本作は
「魔法少女まどか☆マギカ」
と
「とある魔術の禁書目録」
及びその外伝のクロスオーバー作品です。
二次創作的アレンジ、と言う名の
ご都合主義、読解力不足が散見されそうな
予感の下で、
とにもかくにもスタートです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1419447208
>>1
× ×
目を覚ました暁美ほむらは、少しの間きょとんとしていた。
そこは、自宅マンションのベッドの上。
目覚まし時計が示している時間も程よい朝。
病院ではない、その違和感と共に鳩尾辺りを掴んでいたほむらは、
自分は寝ぼけていたのか、と結論付ける。
確かに、それが当たり前だった日々は長かった。
だから、そんな勘違いをする目覚めがあっても不思議ではない。
着替え洗顔から始まる朝の儀式を一通り終えて
慣れた手つきで用意したトーストのコースの朝食を平らげる。
転校まではもう少し間がある。
本来の予定では既に両親と同居している所だが、親の仕事に予想外の展開があったとかで、
転校後も少しの間、一人暮らしは続きそうだ。
× ×
転校初日、見滝原中学校の廊下を行く暁美ほむらは、
何となく様々な視線を感じる。異性の視線も感じる。
こちらに来る前は女子校に通っていたほむらだが、
それでも、ほむら自身が客観的に情報を分析しても、
自分は美少女の部類に入るらしい。
その意味で、未だ異性に慣れない所のあるほむらにとって、
担任が未だ若い女性である事は少し、安心できる要素だった。
>>2
× ×
「今日は皆さんに大事なお話があります。
心して聞く様に。
目玉焼きとは固焼きですか、それとも半熟ですか?
はい、中沢君っ!」
「えっ、えっと、ど、どっちでもいいんじゃないかと」
「そのとおぉーりっ、どっちでもよろしいっっっっ!!
女子の皆さんはくれぐれも、君の作るものなら何でも美味しいよmy honey
うんーまっ、んーまっんーまっんーまっ、
なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんてなぁーんて素敵なmy darling!!
こぉーんなっ最っ高にいい男を見つけて捕まぉえて確保して交際する様に。
そして男子の皆さんはぁ、
絶対にそんないい男になって素敵な彼女を見つけてくだっさぁーいっっっ」
自分の担任として安心できるかどうかはとにかく、
個人的に幸せそうで何よりですと、
暁美ほむらは寛大な心で幸あれと祈りながら
担任教諭早乙女和子の怪しい踊りを廊下から眺めていた。
「はい、後それから、
今日はみなさんに転校生を紹介します」
「そっちが後回しかよ」
「じゃあ暁美さん、いらっしゃい」
苦笑が広がる教室に、ほむらは足を踏み入れる。
どうやら、温かな雰囲気の教室らしい。
男女問わず凄い美少女、と言う声がちらほら聞こえるのも
こそばゆいけど悪い気はしない。
「はーい、それじゃあ自己紹介いってみよう」
「暁美ほむらです、只の人間には興味はありません。
この中に魔法少女超能力者魔術師がいたら私の所に来なさい、以上。
ごめんなさいほんのジョークです、よろしくお願いします」
ほむらがぺこりと頭を下げると、一拍遅れて拍手が起こる。
担任の異様なノリにいつの間にか乗せられていたが、
どうやらみんな華麗に流してくれたらしい。
>>3
頭を上げたほむらの目が、ふと一人の少女に吸い寄せられた。
率直に言ってどこか鈍くさそうな、そこがいかにも素直な家庭を思わせる、
素直な可愛らしさを見せているちょっと小柄なそんな少女。
鈍くさいとは失礼な、自分も人の事を言えたものではないと、
胸の奥に笑みが浮かんだ頃、その少女に近くの女子生徒がひそひそ話しかけている。
こちらはボーイッシュなショートカットがいかにも活発そうな少女。
恐らくは仲のいい友人なのだろう。
長い期間ではなかったとは言え、
女の園から来たほむらは多少の勘も働く、いいコンビなのだろうなと。
だから、自分も不躾な視線は程々にしないとあらぬ誤解を招く所だ。
× ×
「ねぇねぇ暁美さん、前はどんな学校行ってたの?」
「髪、すごくきれいね」
休み時間、同級生の女子生徒がほむらの周囲に群がりあれこれと質問を重ねる。
「ごめんなさい、緊張しすぎたのかしら、少し気分が。
保健室に行かせてもらえるかしら?」
些かうんざりした所で軽い方便。
「それじゃあ私が」
「係の人は?」
「ああ、それなら」
かくして、呼ばれたのは先ほどの鈍くさそうな(失礼)少女だった。
名前はまどか、と言うらしい。
「大丈夫、暁美さん?」
「ええ、大した事ではないわ」
ほむらの顔を覗き込もうとするまどかの側で、
ほむらは多少の芝居を付けてよろりと立ち上がる。
>>4
「え?」
声が聞こえた気がしたが、それは、ほむらも同じだった。
立ち上がったほむらがまどかを見た、と、思った時には、
ほむらはまどかを抱き締めていた。
「暁美、さん?」
「あ、本当にごめんなさい。
少し、立ちくらみがしたみたいで、もう大丈夫」
「う、うん、保健室行こうか」
「ええ」
体勢を立て直し、何時もの冷静な口調でほむらが言った。
だが、その内心では、なぜこんなにドギマギしているのだろうか、と、
ほむら自身が驚いている状態だった。
そもそも、全くの仮病だった筈だ。
それが、今立ち上がった途端、丸で吸い寄せられる様にああなった。
× ×
「暁美さん」
「ほむらでいいわ」
廊下でまどかに声を掛けられた時のこの反応も照れ隠し以外の何物でもなかった。
「鹿目まどか」
「は、はいっ」
小耳に挟んだ名字と共に呼びかける。
これも、名前を許した事への交換メッセージ、に過ぎない筈だった。
「あなた、家族や友達のこと、大切だと思ってる?」
口をついて出た言葉。
それは、本来は、かつて努力に努力を重ねて来た常々の自分への問いかけ。
そして今は、目の前の少女の芯に見えるものに不意に起こった好奇心。
>>5
「………もちろん、大切だと思ってるよ?
家族も友達も、みんな大好きだもん!」
「そう」
思った以上に真摯な返答に、ほむらは好感を持つ。
いい娘なのだな、と。
ほむらの視線がついと動き、まどかもそれに合わせる。
先ほどのショートカットの少女と、確か同じクラスにいたふわふわ髪の少女が
何か言い争う様な談笑する様な曖昧さでじゃれ合い、
その背景で一人の男子生徒、こちらも同級生だった筈、彼が苦笑いを浮かべている。
「ふうん」
ほむらの反応に、まどかもくすっと笑みを浮かべる。
余りその方面に縁が無かったほむらにも分かる、
前方の少女二人が交わす眼差しの中の艶の様なものは。
「あれは、確か」
「うん、あっちのショートカットの娘がさやかちゃんでもう一人の娘が仁美ちゃん。
男の子が上条恭介君」
「まどかとは付き合いが古いのかしら?」
「うん、小学校の時からの付き合いで、
私がこっちに転校して来た時に最初に友達になったのがさやかちゃんで、
それで、仁美ちゃんや上条君とも」
「ふうん………いい娘なのね」
「うん」
まどかが応ずる。
やはり、素直な娘だ、何の駆け引きも不要だとそのまま理解できる。
>>6
「上条君、ヴァイオリンがすっごく上手で今までいくつも賞取って、
仁美ちゃんもあんなに美人でおしとやかで、上品なお嬢様だからすっごくモテモテなの。
さやかちゃんも可愛いし、
小学校の頃なら男の子にも負けないぐらい元気でスポーツも出来てね。
私なんか、何のとりえもないからなぁ」
「そんな事ないわ」
ほむらは、即座に否定していた。
「そう、かな?」
「ええ」
ほむらは本心からそう思っていた。その素直な、心の綺麗さに好感を抱いていた。
只、それを理論化するのは確かに難しい。
説明を求められる前に本人が一応納得してくれて助かった。
「ここが保健室だから」
「ありがとう、少し休めば大丈夫だと思うから」
養護教諭との話も穏当に片付き、ほむらはベッドに入る。
学校は違えどこの部屋、このベッドを定宿にしていたあの頃を思い出す。
生まれつき、心臓の血管に少なからず問題があった。
小さくない肉体、行動への制約は心も弱くした。
ほむらの治療のために惜しみなく尽力して来た両親の金銭的負担は、
子どもだったほむらが察する程に限界に近づいていた。
それが、宝くじの当選で大きく変わった。
当初は海外での移植も視野に入れて専門家を当たっていたが、
Dr.HAZA……、Dr.KAZU……、Dr.ASA……他
担当医に恵まれたほむらの心臓は超難易度の手術で部分的に修復され、
ほむらの生活からそれまでの支障を雲散霧消させていた。
>>7
× ×
回想する内に意識は途切れ、そして再び取り戻される。
何時限かの授業は、体育も含めてある程度予想通りの賞賛の中で終わった。
心臓の障害が実質的に完治した後、
勉強、スポーツ、ほむらは今まで心身ともに制約されていた事を貪る様に努力した。
客観的な情報分析として、何時の間にか周囲の評判は才色兼備のスーパー美少女と言う事になっていた。
かつて、乱暴な男の子に小動物の様に怯えていたほむらを両親が慮り、
ほむらは両親が探してくれた医大のある女子大の付属校に通っていた。
しかし、今なら大丈夫だろうと、両親の引っ越しを機にそのまま共学の見滝原中学で
より普通の学校生活を取り戻す事に決めて現在に至り、そして、それは今も続く伝説。
ほむら自身が言ってしまうと大げさ以外の何物でもないが、
実際に自分の事が伝説になりつつあると、
主に美樹さやかの声を耳にしながら暁美ほむらは情勢を分析していた。
「ほむらちゃん」
「まどか?」
放課後、HRを終えて立ち上がろうとした辺りで、
ほむらはまどかに声を掛けられていた。
「あの、体、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。心配かけてごめんなさい」
「ううん。その、一緒に」
その言葉に、ほむらはふらりと吸い込まれそうになったが、
寸手で出踏みとどまり事実を告げる。
「ごめんなさい、今日は急いで帰らないといけないの」
「そうなんだ。じゃあ」
「うん」
残念ながらそれは事実だった。
今日中に父親の所にとんぼ返りする母親と待ち合わせて一つ二つ済ませなければならない事がある。
さしたる付き合いでもないのに、心の底から残念だと思っている、
そんな自分にほむらは気付いている。あの娘と友達になれたらいいなと。
下駄箱に向かった廊下で、ほむらはふと一組の女子生徒に気が付く。
>>8
「それじゃあ、材料を買って集合しましょう」
「オッケーパティシエ」
「楽しみですなー、いやいや頑張って手伝っちゃうよー」
どうやら、中心の女子生徒がケーキか何かを焼くと言う話らしい。
見た所上級生の様だが、実に楽しそうだ。
ふとそちらを見たほむらは、中心にいる先輩を見て心の底で「負けた」と感じる。
しかし、それは嫌な気分ではない、純粋に憧れる。
ぱっと見て目を引く美貌に軽くカールのかかった後ろ髪、
そして、制服の上からでも分かるスタイルの良さはどこか西洋人形を思わせる。
一見していかにも少女っぽく華奢なほむらとしては、年頃の女の子として羨むところだ。
ふと、その先輩と目が合い、先輩はほむらににこりと微笑みを向けた。
ほむらはぺこりと頭を下げて改めて思う、かなわない、と。
長い黒髪も相まって、クール美少女で通っている美貌にも振る舞いにも、ほむらは多少の誇りは持っている。
かつては何事も自信なさげに、実際に自信が無くて縮こまってばかりだったが、
体の回復でメキメキ実力を伸ばしてからは、長い病院生活その他による状況への不慣れも相まって、
同級生からも一部の悪意と敬意を受ける事が勝っていた。
もう少しフレンドリーに、と言う思いもないではなかったが、
今ではそれが自然ならまあいいかと言うぐらいの気持ちだ。
そして、自分にはないものに憧れる。
先輩の微笑みは温かで、お姉さんと言うイメージそのままだった。
暁美ほむらは未だ知らない、
程なく、自分が邪気の無い大爆笑の対象になると言う事を。
>>9
作者より
第一回投下後書き
Happy Merry Xmas
いかがお過ごしでしたか?
一説によると二次書きとして相当にヤバイ領域とも聞き及ぶ地雷原なクロスに突入した様ですが、
まあ、ぼちぼちやらせてもらいます。
書いてても確かにそうだろうなとは思いますし。
しかも、私の場合、本来は相当にプロットから練りに練って始めるタイプなのですが、
今回に関してはもちろんおよその事は決めていても正直珍しくストックが余りありません。
個人的な事情と気分的にと言いますか、
今年中、年末は年末でもその大詰を前に
触りだけでも始めておきたくてスタートしたと言うのが実際の所です。
まあ、色々言い訳になりましたが、
今の所は沈没しない様に細々とでも、無論、面白いものを、と、気構えだけは持って。
今年は後何度お会いできるか分かりませんが、
今回はここまでです。
続きは折を見て。
もしかしてネギま!ととあるのクロス書いた人?期待してるのでがんばってください。
ほむら「清丸国秀?」
ほむら「清丸国秀?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1402376833/)
これじゃん
そっとじ
どうせ糞上条が中身のない糞みたいな説教を魔法少女にかます禁書厨による禁書厨のための踏み台ssだろ?
マジでファックだわ
意味のない安価による前レスへの誘導
コテハン
まどマギ禁書クロス
読者との近い距離
なんというか他のSSここであまり読んだりしてなさそうというか初心者っぽいというか
ただでさえまどマギ禁書クロスっていう荒らしが出た前例のあるクロスだし荒らしにだいぶ粘着されそうね
心強く持って頑張ってほしい
>>14
クロス何作か書いてる人みたいだし多分大丈夫じゃない?
ボロッカスに荒らす人が来そうな組み合わせだってのは同意見
感想どうもです。
それでは今回の投下、入ります。
× ×
>>10
母親との待ち合わせ場所に向かう途中、
見滝原駅周辺に足を運んだ暁美ほむらは群衆に目を止め、足を止める。
群衆の囲いの中から演説が聞こえる。
人込みをかき分け、ほむらがその中心へと足を運ぶと、
林檎箱に乗った中年男性が演説を行っていた。
内容は見滝原の市政に関する演説。
男性はくたびれた所がありつつも品の良さが伺え、
必ずしも能弁ではない所がありつつ、誠実さが伝わって来る。
演説の内容も至極真っ当な、多少頭のいい中学生であるほむらでも共感できるものだ。
しかし、どこかで見た様な、と、ほむらは考える。
「あの人は?」
「ん?美国先生だよ」
ほむらが声をかけた、飲食店の大将っぽい男性が気さくに応じた。
「美国、先生?」
「正確には前議員だけどな」
「最近こっちに引っ越して来たので」
「そう。ここの市議会議員だったんだけど秘書がやらかしてな」
「人気、あるみたいですね」
確かそんなニュースがあった気がする、それを思い出し、
周囲の反応を伺いながらほむらが言う。
「ああ、問題になった時も潔く辞任したし、
地元じゃ結構な名家の出身なのに、
辞任してからはこうやって毎日辻立ちしてしっかりした意見持ってるからな。
議員の時も立派な働き者だって評判だったから、
今度の選挙でもいけるんじゃないかってな」
「そうですか」
話している内に、演説を超えた美国前議員が頭を下げ、聴衆から温かい拍手が起こった。
>>16
× ×
何人か握手を求める者がいる中聴衆が三々五々解散し、ほむらも歩き出そうとした時に耳を止めた。
「お父様」
「ああ、織莉子」
ほむらがそちらを見ると、美国前議員が娘らしき織莉子なる少女と笑いあっている所だった。
それを見てほむらは又、心の底で「負けた」と爽やかな敗北を認める。
一言で言ってザ・お嬢様。
歳はほむらの一つ二つ上か、さらさらの長い髪の毛をサイドポニーに束ねているが、
二言目を言うなら圧倒的美人。
すらりとしたスタイルの良さだが、それでいて、
むしろサイズが緩めの制服からでも分かるぐらいにラインは女性らしく柔らかい。
制服のセンスから言っても、お嬢様学校としか思えない。
そんなものを抜きにしても、品のいいお嬢様だと目に見えて分かる。
そこで、ちょっと視線を移すと、その織莉子を二人の少女が微笑ましく眺めている。
どうやら、友人なのだろう、と、
次の瞬間、ほむらは動いた。
それは、戦いと言うものに些かの覚えがあるほむらの勘、の様なものだった。
解散する群衆の中から軍用ナイフを手に飛び出した男、
その男に向けて、ほむらは鞄をフルスイングしていた。
びゅんとナイフが振られ、ほむらは鞄で顔を庇いながら飛び退く。
次の瞬間、暴漢の体は地面に吹っ飛んでいた。
「おい、お前」
暴漢は、仁王立ちの影を見た。
「私のとても、大切な、
(中略)
無限に有限に愛する愛しの織莉子に
な、に、を、し、て、い、る?」
先ほど近くで眺めていた二人の少女の内の一人、
そう言えば美樹さやかに似ているショートカットの少女が、
ドロップキックから着地して頭部を青筋で半ばメロンと化して仁王立ちして拳を鳴らしていた。
>>17
「ちい、っ!!」
暴漢が立ち上がろうとした所で先ほどの二人の内のもう一人、
肩までの髪がシャギーがかった少女が暴漢の胸板に思い切り鞄を叩き付ける。
ここまでが体感的な一瞬。
「何やってんだこの野郎っ!!!」
次の瞬間には、暴漢は群衆の団子の中でギブアップしていた。
「おお、大丈夫かい?」
大将がほむらに声をかける。
「ええ。な、何よあれ?」
「ああー、例の事件でも黒幕まで暴かれたり、
辞任してからも一市民として意見書とか監査請求地道に出してるからな。
それがきっかけで市議会の議長が
マスコミと百メートル競走してからロックンロールな記者会見やらかしたり。
正しい事をやってたら嫌がる人間もいるって事さ」
「君っ!」
大将がその場を離れた所で、厳しいぐらいの声がかけられた。
「大丈夫かい?お礼は言わせてもらうけど、
あんな危ない事をしたら駄目だ」
それは、美国前議員だった。
「お父様、彼女は私を助けて、ナイフであのまま顔に」
「よし殺そう」
「大丈夫よキリカ」
駆け寄り、怯えを見せて言った織莉子は、
即答したショートカットの友人をいなしながら平静を取り戻した様だ。
>>18
「私は美国久臣の娘で美国織莉子です。
本当に有難うございました」
「い、いえ、ご無事で何よりです」
圧倒的オーラと共に頭を下げられ、ほむらはむしろ恐縮していた。
サイレンの音が聞こえる。別に鉈を持ったピラミッドが襲撃して来る気配はない。
「あーあ、今日のお茶会は延期みたいだねえりか」
「そうだね」
× ×
「この様な事に巻き込んで、大変申し訳ない」
警察署で母親と合流したほむらは、廊下で美国父子から頭を下げられていた。
それに対しては、ほむらの母親も常識的に対応する。
予定が大きく変わったが、実の所は更に大きく変わっていた。
「こっちだ」
ほむらと母親はバス停でバスを降り、手を上げる父親と合流する。
元々、父親の元に日帰りする母親と少々の用事を済ませるだけの予定だったが、
父親の側の予定が変わったために三人で夕食と言う運びになっていた。
「美味しかったの?」
「ああ、こっちで仕事中に見つけた」
ほむらと父親がぽつぽつと言葉を交わす。
入院や一人暮らしもあって、父親とは年頃の娘なりの距離がある。
それでも、わざわざ隣町の風見野に迄移動して
食事に誘ってくれた事に関して多少の言葉を交わす。
>>19
「ここ?」
「ああ」
そして行き着いた先は何の変哲もない、
いかにも年季の入った個人営業のラーメン屋だった。
「いらっしゃい!」
威勢のいい挨拶。
程々のスペースの店内が半分ぐらい埋まってる。
暁美一家はカウンター席に座る。
「あ」
「ああ」
ほむらが、カウンターの中を見て小さく頭を下げる。
店主は先ほど美国前議員の辻立ちで出会った大将だった。
「どうも」
「あれ、知り合いだった?」
挨拶をするほむらにおかみさんが声をかける。
「ええ、さっき見滝原で辻立ちを見た時に」
「ああー、この人美国先生のファンだからね。
元々あっちに住んでて娘夫婦もいるんだけどさ、
仕事であっちに行くたんびに聞いてくるんだ」
「そうでしたか」
「らっしゃいっ!」
次の客に大将が威勢よく挨拶する。
>>20
「やあ牧師さん」
「どうも」
その客も家族連れだったが、先頭の中年男性が大将に声を掛けられ、
挨拶を返して手を上げる。
確かに、いかにも牧師と言った感じの柔和な男性だ。
その男性と妻子らしい家族。妻と女の子が二人、
ほむらと同年輩のポニーテールの少女と、その妹らしき女の子が一緒にいる。
牧師一家はテーブル席に就いた。
元々、ほむらは家でも余り口数の多い方ではない。
転校に関する事などをぽつぽつ会話しながら頼んだラーメンが来るのを待つ。
結論から先に言うと、確かに美味しかった。
その間、テーブル席の牧師一家の声を聴くのも微笑ましかった。
仲のいい家族、特に、ほんの少し妹が欲しくなったりするぐらい仲がいい。
「ご馳走様でしたー」
「ご馳走様」
それでも転校に関して話す事が色々あったと言う事もあり、
牧師一家の方が先に会計を済ませ店を出る。
「牧師さんって教会の人ですか?」
微笑ましさに気の緩んだほむらがふと尋ねる。
「ああ。近所のな。うちには昔から来てたんだけど、
なんか正式なキリスト教って訳じゃないらしい。
でも、いい人だよ」
「そうですか」
言いかけて、ほむらは大将の視線を追い、本棚に目を止める。
「小説?「イノセント・マリス」?」
ラーメン屋には少々珍しい文庫本にほむらは着目する。
名前ぐらいは知っている小説だった。
むしろ十代、二十代に売れている小説だ。
>>21
「この本に教会が出て来るんだよ。ぼかしてあるけどちょっと有名な話さ。
一時期苦しかったみたいだけど、それがきっかけで盛り返して、
最近は慈善事業も軌道に乗ってるみたいでさ」
「そろそろ行こうか」
文庫本を手に取り、何となく気を引かれていたほむらに父親が声をかける。
「この近くでまだ開いている本屋はありますか?」
「え?」
「それを買って帰ろう。転校の記念だ」
× ×
見滝原市内の今のほむらの自宅に、
本来はもう少し先に転居して来る筈の両親が泊まる事となる。
父親は翌朝ここから仕事に出て、そのまま母と共に今の自宅に戻るらしい。
その、どこぞの用語ではほむホームとでも呼ばれるマンションのフラットの中の一室、
ほむらが自室に使っている部屋で、ほむらは文庫本とパソコンを首っ引きしていた。
確かに、ぼかして書いてはあっても、
小説の中に登場する風見野の教会が実在している事は、
ネット上のファンサイトでも知られている事だった。
どうやら作者があの牧師に感銘を受けたらしく、立派な宗教家の様だ。
教義の違いから元々の宗派を追われる形になったらしいが、
本人の人望を大きな所として、小説を契機に穏やかな新興宗教、
そして最近は慈善団体として小さいながらも地道な活動が行われているらしい。
読書とネットサーフィンをやめたほむらは、両親の熟睡を確認する。
そして、自分の部屋に戻り、中からの施錠を確認して窓の外を見る。
掌に小さな宝石を乗せた。
今回はここまでです。
恐らくはこれでよいお年を、と言う事になろうかと。
続きは折を見て。
今の所、禁書キャラ全く出てこないけど、オティヌスによって作り替えられた世界?
安価する意味がわからん
と、もう既に言ってる人もいるみたいだが直す気配がないところを見るとこの人も頭おかしいのかな?
全体的に何か独りよがりな文章だなあ
どっちも好きな作品だけどこのクロスは成功例をみたことない気がする
荒らされる可能性があると言われても続ける鋼の心は認めるがある意味ドMだな
乙
カミジョーさんがゲイリー・スーと化して白けるのが関の山なんで書かなくていいです
禁書って昨今のラノベの低品質化に貢献している作品だよな
読みづらい滅茶苦茶な文章、考察もなされていないような超理論や超展開
これがヒットしてから似たようなラノベの濫造されていったよな
感想ありがとうございます。
もう少し投下します。
それでは今回の投下、入ります。
>>22
× ×
見滝原の夜の街にパトロールに出た暁美ほむらが辿り着いた先は、
ゲームの中の迷宮を思わせる空間だった。
只、だだっ広い空間に高い塀は大量にあるものの、
迷路と言う程複雑な作りではない。
その空間で、暁美ほむらは弓に矢をつがえ、
放たれた矢は赤紫の光を帯びてビームの様に飛び出していく。
矢の当たった魔獣が消滅した。
魔獣と言うと狭い意味でのモンスターを連想させるが、
今この辺にうじゃうじゃいる、暁美ほむらが「魔獣」と呼んでいる怪物は、
造形は人間に近く、長い装束を体に巻き付けた見上げる程に巨大な男性。
基本造形は人間であるが、顔を含めて造形から複雑さが省かれ一部モザイクがかかって見える。
どっちにしろ、まともな生物には見えない代物である事は確かである。
わらわらとほむらに迫る魔獣が、ほむらの矢を受けて次々と消滅していく。
暁美ほむらは、見滝原中学とは違う、学校の制服を思わせる衣装を身に着けていた。
その左腕にはゴツイ鉄に見える楯。
ほむらが、低い姿勢で盾に触れながらざっと振り返ると、
すぐそこまで迫っていた魔獣は静止していた。
魔獣だけではない、ほむら以外の全てが静止している。
ほむらが、手にした拳銃を発砲すると、その弾丸も刻み目が尽きた辺りで空中静止する。
ほむらがもう一度楯に触れると、全ては動き出し、魔獣は9ミリ・パラを叩き込まれて消滅する。
>>30
「今日は瘴気が濃いわね」
ほむらがぽつりと呟き、周囲を見回す。
右前方、左前方の塀の上に魔獣の大群。
時間を止めて右前方に向けて矢を放ち、すぐに時間を止めて矢を放ち、すぐに時間を止めて、
繰り返された後、ほむらの放った矢は、
一本の矢が更に分裂して大量の光の矢と化して落下を開始していた魔獣を一掃する。
時間停止に加え分裂魔法矢、魔力の消耗が大きいので余り使いたくない。
ほむらは間髪入れず左前方に視線を向ける。
「!?」
次の瞬間、大量の銃声と共に、左前方で落下していた魔獣がことごとく消滅した。
射線を追うと、空中に時代物の小銃が大量に浮遊している。
同業者、以外に考えられない。
気が付いたほむらが舌打ちして弓に矢をつがえると、
ほむらが矢を放つよりも早く、
小銃を逃れた魔獣がピンク色に輝く矢に仕留められていた。
「ほむら、ちゃん?」
「まどか」
弓矢を手に現れたまどかとほむらが、ぽつりと言葉を交わす。
「先客がいたみたいね」
それに続いて現れたのは、後ろ髪の先がカールした、
見滝原中学の玄関近くで出会った先輩。
まどかは低年齢向け魔法少女アニメ的にフリフリな、
先輩は中世の銃士を思わせる、
どちらにしても街で着て歩くとコスプレにしか見えない姿。
その点に於いてはほむらも人の事は言えない。
結論として、ここにいる三人が三人、ほむらも含めて同業者、魔法少女である。
ほむらはそう判断する。
>>31
「あなた、確か学校で会ったわね。
鹿目さんと知り合いなの?」
先輩がほむらに声をかける。
「地元の魔法少女、でいいのかしら?」
「ええ」
「最近こちらに引っ越して来た暁美ほむらです。
鹿目さんとは同じクラスになりました」
「そう、私は巴マミ」
マミが右手を差し出し、ほむらの右手がそれを握る。
それではその時左手は何をしていたのかと言えば、遊ばせたままだった。
周囲からは不可思議が失われ、夜の見滝原の街が広がっていた。
× ×
「どうぞ」
「お邪魔します」
まどかが一緒であり、マミ自身も悪い人には見えない、
地元との悶着も避けたい、と言う結果、
魔獣退治を終えてから誘われるままにほむらはまどかと共にマミの自宅を訪れていた。
「座って、楽にしてて」
「はい」
促されるまま、ほむらはまどかと共に、
ダイニングの三角形のガラステーブルの側に座る。
「家族の方は?」
中学生のほむらにも結構いい値と見えるマンションのフラットを見回し、ほむらが尋ねた。
>>32
「両親は海外で仕事をしているの。
だから遠慮しないで」
茶菓子を運んで来たマミが言う。
しかし、楽に部屋着になると、マミのスタイルの良さは際立つ。
全体にはスリムでスタイルがいいのに、
ほむらが自身少々の足りなさを自覚している膨らみ等は迫力すら感じさせる。
「美味しい」
「でしょう」
焼き菓子と紅茶のティータイムにほむらが呟き、まどかがにこにこと応じる。
手作りのお菓子も美味しいが、紅茶の香りと言うものを初めて知った心地だった。
「あなたも魔法少女なのね?」
「ええ」
「その筈なんだけどね」
口を挟んだのは、猫の様な耳の長い白狐とでも言うべき、
見るからに一般的な生物学の範疇を超えた生き物。
何しろ人間語を喋っているし、何しろ見えない人間にはその姿自体が見えない。
「どういう事キュゥべえ?」
変な言い方をする奇怪な生物通称キュゥべえにマミが尋ねる。
「確かに、契約はしたんですけど、
キュゥべえは記録も記憶もないと言っています」
「そうなの?」
「そうだよ」
ほむらの言葉にマミが尋ね、キュゥべえが肯定した。
>>33
そもそも魔法少女とは何かと言えば、
この奇妙な生物、キュゥべえと契約を行い魔法と称する能力を入手した存在。
魔法少女は、その契約に際して一つの願いをかなえる事が出来る。
願いに制限はない、又、願いが適うのは魔法少女本人であり、
願った恩恵を願った形で得るのは願った魔法少女本人である。
但し、契約する個々の魔法少女には個性と言うべき素質の大小があるらしく、
素質の小さい魔法少女は大きな願いをかなえる事は出来ない。
魔法少女が得る魔法は、願いに連なるものであるらしい。
願いを適え魔法を得た対価として、魔法少女は戦い続ける。
戦い続ける相手は魔獣。
昔の特撮ドラマから類似して丁度いい概念を借りるならば、
人間が放つ負の感情その他によるマイナスエネルギーの集合体。
瘴気を放ち結界と呼ばれる荒涼とした異空間を発生させ、
その中に人間を取り込み人間のエネルギーを捕食する存在。
要約すると、こういう事になる。
「それじゃあ」
まどかの手でテーブルの上にざらざら乗せられたのは、キューブと呼ばれる結晶。
魔獣が消滅した跡に残すものであるが、
それをソウルジェムに近づけるとソウルジェムの穢れが吸収される。
ソウルジェムとは何かと言えば、魔法少女契約に伴いシンボリックに交付される小さな宝石。
魔法の小道具と言う事で、心身の疲労と共に濁りをため込み、
精神力と繋がる魔力を消費する、
つまり魔法少女への変身を含めて魔法を使った場合の濁りはより強いものになる。
ほむらの経験上、ソウルジェムの穢れが溜まる事は不快であり身体機能が低下する。
実質的には魔法少女を魔獣狩りに縛り付けるシステムでもある。
「きゅっぷい」
そして、ソウルジェムから穢れを吸収し、
穢れの強くなったキューブはこの様に可愛い声を立てたキュゥべえが食べてしまう。
キュゥべえが食する前にキューブが穢れ過ぎるとキューブ自体が魔獣になるのだとか。
>>34
「あなたの銃って、魔法じゃなくて本物?」
マミに問われ、ほむらはテーブルの上にごとんと拳銃を置いた。
「米軍仕様のM9、魔法の攻撃が弱かった頃からの名残です。
もちろんいけない事ですから今はなるべく控えてはいますけど」
「そ、そう」
流石にマミが少々引き気味になる。
ほむらが時間停止を武器に夜の街で魔法少女を続ける中で、
行き掛かり上裏社会と暗闘になった事がある。
その際、決定力不足に悩んでいたと言う事情もあり、
ほむらは知略と能力の限りを尽くして秘かに敵対したその筋の人間に大量の武器弾薬を用意させ、
その大半を奪取した上で破滅に追い込んでいた。
「それで、魔法の武器は弓なのよね」
「はい」
「私と同じだね」
まどかの言葉に、ほむらが頷く。
「あの楯みたいなのも魔法の道具みたいだけど、
つまり、使う魔法は一つじゃないって事?」
「はい、キュゥべえも珍しいと言っています」
「………確かに、珍しいわよね」
マミがうーんと考え込んで言った
「魔法少女の技量は確かみたいだけど、
私たちと友好的に共存するつもりはあるのかしら?」
真面目な口調で問うマミを前に、まどかは少し心配そうな眼差しを見せる。
「ええ」
紅茶を啜ったほむらが応じる。
「この街の魔獣は少しタチが悪そうですね、ソロだと分が悪そうです」
功利的に言うのはむしろその方が説得力があるから。
本心では、マミの真摯で温かな人柄と確かな技量に惹かれていた。
>>35
「それに、お茶も美味しいですし」
「腕の振るいがいがあるわね」
果たして不躾な冗談になるかどうか、と思ったが、
マミの反応は思った以上にいい、本当に面倒見のいい人なのだろう。
「よろしくお願いします巴先輩」
「よろしく、暁美さん。
だけど、巴先輩はちょっと、堅苦しいかしら」
「マミさん、でいいかな?」
まどかの言葉に、今度はほむらが考え込む。
「よろしくお願いします巴さん」
「間をとったわね。まあいいわ、もう一杯いかが?」
「いただきます」
クラスメイトのまどかの存在もあり、
多少は話の弾んだ夜更けのお茶会は悪くなかった。
気持ちの温かな内に散会し、
ほむらはトラブルも無いままに自宅の寝室に戻った。
× ×
「お早うほむらちゃん」
「お早うまどか」
「おやおやー、一日で随分フレンドリーだね転校生」
通学路で出会い、がばっと首に抱き付いて来る美樹さやかを前に、
ほむらは笑って流しながらも少々しまったと思う。結構勘のいい相手らしい。
「保健係の彼女に少しお世話になっただけよ。
でも、いい娘じゃない」
「とーぜん、まどかはあたしの嫁になるんだからね」
「あらそう。でもそれじゃあ………」
言い終わる前にオチが到着したらしい。
>>36
「きょーすけっ」
「上条君」
「何あの王子様?」
ほむらがぽつりと言い、まどかも苦笑するしかない。
上条恭介の登場と共に、美樹さやかはその右腕、志筑仁美は左腕に抱き付き、
その中間点でばばっと視線の火花を散らす。
だが、流石にこのままでは中学の通学路に刺激が強すぎると言う事か、
抱き付きだけは中止して恭介を挟んだ左右の配置で共に歩む。
しかし、ほむらから見て結構大概なのが上条恭介。
腕に抱き付かれた時も苦笑していたぐらいで、
この状況にも想像以上に平静な態度で歩いている。
実際、同じく通学中の他の面々も、我関せずでなければやれやれが精々の反応だ。
「ちょっといいかしら?」
教室に到着したほむらは、
このクラスで一番最初に名字を覚えた男子生徒である中沢に声をかける。
「あれって、どういう関係なの?どっちが本命?」
上条恭介の着席した机の周辺で、
立ったり机に掛けたりしながら談笑している二人の女子生徒に視線を向けてほむらが言う。
「って言うか、どっちが本妻、って段階だな。
まあ、昔っからの腐れ縁ではあるんだけどさ、
その意味じゃ幼稚園以来の美樹の方が一日の長なんだけど志筑の女子力半端ないしな。
まあー、今ん所本人らが仲良くやってるんで」
「リア充爆発しろ、ってだけの事かしらね」
「そういう事、リア充が来たみたいだ」
ほむらが着席し、るんらるんらスキップして錐もみに一回転して
教卓に到着した早乙女和子教諭がHRを開始する。
近々彼女が尿検査を求められても全く不思議とは思わない。
>>37
× ×
放課後、少し興味を引かれた暁美ほむらは風見野に足を運んでいた。
逢魔が時、教会に向かう途中で、ほむらは二人の女の子とすれ違っていた。
内一人は長くもない髪の毛をシュシュでポニーテールに束ね、
もう一人はプラスチックボールつきのゴムで髪の毛をくくっている。
姉と同様にポニーテールの娘はほむらも見覚えがある、例の牧師の末娘だ。
元気よく走り去った二人の少女或いは幼女を微笑ましく見送ろうとしたほむらだったが、
次の瞬間には踵を返し、険しい表情で駆け出していた。
何かの遊び場のつもりだったのだろう、裏通りの空き地に入った二人をほむらが追跡する。
そして、周囲の景色が見る見る変化する。
砂漠の中の破壊された中世の街を思わせる、建物跡を思わせる壁だけが並ぶ空間。
舌打ちして変身したほむらは、直ちに時間を停止する。
二枚のハンカチで後ろ髪を束ね、鼻から下も縛り付ける。
女の子二人の頭に大きい布袋をかぶせ、M9の全弾を撃ち尽くす。
「いいって言うまでそこで袋を被ってしゃがんでいてっ!」
女の子の周囲に保護用のバリアを展開し、ほむらは前を見る。
装弾数の多いM9に装填した全弾を撃ち尽くし、時間を稼いだつもりだったが、
ほむらは前を見て息を呑む。
(一気に決めるっ!)
敵の数の多さと守るべきものに心の中で舌打ちをしたほむらは、
異次元収納力のある楯からMG42を取り出す。
かつて奪取した一般銃器の中でも弾薬補給の関係で特に使用を控えたい所だが、
今回は仕方がないと、前方の魔獣の掃射を開始した。
流石に、魔獣の結界でなければ大事件となる快調に糞やかましい銃声と共に、
ほむらの前方で魔獣がバタバタとよろめき消滅していく。
>>38
「撃ち方やめろっあたしが行くっ!!」
背後からの怒声に気づき、ほむらがそれに従うと、
ほむらの背後から大跳躍した魔法少女が魔獣の前に立っていた。
その魔法少女はチャイナ風の赤い装束で、手に槍を持っている。
白兵戦の辣腕らしく、槍や、槍が変化した多節棍で次々と魔獣を料理していくが、
それを眺めていたほむらが目を細める。
その魔法少女は長い髪をポニーテールに結った牧師の姉娘だ。
そして、魔獣の動きがおかしい。魔獣は比較的単純な力押しで行動する。
これは、あの赤い少女が何かやってるな、と、ほむらは見当をつけた。
周囲から魔獣を一掃した赤い魔法少女が、槍の柄で地面を突きふうっと一息つく。
その周囲で、ばん、ばんっと迫っていた魔獣が消滅した。
弓矢を構えたほむらを見て、赤い魔法少女はへっと笑って体勢を立て直した。
× ×
「ちょっと、いいって言うまで目を閉じていてくれるかな?
大丈夫?ケガはない?」
魔獣がおよそ片付いたのを把握し、布袋を取ったほむらは、
ゴムでくくった女の子の髪の毛をかき分け、目を細めた。
そして、もう一度布袋をかぶせる。
「ここの、風見野の魔法少女かしら?」
ほむらが、接近して来た赤い魔法少女に声をかける。
「あなたの縄張りに手を出したのは悪かった、キューブは提供する」
「いや、感謝するよ」
そこまで言って、赤い少女はほむらにささやく。
「あいつ、あたしの妹なんだ。昨日会っただろ?」
「そうね」
「あんた、名前は?」
「暁美ほむら」
「あたしは佐倉杏子」
>>39
結界が解除され、二人の魔法少女は変身を解除する。
「もういいぞー、びっくりしたかモモー?
ちょっとな、あのお姉ちゃんと一緒に驚かせてやろうって遊びだったんだけど、
ちょーっとタイミングが合わなくてなー脅かしてごめんな」
「ううん」
「きょーこお姉ちゃんこんにちは」
「おお、こんにちはゆま。これから遊びに行くのか?」
「うん」
「じゃあモモ、ゆま、気を付けてな」
「「はーい」」
たたたと駆け出した二人を、二人の魔法少女は微笑ましく見送った。
「気が付いたんだろ?」
「ええ」
「ゆま、モモの友達なんだけど、親から虐待されてたんだ。
父さんとか美国先生が役所に掛け合ってくれて、
今は親権停止されて親の実家に引き取られてる。
まあ、元気になって良かったけどな」
「美国先生って美国前議員?」
「ああ」
「知り合いなの?」
「織莉子さん、先生の娘さんがひょんな事でゆまと知り合ったってな。
お互い色々微妙な立場だけど、表にしない一市民って事で、
うちの教会でやってる慈善活動にも親子で出入りしてるからさ」
「そう」
そして、杏子がキューブを差し出し、
彼女の気性からしてそれがいいと思い、ほむらは遠慮なく受け取る。
>>40
「どっから来たんだ?」
「見滝原よ」
「じゃあ、マミさん知ってるか?」
「ええ、最近見滝原に引っ越したから、彼女と組む事になったわ」
「ふうん、相変わらずの師匠っぷりだ。
それなら又会うかもな」
「そうね。それじゃあ」
「ああ」
手を上げて、笑顔で分かれる。
教会は今度にしよう、もっと興味深いものに出会ったのだから。
少々口は悪いが、根はいい娘としか思えない。
今回はここまでです。続きは折を見て。
面白い。頑張れ!
乙
この書き方前にも見たな
まだ懲りないのかとっとと[ピーーー]よ雑魚
クロスか
ここメモ帳に使うわ。
こいつゴルゴの作者じゃね?
設定やらキャラが崩壊していて総叩きにだったな
なんで自分に安価してんの
すげぇ荒れそうなスレタイだなと思って開いたら案の定狂信者の読者様がキレてた
乙
期待。
>>29
今関係ないだろ
面白い期待している
あけましておめでとうございます。
>>47
思いの他ご意見、お問い合わせが多いので一言。
一応意味はあるんですが、現状では仕様みたいなものですね。
これまで余り気にせずにやってたもので。
それでは今回の投下、入ります。
―――――――――――
>>41
× ×
その方面の経験も知識も決して豊富ではない。
そんな暁美ほむらでも知っている事として、
自分と同年代の男子一般の性としてああして腕に押し付けられると、
それは決して小さくない意味を持っている筈である。
まして、短い期間ではあるがほむらが今まで見て来た限り、
今ほむらの目の前の朝の光景となっている美樹さやかも志筑仁美も、
年齢から言って決して見劣りしない立派なものを持ち合わせている。
それは客観的にも確かな情報な筈であり、決して、全体にスリムで華奢で、
胸元に於いてもその評価が例外ではない事を自覚している
暁美ほむらの個人的な感覚に留まらない筈である。
その辺の事を深く考えるのをやめてほむらが前を見ると、
最早朝の通学路の風物詩として、美樹さやかと志筑仁美が上条恭介を発見し次第
それぞれ上条恭介の右腕と左腕にぎゅっと抱き付いて体を押し付け、
二人の少女がやんわりと視線の火花を散らしている。
流石に、その体制のまま学校まで行くのは無理があると言う事か、
抱き付きこそ解除するものの文字通り両手の花の状態で上条恭介は通学路を進む。
ほむらの側では、転校早々友人となった鹿目まどかが苦笑している。
ほむらも笑うしかない。本来、自分達の年代では漫画かライトノベルでしか見る事の出来ない光景の筈、
等と考えるのは、ほむらが不慣れな女子校出身の故だろうか。
その日も、こうして朝の通学路に私生活の充実し過ぎた級友を眺め、
朝のホームルームの前には上機嫌な早乙女和子教諭がバレリーナ一歩手前の妙技を見せる。
>>52
「これ、自分で作ってるの?」
「ええ」
「へえー、上手じゃない」
「んー、なかなか難しいけど」
昼休み、美樹さやかがほむらの弁当に興味を示し、話の流れでおかずを交換する。
同性の付き合いも大事と言う事か、昼はこんな感じで
ほむら、まどか、さやか、仁美のグループで他愛もない話をしながらお弁当を囲む。
こうして、午後の授業が終わり、放課後を迎える。
× ×
魔法少女に変身した暁美ほむらの放った矢が、
魔獣を貫き消滅させる。
「暁美さんっ」
「ほむらちゃんっ」
「遅くなってすいません」
「いいのよ、急な呼び出しだったから。
さあ、片付けるわよ」
先行したマミ、まどかが発見した結界の中。
そこに暁美ほむらも飛び込み、フォーメーションを展開する。
転校直後と言う事もあって丸ごと団体行動をする事はなかなか難しく、
ほむらは連絡を受けて駆け付け、米軍制式M9拳銃を撃ちまくっていた。
(勘が狂った?)
攻撃中、M9が乾いた音を立て、ほむらが舌打ちをしてそれをポケットに突っ込み弓を構える。
拳銃はあくまで補助、魔獣相手であれば魔法の弓の方が威力が高い。
拳銃で遠ざける程度に考えていたのだが、弾丸の消耗が早すぎた。
ほむらの放った矢が前方の魔獣を消し飛ばす。
次の瞬間、気配を感じて斜め後方を向いたほむらが見たのは、
体に西洋風の剣を叩き込まれ消滅する魔獣だった。
「美樹、さやか?」
それは、最近ほむらが転校した先のクラスメイト、
いわゆる漫画やラノベよろしく幼馴染と最小単位ハーレムを展開している
その片割れ、美樹さやかその人だ。
>>53
「よっ、転校、生っ!」
果たして、青い騎士を思わせる魔法少女姿の美樹さやかは、
ビーム攻撃を開始した魔獣の群れの中を軽やかに舞い踊り、
手にした剣で討ち果たしていく。
「くっ!」
魔法少女としてのさやかの技量は見劣りしないものだが、
魔獣の中での危険に変わりはない。
それに、ほむらにも些かなりともプライドはある。
さやかが稼いだ時間の間に弓に矢をつがえ、群れに飛び込み討ち倒していく。
さやかがへっと笑い、ほむらもふっと笑みを返す。
「?」
二人を取り囲む魔獣の動きがおかしくなる。殺気の方向性が攪乱されている。
そして、周囲には大量のシャボン玉が浮遊している。
「サンキューなぎさ」
「なのです」
さやかが言った方向を見ると、
ほむらよりも随分年下そうな女の子がシャボン玉を吹いていた。
この子も、魔法少女だ。
「一気に畳みかけるよっ、いける?」
「誰に言っているのかしら?」
乱れていた後ろ髪をバッと払い、ほむらはさやかの後を追った。
>>54
× ×
「まどかに聞いてたけど、魔法少女だったんだね転校生」
「あなたこそ、魔法少女だったのね」
「まあね」
マミの部屋のリビングで、ほむらとさやかが言葉を交わす。
「ひどいんだよ、さやかちゃん大笑いしちゃって」
「ごめんごめん、だってさ」
「いいわよ、確かに唐突だったわね」
楽しいティータイム、ほむらの転校初日の話題で談笑していた。
「んー」
そして、さやかはまどかとほむらを見比べる。
「やっぱりあれだ、運命なんじゃないの?前世で結ばれたとか」
「もー、また、さやかちゃん」
「まどかが前世で結ばれた運命の相手?光栄ね」
「おおっ」
「ほむらちゃんまでっ」
わたわたするまどかの横で、
この手の事のさらりとした交わし方は女子校で学んだものだった。
「ごめんマミさん、あたしそろそろ」
「そう、又遊びに来てね」
「はい。いつでも連絡下さい」
「ええ」
かくして、さやかは一足早くマミの元を去る。
「鹿目さんのクラスメイトなら美樹さんともクラスメイトね」
お茶のお代わり運んで来たマミが言った。
>>55
「美樹さん、最近別行動が多かったし暁美さんも来て間もなくだから
紹介するのはその時が来たら、って思ったんだけど」
「巴さん、美樹さんとは親しいんですか?」
「ええ、元々私たちのチームで、今でもチームを離れた訳じゃないわ。
只、プライベートの時間が合わない事が多くなったから」
マミの言葉に、ほむらは意味ありげな笑みを浮かべた。
「美樹さん、とてもいい子よ。
魔法少女としての理想を持ってそれに見合う努力もして、
真っ直ぐで優しい子。
クラスメイトならあなたの目にも留まってると思うけど、
幸せになって欲しいと思う」
「そうですね」
「ちょっと、羨ましいけどね」
優しい姉の様に素直に発言するマミにほむらも素直に賛同し、
そして、ちょっと本音を漏らして笑い合う。
そして、ほむらは目に留めて、
赤紫色の謎生物のぬいぐるみを床からひょいと持ち上げる。
「可愛いですね。これ、手作りですか」
「なぎさちゃんが作ってくれたのよ」
「なざきちゃん、ってさっきの小さい魔法少女?」
「ええ。今日は帰ったけど、
早い時間だと一緒に魔獣退治をしたりここに遊びに来たりしてるの」
「そうですか」
「裁縫を教えたのは鹿目さん。
私も先輩扱いされてるけど、鹿目さんこそお姉ちゃんね」
「ティヒヒヒ」
マミの言葉に、まどかが後ろ頭を掻いて笑う、
文字通り三人揃って微笑ましい。
「ご家族、海外でしたか」
「ええ」
ぬいぐるみを置き、ふと歩き出したほむらが写真立を目にして口に出した。
>>56
「それも、魔法少女になったお陰」
「願い、ですか?」
「ええ。昔ね、家族でのドライブの帰りに大きな事故に巻き込まれてね。
お父さんもお母さんも、そして私も大ケガをして。
そこにキュゥべえが来て、だから願った。
お父さんもお母さんも、私たちみんなを助けて、って。
どこまでが奇跡だったのか分からないけど、
あの規模で奇跡的に死者重傷者ゼロだったって後で知った」
「………それが願いの効力だとすると、
相当に大きな素質だったんですね」
「だって、マミさん凄く強いんだから」
「そうね」
「もうっ」
それは同意だった。巴マミの魔獣退治に同行して、
これ程の実力者はちょっといないのではないかと、
ほむらはそう思った。
「私は猫を助けるため、だったけど」
「猫?」
「うん。エイミーって言うの。
車にひかれて死にそうだったから、それで」
「そう」
ほむらは正直返答に困った。
まどからしい、と微笑ましく思う一方で、
決して甘くはない命懸けの戦いとなる魔法少女の契約として、
それを肯定していいのだろうか、と言う思いもある。
「暁美さんの事、聞かせてもらっていいかしら?」
「大切な人を守るため、です」
「そうね」
マミの問いにほむらが答え、マミが頷く。
本人がそう言うのならそれ以上は、と言うマミからのサインだ。
>>57
「巴さん、佐倉杏子って魔法少女をご存じですか?」
「佐倉さん、知ってるの?」
「ええ、先日風見野に行った時に」
ほむらは、おおよその事を話す。
「縄張りは違うけど、知らない仲じゃないわね」
「うん。魔法少女として時々協力してるし、
一緒にお茶会した事もあるよ」
「それで、暁美さんも一緒に魔獣を退治したのよね」
「ええ」
「がさつで荒っぽく見える所があるかも知れないけど、根はいい子よ」
「私もそう思います。巴さん、魔法少女の交友関係広いんですね」
「マミさん、強くて優しい素敵な人だから」
「もうっ、鹿目さん。でも、有り難い事ね。
鹿目さんや美樹さんが一人前になって、佐倉さんや暁美さんも味方についてくれて、
今はこんなに頼りになる仲間に囲まれてるんですもの。
以前は、見滝原に私一人しか魔法少女しかいなかった頃は、
こんなに幸せで充実したものになるなんて思ってもみなかったわ」
紅茶を傾け、マミはしみじみとそう語る。
それを見て、そんなマミにじゃれつくまどかを見て、
ほむらは改めてその事を実感する。
マミの言っている事が、今の自分の現状として余りにも的を射ていると。
香り高い温かな紅茶と甘くて美味しいケーキ。
一時のティータイムの様に穏やかで幸せな状況。
>>58
× ×
「綺麗ね」
ほむらが素直な感想を漏らす。
その公園は見滝原を見下ろす高台に位置し、
ほむらはお花畑の中にある芝生に立っていた。
夕暮れの魔獣退治だったが、すっかり陽も沈み、眼前には見滝原の夜景が広がっていた。
そして、地面に腰掛ける。
「見滝原にこんな場所があったのね」
「ウェヒヒヒ」
ほむらの言葉に、
ほむらをここに案内してほむらの左隣に座ったまどかが笑顔で応じる。
「巴さん、いい人ね」
「うん、強くて格好良くって優しくて、魔法少女の理想の先輩、って感じ」
「そうね。でも、余りそういう期待をかけすぎるのも良くないわ」
「うん。やっぱりほむらちゃん頭いいんだね。
魔獣退治の時もそう思う。魔獣退治でもお茶会でも、
どうしてもマミさんに甘えちゃいそうになるから気を付けなきゃ、って思うんだけど」
「あの人には、その気持ちで十分だと思う。
甘え過ぎるのは良くないけど、本当に強くて優しい先輩だと思うから」
「うん」
まどかが素直な笑みと共に頷き、ほむらはぐっと背筋を伸ばした。
「やっぱり、魔獣退治なんてファンタジーが絡むと時間の密度が違うわね。
転校して日も浅いのに、
まどかとはずっと一緒だった気がするし、あっと言う間だった気もするし」
心地よい風が吹き抜ける中、ほむらは実感を口にする。
そして、それに合わせる様にまどかも語り出す。
「なんだか不思議。こんな風にね、ほむらちゃんとゆっくりお話がしたいなって、
ずっと思ってた気がするの。
変だよね、何でもないことなのに。また明日になれば学校で会えるんだから」
>>59
「…そうね。でも、私も一緒。
こうしてまどかと過ごせる時間を、ずっとずっと待ってた気がする」
「ティヒヒヒ」
まどかの笑いを聞きながら、ほむらは自分は何を言ってる?と自分に問い返す。
それでも、それは本心であると、自分の心は答える。
まどかの素直さに当てられる様にするすると言葉が出て来ていた。
素直で、それが可愛らしい、転校先で出会った得難い友人。
素直なのは言葉だけではない、気が付くとほむらの左腕はまどかの背中に回っている。
元女子校生徒暁美ほむら、これは百合に非ずこれは百合に非ずと心の中で繰り返しながら、
戦友でもあるクラスメイトとの友情の証として、まどかの左肩をそっと掴む。
ごろにゃんとでも言いそうな仕草で、
リボンでくくったまどかの後ろ髪がざわざわとほむらの胸元に移動する。
ほむらは天を仰ぎ、先ほどからの確認を心の中で懸命に繰り返しながら、
これが漫画であれば赤い噴水が立ち上っていただろうと思わずにはいられない。
――――――――――
今回はここまでです。
続きは折を見て。
乙
乙 まどかマギカの解釈は人それぞれだろうし原作の受け取りかたは想像に任されてるんだろうけど
俺はほむらちゃんは自分で美少女だと思ってない気がするなあ
魔獣とまどかがいたりマミや杏子の家族が無事だったりほむらちゃんが弓と盾とフル装備だったり
まどか本編しか知らない俺は混乱してるけど
これが>>23の言う禁書からの影響なのか気になる
出てくる人が皆幸せそうでよかった
どうせエタるんだから早く落とせよこんなスレ
認めたくないものだな、自分自身の、若さ故の過ちと言うものは。
(ノベライズ読み込んでまどかはタツヤ呼びだと確認した駄文書きの独り言)
感想どうもです。
それでは今回の投下、入ります。
――――――――――
>>60
× ×
転校先の見滝原中学校での生活にも慣れて来たそんな休日、
暁美ほむらは風見野に足を運んでいた。
「結構本格的ね」
橋の上から下を眺め、ほむらは呟く。
その下では、そこそこの人数が清掃活動を行っていた。
「………」
ローカル情報を見て、なんとなく興味が湧いて一応動き易い格好をして来てみたものの、
耐水装備と言う程ではない。
それでも、声をかけると河原用の清掃用具に余りがあったため、
飛び入り参加が可能だった。
「えーと、分別、確かこっちが」
「こっちがもえるごみ、こっちにペットボトル、これに空き缶を入れてね」
「?モモちゃん?こんにちは」
「こんにちは」
予算の都合だろう、各自分に就いては手作りで目印を入れたビニール袋での
ゴミ分別にほむらが手間取っていると、丁寧に教えてくれたのは佐倉モモだった。
「モモちゃん?お姉ちゃんは?」
「お姉ちゃんはあっち」
モモが指したのは川の中、半身長靴で清掃している方向だった。
これでは、何となく手を出したのが恥ずかしくなる。
モモは側にいた千歳ゆまと共にゴミ拾いに戻った。
それでもなんでも、ほむらも手を出した以上は真面目にゴミ集めを行い、
大人の指示に従い回収場所に持って行く。
>>64
「あら」
声が聞こえ、ほむらはそちらを向いた。
「その節は、本当に有難うございました」
「ああ、君か。その節は、
私のとても大切な(中略)織莉子が本当に有難う。
君こそ私の愛が死ぬ事を回避してくれた恩人だよ」
ぺこりと頭を下げる美国織莉子、
そして、その隣には織莉子の友人でキリカと呼ばれていた少女。
「ああ、どうも。美国、織莉子さん。それから………」
「呉キリカ、織莉子のパートナーにして矛にして盾にして無限に愛する者」
「そう。私は暁美ほむらです」
「暁美、さん。改めて有難うございました」
ほむらと織莉子は互いに頭を下げるが、
こうして向き合うと、やはりほむらは織莉子の圧倒的な存在感を感じてしまう。
後で知った事であるが子どもの一班と共に陸上の清掃活動を行うためのラフな格好であるが、
それこそが織莉子の品のいい、大人びた美しさをむしろ引き立てている。
「いえ、大した事では。美国さんもこちらに参加していたんですね」
「恩人、恩人だからこそ言うが、
織莉子は名字で呼ばれる事を些か好まない向きがある」
「そうですか、織莉子さん」
「有難う。ええ、時々参加しています」
「ま、私も織莉子がって言うんならね」
優しく微笑み応じる織莉子の側で、キリカも頭の後ろで手を組んで言った。
その織莉子の顔から笑みが消えた。
「失礼します」
織莉子が、作り笑いと共に、キリカを従える様にその場を外れる。
そして、ほむらは嫌な予感を覚えた。
こういう表情には、何となく心当たりがあった。
それでも、その場を離れて動き出したほむらは、ぴたりと足を止める。
ソウルジェムを取り出し、舌打ちした。
>>65
× ×
「ここね」
ほむらは、堤防上の一角に立つと、魔法少女に変身すると同時に時間を止め、
下水トンネルの前に飛び降りた。
体感できる程になった瘴気を頼りに暗いトンネルの中を進む。
下水道の迷路を進む内に、別の迷路に迷い込む。
明らかに物理的な整合性を無視して下水道よりもスペースのある迷路。
「待ちなさいっ!」
ほむらが声をかけたのは、そこに立ち尽くす子供だった。
「これ以上先に行ったら駄目。
これ以上先に行ったら帰れなくなってお化けに食べられちゃうから、
お姉ちゃんが戻って来るまでここでしゃがんでじっとしてて。
すぐ戻るから一緒に帰りましょう」
ほむらが一片の嘘偽りもない言葉を掛けると、子どもは頷き指された壁の前にしゃがみ込む。
それを見届け、ほむらは先に進んだ。
(始まってる?)
物音と気配を察知し、ほむらがそちらに向かう。
そこでは、広いスペースに一人の魔法少女の背中が見えた。
魔法少女はバケツの様に大きな帽子を被り、白い装束を身に着けている。
白い魔法少女が放ったいくつもの水晶球が前方から迫る魔獣を薙ぎ倒していく。
弓矢を取り出したほむらは、左右の斜め前方に矢を放つ。
赤紫の光を帯びて分裂する魔法矢。
それも、時間停止を使い、
僅かな時間で大量に発射された様に見せるのだから魔力の消耗も激しい。
その結果、左右の斜め前方の壁の上から
白い魔法少女へのビーム攻撃を狙っていた魔獣が一掃される。
>>66
「あなたはっ!?」
「美国織莉子?」
白い魔法少女が振り返り、互いの正体を目にして声を上げる。
「すまない織莉子、迷い込んだ子どもが見つからないっ!」
そこに駆け込んで来たのは、黒い魔法少女装束を着用した呉キリカだった。
「子どもは保護したっ!」
「!?本当かい恩人?」
「ええ」
ほむらの言葉を聞くが早いか、
キリカは飛翔し織莉子に迫っていた魔獣を両腕から伸ばした鉤爪で一蹴する。
「織莉子の指示で涙を呑んで別行動をとったが、
私の目の前で織莉子に手を出そうなんて………」
「さっさと片付けましょう」
「ああ、もうっ!」
キリカの両サイドを矢が通り過ぎ、その先で魔獣が消滅しキリカが地団太を踏む。
「行くわよキリカ!」
「了解織莉子っ!」
「オラクルレイッ!!」
改めて確認する。
美国織莉子の武器は魔法で作り出す水晶球、それも、爆発や刃物を仕込んだバリエーションがあるらしい。
呉キリカは手に伸ばした大きな鉤爪で敵を斬り裂く。
そして、スピードに関して何かをやっているらしい。
どちらにせよ、魔法少女としては相当の実力者であり、
コンビネーションも息が合っているとほむらは感心する。
この規模の魔獣なら、この三人で対処すればお釣りがくる。
と、ほむらのその読みは間違っていなかった。
>>67
× ×
「ごめんなさいちょっと目を離した隙にっ、ほらっ!」
「ごめんなさい」
下半身びしゃびしゃで子どもを連れて河原に戻って来た少女三人に、
母親が平身低頭して子どもの頭を押し下げる。
オツカレー オツー ハルカハナニガタベタイ? ドーナツガイーナオネーチャン
清掃活動が解散し、ほむらと織莉子、キリカが堤防に腰掛けていた。
「あなたには又、助けてもらったわね。有難う」
「いえ、どういたしまして」
「本来は私のポジションなんだけどね、多くは言うまい恩人」
「よう」
そんな面々の前に仁王立ちする影。
「その面子だと、一暴れしたみたいだな」
「場所代は確保してありますよ」
現れた佐倉杏子の言葉に織莉子が応じてキューブを取り出す。
「いや、あたしが他所にいたって言っても
子どもまで助けられたんならこっちの手落ちだ、
下手すりゃ活動自体ヤバくなってた所だからな」
「分かりました。これはけじめです」
「ああ」
杏子は、織莉子の摘み上げたキューブを掌に乗せて握り込む。
「ちょっと顔貸しな」
杏子の案内で三人はぞろぞろと動き出す。
>>68
「又、助けられたな」
織莉子とキリカの後ろで、杏子がほむらに声をかける。
「魔法少女としてあいつらと最初に出会ったのも風見野だった。
向こうはルーキーでたまたまこっちに遊びに来て察知したって、
ま、形の上では縄張り荒らしって事になるけどね。
キリカもちょっとイカレてて威勢はいいけど悪い奴じゃない。
一応、この世界の仁義とか教えたのはあたしだけど、律儀なモンさ」
× ×
ほむらは、湯船に浸かりながら、
先に洗い場に立った織莉子を思わずほーっとなって眺めていた。
今までは多分年上だからそんなものか、と言う考えも無いでもなかったが、
こうして見るとそのまま水着を着せてグラビアに直行できそうなぐらい、
素晴らしいプロポーションをしていた。
着痩せするタイプの様だが、それも女性らしい柔らかさと言うラインに留まっている。
但し、胸の膨らみに関してだけは、
恐らく巴マミにも張り合えるぐらいに美しくそれでいて凶悪なぐらいな迫力を齎している。
そう思えるのは、断じてほむら自身のM9の引き金を引くイメージと共に略
と、余り不躾に眺めていると、今でも番犬にして忠犬にしか見えない呉キリカが
本当に唸り声が聞こえて来そうな視線で
いつ猛犬が狂犬になって同じく洗い場から噛みついて来ても全くおかしくないと言う実情が、
これ以上の詳細な描写のデータ収録を躊躇させる。
とにもかくにも、陸上装備で下水トンネルに突入してしまった三人は、
促されるままに佐倉家でお風呂を借りていた。
流石に今の年頃で他人と、と言う気もないではなかったが、
極端な話貴人らしい大らかさで話に応じた織莉子にほむらは引っ張られ、
キリカは織莉子の微笑み一つで十分な説得力だったらしい。
洗濯して乾燥機を動かしている間、
招待された三人は杏子からジャージ等を借りて佐倉家の食堂に移動する。
>>69
「今日は皆さんに助けられた、ありがとう」
佐倉牧師の丁寧なお礼に、三人も頭を下げる。
待っている間、キリカはちょっと憎まれ口を交えながらモモと楽しそうにやり取りをしている。
或いは精神年齢が近いと言う事か、と、ほむらが少々匂わせた所、
織莉子が止めるまでの間拳で語り合う事暫し。
その間に、佐倉夫人を中心に皆で用意したパンケーキパーティー。
「いかがかしら?簡単なものだけれど」
「美味しいです」
「うん、美味しいっ」
謙遜する夫人に口々に言う。
但し、ほむらとしては、胸焼けの関係でキリカの方にはなるべく視線を送らない。
どうやら織莉子は慣れているらしい。
なお、キリカはそれでも抑えていたつもりらしい。
「後で遊んで、ほむらお姉ちゃんもっ」
「ええ。それに、こういう賑やかな食事も楽しい」
「喜んでもらえてよかった。
実は我が家もお客さんを招いても恥ずかしくないような食卓になったのは、
つい最近のことなんだよ」
「本当ですか?」
佐倉牧師の言葉に、ほむらは問い返す。
もっとも、既に多少の知名度のある通称佐倉教会の歴史に関しては、
ほむらはネット情報である程度の事は知っていた。
「ああ。私は教会で牧師をしていてね。
世の中の幸せのためと説いてきた私の教えは長年世間には受け入れられず、
家族には辛い思いをさせてしまっていたんだ。
それでも、有り難い事に少しずつ理解してくれる人も現れて、
ようやく人並みの生活と些かの活動手段を得る事が出来た。
宗派の枠を踏み越えてしまった事を後悔してはいないが、
思えばかつての私自身は、教えを説く者としていささか傲慢に過ぎたかも知れない」
>>70
「それでもついて来てくれる人がいてくれて、
そのお陰で、主人も一歩ずつ、角が取れたと思います」
牧師の言葉に夫人も続いた。
「いや、お嬢さん達とのティータイムに少し湿っぽかったかな」
「そう思える時点で成長ですよあなた。
昔だったら、一度それが真理だと思い詰めたら丸で火の玉みたいな」
確かに、柔らかくなったのであろう夫妻のやり取りを、
ほむらは微笑ましく見ていた。じんわりとだが実に熱い。
× ×
「またきてねー」
佐倉家の面々に見送られ、三人は家を後にする。
「少し、いいかしら?」
「ああ」
「じゃあ、私たちはこれで」
教会近くの小さな林の道で、
ほむらは見送りの杏子に声をかけ、織莉子とキリカは先を急いだ。
「巴さんがよろしくって言ってた」
「そう、有難う。あの人、あたしの命の恩人なんだ」
「そう」
>>71
「ああ。さっき、父さんが言った通り、
今までの教えだけじゃ世の中は救えないって、
それで父さんが教えを逸脱して破門されて、それからしばらくは大変でさ。
金銭的に何の当てもない、只の怪しい新興宗教。
精神的に追い詰められて現実的に腹が減ってそれでやっぱり精神的に追い詰められて、
まあ、ちょっと言えない事も色々あるぐらい荒んでたよ。
そんな感じで見滝原の路地裏をうろついてたら、
ばっちりマイナスの気配察知されたんだろうね」
「魔獣に襲われた」
「ああ、結界に誘い込まれてさ。
正直これで死ぬならどうでもいいや、って所まで行ったんだけど、
そこで助けてくれたのがマミさんで、キュゥべえからは魔法少女に勧誘された」
「何を願ったの?いえ、言いたくないならいい」
「いいよ、疑われても仕方がないからさ。
でも、半分正解って所かな。
マミさんはあたしの命を助けてくれて、
お姉さんみたいに優しくしてくれて美味しいものを食べさせてくれた。
嬉しくて泣けたよ。
だから、そんなマミさんとも色々相談してさ、一回だけ、話を聞いてもらった」
「一回、だけ?」
「ああ、父さんの教えが正しい、その自信はあった。
だからさ、何とか父さん焚き付けて、
なけなしの最後の勝負で出来るだけ大きな集会を用意した。
そこに、せめて一回、好きにならなくてもいいから
真面目に聞いてくれる聴衆を集めた、それがあたしの願い。
だってさ、ほら、力ずくのコンサートなんて虚しいだけじゃん。
父さんだってそう思うだろ?
それで駄目だったらさ、マミさんが大人と相談して、
あたし、あたしはもう少し頑張っても
モモだけでもまともな生活出来る様に無理にでもそうする、って」
>>72
「その賭け、勝ったのね」
「ああ、流石は父さんだ。
その中に全部じゃないけど賛成してくれて相談に乗ってくれた、
力を貸してくれた学者とかちょっとした有力者とか有名人とかがいて、
それで、何とか今に至ってるって訳」
「………良かった」
「ああ、本当に。今思えば結構ヒヤヒヤもんさ。
あの二人、特に織莉子さんもニュースにもなったぐらい色々あったみたいだけど。
マミさんはあたしの恩人、織莉子さん達も口に出すとあれだけど、仲間みたいなモンだ。
あんたは腕もいいし、いい奴だと思う。
あっちであたしに免じて仲良くしてやってくれ」
「言い方がおかしいけど、いい人達だから私からお願いしたいぐらいね。
巴さんが言ってたわ、又、一緒にお茶しましょう、って」
「それこそ、是非ともお願いしたいって伝えといてくれ。
マミさんのケーキ、食べたのか?」
「ええ」
そこで笑みを交わし、手を振って分かれた。
今度見滝原で出会うのが楽しみだった。
――――――――――
今回はここまでです。
続きは折を見て。
乙
乙
マミさんは家族生きてたら魔法少女になってたか怪しいな
もしそうならまどかたちとは関係なく普通の暮らししてただろうし杏子との師弟設定もなかったろうな
そうなると杏子はあれほど強くなったような…
でもロッソファンタズマが使えてたから正義の味方となってたかな?
そうするとさやかと杏子で師弟になってた可能性も?
中身どうこうより特に意味ないんだったら変な安価付けるの止めればいいのに
変に叩きたいだけの人の標的になるようなもんを残しとく理由が分からない
どうせ上条さん()がなんやかんや説教()で解決しちゃうんだろうな
なお批評スレでレビューお願いして、叩かれたら逆ギレした模様
849 名前:ほむnoたて◆lsEbMHwItw [sage] :2014/12/29(月) 14:07:25.64 ID:zZrmksra0
>>848
以下、素っ気ないかも知れませんが
私の素直な感想として受け取って下さい。
そこまで読み込んで真面目な感想を下さり
有難うございました。
面白く読ませていただきました。
只、ちょっとだけ言うと、場合によっては
現実的にリアルタイム進行でベストが無理でベターの範囲が狭い、
と考えざるを得ない所があったとか
流石にタンマウオッチ持ちには勝てねーだろ、
と言う部分も
これは議論反論ではなく余談ですが、実の所、映画「藁の楯」のSPって
総突っ込みが入るぐらい致命的に間抜けな部分があったりしますよ主に白岩とか白岩とか
853 名前:ほむnoたて◆lsEbMHwItw [sage] :2014/12/29(月) 23:30:23.99 ID:zZrmksra0
>>852
現状、乾いた笑いと共にあなたの熱く深いまどマギ愛に圧倒されてます
これは皮肉でもなんでもなく、
表現は冗談っぽく、理屈として間違っていない私の感想です。
まずは、圧倒的な感想ありがとうございます。
しつこい様ですが、これも本心からの感謝であり、
圧倒的と言うのが一番しっくり来る表現だったもので。
前にも言いましたが、かなりの部分そうなんだろうなぁと。
思う所もないではないですが、整理がつきかねる事でもあり、
今回はまず有り難く受け取っておきます、と言う事で返答終わります。
マジかよクソだなその作者
やり取り見てないから真偽は分からないしここの作者かどうかは知らんけど
スレ外のことわざわざ持ってきたりふぁいやーぼんばー思い出すというか荒らしもだいぶ温まってきた感じだな
>>80
ほい
846 名前:ほむnoたて◆lsEbMHwItw [saga] :2014/12/19(金) 14:35:11.42 ID:7mijeKmm0
ほむら「清丸国秀?」
ほむら「清丸国秀?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1402376833/)
完結しました。
細かいリクエストは特にありません、批評お願いします。
848 名前:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage] :2014/12/29(月) 10:23:42.80 ID:5XcgYk1jo
>>846
藁の楯未見(あらすじは確認済み)
特に要望はなし だって清丸をリンチしたかっただけだろ?
できてよかったじゃないか
あと、完結した作品であることは褒める
突っ込みどころ
・これはクロス「×」ではなくて「k」
交わるのではなく一方が他方の話をへし折っただけ
ハリーポッターで例えるならヴォルデモートが攻めてきたときに突如ゴジラとモスラが
現れて喧嘩になり、たまたま足元にいたヴォルデモートを踏み潰しホグワーツを崩壊させて
満足して帰っていったようなもの
ハリーの七年にわたる学園生活の帰結が「やっぱりゴジラいいよねー」でいいのか
・軒並みひどい扱いの登場人物
四方八方から刺客が来る状況で、むしろ殺されてしまえばいいような護送対象のクズ清丸を
任務に忠実に、ストイックに体を張って守る銘苅――はここにはいない
いるのは小娘に一蹴されて任務を切り上げてしまった無様な男だけ
ついでに、刺客に気づくのはいつだって歴戦のSPたちではなくほむら
まあ女性SPがいるのにほむらの身体検査スルーする連中が有能であるわけがない
時計型銃じゃないけど麻酔で眠らされる銘苅とか、もう締めに「暁美ほむら、魔法少女さ」と
言わないのが不思議な活躍ぶり
山場になるはずの魔法少女たちの襲撃を待たずして護送メンバーは全員ドロップアウト(!)
ゲストの意向でレギュラー全員降板なんて大英断だな!
ほむらは手の平を返して清丸をリンチ、あえて問うけど
「この話の清丸ってほむらに半殺しにされるようなこと何かした?」
嫌いなキャラを掲示板でひどい目にあわせるのは結構だけど、そのために手を汚される
キャラもいるんだぜ
手を汚すのももっともだと思わせてくれないと、異世界から来た暴力少女以外の何者でもない
この展開は誰得なのかよくわからない 誰も止めなかった魔法少女たちが寒々しい
・話の展開が破綻
新幹線に乗り換えたのに居場所がばれてる!内通者が発信機を埋め込んでいるせいだった、
という流れから、発信機の助けもなくいともたやすく清丸のもとに到達する魔法少女たち
予知能力持ちはそういうものだろう、けれど黄色や青はどうやって追いついた?
キヨマルサイトってまさか清丸が自分で更新しているのか?
・言行の不一致
妻に人を守るのが仕事と言われたのに護送をやめている銘苅
死人がそんなことを言うはずない、と自嘲しなかったね
「魔法少女は清丸事件に関わるものではない」と言いつつ地元を離れ追いかけてきたマミ
いつの間にか縄張りが大きくなっていたらしい
銘苅を尊敬すると言いつつやったことはリンチに爆弾使った脅迫のほむら
どこに敬意を払ってそんな行動に出たのかわからない
元病人が病院に爆弾を仕掛けるという粗さも悪い意味で邦画に通じるものがある
ほい
とか言われても意味わからんのだけど
その批評されてるのとここの人が同一な証拠って何?
大前提としてトリップが違う
痛々しい長文書き込みをわざわざ探して貼って
無理矢理ここの作者とこじつけようって寸法か。荒らしの常套手段だな
>>84
先に言っておきますが、間違いなくそれ私です。
最初に同じ名前を使っていますので。
新作の場で余り引っ張るのもなんですので要点だけ言いますと
別にキレてません、各批評に対しては
感謝と敬意、部分的に異論がないでもない、それだけです。
只、私の感服した理論と分量に返信する私が表現しあぐねた結果と言うのが実際です。
私の拙さで上手く伝わらなかったのであればすいません。
地の文の程度
前のレスへの無意味な安価
本文と私的なレスを同じレスでやる
コテ
これだけ条件揃ってたら同一人物だと想定するのは当然だし
一々コテつける周りと投下のやり方揃えないような奴がトリ変えるの謎でしかないけど
逆ギレとかいう難癖つけるタイプの煽りに自分から返答するとか初心者極まりなくてこの先地獄しか見えない
なんだ。じゃあクソみたいな作者は何書いてもクソとしか言われないからさっさと落とせよクソ
それでは今回の投下、入ります。
―――――
>>73
× ×
慣れない方面の運動をした上に魔獣退治。
一風呂浴びて美味しいパンケーキを鱈腹食べてリラックス。
それで単調な電車に揺られていたら眠気の一つもさすと言うものだ。
(って、ここどこよっ!?)
そういう訳で、風見野からちょうどいい電車があると思って乗車した所、
気が付いたら謎の地名がアナウンスされていた暁美ほむらであった。
取り敢えず次の駅で電車を降り、
反対方向に向かえば大丈夫だろう、と、思ったのであるが、
「………只今、あすなろ駅周辺で緊急の点検作業………
………方面全面運休………ご迷惑をおかけして大変申し訳………」
「マジ?」
アナウンスを聞き、ほむらがぽかんと呟く。
早速、周辺では携帯電話がやかましい。
「ごめん、遅くなる」
「だから電車が止まってるの本当に」
「ちょっと帰れないから、先に食べてて」
「延長出来ない?駄目?」
「だから何があったんだっての?動物?」
「おいおい、街中だぞ何が侵入?犬?猫?牛ぃ?」
仕方がないのでホームを降り、バスを探してみようとほむらは動き出す。
「だから、ここってどこなのよ?」
一応地名は確認したが、全く以て心当たりはない。
それでも駅前ならバス停の一つもあるだろうと表に出たが、
これがなかなか上手くいかない。
>>88
(見滝原方面ってどっちの乗り場から………)
そうこうしている内に些か猥雑な薄闇の裏通りを歩いているのだから、
目的はますます遠ざかっていると自覚せずにはおれない。
そして、ほむらは舌打ちして更に裏道へと走り出す。
カエローヨーネーカエローヨー
見ると、一組の夫婦が路地裏で、
娘らしい女の子から服を引っ張られてるのも丸で構わずふらふらと前進を続けている。
魔法少女に変身し、時間を停止したほむらは、
相手に触れる事での停止解除で気づかれる事が少ない様に配慮しながら、
細紐を夫婦の両脚に絡みつかせ結び玉を作り、いわゆる膝カックンをかましていく。
結果、夫婦は最小のダメージで転倒し身動きとれなくなる。
夫婦は魔獣が捕食のために放つ誘引魔法とでも言うべきものの影響を受けていた。
(あれは一時しのぎ)
それを知っているほむらは、誘引先の結界を発見し、飛び込む。
やはり、爆破され時間の経った廃墟の街、とでも言った雰囲気の結界内で、
ほむらは半ば出合い頭に遭遇した魔獣の一団をM9拳銃で片付ける。
「魔獣の本隊は奥ね。魔獣も面倒だけど、
こっちの地元が物わかりが良ければいいんだけど」
呟いた先から、ほむらはささっと塀の陰に身を隠す。
果たして、地元と思しき魔法少女の一団が駆けつけて来た。
(珍しい)
ほむらが心の中で呟く。
結構な大人数のパーティーだが、先頭の魔法少女の装束は燃える紅の和装。
確かに知らない者が見たらコスプレ集団な魔法少女の中でも、
日本人が見たら日本とそれ以外に見えるからかも知れないが
コスプレ的に改造されたデザインとは言え和装と言うのは珍しい印象を受ける。
所が変われば魔法少女も変わるものだろうか。
>>89
実際、このパーティーも、先頭の和装がリーダーらしく、
それに続いて大剣を抱えて、
どうも露出的な衣装の上にジョンベラつきのコートを羽織ったのが別格に見える。
その後に、これもコスプレ魔法少女的に露出度こそそこそこ高いが、
色彩は戦隊的に鮮やかな単一色の少女達が続いている。
そして、話を戻すと、和装なのも珍しいが、
(幾つなんだろう?)
リーダーらしく見えたのは、先頭切ったその魔法少女が、
そもそも魔法少女と呼んでもいいのか、
と判断に困る年配である事も理由の一つ。
(少女じゃなければ女、それだと………魔女、だと失礼過ぎるわよね)
流石に中年とは言わないが、
ほむらの年代であれば十分に一人の女性と呼べる相手に見える。
そして、格好や歳もそうだが、戦闘を見るに、
本人自身が戦闘も指揮もおっとり、しかしきっちり、と言うぐらいに
随分と穏やかに落ち着いて、それでいて着実にと、頼もしい大人に見える。
(出る幕無し、ね)
踵を返したその瞬間、ほむらははっと振り返った。
そこには、既に大剣を抱えた魔法少女が立っていた。
その魔法少女は、一つまみキューブをほむらに差し出す。
「いや、私は………」
言いかけると、前方で既に魔獣を片付けた紅のリーダーがほむらに微笑みかけた。
丸で木漏れ日の様な優しい笑顔だった。
ほむらはぺこりと頭を下げ、掌を出す。
目の前の少女も、可愛らしくはにかんでキューブをその上に乗せた。
もう一度頭を下げ、ほむらはその場を去った。
>>90
× ×
「そぉらよおっ!!!」
休日も終わり普段通りの学校生活が始まり、
そんなある夜の魔獣退治。
ほむらの目の前では、佐倉杏子が槍を振り回して大暴れしていた。
「ティロ・フィナーレッ!!」
巴マミの合図で杏子がささっと進路を開き、
一番濃い魔獣の群れにマミが魔法の大砲を撃ち込む。
「いっくよぉーっ!!」
「なのですっ!!!」
更にそこに二刀流の美樹さやかが斬り込み、
百江なぎさのシャボン玉がそれを援護していた。
ほむらとまどかは、遠距離からそんなさやかを狙う魔獣を弓矢で片付けていく。
普段はのんびり屋のまどかだが、魔法少女としての資質は想像以上に強力らしい。
ほむらはここ一番で矢を分裂させた上に時間停止で圧縮して攻撃しているが、
まどかは素でかなりそれに近い攻撃が出来ている。
「とっ、とおっ!」
軽やかに舞い踊り殺陣を披露していたさやかだったが、
その内、魔獣のビーム攻撃の中でド派手なタップダンスを開始していた。
「そうらあっ!!」
ほむらが腰を浮かせた所で、何時間の間にかさやかに接近していた杏子が、
こちらもさやかに迫っていた魔獣を薙ぎ払う。
「調子こいてずっこけてんじゃねーぞっ」
「そっちこそカッコつけてトチんないでよっ!!」
憎まれ口を叩きながらのその立ち回りは、
ほむらが思わず拍手したくなる程見事なコンビネーションだった。
>>91
「マミっ」
「マミさんもいっちょ!」
「オッケーッ!ティロ・フィナーレッ!!!」
言ってしまったらジンクス的に危ない訳だが、
実際の所、どこからどう見てもやった、としか言い様のない見事なシメだった。
× ×
「ふうっ」
ほむらは山分けしたキューブでソウルジェムの濁りを取り、人心地つく。
「ほらよっ」
「サンキュー」
向こうでは杏子がさやかにキューブを渡している。
「綺麗になったわね」
ソウルジェムを摘み上げ透かす様に眺めていたほむらにマミが声をかける。
「はい………すっきりしましたけど、
このソウルジェムって思い切り濁ったりしたらどうなるんでしょうね」
「死ぬんじゃね?」
ふと呟いたほむらに杏子が言った。
「だって、濁りが強くなって来たら結構きついからな、
そんな事する奴いねーって。
だって、そんなになるなら魔獣狩ってた方がよっぽど楽なんだからさ。
魔獣発生の流れがこっちに移ったって言うから来てみたけど、ま、これなら」
「こらこら、油断は禁物よ」
気楽に言う杏子にマミが口を挟む。
「今回だってちょっとひやっとさせられたわ」
「そういうお説教は御免だね」
杏子がぷいっとそっぽを向き、ほむらの目が一瞬細くなる。
>>92
「まあ、ケーキと紅茶があったら別だけど?」
「おいこら、いいこと言ってんじゃないわよ!」
ずいっとマミに迫る杏子に、さやかが肘打ちで突っ込みを入れて笑みを交わす。
「もう…仕方ないわね。
みんな、うちに寄ってく?」
「はい!」
何ともお気楽なムードで、一同歩き出す。
本来命懸けですらある魔獣の戦いだが、何とも優しく清々しく、何よりも温かい。
確かに、余計な事をしたら命が危ないのは確かだが、それはそれこそ日常生活でも同じ事。
少なくとも今は、真面目にやればそれなりの労力ではあるが、
ソロであっても生きるか死ぬか、と言う程の事は少々遠ざかっているのも確か。
「魔獣、か」
ほむらがぽつりと口に出す。
コレデ…ヨカッタンダッケ?
ほむらの前方にまどかがいる。
ちょっと振り返ったまどかがふふっとほむらに笑いかけて又前進する。
ちょっと振り返ったまどかがふふっとほむらに笑いかけて又前進する。
ちょっと振り返ったまどかがふふっとほむらに笑いかけて又前進する。
ちょっと振り返ったまどかがふふっとほむらに笑いかけて又前進する。
ちょっと振り返ったまどかがふふっとほむらに笑いかけて又前進する。
それは一度だけの事だった筈だが、ほむらはそれを見てふと足を止めていた。
そして、駆け出していた。
「きゃっ」
後ろから駆け付けたほむらに抱き付かれ、まどかは声を上げる。
「ご、ごめんなさい、つまずいてしまって」
「もーっ、ドジッ娘だなぁ転校生」
「なかなかタグは外してくれないのね」
笑うさやかに、ほむらが言って、ファサァと黒髪を掻き上げて立ち上がった。
>>93
× ×
「お夜食出来たわよー」
「………なのですーっ!!」
マミ宅のリビングでマミが運んできた料理に、
なぎさが飛び上がって喜んだ。
「やっぱり」
ちょっと苦笑いしたさやかの言葉と共にテーブルに置かれたのは、
焼き立ての手作りピザだった。
「いっただっきまぁーっすっ」
それでも、ゴリゴリ切り分けられると皆皆手を伸ばす。
なぎさと杏子等、笑いながら奪い合う勢いだ。
「っしぃーっ、でも又太るなぁー」
「へっ、大変だねぇ旦那持ちは」
「って言うかさぁー、あんだけ暴飲暴食でどうなってんのよその体型?」
「魔獣退治なんてやってんだから、エネルギー消費が違うだろっての」
「パルミジャーノ・レッジャーノ、
モッツァレラ、カマンベールヒャッハwwwwwwwww」
「………」
確かに美味しい、と言うか手間の掛け方が半端じゃない。
シーフードピザからシンプルなトマトピザ、サラミピザまで、
何種類か作って、それぞれに合わせてチーズから加減まで絶妙に調整しているらしい。
そんな美味しいピザを口にしながら目の前の光景に少々首を傾げたほむらは、
にっこり微笑むマミを見た。
>>94
× ×
マミに促され、さり気なく食事を抜け出してベッドルームに入ったほむらは、
誘われるままベッドに足を向けた。
「佐倉さんと美樹さん、丸できょうだいでしょ」
ベッドに腰掛けたほむらの隣で、
腰を下ろしたマミがふふっと笑った。
「二人とも、そうね、言って見れば魔法少女候補時代からの同期って所かしら。
二人とも、私が魔獣の結界から助け出して、
それから契約を結ぶか迷ってた頃からうちに出入りして」
「そうでしたか」
「あなたと佐倉さん、ちょっと縁があるって聞いたけど、
佐倉さんの願いって聞いたかしら?」
「一回だけの、って話ですか?」
ほむらの言葉に、マミは微笑み頷いた。
「最初はね、お父さんの話を聞いてもらう、って願おうとしてたの。
それを、ちょうど家に来てた美樹さんが一蹴して、
あの時はもう家が引っくり返るぐらいの大喧嘩しちゃって大変だったんだから。
それでも、多分いい方向に願いが決まって、
美樹さんの時もそうね、私の口からは言わないけど、
一つ間違えたら殴り合いだったかしら?」
「そうでしたか」
ほむらの口からも笑みがこぼれる。
命懸けですらある魔獣退治のコンビネーション、
普段の様子も、そのまま喧嘩する程仲のいい姉妹、が一番ぴったり来る。
>>95
「なぎさちゃん、こんな夜遅くに。
夕方だけじゃなかったんですか?」
「あの娘のお母さんが病気でね、癌だと聞いたわ。
命は助かるらしいんだけど特殊な技術が必要で、
それを使える遠くの病院に入院してる。
私は機会があってなぎさちゃんの親とも知り合って、
お父さんだけ向こうに行ってる時とか、預かる事もあるの」
「そうですか」
ほむらが静かに応じる。
その辺りの大変さは少しは身に染みているつもりのほむらだ。
「遺伝、なのかしらね?
なぎさちゃんもね、今は大丈夫みたいだけど手術して長く入院した事もあるって聞いた。
治療中は乳製品を一切食べられなかったって」
「禁忌食品ですか」
「薬と合わなかったみたい。
大好物であり、生きてる実感なのかも知れない」
「大変です」
ほむらはぽつりと言った。
「種類は違いますけど、
子どもの時から病気で入院してやりたい事も食べたいものも制限されて、
親にも負担をかけて、子どもにも、子どもだから分かります」
「そう」
優しく微笑んだマミに静かに頭を抱えられ、
嫌な感じではなかった。
>>96
× ×
「ごちそうさまでしたー」
片付けまで終わり、さやかと杏子がマミの部屋を引き上げる中、
まどかはソファーの前にしゃがみ込んでいた。
「よく寝てます」
「そう。あんなにはしゃいで疲れたのね」
ソファーに横たわり、
タオルケットを掛けられて寝息を立てるなぎさの前髪をまどかが撫でて、
マミがその二人を覗き込む。
「残りのお皿、しまっておきました」
「ありがとう」
台所から戻って来たほむらとマミが言葉を交わす。
「さやかちゃんに杏子ちゃん、それにほむらちゃんも加わって、
魔獣も強くなってきたけど、そのぶん魔法少女も増えて、
前より安心して戦えるようになりましたよね」
「微力ながら」
まどかの言葉に、ほむらは少々気取って頭を下げる。
「こういうの、なんだか賑やかで楽しいかも」
「もう。魔獣退治は遊びじゃないのよ鹿目さん」
「えへへ…」
笑い合うまどかとマミの側で、
ほむらがついっと明後日の方向を向いてぽつりと呟いた。
「魔獣、か」
―――――
今回はここまでです。
続きは折を見て。
乙
乙
乙
これ禁書要素がどこにあるのか現時点でも読んでいて、さっぱりなんだが…?
後、地の文が読み難いというか、何か場面がいきなり変わったりして、状況が掴めなくて混乱する
後何でいちいち意味のない安価をつけてるのかわからないし、後書きとssの本文とでは分けた方がいいと思うが
面白い支援
それでは今回の投下、入ります。
====================
>>97
× ×
とある放課後、下校途中の寄り道中に聞き慣れた声を耳にした暁美ほむらはそちらに足を向けていた。
「名家のお嬢がドブ板の事前運動?敗者復活は大変ね」
塀の陰で様子を伺うほむらが見たのは、
同年輩のロングヘアの少女が、大量のチラシを抱えた美国織莉子に絡んでいる所だった。
「只の、市民運動よ。それにドブ板は大事よ。
だって、街のために働くのですもの。
自分の足場をしっかりと知っておかないと、簡単に足をすくわれるものだから」
「あ、そ。精々頑張んだね」
二人が分かれ、織莉子は忙しそうだと踏んだほむらもその場を離れる。
× ×
逢魔が時、出るべきものはやはり出て来てしまう。
美国織莉子らの側を離れたほむらは、
感知した嫌な淀みを追跡してゴミゴミとした路地裏を進む。
果たして、探していたが余り出会いたいとも思わない結界の入口を察知して、
その中に入って行った。
荒涼とした結界内を先に進むと先客あり。
そこでは、騎士を思わせる装束の魔法少女が、
それに相応しい長斧を振り回して大暴れしている。
その大剣の魔法少女から少し離れた所で、
ビーム攻撃の準備をしていた魔獣達がほむらの弓矢に討ち滅ぼされる。
「構わないかしら?」
「ご助勢かたじけないっ」
ほむらが戦いに飛び込み、相手の魔法少女も乗りのいい調子で応じる。
その相手を見て、ほむらは一瞬目を細める。
その相手は、先ほど織莉子に絡んでいたロングヘアの少女だった。
>>103
「見かけない顔だね」
「暁美ほむら、最近こっちに越してきた」
「そ、私は浅古小巻、っ!!」
挨拶がてら小巻が手近な魔獣を一刀両断し、
ほむらと小巻が背中合わせに敵に向き合う。
戦闘再開、長めの近距離で攻撃する小巻を
ほむらが援護するオーソドックスな戦闘スタイル。
だが、オーソドックスなだけに、
相応の技量を伴う二人の攻撃は着実に効いている。
援護するほむらが見る限り、小巻の技量は結構なもの。
そして、この短くも濃密な時間は、
小巻の本性が誠実なものである事をほむらに報せる。
× ×
「片付いたか」
「みたいね」
周囲から魔獣の姿が消え、油断なく弓矢を構えたほむらも同意する。
小巻がざっと半分のキューブをほむらに手渡し、ほむらは頷く。
二人が魔法少女の変身を解除し、結界が消滅した。
「?」
ありきたりの路地裏の光景に、一人の少女が飛び込んで来た。
「あんた、何やってんのよ」
と、小巻が声をかけた相手は、美国織莉子だった。
「ええ、ちょっと近道を」
織莉子が応じた。
>>104
「って、道に迷ったとか?
こんな所立派な良家のお嬢が来る所じゃないって」
「そうみたいね。表通りに戻った方がいいかしら」
「忙しそうだってのに抜けた話だね。
良家様がいっぺんコケたら大変だ」
それだけ言って、小巻は踵を返してその場を去り、
織莉子も元来た方向に立ち去った。
ほむらの見た所、二人は本心から嫌いあっている様ではなさそうだ。
× ×
「暁美さん」
魔獣の帰路に就いていたほむらの前に美国織莉子が現れた。
本日最初に会った時がそうだったのだが、織莉子は大量のチラシを抱えている。
「ああ、どうも」
挨拶しながら、ほむらは少々不審に思う。
先ほどは声をかける間もなく分かれた訳だが、
それからここに至る迄の経緯が淀みなさすぎる。
「ここに来たら会えると思った、「恩人」に」
それを見透かす様に、織莉子はにこっと魅力的な笑みを浮かべる。
「それは、チラシ?」
「ええ、もう少しポスティングして」
「無駄足踏ませたみたいだし、手伝いましょうか?」
× ×
「終わりましたね」
「本当にありがとう」
ポスティングと言っても、色々と制限も多く簡単ではない。
近い場所で織莉子が逐一教えながらの分担作業が終わり、
それでも手伝ってくれたほむらに織莉子がお礼を言う。
>>105
「地域スポーツ振興の学習会?」
織莉子と共に道を歩き、
自分用に貰ったチラシを読みながらほむらが言った。
「父の書いた論文を見て発言して欲しいと、
この勉強会に関わる学者の方からお誘いが」
「場所は………あすなろ市、ちょっと遠いわね」
「あそこにはスタジアムがあるから、
見滝原を含めたエリア全体に関わる議論になる予定みたい」
「そう、色々とやってるんですね。
お父さん、政治家に復帰するつもりなんですか?」
「ええ、それが許されるなら」
ほむらは不躾かとも思ったが、織莉子はしっかりと答える。
「素人目に見ても、厳しい」
「ええ。実際に今は選挙権も停止されて、父があの事件の責任者である事は免れない。
美国本家やそちらを当て込んだ元の支援者からはむしろ憎まれてる。
だから、父も私も父が辞職した時にはもう懲り懲りだと思ってた」
「それでも」
「美国の家ではなく父の仕事を見てくれていた人が思いの他多かった。
あの事件で敵味方を超えて真剣に関わった人も。
かつての父に志が無かったとは言わない。
それでも、かつて父は美国一族の家業みたいに担ぎ出されて転げ落ちたけど、
この街のために政治家としてやりたい事が少しは分かった、父はそう言ってる。
父も私もそのために力を尽くすそのつもり」
「本気なんですね。
浅古小巻、あなたの知り合いですか?」
「クラスメイトよ」
「白女の?」
>>106
「ええ。世間で言うお嬢様女子校。
イメージ通りに人間関係が色々煩わしい所で、
私も父の事でメインストリームからは脱落した扱いになってる。
小巻さん、現実的に言って、白女の中では家柄に由緒が無い、
そういうカテゴリーに入れられてる。
あの学校には、そういう事を無駄に鼻に掛ける人も少なくない、
そんな相手にも彼女は堂々としたものよ。
私にも妙に絡んで来るけど、自分の力で真っ直ぐにぶつかって来るから嫌いじゃない」
「本当に、色々あったみたいですね。
あの事件の事もその後も、外からでは分からないものね」
「少し、聞いていただけるかしら?」
× ×
織莉子に促され、
ほむらは織莉子と共に夕方の堤防を訪れていた。
「父の事件、どういう決着になったかご存じかしら?」
「新聞で読んだ程度には」
「昔の事だから自分で言うけど、あの頃の私は全てに恵まれていた。
中央政界でも有力者である美国一族に連なる地方政治家の家族として、
それに見合う努力もしながら欠ける事の無い望月を満喫していた。
だけど、私にとっては降って湧いた様な不正資金報道。あれで全てが変わった」
「私が見滝原に来たのは最近だけど、全国的にも取り上げられてた。
後から見た範囲でもこちらでは大ニュースだった」
「ええ。今ならお笑い種だけど、
一族も周囲も何れは県知事と布石を打っていた美国一族のプリンスの一人。
その失脚劇は大いに世間の耳目を集めたわ」
大物大臣も輩出した政治家一族、中央政界に於ける一大勢力すら築いた美国の名前は、
さして関心の無いほむらの耳にも十分届く名前だった。
>>107
「とても嘘とは思えない詳細な報道。
父は一人で全てを抱え込んで憔悴し、周囲の見る目も対応も激変して行った。
丸で騒音だけが響く真っ暗な部屋に閉じ込められたみたいに。
だから、私は契約した。
例えどんな形でも真実を識り、そこから自分で先に進む。
その光を見出す、自ら照らし出すために」
「あなたの能力、見た所千里眼の類ですか」
「いい線行ってる。予知能力、それが私が契約で得た能力。
それでも、使い方次第で色々と知る事は出来た。
中央の情報から見滝原に将来の利権を嗅ぎつけた美国一族の意を受けて、
父の秘書が美味しい所を押さえておくために父の名前を勝手に使った。
それがあの事件のアウトライン。
秘書と言っても、素人だった父が立候補するに当たって美国の本家が派遣した、
実質は父の方が指導される側だった附家老みたいなものね」
「最初から伏魔殿、魑魅魍魎ですね」
「だから、死んだ母は優しいお人好しな父が政界に進出する事に最初から反対していたわ。
結局、支店の課長が支店長の頭越しに本社の特命で動いていた、
それが真相、情けない話だけど」
「確かに、後で分かった事もそういう話だったと思う」
「その過程で、まだ裏工作には素人の父からの情報漏洩を恐れた、
はっきり言って父を主人なんて思わないで
長く務めた美国本家しか見ていなかった秘書と父本人の言動の齟齬から、
秘書が関わっていた資金提供者の中から不審の声が上がって、それがマスコミにキャッチされた。
そこから、秘書が裏で父の名前で行っていた様々な画策が表面化して、
これも情けない事だけど、形式上は責任者の父がその矢面に立たされた」
「いっそ自分がやった事なら、って思いたくなるけど、
今時政治家がそれを言っても一般人にはなかなか通らない、そういう状況ね」
>>108
「いっそ、秘書が秘書がと言い抜けるぐらい図太い人なら、ね。私は軽蔑したと思うけど。
父の性格では、後からある程度の事に気づいても身内相手になかなか思い切れない。
だから、私も父を精神的に支えながら、これはと言う相手に秘かに情報提供を試みたりもしたけど、
最も薄汚い大人の世界は魔獣なんかより遥かにタチが悪かった。
手応えなんて丸で掴めない内に、私は父の自殺を止める事になった。
だから、この能力には心の底から感謝してる」
そう言って、ちょっと下を見ていた織莉子の顔に、ほむらは息を呑んだ。
ぞおっとする何かがほむらの感覚を吹き抜ける。
「確かに、父は政治家として父親として、
余りに甘すぎたのかも知れない。
だけど、そんな事はもう関係ない」
「あなた、何をしたの?
いや、言う必要は無いわと言うかはっきり言って………」
織莉子が口の端に浮かべた笑みに、血の凍る感覚を覚えたほむらが口に出す。
「そうね、言わない方がお互いのためね」
「いいえ」
ふっと微笑んだ織莉子に、ほむらは再度否定した。
「どういう訳か私たちは変な縁がある、命懸けで戦う魔法少女としても。
だから、ため込まれるのも困る。
受け止める、と言い切れる自信はないけど、
この際、言いたい事があるなら言っておいて欲しい」
「魔獣の結界に放り込んだ」
ほむらが言った途端に、
ほむらの胸に暗い言葉の直球が突き刺さる。
>>109
「美国本家の手配で秘かに入院して、
父を一人矢面に立たせた秘書とその家族。小さな子どももいたわよ。
その人達を攫って魔獣の結界に放り込んだ。
もちろん、私の正体は分からない様にしてね。
警察も権力も役に立たない世界で人質を取られた事を理解して、
あの男は、私の命令通り這う這うの体でオンブズマン活動の弁護士事務所に駆け込んで、
そこで全てを自白して検察に出頭した。
結局逮捕されたけど、保険の為に隠しておいた手帳や日記のありかも全部白状したみたいね」
「私の知る限りでも、あなたが手を汚した価値はあった筈よ」
「正確な影響は分からない。
でも、父もそこまで追い込まれて、ええ、私に本気で泣かれたからでしょうね。
本当の真相を真剣に追跡する人とも出会って、
本来誠実な父はようやく本家以上に大事な事を決心してくれた」
「正式に謝罪、辞職」
「七十五日を指示して実際には見殺しの本家の指示に反して、監督責任を認めて議員を辞職して記者会見。
検察や百条委員会にも引っ張り出されて、
表向きにも、その裏ではもっと、インテリ育ちの父にとって責任者として追及される耐え難い屈辱が続いた筈。
それでも逃げずに、自分の知っている事知らない事を誠実に説明し続けた。
そんな父は秘書の監督責任で選挙権こそ停止されたものの、
秘書の全面自供もあって刑事罰は免れた。
その父を本人も知らない間に使い倒して切り捨てようとした美国の本家は、
本家の秘書や東京の商社からも逮捕者を出して事件の黒幕としてバッシングが直撃して、
もう天下取りは望めない、と言う所まで傾いた。
勝った、勝ったのよ勝った、私は勝った私達は勝ったのようふ、
うふふふふ、あは、あはははは、あはははははははははは」
「情けないわね」
そう言ったほむらを、織莉子は未だ、壊れた笑みと共に見ている。
「私から見ても、あなたの父は政治家として父親として余りに甘い、情けない。
それでも、私があなたの立場なら、
秘書の両手両足撃ち抜いてでも泥を吐かせる。
尤も、その場合証拠として使えないのが難点だけど。
どうしても駄目なら、後の事なんて関係ない、本家を文字通りの意味でふっ飛ばしてる」
>>110
「あは、は………」
織莉子が、ふうっと呼吸を整える。
ほむらの言葉は、決して織莉子に合わせただけの言葉ではない。
「有難う」
そう言った織莉子は、直感していた。
恐らくほむら自身、どこかでその感情を実感している。
だから、織莉子も今、自分を取り戻す事が出来た。
「今も言った通り、美国の本家では、
国会議員だった父の兄、私の伯父が黒幕として議員辞職に追い込まれて、
何れは首相と妄想していた後継者を守れなかった父を実質的に絶縁した」
「勝手なものね、秘書への指示が曖昧で違法行為の指示とは断定できないとか、
それで刑事罰を免れたのが御の字だった聞いてるわ」
「ええ。あそこに関わるのはこっちからお断り」
その口調は、普段は落ちぶれても間違いなく本物のお嬢様、
そう思わせる織莉子だからこそ、
何か余程嫌な事があったのだろうと思わせるものだった。
「その後は、私も父も正直政治は懲り懲りだと思ってたけど、
一族ではなく一議員、人間として父を見てくれて、評価してくれた人が思いの他多かった。
あの事件の時もそう。根っこの所を評価するからこそ厳しい事を言ってくれた人もいた。
そういう人達の助けもあって、収入の目途もついた。
その人達の為にも一度は抱いた志のためにも、
父はもう一度やり直すつもり、私もそれを支えていく。
聞いてくれて有難う、そして私の勝手で押し付けてごめんなさい」
頭を下げる織莉子に、ほむらは小さく首を横に振る。
「仲間、って言ったら格好良すぎるけど、自分で決めた事ですから」
「せめて奢らせてもらうわ。そろそろ待ち合わせの時間だから、一緒で良かったら」
>>111
× ×
「おや恩人」
織莉子に付き合い、喫茶店のテーブル席でチョコレートパフェにスプーンを入れた所で、
ほむらの頭の後ろから、ちょっと気取った声が聞こえた。
「誰を差し置いて、
織莉子の真ん前で世界一美味しいパフェを食べると言う
織莉子の最高のパートナーにして相棒にして友達である存在に許された
最高に至福な一時を過ごしているのかな?」
「待ち合わせだったわね」
「ええ、確かにそういう予定を持ち合わせている事は確かね」
ほむらの問いに織莉子が苦笑いを浮かべて応じる。
かくして、若干の席の移動の後、
実の所ほむら達と同じ学校である呉キリカの他愛のない学校の愚痴話に始まって、
テーブル席では、改めて穏やかな笑いの中のティータイムが過ごされていた。
「失礼」
おおよそ食事が終わり、織莉子がお花を摘みに立ち上がる。
「恩人」
そこで、キリカがほむらに真面目に声をかける。
「もしかしたら織莉子から何かを聞いたかも知れない」
ほむらは、肯定も否定もしなかった。
「ある時期、織莉子は本当に追い詰められていた。
母を亡くして父一人子一人の家庭で、自分も追い詰められながら追い詰められた父親を精神的に支え、
万能ではない能力と知略を駆使して情報を収集し、
少しでも頼りになりそうな人を慎重に探して秘かに情報を提供して、
そして魔法少女としての活動まで。
そんな織莉子がノート一杯にどす黒いものを書き殴ったからと言って誰が責められる。
そんな者がいたら私が、刻む」
>>112
「加勢させてもらうわ、蜂の巣でいいかしら?」
「実際には、非現実的な妄想から現実的な一端を摘み出すシミュレーションの意味もあった様だ。
だけど、そんな妄想の中のマシな部類、
もう、こうでもしないと織莉子は壊れてしまう、そんな中での非常手段を私は実行した。
無論こちらの正体が分からない様にね。
ホオズキ市その他、他所の魔法少女にも少々貸し借りがあったからね、
特殊能力を借りてこちらの介入を隠蔽する事も可能だった。
家族を攫った、と言っても、実際には所持品を盗み出してそう思わせただけだ。
織莉子は何も知らなかった。だけど、後でそれを知ってそれは自分の罪だと。
織莉子はそういう人間で、私はそんな織莉子に無限に尽くす矛にして盾であり続ける」
「覚えておく。美国織莉子の事もあなたの事も」
正直、ほむらが恐怖を感じたのは確かだ。
織莉子に関して何か妙な事になればこの呉キリカ、本当に何をするか分からない。
相手の命も自分の命も、戦いが身近である魔法少女だからこそ感じられる。
そして思う。恐らく、そんな呉キリカがいたからこそ、
そうでなければ、あの自分が見た美国織莉子は、
最早社会的にも精神的にも存在し得なかったかも知れないと。
怖い所はあるが、そんな二人を否定は出来ない。
人として、只一つの願いのために戦い続ける身として。
織莉子が戻って来る。
喫茶店の前で、笑顔で分かれる。
じゃれつくキリカと共に織莉子の姿がほむらの視界の中で小さくなる。
ほむらは、ぽつりとつぶやいた。
「あなた、家族や友達のこと、大切に思ってる?」
>>113
今回投下 後書き
>>101
有難うございます。
場面切り替えに関しては、本当に下手な様です。
中には演出でやってやり過ぎたりしているケースもあるのですが、
気を付けてはいても難しい所です。
前後に「文章」を書く時は分ける事も多いのですが、
ほとんどの場合が何文字レベルのお断りだけと言う事で
余り考えずにやっていたのですが。
今回はここまでです、続きは折を見て。
乙
乙
それでは今回の投下、入ります。
==============================
× ×
>>114
× ×
某日、暁美ほむらは、あすなろ市内の多目的ホールを訪れていた。
ほむらが訪れたのは、その中の会議室。
そこで、地域スポーツの推進に関する民間の勉強会が開かれていた。
ほむらが美国織莉子と共にポスティングの一部を行った集会。
途中、美国久臣が報告を行う機会もあったが、
それも含めて、総じて中学生から見てもひどく難しい内容と言うものでもなく、
発言を求められた時には少々困ったが一度ぐらい聞いて損は無いと思えるものだった。
その中で目を引いたのは、主催者側の紹介を受けた、
ほむらと同年輩の二人の少女の発言だった。
一人は牧カオル、いかにも活発そうなショートボブの少女は、
見た目通りと言うべきか前途有望な女子サッカー選手であり、
それも重傷から復帰した経験があると言う事で、
小難しい事を言うでもなく、自分の経験した事感じた事を素直に発言していた。
そしてもう一人、セミロングヘアに眼鏡の、いかにもインテリ然とした雰囲気の御崎海香。
ベストセラー作家でありながら年齢の事もあって表に出る機会の少ない人物だったが、
今回は地域文化人であり、実質的にはカオルの付添として発言を行っていた。
「やあ」
「どうも」
集会が御開となり、三々五々の動きの中、ほむらは会議室で久臣に声を掛けられた。
>>117
「先日はどうも。今回の宣伝でも手伝ってくれたそうで、ありがとう」
「いえ、大した事は」
言葉を交わし、双方頭を下げる。
なるほどほむらが今日こうして見ても、穏健で誠実、
頭は良さそうだが脂ぎった政治家には見えない、
だが意外と芯が強い。そういうタイプだ。
「織莉子さんは?」
「ああ、来たいと言っていたんだが風邪気味でね、
インフルエンザだったら困るから留守番と言う事になった」
「そうでしたか」
「織莉子とも仲良くしてくれていると聞いている、ありがとう」
「いえ、こちらこそ。
素敵なお嬢さんと知り合えた事を感謝しています」
ほむらは素直な感想を述べる。
「ああ。君も知っているかも知れないが、
私も最近色々な事があってね」
ほむらは、暗黙の内に頷く意を示す。
ほむらがネットで調べた範囲でも、
あの事件が発覚した当初の美国久臣の評判は最悪、
特に地元では、市議会議員のレベルから見て巨悪に等しい扱いを受けており、
この人の良さそうな男性や今よりお嬢様だったのであろう娘の心労がしのばれた。
それは、巨額の不正、不明な資金があり、
それも支持者から騙し取った様なケースすら告発されながら、
裏側を言うなら美国本家が派遣した秘書や弁護士に対応を任せてしまったために
彼らの指示で口を閉ざしていた事が大きな要因だった。
事情により
今回の投下中断します
それでは失礼します
続きは折を見て
乙でした
乙
投下再開します。
==============================
>>118
「なんとかここまで頑張って来る事が出来たのもあの娘のお陰だよ」
それは本心であろう、ほむらにもそう思われた。
事件発覚当初の最悪の評判が徐々に変わった、
その原因として実行役だった秘書の自首と美国久臣自身の方針転換が大きかった事は、
事件報道を追っても分かる事だ。
説明が遅れた事を率直に詫びた上での議員辞職会見以降、
美国久臣は百条委員会での証人喚問、決して味方ばかりではない幾つもの単独インタビュー、
時にはインターネット生中継で敢えて自分を批判した動画投稿者との対話の実行等、
時に耐え難い扱いを受けながら自分の知っている事、知らない事を率直に誠実に説明を行い続けた。
その中で、まず彼への嵩にかかった追及がネット上でいわゆるマスゴミ嫌いの拒否反応を受け、
実行役の秘書の自供から検察、大手報道も事件の本筋に注目し、
美国久臣は社会的、政治的に首の皮一枚繋がった状態で事件は終結する。
そこまで押し戻すために、遅ればせながら自身が力を尽くす中で、
支えとなった織莉子、そしてそれを支えたキリカの背負ったものはいかばかりであったか、
直接知らなくても、きっとこの父親には伝わっているのだろう。
久臣とほむらが互いに頭を下げて久臣は別の参加者との話に加わり、
ほむらは会議室を後にした。
× ×
多目的ホールを出てあすなろ市の街を歩いていた暁美ほむらは、
視界に入った通行人に目を止める。
(………御崎海香………)
他でもないほむら自身が御崎海香の小説のファンだった。
それは、何か底に通じるものを感じていたからかも知れない。
尾行する、と言う程の意識はなかったが、
気が付くとほむらは、牧カオルと共に目の前を歩いている御崎海香と進行方向を一致させていた。
牧カオルに対しても素直に憧れる。今でこそ万能超人扱いのほむらだが、
やはりスポーツウーマンにはかつての名残で自分に無いものを感じてしまう。
それが、再起不能とすら言われた肉体的ハンディを乗り越えたと言うのであれば尚の事だ。
>>122
二人が入ったビストロを見て、ふと空腹を思い出したほむらは、
値段の表示もお手頃と見て取り店に入る。
店内をちょっと見回すと、海香とカオルは同年代の結構な大集団と合流しており、
ほむらとしてもプライベートの有名人に写真やサインをねだる類になりたいとは思わない。
だからどこか自分の席を見つけようとしたが、そこで、やはり海香達の集団に目が留まってしまう。
(………双子?………)
集団の中に、どう見ても一卵性双生児の二人組がいた。
どちらもショートカットで天真爛漫な雰囲気の少女だが、
区別をつけるためか一方がアホ毛を伸ばしていたり微妙に髪型が違ったりしている。
「ほむら?」
その声を聴き、ほむらはそちらを見る。
「………もしかしてあいり?」
ほむらの視線の先には、テーブル席に就いている同年代の二人の少女。
その内の一方、軽く手を振っている少女を見てほむらは呟く。
「知り合い、あいり?」
もう一人の少女が尋ね、あいりと呼ばれた少女は頷いた。
「久しぶりっ、食事なら一緒にどう?」
こうして、ほむらは昔馴染みの杏里あいりに促され、そのテーブルに同席した。
「こちら、私の友達で暁美ほむら、飛鳥ユウリ」
「暁美ほむらです」
「飛鳥ユウリ、よろしく」
あいりの紹介を受け、双方小さく頭を下げる。
>>123
「それでさ、これ」
あいりがメニューを差し出した。
「バケツパフェ、って挑戦する予定だったんだけど結構勇気要るんだよね。
すっごく美味しそうなんだけど。
そういう訳で、三人で二つ、って事でいってみない?」
「いいよ」
「私も構わないわ」
「オッケー、マスターバケツパフェ二つ」
待っている間、やはり話はこの集まりの鎹役の事となる。
「じゃあ病院で?」
飛鳥ユウリがほむらに尋ねた。
「ええ、随分前の話だけど。
その様子だと、あいりの病気の事を?」
「うん、まあ、知ってる」
「あれから再発してね、実際生死の境を彷徨ったと言うかほぼ三途の川が見えてたんだけど、
結構間一髪の所で私の症状に合うやり方を見つけたゴッドハンドな先生が見つかってね。
短い余生を楽に過ごす選択もあったんだけど、
こうして賭けに勝って生還いたしました」
あいりがしゅたっと手を上げて言い、ほむらとユウリもそれに合わせてぱちぱち手を叩く。
「それで、その間、私の事を支えてくれたのがユウリだった。
ユウリね、すっごく料理上手なんだよ」
「そうなの」
「んー、まあ、ちょっとは自信ある。
まあ、その自信を私に取り戻してくれたのがあいりなんだけど」
「へえー、それは又………」
いつの間にか旧知の間柄の如く話が弾む中、注文のバケツパフェがテーブルに届けられる。
確かに、名前の通りの迫力だ。
しかし、いざ食べて見ると、思いの他食べ易く、
それでいて十分な旨みとボリュームを感じさせる傑作だった。
>>124
「私の知り合いにも、紅茶とケーキの達人の先輩がいるわ」
「へえー、いっぺん会ってみたいと言うか手合せ願いたいわね」
「もう、ユウリったら物騒な事を」
「じゃあ、あいりが探偵で」
「そ、お陰さんで助けてもらったけどね。
マジになったら軽いストーカーいっちゃうかな」
「それは怖いわね」
美味しいスイーツを肴にしながら、
いつの間にか旧知の旧知が旧知の如くとなった三人の少女は楽しく話に花を咲かせる。
「いらっしゃい」
そこに、新たな客が入って来る。
「?」
それと共に、何かが店に飛び込んで来た。
「インコ?」
飛び込んで来たのは、ブルーカラーのセキセイインコだった。
「ペット?」
「最近は野生化してるとも聞くけど」
ユウリの言葉にほむらが言い、インコはバサバサと店内を飛び回る。
そして、店の客の一人の肩に留まった。
「あ」
何人かが口に出す。
インコが止まったのは、先ほどの御崎海香が合流した集団の、
双子の内のアホ毛が無い方だった。
ほむらがインコにつられてそちらを見ると、
同席していた御崎海香がくすくす笑い出していた。
>>125
「そうね」
そして、海香は口を開く。
「青い鳥だもの、ぴったりよね」
海香がくすくす笑って言っている間に、集団の中でふわっとした感じの少女が
その掌にふんわりとインコを包み込み、店の外に放鳥した。
× ×
「それじゃ」
「それじゃあ」
これから地元で少々用事があると言うあいりとユウリは、
連絡先を交換してから店の前でほむらと分かれる。
それから、ほむらも見滝原に帰る前に別方向であすなろ市を少々散策していたのだが、
魔法少女が散策していると、見つけてしまうものもあると言う事だ。
「人通りも近い、ちょっと放ってはおけないわね」
瘴気に誘われて入り込んだ路地裏でほむらは呟き、魔法少女に変身する。
そして、米軍仕様M9拳銃を手に、
塀ばかりが残されている砂漠の廃村のごとき結界を奥に進む。
そこで、はっと気づいたほむらはささっと塀の陰に隠れる。
そして、気配をやり過ごし、そそくさと結界から退散する。
地元なのか、ドドドドドドドドと地響きを立てる勢いで
魔法少女の大群が押し寄せて来たのだから、
他所の縄張りでそんなものと遭遇した場合、
相手が物わかりがいいとは限らない以上、最悪命に関わる。
「魔法少女と魔獣、か」
あっと言う間に魔獣を殲滅し始めた魔法少女軍団を思い返し、ほむらは呟く。
今日はもう、地元に帰るのがよさそうだと、ほむらは交通機関を確認した。
>>126
× ×
某日、暁美ほむらが学校の図書室を訪れていたのは、
前夜のネットサーフィンの続きだった。
歩き回ってそれらしい本を探し出し、
テーブル席に着席する。
一人静かに本を開き、目次から一節を探してまずは要点を読んでいく。
「ファウスト」
ほむらの背後から、呟く声がした。
==============================
今回はここまでです。続きは折を見て。
無駄な前レスへの安価は必要ないような…
安価無しだとできないの?もしそうなら仕方ないかなとは思うけど…
どうしても安価が気になる
安価いらねえって他のスレでも散々言われてるのに全く聞く耳持たずに頑なに続けてるけど何がこいつをそうさせるのか全く理解できない
尊敬してるss作者がやってたから自分もやってるとかそんな感じなんじゃね?
ああ……知らない登場人物が多すぎて分からない……
乙
幸せな家族がいた .__
ж´`⌒ヾж .,r=== ヽ
(彡リハ从リ!))W жハヽж . ,r´= ヽ l!!ハノリ从!l
w(リ ‘ヮ‘ノリ w(^ヮ^ノw l(^ヮ^ ノl. リ(‘ヮ‘,リ.l|
ミ_ノ ミ、,,,,,,) . !、_ミ !、_ミ|从
″″ ″″
オナカイッパイ タベヨウネ♪
ホムホムゥ♪ゴチソウヨ! ホミュ♪タノチミ~♪ ,--‐― 、
コマドチャン! .__ ⌒;;) . ___ |`'v , l`'v^l
, --‐―‐ 、 ミャロ~♪オイチソウ ж´`⌒ヾж (⌒;;(⌒;;), ((⌒) .,r=== ヽ ;;ジュウジュウ .r === ヽ. .,/|〈ノハ/ハヽi|__X_ハ,
/ 「ニニニiヽ (⌒(彡リハ从リ!))W жハヽж ,r´= ヽ l!!ハノリ从!l ;; ). |ノリハ从リ!| イノハ|| ハ ハ l |N,丶ゝ
l i| |ノ/ノハノ))! i>i<!´`⌒ヾ<i(⌒;.w(リ#゙;;o゙ノリ w(;;゚q゙ノw l(゙-;;゙;; ノl. リ(X0;;゙,リ.l| ;; ). N^ヮ^,,リ l|. .Vvレ、'' ワ''ノNルハル`
| (| | ┰ ┰| | .((( ノノリ从从ゝ.=y===ミ;;;;;ノ====ミ、;;;;;;)====!、;;;;;;ミ====!、;;;;ミ从====y=. ⊂〉!央<|_|_!! C{|l 丗 l|}つ
| ハN、'''..▽''ノN ゞ(リ,,^ヮ^ノリ. | | ,;从し;ノ从Jし;ノ从゚ (⌒,;从し;ノ从Jし;ノ从゚:::):::) | | ノノVVゝD . .くvAWAv_ゝ
ノノ /,}| {.介} l_つ ⊂}li:i}つ | | ヾ;(;(;;'));;ノ;;):)ノ.;):)ノ;(;(;;'));;ノ;;):)ノ.;):)ノ .| | (__i__> (__i__,)
((バCく_/_l_j_,ゝリ く(人人)ゝ ^^ ノ'`/~''~゙`i;ヾ`゙;^^i`i;ヾ`゙;^`i;ヾ`゙;^;ヾヽ ^^
(__j__) し'ノ
それでは、今回の投下、入ります。
==============================
>>127
× ×
「巴さん」
「ごめんなさい、目についたもので」
背後から声をかけた巴マミと暁美ほむらが言葉を交わす。
「ダンテの単行本と解説書」
「少し、興味が湧きました」
「そう………もしかして、ワルプルギスの夜、かしら」
「ええ」
「聞いた事はあるのかしら、実物の事を?」
「名前ぐらいは」
「そう」
マミが、ちらと周囲を伺う。
特に関心を抱いている者はいない。
“魔獣の中でも別格の存在と言われてる”
マミの声が、テレパシーでほむらの頭に流れ込んで来る。
“何か、大怪獣みたいにとてつもない存在だと聞いた覚えがあります”
“そう。通常の魔獣とは比較にならない存在だと聞いているわ。
魔術自体が高度みたいで、一般には天変地異の大災害にしか見えない。
魔法少女には見える形で、結界を張らずに表面化しながら
とてつもない損害を発生させて去って行くと”
“歴史上の大災害の中にも、少なからず含まれていると聞きます”
“ええ。どれぐらいのものか想像もつかない。
もしもの時は、私達の総力を挙げて、って事じゃないと対処出来ないと思う。暁美さん”
“もちろん、その時は私も”
“ありがとう”
ほむらの背後で、椅子の背もたれに左腕を向ける体制で
目を閉じて突っ立っていた巴マミが歩き出しその場を離れる。
端から見たらそういう光景だった。
× ×
「あー、分からないなー」
某日、魔獣退治後に開かれていたマミの部屋での勉強会で、
英語の問題に取り組んでいたまどかがお手上げした。
「ここは、こうだからこうで」
「うん、うん………ティヒヒヒ」
ほむらに教えられながら、
しまいに張り付いた笑顔で乾いた笑い声を上げるまどかの隣で、ほむらは深く嘆息する。
「ごめん、ほむらちゃん」
「でも、これだとちょっと厳しいわね」
「なんだよねティヒヒヒ、はあっ………」
× ×
「お邪魔します」
「いらっしゃい」
土曜日、まどかは自宅を訪れたほむらを出迎える。
「ほむらちゃんか、いらっしゃい」
まどかの背後からまどかの母親、鹿目詢子が挨拶する。
ほむらの第一印象は、まどかの母親にしては若い、と言うものだった。
実際、実年齢が標準的に見てそうだから、なのだが、
所帯じみた印象が薄く、それでいて軽薄ではない。
活動的なショートヘアもばっちり似合っている、
一言で言って、直接にはちょっと見た事が無いぐらいに格好いい女性だった。
「あー、あー」
「弟さん?こんにちは」
靴を脱いで玄関から廊下に上がったほむらは、
そこにちょこちょこと現れたタツヤに視線を合わせる。
「うん、タツヤって言うの。
タツヤ、ほむらちゃんよ、お姉ちゃんのお友達」
「こんにちはー」
「こんにちは」
一度まどかの方を見て振り返ったタツヤに、ほむらはもう一度挨拶する。
「おー、あー、ほー、ほー?」
「うん、ほむらです、よろしくタツヤ君」
「よーしく」
「じゃあ、ほむらちゃん」
「ええ」
詢子、タツヤと分かれ、
ほむらはまどかに導かれてまどかの部屋に向かう。
当初はマミの部屋で勉強会を開こうかと言う話だったのだが、
色々と予定が合わず、こうして二人で勉強する事になっていた。
× ×
「おうっ、まどか、勉強どうだ?」
「んー、一休みー」
最近こちらに転校して来た友人だと言う暁美ほむらと共に部屋に引っ込んでから、
リビングに出て来たまどかに詢子が声をかける。
「でもほむらちゃん頭いいから助かるー」
「ほむらちゃん、まどかあんまり甘やかさないでくれよー」
「ええ、大丈夫です」
そつのない笑顔でほむらが答えるが、
コメカミに伝う汗を詢子は見逃さない。
「ねー、ねー」
「あらタツヤ君」
まどかと二人でほむらがソファーに掛けた所で、タツヤが接近して来た。
「むー、むー」
まどかに頭を撫でられていたタツヤが今度はほむらに両手を伸ばし、
ほむらもタツヤの頭を撫でる。
「ま、一服してだな。ほらタッくん危ないぞ」
「ありがとうございます」
詢子が紅茶とクッキーを持って来る。
「………これ、美味しい」
見た感じ、東京圏の見滝原にマイホームを求めた中流少々上、
この辺りと見て取る事が出来る鹿目家。
紅茶もポットと茶葉できちんと入れたものらしい。
少なくとも、ほむらが自分で入れる事を考えるなら遥かに美味しい。
只、敢えて言えば、巴マミと比べるとごく普通に入れたシンプルなものだ。
だが、クッキーは想像以上だった。
「手作りですね。これ、お母様が?」
「いやいや、あたしには無理だよ」
ほむらの質問に、詢子がカラカラ笑って否定する。
「じゃあまどか?」
「ううん、私でも無理。パパの手作り」
「お父様の」
「そう、今日はお休みでママが家にいるけど、普段はパパが専業主夫」
「主夫、って、最近聞く主に夫の方?」
「そ、並の女子力じゃかなわないぞあれは」
はっはっはっと誇らしく笑う詢子を、ほむらも好ましく眺める。まどかもそうらしい。
どうやら、男として情けないとかなんとか、
そういうつまらない次元はとっくに超越している様であり、
実質を尊重出来る人間関係は好ましかった。
「それで、お父様は?」
「ああ、昔の友達に誘われただかでな、釣りに行ってるよ」
「そうですか」
そんな事を話し、時にタツヤを交えてティータイムを過ごす。
詢子も、礼儀正しく頭も良さそうな娘の友人を好ましく迎える。
何よりも、最近の転校生だと聞いていたが、
見ている限り旧知の仲と言っても丸で違和感がない。
ハンドバッグの中を覗いていた詢子がちょっとした声を上げた。
「ありゃ、今日までだったか。
んー………ほむらちゃん、ちょっと付き合うか?」
「え?」
今回投下 後書き
試しに変えてみました。
技術的には問題ない訳ですが、
正直落ち着かないですね。
今回(>>134より)はここまでです。
続きは折を見て。
乙 ワルプルさんが魔獣だと……ともあれ場面が目に浮かび上がるような描写好きだなー
ほぼまどかしか知らない奴だから言う資格ないけど
設定ものすごく細かに調べて話のなかにアレンジして組み込んで…完璧主義者なんだろうなと想像する
乙
感想どうもです。
>>140
そう言っていただけると冥利です。
匙加減が難しいと言うのが実情ですが。
それでは、今回の投下、入ります。
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>>139
× ×
「ふーっ」
スーパー銭湯の一角で、暁美ほむらが中型サイズの何とかの湯に浸かっていると、
その目の前で鹿目まどかが浴槽の外に屈んでいた。
「ここならいいかな、入るよー」
「きゃっ、きゃっ」
そして、まどかはタツヤを支えながら湯に入る。
「ここ、いいかな?」
「どうぞ」
少々他人行儀にも思えたがほむらは快く返答し、
まどかがほむらの隣で壁に背中を預ける。
「熱くないタツヤ?」
「あー」
まどかが声をかける。タツヤはご満悦らしい。
「むー、むー」
「?」
「おー、おー」
声を上げてもぞもぞ動き出したタツヤが、ほむらに向けて腕を伸ばしていた。
ほむらが、ふっと微笑んでタツヤの髪の毛を撫でる。
「ほむらちゃん、抱っこして見る?」
「ええ」
ほむらが、湯の中でまどかからタツヤを受け取る。
流石に、不慣れだと少々重い。
そろそろ普通に立ち歩いている様には見えるが、
世の母親と言うものは大変だと思う。
「おー、タツヤ」
その母親が現れた。
「ほむらお姉ちゃんに抱っこしてもらってるのか」
「どうも」
浴槽の外から声をかけた鹿目詢子に、ほむらがぺこりと頭を下げた。
「じゃあまどか、タツヤ頼むな」
「うん、ママ」
詢子がすたすたと立ち去り、タツヤがきゃっきゃっと満足した辺りで、
ほむらはまどかにタツヤを引き渡し、
もう一度背伸びをして湯をあがった。
× ×
「よう」
「どうも」
ほむらが、広い主浴槽で熱めの湯に浸かっていると、
別の薬湯に浸かっていた詢子がそこを上がってずぶずぶと入浴して来た。
ぺこりと頭を下げたほむらはなんとなく小さくなる。
考えて見れば、行動自体が制限されていた事もあり、自分の母親との入浴すら随分昔の話だ。
期限切れ寸前の割引券を見つけた詢子に誘われて、
彼女の夫、知久と言うらしいが、
気が付くと彼の代わりにこうして友人一家と共にスーパー銭湯を訪れていた次第で、
いつの間にかほむらが乗せられていた鹿目詢子と言う女性、なかなか凄い人物だ。
「悪いねー」
綺麗に流れるショートボブの頭にタオルを乗せ、
湯面越しにも素晴らしい脚を伸ばしてリラックスする詢子が口を開いた。
「なーんか乗せちゃったけど、
勢いでお年頃の女の子裸の付き合いに誘っちゃってさ」
「いえ、ありがとうございます。こういうの久しぶりですから」
「そ、まどかと仲いいみたいだったしね。
まどかもねー、あの通りのお子ちゃまだから、
もうちょっと色気づいてもいいかも知れないけどねー」
「いい子ですよ、まどかさんは」
「ああ、いい娘に育ってくれたよ。いい友達にも恵まれて」
「美樹さん達も古い付き合いだそうですね」
「ああー。ちょうどさ、タツヤが生まれてそれでこっちに家を買って引っ越して。
まどかにして見たら、小学も何年生で急に親の愛情は半分以下になるわ
元々大人しい方なのにいきなり知らない教室に放り込まれるわ。
さやかちゃん達がいてくれて随分助かったよ」
「そうですね、美樹さんのあの明るさ、それに志筑さんの大らかな物腰も、色々想像できます」
「だろ。それにほむらちゃんも、順番なんてないけど、最高の友達、って感じだぞ」
「光栄です」
本心からそう言い、にかっと笑う詢子の横でほむらはそっと立ち上がる。
「へえー」
湯を上がり、タオルを巻いていた黒髪を解いたほむらに詢子が近づいていた。
「こうやって見ると、改めて見事なモンだねぇ」
「どうも」
ほむらの斜め後ろでほむらの見事な黒髪を褒める詢子にほむらが言って小さく頭を下げる。
「色が白くて切れ長美人顔だから、丸でお人形さんだ日本人形」
詢子の褒め言葉を聞き、ちらりとそちらを見たほむらはつつーっと斜め下を向いた。
ほむらにもう少し経験があるならば、
とてもあんな大きな子の母親には見えない、との感想を持っただろう。
素人目に見てもメリハリのあるナイスバディに見える。
現役バリバリの健康美に人妻の色気と母親の成熟をまんま加算して、
何とも頼りない我が身を自覚しているほむら等一捻りで圧倒される。
にまっと笑みを浮かべた詢子が、ほむらの肩をぽんと叩いてすたすたと先に進んだ。
× ×
「ほらほらタツヤ、お目目閉じててね」
洗い場で、泡だらけのタツヤにシャワーを浴びせているまどかの後ろを、
ほむらがふふっと笑みを浮かべて通り過ぎる。
そして、もう一度体を温める前にシャワーブースに入る。
「あれ?」
「あ?」
「あら」
ほむらざーっとシャワーを浴びて洗い場に出た所で、
三人の少女が声を上げた。
「美樹さんに志筑さん」
「暁美さんでしたか」
シャワーブースを出た所でばったり出会った暁美ほむらと美樹さやか、志筑仁美が
少し先に進んでから浴場の一角で言葉を交わす。
「さやかちゃん、仁美ちゃん?」
そこに、事態に気づいたまどかも近づいて来た。
「ありゃ?まどかにタッくんも?」
「あら、まどかさんにタツヤ君」
まどかが、タツヤの手を引いて近づいて来た。
「よっ、タッくん久しぶり」
「タツヤ君こんにちは」
「こんにちはー」
さやかがタツヤの両脇を抱え上げ、
恐らく顔なじみだからだろう、きゃっきゃっとはしゃぐタツヤの頭を
仁美が撫でながら挨拶を交わす。
「どうしたのさやかちゃん、仁美ちゃん」
「んー、ちょっと仁美にテニスに誘われてさ」
「淑女の嗜みですわ」
「だよねー、仁美、
どこかの新たな世界で神にでもなる勢いでギタギタに追い込み掛けてくれたからね」
「素晴らしいゲームでしたわさやかさん」
「まあー、そういう訳なんだけど、
シャワー使おうって思ったらいきなり事故で断水とか言うから、
どうせならエリア離れてここまで来たって訳」
さやかは、タツヤを床に下ろしながら近くの気配を察知する。
「ん?さやかにまどか、ほむらもいるのか?」
「杏子ちゃん?」
「杏子?」
そこに現れた杏子を見て、何人かが声を上げた。
「よっ」
「杏子もお風呂?」
「ああ………ありゃ」
さやかと言葉を交わしていた杏子がタツヤの存在に気づき、杏子がしゃがみこむ。
「こいつって実はまどかの弟か?」
「うん、タツヤって言うの。タツヤ、杏子ちゃん」
「よっ、タツヤ」
「おー」
「おねーちゃん」
「きょーこ」
「ああー、こっちだこっち」
杏子とタツヤが挨拶を交わしていた所に、
杏子の元来た方からモモとゆまがこちらに近づいてきていた。
「ほむらは会った事あるわな。妹のモモにその友達のゆま」
「こんにちは」
杏子の紹介に、一同がそれぞれ挨拶を口にする。
「鹿目まどかとタツヤです、よろしく」
「「こんにちは」」
しゃがんでタツヤの頭を押して挨拶するまどかに、モモとゆまが挨拶を返す。
「ちょっとこいつら連れてアスレチックで遊んで来た帰りでさ。
事前運動関係で割引券も貰ってたし。もうくったくた元気過ぎだっつーの」
「きょーこが一番元気だったよ」
「元気だよーおねーちゃん」
「だよねー」
「こいつらっ」
杏子の連れとさやかが意気投合し、杏子が笑って拳を振り上げる。
「おとーと?」
「あー」
タツヤに関心を向けたゆまに、タツヤがにぱーと笑みを向ける。
「こんにちはタツヤくん」
「こんにちは」
「こんにちはー」
「よくできました」
腰を曲げてタツヤに声をかけるモモとゆまにタツヤが拙い返事を返し、
杏子が褒め言葉を掛ける。
「んふふっ、かわいー」
「あー」
普段が一番年下扱いのモモとゆまが珍しい存在に興味を引かれて、
ほっぺぷにぷに頭撫で撫でお互いご満悦を味わっている。
「どこのお子ちゃまなのですか?」
「なぎさ?」
そこにすいっと現れた、
この辺の大半から見たら十分お子ちゃまな人物にさやかが声をかける。
「鹿目さん、みんなも?」
「マミさん?」
「マミさんになぎさ」
百江なぎさに続いて現れた巴マミに、まどかと杏子が声を上げて反応した。
「ええ、今日ここのレストランでお得なバイキングがあるのよ」
「へえー」
「名物の美味しいピザパイチーズフォンデュチーズケーキがいっぱいなのですっフンスッ!」
「そういう訳で、どうせだから先にお風呂をいただきましょうって」
「そういう事もあるんだ………」
「それで、この子どこの子ですか?」
「ああ、まどかの弟のタッくん、タツヤって言うんだ」
思わぬ成行きを感じてか、
指をくわえてなぎさを見上げていたタツヤに気づき、なぎさとさやかが言葉を交わす。
「タッくんですか、よしよし、なぎさお姉ちゃんですよ」
「ないさー」
なぎさに頭を撫でられ、タツヤが嬉しそうに声を上げる。
「あー、いいなー」
「いいなー」
「なぎさの方がお姉ちゃんなのです」
「おー、モテモテだねタッくん、将来楽しみだ」
モモとゆまの抗議になぎさが胸を張り、
さやかが合いの手を入れて周囲がくすくす笑う。
「?タッくんどこ行くですか?」
きょろきょろしてからタタタと動き出したタツヤをなぎさが追跡する。
「ぶくぶくーぶくぶくー」
「あら」
タツヤは、行先の「塀」をよじ登ろうとした所でひょいと持ち上げられていた。
「危ないわよ」
「入りたいの?一緒に入るかい?
悪いが、見ず知らずのお子様では昨今は世間が疑り深くてね」
大浴場の一角で、床の上を低い壁でぐるりと囲み中に湯を入れて泡立てているタイプの浴槽。
その近くで、美国織莉子がタツヤをひょいと持ち上げて目と目を合わせ、
織莉子の隣から呉キリカが声をかける。
「タツヤ君。あ、ごめんなさい」
「あら、あなたの弟さんでしたか?」
「あー、あー」
そこに追いついた巴マミと織莉子が言葉を交わす。
はしゃいでいるタツヤの身柄が織莉子とマミが向かい合う形でマミに引き渡され、
タツヤを抱き上げたマミがくるりとタツヤを自分の方に向ける。
「ごめんなさいマミさん」
「こぉらタッくん、お風呂場で走ったら危ないって」
そこに、他の面々も追いついて来た。
× ×
「おいおい、お母様の前で何ヒトの息子とハーレム形成してんだ?」
「ママ」
「あ、どうも」
「ああ、さやかちゃんに………まどか、友達か?」
「うん、巴マミさん。学校の先輩なの」
「そうか」
「巴マミです、すいませんお母さん」
「ああ、タツヤが喜んでんならいいけど、
ほらタツヤ、ママだぞ」
「まーまー」
「赤ちゃんしてないでしゃんと立つ」
「たちゅーたつたちゅー」
詢子がマミからタツヤを受け取り、その場に立たせる。
「むー」
「ん?」
詢子が、あらぬ方向を見るタツヤに気づく。
「むー、ほむー、ほむほむー」
「なんだ、もう本命決まってんのか」
「ふふっ、ママとお風呂入っていらっしゃい、又後でねタッくん」
「ほむー」
ニカッと笑った詢子の前でほむらもしゃがみ込み、
笑顔でタツヤの頬を撫でて立ち上がる。
「さあー、タツヤもママとお風呂だぞー」
「おふよー」
三々五々解散しながらも、詢子がタツヤの手を引きながらの会話を
くすくすと微笑ましく眺めていた。
「あなたもここに?」
ふと、織莉子の隣に立ったほむらが声をかける。
「ええ、今度の集会の案内を配り終えた所、キリカも手伝ってくれて助かったわ」
「だから織莉子、何時でも言ってくれて構わないと言っているんだ」
キリカが本気だからこそ現実的に若干困る、と言うのが織莉子の本心だった。
美国陣営としては、公民権の復帰と選挙のタイミングが上手く噛み合わないと
とんでもない長丁場の準備期間になる。
無論、織莉子も含む本人達はそれを覚悟の政界復帰だ。
だから、猫の手も借りたい、だからこそ困る。
このキリカを迂闊に関わらせるとどこまででものめり込む。
本人の為に良くない上に、勢い余って公職選挙法に関わる所まで踏み込みかねない。
「いたいたキリカ、に、確かこないだ」
そこに現れた少女はほむらも見覚えがあった。
「あなたが暁美ほむらさん?」
「ええ」
「あたしは間宮えりか、美国先生が襲われた時に一緒だったわよね」
「えりかさんはキリカの幼馴染なの、予定を言ったらここで待ち合わせで構わないと」
「ホント、キリカったらちっちゃい頃からそれこそお風呂まで一緒で姉妹同然のあたしを差し置いて、
ほんの最近の付き合いなのに妬いちゃうわよこの二人」
「えりか勘弁してよ、それはそれ、これはこれ」
ぷーっと膨れたえりかをキリカがわたわた宥め、まだ近くにいた面々がくすくす笑って通り過ぎる。
「美国織莉子」
詢子がぽつりと呟き、近くを歩いていた織莉子がそちらを見る。
「ああ、悪い、昔のあんたの事ちょくちょく見かけたからさ。
あー、まあなんだ、仕事してると、特にああ言う仕事は、
人を使っておいて、自分は知らなかったじゃ許されないって事もままある、
それはあんたの親父さんの悪い所だったと思う。
だけど、失敗したけじめ付けて、色々地道に頑張ってるってのも聞いてるからさ」
織莉子が丁寧に一礼してその場を離れ、詢子も頭を下げる。
「………芯の通ったお嬢様だな」
「はい」
詢子の感想にほむらが応じた。
× ×
「んー」
いつの間にか出来上がり解散した集まりを離れ、
ほむらは湯に浸かり、壁からの噴射を背中に当てて唸っていた。
「ティヒヒ」
その隣にまどかが現れ壁に背を預ける。
「タツヤ君は?」
「ママと一緒にお風呂入ってる」
「そう」
二人は言葉を交わし、湯の中でくつろぐ。
「んー、ちょっと痛いけど気持ちいいかも。
なんか賑やかだったね」
「ええ、ああ言う事もあるのね」
「ティヒヒヒ、まほ…あの事で知り合った人も多いけど、
みんないい人ばかり」
「そうね。あれは大変な事もあるけど、充実してる。
あの事も、人間関係も」
「ウェヒヒヒ」
まどかがくつろいでいる間に、ほむらは一足早く気泡風呂を出て、
熱めの主浴槽へと足を向けていた。
× ×
スーパー銭湯のロビーで、上条恭介は呆然と突っ立っていた。
「恭介」
「上条君」
がやがやと女湯から出て来た大群の中から、
恭介を見つけた美樹さやかと志筑仁美が恭介に声をかけた。
「ア、アア、サヤカニシヅキサン」
「アア、キョウスケモキテタンダ」
「キグウデスワネカミジョウクンオホホホホ」
「ウン、ソウダネアハハハハハ」
取り敢えず、暁美ほむらとしては、中指を耳とは反対側に向けて両手を上げたい気分、
ほむらの隣でまどかも苦笑している。
「ほむー」
「はいはい、タツヤ君、牛乳でいいかしらまどか」
「うん」
「おーし、牛乳飲むぞ牛乳」
杏子はモモとゆまを売店に連行し、マミはなぎさを連れてさささっとその場を離れる。
笑顔を貼りつかせたさやかと完璧にエレガントな微笑みを浮かべた仁美も売店へと足を向ける。
「おい」
とん、と、恭介の体を肘がつついた。
「大概にしとけよ、色男」
そうやって、にこやかに恭介に声をかけた彼の割と古い友人の母親は、
そのまま東京都内の一級河川を歌いながら去って行く。
彼女の目は、全く笑っていなかった。
==============================
訂正
>>147
事前運動は慈善運動の間違いです、すいません。
今回はここまでです。 >>142-1000
続きは折を見て。
つまんね
乙
乙
乙
それでは、今回の投下、入ります。
==============================
>>153
× ×
「ただいまー」
スーパー銭湯から戻った一同が鹿目家の玄関に移動する。
「お帰り。暁美ほむらちゃんだね、まどかのお友達の」
「暁美ほむらです、お邪魔しています」
玄関で出会った男性に、ほむらがぺこりと頭を下げる。
「こんにちは、ママから電話で聞いてるよ。
まどかの父の鹿目知久です、よろしく」
「どうも」
実に穏やかな印象の優し気な男性。
確かに、専業主夫と言うイメージでもある。
あのバリキャリの休日だと想像できるパワフルな女性とはお似合い過ぎるとほむらは思う。
「パパ、釣り、どうだった?」
まどかの問いに、知久が笑顔で応じる。
「おーっ、すっごいじゃん」
一同がぞろぞろと台所に移動し、
クーラーボックスの中を見て詢子が声を上げた。
「少し多すぎるぐらいだからご近所でも、って思ったんだけど」
知久の言葉に、詢子がほむらを見る。
「何なら夕食、食べてくか?」
「え、それは」
「食べていきなよほむらちゃん」
「無理を言ったら悪いよ、まどか」
急な申し出に遠慮を伝えるほむらにまどかがじゃれつく様に促し、
知久がそれを窘める。
「いえ、ご迷惑でなければ、私は嬉しいんですけど」
「予定とか、大丈夫か?」
「ええ、両親の事情でまだ一人暮らしですから、
帰っても一人で食事をして寝るだけです」
「そっか、じゃあ、せっかくだから張り切って頼むわ」
「分かったよ詢子さん」
× ×
「………」
「どうぞ、ほむらちゃん」
「ほむー」
「え、ええ、有難う」
詢子に呼ばれて元々の目的である合同勉強に一区切りをつけ、
ほむらはまどかに促されて食卓テーブルの一つ増えた椅子に着席する。
「お鍋、ですね」
「うん、色々釣れたからね。浜鍋風つみれ入り海鮮五目鍋、って所かな」
「おー、煮えて来た煮えて来た。
ほむらちゃんも遠慮しないでどうぞ」
「いただきます」
「カルパッチョもどうぞ」
かくして、和やかにして明るい食卓が囲まれる。
出された料理は、素晴らしく美味しかった。
昆布を下敷きに様々な魚をぶつ切りにして、更に、これも釣った魚で作ったらしいつみれと
ざく切りの野菜もぶっ込んで味噌や酒で味付けた鍋物は
「男の料理」のイメージがぴったりの大胆な一品。
確かに、野性的な程の魅力に溢れてはいるが、それだけではない。
様々な所で絶妙な「仕事」が為される事で一味も二味も引き立っている。
「カルパッチョ、手作りですよね」
「お口に合うかな?」
「美味しいです」
「ありがとう」
にこやかに会話が交わされるが、
ほむらの言葉には一片の儀礼的義務感も存在していない。
日本洋食に当たる海鮮カルパッチョの仕上がりの綺麗さが只者ではなかった。
そして、釣って来たと言う魚をどこまで狙っていたのか分からないが、
魚と野菜とソース、
「まどか」
「何?ほむらちゃん」
「このソースって」
「うん、パパの手作り」
その返答を聞き、詢子はシシシと笑みを浮かべ、ほむらは半ば呆れる。
率直に言って、鹿目知久、只者ではない。
お刺身も綺麗に盛り付けられた上に、
歯に伝わるの心地よさは、刺身と言う素晴らしい料理が存在している事すら再確認させてくれる。
味噌仕立ての豪快鍋を初めとした悉くと一緒に食べるご飯、
粒の立った炊き立てのご飯がとてもとても美味しくて、
決して大食ではないほむらにして丼飯すら食えそうな錯覚を覚える。
ここで、まさか、味噌まで作っているのではあるまいかと、
別に危険はないが聞くのが怖くなる今日この頃であった。
「あ、はは」
「んー、どうしたほむらちゃん」
「いえ、なんと言いますか、お婿さんに欲しいと言いますか」
「だーめ、上げない。
そうだろそうだろ、いい男捕まえただろ」
ほむらと詢子の掛け合いに、食卓が笑い声に包まれる。
「ほむー?」
「おー、タツヤ。もうちょっと大きくなったら練習しとけよー、
ほむらお姉ちゃんがお婿さんに貰ってくれるって」
「よろしく、タツヤくん」
「ほむー、きゃっきゃっ」
「ほらほら、お鍋ではしゃぐと危ないよ」
鹿目まどかが育った家庭、家族、
それはとても暖かく、鹿目まどかそのものの様に。
ふと、ほむらは、目の前の幸せに満ち足りた光景を
優しい眼差しで眺めていた。
× ×
「ほらほらタツヤ、ジャーっとするぞジャーって」
「じゃー、じゃー」
可愛い顔をして相も変わらず悪戦苦闘させてくれる。
自宅の風呂場で鹿目詢子は苦笑しながら、
捕獲したタツヤにシャワーを浴びて泡を流す。
タツヤがアヒルの玩具と戯れている間に、
詢子も立ち上がりシャワーを浴びる。
× ×
「こぉら待てっ!」
「あら」
ちょうど台所にいたほむらが、半乾きにもなっていない濡れ加減で
タタタッと駆け出して来たタツヤをひょいと抱き上げる。
「あー、濡れちゃったな、済まないな」
「いえ、駄目よタツヤ君、
あんまりお母さん困らせたら」
「ほむー」
「じゃねっつのっ」
脱衣所で、詢子がほむらに床にセットアップされたタツヤをバスタオルに包み直す。
「ごめんねーほむらちゃん。
いっつもはもうちょっといい子なんだけど」
台所に戻った所で、まどかがほむらに声をかける。
「元気な男の子ね」
「うーん、はしゃいじゃってるのかなぁ」
「上がったぞー」
「ねーちゃ、ほむあー」
「さっきはごめんなー、どうぞほむらちゃん」
「いただきます」
詢子に促され、ほむらが脱衣所を経て風呂場に入る。
長い黒髪も流れるままに、
まずはシャワーの湯を浴びてざあっと汗を流す。
みんなでスーパー銭湯に行った後ではあったが、
その後がおじやまで鱈腹美味しく平らげた熱々の鍋パーティー。
と、言う訳で、あっさりとお泊りが決まったほむらを含め、
みんなでシャワーだけでも浴びて、と言う流れになっていた。
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今回はここまでです。 >>158-1000
続きは折を見て。
乙 ヨダレが出てきた タツヤテンションあがってるな
乙
それでは今回の投下、入ります。
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>>162
× ×
ガラガーペッ
パジャマ姿で洗面台で横一列、
まどかと、お客さん用セットを借りたほむらが並んで歯を磨く。
「よっ」
二人が洗面台から食堂に顔を出す。
食卓テーブルから大分いい機嫌の詢子が手を上げて声をかけ、ほむらがぺこりと頭を下げる。
詢子はやや年季の入った北海道産のシングルモルトを
ミネラルウォーターで割って楽しんでおり、
その向かいには、缶ビールを手前に知久がにこにこ着席している。
「それでは、お休みなさい」
「ああ、お休みほむらちゃん」
「お休み。ママも、明日お休みだけど飲み過ぎないでね」
「あーあ、わーってるよまどか。お休み」
「お休み」
ふらりと立ち上がった詢子が、ぱん、と、まどかと掌を合わせる。
そして、ぐいっとグラスの中身を立ち飲みする。
「さ、詢子さんも」
「おー、大丈夫大丈夫」
グラスを置いた詢子の体を、するりと行動していた知久が支える。
「じゃあなー、んー、知久ぁーゴロニャアン」
詢子はひらひらと手を振り、
知久が肩を貸しながら上機嫌な詢子を寝室へと誘う。
「やっぱり、お母様の方がいける口なのかしら?」
まどかの部屋に入り、ほむらが尋ねる。
「うん、パパはちょっと付き合ってるだけ。
今夜はちょっと飲み過ぎかな。楽しい、いいお酒みたい。
仕事も忙しいのに飲み過ぎちゃうと、朝なんか大変なんだから」
「仲がいいのね、お父様とお母様」
「うん、私達の前でも未だにちょっと新婚気分。ティヒヒヒヒ」
まどかの苦笑に、ほむらも苦笑を返す。
× ×
「そろそろ、休みましょうか」
「うん」
まどかの部屋では既にテーブルが撤去され、
休憩を挟みながらと言うか休憩の合間の勉強と言うか
勉強机の隣に椅子を借りての勉強会が続いていたが、
どうやらまどかの忍耐も限界に近付いているらしい。
と、言ってしまえば卑怯と言える。ほむら自身もしかりだった。
かくして、ほむらは借り物のパジャマで床に敷かれた布団に入り、
まどかと少し話をしてから消灯する。
「?」
そのまま心地よい眠りに落ちていたほむらは、
ふと違和感に気づき目を覚ます。
そして、がばっと跳ね起きた。
「どうしたのほむらちゃん?」
ベッドの上で、まどかが指で目をこすっていた。
× ×
「ごめんなーほむらちゃん。ほら、タツヤ」
「ごめんなさい」
明りのついたまどかの部屋で、
詢子がタツヤの後頭部をぐいっと押した。
「ごめんねほむらちゃん」
ほむらに声を掛けながら、
タツヤが見事に海図を描いたお客さん用布団を知久が撤去する。
「それで、大丈夫か?」
「ええ、替えのパジャマだけお借り出来たら」
「そうか、ほらタツヤ、
今度は容赦しないからなーぴっかぴかにしてやるぞー」
「おー、ほむー」
「お休みタツヤ君」
「反省しろ反省っ」
まずは知久が出て行き、詢子もほむらが取り換えたパジャマを預かり
タツヤを連行して部屋を出る。
他の面々が出て行き、改めてまどかとほむらの二人だけになる。
「ごめんね、最近こんな事なかったんだけど、
昼間はしゃぎ過ぎて寝ぼけたのかなー」
「いいわ、気にしてないから」
「うん」
「それより、いいのかしらまどか?」
「うん、大丈夫」
かくして、先ほど決まった事として、
ほむらはまどかが今現在使っているベッドに潜り込む。
「昔ね」
「ええ」
「さやかちゃんと、よくこうやってお泊りしたんだ。
一緒のベッドに入って遅くまでお喋りして、
さやかちゃんが五つも六つも喋っている間、私は返事ばかりで、
それでも、楽しかった」
「光景が目に浮かぶ。
昔からの、大事なお友達なのね」
「うん。こっちに転校したばかりの時に友達になってくれて、
さやかちゃんがいなかったら私、駄目になってたかも知れない」
「何と言うか、押しが強そうではあるわね」
「うん。思い込みが激しくて意地っ張りで、結構すぐに人とケンカしちゃったり………
でもね、すごくいい子なの。優しくて勇気があって、
誰かのためと思ったら頑張りすぎちゃって」
「時々あの戦いを共にしているんだから、分かる。
でも、まどかにそこまで褒められるってちょっと妬けるわね」
ほむら自身少々驚いた自分の言葉だったが、
まどかの気配はもっとあわあわしているらしい。
「ほむらちゃんは大切な私の友達だよ。
それに、ほむらちゃん凄く綺麗で格好良くって」
「有難う、まどか」
「本当だよっ」
「ええ、分かってる。
まどかが裏表のない素直な子って事はね」
「………ほむらちゃん?」
「何かしら?」
「なんて言うか、遠回しに馬鹿にされた様な気がしたんだけどな」
「素直に受け取ってくれたらいいわ、
まどかはそれが一番だもの。
私にとってもまどかは大切な友達」
「うん、大切な友達。お休みみほむらちゃん」
「お休みなさい」
名残は尽きないが、ほむらは敢えてまどかと逆側を向き、目を閉じた。
× ×
見滝原市内の一等地に建つ志筑邸は、
見滝原屈指の名家にして富豪である志筑家に相応しい、
豪邸と言うべき威容を十分過ぎる程に備えている。
その志筑家のご令嬢である志筑仁美も
その邸内に自分の部屋を持つ事を許されている訳であるが、
その一室の内実は、やはり年齢的標準、
少なくとも中流と呼ばれるレベルをふわりと超越している。
大体、大昔に太閤はんが使っていたと言っても信じられるレベルの、
天蓋付のベッドがガチで鎮座している時点で尋常ではない。
そして今、そのベッドの縁に一人の少年が少々憂い顔で腰かけている。
「えーと、今更だけど、
やっぱりこういう状態になって申し訳ないと言うか………」
「なーに恭介、賢者タイムって奴?」
そんな上条恭介の左隣に美樹さやかがすすっと這い寄り、
恭介の頬をつんと指で突いて笑う。
「そうですわ上条君」
恭介の右隣で、寝具を胸元に掻き上げながら、
この部屋の主、志筑仁美が口を挟む。
「先ほどまではあんなに意地悪に、雄々しくして下さったのに」
「まあ、それも含めてなんだけど………」
「ま、あんなはしたない仁美お嬢様、
ファンの野郎どもが見たら卒倒しちゃうよねー」
「さやかさん、やはり女の友情とは拳で語り合うものですわね。
それを言うなら、さやかさんのあんな女の子な声、
クラスの殿方が耳にしたら萌え死にますわよ」
「だーめっ!」
仁美の言葉に、さやかが恭介の左サイドにぎゅっと抱き付く。
「それ知ってる男は世界中で恭介だけなんだから」
「当然、わたくしもですわっ」
仁美が恭介の右サイドに抱き付き、
恭介も今更ながら、両サイドからの素晴らしい感触を前に言葉が出ない。
「どちらを選ぶのも、或いはこのまま選ばないのも上条君の心のままに、
さやかさんとも話し合って決めた事ですもの」
「話し合ってと言うかドツキ合ってね」
「まあ、さやかさん」
「いやいや、
幼馴染の親友の恋敵に昇龍拳かますお嬢様に言われたくないって」
「友情を確かめる最も熱く深い方法は何時でも歓迎ですわよさやかさん」
バチバチと火花が飛び散り、それでいて底流で繋がっている二人の可愛い女の子に
文字通り挟まれぎゅうっと押し付けられ、
恭介はアハハと情けない苦笑いを浮かべる。
根本的にまずいと思う一方で、こうして笑いと若い情熱で流されてしまう。
そして、それでいい様な気がしてしまう。
だから、ちゅっ、ちゅっと唇を吸い、その幸せに満ち足りた顔を見て、
今だけでも恋愛と友情の奇蹟の黄金比を信じて有耶無耶にしてしまう。
「それにさ」
さやかが続けた。
「この後、集中できるんでしょ
このムッツリスケベのヴァイオリン馬鹿は」
「まあさやかさん」
「うん」
爽やかな、ちょっとやんちゃな笑顔で肯定する恭介に、
さやかはやれやれと、仁美は慈母の笑みを浮かべる。
「もうすぐコンサートもあるし。
向こうからお願いされたのは凄いけどクラシックじゃないよね」
「うん。でも、僕は彼女の事好きだよ」
さやかと仁美の二人とも意味が分かっているからいいけど、
この状況でこの字面の一言を言う辺り、正にヴァイオリン馬鹿の面目躍如と呆れるばかり。
さやかと言葉を交わした恭介が、
少々未練が残る二人の女の子に離れる様に手で促し、
ベッドを離れて立ち上がるとタオルを首筋に当ててヴァイオリンを取り出した。
「ふふっ、楽しみですわね。
プライベート・コンサートと称してお呼びしたんですもの」
「そ。それでお泊りしたからって、
女二人のパジャマ・パーティーに夜這いして二人まとめてご馳走様の肉欲獣、
なーんて思わないよねーこのお坊ちゃんが」
相も変わらず苦笑いしか出ない会話を交わしながらも、
愛しい少年の最も凛々しい構えを前に、
恋する少女達は口を閉じ、改めて目を潤ませる。
かくして、未だ夢見がちな少女達は、
軽やかな調べと共に脳内に描き出される、翼ある白き天馬の飛翔に暫し酔い痴れる。
ぱちぱちと楽し気な拍手に、恭介はぺこりと頭を下げた。
「これ、今度のコンサートでもやるんでしょ?」
再びさやかの隣に腰掛けた恭介にさやかが声をかける。
「うん」
「凄いよねー、メジャーになったの最近だけど、
夢のコラボレーションじゃん。
で、そのまま口説き落としちゃったりしてこの天然ジゴロは」
「そうですわね、上条君魅力的ですもの。
ついに志筑流裏奥義の封印を解く日が来るのですわねウデガナリマスワ」
「いやいや仁美、
こないだあたしの事散々タコ殴りにしてくれたのはなんだったのって」
「さあ、何の事でしょうか?
でも、年上のお姉さまと一緒、と言うのも胸が躍りますわキマシタワー」
「はいはい。この恭介のヴァイオリンと一緒なら
パーフェクトモード降臨も夢じゃないかも。そしたら超レアだよ」
「当然、ですわ。何が奇蹟かと言って、
上条君の旋律こそが何よりの奇蹟なのですもの」
仁美の言葉を受けながら、恭介は再び立ち上がる。
そして、ヴァイオリンを手にする。
奏でられるのは恋する少女達の心をとろかす輝く明日、未来への祈り。
かつて美樹さやかも奇蹟を願い、今がある。
その事を後悔はしていない。
無論、命懸けの戦いが対価であれば綺麗事だけでは済まない、
時には醜い感情が顔を出す事もある。それは前以て忠告もされた事。
そういう事はあるにしても、それでも自分で決めた事。
愛する男、恋敵の親友の前ではいい女でいてやろう。
そのために出来れば生涯、少なくとも今は口には出すまい。
力ずくのコンサートなんて、虚しいだけなのだから。
× ×
暁美ほむらは、はっと目を覚ました。
「何?」
ほむらは、思わず呟いていた。
周囲を見回す。夜明けはまだ先、見覚えの無い真っ暗な部屋。
それが、今日初めて訪れた鹿目まどかの部屋で、
鹿目まどかのベッドだと言う事を思い出す。
ほむらの隣では、まどかが平和な寝顔で就寝している。
起こさなくて良かったと、ふうっと一息つく。
なんだろう、具体的な記憶は何一つ残っていないが、
丸で闇の底、絶望の底に引きずり込まれそうな感覚の夢の欠片。
かつて、文字通り心臓が止まる時に心身共に怯えていた時か、
それとも、危険と隣り合わせの魔法少女としての戦いの記憶か。
或いはもしかして、最近興味を抱いているワルプルギスの夜。
直接文字で解説した記録は無いものの、魔法少女が多少、
いや、今回はかなり頭を絞って、その気になって資料を読めば分かる。
ワルプルギスの夜。
通常はある程度分散して魔獣の源となる人間のマイナスエネルギーが、
何かの弾みで一極に集中し次なる存在へと変容した存在、とも言われている。
その存在は歴史上も存在、隠蔽されて来た。
実在するのであれば、とてつもない大怪獣、表面的には大災害をもたらす。
愛しく温かな、ささやかな営み等一瞬で吹き飛んでしまう。
その事を思い出し、改めて隣に目を向ける。
大切な友達のまどか、
今日、ほむらが見たもの、感じたもの。
それは、まどかの優しさ、温かさ、愛すべきものを作り上げた温かな愛に満ちた家庭。
「ん、ん……むら、ちゃん」
まどかがもぞもぞと動き、布団から手が出て来る。
ほむらは、その手をきゅっと握る。
そして、ほむらはその美しい睫を伏せ、
ほつれ毛の泳ぐまどかのふっくらとした頬に軽く唇を寄せる。
女子校ではしばしば見られた程度の親愛の証。
「お休み、まどか」
「………ウェヒヒヒ………ZZZZZ………」
ほむらは微笑み、はだけた布団をその身に掛け直す。
壊してはならない温かなものを改めて知った以上、
例え相手がどんな大怪獣だろうが決してそれはさせない。
ジャンヌ・ダルクその他、様々な伝承に隠されたワルプルギスの夜の物語。
それは、紆余曲折があっても、みんな笑ってハッピーエンドで終わっている。
それならば、大切なもののために是が非でもそれを受け継いでみせる。
そのための魔法少女なのだから、
この幸せに満ち足りた世界を必ず守ってみせる。
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今回はここまでです。 >>165-1000
続きは折を見て。
乙
乙
乙
タツヤが黒歴史過ぎるww
ごめんsage忘れた
少々お久しぶりです。
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>173
× ×
見知らぬ、天井。
友人宅でのお泊りの夜、
普段は鹿目まどかが一人で使っているベッドで目を覚ました暁美ほむらは、
それを目にしていた。
空が漆黒が藍色に変わっていく辺りかと、カーテン越しに感じられる。
「………」
「………ウェヒヒヒ………」
身を起こしたほむらは、誘惑に負けて
取り敢えず隣で寝息を立てる鹿目まどかの頬をぷにぷにとつついて見る。
それから、ベッドを出て廊下に出る。
用を足したほむらだったが、喉の渇きを覚えてちょっと台所に足を運ぶ。
そうしながら、水音と鼻歌を耳にした。
「ああ、ほむらちゃんか」
ほむらが台所に着いた辺りで、
浴場の脱衣所から体にバスタオルを巻いた詢子が顔を出す。
ほむらが、ぺこりと頭を下げる。
「どうした?」
「すいません、ちょっと喉が渇いて」
バスローブ姿の詢子が髪の毛を拭きながら出て来てほむらと言葉を交わす。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
詢子が栓を切った500mlペットボトルから
コップに移したミネラルウォーターをほむらに渡す
「ちょっと飲み過ぎたかなー、
ほむらちゃんが来てくれて楽しい夜だったから」
言いながら、詢子は残った水をボトルからラッパ飲みする。
「私も楽しかったです」
「そりゃ何よりだ。二十歳になったら一緒に一杯やりたいな、
まどかも、ほむらちゃんも」
「楽しみです」
「おう。今日は楽しかった、何よりまどかが喜んでた。
それに、タツヤもな。その節は本当に失礼しました」
「いえ。可愛い坊やですね」
「ありがと。タツヤもほむらちゃんの事をすっかりお気に入りだ。
コップそこ置いといていいよ」
「ご馳走様です」
ニカッと笑う詢子に、ほむらも品のいい笑みを返した。
「ん。あぁー、いい汗かいた。
今日は休みだ、もう一眠りすっかー」
「それでは、お休みなさい」
「ああ、お休み」
とんとん腰を叩いて伸びをした詢子が、
首をゴキゴキ鳴らしながらひらひらと手を上げて寝室に戻り、
ほむらもぺこりと頭を下げて階段に向かった。
× ×
「まどか」
「何、ほむらちゃん?」
朝、鹿目家の食卓テーブルに就いた暁美ほむらは、
隣のまどかに小声で尋ねていた。
「確か、昨日も聞いたと思うんだけど」
「うん」
「これ、お父様が?」
「ウェヒヒヒ」
「さあー、食うか」
「くーかー」
もう、ほむらには気取るまでもないと言う事か、
シャツにパンツに生あくびで洗面所に入り、
何とか生気を取り戻して着席した詢子にタツヤが合わせる。
ここまで準備をしていた知久も着席した。
「いただきます」
「いただきます」
皆が挨拶を交わし、食べ始める。
トーストの歯ざわりが心地いい、実に研究し尽くされた焼き加減だ。
だが、それだけではない。
トーストとなると経済優先的な選択をする事も多いほむらは、
トースト、小麦粉の味をここで改めて実感する。
焼き加減もそうだが、
生地自体が確かな技術で作り込まれている事をほむらにも解らせる。
ソーセージは明らかに既製品ではない。
塩加減と言い肉の味と言い、安易な万人受けをやや外れた野蛮さを
野趣溢れる所に留めて手作りの妙を見せる。
そうやって、リスクを取ってでも逃さなかった肉の旨みが、
熱々の火加減で弾け飛び溢れ出る。
「あー」
濃度の濃い黄身がただ事ではない、
それをとろりと半熟にとろかせつつも白身も黄身も焦がさずに、
しかし確かに白身は固まって温かに火が通っている。
そんな目玉焼きを添えたサラダにほむらがとりかかっていると、
声と共に何かが飛び跳ねる。
「はい」
「ほむあー、ありあとー」
それが、タツヤのお子様フォークを逃れて、
子ども用の高椅子とセットの食卓から転げ落ちたミニトマトだと察知して、
ほむらはひょいと拾い上げてタツヤの皿に返却する。
楽しい朝食を終え、食後の珈琲までいただいた暁美ほむらは改めて確信する。
鹿目知久、只者ではない。
× ×
「まどか」
帰り際、ほむらは廊下でまどかに声をかけた。
「まどかのお父さん、どう考えても適材適所過ぎるわね。
お母さんは休日しか見ていないけど」
「うん、平日のママ、すっごく格好いいんだ。
朝は弱いけどねティヒヒヒ」
年頃から見て幼い、と言えるのかも知れないが、
それでもてらいなく両親を褒めるまどかにほむらも優しい笑顔を向けていた。
そして、才能も凄いが最善の選択を躊躇いなく実行できる関係性が素晴らしかった。
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした。又来てね歓迎するよ」
頭を下げるほむらに、知久が穏やかに応答する。
「じゃ、又な」
「はい」
「またー、ほむあー」
「又ね、タッくん」
「あー」
詢子と挨拶を交わした後、
ほむらがちょっとママの真似をしてタツヤの額に唇を寄せ、
タツヤはぱーっと両手を上げた。
「それじゃあ、失礼しました」
名残は尽きない中、鹿目家を出る暁美ほむら。
何軒分か離れたか、と言う時、ほむらはふと携帯電話を取り出した。
× ×
「あら」
「どうも」
鹿目家を出たほむらがバス停に足を向けると、
担任の早乙女和子教諭と遭遇した。
「お出かけですか?」
「ええ」
一歩間違えば箒で落ち葉かきでもしながらと言うほむらの質問に、
和子先生はにっこり笑って返答する。
「………」
そうやって、二人共車道側を向く。
はっきり言って、その方面に関心の薄いほむらでも勘が働く。
性格的にほむらがそうしないだけで、
先生と仲のいい年頃の女子生徒一般であれば、容赦なく突っ込みを入れている所だろう。
普段、つまり学校でほむらと出会う和子は、実の所まどかの母親と同年輩。
ヴェテランに差し掛かった仕事には真面目な女性教師らしく、
見た目で保護者を刺激しない抑制に慣れている、先生にしか見えない。
しかし、今の和子は、ほむらから見ても一人の女性だった。
服装もメイクも一つ一つが大人びて輝いている。
それでいて、変に隠そうともせず浮き立っている和子は、
溌溂と明るいオーラも見えるぐらいに清々しい。
バスが来る。
「暁美さん?」
「いえ、私は」
「そう」
和子は、ほむらににっこり笑いかけてバスに乗り込む。
ほむらはそこに留まり、次のバスに乗り込んだ。
===============================
今回はここまでです。>>179-1000
続きは折を見て。
それでは、今回の投下、入ります。
==============================
>>183
× ×
暁美ほむらは、風見野の路地裏でぎゅっとソウルジェムを握る。
魔法少女に変身すると、
飛び込んだ結界内で米軍M9拳銃の銃口を上に向けて先に進む。
余裕があると見ると、
ほむらは弾薬に限りのある拳銃から魔法の弓矢に武器を切り替えた。
「!?」
さっそくに、弓に矢をつがえて感じた瘴気に討ち放つ。
わらわらと魔獣が姿を現し、
ほむらは慣れた手つきでビーム状の魔法の矢を放ち続ける。
「あらよおっ!」
そんなほむらの斜め後方で、
佐倉杏子が大槍を奮って魔獣を片付けて行く。
「よっし、一気に片すぞっ!」
「ええ」
× ×
魔獣の結界が解除され、
杏子とほむらがキューブを分け合う。
「悪いな、地元なのに遅れちまって」
「確かに、濃度の高い瘴気だったわね」
「ああ、最近見滝原の方に出現傾向が移ってたんだけどな、
最近になってちょっと雰囲気変わって来たから声かけたんだ」
「そう。最近こっちに来た私に?」
「マミさんにもメール入れたんだが返信がない、
多分こういう時は地元で結界に入ってる。
まあ、マミなら大丈夫だろ。
まどかはどっちかってと週末家族の時間だし、
さやかは………今日はあれだ」
「消去法、ね」
「まあな。ま、ありがとな」
「このぐらいなら」
そう言って、ほむらはキューブをきゅっと握る。
× ×
「なかなか、難しいわね」
「アハハハ、でも、いい線行ってるぜ」
魔獣退治の後、ゲームセンターのダンスゲーム対戦で、
足元も危うくしながらのほむらに杏子が明るく笑った。
「結構器用なのな」
UFOキャッチャーを終えて、
ほむらは杏子の声を背にファサァと黒髪を掻き上げる。
「これなんかちょうどいいんじゃない?」
可愛らしいぬいぐるみの山から選り分けたほむらに、
杏子が声を上げる。
「あたしにぃ?」
「モモちゃんとゆまちゃんによ」
「あー、そうだな。で、そっちは?
ほむらの部屋に飾っとくのそれ?」
「悪い?って言ってもいいけど。
んー、ボーイフレンドに」
「はあっ!?」
「あー、あれやってみましょう」
「いやいやほむら、ピストルでゾンビ撃ちまくりとか、
何を今更と言うか」
「だから、気楽だからいいんでしょう」
「へーへー」
活き活きとゲーム機に向かうほむらに、
杏子がくっくっ笑って付き合う。
「いやーすごいおーばーあくしょんだったなほむら」
「仕方無いでしょう。
魔法の体力強化も余り効かないタイプで、
あの重さに慣れるのにどれだけ苦労したかブツブツブツブツ
もう一回よもう一回っ!」
それでも、やはりそこは身に着けたものもあったのか、
二回目の挑戦では杏子が目を見張る程の活躍を見せる暁美ほむらであった。
「お前、麻雀とか出来るの?」
「一応、ルールぐらいは」
別に自分でやる趣味は無かったのだが、
過去に行き掛かり上裏社会との暗闘を経験した際、
しばしば相手に気づかれずにそれを観察し続ける羽目に陥ったために
何となく興味が湧いて覚えてしまった。
「おいおい」
杏子が、周りの人だかりを見て汗を浮かべる。
そういう訳で、興味が赴くままにゲーム機に向かったほむらは、
見た目美少女がこのゲームで見事なハイスコアを更新し続ける珍現象のために
いつの間にか野次馬に取り巻かれる状態になっていた。
「ロン、天衣無縫っ!」
クリアを迎えて右腕を掲げたほむらの周囲で、
ギャラリーがおーっと歓声を上げる。
「?、?、?」
杏子が、そのままほむらを引っ張って出口へと突っ走った。
× ×
「あーあー、めんどくってしばらくあそこ行けねぇよ」
「ごめんなさい、少し熱くなってしまったみたいで」
「だな。ま、楽しそうで何よりだ」
「ありがとう」
等とお喋りしながら歩いていたほむらと杏子が、はたと足を止めた。
二人が振り返った方向では、軽自動車が一台、
物凄い音を立てて駐車場からビストロのガラス壁をぶち抜けて店内で停車していた
「119番っ!」
「分かったっ!」
杏子に指示を出し、ほむらはそちらに走る。
駐車場で、状況を確認して舌打ちしたほむらがさっと変身し時間を停止する。
ちょっと周囲を駆け回り、時間停止を解除して元の場所に戻ったほむらは、
角を曲がった道路工事現場にダッシュしていた。
「交通事故、工具特に金槌貸して下さいっ!!」
後方を指さして叫ぶほむらの怒声を聞き、作業員がその後を追う。
「どけて下さいっ!!」
ビストロで、運転席の窓を叩き呼びかける給仕にほむらが叫んだ。
作業員が後部座席の窓を破壊し、そこから侵入して鍵を外す。
中では、運転席で母親らしき女性が気絶し、
チャイルドシートで幼児が泣いていた。
× ×
「いらっしゃいっ!よう、お嬢さん方」
「よっ」
「どうも」
顔見知りのラーメン屋に入り、ほむらと杏子が大将と挨拶を交わす。
カウンター席が込み合っており、奥のテーブル席に回った。
「脇で聞いてたら踏み間違えだったみたいね」
待っている間、ほむらが杏子と言葉を交わす。
「こえぇなぁー」
「見た感じ、大した怪我人もいなくて良かった、不幸中の幸いよ」
「だな」
ほむらが黒髪を束ね、二人が話している間に注文したラーメンが届く。
相変わらず美味しいラーメンを堪能し、食後に少し話している時に、
ほむらはガラガラ開く扉の音にふと耳を傾けた。
「ごめんね、予約していた店が急に駄目になって」
「事故だって言うんだから、仕方がないわ」
「でも、ここ凄く美味しいんだ」
「あなたと一緒ならどこにでも」
ほむらは静かに立ち上がる。
「ごめんなさい、ちょっとお花を摘みに」
「あ、ああ」
急に動き出したほむらを杏子がチラと見送る。
だが、テーブルには五百円玉が二枚置かれていた。
程なく、杏子の携帯にメールが送られてきて、
杏子は支払を済ませて店を出た。
× ×
「佐倉杏子」
「なんだよ………ん?」
ラーメン屋から少し離れた待ち合わせ場所で、
声を掛けられた杏子がきょろきょろと周囲を見回す。
「佐倉杏子」
「ん?おおっ」
長い黒髪を三つ編みに束ね、黒縁の眼鏡を掛けて
雰囲気的には小柄に見える少女から真正面から声を掛けられ、
杏子はのけぞった。
「何やってんだほむら?」
杏子が、当然の疑問を口にし、
ほむらは眼鏡を外し三つ編みを解く。
雰囲気的には、すいっと眼鏡を投げ捨てたい所だが
もったいないのでそんな事はしない。
「お邪魔しちゃ悪いものね。お釣りもらえるかしら」ファサァ
× ×
「おはようほむらちゃん」
「おはようまどか」
月曜日の通学路で、ほむらはまどか達と合流する。
「おはよう、美樹さん志筑さん」
「おはよう」
「お早うございます」
ほむらの挨拶に、さやかはからりと、仁美は丁寧な物腰で応対する。
「珍しいわね、と言うべきなのかしら?」
「んー、レッスンの都合でちょっと時間差出勤でさ」
「そう」
ほむらの言葉に、さやかが苦笑いしながら応じる。
その側で、こちらはいい度胸と言うべきか、仁美が慈母の微笑みを浮かべていた。
「まどか、週末はご馳走様、美味しかった」
「ウェヒヒヒ」
「なにー、どうしたのー?」
笑みを交わすまどかとほむらに、
さやかがにししと笑って割って入る。
「それは、ね」
「ん」
ちらっとまどかを見て言ったほむらに、まどかがにっこり応じる。
それを見て、仁美がよろっと後退した。
「まさか二人とも、既に目と目で分かりあう間柄ですの?
まぁー、週末の内にそこまで急接近だなんて。
先日のあの後、一体何が?」
「どうかしら?」
「ティヒヒヒ………」
仁美の反応の面白さに、ほむらがファサァと黒髪を払って応じまどかが苦笑いする。
「でも、いけませんわお二方っ。
それは禁断の、恋の形ですのよおぉぉぉーっ」
「バッグ忘れてるよー」
そのままたーっと走り去る仁美の背にさやかが声を掛けていた。
「………改めて、面白い娘ね」
「今日の仁美ちゃん、なんだかさやかちゃんみたいだよ」
「どういう意味だよそれはー。
で、実際んとこどうだったの転校生?」
「だから、いい加減そのタグ外してくれてもいいと思うんだけど。
まあいいわ、まどかの家で勉強会してたら、
まどかのお母様が期限切れ寸前の割引券見つけてね」
「へえー、そんな事もあるんだ」
「その後で、お誘いを受けて夕食を食べてお泊りさせてもらった、そういう事よ」
「ふうーん、しっかり鹿目家に食い込んでんじゃない。
夕食、って、あのまどかパパの?」
「知ってるみたいね?」
「とーぜん、どんだけの付き合いだと思ってるのよ。
最近ちょっとご無沙汰だけど、まどかのお父さんの手料理とか半端ないよね」
「ええ、堪能させてもらったわ」
「いいなぁー、まどかー、今度誘ってよー」
「さやかちゃんなら大歓迎だよティヒヒヒ」
「大体、週末の内に一体何が、って、
それはこっちが聞きたいわよあなた達の黄金トライアングルに」
「いやはははー、
ご想像にお任せします、って事にしといてくれないかなー」
ちろりとさやかを見るほむらに、さやかは後頭部を掻いて応じた。
× ×
等と馬鹿話をしている内に学校の玄関に到着する。
一同が靴を取り出している辺りで、ぴたりと動きを止めた。
ほむらとまどか、さやかが目と目で通じ合い、小さく頷く。
ここに仁美がいなくて良かった。
三人の頭の中に流れ込んで来る巴マミの声は、
魔獣狩りの前線を思わせる真面目なものだった。
「今日の放課後、出来る限り私の部屋に集まって」
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今回はここまでです。>>184-1000
続きは折を見て。
乙です
乙
乙でした
それでは今回の投下、入ります。
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>>191
× ×
話は先の土曜日にまで遡る。
スーパー銭湯を訪れた巴マミは、一時の喧騒を離れて
百江なぎさと共に洗い場を利用していた。
「はい、終わり」
「有難うなのです」
マミが、なぎさのややぐねぐねな長い髪の毛を洗い、
シャワーで泡を洗い流す。
本来は一人で出来る事ではあるが、二人にとって楽しい時間だった。
「サウナ、行ってていいかしら?」
んー、と、立ち上がって背筋を伸ばしたマミが、
ちらっと下のなぎさを見て声をかける。
「どうぞどうぞなのです」
「なぎさちゃんも来る?」
「いいいいいいです、ハ○ジの山羊さんチーズになっちゃうですっ」
「んー、今度、入り方ちゃんと教えてあげるから。
じゃあ先にお風呂巡りしてて」
「はいです」
こんなやり取りで一旦分かれる。
以前一緒にスーパー銭湯を訪れた時、
なぎさはマミの後をどうしてもと引っ付いて来て目を回しそうになった事がある。
「あら」
「どうも」
マミがサウナに入ると、
ちょうど美樹さやかと志筑仁美がベンチから立ち上がった所だった。
入れ違う様に、マミは無人のサウナでベンチに腰掛け、
んーっと背筋を伸ばしたり顎を上に反らしたりして見る。
その内に、カチャッとドアが開く音が聞こえ、
ハッと気が付いたマミが、さささっと頬杖をついて寝そべっていたタオルの上から起き上がる。
ドアが開き、入って来た美国織莉子ときちんと足を揃えてベンチに掛けたマミが
それぞれお上品に頭を下げて一礼する。
織莉子は、そっとマミの隣に座る。
織莉子がするりとマミに近づいたため、
動かした織莉子の手がベンチの上に置かれたマミの手に被さる。
織莉子は、マミの耳に唇を寄せた。
× ×
「くうぅーっ!」
サウナを出たマミと織莉子が、迷惑にならない程度にずぶんと水風呂に身を沈め、
身を反らして悲鳴と快感の呻き声を上げる。
「おおおっ織莉子、話は終わったかい?」
「ええ」
そこに、どこからともなく現れたキリカが声を掛け、
織莉子は笑って応じる。
「おー、マミ気持ちよさそうなのですっ」
「なぎさちゃん、っ………」
ざぶんと水しぶきの一拍後に、悲鳴が上がった。
× ×
「ワルプルギスの夜?」
月曜日の放課後、呼び出しに応じて巴マミの部屋に集まった面々は、
マミの発したその言葉にそれぞれの反応を示した。
鹿目まどかと美樹さやかはきょとんとしており、
佐倉杏子はガトーショコラをごくんと飲み込み
暁美ほむらは持ち上げていた紅茶のカップを置く。
「ワルプルギスの夜が来る、って言ったわね?」
ほむらが尋ねる。
「ええ」
「どういう情報?」
「先日、織莉子さんが教えてくれた」
「織莉子、予知能力か」
そういう杏子の真剣な表情に、まどかとさやかも、いよいよ以て何事かを察知する。
「ねえ、何なのよねえ?マミさん?」
「魔獣よ」
ほむらが答える。
「実態で言えば怪獣、って言ってもいいかしらね?
それ以上かも知れない」
「………マジ?………」
さやかが言い、杏子を見るが、あの杏子の顔も大真面目だった。
「マジ、なんだね」
さやかが静かに納得した様に言う。
「流石に今日や明日の話じゃない。
だけど、織莉子さんは瓦礫の山を見たと言った、この見滝原で」
「前例から言ってもそれぐらいの被害が出て不思議じゃない」
「そんなに、凄いの?」
まどかが怯えた声でほむらに尋ねた。
「直接の記録が残っている訳じゃない。
だけど、口伝えだったり、
魔法少女の経験から記録や伝説を読み直す事で分かる事もある」
「どのぐらい、分かってるの?」
ほむらの言葉にさやかが応じて質問する。
「確かな事は分からない、推測の域を出ないわ。
だけど、規模は特撮ヒーローでも簡単には倒せないレベル、
或いはもっと上の大怪獣。
天変地異を伴って現れる、或いは素人には天変地異にしか見えない。
結果として、都市一つまともにぶっ壊れるレベルの破壊力がある事は確かみたい。
歴史的には都市が壊滅した大災害とされているものが
実はワルプルギスの夜の通り過ぎた後だった、って事もある」
「な、何よ、それ………」
目を見張ったさやかがごくりと息を呑み、まどかも震えを隠せない。
「それって、結局退治できるのか?」
杏子が尋ねた。
「出来るのか、って、
そんな魔獣、見滝原に来るって言うんなら退治しないと。
だって、そのために魔法少女で」
「そんなビビッた声で生言ってんじゃねーよルーキーが」
「はあっ!?」
「や、やめようよさやかちゃん杏子ちゃん」
「ああ」
「うん、まどか、分かってる。
杏子がリアリストだからそうやって言ってるって」
さやかの言葉に、杏子が舌打ちする。
「そう、本来ならば退治しなきゃいけない、私達魔法少女が」
すっ、と、紅茶で喉を湿らせたマミが静かに言った。
「暁美さん、あなたが調べた範囲では?」
「伝説、なら悪魔は討たれ聖なるものは勝利する。
ヒーローと呼ぶに値する魔法少女であればワルプルギスの夜には打ち勝っている。
只、現実的な規模や破壊力、そこから類推されるものを考えた場合、
私たちの戦力では決して楽観は出来ない」
「もちろん、話を持って来た織莉子さんに呉さんも協力する、そう言ってる」
「正直、あの二人も相当な手練れだけど、
ワルプルギスの夜の情報が少なくて確かな事は言えない」
「そうね、現実的な事を考えなくてはいけないわ」
ほむらの結論に、マミも真面目な口調で言った。
「まず、今までの魔獣退治とは桁が違う。
今回だけは、抜けるなら早く言って欲しい。責める事も恥だとも思わない。
私達を含めて一つでも多くの命がワルプルギスの夜を逃れて遠くに避難するなら、
それは一つの選択だと割り切る。
特に元々ここの魔法少女じゃない佐倉さん、
率直に言って伸びしろはあってもこれから伸ばさなければいけない美樹さん、鹿目さん。
もちろん戦力は少しでも欲しいけど、そこはしっかり考えて欲しい」
完全にチームリーダーモードのマミの言葉を、誰もが真剣に聞いている。
× ×
遠い話ではなくとも今すぐではない。
取り敢えず一日考えると言う事で、マミ宅でのその日の会合は御開きになっていた。
「どうするんだ?」
帰路に就きながら、杏子がほむらに尋ねる。
「私は、やるわよ」
「即答だな」
「色々と守りたいものがある。
魔法少女として蹂躙を許して後悔はしたくない。
あなたはどうするの?
巴さんが言った通り元々が管轄外でしょう」
「ま、そうなんだけどね。
只、隣町だから火の粉が飛ぶかも知れないのを待つなら
戦力の充実してるこっちに加わる方が賢い計算かも知れない」
「そうしてくれると助かるわ」
「それに、あー、なんつーかあれだな、
やっぱ、情が移った、って素直に言っちまおうか?」
そんな杏子にほむらはふっと笑みを浮かべ、
杏子もニッと笑ってチョコ付の細棒クッキーを差し出す。
今回はここまでです。 >>195-1000
続きは折を見て。
つまんね
乙
それでは今回の投下、入ります。
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>>200
× ×
(………病院………)
風見野に戻った杏子を見送り、
習慣でパトロールがてら見滝原の街をぶらぶら歩いていたほむらは、
ふと目の前の建物を見上げていた。
ソウルジェムを掌に乗せ、眉根を寄せる。
ソウルジェムが感知した気配を頼りに、ほむらは動き出す。
ほむら自身病院暮らしが長かったから、何となく勘が働く。
病院の敷地内、その中の死角じみた場所で結界に取り込まれ、変身していた。
既に、魔獣の群れが結界内に充ち始めている。
ほむらは米軍仕様M9拳銃を発砲しながら、
一旦目の前の魔獣の小さな群れを突き抜けて振り返る。
病院は人の負の感情が滞留し易い。
その分、魔獣が発生し、被害も大きくなる。
ほむらは舌打ちしながら弓に矢をつがえる。
まだ生き残りの少なくない小さな群れと魔獣の本隊との挟み撃ちになった形だ。
「!?」
どちらが先か、と、少し考えている間に、小さな群れが見る見る減っていく。
「美樹、さやか?」
減少していく魔獣の群れの中から垣間見えたのは、ぶわっと翻る白いマントの中から
ナイトをイメージさせる、それでいて結構にお肌の露出した青い魔法少女衣装に身を包み、
両手に握る二振のサーベルを操り魔獣を斬り伏せて行く美樹さやかの勇姿だった。
今、ほむらの目の前で、
さやかは魔法少女の力で時に軽やかに宙を舞い、時に力強く魔獣に剣を叩き付ける。
確かに、ほむらも魔法少女として何度かさやかと組んだ事はあるが、
こうして二人だけで、と言う機会はなかった。
一瞬、会心の一撃に笑みをこぼすと、きゅっと真剣な顔で魔獣に立ち向かっていく。
目くらましの様に白いマントを翻し、
少女の手には決して軽くは見えない剣を、それも二刀流で使いこなす。
その姿は或いはアスリート、或いは騎士の様に力強く、凛々しい。
「転校生っ!」
さやかの悲鳴に、ほむらがはっとして魔獣の本隊を向く。
既にビーム攻撃を始めようとしていた魔獣に向けて、
魔力の消費は激しいが分裂矢を放った。
「ごめんなさいっ!」
「ぼーっとしてんじゃないよ、らしくないっ!」
「そうねっ!」
叫びながら、ほむらは手榴弾を幾つかまとめて魔獣本隊に投げ込む。
大音響と共に、小さくないダメージを負った魔獣の群れに
ほむらは分裂矢を叩き込んで行く。
「ふんっ、容赦ない、ねえっ!!」
笑みを浮かべたさやかが、ぶうんっと、思い切りよく剣を振るった。
「ほむらもエンジンかかって来たし、片付けよっかっ!!」
「そっちこそ、調子に乗らないでよっ!!」
「言うねえ、っ!!」
さやかとほむらは、怒鳴り合っている間に、
二つの魔獣の群れに挟撃を受ける様な状態になりつつあったが、
背中合わせになった二人は、全然負ける気がしなかった。
× ×
「片付いた、かな」
「そうみたいね」
言葉を交わし、結界が解除されるのを感じながら、
さやかとほむらは魔法少女の力を使って病院の屋上へと移動していた。
「転校生はパトロール?」
キューブの分配の後で、さやかが尋ねる。
「ええ、病院はマイナスの思念が滞留し易い、
魔獣の発生ポイントだから。あなたも?」
ほむらの問いに、さやかは曖昧な笑みで応じる。
「?」
「恭介さ、あの病院に入院してたんだ」
「上条恭介?どこか悪かったの?」
ほむらの問いに、さやかは自分の左腕を右手で握る。
「交通事故、大ケガしてさ、特に左腕がひどかった。
形だけはくっついたんだけど、神経の損傷がひどかったとかで、
聞いちゃったんだよね、恭介の家族に告知があったの。
この先、普通の生活の何分の一まで回復するかが限界だって」
「ちょっと待って、確か上条君はヴァイオリニストで、今も………」
言いかけてさやかを見据えるほむらに、さやかは笑って頷いた。
「上条君はその事を知ってるの?」
ほむらの問いに、さやかは微笑みと共に首を横に振った。
「美樹さやか」
ほむらが、ぼそっと口を開く。
「あなたはどこまで愚かなの?」
「ふうん、喧嘩売ってる転校生?」
苦い口調で言ったほむらの言葉にさやかが返答するが、
その口調はどこか楽し気に挑んでいる。
「好きな男子のために命懸けで戦って何も求めない?
私はそんな聖女になる自信はない」
「そりゃ、あたしだってそうだよ」
さやかは、頭の後ろで手を組み、笑った。
「その辺、マミさんとも散々話したけどね、
マミさんからも大反対されたよ」
「私だって反対する」
「あんたの言う通り、あたしは恭介の事が好き、大好きだよ。
それ認めないとマミさんともまともに話出来なかったしね。
それでさ、んんっ、それで好きな男子とまともな人間関係が出来るのか、
単純と言うかホント馬鹿と言うか、そんなあたしが全部飲み込むか
大好きな相手を一生の負い目で縛り付けるのか、意味で言えばそういう事を色々とね」
「それでも、あなたは契約したのね」
「うん。それでも、諦められなかったからさ恭介のヴァイオリン、
ヴァイオリンを弾く恭介。
すっごく素敵なの、音色も、恭介も、
音楽の事なんて何も分からないあたしにだって分かる、涙が出ちゃうぐらい。
その時期になったらあたしも近づけないぐらい入れ込んで、それが凄く凛々しくて」
「はいはいご馳走様」
「へへっ。だからさ、あたしは、
あたしが欲しい、諦められない大切なもののために命懸けで戦う、そう決めたんだ。
それは、関係ない、って割り切れるものじゃないけど、恭介じゃなくてあたしがやった事。
事故の前に魔獣に襲われてマミさんに助けられて、その時にキュゥべえに勧誘されて、
最初の頃はそんな命懸けの願いなんてなかったからね。
でも、それだけの価値がある願いが見つかった」
「もちろん、志筑仁美はこの事を?」
「知らないよ。まあ、仁美とは色々あったけどね、
流石に、この事で仁美を苦しめたり身を引かせたり、ってのは嫌だったから。
都合よすぎるかも知れないけどさ、恭介にも仁美にも、
今はあたしが勝手に決めた魔法少女の事を押し付けたりしたくない。
力ずくのコンサートなんて、虚しいだけだからさ」
「やっぱり聖女ね」
「どうだか。口ではこう言ってるけど、
ドロドロと喉まで出かかるなんてしょっちゅうだし。
それでも、恋人も、友達も、あたしが愛して来た本物は、それを我慢するだけの価値はある。
あの音色を聞くだけで、仁美と張り合うのが楽しかったりする時も、
これで良かったんだって思えちゃうんだあたし。
転校生だって呆れてるでしょ、これなんてラ○ベとかって」
「そうね」ファサァ
「即答かよ。そりゃそうか」
さやかが毒づいた次の瞬間、ひょいっとほむらからさやかに投げ渡されたのは、
握り拳程のパイナップル型の鉄の塊だった。
「わっ、たっ、とおっ!?」
ぱんっ、と、爆発音と共に、
塊のてっぺんからは旗が飛び出し小さなリボンやら紙吹雪やらが軽く舞い散っている。
「独り身の私が言えるのは、リア充爆発しろ、ってだけね」
「それだけのためにこんなモン作ったのかよっ!?
それもその瞬間に時間停止までしてっ」
さやかの反応にほむらがくくくっと笑い、さやかもアハハと笑みを返した。
「大体さ、転校生ぐらいクールビューティーのスーパー美少女だったら、
男なんてより取り見取りなんじゃないの?」
「そんなモンかしらね?」
「くぅーっ、余裕ぶっちゃってまぁー。
あー、あれか?それともあれか?」
「何かしら?」
「まどかはあたしの嫁になるのだーって、虎視眈々と狙ってるのか?
そーだよね、転校早々一発で仲良くなっちゃって、
まどかも転校生の事、最初っから随分気にかけてたからね。
いい娘だもんねまどかー、素直ないい娘で保護欲に可愛くって、
それでいていざってなったら芯が強かったりしてさ。
そーそー、まどかと転校生、お泊りゲットで家族公認で
ますます親密な空気漂わせちゃったりしちゃってさー。
あれー、どぉーしたのかなぁーほぉーむらちゃぁーんっ?
うぇーっひぃっひっひっ………」
「………」ジャキッ
「オーケー落ち着いて、ジョーク、
クールな転校生の空気を和ませようってちょっとしたジョーク。
だからその銃口ちょっとこっちから外してくれるかな?」
「大体、何時になったらそのタグ外してくれるのかしらね美樹さやか?」
ほむらが、手にした拳銃の銃口からぴゅーっと水を吹きだして嘆息する。
「まあー、冗談はさておき転校生、クール系もいいけど最近大分柔らかくなったよね。
やっぱそれもまどかの………オーケーオーケー懐から手、出して、ゆっくりと。
そっちの方がいいと思うよ。
これでばっちりスマイルしたらもってもてだよほむらちゃーん」
「そうね、それじゃあ早速、
上条恭介にとびっきりのスマイルをプライスレスで………」
「………」チャキッ
「取り敢えず、私の顎の下からそのサーベルの刃、
どけてくれるとありがたいんだけど」
「ふふっ、冗談はさておいて、分かるよ。
幼馴染として言わせてもらえば、どっちかって言うと鈍くさくて口下手で、
でも、あったかいもんねまどかって」
「そうね」
「あ、その笑顔その笑顔、いいねぇ、その笑顔いいねー、
いいよいいよほむらちゃーん、はい、そのままちょっと脱いでみよっか。
取り敢えずほむら、その銃口はあっちに向けといて、
その笑顔で恭介に近づいたら命の保障出来ないから。
あたしもそうだけど、仁美も結構素でヤバイし。
だからさ、思うんだよね」
「何を、かしら?」
ふと、上を向いたさやかにほむらが尋ねる。
「あたしは恭介が好き、大好き愛してる。
その恭介とも、それで本当だったら漫画じゃなくても修羅場りそうな仁美とも、
これなんて○ロゲって感じでなんかいい感じにまとまっててさ。
嬉しいよ、恭介もそうだけど、仁美も小学生の時から大事な友達なんだから。
仁美の気持ち知って、あたしは魔法少女で、
世間並に男の取り合いってなったら色々覚悟したけど、
本当は仁美との友情、無くしたくなかった。それが、今は八方丸く収まってる。
そりゃ、揉めない事も無いけど、それでも幸せ」
「それを聞かされてる私は必ずしも幸せなのかしらね?」
「なははー、ごめんねー。そんな感じで魔法少女になってさ。
マミさんはあれでちょっと甘々で脇が甘かったりするけど、
最初はカッコヨス一辺倒なのがそんな所も見せてくれる様になったぐらいいい関係でいい先輩。
杏子もね、最初に会った頃なんてあたしとボッコボコの喧嘩しまくりで
マミさんが背後でゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴって感じで笑って仲裁するのがいつもの事だったけど、
それでも、根は悪い奴じゃない、いい仲間だと思ってる。
それにまどか、うん、最っ高の友達で幼なじみであたしの嫁。
それに転校生だって信頼できる魔法少女の仲間でいい友達だって思ってる。
そう考えると幸せ過ぎて幸せ馬鹿、って感じかなー」
「断言してあげる、馬鹿丸出し」
「だよねー。そぉーんな馬鹿な状況なんだって。
だからさ、時々思うんだよ。
なんか、どこかで気まぐれな神様がさ、全部が上手くいく様に
ちょちょいって調整してくれてるんじゃないか、ってね」
「………あなたって、鋭いわ」
「へ?」
ぽつりと言ったほむらに、さやかが聞き返す。
「ああ、あんまりユニークな発想だったから」
「そうだよー、あたしは不思議ちゃんだよー。
恭介、今度結構大きなコンサートに参加するんだ」
「それは楽しみね」
「うん、楽しみ」
そう、素直に言い切ったさやかの笑顔は、
まぶしいぐらいに輝いていた。
「奇跡の腕が奏でる奇蹟の歌、最高でしょ。
陰の功労者として人知れず感涙にむせぶのぐらい、やったっていいでしょ。
今更、諦める訳ないでしょそんな事もこんな事も」
そう言って、さやかはぐっと前を見た。
「魔法少女になったあたしに神様がくれた奇蹟だって言うんなら、
守り抜くぐらいの事はやってみせる。
恭介も仁美も家族も、学校も見滝原の街も友達も仲間も、
ワルプルギスだろうがゴ○ラだろうが、
欲張りでもなんでも魔獣にくれてやるものなんて一つもない。
だから、力を貸して暁美ほむら」
「奇遇ね」
ほむらに向き直ったさやかを、ほむらは静かに見据えて口を開く。
「あなたが両腕広げて欲望の限りかき集めてるその辺りに、
私の守りたいものが随分と色々あるんだけど。
この際、まとめて守備についた方が効率がよさそう」
「有難う。みんなが言う通りあたしはまだまだだけどさ、だけど戦力ぐらいにはなるよ。
多分、他のみんなもなんだかんだ言っても、って事になると思うし」
「同感」
「また、その落ち着いた笑顔がいいんだなぁほむら。
そろそろ行こうか、誰か来るかも知れないし」
「そう。それじゃあ………でも、何か不思議」
「何が?」
「何と言うか、別にあなたがどうこう言う訳じゃないけど、
私達がこんな風に一緒にとっくり話すってイメージが」
「それはあたしも、ハッキリ言ってあたしは苦手って思ってたよ。
お高く留まってる、ってのはあたしの勝手な先入観。
一緒に活動しててもいい奴だってのは分かってるつもりだけど、
それでもクールビューティーで孤高で賢そう、ってのが
ちょっととっつき難いって言うかさ」
「ぶっちゃけてくれるわね。
まあ、例の事が近づいてる訳だし、意思疎通はしておきましょう」
「覚悟しなよ転校生、あたしって相当うるさい方みたいだから」
「ええ、まどかから聞いてる」
「そう、じゃあほむらちゃんからも聞かせてもらおうかなまどかの事。
ドーナツでも食べながら。近くにあるんだけどどう?」
「そうね、色々エネルギー使って丁度甘い物が食べたい所」
「決まりっ、行こうかほむら」
「そうね」
意気揚々と動き出すさやかの後に続きながら、
ほむらは静かな微笑みを浮かべていた。
==============================
今回はここまでです。 >>203-1000
続きは折を見て。
乙
乙
乙でした
こいつらが仲良いと和む
感想どうもです。
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>212
× ×
「お邪魔します」
とある放課後、暁美ほむらがマミの家を訪れると、
リビングは既に千客万来の状態になっていた。
「ちょっと、場所作ってくれるかしら」
「はいはいっと」
ほむらの言葉に、美国織莉子の側にいた呉キリカがささっと場所を移動する。
ほむらが魔法道具の楯を取り出し、その中からごそごそと色々取り出す。
「取り敢えずハザード・マップその他、
役所と学校と市立の図書館で集められるだけの資料、集めてみたわ」
「サンキュー」
ほむらの言葉に、美樹さやかが応じた。
「大前提として、現れるのは見滝原で間違いないのね?」
「ええ、現時点では間違いないわ。
私の予知は変更可能な不確定なものだけど、
見えた風景から言って見滝原、
今までの例から言ってもそう遠い時期ではない」
「被害の規模は?」
「大災害、そこら中の建物が普通に瓦礫になってた」
ほむらと織莉子のやり取りに、一同改めて息を呑む。
「だったら、私達に出来る事は限られるわね。
私達は魔獣退治しか出来ない。
魔獣による被害を最小限に食い止めるしかない」
「要は魔獣、ワルプルギスの夜をぶっ倒す、って事か?」
「それが、すぐに出来ればいいんだけど」
杏子の言葉に、ほむらが苦い反応を見せる。
「集めた情報から言っても、まずそう簡単にどうこう出来る相手だとは思えない。
伝説的な魔法少女がいても甚大な被害が出てる相手よ」
「それに、私が見た限りでも、
とてもじゃないけどすぐに対処できるイメージではなかったわ」
ほむらと織莉子が口々に否定してしまう。
「じゃあ、止められないのワルプルギスって?」
さやかが真剣な口調で尋ねる。
「退治、或いは退散、それは出来る、少なくとも伝説の上では可能な事になってる。
それに、放置したらどれだけ被害が拡大するか見当がつかない」
ほむらが答える。
「ビジョンを見た私の考えは、人命優先でやるしかないと思う」
「ワルプルギスの夜が人を襲わない様に、って事?」
さやかの問いに、織莉子が頷く。
「災害級の破壊力を持つとなると、
街そのものの損害を私達で対処するには限度がある、それが現実的だと思う」
ほむらも同意した。
「表面上が災害だとして、住民の避難がどこまで成功するかね。
これは何とか行政に上手くやってもらうしかないわ」
そう言いながら、織莉子は難しい顔をしていた。
「取り敢えず、想定される避難箇所は出して見たけど」
ほむらがコピーされた地図にバツ印を付けて行く。
「だったら、そこに近づけたら駄目なんだよね」
「けど、全部はカバー出来ないよな」
さやかと杏子がそれを見て言葉を続ける。
「被害の少ない場所にワルプルギスを回避、封じ込めて攻撃する、
なんとかそれを成功させるしか………」
あれやこれやと話し合うが、実際の所は分からない事が多すぎて
もどかしい話にしかならない。
とにかく、災害の資料を基に被害を減らす想定をするしかない。
「煮詰まって来たわね」
どちらかと言うとほむらと織莉子が話を主導する中、
聞き役に回りながらも話に参加していたマミが話を引き取る。
「お茶の支度をさせてもらうわ」
「有難うございます」
立ち上がったマミにほむらが言い、杏子が元々崩れていた脚を崩しさやかが伸びをする。
「お待たせー」
会合は続きながらも空気がダレ始めた辺りで、
明るい声と共にマミが戻って来た。
「難しい会議だったし、趣向を変えて温かいものにしてみたわ」
「やったーっ」
「有難うございます」
マミがなぎさと共に並べる蒸籠を見て、
さやかや杏子が声を上げ、ほむら達も少しほっとした様に礼を述べる。
「こういう時は、一旦すぱっとやめるのもいいものよ。
確かに時間は少ないけど、そうした方がいい考えが浮かぶ事もある」
「そうですね」
割とぴったりとした紅のチャイナドレスにお団子髪で雰囲気を変えたマミの言葉に、
ほむらも素直に同意する。
正直、結論の出ない会議に中学生に過ぎないほむらの精神も疲労を自覚していた。
「いただきまーっすっ、美味しいっ」
「うめぇよこれマミさん」
「ほら、美味しいよ織莉子」
「ウェヒヒヒ、美味しいよほむらちゃん」
「そうね、美味しい」
そう言って、確かに美味しい芝麻球と中国茶を嗜みながら、
それでもふと難しい顔を見せたほむらが、マミに視線を向ける。
「?どうかしたかしら暁美さん」
お茶を入れ終わって自分の楽しみも始めたマミがにっこり尋ねる。
「ええ、巴さんにはやっておいて欲しい事があります」
「私に?」
「ええ、出来るだけ早く、間に合う様に」
「私に出来る事なら手伝わせてもらうけど」
「どうしたほむら?」
「ほむらちゃん?」
真面目な口調のほむらに、口々に質問が飛ぶ。
「私達は中学生に過ぎない、って事よ」
× ×
「ただいまー」
ある晴れた昼下がり、
特に市場に向かうでもなく自宅で午後の一時を過ごしていた鹿目知久は、
いつも通りの娘の元気な声を聞いて玄関に向かう。
「ねーちゃ、おかえりー」
「只今、タツヤ」
「こんにちは、タツヤ君」
「お帰りまどか、それから巴マミさん」
知久が玄関に出向いてみると、先行したタツヤが、
まどかと同じ見滝原中学の制服を着て前のめりになった巴マミに頭を撫でられご満悦だった。
「初めまして、巴マミです」
「こんにちは、まどかから話は聞いてるよ」
礼儀正しく頭を下げるマミに、知久が優しい笑みを返す。
既に玄関には、二人が買い込んで来た買い物袋が置かれている。
× ×
「やあ」
「パパ」
台所にひょっこり現れた知久に、
エプロンに三角巾装備のまどかが応じる。
「焼けたわよ、あ、どうも」
同じ姿のマミが、まどかを促しながら知久に頭を下げる。
そして、マミとまどかがオーブンからスポンジを取り出す。
「美味しそうに焼けてるね」
「お蔭様で」
優しい知久の言葉に、マミも嬉しそうに応じた。
「マミさん、氷水こっち置きます」
「ありがとう」
「メレンゲを作るのかな?」
「はい。お父様もケーキ、作ったりするんですか?」
「うん、多少は」
「とか言って、パパのケーキも美味しいんですよマミさん」
「そうなんですか」
「いや、巴さんこそこの焼き加減、見事だと思うよ。
美味しそうな匂いにつられてお邪魔したけど、
良かったら少しお手伝いさせてもらおうかな?」
「お願いします」
マミの言葉を聞き、知久がちょっと台所を探ってからひょいとボウルを持ち上げる。
(安定はレモンを使用。この、手つき………)
半ば社交辞令でにこにこ眺めていたマミの目つきが、
ふと魔獣の結界に挑む様に変化する。
「お粗末様」
「有難うございます」
(三度振り掛けたあの手つきも、あくまで丁寧に確実に、間違いなく手練れのもの。
見た目は滑らか、ムラなく綺麗に泡立てられて)
マミは、頭を下げながら泡立て器をそっと持ち上げる。
(硬さも固すぎず、それでいて落ちない程度の十分な安定。
………これは、っ!?………)
マミは、泡立て器からすくった指を唇に当て、カッと目を見開いた。
(しっかりとした土台を残しながら重すぎない。
華やかな程に花開きながら、一片のベタつきも感じさせない。
この春の淡雪の如き潔さはどうだ。
それでも、コクのある味わいは、丸で散華した桜の様に舌の記憶に残り続ける)
マミが、相変わらず優しい笑顔の知久に視線を向ける。
「じゃ、楽しみに待たせてもらうよ」
「あ、有難うございます」
「ウェヒヒヒ」
知久の言葉にマミがぺこりと頭を下げ、知久はさらりと台所を立ち去る。
(………出来る………)
× ×
「お待たせしましたー」
まどかとマミが、食堂にケーキを運び込む。
「苺ショートのデコレーションケーキです」
「これは美味しそうだ」
「有難うございます」
「わあー、ねーちゃケーキケーキ」
「うん、ケーキだよタツヤ」
温かい歓迎を受け、まどかがケーキを切り分ける。
「どうぞ」
「本格的だね」
マミが紅茶を入れ、知久に声を掛けられてぺこりと頭を下げる。
「いただきまーす」
みんな揃って、唱和。
「うん、美味しい」
「有難うございます、お父様のお手並みも見事でした」
「有難う」
「おいしー」
「ありがとうタツヤ君」
「このお茶は巴さんが?」
「はい、少々嗜むものでして。お宅にいいポットがあって良かったです」
「ケーキもだけど、マミさんの紅茶、美味しいんだよ」
「うん、美味しいよ。
素材もいいものだけど、色々なタイミングがしっかり合ってる」
「そう言っていただけると」
出す前は少々怖いぐらいだったが、結果はこの通り、
マミもそれだけやり甲斐のある相手にこれだけの反応をもらい、
喜色が隠せない程の上機嫌。
お茶会の昼下がりは温かく過ぎて行った。
× ×
「ご馳走様でした」
「はい、お粗末様でした」
夜、食堂で丁寧に挨拶したマミに、知久が礼を返す。
お茶会の後はまどかの部屋での勉強会。
マミも一人暮らしだと事前に話していた事もあり、
夕飯を一緒に、と言う話は簡単にまとまった。
白いご飯に葱と豆腐の味噌汁にハンバーグ・サラダのセット。
シンプル、素朴だからこそ、センスと技量、
もっと言うと誠意がよく分かる料理だとマミは改めて納得していた。
一度とっくり教わってみたいと真面目に思ったりもする。
「たっだいまーっ」
夕食を終え、まどかとマミがリビングでちょっと寛いでいると、
偉く上機嫌なご帰還と重なった。
一同が玄関に移動すると、スーツ姿の鹿目詢子がにこにこ手を振っていた。
「お帰り、ママ」
「おーっまどかたっだいまーっ………
えーっと確か………」
「巴マミ先輩」
「あーそうだそうだ、こないだ会ったっけ」
詢子は、ずいっとマミに顔を近づける。酒臭い。
「まどかから聞いてるよ、美人で格好良くってケーキの美味しい先輩って。
ああー、確かにその通りだわー」
酔っ払いはカラカラ笑って離れるが、マミも嫌な気分ではなかった。
「タツヤは?」
詢子の問いにまどかがにっこり微笑み、場所を移動する。
「おー、ぐっすりだな」
「うん、ちょっとはしゃいでたから」
「そうか」
小声でやり取りをしながら、タツヤの可愛らしい寝顔を覗き込む。
その詢子の顔は幸せに満ちていた。
× ×
「ご機嫌だね、ママ」
「ああー、ちょっと取引先のロシア人とウオツカで張り合っちまってさ」
ざっと着替えてリビングに戻った詢子が、声を掛ける知久に明るく応じた。
「はい、ママ」
「サンキュー」
まどかが、コップとミネラルウォーターの500mlペットボトルをテーブルに置く。
「マミさんと、ママの分もケーキ作ったんだよ」
「おー、そうか。ありがとな。
じゃあそれ、もらおうかな。
お茶漬けでも貰おうかって思ってたけど甘い物がいいや」
「もーっ、太るよママ」
豪快な詢子にまどかが苦笑いしながらも、
冷蔵庫から切り分けたケーキが渡された。
「うんっ、美味しいっ」
「有難うございます」
「これ、マミちゃんが?」
「はい、私と鹿目さんで」
「ウェヒヒヒ」
「ふーん、で、こいつは知久だな」
「はい、その舌触りはお父様にはかないません」
「こいつーっ、でも、旨いよこれ、有難うマミちゃん」
「こちらこそ」
「全く、素敵な先輩だ、
まどかが褒めちぎるだけの事はあるよ」
「いえ、そんな、私の方こそ」
「ちょっと時間遅いけど、家の方は?
確か、一人暮らしだったっけ?」
「はい」
「ご両親、あっちでお仕事?」
「はい、イタリアで。
父は研究………母はミラノの………」
「へぇー、そのブランドなら興味あるわ。
ま、ここで仕事は持ち込まないけどね」
詢子はカラカラ笑ってケーキをパクつき、
気を良くしたマミがスマホを操作する。
「この間も、お仕事が上手く行ってパーティーだって」
「ふーん」
酔眼でマミに差し出されたスマホを覗き込んでいた詢子が、
段々と眉根を寄せて行く。
「ちょっと待て、マミちゃん、このパーティーの写真これだけ?」
「え?あ、ちょっと待って下さい」
マミがデータから取り出した画像を、詢子はじっと凝視していた。
そして、ミネラルウォーターをボトルからラッパ飲みする。
「マミちゃん」
「は、はい」
「悪いんだけど、お母さんの最近の仕事の事、
分かるだけ話してくれないか?」
真剣な詢子に完全に気圧されて、
マミは知っている限りの事を口にしていた。
「ちょっと待っててくれ」
そして、詢子は自分のノートパソコンを起ち上げスマホを操作する。
「ああ、私、そう………
悪いんだけど、ちょっとそれ送って、ああ、そう」
怖々と見守るまどかとマミの前で、
詢子は舌打ちして呟き、更に二人を恐れさせる。
「やっぱりかよ………
マミちゃん、お母さんと話、させてくれないか?
不躾で悪いんだけど、マジで急を要する」
「は、はい」
マミは、言われるままに自分のスマホを操作する。
「もしもし?お母さん?
うん、友達のお母さんが今すぐお母さんとお話ししたいって、
凄く急な用事で、うん、ごめん」
マミが詢子にスマホを渡す。
「もしもし、わたくし、
見滝原中学校二年生鹿目まどかの母親で鹿目詢子と申します。
お嬢さんには娘が大変よくしていただき、本当に有難うございます
大変に差し出がましい事は重々承知しておりますが、
私、…………に勤めておりまして」
完全にビジネスモードに入った詢子を、二人は只、見守る。
それでも、その頼もしさは見事と言う他ない。
「………ああ、そう。だから、そもそもそいつがグルなの。
うちもロンドンでやられかけた。
だからそのルートで調べて………
ああ、色々知ってるから、一刻も早くそっちの事務所と連絡取って対策を………
だからしっかりしろって、お互い娘泣かせたくないだろっ。
いい仕事してるんだから、大丈夫だって今なら、ああ、
じゃあ、そういう事だから、取り敢えず、ああ………」
通話を終え、マミにスマホを渡した詢子は台所に向かった。
「悪い、やっぱ茶漬けもらえるか?」
「分かったよ」
知久と言葉を交わした詢子は、
そのまま洗面所に向かってざーっと頭に水を被る。
「あの………」
「だーいじょうぶだって」
リビングに戻り、流石に不安そうなマミに詢子が笑って応じる。
「マミちゃんのママ、いい仕事してんだから。
ま、ちょっと授業料は出たけど、
まだどうにでもなる段階だからさ。
後は大人に任せな」
「よく分かりませんけど、有難うございます」
「あー、遅くなっちまったな。
マミちゃん今夜泊まっていくか?」
「え、ええと………」
「マミさんなら大歓迎ですよ」
「な、マミちゃん」
「それでは、お言葉に甘えて」
「まどかは先風呂入ってな、
ちょーっとばかしさぁーう゛ぃす残業ぉって奴だから」
「うん」
気軽に言いながら、
視線は徐々に真剣にノーパソに向かう詢子を頼もしく思いつつ、
まどかも返答した。
==============================
今回はここまでです>>216-1000
続きは折を見て。
引き続き今回の投下、入ります。
==============================
>>227
× ×
「んーっ」
しばらくまどかの部屋で過ごしていたマミが一度リビングに下りると、
ノーパソに向かっていた詢子が伸びをしていた所だった。
「まーまー」
「おー、タツヤ、起きたかー。只今タツヤ―」
「まーまー」
とてとて近づくタツヤの額に詢子がちゅっと唇を寄せ、
マミは微笑ましくそれを見守る。
「あの、有難うございます」
「あー、いいっていいって。あたしの得もないではないから。
さ、お仕事も終わったし、一緒にお風呂入ろっか」
「おふよー」
ノーパソを閉じた詢子が、
てきぱきと用意を済ませてタツヤと共に浴室へと移動する。
「麦茶どうぞ」
「有難うございま、すっ!?」
マミが知久から二人分の麦茶を受け取った所で、マミは異変を感じた。
「大丈夫かいっ!?」
「え、ええ、大丈夫です。鹿目さんっ」
揺れが収まり、知久の呼びかけに応じたマミが階段に駆ける。
「鹿目さん、地震、大丈夫だった?」
「だいじょーぶ、そっちは?」
「うん、大丈夫みたい」
大声でやり取りをして、マミはリビングに戻る。
「ママ、タツヤ、大丈夫っ?」
「ああー、大丈夫だ?そっちはっ?」
「うん、みんな大丈夫だよ。
結構大きかったね、大丈夫だった?」
「ええ、大丈夫です」
風呂場とやり取りしていた知久と言葉を交わし、マミが手を伸ばす。
とっさにサイドボードの上に乗せた麦茶のコップが、
不安定な場所に移動してマミが距離感を誤りマミに向けて飛翔した。
× ×
「おわりー」
「って、タツヤ君、全然洗えてないじゃないの。ほらほらっ」
「やーっ」
「こらまてーっ」
浴室の洗い場で、マミが逃げ出そうとするタツヤを後ろからぎゅっと抱き留める。
「うーっ」
「むーっ」
「「ぷっ、あははははっ」」
タツヤがマミの腕の中でくるりと一回転し、
そのままにらめっこして二人とも笑い声を上げる。
「ぶくぶくー」
「はいはい、いい子ねー」
「じゃねーってタツヤ、ホントはちゃんと自分でやるんだからなー。
慣れてるなーマミちゃん」
「時々親戚の子とお風呂入ってましたから」
マミとタツヤの泡だらけのやり取りをのんびり眺めながら、
湯船に浸かった詢子がマミとやり取りする。
「で、大丈夫だった?さっきの地震でコップとか?」
「ええ、中身はとにかくコップはキャッチしましたから。
こちらこそ、汚してしまった上にお風呂までいただいて」
「いいっていいって、服の方は任せときゃ染みとか残さないから」
「何でも出来るんですね」
「ああー、自慢の専業主夫、並の女子力じゃかなわないって」
「そう思います」
どっかで聞いたやり取りをしながら、詢子とマミがくくくと笑う。
「よーし、タツヤこっち」
「まーまー」
タツヤがとててと湯船に向かい、詢子と入浴する。
その間に、マミは体を洗った泡を流し長い髪の毛を洗う。
「綺麗な髪だな」
「有難うございます」
「うちのまどか、素敵なマミ先輩にすっかり憧れてるよ」
「ふふっ、そんな時期もありました。
でも、最近だと割と本性ダダ漏れみたいな」
「それでも、だからこそ憧れてるさ。
まだまだあの通りのお子ちゃまだから、頼むよマミ先輩」
「はい。まどかさん、とてもいい子ですよ。
素直で可愛らしくて、でも………」
「でも?」
「でも、やっぱりお母さんの娘さんだとちょっと思いますよ。
何と言うかのんびり屋さんですけど
意外な程に芯が強いと言うかしっかりしてる所があると言うか、
こんな可愛い弟さんがいるからかも知れませんが」
「まあな、まだまだあの頃の泣き虫に見えて、
あれで結構図太いんだわ。
元々のんびりなのに年食ってから弟出来て、
結構プレッシャーかけちまったからなぁ。
こんな素敵なお姉ちゃんが出来て嬉しいのかもな」
「私も、可愛い妹弟が出来て嬉しいです。
でも、お姉さんも大変です」
「お姉ちゃんなんて、家じゃ駄目駄目なぐらいでちょうどいいんだよ。
まどかはちゃんと見てるよ、
マミちゃんのだらしない所も、その何倍もいい所も。
あいつはそんだけの目は持ってる」
「有難うございます」
マミが髪の毛の泡を洗い流し、立ち上がった。
「おーっ」
「?」
湯船からの詢子の感嘆の声に、マミがきょとんとする。
「いやー、そうだとは思ったけど、
想像以上のナイスバディだねマミちゃん。
うちのちんちくりんのぺったんことは大違い、男子なんかいちころだなこりゃ。
今時のお子ちゃまは末恐ろしいわ」
「まどかさんに悪いですよ。それにちょっと恥ずかしいです」
「ああ、悪い悪い」
からりと言われて、流石にマミも笑いながらちょっと腕で隠して身をよじる。
「このぷにぷにな遠い青春の日々が羨ましい、
オバサンの戯言と許してくれたまえ」
マミのほっぺたをぷにぷにする詢子にマミが苦笑いしながら、
二人がすれ違って詢子が洗い場に、マミが湯船に入る。
「ぷはっ」
「すごいすごいー」
「ぷかぷかー」
「はい、お上手」
湯船の中で、一瞬潜水芸の後でぷかーっと水面に浮いて顔を上げるタツヤに、
タツヤの両手を掴んだマミがにこにこ笑いかける。
「マミちゃん見ててくれてるけど、調子乗ったらあぶねーぞタツヤ。
スタイル抜群の美人さんで、礼儀正しいパティシエ。
くぅー、女子力スカウターどんだけ持ってんだって。
実際もってもてだろうぇーっひいっひっひ」
湯船に身を沈めるマミに、洗い場に出た詢子が笑いかける。
「いえ、そんな事、ないです」
「へえー、ほおー、ふぅーん。
まぁー、そんだけの実力者だからこそ気を付けろよー」
腰を下ろし、体を洗い始めた詢子が言う。
「実際そんだけいい女だからこそだ、
その若さの張りに驕っている内にだ、タイミング間違ったら男も女も引いてる内に、
自分ちで干物んなってるジャージのアラサーおばさんまっしぐらいっちまうから。
ああ、ちょっとオバサンの意地悪が過ぎたかな?」
「いえ、家だと結構ずぼらな方ですから」
「そっか」
タツヤがきょとんとマミを見上げる中、マミと詢子があははと笑い合い、
詢子は髪の毛を洗い始める。
「うー………」
「あー、タツヤ、そろそろ熱くなってきたか?」
髪の毛の泡を洗い流し、
立ち上がってシャワーを浴びていた詢子が言う。
それを見ているマミに言わせれば、そちらこそナイスバディとしか言い様がない。
とてもおばさんとは言えないメリハリのあるスタイルの良さの中に、
バリキャリでお母さんの力強さが溢れている。
「タツヤ君の髪も私が洗いましょうか?」
「いいのか?」
「はい」
「だってよ、ほら、いい子にしてるんだぞタツヤ」
「みーみー」
「ほらー、慌てるんじゃないって」
最終的に、詢子が湯船に戻り、
湯船を出るマミに半ば持ち上げられる様にしてタツヤが洗い場に移動する。
「自分で出来る?」
「シャンプー、やってみな」
「しゃんしゃんー」
紆余曲折を経て、マミが手を添えながら手伝いながら結局洗いながら、
と言う過程を詢子も微笑ましく眺めている。
「目、開けちゃだめよ」
「じゃー、じゃー」
「………はい、終わり」
「あー」
しゃがんでにっこり笑うマミに、
洗い流して顔を拭かれたタツヤが向き合ってぱーっと両手を上げた。
「さて、と、はいはい、慌てないの」
マミが立ち上がろうとした所で、ささっと腰をかがめ、
マミの後を追おうとしたタツヤを抱き留める。
「はい、滑らない様にママの所にね」
「まーまー」
「あー、いい子してたよいい子いい子」
マミが改めてざっとシャワーを浴び、
詢子が数を数えて詢子とタツヤが湯を上がる。
「みー、まーまーみー」
「ふふっ、又ねタツヤ君」
きゅっとシャワーを止めたマミが微笑みかける。
「あーあー、こないだまでほむほむやっかましいぐらいだったのに
この浮気者がー」
「ほむ………暁美さん?」
「ああー、大のお気に入りだったんだけどなー、
タツヤー、マミお姉ちゃんの方が良くなったかー?」
「ふふっ、タツヤ君、ほむらお姉ちゃんの事好き?」
「ほむーっ!ほむほむーっ」
「ありゃりゃ、悪いねーマミちゃん。じゃ、後適当に」
「はい」
「ほむーっ」
「………」
「ほら、マミお姉ちゃんに」
「みー、みー」
流石にどうしようかとちょっとだけ考えつつもマミが小さく手を振り、
詢子とタツヤが浴室を出る。
マミは浴槽に浸かり、ふーっと息をつく。
× ×
「お風呂、上がりました」
声を掛け、マミがリビングに移動する。
「悪いなー、ありあわせで。
まどかのだとつんつるてんのぱつんぱつんだから。
マミちゃんスリムでスタイルいいのにさー」
「もうっ、ママ。
でも、マミさんスタイルいいのホントだし」
「もうっ、鹿目さんも。
お借りして有難うございます」
Yシャツにゴム入りパンツ姿のマミがようやく頭を下げる。
「みーまー」
そこに、たたたーっとタツヤが駆けつけて来て、すとんと転倒する。
マミが腰をかがめる前に、むくっと身を起して顔を上げた。
「うーっ」
「もうっ、危ないんだから」
マミが両腿に両手をついてタツヤの顔を見ると、
タツヤはよいしょと立ち上がる。
「ふふっ、強い子」
「あー」
「ま、コケ方は知ってるからな。
変な時間に寝てたからハイになってんの」
とててとマミに近づいたタツヤの頭をマミが撫でて、
詢子が口を挟む。
「みーまーみー」
ぱーっと両腕を上げたタツヤを、マミが抱き上げた。
「おーおー、最近お姉ちゃんの友達にモテモテだから、
すっかり赤ちゃんしてんなー」
「あ、すいません」
「ああ、いいよ。あたしがちょっと厳しいタチだからな。
他所のお姉さんぐらいはそんぐらいで丁度いい」
「あー、まーみー」
「ふふっ、ありがとう」
にこにこ微笑みながら、マミがタツヤの額をつんとつつく。
「ったく、こないだまでほむほむ言ってたのにこの浮気者が、
先が思いやられるわ」
「まみー、まーみー………」
「あらあら」
マミに抱き上げられながら、ことん、と、
その胸で舟をこぎ始めたタツヤをマミが詢子に引き渡す。
「それでは、お休みなさい」
「ああ、お休み」
小声で挨拶を交わし、それぞれの部屋に向かった。
× ×
「何か、予想以上に色々あったわね」
「ウェヒヒヒ」
まどかの寝室で、客用布団から声を掛けるマミにまどかが苦笑いする。
「でも、達人のお父様にパワフルなお母様、
それに可愛い弟さん。楽しかった。
みんな、鹿目さんの事が大好き」
「うん、私もみんな、家族の事も友達の事も、みんな大好き」
「ふふっ、その内に特別な好き、が言える相手が出来たりするのね」
「ティヒヒヒ、ママもさやかちゃんもそう言ってくれるんだけど、
正直よく分からないんですよね」
「焦る事はないわ、鹿目さんならきっと素敵なひとが見つかると思うから。
凄く楽しかった。私、両親が仕事で離れてるから。
それでも、凄く大事に思ってる、尊敬もしてる。
だから、守りましょうね」
「はい」
「大事な人も、大事なひとと出会う未来も」
「はい」
「それじゃあお休みなさい」
「お休みなさい」
==============================
今回はここまでです>>228-1000
続きは折を見て。
乙
乙
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>237
× ×
「ご馳走様でした」
「はい、お粗末様」
鹿目家でのトーストでの朝食を終え、
マミが食器をシンクに運ぶ。
諸々を経てマミはまどかと詢子と共に玄関に立つ。
「それじゃあ、有難うございました」
「うん、又おいで」
ぺこりと頭を下げるマミに、知久が優しく声を掛ける。
「行ってきまーす」
× ×
「おはよー」
「おはよー」
「お早う、まどか、巴さん」
「ほむらちゃん」
通学路で、まどかとマミはほむらと合流する。
「まどかの家で、泊まりだったんですか?」
「ええ」
「歓迎はされましたか?」
「お蔭様で」
側を歩きながらのほむらとマミの会話は、
事務的な程に淡々としていた。
「それは何よりです」
「楽しかったんだよ、マミさんとケーキ作って」
「そう。私もご相伴に預かりたかったわね」
まどかの言葉に、ほむらは優しい笑顔で応じる。
「おーっすっ転校生」
「お早うございます皆さん」
「だから、何時になったらそのタグ外してくれるのかしら美樹さやか?」
「あ、マミ、おはよー」
そこにさやかと仁美が現れ、マミも自分の同級生と合流する。
× ×
「これで、日付は決まりね、大体の時間も」
放課後、自宅に戻ったほむらは、大量の資料を展開しながら言った。
「助かったわ、有難う。ソウルジェムは大丈夫かしら?」
「ああ、途中で結構魔獣に遭遇したからね、
その辺のフォローは私がした」
同じ部屋で、マミの問いに織莉子に代わる様にキリカが答える。
ワルプルギスの夜に就いて、唯一と言っていい程直接的な情報の手がかりとなっている織莉子は、
何とか工夫して日付が分かる情報を可能な限り絞り込みながら予知能力を発動。
様々な情報と照合しながらワルプルギスの夜が出現する日付を予測していた。
「決して長いとは言えない、だけど、まだ時間がある」
そうして得られた情報に接して、改めてマミが言う。
その言葉に、集まっていた面々も頷いた。
「美樹さん、そろそろ」
「うん」
マミとさやかが立ち上がる。
「じゃあ、あたし達はこれで」
「頑張って」
マミと共に動くさやかに、ほむらが言う。
「それじゃあ、私達はもう少しこれからの事を詰めましょう」
マミ、まどかと共に自宅でのケーキ作りに向かうさやかを見送り、
杏子、織莉子、キリカに緑茶を出しながらほむらが話を続けた。
× ×
様々に限られた条件の下、それでも最大限の努力を傾注しながら迎えた
ワルプルギスの夜到来予定日前日。
巴マミの家の玄関に、二人の濡れ鼠が到着していた。
「これは、お茶で温まる、って言うレベルじゃないわね。ちょっと待ってて」
後ろ髪のツインドリルからだはだばと遠慮なしに水流を垂れ流す巴マミが、
一歩間違えたら画面の中の井戸から這い出て来そうな有様の暁美ほむらに声を掛けていた。
× ×
「生き返るわぁー」
「クールビューティーも形無しね、ふふっ」
浴槽で心底声を上げたほむらに、洗い場でシャワーを浴びるマミが笑いかけた。
「色々ごめんなさい、一緒のお風呂で良かったかしら?」
「ええ」
ほむらも年頃の少女として、
特に、ややほっそりし過ぎている部分が玉に瑕と自覚が無いでもない身として、
年上だからでは済まないマミのスタイルには気圧されるぐらいではある。
それでも、今は時間を惜しむ合理性と優しい姉の様なマミへの信頼が勝っていた。
「一時的な豪雨でしたけど、今の時点で想像以上の土砂降りでしたね」
「そうね、事によっては予定が、って事も考えられるけど、
もう予定通りに動くしかないわ。
急な追加調査に付き合わせてごめんなさい」
「いえ、あそこを十分に調べるには私の能力抜きでは無理です。
それに、巴さんが指摘するまで見落としていたのは私達の落ち度ですから」
話しながら、二人は浴槽と洗い場を交代する。
「そうね、感謝してる。それから、時間やお金の事も、本当に助かった」
ほむらは、かつて行き掛かりで裏社会との暗闘を繰り広げた際、
一石二鳥、三鳥その他で、知略と能力を駆使して
武器弾薬と表に出せない現金を大量に奪取詐取恐喝して相手を破滅させた事がある。
その現金の使用は魔法少女として必要な事に限定して私用を厳に戒めて来たが、
今回事情を話してその一部をマミに提供していた。
「正直言って、助かったのはこちらです。
巴さんの性格から言って、受け取ってもらえないならまだしも………」
「軽蔑されると思ったかしら?
私もそこそこ長い事魔法少女やってるから、多少は汚い事を見たり触れたりもしたつもり。
現実問題として、見滝原防衛隊秘密基地の管理人は間違いなく物入りだし」
「あれだけ遠慮無しの大食らいが何日も半ば常駐、ですからね」
「ええ。半分以上私が楽しんでるし腹が減っては戦は出来ぬ、だもん。素直に感謝させてもらうわ」
「有難う」
もう一度礼を言い、きゅっとシャワーを止めたほむらは両肩に手触りを覚えた。
「本当に、感謝してる。
どんな局面であっても、見滝原にワルプルギスの夜が現れていたら私は戦いに出ていた筈。
これだけ準備が進んだ今、暁美さん抜きにそんな事をしたら、なんて想像するだけでぞっとする」
「そんな、巴さんは強い人です。私なんか比べものにならないぐらい」
震える掌に掌を乗せ、ほむらが言った。
「正直言って今でも怖いわよ。分からない事が多すぎるし、分かっている事は強すぎると言う事だけ。
それでも、暁美さん、美国さん、他のみんなも、みんながいるから何とか頑張れる。
私はその程度のものよ」
「それは、私も同じです。巴さんやみんながいてくれるから、
私のため、私の守りたいもののために、なんとか逃げずに踏み止まっていられる」
「ええ。あの脅威の前では誰も彼も一人一人は大したものではなくて一人一人が大事な仲間。
じゃあ、もうひと踏ん張りしましょう。
上がって、お茶にしましょう。それからタオルも用意して。
この分だとみんな震えて到着しそうだから」
「手伝います」
「有り難う」
× ×
「ただ今ー」
「お帰り」
「おかえりー」
自宅に帰った鹿目詢子は、穏やかな夫、可愛い息子の出迎えを聞き、
過酷な外界の疲れも吹き飛ぶ心地の幸せを実感する。
「いやもうこの通り、先シャワーするわ」
「そうだね」
全身から水滴ってレベルじゃない雨水を溢れさせた詢子が言った。
知久に歩いた後に続く洪水の始末を任せ、詢子は浴場に辿り着く。
「はい。今ご飯出来るからね」
「悪い、食って来るって言ってたけど、
急にここまでひどくなっちゃあな。あー、生き返るわ」
熱いシャワーを浴びて楽なTシャツパンツ姿になり、
知久の用意したブル・ショットを傾ける事で、詢子の体もようやく人心地ついた様だった。
「まどかは、マミちゃんトコだっけか?」
「うん、泊りがけのお勉強会だって」
「ふーん。まあ、学校も休みだしなぁ」
何日前だったか、
この家に泊まりに来た娘の先輩の名前を聞き、詢子は返答する。
いい娘だったので外泊に心配はないと思うし、
この急激な天候悪化だとむしろそっちの方が安全ではあるが。
「お待たせ」
知久の用意した白いご飯と丼の豚汁を見て、詢子は歓声を上げた。
× ×
「いただきまーすっ」
マミの部屋のリビングでは、ワルプルギスの夜対策メンバーとして少なくとも現時点で同意している、
巴マミを初めとした鹿目まどか、暁美ほむら、美樹さやか、佐倉杏子、百江なぎさ、
美国織莉子、呉キリカの面々が鍋を囲んでいる所だった。
「うめえっ」
「美味しいっ、マミさんこれって?凄く美味しいけど」
「そうね、港の雑魚と牡蛎と各種お豆の洋風お鍋、って所かしら。
それから赤身オージービーフのお手頃ステーキとチキンサラダ」
「美味しい」
「美味しいですマミさん、出汁が出て美味しいスープになってて」
ほむらの賞賛にまどかも続く。
「ええ、鹿目さんのお父様が美味しい浜鍋を作ったって言うから、
それがヒントになったのかも」
「へえー、まどかの親父さんが」
「まどかパパはすっごいよー、ねえまどか、ほむら」
「うん」
「確かに、只者ではないわね」
「師匠と呼ばせて貰いたいわね」
まどかに続くほむら、そして杏子から見たら十分只者ではない我が師匠マミの反応に、
杏子は目をぱちくりする。
「はい、なぎさちゃんにはチーズ仕立てを用意したわ」
「うわーい、マミ大好きなのですーっ」
「そっちもうまそうだな、ちょっとくれない?」
「だーめなのですっ」
「こいつっ」
「ほらほら、佐倉さんも欲しいならすぐ出来るわよ」
「あ、ああ、おほんっ、じゃあ貰おうから」
「あたしもちょっと欲しいかな」
「はいはい」
全く以てガキとしか言い様の無い顛末で、
杏子、さやかも新たな味に挑戦し感嘆する。
元々、事態の規模が規模なだけになぎさを巻き込むのは躊躇されていたが、
丁度なぎさの家の都合でこのタイミングにマミが預かる事となっていた。
「なぎさちゃん」
「はいです」
織莉子がなぎさに声を掛ける。
「前にも言ったけど、ワルプルギスの夜の実力からして、
ハッキリ言ってあなた程度では足手まとい、迷惑よ。
それは、あくまで私達と一緒に戦う、と言う場合の話。
だから、あなたの事は最短距離で避難所まで送り届ける。
その間防御に徹する事。それがあなたの事が大好きであなたが大好きな
巴さんのためでありみんなのためでありあなたのため、
あなたが出来る一番大事な事。いいわね」
「分かってます。それは、分かってます」
「本当は私が連れて行けたらいいんだけど」
「あなたの火力は主力過ぎる」
本来の保護者であるマミの言葉に織莉子が言う。
「任せとけって、マミさん。なぎさを送り届けてとっとと引っ返して来るからさ」
「お願い、佐倉さん」
杏子とマミが言葉を交わし、頷き合う。
「でもこれ、チーズのもお鍋のも美味しいですね。
食べ易いしあったまるし」
「ええ、明日に備えて力が付いて温かくてそれでいて重過ぎないメニューにしたから。
大蒜たっぷりだからデートには向かないけどね」
「そうですなー、どっちかって言うとデートってよりデートの後の焼肉屋って感じですなー」
「ごほっ」
にこっと笑うマミにさやかが応じ、ほむらがせき込んだ。
「大丈夫、ほむらちゃん?」
「あれー、ほむらちゃん、どうしたのかなー?」
まどかに続いて、さやかがにこにこ笑って問いかける。
「な、何でもないわ」
「ええと、ほむらちゃん大丈夫?どうしたの?」
「ほーむらちゃーん、なーに想像しちゃってるのかなー?
うぇーっひいっひっひっ」
「さやかはとにかく、まどかも天然なのかあれ?」
三人のやり取りを眺め、杏子がぼそっと呟く。
取り敢えず、目下の懸案が片付いた後、
真っ先にやる事は美樹さやかと屋上で話を付ける事だとほむらの心は再確認する。
× ×
「お風呂、上がりましたー」
「はいはい」
美味しいお鍋を雑炊までいただき、風呂から上がったさやかと杏子がリビングに戻ると、
既に先に入浴を済ませたマミとなぎさ、織莉子、キリカが寛いでいる所だった。
風呂から上がった面々は大体が白いTシャツか黒いタンクトップにジャージズボン姿。
既に自然現象は窓を叩く程の荒れ模様でも決戦は明日。
それでも、一応動ける状態は維持していた。
「それじゃあ、お風呂お借りします」
ほむらが言い、まどかと共に頭を下げて浴室に向かう。
「ほむらちゃん」
「何かしら?」
「ほむらちゃん、やっぱり綺麗だねその髪」
「ありがとう」
シャワーを浴びていたほむらが、浴槽からまどかにそう声を掛けられ素直に礼を言う。
「羨ましいなぁ、私の髪、なかなか決まらなくて」
「とても可愛いわよ、まどかの髪」
「うー、ほむらちゃんのその大人っぽい長い黒髪が羨ましいんだけどなー」
ぶーたれるまどかを、ほむらは微笑んで受け流す。
「まどかがいて、あのパワフルなお母様がいて達人のお父様師匠がいて、
それに可愛い弟さんがいてまどかがいる」
一度交代して、湯に浸かりながらほむらが言う。
「んー、タツヤも末っ子で可愛がってもらって、
昔は私ちょっと拗ねちゃってたみたいだけど。
今はそんな事ないよ。
でも、そう言われるとなんか私って特徴無いって言うか」
「そんな事、どうでもいいわ」
「いいのかなぁ」
「ええ、まどかはまどかだから、そんなみんなに愛される素質があるの。
言語化したら齟齬が生じる、論理的に簡単に説明できる概念じゃないけど、
まどかはそういうものを持ってるって、私はそう思う。
私だけじゃないわ。美樹さやかを見なさい。それに、巴マミ、佐倉杏子だって。
外から改めて割り込んだらよく分かる、まどかがそういう娘なんだって」
「ウェヒヒヒ、なんか照れ臭いけど、有り難う」
髪の毛を洗っていたまどかが苦笑いと共に礼を述べる。
「だから、守りましょう」
「うん」
「大事な人達、大事にしてくれる人達、
そんな幸せの源になっている人達を私達の手で」
「うんっ」
浴槽を挟み、正面を向き合って、
二人は互いの右手を正面から掴んでいた。
× ×
「明日、なんだね」
夜、最後の打ち合わせの後、消灯近くにさやかが口を開く。
「ええ、様々な情報を総合しても明日に間違いないわ」
織莉子が言った。
「あー、なんかまずいテスト前って感じだなー」
「ついでだからヒロインが大昔にワープして
ご先祖様ごとワルプルギスの夜を消してくれる、なんて奇跡は起きないかなー」
「現実を直視しなさい」
杏子の言葉にさやかが言い、ほむらが冷静に宣告する。
「ま、テスト、って言ったらギリギリ学校休みの時間も作ったしね」
「バレてねーだろな?」
「祈るしかないわね」
さやかに続く杏子の問いにほむらは応じる。
「大事の前の小事、あの犠牲を前にしたやむを得ない犠牲、
そう思うしかないわね」
織莉子が静かに言う。
予定日までの三日間程度を丸ごと使える様に、そのためにほむらが用いた手段は、
実害をギリギリ最小限に留めつつ、余り褒められたものではない、
公言し難いものであった事を否定するのは難しいものであった。
「そこまでやったんだからさ、色々迷惑かけた分もみんなまとめて、
やろう、みんなで大事なものを守り抜こう」
さやかの言葉に一同が頷く。
「そのためには十分な睡眠がとても大事よ。
美容のためにもね、どうせ明日はズタボロになるんだから」
マミが言い、一同既にテーブルの撤去されたリビングで雑魚寝に入る。
「お休みなさい」
「お休み」
× ×
翌朝、決して安くはないマンションの一室にいても、
伝わる嵐の感覚はいよいよ以て洒落にならなくなって来ている。
マスコミや広報車でも避難を呼びかけ、最低でも不要の外出を控える様に求めている。
避難指示が出るのも確実だ。
そんな中、このマミの部屋では鶏肉と野菜のリゾット風お粥で朝食を済ませ、めいめい支度に動く。
「うん、ママ。ここから避難所に向かうから」
「仕方がないな、災害用の伝言ダイヤルとサイト、登録したな。
通じなくなったらそっちに連絡入れろよ」
「うん」
携帯で話していたまどかが、マミに近づく。
「ママが」
まどかに促され、マミはまどかの携帯を借りる。
「もしもし、巴です。この様な事になって申し訳ありません」
「約束しろ」
「はい、まどかさんは必ず………」
「何かあったら大人を頼れ、間違っても一人で抱えて無茶はするな。
それから、マミちゃんのケーキ、今度は素面でご馳走してもらいたいな」
「………はい、必ず」
それを眺めていたほむらが、ふと携帯を取り出す。
「もしもし?………ええ、大丈夫。安全に避難できる手筈になってるから。
うん、だから、今は間違ってもこっちに来ようなんて思わないで。
じゃあ、もしもの時の災害伝言ダイヤルの確認………
うん、大丈夫。それじゃあ」
× ×
上条恭介は、軒下で嘆息していた。
コンサートの準備で市外から戻って来る所だったのが、
交通事故と災害級の天候急変にかち合って、その嵐の中を直接避難所に向かう羽目に陥った。
暴風雨の中を突っ切る事になるが、とにもかくにも安全な居場所が無いのだから仕方がない。
さて出発するかと心を叱咤しながら、我が身の運の無さを呪う一言が口から漏れそうだった。
==============================
今回はここまでです>>240-1000
続きは折を見て。
乙
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>251
× ×
5
4
2
1
「見える?」
「ああ」
川沿いの公園に集結していた巴マミ以下の魔法少女達。
既に嵐と呼ぶべき天候の中、
暁美ほむらと佐倉杏子がやり取りをする。
素人であれば何となく薄暗い気味の悪い悪天候、ぐらいの状況だが、
魔法少女に言わせるならば、周辺一帯、
下手をすると見滝原全域が魔獣の放つ瘴気に覆われている。
そして、恐らく素人目には竜巻なのだろう、遠くの空間が歪んで、
その中にとてつもない存在感が、
「よけてっ!」
「防壁っ!!」
キラッ、と、遠くで何かが光った。
次の瞬間には魔法少女は散り散りとなり、元いた場所に爆発が起こる。
そう思った時には、遠くで巨大なストロボの様な光が。
「くっ!」
「あ、サンキュー!!」
美樹さやかが、周辺の時間が止まっている事に気づく。
そして、暁美ほむらに手を引かれ場所を移動する。
遠くに、巨大な何かが存在している。
黒い靄に覆われた、柱の様でもあるし木の様でもある。
地面から立っているのか浮遊しているのかも定かではない。
只、それが、普段魔法少女達が闘っている魔獣、
それを桁違いに禍々しく強力にしたものである事は、何となく理解出来る。
次に飛んで来たのは、固体だった。
巨大な槍の様なもの。
皆がそれを交わすと、猛スピードで地面に突き刺さろうとしていた槍はバラバラになる。
次の瞬間には、辺り一帯に銃声が響き渡っていた。
マミが大量のマスケット銃を、ほむらがM16をフルオートで発砲し、
周辺に大量発生していた、ちょっと前まで槍に見えた魔獣が一掃される。
「固まってたら狙い撃ちされるっ!」
地図は叩き込んでるわね、あのビルを目標にバラバラに接近してっ!!」
「分かったっ!!」
ほむらの叫びに杏子が返答し、皆が動き出した。
× ×
普段は当たり前の様に車が行き交っている高架橋上の幹線道路に銃声が響き渡る。
巴マミが魔獣に取り巻かれながら、ヴェテランらしい手並みで応戦していた。
「オラクルレイッ!!」
「はいはいはいはいっ!!」
そこに飛び込んで来た多量の水晶球が、その後に続く呉キリカが残りの魔獣を斬り裂いていく。
「有り難う」
マミの言葉に、続いて現れた美国織莉子が頷いた。
「丸で、街中に結界を溶かし込んだみたいね。
避難指示で事実上のゴーストタウンじゃなければ大変な事になってる」
織莉子の言葉にマミが頷く。
そして今も、丸で空気から湧き出す様に魔獣が姿を現す。
魔法少女達は異変に気付く。
彼女達が戦う魔獣は、普段は巨大な男性が
体に例えば古代ローマ装束を連想させる白い布を巻き付けた様な姿をしている。
その布が不気味にもごもご動いていた。
魔獣達に巻き付いた布が弾け、その中から大量の触手が飛び出した。
「つっ!」
戦闘の中、その触手の中でも特に太い、両腕を思わせる触手が高架橋の壁に叩き付けられ、
破片が織莉子の頬を走る。
「な、に、を、し、て、い、る?」
その時には、頭部を半ばメロンと化したキリカは既に跳躍していた。
「あああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっっっっっ!!!
ヴァンパイア・ファングッ!!!」
連結された爪が、猛烈な勢いで魔獣を斬り裂き、叩きのめしていく。
そのキリカの横を一斉射撃が通り抜け、キリカの背後で魔獣が消滅する。
「落ち着いて、呉さん」
「落ち着け!?落ち着けって!?織莉子がっ」
「お願い、キリカっ!」
「分かった、よっ!」
叩き付ける様な織莉子の懇願に、キリカはその爪を手近な魔獣に叩き付ける。
織莉子は、ハッと顔を上げた。
「巴さんっ」
そして、織莉子と言葉を交わしたマミは、駆け出してこの場を離れる。
「ここから先は行かせない」
「織莉子の手を煩わせるなんて、雑魚共にはもったいないよ」
大量の水晶球を浮遊させて道を塞ぐ織莉子の側にキリカが馳せ参じた。
言葉通り、キリカの長い爪は次々と魔獣を片付けて行く。
だが、魔獣も又、従来のビーム攻撃を加えた遠近両用の攻撃を展開し、
何より当たり前の様に湧いて出て来る。
「しつっ、こいなあっ!!」
「焦ったら負けよっ」
織莉子が言うが、元々物量戦に向いているとは言えない織莉子からは疲労の色が隠せない。
「くっ!ヴァンパイア・ファングッ!!」
「へえー、長い爪だねキリリン」
どがあっ!!と、キリカの長い爪が魔獣ごと路上を抉った時、
何か気楽な声が聞こえて来た。
「んじゃあ、こういうのはどう?」
確かに、五本の指から伸びていると言う点では、
文学的修辞として爪、と呼べない事もない。
但し、それは固体ではなく、光だった。
一見すると少女の様にも見える少年の手からは、青白い光が伸びている。
只、爪と呼ぶには光である事も問題ではあるが、何よりもその規模が些か尋常ではない。
工業用の切断用熱線を思わせる光が、
建物の一つ二つぶち抜ける規模で直線を維持できる範囲で自在に走り、
近かろうが遠かろうが魔獣どもを好き放題に斬り裂き仕留めて行く。
「つーか」
そういう訳で、金髪の少年は途中からはややルーチンにダレた様子で口を開く。
「こんなんじゃ俺の喧嘩には全っ然足りねぇってレベルじゃないんだけど、
ま、いっか。だったらちゃっちゃと片付けようぜっおりりんキリリンッ!!」
「いきなり誰だ馴れ馴れしい!!」
「頼りにさせてもらうわっ!!」
× ×
「このっ!!」
事務所や製作所が並ぶ間の国道で、美樹さやかはうぞうぞと迫る触手を懸命に斬り払っていた。
次々と現れた魔獣が、全身からにょろにょろ触手を伸ばしてわらわら迫って来る。
「こぉのぉっ!!」
消耗戦を避けるためにも、さやかは二刀を振るい、
触手を斬り払いながら魔獣の群れへと突っ走る。
取り敢えず、手近な魔獣の群れを片付け、肩で息をしていた。
「次来たっ!」
気配を感じてさやかは剣を振るう。
「あつっ!」
だが、腕の様な触手が鞭の様にさやかの脛を襲い、隙が生まれた。
「しまっ!………」
気が付くともう、剣も振るえない。
体は持ち上がり、大量の触手が全身に絡みつき、後は飲み込まれるのを待つばかり。
「ドジッ、たなぁ………」
痛い程の雨粒が未練の痕跡を無理やりにでも洗い流す。
ふと、体が軽くなった。
気が付くとさやかの体は地面に投げ出されており、
魔法少女の防御力と巻き付いたまま切断された触手が落下のショックを和らげていた。
見ると、周囲からは魔獣そのものが一掃され、
魔獣の群れは全滅ではないが随分遠巻きな存在となっていた。
「たすかっ、た………」
その場に尻もちをつき顔を上げ、さやかの目が点になる。
「………へ………へ、へ………」
さやかの周辺から魔獣共を一掃し、更に接近するものをばっさばっさと薙ぎ倒す。
そんな頼もしい命の恩人を前にして、さやかは、
ようやくその勇姿に相応しい定義を自分の語彙から引っ張り出していた。
「………変態だあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!!」
仮にも命の恩人に対する第一声としては実に失礼な絶叫が嵐の街に鳴り響く。
確かに、仮にも魔法少女であるさやかの戦線に乱入し、
苦戦を強いられた魔獣の群れを一掃したぐらいだ。
それを可能とした武器は、水だった。
今更魔法少女が細かい物理的矛盾を言っても仕方がない。
恩人の背負ったホースと手に持っている薙刀の様な道具がホースで接続され、
その薙刀から噴射される、文字通り破壊的な威力の水を
自在に操り魔獣共をぶった斬り破壊していくのは頼もしい事この上ない。
そもそも、魔法少女自体が知らない者から見たらコスプレ軍団であり、
美樹さやか等は、取り敢えず今の仲間の中で比べるならば
ぴっちぴちに健康的なお色気を発散している方である。
もっとも、街によっては、根本的に色々間違ってるとしか言い様の無い
面積やカッティングを当たり前とする同業者の集団もあるらしいのだが、
その辺りの事はここでは割愛しておく。
だが、それでも何でも、首から下はバニーガール。
そして首から上に被っているのは、目の所に穴をあけた、
この暴風雨の中でもそれ以外さしたる損傷も見えない辺り
どんな素材加工なのか無駄に手間暇かけた、見た目だけはスーパーで貰えそうな紙袋。
コスプレ通り越してまんま不審人物の同志は流石にさやかも見た事も聞いた事もない。
その、スーパーセルど真ん中で寒そうってレベルじゃない普通に痛そうな
ハイレグバニースタイルの中身がすらっとしてむちっとしてぼんきゅぼんで
無駄にハイスペックなのがまた頭が痛い。
有り難い事にそんなさやかの魂の叫びを気にもかけず、
紙袋バニーはバニーで何やらにゃんにゃか絶叫しながら魔獣を片付けて行く。
そして、さやかが周囲を見回すと、剣道着の袴を身に着けた少女の細腕が、
杭打ちハンマーを思わせる威力の竹刀で魔獣を叩きのめし、
魔獣にも急所があるのか、くるくる動き回る女学生の指の間で
よく切れそうなカラフルな栞がひらめく度に側にいる魔獣が倒れて行く。
コートを羽織ったレオタード姿の少女の可憐な舞と共に、
長いリボンが豪雨の中でも構わず火花を散らして触れる野獣を切り刻み、
その側では既に瓦礫の街となりつつある一帯をスキーで滑り回る少年もいる。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ
はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!!」
そんな修羅場の中でも一際大きな絶叫、
明らかに機械を通した声に、さやかが思わず耳を塞ぐ。
「さぁさぁさぁさぁ制裁制裁制裁ライブ!!
血みどろ嫌なら伏せちゃってえええええっっっっっっっっっ!!!!!」
さやかはそれに従っていた。
とにかく暴力的な音声、それだけでも立っていられない程だ。
そして、次の瞬間には、本格的に物理的暴力、破壊力を直接伴った大音響が一帯を通り抜け、
うぞうぞと発生していた魔獣が一斉に粉砕される。
そして、さやかは物理的破壊の音と振動を感じる。
さやかが顔を上げてそちらを見ると、
複数台のトラックが頭から建物に突っ込んでいる。
どこから見ても交通事故です本当に有難うございました。
「ひいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!
はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!
れっでぃーすっあーんじぇんとるめーんっっっっっ!!!!!
飛び入りゲストのご登場だァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
そして、そのトラックのコンテナの上で、
見た目拡声器らしきものを通して絶叫する一人の少女にさやかは目を向ける。
この土砂降りの中、ぶかぶかのズボンはいいとしても上は素肌にビキニ。
彼女が何者であるか、美樹さやかは確信する。
「さあさあさあっ!ここから先はメーンエベント!!
扶桑彩愛の制裁ライブにお客は任せて
次のステージに向かいたまえヒィーッハァーッ!!!!!」
「サンキュー変態っ!!」
× ×
暁美ほむらは、何かの跡地の草原でM16を掃射していた。
(まずい所に誘い込まれた。時間も無いのに、
この全域結界状態で無限増殖ゾンビ戦になったらこっちが不利………)
その時、ほむらの両脇を一抱えはありそうな円盤がびゅうっと通り抜け、
背の高い草ごと魔獣共を刈り倒していく。
はっとほむらが頭上を見る。
そこでは、丸で透明な巨人がお手玉をしている様に、
ずっしりと重そうな複数の袋がジャグリングしながら魔獣を次々叩きのめす。
「そぉーれえっ、やっちまいますよぉーっ!!!」
それを合図にした様に、ほむらの両脇を、手に手に得物を持った黒装束の集団が駆け抜け、
魔獣の群れと互角以上の白兵戦を開始した。
更に、その後に続く様に、こちらは一般的な普段着の、
一見して日本人の老若男女の、これも手に手に武器を持った集団が通り抜け、
チームプレイで魔獣の群れと互角以上の白兵戦を展開する。
「遅くなったのよな、魔法少女」
==============================
今回はここまでです>>253-1000
魔獣版ワル夜さんとか使い魔獣とか、かなり独自設定入ってますが。
続きは折を見て。
面白い!
面白い
ようやく禁書勢きたか乙
No.12充填完了
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>260
× ×
「困りましたわね」
静止したエレベーターの中で、一人背中に壁を預けている志筑仁美が呟いた。
他の用事もあって、むしろこちらの方が安全だと言うつもりで
この建物に来ていたのだが、結果は裏目に出た。
最初は只の突発事故かと思ったのだが、
非常電話で確認して見ると急激に尋常ではない災害に巻き込まれたらしく、
修理の目途が立たないと言う返事だった。
仁美が、壁から背中を離し、ふと上を向く。
「すううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅはあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
体の前で両腕を交差、回転させながら呼吸を整える。
× ×
「うぜぇうぜぇうぜえっ!!!!!」
行く手を阻む魔獣を槍で斬り払いながら、佐倉杏子は突き進む。
その後に百江なぎさも続く。
なぎさも善戦してはいるのだが、土砂降りの大嵐とシャボン玉の相性は最悪だ。
そうやって、一時的廃墟の街を駆け抜けながら、二人の耳はクラクションをとらえた。
一瞬、そちらに目を向けた杏子の表情は硬直し、一旦その場を走り抜ける。
そして、二人は変身を解いてから何食わぬ顔で元の道を戻った。
杏子は、路肩に停車したワンボックスカーに近づき、ドンドン窓を叩く。
「きょーこっ!」
「お姉ちゃんっ」
「何やってんだこんな所でっ!?」
パワーウインドが開き、車内からの叫びに杏子が叫び返す。
「人影が見えた気がしたからさ、鳴らしてみたら佐倉さんのお姉ちゃんかよっ」
「どういう事だ大将っ!?」
杏子となぎさが開いたドアから車中に入る。
運転席から声を掛ける顔なじみのラーメン屋の大将に、
杏子は殺気すら込めて尋ねていた。
「大体、なんでモモがここにいるっ!?」
「ああ、お姉ちゃんは友達ん所って言ってたな。
牧師さん一家で見滝原の後援者の人からの歓待を受けて、
それでこのスーパーセルに巻き込まれたって話だ。
何か、直前までの予測とも大幅にずれたこの辺で大嵐になってるからさ」
大将の言葉に、杏子は額を押さえる。
「俺っちは動ける間に知り合いの町内会長とナシ付けて、
炊き出し持って風見野から見滝原の避難所入ってたんだけど、
牧師さん一家は避難所に入ってから、モモちゃん預けて救助に向かったんだ。
近くで、素人でいいから人手がいるって事だな。
そしたら、その間に避難所の方が駄目になってな。
車の事情でゆまちゃんの爺ちゃん婆ちゃんは別の車に乗って、
顔見知りの俺っちがこの二人を引き受けて避難してたんだけど、
この通りドジっちまって立ち往生だ。
この際このままやり過ごせるか考えてたんだけど」
「無理だ」
杏子が吐き捨てる様に言った。
ほほう
「何が飛んで来るか分からない、下手したらこの車でもぶっ壊される。
子ども連れは正直厳しいけど、場所分かってる近くの避難所に入る方がまだ安全だ。
大将はゆまを頼む」
「ああー、分かった。
絶対連れてくから、俺っちから離れるんじゃないぞ」
「うんっ」
「行くぞモモ、あたしから離れるな。
なぎさ、歩けるな?」
「うん」
「はいです、お姉ちゃんなのですっ」
× ×
大量に集結した魔獣の群れが、うぞうぞと外側の道から堤防を登り始める。
そうしながら、腕の様な触手を振り上げる。
その触手が振り下ろされようとしたその時、
激しい銃声と共に多くの魔獣が撃ち抜かれ、消滅する。
それにも関わらず、残った魔獣達は腕を振り上げ、堤防と言う坂の上からの銃撃に撃ち抜かれる。
「させないっ!!」
坂の上の方で、大量のマスケット銃を用意して叫んだのは巴マミだった。
ようやく、脅威を感じたのか、魔獣達がビームを放った時には、マミはひらりと跳躍していた。
堤防壁面の下り坂半ば近く、魔獣の群れのど真ん中に着地したマミが、
魔法で大振りに作り出した小銃を斬馬刀の様に振り回し、
不意を突かれた魔獣を次々と葬らんに吹き飛ばす。
そうしながら左手に取った帽子を振り、スカートの両端を摘み上げる。
魔獣がようやくマミの急襲に反応を始めた時には、
マミが両手に握ったマスケット銃が魔獣を撃ち抜き、
周囲に林立したマスケット銃がとっかえひっかえマミの手に渡り、
魔獣に攻撃の暇を与えず引き金が引かれる。
風も雨も荒れ狂い、半ば水を踏んでいる様な堤防壁面にあって、
巴マミは跳躍し、走り、滑り、交わし、そして撃つ、撃つ、撃つ。
魔獣も又、撃っても撃っても新手が湧いて来る様だが、
それでも、もしかしたら発生スピードを追い抜いたら終わるのでは、
と思わせる様な勢いでマミは次々とマスケット銃を発生させ、
その銃口から破魔の弾丸を解き放つ。
果てしなく何もない堤防の上、荒れ狂う嵐の中にあって、魔獣共相手に必ず、
必ず確実に的確な攻撃を仕掛け、仕留めて行く巴マミの勇姿を飾るに相応しいのは、
本来は終わりの歌、であるが、からから回ったフイルムの後一番最初に聞いた歌か、
或いは、始まった時には超異色だった
光と闇と武器多彩な時代劇の一番最初の終わりの歌か。
腕の様な鞭打ちの触手を交わしていたマミが、
魔獣の全身から伸びる大量の細長い触手にとらえられ空中に吊り上げられる。
その間に、半ば水面と化した地面から黄色い長いリボンが長く大量に増殖し、
魔獣の群れを絡め取っていく。
マミは、僅かに笑みを浮かべ、胸元のリボンを抜き放ちながら、
弱った魔獣から解放され落下する。
「ティロ・フィナーレッ!!」
とても抱えきれない抱え筒の必殺の一撃が、
リボンで押し固められた魔獣の中で爆発した。
堤防のダメージを考えると、容易には使えない大技。
そのままマミは壁面の坂を駆け上り、
未だ残っている、或いは新手で迫って来る魔獣に対して
頂上近くから用意のマスケット銃を激しく撃ち下ろす。
そして、堤防の頂上に上り、堤防上を走る道から川を見る。
マミが見下ろす先では、泥の川が破壊的な程の音を立てて、
川上から川下へ、と言う法則性を辛うじて維持し流れている。
高度を増して益々激しく風に吹かれ雨に打たれながら、
それを見下ろしていたマミが息を呑む。
ぼっ、ぼっ、と、その濁流と随分と高くなった川岸の境界辺りから、
自分の敵が湧き出しているのを目にしていた。
マミが、マスケット銃を発砲しながら、渦巻く濁流に向けて堤防を駆け下りる。
ずぶずぶの地面を駆け下り、必死に勢いを殺す。
うっかり真っ逆様となったら、魔法少女でも死ぬ勢いの濁流だ。
「くっ」
ざざざ、っ、と、辛うじて足を止めながら、
マミは銃撃と共に空中で奇妙に回転して着地しながら水しぶきを上げて転倒する。
それでも、既に堤防を登り始めた魔獣がマミを攻撃する前に、
マミは攻撃こそ最大の防御を大量の銃弾をもって実践して見せる。
周囲を片付け、再び、土気色の川面に銃口を向ける。
いる、想像以上にいる。
距離を取らないと、このままかち合ったら引きずり込まれたら終わりだ。
「ウンディーネ、杯の象徴にして万物から抽出されしものよ」
× ×
「ありがとう、助かったわ」
「あー、いいってこってすよ」
魔獣の一掃された草原で、礼を言うほむらに、
黒ずくめの頭領らしきちびっこな少女は気のいい返事を返す。
そして、ふと携帯電話を取り出した。
「もしもし?ママ?
うん、教会のお仕事、災害で困ってる人を助けに。
大丈夫大丈夫危ない事なんてなーんにもないから。
うん、うん。じゃあ、ママのサンドイッチがいいな。
チャオ、ママ」
と、こんな通話をしていたのだが、
生憎と巴マミですらない暁美ほむらに流暢なイタリア語の読解は荷が重すぎた。
「もしもし………何?」
そのすぐ側で何やら通話をしているおっさんの日本語は、
ほむらにも易々と理解できるのだが、
こちらはとてもほのぼのと言った様子ではない。
「どうかしたんですか?」
その様子に気が付いたほむらが、通話を終えたおっさん建宮斎字に声を掛けた。
「ああ、うちの五和が別働隊で動いてたんだが、
大き目の群れと出くわしたらしい。
それで、五和が一人だけチームからはぐれたって連絡入れて来たのよな」
「心配ですね、手助けしたい所ですけど」
「いや、魔法少女は魔法少女の本分を果たすのよな。
こっちはそんなにヤワじゃないのよな」
「そうさせてもらうわ、助けてくれてありがとう」
「ああ、結局はあんたらが大元退治するのが一番効率がいいって事だ。
だから、後は頼んだのよなっ!!」
「引き受けた、だからあなた達も無事で!」
立ち去るほむらの言葉に、どちらのチームからもおおっと声が上がった。
× ×
「へ………へへへ………
変態だあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!!」
次の瞬間、絶叫したさやかの頭にバールのやうなものがスパコーンと振り抜かれた。
とは言え、ここまでの実績を見ると、
魔法少女に対するハリセンで済む程度には手加減をしてくれたらしい。
そういう訳で、今、国道沿いで魔獣と遭遇していた美樹さやかの周辺では、
赤い服装の女大工(変態)がバールやらトンカチやら鋸やらで手近な魔獣を次々と退治し、
その遠景として、巨大な炎が魔獣の群れを殲滅している。
痛い突っ込みの割にはいい人だったらしく、
十分な戦力で魔獣を引き受けながらバールの先を先に向けて促してくれたので、
さやかは赤い女大工(変態)に礼を言って先を急いだ。
そして、国道沿いの歩道を青い魔法少女が駆け抜ける。
「っとぉー、どっちだったかなぁ」
横に叩き付ける痛い雨粒に顔をしかめながら、
さやかは交差点に立っていた。
取り敢えず、顔を上げて目標のビルを確認するが、
それでも道を確定するには至らない。
取り敢えず、大雑把な方角だけを把握して無人の道路を横切る。
そして、およその行く先を見回しながら、その動きをぴたりと止める。
一瞬、それは自分自身の内的経験がもたらした幻覚かと疑い、
そして何故そのような幻覚を見てしまったのか自己分析しかけて顔が赤くなりそうにもなったが……
一応魔法少女の体力で、まだそこまでイカレていない筈だ、とも思い直す。
だとすると、今、最優先すべきは、今自分が遠くに見たもの。
美樹さやかは、そのために。
さやかが、脚を踏みしめ周囲を見回す。
「結、界」
元々大気自体が結界に近い状態だったのが、一帯が結界そのものになる。
「あの、さぁ………」
さやかが、サーベルの棟を肩に掛けて嘆息する。
「偶然ばったりのお邪魔虫とか、
空気読めってぇーのっ!!」
× ×
「大丈夫ですかっ?」
嵐のゴーストタウンと化した見滝原の街中で、
歩道に蹲っていた上条恭介は、ようやく声に気づき目を開ける。
恭介の顔を覗き込んで声を掛けたのは、
眼鏡を掛けて紅ネクタイにブラウスの制服姿で若干年上の女の人。
全体に茶色がかった長い髪で、一房分かれて伸ばした髪の毛が恭介の顔をくすぐっても、
それ以前に土砂降りの雨足が酷すぎて気にならない。
「え、ええ」
恭介が、よろりと立ち上がる。
「大丈夫かっ?」
その声で、恭介は側にもう一人いた事に気づく。
蹲った恭介に声を掛けていた風斬氷華に同行し、
周囲を伺っていた吹寄制理が立ち上がった恭介に声を掛けて来た。
「すいません、ちょっと、脚を………」
左足首を押さえながら、恭介は顔を歪める。
「取り敢えず、場所を移動しよう」
「すいません」
吹寄と風斬の肩を借りて、恭介が辿り着いたのは
この際無いよりはマシと言う程度の屋根付きバス停のベンチだった。
そこには、紺色のセーラー服姿の雲川芹亜が腕組みして待っていた。
「大丈夫じゃん?」
そこに、ちょっと遅れて戻って来たのは、
作業ズボンに安手の透明雨合羽、その下に黒いタンクトップを着た黄泉川愛穂だった。
「痛いか?骨は大丈夫みたいじゃん」
「ええ。捻ったみたいで。皆さんは?」
「災害ボランティア、の予定だったんだけど」
そう言って、雲川芹亜が嘆息する。
「途中でバスが事故に巻き込まれてね、
脱出した所をこの大嵐って訳」
体育の授業そのままのTシャツショートパンツ姿の吹寄が言った。
「正直参ってるじゃん」
黄泉川が言う。
「本当は待機場所で準備して安全が確認できた所で救援に入る予定だったんだけど、
結果はほとんど着の身着のまま、命からがら脱出して災害のど真ん中に放り出されたんだけど。
そういう訳で、災害ボランティアとしては全く以て失格なんだけど」
普段は飄々と知性で圧する雲川先輩も、天の配剤にはお手上げだった。
「実際その通り、わざわざ他所から来て災害の真っ最中にこっちの公共機関を煩わせる、
お詫びの仕様も無い所じゃん。
只、言い訳をさせてもらうと、スーパーセルの予測が大幅にずれてる。
事前の予測では普通に無関係だった所を直撃して、
こっちは事故で装備ごと車なくした上に居場所も無い。
この分だと私達以外にも少なからず難民化してる筈じゃん」
「僕もその口です」
黄泉川の言葉に、恭介が応じた。
「そういう訳で、他所から来たボランティアが
住民用のリソース奪うのは非常に心苦しいんだけど、なんとか避難所に入りたいんだけど」
「それなら、多分この近くに一つある筈です」
雲川の言葉に恭介が応じる。
「こちらにバスは来ないのでございますね」
見るからに当たり前の事を確認したその声の主は、
バス停の外から中に新たに入ってきていた。
==============================
今回はここまでです>>264-1000
ふふ。ふふふふふ。やっとこさ茶髪の風斬を書く機会が(ちょっと個人的な独り言)。
続きは折を見て。
つまんね
乙
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>274
× ×
「つまり、教会のボランティアで救援活動のためにここに来た訳だけど、
途中で予想外の事故とスーパーセルに巻き込まれて
辛うじて脱出してここまで彷徨って来た、そういう事ですか」
「そうでございます」
日本ではナポリタンと呼ばれるパスタ料理を美味しく作るための
膨大な情報の中からここまで的確な見解を引っ張り出した
雲川芹亜の話術に上条恭介は只只感心しきりだった。
「教会から来たんですか?」
「そうでございます」
普段であればジ○リ宮○映画の中のヨーロッパの片田舎ででも見かけそうな、
素朴な長袖ロングスカートの上下に飾り気のない金色ショートヘアが、
今はここにいる他の面々同様そのままプールに沈んで引き上げられたよりひどい有様の
オルソラ=アクィナスが吹寄制理の問いに返答した。
「持ち物とかはやっぱり脱出する時に?」
黄泉川が尋ね、オルソラは頷いた。
「小さなリョカンでございました。
私の様な者が暴風圏に直接乗り込んでも何も出来ません。
ですので、安全地域のリョカンに泊まって天候が落ち着くのを待つつもりでございました」
「私達も同じです」
吹寄が口を挟んだ。
「私が到着した時には既に雨が降り出しておりまして、
雨の中で着ていた修道服を預かってもらったのですけど、
窓から部屋の中に竜巻に乗った看板が貫通した上に
地盤自体が想像以上に危なかったと言うお報せで、
いわゆるパニック状態になったのでございます」
「滅茶苦茶じゃん」
黄泉川が天を仰ぐが、ここまでの情報から言って起こりそうな事でもあった。
「取り敢えず、ここにバスは来そうにございませんね」
「確認するまでもなく全面運休じゃん」
何度目かの問答だったか思い出すと頭が痛くなるが、それでも黄泉川は律儀に返答する。
「避難所に行きましょう」
「そうね、ここは屋根があるだけほんのちょっとマシって言っても、
又何が飛んで来るか分からないし
流石にこの状況は不健康ってレベルじゃないわ」
恭介の言葉に吹寄が賛同する。
「歩ける?」
「ええ、何とか」
吹寄の問いに恭介が応じる。
「無理はしない方がいいじゃん。
男らしくとかそういう事じゃなくて、
この有様でどれだけ歩くか分からないのに本格的に動けなくなられたら
そっちの方が迷惑じゃん」
「どうぞ」
「すいません」
年上で、一見するとややふっくらかぽっちゃり目にも見えるとは言え、
ブラウスタイにスカートと言う着の身着のままの姿で
焼け出されに近い形で土砂降り暴風雨の大嵐の中に放り出されている。
そんな、素人目にも当然体力ゲージがゴリゴリ音を立ててノンストップでマイナス進行している筈の
風斬氷華の肩を借りるのは男として間違いなく心苦しいが、
骨折こそしていなくともむしろ痛みを忘れそうなぐらい危ない怪我人の身として、
黄泉川の合理的な発言に逆らう気力も体力も持ち合わせてはいなかった。
「よっ、と、適当な所で交代だからね」
風斬と共に立ち上がった恭介を補助し、吹寄が風斬に声を掛ける。
「はい」
「本当にすいません」
「この際、形振り構っていられる状況じゃないわよ」
「ああ、この際人命優先なんだけど」
「で、ございます」
「さあ、出発するじゃん」
× ×
ばしゃばしゃ水を跳ねながら鹿目まどかが走っているのは、
住宅街のただ中だった。
そこそこ昔からありそうな家屋が立ち並ぶ通りを駆け抜けながら、
時折振り返り、弓を引き矢を放つ。
どこからともなく魔獣が湧き出し、まどかに追い縋って来る。
そのまま、走り抜ける予定だったが、途中で足を止める。
まどかが向かった先は、木造住宅があったらしい一角だった。
「聞こえますかーっ!?」
まどかが叫び、耳を澄ますと、確かにまどかは声を聞いた。
ごくりと息を呑む。
魔法少女の体力補正、確かに人間業を超えた力技も可能ではあるが、
既に原型を失った家屋をどうにかして救助する、となると、
ギリギリを遥かに超えた無理のある話だ。
だからと言って、絶対に出来ないのか?と言われるとそれも疑問がある。
一方で、この災厄の大元であるワルプルギスの夜に辿り着き、討伐しなければならない。
それが最も多くの人を助ける道だと言う理屈も理解出来ている。
そして、背後には魔獣がわらわらと迫って来ている。
「すぅーっ、はぁーっ」
鹿目まどかは、呼吸を整えた。
魔獣に向けて、続け様に分裂矢を放つ。
それが終わると共に、踵を返して家屋へと駆け寄った。
× ×
「嘘、だろ………」
佐倉杏子は、公民館の前で立ち尽くしていた。
公民館の正門は閉じられ、
使用に耐え得ない状態になったとして避難先を案内する張り紙が
ビニール袋入りで看板にくくり付けられていた。
「くっそっ、行くしかねぇかっ」
暴風雨の中のこの仕打ちに、気のいい大将も流石に吐き捨てる。
「ちょっと、待て」
正門前に立った杏子が呟く。
「大将、子どもら連れて先行ってくれ」
「はあっ!?何言ってんだっ!?」
「人がいる、かも知れない。恐らく子ども」
「マジか?いや、だけど………それなら俺が………」
「あたしの空耳かも知れない、今目の前の子どもら頼めるのは大将しかいない。
大丈夫、危ない事はしない、確認したらすぐに後を追う。
頼む、寝ざめが悪いのは嫌なんだ」
「………絶対、危ない事するなよ、すぐ追いついて来るんだぞ」
「おねーちゃん」
「きょーこ」
「大丈夫、すぐ戻る」
びしゃっ、と、濡れた手で杏子がモモとゆまの頭に触れる。
「なぎさも………」
「みんなを頼むぜ、なぎさお姉ちゃん」
「………はいです」
なぎさと杏子が頷き合う。
「よっし、しっかり掴まってろよ」
大将に連れられた面々が遠くもない視界から消えるのを待って、杏子は動き出した。
杏子が、塀を超えて公民館の敷地に入る。
「やっぱりだ」
それと同時に変身して、現れる魔獣を薙ぎ倒していく。
「使用不能はこいつらの仕業か?
見えない奴からは災害にしか見えないカモフラージュで
おいっ、大丈夫かっ!?」
杏子が声を掛けたのは、この嵐ではほとんど役に立たない
軒下の壁際に蹲っている女の子だった。
「あ、あなたは?」
「助けに来た、行くぞっ!」
「お姉ちゃんが………」
「はあっ!?」
× ×
「っ、らああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!!」
浅古小巻の振り回した長斧が、まずは周囲の魔獣を薙ぎ払う。
そのまま、うぞうぞと接近する魔獣に次々と斧を叩き付け、数を減らしていく。
それでも、生活道路の塀際に立つ小巻が魔獣に取り囲まれていると言う
全体状況にはほとんど変化が無い。
「時間は、稼げたかな?」
小巻が、近くの塀の裏口にチラと視線を走らせる。
「だからって………」
小巻が展開した楯に、ビームや触手が叩き付けられる。
「捨石なんてなるつもりはないからさっ!
つもり、はね………」
決意を口にしながらも、小巻は見たくもない背後の現実に目を向ける。
すぐそこまで迫った魔獣の群れが、豪快な槍働きに一蹴された。
「あんたがお姉ちゃんか?あっちで心配してるよ」
槍を担いだ佐倉杏子が、逆さにした親指を裏口に向ける。
「はあっ!?まさか、付いて来たのっ!?先に逃げろってあんだけ………」
「って事だ、さっさと片付けて迎え、行くんだよなっお姉ちゃん!?」
「ったり前でしょっ!!」
ずばあんっ、と、大業物が豪快に振り抜かれた。
× ×
堤防の川側斜面から見下ろす巴マミの前で、
濁流の中から巨大な泥水の竜巻が巻き上がる。
空中で竜巻が砕けて泥水の塊が再び降り注ぐ。
それと共に、泥水の竜巻に巻き込まれた大量の魔獣も濁流の川面に叩き付けられた。
その間にも、堤防上でうぞうぞ迫る魔獣にマミが銃を向けようとしたが、
その堤防上にぼごっ、ぼごっ、と次々と土柱が上がり、
魔獣が土柱に飲み込まれ動きを止めた所をマミが撃ち抜いていく。
堤防上の川近くに黒い人影がうごめき、何やら川面に箒を向けている。
それと共に、再び泥水が巻き上がり、
それは細長い泥水の結晶の様な槍と化して川面をうごめく魔獣に飛翔し仕留めて行く。
マミが、ハッと振り返りマスケット銃をそちらに向ける。
そちらでは、魔獣の小さな群れが、既に攻撃体勢に入っていた。
そこに、びゅうと風が吹き抜ける。
マミが目を開いた時には、そちらにいた魔獣の群れは
泥水の槍の餌食になっていた。
残った少数の魔獣とマミは互いに戸惑いを見せたが、
一瞬早く立ち直ったマミが小銃の連射で魔獣を駆逐する。
「流石に、ここまで魔力交じりの嵐だと、
風の支配権をとるのは簡単じゃないみたい」
どこからともなく現れたジェーン=エルブスがばっと扇子を扇ぎ、
泥水の槍が彼女の横を通り抜けて、遠くから接近していた魔獣を討伐する。
何でもいいが、この大嵐の中、実に寒そうな女の子だ。
(ぬりかべ?)
マミの一瞬の連想と共に、マミの横にどんっ、と土の壁が盛り上がり、
どどどどどっと何か、恐らく魔獣の攻撃が激突して壁が崩れる。
崩れた壁の向こうでは、魔獣の群れが泥に半ば押し潰されていた。
「大丈夫ですか?」
「ええ、有難う」
そこに接近して来たマリーベート=ブラックホールにマミが頷いて言う。
その間に、泥の中の魔獣は泥水の槍の落下を受けて倒されていく。
「ひっ!?」
そんなマミの側に、巨大な蛇と言うか龍の様な泥水が
川からぐわっと接近していた。
「そこの人っ!」
その声と共に、泥水の龍はぐわっと引きかえし、
どっぱーんと川の水に戻る。
「魔獣の群れをあちらのテニスコート跡地に誘導したい、出来る?」
すとんとマミの側に着地していたメアリエ=スピアヘッドが箒を向ける。
その先は、どう見ても泥水のプールと化した一角だった。
「水責めでどうにか出来る相手だとも思えないけど、
何か策があるのかしら?」
「ええ」
「分かったわ」
返答した時には、マミの肩には、
明らかに現代的なロケットランチャーみたいなものが担ぎ上げられていた。
マミの放った砲弾が川面の上で爆発し、辺りを明るく照らす。
その時には、三人の魔術師も堤防上に展開していた。
==============================
今回はここまでです>>277-1000
続きは折を見て。
乙
乙
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>285
× ×
「恭介っ!、いるの恭介ーっ!?」
嵐に負けない様に、と、それが容易ではない事を実感しながら美樹さやかは叫ぶ。
「恭介えぇっ!!」
マントでぐるりとその身を包みながら見滝原の街を駆け、叫び続ける。
そんなさやかの周囲に、うぞうぞと不穏な影が忍び寄る。
「邪魔っ!!」
バッ、と、白いマントが開き、
結界も張らずに、或いは見滝原全体を薄い結界と化して襲撃して来る魔獣の群れを、
さやかは二刀流で一閃する。
途中、これ又馬鹿強い北欧のなんとかの見習いだかに助けてもらったりもしたが、
恐らく大元であるワルプルギスの夜が健在である限り斬っても斬ってもきりがない。
だから、一刻も早くワルプルギスの夜を叩っ斬るのが最善。
見滝原を守る正義の魔法少女としては。
だが、さやかは見てしまった。
幻覚、と、片付けられる事であればどれ程良かっただろう。
だが、一縷の望みを託した携帯電話もつながらなかった。
逆に、ほんの僅かな可能性であっても、
それが大当たりしてしまったら自分は死ぬ、色んな意味で、
只、そのために契約した魔法少女である美樹さやかはそう思わずにはいられない。
心の中で何度でも土下座で詫びながら、
後で実行する事に何ら躊躇うつもりもないと腹を決めて、今は探し続ける。
× ×
巴マミが、川の流れとは逆方向に堤防を走る。
走りながら両手持ちにしたマスケット銃を発砲する。
魔獣達は、むしろそれを目標にしてわらわらと寄って来る。
「世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ。」
マミが、ずぶ濡れの堤防にバッと伏せる。
痛い程の雨の中、本当に痛い水の槍が降り注ぎ、
マミの周囲の魔獣を攻撃する。
「それは生命を育む恵の光にして、邪悪を罰する裁きの光なり」
一旦散開しようとする魔獣の群れに対して、
次々と土の壁が盛り上がりその動きを制約する。
「それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり」
マミが、大風に巻き込まれた。
文字通り吹き飛ばされながらも、魔力で次々とマスケット銃を生じさせ、
更に担ぎ砲を撃ち込んで魔獣を刺激して見せる。
「その名は炎、その役は剣」
ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ
と、挑発を受けて移動する魔獣の動きを察知しつつ、
マミはぐるんと向きの変わった風に乗り、スカートの両端を摘みながら堤防に着地する。
元々、魔法少女として大規模跳躍自体はお手の物だ。
そんなマミの側にぼごんっ、と、土の塊が盛り上がる。
「耳、塞いだ方がいいわよ」
そこに駆け寄っていたメアリエに倣いマミもその場に伏せる。
「顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ………
………イノケンティウスッ(魔女狩りの王)!!!」
それは、堤防を揺るがす様な大爆発だった。
「な、な、な………」
土の壁を抜け、立ち上がったマミが呆然とする。
「大方片付いたか。さっさと一服付けたい所だが」
「今のはあなたが?」
その、マント姿の大柄な少年に押し殺した様な声を掛けた時、
マミは銃口を少年に向けていた。
「そうだけど?」
「魔獣ごと堤防を決壊させるつもりっ!?
それで済むなら………」
「それなら大丈夫」
マミの背後から声を掛けたのは、メアリエだった。
次の瞬間、オレンジ色の輝きと共に、だあんっ、と、辺りに銃声が響き渡る。
「続ける?」
濡れた焦げ臭さが微かに漂う中、炎剣を潜り抜けて距離を取り片膝をついたマミが、
銃口を大柄なマントの少年ステイル=マグヌスに向けて尋ねる。
「師匠っ!」
「無暗に銃口を向けられてへらへら手を上げる程、
甘く優しい人格をしている訳ではないからね。
どうだ、マリーベート?」
「なんとか、抑え込みました」
そこに戻って来て報告したマリーベートは、明らかに疲労困憊していた。
「何をしたのか、教えてくれるかしら?」
「イノケンティウス、大量の溜まり水を飲み込む程の大火力で水蒸気爆発を引き起こすと共に、
土に力を注いで堤防の決壊を回避した。
綿密かつ大規模なルーン配置を狭いエリアに集中させたから出来た事よ」
メアリエが代わって答えた。
それを聞き、立ち上がったマミとステイルが向き合う。
「Fortis」
「師匠っ!!!」
ぼそり、と、ステイルの口から洩れた言葉に、
今度こそメアリエが絶叫した。
「931いっ!!」
× ×
「んーんっ!」
鹿目まどかが、魔法少女として強化された感覚と体力を駆使して、
懸命に目の前の家屋だった廃材の山を除け、その下の声に耳を澄ませる。
そうしながら、時折振り返り迫る魔獣に矢を放つ。
絶望的な作業効率であり、現に、作業分配の効率が完全に崩れている事を理解する。
幾度目か、まどかは、弓を引き絞りながら最期を覚悟した。
「?」
思わず目を閉じた、その瞬間に大量の銃声が響いた。
(マミさん?)
まどかが目を開けると、まどかの左右に射撃体勢の十人近い兵士が、
更にその周辺にも二桁の兵士がヘルメット軍服姿で展開していた。
「マジカル・ガールッ!」
周囲に、まどかには辛うじて英語と分かる怒声が響く中、
自分に向けられた声にまどかはぎくりとした。
「救助は我々に任せて敵を討て。ユーの攻撃に合わせて我々が援護する。
オーケー?マジカル・ガール?俺の日本語、大丈夫か?」
「はいっ!有難うございます」
「センサー確認、直接じゃない周辺の不自然な物理的変化に気を付けろ、
勘を信じてぶち込めっ!」
「イエス・サーッ!!」
立ち上がり、弓を引き絞るまどかの周囲で、
M16やランチャーを構えた兵士が体勢に入っていた。
× ×
「これは………」
上条恭介に肩を貸しながら進んでいた雲川芹亜が、目の前の光景に目を見開いた。
「一応聞くんだけど、前からこんなだったのか?」
「いえ、少なくともこんな空地ではなかった筈です」
雲川の問いに、恭介も苦い口調で応じる。
「丸で爆弾か何か。地震だったら分からない筈がないけど」
「竜巻でも通ったじゃん?」
目の前一杯の瓦礫に、吹寄制理に続いて黄泉川愛穂が言った。
「なんか、ここ………だけど………」
理論家肌の雲川が、口ごもりながらも言葉を探している。
その感覚は、恭介にも分かりそうだった。
この、普段着で大嵐に巻き込まれている状況を考えるならば
驚異的にほわほわしているオルソラ=アクィナスですら
恭介が見ても分かるぐらい目を細め、何かを警戒している様に見える。
「くっ!」
恭介を守る雲川とオルソラが、とっさに何かを交わす様に身を縮め、
恭介は雲川が縮めた体に頭から巻き込まれる。
「風斬さん?大丈夫っ!?熱でもっ………」
「い、いえ………」
青い顔で歯をカチカチ鳴らし始めた風斬の異変に気づき、
駆け寄った吹寄が叫ぶ。
ブラウスネクタイにスカートの制服姿で土砂降りの嵐に放り出されての行進。
風邪をひかない方がどうかしていると言う程の状況ではあるが、
風斬の様子はそういう病気とはちょっと違っても見える。
「くあっ!」
黄泉川が近くに落ちていたドアのノブを引っ掴み、
そのままぶんっとドアを振り回していた。
二度、三度、決して軽くはない筈のドアを振り回す内に、
ドアはぐしゃっ、ぐしゃっと確実にダメージを受けている。
「おかしいじゃん」
黄泉川が呻く様に言う。
「嵐に巻き込まれているだけなのに、
何か、悪意の攻撃を受けているみたいじゃん」
言いながら、黄泉川はがんっ、と、何かに向けてドアを振った。
ゆるゆると体勢を立て直す雲川の側で、
上条恭介は確かに聞いた。
「なっ!?」
「つっ!」
既に忘れそうになっていた左足の痛みがぶり返し、
顔を顰めながらも恭介は駆け出していた。
「ちょっ!?」
「逃げるじゃんっ!」
吹寄が、黄泉川が叫ぶ。
恭介は、確かに聞いていた。
何が、と、聞かれると少々困るのだが、一見すると不気味な悪天候、と、言う状況の中、
恭介が聞いた何かは、恭介の頭の中でこれから起こる事のイメージをおぼろに描き出す。
だから、恭介は駆け寄っていた。
上条恭介は、決して体力自慢と言う方ではない。
最近入院して取り戻すのに苦労したぐらいだ。
拳を使った喧嘩もしない。そちらの方は、幼馴染の女の子の方が得手なぐらいだ。
ヴァイオリンに関しては人並み以上の自信はあるが、この場合余り意味がない。
しかも、この大嵐の中、動くのも辛い負傷者だ。
それでも、その怪我人である恭介のために、
この大嵐に普段着で投げ出されて体力的にも限界の筈の女の人が、恭介を見捨てず支えてくれた。
本人がどう自覚しているかはとにかく、
そんな人達の危機から逃れる程、上条恭介の矜持は落ちぶれてはいなかった。
「ぐ、っ」
衝撃が、改めて恭介の左足に痛みを呼び起こす。
吹寄と風斬の前で両腕を広げて仁王立ちになった恭介の前で、
何かと何かが激突していた。
「逃げなさいっ!」
「こっちじゃんっ!」
鋭い叫びと共に、吹寄と風斬が黄泉川の方向に駆け出した。
その時には、恭介はぎゅっと押し付ける様に抱き寄せられ、
そのまま跳躍していた。
「坊やの癖に格好いいトコ見せてくれるじゃない。
だからお姉さん、中までこんなにびしょ濡れよぉ」
その場に恭介を座らせたオリアナ=トムソンは、
窮屈な作業服をバッと脱ぎ捨て、
この嵐の中では素晴らしく寒そうな普段着姿で単語帳の一片を口にくわえた。
「!?あーーーーーーうーーーーーーーーーーーー………」
ぴっ、と、オリアナの唇から単語帳が離れ、
強力なつむじ風が恭介をその場から吹き飛ばした。
無論、そんな恭介に、
新たな単語帳を噛み千切ったオリアナの激闘を目にする余裕などない。
あちこちに崩壊した廃墟があるこの一帯、
恭介は完全に体の自由を失っての飛翔に気絶しそうな恐怖を覚える。
だが、叩き付けられた背中の感触は、案外に優しいものだった。
術式と行動のバランスに優れたいつもの格好でこの戦場に現れた神裂火織は、
全身で受け止めた上条恭介の胸板に左腕を回す形で抱き留め、
そうしながら斬馬刀にも勝る鋼糸を駆使して前面に展開する魔獣の群れを見る見る切り刻んでいく。
「えーいやーとぉーっ!」
そんな神裂の側では、薄い緑色のブラウスにこげ茶色のショートパンツ姿の五和が、
魔獣の激しい攻撃に晒されながらも着実に相手の数を減らしていく。
文字通り目を開ける事も辛い大雨暴風の中、ようやく薄目を開いた恭介も、
すぐ側で身軽に跳ね回り、器用に力強く槍を振り回す五和の勇姿を目にしていた。
上条恭介はまだ知らない、今正に、この場所目がけて
最愛なる少女が猛然と突き進んでいる事を。
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今回はここまでです>>288-1000
続きは折を見て。
乙
乙
それでは今回の投下、入ります。
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>>296
× ×
「邪魔邪魔邪魔超邪魔でぇぇぇぇぇぇぇぇっすっっっっっっっっっ!!!」
上条恭介は、叫び声を上げながら何かがこちらに接近している事に気付いた。
恭介の目に映ったのは赤土色のパーカーだった。
そして、そのパーカーは、大量に何かを吹っ飛ばしながら恭介の方へと急接近している。
「あーあー、超そこの人」
そして、間近に迫ったパーカーから声が聞こえる。
もちろん、パーカーそのものが喋っているのではなく、
顔はパーカーのフードにすっぽり隠れているが声や小柄な体格からして
余り恭介と歳の変わらない女の子らしい。
かくして、嵐の中でほとんど聞こえない状態ながらも恭介は自分で自分を指さす。
「そうです超あなたです」
すぐ側まで接近した相手の声を、今度は何とか聞き取る事が出来た。
頭にフードを被ったパーカー、と言う時点で着の身着のまま嵐の中の恭介達よりは随分マシに見えるが、
それでも、この状況のパーカーにしては丈の短いノースリーブで
その下が半袖ショートパンツと言うのはかなり寒そうなチョイスだ。
にも関わらず、パーカーのウエット感は異常に低く、
今現在濡れ鼠の恭介には妙に快適そうに見える。
「この辺ですらっと背が高くて髪の毛茶色系の十八歳ぐらいにも三十路にも見えるまあ美人とか
ピンクジャージがたゆんたゆんで眠そうな黒髪おかっぱとか
お洒落系ベレーに金髪の女の子とか
超見かけませんでしたか?」
「いや、見なかったけど」
「ああ、そうですか」
恭介がぺこりと頭を下げた赤茶色の背中を見た、
と、思った時には、びゅんびゅん吹き荒れる嵐をものともせず
何かをバキバキ弾き飛ばしながらの聞き込みはその辺で再開されていた。
「邪魔邪魔邪魔超邪魔でえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっすっっっっっっっっっっ!!!」
「何か、片付いたみたいですね」
ドガガガガガガガガガッと魔獣が弾き飛ばしながら
見る見る視界の中で赤茶色のパーカーが小さくなるのを見届け、
周囲を見回して神裂火織が言った。
× ×
堤防上で名乗りを上げるステイルと帽子を振ったマミが、
炎と銃声が交差し、その周辺で魔獣の群れが粉砕される。
「なかなか、しつこいね」
「でも、さっきの攻撃で一挙に削る事は出来た」
ステイルの言葉に、たったっと走り、そして発砲しながらマミが応じる。
その時には、ステイルの弟子の少女魔術師三人も堤防に展開してそれぞれに魔獣退治を続行する。
しゃあっ、と、槍の様な触手の群れがマミを襲う。
マミが、魔獣の小さな群れごとそれを跳び越し、振り返り様に大量の小銃を撃ちまくる。
その銃撃を受けて、魔獣の小さな群れが粉砕された、様に見えた。
「!?」
中途半端に攻撃された魔獣の群れは砕け散る様に見えて、
どぷんっ、と、ゲル化してぎゅるんっと集約していた。
集約したゲル魔獣は、相当な体積をもってマミの目の前で展開する。
マミの上前方でぶわっ、と、マミを頭から飲み込む様に広がる。
「灰には灰に、塵には塵に」
はっ、と、スカートの両端を摘み上げたマミを追い越した。
「吸血殺しの紅十字っ!!」
マミが構えた銃口の先で、ゲル化魔獣はステイルが詠唱した通りの結末で消滅する。
「遅いんだよ馬鹿がっ!」
振り返り、叫んだステイルの横を一斉射撃が通り過ぎる。
「いつだって相手より優位な立場にいると思うのは禁物よ」
「肝に銘じるよ、と、言う事で」
「え?」
マミの銃撃を受けて崩壊する魔獣を背景に、
だっ、と、駆け出すステイルにマミが少々戸惑いを見せる。
「少し、化け物どもの相手をしていてくれ」
言われるまでもなく、と、言うか、そうせざるを得ない。
魔法で作られたマスケット銃が次々と使い捨てられ、
その度に魔獣が動きを止め、粉砕し消滅する。
マミがダダダダダッとその辺の魔獣を撃ち払った辺りで、
堤防の濡れた草の上にばっと伏せたマミの上をごおおっと熱い衝撃派が通り抜けた。
「まあ、即席に近いものだが」
マミが身を起こした時には、炎の巨人イノケンティウスが
片っ端から魔獣を焼き払っている所だった。
「凄い」
最早、ステイルの三人の弟子も、ぽかんと馬鹿面晒して状況を見守っていた。
嵐に濡れた草を幸いに、イノケンティウスが堤防の斜面上を縦横無尽に暴れ狂い
魔獣共を片っ端から飲み込み塵も残さない。
そんなイノケンティウスに負けない勢いで、
巴マミも堤防狭しと飛び跳ねながらマスケット銃を次々作り出し、
それを片っ端から使い捨てに撃ちまくって更に広範囲の魔獣を退治していく。
大きく跳躍したマミが、比較的小柄なものとは言えイノケンティウスを文字通り跳び越した。
そうしながら、空中に大量に発生したマスケット銃を手にしては撃ち手にしては撃ち、
見事な捻りを加えて着地する。
そこを狙って、生き残りの魔獣の太い腕が鞭の様に叩き付けられる。
マミが、たぁーんっと後ろに跳躍してその攻撃を交わし、
魔獣の一撃は土を抉るにとどまる。
メアリエが、後ろに跳躍しながらしゅるっと衣装のリボンを抜いたマミと
その視線の先の魔獣の群れを見比べた。
(又、残りの魔獣が集められて………)
「ティロ・フィナーレッ!!」
マミの肩掛け砲から放たれた砲弾が、魔獣の群れのど真ん中で爆発していた。
「あなた達もいかが?」
「いただこうか」
華麗に着地し、紅茶を一服した巴マミの言葉に、
目を丸くしていた弟子三人を置いてステイルが返答する。
「本当なら一服つけたい所だが、
この嵐に温かいお茶なら拷問クラスの誘惑だ」
「MIA、MIF?」
「そうだね………」
かくして、ステイルが紅茶を傾けている頃、
ようやく理解の追いついた三弟子にもマミが紅茶を振る舞う。
「僕たちが女王陛下の国から来た事を?」
「お仲間との会話に聞き覚えのあるクイーンズが聞こえたから、
私がそのまま喋れるって程じゃないけど」
「お茶のお礼は言っておくよ、ご馳走様」
「「「ご馳走様でした」」」
「それじゃあ、私はそろそろ」
「ああ」
嵐の中のティータイムを負えて、マミがステイルとその弟子を残して堤防から去って行く。
「さて、と………そろそろニコチンの禁断症状が出そうなんだが」
「この際、すっぱり決別しては師匠?」
「いや、当分先らしいね。禁煙も、喫煙も」
言葉を交わしながら、ステイル以下の目が細くなる。
「結局の所、魔法少女に心置きなく大元を叩いてもらうのが一番効率がいい。
それに、お茶のお礼ぐらいはさせてもらおうか」
「「「はい、師匠!」」」
弟子達が展開し、堤防に揺らめく魔獣がごうっとオレンジ色の光に照らされた。
× ×
「あううっ!」
「大丈夫ですかっ?」
「うん、大丈夫」
既に色んなものが吹き寄せられて危険度が上がり続けている国道沿いの歩道で、
風に乗って嫌でも走り出した千歳ゆまを百江なぎさが辛うじて抱き留める。
「おっちゃんにしっかり掴まってろよっ」
「うんっ」
その側で言いながら、人間として目を開けるのも辛い嵐だが、
大人の漢として泣き言を言える状態ではないと何度目かの腹をくくる。
「おーいっ、大将っ!!」
精一杯の叫び声も、ようやく届く程の嵐だった。
「きょーこ」
「おねーちゃん」
「おうっ、追いついたかっ!」
コブつきの重さの違いか、佐倉杏子、浅古小巻・小糸姉妹は、
先行したラーメン屋の大将、佐倉モモ、千歳ゆま、百江なぎさに何とか追いついた。
そして、雨風にまともにダメージを受けながらも、
把握している避難所に向けて一歩一歩歩みを進める。
「この先だったよな」
杏子が言う。
「ああ、ちょっと長い直線だけど、国道一本道だ。
だから、頑張れよ」
「うんっ」
大将の言葉に子ども達が応じて、交差点を曲がり先に進む。
そこで、杏子と小巻が足を止めて息を呑んだ。
「何だぁ?」
大将も何か異変に気付く。
なぎさの腕に抱かれながらモモ、ゆまも寒さばかりではなく震えていた。
大将は何か異様な、と言うぐらいに把握していたが、
杏子と小巻、なぎさは事態をはっきり理解していた。
「完全じゃないけど結界成分が強い」
「みたいだね」
「来るぞ、それも大量に。なぎさ、子どもらを頼む」
「はいです」
魔法少女同士がテレパシーで通信を交わす。
加えて、杏子と小巻が目と目で会話しながら、躊躇する。
ここは、変身すべきか否か。
効率、それ以上に人命優先を考えるなら変身するしかないが、
それでも魔法少女の日常的発想としてやはり後々の事は考えざるを得ない。
「なんだァ?」
場違いな声に、杏子はソウルジェムを握る手を緩める。
「こォンな所でうじゃうじゃガキ連れて、何してるンですかァ?」
「逃げ遅れたってだけだ。説教は後でいくらでも聞く」
杏子が応じる。
「行先は?決まってンのか?」
杏子が、指先を真っ直ぐ向けて返答する。
「そォか。ンなら、邪魔だァ」
次の瞬間には、どんっ、と、何かが突き抜けた様な感覚と共に、
進行方向の魔獣が一掃されていた。
「サンキュー」
目を丸くした杏子だったが、それでも即座に立ち直り礼を言って動き出す。
残りの面々もそれに倣う。
その一行の背後では、本来であれば脆弱な人間がとても逆らえない様な嵐の中、
丸で、それに抗うかの様なもう一つの嵐が力強く巻き起こっていた。
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今回はここまでです>>299-1000
続きは折を見て。
乙
乙
近々いけると思いますが
生存報告しときます
ほ
お久しぶりになります。
それでは今回の投下、入ります。
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>>305
× ×
「まずいわね」
途中、適当なビルの屋上に上り周囲を伺っていた暁美ほむらが、
双眼鏡を手に呻き声を上げる。
そこから見えるのは、魔獣の群れの移動だった。
ビルを降りたほむらは、とある住宅街の生活道路に立っていた。
遠くに、魔獣の群れが見える。
このまま直進して来たら、確実にかち合う。
ほむらも、そのために周囲に武器を林立させてここに立っている。
ほむらの背後、その道をしばらく進むと小学校がある。
このエリアの避難所となっており、そこにあの規模の魔獣が突っ込んだら大惨事になる。
ワルプルギスの夜に急ぎたい所であるが、見逃せる規模の被害ではなかった。
「?」
ゾゾゾゾゾ、と、ほむらに接近していた魔獣が、突如進路を変えた。
曲がり角を左折してどんどんそちらに吸い込まれている。
× ×
「ブーストッ!!」
児童公園の一角で、成見亜里沙の手にした大鎌が一閃、魔獣共を薙ぎ倒す。
それは正に、パンクでも林檎でもない、
一般的なイメージの死神そのものの大鎌であり、
それに相応しい結果を魔獣の群れに与えていく。
その側で、どんどんどんっ、と、詩音千里が二挺拳銃を発砲し少し遠くの魔獣を撃退する。
「あんまり飛ばさないでよっ」
叫んだ千里が泥水を跳ね飛ばしながらぎゅうんっ、と、動いた。
千里体が低く踊り腕が閃き、近くに迫っていた魔獣が次々と銃撃に倒れる。
「まだまだ続きありそうなんだからっ」
「分かって、るってぇのっ!!」
跳躍した亜里沙が一刀両断、着地場所の魔獣を上から叩き割り、
びゅうんっと周辺の魔獣を薙ぎ倒した。
その周辺で、千里が敏捷に駆け回りながら拳銃を連射して魔獣を仕留め続ける。
「ったく、無理はどっちだってのっ」
「休んでられる状況っ?」
「違いないっ!!」
二人の魔法少女が児童公園を縦横に駆けまわり、
その後に魔獣の屍のみを残していく。
それでも、二人背中を合わせて肩で息をしながら、
うぞうぞと周囲で蠢く魔獣を睨みつける、それぐらいの数は残っていた。
「きりがないっ、一気に片付けて………」
「だから、ここでそれは先の事が」
「このままちまちまやっててもジリ貧だって………」
言い合いながらも、決断の時がすぐそこまで迫っているのだけはハッキリしている。
「おぉらああぁぁぁっっっ!!!」
それでも、迫り来る魔獣に激しく鎌を振り回す亜里沙が、
一瞬、嵐の中で跳ねたものに視界を奪われる。
「ちょっ!?」
その一瞬に、亜里沙を突き飛ばしたのは千里だった。
亜里沙の背後に迫っていた魔獣を撃ち倒し、
そのまま前に突っ込み周囲の魔獣に拳銃を連射していた千里が、
方向転換と共に泥水の中をスリップしていた。
「チサトっ!!邪魔あっ!!!」
駆け寄ろうとした亜里沙が、割って入った魔獣を薙ぎ倒し絶叫する。
その間、千里も背中を泥水に浸けながら前方に迫る魔獣の群れに懸命に発砲する。
「らあああっ!!!」
どうも、今までの魔獣とは勝手が違うらしい。
魔獣の体から装束をぶち破って伸びる触手を薙ぎ払い、亜里沙が魔獣の本体を斬り払った時、
千里の周囲では既に距離をとった魔獣の群れがビーム発射のために頭部を輝かせていた。
「へっ?」
絶叫と共に千里の下へと駆け出していた亜里沙が、不意に足に抵抗を感じて転倒した。
「ち、くしょう………」
顔を上げた亜里沙は、目の前に濡れた黒髪を見ていた。
けたたましい銃声と共に千里の眼前から魔獣が一掃され、
千里が振り返ると、そこにはドラム式機関銃を抱えた暁美ほむらが立っていた。
「見滝原の魔法少女?」
立ち上がった千里が尋ねる。
「ええ、暁美ほむら、あなた達は?」
「私は詩音チサト」
「成見アリサ」
「取り敢えず、片付けましょうか」
「そうね」
ほむらの言葉に亜里沙が頷き千里が周囲を見回す。
多少の実力のデコボコはあったが、
それでも三人がかりであれば片付く量の魔獣だった。
「見ない顔ね」
一息ついた所で、ほむらが声を掛ける。
「アタシ達はホオズキ市だから」
亜里沙が答えた。
「どうしてここに?」
「こっちで魔獣絡みの異常事態が起きてるって連絡があったから」
「おかしいわね」
千里の返事を聞きながら、ほむらが周囲を見回す。
「数が少ない。こっちに来ていた魔獣はもっと多かった筈よ」
「まさか………」
ほむらの言葉を聞き、亜里沙と千里が顔を見合わせる。
× ×
魔獣の触手が、壁を叩き壊した。
その隙に奏遥香は魔獣の懐に飛び込み、槍を振るい魔獣を仕留める。
そこは、途中まで取り壊された壁だけが点在する工場跡地だった。
そもそも、遥香は表稼業の都合、
近隣の街の学校の生徒会会長として、災害終息後に何かしなければならないだろうと、
一足早く見滝原の比較的安全な筈の地区に入っていた。
しかし、災害の予想以上の拡大で自分が巻き込まれた上に、
街自体を支配する様な魔獣の表世界への大発生に接し、
最早縄張りを超えた異常事態と判断してそれに対処できる仲間に急報していた。
遥香が跳躍し、魔獣の放ったビームが壁を粉砕する。
槍で触手を払い、本体を貫き仕留める。
元々魔獣は数で押して来るものであるが、
今回対戦している魔獣は、触手を使っている所を初め、
今まで遥香が地元で戦って来た魔獣よりも手ごわい。
(進化、でもしたのかしら?何よりも結界に引っ込まずに市街戦なんて、
暴風雨で避難中じゃなかったら大変な事になってる)
工場跡を利用しながら手ごわくなっている魔獣の群れを裁いていく遥香だったが、
なかなか数が減っていると言う実感はない。
元々、避難所に直行しようと言う魔獣の大群を発見し、
仲間と共に引き付けて引き受ける算段だったのだが、
「少し、無理し過ぎたかしらね?」
「その通りっ!!!」
ぶんっ、と、横薙ぎに魔獣を斬り伏せ、
両端に穂先のついた槍の一端で地面を突いて荒い息を吐く遥香。
遥香がハッと振り返ると、そこでは、
遥香を跳び越え跳躍していた成見亜里沙が遥香に迫る魔獣を一刀両断していた。
詩音千里も二挺拳銃で魔獣の群れを牽制しながら駆けつけて来る。
「無事でしたか」
「ええ」
「又、一人で抱え過ぎです」
「ごめんなさい、有り難う」
「ったく、すかしちゃってさぁ………」
「伏せてっ!!」
千里の叫びに憎まれ口をたたく亜里沙を含めて一同が従い、
駆けつけたほむらの機関銃が周囲を一掃する。
「彼女は?」
「暁美ほむらさん、地元の魔法少女」
「味方、でいいのね?」
「ええ」
遥香と千里が地面に伏せながら銃声に負けない様にやり取する。
「先輩」
「ええ。撃ち方やめて、畳みかけるわよっ!」
「オッケーッ!」
魔獣の群れをほむらがざっくり削り、
戦線を乱した所を突いて残りの面々が動いた。
ほむらが武器を弓矢に切り替え援護する前で、
三人が上手に動き回り再集結の隙を与えずに魔獣の群れを退治して行った。
「暁美ほむらさん」
どうやら片付いた所で、ほむらは声を掛けられた。
「助かったわ、有り難う。私は奏ハルカ」
「あなたもホオズキ市の?」
「ええ。色々あって個人的にここで災害に巻き込まれたの。
それで、魔獣が異常発生してたから仲間を呼ばせてもらったわ」
「見滝原は魔法少女の有力エリアだって聞いてたけど、
明らかに処理追いついてないみたいだしね」
鎌を背に抱えてそういう成見亜里沙は、ここで文句を言ったら
魔法少女的なOHANASHIの一つも始めかねないタイプだとほむらは表に出さずに警戒する。
後の二人、特に千里がストッパーになっている様でもあるが。
「あなたがリーダーなの?」
「いえ、私はサブリーダー」
「そ、うちの鬼の副長」
遥香の言葉に、亜里沙が語尾に笑いを含ませて続けた。
「本隊は別の場所で魔獣の大群に対処してる」
千里が続けた。
「仲が悪いとかそういうんじゃないんだけど、
半分ぐらい二つのチームの合同みたいなモンだからねうちの場合」
「そちらの、本隊の方は大丈夫かしら?」
「ええ、リーダーはヴェテランだし実力は確かよ」
ほむらの質問に千里が答える。
「ワルプルギスの夜」
ほむらが言った。
「この状況の元凶よ。
見滝原の魔法少女はそっちを叩くために総力戦を掛けてる。
この地区の安全、あなた達に任せていいかしら」
「そういう事なら」
遥香が頷き、返答する。
「それじゃあ、お願い」
「そっちこそ、やられんじゃないわよ」
「調子に乗らない。気を付けて」
「この辺りは私達が、暁美さんも気を付けて」
「ええ」
千里が亜里沙に釘を刺し、遥香とほむらが、改めて言葉を交わした。
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今回はここまでです>>311-1000
続きは折を見て。
乙
それでは今回の投下、入ります。
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>>317
× ×
上条恭介
吹寄制理
風斬氷華
黄泉川愛穂
雲川芹亜
オルソラ=アクィナス
神裂火織
オリアナ=トムソン
ワルプルギスの夜、等と言う事情を知らない上条恭介は、
急変した大嵐に巻き込まれる事となり、
行き掛かり上合流したこのメンバーで避難所へと向かっていた。
「とっ」
一行の他に人通りの無い大嵐の路上。
半ば舌を出しながら前のめりになった風斬氷華を黄泉川愛穂が支えた。
黄泉川本人としては暴風雨に芯までずぶ濡れな実感とは言え、
黒いタンクトップに作業ズボンの上下の上に、
安手の透明な雨合羽を身に着けているだけマシな方である。
着の身着のまま嵐の路上に放り出され、どこらか見てもその辺の女子高校生、
夏の通学着そのままのブラウスタイ姿で暴風雨に晒されて来た風斬が無事だと考える方がおかしい。
それは、今現在、学校の体育以外の何物でもない
白いTシャツにショートパンツの吹寄制理も当然似た様なものだ。
それでも吹寄は相当頑健な方らしく、
左足を捻挫した上条恭介に他の者と交代で肩を貸しながら
なんとかここまでペースを保っている。
恭介を見た吹寄に恭介は手で制し頷く仕草をして、
吹寄は一旦恭介をその場に休ませ風斬の元へと向かう。
「限界、ですね」
「みたいね」
いつも通り、最も魔術的意義に於いて効率的な格好の神裂火織が風斬を覗き込んで確認し、
同じくカモフラージュ用ではない
普段通りの姿のオリアナ=トムソンも真面目な顔で応じる。
「ごめんなさい」
「いやいや、私だって、と言うか、
普通だったら今すぐ全員ぶっ倒れてもおかしくない状況なんだけど」
紺色のセーラー服姿できっちりした黒髪故に、これが学校であれば質の悪い嫌がらせの如く
満杯のバケツを何杯でも頭上で引っくり返された様な有様の雲川芹亜が、
切れ切れの声で詫び言を言う風斬に荒い息を吐きながら常識的な見解を述べた
「あのー」
そこに、宿泊先の旅館を洗濯に出した修道服ごと破壊され、
やはり普段は外では着ない
長袖ロングスカート着の身着のままのオルソラ=アクィナスがトトトと駆け寄って来る。
「建物には入れる様でございますが」
オルソラが指したのは、一軒のビルだった。
「自動ドアの電源は落ちててもこちらのドアから入れるって事なんだけど」
そこそこ大きなビルの前で、ぞろぞろと移動した一同の中で雲川が確認した。
「避難の時に手違いがあったじゃん?」
「問題はこのビルが保つか、って事なんだけど」
黄泉川に続いて、ここまで日本の近年の風雨水害でも
稀なレベルの瓦礫の山を見て来た雲川が懸念を示す。
「確かに、ビルごとイッちゃうか中までびしょ濡れかの選択だけど、
選択の余地あるかしら?」
オリアナが、一行に視線を走らせて言う。
少なくとも中高生組の体力は明らかに限界を超えていた。
× ×
暴風雨の直撃を避けられただけでも地獄から天国なのは確かだったが、
それでも激痛が去った後の痛み、と言うには強烈過ぎる疲労やら痛みやら体力の消耗やら、
自覚している状態でも今すぐどうなるか分からない。
中には例外もいるのかも知れないが、そんな状態の上条恭介他の一同が、
無人のビルの廊下をぐっしょり重い体を引きずり進んでいた。
「どこか、休める所があればいいんだけど」
雲川芹亜が周囲を見回して呟く。
「給湯室?お湯とかあるか?」
「ちょっと見て来ます」
吹寄が言い、神裂に肩を借りながら丁度近い位置を進んでいた恭介が
ひょこひょこと給湯エリアに入る。
「………だああああっ!!!!!」
そこから尻餅をついた恭介を見て、一同がざざざっと暗い給湯エリアに入ると、
滝壺理后がストラップ式ライトで下から自分の顔を照らしていた。
「つまり、仲間とはぐれたじゃん」
「そう。本当は待ち合わせて、
あすなろ市で開催予定だったスライス秋山の海鮮弁当フェアに行く予定だった。
位置関係自体は分かるけど、物理的に向かう手段が無い」
事情を確認する黄泉川に滝壺が応じる。
「確かに、この様で装備も無しだと普通に遭難するから
ここでやり過ごすしかなさそうなんだけど。ここにお湯か何かは?」
雲川の問いに、滝壺は首を横に振る。
ピンクジャージ姿の滝壺もここにいる他の面々に負けず劣らずの濡れ鼠、
状況や考える事は同じらしかった。
× ×
上条恭介
吹寄制理
風斬氷華
黄泉川愛穂
雲川芹亜
オルソラ=アクィナス
神裂火織
オリアナ=トムソン
滝壺理后
以上の一行が、既に業務終了中らしきビルの廊下を移動する。
上条を初め大半の者は事故で大嵐の真っ只中に着の身着のままで投げ出され、
暴風雨の中を普段着で行進して最早ゴールの避難所に辿り着く体力もなく、
こうして緊急避難的に侵入可能だったこのビルに避難している。
「無駄に豪華な社長室、ってトコかしらね?」
そうして、ようやく使えそうな部屋を見つけたオリアナ=トムソンが、
割と豪奢な部屋を見回して行った。
「まあ、そういう訳じゃん」
黄泉川愛穂が言う。
「取り敢えず、このずぶ濡れの状態だけでもなんとかしないと本気で命に関わるじゃん。
他に誰もいないみたいだし、男子って事で、ちょっと先に廊下で頼むじゃん」
「分かりました」
既におよその説明を受けていた上条恭介が応じる。
ここにいる皆と共に暴風雨の中を普段着で歩き回った恭介も既に心身ともに疲弊しきっており、
一杯の白湯で悪魔に魂を売って一杯のラーメンか稼働可能なダルマストーブでもあれば
一生魔物と戦う契約書にサインしかねない程、僅かにでも楽になる事なら嫌も応もなかった。
そういう訳で、女性陣を社長室に残して恭介は廊下に出る。
そこで、最早呪いの服と化して、
着ているだけで持ち主の体力をバリバリ略奪していた衣服を体から引っこ抜き、
びしょびしょに張り付いて脱ぐだけでも激しく時間と体力を消費する衣服を
ようやく体から引きはがすと、途中の掃除用具入れで発見したバケツの上で絞り始める。
そうやって絞ったシャツで体を拭っては又シャツを絞る。
実際、呪いの服以外の何物でもなかった事は恭介にもすぐに実感できた。
現在進行形でゴリゴリ削り続ける大幅なマイナスがゼロに近づいて安定した、
と言うだけでこれだけ楽になると言うのが厳しい所だ。
そうやって、ほんの僅か楽になると、捻挫した左足が熱を持って痛む事も
文字通り痛切に思い出される。
× ×
「こんなものがあったじゃん」
社長室に残った女性陣の中で、黄泉川愛穂が見つけたのは巨大な壺だった。
「中国の壺でしょうか」
神裂火織が言った。
「そうでございますね。
色々と薬膳の具材を入れてスープを煮るために用いる壺の様でございますが」
オルソラ=アクィナスが言った。
「まあ、この見た目なら普通にお飾りみたいなんだけど」
雲川芹亜が言った。
「バケツ、代わり見つかったからこっちに持ってこなくていいから」
「分かりました」
吹寄制理と上条恭介がドア越しに言葉を交わす。
かくして、大真面目に命に関わる緊急避難と言う事で一同の意見は簡単に一致し、
廊下の上条恭介同様、社長室の面々も体力を食い尽くす呪いの服と化した衣服を脱いで、
放っておいてもバタバタ滴り落ちる衣服を壺の上で絞りに掛ける。
そうやって、辛うじて水気を減らした衣服で体を拭い髪の毛を拭い、
再び重く湿った衣服を壺の上で絞る。
その間に、神裂火織が何とか社長室の空間にワイヤーを張り、
絞り終えた衣服をそこに広げて掛けて少しでも空気に当たる様にする。
とにもかくにも、大半の者は文字通り全身溢れ返る水分から解放されて、
僅かばかり楽になった、と言う感覚を全身で満喫し、へたり込んでいた。
「大丈夫?」
「え、ええ、大分楽になりました」
吹寄が床に体育座りしていた風斬に尋ね、
風斬がふらりと立ち上がる。
「無理しない方がいいんだけど」
「大丈夫、です」
雲川に声を掛けられ、左手で右の二の腕を掴んでうーんっと背伸びした風斬が、
そのままトトトと後ろに向けてよろめき歩く。
「ちょっ」
それを見て誰かが声を上げるが、
後ろに向けて転倒しそうになった風斬がくるりと一回転して、
ぼんっ、と、正面から壁にぶつかった。
「大丈夫っ!?」
「え、ええ………」
寸前で両手を壁に叩き付ける事で辛うじて顔面の激突は回避していたが、
それでも壁にぶつかった体は結構痛い。
「はわっ?」
「ん?」
「わわわわわっ!!」
叫び声を上げる風斬を、吹寄が慌てて後ろから抱き留めた。
と、言うのも、突如として風斬の目の前の壁が消え、
その向こうに引きずり込まれそうになっていたからだ。
「隠し扉ですか」
その壁を調べた神裂が言う。
「普通の壁にカモフラージュされていた引き戸が、
今の拍子で何かが外れて動いたみたいですね」
かくして、社長室にいた一同は突如姿を現した隠し部屋に足を踏み入れる。
そこは、殺風景な小部屋だった。
「何か書いてある」
入って右手の壁を見ていた吹寄が言う。
「英語、じゃない」
「イタリア語、四行詩?」
吹寄に続き、雲川芹亜が言った。
「これだけだとお手上げね」
オリアナ=トムソンが言った。
「どういう事ですか?」
吹寄が尋ねる。
「これは、多分暗号。それも二段構えのね」
オリアナが言った。
「表向きの暗号は割と簡単に解ける、
余り頭の良くない人間はそこで納得するんだけど」
雲川が続ける。
「二段目に入ると、途端に難しくなるんだけど。
解く事自体は簡単に出来るんだけど」
「簡単に出来過ぎる」
雲川の説明にオリアナが続ける。
「最低でも百通りの答えが出て、どれが正解なんだか分からないんだけど」
「多分、一段目と二段目の間に入る簡単なキーワードを作った本人が………」
「****」
オリアナが言いかけ、
未だしっとりでは済まない湿り気を帯びた黒髪をばりっと掻いた雲川の背後で、
淡々と呟く者がいた。
雲川達が振り返ると、そこではオルソラ=アクィナスが両手の指を組んで四行詩を眺めている。
「今、なんて言った?」
オリアナが尋ねる。
「ですから、この四行詩から導き出される四桁の数字でございますね。
それでしたら****になる筈でございます」
「いや、それは………」
「そもそも二段目は不要なのでございます」
雲川が否定の言葉を口にする前に、オルソラがするりと言い抜ける。
「それは、そもそもこの詩文の………示す所は………」
のんびりした口調はそのままに、
吹寄の様に分からない人間にも素晴らしく知的である事は分かるオルソラの説明に、
オリアナはぽんと手を叩き、雲川の眉がひくひく動いている。
「と言う具合に、一段目の暗号を解読した上で差加えた数字が答えなのでございます」
「?」
そこで、ようやく四行詩に向かっていた一同は、カチカチと言う音に気付く。
そこでは、入口から向かって左側の壁で、
風斬氷華が壁に張り付いた機械のボタンをカチカチ押しているのを
滝壺理后がぼーっと見ていた。
「それは、っ?」
「このナンバーの事じゃなかったんですか?」
駆けつけた雲川に聞かれ、風斬が答える。
壁に張り付いているのは、電卓を大きくした様な機械だった。
ごおん、と、音と共に、入口から入って正面の壁が開く。
「金庫、なんだけど」
開いた壁の向こうに鎮座しているものを見て、雲川が言った。
「別に用事はないじゃん」
「まあ、それはそうなんだけど」
黄泉川愛穂と雲川が同意する。
「金庫はとにかく、他に何か役に立つものでもあればいいんだけど」
そう言って、吹寄がさして広くもない部屋を見回す。
「あ、れ?………」
殺風景な隠し部屋がぐにゃりと歪んで見えた。
「大丈夫ですか?」
ふと、肩を支えられ、優しい声がかけられる。
「あ、すいません」
自分の背後にいた神裂火織に、吹寄が礼を言う。
「立ち眩みかな?」
「疲れているんです、無理もありません」
「はい。でも、もう大丈夫ですから」
「!?ちょっと待ちなさいっ!!」
すたすたと金庫のあるエリアに歩き出した吹寄にオリアナが叫んだ。
金庫のあるエリアだけ、カーペットが敷かれている。
オリアナの感じた非常に悪い予感を他所に、吹寄は一歩、そこに足を踏み入れていた。
× ×
バケツに絞り込んだ水を掃除用水道に捨てて、
上条恭介は薄暗い廊下を社長室近くまで戻ってきていた。
一応水を絞った衣服は、畳んで消火栓の箱の上に乗せてある。
「へ?」
壁際の床にバケツを置いた辺りで、
上条恭介はぽかんと立ち尽くす。
彼の脳が、目の前の光景に対する分析力の限界を突破した結果だった。
社長室にいた面々が廊下に飛び出して、
ドドドドドドドドとばかりに突進し来る。
それは、今現在社長室に充満している防犯用唐辛子ガスから逃れるためだった。
只でさえ限界近くまで疲弊して視界も碌に効かず裸足で濡れた床を
先頭切って走っていた風斬氷華が、上条恭介の胸に飛び込んで来る。
「つっ!」
がこん、と、茶髪に包まれた部分が鼻に当たった痛みを感じながらも、
上条恭介は腕の中に風斬を抱え、踏ん張ってみせる。
そこで、上条恭介は、自分が左足を捻挫していた事を想起せざるを得ない。
何か、その辺をぐるんぐるん回った気もするが、
気が付くと、背中が何かに跳ね返されてその場に座り込んでいた。
「大丈夫でございますか?」
「あ、ありがとうございます」
まだ十分に濡れた前髪を少し避けながら、腰を曲げて尋ねるオルソラ=アクィナスに、
上条恭介が座り込んだまま頭を下げる。
どうやら腕に抱き込んでいた風斬も無事らしい。
「大丈夫ですか?」
「は、はい、ごめんなさい」
取り敢えず風斬をその場に座らせたまま、恭介は立ち上がろうとする。
「と、ととっ」
「危なっ」
疲労と負傷が重なり、勝手に後ろに進む体が
背後に回ったオルソラに全体的に受け止められ、
吹寄制理が恭介の右腕を、滝壺理后が左腕を抱き留めてストップする。
「大丈夫?」
「ええ、すいません」
吹寄と恭介が言葉を交わし、その前で風斬がよろよろ立ち上がるが、
その両腕が宙を泳いでいる。
風斬の両手が恭介の両肩を掴み、やっと落ち着いたらしい。
そこに、社長室を脱出した他の面々もようやく集まり始めていた。
「恭介ーっ!恭介いるの恭介ぇーっ!!!」
「ほおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………
せぃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!!」
どこかから呼びかける叫び声が聞こえて来たのと、
志筑仁美が気合一閃恭介の視界の向こうのエレベータードアをこじ開けたのと、
風斬氷華の右足の裏が水たまりを蹴って
辛うじて上条恭介の体を支えにしてずずずっと体勢を崩したのは
ほぼ同時の出来事だった。
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今回はここまでです>>319-1000
続きは折を見て。
乙 ずぶ濡れハーレムに迫りくる修羅場 やはり上条の血は抗えないか
それでは今回の投下、入ります。
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>>330
× ×
佐倉杏子と浅古小巻は、
避難所として身内や知人と転がり込んだ筈の
見滝原市内のとある学校の廊下でひっそり行動していた。
「あんたも来るのか?」
「行く」
杏子の問いに小巻が答える。
「無差別正義の味方じゃなくてもこの状況はヤバ過ぎる。
大元があるってんなら叩かせてもらう、
私が守るって決めたもののために」
「分かった」
二人は窓から外に脱出し、そこでソウルジェムを取り出し舌打ちする。
「こっちに近づいて来てる、ってのか」
「みたいね」
吹き荒れる暴風雨の中、二人が向かったのは、裏口の方向だった。
そこで無人を確認して塀を超え、その向こうの生活道路に駆け込む。
「おいっ!」
そこで、杏子は路上に伸びている少女を抱き起した。
取り敢えず、見てくれからして同業者、
短めのツインテールヘアに、サイズ以外は調理ナイフにも似た剣を右手に握っている。
そして、同様の剣が近くの塀に突き刺さっていた。
小巻が巨大楯を展開し、魔獣ビームの一斉射撃から防御する。
「大丈夫かっ!?」
「ん、あり、がとう」
手持ちのキューブで倒れた少女のソウルジェムを浄化し、
少女が息を吹き返した。
その時には、小巻が攻撃を開始していて周囲の魔獣の群れが一旦薙ぎ払われる。
「何やってんのよあんた?」
残った魔獣とじりじり対峙しながら、小巻が尋ねる。
「この学校が魔獣に狙われてたから
ここで防衛してたんだけど、数が多くて」
少女が身を起こしながら言った。
「まだ、行けそうね」
「うん」
小巻が尋ね、少女が頷く。
「悪い、やっぱり身内が優先順位って事で」
「分かった。あたしの身内共々あんたに託す」
ざんっ、と、魔獣の群れに長斧を向けた小巻に杏子が返答した。
少女も、塀から剣を引っこ抜いていた。
「あんた、名前は?」
「カナミ」
「この辺の魔法少女なの?」
「ホオズキ市から来た。
向こうでこの大災害と異常な魔獣の発生の情報が流れてる。
向こうで助けてくれた娘が、
救援に行くけど手が足りないから来られるなら来て欲しいって」
「そう。私は浅古小巻、今回だけはわざわざ他所から有難う」
勇ましい気合と共に小巻が斬り込み、カナミがそれに続く。
二人に割られた魔獣の群れの隙を突いて、杏子が目的地へと駆け出した。
× ×
ついさっき打ち付けた鼻が思い出した様にじんじんと痛み、
疲れ切って休みたいのに、今寝たら死ぬと言う事なのか、
体の奥から無理やりに変な元気が注入されている感覚。
既に限界値を振り切って疲弊している、と自他ともに認める状態で
ここにいる筈の無い大変親しくしている女の子二人が現れて懐かしい声を聞かせてくれたなら、
いよいよ以て吹雪の雪山でバターコーン入りラーメンの映像でも眺めているのか、
ああそうか、僕はそんなに彼女達の事を想っていたんだ、
等と思い返すのも自然な所、むしろ理性的な反応と言えた。
「やあきょうすけぶじだったんだ。
すごおぉぉぉぉぉぉぉぉぉくげんきそうであんしんしたよ。
あはははははははは」
上条恭介は音楽家の卵である。
将来プロになるかはさておいても、そのラインから外れない場所には位置している。
演奏技術への評価も年齢的には高いものであり、耳もいい。
適当な事を言っておけば、お正月にはテレビをつけてどちらが高級な楽器なのかを
何となく正答しながらのんびりお節を食べて過ごしている。
「あらあらみなさんごきげんよう。
このようなところできぐうですわねおほほほほほほほほ」
その様な上条恭介であっても、
突如目の前に現れた普段親しくしている二人の女の子の
物凄く平べったい声から抑揚や情緒らしきものを読み取る事は著しく困難を極めていた。
只、周辺の空気が軋んで聞こえるのは、
外の大嵐のせいだけではない、そんな気がしていた。
そんな恭介の目の前でバランスを崩した風斬氷華は
恭介の腰の辺りに縋り付く形でようやく安定を取り戻して恭介から見た前方へと体を捻り、
その二人のスリップを止めに入った
オルソラ=アクィナスと吹寄制理、滝壺理后、雲川芹亜は
それぞれ恭介の後ろに回って恭介の背中と右、左の腕、左肩を受け止めたまま事態の推移を見守っている。
と、言うより、唐辛子ガスの効果で「見守る」事が難しい状態でもある。
神裂火織、五和コンビとオリアナ=トムソンは、行き掛かり上衝突の混乱に巻き込まれないために、
恭介の左右の斜め前に身を交わして配置していた。
「お知り合いでございましたか?」
そんな中、恭介の真後ろから吹寄制理の斜め後ろにするりと移動し、
胸元で両手の指を組みながら柔らかく言葉を発したのは、
オルソラ=アクィナスだった。
「ふうん」
すいっと恭介達の前に移動して腕組みをしたのは、オリアナ=トムソンだった。
「可愛らしいお嬢さん達。
ここは、人生経験豊富なお姉さんからじっくり説明する必要があるみたいね」
恭介からは見えないが舌なめずりしながら余裕を見せるオリアナの言葉に、
段々と顔が引きつり始めていた恭介はほっとして成り行きを見守ろうとしていた。
× ×
オルソラ=アクィナスさんが後に語る所によると、
オルソラ=トムソンがこの時に行った説明は、
論理的な記述内容それ自体に誤りはなかったらしい。
オリアナ=トムソンのオリアナ=トムソンによるオリアナ=トムソンのための
オリアナ=トムソン語でオリアナ=トムソン的表現により
オリアナ=トムソンな響きの音色で
オリアナ=トムソンな舌なめずりを交えて行われた説明の結果として、
上条恭介に流れる血液は引いたり満ちたり両極端に分布され、
美樹さやかは背後に何か巨大なリボン付き鎧に包まれた
何かがいそうなイメージ映像で物騒なものを振り上げ、
志筑仁美は連載中最初に描かれた
天○一武○会ぐらいなら優勝できそうなオーラを身に纏っていた。
「ちょっと先生の言う事聞いてもらってもいいじゃんか?」
「………はい………」
いつの間にかどこかで見つけた丸椅子をぶら下げて
ハリウッドアクション巨編終了十五分前的な情景に
すたすたと割って入った黄泉川愛穂に言われ、
いや、岩の一つや二つ斬れる筈の剣なんですけど、
と突っ込む間もなく床で天井を見てひくひく痙攣していた美樹さやかが返答する。
「つまり、事故であの大嵐の中を歩き回ってこのビルの中に避難して、
鍵のかかった部屋やフロアを避けてる内にそこの社長室に辿り着いた。
それで、恭介だけ廊下に残して
着てるだけで死ぬ程ずぶ濡れになった服をやっと脱いだ所で
防犯設備の誤作動で催涙ガスが充満した社長室から逃げ出して、
やっぱり着てるだけで死ぬ程びしょ濡れの服を脱いで
廊下にいた恭介と鉢合わせした、それでいい、んですか?」
「そういう事なんだけど」
黄泉川から話を聞き、ようやくおよその状況を飲み込んださやかに、
廊下の一角で腕組みして斜めに立つ雲川芹亜が答えた。
「と、言う事でおk?」
「う、うん、その通り、ですはい」
壁際にいた恭介がツカツカと近づいて来たさやかの質問に答える。
志筑仁美の柔らかな両手が恭介の両目を塞いでいるが、
それでも、恭介の心の耳はさやかの背景から
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴと言う効果音を聞いていた。
「どうもすいません、
なんだかよく分かりませんけどお騒がせしたみたいで」
そして、さやかは明後日の方向にぺこぺこ頭を下げている風斬氷華につかつかと接近する。
「ちょっといい?」
そして、さやかは半ば有無を言わせず、
風斬の眼鏡をずらしてその中に自分の掌を当てた。
「どう?」
「あ、なんか凄く楽になりました」
「どうしたじゃん?」
「あ、えーと、そう、
涙が良くでるマッサージ。あなたも、いいですか?」
「頼んでみるんだけど………
ああ、マッサージって感じではなくても効いてはいるんだけど」
やはり、さやかに掌を当てられ、目から痛みの引いた雲川が言う。
「あー、じゃあ治療が終わった人からそう、
ちょっとそこの曲がり角の向こうで待ってて下さい」
「そちらの坊やとあなた達はどうするのかしら?」
指図するさやかに、オリアナ=トムソンが尋ねる。
「あたし達はここに残ります」
さやかが言い、仁美も頷いた。
「そう、そっちは見慣れてるから構わないって事ね」
この後展開された、
ハリウッドアクション巨編終了十五分前的な展開の詳述は割愛する。
とにかく、女性陣はさやかに言われた通り、
さやかによる治癒を受けて角の向こうへと一旦移動する。
「さや、か………」
そこで、やっと仁美による目隠しを外されると、
目の前には白いマントに身を包んださやかが立っている。
経緯が経緯、声が引きつるのも仕方がない所。
漫画的表現で言えば全身にダラダラな汗が流れ落ちた恭介は、
見慣れた顔の大きな瞳に浮かぶ、真珠の粒を見た。
「恭介………ぎょうずげぇぇぇぇぇ………
よがっだぁ、恭介が無事でよがっだよお゛お゛お゛お゛お゛ぉぉぉぉぉ」
さやかが埋めた胸に、熱い涙を感じる。
恭介に抱き付いたさやかは、堰を切った様においおいと号泣し始めていた。
そして、恭介の掌は、嵐によるかなり酷い事になっているとは言え、
トレードマークのボーイッシュなショートヘアを優しく撫でていた。
「ごめん、心配かけて」
(貸し一ですわよ)
しゃくり上げるさやかと、近くの壁際にいる仁美は、
テレパシーの如く目と目で通じ合う意思疎通に成功していた。
恭介の手がさやかの髪の毛を優しく撫で、さやかの体をぎゅっと抱き締める。
「さやか、本当に僕のために来てくれたの?」
「うん、その、途中で恭介の事が目に付いたから、
いてもたってもいられなくて、良かった、良かったぁ」
思えば、子どもの頃からどちらかと言うと優男だった恭介の所にやんちゃなさやかが飛び込んで来ていた。
しかし、恭介自身が死ぬかと思ったこの大嵐の中でもそれを貫く。
恭介は今、その事を心から感じるばかり。
少し落ち着いたさやかが顔を上げ、恭介がその顔を見る。
ドドドドドドドドドと突進して来る足音が聞こえた。
× ×
「はいはいはいはい超お届け物超到着しましたーっ」
その声を聞き、さやかと恭介、仁美はぎょっとしながらそちら見る。
そちらからは、両肩にでっかい段ボール箱を抱え上げた絹旗最愛がどかどかとこちらに向かってきていた。
その時点で異常な情景だ。
赤土色のパーカー姿でどう見ても小柄と言ってもいい少女が、
明らかに大型サイズの段ボールを二つ、両肩に抱え上げている。
その上、どこから来たのかこの嵐の中にも関わらず、
段ボールには大きな汚れすら見当たらない。
「取り敢えず、何がどうなったか何となく超見当は付きますけど、
取り敢えず超こっちに移動して下さい。
ああ、そこでマッパで突っ立ってる野郎と
なぜか平気な顔でその周辺に陣取ってる小娘二人は呼びに行くまでその場に超待機で」
かくして、さやか、仁美を除く女性陣の気配が絹旗と共に遠ざかり、
予告通り少し間を開けて恭介達も絹旗から案内を受けた。
行先は、会議室の一つだった。
「えーと………」
「超非常事態です」
ドアの惨状を目にして何かを言いかけた恭介に、絹旗はしれっと言う。
「ようやく滝壺さんと連絡が付いて、
取り敢えず手に入るものだけでも超持って来ました」
絹旗に促され、恭介が中を見た段ボールの中には、白いYシャツが大量に詰め込まれている。
そして、既にこの部屋に待機していた他の女性陣もそのYシャツを着用していた。
「調達出来たのが超これしかなかったので使って下さい。
量だけはありますからタオル代りにしても構いません。
背の高過ぎる人は仕方がないのでパレオにして下さい」
そう言われて、恭介もYシャツに袖を通しボタンを閉じる。
本来なら非常に頼りない服装であるが、
比較対象となるたった今の過去が論外であるため、
例の如く非常にマシな様に感じていた。
「これってどこから………」
「超現地調達です。
非常事態ですから、代金の借用証だけは超置いてきました」
「あ、そ………ありがとう」
質問したさやかもそれ以上深く突っ込む事はやめておいた。
その間に、カセットコンロの上で薬缶の湯が沸いていた。
結論を先に言ってしまえば、絹旗はビルの外でも中でも物資を調達して来ていたが、
非常事態と言う名目で手段を選ぶつもりは全くなかったらしい。
「取り敢えず、これをゆっくり舐めながらゆっくり飲んで下さい」
「まだ唇が超青いですから、体が超落ち着いたらお茶もココアも超ありますので」
「助かるじゃん」
説明する五和と絹旗を中心に適当に確保したカップと鼈甲飴が配られ、黄泉川が感謝を述べる。
カップの中は、薬缶の湯を注いで若干水で割ったものだ。
既に相当量のミネラルウォーターも確保されていた。
「一服したら超着いて来て下さい」
× ×
とにかくフロアでも部屋でも邪魔な施錠は絹旗の手で悉く無効化されたビルの中で、
絹旗に案内されて到着した先はビルにしては大きな台所だった。
「恐らく会議用の給湯室ですね、超見ての通り、大型のシンクです。
そして、ここに超給水するタンクは生きているみたいです」
確かに、絹旗が蛇口を捻ると水が出てきた。
「そしてこっち」
絹旗に案内され、向かった先は廊下の一角だった。
「プロパンガスのタンクとホース、コンロ、それに鍋です。
非常用のものかイベント用か、とにかくここで超発見しました」
確かに、金属製の鍋も含めて、
野外パーティーで鍋物でも作りそうなサイズの巨大なものが揃っていた。
「あちらのシンクを代用して超お風呂の用意をしますから、
順番に体だけでも超温めて下さい。
シンクのお湯の用意は私がします。
もちろん、水が続く限りは一回一回お湯を超取り換えてです。
タンクが空になってもこの大雨なら風呂の一杯や二杯超すぐに用意できます」
「いや、それは幾らなんでも君が………」
「私の体力の事なら超ノープロブレムです」
吹寄制理が言いかけるのを絹旗が制する。
「超分かっているんでしょう、あなた達超全員、
一度芯まで温まらないと超まずい状況だと言う事は」
「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうじゃん」
監督者、大人として、他の何人かの力を借りながらも
今すぐは死なないと言う所まで無理やり診断基準を妥協してここまで引率して来た黄泉川が、
絹旗の魅力的な提案に同調した。
× ×
差し迫った事態が若干引いた後、その後の事が色々と襲って来る。
上条恭介は痛めた左足を半ば引きずる様にしながら、
トイレで用を足して待機場所の会議室への廊下を歩いていた。
手回しのいい事に、トイレの前には水洗用の雨水がバケツに入って用意されており、
それが尽きる前に非常階段から補充しておく必要はあるが、それはもうちょっと後に考える事とする。
「?」
そこで、恭介はきな臭い光景を見た。
確かあちらは代用浴場の給湯室の筈で、
本来であれば現状でそちらに近づく程上条恭介は不躾な男性ではない。
只、そのすぐ側で風斬氷華が腰を抜かして震えている、と言う状況であれば話は別だ。
「風斬さん、どうしました?」
「あ、ああ………」
風斬の尋常ならざる態度を見て、
恭介は、腰を抜かして震えている風斬が指さしている先の給湯室に駆け込む。
「!?どおっせえぇぇぇぇぇいいぃぃぃぃぃぃっっっっっ!!!」
給湯室に飛び込んだ恭介は、
シンクから床に滝壺理后を引きずりあげ、ぐわんぐわんと揺らしていた。
「大丈夫ですかっ!?」
「何?」
滝壺が、ぬぼーっとした視線を恭介に向けて茫洋とした口調で尋ねる。
「良かったぁ………
そこに浮かんで溺れてると言うか気絶してると言うか死んでると言うか………」
「私の入浴法」
「なんだ………」
滝壺と共に床に座り込みながら、恭介は脱力した。
「………ありがとう。次からは先に声を掛けて」
「分かりました、すいませ、ん………」
恭介が立ち上がった所で、火事場の馬鹿力を支えていたアドレナリンが途切れ、
自分が左足を捻挫していた事を思い出す。
一見茫洋としている滝壺が、意外な程に俊敏に行動し、
恭介がぶっ倒れる前に左腕を恭介の背中に回し、
恭介の後頭部に回した右腕にぎゅっと力を込めていた。
「何何?何かあったのっ!?」
どやどやと叫び声と足音が聞こえる。
「やあきょうすけ、
あたしも結構将来有望、って言うか、
クラスのみんなには結構あるって言われてるんだけどさー、
そんなに待てないのかな男の子ってあははははー」チャキッ
「ええええ理解しておりますわ。
それはそれは黙認して差し上げるのが上流階級の嗜みと言うものではございますのですけれども、
やはりそこには本妻の顔を立てるための
暗黙のマナーと言うものがございますのよおほほほほ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「超超超超超超超超くかっくかかっかけくけくかきけくかくき
くくかかかかかか超超超超かきくけこォォォォォォォォォォォォォォォォォ」
めぎょんめぎょんめぎょんと更に場違いな機械音が響き渡る。
「反応はこっちでいいんだなっ!?
滝壺おぉーっ、たきつぼだっきつぼおおおおおっっっ!!
どぉこだぁ滝壺おぉぉ助けに来たぞぉだぁぎづぼぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっ!!!!」
ぶはっ、と、顔を上げて騒ぎの方向に目を向けた上条恭介が見たものは、
世紀末帝王の称号に相応しい漢の眼光だった。
==============================
今回の投下はここまでです>>332-1000
お詫びです。五和さんの事を思い切り抜かしてました。ごめんなさい。
>>296以降神裂さんと一緒に行動していたと、そういう事にしといて下さい。
続きは折を見て。
乙
乙
それでは今回の投下、入ります。
==============================
× ×
>>343
「!?」
高架橋上の幹線道路で、美国織莉子と呉キリカは黒い彗星を目にしていた。
正確に言うと、遠くのワルプルギスの夜から空に向けて発射され徐々に高度を落としている、
黒い彗星の様に見える禍々しいものだった。
「ひゃー、あれならちょっとは喧嘩になりそうかな」
織莉子の側では、トールを名乗り既にあらかた魔獣を片付けた少年がそれを眺めて言う。
「って事で、あっち行ってくるねおりりん」
「だ、か、ら、私の織莉子に馴れ馴れしいと言っている」
「お願い」
既に頭部をメロン状態にして目を剥いて
ゴゴゴゴゴゴゴゴとラスボス的な効果音オーラを上げているキリカを華麗にスルーし、
トールと織莉子の間で合意が成立する。
かくして、トールと、その後に付いて来てさくさくと魔獣を片付けていた
褐色オーバーオールとがたごともまとめて黒い彗星の着弾地に去って行く。
「!?オラクルレイッ!!」
「ヴァンパイア・ファングッ!!」
ぶおっ、と、二人を襲った黒い霧に飲み込まれながら、
二人は攻撃を展開して辛うじて飲み込まれながらも消化される事を回避する。
「やれやれ」
キリカが余裕ぶって言いながらも、
痛い程の雨粒に即座に洗い流される汗が浮き出るのを押さえられない。
黒い霧は織莉子、キリカの前方の幹線道路上に停滞し、
そのまま薄らぎながら拡散していた。
「さながら魔獣の巣、って所かな?
素直に結界張ればいいのに」
「どちらにしても、放っておく訳にはいかないわ」
その時、背後で機械的な音が聞こえた。
織莉子とキリカがそちらを見ると、一台のバスが停車している。
その先頭となった車両から、一人の女性が降車して来た。
「ああ、そこの人」
そうして、織莉子とキリカに接近して来たのは、
妙齢と言うか妙齢過ぎる一人の女性だった。
今の嵐はかなり激しく彼女の眼鏡の視界を妨げていそうだ。
一応雨具を装着しているが、どっちかと言うとガタイが良さそうに見える。
それでいて、どこか品のいい所を織莉子は察知する。
「常盤台………女子寮寮監………?」
織莉子が、差し出された名刺を見る。
「うむ、災害ボランティアで他の寮の者も含めて引率して来たのだが、
嵐の影響か交通案内自体が何らかのシステム障害を起こしたらしい。
結果、通行止めのこの道に突っ込んだ挙句にバス自体がイカれると言う体たらく。
今、我々がいる場所はここでいいのか?」
「ええ、ここです」
織莉子は、寮監から差し出されたスマホの地図を見て答える。
「だとすると、避難所の総合体育館はこの先だな。
ボランティアに来て住民のリソースを割く事になるのは実に心苦しいが、
どの道この道路は使われないのだろう」
「え、ええ、確かにそれはそうですが………」
何をどうやって説明しようか、と、織莉子が戸惑っている間に、
寮監が戻ったバスから降りた女子生徒がざんざざんっと整列していた。
全員、雨具こそ装着しているが、
実は彼女達相当なお嬢様揃いなのでは、と、織莉子は察知していた。
「出発、進行っ!」
寮監を先頭に、女子生徒の隊列が真っ直ぐ黒い霧に突っ込んで行く。
「織莉子っ!?………!?」
慌ててそれを追った織莉子が後ろの方向に弾き飛ばされ、
それを追ったキリカも以下同文であった。
黒い霧の中から、少しの間おぞましい悲鳴が聞こえた気がしたが、
程なく、黒い霧ごとそれは消滅していた。
× ×
「私の説明を聞いて」
滝壺理后は一言だけ言うと、
その場に座らせた上条恭介に背を向けてしゅるりとYシャツを身に着けた。
「あの子は私の恩人だから手を出したら怒る」
口調は余り変わらない筈なのだが、それでも芯のある滝壺の言葉を受けて、
運搬着と呼ばれる人型ロボットに近い特殊重機に搭乗した浜面仕上も動きを止める。
「ああー、そうかそうか、勘違いとは言え滝壺の命の恩人って訳だ。
それは俺からも礼を言わせてもらうぜ」
滝壺の説明を聞き、運搬着を降りてつかつか近づいて来た浜面が気さくに笑いながら言い、
上条恭介は取り敢えず胸を撫で下ろす。
その装備からして所謂ガテン系の浜面だが、坊ちゃん育ちの恭介から見たらそっち系の人にありがちな、
やんちゃの過ぎた過去の一つ二つもありそうな予感を覚える。
そんな人と女性関係でトラブルなんて考える事も出来ない領域の話だ。
「まあー、あれだ、
世の中勘違いとか理不尽な怒りが向けられるとか、
そういう事はしばしばあるからな、
その辺の事は俺も理解しているつもりだ」
一体今までどういう経験をして来たのか、
うんうん頷く浜面に、恭介も妙な説得力と安心感を覚える。
「従って、これだけは言っておく」
そう言って、浜面はガシッと恭介の肩を抱く。
「五分やる」
浜面が短く言った。
「お前が今見たものと触った感触は確実に忘れろ、いいな」
一見すると、気のいいアンちゃんが
年下の中学生にカラカラ笑って冗談口を叩いている様に見える光景であるが、
上条恭介が間近で見ていたものは、
世紀末帝王と呼ばれるに相応しい漢の眼光であった。
× ×
待機場所となっている会議室では、五和やオルソラを中心に粥や重湯等の調理が行われ、
予告通りにお茶やココア、インスタントスープ等も出されている。
ここまで米や味噌を担いで来た浜面への感謝と共に、
体感的に生きるか死ぬか末期のバターコーンラーメンを幻覚していた
少し前迄と比べるならば随分と寛いだ雰囲気になっていた。
「そういう訳なんだけど」
雲川芹亜が説明を続ける。
「拠点が決まったと言う事で、
私の衛星携帯電話で滝壺さんや私の関係先と連絡が付いたから、
ここで救助を待つ、と言う事になるんだけど」
「それがいいじゃん」
何人かの生徒を引率して来た身でもある黄泉川愛穂が言った。
「救助が来る迄なんとかなる程度の物資は揃ってる。
このビルが潰れでもしない限り、ここで嵐を避けて救助を待つのが得策じゃん。
この嵐の中、色々と用意してくれて本当に感謝するじゃん」
黄泉川を先頭に一斉に頭を下げられ、
絹旗最愛はつらっとして礼を返すが浜面は少々居心地が悪そうだった。
「君も………ここまで来て失礼な話だけど、
名前を聞いてなかったな、それだけ大変だったって事なんだけど」
雲川が、上条恭介に視線を向けて言う。
「そう言えばそうですね。上条、上条恭介です」
上条恭介が安堵の微笑みと共に答え、
それを聞いた雲川芹亜は一度、二度瞬きをしていた。
「ああ、そうか。コンサート、頑張って欲しいんだけど」
「コンサート?」
少しきょとんしていた吹寄制理が雲川に尋ねる。
「ああ、確かヴァイオリンだったかな?」
「コンサート、ですか?」
記憶から捻り出して見せる雲川に、
少しの間きょとんとしていた風斬氷華が尋ねた。
「ああ、近々コンサートをやるらしい。
新進気鋭のヴァイオリニストの卵として参加予定。
確かそう、ポスターで見た記憶があるんだけど、合ってたかな?」
「否定する程間違ってない、と言いますか」
「その通りです。事故で些かのブランクがあったとは言え、
上条君の演奏はそれだけの評価を受けています」
やや照れ臭そうに言う恭介に、仁美が割って入った。
「じゃあ、尚の事これ以上は動かない方がいいかな。
ケガもしてるし助けが来る迄何とかなりそうだから」
「そうさせて貰います」
吹寄の言葉に恭介が応じた。
「まあ、そういう事なんだけど」
雲川がふっと笑みを浮かべて言う。
「それなら、可愛い彼女をやきもきさせる武勇伝は程々にしておくんだな。
見ている分には面白い事になっているんだけど、
こんな出来た娘を余り泣かせる、いや、怒らせるものじゃないんだけど」
「あ、ははは、すいません」
「うふふふふ、上条君の事ですもの、
悪気のない事等理解しておりますわおほほほほほほほほ」
「ま、恭介にそんな度胸は無いわなあはははは」
「さやか」
さやかの言葉に、恭介が少々憮然としてみせる。
「あらあら信頼しちゃってる事。
でも、彼氏ってイザってなったら結構男らしい所あるし、
結構いい線いってるから油断してたら大変よぉ」
言葉と共に、オリアナ=トムソンの舌がぺろりと唇を舐める。
「仁美」
さやかが、少々低い声で呼びかける。
「恭介の事、しっかり見張っててよ」
「了解ですわ」
「あらぁ、いいのかしら?」
接近してぼそぼそ話していた筈が、オリアナがいとも簡単に割り込む。
「世の中にはミイラ取りがミイラ、って言葉があるのよ。
一緒にまとめてめくるめく世界にご案内でもいいのかしら?
ちょっとは知ってるみたいだけど、
こんな可愛いお嬢さんならお姉さん大歓迎よぉ」
「全く………」
とうとう始まった、BGMにMa○iaでも聞こえてきそうな激烈な戦闘を前にしながら、
雲川芹亜は軽く肩を竦め、寛いだ笑みと共に口を開く。
「見ていて面白い事になっているんだけど、程々にしておかないと。
さっきは何故か一瞬納得してしまったからな、失礼な話なんだけど」
そんな雲川の呟きに、
何となく共鳴を覚えながら吹寄は天を仰ぎ風斬ははわわと眺めていた。
「それでは」
そう言った神裂火織と五和が動き出す。
「我々はそろそろ失礼します」
「どこに行くじゃん?」
「行き掛かり上皆さんの安全が確認できるまで同行しましたが、
本来この災害に関わる仕事で来た身ですので」
「大丈夫なんですか?」
雲川が尋ねる。
「ええ、合流する目途は立っています」
「私はここに残るわ。
念のため、こっち側の人間が一人ぐらいついてた方がいいでしょう」
「お願いします」
オリアナ=トムソンの言葉に、神裂が同意する。
「えーっと、それじゃああたしも………」
流石に、説得力に自信がある訳でもないさやかが恐る恐る口を開く。
「子どもはここに残らないといけないじゃん」
黄泉川が厳しい口調で言う。
「いや、そうしたいのは山々なんですけど、何と言いますか、
本当は待ち合わせててあたしが行かないとまずい状況と言いますかその………」
「そんなもの許可出来る訳ないじゃんっ」
「死にたくなければ先に行ってるに決まってるでしょう!!」
さやかの言葉に黄泉川と吹寄が真面目に当たり前の事を言うので
さやかも心が痛む。
だからと言って、ここでこっそり抜け出してしまっては、
このいい人達なら外まで探しに出て来かねない。
「さやか、ここに残って助けを待とう。
なんか、マントは手に入れたみたいだけど、
それでもこの天気で出歩いたりしたら命が危ないよ」
「ああ、女の子一人この嵐の中出歩くなんて話にならねぇよ」
恭介が優しくも真剣に言い、浜面も羽交い絞めしかねない口調で言う。
異常事態でマント姿が案外目立たないのは助かったのだが、これは本気でまずい。
ワルプルギスの夜がどの程度のものか想像がつきかねるが、
逆に一人でも欠ける事が許されない程に遠目に見ても想像を絶している相手だ。
「分かりました」
神裂が口を挟んだ。
「彼女に関しては、我々が責任を持って預かります」
「それを容認しろと?」
黄泉川が神裂を見据えて言った。
神裂としては命に代えても、と、心からそう言えるのだが、
その言葉に説得力を持たせる事が出来ない己の未熟を痛感する。
「お願いします」
さやかが深々と頭を下げる。
「この人達と一緒に行動させて下さい」
「ご懸念はごもっとも、あなたの態度が大人として全面的に正しい事は当然です。
それでも、私達に任せて下さい」
さやかに続き、五和も頭を下げた。
「何か、余程の事情があるじゃん」
黄泉川が言う前で、神裂も加わり頭を下げ続ける。
「わーかった、さっきまでの道行を見ても、
あんたら二人には今外で行動できるそれ相応の根拠があるじゃん。
あんたら二人に子どもを預ける、私はそれを信じていいじゃんね?」
「命に代えて」
ようやく、神裂は口に出す事が出来た。
そして、黄泉川もそれを受け取った。
「だから、危ないよ。今外に出るのは………」
「大丈夫、この人達も一緒だし、どうしても行かなきゃいけないんだ」
「さやかさん………」
「仁美も、恭介と一緒に待ってて。あたしは大丈夫だから」
「事情が、ありますのね。分かりました」
× ×
会議室を出た神裂と五和は、途中、非常口から外に出ていた。
そこで、二人は唐辛子ガスの噴射された社長室から何とか回収し、
非常階段の柵に縛り付けて文字通り雨曝しにしておいた自分の衣服をビルの中に持ち帰る。
そして、ビルの一室で、バケツの上で持ち帰った衣服の雑巾絞りを始めた。
「あの………もしかして、これからそれを着るんですか?」
後からついて来たさやかが尋ねる。
「これにはそれ相応の意義があるのでやむを得ません。
恐らくあなたのそのマントの下と同じでしょう」
取り敢えずTシャツを絞り、少々厄介なGパンを絞りに掛けながら神裂が言う。
その隣では、取り敢えず絞り上げた薄緑のブラウスを近くの椅子の背もたれに引っかけた五和が
こげ茶色のショートパンツから水分を絞り出している。
かなり強引に納得したと言う事にしておいたのか、
ここで出来る一通りの作業の後、神裂はパレオ代わりのYシャツを外し、
五和と共に着ていたYシャツを脱いで着替えを始めるが、
流石に非常な物理的困難を伴う事は避けられない状態だった。
× ×
正直、何が起きているのか分からなかった。
だが、気が付いた時には、さやかは出発していた。
今でもあの恐怖、命の危険が蘇るあの嵐の中、女の子一人で。
確かに、さやかは今でも優男な自分よりも元気なのかも知れない。
まして、更に意味不明にパワフルな二人の年上の女性が付いている。
それでも、身を以てあの嵐を経験して、
今出て行くのが大丈夫、なんて思える筈がない。
思い切った上条恭介は、今でも脂汗の滲む左足の痛みを押さえつけ、立ち上がっていた。
「間に合った」
廊下を進み、声を聞き、僅かに安堵する。
「さやかっ!やっぱり駄目だっ!
外の嵐はとても出て歩ける状態じゃないっ!!
よく分からないけど、やっぱりそんな危ない事はさせられないっ、
だからさやか、このままここで僕と一緒に救助を待とうさやかっ!!!」
水浸しの上に縛った上に絞りに掛けた事で、
多少の水分減少はあってもそれ以上に完全に閉じて張り付いて固まった衣服に
悪戦苦闘していた神裂火織と五和が、
熱弁を振るう上条恭介に気づいてくるーりとそちらを見る。
上条恭介がその二人の存在に気付いたのは、
熱い説得の言葉を叩き付けた後。
気付いた時には、恭介は神裂、五和と目が合っていた。
「気持ちは分かる」
恭介がいなくなっていた事に気づき、追いかけて来た浜面仕上が、
そう言って、ぽん、と、浜面の肩を叩く。
次の瞬間、浜面の背筋にぞわわっと冷たいものが走った。
「だから、ここは我が人生に一片の悔いなしと言う事で、
無駄な抵抗はやめた方が楽に済むと言うものだぞ、こういう感じでな」
上条恭介は、ずるずるずると滝壺理后に連行される世紀末帝王を見送りながら、
その側で、空気をピキッ、ピキピキッと響かせている旧知のお嬢様を発見してしまう。
「もちろん、存じておりますわ。
殿方たるもの、修学旅行に於ける男の浪漫と言うものを。
で、ある以上、そのシメ方に就いても様式美と言うものがございましょう」
「なるほど、つまり」
暫定的にYシャツの背中の部分を胸に当て、
後ろに回した両方の袖を背中で縛った五和が、
そう言ってひゅんと槍を振る。
「ここまでが様式美、と言うものですか」
暫定的にYシャツの背中の部分を胸に当て、
後ろに回した両方の袖を背中で縛った神裂火織が、
そう言って右脚を前屈し左脚を引き七天七刀の鞘を左手に握り
鯉口を切った刀の柄にそっと右手を添えて背景にコオオオオと効果音を響かせながら簡潔に言った。
流石にじりっ、じりっと足が後退を始めた上条恭介に
美樹さやかがツカツカと無言で接近し、限りなく零距離に近づく。
二人の唇が、零距離から距離マイナスへと踏み込んだ。
「ありがとう。でも、大丈夫」
しっかと目と目を合わせて、告げられた。
「大丈夫だから。だって、恭介のコンサート、聞かないといけないんだし。
って言うと、逆にフラグっぽいけど本当に大丈夫だから。
その辺はちゃんと上手くいく様にあの人達とも決めてあるし。
だから恭介はここで待ってて、お願い。
仁美、恭介の事お願いね」
「分かった、気を付けて」
「分かりましたわ、さやかさん」
さやかの真摯な言葉を前に、この三人の間で、
これ以上言うべき事はなかったらしい。
× ×
何とかかんとか着替えを終えた神裂、五和と共に、
美樹さやかは再び嵐の見滝原の街に立っていた。
「五和はここに。私から天草式に伝令を入れます。
天草式は総員このビルの警備を………悪い予感がします」
「分かりました」
「お願いします」
神裂の要請を了解した五和に、さやかが頭を下げる。
五和は、早速ビルの外周の点検を始めた。
「あたしはこの状況の大元、
ワルプルギスの夜を仲間と一緒に退治しに行きます」
さやかが神裂に告げた。
「マギカの剣士、我々がそう呼ぶ者。ご武運を」
「はい」
力強い返答と共に、さやかが嵐の街を駆け出す。
「Salvare000」
==============================
今回はここまでです>>346-1000
続きは折を見て。
乙
乙
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>357
× ×
とあるビルの給湯室。
その大きなシンクで風斬氷華は湯に浸かっていた。
主に絹旗最愛の超力技な活躍により、会議用か何かの大型シンクを浴槽替わりに、
どこかで見つけた大鍋と大型プロパンガスコンロで沸かした湯を適度に水で冷まして、
今は体を温めるだけだが、それでもこうして代用浴場として稼働している。
このビルに辿り着いたずぶ濡れ組の中でも
状態が最悪に近かった風斬は当初早めに入浴する予定だった。
しかし、風斬がお花を摘んだりなんだりしている間に、
やはり救援に駆けつけた浜面仕上が米俵、と言うのは冗談だが、
その中身となるもの等を担いで到着したために食事が先となった。
やはり、極限の疲労に染みたのか、
五和印の重湯も有り難かったが、オルソラ=アクィナス特製の
チーズお粥がやたらに美味しかった事を覚えている。
事が終わったら漫画的なまぁるいチーズを探して
チーズを究めてみたい等と妄想してしまうぐらいだ。
そういう訳で、温かな食事をゆっくり味わってから、
体の力を抜いて胴体のおよそを温かな湯に浸しているだけでも、
心身ともに随分と寛いでいた。
ふーっと一息ついた所で、風斬氷華は身を縮める様にシンクから作業台に移る。
作業台、床、と移動しながら、
Yシャツその1で長い髪の毛を拭い、Yシャツその2その3で体を拭き
Yシャツその4に袖を通してボタンを嵌め、その5をパレオにする。
事故により着の身着のままで大嵐のど真ん中に投げ出され、
学校の制服姿で長時間暴風雨に晒されたために、
着用しているだけで命に関わるそれらの衣服は途中の社長室で体からまとめて引っぺがし、
部屋干し中に防犯催涙ガスの誤作動で全滅。
色々と救援物資を調達して来た絹旗最愛も、
タオル替わりに使える程に大量の白いYシャツを調達して来たが、
衣類に関してはそれ以外のものを手に入れる事は出来ない状態だった。
× ×
「それじゃあ、これ持って行きます」
「悪いじゃんケガ人に」
「いえ、軽いものばかりですからこれぐらいは」
集合場所の会議室では、
上条恭介がゴミ袋を手に集積場替わりの別室へと移動を開始していた。
「なかなかポイント高いんだけど」
そんな様子を見て雲川芹亜が志筑仁美に話しかけ、仁美の見せる満更でもない表情に、
雲川は内心で中指を耳とは逆に向けて両手を上げる。
「お風呂上がりました」
そこに、入浴を終えた風斬氷華が戻って来る。
恭介と風斬が軽く頭を下げてすれ違うが、
ふと、しっとり湿った風斬の長い髪の毛の香りが恭介を引き付ける。
「風斬さん」
ふわりと漂う甘い香りに引かれ、
恭介が振り返った辺りで、吹寄制理が風斬にトトトと駆け寄る。
「ボタン、はまってないんじゃない?
上から三つ目ぐらいまで」
「はい。サイズを間違えたみたいで。
もう少し大きいの、ありますか?」
「あー、超みっちみちのぱっつんぱっつんですね。
一番大きいのにしますか?袖が超だるだるになりそうですが」
「あのぐらいで目がぎゅぴーんって光って
背景にゴゴゴゴゴゴゴゴゴッて効果音つきの漆黒のオーラを充満させて
鶴の構えを取ってくれるんなら、
お姉さんがちょっと本気出したらカ○ハ○波ぐらい撃ってくれそうねお嬢様」
「志筑流決戦奥義の神髄をご所望とあらばいつなりと」
こちらは、どう見ても意図的にサイズを間違えたとしか思えない
Yシャツの布地をついと摘み、
少々前のめりになったオリアナ=トムソンの背後から、
瞬間移動したとしか思えないにこやかな声が聞こえて来る。
つーっと、コメカミに汗が伝う恭介の肩を、
浜面仕上がぽんと叩いた。
かくして上条恭介はゴミ捨てのために会議室を出る。
後程いっぱいお話をいたしましょうと語っている志筑仁美の優雅過ぎる微笑みを背に受けながら。
「そう言えば、黄泉川先生お風呂は?」
吹寄が気が付いた様な尋ねる。
「ああ、待ってる間に重湯とお粥で温まったじゃん」
「あー、抜けてましたか。
すぐ用意出来ますからちゃっちゃと超お願いしますよ」
黄泉川愛穂の言葉をぶっちぎって絹旗最愛が言い、
引率者として行動の自由を優先していた黄泉川もそれ以上は言わなかった。
× ×
「うああっ!!」
ビル周辺で、天草式戦闘要員牛深が魔獣の触手に跳ね飛ばされる。
その魔獣を五和の槍が貫き倒す。
「うらあっ!!」
天草式十字凄教教皇代理建宮斎字の西洋剣が、
押し寄せた魔獣を叩き斬る。
「まだまだ来ます、とても手が足りませんっ!」
「先に手を動かすのよなっ!!」
建宮が聞こえる悲鳴に怒鳴り返すが、
それが現実である事も十分認識している。
「ビルの出入り口を死守!
浦上っ!オリアナに伝令、避難民を二階から下に絶対下げるな、
いや、上がれるならなるべく上に上げろとなっ!!」
「分かりましたっ!!」
「最悪一階階段、エレベーター非常階段まで防衛線を下げる事になるのよな」
× ×
「滝壺っ!!」
集合場所の会議室で、浜面仕上がとっさに滝壺理后を抱き、
近くの机の下に転がり込んだ。
「地震かっ!?それとも風っ!?」
「あの嵐だとどっちでもアリだぜ」
さ程長くもない時間だったが、
強烈な揺れに雲川が叫び、浜面が応じる。
× ×
「くおおっ!!」
シンクの仮浴槽で強烈な揺れに襲われた黄泉川愛穂は、
床に投げ出されながら受け身技で辛うじて大きなダメージを回避する。
「いたあっ!!」
立ち上がろうとした次の瞬間には、黄泉川は手を引かれていた。
「オリアナさんじゃん?」
「まずは会議室に、そこからもっと安全な場所に、急いでっ!!」
「了解じゃんっ」
オリアナの只ならぬ気迫に、黄泉川も彼女に手を引かれ裸足で走り出す。
「走れるっ!?」
「大丈夫です」
「会議室に戻りなさい、急いでっ!!」
「はいっ!!」
途中の廊下で遭遇した上条恭介にオリアナが叫び、
廊下で蹲っていた恭介も立ち上がった。
「くっ!」
オリアナが黄泉川の手を放し、踵を返す。
「不完全な魔獣、下で不完全に処理された残骸、かしら?」
オリアナの視界の中では、アメーバ―とも巨大フナムシともとれる謎生物の群れが
ざざざざざっと三人に迫っていた。
「魔獣の出来損ないが、私と追撃戦をしようって言うの?」
言葉と共に単語帳が噛み千切られ、
オリアナの前方の廊下が丸ごとごうっと暴風に飲み込まれた。
「大丈夫、走ってっ!
アメーバ―とも虫ともとれる下等生物みたいな魔獣、
それでも命を司る核はあるから退治は出来る、か」
しかし、得体の知れない化け物を相手に、
オリアナも又得体の知れない術式を駆使して悪戦苦闘していた。
「何か、いる?」
左手を壁について走り出そうとした上条恭介の耳が、彼の脳に違和感を伝えていた。
「これでっ!!」
オリアナから先に吹き荒れる暴風がスピードを増し、
真空の隙間が大量に軋みを上げる。
これでひとまず、と、オリアナは一瞬そう考える。
「動いて、迫ってっ!?」
更なる異常を察した上条恭介は、
視界に入った掃除用具入れのモップを引っ掴んで駆け出していた。
「しまっ!?」
次の瞬間、オリアナは本気で最期を考えていた。
だからせめて、
「早く、逃げっ………」
上条恭介の突き出したモップは、オリアナと彼女に取り付いた謎生物の間に突き刺さっていた。
そのまま、モップと謎生物は抵抗に対して抵抗し、
謎生物が取り付いたまま強度限界を迎えたYシャツごと
謎生物はモップに振り払われ壁に叩き付けられていた。
「離れてっ!」
実の所、自分が何と戦っているのかも理解していない恭介が
オリアナの声に従いモップを捨ててざざっとその場を離れる。
次の瞬間には、壁に張り付いた魔獣は氷漬けにされて生命活動を停止していた。
「ナイス!ッ」
振り返ったオリアナが一転苦い顔を見せた。
「うっ、つっ………」
「さあ、行くじゃんっ!!」
その場に蹲り、立ち上がろうとして倒れそうになった恭介を黄泉川が支え、
黄泉川はそのまま恭介の太腿と背中を下から支えて走り出した。
× ×
ドドドドドドドドと地響きを立てる勢いで突入して来た黄泉川愛穂に、
集合場所の会議室にいた面々は目を丸くする。
「上条君っ!?」
「水っ!出来るだけ冷たいのないじゃんかっ!?」
一旦長机に寝かされた恭介に仁美が駆け寄り、
改めて恭介の左足を握った黄泉川が叫んだ。
それを聞いた絹旗最愛が、ミネラルウォーターのペットボトルとYシャツを一つずつ用意する。
Yシャツの右袖をボトルの口に縛り付け、左袖を自分で握る。
「超超超超超だらっしゃあぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!!」
ドリル的に床に穴が開くのではないか、と言う勢いで回転した絹旗が、
ハンマー投げの要領で振り回していたボトルから縛り付けていた袖を外して黄泉川に放る。
「どうじゃんか?」
「ええ、少し、楽になりました」
痛む左足に黄泉川がペットボトルを当てて尋ね、恭介がまだ苦しそうに答える。
「じゃあ、頼むじゃん」
「はい」
黄泉川と仁美が言葉を交わし、黄泉川はYシャツの箱へと向かった。
「大丈夫ですか、上条君?」
「うん、有難うもう大丈夫」
最早、何が正常か異常か許容値かの感覚も半ば麻痺しつつある上条恭介が、
仁美が当てていたペットボトルを自分の手で持ち帰る。
その間にも、どおんどおんどおんと会議室の外から何やら物騒な音が響き、
オリアナ=トムソンが飛び込んできた。
飛び込むと同時に、出入口の辺りが何度も爆発して見える。
それを見て絹旗最愛が会議室を飛び出した。
「超超超超超おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!!」
廊下から響く絶叫を一同ぽかんと見ていたが、絹旗は程なく戻って来た。
「取り敢えず、当面の安全は超確保したみたいです」
バタンとドアを閉めた絹旗が言った。
「みぃーっつけたっ!」
長机の上で身を起してぽかんとしていた恭介は、
次の瞬間にはオリアナに飛びつかれて視界を奪われていた。
「坊やったらあんな力強く
突いたり引いたり捻じったり振り回したり頑張って頑張り過ぎて
あんな事されたらお姉さんもうとろっとろ腰が抜けちゃいそうじゃない。
お礼にお姉さんってばなんでもしてあ、げ、ちゃ、うんだから。
だーって坊やったらお姉さんの
スーパーヒーローなんだからんーまっんーまっんーまっ」
ようやく空気を得る事を許された上条恭介の顔面に唇が雨あられと降り注ぐ中、
志筑仁美は志筑流薙刀術決戦奥義の記憶を辿りながら清掃用具箱に足を向けていた。
==============================
今回はここまでです>>360-1000
続きは折を見て。
素晴らしい
乙
乙
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>368
× ×
「取り敢えず、落ち着いたじゃん?」
会議室で周囲を見回した黄泉川愛穂が尋ねる。
「小康状態って所ね」
オリアナ=トムソンが言う。
「お兄さん、ちょっと付き合ってくれないかしら?」
「………浮いてるんだけど………」
浜面についっと顔を近づけたオリアナが言い、
滝壺理后が片手で掴んだ長机の現状を雲川芹亜が解説する。
「ここから上に移動する必要があるかも知れない。
私達はこれから偵察して来るから、
あなたも連れて行きたいのは山々だけど、
安全上の都合でそれは出来ないわ」
「わかった。いまだにどこ見てるのはまづら?
と言う質問とそこから先の事は帰って来てからに大事にとっておいて、
はまづらの事を応援してる」
「いや、とっておかなくても速やかにゴミ箱に捨てて忘れてくれていいからな滝壺」
「その間にもしもの時は持ち応えて」
「超了解しました」
オリアナと絹旗最愛の間で合意が成立した。
かくして、オリアナと浜面が一旦会議室を出る。
「一体何が起きてるのよ?」
「正直よく分からないけど、
ここも安全とばかりは言いきれないみたいじゃん」
自分の言葉に対する黄泉川の返答を聞きながら、吹寄制理がガリガリ頭を掻く。
その吹寄に、志筑仁美がそっと近づいた。
「あの」
「何?」
「これ、使いますか?」
仁美が差し出したのは、櫛だった。
「いいの?」
「何でしたら、わたくしが」
「お願いしてみるかな」
素直に物腰の柔らかなお嬢様の言葉に、吹寄も素直に応じた。
流石にここに至る迄の苦労が絡む黒髪に些か悪戦苦闘しながらも、
湯上りの香る吹寄の後ろ髪を仁美が徐々に梳いていく。
「凄く綺麗な長い黒髪で、羨ましいですわ」
「んー、そのふわふわな髪の毛も可愛いと思うけど、
いかにもお嬢様って感じで」
「有難うございます」
「一つ、作っておいた方が超いいですかね」
会議室で一人呟いた絹旗最愛も少々疲れていたのかも知れない。
彼女がミネラルウォーターのつもりで手に取ったペットボトルの中身は、
日本で言うハイボールの製作過程に於いて、
球形に削った氷を入れてウィスキーを注いだグラスに注ぎ込んで仕上げる用途等に用いられる液体だった。
絹旗がペットボトルにYシャツの左袖を縛り付け、右袖を掴んでびゅんびゅんと高速で振り回す。
「超持って行って下さい」
「分かりました」
空気を切り裂く様な回転が収まり、絹旗は風斬氷華にペットボトルを渡す。
「!?」
「志筑さんっ!?」
又、建物が大きく揺れた。
吹寄の髪の毛を梳き終えた仁美を上条恭介がとっさに抱き留めた。
「つっ!」
「きゃっ!」
左足を痛めた恭介がバランスを崩し、それを見越した様に吹寄が二人の前に駆け出した。
結果、吹寄制理は、前のめりに倒れ込んで来た二人の頭を抱く様にして正面から抱き留めていた。
「大丈夫?」
「ええ」
「有難うございます」
言葉を交わしながら身を起こし、何とかバランスを取り戻す。
「これからの事もあるんだから、怪我人はあんまり無理しないでよ。
………でも、こういう所はやっぱり普通に彼氏ね」
吹寄がストレートな言葉と共に片目を閉じ、
仁美がちょっと下を向きながらはにかみを見せる。
「もう、大丈夫ですわ」
「うん」
「あの、どうぞ」
揺れも収まって仁美と恭介が一旦離れ、
風斬が預かっていたペットボトルを渡す。
恭介が、Yシャツの袖で額の汗を拭い、ペットボトルの蓋を捻じった。
× ×
「この部屋なんかいいと思うけど、
この階はみんな施錠済みかぁ」
上の階を見て回りながら、会議室の前でオリアナが嘆息する。
「出来れば、今回は出入口無傷にしたかったんだけど………」
「開けてみます?」
「?」
オリアナの依頼で同行した浜面仕上が口元を緩ませて尋ねた。
「一応高いのを使ってはいても、アナログはアナログ」
非常時と言う事で色々と用意して来ていた浜面が、
その中から幾つかの道具を取り出した。
× ×
「何?」
きっちり分けられた前髪や形のいい顎や
ペットボトルの中身の三割以上は吸収していそうなYシャツの端々から
ぱたぱた滴らせてながら一言だけ問うた吹寄制理と
清掃用具入れでモップとデッキブラシを比べている志筑仁美が見せている完全なる無の表情を前に、
上条恭介は土下座と言う日本文化に就いて急速に興味関心を深めていく。
上条恭介が濡れた左手にペットボトルを握り、
蓋を握ったまま弾き飛ばされた右腕を半端に掲げて立ち尽くしている間に、
吹寄制理はさっさと歩き出し、途中で新しいYシャツを引っ掴み演台の陰で長座して着替え始める。
「場所は決まった、今なら動ける、移動の支度をして」
浜面と共に会議室に戻って来たオリアナが言った。
「行くわよ」
恭介の側にすたすたと戻って来た吹寄が言った。
「あ、あの、さっきはすいませんでした」
恭介がぱたんと体を折って頭を下げる。
「いいわよ、流れから言って君の大きなミスじゃない」
吹寄が素っ気ないぐらいに告げて恭介が吹寄の肩を借りた。
「と、っ!?」
動き出した途端にバランスが崩れ、恭介はとっさに吹寄の体を正面から向き合う形で動かし、抱き締める。
ここまで年上の女の人と言う印象だったのが、こうするとしっかり跳ね返る手応えがありながらも意外と華奢だ、
と恭介が感じたのも一瞬の事で、左足の痛みがそちらの踏ん張りを失わせ恭介の顔が引きつる。
「あ、有難う」
「大丈夫、ですか?」
恭介が、自分の背中に抱き付いた仁美に礼を言い、仁美が尋ねた。
「坊や、ちょっとそっちの彼女から腕離して」
「はい」
近づいていたオリアナの指示に恭介が従い、黄泉川が吹寄を支えた。
「全員厳しい状態だったけど、
ちょっと自分の体力過信し過ぎたかな?」
吹寄のおでこを手掴みし、指で瞼を開いたオリアナが言う。
「すいません、こんな時に」
堰を切った様に荒い呼吸を始めた吹寄が、駆け寄った雲川芹亜に潤んだ瞳を向けて言った。
「だから、今までの状況で誰が倒れてもおかしくないんだけど。
今まで人一倍、よく頑張ったから休むのがいいと言う体のサインなんだけど」
「はいはい超浜面そっち持って下さいっ」
「分かったっ」
「そんなはまづらを応援してる」
「と言いつつハイパワーでそっち持ってくれてありがとよっ」
「はい超3、2、1っ」
その内、絹旗最愛がどっかから引っぺがして来た引き戸を持って接近し、
一旦長机の上に置かれて周囲から支えられた引き戸の上に吹寄が寝かされる。
既に不調を隠す、或いは抑える気力が尽きたのか、
引き戸の上に豊かな黒髪を広げて横たわる吹寄は目も半開きに、その身を震わせながら荒い呼吸を続けていた。
そして、前方絹旗右後ろ浜面左後ろ滝壺その補助黄泉川の体勢で持ち上げられた。
「吹寄さん、あの嵐の中で、
自分も大変な筈なのに怪我人の僕の事を率先して色々助けてくれたんだ」
「事が終わったら、改めてお礼をしなければいけませんわね」
「うん」
「わたくしの大切な人をそれほどまでに助けて下さった方ですもの」
とにかく、引き戸に乗せられた吹寄が次の拠点へと出発し、
他の面々も持てるものを持って後を追った。
× ×
「終わったか?」
「はい、今の所は。現れたものは退治できました」
兵士の問いに鹿目まどかが答え、大きく頭を下げた。
突如現れた兵士達の力を借りて、何とか魔獣の群れを撃退する事が出来た。
今回、ワルプルギスの夜出現に合わせて発生している魔獣は、
今まで魔法少女として退治して来たものと比べて、何か進化した様に厄介な相手だった。
魔獣は白い巻衣装の男性を思わせるモチーフであるが、
今回の魔獣はその衣装が弾けて触手攻撃を仕掛けて来る。
更に、場合によっては、不十分なダメージから分裂して
何か不完全な生物の様な行動、攻撃すら仕掛けて来る。
兵士達は直接見る事が出来ない故に
ハイテクセンサーの応用とまどかの誘導が無ければ攻撃が出来ないとは言え、
兵士達による助勢が無ければ危ない所だった。
「救助は?」
「全員救出成功。精密検査はこれからだが現時点での重大な問題はない」
まどかから見たら大男な日本語を使う兵士がぐっと親指を上げ、
まどかは笑顔を返す。
そうしている内に、兵士達がざざざっと規律正しく行動する。
まどかかそちらを見ると、半ば崩壊した住宅地の一角に簡単なテーブルが置かれ、
その上にノートパソコンが置かれていた。
耳打ちを受けたまどかがぴっと震え上がって背筋を伸ばし、
その近くで整列した兵士達も一斉に敬礼する。
パソコンの画面が切り替わり、パソコンに接続されたスピーカーから野太い英語が聞こえる。
確かに、パソコンの画面に映っているのは、
特段社会情勢に詳しい訳でもないまどかであっても見覚えのある顔だ。
画面の中では、スーツ姿の白人男性が、大真面目な素振りで発言を続けている。
日焼けした髭面は野性味に溢れ、
仕立てのいいスーツにガタイのいいマッチョマンを無理やり押し込んだらしいのがなんとなく分かる。
それでも、英語が上手とは言えないまどかにすら分かる程、その発言は厳粛なもの。
そして、兵士達も身じろぎもせずに傾聴している。
これが、厳粛な大人の世界なのだろうとまどかも身が引き締まる。
そんなまどかに、日本語の出来る兵士が再び耳打ちをして、パソコンの前に立たされた。
「マジカル・ガール」
まどかの目の前で、画面の中に髭面のスーツ姿の最高司令官が発言をする。
それは、自分に向けられた言葉だとまどかにも理解出来た。
最高司令官は、自らの名前と肩書きを日本語と英語で繰り返し告げた。
「勇敢なる少女に惜しみない敬意と感謝の意を示すものである。敬礼っ!」
ざんざざんっと、とんでもなく偉いモニターの中からも外からも自分に敬礼を向けられ、
まどかは戸惑うばかりだ。それでも、頭の中では辛うじてその意味を理解する。
「説明を後回しにして悪かった」
日本語での説明が始まり、まどかはほっとした。
「そちらのマジカルな世界の事だが、流石にこちらの耳に入る事も色々あってだな、
極秘裏に国家的な調査が行われていた、と言う事だ。
その中でも、同盟国日本にワルプルギスの夜と呼ばれる巨大な災厄が訪れる。
様々な分析結果からその情報を確かなものと把握した結果として、
調査と人道支援を兼ねて特殊部隊を派遣した。
現状、日本の国家は通常の災害、以上の見解を採用してはいない。
従って、黙認を得るための手段を講じているとはいえ、
現段階に於ける武力介入は存在していない、そういう事になっている。
そこの所は弁えて、つまりは我々がアーミー、軍隊として
日本国内で直接活動していると言う事は内密にしてもらいたい。
その辺りの事はマジカル・ガールと同様に、クラスのみんなには内緒だよ(キラッ
と、言う事だガール」
「はい」
優しさに囲まれて素朴に育った鹿目まどかは、世界最強のごっつい男性が、
自分の緊張を和らげてくれたのだろう、と、好意的に解釈してくすっと笑って応じた。
「時に、マジカル・ガール。
本物に遭遇する事が出来た以上、至急確認が必要な事がある」
スーツの似合わぬ分厚い胸板の前で両手の指を組み、
重々しい声と共に画面の中からまどかを見据える。
「日本の萌え、と言うものに就いては相応の調査、研究を重ねたつもりだ。
そこで、日本のマジカル・ガールに確かめるべき事がある。
まず、そのフリフリふわふわなファッション、
萌えか?これが萌えなのか?と言う事なのだと思うが、
プリティ、キュート、日本語で言うなら一言カワイイ、
無論、ガール自身も含めた日本語での評価はこれで正しいと確信している」
「ウェヒヒヒヒ」
「その上で尋ねるのは、日本のマジカル・ガールがカワイイをクリアした後の事だ。
マジカル・ガールがミューズへと進化を遂げる時、
その変身シーンにおいては
麗しき大人のグラマーおねーさまがぼんきゅぼんのまっぱ………
ごうふぁあああっ!!!!!」
「児童ポルノ容疑で独立検察官を指名された初の大統領になりたいか?」
画面の中では、一瞬、髭面のドアップと見事な脚線美が閃き、
続いて一枚絵の美しい映像に切り替わった。
鹿目まどかは、取り敢えずこの世界が平和である事を理解していた。
× ×
戦いながら走り、走りながら戦う。
ワルプルギスの夜本体が近づくに連れ、破壊状況は目を覆わんばかりのものとなり、
暁美ほむらの現状は魔獣との大乱戦の様相を呈していた。
右手で自動小銃左手でSMGをぶっ放しながら魔獣の群れの中を突っ切っていたが、
そのどちらも引き金が乾いた音を立てた所で
ほむらは両方とも楯に戻し、弓矢を用意した。
一度足を止めて、自分に迫る魔獣を確実に仕留める。
又駆け出そうとするが、そこで別の魔獣のグループの存在に気づき
ざっとそちらに振り返る。
「!?」
次の瞬間、全体の魔獣の群れの中で、
ほむらの前に現れたグループが一つ、吹き飛ばされた。
実際問題凄まじい暴風雨は絶賛継続中で
本当であれば目も開けていられない状況。それは確かだ。
だが、それでもここまでは魔獣は一見すると平然と持ち応えていた。
だが、今のは、丸でそんな膨大な風が一つに束ねられた様に凝縮された、
爆発的な威力で魔獣の群れに横殴りに叩き付けられ、力ずくで吹き飛ばされていた。
そんな状態が周囲で頻発し、魔獣が群れごと吹き散らされる。
凝縮されたのは、風だけではなかった。
掃いて捨てる程に溢れ返っている水。
それも又束ねられ凝縮され、何か透明な巨大ミミズが地面をのたうち回る様に
周辺を縦横無尽に暴れ回り魔獣を薙ぎ倒していく。
ほむらが周囲を見ると、ほむらと同年輩の、流石に雨具は身に着けた少女が、
丸でスキーでもしているかの様に周辺の地面を縦横無尽に滑っている。
その少女の腕には、同じ様な年齢格好の別の少女が抱え上げられていた。
そこで、ほむらはハッと振り返り矢を放つ。
風や水の威力で相当に数を減らしていても、それでも、魔獣はほむらへと迫っていた。
ほむらは何とか一番近い集団を片付け、そこまで迫っていた別の集団に弓矢を向ける。
次の瞬間、突如その姿を現した大量の槍が、
ドガガカガッ、とばかりに次々と魔獣を貫きトドメを刺していた。
とにかく、急ぐ所で目の前の足止めが一つなくなったのは確かである。
ほむらは水たまりを跳ね、更に迫る敵に悪戦苦闘しながらも、
それでも大分楽になった状況で先を急ぐ。
「既にあちらの大元に向かわれた、
その時点で事態は終わったも同然ですの。
ゆぅうえぇえーにいぃーっ、露払いたるわたくしの為すべき事はただ一つ。
ここから先は
一歩たりも
通しませんのっ!!」
==============================
今回はここまでです>>372-1000
続きは折を見て。
乙
乙
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>382
× ×
「ひっ!」
ビルの会議室で、上条恭介の目の前をミニミサイルの様に突っ切ったペットボトルが
そのまま壁に激突し、辛うじて破裂を免れた。
「わ、悪りぃ」
「いえ」
流石に青くなった浜面仕上が頭を下げるが、
恭介もそれには寛容な態度を示す。
浜面は水の入った500mlペットボトルにワイシャツの袖の一方を縛り付け
もう一方を持ってびゅんびゅん振り回していたのだが、
縛りが甘かったのかすっぽ抜けてミサイルを発射していた。
だからと言って、浜面が童心に帰って遊んでいる訳ではない。
その証拠に、
「超浜面あっ!!」
絹旗最愛の怒号が響くが、オルソラ=アクィナスが一見ほわほわした雰囲気ながら
絹旗を向いてそっと自分の唇に縦に人差し指を当てると絹旗も怒声を飲み込む。
「あ、う………」
「大丈夫でございますよ」
その間に、会議室の一角を占める衝立の向こうでは、
応接用ソファーの上に寝かされた吹寄制理が何かを言おうとするが、
それを聞くだけで安らげるオルソラに声をかけられ、口を閉じる。
吹寄の半身を起こしてYシャツを脱がせたオルソラは、
別のYシャツをちぎって水に浸して絞った布きれで吹寄の体を拭う。
取り敢えず、衣類と言うか布類に関しては、
ここにいる大半が元着ていたものは大嵐と唐辛子ガスにより全滅。
救援物資として絹旗最愛が担いで来た白いYシャツは山程あるが
それ以外のものはない、と言うのが実情である。
今までも色々な意味で修羅場であったが、
何をどう血迷っても今ここで男共がうっかり衝立の向こうに踏み込んだりした場合、
既に戦闘待機モードのオリアナ=トムソン姐さんから
本気で四大元素のフルコースをいただく事になるだろう。
オルソラが吹寄の体の汗を拭うと、
ふうふう荒い呼吸を続けながら吹寄はオルソラにされるがままに新しいYシャツに袖を通す。
頬は林檎の様に真っ赤で、潤んだ瞳の焦点も合っていない。
「すいません、大変な時に」
ようやく、吹寄の声が出た。
「すぐに、助けが来ます。今はゆっくり休んで下さい」
オルソラにそう言われて、頭を撫でられると心が落ち着く。
吹寄は静かに瞼を閉じる。
オルソラは吹寄の前髪を整えおでこに掌を当てるが、
間違いなく熱過ぎる。
「持って来ました」
「ありがとうございます。持って来て下さい」
オルソラの言葉を聞き、恭介が衝立の向こうに移動する。
そこで、恭介がオルソラに空冷冷却水を渡す。
空のペットボトルに雨水を注ぎ込み振り回して冷やしたものだ。
「あり、がとう」
吹寄が薄目を開き、
とろりと潤んだ大きな瞳を恭介に向けて呟く様に言う。
オルソラが冷却水で布きれを濡らし、額に乗せる。
それを見ながら、オリアナ=トムソンは少し苦い顔をする。
何しろあの大嵐の中、体操服のTシャツショートパンツで
移動せざるを得なかった只の女子高校生。
悪い病気じゃなくても、普通に肺炎を恐れるべき状況だ。
その事は、今は、最低限の医療が間に合うまで祈るしかない。
取り敢えず、前にいた会議室から上の階の大型の会議室に移動して、
同じフロアの部屋を適当に開けて使えそうなものを会議室にぶち込んでから
会議室の扉もフロアの防火扉も全て閉じた。
幸い、その前に、前にいた階に集めていた物資は全て回収する事は出来た。
それでも、「敵」が総力で上がって来たらどこまで保つか。
下では天草式が奮闘しているがかなりまずい状況らしい。
こちらで戦闘面で当てになるのはオリアナと絹旗、
後は黄泉川と浜面が若干と言った所か。
その他多数の民間の、それも子どもを巻き込んで、と言う事になる。
彼ら彼女らを守りながら、そして、吹寄の様に現実的な内なる敵、
災害時の生活上の平凡な危険すら迫っている。
オリアナも、自分は元より選んだ道と覚悟を決めて、今は神のご加護を祈るだけだ。
× ×
「やあああっ!!」
ぼおっと林立する魔獣の群れに、
仲間と共にビルの防衛に当たっていた五和が槍をぶん回しながら突っ込んだ。
そして、手際よく魔獣をぶん殴り、斬り裂き刺し貫き倒していく。
身近なものが片付いた、と、思った瞬間、五和が息を呑む。
「くああっ!!」
「五和っ!」
西洋剣を振るいながら建宮斎字が叫んだ。
近づいていた魔獣のビームの一斉照射が五和を直撃した、かに見えた。
とっさの防御術式で直撃こそ避けたものの、
それでも爆発に巻き込まれた五和が吹っ飛ばされる。
「ん、っ」
そのまま地面に叩き付けられる、と、思ったが、
誰かに背中を受け止められたのが分かった。
「?」
そして、それと共に、満身創痍で戦っていた体が随分楽になるのを五和は感じる。
或いはアドレナリンが危険値を超えたのか、とも思ったが、
どうもそうでもないらしい。
「他に病人怪我人は?」
五和の背後から、少女の声が聞こえる。
そんなもの、この周囲には掃いて捨てる程いる筈だが、
「中だっ!!」
建宮が即座に叫んだ。
「中に病人がいるのよなっ!対馬、案内しろっ!!」
でっかい注射器を背負ってビルの中に駆け込む背中を見送りながら、
建宮の判断に意を唱える者は、
満身創痍の天草式戦闘部隊の中に一人たりとも存在していなかった。
「さぁーてっ」
建宮が剣を持ち上げ、低く唸る。
「病院ごとぶっ潰されない様に、もう一頑張りするのよなぁ」
ギンッ、と、満身創痍の軍団が魔獣の群れに視線を向けた。
「!?」
その天草式戦闘部隊が、一斉に体勢の維持に意識を傾ける。
それは、風だった。
風と言っても、ここではずっと嵐の真っ最中、暴風雨はずっと継続している。
だが、たった今のとは丸で状況が違う。
「カマイタチ?いや………」
五和が呟く。
物凄い質量の空気が寄り集まり束ねられ、
そして強力な勢いで突き出されて魔獣を次々とぶち抜き貫く。
これは、人為的なものと思うしかない。
× ×
ワルプルギスの夜らしきものを見上げながら、鹿目まどかは震えていた。
魔法少女が本気で移動するなら、決してたどり着けない距離ではない。
そんな位置に、巨大なグロテスクな柱が黒雲の様なダークオーラを纏って空中に浮遊している。
そして、今まどかがいる周辺にも、魔獣の存在を示す瘴気が
気分が悪くなる程濃厚に立ち込めている。
普段であれば、これだけでもとんでもない大群の存在を示している。
今、ここにいるのは自分だけなのか?他の仲間はどうしたのか?
それを考えている暇は全くなさそうである。
深呼吸して、キッと前を向く。
魔法で作られる矢がどんどん膨らんでいく。
キリキリと弓が引かれ、大振りの矢が前方、魔獣の群れを切り裂いた。
次の瞬間には、何本もの矢を速射する。
元々、まどかはどちらかと言うと鈍くさいタイプで運動も得意と言う方ではない。
その一方で、愚直さがある。加えて、魔法少女としての才能もある。
その才能と練習の成果で大型の魔法矢から速射にスイッチし、
前方の魔獣の群れが崩れを見せた所で、そのただ中に駆け込む。
魔獣が迫る前に矢を放ち、前に進む。
それでも、全然間に合わない。
そんな気配を感じて、恐怖と共に振り返る。
その瞬間、けたたましい銃声が響き渡った。
「まどか、大丈夫っ!?」
「鹿目さんっ!!」
「ほむらちゃん、マミさん」
まどかはほっと、脱力した。
振り返ったまどかの前で暁美ほむらがAKM自動小銃をぶっ放し、
その背後では巴マミがダダダダダダッとマスケット銃を連射していた。
「お待たせ、まどか」
「へっ、そっちが一番乗りかよ」
まどかの左右で、
美樹さやかと佐倉杏子がずっぱぁーんっと魔獣の群れを斬り払って登場する。
既に、行先は分かっている。
そして、魔獣の大群はまどか達の周囲を取り囲み、迫っている。
片膝をついたほむらが、魔法で身体強化しながら、
象でもハンティング出来るマグナムライフルをボルトアクションしながら次々と発砲する。
「ティロ・フィナーレッ!!」
更に、マミが肩に担いだランチャーにしか見えない代物をぶっ放した。
「それじゃあぼちぼち」
杏子が、目標方向を見る。
「行きますかっ!」
さやかが叫び、一同が綻んだ群れの包囲を突いて、ワルプルギスの夜に向けて走り出した。
空中に次々とマスケット銃が生み出され、マミがそれを撃ちまくる。
さやかが魔獣を斬りまくり、空中に生み出した剣を次々と飛ばし、
杏子の槍が次々と魔獣に叩き付けられる。
ほむらとまどかが弓矢でその攻撃防御を援護する。
一同が辿り着いたのは、ロータリーだった。
この辺りで、いよいよ魔獣の包囲、追撃が厳しくなってきている。
ここで一度反転攻勢に出るか?
しかし、ここで魔獣の大群と泥沼の攻防に陥ったら、
その後にワルプルギスの夜本体との戦いが控えている。
「オラクルレイッ!!」
「はいはいはいはいっ!!!」
一塊に突き進んでいたまどか達にぐわっと迫っていた魔獣が
一斉に切り裂かれて消滅した。
「遅れてすまない恩人っ!!」
ずしゃあっと滑り込みながら呉キリカが叫ぶ。
進行方向とは逆を向いて両腕を広げた美国織莉子の周囲には、
大量の水晶球がふわあっと浮かんでいた。
「ここは私達に任せてワルプルギスをっ!!」
「分かった」
織莉子の言葉に、ほむらは即座に応じた。
「ほむらちゃん、織莉子さん………」
「行って、ここでもたもたしていても、
大勢の人達も含めて共倒れになるだけよ」
悲しそうに言うまどかに、織莉子は敢えて突き放す様に言う。
「何の心配をしているんだい?」
キリカが加わった。
「私の前で、私の(中略)愛する織莉子を傷付けるなど、
そんな事が許されるとでも思って、いるのかいっ!?!?!?」
早速に、接近していた魔獣の群れがキリカの手でぶった斬られた。
「まどかっ、ここは二人にお願いするわ、
必ず倒して終わらせるっ!!」
「そうして頂戴っ!」
「期待してるよ恩人っ!!」
多分に含まれる強がりは隠せない。
それでも、まどかと織莉子は頷き合い、
まどかは二人を残しほむら達と先を急いだ。
「おおおおっ!!!」
跳躍したキリカが魔獣を斬り裂く。
まどか達を見送る間もなく、
織莉子、キリカは魔獣の大群相手に大乱戦に巻き込まれる。
「キリカッ!!」
キリカの周囲に、ドドドドドッと水晶球が撃ち込まれ魔獣が討ち滅ぼされる。
「織莉子っ!?」
そこで、魔力を消耗し膝を屈した織莉子を見てキリカが駆け出した。
「ヴァンパイア・ファングッ!!!」
弱った織莉子の周囲に群がっていた魔獣に、
キリカが連結された爪を叩き込む。
織莉子とキリカが、
手を取り合って掌の中でソウルジェムにキューブを当てて浄化する。
「何とか保たせるわよ」
織莉子が言う。
「恐らくこの魔獣を従えているワルプルギスの夜を倒せば、
この状況は解消される。
それまで、ここで魔獣を防ぎながら最小限の消耗で」
「そうだね、織莉子」
無茶苦茶厳しいオーダーだとどちらも分かっているが、
呉キリカたる者、美国織莉子の言葉に対して泣き言等有り得る筈がない。
何よりも、美国織莉子である以上、
呉キリカにこうして口に出した事は、自らの命を懸けた言葉。
であるならば、何に対して命を懸けるべきか、呉キリカは誰よりもよく理解している。
「さあっ!!………」
キリカが立ち上がり、迫り来る魔獣の群れを見据えた。
その魔獣の群れが、不意に、引き裂かれる様に何かにぶち抜かれた。
「ブモオォォォォーーーーーーーーーッッッッッ!!!」
「牛?」
「源義仲?」
魔獣の群れを跳ね飛ばし突っ切って現れた存在を目にして、
キリカと織莉子がぽかんと言った。
その間に、空中では、一人の少女がアクロバティックに舞っていた。
空中から着地、更に、踊る様に飛び跳ねながら、
一人の魔法少女がSMGをぶっ放して周囲の魔獣を片付けて行く。
「何、あなた達?」
いかにも魔法、と言った赤紫の途中に段のあるとんがった帽子の
幅広の鍔をくっと押上げながら、SMGを手にした魔法少女が言った。
「どちらかと言うと、こちらの台詞ね」
織莉子が応じる。
「あいり様の事が気になるご様子で?そりゃそうだ、余所者だしね。
杏里あいり、あすなろ市から来た」
「美国織莉子、お礼を言わせてもらうわ、有難う」
「私は呉キリカ、君を恩人と呼ばせてもらおう」
「そりゃどうも。
医療支援に行くって言うからついて来たらこの様だもんな。
こっちには友達もいるしさぁ、あんた達は?」
「この先で、私達の仲間が大元のワルプルギスの夜と戦ってる。
だから、私達はなんとしてもここで魔獣を食い止めなければならない」
「そういう事」
返答したあいりが、スチャッと二挺拳銃を手にした。
「事態を解決するには、闇雲に狩って回るより、
ここにいた方が効率がいい、って事でいい訳?」
「超ブラックなハードワークでいいんならね」
あいりの言葉にキリカが応じる。
「見込みがあるだけいいよ」
「来るわよっ!」
「了解っ!!」
「コルノ・フォルテッ!!!」
バババババッ!!と、魔獣が斬り裂かれ、蹴散らされる。
その僅かな隙に、杏里あいりは天を仰いでいた。
「大丈夫かな………いつも無理し過ぎるから」
==============================
今回はここまでです>>385-1000
続きは折を見て。
乙
それでは今回の投下、入ります。
==============================
>>395
× ×
上条恭介達が避難しているビルの会議室で、
カードを耳に当てていたオリアナ=トムソンが立ち上がった。
「ちょっと、出て来るわ」
妖艶な笑みを浮かべ、何となく周囲を手で制しながらオリアナは会議室を出る。
「戻ったわよ」
程なく、オリアナの声を聞き、出入口の周囲にいた絹旗最愛が鍵を開けて中に招く。
「その子は?避難して来たじゃん?」
オリアナが背後に連れている少女を見て黄泉川愛穂が言う。
「医者じゃないけど、応急の手当てなら心得がある。信用出来る情報よ」
オリアナが言い、連れて来た少女と共にずかずかと衝立の向こうへと移動する。
「少し、お姉さんを信じて任せてくれるかしら?」
オリアナが優しい口調で言うが、
体を拭ったばかりでもYシャツを半ば汗に浸してソファーの上に横たわる
吹寄制理ははっきりと反応出来る状態ではない。
「失礼します」
フロアまで天草式戦闘要員対馬の案内を受け、
その後に中から防火扉を開けたオリアナに引き渡されて
同行して来た飛鳥ユウリが吹寄の横にしゃがみ込む。
ユウリが吹寄のYシャツのボタンを外し、鳩尾の辺りに右の掌を当てると、
外見としては一心に念を送りながら吹寄の腹から胸へと上下にゆっくり掌を移動する。
そして、ふーっと息を吐いてその場に脱力した。
それと入れ違う様に、吹寄が目を開いてオリアナに眼差しを向ける。
「大丈夫?」
「………お腹すいた………」
「それはちょうど良かった」
ぬっと、衝立の向こうからオルソラ=アクィナスが姿を見せる。
「重湯を作った所です、そのまま飲める熱さでございます」
「いただきます」
吹寄がソファーの上に身を起こし、注意深くカップを受け取る。
「どう?」
「美味しい。それに、かなり楽になったと思う。有り難う」
「応急処置ですから、救助が来るまで休んでいて下さい」
「………そうする………」
ユウリに云われ、重湯を呑み終えた吹寄が、
カップをオルソラに返してソファーに横たわり目を閉じる。
普段は四角四面なぐらいにきっちりしている吹寄も、
只の女子高校生として峠を越した安堵でずぼらな甘えん坊になるぐらいに体力が底をついている。
オルソラはそれを見届け、カップを近くのテーブルに置いて
吹寄のYシャツのボタンを閉じて額の汗を拭ってから布団替わりのYシャツを掛け直す。
「応急に肺炎の徴候だけ対処しましたから、
救助まで安静にしていれば命に別状はない筈です。
それでは、私はこれで………」
立ち上がり動き出した飛鳥ユウリの肩をオリアナが掴んだ。
「駄目よ」
「え?」
「マギカの術師だと思うけど、あなた、限界超えてるでしょう。
外の状況を考えても想像がつくわ、無理しちゃうタイプなのね」
「でも、まだアタシは」
「いいから、これ以上は駄目よ。あなたもここで休んでいきなさい。
その能力と誠意があるなら、
この世界はまだまだあなたにここで終わってもらう訳にはいかないの。
今は、人生経験豊富なお姉さんのアドバイスを聞くものよ」
「………分かりました………」
「それでは、あの嵐の中ここまで来たのでございます。
お礼も兼ねて歓迎のスープがございますよ」
「いただきます」
およその合意が成立し、三人は衝立から外に出る。
「何か、良くなったって事でいいのか?」
「ええ、それで合ってるわ。
取り敢えず本当に危ない状態は脱した」
「良かったー、何だか知らないけどありがとな」
オリアナと言葉を交わした浜面仕上が、人懐っこくユウリに礼を言った。
「いえ、ちょっとしたマッサージみたいなものですから」
ユウリが小さく頭を下げる。
「はい、もう一本出来ました」
そんな、若干緩んだ空気の中、
水の入ったペットボトルにYシャツを縛り付け振り回して冷却水を作っていた絹旗が、
出来上がったものをひょいと上条恭介に放り渡す。
「休むなら頭を超冷やすべきでしょうね」
「峠を越したと言っても、
今は39度に届きかねない体温に変わりないですから」
絹旗の言葉にユウリが応じる。
皆の疲れも限度に達し、若干緩んだ空気の中、上条恭介は動き出す。
「気持ち悪い」
やや意識がはっきりした吹寄は、呟いてむくりと身を起こすと、
絞り出された嫌な汗にじっとりとしたYシャツのボタンを外す。
こうなると吹寄の元々の性格で、胸の中も含めて気持ち悪いから誰かを呼ぼうか、
と思ったからこそ、自らの意思でそれを戒め、
着ていたYシャツで体を拭ってから側に置かれた新しいYシャツに手を伸ばす。
袖を通そうとして想像以上に消耗している頭と体の錆びついた動きに悪戦苦闘していた。
現状、既に限度を超えた疲労で、一歩間違えたら文字通りヒャッハーと踊り出しかねない程に、
ここにいるみんながみんな、
自覚出来ない事が更にまずいぐらいにいい感じに頭が錆びついていた。
結局、一応嵌ったボタンの段違いを許せない程に几帳面にも関わらず、
段違いに嵌めてそれを全部外す、所までは何故か成功したにも関わらず、
本来の穴に嵌め直そうとすると何故か上手く嵌らない。
そんなドツボの状況に集中力の大元である気力体力が払底した吹寄制理は、
一つの例外も無く完全に不成功と言う状態を維持したまま、
どうとソファーに背中を預け天井を見ていた。
「冷たいお水持って来ました。おでこ冷やしますね」
「ありがと」
そこに現れた上条恭介が、冷却水で布きれを濡らし、
余分な水分をバケツに絞り込んで吹寄の額に乗せる。
「あぁー、気持ちいぃ」
「それじゃあ」
うとうとと目を閉じる吹寄を残し、上条恭介は踵を返す。
「起きてますか吹寄さん?オルソラさんがお粥をいかがしますかと」
上条恭介が衝立内から出ようと一歩踏み出した辺りで、
志筑仁美が、ひょいと衝立から顔を出して小声で話しかけていた。
× ×
嵐の中に嵐が巻き起こり、
その空気の塊が先鋭化して魔獣の群れをぶち抜いていく。
一旦周囲の建物の陰に入りながら、
天草式の面々はその事態を見守っていた。
その空気の塊を制御して魔獣の群れを駆逐しているのが
うぞうぞうぞと押し寄せた大量の小さな腕である事が、
更に天草式の面々に異様さを感じさせる。
「くかかっ!トロトロやってンじゃねェぞォォォっ!!!」
その大量の腕を従えた、
まだ十代に入ったばかりの黒ずくめの少女が、
自らの腕から噴射した強力な質量の空気で目の前の魔獣共をぶった斬って一掃する。
「ふんっ、こォンな雑魚共相手にあンなボロビルに籠城ですかァ」
間近のビルを見上げ、鼻で笑った黒夜海鳥は、
ざっと振り返り、とっさに強力な一撃を噴射する。
更にその黒夜の顔の横辺りを高速の鉄釘が突き抜け、
黒夜の背後でビーム配置していた魔獣を突き抜ける。
「ぎゃはっ、クゥーロにゃーん、手こずってんじゃないの?
何ならあっちから半分ぐらい人数回そうかー?」
「るせェ、要る訳ねェだろこンな雑魚共によォォォっっっっっ!!!
それからクロにゃンはやめろォォォォォォォォォっっっっっっっっっ!!!!!」
バチバチ自前の電気で群がる魔獣を追い払っている
やたら目つきの悪い少女に嘲笑を向けられ、
黒夜は取り敢えず自分の周囲から迫る魔獣を一掃する。
「おいっ!!」
叫びながら飛び出して来たのは、
物陰でカードを耳に当てていた建宮斎字だった。
「総員、ビルの一階に避難、お前らもだっ!!」
西洋剣で寄って来る魔獣を叩き斬りながら建宮は叫ぶ。
「はァっ?何言ってンの?」
「いいからっ!巻き込まれるぞっ!!」
「………言う事聞いた方がいいと思う」
「なンだ?らしくもねェ」
「どっちかって言うとミサカの守備範囲の筈なんだけど、
それでもよく分からない何かって言うか」
「なンか、マジみてェだな」
かくして、周囲にいた面々がビルの一階に移動する。
直後、雷鳴を聞いたと思った時には、
荒れ狂う緑色の雷がこの周囲を魔獣の群れごと思うままに蹂躙していた。
× ×
水晶球が爆ぜ爪が斬り裂き銃弾が飛ぶ。
ワルプルギスの夜本体も間近なロータリーでは、そこから派生する魔獣の大群相手に
足止め担当美国織莉子、呉キリカ、杏里あいりが激戦を繰り広げていた。
「大丈夫かっ!?」
「ああ、なんとかね」
あいりの周辺に迫った魔獣をキリカが斬り裂き、
その場にしゃがみソウルジェムに押し付けたキューブを投げ捨てたあいりが返答する。
「なんとか、まだ、大丈夫っ!!!」
「スティッピング・ファングッ!!」
どんどんどんどんどんっとあいりが二挺拳銃を発砲し、キリカが撃ち出した爪と共に、
少し離れた場所で孤軍奮戦していた織莉子にビーム照準を合わせていた魔獣の群れを料理する。
「はいはいはいはいはいっ!!」
更に、キリカは織莉子の周囲の魔獣の動きを低速化して一気に爪で斬り裂く。
「有難うキリカ」
「当然だよ」
織莉子とキリカは言葉を交わすが、共に息は上がりつつある。
特に、織莉子は一時期程ではないとは言え、長期戦の燃費は余りいい方ではない。
本体を退治するまでの時間稼ぎとは言え、
想像を絶する大群相手の防衛戦はじわじわと三人を消耗させる。
「来る」
「え?」
三人三方向を向いて固まっての戦いの中、
呟いた織莉子の言葉にあいりが問い直す。
「来る」
「何?これ以上増えるって言うの?」
あいりが再び問うが、織莉子の口許には笑みが浮かんでいた。
その頃には、あいりの耳にも届いていた。
ドドドドドドドドドと、この嵐の中でも聞き取る事が出来そうな勢いで何かが接近して来ていた。
気が付くと、三人の魔法少女は包囲されていた。
ついさっきまで魔獣の大群に包囲されていた筈だが、
今は黄色いポンチョ姿の大軍に包囲されている。
「な、何、これ?百、二百?いや、もっと………」
「武田信玄の蛤」
更なる異常事態に焦りを見せるあいりの横で織莉子が呟いた。
「何、それ?」
「人間、限度を超えた数を直接把握する事は困難だと言う事よ」
あいりと織莉子が言葉を交わしている間に、大軍は三人の周囲に展開する。
大軍は揃いの黄色いポンチョにメカニックらしきゴーグルを装着しており、
手に手にSMGや自動小銃を装備して、生き残り攻撃を仕掛けようとする魔獣を次々と狩っていく。
まず、大軍と言ったが、滅茶苦茶に数が多い、
多いと思っていた魔獣の大群を物理的に踏み潰して終わりそうな勢いだ。
そして、織莉子が気が付いたのは、チームワークが抜群過ぎる。
言葉を交わしている様子もないのだが、それでいて、
それぞれの武装ポンチョが余りにも的確に行動し、魔獣を退治していく。
その有様は、丸でサバイバル・ゲームを楽しんでいるかの様でもあるが、
用いているのは間違いなく実銃だ。
「に、しても」
窮地を脱したためか、キリカがいつもの軽口にどこか安堵を滲ませて口を開く。
「何と言うか、無個性な連中だね。丸で見分けが付かない」
「そりゃそうでしょう」
キリカの言葉にあいりが応じる。
「この嵐でガッチリフード被ってるし、
あんなゴーグルで顔も分かんないんだから」
そんな会話を聞き来ながら、織莉子はすっと目を細めて思考する。
何となくだが、恐らくは女、それも、自分達とさ程歳が変わらないのかも知れない。
その前提で言うならば、一見して中肉中背の要員が集められているのも、
極端な個性が無い体格が戦闘向きだと言う選考基準だと言う事なのか。
× ×
「そぉらあっ!!!」
とあるビルの屋上で、佐倉杏子がぶうんと槍を振るい、
美樹さやかが空中にずらあっと並べた剣を飛ばし接近した魔獣を斬り伏せる。
その間にも、ワルプルギスの夜が飛ばしたどす黒い瘴気の塊が爆ぜて、
その破片が生み出した魔獣がビルの屋上を襲撃してさやか、杏子と激闘を繰り広げる。
「ティロ・フィナーレッ!!」
その側で、魔法少女ならば一っ跳びで届きそうな場所に浮遊している
ワルプルギスの夜に向けて、
巴マミが肩掛の携帯砲を発射し、暁美ほむらがマグナム・ライフルを発砲する。
「どうだ?」
「駄目ね」
尋ねる杏子に、荒い息を吐くマミが腕で汗を拭いながら答えた。
「只でさえ強力な魔獣なのに、とてつもない規模の瘴気が周囲を覆ってる。
量と濃度があり過ぎて、魔力の塊であると同時に物理的存在として、
丸で分厚い鎧みたいにあのワルプルギスの夜の周囲を取り巻いてるわ」
ライフルのボルトを操作し、頭に浮かぶ諦めを振り捨てつつ
化け物クラスのマグナム弾を装填しながらほむらが言った。
「攻撃、全然通らないの?」
さやかが尋ねる。
「ええ。少なくとも自衛隊とガチバトルする映画の大怪獣レベルの頑丈さよ。
あれならミサイルや燃料満タンのタンクローリーを
直接叩き込んでも無傷なんじゃないかしらね。
しかも、マイナスのブラックな魔力の塊だから、
魔法少女がまともに突っ込んで行ったら
飲み込まれて考えるのもおぞましい事になりそう」
「おいおい、ここまで来てどーすんだよそれ」
ほむらの言葉に半ば呆れながらも、
びゅんっと飛び出して接近していた魔獣を叩き伏せた杏子が言う。
「さぁーてっ、20億人大集合いっちまいますよぉーっ!!!」
「傲慢!貪欲!!嫉妬!!!憤怒!!!!暴力!!!!!怠惰!!!!!!………」
「いちおー表向きは内政干渉がどーたら気にしつつ、
よーやくブースターが到着した訳だし」
「優先する。小麦粉を上位に瘴気を下位に」
「そういうコトっ、
つまり、アンタが潰される番ってワケよっ!!!」
「ここで墜ちるのである」
「貴様にはアンラッキーデイになったな。
この街、俺様が救って見せる」
「超すごいパァァァァァァァンチィィィィッッッッッッッッッ!!!!!」
「さぁー、敵はあっち敵はあっち回れ右して攻撃するんだぞおっ」
「おらおらおらおらセンス悪りぃ黒い塊なんかで避けてんじゃねーぞ
パリィパリィパリィパリィパリッッッ!!!!!」
「俺の未元物質に常識は通用しねえっ!!!」
「くかっ、くかかっ、くかかきけこかけきくか
こけきかきこけきかくかけこくきかきかかかか
かきくけこぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっ!!!」
美樹さやかは、屋で目をぱちくりさせて、
直径一メートルのレーザーっぽいのとか
物凄いコインとかとても物凄い居合抜きとかが飛び交う圧倒的な光景を眺めていた。
「少しは、効いてるみたいね」
四方八方からの攻撃を受け、
硬い巨大な殻と化していた膨大な瘴気を半ば以上消滅させて
本体にも響いているらしいワルプルギスの夜の様子を見て暁美ほむらが呟く。
「さあ、いくわよみんな!」
「はいッ!」
巴マミの号令一下、その屋上に集まっていた魔法少女達は一旦変身を解除し、
ざん、さざんっと、
右から杏子、さやか、マミ、ほむら、まどかの順に
斜め横一列に整列する。
手にしたソウルジェムを一度胸の前に移動し、
それから掌に乗せて前に差し出す。
あの厳しい特訓の成果が、今、試される。
==============================
今回はここまでです>>397-1000
続きは折を見て。
乙
まずは訂正を幾つか。
>>335
×
オルソラ=アクィナスさんが後に語る所によると、
オルソラ=トムソンがこの時に行った説明は、
論理的な記述内容それ自体に誤りはなかったらしい。
○
オルソラ=アクィナスさんが後に語る所によると、
オリアナ=トムソンがこの時に行った説明は、
論理的な記述内容それ自体に誤りはなかったらしい。
正直、一番警戒してた間違いの一つだったんですけど………すいません
>>367
×
最早、何が正常か異常か許容値かの感覚も半ば麻痺しつつある上条恭介が、
仁美が当てていたペットボトルを自分の手で持ち帰る。
○
最早、何が正常か異常か許容値かの感覚も半ば麻痺しつつある上条恭介が、
仁美が当てていたペットボトルを自分の手で持ち替える。
>>407
×
美樹さやかは、屋で目をぱちくりさせて、
直径一メートルのレーザーっぽいのとか
物凄いコインとかとても物凄い居合抜きとかが飛び交う圧倒的な光景を眺めていた。
○
美樹さやかは、屋上で目をぱちくりさせて、
直径一メートルのレーザーっぽいのとか
物凄いコインとかとても物凄い居合抜きとかが飛び交う圧倒的な光景を眺めていた。
すいませんでした。
それでは今回の投下、入ります。
魔獣版ワルプルギスの夜、かなりフリーダムに作ってます。
==============================
>>407
× ×
「さあ、いくわよみんな!」
「はいッ!」
巴マミの号令一下、その屋上に集まっていた魔法少女達は一旦変身を解除し、
ざん、さざんっと、
右から杏子、さやか、マミ、ほむら、まどかの順に
斜め横一列に整列する。
手にしたソウルジェムを一度胸の前に移動し、
それから掌に乗せて前に差し出す。
かくして、大魔獣ワルプルギスの夜を前にして、
とあるビルの屋上に戦隊状態の魔法少女が集結する。
その間の描写に就いては、
主に何か涙目でロケットランチャーを向けられていそうな気配なんかに基づき、
ここでは割愛と言う事にさせてもらう。
ワルプルギスの夜は、周辺からの総攻撃を受けて、
膨大な暗黒の瘴気による分厚い鎧こそ引きはがされたものの、
それでも巨大魔獣として目の前に浮遊している事に違いはない。
それは、何か巨大な柱の様であり、
よく見るとおぞましい何かが大量に絡み合っている様でもある。
「いっくぜぇーっ!!!」
そのワルプルギスの夜に向けて跳躍したのが佐倉杏子であり、
美樹さやかがその後を追った。
杏子がでっかい槍でワルプルギスの夜をぶっ叩き、
その後に続いて、美樹さやかが空中に並べた大量の剣を飛ばしてワルプルギスの夜を攻撃する。
「硬ってぇーっ!!」
跳ね返る感触に杏子が顔を顰め、
ガン、ガンッと二刀流で直接ぶっ叩いたさやかも腕で汗を拭う。
「くっ!」
「このっ!」
その内に、ワルプルギスの夜の体からさやかに向けてわさわさと触手が伸びて、
さやかが慌ててそれを斬り払い杏子も槍で援護する。
尚も追い付いて来る触手を巴マミの携帯砲が吹っ飛ばし、
杏子とさやかは一旦敵の射程距離を離れて屋上に戻る。
「ダメージ、通ってないわね」
今の携帯砲でも本体の傷どころか
触手も悠々再生しているワルプルギスの夜を見てほむらが呟く。
「外側は硬いみたいだな」
「弱点とか、あるのかな」
杏子とさやかが口々に言った。
「力押しでどうかしら?」
「巴さんの火力なら可能性はある。
でも、闇雲に撃ち込んで外れなら巴さんの攻撃力を失うリスクの方が」
マミの提案にほむらが難色を示した。
× ×
「分かったっ」
別のビルの屋上で、
両手を両耳に当てていた日向茉莉が閉じていた目を見開いた。
「良くってよ」
更に別のビルの屋上で、
御崎海香が開いた本をワルプルギスの夜に向けた。
跳躍した茉莉が、瘴気から湧く魔獣をガントレットで退ける。
そして、茉莉が放ったビームを追う様にチャクラムが飛び、
ワルプルギスの夜の体に突き刺さる。
その頃には、魔法で何人もいる様に見える状態の牧カオルが、
束の間空中で魔獣を翻弄していた。
その間に、屋上から牧カオルに光球が飛び、
カオルがシュートした光球がチャクラムに近い位置に叩き込まれる。
ゴールした光球の後を追う様に、
天乃鈴音が大きく跳躍する。
鈴音の手に両逆手に握られた大剣が、
どかっ、と、既に消滅した光球のゴール周辺に抉り込まれた。
どどかっ、と、二本の杖が、槍の様にワルプルギスの夜の体に突き刺さる。
和紗ミチル、昂かずみが杖を突き刺したのは、
鈴音が剣を突き刺した間近の場所だった。
(((もう一撃っ!!!)))
効いてはいる、その感触を感じながら、三人は得物を一旦引っこ抜こうとする。
だが、何かが絡み付いているのか、簡単には動かない。
「スズネちゃんっ」
ぴくっ、と、眉を動かして叫んだ茉莉が屋上の柵近くまで走った。
「離れないと、まずいものが漏れ出してるね」
海香と同じ屋上で、スマホを手にした神那ニコが言う。
そして、その事は、ワルプルギス間近の三人が一番よく肌で感じていた。
「「「おおおおっっっっっ!!!」」」
気分が悪くなる程の瘴気に晒されながら、
三人は一気に突き刺さった得物を引っこ抜く。
それと共に、ワルプルギスの夜の体表の一分が、
ばがん、と開いていた。
「炎舞っ!!!」
三人の目の前で、巨大な炎が爆発する。
「退きますよっ!」
普段のほわほわをすっ飛ばす程に叫ぶ美琴椿に、三人も頷いた。
開いた部分から溢れ出た大量の瘴気。
とっさに駆け付けた椿が三人に直行したものだけでも焼いていなければ、
鈴音、ミチル、かずみ三人まとめて即時毒殺されかねない桁違いの量、濃度だった。
「ティロ・フィナーレッ!!」
マミの砲撃を受けて黒雲の様な瘴気が爆散し、
開いた空の道に向けて杏子が跳躍する。
「杏子っ!」
「くっ!」
屋上でさやかが叫び、
ほむらがモーゼル狙撃銃のボルトを操作しながら柵の側まで走る。
「おらあっ!!」
爆散した瘴気が魔獣と化して杏子へと飛翔する。
杏子がそれを槍で振り払い、
ほむらの狙撃銃とまどかの弓矢が援護に当たった。
「来いっ!!」
屋上から幾つもの光球が飛び、
飛翔した牧カオルが湧き出した魔獣に次々と光球を蹴り込む。
「ロッソ・ファンタズマッ!!」
牧カオルに向けて飛翔する魔獣の群れと
牧カオルの群れが激突する。
その戦場を跳び越える様に佐倉杏子がワルプルギスへと飛翔し、
佐倉杏子の群れが目の前に群がる魔獣を槍で蹴散らした。
「マミさんっ!!」
そして、槍を一振りした杏子のその背後では、
既に巴マミが大量のマスケット銃を空中召喚していた。
「ティロ・ボレーッ!!」
ワルプルギスの夜の体表が開いた穴に、
杏子が開いた射線を通ってマミによる一斉射撃が吸い込まれる。
そして、マミは、ランチャーっぽいものを肩に担ぎながら落下していた。
「ティロ・フィナーレッ!!!」
==============================
今回はここまでです>>409-1000
続きは折を見て。
乙
それでは今回の投下、入ります。
引き続き、オリ要素満載のワルプルギスの夜が暴れています。
==============================
>>414
× ×
「やったか?」
自グループの待機するビルの屋上で、戻って来て振り返った牧カオルが言う。
開いた体表から内部に向けて
巴マミの強力な砲撃を受けたワルプルギスの夜は黒い煙を吹きながらガクガク振動していた。
その、巨大な柱の様なワルプルギスの夜のてっぺんをぶち破り、何かが飛び出した。
同時に、柱の様なワルプルギスの夜はゆっくりと朽ち果て始める。
「!?」
カオル達のいるビルの屋上が、瞬時に魔獣の大群に取り囲まれていた。
「ロッソ・ファンタズマッ!!」
御崎海香が光球を次々生成し、
正面から襲撃してくる魔獣の群れにカオル軍団が光球を叩き込み突破を防ぐ。
「このっ!」
別の側面から屋上に上陸する魔獣の群れに神那ニコがすぱーんとバールを振り抜き、
浅海サキが長鞭を振り回して防戦する。
「つっ」
そのサキの頬近くをビームが掠める。ビームの出所では、
うぞうぞうぞと魔獣の大群が今正に屋上に上陸する所だった。
その、魔獣の先発隊が、巨大な剣によりずばぁーんっ、と、一閃される。
「な、に、を、し、て、い、る?」
地獄の底から響く様な低い声と共に、
魔獣の群れはクマーなぬいぐるみの大軍に食い尽くされていた。
「だいじょ………」
「大丈夫かいサキッ!!!!!!」
屋上の床に両手をついた若葉みらいにサキが声を掛けるが、
サキの台詞は言い終わる前にみらいに百倍返しにされていた。
「とにかく、結構な大技を見せてもらった以上、
一旦浄化した方がいいだろう」
ニコが言い、周囲を警戒しながら僅かな浄化休憩の状態に入る。
「!?」
一同がそちらに視線を向ける。
無視するには、余りにも圧倒的な存在感だった。
御崎海香が柵近くに走り、屋上をバリアで覆った。
「海香!?」
柵の向こうに瘴気しか見えない目の前の光景にカオルが叫ぶ。
「丸で猛毒の黒雲だね」
神那ニコが言った。
「ビル全体、少なくとも屋上が完全に飲み込まれた。
少しは濃度が下がらない限り、
このバリアから出たら死ぬよ、即死で」
ニコの言葉は、他の面々にも肌で感じる事が出来る。
只でさえ大嵐の中、昼なお暗いを地で行く黒雲のど真ん中にいる圧迫感は、
心身ともに圧倒的に伸し掛かる。
「炎舞っ!」
自グループの集合する屋上に戻った美琴椿が、
猛スピードで突っ込んで来た何かに炎を叩き付け追い払う。
ぶわっ、と、周囲が瘴気に取り巻かれ、
瘴気は蠢き形となる。
「おおおっ!!!」
「このおっ!」
正面から押し寄せた魔獣の群れを天乃鈴音の剣が横薙ぎに斬り払い、
背後では日向華々莉がチャクラムで応戦している。
すぐ側で日向茉莉が魔獣を叩き返す中、ぐるっと周囲を見回した椿は、
戦力差により当面は防戦一方しかないと判断する。
× ×
跳躍した美樹さやかが、大量に発生させた剣を飛ばす。
「くっ!」
振り返り、びゅんと二刀を振るうが手応えが無い。
「こっちだっ!!」
その側で、佐倉杏子が突き出した槍も交わされた。
一旦近くの屋上に着地して二人が睨んだ先には、巨大な首が浮いていた。
柱状のワルプルギスの夜から飛び出して来た新たな怪物。
「あれって、本体でいいんだよね?」
「じゃねーの?」
さやかの問いに、杏子が半ば投げ槍に応じる。
放たれた槍と見せつつ多節棍は、ワルプルギスの夜に絡みつく前に交わされて虚しく空を斬る。
ワルプルギスの夜本体、と思われる巨大な首。
その容姿は、サイズを間違えた彫像。
一見すると石造りで、ライオンヘアの巨大な首が空中にふわふわ浮いている。
「わっ!」
浮いていた、かと思うと、猛スピードで突っ込んで来る。
辛うじて交わしたさやかは振り返り、猛スピードで引き返した首と対峙する。
「とっ!?」
びゅんっ、と、さやかが振るった剣はふわりと交わされた。
その癖、杏子の槍のホームラン斬りはすかっと素早く交わされる。
さやかと杏子は、丸で空を飛ぶ様に建物から建物へと跳躍して行動しているが、
この、上下左右緩急自由自在な空中浮遊がやたら厄介だった。
「やべっ!」
突っ込もうとしたさやかを杏子が引き戻す。
ワルプルギスの夜の、人間ぐらい一呑みに出来そうな口ががぱっと開き、
黒雲の様な瘴気が放たれた。
「くそっ!」
さやかがマントを翻し杏子が多節棍を振り回す。
拡散された瘴気が散り散りに終結し、それは魔獣に化けた。
「ティロ・ボレーッ!!」
飛び出して来た巴マミの一斉射撃が、
さやかと杏子を襲おうとしていた魔獣の群れを掃射する。
「行くよっ」
「オッケー」
手近な魔獣を斬り伏せたさやかが叫び、杏子が応じた。
「ティロ・フィナーレッ!!」
「ゴメイサマ、リ、リ、ア、ン、ッ!!」
マミの砲撃を受けて逃げた先に、さやかが複数の剣を放つ。
その先では、既に杏子が手を組んで待ち構えていた。
「アミコミ・ケッカイッ!!!」
杏子が展開した結界線をさやかが放った剣が貫く。
貫いたと見せて、結界線が剣に絡みつき、
そのまま紐状の結界線を付けた剣がワルプルギスに向けて飛翔する。
剣がワルプルギスの夜に追いつき、
ワルプルギスの夜は建物と繋がった結界線をその身に絡めながら、
ぎゅうんっと大きく動き回る。
「弱いか」
結界線の限度を考え、杏子が苦い顔を見せる。
「鹿目さんっ!」
その時には、巨大マスケット銃を生成していた巴マミに鹿目まどかが合流していた。
「ティロ・デュエットッ!!!」
マミとまどかが、二人がかりで巨大マスケット銃を構え、発砲した。
爆発音と共に、大量のリボンがワルプルギスの夜を飲み込む様に絡みつく。
ぎしっ、ぎしっと、ワルプルギスの夜が締め付けられ、
「!?」
がぱっと開かれた口から、
同じ様な彫像の首が脱皮する様ににゅるんっと姿を現した。
リボンの中の首が抜け殻の様に実体を失い、脱皮し脱出した首の目が光る。
落雷の様な銃声が響き渡った。
「暁美さんっ!?」
マミが叫ぶ中、暁美ほむらは反動で半ば吹っ飛ばされながら、
ウィンチェスターライフルから発射される象でも狩れるマグナム弾を、
時間停止で続け様にワルプルギスの夜に叩き込む。
更に、時間停止が最大限に活用されて、
ワルプルギスの夜の周辺でふざけた量の肥料爆弾が一斉爆発した。
「やったっ!?」
「いや、まだだっ!」
爆煙が視界を塞ぐ中、さやかと杏子が言葉を交わす。
建物の屋上に着地したほむらが、
煙の向こうの気配に顔を顰めながら弓を取り出した。
「ほむらちゃんっ!」
「まどかっ!!」
そこに飛び込んで来たまどかが、一本の矢をぐいっと前に突き出す。
煙の向こうでワルプルギスの夜の目が光り、
がぱっ、と、口が開くのが垣間見える。
その時には、鹿目まどかと暁美ほむらが一具の弓矢をキリキリと引いていた。
× ×
まどかと共に放った矢が、間一髪、遠目にも分かるどす黒い瘴気を放とうとしていた
ワルプルギスの夜の口の中を貫き、
巨大な彫像の首の様なワルプルギスの夜は、ゆっくりと、朽ちて行く。
「ほむらちゃん」
声が聞こえる。
だが、体が動かない。
瞼が重い。
× ×
声が聞こえる。
けたたましい笑い声が聞こえる。
酷く不快な笑い声、
辺り一面瓦礫の山。
飽きた人形の様に放り出され、ぴくりとも動かない、見覚えのある人々。
そして、全く動じる気配もない、
途方もない負の魔力。
それが迫る、今、ここに。
「ほむらちゃんっ!」
暁美ほむらは、目を開けてガバリと身を起こした。
酷くまぶしかった気がする。
「お目覚めですか、お姫様?」
くるりと振り返り、美樹さやかが言った。
「気持ちよさそうに寝てたぜ」
「そりゃそうでしょう、まどかに膝枕なんてしてもらってさ」
さやかの声にほむらが隣を見る。
まどかがにっこり笑った。
ほむらとまどかは、公園のベンチに座っていた。
「ワルプルギスはっ!?」
立ち上がったほむらの叫びに、巴マミがにっこり笑って頷いた。
「お手柄だよ、ほむら、まどか」
「ウェヒヒヒ」
さやかの言葉にまどかが笑みで応じ、
ほむらは呆然と突っ立っていた。
「そう………」
「反応薄いなぁ」
杏子が言う。
「ああ、ごめんなさい。
何て言うか、何か、何百年の戦いが終わったみたい、って言うか」
「そうね、暁美さん、ワルプルギス退治のために
準備からあんなに頑張ってたものね」
ほむらの言葉にマミが応じた。
「すっごかったよぉー、やっぱ、まどかって素質があるんだね。
あんなバリバリに光った矢がびゅーんってさ」
「ウェヒヒヒ、でも、私は只夢中だったから。
ほむらちゃんが支えて、狙ってくれたから上手くいったんだよ」
「へーへーご馳走様」
そんなさやかとまどかのやり取りをほむらは横目で見ていたが、
さやかと視線が合った時、さやかはニッと笑みを浮かべ、
ほむらはふっと穏やかに笑っていた。
分厚い雲間から差す光を、一同は眩しそうに手で塞ぐ。
そして、照らされた街を見下ろす。
一同がいる所は、手入れされた草原と言うべき丘の上の公園。
無論、今日の大嵐で泥田に片足突っ込んではいるが。
そこから、見滝原の街が一望出来た。
ここにいる誰もが、感じていた。
到底無傷とは言えない迄も、あれだけの破壊を致命傷とする事なく、
魔法少女として自分達が守り抜いた見滝原の街、そこに住む大切な人々。
その誇りが胸を熱くする。
「改めてすっげぇーなぁーっ」
マミが帽子を振り、そこから地面に大量のキューブが注がれる。
「墜落地点の周辺から、半分ぐらい確保したわ。
後は助けてくれた魔法少女の分」
そうして、一同が目分量でキューブを取り分ける。
「?」
そうしながら、ふと、ほむらは一粒のキューブを摘み上げる。
「どうしたの、ほむらちゃん?」
「なんでもないわ」
言いながら、ほむらはそのキューブを楯の中にしまい込む。
元々、キューブ自体がちょっとした宝石みたいな見た目だが、
ほむらが手にしていたそれは、銀の様な虹色の様な。
その後から手にした他のキューブはやっぱりキューブなので、
やっぱり疲れているのだろうか、と、ほむらは思う。
「行きましょうか。
どこかの避難所に合流しておかないと色々面倒な事になるわ」
「そうなんだよなー、あたしなんか完全に抜けて来てるから、
ほむら、付いて来てくんない?最悪ん時は………」
「ええ、紛れ込める様にすればいいのね」
「サンキュー」
話の早いほむらに、杏子が手で拝んで見せる。
「それじゃあ、帰りましょう」
一同、マミの言葉と共に、心地よく疲れた体を動かし始めた。
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今回はここまでです>>416-1000
続きは折を見て。
ワルプル撃破乙 ハノカゲ連載で違う設定出てくるかな思ってたけど逆に「大物魔獣」という奴が出てきて
このssが一歩踏み込んで想像した部分に沿う形になってて不思議だった
ワルプルギスとは違う、氷のデカイ結晶みたいな姿形のやつだったけど「魔獣は坊さん型以外もいる」ということになる
乙
感想どうもです。
>>425
きらマギで魔獣編の告知見た時には
正直冷汗ものでした。
それでは今回の投下、入ります。
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>>424
× ×
「パパッ」
「まどかっ」
「まろかー」
総合体育館の避難所で、鹿目まどかは鹿目知久、タツヤ父子と
やや感動的な再会を果たしたのは、公式発表上のスーパーセル直撃の翌日午前中の事だった。
「ほむー」
「こんにちは、タツヤ君」
「やあ、暁美さん、さやかちゃんに巴さんも」
「こんにちは」
まずまどかに駆け寄っていたタツヤがほむらに駆け寄り、
タツヤの頭を撫でてからほむらが頭を下げて挨拶を交わす。
「ママは?」
「うん、ちょっと」
「只今ー、あれ、まどか?」
「ママッ」
そこに鹿目詢子が戻って来て、一同頭を下げる。
「今までどうしてたんだ?」
「別の避難所にいたんですけど、
天候が落ち着いたので鹿目さんの家族がいるこちらの避難所に合流しました」
マミが言って頭を下げた。
「災害用伝言ダイヤルのメッセージ、かなり遅かったな」
「まどか、携帯の電池切れしたり避難先で寝落ちしたりで
余り怒らないであげて下さい」
「申し訳ありません、私がついていながら」
「ごめんなさい」
さやかとマミが取り成し、謝るまどかの頭に詢子の掌が乗った。
「ん、無事で良かった。
こっちこそ、まどかが世話になったな、有り難う」
「いえ、こちらこそ」
詢子とマミが互いに頭を下げた。
「お帰り、詢子さん」
「ああ、只今」
「どこか行ってたの?」
「ああー、ちょっと話し合いにな。
避難所の運営、一生懸命やってくれてるんだけどさ、
オヤジばっかだとやっぱ色々困るのよ。
もうちょい世話になりそうだし、一応業務関係の話は出来るって事で、
ちょっと言う事は言わせてもらったって訳。
ま、普段仕事で地域貢献とかあんまりしてないからな」
「お疲れ様」
まどかと詢子の会話をほむら達は眺めるばかり。
嵐本体は過ぎたが倒壊、交通その他の後遺症が激しく、
もう少し不自由は強いられそうだ。
それでも、多くは元の生活に戻る事が出来る。
この避難所でそんな予感を見ているだけでも、
体を張った甲斐があったと実感する。
× ×
「杏子?」
「よおー、さやか」
体育館の外で、体育館を訪れた杏子とさやかが声を掛けあう。
体育館にまどかを残し、ほむら、マミも近くにいる。
「こっち来たの?
元いた避難所に潜り込んだって聞いたけど」
「ああ、風見野の知り合いがちょっと色々運んで来たんで、
あたしもちょっと手伝いにな。
只、あっちへの交通が本格的に復旧するのはもうちょいかかりそうだ」
そういう杏子は確かに段ボール箱を抱えている。
「そうなのです」
「あら。なぎさちゃんも?」
「そうなのです」
マミに声を掛けられたなぎさが、若干の荷物を抱えて胸を張る。
「お姉ちゃん」
「きょーこ」
「あー、今忙しいから。
なぎさ、それ終わったらこいつらと遊んでやれ」
「はいです」
何となくまとわりつかれながら、杏子達が体育館に移動する。
「今頃は織莉子さん達も」
「ええ、ワルプルギス退治が終わって
お父さんの手伝いがあるからみんなによろしくって」
さやかとマミが言葉を交わした。
「尋ねたいんだが」
暁美ほむらが、ハッと振り返る。
他の面々も含めて、一歩間違えたらとっさに変身していたかも知れない。
それだけ、圧倒的な存在感と、
どこか印刷の機械を思わせる何か暗さのある声だった。
「入口はあっちでいいのか?」
「え、ええ」
それでもほむらが素直に応じたのは、
背後から現れたその巨漢が右肩に米俵を担いでいたからで、
わざわざその中に爆弾を詰め込んで特攻する程治安も悪化してはいないだろう。
「大体、こっちで合ってたにゃあ」
そして、巨漢の背中から左肩に、
ベレー帽の金髪幼女がひょこっと顔を出して巨漢に声を掛けていた。
「可愛い」
「同感ね」
ずん、ずん、と入口に向かう巨漢とそれに乗ずる舶来っぽい金髪を見送りながら
思わずマミが口に出し、ほむらも応じる。
「あれ、さやかちゃん?」
「あ、浜面さん」
そうしてさやかと言葉を交わしているのは、
猫車を押して現れた浜面仕上だった。
「無事だったか、良かった良かった」
「浜面さんも………恭介はっ!?」
「ああ、無事だよ。色んなコネで問答無用のモンスター救助車両に来てもらったからな。
車自体が半分病院みたいな救助車両でそのまま無事な病院に搬送されたんだけど、
全員大きな問題はないからすぐ退院できるってさ」
「良かったぁ」
ほっと胸を撫で下ろすさやかを、仲間達は微笑ましく眺めていた。
「つー訳で、ま、乗り掛かった船って言うのか?
まあ色々関わり合いがあったんで、駒場のリーダーも来ちまったし。
たまには柄にもない事してるって訳」
等と言いながらも、満更でもなく猫車を押す浜面を一同は見送った。
「そう言えば」
さやかが口を開いた。
「今回、なんか色んな人が魔獣と戦ってて、
魔法少女だけじゃないですよね」
「ヒーロー達ね」
さやかの言葉にマミが言った。
「都市伝説よりは信憑性がある話、とでも言うのかしら。
魔法少女がいるぐらいだから
新聞にも教科書にも載らないその他諸々がいても不思議じゃないでしょう」
「そりゃそうだ」
マミの説明にさやかが手を打つイメージになる。
「普段は魔獣の事は私達魔法少女が扱ってるけど、
その枠に収まらない大事件が発生した時には、
その他のヒーロー達が何処からともなく助けに来てくれる。
まあ、何となくそういう事になってるって所かしらね」
「何処からともなく、なんとなく、ね」
マミの言葉をほむらが繰り返した。
「そうね。大雑把に言って、宗教関係の大きな所だったらイギリスとかイタリアとか、
日本でも科学の学園都市で色々研究してるとか、
余り関わらないから詳しくは知らないけど、多少長く裏に関わってたら耳に入る事もあるわ」
× ×
「はーい、出来たわよー」
「わーい」
総合体育館の一角で、さやかも加わった行列整理に辛うじて従いながらも、
子ども達は元気よく群がっている。
その先では、マミ達が焼き上げて切り分けたホットケーキを配っている所だった。
「みんなで食べれたらいいかとも思ったんですけど、
あんまりいい肉じゃなさそうなんで、邪魔なら持って帰りますけど」
調理場では、浜面が少々恐縮して発言していた。
「いや、硬いだけで質は悪くないよ。味のある肉だと思う」
浜面が持ち込んだ牛肉を確認していた鹿目知久が穏やかに言った。
「これなら、今から上手くやれば、
みんなで美味しいビーフ・ストロガノフが食べられそうだ。
幸い、色々持ち寄ってくれたから大体材料は揃ってる」
そこまで言って、知久は顎に指を当てる。
「一つだけ」
知久がぽつりと言い、続く言葉を浜面が耳で追う。
「………手に入ればいいんだけど」
「それ、難しいんですか?」
「いや、市販のものでいいなら、
贅沢を言わないなら普段ならスーパーで売ってるスープの素だから。
只、今ここにはないし、炊き出しだから結構量も必要になるね」
「すいません、もっぺんその名前言って下さい」
浜面の要請に、知久はスマホに字面と量を表示した。
「了解。そのぐらいなら調達できるか確認して見ますんで、
少しだけ待ってて下さい」
「うん、そうしてくれると助かるよ」
男同士で調子が狂う程に優しく言われ、
浜面は活動中に持たされた衛星携帯で通話しながら体育館を出る。
「あれ?」
程なく、戻って来た浜面に知久が声を掛けた。
「どうだった?」
「ええ、知り合いが請け合ってくれたんですけど、
時間の猶予、どれぐらいあります?」
「そうだね」
知久の返事を聞き、浜面が電話を使う。
「大丈夫って事なんで、待ってて下さい。
それから、赤ワイン白ワインブランデーどれが欲しいか言ってくれって」
「じゃあ、赤をお願いしようかな」
かくして、一度調理場を出た浜面が戻って来た時には、
美女と連れ立って調理場に現れた。
「よっこら、しょっと」
「ジジくせぇぞ浜面ぁ」
二つ抱えていたクーラーボックスを作業台に乗せた浜面に、
場違いではない、それでいて決して悪くない身なりの美女が、
些か品性を欠く悪態をつきながら自分の抱えたクーラーボックスを軽々と扱う。
だが、ごく身近にどこか似た様な相手のいる知久は、
口程悪い娘ではなさそうだと見当をつけていた。
「あつっ」
「ぶぁかっ、素手で扱う奴があるかよ」
そして、二人は運び込んだクーラーボックスから
ごろんごろんと氷塊を取り出す。
出だしで引っ掛かった浜面も、取り敢えずやや張り付き気味の指を
穏健に氷から引き剥がす事に成功したらしい。
「うん、いい味が出てる」
氷の欠片を味見した知久が言う。
「まあ、圧力鍋で作った急ごしらえですけど、
氷にする伝手もあったんで。これだけあれば十分だと思うけど。
それから、多分省略か代用するつもりだと思ったんでこっちで用意したの、
サワークリームとワインは赤で良かったかしら?」
「凄く助かった、これならちょっとしたご馳走が出来る。
この状況でストックを持って来てくれるのは大変だった筈だよ。
本当に有り難う」
「いや………」
ストレートな感謝の表明は、どこか居心地が悪そうだ。
そういう所も見覚えがある、とも知久は感じる。
「名前、聞いてもいいかな?」
「麦野沈利。まあ、今後会う機会があるかも分からないけど」
「僕は鹿目知久、今日は本当に有り難う」
「どういたしまして。
ほら、まだまだ現場に野郎の仕事山積みなんだよ。
行くぞはぁま面」
申し訳に頭を下げた麦野と浜面が調理場を後にする。
廊下で、麦野は浜面に尋ねる。
「何モンだありゃ?
下ごしらえの出来上がりからしてタダモンじゃねぇぞ」
× ×
「ふぁー、食った食った」
手伝い方々こちらの避難所に移っていた佐倉杏子が、
美味しい夕食を終えて体育館に長座して寛いでいた。
「あんだけ旨いってなると、御代わりなしってのがホント辛いわ」
「杏子がよく自制したね、偉い偉い」
「ったく、そんぐらいあたしだって場ぁ読むってーのっ」
杏子の頭を撫でるさやかとそれを避ける杏子を、
仲間達が生暖かく見守る。
「晩御飯、仕切ったのまどかのパパでしょ。
やっぱ流石だわ」
「只者じゃないわね」
「師匠だもの」
「ウェヒヒヒ………」
さやかの言葉にほむらとマミが続いていた。
「おう、まどかこっちにいたか」
「どうも、お借りしてます」
そこに現れた詢子に勝手知ったるさやかが調子を合わせ、
他の面々も頭を下げる。
「朗報だ」
詢子がにかっと笑った。
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今回はここまでです>>427-1000
続きは折を見て。
乙
乙
それでは今回の投下、入ります。
==============================
× ×
>>435
「いいお湯ぅー」
人でごった返してはいても、広い浴槽で熱い湯に浸かりながら
美樹さやかは歓喜の声を上げた。
「こういう銭湯ってあんまり来ないけど、いい気持ち」
寛ぐまどかの側で、ほむらも口に出さず同意していた。
「ほらほらゆまにモモ、混んでるから気を付けろよ」
「そうです、なぎさお姉さんについて来るのですはわわっ」
「ほらほら危ないわよなぎさちゃん」
なぎさが胸を張った途端に浴槽に伝わる複雑な振動にずっこけそうになり、
マミが抱き留めて受け止める。
「まろかー、ほむー」
「あら、タツヤ君」
呼びかけに応じてほむらが声を掛ける。
「混んでんだから走るんじゃねーぞ」
タツヤと共に洗い場側にいる詢子が、
タツヤの腕をしっかと握って言った。
「パパはまだ?」
「ああ、後片付け終わったら来るってさ」
そして、詢子がタツヤを抱き上げて共に浴槽に入る。
「よぉーっ、タツヤ君」
「きゃっきゃっ」
詢子に抱かれたまま幼馴染のお姉さんの美樹さやかに頭を撫でられ、
タツヤは上機嫌で応じる。
「ほむ、ほむっ」
「こんばんは、タツヤ君」
詢子の側でちょこちょこ動きながら接近していたタツヤを見つけ、
側にいたほむらが頭を撫でる。
「あら、暁美さんに、鹿目さんの弟さんだったかしら?」
「ああ、織莉子さんに呉さんも一緒で」
「当然だね」
ほむらと美国織莉子、呉キリカが言葉を交わし、
きゃーっと歓喜したタツヤにほむらが少々バランスを崩す。
「元気な子ね」
そのタツヤをひょいとキャッチして抱き留めた織莉子が言う。
「うーん、やっぱり面影があるかな」
「ティヒヒヒ」
タツヤの頬をつんつんつつきながら
タツヤとまどかを見比べるキリカにまどかが笑みを返す。
「ほらほら、あんまりよそ様に迷惑かけてんじゃねーぞ」
「みーまーみ、きゃっきゃっ」
「どうも」
詢子が近寄ってきて、
織莉子の側にいたマミがタツヤを受け取り詢子に引き渡す。
「いいお湯、こういう銭湯ってあんまり知らないですけど、
気持ちいいです」
「ま、たまには、って言ったらオヤジさんに悪いかな。
無事が確認出来たんで
今夜はボランティアって言うか男気で使わせてくれてんだから」
側で湯に浸かる形になったほむらと詢子が言葉を交わす。
「この辺りも結構激しかったと思うんですけど、
この銭湯よく無事でしたね」
「ああ、多少は調べが進んでるんだけど、
何か同じ地区でも結構ムラがあるらしいな。
激しくぶっ壊れてたり無傷だったり。
まあー、滅茶苦茶なスーパーセルではあったからな」
その理由に多少は心当たりのあるほむらも当然その事は黙っている。
× ×
「美国は上がったな」
「あら」
浴槽を上がったほむらが、島カランの陰での独り言に気付いた。
そこには大小二人の人影が立っている。
「浅古さんに………妹さん?」
「ああ、暁美か」
「友達?」
「まあ、な」
「浅古小糸です、姉がお世話になっています」
「暁美ほむらです」
小巻の側にいた小糸がぺこりと頭を下げ、
ほむらも礼を返す。
「織莉子さんなら上がったみたいよ」
「ああ、そうか。まああれだ、状況が状況とは言え、
あいつと裸の付き合いってのもぞっとしないからね」
そう言って、小巻は浴槽へとすたすた歩き出す。
「お姉ちゃんもスタイルいい方だと思うんだけどなぁ」
「そうね、背も高いしモデル系かしらね」
それを見送りながら、小糸とほむらが言葉を交わす。
× ×
「うーん」
「あら、美樹さやか?」
洗い場で腰かけていたほむらが、近くの唸り声に反応した。
「いや、こうして見ると本当に綺麗な髪してるね。
ちょっと羨ましいわ」
「そのさっぱりとしたショートカットが
いかにも美樹さやからしくていいと思うけど」
長い黒髪の泡をシャワーで流していたほむらと、
その側で腰を曲げて話しかけたさやかが言葉を交わす。
「あー、ボーイッシュなお転婆だって言いたい訳?」
「否定する程間違ってないわね」
「このっ」
「子どもの頃に公園で跳ね回るなんて、
私にとっては夢の又夢、だから羨ましい。
そんなだから、みんなに好かれてるのよ、
まどかにも、杏子にもそれに、
あなたが一番魅力的な女の子だって知ってる人にもね」
さやかは、黒曜石の様なほむらの瞳を見ていた。
「ったく、真顔で言うなよな」
「ごめんなさい。独り者は僻みっぽいものよ」
隣のカランの前にどかっと座ったさやかの側で、
ほむらが立ち上がりさらっと黒髪を払う。
「それじゃあ、あんたこそ彼氏でも見つけなよ。
スーパー美少女がもったいないって」
「考えておくわ」
× ×
体を洗い終えて湯を上がった奏遥香は、
最後に壁に設置されたシャワーを浴びていた。
「あら」
そして、混雑した浴室を出ようと動き出した所で、見知った顔と出会った。
「暁美ほむらさん?」
「奏遥香さん、あなたもこちらに?」
「ええ、元々生徒会の仕事でこっちに来てたんだけど、
不意打ち過ぎるスーパーセルの変更で身動き取れなくなったから
近くの避難所に入れてもらって、そこでここの銭湯を教えてもらったの」
「そう。今回の件では手を貸してもらって、お礼を言っておくわ」
「受け取らせてもらうわ」
そして、遥香がその場を離れ、ほむらが動き出した所ではたと足を止める。
目の前のシャワーを、一人の女性が使っていた。
遥香と話している間に、するりと使用を始めたらしい。
その女性、美琴椿は体を洗い流すとほむらに小さく頭を下げ、その場を離れる。
ほむらは、どこかで見た様な、と小首を傾げる。
そして、掛け湯替わりにシャワーを浴びた。
シャワーを終えて洗い場に足を向けると、
先程の女性、美琴椿が奏遥香と連れ立って歩いているのが見えた。
(知り合い?………もしかしたら、最終決戦にいた人、じゃあホオズキの………)
「ああ、ごめんなさい」
「こちらこそ」
ほむらの視線の先で、美琴椿が鹿目詢子と接触しそうになり、遥香がちょっと身を交わす。
何時の間にか、先日ほむらが共闘した遥香のチームの面々もそこに集まり、
詢子に手を引かれたタツヤがその様子を見上げていた。
取り敢えず、双方頭を下げて別れ別れになり、
ほむらは連れ立って動く椿達を目で追ったが、混雑がその追跡を妨げる。
ほむらは、掛け湯もした事だし浴槽へと移動する。
「どうも」
「こんばんは」
ほむらが湯の中で小さく頭を下げ、
にっこり笑った早乙女和子教諭が洗い場から浴槽に足を入れる。
「さっき、詢子………鹿目さんのお母さんにも会った。
全員は確認できないけど、
暁美さんのいつものグループは無事みたいね」
「お蔭様で」
和子がほむらの隣で湯に浸かり、言葉を交わす。
「出来るだけ情報集めたけど、今の所死んだ人や大きな怪我人は聞かない、
あれだけの嵐だから予断は許さないけど、それが何よりよ」
「そうですね」
「暁美さんも、一人暮らしの筈だけど親御さんは?」
「連絡は取っています。
今は危ないからこっちには来ない様に釘を刺しました」
「そう。でも、少し落ち着いたら色々とあるでしょう。
困った事があったら先生にも相談して頂戴」
「はい」
至って真面目に教師らしい事を言われ、ほむらも真面目に応じていた。
× ×
「キャッキャッ」
「待ぁてこらあっ」
杏子が、叫び声を上げながらきょろきょろと周囲を見回す。
「タツヤッ!!」
詢子の一喝に、タツヤの足がぴたりと止まった。
「危ないから走り回るなって、あんだけ言ったよな」
「ごめんなさい………」
「お前らも、見たとこタツヤよりお姉ちゃんだろうが」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「ごめんなさいっ、こらお前らっ」
そこに、杏子が割って入った。
「妹か?」
「はい。妹とその友達で。お前らぁ」
「そうか。まどかの友達だったか?」
「は、はい、確かまどかのお母さんで」
「ああ。名前は?」
「佐倉杏子、それに妹のモモと千歳ゆま」
「佐倉モモです。ごめんなさい」
「千歳ゆまです、ごめんなさい………」
「そうか」
しゃがんだ詢子がゆまと、モモの頬に手を当てた。
「ごめんなさい出来るんなら、
あんまりお姉ちゃんに迷惑かけるなよいい子なんだから」
「「はーい」」
「杏子ちゃん、この子らあたしに預けてまどからと帰って来ないか?」
「え?」
「いや、避難所でちょっと見てたけど杏子ちゃん、
避難所来てから子守りでかかりきりだろ。
あたしで良かったら、ちょっと友達と一緒にいたらいいんじゃないか?」
× ×
「いいお湯だったぁー」
銭湯を出たさやかが、路上でうーんと伸びをする。
その側では、まどか、ほむらとマミ、なぎさが連れ立って歩いている。
そして、さやかはふと星空を見上げた。
「おーっ」
そのさやかの背後から、いつもの如く杏子が絡みつく。
「やっぱ坊やの事が心配か?
お嬢と一緒に病院において来た」
「そうね」
にししっと笑った杏子にほむらが続いた。
「本当だったらこの辺で、
赤い手ぬぐいを首に巻いて一緒に歩きたい所だものね」
「杏子、ほむらっ!」
杏子がさやかに追い回され、ほむらがふふっと笑みを浮かべる。
「ったく、ガールズトークでいじり倒すキャラだったっけ転校生?」
「又、そのタグに戻ったのね美樹さやか」
「ウェヒヒヒ………」
にこやかにバチバチ火花を散らす二人の間で、
双方の親友である鹿目まどかがこめかみに汗を浮かべる。
「あら」
マミが何かに気づいた様だ。
「あ、先生」
まどかが言い、その視線の先を追うと、確かに早乙女和子がてくてくと歩いていた。
「せんせ………」
手を上げて声を掛けようとしたさやかが、途中でそれをやめた。
「かぁぁずこぉぉぉーーーーーーーーーっっっっっっっっっ!!!!!」
総員、思わず変身しかけた程の迫力で、
地響き土煙を立てる勢いで叫びながら突撃して来る男がいた。
「あら、あなた………」
和子が口を開いた時には、ガシッと抱き締められていた。
「出張じゃなかったの?」
「大急ぎで終わらせて戻って来たんだ、
ニュースで見滝原が大変な事になってるって。
無事だったんだね和子」
「ええ、お陰様で。有難う」
「そうか、良かった………よしっ!」
「?」
「この際だ、前々から考えてたけど、決心がついた」
和子の目は、目の前で開かれた小箱の中で、
復活した街灯に僅かに反射する小さな輝きに目を奪われていた。
程なく、見滝原を見下ろす丘の上では、
巴マミが天に向けて十連ティロ・フィナーレを連射し暁美ほむらが弾帯を一本撃ち尽くし
百江なぎさのシャボン玉を背景に美樹さやかと佐倉杏子が剣舞槍舞を一曲披露し
鹿目まどかが放った矢が無数の光となって天から降り注いでいた。
× ×
ほむらは、まどかやマミ、なぎさ、さやか杏子と、
見知った親水公園を歩いていた。
無論、設備自体はスーパーセルの影響で普段通りと言う訳にはいかないが。
「壊れてる所は壊れてるけど、
後何日もしない内に基本的な機能は回復しそうね」
ちょっと街を見て回り、それ以前に情報も収集していた巴マミが言った。
「じゃあ、あたしも明日辺り風見野に帰れるかな」
杏子が言う。
「まあー、壊れてる所も色々あるけど、
ここの面子は大体自宅も大丈夫っぽいしね」
「念のため、検査が終わり次第って所かしら」
さやかの言葉にほむらが続いた。
「ま、ワルプルギスの夜っつったって、
あたしらにかかったらあんなモンだってーの」
「こらこら、油断は禁物よ」
「又、反省会?」
杏子の軽口をマミが窘め、
杏子がにっと笑った。
「そうね、落ち着いたら今回の反省会ね。
いっぱい疲れたし、
カモミールティーに、エキアセナを用意しましょう」
「えー、酸っぱいのはやだなぁ」
「杏子の味覚はお子ちゃまだなぁー」
「何をーっ?」
さやかと杏子が互いを追い回すのを、ほむらは微笑ましく見ていた。
「おっ」
足を止めたさやかが言い、スリップした杏子が水路に突っ込みそうになる。
「いいねいいね、その笑顔。
やっぱりその大人な微笑でいい男見つけなよほむらぁー」
「そうね。じゃあ早速最高品質のスマイル引っ提げて
志筑さんと一緒に救助されたクラスメイトのお見舞いでもさせてもらおうかしら」
「よろしい、ならば戦争だ」
「ウェヒッ!?」
ニカッと笑ったさやかが、後ろからまどかを抱き上げた。
「それじゃあ、まどかはあたしの嫁になるのだぁーっ」
「ち、ちょっとさやかちゃんっ!?」
「オーケー美樹さやか、体育館に戻ったら裏口直行しなさい」
わいわいと騒がしい仲間達を、巴マミはくすくす笑って眺めていた。
× ×
「周り、誰もいないわね」
「知らない人からしたら不謹慎ものだからね」
見滝原中学校の前で、寄り集まったほむらやさやか等が言った。
ほむら達が命懸けで守ったもの、その象徴の一つ。
その門前でなぎさを含め見慣れた面子がちょっとはしゃぎ気味に動き回っている。
楽しいなあ、と暁美ほむらは思った。
ワルプルギスの夜との決戦はギリギリの勝負だったし、
魔獣との戦いは決して楽なものではない、命の危険に晒される事だってある。
魔法少女である以上、或いはそうでなくても、
きっとこれからも大小様々な、時には命に関わる戦いの日々は続くのだろう。
それでも、こんなに頼もしい仲間達がいる。
親友と呼べる友達がいて頼もしい仲間がいて親しみも含めて憧れるに値する先輩がいる。
大切な家族がいていちいちカテゴライズしなくても大勢の大切な人達がいて
そんなみんなが住む自分も住む大切な街があって。
だからこそ、暁美ほむらは戦い続ける事が出来る。
明日も明後日も明々後日も、決して甘いばかりではなくとも、仲間達と支え合い大切なものを守る戦い。
そして、本当は些細な事も楽しくて愛おしくてたまらない日常。
こんなにも楽しい日々が続いてくれるんだろうなあと、暁美ほむらは本当に心の底からそう思う。
「さあさあ、ほむらも澄ましてないで」
「はいはい」
巴マミ以下六人衆が、学校をバックに三脚に設置したデジカメの前に集合する。
「はい、チーズ」
さて、全国幾千万の暁美ほむらの観測者達よ、御覧じよ。
暁美ほむらの斯様な笑顔を見た者があっただろうか。
ここは、黄金の笑顔に埋め尽くされた
幸せに満ち足りた、世界。
ほむら「幸せに満ち足りた、世界」
第一部
-了-
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後書き
まずはここまで、ご愛読ありがとうございました。
後書き、と言う程のものも無いのですが、
展開上ここまでを第一部とした方が良さそうなので、
つまりそういう事ですと言うお断りを。
第二部以降に関しては、それなりにプロットの用意等は出来ていますので
遠からず投下を開始できる予定です。
それではひとまず、
ほむら「幸せに満ち足りた、世界」
第一部 終幕です。
重ねてここまでのご愛読、有難うございました。
第二部は近々開始、の予定です、多分。
と、言うか、理論的には
同じ事を繰り返しているだけの後書きになってしまいましたが………
今回はここまでです>>438-1000
続きは折を見て。
乙
乙
流れとか作風とか諸事情に鑑み
ざっくり言ってキリがいいと言う事で
シリーズ第二作目的に、次スレにて第二部スタートしました。
次スレ
ほむら「幸せに満ち足りた、世界」2(まど☆マギ×禁書)
ほむら「幸せに満ち足りた、世界」2(まど☆マギ×禁書) - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1435465986/)
本スレはここまでです。
html依頼は折を見て。
糞スレ乙
このSSまとめへのコメント
ほむら「幸せに満ち足りた、世界」2(まど☆マギ×禁書)
http://ssmatomesokuho.com/thread/read?id=285571
次スレあるから貼っといた