鳴上「月光館学園?」 No.2(1000)

・ペルソナ4の主人公(鳴上悠)が月光館学園で最後の高校生活一年間を過ごす話。

・過去のペルソナシリーズのキャラとコミュを築きます。一部捏造設定有り。


前スレ

鳴上「月光館学園?」
鳴上「月光館学園?」 - SSまとめ速報
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wiki

http://ss.vip2ch.com/jmp/1329486637


前スレまでの取得コミュとランク


 0 愚者  特別課外活動部   Rank 5

 Ⅰ 魔術師 伊織順平      Rank 2

 Ⅱ 女教皇

 Ⅲ 女帝  桐条美鶴      Rank 1

 Ⅳ 皇帝  藤堂尚也      Rank 3

 Ⅴ 法王  メティス      Rank 2

 Ⅵ 恋愛

 Ⅶ 戦車  アイギス      Rank 2

 Ⅷ 正義  天田乾       Rank 1

 Ⅸ 隠者  パオフゥ      Rank 4

 Ⅹ 運命  橿原淳       Rank 3

ⅩⅠ 剛毅  コロマル      Rank 2

ⅩⅡ 刑死者 チドリ       Rank 4

ⅩⅢ 死神  謎のイヤホンの少年 Rank 5

ⅩⅣ 節制  トリッシュ     Rank 3

ⅩⅤ 悪魔  ヴィンセント    Rank 3

ⅩⅥ 塔   ラビリス      Rank 1

ⅩⅦ 星   星あかり      Rank 1

ⅩⅧ 月

ⅩⅨ 太陽  周防達哉      Rank 4




>>1乙。
1スレ目の更新も面白かったよ!

>>1
キャサリン知らないんでエンディングだけ見てきたがかなり自由だな。さすがアトラス。
力に神も人も関係ないな。すごい。

そしてそんな人たちの物語のこの話も、着地点が全く見えなくて怖面白い!

おつ

これからもよろしく

小ネタクソワロタwwwwww
これからも楽しみにしてます

1スレ目埋めてきたんで、次回からまたここで本編再開になります。

時間が出来たらまた投下にきますね。

あと>>1にある前スレのurlがたぶん携帯用のなので、正しくは

鳴上「月光館学園?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1329486637/)

になるんじゃないかと思います。

ではではまた次回。

小ネタ読んだよ、まさか監視カメラネタをやってくれるとはw

乙です。

埋めネタワラタwww
確かに番長なら録画しようとするよなwしかし美鶴(22?)の制服姿か…背徳的だなぁ…

まさか美鶴さんの着替えを見たってことか

さすが番長・・・何気ないスケベさをしっかりもってるな

監視ネタワロタwwwwwwwwwwww
キタローと言い番長と言い急にスイッチはいるよな

p3の監視カメラは真田のが笑えた

荒垣さんのが一番好きだったわ

1乙、グッジョブ!
うみうしだけに…

これ見てたらp3p土地でやめちゃったけどまたやってみたくなったな…
一週目は難しいこと考えないで好き勝手やる感じでいいのか誰か教えてくれ!

途中でだった、、すまん

難易度マニアクスじゃないんだったら好き勝手やれば。
周回プレイ出来るし
ガチでエリザベスを倒しに行こうとするなら、コミュも戦略の一巻と化すがな

>……


第四階層 第一エリア


鳴上「……今度は何処だ?」


>目の前には、例のごとく石の壁が並んでいる。

>……今回に至っては、ほぼ石の壁しか並んでいないと言ってもいいだろう。

>要するに、自分で階段を作っていかなくては一段も上へ登る事が出来ないという訳だ。

>広さがあるところはまだいいが、狭い場所は考えて石を引き出さないと、そこから一歩も動けなくなってしまう……

>だが、考えられる時間は無限な訳ではない。

>下の足場はそうしている間にも、今までのように徐々に崩れ落ちていっている。

>今まで以上の冷静な判断力と行動が求められている……


鳴上「こういう時こそ言うべきだな」

鳴上「……落ち着け」


>自分に言い聞かせるように、そう呟く。

>持てる知力と体力、そして根性のすべてを使って石の壁に挑んだ。


鳴上(これを、こうして……)

鳴上(……ああ、そうか!)


>石の壁だけという状況は一見絶望的に見えるが、逆に考えるとそれしかない訳だから一度登れる足場作りの動かし方のパターンを理解してしまえば、あとはそれを繰り返せばいいだけの事だった。

>この調子なら、上まで辿り着けるだろう。

>……



踊り場


>最初のエリアを登り終わったところで、一匹の羊がこちらに近付いて話しかけてきた。


羊人間「なあ、アンタ凄いな!」

鳴上「……え?」

羊人間「他の羊たちの間でアンタ噂になってんだよ。斬新かつ的確な技で登ってる羊がいるって!」

羊人間「俺も見てたけど、ホント凄いわ! ここでその技かー、みたいなさ」

鳴上「それは、どうも」

羊人間「こいつは見習わねーとな! お互い、挫けず頑張ってこうぜ!」

鳴上「ああ、そうだな」


羊人間「そうそう、アンタに用があるって羊がいるみたいだぜ」

鳴上「ん? 俺に?」

羊人間「ほら、あそこで群がって話してる羊たちがいるだろ?」

羊人間「みんなで登る技を研究しあってるんだけど、その中でもやたら技を知ってる羊がいてさ」

羊人間「そいつだよ。輪の真ん中にいる羊」


>羊人間の指した方向には確かに羊の群がある。

>その中心で、周りに色々と技を教えている羊がいるようだ。

>その羊……イヤホンをかけた羊と、目があった。

>イヤホンの羊は手招きをしてこちらの事を呼んでいる。

>いったい、なんの用だろうか……?

>とりあえず行ってみる事にした。


イヤホンの羊「……や。待ってたよ」

帽子の羊「お? 昨日のキノコ頭のじゃん」

鳴上「あ、帽子の……無事だったんだな」

帽子の羊「当ったり前だろ!」


>様子からすると、帽子の羊もイヤホンの羊から色々と話を聞いていたようだ。


鳴上「……で、そっちのイヤホンは、俺に用があるって?」

イヤホンの羊「ああ」

イヤホンの羊「君にも……いや、君にこそ色々と俺が知っている事を教えておきたくて」

鳴上「登る技の事か? それはありがたい話だな」

鳴上「でも、俺にこそっていうのはどういう意味だ?」


イヤホンの羊「……羊の習性ってのは面白くてね、先に行くヤツにくっついていくんだって」

イヤホンの羊「だから、先頭の羊が落ちれば、みんな次々と落ちていってしまう」

イヤホンの羊「逆に言えば、登るのを先導する羊がいれば、犠牲も少なくなる訳だ」

イヤホンの羊「俺は、君こそがそのみんなを導くに相応しい羊だと……そう考えている」

イヤホンの羊「だから、ここまでやってきて君に話をしにきたんだ」

鳴上「? そういえば、アンタ何処かで……」

鳴上(……ダメだ。思い出せない)

鳴上「でも、わざわざ俺にそんな事させなくても、アンタの方が色々と知っているみたいだし……」

イヤホンの羊「いや。俺は、招かざれる客……もとい羊だから、この先一緒に行く事は出来ないんだ」


鳴上「え、それって……?」

イヤホンの羊「……。とにかく、持っている知識をみんなに叩き込む事でしか、役に立てない」

イヤホンの羊「あとは、君たち次第……って事」

鳴上(……そうだよな。同じ境遇に立っている仲間がいて、どうすれば生き残れるか話し合いが出来たとしても、それを自分でやらなきゃどうにもならない)

鳴上「わかった。詳しい話を聞かせてくれ」


>イヤホンの羊は静かに頷いた後、知っている事のすべてを丁寧にわかりやすく教えてくれた。

>……


イヤホンの羊「……大体こんな感じ。理解できたかな?」

鳴上「ああ。これだけ聞ければ、じゅうぶんだ。あとは、実際そういう動きを出来るかって問題だな」

イヤホンの羊「油断は禁物」

鳴上「わかってる。ありがとう。教えて貰った事を忘れないうちに次へ行ってくる」

イヤホンの羊「気をつけて」


>イヤホンの羊と別れた。


イヤホンの羊「……君が生きてあの部屋で起きる日が、明日もまた来る事を信じているよ」


>……


告解室


鳴上「高校生一枚頼む」

代行人「なんだか意気込んでるな? そうでなきゃ……だけど、まずは座ってからだ、いい加減覚えろ」

代行人「……さて。この階層は次のエリアが最終エリアだ。短くてよかったな」

鳴上「という事は、……またくるのか、デカいのが」

代行人「ああ」

鳴上「……なあ、あれはなんなんだ? どうしてあんなものが襲ってくる?」

代行人「さあな。聞くなら、自分の胸に手を当てて聞いてみろよ」


代行人「まだ理解出来ていないみたいだから言っておくけど、ここがおかしな場所だからと言っても根本はお前の見る夢だって事に変わりはないんだ」

代行人「つまり、何が出るのもお前次第なんだよ。……俺も含めて、な?」

鳴上「は……?」

代行人「……さ、質問の時間だ」

鳴上「……」


機械的な声「第四問です」

機械的な声「愛情さえあれば、どんな事をしても許されると思いますか?」


>『オールオッケー』と『場合による』のロープが垂れてきた。


鳴上「……」

鳴上「……こっちで」グイッ

代行人「なるほど」


鳴上(こんな心理テストみたいな事を繰り返してまで、こいつが知りたい事ってなんなんだろう……)

鳴上「お前、ひょっとして俺の事好きなのか?」

代行人「……」

鳴上「いや、流石に冗談だからツッコんでくれないと……」

代行人「……冗談、ね。俺にそんな事言えるくらいには、心にゆとりが出てきたって受け取っていいのか?」

代行人「喜ぶべきなのかな、これは」

鳴上「……気持ち悪いな、お前」

代行人「……」

代行人「いい加減、上へ行こうか」


>告解室が、今回の最終エリアへ向けて上昇を始めた。


鳴上(……そう。『気持ち悪い』んだよ、アイツ……)

鳴上(生理的に気にくわないと言った方がいいのかもしれない。でも、どうして……)

鳴上(……)


>……


第四階層 最終エリア



鳴上「……さて。今夜は何が出てくるのやら」

鳴上「胸に手を当てて聞いてみろ、か」

鳴上「……」


>目を閉じて、一応格好だけそうしてみた。

>しかし、思い浮かぶものも思い浮かばない。

>……何故なら、さっきからバサバサと何か羽ばたくような音がうるさくて、集中出来ないからだ。


?『……フフ、アハハハハッ!』

鳴上「……これ、は」


>恐る恐る、下の方へと視線を向けてみた……


?『見つけた! 見つけたわ! 私の王子様!』


鳴上「天城の、シャドウ……!」


>以前対峙した時よりも何倍も大きい、雪子のシャドウがこちらに迫ってきている……!


鳴上「こんな格好の王子がいてたまるかっ……!」

シャドウ雪子『ねえ、待って! 待ってよ! 待ってったら!』

シャドウ雪子『待てっていってんでショッ!? 待ちなさいよおぉぉぉぉぉォォォッ!!』

鳴上「熱ッ……!」


>雪子のシャドウは炎を吐いてこちらが登るのを邪魔してくる。

>このエリアの構造自体は先ほど登ってきた場所と大差がないのだが、雪子のシャドウの追ってくるスピードが早い事もあって足場を作る事にかなりの苦労を強いられていた……


鳴上(落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着けっ!)


>足場を作る作業の手順を間違えてはならない。

>だからといって手と足を動かすのを一瞬でも止めるのも命取りだ。

>……

>……そうこうしているうちに鐘の音がようやく聞こえてくる。

>長くて高い壁がやっと終わる……!


シャドウ雪子『王子様! 私をここから連れ出して!』

鳴上「……悪い。俺には、出来ない」

鳴上「すまない、天城……!」


>勢いよく引いて開けた扉から、光が放出される。


シャドウ雪子『キャアアアア! イヤアアアアアアアア!』

鳴上「……ごめん、な」


>雪子のシャドウは塵となって消えていった……



代行人「……おめでとう。これで審問法廷は終わりだ」

代行人「やっと半分まできたな。でも、本当の地獄はここからだ」

代行人「明日の夜、また会おう……」



>…
>……
>………


4th day


05/11(金) 晴れ 自室


【朝】


pipipipipi……


鳴上「!」

鳴上「……あつい」


>寝汗で体が気持ち悪い……

>今日は朝から気温が高いようだ。


pipipipipi……


鳴上「……」


>そして、さっきから無視を続けている携帯の着信は一向に鳴り止む気配が無い。


鳴上(まったく、誰だよこんな朝から……


>携帯の画面を見てみるが、登録されていない番号からのようだ。

>長い間無視をしても切れる様子がないので出る事にした。


鳴上「……もしもし?」

?『おっはよー、悠!』

鳴上「あの、……どちら様で?」


>相手は自分の事を知っているようだったが、こちらの記憶に心当たりはなかった。

>というよりも、そう思いたかったと言った方が正しいのかもしれない。

>何よりも信じがたかったのは……

>その声は、携帯を当てている右耳と何もない筈の左耳の方向から同時に聞こえているという事実だった。

>……見たくはなかったが、左方向へ首を動かしてみた。


?「もう、ひどいなあ。寝ぼけてるの?」

鳴上「ッ……!?」


>自分のベッドの左隣には、……以前、一夜を共にしてしまった(らしい)あの女が薄着で寝そべりながら携帯を手に持っていた。

>その姿を見て硬直していると、女はくすりと小さく笑って携帯を切り、同時に自分の右耳からも声が消えてツーツーという音が響くだけになった。


鳴上「なっ、なん……!?」

?「えへへ、斬新な起こし方だったでしょ?」

?「本当はもっと悠のかわいい寝顔見てたかったけど……」

鳴上「いや、そうじゃなくてっ……!」

鳴上「なんでまたここにいるんだ!?」


>昨日の夜は確かに一人で寮に帰ってきた筈だ。

>それは記憶にきちんと残っている。


鳴上(……あれ。でも、寝る前に誰かと会話してたような)

鳴上(えっと……誰と、だっけ……?)

鳴上(……)


>混乱していて、記憶が引っ張り出せない……

>そんな風にしている姿でさえ、女は見て楽しそうに笑っている。


?「もう、本当にかわいいんだから」

?「……一昨日の夜。約束してたでしょ? クラブでさ」

鳴上「一昨日の夜、約束……?」


>その時の事は、今思い出そうとしている事以上にはっきりとした記憶がない。


>女が何を言っているのかさっぱりだ……


?「今夜はダメだけど次の日の夜だったらバッチリ! って、悠が言ったんだよ?」

鳴上「バッチリ! って……何が?」

?「だーかーらー」

鳴上「!?」


>女は馬乗りになってずいっと顔を近付けてくる。


?「部屋に来てもいいって。だからここにいるんじゃない」

鳴上「……そんな、事」


>言った記憶は、ない。

>でも、本当にそうだという自信が何故かもてなかった。


?「ふふっ」


>女はいたずらっぽく笑ったかと思うと、首に腕を回して抱きついてきた。


?「……なーんて、ウソ! 私が会いたかったから、こっそり会いにきちゃったのー!」

鳴上「は……!?」

鳴上「おい、冗談もいい加減にっ……」

?「あんまり騒ぐと見つかっちゃうよ?」


>女はこちらの唇に人差し指を押し当ててきて、囁いた。


鳴上「……」

?「ふふ、ごめんね? でも、悠にどうしても会いたくて我慢出来なかったの」

?「……気付かれないうちに、もう行くから」


>女は離れると、簡単に身なりを整えて部屋から出ていこうとする。


鳴上「あっ、おい!」

?「ん? 何?」

鳴上「……こういう事、もうやめて欲しい。ここ寮なんだし、突然来られるのはちょっと」

鳴上「君の名前も、その……記憶にない訳で」

?「名前。んー……」


>女はしばしの間考え込んだあと、こちらを見てニコリと笑った。


?「キミコ」

鳴上「……え?」

キミコ「私の名前。これでいいよね?」

キミコ「それと私の番号、登録しといてね!」

キミコ「今度はちゃんと連絡するから」


>キミコと名乗った女は、それだけ告げて扉を開けて出て行ってしまった。


鳴上「ちょっ……」


>一歩遅れて、反射的に彼女を追いかけるように部屋を出た。

>しかし……


鳴上「あ、れ……?」


>キミコの姿はもうそこには無かった。

>次の瞬間、自分の部屋ではない部屋の扉がガチャリと開いた。


天田「鳴上さん?」


鳴上「あ、天田……!」

天田「どうかしましたか? なんだか騒がしかったような気が……」

鳴上「い、いや! なんでもない! なんでもないんだ!」

天田「そうなんですか?」


>天田は首を傾げて少し怪しんでいるようだったが、それ以上の言及はしなかった。


天田「……あ、そうだ」

鳴上(今度はなんだ!?)

天田「ずっと言いそびれてましたけど、この間貰った鳴上さんの手料理、すごく美味しかったです」

鳴上「……なんだ、その事か。いや、気に入ってくれたならなによりだ」


天田「はい。僕、本当に感動しちゃって」

鳴上「大袈裟だな」

天田「そんな事ないですよ! なんていうのかな……家庭的な、お母さんの味ってあんな感じなのかなって」

鳴上「え……」

天田「あっ、ごめんなさい! なんか変な事言っちゃいましたねっ!」


>天田は誤魔化すように笑っている。


天田「えっと、それでなんですけど。良かったらレシピなんかを教えてもらえたらなあって」

鳴上「ああ。といっても、入れてる調味料の分量とか結構適当だから……」

天田「そうなんですか?」

鳴上「そうなんだ。だから、そんなのでもいいのなら暇なときに書いて渡すな」

天田「じゅうぶんです。よろしくお願いしますね!」


>天田は期待の眼差しをこちらに向けている。



>『Ⅷ 正義 天田乾』のランクが2になった


天田「じゃあ、僕はもう学校に……」

美鶴「君たち、おはよう」


>美鶴が一階から昇ってやってきた。


天田「あ、おはようございます、美鶴さん」

鳴上「おはようございます」

天田「どうしたんですか? こんな朝早くに寮にくるなんて」

美鶴「ああ。ひとつ天田に確認したい事があってな」

天田「僕に、ですか?」

美鶴「そうだ。こちらも時間がないので、手短に言うぞ」

美鶴「……」

天田「?」


>言っている事とは裏腹に、美鶴はしばしの間沈黙した。

>そして、言うかどうするか迷ったような素振りを見せてから、結局は口を開いた。


美鶴「……天田の部屋の、目の前の部屋の事なんだが。近々、改装工事をする事になるかもしれないんだ、構わないか?」

天田「僕の部屋の前の部屋って……荒垣さんが使っていた場所、ですか?」

美鶴「……ああ」

天田「……」

天田「どうして、僕の許可がいるなんて?」

美鶴「ん、いや……それは」

天田「あ、工事の騒音くらい平気ですよ? 僕、結構我慢強い方ですし」

天田「工事が必要だっていうのなら、すればいいと思いますよ」

美鶴「……そうか。わかった」

美鶴「実はこの寮にまた一人、入寮候補者が出ているんだ」


鳴上「という事は、新しいペルソナ使いが見つかったんですか?」

美鶴「ああ、割と前からではあったんだが……その人物から、なかなか入部の了承をもらえずにいてな」

美鶴「現段階ではまだ特別課外活動部に入るかは未定だ。だが、彼の希望条件として静かに勉強できる場所が欲しいというのがあって……」

美鶴「もし、彼から了承が得られれば、入寮前に部屋の防音強化をしたいと思っているんだ」

美鶴「それにしても、あと一押しってところなんだが……まあ、これ以上無理強いは出来ないしな」

天田「そうなんですか……」


天田「その人も、月光館の生徒なんですか?」

美鶴「いや。私と同い年の大学生だ」

美鶴「もし、入寮する時がくれば、その時改めて紹介しよう」

美鶴「では、私はもう行く。君たちも遅刻するなよ」


>美鶴はこの場を去っていった。


天田「……」

天田「じゃあ、僕、行きますね」

鳴上「ん、ああ」


>天田も、下の階へ降りていってしまった。


天田「……そっか。あの部屋、他の誰かの部屋になっちゃうかもしれないんだ」

天田「……」


>……


自室


>部屋に戻って、学校へ行く支度をした。

>その間、ふと天田に言われた言葉を思い出していた。


鳴上「お母さんの味、か……」

鳴上「母さんの手料理なんて、もう随分と食べてない気がする」

鳴上「もう、そんなものを恋しがる年頃でもないけど……」

鳴上「……」

鳴上「元気にやってるかな。母さんも、父さんも」



鳴上「……行くか。学校」


>荷物を鞄に詰めて、部屋を出た。


今回は短めですが、これで終了です。

キミコって誰……って?それは、

おっと、誰か来たようだ。また次回

おつかれさんどす

あ・・・主人・・・キミコ・・・

乙です。新しい入寮者・・・一体何者なんだ・・・


キミコって誰なんだろーなー(棒


キミコとは一体ダレナンダー(棒

今更だが、夢に出てきた最初のボスはラブリーンだったな。

確かにアニメじゃ鳴上はラブリーンから逃げてたけども、普通の雑魚シャドウとかだっているだろうに
どういうことか楽しみにしてます

更新乙
次に来るデカいのは何だろか。

マハ乙カジャからの、チャージ一発、八艘ビート
なんと言うフラグの乱立、これは次回もお楽しみにせざるをえない
それはともかく今までの代理人の質問に番長はどっちを選んだんだろうか気になるな。
これはやはりプレイヤー次第という事なんだろうか

プレイヤー次第はないだろう。というか無しにして欲しい。

あくまでSSのキャラなんだから。
そこははっきり決まるけどあえてぼかしてるだけだと思いたい。

ペルソナという作品を考えればプレイヤー次第だろ

>>53
それを言ったらプレイヤー(この場合俺ら?)に選択肢がない時点でペルソナじゃねぇよ。

これは番長の物語ですから

>>54
この場合プレイヤー=アニメ版の主人公である鳴上 悠なんじゃない?
漫画版の瀬多 総司でも良かったわけだし
使いやすかった名前が鳴上 悠なだけだと思うけど

>どうでもいい

番長がどっちの選択肢を選んでいるのか、その辺の描写の曖昧さについては読んでいる人それぞれの解釈に任せます。今は。

では今回も短めですが続き投下します。

月光館学園 3-A 教室


>学校に着いてから携帯にメールが二件届いていた事に今更気が付いた。

>受信の時間は二件とも昨日の夜。送ってきた相手は……

>雪子だった。



from:天城雪子

こんばんは、鳴上くん。

こうやってメールするのも久しぶりだね。

本当は電話で声を聞きたかったんだけど、もう夜遅かったからやめておきました。

ところで、ニュースで見たけど鳴上くんが今暮らしている方面で変な事件が起きてるみたいだね。

もしかしてそれもまたシャドウの仕業なのかな?

花村くんから聞いたけど、マヨナカテレビも映ってたんでしょ?心配だな…

遠くにいるから何も出来ないとか迷惑とかそんな事考えないで、なにかあったら何時でも相談してね。

鳴上くん、花村くんとばっかり連絡とってるみたいだからちょっと



>一件目はここで終わっている。

>続けて二件目のメールを開いてみた。


from:天城雪子

ごめん!さっきのメール途中で送っちゃったみたい!

とにかく、私も鳴上くんからの連絡いつでも待ってるからねって言いたかったの。

それだけだから。おやすみなさい。



鳴上(『ちょっと』……なんだって言うんだろう)

鳴上(……早いうちに返事しておくか)


>短くもなく長くもならない範囲の文面で、雪子に返信メールを送った。


男子A「鳴上ーおはよーっす」

鳴上「おはよう」

男子A「……お前、なんか顔色悪くね?」

鳴上「……。そうか?」

男子A「目の下のクマできてんぞ?」

鳴上「……最近あまり寝れてなくて」

男子A「んー? なんだか意味深ですなあ」

鳴上「そんな事ないけど」


男子A「そういえば、最近ポロニアンモールんとこのクラブに鳴上が毎晩来てるって女子が噂してんの聞いたけど、もしかして……」

鳴上「えっ、いやそれは」

男子A「やっぱそうなんだな! 鳴上イケメンだし、女の子と遊び放題してるんだろー?」

鳴上「ち、違うって!」

男子A「その動揺の仕方は怪しんでくれって言ってるようなもんだぞー?」

男子A「いいよなー。それに、鳴上くらいイイ男なら、目にクマ作って少しくらいやつれてても、きっと『今日の鳴上くん、いつもより弱々しげでなんだか守ってあげたくなっちゃうわ! キュンキュン!』とか女子に思われんだぜー?」

鳴上「なんだそれ……」

男子A「それでなくとも両手に花状態なのにさ。きっと、クラスの男子で鳴上爆発しろ! って思ってるヤツ結構いるんじゃね?」

男子A「仮にいなくても、今俺が言うね! 鳴上爆発しろ!」

鳴上「どかーん」

男子A「うっわー、口で言いやがったー。腹立つなー。あはははっ」

鳴上「あはは」


鳴上「……ところで、両手に花ってなんの事だ?」

男子A「えっ」

男子A「いや、それを自覚なしってのは、流石に笑えない……」

鳴上「えっ」

男子A「これもまたイケメンのみに許される所業か……」

男子A「……ほら、あの二人だよ」


>クラスメイトは、ここから少し離れた場所で話しているメティスとラビリスを指さした。


男子A「鳴上、あの二人とよく一緒に登下校したりしてるじゃん」

鳴上「それは、一緒の寮にいるからだよ」

男子A「ひとつ屋根の下とかそれこそじゃねーかよ!」

男子A「もしかして、どっちか彼女だったりすんの!?」

鳴上「前にも誰かにそんな事聞かれた気がするけど……それはない」

男子A「……ふーん?」


男子A「じゃあ、どっちか俺に紹介する気ない?」

鳴上「紹介って。クラスメイトなんだから、自分から話しかければいいだけじゃ……」

鳴上「それに、あの二人は正直俺からはオススメ出来ないかな」

鳴上(……ロボットだってバレたら面倒だろうし)

男子A「えー!?」

男子A「もしかして、彼女じゃないけどどっちか狙ったりしてるとか?」

鳴上「……それもないな」

男子A「本当かねー?」

男子A「じゃあさ、鳴上的にはどっちがタイプ?」

鳴上「ん……? そう、だな」


>メティスとラビリス……

>どっちが自分の好みかと聞かれたら、



キーンコーンカーンコーン……



淳「HR始めるよー、席について」

男子A「うわ、先生はやっ!」

男子A「さっきの話、後でちゃんと聞かせろよな!」

鳴上「……」

鳴上(うーん……)


>そんな事考えたこともなかったが、聞かれてみると結構難しい質問のような気もする……色々な意味で。

>しかし、下らない話だったにせよクラスメイトとのその時間が、朝起きてからの陰鬱な気分を少し解消してくれたような気がしていた。


>……


【昼休み】


>連日寝不足を感じているせいか、やはり少し体調がよくないような気がする……


鳴上(保健室へ行って薬もらおうかな)

鳴上(それか少し寝かせてもらうか……)


>これ以上具合が悪くなる前に、どうにかしなければ……

>保健室には妙な噂話もあったような気もしたが、今はそんな事を気にしている余裕もない。

>……行くだけ行ってみる事にした。


>……


保健室


鳴上「失礼します」

?「こんにちは。……江戸川先生の方に用事かな?」

?「それだったら、ごめんね。今ちょっといないの。すぐ戻ってくる筈だから待っててもらっていい?」


>保健室には女性がひとりいる。

>確か、保健医は男だと聞いていたような気がするが……

>しかし、この女性にはどこかで見覚えがあった。

>口元にあるほくろとショートカットの髪型が今でも印象に残っている。


鳴上「あれ? 貴女は、たしか……」

?「ん? ……あ」

?「キミ、確か前に街の中で会った……よね?」

?「あの時の怪我、大丈夫だった?」

鳴上「はい。大した傷じゃなかったので。その節は、お世話になりました」

?「いえいえ、どういたしまして」

鳴上「まさか、学校の先生だったなんて……今まで気付きませんでした」

?「そんな頻繁に学校へ来ている訳じゃないからね。私のこと知らない生徒も多い筈だよ」

?「学校の教師っていうのともちょっと違うし」

鳴上「というと……?」

?「スクールカウンセラー。生徒さんたちの悩みや相談を聞くようなお仕事って思ってもらえればいいかな」

?「園村麻希です、よろしくね。えっと……」

鳴上「三年の鳴上悠です。よろしくお願いします」


麻希「鳴上くんね。それで、今日はどうしたのかな? なんだか顔色が悪いけど……」

鳴上(スクールカウンセラー、か……せっかくだから、少し話を聞いてもらおうかな)

鳴上「それが……」


>最近寝不足気味である事や、はっきりしないが悪い夢を見ている事、記憶が曖昧になる事がある等、今自分が悩んでいる事を大まかに話してみた。


麻希「……なるほどね」

鳴上「はい。それで、今日は体調がよくないんで少し保健室で休ませてもらおうかと」

麻希「そっか。江戸川先生には言っておくから、ベッド使っていいよ。私もしばらくここにいるから」

鳴上「ありがとうございます」

麻希「休んですっきりしたら、もう少し詳しくお話しようか。鳴上くんがよければ、だけど」

鳴上「……はい」


>今は言葉に甘えて、保健室のベッドを借りる事にした。


半端なところで時間がきてしまったのでまた後で続き投下しにきます

一旦乙
両手に華か・・・うらやましいぜ・・・

>……



鳴上「……ん」


>あれからどれくらい経ったのだろうか……

>ベッドから体を起こし、辺りを見回してみた。

>窓の外に見える空はすっかりオレンジ色のようだ。

>授業の方はもうとっくに終わっているだろう。

>今の今までずっと寝ていた訳だが、その間は夢を見る事もなかった。

>おかげで、体の調子も少しは楽になったような気がする。

>ベッドから出る事にした。


麻希「おはよう、鳴上くん。ぐっすりだったみたいだね」

麻希「その様子だと、悪い夢は見なかったのかな?」

鳴上「……はい。そうみたいです」

麻希「もうすぐ、部活動の時間も終わって最終下校時刻になるからちょうどよかったかもね」

鳴上(そんなに寝てたのか……)

麻希「あともう少し早ければ、あの女の子たちにも会えたんだけど……」


鳴上「女の子たち?」

麻希「クラスメイトのメティスさんとラビリスさんっていう」

麻希「二人ともすごく心配してたよ。でも、もう時間も時間だったから、私が帰らせたの」

麻希「鳴上くんはひとりで帰れそう?」

鳴上「大丈夫です。よく眠れてすっきりしました」

麻希「よかった」

麻希「今日はもう、私も帰らなきゃいけないんだけど……」

麻希「次に会った時にでも、また鳴上くんのお話聞くからね」

麻希「これ、一応渡しておくね」


>麻希の名刺をもらった。

>メールアドレスと携帯の番号も書かれてある。


麻希「何か相談があれば、ここに連絡してくれてもいいから」

鳴上「ありがとうございます」

麻希「じゃあ、もう出ようか」

鳴上「はい」


>スクールカウンセラーの園村麻希と知り合いになった。



>『Ⅱ 女教皇 園村麻希』のコミュを入手しました

>『Ⅱ 女教皇 園村麻希』のランクが1になった



>麻希と別れて学校を後にした。

>……


巌戸台駅周辺


「ゆーうー!」

鳴上「!?」


>突然、後ろから誰かに抱きつかれた。


キミコ「やっぱり悠だー。わーい」

鳴上「キミコ……!?」


>キミコは抱きついた状態のまま無邪気に笑っている。


キミコ「こんなとこで会うなんて運命だね!」

鳴上「いや、あの……」

鳴上(まさか、こんな場所で会うとは思わなかった……)

鳴上(気持ちよく寝れてすっきりしてたのに頭痛が……って、え?)

鳴上「お前、その格好はっ……」

キミコ「え、格好? なにかおかしい?」

鳴上「いや、だって、制服、」

キミコ「うん、制服だね」

キミコ「月光館学園の」

鳴上「……高等科の?」

キミコ「これでもし初等科や中等科だったら、悠どうするの?」

キミコ「……私にあんな事までしておいて」

鳴上(だから、あんな事ってなんだ! 恥じらう姿を見せないでくれ……!)


鳴上(どうして何も覚えてないんだ! 覚えがあればまだ儲けものだったのに……じゃなくて!)

鳴上「えっと……何年生?」

キミコ「んー……?」

キミコ「……」

キミコ「二年生、かな?」

鳴上(何故疑問形……)

鳴上「だったら、俺より年下じゃないか」

鳴上(同じ学年じゃないだけよかった、のか?)

鳴上(いや、そういう問題じゃない……)

キミコ「あ、そうなんだ」

キミコ「でも悠は悠だし悠でいいよね!」

鳴上「いや、よくない……」

キミコ「もしかして、先輩とか……あるいはお兄ちゃんとか呼んでもらってプレイしたい派?」

鳴上「お前はいったいなんの話をしているんだ?」

鳴上「ちなみに俺をお兄ちゃんと呼んでいいのは世界で一人だけだ、覚えておけ」

キミコ「悠こそなんの話してるかわかんないけど、わかった!」

鳴上「……いや、違う。俺が話したいのはそういう事じゃなくて!」

鳴上(ダメだ……! この子といるとペースが乱れる!)

キミコ「ねえ、悠。これからちょっと付き合って!」

鳴上「えっ?」

キミコ「すぐそこだから! こっち!」

鳴上「なっ……お、おい!」


>キミコに無理やり引っ張られて連れて行かれた……


>……


甘味処 小豆あらい


キミコ「ごちそうさまでした!」

鳴上「……いや。これで満足したなら、いいんだけど」


>何故かいつの間にかこんな場所で奢らされる羽目になっていた。


キミコ「悠は満足した?」

鳴上「えー、あー、うん」

キミコ「……」

鳴上「……何?」

キミコ「元気、出た?」

鳴上「え」

キミコ「甘いモノ食べたら元気出してくれるかなあと思ったんだけど、失敗だったかな?」

キミコ「っていうか、引っ張り回しちゃったから余計疲れちゃったかな?」

キミコ「私はただ、悠が心配だっただけなんだけど……」

鳴上(この子……俺の事、気遣ってたのか?)

鳴上(元気じゃないのは半分この子のせいだし、やり方ってもんがあるだろ……)

鳴上(……でも、元気がないってよく気付いたな)

鳴上(……)


キミコ「これ」

鳴上「?」


>小さな包みを渡された。


キミコ「持ち帰り用に包んでもらったの。バナナ大福、私のオススメ!」

キミコ「次に会う時まで、元気になってなきゃヤダからね」

鳴上「あっ……」


>じゃあね、と手を振ってキミコはその場から走り出していった。


キミコ「そしたら、またデートしよーねー!」


>キミコはその言葉を最後に、人の波の中に姿を消した……


鳴上「……」

鳴上「悪い子って訳ではない、のか?」

鳴上「でもなあ……」


>もらったバナナ大福が入った包みと睨めっこをしつつ、寮へ戻ろうと歩いた。


>……


美鶴「鳴上!」

鳴上「!」

美鶴「こんなところにいたのか……探したぞ」

鳴上「桐条さん?」

鳴上「探したって……何かあったんですか!?」

美鶴「ああ、そうだ。何かあったから迎えにきたんだ……まったく」

美鶴「学校で倒れたそうだな?」

鳴上「え、倒れたって、誰が?」

美鶴「君がだ!」


>美鶴はなにやら凄い剣幕で怒っている。


鳴上「いや、倒れたというか……保健室のお世話になっていただけですけど」

美鶴「似たようなものだろうが!」

美鶴「……アイギスから連絡があったんだ。鳴上が学校の保健室で寝ているから迎えにいって欲しいと」

鳴上(メティスやラビリスが言ったのか)

美鶴「それなのに、学校に行ってみればひとりで帰ってしまっているし……」

美鶴「近くに車を待たせてある。寮まで送るから、早くこい」

鳴上「は、はい」


>強制的に車に押し込められた。


>……



車の中


美鶴「目の下のクマが酷いな」

鳴上「……自分で確認してないんで、よくわからないです」


>美鶴は、はあっと深いため息を吐いた。


美鶴「最近世間を騒がせているあの連続衰弱死事件について、夜まで外で調べ回っていると聞いたが」

鳴上「はい」

鳴上「桐条さんもそうだって話ですよね?」

美鶴「まあな」

鳴上「何か気になる事とか、わかった事とか出てきましたか」

美鶴「……」

美鶴「今はその事はどうでもいい」

鳴上「え?」

美鶴「近頃、どうにも君の様子がおかしい気がしてならない……と報告を受けている」

鳴上「……」


美鶴「何か隠している事はないか? あるいは……」

美鶴「何かひとりで抱え込んでいる事がある、とかな」

鳴上「それ、は……」


>キミコの事は置いておくとしても、話していいのかどうか躊躇う事ばかりだ……

>麻希には話せた事も、仲間にとなると余計な気を使わせたくはないと思ってしまい、口には出せなくなる。


美鶴「……みんな心配しているぞ。もちろん、私もな」

鳴上「……」

美鶴「もしかしたら……」

美鶴「もしかしたら私は、君にリーダーという立場と責務を押し付け過ぎだったか?」

鳴上「……え?」


美鶴「私は以前、君ならみんなを引っ張っていってくれると……君がいるから戦えると言った事があるだろう」

美鶴「あれは事実だ。今でもそう思っている。しかし……」

美鶴「リーダーであるからといってなんでもかんでも一人で背負いこんでくれとは言っていない」

美鶴「だが、君はどうも無意識にそうしているように思ったんだ」

美鶴「そのきっかけが私の言葉だったら……撤回する」

美鶴「私は……私たちは、君と一緒に君と並んで戦いたいんだ」

美鶴「リーダーだから、誰かに頼ってはダメだなんて言わない」

美鶴「君はリーダーであると同時に私たちと等しい仲間であるという事をどうか忘れないで欲しい」

美鶴「ひとりでどうにかしようなんて事だけは、絶対にしないでくれ」


>美鶴は唇を噛んで俯いてしまった。


鳴上「そんな、事は……」

鳴上「……」

美鶴「……とにかく」

美鶴「今夜は外出は禁止だ」

美鶴「君は休むという事を覚えた方がいい」


>美鶴からの気遣いが伝わってくる……



>『Ⅲ 女帝 桐条美鶴』のランクが2になった



鳴上(心配させたくなかったのに、余計に心配増やしてしまった……って事か)

鳴上(でも……)

鳴上(もっとみんなに寄りかかってみても、いいんだろうか……)

鳴上(……)

美鶴「寮に着いたぞ」

美鶴「私はこのまま行くところがある。君は早くみんなに顔を見せてやれ」

鳴上「……はい」


>車を降り、美鶴と別れた。

>……


学生寮



鳴上「ただいま」

アイギス「!」

メティス「鳴上さん!」

ラビリス「よかったあ! 悠が帰ってきたあ!」

天田「おかえりなさい! 倒れたって聞いたからびっくりしましたよ……!」

コロマル「ワン!」


>ラウンジにみんなが揃いに揃っている。


鳴上「ごめん、心配させたみたいで……」

アイギス「具合の方は、今はどんな感じですか?」

鳴上「よく眠れたんで、今はいい感じです」

アイギス「美鶴さんから、今夜はもう出かけさせるなと言われています」

鳴上「俺も直接言われました」

アイギス「それから、明日の朝は病院に行かせるように……と」

鳴上「病院……」

鳴上「わかりました」


メティス「今日はもう、部屋に戻ってください」

ラビリス「そやね。こんなところで立ち話してる暇あったら休んだ方がええわ」

鳴上「……メティス、ラビリス」

鳴上「保健室まで来てくれてたんだってな、ありがとう」

メティス「いえ……」

ラビリス「はよ元気になってな?」


>おとなしく部屋に戻ることにした。


天田「……あの!」

鳴上「?」


>部屋の扉を開けようとしたところで追ってきた天田に呼び止められた。


天田「その……鳴上さん」

天田「最近、変な夢をみたらしいってラビリスさんから聞いたんですけど」


鳴上「……」

鳴上「ああ。それがどうした?」

天田「あの、それって……」

天田「どんな夢だか覚えてますか?」

鳴上「……」

天田「……」

天田「僕、もしかしたら」

天田「もしかしたら……」

鳴上「……天田?」


>天田の顔が青ざめている……


天田「っ……」

天田「やっぱりなんでもないです!」

天田「ごめんなさい、引きとめたりして。お大事にしてください」


>天田は一礼してから、自分の部屋に駆け込んでしまった。


鳴上「天田……?」

鳴上「……」


>……


今度こそこれで終了です。

ゴールデンウイーク?なにそれ美味しいの?状態で書き溜めが思うようにいってないです。

来週からもうちょっとまとめて投下出来るようになればいいなと思ってます。

また次回。



美鶴が可愛すぎて生きてるのが辛い・・・


無理せず、じっくり進めてくれたらいいよ

相変わらずのナナコンで安心した

男子Aさんにはもう名前とコミュ用意出来るレベル

キミコにコミュが発生しないのはやはり…

乙乙ー

>>88
魔術師コミュが既に埋まってるのが残念だな

>>88 >>90

彼の名前はきっと壇志英(だん しえい)とか言うに違いない。

実は永劫コミュの担い手だけど番長は永劫アルカナのペルソナは作成しないので永遠に永劫コミュは発生しないしランクも上がらないんだ(適当)

本日の投下いきます

自室


>休む前にPCを付けて今日のニュースを軽くチェックする事にした。


鳴上(朝はバタバタしてて確認出来なかったからな……)


>……

>ざっとニュースサイトに目を通したところ、今日も衰弱死した人間が出ているようだ……

>日に日にその人数が増えてはいるが、警察の捜査にも進展はないし、何故こんな死体になるのか理由もまだ明らかになっていない。


(――おとなしく休めって釘刺されたばかりだろ? 早くこっち側に来いよ)

鳴上「っ!?」


>誰かの声が聞こえたような気がして、振り返り部屋の中を見回してみた……が、当然部屋には自分しかいない……


鳴上(っ……)

鳴上(疲れてるんだ。気のせいだ……)


>もう、寝よう……ぐっすり眠れる自信は未だにないが。

>そう思ってPCの電源を落とそうとしたその直前に、メッセンジャーの音が鳴った。

>パオフゥからだ。


鳴上「あっちの方から話しかけてくるなんて珍しいな」


>……


番長:こんばんは、パオフゥさん。

パオフゥ:よお

パオフゥ:突然悪いな。ちょっと面白い話を耳にしたもんで、お前さんにも教えておこうかと思って

番長:面白い話ですか?

パオフゥ:この前、伝説の男の話をしただろ。それに関する事だ



鳴上「伝説の男の……新情報!?」



パオフゥ:お前もこの件を気にしてる風だったからな

番長:是非聞かせてください。お願いします。


>とは言ったものの、こちらからパオフゥに提供出来そうな目新しい話は、今のところ思い当たるものがない。

>パオフゥの事だから、タダで教えてくれるなんて事はないだろう。

>どうしたものか……

>……などという心配をよそに、パオフゥは持っている情報をひとりでに語り出した。


パオフゥ:ポロニアンモールに、ゲームセンターがあるのは知ってるか?

パオフゥ:そこにあるラプンツェルっていう古いゲームのランキングトップが伝説の男だって話があって

パオフゥ:三年もの間その記録が破られていなかったって結構有名な話があるようだ

番長:三年もトップですか。凄いですね。

パオフゥ:元々、プレイする人間の数自体そんなに多くなかったようだけどな

パオフゥ:でも驚く事に、最近になって何故かそのゲームが密かなブームになっている

パオフゥ:前に若いのの間でいくつかゲームが流行ってるって話をしただろ?

パオフゥ:例の携帯アプリの話しかしてなかったが、実はこのゲームもそのうちのひとつに含まれてる



鳴上「また、最近流行ってるゲーム、か……」


番長:そのゲームが流行るようなきっかけや理由なんかはあったんでしょうか?

パオフゥ:色々と理由はあるのかもしれないが

パオフゥ:実際、ラプンツェルを今よくプレイしてるって奴らに聞いた話だと、トップの記録を塗りかえてやりたいからよく遊んでるってのが多いな

パオフゥ:なんで今になってっていう話は置いとくとして

パオフゥ:つい最近本当に記録が塗りかわったんだ

番長:そうなんですか!

番長:三年守られた記録を破った人も凄いですね。

パオフゥ:でもその記録を破ったのは

パオフゥ:伝説の男本人、だそうだ



鳴上「!?」


パオフゥ:ランキングに入ると名前を入力する事になるんだが

パオフゥ:今、ラプンツェルの筐体に記録されているトップと2位の名前が同じになっている

パオフゥ:だからといって、それだけでは同一人物である確証にはならないだろうが

パオフゥ:今まで誰が挑戦してもそんな事無理だった。それどころか、3位のスコアですら2位に遠く及んでいないって点から、専らそういう噂が流れているな

番長:それはまたなんというか……。

番長:そんな話もあるから、伝説の男なんて言われてたりして。



鳴上「……なんて。まさかな」


パオフゥ:順序が逆だったのかもってのなら、考えられない事じゃないな

パオフゥ:つまり、初めはランキングのトップを飾るほどのゲーマーで話題になっていた男が

パオフゥ:悪夢から生還した事で、違う伝説も残す事になった

パオフゥ:しかもそれは、時が経つに連れ話が混ざり誇張されて、人の興味をひくには十分過ぎる話題になった

パオフゥ:それが本当でも嘘でも、もはや関係ないって訳だな

パオフゥ:それが時にこの世を滅ぼすこt



鳴上「……え?」

鳴上「この世を滅ぼす……って」


パオフゥ:この事でひとつお前に頼みたい事がある

番長:今のはどういう意味ですか?



>こちらが文章を打つよりもパオフゥの発言の方が早かったようだ……



パオフゥ:もしかしたらその男がまたゲームセンターに来るかもしれない

パオフゥ:それらしき人物を見かけたら是非教えて欲しい

パオフゥ:それと、ラプンツェルをプレイするような機会があったら感想を聞きたい

パオフゥ:それだけだ



>しかもスルーされた……


鳴上「……」



番長:それは構わないですけど。

番長:パオフゥさんの方も、随分というこの件に熱心みたいですね?


>パオフゥの発言まで少しの間が開いた。


パオフゥ:俺の勘が只事じゃねえって訴えやがるから、気になるだけだ

パオフゥ:出来ればその勘が外れて欲しいもんなんだがね

番長:じゃあ、どうしてこんな話を俺に?

パオフゥ:これでもお前さんの事はそれなりに信用してるって事だよ

パオフゥ:って、さっきから何言ってんだか俺は……

パオフゥ:とにかく、頼んだからな

パオフゥ:じゃあ、また



>言いたいことだけ言って、パオフゥはメッセンジャーから落ちた。



>『Ⅸ 隠者 パオフゥ』のランクが5になった



鳴上「ラプンツェル……か。なんかどっかで聞いたようなタイトルだけど」

鳴上「そういえば、どういうゲームなのか聞くの忘れてたな」

鳴上「プレイした感想なんて……どうしてそんな情報まで知りたいんだろう」

鳴上「……まあ、行ってみればわかるか」


>明日にでもゲームセンターに足を運んでみよう。

>病院に行くのが最優先ではあるが……

>……さて、今度こそ本当に休もう。

>PCを落とし部屋の電気を消して、ベッドに潜った。



>…
>……
>………





吹き荒れる風が、この身も心も凍らせる

降り注ぐ石の雨が、死を招く――


Next→


――stage 5 Quadrangle


暴風の中庭――




Night mare


第五階層 第一エリア


鳴上「……さ、」

鳴上「寒っ……!」


>扉から出てまず感じたのが、その強烈な寒さだった。

>周りは完全に凍てついている。

>いつも行く手を阻む石でさえ、氷の塊に変貌していた……


鳴上「今までの場所と比べて随分と雰囲気が違う……」

鳴上「冷たっ……うわっ!?」


>氷の石に足を乗せた瞬間、滑ってそのまま下に落ちそうになった。


鳴上「あ、危ない……」

鳴上「氷の上にはあまり乗らない方がいいって事か」

鳴上「……このままぶら下がって移動した方が、ここは楽かも」


>場にあった攻略法を頭に思い描き考えながら、今夜もまた登り始めた。

>……


踊り場


>最初のエリアを通過し、告解室の前までやってきたが……

>周りにいる羊の数が今夜は特に少ない気がする。


鳴上「……くそ」

鳴上「こんな事早く終わらせないと。……いや」

鳴上「この世界を……終わらせないと」


>……


告解室


鳴上「今夜もお招きどうも」

鳴上「……」

鳴上「……?」

鳴上「おい?」


>告解室の小窓に向けて話しかけてみても返事がない。

>隣に気配はするようなのだが……


鳴上「おい! 聞いてるのか!」

代行人「……そんなに大声出さなくとも聞こえてる」


>隣の部屋にいる代行人の声色は、なんだか機嫌が悪そうな感じだった。


鳴上「やるならさっさと何時ものアレやってくれないか。毎度の事だけど、時間が惜しい」

代行人「……」

代行人「いいや」

代行人「ここでの質問はやめておく」

代行人「……そういう気分じゃない」

鳴上「……は?」

鳴上「それならそれでいいけど。……勝手なのは相変わらずだな」

代行人「うるさい」


>告解室が激しく揺れる。


鳴上「うわっ……! ちょっ、まだ座ってな……!」

代行人「……」


>そのまま告解室は上昇を始めた……

>……


第五階層 第二エリア


鳴上「……」

鳴上「なんだよ、さっきのあれは」

鳴上「やたらゴキゲンナナメって感じだったな」

鳴上「ま、俺には関係ないけど」

鳴上「関係はない、けど……」

鳴上(……でも、腹立つ)

鳴上「……っと、余計な事考える前に進まないとまずいな」


>苛々する気分を押し込んで、上を目指して登り始めた。

>……



踊り場


>相変わらず見える羊の数は少ない。

>しかしその少ない数の中に、見知った姿を発見した。

>帽子の羊とイヤホンの羊がもう一匹小柄な羊を交えて話をしている。

>イヤホンの羊がこちらに気付いて、いつかと同じように手招きをして呼んでいる。


イヤホンの羊「……順調に進んでるみたいだね」

鳴上「ああ。ていうか……」

鳴上「お前、登ってこれないんじゃなかったのか?」

イヤホンの羊「うん、そうだね」

イヤホンの羊「俺はこの踊り場に来る事が出来るだけだから」

帽子の羊「は!? じゃあ、あの石の山登ってねーの!? ショートカットしてるっつーの!?」

イヤホンの羊「だから、そう言ってる」

帽子の羊「それずっこい! スッゲーずっこい!」

帽子の羊「俺たちが毎回どんな思いでここ登ってると思ってんだよー!」

イヤホンの羊「……それについては、ごめん」

イヤホンの羊「本当は彼と一緒に君たちを誘導出来れば一番だけど」

イヤホンの羊「……見えない力に阻まれて、一緒に行く事が出来ない」

イヤホンの羊「この踊り場にだって勝手に侵入してるだけで……こうして来れているのは奇跡」

イヤホンの羊「たぶん、君たちに会えるのも今夜が本当に最後かもしれない」

イヤホンの羊「だから攻略法についてのおさらいと応用……しっかり聞いて欲しい」

イヤホンの羊「そこの彼も……ね?


>イヤホンの羊は傍にいたもう一匹の、小柄で外ハネの茶髪の羊に声をかけた。

>羊姿だとよくわからないが……おそらく、自分よりも年若い少年だろう。


鳴上(こんな子まで……)

小柄な羊「あの……よろしくお願いします」


>小柄な羊は困惑しながらも丁寧に深々と頭を下げた。


小柄な羊「なんとかここまで一人でやってきましたけど、正直不安で……」

小柄な羊「ここに来る度、普段と姿形が変わるし、もう何がなんだか」

鳴上「みんな一緒だ。なんで羊に変わるのか……いや、自分以外が羊に見えるだけなのか」

小柄な羊「いいえ、そうじゃないんです」

鳴上「?」


小柄な羊「確かにここにいる皆さんの事は羊に見えるけど、僕自身は人間のままですよ。まあ、羊の角みたいなのがはえてはいるみたいですけど」

小柄な羊「でも僕の場合、人間の姿のままではあっても……何故か体格が小学生くらいの時に戻ってるんです」

小柄な羊「なんで、そんな姿に……」

鳴上「本当か……!?」

帽子の羊「まじかよ。なんか気味悪ぃな……」

イヤホンの羊「……」

イヤホンの羊「それはたぶん、君の精神状態に起因している現象だ」

小柄な羊「僕の、精神状態……?」

イヤホンの羊「それだけじゃない」

イヤホンの羊「この夢は、ここにいる羊が全員が共通して見ている夢ではあるけど、登る先で見るもの聞くもの感じるもの……それは全て自分次第でどうとでも変わる」

イヤホンの羊「特に階層の最後に出てくるデカいのについては……ね」

鳴上(あの代行人もそんな事を言っていたけど……)


帽子の羊「じゃ、じゃあ! あのデカいゴスロリっ子と毎晩戦ってんのって俺だけって事!?」

帽子の羊「お前らは何が出てくんだよ!?」

鳴上「俺は魔女探偵とか……その他色々」

小柄な羊「僕は……光る大きな馬……とか」

帽子の羊「……はあ? わけわかんねーな」

イヤホンの羊「つまり、そういう事」

イヤホンの羊「ここでわかるのは自分の事だけだ」

イヤホンの羊「いや、自分の事さえわからない者の方が多いかもしれない」

イヤホンの羊「何故あんなものが出るのか、理解出来ない……否定したい、見たくないって思ったりしてる者もいると思う」

鳴上「……」

イヤホンの羊「……話がそれたな」

イヤホンの羊「本題に移ろう。夜が明けてしまう前に……」


>……


帽子の羊「なんかさっきから頭パンクしそうな話ばっかだぜ……」

小柄な羊「メモとかとったところで意味もないですよね。登っている最中そんなもの見る余裕もないし」

鳴上「それでも、ここまで来る事は出来たんだ。諦めたりはしたくない……絶対に」

イヤホンの羊「……そう」

イヤホンの羊「大事なのは上だけを見続ける事。脆く崩れかけてはいても、その心を自ら折ってはダメだ」

イヤホンの羊「そして……」

イヤホンの羊「……」

帽子の羊「え、なんだよ?」

イヤホンの羊「なんでもない」

帽子の羊「言い掛けてやめるなよ!」

イヤホンの羊「……自分で気付かなきゃ意味のない事だから」

帽子の羊「……」

帽子の羊「……なんかなあ」


鳴上「どうした?」

帽子の羊「いや、さっきから気になってたんだけど」

帽子の羊「俺、こいつの事知ってる気がすんだよな」

小柄な羊「え……あなたもですか?」

小柄な羊「実は僕も、そんな感じがしてて」

小柄な羊「しかもそれだけじゃなくて」

鳴上・帽子の羊・小柄な羊「ここにいる全員知ってる気がする」

イヤホンの羊「……」

鳴上「……どういう事だ?」

イヤホンの羊「どうでもいい」

帽子の羊「そう、それ! それだよ、その感じ!」

帽子の羊「ぜってー知ってるヤツだよ、お前!」

帽子の羊「……いや、でも」

小柄な羊「……。そうですよ、そんな筈は……」

小柄な羊「だってあの人は……」

鳴上「……?」


イヤホンの羊「……どうでも、いい。気にしなくていい。だってこれは」

イヤホンの羊「夢なんだから」

帽子の羊・小柄な羊「……」


>場が静まり返ってしまった……


イヤホンの羊「それより、早く行かないと時間が」

帽子の羊「……。俺はもう少し考え事してから行くわ」

小柄な羊「僕も、ちょっと」

イヤホンの羊「そう。君は?」

鳴上「俺は……もう行く」

イヤホンの羊「ん。……気を付けて」


>みんなに見送られつつ、告解室へ行く事にした。

>……


告解室


鳴上「……」


>無言のまま腰を下ろした。


代行人「……やっときたか。随分と長いお喋りをしてたみたいだが」

鳴上「どうでもいい」

代行人「……」

代行人「そうだな。そんな事はどうでもいい……俺にはな」

鳴上「質問、あるんだろ? するなら早くしろ」

代行人「……なあ、お前は何をそんなに焦ってるんだ?」

鳴上「自分が死ぬかもしれないのに焦らないやつなんていないだろ。それに」

鳴上「俺が先へ進む事でどうにか出来るかもしれない」

鳴上「ここに落ちたみんなを救って……ここをどうにか出来るかもしれない」

代行人「……」

代行人「どうしてお前がそこまでする?」

鳴上「どうして、って」

鳴上「放っておける筈ないだろ」

鳴上「俺の力で、絶望の中にほんの少しでも光が照らせるのかもしれない」

鳴上「その可能性があるのなら、俺は、」

代行人「だから」

代行人「どうして“可能性がある”なんて自分で言い切れる?」


鳴上「それは……」

代行人「……そうだな。お前は他人からそういった言葉を言われてきた事が何度もあった」

代行人「君ならできる、お前ならやれる……って」

代行人「でもそれって実は」

鳴上「おい」

鳴上「俺はお前と長いお喋りはしたくない」

鳴上「……お前に対する答えは、ロープを引っ張ってでしかしてやらない」

代行人「……」

代行人「なら、いこうか」



機械的な声「第五問です」

機械的な声「人に頼られる事に喜びを感じますか?」


>『感じる』と『苦痛でしかない』のロープが垂れ下がってきた。


鳴上「……」

代行人「……」

鳴上「……」

代行人「わかった」

代行人「じゃあ進もうか」

代行人「今夜のデカいやつのところへ」


>告解室は上を目指して動き出した。

>……


第五階層 最終エリア


鳴上「……」

鳴上「ここが今夜の最後、か」

鳴上「……さむ」


>下から大きな振動が徐々に迫ってくるのがわかる。


鳴上「ラブリーン、里中のシャドウ、天城のシャドウ……ときたら、次は」


>ゆっくりと下へ視線を移した。


シャドウりせ『お待たせしましたあ、もろみせタ~イム!』

シャドウりせ『私のことはも・ち・ろ・ん♪』

シャドウりせ『アナタもばっちり丸裸!』

シャドウりせ『骨の随からノウミソまで、私にぜえ~んぶ、晒け出して!』

鳴上「それは流石にちょっと……ゴメンだな」

シャドウりせ『そういう、つれないところもス・テ・キ♪』

シャドウりせ『でもぉ~、ゼーッタイ私がつかまえちゃうんだから!』


>今夜の鬼ごっこが開始された……


名前見てなかったから完二のシャドウかと思っちまった

>今夜最後を飾るに相応しく、足場はほぼ氷で埋め尽くされていた。

>間違って踏み出してしまうと、そのまま滑って下に落ち、りせのシャドウの熱い抱擁を受ける事になるだろう。

>寒い中であたためてもらえるのは歓迎だが、捕らえられたら最後、その腕の力で背骨が粉砕されそうな勢いだった……

>ただ、りせのシャドウ自体のスピードはそれほど早くもない。

>慎重に進みさえすれば、そのまま振り切れる事も可能かもしれない……

>と一瞬考えたが、それはどうやら甘かったようだ。

>りせのシャドウは本体からの攻撃が殆どない分、こちらの移動先を正確に予測、把握して今までのデカいのに比べると的確に狙いを定めにきていた。

>そして、それは上に進むにつれてその環境を味方につける……

>だいぶ登ってきたところで、氷の石は足場としてでなく、上から降り始めてきたのだ。

>しかもそれは無差別ではなく、りせのシャドウのアナライズの補正を受けてこちらに迫る。

>反応が少しでも遅ければ、氷の石に潰され見事にりせのシャドウに己の骨とノウミソを見せる事になってしまうだろう……

>そんな風に、予想以上の苦難に強いられながらではあったが、今夜のゴールは目前にまでやってきていた。


鳴上「これで……!」


>指が扉の取っ手に触れた……

>が、その指に力が入らない。

>冷たい氷の石に触り過ぎて、赤くなり痛みも酷い……

鳴上「っ……」

鳴上(こんな、ところで……)

鳴上「……終わっ、て」

鳴上「終わって……たまるかああああああ!」


>目一杯握った指で掴んだそれを力任せに引っ張った……!


シャドウりせ『イヤアアアァアアアァァァァアアアアアアァァアァァァァアアァァ!! ヤダアアアァア!! オイテカナイデェェェェェ!!』


>扉の光によって断末魔を上げながら、りせのシャドウは消えていった……


鳴上「……」



代行人「……おめでとう。第五階層、暴風の中庭はこれで終わった」

代行人「明日の夜……」

代行人「……」


>代行人の言葉は最後の方まで耳には届かなかった……



>…
>……
>………


5th day


05/12(土) 曇り 自室


鳴上「っ……」

鳴上「寒い……」


>ベッドに寝たまま窓の方に視線を向けてみた。

>……どうやら昨日、戸締まりを怠っていたらしい。

>窓が半分開いていてそこから強い風が部屋の中に吹き込んでいる。

>おまけに掛け布団が完全に捲れて、床に落ちてしまっているようだ。

>そして

>……頬や腕、その辺りの肌に違和感を覚える。

>何かが蠢いているような……

>そっと頬に指で触れてみた。

>その蠢きは、今度は指へと伝わってくる。


鳴上「これ、は……虫?」

鳴上「……」


鳴上「蟻……」

鳴上「――ッ!?」


>蟻が自分の体を伝って歩いていたのだと瞬時に理解した。

>その不快さに、思わずベッドから飛び起きる。

>……一匹ならまだよかった。

>でもその蟻は……蟻の大群は

>開いている窓から列を作って部屋の中へ入り

>ベッドと自分の体を伝って床に行き

>そこに置かれている何かに群がっているのだ。

>そこに置かれている『何か』は、初め蟻にまみれて真っ黒になっていてなんなのかはっきりしなかったが……

>蟻が群がる隙間から『小豆』という文字だけ見え隠れしていた。


まさか運喰い虫?
スランパ二度掛けくらいに不幸になるのだろうか

鳴上「っ……!」


>急いで自分にまとわりついている蟻の群を払い、床に置かれていた甘味処・小豆あらいの袋をつまみあげる。

>ぼとぼとと蟻が床に落ちていく……


鳴上「このっ……」


>部屋にいる蟻を外に追い出そうと躍起になり……

>その勢いで誤って持っていた袋まで外へ落としてしまった。


鳴上「あっ……」

鳴上「……」


>地面に落ち、ぐちゃりと潰れたバナナ大福に蟻の群が一層集っているのが、目に映っていた……


終わります。

また次回。おやすみ。

ハム子にもらった大福…

遅くまでおつかれさまです
じゃおやすみ

>>114


よい夢を

乙!
もうそろそろ話が動くのか。

いい夢を!落ちるなよ羊諸君

>……


>アイギスから美鶴がわざわざ診察の予約をしてくれたという病院の場所を聞き、一応学校へ行く準備も整えてから向かう事にした。

>外に落としてしまった大福とその包みは寮を出た際に回収したのだが……

>あれだけ多く集っていた蟻たちの姿はもう何処にもなく、周りに蟻の巣があるような気配もなかった。

>いったい何処からあの蟻は部屋に侵入してきたのだろう……


鳴上(……せっかく貰ったのに、ごめん)


>心に痛みを覚えながらも仕方なく、拾った大福を包みごと街のゴミ箱の中に捨てた。

>……

>病院に向かう途中、携帯を見てみるとメールが届いている事に気が付いた。

>二件受信していて、どちらとも寝てしまった後に届いたもののようだ。

>一件目のメールを開いた。



from:久慈川りせ

悠センパイこんばんは。

また変な事件?事故?病気?がそっちで起こってるってテレビで見たよ!

センパイは大丈夫…だと思いたいけど、いつセンパイの顔と名前がニュースで出たりしないか不安でたまんないよ→(;_;)

また仕事でそっち方面行くかもしれないから、その時にでもセンパイの元気な顔みて安心したいなあ('_')

せめて元気な声だけでもいいから聞きたい!

暇な時にでも電話しよ→ね(>_<)

じゃあ、また近いうちにね(^_^)/

愛しのりせち→より



>メールにはデコレーションされたりせの写真も添付されていた。

>着ているのは仕事でのものだろうか……普段着にしては露出度が高めで、メイクも派手のような気がする。

>写真の感想を入れるべきなのか悩みながらも、りせに返事を送ってから二件目のメールを読んでみる事にした。


鳴上「……ん? これ、誰からだ?」


>どうやら登録されていないアドレスから送られてきているようだ。

>しかも添付データがくっついている……


鳴上「知らないアドレスから添付データつきのメール……って、まさか!」


>藤堂が持っていたあのゲームがまさか送られてきたのだろうか……!

>急いでメールを開いた。



from:

ヤッホー少しは元気になったかなー?

それともまだ不調?

そんな悠には元気になっちゃう写メをはっしーん♪

結構似合ってるでしょ?(*^_^*)



鳴上「……」

鳴上「どうやら違いそうだな」

鳴上「というか、本当に誰だ……」


>添付されているのは文面通り写真のデータのようだ。

>多少ガッカリした気持ちを覚えながら、気構える事もなくそのデータを開いてみた。



鳴上「!?」

鳴上「これは……キ、キミコ!?」

鳴上「なんていう恰好だ……」


>写真の中のキミコは男心をくすぐる挑発的な服装をしていた。

>まず肌の露出がさっき見たりせの写真とは比べものにならないほどに多かった。

>ぱっと見はビキニの水着を着ているように見えるが、それにしてもその布地の面積はあまりにも狭く、俗に言うハイレグカットと呼ばれるデザインである事がうかがえる。

>そのくせ、二の腕まである手袋にオーバーニーソックスと隠している部分はとことん隠していて……

>デザインの揃ったカチューシャと首輪もアクセントとしては十分だ。

>その大胆さがけして下品になっていないのは、全体的なカラーが白基調である事と彼女の持つ健康的な色気によって上手くバランスが保たれているからだろう。

>まさに奇跡の一枚と言えなくもない写真だ。


鳴上「……この写真は保存しておくにしても」

鳴上「いつの間にメアドまで知られていたんだ?」

鳴上「……」

鳴上「大福の事、謝った方がいいよな」


>キミコに返信しようかどうするか迷っている間に、目的地である病院に辿り着いてしまった。


鳴上「……また後で考えよう」


>……


>診察の結果は、少し熱っぽかった事もあり風邪と診断された。

>寝不足の事についても少し話してみたが、医師の話によるとここ数日でそういう男性の患者が増えているという事らしい。

>一晩の内に変死体が出来上がる事件が発生して以降からなので、皆そのニュースを聞いた事により無意識に不安やストレスが溜まってそのような状態になっているのかもしれない……というのが、医師の見解のようだ。

>安静に、とは言われたが寮に戻って部屋に籠もっていても余計ストレスが溜まりそうな気がする。

>やっぱりこのまま学校へ行く事にした。

>……



辰巳ポートアイランド駅前


鳴上「……あれ?」

順平「ん? おー、鳴上か。こんな時間にこんな場所にいるって事は、遅刻か? サボリか?」

鳴上「遅刻の方です。病院に行ってたので」

順平「病院? そういやお前、なんか顔色悪いな」


>そういう順平の方も目の下にクマが出来ていて、あまり顔色がよくないように見える。


順平「実は俺もこれから病院。って言っても、ただの見舞いだけどな。それから帰る予定」

鳴上「誰のお見舞いですか?」

順平「……チドリだよ。また入院しちまってさ」

鳴上「えっ、チドリが!? しかも、またって……」


順平「あれ? チドリから聞いてなかったのか? 前に鳴上から渡された手紙に書いてあったのって、その事についてだったんだけど」

鳴上(だからしばらく来れないって言ってたのか……)

順平「結構そういうの多いんだけどさ、アイツ。体あんま丈夫じゃねーんだ」

順平「だから入退院と検査を繰り返してんだけど……」

順平「……今回の事は俺が原因。チドリとの約束守れなくて、ストレスかけちまったせいだ」

順平「俺さ、本当はGW中にチドリに会いにくる予定だったんだ。前にこっち来た時、一緒に遊ぼうってそう言ってさ」

順平「でも急に外せない用事が入っちまって……」

順平「チドリに連絡したかったけど、アイツ携帯嫌いで持ってないしどうしようもなくて」

順平「……きっと、ずっとここで朝から晩まで待ってたんだろうなあ」


>順平は帽子を深く被り直して表情を隠そうとしている。


順平「なんとか事情はわかってもらえたけど、今のままの状態ってやっぱまずいんかな……」

鳴上「……あの、順平さんにとってチドリって」

順平「一番大切にしたい人」

順平「なんてカッコよく言ってもさあ……信じてもらえねえか」


順平「実際出来てねーし、そんな風に」

鳴上「でも、チドリにこうやって会いに来てるじゃないですか」

鳴上「誰か一人を大切にして守りたいって思うだけでも素敵な事だと思います」

鳴上「俺にはそういう特定の人って……いないから。羨ましいっていうか」

順平「……思ってるだけじゃあ、な」

順平「でも、気使ってくれてありがとな。改めてチドリとの事、考えてみる気になったわ」


>順平はやっと笑顔を見せてくれた。

>順平の事が、少しわかったような気がする……



>『Ⅰ 魔術師 伊織順平』のランクが3になった



鳴上「あの俺も一緒にお見舞いに……いえ、チドリが入院している病院と病室教えてもらってもいいですか?」

順平「ん、ああ。辰巳記念病院の、208号室だぜ」

順平「鳴上が行ってやったら、きっと喜ぶぜ。顔には出さないかもしんねーけどさ」

順平「じゃ、もう行くな」


>順平と別れて学校へ向かった。

>……


【昼休み】


月光館学園 3-A 教室


メティス「鳴上さん!」

ラビリス「えっ、悠!?」

メティス「病院に行ったんじゃ……」

鳴上「ああ、行ってきたよ。風邪だってさ」

ラビリス「だったら大人しく帰って寝てればいいやろ!」

鳴上「いや、なんか、寮にいたら気が滅入りそうで」

メティス「……。熱が少しあるようですね」

鳴上「このくらいなんともないって。薬もらってきたしさ」

メティス「……」

メティス「まったく、貴方という人は……」

メティス「昼食をとったらきちんと飲んでくださいね?」

ラビリス「せや。そうするまで、ウチら見張ってるからな?」

鳴上「わかった、わかったって!」


>二人にもだいぶ心配をさせてしまっていたようだ……


鳴上「その前に、先生のところに顔出してくるから」

メティス「あ、そうですね。先生には今日鳴上さんは欠席すると伝えてしまいましたから……」

ラビリス「ウチらもついて行こか?」

鳴上「小さな子供じゃないんだから、それくらい平気だ」


>職員室へ行く事にした。

>……


渡り廊下


>職員室を訪ねたら姿が無かったので、またあの花壇にいるのではと思いやってきた。

>予想の通り、花壇の世話をしている橿原の姿を発見した。


鳴上「先生」

淳「鳴上くん? あれ、今日はお休みじゃ……」

鳴上「病院に行ってからそのまま学校に来ました」

淳「大丈夫? 今日は土曜だから次の授業で終わりだし、帰って安静にしてた方が」

鳴上「いえ、学校にいた方が元気になれそうな気がするんで」

淳「そう? ならいいんだけどね」

淳「最近、ずっと調子悪そうに見えてたから心配だったんだ。昨日も保健室に行ってたみたいだし。この間の進路の話でストレス感じたのかな……とかね」

鳴上「それもまあ、あったのかもしれませんけど。でも、……ただの風邪ですから。大丈夫です」

淳「……。そっか。あまり無理はしないようにね?」

淳「クラスの子みたいに、ずっと入院するような事にならないように……ね」

鳴上「そういえば、まだ退院出来ていないんですか?」

淳「うん……」


鳴上(目を覚まさなくなって徐々に衰弱してるって話だったよな)

鳴上(もしかして、今起きてる事件と関係が? いや、それにしては症状が少し異なってるよな……)

淳「鳴上くんだけじゃなくて、他のクラスや学年にも体調がよくないって子が最近多いみたいなんだよね」

淳「風邪が流行ってるのかな。それとも……」

淳「……」

鳴上「先生?」

淳「あっ、いや、ごめん。なんでもないんだ!」

淳「何かあるとついネガティブに変な方向へ考える悪い癖があってね。あはは……」

淳「えっと……明日は休みだし、鳴上くんも早く風邪治してね」


>橿原は気をかけてくれているようだ……



>『Ⅹ 運命 橿原淳』のランクが4になった


淳「……あ。もう少しでお昼休みも終わるみたいだね」

鳴上「やばっ……俺、昼まだなんでこれで失礼します!」


>橿原に頭を下げて、急いで教室に戻った。
>……


【放課後】


>授業が終わり、教室の生徒達はそのまま帰宅したり部活へ向かったりして散り散りになった。

>ラビリスは生徒会の方へ、メティスはアルバイトがあるからとそれぞれ教室を出て行ってしまった。

>二人からあまり寄り道をせずに真っ直ぐ帰るようにと釘を刺されたが……さて、どうしよう?


男子A「鳴上ー、放課後ひまかー?」

鳴上「ん? ああ、まあ暇だな」

男子A「だったらさ、一緒にゲーセンに遊び行かねー?」

鳴上「ゲーセン……」

鳴上(……ラプンツェル、だったか。どんなゲームかやっぱり気になるしな)

鳴上「ああ、いいぞ。行くならポロニアンモールのところのゲーセンにしよう」

男子A「お、わかってんじゃん! ていうより、もしかして鳴上もあのゲームハマってたりとか?」

鳴上「え?」

男子A「ほらー、ネットなんかで話題になってるラプンツェルとかってやつ」

男子A「俺やった事ないからさ、一度くらい遊んでみようかなって思って。でも、この辺だとあそこのゲーセンしか置いてないんだよね」

男子A「しかも古いゲームだから一台しかなくて何時も順番待ちの列が出来てるって話だぜー?」

男子A「どんだけ面白いんだよって話じゃね?」

鳴上「へえ……」

鳴上(そこまで流行ってたのか)

男子A「とにかく行ってみようぜ!」

鳴上「ああ」


>……


ポロニアンモール

ゲームセンター ゲームパニック


>話に出ていたゲームは、ゲームセンターの中の一番奥の目立たない場所に置かれてあった。

>しかし、クラスメイトが話していた通り、人が並んでいるのが見えたのですぐにみつける事が出来た。

>今は四人ほど順番待ちがいるようだ。

>並んでいるのはいずれも若い男で、その中には月光館学園の制服を着ている同じ学校の者もいる。


男子A「で、結局鳴上はこのゲームやった事あんの?」

鳴上「いや。話に聞いて少し気になってただけだ」

男子A「俺と一緒かー」

鳴上「どんなゲームなんだ?」

男子A「パズルゲームだって話だけど」

鳴上(パズルゲーム? 確かに、ハマる人はとことんハマりそうなジャンルではある……のか?)

男子A「あ、俺たちの番きたぜー」

鳴上「お先にどうぞ」

男子A「いいのか? サンキュー」

鳴上(まずはどんなゲームなのかよく観察してみよう)


>クラスメイトがプレイする様子をじっくりと窺う事にした。

>……


>『ラプンツェル』の内容は、王子が魔女に捕らえられている姫・ラプンツェルを救いに塔を登っていくという、非常に単純でよくあるストーリーであった。

>塔を登るというのが、肝心のゲーム部分にあたるパズルになっている訳なのだが……

>残機は3あり、決められた手数以内でブロックを押したり引き出したりして足場を作り、塔の上にいるラプンツェルのところへ行ければクリア。

>ステージをクリアした時の残り手数と取得したアイテムによって点数が加算されていくが、落ちたり潰されたり手数がなくなったりして残機が減った時点で0に戻ってしまうので注意が必要だ。

>そうして合計で64あるステージを突破すればED……という感じのゲームのようだ。

>それだけの数のステージをクリアするのも骨が折れそうだが、点数まで気にしていたら結構頭を使いそうなゲームだ。

>しかし、何故だかさっきから妙なデジャヴを感じる……

>何処かで見た、いや

>やった事があるような……?


男子A「わー! ダメだ! ステージ5までしか行けなかったぜー……」

男子A「ほら、次。鳴上の番だぜ」

鳴上「……」


>コインを入れて、ゲームをスタートした。

>……


男子A「お、おおっ!? 結構イイ感じじゃね?」

鳴上「……」


>……


男子A「だいぶ進んだなー」

鳴上「……」

鳴上「体が軽い……」

鳴上「こんな幸せな気持ちで登るなんてはじめて。もう何も、」

鳴上「あ、落ちた」

男子A「あー!? 何やってんだよー!」


>ちょっとしたミスで操作していた王子は足場から落ちていってしまい、ゲームオーバーになってしまった。

>ステージ20まで進んだが、ランキングにあるスコアにはほど遠いようだ。


男子A「あー、これか。噂になってるのって」

鳴上「……あ」


>ゲームオーバー後に映ったランキングの画面の1st 2ndの後に続く名前が同じなのを見てパオフゥが言っていた事を改めて思い出した。


鳴上「伝説の男……『VIN』?」

男子A「そーそー! 詳しい話は知らねーけど、凄い人なんだってなー」

男子A「最近じゃある事ない事いろいろ言われてるみたいだけど……っと、後がつかえてるから行こうぜ!」


>クラスメイトに引っ張られてゲームセンターを出た。

>……


男子A「……しっかしなあ、想像してたよりあんま楽しくなかったな、あのゲーム」

鳴上「そうか? 俺は割とイケるというかなんというか……」

男子A「マジで? そういえば超真剣だったな。目が血走ってたっつーか」

鳴上「……」


>正直な話、三分の一程度しか進めなかったのは非常に悔しい……

>しかし実際に自分で遊んでみても思ったが、やはりあのパズルを解く感じは何処かでやった事があるような気がした。

>いったい何処で……


男子A「悪い鳴上! 俺、バイトがあるからもう行くわ!」

鳴上「ああ、うん。また学校で」

男子A「またなー!」


>クラスメイトは手を振って去っていった。


鳴上「さて、これからどうしよう」

「……鳴上か?」

鳴上「?」


>今度は誰だ……?


ヴィンセント「やっぱりそうだ。こんな時間に会うのは初めてじゃないか?」

鳴上「あ、どうも。こんにちは」

鳴上「ヴィンセントさんはまたあのクラブに飲みにでも?」

ヴィンセント「いや、昼間からはさすがにちょっと……。いくら酒は置いてないっていってもな」

ヴィンセント「仕事が休みだったから、ちょっとこの辺ぶらついてただけだよ」


ヴィンセント「鳴上は買い物か?」

鳴上「ゲームセンターに遊びに行ってたんですよ。最近流行のゲームがあるとかで、それを試しにやりに」

ヴィンセント「もしかして、ラプンツェルのことか?」

鳴上「ヴィンセントさんも知ってるんですか、あれ」

ヴィンセント「まあな。昔は俺もダチと一緒によくアレで遊んだもんさ。また流行ってるのか」

鳴上「結構難しいですよね。途中までしか行けなかったんで、いつかEDまでいけたらいいけど……」

ヴィンセント「……お前はあのゲームにハマったクチか」

鳴上「え? まあ、そうなる……のかな? 続きも気になるし」

ヴィンセント「ふうん……」

ヴィンセント「ところで、さっきから気になってたけど、お前さ」

ヴィンセント「……」

鳴上「?」

ヴィンセント「……いや、ちょっとそこで待ってろ」


>そう言ってヴィンセントは近くにある薬局へと入っていった。

>数分後……


ヴィンセント「……ヒットポイントかいふくするなら~♪」

鳴上「なんですか? その歌」

ヴィンセント「え? あー、さっきそこの店に入った時、音痴……いや、味のある鼻歌声でこんな曲歌ってるヤツがいてさ。うつった」

ヴィンセント「……そんな事より、ほらよ」

鳴上「え? わっ……!」


>何かを投げ渡され、それを慌てて受け取った。


鳴上「栄養ドリンク?」

ヴィンセント「なんか冴えない顔してっからさ」

ヴィンセント「昨日の夜顔見せなかったのも、具合悪かったからか?」

鳴上「……そんなところです」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「そのやつれた感じとか……もしかしてお前……」

ヴィンセント「いや、滅多な事は言うもんじゃねえよな」


>ヴィンセントはひとりで何かぶつぶつと呟いている。


ヴィンセント「……まあ、あれだ。俺も話し相手がいねーと、寂しいからさ」

ヴィンセント「元気が出たらまた来いよ。……って、夜中にあんな店に誘う大人もどうかしてんな」

ヴィンセント「お大事に」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「……きずぐすり~と、ほうぎょくで~♪ ……あ、やべ、頭から離れねぇ……」



>手を振ってヴィンセントはゲームセンターの中へと入っていってしまった。



>『ⅩⅤ 悪魔 ヴィンセント』のランクが4になった



鳴上「……」

鳴上「……おとなしく帰るか」


>駅へ向かう事にした。

>……





青ひげファーマシー


店主「まいどー」

藤堂「~♪」

藤堂「いつも~たたかうみんなのみかた~ぼくらのまち~のおくすりや・さ・ん~♪」


>……


巌戸台駅前


「ゆー」

鳴上「!」

鳴上(この声、この気配は……!)

「うー!」

鳴上「――ハッ!」

「きゃっ!?」


>背後から迫ってきた人物を避けるよう咄嗟に体を動かした。

>そのせいで、その人物は前のめりに転んでしまったようだ。


鳴上「やっぱりお前か、キミコ」

キミコ「ひどーい! わかっててよけたあ!」

鳴上「すまない、つい」

キミコ「むー……」

キミコ「元気になったのかすごく心配してたのに……メールの返事もくれないしさ」

鳴上「!」

鳴上(そういえばそうだった……忘れてた)

鳴上「わ、悪かったって。えっと……お詫びにまた大福でもご馳走するから」

キミコ「ホント!? やったあ♪ あ、そういえばバナナ大福どうだった? 美味しかったでしょ」

鳴上「あー……それは……」

鳴上(その味を今確かめに行きたいとは言えない……)

キミコ「よっし、今日は私もお腹いっぱいバナナ大福食べてやるんだから!」

鳴上「わっ、コラ、引っ張るな……!」


>キミコに腕を引かれながら甘味処 小豆あらいまで向かった。

>……


甘味処 小豆あらい


キミコ「いっただっきまーす」


>キミコは、並んだバナナ大福の山を幸せそうにしながら口の中に入れている。


鳴上「ひとりでそんなに食べられるのか?」

キミコ「何言ってるの? 悠だって食べるんでしょ?」

鳴上「それはそうだけど」

鳴上(にしても多すぎる気が……)

キミコ「はい、あーん」


>キミコはバナナ大福を食べさせようと顔の前まで差し出してきた。


鳴上「いや、自分で食べられるから」

キミコ「あーん」

鳴上「あの、だから」

キミコ「あーん」

鳴上「……」

キミコ「あー……」

鳴上「……わかったよ。食べればいいんだろ……」

キミコ「♪」


>キミコに食べさせてもらうような形で、バナナ大福を口の中に入れた。

>周りに殆ど客がいなくて助かった……


鳴上「……」

キミコ「ふふっ、こうしてるとカレシカノジョみたいだね!」

鳴上「いや、それは流石にどうかと」

キミコ「悠ってさ、クールに見えて実は結構恥ずかしがり屋さんでしょ?」

キミコ「それでいて夜はとても大胆だし……」

鳴上「いちいちそういう話に持って行こうとするな」

キミコ「あははっ」


>キミコは無邪気に笑っている。


鳴上「……」

鳴上「なあ、キミコはどうして俺に構ってくるんだ?」

キミコ「どうしてって」

キミコ「好きだからだよ?」

鳴上「……でも、そう感じる理由が、その」

鳴上「一夜の過ちが原因……だとしたら」

鳴上「正直どうしたらいいのかわからないんだ」

鳴上「俺、あの夜の事本当に何故か記憶になくて。だからって言い逃れする気はないんだけど」

鳴上「ないんだ、けど」

鳴上「……」

鳴上「ごめん」

鳴上(謝って済む事じゃないよな……)

キミコ「どうして謝るの?」

キミコ「私が聞きたいのはそんな言葉じゃないのにな」

鳴上「でも……」

キミコ「ねえ。悠は私の事、好き? 嫌い?」

キミコ「どっち?」

鳴上「えっ。どっち、と聞かれても」

鳴上「……嫌いではない、としか」

キミコ「じゃあ、好きなんだね! やった!」

鳴上「いや、それは」

鳴上「……それは多分、キミコが俺に思っている好きとは違う」

キミコ「いいじゃない。そうだって別に」

鳴上「え?」

キミコ「今はそうでも私は構わないよ? ……今は、ね?」

キミコ「私たち、まだお互いの事知らなさすぎでしょ?」

キミコ「だからこれから改めてゆっくり始めたっていいんじゃないかな」

キミコ「私たちの関係」

鳴上「……!」


>向かいあって座っていた筈のキミコは、いつの間にか隣に座っていた。


キミコ「――それで最終的に責任とってくれるなら、それ以上の事はないけどね?」

鳴上「っ……」


>ニコリと笑うキミコを見て、何故だか背筋が冷たくなるのを感じた……


キミコ「あ、何か落ちたよ?」

鳴上「……え?」


>キミコが指さす方を見ると、ポケットに入れていた筈の特別課外活動部の腕章がそこに落ちているのが目に入った。

>素早くそれを回収した。


キミコ「それなに?」

鳴上「委員会……いや、部活の会員の証? みたいなものかな」

キミコ「ふーん」

鳴上「無くしたら大変なところだった。教えてくれてありが……」

キミコ「ねえ」

キミコ「あの夜の事、本当に覚えてないの?」

鳴上「……?」

鳴上(どうしたんだ、また急に……)

キミコ「だったら私が教えてあげる」

鳴上「!」

キミコ「悠はね、あの夜……クラブでひとりだったの」

キミコ「ひとりぼっちだったの」

鳴上「……」

キミコ「それでね、なんだか顔色悪くして、凄く疲れてた」

キミコ「どうかしたの? って聞いたら」

キミコ「長い間だんまりした後にね、……言ったの」

キミコ「どうしたいんだろう。……って」

鳴上「っ――!?」

鳴上「何の、事だ? 何が……?」

鳴上「……言ってる事が、意味が、……わからない」

キミコ「それこそ私にもわからないなあ」


>キミコはくすくすと小さく笑い声を上げている。


キミコ「でもね、その時ふと感じたの……悠はね、何か抱えてるんじゃないのかなって。それに潰されそうになってるんじゃないのかなって……ね?」

キミコ「それが何かまではわからないよ? ひとつだけじゃないのかもしれないし、小さな事が積み重なって大きな重石になってるのかもしれない」

キミコ「……そもそも、それに悠自身が気付いてないのかもね? だから余計、重い枷になってるってのもあり得るよね?」

鳴上「何が、言いたいんだ……何が目的でそんな、意味のわからない、デタラメをっ……」

キミコ「悠は言いたい事、ないの?」

キミコ「誰かに訴えたい事や、ぶつけたい怒りとか、不安とか、衝動とか」

キミコ「――ずっと奥底に押しつけておく気なの?」

キミコ「それって疲れない? 疲れるよね?」

キミコ「だって悠は頑張ってるもん。無駄なほどにね?」


キミコ「私は悠のそのどうしようもないものの捌け口になってあげたいだけなんだよ?」

キミコ「……わかるよね?」

鳴上「……」

キミコ「ふふふ……じゃあ、また近いうちに会おうね?」


>キミコは店から静かに出ていった。


鳴上「……」

鳴上「……わかるか、だって?」

鳴上「そんなもの……」

鳴上「っ……」

店員「お客様、ご注文はお決まりになりましたか?」

店員「……あら? お客様?」


>店を飛び出し、腕章を固く握り締めながら走って寮に向かった……


終わります。

また次回。


ハイレグアーマーは基本

すまねぇんだが キミコて誰?

公子(?)

主人公子…いったい誰なんだー

鳴上wwwwwwフラグをたてるなwwwwww

主人公子(CV井上麻里奈)
いったい何ム子なんだ……?

P4しかやったことないから、キミコってずっとキャサリンのキャラなのかと思ってた。
あの子か。

話の面白さと合間に挟まれる細々としたネタに、
ついニヤついてしまう自分の顔が映るのが怖いので、
すぐにモニターの電源が切れません…

番長マミろうとすんなwwwwww

あくまで別人のせいだよきっと!

>外はただの曇り空から一変、ひどい土砂降りになっていた。

>傘を持っていなかった為その雨を一身に受ける事になったが、そんな事など今は気にも止まらなかった。

>さっきからずっとキミコから言われた言葉が色々と断片的に頭の中で反芻している。

>それに激しい雨音が混ざってひどく不愉快だった……

>……


学生寮 ラウンジ


アイギス「おかえりなさ……鳴上さん!?」

アイギス「ずぶ濡れじゃないですか! ちょっと待ってください。今タオルを……」


>アイギスは急いでタオルを持ってきてくれて、頭に被せて拭いてくれた。


アイギス「お風呂に入った方が良さそうですね。これ以上体が冷えたら、具合が悪化してしまいます」

アイギス「一度部屋に戻って、……鳴上さん?」

鳴上「……」

鳴上「……着替え取ってきます。風呂の準備、お願いしていいですか?」

アイギス「……あ、はい」

鳴上「頼みました」

アイギス「……」

アイギス「鳴上さん……?」


>……


自室


>風呂を浴びて体も温まり、落ち着きを取り戻した。

>……今の内に薬を飲んで仮眠しよう。

>今夜は出来ればまたパオフゥと話して例のゲームについての報告をしたいし、クラブにいるならヴィンセントと話もしたい。

>それまでに少しでも体力と気力を回復させておかねば。

>そして何より、さっきあった事についてもう何も考えたくなかった。

>キミコ……彼女は一体何者なのだろう。

>……

>……?


鳴上(考えたくないって……何でそう思うんだろう)


>……

>それを考える事自体がもう面倒だった。

>……寝よう。

>……



【夜】


コンコン


鳴上「……ん?」


>何かの音を聞いて目が覚めた。


コンコン


>どうやら誰かが扉をノックしているようだ。


アイギス「鳴上さん。おやすみだったらごめんなさい。起きていらっしゃいますか?」

鳴上「ちょっと待ってください。今、開けます」


>ベッドから起きあがって部屋の扉を開いた。


アイギス「調子の方はどうですか? お腹空いてないかと思ってお粥を作ってきたのですが……」

鳴上「……あ、すみません。わざわざありがとうございます」


アイギス「いえ。インスタントのものですし」


>アイギスからお粥と水の入ったコップが置かれたトレイを受け取った。


アイギス「顔色は少し良くなったみたいですね。熱もないようです」

アイギス「……。あの、鳴上さん」

鳴上「はい?」

アイギス「……」


>アイギスは何か言いたそうにしているが、黙り込んでしまった。


鳴上「アイギスさん?」

アイギス「……いえ、その」

アイギス「……! そ、そうです、明日!」

鳴上「え、明日?」

アイギス「はい。明日、メティスとラビリス姉さんとで買い物に行く予定なのですが、良かったら鳴上さんもどうですか?」

鳴上「俺も一緒に?」

アイギス「ええ。もちろん、体の具合が良ければの話になりますけど」

鳴上「明日の予定は特に決めてなかったからそれは構わないですけど……いいんですか? 俺なんかがついていって」

アイギス「三人で遊びに行こうって話をした時、鳴上さんも誘おうかという流れになったので、貴方も一緒ならメティスも姉さんも喜びますよ」

鳴上「そう、ですか? じゃあ、お誘いに乗ろうかな。荷物持ちくらいの役には立てると思うし」

アイギス「本当ですか? 良かったです」

アイギス「それじゃあ、これで失礼しますね。お大事にしてください。明日、楽しみにしていますから」


>アイギスは嬉しそうに微笑んでいる。

>アイギスとの仲が少し深まった気がした。



>『Ⅶ 戦車 アイギス』のランクが3になった



>……せっかく食事も貰った事だ。

>冷めないうちに食べてしまおう。

>……


>食事を済ませヴィンセントから貰った栄養ドリンクを飲んでから、PCを点けてニュースをチェックした。

>……

>謎の衰弱死事件は止まる気配はないようだ……

>被害者の共通項として上がっているのはいずれも男性であり、近頃寝不足を訴えていた者が多いという事らしいが……


鳴上(寝不足の、男性……)


>嫌な予感は止まらない……

>そもそも、自分が寝不足である原因になっている毎夜見る夢。

>おそらく同じ夢を繰り返し見ていると思うのだが、それなのに何故はっきりと覚えていないのだろう。


鳴上(……俺の精神的な問題が夢に反映してる、とか?)

鳴上(だとしたら、その精神的な問題って具体的には……)

鳴上(……)


ピロン♪


鳴上「――ッ!?」


>突然音が鳴ってかなり驚いてしまった。

>昨夜と同じく、メッセンジャーからパオフゥが呼びかけているようだ。

>ちょうどいい。今日の事を彼に報告しよう。


番長:こんばんは。

番長:いいタイミングでした。パオフゥさんに、例のラプンツェルについての話をしようと思ってたところです。

番長:今日、さっそく遊んできたので。

パオフゥ:おお、そうか

パオフゥ:そいつはありがたい。で、やってみた感想は?



鳴上「……」


>少し考えてから、キーボードに文字を打ち込んだ。


番長:古いゲームにしてはジャンルがパズルだからかなかなか頭を使うし難しいゲームだと思いました。

番長:でも、遊んでいて夢中になってしまいましたし、またやってみたいですね。

番長:EDも見てみたいし。


>パオフゥの反応がしばしの間止まった。


パオフゥ:そうか、お前はあのゲームに熱中した方か

番長:はい、そうです。

番長:一緒にプレイしに行った人はそんなに面白くないって言ってましたけどね。

パオフゥ:なるほど

パオフゥ:実は俺も一回だけ試しに遊んでみた事があるんだが

パオフゥ:感想は番長の連れの方と一緒だ

番長:やっぱり感じ方は人それぞれですね。

パオフゥ:それにしても、だ

パオフゥ:俺はこのゲームに関してだけは、その感想が極端に別れている気がする



鳴上「……?」


パオフゥ:中毒的にハマるというか必死にプレイするヤツと、どうでもいいってヤツとの差が激しいんだよ

パオフゥ:しかも、その中間の感想を述べるヤツも滅多にいない

パオフゥ:それを踏まえてひとつお前に聞きたい事がある

パオフゥ:変な事を聞いていると思うかもしれないが、正直に答えてくれ

番長:はい。なんでしょう?

パオフゥ:お前、最近睡眠に関する不安を抱えていたり

パオフゥ:いや、眠るという事自体に不安を覚えていたりしないか?



鳴上「――!?」


>何故彼にそんな事がわかるのだろう……

>指先が僅かに震えているのを感じながら、キーボードを叩いた。



番長:確かに最近寝不足だったりしますね…。

番長:寝ても寝た感じがしないというか。


>……

>パオフゥからの応答がなかなか帰ってこない……



パオフゥ:お前も今までのヤツらと一緒という事か

番長:今までのヤツらというのは?

番長:どうしてこんな事を聞いてくるんですか?

パオフゥ:今まで俺は、ラプンツェルをやった何人も人間の感想をネットで見たりこんな風に聞いたりしてきた

パオフゥ:その結果わかった事は

パオフゥ:ラプンツェルにハマっているのほぼ男だという事と

パオフゥ:その中で、最近変な夢を見るせいで安眠出来ていない者が非常に多いらしいという事だ

パオフゥ:ついでに、初めてプレイした筈なのにそうは感じなかったって言っているのも多かった

パオフゥ:番長はその辺どうだ?


鳴上「っ……」

鳴上「俺と同じ人間が何人もいる……?」



パオフゥ:初めはただの偶然だと思っていたが

パオフゥ:そう主張する連中は日が経つに連れて急激に増えている

パオフゥ:そして、これは少し言いにくい事ではあるが

パオフゥ:そう言っていた何人もの人間と今、連絡がとれなくなってきている

パオフゥ:お前はこの自体をどう思う?



鳴上「……いや。そんなの考えすぎ……じゃ……」

鳴上「まさか、そんな……」



番長:ニュースで上がっている衰弱死は、睡眠不足を訴える男性に多いと言っていました。

番長:まさか、それに関係しているとでも?

パオフゥ:かもしれねえと、俺は思う

番長:仮にそうだとしたら、もしかしてラプンツェルに熱中するとそうなった人間が寝不足になって

番長:何かの拍子に衰弱死してしまうとか?

番長:でも俺は、あのゲームをやるまえから寝不足に悩まされていましたよ?

パオフゥ:となると、寝不足に悩まされているからこそあのゲームにハマるという事か?


鳴上「どういう事だ……」

鳴上「どっちにせよ、あのゲームも死因に関わりがあるのだろうか?」

鳴上「いや……そもそも、噂では夢の中で落ちた時に目が覚めないと死んでしまうって話だったよな」

鳴上「それがあの衰弱死の原因かもって。医学的な根拠なんかはない訳だけど」

鳴上「でもその落ちるというのが、あのゲームのような状況で……だとしたら?」

鳴上「そうだとしとも、夢の中の出来事が現実に反映するなんて、なんでそんな事が」

鳴上「ッ……!」


>頭に急な激痛が走った。

>……何か、少し思い出せたような気がする。


鳴上「……やっぱり俺も見ているのか?」

鳴上「落ちると死ぬ夢を……」


パオフゥ:あのゲームについてはもう少し調べる価値がありそうだな

パオフゥ:さて、その話はひとまず置くとして

パオフゥ:事件について調べてわかった事がもうひとつある



鳴上「!」



パオフゥ:実はこの事件、三年前だけでなく定期的に何度か起こっていた事のようだ

パオフゥ:これしきの情報調べるのに時間がかかるとはな……思いもよらなかったぜ

番長:定期的にというと前回が三年前だから、三年ごとって感じですか?

パオフゥ:いや

パオフゥ:三年前までは百年ごとに似たような事件が起こっていたみたいだな



鳴上「百年? また随分と時間が空いてるな」



パオフゥ:つまり、三年前がその百年目にあたっていた訳だが、今回は何故かたった三年しか経たないうちに、また事件が起きているってこった

パオフゥ:それが一体何を意味しているのか……それは調べを進めない事にはわからないが

パオフゥ:もしかしたら、その百年ごとに起きていた事とは似たようで違う事が起きているという可能性もある、と思う

パオフゥ:とまあ、現在調べがついているのはこんな事くらいまでだ

番長:ありがとうございます

番長:こちらも色々考える事が出来ました

パオフゥ:今日はもうこれで落ちるが

パオフゥ:気をつけろよ

パオフゥ:何がどう、とは言えねえが

パオフゥ:お前まで連絡がとれなくなるような事にならないよう祈ってる

パオフゥ:じゃあな


>パオフゥはオフライン状態になった。

>パオフゥからまた新たに情報を入手した。



>『Ⅸ 隠者 パオフゥ』のランクが6になった



>メッセンジャーから退席して、PCの電源を落とした。


鳴上「情報はぽつぽつと揃ってはきたけど、まだ足りない気がする」

鳴上「もっと聞けるところから些細な事でいいから聞いておかないとな」


>それに今は、言い表せない不安を誰かと話して紛らわせたい気分だ……


鳴上「……あの人のところへ行こう」


>さっきまで寝ていたおかげで眠気も感じてはいない。

>再び就寝するには早いだろう。

>雨はもうあがっているようだが……

>今の状態で寮にいる者に出かけるところを見かけられたら何を言われるかわからない。

>支度を済ませこっそりと寮を抜け出し、クラブエスカペイドを目指した。

>……


クラブ エスカペイド


>いつもの席に見知った後ろ姿をすぐに発見する事が出来た。

>肩を軽く叩き、隣の席へと座った。


鳴上「こんばんは」

ヴィンセント「お、来たか」

鳴上「昼間はありがとうございました」

ヴィンセント「いや、気にすんな。具合はもういいのか? 顔色の方は……あまり変わってねぇみたいだけど」

鳴上「ええ、まあ」

鳴上「中途半端に昼寝してしまって眠くないから少し遊びに来ちゃいました」

鳴上「ヴィンセントさんの話の続き気になるし、それに」

鳴上「……俺も少し、話したい事があるんで」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「どうした? 何か悩み事か?」

鳴上「あの、実は……」



メガネの女「ちょっとッ! これ、どういう事!? 説明しなさいよ!」

鳴上・ヴィンセント「!」


>話を切りだそうとしたところで、少し離れた所から女の叫び声がするのを耳にし、思わずそちらの方を振り返った。

>そこには、睨み合っている女が二人と、その間で狼狽えている一人の男がいた。


派手な女「説明してほしいのはこっちなんですけどぉ? なんであんたみたいな女がこんなところにいる訳?」

メガネの女「貴女には聞いてないのよ! 私は彼に聞いてるの!」

男「いや、あの、これはっ……」

メガネの女「ねえ! この女は一体何なの!? 誰なの!? 答えなさいよ!」

派手な女「もー、うっさいなあ。見てわかんないの? 私は彼のカノジョなんだけど? つーか、あんたこそ何?」

メガネの女「は、……はあ!? デタラメ言わないでよ。彼の恋人は私なのよ!? 離れなさいよ!」


>派手な女は男にぴったりとくっついたままメガネの女と睨み合うのをやめようとしない……

>周りの客はみんなその三人に注目しているようだ。


ヴィンセント「なんだあ? 痴話喧嘩か?」

鳴上(迂闊に間に割って入れなそうな雰囲気だ……)

店員「ちょ、ちょっとお客様! 落ち着いてください!」


>それでも勇敢に立ち向かっていったこの店員を今は褒めてやりたい……

>女達はなかなか引き下がる気配を見せなかったが、暫くしてから男が二人の女を連れて店から出ていき、この場は収まった。


ヴィンセント「最近の若い連中は元気だねぇ」

鳴上「あはは……あれは流石にちょっと」

鳴上「あの男の人、浮気でもしてたんですかね」

ヴィンセント「そんなとこなんじゃねえの?」

ヴィンセント「俺も似たような事になって苦労した事あるなあ……それも昔の話だけどさ」

鳴上「そういえば、その浮気を清算した後って……どうなったんですか?」

ヴィンセント「ん、ああ……色々と揉めはしたけど、結婚したよ。もちろん、前から付き合っていた彼女の方とさ」

鳴上「それはおめでとうございます」

ヴィンセント「どうも」


ヴィンセント「……今はさ、一歳になる娘もいる」

鳴上「へえ、じゃあもう可愛くて仕方ないんじゃないですか?」

ヴィンセント「……」

鳴上「?」


>ヴィンセントは黙ったままグラスを傾けている。


ヴィンセント「最近さ。その娘が、……似てきてる気がすんだよ」

鳴上「え? ……ヴィンセントさんにですか?」

ヴィンセント「はは、俺みたいなのに似てきたらそれはそれで悲劇だな」

ヴィンセント「そうじゃなくて……」

鳴上「あ、じゃあ奥さんの方か」

ヴィンセント「っ……」


>ヴィンセントの顔色が徐々に青くなっていく。


ヴィンセント「そうだったら……どれほど、いいか」

鳴上「え?」

ヴィンセント「……そんな事ないってわかってる。そんな筈はねえんだ。でもっ……」


>ヴィンセントは俯いてぶつぶつと呟いた後、グラスの中身を一気に喉に流し込んだ。


鳴上「だ、大丈夫ですか!?」

ヴィンセント「っ……すまねえ、なんでもないから」


>ヴィンセントは大きく息を吐き、顔をこちらに向けた。

>表情は無理矢理笑おうとしているように見える……


ヴィンセント「それより、鳴上の話がまだだったな。どうかしたのか?」

鳴上「あ」

鳴上「いえ、その……」

ヴィンセント「ん?」


鳴上「……」

鳴上「ヴィンセントさんなら、何かわかるかもって思うから話したいんですけど」

鳴上「俺、最近……妙な夢を見てて」

鳴上「何かから必死に逃げてるって感じなんですけど、でも起きたらはっきり詳しい内容を思い出す事が出来なくて」

ヴィンセント「!」

鳴上「毎晩その繰り返しで……もしかしたら」

鳴上「もしかしてそれって、……それが噂の落ちると死ぬ夢なのかって」

鳴上「……どう思いますか?」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「もう一杯、くれないか」

店員「かしこまりました」


>ヴィンセントは何時も飲んでいるドリンクを頼むと、それを差し出してきた。


ヴィンセント「飲め」

鳴上「……ありがとうございます」


>それを一気に喉へと流し込んで、一息ついた。


ヴィンセント「どうしてそう思うんだ? 落ちると死ぬ夢を見てるって」

鳴上「色々と自分で調べてみて……もしかしたらそうかもしれないと、ついさっき感じたんです」

ヴィンセント「なるほどね……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「実を言うと……だな」

ヴィンセント「俺も最近、そんな夢を見ている気がする……って言ったら信じるか?」

鳴上「!?」


ヴィンセント「でもさ、ちょっとおかしいんだよ」

ヴィンセント「あれは、前に見た夢と何か違う気がする……いや、違うのは夢じゃなくて……」

ヴィンセント「くそっ、わかんねえ……!」

鳴上「……?」

鳴上「前に、見た夢? それって……?」


pipipipipipi……


>携帯が鳴っている。


ヴィンセント「! 俺の携帯か。悪い、ちょっと」


>ヴィンセントは席を立って、静かな場所で電話に出た。

>……


ヴィンセント「……すまないな。今日はもう、帰らないといけなくなった」

鳴上「そう、ですか。いえ、いきなり変な話したりしてすみませんでした」

ヴィンセント「いいって」

ヴィンセント「その不安な気持ち、わかるからさ」

鳴上「……」

鳴上「あの」

ヴィンセント「話の続きはまた次回にしよう。俺は大体いつも同じ時間にいるからさ」


>ヴィンセントはこちらが飲んだドリンクの代金まで支払ってくれた。


ヴィンセント「……またここで会おう」

ヴィンセント「いや、もしかしたら」

ヴィンセント「夢の中で会えるかもな」

鳴上「……」

鳴上「はい」


ヴィンセント「ああ、そうだ。うっかりしてた」

鳴上「?」

ヴィンセント「お前も興味持ってたみたいだから、あのゲームの攻略にどうかと思って。ほら」


>ヴィンセントから古い携帯ゲーム機を貰った。


ヴィンセント「中にラプンツェルのゲームが入ってる。ゲーセンに置いてあるのとは内容が違ってるけどな」

鳴上「!」

ヴィンセント「やるよ」

鳴上「でも……」

ヴィンセント「いいからいいから。じゃあな」

鳴上「ありがとうございます!」


>ヴィンセントは手を振って、クラブの出入り口から出て行った。



>『ⅩⅤ 悪魔 ヴィンセント』のランクが5になった



鳴上(何かの手がかりになればいいけど……)

鳴上(純粋に楽しめるならそれもあり、か)

鳴上(……今夜はもう帰ろう)


>……


学生寮 ラウンジ



天田「……え? 鳴上さん?」

鳴上「! 天田……」

天田「部屋で休んでいたんじゃなかったんですか?」

鳴上「あ、ああ。ちょっと気分転換に……散歩に」

天田「そうなんですか。……見つかったのが僕で良かったですね。メティスさんとかだったら、きっと凄く怒られてたんじゃないですか?」

鳴上「はは、確かに……」

鳴上「でも、天田はなんでこんな時間にこんな場所に?」

天田「寝る前にホットミルクでも作って飲もうかな……って」

天田「よかったら、鳴上さんもどうですか?」

鳴上「そうだな……貰おうか」

天田「はい。じゃあ、用意してきますね」


>……


天田「おまたせしました」

鳴上「ありがとう」


>二人でカウンターの席に座ってホットミルクを飲んだ。

>甘くて体が温まる……


天田「……ふう」


>一息吐く天田の表情はどこか暗い。


鳴上「俺が言えた事じゃないけど、……元気がないみたいだな」

天田「元気がないというか……」

天田「ここのところ、寝付きがあまりよくなくて」

鳴上「……」

鳴上「そういえば天田、少し様子が変だったな」

鳴上「俺が見た夢の事を気にしたり」

天田「……」


鳴上「……ひょっとして天田も妙な夢を見た、……いや」

鳴上「見続けているのか?」

天田「っ……」

天田「や、やっぱり……鳴上さんも、なんですね?」

鳴上「ああ……」

天田「……」

鳴上「……」


>長い沈黙が続いた……

>隣にいる天田を見ると、肩が少し震えているのがわかった。


天田「どんな夢かははっきり覚えてないんですけど。いつも何かに追いかけられて、逃げ切って……」

天田「そういう夢を見て朝目覚める度に、次にあの夢を見たらもう二度と目が覚めないんじゃないかって……何故だかそんな気持ちになるんです」

天田「おかしいですよね。たかが、夢なのに」

鳴上「……落ち着け」


>天田の肩をぽんぽんと優しく叩いた。


天田「ありがとうございます。なんだかみっともないですね」

鳴上「俺だって……平気な訳じゃない」

天田「鳴上さん……」

天田「僕たち、どうしてそんな夢を見ているんでしょうかね」

天田「なにか、したのかな……」

鳴上「……」

天田「シャドウが関係してるのかなって思った事もあるんですけど……これは、そういうのじゃない気がします」

天田「だから美鶴さん達には相談出来なくて」


鳴上「そうだな。それは天田と同意見だ」

鳴上「現実で考えていても仕方ない」

鳴上「あの夢の中で決着をつけない限りは……」

天田「……そうなんですか、ね。やっぱり」

天田「うん。でも、鳴上さんに話したら滅入っていた気分が少しよくなりました」

天田「僕、負けませんよ。あんな夢なんかに」


>天田の表情が変わった。


鳴上「ああ。俺も、天田と話が出来て良かった」

鳴上「あ、そうだ。眠る前に、少しこのゲームをやってみないか?」

天田「? なんですか、これ」

鳴上「やってみればわかる。たぶんな」


>天田に、ヴィンセントから貰った携帯ゲーム機を渡した。


天田「それじゃあ失礼して」

天田「……ん」

天田「あ、あれ?」

天田「この感じ……なんだろ」

天田「……」


>天田はゲームに熱中しているようだ。


鳴上(天田も、か……)

鳴上「あ、そこは右から二番目のブロックを引っ張った方が早いんじゃないか?」

天田「そっか! じゃあ、ここを押してぶら下がって……」


>天田と一時を過ごした。



>『Ⅷ 正義 天田乾』のランクが3になった



>……

>だいぶ夜も更けてきた……

>キリのいいところで引き上げて、自室に戻る事にした。

>そろそろ行こう。

>あの、夢の中へ……


>…
>……
>………





死への秒読みが刻まれていく


止まることも止めることも、もう出来はしない――


Next→

――stage 6 Clock Tower


時計塔――




Night mare


第六階層 第一エリア


>カチコチと一定のリズムで針が動く音が聞こえる。

>そして遠くの方でゴーンという音が響いた。

>ゴール近くを知らせる鐘の音とは違う。

>どうやら上の方に大きな時計があるようだ。

>もっとも、ここからだと見上げてもその時計の姿を肉眼で確認する事は出来なかったのだが……


鳴上「また雰囲気が変わったな……」

鳴上「上の方、なんだか少し眩しい気がするし」

鳴上「光……か?」

鳴上「……あれを目指せばいいんだろうか」


>……


踊り場


>段々と仕掛けや置かれている石の構造が複雑になっていっている。

>一言でいってしまえば、殺す気十二分な作りなのある。

>当たり前といえば当たり前なのかもしれないが……

>今回は乗ると数秒後に爆発するという石が多く置かれている。

>移動するのが遅れれば、爆発に巻き込まれ脆くなった足場が崩れ落ちて真っ逆様だ。

>周りの羊たちと話し少し休んでから告解室に行く事にしよう。

>……今日は、代行人の様子はどうだろうか。

>……


告解室


鳴上「……」


>無言で腰を下ろした。


代行人「……よお」

鳴上「……」

代行人「なんだよ、どうした?」


>それはこっちの台詞だ。

>代行人は昨日の不機嫌が治っているかのようで、発する声からピリピリした嫌な気配を漂わせているような気がしていた。

>口調はなんでもないのに……何故だかそんな風に思った。

>理由はわからない……


代行人「……まあ、いいか」

代行人「さて、今夜の階層だが……ここはちょっと長いぞ」

代行人「今まで、一晩で一階層をクリアしてきたが、……どうなるんだろうな?」

代行人「……」

代行人「俺からの質問もまた最後の告解室までとっておく事にしておこう」

鳴上「……」

代行人「では、上へ」


>……

>代行人の言葉通り、一つのエリアの距離は確実に長くなっている事を体で実感していた。

>おまけに今回はエリアの数も多くなっているようで、第二エリアを過ぎた後の告解室で次は最終エリアだとは通達されず、今は第三エリアを登っている。

>そして驚く事に、一緒に上を目指すべき筈の羊の何匹かが、こちらが登るのを故意に邪魔しようと道を塞いだり突撃したりしてくるのだ。

>呼びかけてもまるで応じてもらえず、初めから上へ行く羊たちを亡きものにしようとしているだけの存在に見えた……

>もしかしたら、終わりの見えてこないこの道のりに精神が耐えられず、狂ってしまった羊なのかもしれない。

>……



踊り場


>第三エリアを越えて、本日三つ目の踊り場と告解室までやってきた。

>他の羊の姿は殆どいない。

>見知った羊も見つける事は出来なかった……

>今はただ彼らを信じ、自分は自分のこれからの事だけを考え信じよう。

>ここまでやってきた努力をけして無駄には出来ない……

>……


告解室


鳴上「来たぞ」

代行人「ああ。待ってた。座れよ」

代行人「……」

鳴上「……」


>今夜の代行人は必要最低限の事しか喋っていなかった。

>こちらが反応を見せなくても特に怒るという事もなく(機嫌がよくなさそうなのは変わらずだったが)淡々と業務だけをこなしていた……

>それがなんだか不気味にすら感じてきていた。

>しかし、とりあえず今は、いつも通りに座っておく事にしよう。


代行人「……」

代行人「お前が登っている間、ずっと考えていた」

鳴上「……?」

代行人「俺はお前の中にある本当の価値を、きちんと見極める事が出来るのだろうかって」

代行人「お前は俺に答えを示してくれるのだろうか」

鳴上「……毎晩答えているだろ」

代行人「そういう事じゃない」

代行人「俺は。俺はいったい、どうすれば……」

代行人「……」

代行人「……いや、よそう」

代行人「俺の方が悩むなんて、馬鹿げた話だ」

代行人「質問へ移ろうか」

鳴上「という事は……!」

代行人「次が最終エリアだ」


機械的な声「第六問です」

機械的な声「人に言えない事を多く抱えていますか?」


>『そうでもない』と『それなりに』のロープが垂れてきた。


鳴上「これは……」

鳴上「……」

代行人「どうなんだ?」

鳴上「……」

代行人「……」

代行人「……そう、か」

代行人「……」

代行人「じゃ、行こうか。デカいヤツのところへ……


>告解室が今夜最後のエリアへと向けて上昇を始めた。

>……


第六階層 最終エリア


鳴上「……」


>代行人の様子は明らかにおかしかった気がする。

>そんな事を気にする義理などない筈だが、何か心に引っかかるものがあるのも否定は出来なかった。


鳴上「そもそもアイツの正体って……」

鳴上「!」


>足場に大きな揺れを感じる。

>今夜のゲストのお出ましのようだ。

>今までのパターンから考えて、それはなんだかもう大体の予想はついていたが……

>一応確認の為にと振り返り、その姿を見つめた。


鳴上「……推理は当たったな。俺にも、探偵の才能が少しはあるのかもしれない」

シャドウ直斗『フハハハハ! 改造だ! 改造手術の時間だあッ!』

鳴上「っと……ノーサンキューだ!」


>……

>直斗のシャドウは素早い動きで飛び回りながら、短い感覚で攻撃を仕掛けこちらを仕留めようとしてくる。

>持っている光線銃で直接攻撃をしかけてくるのはもちろんの事、普通の石をその光線で全て爆発する石に変えてしまったり、こちらの行きそうなルートを先の先まで予想して足場を崩してきたり、今までで一番頭を使う事を要求されていた。

>進んでも進んでも、先が見えてこない。

>これまでの分も含めて、その長い道のりに体力も気力も限界まで削られてしまっている。

>これは今度こそまずいかもしれない……

>そんな考えがちらつき始めた頃、鐘の音が響くのが聞こえてきた。


>見上げるとそこには扉が、眩しい光がある……!

>力強く伸ばした手で掴んだそれを、引っ張った。


シャドウ直斗『コンナトコロデアキラメナイ!! ニガサナイィィィィ!! ……グアアアアアアアア!!』


>今まで見た中で一番大きな光の衝撃に包まれて、直斗のシャドウは朽ちていった。


鳴上「着いた……のか」


>……


代行人「まさか本当にこんなところまで来るとは、な」

代行人「次はいよいよ、カテドラルへ続く場所だ」

代行人「……そうだな」

代行人「俺も、そろそろ……」


>…
>……
>………



6th day


05/13(日) 晴れ 自室


【朝】


鳴上「!」


>眩しい朝日が、カーテンの隙間から差し込んでいる。


鳴上「……」


>ゆっくりとベッドから体を起こした。

>目覚めは……けして良いとは言えないが、それでもここ数日と比べればマシなような気がする。

>体ももうそんなに怠くはない。

>きっと薬が効いてくれたのだろう。

>今日はアイギス達との約束をきちんと守れそうで安心した。

>せっかくの休みなのだ。

>何も考えず、存分に楽しむ事にしよう……


>>160
後日そこには頭に召喚器を押しつけながら「ティロ・フィナーレ!」と叫ぶ番長の姿が……ある訳ない。

キミコって誰なんだろうねー本当にねー。

終わります。

また次回。


地味に本編が現実の時間に追い付いたな


他の羊は無事なのだろうか・・・


ヴィンセントが心配になるレベル

寝るのが怖い、夢が怖いって地味にエルム街だよな。
そしてマミさんのCVは地味にメルブラのレンだし。
どうでもいい話でしたね、そんな訳で乙でした

もしやヴィンの娘はもう一人のキャサリンにそっくりなのか…?


このパートも核心までもう少しだろうか

天田のホットミルクを悠が飲むだと・・・!!

アニメの番長なら影完二のこと可愛いて言ってたからあるかもしれん

つーか天田君、牛乳苦手っつてたけど、
流石にもう飲んで腹壊す事は無くなったんだな。
背も大きくなったのだろうか

>>197
マジレスすると、牛乳に含まれる乳糖が主な原因だが、天田の場合もそうだとすると
牛乳を飲み続ければ慣れて分解できたりする。
ただし、20歳ほどまで。それ以降はなれるのが難しい

紙パックの牛乳を直でがぶ飲みしながら読んでたわ……

>着替えを済ませ携帯をチェックするとメールを一件受信しているのが確認出来た。

>ここ数日、これもパターン化してきているような気がする。

>となると、差出人はやはり……

>……



from:白鐘直斗

こんばんは。

突然のメール失礼します。

何やら港区方面で不穏な事件が多発しているようなので心配になってメールしました。

気になったので僕の方でも色々調べたりしていますがなかなか難しい事件のようですね。

というよりも、死体の状況から考えてもとても人為的なものには思えない。

先輩達も言っていましたが、やはりシャドウが関係した事件なのでしょうか。

そういう事になると、先輩やそちらのお仲間もこの件に深く関わる事になる訳で、余計に心配です。

僕も現地で詳しく調べられればいいのですが…。

何かあったらメールでも電話でも一報貰えたら嬉しいです。

それでは。おやすみなさい。



>……

>この文面からすると直斗もおそらく大した情報は掴めていないのだろう。

>こちらでもシャドウが絡んでいる事件なのかどうなのか未だにはっきりしなくて困っているという旨を伝える文だけ打ち、自分が置かれている状況などは伏せて、返信を送った。



コンコン


アイギス「鳴上さん、おはようございます」

ラビリス「おっはよー!」

メティス「具合の方はいかがですか?」


>アイギス達が迎えにきてくれたようだ。


鳴上「おはようみんな。具合の方は大分マシになったから」

アイギス「じゃあ今日は……」

鳴上「はい。約束通りに」

ラビリス「ホントに? やったー!」

メティス「……。熱も引いたみたいですし、嘘じゃないようですね」

メティス「よかった……」


>三人とも喜んでいるようだ。


鳴上「……ところで、なんでメティスとラビリスは制服?」

アイギス「それなんですが、実は二人には制服以外の外出用の普段着がないんですよ」

アイギス「今日はそれを見立てに行こうかと思いまして」

鳴上「あ、なるほど」

アイギス「本当は美鶴さんにも同伴していただく予定だったんですが忙しいみたいで……」

アイギス「私も、どういった服装がいいのかあまり知識がないので、鳴上さんのお力をお借り出来れば助かります」

鳴上(あまり変な恰好はさせられないよな……)

アイギス「じゃあ、行きましょうか」


>寮を出て街に買い物へ出掛けた。

>……


鳴上「……さて。まず初めに聞いておきたいんだけど、二人はどんな雰囲気の服装がいいんだ?」

ラビリス「んー、どんなって言われてもなあ。……あんまごちゃごちゃしてなくて、動きやすいのがええかな」

メティス「私もあまり派手なのはちょっと。おとなしい感じのがいいです」

鳴上「そうか。とりあえず色々と店を回って見てみた方がいいかな」

アイギス「そうしましょうか」


>……


ロサカンディータ 辰巳店


鳴上「なんだか全体的に凄く値段が高そうな店だ……」


>店の中は物静かでシックな音楽が流れている。

>客層は二十代半ほどの女性が多く、自分の存在が場違いっぽく思えてきた……


アイギス「こんな場所にこんなお店があったのですか。初めて知りました」

メティス「どちらかというと美鶴さんに似合いそうな服が多い場所のように感じます」

ラビリス「なあなあ、見て! この服紙で出来とる! 面白いわあ」

鳴上「値段は……15万!? 高校生が買い物する場所じゃないな……」

アイギス「美鶴さんから現金で30万ほどいただいてきていますけど、流石にそれは無理な買い物ですね。メティスと姉さんとで一着ずつしか買えません」

鳴上「さんじゅっ……」

メティス「アイギス姉さん。私の洋服は自分のお金で買います。アルバイトでもらったお金、持ってきたから」

アイギス「そんな気を使わなくてもいいのよ? 美鶴さんもそう言ってたし」

メティス「でも……」


ラビリス「買う買わんは置いといて、試着だけでもしてみてええかな?」

鳴上「いいんじゃないか? それはタダだし……あ、さっきの紙のやつはやめとけ。破けたら後が困る」

ラビリス「じゃあ、この辺のテキトーに……あ! アイギスに似合いそうなのみっけ!」

アイギス「え? 私に、ですか?」

ラビリス「着るだけならタダなんよね? ならアイギスも一緒に着替えてみよ!」

メティス「そうです! アイギス姉さんも是非!」

アイギス「なんだか似たような事がつい最近あったような……」


>アイギスはラビリスに半ば強制的に試着室へと押し込められた。


メティス「私はこの黒いの着てみようかな。ラビリス姉さんはこの白いのなんかどうですか?」

ラビリス「あ、うん。なんかそれいいな。着てみよー」

ラビリス「アイギスはもう着替え終わったー?」

アイギス「ちょっと待ってください。なんだかこれ、すごく着にくいです……」

ラビリス「どれどれー?」


>ラビリスは自分が試着する服を持って、アイギスのいる試着室へと遠慮なく入っていった。


メティス「あの、私も一緒に着替えていいですか? どこも使用中みたいで……」

ラビリス「ええよええよ」

メティス「じゃあ、失礼して」


>メティスもラビリスに続いて中へと入っていった。


ラビリス「……ん? これ、どうやったら着れるん?」

アイギス「ここは……こうじゃないですか?」

メティス「き、きつい……」

アイギス「……。なんだか、おかしな事になっているであります」

ラビリス「え? あれ? ……んー?」

メティス「きゃっ! ね、姉さんたち、あまり動かないでくださいっ。ぶつかって痛いです……」

鳴上「……」

鳴上「み、みんな平気か?」

メティス「……鳴上さん」


>急に試着室のカーテンが開いた。


メティス「この背中のファスナーのところ、上がらないのでやってもらってもいいですか?」

鳴上「!?」


>そこにはまだ着替え途中な上、背中が丸見え状態で後ろを向いているメティスの姿があった。

>ちなみに、アイギスとラビリスもまだ奥の方で服を着るのに手間取っているようだ。


鳴上「あっ、開けるな! 見える! 見えるから!」

鳴上(主にロボ的な部分がッ!)

マヌカン「あの、お客様。他のお客様のご迷惑になりますので、もう少しお静かにお願いいたします……」

鳴上「すっ、すみません!」

メティス「きゃっ!?」


>急いでカーテンを閉めて事無きを得た……

>その後、試着もほどほどにし、結局何も買わずにその店を出た。

>ありがとうございましたと頭を下げるマヌカンの額に、うっすらと青筋が立っていたように見えたのは気のせいだと思いたい。

>……


アニマムンディ 辰巳店


アイギス「ここも初めて見る店であります」


>先程の店とは打って変わって、今度は高校生くらいの男女を中心とした若者向けの店のようだ。

>見た目が華やかで派手なものが多く、これから夏に向けてか薄着な服を大々的に売りに出している。


メティス「これはちょっと……」

アイギス「メティスたちが着るにはちょっと無理なものが多いような……」

鳴上「半袖やホットパンツなんて無理だよな」

ラビリス「……あ! これ!」

鳴上「ん?」


>ラビリスは男物のハイビスカス柄のアロハシャツを手にとっている。


ラビリス「悠! 着てみて!」

鳴上「えっ、俺!?」

ラビリス「ウチらの着替え見てるだけじゃつまらんやろ? さあ!」

鳴上「いや、俺はそれでも別にいいというか、むしろそれがいいというか……ちょっ、うわっ!」


>アロハシャツを持たされて、試着室へ押し込まれた。


ラビリス「早く! 早く!」


>どうやら着てみせるしかないようだ……

>……仕方なく、着るだけ着てみる事にした。


>……


鳴上「……」

ラビリス「……」

メティス「……」

アイギス「……」

ラビリス「……っ」

ラビリス「……ちょっ……悠のそのカッコ、なんかツボ……ツボに入ったわ! ふ、ふひひ、あはははっ!」

メティス「ラ、ラビリス姉さん! 変な笑い声上げないでくださっ……恥ずかし……くっ、うくくく……っ!」

ラビリス「メ、メティスこそ! あはっ、あはははははは!」

鳴上「……」

アイギス「……こういう時に使う言葉をひとつ、知っているであります」

アイギス「ぷぎゃー」

鳴上(なんかもう、そっとしておいてほしい……)

ラビリス「さーて、次はどれ着てもらおっかなー♪」

鳴上「まだ何か着せる気なのか!?」

メティス「こんなのはどうですか?」

アイギス「案外こういうのとかも……」

鳴上「いや……それは……やめっ……うわああああああ!」


>……三人に気が済むまで遊ばれた。

>……

>その後も色々な場所を回り、時間をかけて品定めした結果、外に着て出てもおかしくない各々の気に入った服を何着が買う事が出来た。

>……余談だが、さっきのアロハシャツはまた着ているところが見たいと言われて、自分の金で買う事になってしまった。

>そんな事もあったりしたが、長い間様々な服に着替えて遊ぶ三人を間近で見れたのは眼福だったと言えよう。

>……心の栄養を補給出来たような気がする!


アイギス「ちゃっかり私の分まで買ってしまったのはいいんでしょうか……」

メティス「美鶴さんからもらったお金はまだだいぶ余ってるみたいだから、そのくらいはいいんじゃないですか?」

アイギス「……そうね。でも、使わなかった分はちゃんと美鶴さんに返して話しておきましょう」

鳴上「あ、アイギスさん。そっちの荷物も持ちますよ」

アイギス「すみません。ありがとうございます」

ラビリス「……」

鳴上「? どうかしたのか、ラビリス」

ラビリス「……いやな、ウチ前からちょっと気になってたんやけど」

ラビリス「なんで悠はアイギスにはさん付けで敬語なん?」

ラビリス「ウチの方がお姉さんなのにー」

鳴上「え? いやほら。それは初めて会った時は、ただの寮監さんだと思ってた訳だし、その時からの癖で……」

ラビリス「うーん、でもなあ」

ラビリス「……あ。別に、ウチにもっとかしこまれーとか、ラビリス様とお呼び! とか言いたい訳やないんよ?」

ラビリス「ただ、アイギスにだけ余所余所しい感じがすんなあ……って」

鳴上「……うーん。そうかな」


>しかし、今更それを変えるのもちょっと……という気もする。

>アイギスの方はどうなのだろう、と視線をちらりと向けた。


アイギス「……」

アイギス「そう、ですね。私もラビリス姉さんの言う通りだと思います」

鳴上「え?」

アイギス「鳴上さんがよろしければ、私のことはこれからアイギスとお呼びください」

アイギス「敬語もいらないですから。……どうでしょうか?」

鳴上「……えっと。それじゃあ」

鳴上「……

鳴上「改めてよろしく。……アイギス」

アイギス「はい。よろしくお願いします」


>やはり少し気恥ずかしい気もする……


メティス「……!」

メティス「鳴上さんが、アイギス姉さんを……呼び捨てに……?

メティス「……」

アイギス「どうしたの?」

メティス「……なんだかすごく、許せない気持ちになってきました」

アイギス「?」


>メティスがどす黒いオーラを放ちながらこちらを睨んでいる……


アイギス「あ、ならば私もラビリス姉さんに倣って、これから悠さんとお呼びしてもいいでしょうか?」

鳴上「ん……ああ、俺はいいけ……ど……?」

メティス「ッ……!」

メティス「姉さんまでそんな鳴上さんに……親しげに……!」

鳴上「ちょ、ちょっと、メティスさん?」

アイギス「……ああ! そうね。メティスも悠さんって呼びたいのね」

メティス「違います! 呼びません! 呼んだりなんかしないんだからっ!」

メティス「……フン!」


>メティスはそっぽを向いてしまった。


>……と、その時、不意に誰かに背中を強く押された。


不良A「おうおう兄ちゃん、女侍らせていい気なもんだなあ……ええ?」

不良B「往来でイチャイチャイチャイチャしてんじゃねえぞ、ゴルァ!」

不良C「ねーねーカノジョ達、そんなヤツほっといてオレ達とイイトコいかなーい?」

メティス「……」


>そこには、サングラスにリーゼントのいかにも……な男達がいた。

>しかし、ここまで前時代的な不良なんて八十稲羽でも見た覚えがない気もする。

>完二の方がよほど可愛らしく思えてくるくらいだ。

>だが、このままではまずい気がする……


鳴上「あの、やめた方が」

不良A「ああん?」

不良B「テメェは黙ってろ!」

不良C「ねーねー、いいデショ? いこーよ」


>不良の一人がアイギスの腕を掴んだ。

>……瞬間、その一人の体が宙に浮き

>見事なまでに仰向けにひっくり返っていた。


メティス「汚い手で姉さんに触れるな!」

不良C「うがっ……」

不良A「な、なんだこの女……ひいっ!?」

アイギス「警告します。直ちににここから立ち去りなさい」


>アイギスは残りの不良の一人の首に手刀を当てている。そして……


ラビリス「はいはーい。これ以上なんかしようとしたら、どこまでやったら肩が外れるか試させてもらうでー」

不良B「いでででででででででででで!」


>ラビリスは三人目の不良の背後にまわり、彼の背中を膝で押しながら両腕を思い切り引っ張っていた。

>どうやらまずい事が起きるのを止められなかったようだ……

鳴上「だからやめた方がって言ったのに……」


黒沢「お前達、そこで何してるんだ!」

鳴上「!」

不良A「やべえ、サツだ! 行くぞ!」


>不良達は倒れていた一人を担いで一目散に逃げ出した。


黒沢「こら! 待て!」


>黒沢は不良達を追い掛けていってしまった。


達哉「まったく、何事かと思えばお前達か……」

鳴上「周防さん!」

メティス「あ……」

アイギス「お疲れさまです」

達哉「そう思うんなら疲れる事を増やさないでくれ」

ラビリス「誰や? その人」

達哉「ん? そっちは新入りか?」

達哉「……とにかく、お前達は自分の置かれてる立場を考えて、あまり目立つような行動はするんじゃない」

鳴上「す、すみません。気をつけます……」


>周防にこってり絞られた……

>……

>その間、不意に周防が抱えている持ち物に視線がいった。


鳴上「……あれ? その本はまさか」

鳴上「漢の世界シリーズの……」

達哉「!!」


>瞬間、周防の目の色が変わった。


達哉「知っているのか、鳴上!」

鳴上「あ、はい。愛読書の一つですけど」

達哉「そうか……!」


>周防にガシッと手を掴まれた。


達哉「まさか、鳴上が同志だったとはな」

鳴上「という事は、周防さんも……?」

達哉「ああ。このシリーズの大ファンだ」


>意外なところで思わぬ繋がりを発見してしまった……!


男ってのはな…(渋い声で)

達哉「……ならば鳴上。このシリーズの最後に出た本は持っているか?」

鳴上「はい、持ってます」

達哉「そ、そうか! ……じゃあ、それを貸して貰う事は出来るだろうか?」

達哉「実はその最終作だけずっと買うタイミングを逃していてな……本屋に足を運ぶ暇もなくて、未だに入手出来ていないんだ」

達哉「……だから頼む、この通りだ!」

鳴上「もちろん、お安いご用ですよ」

達哉「! すまない、感謝する……!」


>周防は心底喜んでいる。

>それからしばしの間、周防と漢とは何か語り合った。

>周防と心が通じ合った気がする……



>『ⅩⅨ 太陽 周防達哉』のランクが5になった



達哉「……ゴホン。まあ、あれだ。今日のところは鳴上に免じて大目に見ておこう」

達哉「じゃあ近い内に……な」

鳴上「はい。近い内に」


>周防はこの場から去って行った。


ラビリス「結局あの人って……?」

鳴上「漢の中の漢な刑事さんだ」


>……


鳴上「あー……っと、みんなさっきは平気だったか?」

アイギス「大丈夫ですよ」

ラビリス「ウチもー」

メティス「ええ。むしろ、スッキリしました」

鳴上「は、はは……」


>メティスはさっきまでの不機嫌はどこへいったのやら、清々しい顔をしている。


鳴上「周防さんに注意されたし、そろそろ寮に戻ろうか」

アイギス「そうですね」

メティス「はい、行きましょう」

ラビリス「帰ろー!」


>みんなで寮へ戻る事にした。

>……なんだかんだあったが、三人とはまた仲が良くなれた気がする。



>『Ⅴ 法王 メティス』のランクが3になった

>『Ⅶ 戦車 アイギス』のランクが4になった

>『ⅩⅥ 塔 ラビリス』のランクが2になった



>……



学生寮 ラウンジ


コロマル「ワンッ! ワンッ!」

鳴上「うわっ!」


>学生寮の扉を開いた瞬間、中からコロマルが飛び出してきた。


アイギス「ただいまです。コロマルさん」

ラビリス「あはは、コロは元気やなー」

コロマル「ワンッ!」


>コロマルはしっぽを振りながらズボンの裾をくわえてグイグイと引っ張ってくる。


鳴上「どうしたんだ?」

メティス「みんなで出掛けてずるい。自分も散歩に行きたい、鳴上さんと遊びたい、と言っています」

鳴上「そういえば、コロマルとの散歩もしばらくしてなかったな」


>コロマルは期待するような目でこちらを見つめていた。


鳴上「……よし、行こうか」

コロマル「ワオーン!」


>コロマルは嬉しそうにぐるぐると走り回っている。


ラビリス「じゃあ、ウチも行く! 買った服着て行く!」

メティス「じゃ、じゃあ私も……!」


>二人ともさっそく手に入れた服を着て出かけたいようだ。


鳴上「じゃあ、メティスとラビリスの準備が出来たら行こう」

アイギス「私は留守番をしていますから、皆さんで行ってきてください」


>再び出掛ける用意を調えてから、コロマルを連れて散歩に出掛けた。

>……



長鳴神社


>コロマルの向く足のまま歩いてやってきた場所は、やはり神社だった。


コロマル「ワンワンッ!」

メティス「コロマルさんが、駆け足の競争をしようと言っています」

ラビリス「お、勝負か! 乗った!」

鳴上「俺、一応病み上がりなんだけど……ま、いっか」

コロマル「ワン!」

メティス「では、私がジャッジをつとめる事にしましょうか」

メティス「そうですね……この神社の外周を三周するというのはどうでしょう」

ラビリス「ウチはそれでええよ」

コロマル「ワンワンッ」

鳴上「わかった」

メティス「では並んでください。いいですか? 位置について、よーい……ドン!」


>……


コロマル「ワン!」

鳴上「は、早すぎだろ……二人とも……」

ラビリス「悠はこれしきの事でバテたんかいな。まだまだやねー」

コロマル「ワオン!」


>コロマルもラビリスも余裕綽々で勝ち誇ったようにしている。

>なんだかとても悔しい……


鳴上「もう一回勝負だ!」

ラビリス「やる気やなー! よっしゃ、やったる!」

コロマル「ワンッ」

メティス「ん? またですか?」

メティス「では皆さん一列に。……位置について、よーい……ドン!」


>……


鳴上「くそ……また最下位か……」

ラビリス「コロもなかなかやるわぁ」

コロマル「♪」


>コロマルは得意げな素振りを見せてから、神社の中をまた走り出した。


鳴上「俺も修行が足りないな……」

鳴上「……」

鳴上「……? どうしたんだ? コロマル」


>コロマルは神社の中を落ち着きなくキョロキョロと見回している。


メティス「どうしたんですか? コロマルさん」

コロマル「ワン、ワンワン、ワンッ!」

メティス「はい……そうなんですか」

鳴上「なんだって?」

メティス「なんでもお仲間の気配を感じたような気がしたんだそうです」

鳴上「仲間? って、犬の……って事か?」

メティス「おそらく」

ラビリス「でもこの辺にいるワンコなんて、見る限りコロしかおらんよ?」

コロマル「クゥーン?」

鳴上「コロマル……もしかして、犬の友達が欲しいのか?」

コロマル「!」

コロマル「ワンッ!」

メティス・ラビリス「なるほどなー」

鳴上「そっか……」


鳴上「ごめんな。今は人間の遊び相手で我慢してくれな」

コロマル「ワンワン、ワンッ」

メティス「鳴上さんと遊ぶのは楽しいから問題ないと言っています」

鳴上「じゃあ、もう少し遊ぼうか」

鳴上「ワンッ!」


>コロマルが飽きるまで遊びに付き合った。


>『ⅩⅠ 剛毅 コロマル』のランクが3になった


>空も橙色になってきたので引き上げる事にした。

>……


学生寮 ラウンジ


美鶴「……ん? ああ、ちょうど良かった。みんな、お帰り」

ラビリス「あ、美鶴さんや」

メティス「なんだかお久しぶりのような気がしますね」

鳴上「ただいまです」

美鶴「ああ」

美鶴「今日はすまなかったな。一緒に買い物についていけなくて。鳴上が代わりに同伴したとアイギスから聞いたぞ」

鳴上「あ、はい」

美鶴「具合の方もよくなったみたいだな」

鳴上「あ……その節はとんだご迷惑を……」

美鶴「そう畏まるな。元気になったのならそれでいい」

美鶴「それより、今日は鳴上の見舞いとみんなへの差し入れを兼ねて、ケーキと紅茶を用意してきたんだ。みんなでいただこうじゃないか」

鳴上「ありがとうございます」

美鶴「ん……ところで、天田はどうした? さっきから姿を見かけないんだが」

メティス「そういえば、朝から見かけていませんね」

美鶴「じゃあ、部屋にいるのか?」

鳴上「っ……!」

鳴上「ちょっと俺、様子を見てきます!」

>……


天田の部屋 扉前


>ドンドンと何度か大きく扉を叩いた。


鳴上「天田! いるなら返事をしろ!」


>再び扉を、より強く叩いた。


鳴上「天田!」


>……それから少しして、内側からガチャリと鍵の開く音がした。


鳴上「!」

天田「……なんれすか? ふぁ……」


>目を擦りながら、天田が顔を出してきた。


鳴上「よかった……今日一日姿が見えないっていうから、てっきり……」

天田「やだなあ、縁起の悪い事言わないでくださいよぉ」

天田「ずっとベッドで横になってただけですってば」

鳴上「……大丈夫か?」

天田「大丈夫です。……って、はっきり言えないのが辛いですけど、まだ生きてますから。それで十分でしょ?」

鳴上「ん、そうだな……」

鳴上「……あ。桐条さんが、みんなに紅茶とケーキを用意してくれたって話なんだけど」

天田「ケーキですか。じゃあ、ごちそうになろうかな」

鳴上「じゃあ、いこう」


>天田を連れて一階へ降りた。

>……

>ラウンジにはいつの間にかアイギスも揃っていてみんな座っており、テーブルにはケーキと紅茶が綺麗に用意されて並んでいた。


美鶴「みんな揃ったようだな。では、いただこう」

アイギス「コロマルさんには高級ドッグフードですよ」

コロマル「ワンッ!」


>和やかなティータイムが始まった。

>……


鳴上「……ずっと気になってたんだけど、メティスたちも食事って出来たんだな」

メティス「はい。ただ、食物の摂取が可能なだけで必要不可欠という訳ではないので……」

ラビリス「味なんかはどうもなー。体の中に入ると、原材料名がばーっと頭に思い浮かんでくるだけやし」

メティス「私には一応、実験的に味覚を搭載してはいるらしいのですが……今のところは、ラビリス姉さんの言ってる事と大差はないようです」

メティス「このケーキというものに対して、美味しいだとか不味いだとかいう感想までは思い浮かばないです」

メティス「でも……こうして皆さんとおやつを食べるってなんか良いですね」


>メティスが微笑み、それにあわせてアイギスの表情も緩んだ。


美鶴「鳴上はどうだ?」

鳴上「はい。ケーキもですが……何より紅茶が美味しいですね」

鳴上「俺、叔父さんの家ではよくコーヒーを飲んでたんですけど、紅茶も悪くないなあってそう感じました」

天田「僕もですね。この紅茶、いい香りがする……安物じゃないですね」

美鶴「私オススメの茶葉のひとつだ。気に入ってくれたなら何よりだ。リラックス効果も促せる代物だぞ」

美鶴「ここのキッチンに置いておくから、みんな好きに飲むといい。なんなら他にも色々と用意するぞ?」


>美鶴は紅茶が好評で喜んでいるようだ。

美鶴「たまにはこうしてみんなでお茶会をしてみるのも悪くないな」

鳴上「そうですね。なんかいいです、こういうの。新鮮な感じで」

美鶴「……そうか」

美鶴「……」

美鶴「あの、な……鳴上」

鳴上「はい?」

美鶴「この間は……悪かったな、頭ごなしに急に怒鳴ったりしてしまって」

鳴上「え? ……ああ、車で送ってくれた時の事ですか?」

鳴上「桐条さんが謝る事じゃないですよ。むしろ俺の方が……」

美鶴「いや……」

美鶴「君を心配するあまりつい短気を起こしてしまって、私も大人気なかった」

美鶴「昔からの私の悪い癖でな。どうにもこれだけは治しようもなくて……」

美鶴「その、気を悪くしないで欲しい」

鳴上「だから気にしてませんってば」

美鶴「そう、か」

美鶴「よかった……」

鳴上「紅茶、もっといただいても良いですか?」

美鶴「あ、ああ! 好きなだけ飲んでくれて結構だ」


>美鶴なりに気を回してくれてのお茶会だったのだろうか。

>美鶴の優しさが伝わってくるような気がする……



>『Ⅲ 女帝 桐条美鶴』のランクが3になった



>その後も、もうしばらくみんなと談笑しながら一時を過ごした。

>……しかし、こうものんびりばかりしていられない。

>暗くなったら、またあの時間に彼に会いにいこう。


>……


【夜】


クラブ エスカペイド


>今夜もまた、いつものあの場所に彼は一人でグラスを傾けていた。

>彼も、そろそろかと勘付いていたのか、声をかけようとした直前に、来たのを察知したかのようにこちらへと振り返る。


ヴィンセント「……よ」

鳴上「こんばんは」


>こちらを見たヴィンセントの顔は、少しやつれているように見えた。

>やはりあの夢が原因か……


ヴィンセント「調子はどうだ」

鳴上「ぼちぼち……って、とこですかね」

ヴィンセント「ふーん、そっか……」


>ヴィンセントはまたグラスを傾けて、少しの間黙り込んだ。

>話をしにきた筈なのにどう切り出したらいいのか解らなくて少し気まずい……


鳴上「……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「なあ。今更で悪いけど……鳴上はさ、毎晩こんな時間にこんな場所に来て平気なのか?」

ヴィンセント「親御さんも心配するんじゃないのか」

鳴上「……いえ。学校の寮住まいなんで。夜中も外出許可は出ているから平気です」

ヴィンセント「ふうん? 寮って規則とかもっと厳しいもんだと思ってたけど、そうでもないのか?」

鳴上「たぶん、俺のいる寮くらいじゃないかな。こんなに自由なのは」

ヴィンセント「へえ……」

鳴上「ヴィンセントさんこそ毎晩こんな店に来て、奥さんに何か言われないんですか?」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「夜の飲みは控えろとは言われてるよ。でもここはアルコールないし、それに……」

ヴィンセント「ここだけの話、なんだけどな」

ヴィンセント「今はあまり、嫁の顔も……娘の顔も見たくないんだよ」

ヴィンセント「だから許される時間の範囲でここに来て時間を潰してるって訳さ」

鳴上「え……」


鳴上「何でまた? ……なんて、聞いてもいいですか?」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「そう、だな。言葉にして誰かに聞いて貰えたら、少しはすっきりするのかもしれないし……」


>ヴィンセントは一呼吸置いてから、話の続きを始めた。


ヴィンセント「昨日も娘の話はしたよな?」

鳴上「はい。一歳になる娘さんがいるんですよね?」

ヴィンセント「そう。その娘さ……実を言うと、名前が嫁と一緒なんだよね。字は違うんだけど」

ヴィンセント「最初は紛らわしくなるからって反対したんだけどさ。でも嫁が縁起がいい画数だからとかなんとかって言って、押し切られちゃって」

ヴィンセント「でも、俺がその名前を反対した本当の理由は……」

鳴上「……理由は?」

ヴィンセント「……昔、浮気していた相手と同じ名前だったから」

鳴上「!」

鳴上「……ん、あれ? 奥さん、ヴィンセントさんが浮気してた事、知らなかったんですか?」

鳴上「それとも、名前は知らなかったとか? だってそうでもないと、普通旦那が浮気してた相手の名前なんて子供につけないですよね?」

ヴィンセント「だよな? そう思うよな?」

ヴィンセント「でも、嫁は俺が浮気してた事だって浮気相手の名前だって知ってた筈なんだよ」

ヴィンセント「だから、最初何かの嫌がらせが悪い冗談なのかと思ってた……」

ヴィンセント「でも、そうじゃなくて」

ヴィンセント「まるで最初からそんな女なんていないし知らないとでもいうようにその名前をつけた」

鳴上「……」


ヴィンセント「当時はそれが本当に不気味で仕方なかった……」

ヴィンセント「でも、そんな事もう気にしないようにしようって言い聞かせながら暮らしてきたんだよ」

ヴィンセント「それでじゅうぶん幸せにやってこれたんだ」

ヴィンセント「……つい、最近までは」

ヴィンセント「またあの夢を見始めるようになってからだよ」

ヴィンセント「娘の顔が、何故か浮気してた女に見えてくるようになったのは……!」

鳴上「!?」

鳴上「そっ……そんな事……!」

ヴィンセント「おかしいだろ? おかしよな!? そんな訳ある筈ねえよ!」

ヴィンセント「だって娘は、俺と彼女の子供で!」

ヴィンセント「彼女が産んだ子で!」

ヴィンセント「名前が同じなだけで、浮気の相手の子でも、ましてや浮気相手そのものでもないのにっ……!」

ヴィンセント「頭がどうかしちまってんだよ、俺……」


>ヴィンセントは言いたい言葉を吐き散らした後、頭を抱えて黙ってしまった……


ヴィンセント「……悪い。子供相手にみっともないトコばっか見せて」

鳴上「いえ……」

ヴィンセント「……あの夢はたぶんさ、俺に昔の事を忘れるなって警告してるんじゃないかと思うんだ」

ヴィンセント「だって。……」

ヴィンセント「それか、今度こそ死んじまえって浮気相手にでも呪われたかかな……ハハッ」

ヴィンセント「……死ぬのかな、俺」

鳴上「そんな……弱気になったらダメですよ!」

鳴上「ヴィンセントさんが死んだら、奥さんや娘さんだって悲しむんですよ?」

鳴上「……俺だって、ヴィンセントさんがいなくなるなんて嫌です」

鳴上「せっかく知り合いになれたのに……」


ヴィンセント「っ……」

ヴィンセント「……お前、結構恥ずかしい事言うヤツだな」

ヴィンセント「でも、なんかちょっと……軽く頭殴られた感じがした」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「俺もさ、こうやって年の離れた珍しい知り合いが出来たのに……すぐ別れる事になるのは嫌だな」

ヴィンセント「……うん、そうだ。そうだよな」


>ヴィンセントは強く頷いた。


ヴィンセント「やっぱ、お前に話して正解だったわ。ちょっとは胸のつかえがとれた感じがする」

ヴィンセント「ありがとう。……今夜はもう帰るよ」

鳴上「はい」

ヴィンセント「じゃあ、またな」


>ヴィンセントは軽く肩を叩いて店から去っていった。



>『ⅩⅤ 悪魔 ヴィンセント』のランクが6になった



>この悪夢との戦い……

>もうこれ以上いたずらに長引かせる訳にはいかない……

>……決着をつけにいこう。



>…
>……
>………




Night mare


第七階層 第一エリア


>……

>今夜も、石の山は高く聳え立っている。

>もうこれしきで怖じ気付く事もないが……

>……しかし、今回はまた一番上に行くまで先が長そうだ。

>奴がそうさせているのだろうか。

>告解室に居座っているアイツが……

>……



踊り場


鳴上「……」


>登った先にあったのは、自分一人だけの踊り場という絶望だった。

>自分以外の気配がまるでしない。

>あるとしたらそれはおそらく……

>もう、あの告解室しかない事はわかっている事だった。

>……


告解室



代行人「ふふ……ふふふ」


>室内に不気味な笑い声が響いている。

>今夜は今までで一番、代行人の様子がおかしい事はそれで明らかだった。

>だからといって……自分がする事に何も変わりはない。

>特に挨拶を交わすこともなく、まずは腰を落ち着けた。


代行人「ああ……おかしい。おかしくてどうにかなりそうだ」

鳴上「……」

代行人「くくっ……このステージに相応しい最高のショーを思いついたんだよ……ははっ」

代行人「今夜もまた、最後の告解室までたのしい質問タイムはお預けだ」

代行人「俺も時間が惜しいなんて思う日がくるなんてね。お前に早く上まで来て貰いたいんだ。ふふっ、あはは」

代行人「……来いよ。さあ早く!」

鳴上「……」

鳴上「言われずとも」


>……

>登っている間は、孤独との戦いになっていた。

>踊り場だけではない……

>この石の山には、誰もいない。

>もう誰も。

>一緒に登る羊も、その声すらも。

>見えない、聞こえない。

>誰もいない。誰もいない。

>ひとりだ。

>ひとりきりなのだ……

>……


踊り場


>今回はもう、いくつのエリアを越え、いくつの踊り場を通過したのか数えるのもやめてしまった。

>……

>他の羊は、やはり……

>……


鳴上「――!?」


>顔上げると、告解室の前に一匹だけ羊がいるのが目に飛び込んできた。

>自身を招かれざる羊だと称した……イヤホンの羊だ。

>彼はゆっくりとこちらを振り返った。


イヤホンの羊「やあ」

鳴上「っ……」

イヤホンの羊「どうしたんだい。そんな顔をして」

鳴上「だって……」

鳴上「……」

イヤホンの羊「……」

イヤホンの羊「君はどうも少し勘違いをしているみたいだ」

鳴上「……?」

イヤホンの羊「君はね」

イヤホンの羊「俺が託した事をきちんとやり遂げてくれているよ」

鳴上「え……」

イヤホンの羊「上だけをみろ、なんて言ったのが間違いだったかな」

イヤホンの羊「ここから少し、下を見てごらん」

イヤホンの羊「そして、耳をすませて」

鳴上「下……?」


>踊り場へと繋いでいる階段があるところから、下へと覗きこんだ……

>……

>……?

>微かに何か聞こえてくる……?

>足場が崩れるあの振動音とは違う。これは……

>声、だ。



『……みんな! 挫けるなよ!』

『続け! 前の羊に続くんだ!』

『諦めなければ登りきれるさ!』

『先頭にいる、あの羊のように、な!』



鳴上「これは……他の羊たちの、声?」


>姿をはっきり目視する事は出来ないが、他の羊たちが励まし合い言葉を掛け合いながら、上を目指しているのがわかる。

>まだ、だいぶ下の方なのかもしれないが、確実に登ってきているのだ……


イヤホンの羊「そう」

イヤホンの羊「君の周りに誰もいなかったのは……」

イヤホンの羊「はるか一番先頭で、君が登っていたからだ」

イヤホンの羊「そして他のみんなは、そんな君の姿を励みにしてここまで登ろうとしている」

イヤホンの羊「まだ来るまでにだいぶかかりそうではあるけどね」

鳴上「……良かった」

鳴上「良かったっ……」

イヤホンの羊「……まだ安心するのは早い」

イヤホンの羊「この先にあるラストステージを登り切らなければ……」


>イヤホンの羊は、上を差している。


イヤホンの羊「この先は、俺も見た事がない」

イヤホンの羊「だから……気を……つ……」

鳴上「!?」


>イヤホンの羊の体が徐々に薄れていく……


イヤホンの羊「本当に……これが……最……後……」

イヤホンの羊「……」


>イヤホンの羊は何かを伝えようとしていたが、それが終わる前に完全に消えてしまった。


鳴上「っ……」

鳴上「ラストステージ……」


>……


告解室


鳴上「来たぞ」

代行人「くくく……待ちくたびれてたところだ」

代行人「やっと来てくれたんだな! 嬉しいよ!」

代行人「ふ、ふふふ……!」


>代行人の不気味な笑い声は止まらない……


代行人「さあ、まずはショーの前の前座といこう!」

機械的な声「第七問です」

機械的な声「               」 


>『  』と『   』のロープが垂れ下がってきた。


鳴上「っ……」

代行人「……」

鳴上「……」

代行人「……ふ」

代行人「ふ、は」

代行人「ふははははははははははッ!」

代行人「そうだよな! ああ、そうだろうとも!」

代行人「その答え、しかと刻んだ!」

代行人「じゃあ、行こう! 今夜は……」



代行人「俺も一緒だ」

鳴上「ッ!?」


>告解室が上昇していく……

>……


第七階層 最終エリア


>周りはとても薄暗い……

>辛うじて何処に何があるのかくらいは解るが、歩くだけでも至難の技になりそうなくらいだ。

>早く目が慣れればいいが……

トントン

>……背中を誰かが叩いている。


?「よっ」

鳴上「! その声はっ……代行人か!?」


>距離をとり、後ろを振り返った。

>そこには……今まで周りがみんなそうだったように。

>羊が一匹、いた。


代行人「言っただろ? 俺も一緒だって」


>その羊から発せられているのが、紛れもない代行人の声だった。


鳴上「お前、その姿は……」

代行人「いつか言ってたよな」

代行人「あまりふざけた事してるとジンギスカン鍋にしてやるとかってさ」

代行人「……出来るもんならそうしてみろ、って事だよ」


>そう告げると代行人はその場から走り出し上へと目指して登り始めた。


鳴上「あっ……オイ!」


>それを追いかけようと足を踏み出した。


鳴上「まさか、この追いかけっこがお前の言う最高のショーだって言うのか!?」

代行人「ああ、そうだとも! これ以上ない演出だと思わないか?」

鳴上「ふざけるなッ!」


>まさかここに来て、追いかけられる側から追いかける側になるとは……


代行人「あー、一応言っておくけど」

代行人「お前だっていつものように追いかけられてるって事、忘れるなよ?」

鳴上「ッ――!?」


>その言葉を耳にすると同時に、背筋に寒気が走った。

>追いかけられている――?

>そんな気配なんて、さっきまで……


代行人「ほら、すぐ後ろ」


>前を行く代行人の視線が自分の背後を見つめていた。

>その視線を追う。

>後ろを振り返った。

>そこにあったのは……

>闇だった。

>黒く蠢くその闇は、人のかたちを象っている。

>それは真っ黒な大きな体に顔だけ仮面を被り素顔を隠してそこに存在していた。

>ただ静かに、静かに、自分の背後にじりじりと寄ってくる……


代行人「俺に追いついて上まで登りきれたらお前の勝ち、途中でアイツに捕まったらお前の負けってところだな」

鳴上「なんっ……だよ、あれは!!」

黒い巨人「■■■■■■■■■!!」

鳴上「っ……!?」


>黒い巨人は声を発しているが、それを意味のある言葉として認識する事は出来なかった。

>これは言葉というよりも慟哭に近い……そう感じた。


代行人「アイツが何を言ってるかわからないって?」

鳴上「!」

代行人「俺にはわかるよ」

代行人「でもお前には教えない」

鳴上「……別に、俺は」

代行人「だってお前は、わからないんじゃなくて……」

代行人「            」

鳴上「えっ……?」

代行人「……」


>一瞬、代行人の声が聞こえなくなった……

>その背後ではずっと黒い巨人が言葉になっていない叫びを続けている。


代行人「……それより、楽しいとは思わないのか?」

鳴上「は……?」

代行人「だから、この追いかけっこがだよ」

>代行人は登った先でわざと足場を崩したり石を移動させたりして、こちらが登るのを妨害している。

>それに応じて瞬時に別のルートを作って、なんとか代行人と一定の距離を保って進んでいったが……

>代行人のその行動に苛立ちを覚える事はあっても、楽しいなどとは思える筈もなかった。

>だが、代行人は笑う。


代行人「俺は楽しいね!」

代行人「今この瞬間が、楽しくて楽しくて仕方ない!」

代行人「ふふっ、あはははははっ!」


>その代行人の笑い声には、告解室で聞いた時のような不気味さがいつの間にか消えていた。

>無邪気に笑い、純粋にこの状況を楽しんでいる。

>まるで小さな子供のようだ……



ゴーン…… ゴーン……


鳴上「!」

鳴上「鐘の音が……!」

代行人「……なんだ。もう終わりなのか……」

代行人「……」


>代行人の足の動きが急に鈍くなった。

>その隙を見逃さず、代行人が通った場所とは別の方から登るスピードを上げ……

>扉の目前にくる頃には、代行人の方が後ろにいるようになっていた。


鳴上「着いた……!」

鳴上「この扉の先が」

代行人「そう。カテドラルだ」

代行人「おめでとう。お前は、祭壇への路を通過してついにここまでやってきたんだ」

代行人「……」

鳴上「カテドラル……」


>扉を開こうと手をかける。

>しかしふと思いとどまって、後ろを振り返った。

>そこには足の動きを止めたままずっと棒立ちしている羊姿の代行人がいる。


鳴上「……何してるんだ? もうゴールなんだぞ」

代行人「……」


>代行人は首を横に振った。


代行人「俺は行かない」

鳴上「ッ!?」


代行人「もうこの夢の世界ではこれが最後になるだろうから言っておく」

代行人「今までお前と色々と話をしたり、色々質問したりして……解った事はひとつだけだった」

代行人「知る事は出来ても理解出来ない事もあるんだ、って事さ」

代行人「……お前の事は結局理解できなかったよ」

鳴上「……」

代行人「それでも、俺は……」

代行人「……」

鳴上「っ……、今はそんな話をしてる場合じゃ、」

鳴上「ッ!? ……お、おい! 後ろ!!」


>代行人のすぐ後ろまで黒い巨人が迫ってきている。

>けれどそれでも、代行人は動こうとしない。

>代わりに、今までただ追ってくるだけだった黒い巨人の腕が伸びた。

>その手は代行人を握り潰すかのように掴み、そしてその瞬間黒い巨人の顔を隠していた仮面が割れた。

>その下から出てきた顔は……


鳴上「そん……な……どうして……!」


>黒い巨人は口を大きく開き

>代行人をその中へと放り込んだ――


代行人「……じゃあ」





代行人「またな」


>バリボリ、ガリゴリと、黒い巨人の口が動く度に何かが砕け擦り潰されていく音が響き続けていた……

>その動きが止まると、口端から赤い液体を滴らせる巨人がこちらを見てニヤリと笑ったのが目に映る。

>……


鳴上「……う、」

鳴上「うわあああああああああッ!!」



>…
>……
>………


05/14(月) 曇り 自室


【朝】


鳴上「ハァ……ハァ……ッ」


>自分の叫び声で目が覚めた……

>今までで最悪の目覚めだ。

>なのに、夢の中で何があったのか、……今回が一番記憶に残っていない。

>……


―♪


鳴上「ッ……!!」


>突如、携帯から流れ出した大きな音に身が強ばった。

>聞こえてくるのは、サラサーテのツィゴイネルワイゼン。

>以前は、海老原専用の着信音に設定していたそれだが、今は別の人物専用へと変えている音楽だ。

>震える指を伸ばし、携帯を掴んだ瞬間その音が止まる。

>……メールが一件、たった今届いたようだ。

>少し躊躇ってから、そのメールの中身に目をやった。

>そこには一文だけ、こう記されていた。



from:キミコ



Love is Over



終わります。

携帯からの投下は時間がかかってあかん……

また次回。

love is overって別れようとかそんな感じ?

とりあえず乙

乙うわああああああああ

どういうことだってばよ・・・

うわ、すげえ気になる乙

代行人はやっぱり「アレ」なのかね?

私たちの関係は終わったのよ ですな

乙!
いつも更新はまだか、と言わんばかりに楽しみにしてます!

もうこの話は終盤かな?
だが本編の時間軸はちっとも進んでないとはw



キミコ(´;ω;`)

代行人と黒い巨人が誰なのかわからん…。
イヤホンの羊とか帽子の羊とかは判りやすかったが…。
そしてハム子…何があったし!?

>>242
たぶん代行人の正体≒黒い巨人
恐らく番長のsうわ何をするやめ

毎回良い所でぶつ切られる…相変わらず焦らして来るね。
それはそれとして最近発表されたが、
直斗主役のスピンオフノベルが発売されるらしいね
そのイラストで髪をストレートに伸ばした直斗がすごい美人で…
じゃなくて既に別の街に仕事に行ってるんだよな。
もしかしたらりせちーみたいに少しだけ参戦来るかも

>>245
一応、直斗のあれは本編終了後から1年以上後、この時間軸からすると鳴上の月光館卒業後だぞ。
直斗は3年生、鳴上は順調に行ってれば大学1年生だ。

>>243
大穴で、周りの女の視線ををことごとく集める悠に対してできた陽介のシャドウだと思う。
自分のシャドウなら、ある意味で自分だから判定や質問なんてしないと思うんだ。
P4のシャドウは他人のシャドウの影響も受けてるから本人と違うところがあるが、自分をわかっていない訳じゃなさそうだ

女を集める奴らをどうしても消したいモテないモブのシャドウたち、その内の一人が代行人として判断する
だから悠に対しては陽介が判断をしに来て、自分が負けるのをわかっていて楽しく遊び、自ら消えて行ったんじゃないだろうか
黒い巨人というモブの集まりのなかに陽介も入っていった

>>247
予想書くやつは[ピーーー]

保守

>サラサーテのツィゴイネルワイゼン
エビとの関係にこんな設定あったっけ?と調べたら、アニソナの設定か…。
このSSはめっちゃ面白いし、ゲームのペルソナも大好きでやってるけど、
キャサリンとかはやってないし、一部モトネタがわからん俺はかなり損してるんだろうな…。

キャサリンをやれば幸せになれるよ

7th day


>……


>時間が経っても気分は冴えないままだったが学校へは行く事にした。

>また熱が上がったという訳では無さそうだったが、念の為病院から出された薬も飲んでおいた。

>……キミコへのメールの返事は、していない。

>だからといって、気になっていないという訳でもない。

>彼女は近いうちにまた会おうと言っていた。

>出来ればそれは避けたいと心のどこかで思っていたが……

>……

>彼女とは改めてもう一度、面と向かって話をしてみるべきなのかもしれない。

>今は、そんな風に考えていた。

>彼女の言葉を信じるなら、キミコは月光館学園高等科の二年生のクラスの何処かにいる筈だ。

>本人にメールでも電話でもして何処のクラスか聞くのが一番かもしれないが、あんなメールを送ってきた直後だ……そんな事突然聞いて、答えてくれかどうか。

>それにいつも突然出てきて驚いているこちらの気分を彼女に味あわせてやるのもいいだろう。

>……順に当たってみようか。


【昼休み】


月光館学園 二階 廊下


鳴上「……ここも違ったか」


>A組から順にキミコの姿を探し始めたがE組までは全部はずれのようだ。

>キミコという名前しか手がかりはないのだが、訪ねたいずれのクラスにもそんな名前の女子はいないらしい。

>という事は、必然的に最後に残ったクラス……F組に彼女はいる事になる。

>まずはF組の入り口から教室の中を窺ってみよう。

>……

>……今見た限りでは、ここにはいないようだ。

>近くにいる女生徒に声をかけてみた。


鳴上「あの、ちょっと」

女生徒A「はい? なんでしょう」

鳴上「このクラスにキミコって女の子、いる?」

女生徒A「キミコ?」

女生徒A「……ねー、今日ってキミコまだ学校に来てないよね?」

女生徒B「そうだねー。なんの連絡もないけど、休みなんじゃん?」

女生徒A「って、感じですけど」

鳴上「……そっか。ありがとう」

鳴上(休みか……もしかして、俺が来るんじゃないかと思って、逃げたのか? いや、そうする理由なんてキミコにあるんだろうか……)

鳴上(……)


>……



【放課後】


>あの後、結局キミコにメールを送り電話もしてみたが、通じる事はないまま学校が終わってしまった。


鳴上(いつも唐突にやってくるくせに、肝心な時に姿を現さないなんてな……今日は諦めるしかないか)

鳴上(……さて。それなら、もう一つの用事を片付けよう)


>今日はキミコの事を最優先で行動してきたが、どうにも出来ないなら仕方がない。

>……この後は、辰巳記念病院に行く事にしよう。

>チドリの具合はどうなのだろうか。

>……


辰巳記念病院 208号室


>病室の番号の下には、『吉野千鳥』という名前が書かれている。


鳴上「そういえば、チドリのフルネームって今まで聞いた事なかったな」

鳴上「……突然来て邪魔にならなきゃいいけど」


>扉をノックした。


チドリ「……? どうぞ」

鳴上「よっ、チドリ」

チドリ「!!」


>チドリは目を丸くし、大層驚いた様子でこちらを見た。


チドリ「悠……どうしてここが?」

鳴上「順平さんから聞いた」

チドリ「……そう」

鳴上「体の調子の方はどうだ?」

チドリ「別に、もう平気。こんなの慣れてるし。明日には退院するから」

鳴上「あ、そうなのか。もっと早いうちにくれば良かったな」

チドリ「……」

チドリ「なんで来たの?」

鳴上「え? 心配だったから……じゃ、ダメか?」

鳴上「……あんな姿、見た後だったし」

チドリ「……」

鳴上「順平さんと仲直りはしたんだろ?」

チドリ「……まあ、ね。でも」

チドリ「他人の心配するより、自分の事考えた方がいいんじゃないの?」

チドリ「顔色、サイアクよ。今にも死にそう。……順平もだったけど」

チドリ「バカじゃないの?」

チドリ「順平も悠も、……ホント、バカよ」

鳴上「……」

鳴上「俺はともかく、さ。順平さんはそれだけチドリの事を……」


>……

>これ以上の事は自分の口から言って良い事かどうか計り兼ねる……


チドリ「……わかってる」

鳴上「!」

チドリ「順平が、私の事考えてくれてるのはわかってるの」

チドリ「もちろんそれは私にとってはとても嬉しい事よ。本当に嬉しい。……けど」

チドリ「辛いって思う時も、あるのも本当」

チドリ「私の存在は……順平を縛ってるんじゃないかって、重荷になってるんじゃないかって、凄く不安になる」

チドリ「それなのに私は、自分の気持ちを抑えられない時があるから……嫌になるの」

チドリ「もっと順平と一緒にいたい、だなんて……」

チドリ「……」

チドリ「私も大概バカよね」

チドリ「もうやめましょう。面白い話じゃないわ」

チドリ「悠にこんな事喋っちゃうなんて、何やってるのかしらね、私……」

鳴上「バカなんかじゃないと思う」


チドリ「……?」

鳴上「チドリはさ、順平さんの事好きだからそう思うんだろ?」

チドリ「!」

チドリ「すき……?」

鳴上「そう、好き」

鳴上「だったら、そんな風に思うのはバカとかそういうんじゃなくて……仕方のない事なんじゃないか?」

鳴上「好きだから傍にいてほしい。でも好きだから相手の迷惑にはなりたくない」

鳴上「その辺、難しい感情だとは思うけど、そうやって悩む分だけ相手を……順平さんを想ってる証拠だと、俺は思う」

鳴上「チドリはそれを、順平さんに言った事はあるのか?」

チドリ「あるわけないじゃない。……そんなの、こわくてできない」

鳴上「それでも一度、チドリはその気持ちを順平さんにぶつけてみてもいいんじゃないか?」

鳴上「あの人はそれを受け止められないほど弱い人じゃないと思うし、たぶんチドリが思うほど悪い返事はしないんじゃないかな」

鳴上「ただの俺の勘だけど」

チドリ「……」

チドリ「そんな事言って、どうしようもない事になったら、悠は責任とれるの?」

鳴上「それは……」

チドリ「……冗談よ」

チドリ「……」

チドリ「でも、やっぱり順平にこのきもちを伝えるのは……今は、まだ……」

チドリ「順平の前だと、たぶん上手く言葉にできないと思うし」

鳴上「……そっか」

鳴上「もし仮にどうしようもない事になったとしたら、責任とって俺がチドリを貰おうか?」

チドリ「……バカじゃない? お断りよ」


>真顔で拒否された。


チドリ「それに、悠にはもっと素敵な子がいるんじゃないの? この前一緒にいた子とか」

鳴上「いや、メティスはそういうのじゃ……」

チドリ「……ふうん?」

鳴上「まあ、俺の事はいいからさ。チドリと順平さんが上手くいくように応援してるから」

チドリ「……」

チドリ「ありがとう」


>チドリは僅かに潤んだ瞳と紅潮させた顔を隠すように俯いてしまった。

>チドリの事が、少しわかったような気がする……



>『ⅩⅡ 刑死者 チドリ』のランクが5になった



鳴上「……あ、そうだ。チドリ、順平さんの連絡先知ってるんだろう? それ、俺にも教えてもらってもいいか?」

チドリ「別にいいけど。ちょっと待って……はい」


>チドリから、順平の携帯の番号が書かれたメモをもらった。


チドリ「それ、悠にあげる」

鳴上「え、でも」

チドリ「いいの。もう、何度も見て暗記しちゃってるから」

鳴上「……」


>携帯を取り出して、書かれた番号を登録してから、渡されたメモをチドリの手に握らせて返した。


鳴上「でもこれはチドリが順平さんからもらったものだから、俺のものには出来ない」

チドリ「……」

鳴上「じゃあ、お大事に」

チドリ「……悠」

鳴上「どうした?」

チドリ「順平に、体には気をつけてって……そう伝えて欲しい」

鳴上「それは……チドリの言葉で、声で、伝えるべき事だろ。その方がきっと順平さんも喜ぶ」

チドリ「……」

鳴上「またな」


>チドリの病室を後にした。

>……


チドリ「……」

チドリ「……公衆電話って、どこにあったかしら」


学生寮 自室


>携帯を手にとり、画面を確認してみた。

>……着信も受信メールもゼロだ。


鳴上「キミコからの連絡は未だになし……か。参ったな」

鳴上「それはそれで置いとくとして。……今、電話しても平気かな」

鳴上(順平さんに、少し思い出した事について話がしたい)

鳴上(たぶん、順平さんも……)


>電話帳のボタンを押し、つい先程登録した順平の番号を呼び出し、通話ボタンに指をかけた。

>……

prrrrrrr


順平『はいはーい。一体どちら様でしょーか?』

鳴上「……あ。順平さんですか? 俺です。鳴上です」

順平『えっ! あー、鳴上かー! いやあ、こりゃまた妙なところからかかってきたな! アッハハ』

鳴上「なんだか機嫌が良さそうですね」

順平『えー? わかっちゃう? いや、それがさあ!』

順平『ついさっき、チドリから電話があったんだよ! ビックリだろ?』

鳴上「!」

鳴上「そっか……それはよかったです」

順平『……あー、でも今なんか解ったわ。チドリにそんな事するように仕向けたの、お前なんだろ?』

順平『で、チドリから俺の番号を聞いて今電話してきている、と』

鳴上「あ、いや、それは」

順平『いいっていいって! きっかけはどうあれ、チドリが俺のところに電話してくるなんてさー、一歩前進って感じじゃね? へへっ』


>電話越しでもその声色から、順平が大層嬉しそうにしている様子が想像出来る。


順平『それで、鳴上は何の用だ?』

鳴上「はい。……」

鳴上「あの、こんな事突然聞くのもどうかと思ったんですが」

鳴上「最近、……夜はどんな感じですか?」

順平『え』

順平『……。番号まで調べて突然電話かけてきて……するのがソッチ系の話?』

鳴上「いや、そうじゃなくて……」


鳴上「俺たち、夢の中で会ったりした……なんて記憶、ありませんか?」

順平『っ……』

順平『ただの、気のせいだと思いたかった。……けど』

順平『じゃあ、あのキノコ頭の羊ってやっぱり鳴上だったのか?』

鳴上「ッ!!」

順平『あのちっこい羊は……感じからして、天田っぽいなって思ったけど』

鳴上「そうです、たぶん。天田も最近夢にうなされてるって言ってましたから」

順平『あの夢ってさ……なんなワケ? 今の話でちょっとだけ見た内容思い出したけど、いつも起きたらすぐ忘れちまうし』

順平『俺たち、共通して同じ夢見てるって事だよな?』

順平『魔女の呪いとかなんとかいう話、マジもんだったって事か?』

鳴上「それは、はっきりとは……でも、その話が本当だったとしても」

鳴上「もう、だいぶ上まで登ってきた筈……そろそろ、何かあっても不思議じゃないと思うんです」

順平『なにかって?』

鳴上「わかりません。でも、誰だったかが、上を目指せって言ってて、えっと、……そう」


>順平と話す事で、夢の中の出来事が少しずつ思い出されていく……


鳴上「カテドラル」

鳴上「そこまで行けばいいって。それで……確か、昨日の夜、俺はそのすぐ手前まで辿り着いた……筈なんです」

順平『あ、そっか。思い出してきた。お前、今先頭なんだっけ』


順平『俺はまだ少し下の方だった気がするけど』

順平『……で、どんな感じだ?』

鳴上「今日の夜を迎えてみない事には……なんとも」

順平『ま、そうだよな』

鳴上「……」

順平『……そっかー。鳴上が頑張ってくれてたって訳なのか』

順平『こりゃ、俺も負けてらんねーかな。後輩にばっか見せ場とられんのもあれだし、何より』

順平『俺は、チドリの為にも生きないと』


>順平の決意が伝わってくる……


順平『またお前に後押しされちまったみてーだな。……なんかさ、お前って』

順平『いいヤツだよな』


>順平は電話の向こう側で笑っている。

>順平と少し、打ち解けたような気がした……



>『Ⅰ 魔術師 伊織順平』のランクが4になった



順平『お互い生き延びなきゃダメだかんな?』

鳴上「わかってますって」


>しばしの間、互いを励まし合ってから通話を終了させた。

>……



【夜】


クラブ エスカペイド


>カウンターの席にぐったりしている男がいる。


ヴィンセント「……鳴上」

鳴上「! だ、大丈夫ですか!?」

ヴィンセント「んー……」


>顔がほんのりと赤くなっている。

>どうやら、ここに来る前に何処かで飲んできたようだ。


鳴上「酔ってます……?」

ヴィンセント「……いんや。これくらい、酔ったうちに入んねえよ」


>確かに、意識の方はしっかりしているし、ちゃんと話せてもいる。

>ぐったりとしていたのは別の理由だろうか。


ヴィンセント「なんかあったのか? って、聞きたそうな顔してんな。……その通りだよ」

ヴィンセント「嫁とちょっとばかし、喧嘩しちまってさ。最近、俺の様子がおかしいって言われたのがきっかけなんだけど」

ヴィンセント「誤魔化そうとしてるうちに、何故か言い争いになっちまってさ。近頃帰りが遅いとか、娘の面倒見てくれないとか色々言われて……」

ヴィンセント「……はあ」

鳴上「店員さん。水とか用意出来ますか?」

店員「……はい、ただいま」


>店員が氷の入った水のグラスを持ってきてくれた。

>それをヴィンセントの前に置いた。


ヴィンセント「……すまねえな。大丈夫だから」

鳴上「……」

ヴィンセント「それもこれも全部夢のせいだ」

ヴィンセント「……なんて、責任転嫁出来れば一番楽なんだろうけどさ。本当はわかってんだよ」

ヴィンセント「自分に原因があるって事くらい……」

ヴィンセント「でも……だから、どうしろっていうんだよ」


>ヴィンセントはこちらに話しかけるというよりは、自身に言い聞かせるように言葉を紡いでいる。


鳴上「ヴィンセントさんは、……」

鳴上「奥さんの事、愛していますか?」

ヴィンセント「愛してるよ」

鳴上「娘さんの事、愛していますか?」

ヴィンセント「愛してるよ」

鳴上「そう言えるんだったら、それをきちんと行動で示せばいいじゃないですか」

鳴上「今の言葉、少なくとも俺には嘘には聞こえませんでしたけど」

ヴィンセント「……心の奥底では俺がどう考えてるなんて、お前にもわからないだろ?」

鳴上「じゃあ、嘘なんですか?」

ヴィンセント「……んな訳ねえだろ」


鳴上「そうやってはっきりと言葉で俺には言えるのに、何をそんなに悩む必要が?」

鳴上「喧嘩したなら、ごめんなさいして」

鳴上「その後で奥さんと娘さんを抱き締めてあげて」

鳴上「愛してるって言ってあげればいいだけじゃないですか」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「……若いっていいよな。そういう事、言えてさ」

鳴上「馬鹿にしてます?」

ヴィンセント「いや、羨ましいって言ってんの」

ヴィンセント「俺だって本当はそうしたいけど。……今の状態じゃ、そんな事出来ないっていうか」

ヴィンセント「やっぱり、あの夢が気がかりでならなくて、家族の事を考える余裕なんて……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「……なあ、鳴上は今、あの夢の何処にいる?」

鳴上「え? えっと、結構上の方っていうか、カテドラルってとこに辿り着いた所……の筈です」

鳴上「あまりはっきり覚えてないんですけど、確かそうだったと」

ヴィンセント「カテドラルだって……?」

鳴上「はい。そういえば、結局夢の中ではヴィンセントさんと会えたような記憶はないんですけど……まだ下の方なんですか?」

ヴィンセント「……いや」

ヴィンセント「俺も上の方にいる……と思う」

ヴィンセント「……。上……?」

ヴィンセント「ッ、そ、そうだ……そうだよ!」

ヴィンセント「ずっと何かおかしいと思ってたんだっ……!」

鳴上「えっ、何がですか?」

ヴィンセント「俺も毎晩、あの夢を見ている! それは間違いない! ……でも、でも!」

ヴィンセント「一度として、上へ登った記憶がないんだよっ……!」

鳴上「え……!? どういう事ですか、それ!」


ヴィンセント「わかんねえよ! だからおかしいって言ってんだ!」

ヴィンセント「なのに上の方にいて、ずっと下の方を……」

ヴィンセント「ッ……!」


>ヴィンセントは頭を抱えて辛そうにしている。


鳴上「ど、どうしました!?」

ヴィンセント「……いや。何か、思い出しかけたんだけど……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「お前、今カテドラルにいるって……さっき、そう言ったな?」

鳴上「……はい」

ヴィンセント「なら、終わりはもうすぐそこだ」

鳴上「!」

ヴィンセント「……大切なものを離さずに行くんだ。そうすれば、おそらくお前はあの夢から解放されるだろう」

鳴上「大切なもの……?」

鳴上「どうしてそんな事がわかるんですか?」

ヴィンセント「……それは」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「俺が、かつてあの塔を登りきって生き延びた人間の一人だからだ」

鳴上「ッ――!?」

鳴上「じゃあ、もしかして。噂されてる伝説の男って……」

ヴィンセント「……どこから流れたんだか知らないが、そういう風に呼んでるのもいるみたいだな、俺の事を」

ヴィンセント「それがまたあの夢に落ちてるっていうんだからとんだ笑い話さ」

鳴上(この人がそうだったのか……どうりでこの話に詳しい筈だ)

鳴上「でもそれなら、ただ上にいるだけってのも解る気が……だって以前に、登りきってる訳ですよね? もう登る場所がないじゃないですか」

ヴィンセント「それはそうかもしれねえけど、じゃあ何故登りきったままの状態で、またあの夢の中にいるんだ? ……それが解らない」

鳴上「それは……」

鳴上「……」

鳴上「わかりました……俺。俺も登り切って、ヴィンセントさんのところまで行きます」

ヴィンセント「!」

鳴上「そうすれば、何か答えが解るのかも。一人では無理でも二人いるなら……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「そう、だな。きっとそうに違いない……って、そう信じたい」

ヴィンセント「ハハッ、お前は頼もしいやつだよ、本当にさ」

ヴィンセント「……上で待ってるぞ」


>ヴィンセントの言葉に強く頷いた。

>ヴィンセントとの絆が深まったような気がする……



>『ⅩⅤ 悪魔 ヴィンセント』のランクが7になった



ヴィンセント「ただな、俺の経験から言わせてもらえば……あそこは今まで登ってきた場所とはまた違った意味で厄介だ」

ヴィンセント「言葉で言ってどうにかなるもんでもないけど、……気をつけろよ」


>ヴィンセントの言葉を肝に銘じ、今夜はこれで解散する事になった。

>……今夜の舞台はどんな場所になるというのだろう。

>……



>…
>……
>………


05/15(火) 曇り 自室


【朝】


鳴上「ん……」

鳴上「……朝、か」

鳴上「……」

鳴上「――え?」


>思わずベッドから跳ね起きて、カーテンを勢い良く開けた。

>外は……太陽が雲に隠れてはいるものの、明るい。

>間違いなく朝だ。

>携帯に表示されている日付も昨晩確認した時のものから一日進んでいる。

>ただ、時刻がいつも起きる時間よりもだいぶ早めであった。


鳴上「俺、昨日の夜はあの夢……見てないよな?」

鳴上「終わった……のか?」


>まさか、こんな形で解放される事になるとは思わなかった。

>原因が解らず始まった悪夢騒動は、原因が解らないまま幕を閉じてしまったという事なのだろうか……

>……

>少しの間、考えてみたが睡眠が足りなかったのか、また眠くなってきた。

>時間もまだある事だ。細かい事は後にして……今は二度寝する事にしようか。

>……目を、閉じた。

>……





――コンコン


>扉をノックする音が聞こえる。


鳴上「……ん?」

アイギス「悠さん。起きていらっしゃいますか?」

鳴上「アイギス……? どうしたんだ?」

アイギス「悠さんにお客様ですよ」


>客? 一体誰だろう……


千枝「おっはよー、鳴上くん」

雪子「もしかしてまだ寝てた?」

りせ「もー、先輩ってばお寝坊さんなんだから!」

直斗「いえ、僕らが早く来すぎてしまったのでしょう」

鳴上「!?」


>扉の向こうからは、八十稲羽にいる筈の女子達の声が聞こえてくる。

鳴上「お前ら、なんでっ……!?」

千枝「へへー、びっくりしたでしょ?」

雪子「実はね、今日休校日なんだ」

りせ「それでー、先輩驚かしてやろっかーってみんなで相談して、会いに来ちゃったんだ!」

直斗「花村先輩と巽くんには留守番をしてもらっていますが……」

鳴上(置いてけぼりで、かわいそうに……)

千枝「でもスペシャルゲストがいるよー」

菜々子「お兄ちゃん、菜々子だよ!」

鳴上「な、菜々子まで!?」

直斗「堂島さんから責任を持ってお預かりしてきました」

鳴上「そっか……」

鳴上(みんな、会いに来てくれたのか……)

鳴上(陽介と完二には後でお悔やみのメールを入れておこう)

鳴上「でも、俺は今日学校……」

雪子「え? 鳴上くんもお休みだって言ってなかったっけ?」

鳴上「……え?」

アイギス「そうですよ、悠さん。今日は月光館も休校日であります」

鳴上「そうだったっけ? ……忘れてた」

りせ「それより、先輩早くここ開けてー!」

鳴上「ああ、今行く」

鳴上(って、寝間着のままだけど……ま、いいか)


>部屋の扉を開いた。


鳴上「みんな、よく来た――」





「皆さん、いらっしゃい」

鳴上「――!?」


>……初めはただの聞き違いだと思っていた。

>扉を開けた先にいた千枝達は、自分の姿ではなく何故かその後ろを見て口をぽかんと開けている。

>……

>簡単な話だ。

>その場にいた『彼女』以外の人間のほとんどが、その声と『彼女』の姿に凍り付いていたのだ。

>その中でただ一人、菜々子だけがきょとんとしながらその後ろを見て首を傾げた。


菜々子「おねえちゃん、だれ?」

鳴上「っ……」


>恐る恐る、ゆっくりと、菜々子が見ているその先を見ようと……振り返った。

>そこには、月光館学園の制服を着た女が一人、微笑みを見せながら佇んでいる――


キミコ「どうも、初めまして。キミコって言います」

キミコ「今後ともよろしく」


まだ残りがありますが時間なので一旦切るであります。

マヨナカテレビの時刻を30分ほど過ぎた時間にまた来たいと思います。

後半へ続く。

次の更新は影時間か

各自、テレビに気をつけて待機しましょう

キミコ・・・一体何者何だ・・・

+   +
  ∧_∧  +
 (0゜・∀・)
 (0゜∪ ∪ +
 と__)__) +

>……


学生寮 ラウンジ


>一階に、この寮にいる一同が集められた。

>キミコと共にラウンジにあるソファに座らせられ、その周りを女性陣で囲まれる。

>天田とコロマルだけは少し遠くにいて、何事なのかとオドオドしていた。


天田「あ、あの、これはいったい……」

美鶴「天田は少し黙っていてくれ」

天田「は、はい! 口閉じてますっ!」

コロマル「クゥーン……」


>女性陣の中で唯一椅子に座り、眉間に皺を寄せていた美鶴が大きく溜息を吐いた。


美鶴「私も、一体どういう事なのか君の口から説明して貰いたいのだが? 鳴上」

鳴上「……」


>自分が喋らなければ破られないこの静寂が身に染みて痛い……

>だが、事情を知りたいのはこっちも同じだ。

>何故、昨日まで連絡すらとれなかったキミコが自分の部屋に突然いたのか……

>俯きがちになった顔を動かさず視線だけでキミコの方を見た。

>どう答えていいのか解らない自分をよそに、彼女はとても涼しい顔をしている。

>耳に、二度目の美鶴の溜息が聞こえた。


美鶴「だんまりか。まあ、いい」

美鶴「では、そちらの彼女に聞こう」

美鶴「確か……キミコと言ったな? 君は、……」


>美鶴は一瞬言葉を選んでいるような素振りを見せてから再び口を動かし始めた。


美鶴「君は、鳴上とはどういう関係で? 何故、あの部屋に一緒にいたんだ?」

キミコ「それは、悠とは一夜を共に過ごすような間柄だからです」

美鶴・千枝・雪子・りせ・直斗「!?」

鳴上「なっ……! お、おい!」

キミコ「だってホントの事だもん」


>キミコは腕に絡みつくように抱きついてきた。


千枝「は、はあ? ちょっと意味がわかんないんですけど?」

りせ「ちょっと! 先輩に馴れ馴れしくくっつかないでよ!」

雪子「つまり……どういう事?」

直斗「……あまり理解したくはありませんが。先輩、詳しい説明を」


>四人は冷ややかな視線をキミコと自分に向けている。


アイギス「菜々子さん。女性同士の醜い争いに耳を傾けてはいけません」

菜々子「ふえっ!?」


>アイギスが菜々子の耳を両手で塞いだ。


メティス「アイギス姉さん、少し遅いと思います」

ラビリス「悠、なんか悪い事でもしたん?」


>三姉妹に関しては割と呑気なようだったが、こちらを擁護してくれる期待も出来なさそうだった。


美鶴「……君たちも少し、静かに!」

美鶴「ゴホンッ。……それで、鳴上。君から何か言う事は?」

鳴上「あ、あの……」


>どう弁明したら良いのか……言葉が思い浮かばない。


美鶴「……個人の交友関係についてとやかく言う気はない。が、ここは仮にも学生寮だ。もう少し節度を守って欲しいものだな」

鳴上「はい……」

美鶴「それに、君だって自分の立場について理解していない訳ではあるまい? 何故この寮に住まっているのか……ここに集められている者たちの意味は十分に解っているだろう?」

美鶴「むやみに部外者をこの寮に、しかも夜に招くなど……あってはならない事だ」

キミコ「あのー」

美鶴「……なんだ」

キミコ「それで、あなた達の方は悠のなんなんですか?」

キミコ「はい、まずはそこの四人!」

千枝「えっ……」

雪子「私たち?」

りせ「何ってそりゃあ」

直斗「それ、は……」

千枝・雪子「前の学校の同級生……」

りせ・直斗「……後輩」

キミコ「ふうん? じゃあ、そちらの方達は?」

美鶴「わ、私たちか? 私は……鳴上の住まうこの寮の総責任者、だ」

アイギス「私は、寮監……ですね」

メティス「……。同じ寮生ですが、何か?」
ラビリス「まあ、そういう事やね」

キミコ「そ。で、そこのちっちゃい女の子は?」

菜々子「え……?」

鳴上「菜々子の事はいいだろ……!」

キミコ「へえ、菜々子ちゃんって言うんだ」

キミコ「……それで?」

美鶴「……。何がだ?」

キミコ「それで、何の権利があって私と悠の事をあれこれ言うのかなって聞いてるの」

美鶴「それは……」

キミコ「貴女、さっき悠の個人的な交友関係にとやかく言うつもりはないって言いましたよね?」

キミコ「だったらそうしてくれませんか?」

りせ「ちょっと待ってよ! アンタさっきからなんでそんなに図々しい訳?」

千枝「そ、そうだよ!」

雪子「まったくだわ。鳴上くんさっきから困ってるじゃない!」

キミコ「……わっかんないかなあ」

キミコ「困らせてるのは、貴女達の方でしょ?」

直斗「聞き捨てなりませんね」

アイギス「メティス。……その鈍器は今はしまって」

メティス「……でも」

ラビリス「なんやの、この感じ……」

メティス「彼女のあの気配は一体……」

鳴上「ちょ、みんな落ち着……」

キミコ「ねえ、悠。言ってやったら?」

鳴上「え?」

キミコ「あいつら皆、悠の重荷でしかないんだって!」

鳴上「なっ……」

鳴上「何を馬鹿な事……!」

キミコ「だってそうでしょ?」

キミコ「いつも悠を頼りにしてくるくせに、肝心な時に力にはなってくれない! 何もかも悠に押しつけてくる! 甘えっぱなし!」

キミコ「そんな連中が、悠はホントは嫌なんでしょ? 邪魔なんでしょ?」

鳴上「やめろッ!!」

菜々子「お兄ちゃん……」

菜々子「……菜々子のこと、じゃまなの? きらいなの?」

菜々子「お兄ちゃんは菜々子のお兄ちゃんでいてくれないの?」

鳴上「違う! そうじゃない!」

キミコ「……アンタたちが」

キミコ「アンタたちがいるから、悠が苦しむのよ!!」


>そう叫んで、キミコは腕から離れゆらりと立ち上がる。

>その手には……いつの間にか、刃物が握られている。

>そして、キミコはその場にいた人間に無差別に切りかかり始めた――!


「キャアアアアアアア!!」


>誰の悲鳴ともわからない声が混じり合い、寮内に木霊した。


鳴上「やめっ、ぐ……!」


>そのうちの一人を庇い、キミコのもつ刃物が自分の脇腹へと掠る。

>その痛みで体は前へと倒れ込んだ……

>切られた場所がズキズキと疼く。


菜々子「お兄ちゃん!!」

鳴上「みんなっ……逃げ……」

美鶴「くっ……取り押さえるんだ!」


>キミコひとりくらい、この人数なら捕まえられると思ったのだろう。

>美鶴の指示でアイギスを中心に彼女を大人しくさせようと取り囲む。

>……その時、二度目の悲鳴が響いた。


「キャアアアアアアア!!」


鳴上「どっ……どうした……!?」

鳴上(まさか……誰か犠牲に!?)

鳴上「くそっ……」


>血が滲む腹部を手で押さえながら体を起こす。

>そこで目に飛び込んできたのは他の誰でもない……

>刃物を振りかざしていた張本人であるキミコの横たわる姿だった。

>彼女は、まるで自害でもしたかのように自分の腹部に刃物を突き立てながら血溜まりの中に沈んでいた。


鳴上「キ、キミコ……?」

千枝「ウソ……」

雪子「ど、どうして……?」

りせ「ちょ、冗談やめてよ……!」

直斗「っ……」

アイギス「そんな……取り押さえようとしただけなのに……その時の反動で、誤って自分を刺してしまうなんて……!」

鳴上「っ、救急車……!」


>入り口付近のカウンターに駆け寄り、置かれている電話をとって119へとダイヤルした。

>しかし……コール音が聞こえてこない。

>いくら押してみても、何処へも繋がる気配がなかった。


鳴上「なんで……――!?」


>その瞬間、扉の外から嫌な気配を感じとった。


鳴上「っ……!」


>そしてそれは、音もなく自動的に開かれていく。

>その先に続いていたのは……見慣れた外の景色ではなかった。

>そこにあったのは外とは程遠い、明らかに建物の内部であった。

>光り輝く広大な大聖堂……

>そう認識した時、寮内もまた変貌し、大聖堂の中と一体化する。

>そして目前に積まれる石の山。


メティス「なんですか、これは……!?」

鳴上「まさか、なんで……!」

鳴上「……!?」

鳴上「キミコは!?」


>気付いた時にはキミコの姿も、キミコが作っていた赤い水溜まりも無くなっていた。

>かわりに、その言葉にこたえるかのように、大きな振動がこの場の全員を襲った。

>そしてそこに現れたのは……


『フフ……ウフフ……』

『悠は私が守ってあげる……』

>巨大な怪物と化した、キミコの姿だった。

今度こそ終わります。

また次回も修羅場

おおう…なんという大人数。

乙。菜々子が心配だな

その発想は無かった

乙!やべー人の修羅場楽しい

え?何これ?どういう展開?

>>279
"人の修羅場"が人修羅に見えた…どうでもいいけど

毎回乙かれさまです!

おつであります

乙!

と、とにかく頑張れ番長!

コノスレデ魔人ト出会ウ不運…イヤ、幸運カ…
案ズルコトナカレ汝ラニハ等シク「祝福」ヲ与エヨウ……。

つ「龍のおみくじ」

悪夢編始まった頃にキャサリン始めて良かったわ、多分やってなかったらここわからないわw

キャサリンはマルチエンドらしいが、
主人公も一つ判断を誤ると旅立ってしまうのだろうか。
しかし元があるとは言え、修羅場ってやっぱ面白いと思っちゃうよね

これはキャサリンをやれば理解出来るのか?

ネタバレでもいいならストーリーを教えてもらうスレのまとめでも行けばいい

ちょっとキャサリン買ってくる

続きって来てる?

唐突にみんな集まったから夢オチだと思ったが違うのかな?

キャサリンは店頭PVで「絶対に許さないからぁぁぁぁぁぁ」って絶叫を聴いてから何か怖くて買えない。

いろんな作品がクロスして面白い

鳴上「ッ……!」

鳴上「みんな、走れ!」

ラビリス「えっ!? ちょっ、何が……」

鳴上「いいから! 俺に続け!」

鳴上「……天田!」

天田「! は、はい!」

鳴上「お前はコロマルと一緒に一番後ろでみんなの安全確認と、背後からくるヤツの動きを注意していてくれ!」

天田「わかりました!」

コロマル「ワンッ!」

美鶴「鳴上! どういう事なんだ!?」

鳴上「詳しい説明をしてる暇はありません! とにかく、俺が作る道を通ってついてきてください!」

鳴上「アイツに捕まるか、足場から落ちたら終わりだ……!」

千枝「!? 後ろの方、崩れてきてる……!」

菜々子「お兄ちゃんこわいよ……」

鳴上「……大丈夫」

鳴上「お兄ちゃんがみんなを守るから」

鳴上(でも他はともかく、菜々子にここを登らせるのは……)


>菜々子の小さな体では、この石の積まれた山を登るのは困難だろう。

>自分が抱えていくしかないか……そう考えていた時、菜々子の体がふわりと浮かんだ。

>アイギスが菜々子を抱き上げている。


アイギス「菜々子さんは私達にお任せを。悠さんは私たちの誘導に専念してください」

鳴上「! ……任せたからな」

アイギス「はい。菜々子さん、振り落とされないように、私にしっかりとつかまっていてくださいね」

菜々子「うん……」

鳴上「こっちだ!」


>……


雪子「りせちゃん、大丈夫?」

りせ「う、うん。平気」

直斗「登りにくいところはみんなで手を貸し合って行きましょう」

天田「あ、美鶴さん! そこは脆くなっているので注意してください!」

美鶴「! わかった!」

天田「それから、そこを登り切ったら一度左右二手に別れて登った方が早いです! 左の方は何もしなくても登れるルートが既にありますから!」


>みんな協力し合って必死に登っている。

>天田のサポートもあって、今のところはスムーズに進めているが……気は抜けない。

>キミコだった化け物は、こちらを追ってはきているものの、今のところ何も仕掛けてはこないが……


『どうして……? そいつらなんか助ける必要ないでしょう?』

『悠だけ逃げれば楽じゃない』


>……こうやって、次々とこちらを揺さぶろうとするような言葉を吐いてくる。

>だが、そんなもの、耳に入れる気にもならない。

>無視して進もう。


メティス「鳴上さん、怪我の方は……」

鳴上「大した傷じゃない」

メティス「……」

メティス「あんな怪物、ペルソナを使って戦えばいいだけの話じゃないんですか?」

鳴上「それは無理だ。……ここではペルソナは呼べない」

メティス「そんな!」

メティス「っ……プシュケイ!」

メティス「……!? どうして……」


>メティスは己のペルソナを使おうと試みるが、やはり召喚する事が出来ない。


『そんな事しても無駄ァ』

『……決めた。アンタから消してあげる』

コロマル「ワンッ! ワンッ!」

天田「メティスさん危ない!!」


>コロマルの大きな吠える声と天田の叫びが重なった。


メティス「え……?」

『しねええええええええええええええ!』


>怪物の大きな手がメティスのいる石に目がけて勢いよく伸びてきている――!


メティス「くっ……!」

メティス「!?」


>メティスはその手をかわそうと飛び上がり見事に回避する。

>が、着地した先の石が崩れ、彼女の体は落下し闇に飲まれようとしていた――


鳴上「メティス!!」

メティス「ッ!」


>……間一髪、落ちるメティスの腕を掴む。

>しかし、メティスは宙吊りで、不安定な状態な事に変わりはない。


鳴上「つっ……」

メティス「な、鳴上さん! 私の事はいいから手を……手を離して!」

鳴上「ダメだ! そんな事出来る訳ないだろ!」

メティス「でもっ……」

『フフ……そうだよ、その女の手を離せば、悠は煩わしいものからひとつ解放されるんだよ?』

鳴上「……だ」

メティス「え……?」

鳴上「嫌だ! みんな生きてここから出るんだ!」


>腕に力を入れ、メティスの体を勢いよく引き上げた。


鳴上「っ……お前、無駄に重いな」

メティス「そ、そんな事言ってる場合じゃ! 早く先に!」

鳴上「ああ……そうだったな!」

『チッ……どいつもこいつもしぶといんだからぁ!』

『もう遊びはおしまい。くたばれェッ!』


>怪物の叫びが足場を振動させる。

>続いてきたのは、無差別に落下してくる石と雷だった。


鳴上「みんな! 周りをよく注意して走れ!」

アイギス「あれに当たったら一溜まりもありませんね……!」

メティス「邪魔な石は私が片付けます!」

ラビリス「ウチも手伝うで!」


>メティスとラビリスが、自分の得物を手に取り落ちてくる石を粉砕していく。

>アイギスは時折振り返りながら銃弾を怪物目掛けて撃ち込んでいるが、あまり効果はないようだった。


鳴上「里中たちも、ちゃんと追いてこれてるか!」

千枝「う、うん。なんとか!」

雪子「でも、逃げきれるの……!?」

りせ「も……やだ……足いたい……!」

直斗「あまり長引くようだと……まずいですね……」

美鶴「何時まで続くんだ、こんな事!」

鳴上「みんな、諦めるな! 足を止めるな! 俺を信じて追いてこい!」

鳴上(くそっ……まだなのか!?)

菜々子「お兄ちゃん……負けないで……」

菜々子「……? この音、なに?」


ゴーン…… ゴーン……


>少し遠くの方から鐘の音が聞こえてくる!


鳴上「! みんな、もうすぐ出口だ! あと少し、頑張ってくれ!」

『ダメぇぇぇぇ、逃がさないんだからあぁぁぁぁぁぁ!!』


>容赦なく、石と雷が落ちるペースがあがっていく。

>しかし、あと少しだ。ここで挫ける訳には……

>みんなを励まし、自分を鼓舞するように声をかけながら最後の階段を上がっていく。

>……出口の扉は、もう目前だ!


鳴上「みんな、ここから外に!」


>扉を開き、後から続いている者達を先にこの場から脱出させる。

>……

>後は、自分がここから逃げれば……


『どうして!? どうしてよ! 悠を縛り付ける連中なんて私がみんなみんな消してやるんだからッ!』


鳴上「!」

鳴上「やめろッ!!」

鳴上「あいつらは……俺の大事な仲間だ!」

鳴上「俺にはあいつらが必要なんだ!」

鳴上「ここから先は一歩も通さない、みんなには指一本触れさせない!」


>出口の前に立ちはだかり、両腕を広げて迫り来る怪物から目を逸らさず睨みつけた。


鳴上「……俺は負けない。誰にも何も奪わせたりしないッ! ぜったいに、みんなを守るッ!」

『キシャアアァァァァァァァァ!!』


>背後から差す光が、自分と辺り一帯を全て包んだ――







――それが、君の答えなんだね?


8th day


05/15(火) 曇り 自室


【朝】


鳴上「――!」


>見開いた目に映ったのは、今ではもうすっかり見慣れた寮の天井だ。


鳴上「え……?」

鳴上「……みんなが、来てたんじゃ」

鳴上「……」

鳴上「っ……そうだ、キミコ! キミコは!?」

鳴上「血がいっぱい出て倒れてた筈だっ……」


>飛び起きて部屋中を急いで見渡す。

>しかし、どこにもキミコの姿は……ない。
>……

>現実と夢の境目が、もうわからない。

>何が本当にあった事なのだろうか……


ドンドンドン!

>部屋の外から誰かが激しく扉を叩いている。


天田「鳴上さん! 鳴上さん!」

鳴上「天田!?」


>急いで扉を開いた。


鳴上「どうした!」

天田「どうしたじゃないですよ! 大丈夫ですか!?」

天田「き、切られたところとか! それに、ちゃんと逃げきれたんですか!?」

天田「鳴上さんあの場にひとりで残っちゃうし、僕っ……」


>天田は寝間着姿で寝癖がついたまま、あたふたしている。

>彼も寝起きで相当混乱している様子だ。

>……その様子を客観的に見れたおかげが、自分は少し冷静さを取り戻す事が出来たようだ。


鳴上「お、落ちつけ」

鳴上「俺はちゃんとここにいるだろ? 無事だよ」

天田「……ハッ!?」

天田「あ……ホントだ。ホントだ!」

天田「よかったあ……」

鳴上(……うん。無事だよ、な。傷もなくなってるし)


>刃物で切られた筈の腹部は、血が滲んでいる事もなく、どうもしていない。

鳴上「……」

天田「……。これで終わったんでしょうか?」

鳴上「え?」

天田「だって、あそこがカテドラル……ってとこだったんですよね?」

天田「そこを登りきったんだから、もう……」

鳴上「……確かに」

鳴上(でも、本当に?)


>ヴィンセントは大切なものを離さずあの場所を行けば夢から解放されると言っていた。

>しかし、それは……


鳴上「あくまで俺たちだけ、って話だと思う」

天田「え?」

鳴上「他の羊たちはまだ、あの夢に捕らわれたままなんじゃないか?」

鳴上「つまり、根本的な解決にはなっていない」

天田「……」

天田「でも、これ以上どうしろっていうんですか?」

鳴上「……」

鳴上「夢を見せている原因そのものを叩く。……それしかもう、ないと思う」

天田「でも、それが特定できなかったから、こうやって毎晩苦しんでた訳じゃないですか」

天田「いや、夢の事が現実だと曖昧な記憶でしか残らなかったんだから、そうだったのは当たり前ですけど……」

鳴上「でも、俺たちは今はこうしてきちんとあの夢のこと認識出来てるだろ? 以前よりは……だけどさ」

鳴上「それに、俺の知ってる人で以前この夢から生還したっていう人がいる」

天田「それ、本当ですか!?」

鳴上「ああ。もう少しこの夢について詳しい事を聞いてみようと思う」


>噂では彼が以前の事件で夢を見ていた大勢を救ったという話だ。

>そこまで本当の話かどうか定かではないが、全員を助け出す手立てを知っている、またはヒントを持っている可能性は高いとみて間違いはないと思う。

>しかし、今日の夢でも彼には会えなかった。

>ヴィンセントの言っていた事が事実なら、彼はあの世界の頂上にいる筈だ。

>つまり、今の自分はまだ一番上までは行けていないのだという事を意味している訳で。

>……

>なんだろう、妙な胸騒ぎがする……


ラビリス「おはよー」

メティス「鳴上さん、天田さん、おはようございます」

アイギス「お二人とも、揃ってどうしましたか?」

鳴上「いや……」

天田「……なんでもないですよ」

アイギス「早く支度をしないと学校に遅れてしまいますよ?」

鳴上「え? 学校?」


>よく見ると、メティスもラビリスも制服を着て鞄を持っている。


天田「やばっ……!」


>天田は慌てて自分の部屋に戻っていってしまった。

>自分も早く用意をしないと……


メティス「一階で待っていますから一緒に行きましょう」

ラビリス「ウチらまで遅刻にならんようにはよしてな」

鳴上「あ、ああ」

メティス・ラビリス「……」


>二人はそう言って階段を降りていってしまったが、その時見えた表情が何処か浮かない様子だった気がした。


鳴上「あの二人、何かあったのか?」

アイギス「……」

鳴上「アイギス?」

アイギス「!」

アイギス「な、なんですか?」

鳴上「いや……」


>アイギスまで様子がおかしい。

>みんな、どうしたのだろうか……

>……


通学路


メティス「今日、初めて夢というものを見ました」

鳴上「!」

ラビリス「……ウチも」

鳴上「二人揃って……?」

メティス「はい」

ラビリス「しかも、メティスの話聞いてみたらなんや似たような内容みたいでな」

鳴上「似たような、夢?」

メティス・ラビリス「……」


>二人とも黙ってしまった。

>もしや、朝から様子がおかしかったのは、その夢の内容のせいなのだろうか。

>……

>まさか……


鳴上「どういう夢だったんだ?」

ラビリス「んと、なんや変な場所沢山走ったり登ったりしてな」

鳴上(やっぱり……!)

ラビリス「あと、何故かその前に悠がめちゃめちゃ怒られとったわ。そんくらいしか覚えとらんのやけど、妙にリアルっていうか……なあ?」

メティス「ええ……不思議な夢でした」

鳴上「……」

メティス「あとは、……そう。私、鳴上さんに」

鳴上「俺に?」

メティス「重いって言われました」

メティス「重い、って……」

メティス「……」

鳴上(なんでそんな事だけ覚えているんだ……)

鳴上「えと……ゴメン」

メティス「べ、別に気にしてませんよ? 夢の中の話だし。……気にしてませんってば!」

メティス「機械の体なんだから、そうなのは当たり前だし」

メティス「……」


>メティスは自分でそう言ったのにも関わらずしょげてしまったようだ。

>……ともかく。

>今の話でわかった事は、どうやらあの夢の影響がメティスとラビリスにも現れているらしいという事だ。

>もしかしたら、今回の夢に出てきた人物全員が共通してあの夢を見たのかもしれない。

>それなら、アイギスの様子がおかしかったのもこれが原因に違いない。

>もしそうだとしたら、こんな事はこれっきりにして欲しい……

>……


月光館学園 3-A 教室


>教室の中はなにやら騒然としている。


男子A「あ、おはよっす、鳴上」

鳴上「おはよう。……何かあったのか?」

男子A「ああ……こりゃヤバいぜ」

男子A「C組で今話題の衰弱死したヤツが出たんだってさ」

鳴上「!」

鳴上(やっぱり、まだ完全に解決はしていないんだ……)

男子A「おっかねーよな。もう周りで何が起こってもおかしくないんじゃね? ……実はあの噂も案外本当だったりしてな」

鳴上「噂?」

男子A「ああ。ニュースでも言ってたからこれは知ってるかもだけど、前にも似たような事件があったんだよ、この街でさ」

鳴上「ああ、それは聞いた事あるな」

男子A「で、その時もやっぱはっきりした原因が解らなかったんだけど、ネットなんかじゃある悪夢のせいだなんて言われててさ」

男子A「そんなオカルト話があったりする中で……何故かある日突然ぱったりと死体が出なくなった訳。それは何故かっていうと……」

鳴上「悪夢から生還したある男……『伝説の男』のおかげ」

男子A「っていう噂が出たんだな、うん。出所とか詳しい経緯はしらねーけど。って、なんだ、よく知ってんじゃん」

男子A「まあ、本題はここからでさ。そこから数年しか経たないうちにまた同じような事が起き始めた……」

男子A「なんで? どうして? あの男のおかげで事件は解決したんじゃなかったの? と人々は思う訳さ」

男子A「そして、それとほぼ同時期、その男がまたこの界隈に姿を現し始めたという情報がネットに流れる」

鳴上「ゲーセンにあるラプンツェルの記録が近頃本人によって更新されたって話か?」

男子A「そう! で、誰が言い出したのか……ある日こんな大胆な仮説が立てられた」

男子A「謎の衰弱死事件が再び起こり始めたのは、その『伝説の男』がこの街に戻ってきて騒ぎを起こしてるからなんじゃないのか!」

男子A「……みたいなね」

鳴上「は、はあ!? なんだよその飛躍した……というか、こじつけみたいな説は!」

男子A「前にも言わなかったっけ? 『伝説の男』について今あることないこと言われてるって。この話がまさにそれなんだけどさ」

男子A「前の事件の時って噂では『伝説の男』が解決した事になってんだろ? それはつまり事件の原因を知ってる事になるんだよな?」

男子A「でも世間じゃそれは未だに謎になっている……という事は、事件の原因を知るのは『伝説の男』しかいないって訳だ」

鳴上「だからって、事件を起こしている張本人だとは……」

男子A「もしかしたら自分を越えるような可能性のある挑戦者を望んでるんじゃないのかって専らの噂だぜ?」

男子A「ゲームでも悪夢でもさ」

鳴上「そんな……」

鳴上(あの人がそんな事する訳ないだろ……何より、今もまた悪夢に悩まされているひとりじゃないか)

男子A「ま、所詮噂なんだけどさ、こんな話を知らない場所で色々されてるなんて、本人にとっちゃたまんねぇ話だよな」

男子A「風評被害っつーのか? こういうの。しかも、そう言ってる連中の規模がでかそうだから洒落になんねーわ」

男子A「哀れ『伝説の男』……」


>ヴィンセントとの付き合いはけして長い訳ではない。

>しかし、そんな真似をするような人間には到底見えない。

>だとすると、ヴィンセントを陥れようと誰かが情報操作をしている、とか……?

>そんな事をして得になるような人物がいるのだろうか。

>なんにせよ、彼と話したい事がまた増えたという事だ。

>……


【昼休み】


>教室の中はずっと衰弱死事件の話で溢れている。

>自分も気にはなるのだが……今は、もうひとつの気がかりになっている事で頭を悩ませていた。

>キミコの事だ。

>彼女からは依然として連絡がこない。

>あんな夢を見た後、という事もある。

>キミコは今どうしているのか……気にならない訳がない。

>またメールが電話をしてみようかと携帯を手に取った。

>が……


鳴上「……え。あれ?」

鳴上「前に送ったキミコへのメールが消えてる……?」

鳴上「削除なんかしたっけか。……」


>今度は発信履歴の画面を開いてみた。


鳴上「? 発信履歴もキミコにしたのだけ消えてる」

鳴上「……」


>反対側のボタンを押して、着信履歴の確認をした。

>しかし、やはり……


鳴上「キミコの着信だけ綺麗になくなってる……なんでだ?」

鳴上「……メール、は?」

鳴上「……!?」

鳴上「ない……キミコからのメールがない!?」

>データフォルダに保存していた彼女から送られてきた写メも消失している。

>それどころか、電話帳に登録していた筈のキミコの番号とメールアドレスのデータ自体がそっくりなくなっている……!


鳴上「う、嘘だろ……!?」


>いくら探してみても、この携帯にあったキミコの痕跡が見当たらない。

>携帯はいつも自分の手元においている筈だ。

>だから知らない間に誰かが消したという事は有り得ないと思うし、第一そんな事をされる理由が思い浮かばない。

>どういう事だ……

>言い表せない不安が、一気に自分の身に押し寄せてくる。

>……今日は学校に来ているのだろうか。

>2-Fに行ってみよう……!

>……


月光館学園 2-F 教室


>入り口に辿り着いてすぐ、近くにこの間声をかけた女生徒がいるのを発見した。


鳴上「おい! 今日はキミコは来ているのか!?」

女生徒A「え? あー、この間の。今日は来てますよー」

女生徒A「おーい、キミコーご指名だよー」


>そう教室の中に呼びかける女生徒の声に反応した一人の生徒がいた。

>そして教室の入り口までやってきたのだが……


キミコと呼ばれた女生徒「……え? あの、どなたですか? 私に何の御用が……?」

鳴上「っ……」


>そこにいた女生徒は、名前は同じでも自分の知っているキミコではなかった。

>もちろん、その人物も自分の事など知りもしない。


鳴上「す、すまない……人違い、だった」


>ショックでふらつきそうな体を支えながら、逃げるようにその場を立ち去った。

>……

>訳がわからない。

>自分の携帯の中だけでなく、キミコの存在自体がこの学校から消失したとでもいうのか……

>そんな馬鹿な話があってたまる筈がない。

>今まで自分と話したり、笑いかけたりしてきた彼女は一体何処へ行ってしまったのだろう。

>記憶の中にはその姿がきちんとあるというのに。

>……


【夜】


クラブ エスカペイド


>いくつもの悩みを抱え消化しきれないまま、また夜がやってきた。

>彼から話を聞けば、解決への糸口を見つけるくらいは出来るのだろうか。

>……

>今日もあの場所にヴィンセントはいる。


鳴上「……こんばんは」

ヴィンセント「……」


>ヴィンセントは俯いている顔を上げる事も、声で返事をする事もなかった。

>手元には、灰皿と山になった吸い殻と空の煙草の箱があった。


鳴上「煙草、吸ってたんですね」

ヴィンセント「……」


>やはり、言葉は返ってこない。


鳴上「今日はまた、気になる事がいくつか出来たので……その答えを知りたくてここに来ました」

ヴィンセント「……」

鳴上「……変な噂を耳にしたんです」

鳴上「俺はそんなの嘘だと思うけど、でもヴィンセントさんの口からちゃんと否定してもらって、安心したい」

ヴィンセント「……」

鳴上「手短に言います。……あの悪夢を見せているのは、ヴィンセントさん……伝説の男の仕業だっていう話があがっているんです」

鳴上「でも、そんなのデタラメですよね? だって貴方はそんな事するような人には見えないし。誰かが人事だと思って、面白半分に変なネタをでっち上げたとかに決まってる」

鳴上「……そうですよね?」

ヴィンセント「……」

>彼は未だに沈黙を押し通している。

>手にはグラスを持っただけで、口に運ぶ事もない。

>……その指は、カタカタと小さく震えていた。


ヴィンセント「っ……」

鳴上「……え?」


>……よく見ると、ヴィンセントはさっきから口を小さく動かしているようだった。

>しかしそれは、息が漏れているだけで言葉を発しているとはお世辞にもいえない状態だ。

>それでも、彼はその行為をやめない……

>何かを必死に伝えようとしているのだが、声に出せないのだ。


鳴上「なっ……どうしたんですか!? 俺に言いたい事があるんですか!?」

ヴィンセント「あ……っ……」


>ようやく顔を上げた彼は、額に脂汗が滲み出ていて目も虚ろだった。

>とても尋常な様子ではない……


鳴上「具合悪いんですか? 店から出た方が……」

ヴィンセント「ッ…た……て……」

鳴上「っ……!?」

ヴィンセント「たす、け……っ」

ヴィンセント「……助け、て……くれ……!」

鳴上「やっぱり気分が悪いんですか!? ど、どうすれば!?」

ヴィンセント「ちが……うっ……」

鳴上「!」

ヴィンセント「俺は……このまま、……だと、どう……なるか……っ」

ヴィンセント「何をする……か……わからなっ……!」


>言葉を言い終わる前に、ヴィンセントの首がガクリと下に落ちた。

>しかしそれはまもなく再び上を向き、背筋が今まで見た事もないほどすっと伸びて

>ゆっくりとこちらを向いた彼の瞳は、虚ろとは違う、鈍く赤い輝きが宿っていた――


鳴上「なっ……!?」

ヴィンセント?「やあ……初めまして、こんばんは」

>そのヴィンセントは、姿や声などは変わらず彼のものであっても、口調やそこから滲み出る雰囲気といったものがまったくの別人へと変貌していた。

>『初めまして』

>その言葉だけでも……理解できる。

>目の前にいるこの人物はヴィンセントではない別の『誰か』だ。


鳴上「お前は誰だ。ヴィンセントさんに何をした!」

ヴィンセント?「そう睨まないでくれよ。僕は彼の体を少し借りただけなんだから」

ヴィンセント?「夢にくる前に、君と是非話をしたくてね」

鳴上「!?」

鳴上「何者だ……お前」

ヴィンセント?「僕は本来あの夢の世界で告解室に座っている者……つまり」

ヴィンセント?「あの夢の管理者だ」

鳴上「お、お前が……!?」

ヴィンセント?「そうさ。長い間自己紹介が遅れて済まなかったね」

ヴィンセント?「僕は僕でやる事があったし、その間留守を任せていた彼があまりにも君に対して必死だったものだからね……ちょっと様子を見させてもらっていたよ」

ヴィンセント?「その彼も、いつの間にか帰ってしまっていたようだけどね。あれで彼は満足出来たのかな?」

ヴィンセント?「……それよりもだ。僕から君に頼みたい事があるんだけど、聞いてくれるかい?」

鳴上「……」

ヴィンセント?「……そんなに警戒しなくてもいいじゃないか」

ヴィンセント?「これは、この男……君には確かヴィンセントと名乗っていたね。彼の頼みにも繋がる事だよ」

鳴上「どういう事だ……?」

ヴィンセント?「うん、実はね。率直に言うと……」

ヴィンセント?「君にあの世界を壊して欲しいんだよ」

鳴上「!!」

鳴上「壊す……って。何故お前がそんな事を俺に頼む?」

鳴上「お前はあの場所を管理してるんだろ? そんな事されたら困る側の方じゃないのか?」

ヴィンセント?「それがそうでもなくてね」

ヴィンセント?「告解室の代行を任せていた彼に聞かなかったかい? あの世界はもはや、僕の管理する世界とはまったくの別物なんだよ」

ヴィンセント?「あれには僕も迷惑してね。あそこまで、形を本来のものに近付けるのにも相当苦労した」

ヴィンセント?「でも、それもこれも全て、あの場所を誰かに壊して貰う為の準備だったんだよ」

ヴィンセント?「次に君が向かう先……天上に、あの夢の元凶になっている存在が待っている」

鳴上「それは、一体なんなんだ!?」

ヴィンセント?「さっき、君も言っていたじゃないか」

ヴィンセント?「……この男だ。ヴィンセントという『伝説の男』が、世間に悪夢を見させている、という事になってしまっているんだよ」

鳴上「そっ……そんな馬鹿な事!」

鳴上「いや、ちょっとまて。なってしまっている……っていうのは、どう意味なんだ?」

ヴィンセント?「あの歪んだ夢の世界が出来た原理と一緒さ」

ヴィンセント?「今、この街に蔓延している、奇妙な『力』……それによって本来、存在しないもの、存在してはならないもの、そういったものが現実に姿を現してしまうようになっているみたいだ」

鳴上「奇妙な『力』……?」

ヴィンセント?「どうしてそんな『力』が発生しているのかまでは僕にもわからない。ただ言えるのは……」

ヴィンセント?「彼も謂わばその犠牲者のひとりという訳だね。電子の海を漂う偽りの言霊がその『力』を受けて、僕の世界に影響し彼にも影響して、そういう舞台と役者に勝手に仕立て上げられてしまった訳さ」

鳴上「……」

鳴上「じゃあ、あの世界を壊すっていう事はつまり」

ヴィンセント?「彼を救う事にもなるし、羊たちはあの場所から逃げ出す事が出来るって事」

ヴィンセント?「そして僕も、この地から解放される……」


>その話が本当なら……


鳴上「……。俺は、どうすればいい?」

ヴィンセント?「君は彼と約束していたね?」

ヴィンセント?「あそこを登り切って彼のところにいく、と」

鳴上「……」

鳴上「戦わなきゃダメなのか、ヴィンセントさんと……」

ヴィンセント?「そうだね。戦って君が勝たなければダメ、なんだよ」

ヴィンセント?「まだ僅かに残っている彼自身の意識も、君にそうして欲しいと訴えている」

鳴上「!」

ヴィンセント?「さっきのおかしな様子を見ただろう? 『力』が自身に及ぼしている影響を自覚したのか、まだギリギリ踏みとどまってはいるようだけど……」

ヴィンセント?「しかし今のこの状態だとおそらく、今夜を過ぎれば『力』の影響でヴィンセントはヴィンセントである事を保てなくなってしまうだろう」

ヴィンセント?「そうならない為にも……ね」


>まさか彼と戦う事になるなんて、文字通り夢にも思わなかった……

>だが、ここで覚悟を決めるしかないようだ。

>それで彼自身も救われるというのなら……

鳴上「わかった。俺がその舞台の幕を下ろしてやる」

ヴィンセント?「……迷惑をかけてすまない。と、ヴィンセントも言っているよ」

鳴上「俺の声が聞こえてるのか!?」

ヴィンセント?「そうみたいだね」

ヴィンセント?「お前にこんな事を頼んでしまって申し訳ない。すべてが終わったらまたこの場所で会おう、その時にお詫びをさせてくれ……だってさ」

鳴上「ヴィンセントさん……」

ヴィンセント?「……さて。そろそろ時間のようだ」

ヴィンセント?「この体は僕が責任を持って彼の家まで届けよう」

ヴィンセント?「だから君も早く帰って……あの場所に行くといい」

ヴィンセント?「僕も待っているよ」


>管理者はヴィンセントの体を借りたまま、店から静かに出ていった……



>『ⅩⅤ 悪魔 ヴィンセント』のランクが8になった



>……

>今夜の夢は長くなりそうだ。



【深夜】


学生寮 自室


>部屋の電気を消し、ベッドへと身を預けてからしばらく経った。

>しかし、今夜はまた今までとは違った意味で緊張してなかなか寝付く事が出来ずにいる。

>大勢の者の未来が、自分に委ねられている……

>……


イヤホンの少年「……まだ起きてる?」

鳴上「!」


>……気まぐれに現れては消えるあの少年が、また自分に会いにやってきたようだ。

>ベッドから体を起こし、彼と向かい合った。


イヤホンの少年「いよいよ……みたいだね」
鳴上「ああ」

イヤホンの少年「でも、決着をつけに行く前に君に少し用がある」

イヤホンの少年「俺じゃなくて、彼女が……だけど」

鳴上「彼女……?」


>そう言うと、ぼんやりとした姿の少年の隣にまたひとつ、うっすらとした人影が浮かび上がり始める。

>それは、イヤホンの少年よりも更にぼやけて希薄な存在だったが

>……確かに、以前から見た覚えのある人物の姿だった。


鳴上「っ……!」

イヤホンの少年「君に言いたいことがあるって」

イヤホンの少年「……じゃあ」


>イヤホンの少年は彼女だけを残して姿を消してしまった。

>彼女は困ったような顔をして、黙ったままそこに佇んでいる。


?「……」

鳴上「……お前」

鳴上「キミコ……だよな?」

キミコ「ん……」

キミコ「正確にはこの前までキミコと名乗ってた者……かな」

鳴上「……」

鳴上「その体、キミコは……人間じゃない、のか?」

キミコ「どうやらそうみたい」

キミコ「私もね、さっきまで自分がどういう存在だったのかよく解ってなかったの……笑っちゃう話だけど」

キミコ「でも、ようやく理解できたんだ……だから」

キミコ「最後に悠に会わなきゃって、思って。そしたら、さっきの人が力をかしてくれたの」

鳴上「お前は、一体……」

キミコ「……」

キミコ「私もね、この物語の舞台に立っていた役者のひとりだったの……勝手に選ばれた、ね」

キミコ「私はそうとは気付かないまま、無意識のうちにその役を演じていて、……そのせいで悠に沢山迷惑かけちゃってた」

キミコ「それを謝っておきたくて。ごめんなさい」


>キミコは困ったような顔をしたまま、瞳を僅かに滲ませている。


キミコ「実はこの姿も名前もね、全部借り物なの。本物のキミコにもこの事謝んなきゃって思ったけど……どうやらその時間はもう残されてないみたい」

鳴上「じゃあ……お前の本当の名前は?」


>キミコは首を横に振った。


キミコ「知らない。もしかしたら、初めからないのかも」

鳴上「……」

キミコ「でもね、自分が本当は何者なのか知らなくても、名前も解らなくても、これが仮初めの姿でも……悠と過ごした時間は本当に楽しかったんだよ」

キミコ「だって、出番が終わって舞台から降りた後なのに、……私まだドキドキしてるもん」

キミコ「悠と私の過ごした日々は嘘なんかじゃないんだって、私はそう思いたい」

キミコ「悠はそうじゃないかもしれないけど」

鳴上「……確かにお前には色々と困ったのは事実だけど」

鳴上「でも、思い返してみれば、あれはあれで割といい思い出になったんじゃないかって、今はそんな気がしている」


>そんな風に思ってしまうのは、おそらくこれでキミコとも永遠の別れになってしまうからだろうか。


キミコ「……ありがとう。気を使ってくれてるんだとしても、嬉しい」

キミコ「あーあ、ホント残念! もっと悠と一緒にいたかったな!」

キミコ「……」

キミコ「ねえ。最後の最後に、ワガママしてもいいかな?」

鳴上「え……」


>その返事を待たずに、キミコが正面からこちらに抱きついてきた。

>しかし実体が無いせいか、抱き締められているという感覚はあまり無い。


キミコ「……」

鳴上「……」


>……それでも、彼女のその背に自分も腕を回し、そっと頭を撫でてやった。


キミコ「……もう少しこのままでいていい?」

鳴上「ああ」

キミコ「ありがと。……」

キミコ「ねえ、悠」

鳴上「ん?」

キミコ「……もしも」

キミコ「もしも、私が悪魔でも、好きといってくれますか?」

鳴上「!」

キミコ「……、なーんてね。別れ際に言うような言葉じゃないよね」

鳴上「キミコ……」

キミコ「……時間がきちゃったみたい。私も、悠も」


>キミコは抱きついた状態のまま、こちらの体をベッドへと押し倒した。

>彼女の体は、もう殆ど見えなくなってきている……

>……

>何故だろう。瞼が急に重くなってきた……

キミコ「私が守らなくても、悠は平気だよね?」

鳴上「……」

キミコ「でも、私の心はずっと悠の傍にあるから」

キミコ「……じゃあね」




キミコ「おやすみなさい」


>…
>……
>………


終わります。

次回、決戦のバトルフィールドへ!

乙!
これを機にキャサリンやってみるかな

乙ぅぅうううぅううぅううううぅぅぅぅぅ



>キミコ「もしも、私が悪魔でも、好きといってくれますか?」

懐かしいフレーズだ

乙!
超燃えるわ・・・

おつであります

噂が本当になってしまう…
まさかやはりペルソナシリーズ中絶対悪として存在しているあいつの仕業なのか?
まだまだ謎は深まるね

おつおつ
一番面倒くさいやつが関わってそうな予感がぷんぷんするぜ

乙!

ニャル子さんが元凶になる可能性が微レ存?



今更だけど、壇志英って
菊池秀行小説に転校生で出てきそうだよね

電子の海の言霊って・・・
デビルサバイバーの世界すら内包するのか。
クロスがすごいし面白いし、ワクワクが止まらない

>……

>周りは濃い霧に包まれている。

>ここがあの夢の中の世界である事に気付くまで、今回は少し時間がかかった。

>今まで何度か周りの雰囲気が変わった事はあったが、そのどれとも違う。

>おまけに、あの足場が崩れ落ちていっている振動と音をまったく感じない。

>石の山もなく、上でなく前に進むしか道はないようだ。

>一体どうなっているのだろう……


鳴上「ヴィンセントさん!」


>深く息を吸って彼の名を呼んでみたが返事はない。

>……

>今は、周りに注意しながら進める場所を行くしかないようだ。

>それにしても、この景色の感じは……


鳴上「眼鏡をかけていない時のテレビの中みたいだ……ん?」


>前方に、建物の影が見えてきた。

>霧に包まれているせいでどういう外観かよくわからない。

>近付いてみよう。


鳴上「これは……告解室!?」


>いつもは一山超えたあとに現れるあの建物が霧の中にぽつんとある。

>中には誰かいるのだろうか……


告解室


鳴上「……」


>以前までは、この中に入ると隣に何時も奴が待ちかまえていた。

>しかし、今はもう……


?「やあ。待っていたよ」

鳴上「!?」


>隣の部屋から声が聞こえてくる。

>しかし、この声は奴の……代行人のものとはまったく違うものだ。

>中性的で、小さな子供のようにも感じられる声だ。


鳴上「誰だ!?」

?「随分だね……さっき会ったばかりじゃないか。もう僕の事を忘れてしまったのかい?」

鳴上「さっきって、まさかヴィンセントさんの体の中にいた……!?」

?「その通り。言っただろ。僕も待っている、って」

?「まあ、僕の本来の定位置に戻ってきただけだけどね」

鳴上「お前も俺に妙な質問を投げかけにきたのか?」

?「まさか。仮にもこちらから頼み事をしておいて、そんな無粋な事はしないよ」

?「それに君に最後の選択を迫るのは僕の役目ではないだろうし、まだその時でもないようだからね」

?「僕は君を彼のところまで案内するだけだよ」

鳴上「じゃあ、この上にヴィンセントさんが?」

?「そうだよ。でも、この世界にいる彼はもう、ヴィンセントであってヴィンセントでなくなっている」

?「ここで彼がしている事は彼自身の本意ではない事は確かだけれど、話してどうこう出来る相手ではないという事を、頭に入れておいた方がいい」

鳴上「……わかってる」

鳴上「辿り着くしかないんだな。一番上まで」

?「そういう事だ。一筋縄ではいかないだろうけどね」

?「この場所も、僕の力では修復しきれなかった。だから僕から見ても、こんな訳のわからない場所になっている」

?「この先もどうなっているのかまったく予測が出来ない」

?「でも……君は今ここで亡くすには惜しい人材だ。僕も出来る限りの助力はしよう」
鳴上「ありがとう」

?「……フフッ、まさか人間から礼を言われるなんてね。君は面白い奴だよ」

?「さて。雑談はこの辺にしておいて、そろそろ行こうか。彼もいい加減待ちくたびれているだろうからね」

?「覚悟は出来たかい?」

鳴上「ああ」


>強い頷きに応じ、告解室が上昇を始めた。

>……


???


>告解室の動きが止まり、カーテンが開く。

>そこに広がっていた景色はまた霧に包まれていた……


?「なんなんだろうね。この霧は」

?「どうやら君の影響を受けているようにも感じるけど」

?「君の夢なんだから当たり前の事ではあるけどね」

鳴上「……」

?「まあいいか。さて、僕は君が戦いやすいように世界を構築し直しにいってこよう。上手くいくかはわからないけどね」

?「じゃあ」


>告解室が辺りの霧と同化するように霧散していった。

>それとほぼ同時に、今まで感じた中で一番大きな振動に襲われる。


鳴上「ッ……来たか」


>後ろを振り返る。

>霧の中には大きな黒い影がある。

>……それは空に浮かんだ豪奢な椅子に堂々と腰掛けていた。

>これまでいくつもの奇妙な怪物に襲われてきたが、それから感じるのは得体のしれない不気味さなどではなく、一種の貫禄のようなものだった。

>頂上に立つものの威厳というべきだろうか……周囲の空気がピリピリとしたものに一瞬で変わったのがわかる。

>それは正しく『伝説の男』の姿だった。

>しかし、その両目は狂気に満ちている。

>禍々しい双眸が挑戦者を……自分を見定めている。


鳴上「約束を守りにきましたよ」

鳴上「……でも、何時までもここに立ち止まってはいられないみたいですね」


>足場がガラガラと下の方から一段ずつ崩れ始めたのがわかる。

>しかもその間隔は、いつもと比べて大分早いようだった。

>このままではあっという間に崩れる足場に巻き込まれて落ちてしまう。


『……』


>『伝説の男』が座したままゆっくりと手を上げた。

>それを合図に様々な種類の石がランダムにその場に積まれ始める。

>脆い石、罠の仕掛けてある石、動かせない石、凍った石、爆発する石……今までその扱いに苦労してきた特殊な石に加え、見た事のない新しい石まである。

>普通の石の方が少ないのではないだろうか。

>……『伝説の男』はこれをどう解いて登っていくのか、自分を試しているのだ。

>ならば、それに応えるのが筋というものだろう。


鳴上「俺だってやれば出来ますよ、このくらい!」


>霧に聳える山へと駆けだした。

>……


鳴上「……確かにこれは一筋縄じゃいかないな」


>実際に登り始めて感じたそのなんともいやらしい石の配置の仕方には、もはや苦笑しか出てこなかった。

>これは明らかにこの仕掛けを知り尽くしているもののトラップだ。

>普通ならこうした方が登りやすい、ここを動かした方が早いという手順を潰すように石が配置されている。

>特殊な石のその性質が、そこから更に難易度を上乗せにし、考える時間が必要なのにも関わらず足場はどんどん崩れていく……

>今まで蓄えた知識と経験ももちろん必要だが、ここぞという時の一瞬の閃きが大事になるだろう。


鳴上「くそっ……俺が戦いやすいようにしてくれるんじゃなかったのか?」


>管理者からはあれから何も応答がない。

>いったい何をしているのだろうか。


鳴上「……ッ!?」


>その時、今まで宙に浮かぶ椅子に座って様子を眺めているだけだったそれに変化が訪れた。

>彼の手の中に霧が集まっていく。

>それは次第にはっきりと何かの形を成し、そこにすっぽりと収まった。

>彼が持っているのは、いつもあのクラブで傾けているのと同じようなグラスに見えた。

>その透明なグラスの中に、真っ黒な液体が溜まっていく……

>そして並々と一杯までなったそれをこちら目掛けてまき散らしてきたのだ!


鳴上「うわッ……!」


>なんとか上手い具合にその黒い液体を回避する。

>さっきまで自分の乗っていた石にその黒い液体がかかり、一瞬のうちに溶けて無くなっていくのが目に映った。

>彼は、黒い液体を様々な場所にかけて、ただでさえまともでない足場を次々と溶かして、行く手を阻もうとしていた。


鳴上「このままじゃマズいッ……」


>随分と上まで登ってきた筈だが、見上げても先にはまだ多くの石が積み重なっている。

>更に霧は濃くなっていくばかりで視界も悪い。

>先が見えない……

>終わりは何処で、何時になるのか……


?「待たせたね」

鳴上「!」


>管理者の声が聞こえてくる。


?「準備は整った。まずはこの山を少し綺麗にしようか。これを使うといい」


>手の中に小さなベルが現れる。


鳴上「これは……確かトリッシュが売ってたアイテムのひとつか!」

?「ああ。あの妖精からひとつ拝借してきたよ」

鳴上「確か効果は……」


>ベルを振って鳴らす。

>すると、瞬く間に周りが全て普通の石になった。

>これで進むのも大分楽になる。


?「あともう少しの辛抱だ」

ゴーン…… ゴーン……

>鐘の音も聞こえてきている。

>ラストスパートだ……!


『グォアアアアアアアア!!』


>既に人では無くなっている『伝説の男』の咆哮が響いた。

>どうやら彼も最後の最後でしかけてくるようだ。


鳴上「っ……風!?」


>突然、強風が吹き荒れ始めた。

>石に掴まっていないと吹き飛んでしまいそうなくらいだ。

>足場の石がそれに巻き込まれて徐々に上へと飛ばされていく。


鳴上「くっ……!」


>飛んでいく石に何度も当たりそうになりながら、頂上へと繋ぐ最後の階段を作り一気に駆け上がる……!

>後は平面に大きく広がっている足場を進み、数メートル先にある扉まで行くだけだ。

ズドオォォォォォォォォン!!

鳴上「!?」


>新たにきた激しい振動に思わず体を伏せた。

>襲ったのはその揺れだけで周りにこれといった変化はないようだったが……


鳴上「なっ……!?」

『……』


>扉の前に、椅子に腰をかけた巨大な男がいた。

>さっきの振動は、彼がここに降りてきた時のものだった訳だ。

>再び、二人は向かいあったままお互いを見据える形になっていた――


鳴上「ここまで来て、どうすれば……!」

?「準備が出来たと言った筈だよ」

鳴上「!」

?「今なら君の内に眠るその力が、ここでも使える筈だ」

鳴上「俺の……力!」

?「行け。全ての解放の時はもう、すぐそこだ!」


>体を光が包み込む……

>頭にあった羊の角が消え、月光館学園の制服がその体に、腕にはS.E.E.Sの腕章が現れる。

>そして手には、己の内なる力――ペルソナを呼び起こす為の銃が握られた。


鳴上「――ペルソナッ!」

『ガアァァァァァァァァァァッ!!』


>二人の叫びが重なった。

鳴上「来い――リリム!」

鳴上「エイジング!」


>まずは相手を出来るだけ弱らせようとイチかバチかのスキルを試みる。

>……しかし、やはりというべきかその効果は彼にはちっとも現れていない。

>威勢の良い咆哮が、まだなお続いている。


鳴上「やっぱりダメか……、ッ!?」


>上から巨大な石がいくつも振ってくる。

>こちらをその下敷きにしようとしているようだ。

>それをかわしながら徐々に彼との距離を縮めていくが、石が当たった場所は脆くなり咆哮からくる振動でぼろぼろと崩れていっている。

>こんな状態が長く続いたら、登っている時と変わらない……そのうち足場を失ってこの場もろとも落ちていってしまうだろう。


鳴上「チェンジ――ヴェータラ!」

鳴上「ブレインシェイク!」


>新たに呼び出したペルソナが、突進していく。

>だが、その攻撃は当たりはしても傷一つ負わせる事が出来ていないようだった。


鳴上「ならば……チェンジ! インキュバス!」

鳴上「マインドスライス!」


>先程よりも強いダメージを直撃させる。


『グァッ……アァ……アアアァッ!』


>その瞬間、咆哮が苦しみ混じりのものへと変わった。

>石の落下もぴたりと止む。


鳴上「効いたか!? ……よし、一気にいくぞ!」

鳴上「チェンジ! パズス!」

鳴上「ナバスネビュラ!」


>更なる追撃を叩き込む。

>その効果は抜群とは言えずともじわじわと効いていっている様子だ。

>彼は追ったダメージに苦しみ頭を抱えている。

>完全にこちらに対する攻撃がなくなった――

>今がチャンスだ!


鳴上「チェンジ! サキュバス!」

鳴上「マハラギオン!」


>いくつもの炎の渦が周りの石も巻き込んで彼の身を包む――

鳴上「やったか……、ッ!?」

『グォ……オオオオオオオオッ!!』


>次の瞬間、周りの炎が一気に吹き飛び跡形もなく消え去った。

>彼の体は焼け焦げてはいるものの致命傷にはなっていないようだ……

>そしてついに、彼はその重い腰を上げ――立ち上がった。

>その周囲に黒い液体の球がいくつも浮かび始める……


鳴上「またあれかッ! ――チェンジ!」

鳴上「リリス!」

鳴上「ジオダ……、ッ!?」


>こちらが動くよりも一歩早く、球状になった黒い液体が飛んできた。

>素早く身を捩るもののかわしきれず、それが左腕を掠った。


鳴上「がッ……」


>ジュウゥゥゥという焼ける音と共に、掠った左腕部分が黒く焦げ、強烈な痛みに襲われる。

>そのダメージでよろめきかけたのを彼は見逃しはしなかった。

>残りの黒い液体が、残らずこちらを目掛けて飛んでくる……!


鳴上「ぐっ……チェンジ! ベルフェゴール!」

鳴上「マハジオダイン!」


>球体になった液体を散らすように雷が直撃し、その大きな一撃が彼の脳天も貫いた――!


『ガァッ……』


>こちらに向かっていた彼の体が、後方へと倒れていく。


鳴上「これで……ラストだあぁぁぁぁぁ!! チェンジ!!」

鳴上「ベリアル!!」

>頭上に現れたペルソナが、彼への狙いを定める――!

鳴上「刹那五月雨撃ッ!!」

>無数の光の矢の雨が降り注いでいく。

>それをよける事など出来る筈もなく。

>その全てが彼の体に命中した。

『ギャアアアアアアアアアアッ!!』

>切り裂くような悲鳴と共に、人ならざるものになってしまった彼の体が徐々に消滅していく……

>そしてそこに残ったのは、本来のヴィンセントの姿だった。

鳴上「ヴィンセントさん!」

>ヴィンセントは意識を失って倒れている。

>急いで駆け寄り体を起こすが、それと共に足場が勢いよく崩れ始めたのを体にくる揺れで感じとった。

鳴上「もうすぐここも無くなる……!」

鳴上「早く出ないと!」

>邪魔をするものはもう何もない。

>ヴィンセントを連れて、急いで扉をくぐった。

>……


鳴上「……ここは?」


>扉の先の景色はすっかり霧が無くなっていた。

>あるのはただ大きく広がる青空とそこから差し込む柔らかで優しい光だけだ。


?「よくやってくれたね。僕からもお礼を言うよ」

鳴上「終わったのか? これで本当に……」

?「そうさ。これであの街の人間は救われた」

?「ここに伝説を刻んだ新たな男の手によってね」

鳴上「……」

ヴィンセント「鳴上……」

鳴上「ヴィンセントさん!?」

ヴィンセント「ありが……とう……これでようやく……自由に……」

?「そう。君たちは自由になった」

?「後をどう生きるかは……君たち次第だよ」

鳴上「俺たち次第……」

?「長くて短い間だったけれど、君たちとはこれでお別れだ」

?「なかなか楽しませてもらったよ。それじゃあ」

?「さようなら」


>眩しい光に包まれた……

>…
>……
>………

用事が出来た。一旦中断します

乙!

05/16(水) 晴れ 自室


【朝】


鳴上「……ん」

鳴上「まぶし……」


>カーテンの隙間から陽が差し込んでいる。

>起きあがってカーテンと窓を開けた。

>気持ちよい朝の空気が部屋に満ちる。

>こんなに清々しい気分で目覚めたのは実に久しぶりのような気がする。


鳴上「新しい一日の始まり、か」

鳴上「学校へ行く準備しないとな」


>……

>これでもうニュースで新たな犠牲者の名前を見る事もなくなるだろう。

>今夜からはみんな安眠出来る筈だ。

>ヴィンセントもきっと、ほっとしている事だろう。

>……最後の約束を果たしに、また彼に会わなければ。






【夜】


クラブ エスカペイド


ヴィンセント「よっ」

鳴上「こんばんは」

ヴィンセント「昨夜は……どうもな」


>ヴィンセントは気恥ずかしそうにしながら笑っている。


鳴上「ニュース、見ました?」

ヴィンセント「ああ、もちろん。今日は犠牲者ゼロだったな」

ヴィンセント「そしてこれから先も、多分あのニュースは流れねえよ」

ヴィンセント「よくやってくれた。お前にはもう頭が上がんねえや」

鳴上「いえ、そんな」

ヴィンセント「いいや。あのままだったらきっと、もっと酷い事になってたと思う。鳴上のおかげだよ」

ヴィンセント「……にしても、あんま記憶には残ってないけどさ。お前、結構容赦なくかましてきてただろ?」

鳴上「だって、手加減する余裕無かったし。それに、お互い様ですよ?」

ヴィンセント「えっ、そうなのか!?」

鳴上「そうですよ」

ヴィンセント「ははっ、そりゃあ悪い事したなあ!」

ヴィンセント「……本当に、悪い事をした」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「今日は俺の奢りだから、好きなもの好きなだけ頼んでいいぞ?」

鳴上「それじゃあ、いつものあれを一杯」

ヴィンセント「そんなんでいいのか?」

鳴上「はい。俺もアレ、なんだかんだで気に入ってるんですよ」

鳴上「まあ……昨夜はアレのせいで大変な事になりましたけどね」

ヴィンセント「え?」

鳴上「いえ、なんでもないです」

ヴィンセント「じゃあ俺ももう一杯」


>ヴィンセントは二人分のドリンクを注文した。


ヴィンセント「俺も今夜は飲めるだけ飲んでおく事にするよ」

ヴィンセント「もうここに来るの、これでしばらくやめようと思ってんだ」

鳴上「!」

ヴィンセント「悪夢は終わった……今度こそ本当に」

ヴィンセント「だから、これまで目を逸らそうとしていた事と、もう一度きちんと向き合ってみようと思うんだ」

ヴィンセント「家族の事。そして何よりも自分自身と、さ」

ヴィンセント「そういう風に思い直す事が出来たのもやっぱお前のおかげなんだと思う」

ヴィンセント「改めてお礼を言うよ……ありがとう」


>ヴィンセントから感謝されている。

>ヴィンセントとの間に、固い絆を感じた。



>『ⅩⅤ 悪魔 ヴィンセント』のランクが9になった。



ヴィンセント「今度お前に困った事が出来たら、相談しろよ? 次は俺が力になってやるからさ」

鳴上「はい」

ヴィンセント「……さ、じゃあ今夜は時間が許すまで飲もうじゃないか!」

鳴上「……」

ヴィンセント「ん? どうかしたのか?」

鳴上「いえ、その……」

鳴上「ヴィンセントさんにさっそく相談事というか、……ひとつまだ納得が出来てない事があって。それを聞いて欲しいんですけど」

ヴィンセント「なんだなんだ。遠慮せずに言ってみろ」

鳴上「はい。あの、それじゃあ」

鳴上「今度の休日に……」


>……

数日後


05/20(日) 曇り


ラーメン はがくれ


順平「……そんじゃまあ、皆さん。ここはひとつ、お疲れ様っつー事で」

天田「久しぶりに会ったと思ったらはがくれのラーメンとか……実に順平さんらしいですね」

順平「なんだよ天田ー! 話の腰を折るなよ! それにお前だって好きだろ? ここのラーメン」

天田「まあ、そりゃそうですけど」

鳴上「というより、これなんの集まりなんですか?」

順平「だーかーらー! お疲れ様って言っただろ!」

順平「悪夢からの生還記念打ち上げお疲れ様パーティーだよ!」

天田「……。それでラーメンって。もうちょっとマシな場所があったんじゃ……」

順平「うるさい! つべこべ言わずに食べる!」

順平「いただきます!」

鳴上・天田「……いただきます」


>……


天田「あれからぴたりと事件が止みましたね」

鳴上「そうだな。本当に良かった」

順平「あの夢も見なくなったしな。……で、なんだっけ?」

順平「この街に妙な『力』が蔓延してるらしい、とかだっけ?」

順平「それって、結局どういう事なんだってばよ」

鳴上「詳しい事は俺にも……」

天田「でも、その妙な『力』とかっていうののせいで今回みたいな事件が起こった訳ですよね?」

天田「しかも、蔓延しているって事はつまり……事件は解決したけど、原因になった『力』自体はまだ残っているって意味なんでしょうか」

鳴上「……。もしかしたらそうなのかもしれない、と俺は思っている」

鳴上「4月にあった映画館の世界の事件だって、『力』のせいなのかも」

鳴上「でも『力』って……『何』の『力』なんだか」


順平「……」

順平「要するに、この街はまだこれからも何か起こるかもしれなくて、危険だって訳だよな?」

鳴上「はい。そういう事です」

順平「……心配だな。アイツひとりをここに残しておくのは」

鳴上「チドリですか?」

順平「ああ……」

鳴上「最近どうなんです? チドリとは」

順平「あー、うん。まあ、ボチボチ、な」

順平「……」

順平「……あの夢さ。気持ち悪い夢だったけど」

順平「でも、あの夢のおかげもあってチドリの事も含めて、色々と見つめ直さなきゃいけない事が自覚出来たって感じだった」

天田「……不思議な夢でしたよね」

天田「僕もそんな感じですよ。心の中にあった問題と今一度、向かい合わなきゃいけない時がきたのかな……って」

天田「まだちょっと、その勇気はないんで……今は忘れていたいんですけどね」

天田「でも……」

天田「……」

順平「……」


>二人とも黙ってしまった……


天田「鳴上さんはどうでした? あの夢を見て、何か思うところがありましたか?」

鳴上「……え? あー、そうだな」

鳴上「……」


>あの夢を見て、自覚した事。

>それは……

>……


鳴上「……何かあったかな」

順平「お前はお気楽なもんだなー」

順平「ま、そんなんだから、お前に救われたとことかあんのかもしんないけどさ」

天田「そうかもしれませんね」


>二人は笑っている。


鳴上「……」

順平「……おっと、伸びないうちに食べちまおうぜ!」


>ラーメンを食べながら三人で時間を過ごした。

>二人との仲が少し深まった気がする。



>『Ⅰ 魔術師 伊織順平』のランクが5になった

>『Ⅷ 正義 天田乾』のランクが4になった


>……


ポロニアンモール


>ラーメンを食べ終わった後はそれぞれ用事があるという事で、その場ですぐに解散となった。

>自分もこの後もう一件約束を控えている為、ポロニアンモールまでやってきている。


鳴上「……あ。すみません、遅くなって!」

ヴィンセント「いや、俺も今来たところだ」


>ゲームセンターの前に、待ち合わせ相手のヴィンセントの姿を見つけた。


ヴィンセント「じゃあ、行くか」


>二人で一緒にそのままゲームセンターの中へと入った。

>……


ゲームセンター ゲームパニック


ヴィンセント「……それで? 自信の方はどうなんだ?」

鳴上「もう、バッチリですよ。貰ったゲームで練習もしましたから」


>今、二人はラプンツェルの筐体の前にいる。

>あの事件が静かになって以来、またすっかりとプレイする人間がいなくなってしまったゲームだ。


ヴィンセント「しかし、鳴上がここまでこのゲームを気に入ったとはなあ。あれ以降すっかり飽きたかった思ってたのに」

鳴上「言いませんでしたっけ? 俺、負けず嫌いなんですよ。だから、今日こそはEDを見るつもりだし」

鳴上「ヴィンセントさんの記録も越すつもりです」

鳴上「だから、それを直に見届けて欲しくて」

ヴィンセント「へえ、そりゃあ楽しみだ」

鳴上「じゃあ……いきます」


>コインを入れて、ゲームを開始した。

>……


鳴上「……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「これは……たまげたな」


>ゲームを開始してから、結構な時間が経った。

>しかし、その間一度たりともミスはしていなかった。

>とれるアイテムは全てとり、自分が考えられる範囲での最短ルートを通っていき……

>今、遂に最終ステージである64面までやってきたところだ。


鳴上(あと……少しだ!)


>……たかがゲームではあるが、その緊張は半端ないものであった。

>レバーを握る手が汗ばむ。

>出来る事ならこのままノーミスでクリアしたい……!

>…

>……


ヴィンセント「……」

ヴィンセント「……おっ!?」

鳴上「っ……」


>姫のところまであともう少し

>もう少し……

>……


鳴上「……!」

鳴上「つっ……着いた!」


>王子が見事姫のところまで辿り着いた!

>画面には、魔女から姫を救い出した王子の姿が映っている。

>次の瞬間、周りから歓声が沸き上がった。


鳴上「ッ!?」


>どうやらいつの間にかギャラリーが出来ていたらしい。

>EDまで辿り着いた自分を見て盛り上がっているようだ。

>……ヴィンセントはパチパチと拍手をしている。


ヴィンセント「いやあ、短期間でよくそこまで出来るようになったもんだな。びっくりだ」

ヴィンセント「ほら。ネームエントリーしないと」

鳴上「え?」


>ヴィンセントの言う通り、画面がいつの間にか切り替わっていて、ネームエントリーが出来るようになっている。

>自分の出した記録は……

>今まで筐体内でヴィンセントが出した記録を僅かに上回り、見事一位になっていた。


ヴィンセント「こりゃあ、『伝説の男』の称号はお前に譲らないとダメみたいだな」


>周りのギャラリーも、新しい『伝説の男』誕生の瞬間に立ち会えた事に興奮している。

>……

>……なんだか、少し恥ずかしい。


ポロニアンモール


鳴上「あの、今日は付き合ってもらってありがとうございました」

ヴィンセント「いやいや。俺もあの瞬間を見届けられてよかったよ。凄かったな」

鳴上「時間は大丈夫ですか?」

ヴィンセント「ああ。もうすぐだな」

ヴィンセント「……と、その前に。お前に渡したいものがあるんだった」

鳴上「?」


>ヴィンセントは綺麗な包みを差し出してきた。


ヴィンセント「鳴上もここのところずっと寝不足が続いてた訳だろ? もうこんな事ないとは思うけどさ、俺オススメの安眠グッズやるからよかったら使ってくれよ」

ヴィンセント「まだまだ睡眠が大切なお年頃だろうからな?」


>ヴィンセントは笑っている。

>包みを開けると中から羊の目の描かれたアイピローが出てきた。

>『羊の目のアイピロー』を手に入れた。


?「ごめん、お待たせ!」

ヴィンセント「お、来たか」

ヴィンセント「こっちも今用事が済んだところだから、大丈夫」


>赤ん坊を抱いた女性がこちらに近付いてきた。


ヴィンセント「紹介するよ。俺の嫁と娘」

ヴィンセント「で、こっちが……」

嫁「あら、もしかして最近よくあなたが話してる鳴上くんってこの子の事かしら?」

鳴上「あ、はい。そうです。初めまして」

嫁「いつも主人がお世話になっています」


>ヴィンセントの妻は頭を軽く下げ微笑んだ。

>とても美人な奥さんだ。


娘「うー?」


>ヴィンセントの妻に抱かれている女の子がこちらを見て不思議そうに首を傾げている。


鳴上「この子がヴィンセントさんの娘さんか。可愛い子ですね」

ヴィンセント「だろ?」

ヴィンセント「俺たち二人に似てて、さ」


>ヴィンセントは幸せそうに笑みを浮かべている。


鳴上「これからご家族でお出掛けなんですか?」

ヴィンセント「ああ、そうなんだ。だから今日はこれで」

ヴィンセント「今度、家に食事にでも招待するよ。その時は絶対来いよな!」

嫁「もう、年甲斐もなくはしゃがないの! ごめんなさいね」

鳴上「いえ。楽しみにしてますから」

ヴィンセント「ああ、じゃあまたな」


>ヴィンセントは少し名残惜しそうにしながらも手を大きく振って家族と一緒にこの場を去っていった。

>ヴィンセントとの間に強い絆を感じた……



>『ⅩⅤ 悪魔 ヴィンセント』のランクがMAXになった



>……彼はもう大丈夫だろう。

>これからきっと本当に幸せになれる筈だ。

>彼ら家族の背中を見て、そう思った。

>……


【夜】

自室

>夕方から天気が崩れ、夜になっても雨が降り続いている。

>久しぶりにマヨナカテレビのチェックが必要そうだ。

>……そういえば、二週間前ほどに見たマヨナカテレビは結局なんだったのだろう。

>ただの暗示か何かだったのか……

>……

>日付が変わるまであと僅かだ。

23:59→00:00

>…
>……
>………

>テレビにこれといった変化はみられない。

>今夜は何も心配する事なく寝られそうだ。

>せっかくだから、ヴィンセントから貰ったアイピローを使ってみる事にしようか。

>電気を消して、ベッドに潜った。

>久しぶりにいい夢がみたい……

>……

――ジ――ッ


ジジッ――ジ――ッ


――パチン


ルゥ「皆さん、如何でしたしょうか?」

ルゥ「彼と彼らの奇妙な数日間……見てるこちらもドキドキの連続でしたね」

ルゥ「彼は人生の山場を越え、文字通り大人の階段をひとつ登ったってところなのかしら」

ルゥ「ゴールデンプレイシアターはこれでおしまい」

ルゥ「でもね、彼の人生はこれからもまだ続いていくの」

ルゥ「そういった意味では、まだゴールは大分先の話って事になるわよね」

ルゥ「その彼の行く末……気になる人、多いんじゃないのかしら?」

ルゥ「多分、きっとこの先にも彼にとっての人生の山場がいくつも待ち構えている筈……」

ルゥ「そんな彼の物語を、これからもそっと見守っていく事にしましょうね」

ルゥ「さて、そろそろお別れのお時間のようです」

ルゥ「お相手はわたくし、ミッドナイト・ヴィーナスこと石田☆ルゥでした」

ルゥ「それでは皆さん、またいつか何処かで」

ルゥ「ごきげんよう」



ブツン――ッ


>――あれから特に変わった事件は起きていない。

>シャドウとの接触もないまま平和な日々は続き、季節はいつの間にか衣替えの頃を迎えていた……



06/04(月) 晴れ


【朝】


月光館学園 3-A 教室


男子A「はよーっす! 元気してっかー?」

鳴上「おはよう。お前は何時になくテンションが高いな」

男子A「聞いて驚け! なんと、このクラスにまた転入生がくるんだとよ!」

鳴上「転入生?」

男子A「そう! かわいい女の子だったらいなあ~って話だよ!」

鳴上「なるほど。それでそんなテンションなのか。納得した」

鳴上(それにしても、俺たちを含めてこれで四人目の転入生か……どうなっているんだ、このクラスは)

鳴上「……ん?」


>携帯が震えている。

>メールを一通受信したようだ。

>誰からだろう。


鳴上「えーと」

鳴上「……?」


>どうやら登録されていないアドレスからのようだ。

>迷惑メールだろうかと一瞬思った時、署名部分に差出人の名前が記入されている事に気付いた。


鳴上「STEVEN?」

鳴上「誰だ? 外人か?」

淳「おはよう。みんな、席についてー」


>先生が教室に入ってきた。


>メールの中身をあらためるのはまた後にしておこう。


淳「今日はまたみんなに転入生の紹介です」

淳「どうぞ、入ってきて」


>廊下に待機していた転入生が扉を開けて教室の中に入ってきた。


女生徒A「やだ、あのこちょっとカッコよくない?」

女生徒B「ホントだあー」

男子A「なんだあ、野郎かよぅ……」

鳴上「ご愁傷様」

鳴上(しかしあの格好は……なかなかハイセンスだな)


>その転入生は少し目立つ風貌をしていた。

>制服はみんなと同じ月光館学園の制服を着ていて、きちんと衣替え済みの半袖だったのだが……

>これからどんどん暑い季節になっていくのであろうにも関わらず、首にはロングマフラーを巻いている。

>先生がチョークを渡し、彼に名前を書くように促すと、それの鮮やかな黄の色がゆらゆらと揺れているのが目に映った。

>自身の名を書き終わり、軽く手を叩くとマフラーと一緒にくるりと体が翻る。

>そして、左目下に泣きぼくろを携えた甘いマスクを女子にアピールするように微笑むと、彼は自己紹介を始めるのだった。





「――望月綾時です。これからよろしくお願いします」


終わります。

次回からは平和な平和な日常回です。

Stevenまでだすのかよ
望月もでるし
どこまで行く気なんだろうwwww

乙乙

綾時……だと……!?
月が……月が……!

乙!

アトラスオールスターってレベルじゃねえぞwwwwww
あとヴィンセント戦はすべて悪魔アルカナのペルソナか

何さらっと出てきてんだwwwwww

乙!

綾時ってマズくね…?


乙!


開始当初は普通にペルソナ3、4のクロスかと思っていたら、STEVENまででてくるアトラスオールクロスSSだったでござる
ひょっとしたらとんでもない名作の生まれる瞬間に立ち会ってるのかも知れん…

そしてなにしれっと復活してんだよ綾時wwwwww


こいつは凄い事になってきたぜ…

悪魔召喚プログラムきやがったwwwwwwwwww


ってオイ………オイ…………

綾時て・・・世界オワタ・・・

まだ課外活動部で明らかになっていないキャラが一人いるからなー
そっちも期待だぜ

……え?え?
おまっ……え?
キタロウが封印してるはずだよなおまえ!?
どーいうことなの……

それもこれも〇ャ〇〇〇〇〇〇ってやつの仕業なんだ!

なんだって!?それは本当かい!?

P3のころの記憶はP3勢にはないのかな?
リョージとの記憶をどうするか、楽しみだな

>>362
マジでその可能性が一番濃いから困る
大抵のトラブルはあの邪神(ひと)のせい

どんどんキャラが増えてくな
ってか最初ら辺の話忘れてきちゃったしww
今までのあらすじ的な物を書いて貰えると嬉しいです。

>>366
二周目に入ればいいだけ

混沌王まで出て来たら悪魔も泣くしかない

どこぞのデビルハンター「悪魔も泣くと聞いて飛んできました」

ダンテさん強すぎてつまらなくなるので、お引き取りください。

ダンテさん強すぎてつまらなくなるので、お引き取りください。

二回も言うなよ・・・

>>1が大のアトラスファンだというのは分かった

提案があったので新章入る前に簡単にあらすじまとめてみた

割と適当なので、これでわからなかったらやっぱり最初から読み直す事をオススメするであります

八十稲羽から帰って親に会ったら、月光館学園の寮に住めって言われたので春休み中に引っ越したら、新学期始まる前に何故か寮でシャドウに襲われた。



よくわかんないうちに、テレビの中でもないのにペルソナ出せたから戦った。勝った。気絶した。



イゴール&マーガレット「なんかまた大変な事起こるみたい。だけどペルソナ全書白紙になっちゃったんで、一からコミュニティ回収頑張ってね」



目が覚めたら、寮の責任者二人に半年くらい前からまたシャドウが悪さするかもって予感があったとか突然言われた。
どうやらこっちがペルソナ使いだという事を初めから知られていたようだし、向こうもペルソナ使いらしい。しかも一人はロボっ娘だ。
更にロボっ娘がやってきて、シャドウ討伐組織の部長兼リーダーになってくれと言われたのでやる事にした。



学校が始まり、新たにショタと犬が仲間に加わった。今のところ集められる人材はこれが限度らしい。そんなんで大丈夫なの?



あれ以来シャドウが現れる気配はなし。というより、そもそもこの間のシャドウは何処から何故現れたのかも不明。何か情報はないのかと探る中、警察とかゴスロリ少女とかピアスの男とか幽霊とか色々と知り合いが増えていった。



そんなある日、ネット上で駅前付近に怪物が現れたらしいと話題になっているのを知った。それ、もしかしてシャドウなんじゃね?
でも、以前のように影時間もタルタロスも現れている気配はないし……って事で、一つの仮説として、テレビの中からシャドウが這い出てきたんじゃ、などと言われたところで初めて何故かこちらからはテレビの中に入れなくなっている事に気付く。



それは置いといて、結局のところシャドウらしき怪物が本当に駅前に現れたのだとしたら何処からきたのか? と考えたところ、映画館が怪しいかもって話になり、その場の勢いで行ってみたらビンゴだった。



どうやら深夜0時を過ぎると映画館は現実と港区に似た別の世界とを繋ぐ入り口になるようだ。その世界でシャドウに捕らわれている人間がいるようで救出しなければならなくなった。そして、なんとか無事それに成功した。俺たち特になにもやらなかったけど……



事件は落ち着いたけど、変な世界だしもう少しよく調べてみようと思っていたら、突然入り口が機能しなくなってその世界に行けなくなった。結局なんだったの? まあ、あの世界が消えたのかもしれないならいっか。



結局その後、特に何もないまま何日か過ぎた。最近、ある携帯アプリゲームが流行ってるらしいという話などを聞いたりしたがゲームの事はよくわからない。まあとにかく平和で何よりだ。



平和なままGWを迎えた。ちょっと八十稲羽に遊びに行ってくる。留守は任せた。



八十稲羽の仲間は変わらずのようだ。でも、みんなもうこれからの進路について自分なりに色々と考えを決めている様子が見受けられた。俺はといえば……



最近、八十稲羽ではまたマヨナカテレビが映るという噂が流れているらしい。仲間は誰もそんなもの見ていない様だったが、向こうに戻る前夜それらしきものを見てしまう。



帰りの電車が来る前に調べようとジュネスに集合をかけるが誰一人としてやってくる気配がない。嫌な予感がする……



俺、今テレビの中に入れないんだけど、どうしよう……って、あれ? また入れるよ? なんで? まあいいや。テレビの中へ単身ダイブ!



テレビの中に入ったら、P-1 Grand Prixとかいうのが開催されるとクマのアナウンスが入る。様子がおかしい……



とりあえず進むしかないようだったので行ってみたら何故かアイギスと遭遇。しかし、やっぱりなんか様子が変だ。ペルソナファイト、レディーゴー! な展開に。



アイギスを正気に戻す事に成功した。しかし、向こうにとってはこちらの方が正気には見えなかったらしい。訳がわからない。
とりあえず、何故こんな場所にいるのか聞いたら、アイギスの姉妹機が脱走してこの場所に来ているかもしれないのだという。一緒に行く事にした。



その矢先、謎のエレベーターガール・エリザベスに絡まれる。どういう意図かはわからないが、一手交えたいらしい。遊んでる暇はないのだが、彼女が八十稲羽の仲間を人質にしていると知る。仕方ないから戦った。一方的にボコられた。挙げ句、勝ち逃げされた。



仲間は解放されたが、りせだけいない。りせから放送室にクマじゃない変なクマがいてそこに捕らえられているとSOSが入る。仲間達の方は気付いたら何故かテレビの中にいたらしい。誰かに突き落とされたみたいな感じがするとかなんとか



とりあえず放送室についた。りせと一緒に美鶴と半裸マントと誰かがいる。どうやらそれがアイギスの姉妹機・ラビリスのようだ。でも帰りたくないとごねるので取り押さえたら、彼女のシャドウが出てきた。戦ってどうにかした。ラビリスもやっと納得してくれた。



寮に戻ったらラビリスも特別課外活動部に加入する事になったと聞かされる。何故、八十稲羽のテレビの世界にいたのかという話は後日することになった。



その夜、妙な夢を見た。でも内容がよく思い出せない。



ラビリスから詳しい話を聞く事になったが、彼女も何故あの場所にいたのかよくわかっていない様子だ。他に言いたい事があるようにも見えたがなんでもないと誤魔化された。



陽介にラビリスの事を電話で話している最中、マヨナカテレビらしきものを見た。が、急な眠気に襲われる。



それから数日の間、得体のしれない悪夢に悩まされ、謎の女・キミコに振り回される事になった。
それと平行し、世間では謎の連続衰弱死事件が起こり、騒がしくなっていった。



毎夜見る夢と衰弱死事件には何か関係があるようだ。クラブで知り合った三十代の男と話すうちに、色々何かが見えてくる。



どうやらよくわからない『力』とかいうのがそもそもの原因らしい。
それが何かはわからないが、衰弱死事件を解決する手立ては掴めたので、とりあえずそっちをどうにかした。



再び平和は戻った。が、『力』というものが何の事なのかは解らないまま、数日が過ぎた。



ある日突然、転入生がやってきた。そいつは……

綾時「どうも、僕です^ ^ 」←今ココ


※ここまで、作中の時間で約二ヶ月程度


こんな感じの筈です。参考にどうぞ。

本編の方はまた後日投下にきます。

乙!

乙!

乙です!
いやはや、濃い2ヶ月だなぁ…w

あらすじ乙
綾時「どうも、僕です ^ ^ 」
なんでか知らんが笑ってしまったwwww

すげー、あらすじまで書いてくれて嬉しい

楽しみにしています

めっちゃ面白くて一気に読んでしまった…。
でも話広げ過ぎてエタらないでくれよ…。

終着点がまるで見えない…
どんなに長い旅路にも必ず終わりは来るというが果たして

しかし、マジでアトラス総出演だなあ。
太陽が黒化して謎の石化病が流行りだしたり、
大正時代から大学芋好きな探偵見習いがタイムスリップしてきてもおかしくない

まだまだこれからか・・・
バラの掟を巡る孤児院での事件とか出てきたら、
感動しすぎて体から出る液体全部出てきてしまうかもしれない。

>……


【昼休み】


>転入生がクラスの女子に囲まれ質問攻めにあっているのが見える。

>授業と授業の合間の休み時間にも、もう何度も見ている光景だ。

>転入生は嫌な顔ひとつせず、自己紹介の時に見せていた甘いマスクを保ったまま、受け答えをしている。

>とても手慣れている様子だ。


男子A「にくい。顔面格差社会がにくい」


>クラスメートもずっとこんな調子だ。

>そっとしておこう。


鳴上(……ん?)


>ふとした瞬間、女子の輪の中にいる転入生と視線が合った。

>こちらを見て小さく微笑んでいる。

>つられて微笑み返してしまった。


男子A「今、アイツ、俺の事バカにしたような笑いしてなかったかッ!?」

鳴上「いや、それは考えすぎだろ」

男子A「じゃあ何か!? お前達同じイケメン転入生同士にしか解らない謎の交信でもしてたってのか!?」

鳴上「いい加減落ち着け」


>そうこうしているうちに、転入生はようやくクラスの女子から解放されたようだった。

>転入生はその隙に席から立ち上がり、女子の輪の中にはいなかったメティスとラビリスの方へと近付いていくのが見えた。

>三人は何か話しているようだったが、ここからだと少し距離がある為、内容を聞き取る事は出来なかった。

>すぐに昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ってしまったので、大した会話はしないまま離れてしまったようだが……


男子A「おい、鳴上のお花ちゃん達にまで粉かけてるぞ? いいのか?」

鳴上「俺の、っていうのは余計だろ……」

鳴上(でも、何話してたのか気にはなるな)


>後で聞いてみようか。

>……


【放課後】


ラビリス「悠、ちょっと!」

鳴上「……ん? どうした?」

ラビリス「これから転入生に学校の案内するんやけど、一緒についてきてもらってもええ?」

鳴上「転入生に?」

メティス「はい。私達……というか、ラビリス姉さんに是非お願いしたいと、望月さんが」

綾時「綾時でいいよ、メティスさん」


>転入生が二人の背後から唐突に現れた。


綾時「ラビリスさんが生徒会の人だって聞いたから、学校の事詳しいんじゃないかと思って頼んだんだけど。迷惑だったかな?」

ラビリス「んー、そういうのやないんやけど」

ラビリス「ウチもこの学校来てからそんな日が経ってないからな。悠もいた方が助かるかもと思って」

メティス「という訳です。放課後に何も予定がなければ、鳴上さんもご一緒していただけると有り難いのですが」

鳴上「そういう事か」


>昼休みに話していたのは、きっとこの事だろう。


鳴上「俺は構わないぞ。転入生がハーレムの邪魔だと思ってないならの話だけど」

綾時「ははっ、確かにちょっと勿体無い気もするね。でも、せっかくだから、よろしく頼むよ」

綾時「えっと……鳴上くん?」

鳴上「ああ、こちらこそ。改めて、同じクラスでこれからよろしくな、望月」


>綾時に学校を案内する事になった。

>……


月光館学園 高等科校舎


>少し前方で綾時と並びながらラビリスが一生懸命学校の中の説明をして歩いている。

>それを見守るかのような形で、メティスと二人で歩いていた。


鳴上「……なんだ。ちゃんと一人で案内出来てるじゃないか。これなら俺の手番はなさそうだな」

メティス「そうですね。……」


>メティスはラビリスの姿をじっと見つめている。


メティス「ラビリス姉さん、なんだかとっても生き生きしてる」

鳴上「そうだな。誰かの役に立ちたくて、生徒会に入ったんだそうだから、正に今そうする事が出来て嬉しいんじゃないか?」

メティス「そっか……姉さん、自分がやりたい事をきちんとみつけてるんだ」

メティス「……」


>メティスは少し悲しそうな、羨ましそうな目でラビリスの姿を見続けていた。


メティス「私は……まだまだ、です。いつか鳴上さんが話していた、自分だけの世界というのが未だにはっきりと見えずにいます」

メティス「そんなものないのかもしれない。あったとしても、私にはやはり必要ないものなのかも。……そんな風に考える事だって、まだあります」

メティス「でも、姉さんのあんな楽しそうな姿を見ていたら……ちょっといいなって思ってしまいました」

メティス「私も、私がしたい事、出来る事ならもっと見つけてみたい。そんな風に思うなんて、」

鳴上「おかしい事じゃない」


>メティスが言葉を続ける前にそう答えた。

メティス「……」

メティス「兵器でない時の私には何が出来るのか知りたい」

メティス「だから私だって、もっと普通の人間のような事を真似してみても……いいんですよね?」


>メティスの視線がこちらへと移った。

>その瞳には不安の色が混じっている。


鳴上「ああ、もちろん。俺がそれを止める理由はないし、メティスがそういう事思うようになったって知ったらアイギスもきっと喜ぶよ」

メティス「アイギス姉さんが?」

鳴上「そう。アイギスも言ってたんだよ。シャドウを倒す兵器として作られたけど、それだけしかしちゃいけないって訳じゃないと思うって」

鳴上「メティスの人生はメティスが自分で決めていいんだよ。誰かに意見を窺う必要なんてないんだ」

メティス「私の人生……」

メティス「人が生きると書いて……人生。機械の私にとって、その言葉は適当ではない気がします。でも」

メティス「そう言って貰えて、なんだか嬉しいと思う自分がいます」

メティス「とても、不思議な気持ちです……」


>メティスは自分の胸に手を当て目を伏せながら考えている。


メティス「鳴上さんも、不思議な人です」

鳴上「俺が?」

メティス「はい。鳴上さんといると、今まで知らなかった事を次々と覚えていっている、そんな風に感じます」

メティス「この今の感情だって、きっとそう」

メティス「……やっぱり間違ってなかったのかも」

鳴上「何が?」

メティス「私の大事は貴方の傍にいる事、というやつです」

メティス「最初、それは鳴上さんの為になる事だからと考えていましたが……そうではなくて」

メティス「私にとって為になる事だから。そういう意味だったんですね、きっと。まったく、アイギス姉さんも人が悪いんだから」

>メティスは笑みを浮かべている。

>アイギスが思っていた事が、彼女にもようやく理解出来始めてきたようだ。


メティス「だから私、これからも鳴上さんの傍にいますね」

鳴上(……本人にとって特別な意味はないんだろうけど、変な誤解しそうな言葉だな)

鳴上(でも……)

鳴上「俺も、必要だっていうのなら、メティスの傍にいるよ」

メティス「はい!」

鳴上(誰かに必要とされてるってのは、やっぱり悪い気分はしないな)


>メティスの心の変化を感じた。

>メティスとの距離が、少し縮まった気がする……



>『Ⅴ 法王 メティス』のランクが4になった



メティス「……でも、急にこんな事思うなんて、自分でも本当に不思議な話です」

メティス「世間がまた平和になったからでしょうか」

メティス「だから、人間のように平和な時間の中を、私なりに過ごしたいと思う自分がいる……?」

メティス「……」

鳴上(……平和、か)


>……


月光館学園 校門


ラビリス「……とまあ、大体こんな感じやな。何かわからん事は?」

綾時「今のところ、特には。助かったよ」

綾時「また何かあったらラビリスさんに聞こうかな。今日は本当にありがとう」

綾時「それじゃあ、僕はこっちだから。みんな、また明日ね」


>綾時は手を振って校門から出ていった。

>同じように手を振って笑顔で綾時を見送っていたラビリスだった、が……

>急に、はあっと深い溜め息を吐いてガクリと肩を落とすのだった。


ラビリス「うわあーもうーめっちゃ緊張したわあー!」

ラビリス「ウチ、リョージにきちんと案内出来とったかな!?」

ラビリス「リョージの役に立てたんかな? なぁ!?」


>ラビリスは自分がした事に不安を持っているようだ。

鳴上「きっと大丈夫。望月だって、ラビリスにありがとうって言ってただろ? また何かあったらラビリスに聞こうかともさ」

鳴上「それってつまり、ラビリスの案内が良かったっていう意味だろ?」

ラビリス「そ、そうかな?」

鳴上「ああ」

ラビリス「……。ホントにそう思ってもらえてたら、ええなあ」


>ラビリスはまだ少し不安がりつつも笑っている。


ラビリス「ありがとな。悠もメティスも付き合ってくれて」

メティス「いえ、私達は何もしていませんから……」

鳴上「そうだな。さっきの事は、全部ラビリスがやった事だから。あとで望月にお礼を催促しておくといいぞ」

ラビリス「えへへっ」

ラビリス「……でもなあ、多分ウチひとりやったら、あそこまで出来なかったと思うんよ」

ラビリス「悠やメティスが近くにいるって安心感があったからやれた事やと思う」

ラビリス「ウチもまだまだや」

ラビリス「とりあえず、学校の生徒の役に立つってどういう事なのか掴めた感じはするけどな!」

鳴上「それは良かった」

ラビリス「よっし! これからも気張っていくでー!」

鳴上「ラビリスの場合、あまり意気込み過ぎるのもよくないと思うぞ」

ラビリス「! せ、せやな……ウチ、自分の感情のままに暴走したら、きっと碌な事にならんよな……それで前にみんなに迷惑かけたんやし」

ラビリス「その辺も、肝に銘じとくわ!」

ラビリス「まずは、もうちょっと学校のルールとかも、きちんと確認しとく必要もあるかもな」

ラビリス「なんたって生徒会や。生徒の手本にならなあかんのやからな!」

ラビリス「うーん……思っていたよりもやっぱ難しい事が多いみたいやわ」


>そう言いながらも、ラビリスは楽しそうにしている。


鳴上「やりがいがあっていい、って感じじゃないか」

ラビリス「まあな! へへっ」

ラビリス「ウチ、これからも頑張るから、悠もメティスも見ててな!」


>ラビリスは、自分の中にある決意を一層固くしたようだ。

>ラビリスのやる気を感じる。



>『ⅩⅥ 塔 ラビリス』のランクが3になった

ラビリス「じゃあ、ウチらも帰ろっか」

メティス「そうですね」

鳴上「あ、悪い。俺は寄るところがあるから、二人は先に帰っててくれ」

ラビリス「え、用事あったん? なら言ってくれれば良かったのに」

メティス「私達もお供しましょうか?」

鳴上「いや。大した事じゃないから。時間もとらないと思うし、俺もすぐ戻るよ」

メティス「そうですか。それじゃあお先に失礼します」

ラビリス「じゃあなー、気ぃつけてな!」

鳴上「ああ」


>……


ポロニアンモール


鳴上(周防さん、いるといいけど……)


>タイミングが色々と悪く、前に約束した漢の世界シリーズの最終巻『漢よ、さらば』を未だに周防に貸せずに今日まできてしまった。

>今日こそはと思い、鞄の中に入れては来たのだが、彼も忙しい身である事はわかっている。

>会えるだろうか。

>黒沢に頼むという手もあるが、出来る事なら直接手渡したい……


鳴上「ん?」


>交番の方に向かおうとしたところで、靴にカチンと何かが当たったような気がした。

>視線を下に向けてみると、そこには銀色に光る四角い何かが落ちていた。


鳴上「これは……ライター、か?」


>屈んで手に取り拾ってみる。

>ライターはライターであったが、コンビニで100円で売っているような安物ではない事は一目でわかった。

>銀色のボディに洗練されたデザインが施されている。

>これひとつで、煙草がカートン単位で買えそうな値段がするのではないだろうか。

>きっとこれの落とし主は今頃ショックを受けている事だろう。


鳴上「……ついでに届けとくか」


>屈んだ体を起こした、その時。

>声が耳に届いた。

?「……ゆき……」

鳴上(……雪?)

鳴上(ていうか、この声、……周防さん?)


>声がした方を向いてみた。

>噴水近くのベンチに一人の男が座っているのが見える。

>しかしそれは、周防の姿では無かった。

>周防よりは若く、自分よりは少し年上の学生といったところだろうか。

>腕を組み眼鏡を頭の上に乗せながら、居眠りをしているのがわかる。

>声はその男の寝言のようだった。

>急に、ガクッと男の首が傾いた。

>そのせいか、彼は目を覚ましてしまったようだ。

>目を二、三度瞬かせ、まだ眠そうな顔をしている。


鳴上「あの」

?「……?」

鳴上「これ、貴方のですか?」


>男に拾ったライターを見せてみた。

>男は目を細めて顔を近付けるがよく見えていないようで、ベンチの上を手探りしている。


鳴上「ここですよ、眼鏡」


>頭の上を指差して教えた。


?「……ん。済まない」

?「……」

?「いや、これは俺のものではないな」

鳴上「そうですか。わかりました」

?「……」


>男は、眉間を指で揉んだ後で眼鏡をかけ直し、ベンチの上に積んでいた沢山の教材らしきものを抱えてフラフラと立ち去っていってしまった。


鳴上「なんだかお疲れって感じだったな。にしても……」

鳴上「やっぱり周防さんの声に似てたな、あの人」


>……

辰巳東交番


鳴上「こんにちはー……」


>交番の中をそっと窺ってみた。


達哉「ん? 鳴上か。久しぶりだな」

鳴上「ッ! いた! よかった!」

達哉「どうした? そんなに興奮して」

鳴上「約束の本、持ってきました」

達哉「!」

達哉「そうか。覚えていてくれたんだな」


>周防の表情が変わった。

>何処か嬉しそうだ。


鳴上「当たり前ですよ。どうぞ」

達哉「すまない。いつ読み終える事になるかわからないが……」

鳴上「大丈夫です。俺、もう何度も読んでますから」


>本を周防に手渡した。


鳴上「あ、それと、さっきすぐそこのベンチ近くでこれを拾ったんですけど」

達哉「なんだ? ……ライター、か」

達哉「……」


>周防は渡したライターをまじまじと見つめている。

>すると突然、キィンと良い音を鳴らしながらライターの蓋を開け、カチッとそれをすぐに閉じた。

>その動作は中々様になっていて、一瞬の事ではあったが思わず見惚れてしまったくらいだった。


鳴上(シブいな……! 大人の男、って感じだ)

達哉「……」

達哉「……?」


>周防はもう何度かその動作を繰り返した後、もう一度ライターをまじまじと見つめ直して不思議そうな顔をしていた。

鳴上「? どうかしたんですか?」

達哉「いや……」

達哉「俺も前にこんなライターを持っていたような気がしたんだが」

達哉「……そんな筈はないな。煙草は吸わないし。気のせいだ」

達哉「これは預かっておく。書類を書くから、拾った時の状況を教えてくれ」


>……


達哉「……わかった。ご苦労だったな」

鳴上「周防さんこそ、毎度お疲れ様です」

達哉「これが仕事だからな。ま、本来なら黒沢のやる事ではあるが……今はあいつの留守を任されてる訳だから」

鳴上「え? もしかして、周防さんってこの交番勤務じゃなかったりとか?」

達哉「ああ、そうだ。俺は本来別の署の人間だ。例の事の関係で、頻繁に出入りしているからよく間違われるんだが」


>例の事……武器や防具についてだ。


達哉「いっその事、本当にここの勤務になった方が楽かもしれないな。色々と……」


>周防は小さく溜息を吐いている。


達哉「何処にいようと俺がやる事は変わらないからいいんだがな」

鳴上「大変ですよね、やっぱり……色々と」

達哉「こっちの事情だ。お前が気にする必要はない。それに」

達哉「この仕事を嫌だと思った事はないからな」


>そう言って誇らしげにしている周防の姿がなんだか眩しく見える。

達哉「そういえば、鳴上は進路の方は結局どうした?」

鳴上「え? ……いや、まだ何も」

達哉「そうか……」

達哉「いっそお前も刑事を目指してみたらどうだ? この間の活躍、俺は評価しているんだぞ?」

達哉「今の警察組織には、お前のような若者の力が必要だとも俺は思っている」

鳴上「ありがとうございます」

鳴上「刑事、か……うーん」

鳴上「叔父が刑事をしているから、どういう仕事なのか知ってはいるつもりですが……」

達哉「乗り気じゃないみたいだな」

鳴上「今までそういう選択肢を考えた事がなかったので、ちょっと……」

達哉「なるほど」

達哉「ま、覚悟が決まったらいつでも言え。その答えがなんだったとしても、力になれる事があるならなってやるから」

達哉「本の礼の分くらいには、な」


>周防は笑って励ますように肩を叩いた。

>周防との仲が深まった気がした……



>『ⅩⅨ 太陽 周防達哉』のランクが6になった



達哉「もう遅い時間になってきたな……用がないなら、真っ直ぐ帰れ」


>周防に促され、寮に戻る事にした。

>……


【夜】


学生寮 ラウンジ


鳴上「ただいま……、?」


>寮に入った直後、ラウンジのテレビの前に、特別課外活動部のメンバーが勢揃いしているのがすぐ目に映った。

>はて、今日は集合をかけられていた日だっただろうか……?


ラビリス「あっ、悠!?」

メティス「鳴上さん……!」


>ラビリスもメティスも大分前に寮に戻っている筈だが、未だに制服姿のままだ。

>それにみんななんだか様子がおかしい……


メティス「っ……」

鳴上「……え?」


>つかつかとこちらへ早足でやってきたメティスに、突然腕を捕まれた。

>そして、力任せに引っ張られる。

鳴上「ちょっ、おいっ、メティス!?」

メティス「……」


>メティスにそのままテレビの前まで連れて行かれ……

>その勢いのまま、目の前の黒い画面の方へと――体を押された。


鳴上「なっ……!?」


>……

>ガツン、と音がして、次の瞬間額に痛みを感じた。


天田「な、鳴上さん!? 大丈夫ですか!」

アイギス「メティス! いきなり、そんな事しなくてもっ……!」

メティス「だ、だって……」

鳴上「つっ……」

鳴上「……メティス、お前、なんの恨みがあって突然テレビなんかにぶつけて、……」

鳴上「……え?」

鳴上「テレビに、ぶつか……った……?」

鳴上「ッ……!」

一同「!?」


>勢いよく、テレビの画面に向けて頭を突き出した。

>……

>結果は先程と同じだった。

>テレビの画面に『ぶつかった』のだ。

>そして、より額の痛みが強くなっただけであった……


鳴上「痛ッ……」

鳴上「……」

鳴上「どういう事、なんだ?」

美鶴「……」

美鶴「君が体感した通りだ」

美鶴「テレビの中に……入れないんだ。また、な」


>コンコンと、美鶴の拳がテレビの画面を虚しく叩く音が響いた。


鳴上「桐条さんも、という事は」

アイギス「ここにいる全員そうです。私も、ラビリス姉さんも……」

天田「僕やメティスさん……それにコロマルは、一度もテレビの中に入れた経験がありません」

メティス「はい。だから私たちの事はいいとして……」

鳴上「どうして俺たちまでまた入れなくなっているんだ……?」

美鶴「そう。その話を今していたところなんだ」

アイギス「天田さんにテレビの中の世界の事について、私や美鶴さんがGWの時に体験した事を話していたんです。その時、ここのテレビからだとやっぱり入れなくなっている事に偶然気付いて……」

美鶴「そのときちょうどラビリス達も帰ってきてな。彼女にも試してもらったのだが……やはり無理だった」


>どういう事だ……?

>テレビの中に入る力を取り戻したとばかり思っていたが……

>何故ここからだと、テレビの中の世界へ行けない?


鳴上「……」

鳴上「この街の異変に、テレビの中の世界やマヨナカテレビは関わっていないから……と受け取っていいのか?」

美鶴「良い方向に考えればそういう事になるのだろうな」

メティス「テレビの中の世界へ行けるのは稲羽市のみでの現象だとほぼ確定した……という事ですか」

鳴上「……そうかもしれない。でも」

鳴上「だからと言って、港区にテレビの中の世界が存在しないという事にはならないよな?」


アイギス「……。入り口が閉ざされているだけ、という事ですか?」

鳴上「そう。GWの時を考えれば俺たちはたぶん、テレビの中に入る事自体はまだ出来るんだと思う。それこそ天田やメティスやコロマルだってな」


鳴上「ただ何故かこの地域では、テレビの中の世界にはこちらからの干渉が出来なくなっている……そうは考えられないだろうか」

天田「だとしても、それならそれで何か不都合があったりするんでしょうか」

天田「テレビの世界の事、僕にはやっぱりよくわからないので詳しい説明をお願いしたいです」

天田「入り口が閉じている状態だっていうなら、現実世界のそれこそ一般の人だって誤ってその世界へ落ちてしまったりする危険もない訳ですよね?」

天田「ならば、とりあえず問題はないんじゃないですか?」

鳴上「その点については天田の言う通りだと思う。でも……」

鳴上「この先、テレビの世界で何かあってそれがこの街に影響を及ぼしたりするような事がもしあったとしたら、その時はこちらからだと何も出来ないって事を意味しているんだ」

鳴上「テレビの世界が影響しているという事自体気付けないかもしれない……」

天田「そ、そうか……!」

アイギス「こちら側が閉じているからといって、むこう側も閉じているとは限りませんしね」

アイギス「いつかメティスが言っていたように、テレビの世界の方からしかも一方通行でシャドウがやってきたりなんて事になったりしたら……」

メティス「……最悪ですね。あまり悪い方向へは考えたくないのですが」

ラビリス「だからって、街中のテレビを全部壊して解決する、なんて事もできんもんな」

美鶴「……ただの予測で終わって欲しい意見ばかりだな」


>皆、黙ってしまった……

>もし今述べられたような最悪の事態が仮に起きたとして。

>対抗出来る手段は……果たしてあるのだろうか。

>……


今回はこれで終わりです。

どうネタを広げてどう畳むかという大まかな設計は既に出来上がって、ようするにオチももう確定済みです。
だからそれ以上に妙にネタを盛り込む事はもうしないつもりです。P4G次第によって小ネタ挟む事はあるかもしれませんが。
あとの問題は書く時間があるかないかってだけです。こればかりはこちらも予想が出来ない…でも時間かかってもきちんと完結までいく気ですので。

ではまた次回。

>>401
乙、無理はしないで自分のペースで進めればいいと思いますよ。
ただの一読者ですが完結までついていきます!

まあ一つのSSとしてのんびりやって行くのがよろしいかな

楽しみだ?


緻密なアトラスネタ豊富なこのSSの今後にwktkが止まらない

乙!

コミュランク低い割りに鳴上に対する好感度高いな
否定的な意見じゃ無いからね?
良い意味で言ったんだからね!

>結局のところ、これ以上の話の進展は出来ず解散となった。

>今はただ、テレビの中の世界が港区に悪影響を及ぼすような事態にならない事を祈るしかない。

>しかし、もし万が一が起こったら

>その時は……


メティス「あの、鳴上さん……大丈夫でしたか?」

鳴上「ん。……うん?」


>頭の中で色々と考えながら階段を登っていたところをメティスに呼びとめられた。


メティス「頭ですよ。……さっきはごめんなさい。突然あんな事してしまって」

メティス「気が動転していたみたいで、つい……」

メティス「まだ痛みますか?」


>メティスはテレビにぶつけた額に触れてそっと撫でる。


メティス「確かこういう時に使う呪文がありましたね。えっと……そう、確か」

メティス「いたいのいたいの、とんでけー!」

鳴上「……」

メティス「……」

メティス「……えっ? まだ痛いんですか? 痛いんですね!?」

メティス「きゅ、救急車! 救急車の出動を要請を!」


>メティスは慌てふためている。


鳴上「……あ、いやいや」

鳴上「今のもう一度頼む」

メティス「え? わ、わかりました」

メティス「いたいのいたいの、とんでけー!」

鳴上「……」

メティス「ど、どうですか?」

鳴上「ああ。癒された」

メティス「そうですか。よかった……」

メティス「あの。本当にごめんなさいでした」


>必死なその姿を見て少しばかり和んでしまったその間に、彼女は頭を下げてから階段を先に駆けていってしまった。

>おかげでさっきまで感じていた焦りや不安や緊張が、僅かではあるが薄らいだ気がする。

>……

>何が起こるのかわからないのは今までと一緒だ。

>具体的な策はまだ考えられずとも、気構えだけはしっかりしておこう。

>……

自室


>そういえば、今朝届いたメールの確認をまだしていなかった事を、たった今思い出した。

>送信者は、STEVEN……だったか。

>そんな人物が知り合いの中にいない事は確かだが。


鳴上「間違いメールだったら返信して教えた方がいいかな。内容が英文じゃなきゃいいけど……」


>携帯を操作して朝受信したメールを開いた。

>その瞬間、画面が急に切り替わった。


鳴上「!」


>気付いた時には、携帯はメール画面ではなく、何故かWebマークが点灯して勝手にネットに接続した状態になっていた。

>画面の真ん中には横長のバーが現れ、『ダウンロードしています』というメッセージが表示されている。

>中止をしようにも、どのボタンを押してもどうする事も出来ず……

>あっという間に真っ白だった横長のバーは青色に染まり、メッセージは『完了しました』に変わっていたのだった。


鳴上「一体何が……、!」

鳴上「この画面は……」


>勝手にダウンロードされた『何か』は、初めてみるものでは無かった。

>これは、以前見せてもらった藤堂の携帯の中にあったアプリと同じものだ。

>パオフゥも気にしていた噂のゲーム……

鳴上「俺のところにもきたって事か」

鳴上「メールの方には何が書いて……あれ?」


>受信ボックスにあった筈のSTEVENのメールがなくなっている。

>アプリをダウンロードし終わったと同時に消えたのか……?


鳴上「なんだか気味が悪いな……」

鳴上「でも、藤堂さんは普通に遊んでたし」

鳴上「あ、そうだ。とりあえず、藤堂さんとパオフゥに教えないとな」

鳴上「えーと……なんてゲームなんだ? これ」


>アプリの詳細を確認してみよう。

>……?

>アプリのタイトルらしきものが見当たらない。

鳴上「呼び方に困るな。まあ、いいか」

鳴上「さて、と。パオフゥは……珍しいな、今日はオンラインにいないのか」


>パオフゥにはPCのメールアドレスの方に連絡を入れておこうか。

>まだ興味があるならあちらの方からまた接触があるに違いない。

>藤堂の方にも携帯からメールを送ってみたが、しばらくしても返事がこなかった。忙しいのだろうか。

>……

>少しそのゲームで遊んでみようかとも思ったが、だいぶ夜も更けてきている。

>また明日にしよう。

>部屋の電気を消して、今日はもう休む事にした。

>暗くなった部屋に月明かりが差し込む。

>窓の外の雲ひとつ無い夜空には、大きな満月が浮かんでいるのがくっきりと見えた。

>少しの間それを眺めてから、ベッドに横になった。

>……



?/? 雨


???


>……

>重い瞼を開き、ソファに沈んだ体をゆっくりと起こした。

>窓のカーテンの向こう側からは雨音が聞こえる。

>時間は……時計を見ると、もうすぐ0時になろうとしているようだ。

>……そうだ。マヨナカテレビのチェックをしなければ……


ジジッ――


>目の前にあるテレビには砂嵐が映っている。

>その中に――仮面を被った男が唐突に現れた。

>テレビの画面が少しだけではあるがクリアなものへと変わる。


仮面の男「こんばんは……いや、おはようか? 少なくともこんにちは、ではないよな」

仮面の男「初めまして、久しぶり」


>……?

>初めましてで、久しぶり?

>仮面の男の言っている言葉は矛盾している。

>こちらにとっては……どうだろう。

>男のつけている仮面には見覚えがあるような気もするし、声も聞いた事がある、ような……?

>でも……

>……

仮面の男「今日はひとつだけどうしても言っておきたい事があってここにきた」

鳴上「……」

仮面の男「すぐに済む話だ。でも、一回しか言わないからな」

仮面の男「……」

仮面の男「マヨナカテレビもテレビの中の世界も……あの街やあそこに住んでいる人間にとってはまったく関係のない物事だ」

鳴上「!」

仮面の男「……関係なんかさせやしない。あんな場所に繋がらせたりなんか、絶対にしない」

仮面の男「俺が、な」

仮面の男「だってあれは、あの場所は……」


ザアァァァ……


>外に降る雨が強くなって、テレビの映像が――途切れた。

>……

>重い頭を動かして、部屋の中をゆっくりと見渡した。

>……ああ、なんだそうか。

>ここ、暗くてじめじめしているのに、妙な安心感があると思ったら

>八十稲羽にある叔父さんの家の――

>自分の部屋だ。

>……



06/05(火) 晴れ 自室


【朝】


鳴上「……」


>カーテンの隙間から差す光が、一日の始まりを教えてくれている。

>天気は晴れ。窓を開けると、清々しい空気で部屋に満ちる。

>夏が近い匂いがする。


鳴上「都会でもこんな空気を一応は感じられるんだな」

鳴上「でも、八十稲羽の方がもっと……」


>……


鳴上「……っと。早く準備しないとな」






【放課後】

月光館学園 3-A 教室

>一日の授業が全て終わった。

>メティスは映画館のアルバイトへ、ラビリスは生徒会の方へと行ってしまったようだ。

>二人とも励む事があるようで何よりだ。

>自分も今日は顔を出したい場所がある。

>早く行く事にしよう。

>……

美術室

>色々あってまともに活動出来ていなかった美術部へ今日こそはと足を運んできた。

>美術室の中には……あかりの姿がある。

>正確に言えば、彼女しかそこにはいない。

>あかりは、机の上に紙を広げて何か描いているようだったが……

鳴上「あかり」

あかり「……」

鳴上「あかり?」

あかり「……え? うわあっ!?」


>肩を叩いて声をかけたら驚かれてしまった。

>その拍子に、彼女が机に広げていた紙が散乱してしまったようだ。

>拾うのを手伝おう。


あかり「あっ、だ、大丈夫だから!」

鳴上「……? これは?」

あかり「!」

あかり「いや、あのっ……!」


>てっきり、またスケッチをしているのかと思っていたのだが、拾い上げた紙に描かれていたのは、以前見た事のある彼女の絵のタッチとはまったく違う絵であった。

>これは……


鳴上「漫画、だよな?」

あかり「あわわわ……!」


>拾った紙を取り上げられてしまった。


あかり「……みちゃった?」

鳴上「みちゃった」

鳴上「なんかこう、裸体的な何かが」

あかり「わー! わー! 言わなくていいよっ!」

あかり「これは……アレだよ!? 趣味の方の原稿だから!」

鳴上「趣味か」

あかり「あっ! ……」

鳴上「趣味の方の……って事は、趣味じゃない原稿もあるのか?」

あかり「え? あー……うん。まあ、ね」

>あかりは拾った原稿を鞄の中へと入れてから、小さい溜息を吐いた。


あかり「出来ればみんなにはナイショにして欲しいな」

鳴上「さっきの原稿の事か?」

あかり「というより、漫画を描いてるって事自体、かな。別に知られるのが嫌な訳じゃないんだけど……」

あかり「……ねえ。鳴上くんはさ、この前の進路相談、どうだった? 先生になんて答えた?」

鳴上「俺は、……」

あかり「……」

あかり「私ね、小さい頃から漫画家になるのが夢だったの」

あかり「絵が好きで、いつも紙に何か描いてた」

あかり「でも、親はやっぱり勉強しろってうるさくてね……私の夢、いくら言っても認めて貰えないんだよね」

鳴上「それでも漫画を描くのはやめなかったんだ?」

あかり「うん。ずっと描き続けていれば、私が本気だって事、わかってくれるかもって思って」

あかり「結果は……まだ出せてないんだけど」

あかり「とりあえず、いつか漫画で賞をとって、親をびっくりさせてやるのが目標! ……でも、進路がそれって訳にもいかないでしょ?」

あかり「漫画家になる事が夢なのに変わりはないんだけど、この先どうしたらいいのかなって考えてたら鳴上くんが現れたから……びっくりしちゃった」


>あかりは苦笑を浮かべている。


鳴上(進路に悩んでいるのは誰でも一緒、か)

あかり「ごめんね、急にこんな話しちゃって。部活に来たんだよね?」

鳴上「……あ、うん」

あかり「今日は私達だけみたいだから、まったりやろうよ」

鳴上「ああ」


>二人で美術部の活動をして放課後を過ごした。



>『ⅩⅦ 星 星あかり』のランクが3になった

>……


あかり「うーん……」


>スケッチブックに描いた絵をあかりに見せてみた。

>感想をもらおうと思ったのだが……あかりはそれを見つめたまま、なかなか答えてくれない。

>やはり素人が描いた絵はダメなのだろうか……


鳴上「俺なりに頑張ったんだけど……」

あかり「……」

あかり「……なんだろうね。鳴上くんが描いたこの絵」

あかり「可もなく不可もなく、って感じなの」

あかり「悪く言えばただそれだけって風でさ。なんというか……言葉に出来ない絵」

あかり「下手だとは思わないよ? でもね、きちんと物を見て描いた筈の絵なのに……」

あかり「不鮮明、っていうか」

鳴上「……」

あかり「ごめんね。私も偉い事言える側じゃないんだけど、こんな感想しか思い浮かばなかった」

鳴上「いや、ありがとう」

鳴上(可もなく不可もなく、言葉に出来ない、不鮮明……か)


>……


月光館学園 昇降口


綾時「鳴上くん、君も今帰りかい?」


>校舎から出ようとしたところで綾時と会った。


鳴上「望月もか? こんな時間まで何してたんだ」

綾時「クラスの女の子に部活動見学しないかって引っ張り回されてね。それがようやく終わったところさ」

鳴上「モテる男は辛いな」

綾時「それほどでもないさ、ふふっ」

鳴上「学校はどうだ? 上手くやっていけそうか?」

綾時「んー、そうだね。今のところ不自由は感じていないよ」

綾時「いいところだね、ここは。みんな優しいし」

鳴上「特に女の子が?」

綾時「そう。女の子が」

綾時「街の様子はまだよくわからないんだけどね」

鳴上「そうか。俺でよければ街の案内くらいするぞ?」

鳴上「時間さえ合えば、メティスとラビリスもついてくるかもしれないという、豪華特典つきだ」

綾時「ん。……」


>綾時は一瞬無表情になって考えた後、笑みを浮かべて小さく頷いた。


綾時「そうだね。時間があれば、昨日のメンバーで街へ行ってみるのも……悪くないかな」

鳴上「じゃあまた今度、だな。どうせなら休日の方がいいか? 色々と遊べるだろうし」

綾時「その辺はおまかせするよ」

鳴上「わかった。メティスとラビリスにも声をかけてみる」

綾時「よろしく」

綾時「……」

綾時「そういえば、クラスの男子でまともに喋ったの、まだ鳴上くんだけだな」

鳴上(そりゃ、あの様子じゃ今は無理だろうな……)

綾時「でも……うん。鳴上くんとはこれから仲良くやっていけそうだな。そんな気がする」


>綾時は何処か嬉しそうにしながら、そう呟いた。

>望月綾時と友達になった。



>『Ⅵ 恋愛 望月綾時』のコミュを入手しました

>『Ⅵ 恋愛 望月綾時』のランクが1になった



綾時「それじゃあ、僕はこっちだから」

鳴上「ああ。また明日な」


>……


辰巳ポートアイランド駅前付近


鳴上「割と自信を持って描けた気がしてたんだけどな……」

鳴上「ま、俄かだもんな。仕方ないか」


>部活動で描いた絵を見つめ小さく溜息を吐いた。


チドリ「何の話?」

鳴上「うわっ!?」


>背後から突然ぬっと寄って出てきたチドリに驚いて思わず声を上げてしまった。


チドリ「そんなに驚かなくてもいいじゃない……」

鳴上「ご、ごめん」

チドリ「で、それは何?」


>チドリは持っていた絵の方をちらりと見た。

鳴上「……。俺が描いた絵」

チドリ「悠が? 自分で描いたの?」

鳴上「そう」

チドリ「これは。……」


>チドリは描いた絵をじっと見つめて黙ってしまった。


チドリ「とても……不確かな絵ね」

チドリ「定まってない、とも言える」

鳴上「……」

鳴上「チドリにもそう見えるのか?」

チドリ「……」

チドリ「悠はこれ、自分で何を描いたのかってはっきり言える?」

鳴上「俺は、美術室にあった花瓶の花を描いたつもりなんだけど」

チドリ「つもり」

鳴上「……ッ!?」

チドリ「その口振りだと、誰かも私と同じような事を言ってたって訳でしょ? つまり……そういう事なのよ」

チドリ「悠のこの絵は上辺だけ。本質がここには存在していない」

チドリ「絵には対象だけでなく、描き手自身の事も現れる。いえ、対象が描き手自身と融合して紙の上に現れると言った方がいいのかもしれない」

チドリ「私が描いている絵なんかが、いい例だわ。そもそも対象がなくて、心のままに描いている場合が多いけど……」

チドリ「だから、私の絵は私にしか理解出来ない事が多い。でも悠の場合は……貴方自身にも解っていないようね?」

チドリ「……意外だわ」

鳴上「え?」

チドリ「貴方にも、そういう部分があったなんて」

チドリ「いえ、私も大それた事いう資格はないわね。でも、こう言ってはなんだけど」

チドリ「少しだけ、貴方の事が見えたような気がする」

鳴上「それって……?」

チドリ「教える義理はないわね。自覚出来ないなら、それもまた一興ってところじゃないかしら」

チドリ「でもそうね。描き続けていけば、そのうち解る事も出てくる、かもね?」

チドリ「保証はしないけど」

鳴上「……」

チドリ「ま、せいぜい頑張ってみたら? 私も、貴方が描いたもの客観的に評価するくらいは出来るから」

チドリ「気が向いたらまた面白おかしい絵を見せてちょうだい」

鳴上「面白おかしいって……」

チドリ「冗談よ」


>チドリなりの励まし?の言葉なのだろうか……


チドリ「……もう行くわ。またね」

チドリ「……」


>チドリは去り際に近くにあった携帯ショップに視線を向けてから歩いていってしまった。

>……

>何故だろう。チドリの言葉が深く胸に残ったような気がした……


>『ⅩⅡ 刑死者 チドリ」のランクが6になった

pipipipipi……

鳴上「!」


>携帯が鳴っている。

>表示されている番号は……藤堂のものだ。


鳴上「もしもし」

藤堂『やあ。昨日はメールありがとう。連絡が遅れてすまなかった』

鳴上「いえ」

藤堂『それでだな、……今日はもう学校は終わってるんだよな?』

鳴上「はい。今、帰る途中ですけど」

藤堂『そうか。なら突然で悪いんだが、ポロニアンモールまで来る事は出来るか?』

鳴上「今からですか?」

藤堂『ああ、そうだ。メールでの用件、詳しい話を直接したくて』

鳴上「はあ、そうですか。わかりました」

藤堂『ありがとう。噴水の辺りで待ってるからな』


>電話はここで切れた。

>やたら必死だったような気がしたが……そこまでの事なのだろうか?

>とりあえず、言われた場所に行ってみる事にしよう。

>……


ポロニアンモール


>噴水前には既に藤堂の姿があった。

>こちらの方を見て、手を振っている。


鳴上「お待たせしました」

藤堂「こちらこそ、いきなりこんな呼び出しをしてすまない」

藤堂「場所を変えよう。そうだな……あそこでいいか」

>……


カラオケ マンドラゴラ


鳴上(何故、こんな場所に……?)

藤堂「もう少し静かな場所の方がよかったかな?」

鳴上「いえ……」

藤堂「そうか。じゃあ、早速だけど」

藤堂「まず、君が受け取ったというアプリについてだが。そのアプリが添付されたメールの送信者はSTEVENという明記だった……間違いないか?」

鳴上「はい。昨日の朝に受信して帰ってからメールを開いてみたら、急にアプリがダウンロードされて……」

藤堂「届いた筈のメールの方は消えてしまった、と」

鳴上「そうです」

藤堂「ふむ……」

藤堂「それで、君はアプリの方は起動させてみたのか?」

鳴上「いえ、それがまだ。だから藤堂さんの役には立てないと思うんですけど」

藤堂「いや。それならそれでいい。少し携帯をかしてもらってもいいか?」

鳴上「はい。どうぞ」


>藤堂に携帯を渡すと、彼も自身の携帯を取り出して向かい合わせにしたりしながら二人分の携帯の操作をし始めた。


藤堂「……よし。これでとりあえずはいいかな」

鳴上「? 何をしてたんですか?」

藤堂「君のアプリの方に、俺のデータを少し分けたんだ」

藤堂「たとえばこの右端の数値を見てみな」

鳴上「MAGってやつですか?」


>携帯画面の右上にはMAGと書かれた横に3000という数が表示されている。


藤堂「これはこのアプリに必要不可欠なものなんだ。これが無いと話にならない。まあその辺の詳しい事は、実際やってみればわかる」

藤堂「本来はアプリ所持者同士だからといって交換出来るようなものじゃないんだが、……まあ、特別にな」

藤堂「注意してほしい事がひとつ。このアプリを起動するにあたって、このMAGの数値を絶対に0にしてはいけない。絶対、だ」

藤堂「……本当なら君にこんな事をさせるの自体心苦しい事なんだが、今はなりふり構ってられなくてね。これは餞別代わりさ」

鳴上「え?」

藤堂「……」

藤堂「ゲームをするのもいいけど、ほどほどにしてくれって事だ」

藤堂「よく親が言ったり説明書にも書いてあったりするだろ? ゲームは一日一時間を目安に、続けてプレイする場合はじゅうぶんな休憩をとって……的なさ」

藤堂「後はアイテムをひとつ贈らせてもらったよ。きっと何処かで役に立つ筈だ」


>見てみるとアイテム欄に『しゃくねつのせきばん』というのが追加されている。


藤堂「わからない事はまた追々、な」

鳴上「……あの、このアプリって何か名前みたいなものってあるんですか? 起動させてもタイトルも何も表示されないでいきなりスタートするんですけど」

藤堂「名前か。これを持っている奴らの間ではこう呼ばれているな」

藤堂「悪魔召喚プログラム」

鳴上「なんか、まんまって感じですね」

鳴上「これって確か契約した悪魔を呼び出して戦わせるゲームなんですよね?」

藤堂「まあ、そうだな」

鳴上「そっか。わかりました。また後でやってみますね」

藤堂「……ああ」

藤堂「何かわからない事や聞きたい事があったら、またいつでもメールてくれ」

藤堂「こっちも聞きたい事が出てくるかもしれないから……よろしく」

鳴上「はい」

藤堂「……」

藤堂「よし。じゃあ、話したい事は一通り済んだから」

藤堂「歌うか!」

鳴上(歌いたかったのか)


>藤堂は機械を操作して早くも歌う曲を選んだようだ。


藤堂「お、MUSEのJOKERなんて入ってる。これにしようか」


鳴上(しかも一発目が懐かしの女性アイドルユニットの曲だと……!?)


>曲が流れ始めた。


~♪


藤堂「心晴れない~♪」


>……

>確かに、心が晴れなくなるような味のある歌声だ……

>しばしの間、藤堂のリサイタルに付き合ってひとときを楽しく(?)過ごした。


>『Ⅳ 皇帝 藤堂尚也』のランクが4になった



>……


【夜】


自室


>色々あって少し疲れたような気がする……

>だが、休む前にPCのメールのチェックと携帯アプリ……悪魔召喚プログラムというのがどんなものなのか少し触っておきたかった。

>パオフゥから返事はきているだろうか。

>と思った直後、立ち上げたPCからメッセンジャーの音が鳴り響いた。


パオフゥ:番長へ

パオフゥ:時間がねぇんで用件だけ言っておく

パオフゥ:メールは読ませてもらった

パオフゥ:その事についてだが、折り入って話をしたい事がある

パオフゥ:出来れば直接会ってが望ましい

パオフゥ:日時や場所についてはそちらの都合に合わせよう

パオフゥ:出来るだけ早い方が助かるが

パオフゥ:どういう事だと思うかもしれないが、大事な話だ。またメールをくれるとありがたい

パオフゥ:じゃあな

>パオフゥの打つ文字が一瞬のうちにメッセンジャーに並び、返事をする間もなく彼は落ちてしまったようだ。


鳴上(直接会って話がしたい? なんでまた?)

鳴上(藤堂さんもだったけど、ちょっと食い付き方がおかしくないか? そこまで流行ってるのか……)

鳴上(でも学校ではそんな様子はないみたいだし)

鳴上(……)

鳴上(気のせい、か?)


>悪魔召喚プログラム……

>いったいどんなアプリなのだろう。

>アプリを起動させてみる事にした。

>……


>アプリの内容は聞いていた内容の通りのものとほぼ相違ないものだった。

>マップ上を歩き、遭遇した悪魔と戦ったり仲魔にしたりする。

>仲魔にした悪魔同士を合体させる事でより強い仲魔を作り、強い敵を倒す。

>ただそれだけのゲームのように見えるのだが……

>人によっては強く惹きつけられるゲームだという事だろうか。

>やった感じ確かにそれなりに楽しめはしているが、自分の場合は少ししたら飽きてしまいそうなそんなゲームに感じられた。


鳴上「そういえば、まだ悪魔合体はしてなかったな」


>仲魔にした悪魔の並ぶ欄を見ながら考える。

>こうして改めてみると、どれも自分のもつペルソナと似たような雰囲気をもつ悪魔ばかりに見えるが……

>……

>どうやら合体をさせる際に所持しているアイテムを混ぜる事で、より強力な能力をもった悪魔を誕生させる事が可能らしい。


鳴上(藤堂さんから貰ったアイテム、さっそく使ってみようか)


>『しゃくねつのせきばん』を選択し、選んだ素材の悪魔で出来上がるのは……


鳴上「夜魔 リリム……か。これでいいか」


>決定ボタンを何気なしに押した。

>その瞬間と、時刻が0時になったのは――ほぼ同じだった。

鳴上「!?」


>突如、携帯の画面が鈍く発光し始め……

>一瞬だけ、眩しく輝いたその後に

>それは、部屋の中で姿を現したのだ。


鳴上「なっ……」


>……アプリの中ではない。

>明らかに携帯の画面から飛び出たそこに

>たった今、誕生させたばかりの悪魔がいるのだ……

>自分のペルソナにもいる、リリム。

>だが、目の前にいるそれは、自分の力のひとつとして持っているそれでない事は確かだ。

>どういう事だ……


リリム「……ん」


>リリムが、閉じていた目を開いた。


リリム「ん、んん……?」


>ぱちぱちと瞳を瞬かせた後、リリムと思わしきそれはこちらを凝視してきた。


鳴上「っ……」

リリム「……」

リリム「……ゆ、」

鳴上(ゆ?)

リリム「悠ッ!?」

鳴上「……は?」


>何故、こいつは自分の名前を知っている……!?


リリム「やっぱり悠だよね!? 悠……」

リリム「私、嬉しいっ!」


>リリムが突然、自分の体に抱きついてきた。

>……ちゃんと、その感触が伝わってきている。

>リリムが実体としてここに存在しているという紛れもない証だ。


鳴上「ちょっ……待て! お前はなんだ! どうして俺を知っている!?」

リリム「酷いよぉ、もう忘れちゃったの……って、そっか。これじゃわからないよね」

リリム「なら……」


>リリムは一度離れると、その姿を瞬く間に変貌させた。

鳴上「……え?」

鳴上「お前、は……!」


>リリムだったそれは、気付いた時には人間の姿になっていた。

>服装は、月光館学園の女生徒の制服を着ていて……

>……

>そうだ。

>この姿は、かつて自分を散々振り回した挙げ句、この部屋で消失してしまった彼女。

>それとまったく同じにしか見えなかった。

鳴上「……キ」





鳴上「キミコ……!?」


終わります。

また次回。

乙!!!!
> キミコ「もしも、私が悪魔でも、好きといってくれますか?」

このセリフがここに通じるのか!?なるほどなー



キミ・・・コ・・・?
つまり・・・どういうことだってばよ?



キミコってハム子かと思ってたけど違うのか?あれ…?

恋愛が綾時だと違和感あるが…

主人公子だからキミコ

綾時が恋愛…ゴクリ

おつー。
恋愛か…恋愛!?

乙!
ペルソナ3ではたしか運命だったか
そしてメガテン4楽しみだわ

フィレ…仮面の男の思惑は何だ?そしてピアスはやっぱり歌音痴のままか、
薫さんと番長のリアル対面、と言う事はパオフゥならペルソナの共鳴を感じ取れるのか?
何より悪魔召還プログラムの蔓延の意味する所とは?!そしてまさかのキミコ再会…
全く今回の投稿もハラハラドキドキが止まらんね。次回もまじお楽しみだぜ。

後どうでもいいことだけど真女神転生IV開発決定キターーーー!
据え置きではなく3DSってところが気になるが、それ以上にまた金子さんがキャラデザの筈だよな、
そうなれば画集IVも発売してくれる可能性もあるかも
20年付き合うつもりだったんだから早く続刊して欲しいぜ

乙、ひびの楽しみにしてます。
そして尚也はさすがだな。上田信舟版を新装で買い直したんだぜ。

>>1がアトラス、メガテンシリーズ好きすぎてやばい
知識ありすぎてやばい
お前悪魔召喚プログラム作れるんじゃね?

キミコキタ━(゚∀゚)━!

ナニコレどうなってんの面白い

>>433
長い3文字

>>437
Ⅳ・出・買

ユリコ=リリスのオマージュで、キミコ=リリムってことかな?
しかし>>1のメガテン力はすげーな。

p3とp4それとp2が少しってくらいにしか知らないから悪魔召喚プログラムだとか、キャサリンのネタ出されても全く分からん
でも、雰囲気で楽しんでるし、アトラスオールスターってのは分かった

同じく知識は足らんがそれでもドキワクさせてくれる>>1マジで乙

>>440
とりあえずsage入れような

その悪魔召喚プログラムでは
全裸で闘ったり、全てのマップを埋める為に生きる奴もいるんだろうな?

いや、むしろ悪魔召喚プログラム
作って下さい

>>443
昔悪魔召喚プログラム作ろうぜってスレたてたら案外伸びて、色々意見でてわらったわ

>>442
ニコニコで主要登場人物に調味料や香草の名前を付ける人の動画を見たことがあったが、その動画の主人公はマッパーでまっ裸ーだったなw

ハムk…キミコは悠の事やっぱり好きなのかなぁ??
番長、罪作りな男や…

>>446
どうなんだろね?
恋愛がキミコのコミュになってたら好き確定かと思ってたけど、
てかキミコが恋愛コミュになるかと思ってたら、まさかの綾時だからなー。

いいからsageろ馬鹿。

思うんだがあげさげそんなに関係なくね?
だいたいブクマしてる奴の方が多いだろうし
それより不自然にレス数が伸びてるとそっちのほうが勘違いする

ブクマって・・・専ブラ入れておけよ

キミコ?「ふふっ……」

キミコ?「あたりだけど、ハッズレ~♪」

鳴上「ッ!?」


>そう笑って、目の前にいた彼女はまた抱き付いてきた。

>……あの時とは違う。

>さっき抱き付かれた時と同様に、ちゃんと抱き付かれているという実感がある。


鳴上「……」

鳴上「きちんと説明、してくれないか?」

キミコ?「前にも言った筈だけどなぁ」

鳴上「?」

キミコ?「だからねー……」


>抱き付いている女は、キミコの姿から再びリリムへと変わった。


リリム「キミコっていうのは、あの時限定の私の姿。私が勝手によそから姿と名前を借りてただけなの」

鳴上「よそから借りてた? つまり、キミコって存在はお前とは他に……そっか、お前本物のキミコにも謝りたいとか言ってたもんな」

リリム「うん」

リリム「キミコって女の子は、私自身じゃなくて人間として何処かにいる筈」

鳴上「筈?」

リリム「悠さ、クラブにいたおじさん……ヴィンセント、だっけ? あの人から、前にも月光館学園の生徒と話をした事があるって聞いた事あるでしょ?」

リリム「その子がキミコって子みたいなんだよね」

リリム「私はヴィンセントの意識を覗いて、キミコって名前とか姿なんかをトレースしてただけなの。だから実際にキミコって子を知ってる訳じゃないんだ。会った事もないよ」

鳴上「……なんでそんな事を?」

リリム「これも前にちょっと言った事だけど、あの時の私は名前もないし存在も曖昧なものだったのよ」

リリム「だから、初め悠の前に姿を見せた時は、もっと別の姿をしてた筈……私にもどんな姿だったかわからないけど、たぶん悠の望むような女の子の姿をしてたと思うよ、覚えてる?」

鳴上「んー……?」


>初めはキミコの姿ではなかった……?

>言われてみればそんな気がしないでもないが、どんな子だったかまでは思い出せない。

>今ではその記憶も、完全にキミコの姿で補正されてしまっているようだ。


リリム「それで、あの後にキミコの話が出てきた訳でしょ? 可憐で純情そうなのに男心を弄ぶ小悪魔っていう。あ、これはこっちの方が使える設定だな、とかそういう感じでキミコになりましたとさ」

リリム「まあ、私自身の意志でそうしたって訳でもなかったんだけど。あくまで、そう『させられた』ってだけ」

リリム「……おそらく、この街に蔓延している『力』ってやつのせいでね」

鳴上「!」

鳴上「お前は、その『力』について、何か知ってるのか?」

リリム「ごめん。詳しい事はちょっと……」

リリム「ただ、その曖昧な存在だった私が、こうしてリリムという名前と存在として今ここにいるのも、その『力』が影響してるんだと思う」

リリム「そのおかげで、悠によって私は前までの私に近い存在に生まれ変わった……ううん、ようやく私の存在が確定されたって言った方がいいのかな?」

リリム「……つまり! 私と悠はこうして再び会う運命だったって事だよ!」


>リリムはより強く抱き付きながらはしゃいでいる。


鳴上「ちょっ、待て! 結局、『力』は『何』に影響してお前が……リリムが実体化するようになったのか、……もっと具体的に頼む」


>……

>まさかとは思うが……


リリム「影響を受けてるのはたぶん、悠の持ってるソレだよ」

リリム「だって私はソレで召喚されたんだもの」


>リリムは手に持っている携帯を指して、そう告げた。

鳴上「……悪魔召喚プログラム」


>なんという事だ……

>書いて字の通りの事が出来るアプリだったという訳なのか?

>いや、今の話を聞く限りでは

>そういうアプリに『なってしまった』という事なのだろうか。

>『力』のせいで……


鳴上「もしかして、このアプリを持っている奴はみんな悪魔の召喚が可能になっている、って事なのか?」

リリム「じゃないかな。それ、悪魔を呼ぶ為の魔方陣とか呪文とかをデータ化して入れる事が出来るみたいなんだけど」

リリム「そんなだから、魔術に関してまったく素養がない人でも、ボタンひとつで簡単に悪魔が呼べるようになってる」

鳴上「それって危険じゃないか! 実体化した悪魔が一般人の目の前に現れたりなんてしたら……!」

リリム「仲魔にした悪魔がプログラムの所持者を襲う事はないと思う。現に、私は悠に何も危害を加えたりしてないでしょ?」

鳴上「……あ。確かに」

リリム「ただ、プログラム所持者自身が悪い人間だったら、手の内にある悪魔を使って何か企む……なんて事はあるかもね」

鳴上「!!」

リリム「それよりも……」


>リリムは窓に寄り、外をじっと見ている。


リリム「この街、いったいなんなの? 『力』の事もそうだけど、この感じは……」

リリム「……」

リリム「あっ!」

鳴上「どうした!?」

リリム「いや、あのね」

リリム「マグネタイトは大丈夫かなって」

鳴上「マグネタイト?」

リリム「えっとね……ほら、この数字だよ。まだ余裕あるみたいだね。よかった」


>リリムは携帯画面の右上に表示されているMAGの数値を指差した。

鳴上「マグネタイトって読むのか、これ」

リリム「これはね、私たち悪魔のエサみたいなものなの」

リリム「ほら、今どんどん数値が減っていっているでしょ? それは私が今ここに実体化してるせいだよ」


>そういえば、ゲームの中でも仲魔を呼び出している最中はこの数値が減っていた気がする。


リリム「マグネタイトはゼロにしちゃダメだよ? 私が出てこれなくなっちゃうからね!」

鳴上「出てこれなく……って、お前帰らないのか!?」

リリム「帰る? なんで? っていうか、何処に?」

鳴上「何処って……」

リリム「私ね、決めた」

リリム「私も悠の力になる!」

鳴上「!?」

リリム「悠はこのおかしな事になっている街をどうにかしたいんでしょ?」

リリム「私、その役に立てると思うの」

リリム「それに、悠の持っている能力だけじゃ、不安じゃない?」

鳴上「……」

鳴上「それは、確かに……」


>この先何が起こるのか未知数なだけに、ペルソナの能力とは別に戦力が増えるのはありがたい事かもしれないが……


リリム「私がこうしてまた悠と会えた事には意味があるんだって、そう思いたい。例え『力』のせいで現れられるようになったんだとしてもね」

リリム「だから、今は悠の傍にいたいの。ダメかな……?」

鳴上「……わかった」

鳴上「とりあえず、リリムは俺の敵じゃないんだって事は覚えておく」

鳴上「ただ、これからどうするかは……」

リリム「やったあ! それじゃあ、今日から悠の仲魔だね!」

リリム「今後ともよろしく!」

鳴上「あ、ああ。よろしく」


>リリムが仲魔になった。……らしい。

>……

>悪魔を呼び出す事の出来るアプリ『悪魔召喚プログラム』

>そんなものがこの街に出回っている理由は一体……

>メールの送り主のSTEVENという奴が何かを企んでいるのだろうか。

>そして、同じくこのアプリを所持している藤堂や、これについて話があると言っているパオフゥはこの事態に気付いているのか。


鳴上「今のところは引っ込んで貰ってていいか? 用があったらまた呼ぶ」

リリム「りょーかい! いつでも呼んでね、悠のところになら、すぐ飛んでくるから!」


>リリムは姿を消した。


鳴上「……」

鳴上「メール、してみた方がいいのか?」


>……


06/06(水) 曇り


【朝】


通学路


ラビリス「リョージに街を案内しに行く?」

鳴上「ああ、昨日そういう話になって。よかったら、ラビリスもメティスも一緒に行かないか? その方が、望月も喜ぶと思うし」

ラビリス「ウチはええよ。街の方は流石にちょっとウチにも案内しきれんけど、リョージと遊びに行くってのは楽しみやな!」

鳴上「メティスは?」

メティス「……」

メティス「ラビリス姉さんや鳴上さんが一緒だというのなら……構いません」

鳴上「決まりだな。今週の日曜はどうだ?」

ラビリス「オッケーや!」

メティス「問題ないです」


>……


月光館学園 3-A 教室


鳴上「……という話になったんだけど、そっちの都合はどうだ?」

綾時「今週の日曜だね。わかった。その日は空けておくよ。待ち合わせは何処にしようか?」

鳴上「巌戸台駅あたりでどうだ?」

綾時「了解。楽しみにしてるよ」


>綾時とメティスとラビリスとで、日曜日に遊びに行く事になった。

>……

【放課後】

>今日の授業が全て終わった。

>携帯を取りだし、メールか着信がないかと確認してみる。

>昨夜はあの後、どういう内容で送ろうか悩みながらも藤堂とパオフゥそれぞれにメールを送ってみたのだが、藤堂からの連絡はまだ来ていないようだ。

>パオフゥの方は今夜またPCをチェックして返事があるかみてみよう。


鳴上(藤堂さん、忙しいのかな)

鳴上(ていうか藤堂さんって普段何している人なんだろう……)


>今まで街でばったり会った事が幾度かあったが、その様子からだと会社勤めをしているようにはお世辞にも見えなかったのだが……

鳴上(昼間街を出歩いてるって事は、夜の仕事か? ホストとか? ……って感じでもなさそうか)

鳴上(……謎だな)

ラビリス「悠! 一緒かえろー」

メティス「帰りましょうです」

鳴上「ん? ああ、そうするか」


>メティスとラビリスと一緒に下校する事にした。

>……

学生寮

コロマル「ワンッ!!」

ラビリス「お、コロ! 出迎えご苦労やな」

鳴上「ただいま、コロマル」

コロマル「ウゥゥゥゥ……ワンワンッ!」

メティス「? どうかしたんですか、コロマルさん」

コロマル「ワンッ! ワンワンッ!」


>コロマルはやたらと興奮している様子だ。


メティス「ええ、はい。……はい。……え?」

ラビリス「……はぁ!?」

鳴上「?」

鳴上「コロマルはなんて? また散歩の催促か?」

メティス「散歩というか、街の方に行きたいようです」

鳴上「それを散歩っていうんじゃないのか?」

メティス「いえ、そうではなくて。……」
ラビリス「街の方に、妙な気配がするような気がする……って」

鳴上「!?」

鳴上「どういう事なんだ!?」

メティス「わかりません。だから、それを今から詳しく調べに行きたい。という事のようです」

コロマル「グルルル……」

鳴上「わかった。二人とも部屋に鞄を置いてこい。着替えはいいから、その後すぐにコロマルと一緒に街へ行くぞ」

メティス・ラビリス「了解!」


>コロマルを先頭にして、急いで街に出向く事にした。

巌戸台駅付近


鳴上「どうだ、コロマル。何かわかったか?」


>コロマルは鼻をならし匂いを辿るようにしながら進んでいる。


コロマル「クゥーン……」

メティス「ダメなようですね」

ラビリス「でも、妙な気配は僅かではあるけど確かにしてるんやろ?」

コロマル「ワンッ!」

鳴上「……」

鳴上「メティスやラビリスは何か感じたりしないか?」

メティス「いえ。私には野生の勘的なそれは備わっていませんので……」

ラビリス「ウチも特には。そう言う悠は?」

鳴上「俺も別に変な感じはしない、な」

鳴上「……」

メティス「もう少しこの近辺を探ってみましょうか」

コロマル「ワンッ!」


>その後もコロマルを頼りに、周りが暗くなるまで周囲を調べてみた。

>……


ラビリス「結局なんもなかったな」

鳴上「そうみたいだな」

コロマル「クゥーン」

鳴上「あ、いや。別にコロマルのせいとかじゃないからな?」

メティス「……」

メティス「コロマルさんはコロマルさんにしか出来ない事で私達の力になりたかったようですね」

メティス「自分も特別課外活動部の一員であり、この街を守りたいと思う者だから、と……」

ラビリス「……そやね。今の状態だと、街に気になる事が少しでもあれば神経質になって当然やわ」

ラビリス「ウチらその辺の具体的なコトまださっぱりわかってへんもんな」


>コロマルもコロマルがやれる事で頑張ってくれているようだ。


鳴上「そっか……ありがとな、コロマル」

コロマル「ワン」

鳴上「頑張ってくれたご褒美に、たまには違う餌を買ってやろうか」

コロマル「ワンッ!」


>コロマルは尻尾を振って喜んでいる。

>コロマルとの間にある絆を感じたような気がする……



>『ⅩⅠ 剛毅 コロマル』のランクが4になった

コロマル「……!」

コロマル「ワンッワンッ!」


>突然、コロマルは鼻をひくひくさせたかと思うと、歩いていた方向とは違う場所へと駆け出していってしまった。


鳴上「コロマル!? どうした!」


>ついに何か見つけたのだろうか。

>コロマルの後を走って追いかける事にした。

>……


コロマル「!」

コロマル「ワウ……?」


>コロマルは急に走る足を止めて、辺りをキョロキョロと見回し始めた。


メティス「コロマルさん?」

コロマル「ワン」

メティス「……ふむ」

メティス「前に私達と神社へ散歩に出かけた時に感じたのと同じ、コロマルさんのお仲間の気配がしたそうです」

メティス「が、急に消えてしまったとの事です」

鳴上「コロマルの仲間がいた筈なのに消えた?」

ラビリス「たしかに、この辺りにコロマル以外のワンコはいそうにないけどな」

鳴上「もう少しよく探してみようか」

コロマル「……」

コロマル「ワンワン!」

メティス「今日はもう散々付き合ってもらったし気にしないでくれ、と言っています」

ラビリス「この辺に住んでいるなら、また会う機会もあるかもしれないし、やて」

コロマル「ワォーン!」

メティス「それよりお腹が減っているみたいですね」

ラビリス「今日はこれくらいにして、はよコロのご飯買って帰った方がええんやないの?」

鳴上「……そうだな」

鳴上(しかし、コロマルのいう妙な気配といい、何がどうなっているんだ?)

鳴上(この街はどうしてしまったんだ)

鳴上(……どうして、こんな事に?)


>改めて思考を巡らせてみるものの思い当たる節は、……ない。

>映画の中の雪の女王の世界、連続衰弱死に続き、これは何かが起こる前の予兆なのか……

>……

【夜】


学生寮 自室


>PCを立ち上げ、まずはメッセンジャーをオンラインにする。

>パオフゥはオンラインにはいない。

>昨夜の慌ただしい様子からして、彼も忙しいのだろう。

>その忙しい理由が、なんなのか。……見当がつかない事はない気もするが。

>パオフゥがあのアプリを巡ってリアルに接触を求めてきた事と、きっと関係があるような感じがする。

>メールの方をチェックしてみよう。

>……

>パオフゥから昨夜出したメールの返事がきている。

>彼(もしかしたら彼女の可能性もある)と直接会う予定の詳細が書かれたものだ。

>パオフゥはこちらに合わせてくれるといったが、夕方以降なら何時でも会う事が可能だという事と訳あって港区からあまり遠くへは行けないのでその範囲内でという旨だけ伝えて後の事は任せる事にしてしまっていた。

>さて、結局どういうふうに話がまとまったのか……

>新着メールをクリックし確認する事にした。





>……

数日後


06/10(日) 晴れ


>今日は学校が休みだ。

>綾時にメティスやラビリスと伴って街を案内する事になっている。

>準備して行く事にしよう。


学生寮 一階 ラウンジ


>メティスとラビリスが既に待機しているのが見える。

>服装は以前一緒に買い物に出かけた時に買ったものをばっちりと着こなしているようだ。

>これなら、ロボットだというのもバレはしないだろう。

>二人はテレビを見ているようだが……


鳴上「おはよう。お待たせ」

メティス・ラビリス「……」

鳴上「……」


>なにやら真剣に見入っているようで、こちらがやってきた事にまだ気付いていないみたいだ。

鳴上(一体、何を見て……)

『素行調査は弊社にお任せ! 魔女探偵ラブリーン!』

鳴上(……アニメ?)

『来週もおたのしみに!』


>ちょうど放映が終わったところのようだ。


メティス「……。今週も推理してませんでしたね、この番組」

ラビリス「しゃあないんやない? 今は能力もなくなってしもうてるみたいやし」

メティス「メンバー四人のかつての栄光は何処へいってしまったのでしょうか。ずっとあのまま屋根裏暮らしなんて事には……」

ラビリス「せめて先生があの子らんとこに帰ってきてくれればなあ」


>二人は見ていたアニメの事について語り合っている。


鳴上(どんな内容なんだよ……ていうか、毎週見てるのか?)

メティス「……あ、鳴上さん」

ラビリス「え? ホントや。おはよう、悠」

メティス「おはようございます」

鳴上「おはよう。……二人でテレビ鑑賞なんてしてたんだな」

メティス「え、ええ。毎週この時間だけですけど」

ラビリス「なんか続きが気になるんでなー、な?」

メティス「はい。今では週の楽しみのひとつです」

鳴上「何時の間にそんな趣味が……」


>意外な事だったが、……二人とも楽しそうなのはいいことだ。


メティス「もう時間のようですね。望月さんとの待ち合わせ場所に行きましょうか」


>寮を出て巌戸台駅の方に向かった。

>……

巌戸台駅前

>階段下のベンチのところに既に綾時がいる。

鳴上「望月、おはよう」

ラビリス「おっはよー!」

メティス「……。おはようございます」

綾時「おはよう、みんな」

鳴上「待たせたみたいだな、悪い」

綾時「ううん。僕の方が少し早く来すぎちゃったみたいだ」

ラビリス「今日は一日楽しもうなー!」

綾時「うん。よろしく」

鳴上「じゃあ、行こうか」


>まずは四人で巌戸台駅の周辺をまわる事にした。

>……


綾時「……。これはなんて食べ物なんだい?」

鳴上「何って、たこ焼きだろ?」

綾時「たこがないのに?」

ラビリス「入っとらんな」

メティス「ないですね」

鳴上「それは、うん。ここでは、稀によくある。……あ」

綾時「ん? あ、鳴上くんのは当たりみたいだね」


>楊枝に刺さっている食べかけのそれからは、小さくはあるものの本来そこにあるべき具がきちんと入っている。


鳴上「逆にはずれたような気がするのは何故だろう」

メティス「何言ってるんですか? 食べ終わったら次いきましょう」


>……


長鳴神社


綾時「へえ、こんなところにこんな場所がね」

ラビリス「ウチらよくワンコの散歩なんかで来たりするんやで」

綾時「ラビリスさんの家は犬を飼っているのかい?」

鳴上「俺たちのいる寮で飼ってるんだよ」

綾時「君たちは同じ寮住まいなのか。それで仲が良いんだね」

鳴上「ん、まあな」

綾時「今度はそのワンコくんにも会わせてほしいな」

鳴上「そのうちな」

綾時「うん。……そうだ。せっかくだからお参りして、おみくじも引いてみようかな」

鳴上「おみくじか。俺もやってみよう」

ラビリス「じゃ、ウチらも! な、メティス?」

メティス「姉さんがそういうのなら」

>……

綾時「大吉だ」

ラビリス「ウチも大吉や」

メティス「右に同じく」

鳴上「俺は、……」

鳴上「初めて見た気がするぞ、こんなの」

ラビリス「え?」

綾時「わ、大凶? 確かに滅多に見れないよね」

鳴上「ある意味大当たりだな」

メティス「何言ってるんですか? 次行きましょう、次」

>……

カラオケ マンドラゴラ

綾時「歌はいいね。歌は心を潤してくれる。リリンが生み出した文化の極みだよ」

綾時「って、誰かが言っていたような気がする」

メティス「歌、ですか。私あまりそういうのは詳しくないのですが……」

ラビリス「ウチもやな」

鳴上「ラブリーンの主題歌は?」

ラビリス「あ、それなら! あとでメティスと一緒に歌うわ」

メティス「え? 私が姉さんと一緒にですか? ……」

メティス「が、がんばりますっ!」

鳴上「俺は、りせの曲でも歌うかな」

綾時「じゃあ僕は第九でも」

鳴上「望月って面白いセンスしてるよな」

>楽しい時間があっという間に過ぎていった。

>……

ポロニアンモール

綾時「いやあ、今日は充実した一日だったよ」

鳴上「楽しんで貰えたらなによりだ」

綾時「今までこういう機会をあまり持てなかったからね。そのせいもあると思うけど」

綾時「本当に楽しかった」


>綾時は満足そうに笑っている。


綾時「もう時間なのが惜しいよ」

鳴上「そうだな」

ラビリス「何言ってんの、また遊べばええやん!」

綾時「……。うん、そうだね。また今度があれば……」

綾時「誘ってもらえると嬉しい、かな」


>こんなに遊んだのは久しぶりのような気がする。

>綾時ともまた少し親しくなれたような気がした……


>『Ⅵ 恋愛 望月綾時』のランクが2になった

綾時「じゃあ、今日はこれで」

鳴上「また明日、学校でな」

綾時「うん」


>綾時と別れた。


鳴上(……さてと)

鳴上「メティス、ラビリス。お前たちは先に寮に戻っていてくれ」

メティス「鳴上さんはどうされるんですか?」

鳴上「俺はこれからまた少し野暮用があって」

ラビリス「悠も忙しいやっちゃなー」

メティス「そうですか。では、お先に」

鳴上「ああ。気をつけてな」


>二人の姿を見送った。

>……


鳴上(……よし、行ったな)

鳴上(時間的もちょうどいい頃合いだ)


>そのまま足をクラブエスカペイドの方へと向けた。

>……今日はこの後、この場所でパオフゥとの待ち合わせをしているのだ。


鳴上(なんだか緊張してきた……ネットでしか知らなかった人間とこんな風に会うなんてな)

鳴上(開店前に少しの間貸し切らせてもらう事にするって話らしいけど、入り口から入れるのか……?)

>おそるおそる扉に手をかけようとした。

>その時、肩にぽんと誰かの手が置かれた。

鳴上「ッ――!?」

>突然の事で驚きのあまり体を大きく跳ねさせてしまってから勢いよく後ろを振り向いた。

ヴィンセント「ちょっ……何そんな驚いてんだよ!」

鳴上「えっ……ヴィンセントさん!?」

ヴィンセント「よっ。こんな場所で会うのも久しぶりだな」

鳴上「は、はい。お久しぶりです」

ヴィンセント「でも、ここまだ開店前だぞ?」

鳴上「そうなんですけど……」

鳴上「ヴィンセントさんこそ、なんでまたこんな所に?」

鳴上(まさか、ヴィンセントさんの正体がパオフゥ……なんて事は流石にない、よな?)

ヴィンセント「あー……いや、ちょっと」

ヴィンセント「ある人との待ち合わせ場所にここを指定されてさ」

鳴上「ある人と、待ち合わせ……? 今日、この時間にここで、ですか?」

ヴィンセント「ああ、そうだ。……」

ヴィンセント「まさか鳴上も、なんて事は」

鳴上「……そのまさか、です」

ヴィンセント「……」

鳴上「あの、どういう事なんですか? どうしてヴィンセントさんが」

ヴィンセント「それは俺も聞きたい。が、奴がもうここに来ている筈だ。詳しい話は、奴も一緒に中でゆっくりとしようじゃないか」

ヴィンセント「いくぞ」


>ヴィンセントは鞄を持っていて、それとは反対の空いている方の手で扉を押した。

>……

クラブ エスカペイド


>店内はまだ営業前であるからか、最低限の照明しかついていない。

>見回してみても店員らしき人間はみつからず、代わりに一番奥にある多人数用の席にぽつりと座っている人物の後ろ姿が目に入った。


?「……きたか」


>その人物は、ふかしていた煙草を灰皿で揉み消して、こちらを振り向いた。


?「ヴィンセントと、そっちは……番長か?」

鳴上(その呼び方をするって事は……)

鳴上「貴方がパオフゥさん、ですか?」

パオフゥ「いかにも」


>長髪の黒髪に、派手な色のスーツとサングラスをかけた男は答えた。


パオフゥ「……。お前、何処かで見た顔だな」

鳴上「え? ……あ」


>このいかにもカタギには思えない空気……思い出した。

>ヴィンセントと初めてここで出会った夜、入り口でぶつかった男だ。


パオフゥ「ああ、あの時のガキか」

鳴上「……」

ヴィンセント「おい、パオフゥ。どういう事かきちんと説明してくれないか?」

ヴィンセント「なんでこの場にこいつが同席する事になっている?」

パオフゥ「なんだ、お前ら知り合いだったのか?」

パオフゥ「その話は面子が揃ってからだ。まずはこっちへ来て座れ」

鳴上「まだ、誰か来るんですか?」

パオフゥ「ああ、あと一人な」


>とりあえず今は、パオフゥの言う通り座って待つ事にした方がいいようだ。

>……


パオフゥ「……チッ。何やってんだ、アイツは」


>あれから10分ほど経過したが、最後の一人が現れる気配がない。

>その事に多少イラついているようなパオフゥだったが、そんなタイミングで彼の携帯に着信が入った。

パオフゥ「俺だ。今、どこにいる?……ああ」

パオフゥ「こっちはもうお前以外揃ってんだ。早く……あ? なんだって?」

パオフゥ「それは本当か? そういう事は早く言え。なんとしてでも引っ張って来い」

パオフゥ「ああ。じゃあな」


>パオフゥは通話を終了させた。


パオフゥ「もう一人この場に増える事になりそうだ」

ヴィンセント「なあ、オイ。この集まりって……」


pipipipipipi……


>痺れを切らせたヴィンセントがパオフゥに問いかけようとしたところにまた携帯が鳴る音が響いた。

>今度は、自分の携帯からだ。

>誰だろう。


鳴上「すみません。ちょっと失礼します」


>席を立ち、携帯を手に取った。

>画面に表示されている名前は……


鳴上(……藤堂さん!?)


>あれから一切連絡が途絶えていた藤堂からだった。

>急いで通話のボタンを押した。


鳴上「もしもし!」

藤堂『や。久しぶり。今まで音沙汰なくて悪かった。仕事の都合で少し街から離れたりしてたんでね』

鳴上「仕事、ですか」

藤堂『ああ。それで、今日戻ってきたところなんだけど……また突然の頼み、聞いて貰ってもいいだろうか』

鳴上「? なんでしょう」

藤堂「実は、この前のアプリの件で君に会わせたい人がいてね。これからなんだけど……都合はどうだろうか?」

鳴上「これからですか? すみません。俺もこれから大事な用があって」

藤堂『……。どうしても無理か?』

鳴上「はい。ごめんなさい……また今度にしてもらえませんか?」

藤堂『そっか。いや、こちらもこの間から色々と無茶を言ってすまない。でも、どうしても君に会いたいみたいなんだ。日を改めてって事でいいか?』

鳴上「はい。それは大丈夫です」

藤堂『ありがとう。今度は事前に連絡するから。それじゃあ』


>藤堂からの電話はそこで切れた。

>これから行われる話に水を差さないようにこのまま携帯の電源をオフにする事にした。

>それと同時に、クラブの入り口の扉が開く。


パオフゥ「やっとお出ましか」

「遅れてすまない。ここまで帰ってくるのに少し手間取ってさ」

「それから、さっき話した子についてだけど残念ながら……あれ?」

「なんだ、もうここにいるじゃないか」

鳴上「え、……ッ!?」


>入り口から店の中にはいってきたのは……紛れもない

>さっきまで電話で話をしていた、藤堂だった。


鳴上「なっ、どうして……!?」

パオフゥ「あ? こっちとも知り合いだったのか? それならそれで気兼ねなく話せて楽でいいが」

藤堂「でも彼の隣の人とは初対面だよ。どうも。遅れて申し訳ないです」

ヴィンセント「……どうも」

パオフゥ「何時までもそんなとこ突っ立てねえでお前も早くこっちこい。いい加減本題に入るぞ」

藤堂「はいはい」


>藤堂は持っていた荷物を一度下ろして、入り口の扉を閉めると内側から鍵をかけた。

>……


パオフゥ「……さて、まずは各々の自己紹介についてだが、それは話を進めると同時に明らかになるだろうからここでしなくてもいいな」

パオフゥ「ここにいる人間をこの場に集めたのは俺――パオフゥだが、その理由については各自で理解出来ているな?」

鳴上「……」

ヴィンセント「……」

ヴィンセント「俺自身がここに呼ばれている理由はもちろん解ってる。だが、こいつがいる理由についてはまったく見当がつかないんだが?」

鳴上「俺も、自分はともかくヴィンセントさんがいる理由が解りません」


>藤堂については、彼もまた自分と同じ悪魔召喚プログラムの所持者である事を考えればなんとなく推察が出来るのだが……

>それにしても、藤堂やヴィンセントまでもがパオフゥと知り合いだった事には驚いた。


パオフゥ「それも話が進めば解る範囲の事だ」

パオフゥ「少なくとも俺たちは皆――悪魔召喚プログラムという代物の為にここに集まっているという事は頭に入れておけ」

鳴上・ヴィンセント「!」


>という事はつまり……ヴィンセントも悪魔召喚プログラムを持っているという事なのだろうか?


パオフゥ「その悪魔召喚プログラムだが、俺がその話を初めて耳にしたのは、そこにいる男の口からだった」


>パオフゥは藤堂へと視線を移した。


ヴィンセント「えっと……そちらさんはどういう?」

藤堂「……おっと、失礼。俺はこういう者でね」


>藤堂は、ヴィンセントに名刺を差し出した。


ヴィンセント「はあ。こんな人がなんでまた……」

藤堂「それも今から説明するんでご心配なく」

藤堂「そういえば、君にもこれは渡していなかったな」


>藤堂はこちらにも名刺を一枚渡してくれた。

>横書きのタイプのもので、藤堂尚也という名前が何故か右下の方に小さく手書きで記されている。

>その代わり、真ん中には大きくこう印字されていた。





鳴上「葛葉探偵事務所?」

謎オフ会、ここに開催

また次回。


コンゴトモヨロシク&サマナーキター!

オレオマエマルカジリ
乙だよ!

ハッカーズきたか

乙!

影時間やら映画館やらの時はp3メンバー絡んでたケド最近はあんまり絡みが無いな
それよりも、今のキミコの参考画像的な物が欲しい
わがままですまん

頼む!!頼むから!!
絵師様(笑)とかでてこないでくれよ

悪魔絵師「呼んだ?」

たまきちゃんクルー?

どうせそのうち噂が現実になるって展開になるんだろーなー

>>476
え?
もうなってるだろ?

2罰の面々は揃いも揃って個性的な上高性能な奴が多いがパオフゥは図抜けているよな
ハッキング、盗聴、法律、裏社会に精通、ペルソナ使いとしても高レベル、しかも台湾系のマフィア25人くらい殺してるってある意味ストレガよりもヤバイわ

なんか綾時が静か過ぎて怖い

>>450
いやもしもし多いみたいだから
ブクマって言い方しただけ


綾時の中の人ネタに地味に吹いたww

ちなみに石田さんはドラマCDではピアスの声も担当していたりする

鳴上「藤堂さんって探偵だったんですか?」

藤堂「いや、俺はこの件に関してだけの臨時所員ってだけでそういう訳じゃ」

藤堂「高校時代の同級生がここで働いててさ。応援に呼ばれてね」

鳴上「……探偵が調べなきゃならないようなもんなんですか? 悪魔召喚プログラムってのは」

藤堂「ここは探偵事務所は探偵事務所でも少し特殊な連中が特殊な事件に関わっている所なんだ」

藤堂「つまりこの悪魔召還プログラムの件は十分特殊な部類に入るって事なんだけど……」

鳴上「これはただのアプリゲームじゃないって訳ですね?」

藤堂「……」

藤堂「君ももう気付いているのかもしれないが……」

藤堂「このプログラムはその名の通り、本当の悪魔を呼ぶ事が出来るんだよ」

鳴上「……」

藤堂「まあ……あくまで本物のプログラムで出来る事、だけど」

鳴上「え……?」

鳴上(本物のプログラム?)

ヴィンセント「ほんとうのあくま……あくまでほんもの……」

ヴィンセント「ワリィ、もうちょっと詳しく解りやすく頼む」

藤堂「そうだな……」

藤堂「そもそも、悪魔召喚プログラムってのが各所にばらまかれたのは今よりも昔、90年代頃が初めのようだ」

藤堂「さっき話した俺の高校時代の同級生は、俺が通っていた学校に転入してくる前に正真正銘本物の悪魔召喚プログラムを手に入れた人間のひとりだった」

藤堂「ばらまいた奴の名はSTEVENというらしいが……」

鳴上「STEVEN!?」

藤堂「そう。君が携帯に受信した悪魔召喚プログラムが添付されたメールの署名に記されていた名前と一緒だ」

ヴィンセント「!」

ヴィンセント「そんなメールが、お前の元に?」

鳴上「……はい」

ヴィンセント「……」

藤堂「STEVENがそんなものを無差別にばらまいたのは、悪魔と対抗する為の手段として使ってもらう為だとかって話なんだとさ」

鳴上「……? ちょっと待ってください」

鳴上「それって、悪魔召喚プログラムを使わなくてもそこら辺に悪魔が現れる可能性があるって事、なんですか」

藤堂「そういう事だな」

藤堂「というより、いるよ。悪魔は」

鳴上「っ……!」


>藤堂は今、涼しい顔をしながらさらりととんでもない事を口にした。

>悪魔は、いる。

>確かに、自分もリリムという悪魔を生み出してしまってはいるが、そういう事ではなくて……


藤堂「俺とパオフゥは以前、悪魔召喚プログラムとか関係なく悪魔と対峙した事のある人間だ。だから、今更驚くような話じゃないが……」

鳴上(藤堂さんとパオフゥさんが……?)

藤堂「そちらの人もそれほどビックリしていないように見えるのはなんでだろうな?」

ヴィンセント「……」


>確かに、ヴィンセントは今の話を聞いても大きな声ひとつ上げなかったし、割と冷静なように見える。


ヴィンセント「俺も以前、悪魔との付き合いが少しあったんでな。おたくらが知ってるのとはまた別物かもしんねーが、そういう存在もあるんだっていう事は、理解してる」

ヴィンセント「もう二度と関わり合いたくはねえけどな」

藤堂「へえ。これは意外だったな」

パオフゥ「……お前が一番、悪魔の存在に無知だったらしい事を含めて、な」

パオフゥ「この感じ、どう考えても俺たちと同類の筈なのに、悪魔と戦った事もねえとは」

鳴上「え……」

パオフゥ「気配の消し方がなっちゃいねえって言ってんだ。お前、そんなんだとこの先同類の敵に出会った時、真っ先に殺られんぞ?」

パオフゥ「それとも、共鳴すら感じられないのか?」

藤堂「無理じゃないのか? だって今は気配、消してるんだろ?」

パオフゥ「それもそうだったな」

>気配? 共鳴? なんの話だ?

>同類とはどういった意味の……


パオフゥ「……これならどうだ」


ドクンッ――


鳴上「ッ!」


>自分の中で何かが震えた気がした。

>一体、何が?

>……ペルソナだ。

>ペルソナが震えている?

>こんな感覚は初めてだ……

>でも、これは、まさか


鳴上「パオフゥさんも、ペルソナ使い?」

パオフゥ「そういう訳だ」

パオフゥ「俺がお前の敵でなくてよかったな?」


>パオフゥはニヤリと笑う。


鳴上「じゃあ、さっきの話からすると、藤堂さんも?」

藤堂「ああ」

鳴上「今まで全然気付かなかった……」

ヴィンセント「え? ペル……何?」


>ヴィンセントだけはどういう事だかわかっていないようだ。


藤堂「その事については、また別の機会に話をしよう。まずは、さっきの続きだ」

藤堂「悪魔召喚プログラムは、近辺に出没する危険のある悪魔への対策の為に配られている」

藤堂「でもそれは、悪魔が出現しない地域にはまったく関係のない物だって事になるよな?」

鳴上「まあ、そうですよね」

藤堂「じゃあ更に逆に考えてみよう。ここ最近、この界隈に悪魔による悪魔のための悪魔召喚プログラムが突然ばらまかれるようになった……それは何故か?」

鳴上「まさか……この街にも悪魔が出没するようになったからって意味ですか!?」

藤堂「そうかもしれない、と思うよな。で、俺は実際にそうなのか、その調査をする為にこの街にやってきた人間なんだ」

藤堂「そして調査の結果はというと」

鳴上「っ……」

藤堂「全ッ然、的外れだった」

鳴上「……」

鳴上「え?」

藤堂「詳しく調べたら、携帯に送られてくるアプリは本当にただのゲームだった事がわかったんだよ」

藤堂「たまきにも……あ、俺の同級生で悪魔召喚プログラム持ってる探偵事務所の所員の名前な。彼女にも実際確認して貰った」

藤堂「あれは、悪魔を呼び出せるような物じゃないってさ」

鳴上「でも。……」


>自分の携帯に入っているあれからは実際悪魔が出てきている。

>ただのゲームな訳がない。


藤堂「最初にこの街であのアプリをまき散らした奴にも会った」

鳴上「!」

藤堂「どうしてそんな事したのか、もちろん聞いたさ。そしたらなんて言ったと思う?」

藤堂「過去にあった事例を聞いて自分も真似してみたくなったんだとさ。でも、本当に悪魔を呼べるものなんて仮にあったとしても自分には作れないから、それっぽいゲームにしてみた、って」

藤堂「とまあ、こんな感じのあっけない真実だった訳だが……君が思っている通り、話はそれで終わった訳じゃなかったんだ」

鳴上「やっぱり……」

藤堂「……」

藤堂「調査を終えたその後、俺の携帯に一通のメールが届いた」

藤堂「差出人に書かれていた名はSTEVEN……メールを開くと勝手に何かがダウンロードされ始め、届いていた筈のメールは消失してしまった」

藤堂「そう、君が受け取ったものとまったく同じものが送られてきたんだ」

藤堂「初めのうちは、あんな話をした後で俺の元にもこんなもの送ってくるなんていい度胸だな、なんて思いながら試しに遊んでみる事にしたんだ」

藤堂「この周辺に悪魔の気配がない事も既に調べて解っていた事だし、何も害はないだろうと思ってたからな。でも」

藤堂「あれは何時の日の事だったか……月の綺麗な夜の事だった。俺が携帯に入ってるアプリを操作していたら」

藤堂「急に目の前に現れたんだよ、本物の悪魔が。携帯の画面から飛び出してな」

藤堂「こんな風に」


>藤堂はポケットから携帯を取りだし軽く操作をする。

>すると、その画面の上に――羽の生えた妖精らしきものが姿を現したのだ。

>妖精は羽を動かして藤堂の周りをくるくると回る。

ヴィンセント「……!」

鳴上「これは……ピクシー?」

藤堂「そう」

ヴィンセント「……。もう何が起こっても不思議じゃねえって事は割と理解してる気ではいたけど……実際こんなの見せられるとやっぱ驚くな」


>藤堂はまた携帯を操作するとすぐにピクシーを引っ込めてしまった。


藤堂「さっきも言った通り、悪魔には見慣れていたからその存在自体には驚かなかったんだが、どうしてただのゲームである筈のそれから悪魔が現れたのか解らなくて……もう一度アプリを作った奴に会ってみたんだ」

藤堂「そうしたら……」

藤堂「今ではもう、そのアプリを誰かに送ったりはしていない、って」

鳴上「え!?」

藤堂「それに、メールでSTEVENなんて名乗ってはいないし、記載されたURLを踏まない限り勝手にダウンロードなんてしない筈だと、そう言っていた」

藤堂「これは、どういう事だと思う?」

鳴上「……」

鳴上「最初にアプリを送り始めた人が模倣なら、更にそれを模倣して同じようなアプリで悪魔召喚プログラムと同等の事が出来るものを配っているのが他に誰かいる、とか?」

鳴上「それこそ本物の悪魔召喚プログラムの制作者だっていうSTEVEN本人が……」

藤堂「……」

パオフゥ「……」

藤堂「実は今日ここに、友人から預かってきた本物の悪魔召喚プログラムがインストールされた機械を持ってきている」


>藤堂は持ってきていた荷物を開けてテーブルの上にそれを乗せた。


鳴上「パソコン? にしては、なんだか少し妙ですね」


>テーブルの上に置かれたそれは、一見小さめのノートPCのように見えるのだが、機械の底にアームカバーのようなものがくっついていた。

>更に、ゴーグルらしきものとケーブルで繋がっている。

ヴィンセント「ちょっと、よく見せてくれないか!」

鳴上「!」

ヴィンセント「……。改造したハンドヘルドコンピュータか、凄いな。PCの型自体は古いものみたいだけど。これ、腕にくっつけられるのか?」

藤堂「ああ。左腕につけて右手だけで操作するって感じだ」

ヴィンセント「へえ、どういう構造なのか詳しく調べてみてえな」

パオフゥ「お前に調べて貰わなきゃ困るんだよ。その中身に入ってるプログラムを詳しく、な」

ヴィンセント「……あー、そうだった。そういう話だったんだよな」

鳴上「ヴィンセントさんが、……プログラムを調べる?」

ヴィンセント「そ。俺、一応その手の職についてるもんでな」

ヴィンセント「少し前にネットでこの悪魔召喚プログラムのアプリの事を聞いた時に、どういうもんか調べてみてーなあと思ってたら、だったらやってみないか? って、パオフゥに誘われてここに来たって訳」

ヴィンセント「……話を聞く限りじゃ、俺の手に負える物なのかわかんなくなってきたけどな」


>ヴィンセントは荷物から持参してきていたらしい自分のPCをテーブルに広げ、ハンドヘルドコンピュータとコードで繋いだ。

>ヴィンセントの指がキーボードを叩く。

>……


ヴィンセント「……」

パオフゥ「どうだ?」

ヴィンセント「なんつーか……よくわかんないプログラムだな。こんなの初めて見る」

ヴィンセント「プログラムの根幹になる部分にはプロテクトが掛かってて、解析しきる事が出来ないようになってるし。でも……」

ヴィンセント「これは間違いなく人が作ったものに間違いはないと思う」

ヴィンセント「詳しく調べる時間をもう少し貰えれば、もしかしたら俺にだって悪魔召喚プログラムを組む事が出来る……かもしれない」

パオフゥ「……そうか」

藤堂「じゃあ、次はこっちを」

藤堂「最初にこの街に頒布された、ただのゲームである筈のアプリだ。制作者から直々にひとつ貰ってきた」

ヴィンセント「了解」


>……


ヴィンセント「うん、ただのゲームだな。それ以上でもそれ以下でもない」

ヴィンセント「さっき調べたプログラムとはまるっきり違ってる」

藤堂「なるほど。じゃあやっぱり、これには悪魔召喚プログラムの機能は備わってない訳だ」

ヴィンセント「そういう事になるな」

藤堂「……。じゃあ、最後に」

藤堂「鳴上。君の携帯に入っているSTEVENという人物から送られてきたアプリを調べる」

藤堂「と、その前に……ちゃんと君の口から聞いてなかったな」

藤堂「君も受け取ったアプリから悪魔の姿が出てくるのを見ている。……そうなんだよな?」

鳴上「……」

鳴上「はい、そうです」


>オフにしていた携帯の電源を入れ、アプリを選択する。

>あの夜以来、これにはまったく触れていなかったが……彼女は出てきてくれるだろうか?

>リリムの名を選び、決定ボタンを押した。

>――画面が光った。


リリム「ヤッホー、リリムちゃんだよー……って、あれ? 悠、この人達は?」

ヴィンセント「うわっ! またなんか出てきた!」

リリム「あ、ヴィンセントじゃん。ちょうど良かった!」

ヴィンセント「え? 俺の事知ってんの?」

リリム「あのさ、アンタにちょっと聞きたい事があって……」

鳴上「リリム、話はまた後だ」

リリム「えっ、ちょっと待っ……」


>ボタンを押してリリムを引っ込めた。


鳴上「と、こんな感じです」

藤堂「賑やかな子だったな」

鳴上「……ええ、まあ」

鳴上「どうぞ。お願いします」

ヴィンセント「え? あ、ああ、そうだったな」

>ヴィンセントに携帯を渡した。

>携帯はさっきまで調べていた物たちと同じようにコードでPCと繋がり

>そしてプログラムの解析が開始された

>……筈だった。


ヴィンセント「え?」


>急にヴィンセントのPCがバチバチと火花を散らし始める。


ヴィンセント「なんだ、これ……うわっ!」

鳴上・藤堂・パオフゥ「!?」


>一瞬のうちにヴィンセントのPCは小さな爆発を起こして、液晶画面も粉々になり壊れてしまった……


鳴上「これは……」

ヴィンセント「う、嘘だろ? これ買い換えたばっかなんだぞ!?」

ヴィンセント「どうすんだよ、これ……修理費……また嫁に怒られ……うわああああ」

藤堂「君の携帯の方は大丈夫か?」


>コードから外されて、藤堂から携帯を渡される。

>特に目立った外傷もなく、普通に機能しているようだ。

>アプリもちゃんと起動できる。

>再びリリムを呼び出してみた。


リリム「ねえ、今なんかしたの?」

ヴィンセント「何かしようとしたけど、出来なかったんだよ!」

ヴィンセント「プログラムを開くことさえ出来なかった! ちくしょう……俺のPCが……」

藤堂「……どうだと思う?」

パオフゥ「……」


>ヴィンセントは騒いでいるが、藤堂とパオフゥは神妙な顔をして黙り込んでしまった。


鳴上「……もしかして、今の現象もリリムが言っていた『力』が原因なのか?」

リリム「んー、どうだろうね。可能性は高そうだけど」

パオフゥ「おい。なんだその『力』がどうとかって言うのは」

鳴上「え?」

パオフゥ「いいから答えろ」


>パオフゥは静かにこちらを威圧してくる。

鳴上「あ、あの……それが、リリムから聞いたところによると、こんな風にアプリから悪魔が出てくるようになったのは、この街に広がっている妙な『力』がそれに影響してるからじゃないか、って」

鳴上「それが具体的にどういうものなのかは解らないんですが……」

パオフゥ「……」

パオフゥ「……やっぱり、そうなのか?」

鳴上「!」

鳴上「パオフゥさんには、何か心当たりがあるんですか!?」

パオフゥ「ああ……」

パオフゥ「俺が悪魔召喚プログラムの件やらなにやらを嗅ぎ回っていたのは、その確証が欲しかったからだ」

鳴上「それは、一体……?」

パオフゥ「……」

パオフゥ「お前は、噂が現実になるなんて現象を信じられるか?」

鳴上「噂が、現実に?」

パオフゥ「ああ」

鳴上「言ってる事がよく……」

パオフゥ「そうだな……例えばお前、この間まで世間を騒がせていた連続衰弱死事件について色々調べてただろ?」

鳴上・ヴィンセント「!」

鳴上「……。そうですね」

パオフゥ「あれが起きた原因が実は、『夢の中で落ちた時に目覚めなければ死ぬ』という噂が広まった事で本当にそうなってしまったのだとしたらどうする? って話だ」

鳴上・ヴィンセント「!?」

鳴上「原因を話していた訳でなく、そうやって話をしていた事自体が原因になってしまった? そんな事って……」

ヴィンセント「いや……それなら、俺があんな事になったのも納得がいく」

鳴上「え……、!」


>あの夢の『管理者』がヴィンセントの口を通して言っていた事を、今になって思い出した。

>『電子の海を漂う偽りの言霊』が、『力』の影響を受けて、存在しないものや存在してはいけないものが現れるようになったのだと。

>その『偽りの言霊』というのが……噂の事なのだ。

>ネットに溢れる、噂話。

>それが『力』によって現実と化し、ヴィンセントはその被害を顕著に受ける事となった……そういう事だ。


パオフゥ「……。今、ネットではこの悪魔召喚プログラムに関する事で、ある噂が密かに流れている」

パオフゥ「これもお前が気にしていた事だが……4月にあった辰巳ポートアイランド駅前付近で目撃されたらしいバケモノの事件」

パオフゥ「あれが、今になって妙な形で掘り返されているようだ。いや、すり替わったとでも言った方がいいのか……」

鳴上「今更ですか? だって、あれはもう……」

パオフゥ「先日、あそこでバケモノを見たと最初に口にしてそのまま意識不明になっていた人物がやっと目を覚ましたそうでな」

鳴上「!」

パオフゥ「その後、警察の調べに対して奴はこんな事を口走ったらしい」

パオフゥ「――俺はあそこで悪魔を見た、と」


>悪魔……!?

>彼を襲ったのではシャドウではなかった、という事なのか……?


パオフゥ「その話がネットに広まり、同時に悪魔召喚プログラムなんてものまで世に出回っている」

パオフゥ「過去にもそういった事例があった事も瞬く間に知られて、――そうしてこんな噂が誕生した」

パオフゥ「港区は今、悪魔によって危険に晒されようとしている。悪魔召喚プログラムのアプリはそれに対抗する為に配られている」

鳴上「っ……」

藤堂「つまり、俺が危険視していた事が噂によって現実になる可能性が出てきてしまったって事さ」

藤堂「いや、もう半分なってるんだったな。アプリからは本物の悪魔が呼べるようになっているんだから」

パオフゥ「俺は過去にも噂が現実になるという現象を目の当たりにした事がある。今回の事もそれと同じだってんなら」

パオフゥ「ヤベェってどころの話じゃねえぞ」

パオフゥ「噂の力は人の信じる意志の強さに左右される。だからこのままこの噂が広まり続け、この噂を信じる連中が増えたら」

鳴上「この街は悪魔の巣窟と化してしまう事になる……」

パオフゥ「こんなの馬鹿らしい噂だという反面、一度こんなインパクトのある噂が出たらちょっとの事でどうにか出来るってもんじゃない」

パオフゥ「もう現実になるのも時間の問題ってとこだな」

藤堂「今のところは、悪魔召喚プログラム以外での悪魔の出現は確認出来ていない。悪魔を見たと言っている彼を除いてだけど」

藤堂「だからこそ、これからどうなるのか深く注意を払わなければいけない……君も何か気になる事を見つけたら教えて欲しいんだ」

鳴上「わかりました。……それで、あの」

鳴上「……」

鳴上「この事、俺の仲間に伝えても構わないでしょうか?」

藤堂「なかま?」

鳴上「はい。ペルソナ使いの仲間、です」

鳴上「俺は、この街を脅かす危険のあるものと戦うある組織のメンバーの一員なんです。こういう事情を知ったからには黙ってる訳にはいかないんです」

パオフゥ「……ほお?」

藤堂「なるほどね」

ヴィンセント「え、マジで? 只者じゃないとは思ってたけど、まさかそんな……」

リリム「さっきからアンタだけ完全に蚊帳の外だよねー」

ヴィンセント「うっせ。俺は所詮ただの一般人だよ」

鳴上「そんなに大勢という訳ではありませんが、もしもの時悪魔に対抗するのに十分な戦力になると思います」

鳴上「俺たち全員で協力させてください」

藤堂「こちらこそ、そう言ってもらえるのは非常にありがたい。是非お願いするよ」

藤堂「じゃあ、君の仲間へ事情を話すのは任せたよ」

鳴上「はい」


>噂の現実化、それによる悪魔の出現の可能性……

>色々な話を一気に藤堂とパオフゥから聞いた気がする。

>しかし何より、二人ともペルソナ使いだという事を知った時は驚いた。

>今後、そんな先輩達の話を聞ける機会がいつかあったら嬉しいかもしれないと、そう心の何処かで思った。



>『Ⅳ 皇帝 藤堂尚也』のランクが5になった

>『Ⅸ 隠者 パオフゥ』のランクが7になった

>今日のところはひとまずこれで解散という事になった。

>改めて、僅かでも気になる事があればすぐになんでも情報を交換しあおうという約束をして……

>……


【夜】


学生寮 ラウンジ


>急遽、特別課外活動部のメンバーに全員集合して貰う事にした。


美鶴「……。君から改まって呼び出しとは、何かあったという訳だな?」

鳴上「はい。そして、これから何かが起ころうとしている事を知ってもらおと思って」

アイギス「それは、どういう事ですか?」

鳴上「まずは、これを見て欲しい」

メティス「携帯、ですか?」


>悪魔召喚プログラムから、リリムを呼び出した。


リリム「んー? 今度は何かな? まあ、悠の呼び出しならなんだってオッケーだけどね!」

ラビリス「わっ、この子なに!?」

天田「鳴上さんのペルソナ、にしてはどうして言葉を喋って……?」

鳴上「みんなよく聞いて欲しい」

鳴上「彼女は――悪魔だ。そして」

鳴上「この街はこれから先、悪魔によって危険に脅かされる事になるかもしれない」

メティス「悪魔……?」

アイギス「シャドウとはまた違う存在なのですか?」

美鶴「……みんな、静かに。まずは鳴上の話をじっくり聞こう」


>この場にいる全員に、悪魔召喚プログラムや藤堂とパオフゥから聞いた話を全て話した。

>……


美鶴「噂の現実化か……俄には信じられない話だが」

アイギス「それによって悪魔が出るかもしれないというのも、ですね」

メティス「しかし、ここには現にリリムさんがいる訳なんですよね」

天田「悪魔召喚プログラムっていうの、クラスでちょっと話題になってたの耳にした記憶がありますけど、まさか本当に悪魔が呼べるなんて……」

鳴上「実際にそう出来るものと出来ないものがあるようだ」

鳴上「俺が所持しているのはおそらく、『この街を脅かす悪魔に対抗する為に配られている』という噂の力によって生み出された悪魔召喚プログラムなんだと思う」

鳴上「だからこうしてリリムを呼べている訳だ」

鳴上「……ありがとう、リリム。今日は何度も呼び出してすまないな」

リリム「いいよ、悠の頼みだもん! でもマグネタイトが心配だから、そろそろ戻った方がいいよね。じゃあ、また!」


>リリムは姿を消した。


ラビリス「えっと、要するにウチらこれから悪魔退治する事になるって訳なん?」

鳴上「そういう事になるな。まだ、街の方に被害は及んでないみたいだけど」

メティス「もしかしたら、この間コロマルさんが言っていた妙な気配とはこの事だったのでしょうか」

ラビリス「そういやコロ、あれからもずっと落ち着きないもんな」

コロマル「グルルル……」

美鶴「では、今後の我々の活動は、悪魔に関する情報収集とその対策について考える……といったところになるのか」

鳴上「そうですね。それに、噂のチェックもしとかないと」

鳴上「これ以外にも、どんな事が噂になっていて、……もしかしたら現実になってしまいそうなのか、今後少しでも把握しとおいた方がいいと思います」

天田「噂、か……」

美鶴「私も一度その藤堂とパオフゥという人物に挨拶を兼ねて会ってみたい。連絡先を教えてはくれないか?」

鳴上「わかりました」


>……

>特別課外活動部に、新たな目標と活動指針がうまれた……



>『0 愚者 特別課外活動部』のランクが6になった

>……


06/11(月) 曇り


月光館学園 3-A 教室


男子A「鳴上! これなーんだ?」

鳴上「え? ……チケット、か?」

男子A「そう! なんと、デスティニーランドの特別優待券がここに六枚もあるのだよ」

鳴上「デスティニーランドって遊園地だよな。それがどうかしたのか」

男子A「一緒に行かないか?」

鳴上「俺とお前で?」

男子A「メティスちゃんとラビリスちゃんも誘って、だよ!」

鳴上「ああ、そういう事か」

男子A「それでもあと二枚残るから、数合わせでいいから誰か行ける奴探してさ」

綾時「おはよう。……なんの話だい?」

鳴上「おはよう。そうだ、望月も一緒にどうだ? 遊園地にタダで行けるそうだぞ」

綾時「遊園地、か。いいのかい? 僕が一緒に行っても」

男子A「ん、まあチケットは余ってるからな」

綾時「じゃあ、……うん。行こうかな」

男子A「よし。あとは女子がもう一人いれば都合いいんだけど」

綾時「都合?」

男子A「いやいや、なんでもねーっすよ?」

鳴上「あ、それなら心当たりがもう一人いるから、そいつに声かけてみよう。いつ行く予定なんだ?」

男子A「次の日曜がいっかなって思ってんだけど。メティスちゃんやラビリスちゃんも、きちんと誘ってくれよな!」

鳴上「はいはい」


>日曜日にみんなで遊園地に遊びに行く事になった。

>……

物語が大きく動き出して来たな

06/17(日) 晴れ


デスティニーランド


>今日はいい遊園地日和だ。


男子A「よし、みんな揃ったなー?」

鳴上「ああ」

綾時「晴れて良かったね」

ラビリス「そやねー」

あかり「誘ってくれてありがとう。今日はよろしくね」

メティス「よろしくお願いします、星さん」

あかり「あかりでいいよ、メティスちゃん」

男子A「あ、じゃあ俺もあかりちゃんって呼んでいい?」

あかり「うん、いいよー」

男子A「やった!」

ラビリス「なあ、ぐずぐずしとらんで、はよ行こ!」


>みんなで遊園地の中へと入った。

>……


男子A「うえぇぇ……きもちわる」

鳴上「食べた後に調子乗って絶叫系に乗り続けるからだろ」

綾時「大丈夫かい? 少し休もうか」

ラビリス「そうした方がええね。そこ座り」


>ラビリスはクラスメートに付き添って甲斐甲斐しく介抱してあげている。

>これなら、クラスメートも少しは浮かばれるだろう。


あかり「私、ちょっとお手洗い行ってきていいかな」

綾時「僕は飲み物買ってくるよ」


>あかりも綾時もそれぞれこの場を離れてしまった。

>ラビリスとクラスメートのいる場所から少し離れて、メティスとふたり並んで座った。


メティス「……」


>メティスはなんだかおとなしい。

>どうかしたのだろうか?


鳴上「メティス?」

メティス「……え? は、はい。なんでしょうか」

鳴上「いや、なんかずっと黙ってるから、何かあったのかと思って」

メティス「いえ、その。……」

メティス「少し、緊張しちゃってて」

鳴上「緊張?」

メティス「はい。学校の、特に男子の方と一緒に出かけるというシチュエーションが、なんというか……」

メティス「この間、望月さんと遊びに行った時もそうだったんですけどね」

鳴上「そうだったのか? 確かに望月たちとあまり話してる様子は無かった気がするけど……」


>メティスがそんな事になっていたとは意外だった。


メティス「特に望月さんの雰囲気が……苦手で。失礼な事をしているとは自分でも解っているんですけど」

鳴上「望月ね。俺は悪い奴ではないと思うけど」

メティス「それは。……」


>メティスは黙ってしまった。


鳴上「俺と話す時みたいにすればいいだけじゃないか?」

メティス「そんな。鳴上さんと望月さんたちとでは……違います」


>どういう意味だろう。


メティス「……人見知り、っていうんでしょうかね。こういうの」

鳴上「そうかもな」

メティス「私、ラビリス姉さんが羨ましい」

メティス「ラビリス姉さんは、誰とでも分け隔てなくああやって接する事が出来るんだもの」

メティス「私も色々な人と普通に仲良く出来たら……きっと世界も広がる気がするのに」

メティス「そうしたらきっと、探しているものだって」


>メティスは少し離れたところにいるラビリスとクラスメートの様子を見つめながらぽつりと呟いた。


メティス「……やだな。私、この間からずっとラビリス姉さんと自分の事を、比較してる」

メティス「そんな事したって何にもならないって、解ってるのに……」

鳴上「今、そう思えるんなら、これから少しずつやっていけばいいじゃないか。自分がそう出来たらいいと思う事を」

鳴上「まだまだこれからだ。そうだろ?」

メティス「……」

鳴上「まずは……そうだな。男はまだ無理でも、女の子の友達なら作れるんじゃないか?」

鳴上「今日はあかりがいるだろ? まずはあかりともっと仲良くなってみる事から初めてみるとか」

メティス「あかりさんと、ですか。……」

メティス「そうですね。あかりさん、いい人だし、彼女みたいな人は私も好きです」


>メティスは何かを決心したように頷いた。


メティス「ありがとうございます。鳴上さんに話したら、少しすっきりしました」

メティス「そうですよね。まだまだこれから、ですよね」


>メティスはようやく緊張が解けたようで柔らかい笑みをこちらに向けてくれた。

>メティスとの仲が、少し深まった気がする……



>『Ⅴ 法王 メティス』のランクが5になった



綾時「お待たせ」

鳴上「ん、おかえり」

綾時「みんなの分の飲み物も買ってきたけど、お茶とオレンジジュースどっちがいいかな?」

鳴上「気が利くな、ありがとう。じゃあ、俺はお茶で」

綾時「はい、どうぞ。メティスさんは?」

メティス「え? えっ、と……」

メティス「オ、オレンジジュースで」

綾時「はい」

メティス「……」


>メティスは綾時からオレンジジュースを受け取ると、小さく一礼した後にラビリスの方へと駆けて行ってしまった。


鳴上(……やっぱり、まだまだこれからだな)

綾時「あれ、逃げられちゃった」

綾時「……。メティスさんって絶対僕の事避けてる気がするんだけど」

鳴上「ああ、それはそういうお年頃だから仕方ないって事で、ここはひとつ……」

綾時「ふーん?」

綾時「さっきさ、ちょっと遠目で二人の事見てたんだけどね」

綾時「鳴上くんってたまにメティスさんのお兄さんみたいだよね」

鳴上「……え」

今思ったけどアイギスはまだこの望月のこと知らないんだよな…
知ったら大変なことになりそうだ

綾時「あ、ごめん。変な事言ったかな。あまり気にしないで」

綾時「僕もちょっとはしゃぎすぎてるみたいでさ。おかしくなってるのかも」


>見た感じは、何時もの綾時と変わらない気がするのだが……そうだったのか。


綾時「遊園地なんて本当に久しぶりでね。最後に行ったのは何時だったかな……小さな子供の頃だった気がするけど。親に連れられて」

鳴上「言われてみれば、俺もこういう場所に遊びにくるのは凄く久しぶりだ。家族でもあまり来た記憶ないし」

綾時「鳴上くんのご両親は忙しい人だったりするのかい?」

鳴上「まあな。転勤も多くて、俺もあまり一カ所に長く留まれた事がなくて、転校ばっかりしてたり……」

綾時「そうなんだ。僕と似てるね」

綾時「僕も親の仕事の都合で海外行ったり色々なところを連れ回されたよ」

綾時「今回も、どれくらいあの場所にいられるか……」

綾時「……」


>綾時は一瞬寂しげな表情を浮かべた。


綾時「……あ。あかりさんも帰ってきたみたいだ」

あかり「ごめんね。お待たせ」

あかり「あっちの彼の様子はどうかな?」


>そちらの様子を窺ってみると、クラスメートの容態もだいぶ落ち着いてきたように見える。


綾時「そろそろ平気そうだね」

綾時「まだ時間もあるし、せっかくなんだからもっと楽しもうよ」

鳴上「……ああ。そうだな」


>短い会話の中でだが、綾時の事を少しだけ知れた気がした。



>『Ⅵ 恋愛 望月綾時』のランクが3になった



>日が暮れるまでみんなで楽しく遊んだ。

>……

男子A「あー楽しかった!」

あかり「あっという間だった気がするね」

ラビリス「確かに、まだ少し遊び足りない気もするわ」

鳴上「また今度、時間がある時に来れたらいいな。な? 望月」

綾時「ん、そうだね」

男子A「じゃあ、これにて解散!」

あかり「まったねー」

綾時「みんな気をつけて」

>遊園地の前でみんな散り散りになった。

鳴上「俺たちも帰ろう」

ラビリス「うん」

メティス「そうですね。……?」

鳴上「どうした?」

メティス「何か……声が聞こえて来ませんか?」

メティス「こっちの方です」

鳴上「メティス?」


>急に走り出したメティスの後を追った。
>……


メティス「あなたの声でしたか」

「クォーン……」


>メティスは一匹の犬の前に屈み込んでいる。

>犬は弱々しい鳴き声を上げていた。

>誰かの飼い犬なのか、野良なのか。

>見た目からすると、シベリアン・ハスキーに見えるが……


メティス「お腹が空いているみたいですね」

メティス「ねえ、あなたどこから来たの?」

「クォーン」

メティス「……え?」

鳴上「どうしたんだ?」

ラビリス「ソイツ、どこから来たのかも、自分も名前もわからん言うとる」

鳴上「記憶喪失、って事か?」

メティス「……。見たところ、そうなるような目立った外傷などはないようですが」

鳴上「困ったな。どうしよう」

メティス「……」

メティス「連れて帰りましょう」

鳴上「えっ?」

ラビリス「せやな。記憶がない子をこんなトコに置き去りにできへんよ」

鳴上「まあ、確かにそうだけどさ」

メティス「決まりですね」

>……


学生寮 ラウンジ


鳴上「……という事がありまして」

美鶴「……」

美鶴「なるほどな。私はまあ構わないが……飼い主がいるのだとしたら、きっと心配しているんじゃないか?」

鳴上「でしょうね」

メティス「でも、いたとしてもそれが何処の誰かも記憶にないようなんですよ? どうしようもないです」

コロマル「ワンッ!」


>コロマルは餌を食べているシベリアン・ハスキーの傍で尻尾を振っている。


鳴上(コロマル嬉しそうだな)

メティス「え? それは本当ですか? コロマルさん」

コロマル「ワンッワンッ」

メティス「コロマルさんの言っていた、コロマルさんのお仲間……この子の気配だったそうですよ」

鳴上「え? どういう事だ?」

鳴上「だって前にその気配を感じたのってこの近辺でだったろ? それがなんであんな場所にいたんだ」

メティス「何かの原因で記憶をなくしてしまい、そのせいで住処から離れてしまいあんな所で迷っていた……というところでしょうか?」

ラビリス「でもそれなら、ここに連れ帰ってきて正解やったんやないの? コイツん家、この近くかもしれないって事やろ?」

鳴上「そうだよな」

美鶴「ふむ……一晩様子を見てから考える事にしようか」

美鶴「その間に、何か思い出してくれるといいのだかな」


>一晩、シベリアン・ハスキーを預かる事になった。


>…
>……
>………


『――ウ』

『――ユウ』

『ユウ、いつまで寝てるの?』

『休みだからって寝坊はダメよ』

『早く起きてらっしゃい』

『ユウ、いつまで寝てるの!』


>誰かが呼んでいる……?

>……

>いや、違う。

>これはどうやら自分の事ではないようだ。

>目の前に、見知らぬ少年とその少年の母親らしき人物がいる。……みたいだが

>ここはいったい何処なんだ……


『ゆうべはよく眠ってたみたいね』

『パトカーの音があんなに凄かったのに気付かないで寝てるんだから』

『きっと大きな事件ね……あれは』

『あっ、そうそう。今月のおこづかいよ』

『無駄遣いはダメよ』

『アーケードのCAFEでコーヒー買ってきて』

『お金は立て替えておいてね』

『気をつけてね、ユウ』

『あまり遅くならないようにね』


>……


『おかえりユウ、どこ行ってたの』

『あまり遅くならないでね、心配だから』

『でも、男の子は元気な方がいいか』

『ねえ、ユウ聞いた?』

『イノガシラ公園で女の子が殺されたんだって』

『物騒になったわね。安心して出歩けないわ……』

『そうそう、たまには――の世話をしてあげてね』


>少年は頷き――こちらにやってくる。

>少年の手が伸びて、頭を撫でられた。

>そのぬくもりが、とても心地良い……

>……


やべえ…ニュートラルクリアした後だし、
シベリアンハスキーってだけで涙が出て来る

06/18(月) 曇り 自室


【朝】


>……

>夢を見ていた。

>不思議な夢だった。

>まるで人間じゃなくなっているような……そんな感覚がした気がする。

>……

>学校へ行く準備をしよう。


学生寮 ラウンジ


>一階には、メティスとコロマルと昨日連れ帰ってきたシベリアン・ハスキーがいる。


鳴上「おはよう」

メティス「あ、おはようございます」

コロマル「ワンッ!」

鳴上「様子はどうなんだ?」

メティス「ダメみたいです。まだ何も思い出せないらしく……」


>シベリアン・ハスキーは元気がないようだ。

>自分が何処の誰ともわからず不安でいっぱいなのかもしれない。


鳴上「まあ、無理する事ないさ。な?」


>シベリアン・ハスキーの頭を撫でてやった。


「……!」

「バウ! ワウ! バウ! ワウ!」

メティス「えっ……」

メティス「思い出したのですか! ご自分の名前を!」

鳴上「!」

鳴上「本当なのか?」

メティス「はい」

メティス「パスカルさん、と言うそうです」

鳴上「パスカル、か」

鳴上「良かったな、パスカル。少しでも自分の事思い出せて」

パスカル「バウ!」


>しかし、なんでまた急に……

>まあ、この調子でどんどん思い出していってくれればそれが一番いい事には違いない。

>……

>>472
今のキミコってどっちの事なんだろう
港区にいるかもしれないって言われてる本物のキミコ?
それとも現リリムの方?


終わります。
また次回。

毎度遅くまで面白いスレをありがとうございます
次回もマジお楽しみに!


藤堂やパオフゥがペルソナを出せるなら、鳴上達も現実でペルソナを出せたりはしないの?

いよいよ最終章に近づいてきたのかな?
どんどん引き込まれていくぜ

旧ペルソナ組は全員ペルソナ付け替えできるから新ペルソナ組の制限聞いたらどう思うんだろ

でも旧組はアルカナ制限があるから、完全アルカナ制限無しの番長はむしろすごい扱いになるんじゃね?


いよいよもってアトラスフェスティバル状態で涙がちょちょぎれそうだ

パスカルってもしや真女神転生か、懐かしいな…


真1とはどう繋がるんだろう…
毎回マジで面白い。

ケルベロスにはお世話になりました

ラスボスはタナトスかそれともニャル様か…。意外な所でYHVHだったりして。
アトラスオールスター過ぎて予想がつかないw

マーラ様の出番はあるんですか?

6月中旬だけど、物語の内容は1年やってくれるのかな?

噂が力って、結局はP4と同じなんだな。
人の心がって見方をするとアトラス全般に言えるか?

とにかくおもしろい。

綾時が恋愛だと違和感だったが、ニュクスはそういや女神だったな。

ファルロスの名前は・・・
つまりこれが示す意味は!

先にタナトスをだしてやれよ……

>その後、寮の中での話し合いの結果、パスカルはしばらくの間この巌戸台分寮で世話をする事となった。

>もちろん、飼い主がいるのかもしれないという事も考慮し、街に張り紙を張ったりネットに書き込みをしたりしてパスカルをここで預かっているという事を知らせた上での事だ。

>……

>それから数日経ったが、寮の方にはそれらしい連絡もなく、パスカルの記憶も自分の名前以外の事を思い出す気配をなかなか見せずにいた。

>名前があるという事は、飼い主がいるという事を意味しているようなものだと思っていたのだが……違ったのだろうか。

>だとするなら、何処で誰に授かった名なのか……

>それもやはり、今のパスカルにとっては思い出せぬ事のようだった。



06/24(日) 晴れ


>今日は休日だ。

>天気もいい事だし、コロマルとパスカルを連れて少し散歩に出掛けてみようか。

>この辺りを歩いてみれば、パスカルの記憶を取り戻すきっかけがあるかもしれない。


リリム「ねえねえ、悠」

鳴上「! 呼んでもないのにいきなり出てくるなよ。びっくりするじゃないか」

リリム「ごめん。……あのさ、散歩に出掛けるの?」

鳴上「ああ。そうだけど」

リリム「私も一緒に行きたいんだけど」

鳴上「一緒に、って」


>リリムはその姿を瞬く間にキミコの姿へと変えた。


鳴上「……その格好でか」

リリム「うん」

鳴上「……。まあ、いいけど」

リリム「やった!」


>コロマルとパスカル、そしてキミコの姿のリリムと街の方へ散歩に行く事になった。

>……

>藤堂とパオフゥの話を聞いた後、街に悪魔が出現したり住民がそれを目撃していないか細心の注意を払っているのだが……実のところ、まったくそういう話題は耳に入ってはこないのが現状だった。

>ネットでも、意外な形で蒸し返された辰巳ポートアイランド駅前付近での事件についての話はすぐに収まってしまったようで、今はもう特に何も騒がれていないようだ。

>とりあえず、何もない事は良い事ではあるが、油断せずこれからも街の様子を気にかけなければならないだろう。


リリム「……」


>リリムは、散歩に出てからずっと口を閉ざして辺りを見回しながら隣を歩いている。

>その様子は少し不自然なくらいで、周りをかなり気にしているようだ。


鳴上「急に一緒に散歩に行きたいなんていうからどうしたのかと思ったけど、……もしかして、何か気にかかる事でもあるのか?」

リリム「ん、ちょっとね」

鳴上「悪魔の気配がする、とかは」

リリム「あ、それはないから安心していいよ」

鳴上「そっか」

リリム「……」

鳴上「……」

鳴上「なあ、本当にどうしたんだ?」

リリム「……ん」

鳴上「言いにくい事なのか? それとも俺には言えない事?」

リリム「そういうんじゃないんだけど。……」

リリム「ねえ、悠。今すぐじゃなくてもいいんだけどさ」

リリム「ヴィンセントに会えたりとかしないかな」

鳴上「ヴィンセントさん? どうしてだ」

リリム「ちょっと聞きたい事があるんだよね。キミコの事で」

鳴上「本物のキミコについてって事か?」

リリム「うん、そう」

リリム「ちょっと妙だと思う事があるんだよね」

鳴上「?」

リリム「この街ね、……キミコらしき人物がいた気配がないの」

鳴上「気配がない、って確かヴィンセントさんがキミコに最後に会ったのって、三年前だった筈だし」

鳴上「もう学校は卒業して、この街から離れてるからとかじゃないのか?」

リリム「そうじゃなくて。痕跡がさっぱりないのよ。キミコがこの街に居たっていう」

鳴上「え? どういう意味なんだ?」

リリム「人の気配ってね、よく行ってた場所とかよく使っていた物とかに残ったりするんだけど……」

リリム「この街にはキミコのそういうのが一切感じられないの」

リリム「例えキミコがこの街から離れてしまっていても、……最悪死んじゃったりしてても、その気配は薄くなるってだけでそんな簡単に完全に消えたりなんかしないんだよ」

リリム「でもね、この前あのクラブに行った時も、まったくキミコの気配はしなかった。無かったんだよ」

鳴上「それはおかしいな。ヴィンセントさんの話だと、キミコと会って話をしてたのはあのクラブなんだぞ」

リリム「そうなの。おかしいんだよ」

リリム「まるでキミコなんて存在、ここには初めからいなかった、みたいな。そんな風にしか考えられないのよ」

リリム「でも、ヴィンセントの意識の中にはキミコの存在があって、だからこうして私がキミコの姿を知ってる訳なのに」

リリム「……それがどうも気になっちゃって」

鳴上「なるほど」

リリム「……」

リリム「……あ、そうだ。キミコで思い出したけど、その事とは別にもう一つ、悠に言わなきゃ……謝らなきゃいけない事あった、ね」

鳴上「謝る?」

リリム「うん……」

リリム「えっと、さ。私、悠に色々酷い事言っちゃった時があったでしょ。触れられたくない事に触れちゃったみたいな感じで」

鳴上「……」

鳴上「……?」

鳴上「一体、何の話だ?」

リリム「えっ……」

リリム「ほ、ほら! 小豆あらいでさ! 私と初めてクラブで会った時の事を話したじゃない。……あれも、私の意志で言っていた訳じゃないけど、きっと悠の事傷付けて、」

鳴上「リリム」

鳴上「言ってる事がよくわからないんだが」

リリム「……」

リリム「……そっか。うん」

リリム「悠がそう言うのなら、いいけど。……」

リリム「私、戻るね。今日はもう、キミコの事解らなそうだし」

リリム「また、用があったら呼んでね」


>リリムの体が徐々に薄くなっていき、完全に消えてしまった。


コロマル「ワオン?」

パスカル「バウ!」

鳴上「なんでもない。散歩の続きに行こうか」


>……


鳴上「どうだ、パスカル。何かこう、記憶に引っかかりそうなものがあったか?」

コロマル「ワンッ!」

パスカル「クォーン……」

コロマル「クゥーン」


>犬の言葉は解らないが、この様子からするとやはりダメそうだ……でも。


鳴上「諦めないでもう少し歩いてみよう」

コロマル「ワンッ」


>日が暮れるまで街中行ける範囲を全てまわってみる事にした。

>……


学生寮 ラウンジ


鳴上「……ただいま」

メティス「おかえりなさい」

メティス「コロマルさん達とお散歩に行っていたんですね」

鳴上「ああ。パスカルが何か思い出す手掛かりがあればいいと思って」

メティス「成果の方は……なかったようですね」

パスカル「ワウ……」

コロマル「……」

コロマル「ワン! ワン!」


>コロマルはパスカルを元気付けようとしているかのように傍で吠えている。

>そして、その後自分の足元まで寄ってきてじっと見上げてくるのだった。

メティス「これからもパスカルさんの事で色々と協力をお願いしたいと言っています」

鳴上「ああ、わかってる。コロマルもパスカルの事、よろしくな」

コロマル「ワンッ!」


>コロマルは大きく返事をして尻尾を振っている。

>コロマルに頼りにされているのを感じた。



>『ⅩⅠ 剛毅 コロマル』のランクが5になった



>寮の階段から美鶴が下りてきた。


美鶴「ん? 帰ってきたのか、鳴上。ちょうど良かった」

鳴上「あ、どうも。なんでしょうか?」

美鶴「いや、なに。夏休みの君と八十稲羽の子達の予定を聞いておきたくてな」

鳴上「俺と八十稲羽のみんなの、ですか?」

美鶴「ああ。君はまた、あの子達と遊ぶ計画を立てているんだろう?」

鳴上「そういう話になっていますね。まだ具体的な事は何も決まってないんですけど」

美鶴「ふむ。ならばちょうどいいかもしれないな」

美鶴「実はな、君の仲間達を屋久島に招待したいと思っているのだがどうだろうか?」

鳴上「屋久島!?」

美鶴「ああ。ほら、GWの時にラビリスの件で迷惑をかけてしまっただろう。そのお詫びを兼ねてな」

美鶴「ラビリスも改めて謝罪をしたいと言っている。もし都合が悪くなければ、7/20から三泊四日ほど。是非、聞いておいてもらってくれないか」

鳴上「いいんですか? そんなとこに連れていってもらって」

美鶴「もちろんだとも」

鳴上「そうですか、ありがとうございます。みんなにも聞いてみます」

美鶴「よろしく頼む」

鳴上「……あ。お言葉に甘えるついでに、八十稲羽の連中の他にも誘いたい人が何人かいるんですけども、声をかけてもいいですか?」

美鶴「ん? ……ふふっ、ちゃっかりしているな。この際だ、学校の友達でもなんでも連れてくるといい」

美鶴「君にとっては高校最後の夏休みなんだ。いい思い出を作っておきなさい」

鳴上「ありがとうございます!」


>後で陽介たちに連絡しよう。

>屋久島に旅行か……楽しみだ。


>…
>……
>………

>……

>何処かから、切り裂くような悲鳴が聞こえたような気がした。

>その直後、耐え難い腐臭が広がってきて鼻が曲がりそうになった。

>いったい、何が……

>……

>玄関から、少年が三人入ってくるのが見えた。

>それと同時に、家の奥から女性が一人やってくる。

>見覚えがある。

>この家の少年の母親だ。

>でも、この感じは……


『おかえりなさい、ユウ』

『わたしはいつもあなたのこと、心配してるのよ』

『今日もよく無事に帰ってきたわね』

『うれしいわ。さあ、こっちへいらっしゃい……』

『どうしたの? 早くこちらへいらっしゃい』

『私はいつもあなたのこと、愛してるのよ。さあ! 早く!』


>ダメだ。彼らをアレに近付けてはいけない。

>だって、アレは……!


『なんだか変ですね』

『妙なにおいだな』


>少年の傍にいる二人の少年は、訝しげにしている。

>そしてそれは、――ついに正体を現した。


『チッ……勘がいいな』


>母親の優しく包むような柔らかい声が、醜くしゃがれたものへと変わっていく……


『……お前の母親はいただいた』

『なあに、悲しむことはない』

『すぐに会わせてやるよ。俺の腹の中でな!』

『その前に、せいぜい楽しませてくれよ』


>母親の殻が破れる。

>彼らの前にバケモノが――悪魔が現れた。

>……


『ユウくん。こんな時に何を言っても慰めにはならないと思うけど……気を落とさないで……』

『気休めはよせ、タロウ』

『母親が殺されたんだぞ、そっとしといてやれよ』

『トオルくん……』

>悪魔は三人の少年の手によって討ち倒された。

>しかし、だからといって少年の母親が帰ってくるという訳ではない……

>少年は、無言のままうなだれていた。

>少年の傍に近寄る。

>すると彼は、屈み込んでこの身を強く抱き締めてきた。

>深い深い悲しみが伝わってくる。

>――この人に、ついていかなければいけない。

>これからはずっと、この人の傍にいなければいけない。

>この人の、力にならなければ――

>そう思った。

>……

06/25(月) 曇り


【朝】


>……

>目を開いた時、一筋の涙が頬を伝った。

>この行き場の無い悲しみと強い使命感は、一体何なのだろう。

>一体、誰のものなのだろう。







【昼休み】


月光館学園


>あと10分ほどで、昼休みが終わる。

>その前にトイレに行っておこうかと廊下を出たところで、忙しない様子のラビリスと出くわした。


ラビリス「あ、悠!」

鳴上「何してるんだ、ラビリス。そんなに急いで」

ラビリス「ああ、うん。ちょっとな。もう少しで終わりそうなんやけど、時間が無いから……」


>何が終わりそうなんだろう?


鳴上「俺に出来る事なら手伝おうか?」

ラビリス「ええの? なんか悪いなあ」

鳴上「気にするな。で、何すればいい?」

ラビリス「それじゃあ、悠は三年のF組に行って話を聞いてきて欲しいんやけど」

鳴上「話って、なんの?」

ラビリス「学校で流行ってる噂話や」


>……

ラビリス「ありがと、これで全部聞き終えられたわ」

鳴上「お前これ、学校内全部まわって話を聞いてたのか?」

ラビリス「うん。そうや。生徒だけじゃなく、先生にも聞いてみたんやで」


>ラビリスの手に持っているノートには、綺麗とは言い難い文字がびっしりと埋まっている。

>学校中で聞いた噂話を一生懸命そこに書き綴ったのだろう。


ラビリス「悠が噂話もチェックしろって言ってたやろ? だから、まずは身近なところからと思ってな」

ラビリス「……本当は後で悠をビックリさせたろと思って始めた事なんやけどね。結局手伝わしてしもうたから意味なかったな」


>しかし、それにしてもここまでするのには、凄い労力が必要だっただろう。

>ラビリスのその行動力には既に十分驚いていた。


鳴上「お前がそこまで考えてくれてたなんて知らなかったよ。ありがとう」

ラビリス「いやいや。どうって事は」


>ラビリスは少し照れたように笑っている。


ラビリス「でも、結局これといって凄く流行ってる気になるような噂話ってあんま無かったんよねー……」

ラビリス「大抵がトイレのなんとかさんみたいな学校の怪談話が中心で、あとは携帯電話を使った願いが叶うおまじないみたいなのとか……そんな感じの話しか」

鳴上「でも、今聞いてきたこんな小さな噂話も、広まり方次第で現実になる可能性があるんだからな。このノート、少し預かってもいいか?」

ラビリス「もちろん! 参考にしたってな」

鳴上「ああ。ラビリスの努力を無駄にしないようにするよ」


>ラビリスの集めた情報の詰まったノートを受け取った。

>ラビリスが、仲間の力になろうとしてくれているのを改めて感じとった。



>『ⅩⅥ 塔 ラビリス』のランクが4になった



>……

月光館学園 3-A 教室


HR


淳「……という訳で、二週間後からテストになります」

淳「本日から部活動も停止になりますので、用がない人は真っ直ぐ帰宅してください」

淳「以上です。日直、号令」


>起立、礼。の合図でHRが終了した。

>二週間後からのテストに備えて勉強しなければ……


メティス「テストですか。一体、どう対策すれば良いのでしょう」

ラビリス「せやなー困ったなー」

鳴上「メティスとラビリスなら余裕そうだけどな、筆記のテストなんて」

メティス「いえ……私達の記憶領域は人間のそれに近付けているので、教科書を丸暗記なんて芸当も出来ないようになっているんですよ」

ラビリス「アイギスも昔それで学校のテストは苦戦した言うてたな」

鳴上「そうだったのか。それなら図書室で一緒に勉強しようか?」

綾時「それいいね。僕も混ぜてくれると嬉しいな」


>綾時が話の輪に入ってきた。


綾時「僕がここに転入してくる前の授業の内容、よく教えて欲しいんだよね」

鳴上「俺が出来る範囲でいいなら」

メティス「図書室で勉強ですか……」

ラビリス「寮に帰っても集中出来なそうやもんな」

メティス「そうですね。鳴上さんの意見に賛成です」

鳴上「じゃあ、行こうか」


>四人で図書室に行く事にした。

>……

図書室


綾時「ふーん……なるほど、そういう事か」

綾時「鳴上くんの教え方は解り易くて助かるよ」

ラビリス「ウチも! ウチもはよ教えて!」

メティス「わ、私も……」

鳴上「わかった。わかったから図書室では静かに、な?」


>自分の復習にもなるとはいえ、三人同時に教えるのは至難の技だ。


綾時「あ、じゃあ、今日はもう聞きたい事聞けたし、僕がメティスさんの方を見ようか」

鳴上「悪いな、頼んだ」

綾時「メティスさんもそれでいい?」

メティス「は、はい……よろしくお願いします。望月さん」

綾時「だから綾時でいいって」

メティス「……」

綾時「……ま、いっか。それで、どこが解らないのかな?」

メティス「……えっと、ここなんですけれども」


>メティスはまだ綾時に苦手意識を持っているようだったが、彼女なりに綾時へ接する態度を改めようと努力はしているようで、綾時が教えるのを真剣に聞いていた。

>その様子を少し見守ってから、自分もラビリスに勉強を教える事にした。

>……


月光館学園 昇降口


ラビリス「んー、疲れたあ。今日だけで一生分のベンキョーした気分やわ」

メティス「私も……頭がショートしそうな……」

綾時「でも、メティスさんは理解するのが早いみたいだから、この調子でいけばテストでも良い結果が出せるんじゃないかな」

メティス「そ、そうでしょうか?」

綾時「うん。頑張ってね」

メティス「……ありがとうございます」

鳴上「望月も人の事ばっか気にしてないで、自分の勉強しろよ?」

綾時「そう言う鳴上くんこそね」

綾時「じゃあ、僕はこっちだから。またね」

鳴上「あ、ちょっと待った。望月に聞きたい事があったんだ」

綾時「?」


>……

綾時「……うん。僕の方は平気だけど、でもいいのかい? そんな……」

鳴上「ああ。だから、望月も是非」

綾時「そっか。じゃあ、そう言ってくれるなら……お言葉に甘えようかな」

鳴上「良かった。詳しい事はまた後で改めて話すから」

綾時「了解。じゃあ、また明日ね」


>綾時は去っていった。


メティス「何を話していたんですか?」

鳴上「ああ、ちょっとな」

鳴上(あとはあの人にも聞いてみて、アイツと一緒に来てもらえればいいんだけど……)


>……そして、あっという間にテスト期間は訪れ、あっという間に終了するのだった。

>……


07/17(火) 晴れ


【昼休み】


>今日はテストの結果が張り出される日だ。

>見に行ってみよう。

>……


ラビリス「ウチは真ん中の方やね」

メティス「可もなく不可もなくって感じですね。私もそうですが」

メティス「せっかく鳴上さんや望月さんにも勉強を見ていただいたんだから、もう少し結果を出せれば良かったんですけど」

綾時「そんな事ないよ。二人とも十分頑張ったじゃないか」

メティス「そう言ってもらえると嬉しいです」

ラビリス「あ、リョージは結構上の方やね」

綾時「うん。実は、ちょっとびっくりしてる。こんな順位になったのは初めてだよ」

綾時「鳴上くんに教えて貰えたからかな」

メティス「そういえば鳴上さんは……、!」

メティス「凄い……一番じゃないですか!」

綾時「あ、ホントだ!」

ラビリス「おめでとー、悠!」


>みんなからの尊敬の眼差しが集まっている……

>勉強を怠らないでおいて良かった。

>……

学生寮


美鶴「メティス達から聞いたぞ。試験の結果、学年で一番だったそうじゃないか。おめでとう」

鳴上「ありがとうございます」

美鶴「そういえば、八十稲羽の学校の方でも学年主席だったか。当然と言えば当然かもしれないが、頑張ったな」

美鶴「あとはもう、夏休みを迎えるだけだな」

鳴上「はい。屋久島への旅行、楽しみです」

美鶴「その事だが、八十稲羽から招待するのは八人、こちらからはアイギス、メティス、ラビリス、天田が行く他に鳴上が誘った三人での旅行という事でいいんだな?」

鳴上「はい。結構大人数になっちゃいましたね……すみません」

美鶴「気にしないでいい。私はこちらでコロマルやパスカルと共に留守番になるが、みんなで楽しんでくるといい」

鳴上「ありがとうございます」


>屋久島への旅行まであと数日だ。

>八十稲羽の仲間とも会えるし、楽しみで仕方ない。

>……


07/19(木) 晴れ


>今日は終業式だ。

>明日からはもう夏休みである。

>講堂で校長の長話を聞き、担任から休みの間は節度ある生活をおくるよう注意を受けて、すぐ帰宅となった。

>……


学生寮 二階


>自室に戻ろうとしたところで天田が部屋から出てきた。


天田「あ、鳴上さん。おかえりなさい」

鳴上「ただいま。……?」

鳴上「天田、そっちの部屋で何を? それにその箱は……?」


>天田が出てきた部屋は彼の部屋ではなく、その向かい側の部屋だった。

>天田は手にダンボール箱を抱えていて、中には果物ナイフや料理の本など少しだけではあるが物が入っていた。


天田「ああ、これですか? この部屋の整理をしていたんですよ」

天田「美鶴さん、三年前からずっとこの部屋にまったく手をつけていなかったみたいで……」

>確かこの寮は一度閉鎖されている筈だが、その時にも片付けなかったという事なのだろうか。


天田「前に美鶴さんが言っていた人、正式にメンバー入りが決まったそうです」

鳴上「!」

天田「それで、僕らが旅行に行っている間に改装工事を済ませてしまうそうで、僕はその前に掃除の方を」

天田「でも、これどうしよう……」


>天田は箱の中身を見ながら困った顔をしている。


天田「捨ててしまうのは……ちょっと」

天田「でも、僕の手元に置いておくのも……」

鳴上「この部屋を前に使っていた人に返せないのか?」

天田「……」

天田「その人、もういない人なので」

天田「返す事も出来ない、遠い場所にいるんです」

鳴上「……。そうか」

天田「あの、良かったら何か持っていって下さい。まだ使える物も残ってますから」

鳴上「……いや。天田が預かっててくれ」

鳴上「俺は、この部屋の人の事知らないし、その人の物をどうこう出来る権利はないから」

鳴上「それなら、知り合いの天田が持っていてくれた方が、その人も安心なんじゃないかな」

天田「……。そうですか、わかりました」

天田「じゃあ、僕の部屋に一応保管しておく事にしますね」

天田「……」

天田「あの、鳴上さん」

鳴上「ん?」

天田「置いていかれるのと置いてくの、どっちが辛いと思いますか?」


>それは天田の手の中にある荷物の事を言っているのだろうか。


天田「……いえ、なんでもないです」

天田「あ、そうだ。鳴上さん」

天田「夏休み入ったら、また僕が作った料理を食べて欲しいです。また新しいものを作れるようになったんですよ」

鳴上「ん、そうか。わかった、楽しみにしてる」

天田「はい、よろしくお願いしますね」

天田「それじゃあ」


>天田は頭を下げてすぐに自分の部屋へと入ってしまった。

>何かは詳しく解らないが……天田が内に抱えている何かを、一瞬垣間見た気がした。



>『Ⅷ 正義 天田乾』のランクが5になった


>……

>そして、翌日……

>ついに、旅行の日がやってきた。


07/20(金) 晴れ


【朝】


学生寮前


美鶴「それではアイギス。みんなの事は君に任せたぞ」

アイギス「了解しました」

美鶴「八十稲羽の子達には別に迎えを用意してある。途中で合流する形になるからな」

鳴上「わかりました」

順平「おーい、みんな! お待たせー」

チドリ「……」

アイギス「順平さん、それにチドリさんも。お久しぶりです」

チドリ「……どうも」

順平「今日から三泊四日、チドリ共々よろしくな!」


>順平の元気な挨拶と反対にチドリは無言で僅かに頭を下げるだけだった。


鳴上「良かったです。順平さんもチドリも来る事が出来て」

順平「お、鳴上! 今日はお誘いどうもな」

順平「最初、鳴上から連絡を貰った時は何かと思ったけど、粋な事してくれんじゃねーか」

鳴上(チドリとひと夏の思い出、作れるといいですね)

順平(おう! 俺っち頑張っちゃうぜ!)

チドリ「二人とも何コソコソ話してるの?」

順平「いんや、別にー?」

アイギス「あともう一人来るんでしたね。悠さん達のクラスメートの方なんでしたっけ?」

鳴上「ああ、そうなんだけど……遅いな」

メティス「どうしたんでしょうね」

綾時「ごめん、お待たせ!」

ラビリス「噂をすればナントカやな」

鳴上「望月!」


>手を振って綾時を迎えた。


アイギス「望月、さん?」

アイギス「……え」


綾時「ちょっと道に迷っちゃってさ。遅れちゃったかな?」

鳴上「いや、まだ平気だ」

綾時「良かった。えっと……」

綾時「鳴上くん達のクラスメートの望月綾時です。皆さん旅行中の間はよろしくお願いします」


>綾時は転入してきた時と同じような雰囲気を纏わせつつ、丁寧に挨拶をした。

>しかし

>誰も返事をする事がなく、そこには長い沈黙が続いていた。


天田「……」

美鶴「……」

順平「……」

チドリ「順平、どうかしたの? ……順平?」

アイギス「……りょ、」

アイギス「綾時、さん……ッ!?」

アイギス「どうして、貴方がここに!?」

メティス「アイギス姉さん?」

ラビリス「え、何?」

鳴上「望月、アイギスと知り合いだったのか?」

綾時「……」

綾時「……?」

綾時「あの、すみません。僕たち、……どこかでお会いした事ありましたっけ?」

アイギス「!?」

順平「どうなってやがんだよ……」

天田「……これ、何の冗談なんですか?」

美鶴「君は……」

綾時「うーん……」

綾時「こんな綺麗な人、一度会ったら忘れたりしないと思うんだけどな」

メティス「!」

メティス「望月さん! 姉さんにそういう事は言わないでください!」

綾時「え? メティスさんのお姉さんなのかい? 確かに似てるね」

綾時「どうも。妹さん達とは仲良くさせていただいています」

アイギス「……」


>綾時は改まってもう一度お辞儀をした。

>しかし、アイギスは返事をしなかった。

>返事をするのを躊躇っているように、見えた。


鳴上「……アイギス?」

アイギス「……」

アイギス「いえ。……よろしくお願いします。望月綾時さん」


>そう告げるアイギスの瞳は、言っている言葉の意味とは逆の色が浮かんでいるような気がしたのは、ただの勘違いだったのだろうか。

>こうして、屋久島への旅行は始まった。

番長は記憶の一部が欠けちゃったのか

>>510
召喚器があれば現実でも安定して出せるけど、やっぱり慣れてないしそんな機会はまだないって設定です。ここでは。

>>519
番長の心の中のマーラ様は時にイキリタツ事もあるかもしれない。

>>520
その辺も含めてお楽しみに


終わります。
また次回。

良い展開!


綾時との邂逅ついに来たか…

綾時は記憶が無いのか、振りなのか…。
そして、ユウ、タロウ、トオルって生田目と足立がロウヒーローとカオスヒーローか。
>>1はマジうまいなぁ。乙です。


波乱の屋久島編期待
しかしP3PとP4しかやったことないんだがこのSS読んでると他のアトラスゲーもやりたくなってきて困るww

フツオさんとワルオさんとヒーローの皆で瓦礫と化した東京、金剛神界を歩いた日々は懐かしいぜ。
この調子でいくとエスカペイドに金髪の暇人が来る可能性も高い。
主人公は十分注意しなければな。

美鶴さんにも屋久島参加して欲しかったぜ
まぁ、留守番が必要だから仕方ないケド

ついに来たか…!

>>547
果たして金髪の暇人は紳士の姿で来るんだろうか…?
幼女の姿で夜のクラブに来るというミスマッチをして目立つとかやらかすんじゃなかろうか…。

>>547
ヨシオの霊圧が・・・消えた・・・?

金髪だと思ったら少し赤い感じの金髪でパクリみたいな名前だったでござる

スケールの大きい話は大好きだ

のんびりでいいから完結までがんばってほしいな

スケールの大きい話は大好きだ

のんびりでいいから完結までがんばってほしいな

探偵NAOTOが発売されたのは良いけど、アマゾンでも売れ行き良すぎて在庫まったくないな
しかし新しい直人のペルソナがアマツミカボシって言うのが異聞録の使いづらさを思い出して、なんか直人にあってるなと思ったりしてしまう。
これやっぱゲームでの第三のペルソナなのかな?

>>555
ゲームでの第三はヤマトスメラミコト。こっちは事前の雑誌情報からして戦闘系。
アマツミカボシは小説の作中で、番長の初覚醒時みたいな描写があってまた新たに覚醒してる。
こっちは女性であることを受け入れつつあるのと、親友りせの影響で非戦闘のサポート系になってる。

小説読んだわ
なおっぱいは最高だということを改めて実感させられた

何度も言うけど面白い!

学年一位って・・・
ペルソナ4の主人公鳴神悠って、やっぱりステータスマックスなんだな。

略してP4ステマ

発売を明日に控えてナイスステマということか…!
てか作者下手なアトラススタッフよりも詳しいんじゃ…

実は最初期からいるアトラスのスタッフなんじゃね?

そういうのは詮索せずにそっとしておこう…

P4Gが楽しみすぎて夜は寝て昼間も寝ていたら書き溜めがまったく進んでないよ。

という訳で、>>1は明日からテレビの世界にダイブします。

さがさないでください。

ゲーム一周するまでスレもストップすると思う。

明日、出来たら一回投下にくるけど、あってもなくてもそれからしばらく更新はおやすみです。

一週間前後を目標に終わらせてきたい。

そしたらみなさん、またお会いしましょう。

以上、VITAが未知の機械すぎて戸惑っている>>1でした。

>>1は書き溜めならぬ(P4Gプレイの為の)寝溜めという事かな?
あ、でも明日平日だ…まあ休みを取っている人も結構いるかも

発売キター

待ってるぜ

俺みたいにP4Gだけ買ってvitaはまだ買わないという人は他もいるはず

vitaが明日届くと信じてるけどたぶん来ない俺・・・

とりあえずソフト買ってくるけどさ

>>566
よう俺のペルソナ!
オレも似たようなもんだ。

Vita...Vitaさえあれば…


ぐぬぬ…

完全版商法が発動

なんとPS3でP4Gに追加要素を加えグラフィックを一新して販売することが決まった!

となるのに100円

本家の真・女神転生IVが3DSで出すと言うらしいから、据え置きは逆に絶望視な気もする。
Vita持ってないし個人的には据え置きで出して欲しいが。
って言うか元々PS2から来た物がVitaに来て、またPS3ってどんな変遷なんだw

>>570
他意はないのかもだが、vitaアンチの物言いがまさにそれだからもうちょっとソフトに言ったほうがいいぞ。

>>572
アトラスのよくやる商法だろ
何言ってんだよ

ここで言うことじゃないだろ 場を考えろ

とりあえずベス様を出せば条件反射でソフト買う奴がいるのは確か

ソースはKOF'95以来格ゲーしたこと無いのにP4U買った俺

携帯ゲームで格ゲーって正直楽しめるのか疑問なんだが、あれスティックとか大丈夫なんだろうか

お前は何を言ってるんだ?

P4UはPSさんか箱丸のどっちかであるよ

つまり据置き

P4GとP4Uがごちゃ混ぜになってるな

ごめん。どうにも言葉足らずだったが、P4UはVitaでも出ると聞いたし、
アークゲーであるブレイブルーとかもVitaで出てたと聞いたんで、どんなもんかと思っただけなんだ。
長く格ゲーやってても大丈夫そうならゴールデンと共にVitaも買ってしまおうかと考えてたもんで。

なら格ゲースレで聞きなさい

Uがvitaで出るとか初耳なんだけど

vitaじゃなければ即買ってたのに…
1から罪罰3も全部PSPで出したのに何故P4Gはvitaなんだ
いっそPS2のを買おうか…

いい加減無駄レス控えろ

早く帰ってきておくれ

>>585

sagaろ足立以上のカス

はーいうるさい子はジョーカー様に影人間にしてもらいましょうねー

1は今どの辺やってるだろう

>……


雪子「あ……」

陽介「お、きたきた!」

千枝「おーい! 鳴上くーん!」


>八十稲羽から招待した仲間達が手を振っている。


鳴上「みんな、ひさしぶり」

直斗「GWの時と同じであまりそんな感じもしませんけれどね」

りせ「あれから三ヶ月も経ってないしね。でも、先輩にこうして会えるとやっぱり嬉しい!」

菜々子「お兄ちゃん!」


>菜々子が飛びついてきた。


菜々子「今日は旅行のおさそいありがとう! 菜々子、たのしみでたのしみで、きのうの夜はあまりねむれなかった」

鳴上「そんなんじゃ、途中で疲れてみんなと遊べなくなっちゃうぞ?」

菜々子「えー! そんなのやだー!」


>菜々子はとてもはしゃいでいる。


ラビリス「みんなー!」

完二「あ? オマエ、あんときの……」

雪子「ラビリス、だったよね?」

ラビリス「うん、そう。あのな」

ラビリス「みんな、あの時はホント迷惑かけてしもうて悪かった。それをもう一度きちんと謝っておきたくて……」

陽介「いいって。別に気にしてねえし。な?」

千枝「そうそう。またこうして会えて嬉しいよ」

ラビリス「……」

鳴上「ラビリス」

鳴上「みんな良い奴らだろ? だから、ラビリスの方が何時までも気にしてたらダメだ。そうだろ?」

りせ「うん。そうだよ」

直斗「全部が全部、貴女のせいって訳では無さそうですからね」

完二「だな。俺らを含めてテレビにぶち込んだ野郎って結局どこの……」

鳴上「完二。その話はまた今度だ」

鳴上「……今日はそういうのとは関係のない一般の人もいるから」

完二「あ。……スンマセン」

クマ「そうクマ! 今回は、ラビちゃん達とひと夏のアバンチュールを楽しむクマ!」

陽介「うわっ! さっきまでおとなしいと思ったら、急に元気になりやがった」

クマ「ムフフ、こんなカワイコちゃん達がいたら、そらもう元気も出てくるクマ」

クマ「でも、長時間の乗り物はもうしばらくゴメンクマ……うぷ」

クマ「というわけで。ラビちゃんおひさしぶりクマ! あなたのクマクマ!」

ラビリス「……。えっと」

ラビリス「どちらさん?」

クマ「ええっ!? シ、シドイクマ……クマの事、忘れるなんて。ヨヨヨ……」

鳴上「あ、そうか。クマの中身見るのは初めてだったよな」

ラビリス「え? クマって、あのクマなん!?」

クマ「えっへん。なにを隠そうあのクマだクマ」

ラビリス「へー。おもろいヤツやなあ」

クマ「それでそれで! そちらのお嬢さん方は一体どなたなのクマ?」

ラビリス「この子はウチの妹や」

メティス「あ……。どうも、初めまして。メティスといいます。以後、お見知り置きを」

陽介「へえ。あのアイギスって子以外にも妹がいたんだ」

完二「確かに面影が似てるようなそうでもないような」

クマ「メティスちゃん、ヨロシクマー!」

メティス「は、はい。……」


>メティスは八十稲羽のメンバーの騒がしさに若干おされているようだ。


千枝「メティス、かあ」

雪子「……うーん」

鳴上「里中も天城もどうかしたのか?」

千枝「あ、……ちょっとね」

雪子「……」

雪子「なんだか初めて会ったような気がしないんだけど。気のせいかな?」

千枝「えっ、雪子も?」

りせ「ていうか、先輩達も!?」

直斗「久慈川さん、それは僕の台詞です」

千枝「え……ちょっ、なに? どういう事?」

菜々子「菜々子もね、このお姉ちゃんたちとあっちのお姉ちゃんのこと、しってるきがするよ」

菜々子「ゆめの中でね、菜々子のことだっこしてくれたお姉ちゃん」


>菜々子はアイギスの方をじっとみている。


雪子「そう、夢! 夢の中で!」

りせ「あっ、それってちょっと前に私達が見た、変なトコ登ってる夢の事?」

直斗「そうだ。あの夢ですよ。もうあまり詳しくは覚えてないですが、僕たちが巌戸台の先輩の寮を訪ねに行った夢で、確か彼女のような人もいました」

千枝「あー、みんな揃って似たような夢見たって話があったね、そういえば」

メティス「……。実は、私も。皆さんの事、知っているような気がします」

メティス「夢の中で会った、ような……」

りせ「ホントに? 不思議な事もあるもんだねー」

直斗「これだけ集団で同じような夢を見ているのを不思議の一言で片付けるのは流石にどうかと思いますが……」

陽介「お前らさっきから何の話してんだよ」

鳴上「……」

鳴上(やっぱり、あの時の落ちると死ぬ夢、みんなも見てたんだな……)

順平「へー、鳴上のあっちの友達たくさん来てんだな」

陽介「えーっと……そちらは?」

順平「俺は、鳴上の大大先輩の伊織順平。まあ、ひとつヨロシク」

完二「先輩の先輩? よろしくっす」

順平「つーかさ、そっちの彼女もしかしてもしかしなくとも、りせちーだよな!?」

りせ「はーい、そうでーす。りせちーだよ♪」

順平「うっわ、マジで! 天田から鳴上の知り合いで後輩だって話さっき聞いたけど、まさかこんなトコで生りせちーに会えるとは!」

順平「生まれる前からファンでした! 握手してください!」

りせ「はーい。これからも応援よろしくね」

千枝「なんか、花村と似たタイプの人だね」

うお、こっそり投下されてたのに偶然遭遇出来た

チドリ「順平……」

クマ「おおっと。そちらのチョッピリ不機嫌で白くてフリフリしたベイベー、お名前は?」

チドリ「……。チドリ」

クマ「チドリちゃんクマねー。ヨロシクマ!」

チドリ「……」

順平「え? チドリ?」


>チドリは不機嫌そうな表情のままその場を去ってしまった。


鳴上「順平さん。チドリの事、追った方が……」

順平「あ、ああ」

クマ「フム、なんだかただならぬ雰囲気がプンプンしてきたクマ」

クマ「これは何か事件が起きるヨカン……」

陽介「くだらねぇ事言ってんじゃねっつの」

千枝「ところでさ、そっちの彼は誰?」

鳴上「ああ、そうだ。……望月!」

綾時「!」


>少し離れたところにいた綾時に声をかけた。

>ぼーっとしていたのか急に声をかけられて驚いたように顔を上げたが、すぐにこちらへと寄ってくる。


綾時「呼んだかい?」

鳴上「ああ。望月にも八十稲羽の友達を紹介するよ」


>綾時にみんなの事を簡単に紹介した。


綾時「鳴上くんのクラスメートの望月綾時です。えっと」

綾時「花村くんに巽くんにクマくん。それから……」

綾時「鳴上くんの従姉妹の菜々子ちゃんに、里中さんに天城さん、久慈川さんと……白鐘さん、だね? 旅行の間どうぞよろしく」


>綾時はそう言って、特に女子陣に対して笑みを向けた。


直斗「よろしくお願いします」

雪子「よろしく」

千枝「ウチらの周りではあまり見られないタイプの子だね」

りせ「ちょっとカッコイイかも。ま、先輩の方が上だけどね」

陽介「……あれ? もしかして、直斗の事女だって見抜いてる?」

綾時「え? どう見たって女の子じゃないか。ね、白鐘さん?」

直斗「えっ、あのっ……」

完二「……」

うおぉぉぉ!
待ってたぁぁ!

クマ「リョージからはクマと同じで、ヨースケやカンジにはないモテオーラを感じるクマ」

完二「……誰がなんだってコラァ!」

クマ「ぼ、暴力反対クマー!」

菜々子「お兄ちゃんのおともだち?」

綾時「ん? ……うん、そうだよ」

菜々子「そっかあ」

菜々子「堂島菜々子です。よろしくおねがいします」

綾時「よろしくね」


>綾時は菜々子の頭を撫でた。

>少し恥ずかしそうに菜々子は笑っている。


鳴上「望月……いくらお前でも菜々子に手を出すのはちょっと見過ごせない」

綾時「え?」

クマ「ねえねえ、センセイ」

鳴上「……ん?」

クマ「アイちゃんとあっちの少年はどうかしたクマ?」

クマ「さっきからずーっとムズカシイ顔してる」

鳴上「……」


>クマはアイギスと天田を指してそう呟く。

>実を言うと、ここまでやってくる間も二人はずっとあんな感じで、口数も少なかった。

>それだけではない。

>見送ってくれた美鶴もあんな風に様子がおかしかったし、いつも賑やかな順平でさえ道中は何処か上の空で、隣にいたチドリが心配そうにしていたほどだ。

>それというのも……


綾時「……」

メティス「どうしたんでしょうね。姉さんも天田さんも」

ラビリス「寮を出る前までは普通だったのにな」

メティス「……あ。もうすぐ、船に乗る時刻ですね。アイギス姉さんに知らせてくるついでにちょっと様子を見てきます」

鳴上「ああ。頼んだ。……」


>何処となく空気が重苦しいような気がする。

>しかし、それを差し引いても……


船上


鳴上「……なんだか、肩が重い」

陽介「え、なに、どしたの?」

鳴上「いや、寮を出てからずっと肩に何かが乗っかってるような感じがしてて」

完二「先輩肩凝ってるんすか? 俺が揉みましょうか」

鳴上「そういうのじゃなくて……」

千枝「ねー、みんな」

雪子「クマさんが三人を呼んで来いって言ってるんだけど。……どうかしたの?」

鳴上「なんでもない」

完二「クマのヤツがどうしたって?」

りせ「わかんない。なんか変なおもちゃ持ってさっきからはしゃいでるんだけど」

鳴上「乗り物酔いはもう大丈夫なのか?」

完二「てか、アイツ一人にしといて平気なのかよ。勢い余って海に落ちたりしたら……」

千枝「それは大丈夫。直斗くんと菜々子ちゃんが一緒にいるし」

陽介「……。おもちゃ? あー、それってもしかして」


>……


クマ「みんなで記念写真をとるクマ!」

鳴上「写真?」

クマ「そうクマ! ほれ、ここにカメラもあるでよー」


>クマは普通のインスタントカメラにしては大きくて少し安っぽいようなカメラを手にしている。


クマ「とった写真がすぐに出てくる優れモノクマ。えっと、ポリ……ポロ……」

陽介「ポラロイドカメラ、な。おもちゃの」

クマ「それだクマ! クマがジュネスでバイトしたお金を貯めて買ったモノクマ」

陽介「やっぱりそれ持ってきてたんだな」

千枝「へえ、写真かあ」

雪子「私もカメラは持ってきてるけど、すぐに見れる写真ってのもいいね」

菜々子「菜々子、クマさんにとってもらったよ!」


>菜々子の手には菜々子の写真が既に何枚か握られている。


直斗「おもちゃにしては綺麗に写ってますよ」

完二「ジュネスも面白いもん売ってるんすね」

鳴上「良かったな、菜々子」

菜々子「うん!」

クマ「今度はみんなで海をバックにしてパシャリするクマ。クマも入るクマよ」

千枝「え、それじゃ誰が写真撮るの?」

クマ「ハッ!? それを考えてなかったクマー!」

陽介「おいおい……」

鳴上「それじゃあ、俺が」

りせ「えー!? わたし、先輩と一緒の写真がいい!」

菜々子「菜々子も、お兄ちゃんと一緒のがいい」

クマ「うーん……あ、いいところに!」

クマ「リョージ!」

綾時「あれ、みんな勢揃いでどうしたんだい?」

クマ「リョージを男と見込んでお願いがあるクマ」

クマ「クマたちの写真をリョージにパシャリして欲しいクマよ」

綾時「写真? ああ、なるほどね。クマくんのそれで撮ればいい訳だ」

クマ「クマ!」

綾時「わかったよ」

鳴上「なんか急に悪いな。何処かに行くところじゃなかったのか?」

綾時「ううん。その辺ふらふらしてただけだから」

クマ「じゃあ、頼むクマ! ここにいる人数分ね」

綾時「了解。じゃあ、いくよ」


>綾時に写真を撮ってもらった。

>……


クマ「しばらくすると浮かんでくるクマ。まだかなーまだかなー」

陽介「……お、だんだん出てきたな」

千枝「結構よく撮れてるみたいだね」

雪子「本当だ。あれ?」

雪子「鳴上くんの持ってる写真……」

鳴上「?」

雪子「……」

雪子「ひとり、多くない?」

鳴上「え」

一同「!?」

陽介「おい、ちょっとよく見せてみろよ!」

千枝「え、やだ……何コレ!?」

りせ「先輩の後ろになんかいる! 人が写ってる!」

クマ「こ、これはもしかして……!」

直斗「心霊写真、というやつですか? こんなもの初めて見ましたよ」

完二「でも、俺たちの持ってる写真にはなんも写ってねぇよな」

陽介「なんで悠の写真だけ……? てか、天城よく気付いたな」

雪子「うん。最初、望月くんが写ってるのかなって思ったんだけど、そんな訳ないしあれ? って思って」

雪子「でも凄いよね。私も初めて見た、心霊写真! ぷぷっ……あは、あはははっ!」

千枝「ここ、笑うとこなの……?」

陽介「確かに面白くはあるけどな」

完二「これ、男……か?」

りせ「そうじゃない? あ、確かに雪子先輩が言うように望月さんと雰囲気ちょっと似てるかも」

雪子「でしょ?」

完二「俺には最初、直斗が二人いるように見えたぜ」

直斗「僕?」

綾時「どれどれ……あ、ホントだ。確かにぼんやりと鳴上くんの後ろに誰か写ってるね」

綾時「でも、僕と似てるかな……よくわかんないや」

菜々子「菜々子もしんれいしゃしんみたい! みせて!」

千枝「菜々子ちゃんこういうの平気なタイプなんだ……」

陽介「そういう里中はダメな方か」

千枝「う、うっさいな!」

菜々子「……。このゆうれいさん」

菜々子「わるいひとにはみえないね」

クマ「幽霊の良し悪しがわかるとは、さっすがナナチャン! ね、センセイ」

鳴上「……」

クマ「センセイ?」

陽介「悠、どうした?」

鳴上「……いや」

鳴上(これに写ってるの、まさか)

鳴上(……まさか、な)


>……

本当にあった怖いペルソナ
内容=デート先で二股がバレた

屋久島


陽介「やっと着いたか、屋久島!」

完二「先輩、早く泳ぎましょうよ!」

鳴上「気が早いな」

千枝「結構長旅だったのに元気だね完二くん」

雪子「私、ちょっと移動疲れしたかも……」

りせ「海で本格的に遊ぶのは明日にした方がいいかもね」

直斗「そうですね。菜々子ちゃんもなんだか眠そうですし」

菜々子「ん……菜々子、へいきだよ?」


>菜々子は目を擦っている。

>来るまでにはしゃぎすぎた事もあって、既にだいぶ疲れてしまったのかもしれない。


鳴上「菜々子。少しお昼寝したらどうだ?」

菜々子「ん、でも……」

鳴上「お兄ちゃんたちとたくさん遊ぶのは明日にしよう。な?」

菜々子「……。わかった、そうする」

アイギス「皆さん。別荘へ案内しますので、こちらへお願いします」


>菜々子の手を引いてアイギスの後をついて別荘に向かった。

>……


桐条の別荘


メイド「お待ちしておりました、アイギス様」

アイギス「今日からしばらくの間お世話になります」

陽介「すっげー……生メイドだ」

順平「相変わらずだなあ、ここも」

天田「美鶴さんの家の別荘なんですよね? なんというか、……流石です」

アイギス「男子も女子も個室と大部屋の用意があるそうですが、どうしますか?」

千枝「お、みんなで大きな部屋に泊まるっていいんじゃない?」

りせ「そうだね。夜はみんなでおしゃべりしたいし」

直斗「僕もそれで構わないです」

菜々子「菜々子もお姉ちゃんたちと大きなおへやがいい」

雪子「ラビリス達はどう? 私たちと一緒の部屋でお泊まりしない?」

ラビリス「ウチらもええの?」

千枝「もっちろん」

ラビリス「じゃあ、ウチとアイギスとメティスも一緒な!」

アイギス「メティスはともかく、私もいいんですか?」

雪子「大勢の方が楽しいし」

りせ「色々と聞きたいこともあるしね」

アイギス「どうする? メティス」

メティス「……。姉さんたちがいるのなら」

アイギス「そう。じゃあ、よろしくお願いします」

直斗「チドリさんはどうですか?」

チドリ「え……」

千枝「もうここまできたら女の子全員で泊まっちゃうしかないっしょ」

りせ「そうと決まれば早くいこ。荷物置きたいし」

チドリ「ちょっ……待っ……!」

クマ「クマもナナチャンと一緒の部屋がいい」

千枝「アンタは男子部屋いけ!」

メイド「それではご案内します」

菜々子「またね、クマさん」

クマ「ナナチャーン!」


>女子達はチドリを半ば強制的に連れていくようにして大部屋へと行ってしまった。


順平「チドリンファイトー!」

鳴上(大丈夫かな、チドリ……)

陽介「俺たちも一緒の部屋でいいよな……あ、いや、でも」

完二「なんすか、その目は。なんでそんな目で俺を見るんすか」

クマ「もしかして、クマたち……テーソー危機一髪?」

順平「え、お前まさか、ソッチ系なの? 言われてみれば確かにそれっぽい感じが」

完二「ちげーよ! いい加減そのネタやめろっての!」

陽介「そう怒るなよ。もはやお約束みたいなもんだろ?」

クマ「とりあえずそういうネタをカンジに振っとけーみたいな?」

陽介「そうそう」

完二「テメェら……マジでいつかシメんぞ!」

鳴上「で、結局どうするんだ? 俺は構わないけど」

クマ「クマも! ナナチャンと一緒じゃないかわりに、センセイとおはなし沢山するクマ」

完二「……俺もいいっす」

鳴上「そっちの三人は?」

順平「あー俺も、……」

天田「……」

鳴上「?」

>順平と天田は口を閉ざしてしまった。

>二人のその視線の先には……綾時がいる。


綾時「……」


>なんだか、また重苦しい雰囲気になってしまったようだ……


綾時「……あの。僕は、」

順平「いいぜ」

順平「みんなで一緒の部屋、いいじゃねえか。な、天田?」

天田「……」

天田「そうですね。こういう機会も滅多にないだろうし。たまにはいいんじゃないでしょうか」

天田「僕も、聞きたい話が色々あるし」

順平「だな。そういう訳だから、綾時も一緒に……な」

綾時「え……はい」

陽介「じゃ、俺たちも案内してもらおうぜ」

メイド「こちらです」

鳴上「……」


>綾時に対する順平と天田の様子がおかしい気がする。

>一体、どうしたというのだろうか。

>……

>その後は、海に入る事はしないまま近辺をみんなで散歩したりしているうちにあっという間に陽が落ちてしまい、一日が終わってしまった。

>そして……


【夜】


男子部屋


完二「クマのヤツ、あっという間に寝ちまったな」

陽介「コイツも菜々子ちゃんと一緒にこれでもかってほどはしゃいでたからな。疲れたんだろ」

クマ「すぴー……」

鳴上「俺たちも早めに寝といた方がいいかもな。明日は泳ぐんだろ?」

鳴上「それに……」

陽介・完二「……」


>三人の視線が別の三人の方へといった。

>順平と天田と、そして綾時。

>この三人の間の空気は、ずっと気まずいままだった。

>順平と天田は綾時に何か言いたそうにしていたのだがなかなか切り出す事が出来ないようで、一方綾時の方はといえばこっそり話を聞いてみたところ、それが何なのか心当たりがまるでないらしく困惑している……という状態なのである。


鳴上「あの……」

順平「……ああもう、やめだ!」

鳴上「!?」

順平「やっぱ頭ん中で考えてるだけじゃ埒があかねえ! そうだろ、天田」

天田「順平さん……そりゃ、そうですけど」

天田「じゃあ、何をどういう風に聞けばいいって言うんですか?」

順平「……」

鳴上「順平さん、それに天田も。二人してどうしたんだ? 今日一日、ずっとおかしい」

綾時「その様子からすると、原因は僕にある……そうなんだよね?」

順平・天田「……」

綾時「でも、ごめんなさい。僕にはその理由がさっぱり解らない。今日ずっと考えていたけど……答えは出なかった」

綾時「もし、僕が知らない間に何か不快な思いをさせていたなら謝ります。だから、どうかはっきりと聞かせて欲しいんです」

綾時「僕に言いたい事を、全部」

順平「……。いや」

順平「まずは俺らの方から謝んないとダメだな」

順平「ずっと変な態度で、お前や関係ない鳴上たちにもきっと嫌な思いをさせてたと思う。……悪かった」

天田「ごめんなさい……」

順平「それで、だ……色々考えたけど、やっぱ単刀直入に言うのが一番だと俺は思った訳だ。それでいいよな、天田」

天田「……はい」

綾時「なんでしょうか……?」

順平「まず初めに。お前の名前は望月綾時、それで間違いはないか?」

綾時「? はい、そうですけど」

順平「じゃあ、お前は……綾時は俺たちの知ってる望月綾時なのか?」

綾時「……え?」

綾時「あなた達の知っている僕、とは?」

天田「……」

天田「確か、あなたは今、鳴上さんとクラスメートだという話でしたよね?」

天田「では、それ以前に月光館学園に通っていた事は?」

順平「ぶっちゃけて言えば、今から三年前の秋頃、二年生に……俺と同じクラスに転入してきた事はあるか?」

綾時「……。いえ」

綾時「三年前だと僕は確か親の転勤で海外にいた頃だし、まだ十五歳……中学三年生ですよ」

綾時「だからそんな事、ありえません」

順平「……そっか」

天田「それじゃあ、この人は……」

綾時「あの……?」

順平「……」

順平「いやあ、悪い! 俺たちすっげえ勘違いしてたみたいだわ! ホント、悪かった!」

鳴上「勘違い?」

順平「そ、勘違い」

順平「実はさ、俺が月光館の二年の時にいたんだよ。望月綾時って名前のお前のそっくりさんがさ」

順平「天田も、それからアイちゃんや桐条先輩もよく知ってる奴でさ、マジにそっくりだったから今日会った時はすげーびっくりしちゃって」

鳴上「桐条さんだけじゃなくて、アイギスも知ってる人?」

順平「あの頃はアイちゃんも一緒に学校通ってたからなー」

天田「それでまあ、アイギスさんとはちょっと因縁がある人だったもので……」

綾時「ああ……だから、メティスさんのお姉さん、僕を見てあんな様子だった訳か」

陽介「へえ。望月綾時なんて名前、割と珍しいんじゃないかと思うけど、同姓同名がいたのか」

完二「しかも姿まで似てるって話っすよね。そりゃ、他人に見えなくても不思議じゃねえか」

順平「だろ? だから動揺しちまって」

鳴上「動揺?」

順平「え? あっ、いや、その」

順平「とにかく、違うってんならいいんだよ」

順平「……安心した」


>とりあえず、二人の誤解はとけたようだし、綾時の疑問も解決したようだ。


順平「さ、話もまとまった事だし、そろそろ寝とこうぜ」

鳴上「……あ、はい。そうですね」

陽介「んじゃ、電気消すか」


>明日に備えてもう寝る事になった。

>……





>……周りからは寝息が聞こえている。

>みんなすっかり眠ってしまったようだ。

>自分もうとうとしてきた……


綾時「ねえ、鳴上くんまだ起きてるかい?」

鳴上「……ん?」


>声がした方に寝返りをうつと布団にくるまる綾時の背中が目に映った。

>綾時はそのまま振り返らず、言葉を続ける。


綾時「ごめんね、急に話しかけて」

鳴上「いや。どうかしたのか?」

綾時「うん。……」

綾時「僕なんかがさ、こんな場所に一緒に来て良かったのかなって、今日ずっと考えてたんだ」

綾時「鳴上くんには仲の良い友達が他に沢山いるし、なんだか歓迎されているような雰囲気じゃなかったから」

鳴上「それはもう、さっきの話で解決しただろ? アイギスにだって、明日きちんと話せばいい訳だし」

綾時「そうだね」

綾時「せっかくこんな遠い場所まできたんだ。良い思い出が作れるといいんだけど」

鳴上「そんなの出来るに決まってるだろ」

鳴上「明日はみんなで海にいくんだし、他にも色々あるだろうし、思い出が作れない方がおかしい」

綾時「……うん」

綾時「ありがとう。それが言いたかっただけなんだ。……おやすみ」


>綾時はそう言って、布団を被り直して背中を丸めた。

>綾時の感情が少し伝わってきたような気がした。



>『Ⅵ 恋愛 望月綾時』のランクが4になった



>しばらくすると、綾時からも規則正しい寝息が聞こえてくるようになった。

>再び寝返りをうつと、窓の外に月が浮かんでいるのが見えた。

>そのぼんやりとした月明かりの中。

>窓辺にいつの間にかうっすらとした人影があった事に気付いて思わず飛び起きた。


鳴上「お前か。寮の外で姿を見るのは初めてだな」

イヤホンの少年「……やあ」

鳴上「肩が重かったのもお前のせいだし、船の上で撮った写真にいたのもお前だよな?」

イヤホンの少年「さあ?」

鳴上「……」

イヤホンの少年「……。ごめん」

イヤホンの少年「ちょっと気になる事があったから。それに、もう一度この場所にも来てみたくなって……ついてきてしまった」

鳴上「屋久島に来た事があるのか?」

イヤホンの少年「まあね」

鳴上「気になる事っていうのは?」


>イヤホンの少年は無言で自分の向こう側へと視線を送っていた。

>その先にいるのは綾時だった。


イヤホンの少年「彼の事だけど。………」

鳴上「望月がどうした? なんだか誰も彼もこいつの事、気にしてるな」

イヤホンの少年「ひとつ、聞いてほしい事があるんだ」

イヤホンの少年「もしこの先、何があったとしても、君は彼の事を信じてあげて欲しい」

鳴上「……?」

イヤホンの少年「彼はただの彼でしかない」

イヤホンの少年「他の誰かが知る望月綾時ではない事を、君が知っている望月綾時である事を、君だけはずっと信じていて欲しいんだ」

鳴上「それって……」

イヤホンの少年「その意味は理解しなくてもいい」

イヤホンの少年「君が理解していなくて彼自身も理解していないからこそ、彼はきっとまだ救われている」

イヤホンの少年「それが崩れる時がこない事を祈っている」

鳴上「……」

イヤホンの少年「なんだか君には頼みごとばかりしているな。でも、くれぐれも頼んだよ」

鳴上「……よくは解らないけど」

鳴上「アイツは、俺のクラスメートで友達の望月綾時だ。その事実だけで俺にとっては十分って事か?」

イヤホンの少年「そう。ただ、それだけでいいんだ」

イヤホンの少年「それを……伝えたかっただけだから」

イヤホンの少年「それじゃあ……また」


>イヤホンの少年は姿を消してしまった。



>『ⅩⅢ 死神 謎のイヤホンの少年』のランクが6になった



>……

>なんだかどっと眠気が押し寄せてきた。

>今度こそ、本当に寝る事にしよう。

一方その頃……



アイギス「……はい」

アイギス「はい。今のところ、大きな問題はありません」

アイギス「はい……まだ、なんとも言えませんが」

アイギス「……。え?」

アイギス「それは……本当なんですか?」

アイギス「……そう、ですか」

アイギス「わかりました。では引き続き、よろしくお願いします」

アイギス「詳しい事はまた後で。失礼します」


ガチャッ


アイギス「……」

メティス「姉さん?」

アイギス「! メティス……」

メティス「こんなところにいたんですか。電話、ですか?」

アイギス「ええ。美鶴さんとちょっとね」

メティス「そうですか。皆さん、今夜の女子会とやらを終了させて、そろそろ消灯するようです」

アイギス「そう。私もすぐ戻るから、メティスは先に部屋へ行ってて」

メティス「了解しました。……あの」

アイギス「何?」

メティス「姉さん、どうかしましたか?」

アイギス「……。いえ、別に。それよりもメティスこそ」

メティス「はい?」

アイギス「貴女こそ、今まで何か感じなかったの?」

メティス「何か……とは?」

アイギス「……。いえ、いいわ。気にしないで」

メティス「……わかりました。それではお先に。おやすみなさい、姉さん」

アイギス「おやすみなさい」

アイギス「……」

アイギス「綾時さん……」

お久しぶりです。

P4G、まだ終わりは迎えてませんが、追加分のものを含めバッドEDを網羅してきたので一度戻ってきました。

これからまたEDに向かいつつ、以前よりもまだ間隔が開くかもしれませんがぼちぼち投下を再開していきたいと思います。

よろしくお願いします。

では終わります。また次回。

おつおつ


P4G楽しそうやな(´・ω・`)

乙です

vitaは不具合よく聞くし、どうせすぐ新型が出るんだろうなと思うとなぁ…
でも面白そうだなぁ

乙お帰りなさーい


ちくしょうP4G欲しいぜ……空からVita降って来ないかな

乙帰りなさい。続き楽しみにしてる。
やっぱ俺、P3が好きなのをこのSS読んで思い出して切なくなってるわ…。
P3をハム子版エピソードアイギスまでセットでP4Gのシステムで遊べないかな…。

新規バッドEDはあれだったなー とりあえず乙



P4Gは生田目倒したとこだけど新規BADなんてあるのか


あとP3映画化おめ

しぃぃいりぃぃいたぁぁあいぃぃ!!!
でぇもぉぉおしぃぃいりぃぃいたぁぁくぅぅうなぁぁあいぃぃぃ!!!
うぉぉおれぇぇはぁぁあどぅぉおすぅぅれぇぇばぁぁ?!

>>616

sageない馬鹿は死ねばいいよ

>>617 だからって sage sageってなんだよwwwwwwww
sageは一回で充分だろ

ネタ注意

激しくネタ注意

肩が重いってところから憑いてきてるのが分かって笑えたw

>>618
>>617じゃないがもういっこはsagaだ

>>610
はっきり言って不具合とやらの五割は拡散誤報、二割は電源長押し時間をPSPと間違えているからだと思うぞ

来てたのか。
>続きが楽しみだ

マリーかわいいprpr 番長ばくはつしろ

次はアバチュやるかドミネーター

ドミネーターって真Ⅱか。ドミネーターワルツじゃないよな

マリー出すのは無理だなーここまでの話だと

>>625
アバチュは1と2両方買うべきだよ

アバチュは面白いライドウも面白い

すまんあげちまった

新しいPCから書き込みテスト

次回の更新は>>1がこのPCの扱いに慣れるまでもうしばしお待ちください

携帯からちまちま投下するのからやっと解放される!

ではまた

了解
いつまでも待ってるぜ

携帯からだったのか…すげえな
次回更新楽しみにしてます

全裸待機して待ってる

おかえり?乙?
俺もP4G欲しいわ?

07/21(土) 晴れ

【昼間】


ビーチ


クマ「ワーイ、海だ海! うーみー!」

陽介「テンションたっけーな、お前は。まあ、気持ちは解るけどな」

完二「沖に目印になるようなモンねーな。泳ごうかと思ってたのに」

順平「あ、そのセリフ、なんかすっげーデジャヴ」

完二「まあ平気か。先輩たち、後で競争しようぜ」

陽介「競争って、泳ぎでか!? 流石にそれはちょっと……」

鳴上「望むところだ」

陽介「乗り気な人がここにいた!」

陽介「って、悠。何故にアロハシャツ?」

鳴上「こんな時でもないともう着る機会がないかと思って」

ラビリス「あー、それ前にウチらと買い物した時のヤツや」

メティス「……。何故でしょう。こうして改めて見てみるとソレ、鳴上さんに妙に似合っているような気がしてきました。不思議ですね」

ラビリス「んー? 言われてみると確かに様になってるような」

クマ「ナニナニ? センセイのそれ、ラビちゃんたちのチョイスクマ? 夏のオトコって感じビンビンねー」


>買った時は微妙に思っていたが、なんだかまんざらでもないような気がしてきた。


綾時「あれ、ラビリスさんたちは泳がないのかい? 水着じゃないけど」

メティス「……ええ、まあ」

ラビリス「ん、ちょっとなー。色々都合があって」

綾時「ふーん? まあ、女の子には色々あるよね」

陽介「それ、捉えようによってはセクハラ発言じゃね?」

クマ「しかし、それをそう感じさせないのがリョージクオリティクマ。ヨースケがチエちゃんあたりにこんな事言ったら、きっと靴跡の刑だけじゃすまないクマね」

鳴上「そんな思考に至ってる時点でもうアウトだな」

陽介「ひ、ひでぇ……クマはともかく、悠まで……」

鳴上「で、その里中たちは?」

メティス「まだ色々と準備中のようです」

陽介「あ、そういや今年は水着新調するっつって、この間みんなで買い物に行ったみたいなんだよな。さて、どんなんでくるのかねー」

クマ「それは初耳クマ!」

完二「みんなって、もしかして……」

りせ「おまたせー!」


>女子陣も揃ってビーチにやってきたようだ。


雪子「ごめんね、遅くなっちゃって」

千枝「いやー、いつまでもゴネてる子がひとりおりましてね」

陽介「……」

完二「……」

千枝「……え、何? この沈黙は」

順平「お、いいねえ。女子高生の生水着!」

鳴上「ジュネスの新作……グッジョブ!」

鳴上「と、おそらく陽介たちも口には出さないが思っているんだろう」

クマ「チエチャンもユキチャンもリセチャンもかあいいクマー」

綾時「うん。みんな、凄く似合ってるね」

千枝「え、ホ、ホント?」

雪子「そんな……なんだかちょっと恥ずかしいな……」

りせ「えへへー、今年はすこーし大胆に攻めてみた甲斐があったね」

鳴上「それで、ゴネてる子はどうした」

りせ「ああ、うん。それなんだけど……おーい、直斗くーん!」

直斗「……」


>少し離れた岩陰に身を隠し、顔だけを覗かせている直斗がいる。


りせ「さっきからずっとあの調子なの。ここまで連れてくるのにも苦労したんだから」

りせ「コーラー! もう、せっかく海まで来てようやく水着にも着替えたのにそんなトコで何やってるの!」

直斗「いや、あのっ、無理やり着せたのは久慈川さんだし、それにやっぱり僕……」

りせ「四の五の言わない!」

直斗「あっ……!?」


>りせに引っ張られて直斗もこちらにやってきた。

>直斗は白いパーカーを羽織り、腕でそれを引っ張りながらやはり己の身体を隠していた。


陽介「……ハッ! 直斗!? お前も、今度はちゃんと水着になったの!?」

直斗「えっと、その……」


>パーカーの下に水着は隠れてしまっているが、すらりと伸びた白く細い足をもじもじさせながら直斗は俯いている。


りせ「はい、こんなものも脱ぐ!」

直斗「や、やめてくださいよっ!」

りせ「千枝先輩」

千枝「オッケーオッケー。そりゃっ!」

直斗「ふわぁっ!?」


>千枝が直斗の脇腹を擽る。

>その一瞬直斗の体の力が抜けた隙に、りせがパーカーを器用に剥ぎ取ってしまった。


陽介「お、おおっ!?」

クマ「コレは……!」

鳴上「夏よ、海よ、ありがとう」

りせ「うーん、自分でやっといてアレだけど、直斗くんのソレやっぱずるいな」

千枝「……。ホントにね。何をどうやったら、ソコがそういう風に育つんだか」

雪子「あ、日焼け止め塗らなきゃね。せっかくの白い肌が駄目になっちゃうよ」

直斗「は、恥ずかしい……」

綾時「……あ」

鳴上「どうした?」

綾時「巽くんが鼻血出して倒れてる」

陽介「うぉ!? さっきからずっと静かだと思ってたら……」

クマ「スプラッタクマ」

鳴上「南無三」


>巽完二、早くも脱落。


クマ「あり? ナナチャンは?」

千枝「ああ、菜々子ちゃんなら早いとこ着替えちゃって、もう向こうであっちの彼と遊んでるよ?」

鳴上「あっちの彼? ……って、天田!?」


>浜辺で天田と菜々子が二人で遊んでいるのが見える。


順平「あー、こっちも誰かいねえと思ったら……」

綾時「天田くん、なんか朝からそわそわしてたよね。言葉には出してなかったけど、もしかして彼も海で遊ぶのを凄く楽しみにしてたんじゃないのかな」

鳴上「そういえば、今日いち早く部屋を出たの天田だったな」

鳴上(天田もあれでまだまだ子供らしいところがあるんだな)

雪子「ねえ、ふたりで何やってるの?」

菜々子「あのね、砂のお城作ってるの」

りせ「あ、ホントだ。すっごーい! これ、菜々子ちゃんたちが作ったの?」

千枝「うわー、結構凝ってるっていうかしっかりした作りになってんね」

菜々子「菜々子はね、ちょっとお手伝いしてるだけなの。ほとんど乾お兄ちゃんがやったんだよ」

直斗「……へえ、器用ですね」

天田「いえ、そんな大した事じゃ」

千枝「でもすごい面白そう」

雪子「ね。こんなの私、作ってみたことないし」

りせ「私たちも混ぜてもらう?」

直斗「あ、いいですね。そういうのも。どうでしょうか、天田くん菜々子ちゃん」

天田「僕は構わないですよ」

菜々子「うん、お姉ちゃんたちも一緒につくろっ!」


>女子たちはいつの間にか天田を中心に遊び始めていた。


陽介「……あれ? なんでアイツいつの間にかハーレムという名の城を築いちゃってるの?」

クマ「完全に出遅れたクマね」

順平「あっちゃー、タイミング外しちまったな。ま、チャンスはまだあるんじゃねーの? せいぜい頑張りたまえよ諸君。それじゃ」

鳴上「え、順平さんは? 水着になってないのがさっきから気になってはいたけど」

順平「あー、俺はこれからチドリと一緒に森林浴に行ってくるから。海はまた後でな」

鳴上「なるほど。そういうことか」

順平「そういうことだ。じゃ、いってきまー」

>順平は手を振ってビーチから去ってしまった。


メティス「私たちも泳げませんから天田さんのところに混ぜてもらいましょうか」

ラビリス「そうしよっか」

陽介「……。嘘だろ、海まできてこんな事って、野郎だけでって……」

陽介「ええいっ、こうなったらもう果てるまで泳ぐぞ! 競争だ! お前ら!」

クマ「ヨースケ、急に乗り気になったクマね」

綾時「僕はそれでも構わないけど」

鳴上「……」

陽介「あ? 悠、どうかしたか?」

鳴上「ん、いや。……」

鳴上「メティス」

メティス「はい? なんでしょう」

鳴上「あの、さ。……アイギスはどうした?」

メティス「……」

メティス「姉さん、今日は別荘の方にずっといるって。気が向いたらこっちにくるとは言ってましたけど」

鳴上「そう、か」

メティス「鳴上さん。……姉さんの様子、なんだかずっと変なんです。もう気づいているかもしれませんけど」

鳴上「……ああ」

メティス「一体どうしちゃったんだろ、姉さん。せっかく一緒に旅行に来れたのに……」

綾時「……」

鳴上「その原因はもうなんとなく解ってるから。あとで俺も様子を見にいってみる」

メティス「本当ですか?」

鳴上「ああ。だからメティスも今はラビリスたちと遊んでくるといい。そんなに心配することじゃないから。な、望月?」

綾時「……うん」

メティス「え、望月さんも何か知ってるんですか?」

綾時「そのあたりも含めて後で事情を説明するよ」

メティス「……。そう、ですか。約束ですよ? 後で私にもちゃんと詳しく聞かせてくださいね?」

メティス「それじゃあ、よろしくお願いします」


>メティスはまだアイギスのことを気にかけている様子だったが、そのままラビリスたちのいる方へと向かっていった。


陽介「え、何? アイギスちゃん来ないの?」

クマ「えー!? そんなあ」

鳴上「仕方ないだろ。今はこのメンバーで我慢しろ」

綾時「そうだね」

キミコ「うん、そうそう」

鳴上「……」

鳴上「おい」

キミコ「ん、どしたの? 悠」

鳴上「どしたの? って……」

鳴上「なんで、この場にしれっとお前が当然のように混ざってるんだ!?」

キミコ「私も悠と一緒に遊びたくて出てきちゃった、てへ」

鳴上「ばっちり水着姿だし……」

キミコ「どう? 似合う?」

陽介「は? え? ちょっ、誰!?」

クマ「かわゆいコがひとりいつの間にか増えてるクマー」

綾時「ん? 鳴上くんの知り合い?」

鳴上「知り合いというか、その……」

キミコ「悠の運命の相手です」

陽介「今、なんか真顔で凄い事言った!?」

クマ「赤い糸で結ばれちゃってる的なアレクマ?」

クマ「……ハッ! これってもしかして、生逆ナン!?」

鳴上「……」

陽介「こっちも特に否定しないし!」

綾時「というより、呆れてものも言えないって感じ? ……鳴上くんも、誰かにそんな冷ややかな目を向ける時があるんだね」

キミコ「そういうトコロも素敵」

鳴上「おい、リ……むぐっ」

キミコ「悠の運命のパートナー最有力候補のキミコです。悠のお友達諸君、今後ともヨロシク♪」

陽介「えっと、なんかよくわかんねーけど……キミコちゃんね、よろしく」

クマ「キミチャン、よろしクマー!」

綾時「キミコさん、ここにいたのは偶然? あ、もしかして鳴上くんを追いかけてきたとか?」

キミコ「まあ、そんなとこかなー」

陽介「こんな場所までおっかけとかお前、うらやましすぎるだろ! 恨めしすぎるだろ!」

陽介「あ、でもまだ彼女とかじゃないんだったら俺にもワンチャン……」

キミコ「ないない」

クマ「バッサリクマ」

鳴上(どうしてこうなった……)

>……


菜々子「!」

千枝「ん? どしたの、菜々子ちゃん?」

菜々子「あのお姉ちゃん……」

直斗「あ」

天田「!」

千枝「ああ!?」

りせ「……誰? 先輩の傍にいるあの女」

雪子「……。あの子もどこかで見覚えない?」

千枝「う、うん。それに」

りせ「なんかあの顔見てたら急にムカムカしてきた」

直斗「……」

ラビリス「なんや、みんな急に怖い顔になってもうて」

ラビリス「ウチもあのコ知ってるような気がせんでもないけど、そんな警戒するような……あー、いやそんな相手かもしれん、のかな? ん? あれ?」

直斗「ラビリスさんにも見覚えが? ……」

直斗「鳴上先輩にやけに親しげに接しているようですが、もしかして巌戸台の方で出来たお知り合いでしょうか? いや、だとしても何故こんな場所で会ったりなんか……」

直斗「それならそれで僕たちも知っているような気がするというのもおかしいし」

メティス「あの人から嫌な感じはしないけど、でも……」

メティス「……」

メティス「行ってみましょう」

千枝「あ! メティス!?」

りせ「いこうよ、先輩!」

天田「あ、皆さん!? ……行っちゃった」

天田(あの人ってアレだよな、あの夢の時の。でもなんで? ……)

天田(下手に割って入って二次災害を被るのは御免だけど、鳴上さん今度こそ刺されるだけじゃ済まなくなるんじゃ)

天田(とりあえず、様子みてよう……遠くから)

>……


メティス「あの、鳴上さん」

りせ「悠先輩!」

鳴上「!」

陽介「なんだよお前ら、急にずらずらと揃って」

千枝「ええと……」

雪子「ねえ、貴女。……どこの子なの?」

りせ「ていうか、誰? 先輩の何?」

陽介「ああ、この子はキミコちゃんって言って……」

りせ「花村先輩に聞いてるんじゃないからっ! ちょっと引っ込んでて!」

陽介「えっ。す、すんません……」

クマ「センセイね、さっきキミちゃんに逆ナンされたクマ」

クマ「キミちゃん、センセイと赤い糸で結ばれてる運命のパートナーなんだって」

雪子「ちょっと、クマさん! そのネタはもういい加減いいって何度言えば……え?」

直斗「運命の、相手……?」

千枝「えっと、つまり、え? ど、どういう事?」

りせ「……クマ。言っていい冗談とわるい冗談があるって知ってる?」

菜々子「ねえクマさん。ぎゃくなんって、なあに?」

クマ「それはねえ、ナナチャン」

鳴上「クマ!」

千枝・雪子・りせ・直斗「……」


>場の空気が重苦しいものに変わった……


鳴上「あ、あのな。みんな何か勘違いしてるみたいだけど、コイツは……」

キミコ「私はね、いつでもどこでも悠の傍にいる、彼の相棒なんだよ? ……あなた達と違ってね?」

千枝・雪子・りせ・直斗「!?」

陽介「え!? 悠の相棒は俺……」

綾時「花村くん。話、ややこしくなるから口挟まない方がいいと思うよ」

陽介「は、はあ」


>キミコと他の女子たちとの間とで、見えない火花が散っているような気がする……


綾時「菜々子ちゃん」

菜々子「?」

綾時「あっちにひとり、大きいお兄さんが倒れてるから運ぶの手伝ってくれないかな?」

菜々子「え? う、うん」

綾時「花村くんとクマくんも、ほら一緒に。早く」

綾時「……巻き添えで死にたくなかったら、ね?」

陽介・クマ「!?」

りせ「いつでもどこでもって、どういう意味?」

キミコ「そのままの意味だよ? ね、悠」

鳴上(そりゃそうなんだけど……)

りせ「悠先輩! どういう事なの!?」

鳴上「俺が聞きたい……」

りせ「え……も、もしかしてアンタ、悠先輩のストーカーとか!?」

キミコ「どうしてそこでそういう発想になるのかなあ」

千枝「り、りせちゃん、ちょっと落ち着いて!」

直斗「そうですね。こっちがそんな具合じゃ、聞きたい事もきちんと聞き出せない」

雪子「それに、私たちは別に仲違いがしたい訳じゃないしね。納得がいくように説明してくれればそれでいいの」

雪子「……ねえ、鳴上くんもちゃんと聞いてる?」

鳴上「あ、ああ」

メティス「……」

鳴上「何故でしょう。鳴上さんの危機のような気がするのに、助ける気にはなれないのは」

鳴上「メティス、お前……」

ラビリス「ストップ! みんな、ストップや!」

メティス「姉さん?」

ラビリス「あのな、そうやって口で争ってても何も産まれへん。ここは一度揃って深呼吸や」

鳴上「ラビリス……!」

鳴上(やっとまともなのが出てきてくれた!)

ラビリス「スー、ハー……はい、オッケー?」

りせ「ねえちょっとラビリス。私たち、まだこのキミコって子に聞きたいこと聞き終わってないの。話の腰折らないでくれる?」

キミコ「私は別に話なんてないんだけど」

りせ「あのねえ!」

ラビリス「せやから、そういうのがダメなんやて。そんな事続けてても何も解決しないまま日が暮れてまうで?」

直斗「じゃあ、どうしろと言うんですか?」

ラビリス「フフフ、簡単や。そんな時はもう……」

ラビリス「みんなで拳で語り合うのが一番に決まっとるやろ!」

一同「……」

メティス「……えっと」

メティス「あの、姉さん。流石に妹の私でも、今姉さんの言いたい事の意味がよくわからないんですけど」

ラビリス「いや、言葉でどうにもできないなら力に頼るしかないかな思って」

メティス「物理的に解決の方がタチが悪いような気がしますが……。ラビリス姉さんってそんな脳筋キャラだったんですか? 知りませんでした」

鳴上(少しでも期待を持った俺が馬鹿だった……)

千枝「……あー、でも。拳でってのはともかく、何か勝負するってのは悪くない考えじゃない?」

千枝「ケンカとかって意味じゃなくて、スポーツ的な何かでさ」

雪子「スポーツ?」

千枝「うん、そう。そういえばうちらさ、ビーチバレーしようってボール持ってきてたじゃん。それとか」

キミコ「ビーチバレー? なにそれ、面白そう」

ラビリス「お、向こうから乗ってきたな」

りせ「ビーチバレーね……いいよ、受けてたつよ! アンタなんかにぜったい、負けないんだから!」

直斗「あの、目的もなにもかもどこかズレてきてませんか……?」

りせ「いいよもう、この際。このモヤモヤをぶつけられればなんだって!」

メティス「でもチームはどうするんですか? さすがにキミコさんひとりと皆さん大勢というのは如何なものかと」

ラビリス「あ、じゃあウチがキミコの方にいくわ。そっちから代表ふたり出して2対2って事にすれば」

りせ「先輩たち、私に行かせて! 組むのは誰でも構わないから」

千枝「……。りせちゃんがそこまで燃えてると、こっちは逆に冷めてきたかも」

雪子「……確かに。なんだか見てる方が面白くなってきたかもね」

直斗「僕はこういうのあまり得意ではないので……」

千枝「じゃあ、私がいくか」

りせ「千枝先輩、速攻で決めるよ!」

千枝「ま、やるからには負けるのはヤダしね。張り切っていきますか」

雪子「行けー千枝ー! ぶっ潰せー!」

直斗「なんか、もう……まあいいか」

直斗「久慈川さん、里中先輩、ファイトです!」

メティス「審判は私がやりましょうか」

キミコ「よーし、いつでもこーい!」

鳴上「……」


>彼女たちはいったい何と戦っているのだろう……


鳴上(そっとしておこう……)

鳴上「……ん?」


>ビーチバレーで盛り上がり始めた女子たちから不意に視線をずらすと、その遠くに水色のワンピースを着た女性の姿を見つけた。


鳴上「……アイギス」


>アイギスは風にワンピースの裾をそよがせながら、ぼーっと海を眺めている。

>こちらの騒ぎには目もくれていないというよりは気付いてすらいないようだった。

>一体何故、あんな場所にひとりきりでいるのだろう。

>声をかけてみようか。


鳴上「アイギス」

アイギス「……」

鳴上「……」


>返事がない。

>こんなに近くまできたのに、こちらの気配をまるで察知していないようだ。

鳴上「アイギス!」


>今度は強めの語調で呼びかけてみた。

>それと同時にサンダルで踏んだ砂の音がじゃりっと響く。

>アイギスはそれに反応するように小さく体を震わせた後、ゆっくりとこちらへと振り向いた。


鳴上「こんなところでどうしたんだ? メティスが心配して……」

アイギス「……!」


>アイギスは先ほどまで海を映していた瞳を大きく見開かせる。

>そして、数秒もしないうちに自分の脇をすり抜けるようにして……猛スピードで駆け出して行ってしまった。


鳴上「……え? アイギス!?」


>アイギスの姿はその先にある森の奥へとあっという間に消えてしまった。


鳴上(俺を見て逃げた、……のか? でも何故?)

鳴上(……)

鳴上「……アイギス!」


>アイギスの後を追う事にした。

>……





鳴上「アイギス! アイギス!」


>アイギスの名を呼びながら森の中を駆ける。

>そこらを見渡してみるのだが彼女の姿は見つからない。


鳴上「何処に行ったんだ……アイギス!」

鳴上「!」


>前方で誰かの足音が聞こえたような気がした。

>このまま道に沿って前へと走ってみることにした。

>……


鳴上「ここは……」


>随分と大きな樹木がある。

>確か、屋久島には最大級の杉の樹があるという話を今になって思い出した。

>きっとこれの事だろう。

>その樹の説明書きだと思われる看板の影に、……彼女はいた。

>看板に隠れていた顔が、僅かに体が傾くと共に現れて、アイギスはじっとこちらを見つめてきたのだった。

鳴上「……」

アイギス「……」

鳴上「アイギス。なんで逃げ……」

アイギス「やっぱり、あなたは……」


>アイギスが看板の後ろから出てきた。


アイギス「見つけました」

鳴上「?」

アイギス「あなたをずっと探していました」

アイギス「わたしの一番の大切は、あなたの傍にいる事であります」

鳴上「!?」


>近寄ってきたアイギスに腕を掴まれて、突然そう告げられた。

>一瞬、自分を見上げてきたその表情に……胸の鼓動が早くなったような気がした。


アイギス「……」

鳴上「ア、アイギス……? 何を言って……」

アイギス「……」

アイギス「……ふふ」

アイギス「なんちゃって、であります」

鳴上「!」

鳴上「なっ、アイギス!?」

アイギス「ふふっ、今の悠さんの顔、ちょっと面白かったです」


>どうやらアイギスにからかわれていたようだ。


鳴上「まったく、急に走り出してどうしたのかと思えば……」

アイギス「ごめんなさい。気を悪くしないで」

アイギス「……つい、色々と思い出してしまって」

アイギス「本当に、何もかもが懐かしい」


>アイギスは一歩離れて杉の樹を見上げてからこちらへとまた視線を移す。


アイギス「ここ、私が眠っていた研究所があるんです」

鳴上「!」

鳴上「じゃあ、ここはアイギスの故郷みたいなものって事か?」

アイギス「そうですね。それに」

アイギス「私が美鶴さんや順平さん、……天田さんはあの時ここにいなかったけれど」

アイギス「以前の特別課外活動部の皆さんと出会ったのもここです。そして……」

アイギス「わたしの大切なあの人に再会できたのも、今からちょうど三年前の今日、この場所」

アイギス「忘れもしない、わたしの大事な記憶のひとつです」

鳴上「大切なあの人……?」

アイギス「はい。今のあの言葉は、さっきの悠さんのようにわたしをここまで追いかけてやってきたあの人に向けて、わたしが言った事です」

アイギス「だって悠さん、あの人と同じ事するんだもの。ひとりで海を見ていたわたしに声をかけてくるなんて」

アイギス「だからわたしまで同じ事をしてしまいました。びっくりしたでしょ? ごめんなさい」

アイギス「……昨日から色々と思うことがあって、少し感傷的になってしまっているみたいで。だからこんな、訳のわからない事……」

鳴上「……。メティスが心配してた。アイギスに何かあったのかって」

アイギス「そう……やっぱりあの子はあの子なのね。いつもわたしのことばかり気にしている、わたしの妹」

アイギス「……」


>アイギスは俯いて黙ってしまった。


鳴上「色々と思うことっていうのは、やっぱり望月の事なのか?」

アイギス「……!」

鳴上「順平さんや天田に教えてもらった。望月が、アイギスとは因縁があるとかっていう昔の知り合いと同じ名前ですごく似ているって」

アイギス「彼らから聞いたんですか……」

鳴上「ああ。でも、あの望月はアイギスの記憶にある望月綾時とは違う人物だって、昨日の夜話をして解ったんだ」

アイギス「……」

鳴上「望月もその事を気にしている。誤解をときたがっている。だから、アイツにあまり冷たくしないでやって欲しい」

アイギス「……あの」

アイギス「ここに一緒に来ている綾時さんは、最初から悠さんやメティスと同じクラスメートだったんですか?」

鳴上「いや。六月頃に同じクラスに転入してきたんだけど」

アイギス「それは。……」


>アイギスは表情を強張らせたまま何か考え込んでいるようだ。


アイギス「……悠さん」

鳴上「ん?」

アイギス「わたし、やはりあの綾時さんをわたしの知っている綾時さんではないと確信できるまでには時間がかかりそうです」

鳴上「……」

鳴上(アイギスの知ってる望月綾時は何をしたんだ? ここまでアイギスを思い悩ませるなんて……)

アイギス「でも、早くそうであるというはっきりとした確証が欲しいのも事実です」

アイギス「……そうでないと、困るから」

アイギス「わたしたちだけじゃない、あの人だって……」

鳴上「なあ。もうひとりの望月綾時って、……何者なんだ?」

アイギス「それは」

アイギス「……」

アイギス「ごめんなさい。今はまだ貴方にも話せません」

アイギス「出来れば、昔あったただの苦労話で終わらせたいから……本当にただの勘違いで済んで欲しいから」

アイギス「そうだと納得できるまで、もう少し、わたしに時間をください」


>アイギスは苦笑を浮かべている。

>どうやら思っていたよりもずっと、アイギスにとっては深刻な話らしいということはなんとなく理解できた……



>『Ⅶ 戦車 アイギス』のランクが5になった



チドリ「……やっぱり悠がいた」

鳴上・アイギス「!」

鳴上「え、チドリ? いつの間に……」

チドリ「ここに着いたのは今さっきよ。悠の気配がしたような気がしたからちょっと来てみたの」

順平「おーい、チドリ! 待ってくれよ!」

チドリ「順平、遅い」

順平「あんま歩くペース早いとすぐにバテるぞ……って、うわ! 本当に鳴上いるし! それにアイちゃんまで」

チドリ「ね、言ったでしょ」

アイギス「順平さんにチドリさん、こんな場所で何を?」

順平「いやさ、森林浴で適当にふたりでぶらついてたら、チドリが急にこっちに鳴上がいる気がするって言うから」

順平「海に行った筈だからそんな事ないって言ったんだけど、まさかチドリの方が当たるとはなー……」

チドリ「賭けは私の勝ちね。約束通り、アイス奢ってよ。わたし、ハーゲンダッツたべたい」

順平「いや、流石にそんなのはねえよ」

チドリ「……」

チドリ「バニラプディング……」

順平「わーった、わーったよ! あったら、な?」

順平「で、ふたりはこんなトコで何してんの?」

鳴上「いえ、ちょっと」

アイギス「思い出話を少ししていただけです」

順平「あ、そっか。ここって。……」

アイギス「そろそろ戻りましょう。悠さん、メティスたちに何も言わないでここまで来たんじゃありませんか? きっと心配するか怒ってるかしてると思いますよ」

鳴上「……さっきの状況から考えると、確実に後者だな」

順平「俺たちも海いくか」

チドリ「……泳がないのなら」


>四人でビーチの方へ向かうことにした。

>……

ビーチ


ラビリス「あ、悠が戻ってきた」

りせ「もう、先輩ってば私たち置いてどこにいってたの?」

メティス「そうです。一体何を……って、姉さん!」

メティス「姉さんも来てくれたんですね!」

アイギス「ええ。悠さんが呼びにきてくれて」

キミコ「あー、そうだったんだ。でも、バッチタイミングだね。今からスイカ割りしようって話してたんだよ」

りせ「そうそう。倒れてた完二がやっと目覚ましたから」

千枝「今、男子陣がその準備してくれてんの。もうすぐ来るんじゃないかな」

菜々子「菜々子、いちばんにやってみてもいい?」

キミコ「いいよいいよ。じゃ、その次チャレンジするのは私ね」

りせ「あ、キミコに先こされた。じゃあ私、三番目!」

キミコ「ふふーん、りせが挑戦する前に私がやっちゃうもんね。パカーン! って」

りせ「そういう事はやってみてから言ってよねー」

菜々子「菜々子もがんばるよ!」

鳴上「……。なあ、なんかあのふたり、仲良くなってないか?」

雪子「うん」

直斗「どうやら戦いを通して友情が芽生えてしまったようですよ」

鳴上(なんだそれ。これだから女子はわからないんだ……。仲が悪いよりはいいけど)

陽介「おーい、準備できたぞ!」

完二「お、いつの間にかみんな揃ってんな」

千枝「うん。いこ、みんな!」


>全員でスイカ割りを楽しみ、そのあとは残さず美味しくいただいた。

>……


キミコ「はー、楽しかった!」

鳴上「満足したか?」

キミコ「うん。ありがとね悠。みんなも」

りせ「あれ? キミコもう行っちゃうの?」

キミコ「長くいると迷惑かけちゃうから」

雪子「そんな……。もしかして、さっきの事まだ気にしてる?」

千枝「え? そ、そうなの?」

りせ「う……、確かに初対面であれは印象悪かったとは思うけど……」

千枝「そうだよね……。でも、もう私たち友達じゃん? でしょ?」

キミコ「友達かあ。うん、そうだね」

直斗「それなら気兼ねせずにまだここにいてください。キミコさんもまだ遊び足りないって顔してるじゃないですか」

キミコ「そうなんだけどさ。ホントに私、長居できないの。もう戻らないと」

鳴上(……マグネタイト、か。今日この時間だけで結構消費しただろうし、アイツもアレでいつも気を使ってくれてるんだよな)

鳴上(本当に楽しそうだったのに、なんだか悪いな……)

雪子「そっか。じゃあ、仕方ないね……」

キミコ「私の方こそ、みんなに意地悪な事しちゃってゴメンね。からかうの楽しくてつい、さ」

りせ「もー! ……また会えるよね?」

キミコ「会えたらいいね。それじゃあ」


>彼女はそう言ってビーチから去る直前に、こちらに駆け寄ってきてそっと耳打ちをしてきた。


キミコ「悠」

鳴上「?」

キミコ「いい友達もったね。なんかこういうの、すごく羨ましいよ。ふふっ」

キミコ「まあでも、彼女たちの方は悠のこと、友達以上に思ってるんだろうけどね」

鳴上「!」

キミコ「じゃあねー」

陽介「あーあ、行っちゃったな。キミコちゃん」

鳴上「……」

鳴上(友達以上、か……)


>……


【夜】


男子部屋


陽介「絶対さ、今夜あたりに仕掛けてくるんじゃないかと思うんだよね。俺の予想だと」

完二「何がッスか?」

陽介「女子たちだよ。昼間の様子から考えても……ってお前気絶してて知らないんだったな」

完二「昼間?」

クマ「オンナノコたちがセンセイを巡って大暴れだったクマ」

完二「あー、はいはい。そういう事か」

綾時「仕掛けてくるって、まさか……」

陽介「そのまさかだよ!」

陽介「ウチんとこの女子さ、旅行決まってからずっとそわそわしてたんだよね。あれたぶん、遠出の旅行するから浮き足立ってるって他に理由もあったと思うワケよ」

陽介「水着新調したのもそういう理由からなんだろうな、間違いなく」

鳴上「なあ」

鳴上「……。俺だけなのか? 話が見えてないのは」

陽介「お前さあ、この期に及んでそれはねーだろ」

綾時「昼間のアレでその発言はちょっと、ね」

完二「それも先輩らしいッスけどね」

クマ「そこがセンセイの魅力でもあり欠点でもありってかんじクマね」

天田「鳴上さんってワザとなのか天然なのかよくわからない時ありますよね。そういうのに女の子って弱いのかなあ……よくわかんないや」

順平「はー、モテる男は辛いねえ、鳴上くんよ」

鳴上「……」

順平「それで、昼間何があったのか詳しく!」

陽介「ああ、それはですね……」


コンコン


千枝「あ、あのー……鳴上くん起きてるかな?」

陽介「ほーら、きた」

順平「覚悟決めて行ってこい! 帰ってきたらその話も詳しく聞かせろよ!」

綾時「でも、場合によって今夜は部屋に帰ってこない可能性も……」

クマ「キャー! センセイがヨースケたちを大幅リードして、また一歩オトナの階段を登ってしまうクマ!?」

完二「オトナの、階段……!」

天田「ちょっ……もうやめましょうよ! こういう話は!」

順平「なんだよ天田ー。まだまだお前もおこちゃまかあ?」

天田「誰がおこちゃまですか! 僕はですね、ただ……」

鳴上「……」


>みんな好き勝手に色々と騒ぎ立てている……

>その隙に、そっと部屋を出た。


千枝「ねえ、なんか男子がいつも以上に騒がしくない? 何かあったの?」

鳴上「気にするな。それより里中。……」

千枝「……あ。う、うん」

千枝「ちょっと話したい事があるんだ。その……誰もいないところで、ふたりっきりで」


>…
>……
>………


ビーチ


>……


鳴上「……その気持ちは正直な話、とても嬉しい。俺なんかにそんな事言ってくれるなんて」

鳴上「でも。それを受け入れることはできない。……ごめん」

直斗「……」

直斗「そう、ですか」

鳴上「直斗……俺、」

直斗「いいんです、先輩。謝らないでください」

直斗「きっとそういう返事じゃないだろうかって、どこかで思ってましたから」

直斗「他のみなさんにも、そういう返事をしたんでしょう?」

鳴上「……」

直斗「先輩、嘘がつけない人ですよね。あなたのそういうところも、僕は……」

直斗「……」

直斗「僕、もう行きますね」

鳴上「! 直っ……」


>直斗は浜辺から振り返らずに走って去っていってしまった。

>その瞳はうっすらと涙が滲んでいたような気がする。


鳴上「……」

鳴上(仕方ない、よな……)

メティス「まったく、いいご身分ですね」

鳴上「!?」

鳴上「メティス……お前、なんでここに!?」

メティス「夜の海がどんなものか見たくて来てみたら、偶然。別に、したくて盗み聞きしていた訳じゃないので、その辺は理解してくれると助かります」

メティス「泣いてましたね、彼女」

鳴上「……」

メティス「他のみなさんもそう。里中さんも、天城さんも、久慈川さんも」

メティス「一人ずつ、緊張したような顔つきで部屋を出て行ったと思えば、少ししてからなんだか暗い顔で帰ってきてまた代わりに一人出ていく……白鐘さんはその最後でした」

メティス「帰ってきた人たちはそのまますぐ布団に潜って寝てしまいましたが。まさか、その原因が貴方だったとは」

鳴上「言われた事に自分もはっきりとした答えを言わない方が失礼だ。そう思ったから……」

メティス「鳴上さんがそう言うのなら、私がとやかく口出しする事ではないですが。……」


>その言葉とは裏腹に、メティスは何処か物言いたげな雰囲気を見せている。


メティス「貴方は色々な人から好かれているみたいですね」

メティス「姉さんたちや、美鶴さんや天田さん、コロマルさんなんかも貴方の事が好きなはずです。少なくとも、私の目にはそう見える」

メティス「ただ、八十稲羽の彼女たちに関しては、そういうのとはまた違う『好き』なんですね。さっきの様子を見て、それをなんとなく理解しました」

メティス「その明確な違いまでは解らないけれど、少なくとも私が姉さんに感じているような『好き』とも違うんでしょうね」

鳴上「……そうだな」

メティス「……」

メティス「難しいですね、人の心というものは」

メティス「鳴上さんも今、そう感じているでしょう?」

鳴上「まあ、な。でも今のこの状況は、きっと仕方のない事なんだと思う」

メティス「どういう事ですか?」

鳴上「……」

メティス「……。鳴上さんが言いたくないのなら、無理には聞きませんよ。私がここにいるのは、ただ夜の海が見たかっただけなんですから」


>メティスは海へと視線を移し、じっとその遠くの遠くを見つめた。

>その横顔は、昼間海を眺めていたアイギスのものと酷似している。

>改めて、そう感じた。


メティス「海。……」

メティス「命は全て心の一番深いところで海なようなものを共有している」

鳴上「……?」

メティス「……いえ。『海』という単語を聞いて実際にこの目で海というものを間近で見てから、急にこんな言葉が頭の中に浮かんでくるようになって」

メティス「以前誰かに言われた事なのか、もしくは必要な情報として私の中に組み込まれた事なのか、まったく覚えがないんですが……どうも気になってしまって」

メティス「また海を見れば、何か思い出せるかもと思ったけれど。……ダメですね」

メティス「どういう意味なんでしょう」


>命は全て心の一番深いところで海なようなものを共有している。

>その言葉の真意は、自分が考えてみてもよくわからない事だった。


メティス「……まあ、いいです。それはそれとして」

メティス「月が綺麗ですね」

メティス「いまにも消えてしまいそうなほどの細い三日月ですが、それでもちゃんと輝いている。よく観察してみるとこういうのもいいかもしれません」

メティス「確か、おとといが新月だったから、これからどんどん丸くなっていきますね」

鳴上「……」

鳴上「なあ、メティス。……月が綺麗ですねってある英文の意訳なるんだけど、なんだか知ってるか?」

メティス「いえ、知りません。なんですか? ある英文って」

鳴上「気になるなら自分で調べてみればいい。ただ人に聞くだけじゃなくて、そういう行為も自分にとってのいい勉強になると思うぞ?」

メティス「む……勿体ぶるから余計気になりますね。わかりました。旅行から帰ったら調べてみましょう」


>メティスと一緒に少しの間、海と月を眺めながら時間を過ごした。

>メティスとの距離が少し縮まったような気がする……



>『Ⅴ 法王 メティス』のランクが6になった。



>ふたりで別荘の方へと戻った。

>……

初めて専ブラ使って投下してみたんですが前と比べて見難くなっていないかな?大丈夫?

終わります。

また次回。

キミコは夢の事覚えている筈なのに、なんでケンカ腰なんだ…
やっぱり番長の事が好きなんか?
ってか刺されんで良かったな。番長


別に大丈夫だったぜー

乙ー

アイギス…(´・ω・`)


アイギスのシーンで泣いた

ビーチバレーはDDSを思い出すな。
そしてしっかりと女子との付き合い方を定めた番長は漢だぜ

なぜか2罪のあれを思い出した

まあ、番長ハーレムはいらないわな

果たしてナナコン一択なのか硬派なのか・・両方か

色恋沙汰にイマイチピンと来ない、っつー可能性も。
あるいは仲間達との恋愛がピンと来ないか。
どっちみちナナコンの可能性は否定出来ないけど

未成年のうちは許さんからな

やっぱりナナコンなのか、どうなのか。
それが特に気になる。

「浮き足立ってる」が「足立ってる」に見えたのはおれだけじゃない筈。

色恋沙汰なら偉大なる大先輩イヤホンマンに聞けばええ

鳴上が、丁寧語で自分を弁護したく無いっていったのは焦ったwww

>>668

名前欄じゃなくメール欄にsageな

この先の展開でなにかしら関係あるのかもしれないけど
個人的には恋愛関係の話は要らなかったような気がする

>>670
確かに無理に入れる必要はなかった気はする
これだと番長ハーレム好きは落胆するだろうし
花千枝もしくは菅直人の狂信者が見たら発狂しそうww

>>670
ゲーム内の千枝と雪子ですら友情が危うい会話してたのに、時間が経って状況が進めば必須
むしろ今の内に終わらせておく>>1の力量が凄いんじゃないだろうか。

>>671
菅直人の狂信者wwwwww

恋愛事が絡んでも絡まんでも面白かったらどっちでも良い
ハーレムでも純愛でも相手がP3メンバーでも良い
この番長を見る限りナナコンなんだろうなって事は分かった

07/22(日) 曇り


【昼間】


ビーチ


完二「なんか今日、雲行きが怪しいな」

クマ「でも、涼しくはないクマな。ていうか、昨日よりもじめじめしてて蒸し暑いクマー」

雪子「雨降ってきたらどうしよう」

千枝「えー。私たち、まだ海ん中入ってないじゃん。昨日はここまで来ておいてビーチバレーとスイカ割りしかしてなかったし」

りせ「そうだよね。……それなのに直斗くん、今日は水着じゃないし」

直斗「も、もういいでしょう、アレは。そのかわり、濡れても平気な服装で来ましたから、あまり深いところまで行かないのであれば海でも遊べますよ」

ラビリス「ウチらもやで。潜ったりは出来ないけど、ちょっとした水遊びくらいなら」

千枝「そうなんだ、よかった。……ってあれ? アイギスは?」

ラビリス「……あ、うん。今日も別荘の方に待機してるって。昨日と同じで、出来たらこっちに来るとは言ってたけど」

クマ「アイちゃん、ずっとゲンキがないクマね。もしかしておビョーキ?」

ラビリス「そんなんとは違うと思うけど……。みんなと遊べなくてごめんなさいって言ってたわ」

メティス「……」

菜々子「お兄ちゃんたちー、はやく一緒にあそぼうよー!」

天田「そうですよ。こんな風に遊べるのはあと今日だけなんですからね!」

陽介「ああ……って、菜々子ちゃん早っ! もう海入ってるし!」

千枝「天田くんもだし……あのふたりもすっかり仲良しみたいだね」

陽介「おっと。こりゃ唯一無二のお兄ちゃんの座が危ういんじゃねーの? 悠お兄ちゃん?」

鳴上「……」

陽介「悠?」

鳴上「……ん? ああ、そうだな……」

陽介「……」

クマ「およ? そういや、ジュンペイとチドリチャンの姿もないクマね」

完二「あー……あのふたりは、ホラ」

クマ「クマー!? いつのまにかふたりっきり、浜辺のパラソルの下で涼みながらおしゃべりを楽しんでいるクマ!?」

クマ「ラブラブランデブーねー。割って入れるような空気じゃないクマ」

完二「とりあえず、俺たちは俺たちで遊ぼうぜ。向こうも海にきたくなったらくんだろ」

クマ「クマッシャー! そうと決まれば、ナナチャーン! クマもまぜてー」

りせ「波に流されないように気をつけなよー」


>みんなは海の方へと向かっていってしまった。


綾時「あの、メティスさん」

メティス「はい? なんでしょうか」

綾時「話があるんだけど。その……昨日言ってた、アイギスさんの事で」

メティス「!」

メティス「……わかりました。あちらへ行きましょうか」

>綾時とメティスはその輪から離れて、何処か別の場所に行ったようだ。

>自分も海の方へ行こうかと頭の中で思っていたのだが……それとは反対に、足がその場から動いてはくれなかった。


陽介「悠」

鳴上「!」

陽介「なにひとりでボーっと突っ立ってんだよ」

鳴上「……陽介。お前こそ」

鳴上「みんなと海に行かなくていいのか?」

陽介「なあ。ちょっと話しようぜ」

鳴上「……」

鳴上「ああ」


>……


>持ってきていたレジャーシートの上に、並んで腰を下ろした。


陽介「昨日の夜は結局聞けなかったからさ。呼び出された後のこと」

陽介「部屋に帰ってきても黙ったままですぐに寝ちまうんだもんなー」

陽介「……ま、女子たちのあの顔見れば察しはつくけどさ」

鳴上「……」

陽介「あ、言っておくけど、別に面白がってるわけじゃないからな?」

陽介「まあ、あれだよ。お前の気持ちがあいつらが持っているものとは違うものだっていうのなら、仕方ねーじゃん」

陽介「だから、お前が気に病むことはないんじゃね? って言いたいわけ」

鳴上「……そうなんだけど。でも、俺の返事はきっと里中たちを傷付けた。みんな一見平気そうに振舞ってはいたけど、目が赤かったし」

陽介「だな」

鳴上「それなのに、昨日の今日で何事も無かったような顔なんて出来ない」

鳴上「俺、まだ混乱してるんだよ。昨日の夜のこと」

陽介「……。お前さ、昨日の夜までマジでアイツらの気持ちにまったく気付いてなかったのか?」

鳴上「どうかな」

鳴上「全然知らなかったような気もするし、何処かでそうなんじゃないかって思っていたような気もするけど」

陽介「なんじゃそりゃ。りせなんかスゲェわかりやすかったのに」

鳴上「……」

鳴上「どちらにせよ、アイツらの気持ちをはっきりと言葉で聞かされてきちんと認識した時、凄く戸惑ったんだ」

鳴上「好意を寄せられて嬉しくないはずがない。俺だって男だし。でも、そこで初めて考えた……じゃあ、自分からしたらどうなんだろうって」

鳴上「確かに里中も天城もりせも直斗も俺は好きだ。大事な存在だ。何かあったら守ってやりたいと、そう思う」

鳴上「けどそれは、陽介や完二やクマや菜々子なんかにも思ってる気持ちと同じで、平等なものというか……」

陽介「かけがえのない仲間、友達の枠組みの中から出たものではない、と」

鳴上「そういう事になる、……と思うんだけど」

陽介「……はあー。どうせそんな風に考えてると思ってたわ」

陽介「でもさ、ホントにそれでよかったのか? そんなに急いで答えを出さなくても……」

鳴上「明日にはもう八十稲羽に帰るだろ? だから変に時間を置いてモヤモヤした気持ちを抱えさせたままにしとくよりはいいかと思って」

鳴上「……お互いに」

陽介「そっか」

陽介「でも勿体ない話だよなー。里中はともかく……って言い方もどうかとは思うけど、天城越えのチャンスを自ら手放したり、アイドルや探偵王子の告白もバッサリとは」

陽介「どんな子だったらお前の御眼鏡に適うのかねー」

鳴上「……あ」

陽介「え、何?」

鳴上「眼鏡で思い出した。まだ陽介たちには話してないことがあったなって」

陽介「唐突だな。話逸らそうとしてんのか?」

鳴上「そういう訳じゃなくて……」

鳴上「あのな。巌戸台の方面だとやっぱりテレビの中に入れないみたいなんだ。俺だけじゃなくて桐条さんやアイギスにラビリス、……他のペルソナ使いの連中もみんな」

陽介「えっ、マジで!?」

鳴上「ああ。腕を通すことさえ出来なかった」

陽介「じゃあ、あの世界に入れるのは八十稲羽でだけってことになるのか? やっぱり」

鳴上「そうなのかもしれない」

鳴上「最近、そっちの方はどうなんだ? 何かまたおかしい様子があったりは……」

陽介「ああ、それは問題ないぜ」

陽介「たまーにマヨナカテレビ映ったりもするけど以前と比べてボンヤリで、あの世界に誰か入れられるようなこともあれ以来起こってない」

陽介「クマが定期的にあっちとこっち行き来して様子みてくれてるし、俺たちもテレビの中の探索してるけど、これといって変わっている事は何も」

鳴上「そうか」

陽介「あの世界なんであのまま残ってるんだろうな」

陽介「……あ、今の特別捜査隊のリーダー、俺なんだぜ! まあ、(代理)だけど」

鳴上「陽介が?」

陽介「ああ。でも、みんなそれっぽい扱いはしてくんねぇんだよなあ」

鳴上「はははっ」

陽介「笑うなよ!」

鳴上「……そっか。俺がいなくても特別捜査隊はちゃんと活動してるんだな」

鳴上「万が一、何かあったら俺にも連絡くれよ。クマに貰った眼鏡もまだ大事にとってあるし」

陽介「サンキュ。でも今は、あっちの事件も解決しきってねえんだろ? あんま無理な事は頼めねーな」

鳴上「何言ってるんだよ、俺も仲間だろ?」

陽介「悠……お前ってやつは」

千枝「ちょっと、アンタたち! こんなとこで何してんの!」

陽介「わっ、里中!」

りせ「先輩たちも一緒に遊ぼうよ」

雪子「あと、花村くんには主にクマさんをどうにかして欲しい」

陽介「は? ったくクマのヤツ、今度は何してくれちゃってんの?」

直斗「今は巽くんがなんとかしてくれてます。早く応援に行ってあげてください」

陽介「しょうがねえなあ……」


>陽介は海の方へと走っていった。

>女子たちはまだこの場に残っている……


鳴上「……」

千枝・雪子・りせ・直斗「……」

>気まずい沈黙が一瞬だけ訪れた。

千枝「……ねえ、鳴上くん?」

鳴上「ん……」


>女子たちは顔を見合わせると頷く。


雪子「私たち、もう平気だから」

りせ「うん。もう大丈夫だよ」

直斗「だから先輩ももう気にしないでください」

鳴上「……。でも」

千枝「あのね、聞いて」

鳴上「……?」

千枝「私たちね。実を言うと、鳴上くんの返事……予想済みだったんだよね」

鳴上「え?」

雪子「たぶん誰に対してもそういう答えを言うんじゃないかって覚悟はみんな元からあったの」

直斗「そういう目で見られていないことは感じていましたから」

りせ「……ただ、やっぱり先輩から直接はっきり聞かないと納得しきれなかったってだけで。すごく悔しい話なんだけど」

鳴上「お前たち……」

鳴上「本当に済まな、」

千枝「ああもう、だから謝らないでってば!」

りせ「そうだよ。そんな言葉使うくらいなら、ここにいる誰かひとりを選んでよ」

鳴上「それは……」

りせ「……もー、嘘だって! 先輩、こういう時に限って冗談通じないんだからあ!」

雪子「私たちはね、この気持ちに決着をつけたかっただけなの」

直斗「悪く言えば、先輩は僕たちの自己満足のために付き合わされただけって事になりますが」

雪子「そうだね。でも、こんな機会でないともうチャンスもなかっただろうし、私たちもふとした瞬間に鳴上くんの事でギクシャクするの嫌だったから……」

千枝「だからね。君がきっぱり答えをくれた時、悲しかったけど……嬉しかったんだよ」

千枝「ありがとね。誤魔化さないでくれて」


>みんな寂しげな笑顔を浮かべている。


雪子「これでひとつ荷が下りたって感じかな」

千枝「うん。あっちに余計な気持ちを持ち帰らずに済みそう」

りせ「でも先輩との思い出は持って帰りたいから……」

直斗「あっちでみんなで一緒に遊びましょう」

鳴上「……」

鳴上「ああ、そうしようか」

千枝「よかった」

千枝「あのさ、私たちフラれちゃったけど、まだ友達……だよね?」

鳴上「当たり前だ」

鳴上「里中も、天城も、りせも、直斗も大事な友達……仲間だ」

雪子「……ん。その言葉が聞ければいい」

りせ「行こ! 先輩!」

直斗「菜々子ちゃんも先輩のこと待ってますよ」


>みんな海に向かって走り出した。

>その後を、少し遅れて追いかける。

>……

>彼女たちとの関係に自分なりのけじめをつけた。

>それを彼女たちも納得してくれたようだ。

>残り少ない時間、あとはみんなで楽しい思い出を作ろう……

>……


陽介「ゼェ……ハァ……も、無理……」

完二「んだよ、花村先輩情けねぇ。ちっとばかし遠泳したくらいで」

鳴上「そうだぞ」

陽介「俺、海を甘く見てたわ……」

陽介「てか、なんでお前らはあんなに泳いで平気なの……!?」

菜々子「お兄ちゃんおよぐの早いんだね。すごい! 菜々子もやってみたい!」

千枝「それはやめといた方がいいよ、菜々子ちゃん……」

りせ「花村先輩もうバテちゃったの? カッコわるー」

直斗「意外ですね。花村先輩ならもう少し長く泳げそうだと思っていましたが」

陽介「そりゃ、見てるだけならなんとでも言えるだろうよ……」

陽介「つーか、直斗に至っては見てすらいなかったろ!? お前、さっきから何やってんだよ!」

直斗「何って、このマッチ棒建築が何か?」


>直斗は持参してきた折り畳みのチェアに腰かけ、そのチェアとセットのテーブルの上にマッチ棒を積んで遊んでいる。


陽介「なんで! 海に来てまで! 水着にもならず! そんな事してんだって聞いてんの!」

千枝「なんだ、花村元気じゃん」

直斗「こ、これは、その……先輩達が泳ぎで勝負している間、暇だったので始めたらつい夢中になってしまって……」

りせ「だったらさあ、今からでも遅くないから水着になりなよ。いくら濡れてもいい服装って言ってもやっぱり限度があるよ」

直斗「それは断固拒否します」

完二「へー、お前も結構器用だな。それ、なんだ? 城か?」

直斗「金閣寺です。指先を使って脳を活性化させ、集中力を養う……探偵に相応しい趣味だと聞いたので、僕もたまにやっているんですがこれがなかなか奥が深くて……」

鳴上「確かになかなかの腕前だ。マッチ棒建築か、面白そうだな」

直斗「先輩もやってみますか?」

陽介「だから、海でやる事じゃねーだろって……凄いっちゃ凄いのは確かだけどさ」

雪子「みんな、少し休憩しない?」

天田「飲み物持ってきましたよ」

ラビリス「冷たい麦茶とオレンジジュースにソーダ。どれがええ?」

陽介「お、気がきくじゃん! 俺、ソーダ!」

菜々子「オレンジジュースがいい!」


>皆、各々が好きな飲み物をとって少しの間休むことにした。


鳴上「あれ、クマはどこ行った?」

陽介「そういや……」

りせ「クマなら先輩たちが勝負してる間に一度海から上がってきて、その辺にいたと思うんだけど……」

鳴上「望月とメティスの姿もないけど……まだ戻ってないのか?」

ラビリス「うん。ふたりで何処かに行ってからそれっきりや」

鳴上「……そうか」

鳴上「とりあえず、ちょっとクマを探してくる。あいつも喉渇いてるだろうし」

陽介「あ、俺も行くぜ。迷子にでもなってたら大変だしな」


>この辺りにクマがいないか探すことにした。

>……


鳴上「……あ!」


>森へと続く入口付近の木陰にクマの姿を見つけた。

>その隣には何故かメティスもいる。

>二人は腰を下ろして話をしているようだ。

>……というよりも、クマが喋っている事をメティスが黙って聞いているといった方が正しいのかもしれない。

>声はよく聞こえなかったのでクマが何を言ってるのかはわからなかったが、メティスは真剣な面立ちで耳を傾けている様子だ。


クマ「あ、センセイ」

メティス「! 鳴上さん」

鳴上「珍しい組み合わせだな。こんなところでどうしたんだ?」

クマ「メティスちゃんにクマの事をもっと知ってもらおうと思って、色々オハナシしてたクマよ」

メティス「そうなんです。クマさんについて、色々聞いていました」

鳴上「ふーん……?」

鳴上(メティスがクマに興味をもつとはなあ)

鳴上「クマ、喉渇いてないか? あっちに飲み物が用意してあるぞ」

クマ「ホント? 早く行かないとクマの分がなくなっちまうクマー!」

クマ「メティスちゃん、クマちょっといってくる!」

メティス「いってらっしゃい」


>クマは走ってその場を離れていった。


鳴上「望月は一緒じゃないのか?」

メティス「ええ。アイギス姉さんに話をしにいくと言って、別荘の方へ行ってしまいました」

メティス「望月さんに聞きましたよ。姉さんの様子がおかしかった理由」

メティス「まったく迷惑な話ですね。姉さんにとっても望月さんにとっても」

鳴上「そうだな。一応、俺からも昨日アイギスに説明はしたんだけど、やっぱり望月に対してあまり良い印象は持ってないみたいだった」

鳴上「そう簡単にアイギスの知っている望月綾時と別人だとは割り切れないとか、そんな感じの事を言っていた。望月のヤツ、今頃アイギスに話しかけるだけでも苦労してるかもな」

メティス「こんな話を聞いてしまったら、私までなんだか気になってきてしまいました」

メティス「もうひとりの望月綾時……一体何者なんでしょう」


>メティスは目を伏せて唸っている。


鳴上「当時の望月綾時が写っている写真の一枚くらい残ってないか、寮に帰ったら天田かあるいは桐条さんにでも聞いてみようか」

鳴上「仮にあったとしてそれを持っている可能性が一番高そうなのは、彼と同級生だったらしいアイギスなんだろうけど……」

メティス「姉さんにそれを聞くのは、今はタブーのような気がしますね……」

鳴上「ああ……」

鳴上(謎は深まる一方だな)


>……

>こうして屋久島への旅は早くも三日が過ぎ、帰らなければならない日が訪れてしまった。








07/23(月) 曇り


陽介「あっという間だったなあ」

クマ「三泊四日なんてコーインヤノゴトシね。でも楽しかったクマ!」

鳴上「ああ、俺もみんなと遊べて楽しかった」

菜々子「お兄ちゃん、こんどいっしょにあそべるのはいつ?」

鳴上「ん……ちょっとまだわからないな」

菜々子「そっかあ……」


>菜々子は寂しそうにしている。

>そんな表情を見て自分まで寂しくなってきてしまった。


鳴上「八月中にでも、叔父さんの家に泊まりにいければいいんだけどな……」

千枝「難しそう?」

鳴上「なんとも。部活とか、それに進路関係のことで学校にも行かないとダメってのもあるし」

完二「それ、夏休みって感じがしないっすね」

りせ「受験生は大変だあ……」

直斗「先輩の将来を決める大事な時期ですからね。仕方がないのかもしれませんが……」

雪子「もし、またこっちにこれそうだったらその時は連絡ちょうだいね」

鳴上「そうする」

菜々子「お兄ちゃん、またね」

菜々子「バイバイ」

>行きに合流した場所で手を振ってみんなと別れた。

>夏休みはまだこれからだというのに、少し物悲しい気分になった……

>……

>寮まで帰る間も、アイギスと綾時の間にある微妙な空気は……結局変わる事はなかった。

>順平と天田はもうすっかりわだかまりもなくなり、普通に接するようになったのだが……

>綾時はアイギスとふたりだけで話した時の事について何も教えてはくれなかった。

>聞いてもただ苦笑いを浮かべるだけ。

>移動中も、お互いがお互いに関わる事を極力避けているという様子が見受けられていた。

>やはり二人が和解出来る日は、まだ遠そうだ……

>……


巌戸台 学生寮


ラウンジ


美鶴「……ん。お帰り、諸君。そろそろ戻るころだと思っていた」

鳴上「戻りました」

天田「コロマルもパスカルもただいま」

コロマル「ワン!」

パスカル「バウ!」

美鶴「鳴上も天田もすっかり焼けたな。旅行は楽しんでくれたか?」

鳴上「はい。ありがとうございました。良い思い出ができました」

美鶴「……そうか」

アイギス「……」

美鶴「アイギス」

アイギス「!」

アイギス「はい。……なんでしょう」

美鶴「後で話がある。少しいいか?」

アイギス「……。了解しました」

美鶴「それから、帰ってきて早々で悪いのだがみんなに少し頼みたいことがある」

天田「なんでしょうか?」

美鶴「あの荷物を二階まで運ぶのを手伝ってくれないか?」


>美鶴の視線の先にある階段下に段ボール箱がいくつも積まれているのがすぐにわかった。


鳴上「あれはいったい?」

?「気にしなくていい。皆、旅行帰りで疲れているんだろう? 俺がひとりで片付ける」

鳴上「!」

鳴上(この声は、周防さん?)


>階段の上から聞こえてきた声色は確かに周防のものだと、そう感じた。

>だがそこから降りてきたのは、周防とは違う彼よりも若い眼鏡をかけた男だった。

>その顔には何処かで見覚えのあるような気がした。

鳴上「貴方は……」

?「ん? お前……」


>姿をはっきりと確認してすぐに思い出した。

>彼は、以前ポロニアンモールにある噴水前のベンチで転寝をしていた疲れ気味の男であるという事を。

>周防と声が似ていたという事で、記憶に鮮明に残っていたのだ。


美鶴「なんだ、ふたりは知り合いだったのか?」

ラビリス「美鶴さん、この人は?」

メティス「もしかして、この方が新しく入寮する……?」

美鶴「ご名答」

鳴上「!」

美鶴「今日付けで我々特別課外活動部の新しいメンバーとなった……」

諒「神郷諒だ。今日からこの寮で厄介になる」


>眼鏡の男、神郷諒はラウンジにいるみんなの前までやってくると短く自己紹介をした。


美鶴「神郷。彼が鳴上悠、我々のリーダーだ」

諒「お前が……?」

鳴上「はい。鳴上です。これからよろしくお願いします」


>軽く頭を下げ、手を差し出した。


諒「……」

諒「ああ」


>諒は無表情でこちらを一瞥した後、小さく呟くと差し出した手を軽く掴み、すぐに離した。

>特別課外活動部に神郷諒が新たなメンバーとして加わった。

>神郷諒と知り合いになった。



>『ⅩⅧ 月 神郷諒』のコミュを入手しました

>『ⅩⅧ 月 神郷諒』のランクが1になった



※この物語における番長は、少なくともトゥルーエンドを通ることはないまま八十稲羽から去っています

というところで今日は終わります。また次回。


まさかのトリニティソウルとは驚いた
そしてここの番長はノーマルエンド番長とな…さらっと凄い重要だぞこれ

ほほうなるほどなるほど



すげぇ続きが気になる!!!

トゥルー未通過か、なるほどどうりで。
会話の内容なんかがマヨナカテレビの真相に到った感じがしなかったのはそれか……

トゥルーエンド迎えた番長だとある種『完成』してる感があるからなぁ
それを考えればこのSSの番長は確かに多少未成熟な感じはするかもな


それにしても、自分に対して本気で好意を向けてくれる人が居て
尚且つ意中の人が居ないにも関わらずそれを断るってのは
確かに誠実ではあるけどある意味すごく贅沢すぎる話だな

トリソのお兄ちゃんが着ぐるみ着て頑張る話とか大好きだわ。本来の諒は確かこの時点で二十歳になる計算だったな。
こっちではまだ年齢がハッキリ言及されてる所が無いけど、何歳くらいなんだろう。
後洵ちゃん達はどうなってるんだろうなー。こりゃ気になるぜ

チャーハン作りに目覚めた明彦

あ…兄ちゃんアニメの作中より若い訳か

葛葉一派
アバチュ
人修羅
GJ
魔剣

金子キャラ縛りで絡んでないアトラス作品は今のところこんなもんか?

世界樹(震え声)

ノーマルエンドって事はやっぱりこの物語のラスボスはイザナミになるのか?

>>694
アトラスシリーズボス大集合もありえるぜ

>>691
トリソアニメ内でも真田と同い年って設定だったわけで。
アニメはこのSSの時間軸から7年後だしな。

そろそろネンフィアが出てきてもいい頃だな

フェスやって無いから分からんのだが、メティスはキタローの事が好きって描写あったのかな?

>>698
特には?終始姉さんベッタリなシスコン娘だったと思うが。
フェスのメティスはアイギスの一部が分離した存在だったが、このSSのメティスもそうなんかね?

>>699
前のメティスとは違う、とか言われてた気がするから新型なんでない?

>……


07/24(火) 晴れ


【昼間】


自室


>旅行の疲れもあったのか割と遅くまで寝てしまったようだ。

>しかし、いくら夏休みといえどだらだら過ごすのはいけない。

>いい加減に起きよう……


鳴上「……ん? なんだか廊下が騒がしいな」


>何処かの部屋に人が出入りを繰り返しているような気配がする。

>扉を開いてそっと様子を窺ってみる事にした。

>……


諒「お疲れ様でした」

作業服の男「はい。それでは」


>作業服の男が数人、諒と共に彼の部屋の前にいる。

>中心にいた作業服の男が帽子をとって頭を下げると、諒だけを残し連れ立ってその場から去っていってしまったようだ。


鳴上「神郷さん、おはようございます」

諒「もうおはようの時間は過ぎてるぞ」

鳴上「はは、そうですね……あの、さっきの人たちは?」

諒「引っ越し業者だ。昨日はすぐに必要なものだけ持ってこっちに来ていたからな」

鳴上「ああ、残りの荷物が届いたところって事ですか……って」

鳴上「結構な荷物ですね」


>扉の隙間から見える諒の部屋の中はダンボールでいっぱいだ。


諒「そうでもない。だが、これから整理をしないと……」

鳴上「手伝いましょうか?」

諒「……。いや、余計な気遣いはしなくていい」

鳴上「でも、この量だと一人でやってたら日が暮れちゃいますよ」

諒「……」

諒「確かに、時間を無駄には出来ないな。……頼もう」

鳴上「はい」


>諒の荷物の整理を手伝う事になった。

諒の部屋


諒「鳴上はここのダンボールの中にある本をあっちの本棚へ順番にいれてくれ」

鳴上「わかりました」


>諒の部屋の中にあるダンボールの中身はその殆どが書籍や参考書といった類のものだった。

>壁にぐるりと設置された天井まである空の本棚はそれらを収めるものに違いないが、入りきるのかどうか……といった具合だった。

>その他の生活用品などは隅の方に申し訳程度にしか置かれておらず、少し異様な空間だ。


鳴上(難しそうな本ばかりだな。一般教養から法律や経済、心理学なんかまで……色々な分野のものが揃ってる)

鳴上「っと、こんなもんかな」

鳴上「さて、次は……ん?」


>空になったダンボールを畳み新しくダンボールを開けると、そこにはさっきまで並べていた本とはまったく違ったジャンルの本が顔を出した。


鳴上「絵本?」


>一瞬目を疑ったが紛れもなくそれは絵本だった。

>そのダンボールの中にあるのは絵本だけで、どれも書いた作者は同じのようだ。

>この部屋から連想する諒のイメージとは少しギャップがあるような気がするが……どんな絵本だろう?

>こっそりどんなものか少し見てみようかと一冊手に取った。


鳴上「……あ」

諒「……」

諒「これはいい。終わったなら今度はあっちを頼む」


>すぐに諒に見つかってしまった……

>諒は手に取った絵本をそっとダンボールの中に戻しふたを閉じると、ダンボールごと抱えて向こうに行ってしまった。

>……






>諒の部屋が綺麗に片付いた。


諒「君のおかげで随分と早く片付いた。助かったよ。この礼はいつか……」

鳴上「いえ、気にしないでください」

諒「……。そうか」


>無機質な語調で何処か素気なさも感じるが、感謝しているのは事実のようだ。

>それが彼の性格なのかもしれない。

>少しだけ、諒の事を知れたような気がする……



>『ⅩⅧ 月 神郷諒』のランクが2になった



諒「……じゃあ」


>諒は部屋の扉を閉じ、中に籠ってしまった。

「ワン!」


>一階の方から動物の鳴き声がするのが耳に届いた。

>この声はコロマルかパスカルだろう。

>餌を欲しがっているのか、また散歩に連れていってほしいと主張でもしているのか……

>様子を見に行ってみる事にした。


ラウンジ


>一階にはコロマルやパスカルの他に複数の人物がいた。


メティス「本当に大丈夫なんですか?」

アイギス「平気よ。だから、そんな顔しないで」

美鶴「何言ってる。それをこれからきちんと確かめに行くんだろう」

アイギス「……そうでしたね」

ラビリス「でも、なんで急にそんな……」

美鶴「……。それも調べればわかるだろう」

コロマル・パスカル「クゥーン……」

メティス「……」

鳴上「みんな揃って何してるんだ?」

アイギス「! 悠さん」

美鶴「……ああ、君か」

美鶴「実は、アイギスが不調を訴えていてな。これからラボへメンテに連れていくところなんだ」

鳴上「不調!? メンテって事は、何処か壊れているかもしれないって事ですか?」

美鶴「そうだ」

メティス「でも、それだけじゃないかもしれない。……そうですよね?」

鳴上「それだけじゃないって……」

美鶴・アイギス「……」


>美鶴とアイギスは黙り込んでしまった。


美鶴「とにかく、私はこれからアイギスと出かける。それほど遅くはならないようにするが、留守は頼んだぞ」

アイギス「……いってきます」

ラビリス「アイギス、気を付けてな」

メティス「姉さん……」


>美鶴はアイギスを外に待機させていた車に乗せて行ってしまった。


鳴上「メティス、さっきの言葉はどういう意味だ?」

メティス「そのままの意味です」

メティス「壊れかけているのは身体だけじゃないのかもしれない……そんな気がしたんです」

メティス「そもそも、身体に影響が出たのは姉さんの心に問題が起こったからだと私は考えています。順序が逆って事ですね」

鳴上「心に問題っていうのは、やっぱり」

メティス「おそらく、そうなんでしょうね……」

ラビリス「どういう事? ウチ、なんもわからんのやけど」

鳴上「そっか。ラビリスにはまだ話してなかったな」


>ラビリスに、アイギスの様子が旅行中からおかしかった理由を説明した。


ラビリス「じゃあ、アイギスはリョージと会った事で過去の事を思い出して精神的に……?」

鳴上「たぶんな。そしてそれが身体的な不調にも現れた、と」

ラビリス「でも、少し異常やない? アイギスがそこまで追い詰められるなんて、そのリョージじゃないリョージは何したんよ?」

鳴上「そこら辺の詳しいことはさっぱりなんだ」

ラビリス「……」

メティス「肝心な部分は結局何も解ってないって事ですよね」

鳴上「アイギスはその事についてはまだ話せないって言ってた。アイギスが話したくないっていうのなら仕方がないって思ってたけど……」

鳴上「明らかに何かおかしい気がする」


>メティスもラビリスも同意するように頷いた。


鳴上「……」

鳴上「そうだ。まずは手近なところで天田にもう少し詳しく聞いてみようか?」

ラビリス「あ、乾は今日寮におらんよ。部活があるって学校に行ってもうた」

鳴上「そうか……」

メティス「……」

メティス「姉さん、いったい貴女の過去に何があったの……?」

メティス「私もそれを知っているような気がするのに、何もわからない……」

鳴上「メティス?」

メティス「……。すみません。今日は、このまま部屋で待機していますね。失礼します」


>メティスは頭を下げて、とぼとぼと階段を上り去っていった。


鳴上「……」

コロマル「ワン!」

パスカル「バウ!」

ラビリス「……おまえらもなあ、少しは空気を読むって事をなあ」

鳴上「なんだって?」

ラビリス「あー、うん。いつもみたいに散歩に行きたいって」

コロマル「ハッハッ!」

鳴上「……はは、そうか。いいよ。行こうか」

鳴上「旅行に置いてかれて寂しかったろうしな」

パスカル「バウ! ワウ!」

ラビリス「ウチもいく」


>二人と二匹で散歩に出かける事になった。

>……

>コロマルとパスカルはいつもとは違う散歩の道を通って前方を元気よく走っている。

>パスカルの記憶の方はといえば、やはりあれ以来何も進展はない。

>自分の名前以外の事はまるで思い出せていないようだった。

>だが、コロマルといるのが楽しいようで、不自由している様子はなかった。

>コロマルもコロマルでパスカルと過ごす日々が当たり前になってきているようだ。

>パスカルがこのまま自分の事を何もわからなくても、ここでずっと一緒にいるのもありではないだろうかとも思うが……


鳴上「やっぱりそうもいかないのかな」

ラビリス「ん?」

鳴上「あ、いや……パスカルの事だよ。自分の事を何も思い出せないままでも今のところ大丈夫そうに見えるけど、パスカルとしては本当のところどうなのかなって思って」

鳴上「やっぱり少しも不安じゃないなんて事はないよな……」

ラビリス「そうやなあ」

ラビリス「自分が行方不明のまま生き続けるってすごく難しいことやと思う」

鳴上(自分が行方不明のまま、か。……)

ラビリス「……。でもな、世の中には自分が何者なのか出来れば理解したくなかったっていう例だってあるんよね。たとえば、ウチみたいな」

鳴上「!」

ラビリス「パスカルは、もしかしたら何か忘れたいことがあって記憶を封じてしまってるって事もあるかもしれないやろ?」

ラビリス「だから、パスカルが自分の事を思い出すのがパルカルにとってはプラスなのかマイナスなのかウチらには断言できへん。あの子にしかわからんことや」

ラビリス「このままなるようにしかならんって事やな」

ラビリス「あの子がしたいようにさせとくのが今は一番やと思う」

ラビリス「記憶がないって事実を紛らわせようとして、コロやウチらとじゃれ合って楽しく暮らしていたいっていうのならそうしてあげよう」

ラビリス「まだ、自分を知る手がかりを探し続けたいっていうのなら、それに協力してあげよう。な?」

ラビリス「パスカルはひとりじゃない。ウチらが支えてあげればいいんや」

鳴上「……そう、だな。そうだよな」


>ラビリスは笑みを浮かべて頷いた。


ラビリス「ウチもな、自分が人間じゃない兵器なんやって事を思い出した時はすごくショックだった」

ラビリス「でもそんな自分でもいい、そんな自分と向き合って生きていこうと思えたのは、みんなが……悠たちが今まで一緒にいてくれたからや」

ラビリス「だから、ウチもパスカルに同じことが出来たらええなってそう思う。あはは、大袈裟かな」


>ラビリスは照れたようにそう呟く。

>ラビリスの優しさが伝わってくる……

>彼女のことを少し理解出来たような気がした。



>『ⅩⅥ 塔 ラビリス』のランクが5になった



ラビリス「……でも、今はパスカルよりもアイギスの方が心配やね。あの子のために何か出来ることないんやろか」

鳴上「今はメンテの結果を待つしかないな。……歯痒いけど」

ラビリス「ん……」

ラビリス「アイギスの方から色々と話してくれるのが一番ええんやけどな……」

ラビリス「ウチ、まだアイギスの姉さんとして信頼されてないのかも。だったら難しい話やね」

鳴上「それを言うなら、俺だって……」

>アイギスとはそれなりに親しくなれたような気はしているが、まだ完全に心を許しあえる間柄というわけではないのかもしれない。

>いつか、アイギスが全てを打ち明けてくれる日がくればいいのだが……


コロマル「ワン!」

ラビリス「ん? オッケー、わかったわ」

ラビリス「なあ、コロがまた神社に行きたいって」

鳴上「そうか。じゃあ、行こう」


>……


長鳴神社


>コロマルとパスカルは元気に走り回って遊んでいる。


ラビリス「お前らはいつでも元気やなあ」

鳴上「本当にな」

コロマル「ワン! ワン!」

パスカル「バウ! ワウ!」

ラビリス「え、また追いかけっこして遊ぼう?」

鳴上「いいんじゃないか。今度は負けないぞ」

ラビリス「言ったなあ? じゃあ今日はジャッジがいないから、ひたすら走り続けて最初にバテたヤツの負けって事でどうや?」

鳴上「それって俺が一番不利なんじゃ……」

ラビリス「んー? もう降参か?」

鳴上「!」

鳴上「そんなことはない! 望むところだ!」

ラビリス「じゃあ、いくで。よーい、スタート!」


>みんなで小さな子供のように走り回って遊んだ。

>……


鳴上「はぁ、はぁ……くそ……」

ラビリス「また悠の負けやなー」

鳴上「次こそは……!」

コロマル「ワン、ワンワンッ」


>コロマルがこちらを見て吠えている。


ラビリス「え? ……」

ラビリス「あはは、それもそうやな。こりゃコロに一本とられたわ」

鳴上「?」

ラビリス「あのな、アイギスの事心配する気持ちはわかるけど、ウチらまで元気なくしたらアカンって」

ラビリス「身体動かしたし、これでモヤモヤも少しは吹き飛んだか? ってさ」

鳴上「コロマル、お前……」

コロマル「ワンッワンッ!」

ラビリス「自分もその気持ちは一緒、かあ。コロ……」

>コロマルはアイギスだけでなく、アイギスに気をかける自分たちのことも心配してくれていたようだ。

>コロマルとの絆を感じる……



>『ⅩⅠ 剛毅 コロマル』のランクが6になった



>……空も赤く染まってきた。

>そろそろ帰ろう。

>……


学生寮前


ラビリス「……あれ?」

鳴上「!」



>学生寮の扉の前でちょこんと座っているメティスの姿が見えた。


メティス「あなたもひとりなんですか? ……え、違う?」

メティス「ええ、わかりますよ。あなたの言葉」

メティス「……? デビ……なんです? それは」

メティス「はあ。……いえ、すみません。そんな人は見かけていないですね」

鳴上(どうしたんだ……?)


>初めメティスは独り言を言っているのかと思った。

>しかし、彼女に近付くとその言葉はメティスが膝に抱えていた黒い生き物に向けて話しかけているのだという事にすぐ気付いた。


メティス「!」

メティス「なんだ、鳴上さんたちか……おかえりなさい」


>すごく残念そうな顔をされた……


ラビリス「メティス、こんなところでどうしたん? しかも、猫なんか抱えて」

メティス「本当は部屋でじっとしてたんですが、アイギス姉さんの帰りが待ちきれなくて……」

メティス「それで、通りかかった黒猫さんとちょっとお話をしていただけです」

鳴上「アイギスたちはまだ帰ってきていないのか?」

メティス「はい……」


>メティスは膝に乗せている黒猫を撫でていた手を止めて少し俯いた。


鳴上「メティス。心配なのはわかるけど、もうじき暗くなる。桐条さんもそれほど遅くならないようにするって言ってたし、中で待っていよう」

メティス「でも……、あ!?」


>メティスは黒猫を抱えたまま立ち上がった。


メティス「車の音です。今朝、姉さんたちが乗っていった」

メティス「こちらに近付いてきています」

鳴上「え?」

>メティスは人間の耳では感じ取れない遠くにある僅かなその音を聞き分けているのかそう告げた。

>そしてその通り、1分もしない内に朝見たものと同じ車が寮の前へとやってきて停車したのだった。

>車の中から美鶴が出てくる。


鳴上「おかえりなさい」

美鶴「ただいま」

メティス「え……? あれ、姉さんは? 姉さんはどうしたんですか?」


>車は美鶴だけを下ろしてすぐに出発してしまった。


美鶴「アイギスは、これからしばらくラボに入ることになった」

メティス「!?」

美鶴「期間は未定だが、それほど長くなる訳ではないようだな」

ラビリス「えっ!」

鳴上「アイギス、そんなに調子が悪かったんですか!?」

美鶴「……」

メティス「美鶴さん、どうなんですか!?」


>美鶴は眉間に皺を寄せて黙っている。


美鶴「こんな場所で立ち話もあれだ。……中でゆっくりと話そう」

鳴上「それもそうですね」

メティス「……あ!」


>メティスの腕の中にいた黒猫は、そこから下に飛び降りて少し距離をとった。


メティス「もう行くんですか?」

黒猫「……」

メティス「お気をつけて、ゴウトさん。機会があれば、また」


>黒猫はメティスの方をじっと見てから走って去ってしまった。


鳴上「……」

鳴上「パスカルの時も思ったけど、メティスって動物好きなのか?」

メティス「そういう訳じゃ。ただ……」

メティス「ひとりぼっちで残されるのとか、誰かに置いていかれるのって辛いんじゃないかと思って」

メティス「……」

メティス「それよりも、今は姉さんのことです。美鶴さん、行きましょう」

美鶴「……ああ」


>……

学生寮 ラウンジ


>天田と諒を除いた特別課外活動部のメンバーがラウンジに揃った。

>それぞれ腰を落ち着け、美鶴が話を切り出すまでには少し間があった。


美鶴「……さて、みんなが気にしているアイギスの容態だが」

美鶴「所員の話だと、アイギスの体には損傷も何も起こっていないらしい」

鳴上「え?」

ラビリス「それってつまり、結局なんでもないって事?」

美鶴「そういう事だな」

メティス「じゃあなんでわざわざ数日かけてラボでメンテを?」

美鶴「どこも悪くないのにアイギス自身が不調を訴えてる詳しい原因を調べるつもりのようだ」

美鶴「アイギスは何処も悪くないと検査でわかったあとも具合がよくないとこぼしていた。これを放っておく訳にはいかないだろう?」

美鶴「顔色もあまりよくなかったしな……」


>やはり精神面に相当のダメージを負っているのだろうか。

>アイギスは機械の体を持っているのにも関わらず、それと同時に人間のような心を持っている。

>それは前から知っていたことだ。

>だがそれは、相当繊細なものだったのだと今回の件で理解した……

>もしかしたら、アイギスには人間よりも脆い部分があるのかもしれない。


美鶴「そういう訳でアイギスはしばらく寮に戻らない」

鳴上「……」

鳴上「アイギスがこうなった原因の心当たり、桐条さんは少なからず解っているんじゃないですか?」

美鶴「……」

美鶴「そうだな。君の言う通りだ」

メティス「そういえば、美鶴さんは昨日、アイギス姉さんとふたりっきりで何かを話していましたね?」

メティス「それももしかして関係があるんですか?」

メティス「それまでは、元気はなくとも体調不良だなんて言ってもいなかったし」


>たしかに昨夜、美鶴はアイギスに話があると呼び止めていた気がする。

>メティスが言っているのはその事だろう。


美鶴「……」

鳴上「いったい何の話をしていたんですか?」

鳴上「教えてください、俺たちにも」


>まるで美鶴を責めるような強い語調でそう聞いた。

ゴウトにゃん!

美鶴「……。そうは言っても、君たちももう大体察しはついているんじゃないのか?」

美鶴「私が昨日アイギスに話したのは、君たちのクラスメートである望月綾時についての事だよ」

美鶴「アイギスの話だと、伊織や天田からも聞いたようだな? 私たちがかつて、望月綾時という名の少年と出会っていることについて」

鳴上「はい。ほんの少しだけですけれど」

鳴上「それで、望月がどうしたんですか? 俺の知る望月は、桐条さんたちの知っている望月綾時とはまったくの別人です」

鳴上「もう何度か言っていますが、それでも何度でも言います。桐条さんたちが貴女たちの知る望月綾時と何があったのかはわからないけど、でも」

鳴上「それは、俺のクラスにいる望月綾時とはまったく関係のない事です」

鳴上「望月の態度から見ても、それは断言出来ると思います」

美鶴「断言出来ると思う、か。……そうだな」

美鶴「私がアイギスに昨日話したのも、そういった事だった」

鳴上「……え?」

美鶴「君たちが旅行に行っている間に調べさせてもらったんだよ。君たちのクラスメートの望月綾時についてな」

美鶴「国籍、出身地、生年月日、血液型、今まで滞在していた場所、通っていた学校、両親の素性とその家系……」

美鶴「彼のパーソナルデータや彼を構成する環境など、調べられる範囲の事は調べに調べた」

美鶴「結果、現在月光館学園高等科3-Aに所属している望月綾時は、我らの知る望月綾時とはまったくの別人である事が明らかになった」

鳴上「……ほら。そうでしょう?」

美鶴「しかし、……それがアイギスを余計に混乱させてしまったようなんだ」

鳴上・メティス・ラビリス「!!」

美鶴「彼は違う人間だ。そう知識で理解は出来ても、心がおいつけない」

美鶴「彼が彼でないのならば何故あんなにも似た人間が、今になって私たちの目の前に? これは偶然なの?」

美鶴「きっと、そういった思考がアイギスの中で巡ってしまったのだろう」

美鶴「実際、私もまだ少し納得出来ていない部分がある。本来なら安心すべき筈なのに……」

鳴上「どうして。どうしてそこまでしておいて、信じられないんですか?」

鳴上「変ですよ、こんなの……」

美鶴「……私にもわからない。ただ」

美鶴「私たちにとって、望月綾時という存在は容認出来ない……してはいけないものなんだ」

美鶴「今、私に言えることはこのくらいだ。これ以上のことはアイギスに口止めされているし、それ以前に私自身が安易に話していい事ではないと考えている」

美鶴「それは、天田も伊織も同じことだろう。だから、聞いても無駄と理解して欲しい」

メティス「そんな……」

美鶴「……メティス。君ならもしくは、いずれ気付いてしまう日がくるかもしれない。だが、それでも……」

メティス「え? それはどういう……」

美鶴「……」

美鶴「すまない。私もまだ気持ちの整理がつかないんだ。今日のところはこれで失礼させてもらうよ」

>美鶴は辛そうに表情を歪めたまま寮から出ていった。

>……話を聞けば聞くほどに、大事になっている気がする。

>いくらなんでも、大袈裟になりすぎている……

>ふたりの望月綾時。

>彼らに関連性がないと、なぜここまで断言したくないのか。

>……断言したくてもできないのか。

>彼女たちの心を覆っている霧が、その底にある真実を教えてくれない。

終わります。また次回。

乙!

ライドウのゴウトにゃんまで出てきたか…。
そして、メティスちんがいずれ気付いてしまうかもってことは、
少なからずFESメティスとこのSSのメティスには繋がりはあるのかな。
なんやわからんくなってきた。

ゴウトにゃんってことは・・・
どういう風に絡んでくるか楽しみだ

ここにきて霧という表現がすごく好きだな。

アイギス…

P3メンバーのマヨナカテレビふらぐ
か?
p3メンバーが番長を好きになる可能性も微レ存?
ってか、コミュランク今どうなってんだ?

番長ハーレムは勘弁だわ

真女神転生のパスカルだと理解しているのに・・・
トロピカルヤッホーのパスカルで脳内再生されてしまうorz

首輪をしたパスカルが四つん這いでワンワン・・・
ごめん俺病んでるみたい・・・

ライドウ出てほしいけどポン刀腰にぶら下げて、懐にはリボルバーだからな。
違う意味でヤバすぎww

現代のライドウが出るとするとその辺(装備とか)どうなるだろうね
楽しみだ

因みに、p4メンバーのコミュランクはどうなってんだ?
全員MAXなのか?
後、番長のステータスも

>>725
トゥルーエンドじゃなかったっぽいし、今の今まで女性陣の好意に気付いてないから
少なくとも捜査隊メンバー女性陣のコミュMAXの可能性は低そうだ。
ステータスはソコソコありそうだが…。

>>726
そうか?
コミュはマスターしたけど、真エンドにいってないだけとか。

りせのペルソナってカンゼオンじゃなかった?

>>727
前スレによるとカンゼオンになってたね。
しかし、りせコミュMAXなら、友達ENDだったとしても、>>676の反応はない気がする。
そこも記憶が飛んだか?

完全にゲーム通りの道筋通ったとは限らないんじゃね?

何か、急にじゃ無いけど展開がガラッと変わるのが面白い。
あと、やっぱりダンテさんと、人修羅が出て来て欲しい。

それと、さっきからやたらと、キタローにむけて、この字幕が頭をよぎる。

死の安らぎは 等しく訪れよう
人に非ずとも 悪魔に非ずとも

大いなる意思の導きにて

大いなる意思と大いなる封印って似てね?…導き? 何かある気が…

?


これってアニメの番長って設定でなかったっけ?

【夜】


自室


>……

>今夜はいつもより早めにベッドへ横になったのにも関わらずなかなか眠る事が出来ない。

>蒸し暑く寝苦しいというのもあるが……

>だがそれ以上に、気がかりな事があるせいでそんな事になっているのは、自分でも理解しきっている事だった。


鳴上「……はぁ」

イヤホンの少年「眠れない? これでもう二十回目の溜息だけど」

鳴上「……。まあな」

イヤホンの少年「……」

イヤホンの少年「突然現れても、それほど驚かなくなったね」

鳴上「まあな」

鳴上「……はぁ」

イヤホンの少年「……」


>イヤホンの少年がいつの間にか現れてベッドに腰掛けながらこちらへと話しかけてくる。

>彼の言う通りこんな風にここで会話するのももう慣れてしまったのは確かに事実だが、今の状態は彼の事を気にしている余裕すらないからと言った方が正しいのかもしれない。


イヤホンの少年「……余計な詮索はしない方がいい」

鳴上「!」

イヤホンの少年「前に言っただろ。理解しなくていいって」

イヤホンの少年「知ってしまったら君もきっと、もっと混乱する」

鳴上「そんな事、聞いてみなきゃわからないだろ!」


>ベッドから起き上がり、思わず声を荒げてしまった。


鳴上「どうしてアイギスも桐条さんも話してくれないんだ……」

鳴上「俺たちは仲間なんじゃないのか? それとも……」


>そうだと思い込んでいたのは自分だけ、という事なのだろうか。

イヤホンの少年「仲間だからこそ話せない、話したくないって事もあるんだろう」

イヤホンの少年「きっと、彼女たちは事情を知らない君たちに、余計な気を使わせたくないんだろうね」

イヤホンの少年「それこそが君にとって気を揉む原因になっているのは俺の目から見てもわかるけど」

イヤホンの少年「……それでも」

イヤホンの少年「それでも君が彼女たちの事を仲間だと思っているのなら、今は彼女たちの気持ちを尊重してあげてほしい」

イヤホンの少年「……時間がね、必要なんだと思う」

鳴上「……」

イヤホンの少年「……ごめん」

鳴上「どうして……どうして、お前が謝るんだ?」

鳴上「どうして、お前がそこまでいう必要があるんだ?」

イヤホンの少年「……」


>イヤホンの少年は口を噤み視線を落として……それから、どこか悲しげな困ったような笑みを浮かべた。

>今まで無表情でいる事が多かった彼にしては珍しい表情の変化だと思った。

>……そして、その憂いに満ちた笑顔に同調するかのように、悲しい気分になったような気がした。


鳴上「……」

鳴上「わかった。俺だって納得できた訳じゃないけど、アイギスや桐条さんにとっても辛い事、なんだよな?」

鳴上「それに……」


>イヤホンの少年の方へ視線を向けた。

>……理由はわからないがなんとなく、彼にとってもこれは無視できない話なのだろうという事が薄々感じられる。

>それを口に出してもいいのかどうか、少し迷った。


イヤホンの少年「ごめん。……いや」

イヤホンの少年「ありがとう」


>彼は改めて謝罪の言葉とそれに続く礼の言葉を小さく口にして、自分の手を取ろうとした。

>しかし、透けた彼の体が触れる事を許す筈もなく……ただ素通りするだけだった。

>その様子にまた一瞬、悲しげな笑みを見せて、彼は姿を消した。



>『ⅩⅢ 死神 謎のイヤホンの少年』のランクが7になった



>……改めて思う。

>彼はいったい何者なのだろう、と。

>しかし、彼がどこの誰であろうとあの瞳に込められた色はおそらく……

>友人や家族、あるいは仲間に向けるようなそれと同じもののような、そんな気がしていた。

>……


07/25(水) 晴れ


【朝】


>……昨夜はあれからいつの間にか寝てしまったらしい。

>が、やはり暑さで目が覚めてしまったようだ。

>もう、起きることにしよう。

>とはいっても、今日は特に予定がある訳でもない。

>さて、どうしようか……

>……


学生寮 ラウンジ


>着替えを済ませ一階に下りるとラウンジのソファに腰をかけている美鶴の姿があった。

>テーブルの上にはティーポットとティーカップが置かれている。

>紅茶の馨しい香りが僅かに鼻をくすぐった。


美鶴「……ん。おはよう、鳴上」

鳴上「おはようございます」


>美鶴から声がかかるまでに少しの間があった。

>何か考え事でもしていたのか、こちらの事に気付くまで時間があったようだ。


美鶴「……」

鳴上「……」


>昨日の今日だ……なんだか気まずい。

>美鶴がなにも喋らないので自然とこちらも黙ってしまう。

>それからまた少しの間を置いてから、この空気に耐えられなくなって声をかける事にした。


鳴上「向かい側、いいですか?」

美鶴「……ああ」


>美鶴と反対側のソファに腰を下ろした。


美鶴「君もどうだ?」

鳴上「いただきます」


>美鶴はトレイに伏せてあった別のティーカップへポットに残っていた紅茶を注いでくれると目の前に置いてくれた。


鳴上「……ん、やっぱり美味しいですね」

美鶴「そうか、よかった」

美鶴「……」

鳴上「……。桐条さん」

美鶴「な、なんだ?」

鳴上「俺、例の件についてはもうこっちからは聞かないことに決めました」

美鶴「!」

鳴上「気にならなくなった訳じゃないんですけどね。でも、桐条さんもアイギスもどうしても話したくない、聞かせたくないっていうのなら……それはもう、仕方ないです」

美鶴「鳴上……」

鳴上「……そうですよね。考えてみれば、誰にだってそういう事のひとつやふたつありますよね。俺だって……」

鳴上「……」

鳴上「だからいいんです。でももし、話してもいいと思える日がきたら、その時は聞かせてください」

鳴上「待ってますから」

美鶴「……」

美鶴「すまない。……ありがとう」


>美鶴は苦笑をこぼして短くそう呟いた。


美鶴「……」

美鶴「……そうだ、鳴上。屋久島の旅行はどうだった? 詳しい話を聞かせてくれないか」


>美鶴はこれ以上気まずい空気にしたくないのか、別の話題を切り出してきた。

>その気持ちを汲んで、美鶴に屋久島であった出来事をゆっくりと語り聞かせてひと時を過ごした。



>『Ⅲ 女帝 桐条美鶴』のランクが4になった



>……


美鶴「本当に楽しい旅行だったんだな。行けなかったのが残念になってきた」

鳴上「俺も出来れば桐条さんとも一緒に遊びたかったです」

鳴上(夏休みの間にもう一度くらい、遠出でなくてもいいからそういう機会があればいいんだけどな……)

鳴上「……あ、そういえば、行きの船で妙な写真が撮れたんですよ」

美鶴「妙な写真?」

鳴上「はい。ちょっと待っててください」


>部屋に例の写真をとりにいった。

>……


鳴上「これなんですけど」

美鶴「ふむ。……」

鳴上「俺の後ろにこの場にいなかった人の影が写って……」

美鶴「ん、どこにだ?」

鳴上「ここですよ、……って、あれ?」

>美鶴に渡した写真をよく見てみると、確かに一緒に写っていた筈のあのイヤホンの少年の影が消えている……


鳴上「う、嘘だろ……」

美鶴「何かの見間違いじゃないのか? それよりも、この金髪の少年は誰なんだ。こんな人物、君の仲間にいたか?」

鳴上「え? ああ、桐条さんもコイツのこの姿を見るのは初めてですよね。クマですよクマ」

美鶴「クマ……というと、あのもふもふの着ぐるみっぽい彼か!? なんと、こんな中身が隠れていたとは……」

美鶴「実にブリリアントだな!」

鳴上「ブリリアントですよね」

鳴上(にしても、写真にいたと思えば消えてるとか、アイツ器用だな。……そうだ)

鳴上「あの、桐条さん」

美鶴「なんだ?」

鳴上「この寮、幽霊が出るっていう噂を聞いた事があるんですけど……」

美鶴「ここに幽霊が?」

鳴上「はい。月光館学園の男子生徒の霊が、っていう。それで、そんな話が出るような心当たりがあるかどうかちょっと気になって」

美鶴「男子生徒、の……」

鳴上「桐条さんも学生時代はここに住んでいたんですよね? 当時からそういう話、ありましたか?」

美鶴「……」

鳴上「桐条さん?」


>美鶴は黙って何か考え込んでしまった。

>こちらの声はもう届いていないような、そんな感じだ。


鳴上「あの……」

メティス「おはようございます」

ラビリス「おはようー」

鳴上「あ、おはよう」

美鶴「……! ようやく出てきたか。おはよう」


>美鶴はハッとなって顔を上げ、二人の方へ視線を移した。


美鶴「メティス、ラビリス。君たちに少し話がある」

メティス「……。はい、なんでしょうか」

ラビリス「……」


>メティスもラビリスも昨日の事があったせいか、美鶴に対して態度が何処かぎこちないようだ。


美鶴「君たちもそろそろ一度メンテにいかないか?」

ラビリス「メンテ?」

美鶴「ああ、そうだ。昨日のアイギスの様子を見て、君たちの事も心配になってきてしまってな」

美鶴「まあ、二人はどこも不調そうな様子は見られないが……」

メティス「……」

美鶴「……いや、そうでもなかったか。すまない」

メティス「私は何処にも不調なんてありません」

美鶴「……」

美鶴「とにかく、今日は少し変わった人物を招いてのメンテが行われる。君たちも是非一緒に受けてほしい」

メティス「姉さんも一緒、ですか?」

美鶴「ああ」

メティス「……。自分の事はともかく、この目でアイギス姉さんの今の様子をきちんと確認したいです」

メティス「行きましょう、ラビリス姉さん」

ラビリス「せやな。アイギスの顔が見たいのはウチも一緒や。行こう」

美鶴「よし、では車を呼ぼう。少し待っていてくれ」

鳴上「……あの。俺も一緒について行ったらダメですか?」

美鶴「君も何処か調子が優れないのか? あいにく今日は人間の医者は……」

鳴上「いえ、そうじゃなくて。俺もアイギスの様子を見たいんです。お願いします」

美鶴「……そういう事か。わかった、一緒にいこう」


>……


桐条のラボ


>病的なまでに白い長い廊下を抜けた先にある部屋の中にアイギスはいた。


アイギス「!」

アイギス「みんな、どうしてここに!?」

アイギス「悠さんまで……」

メティス「私たちも一度チェックをしてもらう事になりました」

ラビリス「だから今日はアイギスと一緒やで」

アイギス「そう、ですか……」


>アイギスはメンテのために機材やコードなどで繋がれているような様子はなく普通にしていたが、美鶴が言っていたように顔色が優れないのが一目でわかった。

>そんなアイギスにメティスもラビリスもいつもの何気ない態度で接しているが、内心では当然不安に思っているのだろう……それが僅かに表情に出ているような気がした。


美鶴「二人はまずボディのチェックとメンテからだ。こちらへ来てくれ」

メティス「そうなんですか……わかりました。それじゃあ姉さん、すぐに戻りますから」

ラビリス「またな」

アイギス「はい、またあとで」


>メティスとラビリスは名残惜しそうにしながらも美鶴に連れられて部屋から出ていった。

>アイギスとふたりきりになった。


アイギス「……」

アイギス「悠さん、あの、私……」


>アイギスは申し訳なさそうなそんな表情をしつつ、その顔を逸らした。

>見られたくないのか、見たくないのか……どちらかはわからない。

鳴上「いいよ、何も言わなくて」

アイギス「!」

鳴上「今はただ、アイギスに早く寮に帰ってきてほしい。それだけだから」

鳴上「……それを言いたくて」

アイギス「悠さん……」


>アイギスは目元を拭うような仕草を見せ、漸く視線を合わせてくれた。


アイギス「ありがとうございます」

アイギス「まだ時間がかかりそうだけど、でも……私、一日でも早くあの場所に戻れるようにします」

鳴上「ああ」

美鶴「待たせたな、アイギス」


>美鶴が部屋に戻ってきた。


美鶴「ついさっき先生が到着された。そろそろ始めるぞ」

アイギス「はい。わかりました」

鳴上「先生って?」

美鶴「アイギスの診察をしてくれるカウンセラーの方だよ。しかも我々の事にも精通している、な」

鳴上「俺たちの事にもって……まさか」

美鶴「ペルソナ使いだよ。同じ力を持つ者同士にしかわからない事もあるのかもしれない。そう思って特別にお呼びしたんだ」

鳴上「なるほど。ペルソナ使いのカウンセラーか……凄い肩書だ」

美鶴「どうぞ、こちらへ」

?「失礼します」


>美鶴が声をかけると部屋の外から人が一人入ってきた。

>……女性だ。

>ショートカットの髪型に、口元のほくろが印象的な美人の女性。


鳴上「園村先生!?」

麻希「え? ……ああ、鳴上くんか。びっくりした。なんかまた意外なところで会っちゃったね」

鳴上「まさか園村先生が?」

美鶴「そうだ。彼女がアイギスを診て下さる先生だ。普段は月光館学園でも仕事をされているからもしかしたらと思ってはいたが、やはり知り合いだったようだな」

鳴上「はい。先生にはお世話になってます」


>しかし、こんなところで会うとは本当に驚きだ。

>その上、ペルソナ使いだったとは……

>対して麻希は、口ではびっくりしたとは言うものの、全くそういう風には見えずにこやかに笑っている。


麻希「きっと縁があったらね、何処かで『仲間』として会う日もくるんじゃないかなって思ってたから」


>麻希はこちらの考えを見透かしているかのようにそう答える。


鳴上「という事は、俺がペルソナ使いだって事を既に気付いていたんですか?」

麻希「うん。共鳴でね」

>言われて気付いたが確かに麻希からじんわりとあたたかく優しいペルソナの共鳴を感じる。

>パオフゥの時に感じたものとはまた違った共鳴の仕方だ。


麻希「メティスさんとラビリスさんもそうでしょ?」

鳴上「はい。その通りです」

麻希「でもまさかロボットだっていうのは今回の話を聞くまで知らなかったな」

麻希「それで、今日お話するのは……そちらの?」

アイギス「アイギスです。今日はよろしくお願いします」

麻希「はい。よろしくお願いします」

麻希「じゃあ、向こうのお部屋に行きましょうか」

鳴上「先生、アイギスのこと……」

麻希「そんな顔しないで。大したことをする訳じゃない……大丈夫だから」


>麻希は肩にぽんと軽く手を置いて、こちらの不安まで消えてなくなってしまいそうに思えるくらいの柔らかくあたたかい笑みを向けた。

>麻希の優しい気持ちを感じる……



>『Ⅱ 女教皇 園村麻希』のランクが3になった



>麻希はアイギスと一緒に、隣の部屋へ続く扉を開いて中へと入っていった。

>そして二人の姿が消えると、今度は出入口の方から数人白衣を着た人間が現れる。

>彼らが部屋にあった機材を操作しイヤホンをつけると、麻希たちが入っていった方の部屋に面している壁が突然透明になった。

>まるでそこには壁などなかったかのように、机を挟んで向かい合って座る二人の様子がよく見えている。


鳴上「これは……!」

美鶴「あちら側からは見えていない。音声はマイクで拾ってイヤホンで聞きながら彼らも様子を窺ってくれている」

鳴上(刑事もののテレビドラマなんかで見る取調室のマジックミラーを覗いてるみたいな感じだな……)


>白衣の男たちもアイギスの不調の原因を探るためのラボにいる所員なのだろうか、彼らのしていることはあまり気持ちのいいものではないように感じた。


鳴上「……俺、帰りますね」

美鶴「もういいのか?」

鳴上「アイギスの顔を見れたから十分です。それに、これ以上ここにいても邪魔になるかもしれないし」

美鶴「そうか……。では、車で寮まで送らせよう」


>……

学生寮


天田「……あ!」

鳴上「ただいま、天田」

天田「鳴上さんか、よかった……おかえりなさい」

鳴上「どうかしたか?」

天田「いえ、その……」


>天田は両手にビニール袋をぶらさげている。

>その口からは食材や調味料などが見え隠れしていた。


鳴上「……ああ、また料理するのか」

天田「寮に誰もいないからチャンスかなって思って」


>天田は恥ずかしそうに笑っている。


鳴上「神郷さんは?」

天田「部屋に籠ってるのかなって思ったけど、出かけてるみたいですよ」

鳴上「コロマルもパスカルもいない。って事は、神郷さんが散歩に連れてってくれてるのか」

天田「あれ、そうなんですか? 僕はてっきり鳴上さんか誰かと一緒なのかと……」

天田「まあ、とにかく寮には僕たちしかいないし、よかったら一緒に昼食いかがですか?」

鳴上「そうだな。いただこうか」


>……


>天田の作る昼食の仕込みを軽く手伝う事になった。

>本当は分担して作った方が早く済むしいいかと思ったのだが、天田が一人で作りたいと思っているようだったので、少し準備を手伝ってからは天田の傍らでその様子を見守りながら待つ事にした。

>その間、さっきまでの事を簡単に天田に話した。


天田「そっか……アイギスさん、早く戻ってこれるといいですね」

鳴上「そうだな」

天田「……」


>天田もこうなった経緯に何か思うところがあるのか、手が止まり暫くの間何も言わなくなってしまった。


天田「鳴上さん、美鶴さんたちから綾時さんについての詳しいこと結局何も聞かされてないでしょ?」

鳴上「ん、まあな……」

天田「やっぱり。僕からしても、その判断は間違ってないと思ってます。鳴上さんには関係ない事、っていう言い方は横暴かもしれないけど……」

天田「だから、僕に聞かれても何も答えられないって事、先に謝っておきます。ごめんなさい」

鳴上「それも解ってる。桐条さんに言われたからな」

天田「そうですか。……でもね」

天田「ちょっと気にしすぎなんじゃって感じてもしています。こんな事、アイギスさんたちの前で言ったら怒られるかもしれないけど」

天田「あの綾時さんが僕たちの知る綾時さんじゃないって本人がそう言ってるなら、もうそれでいいじゃないですか」

天田「僕には綾時さんの言ってる事が嘘のようには見えませんでしたしね」

天田「多分、順平さんもそんな風に考えてるんじゃないかな」

天田「……僕としてはもうこれ以上この事について深く考えたくないっていうのが本音ですね」

>天田は料理を作る手を再度動かしだしてからぽつぽつと語った。

>どうやら天田はアイギスたちとは少し違って考える事を放棄することでどうにかしようとしている……そんな様子が感じ取れた。


天田「でも、本当に似てるんだよなあ。軽薄そうな感じとかそういう雰囲気も含めて」

鳴上「軽薄……まさか、アイギスは望月綾時に遊ばれた経験があるとか!?」

天田「えっ、それは流石に……いや、どうなのかな……?」

天田「っと、出来ましたよ」

天田「今日は暑いので、ジャージャー麺風冷やし中華なんてものを作ってみました」


>天田は出来上がった料理をテーブルに並べる。

>麺の上にきゅうりやハム、錦糸卵などがのっているのは普通の冷やし中華と変わらないが、肉味噌のたれが上に万遍なくかかっていて食べごたえがありそうだ。


鳴上「美味しそうだな。いただきます」

天田「いただきまーす」


>天田と肩を並べて昼食をとった。

>……


鳴上「ごちそうさま。美味しかったよ。以前のオムライスに続いて、上にのっていた玉子の焼き加減が絶妙だったな」

天田「ありがとうございます。でも、んー……僕としてはまずまずってところかな」


>天田はあまり自分の料理の腕前に納得していないようだ。

>でも、向上心があるのはいい事かもしれない。

>食後の片付けを手伝いながら、料理の知識を色々と教えたり教わったりしながら時間を過ごした。

>天田との距離が縮まったような気がする……



>『Ⅷ 正義 天田乾』のランクが6になった


>……

>それから数日、アイギスが戻る事はないまま時間が過ぎ、いつの間にか八月に入っていた……

>……


08/01(水) 晴れ


【朝】


>アイギスがラボに入ってもう一週間が過ぎている。

>時間が経てば経つほどに不安がじわじわと大きくなっているが、自分たちにできることは待つ事だけだ。

>それがとても悔しいが、どうしようもない……

>……

>気は晴れないままだが、今日は学校へ行かなければならない。

>他人を心配する前に、気持ちを切り替えてまずは自分の事を考えなければいけない……

>……

月光館学園 職員室


淳「……えっと、今月オープンキャンパスのある近場の大学短大専門学校の資料はこれで全部かな」

鳴上「ありがとうございます、先生」

淳「予約が必要なところもあるから注意してね。というか、結構量があるけど、全部目を通せそうかい?」

鳴上「ご心配なく。気合でどうにかします」

淳「そう。何かわからない事があったら遠慮なく聞いてね」

鳴上「はい」


>そろそろ自分の進路について本気で考えなければいけない。

>その為にも、様々な学校の資料に目を通し橿原に相談を重ねてた。

>……


淳「じゃあとりあえずこのメモに書きだした学校に見学にいくって事でいいんだね?」

鳴上「はい。まだ増えるかもしれませんけど、今のところはこんな感じで」

淳「わかったよ。で、鳴上くんはこのまま進学希望ってことで話を進めていいのかな?」

鳴上「いえ、それは……。就職の方もどんな仕事があるのか説明会なんかに足を運ぶ予定なので、まだはっきりそうと決めた訳では」

淳「そうなの?」

鳴上「……まだ、色々迷ってて」

鳴上「でも、夏休み中に出来る限りの行動はして、これから先の事をきちんと考えたいと思っています」

淳「なるほど、ね。わかった。鳴上くんのしたいようにするといいよ」

淳「ただ、その話を僕にもちゃんと教えてね?」

鳴上「はい」


>橿原はその答えを聞いて満足そうに笑み浮かべて頷いた。


淳「ちょっと安心したよ。まだ迷いながらも先に進もうとする姿が見られてね」

淳「鳴上くんの本当に進みたい道、きっとみつかるよ。このまま諦めなければ」

鳴上「そうだと、いいんですけど……」

淳「……。鳴上くんってしっかりしているように見えて急に弱気になったりする時があるね」

淳「もっと自信もって大丈夫だよ。ね?」


>ぽん、と軽く背中を押された。

>どうやら励ましてくれているようだ。

>橿原の優しさを感じる……



>『Ⅹ 運命 橿原淳』のランクが5になった



>この先どうしたらいいのだろうかという漠然とした不安は確かにまだ心の中にある。

>気を引き締めていかなければ……

鳴上「今日はこれで失礼します」

淳「このまま真っ直ぐ帰るのかい?」

鳴上「いえ、これから部活に行こうかと」

淳「ああ、確か美術部だったっけ? 頑張ってね」


>橿原と別れ、美術室へと向かった。

>……


美術室


>美術室では多くの部員がそれぞれ己の作業に没頭している。

>その中に、部長であるあかりの姿も当然あった。


あかり「……お。鳴上くん」

鳴上「よ。みんな頑張ってるみたいだな」

あかり「そりゃね。コンクールも近いし、特に三年生はこの夏で便宜上引退ってことになるからさ」

あかり「私も最後にいい作品残したいしね」

あかり「そうしたらきっと、その先自分の夢にも専念出来そうな気がする」


>あかりはキャンバスに気合を込めて絵を描いている。


鳴上「……あかりは結局進路の方は?」

あかり「美大に行くことに決めたよ。そこで色々学びながら漫画家を目指すつもり」

鳴上「そうか……」


>あかりはもうきちんと自分の中で目標を定めたようだ。

>それを羨ましく感じた。


あかり「この絵が上手い具合に評価へ繋がってくれるといいんだけどなー」

鳴上「それは……飛行船か?」


>キャンバスには海の上に浮かぶ飛行船が描かれている。


あかり「うん。よく夢に見るんだよね、この飛行船」

鳴上「夢?」

あかり「そう、夢。中学生の頃に住んでいた場所にね、空の科学館っていうところがあったんだけど……」

あかり「そこに大きな飛行船があってさ、なんだかそれとすごく似てるような気がするんだよね」

鳴上「その飛行船はこんな風に飛ぶのか?」

あかり「当時そういう噂が子供たちの間では流行ってたってのはあったね。でも、実際そうだったかっていうと」

あかり「……。んー……?」

鳴上「どうした?」

あかり「……いや、ちょっとね。私、その頃の事の記憶がなんだか曖昧みたいで。でも実際この船が飛んでるところを見たことがあるような」

あかり「ううん。飛んでいるこの船に乗ったことがあったような気がしてきて……」

鳴上「え?」

あかり「……。周りは火が燃え盛ってて、どこかから落ちそうになって、でも優しいお姉ちゃんに助けてもらって、それで……」

あかり「……」

あかり「あははっ、ごめん! なんでもないよ! 気のせいだよ、気のせい!」

あかり「それより、鳴上くんも部活にきたならちゃんと活動しなきゃ。ね!」

鳴上「……ん、ああ、そうだよな」


>話もそこそこに、自分も美術部の活動に取り掛かる事にした。

>あかりと美術部でひと時を過ごした。



>『ⅩⅦ 星 星あかり』のランクが5になった



>……


あかり「それじゃあ、戸締りお願いしちゃっていいかな?」

鳴上「ああ」

あかり「よろしく。じゃあね」

鳴上「気を付けて帰れよ」

あかり「鳴上くんもあまり遅くならないようにね」


>他の部員も帰りあかりが美術室から去ると、この場にひとりきりになった。

>周りが完全に静かになったところで、もう少しだけ絵を描いて過ごす事にした。

>……絵を描いてる時はその間だけ無心になれる。

>ごちゃごちゃと色々な考えでいっぱいになった頭をリセットするにはちょうどいいと思った。

>…
>……
>………


「……へえ、鳴上くんって美術部だったんだね」

鳴上「!!」


>集中しすぎていたのか後ろから唐突に声をかけられ人の気配がする事に気付くと、驚きのあまり体をびくっと大きく震わせてしまった。


麻希「わっ!? ……ごめん、驚かせちゃった?」

鳴上「そ、園村先生か……」


>そしてすぐにそこにいたのは見知った人物だとわかるとほっと溜息を吐いた。

>……が、すぐに別の事に気付いて麻希の方へと向き直る。


鳴上「あのっ、どうしてここに?」

麻希「ちょっと用事があってね。それはもう終わったんだけど、美術室の前を通ったら偶然鳴上くんの姿を見つけたから……」

鳴上「アイギスの方は……」

麻希「それは、これからまたラボの方に行って会うところ」

鳴上「様子の方はどうなんでしょうか?」

麻希「うん。心がとても不安定だったけど、もうだいぶ落ち着いてきたみたい。早ければ今日の夜にはもう帰せると思う」

鳴上「本当ですか!? よかった……」

>麻希の言葉を聞いて少し気が楽になった。

>早く、元気になったアイギスの姿をこの目で見たい……


麻希「アイギスさんのことで鳴上くんもだいぶ滅入っていたのね。ううん、鳴上くんだけじゃなくてメティスさんやラビリスさんも……」

麻希「桐条さんもアイギスさんと同じような感じで落ち込んでたしね」

鳴上「……」

麻希「……。ねえ、鳴上くん。まだ時間があるから少しお話しましょうか」

鳴上「? はい……」


>麻希は向かい側に椅子を置いてそこに座った。


麻希「それは鳴上くんが描いた絵?」

鳴上「そうです。鉛筆で描いただけで、あまり立派なものじゃないですけど……」

麻希「ちょっと見せてもらっていい?」

鳴上「どうぞ」


>麻希はスケッチブックを手に取るとじっと絵を見つめた。


麻希「ふふっ、なんだか懐かしいなあ。私も高校時代は美術部だったんだよ」

麻希「これでも賞をとった事もあるんだから」

鳴上「そうなんですか。凄いな、俺なんか俄かだからさっぱりで……最初に描いた絵も色々駄目出しくらったし」

麻希「一番初めのページにある絵のこと? 確かにこれって……でも、ダメっていうよりは……」


>麻希は何かを言いかけてすぐに口を閉ざした。


鳴上「不鮮明だとか定まってないとか言われました、その絵」

麻希「……うん。花瓶に活けられた花だって事はわかるけど……」

麻希「大袈裟に言ってみれば、ここに描かれた花は蕾が開いているのに生きているのか死んでいるのかすらわからないみたいな、そんな感じの絵だね。これって……」

鳴上「……」

麻希「……」


>麻希はスケッチブックを置いて暫く何か考えるようにしながら黙った。


麻希「ねえ。鳴上くんは今の学校生活、楽しんでる?」

鳴上「え? はい、楽しいと思ってますけど」

麻希「そっか……」

麻希「私、初めて会った時からずっと気になってたんだよね、君のこと」

鳴上「え……」

麻希「よく眠れないとか、悪い夢を見るとか、記憶が曖昧になるとか言ってたじゃない。だから心配で」

鳴上「あっ。……いえ、それはもう大丈夫です、けど」

麻希「でも、今は他に不安なことがある? アイギスさんのこと以外でも」

鳴上「……はい」

麻希「……」

麻希「鳴上くん、三年生だって言ってたよね? だとすると、進路のこととか将来についてあれこれ考えることがある、って感じかな?」

鳴上「園村先生の言う通りです」

麻希「……うん、わかるよ。私にもそういう経験あるから」

麻希「私はね、高校のころ一年近く入院していた時期があったの。あの時は凄く卑屈になっていて、不安なこともいっぱいだった……」

麻希「なんで私はこうなんだろうって何度も思ったよ」

麻希「でもね、色々な事があったけど、周りには友達がいて支えてもらって、そんな過去の苦い経験があったからこそ今の私がある」

麻希「だから鳴上くんもこれから先もっと辛い思いをする事があっても、それが自分にとっての糧になることもあるかもしれないって覚えておいてほしいの。今は解らなくても、ね」

鳴上「でも……」

麻希「平気よ。だって、私にも支えて一緒にいてくれた人たちがいたように、君だってひとりじゃないんだもの」

麻希「同じ力を持った仲間が周りにはいる。学校にくれば友達もいるし先生だって。もちろん、私だってその一人」

麻希「辛くなったら迷惑だとか考えないでどんどん人に頼っちゃいなさい。大事なのはなんでも自分だけで抱えすぎないってことよ?」

麻希「貴方に心配してどうにかしてあげたいと思っている人がいるように、貴方を心配してどうにかしてあげたいと思う人もいるんだってことをどうか忘れないで」


>麻希はあたたかい笑顔で心を優しく包んで労わるようにそう告げた。

>麻希の思いやりを感じる……



>『Ⅱ 女教皇 園村麻希』のランクが5になった



麻希「……長話になっちゃったね。もういかないと」

麻希「何か話したいことがあったら次の機会に、ね」

鳴上「はい。……ありがとうございました」


>立ち上がって一度深く礼をし、麻希が出ていくのを見送った。

>……

>自分もそろそろ学校を出よう……



辰巳ポートアイランド駅周辺


>街をぶらつき適当に買い物に回ったあと寮に帰ろうと歩いていると、携帯ショップのショーウィンドウに張り付いてる帽子の男の姿を見つけた。


鳴上「順平さん?」

順平「……あ、鳴上。オッス」

順平「この間の旅行の時はどうもな」

順平「チドリに付きっきりみたいな感じになってたけど、スゲー楽しかったぜ」

鳴上「いえ。……そんなところにへばり付いて何やってるんですか?」

順平「んー? ……ちょっとな」


>順平はガラスの向こう側にある並んだ携帯に再び目線を移して唸り声を上げた。


順平「チドリにケータイをプレゼントしようかと考えてるんだけど、どう思う?」

鳴上「!」

鳴上「チドリにですか。いいんじゃないですか。持っていないならこっちからあげればいい、って事ですね」

順平「そうなんだけどさ、でもどんなのにすればいいかなって」

順平「あまり高性能なものにしても滅多に使わないかもしれないし、だからって安すぎるものもどうかと……」

順平「うーん……」

鳴上「本人を連れてきて選んでもらったらどうですか?」

順平「それも考えたけどさ、やっぱり嫌がりそうかなって」

順平「あれ以来たまに電話くれるようになったから便利だし持たせてやりたいんだけど、そう提案して改めて拒否されたら悲しいし」

順平「それなら、こっちが用意したものを無理やりって形でもいいから、一応預けとくだけ預けておくみたいな感じで渡せばいいかなって思ってさ」

鳴上「……。いや、そんなことないと思いますよ?」

順平「え!?」

鳴上「前にこの周辺でチドリと会った時に携帯ショップを気にしているような様子を見かけたんですよね」

鳴上「だから、昔はどうあれ今はちょっと考えも変わってるんじゃないかなって、そう思います」

順平「マ、マジで!? そっか、チドリが……」


>順平は顔を緩ませてニヤニヤしている。


順平「よっし! じゃあパンフレットもらってチドリに見せてみよう! でも、あんま高いの選ばれたらバイト増やさないとダメだなー、貯金は崩したくねえし」

鳴上「え、貯金してるんですか?」

順平「……今、なんだそれ意外すぎるとか思っただろ?」

鳴上「い、いえそうじゃなくて! 純粋に偉いなあと思っただけですよ!」

順平「ふーん? まあいいけどさ」

順平「俺だってそんくらいの事はしてんだよ。チドリと会う機会もバイトすると減るけど、これもチドリとの将来の為……」

順平「なんつって!」


>順平はだらしなく笑っている。

>彼の行動はどれもこれもチドリがあっての事のなのだろうと改めて感じた。


順平「あとは祭りの誘いにのってくれるかってトコだな」

鳴上「祭り?」

順平「あれ、知らねえ? 16日に長鳴神社であるんだよ。毎年やってんだぜ」

順平「今日は元々そのお誘いにやってきたんだ」

鳴上「へえ、そうなんですか」

順平「そのついでにさりげなーくケータイのこと聞いてみよっと」

順平「話聞いてくれてありがとな、鳴上!」


>順平に感謝されている。

>順平との仲が少し深まった気がした……



>『Ⅰ 魔術師 伊織順平』のランクが6になった



>順平と別れ、寮に戻ることにした。

>……

【夜】


学生寮 ラウンジ


鳴上「ただいま、……!」

鳴上「アイギス!」

アイギス「悠さん。おかえりなさい」


>……一瞬目を疑ってしまった。

>でも、紛れもなく本物のアイギスの姿が今ここにある。

>何度か瞬きをして、やっとそう認識できた。


鳴上「それはこっちのセリフだ。おかえり、アイギス」

アイギス「……」


>アイギスは少し恥ずかしげに笑い、頭を下げた。


アイギス「もう大丈夫ですから。みなさんにはご迷惑をおかけして、大変申し訳ありませんでした」

鳴上「本当に本当にもう平気なんだな?」

アイギス「はい。この通りです」


>言葉の通り、アイギスの調子はとても良さそうだ。

>顔色も優れている。

>麻希のカウンセリングの賜物なのか……彼女には感謝しなくてはいけない。


美鶴「これでやっといつもの学生寮らしくなったな」

天田「そうですね。アイギスさんが戻ってきてくれて良かった」

ラビリス「なあなあ、こういう時って快気祝いっていうのするもんやないの?」

メティス「そうですよね。ぱーっとやりたいですね」


>みんなアイギスの復帰に嬉しそうにしている。


アイギス「そんな大袈裟な……」

美鶴「快気祝いか……いいかもしれないな」

美鶴「ただ、今日は神郷がいない。どうせやるなら皆が揃っていた方がいいだろう」

美鶴「ご馳走を用意して、な」

メティス「ごちそう……」

美鶴「神郷の入寮歓迎も含めてそのうちやろうか」

美鶴「あの男、こういう機会でも作らないとメンバーと顔を合わせるタイプじゃないからな」


>美鶴は苦笑をこぼしている。


アイギス「……」

アイギス「あの、悠さん」

鳴上「ん、なんだ?」

アイギス「帰ってきて早々不躾だとは思うんですが……」

>アイギスは何か言い淀んでいる。


鳴上「どうしたんだ? せっかくのめでたい日だ、遠慮なんかするな。今ならなんでも言うこと聞いてやるぞ?」

アイギス「それじゃあ……」


>アイギスは意を決したように口を固く結び頷くと顔を上げる。


アイギス「一度、改めて綾時さんと会う機会を作ってくれませんか?」

鳴上「!!」


>この場にいる全員がアイギスの言葉を聞いて一瞬で固まった……


美鶴「アイギス、それは……」

アイギス「大丈夫ですよ、美鶴さん。……大丈夫」


>アイギスは不安の色を見せる美鶴にそう微笑んだ。


アイギス「私も色々と考えてやっと気持ちの整理が出来ました。だから、綾時さんと改めてお話をしてみたくて」

鳴上「……。アイギスの本心なのか? それは」

アイギス「はい」

アイギス「あの綾時さんは、悠さんたちのクラスメートの綾時さん。やっとそう思えそうになったんです」

鳴上「……」


>ラボに行っている間にどういう心境の変化があったのだろう……


アイギス「だから、今までの非礼をお詫びしたいんです。ダメ、でしょうか……?」

鳴上「そう、か。……わかった」

アイギス「!」

鳴上「望月に言ってみるよ」

アイギス「ありがとうございます!」

鳴上(随分な変わりようだな。それが気にもなるけど……でも、本人がそう言うのならば素直に信じよう)

鳴上(でも、望月と会う機会か。どうセッティングすれば、……そうだ!)

鳴上「みんな、聞いてくれ」


>全員が急にどうしたのかと不思議そうな表情を浮かべている。


鳴上「一緒に祭りへ行くぞ!」

美鶴「それはまた……唐突な提案だな」

メティス「祭り……?」

天田「それってもしかして、長鳴神社でやる夏祭りのことですか?」

鳴上「ああ、そうだ」

ラビリス「そんなんやるんかあ。へえ、楽しそうやな」

鳴上「だろ?」

鳴上「それに望月も誘ってみようと思う」

美鶴「ここにいる全員で行くのか?」

鳴上「そうです。あ、神郷さんも誘いますよ」

鳴上「桐条さんと作れなかった夏の思い出を作り、新しく入ったばかりの神郷さんとも親交を深め、かつ望月との距離も縮める……」

鳴上「いい提案だと思うんですけど」

美鶴「わ、私は別に……」

美鶴「……」

美鶴「だが、悪くはない話だな」

美鶴「……アイギスがそう言うのならば、私も彼との事を少し考え直さなければならないしな」

鳴上「決まりですね」

鳴上「そういうことだからみんな16日の予定は空けておいてくれ」

アイギス「わかりました。楽しみにしています」

メティス「ごちそうに……お祭り……予定がたくさんですね」


>みんなで神社の夏祭りに行くことが決まった。

>……

【ここまでの番長まとめ】

>名前はアニメと同じ『鳴上悠』

>八十稲羽でのコミュは、1スレ目の>>12を見てもらえればわかるけど、MAX時のアイテムをもらってる=特別捜査隊のメンバーとはMAX状態

>ただし、女子メンバーとは友達止まりで『みんなの鳴上くん』状態だった

>友人連中に別れの挨拶はしたが、らっしゃっせーはスルーしてそのまま八十稲羽を去ってしまった

>ステータスは八十稲羽にいた時点ではオールMAX……だけど、それが月光館学園での生活でも通用するのかどうかといえば、また別だと思う

>でも、少なくとも月光館学園のテストで一位になれるくらいの成績は維持している様子


こんな感じですかね。

現在のコミュランクは次回の最後に貼りたいと思います。

では、また次回。

乙!

ゲーム本編後の番長ってイザナミの言動からすると普通の人間じゃなくなってるみたいだしね。
そう考えるとアニメの鳴上番長はなかなか良い所に落とし込んでるなやっぱ

乙、ようやくあかりちゃんが誰なのか思い出した

毎度ながら乙ぅぅうううぅううぅううううぅぅぅぅぅ

きたろーの写真に写ったり写らなかったりが無駄wwww
美鶴に見せないようわざとかwww

乙!

写ってたらSEES全員緊急召集レベルの事態だもんなぁ

数日後……


08/05(日) 晴れ


>今日は昼から綾時と会う約束をしている。

>支度をして出かけよう。

>……


【昼】


ポロニアンモール


>そろそろ約束の時間だ。

>……


女の子A「じゃあね、綾時クン」

女の子B「また遊ぼうね~」

女の子C「バイバーイ」

綾時「うん、またね」


>少し遠くの方で数人の女の子たちと一緒にいた綾時の姿を見つけた。

>彼女たちと別れると、綾時はこちらの方へと向かってくる。


綾時「ごめん、待たせたかな」

鳴上「いや。こちらこそデートの邪魔する形になったみたいで悪かったな」

綾時「平気だよ。デートはいつでもできるし」

鳴上「……。そうか」

鳴上「とりあえず、ゆっくり話せるところに行こう」


>……


シャガール 辰巳店


鳴上「いつもあんな風に女の子と遊んでるのか?」

綾時「ん? まあね」

鳴上「相変わらずモテてるなお前」

綾時「またまた。鳴上くんには適わないよ」


>しばらく他愛のない談笑を続けた。


綾時「……それで、本題は何なのかな?」

鳴上「ああ。実はな」

鳴上「アイギスが一度改めてお前と会いたいって言っているんだ」

綾時「!」


>綾時の表情が一瞬のうちに変化を見せた。

>とても複雑そうにしている……

綾時「それはまた……どうして?」

綾時「何かお叱りでもあるのかな」

鳴上「いや、決して悪い意味じゃなくてな。アイギスが今までのお前への態度の事、謝りたいって」

綾時「え……? 本当、に?」

鳴上「本当だ。それで今月の16日、神社で祭りがあるんだけど、そこでアイギスと会ってくれないか?」

綾時「……」

綾時「神社の、お祭り……」

綾時「本当に、冗談じゃなくて、……メティスさんのお姉さんは僕のこともう怒ったりしていないんだね?」

鳴上「ああ」


>力強くそう頷くと、少し間を置いてから綾時も返事をするように頷き返す姿が見られた。


綾時「わかった。行くよ」

鳴上「そうか」

綾時「うん。……ああ、良かったあ」

綾時「この間の旅行の時、やっぱりあなたはダメです、ごめんなさい的なこと言われてたからすっごくヘコんでたんだよねー」

綾時「女の子にあんな態度取られることも滅多に無かったし、どうしたものかと……」


>綾時はいつもの調子に戻ったようだ。


綾時「メティスさんのお姉さん……アイギスさんに、会える日を楽しみにしてますって伝えておいてくれるかな?」

綾時「あ、メティスさんやラビリスさんも来るのかな?」

鳴上「もちろん」

綾時「そっか。じゃあ、みんなにそう言っておいて」


>綾時は嬉しそうにしている。

>祭りの日が待ち遠しくなってきた……

>それからまたしばらく、綾時と何気ない話をして過ごした。



>『Ⅵ 恋愛 望月綾時』のランクが5になった



綾時「そういえばさ、さっき一緒にいた女の子たちから聞いたんだけど、鳴上くんのいる寮に幽霊が出るって噂ホントなの?」

鳴上「え? あー……っと」

綾時「その様子だと見たことあるって感じだね!? いいなあ、カワイイ子なんだよね?」

鳴上「カワイイ子、って……は?」

綾時「え? 月光館学園の女子生徒の霊が出るって話じゃないの?」

綾時「ポニーテールにヘアピンのカワイイ子だって」

鳴上「なんだその具体的な内容は……」

鳴上「それに、俺が聞いた噂は男子生徒の霊って話だったぞ?」

綾時「えー? おっかしなあ」

綾時「その話聞いて、キミコさんみたいな子を想像してたんだけどなあ」

鳴上(キミコ、か……それならあり得る話かもしれないけど……)

鳴上(でも、キミコというかリリムのことについては俺しか知らない筈の話だよな……?)

>……


ポロニアンモール


綾時「じゃあ、今日はこれで」

鳴上「16日だからな。忘れるなよ」

綾時「忘れないって!」


>シャガールの前で綾時と別れた。


鳴上(さて、今日の用事は済んだし寮へ帰るか……ん?)

鳴上(あれは……)


>噴水の前で仁王立ちしているスーツの男の後ろ姿が目に映った。

>その男はそこから一ミリも動く事なく、ただそこに突っ立っているように見える。

>いったい、何をしているのだろう……

>そっと近付いて様子を窺ってみると、その男は周防であった事に気付いた。


鳴上「周防さん? なにやって……」

達哉「……シッ!」


>周防は右手の人差し指を口元に当て、こちらの動きを制するかのように左腕を上げると、その場から一歩……いや、半歩ほどだけ前へ詰めた。

>しかし、視線だけはそのまま逸らす事はなく、ずっと一点を集中して見つめている。

>その先にあったのは……ベンチの上にいる黒猫だった。

>黒猫は黒猫で、尻尾を立てながら周防を警戒するような目つきをしており、まるで睨み合うような形になっている。


鳴上(本当に何をしているんだこの人は……)

鳴上(……!)


>周防は上げた左腕をそっと懐に忍ばせる。

>これは、まさか……


鳴上(手錠? いや、もしかしてこれは……じゅ、銃!? 嘘だろ、こんな場所でしかもあんな猫に……!?)

鳴上「ちょっ、ちょっと待ってください! どういう事ですか!?」

達哉「!?」

黒猫「……!」


>慌てて周防の前に飛び出し、黒猫を守るように抱きかかえる。


達哉「鳴上。そのまま動くな。……いいか、動くんじゃないぞ」

鳴上「えっ、な……!?」


>周防は……懐から取り出したものを容赦なくこちらに突きつけた。


鳴上(――!!)

>その動きに合わせて反射的に身を強張らせ固く目を閉じてしまった。

>そんな、どうして……!

>そう思っていた矢先に聞こえてきたのは

>……銃声でもなんでもなく、軽快なピロンという電子音だった。


鳴上「……え?」


>恐る恐る目を開けてみると、周防がこちらに向けて構えていたのは

>……携帯電話だった。

>……


鳴上「こいつの写真を撮りたかっただけ、か……なんだ、びっくりした」

達哉「まったく、どういう勘違いをしてるんだ」


>周防は呆れて溜息を吐いている。

>黒猫は未だに自分の腕の中で大人しくしたまま、というより固まったような感じでこちらの様子を凝視していた。


鳴上「でも、周防さんが猫好きってなんか意外だな」

達哉「俺は別に。俺のアニキが好きなだけだ」

達哉「……今朝、アニキから手紙が届いてな」


>周防は懐から今度は口の開いた封筒を取り出し一瞬だけ見せてすぐにしまった。


達哉「月に一度はこういった手紙や荷物を送りつけてくるんだ。もう、ガキじゃないってのに世話焼いてきて……」

達哉「だから嫌がらせにアニキ好みの猫の写真でも送ってやろうと思ってな」


>周防は意地悪く笑いながら短くメールを打って送信したようだ。


鳴上「嫌がらせ? 猫好きなんですよね?」

達哉「ああ。でも極度の猫アレルギーでな。猫が好きなのに触れない……きっと今頃、画面を見ながらそのジレンマに悶え苦しんでいるに違いない」

鳴上(ただの画像なんだし、むしろ喜んでそうな気がするけどな……)


>黒猫の喉を転がしながらふっと息吐き……思わず呟いてしまう。


鳴上「平和だなあ……」

達哉「ん? ……まあ確かにな。以前のような怪奇事件は最近起こっていないみたいだ」

達哉「特別な力を持っているとはいえ、お前たちのような子供に事件を任せきりにするような事がなくなってほっとしている」

鳴上「……でも、まだ完全に解決しきっている訳ではないんです」

鳴上「いつ何が起こってもおかしくはない」

達哉「……そうなのか」


>二人の間に沈黙が訪れた瞬間を狙ったかのように、周防の携帯が鳴り響く。


達哉「アニキからか」

達哉「……」


>周防は携帯の画面をしばらくの間みつめた後、大きな溜息を吐いてうんざりしたような顔になった。

鳴上「どうしたんですか?」

達哉「……さっきの写メを絶賛する言葉と、今日届いた手紙とほぼ同じ内容が長文で書かれてる」

達哉「仕事は順調かとか、三食ちゃんと食べてるかとかな……」

達哉「これじゃあアニキっていうよりも母親だな……はあ」

達哉「お互いもういい年なんだ。いい加減にしてくれって……」

鳴上「ははっ、随分と心配性なんですね。……でも」

鳴上「どんなに年を重ねても、周防さんのお兄さんにとって周防さんが弟だっていうのに変わりはないって事なんじゃないですか?」

鳴上「良いじゃないですか。仲がいい兄弟で羨ましいです。俺一人っ子だからそういうのってなくて」

鳴上「でも、妹みたいな子がいるから周防さんのお兄さんの気持ちはなんとなく察しがつくような気はしますけどね」

達哉「……」

達哉「まあ、俺だってこの年になってようやくアニキの思ってた事が解るようにはなったけど」

達哉「特に鳴上と付き合いがあるようになってからは、な」

達哉「……そうか。アニキもきっとこんな気持ちだったんだな」


>周防は苦笑を浮かべひとりごちた。


達哉「たまにはきちんと手紙の返事くらい書いてやるか」

達哉「……鳴上」

鳴上「はい?」

達哉「お前はあまり周りが心配になるような事するんじゃないぞ? まあ、お前に限ってそんな事はそれほどないとは思うけどな」


>周防はそう笑ってから軽く手を振ってその場から去っていった。

>彼の優しさを一瞬垣間見たように思った。

>周防との絆が深まったような気がする……



>『ⅩⅨ 太陽 周防達哉』のランクが7になった



鳴上「……あ」


>腕の中で静かにしていた黒猫が、急に腕の中から抜け出した。

>こちらを振り返り少しの間また凝視するような視線を向けた後、素早く走っていってしまう。


鳴上「あの猫、どっかで見た覚えがあると思ったけど……もしかして、メティスが構ってた黒猫か?」


>黒い猫なんて何処にでもいるだろうが、なんとなくそういう雰囲気がしていたように思った。

>出来ればもう少し構っていたかった。

>縁があればまた何処かで会えるだろうか……


鳴上「……帰るか」

>……

>それから約束の日まで、やらなければならない事を一気に片付けた。

>学校見学や、就職の説明会、部活動や、出されていた夏休みの宿題まで……

>そんなこんなでまだ一か月ほどはあると思っていた夏休みもいつの間にか半分を過ぎてしまい、これでは八十稲羽の方へ遊びに行く事は出来そうにないと気付いたのは夏祭りの直前の事だった。


陽介『そっかあ、やっぱこっちに来るのは無理そうか』

鳴上「ああ。色々あってさ……」

陽介『ま、しょうがねえよな』

陽介『みんなにもそう伝えとくな』

鳴上「頼んだ」

――ブツッ

鳴上「……」

鳴上「もっと夏休みが長く続けばいいのに……」


>……


08/16(木) 晴れ


>約束の夏祭りの日がやってきた。

>始まるのは夕方からのようだ。

>それまでに、今日やらなければならない事を片付けておかなければ……

>……


【夕方】


長鳴神社


綾時「おーい、鳴上くん!」


>綾時が手を振って呼んでいる。


鳴上「早かったな、望月」

綾時「今日という日を本当に楽しみにしていたからね!」


>綾時は無邪気にはしゃいでいる。

>その様子を見るだけで、言葉に嘘偽りがない事はすぐに解った。

天田「綾時さん、こんにちは。……あ、もうすぐこんばんは、かな?」

綾時「天田くん、久しぶり」

綾時「……えっと、そちらの人は?」

鳴上「夏休みになってから俺たちと同じ寮に入った神郷諒さんだ」

鳴上「今日は寮にいるメンバー全員で祭りに参加って事になってる」

綾時「じゃあ、前に話していたワンコくんも?」

天田「ええ、コロマルもパスカルも一緒に連れてきてますよ。でも今日は流石に境内の方へは入れられないので、階段下の方で待機してもらってますけど」

綾時「後で触らせてもらってもいいかい?」

鳴上「存分にもふもふするといいぞ」

綾時「やった!」

諒「……」


>諒が、まじまじと綾時のことを見つめている……


諒「君が話に出ていた望月か」

綾時「あ、はい。望月綾時です。よろしくお願いします」

諒「……。よろしく」

諒「まあ、俺の事は気にしないで若い者同士で楽しむといい」

鳴上「神郷さんだってまだ若いじゃないですか……」

綾時「あはは。なんだか面白い人だなあ」

綾時「……ところで、肝心のアイギスさんたちはどうしたんだい? 姿が見えないけれど」

鳴上「準備があるから遅れてくるって。大丈夫、逃げたりする様子はなかったから」

綾時「そっか」


>綾時はさっきまでのはしゃいでいた様子から一転、面持ちに緊張の色が現れ始めていた。

>アイギスと話せる事は嬉しい反面、まだ僅かに不安もあるのだろう。

>女の子と遊び慣れていそうな綾時にしては珍しい反応のような気がして、いけないとは思いつつも少しだけ笑ってしまった。


美鶴「みんな待たせたな」

鳴上「!」


>美鶴の声に振り返る。

>そこには特別課外活動部女性陣たちが揃って並んでいた。

>浴衣姿で。


美鶴「思った以上に着付けに時間がかかってしまった」

ラビリス「たまにはこういうのもええな。動きにくいのがちょっと困るけど」

メティス「せっかくのお祭りだからと言われるままに着てみましたが、面白い恰好ですよね」

天田「わあ、浴衣姿いいですね」

鳴上「……随分と見違えたな」

綾時「うん。みんな綺麗だ」


>綾時が代表でストレートに思っている事を言葉にしてくれた。

アイギス「……あの、綾時さん」

綾時「!」

綾時「アイギスさん……」

綾時「えっと、今日はお誘いありがとうございます」

アイギス「いえ。こちらこそ、来てくださってありがとうございます」

アイギス「……先日はどうも失礼をしました。綾時さんへの今までの態度、反省しています」

綾時「そんな。もう気にしていませんから」

アイギス「綾時さん……」

アイギス「……。あの、これからは姉さんや妹共々仲よくしていただけたら嬉しいです」

綾時「もちろんですよ」

アイギス「よかった……」

アイギス「今日は、よろしくお願いしますね」

綾時「はい。よろしくお願いします」


>二人の間の空気はまだどこかぎこちない。

>しかしそこには以前のような険悪さはなくて、知らない者が傍から見れば初デートのカップルの待ち合わせに見えなくもない……そんな微笑ましい雰囲気のような気がした。

>そんな二人に、事情を知る者たちはほっとしている。


鳴上「さて、みんな揃ったことだし出店を回ろうか」


>……


射的屋


メティス「……あっ、おしい」

ラビリス「もうちょい右いけばよかったのにな」

アイギス「この銃、癖が強すぎます。なれるまでもう少し時間がかかりそう」

綾時「でも上手いよね。僕なんか全然掠りもしないのに」

アイギス「綾時さんはもう少し肩の力を抜いた方がいいです」

綾時「肩の力、か……こんな感じ?」

アイギス「そうそう」


>綾時はすっかりあの三姉妹と馴染んでいる。

>アイギスも綾時に対する態度がすっかり自然になっていた。

>この分ならもう心配する必要はないだろう。


美鶴「なんだか不思議な気分だな」

鳴上「……?」


>少し離れてその様子を一緒に見守っていた美鶴がぽつりと呟いた。

美鶴「アイギスと望月に似た少年がああやって仲良くしているのを見る日が来るとは……」

美鶴「本来こんな事、ありえる筈もなかったからな」

美鶴「まるで夢でも見ているようだ。……というのは、些か大袈裟か」

美鶴「どうなる事かと思っていたが、楽しそうでなによりだ。私ももう、この事に関してとやかく言うのはやめよう」

美鶴「二人にはこうして仲睦まじいままでいてほしいからな」

美鶴「私たちも少しこの辺りを見て回ろうか」


>美鶴はもうアイギスたちを見張る必要もないと判断したのかその場から離れていく。

>自分もそれについていった。

>……


鳴上「あ、桐条さん。あんず飴食べませんか?」

美鶴「あんず飴? ……」

美鶴「そうだな、いただこうか」

鳴上「すみません、二つください」


>……


鳴上「はい、どうぞ」

美鶴「ありがとう。代金は……」

鳴上「いいですよ。俺の奢りです」

美鶴「いいのか?」

鳴上「これくらいどうって事ないですよ」

美鶴「すまないな。いただくよ」


>美鶴と一緒にあんず飴を食べた。

>ひんやりとした水飴があんずに絡まって美味しい。

>美鶴はこういった物を食べなれていないのか、食べるのに少し苦戦しているようだ。


美鶴「べとべとするが……美味しいな」

鳴上「口に付いてますよ?」

美鶴「む……?」

鳴上「右口端のところ」


>まるで子供のようなその姿が普段の凛々しい雰囲気とのギャップもあって可愛らしく感じる。

>美鶴は慌ててハンカチを取り出すと上品に拭った。

美鶴「……。こういうのもたまには悪くないな」

鳴上「というか、こういう機会でしか食べることもありませんよね」

美鶴「それもそうだな」

美鶴「しかし、賑やかだな。この祭りにくるのは三年前にアイギスと共に来て以来だが、毎年こんな感じだっただろうか……」

鳴上「三年ぶりですか? 結構間がありますね」

美鶴「卒業してからは日々に追われていたからな……今日も時間を作れそうか怪しかったが、どうにかなったよ」

鳴上「……あの、なんかすみません。急にあんな事言っちゃって、無理させたみたいで」

美鶴「何を謝っている。この前一緒に遊べなかった私にも気を使ってくれたんだろう?」

美鶴「君のそういう優しいところは嫌いじゃないぞ。今日は時間まで楽しもうじゃないか」

鳴上「……はい」


>それからしばらく、美鶴と一緒に出店を見て歩いた。

>美鶴との距離が縮まったような気がする……



>『Ⅲ 女帝 桐条美鶴』のランクが5になった


ラビリス「あ、美鶴さーん! ちょっと!」


>人の波の向こう側でラビリスが手を振って呼んでいる。


美鶴「どうした」


>美鶴は呼ばれるままにラビリスのいる方へと向かってしまった。

>自分もそれに続こうと思ったが、大勢の人で中々前に進めない。

>そんな時、ふと声をかけられた。


トリッシュ「Hi! 悠! こっちだよ、こっち!」

鳴上「!?」

鳴上「誰かと思えば……お前、こんな大勢の人の中で何やってるんだ?」

トリッシュ「ボクも便乗してShopを開いてるんだよ。夏は稼ぐChanceが多いからダイスキさ」


>トリッシュは綿飴の出店を出しているらしい。

>なんとも商売熱心な妖精だ。

>しかもそれなりに繁盛しているようである。


トリッシュ「というわけで悠もおひとつどう? っていうか、買え!」

鳴上「はいはい……じゃあ、ひとつだけ」

トリッシュ「Thank you!」


>800円支払ってトリッシュから綿飴を買った。

>祭りらしい価格設定だが、トリッシュにしては良心的な値段のように思える。


トリッシュ「See you!」


>トリッシュの出店を後にした。

>……

>ふと前方にあるお面の屋台で、天田と諒の姿を見つけた。


諒「……」

諒「買うのか?」

天田「か、買いませんよ! そこまで子供じゃないし……」

諒「フェザーマン、あるぞ?」

天田「だから買いませんってば!」

鳴上「天田」

天田「……あ、鳴上さん」

鳴上「別に恥ずかしがることないと思うぞ? カッコイイじゃないか、フェザーマン」

天田「そういう訳じゃ……」

天田「それよりも、僕お腹が空いてるんで何か買って食べよう」


>天田はお面の屋台から離れて別の出店を探し始めた。


天田「焼きそばと、お好み焼き……どっちも捨てがたいな。両方買っちゃおうかな」

諒「そんなに食べられるのか?」

天田「平気ですよ、これくらい」

鳴上「育ち盛りの男の子だもんな。それくらい余裕か」

天田「でも、今日そんなにお金持ってきてないんだよなあ」


>天田はどっちを買おうか悩んでいるようだ。


諒「……」

諒「どっちか俺が買おう」

天田「えっ、いいんですか?」

諒「分けて食べることになっていいならな」

天田「わあ、やった! ありがとうございます!」

天田「じゃあ、お好み焼きの方買ってきますね」


>天田と諒はそれぞれの出店に買いに行った。


諒「……ほら」

鳴上「え?」

諒「お前の分もついでだ」


>諒は手に持っていた焼きそばをひとつ差し出してきた。


鳴上「あ、どうもありがとうございます」


>邪魔にならない場所に移って、三人で食べることにした。

>……

>ふたりは買ったものをそれぞれ分け合って食べている。


諒「天田、こぼれてるぞ」

天田「えっ?」

諒「それに、口にソースがついてる。……ほら」

天田「す、すみません。ありがとうございます」


>天田は諒が差し出したポケットティッシュを受け取って口を拭いた。

>先ほどから見て思ったが、諒の天田に対する世話の焼き方は手馴れているような感じだ。

>こうしているとまるで兄弟のような……

>もしかしたら諒は下に弟か妹を持っているのかもしれない、……そんな雰囲気だ。


諒「……? どうかしたか」

鳴上「いえ、なんでも」

鳴上「そういえば、神郷さんとこういう風に過ごすのは何気に初めてですね」

天田「そうですよね。神郷さん夏休みの間は部屋に籠ってることが多かったし、今まであまりお話する機会もなかったですよね」

諒「そうだったか」

天田「美鶴さんの話だと、神郷さんの使ってる部屋を防音強化したのって静かに勉強がする場所がほしいからって事でしたよね」

天田「やっぱり大学生ともなると色々大変になるんですね」

天田「部屋にいる事が多かったのもそういう理由からなんでしょ?」

諒「……まあな」

天田「やっぱり」

諒「そういうお前たちは、学校の宿題は大丈夫なのか?」

鳴上「俺はもう終わりましたよ」

天田「僕はまだあと少し残ってますけど、この調子ならなんとか」

諒「そうか」


>天田の言う通り、諒と接する機会は今まであまり持てなかった。

>加えて諒はあまり多くのことを語らないタイプのように感じる。

>そして、寮に住む自分たちに対して何処か一線を引いているような、そんな風にも思える。

>彼が特別課外活動部に加わって以降、これといった事件も起こってないため、同じ仲間として協力し合うような事も今のところはない。

>そういう事もあって、まだ彼自身この環境に慣れきっていないところもあるのかもしれない。

>部屋にばかりいて、他人とあまり接触をもたないのもそれが原因なのだろうか。

>今日の祭りの誘いも、内心もしかしたら断られるかもしれないと思っていたくらいだったのだが……

>しかし、これをきっかけにお互い少しずつ打ち解けられればいいと、そう思った。

>……


鳴上「そろそろアイギスたちとも合流しようか」

天田「そうですね。……って、もしかして今、綾時さんハーレム状態じゃないですか?」

鳴上「確かにそうなるな。ま、今日は少しくらい良い思いさせてやりたかったし、いいじゃないか」

天田「調子に乗ってみんなにちょっかい出しすぎてないといいですけどね」

天田「メティスさんなんか怒らせたら絶対締め上げられますよ」

鳴上「そうなってない事を祈ろう」

天田「じゃあ、アイギスさんたちを探しましょうか……ん?」

鳴上「もう見つかったのか?」

天田「あ、いえ……子供たちが集まってるから何かと思ったら、あそこで風船配ってるみたいですね」


>天田の指差した方向に風船をもらおうとする子供が群がっているのが見える。


天田「風船かあ……」

諒「……」

諒「欲しいのか?」

天田「え? っと……」

鳴上「ああいう風に配ってるところなんて久しぶりに見た気がするな。俺もちょっと欲しくなってきたかも」

男「お兄さんたちもいるかい? 何色がいい?」


>風船を配っていた男に話しかけられた。


天田「それじゃあ……」

鳴上「そうだな……」

鳴上・天田「水色」

天田「って、見事に被りましたね」

鳴上「そうみたいだな」

男「はいはい、水色ねー。じゃあはい、お兄さん渡してくれる?」


>男は一番近くにいた諒の両手に水色の風船に繋がった紐を預けた。

>諒はふたつの水色の風船をじっと見つめている。


諒「……」

諒「ほら」


>諒は預けられたその紐を自分と天田のそれぞれに差し出す。

>……その表情が、何故だかひどく寂しげで悲しげだったのは気のせいだったのだろうか。



>『ⅩⅧ 月 神郷諒』のランクが3になった



>……


メティス「鳴上さんたちを発見です」

美鶴「急に君の姿が見えなくなったからどうしたのかと思ったら、神郷と天田と一緒だったのか」

ラビリス「もう祭りも終わりみたいやで」


>神社にきてからもう随分と時間が経っていたようだ。

アイギス「あっという間でしたね。でも、楽しかったです」

綾時「僕もだよ。いい思い出が作れてよかった」

綾時「でも、もうこんな時間なんだね。ワンコくんたちをもふもふ出来る時間がなくなっちゃったな」

アイギス「今度時間がある時にでも寮の方へ遊びに来てください。いつでも待ってますから」

アイギス「コロマルさんたちもきっと歓迎してくれますよ」

綾時「ホント!? その言葉、忘れないでよ?」

アイギス「はい」


>楽しい時間があっという間に過ぎてしまった……

>綾時と別れ、名残惜しい気持ちを引きずったままみんなで寮へと帰った。

>……



08/17(金) 晴れ


>夏休みはまだ続いている。

>今日から月末まで駅前の映画館で映画祭というのが行われるらしい。

>人手がいるようで急遽アルバイトに呼ばれ、メティスと一緒に手伝いに行く事になった。

>……


映画館 スクリーンショット


>映画館は普段よりも大勢の人で賑わっている。

>上映が始まるまでは、売店の業務が忙しくなりそうだ。

>……


メティス「えっ、ちょっと、鳴上さん。あれって……」

鳴上「?」

鳴上「あ……」

トリッシュ「ハーイ、並んで並んで! 映画祭期間限定の、砂糖味噌味のポップコーン売り場はココだよー」


>何故かトリッシュが映画館の一角でポップコーンを売っている。

>人がそこそこ並んでいるが、何故か他の映画館の社員はその事に気付いていない様子だ……

>……

>客が劇場に入り上映が始まると周りは一気に静かになった。


鳴上「トリッシュ……こんなところに来てまで商売してるのか」

トリッシュ「Of course! 今月は映画祭で人も多いからネ。いつもは月一での販売だけど、大serviceだよ」

メティス「今までも月に一度はここで売っていたんですか? 知らなかった……」

トリッシュ「でも、最近は泉の方の営業する機会がないから困ってるよ。あれが一番儲かるのにさ」


>トリッシュはなんだか不満そうだ。

>しかし、トリッシュにあの回復の泉の仕事がないというのは、世間は平和だという証拠だ。

>実際、この夏休み中は特に変わった事は起きていない。

トリッシュ「ねえねえ、キミたちもどう?」

メティス「砂糖味噌味……ちょっと、気になりますね。おいくらですか?」

トリッシュ「\1000」

鳴上「高いな……」

トリッシュ「でもよく出るんだよ? 売るのに忙しくなったらキミたちも手伝ってよね!」


>こうして、映画祭の期間中はトリッシュも一緒に加わって働くことになった。



>『ⅩⅣ 節制 トリッシュ』のランクが5になった



>……

>こうして、あっという間に月末がやってきた……



08/31(金) 晴れ


>今日は映画祭の最終日だ。

>しかし夏休みの最終日ということもあって、アルバイトの方は休みになっている。

>最後のこの日、どう過ごそうか……


コンコン


メティス「鳴上さん、いますか?」

鳴上「いるぞ。どうした?」

メティス「今日お暇でしたら、ちょっと付き合っていただいてもいいでしょうか?」

鳴上「いいけど、どこに行くんだ?」

メティス「それが……」

メティス「コロマルさんとパスカルさんが映画を見に行きたいと言っていて……」

鳴上「……」

鳴上「え?」


>……


映画館 スクリーンショット


>仕事ではないが、結局映画館にくる事になってしまった。

>しかし……


メティス「どうしたらいいでしょうね。動物は持ち込み禁止なのは解ってるんですけど」

コロマル「ワン!」

パスカル「バウ!」


>メティスの話によると、コロマルとパスカルは『漢たちの戦い リターン』という映画をどうしても見たがっているという事らしい。

>とりあえずここまで連れてきたはいいのだが、果たして上手く中に入る事が出来るのだろうか。

鳴上「ぬいぐるみを持っているフリをして入ろう」

メティス「……。そんな事でうまくいくんでしょうか?」

鳴上「やってみなきゃわからない! メティスはパスカルの方を頼んだ」

メティス「……了解しました」


>……


女性社員「もう、誰かと思ったら鳴上くんとメティスさんじゃない。ダメよ、こんな事しちゃあ」

女性社員「ペットの持ち込みは禁止って知ってるでしょう?」

女性社員「前にもこんな事してた子がいたけど、まさか二度目があるとはね……とにかく、連れて帰りなさい」


>……どうやらダメだったようだ。

>追い返されてしまった……


メティス「やっぱり無理でしたね」

鳴上「ごめんな。またDVDが出たら、その時一緒に見よう」

コロマル・パスカル「クゥーン……」

メティス「夏休みも今日でおしまいだから、最後にコロマルさんたちとも普段行かないところに行きたかったのに……」

鳴上「……」


>……そうだ。

>夏休みはもう終わるのだ。

>……


【夕方】


自室


>結局、あの後はコロマルたちを散歩に連れていって寮に戻ってきた。

>部屋の扉を開いて中に入ると、部屋の隅にあるガスが抜けて下に落ちた水色の風船に視線がいった。

>あの夏祭りの夜が、もう二週間以上も前の事だとは思えない。

>それくらい、時間の流れが早かったような気がする。

>机の上にあるPCの電源を点けた。

>メールをチェックし、ニュースサイトを巡り、辰巳ちゃんねるに目を通す……

>そうやって、この街に何か奇妙な出来事は起こっていないかいつも気にかけてはいるものの、これといった事はない日々がずっと続いている。

>きっと今日もそうだろう。

>そんな風に考えていると、一件だけ気になるニュースを見つけてしまった。

>今日未明、港区の某所で獣に食い荒らされたような死体が別々の場所で一つずつ見つかったというものだ。

>辰巳ちゃんねるの方も、その話題でそこそこ盛り上がっている様子だ。

>どうやら何年か前に全く別の街でこれと似たような事件があったらしく、その話の詳細を追った。

>……そしてわかったのは、以前起こった事件では『JOKER』なる殺人鬼が、連続猟奇事件を起こしていたらしいという事。

>その当時にJOKER様の噂話というのが流行っていたという事だった。

鳴上「自分の携帯電話から自分の携帯番号に電話して邪魔な人間の名前を言うと、”JOKER様”が殺してくれる……か」

鳴上「自分の携帯から……JOKER様……」

鳴上「噂話……?」


>その話に出てくるいくつかの単語が何故か頭の中で引っかかっている。

>どうしてだろう、これと似たような話を知っているような気がする……


鳴上「そうだ……! 学校で聞いた噂だ!」


>以前ラビリスからもらった学校中の生徒から聞いた噂話をまとめてあるノート引っ張り出してページをめくった。

『携帯電話を使った願いが叶うおまじないみたいなのとか……』

>あの時、ラビリスも一瞬口にしていたような気がする。


鳴上「あった、これだ」

鳴上「自分の携帯電話から自分の携帯番号へかけると……夢を叶えてくれる怪人・ジョーカーが背後に現れる?」


>どうやらさっきネットで見た噂話とは内容が少し違っているようだ。


鳴上「でも、邪魔な人間を殺してくれるっていうのも、ある意味自分の夢を叶えてくれるってのと一緒だよな」

鳴上「……夢を叶えてくれる怪人、か」


>自分の携帯電話を手に取る。

>……なんとなく自分の携帯番号をポチポチと打ち込んでみてしまった。


鳴上「まさか、いくらなんでも……な」

鳴上「……あ」


>しまった、うっかり通話ボタンを押してしまったようだ。


鳴上「……」

鳴上「出るわけないだろ。ないよな」


>少なからず好奇心があったのか、そのまますぐ切らずに携帯を耳に当てて反応を窺ってみてしまった。


鳴上「……」


>……

>少ししてから聞こえてきたのは、留守番サービスセンターへ繋ぐアナウンスだった。

>ピーっという発信音を耳にした後、息を短く吸う。


鳴上「今、どちらですか?」


>そしてすぐに電源ボタンを短く押す。

>待ち受け画面に戻ると、数秒しないうちに着信ありと表示されると共に留守番電話のメッセージがある事を示すマークが点灯した。

>そのマークを選びボタンを押すと再び携帯を耳に当てた。


『今、どちらですか?』


>……間違いない、自分の声だ。

鳴上「ほら、やっぱり」

鳴上「……」


>そんな馬鹿らしい行動をしていると、扉からノックが聞こえてきた。


天田「鳴上さん。ちょっとラウンジまできてもらってもいいですか?」

鳴上「わかった。すぐ行く」


>携帯を机に置いて、部屋を出る事にした。



学生寮 ラウンジ


>一階には寮にいるメンバーが全員集合している。

>皆、ソファに腰を落ち着かせ、テーブルの上には何故か大きな寿司桶が置かれているのが見えた。


鳴上「これ、どうしたんですか?」

美鶴「アイギスの快気祝いと神郷の入寮歓迎のごちそうの話、覚えているか?」

鳴上「ああ。そういえばそんな事言ってましたね」

美鶴「ずっと先延ばしになっていてタイミングを逃してしまっていたが、君たちが新学期に入る前に済ませてしまおうと思ってな」

美鶴「今日は皆が揃っているようだったし、急遽こうして用意したんだ」

天田「明日からはもう学校なんですよねー……はあ、憂鬱だなあ」

天田「これはさしずめ、夏休み最後の晩餐って事でもあるのか」

ラビリス「明日行ったら次は日曜なんやし、どうせやったら3日からでもええのにな」

鳴上「でもどうして寿司? 俺は好きですけど」

美鶴「アイギスのリクエストでこうなった」

アイギス「この間メティスが、テレビに映っていた回転寿司を興味深そうに見ていたのを思い出したので」

メティス「でもこれ回転してないじゃないですか」

メティス「べ、別にお寿司がくるくる回ってるところをこの目で見たかったとか、そういう訳ではありませんけど……!」

諒「……どうでもいいが、早くしないとネタが乾くぞ」

美鶴「それもそうだ。鳴上も早く座りなさい」


>どうやら特上寿司のようだ。

>ジュネスで売っているパックの寿司とは全然違う味がする……!

>よく味わって食べる事にした。

>……


鳴上「ごちそうさまでした」

美鶴「……さて、食事も済んだことだ。明日寝坊しないように、今夜は早いうちに休むといい」

天田「そうですね。学校の準備の確認もしとかないと」

メティス「それではこれで解散ですね」


>皆、自分の部屋へと引き上げていった。

>明日からはもう二学期だ。

>言われた通り早く寝る事にしよう……

>…
>……
>………


自室


鳴上「……ん」


>カーテンの隙間から太陽の光が細く差し込んでいる。

>朝だ。

>清々しい一日の始まり……と言いたいところだが

>9月になったとはいえ、気温は夏と変わらぬままで蒸し暑い。

>長袖の季節はまだ遠いようだ。

>あまりのんびりしていないで、学校に行く支度をしよう

>……


天田「あ、おはようございます」

鳴上「おはよう」

メティス「鳴上さん、天田さん、おはようございます」

ラビリス「おはよー」


>部屋から出て階段をおりるタイミングが皆ほぼ同じだったようだ。

>挨拶もそこそこに、揃って一階へとおりた。



ラウンジ


美鶴「諸君、おはよう」

アイギス「おはようございます」


>アイギスと美鶴が並んで座っている。


鳴上「あれ、桐条さんがこんな朝早くから寮にいるなんてどうかしたんですか?」

美鶴「昨日はここで少し片付けたい仕事があってな。泊まらせてもらっていたんだよ」

鳴上「そうだったんですか」

美鶴「君たちは寝坊せずに済んだようだな。気を付けていってきなさい」

メティス「はい。いってきます」

ラビリス「いってきまー……うわっ!?」


>ラビリスが寮の扉を開けようとしたその時、それは先に勢いよく開いた。

>外から諒の姿が現れる。


美鶴「どうした、神郷。忘れものか?」

諒「っ……」


>諒は走ってここまで戻ってきたようで、肩で息をし呼吸を荒げている様子だった。

>その顔面は蒼白で額には汗が滲んでいる。

>……とても尋常には見えなかった。

天田「ちょっ、大丈夫ですか!?」

美鶴「……本当にどうしたんだ?」

諒「……と……ッ」

鳴上「……?」

諒「外……みんな外を見てくれ……!」


>そう告げると、諒は再びそこから外へと駆け出していってしまった。

>普段の落ち着いた諒からは想像出来ない慌てぶりだ……

>外で何があったのだろう。


鳴上「みんな、神郷さんを追いかけよう!」


>誰よりも早く、寮を飛び出した。

>……


>学生寮を出て少し走ったところに諒は佇んでいた。

>近付くとその傍らに彼と同じくらいの高さの柱が二本立っているのが一緒に目に飛び込んできた。

>……しかし、こんな場所にこんな柱などあっただろうか?


鳴上「神郷さん。それ、何なんですか?」

諒「……鳴上には何に見える?」

鳴上「何って……え?」

鳴上「これって、棺桶……ですか?」


>最初、柱だと思っていたそれは、よく目を凝らして見てみると西洋風の棺のような物体が縦に二つ立っているという事が確認できた。

>まるで地面から生えているような、そんな感じだ。


鳴上「なんでこんな場所に……?」

諒「ここだけじゃない。この近辺一帯にこれと同じものがいくつもあった」

諒「これは……」

美鶴「神郷! ……急にどうしたんだ」


>少し遅れて皆もここまで追いついたようだ。

アイギス「!?」

アイギス「美鶴さん、あれを見てください……!」

美鶴「なッ……これは……!?」

天田「そ、そんな、まさか……嘘、でしょ……?」


>アイギス、美鶴、天田の表情がさっきの諒と同じように一瞬にして青白く変わる。


メティス「この棺はなんですか?」

ラビリス「誰かの忘れ物?」

メティス「忘れるようなものなんしょうか、こういうのって……」


>対して、メティスとラビリスはこの棺はどうしたのかとただ不思議がっているだけだった。


天田「そ、そうだ……!」


>茫然としていた天田がハッと我にかえる。

>そして慌てて携帯を取り出して画面を確認したかと思うと、小さく悲鳴を上げたのだった。


天田「な、鳴上さん……携帯……携帯を見てください!」

鳴上「携帯……?」


>言われるままに携帯を開く。

>時刻はAM7:40

>急がなければいつものモノレールに乗り遅れてしまうかもしれない……そんな頃合いだ。

>しかし、天田が言いたかった事はそんな事などではないとすぐに気が付いた。


鳴上「なっ……」

鳴上「なんだよ、この日付ッ……」


>昨日が08/31だったから今日は09/01の筈……なのに

>表示が9月に変わっていない……

>8月のままになっているのだ。

>……それだけならまだしも

>そこに映っている日数すらも、おかしい。

>何かの見間違いなのではないのかと、その数字を何度も目で追う。

>しかし、いくらそうしたところで表示されている日付が変わる事は……ない。

>ぜろ、はち、さん、  に

>0、8、3、2


鳴上「08/32……!?」


【現在のコミュランク】

 0 愚者  特別課外活動部   Rank 6

 Ⅰ 魔術師 伊織順平      Rank 6

 Ⅱ 女教皇 園村麻希      Rank 5

 Ⅲ 女帝  桐条美鶴      Rank 5

 Ⅳ 皇帝  藤堂尚也      Rank 5

 Ⅴ 法王  メティス      Rank 6

 Ⅵ 恋愛  望月綾時      Rank 5

 Ⅶ 戦車  アイギス      Rank 5

 Ⅷ 正義  天田乾       Rank 6

 Ⅸ 隠者  パオフゥ      Rank 7

 Ⅹ 運命  橿原淳       Rank 5

ⅩⅠ 剛毅  コロマル      Rank 6

ⅩⅡ 刑死者 チドリ       Rank 6

ⅩⅢ 死神  謎のイヤホンの少年 Rank 7

ⅩⅣ 節制  トリッシュ     Rank 5

ⅩⅤ 悪魔  ヴィンセント    Rank MAX

ⅩⅥ 塔   ラビリス      Rank 5

ⅩⅦ 星   星あかり      Rank 5

ⅩⅧ 月   神郷諒       Rank 3

ⅩⅨ 太陽  周防達哉      Rank 7



こんな感じで次回に続きます。ではまた

おつ

エンドレスエイト(影時間)ですねぇ

乙、夏休み延長はいりましたー

審判世界以外は全部揃ったのね
謎のイヤホン少年は一体何ローなんだ・・・


俺にも8月32日を下さい

これ、なんていう僕の夏休み?


      .∧__,∧
      ( ^ω^ )
 きょう夏休み明けたんですか!
  もう休みないんですか!


    n. ∧__,∧n
    ゝ( ^ω^ )ノ
   やった──!



        .∧_,,_∧
        ( ゙'ω゙` )
  夏休み明けてないじゃないすか!



      n.∧_,,_∧n
      ヽ( ;ω; )ソ
       〉    |
      √r─‐ァ.)
      ー''   一
     やだ───!


ペルソナらしくなってまいりました。
そうか、真実を見つけられなかったからフサフサを見れなかったのか
>>786
まだ始まったばかりだ、さっさと宿題片付けちまえ

連日更新嬉しいぜ乙
夏休み延長やったね!でも影時間だから嬉しくねー!

乙!!

>>786
この影時間は多分お前のせいだろwwww
俺も多分当事者だけどwww夏休み終わらなければいいよねwww
もっと続けばいいのにwwww

ぼく夏のバグ思い出した

上げてしまったしにたい

どうもこんばんは。P4U発売前夜で楽しみすぎてはげそうな>>1です。

そんな感じなんで明日からまた投下間隔が遅くなりそうな気配がしてます。

今回は格ゲーでアーケードでやってはいたものの難易度がどんなもんか予測がつかないので、いつ帰ってこれるかも不明です。

とりあえずラビリスがどういうキャラなのか今一度改めてよく確認したいので、それがかなうまで少々お待ちください。

では、また次回まで。

ついに発売か
二年経って成長したP3のキャラ見れそうで楽しみ
更新も気長に待ってます

ゲーセンでP4Uやってる時はクーラ効かせ過ぎだろと思ったもんだが、
自宅でプレイしてるとアレくらい涼しくしても良いかとも思ってしまう。
2罰のエリー達の百物語でも聞いて涼むか。でもアレ百種全部聞けた人っているのかね

マヨナカアリーナなんか所々涙腺ヤバいわぁ……

PS3も箱も持ってない俺はゲーセンまで毎日出張ですわ

>>797
つストーリーモード

P4Uのストーリーモードの話準拠でそれ以降の話をやってくれんかなぁ

p4u裏山
PS3ないから出来ないわ
ってかこのSSの番長ってラストは最強になってんじゃね?
p4メンバーのコミュMAX&ステータスMAX
p3メンバーを始めとしたアトラスオールスターともコミュMAXそしてステータスもMAXに
イザナミ瞬殺されるんじゃね?

>>799
このSSで?公式で?

追いついてしまったー

ペルソナ5がどうなるかなー
3,4の感じでライト層向けか1,2みたいないかにもアトラスって感じか
あるいはまた新しい路線にするのか
まあどっちであっても買うから変わりないけど

>>803
ペルソナ5ってでるの?
女神転生4は発表されたけど

>>804
どっかでちらっと話が出ただけなんだ
どうなるかなーってのはそういう意味も含んでる

きっと鳴上達が食った寿司はがってん寿司に違いない

良く要望は聞くが、5が作られると言うなら教育実習生でという意見は良いと思う。
大人と子供、両方の視点で描ける悩みとか先生として見れる視点の話とか想像すると面白そうだな。

出るかどうか公式の発表もないのにそんな話なんざここでする必要ないだろ。
どーでもいいわ。

それより1はまだか?
ストーリー満喫中か、番長とジュネスは面白かったぞあぁん?

早くペルソナ出さないといけないのに…
何度やってもスペルマしか出ない……
              / ̄ ̄ ̄ ̄\
             /;;::       ::;ヽ
             |;;:: ィ●ァ  ィ●ァ::;;|
             |;;::        ::;;|
             |;;::   c{ っ  ::;;|

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                 /´ ̄`ヽ`ヽ
                 l     l  l          _, -、
                 ヽ    ノヽく      /  (_ノノ

                  i `ー、   )―- 、// ,-/ ノ//
                  ヽ、ヽ_      //  ̄   ̄`}///
                     \ ̄ ― -----/―‐ァ'//

                       `ヽ、  / `'// / /  //
                         l      \
                         ヽ_     \
                            ` - 、   \
                              >    )
                          , -  ̄   _ ,-
                   l⌒`ー ''' ~   _ ―
                    )  r―--- ''''
                   人_っ

>>809

>>809

死ね全力で死ね
マジで死ね
お願いだから死ね

触れんなよお前ら……

なんでAA程度にこんな反応してるの?

なつだからな

上げてるからだろ・・・
夏すぎる

               _, -─ - 、
              , '´        `ヽ
            /             ',
           i .人       `、  i
           {イ\\r. _    i 、 ノ
            从● `ヽ`ヽ  ノ ハ'   とどめだ!コンセントレイト!
            レ⊃、_,、_, ⊂| /`' 人
           >ゝ._) イレ. /ノ )

          く ン大ヒ ̄フ///ヽ

.          </三.\/( く ミ  ゝ
i―――、  i――--、 / //    ./:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ、
`ー―, /  `二二二_ .〔/ /    /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::゙、
  //   .`ーl l―'   /    /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::、:::::::::゙、
 </      .ノ |    /  ,ィ /::::::::::::::::::::ヽ、::::::::::::::::::::::::`ヽ::::::`、
   n     `ー"    7_//:::;:、:::::::::::::::::::::`ヽ::::::::::::::::::::::ヾ、\::ゞ
   ll     | ̄|   /l    /:::::!ヘ、 ヽ、:::::r 、::::`ヽ、:::::::`、::::',::::..!
   ll     `-" / /  / l:::::i! \:::..\ `、ヽ、::::`、:::::::`、::/::::`、
   ll    (`ー' /  ./ i::ト i!ー、\:::::\゙、::::ヽ、`、::::::::!::::r 、::`、

   l|      `ー''"   {! /::r;:! r...ヾ \::::::ヾ:::::::::\、:::::/:::::i! ,::::::::゙,
   |l    /`ー--、    ̄フヘ、ゞ゚.:ノ`ヽ`ヽ;::::!\::::::::ヽ、::::::::!/::::::::::゙,
   ll   ./_/`二) |   /.:::ヾ       `::.... \::::::::゙:::::::::::::::::::::::゙,

   l|     `ー, ./    >::::::::::::ヘ        ::..  `、::::::::::::::::::::::::::::゙,
   |l     //     \..::::::::::ヽ、  ヽ    ::..  /:::::::::::::::::::::::::彡
   ll       ̄      トー-::::::::::::\  ヾー-ァ  ./!::::::::::::/..::::::::/
   ll     r――-、  |\ `ー--;:::::ヽ、`ー  /  i!;:::::::./...:::::/
   |l     _二二二_   i::::::`ー―-":::::::::!`ー<_  く"l|::::::/::::::::/
   l|     `ー―r !  {:::::::::::::::::::::::::::::/    / r-ト''"⌒ ̄ ̄`ー,___,,ヘ、
. n. n. n   //    l::::::::::::::::::::::::::/    r''".:.:ヽ".:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.l|;;;;;::::::::::::!
  |!  |!  |!   '-"      l::::::::::;;-―''" \   /:.:.:.:.:.:.:゙、ヽ.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:i!:.:.:.`i:::::::ヽ、
  o  o  o       ,へ l''"        ゙ /:.:.:.:.:.:.:.゙、\::.::.::.::.::.::.::.::i!:.:.:./ー--..:::ゝ

もう許してやれよ

>>816
なつかしいなぁ

あのころは任意操作ができなかったもんなぁ

>08/32

>そう口にしてみて、改めてその異常さを思い知らされる。

>こんな日付、今までみたこともない。

>本来ある筈のない日。


アイギス「ッ……」

鳴上「! ……アイギス!?」


>携帯の表示に気を取られている隙に、アイギスが急にこの場から走り飛び出していく。


アイギス「近辺の確認に向かいます! 姉さんとメティスも協力を!」

ラビリス「なっ、ちょっ、どういうコト!?」

アイギス「説明は後でちゃんとします! だから、今は急いで!」

メティス「えっ……わ、わかりました!」


>アイギスに急かされ、彼女の後を追ってメティスとラビリスも猛スピードで走りだして行ってしまった。

>この場に残された諒と天田、そして美鶴は信じられないという表情でただじっと道中にある棺をみつめている。


鳴上「……」

鳴上「ただの携帯の故障、って訳でもなさそうですね」

鳴上「この現象に何か心当たりが?」

美鶴「……。心当たりというよりは、こんな現象を以前体験した事があると言った方がいいだろうか」

鳴上「えっ!?」

美鶴「だが……」


>美鶴は言い淀んでいる。

>この状況を受け入れ切れていないのだろうか。

>それは自分も同じだが……


鳴上「アイギスは話を聞かずに行ってしまったけど、神郷さんの話によるとこの周辺にこれと同じものがいくつもあるって……そうでしたよね?」

諒「……ああ」

鳴上「仮にこの現象が桐条さんの知っているものだとするなら、何が起こっているっていうんですか?」

鳴上「この棺は一体……」

美鶴「……」

美鶴「以前、君にも少し話をした事があっただろう」

鳴上「?」

美鶴「……影時間」

美鶴「通常では体感することの出来ない"普通でない時間帯"。この状況は、それと酷似している……ように思える」

鳴上「影時間って、確か三年前の戦いでその存在は消えたって話だったんじゃ」

美鶴「その通りだ」

美鶴「実際、今の今まで私はその時間を再び認知していなかった。天田はどうだ?」

天田「僕もですよ。あれ以来体感したことはなかったし、その象徴化を見るまで今が影時間になっているだなんてまったく気付きもしませんでした」

鳴上「象徴化?」

美鶴「私たちのようなペルソナ使いは影時間においても活動が可能だが、影時間に適性をもたない者はこんな風に棺のような形になってしまう。それを象徴化と呼ぶんだ」

鳴上「つまりこれって元は人間ってことですか!?」

諒「……」


>美鶴は静かに頷いた。


美鶴「とは言ったものの、これは私たちの知っている影時間とはどうも何か違っているように感じてならないんだ」

天田「……。そうですね、それも美鶴さんと同意見です」

鳴上「それはどういう……?」

美鶴「……」

美鶴「いや、そうだと決めつけるにはまだ情報が少なすぎる。今は、アイギスたちが確認から戻ってくるのを待とう」


>……


アイギス「近辺の確認をしてきました。……やはり、これと同じ象徴化だと思われるものがいくつも点在していました」

アイギス「そして、人影らしき人影はどこにも……」

美鶴「……そうか。ご苦労だった」


>アイギスは首を横に振って俯く。

>それに合わせるように美鶴の眉間の皺がより深くなったような気がした。


ラビリス「まさか、今更こんな事が起こるやなんて……」

メティス「象徴化、影時間……私も今になってこの目で直に確認する日がくるなんて思いもしませんでした」


>メティスもラビリスもアイギスから話を聞いたようだ。

>二人も信じられないというような表情をしている。


美鶴「……。鳴上、今は何時だ?」


>美鶴が空を仰いだ。

>太陽の光に目を細めている。


鳴上「時間ですか? えっと、8時を過ぎたところですね」


>携帯に表示されている時刻を確認する。

>普段通りならもう完全に遅刻だ。


天田「8時……」

アイギス「……」

メティス「これからどうしましょうか。一度寮へ戻りますか?」

ラビリス「コロやパスカル置いてけぼりやもんなあ。あの子らの安否も確認せんと」

メティス「コロマルさんはペルソナ使いだから大丈夫でしょうけど、パスカルさんはおそらく象徴化してしまっているでしょうね……」

ラビリス「パスカル……」

鳴上「……ん? ちょっと待て」

ラビリス「どうかしたん?」

メティス「何か気になることでも?」

鳴上「さっきこの周辺に人らしい人はいなかったって言ってたよな?」

メティス「はい。ここにある棺と同じものがあるだけで人も動物の気配もまったくありませんでした」

鳴上「でも、俺たち……ペルソナ使いは普通にこうして身動きがとれる訳だろ」

鳴上「俺たちが知ってるペルソナ使いって、寮にいるメンバーだけじゃないよな?」

ラビリス「そういえば!」

鳴上「なら、その人たちは……」


Pipipipipipipi……


鳴上「!」

美鶴「!?」


>突然、携帯の着信音が鳴り響いた。

>急いで画面を確認する。

>『藤堂尚也』

>そう表示されていた。


鳴上「やっぱり! ……もしもし!」

藤堂『ああ良かった、君のところには通じた。おはよう』

藤堂『なんて呑気に挨拶している場合じゃないか。なんだか外が面白い事になってるみたいなんだが』

鳴上「はい。それはこちらでも既に確認済みです」

鳴上「あの、藤堂さんは今どこに?」

藤堂『それがさ、ポロニアンモールにいるんだよ』

鳴上「ポロニアンモールって……こんな朝からですか?」

藤堂『ん……ちょっとややこしい事情があってさ』

藤堂『俺の他にパオフゥとヴィンセント、それから周防って刑事さんも一緒にいるんだけど……』

鳴上「えっ!?」


>藤堂の言葉に思わず驚いた声を上げてしまった。

>自分たちと同じペルソナ使いである藤堂とパオフゥが象徴化していないのはわかる。

>だが何故ヴィンセントと周防も無事なのだろう。

>それに、どうしてそんな面子がこんな時間にポロニアンモールに集合しているのか……

美鶴「鳴上、電話をかわってくれないか」

鳴上「え? ……あ、はい」

美鶴「もしもし、桐条です。先日はどうも」

美鶴「はい。ええ……おそらく、そうではないかと」


>しばらく美鶴の電話が続いた。

>……


美鶴「……はい。ではまた、後ほど」


>通話が終了し、携帯を返された。


美鶴「鳴上とメティスとラビリス、それから天田。四人には今からポロニアンモールの方へと向かいそこにいる彼らと合流して寮まで連れてきて欲しい」

天田「今からですか!? でも、そこまで行くには……」

美鶴「いや……今電話が繋がった事を考えれば、もしかしたら、という事もあるかもしれない」

鳴上「……?」

美鶴「巌戸台の駅の様子を見て、鳴上や天田も行けそうならそのまま移動してくれ」

美鶴「無理なようなら、大変ではあるだろうがメティスとラビリスだけで頼む。君たちなら電車よりも早く移動出来るだろうしな」

メティス「了解しました」

ラビリス「学校の様子も気になるな」

美鶴「そうだな。そこまで行くのならば、出来る事なら学校の方も確認して貰いたい」

美鶴「特に、天田の目から見てどうだったか後で詳しく聞かせて欲しいところだな」

天田「そうか……! 今が影時間なら……」

天田「学校もまたタルタロスになっているかもしれない……!?」

鳴上「タルタロス……」


>これも以前美鶴から聞いた単語のひとつだ。

>影時間での月光館学園の姿……シャドウが現れる場所だと、確かそう言っていた気がする。


美鶴「私と神郷とアイギスは一度寮に戻りコロマルと合流してから長鳴神社の方面を探ってみようと思う」

美鶴「……っと、その前に。鳴上、私の携帯に一度コールしてみてくれないか?」

鳴上「電話ですか? ちょっと待ってください」


>美鶴の番号を呼び出し通話ボタンを押す。

>ほどなくして、美鶴の携帯から音が鳴った。


美鶴「やはり、電話は繋がるのか」

美鶴「それならそれで都合はいいが……」

美鶴「……」

鳴上「あの……桐条さん?」

美鶴「……すまない。今はここで色々考えるより先に、行動に移ろう」

美鶴「ポロニアンモールにいる彼らには、何かあったら鳴上の携帯に電話するように言ってある。頼んだぞ」

鳴上「解りました」

美鶴「それから、もし他に人の姿をみつけたら保護して一緒に連れて帰ってきてくれ」

美鶴「まあ、そうもいないとは思うのだがな……」

美鶴「では、各自行動を開始だ!」


>……


巌戸台駅周辺


>駆け足で駅の近くまでやってきたが、その間にすれ違ったのはやはりあの西洋風の棺だけだった。

>車が走っている様子もまるでない。

>いつかの劇場の中の世界にも似たような空気を感じる……

>景色は見慣れたものの筈なのに、人の営みというものがここには全く存在していなかった。


天田「……」

天田「ここまで来ておいてなんですけど、やっぱりモノレールは使えないと思います」

鳴上「どういう事だ?」

天田「影時間の間って機械とか電気とか全部止まっちゃうんですよ」

天田「例外として、黄昏の羽根っていうのが組み込まれているものについては別みたいなんですけど」

天田「アイギスさんたち姉妹とか、あと僕らが持っている召喚器なんかがそうだった筈です。詳しい事はよく知らないんですけどね」

メティス「そうですね」

ラビリス「確かに、ウチらん中にはあるよ。黄昏の羽根」

鳴上「そんな原理があったのか」

鳴上(あれ? でもさっき……)

天田「だから交通機関も全部ストップしていると……え?」

天田「この音は……!?」


>ガタンガタンという音が遠くからこちらに近付いてきているのがわかる。


メティス「電車の音、ですね」

ラビリス「……うん。それに、モノレールの音もしてる。まだここから少し遠いけど、間違いなくこっちに向かってきてるわ」

天田「そ、そんな!?」

鳴上「動く筈のない電車とモノレールが動いてる、か」

鳴上「……」

鳴上「さっきの天田の話だと、黄昏の羽根ってのがなければ携帯だって通じない筈だよな?」

鳴上「でも俺の携帯はここに来る以前から使用しているものだし、改造してもらったりなんかもしていないんだぞ?」

天田「……そうなんですよね。僕もさっきの電話は気になっていたんですけど」

天田「どういう事なんだろう……」

メティス「ちょっと、駅の中を見てきます」

鳴上「あっ、おい!」

>メティスは駅の階段を素早くのぼっていってしまった。

>……

>再び電車が走り出す音が聞こえ、それからさほど時間も経たないうちにメティスが戻ってきた。


メティス「駅は象徴化の棺を除けば完全に無人でした」

メティス「たった今ここから出ていった電車の中もそうです。……でも、運転手すらいないのに勝手に動いていた」

天田「っ……」


>天田は絶句している。


鳴上「なんだか気持ち悪いな……」

ラビリス「あと一分弱でモノレールが着くで。どうする? 乗ってく?」

鳴上「そりゃ、乗れればあっちまで行くのは楽だろうけど」

メティス「迂闊に乗り込むのは非常に危険だと思います」

鳴上「なにせ無人だもんな」

鳴上「でも、それ以外に行く手段が……」

メティス「ありますよ」

鳴上「え?」

メティス「ムーンライトブリッジです。あそこを通ればポロニアンモールのある人工島へ行けます」

鳴上「ああ、あそこか」

鳴上「……いやいや。あっちから行ったら時間がかかりすぎだろ。歩いて行くしかなくなるじゃないか」

ラビリス「悠。さっきの美鶴さんの言葉、聞いてへんかったの?」

ラビリス「ウチらの足なら電車より早いんやで?」

鳴上「ラビリスとメティスはな。でも、俺と天田は……」

ラビリス「だーかーらー、こうすればええんよ!」

天田「え、……うわぁっ!?」


>ラビリスは唐突に天田の体を持ち上げた。

>その形はいわゆるお姫様抱っこと呼ばれるものだった。


天田「ちょっ、ちょっと! ラビリスさん!?」

メティス「……ああ!」


>メティスが何かを理解したかのようにぽんと手を打って頷く。


ラビリス「メティス。悠の事は任せたで!」

メティス「わかりました。お気をつけて」

ラビリス「乾! ウチにしっかりつかまっとき!」

天田「へ? う、……わああああああああああ!?」


>ラビリスが地面を蹴ると巻き起こった風を残して瞬く間にその姿は消えてなくなってしまった。

>天田の叫び声も遠のいていく……

>そして、……身体が宙を浮くような感覚を覚えた。

鳴上「ッ!? なっ、メティス!?」


>気付いた時にはもうメティスに背負われるような形になっていた。


メティス「振り落とされないように首にしっかり腕を回しておいて下さいね」

鳴上「い、いや! これはちょっと……!」

メティス「いいですか、行きますよ!」

鳴上「話を聞っ……わああぁぁぁぁッ!?」


>……



ポロニアンモール


ラビリス「なあ、二人とも大丈夫?」

天田「よ、酔った……」

メティス「あれでも人体に大きな負担がかからないようにしたつもりだったんですけど」

鳴上「人間ってな、そんなに丈夫に出来た生き物じゃないんだよ……」


>しかし、彼女たちのおかげで想定したよりも大分早くここまで辿り着けたのはいい事だった。

>すぐに藤堂たちと合流しなければ……

>……


藤堂「鳴上!」


>噴水の前で藤堂が手を振っているのが見えた。


藤堂「随分と早かったな。もっと時間がかかるかと思っていたけど」

鳴上「ええ、まあ。それは俺もです」

藤堂「ん? なんだか顔色が悪いな。大丈夫か?」

鳴上「……それは気にしないでください」

鳴上「って、あれ? 他の人は?」


>この場にいるのは藤堂だけだった。

>電話で聞いていたその他の人物たちの姿は何処にも見当たらない。


藤堂「ヴィンセントはエスカペイドの中で待機してもらってる」

藤堂「パオフゥはおまわりさんと一緒にこの辺をもう少し詳しく見て回ってくるって」

鳴上「そんな! 何が起こるかわからないのに……!」

藤堂「そう遠くまでは行かないって言ってたし、パオフゥだって立派な大人でペルソナ使いの一人だ。いざという時の対処くらい心得てるさ」

藤堂「それよりも、あのおまわりさん……肝が据わってたな。この異様な状況でそれほど狼狽えているようには見えなかったし、結構冷静だった」

藤堂「まったく、ヴィンセントも見習って欲しいもんだ」


>藤堂は笑っている。

>そんな事を言っている彼こそこの状況で大した余裕だと、そう思った。

藤堂「えーと……そっちの少年とお嬢さん二人もペルソナ使いか」

藤堂「あ、黒髪の彼女は一度会った事があったか」

メティス「はい。その節はどうも。お久しぶりです」

メティス「そういえばきちんと自己紹介をしていませんでした。メティスと言います」

ラビリス「あっ、ウチはそのメティスの姉のラビリス言います。よろしゅう」

天田「えと、天田乾です」


>皆、つられるように簡単に自己紹介をする。


メティス「……。話には聞いていましたが、藤堂さんも本当にペルソナ使いだったんですね」

藤堂「まあな」

メティス「それからパオフゥさんという方もペルソナ使いで……クラブの方にいるのは?」

鳴上「あの人は違うよ」

メティス「そうですか。周防さんは私たちの事情は知っていてもペルソナ使いではないという話だった筈。そうですね?」

鳴上「そうだな。……どうした? 改まってそんな事聞くなんて」

メティス「いえ……」

藤堂「へえ。あのおまわりさん、鳴上たちと繋がりがあったのか。どうりで……」

藤堂「っと、鳴上たちも来たんだし、パオフゥに連絡しないとな」

藤堂「そっちの三人はここにいない連中が来るまでちょっとクラブにいるオッサンの相手してやってくれないか。少し錯乱気味だけど」

鳴上(そうだよな、そりゃあ錯乱もするって……それが普通の反応だよな)

鳴上「頼んでいいか?」

メティス「ええ、わかりました」


>メティスとラビリスと天田はクラブの方へと向かって行った。

>藤堂はパオフゥへと電話をかけている。


藤堂「……ああ、そうだ。すぐ戻れそうか? ……え?」

藤堂「本当か? そうか……わかった。鳴上にも伝えとく」

藤堂「ああ。じゃあ、また後で」

鳴上「どうかしましたか?」

藤堂「ああ、それがさ。パオフゥたちが若い男女を保護したって」

鳴上「!」

藤堂「しかもそのうちの一人にペルソナの共鳴を感じたそうだ」

鳴上「ペルソナ使い!?」


>ここにきてまたペルソナ使い……

>その心当たりはまだいるにはいるが……

藤堂「一緒に連れてくるってさ。大丈夫だよな?」

鳴上「はい。それは平気です」

藤堂「そうか。……じゃあ、鳴上。パオフゥたちが帰ってくる前に少し確かめて欲しい事があるんだが」

藤堂「こっちへ来てもらえるか」


>そう言って、藤堂は交番脇にある路地の方へと歩き始める。

>あっちは……

>……


鳴上「……え」

鳴上「な、これは、何で……!?」

藤堂「……」

藤堂「やっぱり君もか」


>藤堂は溜息を一つ吐く。

>今まで余裕を見せていた彼の表情が一瞬翳った。


藤堂「ここにあったベルベットルームの扉……見えなくなってる、よな?」

鳴上「は、はい。確かにここに青い扉があったはず、なのに……!」


>この路地の最奥にあった扉が跡形もなく消え去っている。

>……道は続かない、ただの行き止まりだ。


藤堂「有事の際はきっと世話になると思ったのに、まずったな……」

藤堂「……こんな時に使えないでどうすんだよ」

鳴上「……」

鳴上(イゴール、マーガレット……)


>壁を叩く拳の虚しい音が鈍く響いた……


久しぶりでしかも短いですが終わります。

また次回。


歴代ペルソナ使い集合とか胸熱

ベルベットルーム使えないとかやばいな

中の人いないもんな…

いつの間にか来てた乙

いないのはキタローだけか。
ハム子は特殊な条件だけど、いないわけじゃないさ。

ハムタロー「コンゴトモ ヨロシクナノダ」

ハム子とキタローを悪魔合体させんなww

>>835
むしろノーマルスプレッドかと

キタローとハム子合体なんてコミュ力超絶高い爽やかイケメンか青髪カリスマクールビューティーの二択しかないだろうが。

合体事故が起きて根暗系コミュ力絶無が出来るかもしれない

ふたなr・・・おっと配達屋が来たようだ

胸は熱くなるし、扉消えて少し怖いし、面白いなほんとに。

番長終盤で召喚機投げ捨てて大神召喚しそう

番長最後召喚器投げ捨てて大神召喚しそう

そういえばノーマルエンドなんだもんなぁ

やっぱり、いつかはイザナミとの決戦に臨むのかね?

考察厨うぜぇ

考察……?

正しくは予想厨だったねごめんね

鳴上「……! そうだ、俺たちアレも持ってるじゃないですか!」

鳴上「悪魔召喚プログラム!」

藤堂「……。それは俺もすぐに気付いたよ」

藤堂「でも、俺のは……」


>藤堂は首を横に振る。


鳴上「え? ま、まさか……!?」


>急いで携帯を取り出し、悪魔召喚プログラムのアプリを選択する。

>しかし、画面自体は開くものの、リリムを選択しても彼女は姿を現してはくれなかった……


鳴上「リリム! おい、リリム!」

藤堂「やっぱり呼び出せなかったか……」

藤堂「俺のもまったく操作が出来なくなっている。昨日まではそんな事なかったのに」

鳴上「くそっ、なんでだよ!」


>消えたベルベットルーム、操作不能の悪魔召喚プログラム。

>これでは、今以上の非常事態が起こった場合どうすればいいのか、不安が大きい……


藤堂「ま、こうなった以上は仕方ない。今のところは悪魔なんかが姿を現していないのが不幸中の幸いだな」

鳴上「……」

藤堂「そんな顔するなって。君はリーダーなんだろう? 上に立つ人間が今から弱気になってたらダメだぜ」

藤堂「それに、今回は俺やパオフゥもいる。君たちの力になれるって事だ」

藤堂「だから案外すぐどうにかなるかもしれないぜ?」


>藤堂は肩を軽く叩き笑みを浮かべる。

>その言葉に心強さを感じた。


鳴上「藤堂さん……」

藤堂「……大丈夫。な?」


>彼のおかげで少し落ち着きを取り戻せたような気がした。

>藤堂との絆が深まったような気がする……



>『Ⅳ 皇帝 藤堂尚也』のランクが6になった



藤堂「さて、俺たちもエスカペイドの方でパオフゥたちがくるのを待とうか」

藤堂「ヴィンセントに早くお前の顔も見せてやれよ。そうすれば少しは落ち着くかも」

鳴上「はは……そうですね、行きましょう」


>……

クラブ エスカペイド


ヴィンセント「な……鳴上ぃー!」

鳴上「うわっ! ヴィンセントさん!?」


>こちらの姿に気付いたヴィンセントが情けない声を上げながら飛びついてきた。


ヴィンセント「今度は一体何が起こってんだよ!? 外は変な棺だらけだし、何時の間にかこんな場所にいるし、家に電話は繋がらねえし……一瞬俺の頭がまたおかしくなったのかと思ったじゃねえか!」

ヴィンセント「これも悪魔か!? 悪魔の仕業なのか!?」

鳴上「ちょ……く、苦し……」


>ヴィンセントは襟首を掴みながらガクガクと揺さぶってくる。

>相当な取り乱し様だ。


ラビリス「このオッサン、さっきからずっとこの調子やねん」

天田「まあ、無理もないですけどね」

メティス「……。どうしますか?」

鳴上「……」


>『どうしますか?』

>メティスのこの言葉の意味はおそらく、一般の人間にこの影時間についての説明をしてもいいのかという事だろう。


鳴上「……ヴィンセントさん、一回腰を落ち着けてください」

ヴィンセント「お、おう。ワリィ……」


>ヴィンセントは離れると、椅子に腰を下ろして一度深呼吸をした。


鳴上「こちらから話をする前に少し聞きたい事があります」

鳴上「さっき、何時の間にかこんな場所にいたって言ってましたよね? それって……」

ヴィンセント「あ、ああ! それなんだけどさ」

パオフゥ「このポロニアンモールにいた連中皆そうだぜ」

鳴上「!」


>入口の扉が開く音を耳にし、声がする方を振り返る。

>そこには、パオフゥの姿があった。


鳴上「みんな?」

藤堂「……そ、みんな。一か所に集合してたって訳でもないんだけどさ」

パオフゥ「俺とヴィンセントはこのクラブの中」

藤堂「俺は辰巳東交番前で」

達哉「……俺はその交番の中にいた」

>パオフゥの後ろから続くようにして周防が姿を現した。


達哉「こっちの二人も、話を聞く限り似たような状況だったみたいだな」


>周防に中に入るように促され、さらにその後ろから二つの人影が現れる。


天田「えっ、順平さん!? それに……」

メティス「チドリさんじゃないですか!」

順平「あ? え、なんでお前らがここにいんの?」

チドリ「悠……?」


>どうやらパオフゥたちが保護した若い男女というのが彼らの事だったらしい。

>お互いの姿にお互いが驚いている。


藤堂「君たちの知り合いだったか。なら、色々と都合が良さそうだ」

鳴上「そうですね。これで人も揃ったみたいだし、一度落ち着いて皆さんの話を改めて初めから聞かせてもらってもいいですか?」


>皆にそれぞれ腰を落ち着けるように促し、これまでの経緯を聞く事にした。

>……


鳴上「……じゃあ、皆どうしてその場所にいたのかさっぱり理由がわからないんですね?」

パオフゥ「ああ。こんな場所まで来た覚えもねえ」

ヴィンセント「昨夜は家で寝ていた筈なのに、ふと目開いたらあのカウンターの席に座っててさ。最初は夢でも見てんのかとも思ったけど……」

順平「俺なんか港区自体にいた覚えもないんだぜ?」

鳴上「順平さんとチドリはポートアイランド駅前付近にいたって言ってましたよね。その近辺の様子はどうでした?」

順平「ここと一緒だよ。俺たち以外に人の姿がまるっきりなくてさ」

チドリ「代わりに棺がいっぱい」


>チドリは持っていたスケッチブックを捲って見せてきた。

>駅前の風景だと思われる絵が描かれている。


順平「まったく大したヤツだよ、チドリは……明らかに異様な空間の中、平然とした顔でずっとその絵描いてたんだぜ?」

チドリ「だって、なんか面白かったし。順平は騒ぎすぎ」

順平「そりゃ騒ぐだろ。だってあれは……なあ天田、そうだよな?」

天田「……」

天田「あの、順平さん。ポートアイランドの駅のモノレールってどうでしたか?」

順平「……モノレール! そうだよ、そうそう! 動いてたんだよ、モノレール!」

順平「だから、俺も最初は夢見てるのかと思っててさ。あれ一体どういう事なんだ?」

天田「やっぱりそうなのか……」


>順平も天田も怪訝な顔をしている。


順平「それにさ、おかしいだろ。なんでこんな時間まで続いてる訳?」

チドリ「? 続いてるって、何が?」

順平「あっ! えっ、と……」

>順平は、はっとなって口を閉ざし困っていた。

>その様子だとチドリに影時間についての事を詳しく聞かれたくないのかもしれない。

>しかし、順平の言葉には自分も引っかかるものを感じていた。


鳴上(なるほど。本来なら『影時間がこんな時間まで続いてるのはおかしい事』、なのか)

鳴上(どういう事なのかはよくわからないけど。……一度、桐条さんに影時間についての基本的な情報をもう少し詳しく聞いてみる必要があるか)

鳴上「皆さん、情報をありがとうございます。結局、現段階ではどうしてこんな状況に追い込まれたのか何もわからないってのがわかっただけって事ですね」

メティス「鳴上さん。これ以上話せる事もなさそうなら、そろそろ移動した方がいいのでは」

鳴上「ああ、そうだな」

達哉「移動? 何処にだ?」

鳴上「これから先、何が起こるのか何も起こらないのか……それすらもわからない状況です。だから、ここより安全な場所に避難してもらおうかと」

藤堂「桐条さんが電話で言ってたな。無事な人間は一度君たちの学生寮へ集まろうって話だったか」

鳴上「はい。少なくとも、ここにずっといるよりはマシだと思うので」

達哉「そうか。わかった」

達哉「幸い近くに捜査車両と俺のバイクが停めてあった。一度に全員を連れて行くのは無理だろうが、それを使えば移動出来るだろ」

天田「その車、使えるんですか?」

達哉「ああ。さっき確認したが、エンジンは普通にかかる」

天田「……。そうですか」

鳴上「俺たちはこれから月光館学園の方を見てこようと思いますので……」

ラビリス「刑事さん、みんなの事よろしゅうな」

メティス「信号は機能していないようですが、他に車が走っている様子も道路に変わったところも見られませんでしたので、移動に差し支えはない筈ですから」

達哉「ちょっと待て。お前たちだけで行くのか? いくら人数がいるとはいえ、この非常時にこれ以上未成年だけで好き勝手に行動するのは……」

藤堂「じゃあ、俺が鳴上たちについていこう。それならいいだろ?」

達哉「そういう事なら俺の方が」

藤堂「いや、おまわりさんはパオフゥと一緒にヴィンセントとそっちの帽子の少年とゴスロリのお嬢さんの護送を頼むよ」

達哉「しかし……」

パオフゥ「うだうだ言ってねえで行くぞ、達哉。そいつらにはそいつらのやる事があんだろうよ。ガキ共の事は、今は藤堂に任せとけ」

達哉「……」

パオフゥ「ったく、テメェも頭が固くなったな。面影から何までどんどん兄貴みたいになりやがって……」

達哉「アニキの事は関係な……、?」

達哉「アンタ、俺のアニキの知り合いだったのか?」

パオフゥ「……。まあな」

パオフゥ「いいから行くぞ」


>パオフゥは一足先にクラブから出ていってしまった。


達哉「お、おい!」

達哉「……はぁ。仕方ない、ここは藤堂さんに頼むとしよう」

藤堂「ああ。こいつらは責任もって預かるよ」

達哉「くれぐれも無茶な事だけはしないようにお願いします。鳴上たちもだぞ」

鳴上「はい、わかっています」

達哉「……よし。じゃあ行こうか」

順平「へーい。ごめんな、鳴上。先にチドリとあっちに行かせてもらうわ」

チドリ「……また後で」

ヴィンセント「何するか知らねえが、早く帰って来いよな」

ヴィンセント「……あ。そうだ、刑事さん。ちょっと頼みたい事があんだけど……」


>4人も続いて外へと出て行った。


鳴上「藤堂さん、いいんですか? 一緒に寮の方へ行かなくて」

藤堂「ああ。俺もお前たちだけで行動させたくなかったからな」

ラビリス「そこまで心配せんでもええのになあ」

藤堂「いくらペルソナ使いだからって言っても、子供を守るのは大人の義務だって事にかわりはないんだよ」

藤堂「それに、こういった不思議な事に理解ある大人が一緒にいるのって凄く良い事だと思わないか?」


>藤堂はおどけたようにそう言って笑った。

>まったくもって彼の言う通りだと思う。


鳴上「ありがとうございます。助かります」

鳴上「じゃあ、俺たちも早く行こう」


>この場に残ったメンバーで月光館学園を目指した。

>……



月光館学園 校門前


天田「これは……」

鳴上「どうだ、天田。何か気になるところは?」

天田「……。いえ、特に見当たりません」

天田「皆さんも見ての通りです。外観は普通に学校のままですね」

天田「とりあえず、少し安心しました」


>天田はほっと息を吐いた。

>どうやら、タルタロスに変貌しているというような事はないらしい。

>だが……


メティス「あくまで見かけは普通の学校ってだけですよね?」

藤堂「中に入ってみたら一面氷漬けになってて異界と繋がってたりとかはもう勘弁だなー」

ラビリス「え? 何それ」

藤堂「本当にあった学校の怖い話」

藤堂「お前たちは人の忠告を無視するような子になるんじゃないぞ」

鳴上(……昔何があったんだろう)

天田「まだ油断はしない方がいいか。……そうですよね。慎重にいきましょう」

鳴上「ああ。みんな、離れないようにな」


>周りに十分注意を払いつつ、学校の中へと入った。

>……



月光館学園 玄関


>足音を立てないようにしながら歩みを進める。

>どうやら今のところ目に見える範囲も普段の学校にかわりないようだ。

>するとそこで、購買付近に何かの気配を感じた。

>初めは考えられる可能性として象徴化の棺かと思ったが……どうやら違うようだ。

>1、2、3、……全部で4人。間違いなく人の姿が確認出来る。

>そのうちの一人が、こちらが声をかける前に手を大きく振って呼びかけてきた。


麻希「鳴上くん!」

鳴上「園村先生!? と……」

綾時「あ……」

淳「君たち、無事だったかい!?」

あかり「メティスちゃん! ラビリスちゃん!」


>4人のうちのひとり、あかりがメティスとラビリスの方へ駆け寄ってきて飛びついた。


メティス「あかりさん!? まさか貴女までこんな空間にいるなんて……」

ラビリス「怪我とかしてへんか?」

あかり「うん、それは大丈夫。でも……学校がなんか変なんだよ!」

綾時「僕たち以外に人らしい人がいなくてね。建物自体に異常はないみたいなんだけど」

淳「教室も体育館も職員室も妙な棺みたいな物があるだけなんだ」


>綾時もあかりも橿原もすっかり憔悴してしまっている。


麻希「でもさっき桐条さんから電話をもらってね。学校にいるって言ったら、鳴上くんたちがここに向かっている筈だから待っていてくれって言われたからここに待機していたの」

鳴上「そうだったんですか」

鳴上「あの、先生たちは今日普通に学校へ出勤してきたら既にこんな事になっていたんですか?」

鳴上「望月やあかりも、登校してくるまで何も気付かなかったのか?」

綾時「それが……」


>その場にいた4人は顔を見合わせている。


麻希「みんな気付いたら学校にいたみたいなの。どうやってここまで来たのかっていう記憶がなくて……」

綾時「そう。僕は何故か学校の校門付近にいて」

あかり「私は美術室」

淳「僕は渡り廊下の花壇の前だね」

麻希「私がいたのは保健室だった」


>どうやら彼女たちもポロニアンモールにいた藤堂たちと同じような状況だった事がわかった。

鳴上「……これ、どういう事なんでしょうね」

藤堂「……」

鳴上「藤堂さん?」


>さっきからずっと黙っている藤堂に声をかけてみたのだが返事がない。

>じっと何かを見つめているようだが……その視線の先にいたのは麻希だった。

>それに麻希も気が付いたのか、彼と視線を合わせる。


麻希「……え? 藤堂、ってまさか」

藤堂「園村……園村だよな?」

麻希「えっ! うそ! やっぱり藤堂くん!?」

麻希「やだ私、今まで気付かなかった……なんで鳴上くんたちと一緒にいるの!?」

藤堂「まあちょっとした知り合いでさ。本当に久しぶりだな、園村」

麻希「うん、久しぶり。まさかこんな時にこんな形で再会しちゃうなんてね」

鳴上「二人は知り合いだったのか」

綾時「へえ、なんだか運命の再会って感じじゃない?」

あかり「ね。こんな状況下で昔から知り合った男女が再び巡り合うなんてね」

ラビリス「ちょっと素敵やわあ」


>綾時たちはなんだか面白そうに小声で囁きあっている。……呑気なものだ。


藤堂「俺たち高校時代の同級生なんだよ」

鳴上「なるほど、それじゃあ……」


>麻希が以前言っていた彼女を支えてくれた友達のひとりがおそらく藤堂なのだろう。

>彼らの間にもきっとかけがえのない絆があるに違いない。

>懐かしそうに話をしている二人の様子を見ただけでもそれが感じられた。


Pipipipipi……


>その僅かに和やかになった雰囲気に割って入るように突然携帯が鳴り響いた。

>どうやら自分の携帯に着信がきているようだ。

>画面には『桐条美鶴』と表示されている。

>急いで通話ボタンを押した。


鳴上「もしもし」

美鶴『鳴上か。そちらの首尾はどうだ。学校の方へは着いたのか? どうやら園村先生と他数名の人間がいるらしいんだが』

鳴上「はい。それなんですが……」


>美鶴に麻希たちと合流した事と学校自体に異常はなさそうな事を伝えた。


美鶴『……そうか。ご苦労だった』

美鶴『こちらはもう寮の方へ戻っている。周防さんを始めとした5人の無事も確認できた』

鳴上「桐条さんたちの方は誰か人を発見したりはしなかったんですか?」

美鶴『ああ。人の姿は見つからなかったな。近くにいる可能性のある私が知る我々以外のペルソナ使い達の何人かにも連絡を取ろうとしてみたが……無駄だった」

美鶴『だがかわりに、長鳴神社で以前世話になった妖精に出会ったよ』

鳴上「トリッシュですか?」

美鶴『そうだ。何かあった時のためにあの回復の泉へ寮から直接行けるようにして欲しいと頼んだら快く引き受けてくれたよ』

鳴上「そうですか……」


>でもおそらく何時ものようにタダで回復はしてくれないのだろう……

>しかしそれでも、トリッシュの協力が得られた事は良い事だった。

>多少金はかかるとしても治療に困るような事はなくなった訳だ。


美鶴『今、そちらに周防さんが車で向かっている。もう特に何も無いようならば、彼と一緒にこちらへ戻ってくるといい』

鳴上「わかりました。それじゃあ、また後で」


>美鶴との通話を終了し、携帯をしまった。

>そして、この場にいる全員に迎えがくる事を伝える。


淳「鳴上くんたちのいる学生寮へ行くのかい?」

鳴上「はい。この学校よりは安全な場所の筈ですよ。他に見つかった人たちもいますし」

綾時「じゃあ、これからの事はそこでみんなと決めるって事に?」

鳴上「そうなるだろうな」

あかり「寮ってどんな感じなの?」

ラビリス「ちょっと古いけどそれなりに快適やで」

メティス「この人数でも生活に困るという事もないと思います。空いてる部屋はまだあるし、寮というよりもホテルっぽい感じもしますからね、あの場所」


>周防が着くまでの間、大人しくその場で固まって待つ事にした。

>……とその時、視界の端に一瞬白い影を見たような気がした。


鳴上「……?」


>玄関の方から曲がって職員室へ続く廊下の方へ何かが横切ったような気がしたのだが……

>購買の前から離れ、そちらへ行ってみる事にした。


鳴上「あれ?」


>しかし職員室前の廊下にはさっき見たような影らしきものは何もない。

>ただ、何故か図書室前の廊下に一冊の本が落ちているのが確認出来た。

>拾い上げ表紙を見てみる。

>タイトルらしきものは見当たらないのだが、筆者の名なのか『ハインリヒ・ハイネ』とだけ書かれてある。

>ぱらりと捲ってみたものの中身は真っ白い頁が続いてるだけのようだ。

>と思いきや、真ん中あたりにしおりが挟まっていたようで、開いてみるとその頁だけ何か文章が書かれているようだった。

>ざっと見たところ詩のように思える文なのだが……


淳「どうしたの、鳴上くん。あまりみんなから離れたらダメだよ」

鳴上「……あ。すみません」


>背後から聞こえてきた声に驚いて本を閉じた。

淳「その本は?」

鳴上「ここに落ちていたんですけど」

淳「え? さっきそんな物ここにあったかな……」

淳「とにかく、迎えが来るまでみんなと一緒にいよう」

鳴上「はい」

鳴上「……」


>結局、さっき見たものは何かの勘違いだったのだろうか。

>疑問も残るが、本を持ったまま皆のいる場所へ戻る事にした。

>……



学生寮


>周防に二度車を往復してもらい、学校にいた人間も全員学生寮に集まる事となった。

>周防はその二度目の時に交番から武器と防具もあるだけ回収してきたようで中へ運び込むのを手伝った。

>一階のラウンジには先に寮へ集まった者たちが勢揃いしている。

>普段この場で見慣れない人間がこうも大勢集まっているのを見るのはなんだか不思議な気分だ。

>そして他に変わった事といえば、学生寮入口のカウンター奥にある扉が何時もと違いうっすらと青白く光っているという事だった。

>今朝寮から出た時はこうではなかったのだが……

>その扉がガチャリと半分開く。

>急な事で一瞬驚いたが、内側から顔を出したのは……トリッシュだった。

>ひらひらとこちらに手を振るとすぐに顔を引っ込めてしまったが、どうやらトリッシュの泉が繋がっているのがあの扉という訳のようだ。


『ジュネスは毎日がお客様感謝デー! 来て、見て、触れてください!』

『エブリデイ ヤングライフ ジュ・ネ・ス~♪』

鳴上「!?」


>突然聞き覚えのあるフレーズが流れ始めた。

>誰かがラウンジにあるテレビを点けたようだ。


藤堂「ふーん、テレビも映るのか」

『ジュネスは毎日がお客様感謝デー! 来て、見て、触れてください!』

『エブリデイ ヤングライフ ジュ・ネ・ス~♪』

『ジュネスは毎日がお客様感謝デー! 来て、見て、触れてください!』

『エブリデイ ヤングライフ ジュ・ネ・ス~♪』

『ジュネスは毎日がお客様感謝デー! ……』


>しかし、ただ延々と狂ったようにジュネスのCMが流れ続けているだけのようだ……


藤堂「……」

『ジュネスは毎日がお客様感謝デー! 来て、見て、触れてください!』

藤堂「エブリデイ ヤングライフ ジュ・ネ・ス~♪」


>藤堂のなんともいえない歌声がテレビの音と重なった……

麻希「……。藤堂くん、なんていうかその、……相変わらずだね」

鳴上(……やっぱり菜々子の歌が一番だな)

藤堂「?」


>ジュネスのCMを眺めている藤堂はさて置き、改めてこの寮にいる人間の様子を確認してみる事にした。

>こんな異様な状況下に置かれながらも、今は皆それほど慌てている様子もないようだったが……

>ただその中で、ヴィンセントとコロマルが際立って大人しすぎるように思えた。

>意気消沈、とでも言った方がいいのか。

>周防から聞いた話だと、ヴィンセントを寮へ連れてくる際その前に一度彼の頼みでヴィンセントの自宅に寄ってみたらしいのだが、概ねそれが原因らしい。

>家族の安否をその目で確認したかったようだが、彼の家には彼の奥さんも娘もおらず棺が二つあっただけなのだという……

>ラウンジ奥にあるカウンター席に腰をかけてため息を吐く姿がなんとも痛々しく見えた。

>そして、コロマルはというと……


ラビリス「パスカルの姿がどこにも見当たらないんやて」

鳴上「やっぱり象徴化していたのか」

メティス「いえ、それすらも見当たらないようなんです」

鳴上「なんだって?」

ラビリス「あちこち探したけどそれっぽいのがなくて。それでコロのヤツ、あんなに落ち込んでしもうて……」

コロマル「クゥーン……」


>コロマルは身を丸めるようにして伏せ、弱々しく鳴いている。

>パスカルは何処へ行ってしまったのだろう……


美鶴「みんな、少しいいか」


>美鶴に声をかけられ、階段下に特別課外活動部のメンバーだけが集められた。


美鶴「とりあえず今出来る限りの事はした状態だ。今日はこのまま全員寮に待機してもらって、0時を迎えるのを待とうと思うのだが異論はないだろうか」

鳴上「俺はそれでいいと思います」

アイギス「今、闇雲に動くのは得策ではないでしょうからね」

メティス「これ以上何も出来そうにないなら、……今は仕方ないですね」

ラビリス「でもなんで0時やの?」

美鶴「このまま0時になればもしかしたら影時間から抜け出せるという事もあるかもしれないと思ったからだ」

天田「そうか! 08/32の意味は08/31と09/01の間の時間……一日と一日の間にある存在しない筈の時間」

天田「つまり、この丸一日が今までの影時間と同意義なのかもって事ですね」

美鶴「そうだ。もしそうなら、なんとも長い影時間だな」

鳴上「どういう事ですか?」

美鶴「簡単に言えば今まで体験した我々が知っている影時間は、0時を迎えた後に数時間ほどだけあるようなごく限られた間だけのものだったという事だ」

美鶴「その間に陽が昇ってしまうというような事も今まではなかったんだよ」

天田「こんなに長いのは初めてですよね」

鳴上「そうだったのか……」


>これも美鶴たちがこの影時間に不審な様子を見せていた原因のひとつなのだろう。

アイギス「悠さんは体調を崩したりはしていませんか?」

鳴上「え? いや、特には」

天田「あっちにいるみなさんも、とりあえず大丈夫そうだけど……影時間がこれ以上長く続くのは不安ですね。美鶴さんの予想通りになって欲しいんですけど」

美鶴「私たちでも影時間の中で活動を続けていたら堪えるというのに、一般の彼らからしたら体力の消耗も一段と激しいだろうからな」

鳴上「そういえば、ここには結構ペルソナ使いじゃない人たちが揃っていますよね」

鳴上「影時間の間はペルソナ使いじゃないと活動出来ないって話は一体……」

美鶴「ペルソナを扱えずとも影時間に適応出来る人間も少なくはあるがいるにはいるようだ。あるいは、ペルソナ使いとしての資質はあるがまだ目覚めていないだけという可能性も……」

美鶴「君の同級生の星あかりくんなんかも、そうなのではないかというような話をした事があったじゃないか」

鳴上「ああ……そんな事もありましたね」

メティス「……じゃあ、やっぱり」

鳴上「ん、なんだ?」

メティス「鳴上さん、覚えていますか? 私達が初めて辰巳東交番を訪れた時に、私が言った事」

メティス「周防さんに私達と近い何かを感じとった、っていう話です」

鳴上「! メティスはあの時から既にそうじゃないかと思ってたって訳か?」

鳴上「周防さんも、もしかしたらペルソナを使えるのかもって」

メティス「はい。美鶴さんの今の話を聞いてやっぱり私が感じた事は間違いじゃなかったのかもって、そう思いました」

鳴上「……」


>またとんでもない仮説が出てきたものだ。


諒「だがそれは可能性の話であって、今あそこにいる彼らが一般人である事に変わりはない訳だろう? その一般人に今の事をどう説明するつもりだ」

美鶴「……影時間の事については公表出来ないな。あくまで非常事態に放り込まれた者同士協力していくという事でなんとか話を合わせていくしかない」

美鶴「しかし表面上はそうでも、彼らの命を預かっているのは私たちも同然という事だ。心して欲しい」

美鶴「これから何が起こったとしても、彼らは私たちが守り抜くぞ」


>美鶴の言葉に皆が静かに強く頷いた。



>『0 愚者 特別課外活動部』のランクが7になった



>美鶴の言葉に従って、このまま0時になるまで様子見をする事になった。

>……



学生寮 ラウンジ


>外は陽が落ちて、真っ暗になってからもう大分経っている。

>寮に用意出来るもので簡単に食事を済ませた後は、一階から離れない事を条件に各自で自由な時間を過ごすような形となった。

>……あれから気になるような事は特に何も起こっていない。

>そういう事もあり、緊張感もすっかりなくなってしまったようだった。

>メティス、ラビリス、あかり、綾時に加えてアイギスなんかは一緒にトランプで遊んでいるし、雑談している者もいれば仮眠をとっている者もいる。

>パオフゥなどはいつ用意したのか彼の物と思わしきノートPCのキーボードにずっと指を叩き込んでいた。

>ネットも繋がっているのだろうか……?

>……

>0時までまだ少し時間があるが、さてどうしよう。

>そういえば、学校で拾ってきた本が気になっていた。

>改めて目を通してみる事にしようか。

>手に取って、しおりが挟まっていた頁を開いてみた。

>……そこにはこう記されている。



静けき夜 巷は眠る

この家に 我が恋人は かつて

住み居たりし

彼の人はこの街すでに去りませど

そが家はいまもここに残りたり

一人の男 そこに立ち

高きを見やり

手は大いなる苦悩と闘うと見ゆ

その姿見て 我が心おののきたり

月影の照らすは

我が 己の姿

汝 我が分身よ 青ざめし男よ

などて 汝 去りし日の

幾夜をここに 悩み過ごせし

我が悩み まねびかえすや



達哉「その詩は……」


>近くにいた周防がその頁を目にしたのか、ふと呟いた。


鳴上「この詩、知ってるんですか? タイトルは書いてないみたいなんですけど」

達哉「……」

達哉「ハイネのドッペルゲンガー、だったか。確かそんなだったような気がする」

達哉「こういうのは先生の方が詳しいんじゃないのか?」


>周防は隣にいた橿原にそう投げかける。


淳「うーん、僕は世界史が専門教科だからなあ」

淳「でも周防くんはなんでその詩、知ってたの? 昔読んだ事があったとか?」

達哉「……なんでだろうな」


>周防と橿原はこんな調子でさっきからずっと雑談をしている。

>どうやら彼らは同い年な上に話をしているうちに昔住んでいた場所が近かった事がわかったようで、すっかり意気投合している様子だった。


鳴上(ドッペルゲンガー、か。なんだかこの詩……)



美鶴「……」

美鶴「もうすぐ時間、か」

>窓辺に立ち、外の様子をずっと眺めていた美鶴が小さく呟いた。

>時刻はまもなく0時になろうとしている……



23:59→0:00


>…
>……
>………


>……おそるおそる、携帯のディスプレイを覗き込む。


鳴上「……!」

鳴上「08/32のまま……!?」

美鶴「そんな、馬鹿な!」


>時刻は確かに0時を過ぎているのに、日付は変わらず08/32……

>それはまたおかしな一日が繰り返し始まったという事を意味しているも同然だった。


――ドクンッ


鳴上「ッ……!?」

パオフゥ「!!」

麻希「えっ……!?」

藤堂「なんだ、今の感じは……!」


>今一瞬……身体の中で大きく鼓動が波打つのを感じたような気がする。

>藤堂と麻希、それからパオフゥもそれを感じ取った様子だったが、他の人間は何も気付いていないようだった。

>この感覚は……?


メティス「鳴上さん?」

メティス「……、ッ!?」

メティス「鳴上さん、後ろっ……!」

鳴上「え……?」


>妙な苦しさに胸元を掴み、額に脂汗が浮いているのを感じながらメティスの言葉を聞いて反射的に振り返る。


鳴上「なっ……」

鳴上「誰だ、お前は……!!」


>何時の間にか……自分の背後に全く見知らぬ人物がぬらりと不気味に佇んでいる。

>気配などさっきまで微塵にも感じなかったのに、これは一体……!?


?「……」

>不気味な人物は佇んだまま一言も喋らない。

>……その出で立ちはあまりにも面妖だった。

>男なのか、女なのか、若者なのか、老人なのかすらもわからない。

>何故ならその人物の顔は、紙袋を被っていてその下に隠れていたからだ。

>そしてその紙袋には顔を隠す変わりなのかふざけたような表情が描かれている。

>それが一層不気味さを醸し出している……

>まだ暑さ残る季節にはそぐわない、トレンチコートにがっちり包まれているその身体が……わずかに揺れた。


?「……フ、ヒヒッ」

?「ハハッ……ヒャアハハハハハハッ!!」


>狂ったような笑い声が紙袋の下から溢れ出している。

>そうしてひとしきり笑い終えた後、その怪人物は人差し指を自分の眼前に突きつけてくるのだった。

>……その動きに何故か咄嗟の反応が出来ず、体は固まったまま動く事もままならなかった。


?「会いたかったぜェ、鳴上悠……」

鳴上「ッ……」

メティス「鳴上さん!」

達哉「くッ……! 鳴上ッ、伏せろ!」


>一番近くにいた周防が手近にあった椅子を持ち上げて紙袋の人物に叩きつけようとする。

>しかし紙袋はひらりとそれをかわし、人間とは思えない跳躍を見せてから再び地へと降り立った。


鳴上「なんだよお前は……一体誰だッ!」

?「俺か? 俺はなあ……」

?「邪魔者を消しにやってきたんだよ」


終わります。

また次回。


一体何者なんだ…

ほんとに誰だよ!!??
この>>1なら伏線は貼ってありそうだな・・

乙、一気にペルソナらしくなってきた

まさか電波専門なのか?
次回も待ち遠しいぜ

まさかのファウスト先生の参戦かー

>>868
ゲームが違うwwwwww
確かに戦い方がクマに似てるけど

もしやついに来てしまったのか…?

そういえばフィレモンもにゃる様も3.4の世界にいるみたいやね P3倶楽部見ると

電波ァ!が来たか

>>868
アトラス作品だけに留まらずアトラスと関わった会社のキャラまで出すのかー(棒

アイギス「皆さん一ヶ所に固まって!」


>アイギスの言葉を合図に全員が紙袋から距離を取るように同じ場所へと集まる。

>特別課外活動部の皆はそれの盾となるように一歩前へと出てそれぞれ構えを取った。


?「……」


>紙袋は、一階をぐるりと見渡すかのように顔動かしそれから天井に向けて首を上へ傾ける。

>そしてまた、ヒヒッという不気味な笑い声が微かに聞こえた。


?「役者は揃った! 舞台も整った! こんなチャンス、見過ごせる訳ねえよなあ、ええ?」

鳴上「何を言ってるんだ……?」


>役者? 舞台?

>まさか……


鳴上「まさか、お前がこんな空間を作り出した犯人なのか!?」


>その言葉に一同が驚き、紙袋の方へと視線を集める。

>奴の不気味な笑い声は止まらない。


鳴上「お前の目的はなんだ! 俺達をどうするつもりだ!?」


>……その刹那、ぴたりと声が聞こえなくなる。


?「さっきからガタガタうるせえな。なんでも質問すれば望む答えが返ってくると思ってんじゃねえよ」

?「……まあでも、そうだな。俺だってこれからゲームをしようっていうのにルールの説明もしないほどの鬼じゃねえ」

鳴上「何がゲームだ……ふざけるな!」

?「ふざけてなんかねえよ。これでも大真面目なんだぜ? それに」

?「お前にも真面目に考えて貰わなきゃなあ」


>そう言って紙袋は腕を一振りする。

>その手には何時の間にか日本刀が握られていて、切っ先をこちらへと向けてくるのだった。


?「全部で……19、か」

?「こうして改めて数えてみると結構いるんだな」

鳴上「……?」

?「俺がこれから狩るものの数だよ」

鳴上「なッ……」

?「そうだよ。……ここにいる連中、残らず俺が消してやるって言ってんだ」

?「俺はその為にやって来たんだ」

?「とは言っても、一気に片付けられるほどの力は持ってないんでな。じわじわと一つずつ狩っていってやるよ」


>ここにいるみんなを……消す……!?

鳴上「そんな事はさせない!」

鳴上「ここにいる人達に危害は加えさせない……!」

?「ククッ、言ってくれるねえ。ま、そう答えるっていうのなら……」

?「俺に示してみろよ! 証明してみせろ! その言葉に偽りがないって事を!」

?「お前じゃ無理だろうけどなあッ!」


>紙袋は刀を真上へ振りかざす。


?「……要するに、これは俺が全てを狩り終えるかその前にテメエが俺と決着をつけるかっていう、そういうゲームだ」

?「時間は無制限だ。永遠に繰り返される8/32、か……まったく面白い事をしてくれやがるぜ。俺にとっても好都合だから大いに利用させてもらうがな」

?「……おい、テメエも聞いてやがんだろ! いい加減黙ってねえで、出てきて何か言ったらどうだ!」

?「テメエともそろそろ勝負をつけないとなあッ!」


>紙袋が何もない宙に向けて叫ぶ。

>これは一体、誰に向けての言葉だ……?


?「……」

?「チッ、無視かよ。……まあいい。それならそれで、こっちはやるべき事を思う存分するだけだからな」

?「さあ、お待ちかねの……」

?「……ッ!?」


>喋りたいだけ喋り続けていた紙袋の動きが不意に止まった。

>それと同時に振り上げていた刀も下ろしてしまう。


?「……」

?「なるほどそういう事か。道理で出てこない訳だ」

鳴上「さっきから何を一人でぶつぶつと……」

?「この世界に何時の間にか異物が混じってやがるな」


>……異物?


?「……ったく、興醒めだぜ。折角盛り上がってたところだったのによ」

?「まあいい。今回のところは顔見せって事だけにしとくか」

鳴上「なら、そのふざけた紙袋を取ったらどうだ」

鳴上「それに俺の質問にまだ答えてもらっていない。……お前は誰だ」

?「テメエもしつこいな。でも、そこまで言うなら……名乗るくらいはしておくか」

?「そうだなあ、何がいいかね。……ああ、これなんか丁度いいかもな」


>紙袋はテーブルの上に散乱しているさっきまでメティス達が遊んでいたトランプの中から一枚のカードを抜くと、それをこちらに投げつけた。

>正面に飛んできたそれを、すかさず指で挟むようにして掴む。

>そのカードの表にはピエロの絵が描かれていた。

?「JOKER」

?「片仮名じゃないぜ、英語でJOKERだ。なかなか洒落てるだろ?」


>本名でもなんでもない、今この場のノリで決めた名なのは一目瞭然だ。

>……何から何までふざけている。


JOKER「今後ともよろしく」

JOKER「……じゃあな」


>そう呟くと同時に、紙袋……JOKERの周りに突風が吹き荒れた。


鳴上「くっ……!?」

JOKER「ああ、そうだ。まだ言い忘れていた事があったな」

JOKER「折角だから街中にゲストを招待させてもらったぜ。お前たちが今まで散々気にしてたから、この機会にその目で見て貰おうかと思って」

JOKER「……悪魔だよ、本物の悪魔だ」

鳴上「!?」

JOKER「俺に狩られる前に無様にやられたりしないよう精々気を付けるんだな。ククッ……ヒャハハハハハ!」


>一際甲高い笑い声を残して、JOKERは風の渦の中で姿を消した……

>……

>一時の静寂が訪れる。

>誰もが絶句したままだ。

>だがそのうち、一気に張り詰めた緊張が一気に解け、誰という訳でもなく深い吐息が零れた。


綾時「なんなんだ、今のは……僕は夢でも見ていたのか?」

あかり「今の人、は……」

順平「だ、大丈夫か、チドリ!」

チドリ「っ……平気」


>そうは言いつつも、チドリは順平の腕の中でぐったりとしている。

>さっきまでの空気がよほど堪えたようだ。


諒「……JOKER、か」

美鶴「何者なんだ。あんなに体が震えるほどの殺気を感じたのは久しぶりだった……」


>美鶴は拳を握り締めている。

>その言葉通り、体が僅かに震えているがそれは何も美鶴だけに限った事ではなかったようだ。


アイギス「それになんて凄まじい憎悪……」

メティス「私たちを消してやる、と言っていましたね」

天田「僕たちあんなヤツに恨まれるような事しましたか? まったく覚えがないんですが……」

コロマル「グルルル……」

ラビリス「……」

アイギス「姉さん?」

ラビリス「……」

アイギス「ラビリス姉さん」

ラビリス「……え? なんか言うたか?」

アイギス「いえ、その……どうかしました?」

ラビリス「ん……」

ラビリス「……。いや、なんでもあらへん」



パオフゥ「あの姿、それにJOKERという名前」

パオフゥ「……いや、まさか。そんな筈はねえ」

淳「JOKER……ジョー……カー……?」

淳「くっ……」

鳴上「先生!?」

達哉「オイ、どうした。しっかりしろ!」

淳「急に、頭が……痛っ……」


>橿原が頭を抱えて唸り声を上げている。

>とても苦しそうだ。

>周防がそんな彼を支えてソファに座るようにと促している。


麻希「……」

藤堂「園村、大丈夫か?」

麻希「……あ、うん。私は平気」

麻希「鳴上くん」

鳴上「はい?」

麻希「貴方、さっきのJOKERという人物に誰か心当たりはある?」

鳴上「……」

鳴上「いえ、わかりません……」

麻希「そう……」

藤堂「でも、向こうの方はそうでもないみたいだったな」

藤堂「会いたかったぜ、鳴上悠。そう言っていた」

藤堂「本当に誰だか見当もつかないのか?」

鳴上「……」


>藤堂の言っているその言葉は自分にも引っかかっていた。

>奴は明らかに自分の事を知っているような様子だった。

>しかし、友好的な態度ではなかった事も明らかで、その声色からは敵意が滲み出ていた。

>向けられた殺気と、憎悪。

>そして……

麻希「ねえ藤堂くん。JOKERがここに現れた直前に感じた共鳴の感じ、覚えてる?」

藤堂「……ん、ああ。あれは、なんというか……」

麻希「JOKERの何かに対する強い拒絶。その意思が一瞬だけど私たちにもはっきりと伝わってきた。そうだよね?」

藤堂「ああ」

麻希「あの人、鳴上くんだけじゃなくてここにいる私たち全員に、敵意という一言だけでは表せないマイナスの感情を抱いていたように思うの」

麻希「これ以上はなんて言ったらいいのかわからないけど、でも……」


>麻希はそれ以降口を閉ざして、深く考え込んでしまう。

>……

>JOKERはここにいる皆を消すと言った。

>そんな事をしようとする詳しい理由は今のところ不明だが……

>その数は全部で19

>順平、麻希、美鶴、藤堂、メティス、綾時、アイギス、天田、パオフゥ、橿原、コロマル、チドリ、ヴィンセント、ラビリス、あかり、諒、周防

>この場にいるというそのままの意味を考えれば、もしかしたらトリッシュもその内に含まれるかもしれない。

>……そして自分。

>これで合計19になる筈だ。

>だが、もう一人。奴は、見えない20人目の存在を示唆する言葉を言っていた気がする。

>奴は一瞬だけ、ここにはいない誰かに向けて何か叫んでいた。

>そう、確か……勝負をつけないと、とかなんとか。

>それは一体誰でどういった勝負なのか。

>そんな事を気にしたところで、自分には何も関係はないのかもしれないが……


ヴィンセント「なあ、さっきのアイツ街中に悪魔がどうとか言ってたよな?」

ヴィンセント「今度こそ、本当に出てきちまうのか……?」


>ヴィンセントが小声で不安そうに呟く。


藤堂「……」

藤堂「鳴上、一つ提案があるんだけど」

鳴上「……? なんでしょうか」

藤堂「これから少し、この近辺の様子を探りにいかないか?」

藤堂「なんだか、外がざわついている気がするんだ」


>確かに、奴の言葉通り悪魔が街中にいるのかどうか気になるところではあるが……


美鶴「出来るだけ早く現状把握をした方が良いのは事実かもしれないな」

美鶴「もし行くというのならば私も行こう。あまり遠くまで行くのは流石に許可出来ないが」

鳴上「……そうですね。近辺の安全確認だけでも今改めてした方がいいかもしれません」

鳴上「行きましょう」

達哉「なら俺も一緒だ」

鳴上「周防さん?」


>橿原の介抱をしていた筈の周防が何時の間にかこの話を耳にしていたようだ。

達哉「悪魔だかなんだか知らないが、危険なところにお前たちだけで行かせられない」

鳴上「それは周防さんが警察だから、ですか? でも……」

藤堂「いいじゃないか。一緒についていってもらおう」

鳴上「えっ……」

藤堂「あくまで確認に行くだけだ。仮に悪魔と本当に遭遇してしまったとしても、戦う事のないようにすればいいさ」

藤堂「出来る事ならその為の方法を、戦う力の持たない人はもちろん鳴上たちにも教えられたら好都合なんだけど」

鳴上「どういう事ですか?」

藤堂「まあそれは実際悪魔と対峙する時があったらって事で」

美鶴「アイギス。私たちは少し外の様子を見て回ってくる。寮にいる人たちの事は頼んだぞ」

アイギス「見回りですか?」

ラビリス「それならウチらも一緒に行った方がええんとちゃう?」

美鶴「いや、すぐ戻ってくるからその心配はない。それにあまり考えたくはないが、万が一の時の為にも一般人の集まっている寮の方に戦力を置いておきたい」

メティス「そうですか。了解しました。皆さんの事は私たちに任せてください」

メティス「鳴上さんたちも気をつけて」

鳴上「ああ」

達哉「先生の事も頼む。まだ具合が落ち着いていないみたいだ」

ラビリス「うん。橿原先生の事はウチらがみとくで」

鳴上「じゃあ、行きましょう」


>……



学生寮周辺


>最低限の武器と防具は装備して外へ出た。

>相変わらず、そこかしこに点々と棺があるのが目に映る。

>見た目にはそれ以外に変わった事がないように思えるが、周りの空気が昼間と比べて何か違うようにも感じる……


鳴上「ん……?」


>藤堂と美鶴と周防、それに自分を含めた四人でなるべく離れないようにして周りに注意を向けながら歩いていると、ふと前方に何かきらきらしたものが空中に浮いているのを目にした。


美鶴「もしや……」

達哉「まさかアレが?」

藤堂「ああ。どうやらいきなり当たりを引いたみたいだ」

鳴上「……悪魔か」


>皆、一斉に身構える。

>きらきらして見えたもの……それはどうやら何かの羽だったようだ。

>暗闇に浮かぶそれを、目を凝らして更によく観察する。

>だから何の羽だったのかはすぐに解った。

>この悪魔は以前、見た覚えがある。

>藤堂の所持していたピクシー……それとまったく同じ姿だ。

ピクシー「ねえ、ねえ」

鳴上「!」


>どうしようかと考えていると、先に悪魔の方から話しかけられてしまった。

>その悪魔の反応に、周防は咄嗟に装備していた刀を構える。


ピクシー「……。なあに、いきなりその態度」

ピクシー「あくまを ころして へいきなの?」


>ピクシーはなんだか少し興奮状態のようだった。

>見た目は妖精のようで愛らしくとも、悪魔である以上はこちらに何をしてくるかわかったものではない。

>身を守る準備はしてあるが、どうしたものか。

>藤堂は悪魔と戦わずに済む方法を何か知っているようだったが……


藤堂「まあ、落ち着けって。ここはひとつ、俺に任せろ」

鳴上「どうするつもりですか?」

藤堂「交渉を試みる」

美鶴「交渉……?」

鳴上「悪魔相手に、ですか?」

藤堂「ああ」


>藤堂は大真面目な顔をして頷いている。


藤堂「悪魔だって人間と同じく喜びや、怒りや、恐怖……そういった感情を持っているんだ」

藤堂「今のピクシーの様子を見てなんとなくわかるだろ?」

鳴上「言われてみれば……」

藤堂「だから無駄な争いを生まない為にも、会話で悪魔の興味をひきつけ穏便に事を済ませるという方法がある」

達哉「……話が通じる相手なのか?」

藤堂「まあ見てろって」

鳴上「興味をひくって、どうやってですか?」

藤堂「うーん、そうだなあ」


>藤堂はしばしの間考え込む。


藤堂「おい、ピクシー」

ピクシー「なあに?」

藤堂「俺の歌を聴け」

鳴上・美鶴・達哉「!?」


>藤堂は突然、どこから出したのかマイクを手にして歌を歌い始めた。

>興味をひくにしても、もっとやり方があると思うのだが……

>それに、オチももうなんとなく想像はついている。


ピクシー「なにそれ、ヘタッピ! そんなんでピクシーのこと満足させられると思ってんの!?」

藤堂「いたたっ」

>藤堂の歌にピクシーはご立腹のようだ。

>ぽかぽかと藤堂を殴ると、マイクが地面に落ちてしまい周防の足元へと転がっていってしまった。

>藤堂はそんなピクシーをなんとかなだめると、今度はこちらへと問いかけてくる。


藤堂「みんなも何かないか? 悪魔の興味をひけそうな芸とか技とか、あるいは物を持っていたりとか」

達哉「悪魔の興味をひくような……」

達哉「……」


>その言葉に、今度は周防がしばしの間考え込んだ。

>そして彼は……足元のマイクを拾った。


鳴上(まさか、周防さんも歌声披露!?)

達哉「目を閉じてな」


>周防は息を長く吸った。

>そして聞こえてきたのは……

>歌でも、声でもなく、機械のような音だった。


鳴上「!?」


>エンジンのような音が一帯に響いているのだが、それは驚く事に紛れもなく周防の口から発せられているようだ。

>言われた通り目を閉じればバイクに乗って颯爽と駆ける周防の姿が浮かんできそうなくらいよく出来た声帯模写だ……!


美鶴「ブリリアントだ!」


>周防のそれに、美鶴も思わず感動しているようだ。

>まさか彼がこんな技持ちだったとは……人は見かけによらないものだ。

>……さて、肝心の悪魔の反応はどうだろう?


ピクシー「ちょっと、アンタ。本当に人間?」

達哉「……ん? あ、ああ」

ピクシー「えっ、うそ、きもちわる……」


>その巧みな芸は、巧みすぎるあまり悪魔もドン引きしてしまうくらいだったようだ。

>ピクシーは周防に対し恐怖している……


達哉「……」

藤堂「ダメだったかー。はい、じゃあ次は桐条さん」

美鶴「わ、私もですか!?」

鳴上(もはやただの隠し芸大会になってないか……?)

美鶴「興味をひくもの、か」

美鶴「……、!」


>美鶴は突然思い出したようにポケットの中から財布を取り出す。

>まさか、金の力で解決!?


美鶴「ピクシー」

ピクシ「んん?」

美鶴「ここに裏と表が逆の10円玉がある。どうだ、珍しいだろ? よければこれで手を打たないか」

鳴上・藤堂・達哉「……」

ピクシー「……」

ピクシー「そんなもんでピクシーがつられると思ってんの? アンタ、ピクシーの事馬鹿にしてる!?」


>ピクシーはまたも怒り出してしまったようだ。


美鶴「む……こういった手合いには下手に大金を積むより、ささやかでも貴重なものの方がうけるかと思ったんだが……失敗だったか」

鳴上(桐条さんも小銭なんて持ってたんだな)

藤堂「物でつるにしても、桐条さんの場合サイン付きのブロマイドとかの方が良かったんじゃないか?」

美鶴「何を言ってるんですか……」

達哉「男相手ならともかく、相手も女?だぞ」


>いよいよ後がなくなってきたが、このパターンだともしや……


藤堂「最後は鳴上だな」

鳴上「……やっぱり」

鳴上(さて、どうしようか)

鳴上(悪魔に見せられるような技なんて……アレくらいしか思い当たらないけど)

鳴上「桐条さん、ちょっとそれ借りますね」


>美鶴の手から先ほどの裏と表が逆の10円玉を拝借した。


鳴上「ピクシー、これをよく見ていろ」

ピクシー「今度はなにー?」


>10円玉をピクシーによく見えるように掲げる。

>そして、一度手首をくるりと捻るようにしてからもう一度10円玉を持っていた指先をピクシーに見せた。


藤堂「……ん?」

美鶴「10円玉が、消えた?」


>その様子を見ていた藤堂たちが小さく驚きの声を上げた。


鳴上「周防さん、背広の胸ポケットの中を確認してみてください」

達哉「ポケット……?」

達哉「!」

達哉「裏と表が逆の10円玉!? いつの間に!?」

鳴上「どうだ、手品だ。地味に凄いだろ?」


>ピクシーも驚いてくれただろうか。

ピクシー「……」

ピクシー「それで?」

鳴上「え」

ピクシー「結局なにがしたいの? ちょーつまんないよ!」


>ピクシーの怒りのボルテージは更に高まってしまったようだ。


ピクシー「もう本気で怒った! しんじゃえ!」

ピクシー「ガル!」

藤堂「まずっ……逃げるぞ!」


>藤堂の掛け声と共に、一目散にその場から走り去った。

>……


藤堂「結局逆効果だったなあ」

鳴上「俺たちが体を張った意味って一体……」

達哉「……」

藤堂「そういうなって。たまたま運が悪かっただけさ。慣れれば上手い具合にいくって」

藤堂「それにしても面白いものが見れた」


>藤堂は呑気に笑っている。


藤堂「そういえば、さっきの鳴上を見てひとつ思い出した事があったよ」

鳴上「?」

藤堂「見てな」


>藤堂は袖を少し捲ると手の平と甲を交互に見せた。

>その手には何もない。

>そして何もない手の中指と親指でパチンと音を立てた。

>すると……


鳴上「!」

藤堂「指を鳴らせば花が出る。綺麗だろ?」

藤堂「っていう手品を悪魔相手にやってる仲間が昔いてさ」

藤堂「しかもそいつ、伝説の裸番長なんて異名があったりするのにそのギャップがおかしくって」


>藤堂はどこからともなく出した一輪の花を見つめながら懐かしそうにして呟いている。


鳴上「今のもう一回見せてください」

藤堂「タネが気になるか? なら後でゆっくり教えてやるよ」

藤堂「今回はこんなところで悪魔との交渉術については終わりにしておこう」


>藤堂から悪魔との会話についてのいろはを教えてもらった。



>『Ⅳ 皇帝 藤堂尚也』のランクが7になった


ガシャアアアアン!


>その時、唐突にガラスが砕け散るような音が響いた。


鳴上「一体なんだ?」

美鶴「っ、あそこだ!」


>美鶴が指をさしながら叫ぶ。

>その先には一軒のスーパーがあり、そこのガラスが割られているのが一目で解った。

>そしてそんな事をしでかしたのが悪魔である事も、だ。

>二、三匹の悪魔と思わしき生き物がスーパーの中を荒らし食べ物を食い散らかしている。

>しかし連中はすぐにこちらの事に気付いたらしく、手に入れた食べ物を持ってその場から逃げ出していった。


鳴上「あっ、コラ!」

達哉「鳴上!?」


>……


路地裏


>つい反射的に悪魔の後を追って走ってしまった。

>が、よく考えなくてもまずかったかもしれない。

>そう気付いたのは薄暗い路地の裏手までやってきた頃だった。

>追っていた悪魔の姿も何処かに見失ってしまっていた。


鳴上「逃げられたか……」

鳴上「ま、追いかけてどうにかなるもんでもなかったよな。まったく、俺も何やってるんだか」

鳴上「それにしても、酷いな」


>路地裏には先ほどの悪魔が食い荒らした食べ物の残りかすようなものが汚らしく散らかっている。

>その中にあったバナナの皮をうっかり踏みそうになって思わずその場に止まった。


鳴上「……ん。これは?」


>靴の先に何かが当たった。

>初めはここに広がるゴミのひとつかと思ったが、……どうやら違うらしい。

>長い棒のような何かが転がっている。

>思わずそれを手に取って拾ってしまった。


鳴上「!」

鳴上「これは、刀!?」


>こんな場所に何故か、鞘に収まった刀が落ちていたのだ。

>これも悪魔が何処かから持ち去ったものなのだろうか?


鳴上「物騒だな……とりあえず回収しておくか」

鳴上「さて、もう行こう」

>これ以上この場にいる必要もないだろう。

>早いところ、藤堂たちのところへ戻らないと……

>きっと美鶴や周防は怒っている事だろう。


「グルルルルル……」

鳴上「?」


>今、犬のような鳴き声が聞こえたような気がした。

>細い路地の辺りをゆっくり見回してみる。

>……すると、その奥でギラリと光る二つのものを見た。

>みつけて、しまった。

>これは……眼だ。

>ギラギラと光る、獣の眼。

>獣は眼を光らせ、牙を剥き出しにしながらこちらへ寄ってくる。

>さっき見たピクシーなんかとは格が違う事がその姿だけでわかる。

>一見ライオン思わせる獣の身体についたサソリのような針の尻尾。

>背に生えた大きな翼。

>異形の生物。

>……これこそ悪魔と呼ぶに相応しい風貌だろう。


「グアアアアアッ!」

鳴上「ッ……!」


>そして咆哮が轟く。

>逃げなければ。

>そう思うのに……足が動かない!

>何故だか身体が痺れている。

>この鳴き声の力によるものなのか……!?


鳴上(まずい、今度こそやられる……!)

「ガアアアアアアアアアッ!」


>興奮状態の悪魔がこちらへと突進してる……!


鳴上(くそっ……!)


>この身体にあと数秒で訪れるであろう痛みを覚悟し身を強張らせた。

>……と同時に聞こえてきた破裂音のようなものに、反射的に閉じかけていた瞳が逆に大きく開く事となった。


鳴上「!?」

鳴上(この音は……まさか銃声か!?)


>バンッバンッという音に、悪魔もまた足を止め後ろを振り返った。

>銃声は悪魔がやって来た路地の更に奥の方から聞こえてくる。

「それをこちらへ!」

鳴上「えっ……?」

「その刀を、早く!」


>銃声と共に男の声が響く。

>刀というのはおそらくも何もさっき拾った今も手に持っているそれの事だろう。


鳴上「くっ……!」


>言われるままに痺れた身体で力を振り絞り、刀を宙へ放った。

>それとほぼ同時に路地奥から現れた人影が地を蹴る。

>そして空に舞った二つが重なった。


鳴上「っ、ダメだ、危ない!!」

「グルアアアアアアア!!」


>悪魔が空から降りてくる人影を下で待ち構えるように口を大きく開けている。

>だがその人物は、それをものともせず受け取った刀の鞘を抜いた。


「魔を祓え」

「赤口葛葉」


>男は悪魔のその脳天に目掛けて串刺しにするように刀を突き立てた。

>悪魔の断末魔が響き、そしてその姿が消える……

>あっという間の出来事だった。


鳴上「……」

鳴上「貴方は、一体……」

「……」


>その場には既に自分とその男の姿だけしかなかった。

>未だ動かぬ足でその場に立ち尽くしたまま、ただ呆ける。

>驚く事に助けてくれたその人物は、見てくれは自分とそれほど歳も変わらぬ男子学生だったのだ。

>何故学生だと思ったのかと言えば、理由は彼のその恰好にある。

>詰襟に学帽というアイテム。

>それが揃うだけで、その姿は学生以外の何者にも見えなかった。

>ただ詰襟の上から羽織っている外套が学帽と相俟って現代というよりは大正期のそれを思わせる事と、腰に下げている銃を除けば……という話だったが。

>そして男は手に持っていた刀を鞘へ納め、さも当然というように銃と同じく腰にそれを携える。


「貴方こそ、何故この様な場所に?」


>お互いがお互いを値踏みするかの如く視線を向けあったまましばし沈黙が訪れた。

>どこからともなく現れどうという事もなく悪魔を倒したこの男は、何者なのだろう……?

終わります。

また次回。

乙!
今回も色んな要素満載だなw

雷堂キタアアアアア!
切られたのはパスカルじゃないよね?
乙、貴方が最近の生きる楽しみです。

2の途中と3、4しかやってないから名前と顔くらいは分かるけど踏み込んだネタについていけなくなってきた…

キタァァァァ!
待ってたよ!

ケルベロスだからパスカルかと思ったんだが違ったのか?

やはり南条とは血縁関係あり、美鶴さんの考える事もなんじょうくんと同じか
それにしても17代目キョウジじゃなくて初代ライドウさんが出張るとは、
これは厄介そうな事件だな。是非とも御立派様の力を借りて欲しいぜ


ライドウさんキターーーー!!!

一体何者なんだ…

赤口葛葉ってことは超力ライドウなのか、それともマレビトライドウなのか

キタローってよく3の本編後だと不思議な力持ってるような感じだけどそんな設定あったっけ?
結局人柱になってただけで他のアトラス作品の主人公と大差ないような気がするけど

いやいや、不可能を可能にするユニバースに覚醒しましたやん

>>897
自分の表現が間違えてたみたいですまない

自分の言いたいことは
ペルソナ系の二次創作でキタローだけが何でもできるみたいに扱われてること
人の総意を越えたみたいなのは他の主人公も同じなのになーって思って

スレ違だし退散するよ すんません

>>898
ペルソナ3以降にアトラス作品やった奴は他のを知らない奴が多いからだろ
だからキタローすげーって言ってるだけ

スレ違いだと思うなら最初から聞くなよ

>>899
それは間違いないな。
ほかの人たちはさらにとんでもない奴、勝てるはずのないものに勝ったりしてるのにキタローしか褒めないし。

>>900
それを言いだしたらお前もわざわざいうのは不必要だろ?
俺はやりたいようにやるぜ!

カオスルートへ→

他の2次創作なんて知りませんし
文句があるなら直接その製作者に言えばいいだろ


>落ち着け

>>901
ニュクスと他ボスじゃ性質が違うだろ。一概に上下優劣なんて決められない
アレフは唯一神ぶっ殺したけどニュクスに対抗できるのか、逆にキタローは唯一神に対抗できるのかって堂々巡りになる

もう美鶴とたっちゃんは一緒にツーリングにでも行けよと言いたい

ペルソナシリーズの中だけなら結構異質だと思うけどなぁ~
他のメガテンやらをいれるなら霞むかもしれんけど

番長だって世界のアルカナ持ってるだろ

ここの番長は真エンド行ってないから世界のアルカナはまだな筈

>>908
だな。
しかし、キタローの世界入手後の異質っぷりもとんでもないけど、番長の世界入手後もガッツリ人間卒業だよな

でもこのスレの番長は世界未習得

話が進めば世界習得するのか?

>>911
世界入手=最終決戦勝利フラグ
仮に入手するなら、このSSが終わる時になるだろうよ

>>912
まぁ確かにそうだな
とにかく続きを待つ

まだか

まだなのか

『その少年を保護しこの場からすぐに立ち去るぞ、ライドウ』

鳴上「え?」


>続いて声が聞こえてくる。

>だが、目の前の男の口は動いていなかったし、彼の声でもない。

>という事は。


鳴上(今度は誰だ……)


>男の後ろから気配が近付いてくる。

>暗闇の中からやってきたその新たな来訪者とは……

>闇と同化する程に真っ黒な猫だった。

>黒猫がニャアと鳴き声を上げると、それに重なるようにまた声が聞こえてくる。


黒猫『こ奴には聞きたい事もあるだろうが、また後だ』

鳴上「!?」

鳴上「今の、……え?」

鳴上「猫が喋った!?」


>例えるならそれはテレビの音声多重放送。

>信じ難い事だったが、今の様子からして声の主は男の足元にいる黒猫だとしか考えられなかった。

>悪魔なんてものが本当に出現しているのだから、猫が喋るくらい今更どうという事もないのかもしれないが……


鳴上(それとも、この猫も悪魔なのか?)


>そんな風に彼らに対して警戒を強めていると、男と黒猫は顔を見合わせた。

>そしてまたこちらへと向き直ると学帽の男が口を開いた。


「とにかく今はここから離れましょう。歩けそうですか?」

鳴上「あ、ああ……なんとか」


>まだ身体の痺れは完全に抜け切っていないが、移動する事くらいは出来そうになってきた。

>男は小さく頷くと外套を翻し路地を歩いていく。

>その後を追った。

>……

鳴上「あの……」

「はい、なんでしょうか」

鳴上「さっきはありがとうございました」

「いえ。あれが自分の仕事ですから」

鳴上(仕事……)

鳴上「悪魔を退治するのが、ですか?」

「貴方はあれが悪魔だと理解出来ているのですね」

鳴上「野生の悪魔をこの目で見たのは今日が初めてではあるけど」

「成程」

鳴上「それで、その……一体何者なんだ?」

鳴上「貴方……と、そっちの猫も」


>大通りまで出ると男と猫は足を止め、振り返る。

>そして黒猫が一歩こちらへと近寄った。


黒猫『うぬと会ったのはこれで三度目か、少年』

鳴上「え? ……ああっ!!」

鳴上「まさか寮の前でメティスが構っていた、あの黒猫か!?」


>これが三度目という事は、やはりポロニアンモールで周防と一緒にいたのも目の前の黒猫だったのだろうか。


黒猫『……ふむ。あの娘もそうだったが、これではっきりとしたな』

鳴上「何がだ?」

黒猫『うぬに我の声が聞こえているという事が、だ』

黒猫『本来ならば我の声は奴のようなデビルサマナーにしか聞く事が出来ぬのだが』


>そう言って黒猫は学帽の男を見上げる。


鳴上「デビルサマナー……?」


>聞き慣れない単語にしばし困惑していると、こちらに複数の足音が近付いてくるのを耳にした。


美鶴「鳴上!」

鳴上「!」

藤堂「良かった、無事だったか」

達哉「まったく……勝手に一人で行動するんじゃない」

鳴上「す、すみません。でも……」

美鶴「ん? 我々以外に無事な人間がまだいたのか!?」

鳴上「はい、そうです。えっと……」

「自分の名はライドウ。葛葉ライドウと言います。ライドウで結構ですので」


>学帽の男、ライドウは小さく頭を下げる。

待ってた

鳴上・藤堂「葛葉!?」

鳴上「って、あれですよね。藤堂さんの名刺に書いてあった探偵事務所と同じ名前……」

藤堂「ああ。別に俺の探偵事務所って訳じゃないけどさ」

ライドウ「……!」

ライドウ「葛葉探偵事務所の方、ですか」

藤堂「どうも、藤堂です。君、もしかして事務所からの応援とか?」

ライドウ「……いえ。自分はまったく別口からの依頼でここにやってきました」

藤堂「へえ? でもその様子だと俺と似たような依頼を受けてるっぽいと見ていいのかな」

藤堂「君は多分……デビルサマナーってヤツなんだろう?」

ライドウ「……ええ」

鳴上「さっきも聞いたけどそのデビルサマナーってどういうものなんですか?」

藤堂「言葉通りのものだよ。悪魔召喚師……悪魔を使役し悪魔を討つ者の事だ」

藤堂「俺のとこの所長やこの間あのプログラムが入った機械を貸してくれた友人なんかもそうだな」

ライドウ「自分の事について事情を知っているようですが、貴方がたはデビルサマナーではないのですか?」

藤堂「あー、俺たちはそういうのとはまたちょっと違うんだ」

黒猫『詳しい事情を聞いた方がよさそうだな、ライドウ』

美鶴「……? 今の声は……」

藤堂「え、桐条さんも聞こえた? って事はもしかして、そこの……」

達哉「この黒猫がどうかしたのか?」


>美鶴や藤堂にも黒猫の声が聞こえているようだが周防は違うようだ。


黒猫『む!? こ奴はあの時の!』


>黒猫は周防を睨みながら毛を逆立てている。

>この間の事がよほど気に障っているのだろうか。

>そんな様子の黒猫をライドウは抱き上げる。


ライドウ「これは業斗童子、ゴウトです」

ゴウト『これなどと言うな!』

藤堂「あ、やっぱり」

美鶴「なんと……!」

達哉「?」

ライドウ「それは一先ず置いておくとして」

ゴウト『それでも無いわ!』

ライドウ「貴方がたの事と、今この街で起こっている現象について。詳しい事を聞かせて頂いても良いでしょうか」


>ゴウトと言う名らしい黒猫の声を無視しながらライドウは尋ねてきた。

>美鶴たちと視線を合わせる。

>そして無言のまま目だけで会話し、頷いた。

美鶴「ライドウと言ったか。君も我々の寮に来るといい」

ライドウ「寮、ですか?」

美鶴「我らのような力を持つ者が集まり無事な一般人をそこで保護している」

美鶴「行く途中で私たちと事のあらましについて説明しよう。とは言っても、我々にも解らない事だらけなんだがな」

ライドウ「そうですか。……」

ゴウト『……ライドウ』

ライドウ「解りました。行きましょう」

ゴウト『ライドウ! お前……むぐっ!?』

ライドウ「案内を宜しくお願いします」

鳴上「ゴウトが苦しそうだけど……」

ライドウ「気にしないで下さい」

鳴上「……」


>何か言いかけていたゴウトの口を掌で塞いだままライドウは涼しげに告げる。

>……ともかく、彼らを連れて寮に戻る事にした。

>……



ライドウ「ペルソナ能力……ですか。確かに自分とは異なる力のようですね」


>ライドウにおおまかな説明をする間、彼は興味深そうな面持ちでそれを聞いていた。

>デビルサマナーの彼であっても、初めて聞く力だったらしい。


達哉「ペルソナ……」

美鶴「そういえば周防さんにも私たちの力について詳しい話をするのは初めてでしたね」

達哉「ん……そうだった、か?」

鳴上「驚きましたか?」

達哉「……」

達哉「いや、確かに不思議な能力だとは思うが、そういう事じゃなくて……」

鳴上「?」

達哉「何処かで聞き覚えのある単語だと思って」

鳴上「確か心理学用語でペルソナっていうのがあると聞いた覚えが俺にもありますけど」

達哉「そういうのでもなくて……ああ、そうだ!」

達哉「子供の頃に兄貴とした遊びだ。ペルソナ様っていう」

鳴上「ペルソナ様?」

藤堂「!」

達哉「確か未来の自分が見えるとかどうとか……」

藤堂「……そっか、おまわりさんもやった事があるのか」

鳴上「もしかして藤堂さんも?」

藤堂「まあね。俺が学生時代に流行ってたまじない遊びだけど、鳴上は聞いた事ないか?」

鳴上「いえ、俺はそういうのはちょっと。桐条さんは?」

美鶴「私もないな。そんな遊びがあったなんて初耳だ」

藤堂「ふうん……」

藤堂「なあ、おまわりさんはその遊びをやった後に不思議体験したりとか変な夢を見たりしなかったのか?」

達哉「え? ……どうだったかな。記憶に残って無いって事はそんなのは無かったんだと思うが」

藤堂「……」

ライドウ「貴方がたの持つ不思議な力の事は大体理解出来ました」

ライドウ「それで、今起きている怪現象についてはJOKERなる人物が鍵を握っている可能性が高いという事でしたが……」

ライドウ「もしかしたら自分もそれらしき人物の姿を見たかもしれません」

美鶴「それは本当か!?」

ライドウ「はい。鳴上君を発見する少し前に人影を見つけたので追ったのですが、その……」

ゴウト『……』


>ライドウは何故か気まずそうに言い淀んでいる。


鳴上「俺と会う少し前っていうと……」

ライドウ「正確な時間は解りませんが、急に街中で悪魔が現れ始めた直後くらいでしょうか」

ライドウ「暗かった上に後ろ姿しか確認していませんが、白い詰襟のような服装をしていたと思います」

鳴上「白い詰襟?」


>ライドウの言う人物の服装と、先程寮に現れたJOKERを名乗る人物の服装は全く異なっている。

>これはつまり……


鳴上「ここにきてまた登場人物が増えた、って事か?」

美鶴「そういえば、JOKERはあの場にいた人間以外にも他に誰かいるような事を匂わせる発言をしていたな」

藤堂「そろそろ勝負を着けなきゃとかってアレか」

達哉「あとは異物が混じってる……だったか? どちらにしても意味はよく解らなかったが」

ライドウ「……」

美鶴「もしかしたらJOKERの言う勝負をしなければならない相手というのは君の事だったのかと一瞬思ったが、違うのか?」

鳴上「コート姿に紙袋を被って刀を持った男なんですけど」


>ライドウは少しの間思案するが、すぐに首を横に振った。


ライドウ「JOKERという名前にもその様な姿の人物にも心当たりはまるでありませんね」

ライドウ「皆さんもそうなのですか?」

美鶴「そういう事だ」

藤堂「まあな」

鳴上「ん……」


>確かにあんなおかしな人物の事など知りもしない。

>そうではあるのだが。

>……

>『JOKER』という名前自体は、つい最近目にした記憶はあった。

達哉「……」

達哉「これはあくまで昔の話だが」

達哉「俺がかつて住んでいた地域にJOKERと呼ばれる殺人鬼が出没していた……っていう話はあるな」

鳴上「!」

ライドウ「それは何時頃の話で?」

達哉「俺がまだ高校生の頃の話だから、十年は前だな」

達哉「その殺人の仕方がかなり猟奇的で、どういう風にそうしたのかは不明だがどれも何かの獣に食い荒らされたような感じだったらしい」

達哉「こんな惨たらしい殺し方をするなんて人間じゃない、そいつは悪魔か何かだって言ってる連中もいたな」

ライドウ「では、その悪魔の如き殺人鬼がまた今頃になって……?」

達哉「いや、それはない。そいつは結局、何かの事故だかに巻き込まれて死んでしまったという話だ」

達哉「ただ……」

ライドウ「ただ?」

達哉「つい最近になって、この時と同じような殺され方をしてる遺体が見つかったという事件が起こった」

藤堂「あー、最近ニュースで見たな、それ」

達哉「ネットでもJOKER事件の時の話と関連付けるような話題で一部盛り上がっていたようだ」

鳴上(周防さんも知っていたのか、この話。警察だから当然か……)

鳴上(でも、まさか周防さんの住んでいたところで起きていた事だったとはな)

達哉「……。もし仮にあの事件の模倣犯が現れているのだとしたら」

達哉「それがさっき現れたJOKERだったとしたら、という可能性はないだろうか」

ライドウ「JOKERは皆さんの事を残らず消してやると言っていたんでしたね」

美鶴「殺人鬼による無差別殺人予告と言ったところか……」

藤堂「うーん……」

鳴上「……」

達哉「これは今考え付いたちっぽけな仮説の一つに過ぎない。しかもかなり無理矢理なものだ。あまり深くは考えないで欲しい」


>周防は自分で言った意見であるにも関わらず、それに対して腑に落ちない部分も持っている様子だった。


藤堂「さっき悪魔の如き殺人鬼って言ったけど、あのJOKER本当に悪魔だったりしてな」

藤堂「あいつが言ってた通り、街中にも本当に悪魔が現れ始めた訳だし」

鳴上「少なくともあれで普通の人間っていうのはまずありえないでしょうね」

藤堂「だよな」

藤堂「それにしてもその悪魔だけどさ、やたらと落ち着きがないというか……大物では無いにせよ、凶暴なのが多い気がする」

藤堂「さっき鳴上を追う途中にも何回か出くわしたけど、どいつも話の通じないヤツばっかだった」

ライドウ「それは恐らく、今宵が満月だからでしょうね」

美鶴「満月……?」

藤堂「え、……ああッ!?」


>空を見上げた藤堂が声を上げる。

>そこにはうっすらとした雲に隠れてはいるものの、確かに丸い月のシルエットが浮かんでいる。

>しかし、その雲間からちらつく輝きは今まで見た事もない不気味な光のような気がした……

藤堂「俺とした事が今まで気付かなかった……なるほど、そういう事か」

鳴上「満月だと何か問題が?」

藤堂「月の満ち欠けは悪魔に強い影響を及ぼすんだよ。満月の場合悪魔は好戦的になったり、さっきも言ったように基本的に話が通じなくなったりする」

藤堂「それを考えると最初に会ったピクシーなんかはまだ会話できる方だった訳だ」

藤堂「でもいくら満月だって言っても、ここまで会話が出来なくなるなんてことは今まで経験無かったけどな……」

藤堂「……ん? ちょっと待てよ。確か満月って8月の頭にならなかったっけ?」

美鶴「……。8月の満月の時期は2日に一度ありましたが、月末にももう一度ありました」

美鶴「31日です」

鳴上「……!」

鳴上「もしかして、今は31日と1日の間な訳だからまだ満月のまま……って事ですか!?」

美鶴「多分そういう事なのだろうな」

達哉「つまり、さっきやろうとした交渉で乗り切るという手段はこの先使えなくなるという事か?」

藤堂「……」


>皆、沈黙してしまう。

>これは悪魔への対抗手段が力押ししかなくなってしまったという事だ。

>悪魔召喚プログラムでの仲魔の召喚も出来ない今、この場にいる悪魔を会話で味方につけた後マグネタイトを惜しまずにそのまま戦力としてずっと出ていて貰う事にすればいいかとも考えていたのも無理になってしまった。

>……ペルソナという力がある自分たちはまだいい。

>だが、そうでない一般人も多数いるのだ。

>彼らはこの先悪魔とどう折り合っていけばいいというのか……


ライドウ「ご安心を」

ライドウ「自分がいるからには、悪魔達の好きにはさせません」

ライドウ「事件の解決に向けて自分も全力で協力します」


>不安が募る一方で、ライドウが静かにだが心強い言葉を発した。


美鶴「……すまない、助かるよ。こんなところで君のような悪魔の専門家と出会えた事は不幸中の幸いだったな」

藤堂「よろしく頼むよ、ライドウ」

ライドウ「此方こそ。ところで、皆さんの寮というのはあの建物の事でしょうか」


>ライドウが暗闇の中でひとつだけ灯りの照るその場所を見つめながら尋ねる。


美鶴「ああ、そうだ。こちらでは特に問題は起こっていないようだ」

達哉「帰り道でも悪魔には会わなかったな」

ライドウ「あの一帯の悪魔はおおよそ自分が始末しましたので。また何時何処で何が出てくるとも解りませんが」

藤堂「さっすが」

鳴上「凄いな……」

美鶴「みんなにも早く君の事を紹介せねばな。さ、早くこちらへ」


>寮全体を観察するように見上げているライドウに美鶴が声をかける。

>藤堂と周防と美鶴が先に中へと入り、ライドウとゴウトと続いて自分が最後になる。

>と、そこでバチッという何かが弾けるような音と共にライドウの足の動きが止まった。

ライドウ「!!」

鳴上「どうしましたか?」

ゴウト『これは……!?』


>ゴウトが前足を出し、寮の中へと入ろうと試みる。

>するとまたバチッという音がしてゴウトの体が跳ね返されたのが見えた。


鳴上「なっ……大丈夫か!?」

ゴウト『……。心配には及ばない。だが、どうやらこの建物に結界のようなものが張られているとみた』

鳴上「結界? でも、さっき桐条さんたちは普通に中へ入って……」


>恐る恐る、自分も手だけ外から寮の中へ向けて伸ばしてみた。


鳴上「……」

鳴上「やっぱり、別になんともないぞ?」

ライドウ「……」


>自分の手はゴウトが弾かれた場所よりも進んでいる。

>そこでもう一度、ライドウが同じように手を伸ばした。


ライドウ「……ッ!!」

鳴上「!?」


>ライドウもゴウトと同じように見えない何かに先へ進むのを阻まれていた。

>何が起こっているというのだろう……


美鶴「どうした。何時までそんな場所にいるつもりなんだ?」

鳴上「桐条さん! 実は……」

ライドウ「どうやら自分達は歓迎されていないようです」

美鶴「なんだって? どういう事だ、鳴上」

鳴上「入れないんですよ、ライドウさんとゴウトだけ寮の中に! 結界みたいなものがあるって……」

美鶴「結界……? じゃあ、何故我々は平気だったんだ?」

鳴上「それはわかりませんけど……」

ライドウ「……」


>ライドウが外套を翻し背を向けた。


美鶴「ライドウ?」

ライドウ「仕方ありません。自分達は外にいる事にします。ここから遠くへ離れたりはしませんので」

美鶴「待て! 君がある程度退治したとはいってもまだ悪魔が出る可能性はあるんだろう? 危険すぎる!」

ライドウ「ご心配無く。この程度の事は慣れています」

美鶴「……。ならば、これを」


>美鶴はポケットの中から小さな機械とイヤホンを取り出した。

本当オールスターだな
個人的にはデビサバの主人公とかも出して欲しい

美鶴「我々に繋がる通信機だ。何かあったらすぐにこれで連絡をしてくれ」

美鶴「こちらから呼びかける事もあると思う。常時着けておくように」

ライドウ「通信機……」


>掌に乗せられたそれをまじまじと見つめ、ライドウは頷く。


ライドウ「では、その様に」


>一礼して、ライドウは歩いていってしまった。

>……



学生寮 ラウンジ


メティス「えっ、ゴウトさんがいるんですか!?」

鳴上「ああ。訳あって連れの人と外での見張り状態になってるけど」

メティス「連れの方、というと……もしかして詰襟と学帽に黒いコートを羽織ったモミアゲの?」

鳴上「そうだけど……なんでメティスが知っているんだ?」

メティス「以前ゴウトさんがこの寮の前にいた時、そのような人物を探していると言っていたので」

メティス「どうやらその人とはぐれてしまっていたようなんですが、見つかったんですね。良かった」


>メティスはほっと息を吐いている。


諒「まだ無事な人間がいたのか」

ラビリス「それもやけど、外の様子は結局どうだったん?」


>ペルソナの能力を持っていない、綾時、橿原、チドリ、ヴィンセント、あかり、それから一緒に外へ出ていた周防にも今はもう既に休んでもらっている。

>色々と突っ込んだ話をするならば今しか無いだろう。

>ライドウたちの事も含め、外であった事と少なくはあるが解った事をみんなに話した。

>……


天田「やっぱり悪魔が出現し始めたんだ……」

アイギス「しかも、満月。本来ならばある程度の意思疎通が出来る筈の悪魔たちとの交渉はほぼ不可能、と」

順平「これじゃあ迂闊に外出ない方がいいんじゃねえの? 特にチドリたちはさ」

麻希「でも籠城しっぱなしっていうのも身体に毒よね」

藤堂「そうだな。ここにある食料も無限な訳じゃないし、何の解決にもならない」

美鶴「しかし、JOKERの宣戦布告もある。やはり同じ場所に皆が固まって何もしないでいるのが一番の安全だと私は思う」

鳴上「黙っていてもこちらに仕掛けてきそうな雰囲気でしたからね、奴は」

メティス「その時はその時、迎え討ってやるってところですか」

諒「相手も馬鹿じゃないだろう。その辺の事は考えてそうだが」

ラビリス「でもデビルサマナーの葛葉さん、やったっけ? そういうお人が仲間になってくれたのは収穫やったよね」

パオフゥ「葛葉ライドウ、か……轟のおっさんのとこと同業者なんだろ。お前さんはその事について何か聞いてなかったのか? 藤堂」

藤堂「いや、全然」

パオフゥ「……」

ラビリス「……気になるわ」

鳴上「ん?」

ラビリス「その葛葉さんとゴウトってにゃんこや。どうして寮の中に入れんかったのやろ」

鳴上「……そうだな」


>ラビリスは心配そうな表情を浮かべている。


美鶴「気になると言えばライドウの見たという人影の事もだな。白い詰襟のような服装の人間だったか」

鳴上(白い……)


>その人物が敵か味方かもまだ解らない以上、この事も気に留めておく必要があるだろう。

>だが今のところは……


鳴上「今のところ出来る話はこれくらいだと思います。いい加減、俺達も交代で休む事にしましょう。これじゃあ、みんな体が保ちません」

美鶴「そうだな。順番を決めてそれぞれ休息をとる事にしよう」


>皆で話し合い、順に休む事にした。

>……


ラビリス「なあ、悠。葛葉さんたち、お腹とか空いてへんのかな」

鳴上「あ……そうだよな。あの人たち今までずっと街中にいて、おまけに悪魔と戦ったりしてたんだから食事する暇も……というか、食べる物すら持ってないんじゃないのか」

メティス「それにいくら悪魔退治の専門家の方とはいえ、外で一人で見張りというのは……。私か姉さんたちのいずれかでも一緒にいるべきかと」

アイギス「メティスの言う通りね。私たちは機械の体です、生身の人間と違って眠る時間も多くなくて平気ですから」

鳴上「そっか……桐条さん、さっきの通信機を貸してもらってもいいですか?」

美鶴「ああ」


>美鶴から通信機を受け取った。


鳴上「ライドウさん。聞こえますか、ライドウさん」


>ザザ、というノイズが聞こえてくる。


『……これは……ん……?』

鳴上「ライドウさん?」


>しばらくしてライドウらしき声は聞こえてきたが遠いように感じる。


『……ええい、何をしている! まどろっこしい! 貸せ!』

『あー、あー』

鳴上「あのー?」

『コホン。その声は鳴上か? 我だ、ゴウトだ』

鳴上「え、ゴウト?」

ゴウト『そうだ、どうかしたのか? まさか悪魔の襲撃か!?』

鳴上「いや、今ライドウさんたちはどこにいるのかと聞きたくて」

ゴウト『我らが何処にいるかだと? 屋上だ。うぬらの居る建物のな』

鳴上「寮の屋上!? 一体、どうやって……」

ゴウト『話はそれだけか? 急用で無いのなら切るぞ。こちらもこれでいて暇では無いのでな』

鳴上「あ、ちょっ……」


>それを最後にブツッと通信が切れた。

>なんだかやけに不機嫌だったように感じるが……


鳴上「ここの屋上にいるって」

メティス「聞いてました。さて、私たちはどうしましょうか」

アイギス「寮の中で起きてる人、休む人、葛葉さんたちのところへ行く人でローテーションを決めましょう」

ラビリス「オッケー」

鳴上「じゃあ、その間にライドウさんのところに持っていく軽い夜食を作ってくる。誰か毛布の用意もしておいてくれ」

メティス「了解しました」


>……



学生寮 屋上


鳴上「あのー……?」

メティス「葛葉さん? ゴウトさん? いらっしゃいますか」


>一緒に来たメティスと屋上の扉をそっと開けて様子を窺ってみる。

>ライドウとゴウトの姿は案外すぐに見つかった。

>屋上の出入口から少し離れた場所で一人と一匹は向かい合っていた。

>ライドウは何故か屋上のコンクリートの上で正座をしていて、ゴウトの鳴き声がニャアニャアとうるさく響いている。

>それに被るようにゴウトの言葉が耳に届いた。


ゴウト『まったく、貴様という奴は! それでもライドウの名を継ぐ者なのか! ……おい、聞いているのかライドウ!』

ライドウ「聞いている」

ゴウト『本当か!? 寝ているのでは無いだろうな!?』

ライドウ「聞いている」

ゴウト『よもや適当に誤魔化そうなどとは考えておらぬな!?』

ライドウ「……」

ゴウト『何故そこで黙る!』

ライドウ「聞いている」

ゴウト『それはもう良い!』

ゴウト『もう少し反省しろ! 追っていた者を取り逃がした挙句、バナナの皮を踏んで転び、あまつさえその拍子に大事な赤口葛葉を落とした事にも気付かなかったとは!』

ゴウト『あそこで鳴上に拾われていなければどうしていたのだ!』

メティス「……何をしているんでしょうか」

鳴上「さあ……」

>雰囲気からしてライドウがゴウトに説教されているように感じるのだが、傍から見るとなんだかとてもシュールだ。

>ゴウトの言葉が解らない者からしたらもっとおかしな図に見える事だろう。


ライドウ「ゴウト」

ゴウト『大体、現地の人間とは極力接触するなと……』

ライドウ「客人だ、ゴウト」

ゴウト『……!!』

ゴウト『先程から妙に美味しそうな匂いがしているとは思っていたが……!』

鳴上「お腹空いてるんじゃないかと思って。お疲れ様です、ライドウさん」

ライドウ「お気遣い有難う御座います」

メティス「お久しぶりです、ゴウトさん。お元気でしたか?」

ゴウト『む? 娘も一緒か。久方ぶりだな』

メティス「これ、ゴウトさんの分のご飯です」

ゴウト『!』


>(こんなものでいいのかとも思ったが)ゴウト用に作った猫まんまの入った皿を置くと、ゴウトはそれにすぐさま飛びついた。


鳴上「ライドウさんにはこっちを。鮭と昆布のおにぎりです」

ライドウ「自分一人で食べるには些か量が多いようですが」

鳴上「俺の分も入ってるからです。食べながら一緒に少し話をしませんか」

メティス「鳴上さん。ここは私に任せてあなたも下で休んだ方が……」

鳴上「そんなに長居はしないから」

ライドウ「彼女の方はどうしてここに?」

メティス「葛葉さんの助っ人です。一人はお辛いでしょうから」

ライドウ「しかし、婦女子の方の手を煩わせるのは……」

メティス「大丈夫です。私の体は機械ですから。人間とは出来が違うんですよ」

ゴウト『なんと……人間離れした節があるとは思っていたが、機械仕掛けであったのか……』

ライドウ「ゴウト、口にご飯粒が付いている」

鳴上「とにかく、そういう事なんで。ここに毛布置いておきますね」

ライドウ「……申し訳ない。何から何まで」

鳴上「いえ。こちらこそ、ライドウさんに世話になっておきながら呑気にしていられないですよ」

ライドウ「……」

ライドウ「あの、鳴上君」

鳴上「はい?」

ライドウ「出来れば、その……敬語と『ライドウさん』という呼び方はやめて頂けないかと」

鳴上「気に障りましたか?」

ライドウ「そうではなくて。なんだか慣れないものですから」

ライドウ「そちらの貴女も葛葉でなく、ただライドウと。葛葉は自分の他にもいますので」


>ライドウは帽子を被り直しながらそう告げる。


鳴上「そうか。じゃあ、ライドウも『鳴上君』っていうのとその喋り方を改めてくれたら嬉しいな」

鳴上「俺たち、一緒に戦う仲間になったんだから。お互い余所余所しい喋り方はやめにしようか」

ライドウ「……」

ライドウ「そうだな。改めて宜しく頼む、鳴上」

鳴上「よろしく、ライドウ」


>どちらからという訳でもなく、手を差し伸べ合い握手を交わした。


夏バテ気味で投下が遅れてました、すみません

今日はこれで終わりです

また次回

おつっした


ライドウとコミュ形成かと思ったら空きが無かった

乙!

>>936
ゴールデンで0道化師22永劫が出たからいけるはず・・・っ

乙!
>>938
永劫は審判と同じく20だったような?
21も世界と宇宙があるんだし、いけるいける。

しかしこのライドウ、少し杉田が入ってる気がするぜ
そして白い詰め襟か…まさかの魔神皇か?
次回も気になるね

ああ保険医にふられてorzの童帝ね

>……


鳴上「それで、どうやってこの屋上まで来たんだ?」

ライドウ「周りの屋根を伝って」

ゴウト『あくまで建物の内部に立ち入ろうとさえしなければ結界で弾かれぬと踏んだのがその通りだったようだ』

鳴上「ここまで来たのなら連絡をくれればすぐにでも屋上の扉の鍵開けに来たのに」

ライドウ「そこの扉に触れようとしたらやはりさっきと同じ様になった。つまり、自分達が入れるのはこの屋上のみという事らしい」

メティス「原因は何なんでしょうね。ゴウトさんとライドウ……さんだけが寮の中に入れない、その理由」


>メティスは彼に言われた通りライドウの呼び方を改めはしたが、自分のように急に馴れ馴れしく呼び捨てに出来る程ではないようだ。


ライドウ「それは、……」

ライドウ「さっき鳴上に言った言葉通りだからだと、自分は思う」

ゴウト『……』

ライドウ「十中八九、自分達は歓迎されていない人間なのだろう」

ライドウ「この場所に……と言うよりは、この空間そのものに」

鳴上「どういう事だ?」

ゴウト『JOKERは異物が混じっているという発言をしたそうだな』

メティス「まさか、その異物にあたるのが貴方たちだと?」

鳴上「……。何でそんな事が言える」

ライドウ「……」

>ライドウは僅かに俯き沈黙した。


ライドウ「先程仲間であると言ってくれた矢先にこんな事を言うのもどうかと思うが、自分達は君達には言えない事を多く抱えた人間だという事をまず理解して欲しい」

ゴウト『……そうだな、これは我らの仕事の守秘義務に抵触する事項の一つだとでも思って貰えればそれで良い』

鳴上「ライドウたちが『異物』であるかもしれない理由は明かせないって事か?」

ライドウ「ああ」

メティス「さっきゴウトさんが言っていた現地の人間とは極力接触するな、というのもライドウさん達の仕事に支障を及ぼすおそれがあるからですか?」

ゴウト『聞いていたのか』

メティス「ええ、すみません」

ゴウト『……』

ゴウト『確かにそうだ。だが、それはうぬらにとっても変わらぬ』

鳴上「……?」

ゴウト『……本来我々は出会うべき者同士では無かったのだ』

ゴウト『だが、もはや致し方あるまい。元より利害関係は一致しているのだ。前向きに考えればこれで早期解決になればそれで良し、といったところか』

ライドウ「これは自分達の責任の問題で、君達が悪い訳ではない。それだけは誓って言える」

ライドウ「……」

ライドウ「今思えば、あれを拾ってくれたのが君のような人間で本当に良かったと自分はそう感じている」

ライドウ「そういえばその礼を言いそびれていたな。恩に着る」

鳴上「あの刀の事か? でも、結局助けてもらったのはこっちな訳だし」

メティス「助けてもらった?」

鳴上「あっ、いや、その……ちょっと悪魔に襲われて」

ゴウト『あれはマンティコアと呼ばれる悪魔だ。あの一帯は低級な悪魔が多かったのだが、何故かあれだけは周りにいた悪魔と比べると格が違ったようだな』

メティス「そ、そんな! 大丈夫なんですか!? 怪我はしなかったんですか!?」

鳴上「そうなる前にライドウが来てくれたから」

メティス「……なんだ、そっか。良かった……」

鳴上「でもあれ、悪魔を切ってたよな。ただの刀じゃないって事か」

ゴウト『あれは赤口葛葉と言う名の退魔刀だ。悪魔を討つデビルサマナーにとっては必需品な訳だが、それをこの男は……』

ライドウ「……」

鳴上(バナナの皮で転んで落とした、だっけ? 俺も危うく踏みそうになったけどさ……)

鳴上「まあでも、拳銃も持ってたし、結構な重装備だよな。全部そのハイカラなコートの下に隠してるみたいだけど」

メティス「でも、まだそれだけではないんですよね?」

メティス「悪魔を討つ為に悪魔を使役する。デビルサマナーとはそういうものだとさっき聞きました」

メティス「つまり、ライドウさんにも仲魔がいる訳ですよね? 鳴上さんのように」

ライドウ「!」

ゴウト『……何だと? どういう事だ、鳴上』

ライドウ「君の仲魔とは?」

鳴上「ああ、そうか。これはまだ言って無かったんだっけ」

鳴上「俺と、あと藤堂さんもだけど、ペルソナ能力とは別に悪魔を召喚する手段を持っているんだ、一応」

ゴウト『ならば何故あの時自分の仲魔を呼ばなかった。一歩遅ければ悪魔の餌食になっていたのだぞ?』

鳴上「それが……何故か急に呼べなくなったんだ」


>ポケットの中から携帯を取り出し、悪魔召喚プログラムを起動させる。

>しかし、画面は表示されてもボタンを押したところで仲魔のリリムが出てきてくれないのは変わらずだった。

鳴上「藤堂さんのもこんな感じでさ。携帯自体が壊れてるって訳じゃないのに……」

鳴上「ライドウの悪魔召喚プログラムはどうなんだ? 平気なのか? それともやっぱり……」

ライドウ「悪魔召喚プログラム……?」

ライドウ「ちょっと良いか」


>ライドウはこちらに手を差し出してくる。

>携帯を見せてくれという事なのだろう。


鳴上「はい」

ライドウ「……」

ゴウト『ふむ……』


>ゴウトもライドウの肩に飛び乗って携帯の画面を覗いている。

>ライドウは携帯のボタンを色々と押してみたり、掲げてみたり、振ってみたり……と珍しい物に触れて遊ぶような行動を繰り返していた。


鳴上「うわっ、逆パカは流石にちょっと勘弁!」

ライドウ「ぎゃくぱか……?」

ゴウト『ライドウ、反対だ。今のと反対に畳むのだ』

ライドウ「……。ああ、そういう事か。すまない」


>ライドウはきちんと携帯を畳んでようやくこちらへとそれを返してくれた。


ゴウト『見た所、サマナーの鍛錬を積まずとも簡単に悪魔の召喚が可能になる物のようだが』

ゴウト『随分と興味深い代物を持っているな。そういう物もあるのか』

鳴上「ん? どういう事だ?」

ライドウ「自分の場合はその悪魔召喚プログラムといった物は使用しない」

ライドウ「これがあれば充分だ」


>そう言って彼は外套の下から細い筒のような物を取り出す。

メティス「この中に悪魔が、ライドウさんの仲魔がいるんですか?」


>ライドウは頷く。


ライドウ「これは悪魔を封じる管、封魔管という。中にはマグネタイトが充満している」

鳴上「へえ……悪魔召喚プログラムよりはるかにアナログな手段なんだな」

メティス「でも、鳴上さんたちのような携帯やPCなどでは電力の供給が無くなってしまったらそれだけで召喚不能になってしまいますからね」

メティス「そういう意味ではこういう物の方が便利なのではないでしょうか」

鳴上「……ま、どちらにせよ電池があっても今は無理な訳だけど」

鳴上「で、その封魔管の方はどうなんだ? 召喚出来そうか?」


>ライドウは手に持つ管の封を解く。

>すると……

>中から悪魔が出てきた。


モコイ「なんだかとってもダークネス。ボク、影時間デビューしたッスよ」

鳴上「おおっ!?」

メティス「これが、ライドウさんの?」

鳴上「……」

鳴上「チェンジ」

ライドウ「?」

鳴上「モコイ」

ライドウ「!」


>ペルソナのタロットを変える。

>……つい、つられて自分もモコイを出してしまった。


モコイ「ウヒッ、モコイ対モコイ?」

モコイ「それってイケてる?」


>ライドウの仲魔のモコイと自分のペルソナのモコイはじゃれ合っている。

ライドウ「もしや、それがペルソナという能力なのか」

鳴上「ああ」

ゴウト「娘もあの様にしてあの様なものを召喚するのか?」

メティス「そうです。でも、私たちと鳴上さんとではちょっと違いがあって、基本ペルソナは一人につき一体しか召喚出来ないものなのですが、鳴上さんの場合は複数所持が出来るんです」

鳴上「モコイはそのうちの一つに過ぎないって訳だ。……チェンジ」


>モコイを戻し、今度はジャックフロストを召喚してみせる。


ジャックフロスト「ヒーホー」

ゴウト『ほう……。確か、ペルソナはうぬら自身の心の力の現れだという話だったな』

鳴上「そうだな」

ゴウト『しかし、我からしてみるとうぬの肉体が封魔管の役割をしていて悪魔の召喚をしているようにも見える』

ゴウト『うぬの中に住まう幾多の悪魔の、な』

鳴上「俺の中の……悪魔?」

ゴウト『なに、ちょっとした例え話だ』

ゴウト『人間は様々な一面を己が内に秘めながら生きるものだ。その中ではっきりと自覚している面もあれば、そうでない面もある事だろう』

ゴウト『自分の中にある複数の自分、……その心。それが鳴上の場合はそれぞれ幾つもの形となって顕著に力へと現れているのではないだろうか』


>自分の中にある複数の自分。

>ゴウトの言葉を参考にすれば、それはペルソナの数だけの自分がいるという事になる。

>今まであまりこのワイルドの能力について深く考えた事が無かったが……

>それは、つまり

>……

メティス「……あれ、ライドウさん? なんだか少し顔色が悪くありませんか」

ライドウ「……」

鳴上「どうした。どこか具合が良くないのか?」

ライドウ「……いや。自分の事は気にしないでくれ。それより、君たちはどうもしないのか?」

メティス「え? どう、って? 私はどうもしませんが」

鳴上「俺も別に。むしろ……」

鳴上「……」

鳴上「ん?」

ゴウト『どうした』

鳴上「いや、具合が悪いとかいうのは無いんだけど」

鳴上「……なんか違和感があって」

ゴウト『まったく揃いも揃って何なのだ、と言いたいところだが』

ゴウト『我も少し体に怠さを感じるな……』

メティス「余計なお喋りをし過ぎちゃいましたかね」

メティス「ライドウさんもゴウトさんも、もう休んでください。後の外の見張りは私がしていますので」

ライドウ「しかし……」

鳴上「いいから。ライドウの力が必要な時に限って倒れられたら困るだろ? だから、食べ終わったならさっさと寝とけ」

メティス「何言ってるんですか、鳴上さんもですよ。ここにいたらライドウさんたちの休憩の邪魔になります。下でゆっくりしていてください」

鳴上「はいはい」

ライドウ「……」

ライドウ「では、お言葉に甘えて、少しだけ」

ゴウト『何かあればすぐに叩き起こしてくれて構わぬぞ』

メティス「わかりました。そうならないといいのですが」

鳴上「じゃあ、おやすみ。メティス、後は頼んだぞ」

メティス「はい。おやすみなさい」


>ライドウたちと別れて屋上を出た。

>……

>しかし、さっきの違和感の正体は何なのだろう。

>何に対して違和感を覚えたというのだろう……


短いけど投下する時間がないので今日はこれでおしまいです

また次回

乙です


Wモコイktkr
しばらくじっと観察したいw

乙乙

このぶんじゃダブル閣下あるでこりゃ

8月32日は来なかったな…

>>955
なにその終わらない夏休み

>……


???


>……

>薄暗い部屋の窓の外から雨音がしている。

>深夜に聞くこの音は自分にとってあまり心地良いものでは無かった。

>事件を追っていたあの頃は特にそう感じていたと思う。

>この音を聞く度に、雨が降る度に訪れていた緊張感と使命感。

>あれを忘れる事は今になっても出来そうに無い。

>部屋の中のテレビへと視線を移す。

>電源は点いていない。

>0時を迎えると、マヨナカテレビ特有の砂嵐が映り始めたが……人の姿はそこに現れなかった。

>……

>ふっと息が零れる。

>誰も映らない、何も起こらない。

>何も。何も……

>……

>急に酷く微睡んできた。

>緊張感は急な脱力感に変わって、それが眠気を誘っているのだろう。

>何も無いというのなら、外の雨音だって静かな眠りにつく為の環境音としては適している。

>もう寝よう。

>布団の中で、居心地の良いこの部屋で、ゆっくりと……

>……

学生寮 ラウンジ


天田「――さん、鳴上さん」

鳴上「……」

天田「おはようございます。時間ですよ、鳴上さん」

鳴上「……ん」

鳴上「……ふぁ……すまない、起こさせて……」

天田「いいえ。それにしてもぐっすりみたいでしたね」

天田「昨夜は色々あったから、お疲れなのは無理もないですけど」

鳴上「ん……」

天田「まだ眠いですか? もうすぐご飯の用意もするつもりですけど、それまでもう少し休んでます?」

鳴上「いや、いいよ。俺だけそういう訳にもいかないだろ」

天田「そうですか。それじゃあ、準備手伝ってもらってもいいですか?」

鳴上「ああ。わかった」


>寝ていたソファから体を起こし、腕を伸ばし体を解してから立ち上がる。

>あれから皆交代で休みを取りながら時間を過ごし、外も明るくなってきた頃だった。

>携帯での時刻はAM7:00

>日付の方は相も変わらず08/32のまま。

>……目が覚めて全部夢だった、なんて事にはならなかったようだ。


天田「そろそろ綾時さんたちも起きてくるかな。そうしたら、ライドウさんの事教えておかないといけないですよね」

鳴上「天田はもうライドウに会ったのか?」

天田「はい。みんな、自分の見張り番の時に屋上にいって顔合わせしたみたいですよ」

天田「ちょっと変わった人と……猫でしたね」

天田「でも、良い人そうで何よりです」

鳴上「そうだな。あ、ライドウにも朝食持っていってやらないと」

天田「それなら綾時さんたちも連れて、お互いの自己紹介を兼ねながら一緒に食事とかすればいいんじゃないですかね」

鳴上「それいいな」

綾時「おはよう。僕がなんだって?」

あかり「おはよー」

チドリ「……おはよう」

鳴上「ああ、おはよう。ちょうどいいところに」

ヴィンセント「ふあ……おはよ。何の話だ?」

鳴上「ちょっと紹介したい人がいるんです」

ヴィンセント「紹介したい人? もしかして、まだ無事な人間がいたのか!?」

鳴上「はい。昨日の夜に出会って」

淳「おはよう、みんな」

鳴上「あ、先生。おはようございます。……あれから具合はどうですか?」

淳「ん……ああ、もう平気だよ。ごめんね、心配かけて」

淳「ところで、話聞こえたけどその紹介したい人というのはどこにいるんだい? ラウンジにはいないようだけど」

鳴上「屋上です。外の見張りを担当してもらっていたので」

あかり「どんな人なの?」

鳴上「えっと……俺たちと同じ年くらいの学生、かな。月光館の生徒じゃないみたいだけど」

鳴上(としかあかりたちには言えないよな……)


>おそらくライドウも一般の人間には彼自身の正体について必要以上の事は明かしたくないに違いない。


綾時「そっか。っていうか、僕も次からはちゃんと見張りに参加しないとダメだよね」

あかり「そうだよね。非常事態だもん。大人とか子供とか関係なく協力しなきゃだよね」

チドリ「……。私に出来る事があるなら、いいけど……」

鳴上「でも……」

淳「僕ももう大丈夫だから。周防くんたちだけじゃなく鳴上くんたちのような子供まで頑張ってくれてるんだから、しっかりしないといけないね」

ヴィンセント「だなあ。おっさんも気合入れないと、だな」


>綾時たちは綾時たちなりに、この状況を一緒に切り抜ける為何か出来ないかという姿勢を見せてくれているようだ。


鳴上「……」

鳴上「とりあえず、もうすぐ朝食の準備も出来る。これからの事はまたその後、桐条さんたちも一緒にまじえて詳しく話し合おう」

鳴上「それで、新しい仲間への顔合わせも兼ねて屋上で食事なんてどうだろうって提案が出てるんだけど」

綾時「あ、いいね」

あかり「うん! 悪くないかも」

鳴上「よし。じゃあ、天田はラウンジにいる他のみんなへの食事を頼んだ。俺は望月たちを連れて屋上に行くから」

天田「わかりました」


>食事を持って、綾時たちと一緒に屋上へ行く事にした。

>……

屋上


>……


綾時「ライドウくんか。これからよろしく」

淳「この辺じゃ見かけない制服だね。どこの学校?」

ヴィンセント「てか、随分と古風な格好だよな」

あかり「キャー、可愛い猫! ゴウトちゃんっていうの?」

チドリ「もふもふ……」


>ライドウと互いに自己紹介も済ませ、みんな彼に色々と話を聞いたりしながら食事をしている。

>ゴウトは主に女性二人に弄ばれて迷惑そうにしていた。

>ライドウには今ここに連れてきた彼らは何の力も持たない一般人である事をこっそり伝えた。

>それを了承した上か、彼は自分がデビルサマナーであるといった事は綾時たちには教えはしなかったようだ。

>束の間の和やかな時間を過ごした……



学生寮 ラウンジ


>食事を終えライドウにはそのまま屋上に待機していてもらい、他の皆を連れて一階へと戻ってきた。

>一階にいたメンバーもちょうど食事が終わったところのようだ。


諒「天田、水をもらっていいか」

天田「はい。どうぞ」


>天田が水の入ったコップを諒へ渡した。


諒「すまない」


>諒はそれを受け取り一度テーブルの上に置くと、ポケットから何かが詰まった小さなガラスの瓶を取り出す。


天田「……?」

天田「神郷さん、それ何ですか。薬?」

諒「……ああ。そんなところだ」

天田「体調、良くないんですか?」

諒「そういう訳じゃない。ただ……念の為に」

美鶴「……」


>そう言って諒はカプセル型の薬を水と一緒に口に含み喉へと流し込んだ。


鳴上「桐条さん」

美鶴「……ん。ああ、戻ってきたのか」

鳴上「はい。これでみんな揃いました。ライドウは変わらず屋上ですけど」

美鶴「そうか。では、さっそくだが今日の予定について話し合っておこう」


>……

>これからの事について皆で話をした結果、今日はまず外から悪魔が侵入してくるのを防ぐ意味でたとえ気休めにしかならなくても寮の窓を全部塞いでしまおうという事になった。

>入口も出入り以外では常時鍵を掛ける事になったが、その出入りもどうしても必要な場合を除き極力しないという事で落ち着いた。

>……というのはあくまで綾時たちへの建前で、特別課外活動部やペルソナ使いの皆は隙をみて外への見回りも定期的にする事も密かに決まった事だった。


美鶴「それではこの寮で部屋を持っている者は自分の部屋の戸締りをしっかりと。後の人は他の窓を塞ぐのを手伝って下さい」


>……


鳴上「……よし、こんなものか?」

鳴上「うーん……」


>自室の窓を寮の中にあったあり合わせの資材でどうにか塞いだ。

>本当ならもっと頑丈にやっておいた方がいいのかもしれないが、今やった事以上はもうどうにも出来そうにない感じだった。

>それよりも、他の部屋の窓を塞ぐのを手伝った方が良いだろう。

>そう思い自分の部屋から廊下に出ると、ちょうど同じように部屋から出てきた諒と遭遇した。


諒「もう自分の部屋は大丈夫か?」

鳴上「はい」

諒「なら早いところ別の部屋の分を片付けてしまおう」


>諒と共に作業をする事になった。

>……


鳴上「……。あの、神郷さん」

諒「なんだ」

鳴上「さっき飲んでいた薬の事、聞いてもいいですか? ちょっと気になったんで」

鳴上「本当に具合大丈夫なんですか?」


>昨夜は橿原が急な頭痛に襲われ、ライドウやゴウトも何処か怠そうにしていた。

>こんなにもおかしな時間と空間の中に共にいる訳で。

>何時誰がどんな風に体調をおかしくしても不思議ではないのだ。


諒「体の方はなんともない、が……」

諒「……」

諒「桐条から話を聞いていないのか?」

鳴上「え? いや、特に何も聞いてませんけど」

諒「そう、か」

諒「……」

諒「でも、そうだな。鳴上は現場のリーダーだ。お前には知っておいてもらった方がいいか」

鳴上「どういう事ですか」

諒「あの薬は、制御剤だ」

諒「ペルソナ能力の、な」

鳴上「ペルソナ能力の……制御?」

諒「ああ」

諒「俺のあの力は不安定なんだ。何がきっかけで暴走するかわかったもんじゃない」

諒「だがそれでも、何時使う事になるかもわからない。そんな状況だからな。その為の薬と言う訳だ」

諒「……これが初め桐条の頼みを渋っていた理由のひとつでもある」

鳴上「!」

諒「元々、俺は桐条の研究所で制御剤の治験に参加していたりもしたんだが、彼女は初めそれを知らなかったようだな」

諒「つい最近になってその事について謝られた。そんな状態で巻き込むような事になってすまない、ってな」

鳴上「でも、それで何故俺たちに協力してくれる気になったんですか? もちろん、こちらとしてもすごく助かりますけど、でも……」

諒「俺は、ただ。……」


>諒は作業の手を止めて黙ってしまった。


鳴上「……すみません。言えない事なら無理に聞いたりはしません」

諒「……」

諒「俺は、俺が今すべきだと感じた事をやろうと思っているだけだ」

諒「でもそれは時に鳴上たちの目的と噛み合わない事もあるかもしれない。……だから安易に俺の事を戦力として扱わない方がいい」

鳴上「……どういう意味なのか俺には解らないところもあるけど」

鳴上「そうだとしても、俺たちは仲間だって事に変わりはないですよ。そうですよね?」

諒「……」

諒「まあ、悪魔やJOKERなんて奴に好き勝手されるのは迷惑だと思っているのは一緒な事は確かだな」

諒「俺はまだ、……こんなところで死ぬ訳にはいかない」


>諒には諒だけが抱えている複雑な事情が色々とあるようだ。

>少し諒の事を理解した気がする……



>『ⅩⅧ 月 神郷諒』のランクが4になった



美鶴「鳴上、神郷。二階の方はどんな様子だ?」

鳴上「あ、はい。もう少しで終わりそうです」

美鶴「そうか。なら終わり次第こちらの方も手伝ってくれないか」

諒「外の見回りの方はどうするんだ」

美鶴「それは今ライドウとゴウトがしてくれている。問題ない」

鳴上「ライドウたちだけで? そっちの応援も行った方がよくないですか」

美鶴「私もそう思ったんだが、彼らからの通信によると今はまったく街中に悪魔の気配を感じないのだそうだ。だから平気だと」

鳴上「え、悪魔が消えたって事ですか!?」

諒「……。確か悪魔は月の満ち欠けに影響を受けるんだったな?」

鳴上「そうか。つまり、月の出ていない昼間は悪魔も大人しくなっている、って事なんでしょうか」

美鶴「その可能性はあるのかもしれないな。安易にそうだと決めつけ思い込んでしまうのも危険だが……」

美鶴「しかし、悪魔の専門家が今のところは大丈夫だと言っているんだ。それを今は素直に信じよう」

鳴上「そうですね。その辺の詳しい事も後でライドウに聞けばいいか」

諒「……終わったぞ」


>美鶴と話している間にも、諒は何時の間にか作業を進めていて窓の封鎖も完璧になっていた。


美鶴「ご苦労。では私と一緒に来てくれ」

美鶴「……ああ、そうだ。何時もそうしてくれているとは思うが、君たち自分の部屋から出ている時はしっかり入口の鍵もかけておくように」

鳴上「解ってますって」


>美鶴に言われるまでもなく、さっきも部屋を移動する前にきちんと施錠をしてから離れている。

>しかし念を押された事もあって、もう一度鍵がかかっているか確認する為に自分の部屋の扉の前まで行きドアノブを回す。

>施錠の手応えはしっかりとあった。

>バッチリだ、と……そう思ったその瞬間。

>それは視界に映った。


鳴上「……なんだ、これ」

鳴上「封筒?」


>扉の隙間に無地の封筒のようなものが挟まっているのだ。

>こんなもの部屋を出た時には無かった筈だが……

>指で摘みそこから引き抜いて確認してみるが、宛名も差出人も何も書かれていない本当にまっさらな封筒だった。

>どうやら封もされていなかったようで、何かの拍子にその中に入っていた小さな紙切れがはらりと床に落ちていった。

>……だから、意図せずともそのメッセージはこの目に飛び込んできた。



『さあ、オールドメイドの始まりだ』


美鶴「神郷。君の部屋の扉に挟まっている……あれは何だ?」

諒「?」

諒「これは。……カード?」


>諒がゆっくりとそれを引き抜き、裏返した。


鳴上「ッ!?」

鳴上「神郷さん! 後ろっ……!」

諒「!!」


>声に反応して諒は身体を振り返らせると同時に、傍にいた美鶴の腕を掴み引っ張るようにして一緒に横へと大きく飛んだ。

>閉ざしている筈の屋内にごうっと風の音が渡り、諒の手からカードが吹き飛ばされていく。


美鶴「なっ、神郷……、!?」

美鶴「これ、は……」


>諒の部屋の扉には、何時の間にか縦に大きな亀裂が走っていた。


美鶴「お前は!」

諒「っ……」


>舞い上がったカードは真っ二つになって床に落ちる。

>そこには引き裂かれたピエロが不気味に笑っていた。

>……しかし、次に聞こえてきた笑い声は破れたそのカードからしているものではない事は、一目瞭然だった。

>この場にいる人数が何時の間にか一人、増えている――


JOKER「最初のターゲットが決まったんでな、お迎えにやってきたぜぇ」

鳴上「JOKER!」

美鶴「貴様、またしても……!」

諒「二度目の住居不法侵入か。感心出来ないな」

JOKER「随分と余裕だなあ、おい。それともオレの言葉の意味、解ってねえのか?」

JOKER「最初の狩りの獲物はテメェだって言ってんだよ、……神郷諒!」

諒「……」


>JOKERは刀の切っ先を突き付けながら諒の名を叫ぶ。

>諒は美鶴の盾になるように片腕を上げ、前へと一歩進みJOKERと睨み合った。


天田「なっ、今の音なんですか!?」

諒「っ……天田、出てくるな!」

天田「!?」

天田「こいつはッ……!」


>まだ自分の部屋で作業をしていたらしい天田が最悪のタイミングで顔を出す。

>その僅かな隙を突いて先手を取ったのはJOKERの方だった。

>JOKERは刀を構え直し、諒との距離を一瞬で詰める。

美鶴「神郷!」

諒「伏せろ、桐条!」


>美鶴を庇う為に彼女を突き飛ばし、諒はすんでの所でJOKERの攻撃をかわしてこの場から走りだし、上へと続く階段を一気に駆け上っていった。


JOKER「チッ……ちょこまかと!」


>それをJOKERが黙って見ている筈もなく、美鶴も天田も放置してすぐに諒の後を追って走り出す。


鳴上「天田! 桐条さんの事は頼んだ!」

美鶴「鳴上!?」

天田「鳴上さん!」


>……



屋上


JOKER「もうこれで後が無くなったなぁ?」

諒「……」

鳴上「神郷さん!」


>二人の後に続き屋上まで駆け上ってやってきた。

>諒は屋上の柵に背を預けていて、JOKERは更に追い詰めるようにじりじりと彼へ寄っている姿が見える。

>このままでは……!


JOKER「とっとと此処から消えちまいなぁッ!」


>JOKERが薙いだ刀から出た衝撃波のようなものが諒を襲う。

>もうダメだ――

>そう思ったのは自分だけのようで。

>諒の表情には焦りも諦めの色もなく。

>冷静な眼差しが、その攻撃をじっと見据えていたのだった。

>――彼のその瞳が青く光り輝く。

>それと同じ色を持つ彼とは別の半透明な体が……諒のペルソナが、彼の頭上へと浮かんだ。

>諒は、JOKERに人差し指をすっと向ける。

諒「っ……」

JOKER「!?」


>諒の動きに合わせるように、彼のペルソナの腕がJOKERに向けられた。

>正確には腕の肘にあたる部分が、JOKERに狙いを定めている。

>そこから長く伸びているのは、銃身のように見えた。

>その先から真っ直ぐな光の線が、彼に向かってきている衝撃波とJOKERに向けて放たれる。

>衝撃波は一瞬の内に相殺されたが……

>しかし、それがJOKERの体を射抜く事はなく、奴はまた諒との距離を置いた。


JOKER「……随分と厄介なペルソナを持ってるみたいだな」

諒「今度は……外さない」


>諒のペルソナの銃からまた光線が放たれる。

>今度は一度のみではなく、時間を置かずに何度も何度も、執拗に。

>それでもJOKERは人間離れした動きでそれを回避しつつ、柵の方へと走り寄る。

>……だが、諒との接触はしないまま、コンクリートを蹴りその柵を飛び越えて

>屋上から飛び降りたのだった。


諒「待て!」


>諒の体が宙に浮かぶ。

>これも彼のペルソナの力なのか、JOKERの後を追い自在に飛ぶようにして諒もまた屋上から落下した。

>急いで自分も屋上の柵へと駆け寄る。


鳴上「くっ、俺だってここから援護くらいは……!」

鳴上「イザナ、」

鳴上「――ッ!?」

JOKER「……馬鹿が」


>下へと真っ逆様に落ちていくJOKERの体が……不意に重力に逆らい、宙で停止した。


諒「なっ……!」


>諒はその動きに咄嗟の反応が出来なかった。

>JOKERの体はそこから今度は勢いよく上昇し

>――下に向かっていた諒の体を、その刃が貫いた。


諒「がっ、は……!」


>その光景を目の当たりにした瞬間

>意識が、白んだ……

>……

――はるか 昔のことかも しれないし
とおい 明日のできごとかも しれない。
見しらぬ 土地かも しれないし
すみなれた 場所かも しれない。
そんな あるところの おはなしです。――



『いや、もしかしたら。貴方は……貴方の本当の目的は』

『それこそ、けして人がなしてはならない事です……!』


>彩られていく、最後のキャンバス。


『――だから、お前たちのところへは戻れない』


>響き渡る海鳥の鳴き声。

>赤い服の少女。


『仰る意味が、解りません……』

『これは幸運な事なのです。――親御さんは? 時間がありません。了承の際はサインを』


>白い建物の中。

>震える指先。


『……殺した……僕、が……』

『違う……違うッ!』


>夕暮れのアトリエ。

>割れる音。壊れてゆく音。


『施術の前に塗り潰すべき記憶の仔細を聞きたい。あの日、何があったのかを』

『……後悔、していました』

『僕たちは、忘れてはいけなのかもしれない……』


>揺れる、心。


『やめろっ……やめろおぉぉぉぉ!』

『……あの子、たち……を……』

『お父、さん……お母さん……!』

『見るなあぁぁぁぁぁッ!』


>……


『――お別れだ』

『……』

『おにいちゃん!』

『また、おうまさんしてね!』


>塗り潰されていく、最後のキャンバス。

>灰色の空と海と街へ幾多に広がり散る、それは――


鳴上「……はね……?」


>白い、とても白い羽根が周りに沢山舞っている。

>これは……何の羽根だろう。

>今までに見たことのない形状をしている。

>それをひとつ掴もうとして、手を伸ばしたが

>瞬きをしたその瞬間突風を身に感じ、それは全て跡形もなく消え去っていた。

>これは夢? それとも幻?

>……たった今、走馬灯のように意識の中を巡ったヴィジョン。

>その中に、諒の姿を見たような気がした。

>神社の夏祭りの時、水色の風船を手渡してくれたあの時と同じ……いや、それ以上の憂いを含んだ眼差しを誰かに向ける諒の姿。

>その、神郷諒は――


鳴上「……、ッ!」

鳴上「……神郷……さん?」

鳴上「神郷さん……神郷さん……神郷さん!!」


>我にかえり、諒の姿を探す。

>けれど……彼は何処にもいなかった。

>あのまま屋上から落ちて地面に叩きつけられているという事もなく、いなくなっていたのだ。

>その場にへたり込んだ自分の背後には、何時の間にかまたJOKERがいて、それがただこちらを静かに見下ろしているだけ。

>他には誰も、誰も……


JOKER「残りは18だ」


>ただそれだけを呟き、JOKERの気配はそこから完全に消えた。

>そして、屋上の扉が激しく音を立てて開かれる。


美鶴「鳴上! 神郷は無事か!」

天田「……鳴上さん!? どうしたんですか!」

美鶴「神郷は、神郷はどうした! おい、鳴上! 鳴上!?」

鳴上「……う……あっ……」

鳴上「ああっ……ああああああああッ!!」


>抑えきれなくなった慟哭が空に響いた。

>さっきまで白かった意識が、今度は黒く真っ暗になっていくのを感じた……

>……

終わりです

また次回

残ってるレスが微妙……次スレ立てるべきか

次スレ

鳴上「月光館学園?」 No.3
鳴上「月光館学園?」 No.3 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1346942957/)

このスレでの本編投下はここまでにしようと思います。

ここから先は何かあれば適当にどうぞ

余ればまた小ネタ投下するかな

このSSもまさかの3スレ目突入ですが、大体今の話が終われば折り返し地点になる感じです

まだまだ先は長い……

それでも日々お付き合いしてくれている皆さま、本当にありがとうございます。

今後ともよろしく……

乙!

乙です。
まさかの退場…こいつはどうなっちまうんだろうね

マハ乙

緊張感出てきたなー
焦らず完走してくれ

乙ー

やっぱりまだレスに余裕がありそうなので、もう一回分本編の投下してから次スレにいきたいと思います

では、開始






『――上、鳴上。起きんか、鳴上』

鳴上「……」


>……頬に何かの感触がする。


『これでも起きないのなら……』

鳴上「うっ……?」

鳴上「ッ!!」


>目前に光る爪を見て驚きのあまり思わず飛び跳ねた。


ゴウト『やっとか』

鳴上「ゴ、ゴウト……?」


>ゴウトは爪と前足を引っ込め溜息を一つ吐いた。

>どうやらゴウトが今さっきまで自分に猫パンチをくらわせていたと思われる。


鳴上「……」

鳴上「俺は、一体……」

メティス「鳴上さん!」

ラビリス「良かったわあ、すぐ気が付いて……何があったのかと思って駆けつけてみれば悠がぶっ倒れてるんやもん。びっくりさせんといて」

鳴上「メティス、ラビリス……?」

>どうやらここは屋上のようだ。

>倒れていたという事らしいが……前後の記憶が曖昧で、どうしてこんな場所でそんな事になったのか上手く思い出せない。

>辺りをよく見回してみると、街に出ていた筈のライドウも含めこの寮に集まっている人間の殆どがこの場所に集合しているのが確認出来た。

>……ただ、一人を除いて。


鳴上「っ……そうだ、神郷さん! 神郷さんは!?」

ライドウ「その神郷さんの事について聞きたいのは此方の方だ」

ライドウ「君と一緒に居た桐条さんにも天田君にもはっきりとした事情が解らないようだが」

ゴウト『ここで何があったのだ、鳴上』

鳴上「……」

鳴上「じゃあ……さっきのは夢、じゃないのか……」

鳴上「くそっ……!」


>拳を屋上のコンクリートに叩き付ける。

>じんわりと鈍い痛みを感じた。


ライドウ「鳴上」

鳴上「……。神郷さんは、JOKERと戦って……」


>思い出したさっきまでの出来事をぽつぽつと、この場にいる皆に告げた。

>……


アイギス「そんな、神郷さんが……!?」

藤堂「……。アイツが言ってた言葉の通り消されてしまったって事か」

美鶴・天田「……」


>美鶴や天田はついさっきまで一緒にいた筈の諒の姿が何処にも見えない事から何があったのか予想は出来ていても自分の言葉を聞くまでそれを信じたくは無かった様子で、話を聞き終わると無言のまま俯き肩を落とした。

>この場に集まる他の人たちも、ここであった事を聞いて絶句している。

>その中でライドウだけは屋上の周りを調べたり上から下を見下ろしたりして改めて近辺の確認をしていた。

ライドウ「その襲ってきたJOKERらしき人物の姿も今は近くにいないようです。が、念の為皆さんは一度建物の中へと戻って下さい」

ライドウ「……鳴上の話を聞く限りでは何処に居ようとJOKERにとっては関係無い様ですが」

ライドウ「もしまた建物の中にJOKERが突然現れるような事があれば、屋上まで来るか外に出るかして下さい。通信機での連絡もお願いします。自分がすぐに駆けつけますので」

ゴウト『本当は此処でライドウと共にいて貰うのが一番なのかもしれないが、流石にこの人数でずっと一緒に外の空気に当たっているのは辛かろう』

ゴウト『外から見える位置に居ては逆に狙われ易くなるだろうしな。何処に居ても結局状況は変わらんという事だ』

美鶴「……。解った」

美鶴「皆さん、一度ラウンジに戻りましょう」


>美鶴の言葉に皆、無言のまま従う。

>その足取りは誰もが重々しくなっているように見えた。

>一人、二人と順に屋上から人の気配が消えていく。

>その様子をぼんやりと眺めながら、自分は未だにその場から立ち上がる事すら出来ずにいた。


達哉「おい、鳴上」

鳴上「……」

達哉「しっかりしろ!」

鳴上「ッ……!」


>周防の平手が頬に直撃する。

>叩かれたその痛みから、ぼやけた意識が少しではあるがはっきりしてきた。


達哉「お前の辛い気持ちは解る。だが、……だからこそ、こんな所で腑抜けてる場合じゃないだろ」

達哉「次にまたこんな事にならない為にも……」

鳴上「周防さん……」

鳴上「っ……」

>周防の言葉が、痛い。

>諒と似ている声色でそう告げるものだから、まるで諒に叱られているようにも感じて尚更だった。

>その痛みに思わず自分の胸元を鷲掴む。

>そこへ、誰かの影が割って入ってきた。


麻希「やめて、刑事さん」

麻希「鳴上くんだって、それは頭では解ってる筈。そうよね?」

鳴上「……」

達哉「……」

達哉「先に行ってるからな」


>まだ何か言いたそうにはしていたが最後にそれだけ告げて周防も屋上から出て行った。

>麻希は一つ息を吐いて、胸元を掴んでいた自分の手をそっと取った。


麻希「血が滲んでるよ。手当しないとね」


>さっき殴り付けたせいだろう。

>しかし今は拳の痛みよりも、胸の痛みの方が辛かった。

>そして


鳴上「――!?」


>急にまた意識が白くなっていくのを感じた……

>……



>目の前に数人の少年少女がいた。

>その誰もが見覚えのない学生服を着ているが、中心にいた少年の顔には何処か見覚えがあるような気がする。

>左の耳朶に光るピアス。

>それは記憶にあるのと少し形状は違って見えるが、少年の髪型の感じといい……藤堂尚也のように見えた。

>ただ、この藤堂は『少年』だと思うほどに若かった。

>自分の知る藤堂も実際の年齢はどうあれまだ十分若く見えるのだが、今見えている彼はそれよりも幼さと未熟さを残しているように思える。

>その彼の隣にいる少女にふと意識が移った。

>驚く事に、少女の方も見覚えのある顔立ちをしている。

>頭にリボンを着けていて髪型はまったく違っているのだが、口元のホクロといい園村麻希に違いないとそう感じた。

>何故こんな姿の二人が?

>……そう思っていると、藤堂と麻希の傍にいた髪の短い少女の姿が変貌した。

>制服姿から私服に変わり髪も伸びて成長し、一緒にいた少年少女たちはまるで違う人物になってしまう。

>ブレザー姿の少年、その少年と同じ学校の制服であろう金髪の少女、青い髪に学ランの少年、それから大人の女性がもう一人。

>そして制服姿から大人に変わった女は消えて、その代わりに青い髪の男と同じ学ランで胸元に花をさした少年が現れた。

>なんだか、ブレザー姿の少年は周防達哉に、花を持った少年は橿原淳にそっくりのような気がする。

>……そのいずれも藤堂や麻希の時と同じで、自分が知る彼らよりも若く見えた。

>しっかりと確認しようとその少年たちをじっと見つめていると、ブレザー姿の少年の服装が制服から真っ赤なジャケットに変わり一緒にいた大人の女性を除いてまた周りにいる人物たちががらりと変わった。

>化粧の映えた美人の女性、周防と何処か雰囲気の似たサングラスの男性、そして長い黒髪に派手なスーツを着た男性は……パオフゥだ。

>……

>どうしてこんな光景が、この人たちは一体……いや、そもそもここは何処なのだろう。

>周りの空気も光も柔らかで、ただいるだけでも癒されるような、そんな空間のように感じる……

>その場所の中心にあったのは――

鳴上「……泉」

麻希「ああ、そうね。トリッシュに治してもらおっか」

鳴上「!」

鳴上「……」


>目の前にいる麻希の姿は、さっき見た制服姿で頭にリボンを着けた少女では無くなっていた。


麻希「これくらいの怪我ならあの子もそれほどお金を取ろうだなんて――」


>麻希がそう言葉を言いかけたその時。

>ドンッ、という大きな地鳴りが響いた。


麻希「え、今の……何?」

ライドウ「これは、下の階からか?」

鳴上「下の……、まさか!」


>急いで立ち上がり、屋上から飛び出した。


麻希「あっ、待って!」

ライドウ「鳴上!」

ライドウ「……ッ!」

ゴウト『よせ、ライドウ。その結界は、やはり我らをここから中へは通さぬ気のようだ』

ライドウ「……」

ゴウト『今は連中に任せる他に無い』

ゴウト『……この事態、思っていたよりも厄介かもしれぬな』

>……


学生寮 ラウンジ


鳴上「どうしたみんな! 何があった!」

麻希「藤堂くんっ、今の音と揺れは一体……」

藤堂「……あれを見ろ」


>藤堂が学生寮の入口にあるカウンターのその奥にある扉を指差した。

>そこにあった筈の扉が粉々に破壊されている……

>あの場所は。

>あの場所にいたのは


鳴上「トリッシュ……トリッシュはどうしたんですか!?」

美鶴「我々がここまで来た時には既にこうなっていて、あの妖精の姿も何処にも見当たらなくなっていたんだ」


>美鶴は首を横に振って苦々しい表情で呟く。


鳴上「そんな……」

鳴上「トリッシュ!」


>破壊されている扉の前まで近寄る。

>泉と繋がっている事を示していた青白い光は消え失せていて、その扉の向こうを壊れた隙間から覗いてみてもトリッシュはおらずあの回復の泉も無くなっていた。

>ふと、壊れて飛び散っている扉だったものの破片に混じって何かを踏み付けている事に気付く。

>足を退かして確認したそれは……JOKERのカードだった。


鳴上「まただ、またアイツが……!」


>JOKERのカードを拾い握り潰す。


パオフゥ「迂闊だったな。ここを真っ先に潰されちまうとは……」

順平「そ、そうだよ! これじゃあ身体の具合が悪くなったらもうどうにも出来ねえじゃん!」


>順平はチドリの方を見ながら叫んだ。


チドリ「……」

順平「どうすんだよ、これ……」

メティス「回復役から潰すというのは、セオリーではありますね」

アイギス「感心してる場合じゃないわ」

メティス「そういうつもりじゃ。……ごめんなさい」


>再び重苦しい空気と沈黙が訪れる。

>自分たちにとって重宝だったその場所は早くもその機能を失ってしまった。

>その主も消されてしまった。

>JOKER……

>絶対に許す訳にはいかない。

>……

>壊れた扉を塞いでから後の事はよく覚えていない。

>一同は揃ってラウンジにいたが、二人の仲間を一度に失った事によるショックが大きいのは皆同じで。

>会話らしい会話を殆どする事もなく、じっとその場に固まって時間だけがただ過ぎていくだけだった。

>そんな中、ふらりとまた屋上に足が向いたのは無意識だったのかどうなのか。

>それすらも今の自分には解らなかった。

>……


屋上


>屋上に入る扉をそっと開けた。

>空はすっかりオレンジ色に染まっていて、もうそんなに時間が経っていたのかと思ってしまう。

>外の空気は良くも悪くもなく、ただラウンジにいる息苦しさからは少し解放されたような気がして一度大きく深呼吸をした。

>それから、ライドウが相変わらず屋上で待機している姿を見つける。

>あれから通信も無いところをみるに何も起きてはいなさそうだが……

>視線が合うと、ライドウは小さく頭を下げた。

>つられてこちらも頭を下げるが特にこれといって言葉を交わす事はしないまま、屋上の柵まで近付き空と街を見渡した。

>暫くそのままぼうっとした時間を過ごす。

>……何か考えなければと思うのに何も考えたくなかった。

>でも何かって……何を?

>……

ライドウ「大口を叩いておきながら君達の役に立てず申し訳無いと思っている」


>ライドウが何時の間にか隣までやってきていて、そう告げる。


鳴上「……ライドウが謝る事じゃ、ない。それにライドウは良くやってくれてるよ。知り合ったばかりの俺たちに協力してくれてさ」

鳴上「……」

鳴上「俺がもっとしっかりしていれば良かったんだ」

鳴上「神郷さんへの援護をもっと早くすれば良かったし、トリッシュが一階で一人になっている事にももっと早く気が付ければ……」

ライドウ「君の責任でも無いだろう」

鳴上「でも!」

鳴上「近くにいたのに、俺は何も出来なかったっ……!」


>柵を握る手に力を込める。

>そのまま崩れ落ちてしまいそうになる身体を支えるのに必死だった。


ライドウ「そうやって嘆いてばかりいては駄目だ。周防さんにここで言われた言葉をもう忘れたのか?」

ライドウ「希望を失ってはいけない」

ライドウ「もう犠牲を出したくないのならば、仲間を守りたいのならば、考え行動する事をやめてはならない」

鳴上「っ……」

ライドウ「必ず突破口はある筈だ。この時間から皆と共に抜け出す方法を早く見つけよう」


>ライドウは身体を支えて立ち上がらせてくれた。

ライドウ「……」

ライドウ「気の利いた事の一つも言えずに済まない」

ライドウ「もうすぐ日も暮れる。自分は一足先に夜の巡回へ行こうと思う。君達もまた夜の街に出る気ならば、通信で知らせて欲しい」


>帽子のつばを下げそう呟くと、今まで黙って様子を見守っていたゴウトを連れ立ち別の建物を器用に伝うようにしながら彼は屋上から街へと出向いて行ってしまった。


鳴上「……仲間を守りたいなら」

鳴上「みんなと、共に……」

『――そうだ、諦めてはいけない』

鳴上「!?」

『アイツのする事を認めては……』

鳴上「誰だ!!」


>頭の中に直接語りかけてくるような声を聞いた。

>しかしライドウがいなくなった今、この屋上には自分しかいない筈……

>誰がいるのか探そうと、ぐるりと振り返る。

>……しかし、驚く事に、自分のすぐ真後ろにそれはいた。

鳴上「なっ……」

「ご機嫌いかがかな」

鳴上「お前は何者だ……!」

「……」

鳴上「……」

鳴上「ッ、次から次へと……いい加減にしてくれ! もう沢山だ!」

鳴上「なんで、こんな……」


>正体の解らない人物に行き場の無い怒りをぶつける。

>目の前にいるのが誰であろうと、半ば自棄になっている今の状態ではもうどうでもいい事だった。


「落ち着け」

鳴上「!」

「……うん、でもそうだね。気持ちは解るよ」

「あんな奴に好きにされるのは困るよね」

「それはボクも同じなんだ」

「だからこうして一度君に挨拶しておこうと思ってね」

鳴上「……どういう事だ」

鳴上「誰だ、お前は」

「……」

>落ち着けと言われて初めて注意深く相手を見てみた。

>白い学ランのような服装を身に纏っているが肝心の顔が見えない。

>仮面を被っているのだ。

>その仮面の顔の形はピエロを思い出させるような形状で……

>紙袋のあの男よりも、この人物の方が『それっぽい』名前が似合うような。

>……そんな考えが一瞬思い浮かんでしまって、それを振り払うように首を軽く横に振った。

>しかし、仮面の人物はその思考のままの名を口にする。


「ジョーカー。敢えて名乗るとするならばそういう名前になるね」

「紛らわしいし、アイツと同じ名前なんて癪だけれど……仕方のない事だ。こうとしか名乗りようが無いんだから」

「そうだな。アイツが英語でJOKERだっていうのなら、ボクは片仮名でジョーカーという事にしておこう」

「どちらにしてもややこしいか。まあ、好きに呼ぶといいさ」

鳴上「ジョーカー……?」

鳴上「なあ、お前はJOKERを……あの紙袋の男の事を知っているのか!?」

ジョーカー「ああ、知っているよ。これでもかという程ね」

ジョーカー「アイツはボクたちの敵だ」

鳴上「……!」

鳴上「ボクたちの……それは、つまり」

鳴上「お前は俺たちの味方だと、そう受け取っていいという事なのか」


>ピエロは仮面の下から小さく笑い声を零した。


ジョーカー「ボクはね、願いを叶えにきたんだよ」

鳴上「!」

ジョーカー「だってボクは……ジョーカーだからね」

ジョーカー「それじゃあ、いずれまた」


>そう一方的に告げて、ジョーカーは突然吹き起こった風と花びらを残して一瞬で姿を消した。

>……そして、気付いた時には何故か手に何時の間にか紫色の花を持っていたのだった。


鳴上「なんだ、この花……」

鳴上「……」

鳴上「JOKERに、ジョーカー……どういう事なんだ?」


>空はもう暗くなっている。

>浮かぶ月は今夜も丸く、不気味な輝きを放っていた。

>……

>今はとりあえず、もう中に戻った方がいいかもしれない。

>考えるのは、……それからだ。

淳「うわっ!」

鳴上「!」


>屋上の扉を開いて戻ろうとした時、そこで橿原と鉢合わせになった。


鳴上「先生!? なんでこんな場所に?」

淳「それはこっちのセリフだよ。どこに行ったのかと思って探しに来たんだ。やっぱりここだったんだね」

淳「って、その花はどうしたの?」

鳴上「あ、いえ、ちょっと……」

淳「ふーん、フジバカマ、か。……」

淳「あの日を思い出せ」

鳴上「え?」

淳「ああ、フジバカマの花言葉だよ」

鳴上(花言葉、ね)

鳴上(……)

鳴上(あの日を思い出せ……?)

淳「……」

鳴上「?」

鳴上「……あの、先生? どうかしましたか?」

淳「え? あ、ごめん。なんでもないよ。こんな話どうでも良かったね」

淳「あれ……ところで、ラビリスさんと天田くんと桐条さんは? 鳴上くんと一緒じゃなかったの?」

鳴上「え、違いますけど」

淳「おかしいな。三人も姿が見えなかったから、一緒に屋上で外の空気でも吸ってるのかと思ってたんだけど」

鳴上「……」

鳴上「まさか……」

終わります

次回は3スレ目でお会いしましょう

では

鳴上「月光館学園?」 No.3 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1346942957/)

乙っす

コンセイトレイトからのマハ乙ダイン

ヒートライザ乙

1000ゲットロボであります。
自動で1000ゲットしつつ>>1乙する凄いロボットであります。

別スレの作者さんも来てた。
ともかく乙です

1000なら向こう側の達哉にも幸せを

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