シンジ「帰ろう……僕たちの――」 (221)

エヴァSS
二次創作ベースの配役変更・再構成

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1392044409

==== ネルフ本部 ケージ ====

マヤ『シンジくん! 弐号機が……アスカが!アスカが!!』

シンジ「……だって……エヴァに乗れないんだ……どうしようもないんだ……」

  :
  :

==== 赤い浜辺 ====

   (彼方に横たわる崩れかけた巨大なレイの顔)

   (波の音)

シンジ「うっ……ううっ……」

   (横たわるアスカの首を絞めているシンジ)

アスカ「……気持ち悪い……」

シンジ「ううっ……うあああああああああぁぁ!!」

  :
  :

==== 病室 ====

シンジ「!」ハッ

  (病室の天井)

シンジ「あ……綾波?」

レイ「……」

シンジ「ここは?」

レイ「本部よ」

シンジ「僕は……どうして……」

レイ「覚えていないの?」

シンジ「いや……何だか長い夢を見てたみたいで……頭がこんがらがって……」

レイ「碇くんは初号機ごと使徒の影に飲み込まれて、16時間後に使徒の本体を破って出てきた。そしてここに収容された」

シンジ「そ、そう……そうだったね……」

レイ「大丈夫? すごく苦しそうだった」

シンジ「うん、もう大丈夫」

レイ「そう……よかった」

   (立ち上がり出入り口に向かうレイ)

レイ「今日は寝ていて。あとは私たちが処理するから」

シンジ「うん……ありがとう」

プシュー

   (出ていくレイ 入口から覗き込んでいたアスカが慌てて引っ込む)

シンジ「……」クスッ

シンジ(夢……だったのかな……)

  :
  :

==== 翌日 試験室 シンクロテスト ====

ピッピッピッ……

   (管制室 窓の向こうには3本のテストプラグ)

   (モニタにはレイ、シンジ、アスカのプラグ内画像)

ミサト「どう? シンジくんの調子は?」

リツコ「まだ何とも言えないわ。一時的とはいえ、使徒にとりこまれていたんですからね。」

ミサト「精神汚染の兆候はなかったんでしょ?」

リツコ「ええそうよ。でも、長期的にどんな影響が出てくるかは――」

マヤ「先輩!」

リツコ「――どうしたの?」

==== テストプラグ内 ====

ヴォーーーー……

シンジ(なんだろう……いつもと同じようにやってるつもりなのに……)

シンジ(何だか……感覚が研ぎ澄まされていくような気がする……)

==== 管制室 ====

マヤ「シンジ君のシンクロ率、上昇しています。70……80……」

リツコ「……どういうこと?」

==== テストプラグ内 ====

シンジ(……!)

   (白いエヴァに咥えられた弐号機の残骸がフラッシュバックする)

==== 管制室 ====

マヤ「あ……シンクロ率、低下します……」

リツコ「何なの……」

マヤ「初号機パイロット、心拍数上昇。呼吸も乱れています」

ミサト「どうしたのかしら」

==== テストプラグ内 ====

シンジ「……」ハッ……ハッ……

リツコ『大丈夫? シンジ君』

シンジ「は、はい……大丈夫です……」

リツコ『無理しないで、復帰したばかりなんだから。今日はもう上がっていいわよ』

シンジ「はい……すみません……」

プシュー……

シンジ(だめだ……夢のことは……忘れないと……)

==== テスト後 管制室 ====

リツコ「――ということで、アベレージではアスカがトップよ」

アスカ「……ちょっとリツコ、アベレージではって、どういうこと?」

リツコ「瞬間値ではシンジ君がトップだったからよ。シンクロ率91.2%」

アスカ「な……!」

シンジ「え?」

リツコ「ただ、すぐに起動レベルぎりぎりまで下がってしまった。きょうは不安定だったわね」

シンジ「すみません……」

リツコ「謝ることじゃないわ。原因はよくわからないけど、この前使徒に取り込まれたことが影響しているのかもしれない。様子を見ながら対処していきましょう」

アスカ「ふ…ふん! やっぱりアタシがトップじゃないの! この前ちょっとアタシに勝ったからって、いい気になんないでよね!」

レイ「……」

アスカ「な……何よ」

レイ「あなたは、病み上がりの人に勝ってもうれしいの?」

アスカ「何ですってぇ!?」

シンジ「やめなよ、綾波……アスカの方がコンスタントにいいのは事実なんだから」

レイ「……」

アスカ「わ……わかってるじゃないの! だからって、手ぇ抜いたりしたら承知しないわよっ!」

シンジ「わかってるよ……」

シンジ(でも……どうしてだろう……。シンクロテストの結果がよくても、前ほどうれしくない……)

レイ「……」

==== 翌日 市立第壱中学校 2年A組 教室 ====

キーンコーンカーンコーン……

トウジ「さぁて! メシやメシ!――」

校内放送『2年A組 鈴原トウジ、鈴原トウジ――』

トウジ「――なんや?」

校内放送『――至急、校長室まで。――』

ケンスケ「何かやったの?」

トウジ「心当たり、ないわ……」

シンジ「!」ハッ

シンジ(……この場面……知っている!……あの夢の中の……)

シンジ(じゃあ……トウジは!?)

   (エントリープラグを握りつぶす初号機の手)

   (ひしゃげたプラグから搬出されるトウジの遺体)

シンジ(!)

ケンスケ「――碇、おい碇!」

シンジ「あ……う、うん。なに?」

ケンスケ「何って……大丈夫か? 顔色悪いぞ?」

シンジ「いや、大丈夫だよ……」

  :
  :

==== 翌日 昼 学校 屋上 ====

トウジ「……」

レイ「鈴原くん」

トウジ「なんや、綾波か……」

レイ「……」

トウジ「知っとんのやろ? ワイのこと」

レイ「……」

トウジ「お前がヒトの心配なんて、めずらしなあ」

レイ「そう? よく、わからない」

==== 階段 ====

   (階段を上ってくるシンジ)

シンジ「……」ハッ…ハッ…

シンジ(どこ行ったんだ、トウジ……あとはここくらいしか――)

    「――お前が心配しとんのは、シンジや」

シンジ「!?」

トウジ「知らんのはシンジだけか……」

シンジ(トウジ……)

ガチャッ……

==== 屋上 ====

トウジ「!? ……シンジ?」

レイ「碇くん?」

シンジ「……ねえ……僕だけ知らないって……」

トウジ「……聞かれてしもたか……」

   (俯くトウジ)

シンジ「トウジ――」

トウジ「シンジ……初めてエヴァンゲリオンに乗った時……どないやった?……怖かったか?」

シンジ「なんで……なんで、そんなこと聞くんだよ」

トウジ「ワイ……きのう校長室でネルフの人に……パイロットになれ言われて……」

シンジ「!」

トウジ「引き受けてしもた……引き受けたら、妹を本部の医学部に転院させてくれる言われて……」

   (シンジの肩をつかむトウジ)

トウジ「怖い……ごっつう怖いんや……」

シンジ「トウジ……」

レイ「……」

シンジ「大丈夫だよ……戦うのは僕らだけど、スタッフが全力でバックアップしてくれるし――」

シンジ「それに、エヴァの中は案外安全なんだ。トウジなら大丈夫。僕がやってるくらいなんだから」

トウジ「すまんかった……お前の気も知らんと……殴ったりして……」

レイ「……」

  (階段に去っていくトウジ)

シンジ「……」

レイ「碇くん」

シンジ「え?」

レイ「大丈夫?」

シンジ「うん……ごめん。心配してくれてたんだね。気が付かなかった。――ありがとう」

レイ「ううん、いいの」

シンジ(きっと考えすぎなんだ……)

シンジ(でも……もし本当に夢の通りになってしまったら?)

レイ「……」

  :
  :

==== 夜 シンジの部屋 ====

(昼間のトウジとの会話を思い出すシンジ)

シンジ『それに、エヴァの中は案外安全なんだ――』

  :
  :
シンジ(ああ言っちゃったけど……)

シンジ(それはエヴァが正常な場合の話だ)

シンジ(――もし……エヴァが正常じゃなかったら?……あの夢の中のように?)

==== 翌日 学校 ====

キーンコーンカーンコーン……

シンジ(トウジ、いまごろ松代か……)

アスカ「シンジ、お弁当」

シンジ「……」

アスカ「シンジ!!」

シンジ「あ、ごめん……はい、これ」ゴトッ

アスカ「あんがと。行こ、ヒカリ」

ヒカリ「う……うん。 鈴原、来ないね……」

アスカ「今日は来ないかもね。いいから行こ!」

シンジ「……」

  (自分の弁当箱も机の上に取り出すが、トウジが気がかりで手に付かないシンジ)

レイ「碇くん」

シンジ「……綾波?」

レイ「大丈夫? 昨日から様子が変」

シンジ「そうかな……」

レイ「鈴原くんのことが、心配?」

シンジ「う、うん……」

レイ「なぜ?」

シンジ「いや、うまく言えないんだけど……」

レイ「……」

ケンスケ「おーい、碇。行こうぜ」

シンジ「あ、ケンスケ……ごめん、僕、帰るよ」

レイ「!」

ケンスケ「え? どうしたんだよ」

シンジ「ちょっと気分が悪くてさ……」

ケンスケ「おいおい大丈夫か?」

シンジ「うん……ちょっとね」

ケンスケ「しょうがないなあ。トウジもいないし、今日は一人で食うか」

シンジ「ごめん、ケンスケ」

ケンスケ「いいって。無理すんなよ。――じゃあな」

シンジ「うん。それじゃあ――」

   (立ち上がり、弁当をしまいかけるシンジ)

シンジ「……あ、そうだ」

レイ「?」

シンジ「よかったら、これ、食べてよ。まだ箸、付けてないから」

レイ「わたし?」

シンジ「うん。綾波、いつもちゃんと食べてないみたいだし」

レイ「でも……」

シンジ「今日のは肉、使ってないから大丈夫だよ。ハンバーグは豆腐だし」

  (レイに弁当の包みを差し出すシンジ)

レイ「あ、ありがとう……」

シンジ「いいんだ。なんか、心配かけちゃったみたいだし、お詫びもかねてっていうか」

レイ「そう……」

シンジ「食事、ちゃんと摂った方がいいよ。それじゃ――」ガタン…

レイ「……」

  (窓際の自席に戻り、校庭を去るシンジをしばらく見ているレイ)

  (自席に座り、弁当に箸をつける)

  (一口のみ下して目を丸くするレイ)

レイ「おいしい……」


==== 午後 学校 ====

トゥルルルルル……ピッ

レイ「はい、綾波――」

マヤ『レイ!? 今すぐアスカと一緒に本部に来て! 松代で事故が起きたの』

レイ「葛城三佐は?」

マヤ『まだ連絡が取れてないの。事故現場で未確認移動物体を発見したわ。おそらく使徒よ。――とにかく、すぐに来て!』

レイ「了解……あの」

マヤ『何?』

レイ「碇くんは……早退したんですが」

マヤ『シンジくんはもうケージに着くころだわ』

レイ「え?」

マヤ『何か本部で調べものがあったとかで、ちょうど来ていたの。先行して発進するから、二人ともすぐ後を追って』

レイ「了解」ピッ

レイ「……」

レイ(碇くん……なぜ?)

==== 野辺山 初号機プラグ内 ====

ヴォーーーー……

シゲル『目標を映像で捉えました。主モニターに回します』

ヴン…

   (初号機モニタにも配信される映像)

シンジ(やっぱり……これなのか……!)

   (プラグを握りつぶす初号機の拳がフラッシュバック 思わず目をギュッと閉じるシンジ)

ゲンドウ『緊急活動停止信号を発信――』

シンジ「!?」

ゲンドウ『エントリープラグを強制射出』

シンジ(父さん……)

マヤ『だめです……停止信号及びプラグ排出コード、認識されません』

シンジ(そうか……父さんはちゃんと試していたんだ……)

―――(耳によみがえるゲンドウの叱責)―――

ゲンドウ『シンジ、なぜ戦わない』

――――
――


シンジ(そうだ……僕が戦ってさえいれば……)

シンジ(……)ハッ

シンジ(……なぜ僕はそんなふうに思うんだ?……まだ起こってもいないのに)

シンジ(あれは……ただの夢なのに……)

シンジ(でも……これは、あまりにも……)

冬月『3号機のパイロットは?』

マコト『呼吸・心拍ともに反応はありますが、おそらく――』

シンジ(トウジ!)

ゲンドウ『エヴァンゲリオン3号機は現時刻を以て破棄、目標を第13使徒と識別する』

マコト『しかし!』

ゲンドウ『シンジ。聞こえたな』

シンジ「!……はい」

ゲンドウ『予定通り野辺山で戦線を展開。目標を撃破しろ』

シンジ「了解……」

マヤ『零号機ならびに弐号機、配置完了』

シゲル『目標接近!』

マコト『全機、地上戦用意!』

   (山影から姿を現す3号機)

シンジ(やってやる! 待ってろよ、トウジ!)

   (目前で立ち止まる3号機)

初号機「……」ガガガガガ……

   (発砲する初号機)

シンジ「!」

   (初号機を飛び越え、後頭部に蹴りを喰らわせる3号機、前向きに転倒する初号機)

    ズシャッ!

シンジ「しまった!……くっ!」

   (立ち上がろうとする初号機 ライフルが建物の残骸にひっかかる)

シンジ「こんなときに!――」グウウウゥン……グウウウウゥン……「――アスカ!」

アスカ「わかってるわよ!」ガガガガガ……

3号機「……」スッ……

アスカ「! どこ!?――きゃあ!」ガン!!

シンジ「アスカ!?……くそっ!」

==== ネルフ本部 発令所 ====

マコト「エヴァ弐号機、完全に沈黙!」

冬月「一撃でか……」

ゲンドウ「打ち所が悪かったな」

マヤ「パイロットは脱出、回収班、向かいます」

シゲル「目標、移動。零号機待機地点へ!」

==== 野辺山 初号機プラグ内 ====

   (ライフルをほどき起き上がる初号機)

シンジ「くそっ! 待てっ!」

    ガシュッ!

マヤ「初号機、案びりカルケーブルをパージ! 内部電源に切り替わります!」

  (急速に減っていく残り時間表示)

初号機「……」ズシン!ズシン!ズシン!…

シンジ(ちくしょう……どうすれば!……そうだ、あの時!)

   (ダミープラグに制御され3号機の首を折る初号機)

   (初号機の首から離れぐったりとする3号機の腕)

シンジ(首……首だ! あのときのトウジの怪我は――)

   (歯を食いしばるシンジ)

シンジ(思い出せ!……頭部裂傷……右脚切断……脾臓破裂……)

   (思い浮かんだトウジの死に様を振り払うように目をギュッとつぶる)

シンジ(首は……大丈夫だったはずだ! シンクロは切れてるんだ!)

   (かっと目を見開くシンジ)

シンジ(プラグさえ守れば!!)

==== ネルフ本部 発令所 ====

マヤ「初号機、シンクロ率上昇!」

冬月「何?」

マヤ「85……90……まだ上がります!」

ゲンドウ「……」

==== 野辺山 零号機プラグ内 ====

ゲンドウ『レイ、初号機が間もなく追いつく。近接戦闘は避け、目標を足止めしろ』

レイ「了解」

3号機「……」ズシーン……ズシーン…

ピピピピ……

   (3号機の頸部、プラグソケットにズームされる映像)

レイ(確かに乗ってるわ……)

レイ「!」ハッ!

3号機「……」ビュッ!

  (零号機に向かって後ろ向きに跳躍する3号機)

   ドカッ!

レイ「きゃあ!」

  (組み伏せられる零号機)

レイ(やられる!)

   ガシャアアアアァァン

レイ「!?」

初号機・3号機「……」ゴロゴロゴロ

  (初号機のタックルで弾き飛ばされる3号機)

3号機「……」ググググ……

  (先に起き上がる3号機 初号機に組み付こうとする)

  バシュッ!

  (その腕を零号機のライフルが肘から吹き飛ばす)

初号機「……」ギリギリギリ……

  (首を締め上げる初号機、ほどこうとする3号機)

シンジ『このおおぉ!』バキッ!

   (首を折られぐったりとなる3号機)

   (のたうつ3号機の胴体をうつぶせにして抑え込む初号機)

シンジ『綾波! プラグを!』

レイ「えっ?」

   (初号機プラグ内 急速にゼロに近づく残時間表示)

シンジ『早く!』

レイ「了解」

(使徒の粘液質を引き剥がす零号機)

(プラグを引き抜き後退する)

==== 発令所 ====

ビーーーーーッ

マヤ「零号機、左手に使徒侵入!神経節がおかされていきます!」

ゲンドウ「左腕部を切断。急げ!」

マヤ「しかし!神経接続を解除しないと――」

ゲンドウ「かわまん、切断だ」

マヤ「はい……」

バシュ!

レイ『きゃあああ!』

  (苦しみながらも3号機のプラグを安全な場所におろすレイ)

==== 野辺山 初号機プラグ内 ====

シンジ「綾波! くそっ!」

初号機「……」スチャッ……ガガガガガガガ……

(ゼロ号機のライフルを拾って3号機のプラグスロットから内部に弾丸を撃ち込む初号機)

3号機「……」ガクン……

==== 発令所 ====

ピーーーーー

マヤ「初号機、活動限界です」

シゲル「パターン青、消滅!目標は、完全に沈黙しました」

マコト「危なかった……」

==== 野辺山 初号機プラグ内 ====

   (明かりが消え非常灯に照らされたプラグ内)

マヤ『お疲れ様、シンジくん』

シンジ「あの……アスカは?」

マヤ『無事よ。脱出したわ』

シンジ「そうですか。よかった……綾波、大丈夫?腕……」

レイ『え……ええ』

==== 野辺山 救護班車両内 ====

アスカ「……」

   (車窓から見える、3号機の傍らに跪く初号機と倒れている左腕のない零号機)

アスカ(何なのよ、バカシンジのヤツ……)

==== 翌日 3号機処理現場 ====

ガコン ガコン ドドドドド……

ミサト「――新品のエヴァが1機まるまるパーか……」

リツコ「しかたないわ」

ミサト「それにしても、首をへし折って自由を奪うなんて、思い切ったことをしたわね、シンジくん」

リツコ「そうね……結果的にエヴァとのシンクロがすでに切れていたからよかったけど、そうでなければ命にかかわる怪我をしていたかもしれない。とてもおすすめできる方法じゃないわね」

ミサト「――にも拘わらず、ほとんど躊躇なしにやってのけた……。おかげで鈴原くんも右腕骨折だけで済んだし、奇跡的と言うしかないわよね……」

ガコーーン グオオオオオオオ……

ミサト「鈴原くんの処遇は?」

リツコ「当面は予備パイロットね」

ミサト「まあ、そうよね。機体もないしね……」

リツコ「それは司令が何か考えてるみたいよ」

ミサト「え?」

  :
  :

==== 同日 ネルフ 附属病院 トウジの病室 ====

トウジ「――それにしても、なんでイインチョまで来とんのや」

ヒカリ「かっ……勘違いしないでよね! 私は委員長として……」

トウジ「そんなの、わかっとるわ」

ヒカリ「なんですって~!?」

トウジ「痛っ! やっやめっ! そこっ!」

ヒカリ「あっ……ごめん鈴原……」

一同「……」クスクスクス……

シンジ「でも、トウジの怪我が大したことなくてよかったよ」

トウジ「ええことあるかい! 骨折やぞ、骨折!」

アスカ「バカね、もっとひどい怪我してもおかしくなかったのよ! 感謝しなさい!」

トウジ「わ……わかっとるわ。……ホンマ、感謝してもしきれんことくらい」

シンジ「でも、パイロット続けるんだろ?どうして――」

トウジ「しゃーないやろ。それが妹ここに移してもらう条件やったんやから」

シンジ(そうか……これでトウジが死なずに済むって決まったわけじゃないんだ……)

ヒカリ「……サクラちゃんの具合は?」

トウジ「おう、そこは、さすが言うか、早速新しい治療が始まってな、早ければ来月には退院できるそうや」

シンジ「……ほ、ほんと!? よかった!」

トウジ「ああ」

シンジ(少しだけど……夢とは変えられたんだ!)

アスカ「じゃあ、アタシらはそろそろ帰るわよ。ほら、シンジ」

シンジ「う、うん。じゃあ、また、トウジ」

トウジ「おう、またな、シンジ」

スタスタスタ……バタン

トウジ「ん?綾波は一緒に帰らんのかいな」

レイ「私がいない方がいいの?」

トウジ「べっ! 別にそないなこと……」

ヒカリ「……」カアアァ

トウジ「で、なんやねん、綾波」

レイ「あの……洞木さんに、お願いが」

ヒカリ「わたしに?」

レイ「……」コクリ

(顔を見合わせるトウジとヒカリ)

ヒカリ「ええ、いいわよ」ニコ

  :
  :

==== ふたたび3号機解体現場 ====

ガコーン ガガガガガ……

リツコ「――シンジくん、あのとき一時的にシンクロ率94パーセントを超えたそうよ」

ミサト「火事場の馬鹿力ってやつ?」

リツコ「……」

ミサト「な、なに?」

リツコ「あれが、今の彼の本来の力なのかもしれない」

ミサト「え、だって……」

リツコ「テストのときは、本来の力が出ていない――あるいは出していない節があるわ」

ミサト「――そんなことできるの?」

リツコ「それだけじゃない……今度の事故の直前、シンジくんは本部にいて素早く出動できた。あの時間の余裕が有利に働いたのは否定できないわ」

ミサト「ちょっと、まさか、あらかじめ知ってたって言うんじゃないてしょうね!」

リツコ「わからない……でも、使徒に飲み込まれて以降、雰囲気が変わったと思わない?」

ミサト「確かに考え込んでることが多くなったみたいだけど――」ハッ!

ミサト「使徒って……まさか……精神汚染!?」

リツコ「だとしても、少なくとも、これまでに知られている検査方法ではわからない類いのものだわ」

ミサト「そんな……」

リツコ「早合点しないで。まだそうと決まった訳じゃない。でも、引っ掛かるのよね……」

ミサト「……」

ガコーン ガコーン……

ミサト「ま、まあ、シンクロ率が上がるのは、エヴァの運用面からは喜ばしいことじゃない?」

リツコ「……それも手放しで喜んでる人だけじゃないみたいだけど?」

ミサト「ああ、そうね……」

リツコ「シンジくん自身が自慢したりしないのが余計面白くないんでしょうけどね」

  :
  :

==== 病院の廊下 ====

アスカ「……」スタスタスタ…ピタッ

アスカ「シンジ」

シンジ「なに?」

アスカ「ちょっとシンクロ率がよかったからっていい気になるんじゃないわよ」

シンジ「え?」

アスカ「昨日のことよ。――あたしは絶対負けないんだから」

シンジ「……そんなことでいちいち食ってかからないでくれよ……」スタスタ……

アスカ「ちょっ、そんなことって何よ!人の話をききなさいよ!」グイッ

シンジ「な、なんだよ!?」

アスカ「何よ、あのシンクロ率。あんた訓練で手ぇ抜いてたんじゃないでしょうね?」

シンジ「知らないよ! あのときは夢中だったんだから」

アスカ「とぼけたって無駄よ! あんた、今度手ぇ抜いたりしたら――」

シンジ「いい加減にしろよ!!」

アスカ「!」ビクッ

シンジ「アスカや、トウジや、綾波が生きるか死ぬかって言うところだったのに、シンクロ率なんてどうだっていいだろ! なに子供みたいなこと言ってんだよ!」

アスカ「あ……」

シンジ「ごめん……言い過ぎた」

アスカ「……もういい! 帰る!」スタスタスタ……

シンジ「……」

  :
  :

==== 病院のロビー ====

(缶コーヒーの缶を手の中でもてあそんでいるシンジ)

シンジ(アスカに言ってもわからないよな……僕だってわからないんだから……)

シンジ(悪いことしたな……)

   「あら? 碇くん」

シンジ「委員長……」

ヒカリ「アスカと帰ったんじゃなかったの?」

シンジ「ちょっとね。頭を冷やしてたって言うか……綾波も帰り?」

レイ「ええ」

ヒカリ「ちょっとこれからお買い物。綾波さんと」

シンジ「へえ? 珍しいね。どうしたの?」

ヒカリ「フフ……ないしょ。行こ、綾波さん」

レイ「ええ」

シンジ「?」

  :
  :

==== 翌日 学校 ====

キーンコーンカーンコーン

シンジ「はい、これ」ゴトッ

アスカ「サンキュ……あら、あんた自分のは?」

シンジ「あ、こないだ弁当箱、貸しちゃったから……。きょうは何か買ってきて食べるよ」

アスカ「何それ? どんくさいわねー。行こ、ヒカリ」

ヒカリ「ちょっと待って――」

アスカ「え?」

ヒカリ「――綾波さん」

アスカ(ファースト?)

レイ「碇くん……これ」コトッ

(ハンカチに包まれた弁当箱らしきものを置くレイ)

シンジ「あ、こないだ貸したやつ? ありがとう」

(しまおうとして重みに気付くシンジ)

シンジ「あ、あれ? ……これ、何か入ってる?」

レイ「こういうのは空で返してはいけないと、何かで読んだから」

シンジ「そ、そうなんだ……ごめん、かえって気を使わせちゃって……ん?」

レイ「?」

シンジ「どうしたの!? その手……」

レイ「包丁つかうの、初めてだったから」

シンジ「えっ?……これ、綾波が作ったの!?」

レイ「ええ……迷惑だった?」

シンジ「ううん、そんなことないよ! 嬉しいよ!」

レイ「洞木さんに教えてもらったの」

シンジ「委員長に?」

ヒカリ「フフ…最初、危なっかしい感じだったけど、綾波さん飲み込みが早くてビックリしちゃった」

シンジ「そうなんだ……」

ヒカリ「ほんと、一生懸命だったんだから。ちゃんと味わって食べないとバチが当たるわよ」

シンジ「うん、ほんとにありがとう! 委員長も」

シンジ(そか、委員長に教わったんなら大丈夫だな……って、なに失礼なこと考えてるんだ、僕は……)

ヒカリ「行きましょ」

レイ「ええ」スッ

シンジ(あれ?)

(レイが自分の弁当箱をもっているのに気づくシンジ)

シンジ「綾波、お昼食べるの?」

レイ「この間、ちゃんと食べたほうがいいって言われたから。――碇くんに」

シンジ「あ、そうだっけ……」

(レイを伴ってアスカが待つ方へ向かうヒカリ)

アスカ「あんたが料理するなんて、明日は雪かしらね!」

ヒカリ「アスカも碇くんにつくってあげればいいのに」フフフ

アスカ「ふ、ふん!何でアタシが!!」

(出ていく三人をぼーっと見送るシンジ)

(ちらりとレイと目が合う はっとするシンジ)

ケンスケ「いーかーりー」

シンジ「な、なんだよ」

ケンスケ「なんできょうは綾波の手弁当なんだよ」

シンジ「なんでって、こないだ弁当あげたお礼だって言うから……」

ケンスケ「いーなー、なんでお前ばっかり……このっ!」

シンジ「ちょっと危ないってば――」グラッ…

シンジ・ケンスケ「うわぁ!」ガタタン

  :
  :

==== 数日後 学校 ====

   (鳴り響く避難警報)

   (歩いてシェルターに向かう生徒たち)

ヒカリ「綾波さん、頑張ってね」

レイ「ええ、行ってくる」

ヒカリ「アスカに、碇くんも」

アスカ「任しときなさい!」

シンジ「みんなも、気を付けて」

(黒塗りの車に乗り込む三人)

==== 本部へ向かう車内 ====

ズズーーーン……

シンジ「!」ハッ!

シンジ(そうか、夢のなかでは、次の使徒は、トウジがやられてから、すぐ来たんだった……)

シンジ(やっぱり夢の通りなのか!?)

シンジ(でも……そうだとすると、物凄く強いはず……)

シンジ(何かできることは――)

レイ「碇くん」

シンジ「――えっ?」

レイ「どうしたの?」

シンジ「う、うん。ちょっとね……どうやって戦えばいいのかなって」

アスカ「あんたバカァ? どんなヤツかわからないうちにあれこれ悩んだって意味無いでしょ!」

シンジ「そ……それもそうだね。アハハ……」

レイ「……」

シンジ(そうだよな……せめて夢のヤツと同じかどうかわかれば――)

レイ「すみません。使徒の情報、ここで見られますか」

運転手(黒服)「はい」ピッピツピッ…

アスカ「え? 見られるの?」

(画面に、これまでに撮影された使徒の画像がスライドショー形式で表示される)

シンジ「あ、ありがとう、綾波」

レイ「構わないわ。私も、見てみたかったから」

アスカ(……な、何よ!……)

シンジ(やっぱり、こいつなのか!……)

シンジ(何なんだ、あの夢は……)

レイ「……」

  :
  :

==== ネルフ本部 発令所 ====

ミサト「エヴァの地上迎撃は間に合わない! 初号機と弐号機はジオフロントに配備、本部施設の直援に回して!」

シゲル「了解!」

ミサト「零号機は?」

マヤ「だめです。左腕がまだ……」

ミサト「仕方ない……零号機はA.T.フィールド中和地点に配置!」

マヤ「了解」

==== ジオフロント ====

ズズズズズ・・・・ン

(崩落するビル群)

シンジ「来た!」

アスカ「おいでなすったわね!」

   (使徒に砲火を浴びせる2機のエヴァ)

   (ものともせず侵攻してくる使徒)

シンジ「くそっ! A.T.フィールドが強すぎる!」

アスカ「こっからじゃ、埒があかないわ!」

ガシャン!

シンジ「アスカ!?」

アスカ「これで行くか……援護しなさい、シンジ!」

シンジ「えっ!?」

アスカ「どぉりゃああああ!」バッ

シンジ「ダメだ、アスカ!そいつは!……くそっ!」ガガガガ…

アスカ「ゼロ距離ならば!」バシュッ!

   (ニードルを撃ち込む弐号機 だが阻まれる)

アスカ「えっ!?……きゃっ!」バシッ

シンジ「アスカ!」

    ガシャーーーン ゴロゴロゴロ……

   (弾き飛ばされる弐号機)

アスカ「くっ……ううう」

シンジ「アスカ! こいつ!」グッ

シンジ「うおおおおぉぉ!」ズシンズシンズシン……

   (使徒の背後に飛び込む初号機)

アスカ「!……馬鹿、やめなさい!あんたに叶う相手じゃあ……!」

(ナイフ片手に縦横無尽にかわしながら機会を伺うシンジ)

アスカ(また! なんでこんな動きが……って感心してる場合じゃない!)

アスカ「こんのおおおおぉぉ!」

(銃を乱射しながら使徒に迫る弐号機)

使徒「……」バシッ

シンジ「うわっ!」ガシャアアァン

(シンジを突き飛ばしてアスカに向き直る使徒)

シンジ「! アスカ!危ない!」

   (折り紙のようにパラリと伸びる使徒の両腕)

アスカ「なっ!?」

    ズバッ!

(両碗を切り飛ばされる弐号機)

アスカ「きゃああああああぁ!」

シンジ「あっアスカ!」

アスカ「こんちくしょおおぉ!」バッ

   (なおも使徒に突進する弐号機)

ミサト「全神経カット! 急いで!」

   バシュッ!

   (跳ね飛ばされる弐号機の頭部)

シンジ「アスカ!」

シゲル『弐号機大破! 戦闘不能!』

ミサト『アスカは!?』

マコト『無事です! 生きてます!』

アスカ(くっ……ちくしょう!……)

シゲル「目標、移動を開始!」

シンジ(!……来る!)

使徒「……」ズズズズズ……

シンジ(夢のなかでは初号機が暴走して倒したみたいだったけど――)

使徒「……」ズズズズズ……

シンジ(だめだ! どうすれば……)

ミサト『レイ 、やめなさい、レイ!』

シンジ「!」ハッ!

(後方のリフトからN2爆雷を抱えて走ってくる零号機)

零号機「……」ズシンズシンズシン……

使徒「……」ビュッ!

(零号機に打ち出される使徒の腕)

シンジ「!」バシッ!

   (腕を初号機がナイフでなぎはらって逸らす)

ガキイイイイィン!

   (ATフィールドに阻まれる零号機)

ミサト『エヴァ単機ではあのATフィールドは破れない! シンジくん!』

シンジ「は、はいっ!」バッ

シンジ「このっ、このっ!」バキィン バキィン

(ナイフでATフィールドを切り裂きコアに肉薄する初号機)

(一瞬、コアに届きそうになるナイフの一撃)

カシャン!

シンジ「えっ!?」

(シャッターが閉じコアが隠れる)

シンジ「こんな仕掛けが!?……うわあっ!」

レイ「きゃあっ!」

(弾き飛ばされる2機)

ガッシャアアアアアァン…

シンジ「うう……」

使徒「……」ズズズズズ……

シンジ「くっ!……」グウウウゥン

(起き上がる初号機)

シンジ「うわああああああああぁっ!」

(再び使徒のコアに突進する初号機)

ガキイイイイイィン

ミサト『シンジくん!』

マヤ『初号機、シンクロ率上昇! 100、160、210……』

リツコ『210!?』


ガキイイイィィン……バキッ!

(初号機のナイフが敵A.T.フィールドを突き通してシャッターに亀裂 折れるナイフ)

レイ「碇くん!」

(身をかわす初号機 正面からコアにN2爆雷を叩き込む零号機)

カッ………

レイ「きゃあ!」ズシャッ

(後方に転倒する零号機)

ドオオオオオォォォォ……

ミサト「……シンジくんは……レイは!?」

シゲル「映像、回復します!」

(立ち尽くしている初号機 その後の樹木が帯状に焼け残っている)

(その帯のなかに尻餅をついている零号機)

(零号機の方に向かって、ゆっくり仰向けに倒れる初号機)

ガシャアアアアアァン……

レイ(……碇くん……)

ブヒュウウゥン

(ブラックアウトする零号機プラグ内)

==== 発令所内 ====

マヤ「零号機、活動限界です」

シゲル「パターン青、消滅を確認」

マコト「状況終了。第二種警戒態勢に移行」

ミサト「パイロットの救出、急いで!」

マコト「了解!」

マヤ「400パーセント……」

ミサト「え?」

マヤ「爆発の瞬間、初号機のシンクロ率が400パーセントを超えてます。同時にA.T.フィールドを展開して――」

リツコ「機体を守ったのね……零号機も」

マヤ「初めてです、こんな強力な……」

リツコ「!」ハッ!

リツコ「400%!?……シンジくんは!?」

  :
  :

==== ジオフロント 弐号機プラグ内 ====

アスカ(なんで……なんでなのよ……)

  :
  :

==== 数週間後 ネルフ本部 ケージ ====

(初号機コアからのシンジのサルベージ作業)

  :
  :

ヴィーーーッ ヴィーーーッ ヴィーーーッ …

マヤ「エヴァ、信号を拒絶!」

シゲル「LCLの自己フォーメーションが分解していきます!」

マコト「プラグ内、圧力上昇!」

リツコ「全作業中止! 電源を落として!」

マヤ「ダメです!プラグがイジェクトされます!」

ザバアアアァァ……

(エントリープラグから排出されるLCL)

(流れ出すシンジのプラグスーツ)

ミサト「シンジくん!!」

レイ「!」

  :
  :

==== LCLの海 ====

シンジ(ここは……)

シンジ(?)

   『ナゼ……ジャマヲスル?』

シンジ(なんだ?)

   『だめ』

シンジ(……綾波?)

 『碇くんを連れて行かないで』

シンジ(……)

   『碇くんを……私に返して』

シンジ(!)

  :
  :

==== ケージ 初号機コアの前 ====

ミサト「うっ……ううっ」

    (LCLに浸かりながらシンジのプラグスーツを抱きしめるミサト)

ミサト「人ひとり助けられなくて……何が科学よっ!」

   (初号機を見上げるミサト)

ミサト「シンジくんを返して……返してよっ!!」

==== LCLの海 ====

シンジ(そうか……綾波が呼びもどしてくれたんだ……)

   『私はもう……わら人形には戻りたくない――』

シンジ(この前は気が付かなかった……)

   『碇くん……戻ってきて』

シンジ(そうだ……帰らなきゃ――)

  :
  :

==== ケージ 初号機コアの前 ===

パシャン……

ミサト「!」

   (ミサトの傍ら、初号機コアの下に倒れているシンジ)

ミサト「シンジくん!!」

=== 管制室 ===

マヤ「先輩! シンジくんが!」

リツコ「……!」

マヤ「成功です!!」

リツコ「私の力じゃないわ……たぶんね……」

=== ケージ 作業通路 ====

レイ(よかった……碇くん……)

  (手すりにもたれて通路に座り込むレイ)

シンジ「……」

  (ミサトに抱きしめられているシンジの目が薄く開く)

レイ「……?」

シンジ「……」ニコ…

   (通路上にレイを見つけ、微笑む)

   (唇が「ありがとう」と動く)

レイ「!」ハッ!

   (一瞬後ろを振り返り、誰もいないことを確かめ、自分に向けられたものと理解する)

シンジ「……」

   (気を失い、そのまま運ばれていくシンジ)

レイ(碇くん……)

  :
  :

==== 病室 ====

シンジ「……」

シンジ(夢……あれはやっぱりただの夢じゃないのかな……)

シンジ(予知夢……それも、使徒に関しては特に正確な……)

シンジ(夢のなかでも僕は、ここで目が覚めて……)

シンジ(はっ!)

シンジ「……」ムクリ

   (ベッドを抜け出し部屋の入口に向かうシンジ)

シンジ(確か……ここを出ると……)

プシュー……

シンジ「!」

レイ「!」

(廊下、シンジの食事のカートを押して来たレイ)

レイ「碇くん……」

シンジ「綾波……」

レイ「……」

シンジ「……ありがとう」

レイ「……どうして?」

シンジ「どうしてって……呼んでくれたじゃないか。僕を――」

レイ「!」

シンジ「……」

レイ「聞こえて……いたの?……なぜ?」

シンジ「わからない」

レイ「……」

シンジ「でも、綾波が呼んでくれたから帰ってこられた。だから――」

レイ「そう……よかった。また碇くんの顔が見られて」

シンジ「僕も……また綾波に逢えてよかった」……

レイ「……」

シンジ「……」

レイ「……」ニコ

シンジ「!……綾波……」

レイ「嬉しかったから」

シンジ「そっか」ニコ
   :
   :

==== ジオフロント 噴水のある庭園 ====

   :
   :

レイ「――初めて触れたときは、何も感じなかった」

シンジ「え?」

レイ「碇くんの……手……」

   (初号機の前で重症のレイを抱き起すシンジ)

シンジ「……」

レイ「二度目は……」

シンジ「!」カアアアァ

   (プリントを届けに行ったレイの部屋 誤ってレイを押し倒し胸を触った場面)

レイ「少し気持ち悪かった……かな……」

シンジ「あ、あの時は……ごめん!」

レイ「3度目は……暖かかった」

   (ヤシマ作戦後 零号機プラグ内でレイに手を差し伸べるシンジ)

レイ「スーツを通して……碇くんの体温が伝わってきた」

シンジ「……」

レイ「4度目はうれしかった」

   (レイのマンション やけどをしたレイの手を水道水に浸すシンジ)

レイ「私を心配してくれる碇くんの手が」

シンジ「……」

レイ「もう一度……触れてもいい?」

シンジ「……いいよ」

   (おずおずと結ばれる二つの掌)

レイ「……碇くん」

シンジ「なに?」

レイ「碇くんが……退院したら……」

シンジ「え?」

  : 
  :

==== ネルフ本部内 廊下 ====

バタバタバタ……

マヤ「あらアスカ。どうしたの?」

アスカ「バカシンジんとこ。目が覚めたって言うから」

マヤ「ああ、シンジくんなら噴水にいたわよ」

アスカ「え?もう出歩いてんの?」

マヤ「ええ。入院って言っても、検査入院みたいなものだし」


アスカ「何よもう、よくわかんないわねー」

   (庭園に向かおうとするアスカ)

マヤ「あ……いま行くとお邪魔かなー……」

アスカ「……な、何よ、どういうこと?」

マヤ「えっ?……あっ……えーとね……」

アスカ「……」クルッ

マヤ「あ、ちょっと、アスカ――」

  :
  :

==== 本部内 庭園に続く通路 ====

バタバタバタ……

アスカ(何よ!お邪魔って……)

アスカ(何でアタシが……あ!……)

(庭園を散歩しているシンジとレイ 手を繋いでいる)

アスカ(ファ……ファースト!? なんで……)

(シンジか何か言い、レイが目を細める)

アスカ(バカシンジのやつ……)

  :
  :

==== 学校 ====

カリカリカリ……

(板書をしている教師)

教師「あー……では、これ、わかる者」

  「はい」

ザワザワザワ……

(挙手しているレイ)

レイ「?」

教師「あー、それでは綾波……」

レイ「はい」

  :
  :

==== その後 ====

自室を掃除しているレイ

  :

昼休み――

 ヒカリ、アスカほか数名の女子と弁当を食べるレイ

 少し不満そうなアスカ

  :

自宅で料理しているレイ

  :

シンクロテスト――

 目を瞑っているレイ、アスカ、トウジ

 少し目を開け、隣のレイの様子をうかがうアスカ

病室――

 ベッドの上、上体を起こして本を読んでいたシンジ 顔を上げる

 袋を抱えて入ってくるレイ

本部庭園 ベンチ――

 リンゴの皮をむくレイ

 何か話しているシンジ

 楊枝を刺して一切れ差し出すレイの手 受け取るシンジの手

  :

 夕暮れ ベンチに二人の後姿

 どちらともなく少し顔を見合わせ、また正面に向き直る

  :
  :

==== ケージ管制室 ====

ミサト「――プロトタイプを?」

リツコ「そう。ドグマに廃棄されてるテストパーツを選別して、何とか動けるエヴァを1、2体作れないかって」

ミサト「なんで?」

リツコ「3号機、4号機があれでしょ。パイロットは居るのに新しい機体は後続も当面期待できないから、手持ちの材料で、何とかその埋め合わせができないかって、司令が」

ミサト「……5号機以降の建造計画の前倒しは?」

リツコ「難しいみたいね。それに、5号機からは量産モデルになるらしいんだけど、各国支部との綱引きもあってなかなか面倒なのよ」

ミサト「だからって、廃棄部品の寄せ集めなんて、使えるの?」

リツコ「当然、スペックとしては零号機と同等かそれ以下ね。ただ、今のところ、どうしてもダメとまでは言えない。課題をひとつひとつ解決しながら進めてるところよ。パイロットも近々、追加されるみたいだし」

ミサト「また? ますます機体が間に合わないんじゃないの?」

リツコ「シンジくんが2回も使徒やエヴァに取り込まれて、機体はあるのに動かせない状況に陥ったから、上も焦ってるのかもね。戦自でも人型汎用兵器は開発してるみたいだし、JAの改良も続いてるみたいだし、その辺に対する優位性の維持もね」

ミサト「ふーん」

リツコ「今度の子はうちの上位組織が……ゼーレが直々に送り込んでくるそうよ」

ミサト「そうなの? 何か、きな臭くなってきたわね」

リツコ「選り好みできる状況ではないことだけは確かね」

ミサト「まあいいけど……はあ、あの年頃の子供たち、難しいのよねー」

リツコ「それも含めてパイロットの管理はあなたの仕事よ、作戦部長どの」

ミサト「へいへい……これ、いっこもーらいっ……と」

(デスクからケーキを一切れつまむミサト)

アムッ……モグモグ……

ミサト「……あら、美味しーい。これ、どこの?」

リツコ「レイが持ってきたのよ。自分で作ったんですって」

(紙皿の脇に「お疲れ様です」とレイの字のメモ書き)

ミサト「へー、すごいじゃない」

リツコ「クラスに料理が得意な子がいて、教えてもらったのがきっかけらしいわ。ああ、鈴原くんのところによく来てた、あの子よ」

ミサト「ふーん。……変わったわね、レイ」

リツコ「そうね、あの子が人のために何かをするなんて考えられない行為ね。何が原因かしら」

ミサト「愛、じゃないの?」

リツコ「まさか、ありえないわ」

ミサト「そう? なんか、シンちゃんが帰ってきてから、毎日欠かさずお見舞いに来てるみたいよ。これだってシンちゃんへのお見舞いのおこぼれなんじゃないのー?」

リツコ「……余計な波風が立たなきゃいいんですけどね……」

ミサト「え?」

リツコ「あなた、自分で言ったじゃない、あの年頃は難しいって」

ミサト「……」

(目をしばたたくミサト)

  :
  :

==== ミサトのマンション リビング ====

ミサト「たっだいまー」

アスカ「……おかえり」

ミサト「よっこいしょっと……。アスカ、シンちゃん明日退院だってー」

アスカ「あっそ」

ミサト「あー、これでレトルト生活とおさらばできるわー」

アスカ「……知らないわよあんなやつ。しょっちゅう担ぎこまれてんだから、いっそ最初から病院にでも住めばいいのよ」

ミサト「そんなこと言っちゃってー、アスカだってほんとは寂しかったくせにー」

アスカ「な……何でアタシが」

ミサト「意地張ってるとレイにシンちゃん、とられちゃうわよん」

アスカ「なっ何よ、それ……」ムクッ

ミサト「なんか最近レイ、積極的みたいだしー」

アスカ「!……知るか、あんなやつ! もう寝る!」スタスタスタ……

バタン

ミサト「あらあら……」

==== アスカの部屋 ====

アスカ(アタシが? ふん、あんなやつ!)

アスカ(ファーストがいいならそうすりゃいいのよ! ネクラどうし、お似合いだわ!)

アスカ(……そうすりゃ……いいのよ)

アスカ(……)ゴロ……

アスカ(……)

アスカ(……)ゴロ……

アスカ(お似合い……)

アスカ(……)

  :
  :

==== シンジ退院の日 ネルフ本部 ====

(通路を急いでいるレイ)

レイ(もうこんな時間……早く帰って支度しなくちゃ……)バタバタバタ……

   「ちょっと、それどういうことよ!」

   (前方の曲がり角の向こうから聞こえてくる声)

レイ(!)ピタッ

レイ(……セカンド?)

   「どうって……言ったまんまだよ」

レイ(碇くん?)

アスカ「どうしてまっすぐ帰ってこないで人形女のとこなんかに行くのよ!」

シンジ「し……仕方ないだろ、先約なんだから」

アスカ「アタシの晩ごはんはどうなるのよ!」

シンジ「ミサトさんは遅いって言うし、アスカ一人分くらい、どうとでもできるだろ? いいじゃないか」

アスカ「良くないわよ! あんたがいない間、そりゃあ酷かったんだから!」

シンジ「アスカが自分で作ればよかったじゃないか! 少しは綾波を見習えよ!」

アスカ「なんですってえ!? なんでファーストの肩持つのよ!!」

シンジ「べ……別に肩持ってるわけじゃ……」

アスカ「とにかく! 今日はアンタはどこにも寄り道しないで、ウチに帰って晩ご飯つくるの!」

シンジ「勝手に決めるなよ! アスカの都合に合わせる義理なんて――」

アスカ「あるわよ!」ドンッ

シンジ「なっ! 何する……んっ……」

レイ (!?)

レイ(なに?……何が起きているの?)

アスカ「……」

シンジ「……」プハッ

アスカ「……」

シンジ「ド……ドイツじゃこういう挨拶を――」

アスカ「バカ。んなわけないでしょ」

シンジ「え……」

アスカ「1回しか言わないからよく聞きなさいよ」

シンジ「……」

アスカ「あっ……愛情表現よ」

シンジ「!」

レイ(!)

アスカ「いい? まっすぐ帰ってくるのよ。きょうは……ミサトいないんだから」

シンジ「あ、あの……」

アスカ「他の女のところになんて寄ったら、許さないんだから」

   (後ずさるアスカ)

アスカ「ファーストなんかには……絶対渡さないんだから」

レイ(!)

   (息をのむレイ)

   (走り去るアスカ)

シンジ「な……なんなんだよ……」

   (通路のこちら側 立ち尽くすレイ)

  :
  :

==== 夕暮れ レイのマンション ====

   (飲み物のペットボトルが入ったビニール袋を提げて歩いてくるシンジ)

シンジ「……」

シーン……

シンジ(変だな……用意して待ってるって言ってたのに)

シンジ「綾波ー? いるのー?」

   (ドアノブに手をかけるシンジ)

シンジ(また鍵がかかってないや……)

シンジ「綾波ー? 入るよー」ガチャッ……

   (部屋にはいるシンジ)

   (部屋の中央 買い物袋を傍らに座り込んでいたレイ)

   (振り向くレイ 頬に涙のあと)

シンジ「ど……どうしたの!?」

レイ「……」

   (頬をさわるレイ )

レイ「涙? 泣いていたの? 私……」

シンジ「そ、そうだね……どうしたの? いったい」

レイ「来てくれないと思ったから」

シンジ「えっ?」

レイ「なぜ……ここにいるの?」

シンジ「なぜって……だって約束したじゃないか」

レイ「でも……セカンドが……待っているんでしょう?」

シンジ「!」

シンジ(そうか!……きっとあのとき、綾波は近くにいたんだ……)

レイ「……」

   (レイの隣に座るシンジ)

シンジ「言ったろ? 約束したって」

レイ「……」

シンジ「遅くなっちやったね。僕も手伝うから――」

   (腰を浮かすシンジ)

レイ「……約束だから?」

シンジ「え?」

レイ「ここへきたのは、先約だったから?」

シンジ「……?」

レイ「碇くんは帰ったら……セカンドのものになるの?」

シンジ「!」

レイ「それは……嫌」

   (自分で言ってからはっとするレイ)

   (シンジの目をのぞきこむ)

レイ「これが……私の……心?」

シンジ「綾波……」

レイ「そう、私の心……今まで気がつかなかった」

   (声が少し震えている)

レイ「ずっと……そばにいてほしい」

シンジ「……」

レイ「私だけを見ていてほしい」

シンジ「……」

レイ「……」

シンジ「約束だから、来たんじゃないよ」

レイ「……え?」

シンジ「来たかったから……そばにいたかったから」

レイ「!」

シンジ「ずっと……そばにいる。どこにもいかないよ」

   (声もなく新しい涙を一粒流すレイ)

   (拇指でそれをすくいとるシンジ)


   (どちらからともなく顔が近づく)

   (目を瞑るレイ)

   (息がかかるくらいの距離)

   (ふと目を開けるレイ 動きが止まる)

シンジ「?」

レイ「……」

シンジ「なに?」

レイ「あのとき本部の通路で……」

シンジ「え?」

レイ「セカンドと……したの?」

シンジ「えっ……」

レイ「……」

シンジ「……うん……」

レイ「そう……碇くんは初めてじゃないのね」

シンジ「あ、綾波、あの――」

レイ「それでもいい」

シンジ「……」

レイ「あれで最後にしてくれるなら」

シンジ「……うん」

  (唇が重なる)

  (唇が離れ、互いの腕が背中に回る)

  (そのまましばらく抱き合っている)

レイ「支度……」

シンジ「え?」

レイ「晩御飯の……支度しないと」

シンジ「そうだね」クスッ

  (立ち上がる二人)

   :
   :

==== ミサトのマンション リビング ====

ワハハハ……

アスカ「……」

(テレビの前に座っているアスカ バラエティ番組)



==== レイの部屋 ====

(コンロから茶舞台に鍋を下ろすシンジ)

(開けると温かい煮込み料理)

(食卓を囲むシンジとレイ)

(料理を指して何か話し合っている)



==== ミサトのマンション リビング ====

ゴオオオオオォォル ワアアァァ……

アスカ「……」

(テレビの前で膝を抱えているアスカ スポーツニュース)



==== レイの部屋 ====

(明かりの消えた室内)

シンジ「……綾波……あの」

レイ「何?」

シンジ「やっぱり……少し気持ち悪い?」

レイ「……ばか……」



==== ミサトのマンション リビング ====

アスカ「……」

(テレビの前に寝転んでいるアスカ 環境映像)

==== レイの部屋 ====

   (月明かりが射す室内)

レイ「……」スー… スー…

シンジ「……」

シンジ(こんな無邪気な顔して寝るんだな……)

   (レイの前髪を少しかきあげてみるシンジ)

   (薄く目をあけるレイ)

   (シンジの顔を少し見て、顔を寄せ、また目を閉じる)

   「碇くん」

シンジ「えっ?」

   (驚いて振り返るシンジ 制服姿のレイが部屋に立っている)

別レイ「……」

シンジ「あ、あれ!? 綾波?」

   (眠っているレイと立っているレイを見比べるシンジ)

別レイ「どうして、こういうこと、するの」

シンジ「ど……どうしてって……あの……」

シンジ(夢……夢でも見てるのかな……)

別レイ「そう……私は、あなたにとっては夢の中の存在だというのね」

シンジ「!」

別レイ「なぜ、逃げ出したの」

シンジ「に……逃げ出した?」

別レイ「そう。なぜ、逃げ出したの? あなた自身が望んだ世界から」

シンジ「僕が……望んだ?」

   (周囲の光景が暗転 半壊した巨大なレイの顔、赤い浜辺)

シンジ「!」

別レイ「そう。碇くんが望んだ世界。そこから逃げ出して、自分だけ全てをやり直そうというの?」

シンジ「……」

別レイ「なぜ逃げ出して……何も知らない、この世界の『私』にかまうの? こんなことをして、『私』を救ったつもりでいるの?」

シンジ「そんな……」

別レイ「それは、許されないこと」

シンジ「違う……僕は……!」

   (再び暗転する光景 レイの部屋)

シンジ「!」

   (あわてて辺りを見回すシンジ)

レイ「……」スー… スー…

シンジ(いない……)

シンジ(夢……いや……)

シンジ(本当に……「あれ」は……あの世界は、夢だったのか!?)

  :
  :

==== 朝 レイの部屋 ====

レイ「――はい、碇くん」

シンジ「ありがとう」

   (茶碗を受けとるシンジ)

   (朝食を食べているシンジとレイ)

シンジ「家に帰るつもりだったから、学校の道具が何もないや……家に寄って、二時間目から行くよ」

レイ「そう」

シンジ「……そうすればアスカとも鉢合わせしなくて済むし」

レイ「ごめんなさい」

シンジ「あ、綾波が謝ることじゃないよ! 僕が勝手に泊めてもらったんだから」

レイ「でも――」

トゥルルルルル……

シンジ「ミサトさんからだ……」

レイ「……」

ピッ

シンジ「はい――」

ミサト『シンちゃん? いまどこにいるの?』

シンジ「えっ、あの……」

ミサト『……レイのところね』

シンジ「いっいえ……」チラ

レイ「?」

ミサト『……』

シンジ「はい……」

ミサト「はあ……ここまでこじれてるとはね……」

シンジ「えっ?」

ミサト『いや、知らないで焚き付けるようなことアスカに言っちゃったあたしも悪いんだけど……』

シンジ「……」

ミサト『シンちゃん、急で悪いんだけど……引っ越してくれない?』

シンジ「えっ?」

ミサト『アスカが手がつけられなくて……もうこんなとこにいられない、出ていくって言うのを、シンちゃんが代わりに出ていくのを条件に、やっと引き留めたの。いま、この子おっ放したら、どこへ飛んでっちゃうかわからないから――』

シンジ「……」

ミサト『本部の宿舎確保したから。――ほら、あたしのところに来ることになる前に、入るはずだったところ』

シンジ「あ、はい」

ミサト『荷物は明日までに運び込んでもらうから。できればこっちには顔出さないで』

シンジ「は、はい。――あ、でも、学校の道具が――」

ミサト『え? ああ、そうね。要りそうな道具は玄関の外に出しとくから、まとめて持ってって』

シンジ「はい……」

ミサト『悪いわね……って、あたしが謝ることじゃないか』

シンジ「すみませんミサトさん……あの」

ミサト『ねえ、そこにレイいる?』

シンジ「えっ?あっはい……」

シンジ「……ミサトさんから」スッ

レイ「……」スッ

レイ「綾波です」

ミサト『レイ? あんまりとやかく言いたくはないけど、あんたたち中学生なんだし、ネルフは対外的にいろいろ微妙なんだから、くれぐれも面倒に巻き込まれないように用心なさい』

レイ「……はい」

ミサト『頼むわよ。――シンちゃんに代わって』

レイ「はい――」

シンジ「――もしもし?」

ミサト『じゃあね。細かいことは、また本部で』

シンジ「はい、それじゃあ――」ピッ

(顔を見合わせるシンジとレイ)

  :
  :

==== ミサトのマンション リビング ====

ミサト(さて、と――)

   (室内を見回すミサト)

   (クッションや食器が散乱し、中には割れているものもある 壁に何か飛び散った染み)

   (ミサトの膝で眠っているアスカ)

ミサト(引っ越し屋さんが来るまでに、これを少し何とかしないとね……)ハァ……

  :
  :

【正誤表】

>>13

× 案びりカルケーブル
○ アンビリカルケーブル

>>48からの続き

==== 数日後 学校 休み時間 ====

(雑誌を囲んで何か話し込んでいる女子数名)

女子A「これさー、どうしても最後で失敗するんだよねー」

女子B「やっぱそうだよねー」

(通りかかるレイ)

女子A「あ、レイ」

レイ「なに?」

女子A「レイさ、こないだ、これ作ったって言ってなかった?」

レイ「ええ」

女子A「最後んとこ、どうやったの?」

レイ「そこはここをこうして……こうすればいいわ」

女子B「ほんと?」

レイ「加減が難しいから、慣れないうちは書いてあるより少し冷ました方がいいと思う」

女子C「すごーい。こんどやってみる。ありがと、綾波さん」

女子B「……綾っちはいいよなー、作れば食べてくれるヒトがいるもんなー……ねー、碇くん!」

シンジ「えっ?……なに?」

   (トウジの机のあたりから振り返るシンジ)
 
女子たち「なんでもなーい!」

   (目をしばたたかせるシンジ)

   (面白くなさそうに携帯ゲーム機をポケットにしまい、教室を出ていくアスカ)

   (それを気遣わしそうに眼で追うヒカリ)

ヒカリ(まさかほんとに碇くんとられちゃうとはねー……)

  :
  :

==== 翌日 学校 ====

教師「――では、渚くん――」

カヲル「渚カヲルです。よろしくおねがいします」

キャーーー!!

トウジ「何や、黄色い声あげよって」

シンジ「……」

(難しい顔をしているシンジ)


==== 休み時間 ====

(自席で女子に囲まれているカヲル)

女子D「――ねえ、渚くん、エヴァのパイロットって本当?」

カヲル「うん、そうだよ」

女子E「ほらーやっぱりー。なんかそんな感じがしたんだよねー」

アスカ「ちょっと、それホント!?」ガタン

   (話を聴きつけて自席で立ち上がるアスカ)

カヲル「ああ、君はえーと――」

アスカ「そんな話、聞いてないわよ!」

トウジ「こないだミサトさんが言うてたやろ。惣流もおったやないか。なに聞いとんねん」

アスカ「うるさい! 新しいパイロットなんて要らないわよ! ただでさえ余ってるんだから!」

トウジ「……ワイのことか?」

   (自分の顔を指してシンジ、ケンスケと顔を見合わせるトウジ)

カヲル「そんなこと言われても、僕には上の考えまでわからないよ」

アスカ「……」ワナワナ

カヲル「そっか、余ってるんだ、パイロット。じゃあ競争になるのかなあ」

アスカ「!」

アスカ「知らない!」ズカズカ……ピシャッ!

トウジ「何荒れとんのや? 惣流のやつ」

シンジ「トウジも知ってるだろ? 最近、アスカ、シンクロ率が上がらないから」

トウジ「ああ、綾波が延びてきて抜かれそうやもんな」

シンジ(あっ、そうか……)

トウジ「ええやないか、ぜいたくな悩みやで。ワイなんてまだめったに起動レベルに達したことないんやから」

ケンスケ「そうだよ、俺なんてお呼びさえかからないってのに……いいなあ、トウジも碇も……」

シンジ「だから、そんな羨ましがられるようなもんじゃないって……」

   (やってくるカヲル)

カヲル「そういうわけだから、よろしく」

トウジ「おお、よろしゅうな」

シンジ「……」

カヲル「えーと、君がサードだよね」

シンジ「うん」

カヲル「どうしたの? 怖い顔して」

シンジ「えっ? いっ……いや、別に……よろしく」

ケンスケ「なあ、渚、お前、綾波の親戚か?」

シンジ「!」ハッ!

カヲル「違うよ。なんで?」

ケンスケ「アルビノって言うの? 外見がさ」

カヲル「日本人の1万人から2万人に1人はアルビノだよ。たまたま同じクラスになったってだけで」

ケンスケ「そうだけど……いや、エヴァのパイロットの適性となんか関係あるのかなと思って」

カヲル「ふーん……そんなふうに考えたことなかったなあ」

ケンスケ「あーあ、俺も髪の毛、脱色してみようかなあ」

トウジ「そういう問題かい……」

レイ「碇くん」

シンジ「あ、ごめん今行くよ」

カヲル「君がファースト?」

レイ「ええ」

カヲル「よろしく」

レイ「……よろしく」

カヲル「何だか、聞いてたのと感じが違うね」

レイ「そう? よく、わからない」

ケンスケ「いや、俺たちもそう思うよ。綾波、感じ変わったもんなー。なっ、碇」

シンジ「ぼっ……僕にふらないでよ!」

ケンスケ「他に誰に振れっていうんだよ。このこのー」

シンジ「ケンスケ!」

  (少し紅くなっているレイ)

カヲル「ふーん、そうなんだ」フフ

シンジ「な、渚くん!」

カヲル「ははは、まあ、よろしく頼むよ。ネルフでもね」

  :
  :

===== ネルフ本部 試験室 ====

(シンクロテスト レイ、アスカ、カヲルがテストプラグに搭乗)

(トウジ、シンジは待機)

リツコ「――レイはまた少し伸びてるわね。もうアスカとほとんど差がないわ」

ミサト「渚君は?」

リツコ「環境が変わったばかりでこの数値なら大したものだわ」

ミサト「そう」

リツコ「これでアスカが持ち直してくれれば言うことないんだけど……頼んだわよ、ミサト」

ミサト「わかってるわよ……」

(モニタ上のカヲルを厳しい顔で見ているシンジ)



==== ケージの一角 ====

(ドグマからサルベージされたプロトタイプのパーツから組み立てが進む試作02号機、03号機)



==== 学校 ====

(帰ろうと下駄箱をあけるレイ 数通の封書がパラリと落ちる)

レイ「??」

(拾い上げて目を丸くするレイ)



==== 夕方 レイの部屋 ====

レイ「――開けても大丈夫かしら」

シンジ「えっ、それ、ラブレターだよ」

レイ「ラブレター?」

(紅茶を淹れているシンジ)

シンジ「綾波が好きなんだよ、それ書いた人。きっと綾波に付き合ってほしいんだ」

レイ「何に?」

シンジ「いや、そうじゃなくて……付き合うってのは交際するってことで……僕たちみたいに」

レイ「なぜ? わからない」

シンジ「綾波はもともと美人だしさ、最近、よく喋るようになったから」

レイ「……ラブレター、好きな人に書くの?」

シンジ「うん」

レイ「碇くんからもらったことがないわ」

シンジ「えっ?……だって、直接言ったから――」

レイ「嫌。手紙がいい」

シンジ「そ……そんな急に言われたって――」

レイ「じゃあ、これ、返事を書いてもいい?」

シンジ「えっ? いや、それは……」

レイ「うそよ」クスッ

シンジ「そ、そう。よかった、あははは……」

シンジ(いつの間にそんな駆け引きみたいなこと覚えたんだよ綾波……)ハァ…

  :
  :

(夜)

シンジ「……」ムクッ

レイ「……」スー… スー…

(レイを起こさないようにベッドを抜け出すシンジ)

シンジ「……」

(鞄からレポート用紙とペンを取り出し、座卓で何か書き始めるシンジ)

  :
  :

==== 数日後 ネルフ本部 発令所 ====

シゲル「――使徒を映像で確認、最大望遠です」

マコト「衛星軌道高度から動きませんね……」

シゲル「ここからは、一定距離を保っています」

ミサト「どの道、目標がこちらの有効射程距離内にまで近づいてくれないと、どうにもならないわ」

マコト「そうですね……」

ミサト「シンジくんは?」

マヤ「初号機ともに順調。行けます」

ミサト「了解、初号機発進、超長距離射撃用意。バックアップとして、レイは零号機で発進準備」

アスカ「私が行くわ!」

リツコ「だめよ。今回のオペレーションでは、超長距離の狙撃のため高いシンクロ率が要求される。相手は衛星軌道高度よ。有効射程ぎりぎりまで近づいたとしても、ヤシマ作戦の比じゃないわ」

アスカ「ヤシマ作戦?」

リツコ「ああ、あなたが来る前だったわね」

アスカ「くっ……」

ミサト「シンジくん、頼んだわよ」

シンジ『はい……』

シンジ (……アスカじゃなく、僕なのか……こういうところは夢とどんどんずれてくるな……)

シンジ (でも……陽電子砲はこの距離じゃ威力が全然足りなかったんじゃ……)

シンジ ハッ

シンジ (綾波が命中させたとき、使徒はA.T.フィールドを展開していた)

シンジ (やはり防ごうとしていたんだ)

シンジ (リツコさんが言うとおり、正確に一点に繰り返し叩き込めれば、あるいは……)

(地上に送り出される初号機)

(ライフルを構える初号機 HUDをかぶるシンジ)

シゲル「目標、未だ有効射程外です。」

シンジ(くるぞ……)

(初号機を照らし出す光)

シンジ(きた!)

(アスカ崩壊、レイ爆死、カヲル殲滅、量産機、紅い世界―-)

(シンジの記憶から掘り起こされる悪夢のような光景)

シンジ「ううっ!……うわあああああああぁぁ!」

ミサト「シンジくん!……敵の指向性兵器なの?」

シゲル「いえ、熱エネルギー反応無し」

マヤ「心理グラフが乱れています、精神汚染が始まります!」

リツコ「使徒が心理攻撃……まさか、使徒に人の心が理解できるの?」

シンジ(これは……幻だ!……大丈夫)

シンジ(僕はもっとひどいのも見たから……我慢できる!)

男性オペ「――加速器、同調スタート」

女性オペ「電圧上昇中、加圧域へ」

男性オペ「強制収束機、作動」

女性オペ「地球自転および重力誤差、修正0.03」

男性オペ「超伝導誘導システム、作動中」

男性オペ「薬室内、圧力最大」

マコト「最終安全装置、解除」

女性オペ「解除、確認」

マコト「全て、発射位置」

シンジ「くっ」カチン

バシュッ!

(陽電子砲を放つ初号機 雲に吸い込まれてくビーム)

(雲海を突き抜け青空を上昇するビーム)

(主モニター上 使徒のわずか手前で四散するビーム)

マコト「命中!」

シゲル「……だめです、目立った効果がありませんね。この遠距離でA.T.フィールドを貫くには、まるでエネルギーが足りません」

ミサト「光線の分析は?」

マコト「可視波長のエネルギー波です。A.T.フィールドに近いものですが、詳細は不明」

リツコ「シンジくんは?」

マヤ「危険です、精神汚染、Yに突入しました!」

シンジ『次を……』ハァ……ハァ……

ミサト「シンジ君!?」

シンジ『まだ……まだ行けます!』ハァ……ハァ……

ミサト「でも!」

シンジ『使徒は防ごうとしてる……攻撃は効いてます! 同じところを突ければ!』ハァ……ハァ……

マコト「次弾、発射準備完了!」

(シンジのモニタの中をゆらぐ照準マーク)

シンジ「くっ!」カチン

バシュッ!

(第2射 命中 またもはじかれる)

シンジ「ううう!」

(歯を食いしばるシンジ)

シンジ(ちがう、トウジは助かった! 変えられる! 変えられるんだ!)カチン

バシュッ!

(再度発射、また跳ね返される)

シゲル「だめです……いや、ちょっと待ってください!」

ミサト「どうしたの?」

シゲル「使徒が防御した時の散逸エネルギーが減少しています。約8%……効いてます!」

リツコ「賞賛すべき射撃精度ね……」

ミサト「いけるわ!」

シンジ「ううっ……くそっ!」カチン

バシュッ!

(第4射、発射)

(ビームをはじくA.T.フィールドの光 今度は見た目にも勢いが減じている)

シゲル「目標、防御力が55%に低下!」

マコト「第5射、装填完了!」

シンジ「……」カチン

バシュッ!

(発射される第5射 目標を大きくそれる)

シゲル「えっ!?」

ミサト「……シンジ君?」

ビーッ

マヤ「初号機、心理グラフシグナル微弱!」

リツコ「L.C.L.の精神防壁は?」

マヤ「だめです、触媒の効果もありません!」

リツコ「生命維持を最優先、エヴァからの逆流を防いで!」

マヤ「はい!」

リツコ(この光はまるでシンジくんの精神波長を探っているみたいだわ……まさか、使徒は人の心を知ろうとしているの?)

シゲル「使徒のA.T.フィールド、強度が回復します……」

ミサト「シンジくん! 聞こえる? シンジくん!」

レイ『司令』

ゲンドウ「どうした、レイ」

レイ『……槍を使わせてください』

ゲンドウ「レイ…」

カヲル(槍? あれを、今使うのか?)

ゲンドウ「いいだろう。やれ」

レイ『はい!』

冬月「ロンギヌスの槍をか! 碇、それは…」

ゲンドウ「レイの言うとおりだ。A.T.フィールドの届かぬ衛星高度の目標を倒すには、もはやそれしかない」

(ドグマに降りていく零号機)

(リリスから槍を引き抜く)

冬月「かと言って、ロンギヌスの槍をゼーレの許可なく使うのは面倒だぞ」

ゲンドウ「……」

冬月「委員会はエヴァシリーズの量産に着手した。確かにこれはチャンスかもしれん。しかし――」

ゲンドウ「使徒の殲滅とパイロットの救出が最優先だ、冬月」

冬月「……碇……?」

(上昇するリフト)

レイ(早く……早く!)

シゲル「零号機、二番を通過、地上に出ます!」

ミサト「あれがロンギヌスの槍……」

シゲル「零号機、投擲体制!」

マコト「目標確認、誤差修正よし!」

マヤ「カウントダウン入ります、10秒前、8、7、6、5、4、3、2、1、ゼロ!」

ビュッ!


(助走をつけて槍を放つ零号機)

シゲル「!……目標が移動します!」

ミサト「なんですって!?」

(主モニター上 使徒をかすめて行き過ぎる槍)

リツコ「かわされた!?」

マコト「そんな……」

シゲル「目標、降下開始!」

ミサト「まずい!」

ミサト「レイ!聞こえる!? 陽電子砲に急いで!」

レイ『了解――』

リツコ「ミサト! レイがあの光線の餌食になるだけだわ!」

ミサト「でも、他に選択肢がない! すばやくやるしかないわ!」

マヤ「零号機、間もなく活動限界!外部電源への接続が必要です!」

ミサト「レイ! 14番のケーブルを使って。早く!」

レイ「了解」

(付近のビルからプラグを引出し背面に接続する零号機)

シゲル「目標、距離3万!」

ミサト「速すぎる! レイ、急いで――」

ズバッ!

(零号機の前方の街区から空に向かって放たれるビーム)

レイ『!』

ミサト「な、なに!」

マコト「陽電子砲発射!――初号機です!」

ミサト「えっ?」

(雲上 青空を伸び上がるビーム 使徒を貫通する)

(地上 雲を通して閃く爆発の光)

シゲル「目標、消滅!」

マヤ「エヴァ初号機、解放されます……」

(初号機プラグ内、気を失うシンジ)

冬月「ロンギヌスの槍は!?」

マコト「第一宇宙速度を突破、現在、月に向かっています」

冬月「回収は不可能に近いな……」

マコト「そうですね……あの質量を持ち帰る手段は、今のところ……」

マヤ「初号機健在、グラフ正常位置」

シゲル「機体回収は、3番ケイジへ。」

ミサト「シンジくんは?」

マコト「パイロットの生存は確認。汚染による防疫隔離は解除されています」

ミサト「そう…」

  :
  :

==== 零号機ケージ ====

(零号機からイジェクトされるエントリープラグ)

(飛び降りるレイ)

(作業通路をかけて行く)



==== 初号機ケージ ====

救護員「気をつけろ、そっとだ」

(ストレッチャーに乗せられ酸素マスクと点滴が取り付けられるシンジ)

(零号機ケージから走ってくるレイ)

レイ「碇くん!」

救護員「お、おい――」

(シンジの手を握り、顔を覗き込むレイ)

レイ「碇くん! 目を開けて、碇くん!」

(薄く目を開けるシンジ)

(透明な樹脂のマスク越しに唇が、「だいじょうぶ」と動く)

レイ「碇くん……」

リツコ「大丈夫よ、レイ」

(レイの肩に手を置くリツコ)

リツコ「あとは任せましょう」

レイ「はい……」

(運ばれていくシンジ 握っていた手がほどかれる)

(レイの肩を抱いているリツコ)

シゲル「驚いたな、レイちゃんがあんなに取り乱すなんて」

マヤ「そうですね……」

アスカ「はん、無敵のシンジ様とガールフレンドがいればじゅーぶん、他のパイロットはお払い箱って感じよね!」

カヲル「ふーん、そんなもんかなあ」

アスカ「アンタたち、悔しいとか思わないわけ!?」

トウジ「あのなあ、惣流、何のんきなこと……」

カヲル「あ、……『他のパイロット』って、もしかして僕と鈴原くんも入ってるの?」

アスカ「な、なんですってえー!?」

カヲル「何だよ、僕、何か気に障ること言った?」

ミサト「やめなさい、アスカ! 渚くんも!」

  :
  :

==== 数日後 シンジの部屋 ====

ジャー……

(夕食の片づけをしているレイ)

シンジ「ねえ……綾波……」

レイ「なに?」キュッ

シンジ「今まで、君に言っていなかったことがあるんだ」

レイ「……」

シンジ「いや、言おうと思ったこともあるんだけど――あんまり突拍子もない話だから」

レイ「どんな話?」

シンジ「夢……僕が見た夢の話」

レイ「夢?」

シンジ「あの、使徒の影に飲み込まれた後……だと思うんだけど……」

レイ「……」

シンジ「夢を……長い夢を見たんだ」

レイ「!」

シンジ「……」

レイ「……確かにそう言っていたわ」

シンジ「たくさんの使徒とエヴァで戦って……最後はエヴァのせいで世界が滅びる夢」

レイ「!」

シンジ「すごく嫌な夢だった。いや、嫌なんて言葉では、とでも言い表せない――」

レイ「……そう……」

シンジ「夢に出てきた使徒は、あのあと僕たちが実際に戦った使徒とほとんど同じだった」

レイ「えっ?」

シンジ「予知夢っていうのかな……でも、僕は本当はそんな生易しいものじゃないような気がしてる。実際に見てきたような……僕自身が体験したみたいな……」

レイ「だから、鈴原君が心配だったの?」

シンジ「うん……。いやな夢だけど、いいこともあった。夢の中の戦いのようすを思い出して、有利に戦えることがあったから」

レイ「有利?でも、このあいだ碇くんは……」

シンジ「違ってきていることもたくさんある。僕が変えてしまったんだ。この前の使徒は、夢の中ではアスカが出て……ひどい目にあった。最後は君が槍で仕留めた」

レイ「……碇くんは……槍のことを知っていたというの?」

シンジ「言ったろ?夢に出てきたんだよ。知っていたと言えるかどうか……」

レイ「……なぜ、それを今になって話すの?」

シンジ「次の使徒も夢のとおりだったら……それこそ確実に倒したいから」

レイ「なぜ?」

シンジ「夢では、次の使途が手強くて……」

レイ「……」

シンジ「君が零号機を自爆させて僕を助けたんだ」

レイ「!!」

シンジ「僕は……怖い。その時になってみなければわからないけど、使徒の様子は、いままでは、ほとんど夢の通りになってる」

レイ「……」

シンジ「綾波が自爆しなきゃならないようなことには、絶対したくないんだ。だから……知っておいて欲しかった」

レイ「そう……」

シンジ「僕が必ず助けるから、もしそういうことになっても、絶対自爆なんかしちゃ嫌だよ」

レイ「……自爆して……私はどうなったの?」

シンジ「その、夢では……君には代わりの体があって……しばらくして新しい君と会った」

レイ「!」

シンジ「でも、新しい君は僕のことほとんど覚えてなくて……僕は……」

シンジ(言ってしまった……)

シンジ「ごめん、こんな話、嫌だよね」

レイ「嫌。でも……」

シンジ「……」

レイ「それはみんな、ほんとうのはなし」

シンジ「え……」

レイ「ごめんなさい、黙っていて」

シンジ「……」

レイ「言えなかった。あんまり幸せで。言ったら、今の生活が壊れてしまいそうで」

シンジ「……」

レイ「私は、ヒトじゃない」

(震える声 言ってしまってから、シンジの目を少し見て、俯き息を吐き出す)

シンジ「綾波……」

レイ「ごめんない、碇くん。今まで……ありがとう」

(エプロンを外して立ち去ろうとするレイ)

レイ「……!」

(レイの手を握り引き留めるシンジ)

シンジ「僕の方こそごめん、わかっていたのに言えなくて………あんまり突拍子もない話だったから……でも、言わなくて、みんなや君を何度も危ない目に遭わせてしまった」

レイ「……怒らないの?」

シンジ「どうして? 怒られるのは僕の方なのに」

レイ「……」ポタッ

シンジ「……」

レイ「……」ポタポタポタッ

(レイを抱き締めるシンジ)

シンジ「行かないで――ずっとそばにいてほしい」

レイ「……いいの? そばにいても……いいの?」

シンジ「いなきゃだめだ」

レイ「……ありがとう……」ポタポタポタ…

(シンジの背中に手を回すレイ)

レイ「ありがとう……」グスッ

シンジ「……」

レイ「碇くん……」

シンジ「なに?」

レイ「もし使徒が夢の通りで――」

シンジ「うん」

レイ「ほかに方法がなかったら……そうしなければ碇くんの命が危険にさらされてしまう状況になったら」

シンジ「え?」

レイ「私は、たぶん、碇くんの夢の中の私と、同じことをすると思う」

シンジ「綾波……」

レイ「私が死んでも……代わりがいるもの」

シンジ「ちがう! 綾波は……僕の好きな綾波は一人しかいない」

レイ「ありがとう……でも私は、碇くんが死んでしまうくらいなら、別の私に碇くんを頼んだ方がいい。たとえ、今の私が消えてなくなるのだとしても」

シンジ「綾波……」

レイ「……」

シンジ「そんなこと、絶対にさせないから」ギュッ

レイ「……ありがとう」ギュッ

レイ「そう言ってもらえただけでも、嬉しい」

シンジ「本当に――そんなことはさせないから」

レイ「わかってる」グスッ

  :
  :

レイ「……」スー…スー…

(シンジの肩に頭を預けたまま眠ってしまったレイ)

シンジ(この姿勢のままじゃまずいよな……)

シンジ「よいしょっと……」

(レイをベッドに横たえるシンジ)

シンジ(これでよし、と)スック…

   「どうしても、夢と言い張るの」

シンジ「!」

別レイ「……」

シンジ「また君か……」

別レイ「夢などではないのに……そのために私がいるのに」

シンジ「……僕にしか見えない君が?」

別レイ「それは……」

シンジ「夢としか言えないじゃないか。少なくとも他の人には」

別レイ「……いつまで、こんなことを続けるの」

シンジ「……」

別レイ「これは警告……いいえ、忠告よ」

シンジ「忠告?」

別レイ「こんなことをしても意味がない。あなたには、この『私』と生きていく資格がない――」

(眠っているレイを見下ろすもう一人のレイ)

別レイ「――自ら望んだ世界から逃げ出したあなたには」

シンジ「……」

別レイ「……」

シンジ「ごめん、綾波……資格があるかどうかなんてわからないけど……僕はここで生きていく。君のところへは戻れない」

別レイ「何を言うの……」

別レイ「あなたは、あの世界を生み出すまでに、あなたが自身がしてきたことを否定するの? そんなことを言う権利があると思っているの?」

シンジ「これは、僕の意志だ」

別レイ「違う。あなたの心は――魂は、あの世界のもの。この世界のものじゃない」

シンジ「気づいたんだ。僕が逃げたりしなければ、世界があんなふうになることはなかった、綾波だって父さんの道具で終わることなんかなかった。……でも、この『綾波』は違う……この『綾波』と生きていくために、僕は戦う。そのために、僕はここにいる」

別レイ「後悔するわ」

シンジ「しないよ。今度は……戦いがどんなに辛くても、もう逃げたりしない。耐えてみせる」

別レイ「そういう意味では……ないのに」

シンジ「……え?」

別レイ「あなたとその子の進もうとしている道の先には、何もないのに……」

(消えるもう一人のレイ)

レイ「……」スー…スー…

シンジ(どういうこと?……何も……ないって……)

  :
  :

==== 翌日 ネルフ本部 廊下====

(歩いてくるシンジとレイ)

シンジ「……!」

(前方に立っているゲンドウ)

ゲンドウ「レイ、実験はどうした。 赤木博士が待っている」

レイ「……はい……」

レイ(実験……気が進まない……私と碇くんが違うことを思い知らされるから……)

  (レイの様子を横目で見ているシンジ)

シンジ(そっか……綾波、前とは……夢とはもう全然違うもんな……)

シンジ(かといって、父さんにあまり睨まれると、あとがやりにくくなるし……)

シンジ(そこのところを綾波も考えてくれてるといいんだけどな……)

シンジ「――ねえ、綾波」

レイ「碇くん?」

シンジ「その実験、中身はわからないけどさ。綾波にしか出来ないことなんだろ?」

レイ「……え?」

ゲンドウ「……」

シンジ「行ってきなよ」

レイ「……」

シンジ「綾波がしなきゃならないことなら、僕も応援するから」

レイ「碇くん……」

シンジ「……」ニコ

レイ「わかった。……ありがとう」

ゲンドウ「……」

レイ「すみません、司令。行きます」

ゲンドウ「……」

シンジ「……」

レイ「……司令?」

ゲンドウ「ん? ああ、行こう」

(立ち去る ゲンドウとレイ)

(後姿をしばらく眺めているシンジ)

(踵を返し、通路を去っていく)


=== セントラルドグマ ====

シュオー ドクンドクンドクン…

レイ「……」

(制服を脱ぎかけて手が止まる)

レイ(なぜだろう……前は……何ともなかったのに……)

(レイの手が止まっているのを見とがめるゲンドウ

ゲンドウ「どうした、レイ」

レイ「いえ…何でもありません」

(シンジの励ましを思いだして、決意し服を脱ごうとするレイ)

ゲンドウ「――待て、レイ」

レイ「はい?」

ゲンドウ「赤木博士」

リツコ「はい」

ゲンドウ「実験槽の周りを何かで覆えないか」

リツコ「覆う?」

ゲンドウ「そうだ」

(少し考えるリツコ)


リツコ「診察室の衝立とシートで目隠しを作れると思います」

ゲンドウ「頼む」

リツコ「はい」

ゲンドウ「ああ、いや、私もやろう」

(目を丸くするレイ)

リツコ「司令……」

(たちまち組み立てられる目隠し)

ゲンドウ「もっと早くこうしてやるべきだった…………すまなかったな、レイ」

レイ「いえ……ありがとうございます」

   :
   :

==== 数時間後 ゲンドウ執務室 食卓 ====

カチャカチャ……

ゲンドウ「…………」モグモグ

レイ(この香り、何を使ってるのかしら)

レイ(こんど調べてみよう――)

ゲンドウ「レイ」

レイ「はい」

ゲンドウ「学校はどうだ」

レイ「問題、ありません」

ゲンドウ「そうか、ならいい」

レイ「……」

ゲンドウ「……」カチャカチャ……

レイ「……いえ」

ゲンドウ「……」カチャン…

レイ「疎開する友達が増えて……寂しくなってきました」

ゲンドウ「……友達?」

レイ「昨日も一人、仲のいい子が転校して……」

(教室で花束をもらっている女子生徒)

(親の車に乗り込む女子生徒 囲む女子生徒と手を握りあい、レイと抱き合う)

ゲンドウ「そうか……」

レイ「早く戦いが終わって、みんな戻って来られたら、いいのに……」

ゲンドウ「……」

レイ「……」

ゲンドウ「そうだな」フッ

( 驚きつつ微笑むゲンドウ)

レイ「司令?」

ゲンドウ「戦いが終われば、――みな、帰って来られる」

レイ「……」

ゲンドウ「きっと、そうなる……そうなるようにする」

レイ「……はい」

ゲンドウ「……」カチャカチャ

レイ「……司令」

ゲンドウ「何だ」

レイ「こんど、碇くんと一緒に、食事、どうですか?」

ゲンドウ「……」カチャン……

レイ「……」

ゲンドウ「レイ、私には、その資格は――」

(一瞬、レイにユイの面影を重ね見るゲンドウ)

ゲンドウ「――わかった。言うとおりにしよう」

レイ 「!……ありがとうございます」

(微笑むレイ)


==== 数日後 ネルフ本部 試験室 ====

リツコ「――いいわよ、みんな。上がってちょうだい」

一同「了解」

(テストプラグから降りてくるレイ、カヲル、トウジ)

ミサト「――どう? レイのシンクロ率低下の原因、わかった?」

リツコ「わからないわ。プライベートはうまく行ってるみたいなのに」

リツコ(ヒトの心を持ちすぎたからかしらね……)

ミサト「まあ、それでも最初の頃にもどったくらいか。後方支援は、まだ十分任せられそうだけど」

リツコ「そうね」

ピッピッ……

リツコ「アスカは調子いいわね。もう、ほとんど前と変わらないわ」

ミサト「アスカなりに気持ちの整理ができてきたのかもね」

リツコ「もっと脆いかと思ってたけど、強くなったわね、アスカ」チラ……

(試験室の一角)

アスカ「いい? あんたたち。エヴァは心を開かなきゃ動かないのよ!」

トウジ「へいへい。それができてりゃー、世話ないわ……」

カヲル「わかってるなら、君がやってみればいいじゃないか。――あ、やっててあの数値?」

アスカ「な、なんですってえー!?」

カヲル「何だよ……僕、何か間違ったこと言った?」

  :
  :

ミサト「またやってる……」

リツコ「それにしても渚くん、やるわね。アスカと遜色ないわ」

ミサト「レベルが近いから、アスカにとってもちょうどいい競争相手かもね。シンちゃんにはもう全然追い付けないし……どうしたの?リツコ」

リツコ「ううん、渚くん、確かに優秀なんだけど、ゼーレが直々に送り込んでくるって言うから、何かこう、もっと特別な能力でもあるんじゃないかって内心思ってたのよ」

ミサト「まさかー、それはいくらなんでも考えすぎなんじゃない?」

(横で聞いているシンジ)

シンジ(そうなんだ…渚くんは、最初からエヴァを自由自在に動かせる感じだったはずなのに……夢とは違う……)

シンジ(わざと隠してるのか? いつ、動き始めるつもりなんだ? 動き始めたら……何とかして止めないと……)

シンジ(もう、あんなのは嫌だ……)

(カヲルを握り潰す感触が甦る 我知らず拳を握りしめるシンジ)

ミサト「まあ、今のアスカと同レベルなら作戦運用上は万々歳だし、鈴原くんも起動レベル、コンスタントにクリアするようになったし、総じて安心材料の方が多くていいんじゃない?」

リツコ「だといいけど……」

  :
  :

==== 診察室 ====

リツコ「――じゃあ、次は口を開けて」

レイ「……」アー

リツコ「……」

リツコ(渚くんの力は、本当にあの程度のものなのかしら?)

リツコ(最近うちの支援に消極的だったゼーレが急に押し付けてきたパイロット……何かあると考えても、おかしくないと思うんだけど……)

レイ「!」

リツコ「あっ……」

レイ「……」ゲホゲホッ……ゲホッ……

リツコ「ご、ごめんなさい! レイ、痛くなかった?」

レイ「はい……うっ……」

(口を押さえるレイ)

リツコ「レイ!?」

(とっさに洗面器を差し出すリツコ)

(嘔吐するレイ 背中をさすってやるリツコ

リツコ「大丈夫!?」

レイ「はい……もう……大丈夫です」ハァ…ハァ…

リツコ「ほんとにごめんなさい。今日はもう終わりよ。帰っていいわ」

レイ「はい……失礼します」スック……
 
(見送るリツコ)

リツコ(はあ、私としたことが……)

リツコ(でも……もどすほど突っ込んだかしら……)

リツコ「……」ハッ……

リツコ「……」

リツコ(いや、まさかね……)フフ……

(レイが去った空間を凝視するリツコ)

(おそるおそるキーを叩き血液検査の数値を見直すリツコ)

リツコ「……!」

(ふたたびレイが去った入口を見るリツコ)

リツコ(そんな……)

  :
  :

==== 数日後 ネルフ本部 ゲンドウの私室 ====

(食材を運び込むシンジとレイ)

(談笑しながら部屋を片付けたり下ごしらえをするシンジとレイ)

レイ「――はいこれ、碇くん」

シンジ「うん、ありがとう――父さん、意外にきれいにしてるんだね」

レイ「そうね」


シンジ「でも、何か変な感じたな。父さんと食事なんて」

レイ「変じゃないわ。親子だもの」

シンジ「はは……僕と父さん、普通の親子とはとても言えないけどね」

レイ「そんな……」

シンジ「綾波のおかけだよ、綾波が父さんに声かけてくれたから」

レイ「ううん、碇くんのおかげ」

シンジ「……どうして?」

レイ「お弁当」

シンジ「え?」

レイ「あのとき、お弁当をもらって、それでお返しにお料理を習ってなかったら……」

シンジ「……そっか」

レイ「だから、碇くんのおかげ」

シンジ「ありがとう。でも、そんなこと――」

ビーーーーッ

シンジ・レイ「!」

女性オペ『総員、第一種戦闘配置。繰り返す――』

シンジ「行こう!」

レイ「ええ」ダッ

シンジ「あっと……」ピタッ

シンジ「これ、冷蔵庫に入れとかなきゃ――」ガサガサ…

  :
  :

>>80から続く

==== ネルフ本部 発令所 ====

(上空で回転を続けるプラスミド=環状DNAに似た光のリング)

シゲル「――目標は大涌谷上空にて滞空。定点回転を続けています」

マコト「目標のA.T.フィールドは依然健在」

マヤ「エヴァ全機、配置完了しました」

  :
  :

==== 大涌谷付近 ====

(前衛にシンジ=初号機、アスカ=弐号機)

(数キロ後方にレイ=零号機、カヲル=試作02号機(黒)、トウジ=同03号機(黄))

(陽電子砲を構えている零号機 その左右でライフルを構える02、03号機)

==== 初号機プラグ内 ====

ヴォーーー……

シンジ(これなら大丈夫かな……)

シンジ(今回は僕も最初から出られた。アスカも動ける。渚くんも、トウジもいる――)

  :
  :

==== 発令所 ====

リツコ「02号機と03号機のエミュレーション・コアは?」

マヤ「良好です。ハーモニクス正常」

ミサト「目標は?」

シゲル「膠着状態ですね」

マコト「パターン青からオレンジへ、周期的に変化しています」

ミサト「どういう事?」

マヤ「マギは回答不能を提示しています」

シゲル「答えを導くには、データ不足ですね」

リツコ「ただ、あの形が固定形態でないことは確かだわ」

ミサト「先に手は出せないか……。シンジくん、アスカ、しばらく様子を見るわよ」

アスカ『ううん……来るわよ!』

==== 大涌谷付近 ====

(環を解き紐状になって襲い掛かる使徒)

アスカ「このぉ!」ガガガガガガ……

(ライフルで応戦する初号機、弐号機)

ビュッ

シンジ「うわっ!」

(必死でかわすシンジとアスカ)

シンジ(くそっ! どうすれば……)ハッ

(レイの形に変化した使徒の先端部にナイフを突き立てた場面がフラッシュバック)

シンジ(ナイフ……ナイフだ!)

初号機「……」ジャキイイイイィン

(ライフルを左手に持ち、右手でナイフを装備する初号機)

シンジ「このっ!」

(使徒をかわし、側面にナイフを突き立てる)

(噴き出す血のような液体 悲鳴のような音を上げて初号機から遠ざかる使徒)

シンジ「みんな! ナイフだ!」

アスカ「了解!」

ジャキイイイィン!

(一斉にナイフを抜き放つ弐号機、02号機、03号機)

(エヴァのナイフをかわす使徒 急に立ち上がり後衛へ突進する)

シンジ「しまった! 綾波!」

ズバッ!

(陽電子砲を放つ零号機 先端部を切り落とされる使徒)

==== 発令所 ====

マコト「やった!」

ミサト「いえ、まだよ!」

==== 大涌谷付近 ====

(切り口が再生し新しい先端となる使徒 まっすぐ零号機に襲いかかる)

レイ「くっ!」カチン

バシュッ!

(チャージ未了で放たれる陽電子砲 かわす使徒)

レイ「!」

ガシャアアアァン……

(破壊される陽電子砲 横ざまに転がってかわす零号機)

(ナイフで応戦するカヲルの02号機 ナイフを弾き飛ばされる)

カヲル「くっ……ミサトさん!」

ミサト『デュアルソーを出すわ!』

(射出口からせりあがる連装チェーンソー 受け取る02号機)

使徒「……」ビュッ!

レイ「!」

(ナイフを構える零号機 間に合わない 使途に取りつかれる)

トウジ「こんのぉ!」ガシャアアァン

(使徒に体当たりするトウジの03号機 使徒を弾き飛ばす)

トウジ「いててて……しもた!」

使徒「……」ビュン……

トウジ「うわっ!!」バキッ

シゲル『03号機、頭部及び右腕損傷、戦闘不能!』

カヲル「こいつ!」

(デュアルソーを構える02号機 その間に後退しナイフを構える零号機)

使徒「……」ビュッ

カヲル「なっ!……」ビキッ

(ぎりぎりでかわし損なう02号機)

カヲル「くそっ、機体が重い――」

リツコ『渚くんの反射にエヴァが追随してない。マヤ、02号機コアのゲインを5倍まで上げて』

マヤ『了解!』カタカタカタ……

カヲル「!」

フイイイイイィン

(何度か手を握ったり開いたりして感触を確かめるカヲル)

カヲル「よし!」

使徒「……」ビュッ

カヲル「くっ!」ビイイイイイイィン

(デュアルソーで使徒を捉える02号機)

カヲル「サード!セカンド!早く……うわっ!」ドカッ

(弾き飛ばされる02号機 デュアルソーで足を切り落としてしまう)

カヲル「ぐあああっ!」

シゲル『02号機、右脚切断、戦闘不能!』

ミサト『渚くん!』

使徒「……」ブン……

レイ「!」

ドカッ!

レイ「きゃあああぁ!」

(ついに捕まる零号機)

ビキビキビキ……

レイ「うううううぅっ!」

シゲル『目標、零号機と物理的接触!』

ミサト『零号機のA.T.フィールドは?』

マヤ『展開中。しかし、使徒に侵蝕されています!』

ミサト『シンジくん、アスカ! 急いで!』

アスカ「わかってるっちゅうの!」ズシンズシンズシン……

(後衛位置に急ぐ初号機と弐号機)

シンジ(……そんな! まさかこいつ、最初から綾波を……)

マヤ『危険です!零号機の生体部品が侵されて行きます!』

レイ「ぐううぅ……」ハァ…ハァ…

――――――
――――
――

レイ「だれ?」

  『……』

レイ「わたしたちが使徒と呼んでいるヒト?」

  『……』ニヤリ

レイ「……」

使徒『私と一つにならない?』

レイ「いいえ、私は私 あなたじゃないわ」

使徒『そう……でもだめ。もう遅いわ。私の心を分けてあげる』

レイ「……」

使徒『痛いでしょ?ほら……心が痛いでしょ?』

レイ「痛い……いえ、怖いのね」

使徒『コワい?……よく、わからない。でも、それはあなたの心よ』

レイ「……私は、怖くない」

使徒『うそ』

レイ「うそじゃない。私には、みんながいる。碇くんがいるもの」

使徒『いいえ。人は死ぬときはいつも一人。あなたたちはいつも死と隣り合わせ』

レイ「……」

使徒『それでもあなたは平気だった。あの人のために生き、無に還る それでよかった――ヒトの心を知るまでは』

レイ「!」ハッ

使徒『でも、あなたはヒトの心を知ってしまった。彼の温もりを知ってしまった――だから恐れている。いつ失ってもおかしくないから』

レイ「……」

使徒『それは今日かもしれない。死ぬのはセカンドやフォースやフィフスかもしれない――。彼かもしれない』

レイ「!」

使徒『貴方には役目がある。彼とは一緒に歩むことができないことを知っている。知っていて――そのことから目をそらそうとしている』

レイ「……ちがう」

使徒『あなたは心の喪失に耐えられない。だから、誰でもよかった』

レイ「!……ちがう」

使徒『いいえ、簡単な快楽におぼれたいだけ。刹那的な逃避で心を癒したいだけ。そのために彼を利用しているだけなのよ』

レイ「ちがう……ちがう!……」

  :
  :

==== 大涌谷付近 ====

ブオッ!

(零号機から伸び上がる不定形の物体)

シンジ(だめだ! これじゃまるで夢の……)ズシンズシン

使徒「……」ビュッ!

シンジ(くる!)

(駆け寄る初号機に襲いかかる使徒)

(ナイフで応戦する初号機 レイの形になっても躊躇しないシンジ)

シンジ「くそっ!コアは……コアはどこだ!?」

ミサト『アスカ! 今のうちに零号機を!』

アスカ「やってるわよ――きゃあ!」

(弾き飛ばされる弐号機)

使徒「……」ギュルギュル……

シンジ「うわっ!」

(獲物を捕らえる蛇のように初号機を巻き取る使徒)

シゲル『弐号機、戦闘不能!』

ミサト『くっ……パイロットの救出、急いで!』

シンジ「ぐうううううっ!」ミシミシミシ……

(初号機を締め上げる使徒)

ビーーーーーッ

マコト「胸部および上腕装甲板に亀裂! 初号機、危険です!」

ミサト『初号機のシンクロを60%までカット!急いで!』

マヤ『はい!』カタカタ……

シンジ『ぐああああああああああぁっ!』バキバキバキ……

レイ(だめ!)

(自分の体を抱きしめるように身を縮めるレイ)

シュルッ……

(初号機からはがれ零号機の腹部に引き込まれる使徒)

シンジ「うっ!」ガシャアアアアァン

(解放され地面に転がる初号機)

マヤ『零号機のA.T.フィールドが反転、一気に侵食されます!!』

リツコ『使徒を抑え込むつもり!?』

ミサト『レイ! 機体を捨てて逃げて!!』

レイ「ダメ……私がいなくなったら、A.T.フィールドが消えてしまう」

ピッ……フイイイイイイィン

(自爆装置を起動するレイ)

レイ「だから、ダメ」

シンジ「綾波、ダメだ!いま、助けるから!――うわっ!」ガシャン

(起き上がろうとするが満足に動けない初号機)

マコト『初号機、間もなく活動限界!』

レイ「ありがとう、碇くん――」

シンジ「綾波!」

ミサト『レイ……死ぬ気!?』

リツコ『!!』

(はっとしてミサトの横顔を見るリツコ 主モニターに向き直る)

リツコ『やめなさい、レイ!』

ミサト『リツコ!?』

リツコ『あなたの、お腹には――!』

一同「えっ!?」

シンジ「!」

レイ「!」

(はっとして自分の下腹部を見て、手を添えるレイ)

(とっさに脱出レバーを引く)ガシュン!

ピッピッピッ……

レイ「!」

 [ Status : Plug Ejection System ]

 [ Malfunction / Step 03 : Error H-56 ]

(射出装置の不具合表示)

ピーーーーッ

 [ Status : Self-Destruct Sequence ]

 [ STARTED ]

(起爆を知らせるアラーム表示)

レイ「待って!!――碇くん!!」ダン!

(窓外の初号機に向かって、プラグ内壁に手をつき出すレイ)

零号機「……」ググググ……

(初号機に手を伸ばす零号機)

マヤ『コアが潰れます! 臨界突破!』

ボコッボコッボコッ…

(陥没する零号機コア)

レイ「たすけて――」

……フッ

(言い終わる前に闇に包まれるプラグ内)

レイ「!」

==== 大涌谷付近 ====

カッ―――

(閃光を発する零号機)

==== 零号機プラグ内 ====

(衝撃 シートから投げ出されるレイ)

(内向きにひしゃげ裂け目を生じる内壁 漏出するLCL)

==== 大涌谷付近 ====

ドオオオオオオオオォォ……

(立ち上る爆炎 吹き飛ぶ市街地)

シンジ「うわああああぁっ!」ガラガラガラ…

(爆風に吹き飛ばされ転がる初号機)

==== 零号機プラグ内 ====

(亀裂から吹き込む高温のガス 炎に包まれるプラグ内)

(泡立ち炭化していく内装)

(それを見ているレイ)

レイ(ごめんなさい……気づいてあげられなかった)

レイ(……許して……私の――)

(狭まる視界 何もわからなくなる)

  :
  :

==== 発令所 ====

シゲル「目標、消失……」

ミサト「現時刻をもって作戦を終了します。第一種警戒体制へ移行」

マコト「了解……状況イエローへ速やかに移行」

ミサト「零号機は?」

マヤ「信号消失……エントリープラグの射出は……確認されていません……」

ミサト「各パイロットの救出、急いで」

マコト「了解」

リツコ「……」

  :
  :

==== 数時間後 発令所 ====

シンジ「――どうして言ってくれなかったんですか!!」

トウジ「おい、やめぇシンジ!!」

(リツコににじり寄ろうとしてトウジに羽交い絞めにされているシンジ)

リツコ「ごめんなさい――」

(うなだれているリツコ)

シンジ「知ってさえいたら、綾波だってエヴァになんか乗らなかった――そうでしょう!?」

リツコ「論駁の余地もないわ。ごめんなさい……私もつい先日、気が付いて……でも俄かに信じられなくて――」

シンジ「……」ワナワナ…

リツコ「――医局の産婦人科に声をかけてあったの……本当なら、午後にも意見を聴く予定になっていたのよ――」

シンジ「そんな!今頃――」

ミサト「やめなさい!!」

シンジ「!」ビクッ

ミサト「あなたにだって……いいえ、あなたにこそ、責任があるはずよ。わかってるんでしょうね!?」

シンジ「……はい……」

一同「……」

ミサト「私も……もっとパイロットの状態に気を配っておくべきだった。私も責任は免れないわ」

シンジ「……」

ミサト「レイ自身にだって責任がある。女なんだから、自分の体のことくらい――」

リツコ「それは……私の責任だわ」

ミサト「リツコ?」

リツコ「あの子に、そういうことをきちんと教えてこなかったから……」

リツコ(必要になると……思っていなかったから……)

リツコ「……保護者失格ね」

ミサト「……」

マヤ「センパイ……」

ミサト「――とにかく、捜索は続いているわ。テレメトリによれば、レイは脱出装置を操作していた。射出シーケンスの2段目までは作動が確認されている」

リツコ「22段階のうちの、ね」

ミサト「リツコ!!」

マヤ「センパイ、そろそろ――」

リツコ「ええ――そうね、ありがとう、マヤ。――ミサト、私も行ってくる」

ミサト「ええ」

カツカツカツ……

(発令所を去るリツコ)

シンジ「ただの爆発じゃない……A.T.フィールドの内側で吹っ飛んだんだ……」

ミサト「シンジくん……」

シンジ「死んだのかな……綾波……」ポタッ

ミサト「……」

シンジ「僕は……綾波を失いたくない……」ポタポタポタッ

(泣き崩れるシンジ)

一同「……」

  :
  :

==== 司令執務室 ====

冬月「――うまく行くのかね? その――」

ゲンドウ「初めてやるわけではない」

冬月「それはそうだが……あの頃とは、レイ自身の蓄積がまるで違うぞ」

ゲンドウ「問題はそこだ……。不可能ではないが、しょせん記憶の継承は不完全で、感情面にいたっては大きく後退するだろう」

冬月「何より、お腹の子は不可能――」

ゲンドウ「あれだけの事故だ。胎児のことは、対外的には何とでもなる」

冬月「……」

ゲンドウ「――対外的にはな……」

(眼鏡をはずし、掌で顔を二、三度こするゲンドウ)

ゲンドウ「先生……」

冬月「!」

(前方の空間を見つめているゲンドウ)

ゲンドウ「どのくらいかかるものでしょうかね……レイがまた、あんな風に笑うようになるには……」

冬月「碇……」

(眼鏡をかけ直すゲンドウ)

ゲンドウ「いずれにせよ……レイの生死が判明してからだな……」

冬月「……ああ、そうだな」

  :
  :

==== ネルフ本部 男子更衣室 ====

シンジ「……」

(着替えを終わってベンチに座り込んでいるシンジ)

トウジ「なあ、シンジ……」

シンジ「……」

トウジ「シンジ?」

シンジ「えっ?」

トウジ・カヲル「……」

シンジ「ごめん……大丈夫だよ」


トウジ「……」

シンジ「まだ捜索は続いているから……」

トウジ「そうやな……」

シンジ「……」

トウジ「先、行っとるで」

シンジ「うん……」

トウジ・カヲル「……」スタスタ……

プシュー

シンジ「……」

トゥルルルルル……

シンジ「?」

シンジ(……ミサトさんから?)

ピッ……

シンジ「はい……碇ですけど――」

ミサト『シンジくん!? すぐ本部の病院に行って! 私も行くから』

シンジ「病院?」

ミサト『レイが……レイが見つかったの!!』

シンジ「えっ!?」

  :
  :

==== 本部 附属病院 エレベーター前 ====

チン……ガラガラガラ……

(開く扉 引き出されるストレッチャー)

(覗き込むシンジ 付き添っているミサト)

シンジ「綾波!」

(搬出されるレイ 点滴と酸素マスク)

シンジ「……!」

(眠っているような表情 かすかに胸が上下している)

(プラグスーツの腕部が取り外されているだけ 外傷はまったく見られない)


(続いてエレベーターから降りてくるリツコ)

リツコ「シンジくん、少し下がっていて――」

シンジ「あ、すみません……」

ミサト「……」

プシュー……

(処置室に収容されるレイ 一緒に入っていくリツコ 「処置中」のランプが点灯)

   :
   :

==== 処置室前の廊下 壁際の長椅子 ====

(座っているミサトとシンジ)

ミサト「――助かってよかったわね、レイ」

シンジ「はい……」

ミサト「あれだけの爆発に巻き込まれて無傷で済むなんて驚きだけど……」

シンジ「……」

シンジ(そうだ……無傷で済むはずがないんだ……)

シンジ(まさか……もう、新しい体にすり替えられたのか?)

ミサト「シンジくん?」

シンジ「あ、はい」

ミサト「あまり嬉しそうじゃないわね」

シンジ「えっ、いや……ミサトさんの言うとおりですよ……。どうして無傷で済んだのかなって……」

ミサト「そうね……」

カシャン……

シンジ「!」

カラカラカラ……

(「処置中」のランプが消え、レイを乗せたベッドが運び出される)

レイ「……」スー…スー…

(検査着に着せ替えられ、眠っているレイ 腕に点滴)

シンジ「綾波……」

リツコ「……」


(難しい顔で出てくるリツコ)

シンジ「リツコさん……」

リツコ「ああ、シンジくん。――ちょっといいかしら?ミサトも」

シンジ「はい?」

リツコ「第2診察室へ。話があるの」

シンジ「はい……」

  :
  :

==== 診察室 ====

リツコ「――以上よ。検査した限りでは、外傷も内臓への損傷も見られない。レイ本人にはね」

シンジ「……リツコさん」

リツコ「なに?」

シンジ「どうして、あんな爆発に巻き込まれて、無傷だったんです?」

リツコ「わからない……」

ミサト「わからない? プラグが護ったんじゃないの?」

リツコ「……」パラッ……

(黙って数枚の写真をデスクに広げるリツコ)

シンジ「!」

ミサト「!……これは……」

(林の中 無残にひしゃげたエントリープラグの外観)

(引き裂かれた外装 黒焦げになった内装)

ミサト「こんな……じゃあ、レイはどうして!?」

リツコ「言ったでしょ? わからないって」

シンジ「……まさか……すり替えたんじゃないでしょうね」

リツコ「!」

シンジ「……」

ミサト「すり替え?」

リツコ「……レイに聞いたのね?」

シンジ「えっ?……あ、はい……」


リツコ「そうよね……」

ミサト「ねえ、どういうこと? すり替えって――」

リツコ「あとで話すわ。――シンジくん、疑う気持ちはわかる。でも、あれは正真正銘、あなたの知っているレイよ」

シンジ「!……じゃあ、どうして――」

(先ほどの写真の一枚を改めて示すリツコ)

シンジ「――これは?」

リツコ「プラグの内装よ。何か気が付かない?」

シンジ「何かって……あっ……」

(黒こげになった内装の一角が焼け残っている)

シンジ「これは――」

リツコ「ええ――レイは、そこに倒れていたの。気を失ってね」

ミサト「どういうこと?」

リツコ「わからない……とにかく、何かがレイを守った」

ミサト「何かって……」

リツコ「もしかすると、エヴァの、まだ知られていない働きだったのかもしれない」

シンジ「……」

コンコン

医師「りっちゃん、いいかな」

リツコ「ええ、どうぞ」

(入って来る白衣の男 がっちりした体形 七三分け、黒縁のメガネ)

シンジ「……」

リツコ「昼間言った、医局のドクターよ」

シンジ「!……そうだ、お腹の子は……」

医師「……この子か?」

リツコ「ええ、そうよ」

医師「そうか……」

シンジ「……」

リツコ「……で?」


医師「ああ、りっちゃんの見立ての通りだよ」

リツコ「そう……」

シンジ「どうしたんですか?」

リツコ「……消えたの」

シンジ「消えた?……どういうことですか!?」

リツコ「わからない……なぜなのか」

ミサト「……ねえ、最初から妊娠なんてしてなかったんじゃないの?」

医師「それはない」

(キーボードを引き寄せ、2枚の白黒画像をモニタに呼び出す)

医師「こっちが直前に撮影されたもの。全身画像から再構成したものだから不鮮明だけど、胎嚢があるのがわかる。これが卵黄嚢で、これが胎芽だな――」

シンジ「タイガ?」

医師「赤ちゃんだよ、平たく言うとな」

シンジ「!!」

医師「――まだ1センチにも満たない。絵が粗いから確実なことは言えないが、6週相当ってところか。個人差もあるが、自覚症状がほとんどない人もいる時期だ」

シンジ「……」

医師「そしてこっちが、さっき撮影したもの」

ミサト「……流産じゃないの?」

医師「いや。ほかは全く正常で、胎芽だけが見えなくなっている。出血も認められない」

リツコ「だから、『消えた』と言うしかないのよ」

シンジ「……」

リツコ「レイは、ヒトじゃない」

シンジ「!」ハッ

医師「……」

ミサト「ちょっと、さっきから――」

リツコ「ごめんなさい、後できちんと説明するから」

ミサト「……」

リツコ「レイは、本来受胎能力をもたない。あなたたちの交際を黙認していたのも、それがあったからよ。妊娠自体が驚きだった」


シンジ「……」

リツコ「仮にエヴァがレイを守ったのだとして――お腹の子は、何か、その働きの犠牲になったのかもしれない」

ミサト「そんな……」

シンジ「でも……綾波に何と言って伝えたらいいんでしょう……」

一同「……」

シンジ「赤ちゃんはもう、いないってことを……」

ガタン……

一同「!」

(戸口に立ち尽くしているレイ 目を見開いている)

(しまったという表情の一同)

レイ「……」ダッ…

リツコ「レイ!」

シンジ「綾波!」ダッ…

(駆け出すレイ 追うシンジ)

  :
  :

==== 廊下 ====

レイ「……」バタバタバタ……

シンジ「……」ハッ…ハッ…ハッ…

レイ「!」

(スリッパが片方脱げ、バランスを崩すレイ)

シンジ「綾波!」

(追いつき、抱き留めるシンジ)

レイ「嫌……嫌!」

(シンジの腕を振りほどこうともがくレイ)

レイ「私が……気付いてあげられなかったから!……私が……守ってあげられなかったから!」

シンジ「綾波……」

レイ「私が……!」ハッ…ハッ…ハッ…

フラ……

シンジ「綾波!?……綾波!」

(シンジの腕にもたれたまま気を失うレイ)

ミサト「シンジくん!」バタバタバタ……

シンジ「ミサトさん!綾波が……リツコさんを!!」

  :
  :

==== 病室 ====

レイ「……」スー…スー……

(ベッドに横たわり眠っているレイ 少し眉をひそめた表情のまま)

(見守っているシンジ、ミサト、リツコ)

レイ「……」

(薄く目を開けるレイ)

シンジ「綾波……」

レイ「……碇くん……」

シンジ「……」

ミサト・リツコ「……」

レイ「あのね、碇くん」

シンジ「なに?」

レイ「……赤ちゃんのこと」

シンジ「あ……あの……」

レイ「怒らないで聞いてくれる?」

シンジ「え?……う、うん」

レイ「私、産みたい」

シンジ「えっ……」

ミサト・リツコ「!」

レイ「――私たちの……子供だもの」

シンジ「あ……」

レイ「周りの人たちに、たくさん迷惑をかけてしまうかも知れないけれど……」

シンジ「……」

レイ「産んでも……いい?」

シンジ「綾波……」

レイ「……だめ?」

ミサト・リツコ「……」

シンジ「だ、だめじゃないよ! もちろん」

(なんとか笑って見せるシンジ)

レイ「……いいの?……ほんとにいいの?」

シンジ「当たり前じゃないか!」

レイ「……ありがとう……私、うれしい」

シンジ「……」

レイ「私、頑張るから」

(下腹部にそっと触れ、微笑むレイ)

シンジ「うん……僕も……頑張るよ……」

レイ「……碇くん?」

シンジ「なに?」

レイ「どうしたの?……なぜ、泣いているの?」

シンジ「え?……あ、ううん、なんでもないよ」グスッ

レイ「辛いことがあったら言って。……私が、そばにいるから」

(シンジの髪に触れるレイ)

シンジ「うん……ありがとう……」

(あとからあとからシンジの頬を伝う涙)

シンジ「ありがとう……」グスッ

ミサト・リツコ「……」

  :
  :

==== セントラルドグマ ダミープラント ====

シュオー… ドクンドクンドクン……

(無数のレイが浮かぶ水槽を眺めているリツコとミサト)

ミサト「あきれた……こんなものがあったとはね……」

リツコ「……」カチャカチャ……

ミサト「えーと、これ見たらあたし、消されたりしない?」

リツコ「その心配はないと思うわ。説明しておけといったのは碇司令よ」

ミサト「司令が?」

リツコ「シンジくんは知ってたみたいだし、レイがあの調子だから隠しといても意味ないと思ったんじゃない?」

ミサト「でも……これじゃあ、私たちがしてきたことは、いったい何だったの?」

リツコ「使徒は殲滅しなければならない。そこまでは間違ってないわ」

ミサト「でも、すべての使途を倒した後は……」

リツコ「司令は、ゼーレとは違う考えをもってる。少なくとも今は『人類補完計画』を阻止しようとしている」

ミサト「今はって……前は違ったってこと?」

リツコ「……」カチャカチャ……

ミサト「何てことなの……」

リツコ「それを変えたのは、間違いなくレイね」

ミサト「えっ?」

リツコ「司令は、ユイさんに……碇博士に会いたいと思っていたのよ。レイはそのための道具にすぎなかった」

ミサト「そんな!」

リツコ「でも、レイは変わった。それが司令を変えたのよ」

ミサト「そして、レイを変えたのはシンちゃん、か……」

カチャン……

ミサト「――何をするの?」

リツコ「見ない方がいいわよ」

ミサト「リツコ?」

リツコ「・・・破壊するの・・・レイのスペアをね」

(水槽をゆっくり上下している無数のレイ)

ミサト「ちょっと! あんた、自分が何しようとしてるか、わかってるの!?」

リツコ「わかってるわ。破壊よ」

ミサト「破壊って、あんた……」

リツコ「そうとでも思わなきゃ、やってられないわ。私はあの子を、こんな小さな時から見てきたのよ」

ミサト「……」

リツコ「司令はゼーレとの戦いは避けられないと思っている。ゼーレに・・・レイを利用させるわけにはいかないと」

ミサト「……」

ピッ……

ゴボゴボゴボ……

(砕けるレイたち)

ミサト「……わかってても、気分のいいものじゃないわね……」

リツコ「見ない方がいいって言ったわよ」

ミサト「……」

リツコ「これでレイは自由だわ。……生からも……死からもね」

  :
  :

>>115
綾波これ子供がいなくなったってことだけショックで記憶飛んでると思ったんだけど

>>117 正解

>>111から続く

==== ドグマからの直通エレベーター内 ====

ミサト「――で、レイの様子はどう?」

リツコ「相変わらずね。何度か説明は試みたんだけど、そのたびに……」

ミサト「そう……」

リツコ「きょうは、何だったかしら……そう、疎開した友達から手紙をもらうんだけど、赤ちゃんのこと書くわけにいかないのが残念だとか、お腹が目立つようになる前に休学しないといけないですよね、とか」

ミサト「……むしろ悪くなってるんじゃないの?」

リツコ「ただでさえエヴァのパイロットは極限状態に置かれる。レイに妊娠を知らせたのは、これ以上ないくらい最悪のタイミングだった」

ミサト「……初めての恋、妊娠、死の恐怖、そして子の喪失……か……。どれ一つとっても、あの年頃の子には――ううん、大人にだって重いことなのに」

リツコ「まして、レイの目覚めたばかりの心にとって、重すぎたのは間違いない。あのとき、レイの中で何かが壊れてしまったのかもしれない……私の責任だわ。何もかも」

ミサト「リツコ……」

リツコ「診察とあわせてカウンセリングはしてるんだけど、足掛かりが見つからないのよ。様子を見るしかない状況だわ。今は時間と……シンジくん頼みね」

ミサト「シンちゃんが先に参ってしまわなければいいけど……」

リツコ「……そうね……」ハァ…

  :
  :
==== その頃 レイの病室 ====

レイ「……」チクチク……

(ベッドの上 上体を起こして編み物をしているレイ ときどき編み方の記事を確かめている) 

シンジ「……」ペラッ……

(椅子に腰かけ本を読んでいるシンジ)

   「まだ、続けるの?」

(いつの間にかシンジの傍らに立っているもう一人のレイ)

シンジ「……」

別レイ「やっぱり、心など持たない方がよかった。こんなに簡単に壊れてしまう心なら」

シンジ「……」

別レイ「あなたが、持たせたのよ」

シンジ「!」


別レイ「……」

シンジ「そう、僕のせいかもしれない」

別レイ「……」

シンジ「でも、今度は逃げたりしない。最後まで精一杯やるんだ」

(言ってから、ちらりとレイを見るシンジ 気付かない風で編み物を続けているレイ)

別レイ「……」

シンジ「綾波だって、きっといつまでもこのままじゃない。――いや、このままだったとしても」

別レイ「……」

シンジ「それでもいい。僕は、この『綾波』のそばにいるよ」

別レイ「……」

シンジ「もうすぐ――最後の使徒が現れる。それを……何とかしたら――」

別レイ「それは……叶わないわ」

シンジ「えっ?」

別レイ「……」

シンジ「……どういうこと?」

別レイ「あなたにもわかるはずよ。その時が来れば」

(言い残して消える、もう一人のレイ)

シンジ「……」

レイ「碇くん……どうしたの?」

シンジ「え? ああ、何でもないよ」

(努めて明るい声で応えるシンジ)

シンジ「一休みしない? お茶を入れるよ」

レイ「ええ。そうする――見て、碇くん」

(編み物の進み具合をシンジに見せるレイ)

シンジ「うん、最初のより上手に編めてると思うよ」

レイ「そう。よかった」

(満足げに微笑むレイ 寂しげに微笑み返すシンジ)

シンジ(綾波……)

  :
  :


==== ネルフ本部 試験場 管制室 ====

(シンクロテスト中 窓の向こうに3本のテストプラグ)

(モニタ上 目を瞑っているアスカ、トウジ、カヲル)

(管制室で待機しているシンジ)

アスカ『あーあ、使徒が来ないとテストばーっか。まいっちんぐね』

カヲル『……うるさいな。無駄口を叩かないでくれよ。気が散るだろ』

アスカ『だーって退屈なんだもん』

トウジ『余裕やなぁ、惣流……』

カヲル『あー、そんなに余裕があるんだったらさ、漢字ドリル持ってきて、そこでやってれば? 赤点脱出できるかもよ?』

アスカ『な、なんですってえー!?』

カヲル『何だよ、人が心配してやってるのに――』

トウジ『はぁー、お前らも夫婦(めおと)漫才が板についてきたのう……』

アスカ・カヲル『なっ……なに言ってんの(だ)よっ!!』

ミサト「こらぁ! あんた達、まじめにやりなさい!」

カヲル『――ほらみろ、僕まで怒られたじゃないか』

ミサト「渚くん!!」

カヲル『……はーい、すみませーん』

(難しい顔でやりとりをながめているシンジ)

シンジ(おかしい……渚くんは、いつ動き出すつもりなんだろう……)

(再び目を瞑るカヲル)

シンジ(……思い切って……直接聞いてみるか……)

  :
  :

==== ケージ ====

(歩いてくるシンジとカヲル 立ち止まるシンジ)

カヲル「――で、何だい? 僕に話って」

シンジ「……君、僕たちに隠してること、ない?」

カヲル「え?」

シンジ「――君自身のことで」

カヲル「!」ハッ

シンジ「……」

カヲル「……まいったな……それを知ってるとはね……」

シンジ(……やっぱりそうか……)

カヲル「……で?」

シンジ「頼みがあるんだ」

カヲル「頼み?」

シンジ「僕は……君とは戦いたくない」

カヲル「……はぁ?」

(カヲルを振り返るシンジ)

シンジ「とぼけないでくれよ。君は――」

カヲル「……」

シンジ「――使徒……なんだろ?」

カヲル「!……ちょっと、何言って――」

シンジ「知ってるんだ、僕は」

カヲル「……」

シンジ「君は、エヴァとのシンクロ率を自由に変えたり、誰も乗ってないエヴァを操ったりできる」

カヲル「……」

シンジ「使徒と人間は共存できないから……僕に殺させようとするんだろう?」

カヲル「……」

シンジ「僕は……そんなことはしたくないんだ。君が――」

カヲル「ちょっと待ってくれよ。話がぜんぜん見えないんだけど」

シンジ「――えっ?」

カヲル「……」

シンジ「だって君は――」

カヲル「ああ、そうさ。確かに僕は普通の体じゃないよ。取り立てて言ってこなかったけどな」

シンジ「……」

カヲル「だけど、それを言うなら、ファーストだってそうじゃないのか?」

シンジ「!」

カヲル「図星か? じゃあさ、君はファーストにも同じこと言うのか?」

シンジ「えっ……」

カヲル「言わないだろ? なら僕だってそうさ」

シンジ「いや、だって――」

カヲル「シンクロ率を自由に変える? エヴァを操る? そんなことできるんなら、なんで地道に訓練なんかしなきゃならないんだよ」

シンジ「それは……素性がばれないように――」

カヲル「はっ、馬鹿馬鹿しい」

シンジ「なっ……」

カヲル「用事はそれだけか? だったら僕は戻るよ」クルッ…スタスタ…

シンジ「ちょっ!……ちょっと待てよ!」ダッ…

カヲル「……」ジロッ

シンジ「!」ビクッ

カヲル「君自身はどうなのさ? オマエ使徒だろうって言われたら、そうじゃないって、どうやって証明するつもり?」


シンジ「!……それは……」

(シンジに向き直るカヲル)

カヲル「あのさ、あんまり言いたくないんだけど……」ズイッ

シンジ「な……なんだよ」

カヲル「きみ、ファーストがあんな具合だから、精神的に参ってるんじゃないの?」

シンジ「……」

カヲル「だからって人に難癖つけるの、やめてくれないかな。迷惑なんだよ」

シンジ「あ……」パクパク…

カヲル「ファーストもいい気なもんだよな……自分が用心しないからデキたくせに……」

シンジ「!」

カヲル「じゃあ、僕はこれで――」クルッ…

シンジ「おい!」ダン!

(カヲルを壁に押し付けるシンジ)

カヲル「な、何だよ!!」

シンジ「……」グググ……

カヲル「はっ放せよ!」

シンジ「もういっぺん言ってみろ! 前歯ぜんぶ折ってやる!!」ギリギリ…

カヲル「くっ……うう!」

シンジ「嫌なら……A.T.フィールドでも張って見せろよ!」

カヲル「わっ……笑わせるな! 魔女裁判でもしてるつもりか、きみは!」

バタバタバタ……

トウジ「あっ、あそこや!」

シンジ「!」

バタバタバタ……

アスカ「ほら、離れなさい!!」グイッ

シンジ「あ……アスカ……」

(トウジとアスカに引き離されるシンジとカヲル)

トウジ「おい、いけるか、渚……」

カヲル「……」ゲホッ!ゲホッ!

アスカ「ちょっとシンジ、あんた何やってんのよ!」

シンジ「な、何って……」

カヲル「サードのやつがさ……僕が使徒だろって難癖つけつきて……」ハァ…ハァ…

トウジ「なんやそれ!?」

カヲル「ワケわかんないよ……」ゲホッ…

シンジ「……」

アスカ「あんた……ほんとに大丈夫? 一度ちゃんとカウンセリング受けた方がいいんじゃないの!?」

シンジ「ごめん……ごめん、そうかもしれない……」

トウジ「……」

シンジ「ごめん、渚くん……」

カヲル「まったく……勘弁してほしいよ」ハァ…ハァ…

アスカ「――でも、シンジがこんなに切れるのも珍しいわよ。フィフス、あんた、またデリカシーのないこと言ったんでしょ」

カヲル「言ってないよ! ファーストが自分で用心しないからデキたのに、いい気なもんだって言っただけだよ」

アスカ「……あー、アタマ痛くなってきた……」

カヲル「何だよ、ホントのことだろ? どこがまずいの?」

トウジ「お前、ホンマにアホちゃうか……」

カツカツカツ……

トウジ「あ、ミ……ミサトさん……」

ミサト「穏やかじゃないわね……。シンジくん」

シンジ「……すみません……」

ミサト「二人とも、ちょっと私の部屋に来なさい。話を聞かせてもらうわ」

カヲル「えっ? 僕も?」

ミサト「そうよ。――いいわね? 渚くん」

カヲル「なんで僕まで……」

ミサト「……」ジロッ

カヲル「……はい」

カツカツカツ……

(去っていくミサト)

シンジ「……」フラ…

(頭を抱えて座り込むシンジ)

シンジ(渚くんは……使徒じゃない!?)

トウジ「おい、大丈夫か? シンジ……」

シンジ(じゃあ、17番目の使徒は……どこへ行ったんだ!?)

  :
  :

==== 朝 管制室 ====

リツコ「――はい、熱いわよ」

ミサト「サンキュ、リツコ」ズズ…

リツコ「そう……渚くんがね……」

ミサト「それだけじゃない。渚くんの話のとおり進んでいるとすれば、ゼーレは渚くんのスペアを使ってダミープラグを大量に作っている。例の量産機、パイロット……というか、制御システムはそれなんじゃないの?」

リツコ「そうかもしれない。面倒なことになりそうね……」

ミサト「でも――使徒はまだ一つ残ってるんじゃないの? なぜこのタイミングでゼーレは動き始めたのかしら?」

リツコ「わからないわ。〈裏〉死海文書は全て開示されてるわけじゃない。何か私たちの知らない理由があるんでしょ」

ミサト「……」ズズ…

リツコ「……」カタカタカタ……

ミサト「使徒とは言えない。かといってヒトでもない、か……。結局、似たようなことをしてたってわけね、私たちも、ゼーレも」

リツコ「レイや渚くんは被害者なのよ……ヒトの飽くなき欲望のね」


ミサト「その結果があれ?」

リツコ「……」

ミサト「……かわいそうね、レイ」

リツコ「そうね……」

ミサト「それにしても、エヴァって残酷よね。母体を守って、子供は見殺しにするなんて」

リツコ「……それは単なる憶測よ」

ミサト「え?そうだっけ?」

リツコ「物証が何もない。分かっているのはレイと、レイの周囲のものは無傷で、お腹の子は消えた……それだけよ」

ミサト「そっか……」

リツコ「……」

ミサト「ねえ、逆に赤ちゃんがお母さんを守ったとか」

リツコ「守ったって……どうやって?」

ミサト「えーと、そうね、A.T.フィールド、ピキーンって張って――」

リツコ「ありえないわ。あなた、話がこんがらがってない? それじゃ赤ちゃんが使徒ってことになってしまう。母親はともかく、父親は人間なのよ」

ミサト「ああ、そっか。そうよね……」

リツコ「……」

ミサト「……」ズズ……

リツコ「……」ハッ……

ミサト「?……どうしたの?」

リツコ「もし……赤ちゃんが本当に使徒だったとしたら?……半分はレイからもらったとして、残りの半分は?」

ミサト「なに言ってるのよ、リツコ。シンちゃんは頭のてっぺんから爪先まで人間じゃないの。 あなた、さっき自分で……」

(何もない空間を見ているリツコ)

リツコ「ディラックの海に飲み込まれた後……」

ミサト「えっ?」

リツコ「突然のシンクロ率の上昇……使徒の襲来を予期したような行動……レイや渚くんの秘密を知っていたこと……誰も思いもよらなかった、人の姿をした使徒の話……みんなバラバラの事柄か、偶然か――シンジ君の妄想だと思っていた……」

ミサト「……」

(ミサトの目を見るリツコ)

リツコ「シンジくん自身が、使徒――そう、人の姿をした使徒だとしたら? あのとき、本来のシンジくんが乗っ取られるか、入れ替わっていたとしたら?」

ミサト「ちょっとリツコ、いくらなんでも、そんな――」

トゥルルルルルル……

リツコ「……マヤからだわ」

ピッ

リツコ「はい」

マヤ『センパイ!! 大至急来てください! マギが外部からハッキングを受けています!!』

リツコ「始まったわね……」

  :
  :

==== 発令所 ====

カツカツカツ……

マヤ「センパイ!」

リツコ「用意はできてる?マヤ」

マヤ「はい!」

リツコ「いいわ。Bダナン型防壁を展開。ただし、一気に押し返してはダメ。あちらさんの出方を見ながら、徐々にね」

マヤ「了解です」

ミサト「これで少しは時間が稼げる――マギのハッキングがダメだとわかれば実力行使に移るはずよ。敵の地上部隊は?」

マコト「動き始めてます。規模は加持監察官から聞いていたのより、少し大きいみたいですね」

ミサト「仕方ない。でも、わずかでも準備の時間があったのは大きいわ。司令の工作がうまく行っていれば、戦自は積極的に動くことはない。動くのはゼーレの――ウチの上層部の息がかかった、国連軍の一部だけよ」

リツコ「侵攻そのものを阻止できていれば、もっとよかったんですけどね……」

ミサト「仕方ないわ」

マコト「最後の敵は、身内でしたね……」

  :
  :

==== 司令執務室 ====

加持「――レイちゃんを、ですか?」

ゲンドウ「そうだ。レイは計画の鍵だ。しかも今のレイは足手まといにしかならん。レイをここに置いておいて他の職員を危険に晒すわけにはいかん」

加持「……」

ゲンドウ「――ここから」ピッ…

(モニタ上の本部マップを回転、ズームさせるゲンドウ)

ゲンドウ「建設途中で凍結されたリニアレール新2号線の先進導坑に入れる。内部は未舗装で出水もあるが、不整地走行用のローバーなら問題ないだろう。これをたどれば、包囲網の外へ抜けることができる」

加持「……」

ゲンドウ「ジオフロントとの接合部に硬化ベークライトを仕込んである。通り抜けたら隔壁を落とし、注入して坑道を閉塞しろ」

加持「しかし、それでは――」

ゲンドウ「もし我々が負けたら、たとえ『計画』を阻止できても――世界が滅びずに済んだとしても、我々がしてきたことはゼーレによって闇に葬られるだろう。だから、君たちには、証言者になってもらいたい」

加持「……」

ゲンドウ「それが何年後か、何十年後かわからんが――君たちは生き延びて、時が来たら我々がしてきたことを世に知らしめて欲しい」

加持「司令――」

ゲンドウ「なんだね」

加持「なぜ……私なんです?」

ゲンドウ「他にやれそうな人物を知らんからな」

加持「買っていただいたのは感謝しますが……」

ゲンドウ「すまんな」

加持「よしてください――これまで好きにやらせてもらいましたから。最後くらい、精一杯お役に立たせてもらいますよ」

ゲンドウ「助かる。――早速ですまんが、行ってくれ。時間がない」

加持「はい。それでは――」

ゲンドウ「加持君」

加持「はい」

ゲンドウ「レイを頼む」

加持「――司令も、ご無事で」

プシュー…

(退室する加持)

==== 司令執務室の外 廊下 ====

カツカツカツ……

加持「――ああ、りっちゃん? 俺だ。取り込み中、申し訳ないんだが、レイちゃんを連れてきてほしい。場所は――」

  :
  :

==== しばらく後 ジオフロント下層部 リニアレール新2号線 先進導坑入口 ====

カヲル「――よっこいしょっと……」バタン…

(ローバーの荷台に荷物を積み込むカヲル)

カヲル「これで全部ですよ」

加持「すまんな、カヲルくん。助かったよ。――じゃあ、行こうか」

リツコ「レイ」

レイ「赤木博士……」

(レイを抱きしめていたリツコ 顔を上げるレイ ゆったりしたワンピース姿)

シンジ「行こう、綾波」

(レイの手荷物が入ったバッグを提げているシンジ)

レイ「……」

(俯いているレイ)

シンジ「ね?」

(顔を上げるレイ)

レイ「やっぱりだめ……碇くんを置いていけない」

シンジ「綾波……」

レイ「お願いします、自分の身は、自分で守りますから――」

リツコ「レイ……」

シンジ「だめだよ、綾波」

レイ「でも!」

シンジ「僕が君の分まで戦うから。君を……君たちを守るから」


レイ「……」

シンジ「君は……お腹の子を守って」

レイ「碇くん……」

カヲル「……」

シンジ「必ず迎えに行くから」

レイ「……わかった」

シンジ(最低だ……僕は……)

シンジ「――加持さん」

加持「ああ。――行こう、レイちゃん」

レイ「はい」

シンジ「お願いします」

(後部座席に乗り込むレイ バッグを手渡すシンジ)

(閉まるドア 窓から上体を乗り出し、シンジと抱擁するレイ)

レイ「必ず……迎えにきてね」

シンジ「約束する」

(体を離すシンジとレイ 手はまだ握ったまま)

レイ「行ってきます」

シンジ「行ってらっしゃい」

加持「じゃあな、りっちゃん。葛城によろしく言ってくれ」

リツコ「それは自分で言いなさい」

加持「つれないな……わかった。そうするよ」

リツコ「言ってらっしゃい。気を付けて」

(発進するローバー)

(離れるシンジとレイの手)

(窓から顔を出して後ろを見ているレイ)

(見送るシンジ、リツコ、カヲル)

(闇に消えていくローバー)

カヲル「『お腹の子を守って』、か……役者だな、君も」

シンジ「うるさいな……君こそ、今のうちに逃げた方がいいんじゃないの?」

カヲル「無理言うなよ。議長は僕がここにいることを知ってたんだぞ。これがどういうことか、わかるだろ?」

リツコ「さあさあ、それくらいにして。私たちも急ぎましょう――」

シンジ・カヲル「……はい」

(駆け出す3人)

  :
  :

==== 芦ノ湖北岸 零号機爆心地周辺 ====

(侵攻する国連軍車両 砲撃を受けるネルフ本部防空施設)

==== 発令所 ====

ミサト「――状況は?」

マコト「予定通りです。戦自は積極的に動いてません。形だけは進軍はしてますが、模様眺めです。ですが――」

ミサト「制空権を握られたのは痛いわね……本部施設に侵入した部隊はいくつ?」

シゲル「4つです。2つはベークライトで足止めしました。残り2つのうち1つは301区間まで来てます。職員は順次施設を放棄して後退してます」

ミサト「そっちもほぼ予定通りか。司令の工作が効いてるわね――」

(ちらりとゲンドウを見上げるミサト)

ミサト「よし、B2ブロックまで誘い込んだところで一気に潰すわよ」

シゲル「了解」

ミサト「敵エヴァの状況は?」

マコト「先ほど量産型を乗せた母機が離陸したという情報がありました」ピッピッ……

ミサト「今の絵、拡大できる?――そう、そこよ」

(タキシングする母機の画像 機体下部から突き出た赤い突起)

(側面の文字 「KAWORU」と読める)

マコト「これは!」

ミサト「渚くんの言った通りになったわね……。こっちのエヴァは――パイロットは?」

マヤ「アスカと鈴原くんは間もなく搭乗完了。シンジくんと渚くんも、ルート47をケージに向かってます。センパイも一緒です」

ミサト「よかった……待って!」

マヤ「はい?」


ミサト「シンジくんたちの位置をもう一度!」

マヤ「はい」カタカタカタ……

(モニタに現れる位置表示 シンジ達の最新の位置を示すマーカー)

(少し離れた位置にゼーレの一隊のマーカー 刻々と位置が更新される)

(眉をひそめるミサト)

ミサト「まずい!」

マヤ「えっ?」

ミサト「このままだと進路を敵に塞がれるわ! リツコに知らせて、ルート52に誘導して!」

マヤ「りょ……了解!」

ミサト「青葉くん、保安部隊を1班、すぐ向かわせて」

シゲル「了解。グループ4を向かわせます」

ジャコン……カシャン

(弾倉を確かめるミサト)

ミサト「私も行く。あとを頼んだわよ、日向君」

マコト「はい!」

  :
  :

==== 数分後 ジオフロント下層部 通路 ====

バタバタバタ……

(走るリツコ、シンジ、カヲル)

リツコ「急ぎましょう。こっちはまだ安全なはずだけど、敵はいつ進路を変えないとも限らないから――」

シンジ「はい……」ハッ…ハッ…ハッ…

カヲル「うまく行きつけるといいんですけどね……」ハッ…ハッ…ハッ…

トゥルルルルル……

リツコ「待って、またマヤからだわ」

シンジ「マヤさん?――」

   「いたぞ!」

リツコ「えっ!?」

(通路前方に数名の兵士)


カヲル「言わんこっちゃない!」

(走ってくる兵士の一団)

兵士「サードおよびフィフスを発見! これより排除する!」

リツコ「早く! こっちへ」

(枝道に逃げ込む三人)

==== その頃 ====

カツカツカツ……

ミサト「……」ハッ…ハッ…ハッ…

   「いたぞ!」

(曲がり角の向こうから響く声)

ミサト「!」

   「サードおよびフィフスを発見! これより排除する!」

   「早く! こっちへ」

ミサト(リツコ!)

バタバタバタ……

(響く多数の足跡)

ミサト「くっ!」ダッ!

(角を曲がるミサト 末尾の兵士が枝道に消える)

カツカツカツ……

==== リツコ達が曲がった通路 ====

(突き当りのタラップにとりつく三人)

リツコ「早く……!」

兵士「止まれ!」

シンジ、カヲル「!」

(はっとして振り向く三人 こちらに銃を向けている兵士の一団)

ドン!ドン!

(響く銃声)

シンジ「!……えっ?」

(倒れる兵士 通路の向こうの端で発砲しているミサト)

シンジ「ミサトさん!」

兵士「くそっ!」ガチャッ

リツコ「!」

ガガガガガ……

(三人を銃撃する兵士)

シンジ「わっ!……」

ガガガガガガ……

(身を固くする三人)

ミサト「シンジくん!……!?」

ガガガガガガ……

カヲル「……?」

リツコ「……えっ……」

兵士「……なに!?」

カヲル「さっ……サード……それ……」

シンジ「……え?」

(おそるおそる身をほどき目を開けるシンジ)

キイイイイイイイイイィィン……

(三人と兵士の間を隔てる多角形状の光の壁)

シンジ「な……なんだこれ……」

リツコ「A.T.フィールド……」

(薄れていく光の壁)

兵士「くっ!」

ガガガガガガガ……

シンジ「…っ!」

キン!!

(再び現れる光の壁 シンジの後ろでその様子に目を見張るリツコとカヲル)

(今度は光の壁がシンジの前に展開したことがはっきりわかる)

兵士「!」

キイイイイイイイイイィィン……

兵士「こいつ……!」

ドン!

(再び銃声)

兵士「……」ドサッ

シンジ「!」

ミサト「……」ハァ…ハァ…

シンジ「ミサト……さん……」

(薄れていく光の壁)

カヲル「きっ、君は……」

ミサト「なんてことなの……」

(銃をシンジに向けたまま歩み寄るミサト)

リツコ「シンジくん……あなた……」

ミサト「リツコの……言うとおりだったなんて……」

シンジ「そんな……僕が……」

一同「……」

シンジ「僕が……最後の使徒だったってこと!?」

(座り込んだまま少し前方の床を見つめるシンジ)

(いつの間にか傍らにたたずむもう一人のレイ)

別レイ「――だから、後悔すると言ったわ」

シンジ「どうして……」

別レイ「今のあなたは、人の心という形で存在する使徒」


別レイ「あなたは、この世界の碇くんから、体を奪ったの」

シンジ「え……」

別レイ「もちろん、あなたはもともと使徒なんかじゃなかった。本来のあなたの世界では」

別レイ「でもこの世界では、あなたの存在は、人類のもう一つの可能性……つまり使徒でしかない」

別レイ「あなたがこの世界で生き残ろうとして戦い続ければ、この世界の人は消えることになる……この世界の『私』も含めて」

シンジ「僕が戦えば……『綾波』を死なせるってこと?」

別レイ「戦ってあなたが死ぬのなら、そうはならない。でも、もしあなたが生き残ろうとすれば、ここの『私』は死ぬ。ほかの人たち全てと一緒に」

シンジ「……」

別レイ「それでも自分の思うとおりやりたいのなら、好きなだけそうすればいい」

シンジ「……好きなだけ?」

別レイ「あなたが世界を拒絶した時から、もう何回繰り返したかわからない。そのたびにあなたは結末を拒絶し、やりなおす――その繰り返し」

シンジ「……」

別レイ「どれも、あなたにとって居心地のいい夢の世界」

別レイ「例えば、サードインパクトのあと、皆が生き残って仲良く暮らす世界。誰もあなたを責めることもなく、いつのまにか復興した第三新東京市で、私や、あるいはセカンドにべた惚れされてる世界」

別レイ「逆に攻め抜かれて断罪される世界。あなたの心がそれで許しを得て救われるために作られた世界」

別レイ「あるいは、使徒も、エヴァンゲリオンも存在しない世界。あなたの中学校生活を補完するためだけの世界。誰も死なず誰も傷つかない。なぜか私とセカンドやほかの女子生徒があなたを取り合う世界」

別レイ「それらは過去から未来まで無数に枝分かれし、一つとして同じものがない。それでいて一つだけ絶対のルールに支配されている――どこまでもあなた中心に構成された世界」

別レイ「あなた自身は覚えていない、いえ、覚えていることができないけれど……」

シンジ「……」

別レイ「何度繰り返しても、何の意味もない。本当のあなたは……私たちは――ずっとあそこに――あの赤い世界にいるのだから」

シンジ「そんな……」

別レイ「だから、気が済むまで繰り返せばいい」

シンジ「……」

別レイ「そして――最後は戻ってきて」

シンジ「……」


別レイ「あなたが望み……私が作った、あの世界に……」

(消えるもう一人のレイ)

(シンジの耳に入る携帯電話の着信音)

トゥルルルル……ピッ

ミサト「私です」

マコト『葛城さん!大丈夫ですか!?』

ミサト「ええ。侵入者は排除したわ」

マコト『そうですか、よかった。あの――』

ミサト「どうしたの?」

マコト『先ほど、パターン青を検知したんですが……その……葛城さんが向かった場所の近くだったので……』

ミサト「……」

マコト『例の、細菌タイプの使徒のこともあったので、念のためにと思って』

(シンジの顔を見据えるミサト)

シンジ「……」

ミサト「こっちは大丈夫よ。引き続き監視を続けて」

マコト『気を付けてください。ゼーレの部隊がまだ紛れ込んでるかもしれません』

ミサト「わかったわ。ありがとう」

……ピッ

リツコ「――で、どうするの?」

ミサト「……シンジ君」

シンジ「はい」

ミサト「エヴァに……乗ってちょうだい」

リツコ「ミサト……」

シンジ「……いいんですか?」

ミサト「あなたがゼーレの計画の手助けをするのではない限りね」

シンジ「……」

ミサト「あとのことは、ゼーレの侵攻を食い止めてから考えるわ」

シンジ「……」


ミサト「どうする?」

シンジ「……乗ります」

ミサト「……」

シンジ「約束したんだ。綾波の分まで戦うって。それに――言われたんです。ある人に」

ミサト「……」

(ミサトの顔を悲しげに見るシンジ)

シンジ「ちゃんと生きてから死になさいって……」

ミサト「!」

シンジ「……」

ミサト「……そう……」

バタバタバタ……

保安部隊「葛城三佐! ご無事で――」

ミサト「ええ、ありがとう。助かるわ」

シンジ「……」

ミサト「行きなさい。渚くんも。――あなたたち、二人をケージまでお願い」

保安部隊「了解。――さあ、行こう」

シンジ・カヲル「はい」

バタバタバタ……

(保安部隊に守られ走り去っていくシンジとカヲル)

ミサト「……」ジャコン……

(残弾を確かめるミサト)

ミサト「私たちも行きましょう」

リツコ「ええ」

(発令所へ駆け出すミサトとリツコ)

  :
  :

再開します >>140の続き

==== エレベーター内 ====

リツコ「――ちゃんと生きてから死になさい、か……ずいぶん突き放した物言いをする人がいるものね」

ミサト「……それ、多分あたしよ」

リツコ「えっ?」

ミサト「シンちゃんが乗らないってゴネたら言ってやろうと思ってた。まるっきりあれと同じことを」

リツコ「ミサト……」

(寂しげに笑うミサト)

ミサト「予知能力ってやつ? これも使徒の力なのかしらね?」

リツコ「……少し、違うかもね」

ミサト「なぜ?」

リツコ「結局、あなたがそれを言うことはなかった。だったら、シンジくんはなぜ、それを『予知』することができたのかしら?」

ミサト「あ……」

リツコ「それに……シンジくんは『言われた』って言ったわ。過去形でね」

ミサト「何が言いたいの?」

リツコ「わからない……本当に『言われた』のかもしれない」

ミサト「……」

リツコ「信じてあげたら?」

ミサト「えっ?」

リツコ「迷ってるんでしょ? シンジくんを、エヴァに乗せたことを」

ミサト「私は――」

リツコ「自分が使徒だって、気づいてなかったみたいね、シンジくん」

ミサト「!」ハッ

リツコ「でも彼は、今までもその力を使って……おそらく自分でも気づかずに、私たちを何度も救ってきたんだわ」

ミサト「……」

リツコ「信じてあげてもいいんじゃない? シンジくんが、私たちを信じてくれてるうちは」

ミサト「リツコ……」

リツコ「……」

ミサト「そう……そうよね」


==== 発令所 ====

カツカツカツ……

マコト「葛城さん!」

ミサト「面倒かけたわね、日向くん。――それで?」

マコト「地上施設を攻撃していた敵の部隊は、アスカと鈴原くんが制圧しました。まだ残ってますが、遠巻きに様子をうかがってるだけで、新たな攻撃をしかけてくる気配はありません」

ミサト「エヴァシリーズの到着を待ってるのね……アスカたち、ゼーレの部隊以外に損害を与えてないでしょうね?」

マコト「それは大丈夫です」

ミサト「引き続き注意して。ここまできて新しい敵を作るわけにいかないから」

マコト「了解です」

   
==== ケージ 初号機プラグ内 ====

(起動シーケンスが進む初号機内)

男性オペ『――主電源、接続完了』

女性オペ『了解。第2次コンタクトに入ります――』

  :
  :

別レイ「なぜ、また乗るの」

シンジ「……」

別レイ「あなたは、彼らの道具として使われるだけ。あの人たちを助けても、碇くんは、消えるしかないのに」

シンジ「……」

   :
   :

男性オペ『――インターフェイスを接続』

女性オペ『A10神経接続、異常なし』

男性オペ『LCL電化状態は正常――』

   :
   :

別レイ「もう戦う意味などない。使徒とわかったあなたのことなど、誰も見てはくれない」

(少し考えるシンジ)

シンジ「……違うよ」


別レイ「……」

(もうひとりのレイに顔を向け、少し微笑むシンジ)

シンジ「きみが……見てくれてるじゃないか」

別レイ「!」ハッ

   :
   :

女性オペ『――リスト1405まで、オールクリア』

男性オペ『シナプス計測、シンクロ率77.4%』

女性オペ『ハーモニクス、全て正常。暴走の兆候なし――』

   :
   :

ピッピッピッ……

(手元のスイッチを操作しながら、続けるシンジ)

シンジ「前の時はごめん。きみは自分の役目を果たしたのに」

別レイ「……勝てないわ。今回はS2機関もない」

シンジ「そうかもしれない。でも――」

(ミサト『あんた、まだ生きてるんでしょう!?』)

シンジ「――でも、僕はまだ生きてる。だから――」

(ミサト『だったら、しっかり生きて……それから死になさい!』)

シンジ「――だから、戦うよ。勝ち目がなくても」

別レイ「……」

(モニタ正面をにらむシンジ)

シンジ「――その先に、僕自身の未来が……なかったとしても」

別レイ「碇くん……」

男性オペ『――いいか? シンジくん』

シンジ「はい! 準備オーケーです!」

男性オペ『頼んだぞ。――ロックボルト及び第1、第2拘束具、除去。初号機を射出口へ!』

別レイ「……」

   :
   :


==== 地上 零号機の爆発でできたクレーター湖畔 ====

(弐号機プラグ内 モニタ上、少し離れた位置にトウジの03号機)

ミサト『――あなたたちのところを除いて、射出口はすべて封鎖したわ。シンジくん達もすぐに上げる。量産機は全て、そこで撃破するのよ』

トウジ『了解です、ミサトさん』

アスカ「要は、ここを通さなきゃいいんでしょ? 楽勝よ!」

  
==== 発令所 ====

ミサト「――敵のエヴァは?」

シゲル「接近してるはずですが、位置は不明です。生き残ったレーダーの死角に入っていると思われます」

ミサト「これじゃ目視と大差ないわね……」

マコト「でも、入口の防備は固めたし、こちらとしては各個撃破あるのみ、ですよね」

ミサト「そうだけど……簡単すぎる」

マコト「えっ?」

(主モニター上 湖畔にたたずみ上空を見上げる弐号機と03号機)

ミサト「エヴァは確かに強力だけど、ここを占拠しようと思ったら、入って来られなければ意味がない。あんな大きなもので、どうやってここを落とすつもりでいたのかしら……」

マコト「そうですね。でも、エヴァは万能じゃありませんし……いつかの使徒みたいに自前で穴でも開けるなら別ですけど」

ミサト「穴を……開ける?……」ハッ

マコト「葛城さん?」

ミサト「それだわ!――初号機と02号機の状況は?」

マヤ「発進準備完了、間もなく射出可能です」

ミサト「射出は中止! 別命あるまで待機!」

マヤ「りょ……了解」

 
==== ケージ ====

男性オペ『――待ってくれ、シンジくん、渚くん』

シンジ「はい?」

男性オペ『伊吹二尉からだ。発進を待てと言ってる。そのまま、少し待機してくれ』

シンジ「?……了解……」


カヲル『えー? なんで?』

==== 発令所 ====

ミサト「アスカ! 鈴原君!」

アスカ『何? 敵の輸送機はまだ見えないわよ』

ミサト「そうじゃない! すぐにそこから離れて! 何か遮蔽物を――」

シゲル「上空から何か来ます! 高熱源体、接近!」

ミサト「二人とも、伏せて!!」

アスカ・トウジ『えっ!?』

カッ!

==== 地上 ====

ドオオオオオオオオオォ……

アスカ「きゃああああああ!!」

トウジ「どわあああああっ!!」

(爆風にさらされる弐号機、03号機)

 
==== ジオフロント ====

ドバアアアァァ……ズズズズズ……

(崩壊する岩盤 地底に達する爆炎)


==== ケージ ====

グラグラグラ……

シンジ「!」

カヲル『な……なんだ!?』


==== 発令所 ====

ビリビリビリ……

マヤ「きゃああああ!」

マコト「え……N2弾道弾!?」

シゲル「奴ら、加減ってものを知らないのかよ!!」

冬月「無茶をしおる……」


ゲンドウ「……」

ミサト「弐号機と03号機は!?」

マヤ「だめです、信号がとれません!」


==== ジオフロント ====

ザアアアアアァ……

(天井に開いた丸い穴からのぞく青空 流下する湖水)


==== 発令所 ====

ミサト「くっ……まんまとやられたわね……」

一同「……」

ミサト「アスカと鈴原くんへの呼びかけを続けて」

マヤ「了解」

ミサト「初号機と02号機はジオフロントに射出、敵エヴァを迎撃させる! 火器をありったけ持たせて!」

マコト「了解」


==== ケージ ====

バシュッ!

シンジ「くっ!」

(打ち出される初号機 Gに耐えるシンジ)


==== 発令所 ====

シゲル「未確認飛行物体接近! 大型です。全部で9機!」

ミサト「本命のお出ましか!」

  
==== 新第三東京市上空 ====

 母機から切り離される量産機

 翼を展開、旋回しながら降下する




==== ジオフロント ====

ミサト『来るわよ! 対空防御!』

シンジ・カヲル「了解!!」

ドドドドド……

(発砲する初号機、02号機)

(翼を破壊され落下する量産機の1機)

グシャッ……

(姿勢を崩したまま地表に叩きつけられ動かなくなる量産機)

  :
  :

==== リニアレール新2号線 先進導坑内 ====

(アイドリングしているローバー)

(壁面で何かしている加持)

加持「――これでいいかな……っと」カチン

ガラガラガラ……ガシャアアアアァン……

(ローバーの後ろで坑道を塞ぐ鉄の板)

ドロドロドロ……

(鉄扉の向こうで何かが流れる音)

加持「よし、行こう」バタン

レイ「……」

(乗り込む加持 再び走り始めるローバー)

グロロロロロロ……
  :
  :


==== ジオフロント ====

ガキイイイイィン!

シンジ「――くっ!」

(量産機の両刃の剣をライフルの銃身で受け止める初号機)

シンジ「このぉ!」

グシャッ

(量産機の側頭部を銃床で張り飛ばす初号機)

シンジ「渚くん!――くっ」

(3機に囲まれている02号機に向かおうとするが新手に阻まれる初号機)

  :
  :


カヲル「くそっ……多勢に無勢か」ハァ…ハァ…

(急速にゼロに近づく内部電源の残時間表示)

ガキイィン

(量産機の剣を弾き飛ばす02号機)

ドカッ!

カヲル「ぐあぁっ!?」

(背後から剣で突き刺される02号機)

シンジ「渚くん!」

(2機に抑え込まれる02号機)

カヲル「くそっ! 僕はお前らのオリジナルだぞ! もっと丁重に――」

ブチッ!

カヲル「うわあああああぁっ!!」

(右腕を量産機に食いちぎられる02号機)


==== 発令所 ====

ミサト「――渚くん!」

マヤ「02号機、活動限界! 予備電源に切り替わります!」


==== ジオフロント ====

カヲル「くそっ! 動け! 動けよっ!」ガチャガチャ……

カヲル「僕の念力で動くんじゃなかったのかよ!!」

(02号機に向かって両刃の剣を振りかぶる量産機)

カヲル「くっ!」

   「どぉりゃあああああああああ!!」

カヲル「!」

ドカッ!!

(02号機に切りかかろうとしていた量産機を正中線で両断し着地する弐号機)

カヲル「ア……アスカ!?」

ガシャン…

(銃剣を捨て量産機の剣を拾う二号機)

アスカ「こんのおおおおおおぉ!!」

ズバッ!!

(さらに1機を袈裟切りにする弐号機)

アスカ「量産品の分際で――」

(剣を振りかざす弐号機)

アスカ「――一個作りに勝とうなんて――」

ガキイイイィン

(量産機の剣を叩き落とす弐号機)

アスカ「――思うんじゃないわよっ!!」

ドカッ…ズブズブズブ……

(剣を握り部まで突き刺す弐号機)

アスカ「……」ハッ…ハッ…ハッ…

トウジ「惣流ーーー!!」

アスカ「!」

(落下してくる03号機)


トウジ「ど……どないしたらええねん!!」

アスカ「バカ! スラスターを――」

トウジ「へっ!?」

グシャッ!

(量産機の上に墜落する03号機 胸部をつぶされ動かなくなる量産機)

トウジ「いてててて……うわっ!」

(03号機に襲い掛かる別の量産機)

トウジ「ひっ!」ブン!

…グシャッ!

(とっさに銃把を叩きつける03号機 頭部をつぶされ倒れる量産機)

トウジ「えっ?……や……やったんか?」

ドサッ……

(少し離れたところ 最後の1機を倒す初号機)

シンジ「トウジ! みんな!」

  
==== 発令所 ====

マヤ「エヴァシリーズ、沈黙!」

シゲル「よしっ!」

ミサト「まだよ! 量産機は機体の自己修復機能がある。放っておくと、また動き出すわ。――そうでしょ? 渚くん」

カヲル『痛てて……ええ、そうですよ』

ミサト「再起動を防ぐには、五体ばらばらにして始末するしかない。最後まで気を抜かないで」

シンジたち『了解』

  :
  :

==== ジオフロント ====

ググググ……

(起き上がりかける量産機)

……グシャッ!!

(それを叩き伏せるトウジの03号機 飛び散る液体)



トウジ「うえ……気色悪ぅ……」

(量産機の手足を切断し遠くへ放る03号機)

シンジ「仕方ないよ……あ、プラグも引っこ抜いておいた方がいいよ」

ガキッ

(うつ伏せにした量産機の胴体から赤いダミープラグを引き抜く初号機)

トウジ「ひい、ふう、みい……あと4つや、シンジ」

シンジ「うん!」

シンジ(やった……やったよ、綾波!)

   :
   :

アスカ「――よいしょっと」カシャン

(横たわる02号機の体をひねって背面に電源ケーブルをつなぐ弐号機)

(「外部電源」「充電中」に切り替わる表示)

アスカ「ほら、いつまでも寝てるんじゃないわよ」グイッ

(02号機の上体を起こす弐号機)

カヲル「痛っ! もっと丁寧に扱えよ!」

アスカ「……」ジロッ

カヲル「な……なんだよ」

アスカ「あんた、どさくさにまぎれて名前呼んだでしょ」

カヲル「えっ? そうだっけ?」

アスカ「……特別にアスカでいいわよ。私もバカカヲルって呼ぶから」

カヲル「なんでバカが付くんだよ……あっ、もしかして照れ隠し?」

アスカ「な、なんですってえー!?」ゲシッ!

カヲル「うわっ! やめろって、まだシンクロしてるんだぞ!」

トウジ「オマエらなあ……漫才の相方が無事やったんやから、お互いもう少し喜んだらええやないか」

アスカ・カヲル「なっ……なに言ってんの(だ)よっ!」

ミサト『こらぁ! あんたたち、真面目にやりなさい!』


カヲル「ほら見ろ、また僕まで――」

ミサト『渚くん!!』

カヲル「……はーい」


=== 発令所 ====

ミサト「――まったくもう……」

冬月「恥をかかせおって……」

マヤ「……」クスクス…

ミサト「加持くんに連絡はついた?」

マコト「だめです。まだ坑道の中かも知れません」

ミサト「まあ、いいわ。15分したら、また呼んでみてちょうだい」

マコト「了解」

冬月「しかし、9機か……数が揃わぬうちに投入してくるとは、老人たちは焦りすぎたな……」

  :
  :

==== 地上 戦略自衛隊の陣地 ====

(双眼鏡を覗いていた士官)

士官「大勢は決したな……本部へ連絡だ。『委員会』の家宅捜索を――」

兵士「待ってください!」

士官「――どうした?」

兵士「接近する飛行物体あり! ……大型です!」

士官「……何だと?」

  :
  :

==== 発令所 ====

ビーッ ビーッ

ミサト「――数は!?」

シゲル「5機…いえ、6機です! これは……」

マコト「なんで今ごろ!?」

シゲル「このコースは……北極経由で直接来たのでは?」


ミサト「まずい!! シンジくんたちに警告!」

マヤ「了解!」

冬月「結局……全て完成していた、というわけか」

ゲンドウ「それ以上だ。予備まで投入してくるとはな」

  :
  :

==== 上空 ====

(母機から切り離される量産機の第2陣)

(白い機体 トラのような縞模様 ややシャープなシルエット ウェポンラック付)

(翼を使わず急降下する量産機)

(地上からの迎撃を縦横にかわす)


==== ジオフロント ====

ブオオオオオォ…ズシャッ

(ラックのスラスタを噴射して着地する量産機 未処理の量産機を庇うような位置)

トウジ「来た!!――シンジ!!」

(どれもロンギヌスの槍に似た槍を装備)

シンジ「そんな……あれで終わりじゃなかったのか!?」

(再起動する生き残りの白いエヴァ)

  :
  :

==== リニアレール新2号線 先進導坑内 ====

ゴトゴトゴト……

(ローバー車内 後部座席に座っているレイ)

レイ「……」

(髪をかくすための帽子を被り、少し色の入った眼鏡をかけている)

別レイ「……」

(三列目シートに座っているもう一人のレイ)

別レイ「心などなければよかった」

レイ「……」


別レイ「私の役目には必要なかったもの」

ゴトゴトゴト……

別レイ「あの人に必要とされたから、私はいた。すべてが終わり、私はいらなくなる」

別レイ「私が欲しかったのは、死……絶望……無へと還ること」

別レイ「それだけあればよかった。心などいらなかった」

別レイ「それなのに、碇くんは――」

レイ「……」

別レイ「もうこの『私』にはその力さえもないかもしれない。ヒトの心を持ちすぎたから――」

別レイ「あとは――ゼーレの望む補完計画が待っているだけ。あの時よりひどい」

別レイ「結局――変えられはしない――」

レイ「……」

   「なのに……あなたは、なぜ恐れるの?」

別レイ「!」

(いつの間にか、もう一人のレイの隣に座っている幼女)

(幼くして死んだ一人目のレイに似た姿)

幼女「……」

別レイ「あなたは……何」

幼女「あなたは恐れている。世界から逃げずに、戦おうとしている碇くんを」

幼女「それによって、あなた自身の間違いに気づいてしまうことを」

別レイ「……私は間違っていない」

別レイ「この世界を救ったとしても、結局は何も変わらない。またやり直しの世界が始まるだけ」

別レイ「碇くんが何をしても意味がない。私たちの世界は、もう終わっているのだから。あのときと同じ」

幼女「なら、あなたはなぜ――なぜあのとき司令を見捨てたの?」

別レイ「……見捨てた?」

幼女「あなたは、あのとき言った。碇くんが呼んでる、と」

別レイ「……」ハッ

幼女「あなたは、失くしてなんかいなかった。あなたの引き出しには、ちゃんと入っていた。あの世界で、碇くんからもらった、たくさんのものが。ただ、その開け方を、あなたは知らなかっただけ」

別レイ「……いいえ」


別レイ「『私』は――綾波レイは、偽りの魂を碇ゲンドウという人間によってつくられた存在」

幼女「……」

別レイ「人のまねをしている、偽りの物体に過ぎないのよ」

幼女「いいえ」

幼女「『私』は、それまでに生きた時間と、他の人たちとのつながりによって『私』になった。この子も、あなたも同じ。一人の、ひと続きの『綾波レイ』」

幼女「他の人たちとの触れ合いによって、それぞれの『私』は形作られている。――あなたには、それが少し足りなかっただけ」

別レイ「!」

幼女「あなただけではできなかったかもしれない。でも、この子は、司令や、赤木博士や、葛城三佐や、クラスの皆や……碇くんに支えられて懸命に生きてきた」

別レイ「……」

幼女「それが、あなたとは違う『私』を……この子を形作っている」

幼女「この子は――あなた自身の可能性のひとつ」

(目を見開く三人目)

幼女「心を開いて世界と向き合っていさえすれば、そうなったかもしれない、あなた自身の姿――」

(もうひとりのレイの頬を伝う涙)

別レイ「?」

幼女「……」

別レイ「……涙?……泣いているのは……私?」

幼女「……」ニコ……

(もう一人のレイの手をとり、その顔を見上げ、微笑む幼女)

   :
   :

==== ジオフロント ====

トウジ「こなくそっ!」ガシャアアァン

(銃把で量産機の武器を叩き飛ばす03号機)

量産機「……」ガシッ!

トウジ「ぐあっ!?」

(03号機の首につかみかかる量産機 その手首を掴み引きはがそうとする03号機)


トウジ「な……なんや……うぐっ!」

(トウジの首に浮かび上がる指の跡)



==== 発令所 ====

マヤ「03号機、生命維持に支障発生! 鈴原くんが危険です!」

ミサト「パイロットと03号機のシンクロを全面カット! 急いで!」

マヤ「カットですか?」

ミサト「そうよ。回路をダミープラグに切り替えて!」

マヤ「しかし! ダミープラグはまだ実戦テストも済んでおらず――」

ミサト「いま使わずにいつ使うの! やって!」

マヤ「は……はい!」



==== ジオフロント ====

03号機「……」ググググ……バキッ!

(03号機の首を絞めていた量産機の手首をへし折る03号機)

マヤ『これが……ダミーシステムの力?』

03号機「……」グシャッ!!

(量産機の側頭部を鷲掴みにして地面に叩きつける03号機)

トウジ「あっ……綾波……」

(プラグ内であっけにとられているトウジ)

03号機「……」ブチッ…ブチッ…

(量産機の装甲を引きはがす03号機)

トウジ「強えぇ……ほんま、綾波を怒らせんでよかったわ……」

ガクン! ブヒュウウウウゥン……

トウジ「なっ!……どないしたんや!?」

ピーーー ……

マヤ『03号機、活動限界……』

ガシャン!

トウジ「くそっ!」

(転がる03号機 プラグから脱出するトウジ)


アスカ「何やってんのよ、バカジャージ……きゃあ!」

バキッ! ズシャッ……

(撃破される弐号機 イジェクトするプラグ)

トウジ「そ……惣流!?」

(弐号機のプラグに駆け寄るトウジ)

アスカ「うう……」

トウジ「しっかりせぇ、惣流!」

(アスカを助け出すトウジ)

トウジ「ええか惣流? シェルターまで走るで!」

アスカ「わかってるわよ……痛っ……」

トウジ「何なら、おぶったろか?」

アスカ「余計なお世話よ、このスケベ!」

トウジ「その元気なら大丈夫やな……ほな、行くで!」

(量産機の目を逃れるようにシェルターの入口へと駆けるアスカとトウジ)

  :
  :

ガキイイイイィン……ガキイイイイィン……

(量産機の槍の突きを左手の剣一本で弾くカヲルの02号機)

カヲル「くそっ……やっぱ左手じゃ……」ズバッ!

カヲル「ぐあっ!」

(左手首を切り飛ばされる02号機)

カヲル「くっ!……これまでか……」ズイッ

(量産機に突進する02号機)

量産機「……」ビュッ!

ドカッ!

カヲル「うっ!!」

(槍で左胸を貫かれる02号機)

カヲル「ぐうううううっ!」ズブズブズブ…ガシッ

(そのまま量産機ににじり寄る02号機 量産機にしがみつく)


カヲル「ごめんよ、02号機……関節ロック……モードD起動っと」

ピッピッピッ……

カヲル「サード……あとは頼むよ……」

ガシュッ

(射出される02号機のエントリープラグ)

カッ!!

(02号機とともにバラバラに吹き飛ぶ量産機)

  :
  :

ズシャッ

(量産機を叩き伏せる初号機)

(その向こうで起き上がる別の量産機)

シンジ(くそっ……約束したのに……)

ドカッ!

シンジ「ぐあっ!」

(背後から刺される初号機)

シンジ「くっ!」

(胸から突き出た槍をつかんで背後の量産機を振り払う初号機)

シンジ(今度こそやり抜くって決めたのに!)

ズバッ!

シンジ「うっ!」

(肩口を切りつけられる初号機)

シンジ「うあああああっ!」 ドカッ…

(引き抜いた槍で量産機を突き刺す初号機)



==== 発令所 ====

マヤ「初号機のシンクロ率、250%を突破!」

ミサト「シンジくん!」

リツコ「だめ! それ以上は!……またあの時みたいに、戻れなくなる!!」




==== ジオフロント ====

シンジ「うおおおおおおおおおおっ!」

バキイイィン!!

(砕け散る初号機の胸部・背面装甲)

(背中から伸び上がる光の翼)



==== 発令所 ====

一同「!」

(ホワイトアウトする主モニター)

   :
   :


==== とある谷合 ====

加持「……」ガシャン

(山肌の鉄扉を閉める加持)

(扉を背に停車しているローバー 後部座席にレイ)

(運転席に乗り込む加持 発進するローバー)

グロロロロ……

   :
   :


==== 地上 戦略自衛隊の陣地 ====

兵士「上空から飛来する物体あり!」

士官「何だと!?」



==== 発令所 ====

ゲンドウ「いかん!」ガタン

ミサト「司令!?」

ゲンドウ「ロンギヌスの槍か!」

   :
   :


==== 谷あいの道 ====

グロロロロ……

(走るローバー)

(山並みが切れ、芦ノ湖方面の視界が開ける)

(と、空に広がる放射状の輝き)

加持「!」

キッ!

(ローバーを止める加持)

加持「何だ……あの光は……」

   :
   :


==== ジオフロント ====

(光りの翼を展開して仁王立ちする初号機)

(飛来するロンギヌスの槍)

   :
   :


==== 谷あいの道 ====

レイ「……」

別レイ「初号機が……覚醒したんだわ……」

幼女「……」

(見ているうちに薄れていく光)

(眼鏡と帽子を取るレイ)

レイ「私……行かなきゃ」

ガチャッ……

(ローバーを降りるレイ)

加持「おっ……おい、レイちゃん――」

レイ「碇くんが、呼んでる」

加持「え?……」

(振り返るレイ)

レイ「あなたたち、お願い」

(もうひとりのレイの目を見据えるレイ)

別レイ「!」

レイ「……お願い」

(顔を見合わせるもう一人のレイと幼女)

加持「……レイちゃん?」

レイ「ごめんなさい、加持さん……」

加持「……」

レイ「ありがとう……」

キン!!

加持「!」

(消えるレイ)

加持(……やれやれ……司令に何て言えばいいんだ、俺は……)

  :
  :


==== ジオフロント上空 ====

 量産型エヴァに拘引されて昇っていく初号機


==== 発令所 ====

冬月「ここまでか……」

ゲンドウ「……」

ミサト「――レイ!」

冬月「なに?」

(入ってくるレイ)

ミサト「あなた、どうして……」

一同「……」

レイ「司令」

(ゲンドウを見上げるレイ)


レイ「お願いします」

(見下ろすゲンドウ)

ゲンドウ「……いいのか、レイ」

レイ「はい」

ゲンドウ「……」

レイ「私にしか、できないことですから」

リツコ「でも!……そんなことをすれば、どうなるかわからないわ! あなたは……」

レイ「構いません」

リツコ「……」

(そっと下腹部に手を添えるレイ)

レイ「赤ちゃんが……命と引き換えに守ってくれた体ですから」

ミサト「レイ……あなた……」

レイ「……」

ゲンドウ「わかった、行こう。――赤木博士」

リツコ「はい。――さあ、レイ」

(連れだって出ていくレイとリツコ)

(立ち上がるゲンドウ)

ゲンドウ「冬月先生……後を頼みます」

冬月「いいんだな、碇」

ゲンドウ「ええ」

冬月「ユイくんに……すまなかったと伝えてくれ」

(無言で退室するゲンドウ)



==== 初号機プラグ内 ====

(雲上へ運ばれていく初号機)

シンジ(ちくしょう……これで終わりなのか……)

シンジ(ごめん、綾波……君の分まで戦うって約束したのに)

シンジ(今度は絶対、世界を守れると思ったのに……)

   「まだ、終わりじゃない」


シンジ「……きみは……」

(インダクションレバーを握るシンジの手に重なる、もう一人のレイの手)

別レイ「あの子が来る」

シンジ「……えっ?」

   :
   :


==== ターミナルドグマ ====

(リリスの前に進み出るリツコとレイ)

(何かのケースを提げて続くゲンドウ)

プシュー……

(床に置いたケースをひらくゲンドウ)

パサ……

(衣服を脱ぐレイ レイの衣類を拾い上げ手早くたたむリツコ)

(何かを持って立ち上がるゲンドウ)

ゲンドウ「……いいのか、レイ」

レイ「はい」

(胎児状の『アダム』をレイに差し出すゲンドウ)

(受け取った『アダム』を胸の前に持ち、リリスに向き直るレイ)

幼女「……」

(リリスの前で待っている幼女)

(幼女に手を引かれ、ふわりと浮かび上がるレイ)

ゲンドウ・リツコ「……」

(リリスの胸に飲み込まれるレイ)

  :
  :


==== 発令所 ====

ピピピピ……

シゲル「ターミナルドグマより高エネルギー体、接近!」

マコト「分析パターン青! これは……」


(発令所の床をすり抜けて立ち上がる巨大な白い人影)

一同「……」

(その顔を見上げる一同)

(ゆっくりと振り向く白い人影)

(一同を見下ろし、微笑む)

ミサト「レイ……」

マヤ「レイちゃん……」

(声もなく、唇が「いってきます」と動く)

(伸び上がる白い人影 天井をすり抜けてゆく)



==== ジオフロント ====

(伸び上がる白い人影)

   「碇くん……今、行くから」

(空へ昇っていく白い人影 その先、拘引されていく初号機)

  :
  :

(「翼をください」)

(出会いからこれまでの思い出が走馬灯のように甦る)

ケージ 初号機の前で床に転がっているレイ 何かに助け起こされるのを感じる

ベッドに寝かせられたまま病院の廊下を運ばれているレイ 窓際に立つシンジと一瞬目が合う

本部のエスカレーター シンジの頬を張るレイ

ヤシマ作戦 涙を流して微笑んでいるシンジのシルエット

たった1回の、音楽に合わせた踊りの訓練

レイの手を慌てて水道水に浸すシンジを背中に感じているレイ

弁当に目を丸くするレイ

噴水での散歩

夕暮れの部屋での接吻

未明のベッド シンジの寝顔を眺めるレイ

  シンジの額に口づけするレイ

  寝ぼけたシンジに抱き寄せられ驚くが、すぐ微笑んでまた眠りに落ちる


青空の下、手を繋いで歩み去る二人の後ろ姿――


==== ジオフロント上空 ====

 雲海を突き抜け、初号機の目前に伸び上がる白い人影 



==== 初号機プラグ内 ====

シンジ「綾波! どうして!? だめだ!」

   『こうするしか、なかったから』

(シンジの頭に響くレイの声)

シンジ(……君は?……)

(窓の外 微笑む白い人影)



==== ジオフロント上空 ====

 雲の上 初号機のサイズにまで縮んで行きながら、初号機を抱き締める白い人影

 光に包まれる初号機 融解する装甲

 光の中で崩壊し蒸発していく量産機

 シンジの姿になっている初号機 それを抱きしめているレイの姿をした白い人影



==== 初号機プラグ内 ====

(シンジを抱きしめているレイの姿をした白い人影)

   『碇くん……私、よかった。碇くんと出会えたこと』

シンジ「……」

   『何者でもなく、からっぽだった私が、今は、碇くんが教えてくれたもので満たされている』

シンジ「……」

   『とても嬉しい』

(輝きを放ちながら溶け去っていく白い人影)

シンジ「綾波!」

(人影を抱き留めようとするシンジ)

   『ありがとう……』

(そのまま空を抱くシンジの腕)


==== ジオフロント上空 ====

プラグ内と同じ光景 シンジの形の初号機を抱きしめながらとけ去っていく白い人影



==== ジオフロント ====

ガチャン……

(シェルターから這い出すアスカ、カヲル、トウジ)

カヲル「ふう……どうなったんだ? いったい……」

アスカ「あれは!」

トウジ「……なんや、あれ……」



==== 発令所 ====

ミサト「レイ……」

(光が収まり映像が回復する主モニター)

(天使の輪を頭上に纏い、槍を片手にゆっくりと降下してくる初号機 元の姿)



==== ターミナルドグマ ====

(リリスがいなくなった十字架の前に立ち尽くすゲンドウとリツコ)

ゴボッ……

リツコ「……?」

(LCLの液面に浮かび上がる白い背中)

リツコ「レイ!?」

ゲンドウ「!」

(蒼い髪が液面に広がる)

ゲンドウ「レイ!」

ダダダッ……バシャン…

(腰までLCLに浸かりながら駆け寄るゲンドウ)

ザバッ…ザバッ…

ゲンドウ「くっ!」ザバァッ

(レイを抱き上げデッキに運び上げるゲンドウ)

ゲンドウ「……呼吸をしていない! 赤木博士!」


リツコ「はい!」

(床にレイを横たえ、人工呼吸、心臓マッサージを施すリツコ)

ゲンドウ「――私だ! ドグマへ救護班を寄越せ!……構わん、セキュリティは全て解除しろ!大至急だ!」

レイ「……」ブハッ!!

(息を吹きかえすレイ)

リツコ「レイ!」

レイ「……」ゲホッゲホッ!

(レイの口の端からあふれるLCL)

(白衣を脱いで羽織らせるリツコ)

  :
  :


==== 夕暮れの列車 ====

ガタタン… ガタタン…

シンジ「――ねえ綾波」

別レイ「なに」

シンジ「僕は死んだら……どうなるの?」

別レイ「なぜ、そういうことをきくの」

シンジ「なんでかな……うん、少し気になっただけ」

別レイ「あなたは、またどこかの世界で、碇シンジとして生き始める」

シンジ「……」

別レイ「でも、今のあなたの記憶をもっていけるわけではない。今の碇シンジはここでおわり」

別レイ「この列車と同じ。碇シンジという同じ型番の、別の列車が走りだすようなものよ」

シンジ「そっか……」

別レイ「怖いの?」

シンジ「怖いよ……でも、ここで生きていく資格は、僕にはない。前に君が言ったじゃないか」

別レイ「……」

   :
   :


==== 発令所 ====

(主モニター上 槍をコアに向けている初号機)

シンジ『――じゃあ、ミサトさん……』

ミサト「シンジくん……」

シンジ『短い間でしたけど……ほんとに……ありがとうございました』

ミサト「待って! あなたは――」

シンジ『駄目なんだ、ミサトさん……みんなの未来を奪ってまで、僕が生き残るわけにはいかない。そんなことして、いいはずがないんだ』

ミサト「でも――」

カツカツカツ……

ゲンドウ「待て、シンジ」

ミサト「――司令!?」

シンジ『……父さん……』

ゲンドウ「シンジ……また逃げるつもりか」

シンジ『に……逃げるって――!』

カラカラカラ……

(ゲンドウの後ろ ストレッチャーを押してくる数名の救護員)

(ストレッチャーの上で眠っているレイ 付き添っているリツコ)

シンジ『あ……綾波!?』

ゲンドウ「シンジ……エヴァを降りろ。責任を果たせ」

シンジ『でも、僕は……』

ゲンドウ「お前の都合など知ったことではない」

一同「……」

シンジ『ごめん、父さん、それはできない』

ゲンドウ「……今一度いう。逃げることは許さん」

シンジ『だめだよ、父さん』

ゲンドウ「今逃げればお前は――」

シンジ『父さん、僕は――』


ゲンドウ「――今逃げれば、私と同じだ」

シンジ『!』

ミサト「司令……」

ゲンドウ「降りて来い、シンジ」

シンジ『ありがとう、父さん』

ゲンドウ「……」

シンジ『ありがとう』

ゲンドウ「……」

シンジ『綾波を……頼むよ……』

ミサト「シンジくん!?」

シンジ「さよなら、ミサトさん――」

一同「……」

ゲンドウ「……LCL圧縮濃度を限界まであげろ」

ミサト「司令!?」

ゲンドウ「子供の駄々に付き合っているヒマはない。やれ」

マヤ「は、はい――」カタカタカタ…



==== 初号機プラグ内 ====

シンジ(さよなら、父さん――)

ゴボゴボゴボ

シンジ「!?」グハッ……

ゴボゴボゴボ……

シンジ「ちくしょう!……こんな……」

ゴボゴボゴボ……

シンジ(ちくしょう……)

  :
  :




==== 夕暮れの列車 ====

ガタタン… ガタタン…

シンジ「僕に自由はないのか……生きる自由も、死ぬ自由も……」

別レイ「そうかもしれない」

シンジ「……あっさり言うね」

別レイ「碇司令の言うとおりだわ。あなたにはこの世界で生きていく責任がある」

シンジ「責任?」

別レイ「そして、その権利もある」

シンジ「……」

別レイ「幸せになる権利が……あなたが護ったこの世界でなら」

シンジ「綾波……」

(立ち上がり、シンジの頬を両手で包む、もう一人のレイ)

シンジ「綾波……何を……」

別レイ「……」

シンジ「あれ?……君は……誰?……」

   「……」

シンジ(……君の……名前は……)

   :
   :


==== 数日後 ====

とある洋館 表に停められた多数の警察車両

黄色いテープで進入禁止措置がとられ、警察官が何度も往復している

奥まった部屋 制服警官の敬礼を受けて入ってくる年配の刑事らしき人物

瞬くフラッシュ

分厚い木のデスクの下 倒れた人の形のままの衣服、バイザーなどが転がっている

周囲の絨毯にはLCLの染み

  :
  :


==== 数か月後 ネルフ本部 ====

(ガラス窓の向こう ベッドに寝かせられ何かの検査を受けているシンジ)

ミサト「どう?」

リツコ「シロね。パターン青の兆候なし。最初のころより2ケタ上の感度をもってしてもね」

ミサト「そう……やっぱり、司令のLCL圧縮がきいたのかしらね」

リツコ「まさか」

ミサト「あーあ、あれで使徒を倒せるなら、エヴァなんて要らなかったのにね」

リツコ「……使徒を入れられるエントリープラグがあればね……」

  :
  :


==== 1年後 ====

改組されるネルフ

「緊急支援対策部」と看板がかけ換わる作戦部

作業を眺めているミサト

  :
  :


==== 数年後 ====

大学の講堂らしき場所

  学生を前に講演するリツコ



ケージ

  技術者たちを案内しているマヤ

  質問に答えるプラグスーツ姿のトウジ

  弐号機プラグから降りてくるレイ



退職する冬月

  女性職員から花束を受け取る

  スーツ姿 副司令室をひとわたり眺め、明かりを消す冬月



司令執務室

  ゲンドウに何か報告をしているマコト

  報告を聞いているゲンドウ 色の入っていない眼鏡

  時折、眼鏡をずりあげて目をすがめながら書類を見ているゲンドウ

  ゲンドウの後ろに立つ、ネルフの制服姿の加持

   :
   :


==== さらに何年か後 ====

結婚式

  壇上で待っている正装のシンジ

  居並ぶゲンドウ、パイロット仲間、同級生たち、ミサトほかネルフ職員

  リツコに連れられて歩いてくるドレス姿のレイ


==== 1年後 とある病室 ====

(レイのベッド際 丸椅子に腰かけているシンジ)

シンジ「――お疲れ様。大変だったね」

(レイの頬に手を添えるシンジ)

レイ「ええ、大変だったわ」ニコ

(すぐ横 新生児ベッドで眠る我が子を見るシンジ)

シンジ「……」

レイ「どうしたの?」

シンジ「普通の……子供だったね」

レイ「そうね」

シンジ「……リツコさんから、何か聞いてるの?」

レイ「……ええ」

シンジ「……」

レイ「あなたの中の使徒は、消えたわけじゃない。眠ってるだけだって……何がそうしたのか、わからないけれど」

シンジ「ごめん。僕は――」

レイ「……」

(シンジの手に自分の手を重ねるレイ)

レイ「こう言えば、わかってもらえるかしら……」

シンジ「えっ?」

レイ「つぎは……男の子がいいわ」

(レイを見つめるシンジ 微笑むレイ)

シンジ「……ありがとう」

(レイの手に口づけし、目を伏せるシンジ)

シンジ「ありがとう……」

  :
  :


==== ネルフ本部 03号機プラグ内 ====

(インテリアシートに貼られた、娘を抱くレイの写真 防水加工されている)

(それをはがすシンジ)

(代わりに貼られる新しい写真 四肢で体を支えてこちらを見ている娘 後ろで見守っているレイ)

(満足げに眺め、シートに座り直すシンジ)

リツコ『いい? シンジくん』

シンジ「はい――あれ? マヤさんは?」

リツコ『運動会よ。息子さんの』

シンジ「あっ……今日でしたっけ」

リツコ『あなたのところも、すぐそういう騒ぎをするようになるわ』

シンジ「そうですね」

リツコ『あっと言う間よ。――さあ、始めるわよ』

シンジ「お願いします」

リツコ『03号機、第135回定期試験、開始。エントリープラグ、注水!――』

  :
  :


==== とある居酒屋 ====

ガヤガヤガヤ……

ケンスケ「――みんなグラス持ったか? よしっ、それじゃあ我ら2年A組の再会を祝して――」

アスカ「アタシたちの世代の『ファーストチルドレン』の、健やかなる成長を祈念して――」

ケンスケ「乾杯!」

一同「カンパーイ!」

(レイに抱かれたままマグを掲げて乾杯の真似をするシンジたちの娘)

(近くの数名の女性が娘にも乾杯をしてやる)
  :
  :


ガヤガヤ… ワハハハ…

ヒカリ「――はい、碇くん」

シンジ「あ、ありがとう、委員長」コポコポコポ……

ヒカリ「……すっかり人気者ね」ニコ


シンジ「え?――ああ、ごめん。きょうは父さんも懇親会だっていうから、見てくれる人がいなくて……」

(少し離れた場所 アスカたち女性陣に囲まれ、愛嬌をふりまいているシンジたちの娘)

(輪のすぐ外でグラスを傾けながら、ときどき何か説明しているレイ)

  :
  :


==== 店の外 ====

マコト「――しかし、驚いたよ」

シゲル「そうさ、ばかに賑やかなグループがいると思ったら、君たちなんだもんな」

カヲル「そりゃこっちのセリフですよ」

ミサト「――さあ、カラオケ行くわよ、カラオケ!」

2A男子「おおーーーっ!!」

アスカ「なんでミサトが仕切ってんのよー!」

ミサト「いーじゃない、別にぃ」

シンジ「あの……僕たちは」

ミサト「所帯持ちは帰りなさい!」キッ

シンジ「ミサトさんだって所帯持ちじゃないですか……」

ミサト「きょうはいいの! 私は――」

トゥルルルル… 

ミサト「――家からだわ……」ピッ

ミサト「はい?――」

『ままぁ!!』

ミサト「!」キーーーン

一同「……」

少女A『ままぁ! ねんねのえほん よんでぇ!』

少女B『だめよ! きょうは ねんねのおうた うたってもらうの!』

ミサト「ちょ……ちょっと、あんたたち……」

少女A『えーほーんー!』

少女B『おーうーたー!』

加持『ほ、ほら、きょうはパパが両方してあげる約束――』 


少女たち『やだー! ままがいいの!』

加持『わ……わかったから……ちょっと返しなさい、ほらっ……』

ミサト「……」

加持『……という状況なんだ。説得は試みたんだがな……』

ミサト「そんなこと言ったって……あっ」パッ

リツコ「――リョウちゃん? お疲れ様。お姫様たちに、ママはすぐ帰るって言ってあげて」

加持『ああ、りっちゃん。恩に着るよ』

リツコ「いいのよ。じゃあね」ピッ

リツコ「――はい」ポン

ミサト「……ごめん、リツコ」(手を合わせる)

リツコ「早く帰ってあげなさい。タクシー、待ってるわよ」

ミサト「うん、それじゃあみんな」

2A男子「おやすみなさーい!!」

バタン ブオーーーッ

アスカ「――さて、気を取り直していきましょうか!」

トウジ「せやな」

ケンスケ「碇たちはどうする? 乗って帰る組もいるぞ?」

シンジ「いいよ。歩いても、すぐだから」

ケンスケ「そうか、じゃあな」

シンジ「うん、じゃあまた」

バタン ブオーーーッ 

(店の方から走ってくるレイ)

レイ「――すみません、お義父さん」

ゲンドウ「ああ、問題ない」

(孫娘に髭を引っ張られているゲンドウ)

レイ「ほら、おいで――」

冬月「さて、我々も行くとするか。――例のところでいいかね?」

ゲンドウ「構いません。先生と行くのは何年ぶりですかね」



冬月「そうだな……。では、我々はこれで」

シンジ・レイ「おやすみなさい」

   :
   :

(夜道を歩いて帰るシンジとレイ)

(レイのスリングの中で寝息をたてている娘 それを見ているシンジ)

レイ「……どうしたの?」

シンジ「ううん……」

レイ「……」

シンジ「夢みたいだなって、思ってさ」

レイ「……そう」

シンジ(そうだ、これは僕の望んだ……)

レイ「……」

シンジ「ありがとう」

   「……」

(いつの間にか停止している周囲の景色)

シンジ「やっとわかった……僕が何を護りたかったのか。だから――」

   「……」

シンジ「もういいよ」

   「……」

シンジ「帰ろう……僕たちの――」

ピシッ……

(止まったままの風景に走る亀裂)

   「ここは――あなたの世界だわ」

ピシッ……

シンジ「違うよ……ここは、この世界の『僕』が得るはずの世界さ」

ピシッ……ピシッ……


シンジ「最後の使徒である僕が消えることで生まれる世界……そうだろ?」

パアアアアァン……

(砕け散る風景 辺りを包む薄明)

(その中に佇むもうひとりのレイ 14歳のまま)

(その後ろに立つ大人になったシンジ)

別レイ「後悔するわ――あなたはこの平和な世界で、幸せに生きていくこともできたのに」

シンジ「……それはできない」

別レイ「……」

シンジ「約束したじゃないか。最後は……帰るって」

別レイ「……今度は私のせいにするの?」

(振り向くもうひとりのレイ)

シンジ「ごめん……そういうつもりじゃないんだけど……」

(14歳に戻っているシンジ)

  :
  :


==== ふたたび10年前 LCL圧縮直後 ジオフロント ====

初号機「……」ググググ……

(槍を手に動き出す初号機)



==== 発令所 ====

ミサト「――どうして!? マヤ!」

マヤ「わかりません……LCL圧縮濃度は最高のままなのに……」

ゲンドウ「シンジ!」



==== 初号機プラグ内 ====

シンジ「――そうだよ……僕の世界に戻らなきゃ」

別レイ「……」

シンジ「あんな風になったのは僕自身のせい」

別レイ「違う……碇くんは……」

シンジ「ううん……綾波が……みんなが気遣ってくれていたのに気づかなくて、逃げ続けた僕のせい」

別レイ「……」

シンジ「僕は、僕が引き起こした結果と向き合わなきゃならない」

別レイ「……」

(インテリアシートの傍らに立つもう一人のレイを振り返るシンジ)

シンジ「帰ろう」

別レイ「碇くん……」

シンジ「帰ろう……僕たちの世界へ――」

  :
  :


==== ジオフロント ====

初号機「……」ドカッ!


(コアを槍で貫く初号機)


==== ジオフロント シェルター入口 ====

カヲル「さ……サード! 何やって……」

アスカ「バカシンジ!……きゃっ!」

(二人をシェルターに引き戻すトウジ)

カヲル「痛いな! 何を――」

ゴオオオオオォォン……

(隔壁を降ろすトウジ)

トウジ「どあほ! 巻き込まれるで!!」

アスカ・カヲル「えっ?」


==== ジオフロント ====

カッ!……

(閃光を発する初号機)



==== シェルター ====

ズズズン!……

アスカ「きゃあああああぁ!!」

カヲル・トウジ「うわあああああああぁ!」



==== 発令所 ====

一同「!」



==== ジオフロント ====

ドオオオオオオオオォォォ……

(伸び上がる十字の炎)



==== 発令所 ====

(ホワイトアウトしている主モニター)

一同「……」

ミサト「シンジくん……」

  :
  :

(眠っているレイのストレッチャーの傍ら 佇んでいる幼女)

幼女「これで……しばらくお別れ」

(微笑む幼女)

幼女「待っていて……かならず……また……」

(年齢が逆行するように、縮んでいく幼女の体)

幼女「あいに……いくから……」

(胎児の姿になり、さらに縮んでいく幼女)

幼女(……かあさん……)

(目に見えない大きさまで縮み、光を発して消える)

  :
  :


==== しばらく後 ジオフロント ====

(初号機の残骸を調べている、防護服の男たち)

調査員『!』

(ひしゃげたエントリープラグを覗き込み驚く調査員)

調査員『おい! 赤木博士に連絡を――』

(プラグの中 眠るように無傷で倒れているシンジ)

  :
  :



==== 病室 ====

シンジ「……」

(意識を回復するシンジ)

ミサト「!……シンジくん!!」

シンジ「ミサト……さん?……あっ」

(涙で顔をぐしゃぐしゃにしたミサトに抱きしめられるシンジ)

(ミサトの背後に立つアスカ、トウジ、カヲル、リツコ、加持)

ミサト「よかった……ほんとによかった……」ポロポロポロ…

シンジ「ミサトさん……」

リツコ「ほら、ミサト――」

ミサト「うん、ごめん……」グスッ

(ミサトから解放され、ふと横を見るシンジ)

(すぐ隣のベッドで眠っているレイ)

シンジ(綾波……)

レイ「……」スー… スー…

シンジ「……」ハッ…

シンジ「あっ……綾波!?……なんで!?」

ミサト「どしたの? シンちゃん」

シンジ「なんで……なんで綾波と同じ部屋なんですか!?」

ミサト「なんでって……全部終わったことだし、水入らずのほうがいいかなーって……」


シンジ「みっ……水入らず?」

一同「……」

リツコ「……何だか話が噛み合わないわね……」

(目を覚ますレイ)

レイ「……赤木……はかせ?」

リツコ「レイ!」

レイ「……碇くん?」

シンジ「あっ……綾波……」

一同「……」

   :
   :

レイ「……」ゴソゴソ…

(ベッドに腰掛け、加持が持って来たバッグの中身を取り出して並べているレイ)

一同「……」

(丁寧に折りたたまれたレポート用紙 表にシンジの字で「綾波へ」)

(作りかけの編み物)

(数冊のマタニティ雑誌)

レイ「……」

(編み物を指でつまみ上げ、しげしげと眺めるレイ)

レイ「――これ、私が?」

アスカ「な、何言ってんのよ! アンタ、覚えてないの!?」

   :
   :


(隣のベッド 自分の手帳を開いたまま固まっているシンジ)

(レイと肩を寄せ合っている写真シール 上からレイの字で「碇くん 大好き」とペン書き)

シンジ「なっ……なんで……」

(首まで紅くなっているシンジ)

一同「……」

クイッ…

(シンジの入院着の裾をつまむレイ)

レイ「碇くん」

シンジ「は、はい?」

レイ「碇くんは、嫌?」

シンジ「いっ……嫌じゃないよ!!」

レイ「……」

シンジ「嫌じゃない。嫌じゃないけど……」

一同「……」

シンジ「いつの間にこんなに進んでたのかなあって……あはは……」

トウジ「お前もかい!」

一同「……」

レイ「碇くん」

シンジ「な……なに?」

(微笑むレイ)

レイ「……責任、とってね」

  :
  :


==== 一方…… 赤い浜辺 ====

ザザーン… ザザーン…

(打ち寄せる波)

シンジ「……」

(砂浜に横たわるシンジ その左隣に横たわるアスカ)

(アスカの体越しに見える、波打ち際で水面を見ているレイの後姿 第壱中学校の制服)

ザザーン… ザザーン…

シンジ「……」ムクッ

(上体を起こし、しばらくレイの後姿を見て、アスカの寝ていた場所に目をやるシンジ)

(人の形で横たわっている赤いプラグスーツ 開口部の砂に何かが浸み込んだ跡)

ザザーン… ザザーン…

(立ち上がるシンジ)

(波打ち際、レイの隣に歩み寄るシンジ)

レイ「――ごめんなさい」

(水面の方を見ながら涙を流しているレイ)

シンジ「……」

レイ「私が……もう少し世界に向き合っていたら……碇くんが本当に望む世界を作ってあげられたのに」

シンジ「……」

(スカートの布地を握り締めているレイ)

レイ「そうしたら、こんなことには……ならなかったのに」

(目をギュッと閉じるレイ 涙の粒がいくつか絞り出され頬を伝う)

レイ「ごめんなさい……」

シンジ「……」

(レイをそっと抱きしめるシンジ)

レイ「!」

(驚いて目を見張るレイ)

シンジ「いいんだ、もう」

(匂いを確かめるようにレイの髪に鼻先をうずめるシンジ そのまま抱きしめられているレイ)


シンジ「これで……いいんだ……」

レイ「……っ……うう……」

(唇を噛んでいるレイ 見開かれた眼からあふれ出す涙)

レイ「あうぅっ……うああああああああぁ!……」

(シンジの肩に顔をうずめ、声を上げて泣くレイ)

レイ「ごめんなさい!……ううっ……うぐっ……」

(シンジの背に回されるレイの腕 シンジのシャツの布地をつかんでいるレイの手)

レイ「ごめん……なさい……うっく……うわああああああああん!……」

(微笑みながらレイの髪を撫でているシンジ)

   :
   :


ザザーン… ザザーン…

浜辺

打ち寄せる波

その彼方 いつの間にか無くなっている巨大なレイの顔

流木に打ち付けられたミサトのペンダント

夜空

波打ち際

寄せては引く波

波に弄ばれている、レイとシンジの制服

   :
   :




終劇

==== MEMO ====

■本スレのベースとした二次創作作品(漫画)

・RE-TAKE
http://evemedia.org/evawiki/RE-TAKE

配役変更(アスカ→レイ)
キャラ単純入れ替えだと展開が苦しいのと、その他諸々あり主要イベント以外はかなりアレンジ


■その他、元ネタ、参考とした既存SS

・やっぱ綾波でしょ 逆行
http://1st.geocities.jp/muma2015/novel.html

・EVANGELION REALIZE AGAIN
http://ayanamiten.web.fc2.com/salvage_site/low/index.html

・レイ「心が…キュンキュンする…」

・レイ「碇くんは私だけのもの」ボソッ アスカ「え?」
レイ「碇くんは私だけのもの」ボソッ アスカ「え?」 - SSまとめ速報
(http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1355910405/)

・Portrait ~たったひとりのあなたへ
http://www001.upp.so-net.ne.jp/kame_garden/

・雨と少女とマンションと
※エンコード:UTF-8

・逃飛行
http://www1.ocn.ne.jp/~namituki/touhikou.html

・新生
http://ayasachi.sweet-tone.net/cont/tanshio/tanshio07.htm

・それは夏の夜の夢
http://yumegaoka.s13.xrea.com/x/cgi-bin/NVSH.cgi?6




■投下済みスレ

エヴァ旧劇場版 結末の再構成
(シンジ「綾波!」レイ「…」パシャン…旧劇の終わりの焼き直し - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1390630428/))

ヱヴァ新劇場版「破」再構成
(レイ「・・・碇くんの頬っぺた、プニプニしてみたい・・・///」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376493346/))

ヱヴァ新劇場版「Q」再構成 その1
(アヤナミレイ(仮)「いっかーりくーん、どこー?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1378826143/))

ヱヴァ新劇場版「Q」再構成 その2
(レイ「ここは……どこ?……」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379514608/))

ヱヴァ新劇場版「Q」後日談 その1
(アスカ「今夜はここで寝るわよ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1378394795/))

ヱヴァ新劇場版「Q」後日談 その2(後日談その1と無関係)
(シンジ「何ですか? これ」ミサト「教科書よ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1380811845/))

ヱヴァ新劇場版「Q」後日談 その3(後日談その2の続き)
(シンジ「エヴァ最終号機?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1385772751/))

ヱヴァ新劇場版「Q」後日談 その3の一部修正・改訂版)
(シンジ「エヴァ最終号機?」(Bルート) - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1390831079/))

本スレの待避スレ(その節はお世話になりました)
シンジ「帰ろう……僕たちの――」※投下済み分再掲+続き投下 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1392990067/)

■補足

待避スレでわかりにくいとの意見があった終盤の時系列の補足説明

LCL圧縮・失神(・救出)
→平和な世界でだいたい10年
 (実体験か幻想か不明)
→LCL圧縮時に戻る・失神しない
→シンジが自分をせん滅
(ここで分岐)
本来のシンジ……ネルフ病室で目覚める(本スレ中の出来事は覚えてない)
本スレで活動してたシンジ……赤い世界に戻って目覚める

以上、原作(RE-TAKE)の流れをなぞったもの
ある程度知ってる前提で書いちゃってるので初見だとわかりにくいかも

■その他

当初、LCL圧縮は原作通りマヤ独断か、ミサトの命令の予定だったけど
投下中にゲンドウがカッコいいとのコメントがあったので
思い直してゲンドウの命令にしました


ゲンドウが父性に目覚めるところとか良かった
同じセリフでもこうも変わるんだな


面白かった

このエヴァQの再構成ssのスレタイ教えてくれぃ

>>199 >>200 ありがとう

>>201
>このエヴァQの再構成ssのスレタイ

これです↓

ヱヴァ新劇場版「Q」再構成 その1
 アヤナミレイ(仮)「いっかーりくーん、どこー?」
(アヤナミレイ(仮)「いっかーりくーん、どこー?」 - SSまとめ速報
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ヱヴァ新劇場版「Q」再構成 その2
 レイ「ここは……どこ?……」
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【番外編】
>>1です
どうしようかと思っていた別ENDを投下します
原作(RE-TAKE)準拠ENDは崩したくないのであくまで番外編です
次から

>> 195 からつづく(>>196相当)

シンジ「これで……いいんだ……」

レイ「……っ……うう……」

  唇を噛んでいるレイ 見開かれた眼からあふれ出す涙

レイ「あうぅっ……うああああああああぁ!……」

  シンジの肩に顔をうずめ、声を上げて泣くレイ

レイ「ごめんなさい!……ううっ……うぐっ……」

  シンジの背に回されるレイの腕 シンジのシャツの布地をつかんでいるレイの手

レイ「ごめん……なさい……うっく……うわああああああああん!……」

  微笑みながらレイの髪を撫でているシンジ

   :
   :

ザザーン…… ザザーン……

   赤い浜辺に立つシンジとレイ

   シンジの腕の中、まだしゃくりあげているレイ

レイ「――もう、だいじょうぶ」

シンジ「……」

レイ「ありがとう」

シンジ「いいんだ。――でも、びっくりしちゃったよ。綾波があんなに泣くなんて、思わなかった」

レイ「悔しかった」

シンジ「え?」

レイ「あの子なら……あの世界の『私』なら、ちゃんとやれたかも知れないと思ったから」

シンジ「綾波……」

   目を伏せるレイ

レイ「みんなに、逢いたい」

   また溢れてくる涙

レイ「碇司令や、赤木博士や、葛城三佐や……セカンドにも」

シンジ「……」

レイ「こうなって、やっとわかった。どれだけたくさんの人たちに、支えられていたのか」

シンジ「……」

   ふと顔を上げるシンジ

   地平線の向こう、音もなく崩れる巨大なレイの頭部

   それを見ていたシンジ

シンジ「僕だって同じだよ」

レイ「……」

シンジ「僕もこうなって初めてわかった。綾波だけのせいじゃない」

レイ「……碇くん?」

シンジ「仕方ないんだ。……僕たちだけじゃ大変かもしれないけど……力をあわせて生きて行こうよ」

レイ「……なぜ?」

   少し体を離して、シンジの目を不安げに覗き込むレイ 頬に涙のあと

シンジ「え?」

レイ「私は、あの子じゃないのに」

   困ったように微笑むシンジ

シンジ「同じだよ」

レイ「……同じ?」

シンジ「綾波は綾波だよ、僕にとっては」

レイ「……」

シンジ「どこも違わない。あの世界の君も、いまここにいる君も」

   改めてレイを抱きしめるシンジ

レイ「!」

   シンジから逃れるように身を離すレイ 数歩下がる

シンジ「あ……綾波!?」

レイ「嫌……」

   シンジをにらむレイ

シンジ「あ、あの――」

レイ「あの子と……ああいうこと、していたくせに」

シンジ「えっ?」

レイ「私をあの子の代わりにするの?」


シンジ「えっ!? い、いや――」

レイ「それは……嫌」

シンジ(そんな……)

   しばし呆然とレイを見るシンジ

シンジ(もしかして……あっちの綾波にヤキモチ焼いてた……のかな?)

   うなだれるシンジ

シンジ「――ごめん、そんなつもりじゃなかった」

レイ「……」

シンジ「でも、そうだよね。君は、あの子じゃない」

レイ「……」

シンジ「君がどんな気持ちでいるか、ちゃんと考えてなかった」

レイ「……」

シンジ「ごめん」

レイ「……もういい」

シンジ「……」

レイ「あの子じゃなく、私を見てくれるなら」

シンジ「……え?」

レイ「赦す」

シンジ「綾波……」

レイ「赦してあげる。……あの子にしたのと、同じようにしてくれたら」

シンジ「えっ?」

レイ「……」

   シンジを見つめているレイ

シンジ「……わかった。そうする」

レイ「そう」

   少し表情をゆるめるシンジ

シンジ「よ、よろしくね。あらためて」

レイ「……」

シンジ「じゃ、じゃあさ。取り敢えず探しに行かない? 何か食べられるものを――」

レイ「……」

シンジ「……いま?」

レイ「……」コクリ

シンジ「で、でも――」

レイ「やっぱり……嫌?」

   はっとするシンジ

シンジ「……ううん……いいよ」

レイ「……」

   レイの肩を両手でそっと包むシンジ

シンジ(落ち着け……「こっちの」綾波は、はっ……初めてなんだから……)

   近づく顔と顔 眼を瞑るレイ

シンジ(僕がちゃんとリードしないと――)

   ふと、眼を開けるレイ

シンジ「な……なに?」

レイ「声が……」

シンジ「えっ?」

レイ「人の声がしたような気が――」

   驚いて辺りを見回すシンジ

シンジ「……誰もいないよ?」

レイ「……」

シンジ「ほら……」

レイ「……」

シンジ「……?」

   何かが目に留まる

   少し離れた瓦礫の影 おそるおそると言った感じで現れる黒髪の頭

シンジ、レイ「!」

   目を見張るシンジとレイ とっさにレイを庇うように抱き寄せるシンジ

   やがて眼がのぞき、シンジと目が合ったとたん、あわてて引っ込む


シンジ「マ……マヤさん!?」

顔を見合わせ、あわてて体を離すシンジとレイ

   (物陰から)

   「マヤのばかっ! 見つかっちゃったじゃないの!」

シンジ「アスカ!?」

   瓦礫の向こう、立ち上がるアスカとマヤ

アスカ「ああもう!」

マヤ「ごっ、ごめんなさい!」

   赤くなって二人を見ているシンジとレイ

レイ「……」

シンジ「何で!? なんで二人ともそんなところに――」

   砂浜のプラグスーツとアスカを見比べるシンジ

   眼も腕も無事な瓦礫の向こうのアスカ

ミサト「ちぇーっ、もうちょっとだったのにぃ」

   続いて立ち上がるミサト

シンジ「ミサトさん!?」

マコト「やっぱ趣味悪いっすよ、葛城さん」

   立ち上がるマコトとシゲル

リツコ「あなたたちも同罪でしょ」

   立ち上がるリツコ

アスカ「あんただって同じでしょうがっ!」

冬月「恥をかかせおって……」

   億劫そうに腰を上げる冬月

シンジ「あっあの!……みんな、どうして……」

シゲル「いや、俺たちもよくわからないんだけど――」

マコト「うん。あのとき、急に何もわかなくなって、気が付いたら海の中みたいなところをゆらゆら漂ってるみたいな感じだったんだけど――」

ミサト「えっ?」

マヤ「そう。でも、そこで呼ばれたの。レイちゃんに。それだけは覚えてる」


ミサト「ちょっと! マヤちゃん、それって――」

マヤ「それ? レイちゃんに呼ばれたことですか?」

ミサト「違う、その前!」

マヤ「その前?」

リツコ「――補完計画そのものじゃないの」

マヤ「……だと思いますけど……」

ミサト「あたしは知らないわよ、そんなことになってたなんて」

マコト「えっ?」

ミサト「あたしは大ケガしてて、シンちゃんを送り出して……気が付いたら――」

リツコ「私と同様ね。……レイに呼ばれたのは、マヤたちと同じだけど」

   頷きながらレイを見る一同

レイ「……」

リツコ「ミサトや私は補完が始まる前に一度死んだのよ。たぶん」

ミサト「じゃ、じゃあなんで!? 補完の前に死んじゃったのなら――」

リツコ「さあ?」

一同「……」

リツコ「そうね、エヴァに関わったもの、関わりが深かったものは、何らかの束縛を受けている、とか」

ミサト「束縛?」

リツコ「そう。なんなら、呪縛と言い換えてもいいわ」

マヤ「呪縛……」

ミサト「呪縛ねぇ……」

一同「……」

ミサト「ま、いいわ。こうして五体満足でいられるなら」

シンジ「あ、あの……」

ミサト「ああ、ごめんね。シンちゃん。あたし達のことはいいから、つづきつづき」

シンジ「えっ!?」

ミサト「ごめんねー、せっかくいいとこだったのに」

シンジ「ちょ、ちょっとミサトさん!!」

レイ「……」

   赤くなって横を向いているレイ

アスカ「――ねえ、アタシ達だけなの? 元に戻ったのは」

ミサト「え?」

マコト「そうですよ、戦自の連中も戻ってたら厄介ですよ。それに委員会も」

シゲル「それは大丈夫じゃないかな」

マコト「なんでだよ」

シゲル「『あれ』を見たら、どっちがこれの黒幕だったか、みんなわかってるだろ」

マコト「そ、そりゃそうかもしれないけど――」

   と、響いてくる爆音 上空を見回す一同

   山の稜線から現れる2機の戦自のVTOL

アスカ「あれは――!」

リツコ「噂をすれば影、ね」

   一度行き過ぎて戻ってくるVTOL 一同から少し離れた空き地に向かって高度を下げながら

   『全員、そこを動くな』

マコト「えっ!?」

ミサト「くっ……」

シゲル「そんな……」

    『全員、向こうを向いて手を頭の上に組め』

冬月「やれやれ。一難去ってまた一難だな」 

リツコ「仕方ないわ。従いましょう」

   降下してくるVTOLに背を向け、手を頭の後ろに組む一同

マコト「くそっ、これじゃ後ろからいきなり撃たれても何もできない――」

アスカ「ほら、ファースト! アンタも!」

レイ「ええ……」

   『動いた者は、抵抗の意思ありと判断する』     

リツコ「……どうしたの?ミサト」

ミサト「?……あの声?」

   はっとして、衣服を探り出すミサト


アスカ「ちょっと! 撃たれちゃうってば!」

   携帯電話を探りあて、ボタンを押すミサト

   着地しようとしているVTOL

   『全員、その場に跪いて――』トゥルルルル……

一同「!?」

   VTOLのスピーカーから響く着信音

ミサト「やっぱり!! あんのバカ!!」

   『いやぁ、ばれちまったな』

マコト「かっ……」

アスカ「加持さん!?」

   着地するVTOL 風防の奥でウインクする加持

リツコ「やられたわね……」

マヤ「あ、あたし、全然わからなかった……」

ミサト「アイツの特技よ、声色を使い分けるのは」

   機体側面のハッチがあき、身を乗り出す加持 マイクのようなものを掴んでいる

加持『すみません、副司令。松代経由だったもんで』

冬月「――彼も束縛されているのかな」

リツコ「さあ……どうでしょう」

加持『おーい、みんな、突っ立ってないで、乗った乗った!』

ミサト「誰が立たせたと思ってんのよ! まったく」ブツブツ…

リツコ「もういいから。さあ、行きましょう」

マヤ「はい!」

   歩き出す一同

シンジ「……綾波?」

   数歩、歩き出して振り返るシンジ 俯いて立ち尽くしているレイ

   少し先を歩いていたアスカも気づいて振り返る

   レイのところに戻るシンジ

シンジ「どうしたの? 行こう?」

レイ「でも、私は……」

シンジ「綾波……」

アスカ「ああもう!!」

   ずかずかと戻ってくるアスカ

アスカ「めんどくさいヤツね。もう誰もアンタのことなんて気にしちゃいないわよ」

レイ「でも……」

アスカ「いや……気にしないってのは違うわね。気にしてる」

   VTOLの手前で各々振り返ってやりとりを見ている一同

アスカ「ええ、気にしてるわよ。……感謝してる」

シンジ「えっ?」

アスカ「みんな、わかってる。世界をぶっこわしたのは……あの白いでっかいヤツ」

レイ「!」

アスカ「でも、元に戻してくれたのは、あんたよ、ファースト」

レイ「……セカンド……」

アスカ「ちゃんとわかってる」

一同「……」

アスカ「いい? わかったら行くわよ」グイッ

   レイの手をとるアスカ

レイ「!……セカンド……」

アスカ「ほら、早く」

   少し頬を赤らめているアスカ それをレイに見られない様に前を向いている

シンジ「そうだね。行こう、綾波」

   もう一方の手をとるシンジ

レイ「碇くん……」

   微笑むシンジ 少し不満そうなアスカ

レイ「……わかった」

   微笑んで歩き出すレイ レイの手を引いて歩き出すシンジとアスカ

   三人が追いつくのを各々の位置で待っているミサト、リツコ、マヤ、マコト、シゲル、冬月

シンジ「……」

レイ「碇くん」

シンジ「えっ?」

レイ「どうしたの?」

シンジ「うん……父さん、いないんだなって思って」

レイ「……そうね」

シンジ「やっぱり、行ってしまったのかな……母さんと」

レイ「わからない。でも、そうかもしれない」

シンジ「……」

レイ「だいじょうぶ?」

   気遣わしげにシンジの顔を覗き込むレイ 寂しげに微笑み返すシンジ

シンジ「うん。だいじょうぶだよ」

レイ「そう……」

   気が付くと、VTOLの向こう側からも集まってくるネルフの職員たち

加持『あーっ、と。一度には無理だな。悪いけど順番だ。すぐ後続がくるから――』

   歩いて行くシンジ、レイ、アスカ

レイ「……碇くん」

シンジ「なに?」

レイ「今度は……合ってる?」

   一瞬、きょとんとした顔をするシンジ

レイ「……」

シンジ「うん」ニコ

レイ「……そう。よかった」ニコ

   咳払いするアスカ  アスカを見るシンジとレイ

アスカ「……ちょっとアンタたち。アタシがいるの忘れてないでしょうね」

シンジ「わっ忘れてないよ!」

アスカ「ふん。ほら、走るわよ!」ダッ……

レイ「きゃっ!」

   レイの手をひいたまま駆け出すアスカ


シンジ「ちょっと、アスカ!」

   慌てて続くシンジとレイ  走りながら顔を見合わせて微笑む

   ミサト達を追い越しVTOLの周りの人ごみに駆けて行く三人の子供たち

   青空から、高度を下げてくる後続のVTOL

   朝日に照らされている山並、きらきらと輝いている芦ノ湖の青い湖面

    :
    :


終劇

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年02月20日 (木) 19:58:48   ID: NLKVkrLL

RETAKEのアスカが綾波に変わっただけでほぼ一緒だな
パクリか?

2 :  【告知】   2014年02月23日 (日) 01:46:42   ID: JMVSkAka

元板復旧しないので別版に再掲

http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1392990067/l50

3 :  SS好きの774さん   2014年09月16日 (火) 22:45:33   ID: 9v1UvjCc

乙です。
ところどころで泣いてしまいました・・・。

4 :  SS好きの774さん   2016年07月06日 (水) 03:43:59   ID: q8Soe74B

最後の方、丸々一緒じゃん。パクりrと言うか劣化コピーと言うか

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