村長「この村を救ってください」 勇者「1000万円だ」(145)

村長「そんな……貧しい農村でそんな大金はありませぬ」

勇者「村中をかき集めればあるだろう」

村人A「横暴だ!」

村人B「わたし達にも生活があります」

勇者「炭鉱のモンスターは倒さなくていいんだな?」

村長「それは……」

勇者「モンスターに若い娘をさらわれて困っているんだろう」

勇者「俺は俺の仕事をするだけだ。条件が飲めないなら、俺は帰る」

村人A「この人でなし」

村人B「お前には人の心がないのか!」

村人C「勇者なんて見掛け倒しなんだな」

勇者「ふう」サッ

村人A「懐に手をいれたぞ」

村人B「武器をとりだす気だ! 気をつけろ!」

勇者「とんだ臆病ものだな」シュボ

勇者「これでどうだ?(指を一本立てる)」

村人「い…一億ゴールドですか…?」

勇者「いや、一分で片を付けてやる」

村人A「な……なんだ。タバコじゃないか」

村人C「それはお前の方だろう。モンスターを怖がる勇者なんて聞いたことがないね」

勇者「そうだ、俺は臆病だ」スパー

村人B「はははははは。コイツ自分が臆病だって認めたぞ!」

勇者「その臆病さが、俺を今日まで生きさせてきた。勇敢なヤツは真っ先に死ぬ」

村人A「つまりこういいたいのか。逃げてばかりいたから、今まで生き残れたと」

村人B「みんな聞いたか! 勇者とは勇ましい者と書くが、実際は詐欺師だ」

勇者「だが、俺ならわが身かわいさに肉親を売りはしないね」スパー

村人全員「………」

勇者「おまえら鏡で自分の顔を見たことあるか?欲にまみれたひでえ顔してるぜ俺にはおまえ等がモンスターに見えるぜ」スパー

勇者「1000万円で大事な肉親が帰ってくるなら安いものだ」

村人A「それでも……1000万円てのは高すぎる」

村人B「そうだ、そうだ」

村人C「せめて100万円なら払ってもいいぞ」

勇者「ふう、無駄足だったようだな。邪魔したな」

村人C「仕方ない、200万円ならどうだ?」

村人B「これ以上は一切だせんぞ」

勇者「200万円?」

村人C(おお、食いついたぞ)

勇者「ふざけるんじゃねえ!」ビキビキ

ヒュン

村人C「ひっ。な、何をするんだ!! 無力な村人に剣を向けるなんて!」

勇者「むかついた。これからてめえを殺す」

村人C「こ、こここ殺す? お助けくださいぃぃぃぃぃ」

勇者「おっと、このままだとただの悪人だな。ほらよ」ポン

どよどよ

村人D「札束だぞ」ゴクリ

村人E「いくらあるんだ?」

勇者「ちょうど200万円ある。てめえの命を200万円で買ってやるよ」

村人C「そ、そんな。お金なんて!!」

勇者「せいぜい楽しかったときを思い出して死ねや」

ザクリ

剣は村人Cの脇の間を抜けて、地面に刺さっていた。

村人C「…………」ブクブク

勇者「気絶しやがった」

村人D「見ろよ。村人Cのやつ、失禁してやがるぜ!」

村人A「情けねえ野郎だ!!」

村人全員「あははははははははは」

勇者「おっと、殺さなかったんだから200万円は回収しておくぜ」

勇者「村長さん、わかったろう。200万円てのは人の命の値段としては安すぎる」

村長「…………」

勇者「1000万円だって同じだ。それでも命に金を惜しむ村なら、俺はここに必要ない」

村長「わかりました。1000万円、お支払いしますじゃ」

村人A「村長!! 1000万円も払ったら、この村は破滅です!!」

村人F「よくよく考えてください!!」

村長「黙れ!!」

村人全員「…………」ビクリ

村長「このままでもこの村は破滅じゃ!!」

村長「それならせめて人の心を持ったまま破滅しようではないか!」

村人A[そ……そんちょう」

村人B「ずびません。俺が間違っていました」

村人全員「ううううううううう」シクシク

村長「異議のあるものはここで申し出るがよい!」

シーン

村長「いないようじゃな。そういうことですじゃ、勇者様」

勇者「OK。お前らと家族の命、1000万円でたしかに預かった。俺に任せておけ!」

村長「今夜、モンスターが村の娘をさらいに来る約束ですじゃ」

勇者「その娘さんとやらは?」

村娘「わたしです」

勇者「ほう。たしかに綺麗だな」

村長「わしのかわいい孫娘ですじゃ」

勇者「へー、じいさんの。大切にしとけよ」

勇者「モンスターがさらいに来たところを俺が退治する」

村長「しかし、モンスターも手ごわいですぞ」

勇者「だからこそ作戦を立てる」

村人A「作戦?」

勇者「そうだ。俺が村長の孫娘に化ける」

村人全員「…………」

村人E「勇者様、女装趣味があるのですか?」

勇者「違う。俺が村長の孫娘に化ければ、モンスターも油断するだろう」

村長「なるほど。それは名案ですな」

その夜

モンスター「村長、今日の生贄をもらいに来たぞ。どこにいる?」

村長「こちらですじゃ」

モンスター「別嬪なんだろうな?」

村長「それはもう。何せ、わしの孫ですから。見てくだされ」

モンスター「おうおう、たしかに美しそうだ。しかし、後を向いていて顔が見えんな」

勇者「恥ずかしくて。顔を見せられないのでございます」

モンスター「おお。そうか、そうか。なんと可愛いやつなんだ」

モンスター「恥ずかしがらずにこっちを向いてごらん」

勇者「わかりました。それではお言葉に甘えて――」

ザシュ

モンスター「ぎゃあああああああああああああああああああ」

勇者「どうだ、俺の剣の味は?」

モンスター「女じゃない! 貴様なにものだ?」

勇者「村に雇われた勇者さ。お前が悪事をし過ぎたため雇われた」

モンスター「なんだと!! よくも騙したな!! ゆるさいないぞ!」ギロ

村人A「ひっ」

ザシュ

モンスター「ぐわああああああああああああああああ」

勇者「おいおい、どこを見ているんだ? 背中ががら空きだぞ」

モンスター「くそ、まさか伝説の勇者がこんな辺境の村にいるなんて」

勇者「大人しく暮らしていれば良かったものを」

モンスター「俺はナメるなよ!! 喰らえ」

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンン

村人B「地面にクレーターが……」

モンスター「ふはははっははは。跡形もなくなりおったわ」

村人E「ゆ、勇者様が死んだ」

モンスター「さて、次は楽しい楽しいショーのはじまりだ」

村人B「に、にげろおおおおおおおおおおおお」

モンスター「鬼ごっこか。一人たりとも逃がさないぞ」

モンスター「まずは1人目」

村娘「あわわわわわわわわわ」

モンスター「最初からかわい娘ちゃんとは幸先がいい」

村娘「た、たすけて!」

モンスター「誰も助けには来ないよ。大丈夫、すぐに終わるよ」

モンスターは大きく腕を振りかぶる

村娘「たすけてーーーーーーー、勇者様!!」

モンスター「死ね」

ドスーーーーーーーーン

村娘(あれ、わたし死んでない)

?「大丈夫か?」

村娘は恐る恐る目を開ける

村娘「ゆ、勇者様。生きてらしたんですね!!」

勇者「あんな攻撃を避けるのなんての簡単だよ」

村娘「モンスターは?」

勇者「モンスター? ああ、君の隣で倒れている奴のことかい?」

村娘「わ……わたし、本当に怖くて……。うわああああああああん」

勇者「もう大丈夫だ。怖いものなんて何もない」

村長「皆の者。勇者様がこの村を救ってくださったぞ!!! 今日は宴だ! みんな飲め!!」

村人A「わしの娘も帰ってきた。こんな嬉しいことはない」

村人B「俺は最初から言っただろ。勇者様は最高のお方だって」

村人D「こいつう」

村娘「勇者様、本当にありがとうございました。私にお酌させてください」

勇者「お礼を言われる筋合いはない。俺は俺の仕事をしただけだ」

村娘「そんなことありません。わたし、あんなモンスターの生贄になっていたかと思うとぞっとします」

勇者「ぞっと……ね」

村娘「勇者様は怖くなかったんですか?」トクトク

勇者「怖いよ。とても怖かった。言っただろ、俺は臆病だって。だが、もっと怖いものがある」グイ

村娘「それは何ですか?」

勇者「さてね。何だと思う?」

村娘「勇者様ずるいです。そうですねぇ。あ、わかりました。罪もない人々の命が奪われることですねっ!」

勇者「さてね。どうかな」

村娘「やっぱり勇者様、お優しいんですねっ!」

村娘「勇者様、お願いがあるんです」トクトク

勇者「なんだい?」グイ

村娘「今日その……言いにくいんですけども」モジモジ

勇者「言ってみなよ」

村娘「わ、わたし勇者様の部屋に行ってもいいですか? キャ、恥ずかしい」

勇者「いいよ」

村娘「ほ、本当ですか!! わたしとても嬉しいです!!」

勇者(お約束だな)

深夜

コンコン

勇者「誰だ?」

村娘「村長の孫です。約束のとおり来ました」

ギイ

勇者「いらっしゃい。さあ、どうぞ中に入って」

村娘「ありがとうございます」

勇者「緊張することはないよ」

村娘「緊張しますよ。わたし男の人の部屋に来るの初めてで」

勇者「ここは俺の部屋じゃなくて、ただの宿屋の一室だよ」

村娘「それでも今は勇者様の部屋です」

村娘「あの勇者様、女の人が男の人の部屋に来るってことは……その……」モジモジ

勇者「わかっているよ。何度も経験している」

村娘「ガーン。何度もですか。ちょっとショックです」

勇者「村を救ったときはいつもそうだった。だから君がしたいこともわかる」

村娘「ゆ……勇者様。わたし、その初めてではないですけれど、あまり経験がなくて」ファサ

村娘の衣服が床に落ちる

勇者「何も心配する必要はない」

村娘「アーーーーーーーン、アン、アン」

勇者「…………」

村娘「はあはあはあ」

勇者「…………」シュボ

村娘「勇者様、凄かったです」

勇者「…………」スパー

村娘「本当にありがとうございます。勇者様にはいくらお礼を言っても言い尽くせません」

勇者「言ったはずだ。礼を言う必要はない。すべては仕事でやったことだ」

村娘「いいえ、お礼を言わせてください」

村娘「この村を救ってくれてありがとうございます」

村娘「わたしを生贄から救ってくれてありがとうございます」

村娘「そして何よりも――私たちの村に大金を残してくれてありがとうございます」

バタン

村人C「よくも俺をこけにしてくれたな」

村人A「勇者覚悟しろ!」

村人B「てめえの金は俺たちのものだ」

村娘「逃がすんじゃないよ」

村人E「わかってますよ、こんな上客滅多にいやしません」

勇者「…………」スパー

村娘「全然驚いてないみたいだね。勇者様」

村人C「お嬢、きっとコイツびびって話せないに違いねえ」

勇者「こういう事態を予想はしていた」

村娘「嘘を言うんじゃないよ」

村長「ほっほっほっ、勇者様は負けず嫌いと見える」

村娘「もう薄々気づいていると思うけれど、私たちは村人じゃない」

村人E「俺たちは」

村人D「勇者も騙す」

村人C「盗賊団」

村人B「銀の狼」

村人A「さー♪」

村娘「そしてあたしがこいつらの女親分ってわけさ」

女親分「あんたはしこたま飲んでいて、おまけに丸腰」

盗賊A「いかに勇者といえども敵いはしないでしょう」

盗賊B「命乞いするなら今のうちだぞ」

盗賊C「どっちにしても殺すけどね」

勇者「言ったはずだ」

女親分「何をだい?」

勇者「こういう事態は何度も経験している、と」サッ

女親分「枕の下に武器を隠している!! お前たち!」

サク サク サク サク サク

女親分「ちっ、投げナイフ」

勇者「長剣も取り戻させてもらった。俺を逃がさないように外にも子分を待機させていたのが仇になったな」

女親分「一瞬にして私の子分を……。伝説の勇者、恐ろしい男」

勇者「俺は裏切りは許さない」

女親分「あたしを殺すのかい? あたしは女だよ。今夜一晩、情けを交わした仲じゃないか。助けておくれよ」

勇者「…………」

クルリ

女親分「た、たすかった」

女親分(勇者といえども女には甘いか。馬鹿な男。その甘さがお前の死に繋がるんだよ)

女親分(死ね)

クルリ

勇者「…………」サッ

女親分(!!!!)

トス

女親分「あまりにも……準備が……よすぎる。あ……あたしたちのこと知っていたね」

勇者「盗賊団銀の狼を壊滅させること。それが今回の俺の仕事だ」

女親分「…………グフ」

勇者「平気で人を騙す人間の方が、俺にとっちゃよっぽどモンスターより恐ろしいね」

勇者「モンスターよりも恐ろしく、人間を食い物にする奴がいる」

勇者「そいつを退治するのが俺の仕事さ」

Fin.

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