ以上でもそれ以下でも、ない」

JOKER「本当に? 自信を持ってそう言えるのか?」

綾時「……何が言いたいんだい?」

JOKER「自分が望月綾時だとはっきり証明出来るのかと聞いている」

綾時「それは……」

JOKER「自分が自分であるかなんてそんな事、本当は誰にも解らないんじゃないか? 例え自分であっても」

綾時「……」

JOKER「お前も本当は何処かで疑問に思っていたんじゃないか」

JOKER「自分の存在とはなんなのか、って」

JOKER「『望月綾時』とは誰なのか知りたい、ってな」

綾時「っ……」

メティス「望月さん……?」

JOKER「オレもさ気になってはいたんだ、お前の事。だからこの場で……」

JOKER「オレがお前の中身を検めってやろうって言ってるんだ。悪くない話だろ?」

JOKER「今までは斬る度にうざったいものが見えて仕方なかったが……やっと面白いものが見れそうだな」

JOKER「……もしかしたら、お前はオレと同類なのかもしれない」

綾時「どういう事……?」

JOKER「……」

JOKER「一瞬で済む話だ。痛くはないし、なにより解放されるんだ。お前も、……オレもな」

JOKER「じゃあ、な」

メティス「なっ……!」

綾時「ッ!?」

メティス「望月さん……!!」

終わります

また次回

学生寮 ラウンジ


順平「ほらチドリ、紅茶だ。煎れ方テキトーだから美味くはないかもしんねえけど、毒味はしたから飲めないもんじゃないぜ」

チドリ「ありがとう」

順平「ライドウとヴィンセントさんもどーぞ」

ライドウ「わざわざ有難う御座います」

ヴィンセント「お、サンキュ」

ライドウ「……。ところでチドリさん」

チドリ「?」

ライドウ「折角ですから貴女に今一度、聞いておきたい話があります」

チドリ「……そんな改まって何の事かしら」

順平「そうだぜ。一体何の話だよ」

ライドウ「屋上で聞いた話の続きです」

順平「あー……お前がわざわざ呼び出しした時のアレか」

チドリ「……」

ヴィンセント「……うん? 何だ。もしかして、オレだけ話の邪魔?」

ライドウ「いえ。……もしかしたら、貴方にも関係のある事かもしれません」

ヴィンセント「え?」

ライドウ「チドリさん。屋上でお話を伺った時、貴女はこう仰いましたね」

ライドウ「ふとした瞬間、この場所の空気が妙に落ち着く時がある……と」

チドリ「……言った」

ライドウ「その理由はまだ理解出来そうにありませんか」

チドリ「ええ。わからないわ」

ヴィンセント「この場所が、落ち着く……?」

チドリ「そう、落ち着くの。今もそう。順平の煎れてくれた微妙な紅茶を楽しみながらゆっくり話が出来るくらいにはね」

チドリ「JOKERなんていう怪人がまた何時現れるのかもわからないのに、みんなもバラバラになっているのに……」

チドリ「不謹慎でごめんなさい。でも、何故かそう感じるの。……そう思う自分がいるの」

順平「駅前にある棺をなんの疑問も持たず黙々とスケッチしてたくらい落ち着いてたりしたよな。思えばあの時からか?」

チドリ「そうかも」

ライドウ「……。順平さん、あの場に一緒にいた貴方も、チドリさんの言葉に驚きながらも同意していましたが……」

順平「……ん」

ヴィンセント「お前も?」

順平「実は……そうなんす。ここ、妙に安心出来る場所に思うっつーか……」

順平「この寮、昔は俺も住んでた場所だからそのせいかとも思ったけど、なんか……それだけでも無いような気もしてて」

順平「でもよくわかんなくってさ。みんなの手前、滅多な事も言えねーし今まで黙ってたけど。なんでそんな風に思うんだろうな」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「実は……オレも」

順平「え?」

ヴィンセント「オレも、そんな風に感じる時が……不意にあった。初めて来た筈の場所なのに、妙な事件に巻き込まれている状態なのに、その合間で何故か安堵を覚える時が……あった」

ヴィンセント「初めはこの状況にすげー混乱してたのにな……いや、今も混乱はしてる筈なんだけどさ」

ライドウ「……」

ライドウ「可笑しな話ですね」

順平「だよ、な」

ライドウ「一番可笑しいのは……今、正に自分も、僅かにそう感じるような気がしているという事です」

順平「はあ?」

ゴウト『……』

ライドウ「何故だ……少し前まではあれほど気持ちの悪い空間だと思っていたのに……」

チドリ「……」

チドリ「……? メティス?」

ライドウ「!」

順平「うん? ……って、どうしたんだよ妹ちゃん!? フラフラして……さっきよりも顔色悪くなってんぞ!?」

ヴィンセント「本当だ! てか、あれ? 一緒にいたもう一人はどうしたんだ?」

メティス「……」

ライドウ「メティスさん。……望月君はどうしたんですか」

メティス「……望月さん……望月さん、が……」


>……


月光館学園前


美鶴『ラビリスが……!?』

天田『そんな……そんな事って……ラビリスさん……』

鳴上「……」


>通信機を使って美鶴や天田に今までの事情を説明した。

>二人ともその事実に言葉を失っている。

>こんなやり取りも、もう何度目になるのだろう。

>自分も、申し訳ないといった謝罪の言葉を言う事自体が申し訳ないような気がして、何も言えずにいた……

>この通信は通信機を持っている者には皆聞こえている筈なのだが、メティスとライドウからは美鶴と天田のような反応自体が無かった。


美鶴『……話を聞く限りだと、やはり君のペルソナ能力は不安定になっているようだな』

鳴上「そうみたいです」

天田『え、それってどういう事ですか……? やはりって……』

鳴上「……理由は自分でもよく解らない。ただ、桐条さんも言ってるように不安定、だとしか」

鳴上「あの妙な光の結界みたいなもののせいもあるかもしれないけど、何故肝心な時に限ってイザナギが呼べなかったのか」

鳴上「……大丈夫だと、思っていたのに」

美鶴『……』

美鶴『何故だ?』

鳴上「え?」

美鶴『何故、大丈夫だと、そう思ったのか聞いている』

美鶴『いや、それ以前に君に聞きたい事がひとつある。ずっとタイミングを逃していて、今まで聞き出せなかったが……この際だ、ここで答えて貰おう』

鳴上「……なんでしょうか」

美鶴『作戦室で園村先生が襲われた時の事だ。あの時、君は……』

美鶴『召喚器を使わずにすんなりとペルソナを召喚していなかったか?』

天田『なっ、それ本当ですか!?』

美鶴『ああ。少なくとも私の方からではそんな動作をしているような素振りは見えなかった』

美鶴『ペルソナの召喚を安定させる為の召喚器を使わずしてのペルソナの使役……』

美鶴『君自身の能力の不安を打ち明けられた矢先にこれだ。出来る事ならどういう事なのか説明して欲しいところだが……どうなんだ?』

鳴上「それは、……」

美鶴『私は君が嘘を吐いているなどとは思っていない。だからこそ、聞きたいと思った』

美鶴『それとも、これも解らない事……なのか?』

鳴上「……」

鳴上「今はアイギス……それにラビリスもいないから、貴女にしかわからない事になってしまいますが……」

鳴上「桐条さん、今のこの場所のこの空気……似ていると思いませんか?」

美鶴『似ている? 何にだ』

鳴上「テレビの中、ですよ」

美鶴『……なんだって?』

天田『テレビの……中……?』

鳴上「そう。テレビの中の世界」


>それが抱えていた違和感の正体。

>ライドウにモコイを見せた時から感じていた……

>……

>自分は元々、召喚器を使ってのペルソナの召喚の動作に慣れていなかった。

>ここに来るまでは、そんなもの使わずともペルソナを使える場所で戦っていたからだ。

>だからあの時、うっかり以前までと同じように特別な動作もせずただペルソナの名しか呼ばなかった……筈だった。

>……なのに

>それにも関わらず、モコイは現れた。

>それは、麻希の時も同様で……

>いくら影時間になっているとはいえ、ここは現実世界である筈なのに……


鳴上「どうしてここがそうなっているのか。その理由はやっぱり解りません。でも……」

鳴上「この感じにはよく覚えがあります。間違いありません、この感覚はテレビの中の世界と一緒です」

鳴上「それが、俺が大丈夫だと思っていた理由です。もしかして今なら八十稲羽の時と同じで何の補助がなくても力が使えるのではと、そう思った」

鳴上「だから桐条さんも、もちろん天田だって、今は召喚器を使わなくても容易くペルソナが出せる……のかも」

美鶴『……』

美鶴『どうしてそれを早く言わなかった』

鳴上「それは。それ、は……」

美鶴『……まあ、いい。話す時間が無かったのは私と同じだろうからな。それを責めても仕方がないか』

美鶴『しかし……言われてみれば、確かに私も少し妙だと思っていたんだ』

天田『……僕もですよ。今、身に感じているこの空気……以前の影時間の時には覚えがありません』

天田『なんていうんだろう。こう言ったら変かもしれないけど、妙に落ち着くっていうか安らぎすら感じるような……』

美鶴『……』

天田『そっか、これがテレビの中に入った時の感覚なのか』

鳴上「……」

鳴上(確かに、テレビの中の世界の感覚と似ていると、そう思う。それは嘘じゃない)

鳴上(でも……)


>それにしてもおかしいと感じる事が、実はまだひとつだけあった。


『妙に落ち着くっていうか安らぎすら感じるような……』


>天田のその言葉。

>テレビの中でそんな風に思った事……今まであっただろうか?

>……

>……と、その矢先、ライドウからの通信が入った。


ライドウ『ライドウです』

ライドウ『……此方もしてやられました』

鳴上「……え」

美鶴『ライドウ? ……まさか、寮の方にも!?』

ライドウ『……はい。望月君が、JOKERに……』

ライドウ『自分が居ながら……不覚でした』

鳴上「望月、が……!?」

美鶴『……。鳴上、君はまだ学校にいるのか』

鳴上「……はい」

美鶴『そのままそこを動くな』

美鶴『私は今、パオフゥ氏と共に車で移動している。そちらへ向かって貰うから、それ以上一人で行動せず我々が着くのを待て』

美鶴『君を回収してから一度寮に戻る事にする。天田も藤堂さんとコロマルを連れて戻るんだ』

美鶴『ここからそれほど距離は無い、すぐに――』


――ザ――ザザッ――


>美鶴の通信に突然酷いノイズが混ざった。


鳴上「桐条さん? ――桐条さん!?」


>美鶴からの応答は、ない。

>まさか……


天田『美鶴さん! 返事をしてください! 美鶴さ――』


>次に天田の通信が急に途絶えた。

>ライドウの声も聞こえない。


鳴上「天田! ライドウ! 聞こえないのか……おいっ!」

鳴上「くそ……」

鳴上(今度は桐条さんが!? いや、一緒にいるパオフゥさんという事も、あるいは両方……!?)

鳴上(天田は? ライドウは?)

鳴上(……メティスは?)

鳴上(……)

鳴上(……ここからそれほど距離は無いって言ってたな)


>美鶴からそこを動くなと言われたが、そうも言ってられない。

>彼女たちがいる方角はわからないが、ここで黙ってじっとしているだなんてそんな事は出来ない。

>と、その時――エンジンのような音がこちらに近付いてくるのを耳にした。


鳴上「これは車の、……いや」

鳴上「バイクの、エンジン音!?」


>その通り、バイクがこちらに向かってくるのを肉眼で確認する。

>そこに乗っていたのは、美鶴でもパオフゥでもない。

>一番最初に一人で寮を飛び出した、周防だった。

>周防を乗せたバイクは近くで停止する。


鳴上「周防さん!」

達哉「鳴上……お前、こんなところで何を」

鳴上「何を、じゃないですよ! 周防さんこそ一人で飛び出すなんてそんな無茶して……みんな、どれほど心配したか!」

達哉「……それ、は」

鳴上「い、いや! 今はその話をしてる時じゃない!」

達哉「……? そんなに慌ててどうした?」

鳴上「桐条さんとパオフゥさんが危ないかもしれないんです! それに、他のみんなも……!」

達哉「なっ……!? どういう事だ!」

鳴上「説明してる暇はありません! ……俺を後ろに乗せて走ってください!」

達哉「方角は?」

鳴上「周防さんの勘に任せます! 桐条さんたちが近くにいるのは確かですから……急いでください!」

達哉「……解った、乗れ! しっかり掴まってろよ!」


>……

『これが、タルタロスの内部……』

『特殊装備なしで人が入るのはまだ2例目という事だが……』

『……』

『シャドウに通常の武器は通じん。装備など気休めだ。ここにおる者は、ワシらの研究所で“適正”を開発されとる……十分だ』

『もっとも、“食われた”とて、それはそれでデータになるがな、ハハッ』

『まったく……エルゴ研の生き残りには変人しか居ないのかっ』

『それにしても、ご当主……宜しかったのですか? その……ご令嬢を、伴われて……』

『構いません。私自身が望んで来たのです』

『……聞いての通りだ』

『……そうですか。差し出た事を申しました』

『……』

『おい、どうした……?』

『う……う、あ……』

『ああぁっ、うあああぁぁーっ!』

『こ、これはっ……!?』

『くっ……まだ“適性”の人工的な開発には改良が必要か……!』

『ご当主、お嬢様、後ろへ!』

『あれが……シャドウ……』

『コイツッ……!』

『ご当主ッ! お嬢様ッ!』

『ぐおっ……』

『お父様ッ!!』

『おおっ……見たか!? 見たか、今の力!?』

『“ペルソナ”だ! やはり“ペルソナを扱える人間”は存在する!』

『お……父様……よかった……』

『素晴らしいですぞ、ご令嬢! 流石は唯一の“適性自然獲得者”!!』

『これで……この先に光明が見えましたな!』

『何を喜ぶか!? これでもう……この子は、贖罪の定めから逃れられない……』

『一番輝いている年頃を、我々の負の遺産に縛られて生きる事になる』

『何が光明なものか……』

『心配なさらないで……お父様……私が望んだ事ですから……』

『お父様は……私が、守ります……』


>……


『以前……お父様は言っていた……』

『私達の代にまでリスクを負わせた責任は、命に代えても果たすと……』

『でも私は……お父様に、生きていて欲しかった……』

『私は……この人を守りたくて、ペルソナ使いになったのに……』

>……


鳴上「っ……!?」

鳴上「周防、さん?」


>猛スピードで風を切っていた筈のバイクが急停止した。


達哉「あそこだ……!」

鳴上「!」


>前方には車の前で戦っているパオフゥの姿が見える。

>パオフゥの周りにはJOKERの姿は見えないが、代わりに大量の悪魔が彼を取り囲んでいた。


パオフゥ「チッ……キリがねえな!」

鳴上「あの悪魔は、リリムか!」


>……リリム。

>無意識に制服のポケットに入れていた携帯に手が伸びた。

>ペルソナが使えるかどうかわからない今だからこそ、この悪魔召喚プログラムが役に立つかもしれないというのに、起動してくれなければある意味はない。

>……

>やはり、ここはイチかバチかでも自分の力を信じるしかない。


鳴上「周防さん、下がっていてください!」

達哉「鳴上!?」

パオフゥ「! お前ら……!」


>バイクの後部座席から飛び降りて悪魔の群れへと突っ込んでいく。


鳴上「頼むっ……イザナギ!」


>イザナギは……

>ペルソナは、今度はその呼び声に応えてくれた。

>悪魔を一掃しようとその剣を大きく振う。

>……

>だが……そうやってしばらくしても、なかなか悪魔の数が減らない。

>パオフゥも、彼のペルソナで悪魔と戦っているというのに……!


鳴上「くそっ、どうなってるんだ……! これじゃあ、こっちの体力がっ……」

パオフゥ「……はっ、歳はとりたかねえなあ」


>パオフゥも大分息が上がっている。

>優勢に見えた展開は、一気に劣勢へと変わっていた……

>大量のリリムの軍団がこちらへと迫ってくる。


鳴上「……」

鳴上「頼む、頼むからこたえてくれよ……キミコ……」

鳴上「リリム……!」

>携帯を握り締めながら……叫ぶ。

>その瞬間、携帯から光が発せられた――


鳴上「これ、は……!?」

リリム「そんな熱烈なラブコールされちゃったらさあ、出てくるしかないよね!」

鳴上「リッ、リリム!」


>悪魔召喚プログラムを通じてリリムが――仲魔である彼女が姿を現した。


リリム「お待たせ、悠! 遅くなってごめんね!」

鳴上「っ……」

リリム「もう……、そんな顔しないで! せっかくのイイ男が台無しじゃない!」

リリム「……で」

リリム「そのイイ男をそんな顔にさせてるのはコイツらなのね?」

リリム「ふうん、お仲間かあ。でも今は話は通じない、聞く耳持たずって感じ……ね」

リリム「いいわよ、私はそれでも別に。悠の事傷付けたヤツらを許す気なんて、初めから無いんだし?」

鳴上「でも、リリム……いくらお前が悪魔でも……」


>流石に彼女だけで大勢を相手にするのは……無理だ。

>それでも、リリムは余裕の笑みを浮かべていた。


リリム「平気よ。だって私には、悠からもらった力があるもん」

鳴上「え……?」

リリム「私がアンタたちみたいなそんじょそこらの野生と違うってところ、見せてあげる! くらいなさい――」

リリム「メギドラオン!!」


>大きな衝撃波が、自分達を取り囲んでいた悪魔を丸ごと包んだ――

>……


リリム「どんなもんよ」

パオフゥ「……こいつは」

鳴上「凄いな……」

達哉「……」


>リリムのその一撃だけで、悪魔は一匹残らず跡形もなく消し飛んだようだ。

>その様子に自分も含め、皆唖然としている。

>……と、急にリリムが抱きついてきた。


リリム「悠! 会いたかったよ、悠ー!」

鳴上「お、おい……」

リリム「私に会えなくて寂しかったでしょ? 寂しかったよね? でも、私も急に出られなくなったからビックリしたんだよ!?」

リリム「でもこうしてまた無事に悠に会えた! やっぱり私たちの運命の赤い糸は誰にも断ち切れな……」

鳴上「……リリム」

リリム「ふぇっ!?」

このリリムってどんな姿してたっけ

>抱き着いているリリムの身体を、そっと抱き返した。

>確かにここには……リリムがいる。

>それを実感して、思わず声が震えた。


鳴上「良かった、お前が無事で……」

リリム「ゆっ、悠……やだそんな……人前で……」

パオフゥ「……お取込みの途中悪いんだが」

鳴上「!」

鳴上「そ、そうだ! パオフゥさん!」

リリム「きゃっ!?」


>パオフゥの声を聞いてふと我にかえる。

>抱きついているリリムを引き離して、彼の方へと向き直った。


鳴上「桐条さん……桐条さんは何処に!? 確か、貴方と一緒だと……」

パオフゥ「……」


>確認する限り、車の中で避難していた様子もない。

>美鶴の姿は何処にも見られない。

>パオフゥは少し黙った後、静かに首を横に振った。


パオフゥ「桐条はJOKERに斬られて、俺の目の前で……消えた」

達哉「……間に合わなかったのか」

鳴上「っ、そんな……そんな!」

鳴上「桐条さん……!」


>……

長鳴神社


天田「凄い……あれだけの悪魔を、一匹で倒すなんて……!」

藤堂「でも、なんでだ? どうしてお前だけ俺たちの味方をしてくれたんだ」

藤堂「ケルベロス」

ケルベロス「……」

コロマル「ワンッ! ワンッ!」

ケルベロス「……やっと。やっと、恩を返せる時がきたようだ」

天田「え……?」

ケルベロス「まずは寮へ戻るぞ。話はそれからだ。あっちの方はヤツがどうにかしてくれただろうしな」

天田「ちょっ……待ってよ!」

ケルベロス「待たぬ」

ケルベロス「オレは早く、彼に会いたいのだ」


>……


学生寮 ラウンジ


順平「すっげ……俺の出番なんか無かったじゃん」

順平「てか、誰? アンタ」

メティス「そうです……! と、突然現れて……!」

メティス「私たちの事を助けてくれたのは感謝しますが、でも……」

ライドウ「……」

ライドウ「お前は人か? それとも悪魔か?」

「こんな姿の人間がいると思うか?」

ゴウト『確かにな。だが、この気配は……』

「……」

ライドウ「お前のような悪魔、今まで見た事がない」

ライドウ「悪魔。名は何と言う」

「オレは、……」

「我が名は、アモン」

「……お前たち、白い詰襟の男の姿を見かけなかったか?」


>>141
番長が所持してるペルソナのリリムと同じ姿のリリムです

終わります

また次回

>……


リリム「それがさあ、私にもよくわからないんだよね」


>学生寮へと戻る途中のパオフゥの車の中でリリムは不思議そうにそう呟いた。

>要するに、リリム自身にも何故今まで悪魔召還プログラムによる召還に応じられなかったのか、何故また急に出てこられるようになったのか、その原因について何も思い当たる節がないとの事で……

>謎は深まる一方でしかなかった。

>……

>通信機の方は未だに繋がる様子がない。

>ラビリス、綾時と続き、美鶴を失った悲しみも未だ癒えぬままだが、離れている他の皆の安否も気になる。

>口や顔には出さないがパオフゥもそれは同じな様で、少々荒っぽい運転を身に感じつつまだ寮は見えないのかと窓の外を確認しながらただ座って着くのを待つしかなかった……

>……


学生寮 ラウンジ


天田「……あ! 鳴上さん、おかえりなさい!」

鳴上「……」

鳴上「おい。これは一体、どういう事だ?」


>途中悪魔に襲われる事もなくやっと辿り着いた寮の入り口に飛び込むように扉を開いた瞬間、目に入ったのはなんとも不可思議な光景だった。

>寮にはすでに外へ出ていた天田と藤堂とコロマルも帰っていて、連絡を受けていた通り綾時がいなくなってしまった事を除けば全員がその場に揃っていた……訳だったのだが

>それに加えて、見慣れない顔触れがふたつほど増えているのだ。

>しかもそれはどう見ても人間とは言い難い。

>ふたつのうちの片方は四本足の見た事もない獣のようだし、もう片方は人型ではあるもののその皮膚の色や右半身を覆っている毛が人のもので無い事は明らかだった。

>となれば、考えられる答えは一つ。

>……この連中は悪魔だ。

>にも関わらず、その悪魔たちは当然のように皆と一緒にいて、皆もそれを気にせず平然としているのだ。


鳴上「どういう事だ? 天田」

天田「えっ……と」

ケルベロス「やっと戻ったのか。待ちわびたぞ」


>天田に説明を求めるべく繰り返し尋ねたところで獣姿の方の悪魔がこちらへと走り寄ってくる。

>その姿を見て声を上げたのは未だ召還したままでいたリリムだった。


リリム「えっ、……え? この感じって……ちょっ、アンタ! まさか……!? で、でも、なんで!?」

鳴上「……リリム? 知り合いなのか?」

リリム「知り合いもなにも、このケルベロスは……」

メティス「この子はパスカルさんですよ、鳴上さん」

鳴上「……」

鳴上「え?」


>今、とんでもない答えが返ってきたような気がする……

>聞き間違いだと思ってもう一度尋ねた。

鳴上「な……何? え? 誰だって?」

メティス「だから、パスカルさんです」

天田「そうみたい……です」

コロマル「ワン!」

鳴上「……」

鳴上「本当に……パスカル、なのか?」

ケルベロス「ああ、そうだ」


>……

>メティスや天田の大真面目な様子と目の前のケルベロスという種族らしい悪魔の返事を聞いても、はいそうですかと簡単に信じられないというのが現状だった。

>今までそれらしい象徴化すら見られなかった記憶を無くしたハスキー犬のパスカル。

>それが突然悪魔に姿を変えて目の前にまたこうして現れた……それが事実だとして


鳴上「……どうして、そんな姿に?」

ケルベロス「フム。それは……まあ、話せば長くなる」

ケルベロス「一言でいえば自分の事を思い出したから。というところだろうか」

鳴上「記憶が戻ったのか!?」

ケルベロス「ああ。長らく迷惑をかけた」

鳴上「そうなのか……」

鳴上「……いや、ちょっと待て。という事は、お前は元から悪魔だったっていう事なのか?」

ケルベロス「それもまた少し違うが……」


>ケルベロス……パスカルが言う通り、話し出せば長くなりそうな複雑な事情がありそうだ。


鳴上「……ま、まあそれにしても、無事で良かった。お前今まで何処にいたんだ?」

ケルベロス「ああ……それなんだがな。オレにもよくわからないが、どうやら空間の歪みのような場所にいたようなのだ」

鳴上「空間の歪み……」

ケルベロス「そうだ。オレはそこで記憶とこの姿を取り戻した。だが、そこからは自分ではどうしようも出来なくてな」

ケルベロス「どうしたらいいものかと途方に暮れていた時、ヤツが助けてくれたのだ」


>パスカルは振り返る。

>その視線の先には、もうひとつの悪魔の姿があった。

>悪魔は皆の輪からは少し離れた場所で腕を組みながら壁に寄りかかっていて、伏せていた顔を上げる。

>胸元のアンクがその動きに合わせて僅かに揺れて光った。


「あんな場所にいられても邪魔だったからここまで連れてきてやっただけだ」

鳴上「お前は?」


>リリムならわかるかと思って視線を向けたが彼女は首を横に振った。

>人型をした悪魔は返事をせず、黙ったままじっとこちらを見つめてくる。


ケルベロス「彼はアモン。どうやら気になる事があってここまで来るついでにオレを伴ってくれたのだ」

アモン「……そうだ」

鳴上「気になる事?」

アモン「この近辺に、白い詰襟のような服を着た男を見なかったか知りたい。それだけだ」

アモン「……なのに、そこの黒ずくめの野郎がだんまりでな。困ってたとこだ」

ライドウ「……」


>アモンはライドウに向けて嫌味を込めて呟く。

>ライドウはソファに座っていたが寄りかかったりなどはせず膝に両手を置ききっちりと背を正しながら目を伏せている。

>別に寝ているという訳では無さそうだったが、姿勢を崩す事もなくその言葉にぴくりとも反応を示さない。

>そんなライドウを見たアモンの舌打ちが聞こえた。

>白い詰襟のような服を着た男……と言えば、思い当たるのはあのピエロの方のジョーカーだ。

>だが……


鳴上「何故、そんな事を知りたいんだ?」

鳴上「ライドウが大人しくしているという事は今の所お前は俺たちに危害を加える事もないんだろうが……悪魔である事に変わりは無いんだろう?」

アモン「そうだな」

鳴上「そんな見ず知らずの悪魔に俺たちの持っている情報を簡単に教える訳にはいかない。きちんと理由を説明してもらわないと」

アモン「……」


>アモンは暫くの間黙った。


アモン「確証が欲しい」

アモン「オレは後ろ姿しか確認していないが……似ていたんだ。オレの知っているヤツに」

アモン「昔、敵対して倒した筈の男の姿に」

鳴上「……!」

アモン「もしそうなら。アレがヤツなら……オレはもう一度ヤツをぶっ潰す」

アモン「だからその為にも情報が欲しい。それだけだ」

ゴウト『……。ならば初めそう言えば良いものを』

ライドウ「……」

アモン「……フン」


>ライドウの近くで背を丸めていたゴウトの呟き聞いてアモンは嫌そうに顔を逸らした。

>どうやら、彼らの相性はあまりよく無いようだ。


アモン「……」

アモン「アレがオレの知るヤツであるならば、お前たちのような人間がこんな場所に放られ閉じこめられているのも解る……と言ったらどうする?」

鳴上「なんだって!?」


>アモンの言葉にこの場にいた全員が目を見開く。

>沈黙を決め込んでいたライドウですら、アモンに突然興味を示したように向き直っていた。



アモン「理由や目的は知らないけどな。ま、どうせくだらない事だろうが」

鳴上「ま、待て! どういう事だ!?」

天田「僕たちがこんな事になっている原因ってあの紙袋の方のJOKERが原因じゃないんですか!?」

アモン「……紙袋? JOKER?」

鳴上「いや、それよりも……お前今、こんな場所に放られ閉じ込められているって言ったよな?」

鳴上「ここは……この世界はもしかして……」

鳴上「俺たちの知る世界じゃない、のか?」

アモン「こんなにも変な場所なのに、今まで気付かなかったのか? ……その通りだ」

アモン「ここは言うならお前たちの世界をそっくり象っただけの全く別の空間、異界だ」

ライドウ「……異界」

メティス「影時間だから私たちの現実世界がこんな風になっていた訳ではない、と……!?」

アモン「その影時間とかいうのが何の事だかは知らないが、ここは人間世界と魔界の間に突然出来た得体の知れない場所だという事は確かだ」

アモン「だから少し気になってこの世界の事を観察していた。その時に、あの白い人影を見つけたんだ。そしてヤツが復活してまた良からぬ事を考えているのかと、そう思った訳だ」

ライドウ「……その話が本当ならば」

鳴上「あの男は味方じゃなく敵……そういう事なのか?」

アモン「会っているんだな? ヤツに」

鳴上「……ああ。でも」

鳴上(わからない)

鳴上(ピエロのジョーカーは、紙袋のJOKERに対し明らかに敵対心を持っていた)

鳴上(それは自分たちと一緒の筈だ)

鳴上(だからこの寮の中に入れなかったライドウをここへ来れるようにして、助けを……)

鳴上「……」

鳴上「何にせよ、理由がさっぱり解らない」

鳴上「アイツはアイツで何かおかしなを事企んでいるのか……?」

ライドウ「その為にはあの紙袋の男が邪魔で、だから鳴上に協力する様な素振りを一時的に見せているだけなのかもしれない」

ライドウ「奴の方が片付いたら、自分達に牙を向けてくる可能性が十分に有るという事か」

鳴上(……もう、何を信じていいのかわからない)

アモン「今のオレに言えるのは、そんな野郎を信じるよりもオレに協力した方がお前たちは助かる可能性が高いって事だけだ」

アモン「さあ、どうする?」

鳴上「……」

鳴上「アモン。お前がパスカルをここまで連れてきてくれた事には感謝している。その礼はなんらかの形でしたいとも思っている」

鳴上「でも、それとこれとは話が別だ。俺はお前の事もまだ信用しきれない」

アモン「……」

鳴上「だから、俺がお前に協力するんでなく、お前が俺に協力する。そういう事でひとまずどうだ?」

アモン「……なんだって?」

鳴上「簡単な話だ。アモン」

鳴上「俺の仲魔になれ」

アモン「!」

アモン「……それは交渉のつもりか?」

鳴上「ああ、そうだ」

アモン「……。じゃあ、何か頂かないと話にならないな」

鳴上「もちろん。対価は……お前が気にしている白い詰襟の男の情報だ」

鳴上「ただし、俺もそこまで詳しい訳じゃない。接触した数も少ないしな。でもおそらくヤツはまた俺の前に姿を現すと思う。だから俺の傍にいれば、お前の目的は自ずと達成されるって訳だ」

アモン「その代わりにお前を主として言う事は遵守しろと、そういう事か」

鳴上「ああ。どんな事があっても、俺の言葉は絶対として行動するんだ。勝手な事は許さない」

アモン「……」

アモン「わかった。それでいい」

鳴上「交渉成立、だな」

アモン「ああ。それはいいが……お前、名は?」

鳴上「そうか、自己紹介がまだだったな。鳴上悠だ」

アモン「……鳴上、悠」

ケルベロス「ユウ。オレを置いて先にアモンと契約するとは水くさい」

鳴上「え?」

ケルベロス「オレもユウの仲魔に加えて欲しい。嫌とは言わせないぞ」

鳴上「! パスカル、お前……」

ケルベロス「良いだろう?」

鳴上「……ああ。心強い味方が増えて嬉しい。ありがとう、よろしくな」

ケルベロス「こちらこそ。……では、改めて」


>パスカルはアモンに目配せする。


ケルベロス「我はケルベロス」

アモン「我はアモン」

ケルベロス「今後とも」

アモン「……よろしく」


>ケルベロスとアモンが仲魔になった。

>……

>アモンにピエロの方のJOKERについて話をした。

>アモンは自分が話をしている間は一切口を挟まず静かにしていたが、話が進むにつれて表情が徐々に強ばっていったのがわかった。

>そして終わった頃に彼は気まずそうななんとも言えない雰囲気になっていて、うんともすんとも言わず何か考え込んだまま結局ただの一言も返事らしい返事をしなかったのだった。

>もしかしたら、彼の期待とは違った情報だったのかもしれない……


鳴上「……すまない。こんな事しか話せなくて」

アモン「いや……いい」

アモン「……もしかしたらオレが的外れだったのかもしれないような気がしてきた」

鳴上「えっ」

アモン「いや、でも実際にこの目ではっきりと姿を確認しない限りはなんとも……」

アモン「ただ、オレの知っているアイツはジョーカーだなんて洒落た名をかたってはいなかった。もっと偉ぶった仰々しい名だったな。……流石に恥ずかしくてやめたのか?」

鳴上「まさか、人違いしていたかもしれないって事か」

アモン「それならそれでオレは構わないんだけどな。むしろオレの杞憂で終わる方がいいのかもしれない」

アモン「だが、それだとオレが知っている事でお前たちの役に立てそうな情報は何もなくなっちまうって事にもなる」

アモン「ま、それでも契約した以上はこの件が片付くまで一緒にいるつもりだけどな」

鳴上「お前、見かけによらずいい悪魔だな」

アモン「……バーカ。こんな異様な世界あっても迷惑なだけなんだよ。何時か、オレのいた魔界にまで影響を及ぼすような事でもあったらたまったもんじゃねえってだけの話だ」

鳴上「そういえば気になってたんだけど、アモンはその魔界とやらからどうやってこの異世界までパスカルと一緒にやってきたんだ?」

鳴上「入る事が可能なら出る事も可能な訳じゃないのか? だったら、俺たちを連れてここから出る事は……」

アモン「それは無理だ」

アモン「オレがここにやってこれたのは偶然入り口を見つけたからだった」

アモン「でもそれはどうやら片道だけだったみたいでな。今はもう閉じて無くなっている」

アモン「その入り口がこの寮に繋がっていなかったら、今頃ここにいた連中はどうなっていた事やら」

ライドウ「……」

順平「いやー、あん時はバッチタイミングで現れてくれたよな。ホント助かったぜ」

鳴上「まさか、寮にも悪魔が!?」

メティス「……はい。恥ずかしながら危機一髪というところを、突如現れたアモンさんに助けてもらったんです」

ライドウ「もう悪魔の出現に昼も夜も関係無くなっている様だ」

ゴウト『そもそも本来存在しない日を何度も繰り返している以上、ここでは初めから時間の概念など無いようなものではあったしな』

鳴上「そう、か……」

アモン「しかし、何故繋がっていた場所がここだったのか。何か懐かしい気配を一瞬感じてそれに誘われたような気がしたんだが……」

アモン「!」

アモン「お、おい。それって……」

鳴上「……?」


>アモンが急にカウンター席になっている場所へと近付いた。

>そこにはヴィンセントが座っていて、突如迫ってきた悪魔に対して彼は大層驚き焦っていた。


ヴィンセント「えっ、な、何!? オレ!?」

アモン「違う! そこに乗ってる物だ!」

ヴィンセント「こ、これ?」

鳴上「それって、確か藤堂さんが借りてきたっていう……」

藤堂「うん? あー、ヴィンセントに預かってて貰ってたアレか。持ってきてたんだな」

ヴィンセント「あ、ああ。ここに集まるってなった時オレ一度家に帰らせてもらっただろ? あの時に自分のノートPCと一緒に回収してきたんだよ」

ヴィンセント「プログラムの解析の方全然進んでなかったし、何かあった時に役に立つ事もあるかなって思ってさ」


>ヴィンセントの目の前には、藤堂の友人で葛葉探偵事務所の所員であるという人物から借りてきたらしい改造した小型PCがあった。


アモン「このアームターミナルは……」


>アモンはまじまじとその機械を見つめ、触れた。


藤堂「あ、大切に扱ってくれよ! もう使ってはいないけど壊したりしないようにって借りる時に散々注意されたからな」

藤堂「よほど大事な物らしいから」

アモン「……」

アモン「そうか。なるほど……な」

鳴上「まさか、アモン。その機械の中にある悪魔召還プログラムから出てきたって事じゃ……」

藤堂「え? でもそれなら鳴上と契約は出来ないだろ。それに、当時その中にあるプログラムを使って共に闘った仲魔とはみんなお別れしたって言ってたし……」

アモン「……」


>アモンは何も言わずに、その場から離れる。

リリム「ふーん……これは……へえ……」

鳴上「なんだリリム。静かにしてたと思ったら急にニヤニヤしだして」

リリム「んー? ふふふ、べつにー?」

鳴上「よくわからないけど楽しそうだな」

リリム「あんな強面悪魔でもかわいいところがあるんだなあって思っただけー」

アモン「……何勝手な想像して勝手な事言ってやがんだ。あ?」

リリム「きゃー、こっわーい!」


>リリムはくすくすと笑いながら自分の後ろに隠れる。

>リリムはアモンについて何を察した(あるいは妄想した)のだろう。


リリム「きっとアモンはね、その機械を使ってたニンゲンとお別れしたっていう仲魔だったのよ!」


>楽しそうなのは変わらないまま、リリムがそっと耳打ちする。


鳴上「どうしてそんな事がわかる?」

リリム「前に私が言った事覚えてる? 人の気配は場所や物に残るって話」

リリム「さっきアイツ言ってたじゃない。懐かしい気配を一瞬感じたって。だから前後の話と合わせて、そういう事なんじゃないかなあって思ったの!」

鳴上「……考えすぎじゃないか?」

リリム「ううん、絶対そうよ! 私、こういう事に関しては鋭いんだから!」

リリム「確かアレの持ち主って女なんでしょ? アモンはきっとその子の事別れた今でも……」


>リリムは勝手な想像を暴走させながら語る。

>悪魔であってもオンナノコはこういう話が好きなのは変わらないようだ。

>何にせよアモン自身に聞かないと真実は解らないが、今は聞けそうな雰囲気ではない。


藤堂「そういや鳴上の悪魔召還プログラムは起動するようになったんだよな。俺のはどうだろう」


>藤堂は携帯を取り出してカチカチとボタンを押している。


藤堂「……」

鳴上「どうです?」

藤堂「うーん……俺のはダメっぽいな」

鳴上「そうですか……」

藤堂「でも、鳴上のが使えるようになっただけでも良かった。戦力が増えて助かる」

藤堂「……とまあ、そんなところで、今後の事についてもう少し話し合わないか?」

鳴上「そうですね」

天田「……あの、その前にちょっといいですか」

鳴上「ん、どうした?」

天田「本当はこんな事改めて聞きたくはないんですけど、さっきから誰も聞かなかったから……僕が聞きますね」

天田「……。さっきから美鶴さんの姿が見えないのは……その……」

鳴上「……」

鳴上「ああ。天田の察しているの通りだ」

天田「……!」

ライドウ「あの時、急に通信が聞こえなくなってからすぐに、か?」

鳴上「どうやらそういう事らしい」

天田「そう、ですか……」

メティス「……」

ライドウ「橿原さんの方も結局見つからず終いだったのですか?」

達哉「……ああ。悔しい話だが」

メティス「橿原先生、も……」

鳴上「……。俺の通信機はまだ使える気配が無いんだが、天田たちのはどうだ?」

天田「僕のもダメです」

メティス「私のものも、機能しないようです」

ライドウ「同じく」

鳴上「という事は、今後すぐに連絡を取り合うのは難しくなりそうか……」

天田「携帯電話は通じるけど、繋がるまでにどうしても多少は時間がかかっちゃいますよね」

鳴上「でも当面はそれで連絡し合うしかないな。この中で、誰か機械に強い人は?」

パオフゥ「……直せるかどうかはわからねえが、俺が一応見てやる」

鳴上「! ありがとうございます」

パオフゥ「あまり期待はするなよ」

パオフゥ「そっちの嬢ちゃんについては完全に管轄外だしな」

メティス「……はい」

鳴上「お願いします」


>通信機が内蔵になっているメティスを除き、通信機を持っている者はそれをパオフゥに一度預けた。


パオフゥ「で、どうする気なんだ。これから先」

鳴上「……」


>正直なところ、これといって具体的な策は……今の頭ではすぐに思い浮かばない。

>……

>こういう時、咄嗟の判断と対応が出来ない事が非常に悔しい。

>特別捜査隊の時だってリーダーをしていたし、特別課外活動部の部長兼リーダーを現在任されてはいるが、思えば実質現場を取り仕切っていたのは半ば美鶴のようなものだった。

>彼女の存在を失った事は個人的な感情を抜いたとしてもあまりにも痛いのだという事を思い知る。

>美鶴だったらこんな時どうするのだろうか……

>それを考えても結局のところ何も思い浮かばないのは同じだった。


パオフゥ「……なあ」

パオフゥ「もういっその事、各々自由に行動するってのはどうだ?」

やっと時間が出来たので再開です

年末から年始にかけて書き溜めを連続投下予定

今日はもう時間なのでここまで

また明日

鳴上「えっ!?」

鳴上「そ、それはどういう……」

パオフゥ「どういうも何もそのままの意味だ」

パオフゥ「ここで大人しくしてるのもよし、一人で好きな時に外へ出るのもよし……個人の好きなようにするんだよ」

パオフゥ「ただし、どうなっても全部自分の責任だ。それを理解した上でそれぞれ思うように過ごせばいい」

鳴上「どうして急にそんな事! 俺は反対です。出来るだけみんなでまとまっていた方が……」

パオフゥ「そうしていても危険だっていう事に変わりは無い事が散々証明されてるから言ってんだ」

パオフゥ「ここに留まっているだけじゃ得るものは何もない。失っていく一方だろ」

パオフゥ「自分の意志で自分がすべきだと思った事を何もしないまま、あんな野郎にやられるのなんて俺は御免だからな」

鳴上「それは……そうですけど……」

パオフゥ「……。それでもここで静かにしていたい奴はそうしてればいいさ。何か解ったら情報は教えるし、協力してもらう事もあるかもしれねえが」

達哉「待ってくれ。……悪いが俺も反対だ」

達哉「アンタの言う事は確かに頷ける部分もあるが、俺は未成年をこんな状況で野放しにして好きに行動させたくない。絶対に」

パオフゥ「だったらお前がガキ共にくっついていればいいだけの話だろ」

パオフゥ「そういうのも含めて自由にすればいいって俺は言ってんだ。誰かと一緒にいたい、誰かの傍で誰かを守りたい……誰に指図される訳でもなくそうしたいってのなら勝手に自分でそうすりゃいいんだよ」

達哉「……」

パオフゥ「……ま、どうしても今まで通りがいいってんなら、俺の事は考えてくれなくていい。除いてくれ」

パオフゥ「通信機の事については直りそうだったら渡してやるから」

パオフゥ「少し作戦室借りるぞ」

鳴上「パオフゥさん!」


>パオフゥは言うだけ言って、車のキーをテーブルに置きラウンジを離れて階段を昇っていった。

>思わずその後を追って動きそうになった所で、腕を掴まれる。

>藤堂の手だった。


藤堂「いいよ、ほっといてやれって」

鳴上「でも!」

藤堂「鳴上が何から何まで色々な事に気をまわす必要ない」

藤堂「……って、多分パオフゥは言いたかったんじゃないか?」

鳴上「!」

藤堂「パオフゥはさ、君の負担を少しでも減らしたかったんだと思う。だからあんな事言ったんだ」

藤堂「いい大人が子供に責任全部押しつけるのは確かに忍びないもんな。あれは、彼なりの思いやりだよ」

藤堂「それにしたって、もう少し柔らかい言い方すればいいのにな」


>藤堂は苦笑をこぼした。


藤堂「まあ要するに、俺たちみたいな大人の事は君たちが気を揉む必要は無いって事。鳴上は仲間や友人の事だけ心配してくれてれば……」

鳴上「俺は藤堂さんたちの事だって仲間だと、そして友人だと思っています」

藤堂「その気持ちだけ受け取っておく。ありがとう」



>藤堂は、自分の頭にぽんと手を乗せるとわしゃわしゃと撫でる。

>……本人にそのつもりはないのかもしれないが、なんだか子供扱いされているような気分だった。

>確かに藤堂から見れば子供なのは確かなのだとしても、釈然としない。

藤堂「という訳で、俺も少し別行動させてもらう。ちょっと気になる事が出来たからさ。車借りるな」


>藤堂はパオフゥが置いていった車のキーを取ると立ち上がった。


天田「じゃあ僕もついて行きます!」

藤堂「え? 別に一人で平気……」

天田「自分の思うように行動していいんでしょ? だったら僕は藤堂さんを一人にさせておきたくないので一緒に行きます。嫌だと言っても行きます」

藤堂「……解った。解ったよ。行こう」

天田「はい。鳴上さん、僕ちょっと行ってきますね」

藤堂「そんなに遅くならないようにするから」

藤堂「もし万が一戻る事もなく連絡がつかなくなったとしても。『そういう事』になったんだと思ってくれていい。無闇に探したりするような真似はするなよ」

天田「僕はそんなの御免です。絶対揃ってここに帰ってきますからね」

藤堂「だから、万が一って言ってるじゃないか」

鳴上「……。二人とも気をつけて」

藤堂「そっちこそ」


>引き留められるような言葉も見つからず、結局二人を見送る事にした。

>そうしてしまった以上、もう無事に帰ってくる事を祈るしか無い。

>藤堂や天田だって立派なペルソナ使いの一員だ。

>ちょっとやそっとの事でどうにかなってしまう事は無いとは思う。

>それでも……気を揉む必要は無いと言われても、心配しないでいるなんて無理な話だった。


メティス「……行ってしまいましたね」

鳴上「ああ」

鳴上「……」


>そういえば。

>メティスに渡さなければならない物があった。


鳴上「メティス」

メティス「はい」


>彼女のその短い言葉の中に、何処か素っ気なさを感じる。

>それでも今は構わずに言葉を続けた。


鳴上「……これを」

メティス「? 月光館学園の制服……ですか?」

鳴上「ラビリスの物だ」

メティス「!」

鳴上「お前が持っていた方がいいと思って」


>あの時、屋上に唯一残されたラビリスの私物である制服をメティスに渡した。


メティス「あ、……」

メティス「……ありがとう……ございます」

鳴上「っ……」

>制服を受け取り抱きかかえるような仕草を見せると、メティスは震えた声でそう告げ頭を深く下げた。

>そしてまるで逃げ出すようにラウンジから階段の方へと駆け出して行ってしまう。


鳴上「メティス!?」

メティス「自分の部屋に行きます。少し一人にさせてください」


>彼女は足を止め、震えた声のまま顔を振り返る事なくそう答えた。


メティス「パオフゥさんの言ってたように、それで自分の身に何があっても自分で責任を取りますから。……気にしないで」

鳴上「……すまない、メティス。俺は――」

メティス「謝ったりしないでください」

メティス「……何て答えたらいいのか、わからなくなっちゃうから」

メティス「……」

メティス「ごめんなさい」


>自分には謝るなと言ったその口でその言葉を言うと、メティスは階段を駆け上がってこの場から姿を消した。

>……


『……ありがとう……ございます』


>メティスはどんな気持ちでこう言ったのだろう。

>彼女に礼を言われるような事は何もしていないのに。

>むしろ責め立ててくれた方が気が楽だったのに。

>どうしてラビリスを、アイギスを、消されてしまった皆の事を救えなかったのかと――


リリム「あの子の事、追いかけなくていいの?」

鳴上「……一人にして欲しいって言ってたの聞こえてただろ」

リリム「本当は一人にさせておきたくないんでしょ?」

リリム「でも、追っていいものかどうか迷ってる……ってところ?」

鳴上「解るならわざわざ口に出すなよ」

リリム「……」

リリム「もー、悠ってば変なところで意気地がないよねー」

リリム「ううん、この場合は優しすぎるのも考え物って言った方がいいのかな」

鳴上「……そんなんじゃ……無い」

リリム「わたしは悠のそういうところ好きだけど、でも……」

リリム「ううん。いいよ、わたしが行ってくる」

鳴上「……え?」

リリム「ダメ? 悠が行くなっていうのならそれに従うけど」

鳴上「……」

鳴上「すまない。頼む」

リリム「……うん。オッケー、任せて!」

リリム「パスカル! アモン! アンタたちは悠の事頼んだよ!」

ケルベロス「ああ。解っている」


>リリムはメティスの部屋へと向かって行った。

アモン「……おい」

鳴上「なんだ、どうした」

アモン「……」

アモン「いや、なんでもない」


>何か言いたそうにしていたアモンだったが結局何も告げずに輪から少し離れて、初めて彼の姿を見た時と同じように腕を組んで壁に凭れかかり少し俯くようにしてから目を閉じた。


ケルベロス「急に随分と静かになってしまったな」

鳴上「そうだな」

ケルベロス「ユウは何もする気はないのか」

鳴上「……今のところは、特に」

ケルベロス「フム……」

コロマル「ワンッ、ワンッ!」

ケルベロス「……ん? それもそうだな」

鳴上「コロマルは何だって?」

ケルベロス「せっかく時間が出来たのなら、オレの『話せば長くなる』話を聞かせて欲しいとの事だ」

鳴上「ああ……なるほど。それは俺も是非お願いしたいところだな」

ケルベロス「……」

ケルベロス「オレはある少年の家に飼われていた一匹のハスキー犬だった」

ケルベロス「少年には父親も兄弟もおらず、母親とふたりきりの家庭だった」

ケルベロス「ふたりとも優しかった。慎ましくも幸せな時間を送っていたよ」


>パスカルは遠い昔を懐かしむようにしみじみと語り始める。


ケルベロス「そんなある日の事だった。少年があのプログラムを受け取ったのは」

鳴上「まさかそれって……」

ケルベロス「ユウも持っているそれだ。……悪魔召還プログラム」

ケルベロス「そして時を同じくして、街中に悪魔が出没し始めた」

ケルベロス「少年の母親は……その犠牲になった」

鳴上「……」

ケルベロス「オレは近くにいたが、何も出来なかった。ただの犬だったからな。一緒に殺されなかったのが不思議なくらいだ」

ケルベロス「少年の母親を殺した悪魔は少年とその友人ふたり、そして少年の仲魔たちが倒したが……彼にとって残った家族はもうオレだけになってしまったんだ」

ケルベロス「だからオレは少年たちに連れていって欲しいと必死にせがんだ。人間には通じない犬の鳴き声でな」

ケルベロス「少年はオレを連れていってくれた。それからすぐだ」

ケルベロス「オレは悪魔と合体して別の悪魔へと――ケルベロスへと生まれ変わり、力を手に入れたんだ」

鳴上「な……!」

ケルベロス「どうやらオレはどの悪魔と合体してもケルベロスになる素質を持っていたらしい。少年もそれを知った時は驚いてそんな顔をしていたな」


>パスカルは自分の表情を見て明るく笑いながらそう言った。


鳴上「まさか、その少年がパスカルをそんな姿にした張本人なのか!?」

ケルベロス「ああ、そうだとも」

ケルベロス「言っておくが、オレはこの姿を得て満足しているぞ。あのハスキー犬のままだったら悪魔の溢れる街の中、彼らの傍にいてもおそらく生き残れなかっただろうし」

ケルベロス「なにより、少年のために闘う力を手に入れられた事が嬉しかった」

ケルベロス「少年の傍にこのままずっと仕えようと、そう思っていた。だが……」

ケルベロス「そう決意し共に行動していたその矢先に、……はぐれてしまったのだ」

ケルベロス「転移装置のようなもののゲートがある場所があってな。そのゲートの光に吸い込まれてやって来たのが……」

鳴上「あの遊園地か」

ケルベロス「そういう事だ。オレはそのショックからか記憶も自分の姿すらもなくし忘れてしまっていたようだ」

鳴上「瞬間移動してきたって事なのか。そんな事が実際に出来るなんて……」

ケルベロス「……いいや。それは的確な表現ではないな」

鳴上「……?」

ケルベロス「ユウ、今は何年だ?」

鳴上「西暦って事か? 2012年だけど……って、まさか!」

ケルベロス「……フム、そのようだ」

ケルベロス「詳しい年はあやふやだが……オレは1990年代の東京からここにやってきた。つまり」

ケルベロス「タイムスリップしてしまった、という事らしい」


>1990年代というと、以前藤堂が話していた悪魔召還プログラムがばらまかれた頃と一致する。

>それならパスカルの飼い主の少年がそれを手に入れる事が出来たとしてもおかしくはない。


ケルベロス「……彼は今、何処で何をしているのだろうか。悪魔と戦っているのだろうか」

ケルベロス「生きて、いるのだろうか」

ケルベロス「願わくば、いつかもう一度彼に会いたい……」

コロマル「クゥーン」


>コロマルはパスカルを慰めようとしているようだ。

>そして、自分に向けて鳴き声を上げる。


コロマル「ワンワン!」

鳴上「……ああ、そうだな」

ケルベロス「……。コロマルの言葉が解るのか?」

鳴上「なんとなくな。パスカルの飼い主の少年を探してやって欲しい……って、そんなところだろ?」

ケルベロス「……」

ケルベロス「だが今は非常事態だ。オレのワガママを聞いている場合では……」

鳴上「だから、その非常事態から抜け出したらって事だろ」

コロマル「ワンッ! ワンワンッ!」

鳴上「コロマル、気合い入ってるな。パスカルが無事に戻ってきてくれてしかも心強い戦力になってくれた事がよほど嬉しいとみた」

コロマル「ワンッ!」


>コロマルは尻尾を振っている。


鳴上「……早いところ、どうにかしないと」

鳴上「みんな、頼りにしてるからな。俺に力を貸してくれ」

コロマル「ワンッ」

ケルベロス「……ユウ、コロマル。ありがとう」

ケルベロス「オレも全力で臨もう。今まで世話になった礼はきちんと返さなければな」

>コロマルたちとの絆が深まったのを感じる……


>『ⅩⅠ 剛毅 コロマル』のランク7になった



ケルベロス「……。ああ、それからもうひとつだけ」

鳴上「ん?」

ケルベロス「ここだけの話だが」

鳴上「ああ」

ケルベロス「ハスキー犬だった時のオレの性別は――」

ケルベロス「メスだった」

鳴上「……は!?」

鳴上「ほ、本当なのか?」

ケルベロス「ああ」

コロマル「ワンッ」

ケルベロス「悪魔になった後はオスもメスも関係ない体になってしまったようだがな」

鳴上「嘘だろ……そんな風には……」

ケルベロス「とても見えないと? 酷いな」

鳴上「い、いやいや! そういう訳じゃ……!」

ケルベロス「……フフッ」

鳴上「……?」

ケルベロス「ああいや、すまない。驚いた顔がやはりあの少年の事を思い出させるなと思っただけだ」

ケルベロス「いいや、驚いた顔だけじゃないな。ユウの持つ雰囲気は、彼と似ていると思う。上手く説明は出来ないが」

ケルベロス「だからだろうか。ユウの傍にいると居心地がいいのは……」

鳴上「……」

鳴上「そのパスカルの飼い主ってなんて名前なんだ?」

ケルベロス「そうか、そういえばまだ教えていなかったか」

ケルベロス「オレの主である彼の名は……」


>……


ライドウ「……鳴上」

鳴上「!」

鳴上「……どうした、ライドウ」


>急にライドウに呼ばれ少し驚いてしまいながら返事をした。

>ラウンジから去る者が現れ出した後、ライドウはアモンの言葉を無視していた時と同じように膝に両手を置き姿勢を真っ直ぐ正してソファに腰掛けた状態を保ちながら目を伏せ微動だにしなかった。

>今度こそ本当に眠ってしまったのかと一瞬思いもしたが、彼が変に殺気立っている事に気付いたのはすぐだった。

>虫の居所が悪そうというかなんというか……

>無表情を装ったままでそんな雰囲気でいるものだから余計に気味が悪かった。

>詳しい理由は解らない。

>しかし触らぬ神に祟りはない訳で、しばらくそっとしておいておこうと思っていたところだったが、あちらから話しかけてきたのならば話は別だ。

ライドウ「少し付き合って欲しい」

ライドウ「屋上へ」


>ライドウがすっと立ち上がるとゴウトもそれに合わせてソファから飛び降りる。

>そして一瞬、視線を別方向へと向ける。

>そこには船を漕いでる周防の姿があった。

>周防もまたライドウとは(おそらく)違った意味で変に殺気立っていた人物だった。

>彼は今までずっとラウンジに残っている者たちに監視するような視線を向けていた。

>多分、これ以上勝手な行動をとって危険に晒される者がでないようにと自分たちを思っての事だったのだろうが……正直、居心地が悪くて仕方なかったのが事実だ。

>しかし、疲れがたまっていたのだろう……今では自分たちに刺すような視線を送っていたその瞳は閉じてしまっている。

>ライドウはその隙に屋上へ行こうとしている訳だ。


ヴィンセント「ん? お前らもどっか行くのか?」

鳴上「屋上に行くだけです」

ヴィンセント「あー……いいけど、あんま長居はすんなよ? 刑事さんにバレて怒られたくなかったらさ」


>下手したらオレも怒られるかもしれないし、とぼやきながらもヴィンセントは屋上へ行く事を許可してくれたようだ。


ケルベロス「オレも行こう」

鳴上「いや、大丈夫だ。パスカルもアモンもここで待機していてくれ」

ケルベロス「……そうか」

ライドウ「では」


>ライドウとゴウトの後に続いて静かに階段を昇っていった。

>……


学生寮 屋上


鳴上「俺もライドウに聞きたかった事があるんだけど、今聞いてもいいか?」

ライドウ「? ああ、ならば先に聞こう。自分の件は少し長くなってしまうかもしれない」

鳴上「なら、周防さんに怒られるの確定になるな」

ライドウ「……そうだな。それで、鳴上の聞きたい事とは?」

鳴上「まあ、大した事でもないんだけどさ。なんで、アモンにジョーカーの事について素直に教えてやらなかったんだ?」

ライドウ「それを言うのなら君もだろう」

ゴウト『まさかあの悪魔と契約までしてしまうとは我も思わなかったぞ』

鳴上「あー……いや、確かにそうだけど」

ライドウ「……」

ライドウ「自分はただ、其れは自分の口から告げて良い情報では無いと思ったからそうした迄だ」

ライドウ「だが其れは飽く迄自分が思っただけの事に過ぎない。君が教えても良い事なのだと思ってそうしたのならば、其れで良い」

ゴウト『勝手に告げてしまって後で文句を言われては堪らないからな』

鳴上「そういう事か」

鳴上「俺はてっきり、折角ライドウが黙っていた事を俺が教えたもんだからライドウは怒ってるのかと思った」

ライドウ「……」

ライドウ「君に対して怒りを覚えている訳では、無い」

>ライドウは背を向けて自分と距離を取り、より静かな声で答える。


鳴上「……そう、か。そこら辺の深い事情については……敢えて聞かないでおこう」

鳴上「それを踏まえてあともうひとつだけ、質問な」

ライドウ「……ああ」

鳴上「ライドウさ」

鳴上「……」

鳴上「なんで今の方が殺気が強いんだ?」


>その問いにほんの僅かに遅れて、細長い影が飛んでくるのを視界に捉えた。

>それはちょうど自分の手元まで落ちてきて、反射的に両手で受け止める。

>両手に収まったそれは――一振りの刀。

>しかも自分が使用している武器だった。

>確か一階に置いてきた筈なのだが

>……どうしてその武器が今、空から降ってきた?


ライドウ「構えろ、鳴上」

鳴上「――!?」


>ゆっくりとこちらへ振り返ったライドウの手には、赤口葛葉が抜かれている。

>そしてあろう事か……その研ぎ澄まされた刃は真っ直ぐこちらへと向けられている。


鳴上「……これ、投げたのライドウか? 刃物をそんな風に扱うなよ。危ないだろ」

鳴上「……」

鳴上「なんの、冗談だ」

ライドウ「冗談では無い」

ライドウ「これが君の問いに対する答えと、……君を連れてわざわざ此処迄やって来た理由だ」

ライドウ「もう一度言う。構えろ、鳴上」

ゴウト『……』

鳴上「なっ……急にどうしたんだ!? ライ――」

ライドウ「行くぞ」


>言葉は彼に届く事はなく……

>ライドウは話を遮るようにして、地を勢いよく蹴りその力を利用して真っ直ぐこちらへと飛び込んでくるのだった。

終わりです

また明日

鳴上「くっ……!」


>斬られるぎりぎりのところで、刀を鞘から抜きライドウの一撃を受ける。

>刃が合わさる冷たい音が響いた後、からんと抜いた鞘の転がる音を耳にした。

>鞘の転がる音はすぐに止まったが、二つの刀はギチギチとせめぎ合い続けている――


ライドウ「事情は敢えて聞かないと、そう言ったばかりだろう」

鳴上「でも……これは、流石に……っ」

鳴上「ッ!」


>ライドウは足元に転がった鞘を瞬時に蹴り上げる。

>それが体に当たって僅かに怯んでしまうと、同時にライドウの猛攻が始まった。

>その一撃一撃を、刀で受け止めるのに精一杯だった。


ライドウ「どうした。反撃しないのか」

鳴上「俺には、ライドウを攻撃、する理由が……無いっ」

ゴウト『そんな戯れ言を口にしていると、死ぬぞ』


>ゴウトはいきなり暴れ出したこのデビルサマナーには文句の一つも言わず離れた場所でただ傍観している。


鳴上(何が『死ぬ』、だ……)

鳴上(ライドウの奴……本気出していないじゃないか!)


>ライドウの攻撃は一つ一つが重い。

>だがそれは、本当に殺すつもりで浴びせている物ではないような気がなんとなくだがしていた。

>それなのに自分は手一杯でライドウの方にはまだ余裕がある……

>……

>理不尽なこの仕打ちと合わせて、なんだか少し腹が立ってきた。


ライドウ「遠慮する事は無い。君の持つあの不思議な能力……存分に使うと良い」

ライドウ「せめてもの情けだ。自分はこの身この刀一つで戦おう。仲魔の召還は行わない」

鳴上「っ……」

鳴上「そんな情けはいらない!」


>どうにか苦し紛れに一太刀を繰り出す。

>……が、それはあっさりとライドウの刃で受け止められて簡単に弾き返される。

>その反動で、二人の距離が僅かに空いた。

>靴の底が屋上のコンクリートとの摩擦で擦り減る。

>ライドウはそこで攻撃の手を休め、こちらを静かに窺った。

>自分はと言えば、たった数分の競り合いで息が上がり、ライドウの太刀を防ぎ続けていた刀を持つ手は痺れて小刻みに震えている。

>仮に、相手には殺すつもりまではないのだとしても、こちらは死ぬ気でかからなければ勝てる戦いではないようだ……

>そもそも何故自分とライドウが戦う事になっているのかその理由もまだ解っていない。

>今のこの状態、どう考えてもこちらに分が無いのは解っている。

>それでも敢えて、ライドウにこう布告した――

鳴上「俺もペルソナは使わない! フェアじゃないからな!」

鳴上「……だから、俺がライドウに勝ったらこんな事しかけてきた真意を聞かせろ! そして、土下座して謝れ!」

ライドウ「そうこないと」

ゴウト『……無理だな。ライドウに勝つなど』


>ゴウトの呟きは聞かなかった事にする。

>そうしなければこちらが勝つ可能性は本当にゼロになってしまうような気がしたからだ。

>正直、こんな事をしている意味など到底あるとは思えない。

>それでも売られた喧嘩は買うのが礼儀だし、買った以上は負けてやるつもりはない。

>……しかし、これ以上長期戦になるのは避けたいところだ。

>次の一撃に全身全霊を込める――

>それで終わりにする!

>力一杯踏み込み、その勢いそのままにライドウへ突進した。

>ライドウもそれは同じで――

>どちらの刃がどちらの身を裂くかというまさにその時


順平「ストォォォォーップ!」

鳴上・ライドウ「!?」


>二人の戦いは、耳が痛くなるほどの順平の叫び声によって遮られた……


順平「おいコラ! お前ら何してんの!? 何してくれちゃってんの!?」

鳴上「順平、さん……?」

チドリ「刃傷沙汰の喧嘩とはちょっと穏やかじゃないわね」

鳴上「チドリまで一緒か……」

チドリ「でもなかなか絵になってたかも。もう一回構えたところを……」

順平「チドリもそのスケッチブックをしまう!」

チドリ「……つまんない」

鳴上「あはは……」


>……

>おかげですっかり熱が引いてしまった……


順平「鳴上もホラ! 刀を収める!」

鳴上「え、ああ……はい。すみません」


>順平が転がっていた鞘を拾いこちらへと突きつけてくる。

>それを受け取って素直に指示に従った。

>ライドウの方を見ると、彼はとっくに刀を外套の下の定位置へと戻しているようだった。


ゴウト『済まぬな、鳴上。この様な茶番に付き合わせて』

鳴上「!」

ゴウト『ライドウも思い通りにいかないこの状況に大分燻ぶっていた様だ』

ゴウト『だからと言って、あんな八つ当たりの様な真似をするとは感心できぬな、ライドウ』

ライドウ「……」

ライドウ「済まなかった、鳴上。あまりにも突然過ぎた。許して欲しい」

鳴上「え……っと」

ライドウ「……」

ライドウ「……そうか。土下座しなければいけないんだったな」

鳴上「いやいやいや! しなくていいから!」


>コンクリートに膝と手を付きそうになるライドウを慌てて止めた。


ライドウ「そうか?」

鳴上(だって、ライドウに勝ったらって話だし……)

鳴上「なんかもう、さっきまでの勢いが一気に冷めた感じだ……」

鳴上「っと、それで、順平さんたちはどうしてここへ?」

順平「あー、うん。実はさ……」

チドリ「外へ行きたいの」

鳴上「……は?」

チドリ「だから、外へ行きたいの」

鳴上「誰が?」

チドリ「私が」

ライドウ「……。それはどう言った理由でですか? チドリさん」

チドリ「外の様子をはっきりとこの目でもう一度確認してみたいと思って。ただそれだけ」

鳴上「どうしてまたそんな心境に?」

チドリ「ここに籠もりっぱなしも流石に飽きてきたってのが半分」

チドリ「もう半分は……私でも力になれる事、あるかもしれないと思って」

鳴上「え? それはどういう……」

チドリ「こう見えても私、何かの気配とかちょっとした異変とかに気付いたりするの得意よ」

チドリ「そういった事でちょっとしたヒントが得られるかもしれないでしょう? あの男の正体とか、この世界から出られる方法についてとか……」

チドリ「……私は戦ったりは出来ない。こういう事でしか、貴方たちの役に立てないと思うから」

チドリ「それも微妙なところではあると思うけど。でも……」

鳴上「チドリ……」

順平「とまあこういう訳でさ。どうしても行くって聞かないから、出来れば鳴上たちにも一緒について来て欲しいと思って」

順平「ダメ元で妹ちゃんにも一応声はかけてみたんだけど、やっぱりそういう気分じゃないって言われちゃってさ……」

鳴上「そう、ですか……」

鳴上「そういう事ならお供しますよ。ライドウは?」

ライドウ「勿論。自分も行こう」

順平「サンキュー!」

順平「あの刑事さんも今はすっかり熟睡状態みたいだし、早いとこ行って戻ってこようぜ」

鳴上「そうですね。すぐにでも行きましょう」

ゴウト『……。鳴上、先に外へ出ていてくれ』

鳴上「?」

ゴウト『案ずるな。すぐに我らも追う』

鳴上「……ああ。わかった」

>ゴウトとライドウを残して順平たちと先に屋上を出た。

>……


ゴウト『さて、ライドウ』

ライドウ「……どうした」

ゴウト『それは此方の台詞だ。先程のあれは一体どういう積もりなのか』

ライドウ「先程のあれ、とは?」

ゴウト『まだ惚ける気か。何故鳴上にあの様な真似をしたのかと聞いているのだ』

ゴウト『お前が弁明する気配を見せぬから改めて言及される前に咄嗟に誤魔化しはしたが……』

ゴウト『あの分かり易い殺気もなんだ。まるでわざと奴に勘付かせる様にしている風に感じたのだが?』

ライドウ「……」

ゴウト『……お前の事だ。何か考えあっての事だというのは理解しているがあまりにも突然だったのでな。止めに入るべきかどうするか、あれでも正直迷っていたのだぞ』

ライドウ「……ああするしか他に思い付かなかった」

ゴウト『フム……鳴上の力の程を詳しく知りたかった、と言った所か?』

ゴウト『その為には自らが刃を交えるのが一番だと判断した訳か』

ライドウ「……今はそういう事にしておいてくれ」

ゴウト『何やら含みのある言い方が気になるが……まあいい』

ゴウト『それで感想は?』

ライドウ「望んでいた答えは得られ無かった」

ゴウト『期待外れだったのか? 素人の動きにしては良いものだと我は感じたが』

ゴウト『いくら手加減していたとはいえ、数分の間ライドウの動きについてこれた。それで手一杯ではあったようだが……なかなか筋は良い』

ゴウト『きちんとした鍛錬を積めばもっと強くなるぞ、奴は』

ライドウ「そうだな。だが、自分が言いたいのはそういう事では無くて……」

ライドウ「……」

ライドウ「今は何もかも情報が乏しすぎる。だからゴウトにも下手な事は言いたく無い」

ゴウト『本当にどうしたというのだ。お前らしくもない』

ゴウト『任務遂行の為にも、しっかりして貰わないと困るぞ』

ライドウ「解っている。だが……」

ゴウト『……』

ライドウ「……」

ライドウ「ゴウトの言っていた事はあながち間違いという訳では無かった」

ゴウト『?』

ライドウ「自分が思い通りにいかない状況に燻ぶっていると言っていただろう。……あれだ」

ゴウト『……』

ゴウト『お前もまだまだ修行が足りぬな。目付役として骨が折れる』


>……

学生寮前


ライドウ「遅くなって申し訳無い」

ゴウト『待たせたな』

鳴上「よし。これで揃ったな」

ライドウ「ケルベロスがまだ寮の中に居たが連れて行かないのか」

鳴上「ああ。パスカルにはこのまま寮で待機しててもらう。俺たちが出ている間に襲撃があってもいいようにな。リリムもいるし、これなら……うん」

鳴上「代わりにアモンには一緒についてきてもらう事にした」

ライドウ「そうか」

アモン「これで奴に会える様な事があればいいけどな」

順平「物騒な事言うなよ……」

チドリ「いいから早く行きましょう」

順平「あんま遠くまでは行かないからな」

チドリ「解ってる」


>メンバーが集合しようやく出発といったところで、遠くから車のエンジン音が聞こえてきた。


鳴上「! 藤堂さんたちが戻ってきたか!」


>その予想通り見覚えのある車が自分たちの目前に止まり、中から藤堂と天田が姿を現した。


天田「ただいまです」

鳴上「おかえり、天田。藤堂さんもおかえりなさい」

藤堂「みんなこんな所に揃ってどうした? わざわざお出迎えって雰囲気では無さそうだけど」

順平「ちょっとこの周辺を散歩っていうか、簡単に見回りに行くって感じっす」

藤堂「彼女も連れてか?」

順平「あ、はい。外に行きたいって言い出したのそもそもこいつなんで……」

藤堂「ふーん……よくあのおまわりさんが許してくれたな」

鳴上「今、熟睡中です。起こさないようにしてくださいね」

藤堂「そういう事か。オッケー、もしもの時のフォローは任せとけ」

鳴上「お願いします」

藤堂「気を付けてな」

天田「あっ、あの! 僕も一緒に行きます!」

鳴上「え、天田も?」

順平「お前も少し休んだ方がいいんじゃね? 帰ってきたばっかじゃん。これだけ人数揃ってれば大丈夫だぜ?」

天田「いえ。殆ど車に乗ってるだけでしたし、疲れたりはしていませんから」

天田「それに、寮の中でじっとしてるだけだと落ち着かないので……」

順平「……そっか」

鳴上「……」

藤堂「ま、無理はしないようにな。いってらっしゃい」

藤堂「何かあればすぐに電話しろよ」

天田「いってきます!」

鳴上「あっ、天田!」

>天田は我先にとその場を駆け出して行ってしまった。


ゴウト『落ち着きの無い少年だな』

鳴上(普段はそんな事無いんだけどな……)

チドリ「いくわよ、順平」

順平「お、おう!」


>チドリがそれに続き、皆で出発した。

>……


学生寮周辺


>空は陽が沈みかけてオレンジ色になっている。

>そこに浮かぶ丸い月が不気味な蛍光色を僅かに発し始めていて、暗くなればよりそれが際立って見える事になるだろう。

>完全に夜を迎える前にこの散策を終わらせたいところだが……


順平「オッケーレッツゴーエブリバディ!」

チドリ「順平さっきからうるさい。あとその物真似は元ネタがよくわからないからやめてっていつも言ってるでしょ」

順平「えー!? 酷いぜチドリン! かっけぇんだぜ、ガスチェンバーのミッシェル!」

順平「あの人の物真似で右に出る者はいないと俺は自負してるね!」

チドリ「……あっそう」

順平「冷たい! チドリンの反応がマハブフダイン!」

チドリ「ほんともう黙って」

ライドウ「賑やかだな」

鳴上「……そうだな」


>順平は先程からずっとこんな調子だった。

>湿っぽかったり緊張した空気がここずっと続いていたが、彼のそんな振る舞いを見ているとそれが緩和されたような気もする。

>もしかしたら順平もそれを解ってわざとそういう振る舞いをして気を使っているのかもしれない。

>……考え過ぎだろうか?


チドリ「ねえ、悪魔の気配とかってしてる?」

アモン「……ん。いや、特には……」

チドリ「そう。私も特に変な感じはしてない」

アモン「……」


>チドリは順平を無視してアモンのところへと行った。

>悪魔に臆する事無く話しかけるチドリにアモンは少々面食らっているようだ。

>……

>今はその気配は無いようだが、何時悪魔に襲われてもおかしくないこの状況下であってもチドリは不思議なくらいとても落ち着いている。

>肝が据わっているというかなんというか……

>特別な力を持たない一般人の振る舞いには見えなかった。

順平「……」

順平「チドリ、何かの気配とか異変とかに気付くの得意って言ってただろ? あれ本当でさ。鳴上にも覚えがあるだろ?」

鳴上「……そういえば」


>屋久島へ旅行に行った時の事を思い出す。

>アイギスと屋久杉のある場所に居た時の話だ。

>唐突にチドリがそこへ現れて、自分の気配を感じたとかそんな言葉を聞いたような記憶がある。


順平「……これは、ここだけの話な」


>順平の声が小さくなった。


順平「アイツ、昔はペルソナ使いだったんだ」

鳴上「ペルソナ使……」

鳴上「なっ、……ええっ!?」

順平「しっ! 静かに!」

鳴上「っ……」

鳴上「あ、あの。どういう事ですか? 昔は、って……」


>順平に合わせて声を小さくしながら尋ねる。

>彼はチドリに聞かせないようにするかのように、少し歩調を遅め彼女から離れつつ小さな声のまま答えた。


順平「まだ影時間が存在していた頃の俺たちの戦いでさ、アイツは敵対勢力として最初は俺たちの前に現れたんだ」

順平「とは言っても、俺は最初そんな事全然気付かなくてさ。ちょっとしたきっかけで話すようになって、それからちょっとずつ仲良くなって、敵である事を知って、……まあ紆余曲折あって……チドリはペルソナの能力を失った」

順平「それどころか一度命を落としたんだ。……俺のせいで」

鳴上「……!」

順平「チドリのペルソナは人工的なもので、薬で制御しないとどうにも出来ないようなものだった。その薬のせいで元々余命幾ばくもなかった」

順平「それでも奇跡的に命を吹き返したチドリは今までの自分の事も力の事も何もかも覚えてなくてさ。だから、ペルソナの事とか本当は知らない筈なんだけど……」

順平「チドリのペルソナは探索能力があるタイプのものだったんだよ。だからなのか、力をなくした今でも何かを察知するの得意みたいで」

順平「チドリの元からの資質なんだろうな、多分」

鳴上「そうだったんですか……」

天田「すごいですよね、チドリさん」


>いつの間にやら近くで話を聞いていたらしい天田がぽつりと呟いた。


天田「自分の力、もう無い筈なのにそうやって僕たちに協力してくれるなんて。昔のチドリさんと比べるとなんだか同じ人だとは思えませんよ」

順平「まあな。確かにアイツ少し変わったかも。良い方向にな」

鳴上「順平さんの影響じゃないですか? それって」

順平「ええっ!?」

鳴上「だってそれからも順平さんはチドリの傍にいた訳ですよね。絶対そうですよ」

順平「……そうかな。そうだったら嬉しいけど、さ」

順平「でもそれって、鳴上の影響もあると俺は思うんだよな」

鳴上「俺?」

順平「そ、お前。友達が出来て嬉しかったみたいだしな。俺といる時よくお前の事話してたよ。ちょっと妬けるくらいにさ」

>順平は意地悪く笑いながら肘で軽く小突いてきた。


順平「まー、そんな訳だからこれからも友達として! よろしく頼むな!」

鳴上(『友達』の部分を強調した……)

順平「ああ、そうだ! 俺さ、この前チドリにやっと――」

チドリ「伏せてっ、順平!」

順平「え?」

鳴上・天田「!?」

順平「のわっ!?」


>反射的に伏せた順平の頭上を衝撃派のようなものが通っていくのが見えた。

>その後を突風が追い、ドンッという大きな振動と音が聞こえる。

>順平のすぐ後ろのコンクリートの地面がひび割れ大きく抉れているのが見えた……


ライドウ「……来たか」


>ライドウは直ぐ様刀を抜き、懐から一本管を取り出した。


ライドウ「ドアマース」

ドアマース「はいよっと!」

鳴上「っ……アモン!」

アモン「なるほど。あいつが二人いるババのうちの片方か」

アモン「……オレが探しているヤツの方じゃないみたいだが」

JOKER「……」

JOKER「みんなで仲良くお散歩か。呑気だな」

あけましておめでとうございます

今回はこれで終わりです

また明日

お久しぶりです
とりあえず生存報告だけ
色々と事情がありまして…投下はまた後日という事で今は勘弁してください…

>JOKERは今となっては本当に象徴化なのかどうかわからない破壊された棺の上に器用に立ちながらこちらを見下ろしている。

>その紙袋の男にドアマースとアモン、二匹の悪魔が同時に攻撃をしかけた。

>それをひらりとかわし、JOKERは地面へと降り立つ。


アモン「ちっ……」

ドアマース「ああもう、コイツ本当に腹が立つ!」

チドリ「順平っ、大丈夫!?」

順平「あ、ああ……なんとかな。お前はもう少し下がってろ」

チドリ「でも……!」


>順平は立ち上がりチドリの盾となるべく一歩前へ出た。


チドリ「順平!」

順平「……本当はもう、チドリの前でこの力使いたく無かったけど、しょうがねえよな」

順平「久々だし上手くいくかわかんねえけど……いくぜ!」

順平「トリスメギストス!」

チドリ「!」


>召喚器をあてた順平の頭上にペルソナが姿を現し、JOKERの方へと向かっていく――!


天田「っ、僕だって! カーラ・ネミ!」

鳴上「――チェンジ! ベリアル!」


>順平に続いて自分も天田もペルソナを出す。

>そのまま一気に畳みかけようとJOKERへ攻撃をしかけるものの、奴はものともせずそれをかわしていく。


天田「……ジオダイン!」

JOKER「!」


>注意深く様子を窺っていた天田がタイミングを見計らって魔法を放つ。

>その大きな一撃がJOKERの体を見事に頭から貫いた――!


天田「今です!」

順平「アギダイン!」

鳴上「刹那五月雨撃!」


>その隙を逃さず追撃を入れようとする――が、

>カーラ・ネミの魔法が直撃した筈のJOKERは、少しもよろける事もなく自分と順平のペルソナの攻撃を受け流していた。


天田「なっ……全然効いてない!?」

チドリ「多分雷に強い耐性を持ってるんだわ……」

チドリ「っ……順平!」

順平「!」

JOKER「まずはアンタからだ」

>JOKERはペルソナの間を縫うようにして走る。

>そして順平のすぐ傍まで近付くと刃を大きく振った――


JOKER「っ……!」

ライドウ「させるか」

JOKER「このっ!」


>その刀の攻撃を二人の間に割って入り、ライドウの赤口葛葉が防いだ。

>それから二人の刃が合わさって響く金属音が何度も聞こえ始める。


ライドウ「手が震えているぞ」

JOKER「!」


>最初こそは両者共に譲らぬ攻撃を繰り返していたが、段々とJOKERに余裕がなくなっていくのが見てとれる。

>それをライドウが見逃す筈は無かった。

>ライドウの刀がJOKERの身を斬ろうとして大きく縦に一文字を描く。

>JOKERはそれを持っていた刀で弾くがそうするだけで手一杯だったようで、反撃はせずに大きく後ろに飛びライドウとの距離を取った。


JOKER「……」

ライドウ「……」


>呼吸に合わせて僅かに肩を上下に揺らすJOKER

>彼の両手はライドウが言ったように小刻みに震えているのが見える。

>奴が弱りかけている今がチャンスかもしれない――!

>そう思った矢先

JOKER「流石にこれだけの人数相手じゃ分が悪い……なら!」


>JOKERがこちらより僅かに早く、動きを見せた。

>天に腕を伸ばし、掲げた掌を握るような動作をしたのとほぼ同時にチドリの叫び声が聞こえる。


チドリ「上からくる!」

一同「!?」


>その声に皆が空を見上げた。

>オレンジ色に染まっていた筈の晴れていた空はいつの間にか厚い雲に覆われている……

>その今にも泣き出しそうな曇天からやってきたのは雨ではなく

>雷だった。

>無差別に地面を目掛けて、そこかしこに稲妻が落ちてきている――!


鳴上「くっ……!?」

ゴウト『不味いぞ、これは! 何処かへ避難を……』

ライドウ「っ……」

チドリ「きゃあっ!」

順平「チドリっ……ぐあ!」

チドリ「順平!?」

天田「順平さん! チドリさん!」


>電撃からチドリを守ろうとした順平の体がその雷に撃たれて倒れる。

>その一番傍にいた天田は二人に駆け寄って助けようとする。

>……だが、その天田のすぐ背後のもう一人の影がいつの間にか距離を詰めていた。


JOKER「……丁度良い。またひとつ、手間が省ける」

鳴上「天田ぁ!」

ライドウ「ドアマース! 彼らの元へ!」

ドアマース「無理だよぉ! 雷が邪魔して……!」

アモン「くっ……奴に近付けない……!」

天田「なっ……!?」

順平「っ……逃げ、ろ……!」

チドリ「いやああああ!」


>JOKERの刃が横一閃に順平と天田の体を容赦なく裂いた……


>……

『なあ……俺ってまだ幸せだったりすんのかな』

『なぁんか、俺らにも、こう……現実をスパっと変えられるようなさ……』

『そんな特別な才能が、あったらいいのにな』


……


『なあ……1コだけ教えて欲しいんだけどさ……』

『最初っから、なんもかんも芝居だった?』

『偶然会った事や、ケガとか、絵とか……ハナっから、俺の事知っててハメてた?』

『つか、そっか、手のケガ……マジの傷ならすぐに消える訳ねえもんな……』

『ハハ、そっか……』


……


『おい……どういう事なんだ、訳を聞かせてくれ!!』

『こんな事する理由なんてねえじゃんか! そりゃ、オレあんま頭良くねえし、色々マズったかも知んないけどさ……』

『でも、俺たちが戦うなんて、ぜってーオカシイって!』


……


『教えてくれよ……なんで、こんな……』

『……』


『もう決めたぜ! テメェらにはもう、指一本触れさせねえ!』



『――チドリはオレが、死んでも守る!』


>……


『あー、ええと、その……お母さんの事は、気の毒だったと思うよ』

『でもお母さんは、崩れる家の中で命懸けで君を庇ってくれたわけだ』

『ええ、それでな……話を聞かせて欲しいんだ。君は一応目撃者なわけだし』

『言ったら……信じてくれる?』

『もちろんだとも。おじさん、君の力になるのが仕事なんだから』

『母さんは……殺されたんだ』

『……えっ?』

『高校生くらいの男の人が頭抑えて、大声出してて……』

『おいおい……そいつがやったって? 家が全部ペシャンコになってたんだぞ?』

『そいつ、体から、馬みたいな恰好の光る怪物を出したんだ!』

『怪物がスゴイ声で吠えて、家も、母さんも、あっという間に……!』

『怪物? ハハハ……君、そりゃちょっと無いだろ。ああ……笑っちゃマズかったか。まあ、ショックの後は、たまに……』

『僕、ウソなんか言ってないよ! 見たんだ、ちゃんと!』

『いいかい……これは事故なんだ、交通事故。酒飲み運転の車が家に突っ込んだんだよ』

『車も、死んじまった運転手も、上がってる。後は事故状況のまとめだけなんだ』

『ウソだ!! そんなの作り話だ!!』


『ウソつき……信じるって言ったクセに』

『大人なんて、信じられないヤツばっかりだ』

『なら……ボクが見つけてやる』


……


『……いい事なんて1コも無かった。生きてくなんて、辛いだけだった……』

『周りだって、そういう扱いさ、どこに行っても“かわいそう”ってさ』

『……いる意味がないんだ』


……


『なんて顔だ……せっかく、望みが叶うってのによ……』

『憎しみをすぐに捨てなくていい……力にすりゃいい……』

『お前はまだガキなんだから……やる事一杯あんだろ』

『だからこれからは……テメエの為に……』

『……生きろ』

>……


JOKER「さて、と」


>二人の姿が消え、一人残されたチドリはその場に足を折り震えながらJOKERを見上げる。

>彼女の喉元にはJOKERの刀の切っ先が突き付けられていた。


チドリ「っ……」

チドリ「……なによ……やるなら、やればいいじゃない……!」

鳴上「馬鹿っ……やめろ!」

ライドウ「チドリさん!」

ゴウト『何をしているっ……急げライドウ!』

JOKER「……」


>雷はもう止んでいる。

>今ならまだチドリだけでも助けられる筈だ。

>そう思うのと同時に足が動き、ライドウとゴウトと並んで雷によって砕けた地面を駆ける――

>そして、二人に辿り着いたと同時に

>ふっ、とJOKERの姿が影も形も無く……消えた。


ライドウ「!」

ゴウト『くっ……逃げられたか!』

鳴上「このっ……JOKER! いい加減にしろよっ!」

鳴上「……いい加減に……してくれよ……っ」

ゴウト『……』

ゴウト『止せ、鳴上。全滅を免れただけでも不幸中の幸いだ』

鳴上「でもっ……」

ライドウ「立てますか、チドリさん」


>まだ座り込んだままでいるチドリへとライドウは手を差し伸べる。

>チドリは少し遅れてその手を取るとよろよろと立ち上がった。


チドリ「私のせいで……あの子も、順平までっ……」

ライドウ「……気を確かに」

チドリ「っ、うう……ッ」

鳴上(順平さん……天田……)


>……

学生寮 ラウンジ


藤堂「そうか、今度は彼らが……」


>寮に戻り、事情を説明するとラウンジにいた大人たちが皆苦々しい表情を浮かべた。


達哉「だからあれほど……!」

ヴィンセント「やめてくれよ、刑事さん。そんな風に鳴上たちの事責めないでやってくれ」

藤堂「そうだな。いくら自分の事は自分で責任をとるって話になっていたとしても、今回の事を責めるならこれは知っていながら彼らだけを外へ出した俺たち大人の責任になる」

藤堂「だから、怒るなら俺たちだけにしておいてくれ」

ヴィンセント「……そーゆーこと」

達哉「だがっ……!」

達哉「……」

達哉「すまない。俺もうたた寝なんかしてる場合じゃなかった……」

鳴上「……ごめんなさい」

ライドウ「申し訳,……ありません」

藤堂「いいから。それよりお前たちは何か少し食べた方がいい。俺が作った物でよければ用意してあるからさ」


>テーブルの上には軽食が五人分用意されてある。

>自分たちが帰ってきたらすぐ食事が出来るように藤堂が用意しておいてくれたのだろう。

>……だがどうあってもこの内の二人分の食事の器が取られる事は無いのかと思うと、空腹の筈なのに何も喉を通りそうに無かった。


メティス「その食事、チドリさんの元へ持って行っても構いませんか?」

藤堂「ああ。是非そうしてくれ」


>階段からメティスが降りてくる。


鳴上「チドリの様子はどんな感じなんだ」

メティス「やっと少し落ち着いてくれました。でも、このまま少し一人になりたいと言われて……閉め出されてしまいました」

鳴上「……そうか」


>チドリは今、メティスと入れ替わるような形でメティスの部屋に行っている。

>すぐ目の前で順平がいなくなってしまったそのショックで彼女はここまで帰る間もずっと涙を流していた……

>立ち直るにはもっと時間がかかるだろう。

>いや、もしかしたら……

>……


メティス「今はリリムさんが部屋の扉の前で見張っていてくれてます。彼女の安全は絶対に守るからこのまま任せて、と鳴上さんに伝えるように言われました」

鳴上「頼もしいやつだな、アイツは」

メティス「……ええ、そうですね」

メティス「……」

鳴上「……」


>メティスがテーブルに置かれた食事を一人分取る。

>そして再び階段を昇っていこうとする後ろ姿を見て……思わず声をかけてしまった。

鳴上「待ってくれ!」

メティス「?」

メティス「どうしましたか」

鳴上「あっ……と。俺も一緒に行く」


>そう告げて、テーブルの上から自分も食事を盛られた皿を取るとメティスの元へ行く。


メティス「……。行っても部屋の中には入れないと思います。それでもいいんですか?」

鳴上「ああ。ちょっと声が聞けるだけでもいいんだ」

メティス「チドリさんが、心配ですか?」

鳴上「そりゃあな」

メティス「そうですか。……」

メティス「わかりました。一緒に行きましょう」

藤堂「俺もパオフゥの様子をちょっと見てくる。あれからずっと籠もりきりだし、アイツも流石に腹減ってるだろ」

藤堂「鳴上たちにあった事も報告しないと」

ヴィンセント「あー、そうだな。……てか、アイツ一人でずっと何やってんだ?」

藤堂「さあね。その辺りもちょっと探り入れてくるか」

ヴィンセント「いってらっしゃい」




達哉「……」

達哉「……俺にも何か……戦える力があれば……」


>……


学生寮 三階 メティスの自室前


メティス「あの、チドリさん。食事を持ってきました」

鳴上「チドリ?」


>コンコンと扉をノックしても返事がない。


リリム「中から気配はするけど……もしかしたら寝ちゃったのかもね。あの子も相当疲れてたでしょ」

リリム「それか、聞こえてるけど無視してるか」

メティス「……」

メティス「チドリさん。食事、部屋の前に置いておきますから」

鳴上「ちゃんと食べないともたないぞ」


>聞こえているのかわからないがメティスと共に呼びかけ続ける。

>それでもやはりチドリからの返事は聞こえなかった。


メティス「……。リリムさん、後はよろしくお願いします」

鳴上「頼んだぞ」

リリム「まっかせて! 悠もちゃんと食べて休まなきゃダメだよ!」

鳴上「そういうお前だって……」

リリム「わたしはいーの! 悪魔なんだから、これくらいなんともないよ」

リリム「あっ、でも今、悠って仲魔を三体同時召還したままなんだっけ!? マグネタイト……」

鳴上「ああ、それはまだ平気だ。リリムが戦ってくれた時に補充も出来てるし」

リリム「そ、そっか。よかった」

リリム「マグネタイトが無くなったら、今度こそわたし……」

リリム「……うん、それならいいの! また時々様子見に来てね!」


>大きく両手を振るリリムに手を振りかえして、メティスの部屋の前を離れた。


メティス「リリムさんの言う通り、鳴上さんも早く食事を取って少し休んだ方がいいと思います」

鳴上「……ああ、うん。わかってる。だからこうして持ってきたんだし」

メティス「それ、自分で食べる為に持ってきていたんですか」

鳴上「そういう事」

鳴上「……」

鳴上「なあ、そこで俺が食事してる間、少し二人だけでゆっくり話でもしないか?」

メティス「……」


>三階のロビーを指差しながらメティスを誘う。

>彼女は少しの間考える素振りを見せてから、無言で頷いた。

>……


学生寮 三階 ロビー


メティス「でもどうしてわざわざこんな場所で食事を? ラウンジでみんなと一緒に食べればいいじゃないですか」

鳴上「だってホラ、普段ここって男子禁制だっただろ? もうこんな機会無いかもしれないし、折角だからもう少し居させてくれたっていいじゃないか」

メティス「何かと思えばそういう事ですか……まったく、呆れた」


>メティスは自分の隣の椅子に腰を落ち着けながら呆れたように呟き、息を吐いた。

>そんな彼女の様子に笑って誤魔化すと、食事を前にして両手を合わせ軽くお辞儀をする。


鳴上「さてと、それじゃあ……いただきます」

鳴上「ん、美味い! 藤堂さん料理も得意だなんて出来る男だな」

メティス「……」

鳴上「うん。美味い美味い……ん? なんだ、メティス。お前も食べたいのか?」

メティス「いえ、そういう訳では」

鳴上「遠慮するな。食事自体出来ない訳じゃないって言ってたじゃないか。一口だけでも」

メティス「え、いや、あの」

メティス「……」

メティス「それじゃあ、一口だけ」

鳴上「よし。ほら、あーん」

メティス「!?」


>スプーンに一口分を掬うとメティスの顔の前まで運ぶ。

>だがメティスは目を丸くした後、突然怒り出した。

メティス「な、何考えてるんですか!? 子供じゃないんだから、そんな事されなくても平気です!」


>メティスは自分の手からそのスプーンをひったくるとそのまま口に運ぼうとする

>……が、口に含む直前でメティスの動きがぴたりと止まる。

>そしてそのままじっとスプーンを見つめて動きを止めたままでいるのだった。


メティス「……」

鳴上「どうした?」

メティス「い、いえ! ……やっぱり、遠慮しておきます」

鳴上「え、なんでだよ」

メティス「なっ……なんでもいいじゃないですか! これは鳴上さんの食事なんだから鳴上さんが食べるべきなんですっ! ホラ!」

鳴上「うぐっ!?」


>メティスは何故か慌てながら持っていたスプーンの先を口の中に勢いよく押し込んできた。


鳴上「がッ……げほっ……!」

メティス「えっ!? ちょっ……鳴上さん、大丈夫ですか!」


>喉奥に無理矢理ねじ込まれるような苦しい感覚に思わずむせる。

>口の中の物を飲み込んで、正常な呼吸に回復するまで少し時間がかかった……

>……


メティス「ご、ごめんなさい……」

メティス「でもっ、鳴上さんが突然変な事するからいけないんですよ!?」

鳴上「変な事って、俺は別に……」

メティス「と、とにかく! さっさと残りを食べちゃってください!」

鳴上「あ、ああ。うん」

メティス「もう……」

メティス「……」


>騒いでいたメティスは口を噤んで自分が食事しているのをじっと黙って見つめる。

>そして、全部食べ終わったのを見届けると、小さく深呼吸して再び口を開いた。


メティス「食べ終わりましたね。じゃあ、戻りましょう」

鳴上「あっ……オイ!」


>椅子から立ち上がって去ろうとするメティスの腕に思わず手を伸ばし引き留めるように掴んでしまう。

>メティスはそれを振り解きこそはしなかったが、顔をこちらへ向けず立ち止まったままでいる。


メティス「……なんですか。まだ、何か私に用が?」

鳴上「まだ何も話をしてないじゃないか、俺たち」

メティス「私には、話……なんて……」

鳴上「メティスにはなくても、俺にはある」

メティス「……」

鳴上「そのままで良いから、聞いて欲しい」

鳴上「……」

鳴上「メティスは、無理をしなくていい」

メティス「!」

鳴上「本当は沢山怒りとか不安とか抱えていて、それをどうする事も出来ないんだって言うのなら、そのまま抱えなくていい」

鳴上「俺に、全部ぶつければいい」

メティス「急に何をっ……私はそんな事……」

鳴上「じゃあなんで震えてたんだよ」

メティス「っ……」

鳴上「なんで震えながら、俺にありがとうなんて言うんだよ」

鳴上「今だってそうだ。こんなに声も体も震えてるのに、自分で解らないのか?」

鳴上「俺は……」

メティス「な、鳴上さんだって……鳴上さんこそ!」

メティス「どうしてそこまで他人の心配ばかりしているんですか!? どうしてそこまで他人の心配が出来るんですか!」

メティス「私やチドリさんの事だけじゃない! 消えていってしまった人たちの事だって、まるで自分のせいみたいに考えてる!」

鳴上「それはっ……」

メティス「本当の事だって言いたいんですか? それは違います!」

メティス「誰も……誰も悪くないんですよ。全部、この世界とあのバケモノたちがいけないんですっ!」

メティス「ねえ、鳴上さん!? 私たち、どうしてこんな場所にいるんですか!? どうして私たちがこんな目に合わなきゃいけないの!?」

メティス「……そ、そうだ! これは悪い夢なんですよ! それで、私、機械なのに寝坊助でっ……新学期の朝だっていうのに、まだ支度も出来てなくて……」

鳴上「メティス……」

メティス「アイギス姉さんとラビリス姉さんがそんな私を起こしに来てくれて……美鶴さんや神郷さんに弛んでるぞって窘められてっ……」

メティス「コロマルさんの急げっていう鳴き声が聞こえて……天田さんが走ればまだ間に合いますよって言ってくれて……」

メティス「それで、鳴上さんが駅までみんなで競争だって走り出してっ……鳴上さん、姉さんに追いかけっこで勝てないのに無理しちゃって……あはは……」

鳴上「……」

メティス「ッ……ラビリス姉さん、二学期にある学園祭楽しみにしてた……生徒会の一員としても頑張るんだって……」

メティス「で、でも……どういうものかよくわからないから……鳴上さんに教えてもらおうって……」

メティス「なのに、どうしてこんな事に……っ……うう……」

メティス「もう、こんなところはいや……こんな閉じた世界はいや……!」

鳴上(閉じた、世界……)

メティス「姉さんたちに……会いたい……」


>メティスはそのままの姿勢で今まで誰にも言えなかった思いを吐き出して、また暫く黙り込んだ。

>……


メティス「……望月さんが消えてしまう前に、こんな風に言ってくれました」

鳴上「……?」

メティス「泣きたいなら泣いちゃえばいいって。それで誰も怒ったりはしない、って」

メティス「鳴上さん……怒りませんか?」

鳴上「ああ」

メティス「……」

メティス「じゃあ、少しだけ……胸を貸して、ください」

鳴上「……ああ」

メティス「っ……」


>漸く振り返ったメティスの瞳はすでに涙で濡れていた。

>彼女はその顔を埋めるように胸に飛び込んできて、泣き叫ぶ。

>せめて落ち着くまではこのままでいてやろうと、頭を優しく撫でながら黙ってその声を聞いた。


メティス「ううっ、ひっく……ぐす……」

メティス「鳴上さんっ……私……もうどうしたらいいのか、わかりません……っ」

メティス「どうしたらっ……うう……」

鳴上「……」

鳴上「今は何も考えなくていい。それで気が済むまで泣くだけ泣いたら……笑って欲しい」

メティス「!」

鳴上「どうしたら、なんてのはその後で一緒に考えよう。な?」

メティス「……よ、よくもそんな台詞……さらっと言えますね」

鳴上「いや。実は結構恥ずかしい」

メティス「だったら言わないでくださいよっ……ばか……」

メティス「……」

メティス「……ありがとう……」


>メティスは顔を上げないでぽつりとそう呟いた。

>メティスとの距離がぐっと縮まった気がする……



>『Ⅴ 法王 メティス』のランク7になった


>そのまましばらくメティスと一緒に時を過ごした……

>……


メティスの部屋


チドリ「……」

チドリ「順平……じゅん……ぺい……ひっく……」

チドリ「順平がここにいないなら……私……私は……」

チドリ「……」

チドリ「っ……!? 誰!」

JOKER「流石、チドリ。勘がいい」

チドリ「貴方っ……どうしてここに!? 鍵はかけてる筈……」

JOKER「そんな物関係無いんでね」

チドリ「……そう、なの」

チドリ「……」

チドリ「やっと私の番ってわけね。どうせならさっき一思いにやってくれた方が楽だったんだけど」

JOKER「俺も出来ればそうしたかった。だが、こっちにも都合があってな」

JOKER「……あの野郎。もう少し早いタイミングで動いてりゃ、こんな面倒な事にならなかったのに……これ以上順番がややこしくなるような事されるのも腹立つが……」

チドリ「……?」

JOKER「……いや、こっちの話だ。気にしなくていい」

JOKER「それにしても随分と大人しいんだな。……いや、投げ遣りになってるの間違いか。暴れないでくれるなら、こっちは楽で助かるが」

チドリ「貴方と無駄なお喋りなんてしていたくないの。もう助からないっていうのなら、私はそれでいい」

チドリ「……こんなところに、いたくない」

JOKER「すぐ外にリリムがいるぞ? 叫べば助けに来てくれると思うが……それでもか?」

チドリ「貴方、何しに来たのよ。私の事、始末しにきたんでしょ? 違うの?」

JOKER「……」

チドリ「……いいけど。早くして。用が無いなら出て行っ、……」

チドリ「いえ、ちょっと待って」

JOKER「今更怖じ気付いたのか?」

チドリ「そうじゃない。……というか」

チドリ「……」

チドリ「貴方、何してるの?」

JOKER「……あ?」

チドリ「しらばっくれてもダメ。そんなもので顔を隠してても私にはわかる。これは何の冗談なのよ……いくら貴方でも、怒るわよ」

JOKER「……あー……ククッ」

チドリ「なんで笑うのよ!」

JOKER「いやいや……チドリは本当に勘がいいんだな。お見事だ」


ガサッ――


チドリ「……やっぱり」

JOKER「いや……」

チドリ「?」

JOKER「本当に勘がいいのなら……これで『解った』よな?」

チドリ「え……、ッ!?」

チドリ「な、何……なんでっ……どういう事なの!?」

チドリ「同じなのに違う……? 違うのに同じ……? なんなのこの感じはっ……」

チドリ「あっ……貴方は、本当は誰なの!? それとも……」

JOKER「……」

JOKER「悪いな。気付いてくれたのは嬉しいが、これはチドリが理解しても意味の無い事だ」

JOKER「俺は……」

チドリ「……」

JOKER「……」

JOKER「お前、『こんなところに、いたくない』……そう言ったな?」

チドリ「!」

JOKER「せめてもの礼だ。すぐにチドリの大切な人のところへ行かせてやる」

JOKER「だからこれで、お前ともさよならだ。清々するな……ハハッ!」

チドリ「なら、どうしてそんな顔をしているの?」

JOKER「……」

チドリ「……ますますわからなくなった。貴方がこんな事をしている意味が」

JOKER「もういい、黙れ」

チドリ「あ……っ!?」


>……


JOKER「これで一区切り、ってところか」

JOKER「だいぶ力も強くなってきた。ここからが正念場だが、これなら……フ、ハハッ! ハ……」

JOKER「っ……」

JOKER「……震えるなっ……オレの腕……! クソッ……」


>……

お久しぶりです

そろそろこの8/32の話も終わりに近付いてる感じです

出来る事ならこの調子で一気に終わらせてしまいたい感じ

ではまた次回

『……どうして“中止命令”を出さなかったの?』

『命より、作戦が大事ってこと?』

『死ぬ事って、普通の人には一番の恐怖なんでしょ? ……違うの?』

『全部ウソだったってこと? どうして……?』

『……理解できないわ』


……


『触らないでって……言ったでしょ……』

『一番怖いのは……死ぬ事じゃない』

『一番怖い事……』

『それは“執着”してしまう事……』

『そうすれば失くすのが怖くなる。物だって、命だって、なんだって……』

『だから私たちは、いつだって今という瞬間を楽しむだけ……』

『……なのに貴方は、私に要らない苦しみを持ってきた……』

『貴方と一緒に居ると、怖くなかったものが、なんでも怖くなる……』

『無くすのが怖い……死ぬのだって怖い……』

『一緒の時間が終わっちゃうのが……怖い……だから、私……』


……


『私……間違ってたみたい……』

『でも……辛いの……だって、あと少しだから……』

『死ぬって……』

『“もう会えない”って事なのね……』


>……

鳴上「……」

メティス「鳴上さん。……鳴上さん?」

鳴上「え? あっ……よ、呼んだか?」

メティス「……」

メティス「どうかしましたか? なんだか顔色が良くないみたいです」


>ついさっきまでずっと泣いていたメティスは、もうすっかり気が済んだのか涙を止めてこちらを見上げてくる。

>……顔が、すごく近い。

>自分の胸で泣いていたのだから当たり前か。

>だが、変に意識してしまうと、なんだか……


鳴上「……」

メティス「まさか熱でも……」

リリム「ゆっ、悠ーっ! メティスーっ!」

メティス「!」

鳴上「痛ッ!?」


>伸びてきた彼女の掌がばちんと大きな音を立てて自分の額を叩いた。


メティス「あっ!? ごっ、ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」

鳴上「一瞬星が見えたぞ……」

リリム「? 何してんのよ、二人してさ」

鳴上「いや……」

メティス「なっ、なんでもありませんから!」

リリム「む……なーんか、妙な雰囲気」

鳴上「そ、それよりも、リリムこそどうしたんだ」

リリム「!」

リリム「そうだった! 大変っ……大変なのよ、悠!」


>リリムが声を荒げて慌てた様子を見せながら腕を引っ張ってくる。


リリム「部屋の中にいた筈のチドリの気配が急に消えたのよっ!」

鳴上・メティス「!?」

鳴上「なっ……どういう事なんだ!?」

リリム「わかんないよ! 本当に急だったの!」

メティス「他に妙な気配を感じたりはしなかったんですか!?」

リリム「それがしなかったからこんなに慌ててるんじゃない! このフロアにはここにいる私たちとチドリの気配しか無かったんだから!」

鳴上「落ち着け! ……とにかく一度部屋の中をこの目で確認してみよう。メティス、鍵を開けてくれ」

メティス「わっ、わかりました!」


>……

メティスの自室


メティス「そんな……嘘でしょ……?」

リリム「やっぱり何処にもいない……何処にもチドリの気配がしないよ……」

鳴上「……」


>押しかけるように入ったメティスの部屋の中はまったくの無人だった。

>特別荒れた様子や争った様子は無い。

>綺麗な部屋だ。

>シーツの皺と半分捲られた掛け布団、それからそこに残る温もりがつい先程までベッドが使われていた事を示している。

>この密室の中で、チドリは音もなく忽然と姿を消した事になる……


鳴上「……? これは……メティスのか?」


>ベッドの枕の上に何かが落ちている。


メティス「あ、これ! チドリさんの携帯電話ですよ!」

鳴上「チドリの……ケータイ?」

鳴上(……そっか。順平さん、チドリにケータイをプレゼント出来たのか)

鳴上(それなのに……)


>こんな大切な物を残して彼女は突然消えてしまった……


リリム「ごめんなさい、悠……! 私、チドリの安全は絶対に守るなんて大口叩いておいてこんな……ごめんね、ごめんなさいっ……!」


>リリムは自分の服の袖を掴んで涙を浮かべながら謝っている。

>きっと怒られると思っているのだろう。


鳴上「お前のせいじゃない、リリム。そんな風に謝らないでくれ」

リリム「悠……」


>そう言われるとリリムは謝るのやめる代わりに僅かに泣き声をこぼした。


鳴上「……」

鳴上「改めて確認しておきたい。この階には俺とメティスとチドリ、この三人の気配しかしていなかった。そうだな?」

リリム「う、うん。そうだよ。もちろん、悪魔の気配もしてなかった」

リリム「悲鳴とかもしなかったの。でも、あれからチドリのすすり泣く声が時々聞こえててそれが急に止んで、今度こそ疲れて寝ちゃったのかなと思ってたらそれからすぐに……」

メティス「チドリさんの気配が消えてしまった、と」

リリム「……うん。一瞬でね」

リリム「どういう事なの!? これもやっぱりJOKERってヤツの仕業なの!?」

鳴上「そうとしか考えられない。……そんな風に思いたくはないが」

メティス「でも、悪魔のリリムさんにすら感知出来ないなんて……!」

リリム「ホント何者なのよ、そのJOKERってヤツ! 私の目の前に出てきたら消し炭にしてやるんだから!」

リリム「こんなに悠の事悲しませてっ……」

鳴上「……」

メティス「鳴上さん。とにかくこの事を下にいる皆さんにも報告しましょう」

鳴上「……そう、だな。そうしよう」

リリム「悠、気をしっかり持って……ね?」

リリム「私も頑張るから……」

鳴上「ありがとう、リリム。ありがとう……」

リリム「……」


>……


学生寮 屋上


>余程暗い表情をしていたのか、三階から降りてきた自分たちの様子を見てラウンジにいた大人たちはすぐに何があったのか大体を察してくれた。

>そしてメティスの部屋から消えてしまったチドリの事を説明すると、やっぱり……といった風に重く息を吐き少しの間だけ黙った。

>ライドウは目を伏せずっと何も言わなかった。

>何か言おうとはしていたようだったがそれを飲み込んで、ずっと押し黙っていた。

>それから大人たちはすぐに何事も無かったかのように話題を切り替えて、自分たちに向けてもう少し休んでおけとだけ告げてまた各々好きなようにし始めた。

>これ以上動じるところを見せないようにする事で少しでも大人らしい体裁を保とうとしているか、あるいはもうすっかり感覚が麻痺してこの状況に馴れてしまったとでもいうのか……

>……

>とにかく、そんな雰囲気の中をまた一度抜け出して、今は屋上にいる。

>ライドウとゴウトとメティス、それからコロマルに契約している仲魔が何故かついてくる形で……


鳴上「……なんで揃いも揃ってこんな所までついてくるんだよ」

リリム「そんなの悠の傍にいたいだけに決まってるじゃん!」

ケルベロス「そうだな。仲魔が契約した主の傍にいるのは当たり前の事だ」

ゴウト『その割にはアモンだけは一階にいるようだが……』

コロマル「ワンッ!」

メティス「鳴上さんを一人で放っておけない、と言っています」

鳴上「もう一人でもなんでもないんだが……で、メティスはどうして?」

メティス「なっ……なんとなく……です」

鳴上「ハァ……まあ、いいけどな」

ライドウ「それで。何をする気だ?」

ライドウ「わざわざこんな所まで一人でこっそり行こうとしていた理由が気になって自分はついて来た訳だが」

鳴上「……」

鳴上「今一度、自分の力がどうなっているのか。……それを確かめに」

リリム「悠の力? って、ペルソナの事?」

ライドウ「そういえば、通信機が壊れる前に能力が不安定だとかそんな事を言っていたのを聞いたな」

メティス「……! そ、そうですよ! 今まで忘れてましたが私もその話、ちゃんと聞いていました。それ、一体どういう事なんですか?」

鳴上「自分でもよく解らないんだ。だから……」

ゴウト『……フム。ならば、さっさとやってみるといい。使えるのか、使えぬのか、どちらなのか』

鳴上「言われなくともやるさ」

鳴上「……」

>大きく深呼吸。

>目を閉じて集中し……召喚器を頭に突きつける。

>そして、この世界に迷い込んでから、一度は出せている筈のペルソナ名を思い出す――


鳴上「……モコイ!」

ライドウ「……」

ゴウト『確かに、出て来ないな』

鳴上「っ、まだだ……」

鳴上「ジャックフロスト!」

鳴上「キクリヒメ!」

鳴上「サトゥルヌス!」

鳴上「……ッ」

鳴上「くそっ……!」


>名を呼んだペルソナはいずれも現れる事は無かった……


ケルベロス「その機械、壊れているのでは無いのか?」

リリム「そうだよ! それのせいだよきっと!」

メティス「でも、以前ライドウさんたちの前でモコイを出した時は、そもそも召喚器を使っていなかったんですよね……」

ゴウト『そうなると、そのペルソナの召喚を安定させるという装置が壊れていようがなかろうが、鳴上の能力に変化が起きている事は確実という訳か』

コロマル「クゥーン」

ライドウ「……」

鳴上「まだ……まだだ!」

鳴上「ベリアル!」

鳴上「……!」

メティス「あっ……!?」

鳴上「……まだ応えてくれるヤツも一応はいるみたいだな」


>頭上にはきちんとベリアルが姿を現している。


リリム「ねえ。もしかしたら、今の調子なら他のペルソナも呼べるんじゃない?」

ゴウト『もう一度、呼べなかったペルソナの名を呼んでみろ』

鳴上「あ、……ああ。そうだな」

鳴上「ええと……ジャックフロスト!」

ゴウト『……』

鳴上「……」

ゴウト『やはり出ないものは出ない……か』

鳴上「どうして……どうしてなんだ……」


>めげずに何度か呼べないペルソナの名を繰り返し叫んでみるが、それでも出てくる様子は無い……


鳴上「結局今まで名前を出した中で、まだ呼べるのはベリアルだけか……」

ライドウ「……」

ゴウト『ライドウ?』

>ライドウは自分とベリアルとを交互に見比べながら何か思案しているようだ。


鳴上「俺の顔に何か?」

ライドウ「……鳴上。君は、このペルソナという能力は何の力だと言った」

ライドウ「確か心の力……だったな」

鳴上「ああ、そうだ」

ライドウ「つまり、それが非常に不安定になっているという事は――」

ライドウ「今、君の心は非常に不安定になっている……そうとも取れるのではないのか?」

メティス「!」

ケルベロス「……なんだって?」

鳴上「……」

リリム「ゆ、悠……」

鳴上「否定は……出来ないな」

メティス「そ、そんなの仕方ありませんよ! それを言うのなら私だって……」

ライドウ「……」

ライドウ「ずっと気になっていた事が、ある」

鳴上「……今度はなんだ」

ライドウ「この屋上に、寮にいる人々を呼んで一人一人に話を聞いた時の事を覚えているか」

鳴上「そういえば、そんな事もあったな。アレで何か収穫があったって事か?」

ライドウ「ある意味では、な」

鳴上「?」

ライドウ「実はあの時……仲魔の力を用いて、ある『調査』を行っていた」

ライドウ「モコイ」


>ライドウは封魔管の一つを抜き、仲魔を呼び出す。


モコイ「ハロー、サマナーくん」

メティス「確かにあの時、ライドウさんは仲魔のモコイさんを召喚して傍に置いていましたね」

鳴上「モコイの力で調査……一体何をしたっていうんだ?」

ライドウ「読心術、だ」

鳴上「読……心……?」

メティス「え、まさかそれって……あの時、ライドウさんは私たちの心をこっそり盗み見てたっていう事ですか!?」

ゴウト『悪い言い方をすればそういう事になるな』

メティス「何故そんな事っ……!」

ライドウ「この事件について、皆の中で無意識のうちに何か隠している人物はいないか。それが知りたかったのです」

ゴウト『それがもしかしたら事件を解決する鍵になる事もあるやもしれぬと考えた結果だ。己自身でも気付いていない何かが、な』

ライドウ「そう。だから、皆さんの心の中をほんの少しだけ覗いた」

ライドウ「……申し訳ありません。これが自分の仕事なのです」


>ライドウは急に自分たちへ一線引いたような口調になって、学帽を深々と被り直しながらそれと同じく深々と頭を下げた。

鳴上「それで。わざわざそんな事をネタばらししてまで結局何が言いたいんだ、ライドウ」

鳴上「……」

鳴上「俺の心の中も覗いたって訳だろ? ライドウから見てどうだった。俺の不安定な心とやらは」

ライドウ「……」


>首を大きく横に振り、彼は困惑したような表情で僅かに躊躇いながらもこう告げた。


ライドウ「駄目だった」

鳴上「ダメ? 随分と酷い言い草だな。ハハッ」

ライドウ「そういう意味じゃない」

鳴上「?」

ライドウ「……聞こえなかったんだ」

ライドウ「君の心の声だけ……解らなかった」

鳴上「え……」

ゴウト『!?』

ゴウト『それはどういう事だ、ライドウ!』

ライドウ「解らない。こんな経験は初めてだった……」

ライドウ「勿論、仲魔の不調や自分の不手際も疑った。だが、そう言う訳でも無いようだ」

ライドウ「例えるなら……そう、まるで霧のようなものが君の全てを覆い隠しているような、そんな感覚だった」

ライドウ「……これは一体どういう事なのか。此方が聞きたいくらいだ」

ゴウト『……』

鳴上「……」

ライドウ「だから、……」

ライドウ「どうか気を悪くしないで聞いて欲しい」

ライドウ「……仮に。先程も言っているように、もし本当に誰かの心の中にこの事件を解く鍵が潜んでいるのだとしたら」

ライドウ「鳴上。それは君なのでは無いかと、自分は考えている」

ライドウ「何故、それがよりによって君なのかという理由までは理解が出来ないが……」

鳴上「っ……」

メティス「鳴上さん……?」

リリム「悠……」

鳴上「……俺の……心の中に……? そん……な……」

ライドウ「鳴上」


>ライドウは語気を強くして改めて名を呼ぶと、こちらへと一歩間を詰めた。


ライドウ「君が首を縦に振ってくれるのなら、自分は今一度、仲魔の力を行使して君の心の声に耳を傾けてみたいと思っている」

ライドウ「どうだろうか?」

鳴上「……そう、言われても……俺には……何がなんだか……」

ゴウト『その様子だと、うぬ自身にもそれがどういう事なのか何を意味しているのか、理解が出来ていないようだな』

ゴウト『どうだろう。ここは一つ、ライドウを信じて任せてみてはくれぬか?』

ライドウ「もしそれで、自分が大きな思い違いをしているだけだとしたなら。……その時は今度こそ、土下座でも何でもして謝ろう」

ライドウ「……今はそれに賭けてみるしか無いんだ」

>ライドウは拳を堅く握り、何処か縋るように呟く。

>それだけで彼の切実さが十分に伝わってきた。

>……

>ライドウだってここまで自分たちに随分と協力してくれた。

>それは、彼の仕事……任務なのだから当然なのだろうが

>それでも、知り合って間もない筈なのに、彼は体を張り、神経を擦り減らし、自身の危険も一切省みずにこの空間に囚われた者たちを必死に守ろうとしていた……

>いや、今もこうして守ろうとしてくれているのだ。

>そして、それには今、自分の協力が必要なのだとそう彼は言っているのだ。

>彼がそこまでする理由を、気持ちを、理解出来ない訳がない。

>自分だって同じ思いを持っているのだから。

>……ここに残っている者たちだけでなく、消えていってしまった者たちの事も含めて、なんとしてでもこの手で救いたい。

>消されてしまっていい筈の命なんて、ここにはありはしないのだから。

>今ここで自分が頷く事でそれが叶うというのなら喜んでそうしよう。

>しかし、



>……


メティス「……鳴上さん」

鳴上「!」


>不意にメティスの手が自分の腕を弱々しく掴んだ。

>そうしてこちらを見上げてくる彼女の瞳の色は、自分を案ずる気持ちと不安が入り交じっているように見える。


鳴上「……」

鳴上「ライドウ」

ライドウ「ああ」

鳴上「お互い、こんな疑問を放ったままでいるのは……確かに気持ち悪いよな」

ライドウ「!」

ライドウ「それでは……」

鳴上「俺にはそれらしい心当たりは全くないけど、潔白を証明するにはお前の言う事を聞かなきゃならなそうだ」

ケルベロス「フフッ、そうだぞ。きっと何かの間違いに決まっている。だから早くそのサマナーのみっともない土下座姿をオレにも拝ませてくれないか」

コロマル「ワンワンッ!」

ゴウト『これではまるで我らの方が悪者のようだな』

ライドウ「……仕方が無い。しかし、自分の土下座で事足りるというのなら、それでいい。その方がいい」

ライドウ「自分とて、鳴上の事が憎くてこの様な事を言っている訳では無いのだから。ただ……」

鳴上「わかってる。早いとこすませよう」

ライドウ「……ああ」

リリム「……悠……」

鳴上「……」

>目を閉じたライドウの口元が僅かに動くと、彼の身に纏っている外套が風も吹いていないのに翻る。

>それに倣って自分も静かに目を閉じ、彼の『調査』の結果を待った――

>静寂が訪れる。

>……

>その時間が、妙に長く感じられた。

>……どうなっているのだろう。

>早くもそう気になってしまい、折角閉じた瞼を恐る恐るほんのちょっとだけ開いた。

>そこで最初に見た景色は

>ライドウのモコイが後方へと不自然に大きく吹き飛んでいくところだった――





――我が手を取れ、恐れるな――



>……


達哉「ッ……」

藤堂「おい、どうかしたのか」

達哉「……、え?」

藤堂「ぼーっとしてたけど」

達哉「い、いや。なんでも、……」

達哉「なあ、今誰かの声が聞こえなかったか?」

ヴィンセント「声? オレには何も……」

アモン「ッ!?」

藤堂「アモン?」

アモン「……急に上が騒がしくなった」

達哉「!」

ヴィンセント「上って、まさかっ……!」

藤堂「屋上か!?」


>……


ライドウ「!? モコイ――」

ゴウト『っ……!』

ゴウト『後ろだ、鳴上!!』

鳴上「……ッ」


>声が出なかった。

>ゴウトに言われるまでもなく後ろに『アレ』がいるのは既に理解していた。

>でもそれはあまりにも突然で、不自然で

>なのに当たり前に、自然に自分の背後へぴったり張り付くように『居る』

>そのなんとも言えない不気味さが、反応を僅かに鈍らせた――

メティス「っ……プシュケイ!」

メティス「鳴上さんっ、伏せて!」


>メティスのペルソナが目前まで向かってくる。

>そして彼女に言われるままに体を伏せたのと同時にプシュケイは飛び上がり

>背後にいた『ソレ』に突進した。



メティス「なっ……!?」

鳴上「っ……」


>再び体を起こし、遅れてようやく振り返る。

>しかしそこには何の姿も無い……


ゴウト『チッ、相変わらずちょこまかとっ……ライドウ!』


>ライドウはモコイを管に戻すと無駄の無い動作で素早く銃を抜き、何も無い別方向目がけて発砲する。

>発砲音と屋上のコンクリートが蹴られるような音が響くと遂に『ソレ』は目にはっきり映る形で姿を現した。


コロマル「フーッ、グルルルルルッ!」

ケルベロス「コイツが……!?」

リリム「JOKER、なの?」

リリム「……『アレ』……が……?」

JOKER「……」


>『ソレ』は……JOKERは姿こそは現したものの、自分たちから離れた場所で不気味に黙り込んだまま佇んでいる。

>頭に被る紙袋のせいで視線の向きはわからない。

>だが、体の方向が確実にメティスの方へと向いていて、次は誰を狙っているのか瞬時に理解出来た。


鳴上「――メティスっ!」

メティス「ついに私の番、ですか」

メティス「……」

メティス「この時を待っていました」

メティス「いいでしょう。本気の本気、全力でいきます」

メティス「……お前だけはもう、生かしておけない! 許さない!」

メティス「オルギアモード!」

JOKER「!!」


>メティスの体から今まで聞いた事も無い激しい稼動音と熱気が吹き出した。

>そしてそのまま得物の鈍器を構えると彼女は地を蹴る。

>その動きはメティスがしているものとは思えない今まで見た事もないほど素早く力強いものだった。

>その動きにJOKERも面をくらい一瞬怯んだのかは解らないが、奴が動く前にメティスが先にその距離を縮めた。


ガキン――ッ!

>刀と鈍器のぶつかる大きな音が響く。

>その重い音が短い間に何度も聞こえて、二人の目にも留まらぬ激しい攻防が始まった。

>メティスはその勢いを止める事なく、むしろ徐々に動くスピードを上げていく。

>対してJOKERは彼女の攻撃を直接浴びるような事は無いものの、刀でそれを受け流すだけで反撃する様子を見せていなかった。

>そのチャンスにメティスは賭けた――!


メティス「プシュケイ!」

メティス「――ガルダイン!」

JOKER「!?」


>激しい風がJOKERを包む。

>刀でメティス自身の攻撃を防いでいたJOKERはそれを避ける事も出来ずそのまま正面でくらいぐらりと後方へよろめいた――!


コロマル「ワンワンッ!」

ケルベロス「ああ! 畳み掛けるぞ!」


>メティスが作ってくれたチャンスにコロマルとパスカルが乗じた。

>コロマルのペルソナ、ケルベロスとパスカルはJOKERのいる方向へ熱い炎を発する!


ライドウ「……ならば、此方も」

ライドウ「ケルベロス!」


>ライドウが新たな管を抜き、銃を弾丸を別のものへと装填し直してJOKERに向けて再び発砲し始める。

>ライドウの仲魔のケルベロスもそのままコロマルとパスカルに続いた。


鳴上「っ……俺、だって! ――チェンジ!」

鳴上「ケルベロス!」


>体の、心の奥底へ呼びかけるようにその名を叫び、召喚器の引き金を引く――

>姿を現した自身のペルソナ、ケルベロスが皆の追撃の最後に加わった。

>四種四様のケルベロスが集い力を合わせ……

>その激しい炎の海が屋上を広がり、JOKERの身を包み焦がしていく……!

>……


鳴上「はぁ……はぁ……っ」


>攻撃をしかけた自分たちさえ焼けてしまいそうな程の炎が次第に収まっていく。

>その内側に飲まれたJOKERの姿は消えてなくなった……


鳴上「ついに……やった、のか? 俺たち……」

達哉「鳴上!」

鳴上「周防さん!?」


>屋上の扉が勢いよく開かれ周防が飛び込んでくる。

>それに僅かに遅れて、藤堂とヴィンセント、アモンまでもがここへとやってきた。

ヴィンセント「うわ、あっつ……!」

藤堂「おい、何事だこれは!」

メティス「JOKERが、さっきまで……ここに……」

メティス「でも、もう大丈……夫……」

鳴上「!!」


>メティスの体が急にがくりと崩れ落ちる。

>慌てて駆け寄り体を支えたが、彼女は頭から煙を吹き出して動かなくなってしまった……


鳴上「メティス!? おいっ、メティス!」

ゴウト『……先程の反動だろう。メティスはおそらく自身の能力の限界を解除して戦っていたのだ』

鳴上「だからあんな動きが出来た訳か……まったく、こんな無茶して……」

メティス「ごめん……なさい……」

鳴上「!」

鳴上「メティス……もういい、今は喋るな」

メティス「……平気……です。すぐ……動ける……ようにな、」

メティス「……」

鳴上「……、え」

鳴上「メティス?」


>ゴトリとメティスの武器が音を立てて落ち、まだぎりぎり言葉を発する事が出来ていた彼女の言葉が急に途絶えた。

>メティスの名を呼びかけても返事が聞こえてくる事もなく、動きが完全に止まっている。

>まさか、活動の限界が……!?

>そう焦った矢先、メティスの胸部の真ん中から妙なものが突き出している事に気付く。

>それは

>刀の切っ先、だった。


鳴上「な」

メティス「あ……」

メティス「……鳴上……さ……」


>メティスの体が徐々に薄くなって……溶けていく。

>今、何があったのか理解が追いつかないまま、さっきまで腕の中にいた筈のメティスの姿は……

>完全に消えてしまっていた。

>その代わり目前に影が出来る。

>気付くと、その正体をはっきりと確認せずとも自然とその名を口に出し吼えていた。


鳴上「……JOKERああぁぁぁあぁッ!!」


>転がったメティスの武器を拾い上げ、影に向かって殴りかかる。

>だが振り下ろしたそれは空振り何も手応えを感じない。

>確かに、目の前に『ソレ』は立っているのに――

>そこに『居る』のに!

ゴウト『なっ……しぶとい奴め!』

JOKER「……」

コロマル「グルルルルッ……ワンッ!」

JOKER「!」

JOKER「ちっ……!」


>いち早く足下に飛びつこうとしたコロマルを見て面倒くさそうに舌打ちし、反射的にJOKERは刀を振り上げた。


ケルベロス「コロマルっ! よせ!」

ライドウ「このっ……」

JOKER「……」

ライドウ「――!?」

コロマル「!」


>JOKERは一瞬だけ動きを止め、両手で刀を握り直すと力任せにそれを振り下ろしコロマルを斬り払った――


ケルベロス「コロマル……!」

JOKER「……」

JOKER「……ん? ……ああ、そうか。コイツは……だから……のか……?」

JOKER「……しかし、それでも……の時はどうして……」


>JOKERはよく聞こえない小さな声で独り言をぶつぶつと呟いている。


ケロベロス「コイツめっ!!」

アモン「……チッ。ふざけやがる」

ヴィンセント「マ、マジかよ……!」

藤堂「野郎っ……。ヴィンセント! それから刑事さんも! あんた達は下がってろ!」

達哉「あ……」

達哉「っ……こんな……」

達哉「こんな事は……もうっ……!」



『――我が手を取れ、恐れるな――』



達哉「……く、ぁ!?」



『――我は汝、汝は我――』

『――我は汝の心の海より出でし者――』



達哉「……我は汝……?」

藤堂「!!」

達哉「ッ……あ……」

達哉「……ペ、」

達哉「ペル……ソナ……!」

鳴上「!?」

藤堂「これはっ……!」


>周防の体から周防とはまったく異なった人影が現れる。

>――だが、それは間違いなく別の形をした周防と同じ存在でもあった。

>周防達哉のペルソナが覚醒した――!


達哉「ヴォルカヌス!」


>周防のペルソナがJOKERに向かって炎をぶつける……!

>だが


JOKER「!?」

JOKER「まさかここでアンタまでペルソナを使うとは……」

JOKER「……」

JOKER「だが、続きはまた時間をおいてからにしよう」

達哉「このっ……!」


>周防の力の覚醒も虚しく……そう静かに告げて、JOKERは今度こそ本当に炎の餌食になる前に屋上から忽然と姿を消した……

>…
>……
>………


鳴上「……」

鳴上「メティス……コロマル……っ」

鳴上「……く……げほっ……!?」

藤堂「鳴上!?」


>体の力が抜けていく。

>急に視界が濁っていく。

>だんだんと真っ暗になっていく――



藤堂「しっかりしろ! 鳴上!」

ケルベロス「ユウ!」

アモン「おい! くそ……リリムてめぇさっきから何ぼさっとしてやがる!」

リリム「……え、あ……悠っ!?」

リリム「嘘っ、なんで!? 悠! 目を開けて! 悠! ゆ……」


>……

学生寮 ラウンジ


パオフゥ「少し見ない間にまた随分と静かになったもんだな」

パオフゥ「最初は20人近くいたのに、今じゃもう片手あれば数えられる人数にリーチがかかってやがる」

藤堂「おまけに、華が完全になくなってだいぶむさ苦しくなったしな」

ヴィンセント「そんな事言ってる場合かよ……鳴上は倒れちまうし……くそ……」

藤堂「……」

パオフゥ「……」

パオフゥ「ところで、さっき言っていた事は本当か?」

パオフゥ「達哉」

達哉「……ああ」

達哉「俺のペルソナが覚醒した」

パオフゥ「そう、か。まさかとは思うが……『思い出した』のか?」

達哉「……」

達哉「いや、そういう訳じゃない」

達哉「せいぜい『少しだけ知る事が出来た』、ってところだろう」

藤堂「なんだそれ。どういう事だ?」

パオフゥ「その話、少し詳しく聞かせてもらおうか」

達哉「……」

パオフゥ「ま、そう堅くなるな。酒もある事だし、せっかくだから少し飲みながら気楽に……な」

ヴィンセント「え、そんなのどこから出てきたんだ? ここ学生寮だろ?」

藤堂「さっき外に出た時についでにこっそり持ってきたんだよ。そのワイン一本だけだけどな。何処からっていうのは……まあ、気にするな」

ヴィンセント「こんな時にアンタ……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「まあ、こんなだからこそ飲まなきゃやってらんねーって気持ちはオレにもあるけどね……」

パオフゥ「ほら達哉。お前の分だ」

達哉「……どうも」

パオフゥ「フッ……まさか達哉とこうして飲む日がくる事になるとはな」

パオフゥ「時と場所と状況が最悪すぎるのはいただけねえが……」

パオフゥ「それ一杯で潰れたりするなよ」

達哉「アニキと違って酒は強い方だ」

パオフゥ「そいつは結構」

パオフゥ「……話が逸れたな」

パオフゥ「さっきの続きを聞かせてくれ」

達哉「……」

達哉「簡潔に言えば……俺は今まで通り『こちら側の』周防達哉で、『向こう側』の周防達哉じゃないって事だ」

達哉「『向こう側』の周防達哉が『こちら側』でパオフゥさんや……」

達哉「舞耶……さん、達と共にした時の出来事を、ペルソナが覚醒したからなのかあくまでただの知識として得る事が出来た……という訳だ」

達哉「イメージとしては、自分に似た自分とは違う誰かの視点での映画やドラマなんかを録画したメディアを再生してただぼんやりと眺めたというだけで……」

達哉「俺自身が経験した出来事としては認識していない。いや、出来ないというべきか」

達哉「だから、『向こう側』の周防達哉が『向こう側』で体験した事の全てを『知っている』という事でもなくて……」

達哉「……」

達哉「すまない、まだ少し混乱していて上手く言えないようだ……」

パオフゥ「……。いや、いい。今のでなんとなく解った」

パオフゥ「『舞耶さん』か……なるほど、確かに『向こう側』の達哉では無いようだ」

ヴィンセント「オレにはなんの事だかサッパリだ……」

藤堂「ヴィンセントには関係ない話だし、そりゃそうだろ。まあ、俺もだけどさ」

ヴィンセント「でもさ、『向こう側』だかなんだかよく知らねーけど、こことは違う世界にいる自分じゃない自分って……オレにもいるって事なのか?」

パオフゥ「ああ……まあ、そうだな」

ヴィンセント「ふうん……じゃあ、今の嫁さんと結婚してなかったり、それどころかこの歳まで生きられないオレがいる世界もあったりすんのかな。なんか考えたら怖ぇー……」

藤堂「同じ顔と体格でも能力や性格がまったく違ってたり、名前すら同じじゃなかったりする事もあったりしてな」

ライドウ「それは大いに有り得る話ではありますね」

達哉「! ライドウ……鳴上の様子はどうなんだ?」

ライドウ「目に見える外傷という意味では軽い火傷を僅かに負っている程度で済んでいます。出血する様な深い傷はありません」

パオフゥ「火傷?」

ライドウ「はい。恐らく、JOKERへ攻撃を行った際の猛火の所為でしょう」

ゴウト『うぬの外套も端が焼け縮れる位のものだったからな』

ライドウ「ただ自分は医者ではありません。彼の意識も未だに回復はしていませんので、安易に大丈夫であるとは言い切れないのが現状です」

達哉「そうか……」

藤堂「もうすぐ時刻的には夜明けだな。これでもう何度目だ? 8/32の朝陽が昇るのは」

ヴィンセント「だ、だからそういう事言うのやめろってば! 考えたくねえ!」

ヴィンセント「でも、明るくなる頃には目を覚ましてくれるといいんだけどな、鳴上……」

ライドウ「……」


>…
>……
>………


鳴上「……」

鳴上「……うっ……?」

ライドウ「!」

ゴウト『意識を取り戻したか!? 鳴上、我の声が聞こえるか? 鳴上!』

鳴上「ゴウト……? それに、ライドウも……」

鳴上「俺はいったい……、!」

鳴上「そ、そうだ! メティスとコロマルがっ、あの後どうなって……!」

ゴウト『いいから、まだ静かにしていろ』

ライドウ「具合はどうだ、鳴上」

鳴上「……良い訳がっ……それより他の皆は!?」

鳴上「それに、俺の仲魔の姿が何処にも……!」

ゴウト『だから静かにしろと言っているだろうが!』

ライドウ「鳴上の仲魔達は君が意識を失った事で召喚状態が解除になっただけだろう。呼んでみるといい」

鳴上「あ、ああ!」


>ライドウに言われて急いで携帯を手に取りボタンを押した。

鳴上「リリム、パスカル、アモン!」

ケルベロス「ユウ! 無事か!?」

アモン「……ったく、やっと起きたのか。お前が寝てる間にもう一人の方が来たらどうするんだよ。余計な気を使わせるんじゃねえ」

リリム「う、うわあああん! 悠!」

鳴上「ああ。ごめんな、みんな。ありがとう……」

リリム「謝るのはわたしの方だよ!」

リリム「ごめんね、悠っ……わたし肝心な時役立たずで……何も出来なくて……」

リリム「……JOKERに……驚いちゃって……」


>リリムは泣きながら謝り続けている。

>そして次第に元気がなくなっていった。


鳴上「いいんだ。一人でも無事でいてくれる人がまだいるなら」

リリム「う、うん」

リリム「……」


>……

>これで今、この寮にいる人間だけを数えるのなら――

>藤堂、パオフゥ、ヴィンセント、周防、ライドウ

>そして、自分を含めた計6人になってしまった。

>この寮に初めは大人数いたのがまるで嘘のようだ……


ヴィンセント「あっ! やっと起きたのか! よかった……」

パオフゥ「丸一日分はぐっすりだったな、お前」

鳴上「えっ、そんなに!?」


>慌てて携帯で時刻を確認する。

>表示がちょうどAM10:29からAM10:30へと変わったところだった。


鳴上「朝……っていうかもう昼近くか」

鳴上「でも、なんだかもう、そういうのさえどうでも良くなってきたな……」


>この場にいた皆が一斉に沈黙する。

>そしてすぐに自分が失言してしまった事を感じて慌てた。


鳴上「い、嫌だな、冗談ですよ。冗談!」

ライドウ「鳴上。……一度外を見てみろ」

鳴上「え?」

鳴上「外がどうかしたのか」


>ライドウの神妙な顔つきと物言いに、さっき起きた一斉の沈黙が自分の言葉によるものだけでは無い事に瞬時に気付く。

>……外にいったい何が?

>窓は板を打ち付けて封鎖してしまっているので、急いで寮の入口に駆け寄り扉を開け放った。

>そして空を見上げ……思わず自分の目を疑った。

>そこには大きな禍々しい不気味な光を放った丸い月が浮かんでいる。

>空の色は真っ暗だった……

>そう、完全に夜中の景色だったのだ――


鳴上「これはっ!?」

パオフゥ「お前の携帯の時刻が狂ってる訳じゃないぜ。今が午前の10時半過ぎである事に間違いはない。今まで通りならな」

ライドウ「だが、君が倒れてからそれ以降この夜は明けていない」

ヴィンセント「既に24時間以上、お天道様を拝んでねぇって訳だ」

鳴上「そん……な……」

鳴上「……」

鳴上「って、ちょっと待ってくれ!」

ライドウ「どうした」

鳴上「またこんなおかしな事が増えたっていうのに……藤堂さんと周防さんは何処に!?」

鳴上「まさか俺が気を失ってる間にっ……」

パオフゥ「あー、違う違う。達哉なら藤堂にペルソナの扱い方の特訓を受けに屋上へ行ってるだけだ」

ヴィンセント「まったく、どいつもこいつもすぐ上に行きたがるよな……」

鳴上「屋上!? わかりました、二人とも屋上ですね!」

リリム「あっ、悠!? 待ってよ悠ー!」

ゴウト『落ち着きのない連中ばかりだな……』

ライドウ「……自分も少し様子が気になる。行ってこよう」

ヴィンセント「もう、どうせならみんなでいってみようぜ。やっぱり離れてるのって不安だしさ……」

パオフゥ「ハァ……仕方ねぇ。行くか」


>……


屋上


達哉「……はぁ」

藤堂「いやあ、凄いな。覚醒したばかりだっていうのに、その身のこなし方。なかなか真似出来るもんじゃないぜ?」

藤堂「警察官なんだからそこそこの身体能力を持っていて当たり前なのかもしれないけど、それを抜きにしてもだ」

藤堂「やっぱりまだ身体が覚えているんだろうな。以前、戦った時の事をさ」

達哉「さあ。どうなんだろうな……」

藤堂「きっとそうさ。例え『こちら側』のお前には実感がなくとも、これは『あちら側』のお前が『こちら側』のお前に残してくれたものなんだ」

藤堂「また戦う日がもしも訪れた時の為に、ってな」

達哉「正直、感謝すればいいのか迷惑だと怒ればいいのかよくわからない置き土産だ」

達哉「ただ、この状況であんた達と並んで同じ土俵で戦えるようになったのは悪くない」

藤堂「言ってくれるね。頼もしい限りだ」

藤堂「さて、少し休憩しようか。鳴上の様子も見に行きたいし」

達哉「それもそうですね。付き合ってくれて、ありがとうございまし、」

達哉「た――ッ!?」

藤堂「? どうした、周防……」

藤堂「え……あッ……!!」






JOKER「――捕まえた」





>……


鳴上「藤堂さん! 周防さん!」

鳴上「え……あ、れ……?」

リリム「もう、置いていかないでってば!」

リリム「って……え?」

鳴上「二人とも、何処にもいない」

鳴上「これ、は……どういう……」

鳴上「……リリム!」

リリム「!」

鳴上「二人の気配は、……ッ」

鳴上「藤堂さんと周防さんは、何処にいるんだ――!?」

リリム「っ……」

リリム「ここ……には……ここには藤堂と周防は……」

リリム「二人はっ……」

ジョーカー「ここにあの二人はいないよ」

鳴上・リリム「!?」


>屋上にいる筈だと聞いた二人の姿は無く、代わりに現れたのは白い詰襟を着ている方のジョーカーだった。


リリム「ア、アンタがまさかアモンが探しているっていう!?」

ジョーカー「……アモン?」

鳴上「おい! ここに二人はいないってどう意味だ!」


>久しぶりに姿を現した道化師に驚くよりも、彼らの安否の方が気になるとたまらずそう叫んで詰め寄った。


ジョーカー「……」

ジョーカー「彼らはアイツがついさっきここから別の空間へと連れ去った」

鳴上「なんだって!?」

リリム「アイツってあの紙袋の男の事だよね?」

ジョーカー「そう。でも、今ならまだ間に合う」

ジョーカー「君だけならアイツのところへ連れていける。だから……」

鳴上「えっ……!?」

リリム「悠!?」


>そう言われ、どういう事だかよく理解が出来ないままジョーカーに手を掴まれたその瞬間、リリムの姿が視界から消えた――

>……

???


達哉「お前ッ……」

藤堂「なんだよここは、随分強引なお誘いじゃないか」

JOKER「……」

藤堂「だんまり、か。まあ今までの流れでどういう事かは察しはつく。……けどさ」

藤堂「俺もいい加減積りに積もってブチ切れる寸前なんだぜ?」

藤堂「園村の時の件、忘れたとは言わせない。今度は俺がお前に地面の味を教えてやるよ!」

達哉「……俺だって、もう何も出来ない俺じゃない」

達哉「今こそ、ここで決着をつけてやる!」

JOKER「……」

鳴上「JOKER!」

JOKER「!?」

藤堂「鳴上!?」

達哉「どうしてここに……!」

JOKER「……チッ。あのピエロ、まだそれだけの力を残してやがったのか」

JOKER「まあ、それも後少しだろうがな」

鳴上「何を言っている!」

鳴上「これで三対一だ! もう何も語る必要はない……行くぞ!」

JOKER「ハッ! 何を言ってるって言いたいのはこっちの方だ!」

JOKER「三対一、だあ? お前は本っ当に愚か者だな!」

JOKER「今のテメエの力はプラスになんかなりゃしねえ!」

JOKER「……ゼロなんだよおおぉぉおおおッ!!」

JOKER「引っ込んでろぉッ!」





「そうだね。三対一なんかじゃあ、ない」

「四対一の間違いだ」





鳴上・JOKER「!?」

藤堂「こっ……今度は誰だ!?」

達哉「何処だ! 何処にいる!」


>この何処ともわからない空間の中、急に響いた声に誰もが……JOKERですらも驚き辺りを見回した。

>しかしその言葉を発したと思わしき人物の姿は何処にも見えない。

>……それでも。

>自分にはその声に聞き覚えがあった。

>その声の主が誰だかを知っていた――


鳴上「まさかっ……でも、何故……どうしてこんな場所に!?」

JOKER「この声は……」

「そろそろ呼ばれそうな気がしたんでね。ずっとどうしようか悩んではいたけれど、結局こっちから来る事にしたよ」

「どうでもいい」

「……なんて、言える状況でも流石に無いようだし」


>トン、と新しい足音がひとつ聞こえた。

>それをきっかけに何もない空間に、徐々にその人物は姿を現し始める。

>月光館学園の男子生徒のズボンにブレザー。

>首からかけている音楽プレイヤー。

>それに繋がるイヤホン。

>前髪が片目にかかって少し鬱陶しそうな顔をゆっくりと上げ……

>彼は誰に向けてなのか、静かに呟いた。



イヤホンの少年「お待たせ」


終わります

また次回

なかなか繋がらないからスレ落ちたのかと思ってちょっと焦ってた>>1です

とりあえず生存報告だけ…最近投下間隔空く事が多くて申し訳ないです

SSのネタの確認の為に色々ゲームしてるせいです

今やってる真3がもう少しで終わるのでそうしたら一度帰ってきますので!

では

生きてますよとご報告。

前回の書き込みから二ヶ月経つ前に投下しようとぎりぎり粘ってたんだけど、そうしてるうちにいつの間にか二ヶ月過ぎたら怖いので念の為…

また近い内にきます。

明日か明後日の夜にやっと時間がとれそうなので少しだけではありますが投下にこようと思います

鳴上「お前、どうしてこんな場所にっ!?」

鳴上「そもそもどうやって……」

イヤホンの少年「……」

イヤホンの少年「どうしてだろう、ね」

鳴上「は……?」

JOKER「こいつは驚いた。まさかアンタの方から来てくれるとはな」

JOKER「正直な話、アンタだけはどうすればいいのかわからないでいたトコなんだ」

JOKER「ここまできて詰んだかと一瞬思いもしたが……フ……ハハッ!」

JOKER「これである意味で壁だったアンタら三人をまとめて相手に出来るって訳だな!」

藤堂「壁……?」

達哉「何を言ってるんだコイツは……いや、それよりもまず」

達哉「こっちのお前は誰なんだ?」

藤堂「……。鳴上の知り合いみたいだし、俺たちの敵ではなさそうだが」

イヤホンの少年「ええ、まあ」

イヤホンの少年「それより先輩方。どうか、力を貸して欲しい」

藤堂「先輩?」

達哉「俺たちの事か?」

藤堂「よくわからないが、言われずとも今持ってる力の全てをぶつけるくらいの勢いだから安心しろ」

イヤホンの少年「……」

イヤホンの少年「それから、君」

鳴上「!」

イヤホンの少年「君には……どうか、その力を受け取って欲しい。そして」

イヤホンの少年「君の手で終わらせて欲しい」

鳴上「それは、どういう……」

イヤホンの少年「さっき言っただろ。ずっとどうしようか悩んでいた、って」

イヤホンの少年「これはね」

藤堂「ッ、避けろ!」


>イヤホンの少年の言葉を遮るように藤堂が叫ぶ。

>そしてその大きな叫びすらかき消すほどの音を立てて、イヤホンの少年の脳天をめがけて雷が走った――!

>先程までイヤホンの少年の居た場所には一瞬にして黒い焦げ跡出来ていて煙が立ちこめている。

>……しかし、彼自身はまったくの無傷でまったく別の場所に再び姿を現していたいたのだった。


JOKER「やっぱアンタは一筋縄ではいかないな。こんな攻撃、通る筈もないか。ハハッ!」

イヤホンの少年「……やれやれ。困ったな。そんな嬉しそうな声を上げながら怒らないでよ」

イヤホンの少年「確かに今のはこちらも悪かったけれどね。それは謝ろう」

イヤホンの少年「本来君たちの問題に手出しも口出しもするべきじゃないのはこれでも十分に理解しているつもりだ、……と」

イヤホンの少年「ただ、それが言いたかっただけなんだ」

イヤホンの少年「……もともと、生きている人間と今更こんな風に話が出来ている事自体が奇跡な訳だし」

JOKER「……」

JOKER「なあ。アンタ、本当は何者なんだ?」

イヤホンの少年「いや、こちらの事は」

JOKER「どうでもいい、って? ……それもそうか」


>JOKERとイヤホンの少年はこちらにはつかみ所のない話を続けている。


イヤホンの少年「……」

イヤホンの少年「ひとつだけ聞かせてほしい」

イヤホンの少年「もっと他に方法は無かったのかな」

JOKER「無いね」

イヤホンの少年「言い切っちゃうんだ。……そっか」


>イヤホンの少年は一瞬僅かだけ悲しそうな困ったような一言では言い表せない曖昧な表情を浮かべて俯いてから顔を上げた。

>その瞳は自分を見据えた後、再びJOKERへと向いた。


イヤホンの少年「ならば気が済むまで――相手をしよう」

イヤホンの少年「君のワガママに付き合うのも役目のひとつなんだろうしね」


>そう呟くと同時に何も持っていなかったイヤホンの少年の両手にそれらは突然現れた。

>ひとつは武器である長刀。

>そしてもうひとつは――


鳴上「なっ……どうしてお前がそれを……!?」


>それはとても見慣れた自分でも手にしている物だった。

>しかし、彼がそれを手にしているのはあまりにも不自然だった。

>何故なら彼の手の中にあるそれは、選ばれた者しか手にする事は無い物だったから――

>少年は己のこめかみにそれを近付け、指に力を込めると凛とした声でその言葉を発した。


イヤホンの少年「ペルソナ」


>実弾の込められていない銃のトリガーが引かれ、実体がない筈の彼の体からもう一人、まったく別の形をした姿が浮き上がる。


イヤホンの少年「オルフェウス」


>言葉と共に炎が迸る。

>その炎は瞬時にJOKERの体を包み込む――が、燃えさかるそれが収まっても奴は平然とその場に立っていた。


イヤホンの少年「……ふうん。やっぱりもうこの程度じゃびくともしないか」

JOKER「……」

達哉「あのイヤホンも、ペルソナ使いなのか……!?」

藤堂「今、手に持ってたのって召喚器ってヤツだろ? アイツお前んとこのメンバーだったのかよ!?」

鳴上「い、いや……そんな事は……でも、なんで……!?」

鳴上「!」


>困惑している自分たちを置いて、イヤホンの少年は素早く地面を蹴り今度は片手に持っていた刃ごとその身をJOKERに向かって突進させる。

>その様子を見て、こんな事で驚いている場合ではないと藤堂も周防も、そして自分もはっと我にかえった。


藤堂「ええい、もうなんでもいい! これであの野郎をどうにか出来るってんならなんだってな! いくぞ!」

達哉「……ああ!」

鳴上「そうだ! 四人で一斉に畳みかければ――」

イヤホンの少年「君はそこで大人しくしているんだ」

鳴上「えッ……!?」


>JOKERへと切りかかる瞬間、僅かにこちらへ振り返りイヤホンの少年は強い口調で信じられない言葉を告げる。

>それは紛れもなく自分に向けてのものだった。

>彼の言う事にまたも驚き戸惑い、踏み出し掛けていた足がまた止まってしまう。

>刃と刃の重なり合う鋭い音が聞こえた後、少年はJOKERと向かい合い刀を交えたまま言葉を続ける。


イヤホンの少年「今の君には何も出来ない」

鳴上「なっ!? そんな事っ……!」


>訳がわからない。

>ついさっきこの少年はこう言っていた筈だ。

>『君の手で終わらせてほしい』

>なのに今度は大人しくしていろ? 自分には何も出来ない?

>それがたとえ事実だったとしても、そんな事言われてはいそうですかと聞けるような状況ではない事は彼だって理解出来るだろうに、何故――!?

>戸惑いに僅かの苛立ちが混じる。

>そして、それを煽るように耳障りな笑い声がこちらの耳に届いた。


JOKER「お仲間にまでンな事言われてりゃ世話ないなあ! ええ?」

JOKER「でもよお、それなら結局、三対一で間違いないじゃないだろうが……よ!」


>JOKERがイヤホンの少年の刃を受けている刀を大きく払う。

>その力によって少年は後方へと飛んだ。

>だがそれは吹き飛ばされたというよりは、あらかじめJOKERの行動を予測していたかのような動きで軽やかに宙で身を返し、余裕な態度を保ったまま呟いた。


イヤホンの少年「それはどうかな」

JOKER「!」


>瞬間、少年から高速で何かが放たれる。

>彼の手から持っていた刀が消えている事に気付いたのはそれからほんの僅か後の事だったが、だからと言って放たれたのがその刀という訳では無かった事に何よりも驚いていたのは、『それ』に迫れているJOKERだっただろう。

>JOKERにめがけて放たれたのは――弓矢だった。

>目前にまできた弓矢をJOKERが刀で叩き落とすのと、少年が再び地に足を着けたのはほぼ同時で。

>そこから瞬時に片膝を折り身を屈め、少年は次の矢を引き絞りJOKERに狙いを定める。

>そして文字通りの二の矢が放たれるのと同時に

>少年の体は『分裂』したのだった。


JOKER「なっ……」

鳴上「ッ――!」

>少年から『分裂』したそれは飛んでいく弓矢の後を追うようにJOKERへ向かっていく。

>――初めそれは彼のペルソナなのかと思っていた。

>けれど、彼は先程のように召喚器を構えた訳でもなかったしそれは違うとすぐに解った。

>ならば『分裂』したものの正体は結局何だ?

>両腕と両足を持つそれは、明らかに人間の形をしていた。

>ならば少年が『分裂』したというよりは、少年の『分身』が出てきたと表現した方がより合っているようにも思ったが……それもすぐに違うと感じた。

>理由は簡単だ。

>イヤホンの少年の『分身』というのならば、それはイヤホンの少年の姿そっくりそのままでなくてはならない。

>だが、紛れもなく少年の体から分かれて出てきた筈のそれは

>似たようなイヤホンをかけてはいるが色が違っていて

>月光館学園の制服は着てはいるが履いているのはスカートで

>服装から体格から性別から髪型から何から何まで違っているのだ。

>しかし、真の意味で驚くべき点はそんな事ではなかった。

>……自分は知っていた。

>イヤホンの少年とはまったくの別人である筈の

>その存在を、その少女を

>『彼女』の事を知っていた――!


鳴上「……キ、」

鳴上「キミコ――ッ!?」


>その名を呼ぶと同時に、また刃が合わさるような音が響き渡る。

>少年が放った次の矢も避けたJOKERが、彼女が持っていた武器――薙刀の刃を刀で受けたのだ。

>彼女は声を上げたこちらにこれっぽっちも視線を送る事はせず、ただ眼前の敵を見据えている。

>そして、持つ武器が長い柄である事を利用し絶妙な間合いを保ちながら何度もJOKERへと攻撃を浴びせ始めたのだ。

>ここでようやく、自分の存在を除け者にしても覆す事の無かった少年の言う『四対一』の意味を理解する。

>だが……


鳴上(……ッ!?)

鳴上(……あれ……は……)

鳴上(彼女は……『俺の知っているキミコ』……なのか?)


>『自分の知るキミコ』というのは、自分の仲魔であるリリムの持つもう一つの……人間の姿の事だ。

>その姿と、目前でJOKERと戦っている少女はどう見ても同じで、自分が彼女の事を見間違える筈など無いというはっきりとした確信を持てるくらいである。

>それなのに……奇妙な事に『彼女は何かが違っている』と感じている自分が同時に存在しているのだ。

>それが自分の中をじわじわと扶植し始めると、今度は今まで思いもしなかった考えが自分の頭をよぎる。


鳴上(あの二人……)

鳴上(なんだか『似ている』……?)


>服装も体格も性別も髪型も何から何まで違っているのに……『似ている』

>その時、自分の直感がそう強く訴えた。

>例えるなら男女の双子というのが一番近い表現かもしれない。

>でもそれもなんだか少しずれた例えの様な……そんな奇妙な感覚をあの二人に感じていた。

>そしてその考えはもっとはっきりと強いものへと変わる――

>少女が後ろに飛び、少年が前に飛び、二人の姿がぴったりと並んだ。

>少女の右手と、少年の左手が同時に上がる。

>二人はまったく同じ物をその手の中に持っている。

>彼が持っているというだけでもおかしいのに、彼女までもがそれを手にしている……!

>シンメトリーな動きを崩さないまま、二人の声がぴったりと重なって木霊した。


「「ペルソナ」」

「「――オルフェウス!」」


>オルフェウスという名のペルソナが再び少年から、そして少女からも召喚される。

>二人が男女の双子なら、呼ばれて出てきたそれも男女の双子のような姿で……

>息の合った動きが連動するような動きがペルソナに見えると、倍になった炎がJOKERを襲った。


JOKER「何度も何度も芸の無い事を――」

JOKER「ッ!?」


>……JOKERは、二倍になった炎が突然三倍になった事に気付くのに僅かに遅れをとった。

>だから、その三倍になった炎が風に煽られて更に業火と化していたと気付いたのは、その中に飲まれてからだった。

>少年たちが攻撃している間に回り込み機を窺い、JOKERの死角とほんの小さな隙を突いての藤堂と周防によるペルソナでの攻撃だった。


JOKER「……っ」

達哉「そこを動くな!」


>周防は素早く懐に持っていた銃を抜き、JOKERに照準を合わせ引き金を引く。

>放たれる何発かの乾いた声。

>そしてそれに被るように聞こえてきたのは、周防の持つリボルバー式のそれからは聞こえる筈はない連続した銃声だった。

>驚く事に警察でもなんでもない藤堂が、どこから出したというのか銃を……しかもマシンガンを手に、蜂の巣にするくらいの勢いでJOKERに向けて撃っている。


藤堂「これくらいの事は俺だって学生の時から嗜んでるんだぜ……っと」

藤堂「最後にもう一発食らっとけ! ガルダイン!」

JOKER「ぐ……が……っ!」


>弾の切れたマシンガンを捨て、藤堂がペルソナを呼ぶ。

>続きに続いた猛攻を食らっていたせいなのかその大きな風をかわしきれず、JOKERはついに体勢を崩した――!

>藤堂と周防は倒れかけたJOKERを押さえ込もうと二人がかりで飛びかかる。

JOKER「っ!?」

藤堂「今だ!」

達哉「俺たちに構わずやれ!」


>二人がイヤホンの少年と少女に向けて叫ぶ。

>それを既に察していたと言わんばかりに、少年たちはそれぞれ動きを見せていた。

>またしても、弾の込められていない銃口を自身の頭に突きつける二人の姿がそこにあった。


イヤホンの少女「メサイア!」

イヤホンの少年「タナトス!」

鳴上(さっきとは違うペルソナが……!?)


>もう驚く事は出尽くしたと思っていた……


鳴上(俺と同系統の能力……ワイルドの力……!?)

鳴上(俺以外にもそんな力を持ってる奴らがいるなんて……)


>しかも少年の召喚したペルソナには見覚えがある。

>GWのラビリス事件の時に、マーガレットの妹だというエリザベスという女性が使っていたペルソナの筈だ。

>あの時の苦い記憶が一瞬だけ甦る。


鳴上(……い、いや! 今はそれよりも!)

鳴上(あいつらに加勢しない……と……)

鳴上(……ッ!?)

鳴上(な……んだ……!?)

鳴上(か、……体が……動かない……っ)

鳴上(……声……も……)

>足がその場から一歩も踏み出せない。

>まるで足下に伸びている影が足首にでも絡みついて地面に縫い付けられているような……そんな錯覚を覚えた。

>そして急激な疲労と喉の乾きに呼吸する事さえ困難になってくる。

>今すぐにでもうずくまってしまいそうだ……

>これでは、少年に言われずともここで黙って状況を見守る事しか……出来ない……


鳴上(どうして急に……こんな……っ)

JOKER「……るな」

藤堂・達哉「!」

JOKER「オレ……に……」

JOKER「っ……触るなあぁぁぁぁぁ!!」


>JOKERの吼える声が耳を劈き、体に痺れを感じる程に伝わってくる。

>奴の一番近くにいた藤堂と周防がそれに怯む事は必然だった。

>それがJOKERの動きを再び許す事となる。

>大人二人に押さえつけられては形無しになっていた怪人は起き上がり

>震える両手に力を込めると回転切りの要領で刀を振った――


藤堂「なっ……」

達哉「……く……っ!」


>まとわりつく二人を振り払うかのようなその動きが確実に彼らに届く瞬間が……目に焼き付いた。

>……

――蝶の夢を見ている


『……僕は尚也だよ! そうでしょ、お母さん』

『ねえ、お母さん――』

『どうして……』

『どうしてそんな事言うの……?』

『……お母さん……』

『ねえ、泣かないで……』

『泣かないでよお母さん……!』


ごめんなさい


『もう言わないから……』


ごめんなさい……

……


『どうしてだろうな』

『何故何度も繰り返し、あの夢を見るんだと思う?』

『どうしてお前は――の死んだ辺りの事をあまり覚えていないんだろうな』

『……それは』

『まだ小さかったから……』

『違う』

『忘れたかったからだ』

『怖かったからだ』

『……自分のせいだと思ったからだ』

『もちろん別にお前のせいじゃない』

『今ならそう考えられるだろうが、まあガキだったから仕方ないよな』

『母親も元に戻りおまえはなかったことにした』

『忘れようと努めて……忘れた』

『だがそれは、消えてなくなったわけじゃない……』


自責、嫌悪、恐怖、不安、罪悪感

そして


『――はじめは曖昧に』

『次第にはっきりと。輪郭を得て俺はここにいた』

『なつかしいね、全く……あのガキに引きずり出されなきゃ今でもここにいたんだろうな』

『おまえ……』

『おまえは――じゃない』

『そうだ。俺は――じゃない』

『おまえが育てた、おまえへの悪意』

『――おまえなんだよ』

>……


『……では、自分があるべき姿を、強く想い描きたまえ』

『意志する力が、諸君を新たな現在へと導くだろう』

『……』

『おまじない……これできっと、忘れないよ……』



『さて……しばしの別れだ。最後に、言っておきたいことはないかね?』

『ッ……!』

『私は、全ての人間の意識と無意識の狭間に住まう者……』

『私は君で、君は私だ……いつまでも、君の中で君を見守ろう』

『さらばだ……』



『色々あったけど、また会えて嬉しかったぜ。男の約束……忘れんなよ!』

『私の事……忘れないで。大好きよ……』

『さよならは言わないよ。ただ……ありがとう』



『……ダメだ』

『忘れたくない……! 忘れられるものか!』

『みんな、行かないでくれ……』

『もうひとりにしないでくれ……っ』

『……イヤだ……イヤだ……』

『イヤだああぁぁぁぁぁぁ!!』



『……どうだ罰は気に入ったか?』

『一緒に戦ってくれなどと、言えるわけがないな?』

『この世界が滅びに瀕しているのは……』

『全てお前のせいなのだからな!!』



『罪には罰を下さねばならん』



>……

>JOKERは四人からの猛攻を受けてもまったくの無傷だった。

>それでも疲労はしているようで肩で息をし腕を震わせながら佇んでいる。

>だがそれも少しの間の事で、刀を構え直すと少年と少女に直進していく。

>二人のペルソナはそれを捕えきる事が出来ず――

>彼らの目前まで、JOKERは迫っていた。

>その時、ふと

>新たに武器を構えようとしていた筈の少年の腕が……脱力した。


イヤホンの少年「……ここまでが限界、か」

JOKER「!」

鳴上(……何を……やって……っ!)

イヤホンの少年「こちらの力がもう及ばない事は……想定済みだった」

イヤホンの少年「それでもこうする事が『お役目』だったからね」

イヤホンの少年「これで満足かい?」

JOKER「ぐっ……」


>JOKERは急に踏みとどまる。


イヤホンの少年「満足したなら、斬ればいい」

鳴上(!?)

イヤホンの少年「……いや。斬らないと満足出来ないんだったか」

イヤホンの少年「さあ、早く」


>イヤホンの少年は持っていた武器も召喚器も投げ捨てて挑発的な態度を見せる。

>隣にいた少女も様子を見つめた後……それに倣った。

>二人はもう完全に無防備だ。

>抵抗する意思も殺気もまるでない。


鳴上(……馬鹿……やめろッ……!)

鳴上(なんで……!?)

イヤホンの少年「……」


>それでもイヤホンの少年は強い眼差しをJOKERを向けていた。

>その行動と言葉とは裏腹に、まるで屈しはしないとでもいうように。

JOKER「っ……」


>JOKERの刀を構える腕は一層震えていた。

>どう見てもこの状況は奴の方が優勢の筈なのに、少年の気迫に押されているように感じる……

>……それでもJOKERは、負けじとまた足を力強く踏み出した。


JOKER「――ッ!」


>その勢いに任せて、刀が突き出される。

>切っ先がイヤホンの少年を貫いた――


イヤホンの少年「……」


>少年は抵抗を一切見せずそれを受け入れた。

>JOKERに強い眼差しを向けていたままの瞳をゆっくりと閉じ

>もう一度瞳を開くと……こちらを見て優しく、そして悲しげな笑みを向け

>そのまま姿が消えていくのが見えた……

>少年の傍らにいた少女も、JOKERに斬られる事はないまま一緒に消えていく……


JOKER「……」

鳴上(っ……)


>JOKERとふたりきり、空間に取り残される。

>未だに声は出ない、体も動かない……疲労も続いている。

>JOKERは自分のすぐ近くでぼんやりと佇んでいる。

>そして天を仰いだ。


鳴上(……俺……どうなるんだろう……)

鳴上(……)

鳴上(俺も……ここまで……か)


>JOKERがこちらを振り返る。


鳴上(……もう、駄目なのかもしれない)


>こちらに歩み寄り刀を持つ手を上げた――


鳴上(……)


>……抵抗する力は元より残されていない。

>ゆっくりと目を閉じた――

>……

今回は終わりです

まとめて投下しようとするとどうしても時間が開いてしまうので投下方法変えようか検討中

でもそうすると読みにくくなってしまうかもしれないので悩みどころ

とりあえずまた次回

>…

>……

>………








「――悠!」


鳴上「……ッ!?」




リリム「悠!?」

鳴上(……え……ここ……は……?)

リリム「よかったあ! もうびっくりさせないでよお……!」

鳴上「!」


>明らかにさっきまではいなかった人……いや、悪魔が自分に抱きついて涙声を上げている事に気付くのに少し時間がかかった。

>ここはさっきまでいた謎の空間ではなく……

>学生寮の屋上だった。


鳴上(帰って……きた……?)

鳴上(戻ってこれたのか。あの場所から……)

鳴上(……)


>……正直な話、信じられない。

>あの場でやられてしまうと思ったし、そう思いこんで諦めの気持ちが生まれてしまったのも事実だったからだ。


鳴上(それなのに、まだ此処にいる)

鳴上(……どうしてだ)

リリム「……悠?」

鳴上(リリムも此処にいる)

鳴上(じゃあ、さっきのあの女の子は……)

ケルベロス「ユウ!」

鳴上「!」


>屋上の扉が開かれ、そこから人やら仲魔やら猫やらがぞろぞろとやってくるのが見えた。


パオフゥ「起き上がったばかりで急に動くんじゃねえよ。ったく……」

ヴィンセント「そうだぞ。……にしても、やっぱ見れば見るほど不気味だな。この月明かり」

ライドウ「……」

ライドウ「……?」

ライドウ「鳴上」

ライドウ「藤堂さんと周防さんは、何処に?」

鳴上「っ……」

パオフゥ「!」

ヴィンセント「えっ……!?」

ゴウト『おい、まさかっ……!?』

ライドウ「……!」

リリム「そ、そうだよ! 悠、さっきのヤツに連れていかれてから数分もしないで戻ってきたけど、二人は結局見つからなかったの!?」

鳴上(……!?)

鳴上(数分も経ってない!? あれだけの事があってか!?)

鳴上(そんな……馬鹿な事が……)

アモン「ちょっとまて。さっきのヤツってのはなんだ。……誰の事だ」

リリム「え? え、えっと……」

リリム「ジョーカー、だよ。白い詰め襟の方の……」

アモン「何だって!? どういう事だ!」


>リリムはこの場にいる皆に、自分に代わって事情を説明した。


ライドウ「それで、君は藤堂さんと周防さんには結局会えなかったのか?」

鳴上「……」


>首を横に振る。


パオフゥ「じゃあ、どうしたってんだ。二人とも」

鳴上「……」


>首を横に振る。


ゴウト『……駄目だったのか』

鳴上「……」


>……


ケルベロス「まさかこんな短時間のあいだに仕掛けてくるとは……」

アモン「クソッ! もう少し早く駆けつけていればアイツに一発くらいお見舞いしてやれたのに!」

リリム「……」

リリム「アモン。その事なんだけど」

アモン「……あ? なんだよ」

リリム「多分、あの白い方のジョーカーは……アモンが探してるヤツじゃないよ」

アモン「……」

アモン「どうしてそんな事がお前にわかる。アイツを知らないお前に」

リリム「わたしね、ジョーカーの前でアモンの名を出したのよ」

リリム「でもその時のジョーカーの態度がアンタの事よく知らないって言ってるような気がしたの」

アモン「ハッ! オレの事なんか記憶に残っちゃいねえってか。上等だ」

リリム「違うよ。そういうのとは違う。それに……あの感じ……」

リリム「あの感じ……は……」

アモン「……?」

リリム「ッ……」

リリム「ね、ねえ! みんな! もう中に戻ろう?」

リリム「悠も、もう少し休もうよ! ね?」

ケルベロス「そうだな。その様子では、もう少し寝ていた方が良さそうだ」

鳴上(数分も経ってない!? あれだけの事があってか!?)

鳴上(そんな……馬鹿な事が……)

アモン「ちょっとまて。さっきのヤツってのはなんだ。……誰の事だ」

リリム「え? え、えっと……」

リリム「ジョーカー、だよ。白い詰め襟の方の……」

アモン「何だって!? どういう事だ!」


>リリムはこの場にいる皆に、自分に代わって事情を説明した。


ライドウ「それで、君は藤堂さんと周防さんには結局会えなかったのか?」

鳴上「……」


>首を横に振る。


パオフゥ「じゃあ、どうしたってんだ。二人とも」

鳴上「……」


>首を横に振る。


ゴウト『……駄目だったのか』

鳴上「……」


>……


ケルベロス「まさかこんな短時間のあいだに仕掛けてくるとは……」

アモン「クソッ! もう少し早く駆けつけていればアイツに一発くらいお見舞いしてやれたのに!」

リリム「……」

リリム「アモン。その事なんだけど」

アモン「……あ? なんだよ」

リリム「多分、あの白い方のジョーカーは……アモンが探してるヤツじゃないよ」

アモン「……」

アモン「どうしてそんな事がお前にわかる。アイツを知らないお前に」

リリム「わたしね、ジョーカーの前でアモンの名を出したのよ」

リリム「でもその時のジョーカーの態度がアンタの事よく知らないって言ってるような気がしたの」

アモン「ハッ! オレの事なんか記憶に残っちゃいねえってか。上等だ」

リリム「違うよ。そういうのとは違う。それに……あの感じ……」

リリム「あの感じ……は……」

アモン「……?」

リリム「ッ……」

リリム「ね、ねえ! みんな! もう中に戻ろう?」

リリム「悠も、もう少し休もうよ! ね?」

ケルベロス「そうだな。その様子では、もう少し寝ていた方が良さそうだ」

鳴上「……」

ヴィンセント「お、おい! 鳴上、お前顔真っ青だぞ!?」

パオフゥ「はあ……ホラ、つかまれ。行くぞ」

ゴウト『……』

ゴウト『いよいよ後が無くなってきたようだな。ライドウ』

ライドウ「……」


>……


学生寮 ラウンジ


>あれから時間として24時間――約一日分の時が過ぎた。

>その間、外の闇夜が明ける事はやはり無いようだった。

>自分はと言えば、一階に降りてから強制的に体を横にさせられるも眠れる筈がなく黙ってずっとぼんやり天井を見ているだけだった。

>そして自分の仲魔たちだが……

>このまま召喚状態を継続しているとMAGがいつ枯渇してもおかしくはないとライドウに指摘を受け、やむなく帰還させる事にした……のではあるが

>初め素直にそれを受け入れてくれたのはパスカルだけであった。

>アモンはやはり白い詰め襟のジョーカーが気がかりらしく、今度こそ逃がさないと息巻いており

>リリムはと言えば、ずっと自分の近くにいたいと駄々をこねる始末。

>……自分は別にそれならそれでも良かったのだが、ライドウやゴウトが色々と言い聞かせた結果リリムは渋々それを承知するのだった。


リリム「……わかった、わかったよ。アモンが悠の事、絶対守ってくれるって約束してくれるならわたしは帰還する」

リリム「そうだよね。わたしたちが揃って出てたら、回復出来るものも回復出来ないんだよね」

リリム「そんな事わかってたのに……わたしが馬鹿だった。ごめんね」

リリム「アモン。……マジで頼むからね!」

アモン「わかったからお前はとっとと戻りやがれ」

ゴウト『全く、何奴も此奴も我が儘ばかり言いおって』

リリム「……」

リリム「……あ! ちょっと待って!」

ゴウト『まだ何か文句でも有るのか? いい加減にしろ』

リリム「違う違う! そうじゃなくてさ」

リリム「戻る前にずっと気になってた事、今度こそ聞いとかなきゃって思って」

ライドウ「気になっていた事とは?」

リリム「うん。……ヴィンセント!」

ヴィンセント「はい!?」

ヴィンセント「え、何? オレの事呼んだ?」

リリム「そう、アンタよ。アンタ!」

リリム「アンタにずーっと聞きたかった事、今度こそ聞かなきゃ」

ヴィンセント「オレに? あー……なんか前にもそんな事言ってたような気がしたな、そういや」

ヴィンセント「で、何? ……悪魔に質問されるってのにいい思い出がないから、手短に頼みたいんだけど」

リリム「うん。あのさ……アンタにキミコの事、聞いておきたいの」

ヴィンセント「キミコ?」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「誰だ、それ?」

リリム「この子よ、この子!」


>そう言うと、リリムという悪魔はキミコという人間の少女へ姿を変える。


ヴィンセント「あ、ああ! あの女の子か! 懐かしいなあ」

キミコ「そう。アンタが三年前にクラブエスカペイドで話したっていう女の子の事」

キミコ「アンタさ……」

キミコ「本当にこの子と……キミコと会った事、あるの?」

ヴィンセント「え?」

ヴィンセント「そりゃ、あるに決まって……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「……え、あれ?」

キミコ「ねえ。本当にキミコなんて女……」

キミコ「三年前にいたの?」

ヴィンセント「な、なんだよ……何が言いたいんだよ!」

キミコ「答えて」

キミコ「……確かに、アンタの中にはこの子と話した記憶が残ってるみたい。それはわかるの」

キミコ「でも、わたしは未だにキミコがあの地にいた痕跡を一切見つけられない」

キミコ「ううん。感じられない……感じないのよ」

キミコ「それがどういう事なのかが、どうしても気になるの」

ヴィンセント「オレの記憶って……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「あの子がオレの見た幻覚か、幽霊だとでも言いたいのか?」

ヴィンセント「そんな事は……ないと、思う」

ヴィンセント「オレ以外にもあそこで話をしていたヤツはいたし……いや……でも……」

ヴィンセント「あの子……」

ヴィンセント「キミコ、って名前だったっけ?」

キミコ「……え?」

ヴィンセント「ミナコ……いや、ルナコ? そんな感じの名前だったような……気も……」

ヴィンセント「いやいや、それとももっと別な……」

ヴィンセント「……ちょっと待った。そもそもオレが話していた相手は女子だったのか?」

キミコ「は、はあ? アンタ何言って……」

ヴィンセント「!」

ヴィンセント「あ、いや……今のは忘れてくれ」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「悪い。オレもそこまで親しい間柄だったって訳じゃないし、いい加減な記憶しか残ってないみたいだ」

キミコ「……」

キミコ「そう、わかった」

ライドウ「気は済んだか」

キミコ「……とりあえず、は」

キミコ「でも、最後にもうひとつだけ」


>キミコの姿がリリムへと戻る。


リリム「悠」

鳴上「?」

リリム「ドルミナー!」

鳴上「!」


>リリムの不意打ちの魔法を真正面から受けた。

>急激な眠気に襲われ、意識が遠のいていく……

>……


リリム「本当はこういう強引な事、悠にはしたくなかったんだけどねー」

リリム「でもこうでもしないと……ね」

ライドウ「……そう、だな」

リリム「ま、とにかくこれでしばらくはグッスリでしょ」

リリム「じゃあ今度こそ帰る。くれぐれも頼んだからね!」

アモン「やっとうるさいのが引っ込んだか」

ゴウト『アモン。お前も……』

アモン「……わかってるっての。本当にコイツが限界になったら、その時は大人しく引っ込むさ」

アモン「それまでに決着がつけばいいんだがな」

ライドウ「……」

パオフゥ「話は終わったか」

ヴィンセント「……え? もしかして、アンタもオレに何か?」

パオフゥ「そんなトコだ。ちょっと付き合え」

ヴィンセント「あ、ああ」

ライドウ「お話中の所、申し訳有りません」

パオフゥ「……ん? なんだ」

ライドウ「これから少々外に出ようと思うのですが構いませんか?」

パオフゥ「ああ、勝手にすればいい」

ヴィンセント「なっ……いいのかよ! ここに鳴上ひとりになっちまうぞ!?」

ライドウ「アモンが居ます。問題無いでしょう。それに……」

パオフゥ「多分、これが鳴上にとっては一番安全……そういう事だろう?」

ゴウト『!』

ライドウ「……」

ライドウ「恐らく」

ゴウト『それは……』

ヴィンセント「はぁ!? 意味わかんねえんだけど……」

パオフゥ「その辺の事も含めてお前に話があんだよ。行くぞ」

ライドウ「では、自分も」

ライドウ「鳴上の事は任せた、アモン」

アモン「行くならさっさと行っちまえ」

ヴィンセント「お、おい!? 待ってくれよ!」

ゴウト『今のはどういう事だ、ライドウ……ライドウ!』


>……

屋上


ヴィンセント「またこんなトコに来るし……もっと他に場所ねえのかよ」

パオフゥ「屋内はガキがいるしちょっとな」

ヴィンセント「あー……煙草か。なるほどね。酒はともかくそれはなあ」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「……オレにもくれよ」

パオフゥ「最近禁煙してるって、この間チャットで言ってたのは誰だ?」

ヴィンセント「うっせー。わかってんならこんな状況で煙草なんか吸い始めんじゃねーよ!」

パオフゥ「ククッ……我慢は体に毒だぜ。ホラよ」

ヴィンセント「どーも」

ヴィンセント「……で、改まってなんの話なんだよ」

パオフゥ「そんなに難しい事じゃねえ。ここまでのまとめをしてみようと思ってな」

ヴィンセント「オレとふたりでか? それならライドウも一緒の方が良かったんじゃないのか」

ヴィンセント「オレじゃ役に立てねーよ……」

パオフゥ「話してみないとわかんねえだろ」

パオフゥ「それに、さっきの様子をみるにライドウは多分すでに同じ事を勘付いていると思う」

パオフゥ「なら今はアイツが気になっている事を自由に調べりゃいい」

ヴィンセント「あのさ。さっきの『鳴上にとっては一番安全』って結局どういう事なんだよ。そろそろ聞かせてくれ」

パオフゥ「それは」

パオフゥ「……」

パオフゥ「あくまで今までの状況を見たり聞いたりして思っただけなんだが」

パオフゥ「おそらく……」

巌戸台駅周辺


ゴウト『なっ……益々意味が解らない!』

ゴウト『ならばアイギスの時はどう説明するつもりだ。あの時は明らかに……』

ライドウ「あれは彼女ならああいう行動をするだろうと、事前に読んでの事だったのだと思う」

ゴウト『ライドウの言う事が本当ならばそうなのかもしれぬな』

ゴウト『……この答えの根拠はなんだ?』

ライドウ「根拠、か。強いて言うなら」

ライドウ「彼がまだここに居るから、という他にならない」

ゴウト『ふむ……だがそれについては確か、基準は不明だが順番を明確に決めているのではという意見があったのではないか?』

ゴウト『偶々それに当てはまらなかっただけという可能性も……』

ライドウ「それも恐らく間違ってはいないのだと思う」

ゴウト『!』

ライドウ「だが……」

屋上


ヴィンセント「はー……なるほど、ね」

ヴィンセント「オレは大抵事が済んでから状況を聞かされるだけだったから、現場を見た記憶は殆どねえけど……」

ヴィンセント「その話、なんかしっくりくるっていうか、納得出来るところがあるかも」

ヴィンセント「……なんでそう思うんだろ」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「そういえば、今までの『順番』ってどうだったんだっけ?」

パオフゥ「そうだな……」

パオフゥ「まず、スタートは神郷からだった」

パオフゥ「それからトリッシュと園村、そして鳴上の同級生のあかりって子とアイギスだな」

パオフゥ「その後は、淳、ラビリス、望月、桐条、伊織、天田とチドリって嬢ちゃん」

パオフゥ「メティスとコロマル……で、さっきは藤堂と達哉、か」

ヴィンセント「よくそんなスラスラと出てくるな」

パオフゥ「この対象になる順番が解ればって話は結構前から出ていたから意識してたしな」

パオフゥ「……結局、どういう事なのか答えはここに至るまで出てこなかったが」

パオフゥ「だから改めてここまで残ったお前にも問いたい」

パオフゥ「これはどういう事だと思う?」

ヴィンセント「どう、と言われてもなあ……こっちが聞きたいくらいだっての」

ヴィンセント「だって、オレなんて真っ先にやられる側だと思ってたんだぜ? ……まあ、逃げ足には多少の自信があるけどさ」

ヴィンセント「それでもオレにはペルソナとかいう力もない訳だし……」

ヴィンセント「ここまで残れたのはただ悪運が強かった、くらいにしか思えない」

ヴィンセント「この順番に本当に何かの意味があるのだとしても、それってもしかしてJOKERにしか理解出来ない事なんじゃないか?」

ヴィンセント「それならオレたちには考えてもどうしようもない事なんじゃないか?」

パオフゥ「JOKERにしか理解出来ない事、か……」

ヴィンセント「……ともかく。今、はっきり言える事はひとつだけだろ」

ヴィンセント「次にターゲットは」

ヴィンセント「アンタか」

パオフゥ「お前」

ヴィンセント・パオフゥ「……だな」

とりあえずここまで

巌戸台駅周辺


ライドウ「JOKERと名乗る怪人が初めに皆の前で宣言した標的の数は、十九だという話だったな」

ゴウト『らしいな。そして現在迄で……十六の犠牲が出ている事になる』

ライドウ「つまり、残りは三だ。だが、この場所に存在する人間の数は」

ゴウト『ライドウを含めると四人になるのか。一人余る事になるな。まさか……?』

ライドウ「いや。自分が云いたいのはそういう意味なのでは無い」

ライドウ「そもそも自分の存在は、ただの『異物』の筈」

ライドウ「邪魔な存在には違い無いだろうが、最初に宣言された十九の内には含まれていない」

ゴウト『そうか……標的が十九だと宣言した後に異物がいるとか訳の解らない発言をしたと鳴上は話していたからな』

ライドウ「そういう事だ」

ゴウト『結局の所、現在寮にいる三人が狙われるであろう事に代わりは無いぞ』

ライドウ「だがそれでも、これまでの話を統括するとその結果……」

ライドウ「次はパオフゥ氏かヴィンセント氏のどちらかであると予想される」

ゴウト『……ライドウ。お前はそれを理解しながらあの二人をあの場に置いて此処まで出て来たというのか?』

ライドウ「……」

ライドウ「ああ」

ライドウ「あの場に残り二人から離れずにいればいずれまたJOKERと対峙出来る機会は必ず出来るだろう」

ライドウ「しかし……はっきり言おう」

ライドウ「……自分の力はJOKERに及ばない」

ライドウ「いや、干渉が出来ないんだ」

ライドウ「もはや直接太刀打ち出来る術が……無い」

ゴウト『干渉……? それは一体どういう意味だ』

ライドウ「何度か彼奴と刃を交えてこの身で実感した。あれからは凄まじい『拒絶』の力を感じる」

ライドウ「それは自分に対しても強い反発力を持っていた……」

ライドウ「そして、その『拒絶』の力が皆を排除していった。結果、消えてしまったのだ」

ライドウ「この世界……異界から」

ゴウト『アモンも言っていたな。ここは鳴上達の現実世界をそっくり象っただけの全く別の空間だと』

ゴウト『その異界から排除……拒絶をしているという事はつまり』

ライドウ「JOKERは彼らをこの異界には必要無いものだと考えているのだろう、という事だ」

ライドウ「だがそうなるとある疑問が浮上する」

ゴウト『ならばそもそもこの異界に皆を閉じ込めたのは結局誰なのか、だな』

ライドウ「ああ」

ライドウ「そしてそれも恐らく、アモンが予想していた通りの者で間違い無いのだろう」

ゴウト『白い詰め襟の、道化師の方のジョーカーか……』

ライドウ「自分達はそもそもこの世界に巻き込まれた側の者では無い」

ゴウト『異変を察知して無理矢理侵入して来た訳だからな』

ライドウ「だから我々は皆とは違う。この空間に歓迎され無い者……『異物』扱いだという事だ」

ライドウ「最初にあの寮を訪れた時、建物の中に入れなかった事と気分が悪かった理由がこれなのだろう」

ゴウト『だが屋上でジョーカーと対面した時、彼奴から許しを得た事によりあの建物の中に入る事が出来るようになった……と』

ゴウト『気分が良くなったのもそれからだったな』

ゴウト『皆をこの世界に閉じ込めたジョーカーと、皆をこの世界に必要としないJOKERか』

ゴウト『……』

ゴウト『……おい、待てライドウ。これは考え方によっては……』

ゴウト『JOKERが皆をこの世界から救い出そうとしている様に見えないか!?』

ライドウ「……」

ライドウ「確かにそう捉える事も出来るのかもしれない」

ライドウ「しかし、JOKERが皆に対して決して良くは無い負の感情を向けている事も確かだ」

ライドウ「特に鳴上に関しては、他の人達に向けているものとはまた違う悪意があるような気がする」

ライドウ「彼奴が何時これ以上の妙な気を起こすかも解ったものではない……」

ライドウ「此迄の説が自分の憶測の域を出ていない以上、早急に手を打つ必要があるのは変わらない」

ゴウト『だがうぬは自分で言ったぞ。自分の力は彼奴に及ばない、と』

ゴウト『……どうするつもりだ、ライドウ』

ライドウ「そう、直接は無理だ」

ライドウ「だが間接的にならば可能性は十分残されている筈」

ライドウ「別角度から攻める」

ライドウ「……急ぐぞ、ゴウト」

屋上


ヴィンセント「オレたちさあ、なんでこんな世界に閉じ込められたんだろうな」

パオフゥ「さあな。さっきのお前の言葉を借りるなら、それを考えるだけムダなんじゃないのか?」

パオフゥ「きっとこの世界に閉じ込めた奴にしか理解出来無いクソみてえな理由があんだろうよ」

ヴィンセント「うーん……」

パオフゥ「……なんだよ。どうした?」

ヴィンセント「……。笑わないで聞いてくれるか?」

パオフゥ「言いたい事があんなら勿体ぶらずに早く言え」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「オレ、さ」

ヴィンセント「この世界のこと……なんか前から知ってる気がするっていうか」

パオフゥ「……」

パオフゥ「どういう事だ?」

ヴィンセント「なんつーか、上手く言葉に言い表せないんだけど……この世界に触れたコトがあるような気がするんだ」

パオフゥ「触れた……?」

ヴィンセント「そう。……でもさ」

ヴィンセント「オレが知っていたのはここまで寂しい世界でもなかった気もしてて……」

パオフゥ「意味がわからん」

ヴィンセント「だよなあ。オレだってそう思うし、そう言われると思ったから言いたくなかったんだよ」

パオフゥ「寂しい世界、か。確かに限られた人数しかいなかった訳だしな。それももう残り僅かな訳だが」

ヴィンセント「それでもさ……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「これは前にライドウたちとも少し話した事なんだけど……」

ヴィンセント「ふとした瞬間、この場所が妙に落ち着く時がある……って」

パオフゥ「!」

ヴィンセント「あの場にいたみんなが同意してたんだけど、もしかしたらアンタもそんな風に思った時があった?」

パオフゥ「……」

ヴィンセント「……そっか」

ヴィンセント「それも今はもうあまり感じなくなってきてるんだけど」

ヴィンセント「例えるなら……そう、海の中を漂ってるみたいにも思えるあの感覚。いったい何だったんだろってさ」

ヴィンセント「色々と疑問が多すぎだぜ」

パオフゥ「海の中……か」

パオフゥ「……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「オレとアンタ、次の狙いはどっちなんだろうな。まさかまとめてだったりして」

パオフゥ「それもなくはないか。……可能性は低そうだが」

ヴィンセント「……え」

パオフゥ「なんならこれで賭けてみるか?」

ヴィンセント「コイン?」

パオフゥ「そう。表だったら俺、裏だったらお前ってな具合に……」

パオフゥ「な!」


キィィィン……!


ヴィンセント「ちょっ、何処に投げて……」


パシッ


ヴィンセント「えっ、……ッ!?」










JOKER「……」

パオフゥ「「……」

パオフゥ「表、か」

巌戸台駅


ライドウ「藤堂さんから気になる事を聞いている」

ゴウト『確か奴は一人で外を見回っていたんだったな。それと関係があるのか?』

ライドウ「ああ」

ライドウ「彼の話によると……」

ライドウ「どうやらこの場所は、ある一定の所まで行くと何時の間にか元の場所まで帰ってきてしまうという現象が起こるらしい」

ライドウ「つまり、この巌戸台という地から行けるのは人工埋め立て地方面のみで、別の隣街までは行けないようになっているという事だ」

ライドウ「それを一度自分の目で確かめてみたい」

ゴウト『完全に閉ざされた街と化している訳か……』

ゴウト『あるいは、模して創ったのはそこだけの世界という事なのだろうな』

ライドウ「この線路を伝って隣の駅まで行けるか試してみよう」

ゴウト『しかし藤堂の言う事が事実だとして、それを確認してどうなるというのだ?』

ライドウ「場所と場所を輪にし繋ぐ部分……そこに綻びでも見つけられれば……」

ゴウト『そうか! そこから出口の一つでも作れれば……という事だな!』

ライドウ「上手くいけば、そこを突く事でこの世界自体をどうにか出来るかもしれない」

ライドウ「JOKERとジョーカーが敵対関係にある事はこれまでの言動で解る」

ライドウ「そして現在JOKERの方が圧倒的優勢である。すなわちそれは、我々だけでは無くジョーカーも追い込まれている事を意味している」

ライドウ「ジョーカーがこの世界に閉じ込めた……世界を造った張本人ならば」

ライドウ「弱っているであろう今が好機。それに賭けるしか無い」

ゴウト『見ろ、ライドウ!』

ライドウ「!」

ゴウト『あの場所……空間にヒビが入っているのが解るか?』

ライドウ「ああ。此処が輪をつくる接点か」

ゴウト『その様だな。行け、ライドウ!』

ライドウ「……魔を祓え」

ライドウ「赤口葛葉!」

ゴウト『いいぞ、もう少しだ! 裂け目が出来ている!』

ライドウ「くっ……」

ライドウ「!」

ゴウト『なっ……なんだこの光は……!?』

ライドウ「っ……」

ゴウト『……』

ゴウト『どうやらあの街からは抜け出せたようだな』

ゴウト『しかし此処は一体……? 先程まで居た場所と比べると随分田舎の様だが』

ライドウ「人の気配は……しないな。悪魔もだ」

ゴウト『そもそも此処に来るに至る迄、悪魔と全く遭遇しなかったしな』

ゴウト『どうなっているというのだ』

ゴウト『……まだ気を抜くなよ、ライドウ』

ライドウ「承知している。進もう」

屋上


パオフゥ「やっと現れたな。待ちくたびれたぜ」

ヴィンセント「お、おい……!」

パオフゥ「ヴィンセント」

ヴィンセント「!」

パオフゥ「俺がどうにかして奴に隙を作る。その間にここから……寮から出るんだ。解ったな」

ヴィンセント「でも……!」

パオフゥ「いいから出来るだけこの場所から離れるんだ。運が良ければライドウもまだ近くにいるかもしれない」

パオフゥ「行け」

ヴィンセント「んな事言ったって……」

パオフゥ「……」

ヴィンセント「っ……」

ヴィンセント(……仕方、ねえのか)

ヴィンセント(……)

ヴィンセント(ここ、何階だっけ?)

ヴィンセント(1、2……5階か)

ヴィンセント(……)

ヴィンセント(この程度の……)

ヴィンセント(この程度の、高さなら!)

ヴィンセント「その必要は無いぜ!」

ヴィンセント「まだ道は残されてるからよ……っと!」

パオフゥ「なっ!? 馬鹿野郎! ここを何階だと……思って……」

パオフゥ「……」

ヴィンセント「よっ……し! 着地成功!」

ヴィンセント「じゃあなっ!」

パオフゥ「嘘だろ……上手い事壁を伝って下まで降りやがった。アイツ、パルクールの名人か何かか?」

パオフゥ「身のこなし方だけなら普通の人間越えてやがんな……」

JOKER「……フッ。流石、『伝説の男』の名を持っていただけの事はあるって訳だ。大したものだ」

パオフゥ「おっと。あまりの出来事にお前の事を忘れかけてたな」

JOKER「……」

JOKER「逃げても意味なんかない」

パオフゥ「そうだろうな。でも、これでお前と二人きりで話す時間は出来た」

JOKER「話? オレはそんな事する気は」

パオフゥ「お前さんよお」

パオフゥ「本当にやる気、あんのかよ」

JOKER「……なんだって?」

パオフゥ「お前に俺たちを消す気は本当にあるのかって聞いてんだ」

JOKER「何を言うかと思えば。だからここまでやって来て……」

パオフゥ「ならば何故ひと思いにやらない」

パオフゥ「最初のうちは仕方なかったろうさ。なにせ20近い数の人がいたんだからな。大人数相手じゃ分が悪かったろうよ」

パオフゥ「けど後になってもちまちました数と相手をしてる」

パオフゥ「わざわざ標的を絞って別空間に引きずり込んだり手間のかかる事までしてまでな」

JOKER「……」

パオフゥ「話を聞く限りじゃ、お前の力は時間が経つに連れどんどん強くなっているように感じる」

パオフゥ「それならもう俺ら二人くらい一瞬のうちに始末出来ただろ。片方は戦闘に関しては素人だしな」

パオフゥ「どうしてだ?」

JOKER「それは……」

JOKER「……」

JOKER「そんなのこっちの勝手だろ。それともアンタは自殺志願者なのか?」

パオフゥ「ハア……言ってるそばからこれだ」

JOKER「……?」

パオフゥ「お前、さっき話をする気はないって言っておきながらこうして悠長にお喋りしてんじゃねえか」

JOKER「!」

パオフゥ「お前は確実に力を付けていっている。それなのに……」

パオフゥ「優勢になればなるほど俺たちに対して手心でも加えているのかと」

パオフゥ「……いや、違うな。俺たちに手を下す事に躊躇でもしているのかと感じる素振りが僅かに見られるようになった気がすんだよ」

パオフゥ「表情は相変わらず紙袋の下でわからねえが、今の声色からも微かに迷いを感じた」

JOKER「……」

JOKER「何を馬鹿な事を」

パオフゥ「俺も実際の詳しい様子を見た事は殆どなかったけどな。でも、話を聞いて何故だかふとそう思ったんだよ」

パオフゥ「そしてそれは、今こうしてお前と向かい合った事でほぼ確信に変わった」

パオフゥ「今のお前からは殺気ってモンがまるっきり感じられない」

JOKER「……そんな事は」

パオフゥ「武器も手にしねえで言う台詞かよ」

JOKER「……」

パオフゥ「……」

パオフゥ「お前の中にある悪意のようなものは確実に俺たちにも向いていた」

パオフゥ「けどそれはアイツというフィルターを通してのものだった。……違うか?」

JOKER「……」

パオフゥ「お前の本当の目的も、お前がアイツに何をしたいのかも今となってはもう知ろうなんて思ってねえよ」

パオフゥ「ただな。黙って大人しく斬られるだけってのは癪だったんだよ。それだけさ」

JOKER「アンタ……」

パオフゥ「もうなんとなくわかってんだよ。ここから抜け出す唯一の方法は」

パオフゥ「ただその後の事を考えるとな……なかなか素直にそれを受け入れていいのかって思えねえのも事実だな」

パオフゥ「ま、何がどうなってもアイツがいるからな。後は任せるさ」

JOKER「随分と信用しているんだな。……アイツの事」

パオフゥ「信用? それは違うな」

パオフゥ「信頼しているのさ」

JOKER「……同じじゃないか」

パオフゥ「俺はアイツを利用しているんじゃない、頼ってるんだよ。これでもな」

JOKER「……なんで……そんな……」

パオフゥ「それよりいいのか? 早くしないとヴィンセントがライドウと合流しちまうかもしれないぜ?」

パオフゥ「俺の覚悟はもう済んでいる。後はお前次第だぜ」

JOKER「……ハハッ。なんでオレの方が覚悟を問われてんだかな」

JOKER「迷う事なんて……何も無い」

JOKER「そうだ。何も無いんだよ。オレには何もいらないんだ」

パオフゥ「……」

JOKER「……」

JOKER「……じゃあ、な」

とりあえずここまで

巌戸台駅周辺


ヴィンセント「ハァ……ハァ……」

ヴィンセント(勢いに任せて逃げて出したはいいけど……)

ヴィンセント(ここ何処なんだよ……!)

ヴィンセント(この街ってこんなに入り組んでたっけ?)

ヴィンセント(……って、そっか。ここ、オレたちの知ってるあの街とは似てるけど違うんだよな)

ヴィンセント(クソッ……)

ヴィンセント「っ、うわあ!」

ヴィンセント「……っ」

ヴィンセント「……いってえ……派手に転んじまったな……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント(起きないと……)

ヴィンセント(せめて、ライドウと合流出来れば……)

ヴィンセント「!」

JOKER「……」

ヴィンセント(パオフゥ……)

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「……はあ」

JOKER「!」

ヴィンセント「なんだかんだで生き残ってきたけど、オレも今度こそこれで終わりかあ」

JOKER「……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「ッ……ううっ……」

JOKER「……泣いている? 転んだ所が痛いのか? それとも怖いのか?」

JOKER「大丈夫だ。痛みは感じないし、すぐに終わるから」

ヴィンセント「……そんなんじゃ……ねえっ……」

JOKER「?」

ヴィンセント「……っく……オ……オレは、な……」

ヴィンセント「悔しいんだっ……!」

ヴィンセント「このままここで何も出来ずにやられるだけなのが悔しいんだよ……っ」

ヴィンセント「だって……だってよ、オレ……」

ヴィンセント「アイツと……約束……してたのに……っ」

ヴィンセント「次はオレが力になってやるから……って……」

ヴィンセント「……さっきまで逃げながらも必死になって考えてた」

ヴィンセント「……なのに、結局……何も……」

JOKER「……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「どうしたんだよ」

ヴィンセント「すぐに終わるんだろ? だったら早くしてくれ」

ヴィンセント「……またアイツに全部押しつけちまう事になるけど」

ヴィンセント「でも、オレは信じてるから」

ヴィンセント「ははっ……やっぱダメな大人だなあ、オレ」

JOKER「……アンタもか」

JOKER「アンタも……そんな事……」

ヴィンセント「……?」

JOKER「……」

JOKER「アンタは、色々な意味でイレギュラーな存在だった。ライドウとは別の意味でな」

JOKER「アンタはなんでこんな最後までオレの標的にならなかったのか不思議だったんだろうけど」

JOKER「オレ自身も不思議でならなかったんだ」

JOKER「……でも仕方が無かった」

JOKER「今はアンタが一番近かったから」

ヴィンセント「イレギュラー……? 近いって、なんの話だよ」

JOKER「……」

JOKER「なんでアンタだったんだろうな」

JOKER「もっと早くこうしてればまた違う結果になったんだろうけど」

JOKER「アンタみたいなタダの人間相手に……なんで、こんな……」

JOKER「……っ」

ヴィンセント「お前……震えてんのか?」

JOKER「……武者震いだよ」

ヴィンセント「じゃあなんでそんな苦しそうなんだよ」

JOKER「くっ……」


ドサッ――


ヴィンセント「お、おい!」

JOKER「……なんで、オレの心配なんかしてるんだよ、アンタは」

ヴィンセント「えっ、あ……?」

ヴィンセント「なんで……って……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「なんでだろうな。なんかもう、お前の事怖いとか、そういうのは微塵も感じてねえんだ」

JOKER「……」

ヴィンセント「お前、なんでこんな事……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「なあ」

ヴィンセント「もうやめようぜ、こんな事」

JOKER「!」

ヴィンセント「なんでこんな事し始めたのか、オレにはわかんねーよ。でもさ」

ヴィンセント「お前本当はさ」

ヴィンセント「本当はこんな事、心から望んでる訳ないんじゃないのか?」

JOKER「……そんな訳……っ」

ヴィンセント「だったらなんでオレから逃げようとしてるんだよ!」

ヴィンセント「ここまでやって来ておいて、まるで怯えるみてえに……」

ヴィンセント「!」

JOKER「……ろ……」

ヴィンセント「そうか。お前がこんな事してたのは」

JOKER「……やめ……ろ……っ」

JOKER「もうすぐ……なのに……」

ヴィンセント「みんなが憎いとか、そういう事じゃなくて」

JOKER「これ以上……近付くな……っ」

ヴィンセント「オレたちの事が、――」

JOKER「……オレの心に」

JOKER「近付くなっ……!」


ザクッ……


ヴィンセント「あっ……」

JOKER「はぁ……はぁ……っ」

JOKER「……消えてくれよ……頼むから……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント(……鳴上……)






JOKER「……」

JOKER「あっはは……ハハ……」

JOKER「ハ……ッ」

JOKER「……」

JOKER「これで……」


???


ゴウト『見れば見る程にあの街とは雰囲気のまったく違う場所だな』

ライドウ「……眩しい」

ゴウト『久し振りに陽が照っているのを見たからな。我も少しくらくらするぞ……』

ゴウト『しかし不思議な街……いや、町だ』

ゴウト『寂れた商店街に神社、河川敷……そんな田舎の中にあるにしては不似合いな、英語の看板を掲げた大きなコンクリートの建物が一つ』

ゴウト『人も動物も悪魔の気配もしないが、思念のようなものがそこらを漂っている。触れる事は出来ない様だが』

ライドウ「だが嫌な感じはしない場所だ」

ゴウト『ああ。なんとも言えぬあたたかさを感じる。出来る事ならこのまま日向ぼっこでもしたい……』

ゴウト『いやいや、そんな事を言ってる場合では無かったな。すまぬ』

ライドウ「この近辺は民家が並んでいるようだが……」

ライドウ「!」

ゴウト『ん……!? この民家だけ少し雰囲気が違うな』

ライドウ「ああ。それに」

ライドウ「中から何かの気配がする」

ライドウ「一つ……では無いようだ」


ガラッ


ゴウト『!』

ゴウト『扉がひとりでに……我々を中に誘っているのか?』

ライドウ「……」

ライドウ「行こう」


とある民家 一階


ゴウト『中は……普通の民家のようだが』

ゴウト『む……』

ライドウ「ゴウト?」

ゴウト『何かの香りがするぞ。これは……こっちだ』

ライドウ「ゴウト」

ゴウト『……フム。よく嗅ぐ匂いだと思えば、これは珈琲か』

ライドウ「そしてカップが三つ……」

ゴウト『この場にいる気配の数か?』

ライドウ「……解らない」

ライドウ「もっと数がいる様な気もするし、それ以下の様な気も……」

ゴウト『?』

ライドウ「……」

ライドウ「一階には先程感じたそれらしき気配はないし、何も見当たらない」

ゴウト『となると、二階か? 此方に階段があるぞ』

とある民家 二階


ライドウ「!」

ライドウ「この扉の向こうに何かがいる」

ゴウト『……準備は良いか?』

ライドウ「ああ」

ライドウ「開けるぞ」


ギイィィィ……


とある民家 二階 誰かの部屋


ライドウ「……」

ライドウ(……誰だ? あそこに座っているのは)

ライドウ(部屋の中が眩しくて良く見えない……)

?「……」

?「まさか君がこんな場所に辿り着いてしまうとは」

?「予想外だった」

ゴウト『!』

ライドウ「その声は……」

ライドウ「ジョーカー!」

ジョーカー「やあ、ライドウ。それにゴウトも」

ジョーカー「ようこそ。ボクの部屋へ」

ゴウト『お前の部屋だと……?』

ジョーカー「そう。ここはボクの部屋」

ジョーカー「誰のものでもない。ボクだけの部屋だ」

ライドウ「……!?」

ライドウ「ジョーカー、お前……その体は……」

ジョーカー「……ああ、これか」

ジョーカー「アイツが好き勝手やってくれた影響でね」

ジョーカー「消えかかっているみたいだ」

ジョーカー「もう、ここにいられるのも時間の問題かもしれない」

ライドウ「……」

ジョーカー「最後にこうして会えたのが君でよかった」

ジョーカー「ボクたちの勝手な事情に関係ない君たちを巻き込んで申し訳なかった、と」

ジョーカー「そう一言謝っておきたかったから」

ザワザワザワ……


ゴウト『な、何だ急に……!? この黒い影達は一体何処から涌いて……!』

ライドウ「……!」

ライドウ(先程まで視認は出来なかったが、複数感じていた気配の正体はこれか……)

ライドウ(しかしこれは……)

ジョーカー「君たちはこれを見るのは初めてになるのか」

ジョーカー「これは、シャドウだ」

ゴウト『シャドウ……?』

ジョーカー「とは言っても、まだ完全な形を成していないとても小さな……気付かれもしないシャドウたちだ」

ジョーカー「君たちに危害を加えたりするような事はまだしないから安心していい」

ライドウ「まだ、か」

ジョーカー「……そう。今は無害でも、場合によってはこれから大きく育って驚異になる可能性はあるって事だ」

ゴウト『ならば……ライドウ! そんなものこの場で叩き切ってしまえ!』

ジョーカー「無理だ」

ライドウ「!?」

ジョーカー「これが普通のシャドウだったら君にも相手が出来るかもしれないけど……」

ジョーカー「ちょっと特殊だから――」

ジョーカー「ぐッ……!?」

ゴウト『なっ……』

ライドウ(ジョーカーの体が……気配が一層薄く……!?)

ジョーカー「……」

ジョーカー「どうやら……アイツが目的を達成してしまったようだ」

ゴウト『それは、まさかっ……彼らが全員、彼奴の手に!?』

ライドウ「くっ……鳴上までも、か……」

ジョーカー「……大丈夫。今までアイツに消された彼らは、ボクの世界からいなくなっただけだ」

ジョーカー「実際に死んだりしている訳じゃない」

ライドウ「やはりそういう事か……だが」

ライドウ「そうなった後の彼らは何処へ?」

ライドウ「元の世界へ帰れたのか?」

ジョーカー「それ、は……わからない」

ライドウ「……!」

ジョーカー「まだ全てが終わった訳じゃないんだ。後はもう、彼次第……」

ライドウ「彼とは……?」

ジョーカー「鳴上悠に決まっているだろう」

ゴウト『鳴上はまだ無事なのか!?』

ジョーカー「そう言っていいのかは……危ういところだね」

ゴウト『だがJOKERは目的を果たしたのだろう? ならば……』

ジョーカー「……」

ジョーカー「これからが、彼にとっての正念場って事だよ」

ジョーカー「けど……」

ゴロゴロゴロゴロ……

ザアアアアアアア……


ゴウト『雷……?』

ゴウト『あんなに晴れていたと云うのに、雨が……』

ジョーカー「……行かなきゃ」

ライドウ「何処へだ」

ジョーカー「全てのけじめをつけに」

ジョーカー「安心していいよ。こんな馬鹿げた事は……もう終わらせる」

ライドウ「……」

ライドウ「……お前は」

ライドウ「お前はどうして、彼らをあんな世界に閉じ込めた」

ライドウ「結局何がしたかったというんだ?」

ジョーカー「……」

ジョーカー「気に入ってもらえると思ったんだけどなあ」

ゴウト『……何だって?』

ジョーカー「彼らだけの時間に捕らわれる事のない永遠の世界……」

ジョーカー「ボクは素敵だって、そう思ったんだけどなあ」

ジョーカー「……思ってた筈、なんだけどなあ」

ジョーカー「……」

ジョーカー「でも、アイツがしようとしている事も間違っている」

ジョーカー「だからボクは、彼らの所に行くよ」

ゴウト『最終決戦か』

ライドウ「ならば自分も共に行こう」

ジョーカー「それはダメだ」

ライドウ・ゴウト「!?」

ジョーカー「これはボクたちの問題だ。君たちが立ち入る隙は初めからなかったんだよ」

ジョーカー「……でも」

ジョーカー「君みたいな人に会えて、よかったよ」

ライドウ「ジョーカー……!」

ジョーカー「こんな事に付き合わせて悪かったと、今は素直にそう思っている。……さあ」

ジョーカー「君たちは一足先に帰るんだ」

ライドウ・ゴウト「!」

ジョーカー「……」

ジョーカー「ごめん」

ジョーカー「……ありがとう」

学生寮 ラウンジ


アモン(……本当によく寝てやがんな、コイツは)

アモン(見た目以上に相当疲れてたってコトか)

アモン(それにしても静かだ……)

アモン(……)

アモン(……いや)

アモン(なんだか静かすぎやしないか……!?)

アモン(屋上に行った奴らはどうし……)

アモン「――ッ!?」

アモン「なっ……なんだコレは……!?」

アモン「体が勝手に……消えて……」

アモン「ッ……鳴上」

アモン「おい、鳴上! 起きろっ鳴上!」

アモン「鳴――」


――ドクンッ


アモン「!」

アモン「そこにいるのは誰だッ!?」

ジョーカー「……」

アモン「……!?」

アモン「お、お前……!」

アモン「お前……は……」










アモン「……誰……なんだ……!?」

ジョーカー「……」

アモン「くっ……そ……」

アモン「……こんな……ところ……で……」

>……


『オレハオマエダ……』

『オマエノモノハ、オレノモノダ……』

『うぐっ……!』

『やめてぇー!!』

『オマエノ中ニ燻ル怒リ……』

『誰ニ向ケタモノカ……言ッテミロ……』

『コノ女ガ壊レルゾ……』

『てめぇ……』

『……』

『てめぇぇぇぇぇぇ!!』

『……』

『俺だ!! お前らでも誰でもねぇ……!!』

『俺が許せねぇのは……』

『この俺だ!!』

『済まねぇ……』

『あの頃の俺は……思い上がったガキだった……』

『自分にできねぇことなんかねぇ……』

『突っ走った挙句、お前を巻き込んで殺しちまった……』

『なのに……俺だけのうのうと生き延びて……』

『ペルソナのせいじゃねえ……法が無力なんじゃねぇ……』

『てめぇの事しか考えて無かった……』

『俺が無力だったんだ……』

『……』

『ざまぁねぇな……』

『全部……バレちまいやがった……』

『これでわかったろうが……』

『最初っから……お前さん達をダシにするつもりだったのさ……』

『どっかでわかっちゃいたんだな……』

『一人じゃ何もできねぇってよ……』

>……


――この電話を転送します。こちらは留守番……


『……』

『……ハァ』

『もう、5年……か……』



ザアアアアア……



――最近さ、やたら親が電話してくんの。どうしてんだ?って

『……』

――もう歳だし。心配みたいでさ。仕事忙しいのは分かってくれてんだけど

『……』

――別に、今のままで楽なんだけどな

『……』

――かなり遅れてんの、今月。できたかも

『……』

――ねえ。最近、変なメールが来る。よくわかんないの。意味不明でさ、気味が悪い

『……』

――あのさ。私に、隠してること、ないよね?

『……』

――ねえ、私たち、大丈夫なんだよね?

『……』

――デキたから仕方なく、とかじゃ……ないよね?

『……』

――信じてて、いいんだよね?

『……』

――怖かった。妊娠したかもしれないってわかってから、ずっと

『……』

――困るだろうってわかってたから

『……』

――本当に、お別れだね

『……』

――さよなら



『……そうか、このシンドさ』

『この街で独りんなった、あん時以来だ』



ザアアアアア……


>……


学生寮 ラウンジ


鳴上「……」

鳴上「……ぅ……ん?」

鳴上「……」

鳴上「ああ、そうか……俺、リリムに不意打ちで強制的に眠らされたんだっけ」

鳴上「ふぁ……」

鳴上(まだ頭……すっきりしないな)


>ソファに横にしていた体を上半身だけ起こし、グッと上に伸びて軽く体を動かす。

>軽く頭を振ってぼんやりしているのをどうにかしようとするが……

>やはり駄目だ。

>体も怠い……


鳴上「……」

鳴上「え」

鳴上「あ……れ……」

鳴上「みんな……!?」


>周りが静か過ぎる事に気付くまで時間がかかった自分を呪った。


鳴上「パオフゥさん! ヴィンセントさん!」

ザアアアアア……

鳴上「ライドウ! ゴウト!」

ザアアアアア……


>返事が無い。

>室内を見渡しても誰もいない

>代わりに聞こえてくる水音がうるさい……


鳴上(さっきから何なんだよ、この音は)

鳴上(……)

鳴上(外から聞こえる)

鳴上(まさか……)


>ソファから離れ、寮の入り口まで駈け寄る。

>勢いに任せて扉を開いた。


ザアアアアア……


鳴上「雨……?」


>空で不気味に輝いていた満月は厚い雲に覆われ姿を消し、外の闇は一層深みを増した気がした。

鳴上「なんで急に……」

鳴上「それに、こんな雨の中みんな外へ出たとでもいうのか……?」

鳴上「……」

鳴上「っ、そうだ……アモン! アモンはどうした!?」

鳴上「アモンなら何か知って……」

鳴上「アモン!」


>扉を閉め再び室内に向かって呼びかける。

>……やはり返事はないし、何の姿も見つけられない。


鳴上「携帯……俺の携帯は!?」


>ポケットを探しても携帯が見当たらない。

>が、よく探してみると目当てのものはソファ近くの床に転がっているのが見えた。


鳴上「よかった、あった……!」

鳴上「ええと、悪魔召喚プログラムを起動して……」

鳴上「……」

鳴上「え」

鳴上「悪魔召喚プログラムが……ない……!?」


>携帯にダウンロードされている筈の悪魔召喚プログラムがどのボタンを押しても出てこない……

>それどころか……


鳴上「着信履歴がない」

鳴上「発信履歴もない」

鳴上「受信したメールと送信したメールがない」

鳴上「電話帳に誰も登録されていない」

鳴上「データフォルダは空」

鳴上「完全に、圏外」

鳴上「……」

鳴上「……なんで……」


>手の中にある携帯は、見た目は間違いなく自分のものであるにも関わらずそうであると裏付ける要素を何もかもなくし、電話としての機能すらも失っている……

>完全にまっさらになっているそれが手の中から再び床に落ち、呆然としていると

>誰かの足がその携帯を踏み潰す。


JOKER「ゲームはオレの勝ちだぜ」

鳴上「……JOKER」

JOKER「お前が呑気に寝ている間にオールドメイドは終わった」

鳴上「っ……」

鳴上「みんな……消えてしまったのか」

鳴上「お前のせいで……!」

JOKER「ああそうだ」

JOKER「ライドウの事は知らないけどな」

JOKER「まあでも、ここから消えた事に代わりはないみたいだ」

鳴上「後は……俺だけ、って事か」

JOKER「そうだ」

JOKER「もうこの世界にはお前しかいない」

鳴上(結局誰も守れなかった……でも……)

鳴上「俺だけは……お前に消されたりなんかしない」

JOKER「……」

鳴上「お前にとっての最後の標的はまだここにいる」

鳴上「だからまだ終わりじゃない。お前の勝ちでもない!」

JOKER「何言ってんだお前」

JOKER「もう手遅れなんだよ」

JOKER「ライドウもすでにいない今となっては……」

JOKER「もう19の標的を狩り終えている、オレの勝ちだ」

鳴上「……は?」

鳴上「お前こそ、何を言ってるんだ!?」

鳴上「お前の言う19の標的っていうのは」

鳴上「俺も入れた数じゃ……」

鳴上「!」

鳴上(……そういえば)

鳴上(最初に自分の中で数として入れなかった人物で)

鳴上(コイツに斬られた奴が)

鳴上(いる)

鳴上(イヤホンの……!)

鳴上(でも……それじゃあ……)

JOKER「な? ちゃんと19……だろ?」

鳴上「……」

JOKER「……」

JOKER「おいおい、もしかして……まだ理解してないのか?」

JOKER「このオールドメイドのババは――」





JOKER「お前なんだよ、鳴上悠」

鳴上「!?」

JOKER「だから、残ったババはババらしく……」

JOKER「山の中に混ざる事なく、孤独に残っていればいい」

鳴上「な……」

JOKER「おめでとう」

JOKER「お前はこれから先ずっと、この世界で誰にも何にも干渉される事なく」

JOKER「永久に」

JOKER「ひとりきりだ」

JOKER「それが」

JOKER「……」

JOKER「――願いだ」

とりあえずここまで

次回でようやく8月32日編終了予定

>JOKERはそれから何の言葉も発する事なく、また何をする事もなく忽然と姿を消した……


鳴上「……どういう事だよ、おい」

鳴上「逃げるな! 出てこい! ……JOKER!」

鳴上「っ、クソッ……」


>焦り、苛立ち、不安……

>複雑に混じった様々な感情を振り払おうとするが如く、寮を飛び出した。

>大雨の中、傘も持たずに……

>……

>街はまさに闇そのものと化していた。

>光源は一切なく、前も後ろも右も左も何があるのか判別するのが困難極まりなく

>おまけに酷い土砂降りのせいで足下が悪く何度も転ぶはめになった。

>それでもこの世界にはもう自分独りしかいないというあの言葉を認めたくなくて、誰かを何かを探して駆けずり回る。

>何処かでそんな事をしてももう無駄なのだと理解はしていても……

>せめて、悪魔でもいいから出てきてくれればまだ救われたのかもしれない。

>たとえ人ではなくても、何かを相手にし何かに相手をされる……

>それだけで今の自分の気分が少しでも紛れるかもと思ったからだ。

>……ただ八つ当たりしたいだけだったのかもしれないが。

>けれどそんな思いさえも打ち砕かれる。

>何処を回っても悪魔の姿など見る影もない。

>そして奇妙な事に、街中に点在していた筈の象徴化の棺すら一つ残らず消え去っていたのだ……

>そうやって闇雲に走り回ってどれくらいの時間が経ったのかはわからない。

>だが、気付くと自分の足は元の学生寮の前まで戻ってきていたのだった。

>……


学生寮 ラウンジ


>真っ暗なラウンジに電気を点けようと手探りをしスイッチに触れた。

>パチンと手応えを感じる。

>……そう、手応えは確かにあった。

>けれど明るくなる気配は一切無い。

>それでも何度か試して、そこで漸くそもそも律儀に電気を消してから寮を飛び出した訳では無かった事を思い出した。


鳴上(……とうとう電気までイカれた、か)

鳴上(そういえば、本来の影時間とかいうのの状態はこうなんだって話だったか。 あの妙な棺は消えてる訳だけど)

鳴上(……)

鳴上(時間、は……)


>もう何の機能も持ち合わせていない携帯電話を無意識に取り出す。

>ポケットの中に入れてはいたが、大雨に打たれていたせいで濡れてしまっている。

>時刻の表示は0:00:00

>自分の携帯がおかしな事になっていると気付いた時もこの表示だった。

>しばらく画面を眺めてもその表示から一秒たりとも進む様子は無い。

>つまり、こんな状況になってからどれ程の時間が経過しているのか知る術は初めから無かったという事になる……


鳴上「……」

鳴上「……っくし!」

鳴上(寒い……)

鳴上(……着替え……ないと……)

鳴上(面倒だな……)


>相反する意識が頭に同時に浮かぶ。

>それからしばらくして、濡れた衣服が肌にまとわりつくのが気持ち悪くて結局自分の部屋で着替える事にした。

>……

>頭と体を拭いて、着替え一つするにしても大分時間を浪費していたと思う。

>けど、それを咎める人間がいる訳でもない。

>それにもう、時間という概念自体が存在していないにも等しい。

>……だからこそ、なのだろう。

>体の怠さが極致に達している事もあった。

>もう、体力も気力もゼロに近い状態だ。

>そして気付く。

>自分の中にはもう何もかも残っていない事に。

>この感覚は……あの時と同じ。


鳴上(八十稲羽を去ってから……この場所にやってきて数日はこうだった)

鳴上(……ペルソナの力が無くなっている。完全に)


>わざわざ行使を試みなくても、解る。

>この空間に迷い込んでからずっと不安定だったその能力は……

>ついに自分の内から完全に消失してしまったのだ。

>……


ザアアアアア……


>雨音が聞こえる。

>ずっと、聞こえている。

>雨音だけしか聞こえないから、嫌でもここに自分独りしかいない事を思い知らされる。

>……

>……おかげで余計な事を思い出した。

鳴上(……そういえば)

鳴上(この寮に来てからほんの僅かではあったけど)

鳴上(こんな風にひとりきりだった時があった、な)


>入寮に関して不手際があったと言われ、生活感のまるでなかったこの寮までやってきた。

>大人数が入れるような場所ではないけれど、一人だけで生活するには広すぎる場所だと思ったのを覚えている。

>それでもあの時は、屋根があって雨風さえ凌げればそのくらいどうという事はないと、そう思っていた。

>実際あの時は平気だったのだ。

>それなのに、今は……

>……


鳴上(まあ、あの後すぐにアイギスもやってきた訳だしな)

鳴上(……でも)

鳴上(あの事件が起こらなければ、あれ以上人が集まる事も無かったのかな)

鳴上(事件が続かなければ、あの人たちに会う事も無かったのかな)

鳴上(……)

鳴上(あの事件、か)

鳴上(あの夜も、こんな風に雨が降っていたんだよな……)


>部屋を出て、再び一階へ向かおうと階段を降りる。

>八十稲羽の事件を解決したけれど、雨の夜はどうしても気になってしまって。

>もう何も起こる事はないのだと思ってはいても、つい確認してしまったのだった。

>ラウンジにある、テレビの様子を。

>……そうしたら、起きてしまったのだ。

>事件が。

>あの時と同様に、暗がりの中、その前に佇む。

>今はもう美鶴によって買い換えられた、最新型のテレビ。

>試しにリモコンのスイッチを押してみるが、点く事は無い。

>そして電源が落ちたままのそれを見つめ続けても……


鳴上(……何も、起きる事は……)

--

鳴上(……)

――ジ

鳴上(……え)

――ジ――ジジ――ッ――

鳴上(ああっ……!?)


>電源の点かないテレビからノイズ音がする。

>そして何の操作も行っていない筈なのに、次第に画面からぼんやりとした光が発するようになる。

>映っているのはただの砂嵐だが

>……だが、これは

>この現象は間違いなく

鳴上「マヨナカテレビ……!?」

鳴上「!」



>少しして、画面の中に人影が現れた。

>顔などはっきりと確認出来ないが……

>だが、その人物はこちらに何か必死に訴えているように感じる。


鳴上「な……」


>思わず画面に向かって手を伸ばした。

>すると


――ブツン――

――バチン――


鳴上「!?」


>それはまるでテレビの電源が落ちた時のように

>意識が一瞬、ブラックアウトした。

>そして、まるでテレビのチャンネルを変えた時のように

>眼前にはさっきまで見ていたのとはまるで違う景色が広がっていた。

>……実際には景色と呼べるようなものは何も無かったが、それでも学生寮のラウンジではない事だけは確かだった。


鳴上(なんだよっ……ここは……何処だ……!?)

鳴上(広いようで、狭いような……)

鳴上(暑いようで、寒いような……)

鳴上(明るいようで、暗いような……)

鳴上(っ……)

鳴上(くそ……バランスが……!)


>さっきから、足が地に着く感覚がまるでなくて焦る。

>まるで深い水の底で溺れているような、そんな気分だ。

>一度そう思ってしまうと、息苦しささえ感じてくるような気がして更に焦ってしまう。


ジョーカー「大丈夫。慌てなくていい」

鳴上「!?」

鳴上「っ……」

鳴上(ダメだ……声も出せない……っ)

鳴上(どうしてコイツまでこんな場所に……)

ジョーカー「言いたい事も色々あるんだろうけど、まずはそれをどうにかしないと」

ジョーカー「しっかりと自分がここにいる事をイメージするんだ。そうしないと、このまま飲み込まれて、溶けて、消えるぞ」

鳴上(……!)

鳴上(……自分が……ここにいる?)

鳴上(……)

鳴上(俺は、ここに、いる)

>言われた通りにイメージして、ようやく体が安定してくるのを感じた。


ジョーカー「その調子」

ジョーカー「君の名前は?」

鳴上「……ぁ……鳴上……悠……」


>声が出せるようになってきた。

>同時に、苦しさもなくなる。


ジョーカー「上出来」

鳴上「……」

鳴上「ここは一体? 俺はどうしたんだ? どう、なったんだ?」

鳴上「それにさっきのマヨナカテレビは……映ってたのって、まさか」

ジョーカー「時間があまり無い。余計なお喋りをする前に急ごう」

鳴上「えっ……あ!?」


>腕を掴まれ引っ張られる。

>足を動かさなくても不思議とそのまま前へ進んでいる。

>まるで泳いでいるようだ。

>そこで、ふと気付く。


鳴上「お前っ、その体は……!?」


>腕を掴むような感覚はほんの僅かなものだった。

>そうしているジョーカーの手は、足は、体は……半透明に見える。

>まるで幽霊のようだ。


ジョーカー「……大丈夫」

鳴上「……」


>何が大丈夫だというのか。


ジョーカー「このままアイツの所へ連れて行く」

鳴上「アイツ、って」

ジョーカー「もう一人の……JOKER」

鳴上「!」

ジョーカー「アイツの方はもうボクたちの前に現れるつもりは無いみたいだから……」

ジョーカー「こちらから出向こうじゃないか」

鳴上「わかるのか!? JOKERの居場所が!」

ジョーカー「ああ」

ジョーカー「だって、ほら。すぐそこに」


>ジョーカーが指差す。

>そこにはその言葉通り……JOKERの姿がいつの間にかあった。

>JOKERもまた、この空間に漂うように存在していた。

>……途端に、今まで意図的に無視しようとしていた意識が自分の中に込み上がってくる。

>この空間。

>自分と、ジョーカー、そして今はJOKERしかいない。

>いない、何もない筈なのに……

>ずっと、目には見えない沢山の何かが、さっきからこちらをじっと見ているような気がしているのだ。

>それは、嘲りだったり、怒りだったり、哀れみだったり、慈しみだったり……

>様々な感情が籠もったいくつもの視線が突き刺さってくる。

>それがどうにも気持ち悪くて……


鳴上(……なんだよ、これ)

鳴上(やめろ。やめてくれ。こっちを見るな。見ないでくれ……!)

ジョーカー「……」

JOKER「……」


>二人もそれに気付いているようだったが何も喋らない。

>けれど空気はざわついている。


ジョーカー「もう、やめにしよう」


>自分の腕を掴んだままジョーカーが言葉を発する。

>対するJOKERはこうして敵対するものが並んでいるというのに構える事もない。

>ふよふよ、ぷかぷかと、ただこの空間に身を預けているだけ。


JOKER「やめるもなにも、もう終わってる。何度も同じ事を言わせるな」

JOKER「もう放っておいてくれ」

JOKER「ようやくしがらみから解放されたってのに、しつこいんだよ」

JOKER「お前との決着だってこれでついただろ」

JOKER「……不服だとでも?」

ジョーカー「ああ」

JOKER「往生際の悪い。もう大した力も残ってないくせに」


>JOKERは悪態をつく。

>だがそこに威勢の良さはない。

>JOKERがこちらに構えないのは、初め余裕を見せつけているのかと思っていたが……

>違う。

>これは余裕というよりは……ただの脱力のように見える。


JOKER「これでお前たちに干渉するものたちはなくなった」

JOKER「だからオレにも干渉しないでくれ」

ジョーカー「断る」

ジョーカー「ボクが……ボクたちがまだここにいる限りはお前の勝ちで終わらせたりはしない」

JOKER「ほざいてろ。言うだけならタダだ」

ジョーカー「確かにボクにはもう大した力は残っていない」

ジョーカー「それでも完全に存在が消えていないのはどうしてだと思う?」

ジョーカー「……」

ジョーカー「……君は」

ジョーカー「本当にこれで満足しているのか?」

ジョーカー「君がしたかった事は本当にこんな事だったのか?」

JOKER「何を今更」

JOKER「……」

JOKER「確かに、時間が経つにつれてくじけそうになっていたのは事実かもしれない」

JOKER「けどそれは、相手にする数が多かったからってだけで」

JOKER「……うん。ひとりであれだけに対抗するのは……辛かったな。ハハッ」

JOKER「だからあんなに辛かったのに、全てが終わった瞬間気分がスッとしたよ」

JOKER「これって満足してるからだろ」

JOKER「……そうだろ?」

鳴上「……」


>そう言って笑うJOKERの声には言葉通りの満足感よりも……虚無感の方が勝っているような、そんな気がふとした。


鳴上(……いや。そんな事、ある訳ない)

鳴上(あれだけ好き放題しておいて、そんな事……)

JOKER「……」

ジョーカー「……」

ジョーカー「……ボクは、ね。こんな結果になってほんの少しだけど、ようやく近付けた気がするんだよ」

JOKER「何に?」

ジョーカー「君の気持ちに、だよ」

JOKER「!」

ジョーカー「それと同様に。皮肉にも君がしてきた事の積み重ねが、結果として君をボクの気持ちにほんの少し近付けた」

ジョーカー「だからボクはまだここにいられる。君がボクの存在を許しているんだ」

JOKER「っ……」

ジョーカー「わかってる。お互いにこんな事口に出すのは野暮なんだろうって事は」

JOKER「……」

JOKER「そうだな」

JOKER「仮に。仮に、お前の言う通りだとしても……だ」

JOKER「例え、互いを知れたとしても、だからと言って」

ジョーカー「……そう」

JOKER・ジョーカー「互いに互いを許容する事だけは出来ない」

ジョーカー「だからこそ……問わねばならない」

鳴上「……」

鳴上「!」


>……見えないいくつもの視線の気持ち悪さのせいで、いつの間にか二人を他人事だと蚊帳の外から眺めるようにしていたようだ。

>だから、ジョーカーが自分に話を振ろうとしている事に気付くまで多少の時間を要する事となった。

鳴上「……何を」


>二人は何も言わない。

>表情も見えない。

>けれど『そんな事解っているくせに』と訴え、答えを欲しているのはわかる。

>……でも

>……

>今まで自分を放っておいて、いきなりどう答えろと言うのか。


鳴上「……お前たちの事なんか知らない」

鳴上「俺は……ただ、ここから、あの世界から出たいだけだ」

鳴上「ここは気持ち悪い。あの世界も嫌だ」

鳴上「……帰りたい、だけだ」

ジョーカー「うん。……うん」

JOKER「……」


>JOKERと話している間もずっと離す事の無かったジョーカーの手から熱を感じる。

>その熱は自分の腕を伝い、掌に集まって一本の刀を作り出した。


JOKER「どうやって? まさかそんな弱々しい刀一本でオレを倒せばそれが出来るとでも?」


>JOKERはやはりこちらと戦う素振りを見せない。

>……


鳴上「そうだな」

JOKER「馬鹿な。そんな事」

鳴上「ああ。無理だろうな」

JOKER「え……」

ジョーカー「……!」


>刀を片手でゆっくりと振り上げる。

>その動きでジョーカーの手が自分からようやく離れた。

>そしてもう片方の手を添え……刀の向きを持ちかえる。

>どうやらこの刀は自分の意思で自在に長さを変えられるようだ。

>手に現れた時のままでは長すぎたそれは、今ではすっかり『そう』する為にはちょうどいい刃渡りになっていた。

>今、手にしている刀からはJOKERが手にしていた刀とまったく同じ力の性質を感じる。

>ならば……


鳴上「お前の言う願いなんか知った事じゃない」

鳴上「俺はそんなものには従わない……だから」

鳴上「自分の手でここから退場してやる」

JOKER「なっ……正気か!? やめっ……」


>JOKERが動くよりも早く、両手に持った刃を――

>己の胸に突き立てた。

JOKER「っ……馬鹿野郎が! お前っ……」

ジョーカー「まさか……そんな……」


>二人とも自分がこんな行為に走るとは思っていなかったらしい。

>確かにこんな事、普通に考えればただの自殺行為だ。

>けどこの刃は普通のものとは違う。

>ただの刃物なら血が流れるだろうが……

>これはあくまで斬った存在をこの世界から消すだけのものだ。

>だからこの世界から死ぬ事はあっても、実際に命を落とす訳ではない。

>ああ、やっとこれで……


JOKER「そんな行為でオレの事を否定したつもりか!?」

JOKER「ふざけるなッ! オレの苦労を水の泡にして、そんなのが答えだなんてっ……」

JOKER「……お前は絶対あとになって後悔する。オレがしてきた事がやっぱり正しかったんだって思い知ってな!」

JOKER「ッ、ちくしょう……ちくしょう……!」

ジョーカー「それでも、この世界から出る方法としてはあり……か」

ジョーカー「けど……それだけではまだ力が足りないようだ」


>ジョーカーの手が、刀を握っている自分の手へと触れる。

>そこから徐々に光が発し始める……


ジョーカー「……まだ時では無い、という事なのか」

鳴上「……?」

ジョーカー「どう転ぼうとそれが君の答えなら、と一瞬でも思ったけど……」

ジョーカー「……」

ジョーカー「気が変わった」

鳴上「え……」

ジョーカー「ライドウには謝ったけれど、君にはそんな言葉かけてやらない」

鳴上「……」

ジョーカー「だから君も、アイツやボクの事を許さなくていい」

ジョーカー「……だから……ずっとその気持ちを……ボクたちの事を……忘れずに……そして」

ジョーカー「いつか、必ず……」


>光が大きくなっていく。

>そして

>自分を、周りを、世界を、

>――飲み込んだ。

>……

>…………

>………………

鳴上「……ん」


>カーテンの隙間から太陽の光が細く差し込んでいる。


鳴上(天井が……見える。……天井?)


>朝だ。


鳴上(……え)


>清々しい一日の始まり……と言いたいところだが


鳴上(俺は何を……してたんだっけ)


>9月になったとはいえ、気温は夏と変わらぬままでで蒸し暑い。


鳴上(っ……ここは?)


>長袖の季節はまだ遠いようだ。


鳴上(この場所、は……)


>あまりのんびりしていないで、学校に行く支度をしよう。





鳴上(ベッドの上……)

鳴上(……寮の中……の)

鳴上(自分の、部屋?)

鳴上「!」

鳴上(眩しいし、暑い……)

鳴上(朝……? 朝、だよな。これって)

鳴上「これって……!?」

鳴上「っ……携帯は!? あった!」

鳴上(じ、時刻は!?)


>ちょうど6:30になったところ、めざましのアラームが鳴り響く時刻。

>その通りにけたたましく音が響き始める。

>携帯は正常に動いているようだ。

>何処もおかしいところは……ない。


鳴上(じゃあ……ひ……日付、は……)

鳴上「……!」

>ぜろ

>きゅう

>ぜろ

>いち

>0、9、 0、1

>……9月1日


鳴上「抜け出せた……のか? あの時間から」

鳴上「あの世界から……!」

鳴上「そ、そうだ!」

鳴上「みんな……みんなは!?」

鳴上「!?」


>バタンッと扉が大きく開くような音を耳にした。。

>この部屋の中からではない。

>廊下側の方から聞こえたのだ。

>それにつられるように、自分の部屋の扉を勢いよく開けた。

>その先には……


「鳴上……か……?」

鳴上「あ……!」

「……すまない。今、目がよく見えてなくて……誰だか……」

「い、いや、そうじゃなくて……これは……」

「俺はあれから、どうなって……」

鳴上「か……っ、神郷さん!」


>一番初めに目の前から消えてしまった、神郷諒の姿がそこにあった。

>何十年ぶりくらいの再会なのだろうか、などと思ってしまうほどの懐かしさと、彼に再び会えた事への喜びで目頭が熱くなる……


諒「その声はやはり鳴上か」

諒「どういう事なのか、説明してくれないか?」


>何か違和感があると思ったら、諒は普段かけている眼鏡をしていなかった。

>手には持っているのだがレンズが割れてしまっていて使い物にならないようだ。

>そのせいで視界がはっきりとしていない事もあってか、混乱している様子が見られる。


鳴上「それは……」

バタンッ!

鳴上・諒「!」


>自分でも何をどう説明したらいいのか迷っている間に、また扉が開く音が聞こえた。

>すぐ近くからだ。

>そして現れたのは……普段その部屋を使っている、主の姿だ。

鳴上「天田!」

天田「え、あ……?」

天田「鳴上さん! それに、神郷さんも……!?」

天田「……」

天田「っ……うぅ」

諒「……あ、天田? どうした。何処か痛いのか?」

天田「だ……だって……」


>諒と同様に混乱していた天田の瞳は、自分たちの姿を映した事をきっかけに涙で滲む。

>目が見えていなくても諒はそれがわかったようで、さっきまでとはまた違った意味で動揺した姿を見せている。

>それから間もなく、連鎖するように次々と辺りから物音が聞こえ始めた。

>階段の方が騒がしい……


ダダダダダダ……


ラビリス「きゃあっ!?」

アイギス「ラビリス姉さんが階段を転げ落ちていくであります!」

メティス「ね、姉さん!」

美鶴「ラビリス!? 大丈夫か! だから足下に気をつけろと……」

コロマル「ワンワン!」

鳴上「みんな!」

メティス「あ……!」

ラビリス「ゆ、悠! いったた……」

アイギス「天田さんに神郷さんもいます……! 三人とも、大丈夫ですか!?」

天田「な、なんとか……」

諒「そっちは……なんだかラビリスが大変な事になってるみたいだが、平気か?」

ラビリス「……なんとか」

コロマル「ワン!」

美鶴「……」

美鶴「全員、揃っている……ようだな」

鳴上「みんな、いる……」

鳴上「っ……」

鳴上「よか……った」

メティス「な、鳴上さん!?」


>普段寮にいる者たちの顔ぶれを次々と確認し、やっと元の場所に戻ってこれたのだと実感する。

>それと同時に膝の力が抜けて、情けない事に屈み込んでしまった。

>あとはそれ以外の人たちだが……

>と思ったところで、携帯に着信が入る。

鳴上「!」

鳴上「も、もしもし!」


>そこからはもう、ひっきりなしだった。

>あの場にいて消えていってしまった人たちから次々と電話がかかってくる。

>そうやってひとりずつ声を聴いて、互いの安否を確認して……

>その度に大切なものを取り戻せたような気持ちが大きくなっていって

>気付けば天田と同じように涙が滲み、諒と同じように目の前が霞んで見えなくなっていった。

>……


コロマル「ワンッ! ワンワンッ!」

メティス「鳴上さん。パスカルさんはどうしているのかと、コロマルさんが聞いています」

鳴上「パスカル! そ、そうだ。アイツらは……!?」


>すっかり安堵しきっていたが、そう言われて慌ててまた携帯を取り出した。

>改めて、自分の携帯がどうなっているのか確認してみる。

>……

>驚く事に、まっさらになってしまったと思った携帯の中身は全て復活しているようだ。

>だから当然、悪魔召喚プログラムもきちんと残っている。

>念のため仲魔全員を呼んでみる事にした。

>ボタンを押し――携帯の画面が光った。


ケルベロス「ユウ……? あれから一体、何が起こっていたのだ?」

リリム「そ、そうだよ! 急にマグネタイトの供給を感じなくなったから、てっきり……」

リリム「……」

リリム「ア、アンタがなんかやらかしたんじゃないの!? アモン!」

アモン「……」

アモン「どうやら無事だったみたいだな。お前も、オレたちも」

鳴上「ああ」

アモン「帰ってきた、って訳か」

鳴上「……ああ」

アモン「……」


>……

>短いようで長すぎた高校生活最後の夏休みは、こうして終わった。

>結局のところ、存在しない日を繰り返し過ごす事になった原因も何もかもが解らないまま……

>それを……その意味を、もっと後になって思い知る事になる、と

>そんな事すら、この時の愚かな自分は気付こうとしないのだった。

終わります

次回からまた学園生活に戻りつつ、合間で短編をいくつか挟んで物語の終わりに向かっていきたいと思ってます

では、また次回

すみませぬ…とりあえず保守の書き込みだけ

どうも>>1です
現在病気療養中の為投下が難しい状況になっています
申し訳ないのですがとりあえずもう一回スレ保守だけさせてください…

ああああぁぁぁぁ! >>1の家が!!! 〈      、′・. ’   ;   ’、 ’、′‘ .・”
                          〈       ’、′・  ’、.・”;  ”  ’、
YYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY´     ’、′  ’、  (;;ノ;; (′‘ ・. ’、′”;

                              、′・  ( (´;^`⌒)∴⌒`.・   ” ;
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