勇者「ハーレム言うなよ!絶対言うなよ!」武道家「4よっ!」 (980)


このSSはドラクエ3をベースにした半分オリジナルのSSです。
独自解釈だらけです。更新が恐ろしく遅いです。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1391439700

●主要キャラ紹介


・勇者


主人公。



・女勇者


主人公の義妹。勇者。オルテガの娘。


・戦士


主人公の幼馴染。戦士職。男勝り。


・武道家


主人公の幼馴染。武道家職。勝ち気。


・魔法使い


主人公の幼馴染。魔法使い職。いつもふわふわ。


・僧侶


主人公の幼馴染。僧侶職。ハーフエルフ。


・商人


主人公の幼馴染。商人職。倹約家。


・盗賊


主人公の幼馴染。盗賊職。カンダタの娘。


・遊び人


主人公の幼馴染。遊び人職。真面目。


~あらすじ~


勇者は豚箱行きになりました


-幕間-


【Wish You Were Here】

――――――――――――
――――――――――――


…………


『……思い出しては駄目よ』

『思い出しても、何にもならないわ』

『無駄よ、そんな行為』

『報われるだなんて、そんなの誰が決めたのかしらね』

『忘れられて報われる事もあるんじゃないかしら』

『……』

『……無駄でしょうね』

『きっと、こうやって言っても……どんな事を言っても貴方はきっと聞かないわ』

『ずっと、そうだったもの』

『…………』

『……』

『不機嫌、なのかしらね』

『自分でも分からないわ』

『昔から、貴方を見ているとこういう気持ちになる事があったの』

『……貴方は、正しいつもりでも』

『周りの人間の尺度では、それは正しくない事にもなり得る』

『…………』

『……』

『貴方は、馬鹿よ』


『……でも、全てが愛おしく感じるわ』

『…………』

『ほら』

『夜が来る』

『あなたの知っている夜ではないわ』

『感覚に黒い帳が降りていくの』

『……』

『慣れないわ、これ、ばっかりは』

『…………』

『……さよなら』

『さよなら』

『さよなら』

『さよなら』

『さよなら』

『さよなら』

『……あと何回言えばいいのかしら』

『あと何回言えば、終わるのかしら』

『あと何回言えば……貴方は』

『私を、忘れてくれるのかしら』

『……』

『黒い帳が降りてくる』

『貴方の頭上にも、私にも』

『……振り返っては駄目よ』

『“それ”は、足元に、背後に、多分』

『手探りで……貴方を』

『……気をつけて』

『気をつけて、愛しい貴方』

『気をつけて』

『気をつけて』

…………
……


―ポルトガ城―


「……」スタスタ

ガチャッ


―謁見の間―

スタスタ

「失礼します。やはりもう起きておられましたか」


大臣「……!」

ポルトガ王「……どうなされましたかな」

「いえ、伝達などが完了致しましたので、その報告をと」

ポルトガ王「……そうですかな」

大臣「……」

「ああ、少々兵をお借りしてよろしいでしょうか?」

大臣「構いませんが……どうかなされましたか?」

「いえ、地下にもう一度案内していただこうと思いましてね」

ポルトガ王「!」

大臣「し、しかし」

「おや、この件では全て私に任を委ねていただけるのですよね?」

大臣「……っ、申し訳ございません」

ポルトガ王「……おい」

ポルトガ兵「「はいっ!」」

ポルトガ王「この方をご案内して差し上げろ」

ポルトガ兵「……かしこまりました」

ポルトガ兵2「こちらです」

「感謝いたします。それでは」ニコッ

スタスタ

……

ポルトガ王「……」

大臣「…………王……」

―地下―


ガシャッガシャッ


ポルトガ兵「こちらです」

ポルトガ兵2「暗いので足元にお気をつけ下さい」

「それで、どうです?」

ポルトガ兵「依然として全く口を割りません」

ポルトガ兵2「もう丸一日もあのような状態です」

「そうですか」

ポルトガ兵「こちらの牢です」

「……ありがとうございます」

スタスタ


―ポルトガ・地下牢―



ガシャアアン


「……」

スタスタ

「…………」

「こんにちは、ご機嫌いかがですか?」




勇者「……」




騎士団長「……――勇者君」



第六章

勇者「……ぐ……っ」

騎士団長「……おや?」

勇者「ぎ……」

騎士団長「おやおや、挨拶が聞こえませんね」

クルッ

騎士団長「ねえ?そこの貴方」

ポルトガ兵「え?は、はいっ」

騎士団長「ですよねぇ……寝てるんでしょうか」

騎士団長「じゃあ貴方、起こしてあげてくださいよ」

ポルトガ兵「え?でも、彼は今、起きて――……」

騎士団長「起こしてあげてください」

ポルトガ兵「……」

騎士団長「そうですね……お」

ヒョイ

騎士団長「これは丁度いい」ブンッブンッ

ポルトガ兵「それは……囚人が悪さをした時に使う鉄の棒で」

スッ

騎士団長「……これで、起こしてあげてください」

ポルトガ兵「……っ」

騎士団長「どうしました?早くこれで」

ポルトガ兵「しかしっ!!彼はもう十分怪我を――……」

騎士団長「やりなさい」

ポルトガ兵「……!!」

ポルトガ兵「……」

ポルトガ兵「……」

スッ

ポルトガ兵2「お、おいっ……!」

ポルトガ兵「……」ギュッ

スタスタ……


勇者「……ぐっ……」


スタスタ…ザッ


勇者「…………?」


ポルトガ兵「……」


勇者「……な……」


ポルトガ兵「……っ!!!!」

ブンッ!!

ドボォッ!!!!


勇者「……~~~~~~~っ!!!?」


ポルトガ兵「はぁ……はぁ……!」

勇者「おっ、ごぉ……!!!!!!あ"、ぐ」

騎士団長「どうしたんです?続けなさい」

ポルトガ兵2「!?」

ポルトガ兵「し、しかし騎士団長!!彼はもう目覚めています!!!私には――……」

騎士団長「やりなさい」

ポルトガ兵「でも、でも」

騎士団長「今まで築き上げてきた地位が惜しいのなら、続けなさい」

ポルトガ兵「……」

騎士団長「貴方の目の前に居るのは魔物ですよ?」

騎士団長「魔物に慈悲なんていりませんよ……さあ」

ポルトガ兵「……」

クルッ

ブンッ!!!

ドカァッ!!!


勇者「ぎっ!!?」


ポルトガ兵「っ!!っ!!」ドカッ!!ドカッ!!

騎士団長「はは、その調子です」

ポルトガ兵「く、そっ……!!」ドカッ!!ドカッ!!

勇者「あ、があぁぁぁぁっ……!!!!」

騎士団長「素晴らしい、これで彼も自分の正体を明かす気にもなるでしょう」


「とんだ悪趣味ですこと」


ポルトガ兵「!?」ピタッ

ポルトガ兵2「!」

騎士団長「……ああ、これはこれは」


スタスタ……


ランシール勇者「あまり感心できない尋問ですわね?」

ポルトガ勇者「うわぁ、えっげつねぇのなー」

エジンベア勇者「しかし血生臭いねぇ……僕ここ嫌いだなァ」

イシス勇者「……」


騎士団長「勇者の皆さん、おはようございます」

ポルトガ勇者「おい、お前らもう上戻ってろ」

ポルトガ兵「お、王子!」

ポルトガ兵2「ありがとうございます!」

ポルトガ勇者「王子って呼ぶなって……じゃあな」

タッタッタ

ポルトガ勇者「……ったく、うちのモン使って拷問させてんじゃねーよ」

騎士団長「拷問のつもりでは無かったのですがね」

ポルトガ勇者「けっ、よく言うぜ」

ランシール勇者「それで、どうですの?彼」

騎士団長「ああ、ずっとだんまりですよ」


勇者「……」


ランシール勇者「あらら、一晩たっただけで随分な有様ですわね」

エジンベア勇者「ははは、ボロ雑巾みたいになってるけど生きてるのかい?」

ポルトガ勇者「ん?ってうええ、マジかよ。あいつ手の爪剥がされてやがる」

ランシール勇者「……本当にいい趣味してますわね」

騎士団長「ああ、あれですか。あれをやった時は流石に自供するかと思ったんですがね」

騎士団長「……おや?剥がし残しがありますね」

スタスタ

ランシール勇者「……?ちょっと騎士団長」

エジンベア勇者「えぇ!?ここでやるのかい?ちょっと待ってくれないかぁい?朝食前なんだよ?」

スタスタ

グイッ

勇者「っ……!!」

騎士団長「あと一枚だけですから……まぁ」

ベリッ…

勇者「ッッッ……!!!!」

騎士団長「見ていてくださ」


ガシッ


騎士団長「……何です?」

勇者「……っ……?」


ポルトガ勇者「もうやめろよ」ググ


騎士団長「……」

パッ

騎士団長「……何故です?」

ポルトガ勇者「何故です?じゃねえよ、単純に気分悪いんだよそういう拷問は」

騎士団長「この件での責任者は私となっておりますが」

ポルトガ勇者「いやわかってるけどなんか胸糞わりいんだって!やめてくんね!?」

騎士団長「しかし、未だ彼はあの件について有力な――……」

ポルトガ勇者「後で俺がやっとくから!俺が死なない程度にやっておくって!」


<ワーワー


ランシール勇者「まーた始まりましたわね」

エジンベア勇者「あの二人、本当に相容れないよねえ」



ポルトガ勇者「コイツが魔物だっつってもよぉ、ここまで何も吐かなかったんだろ?」

ポルトガ勇者「だったらこの方法続けても何にもならねぇって!」

騎士団長「……まあ、いいでしょう」

クルッ

騎士団長「さて……ん?」


イシス勇者「……」


騎士団長「イシス勇者さん……どうかされました?」

イシス勇者「いえ、何も」

騎士団長「……ああ、そういえば貴方、彼と少し前に知り合っていたのでしたか」

イシス勇者「……」

騎士団長「なんです?彼に同情でもしているのですか?」

イシス勇者「……違いますよ」

クルッ

スタスタ

イシス勇者「ボクは……魔物がこの世で一番憎いんです」

イシス勇者「…………それには、例外などありません」

エジンベア勇者「おい、どこ行くんだい?」

イシス勇者「気分が悪い……先に戻ります」

スタスタ……

騎士団長「……ふふ、勇者の皆さんも気難しい方が多い」

ポルトガ勇者「お前が言うなっての!」

ランシール勇者「ポルトガ勇者、今はこの方が上官ですのよ?」

騎士団長「いいんですよ……おや?スー勇者さんとムオル勇者さんは?」

ランシール勇者「スー勇者はまだおねむですわ」

ポルトガ勇者「こんな早朝に起きるなんて、あのチビには無理だろ。仕方ねえよ」

エジンベア勇者「起きていたとしてもこんな血生臭い所には連れて来れないねぇ」ファサッ

騎士団長「ではムオル勇者さんは……」

ランシール勇者「……あの娘の監視をしています」

ポルトガ勇者「あいつは手が付けられねぇと思ったけど……ムオル勇者なら安心だな」

エジンベア勇者「あんなに麗しい女性なのに……棘は研ぎ澄まされていた……しかしそれもまたいい……」

騎士団長「……そうですか」

騎士団長「それでは私達も向かいましょうか」

ランシール勇者「ええ、そのために騎士団長を呼びに来たのです」

ポルトガ勇者「さっさと行っちまおうぜ」

エジンベア勇者「地下の陰気臭さに当てられてまだ当分朝食は食べられそうにないよ……」

スタスタ

ガシャァン

ガチャガチャッ

騎士団長「これでよし、と」

騎士団長「……それでは勇者君」



勇者「…………ぐ……っ……」



騎士団長「また来ますよ……そこで待っていてくださいね」

スタスタ…

騎士団長「…………――懺悔も命乞いも、そこからは届きませんけれど」

今日はここまでです


―ポルトガ城・客室―


ガチャッ

メイド「失礼致します」

カラカラ

コトッ コトッ

メイド「こちら、ご自由に召し上がって下さい」


魔法使い「……ありがとうございます」

武道家「……」

商人「……」

僧侶「……」

戦士「……」

盗賊「……」


メイド「……それでは、失礼します。何かありましたら申し付けて下さい」

武道家「ええ、ありがとうございます」

メイド「では」ペコリ

スタスタ

ガチャッ バタン


メイド「……」

スタスタ

メイド「はぁ……」

メイド2「あ、届け終わった?」

メイド「ええ、でも全然。食べる雰囲気じゃなかったわ」

メイド2「大丈夫かしら、昨日からずっとあの調子よね」

メイド「そうね……いつまであんな部屋に閉じ込めておくつもりかしら、王様」

メイド2「仕方ないわよ、王様の意思ではないらしいから」



…………



武道家「……」

商人「……」

戦士「……」

魔法使い「……」

盗賊「……」

僧侶「……」


「……食べないのか?」


戦士「……うるせえ」

武道家「食べられるわけないでしょ……こんな状況で」

「そうか……」

商人「ま、貴方みたいな監視が居なければまだちょっとは違うんですがね」


ムオル勇者「……」


ムオル勇者「すまないが席を外す事はできん、お前らが何を起こすか分からないからな」

戦士「わかってるつうの……」

武道家「……仮に」

ムオル勇者「何だ」

武道家「仮に、事を起こしたら……どういう手筈になってるの?」

ムオル勇者「……」

商人「どうするんですか?殺します?」

ムオル勇者「……いや、お前達は手厚く扱うように騎士団長は言った」

魔法使い「……」

僧侶「……」

盗賊「……」

ムオル勇者「ただ、お前達は強い」

チャカッ

ムオル勇者「だから、俺は力尽くで対応しなければならなくなる」

商人「怖いですねえ」

戦士「……でも、こっちは6人も居るんだぜ?お前に」

ムオル勇者「勝てる」

戦士「!」

ムオル勇者「まあ、多少時間は食うだろうが……」

ムオル勇者「それだけだ、容易い」

魔法使い「……」

ムオル勇者「……それに、あまりそういった事は考えないことだ」

ムオル勇者「騎士団長はお前らが事を起こした際に備えて俺に他の命令も与えている」

僧侶「他の……命令?」

ムオル勇者「お前達が、もし脱走を試みようなら……地下の兵に伝達」


ムオル勇者「…………その場合、兵が奴の首を刎ねる」


一同「「「!!!!」」」


戦士「お前ッ!!!!!」ガタァン!!!

ガシッ!!

魔法使い「戦士っ!!だめぇっ!!」ギュッ

戦士「離せ魔法使い!!こいつら、こいつら!!!!」ギリッ!!

商人「ちったぁ考えなさい、この脳筋」

武道家「今ここでアンタがこいつに歯向かえば、そうなるって話なのよ」

戦士「……っ!!」

僧侶「……落ち着いて?戦士ちゃん……ね?」

戦士「……」

スタスタ

ドカッ

戦士「……くそっ……!!」

ムオル勇者「……大人しくしている事だ」

武道家「うるさい」

ムオル勇者「……」

武道家「私達だって戦士と同じくらいむかついてんのよ」

武道家「お願いだから、黙ってて」

ムオル勇者「……む」

ガタッ

盗賊「……?……」

ムオル勇者「では、俺はドアの外で監視しておく」

ムオル勇者「変な気は起こすな」

魔法使い「わかってるってば……」

ムオル勇者「窓の下にも監視は居る。逃げ場など無い」

盗賊「……厳重、なんですね……」

ムオル勇者「……それと」

武道家「何よ、まだ何かあるの?」

ムオル勇者「お前達は何か勘違いしているようだが」

ムオル勇者「実質、こちら側が掌握しているのは、勇者だけではない」


一同「「「……!!」」」


ムオル勇者「…………覚えておけ」

キィィ…

バタン

―地下牢―


ピチョン…


勇者「……」

勇者「…………ぐ」

勇者「……ん……?」

勇者(……ここ、は……)

ズキィッ!!

勇者「ぐぁぅ……!!」

勇者(痛っ……!!そうだ、そうだった……)

勇者(僕は、捕まって、そして……)

勇者「……」

勇者(皆は……皆は、どこだ)

ズリッ……ズリッ……

勇者「ふっ……ふっ……!!」ズリッ ズリッ

勇者「……!」


ポルトガ兵「……」


勇者(見張り……)

勇者「あのっ……」

ポルトガ兵「……」

勇者「すみません……聞いても、いいですか」

ポルトガ兵「……」

勇者「皆は……僕の仲間達は、どこに」

ポルトガ兵「……」

勇者「……あの」

ポルトガ兵「……」

勇者「すみませんっ、皆はっ」

ポルトガ兵「……」

勇者「……」

勇者「……すみません」

勇者「皆は……無事ですか」

勇者「それだけ……教えてください」

勇者「皆は、皆は無事ですか……?」

ポルトガ兵「……っ」

スタ

勇者「あっ」

ポルトガ兵「っ……」スタスタ

スタスタ…

勇者「…………」

勇者(行っちゃった……)

勇者「……っ」スゥゥ

勇者「おいっ……みんなっ、いるか……!?」


シーン……


勇者「……」

勇者(よかった……地下牢には、いないみたいだ)

ジャリッ…

勇者(……手錠と、足枷か……)

勇者(手の爪も剥がされてるし……多分、骨も何本か折れてる)

勇者(……)

勇者(今は……待つしかないか)

…………
……

―上階―


見張り兵「ふぁぁ……」

スタスタ

見張り兵「お?」

ポルトガ兵「……お疲れ」スタスタ

見張り兵「おお、どうしたんだ?まだ交代の時間じゃ」

ポルトガ兵「いや、ちょっと、水を飲みにな」

見張り兵「それにしちゃなんか浮かない顔してんな」

ポルトガ兵「……ああ」


「どうかしたのかよ?」


ポルトガ兵「!」

見張り兵「王子!」

ポルトガ勇者「よう、お疲れ」スタスタ

見張り兵「いえね、こいつがなんか浮かない顔してて」

ポルトガ勇者「お?どうかしたのか?」

ポルトガ兵「……」

ポルトガ勇者「……?おい」

ポルトガ兵「……王子、私は……あの少年が魔物には見えません」

ポルトガ勇者・見張り兵「「!」」

ポルトガ兵「何かの間違いではないのでしょうか……」

見張り兵「お前何言ってんだ!!そんなの騎士団長様や勇者様方に聞かれたら」

ポルトガ勇者「うん、俺もそう思う」

見張り兵「ってえぇぇぇ!!?王子、国連の勇者である王子がそんな事言って大丈夫なんですか!?」

ポルトガ勇者「だって本当にそう思うんだもん。お前もアイツが魔物に見えるか?」

見張り兵「う……それは……その」

ポルトガ兵「私には、もう、彼の姿が痛々しくてっ……!」

見張り兵「で、でもあいつ、本当にルビス様のご加護なかっただろ!」

見張り兵「拷問で剥がされた爪……試しに城の僧侶様に回復呪文かけてもらったけど何にもならなかったじゃんか!!」

ポルトガ兵「……それは……そうだけど……」

見張り兵「だろ!?そんな人間なんて普通いないんだからさ!!」

ポルトガ勇者「まぁまぁ、喧嘩すんな」

見張り兵「でもこいつがこんな事言ってたら騎士団長様に!」

ポルトガ勇者「あいつは所用があって出かけたよ」

見張り兵「え?所用?」

ポルトガ勇者「ああ、戻ってくるのは明日以降じゃねえかな」

見張り兵「……で、でもだからといって魔物の疑いがある奴の肩を持つ発言なんて……」

ポルトガ兵「だけどっ」

ポルトガ勇者「ストーップ、ストーップ。わかった、わかった」

見張り兵「王子……」

ポルトガ勇者「とりあえず、ポルトガ兵はもう持ち場解除するから、詰所に戻ってろ」

ポルトガ兵「へ……?」

見張り兵「で、ですけど奴の見張りは」

ポルトガ勇者「次の尋問がそろそろ始まるから大丈夫だ」

ポルトガ兵「!」

見張り兵「また、尋問……ですか?」

ポルトガ勇者「ああ、ちょっと用意があるから、もう少ししたらだけどな」

ポルトガ兵「えっ」

見張り兵「……って事は、次の尋問は……」

ポルトガ勇者「おう、俺だ」

ポルトガ兵「……っ……」

見張り兵「……そう、なんですか……」

ポルトガ勇者「尋問は手馴れたもんだ。大丈夫」


ニコォ


ポルトガ勇者「俺が洗いざらい、話を聞き出してやるよ」

今日はおしまいです

―ポルトガ城・廊下―


ムオル勇者「……」

ツカツカ…

ランシール勇者「見張り、ご苦労様ですわね」

ムオル勇者「む……ランシール勇者か」

ランシール勇者「彼女たちの調子は如何?」

ムオル勇者「……いたって静かだ」

ランシール勇者「ふふ、よかった」

ムオル勇者「それより、お前」

ランシール勇者「なんですの?」

ムオル勇者「お前は騎士団長と一緒に出発する筈だったろう」

ランシール勇者「ああ、少し遅らせてもらいましたの」

ムオル勇者「他の奴らもか?」

ランシール勇者「いえ、エジンベア勇者とスー勇者はもう同行してますわ」

ムオル勇者「ポルトガ勇者とイシス勇者は」

ランシール勇者「ポルトガ勇者は留守番」

ランシール勇者「イシス勇者は……どうも体調が優れないみたいですわね」

ムオル勇者「……そうか」

ランシール勇者「ま、見張りは貴方がいるから安心ですわね」

ムオル勇者「しかし」

ランシール勇者「まだ何か?」

ムオル勇者「お前はどうして出発を遅らせた?」

ランシール勇者「え?ああ、そうでしたわね」

スタスタ

ザッ

ランシール勇者「……ここに、ちょっと用事があって参りましたの」

―客室―

ガチャッ


戦士「!」

武道家「!」


ランシール勇者「あら、皆様ごきげんよう」


魔法使い「……あなたっ……!」

商人「国連の!」

ランシール勇者「そうです。ランシールから参りましたランシール勇者ですわ。お見知りおき下さいな」ニコ

戦士「何しに来たんだよ!」

ランシール勇者「あら、随分嫌われたものですわね」

武道家「……よく言うわよ」

商人「用を早く済ませて出て行きやがって下さい。可能なら解放しやがって下さい」

ランシール勇者「あらら、では単刀直入にいきましょうか」

ランシール勇者「彼について聞きたい事がありますの」

盗賊「……勇者の事ですか?……」

ランシール勇者「ええ……いえ、正しくは彼にまつわる人物のお話」

武道家「話すと思う?」

ランシール勇者「ですからお願いしているんですわ」ニコッ

戦士「却下だそんなん!!」

ランシール勇者「あらあら、取り付く島もない」


商人「そりゃそうです。こちらからすれば貴方達が取り付く島もないんですから」

ランシール勇者「そう……じゃあ、もっと質問を具体的にしますわね」



ランシール勇者「賢者ガルナ」



武道家「っ!」

商人「……!」

魔法使い「な……」


ランシール勇者「あの賢者ガルナ様が……少女だったという話は本当ですか?」


戦士「……っ」

僧侶「……」

盗賊「…………」


ランシール勇者「……あなた方」

ランシール勇者「賢者ガルナ様と親交があったというのは本当ですか?」


戦士「……やめろ」


ランシール勇者「…………昨日耳にしたと思いますが」



ランシール勇者「勇者さんが、彼女を殺したというのは本当ですか?」



戦士「……――こいつッ!!!!!」ガタッ!!!

武道家「ちょっ!戦士ッ!!」ガタッ


ドッ!


戦士「!?」ピタッ

武道家「……え」


僧侶「…………」


ランシール勇者「え……ちょっと、貴女」

僧侶「……」

ランシール勇者「ちょっと、なんで土下座なんて」

僧侶「……ます」フル…

ランシール勇者「えっ?」

僧侶「…………がい、します」フルフル…

ランシール勇者「……」


僧侶「お願い……します」

僧侶「そんな事、二度と……言わないで下さい……!!」

僧侶「お願いです……!!お願いです……!!」

僧侶「お願いします……!!帰って、下さい……!!」


ランシール勇者「……」

魔法使い「……僧侶」

僧侶「……お願いしますっ……!!」

魔法使い「……」

ギュッ

魔法使い「……おねがいします、もう、でていってください」

魔法使い「これいじょう、なにか言われたら……」

ランシール勇者「…………」

ザッ

スタスタ

ランシール勇者「……ちょっと、私の質問も性格が悪すぎましたわね」

ランシール勇者「失礼させて頂きますわ」


僧侶「……」

魔法使い「……」


ランシール勇者「……ただ」

スタ

ランシール勇者「これだけは覚えていて欲しいのですが、私は別に意地悪で聞いたわけではありませんわ」

ランシール勇者「ただ、真実を求めているだけですの」

盗賊「……真実?……」

ランシール勇者「ええ、何も私は彼を悪魔に仕立て上げたい訳ではありません」

ランシール勇者「私は知りたいだけです……あの日の真実を」


戦士「あの日の……」

商人「……真実……?」


ランシール勇者「……そのためには、彼が大きな手がかりなんです」

ランシール勇者「さて…………聞きだすつもりが少し喋り過ぎたみたいですわね」

ガチャッ

ランシール勇者「それでは、皆さん。また会いましょう」

バタン


武道家「…………何よ、あの女」

商人「……あの日の、真実……ですか」

戦士「何も、全員が全員勇者を貶めようとしてるわけじゃないのか……?」

盗賊「……みたいだね……」

魔法使い「すくなくとも、いまの人みたいなひとたちはいるってことかな」

武道家「だといいけど……」

僧侶「……勇者くん……大丈夫でしょうか」

商人「……」

戦士「…………くそ」

武道家「今……どこにいるのかしら……」

武道家「勇者も……女勇者達も……」





……
…………

―地下牢―


オオォォオォォォ……


勇者「……」

勇者(床が、冷たい)

勇者(体が、あちこち痛い)

勇者(全然考えが纏まらない)

勇者(……今、僕がすべき事……)

勇者「……」


<スタ…


勇者「!」

勇者(……足音)


スタスタ

スタスタスタスタ

スタ…  ザッ



ポルトガ勇者「よう」



勇者「……」

ポルトガ勇者「相変わらず時化た面してんなぁ」

勇者「……」

ポルトガ勇者「……またまたお得意のだんまりかよ」

ポルトガ勇者「まぁなんにせよこれから楽しい楽しい尋問の始まりだ」

ポルトガ勇者「…………洗い浚い話してもらうぜ」

今日はおしまいです

>>1 がいいならクリスマス絵以外は上げれるんだけどね
クリスマスだけ消しちゃった

キィィィ

ガチャンッ……

スタスタ

スタ…


ザッ



ポルトガ勇者「…………」


勇者「…………」



ポルトガ勇者「……」

勇者「……」

ポルトガ勇者「…………おい」

勇者「…………何、ですか……」

ポルトガ勇者「お!反応したな」

スタスタ

ポルトガ勇者「死んでなかったか、よし」

勇者「……」

ポルトガ勇者「調子はどうだ」

勇者「……」

ポルトガ勇者「痛むか?」

勇者「……」

ポルトガ勇者「…………くくっ、本当にだんまりなのな」

勇者(…………また、尋問か)

勇者「…………僕には」

ポルトガ勇者「ん?」

勇者「僕には……多分……貴方達を満足させるような情報は……きっと喋れない」

勇者「…………それでも、いいなら……続けて下さい」

ポルトガ勇者「……何?」

勇者「貴方達は……僕が魔物だと思ってるんでしょう」

勇者「そう思うなら、どれだけ疑ったっていい……」

勇者「ただ……お願いがあります」

ポルトガ勇者「何だ?言ってみろよ」


勇者「皆は……無事、なんですか……?」

勇者「それだけ……教えてください」


ポルトガ勇者「……!」


勇者「僕は、僕は魔物だってなんだっていい」

勇者「ただ、彼女達は違う、本当に、人間なんだ」

勇者「ルビス様の加護がある、アリアハンで加護をいっぱい浴びて育った、人間なんだっ……」

勇者「僕に、魔物に加担してるわけでもなんでもない、彼女達は、何も知らない人間だ」

勇者「あいつらは、無事に、アリアハンに帰してくださいっ」

ポルトガ勇者「……」

勇者「……っ、お願いです……」

ポルトガ勇者「くくっ、くひひっ」

勇者「……?」

ポルトガ勇者「くははっ!……こんな時にツレの心配かよ」

ポルトガ勇者「随分優しいじゃねえか、魔物さんのくせに」

勇者「……魔物じゃ、ありません」

勇者「それに……優しいとかじゃない」

勇者「あいつらは、本当に……無関係なんだ」


ポルトガ勇者「まあそう思ってるのはお前だけだ」


勇者「……え?」

ポルトガ勇者「…………国連があの女達に何も懸念しないと思ったかよ?」

勇者「……」

勇者「…………」

勇者「………………」

ポルトガ勇者「……お前より先に」

勇者「………………まさか」



ポルトガ勇者「魔族裁判にかけられるって言ったら……どうするよ?」



勇者「……――っ!!!」

ポルトガ勇者「今頃、港でサマンオサ行きの船に乗せられてる頃じゃねえかな」

勇者「……」

勇者「……」

勇者「……」

ポルトガ勇者「おお、すげえ顔だな。一気に表情が無くなったぜ」

勇者「……おい」

ポルトガ勇者「ん?なんだ?他に何か聞きたい事は」


ゾクゥッ


ポルトガ勇者「……っ」




勇者「ふざけるな」


勇者「ふざけるな、止めろ」


勇者「船、止めろ」


勇者「早く、止めろっ」




ポルトガ勇者「……」ビリビリッ

ポルトガ勇者(なんだこいつ……急に別人みたいになりやがった……!)

勇者「早く止めろっ……!!」

勇者「あいつらは本当に、本当に関係ないんだ」

勇者「あいつらに、何かあったらっ」


ポルトガ勇者「……すまん、嘘」


勇者「はやくっ!!…………え?」


ポルトガ勇者「いや、すまん。あいつらはまだ上の客室に居る。裁判にかけられる予定もねえよ」

勇者「……本当、ですか……?」

ポルトガ勇者「ああ、今のは本当。さっきのは全部嘘」

勇者「……」

ポルトガ勇者「悪かったな、ちょっとカマかけてみただけだ」

勇者「…………そう、ですか」

ポルトガ勇者「……」

勇者「……」

ポルトガ勇者「……ぷっ」

ポルトガ勇者「ぷぁっはっはっは!!くはははは!!」

勇者「何ですか……そんな、嘘ついて……馬鹿にして、笑って……」

ポルトガ勇者「いや、わりい!安心したら別人だもの!お前!!」

勇者「……」

ポルトガ勇者「くひひっ!ふはぁ……さぁて……よいしょっと!」

ゴトッ!!

勇者「!!」

ポルトガ勇者「ジャブも終わったし、尋問を本格的に始めるか」

勇者「……?」

勇者(なんだ……?この、樽……)

ポルトガ勇者「俺は言葉が巧みでもねえからな、道具使わねえと尋問なんてろくにできねえ」

勇者「道……具……?」


ピチャッ…


勇者「……?」

勇者(赤い、液が……樽から)

勇者「…………」

勇者「……――血?」


ポルトガ勇者「これでお前も吐く気になるだろ」


勇者「……」

勇者「…………――まさか」


ポルトガ勇者「さぁて」


勇者「まさかっ」


ポルトガ勇者「ご対面といこうか」


ゴトンッ


勇者「…………――!!!!」



タプンッ



勇者「…………?」


ポルトガ勇者「あれ、杯は……あったあった」ゴソゴソ

勇者「……?」

勇者(なんだ、アレ……赤い、液体?)

勇者(血じゃ、ない?)

勇者「……ん?」

勇者(え?あれ、この匂いって)

ザプンッ

ポルトガ勇者「ほい一丁!!!!」

ゴトンッ!!

勇者「へ?」

ポルトガ勇者「さぁて!!!」





ポルトガ勇者「呑もうぜ!!」ニコー





勇者「……」

勇者「えっ?」

ポルトガ勇者「だから呑むぞって」

勇者「え?呑……え?」

ポルトガ勇者「あ?ああ、そっか。手枷も足枷もあんのか」

スタスタ

ガチャガチャッ

ガシャン ガシャンッ

勇者「えっ」

ポルトガ勇者「邪魔だなぁ」

勇者「えっ」

スタスタ

ドスッ

ポルトガ勇者「さぁて!改めて」

ポルトガ勇者「呑むか!!」

勇者「えっ」

ポルトガ勇者「ほら、早く杯持てっての」

勇者「えっ」

ポルトガ勇者「ってか杯持てるか?爪はがれてる手で」

勇者「え?あ、おあっ?」ヒョイッ

ポルトガ勇者「お、持てるな。それじゃ!」


カツーン!!




ポルトガ勇者「かんぱーい!!!!」



勇者「んん――――???」



ポルトガ勇者「んっんっんっんっ!」ゴクッゴクッゴクッゴクッ!!!

ゴトン!!

ポルトガ勇者「~~~っ!!ぷはぁ――――!!!!」

ポルトガ勇者「ロマリアの赤ワインはマジで絶品だぜ!飲んでみ!!」


勇者「……」


ポルトガ勇者「ん?何だよ、飲めって」

勇者「え、いや……その」

ポルトガ勇者「もしかして下戸か?それでも一杯くらいはいけるだろ?」

勇者「いや、そうじゃなくて」

ポルトガ勇者「あ?それとも俺の酒が飲めねぇってのか?」

勇者「いやいやいやいや!ちょっと待ってくださっ、あぎいっ!!?」ズキン

ポルトガ勇者「あ、お前凄え怪我してたんだったな。あんま大声ださねえ方がいいぞ」

勇者「いづづ……あの、いいんですか……?」

ポルトガ勇者「何がだよ?」

勇者「何がもなにも……囚人と、酒飲んだりして」

ポルトガ勇者「ばれねえよ。地下の見張りは全員上の階に追い出したから」

ポルトガ勇者「騎士団長も国連の勇者達も所用があってしばらくはここに来ねぇ」

勇者「でも、こんな簡単に、手枷足枷はずして」

ポルトガ勇者「まぁ、外したって逃げ出す様な奴には見えなかったしな。お前」

ポルトガ勇者「それに万が一逃げ出したって……お前が魔物でも俺なら勝てるからな!」

ポルトガ勇者「でも、尋問じゃ、ないんですか?……なんでいきなり酒盛りに」

ポルトガ勇者「人に物を尋ねる時は」

勇者「え?」

ポルトガ勇者「人に物を尋ねる時は、同じ目線で聞くのが一番いい」

ポルトガ勇者「対等なフィールドに立たねえと僅かな歪みが生まれちまうもんだ」

ポルトガ勇者「その僅かな歪みは、始めはどんなに小さかろうがいずれは大きな波になり諍いやすれ違いを起こす」

ポルトガ勇者「だったらハナっから同じ目線で同じ地面にケツ降ろして」

ポルトガ勇者「酒を飲んだり、上手い飯を食ったり。同じ感情を共有して自分の言葉で相手とぶつかるといい」

ポルトガ勇者「それが、人に物を尋ねる時の秘訣」

ポルトガ勇者「…………それが俺の尊敬する男の教えだ」

勇者「……」

ポルトガ勇者「だから、俺はお前にこうやって話を聞く」

ポルトガ勇者「お前は俺にお前は何なのか教えてくれ」

ポルトガ勇者「話したくなかったら、まぁそれでいい」

ニコッ!

ポルトガ勇者「そんときゃ酒だ!尋問を口実に酒盛りにしちまおう!」

勇者「……王子さん……」

ポルトガ勇者「王子って呼ぶな!!ってか何で知ってんだよ!!」

勇者「さっき、兵士の人達が言ってたから……」

ポルトガ勇者「あ、そうか……ったく、あいつら!」

勇者「……えっと」

ポルトガ勇者「ポルトガ勇者だ」

勇者「え?」

ポルトガ勇者「俺の名前。ポルトガ勇者だ」

ポルトガ勇者「気軽に呼び捨てにでもしろよ。あとお前俺に敬語使うのやめてくれよ。くすぐったい」

勇者「……わかりま……いや、うん。わかった」

勇者「…………ポルトガ勇者」

ポルトガ勇者「へへっ!おう!」

ポルトガ勇者「それじゃ、仕切りなおして飲むか!!乾杯!!」

勇者「か、乾杯」


カツン!!


ポルトガ勇者「んっ、んっ、んっ!」ゴクッゴクッ!!

勇者「……」

勇者「……ん」チョピッ


ズキン!!


勇者「あきょおおっ……!!!!!」

ポルトガ勇者「がははは!!そっか!!口ん中も傷だらけだったか!!」

勇者「いづづ……!!」

ポルトガ勇者「待てよ、薬草もってるからまるめて口ん中で転がしとけよ。ホラ」ゴソッ

勇者「ありがと……んむっ」

ポルトガ勇者「その薬草効くんだぜ。北のほうの山で採れる奴なんだけどよ――……」

勇者「……」

コトッ

勇者「…………ポルトガ勇者さn……ポルトガ勇者」

ポルトガ勇者「お?なんだ?」

勇者「……」

ポルトガ勇者「……」

勇者「……」

勇者「…………話すよ」

ポルトガ勇者「!」

勇者「話すよ……僕の事……そして」

勇者「あの日の……事」

ポルトガ勇者「なんだ、こりゃまたいきなりだな」

勇者「……正直言うと、別に……君らに、話せない内容じゃなかったんだ」

勇者「ただ……信じないと思ったから。話しても無駄だと、思ったから……話さなかった」

ポルトガ勇者「……そうか」

勇者「……信じてもらわなくても、いい」

勇者「………………聞いてくれ」

ポルトガ勇者「……――任せろ」

勇者「……」

ギリッ……

勇者「……――あれは……ちょうど四年前くらい」

勇者「僕が12歳で……」



勇者「賢者が、13歳の頃の話」



今日はここまでです

>>48
ちょっと恥ずかしいですがお願いできますか?
お手数お掛けします。クリスマスのはちょっと自分で探してみます

………

―客室―


魔法使い「……」

僧侶「……」

武道家「……」

盗賊「……」

戦士「……」

商人「……」


シーン…


戦士「……女勇者の事だよな」

盗賊「……何が?……」

戦士「さっき言ってたじゃんか……あの男が」


――――――――――


ムオル勇者『お前達は何か勘違いしているようだが』

ムオル勇者『実質、こちら側が掌握しているのは、勇者だけではない』


――――――――――


戦士「ってさ」

武道家「……言ってたわね」

戦士「昨日、何度かあいつ、そこらの兵にアタシらの見張り任せてここを離れただろ」

戦士「あの時、廊下であいつと兵が――――……」

――――――――――


ガチャ

ポルトガ兵『ムオル勇者様、交代致します』

ムオル勇者『む……分かった』

ムオル勇者『俺は少しここを離れる。大人しくしていろ』

僧侶『……はい』

戦士『い~~っだ!!』

スタスタ

バタン

戦士『……ったく』


<~~……


戦士『!』

戦士『(廊下でなんか兵と話してる……?)』


ムオル勇者『……あの女……様子……』

ポルトガ兵『相変わらず……食事も……』

<スタスタ……


戦士『……』

戦士『(少し、聞こえた)』

戦士『(…………あの女?)』


――――――――――

戦士「って事がさ……」

商人「うん……おそらく女勇者ちゃんの事ですよ」

武道家「女勇者と遊び人しか心当たりないけど……」

魔法使い「うん。もし遊び人もつかまってるなら、わたしたちとべつに隔離するひつようもないからね」

商人「勇者の資格を持ってる女勇者ちゃんは何かと利用できるのかもしれません」

僧侶「そんな……」

盗賊「……でも、遊び人は……捕まらなかったのかな……」

商人「……遊び人ちゃんは賢いですからね」

武道家「うん……なんとか、遊び人とコンタクトを取りたいわ。何か方法はないかしら」

盗賊「……今私達が抜け出せる唯一の穴は、あの娘の存在しかない……」

魔法使い「だね」

戦士「でも」

武道家「ん?」

戦士「女勇者を捕まえて利用って……何がするんだ?」

商人「それはまだなんとも言えませんが……」

武道家「まあ、勇者の資格に加えてオルテガのおじさまの娘ってだけで相当なネームバリューあるからね」

武道家「アリアハン側への脅しとして、あの娘の命を掌握してるんじゃないかしら」

商人「それもあるでしょうね」

僧侶「……こんな……酷すぎます……」

戦士「……くそ」

ガッ

戦士「何もできないのかよ……アタシ達……」

魔法使い「……ざんねんだけど、今はなにもできないよ」

盗賊「……次の向こうからのアクションを、待つしかないね……」


…………
……



―地下牢―





勇者「……」

ポルトガ勇者「……」

勇者「……――これで、全部」

勇者「……それが、僕が体験したあの日の全てだよ」

ポルトガ勇者「……」

勇者「誰かに話すのは……王様以外は初めてかな、そういえば」

勇者「こんなの、信じろなんて無理な話だしね」

ポルトガ勇者「……」

勇者「……でも、全部本当の事なんだ」

勇者「…………もうこれ以上の事は喋れやしない」

ポルトガ勇者「……」

勇者「信じられなくたっていい」

勇者「本当、いいんだ」

勇者「だけど……分かって欲しい事もいっぱいある」

勇者「もう、今じゃ証明のしようもないけどね」

ポルトガ勇者「……」

勇者「……それに……んっ」

ゴクゴク

勇者「っ……はぁ……」

勇者「……それに、あながち騎士団長くんの言ってる事も間違いじゃない」

ポルトガ勇者「……」

勇者「過程がどうであれ……」

勇者「……」

勇者「……」

勇者「……僕は……あいつを」

勇者「……」

勇者「……賢者を」

勇者「………………殺して、しまった」

ポルトガ勇者「……」

勇者「……ごめん、なんだかどうでもいいことまで喋りすぎちゃった」

勇者「僕が出せる情報は全部だしたよ」

勇者「あんまり役に立てなくてごめんね」

ポルトガ勇者「……」

勇者「……」

ポルトガ勇者「……」

勇者「……ポルトガ勇者?」

ポルトガ勇者「……」

勇者「……どうしたの?ずっと俯いて……」

ポルトガ勇者「……お前」

勇者「……何?」

勇者(流石に呆れられちゃったかな……)

勇者(まぁ、しょうがないな。こんな話……僕だって)


ガシッ!!


勇者「へっ」


ポルトガ勇者「……」


勇者「ポ、ポルトガ勇者……?」

勇者(なんかいきなり両肩掴まれた)


ポルトガ勇者「……お前」

勇者「う、ん?何?」




ポルトガ勇者「だいへんだったな”ぁ"……!!」ボロボロ



勇者「……」

勇者「うんん!?」

勇者「えっ!?何で泣いて」

ポルトガ勇者「馬鹿、お前っ、そんな話聞いて同情すんなって方が無理だろうがよ!」ズビーッ!!

ポルトガ勇者「歯痒いよなぁ……!目の前でそんな……!!想像しただけでっ、もう……!」

勇者「そ、そうかな」

ポルトガ勇者「え!?なんで体験した本人がそんな冷めてんだよ!!」

勇者「いや、なんていうかもう昔の話だし……っていうかさ」

ポルトガ勇者「なんだよ?」グスッ

勇者「……僕の話、信じてくれるの?」

ポルトガ勇者「ああ」

勇者「えっ、そ、そんなあっさり?」

ポルトガ勇者「なんだ?悪いかよ」

勇者「いやいや!僕は凄くうれしいんだけどさ!」

勇者「その……僕が魔物で嘘ついてるとか思わないの?」

ポルトガ勇者「思わん」

勇者「そ、即答だね」

ポルトガ勇者「……目を見りゃ分かる」

勇者「え?」

ポルトガ勇者「……んっ」

ゴクゴクゴクゴクッ!!

ポルトガ勇者「っぷはぁっ!!」

ゴトン!

ポルトガ勇者「ふはぁっ……」

ポルトガ勇者「……嘘ついてるかなんぞな、目を見りゃわかるさ」

ポルトガ勇者「お前は嘘ついてない」

ポルトガ勇者「わかるさ」

勇者「……」

勇者「……」

勇者「……」

ポルトガ勇者「お前は、魔物なんかじゃねえ」

勇者「っ……!!」

勇者「…………」

勇者「……ありがとう……」

ポルトガ勇者「……酒、まだ飲めるか?」

勇者「……うん、貰えるかな」

ポルトガ勇者「へへっ!おう!」


トポトポ


ポルトガ勇者「うめーだろ!親父の秘蔵なんだこれ!」

勇者「えっいいのそれは」

ポルトガ勇者「いいんだよ!城の蔵で腐らせとくよりゃあ飲んじまった方がいい!」

勇者「……なんか怖いけど改めて頂きます」

ポルトガ勇者「おーう!飲め飲め!」

勇者「おっととと……いただきます」

ゴクゴク

勇者「ぷは……」

ポルトガ勇者「よし、それじゃお前の昔話も聴いた事だし」

勇者「?」





ポルトガ勇者「次は、お前の脱獄について話し合うか」





勇者「はいぃ!!?」ガタッ

ズキン!

勇者「あぃっ!!」

ポルトガ勇者「うおっ、どうしたんだよ」

勇者「いてて……!いや、君がそういう話しちゃまずいんじゃないの!?」

ポルトガ勇者「ん?……ああ、まあまずいかもな」

勇者「だったら!」

ポルトガ勇者「だったらなんだよ?このまま大人しくサマンオサまで行って魔族裁判受けんのか?」

勇者「……そのつもりだよ」

ポルトガ勇者「馬鹿野郎お前、魔族裁判がどんなもんか知ってて言ってんのかよ?」

勇者「知らないけど、魔族かどうかを審査する裁判だろ?だったらきっと公平に」

ポルトガ勇者「魔族裁判に公平なんて字はねえよ」

勇者「え……?」

ポルトガ勇者「俺もちゃんとこの目で見たわけではねえけどよ、少し調べた事もあんだよ」

ポルトガ勇者「あれは裁判なんて聞こえのいい言葉を使ってるがなんのこたぁねえ」

ポルトガ勇者「あれは死刑の最終確認だ」

勇者「……死刑の、最終確認……?」

ポルトガ勇者「……魔族だって疑いを無理やりかけてな」

ポルトガ勇者「殺しちまうんだ。国に逆らう奴らや、気に喰わん奴らを」

勇者「……!」

ポルトガ勇者「普通に死刑にしちまうんじゃ国民の総反乱を呼び起こしちまうだろ?」

ポルトガ勇者「だから無理に魔物っつう事にして、掃除しちまうんだ」

勇者「サ、サマオンサがそんな事を……!?」

ポルトガ勇者「してるんだよ。現在進行形で、な」

勇者「……」

ポルトガ勇者「そんな魔族裁判だぜ?お前はそれでも出ていいと思えるのかよ」

勇者「……」

ポルトガ勇者「そうならねえようにどうやって脱獄するか――……」

勇者「……ポルトガ勇者」

ポルトガ勇者「ん?なんだ?早速いい案思いついたか?」

勇者「なんで、僕にここまでしてくれるの?」

ポルトガ勇者「え?」

勇者「こんなすぐに信じて、僕に加担してくれるなんて」

ポルトガ勇者「……あれ」

勇者「……」

ポルトガ勇者「もしかして……疑っちまってるか?」

勇者「……ごめん、やっぱり完全に信用は」

ポルトガ勇者「……あー」

ポルトガ勇者「はぁ、まぁ、そうかもな。散々お前をこんな目に遭わせた後だし」

勇者「……」

ポルトガ勇者「……んっ」

ゴクッゴクッ

ポルトガ勇者「……ったはぁっ!!!」

ドンッ

ポルトガ勇者「でも今だけでいい。俺を少し信じろ」

ポルトガ勇者「俺がお前に加担するのは、お前が嘘吐いてねえって分かったからだ」

ポルトガ勇者「そっちの方が正しいって分かっちまった。それだけだ」

勇者「……ポルトガ勇者」

ポルトガ勇者「ってか、それならここでちんたらやってる暇なんてねえんだ!」

ガバッ!!

ポルトガ勇者「立て!!うだうだ言ってねえで行動するぞ!!」

ポルトガ勇者「あの女達とまだ旅を続けてえんだろ!?だったらウジウジしてんな!!」

勇者「!!」

ポルトガ勇者「行くぞ勇者!!てめえ男だろ!!」


ポルトガ勇者「男なら女を待たせんじゃねえ!!」


勇者「……」

ギュッ!!

勇者「……っ!!ああ!!」

ガバッ!!


勇者「ポルトガ勇者!!頼む!!力を貸してくれ!!」


ポルトガ勇者「へへっ!!おう!!任せろ!!」






ビュオォォォ……






勇者「……」

ポルトガ勇者「……」

勇者「えっと……立ったけれども、どうすんの」

ポルトガ勇者「……ちょっととりあえず一旦座るか」

勇者「うん……」

今日はおしまいです

……


ポルトガ勇者「まずは、だ。この城からどうやって脱出するかなんだが」

勇者「うん、警備はどんな風になってるの?」

ポルトガ勇者「それがめちゃくちゃ厳重なんだよ。ここの階段を上がれば直ぐに兵の団体と御対面だ」

勇者「えぇ?なんでそんなに……」

ポルトガ勇者「いろいろあってな。それはまた落ち着いたら話す」

ポルトガ勇者「しかし、もしポルトガ兵だけだったらやり様はあるんだが……今はサマンオサ兵がわんさかいるんだよな」

勇者「抜け道、なんて無いんだよね?この地下牢は」

ポルトガ勇者「ああ、ガキの頃からよくいたずらで出入りしてるが見た事ぁねえよ」

ポルトガ勇者「作れねえ事もねえが……上の奴らに気付かれちまう」

勇者「うーん……じゃあ、変装とかできないかな。兵士の鎧借りられれば……」

ポルトガ勇者「それは俺も考えたんだが……少し難しい」

勇者「そうなの?」

ポルトガ勇者「ああ、鎧をもし借りるならウチの兵士達の協力が必要なんだが……」

ポルトガ勇者「今は兵達もアイツの指揮下にあるから、サマンオサの兵が目を光らせてる。だから俺が兵をパシったらすぐバレんだよ」

勇者「あいつ?騎士団長の事?」

ポルトガ勇者「いや、今はあの野郎は別事があって出かけてる。他の国連の勇者達のほとんどもな」

勇者「え、だったらチャンスじゃ――……」

ポルトガ勇者「でも、一人一番厄介なのが残ってる」

勇者「厄介なの?」

ポルトガ勇者「……ムオル勇者」

勇者「!」

ポルトガ勇者「あいつが一人残ってる……だけどそれが一番厄介だ」

勇者「ムオル勇者さんが……」

ポルトガ勇者「お前もあいつの強さは知ってんだろ?」

勇者「うん、以前ちょっとね」

ポルトガ勇者「だったら分かるな?アイツが一人でこの城を牢獄に仕立て上げんのが如何に簡単か」

勇者「……」

ポルトガ勇者「……だからこの脱獄は相当難しいんだ。一緒に頭捻ってなんとか考えようぜ」

勇者「ああ、ありがとう。ポルトガ勇者」

ポルトガ勇者「礼はいいって。しかし……どうすっかな。夜を狙って……でもなぁ」

勇者「夜になったら皆用事から帰ってくるのかな」

ポルトガ勇者「いや、わかんねえがすぐには帰って来ねえと思う。遠出だし」

勇者「そっか……だったら、なんとか今日中にはここから抜け出したいね……」

ポルトガ勇者「だな。しかし……うーん……」

勇者「何か……方法……」

ポルトガ勇者「……」

勇者「……」

ポルトガ勇者「……」

勇者「……」

ポルトガ勇者「畜生、全然良い案が思いつかねえ……」

勇者「同じく……」

ポルトガ勇者「…………正々堂々、俺が一緒にお前と行動すれば簡単に脱獄できるんだろうけど……」

勇者「うん、それはありがたいけどやっちゃ駄目だ」

勇者「そんな事したら下手すれば国際問題になっちゃうよ。君は王子でもあるんだし」

勇者「だから、あくまで僕が『皆を欺いて脱出した』ような状況を作らなきゃ」

ポルトガ勇者「悪ぃな」

勇者「や、こっちのセリフだよそれは」

勇者「でも……やっぱり難しいね」

ポルトガ勇者「ああ。くそ、もう一人くらい協力者がいればな……」

勇者「うん……」


<……


勇者・ポルトガ勇者「「!」」

<………

ポルトガ勇者「……聞こえるか?」

勇者「うん……誰か階段を降りてきてる」

ポルトガ勇者「誰だ?まだ尋問の予定時刻は――……」

ポルトガ勇者「……!」

勇者「……?ポルトガ勇者?」

ポルトガ勇者「勇者」ボソッ

勇者「え、なに?」

ポルトガ勇者「しっ。静かにしとけ」

勇者「?」

ポルトガ勇者「いいか。俺は牢の隅の物陰に隠れておく」

ポルトガ勇者「お前は寝伏せて弱ったふりしてろ」ボソボソ

勇者「うん?わ、わかった」ボソボソ



…………



…カ

ツカ…

ツカツカ…

ツカツカツカツカ


勇者「……」

勇者(誰だろう……こっちに来る)

勇者(もしかして、サマンオサ兵?それともムオル勇者さん?)

勇者(どちらにしろ……拷問は覚悟しとかないとな)チラッ


ポルトガ勇者「……」シーッ


勇者「……」コクッ

勇者(ポルトガ勇者に迷惑もかけちゃいけない……彼がここにいるのがばれないようにしないと)

勇者「……」

勇者(……あれ?)

勇者(なんでポルトガ勇者は隠れたんだ……?)

勇者(誰が来ても、尋問中だって言えばそれで済むんじゃ……)


ツカツカツカツカ


勇者「!」

勇者(……来る)


ツカツカツカツカ

ザッ!!


勇者「……」


「……」


勇者(……誰だ?誰が来たんだろう)

勇者(……薄目を……開けてばれないように……)ソッ…

勇者「…………!」





イシス勇者「……」





勇者「……」

勇者(イシス……勇者、くん)

イシス勇者「……」

勇者「……」

イシス勇者「……起きていますか、容疑者、勇者」

勇者「……!」

イシス勇者「……」

勇者(……なんで、イシス勇者くんが……)

イシス勇者「……」

イシス勇者「……」キョロキョロ

イシス勇者「どなたかいらっしゃいますか?」

勇者「!」

勇者(な――……もしかして、バレて……!)

イシス勇者「牢獄兵の方、もしくはポルトガ勇者、どこかにいらっしゃるんですか?」

勇者「……?」

勇者(あれ……バレてるわけじゃ……なさそうか)

イシス勇者「……」

イシス勇者「…………」


クルッ


勇者「!」


イシス勇者「…………」スタスタ


勇者「……」

勇者(帰っていった……)


ムクッ

勇者「……ポルトガ勇者、行ったみたいだよ」

ポルトガ勇者「ああ」

勇者「……」

ポルトガ勇者「……どうした?」

勇者「いや……」



イシス勇者『容疑者、勇者』



勇者「……嫌われちゃったな、と思ってさ」

ポルトガ勇者「……」

勇者(しょうがない話だ……イシス勇者くんにとって、一番憎いのは魔物なんだもん)

勇者(彼にとっては、僕が裏切った形になるからなぁ……)

勇者「…………悪い事しちゃったな」

ポルトガ勇者「……そりゃどうだろうな」

勇者「え?……っていうか、どうしてまだそこに隠れて」



ポルトガ勇者「お、やっぱりか」

勇者「ん?」

ポルトガ勇者「ほら、もっかい寝たふりしとけ」

勇者「え、なんで――……」

ダ…

ダダ…

ダダダ…

勇者「……んん?」

勇者(なんだこの音。あれ?)

ダダダダダダ

勇者「こっちに向かってる……?」


ダダダダダダダダダダ!!!


勇者「え」






ズザァー―――――――!!!!!!!






イシス勇者「勇者くぅぅん!!!!!」





イシス僧侶「勇者くん!」

イシス戦士「勇者!」

イシス魔法使い「勇者君!」


勇者「えっ」


イシス勇者「ほら!ここだよイシス僧侶!早く薬草を!!」

イシス僧侶「うん!分かってるって!慌てないでよう!」

イシス勇者「だって、ちょうど今が兵もポルトガ勇者もいない時間なんだ!早くしなきゃ!」

イシス魔法使い「でも、鍵はあるの!?」

イシス勇者「鍵!?あぁっ、そうか、くっ!」


ジャキッ!!!


イシス勇者「こんな檻ぃ!!!」


勇者「わー!!!!タンマタンマ!!!」ガバァッ!!


イシス勇者「!!!ゆ、勇者くん!?」

イシス僧侶「勇者くん!意識あるの!?大丈夫!?」

勇者「う、うん!僕は大丈夫だし、檻は開いてるから!」

イシス魔法使い「あ、本当ね。開いてるわ」


ガチャァン!!


イシス勇者「勇者くん!!!」ダッ!!

勇者「イシs――……もごほぉっ!!!?」モギュゥ!

イシス勇者「……勇者くん……!!」ギュゥゥゥゥ

勇者「んごぉっ!?」ギリギリ

イシス戦士「イシス勇者様、そんな大胆な!」アワアワ

イシス魔法使い「いやそういう問題じゃないでしょ!」

イシス僧侶「イシス勇者様!勇者くんケガ人!ケガ人だから!!」

勇者「おぐ、ぐ!」

勇者(苦しい苦しい!ちょ、これやば――……)


イシス勇者「ゴメンね……っ!……勇者くん……!」ギュゥゥゥ


フワァッ…


勇者「……」

勇者(あ、いい匂いだ……)ホワァ

勇者(イシス勇者くんやわらかい……)

勇者(……………………)

勇者(いやいやいやいや!!!!!!!なななな何考えてんだ馬鹿か僕はアホか!!!!)

勇者「イ、イシス勇者くん!ちょっと一回離れて――……」ガバッ


イシス勇者「ご……ごめん…………勇者くん……っ……」ウルウル


勇者「おうふ」キュン

イシス勇者「本当にごめん、あんな態度、とったりして……!」ギュッ

イシス勇者「でも、あそこはああするしかなかったんだ……」

勇者「い、いや、いやいや全然いいんだって本当……気にしないで」

勇者「僕の方こそ、なんていうか……魔物の容疑かけられて、申し訳ないよ」

イシス勇者「き、君が魔物なわけあるものか!」

勇者「……イシス勇者くん」

イシス勇者「そんなのは絶対間違いだ!こんなのおかしすぎる!」

イシス勇者「勇者くん!とにかくここから逃げよう!まずは――……」


ポルトガ勇者「くかかかかっ!!!」


イシス勇者「!?」

イシス僧侶「!」

イシス戦士「!」

イシス魔法使い「!」


ザッ

ポルトガ勇者「んな事だろうと思ったんだよ……俺は」


イシス勇者「……!!ポルトガ、勇者……!」ズザッ!

イシス僧侶「こりゃまた、強敵がお出になったね……!」ザッ


勇者「え、あの」


ポルトガ勇者「……今までに面識があったり、勇者が捕まってから様子がおかしかったり……」

ポルトガ勇者「イシス勇者……やっぱりお前、そいつの味方か」ニヤァ


イシス勇者「……下がって、勇者くん」

勇者「え、いや、その」

ジャキッ!!

勇者「おわっ!?」

イシス勇者「…………」チャキッ


ポルトガ勇者「おーおー、やる気か?」


イシス勇者「……三人とも」

イシス三人娘「「「はいっ!」」」

イシス勇者「勇者くんを守りながら、援護を頼む」

イシス勇者「ポルトガ勇者は……普段は温厚だけど……敵に回すと凄く厄介だ」

イシス勇者「…………彼は、強い……!」

イシス僧侶「任せて!」

イシス魔法使い「勇者くんには触れさせないわ」

イシス戦士「勇者には多少借りがあります。お任せ下さい」


勇者「……あの、皆さん」


ポルトガ勇者「……きひひっ!血の気が多いこったな」

イシス勇者「……」

ポルトガ勇者「……それじゃ、一丁付き合ってもらうかね。イシス勇者」

イシス勇者「……っ」

ジャキィッ!!


イシス勇者「来い!ポルトガ勇者!」



ドスン



イシス勇者「……ん?」

イシス三人娘「「「ん?」」」


トクトクトクトク


ゴトッ!!ゴトッ!!ゴトッ!!ゴトッ!!

ポルトガ勇者「ほら、お前らの分だ」

イシス勇者「えっ」

イシス三人娘「「「えっ」」」

ポルトガ勇者「いやあ、助かったぜ!お前らがこっち側で!」

ポルトガ勇者「飲もうぜ!勇者!イシス勇者!イシスのお姉さん方!」


ポルトガ勇者「これで……――6人になった!」

今日はおしまいです


…………


――ポルトガ城門前――


ムオル勇者「……」

サマンオサ兵「……」

スタスタ

ポルトガ兵「ムオル勇者様、御疲れ様であります」

ムオル勇者「む……」

ポルトガ兵「しかし、出迎えでしたら私どもが――」

サマンオサ兵「お前達は黙っていろ。余計な口出しはするな」

ポルトガ兵「!」

ムオル勇者「よせ。無駄な諍いをするな」

サマンオサ兵「……」

ムオル勇者「ポルトガの兵、心配はご無用だ」

ポルトガ兵「は……はぁ」

ムオル勇者「あなた方は引き続き、あの娘達の様子を見ていて頂きたい」

ムオル勇者「あの年とは思えない程の力の持ち主達だ。油断はしないように頼む」

ポルトガ兵「はっ!畏まりました!」

スタスタ…

ムオル勇者「……」

サマンオサ兵「!ムオル勇者様、いらっしゃいました」

ムオル勇者「む」


スタスタ……



「ここ凄く磯の香りするぅー!なんかステキな所なのじゃね!」



ムオル勇者「……来たか」

ザッ

「あ!ムオル勇者じゃん!お久しぶりっ☆サマンオサの兵達も大勢で出迎えごくろー!」

ムオル勇者「久しいな……従者も連れてきたのか」

「そうじゃよー!なんせ長旅だもの。乙女の旅は危険がいっぱいじゃろ?」

ムオル勇者「お前の力があればその心配はいらんだろう」

「あははっ☆まあね!わらわは強いかんねー」

ムオル勇者「……」

クルッ スタスタ

「あ、もう!待ってよ!相変わらず無愛想な奴なのじゃね」

ムオル勇者「……案内する。早い内が良いだろう」

「案内?どこにー?」

ムオル勇者「…………これからお前が監視し、護送する相手の所だ」

「!」

ムオル勇者「……」

スタスタ

ムオル勇者「……着いて来い。……――ジパング勇者」



ジパング勇者「……ふふっ!合点承知、ってね☆」





……
…………

―地下牢―


イシス僧侶「え!?」

イシス戦士「それはつまり」

イシス魔法使い「勇者くんの脱獄を」

イシス勇者「……ポルトガ勇者君も協力してくれるってことかい?」

ポルトガ勇者「おう」

勇者「そうらしいんだ」

イシス勇者「……な、何が目的なんだい」

ポルトガ勇者「目的?ねえよそんなの」

イシス僧侶「でも、じゃあなんで――……」

ポルトガ勇者「こいつからさ」

イシス魔法使い「え?」

ポルトガ勇者「……――聞いたんだよ。過去の話、ぜーんぶ」


四人「「「「!!!!」」」」


イシス勇者「……勇者くんの、過去……」

ポルトガ勇者「それを聞いたらさ、こうするしかねえなって思って」

イシス勇者「……」

勇者「……イシス勇者くん?」

イシス勇者「……勇者くん」

勇者「?」

イシス勇者「今は……時間が無いから、あれだけど」

イシス勇者「いつか、僕に話せるようになったら……話して、欲しいな」

勇者「……イシス勇者くん」

イシス勇者「勇者くん……」

イシス勇者(ポルトガ勇者君だけずるいよ……)

イシス勇者(僕だって……勇者くんと、気持ちを共有したい……!)


勇者・イシス勇者「「……」」キラキラ


ポルトガ勇者「……あのさ」

勇者「え?な、なに?」

ポルトガ勇者「まさかお前ら、ホモじゃねえよな?」


バフゥー―!!!!


イシス勇者「げほっ!げほっ!何を言ってるんだ君は!!」

イシス僧侶「そんな事ないですよポルトガ勇者様!私達イシス勇者様の愛人ですからね!?ホントホント!」

ポルトガ勇者「くはは!いや、悪い悪い!さっきからお前らのやり取り見てるとどうもな!」

ポルトガ勇者「やたらと抱きついたり勇者を労ってるし勘違いされるぜ?イシス勇者」

イシス勇者「何も無いと言ってるだろ!」

ポルトガ勇者「わるいわるいって!勇者も――……」

勇者「っほほほうっほっほほ、ホント!!ホントだよそんなどっどどっどど、ほほほほホモちゃうわ!!!!!」

ポルトガ勇者「勇者、お前……!?」

勇者「イシス勇者くんをいい匂いと思ってしまったのは僕が臭いからだきっと僕はなんて臭いんだろう(ry」ブツブツ

勇者「僕は健全な男子だし最近も時々旅の途中に(ry」ブツブツ

ポルトガ勇者「おい勇者、悪かったってば」ユサユサ

イシス僧侶「勇者くん、今なんて言ったの?旅の途中に何あったの?気になるっ」ユサユサ

イシス勇者「オホン!……それはともかくだよ」

ポルトガ勇者「ん?ああ、脱出方法見つけなくちゃな」

勇者「えっ?あ、あぁ!そうだよね!」

ポルトガ勇者「そもそも、イシス勇者一行よ」

イシス勇者「え?」

イシス魔法使い「何かしら?」

ポルトガ勇者「あんたら、どうやってここに来れたんだ?」

イシス戦士「階段で来たぞ」

ポルトガ勇者「そういうボケぁいらないんだよ!」

イシス戦士「ボケ……!?」ガァン

ポルトガ勇者「上にはサマンオサ兵が数人居た筈だろ?あんたら数人よく通してくれたな?」

イシス僧侶「サマンオサ兵……?」

ポルトガ勇者「甲冑に黄色い勲章の入った鎧の集団。ってか知ってるだろ?地下への入り口に居たろうよ」

イシス魔法使い「いえ、見かけなかったわ」

ポルトガ勇者「は!?」

イシス僧侶「私達、イシス勇者様の客室に昨日からずっと居たんですよ」

イシス僧侶「で、今日イシス勇者様が勇者くん脱獄計画を遂行する際に部屋を隠れながら出たんですけど……」

イシス戦士「ポルトガの兵と給仕達にしか会わなかったぞ」

ポルトガ勇者「……なんだそりゃ?」

イシス勇者「正直、僕もおかしいとは思ったんだ」

イシス勇者「いきなりサマンオサ兵が居なくなってしまうなんて、どう考えてもおかしいし」

ポルトガ勇者「ああ、サマンオサ兵は半数は騎士団長の護衛でここを離れ、後の半数はここで勇者達を監視するはずだった」

勇者「おおがかりな……」

ポルトガ勇者「……」

イシス勇者「……」

勇者「……?二人共?」

ポルトガ勇者「……なあ、イシス勇者」

イシス勇者「……うん、僕も今思った」

勇者「え?何を?」

ポルトガ勇者「だとしたら最悪なんだが……勇者?」

勇者「ん?」

ポルトガ勇者「ジパングって国は分かるな?」

勇者「う、うん。名前を少し聞いた事はあるよ」

ポルトガ勇者「ああ、そのジパングなんだが……他国との交流を酷く嫌う国なんだ」

勇者「え?そうなの?」

イシス勇者「うん。今でこそ国連に名を連ねてる国だけど、加入が決まったときは大騒ぎだったらしい」

ポルトガ勇者「なんでも首脳である卑弥呼っていう女王が酷く他国を嫌うみてえなんだ」

勇者「そうなんだ……そのジパングがどうかしたの?」

ポルトガ勇者「その国がさ、国連としての国の繋がりの他に……一つだけ、他国と繋がりがあるんだ」

イシス勇者「それが、サマンオサとの同盟」

勇者「サマンオサとジパングの……同盟?」

ポルトガ勇者「ああ。そのあたりは謎に包まれすぎて不気味なんだがな」

ポルトガ勇者「……ただ、同盟を結んだ国の勇者ってのはな」

イシス勇者「その相手の国にとっても重要なお偉い様だったりするのさ」

勇者「……って事は」

ポルトガ勇者「ああ、もしかすると……ジパング勇者がここに来るのかも知れん」

イシス勇者「だとしたら総出で迎えるだろうしね。サマンオサ兵が居ないのも合点がいく」

勇者「そうなんだ。でもなんでそんな事が最悪なの?」

イシス勇者「……最悪さ」

勇者「え?」

イシス僧侶「サマンオサとタッグを組んでるジパングの事だよ」

イシス魔法使い「勇者くんの監視、もしかしたら尋問に就くかもしれないのよ」

イシス戦士「だとしたら、爪では済まんかもな」

勇者「え」

イシス勇者「……ジパング勇者さんは、強い」

ポルトガ勇者「それこそ、ムオル勇者と同じくらい厄介だ」

<……


一同「「「「!!!!」」」」


イシス戦士「今の音は……!」

ポルトガ勇者「まずい……!数人降りてくるぞ!」ヒソヒソ

イシス僧侶「どどどどうしよう!私達がここにいたら明らかに不自然だし――!!」ヒソヒソ

イシス勇者「さ、さっきポルトガ勇者君が隠れてた所に!」ダッ!

イシス魔法使い「ポルトガ勇者様!お願いするわ!」ガサガサ!

ポルトガ勇者「おう!あんたらは隠れとけ!俺は牢の外に出て勇者を尋問してるふりをしとく!」

ガチャン!!

ポルトガ勇者「勇者!お前はそこで弱ったふりして倒れとけ!」

勇者「わ、わかった!」



……

「ふんふーん」

スタスタ

「ふんふっふふーん」

スタスタスタスタ

「ふん……あれー?あれれれー?」

スタスタ ザッ


ジパング勇者「やあやあ!国連新入りのボウズじゃんな!」


ポルトガ勇者「おう、久しぶりだな」

ジパング勇者「召集あったわけじゃ無いが騎士団長に呼ばれて来たよー。特別給金は貰えるかな?」

ポルトガ勇者「多少はあるんじゃねえの」

ポルトガ勇者(……最悪だ。マジでこいつかよ……脱獄の成功確立ガタ落ちじゃねえか)

ジパング勇者「しかしボウズはこんな所で何をしておるの?」

ポルトガ勇者「こいつに尋問してんだよ。邪魔すんなよ?」

ジパング勇者「安心しやれー。わらわは少し顔を見にきただけじゃよ」

ポルトガ勇者「俺のか?嬉しいねえ」

ジパング勇者「ははは☆小僧がぬかしおるじゃん」

ポルトガ勇者「てめーも若ぇ娘のくせして小僧はねえだろうよ」

ジパング勇者「まあそれはいいんじゃよう、勇者とやら見せてよ」チラッ


勇者「……」


ジパング勇者「わあ!あれが勇者とやらなんじゃね?ボロボロのうんこみたい!」

勇者(酷ぇな)

ジパング勇者「おーい☆返事できるぅー?」

勇者「……何、です……か」

ジパング勇者「あ、生きてるね」

ポルトガ勇者「殺したら後で騎士団長の奴になんて言われるか」

ジパング勇者「あー、そうじゃねえ」

ジパング勇者「わらわはジパング勇者っていうのじゃよー?覚えてね☆」

ジパング勇者「これから勇者っちの監視、護送はわらわのお仕事じゃからね」


ポルトガ勇者「……っ!」

――――――――

イシス勇者「……!」


勇者「……ぐ」

ジパング勇者「うんー?なんだか随分弱ってるようじゃん」

ポルトガ勇者「てめえらんとこの騎士団長がやりすぎたんだよ。お陰で情報のじょの字も出てきやしねえ」

ジパング勇者「わらわん国の人間じゃないもーん」

ポルトガ勇者「まあとにかく、今尋問の最中なんだ。邪魔してくれるなよ」

ジパング勇者「わかったわかった。わらわは一旦ポルトガの王に挨拶をしてくるよ」

ジパング勇者「帰ってきたら交代じゃからな?ポルトガの小僧ちゃんよ」

ポルトガ勇者「わかったつうの。ってか小僧はやめろ」

ジパング勇者「勇者っちもまたあとでねー!わらわといっぱいお話するんじゃよー☆」

勇者「……」

ジパング勇者「……少し拷問されただけでそんな風になるの?弱い人間じゃ」

ポルトガ勇者「……」

ジパング勇者「……理解できないなぁ」




ジパング勇者「ダーマに向かってるお姫君はなんでこの子に肩入れしてるんじゃ?」





勇者「……?」

ジパング勇者「ま、とにかくまた後でねー☆」

ポルトガ勇者「おーう」

スタスタ

スタ…

……

ポルトガ勇者「……行ったか」

ポルトガ勇者「もういいぞ。イシス勇者、お姉さん方」

イシス勇者「はぁっ、ここ窮屈だね」

イシス僧侶「わーマジでドキドキしたよ……!」

ガチャッ キィ…

ポルトガ勇者「さて、アイツも行ったし今のうちになんとかしないと」

勇者「ねえ」

ポルトガ勇者「あ?どうした?」

勇者「最後の、何?」

ポルトガ勇者「ん?」

イシス僧侶「最後の?って何が?」

勇者「ほら、ジパング勇者さん、言ってたよね」

―――――――――――


ジパング勇者『ダーマに向かうお姫様はなんでこの子に肩入れしとるんじゃ?』


―――――――――――

勇者「って……」

ポルトガ勇者「……」

イシス勇者「え?あれは……ポルトガ勇者君、話してないのかい?」

ポルトガ勇者「ああ、今話すと下手に混乱させちまうかなと思ってな」

ポルトガ勇者「一旦脱出させた後に言おうと思ってたんだ」

ポルトガ勇者「……こいつ、あの女達を大事に思ってるみたいだったから」

勇者「……ねえ、何の話だよ?」

イシス勇者「……ポルトガ勇者君、もう話しておこう」

ポルトガ勇者「ああ、そうすっか」

勇者「何を……」

イシス勇者「……あのね、勇者くん」

勇者「?」

イシス勇者「…………今、武道家さん達は捕まって客室に居るんだ」

イシス勇者「武道家さん、魔法使いさん、戦士さん、盗賊さん、商人さん、僧侶さん」

イシス勇者「……でも、それとは別に――……」

…………


―バハラタ地方・草原―


「全隊、止まれ――!!!!」


ガヤガヤ

エジンベア勇者「……んっ」ゴクゴク

エジンベア勇者「ふぅ……ああ、生き返るねえ」

スタスタ

「露払いを務めての魔物撃退、感謝します」

エジンベア勇者「んー?あぁ、騎士団長かい」

騎士団長「この調子で行けば、夕刻には着きそうですね」

エジンベア勇者「先陣切るようなスタイルの勇者はここには僕しかいないからねぇ、仕方ないさ」

エジンベア勇者「しかし、先陣を行く僕の美しさといったらないね……自分でも恐ろしいくらいだよ」ファサッ

騎士団長「ええ、その調子でお願いします」

エジンベア勇者「任せておくれよ。任務が終わったら極上の美人を紹介して貰えればチャラでいいけれど」

騎士団長「善処しますよ。では、列の中央に戻りますので」

スタスタ

エジンベア勇者「……喰えないオトコだねぇ、ったく」

エジンベア勇者「……しかし」


ザワザワ


エジンベア勇者「……」

エジンベア勇者(とんでもない大事になってきちゃったねコリャ)

エジンベア勇者(僕としては早く終わればそれでいいんだけどねぇ)


「エジンベアさん」


エジンベア勇者「ん?ああ、スー勇者じゃないかい」

スー勇者「お疲れ様、です」

エジンベア勇者「スー勇者こそ。まだ小さいながらも頑張っているじゃないか。将来どんなレディになるか楽しみさ」

スー勇者「えへへ……でも、駄目、です」

エジンベア勇者「ん?駄目?」

スー勇者「……ぜんぜん、元気出す、くれません」

エジンベア勇者「……ああ、彼女の事かい」

スー勇者「わたし、言葉下手だから、きっと、怒ってるです」

エジンベア勇者「そんな事はないから安心するといいさ」

スー勇者「でも……」


「エジンベア勇者の言うとおりですわ」


エジンベア勇者「!」

スー勇者「ランシールさん!」

スタスタ

ランシール勇者「あなたのせいではありませんわ。スー勇者」

エジンベア勇者「もう合流したのかい?早かったねぇ」

ランシール勇者「ええ。ほんの少し話す程度でしたし」

スー勇者「ランシールさん、わたし」

ランシール勇者「よくお世話係を頑張りましたわね、スー勇者も」ナデナデ

スー勇者「あ!子供扱い、良くない、です!」

ランシール勇者「……しかし、彼女も気難しいですわね」

エジンベア勇者「まあねえ。だけどとても美しいよぉ……なかなかお目にかかれない美しい人だ」

スー勇者「……でも」

ランシール勇者「……どうしましたの?」

スー勇者「でも……あの人」

ギュゥッ

スー勇者「…………悲しそう、です」

ランシール勇者「……」


……

―列の中央・コーチ―


スタスタ…

騎士団長「……」

スタ

ザッ

騎士団長「……失礼します」

バサッ




「…………」





騎士団長「……」ニコッ

…………
……







勇者「……………………」





ポルトガ勇者「……――ってな事があってな」

イシス勇者「彼女は今この城に居ないんだ」

イシス勇者「だから」


ダッ!!


イシス勇者「!?」

イシス戦士「勇者!?」


ガシャン!!


勇者「ポルトガ勇者!!」

ポルトガ勇者「な、なんだよ?」

勇者「事情が変わった!!お願いだ!!強行突破でもいい!!僕を出してくれ!!」

ポルトガ勇者「お、おいおい」

イシス僧侶「勇者くんどうしたのさ!」

イシス魔法使い「気持ちは分かるけど落ち着いて……ね?」

勇者「駄目なんだ!!もたもたしてる暇なんて無くなった!!」

勇者「違うんだ……!あいつは!」

イシス勇者「勇者くん……?」

ポルトガ勇者「おい、勇者?」


ギリッ……!


勇者「あいつは……!!違うんだ……!!」

勇者「早く!!あいつの所に行かなくちゃ!!!」

勇者「じゃないと……!!」

…………
……


――――――――――――


―昨日・ポルトガ―


スタスタ

遊び人『……』


女勇者『……』

女勇者『(何か引っかかる事でもあったのかな……)』


ガシッ


女勇者『え?』

ギュッ!!

女勇者『んぐっぅ!!!?~~~~!!』ジタバタ

ズルズル


<……!!


スタスタ


遊び人『えっと、ごめん。さっきのは本当に気にしないで。女勇――……』


シーン……


遊び人『……?……あれ?』

キョロキョロ

遊び人『女勇者?女勇者ー?』


シーン……


遊び人『…………どこに行ったの……?』




タッタッタ


遊び人『おーい!女勇者ー?』

遊び人『(来た道を戻っちゃったのかな?落し物かなぁ)』

タッタッタ

遊び人『……あれぇ?』

遊び人『(全然見当たらない……)』


―広場―


タッタッタ

ザッ

遊び人『……』


シーン


遊び人『女勇者ー?』

遊び人『……』

遊び人『(おかしいなぁ……追い越されてはないから、私の後ろに居たはずなんだけど)』

遊び人『(とりあえず、勇者ちゃん達の所に戻っておこうかな。後で来るでしょ)』


ザッ

『ごきげんよう』



遊び人『え?……』

遊び人『…………!!』



ランシール勇者『何度も何度も、申し訳ありませんわね』



遊び人『あ、あなた……!』

遊び人『何の用!?勇者ちゃんに手を出したら……』


ランシール勇者『私は勇者さんに用事はありませんわ』


遊び人『……え?』

遊び人『…………っ!!!?』





ザッ!!


ムオル勇者『……』


エジンベア勇者『……』


ポルトガ勇者『……』


スー勇者『……』


ランシール勇者『……』




遊び人『……あなた、達』




ランシール勇者『今回、用があるのは……』

スチャッ!!




ランシール勇者『…………――貴女ですの』





遊び人『っ!!』



ダッ!!

タッタッタ!!

遊び人『くっ……!!』


ランシール勇者『逃がしはしませんわ』

チャッ!!

ランシール勇者『……の……氷を……せよ』ブツブツ


パキンッ

パキッパキッ

バキッバキッ!!

バキンバキン!!!!


エジンベア勇者『え』

ポルトガ勇者『……おいおいまじかよ』



ランシール勇者『ヒャダルコ!!!!』



ビュウンッ!!!!

ゴォォォオオオオオオオオオオオオ!!!!



遊び人『なっ……!!!?』

遊び人『(なに、この人、本気で?)』

ランシール勇者『さあ!どうされますの!!』


遊び人『……っ……!!』

ビュォォッ

遊び人『(やばい)』

ォォォォォォッ!

遊び人『(背後から、上から、氷の刃が)』

遊び人『(避けっ……)』


『なんだなんだ!?』

『あの氷、もしかして呪文なのか!?』

『あの女の子襲われてるぞ!!』


遊び人『!!』

遊び人『(駄目だ、避けたら、この広場に居る人達に)』

遊び人『(でも、どうしたら)』

遊び人『(どうすれば)』

遊び人『(私は)』

遊び人『(何を)』


遊び人『(どう)』


遊び人『(しようも)』


―――――――――――



『あなたは、本当にどうしようもないわね』


―――――――――――



    ない


クル

遊び人『……』



ランシール勇者『!!』


ムオル勇者『!』

エジンベア勇者『危なっ……!?』

ポルトガ勇者『(氷の刃に向き直りやがった!?)』

スー勇者『っ……!!』



ビュォォォォォッ!!!!!



遊び人『……』

タッ!


ランシール勇者『!』

ランシール勇者『(飛んだ……!?)』


遊び人『……』


遊び人『弾けなさい』










遊び人『イオナズン!!!』










……

パラパラ…


ランシール勇者『………………おったまげ、ですわね』

ポルトガ勇者『おいランシール勇者!!お前何やってんの!?』

ポルトガ勇者『今の爆発使われなかったら市民に当たってただろうが!!!』

ランシール勇者『市民の方々や彼女にもスー勇者が直前で保護呪文をかける手筈でしたの』

ポルトガ勇者『え!?そ、そうなのか?スーの字』

スー勇者『は、はい……で、でも』

ランシール勇者『……ええ、これじゃ必要無かったみたいですわね』

ポルトガ勇者『は?……!?』

エジンベア勇者『これは……!?』


ブゥゥ…ン…


ランシール勇者『……』

ランシール勇者『(スー勇者の保護魔法の上から……更に巨大で分厚い保護魔法が……)』

ランシール勇者『(……今の一瞬、無詠唱で、あの爆発呪文とこの巨大な保護呪文)』

ランシール勇者『……まさに、おったまげ……ですわ』



スタッ


遊び人『……っ』



ランシール勇者『……』


ザッ!!


遊び人『!?』


ランシール勇者『いきなりの無礼、大変申し訳ありませんでした』

ムオル勇者『……』ザッ

ポルトガ勇者『……』ザッ

エジンベア勇者『……』ザッ

スー勇者『……』ザッ

ランシール勇者『……しかし、これで分かりましたわ』



ザワザワ


『なんだ今の大爆発は!?』

『おい、あれ見ろよ……』

『ポルトガ王子!?』

『国連の勇者様方だ……』

『なんでお偉いさん方があの女の子に跪いてんだ?』



ランシール勇者『大変お見事な判断と魔法速度でした』

スクッ

ランシール勇者『ここでは外野が邪魔ですわね』

ランシール勇者『お城にてお話を伺えますか?』



遊び人『わ……っ、私、は』



ランシール勇者『……火贈りの儀式は騙せても』


ランシール勇者『その血は騙せなかった様ですわね』


ランシール勇者『…………ずっと隠蔽されてきた事実も、つい先日アリアハン王が口を割りましたの』


ランシール勇者『あなたは、救世主となりますわ』


ランシール勇者『……ですわね?』





ランシール勇者『賢者、ガルナの妹君』





遊び人『…………』





ランシール勇者『……賢者の一族の、生き残りですもの』

今日はおしまいです。
http://i.imgur.com/rqmVQh4.png

―ポルトガ城・城門―


ポルトガ兵「……」

ポルトガ兵2「なあ」

ポルトガ兵「なんだ?」

ポルトガ兵2「さっき兵や国連の人達のほとんどが出てったのって、何だったんだ?」

ポルトガ兵「さあな。でかい豪華なコーチも用意してあったしな。お偉いさんを運ぶんじゃないか?」

ポルトガ兵2「ダーマまで?」

ポルトガ兵「ああ、行き先はダーマだったらしいけど」

ポルトガ兵2「お偉いさんがお偉いさんと兵を率いてダーマまで?なんかおかしくね?」

ポルトガ兵「俺がそんな事しるかよ。とにかく俺らは今見張り兵なんだからここで持ち場を守ってりゃいいんだ」

ポルトガ兵2「……あの、勇者って奴とは別件って事だろ?ダーマに行くのは」

ポルトガ兵「だから俺がそんな事――……」

ポルトガ兵2「落日の七日間の手引きをした、本当なら相当な犯罪者を置いておかないといけない別件ってなんだ?」

ポルトガ兵「……あ……」

ポルトガ兵2「……なあ、俺なんか嫌な予感すんだよ」

ポルトガ兵「嫌な予感?」

ポルトガ兵2「ああ、なんだか……」


ガシャッ


ポルトガ兵2「予感……が――……?」

ポルトガ兵「ん?どうした?」

ポルトガ兵2「……」

ポルトガ兵「おい……」

ポルトガ兵(……?なんで俺の後ろを見て固まって……)クルッ

ポルトガ兵「……」

ポルトガ兵2「……」

ポルトガ兵「……は?」

―地下牢―


ガシャン!


勇者「とにかくっ!!お願いだ!もう僕一人がどうこうって話じゃなくなったんだ!」

勇者「早く止めないと大変な事になる!!」

イシス勇者「ゆ、勇者くん一旦落ち着いて!」

勇者「でも、そんな悠長な事を言ってる場合じゃ……!」

ポルトガ勇者「馬鹿野郎」

ゴンッ!!

勇者「あぎゅんっ!!」

イシス僧侶「ポルトガ勇者様!?」

イシス魔法使い「わぁ……今のゲンコツは痛そうね」

勇者「あいだだだ……!!」

ポルトガ勇者「何か事情があって焦ってんのは分かったけど、だからといって簡単に打開できるような状況じゃねえだろうが!」

ポルトガ勇者「てめえ一人盛り上がって突っ走った状態じゃ強行突破もクソもできやしねえよ!」

勇者「うっ……」

ポルトガ勇者「……とりあえず落ち着け」

勇者「……うん……、悪かった。ごめん」

イシス勇者「いや、いいんだ。何かわけありみたいだしね」

ポルトガ勇者「そのワケってのは何なんだ?」

イシス戦士「今、お前一人がどうこうって話じゃなくなった……と言っていたが」

勇者「……」

ポルトガ勇者「……話せねえ事か?」

勇者「……ごめん」

勇者「これは、本来なら……ずっと内密にしないといけない事なんだ」

イシス勇者「内密、に?」

ポルトガ勇者「まあ無理に話せとは言わねえがな……それじゃなんでお前が焦りだしたか不安にもなるしなぁ」

勇者「……」

イシス魔法使い「……勇者くん」

勇者「え、あ、はい?」


イシス魔法使い「……もしかして、その内密が明かされる事に焦ってるの?」


勇者「!」

イシス僧侶「へ?どういう事?」

ポルトガ勇者「……ああ、なるほどな」

イシス僧侶「ん?」

イシス戦士「このままガルナの一族の末裔がダーマに着けば、それが日の下に曝け出されてしまうという事か」」

イシス僧侶「ああー、なるほどー……」

イシス僧侶「……え?じゃあそれって……」

イシス勇者「……ああ」

勇者「……うん」

勇者「とんでもなく……やばい事なんだ」



勇者「今、騎士団長がやろうとしてる“事”――……」

勇者「遊び人が……火贈りの儀式で人間としての業を“遊び人”とした事を取り消して」

勇者「騎士団長はあいつに“賢者”の業を背負わそうとしてる……塗り替えようとしてるって事」

勇者「それ、途轍もなくやばいんだ」

勇者「それだけは絶対にやめさせなくちゃ……!!!」



ポルトガ勇者「……!」

イシス勇者「……!」

勇者「……お願いだ、二人共……!協力して欲しい!」

ポルトガ勇者「ああ、迅速に脱出案を考えよう」

イシス勇者「それと同時に、勇者くんの脱出後に国連側に感づかれずに自由に勇者くんと行動を共にできる人間の考慮もした方がいいね」

イシス僧侶「それなら私達の誰かが適役かも」

イシス魔法使い「そうね。そっちは私達で打ち合わせましょう」

イシス戦士「イシス勇者様とポルトガ勇者殿、勇者は脱出方法の話し合いを――……」




「……――詳しく聞かせてもらおうか?」



イシス勇者・ポルトガ勇者「「ッッ!!!?」」バッ!!


カツ… カツ…


イシス僧侶「なっ……!!」

イシス魔法使い「な、なんで」

イシス戦士「いつの、間に……!!?」


カツ… カツ…

カツ…


ザッ!!


勇者「……っ!!」



ムオル勇者「……勇者の脱出がどうこうという話が聞こえていたが……」

ムオル勇者「聞き違いか?」

ムオル勇者「ポルトガ勇者……イシス勇者」



一同「「「…………!!!」」」


イシス勇者(最悪、だっ……!!)

ポルトガ勇者(こいつ、“いつ”この地下牢階に入って来やがった……!?どのくらい前から!?)

イシス戦士(まるで気配が無かった!足音も、甲冑の金属音はおろか衣擦れの音さえも……!)

イシス魔法使い(これ、もはや言い逃れできないくらいイケない状況よね……!)

イシス僧侶(……無事にここ出られるかな)



ムオル勇者「……お前らはその牢の中で何をしている?」

ムオル勇者「尋問には見えんが……何をしているんだ?」

ムオル勇者「…………」


ムオル勇者「質問に、答えろ」


イシス勇者「……」

ポルトガ勇者「……」


ムオル勇者「……」

ムオル勇者「両者共、牢から出て来い」


イシス勇者「……ポルトガ勇者君」

ポルトガ勇者「……ああ」

ザッ!


勇者「!」


イシス勇者「……」スタスタ

ポルトガ勇者「……」スタスタ


勇者「イシス勇者君、ポルトガ勇者っ……」ザッ


ムオル勇者「動くな」


勇者「っ!」ピタッ

ムオル勇者「お前は動くな。イシスの従者達もだ」

イシス僧侶「ぐ……」

イシス魔法使い「……分かりましたわ」

イシス戦士「イシス勇者様……!」


ザッ


イシス勇者「……」

ポルトガ勇者「……」

ムオル勇者「……さて」

ムオル勇者「もう一度問う。そこで何をしていた?」

イシス勇者「……ムオル勇者さん」

ムオル勇者「なんだ」

ポルトガ勇者「話がある」

ムオル勇者「なら話せ」

ポルトガ勇者「……アンタなら分かってくれると信じて話すぜ」

ムオル勇者「話せと言っている」


ポルトガ勇者「こいつは……勇者は、魔物でもなんでもねえ」


ムオル勇者「……」

イシス勇者「ポルトガ勇者君は、彼に過去の全てを聞いたそうなんです」

ポルトガ勇者「ああ、そのどれもが本当の話だ。あいつの目を見りゃわかる」

イシス勇者「それに、彼は以前僕を救ってくれました。そして仲間の事をとても大切に想っている」

イシス勇者「落日の七日間の手引きをした魔物が、そんな事をするとは思えません」

勇者「二人共……」

イシス僧侶「ムオル勇者様!私達からも言わせてください!」

勇者「!」

イシス魔法使い「彼とは短い付き合いですが、それでも魔の者でない事は分かります!」

イシス戦士「この男の裁判など無用です。時間の無駄であります」

イシス僧侶「サマンオサへ連行する前に、どうか勇者君の言葉を聞き入れてあげて下さい!」

ムオル勇者「……」

ポルトガ勇者「……そういうこった。ムオル勇者」

ムオル勇者「……」

ポルトガ勇者「頼む。アンタからも国連の奴らに――」




ムオル勇者「戯言を垂れ流すな」




一同「「「!!」」」

ムオル勇者「上の決定は絶対だ。それは国連の勇者になった時点でお前達も分かっているだろう」

ムオル勇者「一時の情に流されてそれを蔑ろにするなど言語道断」

ムオル勇者「そいつのサマンオサ行きは絶対であり、それは決定事項だ」


イシス勇者「ムオル勇者さんっ!!」

ポルトガ勇者「っ……」


ムオル勇者「……ポルトガ勇者、お前は地下に出入りするな」

ムオル勇者「イシス勇者もだ。これ以上私情で無計画に何をしでかされるか……堪ったものではない」



ジャキン!!!


勇者「!?」

イシス僧侶「ちょっ!」

イシス戦士「イシス勇者様!?」

イシス魔法使い「何をっ……!」


ムオル勇者「……」


イシス勇者「……っ」チャキッ…


ムオル勇者「……なんの真似だ?」


イシス勇者「……ムオル勇者さん、お願いです」

イシス勇者「勇者くんを解放してください」

ムオル勇者「……」

イシス勇者「サマンオサの魔族裁判は……実質死刑のようなものだ。ここで国連に全て任せれば、彼を見殺しにする事になる」

イシス勇者「それに、勇者くんの話だと、ここで足踏みをしている時間なんてないんです」

イシス勇者「もし……貴方がそれを承知してくれないのなら……」

ギリッ…

イシス勇者「……貴方に対しても……僕は剣を抜いてやる」


勇者「イシス勇者君!それはダm――……」


ポルトガ勇者「俺も、こいつと同意見だ。ムオル勇者」

勇者「!」


ジャキン!


ポルトガ勇者「……こいつの話を聴く限り、今は結構やばそうな分岐点らしい」

ポルトガ勇者「あのガルナの末裔をダーマに連れてくのをやめさせてくれ。そしてこいつを解放してやってくれ」

ポルトガ勇者「俺は、嘘を吐く奴ってのは眼を見りゃわかるんだ……こいつは信じて良い」

ポルトガ勇者「……もし無理ってんなら」


ギリッ…!


ポルトガ勇者「悪いが、少し抵抗させて貰うぜ」


ムオル勇者「……」


イシス勇者「……っ」

ポルトガ勇者「……」


ムオル勇者「……」



ドッ!!!!!!


ガキイィィン!!!!




勇者「!!!?」

イシス従者達「「「!!!」」」



パラパラ



イシス勇者「っ……!?……な……ぐっ……!」

ポルトガ勇者「!!?……くっ」



ムオル勇者「……先程行った筈だ」


ギリィッ……


ムオル勇者「戯言を垂れ流すな、と」



ポルトガ勇者「ぎ……ぃっ!」

ポルトガ勇者(こいつ……!いとも簡単に、間合いを縮めて)

イシス勇者「か、はっ……!!」

イシス勇者(素手で、素手でっ!、僕らの剣を薙ぎ飛ばして、喉を掴んで、壁と地面に抑えこんだっていうのか……!!)

イシス勇者(今の、一瞬で!!)



ムオル勇者「お前達、自分達が何をしているのか分かっているのか?」

ムオル勇者「自分達が今手に持った物が何か」

ムオル勇者「それを抜く事が何を意味するのか……分かっているのか?」


イシス勇者「それ、はっ」


ムオル勇者「お前達は剣を抜いた。剣を抜き、俺に向かって構えた」

ムオル勇者「いや……俺に対してでは無い」

ムオル勇者「国連に向けてその敵意を鞘から抜き出し、突きつけたのだ」

ムオル勇者「……これがどんな事か理解しているのか」


ポルトガ勇者「んな事っ」


ムオル勇者「お前達は勇者である以前に王子だという事を忘れているのか?」


ポルトガ勇者「!」

イシス勇者「!」


ムオル勇者「こんな愚行で国連に背き、国はどうなる。国連からの信用はどうなる」


ポルトガ勇者「……っ」


ムオル勇者「ポルトガの王はどうなる。イシスの女王はどうなる」

ムオル勇者「ポルトガの民は、イシスの民は」

ムオル勇者「親国の信用は、貿易は、経済は、国の未来はどうなる」

ムオル勇者「言ってみろ」


イシス勇者「……」

ポルトガ勇者「……俺はっ……だから、俺は」

ポルトガ勇者「王子なんか……っ、縛られるなら」

ポルトガ勇者「何も……できねえなら……!!……王子、のっ……身分なんかっ」


ムオル勇者「お前の心境など関係あるものか。お前は王位継承権を放棄したにしろ王子である事は変わらん」

ムオル勇者「背負っているものの大きさも忘れ、自分の一存だけでそれらを放り投げるのか」

ムオル勇者「……馬鹿共が」


パッ

ドサッ!!


イシス勇者「がはっ!!」

ポルトガ勇者「はぁっ……はぁっ!!くっ……っそ!!」

ムオル勇者「……また何か不穏な動きをすれば、同じように捻じ伏せる」

ムオル勇者「愚行を繰り返すな」

勇者「二人共!!」ザッ!!

ムオル勇者「動くなと言っただろう」

勇者「っ……!!ムオル勇者さん!彼らは関係無い!!僕が誑かしただけなんです!」

ポルトガ勇者「勇者、っかはっ!お前ッ」

勇者「ポルトガやイシスの国々には何も関係無い!!僕が脱獄するために、彼らを騙したんだ!!だから彼らは――……」

ムオル勇者「お前もよくそんな愚言が吐き出せるな」

勇者「!!」

ムオル勇者「……今こいつらが剣を抜いたのが誰の為か、もう忘れてしまったようだな」

ムオル勇者「自分が巻き込んで、誑かし……そして自分の身を捧げてその覚悟や決意を無碍にするのか」

ムオル勇者「……よほど自分が可愛く、よほど自分の身を蔑ろにしていて……そしてよほどの馬鹿のようだ。お前は」

勇者「……っ」


イシス勇者「ムオル勇者さんっ!!何をっ――……」ザッ!!

ポルトガ勇者「イシス勇者!」ガシッ!

イシス勇者「っ……でもっ……!」


ムオル勇者「上であの女達にも旅の間の事情を聴取したが……お前の無謀さには閉口した」

ムオル勇者「何かあれば自分の身を顧みずにあの女達を守ったそうだが」

ムオル勇者「俺にしてみれば、それらはただの愚行だ。他人の事を考えたふりをした、極めて利己的な行動だ」

勇者「……」

ムオル勇者「策と称して左手を失い、策と称して死霊の群れに飛び込み……その他も諸々」

ムオル勇者「結果全ての場面で生き延びたはいいが、いつ死のうがおかしくはない状況」

ムオル勇者「全て匹夫の勇だ。下策であり、餓鬼の空想。……それらが偶々上手くいったにすぎない」

勇者「…………」

ムオル勇者「お前……」


ムオル勇者「……自己犠牲を償いだと思っているんじゃあないか」


勇者「!!!!!」


ムオル勇者「……」

勇者「……………………」

勇者「………………そ、んな……」

ムオル勇者「……」

勇者「違……僕は、そんなの」

勇者「僕は……」

ムオル勇者「……」

勇者「………………」

ムオル勇者「……まあいい」

勇者「……」

イシス僧侶「……勇者君……」

イシス魔法使い「……」

イシス戦士「……っ」


ザッ!!

イシス戦士「お、お言葉ですがムオル勇者殿!!」

イシス僧侶「イシス戦士!?」

ムオル勇者「……何だ」

イシス戦士「私達の主、イシス勇者様は、その匹夫の勇に……たとえそれが自己犠牲の感情によるものだったとしても!!」

イシス戦士「それが奴の利己的な衝動の副産物だったとしても!……それらに私達の主は救われました!!」

イシス戦士「その衝動の根源が何であれ!私達はその男に感謝しているのです!これは紛れも無い事実です!!」

イシス戦士「それでもムオル勇者殿はそれらを無駄であったと仰るのですか!!」


勇者「……!」

イシス僧侶「イシス戦士……!」


ムオル勇者「……」


イシス戦士「その愚行がなければ、事態は動かなかったかも知れぬのです!いえ、悪化していたかもしれない!!」

イシス戦士「差し出がましいとは、思いますが!!言わせていただきます!!」


イシス戦士「この者の行動は!!無駄ではありません!!」


ムオル勇者「……」

イシス戦士「……し、失礼しました!!」

イシス僧侶「……イシス戦士」

イシス魔法使い(こんなに感情剥き出しのイシス戦士、久々ね……)

ムオル勇者「……」

ムオル勇者「…………」


<……


ムオル勇者「……!」


イシス戦士「く、口答えなど、出すぎた真似をしてしまい……申し訳御座いません」

イシス戦士「しかし――……!!」


ジャキン!!


一同「「「「!!!?」」」」


ムオル勇者「…………謝罪などいらん」チャキッ…

スタスタ…

ムオル勇者「……そこから動くな」


イシス戦士「っ……!」ゾクゥッ

イシス僧侶「ムオル勇者様!!」ガバッ!

イシス魔法使い「お、お許し下さい!!剣をお下げになってください!!」ガバッ!!

ムオル勇者「動くなと言っているだろう」スタスタ

イシス魔法使い「ひっ……!!」

イシス勇者「ムオル勇者さん!!何を!!!」

ポルトガ勇者「おい!!何するつもりだ!!!」


ムオル勇者「……」スタスタ

イシス戦士「っ……!!処罰ならっ!!なんなりと……!!」


ガバァッ!!


ムオル勇者・イシス戦士「「!!」」


勇者「……っ!!」


ムオル勇者「……」

イシス戦士「ゆ、勇者……私は平気だ!お前は下がっていろ!今のは私の咎だ!」

勇者「……」

ムオル勇者「……」

勇者「……ムオル勇者さん」

ムオル勇者「……なんだ」

勇者「……全部、全部僕の責任だ……この人達は、関係ない」

勇者「斬るなら僕を斬れ」

ムオル勇者「……また自分を差し出すのか」

勇者「差し出しますよ」

ムオル勇者「愚かだな」

勇者「ええ、愚かです」

勇者「そっちの方がマシだ」

勇者「どんなに、みっともなくても……愚かでも」

勇者「……そっちの方がマシだ」

ムオル勇者「……」

勇者「誰かを僕のせいで死なせて……僕は生き延びて」

勇者「後悔して、後悔して、後悔して生きるより」

勇者「意地張って……意地張って、あがき続けて、もがいて、死ぬ方がマシだ」

勇者「…………マシなんだ」

ムオル勇者「……」

勇者「……」

ムオル勇者「……」

勇者「……斬るなら、僕を斬ってください」

ムオル勇者「……」

勇者「……っ」

ムオル勇者「…………どうやらお前は俺の言う愚かさの意味を理解していないようだな」

勇者「……え?」

ムオル勇者「勇気があるのは悪い事ではない。それは賞賛されるべき事なのであろう」

ムオル勇者「そのイシスの従者達の言うとおり、それによって救われた者が居るのも事実なのであろう」

ムオル勇者「しかし、それは結果論だ。お前は無謀すぎる」

ムオル勇者「いざという時に、命をがむしゃらに投げ出し、考え無しに突っ込む」

ムオル勇者「先程も言ったが、それは勇気というにはあまりに愚かで稚拙だ。自己満足の自己犠牲の域を出ない」

勇者「……それは……っ」

ムオル勇者「お前には、考えが足りない」

勇者「…………」

イシス勇者「ムオル勇者さん!!それ以上勇者くんを馬鹿にしたら――……!!」ザッ!!

ムオル勇者「イシス勇者もそこを動くな」

ムオル勇者「少しでも動けば皆の首を刎ねるぞ」

イシス勇者「っ……!」ピタ

ポルトガ勇者「……」

イシス勇者「ポルトガ勇者君!!君も何か」

ポルトガ勇者「待て、イシス勇者」ボソッ

イシス勇者「えっ?」

ポルトガ勇者「……」

ポルトガ勇者(何だ……?)

ポルトガ勇者(なんだか……)


<……!…!


ポルトガ勇者(上階が騒がしい……?)

ムオル勇者「……今一度問いただそう」

ムオル勇者「お前、本当にあの娘達を守りたいのか?」

勇者「……」

ムオル勇者「自分の罪悪感を、あの娘達を守ろうとする事で晴らそうとしているんじゃあないか?」

勇者「……違う」

ムオル勇者「危険な状況に身を投じる事で、全てを放り出そうとしているんじゃあないか?」

勇者「……違う……っ」

ムオル勇者「強くない事を言い訳に、命を粗末にしているんじゃあないか?」

勇者「……違う……!!」


ムオル勇者「……お前は」





ムオル勇者「そのままで良いと思っているのか?」





勇者「……」

勇者「……」

ムオル勇者「……」

勇者「……」

勇者「……」

勇者「……がう……」

勇者「違う…………」

勇者「…………違う」

勇者「違う…………違う!!」

勇者「違う!!違う!!違う!!違う!!違ってる!!!」


ギリィッ!!!!





勇者「違うに!!!!!決まっているだろ!!!!!!!」





ムオル勇者「……!」

イシス勇者「……!!」

イシス僧侶「勇者くん……」


勇者「……っ……!!!!」

ムオル勇者「……」

ムオル勇者「……」

スッ

勇者「っ!?」ビクッ



ポン



勇者「へ?」


ムオル勇者「……うむ」

ナデナデ

ムオル勇者「…………そうか」


勇者「……え……?」


イシス勇者「へ……?撫で……?」

ポルトガ勇者「おい、イシス勇者」

イシス勇者「ん?え?な、なんだい?」

ポルトガ勇者「一応、剣構えとけ」

イシス勇者「え……?」


ムオル勇者「ならば、お前はもっと強くならなければならないな」ナデナデ

勇者「そ、それは、え?あれ?」

ピタ

ムオル勇者「そして、覚えておけ」

ジャキッ!!

勇者「!?」

ムオル勇者「…………強くなるというのは、腕力や魔法力を鍛えるだけではない」

ムオル勇者「ましてや戦術を駆使する事だけでもない」


ゴ


イシス戦士「……ん?」

イシス魔法使い「……?」


ゴゴ


イシス僧侶「……?」

イシス僧侶(なに……この音……?)


ゴゴゴゴ


イシス勇者「なんだ……?この地鳴りみたいな……」


タッタッタ


イシス勇者「!」

ポルトガ勇者「……やっぱりか」


ポルトガ兵「王子ー!!!」タッタッタ


ポルトガ勇者「どうした!!!」

ポルトガ兵「火急の用件にて!!失礼します!!」タッタッタ


ポルトガ兵「侵入者です!!!城に魔の手先の侵入者が現れました!!!」


勇者「!?」

勇者(侵入者……!?魔物の!?)

ムオル勇者「勇者」

勇者「!」

ムオル勇者「……誰かを守りたいと思うのなら、無謀ではいかん」

ムオル勇者「謀を無くしては、全てが無謀になる」

ムオル勇者「全てにおいて、数手先を読む事も……」



ムオル勇者「下準備……策も大切だという事を、覚えておけ」





ドゴオオオオオオオオオン!!!!!




一同「「「「!!!?」」」」


勇者(何だ!!!?突然、壁が――……!!!!)

ガシッ!!!

勇者「ぐあぁっ!!?」

ガシィッ!!

イシス戦士「なっ!!!?」


イシス僧侶・イシス魔法使い「「イシス戦士!!!!」」


イシス勇者「イシス戦士ぃ!!!!!勇者くん!!!!」ダッ!!!

ポルトガ勇者「待て!」ガシッ!!

イシス勇者「!?っ、何を!!離してっ――……!!」

ポルトガ勇者「少し、待て」ギリ…



パラパラ……


ムオル勇者「……『何者だ』」ジャキッ!!


鉄の仮面を被った者「…………」


勇者「っ……な」

勇者(こいつが、さっき兵の人が言ってた魔物……!?)

イシス戦士「ぐっ……!!」ギリィッ!!

イシス戦士(なんという力……!!私でも振り解けないとは……!!)

ポルトガ兵「お、王子!!あいつです!!!」

ポルトガ兵「先程、城門に突如として現れて、自分を魔物と名乗って……」

ポルトガ兵「最初は、冗談かと思ったのですが……!!城門兵とサマンオサ兵が数十人負かされて――……!!」

ポルトガ勇者「ああ、わかってる」

ポルトガ勇者「……っ」スゥゥゥゥ


ポルトガ勇者「侵入者だ!!!!!!!!」

ポルトガ勇者「地下牢階に魔物侵入!!!!!上階の者は余さず地下牢階へ集結せよ!!!!!!」



ムオル勇者「……『何者だと問うている』」ザッ

ジャキッ!!

鉄仮面「……『動くな』」

鉄仮面「『動けば、この女は殺す』」


イシス戦士「ぎっ……!!ぐ、がぁっ……!!」ギリギリ

イシス戦士(後ろ手を纏めて握られ……くそ!!ビクともしない!!)

イシス勇者「くっ……!!」

イシス勇者(勇者くんとイシス戦士を人質として……!!これじゃ迂闊に手が出せな――……!!)

イシス勇者「……」

イシス勇者(………………ん?)

イシス勇者(……今、あいつ……何て言った?)

イシス僧侶(『この……女』?)

イシス魔法使い(『勇者くんを人質の勘定に入れてない……?』)


勇者「……」

勇者「……え?」

勇者(この……声)

勇者「まさか……」



鉄仮面「……」



ボソッ


勇者「!!!!」

イシス戦士「!!!!」


ボソボソ ボソボソ


鉄仮面「……」

勇者「……」

イシス戦士「……」


イシス勇者「……?」

イシス勇者(何だ?二人の様子が急に……)


タッタッタ!!

ポルトガ兵達「「王子!!!!」」

ポルトガ勇者「早く来い!!魔物だ!!」

ザッ!!

ポルトガ兵「魔物は一体何処から……!!」

ポルトガ勇者「……排水路だ。地下の水路の分厚い壁を壊して入って来やがった」

ザッザッザッ!!

サマンオサ兵達「「「……」」」

ポルトガ勇者「へっ、サマンオサの面々もご到着か」

ザッ!!

ポルトガ兵「王子!!あの者ですか!!」

ポルトガ勇者「ああ。油断するな、剣を持て」

ポルトガ兵「はっ!!」

ジャキン!!ジャキッ!!

ポルトガ勇者(……さて)


ムオル勇者「……」

鉄仮面「……」

勇者「……」


ポルトガ勇者「……」

ポルトガ勇者(この後どう出る……)

ポルトガ勇者(……つっても、決まってるか)


勇者「もういいよ、離してくれ」

鉄仮面「……ああ」


パッ

スッ


イシス勇者「!!」

イシス僧侶「!」

イシス魔法使い「!?」



勇者「ふう……ご苦労様」


鉄仮面「構わないさ」



イシス勇者・イシス僧侶・イシス魔法使い「「「勇者くんっ!!?」」」

ザワッ!!

ポルトガ兵「おい!あいつ――……」

ポルトガ兵2「あの鉄仮面と知り合いなのか……!?」

ポルトガ兵3「って事は、やっぱり――……!!」


勇者「全く、手酷い扱いを受けたよ」

勇者「人間はこれだから嫌いだ」


イシス勇者「勇者くん!?何を言って――……!!」


勇者「……聴け!!!!人間共!!!!」

ガシッ

イシス戦士「ぐ、ぐあー」

勇者「少しでも動いてみろ!!」

勇者「この人間の命は無い!!首をその瞬間に刎ねる!!」

イシス勇者「……なっ……!!?」

勇者「……お前達がのんびりと僕を拷問してくれたおかげで時間が稼げたよ」

鉄仮面「……」


勇者「いいか!!!よく聴け!!!!」

勇者「あの“落日の七日間”の手引きをしたのは!!」

勇者「この僕だ!!!お前達の言う通りな!!!!」

勇者「……っ」

ギリッ!!

鉄仮面「……!」


勇者「ははっ、はははははっ!!!」

勇者「あのガルナを……賢者を殺したのも僕だ!!!!」

勇者「全て、全て僕が手引きしてやったんだ!!!!!」

勇者「……憎いか!!!!憎いだろう!!!!」

勇者「そうだ!!!僕はお前達の憎む……人間の最も憎む……」


勇者「…………魔族だ!!!!!」

ザワッ!!


イシス勇者「ゆ……勇者くん……?」

イシス僧侶「……!」

イシス魔法使い(そっか……なるほどね)


ムオル勇者「……」ジャキ


ヒュンッ!!


鉄仮面「!!」


ガキィン!!


兵達「「「!!!!」」」


ムオル勇者「っ……!!」ギリギリ

鉄仮面「……動くなと言った筈だ」ギリギリ


ポルトガ兵「は、速い!!」

ポルトガ兵2(ムオル勇者様の剣が受け止められただと……!?)

ポルトガ兵3「鍔迫り合いも押し切れないなんて……!?」

ポルトガ兵4「つ、つう事は」

ポルトガ勇者「……ああ」


鉄仮面「ふっ!!」

ガキィン!!

ムオル勇者「むぅっ!!」

ズザァッ!!

ムオル勇者「……」ギリッ

鉄仮面「……もう一度言うよ、動くんじゃない」


ポルトガ勇者「あの鉄仮面の魔物……ムオル勇者と同じ強さ……いや、それ以上だ」

勇者「お前ら、これ以上妙な真似はするなよ?」

勇者「さっきも言った通り、その場合は」

ギリッ

イシス戦士「ぐあー」

勇者「……」

勇者「そ、その場合はこいつの首が飛ぶよ」


イシス僧侶「『そ、そんな!』」

イシス魔法使い「『なんて事を……!やめて!勇者君!』」

イシス僧侶「『今までの事は嘘だったの!?あの娘達は君とグルだったの!?』」

イシス魔法使い「『私達を騙してたの!?嘘、嘘よね!?』」


勇者「!」

イシス戦士・鉄仮面「「!」」


ポルトガ勇者(イシスのお姉さん方、もう全部理解したみたいだな)

イシス勇者「……っ」

ポルトガ勇者(…………こいつはまだ気付いてないっぽいな、案外アホなのか)


勇者「……ああ」

ニタァ

勇者「全部全部、演技さ」

勇者「アリアハンに……オルテガの所へ転がり込んだのも」

勇者「あの賢者ガルナに近づいたのも」

勇者「あの女達を僕に懐かせたのも」

勇者「ぜーんぶ計算通りだった」

イシス勇者「そんなっ……!」

勇者「面白いくらいにスムーズにいったなあ……おかげで」

勇者「……っ」

ギリッ


勇者「オルテガも、ガルナも……殺す事ができたんだからなあ」


イシス勇者「……」

イシス勇者(…………あ)

イシス勇者(そっか……)

ギュッ

イシス勇者「っ……『貴様!まさかアリアハンの王や民まで魔物の手に染めたのではないのか!?』」

イシス勇者「『上階に居る娘達は、お前の仲間ではないのか!?』」

勇者「!」

イシス勇者「……っ!」

勇者(……イシス勇者くん、ありがとう)

勇者「お前達のお陰でその順調にいってた計画は全ておじゃんだ」

勇者「もうすぐで脅威の芽であるオルテガの娘までもどうにかする事ができた筈なのに」

勇者「……こんなタイミングで僕の正体がバレちまうなんてね」

勇者「あの上階の娘達も……魔族にとって脅威になりうるから……利用するだけして、処分してやろうと思ったんだけどなあ」

勇者「全てばれてしまったし……もういい、いらないよ」

勇者「どの道、オルテガもガルナも居ないアリアハンなど恐るるに足らないからね」

勇者「…………いけない、少し喋りすぎたかな」

ザッ

勇者「そろそろ僕達はお暇させて貰うとしようか」

鉄仮面「ああ」

ムオル勇者「待て!」ザッ

勇者「待たないよ。僕は魔王様の所へ帰らないといけない」

鉄仮面「追ってきたら、この人質は八つ裂きにする」

勇者「素直に僕達を帰してくれたら、後でこの娘は返してやるよ」

イシス戦士「くっ」

ムオル勇者「……」

ポルトガ兵「ムオル勇者様!!」

ポルトガ兵2「ご命令を!!二人程度、皆でかかれば容易いでしょう!!」

サマンオサ兵「ムオル勇者様、攻撃命令を」

サマンオサ兵2「さあ」

ムオル勇者「……」




スチャ… 


一同「「「「!!!」」」」

ムオル勇者「……人命が最優先だ」

ムオル勇者「『今剣を交えて理解したが……俺達が束になったところでこいつには適わん』」

ポルトガ兵「そんな……!!」

ムオル勇者「『行け。人質が返ってこなければ後を追ってでも殺してやる』」


勇者「分かった分かった、それじゃ失礼するよ……行こう」

鉄仮面「ああ」

グイッ!

イシス戦士「ぐう!」

勇者「ほら、来い!」


イシス勇者「イシス戦士!」

イシス魔法使い「待って!!連れて行かないで!!」

イシス僧侶「お願い!!その子を離して!!」


イシス戦士「っ……イシス勇者様!!」

イシス戦士「必ず、必ず戻って参ります!」


勇者「……それじゃ、さよならだ!人間共!!」

ダッ!!

タッタッタ…

イシス勇者「イシス戦士!!!」

イシス僧侶「誰か!!早くあいつらを追って!!イシス戦士がっ!」

イシス魔法使い「ムオル勇者様!ポルトガ勇者様!!」


ザッ!!


ムオル勇者「皆城外へ!!ポルトガ兵もサマンオサ兵も総員外へ出次第、目視で奴らを捕捉しろ!!」


ポルトガ勇者「水路だ!!奴らは水路を辿って表の大水門に出る筈だ!!」

ポルトガ勇者「……」チラッ

ムオル勇者「……」コクッ

ポルトガ勇者「!」

ポルトガ勇者「……総員!!大水門へ移動し、奴らを見つけ次第隠れて追え!」

ポルトガ勇者「排水路は出口は一つしかない!!奴らが霧のように消えない限り、必ず大水門に姿を現す!!」

ポルトガ勇者「繰り返す!大水門へ移動し奴らを隠れて追え!!」


ワーワー!!


イシス勇者「……」

ポルトガ兵「イシス勇者様……!私達が付いていながら、側近の方を……!!申し訳御座いません!!」

ポルトガ勇者「おい!喋ってる暇があったら早く移動しろ!!」

ポルトガ兵「は、はいっ!!」ダッ

タッタッタ

ポルトガ勇者「……ったく、おい。イシス勇者お前も」

イシス勇者「……ポルトガ勇者君」

ポルトガ勇者「……」

イシス勇者「…………本当に、これで……良かったんだろうか」

ポルトガ勇者「…………さあ、な」

ポルトガ勇者「ただ……あいつ、一瞬の躊躇も無くこの選択肢をとりやがった」

ポルトガ勇者「……これしかねえんだろうよ、あいつの選択肢は」

イシス勇者「……うん」

ポルトガ勇者「ほら!!お前も移動だ!兵達に怪しまれるぞ!」

タッタッタ

イシス勇者「……」

イシス僧侶「……行こう、イシス勇者様」

イシス魔法使い「勇者くんのためにも」

イシス勇者「……」

イシス勇者(勇者くん)

イシス勇者(どうか、無事で……)


…………
……


―ポルトガ城・客室―


ジパング勇者「さぁーて!荷解きも終わったし!」

ザッ!!

ジパング勇者「勇者っちとお喋r……ゲフン」

ジパング勇者「勇者っちの尋問、監視といきましょうかねい!!」

ジパング従者「ジパング勇者様、ご機嫌ですな?」

ジパング勇者「当たり前じゃよー!だってこれのためにわざわざ召還されたんじゃから!」

ジパング勇者「だからほらっ!質問のリストも持って来てあるんじゃよっ☆」バーン

ジパング従者「いやはや、流石でございます!」

ジパング勇者「じゃろじゃろー?☆もっと褒めるがよいよ!」

ジパング従者「いよっ!質問上手!」

ジパング従者2「いよっ!かわいい!かわいい!」

ジパング従者3「いよっ!色女!」

ジパング勇者「ふっふーん☆じゃろうよじゃろうよー!」


タッタッタ!!  バターン!!


ポルトガ兵「突然申し訳ありません!!!!ジパング勇者様!!!」

ポルトガ兵「たった今容疑者・勇者が脱獄しました!!!」


ジパング勇者「えっ」

ジパング従者達「「「えっ」」」

ポルトガ兵「至急、捜索に協力願います!失礼致しました!!!」

バタン!!

ジパング勇者「……」

ジパング従者達「「「……」」」

ジパング勇者「……えっ」

ジパング勇者「質問リスト……えっ」

ジパング従者達「「「……」」」

…………
……


―地下水路―


バシャバシャ!!


鉄仮面「……」

勇者「はぁっ!はぁっ!」

イシス戦士「……」

バシャバシャ

勇者「はぁっ……はぁっ……!」

勇者(追手は……来てないみたいだ)

鉄仮面「……!あった!」

勇者「!」


バシャ……ピタッ


鉄仮面「ここだ。ついて来て」

勇者「この、細い道?」

鉄仮面「ああ」

パシャパシャ

勇者「イシス戦士さん、気を付けてね」

イシス戦士「ああ、大丈夫だ」

鉄仮面「!ここだ」

鉄仮面「この壁の杭を登ってくよ……滑らないようにね」




……
…………

…………
……




―ポルトガ城の一室―


シーン…

…ト

ゴト、ゴトッ


ゴゴゴッ!


ヒョコッ

鉄仮面「……」

シーン

鉄仮面「よいしょっ!」

ゴトン!

スタッ

鉄仮面「……よし、誰も居ないみたいだ」

ガシッ スタッ!

勇者「ふうっ……イシス戦士さん、手を」

イシス戦士「馬鹿にするな、このくらいなんでもない……っと」

スタッ

イシス戦士「……ふぅ……」


シーン…


イシス戦士「…………ここは?」

鉄仮面「協力者が用意してくれたんだ」

勇者「協力者……?」

鉄仮面「ああ、えっと――……」

勇者「あー、ちょっと待って、まだもっと聴きたい事が……」

イシス戦士「私もだ……あまりまだ頭の整理がついていなくてな」

勇者「えっと……まずどこから話し合い始めようか」

鉄仮面「そうだね……」

勇者「……まずは、どうしてお前がそんな事になってるか……聴いてもいいかな」

鉄仮面「……」

イシス戦士「流石に、口裏を合わせろと言われた時は辟易したぞ」

鉄仮面「……」スッ

カチャッ

勇者「……」


カチャカチャッ ガタンッ


スッ


勇者「……話、聞かせてくれ」

勇者「女勇者」




女勇者「……了解だよ。お義兄ちゃん」


今日はおしまいです

女勇者「……と、言いたいところだけど」


<……!…!


イシス戦士「!」

勇者(外で兵士達が……!)

女勇者「ここも一時を凌ぐための部屋なんだ。まずここを出よう」

クルッ

女勇者「付いて来て、二人共」スタスタ

勇者「ああ」

イシス戦士「分かった」


スタスタ…


イシス戦士「しかしどこへ行くのだ?こんな状況で……」

女勇者「一旦外に出るんだ。こっちから中庭へ行ける」

勇者「中庭?」

イシス戦士「それだと袋の鼠になってしまうだろう」

女勇者「いや、いいんだ。今、城の兵達はほとんど水門に集められてる」

女勇者「……このドアだ」

ガチャッ



―中庭―


サァァァ…


イシス戦士「……こんな所が……」

勇者「兵は……居ないみたいだ」

スタスタ

イシス戦士「しかし、他に道は無い様だが」

勇者「ここからどこに移動を……そりゃ兵が水門に集められて警備が薄くなってるって言っても、ここからじゃ」

女勇者「だから、ここから移動するのさ」

勇者「え?」



スッ


女勇者「それじゃ、二人共掴まって」

イシス戦士「……?」

勇者「何を……」

女勇者「いいから。私の手を強く握っていて」

イシス戦士「……ああ」ギュッ

勇者「?」ギュッ

女勇者「今、水門や水路を見張ってるなら、上の警戒はしない」

イシス戦士「上の?」

女勇者「例え見られたとしても、魔力軌道と方角を特定、魔法兵へのされるまで多少の時間差が生まれる」

女勇者「そのくらいの時間があれば十分なのさ」

イシス戦士「!」

勇者「え?女勇者、お前まさか」

女勇者「さて……行くよ!!」


ゴォォォッ!!!



女勇者「ルーラ!!!」


――――――――――――――


ゴォォォォッ!!


ポルトガ兵「王子!あれを!」

ポルトガ勇者「何だ!?」

ポルトガ兵2「移動魔法です!!何者かが移動魔法を使って飛び立ちました!!」

ポルトガ勇者「移動魔法を!?」

サマンオサ兵「どちらの方角だ!!」

サマンオサ兵2「南東だ!!早く移動魔法を取得している者を向かわせろ!!!!」

ザッ

ムオル勇者「ここより南東の魔力場の強い都市へ移動魔法取得者は移動!!」

ムオル勇者「それ以外は城内を捜索、警備する隊とダーマへ向かう隊へと分かれろ!!」

ムオル勇者「ガルナの末裔に万が一の事があってはならん!!急げ!!」


兵達「「「「「はっ!!!!」」」」」


ザワザワ!!

イシス勇者「……」

ポルトガ勇者「イシス勇者!お前は城内へ行け!俺は続けて水路を捜索する!」

イシス勇者「えっ?あ、ああ!!了解した!」

ポルトガ勇者「……ひとまず安心だな」ボソッ

イシス勇者「……!!」

イシス勇者「……うん」

ダッ

イシス勇者「ポルトガ勇者君!水路は任せた!イシス僧侶!イシス魔法使い!」

イシス僧侶「はい!」ダッ

イシス魔法使い「ええ!」ダッ


タッタッタ


イシス勇者「……」

イシス勇者(勇者くん……)

イシス勇者(どうか、無事に……!)


…………
……



―バハラタ―


ゥゥゥゥウウウウウ


ゾドンッ!””


イシス戦士「ゃぁっ!」ドンッ!!

勇者「おぼごぇぇっ!!!!!」ボギャァァッ!!!

女勇者「いたぁっ!!」ドゴッ!!


パラパラ……


イシス戦士「つ、痛た……っ……!」

勇者「女、勇、者っ、おまっ、ちょ」ビクビクッ

女勇者「あたた……やっぱり魔法使いちゃんみたいにはいかないな」

スクッ

女勇者「よし!二人共!急いで!追っ手が来る前に移動だ!!」

イシス戦士「移動?」

勇者「オア、石、石が、ケツ、ケツにっ」フルフル

女勇者「……」

イシス戦士「……」

女勇者「……こっちだ!」ダッ

イシス戦士「承知した!」ダッ

勇者「呪うっ……!!絶対……!!呪う……!!」ヨチヨチ


…………


――森の中の小屋――

ザッ!!

女勇者「ここだよ。誰も追って来てないかい?」

イシス戦士「ああ、そのようだ」

勇者「いてて……ここは?」

女勇者「ただの廃屋だよ。ひとまずここに隠れよう」

イシス戦士「廃屋?しかし――……」チラッ


馬「ブルル……」


イシス戦士「馬小屋に馬がいるぞ?」

勇者「誰かの家じゃないの?」

女勇者「ああ、その馬はムオル勇者さんが用意してくれたんだ」


勇者・イシス戦士「「!!!」」


勇者「じゃあやっぱり協力者って……」

ガチャッ!

女勇者「ひとまず、話は中でするよ。入って」



――小屋の中――


ピトッ

勇者「いたっ!」

女勇者「ごめん、痛かったかい?」

勇者「や、大丈夫。薬草がしみただけだから」

イシス戦士「……不便な体質だな。平気か?」

勇者「もう慣れたよ……えっと、忘れない内に聞くけど、女勇者」

女勇者「ん?」

勇者「お前、移動魔法使えたの?」

女勇者「え?ああ、一応ね。魔法使いちゃんと遊び人ちゃんにしか話していなかったけど」

勇者「すごくビックリしたよ。いつの間に……」

女勇者「もうだいぶ前にね。けどやっぱりどうも安定させるのが難しくてね。魔法使いちゃんの天才具合を思い知ったよ」

勇者「まあ、魔法使いはね……でもお前もよっぽどだよ。ホント」

女勇者「やめてほしいな。器用貧乏ってヤツさ」

女勇者「それに……こんな切羽詰った状況じゃなきゃ絶対使ってなかったよ」

イシス戦士「……じゃあ次はその切羽詰ったこの状況を説明してもらおうか」

女勇者「うん。それじゃあ本題に入ろう」

スタスタ… ガタ



女勇者「……有り体に言おう」

女勇者「状況は最悪だ」



勇者「……うん」

女勇者「お義兄ちゃんはもう殆ど分かってるんだろう?今の状況」

イシス戦士「少しいいか?」

女勇者「ん?」

イシス戦士「正直私はあまり状況全体を飲み込めていない。特にガルナ様関係の部分をな」

イシス戦士「その辺りをまじえて整理して貰えるとありがたい」

女勇者「うん。そうしようか」

女勇者「まず、そうだな……」

女勇者「とりあえずお義兄ちゃんの事はもう騎士団長が話したとおりだ。まずそこは切り離して賢者関係の事を話すよ」

イシス戦士「ああ。頼む」

女勇者「では……」ゴホン

女勇者「数年前まで、ルビス様に仕える四人の賢者が居たんだ。ナジミ・ガルナ・シャンパーニ・アープ。この四人だ」

イシス戦士「うむ。噂程度には聴いた事があった」

女勇者「そうだね。一般人からしたらそんな認識さ。さて、この四人だけど、魔物側からしたら相当な脅威だったんだ」

女勇者「ただでさえ強い力を持つ魔術や千里眼を持つ方々だ。その四人が世界の四つの塔から全てを監視していた」

女勇者「魔物側はこの塔に怯えて中々侵攻を進められなかった。そう思われていた」

女勇者「でも、ある時これが覆されたんだ」

イシス戦士「……それが」チラッ

勇者「……うん」

女勇者「ああ……“落日の七日間”だね」

女勇者「一般的には“魔物が偉い聖者様を沢山殺して、ある地方、テドン地方を死地へと変えた七日間”」

女勇者「“それにより魔物の力が増し、魔王が侵攻を本格的に進めてきた、七日間”……そういう認識さ」

イシス戦士「違うのか?」

女勇者「全く違うわけでは無いさ。けれど本当は四賢者のうち三人が殺され、世界の均衡が崩れてしまった……というだけじゃないんだ」

イシス戦士「……と、いうのは?」



女勇者「“聖者……【賢者】という職業の人間が、得体の知れない強大な【魔物】に駆逐された七日間”」



イシス戦士「……!?」

女勇者「……そう言った方が正しいと、私も二日前までは全然知らなかったよ」

女勇者「“魔王バラモスがテドンへと攻めて来て、それを食い止めるために聖者様方が応戦”」

女勇者「“死闘の末、聖者様方は殺され、テドンは壊滅。バラモス側も相当な痛手を負って撤退”」

女勇者「“しかし、魔物側が圧倒的に優勢になった”……噂どおり、そう信じていた」

イシス戦士「どういう事だ……!?つまり」

女勇者「ああ」



女勇者「賢者様方が殺され、テドンが滅んだのは……テドンへの侵攻を賢者様方が止めようとしたからじゃない」


女勇者「“テドンに居た、三人の賢者が、狙われて殺された”んだ。テドンもろとも」


イシス戦士「……」

女勇者「……本当は私なんかよりお義兄ちゃんの方がよっぽど詳しいんだろうけどね」

勇者「……」

女勇者「……できればこの話題はお義兄ちゃんには振りたくないんだ」

勇者「…………ごめんね、気を遣わせて」

勇者「でも、いいんだ。そんな事言ってる場合じゃない」

勇者「本当だよ。魔王側は賢者の職を持った人間達を殺しに来たんだ」

勇者「あの日、確かにね」

イシス戦士「しかし!ちょっと待て!」

女勇者「なんだい?」

イシス戦士「先程の話では“賢者達の存在が魔物側にとって脅威”だった筈だ!それが――……」

勇者「ああ、少し違ったんだ」

イシス戦士「!?」

女勇者「つまりだよ。確信があるわけじゃないんだけど……」

勇者「……僕は確信を持って言えるよ」












勇者「魔物は、人間を弄んでいる」









イシス戦士「……」

女勇者「……やっぱり、かい?」

勇者「……うん」

イシス戦士「な……え……?それでは……」

勇者「魔物側は、賢者達の力が“脅威になってきたから”それを摘み取りに来た」

勇者「アリアハンや、一部の地域はルビス様の加護が根強く残ってるから難しいみたいだけれど」


勇者「奴らは……その気になれば、軽く人間の世界を蹂躙できるんだ」


イシス戦士「で、では何故そうしない!?何故世界を蹂躙しない!?奴らは世界を魔物の世にするのが目的だろう!?」

勇者「だから言ったろ。それが目的じゃなかった。“弄んでるんだ”」

イシス戦士「……!?」ゾク

勇者「理由までは僕も分からない」

勇者「でも、あの日……テドンで見た魔物は」

勇者「……っ」ギリッ

女勇者「……」

勇者「……とにかく、落日の七日間は……戦争なんかじゃない」

勇者「“剪定”だ。観賞用植物の、養分が行き過ぎた部分を切り取っただけ」

勇者「これ以上、力を伸ばし続けて脅威にならないよう、その部分を……“賢者”という枝を切り取っただけ」

勇者「それだけだよ」

イシス戦士「……っな……!」

勇者「……」

女勇者「……改めて言われると、少々くるものがあるね……」

イシス戦士「な、そん、な……!」

ギリッ!!

イシス戦士「なっ……ならなぜ!!」

イシス戦士「何故貴様はそれを皆に訴えなかった!!!」

女勇者「!!!」

イシス戦士「あの場に居合わせて、全て見ていたのだろう!!?ならなぜそれを世界に知らせなかった!!!」

イシス戦士「それを知っていれば――……!!!」


勇者「何が変わった?」


イシス戦士「……」

イシス戦士「……う、あ」

勇者「……」

勇者「……ごめん」

勇者「まあ、勿論皆に言ったよ。王様にも。アリアハンの皆にもね」

勇者「でも、誰も信じなかった」

イシス戦士「?……なぜd」

イシス戦士(……あ……)

勇者「……騎士団長君が言ってたとおりだよ」

勇者「信じるわけがない。僕が同じ立場だったら僕だって信じないよ」

勇者「…………何人かが庇ってくれなかったら、今頃僕は処刑されてる」

勇者「それくらい、僕は魔物の疑いがかけられてたんだ。今もだけどね」

イシス戦士「……あ、その」

イシス戦士「…………すまない」

勇者「ううん、いいんだ」

女勇者「……話を戻そうか」

女勇者「つまり、お義兄ちゃんの言葉を借りると、だ」

女勇者「魔物達は落日の七日間で“賢者の職を持った者”っていう枝を剪定しに来たんだ」

女勇者「……それはひとまず置いておこう」

イシス戦士「え?置くのか?」

女勇者「ああ、それは置いて現状最悪の問題に話を繋ごう」

女勇者「さて、さっき行った賢者達の内の一人……“ガルナ”」

女勇者「この人はちょっと色々あって、まだ小さい少女だったんだけど」

女勇者「それに出会った勇者オルテガ一行が色々と危惧してね」

女勇者「ガルナの塔に住んでいたところをルビス様の加護が強いアリアハンへ連れて行って匿っていたんだ」

イシス戦士「あの勇者オルテガが……」

女勇者「何を隠そう、そこで私達と仲良くなってさ」

女勇者「それで色々つるむようになったんだけど……いや、これはどうでもいいね」

女勇者「で、その賢者ちゃんには……ガルナ様には、妹が居たんだ」

イシス戦士「ああ、それがあの遊び人なのだろう?知った時には驚いたぞ」

女勇者「そう。ただガルナ様は遊び人ちゃんが妹だという事は国外不出にしていたんだよ」

女勇者「ガルナ様の言う事だからね。皆ちゃんとそれは破らなかったんだけど、ずっと疑問だったんだ」

女勇者「『なぜそんな事を秘密にするんだ?』……ってね」

イシス戦士「……?」

女勇者「……今思えば、なるほどと思うよ」

女勇者「遊び人ちゃんは、10才の時の火贈りの儀式で……賢者ちゃn、ガルナ様の命で“快楽者”の……所謂“遊び人”の職を背負わされた」

女勇者「ガルナ様は『遊び人は出来損ないだから、何の素質も無いから』と周りには言っていたよ」

女勇者「でも、それは嘘だった。遊び人ちゃんは、ちゃんと素質があったんだ。ちゃんとした末裔だったんだ」

女勇者「黙っていただけで……隠していただけで。魔術も使えれば、賢者として……ルビス様の奇跡も使えたんだ」

女勇者「……そして、それがついこの間、国連に知られてしまった」

勇者「……」

女勇者「…………現在、ダーマでは再火贈りの儀式……俗称では“転職”の儀式の準備が進められてる」


女勇者「遊び人ちゃんを賢者にするための儀式をね」


イシス戦士「ああ、それは知っているが……」

女勇者「イシス戦士ちゃん」

イシス戦士「ん?なんだ?」

女勇者「さっきの言葉……覚えてるかい?」

イシス戦士「さっきの言葉?たしか――……」

イシス戦士「……」

イシス戦士「……」


イシス戦士「…………――――!!!!」


女勇者「……騎士団長は『この世界に新たな希望を』という触れ込みで計画を進めてるらしいけど」

女勇者「駄目なんだ。こればかりは、阻止しないといけない」

女勇者「魔物達には、もう賢者の魔力を知られている」

女勇者「もし、再びこの世に賢者の職者が誕生したら、すぐに感付かれる」

女勇者「そうすれば――……」

イシス戦士「…………っ!!」






勇者「……“剪定”が始まる」


勇者「落日の七日間が……――――また始まる」




今日はおしまいです

>>220

×女勇者「例え見られたとしても、魔力軌道と方角を特定、魔法兵へのされるまで多少の時間差が生まれる」

○女勇者「例え見られたとしても、魔力軌道と方角を特定、魔法兵へ伝達されるまで多少の時間差が生まれる」

イシス戦士「…………」


勇者「……」

女勇者「……」

イシス戦士「……」

女勇者「……さ、時間が無い。次の説明に行こう」

勇者「うん。……女勇者」

女勇者「なんだい?」

勇者「遊び人の事情について詳しくなってるみたいだけど……誰に教えてもらった?」

女勇者「……」

勇者「確かに落日の七日間や魔物については僕からも教えてたけど……遊び人の転職について危惧してた人間ってごく一部だ」

勇者「それ、誰かに教えてもらったんだろ?」

女勇者「……ああ、協力者にね」

勇者「それって――……」

女勇者「もう気付いてると思うけどね。……――ムオル勇者さんだよ」

イシス戦士「……やはりか」

勇者「ムオル勇者さんが……」

女勇者「今回、国連がお義兄ちゃんを拘束して遊び人ちゃんを強制的に転職させる事を知って、ムオル勇者さんは色々と手を打ってくれたんだ」

女勇者「元々遊び人ちゃんの事は父さん――……オルテガに頼まれていたらしいんだ。事情もそこで全部聞いたらしい」

女勇者「そして勿論」チラッ

勇者「?」

女勇者「……お義兄ちゃんにもしもの事があった時……その時の事も頼まれていたらしいよ」

勇者「……」



イシス戦士「しかし、ムオル勇者殿は何故あんな演技をしてまで……上層部に直接言えば、また状況も違ったのではないか」

女勇者「いや、無駄だろうさ」

イシス戦士「えっ、なぜだ?ムオル勇者殿程の人間の言となれば」

女勇者「異端者の烙印を押されて終わりだよ。今回の主導者の騎士団長は、国連から今回の出来事の全権を任されてる」

女勇者「どんなに名が売れていようと、一勇者と国連……どうしようもないさ」

女勇者「つまり、それらを理解した上でムオル勇者さんが秘密裏に上手くお義兄ちゃんを逃がせるように動いてくれたってわけなんだ」

勇者「……」


――――――――――


ムオル勇者『……誰かを守りたいと思うのなら、無謀ではいかん』

ムオル勇者『謀を無くしては、全てが無謀になる』


――――――――――


勇者(ムオル勇者さん……)


イシス戦士「ムオル勇者殿といつ会っていたのだ?というか、そういえば何故お前は拘束されなかったのだ?」

女勇者「ああ。皆が拘束された日……拘束される直前に保護されたんだ」

イシス戦士「そうか……よく国連側はお前の存在を見逃したものだな」

女勇者「…………」

イシス戦士「ん?何だ?」

女勇者「や、なんでもない」

女勇者「そして、保護されて打ち合わせをして……ああいう芝居を打つ算段になったってわけさ」

勇者「打ち合わせって……ムオル勇者さんは城を抜け出してたの?」

女勇者「ああ。皆の目を盗みながら二度ほどね」

イシス戦士「確かにムオル勇者殿は、遊び人・お前達の仲間達・勇者……と監視を転々としていたからな。少し抜け出しても誰も気にしなかったんだろう」

女勇者「そうだね。あまり纏まった時間で話せなかったから歯痒かったけれども」

イシス戦士「ん?ちょっと待てよ……という事は……さっきのあの城の部屋を用意したのもムオル勇者殿が?」

女勇者「いや、あれはもう一人の協力者が用意してくれたんだ」

勇者・イシス戦士「「!」」

勇者「もう一人協力者が居たの?」

女勇者「うん。こっちは本人の希望で誰かは明かせないんだけどね。拘束される直前の私を保護してくれたのもその人だよ」

イシス戦士「信頼できる相手か?」

女勇者「安心していいよ。ちゃんと条件も飲んで協力をお願いしてる」


女勇者「……さて、そういった経緯で私はここに居るんだ。他に質問はあるかい?」

勇者「ううん、ある程度把握できたよ。ありがとう」

イシス戦士「…………それで」

女勇者「うん?」

イシス戦士「それで……これからどうするのだ?」

イシス戦士「勇者の脱出は成功したが……遊び人の転職は……?」

女勇者「……」

イシス戦士「止めねば、とんでも無い事になるのだろう?」

イシス戦士「……何か策が……」

女勇者「ある」

イシス戦士「!本当か!?」

女勇者「……――と、言いたいところなんだけれどね」

イシス戦士「……無い、のか」

女勇者「ムオル勇者さんと、もう一人の協力者とも色々と話し合ったんだけど」

女勇者「いくつか出た案でも……結局、完璧に転職を防ぐビジョンは描けなかったよ。今回は相手側が大きすぎる」

イシス戦士「……国連だ。無理もない。勇者を脱出させる事ができただけでも奇跡のような話だ」

女勇者「とりあえず、二人は色んな策を今も模索してくれてる。それを待ちつつ私達も何か策を考えよう」

勇者「で、でも遊び人の転職まで時間が無いんじゃ」

女勇者「ああ、それが儀式が執り行われるのが明後日なんだ」

勇者「明後日?」

女勇者「一番近い加護日が明後日だからさ。今日と明日は式の準備らしい」

イシス戦士「……という事は、猶予は今日と明日という事になるな」

女勇者「一日と半。短いと泣くべきか、猶予がある事を喜ぶべきか……どうであれ、時間が無い」

女勇者「一刻も早く何か解決方法を考えないと」

イシス戦士「……ああ!!私にできる事があれば何でも言ってくれ!どんな事でもするぞ!」

女勇者「……イシス戦士ちゃん、ありがとう」

イシス戦士「それで私は――……」


勇者「でも、イシス戦士さんはポルトガに戻ってくれ」


イシス戦士「なっ!?」

勇者「元々、無理やりここに連れて来たようなものなんだ」

女勇者「ごめんよ、お義兄ちゃんを確保した時一番近くに居るのが君だったから……」

イシス戦士「そ、それはいいのだ!私にも何かさせてくれ!真相を知ってしまったからには何かしなくてはっ」

女勇者「もし、イシス戦士ちゃんが私達と行動を“共に”してるのが見つかったら凄く厄介な事になる」

イシス戦士「!!……ぐ……!」

女勇者「だから、イシス戦士ちゃんにはポルトガに帰ってもらってムオル勇者さんに伝言をお願いしたいんだ」

イシス戦士「し、しかし!」

勇者「……それに、イシス勇者くん達もきっと心配してるよ」

イシス戦士「!!」

勇者「…………変な形で巻き込んでごめん」

勇者「でも今は……無事にポルトガに帰って欲しい」

イシス戦士「っ……」

イシス戦士「…………了解だ。伝言を承った」

勇者「うん。お願いします」

女勇者「それで……私達二人なんだけど」


勇者「僕は僕で身を隠しながらダーマを視察して来る」


女勇者「!」

イシス戦士「は?」

勇者「隠れながら少しでも情報を収集しようと思ってる」

イシス戦士「いや、貴様は下手に動かない方がいいだろう?」

勇者「でも少しでも情報が必要だから。ダーマ神殿の構造とか警備の穴とか」

イシス戦士「だからそれらは女勇者がやるか、女勇者と一緒に――……」

勇者「女勇者は……行くところがあるから」

イシス戦士「え?行くところ?」

勇者「だろ?」

女勇者「……」

勇者「……」

イシス戦士「……?」

女勇者「……お義兄ちゃん」

勇者「どうした?」

女勇者「…………ごめん」

勇者「……はは」

勇者「んーん。いいから。頼んだよ」


ドサッ

勇者「!」

女勇者「これ……、お義兄ちゃんの荷物と武器。ムオル勇者さんが渡してくれた」

勇者「ありがとう、よかった。流石に荷物も武器も無いと心許ないからね」

女勇者「明後日までには、必ず戻って来る」

勇者「うん」

女勇者「だから、それまでは……必ず、無事に」

勇者「うん、絶対」

イシス戦士「おい、どういう事だ?今の状況でそんな」

女勇者「ごめん、イシス戦士ちゃん」

イシス戦士「いや、ごめんと言われても……」

女勇者「……」

イシス戦士「……女勇者?」

勇者「……女勇者」

女勇者「……」

勇者「…………ありがとう、ごめんね」

女勇者「……!」

勇者「もうあまり余裕無いんだろ?……行ってきてくれ。女勇者」

勇者「向こうの事、頼んだ」

女勇者「……うんっ」

ダッ!!

イシス戦士「あっ、おい!」

女勇者「また明後日までにここで!!」タッタッタ

ガチャッ!!


女勇者「ルーラ!!!!」


イシス戦士「女勇――……」



ゴォッ!!

ブワァァッ!!!


イシス戦士「ぐっ……!」


バシュゥゥゥゥゥゥ……!!


パラパラ…


イシス戦士「……行ってしまった……」

勇者「……さ、イシス戦士さんも早くポルトガに」

イシス戦士「ちょ、ちょっと待て!それではお前一人になってしまうんだぞ!!」

勇者「大丈夫。なんとか見つからないようにするよ」

イシス戦士「というより、女勇者はどこに行ったんだ!?この緊急時に――……」

勇者「……」

イシス戦士「……?勇者?」

勇者「……アリアハンだよ」

イシス戦士「アリアハン?何故、故郷に今……帰る必要が」


勇者「義母さんが、危ないんだ」


イシス戦士「!?」

勇者「……女勇者ってさ。誰かが僕を魔物扱いするのを人一倍嫌うんだ」

勇者「小さい頃からルビス様の加護のない僕はそう言われ続けてきたから……ずっと一緒だった女勇者は、本当にそれに敏感でね」

勇者「…………でも、その女勇者が、あの時僕に魔物として演技するように仕向けた」

イシス戦士「……」

勇者「……大方、アリアハンにも僕が国連に魔物の容疑で捕まったって情報が入ったんだろうね」

勇者「そして、義母さんが槍玉にあげられたんだろう。今頃、危ない目にあっているんだと思う」

勇者「以前から僕を快く思っていない人達が多かったから。多分そういう人達に……」


勇者「…………だから、僕が魔物で。母さんや色んな人達を騙してたって事にしたんだ」


イシス戦士「……!!」

勇者「……あいつは……女勇者は、賢いから」

勇者「僕が後々、後悔しないような……僕が望む選択肢をあそこで選んでくれたんだよ」

勇者「本当にできた奴だよ。情けなくなるくらいに」

イシス戦士「……」

イシス戦士(そうか……だから)

―――――――――――――――


勇者『全部全部、演技さ』

勇者『アリアハンに……オルテガの所へ転がり込んだのも、あの賢者ガルナに近づいたのも』

勇者『あの女達を僕に懐かせたのも……ぜーんぶ計算通りだった」


―――――――――――――――

イシス戦士(あんな演技を大勢の前で……こいつ達は)

勇者「もっとも、ポルトガ勇者もイシス勇者くん達も気付いてくれてたみたいだったけどね」

勇者「皆には感謝してもしたりないよ」

イシス戦士「…………」

勇者「……さ、だからイシス戦士さんもポルトガに早く戻ってイシス勇者くん達に――……」

イシス戦士「お前は」

勇者「え?」

イシス戦士「お前は……それでいいのか」

勇者「……」

イシス戦士「そんな嘘を吐いて、汚名を被って、故郷を失って」

イシス戦士「きっとお前はこれから魔物として追われ続ける。魔族が滅ばない限り。いや、最悪、滅んだとしてもだ」

イシス戦士「それでいいのか?お前は」

勇者「ああ」

イシス戦士「……即答か」

勇者「……正直、覚悟はしてたしね」

勇者「でも、それでもこれしか無いんだよ。結局」

イシス戦士「……」

勇者「……イシス戦士さん?」

イシス戦士「……」


イシス戦士(何故お前は、そこまで……自分を蔑ろにしていられるんだ)

イシス戦士(何故、そんなに空虚な覚悟がお前の背中を押すんだ)

イシス戦士(ルビス様の加護も無く、人からも蔑まれ……なぜ)

勇者「イシス戦士さん?どうしたの?」

イシス戦士「……」

勇者「……?」

イシス戦士「……いや……すまない。では私も戻るとする」

勇者「うん。伝言をよろしくお願いします」

イシス戦士「承った」

スタスタ

勇者「……?」

イシス戦士「……」スタスタ

勇者「イシス戦士さん?出口はそっちで」

イシス戦士「帰る前にちょっとな」スタスタ

勇者「?」

ザッ

イシス戦士「……」

勇者「どうしたの?それ、僕の荷物だけど……」

イシス戦士「少し失礼するぞ」ゴソゴソ

勇者「えっ、ちょっ……何を?」


ジャキッ


勇者「え?」

イシス戦士「……これがお前の剣だったな」

勇者「うん……それが一体」

イシス戦士「……」

勇者「……?」

イシス戦士(……綺麗に手入れされている)

イシス戦士(それなのに、柄には血が染み込み、刃はグズグズだ)

イシス戦士(…………悲しい剣)

イシス戦士「……お前らしい剣だ」

勇者「何さ、それは――」

イシス戦士「少し」


ヒュンッ


勇者「は?」



イシス戦士「借りるぞ」



ゾムッ!!!!!


イシス戦士「…………っ!!!!!」


勇者「!!!!?」

ダッ!!

勇者「イシス戦士さん!!!!」ザッ!

イシス戦士「ぐ、ふぅっ……!!!かはっ!!!」

勇者「一体何をやって……!!ああ、こんなお腹深くまで!!」

勇者「ちょっと待って!!ここに薬草が――……」

ガシッ

勇者「!?」

イシス戦士「い、らんっ……!!」

勇者「えっ!?で、でも」

イシス戦士「お、お前が魔物、なら……!!この状況で、人質を、無事に返すと、思うか……?」

イシス戦士「こうした、方が……命からがら、逃げてきた体を、装った方が……自然だろう……!」

勇者「!!……それは、そうだけどっ」

イシス戦士「勇……者、肩を貸せ……ドアの外、まで」

勇者「……っ」

ガシッ

イシス戦士「……うむっ……!」

勇者「……早く帰って、手当てを受けてよ……!!」

イシス戦士「ああ……!そのつもり、だ……!!」



スタ…スタ…


イシス戦士「…………なあ、勇者……!」

勇者「何!?痛む!?」

イシス戦士「……私達は、平気だ」

勇者「いや、そんな状態で――」

イシス戦士「怪我を、しても……私達は、平気、だ……!」

イシス戦士「人間、同士の争い、でも……回復のまじないは、ルビス様の加護を、働かせて、くれる」

イシス戦士「ましてや、魔物との、戦い、なら……!命を、落としたとて……!!また蘇られる……!!」

勇者「……」

イシス戦士「この、傷も……向こうに戻れば、イシス僧侶が、治してくれるだろう」

イシス戦士「……だが」

イシス戦士「だが……お前は、違うの、だろう」

勇者「……うん」

イシス戦士「……なら、ば。私は、それを……こんな風に利用してやる……!」

イシス戦士「だがな……勇者……!」

イシス戦士「お前は、違うのなら……お前は、お前は……」


ギュッ


勇者「!」


イシス戦士「お前はもう、容易に、傷つくな」

イシス戦士「お前が傷ついて、一人に、なろうとするほど、私の主は……悲しむのだ」

イシス戦士「私の主を悲しませたら……許さんぞ」


勇者「……。………………」


ガチャッ


イシス戦士「……もう、いい。離せ」

勇者「……」パッ…

イシス戦士「…………それでは、無事を……祈るぞ」スタ…スタ…

勇者「……」

イシス戦士「……この辺りなら、飛べるな……」

勇者「……っ、イシス戦士さん!僕は――……」

イシス戦士「勇者」

勇者「え?」

イシス戦士「もし、お前に居場所が……無くなったら」

イシス戦士「どこにも、行く場所が、無くなったら……イシスに、来い」

イシス戦士「イシス勇者様の、家来として、こき、使ってやる」

イシス戦士「だから――……」


フワッ


イシス戦士「……――絶対、無事でいろ」



イシス戦士はキメラの翼を使った!!


…………
……




……
…………


――ダーマ神殿・大聖堂――


ツカツカ

ツカツカ…

ピタ…

騎士団長「……」




ルビス像「……」




騎士団長「……」

スタスタ

神官「おや、騎士団長殿。ここにおられましたか」

騎士団長「ん?ああ。すみません。落ち着かないものでしたから」

神官「ルビス様を眺めておられたのですか?」

騎士団長「ええ」

神官「敬虔な方なのですなあ。感心感心」

騎士団長「いえいえ、そんな。……そうです、各国の神官の方々は?」

神官「あっ、その件で呼びに参ったのでした。皆さんお待ちですぞ」

騎士団長「そうですか。では参りましょうか」



…………



――ダーマ神殿・会議室――


ザワザワ…


「全く、なぜこんな急に……」


「ガルナ様の妹君だと?」


「加護日は明後日でしたか、だったらその日に」



ガチャッ ギィッ



「「「!!」」」


騎士団長「皆様、お待たせいたしました」

ツカツカ

ザッ

騎士団長「今回の件、主権を任せられております騎士団長です。よろしくお願いいたします」


「あんな若造が……」

「国連に全てを任せられてるんだって?」

「サマンオサの人間のようですな」


騎士団長「色々と思うところはあると思いますが、どうかご静粛にお願いいたします」

騎士団長「さて、早速ですが何か今回の件でご質問や不満はございますか?何でもお答えいたしましょう」

「……」

騎士団長「各国皆様の承諾を得る以前の急な式の決定で、未だ不安、そして不満に思っておられる方も多いかと」

騎士団長「それについて、この場で解決しておきたいと思いまして。何かございませんか?」

「……」

ザワザワ

「……質問、します」

「質問だ!」

「質問です」

騎士団長「ええ、では最初に手をあげた……そちらの方」

「ガルナ様の妹君の再火贈りだそうですが……ガルナ様の血族だというのは確かなのでしょうか?」

騎士団長「ええ。それは安心してください。生前のガルナ様から、確認もとれております。次のお方お願いします」

「なぜ、最初の火贈りの儀式の際に聖職を避けられたのだ?」

騎士団長「ガルナ様曰く、『まだ修行不足の小娘だから』との事でした。今では修行もちゃんと積んでありますのでご心配なく。次のお方」

「……どうして今までガルナ様の妹君の存在を隠しておられたのですか?」

騎士団長「……」

「……」

騎士団長「……ガルナ様の意思です」

騎士団長「きっとガルナ様は昔から、賢者職の人間が狙われるという事をどこかで感じ取っておられたのでしょう」

騎士団長「ですから、未だ力不足だった妹君が力を蓄えるまで隠しているようアリアハンの人間に命じたのです」

騎士団長「……他に何かございませんか?」


ザワザワ


騎士団長「……無いようでしたら、今回の件について少しお話させていただきましょう」

騎士団長「えー、今回のガルナ様の妹君の再火贈りには、意図が二つございます」

「意図?」

「二つ?」

騎士団長「まず一つ目……『聖者をこの世に復活させる』……という事です」

「復活だと?」

「失礼な。聖者……賢者ならナジミ様が」

騎士団長「皆様も神官なら、ご存知のはずですね?」

騎士団長「ナジミ様はもう力のほとんどを失っておられる事を」


「「「……!」」」

騎士団長「……あの落日の七日間の際、唯一テドン入りが遅れたナジミ様はそのままアリアハン近くの監視者の塔で隠居を続けました」

騎士団長「しかし、あの七日間で賢者様方が余さず殺され……この大地を包むルビス様のご加護のバランスが崩れ」

騎士団長「それにより、元より老いによって魔力を失いつつあったナジミ様は……力のほとんどを失いました」

騎士団長「今では、長い時間アリアハン付近から離れられない程になっております」

「……」

騎士団長「……しかし、彼女は若い。力に溢れている」

騎士団長「彼女が賢者になった時、ルビス様より新しい奇跡を授かるやもしれません」

騎士団長「そして、意図の二つめ……『彼女を民の希望にする』」

「民の希望?」

騎士団長「はい。あの七日間以来、世界中の民の心に拭えない不安が渦巻いております」

騎士団長「それによりいらぬ諍いが起こる事もしばしばです……しかし、この世に賢者が再臨するとなれば、皆の心の支えになりましょう」

騎士団長「そうすれば、民の団結もより強いものになる……そう考えております」

「つまり、彼女を偶像に?」

騎士団長「少し語弊がありますが、概ねそういう事です」

騎士団長「今この世界の人間に必要なのは、“カリスマ”です」

騎士団長「嘗ての四賢者や、オルテガ、サイモンなど……心の支えが必要なのです。彼女にはそれを担ってもらいます」

「しかし、賢者様と言えど少女一人では……」

騎士団長「そこで、です」



騎士団長「彼女はサマンオサを拠点として活動して頂きます」



ザワッ

「何?」

「どういう事だ?」

「サマンオサと何の関係が……!」

騎士団長「今現在、サマンオサ軍の成長が著しいものとなっているのは、耳にした方もいらっしゃるのでは?」

「聞いた事はあるが……」

騎士団長「我々は特殊な徴兵・兵訓練を行っており、軍は拡大する一方。兵は掃いて捨てる程の数となっております」


騎士団長「つまり……『彼女の護衛専用軍』を用意する事も可能なのです」


「馬鹿なっ」

「そんな冗談を」

騎士団長「冗談ではありません。数だけで言えば、ロマリアの軍に匹敵する規模のものを用意できます」

「は……!?」

騎士団長「…………何か、この件について異論のある方は?」


「……」


騎士団長「……」

騎士団長「……それでは、彼女の所へ行かねばなりませんので、私はこのあたりで失礼します」

スタスタ

ピタ

騎士団長「……最後に申し上げますが」

騎士団長「今、私達が臨んでいる事態は、ルビス祭のようなお祭りではありません」

騎士団長「『戦争』です。人類の存亡を懸けた、『魔族との戦争』、その反撃の1手目です」

騎士団長「中途半端な覚悟で儀式に参加される事の無い様………………よろしくお願いいたします」




………
……





……
………



――ダーマ・別塔・貴賓室前廊下――


給仕「ねえ、どうしようかしら……」

給仕2「どうしようと言われましても、国連の方に相談を」

ツカツカ

騎士団長「おや?部屋の前で一体どうされたのですか?」

給仕「ああ、騎士団長様」

給仕2「実は、御召し物の聖衣を整え終わったんですが……」

給仕「食事をお持ちすると言っても、頑として何もいらない、と」

給仕2「そして、『出て行ってほしい』と……」

騎士団長「なるほど……分かりました。御役目ご苦労様です。後は私にお任せください」ニコッ

給仕「騎士団長様っ」

給仕2「すみません、お願いいたします……!それでは私どもは失礼します」

スタスタ…

騎士団長「……」

クルッ

騎士団長「……」

コンコン

騎士団長「…………入りますよ」


シーン…


騎士団長「……それでは、失礼」

ガチャッ 

ギィィィ…

騎士団長「……」

騎士団長「……」

騎士団長「……お」









遊び人「……」









騎士団長「おお……」


スタスタ

騎士団長「素晴らしい、とても美しいですよ遊び人さん。いえ、賢者様」

遊び人「……寄らないで。気分悪い」

騎士団長「……ふふっ、中身は昔と何も変わってはいないのですね」

騎士団長「しかし……さすがダーマの聖法衣。あまりに美しい……」

騎士団長「勿論、それを着た貴女が、という事ですがね」ニコッ

遊び人「……」

騎士団長「どうされたのです?気分が優れませんか?」

遊び人「優れないに決まってるじゃん」


ガコッ


遊び人「こんな手枷付けられて……無理やり服着せられて」

遊び人「私、アンタ達の御人形じゃないんだけど」

騎士団長「人形だなんてとんでもない!勿論私共も貴女を敬っていますとも」

騎士団長「ただ……貴女の魔力はあまりに未知数です」

騎士団長「その枷には魔法制御・魔力瓦解の呪文がかけられていますので、迂闊に暴走することも無いかと」

遊び人「……ものは言いようね」

騎士団長「それに、その法衣はとても大切なものなのですよ?」

騎士団長「貴女はこれから『平和の女神』として、『人類の反撃の象徴』として。この世界に君臨するのです。今回の儀式はその第一歩」

騎士団長「臨む際には、相応の神聖さを持ち合わせていなければいけません」

遊び人「……」

騎士団長「……やはり、浮かない顔をされておりますね」

遊び人「……平和の女神」

遊び人「……ふっ」

騎士団長「?」

遊び人「反撃の象徴……ふふっ……ははは」

騎士団長「どうしました?何かおかしな事でも」

遊び人「本当に、ものは言いようだね」

騎士団長「と、いいますと?」

遊び人「女神?象徴?違うでしょ?」




遊び人「囮でしょ?私は」




騎士団長「……」

遊び人「アンタの本当の目的は賢者を復活させる事じゃない」

遊び人「復活させれば……それを高確率で、落日の七日間の時みたいに、魔族が狙いに来る。しかも強大な力を持った魔族が」

騎士団長「……」

遊び人「アンタはそいつらを叩き潰すつもりなんでしょ?サマンオサ軍を使って」

遊び人「サマンオサの軍の力が隆盛を極めてる今、私の存在を思い出して……そして利用するために転職をけしかけた」

騎士団長「……」

遊び人「……何か間違った事、言った?」

騎士団長「……確かに。ものは、言いようですね」

スタスタ

騎士団長「遊び人さん……違う、違いますよ」

騎士団長「貴女をそんな危険に晒すわけ無いではないですか」

遊び人「……」

騎士団長「嗚呼、貴女は昔から少し卑屈になりすぎる」

ピタ

騎士団長「……」

遊び人「……何?」

騎士団長「……」

スッ

遊び人「……私の目の前に跪かないでくれる?」

遊び人「目障りだよ」

騎士団長「……お手を拝借します」

スッ…

騎士団長「……」


チュッ…


遊び人「……」

騎士団長「……おや、抵抗されないのですね」

騎士団長「手の甲への口づけと言えど、昔の貴女なら暴れて嫌がっておられたでしょうに」

遊び人「……私はね」

騎士団長「はい?」

遊び人「別に、アンタ達が私をどう扱おうとどうでもいい」

遊び人「女神としてシンボル扱いしようが、囮として扱おうが、どうでもいいの」

遊び人「ただね……」

ギリッ

遊び人「この件のついでみたいに勇者ちゃんを魔物として糾弾して」

遊び人「そして思い出したように勇者ちゃんを罪人として刑にかけようとしてる」

遊び人「アンタも……!!国連も……頭にくる……!!」

騎士団長「……いけませんよ」

騎士団長「魔物の疑いがある“あれ”を賢者様がそう庇われては」

遊び人「……」

遊び人「……」

遊び人「……」

遊び人「……」

遊び人「……勇者ちゃんが」

遊び人「何を、したっていうのよ」

騎士団長「賢者さんを殺しました」

遊び人「……」

騎士団長「それは当時貴女も仰っていた事ではないですか」

遊び人「……」

騎士団長「無駄な情を注ぐのはおすすめしません」

騎士団長「“あれ”は、魔物です」

遊び人「……出てって」

騎士団長「……」

スクッ

騎士団長「……遊び人さん」

遊び人「……」

騎士団長「貴女を……囮なんかにはしません」

騎士団長「私は……必ず貴女を守ります」

ザッ

遊び人「……!」

騎士団長「……」

騎士団長「……美しい……」

スッ

騎士団長「随分、あの頃より……賢者さんに似られた……」

遊び人「やめ……!」

騎士団長「遊び人さん……」



バシィッ!!!!



騎士団長「……っ……!」

遊び人「……~っ!」

騎士団長「……ふふ、唇はお気に入りの彼専用、ですか?」

遊び人「出てって」

騎士団長「すみませんが、勘違いをしておられるようで……前髪に糸くずがついておられますよ」

スッ パッ

騎士団長「取ろうとしただけです」

騎士団長「この後は各国の貴賓の方々や神官が貴女への謁見のためにこの部屋に訪れます」

騎士団長「身嗜みを崩すことなく、挨拶は丁重に――……」

遊び人「……出てって!!」

騎士団長「……機嫌を損ねてしまわれたのなら申し訳ありませんね」

スタスタ

騎士団長「それでは私は失礼しましょう」

遊び人「……!」

スタスタ

ガチャッ

騎士団長「……遊び人さん」

騎士団長「その手枷がついているにせよ、貴女の力は脅威です」

騎士団長「どうか大人しくしておいてくださいね」

遊び人「……」

騎士団長「それでは、また用がありましたら――……」

遊び人「……大人しく」

騎士団長「はい?」

遊び人「……」

遊び人「大人しくしてたら」

騎士団長「……」

遊び人「……」

騎士団長「……くふふっ」

騎士団長「はい。約束通りです」

騎士団長「勇者君の安全は保証しましょう」

遊び人「……」

騎士団長「全てが終わるまで彼の処分は下しません」

騎士団長「もし魔族を滅ぼし終えたら、必ず勇者君は貴女の元へ」

遊び人「……破ったら、死ぬから」

騎士団長「ははは、勿論約束は守りますよ」

遊び人「……」

騎士団長「……」

ギィッ

騎士団長「どうやら、貴女にはそんな手枷よりも、彼の存在の方が効くようですね」

騎士団長「そして同時に――……その強力な手枷よりも、彼の存在が枷になっているように思えます」

遊び人「……」

騎士団長「……それでは。失礼しました――『賢者様』」



バタン


遊び人「……」

遊び人「……」

スタスタ…

ギシッ…

遊び人(……賢者?)

遊び人(何が賢者よ……私ほど馬鹿な奴もいない)



騎士団長『勇者くんの安全は保証しましょう』



遊び人(あんな見えすいた嘘に……縋らなくちゃいけないんだから)

遊び人(ほんと……)

ギリッ…

遊び人「ほんと、馬鹿だ……私……」


ギィッ

バタン


騎士団長「ふぅ……」

騎士団長「……」

スタスタ

騎士団長「……」スタスタ

騎士団長(さて、私の読みが正しければ――……)


タッタッタ


サマンオサ兵「騎士団長様!」

騎士団長「む?」

ザッ

騎士団長「どうしたのです。騒がしいですよ」

サマンオサ兵「申し訳御座いません、報告に参りました!」

騎士団長「報告?」

サマンオサ兵「はい!たった今、ポルトガ城から魔法兵が伝達を」

騎士団長「どうしたのです」

サマンオサ兵「……容疑者、勇者が脱獄した模様です!」

騎士団長「!」

サマンオサ兵「なんでも、仲間の魔族が地下水路を破り、容疑者と人質を奪って脱走し……未だ行方は捕捉できていないとの事」

騎士団長「……ふむ」

騎士団長「……」

サマンオサ兵「……騎士団長様?」

騎士団長「ああ、いえ。すみません」

騎士団長「了解しました。下がってよろしい」

サマンオサ兵「はっ!」


スタスタ

騎士団長「……」

騎士団長(ん、まあ脱獄するのは想定内でした)

騎士団長(あの男は悪運の強い人間ですからねえ……)

騎士団長(さて、そしてもし、まだ彼の行動が想定内の範囲に収まるのであれば――……)

騎士団長「……」

騎士団長「……少しお待ちください!」

サマンオサ兵「はい?」ピタッ

騎士団長「もう各国の貴賓、並びに神官達は揃っておりますね?」

サマンオサ兵「はい。皆様明後日の儀式のために貴賓室で待機されておりますが……どうされましたか?」

騎士団長「……では」

騎士団長「緊急指令です。全員に伝達してください」



騎士団長「式を――……」



…………
……



―ダーマ神殿付近・森中―



チチチチ…

ギャァギャァ…



ザッ ザッ ザッ


勇者「……はぁっ……はぁっ……」


ザッ ザッ ザッ

勇者「はぁっ……はぁ」

勇者(どれくらい歩いただろう……もう日が沈みかけてる)

勇者(昼前にポルトガを出て……丁度日が天辺にある頃にあの小屋を出たから……もう半々日は歩いてるのか)

勇者「はぁっ……はぁ……」

勇者「はぁ……」

ザッ

勇者「!!」

勇者(見えた……!あの塔や円形の大きい建物だ!)

勇者(早く……早く行かなきゃ)

ズキィッ

勇者「がっ……!!」

勇者(くっそ……!腹の骨が数本限界っぽい……!)

勇者(やっぱり牢での尋問の時に折られてたんだ……!)

勇者「……っふぅぅぅ……!!」


ザッ…

ザッ ザッ ザッ

勇者(こんな時に手負いなんて……)

勇者(早くしなきゃいけないのに……!早くしなきゃ)

勇者「遊び人……!!」


…………
……





……
…………


―ダーマ神殿―


ザワザワ


「ロマリアの神官様が馬車でお越しだ!馬車置き場を案内して差し上げろ!」


「別塔に貴賓室がございます。そこに今現在――……」


「サマンオサ兵は至急中庭に――……」


ザワザワ




ガサッ…

勇者「……」

勇者(人が凄く多い……木陰に隠れてないと見つかっちゃうな)

勇者(街道も人が多かったから森中を歩いてこないといけなかったけど……やっぱり大仰な式なんだ)

勇者(とりあえず……)

ガサガサ

勇者(移動しながら、ダーマの全景と……建物の構造)

勇者(そして可能なら遊び人の居場所を突き止めなきゃ)



……
…………


―ダーマ神殿・裏手―


スタスタ

神官「命名官様ー?命名官様ー?」

神官「どこ行ったんですか本当……」


「ここにおるよ」


神官「あ!命名官様!」


命名官「なんのようじゃい、さわがしいねえ」


スタスタ

神官「探しましたよ、全く。すぐ居なくなるんですから」

命名官「騒がしいのは嫌いでね。喧騒は婆には辛いんじゃ」

神官「そんな事より、サマンオサの方々が呼んでおられましたよ」

命名官「サマンオサの奴らがかい?」

神官「はい。なんでも賢者様への謁見の準備が」

命名官「嫌じゃ」

神官「はい!?駄目ですって!ちゃんと謁見してください!」

命名官「めんどい」

神官「めんどいじゃないですよ!あたしがどやされるんですよ!行ってください!」

命名官「なんで私が行かなくちゃなんないのかね……。こういう時だけお偉いさん扱いしおって」

神官「お偉いさん扱いって……お偉いさんじゃないですか。別にこういう時だけじゃなく常にみんなそう扱ってますって」

命名官「今現在もマリナン様を本気で信仰している人間なんてどれくらい居るんだろうねえ?」

命名官「年々信者は減って……たかが名前などと皆、名前の魔力を軽視しておる」

命名官「今ではお偉いさんの儀式で御飾りのように戯れに名前を乞われるくらいだろう」

神官「それは……そうかもしんないですけど」

神官「でも聖マリナン様は歴とした神様ではないですか。誇りを持つべきですって!」

命名官「じゃあアンタが後を継ぐかい?」

神官「それはイヤですけど」

命名官「こんの小娘……」


タッタッタ


神官・命名官「「!」」


サマンオサ兵「……何か居たか?」

サマンオサ兵2「いや、こっちには」


神官「うああもうホラ命名官様がもたもたしてるからサマンオサの人達とさかに来て探しに来ちゃったじゃないですか」

命名官「面倒くさいねえ……」

サマンオサ兵「む、そこの二人」

神官「はい!!すみませんこの人が命名官様です!すぐ連れて行きます!!」

サマンオサ兵「ああ、なんと命名官様でしたか。失礼致しました」

命名官「ん?なんだい、私を探しに来たんじゃないのかい」

サマンオサ兵2「ええ。実は、ポルトガで拘束していた落日の七日間の罪人が脱獄しまして」

神官「ええっ!!?」

命名官「そりゃ怖いねえ」

サマンオサ兵「その罪人が賢者様を狙いに来る可能性が高く……もし何か見かけたら、すぐにサマンオサの兵へ連絡をお願いします」

サマンオサ兵2「それでは失礼します」

スタスタ

神官「こ、こわいですねぇ……どうしましょう命名官様」

命名官「どうしましょうったって、どうしようもないだろう。気を付けとくこったね」

ピタ

サマンオサ兵「ああ、それと」

命名官「また何かあるのかい?」

サマンオサ兵「ええ、実は――……」






サマンオサ兵「式の予定が、明後日から明日へ変更になりました」






神官「はい?」

命名官「何だって……?なぜまたそんな事」

サマンオサ兵「ええ、理由は下々の私どもは存じ上げていないのですが――……」



ドサッ!!ズザァッ!!ガサッ!!



一同「「「!!?」」」


サマンオサ兵2「なんだ今の音は」

サマンオサ兵「そっちの茂みの方から……」

神官「ま、まさか……さっき言ってた罪人が」

命名官「どうせ動物か何かだろう?」スタスタ

神官「あっ!ちょっと命名官様!危ないですって!」

命名官「びびりだねえ、アンタも」スタスタ

命名官「きっと鹿か何かが――……」ヒョイ

命名官「……」

サマンオサ兵「どうです、何か居ましたか?」スタスタ

命名官「いや……」

スッ


命名官「こりゃ鹿の糞だね。まだ暖かい」


サマンオサ兵「うっ」

命名官「暖かいって事は今ここにいたんだろう。うん。やわっこいしねえ」

神官「うわ!手で新しいフン触ってる!ばっちい!」

命名官「ばっちいわけあるもんかい?新しい鹿の糞は食えるんだよ?」

サマンオサ兵2「ええーっ」

サマンオサ兵「いや、ちょっとそれは……」

神官「信じられない、ほんと無理ほんと無理」

命名官「ほら、どうだい?できたてだよ?」

サマンオサ兵「いや私どもは……」

命名官「ほら、今が食い時じゃて」

ズイズイ

命名官「ほらほら」

サマンオサ兵「う、わ!私どもはこれにて!」

ダッ

サマンオサ兵2「先程も言いましたが何か異変があればすぐに報告をお願いします!」

タッタッタ…


神官「……」

命名官「……男のくせに度胸の無い奴らじゃな」

命名官「さ、神官の小娘も試しに」

神官「 」ダッ

命名官「はやい」

タッタッタ…

タ…



命名官「……」

ボリボリ

命名官「やれやれ……」

命名官「野生の鹿がこんな人間の近くで悠長に糞を垂れ流すもんかね……」

パッパッ

命名官「アンタのせいで泥を握るはめになっちまったよ」


ガサッ



勇者「……」



命名官「……ま、泥だらけのアンタに比べたらマシかね」

勇者「な、なんで……」

命名官「なんで見逃したかって?」

命名官「どうやら私に見つかった時の反応やらを見るに……アンタがその罪人とやらなんだろ?」

勇者「……!」

命名官「でも、魔物がそんな風に泥だらけで駆けずり回るとも思えないしね」

命名官「第一、今回の件については私も懐疑的なのさ」

勇者「懐疑的……?」

命名官「……別に、見逃したからと言ってアンタを味方として扱う気はないんだけどねえ」

勇者「あっ、その」

命名官「早いところ消えな。次ここらで見たらサマンオサ兵に突き出すよ」

勇者「……」

勇者「……ありがとう、ございました……!」

ダッ

勇者「っ……!!」

ガサガサ

命名官「……」

命名官(……あの小僧……“名”が無かった)

命名官(おかしいね。魔物のように名前の加護が無いんじゃない。だから魔物じゃないとすぐわかったが――……)

命名官(“からっぽ”なんだ。名前が……まだルビス様の御加護からちゃんとした名を与えられていない。マリナン様でもどうしようも無いねありゃ)

命名官「……ルビス様も仕事をサボるお方って事かね……」


タッタッタ


神官「なんかノリで逃げちゃいましたけど!命名官様!謁見!謁見行って下さいってば!」

命名官「ちっ」


…………
……




……
…………

ズサッ!!


勇者「はぁっ……!!はぁっ……!!」

ゴソ

勇者「……ふぅ、はっ」

勇者「はぁっ、はぁっ……!!」

勇者(整理、整理しなきゃ)

勇者(地面に、枝で……描きおこして)

ガリガリ

勇者(式の開催は神殿の内部……神殿はどうやら四階建ての建物……)

ガリガリ

勇者(外から窓や柱の付き方をみた感じだと、四階建てといっても二階は一階の大聖堂を閲覧する、閲覧席のようなもので……実質吹きぬけになってる)

ガリガリ

勇者(大聖堂の中はどうなんだ……?儀式だから祭壇があると思うんだけど、どこだ?)

ガリガリ

勇者(警備は……神殿の後ろの方は少し薄くなってた。でもそれは後ろからだと入り口も何もないからで)

ガリガリ

勇者(正面は、あたりまえだけれど厳重に警備されてる。横側も、別塔付近も兵やダーマの神兵が厳重に警備してる)

ガリガリ

勇者(別塔といえば、遊び人の姿は確認できなかった……あそこにいるのは警備の厳重さからしても明確なんだけど)

ガリガリ

勇者(別塔からも、横からも、後ろからも……隙が無い)

ガリ

勇者(どこからも、隙が無い)

ガ…

勇者(そして)



勇者「……」

勇者(そして)






勇者(儀式が、明日になった)


勇者(計算外だ、まさか加護日を無視してずらしてくるなんて)

勇者(どうする?女勇者が今日戻ってくるとは考えにくい)

勇者(第一、あの小屋からここまで来るのに半々日かかったんだ。もう一回行って戻ってくるとなると)


「この辺りは探したか?」


勇者「!!!?」

「いや、まだだ」

「一応探っておこう。森の中に潜んでる可能性は高い」

勇者「っ!」

ザッ!!

勇者(だめだ、移動をしなきゃ……!!)


……





……


ザッ ザッ


勇者「はぁっ、はぁっ」

勇者(もう、人の気配はしないか)

勇者(……)

ゴソッ

勇者(……?)

勇者(……無い)

ゴソゴソ

勇者(無い、無い!)

勇者(荷物が少し無くなってる……!まさか)


――――――――――――


ザッ…ザッ…

勇者『(人の気配がする……足音はなるべくさせないように)』

……!

勇者『(……いや、会話から何か情報を掴めないか)』

勇者『(少し近づいて――……)』


サマンオサ兵『式の予定が、明後日から明日へ変更になりました』


勇者『!!!?』


神官『はい?』

命名官『何だって……?なぜまたそんな事』

サマンオサ兵『ええ、理由は下々の私どもは存じ上げていないのですが――……』


勇者『(は、え?)』

勇者『(ど、どういう事?)』

勇者『(それじゃ、リミットが――……)』

ガッ

勇者『!』

勇者『(しまっ――……)』

ドサッ!!ズザァッ!!ガサッ!!


――――――――――――


勇者(あの時……!!)

ゴソゴソッ

勇者(まずい、薬草や火口箱が入ってた袋が無い……!)

勇者(地図は……)

ポ

勇者「……?」


ポツッ

ポッ ポツッ


勇者「……!」

勇者(勘弁、してくれよ)


ポツッ ポツ


パラッ パラパラ


勇者「……」

勇者「…………雨」



ザァァァァァァァァ…



勇者「……」

勇者(活動しにくくなった)

勇者(動きは鈍くなるし、森の中に目印を付け辛くなった)

勇者(このままだと、体温も体力も、奪われる)

勇者(雨宿りする場所もない、寝床を確保する時間も、無い)

勇者「……」

勇者「……」

勇者「……あれ」


ザァァァァァ


勇者「……」

勇者「……」

勇者(僕、どっちから来たんだ?)

勇者(どこから来たんだ?)

勇者「……」

勇者「……」

勇者「……」

バシャ…


勇者「……」

勇者(とり、あえず)

勇者(とりあえず、歩かなきゃ)


バシャ バシャ


勇者(遊び人を見つけないと)

勇者(でもどうやって助ける?)

勇者(僕に)


――――――――――――



ムオル勇者『俺にしてみれば、それらはただの愚行だ。他人の事を考えたふりをした、極めて利己的な行動だ』

ムオル勇者『全て匹夫の勇だ。下策であり、餓鬼の空想。……それらが偶々上手くいったにすぎない』



――――――――――――


勇者(僕に、何ができる?)

勇者(非力で)

勇者(魔力も、知恵も無い僕に)


――――――――――――



女勇者『……お義兄ちゃん』

女勇者『…………ごめん』



――――――――――――


勇者(全部投げ出して)

勇者(命、捨てる事以外に)

勇者(なにが)


――――――――――――




イシス戦士『お前はもう、容易に、傷つくな』

イシス戦士『お前が傷ついて、一人に、なろうとするほど、私の主は……悲しむのだ』

イシス戦士『私の主を悲しませたら……許さんぞ』

イシス戦士『……――絶対、無事でいろ』




――――――――――――



勇者(なにが)



――――――――――――



『勇者』


『貴方、本当に愚かね』


『自分の命一つで状況が変えられると思っているの?』


『どれだけ自分の命を過大評価してるのかしら』



――――――――――――

バシャッ バシャッ バシャッ


バシャッ バシャッ


バシャッ…


……









ザァァァァァァァァァァァァァァァァ……



勇者「……」




ああ

またこれだ

結局

結局僕は何もできない



勇者「……」

勇者「……」




もうじき夜になる



勇者「……」

勇者「……ああ」



ギリィッ…





勇者「僕は……………………弱いなあ…………」





…………
……

今日はおしまいです


――ダーマ・別塔・客間――

スタスタ

バン!


ランシール勇者「騎士団長」


騎士団長「はい?ああ、ランシール勇者さん。もうダーマに着いておられたのですね」

騎士団長「そんなに焦って、どうかされましたか?」

スタスタ

ランシール勇者「どうしたも何も、なぜですの?」

騎士団長「と、いいますと?」

ランシール勇者「式の日程ですわ。何故加護日を避けて急遽明日に変更されたんですの」

騎士団長「その事ですか。急で申し訳御座いません」

ランシール勇者「それはいいんです。何故こんな事を」

騎士団長「少しね。懸念しておかねばと思いまして」

ランシール勇者「懸念?」

騎士団長「はい。どうやらあの男が脱獄したらしいではないですか」

ランシール勇者「ええ、先程そう聞きましたわ」

騎士団長「あの男はもうすでに遊び人様が賢者の末裔だという事を知っています」

騎士団長「だとすれば、遊び人様が火贈りの儀式で力を手に入れる前に、仲間の魔族と襲撃する可能性も考えられます」

騎士団長「ですから、急遽予定を変更させていただきました」

ランシール勇者「ですが、加護日がっ」

騎士団長「確かに加護日からは外れます……ですが実質なんの問題も無いでしょう」

騎士団長「宗教上のただの名目に過ぎません。そんなものより合理的な選択肢を選びます」

ランシール勇者「……!」


「あまり騎士団長殿を困らせるな、ランシール勇者」


ランシール勇者「!」

騎士団長「これはこれは、ランシール神官様」

スタスタ

ランシール神官「この件については私達教会側も承諾しているのだ。お前が口を挟むことではない」

ランシール勇者「しかし……」

騎士団長「とにかく、これは決定事項です。申し訳ありません」

ランシール勇者「……かしこまりましたわ。失礼します」

バタン

ランシール勇者「……はぁ」


「大丈夫、ですか?」


ランシール勇者「え?……あら、スー勇者」

スー勇者「こんばんわ、です」

トテトテ

スー勇者「お話してたですか?」

ランシール勇者「ええ。もう済みましたわ」

ランシール勇者「今回の日程変更について、少し納得がいかなかったものでして……」

スー勇者「確かに、急だったでした」

ランシール勇者「ま、もう決定した事ですしね。行きましょうか」


スタスタ


ランシール勇者「そういえば、エジンベア勇者は?」

スー勇者「エジンベアさんは、お仕事中です」

ランシール勇者「そう。感心ですわね」

スー勇者「でも、神官のお姉さん達に、声かけて、まわってましたです」

ランシール勇者「前言撤回しますわ」

スー勇者「……」

ランシール勇者「……スー勇者」

スー勇者「え?あ、はい?どうした、ですか?」

ランシール勇者「それはこっちのセリフですの。貴方なんだかさっきから暗い顔してますけど……どうかされたんですの?」

スー勇者「……」

ランシール勇者「……?どこか体調が」

スー勇者「賢者様」

ランシール勇者「え?」


スー勇者「あの人、賢者様に、ならないのが、良い……思います」


ランシール勇者「……」

スー勇者「……ごめなさい、なんでも、ないです」

ランシール勇者「……それ、わたくし以外の前で言っちゃ駄目ですわよ」

スー勇者「……はい」

ランシール勇者「……」

ランシール勇者(ま……私も同感ですけれどね)

…………
……


――ダーマ・別塔・貴賓室――



「いやあ、一目でもそのお姿を拝見できて光栄でしたぞ!」

遊び人「……どうも」

「それでは失礼いたします!ガハハハ」

スタスタ

バタン

遊び人「……」

ガチャ

神官「あの、お疲れさまでした」

遊び人「……」

神官「お疲れでしたら……何かお持ちいたしましょうか?」

神官「お飲み物でも……もしご希望でしたら食事も」

遊び人「いらないです」

神官「そ、そうですか……」

遊び人「それより……まだ謁見待ちがいるんでしょ」

遊び人「早く終わらせたいから……次の人お願いします」

神官「は、はい!呼んでまいります!」

バタン

遊び人「……はぁ……」

遊び人「……」

遊び人「…………何を」

遊び人(何をやってるんだろ……私)

コンコン

遊び人「はい」

ガチャ

神官「お待たせしました。次の方でもう最後でした」

遊び人「そうですか」

神官「それでは……あ!ちょっと、どこ行こうとしてるんですか!」

遊び人「?」

神官「ちょっと、逃げないで、もう!真面目にやってください!」

遊び人「……どうしたんですか?」

神官「あっ、いえ!すみませんお待たせしました!最後の謁見の方です!」

ギィ


命名官「はいはい、お邪魔しますよ」

遊び人「……どうも」

命名官「はい、どうも」

遊び人「……」

命名官「……」


シーン……


遊び人「……?」

命名官「……」

神官「……?」

ザッ


命名官「よし。お疲れ様です」


遊び人「えっ」

神官「待とうよバババア」

命名官「えっ、何バババアって」

神官「何早速帰ろうとしてるんですか!前代未聞すぎますよ!」

命名官「別にいいじゃろう。ちゃんと顔見たし」

神官「謁見ってそういうんじゃないんですよ!!!」


ワーワー


遊び人(なんなのこの人達……)


命名官「それに、もういいんじゃって本当に」

神官「だから良いわけが――……」


命名官「遊び人ちゃんも変わらず元気そうじゃしの」


遊び人「……」

遊び人「……へ?」

神官「ちょっと命名官様!そんな無礼な――……」

命名官「しかし、本当に大きくなったねぇ」

神官「……って、え?」

命名官「ガルナのじじいに連れられてここに訪れていた時はこーんなちっこかったんじゃが」

神官「……え」

命名官「……あれから十年ほどかい?私も齢を取るわけじゃ」

遊び人「……」

遊び人「…………あ」

命名官「ま、あの時は」


命名官「お前さんも賢者ちゃんも生意気なクソガキじゃったがの」ニコッ


遊び人「…………名前のお婆ちゃん」


命名官「お?思い出したかい?」

神官「え!?お、お知り合いだったんですか!?」

命名官「昔少しね」

命名官「この子等が小さかった時は、ここから近いガルナの塔に住んでたんだよ」

遊び人「……やっぱり、この大陸だったんだ」

命名官「……なんにせよ。そういう事じゃから」

スタスタ

神官「あ、ちょっと!」

命名官「私はそろそろ寝るとするよ。それじゃあ――……」


遊び人「名前のお婆ちゃん!」


命名官「……」ピタッ

遊び人「…………お願い」

遊び人「話……少しだけでも、聞いてくれませんか……?」

神官「……!」

神官(この人の人間らしい表情、はじめて見た)

命名官「……やれやれ、どっちの謁見かわかったもんじゃないね」

命名官「でも、ま。人にお願いはちゃんとできるようになったみたいじゃの」



……
…………


スタスタ

神官「……」ウロウロ

給仕「あら?どうしたの?」

給仕2「アンタ、賢者様の付き添いに任命されてたんじゃなかったっけ?」

神官「え?ああ、いえ。少し追い出されまして」

給仕「何か大切な話でもしてるの?」

神官「みたいです……」



―――――――――



命名官「……」

遊び人「……」

命名官「……そうか」

命名官「賢者ちゃんは……」

遊び人「……うん」

命名官「……辛かったね」

遊び人「……」

命名官「……」

遊び人「……」

命名官「……ずっと、アリアハンにいたのかい?」

遊び人「……うん」

遊び人「良い所だよ。この大陸にいた時の事、そこまで覚えてないけど……」

遊び人「でも、アリアハンよりずっとずっと住み難かった記憶はあるもの」

命名官「はは、そりゃ住んでる所が悪すぎたのさ」

命名官「あんな塔に幽閉同然で暮らしていればそうもなるじゃろう」

遊び人「……あの塔はこの近くにあるの?」

命名官「ああ。すぐさ」

遊び人「……そっか」

命名官「行ってみたらどうだい。騎士団長に頼めば調整もしてくれるんじゃないのかね」

遊び人「……いいや」

命名官「なんでだい。せっかく近いのに」

遊び人「……」

遊び人「……行ったら、余計な事、思い出しそうだから」

命名官「……」

ギシッ

命名官「……のう、遊び人ちゃん」

命名官「アンタ、姉に対して何かあるのかい?」

遊び人「……」

命名官「……なんだか、賢者ちゃんの事を意識的に避けてやしないかい」

遊び人「……お婆ちゃんなら知ってるでしょ」

命名官「ああ……まあ、そうじゃけど」

命名官「確かに、仲は良い姉妹では無かったからね」

遊び人「……」

命名官「何かあったらアンタは賢者ちゃんにつっかかって、賢者ちゃんはそれを相手にしなくて」

命名官「たまに私の所をガルナのじじいが訪れたと思ったら、毎回アンタらがその始末」

命名官「本当にうるさいったらありゃしなかったよ」

遊び人「……」

命名官「……」

命名官「でも、今はそれ以上にあの子とアンタに壁があるように思えるね」

遊び人「……」

命名官「……何かあったのかい。あの子が亡くなる前に」

遊び人「……」

命名官「……」

遊び人「……ううん」

遊び人「何も無い……何でも無いの」

遊び人「ただ……」


遊び人(私が……――馬鹿すぎただけ)



…………
……


―――――――――


――十数年前・ダーマ地方・ガルナの塔――



『…………』

カリカリ……

『…………』

カリカリ……




スタスタ


『おーい』

スタスタ

老人『おーい、どこに行ったんだい?』


シーン……


老人『……全く』

老人(目を離すとすぐ居なくなる)

老人(私の書物も数点無くなっているし……一体何処に)


スタスタ


老人『……あっ』



『…………』

カリカリ……

『…………』

カリカリ……



老人『二人共、こんな所にいたのかい』


『あ!おじーちゃ!』


『……あ、ガルナおじい様』



ガルナ『ちゃんと返事をしないといけないよ』

トテトテ

『おじーちゃ!おじーちゃ!だっこ!』

ガルナ『はいはい、どっこらしょ』

ダキッ

ガルナ『あいたた……また大きくなったかい?』

『んへへ』ギュゥ

ガルナ『ところで、何をしていたんだい?二人共』

『……これを書いていたのです』

『あれね!あたしもね!かいたよ!』

ガルナ『これ?』


スタスタ


ガルナ『これ、とは……』

ガルナ『……』

ガルナ『…………!』

ガルナ『(持ち出された書物の術式の解体構成論理……しかも、新しいエーテル祈昇華法も付け加えられてる)』

ガルナ『君達……これは』


『おじい様の役に、少しでも立てばと思いまして』

『えへへー。えらい?えらい?』


ガルナ『……』

ナデ…

『!』

『あー!なでなでよりだっこのほうがいいー!』

ガルナ『……』

ガルナ『(私の孫でありながら、末恐ろしいよ)』

ガルナ『…………偉いぞ』


ガルナ『遊び人……賢者』




遊び人『ほんとー!?』


賢者『ありがとうございます。おじい様』


今日はおしまいです

…………


遊び人『おねーちゃんのばかー!!』


賢者『なんとでも言いなさい』


ガルナ『おや、どうしたんだい二人共。また喧嘩かい?』

遊び人『おじーちゃ!おねーちゃんが!』

賢者『この子があんまり我がままを言うので……』

ガルナ『まあまあ。仲良くしなさい』

賢者『すみません……』

遊び人『ぶぇーだ!』

賢者『……全く』

ガルナ『はは……そうだ、二人共。外に出る支度をしなさい』

賢者『え?』

遊び人『えっ!?おそと!?おそとでれるの!?』

ガルナ『ああ。早く着替えて来なさい』

遊び人『やったー!』タタタ

賢者『あ、こら遊び人。走っては――……』

遊び人『うるさいぶぇーだ!』

賢者『……はぁ』

ガルナ『ははは……』

ガルナ『しかし、賢者があの子を思って叱っているのは分かるしいい事だが……』

ガルナ『仲良くしなければいけないよ?大事な家族なのだから』

賢者『……はい』

…………


――ダーマ地方・ガルナの塔付近――


ガラガラ

遊び人『ばしゃー!はやい!おうまさんはやい!』

馬『ヒヒォォ』


ガルナ『遊び人、そんなにはしゃいでは落ちてしまうよ』

賢者『……おじい様』

ガルナ『ん?なんだい?』

賢者『今回はどちらへ?』

ガルナ『ああ。ダーマまで行くんだ。近いからすぐ着くさ』

賢者『……何か、御用が?』

ガルナ『…………ちょっと、ね』

賢者『……』

遊び人『あ!あれ!あれなに!?すごいきれぇ!』

ガルナ『ん?あれは星屑花さ。この大陸のこの地方にしか咲かないんだ』

ガルナ『ルビス祭から大体半年の、流星の季節になると発芽する事からそういう名前になったんだよ』

遊び人『ふーん?』

賢者『……ちなみに、あの花から精製される糖度の高い飴色の蜜はバハラタや他の村では』

遊び人『おねーちゃんのはなしはきいてませぇーん』

賢者『……』

ガルナ『こ、こら……仲良くね?』

――ダーマ神殿・正門――



『……』

ガラガラ

『お?』


ガラガラ

ガルナ『ほら、着いたよ。二人共』

賢者『はい』

遊び人『ついたー!おっきー!おしろ!?ねえこれおしろ!?』


『やっと来たか……』

スクッ

『おい、ガルナのじじいや!』スタスタ


賢者『!』

遊び人『じじい?』

ガルナ『……すまない、待たせた。命名官』


命名官『アンタは本当に人を待たせるのが好きだねえ!』


スタスタ ザッ

命名官『約束の時間は――……ん?そちらは?』

ガルナ『ああ、賢者と遊び人……――私の孫さ』

命名官『おや!本当かい!?いやあ大きくなったね!』

ナデナデ

命名官『二人共、私のこと覚えてるかい!?遊び人ちゃんが生まれた時に――……』


遊び人『ううん、しらないばばあだよ?』

賢者『ええ。知らないババアです』


命名官『 』

ガルナ『す、すまない命名官!こら!二人共!』

賢者『おじい様をじじい呼ばわりするのは総じてババアです』

命名官『このガキ……』

……

ガルナ『……というのが、今回のお願いだ』

命名官『……』

ガルナ『……文句があるのも分かる』

ガルナ『ただ、保険はかけておかなくてはいけない』

命名官『……』チラッ



遊び人『おねーちゃん!いまずるした!ぜったいした!』

賢者『してないわ。いいから少し黙っていなさい。読書してるのに気が散るわ』



命名官『……なんというか』

命名官『アンタも、大人しそうな顔してけっこう残酷な男だね』

ガルナ『……ああ』

命名官『あの子達はアンタの道具かい?』

ガルナ『勿論違う。愛している』

命名官『……』

ガルナ『……時々』

ガルナ『時々、この力も……加護も憎くなるよ』

命名官『…………』

命名官『……すまない、意地の悪い事聞いたね』

ガルナ『いや、いい。誰もが思うさ』

命名官『しかし、後の事はどうするんだい?あの子等は――……』

ガルナ『以前、オルテガが私の元に訪れたんだ』

命名官『あの勇者オルテガかい?』

ガルナ『ああ。その時、少し話をしてね』

ガルナ『……おそらく、彼を頼る事になる』

命名官『……そうかい』

ガルナ『ああ。だからとにかく、命名官も頼んだよ』

命名官『わかったわかった。善処しておくよ』

命名官『若い頃からアンタには世話になっておるしねえ』

ガルナ『それを言えばこちらだって』

命名官『もういいって。ま、とにかくしばらくは大丈夫そうなんじゃろう?』

ガルナ『ああ。あとどのくらいかは分からないがね』

ガルナ『だからこれからも定期的に通わせて貰うよ。あの子達を連れて』

命名官『じゃあこの話は今日はもう終わりだ。さ。帰った帰った』

ガルナ『……邪魔をしたね』


ガラッ


ガルナ『それでは、私はこれで』

命名官『……ガルナ様』

ガルナ『ん?』

命名官『…………立場的には仕方の無い事かもしらんけどね』

命名官『できるだけ、踏ん張りなよ。あの子達のためにも』

ガルナ『……』



遊び人『あー!またじゃましたー!おねーちゃんだいっきらい!ばか!ぶぁか!』

賢者『何とでも言いなさい』


ワーワーギャーギャー

ガルナ『…………うん』

ガルナ『そうだね…………』


…………
……

今日はおしまいです

――ガルナの塔・上階・早朝――


オォォォォォォ……


スタスタ

賢者『…………』

賢者『(……菜園の野菜達の元気が少ない)』

賢者『(風に当たりすぎたかしら……いえ、でも土自体の元気が)』

『おねーちゃん?』

賢者『?』クルッ

遊び人『……おねーちゃん、どこいってたの?』

賢者『……起きたの、遊び人』

遊び人『おじーちゃんは?』

賢者『おじい様は自室で本を読んでおられるから、静かになさい』

遊び人『ほん、よんでるの?』

賢者『ええ』

遊び人『じゃあ、しんぞうは?』

賢者『……?え?』

遊び人『もう、しんぞうはだいじょうぶなの?』

賢者『しんぞう?……貴女、何を言って』


遊び人『でも、さっき、しんぞうがわれるっていってた』


賢者『……』

遊び人『……?』

賢者『……!』

ダッ

タッタッタ

賢者『……っ』


――ガルナの自室――

バタン!!!


賢者『……おじい様っ!!!!!』



ガルナ『がっ……は……!!!!』



ズザッ

賢者『おじい様!!お気を確かに!!』

ガルナ『く、はぁっ!!……ぜひゅっ、ぜひゅっ』

ガルナ『ご、ほぉ』

ビチャァッ!!

賢者『……っ!!』

賢者『(吐血……!!)』

タッタッタ

遊び人『おじーちゃん!!!』

賢者『遊び人!!来ては駄目!!』

遊び人『やだっ!!だっておじーちゃんが!!』

賢者『遊び人!!!!』

遊び人『ひ……!』ビクッ……!!

賢者『……薬を作るわ』

賢者『菜園から、花が咲いてる植物の葉を全種類二枚ずつ持ってきなさい』

遊び人『……』

賢者『はやくっ!!!!』

遊び人『!』ビクッ

タッタッタ……

賢者『……』

ガルナ『ぜひゅ……!!ぜひゅっ……!!』

賢者『(……さっきの吐血の仕方だと、もうだいぶ病気が進行している)』

賢者『(調合薬でも……長くは……)』

ギリッ……

賢者『……おじい、さま……!』


…………
……

―――――――――――



ガルナ『……』


ガチャッ バタン

賢者『おじい様』

遊び人『おじーちゃん』

ガルナ『ん……?ああ、ふたりとも』

スタスタ

賢者『……具合は如何ですか?』

ガルナ『ああ、今日は比較的楽だ……』

遊び人『ほんと?だいじょーぶ?』

ガルナ『本当さ。心配かけるね』ナデナデ

遊び人『ん……』

賢者『……』

ガルナ『……倒れてから、一週間……迷惑をかけ続けているね』

賢者『そんな事仰らないで下さい。一刻も早く、元気に』

遊び人『げんきになって!またおそといきたい!』

ガルナ『……』

ガルナ『……』

ガルナ『……はは』

賢者『……?』

遊び人『……おじーちゃん?』

ガルナ『…………賢者』

賢者『はい』

ガルナ『話がある』

賢者『…………はい』

遊び人『……?おはなし?』

賢者『……遊び人』

遊び人『なぁに?』

賢者『部屋から出なさい』

遊び人『ええ!やだぁ!おはなしきく!』

賢者『いいから言う事を――……』

ガルナ『遊び人』

遊び人『え?』


ギュッ


遊び人『ふぁ?』

ガルナ『……』

遊び人『おじーちゃ?どしたの?』

ガルナ『……』

賢者『……』

ガルナ『……お姉ちゃんの言う事は聞かなきゃだめだよ』

遊び人『……でも』

ガルナ『お姉ちゃんと、仲良くしなくては……だめだよ』

遊び人『……』

遊び人『ん……わかった』

遊び人『いうこと、きく……』

ガルナ『……ふふ、いいこだね』

ナデナデ

遊び人『わふ……んふふ』

ダッ

遊び人『じゃあおねーちゃんとおはなしおわったら、つぎはあたしね!』

タッタッタ

バタン


賢者『……』

ガルナ『……もう、抱きしめることも……ままならなくなってきている』

賢者『……』

ガルナ『……賢者、おいで』

ガルナ『抱きしめてあげられなくなるまで……時間がない』

賢者『……』

賢者『……』

賢者『……』

ギュッ

賢者『…………』

ガルナ『……大きく、なったなぁ……』

賢者『……』

ガルナ『……賢者』

賢者『……はい』

ガルナ『これから話す事を……全部、ちゃんと覚えておきなさい』

賢者『……はい』



……
…………

遊び人『……』

ウロウロ

遊び人『……』

ウロウロ

遊び人『……まだかな……』



オォォォォ……



遊び人『……』


遊び人『あれ?』


遊び人『(いま、おててが)』


遊び人『(おなかが、あったかくなった)』


遊び人『……?』

遊び人『……』キョロキョロ

オォォォォ……

遊び人『へんなの……』


スタスタ


遊び人『!』



賢者『……』



遊び人『おねーちゃん!』

タッタッタ

遊び人『おねーちゃん!おはなしおわった!?』

賢者『……終わったわ』

遊び人『やったー!つぎあたしのばんー!』タッタッタ

賢者『……』


タッタッタ

バタン


遊び人『おじーちゃん!』



ガルナ『……』



遊び人『……?』

スタスタ

遊び人『……おじーちゃん?おきてー』ユサユサ

賢者『遊び人』

遊び人『あ、おねーちゃん。おじーちゃんねちゃったよ?』

遊び人『あたしとまだおはなししてないのに、おきてー』

賢者『……』

遊び人『おじーちゃん!おじーちゃんてばぁ』

賢者『……亡くなったわ』

遊び人『おじーちゃ……え?』

賢者『…………遊び人』

賢者『おじいちゃんは……おじい様は、亡くなったの』

賢者『死んだの。死んでしまったの』

遊び人『……』

遊び人『……?』


ガルナ『……』


遊び人『……』

遊び人『……おじーちゃ』

遊び人『もう、おきないの?』

賢者『……』

遊び人『もう、おはなしできないの?』

遊び人『おでかけは?ごはんは?』

遊び人『ねぇ、おねーちゃん!ねえ!』

賢者『……』

遊び人『……!!』

遊び人『やだぁ!!やだやだ!!』

賢者『……遊び人』

遊び人『うそだぁ!!そんなのやだあ!!』

遊び人『うそだもん!!つぎあたしとおはなしするっていってたもん!!』

遊び人『やだやだやだ!!!!おねーちゃんうそついてるんだ!!!』

遊び人『おねーちゃんのぶぁかぁ!!おねーちゃんなんか』


賢者『遊び人!!』


ガシィッ!!

遊び人『ひっ!!』

賢者『いい加減に――……』

遊び人『なんで』

賢者『!』ピタ


遊び人『なんで、あたしには』ポロポロ

遊び人『なんであたしには、おはなししてくれなかったの……?』

遊び人『なんでおねーちゃん、ばっかり』


賢者『……』

遊び人『あだし、もっ、あだしも、ざいごにおはなししだがっだぁ……!!』

遊び人『なんで……なんで、いづもおねぇちゃんばっかり……!!!!』

遊び人『うああぁ、うあああああああああああああああん』

賢者『……』

ギュッ

遊び人『うああああああん、やだあああああああ、やだあああああ』

遊び人『おじーちゃあああああああ!!おじーちゃあああああああ!!』

賢者『……』

賢者『…………わたし、だって……』


…………
……




……
…………

スタスタ

『さて、と……見えてきたな』

『塔自体はバハラタからも見えてたけどね』

『入り口が、って事さ。さて、ガルナ様は元気だろうか』

『元気だといいが……御自身で仰っていた事情から察するに、おそらく……』

『……ま、とりあえず行ってみるか』


――ガルナの塔――


カツカツ…

『しっかし、やっぱり高いなぁ。この塔』

『ガルナ様の住居は何階だったっけ?』

『ん?確かもうすぐじゃなかったか?』

カツ…

『『!』』

巡礼者『おや、こんにちわ』

『『あ、こんにちわ』』

巡礼者『ルビス様のご加護がありますよう』ペコリ

『どうも。そちらも』

スタスタ…

『……』

『なんだか、巡礼者が多い気がするね』

『ああ。確かに』

『ガルナ様は人望が厚い人だったけど……前に来た時はこんなに居なかった気がするよね?』

『……嫌な予感がするなあ』

『……同じく』

スタッ

『ああ、確かこの階だ。最上階の一階下』

『さて……部屋は』


スタスタ


『ん?』

『女の子……?』

『なんでこんな所に女の子が……ちょっと君』


ピタ




遊び人『……なに?』

『少しいいかな、聞きたい事が――……』

遊び人『なに、どうせあんたたちも賢者ガルナにあいにきたんでしょ』

『え……あ、ああ。確かにそうだけど』

遊び人『はいはい、でしょうねでしょうね』

『な、なんだか荒んだ子だね。まだ小さいのに』

『ああ……うちの娘と同じくらいだろうか』

遊び人『でもじゅんれいしゃってかんじじゃないね、おっさんたち』

『おっさ……!?』ガーン

『がはははは!!言うなあこのチビっ子は』

遊び人『まあどうでもいいけどねー』

『き、君!おっさんなんて――……』

スッ

『え?』

遊び人『あっち。むこうのつうろをみぎにまがって、すこしあるいてさいしょにみえる、おおきいドア』

遊び人『そこにいるよ』

『あ、ありがとう』

『恩に着るよ。君の名前は?』

遊び人『……』

『ん?』

ダッ

遊び人『おしえないよぉーだ!!ぶぇー!』

タッタッタ

『なっ、こら君!』

『あっはっはっは!ませてると思ったら齢相応じゃないか。かわいいもんだ』

『まったく……よし、それじゃいこうか』



――ガルナの自室――


ガチャッ…

『失礼します』

『失礼……ん?』



賢者『……』



『……また女の子が一人。なんなんだここは……』

『えっと、君。すまんがガルナ様は――』

賢者『ようこそいらっしゃいました。勇者の方々』

『『え?』』

賢者『……もう既に祖父に聞いておられるのではないですか?御二人とも』

『……!』

『……もう、実行していたか』

『だったら……』

賢者『ええ』




賢者『私が、賢者ガルナです』




『……』


ザッ


『『失礼致しました』』


賢者『……御名前を、確認のために頂戴致します』


『『はっ』』



オルテガ『アリアハンより参りました、オルテガと申します』


サイモン『サマンオサより参りました、サイモンと申します』


賢者『…………お待ちしておりました』

今日はおしまいです

…………


賢者『……――遥か昔。この大地が作られた際に、ルビス様は四人の人間に、この大地の監視者として……力を与えました』

賢者『ガルナ・アープ・シャンパーニ・ナジミ……この四人です』

賢者『四人の聖者は監視者の塔を建て、この世界を見守ってきました。しかし彼らも人間。いずれ体は朽ち果てていく』

賢者『そこで彼らは子を成し、同じ血が通うその子供に、死ぬ間際……力を移しました』

賢者『そうやって四人の聖者は役割を巡らせてきたのです』


サイモン『……今回、ガルナ様もそうして……?』

賢者『はい。随分前から、体が不治の病で蝕まれている事を知っていた祖父は、早い段階でこの計画を組まれておりました』

賢者『祖父が亡くなると同時にその力を、そして聖マリナンの命名官様にガルナの名を……私は授かりました』

賢者『以来、私はここで監視者の任を背負っています……しかし、それも時間の問題となってきました』

オルテガ『……魔族の力が増してきている』

賢者『はい。そしてルビス様の加護も薄れてきています』

賢者『監視者の塔が魔族に脅かされるのも時間の問題です……なので、祖父はあなた方に』

オルテガ『君らの保護を頼んだってわけか』

サイモン『ちょ、ちょっとオルテガ!口のききかたが』

賢者『構いません。ご自由にお願いします』

賢者『……そうです。いくら賢者の力を授かったと言えど、私と妹はまだ十にも満たない子供』

賢者『後顧の憂いを断つために、聖地でもあり安全なアリアハンへ移住できれば、と』

サイモン『ですが……監視者の御役目はよろしいのですか?』

賢者『はい。ここに居ずとも、世界の異変は分かります』

賢者『もし何事も無く力を付ける事ができたのなら、ここへ戻って来たいと考えております』

賢者『……お願いします』

ペコリ

賢者『……――私達二人を、アリアハンで住まわせてください』

サイモン『……!』

オルテガ『……ああ、まかせてくれ』

オルテガ『王には俺達が話を通してくる。待っていてくれ』

賢者『……恩に、着ます』

-一年後・ガルナの塔-


サァァァァ……


遊び人『……』


スタスタ

賢者『遊び人』

遊び人『!』

賢者『支度は終わったの?終わってないのなら早くなさい』

遊び人『……いまいく』

スタスタ

遊び人『……アリアハンってとこにいくの?』

賢者『そうよ。そこで暮らすの』

遊び人『……オルテガさんは?』

賢者『……』

遊び人『たまにきてたあのおじさん……オルテガさんは?』

遊び人『オルテガさんがつれてってくれるんじゃないの?』

賢者『…………いえ』

スッ

賢者『オルテガ様はこれを渡してくれたわ。これを使うの』

遊び人『なにそれ?』

賢者『アリアハンの魔力場を記憶したキメラの翼よ』

賢者『キメラは、毎回同じ巣に帰るために塒の巣の魔力をその翼に記憶させる習性があるの』

賢者『その習性と、キメラが持つバシルーラ……強制移動魔法の力を組み合わせれば、一晩以上過ごし、魔力を記憶させた場所へ――……』

遊び人『そんなんきいてない。うんちくはいいから』

賢者『……』

賢者『とにかく、オルテガ様がキメラの翼にアリアハンの魔力場を特殊な力で閉じ込めてくれた物があるの』

賢者『すぐに発つわ。だから必要な物があったら纏めなさい』

遊び人『……うん』

賢者『……あと数刻経ったら、屋上に上るわ』

スタスタ

遊び人『……』

――ガルナの塔入り口・屋上――


ビュォォォォォ……


賢者『……』

賢者『(……この景色とも、しばらくお別れね)』

スタスタ

遊び人『……おまたせ』

賢者『……遅いわよ』

遊び人『……』

賢者『早くなさいと言ったはずよ。何をしていたの』

遊び人『……っ』

賢者『これから初めてこの塔を出て暮らすのよ』

賢者『そんな調子じゃ――……』


ズイッ


賢者『……――え?』

遊び人『……これ』

賢者『……え?これ?』

遊び人『これっ……あげる』

賢者『……』

ス…

賢者『……星屑花』

遊び人『それ、このへんにしかさかないんでしょ……』

遊び人『……おねーちゃん』

遊び人『おねーちゃん、さびしそうなかお、してたから』

賢者『……!』

遊び人『おねーちゃんのこと、だいきらいだけどっ』

遊び人『でも……さびしいのは、わかるから』

遊び人『……――それ、あげる』

賢者『…………』

賢者『……』

賢者『……こんなもの、採りに行っていたの』

賢者『……』

クルッ スタスタ

賢者『…………本当に、バカね』

遊び人『なっ!!!?』

賢者『さあ、こんな事してる暇があったら早速飛ぶわよ』

遊び人『そんなこというならかえせー!ばかおねーちゃん!ばかばかぶぁーか!』

賢者『あまり喋ると、飛ぶ時に舌を噛むわ』

遊び人『んむっ……!むぅぅ~……!!』

賢者『……』

賢者『(本当に、バカなんだから)』


…………
……



…………


――アリアハン――



ガヤガヤ…



遊び人『わぁぁぁぁぁ…………!!!!』キラキラ



スタスタ

遊び人『すごい……ひとがいっぱいだぁ……』

遊び人『あのでっかいのおしろ……!?ほんものだぁ……』

遊び人『わわわ、おみせがならんでる……!』

賢者『ちゃんと前を見て歩きなさい。見回さない』

遊び人『でもっ』

賢者『黙りなさい』

遊び人『……』

賢者『とにかく、城まで歩くわ』

賢者『付いて来なさい。余計な事をすれば承知しないわよ』

遊び人『……はい』



…………


――アリアハン城・謁見の間――


王『はぁ……』

大臣『どうしたんですか。溜息など』

王『いや、オルテガを失ってしまったのが……未だにな』

大臣『まあ確かに、ショックですな』

王『ああ……一体何に縋ればいいのか』

大臣『何かに縋ろうとしてる時点でもうダメダメですよ。そんなんだからヒゲ野郎なんだアンタは』

王『お、上等だこの野郎』

大臣『おう、その喧嘩買ってやりましょう』

王『えっ、ちょっと待って明らかに売ってきたの君の方だったよね』


タッタッタ


城門兵『失礼します!王様!』

王『むっ?どうしたのだ』

城門兵『実は――……』

…………



賢者『……お初にお目にかかります』

賢者『賢者ガルナです……お見知り置きを』

王『……オルテガから話は伺っております』

王『ようこそいらっしゃいました。大賢者ガルナ様』


側近『……あんな小さい女の子が、大賢者?』

大臣『オルテガ殿から話は聞いていたが……目の当たりにすると、なんとも不思議なものだな』


王『ええと、そちらが――……』

賢者『はい。この子は妹の遊び人……挨拶をなさい』

遊び人『は、はのっ、あ、遊び人ですっ……』

王『妹君ですか……でしたらそちらも、賢者の』

遊び人『え、えへへ』



賢者『いえ、この子には賢者の力などありません』



遊び人『……え』

王『そ、そうなのですか?』

賢者『はい。この子は普通の子供となんら変わりありません』

賢者『確かに、賢者ガルナの孫ではありますが……血が繋がっているだけです』

賢者『この子は……』

賢者『……この子は、賢者とは何の関わりもないのです』

遊び人『なっ……そ、そんなことないもんっ!!』

王『うぉう?』ビクッ

賢者『……』

遊び人『わ、わたしだって、おじーちゃんのまごだもん!けんじゃのまごだもん!』

遊び人『わたしも、わたしだって!!!!』



賢者『遊び人』


遊び人『 っ』ゾクッ


賢者『黙りなさい……口を慎みなさい』

遊び人『え……で、も、その』

賢者『……王様』

王『む、何でしょう』

賢者『初めての都で、妹が疲れてしまったらしく……』

賢者『大変不躾で申し訳ありませんが』

王『ああ!これは気が利かず申し訳ありません!』

王『御二人には、城内の客間をそれぞれご用意しました。これよりは、そこを御自分の部屋だと思っていただければ』

賢者『手厚い歓迎、身に余る光栄です』

王『いえいえ、これくらいしかできませんで……おい、側近』

側近『はい!』

王『ご案内してさしあげろ』

側近『は!』


遊び人『……』

賢者『……遊び人』

遊び人『!』

賢者『あなたは、大人しくしていなさい』

賢者『私の言う事を聞いていなさい……聞かなかった時は』


側近『こちらでございます!』


賢者『……行くわよ』

遊び人『…………おねーちゃんなんか』

賢者『大嫌い?』

遊び人『……』

賢者『…………――知っているわ』

賢者『……さあ、行くわよ』


…………
……

…………


――アリアハン城・廊下――


スタスタ

メイド『……いないわねえ』

メイド2『あら、どうしたの?』

メイド『ええ、ガルナ様の妹を探してるのよ』

メイド2『あー、あの子すぐに居なくなるわよね』

メイド『このお城に来て一ヶ月経つけど……誰にも懐かないし、悪さばかりするし』

メイド2『ちょっと大変よねぇ……』

メイド『お姉さんのガルナ様は大忙しだっていうのに……』


<ソウヨネ- デサー


コソッ…

遊び人『…………』

スタスタ…

遊び人『……ふん』



――城内・会議室――


賢者『……――という理由で、この術式だと。この変換が対応するという事になります』

学者『質問です』

賢者『はい、何か?』


<……!


遊び人『……』



賢者『それはこの魔術に類似しているだけで、実際は――……』



遊び人『……』

――遊び人の部屋――


ガチャッ……

バタン


スタスタ

ぼふっ


遊び人『……』

遊び人『(……みんなみんな)』

遊び人『(みーんなみーんな、おねーちゃんのことばっかり)』

遊び人『(だれかがきたとおもったら、けんじゃさま、がるなさま……そればっかり)』

遊び人『(なにをいっても、おねーちゃんはわたしをばかにするだけ)』

遊び人『(……わたしなんでここにいるのかな)』

遊び人『……』

遊び人『……おじーちゃん』

遊び人『(……おじーちゃん……わたし)』

遊び人『(わたし……いらないこ、なのかな)』

遊び人『……』

遊び人『……っ』

ガシッ

遊び人『……みんなのぶぁーか!!』

ブンッ!!

ドカッ!


ガチャッ


メイド『……あ、あの』


遊び人『!』

メイド『ど、どうかしましたか……?枕なんて投げられて……』

遊び人『……なんでもないっ』

メイド『そうですか……あの』

遊び人『なにっ!でてってよっ!』

メイド『あ、いえ……王様がお呼びです』

メイド『王の間にお呼びするよう言われまして……』

――王の間――


王『いやあ、すみませんな。呼び出してしまって』

賢者『いえ、魔術の研究講義も終えた所でしたので。何か御用でしたか?』

スタスタ

王『ああ、妹君もいらっしゃったようです』

賢者『!』

ザッ

遊び人『……』

賢者『……』

王『さて、揃いましたな。それでは早速本題に』

王『今回お呼びしたのは……1つ提案がありましてな』

賢者『提案?』

王『はい。実は――』



タッタッタ


『す、すみませんっ!!おくれましたぁっ!』


王『ああ、来た来た』


ズザッ

『はぁっ、はぁっ……すみません、でしたっ……!』


賢者『……?』

遊び人『……』

遊び人『(……だれ、こいつ』


王『えー、提案というのが、この少年を、あなた方の側近として今日から配属したいと考えておるのです』


賢者『はい?』

遊び人『え?』


王『ほら、ちゃんと自己紹介をしないか』

『はっ、はい!!』

ザッ

『今日から、お二人の側近として配属されました!』

ペコッ!




勇者『……――勇者と申します!よろしくおねがいしますっ!』

今日はおしまいです

……

スタスタ


賢者『……』スタスタ

遊び人『……』スタスタ


勇者『……』スタスタ


スタスタ……

勇者『あっ、あの!』

遊び人『……』

賢者『……何でしょう』

勇者『えっと!お、お二人の側近、世話役としてっ、が、頑張ります!勇者です!』

賢者『先程聞きました』

勇者『う、えと、その』

賢者『……』

ピタッ クルッ

賢者『……失礼ですが』

勇者『はいっ!!?』ビシッ

賢者『私に世話役は不要です』

勇者『え……あ』

賢者『私の事は自分でやれます。貴方の助けは必要ありません』

勇者『でも、その』

賢者『貴方には貴方の仕事があり、それを任ぜられた以上投げ出せない……それは分かります』

賢者『ですが、あまり必要以上に干渉しないで下さい』

勇者『……』


――賢者の部屋の前――

賢者『……私は少し休みます』

ガチャッ

賢者『世話ならその子をよろしくお願いします』

遊び人『……』

勇者『え、あのっ!』

賢者『それでは』


バタン!


勇者『……』

遊び人『……わたしももどる』

勇者『あ、だったら僕に何かできる事は――……』

遊び人『ない!』

勇者『え、でも』

遊び人『ないったらないの!』

タッタッタ

ガチャッ

遊び人『わたしはひとりでだいじょうぶなのっ!あんたなんかいらない!』

遊び人『とにかく!ほっといてよ!』

バタン!!


勇者『……』ポツン

勇者『(……前途多難だなあ)』

勇者『(でも……負けないぞ!)』



…………


――城・厨房――

ガシャガシャ

ジュウウゥ・・・・・・


料理長『それそっちに持って行ってくれるかしら!そう、その薬味摩り!』

メイド『料理長!柑橘類のソースできました!』

メイド2『こっちも!鳥のワタ、抜き終わりました!オーブン開けて貰えます!?』


<……!……!


ヒョコッ

遊び人『……』

遊び人『(くふふ、ぬすみぐいしてやるう)』

遊び人『(なにがいいかな……デザートかな、くだものも……)』

ザッ

ガシッ

遊び人『ふぁ?』


勇者『遊び人さんっ!』


遊び人『うげっ!』


料理長『あら?勇者じゃない……それに遊び人様も』

メイド『あっ、遊び人様!またつまみ喰いですかー?』

遊び人『ぐむっ……!』

勇者『だめだよ遊び人さん!みんなの邪魔しちゃ!』

勇者『お腹が空いたらちゃんと言いましょう!ね?』

遊び人『う……』

ダッ

遊び人『うるさいうるさいっ!』

勇者『あっ、遊び人さん!』

タッタッタ…

勇者『……』

料理長『……アンタも大変だね』

勇者『……いえ、がんばりますっ!』

メイド『健気ね』


――魔術研究室――


学者『……――の詠唱がこの結晶に反応すれば……』

学者2『エーテルが反応し合って決壊する筈だね、魔法使い』

魔法使い『うんっ!やってみるねー!ちょっとてーぶるあけて』

<……!……!


コソッ


遊び人『……』

遊び人『(じゃあここでじゃまをしてやる……!)』

遊び人『(くふふ、あのテーブルのうえのいしをどこかにかくしてやろー)』


魔法使い『あれ?さっきのほんは?』

学者『ああ確か学者2が』

学者2『さっきこっちの棚に……』


遊び人『(いまだ!)』

コソコソ スッ

遊び人『(さーてどこに)』

ガシッ

遊び人『ふぇ?』


勇者『……二度目だね』ニコ


遊び人『くひゃあ!』

魔法使い『あれ、ゆーしゃ』

遊び人『んもー!なんなのあんた!』

勇者『だから邪魔しちゃ駄目って言ってるでしょ!』

ダッ

遊び人『しらないよぶぁーか!』タッタッタ

勇者『あっ!……ごめん魔法使い!お邪魔しました!』

勇者『待ってー!』タッタッタ

魔法使い『じゃねー』フリフリ

魔法使い『(ふふ、ゆーしゃもたいへんそうだねぇ)』

学者『さて、続きを……あれ』

学者2『……なんだ、これ』


サラサラ…


学者2『石が……詠唱も無しに……』


――中庭・訓練場――


兵士長『やぁぁっ!!』

戦士『りゃあっ!!』

ダンッ!! ガキィン!!

兵士長『はぁ、はぁ……勝負あった、もうよろしい。次の者!』

戦士『いてて……ありがとうございましたー』

スタスタ

剣士見習い『戦士ちゃんすごーい!兵士長とあそこまで渡り合えるなんて!』

戦士『すごくねーよー。負けちゃったし、兵士長も手加減してたって』

兵士長『(危なかった……負けそうだった)』ドキドキ

タッタッタ

戦士『ん?』


遊び人『おいかけてくるなぁー!』タッタッタ

勇者『だから悪さをしちゃだめだってー!』タッタッタ


戦士『あ、勇者だ。それと……お城のお客さん?』

剣士見習い『勇者くん、あの子達の世話役になったらしいからね。頑張ってるぅ』

戦士『そのせいか最近遊んでくれないんだよなー』

戦士『……ん?』


賢者『……』


戦士『(お城のお客さんの……大きいほう?)』

戦士『(勇者とあの子をじっと見てる……)』

賢者『……』

クルッ

賢者『……』スタスタ

戦士『……』

剣士見習い『戦士ちゃん?どしたの?』

戦士『え?あー、なんでもねーよ』

戦士『……』

戦士『(なんだろ、変な顔してたな)』

…………
……


――アリアハン城・廊下――


タッタッタ

遊び人『はぁっ!はぁっ!……うぇっ!?』

ズザッ

遊び人『はぁ、はぁ!』

遊び人『(うそぉ、ここいきどまりになってるんだ……!)』

タッタッタ

勇者『はぁっ、はぁっ……!やっとつかまえた!』

遊び人『ぐむむ……!』

ザッ

勇者『さ、遊び人さん!ご飯の時間まで僕と一緒にいてもらうよ!』

遊び人『やっだよーだ!べー!』

勇者『なんでそんなワガママ言うんですかぁ!』

遊び人『わたしはだれのいうこともきかないんでぇーす!ましてやあんたのいうことなんか!』

勇者『僕のいうことは聞かなくてもいいからとりあえずあちこち逃げ回るのやめてもらえるかな』

遊び人『それってあんたのいうこときいてるってことになるじゃん』

勇者『よし!それじゃ決め事をしよう!』

遊び人『え?』


スッ


勇者『……』

遊び人『……なにそのひとさしゆび』


勇者『いーうこときーくひーと こーのゆーびとーまれ!』


遊び人『…………』

勇者『……』

遊び人『……え、なにいまの』

勇者『僕がこう言ったら、とりあえず何をしててもこの指に止まる事。いいね?』

遊び人『ばかじゃないの』

勇者『いいね?』

遊び人『ばかじゃないの』



……


――アリアハン城・賢者の客室――


ペラッ…

賢者『……』

ペラッ

賢者『……ふぅ』

タッタッタ

賢者『?』

ガチャッ!バタン!!

遊び人『はぁっ、はぁっ』

賢者『……遊び人』

遊び人『しーっ!かくまって!』

賢者『ふざけないで。あなたのかくれんぼに付き合っている暇は』

遊び人『ちがうの!あいつ!またきょうもあのもやしがうるさいの!』

賢者『もやし……勇者の事?』

遊び人『そう!』


<遊び人さーん!どこにいったのー!?


遊び人『うええ、まださがしてるし』

賢者『……とにかく、騒がしくしないで』

遊び人『……あいつがいったら、すぐでてくってば。こんなとこ』

賢者『そう』

遊び人『まったく!あいつ、わたしにずっとつきまとっていみわかんない!』

賢者『……』

遊び人『そもそもなんでそっきんがあいつなの!?わたしたちはおんななんだから、ふつーおんなのひととかじゃないの!?』

賢者『……彼はオルテガ様の息子なのよ』

遊び人『えっ!?そうなの!?』

賢者『彼自身も騎士団、及び勇者を志望しているらしいのだけれど、如何せん武力・魔力共に皆無らしいわ』

遊び人『……それって』

賢者『……』

遊び人『…………あいつ、いろんなけいかくから、おはらいばこにされたってこと?』

遊び人『くびにしようにも、オルテガさんのむすこだからできなくて』

遊び人『だったらつよさのかんけいない、おきらくなしごとに……』

賢者『……』

遊び人『……そんなめんどうごとなんであたしたちにおしつけるの!?あのバカおうさま!!』

賢者『口を慎みなさい』

遊び人『でも!』

賢者『そしてうるさい』

遊び人『む……』

賢者『言ったでしょう。騒がしくしないでと』

遊び人『……』

コンコン

遊び人『!』

<すみません、ガルナ様。よろしいでしょうかー?

賢者『……彼ね』

遊び人『あわわわ、みつかったらまためんどくさいことに』

賢者『諦めて出て行きなさい。そして』

スタスタ

賢者『!』

遊び人『おねーちゃん!ものおきのなかにかくれさせて!』


―――――――


勇者『……』

勇者『(あれ?ガルナ様留守かな?)』


ガタッ ガタァン!!


パァン!!


勇者『!?』

ガチャッ!

勇者『失礼します!今の音――……』



遊び人『……』

賢者『……』


勇者『は……』

遊び人『……な』

遊び人『なん、で、たたくの』

賢者『……』

遊び人『かくれようと、した、だけじゃん』

遊び人『なんで、なんでたたくの』

賢者『……』

クルッ

賢者『……読書に戻るわ』

賢者『出て行きなさい、遊び人』

遊び人『っ……!』

ダッ!!

勇者『あっ!遊び人さ――』

タッタッタ

勇者『ん……』

賢者『……』

勇者『……あの、一体』

賢者『…………何でもありません』

ガタ

賢者『それよりも、用が無いのなら出て行って下さい』

賢者『読書中なので』

勇者『……』

賢者『……何か?』

勇者『……失礼しました』

バタン

タッタッタ

<遊び人さーん!

賢者『……』



――――――――



――アリアハン城・中庭・木の陰――



遊び人『……』

遊び人『……』

遊び人『……おねえちゃんの』

―――

賢者『出て行きなさい、遊び人』

―――

遊び人『……ばかっ……!』

ガサッ

遊び人『!』

勇者『あ、やっぱりここにいた』

遊び人『あ、あんたっ、なんでここがっ!』

勇者『だって、この前もここにかくれてたよね』

ガサガサ

勇者『たしかにちょうど木と木の間の空洞で秘密基地みたくなってるから隠れたくなる気持ち、わかるよ』

遊び人『はいってくるなぁっ!!』

勇者『うぉっ!?』

遊び人『あんたのせいでおねーちゃんにたたかれたの!!』

遊び人『あんたが……あんたがおいかけてこなかったら……!!』

勇者『……!』

遊び人『なんでわたしをそんなにおいかけてくんのよ……!』

ギュッ

遊び人『わたしなんかほっといて……!!いままで、みんなそうだったじゃん……!』

勇者『……』

遊び人『……はやくどっかいってよ!』

勇者『……ごめん』

遊び人『!』

勇者『なんというか、力任せに追いかけて……ごめんね』

遊び人『……』

勇者『……隣、座るね』

遊び人『やだ』

勇者『あはは、まあまあ……よいしょ』

スッ

勇者『……僕もね、ちょっとはりきりすぎちゃってた』

遊び人『……』

勇者『実はね。僕、仕事をまともに与えられたのはじめてだったんだ』

遊び人『しってる』

勇者『え、しってるの?』


遊び人『あんたが、なんのさいのうもなくて、きしだんをじじつじょうクビになったのもしってる』


勇者『……!』

遊び人『……まちがってないでしょ』

勇者『はは……よく知ってるね』

遊び人『だから……はじめてのしごとだったからばかみたいにはりきったんでしょ』

遊び人『“しごと”だから』

―――――――――


勇者『遊び人さーん!』


―――――――――

遊び人『(“しごと”だから……あんなにわたしにかまって)』



勇者『うーん、ちょっと違うかな』


遊び人『……え?』

勇者『ほんとはね、嫌だったんだ。偉い人の側近なんて』

勇者『僕は父さんみたいな勇者に憧れてるから。魔物と戦う訓練がしたかった』

遊び人『じゃ、じゃあなんであんなにばかみたいにはりきってたのよ』

勇者『……誰にも言わない?』

遊び人『そういうのいいから』

勇者『うぐ……えっとね』


勇者『……遊び人さんが、義妹にちょっと似てたんだ』


遊び人『……いもうと?』

勇者『うん。義妹』

勇者『一つ年下で、ちょうど遊び人さんと同い年でさ』

勇者『……いつも、どこか背伸びしてて。大人ぶろうとしてるんだ』

遊び人『わっ、わたしはおとなだもんっ!!』

勇者『ははっ、ほらそういうところとか』

遊び人『ぐむむ』

勇者『そういうの見てたらさ……なんというか、変に構いたくなっちゃってさ』

遊び人『あんた、しゅふかなにかなの?』

勇者『まあ、とにかくさ』

スクッ

勇者『これからもどんどん構っていくから!そのつもりでいてね!』

遊び人『……』

勇者『……』

遊び人『……う"えぇ"~……?』

勇者『(すっごい嫌そうな顔してるぅ……)』

ダッ

勇者『あっ!?』

遊び人『あんたなんかにかまってもらわなくてもへーきよ!ばーか!』タッタッタ

勇者『こらっ!ちょっ、まって!』ダッ

遊び人『またないよーだ!』タッタッタ

勇者『こらぁ!いーうこときーくひーとこーのゆーびとーまれ!いーうこときーくひーとこーのゆーびとーまれ!』タッタッタ

遊び人『だからそればかみたいだからほんとやめて!!』


――いもうとにちょっとにてたんだ――


遊び人『……』タッタッタ

遊び人『(……なんでだろ)』

遊び人『(なんか、ちょっとうれしい)』


…………
……


――アリアハン城・厨房――


ガチャガチャ ジュワァァ

メイド『料理長!こっちのスープもうすぐできます!』

料理長『ありがと!じゃあ皿準備しといて!』

メイド2『オーブンの薪って裏の倉庫にまだあったわよね!?ちょっととってきます!』

料理長『次に焼くのは魚だから、香りが強い白木を持って来てちょうだい!』

バタバタ

料理長『ふう……ひと段落かね』

遊び人『いそがしいんだね、なんかあるの?』モグモグ

料理長『もうすぐルビス祭だからね。お偉いさんが頻繁に下見に来るのさ』

遊び人『ふぅん?ルビスさい?きいたことはある』モグモグ

料理長『ルビス様を祭る行事さ。この大地をルビス様が創った時の、最初の地がアリアハンと言われてるんだよ』

遊び人『ふーん……』モグモグ

料理長『さて、そろそろかね』

遊び人『なにが?』モグモグ


タッタッタ

勇者『遊び人さん!』


料理長『ほれきた』

遊び人『ぐぇぇ、きました』

勇者『全く!少し目を離した隙に!』

料理長『はやく連れてっとくれよ、勇者。何をつまみ食いされるかたまったもんじゃない』

勇者『ごめんなさい料理長……って遊び人さん何食べてんの』

遊び人『りんご』

料理長『何か与えとかないとすぐ料理に手を出すからね』

料理長『まあとにかくだ。遊び人様。ここに遊びで入ってくるんじゃない。邪魔だわ』

遊び人『……ふんだ』

勇者『本当にすみません……ほら!遊び人さん!行くよ!』

遊び人『はいはーい、いきますよーだ』

スタスタ……

料理長『ふぅ……やっと行ったわね』

メイド『勇者君も大変ですね』

メイド2『なかなか懐かないみたいですし』

料理長『そうかい?』

メイド『え?』

料理長『なんだかんだ、あの子達なりに懐いてるように見えたけどね』


――アリアハン城・蔵書室――



遊び人『……ねえ勇者ちゃん』


勇者『………………なに』

遊び人『この、せかいちずの、えっと……あ、ここ。ここなんだよね?アリアハンって』

勇者『そうだよ』

遊び人『ふーん……』

遊び人『(……まえに、わたしがすんでたのはどこなんだろ)』

勇者『とりあえず、世界地図はしまって算法の勉強を……するまえに遊び人さん』

遊び人『なに?』

勇者『……さっきの何さ』

遊び人『ん?』

勇者『いや、僕の事なんて言ったの』

遊び人『え?……ああ、勇者ちゃん?』

勇者『なんだよその呼び方!』

遊び人『えーぴったりじゃない?』

勇者『どこがぴったりなんだよ!』

遊び人『だってー、ひょろひょろでひよわだし?なんかめめしいかおしてるし?ゆうじゅうふだんだし?』

勇者『ぐむ、ぐむむむ』

遊び人『ほーらぴったりじゃん。あんたなんかちゃんづけよ。ゆ・う・しゃ・ちゃん』

勇者『やめてよ!ほんとうにやめてよ!』

遊び人『あ、なんだかいつもとたちばがぎゃくだ!ゆうしゃちゃーん♪』

勇者『やめてってば!』


ガチャッ


勇者『ん?』

遊び人『!』



賢者『……』


勇者『……ガルナ様』

スタスタ

勇者『えっと、ガルナ様は何か調べ物ですか?』

賢者『次の術研の資料の本を取りに来ただけです』

勇者『そ、そうなんですか』

遊び人『……』

ペラッ… スッ

賢者『……』

勇者『あの、手伝いましょうか?』

賢者『お構いなく』

バサッ 

賢者『……それでは』

スタスタ

遊び人『……』

勇者『……あ、あのっ!』

ピタッ クルッ

賢者『何でしょう』・

勇者『よ、よければガルナ様もここで遊び人と僕と一緒に本を読みませんかっ?』

遊び人『はああ?』

賢者『……』

勇者『その、そっちの方が楽しいかなって……』

賢者『必要ありません』

勇者『えっ?』

クルッ

スタスタ

賢者『……』スタスタ

ガチャッ

賢者『……貴方のその過剰な気遣い、他人迷惑な独り善がりの張り切り』

ギィィ…


賢者『全て必要ありません……――迷惑です』


バタァン

勇者『……あ、う』

遊び人『……あんた、ほんとうにおせっかいでばかね』

勇者『えっと……ご、ごめんなさい』

遊び人『あやまるくらいならさいしょっからしないでよ!ほんとへたれね!』

勇者『ふぐぅ……』

遊び人『ねえ?勇者ちゃん……このよびかたにいろんはある?』

勇者『………………………………ありません……』

遊び人『だよね。勇者ちゃん……ふふっ♪』

…………


――アリアハン城・遊び人の客室――


遊び人『なにそれー!あははは!』

勇者『本当なんだよ!?しんじてよー!』

コンコン

勇者『あ、はい!』

ガチャッ

メイド『失礼します遊び人様。勇者君?そろそろ……』

勇者『え?あっ、本当だ!日がもう沈みそうだ』

メイド『帰り、気をつけてね』

勇者『はい!』

ゴソゴソ

遊び人『……かえるの?』

勇者『はい。それじゃ遊び人さん、また明日来ますね』

遊び人『ふーんだ!あんたなんかもうこなくていいですよーだ!ぶぇー!』

勇者『あはは、それじゃあね』

スタスタ

遊び人『……』

メイド『それでは……遊び人様?お風呂とお食事どちらを先になさいますか?』

遊び人『……いらない』

メイド『いらないのです?もしかして体調が優れないのでは』

遊び人『んーん。ちがう』

メイド『……そうですか』

ギィ…

メイド『それではもし気が変わりましたらお呼びください』

遊び人『ん……』

メイド『それでは』

バタン

シーン…

遊び人『……』

ボフッ

遊び人『……はーあ』

遊び人『(なんでだろ……あいつがかえったらなんだかすごいつまんない……)』

遊び人『(またあしたまでひとりかぁ……)』

遊び人『……』

遊び人『!』

ガバッ

遊び人『……そうだ』ニヤァ

――アリアハン・街中――

ガヤガヤ

スタスタ

遊び人『くふふ……♪』

遊び人『(だっしゅつせいこう!けっこうかんたんだったね)』

遊び人『(ようし!それじゃさっそく……)』

ピタ…

遊び人『…………』

遊び人『(さっそく……あいつのところに)』

遊び人『(あれ)』

遊び人『(あいつってどこにすんでるんだろう……)』

…………

スタスタ

盗賊『……僧侶もお遣い?……』
 
僧侶『はいっ!明日の朝のミルクを買いに!』

盗賊『……そっか。偉いね……でも暗くなってきたから、遅くなっちゃだめだよ?……』

僧侶『大丈夫です!……というか』チラッ

盗賊『……?……』チラッ


町人『神父様?ファイヤーバード?コソコソと何をなさってるんです?』

神父『しっ!僧侶が無事にお遣いできるよう見守っているのです!』

馬『ブルォォ、ボディガードンヌ……』


僧侶『この前の誘拐のじけんから神父様があんなかんじなので……』

盗賊『……お遣いの意味、無いね……』

僧侶『あはは……あら?』

盗賊『……ん?……』


遊び人『うぅ……』ウロウロ

遊び人『(どうしよ……ひとがおおい)』

遊び人『(だれかにきこうかな……でも、わるいひとだったらこわいし)』

ポン

遊び人『わひゃぁっ!?』ビクーン!!

僧侶『ふわぁっ!?』ビクッ

遊び人『ななななっ、なにっ!?だれっ!?』

僧侶『お、驚かせてごめんなさい』

盗賊『……あなた、どうしたの?見かけない顔だけど……』

僧侶『なんだか迷ってるように見えたので……もしかして旅の方のお子さんだったりしますか?』

遊び人『わっ!わたしは!』

遊び人『……わたし、は、その……あの』

僧侶・盗賊『『?』』

遊び人『……ひとを、さがしてて』

盗賊『……だれか、探してるの?手伝おっか?……』

遊び人『!ほんと!?』

僧侶『おやすいごようです♪』

遊び人『あ、ありがと……お、おれいはいわないからねっ!』

盗賊『……言ってる……』

僧侶『その探してる方の特徴とか名前って言えますか?』

遊び人『えっと……』

…………

――勇者の家――


コトコト…

勇者母『勇者、そろそろ夕飯ができるわ。女勇者とおじいちゃん呼んできてくれるかしら?』

勇者『…………』

勇者母『勇者?勇者ったら』

勇者『えっ?あ、ごめん母さん。何?』

勇者母『んもう。魔法の勉強を頑張ってるのはいいけど、程ほどにね?』

勇者『あはは……はい』

勇者母『そろそろ夕飯ができるから二階のお二人さんを呼んできてちょうだいな』

勇者『うん!わかった』ガタッ


コンコン


勇者・勇者母『『?』』

勇者母『お客さん?誰かしら』

勇者『もう日も沈んだのに……はーい』

スタスタ

ガチャッ

勇者『どなた――……あれ』


盗賊『……やあやあ……』

僧侶『こんばんは!』


勇者『お姉ちゃん、僧侶』

勇者母『あらほんと。こんばんは二人共』

盗賊『……こんばんは、お母さん……』

僧侶『こんばんはおばさま!』

勇者『どうしたの?もうすぐ夜になっちゃうよ?』

盗賊『……えっとね……』

僧侶『ホラ、用事があったんじゃないんですか?隠れてちゃだめですよ』

勇者『?』

ヒョコッ

勇者『!?』


遊び人『……』


勇者『遊び人さん!?』

盗賊『……やっぱり、知り合いなんだ……』

僧侶『なんだか勇者くんを探してたみたいだったので、連れてきたんですが……』

勇者『な、なんでここにいるのさ!!?お城は!?』

遊び人『ふ……ふーんだ!!ぬけだしてきたの!』

勇者母『あらあら、可愛いお客さんね?』

盗賊『……というか、お城?……』

僧侶『ぬけだして来たって……?』

勇者『ああ、えっとね……』

――――――――

勇者母『へえー、賢者様の妹さんねえ』

盗賊『……どうりで、見た事無いと思った……』

勇者『お姉さんが厳しくてさ。ずっとお城から出して貰えなかったんだよ』

遊び人『だからぬけだしてきてやったの!だしぬいてやったのよ!』

僧侶『だめですよー?心配かけちゃ』

遊び人『……しんぱいなんて、だれも』

僧侶『え?』

遊び人『…………なんでもない』

勇者『とりあえず!送っていくから帰ろう遊び人さん!』

遊び人『やだもーん!いえでならぬ、しろでしてやるんだから!』

勇者『はぁぁぁ……この子はもう……』

遊び人『どうせかえったって、わたしは』

スタスタ

勇者母『遊び人ちゃん、だったかしら』

遊び人『えっ?は、あ、うん』

遊び人『……このひと、だれ?勇者ちゃん』

勇者『ぼくの母さんだよ』

遊び人『そ、そうなんだ』

勇者母『……』

遊び人『……う……』

遊び人『(どうしよ……おこられるのかな……)』

ニコッ

勇者母『夕飯はもう食べた?』

遊び人『えっ?』

勇者母『夕ご飯よ。まだ食べてない?』

遊び人『あ、う、うん。まだ……』

勇者母『そ。じゃあ食べておいきなさいな』

遊び人『えっ!?』

勇者『母さん!?』

勇者母『盗賊ちゃんと僧侶ちゃんはどうする?食べてく?』

僧侶『あ、私達はお遣いの途中なので』

盗賊『……またご馳走になりますね……』

勇者母『あらそう、それじゃ仕方ないわね』

僧侶『それじゃ、勇者くん……この子の事頼んで大丈夫ですか?』

勇者『あ、う、うん。ありがとね二人共』

盗賊『……ううん。それじゃね……』

バタン

勇者母『よし、それじゃお皿を多く用意しなきゃ』

勇者『いやいや母さん!?』

…………

コトン

勇者母『ん。これで全部ね』
 
遊び人『……』

遊び人『(おしろのごはんより、ごうかじゃないけど……なんだか、あんしんする)』

勇者『それじゃ』

『『『『いただきまーす』』』』

遊び人『……いただきます』

ヒョイ

遊び人『……』

パクッ

遊び人『……!』

バクバクッ!

遊び人『むぐっ!むう』モグモグ

勇者母『ふふ、そんなにかき込むと詰まらせるわ』

遊び人『むうっ!?』

勇者『ああもう、ほら。水だよ』

遊び人『んっ……はあ』

遊び人『もっ、もふっ』モグモグ

勇者祖父『はは、言ったそばからこの子は』

勇者『僕の言う事本当に聞いてくれないんだよね……』

……

カラン

遊び人『はふぅ……』

勇者母『あら、もう食べ終わったの?』

勇者『どう?うちの母さんの料理は。すごく美味しかったでしょ』

遊び人『ぐむ……!』

勇者『前まではお城で料理長をやっててさ。もしかしたらこの街で一番料理が』

遊び人『ふ、ふーんだ!べつにっ!べつにだもん!』

勇者『なっ!』カチン!

勇者母『あらごめんなさい、嫌いな物があったかしら?』

遊び人『え?あ!!その、えっと……ふ、ふーん!こ、こんなのぜんぜんおいしくないんだからっ』

『いってくれるねこのちんちくりん』

遊び人『!?』

勇者『こら、女勇者!』

女勇者『お義兄ちゃんはちょっとだまっててくれるかな。わたしはこのちんちくりんにようがあるんだ』

遊び人『ち、ちんちくりんってなによー!』

女勇者『さっきからだまってればしつれいきわまりないこむすめだね。あいてどるよわたしは』

遊び人『ゆ、勇者ちゃん!なによこいつ!』

勇者『ほら、まえに言ってた義妹だよ』

遊び人『はぁぁ!?わたしとこいつがにてるっていったの!?』

女勇者『なんだいそれはお義兄ちゃん?どういうことかなくわしくきかせてくれる?』

勇者『うおぉ怖ぇこいつら』


――勇者の部屋――

コトン

遊び人『ふっふーん!またわたしのかちー!』

女勇者『ぐぬぬ……もういっかい』

遊び人『いいよー?どうせまたわたしがかつけどね!』

勇者『まさか女勇者に勝つなんて……僕、一回も勝った事ないよ』

女勇者『いやそれはお義兄ちゃんが弱すぎるんだよ』

遊び人『うん。勇者ちゃんかんがえてることかおにですぎ』

勇者『怖ぇなあ、怖ぇよ』

ガチャッ

勇者母『勇者?遊び人ちゃん?そろそろお城に行かないと皆心配するんじゃないかしら?』

勇者・遊び人『『あっ』』

勇者母『遊び人ちゃんやお城の人達が良ければ泊まっていっても――……』

遊び人『えっ!』

勇者『だめだよ母さん。ちゃんとお城に帰さなきゃ』

遊び人『あ……う』

勇者母『そう?……それじゃ支度して降りてらっしゃい?』

勇者『うん、わかった』

バタン

遊び人『……』

勇者『遊び人さん?じゃあ先に一階に降りててもらえるかな。準備してくから』

遊び人『……うん』

スタスタ バタン

勇者『よしそれじゃ――……うん?』

女勇者『……』ジーッ

勇者『女勇者?どしたのさ』

女勇者『お義兄ちゃんてほんとうにどんかんだよね』

勇者『なんでさ!?』

――――――

遊び人『……』

勇者母『ちょっと待っててね。勇者が支度を終えたら送っていくわね』チクチク

遊び人『うん』

勇者母『……』チクチク

遊び人『……ねえ』

勇者母『んー?なあに』チクチク

遊び人『それ、なにしてるの?』

勇者母『これ?これはね、勇者の服を縫ってるのよ』チクチク

遊び人『ふくを?』

勇者母『そう。もうそろそろルビス祭があるし、寒くなってきたからね』

遊び人『……』

勇者母『……』チクチク

遊び人『なんでおばさんがぬうの?』

勇者母『え?』

遊び人『だって、さっきのごはんつくったのおばさんなんでしょ?』

遊び人『ごはんだけじゃなくてふくもつくるの?おかしいよ』

勇者母『……ふふっ!』

遊び人『ふぇ?』

勇者母『あははっ、あははは』

遊び人『え!?なんでわらうの!?』

勇者母『ふふっ、ごめんなさいね。でも初めて聞く意見だったから』

勇者母『……なんで服もご飯も作るのか、だったかしら』

遊び人『うん』

勇者母『うんとね……それは、家族だからよ』

遊び人『かぞくだから?』

勇者母『そ』

カタン

勇者母『私はね。勇者も女勇者もお義父さんも……――そして、夫のオルテガも愛してるわ』

遊び人『オルテガのおじさんも?』

勇者母『ああ、そういえば知り合いだったわね。……そう。家族みんな愛してる』

勇者母『だから、私は私ができる事を皆にしてあげたい。だからご飯も、服も作るし。掃除やお洗濯もする』

遊び人『……じゃあ、あいつら……勇者ちゃんたちはなにをするの?なにかしごとをしてるの?』

勇者母『……』

遊び人『……?』

勇者母『……“私の子供でいてくれてる”』

遊び人『?』

勇者母『“私の元で育ってくれてる”……“私をかあさんって呼んでくれてる”』

勇者母『……それだけで、もう私はいっぱい、幸せで。なんだってできるの』

遊び人『…………』

勇者母『……ふふ、わかったかしら?』

遊び人『……よく……わかんない』

勇者母『あはは、いずれわかる時があなたにもくるわ』

スタスタ

勇者『遊び人さんお待たせー。行こうか』

勇者母『あ、来たわね』ガタッ

勇者『母さんはいいよ。僕一人で行くから』

勇者母『何を言ってるの。駄目よ危ないわ』

遊び人『……』

…………


――アリアハン城・城門――

スタスタ

勇者『あ、よかったまだ門をあげてないや』

勇者母『あら本当ね』

遊び人『…………』

勇者母『ほら、遊び人ちゃん。きっと皆心配してるわ』

遊び人『……うん』

勇者『じゃあちょっと遊び人を中まで送ってくるから母さんはここで少し待ってて』

勇者母『ん。遊び人ちゃん、それじゃあね』

遊び人『……』

勇者『?遊び人さん?行くよ』

スタスタ

遊び人『……お、おばさん!』

勇者母『?』

勇者『?』ピタ

遊び人『……あ……』

遊び人『……』

遊び人『……なんでも、ない』

スタスタ…

勇者母『……?』


…………


――アリアハン城・入り口――


門番『お?なんだ勇者じゃないか』

門番2『どうした、もう夜だぞ?』

勇者『いえ、多分お騒がせしたと思うんですけど』

門番『お騒がせ?』

門番2『なにがだ?』

勇者『いえ、ですから……』スッ

遊び人『……』

勇者『遊び人様がお城を抜け出されてたみたいで』

門番2『え?』

勇者『ですから、あの』





門番『“居なくなってたのか?”』





勇者『……――は?』


遊び人『…………』

門番『あ、いやすまない。こちらはそんな話届いてなくて』

門番2『遊び人様!申し訳御座いません、ご無事だったようで……さあ、入られて下さい』

勇者『……』

遊び人『……』

スタスタ

勇者『あ、遊び人さん』

遊び人『……』スタスタ

ピタ

遊び人『勇者ちゃん』

勇者『?』


遊び人『……また、あしたね』


勇者『……うん』

勇者『うん!また明日来るからね!』

スタスタ

遊び人『……』

門番2『全く、勝手に抜け出されては困ります!』

遊び人『……ごめんなさい……』

遊び人『(……ほら)』


遊び人『(だれも、わたしのしんぱいなんかしてなかった)』


…………

――アリアハン城・中庭――

スタスタ

勇者『遊び人さーん!遊び人さーん!?』

シーン

勇者『……はぁ、よし』

ピタ

勇者『っ』すぅぅ

勇者『いーうこときーくひーとこーのゆーびとーまれ!いーうこときーくひーとこーのゆーびとーまれ!』

ガサッ

遊び人『だからそればかみたいだからやめてくれる!!?ほんとにさ!!!』

勇者『あ、遊び人さんいた』

スタスタ

勇者『よっと、あれ?本読んでたの?』

遊び人『うん』

勇者『何の本?』

遊び人『んもー!なんでもいいでしょ!』

遊び人『それよりも、なにかようじあったんでしょ?おひるにわたしをさがしてるってことは』

勇者『ああ、そうなんだよ。今から一週間後にルビス祭があるのは聞いたでしょ?』

遊び人『うん。みんなじゅんびでばたばたしてるしね。それがどうしたの?』

勇者『そう、その準備に僕も参加しなくちゃいけなくて……しばらく来れないんだ』

遊び人『……え』

勇者『だから悪いんだけど、側近の仕事はメイドさんたちにいろいろお願いしてるんだ。それを伝えたくて』

遊び人『……そう、なんだ』

勇者『うん。ごめんなさい遊び人さん』

遊び人『……』

遊び人『……!?』ハッ

遊び人『なっ、なにいってんの!?こっちにしたらあんたがいなくなってばんばんざいでーす!』

勇者『なっ、なんだとう』

遊び人『ふふふ!うるさいひっつきむしがいなくなってせいせいするもん!』

勇者『ぐむむ……!』

遊び人『あははは!』

遊び人『(……そっか、勇者ちゃん……しばらくこないんだ)』


……………………


――アリアハン城・城壁の展望席――


ビュォォォ……

遊び人『…………』


<トントン カンカン

<キャハハハ

遊び人『……』

遊び人『(まちのみんなも、たのしそうにじゅんびしてる)』

遊び人『(……うらやましいな)』

……………………
…………
……




ドオン!ドオン!!


――アリアハン・ルビス祭――


『ルビス祭のはじまりだ!!』

『今日は皆飲め!歌え!!ルビス様を讃えろ!!』

『ねえはやくいこうパパ!!ママ!!』


ガヤガヤ

――勇者の家――

勇者母『さ、始まったわね。勇者もお城のお手伝いがあるんでしょ?』

勇者『うん!早く行かなきゃ』

勇者母『終わるのはどのくらいになるの?』

勇者『たぶん、夕方にはおわるから……あ、でもその後に』

勇者母『ふふ、まあいいわ。私は中央広場の料理場に居るから、何かあればいらっしゃいな』

勇者『うん!行ってきます!』

――――――――



遊び人『わぁぁぁぁ……!!』


――アリアハン城・遊び人の客室のバルコニー――


<ガヤガヤ

遊び人『なにこれ、すごいひと……!どれくらいいるんだろ……!』

遊び人『おまつりってすごい……!すごいすごい!!』


――賢者の客室――


タッタッタ

バタン!!

遊び人『おねえちゃん!あの、ね……?』

メイド『あら、遊び人様』

メイド2『どうかされましたか?』


賢者『……何か用かしら』


遊び人『……』

遊び人『(すごくきれーなどれす……)』

メイド『それではガルナ様、着付けは終わりましたので』

メイド2『時間になりましたらまた呼びに伺います。その前に王が式の打ち合わせをしたいとの事でしたが……』

賢者『はい。では今から王のもとへ参ります。ご苦労様です』

バタン

遊び人『……』

賢者『……だから、遊び人。何か用かしら』

遊び人『……なに、そのふく』

賢者『聖法衣よ。夕方に祝詞を皆の前であげないとならないの』

遊び人『え!?なにそれ!』

賢者『あなたの許可が必要だったかしら』

遊び人『う、ううん……でも!その』

賢者『何』

遊び人『けんじゃであるおねえちゃんが、そういうしごとをしなきゃならないなら』

賢者『!』

遊び人『わたしも、なにかけんじゃのいちぞくとして――……』


賢者『あなたは今日一日、部屋で大人しくしていなさい』


遊び人『……――え?』

賢者『今日は各国から色んな首脳や高僧が集まる……迷惑はかけられないの』

遊び人『や、やだ!!やだやだやだ!!!』

賢者『言う事を聞きなさい』

遊び人『そんなのぜったいやだよ!!こんなおまつりなんだよ!?うるさくしない!なにもめいわくは』

賢者『遊び人』

遊び人『っ』ゾクッ

賢者『私の言う事が分からないのかしら?あなたはそれ程に愚かなの?』

賢者『あなたが外を動き回れば、それだけで私は迷惑なの』

賢者『私にもうこれ以上言わせないで頂戴』

遊び人『……』

賢者『……』

スッ

スタスタ

賢者『……式の打ち合わせに行ってくるわ』

賢者『あなたは今日一日、部屋に居る事。いいわね』

遊び人『……』

賢者『……返事は?』

遊び人『…………だいっきらい』

賢者『……』


遊び人『おねえちゃんなんか……!!あんたなんかだいっきらい……!!!!』


賢者『知ってるわ……いい返事ね』

バタン

遊び人『……』

…………

――遊び人の客室・夕方――


<ワー!! ガヤガヤ


遊び人『………………』

ギュ…

遊び人『…………』

……………………

賢者『あなたが外を動き回れば、それだけで私は迷惑なの』

賢者『私にもうこれ以上言わせないで頂戴』

……………………


遊び人『……』

遊び人『(なんで、わたし)』


……………………

料理長『ここに遊びで入ってくるんじゃない。邪魔だわ』

……………………


遊び人『(ここにいるんだろ)』


……………………

メイド『誰にも懐かないし、悪さばかりするし』

メイド2『ちょっと大変よねぇ……』

メイド『お姉さんのガルナ様は大忙しだっていうのに……』

……………………


遊び人『(おねえちゃんのおまけみたいに)』

遊び人『(ひっつきむしみたいに)』


……………………

門番『“居なくなってたのか?”』

門番『あ、いやすまない。こちらはそんな話届いてなくて』

……………………


遊び人『(じゃまものなら)』


……………………

ガルナ『賢者……話がある』

賢者『遊び人……部屋からでなさい』

ガルナ『……お姉ちゃんの言う事は聞かなきゃだめだよ』

……………………


―――お姉ちゃんの言う事は聞かなきゃだめだよ―――


遊び人『(わたしなんか、いなくたって)』


――遊び人さん!―――


遊び人『……!!』

ガバッ!!

タッタッタ

ガチャッ!

遊び人『っ……!』

タッタッタ

遊び人『はっ、はっ……!』

遊び人『(勇者ちゃん……!)』

遊び人『(勇者ちゃんなら、わたしを)』

遊び人『(あいつなら……!)』

タッタッタ……

…………


――アリアハン・中央広場――


ガヤガヤ!!

タッタッタ…

遊び人『はっ!はぁ!』タッタッタ


『さっきのって本当かよ?ガルナ様があんな小さな……』

『でもすごく綺麗な祝詞だったな』


遊び人『はぁっ!はぁっ!』タッタッタ


『確かに凄い風格だったぞ。賢者様ってのは凄いな』

『ええ、見入っちゃったわ』


遊び人『はぁっ!!はぁっ!!』タッタッタ


『賢者様万歳!!!』


『賢者様!!もう一度祝詞を!!!!』


『賢者様!!』


『賢者様!!!』


『賢者様!!!!!』


遊び人『はぁっ!!!はぁっ!!!』タッタッタ


遊び人『(勇者ちゃん……!勇者ちゃん!)』

遊び人『(おまつりをあんないしてよ……!いつもみたいにさがしてよ)』

遊び人『(わたしといっしょに……!)』

…………


――アリアハン・街の裏道――


ガヤガヤ

タッタッタ

ズザッ

遊び人『はぁ、はぁ』キョロキョロ

遊び人『(こっちには……いない)』

スタスタ

遊び人『(もしかして、おしろでしごとしてるのかな……)』スタスタ

遊び人『(しごとでいそがしくて……もしかしたら)』スタスタ

遊び人『(それがおわったら、わたしのところにも)』スタスタ


『勇者ー!こっちこっち!』


遊び人『(きて……)』

ピタ

遊び人『……』



勇者『ごめん皆!仕事がちょっと色々あって』


戦士『遅いっての!待ちくたびれたぞー』


武道家『悪いわね、急がせちゃって』


魔法使い『これでみんなそろったねぇ』


僧侶『はい!どこにいきましょうか?』


盗賊『……ルイーダさんが屋台出してるから、そこにまず行ってみない?……』



遊び人『…………』

勇者『あれ?おねえちゃんはルイーダさんの屋台を手伝わなくても大丈夫なの?』

盗賊『……うん、さっきまで手伝ってたし。他にも雇ってるから……』

戦士『とにかくもう腹減ったよー!早く行こう!』

武道家『アンタは本当に食い気しかないわね』

僧侶『じゃあ向かいましょうか』

魔法使い『うん!れっつらごーだよ!』


<……!…!


遊び人『……』

遊び人『(あ、そうか)』

遊び人『(ばかだ、わたし)』

遊び人『(わたしはひとりでも)』

遊び人『(勇者ちゃんにはいっぱいいるんだ)』

遊び人『(わたしとはなしてくれるのは、やっぱり、しごとだからで)』

遊び人『……』

遊び人『…………』

スタスタ…

遊び人『…………』

遊び人『(かえろう)』


…………
……


――アリアハン城・エントランス――


スタスタ…

遊び人『……』

遊び人『(おしろ、ぜんぜんひとがいない)』

遊び人『(あしおとがいつもよりひびく)』

遊び人『(みんなまちのほうにいってるんだ)』

遊び人『……』


ザッ


賢者『……遊び人』


遊び人『……』


賢者『……どこに行っていたのかしら』

遊び人『……おわったんだ?けんじゃのおしごと』

賢者『どこに行っていたのと聞いているの。質問も返せないの?』

遊び人『もう、せいほういはぬいだんだ?』

賢者『……っ』

スタスタ

ガシッ!

賢者『あなた、いい加減になさい』

賢者『自分の立場を理解しなさい。それくらいも――……』


遊び人『わかんないよ』


賢者『……え』

遊び人『わかんないよ……』

遊び人『わたしってなに?おねえちゃんの、けんじゃのいもうと、それだけ?』

遊び人『なんでわたしここにいるの?なんでわたしは』


ポロポロ


賢者『……――っ』



遊び人『わたし、いらないんじゃん』ポロポロ

遊び人『けんじゃとなんのかんけいもっ、あんたとなんのかんけいもないなら!!!!』

遊び人『わたし、いらないんじゃんかぁっ!!!!!』


バッ!!


賢者『!!あ、遊び人!!!』

タッタッタ

遊び人『……っ!!』タッタッタ

賢者『待ちなさい!!遊び人!!』ダッ

タッタッタ


…………

今日はおしまいです

――アリアハン城・入り口――


スタスタ

メイド『はぁ、もう本当に忙しいわね』

メイド2『勇者母さんが手伝ってくれても間に合わないなんてね……料理長も目を回してたわ』

メイド3『ほら二人とも!食材庫の中の鶏肉と根菜をはやくもって行かないと』

タッタッタ

ドン!!

メイド『きゃっ!?』


遊び人『っ!』


タッタッタ…

メイド『あたた……今のって』

メイド2『遊び人さまだったわね?どうしたのかしら』


タッタッタ

賢者『遊び人!』


メイド3『あら……?あっ!ガルナ様!』

メイド2『どうかされたんですか!?』

賢者『いえ、遊び人はどちらへ行きましたか?』

メイド『今、城の門を出て行かれましたけど……』

賢者『……っ、あの子……!』

メイド2『何か御手伝いいたしましょうか?』

賢者『……』

ダッ

賢者『あまり大事にしたくありませんので……だれか手の空いた大人二、三人に遊び人を探すよう伝えて下さい!』

メイド2『は、はい!かしこまりました!』

タッタッタ

賢者『……』


――――――――

遊び人『わたし、いらないんじゃん』ポロポロ

遊び人『けんじゃとなんのかんけいもっ、あんたとなんのかんけいもないなら!!!!』

遊び人『わたし、いらないんじゃんかぁっ!!!!!』

――――――――



賢者『(……ばかっ……!)』

―――アリアハンの外れ・森の深く―――

チリリリリ…

ギャッ ギャッ

タッタッタ

遊び人『はぁっ!はぁっ!』

遊び人『(こんなところ、でてってやる!)』

遊び人『(わたしのこと、いらないんなら!こんなところでてってやる!)』


<遊び人!!遊び人!!


遊び人『!』

遊び人『(こんなとこまでおいかけてきて……!!)』

遊び人『だれが』

ギリッ

遊び人『だれがあんたのところにもどるもんか……っ!!』タッタッタ

――――――――

タッタッタ

賢者『はぁっ!はぁっ!』

賢者『(足跡がこっちに続いてる……!こっちにいるのね)』

賢者『(季節や霧の湿気のお陰で土が軟らかくなっているから足跡がつきやすくなってる)』

賢者『(これを辿っていけば)』

タッタッタ





賢者『……?』


ズズ


賢者『(何……?この感触は)』



ズ…

……――ゴオッ!!!!



賢者『っ……!!!!』

賢者『(地崩れっ!!?土が軟らかくなりすぎて……!?)』

賢者『(しまっ……!逃げられ)』

―――――――――


ズズゥン!!!


遊び人『!!?』バッ


シーン…


遊び人『……?』

遊び人『(……なに、いまのおと)』

シーン…

遊び人『……』

遊び人『……おねえちゃん……?』

遊び人『(さっきまできこえてた、おねえちゃんのこえがきこえない)』

遊び人『……』

ダッ!

遊び人『……っ、まさか』


―――――――

タッタッタ!

遊び人『……――!!』


パラパラ…


遊び人『(じめんがくずれてる……!)』

遊び人『(ふようどがもりあがっててきづかなかったけど、ほんとうはこんなきゅうしゃめんだったんだ……)』

遊び人『……おねえちゃん……?』

シーン…

遊び人『おねえちゃん……』

遊び人『……おねえちゃん!おねえちゃん!?』


『……う……』


遊び人『!!』


賢者『……』


遊び人『おねえちゃん!!』

ダッ

遊び人『おねえちゃん!!だいじょーぶ!?しっかりして!!』

賢者『……』

遊び人『……!』

遊び人『(きぜつしてる……!たすけにいかなきゃ!!)』

スタ…

パラパラ…

遊び人『(あんなにしたのほうにおちちゃってる……!!)』

遊び人『(きをつけないと、わたしまでいっしょにおちちゃう!)』

遊び人『(すこしずつ……!すこしずつ……!)』


……


スタッ!

遊び人『おねえちゃん!』

賢者『う……』

遊び人『……!あたまからちがでてる……!』

遊び人『……っ』チラッ

ビュオォォ…

遊び人『(……ひとりで……おねえちゃんをはこぶには、たかすぎる……)』

ズ…

パラパラ…

遊び人『!』

遊び人『(でも、だれかをよびにいってるじかんはない……!ここもまたすぐくずれちゃうかも……)』

遊び人『……』


賢者『……う……』


遊び人『……――!』

ガシッ!!

遊び人『(わたし、ひとりでも……!はこばなきゃ……!!)』


…………

――――――――


――アリアハン城・エントランス――

ガヤガヤ

王『しかし、大事にしたくないと言われたのなら……』

メイド『でももう日が沈んでしばらく経つんですよ?ちゃんと大人数で』

門番『とにかく、来賓の方々に情報が漏れないように捜索隊を……』


スタスタ

勇者『こんばんはー』


王『ん?ああ、勇者か!どこにおったんだ、探したぞ』

勇者『えっと、仕事が終わってからはお祭りを見て回っていました。なので屋台で買ったこれを――……』

王『時にガルナ様を見ていないか?』

勇者『賢者様ですか?いえ……どうかしたんですか?』

メイド『それがね……』

勇者『?』


…………

―――――――――


ズッ……ズッ…!!

遊び人『ふぐっ……!ふくっ……!!』

賢者『…………』

遊び人『(はやく、はやくうえにのぼらなきゃ……)』

遊び人『(またくずれてくるかも、しれないし……!きりもでてくるかもしれない)』


ズ…ズ

ズゥン!!


遊び人『ひっ!?』

パラ…

遊び人『……』

遊び人『(よかった、べつのばしょのじくずれみたい……!でもあんしんしてられない……!)』チラッ


賢者『……』


遊び人『……』

ズッ…!

パラパラ……

ズッ!ズッ!

遊び人『(おねえちゃんのことは、きらい……だいきらいだけど)』

遊び人『(だいきらいだけど……!わたしのおねえちゃんなんだっ)』

……

ズッ…!ズッ!!

遊び人『はぁっ!はぁっ!』

遊び人『(もうすこし……もうすこしでうえにつく!)』

賢者『……う……』

遊び人『おねえちゃん!しっかりして!』

ズッ…!ズッ…!!

遊び人『……っ……!!やっ』


ドサッ!!


遊び人『……った……!』

遊び人『(なんとか、うえまでこれ)』


ズッ


遊び人『……!!!』

遊び人『(くずれる)』

遊び人『っ……!おねえちゃんっ!!』

ドンッ

賢者『っ……!』ドサァッ!



ズズゥン!!!!



…………
……





……
…………


ホー ホー


遊び人『……』

遊び人『(あれ……?わたし)』

遊び人『(……あ、そっか……じくずれにまきこまれたんだ)』

遊び人『(おねえちゃんは……なんとか、まきこまれなかったみたい)』

遊び人『(……)』


ビュゥゥゥ……


遊び人『(……さっきより、ふかく、おちてる)』

遊び人『(もう、ほとんど……うえがみえないや……)』

遊び人『(くちのなか、ちのあじがする)』

遊び人『(からだがはんぶん、ふようどにうまってるから……ふしぎとさむくないや)』

遊び人『(からだじゅうが……いたい)』

遊び人『(てあしが、うごかない)』

遊び人『(……こえが、でない)』

遊び人『(このままたすけがこなかったら、どうなっちゃうのかな……)』

遊び人『(わたし、しんじゃうのかな)』

遊び人『(……やだな)』

遊び人『(……いらないこでも、なんにもできなくても)』

遊び人『(しにたくない……しにたくない)』


遊び人『(だれか、たすけて)』


遊び人『(だれか……だれか)』



遊び人『(…………おじい、ちゃん……)』



チリリリリ…

ホー ホー



……

イ……

オーイ……

オーイ!オーイ!



遊び人『……!』



<賢者様ー!賢者様ー!


遊び人『(おとなたちの、こえだ……)』

遊び人『(さがしにきてくれたんだ……!たすかるんだ)』


<賢者様ー!いらっしゃいますかー!?

<お前そっち探せ!


遊び人『(ちかづいてきた……!しらせ、ないと)』

遊び人『っ……あ』

ズキィッ!!

遊び人『ふぁ、くぅっ……!!?』

遊び人『(こえが、だせない……からだに、ちからがはいらない)』

遊び人『(きづいて……きづいてよ……!!)』



『おい、あれ』

『ん?……賢者様!!!!』


遊び人『!』

遊び人『(きづいてくれた……!)』


『賢者様!!お気を確かに!!』

『頭から血を流してる……!おい早く連れてくぞ!!魔物に襲われたんだ!』


遊び人『……!?』

遊び人『(くらいから……じくずれに、きづいてない?)』


『運ぶぞ!!ゆっくりだ!』

『あまり揺らすな!!』


遊び人『(まって)』

遊び人『(まって、まってよ)』

遊び人『(わたしも、わたしもいるよ)』

遊び人『(わたしもいる、たすけて)』

遊び人『た、す……だ、れか』

遊び人『(こえが、でない)』


<おい!見つかったぞ!

<王に報告してくれ!

<……


遊び人『……』

遊び人『(……だれか)』


…………
……

ホー ホー

チリリリリ

ビュオォォ…

遊び人『…………』

遊び人『(あれから、どれくらいたったんだろ)』

遊び人『(だれもこない)』

遊び人『(よるのもりって……すごくさむくなるんだ)』

遊び人『(だんだん……きりもかかってきた……からだじゅうがつめたくなってきた)』

遊び人『(……だれも、こない)』

遊び人『……』

遊び人『(わたし、ばかだ)』

遊び人『(わたしが、にげだしたから)』

遊び人『(おねえちゃんをあんなめにあわせて、みんなにめいわくかけて)』

遊び人『(わたし、ほんとうにいらないこだ)』

ジャリ…

グルルル

ギャッ ギャッ

遊び人『……』

遊び人『(だんだん、まもののけはいがふえてきた)』

遊び人『(たべられちゃうかな……このまま、しんじゃうのかな)』

遊び人『(だれもたすけにこないまま)』

遊び人『(……やだな)』

遊び人『(やだ、やだよ)』

遊び人『(たすけて)』

遊び人『(おねがい……いいこにします)』

遊び人『(もう、わがままいいません)』

遊び人『(だれかたすけて)』

遊び人『(たすけて)』



遊び人『…………―――――勇者、ちゃん』







遊び人『……?』


オーイ!オーイ!!


遊び人『……!』


<おい!おーい!!!!

<遊び人さん!!!! 遊び人さん!!!!


遊び人『(……勇者ちゃん……!!)』


勇者『返事してくれ!!!!!遊び人さん!!!!』

遊び人『(勇者ちゃん……!勇者ちゃん!)』


タッタッタ

門番『勇者!!』

門番2『そっちはどうだ?』

勇者『いえ……!そっちは!?』

門番『全然だ……なんの返答もないし、足跡を追って行ったんだが、土がグズグズで途中で分からなくなっちまってる』

門番2『おおかた獣や魔物の足跡に掻き消されてるんだ』

勇者『とにかくこの辺りにいるのは間違いないと思うんです!!早く探さないと』


遊び人『(勇者ちゃん、わたしは……ここだよ……!)』

遊び人『あ、くっ……』

遊び人『(こえ、ださなきゃ……!うえにとどくように、おおきい、こえ、で)』


勇者『遊び人さーん!!!遊び人さん!!!!』

門番2『……霧が濃くなってきたぞ』

勇者『……っ、くそっ!遊び人さーん!!!!』

門番『……おい、勇者』

勇者『なんですか!!?』


門番『一旦、捜索を止めよう』


遊び人『……』

遊び人『(え……?)』




勇者『……え?』

門番2『もう随分探してこれだ。このままじゃ朝になるぞ』

門番『魔物は増えるし霧は深くなる。お前は子供だし、俺たちもこのままじゃ危ない』

門番2『松明の火も心許無くなってきた。捜索は日が明けたら再開しろって兵士団長も言っているんだ』

勇者『なっ、なにを』


門番『第一』






門番2『“賢者様は見つかったんだ。まずは一安心だろう”』




勇者『………………』


遊び人『……』

遊び人『……』

遊び人『(ああ)』

遊び人『(……そっか)』

遊び人『(そうだよ、ね)』

遊び人『(わたしは)』

遊び人『(わたしは、なんでもないんだ)』

遊び人『(わたしは)』




勇者『……――だったら、帰れよ』




遊び人『(……え?)』 


門番『は?』

勇者『安心なら、帰れよ。あんたたちだけで』

勇者『僕は一人で探す。帰れよ』

門番2『何を言って――……』


勇者『あんたちこそ何言ってんだよ!!!!』


門番・門番2『『!?』』

勇者『魔物が増えるから危ない!?霧が深くなるから危ない!?』

勇者『子供だから危ない!!?』

勇者『全部全部遊び人さんにだって言える事じゃんか!!!!』

門番『……!』

勇者『賢者様だったら探すのか!!賢者様が無事なら安心なのかよ!!!』

勇者『遊び人さんが危ないんだよ!!!』

勇者『賢者様とか、そんなんで探してるんじゃないんだよ!!!』



勇者『あの子は!!!遊び人さんはまだ7歳で!!!!僕の友達なんだよ!!!!!』


遊び人『……』



勇者『見つけられるまで帰れるもんか!!!あんたたちだけで帰れよ!!!!』

門番『……』

門番2『……』

勇者『……っ……遊び人さん!!遊び人さーん!!!!』

門番『……門番2』

門番2『……ああ』

ダッ

門番2『追加で応援を呼んでくる!!松明も新しいのを持ってくるよ!!』

勇者『!』

門番『……勇者。悪かった』

勇者『門番さん……』

門番『探そう。土が崩れやすくなってる。足元に気をつけろ』

勇者『……うん!!ありがとう!!』


<遊び人さーん!!遊び人さーん!!


<遊び人様ー!!遊び人様ー!!



遊び人『……』

遊び人『……』

遊び人『……っ』


ポロ


遊び人『……~~っ……!』ポロポロ

遊び人『ふ、くっ……!……ーっ!!』ポロポロ

遊び人『(勇者、ちゃん)』


ギリッ


遊び人『…………ぅ、しゃ、ちゃぁん』


遊び人『ゆ、しゃ、ちゃぁん!……――ゆうしゃ、ちゃあんっ!!!』


勇者『!!!』

門番『どうした勇者?』

勇者『今、下から……!』

勇者『!!ここ!わかりにくいけど地崩れが起きてる!』

門番『!!!下か!!よし降りるぞ!!』

勇者『待ってて!!遊び人さん!』


…………
……



……
…………


―――翌日・アリアハン城・遊び人の客室―――

ガチャッ

勇者『失礼します』

メイド『あら、勇者くん』

遊び人『……!』

勇者『……あの、どうですか?』

メイド『ええ。大丈夫。神父様と僧侶ちゃんのおかげで外傷もないわ』

勇者『そうですか!……よかった』

遊び人『……勇者ちゃん』

勇者『…………遊び人さん』

遊び人『あの……その』

勇者『……』


遊び人『…………ご、ごめんなさい』


勇者・メイド『『!』』


遊び人『めいわく、かけて……ごめんなさい』

遊び人『ごめんなさい……!ごめんなさい……!』


勇者・メイド『『……』』

メイド『(あの遊び人様が謝ってるなんて……)』

勇者『……』

ナデナデ

遊び人『!』

勇者『……言いたい事も、文句も色々あるけど』

勇者『まあ……とにかく無事でよかったよ』

遊び人『……』

遊び人『……~っ!』

ダキッ!

勇者『うおっ!?』

遊び人『っ……!!ごべんなさい……!!』ポロポロ

遊び人『ごべんだざいっ……!!うぁぁっ……!!!』ギュゥゥ

勇者『…………うん、うん』ナデナデ

メイド『……ふふ』


ガチャッ


勇者・メイド『『!』』

遊び人『!』


賢者『……』


勇者『……賢者様』

ゾロゾロ

兵士『失礼する』

メイド『あのっ、そんな大勢入ってこられたら』

兵士2『少し黙っていろ。賢者様が遊び人様に話があるとの事だ。終わればすぐに出て行く』

メイド『……はい』

メイド『(……あの心配性の王様の事だから、賢者様のガードを固くするつもりなんだろうなぁ……これから)』


スタスタ

賢者『……遊び人』

遊び人『……はい』

賢者『私は言ったわ。大人しくしておけと』

遊び人『…………はい』

賢者『理解できなかったのかしら?私の言葉が』

遊び人『……』

賢者『……』

賢者『……どこまで貴女は愚かなのかしら』

遊び人『……ごめん、なさい』

賢者『…………』

クルッ

スタスタ

賢者『……戻ります。メイドさん、勇者。その子の世話をお願いします』

メイド『えっ?』

兵士『もうよろしいのですか?』

賢者『ええ。まだ仕事も残っていますので』チラッ

遊び人『……』


賢者『……――――バカに構っている暇はありません』


遊び人『っ……』


賢者『……』

スタスタ

賢者『さあ、いきまs――……』




勇者『バカはお前のほうだろ』




賢者『……え?』ピタ 



一同『『『!!!!?』』』


メイド『ちょっ!!!?勇者くっ……!?』

兵士『なっ……!!?』


遊び人『……』


ピタ…

賢者『……何、を』


勇者『バカはお前だって言ったんだ』


スタスタ!!

ガシッ!

賢者『!?』ビクッ

勇者『お前この子のお姉ちゃんだろ……!』

勇者『前から黙ってれば、そんな言葉しかこの子に言えないのかよ……!』

賢者『……っ』


遊び人『……!』


勇者『今回のことも、なんでこの子が逃げ出したか!考えないのか!!』

勇者『いっつも突き放して……!ろくに喋りもせず分からせようとして』

勇者『遊び人さんはお前の人形じゃないんだ!!!!それくらいもわかんないのかお前!!!』


シュッ!!!

バキィッ!!!


勇者『がっ……!!』


メイド『!』

遊び人『勇者ちゃん!!』


ドサッ!!ギリッ!!


兵士『勇者、貴様ぁ!!気でも狂ったか!!!』ギリィッ!

兵士2『自分が今誰に物を言っているのか理解してるのか!!!?』

勇者『ぐっ……わかるよ……っ!そのくらいっ』

勇者『バカに言ってやってるんだ!!!そこの!!賢者っていうバカに!!!!』

兵士3『お、前っ……!!』

勇者『今年九歳になる僕にだって分かる事を、そいつはわかってないんだ!!!』

勇者『遊び人さんがどんな思いしてるか、ろくにわかってないんだ!!!』


遊び人『……!』


賢者『…………』


勇者『お前が誰だって!僕は言ってやるぞ!!』

勇者『バカはお前だ!!!』


兵士『こいつ!!!』ヒュッ!!

勇者『っ!』ギュッ



賢者『手を上げないで下さい!!!!』



兵士『っ!!?』

兵士2『賢者様!?』

遊び人『おねえちゃん……?』


賢者『…………』


勇者『……?』


賢者『……』

賢者『……兵士の方々。もう参りましょう』

兵士3『し、しかし』

賢者『それ以上、勇者に手をあげる事は許可しません』

兵士『!』

兵士2『は、はい!』

兵士『……勇者、この事は王に報告させてもらうぞ』ボソッ

兵士2『後で覚えておけよ……お前が一番のバカだって事思い知らせてやる』ボソッ

バッ

スタスタ

ガチャッ

賢者『……』

クルッ

賢者『…………勇者』

勇者『……なんですか』

賢者『……』



賢者『…………ありがとう』



勇者『……!』

賢者『……失礼します』


バタン


シーン…


勇者『……』

遊び人『……』

メイド『……ゆ』

ヘナヘナ

メイド『……勇者くん……あなた、本当に何考えてるのよ……こっちが疲れたわ』

勇者『はは……ごめんなさい、なんかカッとなっちゃって』

メイド『あの様子じゃこってり絞られるわよ?』

勇者『うぐ……ま、まま、まあ、だ、だいじょう、ぶだとおもいます……た、たぶん、ですけどもほほぉ』ガクガク

メイド『……ヘタレなのかそうじゃないのか分からないわね、本当に』

遊び人『……』

ダッ

ギュッ!!

勇者『うおっ!?』

メイド『あらま』

遊び人『……』ギュゥゥゥ

勇者『遊び人さん?えっと、ごめんね。ひとりでかってに怒っちゃって……』アセアセ

遊び人『……っ』スンッ

勇者『って泣いてる!?あのっえっと、ごめんっ?』

メイド『ふふ、またさっきみたいになっちゃってるわね』

勇者『あ!そうだそうだ!これを渡しに来たんだよ忘れてた!』

遊び人『……?』

勇者『ほら!これ!』


キラ…


メイド『それは……髪飾り?』

勇者『はい、昨日友達とルビス祭の店を回ってたら見つけて……遊び人さんにおみやげにって』

勇者『だから……あげるよ、遊び人さん!』

遊び人『……』

勇者『……あれ、なんかだめなやつだった?』

遊び人『……っ』スンッ

遊び人『んーん……』


ギュッ



遊び人『ありがとうっ……勇者ちゃん!』




…………
……



……
…………

―――アリアハン城・厨房――


料理長『……――で』


遊び人『……』


料理長『なんで厨房に入った瞬間にこの子は正座してるんだい』

メイド『それが、料理長にお願いがあるって……』

料理長『お願い?何さ?』

遊び人『りょうりちょうさん!』

料理長『うおぉっ!?なんだいなんだい!?』


遊び人『わたしをここではたらかせてくださいっ!』


料理長『……はい?』

遊び人『おねがいします!』

料理長『はぁ……アンタねぇ。私達は遊びでやってるんじゃ』

遊び人『しってます!』

料理長『……』

遊び人『おねがいします!』

料理長『……どういう風の吹き回しかしら』

遊び人『……』

遊び人『……です』

料理長『?』

遊び人『わたしは、いま、なにもできないです。ごくつぶしです』

料理長『ごくつぶして』

遊び人『はたらかざるもの、くうべからず!!はたらかせてください!!』

料理長『……』

遊び人『……!』

料理長『……メシを作って食わせたい奴でもできたかい?』

遊び人『!?』ドキッ

料理長『……ぷ、ははっ!!』

料理長『今までアンタがつまみ食いしてきた物はしばらくのお給金の前借だと思いな!』

遊び人『!』

料理長『それと!厨房ではアンタの身分なんて知らないからね!ビシバシいくから覚悟しときなよ!』

メイド2『ちょっと料理長!?』

メイド3『いいんですか勝手に決めて!!賢者様の一族ですよ!?』

料理長『知った事じゃあないわよ。ここじゃあ、私が法よ』

ザッ

料理長『それじゃあ手始めに皿洗いから叩き込んであげるわ!用意しな!!』

遊び人『……!!』

ビシッ!!

遊び人『はいっ!よろしくおねがいします!』

…………


―――勇者の家―――


コンコン

女勇者『!おきゃくさんだ』

勇者母『ほんと?はいはーい』

スタスタ

ガチャ

勇者母『どなた――……あら?』

遊び人『……こ、こんにちはっ』

勇者母『遊び人ちゃんじゃない』


…………


コトッ

勇者母『はい、ミルク』

遊び人『あ……ありがとう』

勇者母『またお城を抜け出してきたの?』

遊び人『ううんっ、おひるのあいだだけって、ゆるしてもらったの……すぐかえらなきゃ』

女勇者『すぐかえるの?』

遊び人『うん』

勇者母『それで?お話って?』

遊び人『……あ、あの』

勇者母『?』

遊び人『このまえの……ごはん、ごちそうさまでした』

遊び人『すごく、おいしかったです……』

勇者母『!』

女勇者『え、それをいいにきたのかい』

遊び人『ん……』

女勇者『そこまでさせるおかあさんのりょうりがおそろしい……おそれいったかいこむすめ』ハン

遊び人『あんたほんとうにむかつく』

勇者母『えへへ、でもありがとう。嬉しいわ』

遊び人『……――そ、それでね』

勇者母『ん?』

…………

勇者母『あらあら、厨房で働くことになったの!』

遊び人『うん……!まだおさらとか、やさいをあらったりするだけなんだけど』

勇者母『そっか……ふふ!良い事よ!応援するわ』

遊び人『そ、それでね?あの……』

勇者母『?』

遊び人『……勇者ちゃんのおかあさんにも、おしえてもらいたいなって……』

勇者母『私にも?』

遊び人『うん、えっと、りょうりだけじゃなくて……ふくとか、そうじとかも!』

女勇者『よくばりだね、よくばりすぎるよ。どれだけごうよくなの?』

遊び人『あんたはちょっとしずかにしててよ!!』

勇者母『……』

遊び人『……だめ、かな』

勇者母『…………悪いけど、今夕飯の下拵え中なの』

遊び人『……!』

遊び人『……ご、ごめんなさ』

勇者母『だから』

スクッ


勇者母『昼の間、ちょっと手伝ってもらえるかしら?遊び人ちゃんっ』ニコッ


遊び人『!』

遊び人『うんっ!ありがとうっ!おば』

勇者母『ん?』ゴォッ…!

遊び人『お、おばけがじょうぶつするくらいがんばります!』

女勇者『それはいったいどんな』

…………
……



……

―――アリアハン城・中庭―――


スタスタ

勇者『遊び人さーん!遊び人さーん?』

勇者『(あれぇ?……どこに行ったんだろ。最近は突然居なくなるなんてなかったのに……)』

勇者『……』

ザッ スッ!

勇者『いーうこときーくひーとこーのゆーびとーまれ!いーうこときーくひーとこーのゆーびとーまれ!』

勇者『(……なーんて、来るわけないか)』


ギュッ


勇者『!?』


遊び人『……』


勇者『あ、遊び人さん』

遊び人『ほら、とまったよ。まんぞく?』

勇者『え?あ、うん。まんざらではないです』

遊び人『……こっちきて』

勇者『へ?』


―――木々の間―――


勇者『ああ、ずっとここに居たんだ?……ってあれ?』

勇者『なに?このバスケットは……遊び人さん?』

遊び人『すわって』

勇者『え?うん』ストッ

遊び人『……』

勇者『?遊び人さん?』

パカッ

勇者『……!』

遊び人『……つくってきたの』

勇者『(これ、母さんが良く作る……僕の好きなやつだ)』

遊び人『えっと……このまえのるびすさいのときは……ごめんね』

遊び人『おわびと、おれいです』

遊び人『……――たべて、くれる?』

勇者『いいのっ!?』

遊び人『……うん。食べて』

勇者『ありがとう!いただきますっ!』

ガツガツ ムシャムシャ!

勇者『うおっ!おいしいっ!これおいしいよ!』

遊び人『えへへ……そっかな』

勇者『うんっ!ありがとう遊び人さん!』

遊び人『……さん』

勇者『うん?え?』

遊び人『さんはいらない!遊び人ってよんで!』

勇者『え、でも』

遊び人『いいからっ!』

勇者『……』

遊び人『……~っ!』

勇者『……わかった』

勇者『ありがとね、遊び人!』

遊び人『……うんっ!えへへへっ!』

勇者『あ、だったら僕の事もちゃん付けはさ……』

遊び人『それはだめー♪勇者ちゃんは勇者ちゃんだもーん』

勇者『くそう』

…………
……

今日はおしまいです



……
…………

――アリアハン城・王の食卓――


王『はぁ……朝っぱらから疲れた……昼飯はよ』

メイド『御疲れ様でございます』

大臣『疲れたってほど何かしましたか?』

王『そら……したよ。耕地見回ったりしたよ。何故か王の私が耕しもしたよ。っていうかお前が耕させたんだろうよわしに』

大臣『御疲れ様でございます』

王『お前ほんっとむかつくわ……頭沸いてんじゃねえの?』

ガラガラ

メイド2『食事をお持ちしました』

王『ああ、すまんな』

カパッ

王『……おお?』

大臣『どうされました?』

王『む、いつもと趣向が違うなと思ってな。いや、頂くよ』

パクッ

王『っ!なんだ、これは美味いな!?』

大臣『見たところいつもより食材が質素な……ちょっとすんません』ヒョイッ

王『お前何さりげなく手掴みでわしのメシ取ってんの?』

大臣『んん!こりゃ美味い!』

王『だろう、いや、昨日までも勿論美味かったがこのような味も好みだ。料理長に伝えておいてくれ』

メイド『かしこまりました!……ふふ』チラッ

メイド2『うふふ』チラッ

メイド・メイド2『『えへへー』』

王『?』


――厨房――


メイド『……――だって!二人共すごく美味しいって!』

メイド2『褒めてたよー!やっぱり気付くんだね』

料理長『そういうこったよ。これからもちょくちょく献立を任せてもいいかい?』


遊び人『はいっ!ありがとうございます料理長!』

バシャバシャ カチャカチャ

遊び人『食材が質素なら質素なりに濃い味付けだけじゃなくて素材の味で勝負しようと思ったの』

遊び人『ほら、お城から少し南の方の耕地で作ってるヒヨドリカブは煮込むと凄く甘くなるけどすぐにドロドロになっちゃうでしょ』

遊び人『その解けたカブを濾した汁で次は原型が留まる程度にまたカブを煮込むの。さらっと塩をまぶせばさっぱりとした深いコクの甘いカブの煮込みの出来上がり』

メイド『手間かけてるわねー』

料理長『筋が良すぎるとは思ってたけどここまでとはぁね。もうすぐ10歳になるかどうかの子が……』

遊び人『えへへ!師匠が二人共凄い人だからね!』

料理長『ああ、勇者母さんにも教えて貰ってるんだってね。あの人は伝説だから』

遊び人『後のもう一人は勿論料理長だよ』

料理長『あら、嬉しい事言ってくれるじゃない。前の生意気なアンタからは考えられないね』

遊び人『一言よーけーい!』

カチャッ

遊び人『っよし!それじゃ夕飯の仕込みまでには戻ってくるね!』

メイド2『勇者母さんの所に行くの?』

料理長『気を付けて行ってきなよ』

遊び人『はい!お疲れ様です!』


――勇者宅――


勇者母『それは……そう、そこで編み棒をそこに通すの。そこで切ってみて?』

遊び人『ん、……できたっ』

勇者母『出来上がりね。上手いわ遊び人ちゃん』

遊び人『えへへ!お義母さん、ありがと!』

スタスタ

女勇者『あれ、すごいね。遊び人ちゃんが作ったのかい?』

遊び人『あ、女勇者。こんにちは。そだよ、私が作った』

女勇者『きれいだね、しかし遊び人ちゃんは女子力高いね』

遊び人『そうかなぁーえへへー、そうかなぁー?』

女勇者『(顔すごい緩んでる……)』

勇者母『これでいつでもお嫁にいけるわね?ふふ』

遊び人『そっ!そんなっ、お義母さん!およめさんにいつでもこいなんて、そんなっ、あはっ、あはは!やだもー!』

勇者母『?』ニコニコ

女勇者『ねえ、“おかあさん”って呼ぶのは別にいいけどなんかイントネーションおかしくないかい』

勇者母『そういえば遊び人ちゃん、遊び人ちゃんももうそろそろ“火贈りの儀式”じゃない?』

遊び人『うん!あと半月くらいかな』

女勇者『もう何の職を祈るか決めた?』

遊び人『そうだねー。やっぱり神使かな?』

女勇者『あら、神使?って事は僧侶職かい?なんでまた』

遊び人『え?なんで?』

女勇者『いや、てっきり賢者職を目指すか、火贈りの儀式を受けずに料理人として生きるかどっちかだと思ってたからさ』

遊び人『うーん、それもいいんだけどね。だって勇者ちゃんは旅に出るんでしょ?』

遊び人『だったら私もついていきたいし。賢者はお姉ちゃんと一緒だから絶対嫌だし』

遊び人『そうすると何かなって思ったんだけど、治療をできる神使は何人居てもいいかなって思って』

女勇者『うーん、そっかあ』

遊び人『それに勇者ちゃんに回復呪文を使えるのが僧侶だけなのも悔しいしね!』

勇者母『ふふ、それじゃあ勇者の怪我は僧侶ちゃんと遊び人ちゃんにお願いするわね?』

遊び人『うん!任せてお義母さん!』




……
…………

――アリアハン・ルビス聖堂――


神父『火贈りの儀式とは……最初に説明しなければなりませんね』


神父『ここに集まった皆さんも、ルビス様が火を司る神様である事はご存知でしょう』

神父『ルビス様はこの大地を創られた際に、人間達に内なる炎……職業を与えました』

神父『その意思を継ぎ、秩序を守る者……神使――通称・僧侶』

神父『大地を切り開く豪腕を持つ者……闘士――通称・戦士、武闘家』

神父『人と人を繋ぐ才覚を持つ者……理人――通称・商人』

神父『これらの職業以外にも、陰の職業として』

神父『万象を操る者……魔術師――通称・魔法使い』

神父『影に忍び生きる者……夜歩人――通称・盗賊』

神父『世を忘れ、現を生きる者……快楽者――通称・遊び人』


神父『これらの中から、あなた達自身が選んだ職業を与える儀式です』

神父『望まぬのなら、火贈りの儀式を受けず、ありのままの人として生きるのも良いでしょう』

神父『ここに集められた春の下月に生まれた子らよ。あなた達はもう10の齢をくぐります』

神父『自分の意思で決め、そして今日から自分の足で歩き出すように。私は祈りましょう』

神父『それでは名を呼ばれたものは聖堂の前へ』


ガヤガヤ


遊び人『~♪』

町娘『ねえ、もう何の職にするか決めた?』

遊び人『うん!神使にするの!』

町娘『そうなんだ!私はね――……』

神父『次、町娘さん』

町娘『あ!私だ!行ってくるね!』

遊び人『うん!頑張って!』


神父『それでは……聖・ルビスに祈りを』

町娘『はい』

神父『あなたは、何を祈りますか?』

町娘『…………――“理人”を』

町娘『私は、家の商いを継ぎたいです。ルビス様、お願いします』

神父『それでは私に続いて詠唱を』

<……。……。


遊び人『(こんな儀式なんだ……)』


神父『……最後に。もう一度お祈りを』

町娘『……』


フッ……


町娘『……!』

神父『……お疲れ様でした。あなたは今日これから理人です』

町娘『すごい……!なんか生まれ変わったみたい……!』

神父『ふふ、ご両親に報告してくると良いでしょう』

町娘『はいっ!ありがとうございました!』

タッタッタ……

神父『さて……次の方、遊び人さん!』

遊び人『(きた!私の番!)』

スタスタ… ザッ

遊び人『お、お願いします!』

神父『はい。それでは……』

ピタ

神父『……おや?』

遊び人『え?』

神父『…………遊び人さん、あなたは――』

…………

―――アリアハン城・賢者の部屋―――


勇者『この羊皮紙であってる?』

賢者『ええ。そうね……ありがとう、次はこの文献を探してもらえるかしら』

勇者『うん分かった』

賢者『……そろそろかしら』

勇者『え?なにが?』


バタァン!!


遊び人『お姉ちゃん!!!!』


勇者『うわぁっ!!!?遊び人!?』ビクーン!!

賢者『……騒がしいわ、遊び人』

遊び人『っ……!!お姉ちゃん!!』

ヅカヅカ

ガシッ!!

遊び人『お姉ちゃん……!!どういうことよ!!』

賢者『痛いわ、離してもらえるかしら』

勇者『あ、遊び人どうしたのさ、だめだよ、喧嘩はだめだよ』オロオロ


遊び人『あんた、私の職業を勝手に“快楽者”にしたでしょ!!!!』


勇者『えっ』

賢者『……』

遊び人『神父様に言われたの!もう私は快楽者の炎を宿してるって……!!』

遊び人『あんた私が寝てる間に勝手に儀式したでしょ!!!神職だからって!!!』

賢者『……』

遊び人『なんとか言ってよ!!どういうことなの!!』

賢者『……』

勇者『け、賢者……?』

賢者『……ええ』

遊び人『!』

賢者『確かに、私があなたの火贈りの儀式を執り行ったわ』

賢者『ただ、文句は言わせないわ』

遊び人『なっ……!?』

賢者『あなた、勇者の旅に付いて行くつもりと言っていたわね?』

遊び人『それが何よ!あんたと何の関係があるの!?』

賢者『思い上がりすぎよ。中途半端な力を持ったあなたが旅に出て何になるの?』

勇者『ちょっと、賢者……!』

賢者『前から火贈りの儀式で力を願わずに普通の人間として生きなさいと言っていたはずよ』

賢者『それを無視して力を願うから、戦いようの無い快楽者の職業に就かせたの』

遊び人『あっ……!!あんたに、あんたに何の権利があってそんな事するのよ!!!!』

賢者『賢者の一族の驕りに身を任せて自身を過信するあなたの姉。それを制する権利がある』

遊び人『……』

遊び人『……』

遊び人『……』

勇者『あの、その、二人共……』オロオロ

ガタッ

賢者『勇者、さっきの文献探していてもらえるかしら。私は蔵書室で他の文献を探してみるわ』

勇者『いや……賢者、だからさあ!』


ガタッ


勇者『え?』

カタカタカタ……

勇者『……?なんだろ、地震?……少し揺れて』

賢者『っ!』

勇者『……――って、え?』


カタカタカタ


ズズズズズズズズ



遊び人『っ…………!』



勇者『遊び人!?』

賢者『遊び人!!“それ”を治めなさい!!!』


遊び人『私だって……!!私だって!!』

遊び人『私だって魔法を使える……!!呪文も唱えられる!!!』

遊び人『あんただけが賢者の一族じゃないっ……!!』


ゴオオ!!!


賢者『遊び人!!』


遊び人『あんただけが』


ズオォォッ!!!!


遊び人『おじいちゃんの孫じゃない!!!!!!!』


ガシィッ!!



賢者『遊び人!!勇者もいるの!!治めなさい!!』



遊び人『っ!』ハッ


ズズズズ

ズズ

ズ…




勇者『(……治まった……?)』


遊び人『……』

賢者『……遊び人』

賢者『今、自分がどうなったか理解はできたかしら……っ?』

遊び人『……』

賢者『あなたは確かに多少の力は持っているかもしれない』

賢者『でも制する事はできないの。今の様に』

賢者『今あなたは感情に任せて中途半端な力を使って勇者を危険な目に合わせたわ』

賢者『“快楽者”の職についていても、余る力を制御さえできない……その体たらくなのよ』

遊び人『……!!』

勇者『……』

遊び人『……っ』

ペタン

遊び人『うっ、っ』ポロ

遊び人『ふくっ……ふぇぁ……うぁぁあっ……!!』ポロポロ


賢者『泣けば済むとも思わないで頂戴』

賢者『……勇者』

勇者『な、なに?』

賢者『今見た事は絶対口外しては駄目』

賢者『わかった?』

勇者『……う、うん』

クルッ スタスタ

賢者『……それじゃ、私は蔵書室に行くからこの子をお願い』

勇者『え!?ちょっと賢者!!何言ってんだよ!遊び人が』

賢者『説教なら後で聞くわ。今もう私が何を言っても無駄よ。貴方だってわかるでしょ』

ガチャッ

賢者『私だって……わかってる』

バタン

勇者『……』

遊び人『だってっ……!!だって……!!』ポロポロ

遊び人『こんなの、ひどいっ……!!ひどいよ……!!』ポロポロ

勇者『…………』

勇者『……っ!遊び人!』

ガシッ

勇者『別にいいじゃない!快楽者でも!』

遊び人『ぐすっ……っ……?』

勇者『そんなに強い力も持ってるし、遊び人は頭いいしさ!』

勇者『家事もすごいし、快楽者でも遊び人は凄い子だよ!』

遊び人『勇者ちゃん……』グスッ

勇者『だから、泣き止んでよ……ね?』オロオロ

遊び人『……』

勇者『ね?』

遊び人『……っ。わたしが』

勇者『ん?』

遊び人『わたしが、快楽者でも……旅、つれてってくれる……?』

勇者『もっちろんだよ!!遊び人がよかったらこっちからお願いしたいくらいだもん!』

遊び人『……』

グシグシ

遊び人『っ、勇者ちゃん』

勇者『なに?』

遊び人『……ありがと』

遊び人『約束……破らないでね』

勇者『ん!絶対!』



――ドアの前――


<…………!……!


賢者『……』


…………
……



………

――アリアハン城・厨房裏・戸口――


スタスタ

遊び人『いしょっと』

ドサッ

遊び人『(ん、これで全部捨て終わった)』

スタスタ

『こんにちはー。毎度ありがとうございまーす』

遊び人『ん?あっ、商人』

商人『あれ、遊び人ちゃんじゃないですか』

遊び人『どうしたの、そんな荷物抱えて』

商人『こないだ注文された調味料、遅れて入ってきた分を持ってきたんですよ』

遊び人『そんなに沢山?』

商人『いえ、調味料はこれだけです。はい』

遊び人『はいありがと。……その残りの荷物は?』

商人『賢者ちゃんです』

遊び人『え?』

商人『賢者ちゃんから頼まれたものを持ってきたんですよ』

遊び人『あいつが?めずらしいね』 

商人『多分、来月必要なものなんでしょうね』

遊び人『来月?何かあるの?』

商人『え?賢者ちゃんか勇くんから何か聞いていないんですか?』

遊び人『何かって……何を?』

商人『いえ、来月――――……』



…………


――アリアハン城・廊下――

スタスタ

遊び人『……』


『どういうことなのですか!』


遊び人『!』


兵『納得がいきません!大臣様からも何か講義を!』

大臣『そう言われても困る。君から直に言えばいいだろう』

兵『もう申し上げました!しかし』

大臣『とにかく、私からはもうどうしようもない。もう一度賢者様と勇者殿と話すがよかろう』

兵『大臣様!大臣さm』

バタン

兵『……ちっ!』

クルッ

兵『!』


遊び人『……』


兵『……遊び人さん』

遊び人『……ん』

スタスタ

兵『無視をせずともよいではないですか?』

遊び人『返事したでしょ……んじゃね』

兵『来月の事はもうご存知なんでしょう?』

ピタッ

遊び人『……』

兵『……あなたは確か勇者君をだいぶ御気に召されていたと思うのですが』

遊び人『あんたには関係ないでしょっ……!』

兵『あなた、これでいいのですか?』

遊び人『……』

兵『明らかに彼の身の程を過ぎた計画です……遊び人さん』

遊び人『……なによ』

兵『あなたからも、賢者様になにか言われた方がよろしいのでは?』

遊び人『……っ』

ギリッ

遊び人『あんたには関係ないでしょ!!』

ダッ

タッタッタ

兵『……ふふ』

兵『(扱い易い事この上無い……)』

スタスタ

兵『(……あの男、どれほど調子に乗れば気が済むのか)』

兵『(……いつか)』

ギリィ…

兵『(いつか、思い知らせてやる)』



――遊び人の客室――


コンコン

賢者『遊び人?居るかしら?』

<……

賢者『……入るわよ』

ガチャッ バタン

遊び人『……』

賢者『やっぱり居た。居るのなら返事なさい』

遊び人『……何の用よ』

賢者『すぐに終わるわ。聞きなさい』

賢者『来月のはじめから二ヶ月ほどかしら……少し出かけなくてはならないの』

賢者『その間あなた、大人しくしているのよ。迷惑はかけないように。分かったかしら?』

遊び人『……』

賢者『……返事が聞こえないのだけれど』

賢者『まあいいわ。それで、帰ってきたら――』

遊び人『……ねえ』

賢者『何かしら』

遊び人『それ、勇者ちゃんも一緒なんでしょ?』

賢者『……ええ。勇者も連れて行くつもり』

遊び人『……聞いたよ』

遊び人『二人きりなんだってね』

賢者『!』

遊び人『……二人なんだってね』

賢者『……ええ。一応二人で行くわ』

遊び人『……ふふっ』

賢者『何を笑っているの』

遊び人『ううん?あはは、二人で行くんだ』

賢者『別に勝手でしょう。あなたがそれに何かをとやかく言っても』


遊び人『愛しの勇者ちゃんと二人で行きたかったんだ?』


賢者『……――なっ……!!!!』


遊び人『……』

賢者『な、何を言ってるの遊び人っ』

賢者『冗談が過ぎるわ。そんな、そんな不純な動機では無くて必要な事なの』

遊び人『…………ふっ』

賢者『ちょっと、何を笑っているの!』

賢者『本当に、彼自身にも関係があって――』

遊び人『ふふっ、あははっ、顔真っ赤っ、あはははっ』

賢者『っ……!違う、これは』

遊び人『あはははっ、あははは』

賢者『いつまで笑ってるのっ、いい加減に』

遊び人『あはは、図星なんだっ、ははは』

賢者『遊び人、だから』

遊び人『また、またなんだ、あははっ』

賢者『……遊び人?』

遊び人『また、また』

ポロ…

賢者『……――!!!!』



遊び人『……また、そうやって、私のほしいもの、したいこと、持ってっちゃうんだ?』ポロポロ

遊び人『おじいちゃんも、賢者の仕事も……――次は、立場を利用して、勇者ちゃんを』ポロポロ

遊び人『私の、好きな人も、奪ってくんだ?』ポロポロ


賢者『……!!!あ、遊び人っ』ザッ


遊び人『入ってくるなぁ!!!!!』


賢者『!!』ビクッ

遊び人『なによっ、なんなのよあんたっ!!本当に!!!!なんなのよあんた!!!!』

遊び人『勇者ちゃんは、勇者ちゃんは私が好きになったのにっ!!!!ずっと好きだったのに!!!!』

賢者『遊び人っ、私は』

遊び人『うるさいうるさいうるさい!!!!私はあんたの一体なんなのよ!!!!あんたに縛られて!!!!あんたに好きな人達持ってかれて!!!!』

賢者『……』

遊び人『今、お城でどんな噂が流れてるか知ってる!!!?勇者ちゃんがあんたを好きって……あんたの事好きだって噂が流れてるの!!!!』

賢者『……!!』

遊び人『なに……!?本当に私どうすればいいの!!?勇者ちゃんは、勇者ちゃんは私が先に好きだったの!!!!なんであんたはっ……!!』

ペタン

遊び人『っ……!!!だい、きらい……っ!!』

賢者『……』

遊び人『きえて……!!わたしの前からきえてよっ!!!!』

賢者『……』

遊び人『あんたなんか――……あんたなんか!!』

ギリィッ!!



遊び人『あんたなんか!!!!!死んじゃえばいいんだ!!!!』



賢者『……――!!!』

遊び人『っ……!!』ポロポロ

賢者『……』

賢者『……』

賢者『……』

賢者『……』

賢者『……ごめんなさい』

クルッ

スタスタ


バタン


遊び人『っ……!!うあっ』

遊び人『うあああっ……!!うあああああん……!!!』


…………
……



……
…………


――アリアハン城・厨房――


メイド『そういえば、遊び人ちゃん』

遊び人『んー?なあに?グヤーシュの釜はさっき見てきたけどまだ沸々してなかったよ』

メイド『ううん、そうじゃなくて。賢者様と勇者くんが帰ってくる予定の日ってもう過ぎてるよね?まだ帰って来ないの?』

遊び人『……しらない』

メイド2『あら?なになに?なんだか不機嫌?』

遊び人『もういいでしょ。ほんとうざったいよ二人共』

メイド『わあ怖い』

メイド2『でも二人が行ってからなんだか心ここにあらずって感じよ?』

遊び人『もう!いいでしょ!!ちょっと外のグヤーシュの釜見てくる!』

スタスタ

メイド『あら、怒らせちゃった』

メイド2『あはは、釜はさっき見たばかりって言ってたのにね』


――厨房裏――


カパッ

遊び人『……』

遊び人『(……まだ全然、火が通ってない)』


<……!……!


遊び人『?』

遊び人『(なんだろ……?なんかお城の入り口の方が騒がしい?)』


――厨房――

ガチャッ

遊び人『ねえ、なんだか入り口の方が――……』


メイド『あ……遊び人ちゃん』

メイド2『……』

料理長『……釜を見てたのかい』


遊び人『料理長?おはようございます。どしたの?』

料理長『……や、ちょっとね』

遊び人『?……あ、それよりなんだか入り口が騒がしいみたいなんだけど――……』


<……!


遊び人『……?』

遊び人『なんか、お城の中が騒がしい?』

料理長『……!』

メイド『……』

メイド2『……』


遊び人『……?ちょっと様子見てくる』


ザッ

料理長『遊び人、駄目よ』

遊び人『え?な、なんで?』

料理長『二人共、頼むわね』

メイド『はいっ』

料理長『すぐ戻るわ』

スタスタ……

遊び人『え?何?何があったの?』

メイド2『……』

遊び人『……――ねえ』

遊び人『何なの?』

遊び人『教えてよ、二人共』

メイド『あとで、後でわかるから』

メイド2『っ……』

遊び人『……』




<おい!!勇者が帰って来たぞ!!!




遊び人『!』

メイド『!!』

メイド2『……声張り上げるなよバカっ……!』

遊び人『ねえ、今勇者ちゃんが帰って来たって』

メイド『それは、その』

メイド2『……っ』


遊び人『……』


遊び人『……』


遊び人『……』


遊び人『…………ねえ』














遊び人『お姉ちゃんは?』
















……
…………


――勇者の家――

コンコン

勇者母『はい……』

勇者母『……!』


遊び人『……』


勇者母『遊び人ちゃん』

兵士団長『少しよろしいか』

勇者母『……なんでしょうか』

兵士『遊び人様が勇者に会いたいとの事です』

兵士2『少し失礼します』

兵『……失礼します』

勇者母『遊び人ちゃんだけなら、歓迎しますが……さすがにこう大人数は』

スタスタ

兵士団長『失礼する。さあ、遊び人様』

勇者母『っ!ちょっと!』

グイッ

勇者母『勇者は怪我人なんです!!そんな――……』

兵士団長『同時に、容疑者でもあります』

勇者母『……!!!!』

兵『……』

兵士団長『……失礼』

スタスタ…

勇者母『……』


――勇者の部屋――


勇者『……』


ガチャッ


勇者『……』

勇者『……』

勇者『……』


遊び人『……』


勇者『……あ、遊び、人』

遊び人『……勇者……ちゃん』


言いたい事は、沢山あった


勇者『……遊び人』


『大丈夫だった?』とか

『命が無事でよかった』とか

『帰って来てくれて、うれしい』とか


勇者『僕は、……僕』


『お帰りなさい』、とか

会う前は、沢山考えてた、勇者ちゃんの帰りを迎える言葉

無事を、嬉しく思う言葉

優しい、言葉

考えてた、筈だった


勇者『…………』


でも


真っ先に、私の、暗渠みたいな、淀んだ迷路みたいな体内から出てきた言葉は








遊び人『なんで……お姉ちゃん、死んだの?』








勇者『……………………………………あ………』

遊び人『お姉ちゃん、なんで、帰って来ないの』

やめろ

遊び人『ねえ、お姉ちゃんを、どうして』

やめろ

やめろ

遊び人『なんで、勇者ちゃん、なんで』

やめろ

やめろ

やめろ


それだけは言うな


それだけは絶対、言うな


遊び人『なんで、勇者ちゃん』




言うな!!!!!!







遊び人『なんで……――お姉ちゃんを殺したのぉ……?』ポロポロ







ああ


ああ





ああ、私は



私は、賢者なんかには、なれない



私は、本当に






愚かだ



……
…………


――ダーマ・別塔・貴賓室――


命名官「……」

遊び人「……」

遊び人「結局ね」

ギュッ

遊び人「私は、甘えてたんだ」

遊び人「勇者ちゃんや、お姉ちゃんに」

遊び人「……自分の事しか考えられてなかったんだよ」

遊び人「そんな私が、今さらお姉ちゃんの残り香に縋りつけられない」

命名官「……そうかい」

ギシッ

命名官「それで、あんたはどうするんだい。これから」

遊び人「……」

命名官「あんた気付いてるんだろう?今回のこの件の計画者はあんたを――……」

遊び人「……私さ」

命名官「ん?」

遊び人「勇者ちゃんに、許してもらえるなんて思ってないんだ」

命名官「……」

遊び人「あんな事言った後も、勇者ちゃんはまた普通に接しようとする私を受け入れてくれた」

遊び人「受け入れてくれたんだよ」

命名官「……うん」

遊び人「……それに、それにさ」


遊び人「私……やっぱり、勇者ちゃんが、好きなの」


命名官「……」

遊び人「……この気持ちが、もう実らないって事も分かってる。そんな資格もない」

遊び人「でも、やっぱり……勇者ちゃんが居てくれるだけで、私は十分」

遊び人「だから、私は勇者ちゃんが助かる確率があるなら、私はそれに縋る」

遊び人「……例えそれが、騎士団長の嘘だったとしてもね」

命名官「……あの騎士団長の嘘を信じる事にして、騎士団長の嘘に乗っかるってわけかい?」

命名官「勇者って子の命を助けるって方便を信じたふりして、賢者として魔物達の囮になるってわけかい」

遊び人「馬鹿でしょ?」

命名官「ああ、馬鹿で、愚かだ」

遊び人「でも、それしかないの」

命名官「……」

遊び人「…………もう、それしかないの」

命名官「……どうしようもない、馬鹿だよ」


ガタッ

命名官「私は帰るよ。あんたの陰気に中てられて眠くなってきた」

命名官「おまけに苛々するよ。馬鹿すぎて」

遊び人「はは、ごめんね。話してくれてありがとう」

命名官「別にいいさ。もう勘弁願いたいけれどね」

遊び人「でも、もう随分遅くになっちゃって……」

命名官「儀式は明日の昼らしいから、まだ時間がある」

命名官「寝る時間はたっぷりあるじゃろ……それじゃ」


バタン


遊び人「……ありがとう」


――廊下――


神官「あっ!」

命名官「ふぁぁ、話の長い事長い事……」コキコキ

神官「命名官様!」

命名官「え?アンタずっと待ってたの?」

神官「酷いこのクソババア!!!」

命名官「アンタも大概酷いわ」

スタスタ

命名官「もう謁見はないんじゃろ?あの子、だいぶ参ってたから世話して早く寝せてやりな」

神官「はい!命名官様はもうお休みで?」

命名官「適当にするさ。ほら、もう遅いんだ。あの子の世話を急ぎな」

命名官「あの子だって賢者の一族と言えど、まだガキ……女の子なんだ。あの服は窮屈そうだったよ」

神官「は、はい!すみません!それではお休みなさい!」

スタスタ バタン

命名官「……ふう、さて、と」


スタスタ

命名官「(明日の昼までには時間がある)」

命名官「(……寝る時間はたっぷりある)」


命名官「(悪い奴ほどよく眠る)」


命名官「……年寄る体にに夜更かしはキツイね」


…………
……



……
…………

――ダーマ神殿前――


ザワザワ


旅人「今日は再火贈りの儀式は駄目なのか?」

ダーマ兵「ええ。また後日お願いします」

旅人「そうか……しかし、凄い人間だな。何かあるのか」

ダーマ兵「はい……ここだけの話なんですが、賢者様が復活されるとか」

旅人「へえ、そりゃすごい。しかしこんな厳重に兵が入り口に集まるもんかい?」

ダーマ兵「まあ賢者様の復活とあればこれくらいは……中にも相当な兵が警備にあたっていますよ」

旅人「ふうん。そんなに魔物が怖いのかね」

ダーマ兵「まあそれもありますが……最近ではこのバハラタ付近で盗賊団が出没しているらしく、それもあってね」

ダーマ兵「でも何より……あの落日の七日間を手引きした男が襲いに来る可能性が高いらしく」ヒソヒソ

旅人「ええ、なんだいそりゃあ!?」

ダーマ兵「……そのせいか」チラッ


ガヤガヤ


ダーマ兵「ポルトガ兵もサマンオサ兵も入り乱れて、相当な警備になっていますよ」


…………


――ダーマ・別塔・貴賓室――


ガチャッ

騎士団長「失礼します」

神官「あ、騎士団長様」


遊び人「……」


騎士団長「……おはようございます。遊び人さん」

騎士団長「大変お似合いですよ」

神官「それでは、私は失礼します」

遊び人「……はい」

神官「では」ペコリ

バタン


騎士団長「……」

遊び人「……何よ」

騎士団長「いえ、本当によくお似合いだなと思いまして」

遊び人「ああそう……で、何の用?」

騎士団長「……今日は、儀式を拒否する事のないようにお願いしますね」

騎士団長「もし土壇場でダーマ神官様の祝福を拒絶するような事があれば――……」

遊び人「勇者ちゃんの命は無いんでしょ?」 

騎士団長「……お分かり頂けているのなら良かったです」ニコ

ザッ

騎士団長「それでは、参りましょうか」


騎士団長「儀式が……始まります」 


―――ダーマ神殿・大聖堂―――



ダーマ神官「……皆の者」


ダーマ神官「我々はこれまで、魔の存在に脅かされていた」


ダーマ神官「あの七日間から、これまで」


ダーマ神官「しかし、これからは違う」


ダーマ神官「我々の眼前には、希望の灯火が点ろうとしている」


ダーマ神官「その瞬間を、見守り、祝福して頂きたい」


騎士団長「……それでは、ガルナ様の妹君……賢者の末裔を迎えましょう」

騎士団長「賢者様、どうぞ神壇へ」


ガチャ

ギィィ…



遊び人「……」



ザワザワ

「あの方が賢者の末裔……」

「美しい……」

「まるで女神を見ているようだ……!」


――二階・貴賓席――


命名官「ぐう……ぐぅ……」zzz

神官「ちょっと命名官様!起きて下さいよ!!」ヒソヒソ!!

命名官「ん……あと半刻……」zzz

神官「半刻眠ってたら儀式終わっちゃいますよ!!」ヒソヒソ!!


―――

エジンベア勇者「おお、美しい……」ウットリ

スー勇者「……」

ランシール勇者「……スー勇者?大丈夫ですの?顔色が……」ヒソヒソ

スー勇者「……はい、わたしは、大丈夫……思います」

ランシール勇者「……無理はなさらずに、ね」

スー勇者「……はい」


カツ… カツ…

ザッ


ダーマ神官「……その場にお願いします」


遊び人「……」


ダーマ神官「貴女は、現在快楽者の火を宿しておりますね」

遊び人「……はい」

ダーマ神官「その火を消し、貴女は賢者の火を宿すことになります」

遊び人「……はい」

ダーマ神官「その事について、何か異論はございますか?」

騎士団長「……」

遊び人「……」

ダーマ神官「……」




遊び人「…………ありません」




騎士団長「……」

騎士団長「……」ニヤ

ダーマ神官「……それでは、始めましょう」

ダーマ神官「再火贈りの儀式を」


遊び人「……」


遊び人「(……これで、いいんだ)」


――ダーマ神殿・入り口――


ダーマ兵「……もう儀式が始まった頃ですかね」

ポルトガ兵「ですね。できれば中の警護がよかったなあ」

サマンオサ兵「そんな事を言われてはこちらも士気が下がる。少し黙っていろ」

ダーマ兵「す、すみません!」

ポルトガ兵「……はいはい。でも神殿前の警備にいきなり借り出されるとはなあ。さすがに」チラッ

ズラッ…

ポルトガ兵「……こんな大勢が警備に当たらなくてもよかないか」

サマンオサ兵「だから黙っていろと言っている。世界の変革の守り人だという自覚が足らん」

ダーマ兵「すみません……」

ポルトガ兵「大仰に言うねえ……」





ポルトガ兵「……ん?」


パカラッ… パカラッ…


ダーマ兵「?」

ダーマ兵「(蹄の音……?)」


パカラッ パカラッ


ポルトガ兵「……こちらに向かっている」


パカラッ パカラッ!!


「伝令!!!伝令――!!!!」


サマンオサ兵「止まれ!!!止まれと言っている!!!」

ザァッ!!

ガシャン!!

伝達兵「はぁっ!!はぁっ!!で、伝令っ!!」


ポルトガ兵「伝令!?って、アンタ大丈夫か!?」

ダーマ兵「顔、どうしたんですか!?包帯ですごい事になっていますよ!?」

ポルトガ兵「というか全身傷だらけじゃないか!!一体何が――」

サマンオサ兵「それよりも!伝令とは何だ!!答えろ!!」

伝達兵「賢者様に!!直接伝えなければならない事があります!!すぐに通してください!!」

サマンオサ兵「ならん!!今は儀式中だ!!!後にしろ!!」

ダーマ兵「い、一応私が内部の上官へ伝達しましょうか?」

伝達兵「なりません!!!火急の用件なのです!!!賢者様だけに!直接口上しろとの事です!!」

ポルトガ兵「一体誰の命だよ!?」

スッ

一同「「「!!!!」」」

ダーマ兵「そ、それは……!」


サマンオサ兵「国連の勇者の勲章……!!?」

ポルトガ勇者「それも、三つも……!!!!」


伝達兵「どうぞご覧を!!本物です!!」

ダーマ兵「……三つとも本物です!!」


伝達兵「ポルトガにおられる御三方からの命です!!!」

伝達兵「今、賢者様に危機が迫っております!!!!!」

伝達兵「迅速に……――迅速に許可を!!!!」


――大聖堂内――


ダーマ神官「そして大地を創ったルビス様は、闇に立ち向かう意志を、我らに与えた」

ダーマ神官「生まれ落ちた子らは、火を宿し、そしてその火を絶やさぬように――……」


<我々は…………。そのルビス様の意思を……。


遊び人「……」

遊び人(私が、この職になってから、五年か)

遊び人(いろいろあったなあ)

遊び人(皆、こんな職になった私に普通に接してくれて)

遊び人(……皆、無事かな)

遊び人(女勇者、戦士、武道家)

遊び人(魔法使い、盗賊、僧侶、商人)


遊び人(……――勇者、ちゃん)


ダーマ神官「そしてロトの聖剣を象った十字に――……」


遊び人(皆と、まだ旅していたかったな)

遊び人(下らない事で笑って、泣いて)

遊び人(冗談言い合って、喧嘩して)

遊び人(……皆と、一緒に、居たかった)

遊び人(女勇者の軽口がもっと聞きたかった)

遊び人(戦士の食べっぷりをもっと見ていたかった)

遊び人(武道家の説教を聞いていたかった)

遊び人(魔法使いと勉強の話をしてたかった)

遊び人(盗賊にお茶の淹れ方をまだ教わってなかった)

遊び人(僧侶の優しい歌声を、もっと聞きたかった)

遊び人(商人の商売の話も、もっち聞きたかった)


遊び人(……勇者ちゃんを、好きでいたかった)


遊び人(そばに居たかった。ずっと見ていたかった)


ダーマ神官「……――以上が、ルビス様の祝詞となります」

遊び人(でも、もういい)

ダーマ神官「それでは、今一度問います。最後の問いです」

遊び人(私は、賢者にはなれない)



ダーマ神官「賢者として生きることを……――望みますか?」



遊び人「……」


騎士団長「……」


ダーマ神官「……」


でも


賢者になれなくても




遊び人「……はい」




囮くらいには




遊び人「望みま――……」






バタァン!!!!


伝達兵「伝令!!!伝令!!!!」





遊び人「っ!!!?」


ダーマ神官「なっ!!?」


騎士団長「何事です!!!儀式の最中ですよ!!!!」


ザワザワ!!

「なんだ!?」

「伝達兵?」

「この儀式の最中にか?」


ダーマ神官「静粛に!!静粛に!!!」

騎士団長「警備の兵達は何をしているのです!!!何人たりとも通すなと言った筈です!!!!」


伝達兵「儀式の最中である事は承知しております!!!しかし」

ジャラッ

伝達兵「火急の用件にて!!!!賢者様に報告をお許し下さい!!!!」


騎士団長「!!?それは!」


エジンベア勇者「あれは……」

ランシール勇者「国連勇者の勲章!?」

スー勇者「む、ムオルさんたちに、なにかっ!!?」


神官「ええ!?何か大変な事に……ねえ命名官様!!起きて下さいよ!!!」ユサユサ

命名官「……」


騎士団長「では早く済ませなさい!!何事です!!!」


伝達兵「有難く、瞬刻を頂戴します!!!!」

タッタッタ

ズザッ

伝達兵「賢者様!!!」


遊び人「は、はい!」


伝達兵「たった今、承った伝言を述べます!!」


遊び人「伝、言?」


伝達兵「はい!!アリアハンの者からの伝言です!!!!」


遊び人「……アリアハンから?」


騎士団長「アリアハン……?」

騎士団長「……」

騎士団長(……待て)

騎士団長「……――っ!!」


伝達兵「申し上げます!!!!」



スッ






伝達兵「……――『言う事聞く人、この指止まれ』」






遊び人「……」


遊び人「…………」


遊び人「………………」



タッ



ダーマ神官「!?賢者様!?」

騎士団長「警備兵!!!!警備兵!!!!!」

ダーマ神官「えっ!?」

騎士団長「この男を――!!!!いやっ」



ギュッ


遊び人「……」


「……ありがとう、遊び人」


シュルッ


遊び人「…………ゆ」ポロ





騎士団長「この魔物を取り押さえろ―――――――ッッ!!!!!!!!」







勇者「ありがとう、覚えていてくれて」






遊び人「………………勇者……ちゃん……!!!!!」ポロポロ



「取り抑えろ!!!」

「逃がすな!!!!」

「賢者様を取り戻せ!!!」


ダッ!!!


勇者「っ!!遊び人!!!」ギュッ!

遊び人「えっ!!」

勇者「つかまってて!!!」ゴソッ

フワッ

騎士団長「!!!!」


勇者はキメラの翼を使った!!


ゴォォ!!!


「ぐおぉ!?」

「馬鹿なっ!!上は」



命名官「……そう」ボソッ

命名官「大聖堂の上は」



勇者「遊び人!!!僕の陰に!!」ギュッ!!

遊び人「えっ!?」

勇者「下の人間達!!!避けてろ!!!!」


ガッシャアアアアン!!!!!


命名官「ガラス張りなんさね」


ガッシャン!! バリィン!!

ガシャァァァァン!!


「破片が落ちてくる!!避けろ!!!」

「でも賢者様を受け止めなくては!!」

「おい見ろ!!」


パラ… 


「しがみ付いて屋上の方に逃げたぞ!!!」

「屋上だ!!!!急げ!!!!」

ザワザワ!!!


騎士団長「……」

ダーマ神官「騎士団長殿!!い、一体どうすれば」

騎士団長「く」

ダーマ神官「え?」

騎士団長「失礼」クルッ

ダーマ神官「騎士団長殿?」


騎士団長「っ、くふっ」


騎士団長「んふっ、ぎゅふふ、ぎゅふふふ、」


騎士団長(やってくれます、やってくれますね勇者くんやってくれます、やってくれます)


騎士団長(殺します、殺します、ああ、楽しませてくれる。憎しみが尽かない。殺しましょう)


騎士団長(そうです、ただ処刑するだけじゃつまらない、魔族裁判にかけるだけではつまらない)


騎士団長(ああ、楽しい、楽しい程殺したい)


騎士団長(楽しい、ああ、楽しい)


クルッ


騎士団長「……ランシール勇者さん!!!」


ランシール勇者「……大丈夫。今、追いかけていきましたわ」

スー勇者「わたしたちも、向かう、です!」


騎士団長「おお、さすが最速の勇者」

クルッ

騎士団長「……魔法兵を集めて下さい!!!」

騎士団長「奴はキメラの翼を使い逃亡を図りましたがキメラの翼は障害に当たると効力を失います!!」

騎士団長「しかし奴は屋上に登りました!!そこからまた翼を使い移動するでしょう!!」

騎士団長「ですので、魔力場の強い場所へ移動魔法で先回りしてください!!!戦闘兵も同行するように!!!!」


「「「「はっ!!!!」」」」


騎士団長「……さて」

騎士団長(後は任せてみますかね……)


――ダーマ神殿・屋上――


ビュオォォォッ……


勇者「っぎぎぎ!!!よいしょおっ!!!!」

ドサッ!

遊び人「っ!」

勇者「はぁっ、はぁっ、遊び人、大丈夫!?怪我は無い!?」

遊び人「ゆ」


ギュウウウ!!!


遊び人「勇者ちゃんっ……!!勇者ちゃん……!!!!」

勇者「……遊び人」

遊び人「よかっ……!わたし、勇者ちゃんが……!!!」

遊び人「裁判に…………かけられたとっ……!!!!」

勇者「……」

ナデ

勇者「……心配かけて、ごめん」

勇者「でも、今は急がなきゃ。まだ逃げないと――……」


「逃げるったって、どこにだい?」


遊び人「!!」

勇者「……――!」


ザッ

「やれやれ、屋上によじ登る事になるなんて思わなかったよ」


勇者(今の短時間で追いかけてきたなんて――…)


「……始めまして、賢者様と勇者クン?だっけ」

エジンベア勇者「僕はエジンベア勇者。賢者様には覚えておいて頂きたいですねぇ」

ジャキッ

エジンベア勇者「勇者クンの方は……忘れていいよ」

勇者「……」

ジャキン

勇者「……」

エジンベア勇者「お?やる気かい?」


ヒュンッ!!


勇者「!!?」


ガキィン!!!!


エジンベア勇者「その弱さでかい?」

バッ!!

勇者「くっ……!」

勇者(とんでもなく速い!!受け止めるのも難しいくらいに……!)

エジンベア勇者「ねえ、観念してお縄に付きなよ。僕は別に君を斬りたいわけじゃないんだよねえ」

ジリ…

エジンベア勇者「それに君もこの状況わかってるだろ?騎士団長は魔力場の強い土地に魔法兵を先回りさせて」

ジリ…

エジンベア勇者「賢者様は魔法制御・魔力瓦解の呪文がかけられた手枷をされ、それを守るのは弱っちい君だ」

ジリ…

エジンベア勇者「もう諦めなって。これ以上は何もしないからさぁ」

勇者「……」

遊び人「ねえ、私達、今……!」

勇者「うん……」チラッ


オォォォオォ…


勇者(どんどん追いやられてる……)


エジンベア勇者「……おや、気付いたかい?」

エジンベア勇者「さすがにこの高さからは逃げられないだろぉ?監視者の塔みたく、落ちたら無傷ってわけにもいかない」

エジンベア勇者「ぼくら加護のある人間でさえ致命傷を負う高ささ……本当にキミ、逃げ場無いんだって」

勇者「……」

エジンベア勇者「分かったんなら、賢者様を解放して素直にお縄に――……」


勇者「じゃあ、聞くけどさ」


エジンベア勇者「え?」

勇者「遊び人をお前らに手渡して……そしてどうなる?」

遊び人「勇者ちゃん……?」

エジンベア勇者「どうなるって……そりゃあ」

勇者「魔物が遊び人を狙いに来る」

エジンベア勇者「……まあそうだろうね」

勇者「……わかってるんだろ」

エジンベア勇者「でもそのためにサマンオサが軍をあげて――……」

勇者「ねえ、冷静に考えた事ある?」

エジンベア勇者「は?」


勇者「大賢者が三人も集まって、あのテドンの民が大勢居ても……倒せなかった魔族達から、サマンオサの軍が遊び人を守る事ができるか」

勇者「考えた事――……あるか?」

エジンベア勇者「……」

勇者「……なかったんだろ」

ギリッ

勇者「目先の、どうでもいい不確かな情報に踊らされて」

勇者「遊び人の事も、これから先、戦う事になる人達の事も」

ギリィィッ!!

勇者「考えた事……!!!!無かったんだろ……!!!!」

エジンベア勇者「……」

ジリッ

エジンベア勇者「…………何が言いたいんだい」

勇者「……お前達に、遊び人は任せられないって事だよ!!!!」

遊び人「勇者ちゃん……!」

エジンベア勇者「この状況でよくそんなに吼えられるねぇ」

勇者「……遊び人」

遊び人「え?」

勇者「掴まってて」

遊び人「何――……」

勇者「……信じて」

遊び人「……」

ギュッ

遊び人「……――うん」


エジンベア勇者「って、ちょっと待ちなって」


勇者「……せーので、いくよ」

遊び人「……うんっ」ギュッ


エジンベア勇者「え?さっきの話聞いてた?ここから落ちたらマジで死ぬ――……」



勇者「せーのっ!!!!」


バッ!!!!


エジンベア勇者「……――っ!!!!?」


ダッ!!!!

エジンベア勇者「賢者様ぁ!!!!」

エジンベア勇者(マジで飛び降りて逃げるヤツがあるか!!!!)

エジンベア勇者(まずい!!!賢者様を受け止めるにしても、二人が落ちたのは神殿の後方……!!!!)

エジンベア勇者(後方は警備の人間なんて殆どいない!!!!)

エジンベア勇者(まずいまずいまずいまずい!!!!!!)



ヒュウゥゥゥゥ



遊び人「っ……!!!」ギュゥゥ

勇者「……!」

勇者(落ちる方向も、場所も、大丈夫)

勇者(……――頼むよ)

勇者「っ……」スゥゥゥゥ










勇者「カンダタァ――――!!!!!!!!!!!!!!!」





カンダタ「応よォクソガキィ!!!!!!!!!!!」






遊び人「!!!?」


エジンベア勇者「なはっ!!!?」




カンダタ「お前ら!!!!作戦通りだ!!!!左右に引っ張れ!!!!」


カンダタ子分「お前ら!!!今だ!!!!」


カンダタ子分B「よっしゃあ!!!!」


カンダタ子分C「受け止めろォ!!!!」


シュルルルルル!!!


バァッ!!!


遊び人「あれは……!!?」

勇者「落ちるよ!舌に気をつけて遊び人!!」

遊び人「っ……!」


ドサァッ!!


グインッ グイングイン


遊び人「……っ!?……なんとも、ない?」

勇者「キャタピラーの糸で作った布だよ!!」


ガバッ!!

勇者「そんな事より、急ぐよ!!」

遊び人「えっ――……」


パカラッ


カンダタ子分「勇者!!お前の馬だ!!乗れ!!!」

カンダタ「ボサッとしてんな!!!!ずらかるぜ!!!」

勇者「ああ!!」

遊び人「カンダタ……!!!?なんでっ」

ギュッ

勇者「説明は後でする!!!今は逃げるよ遊び人!!!!」

遊び人「……――うんっ!!!!」



ヒュォォォォゥ……



エジンベア勇者「……あっちゃあ」

エジンベア勇者(逃げられちゃったかぁ……こりゃ面倒くさい事になりそうだ)

エジンベア勇者(……しかし)


勇者『……お前達に、遊び人は任せられないって事だよ!!!!』


エジンベア勇者「……あれが、魔物ねぇ」


…………
……


今日はおしまいです

>>482
×遊び人(商人の商売の話も、もっち聞きたかった)
○遊び人(商人の商売の話も、もっと聞きたかった)

――アリアハン城・城門前――

ザワザワ


「勇者母さんはここにいるんだろう!?」

「何か一言あってもいいんじゃないのか!!」

「勇者って子は魔の使いだったの!?説明させなさいよ!」


門兵「皆さん!!落ち着いて下さい!!」

門兵2「その件については王から近々説明を――……」

「その王があいつの存在を他国に隠していたんだろう!!」

「アリアハンの名を貶める気かよ!」


<……!……!


スタスタ

料理長「……」


――厨房――


ガチャッ

料理長「ただいまっと」

メイド「料理長!おかえりなさい」

メイド2「一応、柔らかい麦粥を作っておきました」

料理長「すまないね。任せちゃって」

メイド「……どうですか?勇者母さんの様子……」

料理長「ああ……相変わらずだよ」

メイド2「……そうですか」

料理長「……」


コンコン


三人「「「!」」」

料理長「……なんだい、裏口に誰か来たのかね?」

メイド「でも一体誰が……」

コンコン

メイド2「はいはい、行きますよ」

スタスタ ガチャ

メイド2「どなた――……って」


女勇者「……や」


メイド2「女勇者様!!?」

メイド「女勇者様!」ガタ

料理長「女勇者ちゃんかい!?」ガタッ

バタン

女勇者「裏口から失礼するよ。みんなごめんね」

女勇者「城門からは入れそうになくてさ」

料理長「……!あたしらに詫びはいらないのさ!あんた今までどこほっつき歩いてたの!」

メイド2「あのね女勇者様。実は、えっと、その」

女勇者「お母さんがお城に匿われているんだよね?戦士ちゃんのお父さんから聞いたよ」

女勇者「……直ぐに会いに行きたいんだ。場所は?」


――客間――


勇者母「……」


ルイーダ「……」

ルイーダ「(勇者母さん……)」

コンコン

ルイーダ「……はい、どなた?」

ガチャ

料理長「ここだよ」

女勇者「……」

ルイーダ「!!女勇者ちゃん!!」ガタッ

女勇者「ルイーダさん……ごめんね、色々」

ルイーダ「私はいいの……!早く、傍に来てあげて」

スタスタ

勇者母「……」

女勇者「……」

女勇者(目が、真っ赤に腫れてる)

女勇者(お義兄ちゃんの事心配して、ずっと泣いてたんだ)

ルイーダ「……勇者くんの報せを聴いたら、だいぶ参っちゃったみたい」

料理長「それでもあんたらの家に押しかけるバカな輩も少し居たからね。ここで安静にさせてたのさ」

料理長「今は寝ているが、起きてる間はずっと泣き通しだったよ」

女勇者「……」

スッ ギュッ

勇者母「……」

女勇者「……もう泣かないで、お母さん」

クルッ

女勇者「……」スタスタ

料理長「ちょっとアンタ!またどっか行く気なの!?」

ルイーダ「女勇者ちゃん……?」

女勇者「……門の所に居る、2、30人の人達の所に行ってくる」

料理長「はあ?」


女勇者「……魔物が、お義兄ちゃんが」

女勇者「私達や、アリアハンを騙してた事を自供したって……伝えてくる」



……
………


――ダーマ付近の森――


ダカダッ ダカダッ!!


カンダタ「おい!後ろァどうだ!?」

カンダタ子分A「…………最後尾のヤツが『何も追って来ない』って言ってます!!」

カンダタ子分B「……」

カンダタ子分C「……や」


「「「やったぁ―――――!!!!」」」


カンダタ子分D「マジかよ!!本当に国連相手にやりやがったぁー!!うはほほーっ!!」

カンダタ子分E「っひゅー!今マジで俺らワルっぽい!!」

カンダタ「え、今までワルっぽくないって思ってたの?」

カンダタ子分A「おい!勇者!お嬢ちゃんは!?」

勇者「うん!ありがとう!!怪我は無いみたいだ!!」

カンダタ子分B「やったなぁ!!」

カンダタ子分C「おいおいお姫様抱っこで馬に乗って王子様みたいじゃないのぉ!」

カンダタ子分D「盗賊団を率いて王子もクソもあるかぁよ!」

カンダタ子分E「けははは!違いない!!」

カンダタ「まだ気ィ抜くんじゃあねえぞ!!ちゃんと逃げ切るまでなぁ!!」

勇者「ああ!!」

遊び人「ゆ、勇者ちゃん」

勇者「なに!?どっか痛む!?」

遊び人「ううん!じゃなくて……その、この現状は……!?」

勇者「え……?ああ、カンダタ達の事?」


カンダタ「いいか!昨日作ったルートを外れんなよ!!」

カンダタ子分達「「「「おうっ!!!!」」」」


勇者「……昨日、色々あってね」


…………
……

…………


――昨夕・ダーマ付近の森――

ザァァァァァ

バシャッ

バシャッ

バシャッ

勇者『(とりあえず……歩かなきゃ……!)』

勇者『(途中まで乗ってきた、馬の所までは、戻らないと)』

勇者『(……ん?)』

ピタ

勇者『……』

勇者『(あれ……?見間違いか?)』


<……!


勇者『(あの、大きい木の下……馬が何頭も繋がれて……)』

勇者『(集団が、野営を)』

勇者『……っ!!』

ジリッ

勇者『(まずい……!多分、国連の息のかかった連中だ……!)』

勇者『(きっと森の警備に就かされて……!)』

ジリッ

勇者『(とりあえず、逃げ)』


ジャキッ

『動くな』


勇者『……――――!!!』ピタ


『手ぇ組んで武器捨てろ。ゆっくりこっち向け』


…………


――カンダタ一味の野営地――


カンダタ子分B『親分!テントから雨漏りする!』

カンダタ『もうだいぶ古くなっちまってるからなぁ』

カンダタ子分C『あれ?カンダタ子分Aは?』キョロキョロ

カンダタ『さっき乾いた薪を探しに行かせた。もうじき帰ってくんだろ』

バシャバシャ

カンダタ子分A『親分!』

カンダタ『お、ほら見ろ……って』

カンダタ『………………は?』


勇者『…………』


カンダタ子分A『……そこらをうろついてやがりました』

カンダタ子分A『騒がれると面倒なんで、一応連れて来たんすけど』

カンダタ子分D『お前ぇっ!?』ズザッ

カンダタ子分E『またお前かよぉ!?』

カンダタ子分F『どんだけ俺らの事好きなの!?』

勇者『……』

カンダタ『……っく』

カンダタ『くっ、くはっ!』

カンダタ『あっはっはっはっはっは!!!っんとによく会うなクソガキ!!』

カンダタ『今度はなんだどうした!?本当に一味に入りに来たかよ!』

勇者『……』

カンダタ『……お?どうした?だんまりか?』

カンダタ『ってか、あの他のガキどもはどうしたよ?』

勇者『……カンダタ』

カンダタ『あ?』


ズザァッ!! ドチャァッ!!


カンダタ子分達『『『『!!!?』』』』

カンダタ『……』

カンダタ『……おい、ガキ』

カンダタ『そりゃ何のマネだ?』


勇者『……』


カンダタ『なんで俺に土下座なんぞしてんだ?お前』

勇者『お前に』

カンダタ『あ?』

勇者『お前に……頼みがある』

カンダタ『……は?』


ギリィッ…!


勇者『……僕にっ……!!力を貸してくれ……!!』


カンダタ『……』

カンダタ子分A『はぁぁ?お前何言ってやが』

カンダタ『お前ら、少し黙ってろ』

カンダタ子分A『へ?親分?』

カンダタ『……おい、クソガキ』

カンダタ『顔上げて、一から説明してみろ』

…………

ザァァァァ…


勇者『……』

カンダタ『……!』

カンダタ子分A『……は』

カンダタ子分B『なんだ、そりゃ』

カンダタ子分C『つうことは、お前』

カンダタ子分D『てめえは今、国連に追われてるって事か!!?』

勇者『……簡単に言えば、そうなる』

カンダタ子分E『はぁ~……なんつうか、あれだな』

カンダタ子分F『てめえも結構厄介なヤツなんだなぁ』

カンダタ子分G『で?その賢者サマとやらの嬢ちゃんを助けるために』

カンダタ子分H『俺達に力を?貸して欲しいって?そういう事かよ』

勇者『……ああ、そうだ』


『『『…………』』』


カンダタ『……てめえ、正気かよ?』

勇者『正気だ』

カンダタ『女一人だぞ』

勇者『遊び人一人の問題じゃなくなってくる』

勇者『多分、沢山の人間が死ぬことになる。大きい争いが起こることになる』

カンダタ『それは俺が与り知ることか?てめえが与り知る事か?』

勇者『知ってるから見過ごせない』

カンダタ『てめえの言ってる事が正しい保証もねえだろう』

勇者『でもどの道』

カンダタ『……』

勇者『……遊び人が危険な目に遭う』

勇者『それだけは、確実だ』

勇者『魔物達は確実にあいつを狙いに来る。遅かれ早かれ』

カンダタ『……もう一回言うぜ?女一人だぞ』


カンダタ『女一人のために国連を敵にまわして馬鹿みてえに戦うっつうのか?』


勇者『そうだ』


カンダタ『女一人だぞ』


勇者『女一人の運命がかかってんだ』


勇者『一人の運命がかかってるんだよ』


カンダタ『……』

カンダタ『……だが、さっきも言ったが、そりゃあ俺にぁ関係ねえよな?』

カンダタ『なんでてめえは俺がただでホイホイ誘いに乗ると思ったんだ?馬鹿か?』

勇者『タダじゃない』

カンダタ『……ん?』

ドジャッ!!

カンダタ子分A『なんだその袋』

勇者『……ゴールド金貨が入ってる』

カンダタ子分B『は?』

ジャラジャラ

カンダタ子分C『っ……んだ、アレ』

カンダタ子分D『ちょ、っと待てどんだけ入って……』

カンダタ『……』

ジャラ……

勇者『……これが、僕の全財産の3分の2だ』


勇者『これで、あんたらを。盗賊団を雇いたい』


カンダタ子分達『『『はぁぁ!!?』』』

カンダタ『……』

勇者『……』

カンダタ『……なあ』

カンダタ『俺が首を縦に振ると思ったのか?てめえは』

勇者『ああ』

勇者『前にバハラタのお前らのアジトで……そこの三人に聞いたんだ』チラッ

カンダタ子分E『……え?』

カンダタ子分F『俺達?何か言ったっけ?』

カンダタ子分G『えっと…………あ』


――――――――
~~~~~~~~


勇者『……あのさ、あの女の人を攫った理由ってなんなの?』

カンダタ子分E『理由、ですか?』

勇者『うん。正直ホッとしたけど、攫った上で何もしないなんて、目的がよくわからないなぁと思ってさ』

カンダタ子分E『あぁ、まぁごもっともっすねぇ』

カンダタ子分F『これは実は――……依頼なんすよ』

ピタ……

勇者『……え?依頼?』

カンダタ子分E『はい。詳しくは知らないんすけど、親分が誰かに頼まれたらしくて』

カンダタ子分G『結構な纏まった金貰ったらしくてね。“あの女を夕方まで一切手を出さずに監禁。そして無傷で夕刻に村に帰す”って依頼』


~~~~~~~~
――――――――


カンダタ子分E『……あー……』

カンダタ子分G『言ったなあ……』

勇者『……あれを思い出したんだ』

勇者『あの時お前は少なくともタニアさんには何の危害も加えてなかった』

勇者『だから、依頼は絶対守るんじゃないかって……そう思ったんだ』

カンダタ『……』

勇者『カンダタ、アンタらに依頼をしたい』

勇者『この金で、僕に協力して……遊び人を攫い出してくれ』

カンダタ『……』

勇者『……』

カンダタ『……払うのは、全財産じゃあねえのか?』

勇者『遊び人を連れ戻したら、まだ旅を続けなきゃいけない』

カンダタ『……』

勇者『……』

カンダタ『……』


カンダタ『っく』

カンダタ『あっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!!!!!!』


カンダタ子分A『親分!?』

カンダタ『馬鹿だぜお前!!本当に馬鹿だ!!』

カンダタ『女一人のために、散々な目に遭わせてきた俺に頭下げて国連を敵にまわすかよ!!』

ザッ!!

カンダタ『おいお前ら!!全員よおく聞け!!』

カンダタ『今からこいつらは依頼主だ!!気張って国連のクソカス共を出し抜いてやろうぜ!!』

カンダタ子分B『親分、って事は』


勇者『……じゃ、じゃあ!』


カンダタ『ああ、付き合ってやろうじゃねえか』

カンダタ『やるからにはとことんだ!!泣き言は吐かさねえぜ!覚悟しろよガキィ!!』


勇者『……っ』

ギュッ…

勇者『ありがとう……!』

…………


ザァァァァァ……


カンダタ『……とまあ、もし奪還成功した後の森の中の逃げ道はこんな感じだな』

勇者『うん!これだったら……!』

カンダタ『……で、だ。問題の奪還なんだが……』

カンダタ子分A『明日の儀式の時間になりゃ高確率でその嬢ちゃんが大聖堂に来る』

カンダタ子分B『そこが狙い目だと』

勇者『ああ、多分中には祭壇があると思うんだけど、儀式の最中はその祭壇上には祭司と遊び人だけになると思うんだ』

勇者『その一瞬はあらゆる警備から解放されると思うんだけど……』

カンダタ『しかし、どうすんだ。そこに割り入るつもりかよ』

勇者『……うーん……それが問題なんだよね……』

カンダタ子分C『親分、勇者。火薬なら多少持ち合わせがあるぜ』

カンダタ子分C『神殿の一部で爆発起こして混乱に乗じて……なんてどうだ?』

カンダタ『……いや、それだと奴らは余計に警戒して再度嬢ちゃんの周りに集まるだろうな』

勇者『それに、もし遊び人を奪取できても、どうやって神殿の外まで連れ出すかが……』

カンダタ『……』

勇者『……』

カンダタ子分A『……手詰まり?』

勇者『い、いやっ!まだ何か、何かあるはず……!』

カンダタ子分B『他の子分達の知恵も合わせてなんとか捻りだそうぜ』

カンダタ子分C『ってか、あれ?他の奴らは?』

カンダタ『さっき、逃げ道の経路と罠の仕込みの確認に行かせた。そろそろ戻って来るだろうよ』

カンダタ子分A『しかし日が暮れてもうだいぶ経つ……雨のせいで暗くなるのが早かったとはいえ、時間は無くなってきてんぞ』

カンダタ子分C『まず神殿にどうやって入って、どうやって隙をついて嬢ちゃんを連れ出すか』

カンダタ子分B『それを確実にしねえと逃げ道の意味も無くなるしなあ』

カンダタ『……』

勇者『……何か』

勇者『きっと何か、方法があるはず』

勇者『何か……』



『なかなかに悪い話をしておるね』



一同『『『!!?』』』

カンダタ子分A『誰だっ!!』ジャキッ!!

カンダタ子分B『そこの暗がりから……!』ジャキッ

カンダタ『……おい、どこのどいつだ』

ジャキンッ!!

カンダタ『面ァ見せろ』

勇者『……!』


バシャ バシャ

『私もまぜてくれないかねぇ』


勇者『……』


『丁度私も』


勇者『……あなたは』


ザッ



命名官『……悪い事をしたい気分なんじゃよ』


――――――――――


遊び人「おばあちゃんが!?」

勇者「うん。神殿の内部の構造や儀式の手順を全部教えてくれたんだ」

遊び人(……名前のおばあちゃん……)

勇者「カンダタや、命名官様が居なかったら……どうなってたか考えるだけで恐ろしいよ」

カンダタ「けっ!!おいガキ、まだ気ィ抜くなつってんだろうがよ」

カンダタ「どうなってたかとか言ってんじゃねえ。まだどうなるか分かんねえんだぜオイ!」

勇者「ああ!ちゃんと気は張っておくよ!」

カンダタ「どうだかなぁ!」

遊び人「で、でも勇者ちゃん」

勇者「ん?」

遊び人「あの勲章は……?国連の勇者の勲章は、誰から……?」

勇者「ああ……」チラ


カンダタ「おい!次ァそっちだ!!枝が低くなってくるから気ぃつけろ野郎共!」

カンダタ子分A「親分に言われずとも気ィつけてますよ」


勇者「……カンダタが持ってたんだ」

遊び人「え……!?」

勇者「理由までは僕も分からない……ただ」


―――――――――


ジャラッ

カンダタ『……これを奴らに見せれば、ちったあ有利になんじゃねえのか』

勇者『!?それっ、国連の勇者の勲章!?三つも!?』

命名官『おや、こりゃ驚いたね』

命名官『確かに、それが三つもあれば只事じゃないと皆理解するじゃろうから、遊び人ちゃんに近づく事はできるかもしれないね』

カンダタ子分A『親分っ……それは』

カンダタ『うるせえ黙ってろ。どう使おうが俺の勝手だろうがよ』

カンダタ子分B『……うす』

勇者『……?』

カンダタ『……ガキ。これ、使え』


―――――――――


勇者「……何か、言いたくない理由がありそうだったよ」

遊び人「……」


カンダタ「前から思ってたけどお前ら結構反抗期よな?」

カンダタ子分D「え、デレ期っすよ。馬鹿じゃねえの?」

カンダタ「それデレなの?」

勇者「でもまあとりあえず、今は逃げる事に専念するだけだ」

カンダタ子分A「今んところ追手は来てねえみてえだ!ルートは一番目を通ってきゃ恐らく追いつかれねえ!」

遊び人「ルート?」

勇者「ああ、逃げ道をいくつか作ってあるんだよ。状況に応じてね」

勇者「今の所、追手が来ていない一番見つかりにくい道を走ってる」

カンダタ子分A「このまま一番目を突っ走れりゃ何も問題は……」



カンダタ子分B「親分!!勇者!!」



勇者「え!?」

カンダタ「何だ!どうした」

カンダタ子分B「後ろのヤツらが!伝言をって!」

カンダタ子分A「なんなんだよどうしたんだ!!」



カンダタ子分B「追手が来やがった!!」

カンダタ子分B「追手の姿を一番後ろのヤツが見たらしい!!!」



カンダタ「……!」

カンダタ子分A「うっそだろオイ……!」

勇者「な、なんでこんな早く……!?」

カンダタ(一番目のルートはわざとしっちゃかめっちゃかな方向へ伸ばしてある)

カンダタ(蹄跡が残らねえ様に、砂煙もたたねえように落ち葉で埋もれた道を選んだ)

カンダタ(それなのに、もう追いつかれちまった……!)

勇者「追いつかれたって事は、僕らが迂遠な道を行ってるのがバレて、その最短距離を来られてるって事だよね……!?」

カンダタ子分A「しかしそれがどうやってバレるんだよッ!もしかして向こうに盗賊職のヤツでもいんのか!?」

カンダタ「いや、それだとしても早すぎるぜ」

勇者「じゃあなんでっ……!」

カンダタ「……空から俺らの動向を探られでもしねえと、こんなに速くは追いつかれねえ」

カンダタ子分A「馬鹿言ってる場合じゃねえって親分!どうする!ルート変えるか!?」

カンダタ「とりあえず、二番目のルートに移行だ!!」

カンダタ「てめえら!!ここが正念場だ!踏ん張ってくぜ!!!」


カンダタ子分達「「「おう!!!!」」」


カンダタ「ガキ!てめえも嬢ちゃんをぜってえ離すんじゃねえぞ!!」

勇者「ああ!!」

遊び人「……っ」

カンダタ「……へっ」

カンダタ(…………用意したルートは全部で5本)

カンダタ(全部使い切る事態にならねえ事を祈るぜ)

今日はおしまいです

――勇者達の後方――


ドドドッ ドドドッ


ポルトガ兵「エジンベア勇者様!前方より奴らの姿を捕捉したとの伝達が!」

エジンベア勇者「へえ、ホントかい?じゃあこのまま前の彼らに付いていけばいいって事だよね?」

ポルトガ兵「はい!そのようです!」

エジンベア勇者「良かった良かった。やすやす逃げられてしまっては僕も責められるからねぇ」

エジンベア勇者「……しかし」

ポルトガ兵「は、どうかされましたか?」

エジンベア勇者「…………前の彼らは、どうやって奴らの行方を追っているんだろうねえ」

ポルトガ兵「……と、いいますと」

エジンベア勇者「ちょっと要領良すぎないかい?奴らが神殿付近を逃げ出してから僕らが追いかけるまで少し時間が空いた」

エジンベア勇者「その間に開いた距離も今じゃ殆ど無い。僕らの馬が特別速いわけでもないだろうし、不思議だ」

ポルトガ兵「た、確かに……ですが、やはり流石といったところではないでしょうか」

エジンベア勇者「ああ……流石」


ドドドッ ドドドッ



サマンオサ兵「……」



エジンベア勇者「流石、サマンオサ兵といったところだね」

ポルトガ兵「最前列の方々は騎士団長様の直属の兵との事です。並々ならぬ修羅場をくぐりぬけてきたのでしょう」

ポルトガ兵「でしたら盗賊の逃げ道を割り出す事は容易い事なのかもしれません」

エジンベア勇者「……かねえ」

エジンベア勇者(なーんか……気味悪いんだよねぇ……)


――――――――――


ダカダッ ダカダッ!


カンダタ子分E「親分!おやぶーん!!」

カンダタ「なんだぁ!」

カンダタ子分F「駄目だ!!この道でも撒けねえ!!アイツら追って来てやがる!!」

カンダタ「……ちッ!!」

カンダタ子分A「ちゃんと一番後ろの奴は罠をかましたんだろ!?それでも駄目だったのかよ!」

勇者「くそっ……!」

遊び人「罠って……?」

カンダタ子分A「昨日仕掛けた罠さ!この四番目には罠を幾つも仕掛けてたんだ!」

カンダタ子分A「木の上に人の目鼻も馬の目鼻も狂っちまう毒粉を大量に包んだ風呂敷を吊るしておいて」

カンダタ子分A「一番後ろの奴が自分が通る際にそれをぶち破って後ろに撒く、みてえな罠とか、他にも色々仕掛けてたんだよ!」

カンダタ「まあ……全部無駄になっちまったみてえだけどなあ!!」

カンダタ「仕方ねえ!おいお前ら!!五番目の方法に移行だ!!」


カンダタ子分達「「「!!」」」


カンダタ子分B「でも親分!いいのかよ!」

カンダタ「仕方ねえっつっただろうが!!もう後はねぇ!!」

カンダタ子分A「っ……おい!!皆!“五番目”だ!布を被れ!!」


カンダタ「被ったら一回全員馬を止めろ!!一塊になれ!!」


遊び人「え!?」

勇者「遊び人!布を被るよ!!」ガバッ

遊び人「ちょっと待って勇者ちゃん!なんで止まっ」

勇者「いいから!!」


――――――――


ダカダッ ダカダッ

エジンベア勇者「……お?」



カンダタ一味「「「……」」」



エジンベア勇者「前方に見えてきたねぇ……!」

ポルトガ勇者「奴ら、止まっていますね……?ついに観念して」

エジンベア勇者「……おいおい」

ポルトガ勇者「え?」




?「今だ!!散れぇっ!!!」



「「「応ッッ!!!!」」」


ダッッ!!!!



エジンベア勇者「アレ、どれが賢者様だよぉ……!?」

ポルトガ兵「こ、小賢しい真似をっ!!!!」

ダカダッ ダカダッ!!


勇者「っ……!」


――――――――――


カンダタ『……最後の方法、“五番目”の逃げ道だが』

カンダタ『同じ色の布を被って、一回固まった後……五個の隊に分かれて逃げる』

カンダタ『このガキと賢者の嬢ちゃんとやらは俺とカンダタ子分Aが引き連れる』

カンダタ『残りの奴らはあらゆる方向に逃げ回れ』

カンダタ『いいか、ぜってぇ捕まんじゃねえぞ。逃げ切りやがれ』

カンダタ『逃げ切ったら……アッサラームで身を潜めてろ』

カンダタ『もし……もし一月経ってもアッサラームに姿を現さなかったら……』


『そんときゃ、いねえ奴は死んだもんだと思え』


――――――――――


勇者(絶対……!絶対に逃げ切るっ……!)


カンダタ子分A「……おい」


勇者「えっ?」

カンダタ子分A「嘘だろ、オイオイオイ」

遊び人「……蹄の音が、全然減らない」

勇者「……!?」

クルッ

勇者「…………なんで」



ドドドッ ドドドッ


サマンオサ兵「「「……」」」




勇者(なんで、一人も迷わず僕達を……遊び人を追ってきてるんだよ……ッ!!!?)

カンダタ「……五番目も失敗みてえだなあ」

カンダタ子分A「親分……!」

カンダタ「……」

カンダタ(……――覚悟の決め時か)

今日はおしまいです

カンダタ「おい子分A」

カンダタ子分A「なんすか!」

カンダタ「最終分岐点まであとどんくらいだ」

カンダタ子分A「……」

カンダタ「……オイ、どんんくらいだって聞いてんだ」

カンダタ子分A「……っ、……もう少しで着く」

カンダタ「“あの”煙玉はちゃんと持ってるか」

カンダタ子分A「ああ……三つある」

カンダタ「大丈夫だな……昨日俺が言った事は覚えてるか」

カンダタ子分A「……ああ」

カンダタ「じゃあ、実行だ。しくじんなよ」

カンダタ子分A「…………」

カンダタ「……オイ、返事が聞こえねえぞ」

カンダタ「昨日言った事、実行だ。わかったか」

カンダタ子分A「……はい」

カンダタ「へっ、それでいい」

勇者「二人共さっきから何話してるのさ!走るのに集中しないと――……」

カンダタ子分A「勇者」

勇者「えっ?何!?」

カンダタ子分A「ルート移行だ」

勇者「……え?」

カンダタ子分A「“六番目”だ。六番目のルートに移行するぜ」

勇者「ちょ、ちょっと待ってよ!昨日の話で五番目は決めたけど六番目なんて決めてなかっただろ!?」


カンダタ「おい、勇者」


勇者「だから何――……え」

勇者(カンダタに名前で呼ばれた……?)

カンダタ「お前、こないだ言ってたよなぁ」

勇者「……?何をさ!」

カンダタ「俺が『人を』殺せないって」

勇者「え?」

カンダタ「てめえ、言ってたよな」

勇者「……う、うん。言ったけど……でもあれは挑発として」


カンダタ「三人だ」


カンダタ「俺は、人生で三回、殺しをやった」

勇者「……は?」

カンダタ子分A「……」

カンダタ「……俺は悪党だ」

カンダタ「盗みもやった。騙しもやった。追剥した回数も数えきれねえ」

カンダタ「その悪事を働いた時の事なんざこれっぽっちも覚えてねえ……だがな」

カンダタ「殺しをやった時の、得物の柄の感触と奴らの最後の声は、今でも脳味噌全体にこびり付いてる」

カンダタ「その動機と一緒に、今でも俺の感覚に纏わりついて、離れやしねえ」

カンダタ「……動機は、お前にも分かって貰えるようなくだらねえ事さ」

勇者「……」



―――――――――――

ジャラッ

カンダタ『……これを奴らに見せれば、ちったあ有利になんじゃねえのか』

勇者『!?それっ、国連の勇者の勲章!?三つも!?』

カンダタ『……ガキ。これ、使え』


―――――――――――


勇者「……カンダタ、まさか、お前」


ジャキン!!


勇者・遊び人「「!!?」」


カンダタ「……いいか、勇者」


カンダタ「馬を止めたら殺す。追い戻して来たら殺す」


カンダタ「まっすぐ走りきらなけりゃ殺す」


カンダタ「嬢ちゃんを離したら殺す」


カンダタ「逃げ切らなけりゃ……呪い殺す」

勇者「……待って、待ってよカンダタ」

勇者「お前さっきから何を言ってるんだよ……!早く一緒に――……」


カンダタ子分A「親分!目印が見えた!最後の分岐点だ!」

カンダタ「よっしゃあ、子分A!“あの”煙玉だ!」

カンダタ子分A「おう!!……っだらっしゃあ!!!」

ブンッ!!!!


ボォン!!!!


勇者「うわっ!?」

遊び人(煙玉を上空に!?)


カンダタ(今から通過する分岐点から先は木の葉が濃い。四方八方からの視界を防ぐ事ができらあ)

カンダタ(だが突入前に保険……“さっきから違和感を感じる上方”から姿を隠す為に、粒の軽い色粉末で作った、上に舞い上がりやすい煙幕を上にぶちまける!!)

カンダタ(そして――……!)


ザッ!!


遊び人「!?」

勇者「っ!?カンダタ!!?」



カンダタ(……俺はここで)


奴らを、国連の犬共を迎え撃つ!


勇者「カンダタ!!カンッ……」

ジャキッ!!

勇者「!」

カンダタ子分A「……立ち止まんな!」

カンダタ子分A「さっき親分が言った事忘れたのか!手綱しっかり持ってやがれ!!」

勇者「でっ……でも!」


カンダタ「……」


勇者「……――!」

ゴソッ

勇者「……っ!カンダタ!!!!!」


ブンッ!


カンダタ「あん?……っとと」

パシッ!

カンダタ「…………なんだこりゃあ」


勇者「報酬の“前金”だ!!!!」

勇者「あとは直接手で渡す!!!だからっ」


勇者「だから!!!絶対受け取りに来いよ!!!!!」


勇者「その時まで!ずっと、ずっと待ってるからな!!!」


ドドドッ ドドドッ…

ドド……






カンダタ「……」

カンダタ「……バカか」

カンダタ「バカか、アイツ」

ダカダッ ダカダッ


「おい!こっちでいいのか!?」

「だって前のサマンオサの奴らが――……!!」


エジンベア勇者「どうしたんだい前の衆?」

ダーマ兵「どうやら煙幕を撒かれ、相手を見失ったようです!」

エジンベア勇者「……?ふうん?」

エジンベア勇者(煙幕?確かに上の方が煙っぽくはあるけど、別にさっき目潰しを撒かれた時と大差は無いように感じるけど……)

エジンベア勇者「……ちょっと前の方に行って来るよ。ふっ!」

バシン ヒヒィーン!!

ダカダッ ダカダッ!!

エジンベア勇者(なんか、妙なんだよねホント。サマンオサの人ら……ちょっと嫌なカンジ)

エジンベア勇者「あ、いたいた。ねえねえ君たちー!」

サマンオサ兵「……なんでしょう」

エジンベア勇者「ねえ、賢者様を見失ったってホントに……」

サマンオサ兵「……――!!居たっ!!!!」

エジンベア勇者「え?」



カンダタ「……」



エジンベア勇者「……一人?」

エジンベア勇者(賢者様はどうしたんだ?この先に逃げたのか?)

エジンベア勇者(なんでコイツは逃げない?なんで仁王立ちでこっちを伺って)

エジンベア勇者(あ、やばい、やな予感しかしない)

エジンベア勇者(これ、多分罠だ)

ガバァッ!!

エジンベア勇者「っ……!後方!直進するな!!最後方のヤツは止まるよう伝達しろ!!!」

エジンベア勇者「前方の奴ら!!!進路を至急――……」



カンダタ「おせえよ、カスタコが」



ズッ


サマンオサ兵「「「!!!?」」」


ポルトガ兵「うおぉっ!!?」


ダーマ兵「これはっ……!」




エジンベア勇者(落とし、穴っッ……!!!!!)




カンダタ「定員オーバーだ」


カンダタ「沈んでカスムシみてえにもがけ。ゲロクソ野郎共」



ズドドドドドドドオ!!!!!!


ドドドォッ ドポォ!!


「わあああああ!!!!」

「後方!!止まれ!!押すな!!おすっ うわああああっ!!!!」

「馬がっ!!馬が上にっ」

「な、なんだこれ、沼!!!?沈んでいくっ」


エジンベア勇者「ぶはぁっ!!たはっ」

エジンベア勇者「っ!!毒の、沼……!!?」


カンダタ「けはははは!!!いい眺めだなあ!?」

エジンベア勇者「っ、やってくれたねぇ……!?」

カンダタ「見事に大量にかかってくれたな。統率が取れ過ぎて纏まりすぎちまった隊列っつうのも困ったもんだろ?」

エジンベア勇者「このっ……」

ガシッ!!

エジンベア勇者「ふっ……!く、!」

カンダタ「這い上がろうとしてんのか?無駄無駄だボケ。その沼の毒で手足が痺れちまってるだろ。超即効性だぜその毒」

カンダタ「それに淵には時間が無かったから申し訳程度だが、蝋が塗ってある。ま、諦めな」

エジンベア勇者「ごのっ!くふっ……この、毒沼の落とし穴全部お前が作ったのかい……!?」

カンダタ「全部用意できるかバァーカ。ここにでけえ毒の沼があったから利用させて貰ったのよ」

カンダタ「落とし穴を作るのは俺の十八番だからなァ。使う枝の種類や配置、上の腐葉土や落ち葉の被せ方……全て熟知してる」

カンダタ「人を乗せた馬が大勢一度に乗れば広範囲の枝が耐えられなくなって沈むように全て即席で作るぐらいワケねえさ」

エジンベア勇者「……だいぶ、魔物らしくないねっ……!」

カンダタ「……魔物?」

ポルトガ兵「とぼけるな悪党め!!」

ダーマ兵「あの魔物の男に味方していただろう!!貴様も魔物なのでは」


カンダタ「  あ ?  」


ポルトガ兵・ダーマ兵「「っ……!?」」ゾッ…

カンダタ「あのガキが魔物?魔物だって言いてえのか?てめえら?」

エジンベア勇者「……違うとでも、言いたそうな顔だね?」

カンダタ「……」

カンダタ「くくっ……!ははっ、いや、傑作だね」

ドスン

カンダタ「よっこらせ……と。だが残念だが俺は魔族でもなんでもねえ。ただの人間の悪党さ」

エジンベア勇者「……?だったら何故お前はあの男に味方するんだい?」

カンダタ「……なあ、お前」

エジンベア勇者「え?僕かい?」

カンダタ「その勲章……国連の勇者だよな?」

エジンベア勇者「それがなんの――……」


カンダタ「お前、なんで国連の勇者になった?」

エジンベア勇者「……は?」

カンダタ「……」

エジンベア勇者「……覚えていないし、お前に言うつもりも無いさ」

エジンベア勇者「だから、それが何の関係が――……」

カンダタ「俺はよ」

エジンベア勇者「?」

カンダタ「こっから北の、ちいせえ集落で生まれ育った。ゴロツキや悪党が集まる、クソみてえな集落さ」

エジンベア勇者「お前の身の上話なんて聴きたくないんだよねえ……!!」

カンダタ「まあ聴けよ。どうせそっからは助けがこねえと抜け出せねえんだからよ」

カンダタ「……しかしまあ、そんなクソみてえな所でも、俺にとっちゃ故郷だった」

カンダタ「お袋と、妹や弟達と……中々に楽しくやってた」


カンダタ「だがある日、近所の王国が集落を掃除にやって来た」


エジンベア勇者「……」

カンダタ「……悪党が作った集落だ。邪魔だったんだろうよ」

カンダタ「村の男達は真っ先に殺されて、俺たち女子供は大きく掘られた穴の中に全員集められた」

カンダタ「だが俺は運良く山に遊びに行ってて無事だったんだ……俺だけ」

カンダタ「俺だけ、無事だった」

エジンベア勇者「……」

カンダタ「俺はお袋や弟妹達が入れられた穴を遠くから見て、必死に他の誰かに助けを求めに行ったよ」

カンダタ「そこで……旅をしている奴らに会った」


―――――――――――

―集落近くの道―


『君!どうしたんだ!?』

『足の裏が血まみれじゃないか、満身創痍だし、一体』

カンダタ『はぁっ、はぁっ、に、兄ちゃん達』

カンダタ『助けてっ……!助けて!母さんが!妹達もっ、殺される!』

『何っ!?魔物か!?』

カンダタ『違う!とにかく、すぐそこなんだ!早く来てっ!』

…………

――集落――

タッタッタ

カンダタ『ここだよ!この中で』

某国の騎士『止まれ!』

カンダタ『!』

某国の騎士『貴様ら何者だ!』ジャキッ

『旅の者だ。ロマリア国から魔族を退治する命を受けて旅をしている』

『私はカザーブの認可を受けて旅をしている者です』

某国の騎士『……国認定の旅人の方々でしたか。これは失礼を』チャキッ

『一体、この中で何をされているんですか?』

某国の騎士『ああ、実は』

……

某国の騎士『……――という事です。つまり悪党共を粛清しているのです』

『……』

『……』

某国の騎士『見た所、御二方も戦いに心得があると御見受けしました』

某国の騎士『穴の中で、そして女子供だとはいえ、腕のたつ悪党も少々居りまして……少し手こずっておるのです』

某国の騎士『御二方も、“掃除”を手伝っていただけませんか?』

某国の騎士『御礼は致します。それに……些細なことでも、国同士が手を組んだという事実があれば国間の仲も円滑にいきやすくなるのでは?』

カンダタ『(些細な、こと?)』

カンダタ『ねえ……ねえ兄ちゃんたち!こんな奴いいから早く助けてよ!』

カンダタ『……』

カンダタ『兄ちゃん、たち……?』

――――――――

カンダタ「今でも思い出すぜ」

カンダタ「それまで二人の義憤に強張っていた顔が」

――――――――


『……』

『……』



――――――――

カンダタ「次第に複雑に歪みだす様を」

カンダタ「まだ国同士が戦争の名残でギクシャクしてた時だ」

カンダタ「何かきっかけを作っておきたかったんだろうよ……あれは半分、脅しだった」


―――――――――


カンダタ『……兄ちゃん達……?』


『……悪党の数は?』


カンダタ『!!?』

『御手伝いしましょう』

某国の騎士『おお!かたじけない!』

カンダタ『なんでっ、なんでっ』

『じゃあまずは――……』


ザシュン


カンダタ『……ぱフォっ』


『……この子から』


カンダタ『ぐぁああああああああ!!!!!』

痛い!痛い!痛い!痛い!

顔を斬られた!顔を斬られた!

ガシッ

カンダタ『!?』


『……ごめんよ』


『仕方ないんだ、ごめんよ』


『ごめんよぉ』


カンダタ『っ』ゾゾゾッ


ダッ!!

『あっ!』

カンダタ『ひっ……ひぶっ……!』タッタタ

『逃げたぞっ!何してるんだ!』

某国の騎士『まあ、一匹くらい良いでしょう。さあ、こっちです』


――――――――

タッタッタ

カンダタ『はぁっ!はぁっ!』

斬られた 痛い

痛い、斬られた

カンダタ『はぁっ!はぁっ!』

でも、戻らなきゃ

戻って、皆を助けなきゃ



でも

僕一人で?

どうやって?


怖い


怖いよ


痛いのは、やだ


死ぬのは、やだよ



……
…………


カンダタ「……次の日、集落の場所に行ったら、穴は埋められてた」

カンダタ「掘り返したら、地中深い所からグチャグチャの肉や焼け焦げた肉が出てくるだけだったよ」

カンダタ「お袋の、弟達の、妹の、肉と骨は全部一緒にごちゃ混ぜになってた」


エジンベア勇者「……!」

ダーマ兵「……っ」

ポルトガ勇者「……う」


バサッ…

カンダタ「ほら、この傷がその時カザーブの奴に付けられた傷だ」

カンダタ「この傷だけは、回復呪文なんて使わずに、そのままにしてんだ。忘れねえ為にな」

カンダタ「……この傷を付けた奴と、一緒に居た奴は……しばらく経った後、勇者になってたよ」

カンダタ「国連の勲章を、得意気にぶら下げてな」


エジンベア勇者「……」


カンダタ「……なあ、お前ならどうした?」

カンダタ「お前が騎士に手伝えって言われたら、どうした?」

カンダタ「殺したか?大義名分の下に、悪党どもを殺したか?」

カンダタ「もし、お前が」

カンダタ「もしお前が、俺だったら」

カンダタ「あの時、戻って、皆を助けるために、足掻いたか?」

カンダタ「……なあ」

カンダタ「お袋や、妹や、弟達は、何をしたんだ?」

カンダタ「なんで殺された?悪事を働いてないあいつらが、なんで」

カンダタ「……なあ」

エジンベア勇者「……」

カンダタ「……あいつは」

カンダタ「あのガキなら」


カンダタ「勇者なら、殺さねえ」

カンダタ「勇者なら、逃げねえ」


カンダタ「加護も無いくせに、ツレを守る為に後先考えねえ男だ」

カンダタ「あいつなら、国に逆らっても、殺さねえ」

カンダタ「あいつが俺だったなら、皆を助ける為に、諦めねえ」

カンダタ「……あいつが、魔物?んなわけあるかよ」

カンダタ「お前ら、何やってんだ?」

カンダタ「魔王を倒すのがお前らの仕事じゃなかったのか?」

カンダタ「国に命令されてしっぽ振って、何も考えず“人間”一人追い回して」

ギリィッ!!


カンダタ「てめえらは犬だ!!!!!」

カンダタ「正義もクソもねえ!!!!勇ましくもなんともねえ!!!!!」

カンダタ「死から遠い所で、首輪付けられて尻尾振って肉棒おっ勃てて喜んでる」


カンダタ「犬畜生さ!!!!お前らはよ!!!!!!」



エジンベア勇者「っ……!!!!」

ギギィッ…!!!

エジンベア勇者「僕を、見下すな悪党ォ……!!!!!」




「犬以下が吼えよるじゃん」




ダーマ兵「!!」

ポルトガ兵「あっ!!」

エジンベア勇者「!?」


ヒュン!

カンダタ「!!!」


ガキィン!!!!


ズザァッ…


カンダタ「くっ……!」

カンダタ「……援軍のお出ましか」



ジパング勇者「全く、勇者っちに逃げられたかと思えば」


ジパング勇者「こんなムサい男の御相手とはちょっと滅入るよね」


ワァッ!!


ダーマ兵「ジパング勇者様!!」

ポルトガ兵「お願いします!沼から抜け出せず……!」


ジパング勇者「なんで揃いも揃ってみんなお沼に嵌ってさあ大変状態なんじゃよ……」

ジパング勇者「まあまっとれまっとれ☆すぐに」


ガキィン!!!


カンダタ「……!!」


ジパング勇者「……この犬以下を片付けるからねっ☆」



ガキン!!

シュバッ ズザァッ!!


カンダタ「……」

ジパング勇者「お?彼我の実力差をもう弁えたようじゃね?」

カンダタ(あー……こりゃ、ダメだな)


ジパング勇者「犬以下の癖に少しはできるようじゃの」


カンダタ(……こいつ、強すぎる)

カンダタ(ま、でも)


――――――――――

ドドドッ ドドドッ


勇者「っ……!」

遊び人「……!」


――――――――――


カンダタ(時間は十分に稼げたな)

カンダタ(……ちゃんと守れよ、勇者)

ジパング勇者「さて、どうわらわに立ち向かうつもり?」

ジパング勇者「わらわには隙なんてないよ?」

ジパング勇者「さっきの話聞いた限り、もう落とし穴も、というか罠自体ないんじゃろ」

ジパング勇者「さっさと諦めてくりゃれよ。ムサい男を縊る性癖なんてわらわには――……」


キンッ!!!!


ジパング勇者「!!!?」


バシッ!


ジパング勇者「っ……!これは」

ジパング勇者(1ゴールド金貨……!)


ヒュンッ!!!!


ジパング勇者「!!」


ガキィィン!!!!!


カンダタ「……っ!!!!」グググ…!

ジパング勇者「姑息な手を使いよるじゃん……!!」グググ…!

ヒュンッ!

ガキィン!!ガキィン!!

カンダタ「っ、っ!!」

ジパング勇者「今の、さっき勇者っちに貰った金貨じゃろうっ!?」

ジパング勇者「大切にしなくていいのかえ!?」


カンダタ「やっぱ、さっきの上からの気配、てめえだったか」


ジパング勇者「……」ピタッ

ズザァッ!!

ジパング勇者「……」

ジャキッ



ジパング勇者「お前、もう殺すわ」


ジパング勇者「あの金貨、本当に勿体無い事したのう?」


ジパング勇者「地獄の門番に渡すワイロにでもすればよかったじゃろうに」




カンダタ「地獄の沙汰を渡るのに、金も何も必要あるものかよ」



カンダタ「この身一つあればいい」



ジャキン!!!!



カンダタ「来いよ犬畜生!!!!俺は悪党だ!!!」



カンダタ「大盗賊、カンダタ様だ!!!!」

今日はおしまいです



……
…………


パカラッ パカラッ


勇者「……」

遊び人「……」

カンダタ子分A「……!見ろ、森を抜けるぞ」


――ダーマ北・高台――


パカラッ パカラッ

ズザァッ……


勇者「……追っ手は」

カンダタ子分A「来てねえ……みてえだな」

勇者「……」

カンダタ子分A「おい、こっから先はお前らで行けるか?」

勇者「え?」

カンダタ子分A「依頼だと“逃がす”ってとこまでしか聞いてねえ」

カンダタ子分A「もうお前一人でも大丈夫だろ」

勇者「……子分Aさん、まさか」

カンダタ子分A「……じゃあ、気をつけて逃げろよ」

勇者「ま、待ってよ!!」

ガシッ!

勇者「まさかカンダタの所に……!?」

カンダタ子分A「……離せよ勇者、早く逃げろバカ」

勇者「だ、だったら!だったら僕も行く!!」

カンダタ子分A「……っ!!」

遊び人「勇者ちゃん、何言って……!」

勇者「依頼したのは僕だ!!遊び人は逃がせたんだ!だから――」


カンダタ子分A「ふざけた事言ってんじゃあねえぞカスがぁッ!!!!!!!」


バキィッ!!!!

勇者「ッッ!!!!」

ドシャアッ!!

遊び人「勇者ちゃんっ!!」

カンダタ子分A「親分があそこに止まったのはてめえを逃がすためだ!!てめえと嬢ちゃんを逃がすためだ!!」

カンダタ子分A「そんな事もわかんねえのか!!お前の仕事は嬢ちゃんを守りきる事だろうがよ!!!」

勇者「……っ!!で、も」

カンダタ子分A「親分が選んだんだ!!お前のちっせえクソみてえな八方美人な精神で泥塗んじゃねえ!!!てめえが来ても何にもならねえ!!」

勇者「……」

遊び人「……」

カンダタ子分A「……おい、嬢ちゃん」

遊び人「えっ……はい……?」

カンダタ子分A「勇者と一緒に早く逃げろ。そいつ、やる時はやるのにだいぶヘタレみてえだからよ」

カンダタ子分A「そいつがへこたれそうな時は、尻蹴り上げるなりで渇入れてやってくれや」

遊び人「……はい」

カンダタ子分A「ん、いい女だ」

勇者「……子分Aさん」

カンダタ子分A「……じゃあな勇者」

遊び人「子分Aさん!」

カンダタ子分A「!」

遊び人「…………ありがとう」

遊び人「カンダタにも、伝えておいて」

遊び人「……ありがとう」

カンダタ子分A「……へっ、本当に良い女だ」

ダッ

カンダタ子分A「あばよ!」

パカラッ パカラッ

カラッ ラッ……





勇者「……」

遊び人「……」

勇者「……ごめん、遊び人」

スクッ

勇者「逃げよう……とにかく、ここを」チラッ

ビュゥゥゥ……

勇者「……」

勇者「ここを……離れよう」

遊び人「……うん」


…………
……



……
…………

パカラッ パカラッ


勇者「……」

遊び人「……」


ポツ ポツ

パラ パラ


勇者「……!雨だ」

遊び人「……見て、向こうから黒い雲が来てる」

勇者「早いうちに暗くなりそうだね……一旦、この当たりで休もう」



――ダーマ北・岩山の横穴――


ザッ ザッ


勇者「……ここなら、馬も入りそうだ」

馬「ブルル……」

勇者「ずっと走りっぱなしだったもんね……ありがとう」

ガシャッ

勇者「……遊び人、手枷、見せて」

遊び人「え?でも……」

勇者「それじゃ色々不便だろ?……なんとかしてみる」

ガリッ

勇者「……このっ、くそ、固いな」ガリッ ガツッ

遊び人「勇者ちゃん、私は別に大丈夫だよ!」

遊び人「そんな事より、勇者ちゃん傷だらけじゃない!そっちを先に」

勇者「後でいいよ」

遊び人「……」

勇者「……後でいいんだ」

遊び人「……」

遊び人「……よく、ないよ」

遊び人「ばか……」

勇者「…………うん」



バキィッ!


勇者「っはぁ!……やっと割れた……」

勇者「でも手首から完全に外すのは無理だね……銅の剣じゃ真ん中を割るくらいしか……」

遊び人「……」

勇者「もう時間もだいぶ費やしちゃったね……」

勇者「大丈夫?手、痛まない?」

遊び人「……ううん、大丈夫」

勇者「魔法は?どう?使えそう」

遊び人「……っ」

シーン

遊び人「……ダメ、みたい」

遊び人「この枷自体に魔力瓦解の呪文がかけられてるから、完全に外さないと……」

勇者「じゃあ、帰ったら戦士に頼んでみよっか」

遊び人「……」

勇者「……遊び人?」

遊び人「……」

勇者「遊び人?どうした?やっぱりどこか」


ギュッ……


勇者「って、遊び、人?」

遊び人「……」

勇者「……」

遊び人「……良かった」

遊び人「無事で、良かった」

勇者「……うん」

ギュッ ナデナデ

勇者「遊び人も。無事で良かった」

遊び人「……」

遊び人「……!?」

ガバッ

遊び人「勇者ちゃん、その手っ……!?」

勇者「え?何?」

遊び人「指の爪っ……!全部剥がれてるじゃん!」

勇者「ああ、これは、まあ平気平気。一枚残ってるし」

遊び人「っ……!脱いでっ!!」

勇者「えぇっ!!?遊び人、うわっ!」

バッ!!

遊び人「……!!!!」

遊び人(凄い傷と痣……!!昔からあるヤツじゃなくて、新しい)

遊び人(しかも……)

スッ

ズキン!!

勇者「っ……く!」

遊び人「……五ヶ所」

遊び人「ううん、それ以上……折れてる……!」

勇者「あんまり、触られると痛いかな……」

遊び人「……」

遊び人「ボロボロ、じゃない」

勇者「なんとかなるもんだよ」

遊び人「……バカじゃないの」

勇者「あはは、ひっどいなぁ」

遊び人「……」

勇者「……?……遊び人」

遊び人「……」

遊び人「……っ」

ポロ

遊び人「バカじゃ、ないの」

遊び人「なんで、なんで勇者ちゃんは、そうなの」

遊び人「いっつも、ぼろぼろになって」

ポロポロ

勇者「……」

遊び人「いい、めいわくよ」

遊び人「ゆうしゃちゃんが、こんなふうになるならっ」

遊び人「こんなふうになるならっ……!!」

勇者「……」



――――――――――――



ムオル勇者『俺にしてみれば、それらはただの愚行だ。他人の事を考えたふりをした、極めて利己的な行動だ』

ムオル勇者『全て匹夫の勇だ。下策であり、餓鬼の空想。……それらが偶々上手くいったにすぎない』



――――――――――――


勇者「……」

勇者「……ごめん」

遊び人「っ……!!!」

遊び人「なんでいちいち謝るのっ……!!」

遊び人「勇者ちゃんがそんなんじゃ!!!!わたし、どうすればいいのよっ!!!」

遊び人「私っ……!!わたしっ……!!」

遊び人「賢者の一族の、くせにっ……!!なんの力も無い……!!」

遊び人「迷惑かけて、ばかりでっ……!」

遊び人「なんにも……できないっ……!!」

勇者「……」

勇者「……」

勇者(それは、僕のセリフだ)

勇者(僕は、何ができた?)

勇者(確かに、遊び人を転職から遠ざける事ができた)

勇者(でも、その手助けを頼んだカンダタは……)

勇者(……)

勇者(そして、またこうやって悩む事しかできない)

勇者(結局、僕は)

勇者(自分のために、ウジウジと)

遊び人「っ……っ……!!」

勇者「……遊び人」

勇者「冷えてきた。火を熾そう」

勇者「とりあえず……今を凌ごう」


…………


パチパチ……

遊び人「……」

勇者「……」

遊び人「……勇者ちゃん」

勇者「ん?」

遊び人「さっきは……ごめん」

勇者「……ううん、僕こそ」

遊び人「……」

勇者「……」

勇者「えっと……とりあえず、早朝明るくなる前にここを出ようか」

勇者「多分、その頃には雨も止むと思う」

遊び人「……ん。そだね」

遊び人「でもその後はどうするの……?この先って確か」

勇者「うん。海で行き止まり。だからあと一日経ってからダーマ方面へ戻って、アッサラームに一度落ち着こうと思う」

勇者「そうしたらポルトガに行こう」

遊び人「……一日置くのは、捜索が分散するから?」

勇者「だね。ダーマ付近に戻ってくるとは思わないだろうし、もしそれを読まれたとしても来賓の人達の警護やら誘導やらで人員は割かれてると思うから」

遊び人「……だったらあと一日ここに居れば良いんじゃないの?ここなら見つかる心配も」

勇者「なさそうだけど……ちょっと行っておきたい場所があるんだよ」

遊び人「行っておきたい場所……?」

遊び人「……!……まさか」

勇者「……うん」


勇者「遊び人と、賢者の昔の家」

勇者「“ガルナの塔”」


遊び人「……」

勇者「……駄目かな」

遊び人「……ううん。行きたい」

遊び人「連れて行ってくれる……?勇者ちゃん」

勇者「……うん。行こう」

勇者「そうと決まれば、今日はもう眠ろうか。雨も降ってるし食事は明日の朝に調達しよう」

勇者「寝床、準備するね」

今日はおしまいです



……


ホーホー…


遊び人「……」

勇者「……」


ギュリッ…!


勇者「……っ……!くふっ……!」

勇者(眠れない……)

勇者(骨が痛む。体のあちこちが熱を持ってる)

勇者(内臓が焼けるみたいだ。妙な汗が止まらない)

勇者(一旦体を休めるとダメだな……痛みを完全に自覚しちゃう)

勇者(……くそ、くそくそっ)

勇者(こんなのワケないぞ)

勇者(こんなのワケないぞ、くそ)

勇者(ちくしょう)


ズキィィッ!


勇者「――――!!」

勇者(何かっ……!)

パシッ モグッ

 ガリッ!!

勇者「ふ、ぐ」

勇者(石ころでいい、強く喰いしばる事ができれば)

勇者(とにかく、遊び人を連れて皆と合流するまでは……そして)

勇者(イシス戦士さんにお詫びして、カンダタに報酬を渡すまでは)

勇者(体……もってくれよ)

勇者「……つ、っ……!!」


遊び人「……」

遊び人(背中合わせでも分かる)

遊び人(勇者ちゃんが苦しんでるのも、後悔してるのも)


勇者「……ふぅっ……!」


遊び人(……)

…………


遊び人「……」

モゾッ

遊び人「……」


勇者「……」


遊び人(……やっと眠りについたみたい)

遊び人「……」

スッ

遊び人「……」

ナデ

勇者「……ん……」

遊び人「……傷、深い」ボソッ

勇者「……」

遊び人「……」

勇者「……」

遊び人「……」


遊び人(私には、僧侶みたいに勇者ちゃんの傷を治せない)

遊び人(それどころか、傷付けてばっかりだ。あの時、勇者ちゃんが帰って来た日も。今日も)

遊び人(ねえ、勇者ちゃん……私の事……恨んでる?)


勇者「……」


遊び人(……恨んで、くれないんだろうなあ)

遊び人(いっそ、私を憎んで、恨んでくれたらいいのに)

遊び人(きっと勇者ちゃんは、それも絶対許さないんだろうな)


勇者「……う……」

勇者「…………すぅ……」

遊び人「……」

遊び人(ねえ、私は何ができる?)

遊び人(私はどうすればいいんだろう)

遊び人(貴方のために)

遊び人(どうすれば)


…………
……

チリリリリ……


勇者「……ん」

勇者(眠ってたのか……少し楽になってる)

遊び人「起きたの?勇者ちゃん」

勇者「え?あ、遊び人」ガバ

遊び人「私も今起きたの……まだ日は昇ってないね」

勇者「ああ、そだね。それじゃ出発しようか」

遊び人「うん」


……


パカラッ パカラッ


――ダーマ地方・北部――


勇者「すっかり雨もやんでるね。雨量が多くて降雨時間が短いとは聞いてたけど……」

遊び人「だから明るくなるのも少し遅いの。隠れて行動するにはいいかもね」

勇者「まあね……正直、昨日はああ言ったけどガルナの塔付近にも兵が捜索派遣されてないとは言えないからなあ」

勇者「だから一応保険の為に人が作った道を行くのはよそう。隠れながら進もう」

遊び人「うん」




……


パカラッ パカラッ


勇者「……あの塔かな?少し見えてきた」

遊び人「……!」

勇者「……どう?」

遊び人「うん……だんだん、道も思い出してきた」

遊び人「この景色も、あの塔も……私、昔見た事ある」

勇者「決まりだね。じゃあちょっと急ぐよ掴まってて」

遊び人「うん」

ギュッ…

遊び人「……」


オォォォォオォ…


遊び人(……なんか嫌な雰囲気)

遊び人(ガルナであるお姉ちゃんが死んだから、ルビス様の加護が薄くなってるんだ)

パカラッ… ザッ

勇者「よいしょ……遊び人。手を」

遊び人「大丈夫だよ勇者ちゃん。降りられるよ」

ズザッ

勇者「……着いたね」

遊び人「……うん」



オォォォォォォ…



――ガルナの塔――




馬「ブルル…」

勇者「お前もありがとうね……しばらくこの陰で休んでてくれよ」

馬「ブル…」


遊び人「……」


勇者「……遊び人」

遊び人「……」

勇者「……入ろうか。また雨が降りそうだ」

遊び人「……うん」


――ガルナの塔・内部――


スタ……

勇者「……」キョロキョロ


シーン…


勇者「……ちょっと待ってね」ヒソヒソ

遊び人「?」

勇者「これでいいか……よっと」

ヒュッ


コーン 

コーン…

ーン…






勇者「……」

遊び人(……誰の足音も、衣擦れの音もしない)

勇者「……音が届く範囲には誰も居ないみたいだね。進もう」



……
…………


スタスタ


勇者「……」

遊び人「……」

遊び人(……私が子供の頃と、全然雰囲気が違う)

遊び人(私達が住んでた部屋ってまだ残ってるのかな)


―――――――――


遊び人『おねーちゃんのばかー!』


賢者『何とでも言いなさい』


ガルナ『こらこら、仲良く。ね?』


―――――――――


遊び人「……お爺ちゃん」ボソッ

勇者「え?何?」

遊び人「ん?ごめん、なんでもない」

勇者「……昔を思い出す?」

遊び人「少し、ね」

スタスタ

勇者「……ごめんね」

遊び人「なんで謝るの」

勇者「勝手に行き先決めちゃったからさ」

遊び人「ううん……私も来たかったから」

遊び人(…………あれ?)

ピタッ

勇者「ん?どうした?」

遊び人「……ねえ、勇者ちゃん」

遊び人「なんで勇者ちゃんはここに来たかったの?」

勇者「……」

遊び人「なんで勇者ちゃん、さっきから……塔の順路から外れて、離れに向かってるの?」

遊び人「最初来た人って、大抵騙されるのに」


遊び人「私達の家が離れの階段から行けるの、知ってるみたい」


勇者「……」

遊び人「どうして」

遊び人「私達の家までの道のりを知ってるの?」


勇者「……えっとね……とりあえず進みながら話すよ」

遊び人「……?」


スタスタ


勇者「……実はね、あの時テドンを目指してアリアハンを発った時、賢者はテドンに直接来なかったんだ」

遊び人「え?」

勇者「先に僕をテドンに置いて、どっかに行っちゃったんだ。賢者がテドンに来たのは一週間後くらいだったんだよ」

勇者「その一週間の間に、賢者はここを訪れていたらしい」

遊び人「お姉ちゃんが……?でも、何をしにここに?」

勇者「……」

遊び人「……?」

勇者「…………わからない」

勇者「でも、落日の前日にさ」

勇者「賢者に言われたんだ」

―――――――――――



『この先、もし私に何かあったら』


『私達の昔の家に訪れて欲しいの』


『これからその経路を教えるわ』


『その場所に……あの子に託したいものがある』



――――――――――――


遊び人「託したいもの、って」

勇者「……」

遊び人「……」

ギュッ

遊び人「……昔の私達の家って言ったんだよね」

勇者「うん。賢者はそう言ってた」

遊び人「だったら、案内は任せて。近道も知ってる」

遊び人「ついてきて。勇者ちゃん」


…………
……

――ダーマ・大聖堂――



「結局賢者様は連れ去られたと!?」


「魔族の男も捕らえられなかったとか……」


「なぁにをしているんだ国連の奴らめが!!」


ザワザワ


神官「ああ、本当に大変な事になっちゃったなぁ……」

命名官「騒々しいねえ。帰らせてはくれんかのう……眠いんじゃよね」

神官「ダメに決まってんでしょう!この一大事なんですよ!」

神官「っていうか命名官様、昨日ぐっすり寝てたじゃないですか!私達神官は一睡もできなかったんですよ!」

命名官「年寄りじゃもの。若いのと一緒にせんでおくれよ」

神官「あーもう、やだこの暖簾に腕押しババア」

命名官「あまりにひどいこの小娘」


スタスタ

ザワッ…


神官「!」

命名官「おや、来たようじゃね」



騎士団長「皆さん、静粛にお願いします」


ザッ

騎士団長「えー、神官の方々、ダーマの聖兵の方々ももうお聞きではあると思いますが」

騎士団長「賢者様を奪還する計画は叶いませんでした」


ザワッ


「どうされるおつもりか!!」

「救世主が魔族の手におちたのですよ!!事態は深刻だ!!」

「国連の精鋭達は何をされておられたのです!!」


騎士団長「……ええと、これからのお話なのですが」

「ごまかさないで頂きたい!」

「ダーマは国連へも援助金やその他の支援もしているのです」

「だというのに賢者様をこうも簡単に魔物に明け渡してしまうとは!」

「だからやはり若い先導者はあてにならんのだ!!」

「どう説明されるのですか!!」


騎士団長(……カスの役にもたたない糞袋共が五月蝿いですね)

騎士団長「えー、この度は真に――……」


「あっはっはっはっは!!」


騎士団長「?」

「誰だ?」

「こんな時に笑い?」


命名官「っくっく、あっはっはっ!」


神官「ちょちょちょ、ちょっと命名官様!?」

命名官「悪い悪い、ちょっとおかしくって……くふっ、あははははっ!」

「ああ、ホラ。命名官の婆さんだよ」

「どうしたんだろう、気でもおかしく……」

「笑っている場合ですか命名官様!!一大事なのですよ!!」

命名官「いやあ、悪いねえ。あまりに滑稽だったもんだから」

「は?」

命名官「ぬくぬくと聖堂の中でお祈りしていた坊や達が何を言い出すかと思ったら」

命名官「他力本願に泣き言をぬかすからさ、おかしくておかしくて」

「なっ……!」

「命名官様!何を仰います!」

神官「うっほぉぉぉぉいババァ様なに言ってんですか!!!!上級の神官の方々に向かって!!!!!」ヒソヒソ!!!

命名官「あんたちょっと黙ってな」

「あなたは事の重大さを理解しておられないのだ!!」

命名官「しとるさ、勿論ね」

「でしたら――……」


命名官「だがここでグダグダ言って責任をどうこう空論を捏ねくりまわしている奴らが」

命名官「現地で動く人間達にその問いを投げかけて足を鈍らせておるのが滑稽でね」


「……!」

「なにを、えらそうに」

命名官「そりゃ御互い様だろうよ、いいかい。ダーマの高位神官とあっても、私らは何者でもないんだ」

命名官「せいぜいルビス様と神様の御手伝いをして……お祈りするくらいしか脳は無い。私はマリナン様の手助けだけどね」

命名官「“祈れ、呪うな”……あんたらが急いて事態を悪化させる事のないようにね」

「しかし……このままじゃ賢者様が!」

「賢者様が、新たなる世界の主導者が攫われては我々は」

命名官「くっくっく、さっきあんたらも言ったじゃろうがよ。『若い先導者はあてにならない』ってね」

命名官「あの華奢な細腕にあんたらの世界を預けるのはお止めよ。情けない」

命名官「大賢者の血を引くと言えど、あの子はまだ15の少女だ」


「……」

「……それは」

神官「でっ、でも!!」

「「?」」

命名官「え?」


神官「でも、魔物に連れさられたんですよ!!」

神官「私、賢者様の傍に付いてましたけど……賢者様が命名官様とお会いした時の、あの顔」

神官「本当に、年相応の少女ってカンジで……!」

ギュッ

神官「だ、だったら、余計に救わないと!」

神官「賢者職への転職も叶わずに、魔物に連れ去られてるんでしょう!?15才の女の子が!」

神官「それはそれで問題じゃないですか!私なら怖くてトラウマものです!」

神官「そこは焦りましょうよ、早く助けてあげなきゃじゃないですか!!」

騎士団長「……」

「「「……」」」ポカン

命名官「……」ポカン


神官「……え?えっと……」

神官「あの、私、すみません、なんか出過ぎた事」


命名官「……っぷ、ははっ」

命名官「いや、いいのさ。そうさね。まだ15の少女なんだ」

命名官「……ありがとうね」

神官「へ?へ?」

命名官「で!だ。さっきは何を言いかけてたんだい?騎士団長さん」

騎士団長「は、ああ。ありがとうございます」

騎士団長「賢者様の行方は今も捜索しております。が……一つだけ気がかりな所がありましてね」

「気がかりな所……?」

命名官「……――!」

騎士団長「そこに、予め手をうってあります」

騎士団長「何か報せがありましたら直ぐにこちらへも報告致します。皆さんはしばらくお待ちを」


ザワザワ……


命名官「……ふう、それじゃ私は部屋に戻るとするかね」

神官「あ、はい」

命名官「神官よ」

命名官「さっきはありがとよ、本当に」

神官「?……??」

スタスタ

騎士団長「……命名官様も、ありがとうございました」

命名官「……」

騎士団長「あの場を落ち着かせる為に、あのような事を……何とお礼を申し上げてよいか」

命名官「私はちょっと苛ついただけさ。礼なんてやめてくれるかい」

命名官(寒気で反吐が出る)

騎士団長「いいえ、言わせて下さい誓わせて下さい」



騎士団長「“あなたの励ましには本当に心をうたれました”」


騎士団長「“それに応える為にあの魔族の男は必ず捕まえて然るべき処置を致しましょう”」


騎士団長「“この件に協力した仲間があの盗賊以外にも大勢いるでしょうから”」


騎士団長「“どんな手を使ってもその協力者を割り出して”」


騎士団長「“全員の首をルビス様の祭壇に捧げて見せましょう”」



命名官「……」

騎士団長「……」


命名官「……楽しみにしておくよ」

命名官(腐った目をしているね、クソガキが)


騎士団長「はい。任せておいて下さい」

騎士団長(まだとぼけた目をされますか、死に損ないが)

騎士団長「それに先ほどおっしゃったように、現状……賢者様は職を持たない一人の少女にすぎません」

騎士団長「今のままでは無力に等しい……早急に事をすすめないと」

命名官「あーはいはい、頑張っておくれよ」

スタスタ

命名官「私は戻る。何か進展あったら呼んどくれ」

神官「命名官さま、待って下さいよもう!」

騎士団長「……ふぅ」

騎士団長(さて、私も――……)


ザッ

クルッ

命名官「ああ、そうそう騎士団長さんよ」

騎士団長「?何でしょうか」

命名官「……確かに、あの子は今、なんの力も無い小娘だ」

命名官「だけどね。覚えときな」

命名官「賢者じゃなくても、なんの力が無くても……女ってのは世界を変えちまう時がある」

騎士団長「……何が仰いたいのか」


命名官「存外、その無力な少女が世界を救っちまうかもしんないんじゃぜ」

命名官「乙女をなめんなよ」


スタスタ

命名官「そんだけじゃよ。んじゃ」

神官「本当に何言ってるか分かんないこのババアババア」

命名官「何で二回言ったの……?」


スタスタ……


騎士団長「……」

騎士団長(……老いぼれはこれだから嫌いです)



……
…………


スタスタ

ザッ

勇者「……移動魔法が侵入者を惑わす為に仕掛けられてるとは思わなかったよ」

遊び人「うん?」

勇者「まぁ、それはいいんだけどさ」

遊び人「うん」

勇者「これはどうだろう」



オォォォォオォ…



勇者(綱渡りって……!)

勇者「ちょっとこれ原始的すぎやしないか?」

遊び人「……悪かったね、考え方が原始的すぎて」

勇者「え?」

遊び人「ホラ、いこ。この綱渡らないと上の階段まで辿り着けないよ」

勇者「……まさかこれ考えたのって」

遊び人「原始的な人ですよ」

勇者「あ、遊び人さん……ごめんなさ、あ、おいてかないで……」



…………


スタスタ

勇者「ふっ……く……」

遊び人「大丈夫?体中怪我だらけなんだから無理しちゃ……」

勇者「ん?ごめんごめん大丈夫。それより急がなくちゃ」

遊び人「……辛かったら言ってね」

勇者「ありがとう」

遊び人(……なんか、おかしい)

遊び人(加護が薄まってるのに、魔物が棲みついてる気配が無い)

遊び人(しんと静まりかえってる……)

遊び人(なんか……やな予感がする)

勇者「しかし……ふは……高くて複雑だね。この塔の構造」

遊び人「え?あ、う、うん。そうなの。子供の頃は水汲みが憂鬱だったよ」

勇者「え、水は全部下から汲んで来てたの?」

遊び人「ううん。全部ではないよ」

遊び人「塔の一番上に雨桶を置いてて、簡単な濾過装置を下の階のそれぞれの位置まで伸ばしてたの」

遊び人「雨量も多かったからあまり水には困らなかったけど……たまに日照りの続く時もあったしね。その時は水を汲みに行ってたよ」

勇者「濾過装置?」

遊び人「そ。この辺りの雨の成分を魔力解析して、用途によって数本の装置でわけてたんだ」

勇者「さすが、二人のおじいさんだね。そんなもの作るなんて」

遊び人「んーん。考えたのはお姉ちゃん。作ったのはお爺ちゃんだけど」

勇者「……ここに住んでたのって随分前だよね?」

遊び人「そうだよ。お姉ちゃんも当然子供……本当、お姉ちゃんは昔からなんでもできたから」

遊び人「……いつになっても、適わないなぁ……」

勇者「……」

遊び人「……勇者ちゃん、次ここ右ね」

勇者「あ、うん……」


スタスタ


遊び人「……」

勇者「……」

遊び人「……」

勇者「……」

遊び人「……ねえ、勇者ちゃん」

遊び人「お姉ちゃんが私に渡したかったものって……何かな」

勇者「……ごめん、僕もそこまでは聞いてなくて」

勇者「『直接渡したらダメなの?』って聞いてはみたんだけど、適当にあしらわれちゃった」

遊び人「……」

勇者「……遊び人?」

遊び人「……そっか、そうだね」

遊び人(あんな別れ方だったんだもん。私はきっと受けとらなかっただろうな)

遊び人(それにお姉ちゃんだって、私の事は)

勇者「遊び人」

遊び人「え?何?」

勇者「いや……なんか考え込んでるみたいだったから。大丈夫?」

遊び人「……うん。大丈夫だよ」

勇者「……」

遊び人「……大丈夫」


遊び人(……何を託されても、大丈夫)

遊び人(覚悟はできてる)



―――ガルナの塔・上階―――



スタスタ

ザッ


遊び人「……勇者ちゃん」

勇者「……ここ?」

遊び人「……」コクッ

勇者「…………そっか」



――旧・ガルナの棲家――



勇者「……入るよ」

遊び人「うん」


ガチャッ

ギィィィ……



遊び人「……」

勇者「……」

スタスタ…

ジャリッ


遊び人「……」

スタスタ

遊び人「……埃っぽいね」

勇者「……」

遊び人「あんまり変わってないや……あはは」

遊び人「……本は、お姉ちゃんがアリアハンに持ってちゃってたし何も無いね」

遊び人(そうだね)

遊び人(ここには、もう何も)

遊び人「ねえ、勇者ちゃん」

勇者「ん?」

遊び人「お姉ちゃんは何か言ってた?その、置いた場所とか」

勇者「それが、それすらも教えて貰ってないんだ。『行けば分かる』って」

遊び人「ええ?……お姉ちゃんの事だから、他人に盗られるような場所に置くとは思えないし……」

勇者「もしかして隠してるのかな」

遊び人「……ちょっと探してみる」

勇者「うん。僕も探してみるよ」

遊び人「ありがと」

ガサゴソ

勇者「と言っても……家具くらいしか無いから探すところはあんまり無いね」

遊び人「うーん……」

遊び人(『行けば分かる』?なんでそんな事……)

勇者「ねえ遊び人」

遊び人「え?どうしたの?」

勇者「そこの奥の扉って?」

遊び人「ああ、それ?それはね」

遊び人「……」

スクッ

勇者「遊び人?」

遊び人「……ついて来て」

勇者「?」

スタスタ

ガチャッ ズズ…

遊び人「……よかった。まだ開くみたい」

スタスタ

遊び人「階段になってるから気をつけてね」

勇者「……?」


………



ズ

ズズ

ゴトン


遊び人「えほっ、えほ」

スタ

遊び人「……」

勇者「…………ここって」



――ガルナの塔・空中菜園――



遊び人「……まだ、ちゃんと残ってたんだ」

スタスタ

遊び人「前はここで野菜を作ってたの。ここなら日も差すから」

勇者「じゃあここに……あ」

遊び人「え?」

勇者「あれ……菜園一面に」


サァァァ……


遊び人「……」

勇者「花が咲いてる……」

遊び人「ああ、あれはこの当たりに咲く花だよ。多分種が飛ばされてここに……」

勇者「いや、その花のまんなか」

遊び人「え?」

勇者「あそこだけ、四角に花が咲いてない」

遊び人「……!」

スタスタ

ガサガサ

ザッ

遊び人「……あった」


遊び人は宝箱を見つけた


遊び人「……」チラッ

勇者「……」コクッ

遊び人「……」


ガチャッ


遊び人「……?」

勇者「何があった?」

遊び人「……なにこれ」

ヒョイッ

遊び人「本?」

勇者「何の本かな?」

遊び人「……」

勇者「遊び人?」

遊び人「え、ああ、なんだろね」

遊び人(……託したいものって……本一冊?)

遊び人「……」

パラッ

遊び人「……」

パラッ

遊び人「…………?」



遊び人「…………!!!」



勇者「遊び人、それちょっと見せてもらっても」

バッ!

遊び人「……だめ」

勇者「え?」

遊び人「勇者ちゃんは見ちゃだめ……これ」


オォォオォォ……


遊び人「……“悟りの書”だ」


勇者「悟りの……書?」

遊び人「……そっか、お爺ちゃんを看取る時に託されてたんだ……」

勇者「その、悟りの書っていうのは?」

遊び人「……」

勇者「……遊び人?」

遊び人「…………お爺ちゃんに、そんな本があるって事は聴いてたの」


遊び人「……この世のあらゆる事象・その事象にまつわる全ての事象」

遊び人「その事象を取り巻く全ての事象、それらについて賢者が全魔力を注いで紡いだ文字列の集まり」


遊び人「読んだら脳に全てが流れ込んで来て……賢者として生きる事ができる」


遊び人「…………所謂、“魔書”だよ」


勇者「……!」

遊び人「……信じらんない」


ギュッ…


遊び人「なんなのよ……お姉ちゃんまで」

遊び人「あんなに賢者になりたがってた私を叱ってたのに」

遊び人「賢者として生きようとした私をあんなに縛りつけたくせに……!」


遊び人「今度は、あんたが居なくなったからあんたの代わりをやれって言うの……!!!!?」


ブンッ


遊び人「こんなものっ――……!!!!」


ガシッ!!


遊び人「!」

勇者「……遊び人」

遊び人「勇者ちゃん……」

スッ

勇者「……賢者も、何か考えがあったのかもしれない」

勇者「とにかく、落ち着いて」

遊び人「……っ」

スッ

遊び人「…………うん」

勇者「……立てる?」

遊び人「……うん」

勇者「行こう。遊び人」

勇者「アッサラームに移動して、少し休もう」

勇者「多分二人とも、色々ありすぎて混乱してる」

遊び人「……そう、だね」

勇者「……行こう」

遊び人「うん……うん」

遊び人「行くよ。行こう」

遊び人「立てる、立てるよ……だけど」

遊び人「……――少しだけ、待ってね……」

勇者「……」





……
…………


スタスタ


勇者「……」

遊び人「……」

勇者「他に見ておきたい場所とかは」

遊び人「ううん、大丈夫」

勇者「……そっか」

勇者(……すごく落ち込んでる)

勇者(賢者……本当に遊び人を賢者にするためだけにこれを託そうとしたの?)

勇者(そうだとしたら……いくらなんでも)

勇者(……いや)

勇者(僕には、何にも言う資格は無い)

スタスタ

遊び人(……お姉ちゃん)

遊び人(覚悟はできてるつもりだったけど……想像以上に辛いよ、こんなの)


―――――――――――



賢者『貴方は、本当に愚かね』



―――――――――――


遊び人(……結局私はお姉ちゃんの決めたものにしかなれないの?)


――ガルナの塔・高層――


スタスタ

ザッ


勇者「遊び人。ほら、また綱だよ。足元気をつけてね」

遊び人「……」

勇者「遊び人!」

遊び人「あっ、ごめんなさい。大丈夫だよ勇者ちゃん」

勇者「……僕が先に行くよ。本当に気をつけてね?」

グッ

勇者「よっ……と」

勇者(綱自体は太いから、慣れればなんて事無いな)

勇者(……まあ)チラッ


遊び人「……」


勇者(今の遊び人だとそれでもちょっと怖いけど)

オォォォォオ…


勇者(……落ちたら流石に死ぬな……あ、でも)

勇者(そういえば、ここも監視者の塔なんだよね。それなら遊び人なら転落しても傷は負わないのか。そこは安心だ)

勇者(……しかし、本当にルビス様の御加護残ってるのかなぁ)

勇者(嫌な雰囲気しかしないし、人っ子一人)

ピタ


勇者「……」


遊び人「……勇者ちゃん?」

勇者「あ、ごめんごめん」


勇者(……人っ子一人、居ない)


勇者(魔物も、生き物も)


勇者(なんでだ?シャンパーニの塔もナジミの塔も両方とも魔物が棲みついてたのに)


勇者(なんで僕らはさっきから何にも遭遇しないんだ?)


勇者「……遊び人」

遊び人「なに?」

勇者「早く行こう、何か嫌な予感がしてき」




「はい、ストップ」




勇者・遊び人「「!!!!?」」

ザッ ザッ…

勇者「なっ、な」

勇者(誰だ……!?前方の綱の終着点の方から声が)

勇者(床の向こう側が影になってて見えない……!!くそっ!!)

勇者「遊び人!!後ろだ!!気をつけて後ろに戻って!!」

遊び人「う、うん!!!」

ザッ

「まあまあお待ちなさいな」

勇者「!?」

ブツブツ

勇者(何かを呟いて……これは、詠唱!?)


「ヒャド」


パリィィィン!!!!


勇者「!!!!」

遊び人「!!」

勇者(僕らが来た、縄の出発点に……氷の柱が……!!)

遊び人「勇者ちゃん!ダメ!逃げられない!」


「逃がすつもりは無いんですのよ」


勇者「……!」

勇者(縄の上で……対峙とか……どんだけ最悪な状況なんだよっ……!!)

遊び人「勇者ちゃん……!」

勇者「遊び人……掴まってて……!!」


スタ… スタ…


勇者(来る……!)


スタ…


ギッ……


遊び人「……!!!」

勇者「…………あなたは」



ギシッ



ランシール勇者「今度こそ、ゆっくりとお話させて頂きたいですわね」


ランシール勇者「……教えて貰いますわよ。“真実”を」


今日はおしまいです

勇者「ランシールの……!」

ランシール勇者「あら、覚えて下さってたんですわね?」

ギシッ

ランシール勇者「ずっとこの機会を待っていたんですの」

勇者「……こ、こないで下さい!」

ランシール勇者「前に二人でお話した時にはちゃんと確信がありませんでしたしね」

ランシール勇者「……さ、お話しましょうか」ニコ…

遊び人「あんた、あんた達!私達を待ち伏せしてたの!?」

ランシール勇者「達?違いますわね」

遊び人「え?」

ランシール勇者「ここにわたくしが居るのは騎士団長をはじめ、国連の連中には伝えていませんわ」

勇者「じゃ、じゃあ……」

ランシール勇者「わたくしは貴方とお話がしたいだけですので……ねえ?勇者さん」

勇者・遊び人「「……!?」」

遊び人(私を連れ戻しに来たワケじゃ……ないの?)

勇者「……話なら、いくらでもしますよ」

勇者「だから、もうちょっと穏便に別の場所でやりませんかね」

ランシール勇者「……穏便ね。まあそれもよろしいんですが」


ジャキン


ランシール勇者「…………内容次第じゃ貴方を殺さなくてはなりませんのよ」



勇者・遊び人「「っ……!」」ゾッ

ジリッ

勇者「……遊び人」ボソッ

遊び人「!」

勇者「遊び人はここから飛び降りるんだ。ルビス様の加護があるから平気だと思う」ボソボソ

遊び人「でも!勇者ちゃんは」ボソ

勇者「僕もすぐに行く。でもまずは遊び人が逃げて」

遊び人「すぐ行くって……!勇者ちゃんは加護が――」

勇者「……ごめんっ!」


ドンッ


遊び人「!!!?」


ランシール勇者「!」

ランシール勇者(賢者様だけ突き落とした……!?)


ヒュウゥゥゥ…


ランシール勇者「……なんのマネですの」

勇者「……」

勇者(ごめん遊び人……!)


バッ!


ランシール勇者「!」

ランシール勇者(逃げるつもりなのね……!!)


勇者(加護がなくても、足から落ちればなんとか……!!)

勇者(僕もすぐに――!!)

ランシール勇者「ヒャド!!!」


バキバキバキィ!!

ピシッ!!


勇者「っがあっ!!?」グンッ

ランシール勇者「ふふ、逃がしはしませんわ」

勇者「っく!」

勇者(氷で綱と腕を繋がれた……!)

ランシール勇者「……逃げるほどに、やましい事がおありですの?」スッ


ギュリィッ


勇者「!!!……がぁぁっ!!!」


ランシール勇者「ふふ、爪を剥がされた手を踏みつけられる心地はいかが?」

ランシール勇者「これで正直にお話する気にもなりませんか?」

パッ

勇者「く、ふっ……!」

勇者「……何を、聞きたいんですか」

ランシール勇者「落日の七日間の初日に起こった事です」

勇者「……」

ランシール勇者「……アレを手引きしたのは、貴方ですの?」

勇者「……違う」

ランシール勇者「……じゃあお聴きしますが」


ランシール勇者「なぜ貴方だけ無事だったのかしら?」


勇者「……」

ランシール勇者「……」

ランシール勇者「…………貴方」


ランシール勇者「本当に、人間なんですの?」

勇者「……」

勇者「……」

勇者「……僕は」

勇者「僕は、僕がなんなのか、わからない」

ランシール勇者「……」

勇者「僕は」


勇者「僕が、人間なのか、魔物なのか」


勇者「自分でも分からないんだ」


勇者「でも、これは、これだけはなんとなく分かる」




勇者「落日の七日間の、原因は僕だ」




ランシール勇者「……」

勇者「……」

ランシール勇者「……」

ランシール勇者(なんですのその目)

ランシール勇者(なんで、そんな哀しい目を、原因かもしれないの貴方が)

ランシール勇者「……」

勇者「……」

ランシール勇者「……じゃあ、次の質問。これだけは真実をお話して下さいな」


ジャキン


ランシール勇者「……あの場に居た賢者を」

ランシール勇者「貴方は知っていたんですの?」

ランシール勇者「ガルナ様以外の賢者様を」

勇者「……」

ランシール勇者「……?」

勇者「……」

ランシール勇者「……なぜ答えないんですの」

ランシール勇者「答えなさい」

勇者「……もしかして」

ランシール勇者「…………答えなさいと言って――……!!」



勇者「もしかして……おばさんの一番弟子?」



ランシール勇者「……え?」


勇者「……右耳にピアスをしてた、あのおばさん」

勇者「星座に詳しくて、天体とか、植物の種類とか、色々教えてくれて、子供が大好きで」

勇者「……頬に大きな傷がある……優しい、おばさん……」

勇者「あのおばさんが、言ってたんだ……」


勇者「『かわいい一番弟子が、口調を真似するから、困ってるんですの』って……」


ランシール勇者「……」

チャキ…


ランシール勇者「……お師匠様」


ランシール勇者「…………アープ様」



勇者「……あのおばさんが……アープ様だったんだ」

勇者「……さっきの質問だけど……微妙な答えになっちゃう」

勇者「僕はついこの間まで、あの人達が四賢者の人達だって知らなかったんだ」

勇者「……偉い賢者だって事は、聞いてたんだけどね……ちょっと前までは四賢者自体知らなかったし」

ランシール勇者「……」

勇者「ちょっと前に、イシスの近くでシャンパーニ様のお弟子さんと会う事があって」

勇者「その時に、あそこに居たのが四賢者のうちの三人だったって知ったんだ」

勇者「……そして、そこで僕の中で全て合点がいったんだよ」


勇者「あそこには、あの時四賢者のうち三人が集まっていた」


勇者「だから、奴らが攻めてきたんだ……って」


ランシール勇者「……」

勇者「……そっか」

勇者「おばさんが、アープ様だったんだ……」

勇者「…………名前を、知れて良かった」

ランシール勇者「……」

ランシール勇者(……優しい目)


スッ


ランシール勇者「……手、掴まって下さいな」

勇者「え?……わわ」ギュッ


パリィン


勇者「……氷が粉々に」

ランシール勇者「この魔力操作も、アープ様に教えて貰ったんですの」

ランシール勇者「私の、全てのような先生でしたわ」

勇者「……」

スタッ

ランシール勇者「ふう、立てますの?」スッ

勇者「え、あ、はい……」

ランシール勇者「……手荒いマネをして、申し訳ありませんでしたわ」

ジャキッ チャキン

ランシール勇者「……わたくしはガルナの塔ではガルナ様の末裔も、貴方も見ておりません」

ランシール勇者「そういう事にしておきます。これで勘弁してくださいな」

勇者「え!?」

ランシール勇者「なんです?不満がおありですの?」

勇者「いえ、あの……なんで」

ランシール勇者「…………アープ様に色々教わったんでしょう?」

ランシール勇者「あの方は、認めた者にしか物事を教えませんの」

ランシール勇者「つまり、貴方は無害という事です。貴方が魔物に与する者なら、そうはいきませんもの」


ランシール勇者「……アープ様を殺したのは、貴方じゃ無い事は分かりました」


勇者「……ずっと、その魔物を探してたの?」

ランシール勇者「ええ。あの日からずーっとね」

ランシール勇者「でも、それは貴方も同じではないんですの?」

勇者「……」

ランシール勇者「……まあ貴方がアープ様の仇ではないのは……なんとなく想像していましたしね」

勇者「……うん」

ランシール勇者「さ、早く行かないと下でガルナの末裔……いえ、遊び人さんが心配していますわね」

ランシール勇者「行ってあげて下さいな……と言いたいところですが」

ランシール勇者「最後の質問……これだけ聴かせていただけるかしら」



ランシール勇者「アープ様を殺したのは。どこのどいつですの」



勇者「……」

ランシール勇者「……」

勇者「……」

勇者「……話すよ」

勇者「…………あれは」





「あはははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」





勇者・ランシール勇者「「!!?」」


スタスタ


「なーんかランシールのクソ餓鬼が怪しい動きをしておると思っておったんじゃよねー!!!」


「黙って聴いておればなーに勇者っちを見逃す流れにしよんのー????」


ランシール勇者「……っ!!!!」

勇者「なっ……!!」

ランシール勇者(嘘っ、なんでですの!?)

ランシール勇者(塔内には全く、他の誰かの気配なんて無かった筈!!!)


スタスタ


「魔物がなんじゃの?勇者っちが魔物じゃない証拠なんてあるのー?」


「だって勇者っち」



ヒュンッ!!!!


ガシッ!!!!



勇者「えっ」


勇者(え、なんだ)

勇者(この人、さっきまであの床の場所に)

勇者(なんで一瞬で綱の上にいる僕の)

勇者(頭を)

勇者(掴んで)


グイッ




勇者(落ちる)




「ルビス様の御加護無いンじゃろ?」




ランシール勇者「勇者さんっッ!!!!!!!!」







ドシャァッ!!!!!!!!!!!!





勇者「ッっっっtltttttttttt!!!!!!!!!!!!」



ジパング勇者「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ジパング勇者「頭が!!!!!割れておるよ!!!!!!あっはっはっはっはっはっは!!!!!」


ジパング勇者「ルビス様の御加護が無いから!!!!!!!」


ジパング勇者「ルビス様の御加護が無いから!!!!!!!」



ジパング勇者「ルビス様の御加護が無いから!!!!!!!」





ジパング勇者「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



今日はおしまいです

>>546

×ポルトガ勇者「……う」

○ポルトガ兵「……う」

ランシール勇者「くっ……!!」タッ


ヒュゥゥゥ

スタァッ!!


ランシール勇者「勇者さん!!……!?」



ズラァッ


サマンオサ兵「「「「……」」」」


ランシール勇者「なっ……!!?」

ランシール勇者(なんですのこの兵の数は……!?)


ジパング勇者「お?降りてきたねランシールの小娘」


遊び人「んーっ!!!!ん――――!!!!」


ジパング勇者「ったく、うるさいんじゃよね。賢者様とやら。そのまま口塞いでおくんじゃよ」

サマンオサ兵「はっ」


ランシール勇者「遊び人さん!!……ジパング勇者さん!正気ですの!?」

ジパング勇者「んー?なにがー?」

ランシール勇者「遊び人さんは賢者様の末裔ですのよ!?こんな手荒な真似!!それに勇者さんも……勇者さんッ!!」


勇者「あ、かっ……あ」ガクガク


ジパング勇者「おー?こんな高所から叩き落してもまだ辛うじて生きておるね」

ジパング勇者「ルビス様の加護が無くてこれって、やっぱりこいつ魔物なんじゃないのー?あはは☆」

遊び人「んっ!!んーっ!!!」

バッ

遊び人「ぷはっ!!っ!!!勇者ちゃん!!!!勇者ちゃあん!!!!!」

ジパング勇者「あ、もー。ちゃんと抑えとれって」

遊び人「離して!!はなしっ……て!!!離せぇっ!!!」

遊び人「おねがいっ!!!!勇者ちゃっ、勇者ちゃんが死んじゃう!!!!!」

ジパング勇者「あははは!賢者様が魔物の心配?おっかしーなー?」

ガッ

勇者「っ」

ジパング勇者「わらわは当然の事……魔物退治をしよるだけなんじゃけどねー?ね?勇者っち」

グリグリ

遊び人「勇者ちゃんから足をどけてぇっっ!!!!!!」

ランシール勇者「ジパング勇者さんっ!!!!」

ジャキッ!!

ランシール勇者「!?」

サマンオサ兵「……動くな」

ランシール勇者「……なんのマネですの……!!わたくしは国連の勇者ですのよ!!それに向かって」

ジパング勇者「いや、もう多分おぬし国連の勇者じゃなくなるし」

ランシール勇者「……!!」

ジパング勇者「ねー?だって魔物である勇者っちを一度見逃そうとしとるんじゃもの」

ジパング勇者「騎士団長の命で今朝っぱらから潜んでおったけど、おぬしが入ってきた時はちょっと笑っちゃったよ☆」

ランシール勇者「……!!?という事は、ずっと気配を殺して……!?」

ランシール勇者(あり得ませんわ……!!これほどの兵士達をどこに……!!?)

ジパング勇者「この件は騎士団長に報告させてもらうかんねっ☆……しかし、おぬしまでこんな」


ギュリィッ


勇者「ぐ……ぁ」


ジパング勇者「こーんな雑魚助に惑わされよるなんてねえ」

遊び人「やめてぇっ!!!!!!!」

サマンオサ兵「お静かに」

ジパング勇者「うるさいんじゃって。本当に勇者っち殺しちゃうよ?」

遊び人「はぁっ……!はぁっ……!」

遊び人「……お願い、お願いしますっ」

遊び人「なんでも、なんでもします、おねがいっ……!!」

ポロポロ

遊び人「勇者ちゃんは……勇者ちゃんは、ころさないでっ……!!」

ジパング勇者「はぁー……ホントわからないなぁ。なんでこんな情けないうんこに皆肩入れするんじゃよ」

ジパング勇者「心配せんでも落とす時に衝撃を調整したから大丈夫大丈夫。死にはせんと思うよ」

ジパング勇者「ま。額の皮がずるりと剥けておるし、これ多分後遺症残るんじゃないかなーとは思うけどね☆あははっ」


ザッザッザッ


ジパング勇者「お、ちゃんと突入の合図も見えたみたいじゃね」

遊び人「!?」

ランシール勇者「え……!?」


ザッザッザ!!

ズザァッ!!


ランシール勇者「まさか……」



ダーマ兵「「「「「……」」」」」

サマンオサ兵「「「「「……」」」」」

エジンベア兵「「「「「……」」」」」


ランシール勇者「外にも待機していたんですの……!?」

ランシール勇者(それに、エジンベア兵まで……という事は)


スタスタ

エジンベア勇者「……」


ランシール勇者「……エジンベア勇者……!!」

ジパング勇者「やーやー、来たねエジンベアの小僧!」

エジンベア勇者「全く……外でずっと待機させられるとは思わなかったよ……で?目的は?」

ジパング勇者「うん。達成したよ。ホレ、これ」


勇者「あっ、く」


エジンベア勇者「……」

ジパング勇者「くふふー。ほんとボロボロじゃよ。これ連れて帰る意味ある?」

エジンベア勇者「騎士団長が連れて帰って来いっていうんだからあるんでしょうよ……どうするんだい?これ、もう死にそうだよ?」

ジパング勇者「まー……すぐに連れて帰って手当てすれば死にゃしないじゃろうよ」

エジンベア勇者「……まあどうでもいいけどね。これはキミの手柄だし」

クルッ

エジンベア勇者「……ランシール勇者」

ランシール勇者「…………」

エジンベア勇者「どこに行ったかと思ったら……全く、こんな所に一人で来ているなんてねぇ」

ジパング勇者「勇者っちに色々聴いて、見逃すつもりだったみたいじゃよ」

エジンベア勇者「……はあ……なんでまた、命令も無視してこんなくだらない事」

ランシール勇者「くだらない事?」

エジンベア勇者「うん?」

ランシール勇者「わたくしに言わせれば、あなた方こそくだらないんですわよ」

ランシール勇者「知る事をしようとしない……あなた方こそね……!」

エジンベア勇者「……まったく、どうしちゃったんだい?キミらしくもない。スー勇者も心配してたよ?」

エジンベア勇者「スー勇者を安心させる為にも早く引き上げ……の前に、ジパング勇者?」

ジパング勇者「ん?なになに」


エジンベア勇者「“もう一つの目的”は?」


ランシール勇者「……?」

ジパング勇者「あー、忘れておった」

スタスタ

ジパング勇者「ねーねー姫君姫君ー」

遊び人「なにっ……なによっ……!!早く、早く勇者ちゃんを」ポロポロ

ジパング勇者「あー、それは分かっとるんじゃけどね?姫君さー」




ジパング勇者「なんか、手に入れたじゃろ?」


遊び人「…………!!?」




ジパング勇者「……へへ☆」

スッ

ジパング勇者「それ?くれるじゃろ?ね?」


ニコォ


ジパング勇者「ちょうだいよ」



遊び人「……あ」


遊び人(私、バカだ)

遊び人(こうなる事くらい予測できたじゃない)

遊び人(多分、国連は“悟りの書”の存在をどこかで聞いてたんだ)

遊び人(その上で、私は泳がされてた)

遊び人(騎士団長は、多分、アリアハンの私とお姉ちゃんの部屋や、私達が掴まった後の荷物を調べた上で……)

遊び人(お姉ちゃんが私にそれを託した事を踏んでて……勇者ちゃんと私を泳がせたんだ)


ジパング勇者「ん?どうしたんじゃよ?」


遊び人(渡したら、どうなる)

遊び人(……新しい賢者が生まれる。賢者の血族でもない人間が賢者になれる)

遊び人(また落日の憂き目が)

ジパング勇者「……ねぇねぇ、わらわってそんなに気が長くないんじゃよ?」


遊び人(……お姉ちゃん、お姉ちゃんは保険の為にこの悟りの書を私に託したのかもしれない)

遊び人(賢者の血を絶やさないようにって。私に才能がなければこれで誰かを賢者にするようにって)

遊び人(でも……それは間違いだったよ)

遊び人(お姉ちゃんの計算違いだよ)



ジパング勇者「……早く」


遊び人「……」



遊び人(だってお姉ちゃんは……お姉ちゃん達は)

遊び人(その賢者って職業に、その名前に、殺されたんだから)



ゴソッ


ジパング勇者「お?」

スッ

遊び人「……」

ジパング勇者「……ふふ、素直でいい子じゃよ☆」


遊び人「……」


遊び人(ごめん、お姉ちゃん)


遊び人(ごめん……勇者ちゃん)

「や、め……ろ」


遊び人「!!」

ジパング勇者「……」ピタ

クルッ

ジパング勇者「……んー?」



勇者「や……め…………ろ」



ランシール勇者「勇者さん!」

エジンベア勇者「……!」

遊び人「勇者ちゃんっ!喋っちゃだめ!!」


ジパング勇者「ほぉー!?ほうほうほう!?」


スタスタ

ジパング勇者「これは面白いねー。こんな状態でまだたてつくつもりなんじゃね!」

ジパング勇者「そんなに大事なモノなんじゃねー?アレ」

ジパング勇者「それとも……姫君の方が大事なんじゃろうかね?」


勇者「っ……う、く」


グ


ジパング勇者「!!」


ランシール勇者「!」

エジンベア勇者(……おいおいオイオイ)


遊び人「勇者ちゃん……!!だめ、やめて」


勇者「ぎっ!!!!……………がぁっ…………!!!!!」


遊び人「立ち上がろうとしないで勇者ちゃん!!!」

ジパング勇者「あっはっはっはっはっは!!」

ジパング勇者「そんな状態で立とうとするなんて、あはははははっ!!!!」


ダーマ兵「っ……!!正気じゃない……!」

エジンベア兵「見ろよ……額がパックリ割れちまってるぜ」


エジンベア勇者「イカレちまってるねぇ……」

ランシール勇者「……」


スタスタ

ジパング勇者「勇者っち、面白いねぇ!どっかの文献で読んだ亡霊みたいじゃ!」

ジパング勇者「もっとも、本当に落日の七日間からの亡霊みたいなもんなんじゃろうかね?」


ザッ


勇者「はぁっ……はぁっ……!!」

ジパング勇者「でも肘で体支えるくらいが限度みたいじゃねぇ」

ジパング勇者「しかしよぉく頑張りました!!そんな勇者っちにご褒美をあげましょー☆」


勇者「はぁっ……あ、く……」


チャリン



勇者「……」


勇者「……」


勇者「……」

ジパング勇者「おやー?この真っ赤な金貨、なんじゃろうね?」

ジパング勇者「勇者っちわかるかなぁー?」


勇者「……」


ジパング勇者「うーん、難しすぎたじゃろうか?」

ジパング勇者「じゃあヒントもあげましょー☆」ポイッ



ボトッ


ボトッ




勇者「…………」




ジパング勇者「……さーて、ヒントじゃよ」





勇者「………………」





ジパング勇者「この切り落とされた耳と鼻……………………誰のじゃろね?」



今日はおしまいです

遊び人「……まさか」



勇者「……」

勇者「…………」

勇者「………………」



ジパング勇者「あれあれ、なんて言ったっけ?あの盗賊のムサい男」

ジパング勇者「アイツを痛めつけておったらさー。なんかまたいっぱい戻ってきおってさ」


ジパング勇者「邪魔じゃったから、殺しちゃった」


勇者「……」


ジパング勇者「全員の首、刎ねて、腹を開いて」


ジパング勇者「魔物じゃないか調べた後に、鼻と耳を削いで」


ジパング勇者「今頃ダーマのルビス様の祭壇に首と、それから皮を剥がされた胴体が並んでおるよ」


ジパング勇者「……この金貨、前金じゃったっけ?」


ジパング勇者「ぶはっ……!くふふふっ!!!……前金じゃなくなっちゃったね!」



ジパング勇者「あの雑魚ども、この金貨一枚の為に死んでいったよ!」



ジパング勇者「お前がこの金貨一枚で、奴らを死に追いやったんじゃよ!!」



ジパング勇者「あはははははっ、あはははははははははははははは!!!!!!!!!!!!」

遊び人「うあ」

ガクッ

遊び人「うあっ……!うあぁぁぁっ……!」ポロポロ


ランシール勇者「……!!ゲスがっ……!!」


エジンベア勇者「…………悪趣味が過ぎるのが多いねぇ。国連ってのは」


勇者「……」


勇者「……あ」


勇者「…………あー」


勇者「あー……っ……あー……」


勇者「あー……あ――――――――」


勇者「あ――――――、あ――――――――」



ジパング勇者「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!!!!!!!!!」



勇者「あ―――――――――――――――――――――――――――っ」



―――アリアハン城・城門前―――



ワーワー


「早く勇者の件について説明しろ!!」

「だから早く勇者母さんか王を出せって――……」

ザワッ

「おい、誰か出てきたぞ」

「あれは――……!」


スタスタ


女勇者「……」


「女勇者様……!」

「女勇者様だ」

「今までどこに……!」


ザッ


女勇者「皆さん!静粛にお願いします!!」


「静粛にったってよぉ、女勇者様!」

「お前の義理の兄弟についてどう説明してくれるんだよ!」

「勇者母さんも貴方も、魔物の仲間だったんじゃないでしょうね……?」

「アリアハンに安心して住めなくなっちまうんだよ!!説明くらいしてくれ!!」


女勇者「……」

ギリッ…

女勇者「……その件なんですが……今しがた国連から情報が入りました」

「何ッ!?」

「どんな!?」

女勇者「……あの男が」

女勇者「勇者が……」


女勇者「…………っ」


女勇者「……“あの男”が」


―――――――――――――


勇者『ねえ、女勇者』


勇者『僕、ときどきおもうんだよ』


勇者『まものだーって……いわれたとき』


勇者『ときどき……おもうんだよ』



―――――――――――――


女勇者「……」

女勇者「……私達を……アリアハンの国民を」

女勇者「“オルテガ一家”を」

女勇者「…………騙していたと」

女勇者「…………」

女勇者「自供したって」


―――――――――――――



勇者『ほんとうにまものだったら』


勇者『ぼくが本物のまものだったら』


勇者『どんなにいいかって』



―――――――――――――


女勇者「……報告が、ありました」


―――――――――――――



勇者『もし、ぼくがほんとうにまものだったら』



勇者「あ―――――っ」


勇者「あ――っ、あ――――っ」


勇者「あ―――――――――――――――――っ」


ジパング勇者「きっ……ひひひひひひひひひっ、くふっ、いぎひっひひひひひ!!!」

ジパング勇者「見てみりゃれよ!!!このザマを!!!!なあ!!!エジンベア勇者!ランシールの小娘!!」

ジパング勇者「姫君!!姫君もみてみりゃれって!!」

ジパング勇者「壊れてしまったよ!!!壊れてしまったよ!!!!!」

ジパング勇者「このおもちゃ、壊れたんじゃよ!!!!!あはっはっはははははははは!!!!!!!!」


遊び人「勇者……ちゃん」ポロポロ


ジパング勇者「立つ事もできず、寝たまんま奇声発しておる!!!!あははははははは!!!!!!!!」


ランシール勇者「このっ……!!」ギリッ

ジャキィッ!!

ランシール勇者「!!」ピタ!

サマンオサ兵「……」


エジンベア勇者「……ジパング勇者。そんなのどうでもいいからさぁ、早く戻らないかい?」

エジンベア勇者「あの騎士団長にまた小言言われるよぉ?」


ジパング勇者「はははふっ、ふぃーっ、ひー、おかしい」

ジパング勇者「そうじゃね。それじゃそろそろ行くかね」

ジパング勇者(の、前にトドメさしてやろ☆)


スッ


ボソッ


ジパング勇者「……もうさ、お主がこうやっていらん抵抗重ねおるからさ」

ジパング勇者「わらわたちも心中穏やかじゃないんじゃよね」

ジパング勇者「もう目的は……悟りの書は手に入れたからさ」





ジパング勇者「あの女どもも、そこの姫君も。首刎ねて、腹を暴いて、性器切り開いて。」


ジパング勇者「アリアハンの街に掲げる事にしよっか?」

勇者「………………」



勇者「あっ」


勇者「あああああああ」


勇者「あああああああああ」


ジパング勇者「あはははっ!!!!あはははははははは!!!!!!!!」

ジパング勇者(まーた壊れた!!まーた壊れよったこの塵芥!!!!!)



勇者「ああああああああああああああ」


勇者「あああああああああああああああああああああ」



勇者「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」




なんでだ?




勇者「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」




ぼくがなにをした?



ぼくがいったいなにをした?



どんなわるいことをした?



なんでぼくに


なんで




なんで

ジパング勇者「それじゃ!!みんな撤収じゃよ!!」


遊び人「はなしてっ!!はなしてぇっ」ギリィ!

遊び人「勇者ちゃん!!!勇者ちゃぁぁん!!!」

サマンオサ兵「大人しくなさって下さい」

エジンベア兵「すぐにダーマまでお連れ致しますので!」



なんで、ぼくは、ただ


ただ、とうさんみたいに



とうさんみたいに……みんなを


みんなをまもりたいと、おもってるだけなのに



ランシール勇者「くっ!!」

エジンベア勇者「……悪いが、ちょっと手荒に連行させてもらうよ、ランシール勇者」




みんなを、みんなをまもりたいのに


なんで、じゃまを



みんなみんな



みんな




みんなまもりたい

のに


なんで





なんで





ジパング勇者「まずダーマ兵が先に!続いてわらわたちがこやつらや姫君を連行するからその後に――……」




なんで





















なんで




こんなやつらまで




まもらなきゃならないんだ?









めんどくさいな













































ころしてやりたい

































ごりゅ







ジパング勇者「じゃからまずは……ん?」

クルッ

ジパング勇者(なんじゃ今の音)

ジパング勇者「……」



勇者「……おふ」


勇者「おえ」


勇者「おえええっ」




カラン




ジパング勇者「……」


ランシール勇者「……え?」


エジンベア勇者「……?」

エジンベア勇者(今、アイツなにかを吐き出さなかったか)



ジパング勇者「なにそれ」



勇者「……」



遊び人「…………勇者ちゃん?」



ジパング勇者「……おぬし」



勇者「……」




ごりゅ






ジパング勇者「…………?」






女勇者「あの男は、私に、オルテガに!母さんに!嘘を吐いていたんだ」


女勇者「私達を騙して、人間のふりして!!」



女勇者「あの男はっ……!!いや、あいつはっ」



―――――――――――――――




勇者『もし、ぼくがほんとうにまものだったらさ』



勇者『たぶん……いまよりは、つよいと、おもうんだ』



勇者『すこしでも、なにかのやくには、たてるとおもうんだ』




―――――――――――――――




女勇者「…………ッッ!!!!」


ギリィィィィッ!!!!




女勇者「……――――――――あいつは!!!!」





女勇者「“魔物”だったんだ!!!!!!!!!!!」








ごりゅ


ごりゅごりゅ



ぐちゃり












遊び人「……」




ランシール勇者「……」


エジンベア勇者「……」


エジンベア勇者(あれ?なんだ?)

エジンベア勇者(何が起こった?今)


サマンオサ兵「……」

ダーマ兵「……」ガタガタ

エジンベア兵「じ、ジパ、ジパング勇者さま」



パラパラ……


ジパング勇者「……」



エジンベア勇者「……?」

エジンベア勇者(なんでジパング勇者が、壁に突っ込んで動かなくなっているんだ??)

エジンベア勇者「……」



ごりゅっ


ごりゅっ


エジンベア勇者「……」

エジンベア勇者(……なんだ、これは)






ごりゅり


ぎちゃり



ぎちゃり




エジンベア勇者「……」

エジンベア勇者(なんだ、こいつ)

エジンベア勇者(え、ジパング勇者って、あれって、こいつがやったのか?)

エジンベア勇者(さっきまで、死に掛けてたこいつが)

エジンベア勇者(こいつが)

エジンベア勇者(え?こいつ、誰だ)

エジンベア勇者(いや)



こいつ、“何”だ?



ランシール勇者「……」

ランシール勇者(なんでしょう、これ)

ランシール勇者(今、私の目の前で何が起こってるんですの?)

ランシール勇者(彼の、体の色が、肉が、おかしくなって)

ランシール勇者(頭が、うまく)

ランシール勇者(まわらなくて、体が)

ランシール勇者(体が、震えて)


この時



サマンオサ兵「う……あ」ジリ



その場の殆どの者がまともに思考を働かせる事ができなかった



ダーマ兵「ひ……あ……」



しかし、誰もが一瞬



エジンベア兵「ぅぁ……」



この言葉を脳裏によぎらせた






遊び人「……………………」




遊び人「……………………勇者、ちゃん」











――――“魔王”







勇者「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ 
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」






『泣くな、泣くな』


『いい子だから、泣くのはおよしよ』


『この世界が怖かろう、捨てられたかわいそうな子、かわいそうな子』


『ひとりでいきぬくのは辛かろう、そうであろう』


『お前に一つ、お守りをあげる』


『つよくなれる、おまじないをあげる』


『お前はよわいから、おまじないをあげる』


『この世界が怖かろう、憎かろう』


『その憎さを、たーんとおたべ』


『それだけお前さんはつよーくなれる』


『このおまじないで、つよーくなれる』


『つよくなって』



『おおきくなれる』



『憎みなさい』



『憎みなさい』



『憎みなさい』






今日はおしまいです

遊び人「……」


ランシール勇者「……」


エジンベア勇者「……」


サマンオサ兵「……」

ダーマ兵「……」

エジンベア兵「……」


エジンベア勇者「……」

エジンベア勇者(なん、だ。これ)

エジンベア勇者(今の叫び声、なんだ)




ぎちゃり



ぎちゃり



ぎちゃり





勇者『…………』





エジンベア勇者(今、僕の目の前に居るのは、何だ)

エジンベア勇者(この音、なんだ。その、肌の色、さっきまでとは、お前)

エジンベア勇者(は?は?)

エジンベア勇者(おい、誰か)


ランシール勇者「……」


サマンオサ兵「……」


ダーマ兵「……」


エジンベア兵「……」


エジンベア勇者(誰か、動けよ)

エジンベア勇者(誰か何か、言えよ)

ランシール勇者(……え)

ランシール勇者(勇者さんは、あの優男はどうしましたの)

ランシール勇者(誰ですの、これは)

ランシール勇者(動けも、声を出せもしない)

ランシール勇者(幾多の魔物とは、対峙してきた筈でしょうに)

ランシール勇者(なんで)

ランシール勇者(体が、動かないんですの)




勇者『……』




遊び人「……」

遊び人「……」

遊び人「……勇者ちゃん」


勇者『……』


遊び人「勇者ちゃん、勇者ちゃん」

遊び人「何か、言ってよ」

遊び人「勇者ちゃん」


勇者『……』


エジンベア勇者「……?」

エジンベア勇者(眼を瞑っている……?)

ランシール勇者(まるで、眠ったみたいに)



ごりゅ



エジンベア勇者・ランシール勇者「「!!!?」」



ごりゅ


ごりゅ


ごりゅ



エジンベア勇者(なんだ!?さっきまで傷だらけだった体が)

ランシール勇者(急に治癒を……!!!!)



ザワッ!!!


サマンオサ兵「き、傷が治っていく!?」

エジンベア兵「どうなっているんだ!!!呪文も無しに!!!」

ダーマ兵「っ、あ」


ダッ!!


エジンベア勇者「!!オイ!!」


タッタッタッタ!!!

ダーマ兵「うぁぁぁあっ、うあああああ!!!!」

ダーマ兵(か、回復する前に殺さないと、まずい気がするっ!!!)

ダーマ兵(ルビス様!俺に御加護を)





勇者『…………』





ぼうっ






ダーマ兵「えっ?」


ダーマ兵(なんだ?この光)




ドチャッ


ダーマ兵(あれ)

ダーマ兵(地面が、近い)

ダーマ兵「ごびゅっ」


ダーマ兵(え、どうして俺が、血を吐いているんだよ)

ダーマ兵(え)




「「「「ぐあぁああああぁぁぁぁぁあああっ!!!!!!!!!!!」」」」




ダーマ兵(あれ)



ランシール勇者「ひっ、ひっ」ギリッ


エジンベア勇者「が、はっ」ビチャァ!


「うあぁぁっ、うぁあ」


「助け、たす、た」


「なに、が!おこっ……おええぇっ」



ダーマ兵(どうして皆ま)

ダーマ兵(で)

ダーマ兵「……」


ダーマ兵は気絶した!

エジンベア勇者「なぐっ、はっ」

エジンベア勇者「なんぁっ、今の光はっ!!!」

ランシール勇者「ひくっ、はぁっ」

ランシール勇者「今、勇者さんの体からっ……!!」


遊び人「え、え?」


「うああぁぁっ」


「く、そぉっ」


「早く、逃げっ」


遊び人(皆、どうしちゃったの?)

遊び人(今何が起こったの?なんで皆苦しんで)




サマンオサ兵「っ……!!っ騎士団!!!かかれッ!!!」

ダッ!!


サマンオサ騎士団「「「「うおあああああああ!!!!!!!!」」」」



勇者『…………』



遊び人「っ!!だめぇっ!!!!!!!」




ガガガガガガァッ!!!!!



サマンオサ騎士団「「「……!!!?」」」



勇者『…………』



エジンベア兵(騎士団の剣が)

エジンベア勇者(まるで効いてない……!!!?)


ダーマ兵「っ!!聖騎士団!!援護だ!!!!」

ザッ


ダーマ聖騎士団「「「「……せよ……は……の」」」」

ダーマ聖騎士団員(は、早く詠唱終わってくれ!!!)

ダーマ聖騎士団員(さっきの、さっきの光をまた食らったら生きていられるか……!!)

ダーマ聖騎士団員「……の炎となれ!!!!」


ランシール勇者「サマンオサ騎士団!!散りなさい!!!援護魔法が行きますわよ!!!!」



ダーマ聖騎士団「「「「ベギラマ!!!!!!!」」」」



ゴオォォォオオォォッ!!!!!!!!!!!



ォオオォォォォ



オオォォオォ






ダーマ聖騎士団員「……」


ランシール勇者「……」

エジンベア勇者「……嘘だろ」




勇者『…………』




エジンベア勇者(無傷だ)




勇者『…………』


ぐちゃりっ



「「「「!!!!!!!!」」」」


ランシール勇者(立ちあがった)


勇者『…………』


スッ

ぱし


エジンベア勇者(え)

エジンベア勇者(剣をとった)

エジンベア勇者(落ちてた、ジパング勇者の落とした剣を拾った)


ギュラッ


エジンベア勇者(剣をぬいた)

エジンベア勇者(剣を、もう片方の手で)

エジンベア勇者(剣、)

エジンベア勇者(“剣”を。ああ)




エジンベア勇者(攻撃、する気だ?)






ぞわぁっ





ランシール勇者「ひ、ひぁっ、あ」

エジンベア勇者「いった、一旦、退散をっ」

ダーマ兵「……っ、……っ」

エジンベア兵「あ、あ。あ、あっ」

サマンオサ兵「…………あ、う」

サマンオサ騎士団員「くっ、そが」

サマンオサ騎士団員「クソがクソが」

サマンオサ騎士団員「クソがクソがクソがァ!!!クソァ!!!クソァ!!!!」


勇者『……』


サマンオサ騎士団員「クソがァ!!!!クソァァ!!!!」


エジンベア勇者「おいっぃ、おまっ、おまえ、はやくにげろぉっ」

エジンベア勇者(サマンオサの、騎士団の、あいつ)

エジンベア勇者(恐怖で、おかしくなっちまいやがった)

エジンベア勇者(そんな、近くにいたら、お前、殺され)


勇者『……』


ずちゃり


エジンベア騎士団員(あ)



ずちゃり

ずちゃり



エジンベア騎士団員「クソァ!!!!クソァァァン!!!!クソァァァ!!!!!!」


勇者『……』


エジンベア勇者(あ、だめだ)

エジンベア勇者(あいつ、もうだめだ)

エジンベア勇者(たぶん、もうあれ)

エジンベア勇者(あっ)



サマンオサ騎士団員「クソがぁ、クソァ、k、た、」


サマンオサ騎士団員「たすけ」














ヒパッ






















ぐちゃ



ブチャァン











ぶぱっ


ビチャァッ


ぱちゃん



ぴちゃぁっ







ぱちゃっ










ぱちゃっ

ランシール勇者「……」


エジンベア勇者「……」


ダーマ兵「……」


エジンベア兵「……」


サマンオサ兵「……」






遊び人「……」






たった、一振りだったと思う



サマンオサの騎士団員は


まっぷたつになったかと思えば、凄い勢いで


内臓と、糞尿と、骨と、肉片を盛大に空中に撒き散らして


みんなの頭上に、たくさん落ちてきた


その暖かさで、皆、分かった





勇者ちゃんが、今の騎士団員を殺した事





勇者ちゃんが




とてつもなくおそろしいもの





だと




いうことに

今日はおしまいです

>>676

×エジンベア騎士団員(あ)
○エジンベア勇者(あ)

×エジンベア騎士団員「クソァ!!!!クソァァァン!!!!クソァァァ!!!!!!」
○サマンオサ騎士団員「クソァ!!!!クソァァァン!!!!クソァァァ!!!!!!」











勇者『ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』










ランシール勇者・エジンベア勇者「「 総 員 撤 退 !!!!!!!!!!!!!!!!」」





「「「「「「うああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」」」」」」

 
うわあーっ!!!ぎゃああー!!!

バタバタバタ!!!


遊び人「勇者ちゃん!!!勇者ちゃん!!!!!正気に戻ってよ!!!!!」

グイッ!

遊び人「!?」

ランシール勇者「遊び人さん!!!貴女もはやくっ!!!!」

遊び人「はなしてっ!!!!勇者ちゃんが」

ランシール勇者「何を言っているんですの!!!!」

ランシール勇者「“あれ”はもう別の何かですわ!!!!殺されますわよ!!!」

タッタッタ


サマンオサ兵「ひっ!!ひぃっ!!」

サマンオサ兵B「だ、第一小隊!!隊列乱すな!!組んだまま撤退を」



勇者『……』



ヒュン



サマンオサ兵B「しぎひ」


ぼぎゃぼぎゃぼぎゃ



サマンオサ兵C「あ」

サマンオサ兵D「っ、っご」

サマンオサ兵E「ぎゅっ」

サマンオサ兵F「ぶじゅっ」




ぐちゃぁぁぁああん


ばしゃっ

ばしゃぁっ


べちょっ
 

ダーマ兵「うああああああああああああ!!!!!!!!!!」

エジンベア兵「どけええええっ!!!どいてくれええええっ!!!」

サマンオサ兵「第一小隊が!!!!ひ、一振りでぜんめ、ぜんめ、つ!!!!」



バタバタバタバタ!!!!


ダーマ兵「ひぃっ!!!ひぃう」

ダーマ兵(階段!!!降りれば、ここを)

ガッ!!

ダーマ兵「!?」

サマンオサ兵「どけぇっ!!!!」

サマンオサ兵B「俺達が先にぃっ」

ダーマ兵「なっ、うぁっ」

サマンオサ兵C「クソがぁっ!!俺らが先だ!!!」


ジャキィッ!!


ダーマ兵「!?」

サマンオサ兵C「邪魔だぁぁっ!!!!!!」

ヒュンッ!!

ダーマ兵「う、うああああああ!!!!」




ヒュンッ!!!!


ゾンッ!!!!!!




サマンオサ兵C「えっ?」

ダーマ兵「え?」




ズガアアアアアアアアアアン!!!!!


「どうした!!?」

「駄目だぁっ!!!階段の出入り口を壊されたっ!!!!!逃げ場があぁっ!!!!!」


ダーマ兵B「おい!!大丈夫かお前!!」

ダーマ兵「ひっ、だ、だけど、前に居た、サマンオサの奴らが、つぶ、潰れッ」


エジンベア勇者「は!?はぁっ!!?」

エジンベア勇者(退路を絶たれた????ふざけるなよぉっ、ふざけるなよ)

エジンベア勇者(しかも)


パラパラ…


エジンベア勇者(剣を、投げただけで、あんなっ……衝撃、が)


サマンオサ兵「あ、あ」

ダーマ兵「ひぁ、あう」

エジンベア兵「え、エジンベア勇者さまっ、おたす、おたすけねがいま」



勇者『……』



グルン


勇者『……』



「「「!!!!」」」

ダーマ兵「こ、こっちに来たぁああっ、あうあああ」

エジンベア兵「そっち!!!!はやくどけぇっ!!!はやくどけぇっ!!!!」 



ずちゃり


ずちゃり


ずちゃり



がしぃっ



サマンオサ兵「あっ、あっあ」

ダーマ兵「サマンオサの兵が捕まった!!!」

エジンベア兵(今の隙に腕をっ!!)ジャキッ


ヒュッ



勇者『……』



エジンベア兵「……ひ」ピタッ

ダーマ兵「あ……あ……」



勇者『…………』



サマンオサ兵「やめろぉ、だめ、やめ」


ぽぎゅ


サマンオサ兵「いやだ」




バキ

ゴキ


ゴリュッ


ブチャリ



ッドチャァ



肉団子「」ピクッ ピクゥ



勇者『……ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!』



サマンオサ騎士団「「「「うあああああああ!!!!!!!!!」」」」


ダァッ!!!!




エジンベア勇者「!!……くっ!!!」ダッ

エジンベア兵「エジンベア勇者様!!?何をっ」

エジンベア勇者「サマンオサの騎士団が捨て身の総攻撃を仕掛ける気だ!!!僕も加勢にいく!!!!!」


タッタッタ


エジンベア勇者(どうする……!?誰か一人が攻撃してひき付けたあとに僕が急所に一発……それしかないか!?)


サマンオサ騎士団員「うあああああ!!!!!!!!!!」

ヒュンッ!!!


ガッ!!!


勇者『…………』


サマンオサ騎士団員「うあああああ!!!!うあああああっ、うあっ、あう」


勇者『…………』


スッ


サマンオサ騎士団員「ああああああ、ああ、うああああああああ」



エジンベア勇者(今だッ!!!!)


ヒュンッ!!!



勇者『……』



エジンベア勇者(貰っ――) 

ガシッ


エジンベア勇者「!!!??」


ブンッ


エジンベア勇者「うあああああっっ!!!!?」


ドサァッ


エジンベア兵「エジンベア勇者様!!!」

エジンベア兵B「ご無事ですかっ!!!?」


エジンベア勇者「いづっ……!!!ああ、なんとか――……?」

エジンベア勇者(あれ、僕の剣は)






ぎゅばっ




エジンベア勇者「えっ?」






ぶしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ





サマンオサ騎士団員A「あ、か」ぶしゃああああああああああああああああああ



サマンオサ騎士団員B「っ、っ、っ」ぶしゃああああああああああああああああ



サマンオサ騎士団員C「ぜひゅー、ぜひゅー」ぶしゃああああああああああああ



サマンオサ騎士団員D「あ、あっ、」ぶしゃあああああああああああああああああああ



サマンオサ騎士団員E「…………」ぶしゃああああああああああああああああああああ




エジンベア勇者「……」

エジンベア勇者(あの、勇者ってやつの周りの奴ら、サマンオサの騎士団の奴ら、跪いてると思ったら)

エジンベア勇者(全員喉からざっくりやられて、皮で繋がって、ベロンって、首だけ後ろでぶらぶらしてる)

エジンベア勇者(あー、そっか。さっき剣投げて一本になったから)

エジンベア勇者(僕の剣を奪って、それであれをやったんだ)

エジンベア勇者(……あ)

エジンベア勇者(やけに冷静になってると思ったら、僕、腰抜かしちゃってるよ)

エジンベア勇者(あと一歩、間違ってたら)

エジンベア勇者(あの中に、僕が) 




勇者『ッッッッあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』



ゴシャアアアアアン!!!!!!!!!!!




ブチャアッ!!!!


グチャァッ!!!!!


ビチャビチャビチャ!!!!!!!!!!!



勇者『あああああああああああああああああああああああああああああああああ』


ジャギンッ!!!ジャギンッ!!!ガギンッ!!!!


グチャンッ!!!!


ブチャッ!!!!


ぐちゃあっ!!!!!


勇者『あああああああああああああああああああああああああああああああああああ』



ダンッ!!!ダンッ!!!!!ダンッ!!!!!!!!!!


グチャァアッ!!!!


ぐちゃぁぁぁぁっ


にちゃあぁあぁっ



勇者『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』



ぐちゃっ!!!!ぐちゃっ!!!!ぐちゃっ!!!!!!!!!



ぶちゃああああっ


ぎちゃぁぁぁぁっ


にちゃぁぁぁああっ  

遊び人「勇者ちゃあああん!!!!!やめてええええ!!!!!!」

ランシール勇者「っ……!!!そこのダーマの貴方!!」

ダーマ兵「えっ!?僕ですか!!?」

ランシール勇者「ええ!貴方、賢者様をわたくしの代わりにお守りなさい!!」

遊び人「!?」

ダーマ兵「ですが、ランシール勇者様は」

ダッ

遊び人・ダーマ兵「「!?」」




勇者『ああああああああああああああっ、あああああああああああああああああああああああ』


ばしゃっ びちゃ


エジンベア勇者(あはは、サマンオサの騎士団の奴ら、ミンチになっちゃった)

エジンベア勇者(あー、はは、あー)

エジンベア勇者(だめだ、こりゃ)

エジンベア勇者(全員死んだよ、これ)

エジンベア勇者(でたらめだ、こんなの)

エジンベア勇者(両手で、二本の剣で、圧倒的な力持ってる魔物なんて、聞いた事ねえよ)


ガシィッ!!!


エジンベア勇者「!!?」ビクゥゥッ!!


ランシール勇者「腰を抜かしてる場合ですの!!!エジンベア勇者!!」


エジンベア勇者「ラ、ランシール勇者!!!?」

ランシール勇者「怪我も負っていないのでしょう!?だったら存命の兵達をお守りなさいな!!!!」

エジンベア勇者「でもっ」

ダッ

エジンベア勇者「!?おいっ!!!」


タッタッタ!!

ランシール勇者「くっ……!!!」


エジンベア勇者「ランシール勇者!!!!!無茶だ!!!!!!!!」


ランシール勇者(ああは言いましたが、わたくしも恐怖で震えが止まりませんわ)

ランシール勇者(でも、やるしかありませんわ)

ランシール勇者(勇者の称号を背負う者ですもの……!!!) 



ザッ!!!



サマンオサ兵「あっ……あ」ガクガク

エジンベア兵「ひあ、にげ、にげっ」ガクガク


勇者『あああああああああああああああああああああ』

ずしゃり

ずしゃり


サマンオサ兵「こっちに、こっちに来るなああああああ」ガクガク

エジンベア兵「うああああああっ、うああああああああ」ガクガク



「フバーハ!!!!」


ポウッ……


サマンオサ兵・エジンベア兵「「!!!」」

ランシール勇者「そこの御二方!立てますの!?」

エジンベア兵「ランシール勇者様!!!」

ランシール勇者「あなた方に保護呪文をかけましたわ!!今助けます!!」


勇者『……』


ギョロリ



勇者『…………』



ランシール勇者「……っ――――ひ……!!!!!」ゾクゾクゾクゾク

ランシール勇者(見られただけでこんな悪寒がっ……!!でも、怯んでなんかいられませんわ!!)

ザッ!!

ランシール勇者「……の……氷を……せよ」ブツブツ

バキッ パキパキパキ!!!


ランシール勇者「ヒャダルコ!!!!!!」



バリィィイン!!!

 


勇者『…………』



エジンベア兵(氷の柱で、両手を封じた……!!)

ランシール勇者「よし!!」

ランシール勇者(なんとか一手目は成功しましたわ!!次は)

ランシール勇者「……の力、……は鋼となりて……福せよ!!」


ランシール勇者「バイキルト!!!」

ポワッ


ランシール勇者の攻撃力があがった!


ダッ


ランシール勇者「覚悟!!!!!!」



エジンベア兵「ら、ランシール勇者様!!」

エジンベア勇者(さすがランシール勇者、凄まじい魔制速度だ!!これならあの二人も助か――……)








オォオオッ!!!!!!!







ランシール勇者「……え?」



エジンベア勇者「は?」

エジンベア兵「えっ」


ガキィン!!


ランシール勇者のこうげき!

しかしダメージをあたえられなかった!


バッ


ズザァッ!


ランシール勇者「はぁっ、はぁっ」

ランシール勇者(なんですの、今の異様な寒気は)

ランシール勇者(……え?)

ランシール勇者(…………解けてる)

ランシール勇者(私の呪文、保護呪文、全て解けて……)

バリィン


勇者『……』


ランシール勇者「っ……あ……!!!!」

ランシール勇者(わたくしの、ヒャダルコの氷柱も、軽々と、壊した……)


エジンベア勇者「ランシール勇者!!!!そこの二人!!!!何してる逃げろぉっ!!!!!」


ランシール勇者「っ!!!」

エジンベア兵「う、うああああああっ!!!!」ダァッ!!

サマンオサ兵「うああっ、うあ」ダッ…


がしっ


サマンオサ兵「あっ」


勇者『…………』


サマンオサ兵「やめ、やめろっ、やめろやめろやめろ」


ランシール勇者「!!!!」

ダッ!!

ランシール勇者「っっこのぉっ!!!!」ヒュンッ!!


ガキィン!!

ガキィン!!!


ランシール勇者「その手をッ!!!離しなさいなッ!!!!!」ガッ!ガッ!!


サマンオサ兵「やめてくれえええええっ、おねがっ、やめてええええ、やめてくれええええええええええ」



勇者『……』


かぱ





勇者『あ』

サマンオサ兵「やめ、て」






エジンベア勇者(あのサマンオサ兵、頭を両手で掴まれて)

エジンベア勇者(何するつもりだ、口をあけたぞ、頭掴んだまま)

エジンベア勇者(食べるつもりか?ああ、でもどうでも、いいか)

エジンベア勇者(おなじことだ)

エジンベア勇者(あのサマンオサ兵は、たぶんもう死) 

ランシール勇者「おやめなさっ――……!!!!!」







オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ







ランシール勇者「……」


パキパキパキパキ




サマンオサ兵「イ――――――――――――――――――――――――――――…………」バキバキバキバキ



ランシール勇者「……」

ランシール勇者(勇者さんの口から、魔法が、氷が)

ランシール勇者(なんて綺麗で、残酷な氷)

ランシール勇者(こんなの、アープ様でさえ作れやしませんわ)

ランシール勇者(ああ、サマンオサの兵が、ああ)

ランシール勇者(凍っていく)

ランシール勇者(死んでいく)

ランシール勇者(それなのに、なんで私は棒立ちしているんですの)

ランシール勇者(……ああ、なんて)


 
オオォォオォオオオォォォォ……


オオォ……






サマンオサ兵「……」


勇者『…………』



ギュッ




ばりぃいいん




サラサラ…



サマンオサ兵は粉々に砕け散った!




ランシール勇者(なんて)


ペタンッ…


ランシール勇者「っ……!!!……!!!!」ガクガクガクガク


ランシール勇者(なんて、圧倒的な、力っ…………!!!!!!)

勇者『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』





ギュバァッ!!!!!!!




ゴバアアアッ!!!!!


グチャアアッ!!!!



「あああああああああああああっ!!!!!!!!!!」


「いやだああああああああああ、いやだあああああああああああああ」




勇者『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』




ブォン!!!!!




ドチャァアアッ!!!!


ぼちょぼちょぼちょぼちょ!!!!


ドバァァッ!!!!!



「誰か!!!!誰かここから出してくれえええ!!!!!!!!!!!!」


「助けてええええっ!!!!!!!!助けてくれえええええええええええ!!!!!!!!!!!」




勇者『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』




ヒュバアァッ!!!!ヒュバアアアッ!!!!



グチャアァッ!!!!


ばしゃばしゃっ!!!!


ぶしゃああああああああああああ



「もうやめてくれ……!!もうやめてくれ……!!!!」


「やめてくださいっ、おねがいします、やめてくれえええっ!!!!!!!」

勇者『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』




ぎチャアァッ!!!!!!!


ぎちゃああっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!

ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!


ぐちゃあっ!!!!!!!!!

今日はおしまいです



ぎゃあああああああ


うああああああああ




ダーマ兵「ひ……あっ……」ガタガタ


遊び人「…………」

遊び人(何が起こってるの)

遊び人(なんで勇者ちゃんが、人を)

遊び人(なんで、勇者ちゃんがあんな姿に)

遊び人(どうして)

遊び人(どうして、私は、見ている事しかできないの)

遊び人(勇者ちゃんは)

遊び人(私は)

遊び人(…………勇者ちゃん)



勇者ちゃん


魔物、だったの?


勇者ちゃん


私達を、騙していたの?



勇者ちゃん



ねえ



勇者ちゃん

―――――――――――――


――アリアハン城・城門――



「やっぱり……!」

「じゃあ勇者母さん達は何も知らないで」

「くそっ、あの野郎、よくも……!!」


男A「お、おい!女勇者嘘だろ!?」

男B「いい加減な事言うなって!!本当にあいつそんな事言ったのかよ!!証拠はあんのかよ!!!!」

男C「お前、お前が……勇者にむかってそんな事言うのかよ!!!なあ!!」

男C「お前が一番、あいつがどんなヤツか知ってるだろ!!!なあ!!なんとか言えよ!!」


女勇者「……全部本当の事だよ」

女勇者「ここで生活していた間がどうであっても……ポルトガで、奴は自白したんだ」

女勇者「魔物だったんだよ!あの男は!!」



女勇者「もう私の義兄でも、オルテガの息子でもなんでもないんだ!!!!!」



男A「っ……お前……」

男B「……――!!」


女勇者「……」

ギリッ……!!


男B(手を握り締めすぎて、血が出てる)

男C「……女勇者」

「お前らうるせえぞ!!女勇者様や国連がそうだって言ってるって事は?なワケねえだろう!!」

「クソ、ずっと怪しいと思ってたんだよ」

「恐ろしいわ……ウチの子とたまに話をしてたんだけど……なんともなくて良かった……」

「勇者母さんも気の毒に……騙されて、魔物の世話なんて」

「やっぱりあの落日の後に殺しておけばよかったんだ!!!」


ワーワー



女勇者「……」

女勇者(やっぱり国連の名を出すと説得力が増すみたいだ)

女勇者(……ごめん、お義兄ちゃん)

女勇者(母さんはなんとか大丈夫みたいだ)

女勇者(…………ごめん)

女勇者(父さん、お義兄ちゃん)

女勇者(私には……これくらいしか……できない)


ギリィィッ……


女勇者(本当に………………ごめん)






「いい加減な事を言わないで頂戴な」






女勇者「!!?」


「は?」

「おい、あれ」

「勇者母さん!」


スタ…スタ…



勇者母「……」



女勇者「母さん!!!?」

ダッ

女勇者「なんで起きて……!ああ、もう!フラフラじゃないか!!」

女勇者「寝ていてよ!!無理しちゃダメだってば!!」

勇者母「……無理しちゃダメ?」

勇者母「それはあなたもでしょ?……女勇者」

女勇者「……え」

勇者母「……」


ナデナデ……


女勇者「…………母……さん?」


勇者母「ありがとう……私は大丈夫」

ニコッ




勇者母「あなたたちの、お母さんですもの」






遊び人( あ )




勇者『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』




遊び人「……」


遊び人「……」


遊び人「……」


遊び人「……」


遊び人「……」


遊び人「……」


遊び人「……」


遊び人(……そっか)


遊び人(やっぱり、だ)

スッ

ダーマ兵「!!?賢者様!?何を」

遊び人「……ちょっと、行ってきます」

ダーマ兵「何を仰っているのですか!!危険です!!」

遊び人「大丈夫です」

ダーマ兵「しか、しかしっ、ランシール勇者様に託されたのです!」

ダーマ兵「賢者様は何があっても」

ダーマ兵「お守……」


ニコッ



遊び人「……大丈夫」



ダーマ兵「…………」



遊び人「手を離して下さい」

遊び人「安心して」


ダーマ兵「……」

パッ

ザッ

ダーマ兵「……お気をつけて」


遊び人「ありがとう」


スタスタ


ダーマ兵(……今、どうして離してしまったんだ)

わああああああああああああ


ぎゃあああああああああああ





エジンベア勇者(ダメだ。足が。ってか体が動かない)

エジンベア勇者(恐怖か、これ)

エジンベア勇者(息まで止まりそうだ。心臓まで止まってしまいそうな)



ランシール勇者(どうして動かないんですの。私の足)

ランシール勇者(立ち上がらないと、兵達の命が)

ランシール勇者(……アープ様に誓ったのに)

ランシール勇者(勇ましく、戦うと……誓いましたのに)

ランシール勇者(勇者さん)

ランシール勇者(やっぱり貴方が……アープ様の仇だったんじゃ)



スタスタ



ランシール勇者「……え?」



遊び人「……大丈夫?」



ランシール勇者「なっ……!!貴女!!」

遊び人「怪我は?」

ランシール勇者「わたくしは何も――……でも、危険です!!!離れて下さい!!」

遊び人「……大丈夫」

ランシール勇者「はい?」

遊び人「行かなきゃ」


スッ


ランシール勇者「……!!お待ちなさいな!!!」ガシッ!!

遊び人「……」

ランシール勇者「今の状況!!わからないんですの!!?死ぬ気なんですの!!!?」

ランシール勇者「貴女がどれほど膨大な魔力を持とうが、その腕枷で全て封じられているんですのよ!!」

ランシール勇者「それに……!!さきほども言いましたが」

ランシール勇者「あれはもう勇者さんではありません!!!別の、おぞましい何かです!!」


遊び人「ううん」


ランシール勇者「……」


遊び人「あれは、勇者ちゃんよ」

遊び人「……いつもの優しい、勇者ちゃんだよ」

遊び人「私、分かるの」


ランシール勇者「……」


遊び人「…………ただ」

遊び人「悪いものにつき纏われてる」

遊び人「私が、言ってあげなきゃ」


スタスタ


ランシール勇者「……」

ランシール勇者(……なぜでしょう)

ランシール勇者(最後、止められなかった)

ランシール勇者(恐怖で臆病になっているから?…………だったらなぜ私は)



スタスタ




遊び人「……」




ランシール勇者(……――今、こんなにも安心しているんですの?)




サマンオサ兵「いやだあああああ!!!!!」



勇者『あああああああああああああああああああああああああああああ』



ヒュンッ!!!!!



ぐちゃあっ


どちゃっ



ごろっ

ごろっ


ぐしゃぁっ



ダーマ兵「うあああっ!!!うあああ!」

エジンベア兵「どけえぇっ!!どいてくれええ!!!」

エジンベア兵B「サマンオサの兵が!!全滅した!!騎士団の奴ら含めて!!」

ダーマ兵B「殺されるっ!!誰か!!」

ダーマ兵C「ルビス様……!!ルビス様ぁ……!!」




勇者『ああああああああああああああああああああああああ』




ザッ

遊び人「……」




勇者『ああああああああああああああああああああああああああああああああああ』




遊び人「……勇者ちゃん」


「賢者様!!」


「危険です!!!離れてくださいっ!!!」


「賢者様があああ!!!賢者様ああっ!!!」





勇者『あああああああああああああああああああああ』



遊び人「……きこえる?勇者ちゃん」



勇者『あああああああああああああああああああああ』


ずしゃり

ずしゃり


バッ

遊び人「……だめ」


勇者『あああああああああああああああああああああ』


遊び人「……どこに行くつもり?」

遊び人「ダメだよ」

遊び人「どこにも行かせないから」


勇者『あああああああああああああああああああああ』


遊び人「……どかないよ」


勇者『ああああああああああああああああああああああ』


遊び人「…………どうするの」


遊び人「私を殺して、ここを退かせる?」






勇者『ああああああああああああああああああああああああああ』


ヒュンッ


バシィイッ!!!!



遊び人「っ!!!!!」





「「「「「「「賢者様!!!!!!!」」」」」」」


ランシール勇者「遊び人さんッっっ!!!!!!!!!!!!」




ドシャッ

ズザァッ…



遊び人「……っ」

スクッ

遊び人「…………ほら」

スタスタ

遊び人「なんで殺さないの?……生きてるよ?」


エジンベア勇者「……!!?」

エジンベア勇者(払いのけた、だけ……?)




勇者『ああああああああああああああああああああああああああああ』



バシィッ



ズザァッ


遊び人「……っ」

スクッ

遊び人「っ、えほっ、えほっ」


スタスタ


遊び人「…………ねえ、勇者ちゃん」

遊び人「そういえば、勇者ちゃんに手をあげられるの……はじめてだね」


勇者『あああああああああああああああああああああああああああああ』


スタスタ

遊び人「私の事、妹みたいとか言っておきながら」

遊び人「どんなに私が悪口言っても。勇者ちゃんに、迷惑かけても」

遊び人「ぜったい、私を叩いたり、責めたりしなかった」



勇者『あああああああああああああああああああああああああああああ』



バシィッ

ズザァッ


遊び人「……っ」

スクッ…

遊び人「…………私は」


遊び人「私はずっと、勇者ちゃんの事、責め続けてきたのに」




勇者『ああああああああああああああああああああああああああああああああああ』


勇者『ああああああああああああああああああああああああああああああああああ』


勇者『ああああああああああああああああああああああああああああああああああ』


ジャキッ!!!!



「「「!!!!?」」」

エジンベア勇者(剣を構えた!!!)

ランシール勇者「遊び人さん!!危ないっ!!!!」




スタスタ


遊び人「いいよ」


遊び人「いいよ。勇者ちゃん」


遊び人「あなたに殺されるなら」




ヒュン



ランシール勇者「遊び人さんッッ!!!!!!!!!!!」





遊び人「私は、それでもいい」






ズガアアッ!!!!!



ランシール勇者「……」

エジンベア勇者「……」

「「「……」」」




パラパラ…


勇者『……』



遊び人「……ほら」

遊び人「勇者ちゃんは、やっぱり」

遊び人「私を。私達の事、傷つけない」


勇者『……あ』


勇者『あああっ、あああああああああああ』


勇者『ああああああああああああああああああああ、あああああああああああああああああああ』



勇者『ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』




ズガァンッ!!!



ズガアアン!!!!



ズガアアアアアン!!!!




遊び人「……勇者ちゃん」




勇者『ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』










勇者母「あの子が魔物?」


勇者母「オルテガの……私の子じゃない?」


勇者母「ねえ、皆さん」


勇者母「私が熱を出したときに、心配して、眼を泣き腫らして、次の日自分が風邪を引いてしまうような子が」


勇者母「友達と喧嘩した時に、後悔して、ご飯ものどを通らなかったような子が」


勇者母「家族のプレゼントのために、いろんなお店で下働きをするような子が」


勇者母「父が……オルテガの訃報が届いた際に、泣きながら、一晩中私の手を握っているような子が」


勇者母「…………あの落日の七日間から、魔物だって疑いがかけられて」


勇者母「そのような目から私達を遠ざけるために、私達から距離をとった子が」


勇者母「魔物だから、私の子じゃないって」


勇者母「そう、思うんですか」


勇者母「……私は、あの子を知っています」


勇者母「確かにルビス様の加護は無く、出生も分からない」


勇者母「…………でも、これだけは分かります」



勇者母「自信を持って、これだけは言えます」











ズガアン!!!ズガアン!!!!



勇者『ああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!』



遊び人「……」



勇者『ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!』


エジンベア勇者「……」

ランシール勇者(全ての攻撃が、遊び人さんを避けるように……)



遊び人「……勇者ちゃん」

遊び人「私ね、恨まれても仕方ないって、そう思ってた」

遊び人「あの日、あんな酷い事言って」

遊び人「お姉ちゃんの死を、勇者ちゃんにおしつけた私だから」



ズガアアン!!!ズガアン!!!!


勇者『あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!』



遊び人「……あの日から、ずっと、後悔してた」

遊び人「私を許してくれたばっかりじゃなくて、私の事、守ろうとさえしてくれた」

遊び人「それなのに、私は何もできなくて」

遊び人「…………何も、できなかった」




勇者『ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!』




遊び人「……ありがとう、ごめんね。勇者ちゃん」

遊び人「でも、私も。」


遊び人「あなたの助けになりたいの」





 









勇者母「あの子は、私の息子です」


勇者母「私とオルテガの……自慢の息子です」




















ギュッ




勇者『………………』



遊び人「……勇者ちゃん。」

遊び人「“それ”は、勇者ちゃんじゃない」

遊び人「“それ”に……負けちゃだめ」


遊び人「聞こえてる?勇者ちゃん」


遊び人「わたしの知ってるあなたは、もっと強い」



遊び人「わたしの大好きな勇者ちゃんは」



遊び人「そんなのに、絶対負けない」











 









勇者母「あの子は、私の息子です」


勇者母「私とオルテガの……自慢の息子です」















勇者『……』

勇者『……』

勇者『……あ』


遊び人「……」




勇者『遊び、人』




「「「!!!!?」」」


エジンベア勇者「……マジ、かよ……!!!」

エジンベア勇者(姿は変わったまんまだけど、正気に……?)

ランシール勇者「……遊び人さん……」

ランシール勇者(貴女、転職なんてせずとも――……)



遊び人「……勇者ちゃん」



――もう、既に……















ド  ク  ン













勇者『っがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!』




「「「!!?」」」


遊び人「だ、ダメ!!」


勇者『ああああああ、ああああああああああああああああああああああ!!!!!!』



エジンベア勇者「ど、どうしたんだ!!!?」


ランシール勇者「さあ……ただ」




ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ




ランシール勇者「先ほどと、比べ物にならない悪寒が……!!」



遊び人「勇者ちゃん!!!」

遊び人「“それ”はあなたじゃない!!!」

遊び人「だめだよ!!!!“それ”に耳を貸さないで!!!!」



勇者『がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!』



ヒュンッ!!


バシィッ!!!!!



遊び人「きゃあっ!!!」


ズザァーッ!!


「賢者様!!」

「賢者様がっ!!」



勇者『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!』




ごりゅ


ごりゅ


ごりゅ


ごりゅ


ごりゅ



ごきい



ぐちゃあっ





エジンベア勇者「……」

エジンベア勇者(これ、今度こそ終わりかもしれない)

エジンベア勇者(姿が、完全に変わってる)


ランシール勇者「……」

ランシール勇者(青い肌、巨大な体躯)


ランシール勇者(……――額に、もう一つの目)



勇者『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』


勇者『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!』



勇者『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!』




遊び人「……っつ……!!」


遊び人「……」




勇者『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』




遊び人「……」


遊び人(ダメ、だめ)


遊び人(勇者ちゃんが、連れてかれちゃう)


遊び人(全部、勇者ちゃんの全部……持ってかれちゃう)


遊び人(やっぱり……やっぱり、私は)


遊び人(私は何もできないの?)


遊び人(私は、どうすれば)


遊び人(……おじいちゃん)



遊び人(……勇者ちゃん)



遊び人(……)






遊び人(…………………―――――――お姉ちゃん)









……………………………――あれ




遊び人「……」


本が、落ちてる

私の懐に入れてた悟りの書が

今の衝撃で、放り出されて……


遊び人「……」


遊び人「……」


遊び人「……」


スッ…


遊び人「……」


なに、この……紙


遊び人(しおり……?)


押し花が付いた、しおり……何か


何か、書いて


遊び人「……」


遊び人「……」


遊び人「……」


















遊び人へ



この花は、もうじゅうぶん私を救ってくれました。


次は、この花であのお間抜けさんを救ってあげて。


貴女なら、できるから。












遊び人「……」


遊び人(星屑……花)


遊び人「……」


遊び人「……」


遊び人「……」


遊び人(……あ)



―――――――――――――――


遊び人『これっ……あげる』

賢者『……』

ス…

賢者『……星屑花』

遊び人『それ、このへんにしかさかないんでしょ……』

遊び人『……おねーちゃん』

遊び人『おねーちゃん、さびしそうなかお、してたから』

賢者『……!』

遊び人『おねーちゃんのこと、だいきらいだけどっ』

遊び人『でも……さびしいのは、わかるから』

遊び人『……――それ、あげる』



―――――――――――――――



遊び人「……」


遊び人「……」


遊び人(……ああ)


遊び人(お姉ちゃん)



遊び人(お姉ちゃん)






―――――――お姉ちゃん







勇者『あああああああああああああああああああああああああああああああああ』



ごりゅ


ごりゅっ



ばきぃっ




勇者『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』




スタスタ


遊び人「……」



勇者『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』



遊び人「……苦しそう」



勇者『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』



遊び人「……」

遊び人「待ってね」


スタスタ


遊び人「わたしが、すぐに――……」



勇者『ごあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!』



ヒュンッ!!!!







遊び人「  鎮まりなさい!!!!!!!!!!  」





勇者『!!!!』


ズガァァン!!!!


パラパラ…


勇者『……』



遊び人「……勇者ちゃんの体で、勇者ちゃんの力で」

遊び人「好き勝手しないで!!!」


スタスタ


ザッ



遊び人「……」


勇者『……』


遊び人「……勇者ちゃん」

スッ…

遊び人「口、開けて」

遊び人「この花、食べて」

遊び人「お姉ちゃんが、魔力を込めた、この花」

遊び人「……勇者ちゃん」


勇者『……』


遊び人「……勇者ちゃん、お願い」

グッ…


遊び人「飲み込んで……勇者ちゃん」



勇者『……』


遊び人「……」

グッ……

遊び人「……」

遊び人「少しだけ、待ってて」


パクッ


モグ…


遊び人「……」モグ…モグ



勇者『……』



遊び人「……」




遊び人「……ん……」






――――――――――――――――






勇者「……」


……


勇者「……あれ?」

勇者「僕、何をしてたんだっけ?」


何をしていた?


勇者「確か、えっと」

勇者「……思い出せないや」


そう、思い出せない

ただ

何かを憎んでいた


勇者「ああ、そんな気がする」

勇者「何かがすごく憎かったんだ」

勇者「それこそ」

勇者「殺したいくらいに」


そう

殺したいくらいに

憎かった

だから殺せ

殺せ

殺せ

殺せ

殺せ

殺せ


勇者「……」


お前は、殺したいと感じた


殺せ


勇者「……そっか」

勇者「僕は、殺したかったんだ」

勇者「なら殺さないといけないんだ」

勇者「僕は殺さなきゃ」

勇者「殺さなきゃ」

勇者「殺さなきゃ」


勇者「……一体、何を?」


『あなたは、本当に愚かね』


勇者「え?」

クルッ

勇者「……」


『貴方、今何をしていたの?』

『その拙い言葉のやり取りは、誰とのもの?』

『“それ”は、貴方にとって取るに足らないものでしょう?』

『現に、今……貴方。向こう側で“それ”に完全に負けていなかったじゃない』

『本当に愚かね』


勇者「……」

勇者「そうか」

勇者「これ、夢か」


『……そう、夢ね』

『夢よ。貴方が作り出した、夢』

『それってつまり』

『その貴方が作り出した夢に出てくる私の言葉』

『これは貴方の作り出した言葉……そういう事になるわね?』

『……それじゃあ言わせてもらうわ』




『勇者は、魔物でもなんでもない』


『勇者は勇者よ』


『貴方は、闇になんて負けない』


『貴方は強い』


『貴方は強いの、勇者』



『私の妹を泣かせたら、そして……あの子達を泣かせたら』



『絶対承知しないんだから』










「勇者ちゃん」








勇者「……」


『……ほら』


勇者「……」


『貴方を迎えに来たみたい』

『私の自慢の妹よ』


勇者「……」


『行きなさい』

『もうその下らない闇に囚われないでね』



勇者「……」

勇者「……」

勇者「……ありがとう」


『……それは、私に言う言葉かしら?』


勇者「……いや」


『……――ふふ』

『本当に、愚かね』





勇者『………………』

勇者『…………』

勇者『……』



勇者「……」






遊び人「……勇者ちゃん」





勇者「……遊び、人……」


勇者「……」


勇者「……」



勇者「…………ありがとう…………」




遊び人「…………」


ニコ…



遊び人「おかえりなさい……勇者ちゃん」





ザワッ……!!!


「なんという……!!」

「本当に、本当にあの魔物を鎮めた!!!」

「賢者様……賢者様!!」

「賢者様が救って下さった!!」



エジンベア勇者「……!!!」

エジンベア勇者(悪寒が一気に消え去った……!!ヤツの見た目も元通りに)


ランシール勇者「……」

ランシール勇者(……お見事ですわ、遊び人さん)

ランシール勇者(…………ですが)


勇者「……」

遊び人「……勇者ちゃん……勇者ちゃん?」

勇者「……」

遊び人(……気を失ったみたい)


ザッ!!!


遊び人「!」


ダーマ兵「賢者様、御見事です!!」

ダーマ兵B「早く、その魔物にトドメを!」

エジンベア兵「こちらにそいつをお渡し下さい!!」

エジンベア兵B「元に戻った今がチャンスなのです!」


ザワザワ


ランシール勇者(……やはり)

ランシール勇者(その男はあれだけの兵を虐殺したんですもの)

ランシール勇者(こうなるのは必然ですわね)



「賢者様!!!」


「その魔物をこちらに!!!!」



「「「さあ!!!」」」



勇者「……」


遊び人「……!!」ギュッ…

今日はおしまいです

>>731

×勇者母「あの子は、私の息子です」
×勇者母「私とオルテガの……自慢の息子です」

前レスを消す前に書き込み押しちゃいました

スタスタ…

エジンベア勇者「賢者様。お願いします」

エジンベア勇者「その男をお渡し下さい。今しかありません」


ランシール勇者「遊び人さん……仕方ありませんが、わたくしもそう思います」

ランシール勇者「その男は」


遊び人「……」


ランシール勇者「……」

ランシール勇者(なんですのその目は……)

ランシール勇者(まるで、まだ彼が魔物ではないと信じているような)

ランシール勇者(……でも)



エジンベア勇者「……賢者様」


ダーマ兵「「「……」」」


エジンベア兵「「「……」」」



ランシール勇者(貴女が庇おうと、もう私達は見てしまいましたわ)

ランシール勇者(その男は、有害)

ランシール勇者(逃げられませんわよ。遊び人さん)


遊び人「……」

遊び人「……この人は」


ギュッ


遊び人「……――――勇者ちゃんは」





ドガアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!




遊び人「!!?」


ランシール勇者・エジンベア勇者「「「!!!!!?」」」


ダーマ兵「うわああああああっ!!!?」

ダーマ兵B「なんだっ!!?なんだっ!!!」

エジンベア兵「まさかまた」

エジンベア兵B「いや、でも魔物はここに……」



モクモク



「だから私の言った通りだったじゃない!やっぱりここが階段だったのよ!」


「暗いし石で塞がってるしでわかるわけねーじゃんか!!」



遊び人「……」



「んもー!!ふたりとも、またけんかして!そんなばあいじゃないでしょ!」


「今の衝撃大丈夫でした?誰も怪我してません?」


遊び人「…………」


「私らは大丈夫ですよ。それよか勇くんたちですよ」


「……早く、探さないと…………あれ?……」



遊び人「………………」




「「「「……」」」」


「……お出ましね。勇者と遊び人は?」

「ああ、あそこにいる。無事そうだ」

「そっこうでおわらせようっ」

「はい!早く連れて帰りましょう!」

「気を抜いちゃダメですよ。国連の奴らもいるんです」

「……大丈夫……」


エジンベア勇者「……なんだこいつら」

ランシール勇者「……!」

ダーマ兵「な、なんだ貴様達は!!!!」



「私達?そうね」



ジャキッ!!!!




鉄仮面集団「「「「 魔 物 だ !!!!!」」」」




………………
…………
……









勇者「……」

勇者「…………ん」

パチ

勇者「……」

勇者「……」

勇者(……あれ……?)

勇者(ここは……?)

ムクッ…

勇者「あづっ……あたたた……」

勇者(頭がボーっとする……体中の骨が痛い)

勇者「……」


シーン…


勇者「……?」

勇者(どこだここ?……宿屋じゃないよね)

勇者(大きな部屋。まるでお城の一室みたいだ)

勇者(こんな立派なベッド、寝転がった事ないよ)

勇者(なんでこんな凄い部屋に……)

勇者「……」

勇者「……あれ?」

勇者(僕、今まで何してたんだっけ)

勇者(落ち着け……順を追って考えよう)

勇者(まず、ポルトガで掴まって、脱獄してから遊び人を連れ戻しに行って……)

勇者(そしで、ガルナの塔に行って…………賢者の託した本、手に入れて)

勇者(ランシール勇者さんに会って……それから)

勇者(ジパングの……)

勇者「……」

勇者「……っ!!」

ガタッ

勇者「遊び人っ!!!!!」


ズキィッ!!!


勇者「あっ、ぐぅっ……!?」

ドサッ

勇者「づっ……!!!!」


ガチャッ


「目が覚めたか」


勇者「え?……!!」


ムオル勇者「……」


勇者「ムオル勇者さん……!」

スタスタ

ムオル勇者「体の調子はどうだ」

勇者「い、痛みはありますけど……なんとか」

ムオル勇者「そうか」

勇者「あのっ」

ムオル勇者「なんだ?」

勇者「ここは一体……それに、今どういう状況か、把握できなくて……」

勇者「どこからどこまでが本当の事なのか……」

ムオル勇者「……どこまで記憶がある?」

勇者「えっと……確か」

勇者「ガルナの塔で、ランシール勇者さんと会って、それから」

勇者「ジパングのあの人が……あ、そう、です!!」

勇者「遊び人は!?遊び人は大丈夫ですか!?」

ムオル勇者「……そう慌てるな。体に響くぞ」

勇者「でもっ!!」

ムオル勇者「あの娘は無事だ」

勇者「…………え」

ムオル勇者「……国連の連絡網で、騎士団長がお前達を追ってガルナの塔へ兵を派遣したと聞いてな」

ムオル勇者「お前の仲間達に変装をさせて、お前達二人を連れ戻す為ににガルナの塔へあの日の早朝向かわせたのだ」

ムオル勇者「無事、国連の者達から取り返す事ができた」

勇者「……」

勇者「そ」

ヘタッ…


勇者「…………そう、ですか」

勇者「よかった……」


ムオル勇者「……」

勇者「みんなが……来てくれたんだ」

勇者「それで、ここは……?」

ムオル勇者「ああ、ポルトガ城だ」

勇者「ポルトガ城……だったら、皆にお礼を」

スクッ

勇者「言わ……ぁれ?」フラッ

ガシッ

ムオル勇者「暫く寝ていろ。体の自由がまだきかんだろう」

ムオル勇者「お前はここに戻ってから三日も眠り通しだったのだ」

勇者「み、三日も!?」

ムオル勇者「あの娘達は今、王やその他の者と会議室で話をしている」

ムオル勇者「礼を言うのはそれからでも遅くは無かろう」

勇者「はい……そうですね」

ぼふっ

勇者「ふはっ……」

ムオル勇者「……それでは、俺も会議室に行く」

ムオル勇者「終わったらあの娘達も顔を出すだろう」

ムオル勇者「…………給仕の方!」

ガチャッ

メイド「は、はい、なんでしょう」

ムオル勇者「この者の様子を見ていて欲しい」

メイド「わた、私がですかぁっ!?」

勇者「……?」

ムオル勇者「安心していい……自分もすぐに戻る」

メイド「は、い……わかり、ました」

ムオル勇者「ではな」

勇者「は、はい!」


バタン


勇者「……」

メイド「……っ」

勇者(なんでこんなに怯えられてるんだろ)

勇者(あ……そっか。僕はまだ魔物の疑いが)

勇者「あ、あの」

メイド「はいっ!?」ビクッ!

勇者「えっと、ここってポルトガ城なんです、よね?」

メイド「はい……そうですけど」

勇者「だったら……僕ってここに居ていいんですか?」

勇者「僕、魔物だって疑いをかけられてたんですし」

勇者「貴方達ポルトガの方々からしたら、まだ疑いは晴れていない状況なんじゃ」



メイド「……――はい……?」



勇者「……え?」

メイド「……」

勇者「……」

勇者(なんだ、この反応)

勇者(単に、疑ってるって感じじゃない)

勇者(本当に怯えてる)

メイド「……えっと、そ、そうですね」

メイド「貴方の事は、国王からポルトガ城の一部の者だけの秘密として扱えと」

メイド「ですので、貴方の事を知るのはこの城でもごく一部の者だけです……」

勇者「……そうなんですか」

メイド「私は、ポルトガ勇者様の幼馴……いいえ、専属の給仕なので。この事は知らされましたが」

メイド「それにここはポルトガ勇者様の御部屋です」

勇者「えっ!?」

キョロキョロ

勇者「ポルトガ勇者の……!?じゃあ、王族の部屋!?」

勇者(どうりで凄い部屋だと……)

勇者「そうだったんだ……ポルトガ勇者にも、ポルトガ王にも、頭が上がらないなぁ」


メイド「……本当、ですよ」


勇者「……え」

メイド「貴方が来てから、めちゃくちゃです」

メイド「せっかく王子……ポルトガ勇者様が、久々に帰って来たと思ったら」

メイド「色んな事でめちゃくちゃにされて……あんな罰をポルトガが背負わされてっ」

勇者「……」

メイド「オルテガ様の息子か何か、存じませんけど……!」

メイド「貴方みたいな魔物の――……!!」


「おやめなさい、メイドちゃん」


メイド「!!」

勇者「?」


スタスタ


「それ以上はいけません」


メイド「……姫様」

勇者「……お姫様?」
 

ポルトガ姫「いくら貴女でも、許しませんよ」


ザッ

メイド「し、失礼しました」

ポルトガ姫「……メイドちゃん」

ポルトガ姫「ちょっと、この方と二人きりで話したいから……」

メイド「はいっ、失礼しますっ……」

タッ

スタスタ

バタン…


ポルトガ姫「……」


勇者「……」


勇者(この人がポルトガのお姫様……ずいぶん若い)

勇者(そういえば、この前ポルトガ王に一人で謁見した時に王が仰ってた)

勇者(“一番下の娘が家出して時折しか帰って来ない”って)

勇者(って事は、ポルトガ勇者の妹さんなんだ……)


ポルトガ姫「……お体は、もう?」

勇者「えっ!?は、はい!お陰さまで、なんとか」

ポルトガ姫「そうですか。よかった」

勇者「……?」

勇者(あれ?)

勇者(なんだ?僕)

勇者(この人、どこかで)


スッ


ポルトガ姫「……手を、お出し下さい」

勇者「え?手を、ですか?」

スッ

勇者「はい、えっと、何を」




チャリン



勇者「……?」

ポルトガ姫「……はい」


ポルトガ姫「これ。黒胡椒の御代金です」


勇者「え?」

勇者(なんだ、金貨?黒胡椒?)

ポルトガ姫「お遣い頼んでしまってすみませんでした」

ポルトガ姫「どうやらうちのオヤジも御代金渡すの忘れてたみたいで」

勇者「……」

勇者「…………あ……?」


―――――――――――――


『あ、そうだ!勇者くん!』

『もしよければ、私も黒胡椒をお土産として頼んでもいいっすかね?』


―――――――――――――


ポルトガ姫「いやはや、親子揃って申し訳ない」

ニコッ


ポルトガ姫「恩に着るっす!」



勇者「船乗り娘さんっ……!!!!!?」



ポルトガ姫「あ、やっと気付きました?あとそれ偽名っす」

勇者「ええ!?ええええ!?な、なんでっ!?うそぉ!?」

ポルトガ姫「……勇者くん、慌てすぎっす」

勇者「いや慌てるよ!いや、慌てますよ!!」

ポルトガ姫「敬語なんていいっすよ。今までどおりで」

ポルトガ姫「やー、いつ気付くかな?って心ん中でニヤニヤしてたっすよ」

ポルトガ姫「確かに宿で会った時みたいな身なりじゃなく、ちゃんとしてますしね。今」

ポルトガ姫「化粧もしてないですし……本当は船乗りの格好の方がいいんすけどねぇ」

勇者「なな、なんでお姫様なのに、船乗りに扮して――……」

ポルトガ姫「ん?んー……別に扮してたってわけじゃないっすよ?」

ポルトガ姫「本当に船乗りになろうって思ってたんすよ。実際色んな船に乗らせてもらったりしてましたしね」

勇者「えー……?でも、お姫様なんでしょ?」

ポルトガ姫「そっすよ」

勇者「だったらなんで……船乗りにならなくとも、船くらい乗れるんじゃ」

ポルトガ姫「あ、わかってないっすねー勇者くん。別に船に乗るのが目的じゃないんすよ」

ぽすっ

ポルトガ姫「よっと、ちょっと座らせてもらうっす」

ポルトガ姫「……ほら、ポルトガってご存知の通り港国じゃないすか」

ポルトガ姫「だからこの国には色んな船乗りが集まってくるっす」

ポルトガ姫「そういう人らって大抵王の所に謁見に来るし、ましてや私は王の娘だから、小さい頃からそういう人らにいっぱい会って話を聴いて育ったっすよ」

ポルトガ姫「この城の中で、お姫様として大事に育てられてきた私にはそれが絵本代わりで、教科書代わりで。生きがいだったんす」

ポルトガ姫「そして、ある時……そうっすね、6歳の頃ですかね」

ポルトガ姫「あなたの父……オルテガ様に会ったんす」

勇者「!」

ポルトガ姫「まあそれまでもちょこちょこ来てたらしいんですけど、小さかった私にはそれが最初の記憶っすね」

ポルトガ姫「で、オルテガ様に色んな話を聴いたっす。世界の話を」

ポルトガ姫「もうそれはそれは面白くって面白くって……で、気付いたら。船乗りに憧れてたってわけっす」

勇者「なんかすみませんうちの父が……」

ポルトガ姫「あはは!なんで謝るんすか!」

ポルトガ姫「まあオヤジ……ポルトガ王とお母様には反対されまくったんすけどね」

ポルトガ姫「だからちょいちょい家出しては船に乗ったんす」

ポルトガ姫「……結果は、王族の私が、船乗りに認めて貰えるわけもなく……ってカンジで」

ポルトガ姫「で、自棄酒してた時に勇者くんと会ったんすよ」

勇者「そうだったんだ……あれ」

ポルトガ姫「どうしたんすか?」

勇者「……もしかして、なんだけど」

勇者「女勇者が言ってた……“ムオルさんともう一人の協力者”の、もう一人って」

ポルトガ姫「そ!ご名答っす!」

ポルトガ姫「私がオヤジやその他に事情を聴いて――……」



――――――――――――――


――勇者一同が拘束された日――


スタスタ

遊び人『……』


女勇者『……』

女勇者『(何か引っかかる事でもあったのかな……)』


ガシッ


女勇者『え?』


ポルトガ姫『……』


女勇者『(船乗り娘ちゃん?)』

女勇者『ど――……』

ギュッ!!

女勇者『んぐっぅ!!!?~~~~!!』ジタバタ

ポルトガ姫『静かに!こっち来て!』ボソボソ!

ズルズル



――路地裏――


ズル…


女勇者『ぷはっ!けほ、けほ!』

女勇者『いきなり何するんだい!船乗り娘ちゃん!』

ポルトガ姫『しっ!騒がないで!』

女勇者『え?なんでだい、な――……!!!』



ザッザッザッ!!!!


女勇者・ポルトガ姫『『……!』』

女勇者『(なんだ、今の兵達)』

女勇者『(全員剣を抜いて、何かを探すように)』

ポルトガ姫『あなた達を探してるんすよ』

女勇者『は!?な、なんでだい!!』

ポルトガ姫『……なんでも、勇者くんを捕まえるらしいっす』

ポルトガ姫『魔物の……容疑で』


女勇者『……なんだって?』


ポルトガ姫『っ』ゾクッ

女勇者『……くっ!!』ダッ

ガシッ!

ポルトガ姫『ちょっと待つっす!どこに行くっすか!』

女勇者『お義兄ちゃんの所だよ!!早く行かなきゃ!!!』

ポルトガ姫『おそらくもう遅いっす!!!この件は国連が総出で絡んでるんすよ!!』

女勇者『……!!!!?』

ポルトガ姫『今出て行っても、国連の勇者達全員に迎え撃たれるっす』

女勇者『じゃあ黙って見てろっていうの!!!?』

ポルトガ姫『そうじゃないっ』




ポルトガ姫『多分ですが……話聴く限り、向こうは女勇者ちゃん。貴女の存在を知らない』


女勇者『!!』

ポルトガ姫『……やっぱり心当たりあるんすね』

女勇者『……』

スッ

女勇者『スー……はー……』

女勇者『……私を隠してくれてありがとう』

ポルトガ姫『いいんすよ』

女勇者『いや、船乗り娘ちゃんがこうしてくれなかったら多分詰んでいた』

女勇者『でも、なんで船乗り娘ちゃんがこんな事……事情も知ってるみたいだし』

ポルトガ姫『んー……まあ私の事情はおいおい話すとして。女勇者ちゃん』

女勇者『なんだい?』


ポルトガ姫『取引、しませんか?』


――――――――――――


勇者「……そうだったんだ」

ポルトガ姫「いやあ、結果オーライでみんな無事でよかったっすよ」

勇者「本当に、ありがとう」

ペコ

勇者「おかげで遊び人も、みんなも……僕も」

勇者「助かりました。……――本当に、なんて言ったらいいか」

ポルトガ姫「……」

勇者「……?ポルトガ姫さん?」

ポルトガ姫「……ふふ、いえ」

ポルトガ姫(やっぱり、宿で会った時となんら変わりないっすね)

ポルトガ姫(……私には、あの塔に居た人間のいう事はにわかには――)

ポルトガ姫「……ま、いいっす」

ポルトガ姫「本当に気にしないで下さいっす。こっちだって条件出したんですし」

勇者「条件?」

ポルトガ姫「ええ。実は――……」


コンコン

ガチャッ


メイド「あの、ポルトガ姫様」

ポルトガ姫「え?なんですかメイドちゃん」

メイド「お后様がお呼びです。なんでも、今回の家出の件でお説教とか――……」

ポルトガ姫「ホントっすか……うええ、お母様、怒ってたっすからねぇ……」

メイド「あ、口調戻ってますよ」

ポルトガ姫「いいんすいいんす、勇者くんは元々知り合いでしたし」

メイド「……」

勇者「……」

メイド「……とにかく。私も一緒に説教されてあげますから。行きましょう」

ポルトガ姫「はいはい。今行くっす……それじゃ、勇者くん。続きはまた後で」

勇者「……うん、ありがとう」

メイド「ここには他の給仕の者を来させますので、何か御用がありましたらその者に」

メイド「では」


バタン……


勇者「……」

ボフッ


勇者「……」

勇者(色々ありすぎて、ちょっと混乱しそうだ)

勇者「……」

勇者(でも、なんだろう)

勇者(何か、何かを忘れてる気がする)

勇者(僕は、ランシール勇者どうやって助かった?)

勇者(ジパングの勇者の人に、綱から落とされて……どうなったんだ?)

勇者(……)


スッ


勇者(……なんで)


勇者(なんで、体中の傷が、捕まる前より治っているんだ?)


勇者(僕に回復呪文を使える僧侶でも、こんなに完全に傷を治癒させるのは無理だったはずなのに)


勇者「……」

――――――――――


メイド『貴方みたいな魔物の――……!!』


――――――――――

勇者「……」

勇者(……一体、何が)

勇者「……」


ムクッ


勇者「……会議室か」



――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――



――ポルトガ城・会議室――



ガチャッ


ムオル勇者「……失礼します」

ポルトガ王「おお、ムオル勇者か」

ポルトガ大臣「これで全員揃いましたな」

ポルトガ将軍「……」

ポルトガ勇者「イシスん所は?」

イシス勇者「ああ、全員いるよ」

イシス魔法使い「イシス勇者様と従者3人です」

イシス僧侶「ばっちしです!」

イシス戦士「……勇者の所は?勇者はまだ、目覚めないのか?」

女勇者「ああ、まだみたいだ」

武道家「でも眠ったままでも水は飲んでくれるし、心配ないみたい」

戦士「傷も無いしな。少しは安心だ」

魔法使い「でも、これでみっかめだね……」

僧侶「なんで目覚めないんでしょう……」

商人「あーもう、そんな心配しなくて大丈夫ですって。勇くんですよ?あの生命力の塊ですよ?」

盗賊「…………」

商人「だから盗賊ちゃんもそんな虚ろな目してないでくださいって!」


遊び人「……ムオル勇者さん、勇者ちゃんの所に行ってたんですよね?」

遊び人「勇者ちゃん、どうでした?」


ムオル勇者「ああ、今言おうとしたんだが……先ほど、目を覚ました」


「「「「!!!!」」」」


遊び人「本当!?」

魔法使い「ゆーしゃ、めをさましたの!?」ガタッ

戦士「ちょっと行って――……」ガタッ


ムオル勇者「まあ待て。ようやく皆が集まったんだ。話が終わってからでも遅くなかろう」

ムオル勇者「奴の事は給仕の者に頼んでいる。体調も良かった。安心しろ」


女勇者「……よかった」

ポルトガ王「それでは、話を始めようか」

ポルトガ王「まず、今回の件について……質問がある者は居るか?」

スッ…

遊び人「……はい」

ポルトガ王「おお、では賢者様」

遊び人「ありがとうございます……では質問なんですが」

遊び人「なぜ今になって国連が私を賢者に祀り上げようと動き始めたんですか?」

遊び人「私がガルナの妹、賢者の末裔だという事は国外不出だったんですが……もしやそれがどこかから」

女勇者「それは私が答えるよ」

遊び人「え?」

女勇者「……前回の首脳会議に出席した方々はご存知なんだろうけど」


女勇者「ナジミ様さ」


遊び人「!!?」

武道家「ナジミ様……?」

商人「え、どういう事ですか」

女勇者「……三日前に、ナジミ様にお会いする事があってさ」


――――――――――――


――アリアハン城・城門――

ワーワー


『自分の息子って……!目を覚ませよ勇者母さん!!』

『騙されてたのよ!!貴女!』

『ああ、ルビス様、彼女をお赦しください……』


勇者母『……何度でも言います、あの子は私の息子です!』


女勇者『…………母、さん……』


ザッ


『お前さんがた、少し静かにせい』


女勇者『え?……えっ!!?』

勇者母『……?』


『なんだこのジジイ?』

『今大事な話をしてるんです!邪魔を』


女勇者『ナジミ様!!』


ナジミ『……』


『ナジミ、様?』

『ナジミって……あのナジミの塔と何か関係が?』

『お、おい!!お前さんがた!!頭を下げろ!!失礼じゃぞ!!』

『え?どうして』

『このじいさんが一体』

『この方は賢者様じゃ!!世界的にも高名な!!!』


『『『!!!?』』』


ナジミ『はは……アリアハンではもうわしの名は死につつあるな』

ナジミ『しかし、その名をここで使わせてもらうぞ』

ナジミ『勇者母にこれ以上無意味な悪意を向けるでない』

ナジミ『その女と魔族は無関係じゃ……これ以上お前達がなにか喚くようなら』

ナジミ『……ただでは済まさん』


女勇者『ナジミ様……』


『し、失礼しました……』

『帰ろうぜ』

『っくそ、俺達は他の国にどんな顔向けりゃいいんだよ……』

スタスタ…


女勇者『……ナジミ様!』タッ

ザッ

女勇者『ナジミ様、ありがとうございます!』

女勇者『おかげで母は――……』

ナジミ『やめるんじゃ』

女勇者『……――え?』

ナジミ『……謝るのは、謝らんといかんのはワシのほうじゃ』

ナジミ『…………すまない』


ナジミ『今回の騒動は……――ワシが引き起こしたものじゃ』


――――――――――――


女勇者「そこでナジミ様が全て教えてくれたんだ」

女勇者「ほら、遊び人ちゃん……覚えてる?お義兄ちゃんが捕まる前の日」

遊び人「前の日?……あの、魔物達の群れと、大きな竜が空を飛んでた事?」

女勇者「そう。ナジミ様はあれを予知夢に見たんだ。そしてあれは落日の七日間の状況に酷似していたらしい」

女勇者「だから、遊び人ちゃんを狙いに来るものだと思ったナジミ様は、首脳会議でその件をみんなに訴えた」

女勇者「そしてそれがサマンオサの奴らの耳に入り……――後はご存知の通り」

女勇者「異様なまでに軍を拡大しているサマンオサが遊び人ちゃんを擁し……賢者として復活させ、守る」

女勇者「それに利用されたんだ」

戦士「あんのジジイ……」

遊び人「戦士、ナジミ様は正しい事をしただけよ」

女勇者「……そこで、サマンオサで力を得ていた騎士団長がアリアハン王の隠蔽を告発、アリアハン王が全てを自白」

女勇者「お義兄ちゃんと遊び人ちゃんの事が、国連の目下に晒されたって事さ」

遊び人「……そっか、そういう事だったんだ」

遊び人「……ポルトガ王様、この度はご迷惑をお掛けしたどころか、こんな風に匿っていただいて」

ポルトガ王「ガッハッハ!!!お気になさらず!!私どもはなんともない!!」

ポルトガ勇者「ああ。それにここに居る奴らは皆あんた等の仲間だ。話が漏れる恐れもないから安心しな」

ポルトガ大臣「王子!賢者様にむかって――……」

遊び人「いいんです、大臣さん……ありがとうございます。みなさん」


ポルトガ将軍「……お言葉ですが、私は不満があります」


「「「!!」」」

ポルトガ大臣「しょ、将軍!!何を言うか!!」

ポルトガ王「将軍よ。抑えろとあれ程言ったではないか」

ポルトガ勇者「不満って……なんだよ?言えっつうの」


ポルトガ将軍「では、言わせて頂きましょう」

ポルトガ将軍「昨日行われた緊急の国際連合会議で……我がポルトガが負った責をお忘れで無いでしょうね」

ポルトガ将軍「我々は、“容疑者勇者を逃した”……“檻としての役割を果たせなかった”」

ポルトガ将軍「よって、“世界各国の五港のポルトガ領の港の所有権を国連へ譲渡”」

ポルトガ将軍「そして“ポルトガ国王の国際連合での発言権を3年間無効化”」

ポルトガ将軍「そう言い渡されたのですぞ!」


イシス勇者「……!」

女勇者「……っ」

戦士「……それってまずい事なのか?」ボソボソ

魔法使い「まずいどころのさわぎじゃないよっ」ボソボソ

商人「アホな戦士ちゃんに分かりやすく言いますとね……“3年間、国連の財布・パシリ・そして奴隷になれ”って事です」ボソボソ

盗賊「……横暴って枠を超えてる……」

ポルトガ王「……頼むから、抑えてくれ将軍」

ポルトガ将軍「いいえ、抑えられませぬ!王、これはあまりにも酷い」

ポルトガ将軍「我々の国で勝手に争われ、勝手に城を檻にされ、そしてほぼ、属国にされてしまった!!」

ポルトガ将軍「国民達はどうなります!五港に、現地に居を構えていた者達は!この国に住む者達は!」

ポルトガ将軍「これから無茶な駆り出され方をするであろう者達は!!如何なさる!!」


ポルトガ将軍「こんな事になるのならあのような魔物など、突き出してしまえばよかったのです!!」


戦士「……」

武道家「……抑えてね」ボソ

武道家「この人の言ってる事……これはこれで、間違っちゃいないんだから」ボソボソ

戦士「ああ……大丈夫」ボソ

戦士「この人も、この人の守るもんがあるんだろ」ボソボソ


ポルトガ王「将軍。口が過ぎるぞ」

ポルトガ王「それに、あの者は魔物では――……」

ポルトガ将軍「何を仰います!!今回の件の報告をお聞きになったでしょう」

バッ

ポルトガ将軍「もうみなさんもご存知のはずだ!!」


遊び人「……っあの」


ポルトガ将軍「なんでしょう、賢者様っ」

遊び人「……実は、まだ」チラ


魔法使い「……?」

僧侶「報告?」


遊び人「仲間の、みんなには……」


ポルトガ将軍「……いい機会ですっ……!教えて差し上げよう」



ポルトガ将軍「あの者は、本当に魔族だったのです!!」


女勇者「……」

魔法使い「……」

盗賊「……」

僧侶「……」

武道家「……」

戦士「……」

商人「…………は?」


ポルトガ将軍「ガルナの塔で、ジパングの勇者に追い詰められた彼は豹変」


ポルトガ将軍「魔物の姿を現し、捜索の兵士達を蹂躙した!!!」


ポルトガ将軍「その際、その場に居たサマンオサ兵は全員死亡!!!!!」


ポルトガ将軍「あの男に殺されたのです!!!!」


魔法使い「……な、何を」

盗賊「……嘘……」

ポルトガ将軍「嘘ではない!その場に居合わせたランシールの勇者とエジンベアの勇者」

ポルトガ将軍「そしてダーマの兵とエジンベアの兵……全員が口を揃えてそう供述した!」

ポルトガ将軍「……賢者様。貴女様も証人のお一人のはずですねっ……!!」

戦士「……お、おいおい遊び人」

盗賊「……遊び人……」

遊び人「……」

商人「……今、の……本当、なんですか」



遊び人「……」

遊び人「……うん」



遊び人「……今の、全部……本当の事だよ」









勇者「………………」






――会議室・外――


<ですからあの魔族は――……!有害――……!



勇者「……」


勇者「……」


勇者「……」


勇者「……」


勇者「……」


勇者(ころ、した?)


勇者(僕が)


勇者(僕)


勇者「……」


勇者「……」


勇者「魔物」


勇者「…………」


勇者「魔物、だったんだ」


勇者「……」


勇者「……」


勇者「……」


スタスタ…


スタ…





・ 

今日はおしまいです

ポルトガ将軍「ですからあの魔族は匿うべきでは無いと私は主張したい!有害でしかないのです!」

ポルトガ将軍「わが国にとって……いえ!人類にとって!」


女勇者「……」


盗賊「……」


僧侶「……」


武道家「……」


戦士「……」


商人「……」


魔法使い「……や」

ポロ…

魔法使い「やめてよ……!やめてよぉ」ポロポロ

ポルトガ将軍「……捲し立てて申し訳ない。しかし、事実だ」

僧侶「……」

ギリッ…


僧侶「…………実は……なんとなく、わかっていました」


イシス魔法使い「僧侶ちゃん!?」

イシス戦士「お前っ、お前まで何を!?」

イシス僧侶「……“あの回復呪文”の事、だよね」

僧侶「……」コク

イシス戦士「なに?どういうことだ」

イシス僧侶「前に僧侶ちゃんから聞いたんだけど……僧侶ちゃんは、ルビス様の加護が無い勇者くんに回復呪文を使えるじゃない?」

イシス僧侶「それを使った際に、体に黒い痣みたいなものが浮かび上がってくるんだって」

イシス魔法使い「黒い、痣……!?」

イシス戦士「それがどうしたというのだ!」

イシス僧侶「……回復呪文のからくりってね。循環なんだ。対象者に力を与えるんじゃなくて、対象者の、ルビス様の加護を纏ったエーテルを自分に促すの」

イシス僧侶「そこで自分の魔力でその促されたエーテルを治癒形態に書き換えて、相手に戻す……だから、ルビス様の加護がなければ、できない」

イシス僧侶「でも、僧侶ちゃんはそれができる……」

イシス魔法使い「……黒い痣は、通常悪魔を召喚したり、人知を超えた魔力に接する際にできるものって言われてるわ」

イシス魔法使い「でも、悪魔を召還したりなんて、御伽噺のようなものと判明してる現代では正直迷信めいたものだと思われてたの」

イシス戦士「……それが」

僧侶「……」

イシス戦士「……お前には、浮かぶのか……」

魔法使い「で、でも!浮かんでも、すぐにきえていくんだよ!?」

イシス僧侶「それは多分、僧侶ちゃんの魔力が膨大すぎるからだよ」

イシス僧侶「……私がやったとしたら、恐らく一回で真っ黒になって、息絶えてる」

魔法使い「……!」

僧侶「……」

僧侶「……でも」

僧侶「でも、でも私は」

僧侶「私は!勇者くんが魔物であっても、なんであっても!……――敵ではないと」

僧侶「勇者くんは、勇者くんだと……!!そう思っています……!!」

武道家「……」

商人「僧侶ちゃん……」

ポルトガ将軍「しかし、彼は実際に人間を殺した!」

ポルトガ将軍「仲間として過ごし、情が湧くのも分かるが、あの男は危険――……」



「「「それに関して、言いたい事が」」」



ポルトガ将軍「!!?」

僧侶「!!」

「「「「「「!!?」」」」」」



ポルトガ王「……」


イシス勇者「……」


女勇者「……」


遊び人「……」



ポルトガ将軍「……な、何を」

ポルトガ王「……賢者様。お先にどうぞ」

遊び人「では、失礼して」




カラン


ポルトガ将軍「……あの、これは?」

遊び人「……これは、ガルナの塔で勇者ちゃんに変化が起こる前、彼が吐き出したものです」

ポルトガ勇者「吐き出した?って、この……刃物の欠片みたいな物をかよ?」

盗賊「……これって?……」

遊び人「最初は私も何かは分かりませんでした……でも、今なら分かります」


遊び人「これは、お姉ちゃんが。賢者ガルナが他の賢者様と力を合わせて作った、魔力制御の為の魔力を込めた短剣の剣先です」


ポルトガ勇者「……短剣」

――――――――

騎士団長『その少年も、帰って来た時には、傷を負って満身創痍でしたが、しかしその傷には、おかしな点があったのです』

騎士団長『全てが、刃物による傷だったのです!!!魔物に襲われてつけられた傷ではなく!!!人間の手によって付けられた傷でした!!!』

騎士団長『そして、その傷の中で、一番深い傷。それは、切り口を医者が診てみたところ、ガルナ様の短剣によるものだという事が判明したのです!!!!』

――――――――

ポルトガ勇者「騎士団長の言ってた、あの傷って」

遊び人「……多分、この剣先によるものです。魔力で折られたような跡があるので、意図的に勇者ちゃんの体内に埋め込まれたものだと思います」

ポルトガ将軍「でしたら、やはりあの男はガルナ様と闘い傷を――……」

遊び人「いえ、もしそうでしたら無力化した勇者ちゃんを生かしておく筈がありません。剣を魔力で折る理由も無い。そのまま突き刺してしまえばいいんですから」

ポルトガ将軍「ではなぜ――……」

遊び人「……細かい理由までは、わかりませんが……“賢者ガルナが、殺そうとしなかった”という事はわかります」

遊び人「それに大賢者三人で協力してこの剣に魔力を込めた、というのもなんだか妙なんです」

遊び人「本当に危険であれば、こんな物を作らなくても、人間の状態の勇者ちゃんすぐに殺せばよかった。でもしなかったんです」

ポルトガ将軍「……」

遊び人「…………そして、私が。勇者ちゃんが危険な魔物じゃないと気付いた切欠があります」

ポルトガ将軍「……それは?」



遊び人「勇者ちゃんは、“サマンオサ兵以外の人間に、危害を加えなかった”んです」



ポルトガ王「……!」

イシス勇者「!」

女勇者「……」

遊び人「いえ、危害をくわえなかっただけではありません」

遊び人「ダーマの兵が、逃げようと躍起になったサマンオサ兵に危害を加えられそうになった際……それを助けるような素振りも見せました」

ポルトガ将軍「それが一体なんだというのですか!それでもサマンオサの兵達は殺されたのですよ!!」

ポルトガ将軍「サマンオサの兵だけを狙って殺す理由など、どこにも無い筈です!!」

ポルトガ王「それについては、私の話と繋げさせて頂こうか」

ポルトガ将軍「王!?」

ポルトガ王「……実は、私はオルテガとは旧知の仲でな」

ポルトガ王「オルテガの仲間、サイモンとも仲が良かった」

イシス勇者「……」

ポルトガ王「しかしある時、サイモンの行方が分からなくなってしまった」

ポルトガ王「サイモンはサマンオサの出だ。私はサマンオサの王にその件について捜査を協力しようと申し出た……しかし、王は」

ポルトガ王「“居なくなった者は仕方あるまい。なに、すぐに強力な勇者をまた捻り出そう”と、取り付く島も無かった」

ポルトガ王「その辺りの時期以来、サマンオサの王は人が変わった。魔族狩りと称して民を殺し、国内、近隣の住人達を強制的に徴兵したりと……それはまあ置くが」

ポルトガ王「サイモンの失踪後しばらくして、この国にオルテガが来た。奴がネクロゴンドに向かう直前だった」

ポルトガ王「……オルテガは、私に言ったのだ」


オルテガ『サマンオサを信用するな。下手に追求もするな』


ポルトガ王「……とな」

ポルトガ将軍「ど、どういう事なのです?」

イシス勇者「……僕の主張も似たようなものです」

ポルトガ将軍「イシス勇者殿。一体何が」

イシス勇者「僕も、故あってサマンオサの動向をずっと調べていました」

イシス勇者「そして今回の件も、少し気になる所があって騎士団長に探りを入れるべく、ある提案をしてみたんです」

イシス勇者「“容疑者勇者が魔物であれば、殺された者達は蘇生呪文で蘇るはず。急ぎましょう”と……でも、彼の答えは」


騎士団長『必要ありません。殺された者達の補充はすぐにできます』


イシス勇者「……頑なに、あの場の死体の蘇生を拒んだ」

ポルトガ将軍「……」

イシス勇者「それだけでしたら、彼のストイックな気質から来る独裁的な判断だと片付けられるかもしれません」

イシス勇者「しかし……これを見てください」

バサッ

ポルトガ勇者「……これは、なんだイシス勇者?」

イシス勇者「……15年前以前、サイモン失踪以前のサマンオサ国民の籍書類を写し書いたものだよ。とある筋で手に入れた」

イシス勇者「多分これを持ってる事がばれたら、僕はただじゃ済まないだろうね。……まあそれはいい。話を戻します」

イシス勇者「サマンオサは先進国です。籍は厳しく整えられていました……サイモンの失踪以前はね」

バサッ

イシス勇者「そしてこれが、国連に提出された事になっている、サマンオサ国民の籍書類です」

イシス勇者「……サイモン失踪以前のものから、改竄された項目が多々ある事……お分かりいただけますか?」

遊び人「……!!」

ポルトガ勇者「……あー……?こりゃ……」

イシス勇者「……気付いたかい?遊び人さん、ポルトガ勇者くん」

商人「……なるほど」

戦士「え?なんだよ、どういうことだよイシス勇者」

イシス勇者「出生の欄と死亡の欄を見てもらえるかい?」

武道家「これがどうかしたの?」

戦士「……確かに、数を直されてるけどさ。これが一体」

バサッ

イシス勇者「これが、現在提出されているサマンオサの書類……ついこの間のものだよ」

武道家「?…………!!」

戦士「??これのどこがおかしいんだってば」

イシス勇者「これに記述されている兵の数を見て欲しい。そしてそれから、改竄前のサマンオサの出生欄と死亡欄」

イシス勇者「……どれだけ若い兵士といえど、せいぜい16歳くらいだよね。少なくとも、国連の規定では16歳だ」

イシス勇者「ここには書いていないけれど……サマンオサでは魔族狩りと称して大規模な国民の処刑が行われてる」

戦士「……あ」

イシス勇者「…………足りないんだ」


イシス勇者「数が、足りないんだ。どれだけ徴兵を強化しようと、とても軍なんて作れない」

イシス勇者「でもそれは、改竄される前の書類での話だ」

トントン

イシス勇者「この、“改竄された、居るはずの無い人間達”は何だ?」

イシス勇者「この、“居るはずの無い人間達”は何処から来た?」

イシス勇者「……何故、サマンオサはこれを隠蔽しようとした?」


ポルトガ将軍「……な、何かの間違い、では」

ポルトガ将軍「移民や、国を流れた傭兵を雇って……それに、死刑囚を使って」

ポルトガ勇者「それでこれだけの軍を作れるってか?反乱も何もおこさずに?」

ポルトガ将軍「……」

女勇者「……皆話したし、最後は私だね」

僧侶「女勇者ちゃん」

ポルトガ将軍「……お願いします」

女勇者「それでは。……といっても、私の場合短いんだけどね。……――でも、とてもシンプルで分かりやすい」

女勇者「さて、さっきも話しましたが、ナジミ様に会ったんです」

女勇者「一通りお話をしたあとに……最後、別れ際の事です」

女勇者「私は、ある事を告げられたんです」



――――――――――――



――ガルナの塔――


スタスタ

ダーマ兵「しかし……おぞましい光景ですな……」

エジンベア兵「死体を回収してもらえないなんて、可哀想に」

ポルトガ兵「仕方がないっすよ。国連の命令なんですから」


エジンベア勇者「……」

エジンベア勇者(ったく……調査とはいえ、なんでまたこのフロアに来なくちゃいけないんだ)

オオォォォォ…

エジンベア勇者(……このフロア、真っ赤だ……サマンオサの奴らの血で染まってる)

エジンベア勇者(最早、僕にはトラウマだよ……ん?)



スー勇者「……」



エジンベア勇者「スー勇者じゃないかい!ちょっと、誰だこの子入れたのぉ!この子は塔外の調査だったろ!?」

エジンベア兵「す、すみません。入るときかなくて」

エジンベア勇者「ったく」

ガシッ

エジンベア勇者「スー勇者!ダメじゃないか入ってきちゃ」

エジンベア勇者「ほら、見ちゃダメだって!!この赤いの全部血なんだよぉ!?」

エジンベア勇者「トラウマになる前に出て行きなって……」

スー勇者「……」

エジンベア勇者「……?」

スー勇者「……エジンベア、さん」


クルッ




スー勇者【〝貴方にはこれが、赤色に見えるんですか?〟】



―――――――――――――――――


――サマンオサ城・騎士団長執務室――



ジパング勇者「あーもう、ムカツク――!!!!」


騎士団長「お静かにお願いします。書類の整理中です」

ジパング勇者「だってイライラが止まらないんじゃよ!!なんでわらわが一撃でのされなきゃならないんじゃよ!!」

ジパング勇者「んもー!!ちゃんと戦いたかったぁー!!」

騎士団長「ふふ……楽しそうですね?」

ピタ

ジパング勇者「……」

ニヤァ

ジパング勇者「わかるぅ?」

ジパング勇者「だって、あれ。勇者っち……一撃でわらわを気絶させたんじゃよ?」

ジパング勇者「こんな強敵、はじめてかもしんないじゃん?」

ジパング勇者「わらわ……勇者っちに恋しちゃった☆」

騎士団長「これまた趣味の悪い」

ジパング勇者「ふふ、お前さんは楽しく無さそうじゃね?」

騎士団長「それはもう。あのカスを取り逃がされた上に、あのカスの正体が本当に分からなくなったのです」

ジパング勇者「……上はなんて?」

騎士団長「『そのような存在、よこしていない』との事です」

ジパング勇者「……それはつまり」

騎士団長「はい」


騎士団長「ヤツの正体は、我々も分からない」


騎士団長「言わば“第三勢力”です」




ジパング勇者「……」

ジパング勇者「……くふ」

ジパング勇者「くふっふふっ、くふふふふ!!!」

ゴキゴキ

ジパング勇者「くはっ、くはははははははははは!!!!」

ゴキッ、ゴキゴキィ!!


―――――――――――――


女勇者「ナジミ様はこう仰いました」

女勇者「『昨日、夢を見た』」

女勇者「『女勇者よ、気を付けろ』」

女勇者「『国連の中に』」


―――――――――――――


騎士団長「ほら、変身が解けていますよ」

騎士団長「あなたは変身が本当に苦手ですね……」

ゴキィ…!!

ジパング勇者「次会ったら……くはっ」

ジパング勇者「ぐちゃぐちゃのぐちゃぐちゃのぐちゃぐちゃのぐちゃぐちゃのぐちゃぐちゃに殺してやる!!!!!!」

ジパング勇者「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!!!!!!」

騎士団長「……まったく」

騎士団長「まあとにかく。あのカスは我々の“敵”です」






騎士団長「魔王様の邪魔になる前に、排除せねばなりませんね」





――――――――――――――――――――――――――





女勇者「……『二人、魔物が紛れ込んでいる』」





今日はおしまいです



ザワッ


魔法使い「まものが……!」

イシス僧侶「国連の中にっ!?」

ポルトガ将軍「……!」

女勇者「……恐らくだけど。サマンオサは……騎士団長は、確実に黒だ」

ポルトガ将軍「騎士団長が……!?こ、この事は国連に知らせ」

ポルトガ勇者「られるワケねぇだろうがよ」

ポルトガ勇者「今ここで下手に奴らに疑惑ふっかけてみな。それを大義名分としてあらゆる事で面倒をかけてくるぜ」

ポルトガ王「現段階では向こうも静かだ。まず少し様子を見てみなくてはならんのだ」

ポルトガ将軍「……」

ガタ…

ポルトガ将軍「……出すぎた事を言って……申し訳ありませんでした」

ポルトガ将軍「しかし、それだからと言ってあの男が完全に安全だと決まったわけでは無いのでは……?」

女勇者「……それは」

ポルトガ将軍「報告では、体の丈が変化し、肌も変色。まるで外見は魔物のようだったとあります」

ポルトガ将軍「国連の中の魔物を抜きにしても、あの男は人間だと嘘を吐いていたのでは」

ポルトガ勇者「いや、それはねえと思う」

イシス魔法使い「どうしてわかるの?」

ポルトガ勇者「あいつに落日の話を聞いたんだけどさ。その終盤付近……ちょうど……ホラそれ」

ポルトガ勇者「多分その剣の事だと思うんだけど、その剣の切っ先を刺される前辺りの記憶が曖昧だって言ってやがった」

武道家「……つまり」

商人「勇くんは、自分の異変に気がついていない……」

ポルトガ勇者「ああ……だから、恐らくあいつは何も企んではねえよ。俺達の敵では無い…………だが」


ポルトガ勇者「これから、どうなるかは。わからねえ」


「「「…………」」」


遊び人「……大丈夫です」


ポルトガ将軍「!」

武道家「遊び人?」


遊び人「勇者ちゃんは、大丈夫です」


ポルトガ勇者「……」


遊び人「……もし、もしこれから何かがあって」

遊び人「彼が脅威になる事があったら……」


遊び人「……――その時は」

―――――――――


――ポルトガ城・城壁の展望所――


ヒュゥゥゥゥ…



勇者「……」

勇者(僕は、魔物だった)

勇者(遊び人が言ったんだ。間違いない)

勇者(思い出してきた。気を失う前の事)

勇者(ジパングの人が、僕を襲った後の事)

勇者(カンダタ達が)

勇者(殺されたって)

勇者(それを聞いたら、目の前が真っ暗になって)

勇者(それで、気付いたらもう、ここに)

勇者「……」

勇者(……なんだ)

勇者(魔物)

勇者(魔物)

勇者(……魔物)


ザッ


「……どうした。こんな場所で」


勇者「…………」

 
ムオル勇者「……」


勇者「…………ムオル勇者さん」

スタスタ

ムオル勇者「部屋で寝ていろと言った筈だ」

勇者「……」

ムオル勇者「もう体は動かしても平気そうか?」

勇者「……体?」

勇者「体、ははっ」

勇者「そうだ、平気だ。平気なんだ」

勇者「あはは、はははは」

ムオル勇者「……勇者?」

勇者「体が、ボロボロだったはずなのに、もうこんなに回復してる」

勇者「そうだよ、おかしいと思ったんだ。そうだよ」

ムオル勇者「お前、まさか」


勇者「やっぱり、魔物なんだ」

勇者「僕、魔物なんだ」


ムオル勇者「……聞いてしまったか」


勇者「さっき、会議室に行こうと思って。そしたら聞こえてきたんです」

勇者「皆が話すのが聞こえて……魔物!魔物だって!」

勇者「……サマンオサの人たちを殺したって」

ムオル勇者「……」

勇者「ははっ、あはははは」

勇者「なにが“魔物が憎い”だ」

勇者「僕が、僕自身、魔物だったんじゃないか」

勇者「バカみたいだ、本当に、バカみたいだ」

ムオル勇者「……落ち着け、勇者」

勇者「落ち着いてますよ、やっと自分の正体が分かったんだ」

勇者「どうりで……ルビス様の加護が無いわけだよ。あるわけないじゃないか、そんなもの、魔物に!」

勇者「あははは、強くなろうとして、ホント、バカだ!」

ムオル勇者「落ち着け」

勇者「……ムオル勇者さん」

ムオル勇者「何だ」

勇者「カンダタは、カンダタ達はどうなったんですか」

ムオル勇者「……」

勇者「カンダタはどうなりましたか」

ムオル勇者「……奴らは」

ムオル勇者「奴の一味の者達は、ジパング勇者が全員殺した」

勇者「……」

ムオル勇者「カンダタは一人生け捕りにされた後……情報を聞き出し、処刑された」

ムオル勇者「処刑はネクロゴンドで行われたとの事だ。二度と蘇生できぬよう、ネクロゴンドの火山の火口に放り込まれた」

ムオル勇者「一味の者達の遺体も、全てそこに放り込まれたらしい」

勇者「……」

勇者「……は」

勇者「はは、はっ」

グシャッ

勇者「バカだ、本当、僕は」

勇者「なんて言えばいいんだ、カンダタに、なんて説明すりゃいいんだよ」

勇者「あいつらは僕の事信じてくれてっ、なのにっ」

ムオル勇者「……」

勇者「僕は魔物だったのに、あいつらを死なせて僕がっ」

ムオル勇者「仕方の無い事だ」

勇者「……仕方ない?」

ムオル勇者「奴らはその価値があると判断し、お前に加担した」

ムオル勇者「奴らが選んだことなのだろう。お前が何であれ、それは変わりはしない」

勇者「嘘だったんですよ」

勇者「僕は、嘘を吐いたんだ、魔物だったのに」

勇者「あいつらは、それを信じて」

ムオル勇者「……少々混乱しすぎだ。第一、お前の目的はあの賢者の末裔を逃がす事だったのだろう」

勇者「でも、あいつらは僕を信じてくれたんだ。そして、僕に加勢してくれた」

勇者「僕は、魔物だった」

勇者「魔物」

勇者「…………皆の敵だったんだよ」

ムオル勇者「……」

勇者「どうします?魔物ですよ?殺しますか?」

勇者「今なら僕、凄く弱いですよ?今がチャンスかもしれない」

勇者「ほら、殺してみてくださいよ」

ムオル勇者「……」

勇者「なんで黙ってるんですか、ほら」

勇者「殺してみてくださいよ」

勇者「ほら」


ムオル勇者「……」


勇者「……ねえ」

勇者「……――何か言ってくれよ」



ガシッ!!


ムオル勇者「……」


勇者「なあっ……何か言って下さいよ……殺せよ」

勇者「今なら何にもできないっ、無力だ……弱い、弱いんだよ。何もできない」

勇者「魔物なんだろ……!!?僕、……っは!!魔物!!!!魔物なんだろうが!!!」

勇者「本当に、本当に魔物だったんだろ!!!!」

勇者「なんで、なんで僕が生きてるんだよ!!!!!」

勇者「なんでっ」


勇者「テドンの皆とか、おばさんとか、賢者が死んでっ!!!」



ポロッ…



勇者「なんで魔物の僕が生きてるんだよ!!!!!!!!」ポロポロ



ムオル勇者「……!」


勇者「死ねばよかったんだ!!!あの時っ、あの日」

勇者「僕より!!生きる意味がある人たちを、僕のせいで殺して……!!!僕は生きてんだ!!!殺してくれよ!!!なんで殺さないんだっ!!!」

勇者「僕はっ」


ムオル勇者「……勇者」

ガシッ


勇者「僕は」


ムオル勇者「歯を喰いしばれ」




バキイッ!!!!!


勇者「っ!!!!」

ドシャァッ!!

ムオル勇者「……」

勇者「……っ」

勇者「まだ……生きてますよ」

ムオル勇者「……」

スタスタ

ガシッ


バキィッ!!!


勇者「ぎっ……!!!」


ムオル勇者「……」

勇者「……まだ死んでない」

勇者「まだ死んでないよ、殺せよ!!!!!」


バキィッ!!!!


勇者「がっ!!!」

ドシャァッ


勇者「……っは、く」

勇者「まだ、まだ死んでない」

勇者「まだ死んでない!!!!」

勇者「また僕だけ、僕だけ生き延びて」


勇者「今度はっ、カンダタ達を死なせた!!!」


勇者「僕はまだっ!!!!死んでないんだよぉっ!!!!」



ガシッ!!


バキィッ!!!

勇者「がぁっ!!!」

バキィッ!!!

勇者「うぁっ!!!」

バキィッ!!!


ドシャッ


勇者「がっ……はぁっ!!はぁっ!!」


ムオル勇者「……お前は、本当にどうしようもない馬鹿だ」

ムオル勇者「数日前に俺が言った事も忘れているようだな」

ムオル勇者「なぜそのカンダタ達が死んだのか、分からないのか」

ムオル勇者「なぜ落日の日、賢者達が、テドンの民達が死に、お前が生き延びたか分からないのか」

勇者「僕がっ!!!まきこんだがらだっ……!!!!」

ムオル勇者「違う」

勇者「僕が、ぐずでっ……!!!なにも、でぎなぐでっ」

ムオル勇者「違う!」

勇者「僕が、っ!!!!」

ムオル勇者「違う!!!」

スタスタ

ムオル勇者「そいつらが散っていったのはな」


ガシィッ!!


ムオル勇者「……――お前を守る為だ馬鹿者が!!!」


バキィッ!!!




ドシャッ!!!


勇者「っ……!!!」

ムク…


勇者「はぁっ……!!はぁっ……!!!」ポロポロ


ムオル勇者「……混乱しているのは分かる」

ムオル勇者「しかし、これ以上馬鹿を言うな。反吐が出る」

ムオル勇者「そいつらは、お前を生かすそれぞれの理由があった。それだけだろう」

ムオル勇者「それをお前自身が否定するな。大馬鹿者が」


勇者「はぁっ……はぁっ」


ムオル勇者「魔物だから生きる価値が無い?ならば死ねばよかろう」

ムオル勇者「俺が手を下さずとも、死ぬ方法はいくらでもある」

ムオル勇者「なぜ舌を噛み切らない?なぜこの展望壁から飛び降りない?」

ムオル勇者「甘えるな。お前はただ、言葉の免罪符が欲しいだけだろう」


勇者「はぁっ……っぁ……はぁっ」


ムオル勇者「…………お前が魔物だったら、お前は死ぬのか」

ムオル勇者「すべて放り投げて。死に逃げて。……お前はそれでいいのか」


勇者「……っ」


ムオル勇者「……逃げるのか」


ムオル勇者「たたかうのか」


ムオル勇者「どっちだ」


勇者「……」



ムオル勇者「答えろッ!!!!」


ムオル勇者「選べ!!!!自分自身で!!!!」


ギリィッ!!!!



勇者「……生きて、いたい」



勇者「まものでもっ、なんでも、いいっ……!!!!」


勇者「もう、いやだっ!!!!もういやなんだっ、こんなのっ……!!!」


勇者「生きてたいっ……死にたくない……!!」


勇者「あいつらと一緒にいたいんだ、みんなを、しなせたくないだけなんだよっ……!!!」



ムオル勇者「……」



勇者「……強くなりたい……!!!!」


勇者「強くなりたい…………っ!!!!強くなりたいっ!!!」



勇者「強くなりたい!!!!!」



ムオル勇者「ならば、なればいい」


ムオル勇者「お前がそう思うのなら、強くなればいい」






スタスタ 

ガシッ


ムオル勇者「立て」

勇者「…………ムオル勇者さん……」ポロポロ

ムオル勇者「……みっともない顔をするな」

勇者「で、もっ……!!僕は、もう」

勇者「魔物で……ルビス様の加護、も」

ムオル勇者「関係あるまい」

ムオル勇者「お前が強くなりたいのだろう」

ムオル勇者「お前が、お前自身の力を信用できないなら、それを制する努力を続けるしかない」

ムオル勇者「立て」

ムオル勇者「泣くな……立つんだ」


ムオル勇者「そのためならば、俺も力を貸そう」




…………
……




――ポルトガ城・廊下――



スタスタ…


勇者「……」

勇者「……」

勇者「……」


勇者(……僕は……)


「あ――――っ!!!いた―――!」


勇者「!?」ビクッ


タッタッタ

魔法使い「ゆーしゃ!!!」

勇者「魔法使い」

ガバッ!

勇者「って、うわぁっ!?」

ドサァッ!!

勇者「あだだだ……ぐむっ!?」

勇者「ま、魔法使い!なにいきなり飛び掛って……ちょっと、くるしいくるしい!」

勇者「魔法使……」


魔法使い「っ……」グスッ


勇者「……」


タッタッタ

武道家「あ!!!勇者アンタこんな所に!!」

僧侶「なんで安静にしてられないんですか勇者くんは!」

戦士「おーい!盗賊!商人!勇者こっちに居た……って盗賊はやっ!!!」

盗賊「……勇者!!!……」

商人「ったく、本当に勇くんは他人を困らせるのが好きなんですからっ」


勇者「……みんな」


ザッ

武道家「で?アンタ体大丈夫なの!?」

戦士「お前ずっと寝っぱなしだったんだからな!ばかっ」

盗賊「……お腹とか減ってない?……」

商人「毎回毎回心配させんなって話なんですよこのボケナスはもう」ゲシゲシ

僧侶「商人ちゃん!勇者くんを足で蹴らない!」


勇者「……」


魔法使い「ばかっ……!ばか、ばかっ……!」


勇者「……」

勇者「……なんで」


勇者(なんで、僕が魔物と分かっても……みんな)

勇者(僕と、普通に……)


勇者「……」

ギュッ

勇者「……ごめん」


魔法使い「……!ぐすっ……!」


勇者「ごめん……みんな」



そうか

やっぱり、僕は




ニコッ


勇者「ありがとう……みんな」



武道家「……」


戦士「……」


僧侶「……」


商人「……」


盗賊「……」


魔法使い「…………ゆーしゃ……?」



僕は、弱い


強くならなくちゃいけない




――ポルトガ城・会議室――




遊び人「……」


ペラッ


遊び人「……」

遊び人(…………お姉ちゃん)


ガチャッ


遊び人「!」


勇者「……遊び人」


遊び人「……勇者ちゃん」


スタスタ

勇者「どうしたの?もう会議も終わったのに一人で」

遊び人「……ううん。なんでもないの」

遊び人「勇者ちゃん、目……覚めたんだね。本当に良かった……体はもう大丈夫?」

勇者「うん。なんともない」

遊び人「そっか、良かった……心配したんだから」

勇者「…………それは」

遊び人「ん?これ?……うん。悟りの書」

勇者「……」

遊び人「…………ふふっ」

勇者「……えっ……?どうしたの?」

遊び人「見て、これ」

スッ

勇者「……その紙は」

遊び人「しおりと一緒にね、挟まってたの」

遊び人「お姉ちゃんからの手紙……私宛だって」

勇者「えっ……?賢者の?」

遊び人「そ……なんて書いてあると思う?」


遊び人「“これを読んでいるという事は色々あったんでしょうけど、あなたの事だからウジウジ悩んでいるのでしょう”」


遊び人「“あなたの悪い癖よ。あなたはあなたのやりたい事をやりなさい。もう何も強制しないし、止めもしない”」


遊び人「“ただ、この本は貴方が持っておいて。いずれ、必要になる時が来るかもしれない”」


遊び人「“正直、あなたには賢者になってほしくありません”」


遊び人「“あなたの作る料理が、私は大好きだった”」



勇者「……」

遊び人「ふふふっ……あのお姉ちゃんが、ふふっ」

勇者「……賢者」

遊び人「……本当は、私も分かってたのかも」

遊び人「お姉ちゃんが、私に賢者になってほしくない理由」

勇者「……」

遊び人「…………お姉ちゃんは、小さい頃から賢者を背負わされてたから、その重さを知ってたんだ」

遊び人「私には、それを背負わせたくなかったんだよね」

遊び人「……私は」

遊び人「私って…………バカだなぁ……」

勇者「……遊び人」

遊び人「……でも」


スクッ


遊び人「もう、大丈夫」

遊び人「私には、できる事が沢山ある」

ニコッ


遊び人「私は、私にできる事をやるよ」


勇者「……」

遊び人「ねっ。だから勇者ちゃん、これから」


勇者「…………遊び人は、強いなあ」


遊び人「え?」

勇者「……」

遊び人「……勇者ちゃん?」

勇者「ごめん……さっき、少し立ち聞きしちゃったんだ」

勇者「僕が魔物だったって事」

遊び人「っ……!!!」

勇者「…………」

遊び人「…………そっ……か」

勇者「……ありがとう、遊び人」

遊び人「えっ……?……なんでお礼なんか」

勇者「ガルナの塔で僕を止めてくれたんだろ?……ありがとう。本当に」

遊び人「……っそれを、言うなら……私の方が、助けてもらって……!!!」

遊び人「なのに……お礼なんか、わたし、何も……」

遊び人「何も……」

勇者「……」

遊び人「……」

勇者「…………手紙には僕の……魔物に関する事、何か他に書いてた?」

遊び人「……ううん」

勇者「そっか……」

遊び人「で、でも!」ガタッ!

勇者「うおっ!?」

ガシッ

遊び人「勇者ちゃんは勇者ちゃんよ!」

遊び人「あんな事になってもそれは私達にとって……私にとっては絶対絶対、ぜっっったいに変わらないから!!」

勇者「……」

遊び人「……信じて」

勇者「……遊び人」

勇者「多分、僕の中の魔物について……一番真理に近づけるのは……賢者の末裔の、遊び人だと思う」

勇者「これから、僕も精一杯、ああならないように努力するつもりなんだ」

勇者「でもそれでも、それでも失敗するかもしれない。また魔物になって」

勇者「人を、殺すかもしれない」

遊び人「……」

勇者「……遊び人」

勇者「いつかもし、そうなって。僕がもう戻らなくなったら」






勇者「僕を殺してくれ」





遊び人「……うん」






遊び人「うん……任せて」



遊び人「その時は……私が、ガルナの末裔として」



遊び人「……ううん」



遊び人「“私達”が、勇者ちゃんを……幼馴染として」



遊び人「殺してあげる」

勇者「……ごめんね。こんなとこまで迷惑かけて」

遊び人「……本当よ」

遊び人「昔っから変なところで迷惑かけられて、もううんざり」

勇者「あはは、ごめん」

遊び人「だから早くそんな事にならないうちに解決法を見つけるんだから」

遊び人「魔王なんかもちょちょいっと倒して、アリアハンに帰って」

ギュッ

勇者「……ごめん」

遊び人「ううん、魔王を倒さなくても、今からでも皆でアリアハンに帰って、研究して」

遊び人「勇者ちゃんを、勇者ちゃんが、魔物の力に負けないように」

遊び人「研究、して」

ナデ…

勇者「……うん」


ポロポロ


遊び人「みんな、で……暮らそうよ……」


遊び人「おねがい……おねがい、ゆうしゃちゃん」


勇者「……」


ギュッ


勇者「……ありがとう」

勇者(本当に、遊び人は強いなあ)


ナデナデ



遊び人「っ……!……っ……!!」



勇者「……」


勇者(強くなるしかない)


勇者(僕は、強くなるしかないんだ)



……
…………




――ポルトガ城前・王族船専用の港――



戦士「しかしさぁ……あれだよな」

魔法使い「ん?」

戦士「まさかポルトガ姫が出してきたあたし達を助ける条件ってのが」

盗賊「……うん……」


ガラガラ


ポルトガ姫「さあさあ皆さん!どんどん積荷を入れるっすよー!!」



盗賊「……私達の旅に同行させる事、なんて思いもしなかったよね……」

ポルトガ姫「ほらほら!何してるっすか!もうすぐ出発するんすよ!?」

僧侶「でも、良かったんですか?」

ポルトガ姫「え?何がっすか?」

僧侶「いえ……お姫様なのに、私達の船に乗って」

ポルトガ姫「モチのロンっす!第一、皆さんは海をなめすぎっす!」

ポルトガ姫「誰一人船旅の経験が無い状態で世界中を旅しよう何ざ本当に無計画ってレベルじゃないっすよ!」

ポルトガ姫「でーも!私が同行すれば安心っすよ!船の事ならそこらの奴らにゃ負けないっすからね!」

武道家「そりゃ、こっちからしたら凄くありがたいけどさ……」


スタスタ

ポルトガ王「まあ、下手に他の船に乗らせるより、オルテガの娘に預けた方がわしも安心だからな!」


女勇者「王様!」

ポルトガ姫「オヤジ」

ポルトガ王「基本、男所帯である船旅にコイツを遣るのは渋っておったのだが、みなは女所帯だからいらん心配もいらん」

ポルトガ王「どうか娘をよろしく頼む」

ポルトガ姫「あーもうっ!オヤジやめてくれっすよ!なんかはずいっす!」

女勇者「王様、本当にありがとうございます。助けていただいた上に、こんな立派な船まで……」

ポルトガ王「がはは!いいのだいいのだ。わしにはこれくらいしかできんでな」

ポルトガ王「……オルテガに、最後……何もしてやれなかった詫びの意味もあるが」

女勇者「……」

ポルトガ王「ともかく、何かまた不便があったら戻ってくるといい。出来る限りの支援はさせて貰うぞ」

遊び人「ねえ、これでいいのかな……」

魔法使い「うん!なんかかわいいよ!」

商人「いつもバニーの上にポンチョ羽織ってたんですし、それもそんなに変わんないですよ」

イシス僧侶「というかポンチョ羽織るくらい恥ずかしいならなんで普段からバニー着てたの?」

遊び人「え?遊び人の職ってあれが正装なんじゃないの?」

イシス僧侶「真面目かよ!あれはバーで働く人が多いからそうってだけだよ!?」

商人「この子、頭は良いんですけど変なところでとんちんかんなんですよね」

遊び人「ちょ、ちょっと待ってよじゃあなんで商人とか、みんな突っ込んでくれなかったのよ!?」

商人「いや、エロいし可愛かったですし。いいかな、と」

遊び人「なによそれ!!」

ポルトガ勇者「ん?賢者の嬢ちゃん何被ってんだ?」

遊び人「布だよ。一応まだ魔物に連れ去られたって事になってるから見られちゃまずいでしょ?」

ポルトガ勇者「あー、そっか……そういやそうだったな」

イシス勇者「そう考えると、あまり自由に動き回れないね」

遊び人「うん。だから私は基本船でポルトガ姫とお留守番」

遊び人「家事は私大好きだから、皆のサポートに徹する事になるかな」

イシス僧侶「いいなあ、私達も同行したいなぁ」

イシス魔法使い「私達には私達の目的もあるでしょ。何言ってるのよ」

イシス僧侶「でも料理がさぁーできるのがイシス魔法使いとイシス勇者様だけじゃんかぁぁ」

ポルトガ勇者「アンタもしろや」

イシス僧侶「特にイシス戦士の料理なんて強烈でさぁ、葉っぱを……あれ?」

遊び人「どうしたの?」

イシス僧侶「や、イシス戦士は?」


ザザァン ザザァン


勇者「……」


スタスタ

イシス戦士「……体はもう、平気か」

勇者「え?……あ、イシス戦士さん」

イシス戦士「どうしたんだ。海など眺めて」

勇者「ううん。なんでもないんだ……それより、イシス戦士さんこそ、お腹は?」

イシス戦士「ああ。あの後イシス僧侶がすぐ治してくれた。もうなんともない」

勇者「そっか……本当にありがとう」

イシス戦士「礼などいい。やめろ、くすぐったい」

勇者「はは……」

イシス戦士「……」

勇者「……ん?どしたの?」

イシス戦士「……あの時言った事は、本気だ」

勇者「え?」

イシス戦士「お前が行き場を失くしたら、私達が迎え入れる」

勇者「……」

イシス戦士「覚悟はしてもらうがな。女王様の為にこき使って」

勇者「僕は」

イシス戦士「……」

勇者「でも、僕は」

イシス戦士「……勇者」


スッ


勇者「え?」


ナデナデ


イシス戦士「……」

勇者「……」

イシス戦士「……そんな顔をするな。イシス勇者様が困ってしまう」

ニコ…

イシス戦士「笑ってくれ……お前が例え何であろうともな」

勇者「……」

イシス戦士「さあ、積荷も終わったのだろう。もうじき出発じゃないのか」

勇者「……」

ザッ

勇者「……ありがとう」

スタスタ…


イシス戦士「……」


スタスタ

イシス僧侶「あ、いたいたイシス戦士」

イシス魔法使い「もうすぐ船出らしいわ。私達も見送りに行きましょ」

イシス戦士「……ああ」

女勇者「さて、だ。出発前に目下の予定を整理しよう」

女勇者「まずは各地を回って情報収集。するんだけど……その前に、国連で騒ぎになってる件がある」

戦士「騒ぎ?遊び人の事か?」

女勇者「いや、それもあるけど……というかそれが引き金でもあるんだけれど」

女勇者「国連がある伝説を蘇らせるのに躍起になりはじめたんだ」

商人「伝説?」


女勇者「ああ……“不死鳥ラーミア”の伝説」


武道家「不死鳥ラーミア……?ってあの、ルビス聖書にもでてくる、あの?」

女勇者「そう、あの不死鳥ラーミアだよ」

女勇者「ルビス様に仕え、様々な世界をも行き来できたと言われる霊鳥だね」

戦士「そんなの御伽噺じゃないのかよ?」

ポルトガ勇者「いや、そうでもねえんだなそれが」

イシス勇者「実は、その卵が護られてる場所があるらしいんだ。ボク達も知らされてる」

遊び人「不死鳥ラーミアの、卵……!?」

商人「いやいやいやそんな情報大っぴらに出していいもんなんですか!?狙われたりなんか――……」

イシス勇者「その心配は無いらしい。その卵は昔から二人の巫女が護っているらしいんだけど……」

ポルトガ王「その二人が居る限り、その卵にもその巫女にも、何人たりとも危害を加える事はできんのだ」

女勇者「でも、その卵を孵らせるには、その二人の巫女曰く条件があって」


女勇者「それが、“オーブ”……6つの聖晶を集める事らしい」


魔法使い「むっつの」

僧侶「聖晶?」

戦士「どこにあるんだよ、そのオーブってのは」

女勇者「それが分からないらしくてね……。世界中に散らばってる可能性が高いらしいね」

商人「いやー……それ探すのは流石に無理じゃないですか?もしかしたら壊されてるかも」

ポルトガ勇者「壊れねえらしい。その聖晶も。異様なくらい強力なルビス様の加護で護られてるんだとよ」

商人「そりゃまた……なんか現実離れしてるといいますか」

女勇者「魔王が居座る場所は、まだ誰も足を踏み入れていない……私の父、オルテガさえもね」

女勇者「だから、このラーミアを蘇らせてその力を借りよう。って事みたいだね」

女勇者「元々僅かに国連の勇者達に捜索命令は出ていたそうだけど、今回遊び人ちゃんが攫われた事でお偉いさん達が本腰を入れ始めたらしい」

遊び人「……」

女勇者「……でも、この間私が言った事も思い出して欲しいんだ」


遊び人「国連の中には、魔物が居る」


戦士「……!」

武道家「それって……!」

女勇者「ああ。もしそのオーブがそのどちらかの手に渡れば……ラーミアの復活はできなくなる」

女勇者「壊す事ができないといっても、隠されればどうしようもないからね」

魔法使い「……じゃあ、わたしたちもそれをさがすんだね」

女勇者「うん。そうしようと思う」

女勇者「国連の手が絡んでいない私達だ。動向を探られる事も無い」

ポルトガ勇者「おう、頼りにしてるぜ」

イシス勇者「ボク達国連の勇者は行動にどうしても限界があるからね……」

女勇者「任せておいて。時々情報は交換しよう」


クルッ


女勇者「と、いうわけなんだ皆」

女勇者「船も手に入れた!オーブを探す為に出港しよう!」



「「「「おー!!」」」」



勇者「……」

遊び人「……勇者ちゃん?」

勇者「ん?」

遊び人「どうしたの、さっきからずっと黙って」

戦士「そうだぞ!!今の『おー!』もノれよ!」

商人「恥ずかしさ我慢して私もやってるんですよ!このアホ!」

女勇者「えっ……恥ずか……しい?」

勇者「あはは……ごめん」

遊び人「……?」


ザァン……ザザァン……


バタァン


ポルトガ姫「渡り橋は畳んだっすよ!皆乗りましたね!忘れ物ないっすね!?」


戦士「うおお!テンションあがるなぁ!」

武道家「潮風気持ちいいー!天気も良くてこれぞ船出!ってカンジね!」

商人「広いし綺麗な船ですね……!いくらくらいするんでしょうか……」

魔法使い「ふふっ!水平線がきれー!ねえねえ、みてきらきらしてる!」

盗賊「……本当だね……」

僧侶「あっ、そんなに身を乗り出したら危ないですよ魔法使いちゃん!」

女勇者「さて!それじゃ出発だ!」


ポルトガ姫「準備はいいっすね?それじゃ綱を切りますよ!」


ギッ


戦士「お」


ギギ


商人「おおお」


ギギギ


魔法使い「おおー!」



ザアァン




「「「「「動いたー!!!!」」」」」



戦士「すげー本当に海の上進んでるぞ!」

商人「当たり前でしょうが。船をなんだと思ってるんですか」

僧侶「船に乗るの久々すぎてちょっとこわいです……えへへ」

盗賊「……私もひさしぶり……」

武道家「そういやアンタ達は乗った事あるのよね。私は初めてだからちょっと怖いな」

魔法使い「だねぇ!でもすっごい海きれーだよ!」

魔法使い「見てみて遊び人、ゆっくりだけど岸が遠くなって」


遊び人「…………」


魔法使い「……遊び人?」

武道家「どうしたのよ?」


遊び人「……何してるの?」


戦士「え?」

盗賊「……何って……」



遊び人「そんなところで、何してるのよ」


遊び人「勇者ちゃん」



僧侶「……え」

戦士「っ……お、おいおいおい」

戦士「ちょっと、ポルトガ姫!戻って!」





勇者「……」





戦士「勇者がまだ乗ってない!まだ陸に居る!」




商人「ちょっと勇くん!どんだけドジなんすか本当おこりますよ!!」

僧侶「ああ、ちょっと、早く」

魔法使い「ポルトガ姫!おねがい!ふねを」


ポルトガ姫「このまま進みます」


魔法使い「……え……」

武道家「ちょっと……何言ってるのよ」

ポルトガ姫「……そういう命令なんす」

戦士「おいおい、冗談きついって、本当」

戦士「戻してくれ、止まれって」

ポルトガ姫「……」

戦士「……止まれってば!!!」




勇者「みんな!ごめん!!」




戦士「勇者っ、お前っ」

武道家「アンタ、何考えてるのよ!!!」




勇者「……皆とは、一緒に」



勇者「今は、一緒に行けない!!!!!」




魔法使い「……なに、なにいってんの……?」

僧侶「なんでっ、何を」


勇者「僕は、弱い!」


勇者「それに」


勇者「それにっ……」



勇者「僕はっ……!!!魔物だ!!!」



戦士「ふざっ、ふざけるなってっ」

商人「バカ!!!なに言ってるんですか!!!」

盗賊「……勇者っ、勇者ぁっ!!……」

武道家「アンタ、この前私にっ、付いて来いって……!!!嘘、嘘にする気なのっ!!!?」



勇者「僕は、僕がなんなのか、ちゃんと確かめなくちゃならないんだ!!」


勇者「それを確かめてくる!!!そして」


勇者「絶対!!!絶対強くなってくる!!!!」


勇者「この、魔物の力を使ってでも、何をしてでも!!!」



勇者「絶対絶対!!!強くなるから!!!!」






ポロッ…




戦士「……」


武道家「……」


魔法使い「……」


盗賊「……」


僧侶「……」


女勇者「……」



遊び人「……」





勇者「……っ」ポロポロ



勇者「まってて」ポロポロ



勇者「すぐに、おいつくから」ポロポロ





クルッ


戦士「……ポルトガ姫、全速力で出してくれ」

ポルトガ姫「……いいんすか?」

武道家「よかぁないわよ、良くない、けどっ」

魔法使い「ゆーしゃが、ないてる」

僧侶「“あの日”から、絶対……私たちの前で泣かなかった勇者くんが」

商人「泣いてるんです……っ」

盗賊「……行こう……」

女勇者「ポルトガ姫ちゃん。お願い」

ポルトガ姫「……」



遊び人「……」



勇者「……」




遊び人「……っ」




遊び人「勇者ちゃん!!!!」




勇者「……」




遊び人「また」



遊び人「また、絶対……私を、見つけに来て」



遊び人「つぎは、わたしも!私も、ちゃんと!勇者ちゃんを見つけるからっ」



遊び人「絶対……絶対」




勇者「……っ」


グシッ


勇者「ああっ……!!絶対、絶対!」



勇者「すぐに、すぐに行くから!!!!」



勇者「ごめんっ!!ごめんっ」



勇者「ごめん……」

ザザァン……


ザァン…



イシス勇者「……」


イシス魔法使い「……」


イシス戦士「……」


イシス僧侶「……」


ポルトガ勇者「……」


ポルトガ王「……」





勇者「っ……!!!っ……!」


勇者「ひ、くっ……!!っそ……」


勇者「くそっ……!!くそ……っ!!」


ギリィィッ……


勇者「……くそぉっ……!!!」




スタスタ

ザッ



ムオル勇者「……別れは済んだか」


勇者「っ……う……く!!」


ムオル勇者「…………これから行く場所は、お前には縁のある場所でもある」

ムオル勇者「日没までには出発する。仕度を済ませておけ」


勇者「……っく」


ムオル勇者「…………泣くな」


勇者「……っ」



ムオル勇者「泣くな」



勇者「……っ、は、いっ……!」


勇者「す、み……ません」


勇者「もうすこし」


勇者「もう少しだけっ……!!!まって、ください……っ!」



ムオル勇者「……」




強くなってやる



僕は、僕は





勇者「くそっ……!!!」


勇者「とまれっ……よ」


勇者「とまれよぉ……!!!!」





絶対に、強くなってやるんだ

…………
……







――どこか、深い森――



サァァァァ…


ぴょんっ


スライム「……」

スライム「……んー?」

スライム「……あーっ」




――深い森に佇む祠――



「……」


ぴょんぴょん


スライム「おじちゃん、おじちゃん」


「……ん」

ムクッ

「どうしたんだい?散歩に行ったんじゃ」

スライム「これっ、とりがおとしてったよっ」

「手紙……?誰かの伝書かな。ありがとう」

スライム「なでてっ」

「よしよし」

スライム「んふー」

「どれどれ……ん」


ペラ…


「……」


「……」


「……」


スライム「だれから?」


「……古い友人からだよ」


「そうか……そんなに経つのか」

グッ

「よっこらしょっと」


「さて、色々準備をしないといけないね」


スライム「じゅんび?」


「ああ。さて――……ここも少し騒がしくなるね」










「あの時、わし達が拾った子が……勇者がここに来る」







第五章 -完-

やらかした

×第五章
○第六章

今日はおしまいです


-番外-

【Motherland】



―アリアハン・厨房―

ガシャン


料理長「さて、と。これで大体終わったね」

メイド「お疲れ様です」

メイド2「後は夕餉の仕込みと兵舎のミールを温めなおすだけですね」

料理長「そうね。あんたらも少し休みな」

メイド3「そうしますね……ふう、肩痛い……」

メイド「料理は楽しいけど他の仕事より疲れるわ……」

料理長「だらしないねあんたら……よっと」

ガチャン

メイド「料理長は本当にタフですねぇ」

料理長「あんたらがヤワすぎんのさ。遊び人を見習いな」

メイド3「いやいやいや、あの子はおかしいんですよ!あの子できすぎ!」

メイド2「言った事はその場で覚えてずっと忘れないとか要領よすぎなんですよ……真似できませんて」

料理長「まあ、確かにあの子は私が見た中でも一、二位を争う程の器量の良さだね」

メイド「おー?一位はやっぱり料理長ですか?」

メイド2「ですよね、料理長は――……」

料理長「いや、私はせいぜい三番目さ」

メイド3「三番目?じゃあ……その争ってるのって」

料理長「……いるだろ?一人。伝説にもなってる人が」


メイド達「「「あ」」」


メイド「そっか!勇者母さん!」

料理長「そう。あの人さ」


メイド2「そういえば勇者母さんって以前料理長を勤めてたんですよね?」

料理長「そうさ。あんたらが入る前だね」

メイド「昔からお知り合いだったんですか?」

料理長「いや?知り合ったのは16の頃さ……そうだね」

料理長「丁度私がカザーブから出稼ぎに来た時――……」




……
…………

…………
……



――アリアハン街道――


ガラガラ


馭者「お嬢さん、カザーブからアリアハンに何ぞの用だね?」


料理長(16)「出稼ぎさ。成人したからね」


馭者「ほー?確かにまあ、アリアハンも田舎だが、カザーブよりは職が見つかろうね」

料理長「本当、呆れるよあの田舎村には……転がってるのは仕事よりも牛の糞のほうが多いんだ」

馭者「はっはっは、ところで何の職に就くかはあてがあんのけぇ?」

馭者「嬢さんは別嬪だからどこぞの良い飲み屋にでも」

料理長「城さ」

馭者「へ?」


料理長「城の厨房で働くのさ」


――アリアハン・厨房――


ザワザワ


スタスタ

ザッ

メイド長「はい皆さんお静かに!」


ピタ…


メイド長「よろしい。さて、では今日より新人が加入します」

メイド長「さあ、挨拶を」


ザッ


料理長「はじめまして!よろしくお願いします!」



料理長(城の厨房はお給金が良い)

料理長(ここで働けば直ぐにお金が溜まるはず……でも)

料理長(アタシはただの調理役で終わるつもりはない。そう)


料理長(アタシは料理長になってやるんだ……!!)


料理長(そうすればお給金も格段に跳ね上がる!やってやる……やってやる!)

料理長(手始めに、まずは現料理長をその座から引き摺り下ろしてやるわ!)


メイド長「では、貴女の指導は料理長が担当します」

料理長「はい!」

料理長(きた!!いったいどんな――……)

ガチャッ

メイド長「ああ、丁度裏から戻って来たみたいですね」

メイド長「勇者母さん!」

料理長「……は?」



勇者母(15)「はい、どうしたんですか?メイド長」



メイド長「この方が現料理長の勇者母さんです。挨拶を」

料理長「えっ、あ、はい。きょ、今日より働かせていただきます。よろしくおねがいします?」

料理長(え、嘘でしょ……?)

勇者母「ああ、これはご丁寧に」ペコリ


ニコッ


勇者母「こちらこそどうぞよろしくお願いしますね」


料理長(まだ全然、ガキじゃないの……!!)



…………


ジャー!! ガシャンッ!

タタタタ! バタバタ!


「追加要請入りました!」

「ロマリアからの来賓ですって!?聞いてないわよ!」

「在庫!在庫走って見て来て!」


ワーワー!!


料理長「っ……!」

料理長(こ、これが都会(都会ではない)の調理場……!こんなに忙しいの……!?)

給仕「ああ、新入り!ヒヨドリカブの葉は毟り終わった!?」

料理長「えっ!?」

給仕「さっき言ったでしょう!まだ終わってないの!?」

料理長「あ、す、すみませんっ!」

料理長(え!?だ、だってそんなに早く終わるものじゃ)

給仕「それが終わってないってだけでどれだけの時間を無駄に食うかわかってる!?」

料理長「あぅ、……す、すみませ」


勇者母「じゃあ、私も一緒にやります」


料理長「えっ」

給仕「勇者母ちゃん」

勇者母「まだ入ったばかりで手順も何も教えなかった私の責任ですから……給仕さんは鍋の方をお願いできますか?」

給仕「全く、勇者母ちゃんもお人好しなんだから……了解わかりましたよ、料理長」

スタスタ

勇者母「さて、と」

料理長(た、助けてくれた……?)

料理長「あ、あの……ありが」


シュババババ


料理長「トゥ!??」

勇者母「さあ、一緒に頑張りましょう」

料理長「は、はやっ!!!」

勇者母「これはコツがあるんです。同じようにやってみてくださいな」

料理長「……」

ギュッ

料理長「……――はいっ!」


…………


「それではお昼の仕事は終わりです。また午後に」


「「「おつかれさまでーす」」」




スタスタ


料理長「……はあ」

料理長(あれから数ヶ月……一緒に働いて分かった)


料理長(勇者母さんはバケモノだ)


料理長(普通五人で終わらせる作業を一人でやるし、料理の事で知らない事は無い)

料理長(何か材料が不足したらその制限の中でとびっきりの品を作るし……)

料理長(自信なくすったらありゃしないよ……)

料理長「……と」

料理長(そういえば、午後の仕込みの事で聞きたい事があったんだったね)

給仕「あら、おつかれさん」

料理長「あ、給仕さん。勇者母さんどこに居るか知ってます?」

給仕「まだ厨房に居たと思うけど……」

料理長「ありがとうございます」



……



スタスタ

料理長「……勇者母さーん」


シーン


料理長「……?」

料理長(居ない……帰ったのかしら)


<……


料理長「!」

料理長(話し声がする……厨房の裏手?)



「だから本当なんだよ!もうすぐで完成しそうなんだそのイカダが!」


勇者母「でもそれで旅に出る気なの……?危なくないかしら」


「安心しろ!相当頑丈に作ってある!」



ヒョコッ

料理長「……」

料理長(あれは……確か)



勇者母「でも、そっか……最初に会った時はあんなに子供だったのに、もう旅に出るのね」


「いや、お前俺より年下だろ……」


勇者母「一歳くらい誤差よ」


「本当生意気は変わらねえなお前は」


勇者母「ふふふっ……オルテガ様こそ」



オルテガ「こそってなんだ。俺は生意気とは程遠い立派なジェントルメンだろう」



料理長(オルテガさん……だっけ?)

料理長(城内では一番腕がたつ問題児……前アリアハン将軍の息子、だったかしら)


勇者母「それで、次はいつ帰ってくるの?」

オルテガ「お?なんだ?寂しいのか」

勇者母「うん」

オルテガ「えぇっ、あのっ、えぇっごめんいきなり素直になられるとドキドキするよぉ」


料理長「……ふふ」

スッ

スタスタ

料理長(なんだかんだ勇者母さんも年頃らしいトコロがあるんさね)

料理長(仕事の事は後で聞けばいいか)


…………


グツグツ… ジャーッ


給仕「しかしあんた飲み込み早いのね。もう何もいう事無いわ」

料理長「いえ、勇者母さんには適わないです」

給仕「まああの子は特殊だから」

料理長「でもなんであの年であんなに物を知ってるんですかね」

給仕「……」

料理長「……給仕さん?」

カタッ

給仕「勇者母ちゃんはね。この城が家みたいなもんなのさ」

料理長「この城が?」

給仕「あの子には身寄りが無くてね……数年前までは母親が居たんだけど」

料理長「母親ですか」

給仕「そう。その母親は今の王の教育係として雇われてたのさ」

給仕「雇われる前はどっかの国で巫女をやってたとかいうけど……まあ他に身寄りは無くてね」

給仕「昔から王に雇われ、親子で住んでたこの城があの子にとっての家みたいなもんなのさ」

給仕「その城の事を物心ついた頃から誰よりもやっているから、あんなに色んな事できるのよ」

料理長「……」

カタン

料理長「そうだったんですか……」



…………



――厨房・裏手――


ガタ

料理長「いしょっと……ん?」


<……


料理長「……この声」


オルテガ「本当にムカつくんだそのモヤシ野郎!!」

オルテガ「なーにが『君のやり方は野蛮なんだ。知性のかけらも無い』だ!」

勇者母「そんな事言われたの?」

オルテガ「ああ!次会ったらケリつけてやるんだ!」

勇者母「喧嘩はダメよ」

オルテガ「だけどなあ、引き下がれねえ事もあるんだ男には!」


<……!…!


料理長「……」

料理長(旅から戻ってきたらすぐに勇者母さんに会いに来るねこの人……)



――――――――――



オルテガ「で!そいつがすっごく良い奴なんだまた!」

オルテガ「俺達が頼んでもないのに、その村人達を隣村まで護衛してくれてさ!」

オルテガ「盗賊だと思って警戒してたのが急に恥ずかしくなっちまって」

勇者母「ふふっ、良い人に出会えたのね」

オルテガ「ああ!話したらこれまた良い奴だったんだ!そのお陰で酒もすすんじゃって」

勇者母「飲み過ぎは駄目よ?」

オルテガ「うっ……わ、わかってるって」


料理長「……」

料理長(オルテガさんって色んなトコロ旅してるのね)

――――――――――



オルテガ「本当にあの女はくえないんだよな……」

勇者母「ふーん」

オルテガ「美人は美人なんだけど、なんか自分を過信しすぎっつーか」

勇者母「ふーん」

オルテガ「まあ島国の閉鎖的な民族の長だったからそうなっちまったのかもしんねーけど」

勇者母「ふーん」

オルテガ「……えっと、あれ?何か怒ってます?」

勇者母「べつに?」



料理長「……」

料理長(あの二人ってそういう関係なのかしら)



――――――――――



オルテガ「とにかく、あいつは強い」

オルテガ「それだけに放っておくとまずいって思いもある」

勇者母「……」

オルテガ「何が質悪いって、あの強欲さだ」

オルテガ「何か手に入ると、その瞬間にもう別の物を握ろうとしている」

オルテガ「今は目的が一致してるみたいだが……これからは」

勇者母「……オルテガくん」

オルテガ「ん?」

勇者母「……気を付けてね……?」

勇者母「私、いやよ?……貴女が人間と争うのは」

オルテガ「……ああ」

ナデナデ

オルテガ「ありがとう……」


料理長「……」

料理長(だんだん、旅に出ている期間が長くなってきたね……)


…………


――厨房――


スタスタ


メイド長「ああ、いたいた。丁度良かった」

料理長「え?ああメイド長」

メイド長「貴女に良いお知らせがあります」

料理長「?」



…………


スタスタ


メイド長「~♪」


――――――――


メイド長『貴女は明日から副料理長となります』

メイド長『お給金も上がりますので確認をお願い』


――――――――


メイド長(長かったような短かったようなだね……しかしアタシはやったよ!)

メイド長(これで残るは勇者母さんを超えるのみ!やってやるわ!)

メイド長(そういえばオルテガ様が戻ってきてたね……って事は厨房裏にいるかしら)

メイド長(勇者母さんにも報告しよう!……ふふ、勇者母さんを追い抜く日も近く)








オルテガ「死んでいった」



オルテガ「何もできなかったんだ。最後のっ……最後で」


ギュゥ…


勇者母「……」



オルテガ「俺は自分の、自分の力を信じすぎたっ」



オルテガ「もう」


オルテガ「もう怖いんだ」


オルテガ「俺は、くそっ」


オルテガ「俺は……っ!!!」









料理長「……」






オルテガ「すまないっ……!すまない……っ!」


勇者母「……」





料理長「……」

料理長(ああ……なんていうか)

料理長(やっぱり、多分この人には、アタシは勝てない)

料理長(なんでこの人がすごい人なのか、分かった気がする)

料理長(あんな重圧に押しつぶされそうな人間を、あんなに真摯に、まっすぐ抱きしめられない)



勇者母「……オルテガくん」


オルテガ「っ……」


勇者母「私は、いつでもここにいるわ」

勇者母「あなたが旅立つなら、いつもと変わらずに私はここで待つから」

勇者母「だから……また戻ってきて」

勇者母「たとえ旅の途中どんな事があって、何を失くしても」


ギュゥッ…


勇者母「私は、ご飯を作って待ってるから」


…………
……





料理長「……」


メイド「料理長?どうしたんですか?」

料理長「ん?ああ、いやちょっと昔を思い出してね」

料理長「っと……ホラ。さっさと休んじゃいな?休憩無くなっちまうよ?」

メイド2「あっ、はい」

メイド3「じゃ行こうか」

メイド「そうね。それじゃ料理長、一旦失礼します」

料理長「はいはい」


スタスタ


料理長「……」

ギシッ

料理長「よっこらせ、と」


料理長「……」


料理長「……」


料理長(……私も、飯を食べさせたい人間ができれば……多少、変わるモンなのかね)

料理長(確かにあの後家庭を持った勇者母さんが引退して、私が料理長になれた)




料理長(でも、達成感よりも……給与の金貨袋が重くなった事をよろこぶよりも)



料理長「……」



料理長「……」



料理長「……」



料理長(少し人手が減って、広くなった厨房を)


料理長(持て余してしまう、自分が居る)



【Motherland】-完-

http://i.imgur.com/8JtwEe2.png

今日はおしまいです

明日纏めて投下します


-番外-

【蜘蛛の糸】

http://i.imgur.com/eAtto0D.png






ああ


色が綺麗だ


色が綺麗だ






カンダタ「……」





―ネクロゴンド火山付近・国連の砦・簡易牢獄―



カンダタ「……」

カンダタ「……」

カンダタ「……」


カツカツカツ…

ザッ


ガチャッ

キィ…


「死刑囚カンダタ。立ってください」


カンダタ「……」

「……聞いていますか?」

カンダタ「……」

「……?」

(天井の隅をじっと見てる……)

カンダタ「………………なんだ……?てめえは」


ダーマ勇者「私は国連認定勇者資格保有者の一人ダーマ勇者です。あなたを刑場まで連行します」


カンダタ「……」

ダーマ勇者「無駄な抵抗はしないで下さい。もし抵抗するようでしたら」

スクッ…

カンダタ「……」

ダーマ勇者「……で、では。……皆さん。お願いします」

ダーマ聖騎士団員「はいっ」

ダーマ聖騎士団員2「こちらだ」

カンダタ「……」


スタスタ


ダーマ勇者「……」

ダーマ勇者(本当にあれが大悪党カンダタなの……?全く覇気が無かった)

ダーマ勇者(それになんだかぼーっとして何かを見つめてたけど)

チラッ

ダーマ勇者「……?」


蜘蛛「……」


ダーマ勇者「……」

ダーマ勇者(……蜘蛛の巣……)


カツカツ……


カンダタ「……」


ダーマ勇者「……」

カンダタ「……なあ」

ダーマ勇者「連行中の会話は禁止されていますので」

カンダタ「あいつは、どうなった」

ダーマ勇者「……」

カンダタ「あいつは……」

ダーマ勇者「……」

ダーマ勇者(なんてか細い声なの……?いやいや、ここで情に流されては)

カンダタ「……」

ダーマ勇者「……」

ダーマ勇者「……例の、魔族の男なら、捕まえられませんでした」

カンダタ「……」

ダーマ勇者「……」

カンダタ「そうか……」


それ以降、カンダタは何も言わなかった



―ネクロゴンド・火口―



ランシール神官「これより処刑を執り行う!」


ランシール神官「この男は魔族に与し、賢者ガルナの末裔を拐かす手引きをした!」



カンダタ「……」



ダーマ勇者「……」

ダーマ勇者(結局、あの後もずっと虚ろなまま……)

スタスタ

「やっべ……遅刻遅刻」

ダーマ勇者「?……あっ、エジンベア勇者様」

エジンベア勇者「やあやあ、久しぶりだね」ボソボソ

ザッ

エジンベア勇者「最近ずっとネクロゴンドの調査だったんだっけ?可愛い顔が火傷したりなんか――……」ボソボソ

ダーマ勇者「もう!刑の執行中です!お静かに!それに遅刻ですっ!反省なさってください!」ボソボソ

エジンベア勇者「はいはいすみませんね」ボソボソ




カンダタ「……」




ランシール神官「ルビス様の光に背くような行いをこの男は――……」


エジンベア勇者「……長い前置きはいるんだろうかねぇ」ボソッ

ダーマ勇者「処刑なんですよ?例え罪人であろうと一人の命が失われそうな時にあなたはもうっ」ボソボソ

エジンベア勇者「……」

ダーマ勇者「……?どうしたんですか?」ボソ

エジンベア勇者「ん?」

ダーマ勇者「いえ……なんだか急に黙っちゃったので」

エジンベア勇者「……いや……なんでもないさ」

ダーマ勇者「……?」


カンダタ「……」


エジンベア勇者「……」


エジンベア勇者「……なぜ一人の罪人の処刑をこんな大仰な形で取るんだろうね」

ダーマ勇者「え?だってそれはあの人がガルナ様を――……」

エジンベア勇者「だからって、船でネクロゴンドまでわざわざ罪人を運んでまでやる事かい?」

ダーマ勇者「……」

エジンベア勇者「……ねえ、ダーマ勇者」

エジンベア勇者「君がネクロゴンド火口付近の調査をはじめてから一ヶ月、誰か火口に落ちたりしたかい?」

ダーマ勇者「……?いえ、誰も……」

エジンベア勇者「……そっか」

エジンベア勇者「もしあの罪人がいなければ……」

ダーマ勇者「え?」

エジンベア勇者「…………ん、気にしないでくれ」

ダーマ勇者「そういえば、他の勇者の方々も遅刻ですか?」ボソボソ

エジンベア勇者「んにゃ?今日は僕しか来ないよ」

ダーマ勇者「あれ?そうなんですか……ランちゃんもですか?」

エジンベア勇者「……」

ダーマ勇者「?」

エジンベア勇者「……ランシール勇者も、来ない」

エジンベア勇者「ま、その理由はいつか彼女から聞くといいさ。君ら仲良いみたいだしねぇ」

ダーマ勇者「そうですか……」

ダーマ勇者「あの、でしたらエジンベア勇者さんは今日は何故ここに」

エジンベア勇者「……死体の運搬さ」

ダーマ勇者「…………はい?」



ランシール神官「……――では、その前に……この男の手下達の血肉も、ルビス様の大地へ捧げよう」



ダーマ勇者「えっ?」

エジンベア勇者「ほら、あれさ」


ザッザッザッ

エジンベア兵達「「「「……」」」」


ダーマ勇者「……?」

ダーマ勇者「あの、あの真っ赤な麻袋って」

エジンベア勇者「……死体だよ」



ランシール神官「さあ、取り出しなさい」



「「「はいっ」」」

ガサッ

バサバサ


ゴロッ



カンダタ「…………」



ダーマ勇者「ひ……ッ……」

エジンベア勇者「……」


ランシール神官「……これらの遺体」

ランシール神官「全て貴様の仲間で間違いないな?」



カンダタ「……」



ランシール神官「……では、火口に放り投げなさい!」


「「「はっ!」」」




ああ



カンダタ「……」



火山の地鳴りが脳に響く



カンダタ「……」



顔が熱い



視界が赤い



不快だ



全てが不快だ



真っ暗だ



縋れる物もねえ



真っ暗闇だ


…………

……






――とある集落・とある家族――



赤子「ぅやあぁぁぁ、ぅやぁぁぁ」


母「ああ、はいはい泣きやんどくれ」ユサユサ


ギャーギャー

息子「今殴ったのはてめえだろうが!」

息子2「ちげえ!こいつが殴ったんだ!」

息子3「お前っ、俺になすりつけんな!」

母「ちょっとあんた達!喧嘩するんじゃない!」

息子「だって――……」

ゴツン!

息子「あだっ!」

「母ちゃんを困らせてんじゃねえよ」

息子「あんちゃん何すんだよ!」


少年「うるせぇんだよさっきからお前ら」


息子2「でもよお」

少年「でももへったくれもあるか!」

ゴツン!

息子2「いてぇっ!」

少年「俺も本読んでるんだよ!喧嘩すんなら外でやれ!」

少年「それとも全員朝まで外で過ごしてえか!?ああん!?」

息子3「わ、わかったよぶたないでっ!」

少年「分かりゃいいんだ分かりゃ」

スタスタ ドスン

ペラ…

少年「……」

母「ありがとねお兄ちゃん」

少年「いいって。母ちゃんはもう横になってろよ」

母「いいわ。あんたらのご飯も作らなきゃ」

少年「俺がやるってそんなの」

母「だーめ」

少年「……ったく。俺ももう子供じゃねえんだ」

母「まだ12になったばっかでしょうが。まだまだ子供さ」

少年「そうやって子供扱いする……もう働けるっての!」

母「いいから。あんたらは今は遊ぶのが仕事だよ。生意気言って」

少年「くそっ……見てろよ。とんでもねえくらい出世して見返してやる」

母「ふふふ、アンタならできるわ。アンタは字も読めるし」

少年「まだまだ分かんねー事も多いけどな……でもたまに街に行けば教会で教えてもらえるんだ」

少年「この前はルビス聖書っての貰って……ほら!これ!今読んでるやつがそうなんだけど」

母「難しい事はわかんないけど、ルビス様に纏わる話の本なんだろ?面白いかい?」

少年「うーん……面白い話もつまんねー話もあるな」

少年「でも面白い話はすげーわくわくすんだよ!ルビス様って精霊様の友達もいっぱいいるらしいぜ!」

少年「で、その他の精霊様が世界を作るときに手伝ってたりするんだって!世界ってこの世界だけじゃないんだ!いっぱいあるってさ!」

母「ふうん?そりゃすごいね」

少年「他にも、その精霊様と協力して、別の世界の魔物の王と戦ったり、願い事をなんでも叶えてくれる竜の神様がいたり!」

母「そんな事まで書いてあるのかい」

バサッ

少年「あーあ……そんな神様が居たらいっぱい願い事叶えてもらうのになぁ」

少年「まずは腕っぷしと頭の良さを貰って、お城のお偉いさんの職についてさ」

少年「そして魔物と戦う旅に出るんだ!そしたらじゃんじゃん稼げるだろうから、こんな家じゃなくもっとでっかい家に母ちゃんを住ましてやるよ!」

母「あははっ、ありがとう。楽しみだねえ」

少年「へへ!」

母「でも、それはダメよ」

少年「えっ!?な、なんでさ」

母「そんな神様に貰った力で強くなっても、きっと意味はない」

母「私の子供なら自力で、自分の力で強くなりな」

母「その為にあんたを腹痛めて、健康になるように産んだんだ」

少年「……でも」

母「ん?」

少年「……」

少年(でも……俺達は、オヤジの盗みを働いてきた金で育ったんだろ)

少年(そんな生活、正直俺はもう嫌なんだ)

少年「……」チラッ

赤子「……う?」

少年「……」

少年(こいつには、オヤジや母ちゃんに対して、そんな考えもってほしくねえ)

赤子「ふぇ」


少年「んぇ?」


赤子「あぎゃあぁぁぁ、あぎゃぁぁぁ」


母「あらら、どうしたの」

少年「あっ!……ちょっと待って!動かないで!」

母「?」

スッ


フワッ


少年「……こいつの首元にいやがった」


蜘蛛「……」


少年「蜘蛛だ」

母「全然気付かなかったわ、ありがとう」

少年「いいって……天井から降りて来たみたいだ」

少年「このっ」

スッ…


母「……ちょっと、何しようとしてるの」


少年「えっ?」ピタ

母「何してるのアンタ」

少年「何って……蜘蛛を殺そうとしてるだけだけど」

母「やめなさい」

少年「えっ?」

カサカサ

少年「あっ、逃げられた……おい母ちゃんなんで止めたんだよ」

母「無意味に殺すのはやめな。あの蜘蛛だって、どんなに小さくても生きてるんだ」

少年「なんでだよ。たかが蜘蛛だろ」

母「……」

ナデナデ

母「どんなに小さくても、頑張って生きてるんだ」

母「それをあたしらがどうこうする事はないだろう」

少年「……でも」

母「あの蜘蛛が何をしたわけでもない」

母「あんたにとってたかが蜘蛛でも、あの蜘蛛にとっては大切な命なんだ」

少年「……」

母「さ、そろそろご飯にしよう……この子抱いててくれるかい?」

スッ

少年「……ん」

母「ありがと。ちょっと待ってなよ」

スタスタ…

少年「……」

赤子「……?」

少年「……べろべろ、ばぁー」

赤子「きゃっきゃっ」

少年「へへ……」

少年「……」



あんたにとってたかが蜘蛛でも、あの蜘蛛にとっては大切な命なんだ



少年「……」



……
…………



少年「はぁっ、はぁっ、はっ」



ザッザッザッザッ


ガリッガリガリッ


少年「はっ、く、ふ、はぁっ」


ザッザッザッザッ


ザッザッザッザッ


ザッザッザッザッ


少年「はぁっ、はっ、はっ」


ザッザッザッザッ


ザッザッザッザッ


ザッザッザッザッ


ザッ



くちゃッ



少年「はっ、はぁっ」

少年「はぁっ……はぁっ」

少年「……はぁっ、はぁっ」


ザッ……ザッ

ザッザッ……

パラ…



少年「はぁっ……はぁっ……」


少年「……はぁっ……はぁっ……はぁっ」


少年「は――っ、は――っ、は――っ」



少年「母ちゃん」



へんじがない

ただのしかばねのようだ



……
…………


――とある街中――


ガヤガヤ



スタ… スタ…



少年「……」



町人「でさぁ」

町人2「ははっ、それはお前が悪い――…」


ドンッ


町人「いてっ!」

少年「っ……」


ドサッ


町人「いてて……」

町人2「あーあー、何やってんだよ」

町人「あはは、ごめんなボウズ。大丈夫か?」


少年「……」


町人「……?立てるか?」

町人2「おい君、何か落として……」

ヒョイ

町人2「ん?……これ……ひっ!?」

バッ


少年「っ……」


タッタッタ


町人「?……変なガキだったな」

町人2「……」

町人「ん?おい、どうした?」

町人2「……指」

町人「え?」



町人2「あのボウズ、千切れた指を大事そうに持ってやがった」


――教会――


老神父「……の、……となりて」

老神父「大地……炎は」


キィィ


老神父「?」


スタ…スタ…


少年「……」


老神父「おや、君は」


ガタ

スタスタ

老神父「丁度今お祈りが終わった所なんだ。今日はどうしたんだい?聖書の続きを借りに?」

少年「……神父様」

老神父「ん?」

少年「……」

スッ


老神父「……!」


少年「これ……母ちゃんなんだ」

少年「お願い、神父様」


少年「生き返らせて」


少年「母ちゃんを、生き返らせて」

老神父「……君」

少年「お願い……前に、前に言ってたじゃん、神父様」

少年「体の一部分が残ってれば、蘇生呪文で元通りになるって」

少年「お願いだよ、お願い」

ギュッ

少年「神父様っ……!ルビス様っ……」

老神父「……」

スタスタ

ナデ…


老神父「……大変申し訳ないが……君は今、お金は持っているかね?」


少年「……は?」

老神父「……すまないが、お金が無いと引き受ける事ができないんだ」

少年「そんなっ、なんで……お願い、なんでもするから」

老神父「私だって、できる事なら無償で引き受けたい。しかし、ルビス教の神父としての立場もある」

老神父「今現在、世界中で魔物に殺され蘇生を待ち続ける人たちが居る」

老神父「そして、それによって孤児になった子供達も大勢いるんだ」

老神父「その魔災孤児の子供達を養うための施設を整えているのもルビス教だ……その運営資金は、蘇生を依頼した人々から貰い受けるゴールドで賄っている」

老神父「これには、例外を作るわけにはいかないんだ」

老神父「もし私が、無償で君の母を蘇らせれば、その噂を聞きつけて私の元に大勢が押し寄せる」

少年「誰にも、誰にも言わない!!」

老神父「蘇生呪文は大掛かりな呪文だ。君が誰にも言わなくとも、他の信者達やシスターには知られてしまう」

少年「……」

少年「……じゃあ」

少年「お金を……」

少年「お金を……持ってくれば……」

老神父「……すまない」

少年「……」

少年「……」

少年「……」

クルッ

スタスタ…


バタン


シーン…


老神父「…………すまない……」




少年「だれか」



少年「お金を」



少年「お金を下さい」



少年「お願いです」



少年「だれかっ」



少年「少しで、いいんです」



少年「お金をください」



少年「母ちゃんを」



少年「おねがいっ……」



少年「おねがい」



少年「おねがい、しますっ……」




――数日後・街角――


スタスタ


女「そうなの?じゃああの兵隊さんって」

女2「そうそう。物騒よねえ」

ピタ

女「……」

女2「ん?どうしたの?」

女「……あれ」

女2「え?……やだ、なにあの子」




少年「……」


少年(……器の中、1ゴールドも入ってない)


少年(誰もお金をくれない)


少年(誰も見向いてくれない)


少年(お金が……ない)


ギュゥゥ…


少年(……お腹が空いて、お腹が痛くなってきた)


少年(食べるものなんてない)


少年(もう、どうしようもない)


少年(なんで、俺にはお金が)


少年(みんな持ってるのに……なんで)


少年(……)


少年(……もう)


少年(もう)



少年(誰かの、金を)



少年(いっそ)



ギュッ…



少年(盗んでしまえば)




女「君、どうしたの」



少年「……」



女2「……あなた、この辺りの子じゃないわよね?」

女「どこか他の街から来たの?」


少年「……あ」


スッ


女「!」

女2「ひっ」


少年「これっ……母ちゃんです」

少年「生き返らせるのに……お金が要って」

少年「お願いです」

少年「少しで良いから……お金を」

少年「……ください、ください」

グゥゥゥ

少年「っぁくぅっ」

少年「お願い、くださいっ……」


女「……」

女2「……」


クルッ


少年「あ」


タッタッタ

女「……」

女2「……」


少年「まって」

少年「まって、待ってぇ」

少年「おねがっ……お願いします」

少年「おねがい……」

少年「……」


シーン


少年「……」



少年「……」

少年(やっぱり、皆……お金なんてくれない)

少年(そうだ、皆、皆)

少年(皆、くそ)


タッタッタ


少年(……え)


ザッ

女「ほら、パンとチーズを持ってきたわ。食べて」

女「さっきのお腹の音、しばらく何も食べてなかったんじゃない?」

女2「私は弟のお古の靴……あんた足が傷だらけじゃない」


少年「……え」


女「それと、少しだけど」

女2「私からも」


チャリン チャリン


少年「っ……!?」


女「……私達も、生活が苦しくてこれくらいしかできないの」

女「お腹の中に赤ちゃんがいるし……何かと要り様なの。ごめんなさいね」

女2「でも、見過ごすわけにもいかないから……これで、許してちょうだいな」


少年「……っあ」


ポロポロ


少年「ありがとうっ……ありがとう」


少年「ありがとうございばすっ……ありがとうございばすっ……!!!!」


女「……」

ギュッ

女「これくらいしかできないけど、頑張ってね」

女「まだあなたは小さいんだから……この世界を呪わないで」

女「頑張って……強く」

女「頑張ってね……」

…………
……



フラ…フラ


少年「はぁっ……はぁ」

少年(母ちゃん)

少年(このお金があれば、母ちゃんが)


スタスタ

グイッ


少年(え)


浮浪者「……」


少年(え?なに、この人)


バキィッ


少年「あぎっ……!!?」

ドシャッ

浮浪者「……」

グイッ

バッ

少年「あっ……!!?やめっ、やめろぉっ」

浮浪者「……」

スタスタ

少年「やめろ、やめろっ」

少年「それは俺が貰った……返せっ、返して」

浮浪者「え、なに。なに」

少年「なにじゃねぇっ、返せっ」

浮浪者「なにっっな―――ん――だ―よ―――っ」

バキッ

少年「あがっ」

浮浪者「んふーっ、ふーっ」

ダッ

少年「あっ」


タッタッタ


少年「やだ、まてっまって」

少年「やだよぉっ、だってそれは、さっき」

少年「俺が、お姉ちゃん達に」

ピタッ

少年「……やだ、やだ」

少年「くそっ」


少年「なんで……」

…………
……



――街角・夜中――


フラ…フラ…



少年「誰か」

少年「お金をください」

少年「誰か――っ」

少年「誰か」


ガシッ


男「うわっ、なんだこのガキ」

少年「お金を、お金をくださいっ」

男「おいおいおい……離してくれよ」

バッ

男「悪いがこっちにだってそんな余裕ねえんだ」

スタスタ





少年「……」


少年「……誰か」


少年「誰か、お金を」


少年「誰か」


ポン


少年「……えぁ」


貴族風の男「……お金が必要かね?」


少年「あっ……お金」

少年「お金を、お金をくださいっ」


貴族風の男「よしよし、じゃああっちの路地の方に行こうか」


スタスタ


貴族風の男「……なあ、君」



貴族風の男「飴をしゃぶるのはお好きかね?」






……
…………



少年「おええええっ……おえっ」


少年「おぶっ……おえええぇぇっ」


少年「ひふ……おえ」


少年「おええええっ……!!!!」


…………
……





――教会――


バタン


老神父「ん?こんな夜中にどなた……」

老神父「……――!!」


少年「……」


老神父「き、君」

スタスタ

老神父「ボロボロじゃないか……ああ、衣服に嘔吐の跡まで」


スッ


老神父「……!」


少年「……おかね……」


老神父「君……どうやって」

少年「これで、母ちゃんを……生き返らせて……」

老神父「……ああ」

ギュッ

老神父「任せたまえ、ああ。任せたまえよ」

老神父「では早速その亡骸を私に」

少年「……これ……」

老神父「ああ、では――……」


老神父「……」


老神父「……」


少年「……神父様……?」


老神父「……君」




老神父「この亡骸は……魔物にやられたものではないのか……?」


少年「……え……あ」


老神父「……すまない」

老神父「まさか、人の手によるものだとは……」

老神父「これでは、私には――……」


少年「……」


少年「……」


少年「……あ」


ヨロッ ペタン


少年「あああ、うあああ……っ」


老神父「……!」

ギュッ!!

老神父「すまないっ、すまない」

少年「だって、神父様が、治るって、生き返るって」

老神父「すまない……!」

老神父「魔族が人類を脅かす今では、人同士の殺しは皆無に近く……まさかそんな事をする者がいるなんて」

老神父「なあ、君……これはどこでやられたんだ」

少年「村にっ……大勢、兵士たちがっ……」

老神父「……村に?」

老神父「……」

老神父「君は」

老神父「まさか、先日滅ぼされたあの盗賊達の集落の……!!」

少年「……っ……っ」

老神父「……!」

老神父(……関係あるものか……!)


グイッ


老神父「本当にすまなかった……泣きやんでおくれ」

老神父「前にも言った通り、ルビス教は行き場の無い子供達を養う施設をいくつも持っている」

老神父「君も私が責任を持って、そこへ案内する……!」

老神父「だから今日はここで休んでくれたまえ……」

………………


――教会・併設舎――


ホー… ホー…


ドンドン

ドンドン


「神父様」

「神父様、すみません」


スタスタ

ガチャ

老神父「……なんですかな、こんな夜更けに」

「夜分遅くに申し訳ありません」

「私どもは王国の兵なのですが」

老神父「…………はあ、どういったご用件で」


「ここに少年が逃げ込んできませんでしたか?」


老神父「……」

「なんでも、近頃王国が粛清した悪党達の生き残りが一人居たらしく……」

「王がそれを聞き、後顧の憂いを絶つ為に見つけ出して連行しろ、との事で」

「話によると、討伐に協力した旅の方がその子供の顔に大きな傷を付けたそうです」

「ここに現れませんでしたか……?顔に大きな傷のある少年が」

老神父「少年、ねぇ……」

老神父「いえ、ここには数人の信徒達と施設行きを待つ子供達が居りますが、近頃加わった子供は居りません」

「……」

「……」

老神父「……」

「……そうですか」

「いえね、近隣の住人からみすぼらしい格好をした少年の目撃情報を聞いたものですから」

「あの悪党達の集落から一番近いこの街に潜んでいる可能性が高いので、念のためね」

老神父「それはご苦労様です」

「では申し訳ありませんが」


「その施設行きを待つ子供達を見せて貰えますか?」


老神父「お断りします」

老神父「子供達は皆眠っておりますので……何卒、また明日いらっしゃいますよう」


「……そうですか」

「では明日の早朝、また伺います」

老神父「ええ、それでは良い眠りを」

「良い眠りを」


バタン


老神父「……」

老神父「……」

老神父「……っ」ガリガリ


「……今の、って」


老神父「!!」


スッ…


少年「……」


老神父「……聞いていたのか」

少年「今の、あいつら……俺を」

老神父「……」

スタスタ

ガシッ

老神父「……逃げるんだ」

少年「えっ……」



…………

――教会・裏口前――


老神父「あの兵達はまた明日も来るだろう……恐らく、君を生かしておきはしない」

老神父「朝が来る前に、国境をなんとしても越えるんだ」

少年「でもっ……」

老神父「すまない、私も付いて行くべきなのだろうが……早朝までに戻れそうにない」

老神父「そうなれば、私に疑いがかかり次はこの教会の子供達が……」

少年「……」

老神父「……これを、肩にかけて行きなさい」

スッ

老神父「この袋には、僅かだが食料とお金が入っている」

老神父「そして……これを」

スッ

少年「……!」

老神父「ナイフを……」

ギュッ

老神父「……いざという時に、使いなさい」

老神父「野宿する際にも、魔物と出会った時にも」

老神父「……『敵』に出会った時にも」

少年「……」

老神父「最後に、聖水だ」

老神父「絶対というわけではないが、大抵の魔物は近寄ってこない筈」

少年「……」

老神父「……君よ」

ギュッ

老神父「すまない……私が君に蘇生の加護の話をもっと早く伝えていれば……」

老神父「君よ、恨むなら、私を恨んでおくれ……無力な私を恨んでおくれ」

老神父「ただ、この世界は、この世界は恨まないでおくれ」

少年「……神父様」

老神父「……」


スッ


老神父「……この子に、ルビス様の御加護がありますよう……」

老神父「……――行きなさい。朝が来る」


―――――――
―――――――


…………
……




――明け方・国境近くの森――


ザァァァァァァ…


バシャッ バシャッ


少年「はぁっ、はぁっ……」

少年「はぁっ……はあ……」

少年「はあ……はあ……」


バシャッ バシャッ


少年「はぁっ……ふ、う」

少年「はぁっ……はぁっ」




「おい!こっちだ!」



少年「!?」



「こっちに子供みたいな人影が……」

「やっぱりさっきの神父が俺達を謀ってたんだ……!追え!」



少年「ひっ……!」

少年(追手……!)

「くそっ、雨で音が……!」

「松明の火はちゃんと覆っておけよ!見逃したら終わりだ!」


…………

……

…………


ザァァァァァ…


ガサッ ガサァッ


少年「ばはっ、ぷぁ」

少年「はーっ、はーっ」

少年「はーっ、はーっ」

少年「はーっ、はーっ」


……


少年「はーっ……はーっ……」

少年「やっ……と」


ドシャッ


少年「はぁっ、はっ」

少年「はっ、はっ」

少年「はーっはっ」

少年(もう走れない)

少年(立てない、辛い、眠い)

少年(お腹が痛い、もういやだ)

少年(もういやだ、もういやだ)


少年(なんで俺だけこんな目に)


少年(なんで俺だけこんな目に遭うんだ)


――――――――



この世界は、この世界は恨まないでおくれ



――――――――


少年「っ……そ」

少年「くそっ……っそぉ……!!」

ザァァァァァァ


少年「……」

少年「……」

少年「……」

少年「……」

少年「……」

少年「……」

少年(あと、どれくらいで夜があけるんだろう)

少年(いつこんなのが終わるんだろう)

少年(いつまで俺は)


ゴソ


少年「……」


蜘蛛「……」

カサ…… カサ……


少年(……蜘蛛)

カサ…カサ

少年(…………死にかけてる)


蜘蛛「……」


少年(雨から、逃げられなかったのかな)

少年(溺れて死にそうだ)

少年(……)


蜘蛛「……」


少年(…………俺みたいだ)

少年(苦しそうだ)

少年(……)

少年(殺して、やろうか)


スッ


少年「……」


蜘蛛「……」


少年(いっそ)

少年(ひとおもいに)

少年(つぶして)




あんたにとってたかが蜘蛛でも、あの蜘蛛にとっては大切な命なんだ




ピタ


少年「……」

蜘蛛「……」

少年「……」

少年「……」

少年「……そう、だよなぁ」


スッ…


少年「死にたくないよな」

ポロポロ

少年「死にたく……ないよなぁ"っ……」

少年「ぐそっ、ぐ」

少年「ぐそぉっ……!!うう"ぅぅっ"」

少年「生きでるんだもんなぁっ」

少年「畜生ッ……ちくしょっ……!!」



ざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ



…………
……



……
…………


ザァァァァァァ


少年(雨が…………強くなってきた……)

少年(歩け……歩け)

少年(歩け)

バシャッ バシャッ

少年(早くしなきゃ……早く)

少年「はっぁ、く」

少年(でも、もうそろそろ)

少年(!)


ザッ


少年「はぁっ……はあ……」

少年「はあ……はあ……」

少年「はぁ……」


少年「…………国境だ」



――某国・国境の関所――



ザァァァァァ…



スタ…スタ…


少年「はぁっ……はぁ……」

少年(早く……早くここを抜けないと……)


ザッ


少年「……?」


シーン…


少年「……」

少年(……?誰もいない)



―――――――――――


老神父『恐らく関所では王国兵が検閲を行っている』

老神父『しかし、その場でこの書状と金貨を渡せば通れる筈だ』

老神父『でもその前に、関所の王国兵にも君の話が行っているかもしれない』

老神父『もし君を見て王国兵が怪訝な目をしたら、すぐに逃げるんだ』


―――――――――――

少年(誰かいるんじゃなかったのかな……)

スタスタ

少年「……?……!!」

少年(誰か倒れ)

少年「……」

少年「……」



少年(…………なんだ、これ)



オォォオォ…



少年(人が、いっぱい死んでる)

少年「!?……?」キョロキョロ


シーン


少年(もしかして魔物に……?だったら、近くにまだ魔物が居やがるんじゃ)


ザァァァァァァ……


少年「……っ」ブルッ

少年(もしそうだったら、魔物はどこに――……)

少年「!」

少年(そうだ、この関所の上の階ならこの辺りが全部見られる)

ダッ

タッタッタ…


…………


――関所上階・詰所兼見張り台――


タッタッタ…

ザッ

少年「はぁっ、はっ……あ」

少年(薄暗くて辺りがよく見えない……早く窓側に)

少年「うっ……!?」


オォオオォォォ


少年(これ全部死体……死体か!?ここもかよ……!!)

少年「うぷっ……」

少年(くせぇっ……これ、血の匂いか……!!)


「……」


少年「っ」ぞっ


ズザッ!!

少年「……」

少年「……」

少年「……」

少年(誰か、居る)


ゴソ… ゴソ


「……」


少年「……」

少年「……なに」

少年(死体の山の中で……何か)

ゴソ


「……」


少年「……」

少年(……婆さんだ)

少年(暗くてよくわかんねえけど……婆さんが死体を漁ってる)

少年(もしかして、ここの人たちを、全部あの婆さんが……?)


老婆「……」

クルッ

老婆「……?」

少年「!」

少年(気付かれ――……)


老婆「ひぃぃっ!!?」


少年「……え」

バタッ

バサバサ

老婆「違う、違うんですっ」

老婆「すみませっ……これは」

少年(え?俺に驚いてる……?)

少年「ちょ、ちょっと待ってよ」

老婆「ひぅ……?」

スタスタ

少年「俺、ただの人間だよ。魔物とかじゃないから」

老婆「……」

少年「ねえ婆ちゃん、これ何があったの?まさか魔物?」

少年「だったら早く逃げないと」

老婆「わ」

少年「?」

老婆「わたしは……何も、知らない」

老婆「しらない、しらない」

少年「……」

老婆「売られてく、馬車の中で、大きい音がして」

老婆「出たら、ここの全員、死んでて」

老婆「売られてくはずのみんなは、もうにげた」

少年「……な……なに、言ってるんだ……?」

老婆「みんなにげた……わたしは、少しだけ、ここに残ってる」

少年「婆ちゃんは何してたんだよ、もし魔物の仕業だったら危ないから」

少年「……」

少年「……なあ、婆ちゃん」


老婆「……」


少年「その、持ってるペンダント……なんだそれ」


老婆「……」

少年「……まさかお前」

老婆「……ふ、ひゅひっ」

老婆「ひゅひゅっ、ひひゅひゅひゅ」

老婆「みんな死んでるからっ、だって、みんな死んでるから」

少年「……っ」

ガシッ!

老婆「ひぃ……っ!!」

少年「死んだ人の荷物、漁るってのかよ!!」

少年「婆ちゃん、最低だ!!そんな事許されるワケ」

老婆「……だれに?」

少年「え?」

老婆「だ、だれに、許されるワケが、ないのぉっ?」

少年「……それは」

少年「国の法にも……ルビス様にも」

老婆「く、くにぃ?ほうぅ?」

老婆「国が、くく、国の法が、わたしを助けたことなんて、いっかいもなかったよぉ?」

老婆「ルビス様が、わたしを見守ってくれたことも、い、いちどもなかったのよぉ?」

老婆「誰もわたしを、みまもってくれなくて」

老婆「だから、わたしは自分で、じぶんを生かしてきた」

老婆「こうやって……こういう風に!」

老婆「それがあなたにわかるの?それがあなたにわかるの?」

老婆「なんで赦されないの?生きたいのよぉっっ。わたしは」

老婆「これを、ここの、しんだ糞たちの持ち物売れば」

老婆「しょうがないのぉ、生きられるのぉ!」

少年「……」

少年「…………でも」

少年「でも、それは」

老婆「ひゅ、ひゅひゅ、おねがい」

老婆「お願いよ、お願い坊や……見逃して」

老婆「もうこの国から逃げたいの。お金がいるの」

老婆「これを逃げた先で売れば、やっていけるのよぉ」

少年「……」

少年「……」

少年「……」

少年「……」

老婆「……見ないどくれよ」

老婆「見ないでおくれよっ!!!!」

ブンッ!!

ガシャン!!!

少年「……」

老婆「どっかにいっておくれ!!消えておくれ!!!!」

老婆「わたしを見ないでおくれよ!!!!」

少年「……」

少年「……俺は」

少年「……」

クルッ…

スタスタ…

老婆「……」

老婆「……う」

ポロポロ

老婆「うぁぁん……うぁぁぁん……」

ゴソゴソ

老婆「うぁぁぁぁん……うぁぁん……」

ゴソゴソ…

スタスタ

少年「……」

スタスタ

少年「……」

スタスタ

少年「……」

スタスタ

少年「……」

スタスタ

少年「……」

スタスタ

少年「……」

スタスタ

少年「……」

スタスタ

少年「……」



老婆『誰もわたしを、みまもってくれなくて』

老婆『だから、わたしは自分で、じぶんを生かしてきた』


ぴたっ


少年「……」

少年「……」

少年「……」

少年「……」

少年「……」

少年「……」

少年「……」

クルッ…

少年「…………」

スタスタ


少年「……」


スタスタ

タッタッタ

タッタッタ!!

タッタッタ!!!


少年「……っ」


少年「……ははっ、は」


少年「はははっ!ははははは!!」


少年「あははははは!!!!あははははははははは!!!!」

ゴソゴソ… 

老婆「ぐすっ、これも、金になる」

老婆「これも、これも」

タッタッタ

ズザァ!

老婆「!!?」


少年「はぁっ、はぁっ」


老婆「……な、なによぉお」

老婆「なんで戻ってくるのよぉ」

少年「はーっ、はーっ!」

スタ スタ

老婆「なに?なに?」

スタスタ

スタスタ

少年「なあ、婆ちゃん」

スタスタ

少年「ありがとう、俺も分かったんだ」

スタスタ

少年「そうだよな?誰も、誰も守ってくれないんだ」

少年「だったら、生きるためには仕方ないんだ」


ガシッ!!


少年「なら、これも仕方ないよな?」


ドゴォッ!!!!!


老婆「っっっぷ」


ドサッ!!

老婆「おえっ、かはっ……!!!」

少年「なあ、婆ちゃん」

少年「集めた金目のもの俺にちょうだいよ」

老婆「なっ、はっ」

ダッ

老婆「いやああぁぁぁぁぁあ!やだああああああ!!!!」

少年「待て!!!待てよ!!!」

ガシッ

老婆「痛い!!!やめて!!!離しておくれよぉ!!!!」

少年「暴れるなよ!!!!っ、の!!!!」

ぶちぶちぃぃっ

老婆「ああああああ――――――!!!!!!ああああああああ!!!!!!!」

少年「あば、糞が」

少年「暴れんな!!クソババア!!!!」

ぶちぶちぶち!!!!!

老婆「ぎゃああああああ!!!!!!やだああああああああ!!!!!やだああああああ!!!!」

少年「っ……!!へへっ、へへへ!!!」

少年「こんなに簡単に抜けるんだな、髪って」

少年「……なあ婆ちゃん」

ゴソ…


――――――――――――――


老神父『そして……これを』

老神父『ナイフを……』

ギュッ

老神父『……いざという時に、使いなさい』

老神父『野宿する際にも、魔物と出会った時にも』

老神父『……『敵』に出会った時にも』


――――――――――――――

ジャキッ


少年「目玉、刳りぬかれたくないだろ?」

少年「集めた金目の物よこせよ」


老婆「はーっ、ばはーっ」

少年「おいババア、俺は聞いてるんだよ」

少年「はやくしろよ殺すぞ」

少年「目玉刳りぬかれてえのかって言ってんだよ」

少年「しょうがねえんだろ!!!?なあ」

少年「生きるためにはしょうがねえんだよな?さっきアンタ言ったろ!?!」

少年「じゃあ俺の、っ、これも!悪い事じゃあねえよな!!!?」


老婆「ずすっ、はーっ、はーっ!!!!」

チョロ…

ジョロ…


少年「っ!!、は、はは!!!」

バキィッ!!!!

老婆「ああああ――!!!!いやああ!!!!」

少年「ションベン漏らしてんじゃねえよババア!!!!」

ドカ!!ゲシッ!!!

少年「はっ!やっ!くっ!それっ!」

少年「よこせっつってんだろうが!!!!」

老婆「あげますう!!!もう、もうやめてぇええええ」

ピタ

少年「はーっ、はーっ」

老婆「ひぐっ、ぐすっ、はーっ……!!!」

少年「……ここの奴らからとった物と……お前のそれ」

少年「着てる服も全部」

少年「…………よこせ」



……
…………

ザァァァァァ……


タッタッタ

ジャラジャラ…


少年「はっ、はっ……!」

少年「……はは、あははは」

少年「あははははは!!!!」

簡単だ!!!

すごく簡単だったんだ!!!!

自分の為には仕方ないんだ!!!!

自分が生きる為には、他の奴らは関係ないんだ!!!!

俺は間違っていない!!!!


俺は間違っていない!!!!!!!


俺は間違っていない!!!!!!!!!!!!!!!


…………
……




ザァァァァァ……

老婆「……」

ムク…

老婆「……っ、く」

老婆「はぁっ……はぁっ……」

ズリ… ズリ…

老婆「……はぁっ、はぁ」


――展望壁――

ヒョイ

老婆「……」








ざああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ








老婆「……」

…………
……



……
…………


――某国・街の路地裏――



子供「……」

子供「……」

子供「……」


スタスタ

ザッ…


「……」


子供「……」


「……」

「……へっ」


スタスタ…


子供「……」



―――――――


――市場・軽食品店――


店主「はいらっしゃい!……うおっ!?」


覆面の青年「……」


店主(なんだ?この覆面……)

青年「そこのパン一切れとチーズ貰えるか?」

店主「あ、はいはいこれね……あんちゃん見かけないね?」

青年「ここらに来るのは初めてだからな。それよりもあれはなんだオヤジ?」

店主「アレ?」

青年「来る途中に路地裏で薄汚ねえガキが蹲ってやがったんだが」

店主「ああ、あれね。乞食だよ。ちょっと前から住み着いてんのさ」

青年「……ふうん」

――――――――


子供「……」

子供「……」

子供「……」

スタスタ……

ザッ


青年「……」


子供「……?」

子供「なに……?」

青年「……」

ポイッ

トサッ

青年「食え」

子供「えっ」

青年「いいから食え、死にてえのかてめえは」

子供「……!」

ガシッ!

子供「……っ、がふっ、あがふっ」

青年「あー、ちょっと待て先にパンを少し水で柔らかくして流し込め」

ポイ

青年「おら、水だ」

子供「……っ」

子供「っは、ぐぁふっ、んっんっ……!」

子供「ぷぁはっ……!ふあ」

子供「あ」

子供「ありがとぉ」

子供「ありがとう……!!ありがとぉ……!!」

青年「……へっ」

ドサ

青年「よっこらしょ、と……なあ、俺がただの親切な奴に見えるか?」

子供「……え……」

青年「別に俺はてめえを助けたわけじゃねえ……てめえを勧誘するためにこれを喰らわせたんだ」


青年「お前さ。俺の子分になれよ」


子供「……子分……?」

青年「ああ。俺はよ、盗賊だ」

子供「盗賊……」

青年「そうだ。盗みも追い剥ぎも手馴れたもんだ」

青年「てめえはその手伝いをしろ。いいな?」

子供「……」

青年「あ?なんだ?嫌なのか?」

子供「で、でも……それ」

子供「……悪い、ことだって……ルビス様の、本にも」

青年「でももクソも悪いも何もあるか」

ガシッ

青年「なあ、お前生きたいんだろ?」

青年「生きてく為にはよ、他の奴なんざ関係ねえんだ」

青年「ルビスがお前の腹を膨らませたか?お国がてめえの腹を膨らませたか?」

子供「……」

青年「俺らみてえなのに必要なのはなぁ……良識でも我慢強さでもねえ」

青年「他人から何かを奪う強さだ」

ザッ

青年「オラ、立てガキ」

青年「てめえは俺の子分第一号だ。子分Aって呼んでやる」

青年「ここに俺らの盗賊団を作ってやるんだ」

青年「分かったら返事して付いてこいや」

子供「……」

子供「……っ」グッ

ザッ

子分A「…………はいっ!」

青年「へへっ!いい返事だ!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

――某国の街道・森の中――


パカラッパカラッ

ヒヒィーン!!


御者「はぁっ!はぁっ!」


「止まれ!!止まれって言ってんだろうが!!!」


御者「ひぃっ!!……クソッ!!」


野盗「止まらねえと全員ブチ殺すぞ!!!!止まれ!!」


御者(最近噂になってる野盗だ……!!数が多い!)

御者2「おい!早くっ、早く前に進んでくれ!」

御者「これでも全速力だ!これ以上速度出したら中に居る客が」


パカラッ!! パカラッ!!

野盗「へへ、身軽な俺達に追いつかれねえと思ったかよ!」


御者2「あ、あぁっ!」

御者(クソッ!追いつかれた……!)


――――――――――――

――馬車の内部――

「あぁっ!ルビス様……!」

「こんなの聞いてない!なんで野盗が」


男の子「おかあさん……!」

赤ん坊「あぎゃあ!あぎゃあ!」

女「……!」

ギュッ

女「大丈夫……あなた達は私が護るからね……!」

―――――――――――――


ザァッ……

ギシ…


御者「……っ」


野盗の頭「やっと止まりやがったな……よっと」

スタッ

野盗の頭「それで?これは何を運んでやがる?……駅馬車か?」

御者「……」

野党の頭「中に人間が居るな?」

御者「っ……」

野盗の頭「……おいお前ら」

「「「うすっ!」」」

野盗の頭「男は全員身包み剥いで四肢を切り落として草むらにでも転がせ」

野盗の頭「女は攫う。手始めに裸にして犯してやれ」

御者「なっ!や、やめ」

ザンッ

御者「うあぁっぁぁっ!!!!」

ドサドサッ!!

野盗の頭「さっき手綱を握ってたのはその指だよなぁ?」

ジャキッ

野盗の頭「じゃあもう片方の手も差し出せ」

野盗の頭「全部切り落としてから四肢を切り落としてやる」

御者「ひっ、ひ……!」

野盗の頭「それじゃお前ら!!お前らはとりかかr」

……

野盗の頭「……?」

御者「はっ……くっ……!?」

野盗の頭「……」

野盗の頭(蹄の音)


ダガダッ ダガダッ


野盗の頭「…………誰だ?」



「お前ら!!!とまれ!!!」


「「「おいーっす」」」

パァン!

ヒヒィーン!!!

パカラッ パカッ…


野盗の頭「……?」

御者「……っ」

御者(こいつらの身なり……野盗の様な……!!)

御者(まさかこいつらの仲間が……!!)


「おお、思ったよりも多かったな」

「親分、どうするんすかこれ」


野盗の頭「……なんだァ?てめえら」


スタスタ…

「……てめえが親分かよ?そんな雰囲気だが」


野盗の頭「だったらなんだ」


ヒュ


野盗「え」


ゾドン!!!!!



覆面の男「奪う」



ザワッ!!!

野盗達「ボス!!!」

野盗「ぐあああああああっ!!!!!」

野盗(腕がっ!!!おれ、俺の腕が)

ザッ

野盗の頭「っ!!」

スタスタ

覆面の男「大人しくしろや?まあ大人しくしても切り落とすけどな」

野盗達「てめえっ!!!」

ダッ

野盗A「クソがぁっ――!!!!」

野盗B「っの野郎!!!」

野盗C「だらぁっ――!!」

覆面の男「血の気が多い奴らだぜ」

ガキィン

「!!?」

覆面の男「……よくやった、子分A」


子分A「親分息くさい」


覆面の男「今関係なさすぎないそれ!!!!?」

野盗の頭「な、なんだ」

野盗の頭「なんなんだてめえらは!」

覆面の男「んなもん決まってるだろうが」


ザンッ


野盗の頭「ぎゃああああああ!!!!!」


覆面の男「てめえと同じく悪党だクソカスが」

…………

ドサッ

子分A「っと、よし」

子分A「親分、全員の膝の皿砕いておきましたぜ」

覆面の男「じゃあお前らはその野盗どもの金目の物全部ぶんどっとけ。俺は馬車の方行く」

「「「うーっす」」」

スタスタ…

御者「ひ……あ」

覆面の男「……」

御者「いのち、命だけは、勘弁を」

ドカッ!

御者「んぐふうっ」

ドサッ

覆面の男「……金になりそうなもの用意しとけ」

スタスタ


――馬車・内部――


ガラッ…


「「「「ひいぃっ!!!」」」」


覆面の男「おー?六人か……意外と乗ってやがったな」

覆面の男「おいてめえら。有り金全部よこしな」

覆面の男「交通料だと思え。逆らったら外の野盗共みたいにしてやるぜ?」

「……っ!」

ガサッ… スッ

「命だけは……!」

「わ、私も!金ならいくらでもやる!」

「お願いです、命は」

覆面の男「へへ、素直でいいこったな……そんじゃ」

ザッ

覆面の男「……なんだ」


男の子「……っ!!」


覆面の男「なんだ、ガキ」

男の子「おかねはっ……わたさないっ」

男の子「おかあさんのお金は、ぜったいわたさないっ」

女「な、何を言ってるの!!やめなさいっ」

「そうだ!逆らうな!!」

「なに言ってるんだこのガキ!!黙らせろ!!」

覆面の男「……なんでだ?ボウズ」

男の子「このお金は、しんぷさんにわたすためのお金なんだ……っ」

男の子「妹は、まだあかんぼうなのに……びょうきで」

男の子「となりのくにのしんぷさんしかなおせなくて……!」

男の子「おかあさんがやっと、おかねをためたのに……!」

赤ん坊「ふぁぁぁ!ふやぁぁぁ!」

覆面の男「……」

男の子「なんでおまえなんかにやんなくちゃいけないんだぁっ!」

男の子「ぜったいわたさないっ!ぜったいぜったいに!」

女「もういいのっいいからっ」


覆面の男「……ボウズ」

男の子「っ……!」フルフル

覆面の男「……いい度胸してやがるぜ」

女「すみません!!お願いです子どもには手をっ」


ポン

ナデナデ


覆面の男「……」

男の子「……っ……?」

女「え……?」

覆面の男「……ボウズ、俺ぁ、悪党だ」

覆面の男「外に転がってる奴らも悪党だ。悪党は腐るほど居る」

覆面の男「この世は悪党ばっかりだ……だから」

覆面の男「母ちゃんと、妹を護れるのはボウズ。お前だけなんだ」

覆面の男「わかるか?」

男の子「……」

覆面の男「だからお前は強くなれ。飯をいっぱい食え。他人を蹴落としてでも偉くなれ」

覆面の男「お前が強くなりきるまでは、母ちゃんと妹を危険から逃がせるように頭を回せ勉強しやがれ」

覆面の男「……逃げるな」

覆面の男「どうする事もできねえままに母ちゃんと妹が危険な目に遭っちまったら、逃げずに立ち向かえ」

覆面の男「一生後悔するハメになんぜ」

男の子「……?」

覆面の男「…………」

ゴソッ

覆面の男「オラ、まずは俺から母ちゃんを護ったご褒美だ」

ジャラッ

男の子「!……わぁっ」

覆面の男「こんくらいの金貨がありゃ半年はやっていけるだろうよ」

女「そ、そんな!いただけませんっ」

覆面の男「いいから受け取れや。俺がやるって言って――……」


覆面の男「……」


女「……?」


覆面の男「……あんた」

覆面の男「…………そうか」

覆面の男「そっか、そりゃ。こんなボウズに育つわけだ」

女「何を……」

覆面の男「それじゃ、俺はずらかるぜ」

ナデナデ

覆面の男「ボウズ。言った事全部守れよ?」

覆面の男「オレぁ悪党だから、気が変わってまたこの馬車を追いかけてきちまうかもしれないぜ?」

男の子「……!っ、うん!させない!!」

ガラッ

ストッ

覆面の男「よし、オラ!てめえ馬車をさっさとだしやがれ!」

御者「は、はひぃっ!?」

女「あ!あのっ!お礼を――……」

覆面の男「……」

クルッ

パサッ


女「言わ……」

女「……」


「……この顔の傷、覚えてねえかな。アンタは」

「アンタがもし覚えて無くても、俺は忘れらんねえ」


女「……」


「…………ありがとう」

「今はこんなんになっちまったけど」



「俺は、あの時の、あのパンとチーズに。すげえ救われたんだ」



女「あなた……!!」



パサッ

覆面の男「っし!!オラァ!!!さっさと馬車出せ!!!」

御者「は、はひぃっ!!!」

パァァン!!

ヒヒィーン!!!

ガラッ

ガラガラガラ!!


ダカダッダカダッ!!


女「っ……!ありがとう」

女「ありがとう!ありがとう……ぼうや!!」


ガラガラ…

ガラ…




覆面の男「……へっ、坊やって年かよ」

覆面の男「おい!そっちの馬車も解放しちまえ!」

子分A「えー?いいんすかー?」

覆面の男「野盗共の有り金でも十分な稼ぎだろ。引き上げだ」

子分A「……親分」

覆面の男「あ?」

子分A「なんか上機嫌すね?」

覆面の男「……どうだろうな」

子分A「にやにやしててきもい」

覆面の男「今ので不機嫌になりましたけども」

――――――――――

…………
……




――某国・街角――


ガヤガヤ


覆面の男「オイ、質屋には行って来たか?」

子分A「いや、質屋には子分D達が行ってますけど」

覆面の男「そうか。戻ってきたら買出し行って来いよ子分A」

子分A「めんどくさいなあ」

覆面の男「お前子分って自覚ある……?」

子分B「しかし、なんか騒がしいっすね?街の中が」

覆面の男「あー、俺もさっきから気になってたんだが……なんだ?祭りでもあんのか?」

子分C「さっき話をちらっと聴いた限りだと、国連の勇者が来てるらしいっすよ」

覆面の男「国連の勇者?っつうとアレか?」

子分A「ああ、最近制定されたっつう、偉い魔族討伐人の」

子分C「なんでもその一人がここに訪ねて来てるらしっすよ」

覆面の男「へえ」

子分B「はは、興味なさそうっすね」

覆面の男「俺には関係ねえ話だ……さて、と」ザッ

子分A「どこいくんすか?」

覆面の男「散歩だ。子分D達が戻って買出し行ったら棲家に戻ってろ」

スタスタ…

子分A「……変わったなあ」

子分B「え?何が?」

子分A「親分だよ。この前の野盗を襲った後から、なんか物腰が柔らかくなっちまった」

子分C「あー、確かに」

子分A「……ま、いい事なんだけどよ」

子分B「いや盗賊としてはどうなんだろう」


…………


ガヤガヤ


スタスタ…

覆面の男「?」

覆面の男(なんだ、あそこやたらと人だかりが)


「勇者様!是非握手を!」

「期待しております!」

「お願いです!是非弟子に……!」


覆面の男「お?」

覆面の男(あれが国連の勇者か……)

覆面の男(ま、盗賊としては近寄りたかぁねえが、顔を覚えておくか)


「魔王など倒してしまってください!!」

「カザーブ勇者様!!」


覆面の男「……」

覆面の男「……」


覆面の男「……」



カザーブ勇者「ははは、皆さん。お任せ下さい」

カザーブ勇者「ああ、押さないで下さい、逃げませんから」



覆面の男「……」



……
…………


――街外れ・裏通り――


スタスタ…

カザーブ勇者「ふう……やっと解放された」

カザーブ勇者(人気があるのは有難いけれど上手く動き回れなくなりそうだな)

カザーブ勇者(しかしそれだけ市民の期待が高いという――……)


ザッ


カザーブ勇者「?」ピタ


覆面の男「……」


カザーブ勇者「……?あの、すみません。通していただけますか?」

覆面の男「……以前は、お世話になりました」

カザーブ勇者「?以前?……どこかで?」

覆面の男「いえね、ほら……盗賊の集落の住人達を駆逐した事があったじゃないですか」

覆面の男「あの時、自分も兵として出兵していたんです」

カザーブ勇者「……盗賊の、集落」

カザーブ勇者「ああ……!あの時の」

覆面の男「……やっぱり」

カザーブ勇者「覚えています、覚えていますとも……ですが」


カザーブ勇者「もう、忘れませんか?あの時の事は」


覆面の男「…………」

カザーブ勇者「私は正直思い出したくはないのです。あの時は本当に気分が」

覆面の男「……く」

覆面の男「くふっ」

カザーブ勇者「……?あの、どうされました?」

覆面の男「くはっ、かははははっ」

覆面の男「やっぱり、てめえか」

覆面の男「忘れたいってか、忘れたいってのか」

カザーブ勇者「……?いったい」



ひゅぱ



カザーブ勇者「かぴゃふ」


カパァン!!!!

ばちゃぁっ

びちゃびちゃびちゃ


カザーブ勇者「っ!!?!?!?っっ、っっ!!!!?」

カザーブ勇者(下顎が!!!!わ、私の下顎が!!!!!!)


覆面の男「ふーっ、ふーっ……!!!」

覆面の男「てめえは、母ちゃんや、弟達や妹殺しておいて、忘れるってか」

覆面の男「俺はなぁ、忘れたことァねえぞ」

スルッ


「この傷をてめえに付けられた時からなぁ」


「俺は忘れた事ァねえんだ」

――街外れの廃墟・盗賊達の一時的な棲家――


ゴンゴン


子分A「ん?誰だ?」

子分B「親分じゃねえの?出ろよ」

子分A「はいよ。おい、俺の手札いじんなよ」

スタスタ

子分A「……“何か用か?”」


「……“少しだけ、酒を分けてくれ”」


子分A(この声、合言葉。親分で間違いねえな)

子分A「ちょっと待ってくださいよっと」

ガチャッ

子分A「親分おそかったっすね、何やってたん……」


ズル


子分A「……っ……!!?」


ズル ズル


子分B「ああ、親分おかえんなさ……」

子分C「……は?」

子分D「ひっ……!!?」


覆面の男「……」

どちゃっ


子分A「……親分」

子分A「その、肉の塊……なんすか」

子分A「その形、まるで」


覆面の男「……俺は、忘れかけちまってた」

覆面の男「そうだ、全部クソッカスだ」

覆面の男「全部全部糞だ、この世の、全部」

覆面の男「…………俺も、屑で、悪党なんだ」

子分A「……っ」

覆面の男「……」

ジャラッ…

覆面の男「…………この勲章を付けてる奴」

覆面の男「もう一人居やがるはずだ、その中に」

覆面の男「殺してやる」

覆面の男「この際、全員殺してやる」


ギュリッ


覆面の男「この勲章付けてやがる奴ら」

覆面の男「国連の、勇者共……全員、殺してやる」



……
…………

――某国領内・平野――


ドシャッ


覆面の男「はーっ……はーっ」

覆面の男「はくっ……はーっ」


「……」


覆面の男「はーっ……はーっ」

覆面の男(ダメだ……コイツ、強すぎる)

覆面の男「……殺せ」

「……」

スタスタ

「……お前が国連の勇者達を連続で殺している犯人か」

覆面の男「……んくらい、分かってるんだろうが」

覆面の男「俺の、俺達の作った罠に全部気づいてやがったくせに」

「ああ。あの落とし穴か。見事なものだったよ」

「前例がなければ私達も気付かなかっただろうな。しかし前例が二件あった」

「……国連の勇者達を狙うのは私怨か?」

覆面の男「……殺せ」

「…………」

覆面の男「……」

「……話してくれないか。国連の勇者達を狙った理由を」


………………


「……そうか、それでか」

覆面の男「あいつらは……全員クソだ。……あいつらだけじゃねえ」

覆面の男「人間ってのぁ、大抵がクソだ。救いのねえ奴らばっかりだ」

覆面の男「……一握りの人間以外、死んだほうがマシだ」

「……」

「……お前が落とし穴の中で殺した二人も、救いが無かったと思うか」

覆面の男「……思うぜ」

覆面の男「あいつら……最後は、色んな手で……命乞いしてやがった」

覆面の男「二人目の奴は、三人目の情報を……全部、勝手に喋り始めた」

覆面の男「三人目は……俺の、村を……滅ぼした一人だった」

「……」

覆面の男「……」

覆面の男「…………穴の中でもがいて死ぬ」

覆面の男「それが、どんな気持ちか……分からせてやりたかった」

「……」

覆面の男「……なあ」

覆面の男「殺せよ……早く」

「お前の仲間達の居場所は」

覆面の男「もう逃がした……早く、殺せ」

「……なあ」

「お前が今回殺そうとした二人は……お前の言う一握りの人間だ」

「あいつらがお前の村に居たなら、きっとお前の村は滅んでいなかった」

覆面の男「……」

「……確かに、これまでお前が殺した勇者達は悪い噂を頻繁に聴いた」

「だがあいつらは」


「勇者オルテガと勇者サイモンは違う」


「あいつらは本当の勇者だ」


「……だから、こうして盗賊の俺も奴らの力になっているんだ」


覆面の男「……は……!?てめえ、盗賊職なのかよ……!?」

「……元は僧侶だがな」

覆面の男「ははっ……わかんねえ野郎だ」

「なあ、悪党」

覆面の男「なんだ……悪党」

「お前も俺の仕事を手伝わないか?」

覆面の男「…………は?」

「お前の子分達共々、俺の盗賊団に入って色んな事を手伝って欲しい」

「様々な地方に味方を作るようにしているんだ。お前にはこの地方を担当してほしい」

覆面の男「お前、正気か?」

「正気さ……ああ、そういえば名乗りもまだだったな」


盗賊父「俺の名はカンダタ。悪党だ」



……
…………

―――――――――――


――某国・酒場――


カラン…


盗賊父「……」

覆面の男「……」

盗賊父「……すまないな」

覆面の男「へっ……大盗賊カンダタ様が、えれぇしょぼくれ様じゃねえか」

盗賊父「…………」

覆面の男「……」

盗賊父「……敵は、予想外に多かった」

盗賊父「オルテガも、サイモンも……こんな事になるなんて」

覆面の男「……」

盗賊父「…………もうこの地方以外の手下達は、解散させた」

覆面の男「……次は俺達か」

盗賊父「……」

覆面の男「………………反吐が出るぜ」

盗賊父「……」

覆面の男「アンタらしくもねえ。世界の終わりみてえなツラしやがって」

覆面の男「てめえの命が狙われるから、手下の俺らの命もあぶねえ」

覆面の男「だから解散させて、自分は旅に出るってか」

盗賊父「……まだやらなければならない事がある」

覆面の男「……勝手にしろ」

ガタッ

覆面の男「あんたのその偽善者面、毎度苛々すんぜ」

盗賊父「……」

覆面の男「……なあ、カンダタ親分」

覆面の男「いや……もう親分でもなんでもねえな」

覆面の男「あんたはもう、カンダタでもなんでもねえ」

盗賊父「……?なにを」

覆面の男「……アンタ。カンダタの名を捨てろ」

覆面の男「…………達者でな」

スタスタ

バタン…

盗賊父「……」

――――――――――


バタン

スタスタ

覆面の男「……」


子分A「……親分」

子分B「……」

子分C「……」


覆面の男「……準備しろ」

スタスタ

覆面の男「夜明け前までには出るぜ」

子分A「大親分は……?」

覆面の男「盗賊団は解散だとよ」

子分B「……やっぱり」

子分C「じゃあ、もう……」

覆面の男「……」

ザッ

覆面の男「……これからは、前みてえに俺が頭だ」

覆面の男「ただ……いいかお前ら」



覆面の男「今日をもって、俺がカンダタだ」



覆面の男(俺がカンダタの名前で悪事を働きまくる)


覆面の男(そうすりゃ、“ヤツら”はカンダタの名に反応して俺を探そうとするだろう)


覆面の男(親分の存在は“ヤツら”からだいぶ遠ざけられるはず)


覆面の男(親分みてえに義賊みてえなマネはしねえ……だが、親分には借りもある)



覆面の男「…………――これから、俺をカンダタって呼びな」


……………
……




「それでは死刑囚カンダタ!前へ!」



ザッ


カンダタ「……」


ああ、真っ暗だ

真っ暗だ

地鳴りが耳ん中をぐるぐる回ってやがる

縋れるものは何も

何も


カンダタ「……」

「それでは……槍兵!」

「「はっ!」」


ジャキッ


「……死刑囚の背を突いて、火口へ」


カンダタ「……」


ああ、これで終わりか


くだらねえ幕引きだった


縋れる物なんざ何もねえ


クソみてえな人生だった




……

……

……

……

……

……

……

……

……――何も、無かった?

いや

俺は、知ってた筈だ

その縋れる何かは、確かにあった

俺のクソみてえな人生を

クソみてえな俺を救ってきたモノが

確かにあったはずだ




カンダタ「……」


クルッ


「「「!!!?」」」



カンダタ「……」



エジンベア勇者(こっちを向いた……?)

ダーマ勇者「何を……」

「貴様!何のつもりだ!!」



カンダタ「俺の命は俺のもんだ」

ニタァ

カンダタ「俺が終わらせる」


ダッ!!


「なっ!!!?」


ダーマ勇者「きゃっ……!?」

エジンベア勇者(自分で背中から飛び込みやがった……!!)




カンダタ「あばよ!!!犬畜生共!!!あばよ!!!魔物共!!!」



カンダタ「先に地獄で待ってるぜ!!!!!」





オオオオオオオオオオオオオオオオオ







……


カンダタ(ああ、背中が熱ぃ)


……


カンダタ(視界が速度を落としてやがる)


……


カンダタ(視界が背中の方から緋色に染まっていくのが分かる)


……


カンダタ(……)


……


カンダタ(笑えねえ)


……


カンダタ(やめてくれ)


……


カンダタ(最後の最後で)


……


カンダタ(ああ)


……


カンダタ(火口から、火の光が差し込んで)


……


カンダタ(一本の白い光が)



カンダタ(ああ)



カンダタ(これじゃまるで)








カンダタ(まるで――……)









【蜘蛛の糸】-完-


このSSまとめへのコメント

1 :  ?の人   2014年02月05日 (水) 09:58:00   ID: 1Sc0iS9A

期待

2 :  SS好きの774さん   2014年02月24日 (月) 10:53:54   ID: 2qSp_lqG

はやく

3 :  SS好きの774さん   2014年02月28日 (金) 12:49:25   ID: JyPX5Die

はやく

4 :  SS好きの774さん   2014年03月25日 (火) 23:14:15   ID: TYbmV-N4

まだかな,,,期待♪

5 :  SS好きの774さん   2014年04月02日 (水) 22:26:58   ID: NmTcnYf2

はやく

6 :  SS好きの774さん   2014年04月21日 (月) 23:20:06   ID: F5vI0v6t

1年くらい前から見てるがホント神ssだ
頑張ってくれ

7 :  SS好きの774さん   2014年05月06日 (火) 00:05:27   ID: OdfgMNIy

期待

8 :  SS好きのブタ野郎さん   2014年05月06日 (火) 00:15:28   ID: OdfgMNIy

続きが気になるンゴwww

9 :  SS好きの774さん   2014年06月19日 (木) 23:03:20   ID: BEwLnsED

面白すぎて一気に読んじゃいました♪
応援してます!

10 :  SS好きの774さん   2014年06月19日 (木) 23:13:26   ID: BEwLnsED

絵めっちゃ可愛いけど
最初の頃のが消えちゃって見れないorz

いつか見れる時が来たらうれしいです♪

11 :  SS好きの774さん   2014年07月09日 (水) 20:31:59   ID: EQMN_iRl

続き待ってます!

12 :  SS好きの774さん   2014年08月29日 (金) 21:35:20   ID: lCbqtkc_

8月終わりそうである

13 :  SS好きの774さん   2014年09月07日 (日) 10:24:40   ID: 904C4jdm

九月ー

14 :  SS好きの774さん   2014年10月15日 (水) 01:23:42   ID: fc86VvH_

10月っす

15 :  SS好きの774さん   2015年02月07日 (土) 12:47:13   ID: 75q0BXFL

続きが気になりすぎて発狂しそうだ

16 :  SS好きの774さん   2015年02月21日 (土) 00:24:58   ID: KhwEycB6

期待してます

17 :  SS好きの774さん   2015年06月15日 (月) 14:44:55   ID: 9_7fpYtn

いいssだは
こないかもしれないけど勇者無双に期待してる

18 :  SS好きの774さん   2015年07月05日 (日) 23:42:00   ID: g92B9VDp

??「続き!気になる!」
?「続きに期待だね、わっかんねーけど」

19 :  SS好きの774さん   2015年08月16日 (日) 02:50:25   ID: lR7-eoNX

勇者カッコいいな

20 :  SS好きの774さん   2015年08月16日 (日) 02:51:54   ID: lR7-eoNX

続きに超絶期待!!

21 :  SS好きの774さん   2015年10月25日 (日) 11:07:30   ID: ocFUOEAe

見ててとても心地良い、登場人物の一人一人、心理描写が細かく描かれていてモブの居ないSSという印象。最後まで読みたい期待。カンダタ子分Aと
男Cは貰ってイきます

22 :  SS好きの774さん   2015年11月08日 (日) 22:21:10   ID: XY6Ikigp

待ってるから!続き待ってるから!!
ずっと、ずっと!
だから…速くあげてね?続き。

23 :  SS好きの774さん   2016年02月02日 (火) 19:00:13   ID: cbuUG9QT

続きに期待

24 :  SS好きの774さん   2016年02月18日 (木) 21:52:13   ID: xKnfJdYk

更新楽しみにしています

25 :  SS好きの774さん   2016年02月21日 (日) 20:08:33   ID: 25KMKzNa

期待

26 :  なら磐梯山ほーむ   2016年04月21日 (木) 01:13:55   ID: jmO8UQO6

最高

27 :  SS好きの774さん   2016年05月01日 (日) 14:45:57   ID: aXMgquYQ

このSSすげぇ…

期待してます‼︎

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